約 2,617,429 件
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3133.html
『境界線 後編その2』 39KB 制裁 自業自得 群れ ゲス ドスまりさ 希少種 自然界 独自設定 ナナシ作 次で完結予定 *注意 anko2997 境界線 後編その1 の続きです。 この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、国家とは一切関係ありません。 独自設定の希少種が出ます。 人間が犯罪行為を犯す場面が出てきます。 いつも通り過去作品の登場人物や世界観が出ますが読んでなくても大丈夫です。 「んほおおおお!とうとう、とかいへとしんしゅつするときがきたのね! はやくあのおうきなおうちをこーでぃねいとしたいわー!あのおうちこそが、とかいはのありすにふさわしいのよ!」 「ゆへへ!すっきりせいげんもなくなって、これからは、すっきりしほうだなのぜ!」 「みゃみゃー!れいみゅはやくおやさいさんを、おなかいっっぱいむしゃむしゃしたいよー!」 「ゆふふふ!まっててねおちびちゃん!これからはくそにんげんがひとりじめしてたおやさいを、まいにちすきなだけたべらるからね!」 「おっやさい!おっやさい!たのしみだよー!わかるよー!」 「ゆゆ!そうだね!これからは、たっくさんおちびちゃんをつくって、くそにんげんどもをどれいにして、みんなでおもうぞんぶんゆっくりしようね! これもみんな、どすのおかげだよ!」 ある山の山道を、ガヤガヤと騒がしく会話しながらゆっくりたちの集団が移動している。 その不快極まりない騒がしさが示すように、ゆっくりたちの集団の数はかなりの規模であった。 それもそのはずである、この集団は山を拠点としている群れの全ゆっくりが一斉に移動しているのだ。 つまりこの山に住む全てのゆっくりが集結していることになる、多いはずだ。 そんなゆっくりたちの向かう目的地は、本来ならば立ち入り禁止区域となっている人間の領土である麓の村だ。 通常ならゆっくり一匹がそこに侵入しただけで制裁、及び駆除の対象となるような場所である。 だがしかし、山道を下るゆっくりたちの顔はそんなことまったく気にしておらず、みな一様に明るく未来への希望に満ちている。 自分たちが悪い事をしているという自覚はまったくない。 いやむしろ、これは正当なる行為だと言わんばかりの勢いである。 そう、これは当のゆっくりたちにとってはまさに、正当なる行為にのっとった正義の行進なのである! 「いそぐのぜ!いそぐのぜ!」 「まりさー!まってねー!はやすぎるよー!」 「もうすでになんびきものゆっくりがおくれてるみょん!」 「わかるよー!だいぶうしろのゆっくりたちときょりがあいてしまったんだねー!」 さてそんなゆっくりたちの集団の中において、ポヨンポヨンとゆっくりにしては速い速度でいそいそと山道を先陣切って進んでいる一団があった。 群れの、えいっゆうまりさとその取り巻き集団であった。 「うるさいんだぜ!ついてこれないやつはおいていくのぜ!」 一団の先頭を突っ走るえいっゆうまりさは後ろからの声に叱咤で答え、まったくスピードを落とそうとしなかった。 ゆえに、このまりさたちはの一団はゆっくりの集団からは突出した形になっていた。 これは本来の予定とは大きく異なる進軍の形である。 そもそも当初は、群れのゆっくりたちはみんな一緒に固まって人間の村へと続く山道を進軍していた。 だが徐々に、えいっゆうまりさを中心としたグループが行軍速度を上げ先行しだしたのだ。 それにつられた幾つかの後続が速度を上げてしまい、今やゆっくりたちの集団は長い列のような感じで伸びきっていしまっていた。 これでは明らかに先頭と最後尾では到着に時間差が生じてしまい、大勢のゆっくりで一斉に交渉の場に現れるという、 森のけんじゃぱちゅりーのこうっどな作戦はおじゃんである。 しかし、それでもあえてこのえいっゆうまりさは行軍速度を落とすことはなかった。 「ゆっへっへっへ!まりささまだって、どすみたいにくそにんげんをどげざさせてみせるのぜ!ゆへへへへ!」 集団の先頭を率いながら、薄汚い笑いを顔に貼り付けるえいっゆうまりさ。 この先行行為はえいっゆうまりさの独断であった。 今、この群れで一番調子に乗っているゆっくりは誰かと聞かれれば、それはぱちゅりーやドスではなくこのえいっゆうまりさであろう。 つい最近までは、群れでもただ単に声と態度がでかいだけの典型的な若い一ゆっくりにすぎなかったまりさだが、 人間の下から帰還したことがきっかけで、群れのえいっゆうと評されるまでにその地位を高めていったのだ。 おかげではじめは数匹しかいなかったまりさの取り巻きも、今では若いゆっくりを中心に群れの3分の1ほどに膨れ上がっている。 しかしまだ足りない!こんなものではこのまりさは全然満足できないのだ。 (まりささまは群れのえいっゆう!選ばれたゆっくりなのだぜぇ!いずれまりささまだってドスになるのは確定してるのぜ! でもそれじゃ遅いのぜ、今手を打っておかないと、今いるドスにおいしいところを全部持ってかれてしまうのぜ! だから、まりささまがドスになったときのことを考えて、今の内にまりささま専用の領地を確保しておく必要があるのぜ! そのためには、くそ人間との交渉をまりささまだけで行って、まりささまに有利の協定をあらかじめ盛り込んでおく必要があるのぜ!) えいっゆうまりさの計画はこうだ。 ドスがゆっくりと進軍している間に、自分と取り巻きの一部で一気に先行して人間たちのとの交渉の場へとおもむき、 そこで人間共と、さっさと自分のプレイスを保障させるき協定を結んでしまおうというわけだ。 そもそも今回の件の最大の功労者は自分なのだ。 毎日毎日お野菜プレイスへと抗議へ出かけ、あげく卑怯な人間の不意打ちにあって捕まり、辛い思いをした。 自分がゆっくりできなくなっていた間に、あのドスやぱちゅりーは一体何をしてくれたというのだ。 偉そうに口ばかりのぱちゅりー、自分からはほとんど何もしないで結果だけ自分の手柄にしようとするドス。 まったくとんでもないゲス連中だ、こんな奴らに群れを任せるわけにはいかない。 今こそえいっゆうである自分が立ち上がるときなのだ! と、そんなことを考えているうちに山道を抜け、開けた場所に出る。目的地へと到着したのだ。 えいっゆうまりさの目の前に広がるのは、お野菜が勝手に生えてくる素晴らしいゆっくりプレイス! 今日からは全て、まりささまのゆっくりプレイスだ! 辺りを見回すとプレイスの中心部にクソ人間の女が二人立っている。 昨日見た顔だった。 ちょうどいい、こいつらはまだドスでさえ土下座させてないクソ人間だ。 ドスが来る前にこいつらを土下座させて、さっさとまりささまの要求を飲ませてしまうとしよう。 「おらぁあああ!やくそくどおりまりささまが、わざわざきてやったんだぜええええ! ずがたかいんだぜええええ!まずはどげざして、あいさつだろうがああああああ!」 畑に到着した早々に人間たちに向かって吼えるまりさ。 それに対して二人の人間は冷めた表情だった。 「ええっと、わざわざきてくれたのはいいが、ドスはどこだ?もしかしてこないのか?」 眉をひそめながらえいっゆうまりさに訊ねる先輩。 「ゆふん!どすはあとからくるのぜぇ! だからいまは、このまりささまとこうっしょうするのぜえ!」 「いやいや、交渉は普通双方のリーダーとやるもんだろう。 ドスがこないというのならまだしも、後から来るというなら今君と交渉する意味はまったくないだろう」 「うるさいんだぜえ!ごちゃごちゃいってないで、さっさとこのまりささまに、くそにんげんどものりょうどのはんぶんをわたす きょうっていをむすぶんだぜえ!まりささまはむれのえいっゆうだぞおおおおおお! はやくしないといたいめをみるんだぜええええええ!」 強気な態度で自身の要求を訴えるまりさ。 しかし、先輩とおねいさんはそれらの台詞からこのまりさの大体の魂胆を把握したようだ。 「ああ、なるほどね。突然一匹で現れて何事かと思ったが、 これは………つまりあれか、本当はいっぺんに来る予定だったんだけど、功を焦ったまりさが、 ドスを置いて勝手に先行してきちゃったとかそういうことか?」 「どうやらそうみたいねぇん、全員でくるなら皆で一気に来ればいいものを、わざわざ各個撃破しやすいようバラバラに来てくれるなんて、 さっすが、ゆっくりの行動はおねいさんでも想像の斜め上をいくわぁん。 これで万に一つもこいつらを取り逃がす可能性はなくなったわねん」 「私は何だか空しいよ、何のために集団で逃げ出したときのために昨日夜遅くまで柵を作る作業してたんだか、はぁ」 溜息をつく先輩。 と、そこへ。 「ゆゆ!やっとおいついたよ!」 「まりさぁ!はやすぎるよー!」 「みょん!でもこれでだいぶどすからは、きょりがかせげたみょん!」 先輩とおねいさんの推論を確証付けるように、次々と後続のゆっくりたちが畑に到着する。 「ゆっへっへっへ、ぞくぞくとまりささまのぶかがあつまってくるのぜぇ! わかったらさっさとどげぶぎゃあああああああ!」 えいっゆうまりさは最後まで喋ることができなかった。 何故ならおねいさんの蹴りがその顔面にヒットして吹っ飛ばされたからだ。 「さあってと、それじゃあ本命のドスが来る前に軽く準備運動といくとするわよん。 こいつら後で虐待するからできるだけ潰さないで捕まえてねん」 おねいさんが先輩に言う。 「何でそんなめんどくさいことを私が……」 「いいから、いいからん。 貴女だってこいつらには腹が立ってるんでしょん、さあ口じゃなくて体を動して」 「やれやれだ、こういうとにはやたら熱心なんだから」 そう愚痴りながらも、先輩はゆっくり捕獲用のネットをやってきたゆっくりの一団向かって投擲した。 「ゆああ!なにこれー!」 「わからないよー!」 「ゆうううう!ゆっくりできないいいい!」 突然えいっゆうまりさがおねいさんに蹴り飛ばされたことにより、放心状態だったゆっくりたちの頭上に、 先輩が投擲した網が広がって落ち、その身動きを封じてしまう。 「ゆうう、なんだかゆっくりできないきがするよ!れいむはにげるよ!………ゆべがっ!」 さらに敏感に危機を察し、その場から離れようとしたゆっくりはおねいさんに容赦なく潰された。 「ゆゆ!おちびちゃん!れいむたちのゆっくりぷれいすにとうっちゃくしたよ!さあおちびちゃんいっしょに……ゆぎゃあああああああ!」 「!!みゃみゃーーー!どうちでごんなごとす……ゆっぷぎゃあああああああ!」 そして次々とやってくる後続のゆっくりたちも、バラバラにやってきたものは無造作に踏み潰され、 「なんなのおおおおお!このあみさんはああああああ!だしてね!いじわるしないでれいむをここからだしてねええええ!」 「んほおおおおお!こんなのぜんぜんとかいはじゃないわあああああああ!」 「いだいいいい!まりさのもっちもちのはだに、あみがくいこむうううう!」 ある程度の集団で固まって来た連中は、ゆっくり捕獲用のネットによって次々にまとめて生け捕りにされていった。 「ゆっ……ぐぐぐ……いだい゛ゆっぐじできない……」 次々と潰されるか、あるいは捕獲されるゆっくりたち。 その信じられないような光景を、茫然と眺めるえいっゆうまりさ。 まりさは、おねいさんに蹴られた衝撃で全身に痛みが走り、まともな思考ができなかった。 何だこれは?いったい何が起きているというのだ?クソ人間はゆっくりに負けを認めたはずじゃ……。 「ああん、あなたがあれねぇ、はじめににんげんにつかまってたっていうまりさねぇん」 「ゆぼはが!」 虚脱状態だったえいっゆうまりさを突然激しい痛みが襲う。 おねいさんがえいっゆうまりさを踏みつけたのだ。 「ゆがががあべぼ!つ、ぶれるううううううう! やべろおおおおおお!まりざさまはむれのえいっゆうだぞおおおおおおお! いだいいいいいいい!やべでええええええええ!」 グリグリと踏みつけられ、叫び声をあげるえいっゆうまりさ。 痛い!なんなんだこれは!何でえいっゆうであるはずのまりさまがこんな目にいいいいい! 「あらあら、さっすが主犯格だけあって元気一杯ねぇ。でもそうでなくっちゃ面白くないわぁん。 それじゃあ、おねいさんは今忙しいからまたあとでねん」 そういうとおねいさんは懐から大きめのクギのような物体を取り出すと、 グサ!! 「ゆっがああああああああああああああああああ!」 無造作にえいっゆうまりさの腹からあんよにかけて斜めに突き刺し、地面に縫い付けた。 そうすることで苦痛を与えつつ、えいっゆうまりさの移動を封じたのだ。 「うふ、うふふふふふふふ!」 「ゆひっいいい!」 えいっゆうまりさは恐怖した。 そのときのおねいさんの表情に。 何か……ひょとすると、自分はとんでもない勘違いをしているのではないか?いいやそんなはずは!いやしかし……。 増長しきったゲスゆすら一瞬にして戦慄させる何かがそこにはあった。 「それじゃあ、まりさちゃん、またあとでねん」 それだけ言うとくるりと踵を返し、相変わらず次々とやってくる群れのゆっくりたちの処理に戻るおねいさん。 「あっ、ああああ、あががががあああああ」 ジョボボボボ。 自身を貫く鋭いクギの痛みと体験したことのない未知なる恐怖に、おそろしーしーをもらしたえいっゆうまりさであった。 その頃山のゆっくりの群れでは。 「はぁ、はぁ、くそったれが」 荒い息を吐きながら太い木を背に寄りかかる男。 だらりと下げられた右腕からは、真っ赤な血が滴り落ちている。 女によって撃たれた傷のためであった。 それはつい先ほどの出来事。 男に向かって振り返った女の手には猟銃が握られていたのだ。 驚愕と共にその存在を目に認めた男は、咄嗟に女と距離を離すために地を蹴って大きく後退した。 が、しかし間髪を入れずに猟銃から発射された弾丸は、男の右手を浅くかすめた。 右手から来る衝撃と激痛におもわず地面に転がりながらも、男は何とか大きな木の裏にへと退避することに成功した。 (ああ、クソ失敗した。突然銃なんか出されたから思わずビビッて後ろに下がっちまったが、 本来ならあの女に向かっていくべきだったんだ。 おかげで撃たれた上に距離まで離れて大ピンチじゃねえか!) 木の裏に隠れながら己の失敗を悔やむ男。 女が持っている猟銃は一発しか弾が発射できないタイプのものであった。 よって一発目を何とかしのげば後は接近戦に持ち込めるのである。 初めに撃たれた際に思い切って前進し、被弾しつつもそのまま取っ組み合いに持ち込めば十分男に勝機はあった。 だが突然の事態に動揺した男は思わず後退を選択してしまった。 結果として利き腕に被弾してしまった上に、女に弾を再装填されてしまったのだ。 今の状況は男にとって最悪の一言であった。 「あの、傷のほうは大丈夫ですか?」 自分が圧倒的有利な立場にいることを自覚してか、 身を隠している木の反対側から女のいたわる声が聞こえる。 「大丈夫なわけあるかボケェ!撃たれてんだぞ!何考えてんだテメェ!」 「それだけ大声が出せれば命に別状はなさそうですね、安心しました。 どうです?そんなところに隠れてないで、こっちに来てお話しませんか?」 「安心すんな!誰が自分を撃ったヤツの目の前にノコノコ出て行く間抜けがいるかってんだよ! お前自分が何したかわかってるのか!流石にこれはシャレじゃすまねえぞ!」 木の裏側から思わず怒鳴る男。 確かに猟銃で人を撃つなどと言う行為は最早、ゆっくりとは何の関係もなしに犯罪行為である。 もう今さら穏便にとか言ってる場合ではない。 しかし女は対して気にした風でもなく、 「ああ、ごめんなさい、しかしあなたもいけないんですよ、私を力ずくで連れ帰るなんて言うから。 だから、私も知も力ずくで抵抗させてもらいました。 おかげでめでたく犯罪者になってしまいました。 いや、私としても撃ちたくなかったんですよ、ほんとうに」 バツが悪そうに答える。 「ふざけんな!そうまでして帰りたくない理由はなんだ! いや、そもそもお前一体何が目的なんだよ!」 叫ぶ男。 この状況を見れば女とゆっくりが手を組んでいたのはもはや明らかだった。 どこから入手したかしらないが、こんな猟銃を持っていてゆっくりに捕まってましたなんて話は誰も信じないだろうし、 第一一緒に帰ろうという男を撃つ理由がまったくない。 しかし何故女がこんな事をしているかは依然として不明なのだ。 「んー、まあもう話してもいいでしょう、もはや私の目的の第一段階は達成されたも同然の状況ですからね。 私の目的、それはゆっくりと人間の境界線をなくし、人間の支配から解放することによって、あらゆる差別を根絶することです」 「……………はい?」 女の答えにキョトンとなる男。 境界線をなくす?差別がなんだって?何言ってんだコイツ? 「あっ、あれ?わかりにくかったですか?今回は以前お会いしたときと違って、特にはぐらかしたりしてないんですが。 つまりですね、今現在の山などに生息している群れのゆっくりたちは国営機関、つまり貴方たちによって管理、支配されていますよね。 これは著しく不自然的なことです、本来この世界に住むものたちに優越などないのですから。 そしてゆっくりたちもまた人間の呪縛から逃れたがっている、だからゆっくりたちが独立できるようにと少々お力添えをしたのです」 淡々と言い放つ女。 「バッ、バカかテメェはああああああああ! ゆっくりの独立って、本気で勝てると思ってるのか!ゆっくりが!人間に! そりゃ今回の件はお前にまんまとしてやられたよ、一時的ではあるがゆっくりに対して俺たちは退いた、それは事実だよ。 だがそれだけだ、こんなことがいつまでも続くと思ってるのか、すぐに人間は反撃を開始するぞ、いやもうすでにしているんだ。 そしたらあんな連中あっという間に駆除だ、それともあれか、お前さんがその銃でゆっくりに敵対する人間を一人づつ撃ち殺していくのか? バカも休み休み言いやがれ!」 「ふふふふ、誰がゆっくりが人間に勝つと言いましたか?」 「なにぃ!」 「今回の騒動でゆっくりが勝つ必要などまったくないのですよ、むしろ勝ってしまってはまずいのです。 まあ、仮にゆっくりが人間に全面的な勝利を治めたとしましょうか。 しかしそれでは所詮、人間とゆっくりの支配者と被支配者が入れ替わるだけの話。これはとうてい真の平等とは言えません。 私の目的とは違う」 「お前イカレてんのかよ、さっきから話しがめちゃくちゃだ!」 「まあまあ、落ち着いてそう興奮なさらないで、怪我にさわりますよ」 女はどうどうとなだめるように言う。 「つまりですね、今回暴れてもらっているゆっくりたちの群れは捨て駒。 あ、いやこういう言い方はよくないですね。言い換えるのならそう、狼煙なのですよ」 「狼煙だぁ」 「そう、全国に数え切れないほど沢山存在するゆっくりたちのための反撃の狼煙なのです」 「………お前、まさか」 女のセリフから何か不吉な予感を感じる男。 「だいぶわかってきてもらえたようですね。 お察しの通り今回の件は、たとえ一時的とはいえゆっくりが人間に対して勝利し、村の領土を奪ったという既成事実を作り上げるのが目的なのです。 勝利は一度きりで十分、人間が人質に取られているとなればあなた方はうかつにゆっくりに手出しはできませんから、それぐらいは可能です。 そしてあなた方は私の予想通り交渉にやってきたゆっくりたちを無傷で返した、私の身を案じてもらってありがとうございますね。 さらに仕事に忠実なあなた方のことです、人質がいると知れば、直ちに警察や機動隊に連絡をしたことでしょう。 そこまで騒ぎが大きくなれば当然マスコミなども放っておかない。 なにせはじめてのゆっくりによる人質事件、そして人間への大規模な反抗行為。 世間のゆっくりによる関心はそれなりに高いですから、きっと大ニュースになるはずです。 そしてそのニュースを知るのは人間だけではない、全国に存在している群れや野良ゆっくりたちもこの事実を知ることになるでしょう。 彼らはきっと立ち上がり戦うことでしょう、自由のため平等のためにね」 「ふざけんな!」 大声で女のセリフを遮る男。 「テメェはゆっくりと人間との間に戦争でも起こす気かよ! そんなことして一体何になる、誰も得しねえよ」 吐き捨てるように言う男。 「何になると言われましても、私の目的はゆっくりと人間の境界線をなくし、あらゆる差別を根絶することだとはじめに言ったでしょうが」 「何で今の話からそうなる。 例え今お前が言ったことが現実に起こったとしても、それは結局人間とゆっくの間の溝を深めるだけだ。 もし戦いになれば人間とゆっくりが今以上に憎しみあうことは目に見えている。 ゆっくりが好きな人間、人間とは関わりあわないように生きているゆっくりにも否応なしに巻きこまれ、多大な被害がでる。 平等だか何だか知らないが、ゆっくりと人間との全面戦争なんて起こしても多くのものが不幸になるだけだぞ。 そして最後にはゆっくりたちの全滅だ、それぐらいちょっと考えればわかるだろうが!」 「そうでしょうか? そもそも人間の戦争の歴史とは、即ち自由への戦いの歴史でもあるのです。 自由のための戦いならば、それはつまり避けることのできない戦いということ。 無理に押さえつけていてもいずれは限界がくるのです。 そして戦いの結果ゆっくりが滅びることになっても、それはそれで仕方ありません。 自由や平等というのは自身の行動に責任を伴うものです。 今回の件もそうですね、恐らくあの群れは人間との戦いに敗れ全駆除されることでしょう。 残念ですがそれが行動の結果というのならば仕方がない」 「そもそもそれは、テメェがそう誘導したことだろうが!」 男が反論する。 「それは心外なセリフですね。 あのゆっくりたちは、はじめから人間たちに対して領土を奪う計画を立てていました。 つまり私が何もしなくても反旗を翻したであろうことは確実なのです。 よって私はあの群れのゆっくりたちに、何も強要はしてはいないということです。 まあ、利害の一致から少々手を貸したことは否定しませんがね。 さっきの捨て駒発言は失言でしたが、私は自身の目的のためだけに彼らの意にそぐわぬことを押し付けたりはしません。 彼らのを平等に扱い、自由を尊重していますからね。何ら私の発言に矛盾はありません」 「たとえそうだとしても、お前が介入してこなけりゃこんな大事にはならなかった。 群れを全駆除なんてことしなくても、何とかなる可能性はあったんだよ」 「いつものように、あなたがたがたが秘かに暗躍して、いわゆる反乱の先導元となるゲスを処理してですか? そうやって都合の悪いゆっくりは殺し、都合のいいゆっくりだけ生かす。 そういった差別や支配をいつまで続ける気ですか? そんな考えが根底にあるから、人はいつまでたっても分かり合えないのですよ」 「わけのわからないことを言ってるんじゃねえ! 人とゆっくりとでは話しが違うだろうが!」 「同じ事ですよ、人は自分の気に入らない人間を同じ人間扱いせず、ゴミのように扱う。 それこそゆっくりのように扱う。 人の思い上がりを正さない限り、永久に同じ事の繰り返しです。 あなたは、ゆっくりと人間が戦争になれば双方が不幸になると言いましたね。 それはその通りでしょう。 だた、そういった戦争の結果、お互いが不幸になるというのなら、そもそもなぜこんな戦いが起きたのかを考えなければならないのです。 そして愚かな人類はやっと気づくのです、人間がゆっくりを差別しなければこんなことは起きなかったと。 そしてそれは人間でもまったく同じ事が言えるのです。 生まれた国が違うから差別する、信じている神が違うから差別する、肌の色が違うから差別する、性別が違うから差別する、 自分が気に入らないから差別する!本当はみんな分かっているくせに必死に目を逸らして知らない振りをする。 だったら!人間同士がいくら争っても気づかないなら、もうゆっくりに教えてもらうしかない。 我々の多くが下等だから、生意気だからといって差別的虐待を繰り返すゆっくりたち。 しかしそんなかれらに反逆されることで、人はまた改めて意味なく差別をすることの不毛さを学ぶのです」 女は滔々と語る。 「そのために沢山の罪のない人や、ゆっくりが酷い目にあってもか!」 「愚か者は何かが起きないと、反省することをしませんからね。 それに革新には犠牲はつきものですよ、何も失わずに何かを得ることはできない。 ゆっくりも人間もそれは同じ事です。 しかしこの試練を乗り越えることができれば、人類は新たなるステージに進むことができるのです」 「世迷いごとだ、そんなお前の思い通りに行くわけないだろう、世の中を舐めるな」 「やれやれ、あなた方のような人間は、理屈で負けると二言目にはすぐそれですね。 大人になれ、世間が黙ってないぞ、世の中そんなに甘くない、ですか。 確かに私の試みが絶対に成功する保証などどこにもない。 しかし、どうせそんなと諦めて、何もしないのはもっと悪いことなのです。 行動しなければ、一歩を踏み出さなければ結局いつまでも何も変わらない。 不満のある現状を、しかたないさと無理やり納得し、世間の理不尽さに耐え、 貝のように口を閉ざして生きていき、そして最後にはそういう「世間の厳しさ」を知ったつもりになった自分に満足する。 冗談じゃない!私はそんなのはゴメンです!何もやらずに生きた屍になるくらいなら、世界を変えるために何かやって死にたい。 その覚悟が私にはある!」 「…………ふぅ、わかったよ」 男は溜息混じりに言った。 「ご理解いただけましたか」 「ああ、わかったぜ。 テメェがどうしようもねぇ大馬鹿野郎だってことがなああああああああ!」 男は叫んだ。 「試練を乗り越える?新たなるステージに進むだぁ?中二病患者かってんだよテメェは! バーカ!バーカ!そんなことしたって、世界は何もかわりゃしねえよ!」 「………………」 「もしお前が本当に何かを変えたいと本気で思うのなら、こんなアホな方法じゃなくて政治家にでも何でもなって、 それから地道に変えていけばいいんだよ! インテリは目に見える結果を求めて、すぐ過激なことをやる出す!革命だとか何とかいってな! だがなぁ、自分の行動一つで歴史を早めたり、遅くしたりできると考えるのは思い上がりだってんだよ。 簡単には変われないんだ、人も、ゆっくりだって」 「よくわかっているじゃないですか、そう人は簡単には変われない。 だからこそ私はゆっくりたちに……」 「違うね!」 「!?」 何か言おうとした女を男が遮る。 「人間の問題はどこまで言っても人間の問題なんだよ、ゆっくりは関係ねえ。 お前が言うように差別を生み出したのは人間だ。 だからどんなに困難でも時間がかかっても、それは人間自身の手で解決しなきゃいけない問題なんだよ。 だが、お前は本来なら人間が自身で解決しなきゃいけない問題を見限って、ゆっくりに逃げたんだよ。 人間同士の困難にぶち当たるのが嫌で、早々にゆっくりに逃げてきたんだ。 そんなザマで世界をどうこうしようと思ってるとは笑わせるぜ」 そう男は真っ向から女の考えを否定した。 だが、 「………言いたいことはそれだけですか」 女はまったく動じることはなかった。 「あなたは物事のスケールが小さいのですよ。 人間の問題は人間のみで解決すべきとあなたはおっしゃいますが、 今人間は好むと好まざると、この世界の支配種と化してしまっています。 その人間の問題となれば、それは即ち全世界の生命の問題でもあるということです。 ゆっくりや他の生き物がこの問題に関わってくるのは自然な成り行きなのです、そしてそれが結果的に双方のためになる」 「それが傲慢だって言うんだよ」 「ふむ、見解の相違ですね。 どうやらまだ私たちが分かり合うのは無理なようです。 では申し訳ありませんが、貴方にはもうしばらくこの場に留まってもらいます。 ゆっくりたちが一時的に勝利を治める為に、今日一日ぐらいは私は人質としてこの山にいなければならないので。 今貴方にこの山を下りられるわけにはいきません、実は私が人質ではないということが露顕してしまいますからね」 「断ると言ったら?」 「そのときは仕方ありませんね、全力で阻止させてもらいます」 「つまり撃ち殺すってことね」 「大人しくここにいれば、何もしませんよ。さっきも言いましたがなるべくなら撃ちたくないんです」 「やれやれだ」 男は溜息をつく。 結局議論は物別れに終わったのだ。 しかし男にとって今の話はかなり有意義なものだった。 何故ならば今まで不明だった女の目的を正確に知ることができたからだ。 (さて、どうしたものかな) 話すことがなくなり、これからの行動を思案する男。 この場合一番無難で賢い選択は、彼女の要求に従い大人しくこの場にとどまることだった。 何故ならば、実のところ男は彼女のとの勝負にはもう既に『勝っている』からだ 先ほどの話で、今回の女の企みの根幹は、ゆっくりたちの騒動を大々的に外部へと知らしめることにあるということがわかった。 そのために女は、わざわざゆっくりたちに捕まった振りまでして人質事件をでっち上げたりしたのだ。 そして女はゆっくりたちが交渉の場から無傷で帰還したことにより、自らが人質としての機能を十全にはたしていると確信し、 男たちがとっくに警察や機動隊に連絡していると勘違いしている。 だからこそ自分の目的はもうほとんど成功したようなものだと男に語ったのだ。 実際には男たちが警察には連絡していないのにも関わらずだ。 だが女がこう判断したとしても無理ないことだ。 人質事件が起こっているのにも関わらず、まさか男たちが警察関係に連絡を入れないとは常識では考えられないし、 女が人質として身を隠すために昨日からずっと山にこもったままで、麓の村の情報がまったく入手できない状況なのも大きい。 そんなわけで結果論的にだが、男たちのとったムチャな行動によって、既にこの事件を世界に発信するという彼女の計画は完全に失敗している。 つまり、女が気づいていないだけで男は勝負には既に『勝って』いるのだ。 そして無論そのことは男は既に気づいている。 その上で男は考えるのだ。 (大人の判断をするのなら、このまま大人しく待ってるのが一番か……。 腕は痛むが、かすっただけで骨に異常はなさそうだし出血も止まった、大事ないだろう。 それに彼女がオレを殺したくないってのは多分本音だろうしな。 今頃は先輩たちが、交渉の場にやってきたゆっくりたちを全駆除しているところだろうし、 変にコイツの相手をせずに大人しくやり過ごしちまえば、身の安全は保障されたまま自動的に事態を解決できるってわけだ。 だが…………) これでいいのだろうか?と男は自問する。 確かにこのまましばらく待てば、なるほどこの女は男に危害を加えることなく山を下りるだろう。 そして、恐らくは先輩達によって皆殺しにされてたゆっくりと、まるで騒ぎになっていない麓の村の様子を見て、 自身の企みが失敗したことを知ることになるだろう。 しかしその後女はどうするだろうか?大人しく警察に自首する?それとも失敗の腹いせにオレや先輩達に復讐する? ……いいや、違う。彼女はそんなことはしない、彼女はこんなことでは決して諦めない。 今回の件で、女は男を銃で撃つというあからさまな犯罪行為を犯している。 そしてそのことで捕まることは、本人も覚悟の上での行動だろう。 しかしそれはあくまで自身の計画の成功を見届けてからの話なのだ。 女が山を下りた後、計画が失敗していることを悟れば、彼女は大人しく捕まるようなことはせず、 きっとどこかへと身を隠し、機会を待ち、また同じようなことをするだろう。 それこそ成功するまで何度でもだ。 迷惑極まりないが、この女にはそれだけの信念と覚悟がある。 男は先ほどの会話からそのことをよく理解していた。 つまるところ、男は確かに今回の彼女との試合には勝った。 が、しかしながら根本的な勝負にはまだ勝利していないということなのだ。 「ああ、なるほどね」 (つまりオレはコイツをここで) 「逃がしちゃいけないってわけか。あーめんどくせぇ」 男はフッと自嘲気味に笑うと、どっこらしょっと、言いながら立ち上がり、 盾にしていた木の裏側からゆっくりと女の前に姿をあらわした。 「!?」 男の突然の行動に慌てて銃を男に向かって構え直す女。 「急にどうしました?もうあなたとは話すことはないはずですが?」 「そうだな、確かにもう話すことはない。お互いに言いたいことを言い終えて、なおかつ和解できなかったんだからな。 つまり後はもう、直接やり合うしか道はないわけだ」 さも当然のことのように男が言う。 しかし、女は困惑気味だった。 「なっ、何を言っているのです! あなた今のご自分の立場をわかっているのですか! 目の前に銃を突きつけられているのですよ! 今度は怪我じゃすみません、命さえ落とすかもしれないのですよ!」 銃を男に向かって構えながら女が凄む。 女の戸惑いは当然だった。 通常ならこんな男にとって絶対的不利な条件で、直接やり合うなど正気の沙汰ではない。 しかし男はどこ吹く風だ。 「そりゃオレだって、できればやり合いたくないよ、実際危険だしね。 でもさ、仕方ないんだよ。お前をここから逃がすわけにはいかない。 今ここで決着をつける必要があるのさ」 「さっぱり意味がわかりませんね。 先ほども言いましたが、もう私の計画は半ば成功したようなもの。 ここであなたが死のリスクを背負ってまで私と争う理由はないはずです。 このままじっとしていれば、私があなたに危害を加えないというのが信用できませんか? それともひょっとして、自分が利用されたことに対する腹いせか何かですか? だったらやめておきなさい、そんなことで命を無駄にするのはあまりにも馬鹿らしい」 「いや別に腹いせなんかじゃねーよ、お前のことはムカツクけどな。 そんなんじゃなくてさ、つまりこれがオレの仕事なんだよ。 ゆっくりに対するゴタゴタやトラブルを解決するってことがさ。 今回はたまたまその相手がゆっくりじゃなくて、人間だったってだけの話なわけだ」 「フッ、なるほど、見上げたプロ根性ですね。 いいでしょう。そこまで言うのならばお相手します。 正直私にとっては何の意味もない戦いなので、気は進みませんけどね」 女は渋々といった様子で銃の引き金に指をかける。 いつでも発射できる態勢だ。 男が女に向かって動き出せば、ためらなく引き金を引くことだろう。 しかし男は慌てず騒がず、何気ない調子で女に話しかける。 「あーそうそう、やり合う前にさ、一つ言っとくことがあったわ」 「なんです?遺言ですか?」 女は油断なく男を見据えながら訊ねる。 「ああ、いや別に大したことじゃないんだ。 ただお前さんがちょっと勘違いしているみたいだから、訂正させてもらおうかと思ってね。 あのさ、お前さんはオレたちが警察その他に連絡して、今頃麓の村では大騒ぎになってると思ってるみたいだけどさ、 実はオレ警察関係には一切連絡を入れてないんだわ。ゴメンね」 「なっ!」 女は男からもたらされた驚愕の情報に目を見開く。 「そっ、そんなバカな!ハッタリです! そんな嘘で私を動揺させようなどと……」 「嘘じゃないさ、そもそもおかしいとは思わないのか?」 「何がです!」 「オレが一人でここにお前を迎えにきたことがだよ。 もしオレが警察機関に連絡していたとしたら、事件の主導権はあっちに移るはずだ。 なんたって、人質事件なんだからな。 一介のゆっくり専門機関職員のオレの出る幕なんてあるわけないだろう?」 「ぐっ……それは…そうですが…」 唇をかみ締め、男を見据える女。 今まで何が起きても冷静な態度を崩さなかった女が、ここに来て初めて動揺を見せていた。 「くっ、なんてこと……」 (いえ……落ち着くのです。 こんなのはブラフに決まっています。 嘘の情報で私の戦意を奪い、あわよくば捕らえるという作戦でしょう。 さっき話したときの反応からして、彼が私の計画を事前に予想していたは考えにくい。 そして増長したゆっくりたちが無傷で帰ってきたことから、人質の効果は確かにあったと思っていい。 となれば彼が、警察に連絡しないという選択肢を取る理由がないではないですか。 そう!そんな行動は明らかに矛盾しいます、警察に連絡をしていないはずがない! いや…だがしかし、それでは彼が言うように、単独でこの場に現れたということの説明がつかない。 もしかして自分の失態の責任を取るための独断行動ということでしょうか? そうだ!そうに違いありません。それならばこんな無茶な戦いを仕掛けようとしていることにも説明がつきます。 いや、でも、もしかしたら………) 疑心暗鬼に陥り、答えの出ない思考を続ける女。 相変わらず銃は男に向けられたままだが、今まで一分の隙もなかった状態から、 若干ではあるが女の注意が散漫になっていた。 「…………………」 (よーし、いい感じに迷ってるな。 自分の作戦の根幹に関わる情報だからな、考えまいとしてもどうしても気にせざるを得ないだろう。 やる気も自信も満々の相手にガチンコしかけるのはゴメンだからね。 せいぜい動揺してスキを晒してもらうぜ。 あとは、地面に落ちてる砂でもぶん投げて目潰しとかだな。 それで何とか接近戦に持ち込んで、それからは運にまかせるとするか) 女の動揺を認め、自身の企みの成功を確信する男。 彼女が構えている銃にこめられている弾丸は一発。 つまりこの勝負は、男が女に接近するまでに弾丸を当てれば女の勝ち。 逆に男が弾丸をスカすか、接近して取っ組み合いに持ち込めれば男の勝ちである。 男としてはいかに女の注意を逸らすかにかに尽力する必要がある。 だからこそ、あえてあの話をしたのだ。 そして男がした話は全て真実である。 よって真実ゆえの説得力があり、女はそのことに思考を割かざるを得ないのだ。 「………………」 (さて、行くかな) いよいよ特攻を仕掛ける覚悟を決める男。 あまり時間をかけて女が冷静さを取り戻してもいけない。 やるのならば今をおいてほかはなかった。 睨みあう両者。 互いにスキをうかがいあい、相手のこと以外はまったく目に入らない。 周囲には緊張が走り、物音一つしない。 勝負は一瞬で決まることだろう。 と、次の瞬間! ありえない事態が起こった。 「ちょっと待ってね!」 「「!?」」 緊迫した両者にとって、完全に予想外の声がかけられる。 「ゆふふふふふふ!その勝負、ドスも加えさせてもらうよ!」 いつの間にその場に現れたのだろうか? 何と二人に声をかけたのはドスまりさだった。 その声、その身体、その表情。 正真正銘あの群れのドスと同一のものであった。 「これは……驚きましたね。 ドス、あなたは人間たちのところへ行ったのではなかったのですか? 麓の村の様子は?人間たちの抵抗はどんな感じでしたか?」 突然の闖入者であるドスに矢次に質問を浴びせる女。 女にとってこの場に突然ドスが現れたということは、まさに僥倖であったのだ。 何故ならドスから麓の村の人間たちの様子を聞くことで、現在の自分の作戦の状況を正確に把握できるからだ。 いやそもそも、ドスがこの場に無傷で現れたということは、人間がゆっくりに対して無抵抗だったということ。 それは即ち作戦の成功を意味しているのでは? しかし、ドスからの返答は女の期待したものではなかった。 「ゆゆ!ドスはおねいさんのことが気になってね、途中から引き返してきたんだよ!偉いでしょう!」 ドスは得意げに女に言い放つ。 「………そうですか。それは……嬉しいような残念なような……」 期待していた答えが得られず、若干拍子抜けする女。 ドスが途中で引き返してきて人間たちと遭遇していないのなら、状況を判断する材料にはならない。 いまだ作戦の合否はわからぬままだ。 「…………………」 そんなドスと女の様子を、黙ってみている男。 その視線は何故かドスの足元に向けられていた。 「まあいいでしょう、少々危険ですが村の様子はこれから自身の目で直接確認しにいくことにします。 ある程度山を下れば遠目からも判断できるはずですからね」 「おい待てよ!お前はここから逃がすわけにはいかないと言ったはずだが?」 そのままさっさと山を下りていってしまいそうな勢いの女を、男が呼び止める。 それに対して女は呆れたようにして口を開く。 「はぁ、あなた今の状況わかってます? ひょっとしてまだ私と勝負をするおつもりなのですか? 先ほどのまでの状況ですら私が圧倒的有利だったのに、今ではドスまで援軍に来てくれたのですよ。 二体一です。あなたには万に一つの勝ち目もない。無駄なことはおやめなさい。 何度も言うように、私は無益な殺生は望むところではないのですよ、私たちを追ってこなければ何もしま…」 「言いたいことはそれだけか?」 「むっ!」 男の素っ気ない返答に、流石にカチンときたのか眉間に皺を寄せる女。 「ふぅ、ほんとわからない人ですねぇ、以前山でお会いして話したときはもう少し賢い選択ができる人だと思ってたんですけど、 見込み違いでしたかね」 そう溜息混じりに言う。 「ゆっふっふ!おにいさん、ほんとにそれでいいのかなぁ! ドスはどっちでもいいんだよ、怖いのなら戦わなくてもね!」 さらにドスが挑発的な発言をする。 しかしそれに対して男は気分を悪くするでもなく答える。 「ああ、心配してくれてどうもありがとさん。 だが問題ない、オレはもう覚悟を決めている。 今のこの場で決着をつける。 だからドス!オレにまっすぐ向かってきやがれ!」 「ゆっふっふ!望むところだよ!ドスの体当たりでぺちゃんこにしてあげるよ!」 そう言い、向かい合う男とドス。 ドスのすぐ後ろに隠れるようにして銃を構える女。 女が先ほど言ったとおり、これは男にとって圧倒的不利な場面であった。 何せ男が女に攻撃を加えるためには、ドスという巨大な障害物を通過しなければならないのだ。 ドスまりさの戦闘力はそれほどでもないが、その巨体ゆえに耐久力は通常のゆっくの比ではない。 いくら男でも素手で瞬殺できる相手ではないのだ。 無論ドス一体に集中して攻撃すれば倒すことはそれ程難しくはないだろう。 だがしかし、迂闊にドスばかりに構っていると、今度はその間に女に狙い撃ちにされてしまうのは明らかだ。 はっきり言ってこれは、男にとって不利どころか絶望的とすら言える状況だ。 しかしだと言うのに、男の顔にはいささかの迷いもない。 それこそ覚悟を決めたということなのだろう。 睨みあう男とドス。 そして次の瞬間。 「うおおおおおおおおおおおおお!」 「ゆあああああああああああああ!」 両者が雄叫びを上げながら、一斉にお互いに向かって動き出す。 男は全力疾走だった。 ぶつかる瞬間にフェイントをかけて横に逃れるとか、そういう意図はまったく感じられない。 ただまっすぐドスに、いや、その後ろで銃を構えている女に向かって突き進む。 体当たりで一気にドスと、後ろにいる女ごと吹き飛ばすつもりだろうか? いや、いくらなんでもそれは無理だろう。 ドスの巨体にぶつかってなお、それを吹き飛ばすなど絶対に無理だ。 流石に当たり負けすることはないだろうが、接触の瞬間、男は必ずその衝撃で減速するだろう。 そして男の動きが止まった瞬間、女はそのスキを銃で狙い撃ちにすればいいだけの話。 ああ、なんて無謀な行為なのだろう。 きっとこの男は怒りで冷静な判断能力を失っているのだ。 女は瞬時にそう理解した。 そして見る見る男とドスの距離が縮まっていく。 もう二人の距離はそれこそ絶無! そしてついに両者が接触するその瞬間! 男はボソリと呟いた。 「悪いな…………ぬえ!」 「!?」 その時、女にとって理解不能なことが起こった。 男とドスが接触した瞬間、どちらが当たり負けるでもなく、男がドスの中に消えていった。 かと思ったら、突然ドスの背中から男が飛び出してきて………。 「オラァァアア!」 「がっふ!」 次の瞬間、茫然とする女のアゴに男の左アッパーが直撃した。 まったく予想外のことが起こり無防備な女に、脳を揺さぶる鋭く重い一撃が突き刺さる。 何がなんだかわからないうちに女の意識は深い闇へと沈んでいった。 ドサッ!と、糸が切れた人形のように崩れ去る女。 男は油断することなく、女の手から銃を回収する。 そして、 「はぁーーーーよかったーーー。 いや、やばかったわまじで」 女が完全に無力化したことを確認したのち、男はヘナヘナとその場で脱力した。 緊張の糸が切れたのだろう、実際に相当の疲労があった。 「やったねおにいさん!」 そんな男の後ろから軽い調子で声がかけらる。 そこにいたのはドスではなく、男と行動を共にしているゆっくり、ぬえであった。 何と、先ほどこの場に現れたドスは、このぬえが擬態していた姿だったのだ。 そしてそのことに気づいた男は、女の不意をつくために一芝居打ったというわけだ。 「やったね!じゃねええええええええええええええ! お前一体何してんだ!突然何の脈絡もなく出てきやがって、ビビったじゃねーか! 大体今回は人間が絡んでて、何が起こるかわからないから部屋でじっとしてろって昨日言っただろうが!」 「だってさ、悔しかったんだもん!この女の所為で、おにいさんがあんなドゲスに土下座するはめになってさ!」 「ちょ、お前なんでそのこと知ってんだ! ……ああそうか、昨日の交渉を空から隠れて見てたんだな」 「そうだよ!ドゲスもそうだけど、一番許せないのはコイツだよ! なんだかよく意味はわからなかったけど、結局コイツがやりたいことって、 自分がゆっくりするために、何の落ち度も無い人間やゆっくりをゆっくりさせなくすることでしょ! そんなのその辺のゲスゆと同じじゃん!許せないね!」 「そんなに単純な話しじゃ………いや、そうなのかもしれないな」 男はやや遠い目をしながら言った。 「それにしても流石おにいさんだね、すぐに私の擬態を見破るなんてさ! もしかしたら、気づかれないんじゃないかって、それだけが心配だったんだよ!」 「ああぁん、アホかお前は。 いくら目の前の相手に集中してたからって、突然音もなくドスが出現したりしたらバカでもおかしいと思うわ!」 「えっ!でもあの女は気づかなかったじゃん!」 「それはなぁ、たまたまだ、た・ま・た・ま! あいつはもしかしたら自分の計画が失敗してるかもしれないと思って、相当テンパッてたんだ。 とにかく現在の状況を確認したい一心で、小さい事には目が行き届いてない状況だったから騙せたんだよ。 大体おかしいことだらけなんだよ、今言ったように突然ドスが現れるのも変だし、よく見るとどこにも足跡が無かったり、 声は同じでも喋り方が全然違ったり、そもそも触られたら一発アウトなのに女の近くに居すぎだお前は。 おかげでこっちは終始ハラハラしぱなしだったぜ」 「えっと、ひょとしてこの作戦、けっこうヤバい状況だった?」 ぬえが恐る恐る訊ねる。 「ヤバイも何も、ギリギリの状況だった。 上手くいったのが奇跡だな。 大体こういうのは作戦とは言わねえ、単なる無茶振りって言うんだよ」 「えええ!それは酷いよー!それにこの作戦を考えたのはぱちゅりーなんだよ、 もしおにいさんと、この女が争うようなことになったら、ドスの振りして女を騙してスキを作れってさ!」 「何か妙だと思ったらあいつの入れ知恵かよ。 はぁ、まあでも結果的に助かったわけだしな、例を言っとくよありがとう。 でも次からは何かやる前に必ず一声かけてくれよ、心臓に悪い」 「うん!わかったよ!」 いい返事で頷くぬえを見て、本当にわかってのかなと思う男であった。 つづく
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/2915.html
『加工所in宮城 2』 6KB いじめ 調理 希少種 加工場 希少種加工SSです 注意書き *誤字脱字があるかも知れませんがご容赦を *虐待成分は非常に薄めになっております *希少種が加工されます *独自設定があります *anko2040 『加工所in宮城』の続編になっております 『加工所in宮城 2』 ようこそ宮城県へ!!再び加工所宮城県支部広報担当です!! 前回ご紹介いたしました『EXけーねタンジャーキー』は皆様に愛され、この度全国のコンビニでの販売が決定致しました 更に!こちらも前回ご紹介した『冷やしちゅーか』『冷やしゆうか』も好評につき近日中には全国展開になる予定です そこで本日は人気急上昇中の冷凍菓子『冷やしちゅーか』『冷やしゆうか』の製造工程をご覧頂こうと思います 「じゃおおおおおおおおおん!!!」 「やめて!!ゆうかのおちびちゃんたちにひどいことしないで!!!」 「しね!ゆうかとおちびちゃんにひどいことするにんげんはしね!!!」 こちらはすっかりお馴染みになった出産室です ここにいるめーりんとゆうかも前回のけーね達同様に植物型にんっしんのみする様に加工されており 赤ゆの成長促進剤と母体用の栄養剤、更に精子餡を注入するチューブに繋がれて休むことなく赤ゆ達を生み続けております そして、生れ落ちた赤ゆ達はと言いますと・・・・・ 「ゆうかがゆっくちうまれちゃよ!ゆっくちして・・・すーや、すーや」 「じゃおおお・・zzzZZ」 以前は生れ落ちた赤ゆ達を職員が誘導を行っていたのですが、生産量の増加に伴いオートメーション化を行い 赤ゆ達が落ちる場所に予めラムネを水で溶かしたものを霧状に散布し、眠った赤ゆ達をベルトコンベアーで運ぶようになっています そうして運ばれた赤ゆ達はゆうかとめーりんのペアになるように分けられて飼育室で一定の大きさになるまで育てられます 因みにここでペアを作れなかったものは母体及び精子餡用として育てられます ここで皆様は『どうしてペアにするの?』と疑問に思われるはずです その答えは飼育室での飼育方法にあるのです。それでは早速ご覧頂きましょう 「じゃお♪じゃおおおん♪」 「そうね!ゆうかとめーりんがそだてたおはなさんはとってもゆっくりしてるわ」 「じゃおおおおん」 「おみずさんをもってきてくれたの?ありがとう!めーりんはほんとうにゆっくりしたゆっくりね」 飼育室と言っても体育館位の広さがあり、足元は地面がむき出しの状態で天井部分は透明な素材で日の光が入るようになっています ゆうか種が植物を育てられる環境と日向ぼっこしながら昼寝をするのが好きなめーりん種が快適に過ごせるようになっております 両者がゆっくりできる環境にペアで飼育しますと、ゆうか種は他種との関わりを持つ事で協調性を養って多頭飼いも安心に めーりん種は花畑作りのお陰で体が丈夫になって食感も良くなり、ペット及び食品としての価値が上がる事になるのです 『ゆんやああああああ、ゆんやあああああ』 おや?食事の時間を知らせるブザーが鳴っていますね 「ゆゆ?なんだかわからないけどゆっくりできそうなばしょだね!」 「ゆ!ぐずめーりんとゲスゆうかがいるのぜ!!」 「ここはありすたちのゆっくりプレイスなのに!とんだいなかものね!」 「むきゅ、ゲスたちをせいっさいするのよ!」 「「「「えい、えい、ゆーーー!」」」」×たくさん 食事の時間なのに他のゆっくりが出てきた事に驚いているようですね ゆうか種は捕食種である事は皆様知っていると思いますが、めーりん種も特殊ですが捕食種に分類されるゆっくりなのです 「まりささまはとってもつよいのぜ!!」 「むきゅ、ゲスなゆうかはごはんさんをぱちぇたちにわたしなさい!ぜんぶでいいわ」 「あら?もうごはんさんのじかんになったのね」 「むきゅきゅ、そうよ!これからぱちぇたちのすーぱーむーしゃむーしゃたいむよ!」 「まりささまのさいっきょうのいちげきをくらうのぜ!」 「そうね・・・それじゃ、えんりょなくいただこうかしら」ガプッ 「ゆぎゃああああああ!まりささまのほっぺさんがあああああ」 「むきゅううううう!なにしてるのおおおお、まりさはゆっくりしないでゆうかをせいっさ(ドン)むきゅ?」 「じゃおおん」 「ぐずめーりんじゃない!びっくりさせないでちょう「じゃおん!!」」ガプッ 「むぎゅうううううう!!!」 「じゃおじゃお~」ガツガツ 「もう、そんなにちらかしたらだめよ」ムシャムシャ 「「「「やめてええええ!たべないでええええ!」」」」×たくさん めーりん種は自分からゆっくりを食べる事はありませんが、共に生活するゆっくりによって食生活を変える事が分かっています なので、同属喰いを禁忌とする種類のゆっくりと過ごせば植物や虫を、捕食種と過ごせばゆっくりを主食にする様になるのです さらに、他のゆっくりを殺す事に抵抗がなくなる為に留守を守る守衛ゆっくりとしての価値も上がります それではいよいよ処理室の中をご案内いたします この処理室で食用として加工されるのはバッチ試験で金バッチを取れなかった全ての個体になります まずは下準備として全てのゆっくりにラムネを服用させて眠らせる事から始まります 「さぁ、これからまた検査をするからこのラムネを飲んでね」 「ゆっくりりかいしたわ」 「じゃおん」 加工するタイミングを計る為に定期的に検査と称してラムネの服用と中身のチェックを行うことで ゆっくり達には『いつも通りに検査をしてその後はまたゆっくり出来る』と思わせる事で余計なストレスを掛けない様にしています 「すーや、すーや」 「じゃぉぉぉ・・」 こうして眠ったゆっくり達はベルトコンベアーに乗せられて冷やしシリーズ専用の機械へ流されていきます 流れた先には巨大な注射器のような機械が流されてきたゆっくりの真上に配置される様に並んでいるのが分かりますでしょうか 注射器の中には特殊な冷却液が入っており、これをゆっくりの中枢餡へ一気に流し込む事により瞬時に中身を凍らせるのです ウィーン、ブスッ「ゆぴっ!」ブシュー「ゆ・・・ゆ・・ゅ」 ウィーン、ブスッ「じゃお!」ブシュー「お・・・お・・ぉ」 ストレスを極力与えず一気に加工し苦痛を与えない事により冷やしシリーズ特有の上品な味と上質の食感が生まれるのです 以上が『冷やしゆうか』と『冷やしちゅーか』の製造工程になっております なお、加工所内部のご見学も承っておりますので直に加工現場をご覧になりたいお客様は加工所宮城県支部までお電話ください 次回は昨年の夏に開催された『ゆっくり七夕祭り』の様子をご紹介したいと思っております それでは皆様またお目にかかるまで、さようならー あとがき 再び47都道府県ネタSSでした 47都道府県と言っても宮城県のみなので実際は地元ネタですが 七夕ネタはしばらく先になりますが書く予定です ご意見、ご感想がありましたら感想用掲示板にお願いいたします ふたば系ゆっくりSS感想用掲示板(あるあきスレ) http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1292297462/ あるあきの今まで書いた物 anko1826 『殴る』 anko1842 『伝える』 anko1862 『蹴る』 anko1989 『ある日の午後』 anko2040 『加工所in宮城』 anko2238 『ある山で』 anko2269 『ある公園で』 anko2492 『ある秋のゆっくり』 anko2581 『ある赤い目のゆっくり 前編』 anko2670 『ある赤い目のゆっくり 後編』 anko2834 『ある男の気分転換』
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3960.html
『お飾り誤認症候群』 13KB 考証 小ネタ 飾り リハビリ作です とある山の中、一人の男の姿があった。 山に入るにしては些か軽装過ぎる格好をしてはいるものの、特筆すべき所も無い普通の人間である。 そう、その頭に人間が被るにしては少し小さい黒のとんがり帽子さえ乗せていなければ……。 「ゆっくり、見付からねえなあ……」 残念そうにそう呟く男。 彼は山に入ってわざわざ野生のゆっくりを捜しに来たのだ。主に虐待を目的に。 近年は何かとストレスの溜まり易い社会である。成人した男女がピクニック気分で(街中での虐待は自重して)山へゆっくりを虐めにいくという光景も珍しくない。 男も日頃から溜まっていたストレスを存分に発散しようと、意気揚々と山を登って来たのだが、肝心のゆっくりが見付けられないでいた。 「くそっ!何処に隠れてやがる糞饅頭め……」 段々と苛立ちが募る男。ゆっくりが見つからないのもそうだが、頭にゆっくりの飾りである帽子なんて載せている自分が恥ずかしくて仕方が無いのだ。 ゆっくりのお飾りは、ゆっくり同士が認識し合う為に必要不可欠な物。逆を言えば、これさえ被ればゆっくりは例え人間であろうと同族であると認識してしまうのだ。 男はゆっくりのこの性質を利用し、様々なシチュエーションでの惨事を引き起こしてやろうと考えているのだ。 「これで休日を潰したらアウトだよ、って、いた……っ!」 折角の休日をストレス解消の為に当てたのだ、男はストレスを増やして持って帰ることだけはしたくなかった。 そんな男の願いが通じたのか、ようやく男の目に第一野生ゆっくりが映った。渋面だった男の顔は、途端に笑顔に変わる。 「れいむ、か。まあ、この際どのゆっくりだろうと構わねえや……」 れいむ等という別に珍しくもないゆっくりを虐待するのもどうかと思ったが、男は一刻でも早くゆっくりの悲鳴が聞きたかったので贅沢な思考は止めた。 それよりもどの様に虐めてやろうかと考えながら、男はれいむを見た。すると、男の目にとんでもない光景が飛び込んできた。 「え、嘘だろ……?何で……?」 男の視線の先にはれいむがいた。野良にしてはやけに身綺麗な気もするが、そんな事はどうでもよかった。 男が絶句した光景、それは……、 「むーしゃむーしゃ、しあわせー!」 野生である筈のゆっくりが、何故かコンビニ弁当を食べているというまず見られないであろう光景であった。 「あっ……?」 男は開いた口が塞がらない。あまりに衝撃的な出来事に頭が付いて行かないのだ。それは正しく、餡子脳のゆっくりの様に。 五秒が過ぎ、十秒を越え、十五秒を迎える寸前で、男の頭はやっと現状を認識するに足る正常な思考を取り戻した。 取り戻したと同時に、男の中である感情が生まれた。 「ふざっけるなよぉ……っ!」 それは純粋な怒りだった。 常に地面を這いずり、人間に喧嘩を売って潰され、物乞いをして潰され、ゴミを漁って潰され、他の生き物の食糧となって死ぬ。 そんな世界で最も浅ましく、強欲で、馬鹿で、生きている価値も無い、そんな底辺な生物である筈のゆっくりが! 人間が作り、人間によって食べられる筈であった弁当をかっ喰らっている。 目の前のゆっくり、れいむは休むことなく弁当の中身を減らしていく。器用なことに揉み上げを使っておかずを口に運んでいるのがまた腹立たしい。 その非現実的過ぎる現実が男の心に容赦無く燃料を投下し、怒りという名の業火は勢いを増していく。 「お前が食ってる米や野菜は!お百姓さんや農家の人たちが汗水垂らして育てた物だ! それをっ!お前らみたいな農業のノウハウさえも理解出来ない糞みてえな存在が食って言い訳が無いだろうがっ!!」 別に男は人間至上主義の思想など持ち合わせてはいなかったが、ゆっくりに限っては別である。 むしろ、ゆっくりは常に底辺な存在であると決め付ける差別的な意味合いが強かった。虐待家には珍しくもないことである。 「許さんっ!何処で手に入れたかは知らんが、お前らゆっくりが人間様と同じ物を食べるなんざ許さねえっ!!」 そう叫び、男は身体の内から溢れんばかりのパトスを漲らせ、件のれいむの元へと駆け出した。 火事場の馬鹿力という言葉があるように、人間の身体的動作は感情によって左右されることがある。多くの人が知るところのアドレナリンの作用だ。 これが分泌されることによって、人間の運動器官への働きが助長され、常よりも大きな働きが可能となるのだ。 男の場合も怒りという興奮状態に陥り、脳内ではアドレナリンが脳内でドバドバと分泌され続けている。 駆けだした男の動きは、万年運動不足に悩む社会人のそれとは違っていた。獲物を狙う狩人、正にそれだ。 スタートは陸上選手の様に洗練され、助走の動作はチーターの様にしなやか。ここ数年で一番の動きだと、男は茹だる頭の片隅でぼんやり思った。 そして、男は助走の勢いを殺さぬまま、全ての運動エネルギーをその脚に乗せて、一言と共に振り抜いた。 「ゆっくり、死ねやぁあああああぁあああああぁあああああっ!!!!」 ――ドゴオッ!! 火の球でも出来るんじゃないかと思わんばかりに強烈な蹴りが、男の脚から放たれた。 それはまるで振り子の様に綺麗に対象であったれいむの頬を捉え、ナイフの様に深々と突き刺さった。 如何に不思議生物ゆっくりであろうと、慣性の法則からは逃れられない。れいむの身体は一時的に空へと舞った。 あれ、思ったよりも飛ばないなという感想を抱きながらも、男の中には何とも言えない達成感が溢れる。 そして、徐々に高揚感と興奮が引いていくのを感じながら、男は第一声を口にした。 「い、いっだぁああああああぁあああああぁああああああああああっ!!??」 「い、いじゃいいいいぃいいいいいいぃいいいいいぃいいいいいいっ!!??」 山の中に二つの悲鳴が木霊した。圧倒的な声量をもって。 脚を抱えて蹲る男の頭の中には何故という疑問が乱舞していた。 確かにれいむを蹴ったことで自身に反動が返ってくることは解っていた。何かを殴ればそれに応じた衝撃が返ってくるという事も当然だ。 それにしては返ってくる衝撃が大き過ぎた。人間が思わず脚を痛めてしまう程に。 男はそれは力強くれいむを蹴り飛ばしたのは事実だ。しかし、ここまでの衝撃とは思わなかった。 何せ蹴ったのはゆっくりだ。男の目から見てもれいむは普通の成体サイズにしか見えなかった。 サッカーボールの様に中身が空気な物と違い、比重のあるゆっくりの方が返ってくる衝撃も重たいだろうが、いくら何でも重た過ぎた。 まるで、ゆっくりとは違う別の何かを蹴り飛ばしたような手応えだと男は思った。が、自分が蹴ったのは確かに目の前のれいむだったという思いが、男を更なる疑問に陥れる。 「畜生っ……!何で、何で……っ!?」 思わぬ理不尽な事態にただ悪態を吐くしかない男。だが、彼は忘れていた。この場に理不尽な事態を受けたもう一つの存在がいる事を……。 「おい、おまえぇえええっ!よくもれいむのすーぱーむーしゃむーしゃたいむのじゃまをしたなぁあああああっ!!」 「あ!?ふざけるな、ゆっくりごときが人間様の弁当なんざ食ってるのが悪いんだろうが!さっさと理解して死ねっ!!」 「なにわけのわからないことをいってるんだぁあああっ!!ゆっくりごときはおまえだろぉおおおおっ!?」 「訳が解らないのはこっちの台詞だ!脚は痛いし、お前のせいで散々だよ!御託はいいから死ねって!!」 「ゆっがぁあああああっ!!ゆっくりのぶんざいでぇええええっ!!なめるなぁあああああああっ!!!」 思っていた以上にれいむの立ち直りが早かったことに驚く男だったが、応酬までにかかる時間はゼロに等しかった。 交わされる罵詈雑言の中、先に仕掛けてたのはれいむからだった。男に向かって真っ直ぐ跳ねてくる。 先程の男とまったく同じシチュエーションだが、対する男は余裕を浮かべる。 不意討ちならばともかく、相手を意識した上での迎撃は容易い。ましてや、相手がゆっくりならば尚更である。 そんな風に余裕でカウンターをお見舞いしてやろうと考えていた男だが、またも事態は彼の予想の斜め上を行った。 「ゆっくりぃいいいいっ……!」 「えっ、なん……!?」 れいむの動きは男が予想していたよりもずっと速かった。それこそ、ゆっくりとして見れば異常な程に。 男が驚愕している間にも、れいむは距離を詰めてきた。最早、カウンターの圏内。しかし、男はその絶好の機会を逃してしまった。 男の目の前で、れいむが揉み上げを大きく振り上げ、勢い良く降り下ろした。 そして、事態は男の理解を悉く置き去りにしていく。 「しねぇえええぇえええええぇええええっ!!」 「でぶぇっ!?」 男の『頭に』星が舞いそうな程の衝撃が奔った。 本来であれば、決してゆっくりが与えられる筈のない重たい一撃。男は脚に続いて、今度は頭を抱えた。 一方、人間に痛みを負わせるという、ゆっくりからすれば勲章ものの事態を引き起こしたれいむだが、 「いっだぁあああああいっ!!なんでっ、どおしてっ!?たかがゆっくりをあいてしてるだけなのに、どおしていたいおもいをしなくちゃいけないのぉおおおおっ!?」 こちらも男と同じように痛みにのたうっていた。 降り下ろした揉み上げが痛いのか、ぶんぶんと上下左右に振り回していて、その様が男に更なる苛々を植え付ける。 そして、ここからの舌戦はまさに圧巻であった。 「ざっけんなのぜぇ!いたいのはこっちのほうなのぜ!」 「はぁああああっ!?こっちはおまえのせいで、てがいたいいたいなんだよぉおおおおおっ!?わかってるのか、このくそまりさがぁああああああっ!!」 「て?そのうすぎたないもみあげが、てだっていうのかぜ!?じょうだんきついにもほどがあるのぜ!あんまりにんげんさまをなめるなのぜぇえええっ!!」 「なんなのこのくそまりさはぁあああ!まさか、じぶんはゆっくりじゃなくてにんげんだなんておもってないよね!?だとしたら、とんだもうっそうゆっくりやろうだよっ!!」 「まりさがにんげんさまいがいのなににみえるっていうんだぜぇえええっ!?こたえろ、このごくつぶしゆっくりがぁあああああっ!!」 「やっぱり、ただのもうっそうゆっくりやろうだったよ!いくらゆっくりとしていきるのがつらいからって、へんなもうっそうしないでね!されるだけでめいっわくだよっ!!」 「ゆごがぎぐぎぎっ……!いわぜでおけばぁ、ちょうしにのりやがってぇ……っ!たかが、れいむのぶんっざいでぇ……!!」 「あ、もしかして、おこっちゃった?ごめんね、れいむはまりさとちがうから、ゆっくりのきもちなんてわからないよ!れいむはにんっげんだからね!」 「もうっそうゆっくりやろうはおまえだろうがぁあああっ!いいかげんにしろ、むしずがはしるのぜぇえええっ!!」 「それはこっちのせりふだよ!もうっそうもたいがいにしてね!!」 「あああああああああああっ!!もういい、いますぐにそのくちをとじるのぜっ!ゆっくりとかいわをせいりつさせようなんてかんがえてたまりさがばかだったのぜっ!!」 「やっと、じぶんのばかさかげんにきづいたんだね!ゆぷぷ、さすがはぷらいどたけたかくて、がくしゅうのうっりょくのひくいまりさしゅだよ!!」 「まりさはそのやにくさいくちをとじろといったのぜ?にんげんさまのことばもりかいできないほどにゆっくりはおちぶれたのかぜ?さすがはていっへんなまものなのぜ!」 「そのことば、そのままじぶんにかえってくるってりきゃいできりゅ?ま、り、さ、ちゃん?」 「ころす……。いのちごいはきかないのぜ、おまえはただただひめいをあげてしんでいけばいいのぜ……」 「おお、こわいこわい!まあ、ほんっとうにゆっくりごときが、にんげんさまであるれいむをころせればのはなしだけどね!」 「ゆいごんはそれでいいのかぜ?もうっそうゆっくりのくそれいむちゃん?」 「そっちこそ、いもしないだろうゆっくりのかみさまにでもしなないよういのったら?もうっそうゆっくりのびちくそまりさちゃん?」 罵詈雑言の応酬が一瞬の間だけ止み、 「ゆっがぁあああああぁあああああっ!!!ぶちころしてやるのぜぇええええええっ!!ひゃっはぁああああああっ!!!」 「ゆっおぉおおおおぉおおおおおおっ!!!ゆっくりはみなっごろしだよぉおおおっ!!ひゃっはぁああああああっ!!!」 かくして、戦いの火蓋は切って落とされた。 だが、男は気付かない。自分の口調がいつの間にかゆっくりの様になっていた事に。 そして、それは決して男に限った話ではなく――――。 「なあ……」 「ん?」 「昨日の山で見つけた兄ちゃんたちなんだけどよぉ……」 ある一室で二人の男が話をしていた。彼等は登山仲間で、この日も休日に登った山の話で盛り上がっていた。 そして、一つの話題が終わり、少しの間が空いたところで片方の男が話を振った。それは昨日登った山での不思議な光景についてだった。 「ああ、あの二人か」 「そう、血塗れになりながらお互い蹴ったり殴ったりしてたあの兄ちゃんたち」 「あれは酷かったなぁ……」 「手加減ってのが見えなかったもんな。俺たちが止めてなきゃあ、あれはどっちかが一方を殺してたぜ?」 「それは、あり得ただろうなぁ……」 前日に二人は山を登っていた。登山に慣れた者であれば楽過ぎる嫌いはあったが、自然を楽しむといった目的だったので不満は無かった。 そう、不満は無かったのだが、問題はあった。あったというか、見付けてしまった。 二人が山に登って見付けたのは、自然溢れる中で殴り合う若い男たちだった。 初めは格闘技の練習か何かだと思って呆けていた二人だったが、男たちが明らかに相手を殺しにかかる勢いで攻撃していたので慌てて止めに入った。 幸い、登山家ということで普段から鍛えていた為に何とか取り押さえたが、それでも相手を痛め付けようとする男たちに、二人は少なくない恐怖を覚えたものだ。 「しっかし、分からないよなぁ」 「何がだ?」 「いや、お前も気付いただろう?あの兄ちゃんたちの格好」 「ああ、あれの事か!あれには私も少し驚いたよ」 少し空気は重たくなってしまったが、気にはしていたので、話は続いた。 そして、ある話題になった途端に、もう片方の男が少し興奮気味に言葉を発した。 「何せ、あの若者たちは頭にゆっくりの飾りなんて着けていたからなぁ」 「何だったんだろうな、あれ。どっちもゆっくりみたいな言葉で罵り合ってたしよぉ」 「私も帽子やリボンが取れた途端に、普通に戻るから驚いてしまった」 「あー、何か急にどっちも驚いた顔してたなー」 「狐や狸にでも化かされたか?」 「どうだろうねぇ。むしろ、あれが全部演技だったとかどうだろう。お前さんはどう思う?」 「さあな。若い者の考える事なんて、おっさんの私には想像もつかん」 「まったくだ。まあ、どっかで公演とかしてるなら見てやってもいいな。あれが演技なら金を払ってもいい」 「私もだ」 二人はそう言って笑い合った。出来ればそうであって欲しいと思いながら。 一時の感情に任せて相手を殴り殺す、そんなゆっくりの様な事態が自分たちの目の前で起こりかけたなど考えたくないからだ。 話の種は尽きたからか、話題を変えたくなったのかは分からないが、二人は別の話でまた盛り上がった。 話の内容は部下の結婚式について。二人は上司としてこれを祝福したく、漫才でもやるかと企画していた。 が、いい年をした親父が式場でいきなり漫才を始めたとしても、場を白けさせるのが落ちだろうと思っていた。 しかし、昨日の登山で二人は気付かされた。大事なのは、最初の入りでウケを取れるかどうか。ならば、登場と同時に見ている者の心を掴むのがベスト。 では、どうやって?簡単な事だった。仮装をすればいい。 本番での成功の確信する二人の手元には、大きな赤いリボンと白黒の三角帽子があった。 後書き ご無沙汰してます、蜜柑あきです。 久し振りに餡庫を覗いてみたら、キリさんのわされいみゅがいてビキィッ!ってきたのは私だけではないですよね? 本作は何個か前のゆっくりスレ内で、「らんとちぇんのお飾りを手に入れたお兄さんたちが、お互い人間だと気付かずチョメチョメする」という話題からアイデアが浮かびました。 本当は怖いゆっくりの生態ってやつです。リハビリとか言いながらゆっくり成分薄くてごめんなさい。 若者の考える事なんて分からんと言いながらも、取り入れちゃうのがおじさんクオリティ! 書いたもの http //www26.atwiki.jp/ankoss/pages/3404.html ご意見・感想はこちら http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1304737576/l50
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1277.html
・ゆっくりのセリフに漢字を使用しています _____________________________________________________________ 山の中を、一匹のゆっくりが歩いている。 クタクタにつかれた黒色の帽子 所々が擦れて伸びきったリボン 色あせた金色の髪の毛 『みょんは今頃何をしてるんだろうな、だぜ……』 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ゆっくりシティの戦い 賢将ぱちゅりーを発端とするゆっくり史上初の独立戦争。 まりさは鍛え抜かれた少数精鋭”コマンドーゆ隊”の一員だった。 その戦いの中でまりさは重傷を負い、意識を失った。 そのまりさを助けたのがみょんである。 「…、……ん、大丈夫かみょん?」 まりさが目を覚ますと、近くにみょんがいた。 「よかったみょん!意識がもどったみょん!!」 『…ここはどこなんだぜ?』 「ここは山のゆっくりの群れだみょん。まりさが倒れてたから、うちまで運んできたんだみょん。」 『…!戦いは、ゆっくりシティは!?』 「……ゆっくりシティは壊滅。人間の圧勝だと聞いたみょん。」 『……そうなのかだぜ。』 「もう戦いは終わったんだみょん。今はゆっくり休むんだみょん。」 『…ありがとう、なんだぜ。』 「みょん!」 回復したまりさは、旅に出る事にした。 「…この群れで一緒に暮らしてもいいんだみょん。」 『いつまでも迷惑をかける訳にはいけないぜ。色々と世話になったんだぜ。』 「またいつか、会えるみょん?」 『ああ、きっとまた会いにくるぜ。』 そう言って、まりさは旅立った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ それから数年。 久しぶりの再会を、まりさは楽しみにしていた。 群れに到着し、みょんの家へと向かう。 トントン 家の扉をノックするまりさ。 『みょん、会いにきたんだぜ。』 だが、返事がない。 『みょん?いるのかだぜ?』 「あの…、どなたですか?」 まりさの後ろから声がした。 振り返ると、そこには若返ったみょんがいた。 『えっと…みょん…なのぜ?』 「あ、もしかしてお父さんの親友の方ですか?」 みょんの家に住んでいたのはみょんの子供だった。 話を聞くと、半年位前にゲスの集団が群れを襲ってその時にみょんはやられてしまったらしい。 『そうか…みょんはもう…』 「裏庭にお父さんのお墓があります。会ってあげてください。」 裏庭には、単純ながらも丁寧に作られた墓があった。 「お父さんはよくまりささんの話をしていました。 会える日をとっても楽しみにしていました…。」 『……遅くなっちまったぜ、みょん。』 墓で眠るみょんに話しかけるまりさ。みょんの子供は静かにその言葉を聞いていた。 しばらくして、まりさはみょんの子供に礼を言ってその群れを後にした。 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………… ………………………………………… ………………………… ゆっくりの為に戦ったまりさ。 そのまりさを助けてくれたみょんが、どうしてゲスなんかにやられてしまったんだ。 善良なゆっくりが、何故、ゲスに。 まりさは悩み、苦しんでいた。 「おい、そこのゆっくり。」 「おい!とまれっていってるのがわからないの?ばかなの?」 気づいたら、まりさは別の群れの縄張りを歩いていた。 この群れのゆん察と思われるゆっくり達がまりさを包囲している。 『……?まりさに何か用なのかだぜ。』 「このむれのゆっくりじゃないね!なんだかあやしいよ!!」 「へっへっへ、ふしんなゆっくりをみつけたら”とりしらべ”をするんだぜ!!」 「よし!しょまでれんこうするよ!!」 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………… ………………………………………… ………………………… バシッ! 『ゆぐぅあ!!』 「ゆふふ、うすぎたないゆっくりはみててふかいになるからせいっさいするよ!」 まりさは拷問を受けていた。 この群れのゆん察は、ゲスと同じくらいに、いやそれ以上に腐敗していた。 ヒモで木に縛られたまりさは、様々な方法で痛めつけられていた。 『ゆぅ……う……』 「つぎはなにをしていためつけようか?」 「つぎはこうするんだよー、わかるねー?」 ズバッ 木の枝をくわえたちぇんが、まりさの顔を引っかく。 『ゆぎゃああああああああ!!!』 「ゆゆ?ちょっとよわってきたんだぜ。」 「きょうはこれくらいにしてあげるよ!れいむのやさしさにかんしゃしてね!!」 まりさを木に縛り付けたまま、ゆん察はどこかへと行ってしまった。 『…ゆぅぅ……どうして……。』 辺りは暗くなり、闇の中でまりさはぼんやりと考えた。 かつて、ゆっくりの自由を守る為に人間と戦ったまりさ。 そのまりさが、どうしてこんな目に会わなければならないのか。 それも人間ではなく、ゆっくりにやられるなんて。 まりさはゆっくりの為に戦った。過酷な訓練を耐え抜き、命をかけて人間と戦った。 ……あのゲス共は、まりさの敵だ。 同族にこんな事をするゆっくりは、ゆっくりの敵だ。 敵はまだいる。 まりさの戦いは、まだ終わってないんだ。 まりさの中に、深い怒りの感情が湧き上がっていた。 その目は、人間にも立ち向かうコマンドーゆ隊の目になっていた。 体を巧妙に捻り、まりさは縛られた木から脱出した。 そして一目散に走りだし、夜の闇へと消えてゆく……。 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………… ………………………………………… ………………………… 「あのくずまりさ、どこにいったの!!」 「にげられるとは、ふかくだったんだぜ。」 「このままじゃやばいよー、わかるねー?」 「うるざい!でいぶにさしずするなぁー!!」 ゲスゆん察はあせっていた。 ゆん察は周辺の群れのゆん察と情報を交換して、群れの安全を守っている。 もしこの事が周囲のゆん察にバレたら、自分達の命がない。 「ゆっ!いいことをおもいついたよ!」 「なんなのぜ?」 「きょうあくっ!なゆっくりがここからにげて、やまのなかにせんぷくしてるってことにするんだよ!」 「なるほどー、さすがれいむなんだねー。」 「れいむのそうめいっなずのうにこまっちゃうね!かわいくってごめんね!!」 こうして、ゲスゆん察は「凶悪犯を捕まえる」という名目で周囲のゆん察に協力を要請。 真相を知らない他の群れのゆん察も協力し、壮大な山探しが始まった。 「にげだしたのはとってもきょうあくっ!なゆっくりまりさだよ!みつけたらすぐにやっつけてね!!」 「ほかのゆっくりにもひがいがでるかもしれないから、ぜったいにみつけるんだぜ!」 山中をゆん察が捜索する。 『俺はそいつらに拷問された!だから逃げただけだ!!』 どこからか、まりさの声が聞こえてきた。 『まりさはゆっくりシティで戦ったコマンドーゆ隊にいたんだ!! できれば同じゆっくりを傷つけたくない!だから引き下がってくれ!!』 「ゆゆっ!こいつがきょうあくはんだよ!!」 「こいつのことばをしんじたらだめなんだねー、わかるねー!」 ゲスゆん察がまりさの言葉をかき消すように騒ぐ。 『…信じてくれ!なんだぜ!』 「ゆゆっ!!あそこにいるよ!!!」 一匹のゆっくりがまりさを見つけた。 「あいつだ!あいつがにげだしたゆっくりだよ!!」 「なにしてんだよー!はやくおうんだよー!!わかれよー!!」 他のゆん察が慌ててまりさを捕まえようと走り出す。 『……それが答えか。』 まりさは森の奥へと走った。 ゆん察も次々とまりさを追う。 「これだけのかずあいてににげれるとおもってるの?ばかなの?」 「これでみんなあんしんなんだねー、わかるよー。」 ゲスゆん察は醜い顔で笑っている。 「ゆんぎゃあああああああああああ!!!!!」 森の中にゆっくりの悲鳴が響く。 「ゆゆ!?どうしたの!?」 ゲスゆん察が声のした方向へ行く。 そこには木の枝が刺さった落とし穴があり、数匹のゆん察が中で苦しんでいた。 木の枝は短く、落ちたゆん察は重傷ながらも死ぬようなケガはしていない。 「くそ~~~!!あくまででいぶたちとたたかうつもりか~~~~!!!」 「これがあいてのやりかたなんだよー!ゆだんしてるとやられるんだよー!!」 ゲスゆん察は、何がなんでもまりさを駆除しようとしていた。 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………… ………………………………………… ………………………… ゆん察は苦戦していた。 まりさの姿を見つけ、追いかるとブービートラップ。 ゆん察の被害は時間と共に大きくなっていったが、奇跡的に死者の報告はなかった。 「いちどてったいしたほうがいいわ。みんなとってもつかれているわよ。」 応援に来たゆん察署長のぱちゅりーがゲスゆん察に提案する。 「ゆぎぎ……。あのクズがぁ…。」 「なにがなんでもしまつするんだよー!わかれよー!」 引き下がらないゲスゆん察。 「とにかく、いったんほんぶへもどりましょう。」 ぱちゅりーになだめられながら、ゲスゆん察達は本部へと引き返した。 「なにかいいさくせんはないの?だれかかんがえつかないの?ばかなの?」 本部で作戦会議をするゆん察。 だれもコマンドーに勝てるとは思えず、何もいわない。 「しょちょう、おきゃくさまがいらっしゃいましたが…。」 署長と呼ばれたゲスゆん察のれいむが、部下のゆっくりを睨みつける。 「いまはだいじなはなしをしてるんだよ!!そんなのもわからないの!?」 「ですが……」 「コマンドーゆ隊をなめていると、全滅するみょん。」 そこに現れたのは、この地域のゆん察をまとめる”ゆん察庁”のトップ。みょんだった。 「ちょ、ちょうかん!?」 「ちょうかんがどうしてこんなところに!」 ゲスゆん察は思わぬ来客に動揺している。 「なにやら凶悪なゆっくりがこの山に潜伏していると聞いたから、来てみたんだみょん。 あのトラップは間違いなく”コマンドーゆ隊”のゆっくりが仕掛けたものだみょん。」 「しかし、ちょうかん。ゆん察にもたくさんひがいがでてるんだよ! いまさらみすごすことなんでできないよ!!」 ゲスゆん察のれいむは、長官に抗議した。 「それもわかってるみょん。だから、みょんが説得してみるみょん。 ……コマンドーゆ隊はとっても優秀なゆっくりが集まっていたはず。 こんな事件を起こすはずがないのだが……きみたち、何か心当たりはないか?」 全てを見透かしているような目で、ゲスゆん察を見つめるみょん。 「しっ、しらないよ!れいむたちはなんにもわるくないよ!!」 「……そうか。」 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………… ………………………………………… ………………………… まりさは小さな洞穴の中に隠れていた。 いつ、どこから連中が襲ってくるのか。 まりさは気を張って待ち構えていた。 「まりさ!聞こえるか!!聞こえるなら返事をしてくれ!!」 どこからか、みょんの声が聞こえてくる。 なつかしい声に少し気がゆるむ。 だが、あのゆん察にみょんはいなかったはずだ。 「ゆん察は君に攻撃をしない!私が約束する!だから返事だけでもしてくれ!!」 みょんがまりさを呼んでいる。 でも、この声を信じてもいいのだろうか? まりさは悩んだ。 「私は昔、特殊ゆ隊の隊長だった!コマンドーゆ隊の君の上司だ!!頼む!返事をしてくれ!!」 かつて人間と一緒に戦った仲間…! まさか、まりさ以外にもあの戦いを生き抜いたゆっくりがいたとは。 まりさの心が大きく揺れ動いた。 『……本当なのか!!』 まりさは叫んだ。 「ああ!本当だ!!君達の活躍はしっかりと覚えている!! あの戦いで私以外に生き残った者がいるとは信じられない!君に会いたい!姿を見せてくれ!!」 『……本当にゆん察は攻撃してこないのか?』 「ああ!私が約束する!!これ以上犠牲を出したくない!!私を信じてくれ!!」 『……今からそちらへ行く!』 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………… ………………………………………… ………………………… みょんの前に、まりさが姿を現した。 「私は、特殊ゆ隊隊長のみょんだ!かつての戦友に会えて、本当にうれしいぞ!」 『コマンドーゆ隊所属、まりさ!ただ今到着しました!』 みょんを見たまりさの目は、冷徹な獣の目から温情深いゆっくりの目になっていた。 「まりさ、よくあの戦いを生き残ったな。正直驚いているよ。」 『私を助けてくれたゆっくりがいて、彼には色々と世話になりました。』 「いい友人だったようだな。ところでまりさ。きみはどうしてこんな事をしたんだ…?」 『それは、』 「ゆあああああああああ!!!」 突然、れいむがまりさに体当たりで襲い掛かった。 油断しきっていたまりさは、れいむの攻撃を避けきれずに吹っ飛ばされた。 止めを刺そうと、まりさに向かって大きくジャンプするれいむ。 「しねえええええええええええ!!!!!!!」 『くっ…!』 近くに落ちていた木の枝を投げるまりさ。 れいむの体に木の枝が突き刺さる。 「ゆがあああああああああああああああ!!!!!」 隙を見て、ゆん察署の中へ逃げ込むまりさ。 「このぐずがああああああ!!ゆるざないぞおおおおおお!!!」 正気を失ったれいむがまりさの後を追う。 「ゆん察全員に命令する! 全員装備を外して待機!何があっても絶対に攻撃してはならない!! いいか、これは命令だぞ!!」 みょんはその場にいるゆん察に命令した後、ゆん察署へと入っていった。 すでに太陽は沈み、丸い月が空に輝いている。 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………… ………………………………………… ………………………… 「でてこいいいいい!!ゲスまりさああああああ!!!!」 れいむは一人で叫んだ。 (ゆぎぎ…あのまりさのせいで、れいむはゆっくりできないよ! ここはれいむのむれなんだよ!だかられいむはなにをしていいんだよ!! いままで、ほかのゆっくりはみんなれいむのいうことをきいてきたのに!! あのまりさのせいで、ぜんぶがだいなしになっちゃうよ!! れいむをゆっくりさせられないまりさはせいっさいするよ!!!) カタッ 右側から物音がした。 「そこがああああああああ!!!」 音のした場所目がけて体当たりをするれいむ。 しかし、そこには何もなかった。 「ゆぅー、ゆふーっ」 息を荒げるれいむ。 「あんのくずが…」 ブスッ れいむの背中に、木の枝が突き刺さる。 その枝は見事に中枢餡を貫通した。 自分に何が起きたのかもわからず、れいむはその場に倒れて永遠にゆっくりした。 『はーっ、はーっ……』 まりさは倒れたれいむをただ見つめる。 「終わったか。」 ビクンッ! 突然の声に驚き、慌ててれいむの体から木の枝を引き抜くまりさ。 振り向くと、そこにはみょんがいた。 「まりさ、もうやめるんだ。」 『まだだ!まだコイツの仲間がいる!』 「まりさ。このままだと君も死ぬぞ。」 『ヤツらが一方的に俺に拷問をしてきたんだ!』 「わかっている。後で彼らの処分を検討する。 ……だから、もう終わりにしよう。」 『……終わり、だと…?』 「ああ、戦いはもう終わったんだ。」 『何も終わってない! 何も、終わってないんだ!! 俺はゆっくりの為に、みんながゆっくりできるよう命をかけて戦った!! まりさを助けてくれたみょん……みょんは優しくしてくれた…まりさはとっても立派だって……。 でも、街に出てみろ!!兵隊はバカだ、愚かだって言いたい放題だ!!! 戦場を見た事もない連中が俺達を、命をかけて戦った兵士を見下すんだ!! ヤツらの為に俺は、みんなは戦っていたのか……ッ!!』 「時代は変わる。世間では過去の出来事になっているんだ。」 『ヤツらにはな!! 今の世界は腐ってる!!ゆっくりがゆっくりを殺しているんだぞ!! …みょんも、ゲスに殺されちまった……。 何でだ!!何故みょんが死ななきゃいけないんだ!!!! どうしてゲスが生きている!!!』 「まりさ。私にとって君はあの戦場で共に戦った最後の友だ。失いたくない。」 『そうだ……戦場には、居場所があった。 特別なすぃーにも乗れたし、おいしいあまあまもたくさんもらえた!! あそこじゃあ、親友がたくさんいた!! あそこには親友がいたんだ!頼れる上司もいた!! みんなが親友だった…… それなのにどうだ、ここには何もない… なんにも……ないんだ………』 まりさは投降した。 みょんに支えられながら外へと歩くまりさ。 夜が明け、太陽の光が彼らを照らす…… _____________________________________________________________ ・anko1874 永久機関? ・anko1885 ドスとなった人間 ・anko1908 ゆん月殺法 ・anko1913 奇形児 ・anko1924 バトル・ゆワイヤル ・anko1955 S1GP ・anko1961 ゆ虐の基本 ・anko1967 ブラックゆンジェルズ ・anko1985 スタンドゆっくり ・anko1990 続・スタンドゆっくり ・anko2008 俺と水上まりさとこれからの夏 作者:お受験あき _____________________________________________________________ ・パロディ作品を書くつもりが、ずいぶんとオリジナルな展開に…… ・「ゆっくりシティの攻撃」「ゆっくりシティの戦い」の外伝的な作品になってしまいました。 ・ゆンボー(まりさ)の設定を作る為にゆっくりシティを書いたのは内緒 ・読者さんがゆっくりできる作品を書けるようになりたいです。 感想、改善点などを教えていただけると、作者が少し成長するかもしれません
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/4107.html
『れいむのバレンタイン』 43KB 愛で パロディ 愛情 戦闘 飼いゆ 野良ゆ ゲス 現代 バレンタインデーの出来事です かすがあきです。 注意 【anko4004 初詣の帰りに】の続きです。 「」はゆっくりの発言です。 『』は人間の発言です。 幸せなゆっくりが幸せなままです。 人間は虐待をしません。 人間の名前は適当です。 ゆっくりがチート気味です。 HENTAIさんっぽい人がでてきます。 無駄に長いです。 れいむのバレンタイン スーツの青年が出社用のカバンに新聞を入れる。 通勤途中に読む予定の新聞で、日付は2月14日だ。 『それじゃぁ、いってくるよ。』 青年が れいむの頭を撫でながら、優しい口調で言う。 「ゆん!いってらっしゃいだよ!おにーさん。きをつけてね。」 撫でられたのが嬉しい れいむは笑顔で言う。 『ああ。それじゃぁな。』 青年は出社の為、部屋からでていく。 独身者向けの部屋には、胴付き金バッチのれいむ1匹だけが残った。 1匹となった れいむはパジャマから洋服に着替える。 着替え終わった れいむは、2段ベットにへと向かい青年が使った枕から、枕カバーをとる。 「ゆーん。おにいさんの においがするよ。とっても ゆっくりできるよ。」 カバーを取る際、枕を抱きしめ、顔を埋める れいむ。これは れいむだけの秘密の日課である。 自分が使った枕からも枕カバーをとり、それらとパジャマを洗濯機にいれる。 乾燥機能付き洗濯機で洗濯を始めるれいむ。 洗濯機の音を聞きながら、れいむはク○イックルワイパーで部屋の掃除を始める。 掃除と洗濯はれいむの仕事なのだ。(但し、水が扱えないため、風呂とトイレは別。) 乾いた洗濯物をたたみ、所定の場所にしまう。 「ゆん!おせんたくさんが おわったよ。おへやも きれいきれいだよ。 ゆへへ…おにーさんが かえってきたら、また ほめて もらえるよ!ゆーん。とっても ゆっくりできるよ!」 誰もいない部屋で、控えめな胸をはるれいむ。その顔は充実している。 れいむは青年が用意してくれた昼食(本日はおにぎり)を、昼のワイドショーを見ながら頬張る。 「ゆっくり ごちそうさまだよ。おにーさん。とってもおいしかったよ。」 青年に感謝の言葉をいい、れいむは食器を洗い桶にいれる。 昼食後、れいむは愛用のポシェットとオレンジジュースをいれた水筒を肩からかけて、外にでる。 「ゆっくりいってきますよだよ。」 玄関に鍵をかけ、ゆっくりとした足取りで歩くれいむ。 『ママ~、れいみゅちゃんだ~。』 『ん?あら、ほんとうね。ゆうちゃんは れいむちゃんが好きね。』 『うん!れいみゅちゃん、ちゅきー。』 幼児がれいむを指差して母親に教える。 この親子は近所に住んでおり、れいむと顔見知りである。 「ゆっくり こんにちはだよ。」 れいむは大きくお辞儀をする。 『こんにちは、れいむちゃんも お散歩?』 「おかいものさんだよ。れいむ、どーしてもほしーものが あるんだ。」 『そうなんだ。あ、それって……』 れいむは親子と笑顔で話をする。 れいむがこの町の人間に受け入れられている証拠だ。 『それじゃぁね、れいむちゃん。素敵なのが買えるといいね。』 「ゆん!ありがとうだよ。」 『バイバイ!れいみゅちゃん!』 「ばいばいだよ。ゆうちゃん。」 親子とわかれ、れいむは住宅街にある1件の駄菓子屋へとはいる。 この駄菓子屋は れいむが散歩の途中に よく寄る店だ。 れいむは月に400円の小遣いをもらっており、そのお金を自由に使うことができる。 しかし、コンビニやスーパーは基本ゆっくりだけでの買い物を断っている。 結果 れいむがお金を使える場所は少なく、自動販売機か、この駄菓子屋だけなのだ。 「むきゅ。いらっしゃい、れいむ。」 店番をしてるぱちゅりーが言う。 「こんにちはだよ。ぱちゅりー。」 『おや、梶田さんとこの れいむちゃん。いらっしゃい。ひさしぶりだね。』 れいむを見て、どこの れいむかを判別する店主。 毎日多数のゆっくりを相手にしているからこそできる業だ。 「おばーさん。こんにちはだよ。おひさしぶりさんだよ。」 この駄菓子屋は夕方は小学生が、それ以外の時間は飼いゆっくりがよく買い物をする。 駄菓子なので、安価だが、月400円では毎日の買い食いは難しい。 それなりの節制や、食べたいものを厳選したり、 また、他の飼いゆっくりと、この駄菓子屋でする会話も れいむの楽しみである。 ここは ある程度の自由意志を許された、 飼いゆっくりたち中でも特に恵まれた数少ない ゆっくりたちの憩いの場所になっているのだ。 「おばーさん。おねがいさんが あるんだよ。」 『ん?なんだい?』 れいむは財布からお金をとりだす。れいむの全財産で、1125円ある。 「この きゃっしゅさんで かえる はんいで、 いっちばん おいしい ちょこれーとさんを うってほしいよ。」 『チョコレートかい?そんなにあれば、うちで売っているチョコレートならどれでも買えるけど…… 一番美味しいのね………あ、ひょっとして れいむちゃん、そのチョコレート、プレゼントするのかい?』 「ゆん………そ、そうだよ……きょうは ばれんたいんでーさん だから……」 れいむが頬を赤く染めて言う。 「むきゅ。おあいては、おにーさんかしら?」 「ゆ!ど、どうしてわかったの!!??」 れいむが ぱちゅりーにむかって叫ぶ。 「むっきゅきゅ。れいむを みていれば すぐにわかることよ。」 「ゆぅ………は、はずかしいよぉ……」 『ふふふ。れいむちゃんは可愛いわね。そうだ、ちょっと まっていてちょうだい。』 駄菓子屋の店主が電話をし、笑顔でれいむに話しかける。 『ちょっとまっててね。いま近所に住んでいる、孫娘にバレンタインデー用のチョコレートを買ってくるように言ったから。』 「ゆ?いいの?れいむ、きゃっしゅさん、これだけだよ?」 『大丈夫。ちゃんと予算は伝えてあるから。』 「ゆっくりありがとうだよ!」 『孫娘がくるまで、ゆっくりしていきなさい。そうそう、これは私からのプレゼント。ぱちゅりーもお食べ。』 店主は駄菓子を れいむと ぱちゅりーに渡す。 「ゆ!いいの?ありがとだよ!!」 「むきゅ。ありがとう、おばーさん。」 れいむは、ぱちゅりーと駄菓子を食べながら、お話をし、ゆっくりとした時間を過ごした。 ------------------------------------ 「ほんとうに ありがとだよ!!」 れいむは受け取ったチョコレートを抱きしめながら大きな声で言う。 『いえいえ、どういたしまして。それより、お兄さん、喜んでくれるといいね。』 「ゆん。だいじょうぶだよ。 おねーさんが かってきてくれた この ちょこれーとさんは とっても かわいくて ゆっくりしているよ。」 店主の孫娘は、れいむにわかりやすいように携帯で写真をとっており、どんなチョコレートかを見せてから渡した。 大きなハート型のチョコレートで、箱には可愛いラッピングを施された、バレンタインデーらしいチョコレートだ。 「おねーさん。これは おだいの きゃっしゅさんだよ。」 『はい。千円ね。ありがと。』 店主の孫娘はれいむから千円を受け取る。 『れいむちゃん、夕方から雪がふるみたいだから、気をつけてかえるんだよ。』 「むきゅ。れいむ、がんばってね。」 『れいむちゃん、またね。』 「ありがとうだよ。それじゃ、またくるよ!」 れいむは駄菓子屋に礼をいい、帰路につく。 「ゆぷぷ。この ちょこれーとさんを みたら、 おにーさん、きっと ゆっくりしてくれるよね。たっのしみだよー。」 大好きな飼い主のことを思い笑顔になる れいむ。 「ゆぅ……それにしても、さむいよ。かぜさん、ちょっとは ゆっくりしてほしいよ……」 れいむの心とは対照的に、気温は低い。 「ゆぅ………」 れいむは分かれ道で悩む。 右の道は家まで少し遠いが、人通りが多くて安全な道である。 左の道は家まで近いが、途中、空き地があり、また人通りのすくない道である。 れいむは少し悩んだ末、いつもとは違う、近道を選んだ。 いつもならば、遠回りで安全な道を選ぶが、寒いことと、雪が降るかもという考えからの選択である。 「ゆっくりしていってね!!!」 しばらく歩き、人のいない空き地で、れいむは声をかけられた。 「ゆん?」 金バッチの称号は伊達ではなく、れいむは無条件で返事をすことはなかった。 「げらげらげらげら。まったく、あいさつも かえせないとは、ゆっくりしてないのぜ。」 「ゆぷぷ。ゆっくりしてない れいむだね。でいぶ、おなじ れいむと してはずかしいよ。」 「ゆっくししてない どうつき れいむなんだねー。わかるよー。」 「あいさつも かえせないなんて、いなかものね。」 「むきゅ。あたまの たりなさそうな れいむね。これならかんたんよ。」 5匹の野良ゆっくりが挨拶を返さなかった れいむをバカにする。 「なんのよう?れいむ いそいでいるから、もういくよ。」 バカにされたことを不快に思いながらも、れいむは5匹にそう言い、立ち去ろうとする。 「まつのぜ!このげすが!」 「む!れいむ、げす じゃないよ!きんばっちさん だもん!」 ゲスと言われ、怒るれいむ。 「きんばっちさん?つまり くそにんげんの どれいってことだね。 そんな どれいは ゆっくりできないよ!でいぶと ちがって けだかく ないもんね!このげす!」 「れいむは げす なんだねー。わかるよー。」 「やだやだ、いなかもののうえ げす なのね。」 「むーー。みんな ひどいよ。どうして れいむのことを げす だなんて いうの?」 「むきゅ。それは れいむが げす だからよ。もりの けんじゃである ぱちぇが いうのだから まちがいないわ。 ゆっくりりかいしなさい。この げす。」 野良5匹にゲスだと言われ、泣きそうになる れいむ。 「むきゅ。げすの れいむに もりの けんじゃである ぱちぇが めいれいをするわ。 よくききなさい。あまあまさんを けんっじょうしなさい。」 「ゆ!だめだよ!これは おにーさんに あげる ちょこれーとさん なんだよ!ぜったいに だめだよ!」 甘味をもっていることを正直に話してしまう素直な れいむである。 「はぁああ!!??ばかなの?しぬの?いい、でいぶたちは すっごく ゆっくりしているんだよ。 れいむは げすで くそにんげんの どれいで ゆっくりしていないでしょ!? ゆっくりしてないくせに、ちょこれーとさんを ひとりじめする なんて げす だよ!せいっさいだよ!」 「いなかものの くせに、ちょこれーとさんを ひとりじめする なんて、ゆるせないわ!」 「せいさいなんだねー!わかれよー!」 「れいむ、さいっきょの まりささま あいてに かてると おもうのかぜ? さっさと ちょこれーとさんを おいていくのぜ。そうすれば、いのちだけは たすけてやるのぜ。」 「ゆ、ゆぅ………」 野良5匹に脅迫され、困る れいむ。 れいむは胴付きなので、野良ゆっくり相手に負けることはない。 過去にも、野良のゲスに襲われていた飼いゆっくりを力で助けたこともある。 また、SOSボタンをもっており、これを押して、セキュリー会社を呼ぶこともできる。 しかし、できることならば穏便に済ませたいと考え、どうするかを悩んでいるのだ。 悩んでいる間に、5匹に包囲される れいむ。 「さっさと わたすんだよー。わかれよー!」 「このいなかもの、ゆっくりせずに さっさと ちょこれーとさんを わたしなさい。さもないと……」 5匹は枝を咥え、臨戦態勢をとる。 「ゆ、ゆぅ……これは こまったよ…………なんとかして ちょこれーとさんを まもらないと……」 走って逃げることも考えたが、その衝撃でチョコレートがわれるかも知れないと考え、それもできない れいむ。 -チリン チリン!! 突然、ベルがなり響く。 驚いた6匹は、音のほうを見る。 「まちなさい!!」 そこには補助輪付き自転車に乗った、胴付き ゆっくりがいた。 そのゆっくりは、金髪で、黒いとんがり帽を被り、鞄を襷がけでもっている。 「ゆ!?なんなのぜ?おまえは?」 「かいゆっくりを きょうはくし、ちょこれーとさんを うばうのは やめなさい!」 まりさの質問を無視し、ゆっくりが叫ぶ。 「ゆぷぷ。まったく、これだから どうつきは ゆっくりしてないよ。 どうつきごときが、でいぶたちに めいっれい できると おもってるの?せいっさいするよ? それが いや だったら、さっさと あまあまを もっておいで。すぐでいいよ!」 「くちで いっても わからないか。そこの きんばっちさんの れいむ、すぐに たすけてあげるから あんっしんしてね!」 自転車を降りた ゆっくりが れいむに微笑みながら言う。 「ゆ?あ、ありがとうだよ……」 「むっきゅきゅ。 たかが どうつき まりさ ひとり ふえた ところで、ぱちぇたちの しょうりは ゆるがないわ。」 5匹の野良ゆっくりは厭らしい笑顔になる。 対照的に、れいむは少し困った顔をしている。 「ゆぅ…あ、あんまり ぼうりょくてきなことは ゆっくりできないよ…… ゆ!ゆゆ?あの ゆっくりが こしにつけているのって、たしか……」 胴付き ゆっくりの腰には、青いベルトがまきつけてある。 れいむは、このベルトに見覚えがあった。 毎週日曜日の朝、お兄さんと一緒に見ている特撮番組で主人公が使っているものと同じものだ。 ベルトには、オレンジ・青・黄・黒のスイッチが1つずつと、赤のスイッチが4つ、左側に大きなレバーがついている。 胴付きゆっくりは、赤いスイッチを1つずつ入れる。 -キュィーン…キュィーン…キュィーン…キュィーン! スイッチと連動して、電子音がなる。 全ての ゆっくりの注意が胴付きにあつまる。 -Three……Two……One…… ベルトから流れる電子音声の後、胴付きゆっくりはベルトについてあるレバーを動かしながら叫ぶ。 「へんしん!」 - ~~♪♪~~♪!! ベルトから流れる電子音のメロディー。 「むきゅ。なにも おきないわ。まったく この もりのけんじゃである ぱちぇを だまそうなんて、3ねん はやいわ。」 ぱちゅりーの言う通り、何も変化はなかった。 それも当然で、このベルトは玩具である。男の子に大人気の玩具で、昨年末まで品薄だったものだ。 何もおきないことに、5匹は笑いだした。 5匹の笑いを無視して、胴付きゆっくりは体を屈める。 「うちゅう………きたーーーーー!!!!!」 そして、叫びながら、一気に伸びる。その際、黒いとんがり帽子をとる。 笑顔の5匹が固まる。 帽子の中からあわられたのは、金バッチと赤いリボンがついた白い帽子だ。 胴付き ゆっくりは、右手を前に突き出し、叫ぶ。 「か○ん らいだー ふぉー○!たいまん はさせて もらうぜ!!」 「ふ、ふふ、ふらんだぁぁぁっぁああああ!!!」×5 5匹は笑顔から一気に恐怖に引きつった顔になり、叫ぶ。 「どぼじでぇぇええ!!どぼじで、ばりざが ふらんになるのぉおおおおお!!!」×5 5匹は恐怖と混乱で硬直しており、逃げることができない。 基本的にゆっくりは個体の識別をおかざりだけで行う。 ふらんが まりさの帽子をかぶっていれば、殆どの ゆっくりは まりさと勘違いをする。 野良5匹から見れば、 バカにしていた胴付きまりさが、一瞬で恐怖の胴付きふらんに変わったように見えるのだ。 ちなみに、れいむは、まりさではないことは気づいていたが、 まさか、ふらんだとは思っていなかったようで、少し驚いている。 フランは跳躍し、距離を一気につめる。 着地の際、左足でアリスを踏みつける。 「っぐっべぇぇえぇえ!!!!ど、どげ…で…いながも………」 -ッバッコォ!! アリスを踏んでいた足をどけ、アリスを蹴り上げる。 「っゆっべぇええ!!…………お、おそらとんでるーー!!??」 宙に舞い、自然落下するアリス。 -ッドン! 落下途中のアリスを拳で思い切り殴るフラン。 殴られたアリスは空き地に置かれた土管にぶつかり、絶命した。 「ふ、ふらん。いくらなんでも やりすぎだよ!」 フランに向かって叫ぶ れいむ。 れいむは、フランが金バッチをつけていること、自分を助けると言ってくれたことから、 危険がないことを認識しており、怯えることなく叫ぶことができた。 (とはいえ、相手は捕食種のため、少しだけ怖がっているが。) 「ゆ?なに いっているの?こいつらは れいむから たいせつなものを うばおうとしていた げすだよ。 のらで げすな やつは せいっさい しないと いけないんだよ!」 「で、でも、ゆっくりごろしは ゆっくり できないよ!」 「うーー!ふらんは ほしょくしゅ だから へいきなんだよ!ゆっくりりかいしてね!」 「ゆ、ゆぅ………」 フランの言葉にれいむは反論ができなくなった。 「に、にげるんだねー!わかるよーー!!」 アリスの死を見て、硬直が解けた ちぇんが叫び、駆け出す。 「にがすか!ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」×4 野良の4匹は立ち止まり、大きな声で返事をする。 教育を受けていない ゆっくりなので、本能には逆らう術を知らない。 その本能が死期を早めるものだとしても、決して逆らわず、返事をするのだ。 当然、ちぇんも立ち止まっている。 ふらんは、青いスイッチをいれる。 -Launcher On ~♪ 電子音が流れるが、玩具なので、実際には何もおきない。 代わりにフランは、鞄から水鉄砲を取り出し、屈んで撃つ。 本ゆんは、劇中のライダーのように、 足にセットされたランチャーからミサイルを撃っている気分である。 「!?つめたいんだよー!やめろよーー!!とけるんだよーー!! ゆ?ゆゆ?う、うごきがにぶいよー!!わからないよーー!!うごけないんだよー!!」 水で足がふやけたため、ちぇんの動きが鈍くなる。 「あたらしい すいっち!ためさせて もらうよ。」 歩きながら、鞄から橙色のスイッチをとりだし、ベルトにはめてある黒いスイッチと入れ替える。 -Hummer セットしたことを表す電子音が流れたあと、新しくつけた橙色のスイッチをいれる。 -Hummer On ~♪ 電子音が流れるが、やはり玩具なので、何もおきない。 代わりにフランは、鞄から小さな木槌を取り出し、左手でもつ。 「これが はんまーすいっちさん。いっくよ!」 「や、やめるんだよぉぉおおお!!わかれよぉぉおおお!! っゆっぎゅぶぬん…………」 そして、そのハンマーで動けなくなった ちぇんを思いっきり殴る。 汚いチョコレートを地面にばら撒きペチャンコになる ちぇん。 「…………む!っぎゅぅぅうう!! ゆっげぼぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!! ぶぼっ!ぶぼぇっ!えげぇぇぇ!えげぼげぇぇぇええええええ!!!」 突然現れたフラン。殺された仲間。仲間の死臭。 ゲロ袋の渾名は伊達ではなく、パチュリーは生クリームを吐き出す。 そして、絶命した。流石はゲロ袋だ。 「ば、ばりざぁぁああ!!な、なんどがじでぇぇえええ!!!」 「わわわわかっているのぜぜぜぜえぜ!! ま、まりさは さいっきょう なのぜ!ふらんなんで、ごわぐないのぜ!! まりさには、まだ ひっみつへいっきさんが あるのぜぇえぇええええ!!!!!」」 ガタガタ震えながらも、打開策があることを誇示する まりさ。 まりさは帽子から、カッターナイフを取り出し、舌で刃を露出させる。 「うー……やっかいなものをー」 カッターナイフを見たフランが立ち止まる。 バカと刃物は危険だと考えたのだ。 「ねぇ、ふらん。にんげんさんを よぼうか?」 れいむが尋ねると、フランは首をふる。 「うー。だいじょうぶだよ。こんなやつら、ふらん ひとりで かるく たおしてやるよ!」 「ゆっへん!!いっくら ふらんでも、この かったーないふさんの まえでは おちびも どうっぜんなのぜ!!」 「ゆーん!さっすが まりさだよ。さっすが でいぶの だーりんだよ!!」 「ゆへへ!!おい!そこの ふらんと、れいむ!! このかったーないふさんの さびに なりたくなければ、あまあまを おいていくのぜ!!」 フランの動きが止まったことで、勝利を確信した まりさがドヤ顔で命令をする。 「うー。ことわるよ。」 「ゆ?な、なにをいっているのぜぇぇええええ!!!このかったーないふさんが めに はいらないのかぜ!?」 フランは何もいわずに、オレンジ色と黄色のスイッチをいれる。 -Rocket On ~♪ Drill On ~♪ 当然なんの意味もないが、 フランの中では、右手にロケット、左足にドリルが装着されたことになっている。 「っとう!」 フランが宙に舞う。自力で飛行しているが、本ゆんは、右手のロケットで飛んでいる気分だ。 「ゆ!おそらを とぶとは ひきょうなのぜ!さっさと おりてくるのぜ! さいっきょうの まりささまが せいっさいしていやるのぜ!!」 「いいよ。おりてあげる。」 フランはベルトのレバーを引く。 -Rocket 、Drill 、Limit Break !!~♪ ベルトから流れる電子音。 「ライダーロケット ドリルキーーック!!!!」 フランは左足を伸ばし、肘をまげ、ポーズをつける。 正面からでは、カッターナイフが危ないので、背面にまわり、まりさの後頭部(?)めがけて急降下する。 「ゆ!ふらんがきえたのぜ!ゆっふん!! さいっきょうの まりささまに おそれを なしたに ちがいないのっぜぇぇぇええええええ!!??」 まりさは、背後からフランに足で押され、悲鳴をあげる。 「ど、どぼじでぇぇぇええ!!どぼじで かべざんがぁぁああ!!!??っぐっべぇぇええええええ!!!」 そして、カッターナイフを咥えたまま、ブロックベイに顔面から激突する。 口内にカッターナイフがはいり、刃が口内で突き刺さる。 「っゆっぎゃぁぁあああああ!!!ば、ばりざの おぐじがぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!! が、がっだーないぶざんを、とりだっぐっっぎゃあぁぁぁlぁぁ!!い、いざいいぃいいいいいいいい!!!!」 カッターナイフを取り出そうと舌を動かすが、その動作により刃が口内を傷つけ、激痛に襲われ悲鳴をあげる。 「うー!ゆっくりしね!ゆっくりしね!!!のらで げすな まりさは ゆっくりしね!!」 自分ではどうしようもない状態に陥ったまりさを、フランは踏みつける。 「ぶぶぶ!!???い、いざぃいいいいい!!!や、やべ、やべでぇぇぇえ!!げっぼ!!やべ!ぶっぼぉおおお!!!!」 フランの足がまりさを押さえつける度に、刃が口内を傷つけ、まりさは餡子と悲鳴をあげる。 「ゆべっ!だ、だずっげ!!ぼ、ぼっど……っがっぼ!!ゆっぐりじだ………がだ……」 カッターナイフが中枢餡を傷つけたことで、まりさは絶命した。 「うーー。りみっとぶれいくでも たおせないなんて、まだまだ ふらんは だめだよ。もっと れんしゅうしないと。」 フランはゆっくりと でいぶのほうの方を見る。 「うー、つぎは どの すいっちさんを つかおうかな?なやむよ。」 「ぐるなぁぁぁああああああ!!ふらんは ぐるなぁぁああああ!!」 でいぶはガタガタ震え、上と下から砂糖水を垂れ流しながら叫ぶ。 「うーー。やだ!ゆっくりしね!」 ふらんは笑顔で言う。 「ど、どぼじでぇぇぇぇええ!!!ぼ、ぼういっばい、ゆっぐりごろじ じで、ゆっぐり できだでしょぉおおお!!!」 「ほしょくしゅでも ないくせに、ゆっくりごろしで ゆっくり できる なんていう でいぶは げすだね。 そんな げすは ゆっくりしね!!」 「やべでぇぇええ!!!ぐるなぁぁああ!! で、でいぶは にんっしん しているんだよぉおおおお!!!やさしくしなくちゃいけないんだよぉおおおお!!! だ、だがら、だがらだがら、だずげでぇぇぇぇぇええええええええぇぇぇぇええええええええええええええええええ!!!」 でいぶは有らん限りの大声で命乞いをする。 ------------------------------------ 「うーー。ゆ?なんだ?れいむ、どうした?」 「ぐるなぁぁあ!!でいぶを ゆっぐりざぜろぉおお!!ゆ??」 れいむは、でいぶに背を向け、フランと でいぶの間に立つ。 「ふらん、もうやめてよ。でいぶ にんしん している そうだよ。 なんの つみも ない おちびちゃんまで えいえんに ゆっくりさせるのは さすがに かわいそすぎだよ!」 「そ、そうだよ!でいぶは にんっしん してるんだよ!やさしく しなくちゃ いけないんだよ!」 味方ができたことで、でいぶの顔が明るくなり、醜い笑顔になる。 「よくやったよ、どうつき。とくべつに ほめてやるよ!この でいぶさまの どれいにしてやるよ!かんしゃしてね!! あと、あまあまを ちょうだいね!すぐでいいよ!!」 「ゆ?ゆゆ??」 でいぶの発言を聞き、れいむが驚きの表情で固まる。 「うー。でいぶって、どうして こんなに ばか ばっかり なんだろう? れいむ、こんな やつを かばうこと なんてないよ。」 ふらんは でいぶのバカっぷりに思わず頭をおさえる。 「でいぶは ばかじゃないよ!!でいぶの あたまは すーぱこんぴゅーたけいさんのように かしこいんだよ!!」 「はいはい。そうですね そうですね。ほら、れいむ、そこをどいて。」 ふらんが れいむの両肩に両手をのせ、項垂れながら言う。 でいぶのバカさ加減に呆れているのだ。 「で、でも、ふらん。やっぱり、おちびちゃんが かわいそうだよ……」 「うぅ~~。いい、れいむ。こんな げすな おやだったら、 むしろ うまれてこないほうが おちびちゃんの しあわせだよ。」 「ゆ?ゆゆ??」 れいむは、フランの言っていることの意味が理解できないでいる。 「うー、いいから みてて。」 ふらんは、れいむの横を通り、でいぶの前で屈む。 「ゆががぁぁぁぁぁあ!!ふ、ふらん だぁぁぁあああ!!! ど、どれいぃいいいい!!!な、なにやっでるのぉおおおおお!!!ざっざど、だずげろぉおおお!!!」 でいぶが震えながら叫ぶ。 「うー、うるさい!さわいだら、ころすぞ!」 「っゆっぐ!!ぐぶ………ぐず……ぐび……」 フランがでいぶの頭を軽く叩く。 でいぶは涙を流し、震えながら揉み上げで口を必死で閉じる。 「でいぶ、たすかりたいのか?」 フランの質問に、でいぶは全力で何度も頷く。 「それは おちびちゃんのためか? つみのない おちびちゃんが うまれることもなく しぬのは かわいそうだから? おやこで みのがしてほしい?」 でいぶが先程と同じように頷く。 「しんぐるまざーはゆっくりできないぞ。 いまここで おまえと おなかのこども、しんだほうが みんな ゆっくりできるだろ?」 「ぞんなごどありばぜんん!!!!!! でいぶは、かわいいおちびちゃんざえ いれば、しんぐるまざーでぼ、ゆっぐりできばずぅうううう!!」 でいぶが涙を流しながら叫ぶ。 「うー、いいよ。みのがしてあげる。」 「ぼ、ぼんどうぅに!!??」 フランが笑顔で頷く。 「やったよ!さっすが でいぶだよ。ふらんを せっとくして たすかったよ! でいぶったら ほんっとうに こうしょうじょうずだよ。ろーじゃー・すみすも まっさおだよ! でいぶったら ゆうっしゅうで ごーめんねー!!」 どこが交渉だったのかは不明だが、自己肯定能力だけに長けている でいぶらしい発言だ。 助かったことで、恐怖心が一気になくなったのだろう、でいぶが笑顔になる。 「ところで、でいぶ。あまあま ほしいか?」 「ゆ!あまあま!?ほしいよ!ゆっくりしないで さっさと ちょうだいね。 でいぶさまに あまあまを けんっじょうする なんて、なかなか ゆうっしゅうな ふらんだね!ほめてやるよ!」 力関係を理解しているくせに、こういう態度をとれる でいぶを、ある意味尊敬しながら ふらんは続ける。 「うー、じぶんで だたいしたら あげるよ。」 「だたい?」 「そうだよ。おおきく とびはねて、おなかの おちびちゃんを ころすことだよ。 だたいがすめば、くっきーさんをあげるよ。」 れいむは呆れた顔をする。 「ふらん、そんな じょうけんさんじゃ、でいぶは くっきーさんを たべれないよ?」 あげる気がないなら言わなければいいのに、と思いながら ふらんに言う。 ふらんは でいぶのほうを指差す。 「ゆ??」 でいぶのほうを見ると、でいぶが宙に浮かんでいた。 通常の跳ね方では届かないぐらいの高さだ。そして、地面に腹部から激突する。 「ゆっびぃぃいいいい!!い、いだいよ、で、でぼ、まだ くそちびは しんでないよ! さっさと しんでね!でいぶの くっきーさんを じゃまする くそちびは さっさとしんでね!!」 「で、でいぶやめてよ。それいじょうしたら、おなかの おちびちゃんが しんじゃうよ!!」 堕胎をしようとする でいぶに対し、れいむが説得を試みる。 「うっるさいよ!!!じゃま するんじゃないよぉぉおおお!!!! でいぶは くっきーさんを たべて ゆっくりするんだよ!!! じゃまするなら、おまえも せいっさいだよ!!!」 でいぶはれいむを睨みながら叫ぶ。 「ゆ、ゆぅ………」 「れいむ、むだだよ。でいぶは おちびちゃんよりも くっきーさんのほうが だいじ なんだよ。」 でいぶの鬼気迫る迫力に圧倒された れいむの肩に手をおき、ふらんが言う。 「れいむ、よくきいてね。 じぶんのことを でいぶって いう やつは ぜったいに じぶん かってな げす なんだよ。 こんな げすの、しかも ぼしかていに うまれたら、おちびちゃんは ぜったいに ゆっくりできないよ。 ふこうな しを むかえるだけだよ。 うんよく いきのびても、こどもは あたらしい げすに なるだけだよ。 そして げすは ほかの ゆっくりを ゆっくりさせないよ。 げすは みんなを ふこうに するんだよ。 だから、こういう げすは ころすに かぎるんだよ。 ゆっくりりかいしてね!!」 ふらんの言葉を聞き、れいむは自分の母親である でいぶを思い出す。 確かにそうかもしれない。 幸い自分には優しい父親や姉妹がいてくれたから野良でも ゆっくりできた。 もし母親だけだったら、きっと野良生活を耐えられず すぐに死んだだろう。 母親である でいぶは、狩りや掃除といった生きるために必要なことは何もせず、 父である まりさに押し付けていたのだから。 優しい飼い主にめぐりあえたお陰で今は幸せな生活をしている。 これは、奇跡的だということも知っている。 もし でいぶを見逃したとしても、生まれてくる子供は不幸になるだけだろう。 自分のような奇跡はまず起きないのだから。 そう考えると、ふらんの言っていることが正しい気がしてきた。 「ゆっくりりかいしたよ………」 元気なく言うれいむ。 理解はできても、ゆっくりが、特に子供が死ぬのはイヤなのだ。 とはいえ、自分ではなにもできないことも理解している。 でいぶを、でいぶの子供を引き取ることなど、れいむには不可能なのだから。 そんなことをすれば、飼い主に迷惑をかけてしまう。 大好きなお兄さんを ゆっくりさせれないことは絶対にイヤなのだ。 「っゆっぎぃいいいいいいいいいいいい!!!」 でいぶは何度も飛び跳ねるが、なかなか堕胎ができない。ただ悲鳴をあげるだけだ。 「ゆ!そうだ!ゆぷぷ。さっすが でいぶだよ。いいことを おもいついたよ! こんくりーとの かべさんに おなかを ぶつければ、かんったんに だたいが できるよ!! でいぶったら、かしこくって ごーめんねーー!!!」 でいぶはブロック壁に向かって跳ねだす。助走をつけ、ブロック塀に腹部をおもいきり ぶつける。 「ゆっぎゃぁあぁぁあああああああ!!! い、いじゃいぃぃいいいいいいい!!!ゆっぎゃあぁぁああああ!!!!!!! じじっっじっぬぅううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!」 これまで以上の激痛に、でいぶは悲鳴をあげながら、のたうちまわる。 のたうちまわっている でいぶの腹部に黒ずみができた。胎児(胎饅?)が死んだ証拠だ。 「ゆばぁ~ゆばぁ~。ふ、ふらん!みで、で、でいぶ、だたいを じだよ! げすな ちびは しんだよ!さっさと くっきーさんを ちょうだいね!とくもりでいいよ!」」 でいぶが醜い笑顔で言う。 「やくそくだからね……はい、くっきーさん。」 ふらんはクッキーを地面に置く。 「むーしゃむーしゃ……しあわせー!!! もっとちょうだいね!すぐでいいよ!とくもりだよ! だたいして かわいそうな でいぶに たっくさんの あまあまを けんっじょうするのは、とうぜんの ぎむだよ!さっさとしてね!」 クッキーを貪り喰うでいぶを、ふらんは汚物を見るような目で見る。 「うー……。さて、でいぶ。せいっさいしようか。」 「ゆ?はぁぁあああああ!!なにいってるのぉおおお!!?? たすけてくれるんでしょぉおおおお!!!??」 「うん。だから たすけたでしょ? うまれてくる おちびちゃんの ために でいぶは たすけてあげたよ。 でも、もう おちびちゃんは いないからいいよね!」 「ゆ?」 「うー、おちびちゃんを ころしちゃうような げすを せいっさいするよ!ゆっくりりかいしてね!」 「りがいでぎるがぁぁああああ!!お、おい、どれぃいい!! ざっざど、だずげろぉおおおおお!!!」 でいぶが れいむに命令をする。 「やだよ。くっきーさんの ために、おちびちゃんを ころす げす なんて、れいむ だいっきらいだよ!」 「うっがぁぁあああ!!ぞ、ぞれはふらんがぁぁああああ!!」 「ほんっとうに おちびちゃんが だいじだったら、あんな じょうけんさんを のまないよ! ふらんからにげて、しんぐるまざーに なって、おちびちゃんを そだてる はずだよ。 でいぶは おちびちゃんよりも、くっきーさんの ほうが だいじなんでしょ!?」 れいむの目には涙が滲んでいる。産まれてくることができなかった子供のことを想っての涙だ。 「う、うるっざぁぁぁああいい!!いいがら、でいぶを だずげろっぉおおおお!! あまあま もっでごいぃいいいい!!ゆっぐりざぜろぉおおおおおおおおおおお!!! でいぶには ゆっぐりずる ぎむが あるんだぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」 喚くでいぶを無視して、ふらんが れいむに話しかける。 「でいぶを つぶけど、いいよね?」 れいむは黙って頷く。 「うー、でいぶ!!さぁ、おまえの つみを…かぞえろ」 ふらんは右腕を伸ばしながら言う。 「でいぶに づみなんで ないぃいいいいい!!! でいぶは いっつも ただじいんだよぉおおおおお!!! でいぶを ゆっぐり ざぜない やつが わるいんだぁぁぁあああああああ!!」 「ふらん、それ、ちがう らいだーさんだよ…」 フランの発言に、でいぶは怒鳴り、れいむは小さな声で言う。 ふらんは跳躍し、レバーを動かす。 -Rocket 、Drill 、Limit Break !!~♪ ベルトから流れる電子音。 「ライダーロケット ドリルキーーック!!!!」 フランはポーズをつけ、れいむを頭上から一気に踏みつける。 「っゆっぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!! ぼっど、ゆっぐじ……じだが………っだぁぁぁあああああああああああああああああ!!!」 まりさの時と違い、でいぶは無事絶命した。 「うー!やったよ!りみっとぶれいくで たおせたよ!!」 必殺技が成功したことに喜ぶ ふらんに、れいむが青い顔をしながら頭を下げる。 「どうもありがとうだよ。ふらんの おかげで、ちょこれーとさんは ぶじだったよ。」 「うー。きにすること ないよ。ふらんも すきで やっていることだし。 それより、かおいろが わるいよ? やっぱり、めのまえで ゆっくりが しぬところを みるのは、きぶんが わるくなる?」 「ゆん。ちょっとだけ。でも、しょうがないよ。でいぶたちは げす だったんだから。」 れいむは、頑張って笑顔をつくり、こたえる。 「うー。でも やっぱりわるかったよ。さっさと れいむだけ にがせばよかったよ。」 ふらんは申し訳なさそうに言う。 そんな ふらんの態度を見て、れいむは怖いはずの ふらんに親近感を覚えた。 「きにしなくっていいよ、ほんとうに。」 「うー。れいむ、おまえ いい ゆっくりだな。 おまえ みたいな いい ゆっくりと であえて うれしいよ。 よし!ふらんと ともだちに なれ!」 「ゆん。いいよ。てれびさんで やっていた やつだね。」 特撮番組での友情の印、互いの拳を数回打ち合わる行為をする2匹。 「これでれいむたち、おともだちさんだね!おにーさんに はなすことが ふえてうれしいよ!」 「ふらんも、おねーさんに はなすことが ふえてうれしいよ。」 互いの顔を見ながら微笑む2匹である。 「ふらん、もうすぐ ゆきさんが ふってくる そうだよ。はやく かえろうよ。」 「うー。れいむは さきに かえっていて。ふらんは、そうじを してから かえるよ。」 「おそうじさん?」 ふらんは でいぶの死骸を指差す。 「ゆぅ………ゆん!れいむも おてつだいさんを するよ!」 「うー?いいのか?ゆっくりの しがいだぞ?」 「ちょっとだけ くさくて いや だけど、ふたりで すれば すぐに おわるよ。 ゆっくりしすぎて、ゆきさんが ふってきて、ふらんが かぜさんを ひいたら たいっへんだもん!」 「うー。ありがとうだよ、れいむ。」 「ゆん!」 2匹はゆっくりの死骸を、ふらん持参のゴミ袋に詰め、地面を同じくふらん持参の箒で軽く掃除をする。 【虐待の後は、する前よりも綺麗に!】 ふらんのポリシーである。 ちなみに、このゴミは ふらんが帰宅途中に ゆっくり専用のゴミ箱に捨てる予定である。 ふらんはゆっくりを食べるが、野良は汚く、またまずいので食べない。 ふらんは野良ゲスだけを趣味をかねて制裁しているだけなのだ。 「うー。ありがとうだよ。おかげで はやく かたづいたよ。」 「ううん。れいむこそ ありがとうだよ。たすけてくれて。」 「うー、またな。」 「ゆん!またね!」 2匹はそれぞれ帰路についた。 れいむが家についた時、空から雪が降ってきた。 「ゆぅ……ゆきさんがふってきたよ。ゆきさんはきれいだけど、ゆっくりできなくなるよ… おにーさん、ぶじにかえってこれるよね?」 れいむは、飼い主を心配しながら、家の中へと入った。 ------------------------------------ 夕方から降りはじめた雪は夜には止んだ。 少しだけ積もった雪だが、幸い電車は止まることも遅れることもなく、 俺はいつも通りの時間に無事帰宅することができた。 『ただいまー。』 「お、おかえりだよ、おにーさん!よかったよ、ぶじに かえってきてくれて!さむかった?」 れいむが笑顔で出迎えてくれた。 帰宅の際に、誰かに迎え入れてもらえるのは嬉しいものだ。 それが、黒髪で笑顔の女の子なのだから、嬉しさも倍増だ。 (欲を言えば、巫女装飾だとなお嬉しいが一昨日がそうだったので、まぁ、仕方が無い。) が、今日のれいむの笑顔はいつもと少し違う気がする。 なんだろう、どこかぎこちないような気がするが、雪で俺の心配をしていたせいだろうか? 『ああ、すっごく寒かったよ。ちょっとまってろよ、すぐに夕飯にするからな。』 「ゆ……ゆん!お、おにーさん、きょうの ばんごはんさんは なに?」 『おでんだよ。』 「ゆん!おでんさんは あたたかくて、ゆっくりできるよ!」 「むーしゃむーしゃ……ごっくん……しあわせー! むーしゃむーしゃ……」 胴付きで、金バッチのれいむは綺麗に箸でおでんを食べ、ちゃんと飲み込んでから味の感想を言う。 そして、再び食べ始めるれいむ。 おかしい。いつもならば、味の感想を言うし、 食事をしながら 今日起きたことを一生懸命話をしてくれる れいむが、今日はただ黙々と夕飯を食べている。 そんなに空腹だったのか?非常食(=おやつ)は冷蔵庫にも、戸棚にも常備してあるはずだが。 『れいむ、どこか具合が悪いのか?』 いつもと違うれいむに、不安になり聞いてみる。 一度ゆっくり専門の医者につれていったほうがいいだろうか。 「だ、だいじょうぶだよ。ちょっと つかれただけだから。し、しんぱいしなくていいよ!」 『そうか……でも、もしどこか痛かったりしたら、すぐに言えよ、いいな?』 「ゆん!ゆっくりりかいしたよ。しんぱいさせてごめんだよ……」 食後、れいむは俺の指示に従い、先に風呂にはいる。 なお、俺が後なのは、入浴後、そのまま風呂掃除をするからであって、 決してHENTAIであるからではない。 一緒にはいらないのは、れいむが羞恥心から嫌がっているからであって、 俺がHENTAIにならないためではない。 一緒に入ったって別に俺は平気だ。絶対に、多分、きっと…。 「ゆー。きもちよかったよー!」 カラスの行水を済ませた れいむが、脱衣場から出てくる。 『あれ?今日はその服で寝るの?』 れいむは胴つきになった際に一緒に生えた(?)巫女装飾(正確には少し形が違うが、俺的には許容範囲)を身に纏っていた。 常時この服を着てくれていると、嬉しいが、流石に洗濯や気温のことを考えると少し難しい。 「ゆん。おにーさんが いっちばん すきな ふくさんだよ。どう?ゆっくりできる?」 『ああ、ゆっくりできるよ。ありがとう。』 れいむの頭を撫でる。 シャンプーのいい香りが漂う。 部屋の中に、巫女装飾をまとった可愛い女の子がいる。 視覚と嗅覚と触覚からの情報で俺の鼓動が勝手に早くなる。 落ち着け、俺はHENTAIじゃない。 俺は深呼吸をし、落ち着かせてから、入浴をする。 パジャマに着替え、脱衣場からでると、れいむがコタツの前で正座をしていた。 『どうした?れいむ?』 「おにーさん。きょ、きょうは、ばれいんたいんでーさん、だよね?」 真っ赤な顔をした れいむが言う。 『ん?そうだな。ま、俺には縁のないイベントだがな。』 勤めている会社では義理チョコを禁止(環境型セクハラになるらしい)しているので、俺はチョコレートを1つも貰えなかった。 義理しか貰えないので、会社の判断は嬉しいが、何も貰えないのは、やっぱり寂しい気がする。 「ちがうよ!おにーさんにも えんが ある いべんとさんだよ! だだだって、れ、れいむが!!こ、こここっこれ!!」 れいみは目を閉じて、俺に可愛くラッピングされた箱を両手で差し出す。 『これって、チョコレート?』 「ゆ、ゆん……うけとってほしいよ。ほ、ほんめいちょこさんだよ!」 れいむが俺にチョコレート! 黒髪の巫女さんが俺にチョコレート! しかも、本命チョコレート!!! いかんいかん、落ち着け、落ち着け。 れいむは確かに可愛いが、ゆっくりで、ペットで、妹みたいなもんだ。 妹が兄に親愛のチョコレートを渡す。当然のことじゃないか。 高鳴る鼓動を無理矢理押さえつけ、俺はチョコレートを受け取る。 『ありがとう。嬉しいよ。』 「………ゆん!よかったよー!!おにーさんがうけとってくれたよ!!よろこんでくれたよ!!ゆっくりしてくれたよ!!」 れいむが抱きついてきた。 甘い香りと柔らかい感触が心地よい。って、当たり前だ、れいむは ゆっくりで、饅頭だ!甘くて柔らかいのは当然だ! 『れ、れいむ、苦しい……はなれろ。』 「ゆん!ごめんだよ。」 本当は苦しくなどないが、これ以上密着していると、一箇所が苦しくなるため、れいむをはなす。 『一緒に食べようか?』 「っゆ?その ちょこれーとさんは おにーさんのだよ。れいむは たべれないよ?」 『一緒に食べたほうが美味しいだろ? それに、俺はれいむと一緒に食べたいしな。そっちのほうが ゆっくりできるだろ?』 「ゆん!」 俺はお茶を淹れ、可愛いラッピングをされた箱を開ける。 中から、バレンタインらしく、ハート型の大きなチョコレートがでてきた。 チョコレートには【すき】と大きく書かれていて、ちょっと照れてしまう。 れいむのほうを見ると、真っ赤になって俯いている。 そんな可愛いれいむに対し、大きく深呼吸をして落ち着かせてから話しかける。 『あれ?れいむ、このチョコレート どこで買ったんだい?』 れいむだけで自由に買い物できる店は少ない。 というか、あの駄菓子屋しかないはずだ。 そして、駄菓子屋にこんなバレンタイン用のチョコがあるとは思えない。 どうやって手に入れたのか、少し気になる。(渡された時は、駄菓子屋で買った物に自分でラッピングしたと思った。) 「ゆ?そ、それはね、だがいしやさんの おばーさんの まごむすめさんの おねーさんが……」 れいむは一生懸命説明を始める。 なかなか要領をえないが、事情はわかった。 れいむのことは信じているが、不正をして手に入れた物ではないことの確認がとれて一安心した。 『そっか、よかったな。今度、一緒に駄菓子屋さんにお礼を言いにいこうな。』 「ゆん!」 『それにしても すごいな、れいむ。これ、高かっただろ?よくお金をもっていたな。』 「ゆぅ……おにーさんに よろこんで もらいたくて、がんばって ちょきんさんを したんだよ……」 『そっか、ありがとうな。』 れいむの小遣いは月400円だ。 千円のチョコらしいので、単純に3ヶ月は買い食いを我慢しないといけない。 よく我慢できたな。そう思うと、このチョコを食べるのがもったいない気になってきた。 「ゆぅ?おにーさん、はやく たべてほしーよ……」 頬を可愛く染めた れいむが言う。 チョコレートを半分に折り、れいむと分け合う。 『それじゃぁ、いただきます。…………うん!おいしいよ!』 「ほんとうに?」 『ああ、本当だ。れいむも食べてみろよ。』 「むーしゃむーしゃ……ごっくん……しあわせーー!!ゆん!ほんとうだね!とってもおいしいね! れいむが実に美味しそうにチョコを食べる。 不思議なもので、野良が行う【しあわせー】と違い、 れいむが行う【しあわせー】は見ているこちらまで幸せになってくる。 最近はあの顔が見たくて料理をしている自分がいる。 よし、明日の朝は れいむの好きな甘い卵焼きを作ろう。 そんなことを思いながら、チョコレートを食べる。 『やっぱり、バレンタインデーに食べるチョコは最高だな。』 「やったーー!!おにーさんをゆっくりさせることができたよ! よかったよ!ほんとうに よかったよ!!れいむ、すっごく うれしいよ!!」 ようやくいつもの笑顔のれいむになってくれた。 れいむは、いつもの笑顔で今日の出来事を、新しい友達であるふらんのことを、教えてくれた。 捕食種と友達になるとは、少し驚いたが、まぁ、先方も飼いゆっくりで金バッチ、それも胴付きなので、問題はないだろう。 楽しいおしゃべりを終え、歯を磨いていると、れいむが後ろから抱きついてきた。 早くなる鼓動を必死で押さえつけながら、 『どうした?』 と尋ねる。 「おにーさん。きょうは、ばれんたいんでーさんだよ。 だから、いっしょにねても……いい?」 『同じベットを使っているだろ?上と下で。』 「ゆぅ……おなじ べっとさんで、おなじ たかささんで ねむりたよ。だめ?」 ダメと言いたいが、れいむは一緒に寝るお願いだけは、異常に強情になので俺は早々に諦めた。 『わかったよ、特別だからな。』 「ゆん!ありがとうだよ、おにーさん!」 照明を、蛍光灯からナツメ球に切り替える。 一人暮らしの時は、部屋を真っ暗にしていたが、 れいむが怖がるので、常夜灯をつけながら寝ているのだ。 俺と れいむは一緒に2段ベットの1段目にはいる。 『おやすみ、れいむ。』 「ゆん。おやすみさんだよ、おにーさん。」 れいむはペット。れいむ妹同然。れいむは ゆっくり。れいむは饅頭。 心の中で必死に叫びながら、目を強く閉じる俺。 少しでも気を抜くと、HENTAIになってしまいそうで、怖い。 「おにーさん、もぅ、ねちゃった?」 『ん?まだだよ……』 「あのね、おにーさん、おねがいさんが あるんだよ。」 『な、なんだ?』 どうか俺の心を折るようなお願いでありませんように。 理性の神様(?)に強く祈りながら、れいむのお願いを聞く。 「あのね、きょう、れいむ、ふらんに おしえて もらったんだよ。 じぶんのことを でいぶって いう ゆっくりは ぜったいに げす なんだって。 れいむの おかーさんも、そうだったよ。」 『まぁ、そうだな。』 よかった、抱きしめてとか、ちゅっちゅしてとかいうお願いじゃなくて。 ガッカリ…って、違う、安堵しながら、俺は れいむの言葉に耳を傾ける。 「……れいむは おかーさんの むすめだよ。 でいぶの むすめの れいむだよ。いつか れいむも、れいむのことを でいぶって よぶかも しれないよ……」 元気のない声をだす れいむのほうに、俺は体を向ける。 「げすに なったらみんなに めいわくさんを かけちゃうよ。 ゆうちゃんや、ともだちの ゆっくりにも めいわくさんをかけちゃうよ。 おにーさんにも、きっと いっぱい いっぱい めいわくさんを かけちゃうよ。 そんなの やだよ。れいむ おにーさんに めいわくさんを かけたくないよ…… だから、おねがいさんだよ。もし、れいむが れいむのことを でいぶって よぶように なったら、 めいわくさんを かけるまえに、えいえんに ゆっくりさせてほしいよ。っゆ?」 俺はれいむの頭を撫でる。 『大丈夫だって。お前は でいぶになんてならによ。 チョコレートを買うために色々と我慢してきたんだろ? 誰かのために、何かを我慢することができる れいむは でいぶに ならないよ。』 「で、でぼ、れいぶは、おがーざんの むずめだよ……でいぶの むずめの れいぶなんだよ……」 れいむの声が涙まじりになってきた。 『大丈夫だって。第一、そういう心配ができるなら、お前は絶対に でいぶになんて ならないよ。安心しろ。』 「…………」 『昔、お前に言っただろ?新しいお前になれって。 お前は俺の言った通り、新しいお前になった。その証拠に、胴付きになった。 お前の母親である でいぶとの縁はもう きれるている。 毎日、洗濯と掃除をしてくれるおかげで、すっごく助かっていぜ。 新しいお前は、俺をゆっくりさせてくれる。誰かの為に、何をできるやつはゲスじゃない。 だから、お前は絶対にゲスになんてならない。 自分のことが信じられないのなら、俺の言うことを信じろ。な?』 「…………。 ゆっくりりかいしたよ。れいむは おにーさんの ことを、ゆっくり しんじるよ。 ごめんなさいだよ、へんなこと いっちゃって。」 れいむの声が元気になり、俺は安心する。 『気にするなって、家族だろ?』 「ゆん!おにーさん……」 『ん?』 「れいむ、しあわせさんだよ。 だいすきな おにーさんと いっしょに いれて、すっごく すっごく、ゆっくりできて、しあわせさんだよ。 ありがとさんだよ。ほんとうに ありがとさんだよ。れいむも おにーさんを ゆっくりさせてみせるよ! それと、おやすみさんだよ。」 そう言って、れいむは俺の腕にしがみついてきた。このまま寝るつもりなのだろう。 『ああ、おやすみ。俺も幸せだよ。お前がいてくれて。 おかげで ゆっくりできるよ。ありがとう、れいむ。』 俺はれいむの頭を撫でて、眠りにつく努力をすることにした。 ゆっくりは基本、愚かな生物(なまもの)だ。 都合のよいことだけを受け入れ、都合の悪いことはすぐに忘れる。 結果、まわりを不幸にする所謂ゲスに、れいむ種の場合は でいぶになる。 でいぶである母親のせいで、家族を失った れいむが でいぶになることを恐れるのはよく分かる。 だが、大丈夫だろう。 ゆっくりだけではなく、人間とも友達になれ、 俺の為に一生懸命できることをしようとする れいむならば、でいぶになることはないはずだ。 俺はそう信じている。だが、それでも れいむは怖いのだろう。 でいぶになることに恐怖をもっているだけで、すでに でいぶになる心配はないというのに。 そんな れいむを俺は可愛いと思う。 そして、れいむを、これからも大事にしていこうと改めて思う。 「……ゆぴぃ~~ゆぴぃ~~……おにぃーさん……だいすきだよぉ……」 れいむは でいぶになることはない。 そして、俺も絶対にHENTAIにはならない。 れいむにとって最高の飼い主になることを、 可愛い寝顔のれいむを眺めながら、誓う俺である。 あとがき 虐待成分が薄くてすいませんでした。 薄いどころか、何をしているのかを上手に説明できていなくて、本当に申し訳ありませんでした。 その上、ふらんの口調がよくわからず、ご不快なおもいをされた方、申し分けませんでした。 もっと文章を短く、わかりやすくかけるようになりたいです。 賢いれいむには幸せな生活を続けてほしいです。 でいぶは地獄に落ちろ。 過去作品 anko3893 穏やかな日常、或いは嵐の前の静けさ anko3901 穏やかな日常、少し増えた賑やかさ 前編 anko3902 穏やかな日常、少し増えた賑やかさ 後編 anko3903 孤独なぱちゅーが共に過ごすもの anko3904 名物 anko3907 こなさん anko3913 006受け入れた anko3917 ゆっくりによる経済 anko3928 音楽隊 anko3939 赤いリボンのサンタさん anko3951 新しいゆっくりプレイス anko3957 お空のゆっくりプレイス anko3963 安住の地 anko3967 おちびちゃんが欲しい 前編 anko3968 おちびちゃんが欲しい 後編 anko4004 初詣の帰りに anko4013 ゴミ箱の中のゴミ anko4034 チョコレートをください anko4036 子れいむを拾ったよ anko4045 たまには まりさを見逃そう
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3488.html
『ただただ不思議だった』 11KB 制裁 考証 自業自得 野良ゆ 初投稿です 「ゆっへっへ! ここは まりささまの ゆっくりプレイスなのぜ! ゆっくりできない くそにんげんは あまあまをおいて さっさときえるのぜ!」 さて、これはどういう事だろう。 仕事に行き詰った俺が息抜きに来た公園で、 何の脈絡も無く野良ゆっくりらに喧嘩を売られている。 構成はまりさ、れいむ、ぱちゅりーがそれぞれ一匹ずつ。 ゆっくりの根拠の無い態度のでかさは話にこそ聞いていたが、 実際にこうして目の当たりにしたのは初めてだ。 以前ここに来た時には、飼い主と散歩にきていた飼いゆっくりくらいしか見なかった。 それらが捨てられでもしたのか、とうとうこの街にも野良ゆっくりが住み付いたようだ。 「ゆゆ? このにんげんさんは ばかなの? ことばもりかいできないの?」 …不思議だ、ただただ不思議だ。 何故ゆっくりらは人間に平然と喧嘩を売れるのか。 何を以ってして、ゆっくりは人間に勝てると思っているのか。 威嚇の一種だろうか。 メディアの情報で慣れてしまったとはいえ、見た目は生首。 生首が急に飛び出して喧嘩を売ってくるなんて、曰く付きの妖怪のようだ。 情報が一切無ければ、間違いなく裸足で逃げ出す禍々しさである。 …だが実際には、ゆっくりを怖がる人間はもういないだろう。 せいぜい気味悪がる程度で、恐れる理由は一切無い。 ゆっくり自身、人間のそういう反応を期待しているようには見えない。 「まりささまの びぼうに みとれているのぜ? ゆっへへへへ! あまあまをけんじょうすれば、まりささまのあなるを なめさせてやってもいいのぜ!」 うぅん、やはり喧嘩を売るのと威嚇とは違うものな。 さっぱり分からない、不思議で不思議でたまらない。 この不思議さの前にはストレスなど溜まる前に霧散する。 勝つ自信が無ければ、ゆっくりが人間に喧嘩を売れるはずがない。 少なくとも俺がゆっくりだったのなら、人間なんか目の前にしたら即座に逃げる選択をする。 「むきゅん! このにんげんさんは まりさのじゃくてんを さぐっているのよ! ふいをついて こうげきしてくるつもりだわ!」 「ゆゆ!? なんだぜぇ? くそにんげんは ふいうちで かちをひろうきなのぜ? げらげらげら! そのていどのさくせんで まりささまにかとうなんて、かたはらいたいのぜぇ!」 なんにしろ、考えたって仕方ない。 こういうのは直接聞いて確認を取るのが一番だ。 もしかしたら何か根拠があっての喧嘩販売なのかもしれない。 俺が知らないだけで、毒を持ってるとか。 「まりさ。 あまあまはあげるから、いくつか質問してもいいかな」 ガムくらいしかないけど、多分十分だろう。 「ゆぁ~ん? まりささまに じょうけんをつけるのぜぇ? まぁいいのぜ、まりささまは れいぎのなってない くそにんげんにも やさしくしてやれる かんっようっなゆっくりなのぜ!」 「ゆゆーん! さすがはまりさだよー! れいむ、ほれなおしちゃうよ!」 「ゆっへっへ、れいむ。 ほれなおすのは まだはやいのぜ。 あまあまを けんじょうさせたら、 このにんげんを かれいに ボッコボコにしてやるから みているのぜ!」 やはり勝つ自信があるようだ。 もしかしたら俺は悠長に話していないで、さっさと逃げるべきなのかもしれない。 ただ、ゆっくりが根拠の無い万能感に突き動かされている愚か者であるという考えが 俺にはどうしても捨て切れないのだ。 まずは話を聞いて、それからやばそうだったら逃げよう。 ついでに加工所とやらにも連絡しよう。 「じゃあ質問いいかな。」 「ゆふん! さっさとするのぜ! まりささまは このあとおまえをボッコボコにしなきゃいけないから いそがしいのぜ!」 もうなんか凄いな、ゆっくり。 会話が成立するといいのだけれど。 「まりさは、どうやって俺をやっつける気なの?」 「ゆっへっへ! じぶんのしにかたを しりたいのぜぇ? まずはまりささまのダイナマイト・タックルで はらをぶちぬくのぜ!」 「なるほど、それは死ぬなぁ」 「それだけじゃないのぜ! もだえくるしむ くそにんげんには きゅうそくなんかあたえないのぜ! たおれたくそにんげんのうえで なんどもなんどもスーパーメテオ・スタンプをくりかえして ぺったんこにしてやるのぜ!!!」 「あぁ、そうなったらお終いだなぁ」 「まだまだ おわんないのぜぇええええ!!! そのあとには まりささまが―――」 まりさはしばらく、いかにして完膚なきまでに俺を殺すかを語り続けた。 ふぅむ、どうしよう。 毒とか言われれば逃げてもよかったけど、これは本当に愚か者なだけかも。 いや待てまだ分からない。 人間には分からない物理法則をものにしているのかもしれない。 だって饅頭が動くんだから、その程度の無理じゃ否定しきれない。 俺は周囲を見渡し、ゆっくりよりも大きい石を探した。 少し遊歩道を外れたところに、程よいサイズのが転がっている。 「まりさ、あの石とまりさはどっちが大きい?」 「げらげらげら! そんなことも わからないのぜぇ!? みればわかるのぜ! あのいしさんのほうが おおきいのぜ!!」 おぉ、物のサイズは目測できるようだ。 「じゃあ、あの石とまりさはどっちが重いかな」 「ゆぁ~ん? ばかなのぜ? しぬのぜ? いしさんは すごくおもいのぜ! そんなことも しらないのぜ!?」 「むきゅ、まりさ。にんげんさんは ゆっくりほどあたまが よくないのよ。 あまりばかにしたら かわいそうだわ。 むっきゅっきゅ!」 「おぉ、ぶざまぶざま! にんげんさんは あわれだね! れいむ、ゆっくりでよかったよ!!」 ゆっくり達が盛り上がっている。 これはひょっとして…。 「じゃあ、あの樹とまりさでは、どっちが背が高いかなぁ」 「げらげらげら! そんなの きさんに きまってるのぜぇえええ!!」 「ゆぷぷぷぷぷ! ここまでにんげんさんが おばかさんなんてしらなかったよ!!」 「むきゅん! やっぱりゆっくりが みちびいてあげないと だめね!」 うん、これはあれだ。 クイズ番組で簡単な問題に答えられない出演者を笑い、 意気揚々と正解を答える視聴者のようだ。 彼らはさぞ気持ち良く回答している事だろう。 なら都合がいい。 物事はインプットし続けるより、アウトプットした方が覚え易いという。 俺はその調子でまりさ達に、周囲のものの大きさや重さについて質問し続けた。 まずは極端に差のあるものから、少しずつ差を縮め、けれど明確に差があるものを選んで比べさせる。 その度にまりさ達は大笑いしながらも正しい答えを出してくれた。 そうして、また最初の石のサイズに比較対象が戻ってきた。 「ふぅん、じゃあまりさ。この石がまりさに乗ったらどうなるかな」 「いくら まりささまでも、そんな おおきな いしじゃ つぶれちゃうのぜ! けど まりささまは じまんのしゅんっそくっで よけれるから もんだいないのぜ! いしさんなんかに まりささまは つぶせないのぜぇええええ!!!」 もしかしたら潰れる事を否定するかと思っていたけど、 ここまで気持ち良く正解を答え続けてきたまりさは、ここでも正解を出した。 物を比較させ続けた成果か、無知な相手に正しい答えを叩き付ける優越感からか。 まりさは、この石に潰されることを認めた。 …そろそろいいかなぁ。 俺はその石の横で丸まり、まりさ達に質問した。 「まりさ、俺とこの石、どっちが大きい?」 「げひっげひっ! これいじょう わらわすんじゃないのぜぇ!!」 「ゆぷうっ、ゆぷふぇ!! にんげんさんのほうが おおきいよぉっ!!!!」 「じゃあ、俺とこの石、どっちが重いかな」 「げらげらげら! そんなの くそにんげんに きまってるのぜぇええええ!!!」 「むっきゅっきゅ! おばかなにんげんさんに おしえてあげるわ! おおきいもののほうが おもいのよ! それが しぜんのせつりなのよ!」 ゆっくり達は、馬鹿もここに極まれりといった調子で大笑いを続けている。 決定的な知能の差を叩き付けてやったといわんばかりのどや顔だ。 「そっかそっか。じゃあまりさ。 俺がまりさに乗ったら、どうなるかな?」 「だから まりささまがつぶれるに きまってるのぜぇええええええ!!!!」 「いしさんより おおきいんだよぉおおお!!?? つぶれないわけがないでしょおおおおおおお!!??」 あぁ、言質を得た。 なんのことはない、こいつらはやっぱり、愚か者だったわけだ。 まりさは自分の言った言葉の意味には気付いていない。 唯一、ぱちゅりーだけが笑うのをやめ、何事か考えている。 「だよなぁ、まりさ。 俺がおまえを潰すのには、タックルとかスタンプとか必要ない。 ただ乗ればそれでいいんだよな」 「…ゆ?」 そこまで言われて、ようやくまりさも「しぜんのせつり」とやらの真意に気付いたようだ。 ゆっくりは物事を知らない。 物を擬人化して話しかけるのも、それが何か知らないからだ。 知らないからゆっくりは、まずは自分の知っている物に置き換える。 つまり、ゆっくりである。 だから何にでも話しかけるし、気に入らなければ何にでも喧嘩を売る。 同じゆっくりなら自分の方が優秀であるという思い込みがあるのだろう。 生まれた時から言葉を話し、ある程度の物の名前も知っているゆっくり。 そのくせ、子ゆっくりが成体ゆっくりに喧嘩を売る事もあるという。 無知と傲慢さが、対象を正しく認識させやしないのだろう。 遺伝で受け継ぐ知識など、その程度のものなのだ。 ゆっくりは知らない。 人間という生物を外見と名前だけは知っていても、 それがどういったものか、自分達とどう違うか。 だから、それを教えてやれば―――― 「ゆ…ゆあぁああ…!」 自分がどんなものに喧嘩を売ったか、理解できるんじゃなかろうか。 自分よりも大きく、重く。 石よりも大きく、重い。 人間でいえば、象に喧嘩を売ったような現状に。 「まりさは、あの石を潰せるかなぁ」 「ゆひっ…! ゆひ…っ! つぶ…つぶせないのぜ…」 知ってる事に関しては正しい答えを出せる頭が、今は認めたくない事実すら認めさせる。 「だよなぁ。じゃあ俺の事はどうかなぁ?」 「それは…それは…!」 まりさよりも大きく重い石だって潰せないのに、 その石よりもさらに大きく重い人間をまりさが潰せるわけがない。 今のまりさの知識をどうやりくりしても、その答えは覆らない。 傲慢は無知を纏い蛮勇となる。 無知を奪われれば、たちどころに崩れて失せる。 「で…でも いしさんより まりささまのほうがはやいのぜ!! いしさんはじぶんじゃ うごけないのぜ? まりささまには かてないのぜ!!」 動けない石は敵ではない。 勝てないが、負けもしない。 「うん、けどまりさ。 まりさが喧嘩を売ったのは動けない石じゃなくて、動ける人間だぞ?」 「…ゆ…?」 まりさは石と人間を比較している内に、 ゆっくりが石に勝る点では人間にも勝てるとでも勘違いしたのだろう。 「公園に住んでるなら、人間が歩いてるところは何度も見ているだろう? ジョギング…走ってる人間だって何人もいたはずだ。 なぁ、まりさ。 ゆっくりと人間、どっちが早い?」 まりさの視線が俺の顔と足を行ったり来たりする。 サービスとばかりに、俺はその場で少し動き回ってやる。 「……ひっ…ひぃいいいいいいいっ!!!」 まりさの傲慢さは無知と一緒に失せたようだ。 おそらく今のまりさは、人間との差を程度はどうあれ正しく認識している。 以前よりも少しばかり優秀になった、目と頭で。 「なぁ、なんで人間に喧嘩なんか売れたんだよ。 ゆっくりが人間に勝てないなんてのは、『見れば分かる』だろう?」 まりさはただただ震えながら俺を見上げるばかりで、 逃げようとする素振りすら見せない。 「れいむは かんけいないよ! にんげんさんに けんかをうったのは まりさだよ!!」 このれいむもまりさと同じ様に現実が見えたようだ。 「ま…まつのぜれいむ! にんげんから あまあまをうばえっていったのは れいむなのぜ!!!」 「でも売ったのはまりさだよね?」 「ゆひっ…!!」 「むきゅ…に…にんげんさん…。 ゆ、ゆっくりしていってね?」 ぱちゅりーは俺の疑問がどういったものであったか、遅蒔きながら察したようだ。 そして、それが解消されたであろう事も。 震え後ずさりながらも、目も離さずにこちらの様子を窺っている。 俺の顔はニヤけてたと思う。 なんのことはない。 俺も知らなかったのだ、ゆっくりを。 もしかしたら、人間に勝つ確信を持つだけの何かがあるのでは? 迂闊に手を出したら、手痛い反撃を受けるのでは? だからこそ、こんな余裕たっぷりに喧嘩を売ってくるのでは? だってそうでもなきゃ、この体格差で有り得ない。 俺は俺で、ゆっくりを人間に置き換えていたわけだ。 そんな不安や不思議の前に、俺のストレスは霧散していた。 それがどうだ。 全て解消され、まっさらになった俺の心にガンガンと溜まっていくではないか。 実に不快だ、なんて腹立たしいのだろう。 だが発散する当てのある不快さは既に快感である。 解消出来るストレスは嫌いじゃない、むしろ大歓迎だ。 仕事で溜まったストレスまでもが便乗して噴き出そうとしている。 俺の足から、俺の拳から、俺の身体から。 そして――― 「買った、買ったぞその喧嘩! まりさが『売ってよかった!』と思えるくらい、 盛大にやってやろうじゃないか!! ついでだかられいむとぱちゅりーのも買ってやる! 抱き合わせだろ? 聞き逃して無いぞ!!」 ―――俺の口から、ストレスが快感となって迸る。 「「「ゆ…ゆぁあああああーーーーーーーーーーーーーっ!!!!??」」」 「ひゃっはーーーーっ!!! レジはどこだぁあああーーーーーーっ!!!」 昼下がりの公園で、俺は知った。 ゆっくりがどういうものか。 なんのために、生物学の枠を超えてまで人間の前に現れたのか。 全てはこの瞬間のために、彼らはそれを売ってくれているのだろう。 ―――その日、俺はとてもいい買い物をした。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/194.html
『まりさの人気にぱるぱるしてついカッとなって書いた。それと、いくさんは俺の姉』 「スイッチオン」 ういいいん、という音をたてて天井が降りる。 その様子はモニターでしっかりと観察できる。 天井が降りるという事は、その下に何かいた場合それは潰されてしまうわけで。 「ゆああああああああああ!!こないでねっ!てんじょうさんはこっちにこないでねえええええええええ!!」 「れいみゅはちゅよいよ!!れいみゅおきょるよ!ぷきゅううう!!」 「だせええええええええ!!でいぶざまをごごがらだぜえええええええええ!!」 「おにいいさああああああああんん!!はやぐむがえにぎでえええええええええ!!ありずじにだぐないいいいいいいいいいい!!」 「ゆんやああああああああああああ!!もうおうぢがえるううううううううう!!」 そこに居たのはまりさ以外のゆっくりばかりだった。 モニターの向こうでは天井が下まで降りきろうとしていた。 モニターや計量器の数値でそれがわかる。 やがて天井は特に何かに引っかかる事もなく、しっかりとその役目を終えたようだ。 さらに強く床を圧迫し、数分後自動的に天井が上がる。 ボタボタボタと、天井にこびりついていた黒い餡子や皮やクリーム、飛び出た目玉やお飾りが床に降り注ぐ。 天井が上がりきると、床がスライドし餡子の残骸を他の部屋へと運んでいった。 「よし。今日の処理分は終わりだ」 ボタンを操作していた男は椅子から立ち上がった。 時計を見ると既に午後の三時。 これから機器の点検と整備があるが定時にはあがれそうだ。 「おつかれしたー」 タイムカードを押して男は退社した。 ここは保健所。 捨てゆっくりや迷惑な野良ゆっくりを処分する場所だ。 男は保健所の正門を通り、大通りを歩く。 「おでがいじばず!れいぶはがりがへだでごばんざんをとれないんでず!!でいぶじゃおぢびぢゃんをゆっぐりざぜであげらればぜん!!!ぜめでおぢびぢゃんをがいゆっぐりにじでぐだざいいいいい!!!!」 家への帰路を歩いていると、道の片隅で声を上げるゆっくりがいた。 薄汚い身体とボロボロの髪の毛とリボンをしたゆっくりれいむだ。 道を行く人々はそんなれいむの言葉など歯牙にもかけず通り過ぎる。 「おでがいじばずううううう!!ばりざがいなぐなっでたいへんなんでずうううううう!!だずげでぐだざいいいいい!!」 その傍らには、僅かに黒ずんでいる赤ゆっくりれいむがいる。 誰がどう見たって死んでいる。 親であるれいむは気づいていないのだろうか? 「ゆうううう!!おぢびぢゃんもおでがいじで!!おがあざんどいっじょにいうんだよおおおおお!!ほらあああ!!」 何も言わない赤れいむに親れいむはすーりすーりをする。 その拍子に赤れいむの身体が崩れ、目玉が転がった。 「ゆ!!いいよ!!ぞのぢょうじだよ!!にんげんざん!!みでぐだざい!!!おぢびじゃんのしんじゅのようなおめめでず!!ごんながわいいおぢびぢゃんでごべんねえええええええええ!!」 赤れいむの目玉はどろりとしていた。 どうやらあの親れいむはとっくに狂っていたようだ。 「うるさいなー。保健所は何やってんだか」 自分の職場について一人愚痴った。 近道の公園を通るとそこは酷く汚れていた。 「うわあ……」 この公園は野良ゆっくりが多く生息していた。 駆除しても駆除しても、街からあぶれたゆっくり達が住み着き、いつしか近隣の人々も諦めていた。 そのゆっくり達が頭から大量の茎を生やして、真っ黒に黒ずんで大量死していた。 「なんなんだこれ……?」 男が首をひねったときだった。 「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 「ゆんやああああああ!!」 ゆっくりの声がした。 声のした方向を見ると、体液を撒き散らすゆっくりありすがゆっくりちぇんとすっきりしているところだった。 「やめでよおおおおおお!!ぢぇんもうずっぎりじだぐないいいいいいいいい!!」 「ゆんほおおおお!!ぢゃんはつんでれねえええええええええ!いいわああああああ!!もっどとかいはなあいをあげるわあああああああああ!!」 「ゆああああああああ!!わがらないよおおおおおおおお!?」 「ずっきりいいいいい!!」 「わがらああああああああ!?」 ちぇんを押し倒し身体をくねらせるありす。 どうやられいぱー化しているらしい。 この公園の惨状はあのれいぱーの仕業のようだ。 「ゆああああああああ!!まりざああああああああ!!まりざああああああああ!!やっばりまりざのまむまむはざいごうよおおおおおおおおお!!」 「ゆううううう!!ぢがうよおおおお!!ちぇんはまりざじゃないいい!!わがれよおおおおおお!!」 「まりざああああああああああああ!!」 「ゆにゃああああああああああ!!」 ちぇんもそこらに転がっている黒ずんだゆっくりの仲間入りをした。 れいぱー化したありすはちぇんを犯し終わったところで力尽き、しなしなになって死んだ。 その髪の毛の中から、黒い紙切れの破片がハラリと落ちた。 「あーあ。こりゃ保健所に電話しないとな」 男は携帯電話で保健所に連絡をいれ、たまたま同僚が出たので、公園で起きていた事を面白おかしく話しその場を立ち去った(なお後日判明した事だが、このれいぱーによって公園のゆっくりは全滅したそうである)。 「お父さん~ゆっくり飼おうよ~」 「ん~?ゆっくり?」 「さっきからずっとこうなのよ。お友達にゆっくりのカタログを貰ってきちゃって」 家で男がくつろいでいると、小学生の一人娘が一冊の雑誌を手に男に言い寄ってきた。 そのカタログの表紙には『特集!飼いゆっくりの種類!お手ごろから高級なゆっくり全てを網羅してます』と書かれていた。 「お父さんはいつもゆっくりをたくさん見てるんでしょう?いい子が居たら一匹貰ってきてよ~」 「いやいや。大体は野良だって。野良なんて駄目だぞ」 「わかってるよ。野良なんて汚いしやだ。この子みたいなのがいい!!」 と、娘が開いたページには金色のバッチをつけたゆっくりさなえが載っていた。 「どれどれ……って、30万!?希少種じゃないかこれ!?こんな高いのは駄目だぞ!」 「ええええええええ。だってまりさがいないからって思ってこの子にしたのに~」 「まりさとかって……あんな危険なのはもっと駄目だ。せめてこっちの基本種ゆっくりに……」 「やだやだやだあああああああ!!まりさかさなえがいいい!!」 「全くもう……ずっとこうなんですよ……」 「ふう……まりさ種か……もういないだろ……」 カタログにはまりさ種が一匹も載っていない。 まりさ種。 もはや人々が目にすることのないゆっくり。 何故そんなことになったのか数年前に遡る……。 突然人類の前に姿を現した謎のナマモノ『ゆっくり』。 その知能の低さと、脆弱さ、それでいて人類以外で唯一意思を交わせる(相当な躾が必要だが)のが注目され、ペットや動物園などで瞬く間に人気となった。 同時に中身がお菓子ということや、繁殖が容易という事もあり、食用としてもあっという間に普及していった。 野生のゆっくりは人間を恐れ山に籠り、ペットだったゆっくりが捨てられ街で野良として棲み付き、ゆっくり達は人間の生活の一部になった。 ゆっくりは脆弱で死にやすい。 人間はゆっくりを取るに足らないものとしてみていた。 ―――だが、事件が起きた。 「ゆっ!!ドスが来たからには人間の好きにはさせないよっ!!ドスはゆっくりを開放するよっ!!」 「どすがいればあんっしんだねっ!れいむのすーぱーゆっくりたいむはじまるよっ!!」 「どすがいればひゃくにんりきなんだぜっ!!にんげんなんていちげきでころせるのぜ!!」 「とかいはなどすねっ!!いなかもののにんげんなんてこわくないわ!」 「もっとゆっくりできるんだねー!!わかるよーー!!」 「むきゅ!もりのけんじゃであるぱちぇとどすのちからがあればにんげんをしはいすることもできるわ!!」 「にんげんをたおしてゆっくりぷれいすをつくるみょん!!」 「「「「「「ゆっゆっおーーー!!」」」」」」 ゆっくりまりさの変異体であるドスまりさが、ゆっくりを率いて人間の村を襲ったのだ。 その大きさとゆっくり達の多さに驚いた人間たちはとりあえず村を撤退しようとした。 が。 「どす!にんげんがにげるのぜっ!」 「ゆん!逃がさないよ!!人間は全部ゆっくりの奴隷にするよ!!ドススパーク!!」 住民へのドススパークの発射。 逃げ遅れた住民が巻き込まれ、瀕死の重傷を負う事態となった。 「ゆゆゆゆゆゆ!!にんげんなんてどすがいればいちころなのぜえええええ!!」 「つよくってごめんねー!!」 「ゆゆ~ん!ドスの強さがわかったよね!!だったらさっさとしないで奴隷になってね!!でないとまたドススパークで『どうするんだ?でか糞饅頭?』……ゆ?」 調子こいていたドスとゆっくり達は、いつの間にかその場にいた黒服サングラスの男一人によってバラバラに解体された(なお、その黒服はいつの間にかいなくなっていたが、ある村人が「……まさかこんなにも早くドスが現われるとはな」と男が呟いていたのを聞いている)。 後日、政府より緊急会見が開かれた。 「えー。このたび発生しました『巨大ゆっくりによる襲撃事件』の詳細をご報告いたします。ゆっくりの巨大化の事象は我々は既に把握しておりました。ごく一部ですが、ゆっくりまりさの巨大化、つまりドス化が起こるのです。そしてこれは現在市場に出回っているゆっくりまりさ全てにいえます。環境や状態などはあまり影響いたしません。ドス化は完全なイレギュラーであり、突然変異です。そしてドスは周りのゆっくりに多大な影響を及ぼします。それは先の村で起こった事件が良い例でしょう。ゆっくり達は増長し、ドス自身も人間より強いと思い、人間に牙をむくようになります。知能も高くなり、あのような熱線を放ちます。中にはステルス機能や、特殊な電磁波を飛ばす個体もいるようです。我々はこのような事態に備え特殊な訓練を受けた人間を育成してきました。今後はドスを確認しましたらすぐさま保健所にご連絡ください。こちらで適切な対応をいたします」 政府の発表に対して批判や苦情もあったが、それよりも人々の中には、ある恐れが生まれた。 ゆっくりまりさのドス化に対してである。 突然巨大化し、人を襲うようになる。 自分たちの身近にいるゆっくりにそんな危険性が。 自分のゆっくりにそんな凶暴な一面が。 ゆっくりは本当に安全なのか? 近所にいるゆっくりは大丈夫? まりさ種がドス化する? まりさ種がいるとゆっくりが増長する? ……まりさ種は危険? 人間は自身に危害を加えるものを徹底的に排除する。 「やべろおおおおおおおおおお!!まりざざまをばなぜええええええええ!!」 「このへやはゆっぐりでぎないんだぜえええええええええええ!!だぜええええ!!だじでぐだざいいいいいいいいいいい!!」 「まりちゃちゃまをどうしゅるきなんだじぇ!?いまならゆるしちぇあげるのじぇ!!」 「ぷくーするよっ!!ぷくー!!」 「ゆううううううう!!どぼじでまりざがごんなめにいいいいいいいい!!」 「なんでええええええええええええ!!がいゆっぐりになればゆっぐりでぎるのにいいいいいいいい!!」 「ゆああああああああああああ!!てんじょうざん!!!ごっちごないでえええええええええ!!」 「どぼじでてんじょうざんがくるのおおおおおお!!おうぢがえるうううううう!!」 「ゆぎぎぎぃぃぃ!!づぶれるううううううううううううう!!」 ペット。 野良。 区別なくゆっくりまりさが大量に処分されるようになった。 危険な芽はそうなる前に摘み取るもの。 人間の目に届く範囲内からゆっくりまりさは消えていった。 だが後に政府から再び発表がある。 『野生で暮らすまりさの方がドス化する可能性が高い』 「あああああああああ!!れいむのおぢびぢゃんがあああああああああ!!どぼじでええええええええ!!!」 「むきゅうう!!やめてにんげんさん!!わたしたちはゆっくりくらしてただけよおおおお!!」 「だずげでおざああああああああああああ!!」 「わがらないよおおおおおおおお!!」 「まりざああああああああ!!まりざあああああああああ!!」 人間の手による山狩り。 「うー!まりさ!ゆっくりしね!!」 「まりさをゆっくりたべるんだどお」 「うわああああああああ!!ふらんとれみりゃだああああああああ!!」 調教されたゆっくりふらんとれみりゃによるまりさ狩り。 「ここまでくればあんぜんなのぜ?」 「ゆ!れいむありがとうだよっ!ゆっくりしていってね!」 「ゆふふ。そうだよ。……ゆ!にんげんさん!いまだよっ!!」 「ゆゆっ?ゆえっ!?どぼじでにんげんざんがいるのおおおおおおおおお!!」 「ゆふう。にんげんさん!やくそくどおりまりさをたくっさんつれてきたよっ!あまあまをちょうだいねっ!たくっさんでいいよっ!!」 「「「「「ど、どいうごどなのおおおおおおおお!?」」」」」 ゆっくり同士の裏切り。 瞬く間にまりさ種は減って行った。 そして今では極稀にまりさ種の生き残りを見るくらいである。 勿論それもすぐさま処分されるが。 こうして人々は安心を得た。 同時にゆっくりは恐怖を得た。 人間の本気を垣間見たからだ。 人間に手を出すとあらゆる手段を使って殺しにかかってくるという認識がゆっくりの間で広がったのだ。 野生ゆっくりは人間を避け、野良も人間から姿を隠すようになった。 だが、ゆっくり達の受難は終わらなかった。 「ゆぅ……だれか……れいむとゆっくりしてね……」 森の中を一匹で跳ねるれいむ。 通りかかるゆっくりに声をかけてはそっぽを向かれている。 「れいむはなんのやくにたつの?かりもへただし、おうたがうまいだけじゃいきていけないよ。わかれよー」 「れいむはとかいはじゃないわ」 「れいむ?あなたはあたまがいいのかしら?ゆっくりしているだけじゃだれもみむきしないわよ」 「れいむみたいなゆっくりとじゃいっしょにゆっくりできないみょん!」 「どぼじでえええええ……れいむはゆっぐりじだいだけなのにいいいいいい……」 いわゆる、行かず後家である。 ゆっくりの番といえば真っ先に連想されるのが『れいむとまりさ』である。 たとえれいむが役立たずでも、何も出来ないごくつぶしであったとしても、何故かまりさ種はれいむ種と番になる傾向が高いのだ。 そしてれいむ種はそんなまりさ種を利用し、自分はたいした苦労もせずに子育てを完了させ、再び同じことを繰り返す。 だがまりさ種がいなくなった今では、そんなれいむ種と番になるゆっくりがいなくなってしまったのだ。 「ゆっぐりじでえええええええ!!だれかれいむどゆっぐりじでよおおおおおおお!!」 そしてれいむ種は激減し、やがてその姿を見ることは少なくなっていった。 「んほおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 「ゆんやああああああああ!!れいぱーだああああああああああ!!」 森の中の群れがれいぱーありすに襲われていた。 「あ、ありずうううううううう!!どぼじでええええええ!!どぼじでええええええ!!」 「ぎゅううう!!もどにもどっでええええ!!いずものありずにいいいいいい!!」 「ゆうううう!!だめだみょんんんんん!!ゆんみょおおおおおおんん!!」 そのれいぱーは元々その群れにいたありすだった。 だが番のまりさが人間に殺されてしまってからは塞ぎがちになり、おうちからも出てこなくなった。 その子供であり、必死に隠し通した子まりさがご飯を周りから恵んでもらっているという状態が続いていたが……。 「ゆんやあああああ!!おかあさんもとにもどってえええええ!!」 「まりさああああああああ!!もうどこにもいかせないわああああああああ!!ありすとひとつになるのよおおおおおおおおおお!!」 「ゆぎゃああああああああ!!」 おうちの中から聞えた子まりさの悲鳴。 それが途絶えた後、出てきたのはれいぱーと化したありすだった。 ありす種もまりさ種と番になる傾向が高い。 だがありす種はもっと深い部分でまりさ種に依存する。 それはれいむ種のような狩りや子育てといった身体的なものではなく、『ありす』という存在そのもの、精神的なものが関係している。 そしてそれを失ったありす種の多くが、まりさ種を求めれいぱーとなったのだ。 「まりさああああああああああああ!!ばでぃざあああああああああああああ!!あでぃざああああああああああああああ!!」 このれいぱーは自分のいた群れのほかに、三つの群れを壊滅させ死んだ。 その間ひたすらまりさまりさと叫んでいたのだった。 結果ありす種は群れからも追い出されることが多くなり、その姿を見ることが少なくなっていった。 「むきゅう……このままじゃまずいわ……」 「おさーごはんさんがぜんぜんたりないんだねー」 「どうするみょん……こまったみょん……」 ここはいるのはいたって普通の群れ。 穴倉の中で、群れ単位でも越冬中である。 だが長であるぱちゅりーは危機に瀕していた。 越冬中にも関わらず群れを維持する為の食料が全然足りないのだ。 元々食糧不足が懸念されたので群れ単位での越冬を計画したのに、それでも足りないのだ。 原因は―――完全な人員不足である。 ゆっくりの中でも高い運動神経を持ち、帽子に多くの食料を詰め込め、お水を渡って餌場を探したり、木の枝で野生動物を追っ払う事もでき、キノコなどの知識のも詳しい……まりさ種の不在。 それが最も大きいところとなっていた。 「むきゅう……どうしてこんなことに……」 「わからないよ……」 「みょん……」 しかし何よりも足りないもの……それは『活気』である。 まりさ種は群れを活性化し、群れを大きくする大きな要素となっているのだ。 それが悪い方向に転がり全滅する事もあるが、ゆっくりすることが命題であるゆっくりにとって、行動力の面ですぐれたまりさ種は群れを維持する上で必要不可欠な存在なのだ。 だがもはやまりさはいない。 考えるばかりで行動を起こさない彼らはにできるのは過去を思うことぐらいである。 「むきゅう……こんなときまりさがいてくれたなら……」 長ぱちゅりーは、群れのれいむの裏切りによって殺されたまりさを想う。 「ゆぅ……ありすもいないよー……」 ちぇんは、れいぱー化し、やむなくせいっさいしたありすを思う。 「みょん……れいむ……はどうでもいいみょん……」 みょんは頭の中からあの顔をかき消した。 結局、群れの大人達が『さあ、おたべなさい』をして群れにいた子供たちは生き残った。 だが大自然は脆弱な子ゆっくり達がで生きていけるほど優しいのだろうか……? 「ゆっくりしていってくださいね!」 「うわー!さなえだー!!ゆっくりしていってねっ!」 「全くもう……甘いんだから」 「いやはやはや……」 結局、男は娘にゆっくりさなえを買ってやった。 金バッチ持ちの希少種。 他にも保証書やグッズなども込みで総額35万なり。 「しばらくはお酒もタバコもだめだな~」 男は溜め息交じりで呟く。 「お父さんありがとう!」 「あなたがおとうさんですか。ふつつかものですがよろしくおねがいしますね」 「まあいいか」 そんな思いも娘とさなえの笑顔を見て吹っ飛んだ。 人間はゆっくり衰退して行くゆっくり達など気にもせず今日を過ごす。 だがゆっくりが絶滅する事はないだろう。 ゆっくりは人間にとって大切なパートナー。 ペットして、食料として、虐待用として、HENTAI用として―――人類にとって大切なものなのだから。 危険なまりさ以外は。 感想掲示板に『絶対あき』(仮)ってあるんですが、これって『絶対的虐待意思』から取っていただいたんですかね? だとしたら…… あでぃがどおございばずううううううううううううううううううう!!(じゃんぴんぐ土下座) というわけで『絶対あき』と名乗らせていただきます。 よろしくお願いします。 ご感想やご意見がございましたら感想掲示板までお願いいたします。 http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1274852787/l50 公餡の方に特別出演していただきました。 作者の方にお礼申し上げます。 公餡の設定がすごく自分好みです。いずれ公餡vsゆっくりの虐殺無双でも書いてみようかしらw 過去の作品はデータを消去してしまって確認とれず……orz 判る範囲内で…… anko 433 ゆっくり親子 とクズ人間 ~Another~ anko 496 あるドスのゆっくり anko 530 絶対的虐待意思 anko 650 絶対的虐待意思 0 anko 684 ドス以外いらん anko 733 あるドスの最後 anko 745 絶対的虐待意思 ~せめてゆっくりらしく~ anko 815 おかねさんとゆっくり anko 901 原材料 anko 935 底辺ゆっくり anko1438 どぼじでごんな”ごどずるの”おおおぉぉ anko1449 ゆっくりの境界線 anko1469 ゆっくりの崩壊
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/319.html
・作者は取り立てあきですω ・HENTAIなしです。 ・制裁部分弱めかもしれません。 ・少しパロ部分あります。わからなくても大丈夫だと思います。 ・独自設定ってことで勘弁です。 ・よろしくおねがいします! はぁ。今日の朝も嫁に責められた。 俺だって好きでこんな安月給の会社に勤めているわけじゃない。 不況だし、転職だって難しい。 自分には大したスキルなんてのもないわけで。 世間ではブラックと呼ばれる会社ではあるが、給料はくれる。 まぁ残業代はでないし、有給なんてとてもじゃないけど消化できない。 GWだからって遊びに出掛けたかったけど、どこも混んでいるし何よりホテル代とかあほに高い。 子供に良い思い出を作らせたいっていわれても・・・まだ赤ちゃんじゃねーかよ。 できることと、出来ないことだってあるんだ畜生。 残業を切り上げて珍しく早い時間に退社したものの、 家に帰るのが億劫な俺は公園のベンチに腰掛け煙草をふかしていた。 「ゆぅ・・・そんなこといわれてもなのぜ・・・」 帽子もなんだかよれよれした、疲れた様子のまりさが近くによってきた。 「ゆ・・にんげんさんもなんだかゆっくりしてないのぜ?」 野良のゆっくりってのは人間に会った場合、 あまあまよこせだのからんでくるか、即姿を隠すのが普通。 だがこのまりさは俺に話しかけてきた。 「お・・・まりさもゆっくりしてねーのな」 「ゆん・・・にんげんさんにそんなふうにみられるなんて。やっぱりまりさはゆっくりしてないのぜ・・」 そう言うとまりさは俺の隣に腰掛けた。ぼーっと空を見つめている。 「お互いゆっくりできねーな・・・」 「そーなのぜ・・・。まりさにもげんかいさんはあるのぜ」 まりさはぽつりぽつりと話しだした。 いつもならゆっくりなぞすぐ追い払うのだが、今日の俺はこいつの話を聞きたくなった。 「れいむがまりさのことをぐずっていうのぜ。まりさだってがんばっているのぜ・・」 「そーだよなー。うちも同じだ。働いてるところとか見てないくせにな」 「そーなのぜ!かりはきけんがいっぱいなのぜ!でもまりさはがんばっているのぜ!」 「そーだよな!文句言われたって頭下げて頑張ってるのに。会社でも責められて家でもなんてな!」 「まりさもなのぜ!むれのぱちゅりーにはのるまのごはんさんをちゃんとあつめろっておこられるのぜ おうちにかえってゆっくりしたいのにれいむにごはんさんすくないってまたおこられるのぜ・・・」 ゆっくりの社会も人間の社会も似たようなもんか。 いやゆっくりなんだから人間とは違うけれども、ゆっくりなみに低レベルにはなっているが それなりに大変だってことなんだなーとぼんやり考えていた。 「ま、愚痴ったってはじまらねーけどな・・・」 「そうなのぜ。おちびはかわいいのぜ・・・おちびのためにごはんさんはひつようなのぜ」 「そーだな・・・また仕事がんばらねーとな」 「ゆん。まりさもかりをがんばるのぜ」 「おう!まりさも頑張れよ!俺もがんばるわ」 そういって別れを告げるとまりさは夕日を背に狩りに消えていった。 自分も重たい足取りではあるが帰宅の途に就いた。 ・・・それから何日か後・・・ なんてこった。 嫁が浮気してやがった。 相手はピザ屋の店長らしい。 ピザを注文して何回かうちにきているうちにそうゆうことになったそうだ。 一昔前のAVかって展開だ。店長だから俺より金も持ってるんだと。 ってか子供一人しかいないし赤ちゃんなんだから飯ぐらい自分でつくれねーのか。 俺が汗水たらしてもらった金でデリバリーなんか頼むか普通。 あいつに家計なんかまかせるんじゃなかった。 あー。もー。 やってられね。まじ離婚だ。 むしゃくしゃがおさまらず、また公園のベンチでぼーっとこれからのことを考えていた。 近くで物音がする。 口喧嘩をしている風だ。 しばらく聞いていると、まりさがこっちに駆けてきた。 「ゆはぁゆはぁ・・・・れいむなんてさいてー!だよ!・・・・ゆ?このまえのにんげんさん・・・」 息を切らしているまりさに持っていたジュースをかけてやり落ち着かせた。 「れ、れいむがうわきさんだったんだよぉぉぉ!」 なんてこった。こいつ、俺とシンクロ100%かよ・・・・。 「かりをしておうちにかえったらありすとすっきりー!してたんだよ・・・」 「・・・そっか・・・お互い大変だよな・・・まったく」 「ゆ!・・・もしかしてにんげんさん・・・なんかあったのぜ・・?」 「お前と同じだよ。嫁がな・・・」 俺たちの心とは逆に今日もまた夕日がきれいだった。 まりさと俺はまたぼーっと空を眺めていた。 どうやったって俺は人間だ。制裁ったって、法に触れるようなことはできない。 しかし。 まりさはゆっくりだ。 「まりさ・・・どうだ。力を貸してやる」 「・・ゆ?・・」 「れいむだっけか?復讐したくないか?」 「・・ゆん・・・」 「悔しいよな?まりさは上手くないかもしれないけど狩りだって頑張ってたのにな」 そういうとまりさはこらえていたものが溢れだしたように、 「ゆぅぅ!・・ばりざ・・ばりざぁぁ・・・!!!!いっぱいがんばってたのぜぇぇぇ!!!」 まりさは涙を流し始めた。 正直俺だって泣きたい。だが今は俺の分身のようなこのまりさを助けネバダ! 「ゆん!ぐずなまりさとばいばいできてれいむはしあわせー!だよ!」 「ありすにぜんぶまかせるといいわ!ありすはあんなまりさにはまけないよ!」 「ゆぅぅーん!さすがれいむのえらんだありすだね!」 そんな声がするまりさの元おうち。ちなみに子ゆはぐーすか爆睡している。 ガサガサ 「ゆ!きっとまりさだね!またきたの!?れいむはありすとらーぶらーぶなんだよ! じゃまものはゆっくりきえてね!ぐずだからりかいできないの!?おぉあわれあわれ!」 「そうよ!まりさはぐずだったかられいむはありすのものにしたのよ! ゆふふ!このじまんのぺにぺにれいむはむっちゅー!なんだよ!」 「ゆぁん!は、はずかしいよぉありすぅー!ありすのぷれいはてくにっしゃんっ!だよぉぉ!」 俺はすかさず巣である段ボールを取り払う。 「ゆ!に!にんげんさん!・・・ゆっふっふ!れいむのありすはつよいんだよ!にんげんさんなんていちころだよ!」 「おそろしーしーもらすまえにさっさといなくなるといいわ!ありすはちぇんにもまけないんだからね!」 とりあえずありすにパンチを一発見舞った。 「ゆぼらぁぁっ!」 たった一撃で痙攣し出すありす。 「・・・ゆ・?ゆわぁぁ!!!!!!!に!にんげんさん!ありすはどうなってもいいかられいむを ゆっくりたすけてね!・・・ゆん!れいむはとってもきゅーとなんだよ!なんだったられいむを かいゆにしたっていいんだよ!・・ゆん・・かわいいれいむにみとれてなにもいえないんだね! それはあたりまえっ!なんだよ!かわいくってごめんねー!」 俺はまた拳をふりあげれいむにパンチをお見舞いしようとする。 「ゆぅぅぅんんやぁぁぁぁ!!!!!やめてねぇぇぇぇ!!!!!!」悲鳴をあげるれいむ。 「ゆっくりやめるのぜぇぇ!!!!」 れいむに拳が触れるすんでのところでまりさが現れた。 「ゆぅぅぅぅぅ!!!!!まりさぁぁぁ!!!!!かわいいれいむをゆっくりたすけてね!」 さっきまでいちゃいちゃしていたありすのことは頭の片隅にもないらしい。 「ゆん!にんげんさん!ぼうりょくっ!はいけないのぜぇ!」 「ほぉー。俺とやる気か・・・?」 「ゆん!まりさのつよさをおもいしるといいのぜぇぇ!」 そういうとまりさは渾身の体当たりをおれにぶちかます。 ぽゆんぽゆん 「ゆぅぅ!さすがれいむのまりさだよぉぉ!!!かっこいいよぉぉ!!!!」 れいむは目をキラキラさせてその光景をみていた。 「うぐっ!?なかなかやるまりさだな!」 「ゆっふん!まりさはつよいんだよ!」 ぽゆんぽゆん 「うぐ・・・やられたぁぁぁ・・・凄く強いまりさだった・・・がくっ」 ・ ・ ・ 「ゆん!れいむのかわいさにもどってきてくれたんだねまりさ!」 餡子脳でいい具合にシナリオが改変されてるらしい台詞を放つれいむ。 「まりさ・・かっこよかったよぉぉ!・・・きょうすっきりー!してもいいよぉ! こんなよわよわなありすなんてさいってー!だよ!れいむのおっとはまりさしかいないよ!」 「ゆん?なにをいってるのぜ?」 「・・ゆん!?」 さっきまで頬を染めて目を輝かせていたれいむは凍りつく。 「れいむはありすとうわきさんだったのぜ。そんなやりまむなれいむにはようはないのぜ」 「・・・ゆ?れ、れいむがかわいすぎてもどってきたんじゃ・・・」 「よごれゆっくりとはいっしょにいられないのぜ。こっちまできたなくなるのぜ。 おちびをつれにきたのぜ。おちびのきょういくっ!にあくえーきょーなのぜ。」 俺はそっと弱っているありすにジュースをかけてやる。あくまで死んだふりをしつつ。 「じゃぁもうよごれいむにはようはないのぜ!そこのよわよわさんなありすとゆっくりするといいのぜ!」 まりさはぽゆんぽゆんとその場を離れた。 残されたのは死体のふりをしている間抜けな俺と餡子脳がフリーズしているれいむ。 そして回復したありすだった。 「・・・れいむ・・ありすをばかにしたわね・・・」体力ゲージ満タンのありすはれいむに凄む。 「そーだなー。ありすだって頑張って戦ったのにな。」 すかさず俺はなんとなくその会話に入り込む。 二匹はお互いを睨みあっているので俺のことは視界に入ってないようだ。 「『ありすはどーなってもいい』とも言ってたなぁ。本当、ゲスなれいむだな」 「ゆん!ほんとにげすなれいむにひっかかったわ!ありすはいっしょうのはじよ!」 「ゆわぁぁ!なにいってるの!じょ、じょーだんさんにきまってるでしょぉぉぉぉ!!!!!」 「こんなゲスなれいむは制裁したほうがいいんじゃないか?」 俺はありすを鼓舞する。 「ゆぅぅぅ!やめてね!れいむにはかわいいおちびちゃんがいる・・・ってどぼじでいないのぉぉぉぉ!!!???」 「もおゆるさないよ!・・・かがやけぇ!ありすのぺにぺにぃぃ!もっとかがやけぇぇ!!!!」 自分の武器ともいえるぺにぺににカスタードを充満させた。 これでもかというほど膨張している。が、別に輝いてはいない。 「ゆぅ!れいむはゆっくりにげるよぉぉ!そろーりそろーり」 ピュン 「ゆ!」 「ゆっふっふ!れいむ!はやさがたりないわぁぁぁ!!!!!!」 俺にしてみりゃゆっくりの動きに変わりないが、とろいれいむの前にありすが立ちはだかる。 「しょーげきのぉぉぉぉ!!!!ぺにぺにぶりっとぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 ぶっしゃー!!! 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 ・ ・ ちょっと見ていたかったが俺はその場を後にした。 ベンチに向かうとまりさと子まりさが俺を待っていた。 「ゆー!にんげんさんめいえんぎっ!だったよぉ!」 「そっかぁ?まぁそれならいいんだけど」 「・・・ほんとうにまりさはにんげんさんとあえてよかったよ・・・!」 そういうとまりさは俺にぺこりと礼をするような動きをした。 「そろそろおにーさんって呼べよ。そこのちいさいのもな」 「「ゆ・・?」」 ありきたりな展開かもしれないが俺はこいつらを飼うことにした。 嫁とは間に人をいれて話し合いをしている状態だ。 俺に非は無いわけだし、経済力も俺の方がある。 なによりあんなでいぶまがいの女に俺の子供を預けておきたくない。 今は親権について争っているのだ。幸い、俺の両親も近くに住んでいるので問題ないだろう。 まえより少し狭くなってしまったが十分な広さがあるこの賃貸アパート。 元気にまりさたちは跳ねている。 「ゆぅ!おにーさんのおちびにもあいたいのぜ!」 「そーだなー。俺も早く会いたいな・・・」 きっともうすぐ男(?)4人の生活になるだろう。 「まりさ」 「ゆん?」 「今度は俺ら、でいぶに引っかからないようにしねーとな!」 アトガキ うーん、なかなか面白い設定って転がってないですね~。 少しパロった元ネタアニメ。凄く面白くてすきなんで出してみました。 わかるひといますかねー 過去に書いたもの anko1396 しゃっきんさん anko1427 しゃっきんさん その後。 anko1439 むしゃくしゃさん anko1445 おりぼんさん anko1470 しんぐるまざーって大変だね! anko1494 はとぽっぽ
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/2985.html
『聖者の……』 19KB いじめ 飼いゆ 野良ゆ 都会 愛護人間 虐待人間 独自設定 14作目 正式タイトルは後書きに 「れいむぅ、またあえたねぇ!」 「まりさぁ!会いたかったよぉ!」 とある公園ですーりすーりと2匹のゆっくりが体を擦りつけあっている。人間からすれば気持ちの悪い光景であるが、2匹はとても仲が良さそうである。 野良ゆっくりの番だろうか、そう思って2匹を見れば明らかに身なりが異なる。 一方のまりさは明らかに野良であろう、髪や体は汚れお帽子には様々な傷が残っている。 ところがその相手のれいむは違う、つやつやの髪や体には汚れ一つ無く、綺麗にアイロンがかけられたリボンには日差しを浴びて黄金色に輝くバッジが留められている。こちらは明らかに人の飼いゆっくりにである。 そんな不釣合いな2匹が仲良くしているのだ、れいむの方は綺麗な体にまりさの汚れが移るのも気にせずすーりすーりをしている。 「まりさと会えなくてれいむは泣きそうだったよぉ!」 「まりさもだよ!れいむがきてくれなくってさびしかったよぉ!」 そう言って肌を擦り付けあう、不釣合いな2匹であるが恋ゆ同士である。 「まりさぁ、れいむはまりさとずっと一緒にゆっくりしたいよ!」 「れいむっ!まりさもだよ。でも……」 すーりすーりをしていたまりさの笑顔が曇った。それを受けてれいむの笑顔にも影が差す。 「ゆぅ、まりさ」 「れいむ、まりさはのらだよ。かいゆっくりのれいむとずっといっしょにゆっくりするのはむずかしいよ!」 暢気に逢引をしていた2匹も、やはりその問題は理解しているらしい。 「まりさ……でも、れいむは!」 「いいんだよ、れいむとあえるだけでまりさはしあわせーだよ!」 「まりさ……でもなかなか一人では公園さんには来れないんだよ」 「ゆぅ……」 「前にお兄さんにお願いしたけど、まりさのことは許してくれなかったし」 「もしバレたら、お家から出してもらえなくなっちゃうよ……」 「……いやだよっ!そんなのいやだよ!」 大人しくなった2匹は広がる沈黙の中体をくっ付け合った。 「まりさ……れいむはもう帰るよ……お兄さんが心配するから」 「ゆぅ、わかったよ……きをつけてかえってね!」 名残惜しそうに見詰め合うが、そうのうちどちらとも無しに相手から離れ、れいむは草むらに置いてあったすぃーに乗り込んだ。 「じゃあね……まりさ!」 そう言って走り出すれいむの後姿を、まりさは見えなくなるまで見つめていた。 「ただいま……お兄さん」 れいむがお家の庭に戻ると、部屋の中に人影か見えた。れいむの飼い主のお兄さんが既に帰ってきているのだ。 「やぁ、れいむお帰り。ちゃんと足を拭いて上がってきなよ!」 れいむの声に気が付いたのか、お兄さんの返事が返ってくる。すぃーを仕舞うと入り口のマットにあんよを擦りつけれいむはお家の中に入った。 「おかえりれいむってまたそんなに汚れて!どこに行ってたんだい?」 そう言ってお兄さんはれいむを抱き上げ顔をタオルで拭いてくれる。れいむは公園さんだよと答えながら悩んでいた。 お外から帰ったら優しく拭いてもらう、昔はこれが大好きだった。わざと体を汚して帰った事もある。 お兄さんがれいむに優しくしてくれるこれは、れいむにとって何よりのゆっくりだった。しかし今は違う、タオルで拭かれるとその場所からまりさのぬくもりが消えてしまう様だ。 お兄さんとまりさ、れいむはどちらを取ればいいのだろうか。 れいむのお兄さんは所謂「愛でお兄さん」でとてもゆっくりした人間さんだ。しかしれいむは知っていたお兄さんはれいむや他の人の飼いゆっくりは好きだが、野良ゆっくりは嫌いなのだ。 最近は少なくなったが、野良ゆっくりによる庭への被害やおうち宣言などは時々起こり、町の人の野良ゆっくりに対する感情は害獣に対するそれである。 お隣に住んでいる虐待お兄さんの様に嬉々として野良ゆっくりを捕らえたりはしないが、昔お庭を荒らした野良ゆっくりをお兄さんが捕らえてお隣の虐待お兄さんに引き渡すところをれいむは見てしまっていた。 お隣のお家からは常にゆっくり出来ない空気が漏れ出している、あんな所に遣られてしまったゆっくりはどんな恐ろしい目に遭わされるのだろう、あれを見た夜れいむはゆっくり出来ない夢を見てしまった。 遊びに行った公園で知り合った野良のまりさと友達になったという話をしたときお、兄さんの目に冷たい光が宿ったのも覚えている。 もし野良のまりさと番になりたいなどと言えば、れいむはまりさ共々虐待お兄さんの所に遣られてしまうだろう。仮にれいむは助かってもまりさは永遠にゆっくりさせられてしまう。 どうしよう、大好きなお兄さんと大好きなまりさ、どちらを取るべきなのか。 そんな事を悩んでいる間に、れいむを拭き終えたお兄さんはれいむを抱えて炬燵の所へ行き、れいむを座布団に乗せてくれた。 「ゆぅ、ありがとうお兄さん!」 思考の渦から浮かび上がったれいむは慌ててお礼を言った。お兄さんは笑顔でそれに応じると炬燵に入ってテレビのスイッチを入れた。 途端に騒がしくなる部屋の中、テレビはお兄さんが気を使ったのかゆっくり関連チャンネルである。今も画面の中では胴付きうどんげが新商品の宣伝をしているが、考え事をしているれいむの耳には何も入ってこない。 「なぁれいむ、お前番とか欲しいか?」 急にお兄さんがそんな事を聞いて来る、驚くれいむ。テレビの画面ではタゆントと思しきれいむとまりさの番とそのおちびちゃんが「むーしゃむしゃしあわせー!」と言って加工所の新商品のゆっくりフードをパクついている。 「ゆっ、お兄さん!」 驚かされたがれいむの中に小さな希望の火が灯る、れいむの悩んでいた問題があちらから近づいて来たのだ。ここでお兄さんにお願いすれば。 「欲しいなら今度ペットショップに見に行くか、れいむの相手なら金バッジにしような!」 一瞬立ち直りかけたれいむは、その言葉でどん底に落とされた。ダメだ、やはりお兄さんはれいむの相手にはバッジ付きを考えている、野良のまりさの事などいえるわけが無い。 「最近はお見合いをさせてくれるショップも多いからな、最初は顔だけ見に行っても……」 そう言って色々なゆっくりの話をしているお兄さんに、れいむは生返事を帰すことしか出来なかった。やはり、どちらかを選ばなければならない。 「ゆぅ、ここをれいむのゆっくりプレイスにするよ!奴隷はさっさとあまあまを持ってきてね!」 次の日、家に帰ってきたお兄さんにれいむはその言葉をぶつけた。れいむが出迎えに来たと思っていたお兄さんの笑顔が凍りつく。 「れ、れいむ……」 「何してるの、ご主人様の命令だよ!早くあまあまの準備をしてね!」 昨夜一晩寝ずに考えれいむは決断した、れいむはまりさと生きよう。お兄さんは大好きだ、でもまりさはそれよりも大好きなのだ。 金バッジであるれいむが野良のまりさと生きることは出来ない、それならばれいむが野良になるしかない。 「何言ってるんだれいむ!れいむはそんな子じゃ無いだろう!」 解凍されたお兄さんが悲しそうな顔で叫ぶ。ごめんなさい、れいむはその顔を見て泣きそうになったが顔に出すことは出来ない。 大好きなお兄さんに、まりさとずっと一緒にゆっくりしたいから野良に成ります、などと言ったらおにいさんは深く傷付くだろう。 そうしないために方法は一つしかない、れいむが捨てられればいいのだ。お兄さんがれいむに失望して嫌いになって捨てれば、感じるのはれいむに対する怒りだけだろう。 「さっさとあまあまを用意してね、れいむはすーやすーやして待っているよ!」 お兄さんの言葉に答える事無くそう言ってお家の中に引き返す、 「なっ、何だこれは!」 居間に戻ったお兄さんが悲鳴を上げる。そうだろう、今日の昼間れいむが荒らしておいたのだ。 れいむの座布団はあちこち噛まれ綿がはみ出している、お昼にと置かれたゆっくりフードが撒き散らされ、テレビの横にあった広告のチラシがちぎられ紙ふぶきの様になって部屋中に散らばっている。 「何で……何でれいむがこんな事をっ!」 部屋を見回した後、れいむの方に向き直るお兄さん。 「ゆぷぷ、れいむのおうちを都会派にこーでぃねーとしたんだよ!荒らさないでね!」 れいむが考えたお兄さんに捨てられるための方策、それは昔金バッジ教育で禁じられた、噂に聞く最低のれいむ――でいぶになる事だった。 今まで良い子だったれいむの急な行いに驚き戸惑っているお兄さん、部屋を片付けれいむを叱るがでいぶになったれいむはその程度ではやめない。 ご飯さんは「むーしゃむーしゃしあわせー!」と言って食べるし、食べ終わっても足りないと文句を言う、さらに部屋の隅にティッシュさんをひいてその上で――おトイレ以外の場所でうんうんまでしたのだ。 「れいむっ!あんまり酷いとお仕置きをするぞ!」 そう言って凄むが、優しいお兄さんが暴力を振るえない事をれいむは良く知っている。 「何言ってるの?奴隷がれいむに生意気言わないでね!」 「れいむっ!これ以上やるならゆっくりスクールに行ってもらうぞ!」 「馬鹿なの?ゆっくりスクールもれいむのゆっくりプレイスにして上げるよ!」 次の日になっても2人の問答は続いていた、お兄さんは必死になってれいむを更生させようとしてくる。 「なぁれいむ、いったい何が不満なんだ……僕が何か悪い事したのかい?」 お兄さんが悲しそうな顔をして聞いてくる。 ごめんなさいお兄さん、れいむは心の中で泣いた。しかしお兄さんを深く傷つけないためにはこれしか無いのだ。 「不満?何ってるの、れいむは不満だらけだよ、汚いおうちに嫌なじじい、れいむはこんな所に居るようなゆっくりじゃ無いよ!」 「……れいむ……そんなことを言うなら、ここから出て行ってもらうよ」 下を向いてそう告げるお兄さん。来た、れいむの待っていた言葉が来たのである。 「ふん、ならこんなお家出て行ってやるよ!れいむにはもっと相応しいゆっくりプレイスがあるからね!」 「バッジさんなんて要らないよ、れいむは自由になるんだよ!」 その言葉にれいむを見つめて黙っていたお兄さんは溜息を付くと、 「分かったよれいむ、好きにするといい。でも金バッジは着けていきなさい!」 冷静な口調でそう言った。 それはダメだ、れいむは野良ゆっくりに成るのである。金バッジが残っていてはまりさと一緒に生きることが出来ない。 しかしれいむの希望通りにお兄さんがバッジを外してくれる事は無かった。 「じゃあれいむは出て行くよ、これからは自由に生きるからお兄さんもれいむの事はさっさと忘れてね!」 「ああ、れいむ……元気でな。辛かったら何時でも帰ってきて良いんだぞ」 そう言って泣きそうな目でこちらを見つめてくるお兄さん。それを見たれいむも泣きそうになってしまう、涙を隠すように振り向くと玄関から飛び出した。 お家の門扉まで来て振り向く。ごめんなさいお兄さん、れいむはこれから野良として生きます。お兄さんはれいむの事なんて早く忘れてゆっくりしてね。 そうだ金バッジを忘れていた。もみ上げを使ってリボンを外すと金バッジを剥ぎ取る、少しリボンに傷が付いてしまった。 それを門柱の直ぐ横にある茂みに隠すとすぃーに目を向けるが思いなおす、これからは野良ゆっくりなのだ。 お兄さんに貰った物は全て置いて行こう。金バッジも玩具もすぃーも……れいむだけで出て行こう。 れいむはお家の方に振り向くと、深く頭を下げて門から道路に飛び出した。 今まですぃーで通っていた公園への道、徒歩で歩く事を考えるとゆっくりのれいむにとっては長い道のりである。 しかしれいむは野良としての、まりさと共に生きる道を歩き出したのだ、れいむの足取りは軽かった。 人間さんのすぃーにぶつからないように道の端を歩いていると、遥か遠く反対方向からお隣のお兄さんが歩いてきた。 れいむは顔をしかめる、元飼い主のお兄さんとはご近所付き合いをしていたが、ゆっくりの虐待を好むお兄さんであり、れいむにとって見ればとてもゆっくり出来ない人間である。 お隣のお家からは常にゆっくり出来ない空気が漏れ出しているのだ、今もゆっくりキャリーケースを持ってこちらに向ってきている、またどこかでゆっくりを苛めていたのだろう。れいむは目を合わさない様に他の方向を向いて、お隣のお兄さんとすれ違った。 こうしてこの日、れいむは野良ゆっくりと成った。 すぃーで去っていくれいむを見送ったまりさは悲しみに暮れていた。 れいむとは数日置きに会う事が出来たがその時間は短かいものだし、一度会えばしばらく会う事が出来ない。 愛しい相手と会えない事がこんなに苦しい物だとはこれまで思わなかった。 れいむと会える日がまりさにとって最もゆっくりした日である、れいむとすーりすーりをすればそれまでの悲しみも吹き飛んだ。 「れいむ……」 名残惜しそうに既に見えなくなったれいむの方を見ていたまりさは、しばらくそうしてから自分のおうちに帰った。 まりさのおうちは、公園の茂みの中に隠されたプラスチックケースである。町のゴミ捨て場から拾ってきたそれの穴の開いた場所をビニール袋で塞ぎ住処としていた。 おうちの中に入ると新聞紙のベッドに横たわる、れいむが来る事を期待して朝早くから狩りに出たために既に今日の分のごはんの用意はしてあり、おうちの片隅でその臭いとともに存在を主張していた。 それに目をやって思う、やはりれいむとまりさは番に成る事など出来ない。 まりさは町の野良ゆっくりだがれいむは飼いゆっくり、しかも金バッジなのだ。とても一緒に暮らすことなど出来ない。 唯一の救いはれいむとは心が通じ合っている事だが、たとえれいむがまりさと一緒に暮らすことを望んでも飼いゆっくりとしての生活に慣れたれいむにこの公園での生活は不可能だろう。 風が吹けば寒く朝露に怯えなければならないおうち、毎日危険を冒して手に入れる食料は飼いゆっくりから見ればゴミのようなものだし、常に一斉駆除に怯えなければならないのだ。 まりさは考える、やはりれいむと一緒になるためには、まりさも飼いゆっくりに成らなければ。 同じ公園に住む野良仲間など、あからさまにれいむの飼い主に頼めば良いと進めてくる。しかし違うとまりさは思う。 れいむの飼い主にしたって、いきなり野良のまりさがやってきて、自分を金バッジの飼いゆっくりの番にして飼ってくれなど言っても怒るだけだろう。 この公園で生活する中で、そうやってにんげんさんに頼んだゆっくりがどうなるかは何度も見てきた。 まりさも飼いゆっくり、それも出来れば金バッジとなってかられいむの飼い主さんにお願いしなくては。 それになる事の難しさは良く知っている。彼女達の大半はれいむの様に「ぺっとしょっぷ」という所で生まれて教育されたゆっくりで、野良からなるなどは夢のような話である。 もちろん野良達も色々と考える。先日も子ゆっくりを使って飼いゆっくりに成ろうとしたゆっくりが居たが、皆そろって「ゆっくりゴミ」という恐ろしい筒に入れられてしまった。 平穏な生活をするならこの公園で隠れて生活するのが一番良い。しかしまりさはれいむを諦められなかった、この公園で初めてれいむを見たときから心に決めていたのだ。 まりさは愛のために、これまで避けてきた危険な賭けに挑む事にした。 「おねがいします、にんげんさん!まりさをかいゆっくりにしてください!」 翌日からまりさは積極的に公園にやってくるにんげんさんに声をかけた。何としても飼いゆっくりに成る、その一念でありゆっくりしていない相手に当たってしまう危険を冒してまでである。 早朝に最低限の狩りを済ませてから夕方まで、一人一人総当りである、正に必死であった。 しかし、汚れた体の野良ゆっくりを飼ってみようなどという物好きは居ない。 大半はまりさを見ても無視するか、嫌そうな顔をしてから立ち去ってしまうが、一部のにんげんさんは立ち去る前にまりさに暴力を振るって行った。 「またかよ、本当いい加減にしてくれよ、この公園野良が多いな……!」 一度など掴まれてゆっくりゴミに捨てられそうになり、まりさが慌てて逃げ出すという事もあった。 夕方になりおうちに戻ったまりさはボロボロに成っていた。致命的な傷こそ負っていないものの、蹴られた場所には汚れと痛みが走り、お帽子はヨレヨレである。 「まりさ、きゅうにどうしたの?……あんなことして、あぶないわ!」 まりさの近くの茂みに住むありすが、まりさを心配して駆けつけたのも無理の無い話しである。 「ゆぅ……ありす。まりさはね、きめたんだよ。かいゆっくりになって、れいむとずっといっしょにゆっくりするんだよ!」 「でも、このままじゃまりさがえいえんにゆっくりしてしまうわ!」 必死で引き止めようとするありす、しかしまりさの心は動かなかった。しばらく頑張っていたありすも呆れて帰ってしまう。痛む体で食事をかき込み、まりさは明日以降の計画を練っていた。何としても、何としてもれいむと一緒にゆっくりするのだ、その為ならこんな痛みは何でもない。 まりさの希望が叶ったのはその翌日である。次の日も同じように公園にやってくるにんげんさんに声をかけていたまりさだが、 「いいよ、まりさを飼ってあげよう」 そのまりさに良い返事を返してくれたお兄さんが居たのである。 「ほ、ほんとうですか?まりさをかってくれるんですか!?」 思わず問い返してしまった、それぐらい驚いたのだ。周囲の茂みで隠れてまりさを見守っている野良ゆっくり達からも驚きの声が上がっていた。 「うん、実はねまりさが欲しかったんだ。丁度良かったよ!」 その言葉がまりさの中に染み渡った。やった、自分は飼いゆっくりに成れるのだ。 「あ、あでぃがどうございます!よろじぐおねがいじます!」 目の前の地面に顔を打ち付ける様にしてお礼を言う。正にゆっくりしたお兄さんである、まりさにとっては天の助けだ。 「ははは、じゃあ僕の家に連れて行くから、ここに入ってね!」 そう言ってまりさの目の前に下ろされたのは、まりさのおうちの半分位の大きさの箱だった。 まりさは知っている、あれは飼いゆっくりを入れて運ぶ箱である。やはり自分は飼いゆっくりに成れたのだ、その実感と感動でその箱を見つめると、お兄さんが促してくる。 まりさが箱の中に入ると、箱が持ち上げられたのか視界が高くなった。長く生活した公園ともこれでお別れである。 住んでいた茂みからありすが驚きの表情でこちらを見ている。昨日はごめんねありす、まりさは飼いゆっくりになるよ、まりさのおうちはありす達で使ってね。 ありすの方を向いて視線でそんな合図を送るが、驚きっぱなしのありすに通じたのかはわからない。 箱がゆっくりと移動を初めた、これからお兄さんのおうちへ向うのだ。まりさの心は躍っていた。 頑張ってお兄さんをゆっくりさせてあげよう、そうしてまりさは金バッジと成るのだ。 そうしたら、れいむの飼い主のお兄さんにお願いしてれいむをお嫁に貰う、まりさの心の中はこれからの輝ける未来で一杯だった。 その中では、まりさは金バッジとなっており、お兄さんとれいむの飼い主さんに祝福されれいむと番に成っている。2人の間には可愛いおちびちゃんが生まれているのだ、まさにゆっくりした家庭であった。 移動している箱の中でまりさはそんな事を考えていた。上を見上げるとお兄さんの顔が見える、まりさは再び心から感謝した。 まりさは気が付かなかった、この時大切なものとすれ違っている事に…… しばらく進むと箱の動きが止まった、お兄さんのおうちに着いたのだろうか。地面に下ろされ箱の蓋が開けられた。 「ゆぅ、ついたんだね!ここがおにいさんのおうちな……」 まりさの動きが止まった。何故だろうこのおうちからはとてもゆっくりしていない空気が漂っているのだ。 「お、おにいさん。なんだかここはゆっくりできないよ!」 困惑するまりさを他所に、お兄さんは笑顔である。 「いやぁ、良かったよ。またありすが頑張っちゃって、前のまりさが使えなくなっちゃたんだよね!」 「明日の事を考えれば今日の内に確保しなきゃいけないしさ。良かったよまりさ、タイムリーだね!」 何なのだ、お兄さんは何を言っているのだ? まりさは困惑する。おかしい、ゆっくりしたお兄さんだったのに、これではまるで…… 「ま、まさか……おにいさん"ぎゃくたいおにいさん"なの?」 そんな訳が無い、お兄さんはまりさとれいむの天の助けである。お兄さんはその言葉にニッコリと微笑むと。 「ヒャッハー!!!」 この日まりさは、お兄さんの家の飼いゆっくりとなった。 れいむが玄関から出て行ったのを見て、扉を閉めると私は深い悲しみを感じていた。 ペットショップで買って来たれいむとは、これまでずっと仲良くやってきた。れいむは金バッジのゆっくりとして少しも欠点の無い子だったし、その優しい心根は私の慰めになっていた。そんなれいむの突然の反逆である。 ゆっくりを飼うのは初めてだったが、野良なども見ているからゲスなゆっくりと言うのも知っている。 しかしそんなゲスと家のれいむだけは違うと思っていたのだが、ある日突然変わったれいむの行動はまるで話に聞いた「でいぶ」そのものであった。 いったいれいむに何があったのだろう、私の何が不満だったのだろう。 とにかく一度2人とも冷静にならなければと、出て行ってもらったが私としてれいむを捨てる気はさらさら無い。 あれは何かの気の迷いか、私に対して怒っているだけなのだ。少しの冷却期間を置けばまた話が出来るだろう。 これまで飼いゆっくりとして生活してきたれいむが野良として生きて行けるわけが無い、2~3日もすれば戻ってくるだろう、それまで危険な目に遭わないかが心配である。 その時玄関に掛けられているカレンダーが目に入った。明日の日付には大きな赤丸が付けられている。 あぁそうか、明日はアレの日だった。普段なられいむにも一応注意をするのでチェックしてあるのだが、基本的に関係の無い日である。 一斉駆除――街中の野良ゆっくりを一掃するあれである。野良ゆっくりの害は最近減っているが。公園の景観の悪化などが市民か苦情として寄せられ、市は月に1回これをやっているのである。 飼いゆっくりはそれに含まれないが、巻き込まれたりしないようにこれまでれいむはその日は外出させていなかったのだ。 まぁ、れいむは金バッジを付けているから危険は無いだろう。そうだ、外に1人で遊びに行かせるときにした迷子対策のピックアップサービス、あれには有料だがゆっくりの現在位置を教えてくれるサービスがあったはずである、2~3日して帰ってこなかったらあれを使って迎えに行く事にしよう。 心配する事なんて無い、金バッジさえ着けていれば町の中で危険などそう無いのだから。 公民あき 後書き ここまで読んでいただき、ありがとうございました。 今作のタイトルですが、オチをばらさない為にあのようにしましたが、正式には「聖者のすれ違い」にするつもりでした。 混乱を招いてしまったり、ゆっくりひじりが出ると期待してしまった方、申し訳ありませんでした。 前作は「金ゲス」をネタにしたのですが、今作は「善良だけどお馬鹿な金バッチ」になっております。 野良のまりさも比較的善良な個体でしょう、だぜ以外のまりさは初めて書いたかもしれません。 また前作へは様々なご感想ありがとうございました、色々と参考にしています。 過去作品 anko2700 そして新記録 anko2703 ゆっくり公民 ~奴隷制~ anko2720 ゆっくり公民 ~カースト制~(前編) anko2721 ゆっくり公民 ~カースト制~(中編) anko2722 ゆっくり公民 ~カースト制~(後編) anko2764 ゆっくり公民 ~農奴制~(春) anko2765 ゆっくり公民 ~農奴制~(夏) anko2766 ゆっくり公民 ~農奴制~(秋) anko2767 ゆっくり公民 ~農奴制~(冬) anko2802 ゆっくり公民 ~奴隷解放~(前編) anko2803 ゆっくり公民 ~奴隷解放~(中編) anko2804 ゆっくり公民 ~奴隷解放~(後編) anko2814 黒い穴 anko2826 とてもたくさん(300) anko2841 ゲスの連鎖 anko2849 サムライゆっくり anko2878 海に浮かぶ楽園 anko2902 イベント前の加工所 anko2913 でゅえる・ゆっくり anko2925 幸せなあまあま 挿絵:にとりあき
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/41.html
『飼われるって幸せな事』 D.O 「ゆっくりしていってね!!」 ゆーん。やっぱり朝のご挨拶はゆっくりできるよー。 お空も晴れてて、太陽さんもゆっくりしてるね。 まりさは今日も、とってもゆっくりしてるよ! 「のーびのーび、すっきりー。」 すーやすーやした後は、のーびのーびするとすっきりーだよ。 まりさは、朝は必ず初めにのーびのーびしてるんだよ。 ゆっくりしてるよね。 ゆ?まりさのことを、教えて欲しいの?ゆっくり理解したよ。 まりさは、お兄さんの飼いゆっくりのまりさだよ。 ゆふぅん。少し前までは野良だったんだけど、 とってもゆっくりしたお兄さんが、飼いゆっくりにしてくれたんだ。 だからまりさ、とってもしあわせ~だよ。 ゆっくりよろしくね。 お兄さんのおうちは、とっても大きくて、木さんで作ってあるんだよ。 でも、大きすぎてまりさはちょっと苦手かな。 だから、お兄さんのおうちの隣に、まりさだけのおうちを作ったんだよ。 ゆっくりしてるでしょ。 「ゆ~ん。ゆ!ごーくごーくするよ!」 のーびのーびが終わったら、次はごーくごーくするんだよ。 これもいっつもやってるんだよ。 飼いゆっくりは、大事なことは毎日必ずやるんだよ。 まりさは野良だったけど、ずっと前に死んじゃったお母さんが、ゆっくり教えてくれたんだよ。 きれいなお水さんは、野良だったときはなかなか無くって大変だったよ。 でも、今はお庭の『たらいさん』に必ず入ってるから、ゆっくりできるよ。 「ごーくごーく。ゆっくりー!ゆふぅん。ちゃーぷちゃーぷ。おぼうしさん、ゆっくりしてるね。」 ごーくごーくしたら、ついでに身づくろいもするよ。 大事なお帽子は、お水でちゃーぷちゃーぷすると、とってもキレイになるんだよ。 ゆっくり! 「ぺーろぺーろ。まりさのかみのけさん、ゆっくりしてるよー。」 お帽子さんの次は、体もきれいにちゃーぷちゃーぷ、ぺーろぺーろするんだよ。 『たらいさん』のお水に映ったまりさ・・・寝グセも無いし、とってもゆっくりだね。 こうやって、朝の体操と身づくろいが終わったら、次はゆっくり朝ごはん。 今日もたくさんむーしゃむーしゃするね。 「ゆ!たんぽぽさん、ゆっくりしていってね!!」 お兄さんのお庭には、たっくさんご飯があるんだよ。 今日は豪勢にタンポポさん。 フワフワで、ちょっとあまあまで、ちょっと苦くって、 お母さんが、生まれてすぐに食べさせてくれた茎さんみたいで、とってもゆっくりしてるんだよ。 「むーしゃむーしゃ、ごっくん。し、し、しあわせー!!」 ゆっへん!まりさは、飼いゆっくりのごはんの食べ方も知ってるんだよ! お口にごはんがあるのに『しあわせー』したら、 周りを汚しちゃうからダメなんだよね! 『ふぁぁ・・・ああー、いい天気だ。』 ゆ!お兄さんが起きたみたいだよ。 まりさはゆっくりした飼いゆっくりだから、元気にご挨拶するね! せーの・・・ 「ゆっくりしていってね!!」 --------------------------------------------- 「頭痛てぇ・・・」 「うげぇ・・おい、マサル。水くれ、水ぅ・・・」 「台所知ってんだろ。自分で行け・・・昨日は飲みすぎた・・・」 「潰れるまで飲んだの久しぶりだ、ったく・・・気持ち悪ぃ・・・。」 朝。 ここは、畑とかの間にポツンポツンと家が建っている、いわゆる田舎町だ。 そして、二日酔いで苦しんでいるお兄さん達の一方は、一郎お兄さん。 この古き良き農家を思わせる、年季の入った木造平屋に住んでるお兄さんである。 で、もう一人はマサルお兄さん。 都会から里帰り中のお兄さんで、一郎お兄さんの親友であった。 中学生の頃は、『M1コンビ』などと呼ばれ、大変なエロガキ達として名を馳せていたものだが、 今ではそこそこ落ち着いた社会人達である。 二人だけになると、ついつい羽目をはずしてしまい、今日のような状態になるのだが。 ガラガラガラッ マサルお兄さんが這うようにして台所に向かっている間に、 一郎お兄さんは居間の障子を開けた。 「ふぁぁ・・・ああー、いい天気だ。」 『ゆっくりしていってね!!』 「・・・ああ、ゆっくりしていってね(棒読み)。」 『ゆゆー!!ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!!』 「はいはい。ゆっくりゆっくり。」 まりさは挨拶を返された事に大変満足らしく、雑草だらけである意味芝生になっている庭を、 ぽゆんぽゆん跳ね回っている。 と、そこにマサルお兄さんも戻ってきた。 「ほぉ。そいつが例の・・・」 『ゆゆっ!?おにいさん、ゆっくりしていってね!!』 「・・・おお、ゆっくりしていってね(棒読み)。」 『ゆわーい!!ゆっくり!ゆっくり!!』 。 「いいゆっくりだな。」 「ああ、性格は相当いい方だと思う。」 。 「ホントに飼ってないのか?」 「ああ、飼うって言った覚えは無い。」 一郎お兄さんは二日酔いの頭痛をこらえながらボソリと言った・・・。 --------------------------------------------- 「でもなぁ。いくらゆっくりっても、何もしないで誤解はないだろ。」 「何もしてねぇって。」 マサルお兄さんがいつの間にか作っていた味噌汁をすすり、 ほぉ、と言った表情を浮かべた後、一郎お兄さんは話し続ける。 「餌すらやってない。生ゴミ一欠けらもな。」 「じゃあ、雨の日に一晩家に上げたとか?」 「無い。土間にだって入れた事は無い。」 「今見たけど随分小奇麗だったし、体を洗ってやったりとかは?」 「アイツの風呂場兼水飲み場は、庭に置きっぱなしの金ダライとか、プランターとかだ。 まあ、雨水は溜まりっぱなしだし、庭木に水遣りした水とかそのままだから、水には困らんだろうけど。」 「おうちを作ってやったとか?」 「縁側の下に古タイヤ置きっぱだろ。その裏に板っきれとか石とかで壁作って、 勝手に住み着いたんだ。俺がなんかしたわけじゃねえし。」 「・・・うーん。なんかきっかけ無かったのかよ。」 「つってもな・・・あぁ、あれか?」 「あったか?」 「ううん。アレは確か、あいつと初めて会ったときで・・・」 ~ 一郎お兄さん回想 ~ 夕方、縁側で酒を飲もうと外に出たとき・・・ 「ゆっくりしていってね!!」 って言われたんで、思わず 「お、おお、ゆっくりしていけ。」 って、返事したんだよ。 ~ 回想終わり ~ 「以上だ。」 「それで契約成立か・・・」 マサルお兄さんも聞いてすぐは半信半疑といった表情だったが、 一郎お兄さんの真面目な表情を見ると、ゆっくりならばあり得る、とも思ったようだ。 考えて見れば、『ゆっくりしていってね』ってのは色々な意味があるものだ。 ゆっくり的には挨拶でも使うが、人間的な使い方だと『ココに住んでもいいぞ。』とも取れなくはない。 難しいものである。 --------------------------------------------- 『むーしゃむーしゃ・・・もぐもぐ、ごっくん。しあわせー!』 「ほぉ。ちゃんと飲み込んでから『しあわせー』するのか。」 『ゆゆっ!?そうだよ。まりさはかいゆっくりだから、とってもおぎょうぎいいんだよ!』 マサルお兄さんは、また疑問が生まれたようだ。 再び一郎お兄さんに質問をぶつける。 「なあ、あのまりさ、随分しつけられてるっぽいぞ。どっかの飼いゆっくりだったんじゃね?」 「無いな。」 「どうしてよ?」 「自分で言ってた。生まれたときから野良だって。しつけ云々は、母親に教わったらしい。」 「じゃあ、捨てられゆっくりの子供か。」 だが、一郎お兄さんは首を横に振る。 「その母親も、自分の母親から教わったらしい。」 「飼いゆっくりの孫ってことか。」 だが、一郎お兄さんはそれにも首を横に振る。 「んで、母の母も、やっぱり母親から教わったらしい。先祖が人間に捨てられたのは事実らしいが。」 「・・・もう、ほぼ野良じゃね?」 呆然となるマサルお兄さんから視線をはずし、 庭の芝生の上でゴロンと横になって日向ぼっこ中のまりさを見ながら、一郎お兄さんは話を続ける。 「思うに・・・あのまりさは、『飼われる』ってことをよく理解してないようでな。」 「何だよ急に?」 「俺は、まあ、ゆっくりを飼う気は無いんだが・・・・・・、 それにしてもな。まりさに何かを要求されたことが無いんだ。一度もな。」 。 「あまあまよこせ、とか?」 「ああ。食事とか、水とか、おうちとか、ましてや家に上げろとか可愛がれとかも。」 「・・・?んじゃ、まりさは何で飼われてるとか思ってんだよ。」 そして、話題は最初に戻った。 一郎お兄さんも結論は出ていないらしく、うーん、と考えながら言葉を紡いでいく。 「多分だが・・・まりさは、『飼われる』ってのは、人間と仲良くなること、とか思ってんじゃないか?」 「はぁ?」 「つまりな。飼いゆっくりってのは、人間と仲良しだから、 一緒に住んだり、世話してもらったり、守ってもらえたり、バッジをもらえたりするってことで・・・」 だとしたら、それは、あまりにも悲しすぎる話でもあった。 それは、町のゆっくりが、 人間と仲良くなる以外、人間に優しくされることは無いと思っている、ということであり、 仲良くなる=飼われる、と思っているということであり、 ただ、人間と仲良くなりたいがために、 良くない頭をフル回転させて、先祖が人間から受けたしつけを受け継いでいったということで・・・ その日の午後、マサルお兄さんは都会の自分の家に帰るため、 一郎お兄さんの家を後にすることにした。 だがその前に、一郎お兄さんと話をつけて、まりさにある提案を持ちかけた。 「なあ、まりさ。」 『ゆ?なに?おにーさん。』 マサルお兄さんは、ゆっくり日向ぼっこ中のまりさに話かける。 「まりさ、俺の飼いゆっくりにならないか?」 それは、マサルお兄さんの本心でもあった。 しつけのレベルはともかく、これくらい性格のいいゆっくりは、 正直言ってゆっくりショップでは、まずお目にかかれないのだから。 それに一郎お兄さんも、まりさが望めば、好きにしていいと言った。 だが、それに対するまりさの答えは、マサルお兄さんに諦めさせるには充分だった。 「ゆわーい!おにーさん『も』、まりさをかいゆっくりにしてくれるの!ゆっくりありがとう!!」 マサルお兄さんは図らずも、一郎お兄さんの仮説を実証することになったのである。 --------------------------------------------- マサルお兄さんは、帰りの電車の中で考えずにはいられなかった。 『もし・・・もし、まりさのご先祖が、まりさみたいなヤツだったら・・・ そうだったら、まりさもその親も、さらにその親も、野良として生きていくことは無かったかもしれない。 それにしても、人間に捨てられたというまりさの先祖は、 どのような気持ちで我が子達にしつけを施したのであろうか。 そこには、人間には想像もつかないほどの後悔があったのであろうか。 そのしつけだけが、ゆっくりした生活への唯一の足がかりと信じていたのだろうか。 野良としての過酷な生活と、先祖代々受け継がれたしつけの結晶が、 あの飼いやすそうな、善良なまりさだとすれば、ゆっくりというのは悲しい生き物なのかもしれない・・・』 ところで、一郎お兄さんは、マサルお兄さんとこんな話もしていた。 「ホント・・・いいまりさだな。」 「ああ。」 「・・・今後、ホントに飼う予定は?」 「無い。現状維持がお互いのためだ。」 「・・・あのまりさが、奥さんや子供作ったら?」 「知らん。メシをたかったりしなけりゃ、どうでもいい。 隣の家も離れてるから、都会と違って騒音で怒られることもないしな。」 「そうか。」 「・・・そうだ。」 「そうか・・・。」 --------------------------------------------- 2ヵ月後、マサルお兄さんは再び一郎お兄さんの家に遊びに行った。 その時、相変わらずゆっくりしているまりさの帽子を見て見ると、 「ゆっくりしていってね!!」 「おう、ゆっくりしていってね。」 「ゆっくり!ゆっくり!!」 マジックで『野』と書かれた駄菓子屋の缶バッジが付けられていた。 野良バッジか。 まあ、正式な飼いゆっくりまで、もう一息ってところだな。 「まりさ。ゆっくりしろよ。」 「ゆっくり!ゆっくりしていってね!!」 いい加減、一郎も観念すればいいと思うんだが。 餡小話掲載作品 町れいむ一家の四季シリーズ→休止中につき、anko1374にてご確認あれ anko238.txt ぱちゅりおばさんの事件簿 anko394.txt ゆっくりちるのの生態 anko970.txt ごく普通のゆっくりショップ anko989.txt ゆっくり向けの節分 anko1042.txt みんな大好きゆレンタイン anko1052.txt 暇つぶし anko1061.txt 軽いイタズラ anko1136.txt お誕生日おめでとう! anko1149.txt ゆっくり工作セット anko1269.txt 愛でたいお姉さん anko1283.txt ありすの婚活 anko1363.txt 野良も色々 anko1367.txt 労働の意義 anko1374.txt anko1379.txt ドス対処法 anko1388.txt 赤い風船に乗せて anko1393.txt ゆっクリニックへようこそ anko1433.txt 良好な関係 anko1451.txt 余計なお世話 anko1457.txt anko1467.txt 奇跡の公園 anko1476.txt ゲスゆっくりは捨てられる anko1485.txt 嘆きあきリスペクト 本作品 挿絵:全裸あき