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809 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 10 54 16 ID /4kh.2c. [1/12] 遂に、ぽつぽつと雨が降ってきた。 徐々に雨量を増していく雨は、雨脚こそはまだ弱いが、これから激しくなっていくだろう予感を感じさせる、たしかな力強さを持っていた。降りしきる雨粒は遊歩道に黒い染みをつくり、通行人たちは慌てて傘を広げている。 私はコーヒーカップをソーサーに戻すと、ぼんやりと雨に見入った。 「何を見ているんだ?」 前田かん子が、角砂糖をコーヒーに入れながら問うた。 「いや、雨、降っちゃったなって」 「雨?」 怪訝そうに目を細めてから、彼女も外を見やった。雨粒は窓を軽くノックし、水滴を張り付かせては落ちていく。 「雨が降ると、なにか不都合なのか」 「不都合。そうですね、不都合といえば不都合です。実は今日、傘を持ってくるのを忘れちゃいまして。このままじゃ濡れて帰ることになるなと危惧していたわけです」 「嘘だな」 即座に否定されて、びっくりして対面を見返す。前田かん子はじっと私を睨みつけていた。嘘吐きを見る目だった。 「今のお前の返答は、通常よりも幾らか早かった。あらかじめ私がこの質問をするのに備えていたんだ。本当はもっと別の理由があるんじゃないか。雨が降るとマズくなる、別の理由が」 「……さすがに穿ちすぎですよ。別の理由なんてあるはずないじゃないですか」 ゆるゆると首を振る。 「前田さんが私のことを嫌っているのはわかっています。ですが、そう何度も突っかかられるのは困りますよ。とても疲れてしまいます。お願いですから、多少の不快には目を瞑ってもらえませんか」 「嫌っているのはわかっている、ねえ……」 角砂糖をコーヒーに入れながら、前田かん子は面白そうに笑う。 「ああ。たしかに私はお前を嫌っているさ。それもかなり。私はお前が嫌いで嫌いで仕方がない。鳥島タロウの全てが気に喰わない。特に、その喋り方。そのとってつけたような丁寧語は気に入らん。一人称が私の男子高校生だなんて、今まで見たことがないぞ」 まさか口調を指摘されると思っていなかったので、少々面をくらう。しかしまあ、言われてみると確かに珍しいかもしれない。妙齢の男性でもないくせに一人称が私だというのは。だが、これはもう癖みたいなもので、すっかり馴染んでしまって今更どうこう出来る物ではなかった。 「すいません。言葉遣いに関しては、我慢してもらうしかありません。長年染み付いてしまったものなので、矯正は難しいかと」 私がそう言うと、前田かん子は、チッと舌を鳴らして視線を外した。耳についているシルバーピアスが、オレンジ色の照明に照らされて鈍い光を放つ。 810 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 10 56 18 ID /4kh.2c.[2/12] 「なら、さっさと本題に入れ。キリエについて訊きたいことがあるのだろう?」 すわ本題か。私は居住まいをなおし、腕を組んでしばし考え込むと、やおら口を開く。 「そうですね……じゃあ、まずは田中さんの簡単な個人情報、プロフィールを教えてもらえますか?」 「プロフィール……内容云々は、私の自己判断で構わないのか?」 「構いません」 「そうか。了解した」 前田かん子は角砂糖をコーヒーに入れると、瞑想する時のように瞼を下ろした。どのようなことから話すべきかを考えているみたいだ。 五分程度経つと、彼女はフゥと息を吐き、目を閉じたままの状態で滔々と話を始めた。 「氏名、田中キリエ。現在は父親と継母の三人暮らしで、兄弟はいない。ペットなども飼ってないが、唯一自室でサボテンを育てている。現在三年目。継母からの贈り物と聞いている。 身長は百四十二・三センチで、体重は三十六・二キログラム・・いや、訂正だ。体重は三日前に二百グラム増えたから、正確には三十六・四キログラムだ。それと足のサイズは二十一・五センチ。 性格は引っ込み思案かつ人見知り。けど、細かいところに目が届き気配りは上手。だから、キリエのことを悪く思うやつは一人だっていないはずだ。キリエは優しくて可愛いからな。アイツの陰口を叩いてる人間なんかいたら、殺してやるさ。 利き手は左だが、書き物をするときや食事などでは右手を使う。まあ、スポーツ等以外では左手を使わないから、実質右利きと言ってもいいのかもしれない。 好きな食べ物は宇治金時で、嫌いな食べ物はトマト。趣味は料理に手芸。料理のほうは言うまでもなく絶品。小さい頃かずっと包丁を握っていたからな。経験だって豊富だ。休日にはお菓子なんかもつくったりする。 手芸のほうは、大体冬が近づくととマフラーや手袋なんかを編み始める。キリエが今年つけているピンク色のマフラーも、自分で編んだものだ。キリエはピンクが好きだから、毛糸も必ずピンク色のものを使用する。ふふっ、ほんとうに愛らしい。 それと、風呂に入ったときに最初に洗う箇所は左足の甲で次は・・」 「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」 堪らず声を上げてしまった。身を乗り出すようにして話を遮る。前田かん子は急に話の腰を折られたためか、不機嫌そうに此方を睨みつけていた。 「なんだよ、急に」 「あ、いえ、いきなり話を中断させて申し訳ないとは思うのですか……あの、いくらなんでも詳しすぎやしませんか?」 「はあ?」 何を言っているのかわからない、といった風で首を傾げる。その態度があまりにも自然なものだったので、一瞬、間違っているのはこちらなのではと考えてしまう。けど、まさかそんなはずはないだろう。 811 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 10 58 16 ID /4kh.2c.[3/12] 「ですから、ちょっと田中さんについて仔細に知りすぎていますよ。身長や体重を小数点以下まで把握しているなんて、忌憚なく言わせてもらうとかなり異常です。ましてや、入浴時云々なんて言うまでもないかと……」 そう指摘すると、前田かん子は呆れ顔になって、 「なあ、鳥島タロウ。お前には、親友と呼べる人間はいるか?」 「親友、ですか? いえ、お恥ずかしながら……」 前田かん子は、やはりそうか、とでも言いたげにやれやれと首を振った。 「なら、理解できなくても仕方がないか。無知蒙昧なお前に教えてやろう。普通、親友ってのは相手のことをとてもよく理解しているものなんだ。とてもよく、だ。 親友のいないお前にはイマイチ理解出来ないのかもしれんが、これしきの基礎知識、親友なら知ってて当然なんだよ」 「そ、そうなんですか」 衝撃の事実だった。これまで私の考えていた親友像と、前田かん子の説明する親友像には、大きな隔たりがあった。まさか、親友なるものの心の距離感がここまで近いとは……。もはや密着と言っても差し障りがないではないか。 ぶっちゃけ、今言った親友の定義は違っているのではと疑ったりもした。が、実際に親友を持つ者の言葉にはやはり重みがあった。白黒つけるまでもない。恐るべし親友。自分にもいつか、そんな存在が出来たらなと願う。 ふむふむ、と感慨深く頷く。これでまた私はひとつ賢くなった。 「それで、次に訊きたいことはなんだ」 「次、ですか……次はですね、えと」 「どうした? 随分と考えあぐねているじゃないか」 返答に窮していると、ここぞとばかりに攻撃してくる。意地悪な小姑のように、ネチネチと陰湿に。 「今日は訊きたい事が山ほどあったから私を呼び出したんだろう? なのに、質問内容をぽんぽんと繰り出せない今の状況はおかしいな。私にはとても奇異に見える」 「ですから」 難癖をつけるのも大概にしてほしい。私は多少声を荒げて啖呵を切る。 「前田さんは疑りすぎなんですよ。ちょっとの間、言葉に詰まっていただけでしょう。それをなんですか。まるで私に腹蔵があるみたいに言うのは。そう気を揉まなくても、なんの裏もありゃしませんよ。 今はただ、ほら、バイキング料理と一緒です。目の前にずらりと料理が並べられていると、どれから手に取ろうか悩んでしまうでしょう? そんな感じで、質問を決められずにいたのです」 「本当にそうかな」 それでも揶揄する前田かん子に、身体の温度が上昇しかけるが、ハッと気付く。身に覚えがあった。こうやって、わざと私を苛立たせ、本性を暴こうとする手口には。 812 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 00 14 ID /4kh.2c.[4/12] なるほど。冷静に観察してみれば、彼女からは明らかに作為的な雰囲気を感じる。私の本音を白日の下に曝すために、意図的に因縁をつけているのだ。つまるところ、彼女と同じことをしている。茶道室に居座る、あの魔女と同じことを。 そうとわかれば話は早い。 「さあ、どうですかね」 一息入れ、道化のように肩をすくめてみせる。こういう相手に真面目に取り掛かってしまうのは逆効果でしかないのを知っていた。 こちとら長いあいだ斎藤ヨシヱに煮え湯を飲まされ続けているのだ。この手の対応には、抜かりがない。 前田かん子もこれ以上の揺さぶりは詮無しと悟ったのだろう。そうかい、と呟いたきりあっさりと身を退いて、変に突っかかるのをやめた。黙って角砂糖をコーヒーに入れ、訊きたいことは決まったかと再度訊ねる。 「それでは、田中さんの男性遍歴について訊かせてもらえますかね」 私と付き合う以前、田中キリエがどんな恋愛をしてどんな別れ方をしていったかが気になっていた。 「ないよ」 「えっ?」 「キリエが男と付き合ったことは、今まで一度だってない。曲解されぬ内に言っておくが、女ともだぞ」 「へぇ、意外ですね。彼女って、中々モテるんじゃないですか? 容姿については問題ないですし、性格だっていいでしょう」 「ああ、モテたさ。キリエはクラスでもあまり目立つほうではないが、そのぶん密かなファンは多い。中学時代は言わずもがな、高校でだって何度か告白されている」 「なのに、どうして誰ともお付き合いを?」 「さあね。どっかの誰かさんを長年想い慕っていたからじゃないのか」 挑戦的な瞳で私を見る。こういう言われ方をされてしまっては、何も言い返すことが出来ない。愚者を気取ってわからないフリをし、遠くを眺める。 「どうして、なんだろうな」 急に、前田かん子が独白する。田中キリエの趣向は理解し難いとでも言いたげに、眉根を寄せていた。 「容姿はよくない。体格も華奢で頼りない。いつもへらへら笑ってて何を考えているかわからない。見てて不愉快だし、男性らしい魅力も皆無。少なくとも私には、ただの下賎な男にしか感じられない。なのに、なぜ、キリエはコイツに失望しなかった……」 角砂糖をコーヒーに入れながら、何か考え込んでいる御様子。私を貶める発言が鼻につくが、それは寛容な心をもって流しといてやろう。 813 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 02 34 ID Lfmv7T16[5/12] それよりも、 「前田さん。いい加減、口を挟んでもいいですかね」 彼女は私にちらりと目をやって、訊ね返した。 「口を挟むって、なににだよ」 「コーヒーです」 私は、およそ液体らしい動きを獲得していないコーヒーを指差した。 「いくらなんでも砂糖を入れすぎでしょう。あまりにも量が多いもんだから、溶解しきってないじゃないですか。ものすごくじゃりじゃりしてそうです。というか、こんなの飲んだら血糖値がとんでもないことになりますよ」 「うん? 普通、砂糖はこれくらい入れるもんだろう。じゃないと苦いじゃないか」 「……いや、まあ、苦いかもしれませんけど」 コーヒーとはその苦味を味わうものではないのか、と心中で突っ込む。 前田かん子は小首を傾げながらも更に角砂糖を追加していたが、シュガーポットが空になったところで漸く手を止めた。そしてコーヒー(?)を口に含むが、どこか不満気な顔をしている。 まさか、まだ砂糖を入れ足りないのだろうか。勘弁して欲しい。こちとら見ているだけで胸焼けを起こしそうだというのに。 私は目の前の光景から目を逸らし、己のブラックコーヒーを口に含んだ。ねちゃねちゃとした甘ったるさを感じるのは、間違いなく錯覚だろう。 私は豆の苦味を十全に味わう為に、咥内の液体をぐるりと掻き回したのだった。 それから、私達はぽつぽつと言葉を交わした。 会話の主な内容は、もちろん田中キリエについて。彼女の情報を取り入れる度、重要な情報、不要な情報を取捨選択し、頭の中のメモ帳に書き連ねていく。そうすることで、あやふやだった田中キリエ像に肉付けがされ、実体を伴っていく。 前田かん子は面倒臭そうながらも、割りと誠実に質問に答えてくれた。やはり根は義理堅いのだろう。質問と返答の応酬は、滞りなく進んでいく。 話の途中、彼女はライダースーツのポケットから煙草を取り出した。 「ここ、全席禁煙ですよ」 無理だろうなと確信しつつも、控えめに諫言する。 うるせーちくしょーそんなルール私にゃ関係ねーんだよバーカ、ってな感じで素っ気なく跳ね除けられると大方予測していたのだが、存外、彼女は普通に従った。手中の煙草を、再びポケットに戻す。 意外と規則は守る人なのかしら、と危うくギャップ萌えで好感度が急上昇しそうになるが、軒下に違法駐車されている無骨なバイクを見て正気に戻る。 814 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 04 10 ID Lfmv7T16[6/12] 結局のところ、どこにでもあるただのダブルスタンダードだった。あれはいいけど、これはだめ。前田かん子の中にも、独自の線引きがあるのだろう。あぶないあぶない。危うく好きになってしまうところだった。 そんなやりとりがあり、また質問を数個加えたところで、話が潰えた。 ざあざあ、と力強さを露にした雨音を聞きながら、私達は同じ沈黙を共有する。彼女のコーヒーカップは既に空になっていた。私も残り少ないコーヒーを一気に煽って、同じく空にする。 スッキリしないな、とカップの底をじいと見つめながら思った。 違和感。そう、言うならば私は前田かん子に対し違和感を感じていた。田中キリエについて話す時の彼女は、その、何かが違うのだ。具体的にどう違うのかと訊かれたら困るのだが、とにかく、前田かん子は田中キリエ対し、特殊な感情を抱いているように見える。 だから、私は訊ねていた。 「前田さんは、どうしてそんなに田中さんに傾倒しているのですか?」 正直、返答は期待していなかった。私達は依然敵対関係を継続させているし、なにより前田かん子はプライベートな質問には答えないだろう。彼女が果たすべき義務は、あくまで田中キリエ関連の事のみなのだから。 だから前田かん子が、わかったと言って小さく頷いた時には、私は心底驚いていたのであった。新種の生物でも発見したときのような、物珍しい感動を覚えていた。 「私とキリエが初めて会ったのは、中学校からだ」 腕を組みじっと椅子にもたれたまま、彼女は小さいけれど、しかしはっきりとした声で己について語り始める。 この時、言ってしまえば私は心構えが出来ていなかったのである。どこか異国にでも観光に来たような、いわばお客様のような気楽さで話に耳を傾けていた。だから、次に発せられた発言には、掛け値なしに仰天することになる。 「当時、私はイジメられていた」 「はっ?」 横っ面を引っ叩かれたような衝撃。手にしていたコーヒーカップを落としそうになり、テーブルが硬質な音を立てる。 待て。待ってくれ。彼女は今、前田かん子は今、なんと言ったのだ? イジメられていた? バカな、そんな、まさか。 「冗談でしょう?」 今の発言が信じられなくて、若干、茶化すような口調で問いなおした。が、寄越された鋭利な視線で今のが嘘でないと確信する。 ほとほと信じられない話ではあるが、彼女は過去、本当にイジメられていたらしい。現在の恐ろしい風体からでは、到底考え付かないことである。 「私は昔から、孤独を恐れていた」 前田かん子は、静かに回顧を始める。 815 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 05 46 ID Lfmv7T16[7/12] 「とにかく独りになるのが怖かったんだ。周りに誰もいないという環境を異常なまでに厭い、沈黙ではなく喧騒を愛した。私はそんな人間だった。だから、学校ではいつも寄生虫のように特定のグループにくっつき、下手な相槌と愛想笑いを振りまいてコミュニティに媚を売っていた。 今となっては反吐が出そうな毎日だったが、当時の私はそれなりに幸せだった。私にとって一番マズイ事態というのが孤独。極端な話、孤独さえ遠ざかっていれば全部満足だったんだよ。 けど、まあ。そんな日常が続くはずもなかった。私はとてもつまらない人間だった。付和雷同をよしとし、常にイエスしか言わない人間。主体性も個性も欠陥した、大量消費品みたいな人間。そんな人間が、まず面白いはずがない。私は次第に疎まれ、イジメられていった。 イジメが始まったときは、文字通り地獄だったよ。今まで散々イジメられないように生きてきたんだ。それが突然、独りぼっちに。嗚呼、まさに発狂もんだったね。最悪ってのは、ああいうのを言うんだろうな。 そして、次第に私は自殺を考えるようになった。辛い日常に疲れていたんだ。目の前でちらつく死が、とても甘美な麻薬のように思えた。だから、死ぬことにしたんだ。 死に場所は学校の屋上を選んだ。学校の屋上飛び降り自殺。そっちのほうが、自宅で首を吊ってるよりもセンセーショナルな事件になると思ったからだ。 自分の死によって、アイツらに少しでも罪悪感を感じさせれれば、そんな復讐も兼ねていたのかもしれない。笑っちまうよな。加害者が被害者に対して申し訳なかったと思うことなんて、ありえないのに。 そして、私は恨み辛みを書いた遺書を持って、屋上に行ったんだ。ちょうど、今ぐらいの季節だった。寒い寒い冬の日。そこで、出会ったんだ。キリエに。田中キリエに。 夕日をバックにして立っていたキリエは、なんというか、ひどく非現実的な人物に見えた。まるで異世界に足を踏み入れてしまったような錯覚に陥った。我ながら陳腐な表現ではあるが、そのときは本当にそんな気がしたんだ。 私は驚いてしまって、何も口にすることが出来なかった。キリエも同じで、突然の来訪者に驚いているみたいだった。互いに顔を見合って、妙な牽制をしあっていた。 こんにちは、と機先を制したのはキリエだった。アイツは柔らかい笑みを浮かべて、こう訊ねてきたんだ。どうして屋上に来たのって。 悲劇のヒロインに酔っていた私は、無粋な部外者に水を差された気がして、とても気分が悪かった。別に貴女には関係がないでしょ、とか、つっけんどんなことを言った気がする。 けど、キリエはあくまで柔和に、優しくのんびりと接してくれた。久しぶりの温かい気遣いに、じんわりと胸に心地よいものが広がるのがわかった。私達は初対面だったが、自然とキリエに愁眉を開いていった。 816 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 08 53 ID gEXkxocY[8/12] キリエは、夕日を見に来たのだと言った。学校の屋上から見る夕焼けはとても綺麗で、だからたまに此処へやってくるのだと。そして、よければ貴女も一緒に見ないかと誘われた。断るはずがなかった。私は黙ってキリエの横に並んで、夕日を見た。 綺麗だった。赤い夕日、紫色の千切れ雲、微かに光る星屑。空なんて今までに飽きるほど見てきたけど、私はあんなに美しい夕日を見たことがなかった。感動で胸中がぐちゃぐちゃになって、気付けば泣き出していた。 そして、全てを吐き出していた。孤独が怖いこと、イジメられて悲しいこと、屋上には自殺しに来たこと。私が吐露したモノを、キリエはそっくりそのまま受け入れてくれた。私の全部を受け入れてくれた。話を終えた後、アイツは私にそっと言ってくれたんだ。 なら、私と友達になりましょうって。それなら前田さんは独りじゃないでしょうって。 世界が変わった気がしたよ。喩えるなら、灰色だった世界に色がついたんだ。息苦しかった空気が爽やかなものになって、身体がとても軽くなっていた。生きているっていう実感が、初めて沸いたんだ。 でさ、触れたんだよ私は。私は真理に触れたんだ。キリエさえ居れば、他のことなんてどうでもいいんだっていう、至極簡単な真理に触れたんだよ。私にとっての世界は、キリエと、その他の有象無象なんだってことがわかったんだ。 大衆など必要ない。賑やかのなんていらない。私にはキリエ。ただ隣りにキリエさえいればいい。それなら孤独だって怖くないって。キリエさえいれば、世界なんて滅んだっていいんだって」 前田かん子は、私がいることなど忘れてしまったかのように、機械的に話しを続ける。口元は歪に曲がり、時折哄笑を漏らす。瞳は暗く濁り、此処ではない遠い世界を見据えている。 話はまだ終わっていないようだったが、もう十分だった。私はトリップしてしまった彼女を、冷ややかな視点で見ている。 違和感の正体にやっと気付いた。というか、気付くのが遅すぎたくらいだ。やはり自分は感情の推し量りが不得手なのだなと、つくづく実感する。 私はずっと、前田かん子が田中キリエに対して抱いているのは友情だと思っていた。けど、違うのだ。それは友情とは程遠いものだった。 彼女が抱いていたのは、ただただ歪曲し、狂気すら宿した、愚にもつかない愛情。おぞましさすら感じてしまう、井戸の底のように暗い感情だった。 気持ち悪い。私は対面に座る前田かん子を見て、そう思った。気持ち悪い、と。 「以上で、私とキリエの話は終わりだ」 話が終わると、彼女の瞳にも漸く光が戻ってきた。放棄していた正気を手繰り寄せつつあるのだろう。怖気立つような不快な感じが、徐々にではあるが消えていく。 ホッと胸を撫で下ろした。あの気持ち悪い前田かん子には、二度と会いたくないと思った。 817 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 10 36 ID gEXkxocY[9/12] 「いやぁ、そんな過去があったのですね。色々と意外な事実も露呈して、とても興味深く話が聞けました」 話をしてもらった礼儀として、質問をひとつする。 「ところで、結局イジメはどうなったのでしょうか?」 「ああ、あれからイジメていた奴等全員、学校に来れなくした」 「へぇ……」 具体的なことは訊かずにおこう。 と、不意に、フラッシュを焚いた時のように窓の外がピカリと光った。数秒して、ゴロゴロと天が唸り声を上げる。 私と前田かん子は、ほぼ同時に通りに目をやった。いつの間にか、外はとても暗くなっていて、通行人はものの見事に一人もいない。店内の客も全て消えていて、カウンターの店員さんだけが、ちらちらとこちらを盗み見ていた。 「…………」 もう頃合いだなと、これより先のことは断念する。内心、満足していない部分もかなりあったが、人事は全うしたのだ。後は、天啓を待つのみなのだろう。 「最後の質問です」 前田かん子を見据えて、言葉を続ける。 「どうして、田中さんは私のことが好きなのですか?」 これだ。何があろうと、最後にこれだけは訊いておこうと決めていた。長年の疑問。田中キリエが、なぜ鳥島タロウを好いているのか。 「あなたの口ぶりだと、田中さんが私を好きになったのは、どうやらもっと昔のことのようです。しかし、私と田中さんが初めて出会ったのは、高校からのはずだ。少なくとも私はそう認識しています。 なのに何故、田中さんは私に恋心を抱いていたのか。ずっと疑問だったんです。前田さん、教えてもらえますか?」 また雷が落ちた。前田かん子の顔が、青白い光に照らされる。轟音で窓が震え、キシキシと嫌な音を立てる。彼女はコツコツ、と人差し指でテーブルを叩いている。 「私も詳しく聞いたわけじゃない」 と、前田かん子はあらかじめ前置きをした。私は首肯して、先を促す。今から事の真相が、暴かれる。 「キリエは昔、市立N小学校に通っていた」 市立N小学校という単語を聞き、心臓がどきりと跳ね上がる。 「市立N小学校って……」 「そうだ。キリエはお前と同じ小学校に通っていたんだ」 818 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 12 15 ID gEXkxocY [9/12] 要は私と同じだよ、と自嘲的な響きを含めて、彼女は説明する。 「当時、たしか小学五年生だったか。キリエはイジメに会っていた。原因はわからない。アイツは優しい人間だから、自分からは絶対にイジメの原因を作り出していないはずだ。ほぼ一方的に危害を加えられたに違いない。 それだけでなく、家でもかなりの不和を抱えていたと聞く。さっき家族構成を説明した時、私は母親でなく継母だと言ったよな。アイツの実の母親は、もう既に亡くなっているんだ。自殺だったらしい。 キリエ自身が、特に母親のことは話したがらないから、これはあくまで憶測なんだが、おそらくキリエは実母から虐待を受けていたように思う。言葉の端々から、なんとなくそんな匂いがした。少なくとも、母親とは決して良好な関係ではなかったはずだ。 つまり、内でも外でも、キリエの世界はボロボロだったんだよ。嗚呼、可哀想に。キリエは、あの時が人生で一番辛かった時期だと言っていた。とても、ひとりで耐えられるものではなかったと」 ふっと、彼女の顔から憐憫の念が消え、憤怒に取って代わった。 「だけど、だ。憎たらしいことに、私にとって、最も不快な事実があったんだ」 激情をおさえきれなかったのだろう。彼女は唐突に握りこぶしでテーブルを叩いた。身体はやるせなさで震え、歯をぎりぎりと噛み締めている。羨望と憎悪が混ざり合った瞳の先には、当然のように私がいた。 「そんな絶望のさなかにいたキリエを救ったのが、鳥島タロウだという事実だ」 今にも噛み付かんばかりの表情で、最後を締めくくった。 かちり、と頭の中で歯車が動き出した。私は剣呑な様子の前田かん子には意にも介さずに、じっと考え込む。 そうだ。私は知っていた。小学五年生の時に、そのような少女がいたのを知っていた。かちかちと、歯車が噛み合わさっていくのを感じる。だが、何かが足りない。ジグソーパズルのワンピース。後一つ、最後にそれが埋まりさえすれば全て思い出せるのに。 「前田さん」 私は目を閉じて、眉間の辺りを強く揉んだ。かちかちかちかち。歯車が回る。 「当時、田中さんは苗字が違ったんじゃないですか? 田中キリエでない、もっと難しい名前だったはずだ。そうだ。私はその少女を知っている。けど、田中キリエではなかった。もっと違う。違う名前」 おぼろげながらも、少女の姿が浮かんでくる。しっかりと意識を向けなければ消えてしまうほどの儚い幻想だったけれど、確かに私の中に少女はいた。 そうだよ、と未だ興奮の抜けぬ声色で前田かん子は言う。 「アイツの親父は婿入りだったから、離婚時に苗字が変わっている。小学生の時、キリエは田中キリエでなかった。当時のアイツの苗字は・・」 819 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 13 47 ID gEXkxocY [10/12] 最後のピースを手渡してくれた。 「葛篭木だ。小学生の時のアイツの名前は、葛篭木キリエだ」 「ツヅラギ、キリエ・・」 かちり。全ての歯車が噛み合わさり、からくりは動き出す。フラッシュバックする情景。ストロボをたいた時のように、眩い閃光と共に記憶が浮かび上がっていく。 雨。校舎。昇降口。たたずむ少女。弱い。死んでしまいそうな。傘。失くした物。探索。結果。帰り道。水溜り。虹。そして、少女の瞳に宿る……。 靄が晴れていくように、さっと疑念がきえていくのがわかった。心に一陣の風が吹き、清涼剤の如き爽やかな気分が胸中を占める。やっとだ。わからないという気持ちの悪い状態から、やっと解放されたのだ。 葛篭木キリエ、いや、田中キリエはあの時の少女だったのだ。 「ありがとうございます」 テーブルに手をついて、深々と頭を下げた。自分にしては珍しく、それは正真正銘の心からの感謝だった。 「質問はこれで全て終わりました。前田さんのおかげで、これからうまくやれそうです。本日は御協力、誠に感謝いたします」 「ふん」 前田かん子はつまらなそうに鼻を鳴らしてから、すっと腰を上げた。自分の責務は果たした言わんばかりに、きっかりと私への関心を無くす。そして、ポケットの中から小銭入れを取り出した。 「支払いは結構です。今日は私が払いますよ。そもそも呼び出したのは此方ですし、そこまでしてもらうわけにはいきません」 「断る。お前に妙な借りはつくっておきたくない」 そうして乱暴に硬貨を投げる。三百十五円。ブレンドコーヒーちょうどの値段だった。 「それと鳥島タロウ。携帯電話を貸せ」 「携帯電話?」 誰かに連絡をとるつもりなのかしら、と疑問に思いつつも、私は古びた携帯電話を彼女に差し出した。すると、パキン。携帯電話が真っ二つに折られた。そしてそのままテーブルの上に放り投げられる。 「これからは二度と私に連絡をとろうとするな。わかったな」 「……はい」 意気消沈の返事をしながら、二つに分離した携帯電話を左右それぞれの手で拾い上げる。断面から赤いコードが、内臓のようにだらしなくはみ出していてグロテスクだった。 まあ、前々から機種変更をしようと思ってたし、別にいいんだけどさ。けどさ、そんなの口で言えば済むことじゃない。なにも物理的破壊に躍り出なくたって……まあ、いいんだけどさ。本当に気にしてないんだけどさ。別に、携帯電話くらい、いいんだけどさ。 はあ、と溜め息を一つ。携帯電話をテーブルに置き、つんつんと指でいじる。 820 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 15 04 ID gEXkxocY [11/12] と、それで立ち去るだろうと思っていた前田かん子が、なぜかまだ前方に立っていた。 「まだ何か?」 点燈することのない液晶画面を覗き込みながら、いじけた口調で訊ねる。が、返事は返ってこない。 これは本格的におかしいぞ、と不安を感じながら顔を上げると、彼女は今まで見たことのない、なにやら難しい顔をして私を見下ろしていた。 「まだ、言わないつもりなのか」 低い、しわがれたハスキーボイスでそう言った。 はてなにやら。こちらとしては首を傾げるしかない。 「言わないもなにも、今日は訊きたいこと全て訊けましたし、私にはもう言うことはありませんけど」 「違うっ」 即座に言い返される。まだ惚ける気なのか、と前田かん子は詰問調で口火を切った。 「あまり私を舐めるなよ。気付いていないとでも思っていたのか。今日、お前は私と会ってからずっとそうだ。何を言うにも、薄皮一枚挟んだような嘘くさい物言いばっかしやがって。 違うんだろう、鳥島タロウ。お前の本当の目的は、キリエの情報を訊くことではない。そうなんだろう」 「…………」 「言えよ。なにが狙いだ。電話でなく、わざわざこんなショッピングモールの喫茶店にまで呼び出して、私とくだらない会話を交わした理由はなんだ。なにを企んでいるんだ。吐けよ、洗いざらい吐けよ。気味が悪いんだよ、お前」 「……くくく」 自然と、笑い声が漏れ出ていた。いやいや驚いた。前田かん子、コイツは私が思っているよりも、よっぽど鋭かった。野生の勘などではなく、冷静に私を観察しての結論なのだろう。彼女に対する評価を、改めなくてはならない。 「ええ、その通りです」 私はお手上げだとばかりに万歳して、降参の意を表した。 「たしかに、私が前田さんを呼び出したのは、田中さんのことを訊くだけではありません。それはあくまで名目上の理由です。隠された、真実の目的があります」 一呼吸置いて、十分な間をつくって空気を張り詰めた。そして、あくまで慇懃な口調で、ゆっくりと真意を告げた。 821 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 16 25 ID gEXkxocY [12/12] 「私が前田さんを呼び出したのは、ひとえに言って好感度を上げるためです。田中さんとの個別ルートを進めつつ、前田さんとも親密になり、そしてゆくゆくは両手に華エンドという壮大な目的が・・」 雨音に負けないほどの乱暴な騒音。いつの間にか目の前から前田かん子は消えていて、出入り口のドアに付随していたベルが床に落ちた。店員さんは仰け反るようにして、恐怖でブルブルと震えている。 エンジン音がして、外に目を移すと、彼女はちょうどフルフェイスヘルメットを被っているところであった。そして前田かん子は私を一度も見ることなく、大雨の中をバイクで駆け抜けて行った。目を見張るほどの猛スピード。事故らなきゃいいけど、と不必要な心配をする。 猛獣の唸り声が遠ざかっていき、完全に消滅したところで、私は漸く身体の緊張を解いた。 「……怖かったなあ」 呟く。正直、かなり怖かった。身体中が間断なく震えている。終始わざと余裕な態度をつくっていただけに反動が凄い。深い呼吸を何度か繰り返し、私はなんとか平常心を取り戻した。 さて、今日の計画はうまくいったのだろうか。残念ながら、それはわからない。百点満点とは云えないだろうが、それでも及第点ぐらいは取れたはず。少なくとも赤点は免れた。 まあ、詳しいことは何も判明していないけど、今はそれでよしとしよう。 それよりも、 「まさか、田中キリエが葛篭木キリエだったとはねぇ……」 合縁奇縁。人の繋がりとは妙なものであると、殊更に実感する。いや、中々どうして。忘れていたフラグを今になって回収するとは、自分も結構主人公やってるじゃないか。笑ってしまう。 「…………」 これから、どうしよう。私はぽつねんと残された店内で一人、呆けたように座っている。 店の外では、相変わらず強い雨が地面を跳ねていた。冬本番のこの季節。この雨の中に出て行ったら、間違いなく風邪をひいてしまうだろう。明日からまた学校だし、体調を崩してしまうのは得でない。 「ふむ」 少し悩んだ末、私はまだカウンターで怯えている店員さんを呼んで、コーヒーのおかわりを注文した。雨脚が弱まるまで、もうちょっと店内で粘ろうと思ったからだ。 その時だった。 ・・君さ、傘持ってる? 不意に、まだ幼い頃の己の声が再生されて、私は思わず苦笑したのだった。 そうだ。葛篭木キリエと初めて話したあの日。あの日も私はこうして傘を忘れて、雨が止むのを待っていた。
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116 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 23 01 ID WBUL+36S 学校を出て駅から反対側に少し進んだ所に、寂れた停留所がひとつある。 昔はそれなりに利用されていたらしいが、地理的な利点を考えて新設された駅側のバス停のせいで、それはまもなく廃線にされた。 我が校の生徒も、大半がそちらを利用していて、わざわざこちら側に足を運ぶ物好きなど誰も居ない。今も私がひとりベンチに座っているだけで、制服を着た人間はおろか、通行人すら見えなかった。 私は、そこで彼女を待っていた。 時間は放課後を少し回ったぐらいで、季節柄日が落ちるのも早く、夕方ももう終盤を迎えていた。青かった空も、今では赤く焼けている。 「ごめんなさい。待たせちゃって」 と、言いながら駆け寄って来たのは、恋人である田中キリエだった。 いいえ、全然待ってませんよ。 なんて、ありふれたやり取りがしてみたいと思ったが、実際にそれなりの時間待っていたので、私は黙って微笑んでいた。 何故、こんな中学生のカップルみたいに、人目を避けてこそこそと待ち合わせているのか。そんなことを聞くのは、野暮というものだろう。 私は錆びたベンチから腰を上げ、カバンを手に持った。 「それじゃあ、行きましょうか」 「うん」 喜色満面といった様子で、彼女は頷いた。 昼休みの約束通り、私達ふたりは並んで下校する。 わざと人の少ない路地を選んで、まるで逃亡者のように身を窶しながら、ゆっくりゆっくり駅へと歩いて行った。 そんな平和な帰り道の中でも、私はいつ昼のことをぶり返されるのかと、内心びくびくしていた。 しかし意外なことに、田中キリエがそのことを話し出す気配は一向に表れなかった。てっきり、昼休みのような押し問答が繰り返されると思っていた私は、どこか拍子抜けしてしまう。 一応待ち時間の間に、中々筋の通った言い訳を考えていたのだけれど、どうやら使う機会は消えたらしい。 「寒いね」 彼女は、自分の吐く白い息を見ながらそう言った。かけている大きな黒縁眼鏡も、少し雲ってしまっている。 「そうですね」 私も応えた。 「自分は寒いの苦手なんで、ここ最近は特に辛いですよ。寝る時なんかは、湯たんぽ必須の人間ですからね。私個人としては、早く春が来て欲しいものです」 「春かぁ。春になったら、私達も三年生だね。鳥島くんは卒業したらどうするの? やっぱり進学?」 「まあ、進学でしょうね。学歴は持っておいて損は無いですから」 117 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 24 10 ID WBUL+36S 「行きたい大学とかはあるの?」 「今は特に。でも、結局は自分の偏差値に見合ったところに行くと思いますよ。大学に入ってから、やりたいことも無いですし」 「そっかー、それなら私も大変だな。鳥島くん頭いいから、ついていくのも一苦労だよ」 彼女がそう言って苦笑するのを、私は複雑な心持ちで見ていた。 ついていくのも一苦労、か。 もしかして彼女は、私と同じ大学に進学するつもりなのかしら。 「まあ、私も言う程頭いい訳じゃないですけどね」 「そんなことないよ。テスト後に貼り出される順位表見ると、鳥島くんいつも上位に居るもん」 「いえいえ」 と、やんわり否定しながらも、実際に私はかなり頭がよかった。順位表でも、十位から下に落ちたことがない。 けど、それにはちゃんと理由がある。 一番の理由としてはやはり、私に友達がいないからだろう。 いや、いないと言うのは少々言い過ぎかもしれない。もちろん私にも、クラスで談話を興じたりする友人はそれなりにいた。 しかし、それはあくまで上辺だけの付き合いに過ぎない。放課後に一緒に帰ったり、休日に楽しく遊んだりする友人は、私にはひとりもいなかった。 そのせいか、基本的に私はいつも暇なのである。その上無趣味。 家に帰ってすることといえば、帰結的に勉強しかなくなる。帰れば勉強、休日も勉強。これで頭がよくならなかったら嘘だ。無駄に、偏差値ばかりが上がっていった。 田中キリエと付き合ってからは、幾らか改善されたとはいえ、私の生活基盤は未だ変わらずにいる。 「けど、今はそんな遠い未来よりも、目先の期末テストを心配しなくちゃ、だけどね」 彼女は憂鬱そうに溜め息をした。 だけど私にはイマイチ、試験を憂うという気持ちがわからなかった。勉強関係で困ったことなど、今まで一度も無い。 「そんなに心配しなくても、大丈夫だと思いますよ。高校のテストなんかだと教師の気質が特に表れやすいんで、返って対策がしやすいですし」 「うわっ、余裕の発言だね」 「余裕なんかじゃないですよ。ところで、そう言う田中さんはどうなんですか? 田中さんも結構、頭よさそうに見えますけど」 「私は全然だよ」 と言って、彼女は肩をすくめた。 が、それは只の謙遜だろうな、と私は思った。 彼女が切れ者であることは、もう十分すぎるほどに理解している。勉強の出来ない切れ者など、見たことがない。 118 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 25 16 ID WBUL+36S 「けど、しいて言うなら、化学とか生物とかの理系科目はわりかし得意かな。私、お父さんが製薬会社に勤めてるせいか、小さい頃から理系関係のことには、よく興味を持ってたんだ。ほら、親の仕事は子供に影響するって、よく言うでしょ」 「へぇ、お父さんが製薬会社に勤めてるんですか。けど、それだと私とは真逆ですね。自分は文系科目は得意なんですが、理系科目はちょっと苦手でして」 ――あなたって心が無いくせに、なんでこんなに国語の点数が高いのかしら? 昔、斎藤ヨシヱにテスト結果を見せた時に、そう皮肉られたことを思い出した。 どうやら、魔女の呪いはまだ有効らしい。 田中キリエは、目を丸くして私を見ていた。 「意外だね、鳥島くんにも苦手な科目ってあるん――」 中途半端に言葉を切って、彼女は何かを思い付いたように、ハッと顔を上げた。 「そっ、それならさ。今度、私と一緒に勉強しない?」 「一緒に勉強、ですか?」 「うん、私の家でさ。テスト期間中って、下校時間も早いでしょ? だから、学校が終わってから一緒に勉強しようよ。 「私の苦手な文系科目は鳥島くんに教えて貰って、鳥島くんの苦手な理系科目は私が教えるからさ。お互いがお互いの苦手なところをカバーし合えば、勉強の効率もいいし、一石二鳥だよ」 彼女の誘いに、私はふむと顎を撫でた。 確かに、田中キリエの提案は道理にかなっているように思えた。勉強というのは一人でやるよりも、人に教えてもらいながらやったほうが、何倍も覚えがいいものだ。 「いいですよ」 断る理由も無かったので、私はとりあえず了承しておいた。 「本当? やったあ」 田中キリエは、少々大袈裟すぎる程に喜んだ。 そして、ルンルンとステップを踏み始め、私より先を歩く。余程気分がいいのか、鼻歌まで歌っていた。 曲目は、ベートーヴェンの交響曲第九番“歓喜の歌”だった。 安直な選曲だな、と私は思った。 「私、鳥島くんと付き合ってから、本当に幸せ」 田中キリエが不意には立ち止まり、振り返って私を見た。その笑顔は、生まれたばかりの赤子のように、惚れ惚れするほど純粋無垢なものだった。 119 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 26 28 ID WBUL+36S 「今まで生きてきて、こんなに幸せだった時は無かったよ。これからも、ずーっとこんな毎日が続くと思うと、幸せでおかしくなっちゃいそう。最近は、バチが当たるんじゃないかって怖くなるぐらい」 彼女は真面目な顔で、私に問いた。 「ねぇ、鳥島くん。鳥島くんは、私と付き合ってよかったと思ってる?」 「ええ、思ってますよ」 私は即答する。 その答えに満足したのか、彼女はうふふと笑って、再びステップを踏み始めた。 そんな彼女の後ろ姿を、私は冷めた目で見つめている。 これからもずーっと。 なんだろう。さっきから、彼女の言葉がやけに鼻にかかった。まるで私達の関係が、永遠に続くような言い方をしているではないか。 永遠の愛なんてものは、この世に無いというのに。 そもそも人というのは、特定の人間を長く愛することが出来ない。 肉親ならともかく、他人。 一生ひとりの他人を愛し続けるなんて、それこそ無理難題であり、かつ難行苦行でしかない。 付き合った当初は、大好きだの愛してるだの言い合っていた男女が、半年もすれば違う相手に同じことを言っている。 そんなのは、もはやありふれた光景のひとつだ。私の通っている高校にだって、そんな男女はごまんと見れた。 付き合ったと思ったら別れ、別れたと思ったらまた付き合う。まるでインスタントラーメンのように、恋愛というものは手軽に生まれていく。 田中キリエも、今はああ言っているが、おそらく三年生になる頃には、二度と私に同じ台詞を吐かないだろう。その頃にはきっと、彼女の隣には違う男が歩いているに違いない。 だから今の内、言わせるだけ言わしておけばいい。私は何も、気にすることはないのだ。 ちょっと、寂しい気もするけど。 そんなことを考えながら歩いていると、今度は鼻歌ではなく口笛が聞こえてきた。 最初は田中キリエが吹いているのだと思ったが、それは違った。 音の発生源は、私の口からだった。 どうやら、無意識の内に口笛を吹いていたらしい。 せっかくなので、前方を歩く彼女に聞こえないように、私は口笛を吹き続けた。聞き慣れたメロディーを、虚空に向かって演奏してやる。 曲目は、フランツ・シューベルトの歌曲“魔王”だった。 120 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 27 59 ID WBUL+36S 駅には案外あっさりと到着した。 我が校から駅までは、徒歩にして約三十分程かかる筈だから、どうやら体感しているよりも長く歩いていたらしい。 「もう、着いちゃったね」 隣に立つ田中キリエが、名残惜しそうに呟いた。 そうですね、と私も相槌を打つ。 今現在、私達は駅から少し離れた通りに立っていた。 さすがに駅前は人が多く、我が校の制服を着た人間もちらほらと見えるため、これ以上近付いたら、二人でいるところを見られてしまうからだ。今まで散々こそこそと隠れてきたのだから、最後の最後で手をぬきたくなかった。 腕時計を見る。 この時間だと、私の乗る電車は後十分程で到着する。 「鳥島くん」 呼ばれて、視線を時計から彼女に移す。 田中キリエは顔を赤くしていて、もじもじと身をよじりながら私を見ていた。 これは何か言い出すな、と瞬時に思った。 「なんでしょうか?」 「あの、さ……。明日って、学校はお休みだよね」 「はい、日曜日ですから」 「だからさ、あのさ……良かったら、明日……その……」 言葉尻をゴニョゴニョとさせるので、上手く聞き取れない。 辛抱強く待ってみたが、次の言葉は中々出て来なかった。 私は電車の時間を気にする。 これ逃してしまったら、次に来るのは更に二十分も先になってしまう。 あまり急かすような真似はしたくないが、仕方ない。 手助けしてやるか。 「田中さん、いつまでもそんな風に気をつかわなくたって、大丈夫ですよ。もっと気楽にやってください。だって私達は――」 恋人なんですから、と笑顔で付け加えると、彼女は漸く安心したように表情を崩した。 我ながらキザな物言いだとは思うが、なんだかんだでうまくいくものだな。 私の言葉に田中キリエは、そうだよね、恋人だもんね、と納得したように頷いて、意を決した表情で口を開いた。 「あの、良かったら明日、私と一緒にお出かけしませんか?」 彼女がそれなりの勇気を振り絞って出した言葉は、まあ、なんというか全く予想通りだった。 一緒にお出かけ。つまりは、デートのお誘いである。 というか、恋人に休日の予定を聞かれれば、十中八九誰だって気づくだろう。むしろそのことを聞かれた時点で、自分から誘ってもよかったなと、今更ながら思った。 121 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 30 13 ID WBUL+36S それはさておき、デートの誘いに乗ることは決定である。 先述したように、私は基本的に暇人なので、もちろん明日も何の予定も入っていない。真っ白で、空っぽだ。 それに、今回は田中キリエからのお誘いなので、エスコート云々は全部彼女に任せてしまえばいいし、心理的にも色々と楽だった。 だから私は、二つ返事で了承―― 「はい、それじゃあ明日――……ああっと……すいません。……明日はちょっと“ヘビセン”の方へ家族と買い物に行く予定があるので、だから、ごめんなさい。明日は少し、都合が悪いです。本当、すいません」 ――しなかった。 苦笑を浮かべて、からくり人形のようにペコペコと何度も頭を下げる。 天国から、一気に地獄へ。 先程の幸せな表情とは打って変わり、田中キリエの顔は悲愴感溢れるものへと変化した。 そんな彼女を見ていると、私は罪悪感を感じた。針で突いたみたいに、胸の辺りがチクチクと痛む。 やっぱり、オーケーしとけばよかったかな。 そのような後悔が襲ってくる。 無言で佇んでいる私に気付いたのか、彼女は取り繕うように言った。 「う、ううん。お願いだから、謝ったりとかしないで。明日の今日でいきなり言い出した、私が悪いんだから。鳥島くんにだって、都合とかあるもんね」 そう言って田中キリエは、あははと笑ったが、その笑顔はどこかぎこちなく感じた。 気まずい沈黙が流れる。 私はふと、どうしてデートを断ったぐらいでこんな雰囲気になるのだろう、と疑問に思った。そんな顔をされるほど、自分は悪いことしている訳じゃあないと思うんだけど。 122 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 31 27 ID WBUL+36S ああ、なんかだんだんうんざりしてきた。 思わず嘆息を漏らしそうになるのを必死で堪え、目の前で萎縮する田中キリエを見下ろす。 まあ断ったのは自分だし、フォローでもするかな。 そう思って、口を開きかけたのだが 「それじゃあ、私行くね。また明後日」 などと言い残して、田中キリエは駅前の人込みの中へと駆け出して行ってしまった。 彼女の姿は雑踏に紛れ、すぐに視認出来なくなる。 取り残された私は、開きかけの口をそのままに今度こそ嘆息をした。 ……なんだかなあ。 まあ、いいけど。 と、あまり自分ものんびりしていられないことを思い出した。 急がなくては、乗車予定の電車が到着してしまう。 そのことに気付いた私は、小走りで駅へと走りだし、途中ちらりと腕時計を見たのだが、まあ、これもまた予想通りのオチだった。 絶え間無く運動を繰り返していた両足は、緩やかに減速していく。 時計の針は、ちょうど電車が駅から発進している時間を指していた。 いやはや。 残り二十分、どうするかな。 私は行き場の失った足を休憩させ、所在なげに立ち尽くす。 すると、風がびゅうと吹いて私の体を叩いた。 「寒い……」 亀のように首を引っ込ませて、外気の寒さから守るために、両手をポケットにしのばせる。 コツン、と右ポケットに硬い感触を感じた。私の携帯電話だ。 取り出してみる。 携帯電話は、しばらく機種変更していないため、塗料が剥げて緑と黒の斑模様になっていた。買い換えよう、買い換えようといつも思うのだが、面倒臭いのもあって未だに機種変更していない。 私はその硬い表面を、乾燥した手で撫でながら考える。 123 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 32 32 ID WBUL+36S やるなら、今か? 直前になって、田中キリエの誘いを断ったのには、もちろん理由がある。 昼休みに感じた、あの感覚。 あれが私の勘違いならば、何の問題は無い。このうっかり屋さんめ、で済む話なのだ。 けれど、もし勘違いでないとしたら、状況は少し煩雑としたものになる。 あれが本物ならば、もうあまり時間は残されていない。信号でいうなら、青信号から黄信号に変わったところ。前と同じことを繰り返したくないのなら、早急に動いたほうがいいだろう。 しかし、同時に躊躇いもあった。 自分が今やろうとしていることは、目の前に垂れ下がったチャンスを、自らの手で握り潰すということだ。それが惜しくない訳がない、無念だと思う気持ちも確かにある。 だが、そこに私情を挟んではいけない。 ほんの少しでもリスクを内包しているのなら、やはり黙過すべきではないのだ。事態が厄介なものへと変わる前に、さっさと終わらせたほうがいいに決まってる。 よし、思い立ったら即行動。 ぐずぐず迷ったりせずに、早く済ませてしまおう。 そう思って、私は携帯電話を開こうと指に力をこめたのだが、既の所で止める。 ……やっぱり、今はやめとくか。 思い返してみれば、今日はとことんツイてなかった。 やることなすこと全てが裏目に出て、あちらこちらで墓穴を掘りまくる一日だった。 こういう日は何もしないで、じっとしているのが最善である。やるのは日付が変わってからでも遅くないし、ここは慎重にいくべきだろう。 急がば回れ、だ。 さっきと言っていることが全然違うけど。 私は携帯電話をしまうと、駅へと歩き出した。 実行は、今夜の散歩のついでにでもやっておこう。 そう思いながら、自分もまた雑踏の中へと加わっていった。 124 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 33 45 ID WBUL+36S カリカリ、と紙面に文字を書き込む音が自室に響く。 数学の証明問題は思ったよりも手強く、何度も手を止めたり、椅子の前脚を浮かせてのけ反ったりとしながら、なんとかクリアした。 私は言い様の知れぬ達成感を感じ、ふぅと一息ついてから、持っていたシャープペンシルを離した。 机の上には、文字がびっしり詰まったノートと、使いこまれた参考書が並べられている。テスト期間が近いので、今夜は普段以上に勉強していた。 壁に備えつけられてる掛け時計を見て、時刻を確認する。時計は、もうじき今日が終わることを告げていた。 ちょうどいい時間だな、と私は思った。 ノートや参考書を机の中にしまい、椅子から腰を上げて、大きく伸びをする。長い時間座っていたせいか、体中の間接が悲鳴をあげていた。 さて、それじゃあ準備するかな。 クローゼットを開け、中から厚手のコートとマフラーを取り出した。最近はよく冷えるので、防寒を怠ってはならない。 それらを片手に持って、部屋の電気を消してから、自室を出た。 と、いけない、いけない。 踏み出した片足を慌てて戻して、ベッドの上に投げ捨てられていた携帯電話を、ポケットに突っ込む。 普段利用する機会が少ない分、私は携帯電話を忘れることが多い。けど、別段それで困ったこともなかった。着信なんて、稀にしか来ない。 私は階段を下りて、玄関で靴を履いた。 コートを羽織り、首元にマフラーを巻く。中にも大分着込んでいるので、寒がりの私でも、これで大丈夫だろう。 「いってきます」 振り返って、冷たい廊下に向けてはっきりと声を上げた。 しかし、返事は返って来ない。リビングには光が灯っていて、人の気配もあるというのに。 もう一度言ってみようかしら、と思って再び口を開けるが、やっぱり止めた。 返事が返ってきたことなど、一度も無いことを思い出したからだ。 私は、そっと家を出た。 深夜の空気は刺すように冷たくて、鋭利な刃物を思わせる。 思わずぶるりと体を震わせて、私は門を出た。 出発する前に、我が家を振り返る。 自室の隣の部屋の電気が、まだついていた。あそこはリンちゃんの部屋だ。 きっと、まだ眠れずにいるのだろうな、と私は思った。 125 :名無しさん@ピンキー:2010/11/16(火) 11 51 16 ID 7YYpU1zl 124 GJ!! なんということでしょう!!今週は停滞作品復活祭か!? 126 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 58 09 ID WBUL+36S 妹の姿を思い浮かべる。 彼女は小さい頃から、慢性の不眠症を抱えていた。 いつも目の下にクマをつくっていて、よく眠い眠いとぼやいていたのを思い出す。 発症したのは、たしか彼女がまだ幼稚園児の時だったか。 母は最初、子供だから色々と不安定なのだろうと、あまり気にしていなかったのだが、一向に回復の兆しが見えなかったので、遂にリンちゃんを病院に連れていった。 しかし何回診察を受けても、不眠の原因はわからなかった。 当時、リンちゃんは規則正しい生活を送っていたし、ストレスらしいストレスも無い、何の変哲もない至って健康な女の子だったからだ。本人も、特に心当たりが無いと言っていた。 医者には、副作用の少ない睡眠薬を服用することを進められたが、リンちゃんがそれを強く拒否したので、結局、彼女の不眠症は治らずじまいに終わったのだ。 それは高校生になった今でも続いているようで、彼女の部屋の電気が消えることは滅多にない。 早く治ればいいのに。 私は部屋の窓を見つめる。 その時。 んっ? 今、一瞬。カーテンが揺らいでいたような気がした。 風かしら、と最初は思ったが、外はこの寒さだから窓を開けている筈がない。それでいて 127 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 11 58 55 ID WBUL+36S 妹の姿を思い浮かべる。 彼女は小さい頃から、慢性の不眠症を抱えていた。 いつも目の下にクマをつくっていて、よく眠い眠いとぼやいていたのを思い出す。 発症したのは、たしか彼女がまだ幼稚園児の時だったか。 母は最初、子供だから色々と不安定なのだろうと、あまり気にしていなかったのだが、一向に回復の兆しが見えなかったので、遂にリンちゃんを病院に連れていった。 しかし何回診察を受けても、不眠の原因はわからなかった。 当時、リンちゃんは規則正しい生活を送っていたし、ストレスらしいストレスも無い、何の変哲もない至って健康な女の子だったからだ。本人も、特に心当たりが無いと言っていた。 医者には、副作用の少ない睡眠薬を服用することを進められたが、リンちゃんがそれを強く拒否したので、結局、彼女の不眠症は治らずじまいに終わったのだ。 それは高校生になった今でも続いているようで、彼女の部屋の電気が消えることは滅多にない。 早く治ればいいのに。 私は部屋の窓を見つめる。 その時。 んっ? 今、一瞬。カーテンが揺らいでいたような気がした。 風かしら、と最初は思ったが、外はこの寒さだから窓を開けている筈がない。それでいて、カーテンが揺らぐということは、もしや中から―― と、そこで慌てて思考を打ち切り、私は顔を赤くして頭を振った。 馬鹿か、そんな訳ないだろう。 ほんの少しでもそんなことを考えてしまった自分が、急に恥ずかしくなる。 今のは、ただの私の見間違いだ。そうあって欲しいという自身の願望が、それを見せたに過ぎない。 兄を慕っていた妹は、もういない。 彼女は私のことを嫌悪し、心底恐れている。その事実は変わってないし、これからも変わらない。 変な幻想を抱くのは、よせよ。 私はがりがりと頭を掻く。 途端に居たたまれない気持ちになり、足早に家を後にした。 もう一度我が家を振り返る気には、なれなかった。 128 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 12 00 25 ID WBUL+36S 何故、こんな夜更けに出歩いたりするのか。 一言で言えば、それが私の習慣だからだ。 深夜になると必ず散歩をする。 最初に始めたのは、確か中学生の時だったと思う。 どうしてこんなことを始め出したのか、今ではもう動機はわからないけれど、なんせ血気盛りな中学生の頃だ。多分、深夜に出歩く俺カッコイイとか思ってたに違いない。 私の散歩コースは、隣町の自然公園まで歩き、そこでゆったりしてから帰宅する、というものだった。 始めた最初の頃なんかは、ただ徒に近所をほっつき歩いているだけで、たとえ家を出ても直ぐに戻っていたのだけど、今ではむしろ、日に日に外出時間が長くなっている。 警察の補導にさえ気をつければ、深夜という時間帯は考えごとをするのに最高だった。 私は針穴みたいに小さい星屑を眺めながら、自然公園へと足を進めて行った。 自然公園に着いた。 隣町だけあって、ここまで歩くのには中々時間がかかった。既に時計の針は、最後に見た時から一周以上している。 私は、入口付近に設置されている自動販売機で、暖かい缶コーヒーをひとつ買ってから、公園の中へと足を進めていった。 するとすぐに、左右に枝分れした標識が現れる。左右それぞれに“北ブロック”“南ブロック”と彫られていた。 自然公園は、主に北と南のブロックに分けられる。 南側の方は、主にレジャー施設として利用されることが多く、広大な芝生や子供用の遊具、アスレチックなどが豊富に設けられていて、休日などはよく家族連れで賑やかになる。 それに対し北側は、主に散策やランニングのコースとして使われていた。季節ごとの観葉植物も沢山植えられているので、ついでに植物鑑賞も楽しめる。 129 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 12 01 45 ID WBUL+36S 私がいつも利用するのは、北ブロックのほうだった。 “北ブロック”と書かれた矢印の標識に従って、自然公園の中枢へと向かっていく。 相変わらず、自然公園には人っ子ひとりいない。 私は数年間、この北ブロックに通い続けているが、未だに此処で誰かと出くわしたことがなかった。まるで、この北ブロックだけが世界と隔離されてしまったように、過度なまでに閑散としている。 この有様だからかな、と私は周囲を見回した。 昼の和かな雰囲気に対して、深夜の北ブロックは、ただただ不気味でしかない。 生い茂った木々がコンクリートの道の上で天井をつくり、木の葉を擦り合わせてざわざわと音を立てる。しかもやけに街灯の数が少ないので、嫌でも暗闇が目立ち、どこか動物的な本能が警鐘を鳴らすのだ。 だから、みんな無意識に此処を訪れることを避けているのかもしれない。なんて、勝手な憶測をたててみる。 しばらく歩いていると、お気に入りの古い木製ベンチを見つけた。この散歩のゴール地点である。 私は、夜露で湿ったそれに腰を下ろし、缶コーヒーのプルタブを引き上げ、熱い液体を喉に流し込んだ。 落ち着くなあ。 全身が弛緩するのを感じる。この瞬間だけは、何物にも代え難いといつも思う。 私は、ぐにゃぐにゃに柔らかくなった意識の中で、ぼんやりと前方を眺めた。 目の前には、背の高い森林達でも覆い隠せぬほど大きくそびえ立つ、この市で一番の高度を誇る高層マンションがあった。 出来た当初なんかは、マスコミにも騒がれていた高層マンションだ。芸能人の誰々が買ったー、なんて言って一時期クラスでも盛り上がっていた。 あそこのてっぺんには、一体どんな人が住んでいるのだろう。 ボーっとしながら、きらびやかに光る最上階を見つめた。 時は一刻と過ぎていく。 と、まずい。 少しまったりしすぎたか。危うく、本来の目的さえ忘れてしまうところだった。そんなことになっちゃあ、正に本末転倒だろう。 130 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/11/16(火) 12 02 44 ID WBUL+36S 私はポケットから携帯電話を取り出し、二つ折りのそれを開いた。 ディスプレイに映る日付は、既に変わっている。昨日の不幸な一日はリセットされ、新しい一日が始まったのだ。 大丈夫、これでいつも通りだ。 指を動かし、メニュー画面からアドレス帳を開く。 登録数が異様なまでに少ない私のアドレス帳の中には、ひとつ新しい名前が増えていた。今日の昼休みに登録されたばかりのものだ。 一応、保険をかけておいて正解だったな。つくづくそう思う。 私はその名前まで矢印をスクロールし、数秒迷ってから、親指で通話ボタンを押した。携帯電話を耳に当てる。単調な電子音が鼓膜を揺らす。 そして数回のコールの後、電子音が途切れ、相手が出た。 応答の声は無い。 おそらく、見知らぬ番号からの着信に警戒しているのだろう。 なら、こっちからいくか。 私は舌で唇を湿らせてから、おもむろに口を開いた。 「ああ、どうも。夜分遅くにすいません、鳥島タロウですが――って、ちょっ、ちょっ、ちょっと、切らないで切らないでっ! 切らないでくださいっ! 「……ふぅー、危なかったなぁ。今、絶対に切ろうとしてたでしょう? 気配でわかりましたよ。ああ、危ない。せめて、話くらいは聞いてくださいよ。乱暴だなぁ。 「えっ? どうやって番号を知ったか、ですか? ……まあ、細かいことはいいじゃないですか。私なりに、色々と調べたんですよ。 「ハハハ、嫌だなぁ。勿論、用なら有りますよ。私だって、ふざけてあなたに電話した訳じゃあ、ありません。 「ああ、それがですね。さっさと、と言うわけにもいかないんですよ。あまり、電話で話せるようなことでも、ないですしね。 「はい、はいはい、ええ、そうです。まあまあ、そんなこと言わないで。 「だから、前田さん――今日のお昼頃って、時間空いてますか?」
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ArmaⅡLauncherを使ったBeta導入 現在、DayZをプレイできるサーバーの多くが、ArmaⅡOAのベータパッチを導入する必要があります。 ここでは、海外の有志が作成したArmaⅡLauncherを利用したbetaパッチの導入方法を記載いたします ArmaⅡLauncherを利用することで、起動設定などのめんどうな設定を省くことが出来、 簡単にbetaパッチを当てることが可能になります。 なお、これらの作業はArma2及びArma2OAがインストールしてあり、dayzMODファイルがArma2OAのフォルダに既に準備出来ている状態で行ってください ランチャーを利用するメリット 起動設定などの必要性がない 手動インストールと殆ど変わらないので、ダウンデート、ベータパッチの変更が容易 パッケージ版Arma2とSteam版Arma2OAのような違う状態のArma2をCO化して起動することが出来る。 Steamから起動することで、Steamを使ってスクリーンショットが撮れる。(Steamのウィンドウ左下から「ゲームの追加...」→「非Steamゲームを追加...」からArmaⅡLauncherを登録する必要がある。) ランチャーを利用するデメリット ベータパッチ等がアップデートされたら自分でその毎アップデートを行わないといけない 事前に済ませておくこと Arma2のインストール Arma2 OAのインストール @dayzのMOD関連をArma2OAをインストールした場所に設置しておくこと 必要な物 ArmaⅡLauncher Ver1.40 Arma2OA用ベータパッチ ArmaⅡLauncher導入方法 こちらのページ(http //www.armaholic.com/page.php?id=8241)の一番下のDownload from FTPよりArmaⅡLauncher Ver1.40をダウンロードします。 ダウンロードが終了後、落ちてきたzipを解凍し、出来たファイルArma2Launcherver1.4.0.msiを起動し、ランチャー本体をインストールしましょう。 ベータパッチの準備 こちらのArma2ベータパッチ置き場(http //www.arma2.com/beta-patch.php)より、必要なベータパッチのzipをダウンロードしてください。 必要なベータパッチはサーバーの状況によって変わりますが、基本的には最新のベータパッチで問題ありません。 (12年6月19日現在の最新ベータパッチはARMA2_OA_Build_93825.zip) ベータパッチのzipがダウンロード完了しましたら、解凍をして中身のファイルを起動してベータパッチのファイルをインストールしましょう。 ArmaⅡランチャーの設定を行う 上二つのファイルをインストール完了しましたらArma2Launcher.exeを起動しましょう。 起動しましたら、上の部分にあるLaunchOptionタブをクリックしましょう。 左下のArna2 Executable Locationの部分のBrowseを押し、Arma2.exeの場所を指定しましょう。 steam版Arma2の場合、デフォルトではC \Program Files\Steam\steamapps\common\arma 2\arma2.exeにになります。 その下のArma2 Betaの部分は空白でかまいません。 次にその右にあるArna2OA Executable Locationの部分のbrowseを押しArma2OA.exeの場所を指定しましょう。 steam版Arma2OAの場合、デフォルトでは、C \Program Files\Steam\steamapps\common\arma 2 operation arrowhead\Arma2OA.exeになります。 次にその下にあるArma2OA Betaのbrowseをクリックします。 ここでは、先ほどインストールしたベータパッチのexeを指定します。 インストールが正常であれば、ベータパッチのexeファイルはarma 2 operation arrowheadフォルダ内のExpansion\beta\arma2oa.exeにあります。 steam版がデフォルトの場合ではC \Program Files\Steam\steamapps\common\arma 2 operation arrowhead\Expansion\beta\arma2oa.exeになります。 以上の設定が終わりましたら画面右上のOther Optionの項目に移動し、Run Betaにチェックを入れてください。 画面上記にあるAddonsタブをクリックし、上にあるRefleshをクリックしましょう。 Arma2OAのフォルダ内にdayzmodが無事に導入されていれば、Availabe Addonsに@dayzという項目が追加されているはずです。 (@dayzが表示されていない場合は、dayz関連のファイルが準備されていないので、Dayzmodファイルを用意してください。) @dayzをドラッグして右のAddonsGroupにあるAddon/ModsのGroup1に入れてください。 無事に入れれば、Addon/Mods、Group1、@dayz全てにチェックを入れてください。 なお、dayz以外のMODを導入している場合、dayz以外のチェックは必ず外してください。 これが完了しましたら、最後に右下にあるGame VersionをArma2-COを選択してください。 これで、StartGameを押せば、ベータパッチが導入された状態で起動できます。 以後、Arma2Launcherから起動するだけで、簡単にdayzをプレイすることが可能になります。
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555 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 14 05 ID KgIpHWOW ――あなたみたいな人間が誰かに好かれるなんて、不可能よ。 何の変哲も無い、いつもの朝方の教室でのことだった。 ホームルーム前の教室は相変わらず賑やかで、あちらこちらと会話が生まれ、正に談論風発としている。 そんな中、私は彼等の輪の中に入ろうという気も起きず、深海魚のようにじっと座って、ぼんやりと何処か遠くを眺めていた。 そんな風にしていたのがいけなかったのかもしれない。 不意に昨日の言葉が頭を過り、私は顔をしかめたのだった。 ハァと、恋する乙女のような物憂げな溜め息をしてから、眉間の辺りを指で揉む。気分は一向に良くならない。 久しぶりの斎藤ヨシヱとの邂逅は、私にとってはもはや消し去りたい過去のひとつになっていた。 昨日のことは、何度思い出しても恥ずかしくなる。柄にも無く感情的になって、自分の内面の一角を安々とさらけ出してしまった。あのことは確実に、私の黒歴史の一ページに刻まれたことだろう。 ああ、駄目だ。 考えれば考えるほど、心がむずむずとこそばゆくなる。しかし逆に彼女のことを考えないように意識すると、より一層濃く残滓するのだ。 まるで呪いだな、と私はうんざりした。 斎藤ヨシヱと会った後は、いつもこうだった。 彼女はいつも、私の仮面の下の素顔を暴こうと何らかの揺さ振りをかけてくる。 しかも嫌らしいことに、彼女ならそんな仮面簡単に剥がせる筈だろうに、あえてそうしないのだ。じわりじわりと私を追い詰め、いつもギリギリのところで手を引く。 そういう人を手玉に取っているような行動は、はっきり言って腹が立つものだった。自分が道化のような気がしてならないからだ。 あのサディストめ、と私は心中毒づいたが、懲りずに茶道室へと通い続ける私も、またマゾヒストなのかもしれないと思い直し、再び苦い気持ちになる。 とにかく、昨日のことは早く忘れるが吉だ。 私はいやいやするように、軽く頭を振るのと同時に雑念をも振り払った。 そして、何気なく前を見る。 と。 そこに、見覚えのある背中を見つけた。 小動物を思わせる雰囲気を纏ったその背中は、間違いなく彼女だろう。 田中キリエ。 確か、昨日は風邪を患わって休んでいた筈だが、どうやら無事に回復したらしい。 本人は、身体が弱く欠席することが多いと言っていたけれど、あまり病を長引かせるタイプでもないみたいだ。 556 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 15 15 ID KgIpHWOW それにしても。 たった一日会わなかっただけというのに、彼女を見るのも随分と久しい気がする。 そう思えるということは、田中キリエは私が想像しているよりもずっと大きい存在になっているのかもしれない。 私が無意識にじぃと見つめていたせいだろうか。 突然、彼女が後ろを振り返った。 必然と目が合う。 そのまま目を逸らすのもアレなので、私はニコリと微笑んで会釈した。 すると、田中キリエもはにかみながら会釈を返してくれる。その笑顔に病の余韻は伺えない。 よかった、ちゃんと治ったみたいだ。 私は安心し、それで朝の挨拶も終わりだと思ったのだが―― あれ? 何故か、彼女はまだ私のことを見つめていた。 何かを期待するような、もしくは示唆するような、そんな視線を私に寄越し続けている。 どうしたのかしら。 不思議に思って私も目を離せずにいた中、ガラガラとしたローラー音と共に教室のドアが開いた。 担任が入って来た。 早く席に着け、という鶴の一声によって散らばっていた生徒達も自分の席へと戻っていく。 私も田中キリエもそこで視線を離した。 それから、朝のホームルームが始まったのだが、 「…………」 まだ、見てる。 彼女は、担任の目を盗んではチラチラと私の方を見ていた。 もしや、私の顔に何かついているのか。 そう思って自分の顔をぺたぺたと触ってみたけれど、特に変わったものはついていないように思えた。ついているものといえば、馴れ親しんだ形の悪い目や鼻や口ぐらいだ。 うーん。 私は困ったように頬を掻く。というか実際困っていた。 しばしの思案の後、結論を出す。 無視しよう。 正直、自分からわざわざ、一体全体どうしたのですかと聞きに行くのも面倒臭いし、それに彼女だって子供じゃないんだから、用があるのなら自分から言ってくるだろう。大して気にすることでもない筈だ。 なので、私は担任の話に集中することにした。 なんの面白みの無い平板な声が耳に届く。 期末テストが近いせいか、担任の話は全てテスト関連の話だった。テスト対策や日程について、しつこく生徒達に聞かせている。少しでもクラスの平均点を上げたいのだろう。 私はテストの杞憂よりもむしろ、もうそんな時期になるのか、という時の流れについて驚いていた。 557 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 16 46 ID KgIpHWOW 中間テストをやったのもついさっきのような気がしているのに、もう期末が始まってしまう。まるで私だけが流行に乗り遅れてしまったみたいで、妙な孤独感を感じた。 私は、おもむろに窓の外に目を向ける。 夏の間は緑色に繁っていた桜の木も、今では木の葉ひとつ無かった。 時間は、たしかに流れていっているのだ。 期末テストが終われば、冬休みが始まし。冬休みが終われば、新学期が始まるし。そして新学期が終わる頃、卒業式が行われる。 そして卒業式が終われば――上級生である斎藤ヨシヱは、この学校を去っていく。 そんなことを考えている時。私はなんとも言えない複雑な気持ちになる。 私と彼女の関係は、一言で表せない程に目茶苦茶なものだ。 一応、友人関係ということになってはいるが、実際はポケットにつっこんだイヤホンのコードみたいに、私達の関係はこんがらがっている。 なので私には、彼女が卒業するのは悲しいことであるのと同時に、嬉しいことでもあるのだ。矛盾した言い方であるが、他に適した表現も見つからないので仕方ない。 そういえば、斎藤ヨシヱは進路はどうするのだろうか。 無難なのはやはり進学だが、彼女が大学生っていうのもなんだかイメージが湧かない。そもそも、高校生である今でも違和感を感じているというのに。斎藤ヨシヱは、あの達観している態度のせいかやけに年上に見えるのだ。 まあ、いいか。 今度まとめて聞いておこう、と私は思った。 そんな中でも、視線の矢は未だに私を捉え続けていた。 結論から言えば、無視出来なくなった。 田中キリエは、一限目の数学の時も、二限目の日本史の時も、三限目の現代文の時も、ずっとずっと私のことを見続けていた。 しかも彼女の見方の巧みなことやら。 田中キリエの座る最前列の廊下側という位置上、後列にいる私を見るためには否が応でも後ろを振り向かなくてならないのだが 彼女は周囲の人間が気をそらしたその瞬間を見計らって後ろを振り返るという高度な技術を駆使しているため、私以外の人間は気付いた風ではないのだ。 そんな状況に、思わず私も眉根を寄せる。 こうも見られてしまっては、全く授業に集中出来なかった。 ここまでくると、もはや盗み見というより、むしろ監視だ。気分はまるで看守と囚人。 558 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 17 47 ID KgIpHWOW 正直、ウザい。 ノートも中途半端にしかまとめられてないし、言いたいことでもあるのなら、さっさと言ってしまえばいいのに――と。 そこで漸く、私は気付く。 そうか。したくても、出来ないのか。 田中キリエの恥ずかしがり屋、常に一歩引く控え目な性格を考えると、クラスメイトの目がある教室内で異性の私に話し掛けるなど、到底出来ることではない。 あまり付き合っていることを公言したいような子にも見えないし、むしろひた隠しにしたいタイプだろう。変に話しかけたりして、私達の仲を疑われるのは避けたいはずだ。 まあ、そうとわかれば話は早い。 人目がある所が駄目ならば、人目が無い所に行けばいいまでだ。 私は三時間目が終了すると、ひとり教室を出た。 後ろを見てみると案の定、田中キリエがひょこりと顔を出していた。それから、距離を置いてトコトコとついて来る。 どうやら私の予想は当たっていたらしい。珍しく、今日は冴えている。 私は、彼女がついてきてるかどうかを確認しつつ、非常階段を目指した。 学内で人気が無いとこといえば、あそこぐらいしか思い付かないし、ここ最近は中々の頻度でお世話になっているため、へんな愛着が沸いてるからだ。 そして暫く歩いていると、非常階段前に着いた。 想定通り、周りには私以外誰も居なかった。遠くから生徒の騒ぐ声が辛うじて聞こえるくらいで、後は静かなものだ。この場所なら、彼女も気兼ねなく用件を話すことが出来るだろう。 田中キリエは遅れてやって来た。 「あの、なんだかすいません。気を使わせちゃったみたいで」 彼女はぺこりと頭を下げる。 「いえいえ、気にしないでください。それよりも、何か私に言いたいことがあるのでしょう?」 「うっ、うん」 私がそう聞くと、田中キリエは急に顔を赤らめたり指を弄ったりと、もじもじし始めた。 こうなってしまうと彼女が長いことは、今までの経験から知っていた。 のんびりと話を切り出してくるのを待つことにする。 「あの、よかったら……」 蚊の鳴くような声で、彼女は切り出した。 「よかったら、お昼ごはん一緒に食べませんか……?」 「お昼ごはんですか?」 「はい。鳥島くんがよかったらでいいんだけど」 「いや、全然大丈夫です。うん、そうですね。お昼ごはん、一緒に食べましょう」 559 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 19 28 ID KgIpHWOW 私がそう言うと、田中キリエの顔が太陽みたいにパーっと明るくなった。それからありがとう、と言って身体をくの字に曲げる。 昼食ぐらいで大袈裟な人だ。 それにしても、そんなことが言いたいがために授業中あんなに見ていたのか。 「それじゃあ、場所は――」 と、田中キリエが言いかけたところで予鈴が鳴った。 時計を見れば、もうそろそろ戻らないとマズイ時間だ。 「教室に戻りましょうか。昼休みになったら、またここで落ち合いましょう。場所についてはその時に教えてください」 こくりと頷き、了承してくれた。 「後、それと」 私はポケットから携帯電話を取り出すと、苦笑混じりに言った。 「これからは何か言いたいことがあったら、メールにしてくれると嬉しいです。その、授業中にあんなに見られると、あまり落ち着かないので」 私の進言に彼女は、あっと目を開いて赤面した。そして、呟くようにゴメンナサイと言う。 やはり、メールをするという発想には至らなかったみたいだ。 そんな田中キリエを見て、可愛いらしい人だな、と私は頬を緩ませた。 昼休みになって、私は購買部へ赴き昼食を購入した。 残念なことにカレーパンは残っていなかったので、メロンパンとコーヒー牛乳を代替品にする。 購入品の入ったビニール袋を片手に引っ提げて、私は足早に階段を登っていった。 いつもならそのまま教室に向かうのだが、今日はちょっとだけ進路を変えてみる。 自分の教室がある階をさらに飛ばして、私はさらに上へと昇って行った。 目指す先は、屋上だ。 「お昼は屋上で食べませんか?」 四時間目が終わった後。 非常階段の前で再び田中キリエと落ち合うと、彼女は迷わず屋上を指定した。 我が校では、他の高校と比べ珍しく、一般の生徒に屋上が開放されている。 そのため、春や秋などの屋外ですごしやすい季節には、沢山の生徒が屋上で食事をしたり、お喋りをしたり、告白をしたりと中々の賑わいをみせる場所なのだが、生憎今の季節は冬だ。おそらく、屋上には人っ子ひとり居ないことだろう。 確かに人気は無い。 屋上ならば、彼女も気兼ね無く私と共に昼休みを過ごせることだろう。 確かに人気は無い。無いけど。 560 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 20 39 ID KgIpHWOW 「屋上ですか……」 正直、彼女の提案は私としてはかなり頷き難いものであった。 前々から言っていることなのだが、私は根っからの寒がりなのである。 この季節に屋上など行ったら、ヘタしたら凍死してしまうかもしれない。 ということなので、さすがの私も反論を試みようと口を開いたが、何故か肝心の言葉が何も出てこない。屋上以外に昼食をとれる場所が何も思い付かないのだ。 結局、私は渋々承諾することになった。渋々と言っても、もちろん顔や態度には出していないけれど。 そして話し合いの結果、弁当持参の田中キリエは先に屋上で待ち、私は購買部で昼食を購入してから屋上に向かうということになったのだった。 階段を昇り終え、踊り場に辿り着いた。 踊り場に田中キリエの姿は無かった。 此処に居ないということは、おそらく先に屋上で待っているのだろう。 というか、いっそこの踊り場で食事をしてもいいんじゃないのか、と私は思った。 埃っぽいのさえ我慢すれば、問題など全く無いのに。わざわざ屋外で食べる意味がわからない。 けど、そんな文句を言ったって仕方がない。 私は、屋上へと通じる重い鉄製の扉を押し開けた。 開け放たれた扉の隙間から、しんしんと冷え込んだ空気が漏れ出してくる。それだけで嫌になる。 そして、屋上に足を踏み入れた。 「寒い……」 思わず呟く。 わかってはいたことだけど、やはり屋上は寒かった。 寝る時に湯たんぽが欠かせないような自分には、この寒さは中々厳しい。 私はぶるぶると震えながら、辺りを見回した。 春や秋には賑わう此処も、今では誰も居なかった。檻のように囲んでいる転落防止のフェンスと、落書きだらけのベンチが数個設置されているだけだ。 周囲に田中キリエの姿は見えない。 「あっ、鳥島くん。こっちこっち」 と、聞こえてくる声は後ろからだった。 振り向くと、田中キリエは屋上内の隅にある貯水タンクの辺りでちょこんと座っていた。 なんでそんな所に、と私は疑問に思ったが、理由はすぐにわかった。 暖かい。 そこは、ぽっこりと突き出た踊り場の壁と、貯水タンク等がうまい具合に風を遮って、まるでかまくらのような暖かさがあったのだ。 助かった、と私は胸を撫で下ろす。ここならまだ我慢出来ない程ではない。 それにしても、田中キリエも事前に調べていたみたいに良い場所を知っている。 561 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 22 19 ID KgIpHWOW 私は彼女の側に歩み寄ると、その隣に腰を下ろした。 その時、田中キリエがさりげなくハンカチを敷いて、私のズボンが汚れないようにしてくれた。気が利く子だな、と感心した。 「それじゃあご飯にしよっか」 と言って、カバンの中から弁当箱を取り出し、さあ昼食だとなる筈だったのだが、彼女が突然あっと悲鳴を漏らした。 「どうしたんですか?」 「水筒、教室に忘れてきちゃったみたい……」 弁当箱は持ってきているのに水筒を忘れるなんて……。彼女も案外マヌケなことをする。 朝の睨めつけの一件もそうだけど、田中キリエは意外とドジをやらかす娘なのかもしれない。 「今から水筒取ってくるんで、先に食べててください」 彼女はそう言い残すと、すくっと立ち上がり、お尻をはたいてから慌だたしく駆けて行った。 そんな田中キリエの背中を見送る。 「それじゃあ、先に食べるかな……」 お腹も空いていたので、私は彼女の言葉に甘えることにする。 ビニール袋からメロンパンを取り出し封を開けようとしたのだが、その時ふと彼女の学生カバンが目に入った。 チャックが開いたままのカバンの中からは、携帯電話が覗いている。もう何世代か前の、既に型落ちしてしまったスライド型の機種だ。 「…………」 ふと閃く、ある考え。 私は、意味ありげにその携帯電話見つめる。 そして幾らかの逡巡の後、私はその携帯電話を利用することにした。 学生カバンの中に手を突っ込み、そのままの状態で携帯電話を操作する。これなら、田中キリエが戻ってきても直ぐにごまかせるだろう。 他人の携帯電話の慣れない操作に戸惑いながらも、私はなんとかメニュー画面を開いた。 あった。 私は画面に映るアドレス帳の項目を見つけると、迷わずそこをクリックした。 田中キリエは意外と早く帰ってきた。 右手には忘れ物であろうピンク色の水筒が握られていて、急いできたせいか軽く肩を上下させている。 「先に食べてて良かったのに……」 田中キリエは、手中にある封の切られていないメロンパンを見て、申し訳なさそうに言った。 「まあ、そういうわけにもいかないと思いまして」 私は曖昧に笑ってごまかす。 「食事は一人で摂っても美味しくないものですよ。それに、せっかく屋上まで来たんだから一緒に食べたいじゃないですか」 なんていい感じに締めて、私は横に座るよう促した。 562 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 23 39 ID KgIpHWOW 田中キリエは水筒を地面に置いて腰を下ろした。 「それじゃあ、今度こそお昼だね」 彼女はそう言って、学生カバンを膝上に乗せた。そして、弁当箱を取り出そうとカバンの中に手を伸ばしたのだが――不意に動きが止まった。 「どうしたんですか?」 コーヒー牛乳にストローを挿しこみながら、何気なく聞いてみる。 「鳥島くん、もしかして私のカバンいじった?」 「カバン、ですか?」 私はきょとんとした表情で田中キリエを見た。 「いえ、特に何もしていませんけど……。どうかしたんですか?」 「そう、だよね……。ううん。別に気にしないで。多分、私の気のせいだと思うから……」 そうは言うけれど、彼女は中々会得がいかない様子であった。訝し気にカバンの中を覗き続けている。 それから漸く諦めたのか、やがてカバンから弁当箱を取り出した。それは彼女の身体に比例した、とても小さな弁当箱だった。 「お弁当は自分でつくっているんですか?」 「うん、一応」 「すごいですね」 「そんなことないよ。お弁当をつくるなんてことぐらい、みんなやってることだし」 と言いながら、彼女は弁当箱を開けた。 私も自然と視線を移す。 「へぇ」 思わず感嘆の息が漏れた。 田中キリエの弁当は凄く美味しそうだった。 油物と野菜のバランスがいい上に、見た目の色合いもきちんと考えられていて、一目見てそれが美味しいということがわかるような、料理のお手本みたいな弁当だった。高校生の弁当にありがちな、冷凍食品の類も見当たらない。 「料理、上手なんですね」 お世辞とか抜きに、心からそう思った。 「そんなことないよ」 しかし、田中キリエは困ったように謙遜する。人に褒められるのが苦手なのか、早くその話題から逸れてほしそうに見受けられた。 「そういう鳥島くんは、いつもお昼は購買部で買ってるよね」 「そうですね」 「お弁当にはしないの? 家族の人につくってもらうとか」 「出来ればつくって貰いたいんですけど。残念ながら、家族はみんな朝忙しいんで、弁当をつくる暇なんてとてもとても」 と言いながら、私は妹の鳥島リンのことを考えた。 そういえば、リンちゃんは昼食はどうしているのだろうか。彼女も結構器用な人だし、案外自分で弁当をつくっているのかもしれない。 563 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 24 54 ID KgIpHWOW 「それならさ」 と、田中キリエがもじもじと太股を擦り合わせながら言った。 「……よかったら、私が鳥島くんのお弁当つくってこよっか?」 「えっ?」 思わぬ提案に、私は目をパチクリとさせる。 「そんな、悪いですよ」 まず口から出たのは遠慮だった。 弁当をつくって貰うこと自体は、私としては願ってもない提案ではあったが、朝一番から彼女にそんな労苦をいとわせるのはさすがに気が引けた。 「全っ然っ悪くなんかないよっ!」 しかし田中キリエは即座に否定する。 「私のお弁当をつくるついでだしさ、手間とか全然かからないから全然平気。というか、鳥島くんはそんなの全然気にしなくていいよ。本当、全然全然」 全然を連呼する彼女である。 「ああ、でも、その代わり私と同じメニューになっちゃうけど、それでも大丈夫かな?」 どうやら弁当をつくること自体は、もう決定事項らしい。 「そんなそんな。いやあ、嬉しいなあ。それじゃあ、お願いしてもいいですかね?」 「うんっ」 田中キリエは、満面の笑みで快諾した。 私も嬉しくなって、思わず鼻歌でも歌いたくなった。 誰かにご飯をつくってもらうなんて随分と久しぶりだ。彼女の料理の腕は目の前の弁当で証明済みだし、これから昼食は楽しみになるぞ。 ニコニコと微笑みながら、メロンパンをかじる。 恋人を持つのも、そんなに悪くないかもしれないな。 私は初めて田中キリエの存在に感謝した。 それから、私達は弁当をつつきながら談笑に勤しんだ。 私にとって意外だったのは、田中キリエとの会話が弾んだことだった。 私はどちらかと言えば口ベタなほうなので、正直気まずい雰囲気になるんじゃないかと危惧していたのだが、それもどうやら杞憂に終わったらしい。 彼女はかなりの聞き上手だったのだ。 私の何でもない話にも丁寧に相槌を打ち、それに聞くばかりではなく、自分の意見も織り交ぜて返答するので自然と話が続く。それこそ、会話はボールのようにポンポンと弾んだ。 自分にとって、彼女との会話の持続が一番の懸念材料だったのだけに、私はひどく安心した。 そのせいか、多少気が緩んでいたのかもしれない。 気が付けば、彼女のことを話に持ち出していた。 564 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 26 38 ID KgIpHWOW 「そういえば田中さんって、マエダさんと仲が良いんですよね」 「えっ?」 私の口からマエダカンコの名前が出たのが意外だったのか、田中キリエはただでさえ大きい瞳をさらに大きくさせる。 「マエダさんって、もしかしてカンコちゃんのこと?」 彼女の問いに私が首肯してみせると、田中キリエは嬉しそうに破顔させた。 「うん、カンコちゃんとは凄く仲が良いよ。私にとって、一番の仲良しさんじゃないかな」 一番の仲良しときたか、と私は思った。 実を言うと私は、田中キリエとマエダカンコが本当に友人関係なのかを疑っていた。 二人は見ての通り全くタイプの異なる人間だし、マエダカンコの異常愛もあるから、マエダカンコが一方的に田中キリエに好意を寄せているというセンもあったが、今の証言でそれも消滅した。 「マエダカンコって、漢字ではどう書くんですか?」 いい機会だと思って聞いてみる。 すると、田中キリエは空中に人差し指を掲げて、まるで虚空に浮かぶ用紙にでも書くように、つらつらと文字を連ねていく。ちゃんと鏡文字になっていないあたりの配慮が、実に彼女らしい。 やがて、文字を書き終えた。 “前田かん子” 空中に刻まれたその文字を、私はじっくりと見つめる。 その時初めて、本当の意味で彼女の名を知った気がした。 「彼女とは、何時からの付き合いで?」 私はさらに質問を重ねていく。 「えーっと、かん子ちゃんとは中学校からの付き合いになるのかな。て言っても、最初は全然話したりしなかったんだけどね。けど、あることがきっかけでそれから凄く仲が良くなったんだ」 「そのあることとは具体的に?」 私は身を乗り出すようにして、さらに質問する。 我ながら多少強引過ぎるとも思うが、しかし前田かん子の情報はよく聞いておきたかった。 これから、彼女の存在は嫌でも大きなものになっていく。 けれど、私は前田かん子のことをあまりに知らない。知っていることと言えばせいぜい、田中キリエに抱いている異常なまでの愛情と、胸が大きいことぐらいだ。 クラスの人間に聞くという選択肢もあるが、それでは些か信憑性に欠けた。 噂というのはたいてい何かしらの脚色がされて、妙な尾ヒレがついているからだ。 それに比べ、田中キリエから得られる情報は確実である。 なんせ、前田かん子の一番の友人を自負しているのだ。彼女からなら何の誇張表現の無い、ありのままの情報が得られる筈だ。 565 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 27 48 ID KgIpHWOW 「鳥島くん」 と、耳に届いたか細い声で我に返る。 少しがっつき過ぎたか。 そう思って、すいませんと謝りながら後ろへ身を引いたのだが――今度は逆に、田中キリエが私の方に身を乗り出してきた。 あまりに突然のことだったので、私はそのまま体勢を崩し仰向けに倒れた。彼女はその上に乗っかるような体勢をとって私を見下ろし―― 「ねえ、鳥島くん。どうしてそんなに、かん子ちゃんのことを知りたがるの?」 ――静かに詰問した。 思わず、戦慄する。 田中キリエの顔からはいつの間にか、およそ表情と呼べるものがごっそりと抜け落ちていた。のっぺら坊のような無機質な顔で私を見つめる。 人間ってこんな顔も出来るんだな、と少し感心した。 「大して深い意味はないですよ」 しかし私の態度に変化は無い。 「ただ、前田さんってこの学校じゃ凄い有名人じゃないですか。だから、どんな人なのかなってちょっと気になっただけで他意は無いですよ」 田中キリエは私を見下ろしながら、そうなんだ、と短く言った。そのくせ、彼女はこれっぽっちも納得していないように見えた。 「でも、おかしいなあ」 わざとらしく小首を傾げてみせる。 「どうして鳥島くんは私とかん子ちゃんが友達だってことを知っているのかな?」 「それは――」 この時、私は何故かこの質問に対して妙な間を置いてはいけないと思ってしまった。いや、思わされてしまった。 そうしなければ怪しまれるぞ、と。 なので、気がつけば私の舌は私の意思とは無関係に、自分勝手に言葉を紡ぎだしていた。 「それは、クラスの人達が話しているのを小耳に挟んだんですよ。前田さんと田中さんは仲が良いって――」 あっ。やっべ。 言ってから気付く。今の発言はマズった。 私は慌てて口を塞いだが、もう遅い。 田中キリエも勿論、今の失言を見過ごす訳が無く 「おかしいなあ」 とまた呟いた。 「……何がおかしいんでしょうか?」 私は半ば諦め気味に彼女に問いた。 566 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 29 02 ID KgIpHWOW 「だって私、この学校では私とかん子ちゃんが友達だってことを誰にも言ったことが無いんだもの。だから、クラスの人達がそんな話をしている筈が無いんだけどなあ。 「しかも私、かん子ちゃんに学校で話したことも一度も無いんだよね。かん子ちゃん学校で話しかけられるのスゴイ嫌がるから。だから、もし会っても無視しろってきつく言われてるんだ。 「もちろん、かん子ちゃんのことは鳥島くんにも話したことないよね。ねぇ、鳥島くん。なのに、なんであなたは誰も知らないことを知っているのかな?」 思わず、溜め息を漏らしそうになる。 さあて、どうするかな。 「でもそれって、あくまで田中さんが話していないだけですよね」 意味無いとはわかっているが、一応形ばかりの反論をしてみる。 「あなたたちの話をしていたその生徒が、偶然街中で二人でいるところを目撃したのかもしれないし、それとも中学時代のことを知っていたのかもしれない。例え田中さんが話していなくたって、二人の仲を知る可能性はいくらでもありますよ」 「うん。そうだね」 田中キリエはあっさりと同意してみせる。 「確かにその可能性もあるけど、それだと話がますますおかしくなるんだよね。さっき鳥島くんも言ったように、かん子ちゃんってこの学校じゃスゴイ有名人なんだ。学校の皆が、かん子ちゃんの一挙一動に注目してる。 そんな注目を浴びてるかん子ちゃんに友人が居ることが、しかも同じ学校に通っていることが判明して、何も起こらないと思う? 普通は何らかのアクションが起こる筈だよね。 まず起こるのは、間違いなく話の伝播。話は人から人へとどんどん伝わっていって、やがて学校中に広まる。そうなったら、私も今頃はかん子ちゃん並の有名人になってる筈だよ。あの前田かん子の親友の田中キリエだー、ってね。 「けど、もちろん私は今有名人なんかじゃないし、誰かにかん子ちゃんのことを聞かれたこともない。ということはイコール私とかん子ちゃんが友人だってことは、学校の誰も知らないってことになる。そうだよね?」 だーよね。私もそう思います。 ああ、本当どうしようかな。 「ねぇ、鳥島くん」 彼女に呼ばれて視線を上げる。 眼鏡の奥の田中キリエの瞳は、マジックで塗り潰したみたいに真っ黒で、光が無い。 567 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 31 11 ID KgIpHWOW 「答えてよ。どうして私とかん子ちゃんのことを知っていたのかを」 「…………」 「ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。何か言ってよ」 「…………」 「鳥島くん。黙ってたら私、なーんにもわかんないよ」 「…………」 「どうして? どうして? どうして知ってたの? 鳥島くん?」 「…………」 「何で? 何故? どうして? どのようにして? 何処で? 何時知ったの? 鳥島くん?」 「…………」 「ねぇ、鳥島くん。言ってくれないなら、私――」 「……放課後」 「えっ?」 「放課後、一緒に帰りましょうか」 「ほうかご?」 「はい。放課後です。実を言うと私、一度でいいから女の子と一緒に下校してみたかったんですよ。いやぁ嬉しいなぁ、やっと長年の夢が叶うのかぁ。長かったなぁ」 「鳥島くんっ! 私は――」 「それとも」 私は有無を言わせぬ鋭い瞳で、田中キリエを捉える。 「もしかして、私と一緒に帰るのが嫌だったりします?」 「そっ、そんなことないよ! 私も鳥島くんと一緒に帰りたい!」 「それなら、良かった」 私は安堵したように、ふぅと息を吐いた。 と、そこで屋上に設置されているスピーカーからチャイムの音が鳴った。古くなっているせいか、不自然に音が割れていた。 「チャイムも鳴ったみたいですし、そろそろ教室に戻りましょうか。田中さんは先に帰っていてください。一緒に帰っているところを、誰かに見られるのは不本意でしょう?」 「へっ?あっ、うん。わかった」 「放課後については、後でメールしておきます。それでいいですね?」 「うっ、うん」 「それでは、また放課後に」 私は片手を上げて、ひらひらと手を振った。田中キリエに余計なことを言わせる暇は与えなかった。 彼女は学生カバンを肩に引っ提げると、足早に屋上を出て行った。 と思ったが、最後にドアの前で立ち止まり、私のことを見た。 田中キリエは何も言わない。 私も何も言わない。 私達は黙って見つめ合う。 そして、彼女はやおら屋上を出て行った。 568 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 32 44 ID KgIpHWOW 田中キリエが行ったのを確認してから、私は忌ま忌まし気に言葉を吐き捨てる。 「最悪だ」 本当に最悪だった。 どうして私はあの時、たまたま二人のことをクラスで聞いたなんて変な嘘をついてしまったのだろうか。私があそこで嘘をつく必要など、これっぽっちも無かったのに。 そもそも、私と前田かん子の間に面識があるのはもはや周知の事実なのだ。 田中キリエは学校を休んでいたから知らないだろうけど、前田かん子は一昨日、昼休みに私を拉致したり、放課後に堂々と教室に登場したりと、もはやクラスどころか学校中の人間が私達の関係を認知している。 だから私はあの時、ありのままのことを言っておけばよかったのである。私と前田かん子の関係について。なのに変に焦ってしまった揚句、失言した。こんなくだらないミスをするのは、本当に私らしくなかった。 ミスの原因はわかっていた。 彼女のせいだ。全部あの茶道室の魔女のせいなのだ。彼女に会ってからの私は、本当におかしい。まるで平均台の上を歩いているみたいに、精神が安定しない。 私は腕時計の針を気にしながら、今後のことを考えた。 今回のことで、田中キリエの中に私に対する猜疑心が生まれたのはまず間違いないだろう。 問題はその猜疑心が今後どう動き、私にどのような影響を与えるかである。まあ、上手い方向には動かないと思うけど。とにかく、そのことについては用心しておくに越したことはない。 私はそこで大きく伸びをした。 それなら、さっさと切り替えよう。幸い、覆水盆に返らずって程の失敗でもないし、私ならいくらでも軌道修正出来るさ。次だ次。 反省終了。 私は教室に帰ろうと立ち上がった。 その時。 ポツリ、とコンクリートの地面に黒い染みが出来た。 雨かしら、と思って空を見上げたが、頭上には雲ひとつ無い冬晴れの空が広がっている。 どうやら、地面に落ちたのは私の汗のようだった。 569 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 33 50 ID KgIpHWOW 「おかしいな……なんで汗かいてんだろ」 冬なのに。私は根っからの寒がりだというのに。なのに、どうして汗なんか。 制服の袖で額の汗を拭うが、汗は一向にひかない。 もしかして恐れているのだろうか、と私は思った。 けれど、何に? 最初に思い浮かんだのは、やはり田中キリエだったが、私は直ぐに思いなおす。 彼女だけは有り得ない。 確かに、先程の田中キリエの勢いには目を見張るものがあったが、突き止めてしまえばあんなもの只の嫉妬でしかない。 そりゃ、自分の恋人が他の女のことを聞いたりしてたら、不快になるに決まっている。しかも聞いている相手が他ならぬ恋人自身なのだ。田中キリエが怒るのも無理ないだろう。 だったら、なんだ? なんで、私はこんなに震えているんだ? 「あっ」 そして、私はこの感覚が初めてじゃないことに気づき、さらに震えた。 なんで、今さら? 高校に入ってからはめっきりなくなったじゃないか。もう、終わったと思ったのに。 “やっと、わかったと思ったのに――” くらり、と湯あたりをしたみたいに視界が廻る。そのまま倒れるんじゃないかと思ったが、なんとか踏ん張ってくれた。 私はかぶりを振る。 いや、落ち着け。呑まれるな。 こんなの、気のせいだ。少し考え過ぎてるだけだ。汗をかいてるのだってきっと、さっきのやりとりで疲れただけだ。 だから、落ち着け。私はもう、わかってるんだ。 私は一度深呼吸をしてから、今度こそ屋上を出て行った。その足どりに、不安は見えない。 なのに、教室へ帰る間ずっと、汗は拭っても拭っても際限なく溢れてきた。
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「まったく、けしからん!!」 かみなりさんは激怒していた。 政府や総理大臣の問題については日々報じられるニュースで聞いていたが まさかこんな馬鹿げた「バトルロワイアル」なるものを行うほど腐りきっていたとは知らなかった。 しかもあの時、国会で『見せしめ』と称して爆殺されたのは ――助けてぇ~!ドラえも~ん!!―― 野比のび太、よく彼の家の隣の空き地で遊んでいた少年だった。 弱虫で泣き虫のいじめられっ子で、しょっちゅう家のガラスを割っていたあの少年。 何度も叱り飛ばした彼がもうこの世にいないのだと思うと、もっと優しく接しておけばよかったと後悔が湧き起ってくる。 「……野比さんは、大丈夫だろうか」 のび太が殺された場には、母親の野比玉子の姿もあった。 かみなりさんがいた場所からはその様子を窺うことはできなかったが、我が子を目の前で殺されたのだ、大丈夫なわけがない。 最悪の場合、早まった行動をとることも充分に考えられる。 「こうしちゃおれん!早く野比さんを探さなければ……」 しかし玉子はどこにいるのか。 真っ先に思い浮かんだのは自分たちの住む練馬区だった。 玉子も、玉子以外の彼の知り合いも、他所に行くよりは自宅のある練馬区に帰る可能性のほうが高いだろう。 「ここは銀座だな。ならば近くに地下鉄の駅があるはずだが、こんな状況では動いているかわからん。 ……歩いて帰ることも検討せんとな」 とりあえず練馬に戻ることを決めたかみなりさんは、自分のデイバッグを見る。 「武器が入っていると言っていたが……」 帰るまでの道中で、この殺し合いに乗った者が襲い掛かってこないとは限らない。 自分の身を守れそうなものを探していたかみなりさんの指が、何かに触れた。 「なんだこれは?」 彼の指先が、カチリとスイッチらしきものを押した。 その途端…… 「わわわ、何が起きている!? 体が小さく……わわ、髪が、胸が、助けてくれぇー!」 「まったく、わけがわからないよ。あのマシンは何だったんだろう」 最終防衛システムから逃げ切ったことを確認すると、キュゥべえはひとりごちた。 スターバスターのカウントをしていた最終防衛システムだったが、キュゥべえが近くの建物の壁を通り抜けて 逃げると撃つのをやめた。最終防衛システムとしても今後のためにスターバスターはできるだけ温存しておきたかったので 逃げる者を撃とうとはしなかったのだ。 「あのマシン、この首輪、それに僕にかけられている制限、とても地球人の仕業とは思えないね。 もしかして僕ら以外の地球外生命体の仕業? ……まぁ、考えても仕方ないか」 システムから逃げる途中で、自分以外のインキュベーターとの交信の途絶、そして肉体転移の不能はすでに確認していた。 今のキュゥべえは、文字通り一度死んだら終わりの状態である。 「僕だって無駄死には避けたいからね」 彼は自分の死を恐れていなかった。 彼には恐怖という感情が、そもそも感情というもの自体が無いのである。 自分が消えても何の問題もない。別のインキュベーター端末が仕事を引き継ぐだけだ。 「僕が死んでも代わりはいるもの」 しかしまた、彼はただ自分の死を受け入れるつもりもなかった。 可能ならば自分に科せられている制限を外したい。 自分たちの活動の邪魔をする主催者によって科せられた制限。 その解除方法を見つけるのは、今後のインキュベーターの活動のためにも有益であろう。 それに彼はまだ仕事ができる。そして今の状況は、彼の仕事 『契約させて魔法少女にする』ことにうってつけだった。 いつ殺されるかわからない少女を契約させるのは、常より容易いだろう。 「制限を解除する方法はまだわからない。 とにかく今は一件でも多く契約を取って魔法少女を増やそう」 中央区内をさ迷うこと数十分、キュゥべえは漸く少女を見つけた。 この季節なのに長袖のセーラー服を着おり、眼鏡の奥ではややキツそうな瞳が光っている。 見たところ一人で、何か混乱しているらしい。 勧誘するにはまたとないチャンスだった。 「どうしてこんな姿になってしまったんじゃ……」 小さく柔らかな身体、長い黒髪、突き出た胸、整った顔に大きな瞳 美少女に変身してしまったかみなりさんは呆然と呟いた。 その原因は彼の支給品の一つ――『美女化マシン』だった。 誤ってマシンのスイッチを入れてしまったために、彼の肉体は中学生程度の少女に変身していた。 「これはのび太の友達のロボットの道具か!? けしからん!元に戻る方法は……」 慌てて同封されていた説明書を読むが、元の姿に戻る方法に関しては何も書かれていなかった。 「なんて不親切な説明書だ! ……とにかく服を何とかするか」 元の服がブカブカになってしまったため、止むを得ずこれも支給品であるセーラー服を着ることにした。 着たくなかったのだが、他に着るものがないのだから仕方ない。 「他に入っているものは……この棒だけか」 ガックリしたかみなりさんの前に、一匹の獣が目の前に飛び出してきた。 「ねえ君、僕と契約して魔法少女になってよ!」 「ぬおおおおおおお!? 犬がしゃべった!? 妖怪か!!」 「ぎゅっぷい!」 「ひどいなぁ……いきなり殴りかかってくるなんて」 「す、すまん。いきなり話しかけられたので、つい」 「さっきといい今度といい、やっぱりいきなり声をかけるのはやめたほうがいいかな……」 「? それにしても、お前は一体何者だ? お前も殺し合いに参加させられたのか?」 「うん、それについてはね……」 頭にタンコブを作ったキュゥべえは、目の前の美少女――名前は「かみなり」というらしい――に 自分、そして魔法少女について掻い摘んで話した。もちろん契約に不利な話は黙っていたが。 それと併せて、先ほど自分が遭遇した最終防衛システムのこと、いきなり自分が攻撃されそうになったことも話した。 「その機械は本気で殺し合いをする気なのか!けしからん!」 かみなりさんは再び激怒した。殺し合いに乗った者がいるという事実に。 「でも今の君の武器では、とてもあのマシンは倒せないよ」 「ぬうぅ……」 「だけど!僕と契約すれば魔法で戦えるようになるし、体も頑丈になるんだよ。 そうすればあのマシンを倒すことだって出来るかもしれない。 だから僕と契約して魔法少女になってよ!」 自分が魔法少女になるなど、ついさっきまで男だったかみなりさんには考えられないことだった。 また、このキュゥべえとかいう獣はどうも怪しい。不要な品を法外な値で売りつけようとする悪質セールスマンと同じ気配を感じる。 しかし、その説明の中で一つ気になることがあった。 「その魔法少女になれば、どんな願いでも叶えられるのか?」 どんな願いでも叶えられるのなら、今すぐこのバトルロワイアルを終わらせることも可能だろう。 「う~ん。その事なんだけど……」 キュゥべえは嫌々といった素振りで、かみなりさんに主催者が彼によこした手紙を見せる。 そこには女性のものらしい達者な字で 『「バトルロワアルの中止」、「会場からの脱出」、「死者復活」、「首輪解除」、「主催者死亡」 といったバトルロワイアル全体に影響をもたらす願いは叶えられないよう制限してあります。ご了承ください。』 と書かれていた。 「これでは殺し合いをやめさせる事ができんではないか!」 「僕に怒られても困るんだけど…… でも、その他の願い事なら叶えられるよ!」 「その他の願い事か……」 かみなりさんはしばらく悩んだ後、呟いた。 「『元の姿に戻る』とか『年寄りになる』といった望みは叶えられるのか?」 「…………は?」 キュゥべえは言葉を失った。 随分長くこの仕事をやっているが、『年寄りになりたい』なんて願いを聞いたのは初めてだった。 「まったく、わけがわからない……」 「どうだ、叶えられるか!?」 「えぇー……」 もし仮に望み通りかみなりさんが老人になったとして、キュゥべえが欲しいのは少女の絶望のエネルギーである。 老人の絶望のエネルギーをもらったって嬉しくもなんともない。 「そういう願いもちょっと……」 「なんだ!何も叶えられないではないか! もういい!ワシは家に帰らせてもらう!」 殺し合いも止められない、元の姿にも戻れないなら他に叶えたい願いなどない。 かみなりさんはキュゥべえに背を向けて、駅の方向にさっさと歩き出した。 「あ!ちょっと待ってよ!」 キュゥべえは慌ててその後を追いかける。 「何の用だ。ワシは魔法少女など興味ない!」 「まあまあそう言わないで。 また後で叶えたい願いができるかもしれないし」 キュゥべえにとってかみなりさんは逃したくない獲物だった。 別の少女を見つけるには時間がかかるし、その前にまた最終防衛システムのような参加者に遭遇したら 今度こそ殺されるだろう。 それに殺し合いの中なら、遅かれ早かれ契約せざるをえない状況がやってくる。 「だから僕も君に同行させてよ」 「ふん、好きにしろ!」 そして一人の少女と一匹の珍獣は、銀座駅を目指して歩き始めた。 【中央区・銀座/1日目・日中】 【かみなりさん@ドラえもん】 [状態] 美少女化(外見年齢は中学1~2年生程度)、やや混乱、主催者に対する怒り [装備] ひのきのぼう@DQシリーズ、陵桜学園高校女子制服(冬服)@らき☆すた [道具] 基本支給品一式、美女化マシン@カオスロワオリジナル、元のかみなりさんの服 [思考・状況]基本 殺し合いには乗らない。 0 早く元の姿に戻りたい…… 1 とりあえず自宅のある練馬区に帰る。まずは銀座駅に向かう。 2 知り合い(特に野比玉子)と合流したい。 3 最終防衛システムを警戒。 4 キュゥべえは好きにさせておく。 ※最終防衛システムを殺し合いに乗っていると判断しました。 ※キュゥべえが語った魔法少女の話をあまり信じていません。 ※美女化マシンの使用回数制限、変身持続時間は後続の書き手にお任せします。 【キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ】 【状態】頭部にダメージ小、自分が死ぬことを自覚済み 【装備】無し 【道具】基本支給品一式、ランダム品1~3・本人未確認 【思考】 基本 自分の制限の解除方法を探す バトルロワイアルを利用して魔法少女を増やし、制限が解除されるまで自分を守ってもらう(嘘はつかないが自分の不利になる事は言わない) 0 営業で一番大事なのは粘り強さだよ! 1 かみなりさんを契約させて魔法少女にする。 2 無駄死には可能な限り避ける。 3 最終防衛システムを警戒。 4 できれば巴マミと合流したい。 ※最終防衛システムを殺し合いに乗っていると判断しました。 ※かみなりさんが元々老年の男性だったことをまだ知りません。 【個人制限・特殊能力】 ※一度死ねば、肉体の復活はありません ※薄い壁を通り抜けることができます ※魔法少女契約は可能ですが、ロワ全体に影響をもたらす願い (会場からの脱出、死者復活、首輪解除、主催者死亡など)は不可能です ※魔法少女とのテレパシー会話距離は後続の書き手さんに任せます 支給品紹介 【美女化マシン@カオスロワオリジナル】 カオスロワ6期および8期に登場。 どんな生物でも美女・美少女化させてしまうマシン。 【ひのきのぼう@DQシリーズ】 その名の通りひのきで作られた普通の棒。 攻撃力は低い。 【陵桜学園高校女子制服(冬服)@らき☆すた】 特に変わった機能はない、普通のセーラー服。 冬服Ver.なので気温によっては着ていると暑苦しいかもしれない。 005:パルマーA「俺のことは(ry 投下順 007:二人の死神 005:パルマーA「俺のことは(ry 時系列順 007:二人の死神 初登場! かみなりさん 033 白い悪魔とピンクの悪魔 004 人間っていいな? キュゥべえ 033 白い悪魔とピンクの悪魔
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Deric:長距離狙撃&はしご担当。 大体の奴は彼に狩られる。 Humanityはマイナス300,000突破。地獄行き確定。 FENECiA:正面玄関の近距離戦闘担当。ついでにゾンビもほぼ担当。 何も警戒していないSurvivorは彼に殺される。Humanityはマイナス400,000でさらに地獄行き確定。 Epochメモ 正面ダブルドアナンバー:613 パーソナルセーフ:8168
https://w.atwiki.jp/arma2dayz/pages/62.html
Arma2 Free +Arma2 OAでプレイする方法 ここでは、Arma2Freeを利用してDayZをプレイする方法を記入します。 途中で転んでも泣かないよう注意しましょう。 ここでは、あくまでやり方を書くだけですが、実際にDayzを楽しみたい方は設定やテクスチャ、将来のサポートを考えてもArma2COを購入した方が遥かに良いです。あくまで多少不便でも安く買いたい人向けです。なお、完全に無料ではありません。最低でも19.99$を支払う必要があるので注意してください。また、万が一このやり方でDayzが動かなくても保証しかねますので、自己責任でお願いします。不安な人は素直にArma2COを購入しましょう Arma2 Freeのメリット とりあえず、Arma2だけ無料になるので19.99$でDayZがプレイできる Arma2 Freeのデメリット テクスチャが荒いので、映像が若干汚い。看板などの目印は大分近付かないと視認できない あくまでFreeなので、いつかdayzがプレイできなくなるかもしれない Arma2 Free インストール steamページ内http //store.steampowered.com/app/33900/にある「デモをダウンロード」で steamのライブラリにArma2 Freeが追加されダウンロードされます。 Arma2 OAインストール steamページ内http //store.steampowered.com/app/33930/で、Arma2OAを購入しましょう。 SteamのライブラリにArma2 Operation Arrowheadが追加されます それぞれダウンロードが終了したら、一度必ず起動をしてください。 Addons フォルダを移動する それぞれのダウンロードが終了し、一度起動したら Arma2のダウンロードしたフォルダにある「Addons」フォルダをコピーしましょう 場所はsteamがデフォルトの場合C \Program Files\Steam\steamapps\common\arma 2free\Addonsになります。 コピーしたAddonsフォルダはそのままArma2OAがインストールされたフォルダにペーストしましょう。 デフォルトでC \Program Files\Steam\steamapps\common\arma 2 operation arrowheadになります。 ペースト時、上書きしますか?と出ますが、全てを上書きしましょう。 ベータパッチ、dayzを用意する 後は、他のバージョンと変わりません。@dayz関連のファイルを用意してベータパッチを当ててから steamでArma2OAを起動しましょう。
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392 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 15 21.33 ID ??? ノーライフキングで思い出したプチ システムはメガテンX 身内で現代を舞台にキャンペーンをやった時に、ヴァンパイアPCをやりたがった奴が居るんよ。 メガテンのヴァンパイアは元はNPC専用で、サプリの追加ルールでPCが持つとヤバイ部分を差し替えてPC使用出来るようになったクラスで、能力値修正が高くて人間だと取りにくいスキルを幾つか覚えるが、水に入ると確率で石化したり、日光を浴びると確率で即死したりする。 癖の強いクラスではあるが別に強すぎるわけでもなし(強キャラ作ろうと思ったらもっと酷いクラスは幾つかある) GMは「武器の装備枠を一個使って日傘のような日光を遮るアイテムを持っていればペナ無しで日中出られる事にして良い。判定に大失敗した時かファンブル時は日光のペナルティを受ける」という条件でOKを出した。 ただヴァンパイアPCのPLは元から特別な設定のキャラが大好きな奴で(滅んだ一族の末裔とか、世界に一人しかいない○○とか)「日光を克服した吸血鬼」をやりたいと言い出した。多分HELLSINGとか型月が好きだったのもあると思う。 GMは「ヴァンパイアは元々その辺のリスクを織り込んで組まれているクラスだから」として却下。 ヴァンパイアPLは「それだと他のPCと同じように活動できない」と意を唱えたり、「常に夜を舞台にして世界の闇を暴くキャンペーンにする」とか提案したりしていたが、俺含む残りPL4名にも諭されてGMの提示したレギュレーションを飲んだ。 それ以後は大きな問題なく進んだんだが、ヴァンパイアPLがたまにファンブルして、命運(ARAで言うところのフェイト。判定振りなおしとかに使えるヒーローポイント)で判定を振り直す時に「弱点がなきゃなぁ」とか一々ぼやいてやや鬱陶しかった。 補足すると、GMのレギュレーションは割と妥当なものだったと思う。上記の命運でファンブルは振り直せるし、仮にペナが発生しても即死するかどうかの判定(20%)に成功すれば死なずに済む。 武器枠は元から二つあって、武器と盾を装備するとか、武器を1つだけ装備している状態で使えるスキルを使いたい場合でもなければあまり問題無い。 ついでに、ヴァンパイアPLがぶーたれてた失敗の半数以上は多分ペナがなくても振りなおした失敗だろうから割と言い掛かりに近い。 395 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 23 47.63 ID ??? 日光は克服したが日光と同程度の確率で即死する別の弱点を持った吸血鬼にさせてやるか、 水での石化の確率を日光による即死と同程度に拡大するなどではGMや他のPLはダメだったのかな それ以上に「他のPCと同じように活動できない」と言うくらいなら「普通の人間相当の日光を克服した吸血鬼」 ではダメだったんだろうか 396 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 26 06.58 ID ??? 392 このスレで今のところ一番困っぽい困報告という気がした そうそうこういうのだよ 402 名前:392[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 41 44.46 ID ??? 395 前半部分に関しては確かに考えが及ばなかったと思う。 ヴァンパイアPLは「神仏の後光みたいな強い力を持った神話的な光を浴びた時にペナルティを受ければどうか」と提案してGMは「状況が限定的すぎてペナルティになってない」と却下してたんだが 現実的な範囲で突き詰めてみたらよかったかもしれない。 後半についてはそのPL自身がデータ的に乖離した相当品が嫌いなので厳しいと思う。 菊一文字とか銘刀虎鉄が使いたい時は日本刀をルール内で強化したり、強化した日本刀をGMに要求したりする人。 403 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 46 58.89 ID ??? でも日光を克服した吸血鬼ってルール内じゃ存在しないよね 元ネタを「こいつは日光が効かないと言っているがルール的には判定に成功し続けている (命運で振り直しも含む)」に過ぎないんだよと諭してやるのではダメだったのかな 404 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 50 04.41 ID ??? 設定がルールを超越するか、ルールの枠に自分だけは縛られない そんな特別感をいつだって人はほしがるのさ 405 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 53 32.15 ID ??? 秋元洋介声のおじいちゃんに飴もらってこい 406 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 53 58.56 ID ??? まともなプレイヤーなら弱点はルールの変更ではなく ロールプレイやプレイ中の機転や工夫で回避するものだろう。 ルールをいじるにしてももう少しやり方があるだろうという感じだなぁ。 407 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 14 56 22.43 ID ??? メガテンなんだから陽光は太陽神の後光そのものだろ ラーとかアポロンとかヘリオスとか天照大御神とか「光りあれ」って言った神の奇跡とか 件のPLの言い分を聞いて陽光でペナルティを与えてやればよかったんじゃね 408 名前:G13型トラクター ◆onzonzOrEM [sage] 投稿日:2011/11/08(火) 15 04 21.81 ID ??? 402 仲魔がアウトサイダーとかで太陽神に変身とかしたらキレそうだな!(笑) とりあえず、「GMの許可が必要」っていうデータみて不許可の時にごねる奴ってやだよな! (MHEのニンジャのキャラシート隠しつつ) 409 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 15 14 03.88 ID ??? 半魔:ヴァンパイアじゃなくて人間型悪魔の夜魔ヴァンパイアにしてればよかったのに。 勿論、レベルの問題があるけど。 ……ってか、日傘もらえた時点で恵まれてるだろ 410 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/08(火) 15 20 13.10 ID ??? 最初は強キャラで俺TUEEEEEやりたいわけじゃないならいんじゃね?と思ったが、 その手のグチが出るのはその手合いと同類だってことだよな。 困のレベル的には、他のPCが自分のPC並の特別を求めた時の対処がどうかによるか。 「私以上の特別は許さない!」とか言ってなければ許容範囲かねぇ。 409 だよな。 というか、俺ならファンブル時に嬉々として日傘がどうなって日光浴びたか演出するなw それだって立派に特別だよなぁ。 598 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/11/09(水) 00 38 15.26 ID ??? 392 ただヴァンパイアPCのPLは元から特別な設定のキャラが大好きな奴 特別に弱い奴にすればいいんじゃね? 日光に弱く、水にも弱く、そのくせ人間以上の能力は皆無という弱点しか持たないヴァンパイアとか。 スレ292
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135 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 43 29.34 ID lcwKyq+5 [2/8] 田中キリエの回想(一) 足を引っ掛けられて、私は転んでしまいました。 妙な浮遊感と共に迫ってくる地面に対して、咄嗟に手が出たのは僥倖だったと思います。前みたいに顔から倒れたりしたら、また眼鏡を割ってしまいますから。 「うぐっ」 しかし、枯れ枝のように細い私の腕では転倒の勢いを完全に殺せません。私はしたたかに身体を打ち付けてしまって、苦悶の声を漏らします。 そして、間髪入れずに次が来ました。 突如、背中にかかった強い圧力。唐突な負荷によって、肺にたまっていた空気が一気に抜け出しました。苦しい。どうやら誰かに足で踏まれているみたいです。 「あー、ごめんね。葛籠木さん」 頭上から降ってくる声には、言動とは裏腹に謝罪の念が全く感じられません。現に、踏みつけている足をどかす気配もなく、むしろぐりぐりと力を込めていました。 やめてください、と私は懇願を申し入れようとしたのですが、背中を踏まれているので上手く発声が出来ませんでした。 結局、出たのは踏まれた蛙のような奇妙な声で、「何を言っているの?」と馬鹿にした声が上から降ってきます。それは一人二人ではなくって、沢山の声でした。 くすくすくすくすくすくす。 せせら笑いが四方から降ってきます。私の視界には先程から床しかうつっていないのですが、教室内の様子は容易に想像出来ました。 クラスメイト全員が、私を見て笑っているのです。恐ろしいことに、憐憫や同情の想いは全く感じられない、冷たい目をして。 おそらく、当然のことだと考えられているのだとおもいます。私、葛籠木キリエがイジメられるのは正当な行為であると捉えているのでしょう。 毛虫や蛾を無条件に気持ち悪がるのと同様に、そこにさしたるバックボーンはない気がします。 ただイジメたいからイジメる。それだけなのです。 じわり、と視界が水気を帯び始めます。私は、どうしようもなく悲しくなってしまいました。 「……やめてください」 今度は、きちんと発音できました。そのせいかは知りませんが、背中にかかっていた圧力がフッと消えて、楽になります。どうやら、足をどけてくれたみたいです。 私は両腕に力を込めて立ち上がろうとしたのですが、再び背中を強く踏まれて、地面に伏せてしまいます。 瞬間、眉間に鋭い痛みが走りました。「ああ、やってしまったな」と、思った時には遅かったのです。 地面に伏した私の側には、フレームの歪んだ眼鏡が転がっていました。どうやら、眼鏡は壊してしまったみたいです。 「葛籠木って、なんかウザい」 次は頭を蹴られていました。 眼前に白い閃光が爆ぜ、一瞬、思考が止まります。 口の中にピリッとした痛みが走りました。口内を切ったのでしょうか。 次いで、コーヒーカップに乗った時のような酩酊感がじわじわと襲いかかってきました。油断すれば、そのまま嘔吐してしまいそうです。 私は耐えられなくなって、防御に備えるために身体を丸くしました。それを見て取ったのか、雨のように蹴りが降ってきます。 私は亀のようにして、ひたすら耐えました。 すんでのところで堪えていた激情が決壊して、ボロボロと涙が零れます。 それでも、嗚咽だけは押し殺しました。それが、私、葛籠木キリエの最後の矜持だったのでしょう。 136 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 47 59.07 ID lcwKyq+5 [3/8] 私への攻撃は、次の授業の開始を告げるチャイムによって止まりました。 今だ。 私は素早く立ち上がると、脱兎の如く駆け出します。くらくらと再び嘔吐感が襲ってきましたが、それに耐えつつ、無我夢中で走りました。 背後から上がる嘲笑。逃げ出した私を蔑む声。 それを聞きたくなくって、私は両手で耳を塞いだ不格好な姿勢で走りました。 「あ」 しばらく廊下を走っていると、曲がり角のところで担任の教師と出くわしました。 定年間際の初老である彼は、最初こそ廊下を走る私を諌めようとしましたが、その生徒が私、葛籠木キリエであるとわかると途端に閉口しました。 担任は無言で、そそくさと横を通り過ぎます。次の授業が始まろうとしているのですが、担任は何も言いません。私が授業に参加しようかしまいが、あまり関係ないようです。 私は走るのを止めて、遠ざかっていく担任の背中を、教室に入るまでじっと見つめていた。 目元に溜まった涙を拭ってから、私は考え始めます。 これから、どうしましょうか。 今更、ノコノコと教室に戻る気にはなれませんでした。かといって、校内をうろついていても他の教師に咎められてしまうでしょうし……。 ウーム、としばらく悩んだ末に、私は屋上に向かうことにしました。 屋上は、平時なら閉鎖されていて重い錠がかかっているのですが、最近は卒業生のアルバム作成に使用しているらしく、その錠が取り除かれているのです。 それでも、屋上に立ち入るのはいけないことです。 朝のホームルームでも先生が言っていました。「絶対に屋上には入るなよ」と。もし屋上に侵入したのがバレたら、私はこっぴどく叱られてしまうでしょう。 でも、構うもんか。 珍しく、今の私はやけっぱちになっているようです。バレたところでかまやしないさ、と破れかぶれな心境でした。 私は他のクラスの授業を邪魔しないように、こそこそと忍び足で歩きながら、密かに屋上を目指します。 道すがら、脳内にリフレインするのは先程の光景でした。 どうして、こんなことになったのでしょうか。 胸を占める想いは、それだけでした。 少し前までは、こんな風ではなかったのです。私はクラスでもあまり目立たないほうで、いつも教室の隅っこで読書をしている暗い子でした。 それでも、決してイジメられたりはしなかったのです。それどころか、少なくはあったけれど、友人と呼べる者さえいたのです。 けれど、ある日突然、何かが違ってしまいました。 今思えば、兆候はあったのです。 最初は、クラスメイトの何人かの言動に小さな棘を感じるくらいでした。それがどんどん肥大していって、今ではこの有様です。 言葉の暴力だけなら、まだマシなのです。なんとか耐えることが出来ます。しかし、肉体への暴力はキツイです。 心の傷のほうが肉体の傷よりも重い、という風潮が世間にはありますが、それは間違っていると思います。やっぱり、殴る蹴るなどのプリミティブな暴力が最も恐ろしいです。 心への攻撃なら、まだ耐えられます。確かに、心を強くするのは難しいですが、心を麻痺させるのは比較的容易いからです。 徹底的に我を殺し、自分自身を俯瞰するような視点を持てばいいのです。 当事者だけど、他人事。それを金科玉条にしていれば、まだ耐えられるのです。自分を殺せるのです。 しかし、肉体のほうはどうしようもありません。身体を強くするといっても、細身で病弱な私にはやはり限界があります。やり返す気概だって持ち合わせていません。 137 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 50 08.44 ID lcwKyq+5 [4/8] そもそも、私は暴力の類はてんで苦手なのです。 仮に、彼等に対し自由にやり返してもよいという状況が生まれたとしても、きっと私は黙って俯いてしまうでしょう。 暴力は恐ろしいのです。現在進行形でイジメられている私だからこそ、多少の説得力があると思います。 でも、私が最も恐ろしいのは暴力じゃない。 いい機会ですから、私は件のイジメについてとても恥ずかしい告白をしようと思います。もし誰かが聞いていたら、失笑を禁じ得ないような、とても恥ずかしい告白です。 その告白とは、以下のことです。 “私がクラスメイト全員にイジメているという事実”です。 嗚呼、ダメです、ダメです。考えただけで、赤面してしまいます。きっと今の告白を誰かが聞いていたりしたら、きっとこう言うでしょう。 「被害妄想も大概にしろよ。クラスメイト全員が、お前をイジメているはずがないだろ。被害者意識が大きすぎる」と。 ええ、ええ。全く以ってその通りです。世に遍在する通常のイジメであれば、加害者はせいぜい四、五人。クラス規模のイジメでは、その人数が限界なのです。 そもそも、一クラス単位の人間が、皆同じように、たった一人の人間に対し悪意を抱くなど不可能なのです。人の気持ちは十人十色、文字通りバラバラなのですから。 イジメに達するほどまで人を嫌うには、それなりのプロセスがあります。降って湧いたように、自然発生的にイジメが生まれるはずがないのです。 はい、はい、言いたいことはわかります。声の大きなオピニオンリーダーに従わざるをえず、不本意ながらイジメに加担するというケースだってあるだろうと言いたいのでしょう。 だけど、それならそういう空気を発するものなのです。自分は本当はこんなことしたくないんだ、という空気がどうしても漏れ出てしまうのです。 そして、イジメを受ける張本人がそれに気づかないはずがありません。ああ、この人はそんなに乗り気ではないんだな、と加害者の心の機微を感じ取れるのは自明です。 ――嗚呼、もう、いいです。ヤケクソです。羞恥心なんかはあさっての方向にでも投げて、私はあえてもう一度いいましょう。 “私、葛籠木キリエはクラスメイト全員から、等しく悪意を持って、等しくイジメられている。そこに強制の気配は皆無である。彼等はあくまで自発的に、自らが進んでイジメを行なっている” 屋上に着きました。 人が入ることを想定されていないためでしょう、屋上にフェンスの類はありません。背の低い縁が周囲を囲っているだけでした。 私は顔を上に向けます。空模様は、生憎よろしくありませんでした。梅雨時というのもあるのでしょうが、厚い雲が空を覆っていて太陽の姿すら視認できません。 でも、気分は悪くありませんでした。曇天模様の空が、現在の私の心境を現しているようで、なんとなく嬉しくなったからです。 空という非生物的な存在ではありますが、やはり自分に同調してくれるというのは嬉しいものです。 私は屋上の中心まで歩いていき、その場に腰を下ろしました。 六月の生温い風が、髪を揺らします。グラウンドからは下級生と思しき幼い声が、元気に発せられています。気の早いアブラゼミが、控え目にミンミンと鳴いています。 心地のよい時間です。久しぶりに訪れた平穏でした。 そのためでしょうか。私の心はいい塩梅に緩んでしまって、気づかぬ間にハラハラと落涙していたのです。 最近は、改めて意識することがありませんでしたが、私は、葛籠木キリエは、とても、辛かったのです。 正直に申し上げますと、私はクラスの人たちを恨んでいませんでした。 別に聖人君子を気取っているわけじゃありません。これは偽りのない、本心からの言葉です。 原因は全くわからないけれど、私はたぶん彼等を不快にさせるような行いをしてしまったのでしょう。でなければ、そもそもイジメなどが起こるはずがありません。 なら、仕方がないのです。そのような結果が生じるようなことをしたのは紛れもなく私なのですから。それでクラスメイトを憎んでいい道理にならないでしょう。そこだけは決して履き違えてはなりません。 だけど、ただ教えて欲しかったのです。私の何がいけなかったのかを。何が悪かったのかを。 実際に、彼等に問うたこともありました。が、クラスメイト達は侮蔑の表情を私に向けるだけで、何も教えてはくれなかったのです。 問題点がわからなければ、それを正すことは出来ません。 私はそれからも必死にイジメの原因を探っていますが、未だにそれは見つかっていません。 私は、どうしてイジメられるようになったのでしょうか――? そんなことを考えながら、鳥のさえずりに耳を傾け、瞼を下ろしました。 138 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 52 31.28 ID lcwKyq+5 [5/8] いつの間にか、眠っていたみたいです。 空はすっかり紫色を帯びて、夜を迎えようとしています。校内の喧騒も、もう聞こえて来ません。完全下校時刻を過ぎてしまってるのでしょう。 こんなに長く授業をサボタージュしたのは初めてでした。破れかぶれな心境も鳴りを潜めていたので、さすがに罪悪感がわきます。 ですが、今日はもうイジメを受けることがないという事実にもホッとしました。 今日も、なんとか乗り越えることが出来た。 そんな小さな達成感に、私は安堵の息を漏らしてしまうのです。 その時でした。異変を感じ取ったのは。 先の集団暴力で眼鏡を壊してしまったので、私の視界は依然ボヤケています。必然、鮮明に物を見ることが出来ません。 しかし、その朧気な視界の中でも、しっかりと捉えることが出来たのです。 屋上の縁に立つ、男子生徒の姿は。 息を呑みました。 脳裏にチラつくのは自殺の二文字です。彼はもしかして、今から死のうとしているのでは――。 そう思い立った途端、ダメだ、と強く思いました。 私自身、イジメを受けていると死にたくなることがあります。 暴力に身を曝されている時、「このまま死んでしまえたら、どれだけ楽なのだろう」と、絶望に身を委ねかけてしまうこともあります。 けど、ダメなのです。死ぬのは、ダメなのです。 どうしてダメなのかを、論理的に説明することは出来ません。が、自殺だけは絶対にダメなのです。人は、生きるのを諦めてはいけません。 もしかしたら、その道のほんのさきに幸福が転がっているかもしれないじゃないですか。この先には絶望しか有りえないと、誰が証明出来ましょうか。 だから、イジメを受けている私だからこそ、男子生徒を止めなくてはならないと思い立ちました。 そうとなれば行動に移しましょう。 本当は今すぐにでも声をかけたかったのですが、そうしたら彼は驚いてしまって、それで転落してしまうかもしれません。 だから私は、自分の存在を誇示するためにわざと大きく足を鳴らして、男子生徒に近づいていきました。 距離が縮まるにつれ、男子生徒の姿も鮮明になってきます。 男子生徒は私に背を向けるようにして立っているので、表情は伺えません。私に見えるのは、わりかし細い彼の背中だけです。 「……!」 だけど、その後ろ姿だけで十分でした。彼の発する不安定な雰囲気を察するのには。 私は足を止めました。なんといいますか、よくわからなくなったのです。 男子生徒が死ぬ気でないのは、すぐにわかりました。 彼からは自殺者特有の(私自身もよく発してしまうのですが)厭世感のようなものが感じられませんでした。 どうやら自殺云々については、私の思い違いだったみたいです。 だけど。 男子生徒は、とにかく危うかったのです。 下手な喩えで申し訳ないのですが、歩き始めたばかりの子供に交通量の多い道路を横断させるのを強制的に見せつけられるような、しかもその道路には信号すら備え付けられていなくって、そのうえ、走行するのは大型の車ばかりで……。 ああ、いけません。我ながら支離滅裂ですね。 不思議なことに、彼を見ているとどうしても思考が固まらないのです。思考が散漫になって、不安定になってしまう。 不安定。そう、彼はとにかく不安定でした。 私は、当初の目的すら忘れて硬直していました。 すると、背後にいる人物の気配に気づいたのでしょう。男子生徒はやおら振り向きました。 「あっ……」 そこで私はようやく、目の前の男子生徒が自分と同じクラスメイトということを知ったのです。 139 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 56 20.73 ID lcwKyq+5 [6/8] 「鳥島くん……」 鳥島タロウくん。 彼は私と同じクラスで、いえ、クラスだけじゃなくって、この市立N小学校で一位二位を争う有名人でした。 鳥島くんはとても明るくて、男女の区別や学年の差異などもお構いなしに、誰にでも話しかける太陽のような人なのです。 N小学校の誰もが彼のことを慕っていて、それこそ教師さえも含めて、頼りにしているのです。 ――いえ、この場合は「でした」と言い換えたほうがよいのかもしれませんね。 振り向いた鳥島くんの表情は想定通り無機質で、目は虚と見間違えるほどに虚ろでした。 「…………」 鳥島くんの無言に、私はアッと乾いた息を漏らしてしまいます。 やはり、鳥島くんを見ていると心がざわつくのです。彼に気圧されてしまい、訳の分からない焦燥感に駆られました。 とにかく何か話さなくてはと思い、 「あ、の、こんなところで、どうしているんですか?」 当たり障りのない質問を投げかけましたが、返ってきた反応は無でした。 彼は私をチラリと見やっただけで、興味も湧かないのか、そのままフラフラと不安定な足取りで屋上を出ていきました。 ギイィバタン、と金属が軋む音と共にドアが閉まりました。 それと同時に、私は溜め込んでいた空気を一気に吐き出します。額には、じんわりと脂汗が滲み出ていました。 「こわかった……」 思わず、声に出してしまいます。それほど、さっきの鳥島くんの視線は怖かったのです。 上手く、言葉では言い表せないかもしれません。 鳥島くんの視線は、一言でいえば徹底的な黙殺。ひたすら私を見ないようにしているようでした。 それだけなら、只のシカトで済むのですが、彼の場合は違いました。シカトなんて生易しいレベルではありません。まるで人を人と捉えていないみたいな、病的なまでの無視でした。少なくとも同じ人間に向ける視線ではないでしょう。 あのような視線をぶつけられて動揺しない人間がいましょうか? 間違いなくいないと断言できます。それほどまでに、彼の視線は異常だったのです。 しかしながら、不思議です。 確かに、先程の鳥島くんは非常に機械的で非人間的な様相を成していましたが、瞳だけは少し違っていたのです。 向ける視線こそは別格でしたが、その根源にある瞳は、何故かとても人間らしかったのです。 そして、ソレは私もよく知っているもので、よく慣れ親しんでいる感情なのでした。 だけど、ソレが何かがいまいちピンときません。喉に小骨が刺さったようなもどかしさに、私は苛まれてしまいます。 ――鳥島くんは何を思って、あのような視線を人に向けるのだろう? と、私が思考を更に展開させようとした、その時でした。 私はボヤケた視界の中で、ある物を見つけます。 手帳です。 量販店ならどこにでも置いてありそうな安っぽい手帳が、縁の近くに落ちていたのです。位置からして、どうやら鳥島くんが落としていった物みたいでした。 私は恐る恐る縁まで近づいて、手帳を拾い上げます。 それなりに使い込まれているようでしたが、それ以外にはなんの変哲もない手帳でした。 しかし、そのなんの変哲もない手帳が、どうしようもなく私の好奇心をくすぐるのです。 ――ある日、突然豹変してしまった鳥島くん。その謎が、ここにあるのではないかしら? 私はゴクリと喉を鳴らしてから、辺りを見回します。 当然、自分以外に誰もいません。屋上にいるのは、正真正銘私一人です。 悪いと思う気持ちはありました。ですけど、それ以上にこの手帳が気になってしまったのです。 私はしばらく逡巡した後に、思い切ってエイッと手帳を開きました。 私が鳥島くんの謎を解明してみせよう、そう息巻きながら開帳したのですが…… 「全然、読めないよ……」 結論からいえば、手帳を読むことは出来ませんでした。 ページを満たしている文字の全部がとても癖が強く、どう頑張っても解読が出来なかったからです。 自分さえ理解出来れば構わないといった感じの、他人が読むことを全く想定していないような文字。 鳥島くんはいつもこんな字を書いているのか、と少し新鮮な気持ちになりました。 140 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 58 37.50 ID lcwKyq+5 [7/8] でも、もしかしたら――。 と、私は少し見解の幅を広げてみます。 これは、もしかして“あえて”こういう文字にしているのではないのだろうか、と私は推察したのです。 たとえば、こうやって“誰かに拾われたとしても中身を読まれないように”と。 「……さすがに穿ち過ぎかしら」 自分の極端な推理に呆れて、私は肩をすくめてしまいます。 それからも、パラパラと惰性でページを捲っていたのです、最後の書き込みがしてあるところで手を止めました。 「ここ、読めるかも……」 ページの下部にある書き殴り。そこだけは唯一、辛うじて理解出来る文字列を成していました。 私は必死にそこだけを注視し、声に出しながら解読を試みます。 「そろそ、ろ……か、んさつを……さい、かいす、るべき……だろう……?」 『そろそろ観察を再開するべきだろう』 ページには、そう書いてあったのです。 「?」 しかし、文字は読めても事情の読めない私には、何が何だかわかりません。 結局、この手帳を呼んで得たものは鳥島くんに対する罪悪感だけで、彼に関することは何もわからなかったのです。 「手帳、明日ちゃんと返してあげなくちゃな……。それと、勝手に中を見たこともキチンと謝ろう」 私は手帳のシンプルな表紙をぼんやりと眺めながら、明日の予定を決めました。 「それにしても、鳥島くんか……」 私は彼の不安定な姿を思い出し、若干の身震いをします。 鳥島くんは、変わってしまいました。 彼は、昔はこうじゃありませんでした。絶対に、あんな怖い視線を向けるような人じゃなかったのです。 鳥島くんはある日突然、己の有していた幅広い交友関係を全て断ち切りました。そして、自ら進んで独りになったのです。 最初こそは、親しい友人たちも鳥島くんを心配して、彼に積極的に関わろうとしていました。 が、誰もが彼の普通でない様子に恐れをなして、誰もが離れていきました。 今では、誰も鳥島くんに話しかけたりしません。彼は、恐怖の対象なのです。 それに、鳥島くんは己が意図してそうしているのかはわからないのですが、存在感がとても希薄なのです。気をつけて観察していても、何処にいるのかわからなくなる時があるほどです。 さっきだって、幽霊のようにいつの間にか屋上に居ましたし……。こういう言い方をすると、悪口みたいになってあまり好かないのですが……私は以前の彼ならまだしも、今の彼はどうしても好きになれませんでした。 鳥島くんは、とても怖い人なのです。 「あ……」 しかしその時、私はある重要な事に気がついて、瞳を目一杯に広げたのです。それは非常に大きなショックを伴っていて、思わずよろけてしまいます。 どうして、どうして私は今まで、こんな大事なことに気が付かなかったのでしょう。 灯台下暗し、とは正にこのようなことを言うのだと殊更に実感しました。 だって、こんな事実を見落としていいはずがない。 141 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 15 00 44.90 ID lcwKyq+5 [8/8] ――彼は、鳥島くんだけは、 「鳥島くんだけは、私をイジメない……」 恥の上塗りだとは重々承知しているのですが、前述したように私は現在“クラスメイト全員にイジメられています”。 しかし、鳥島くんだけは違ったのです。 勿論、彼自身が腫れ物扱いされているというのもあるのでしょうが、鳥島くんだけは私をイジメたことが只の一度もありません。 ナイフのように冷たい暴言を吐いたことも、私の身体に青アザをつけたことも無かったのです。 その事実に気づいた時、フッと心が軽くなりました。 まるで重荷を一つ置いていったような、縛る鎖が一つ無くなったような、そんな開放感に包まれたのです。 尤も、鳥島くんが私を助けてくれた訳でもありません。それこそ、同情さえもしたことがないでしょう。 彼からすれば、私の存在など路傍の石に過ぎないのです。それどころか、彼の無関心さを考えれば、私がクラスでイジメられているという事実さえ知りえないかもしれません。 だけど、 「それでも、やっぱり嬉しいな……」 私の顔は、自然と綻んでしまうのです。 闇に差し込む、ほんのちょっと光明。それが、私にとっての鳥島くんなのかもしれません。自分の置かれている立場が完全な闇でないというのがわかるだけでも、私にとっては大きな救いに成り得るのです。 それが、嬉しかった。 私の中にある鳥島くんに対する恐怖は相変わらず消えませんが、それでも感謝の念だけは湧きました。 私は大きく伸びをして、空を見上げます。 空は、本格的に夜を向かい入れようとしていました。夕日は隅に追いやられ、光る星はあちこちに散在しています。 普段よりも、幾らかマシな気分でした。イジメによる傷の重い痛みも、今はあまりきになりません。 明日もまた頑張ろう、素直にそう思えました。 ――けど、本当にそれだけだったのです。 今日は鳥島タロウくんという微かな光を再確認しただけで、私の周囲は真実、何も変わっていませんでした。 現在、晴れやかになっている私は、鎮痛剤によって一時的な逃避をしているだけに過ぎません。 私、葛籠木キリエの現状はこれっぽっちも、どうしようもないほどに、これっぽっちも変わっていなかったのです。 それは、そう遠くない未来に、すぐに思い知ることになりました。
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小学三年生の娘がスクールバスで帰ってきました。 学校から帰ってくると直ぐに、宿題と宿題が終わると明日の授業の用意をするのが日課です。 小学校にあがったときからそうさせてきたので、本人も宿題と明日の授業の用意をしないと、 おやつも食べることができないし、遊びにも行けないということを知っています。 どうせやらなきゃいけないことなので、学校から帰ると直ぐにやります。 娘なりに頑張っているので褒めてあげたいと思います。 小学一年生から比べると小学三年生の宿題は、少しずつですが、量が多くなっててきいます。 プリントも1枚だったのが、殆ど2枚あります。 それから音読、自学です。娘は自学は気がむいたときしかやりませんが、 プリント2枚と音読をすると1時間はあっという間に過ぎてしまいます。 娘は遊ぶ時間がないと涙を浮かべて訴えるのがしばしばあります。 でも、宿題をやっていかないと学校でも休み時間がないようなのです。 なので必ずやらなければいけないものと娘は思っています。 いいのか、悪いのかわかりませんが、娘が頑張ってやっているのを応援したいと思います。 小学三年生はかけ算が多いようです。 小学二年生のうちにかけ算を覚えるようにと先生から言われて、 小学二年生の三学期は、いつもかけ算をお風呂の中や車の中で言ってました。 子供は覚えると早いですね。 一生懸命やったかいがあり、今では九九を言えるようになってます。 (たまに、間違いますけどね!(^^)!) お顔の筋トレ マイナチュレ通販