約 1,177,114 件
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/113.html
2012年6月13日 『韓国ミステリ史 第四章』では、1980年代から20世紀末までを扱っている。 目次 第四章 1980年代~20世紀末: 韓国ミステリ界の隆盛期第一節 韓国ミステリクラブから韓国推理作家協会へ(1)韓国推理作家協会の創設(1983年) (2)韓国推理作家協会主催 韓国推理文学賞 受賞作一覧 (3)韓国推理作家協会と日本推理作家協会の交流 第二節 スポーツ新聞や雑誌での新人作家発掘(1)スポーツ新聞の新春文芸公募 (2)『小説文学』長編推理小説公募 (3)『季刊推理文学』と金来成推理文学賞 第三節 ミステリ専門の出版社も登場(1)国産ミステリ出版の活況 (2)ミステリ読者の団体「韓国ミステリクラブ」の結成 (3)翻訳ミステリの出版 (4)苦戦するミステリ雑誌 第四節 20世紀末: 出版不況の影 第五節 邦訳された1980年代~20世紀末の韓国推理小説 参考文献 第四章 1980年代~20世紀末: 韓国ミステリ界の隆盛期 第一節 韓国ミステリクラブから韓国推理作家協会へ (1)韓国推理作家協会の創設(1983年) 1970年代半ばからのキム・ソンジョン(金聖鍾)の活躍やその後の翻訳ミステリ叢書の創刊ラッシュなどにより、韓国では推理小説の読者層が大幅に拡大され、推理小説ブームとなった。この時期の韓国での推理小説ブームは日本の新聞でも取り上げられている。 新聞記事「純文学の韓国でなぜか推理小説ブーム」朝日新聞1981年10月1日朝刊、6面 韓国の読書界にちょっとした異変が起こっている。推理小説は育たない、という定説を破って、最近、韓国人作家の推理小説がやたらに売れるようになったのである。純文学中心の韓国文壇では、まだ異端者的存在だが、学生やサラリーマン層に圧倒的な支持を受けている。(中略)ブームの火付け役は、"韓国の松本清張"といわれる延世(ヨンセ)大出身の作家金聖鍾(キム・ソンジョン)氏。 (原文は振り仮名なし) 同記事内にはキム・ソンジョンの写真付きインタビュー記事もある。もっとも、キム・ソンジョンの作品が初めて邦訳されるのはこの20年後の2001年(『ジャーロ』2001年夏号)になってからである。 このような推理小説ブームの中、1972年に結成されていた韓国ミステリクラブが母体となって、1983年2月8日、韓国推理作家協会(한국추리작가협회)が設立される。初代会長は韓国ミステリクラブでも会長を務めた英文学者のイ・ガヒョン(李佳炯)(이가형)。なお2代目会長にはイ・サンウ(李祥雨)(이상우)が就任し、1991年から2005年まで15年間会長を務めた。その後、3代目会長(2006-2008)にキム・ソンジョン(金聖鍾)(김성종)、4代目会長(2009-2011)にイ・スグァン(李秀光)(이수광)が就任し、2012年にはカン・ヒョンウォン(강형원)(本名はカン・ヒョング [姜亨求、강형구])が5代目の会長に就任している。韓国推理作家協会の当初の会員数は30人ほどだったが、20世紀末には80人ほどになっている。 韓国推理作家協会の当初の主な事業は、韓国推理文学賞(한국추리문학상)の選定・授与や、アンソロジー『韓国優秀推理短編コレクション』(한국 우수 추리 단편 모음집)の編纂だった。韓国推理文学賞の第1回(1985年)の大賞はヒョン・ジェフン(玄在勲)(第二章参照)、第2回(1986年)の大賞はキム・ソンジョン(金聖鍾)(第三章参照)が受賞している。 『韓国優秀推理短編コレクション』は1984年に刊行されたのが最初で、1986年にVol.2、1987年にVol.3、1989年にVol.4が刊行されている(収録作一覧)。1998年からは、韓国推理作家協会の編纂でアンソロジー『今年の推理小説』(올해의 추리소설)が毎年夏に刊行されている。1998年版のみ、『コリアン・ミステリ 韓国推理小説傑作選』(バベル・プレス、2002年)というタイトルで邦訳が出ている。(1990年~1997年にもアンソロジーの刊行があったかもしれないが確認できていない) 1988年からは毎年夏に、ミステリ作家とファンの交流イベント夏季推理小説学校(여름추리소설학교)を開催している。2011年の第24回夏季推理小説学校は7月29日から7月31日にかけて開催され、「歴史推理小説を知る」「日本の推理小説のすべて」などの講義が行われた。 写真:「日本の推理小説のすべて」の講義 - 『ハヤカワミステリマガジン』の歴史が紹介されている(韓国推理作家協会会員の推理作家チョン・ソッカ(鄭石華、정석화)氏のツイートより) また、2002年創刊の『季刊ミステリ』(계간 미스터리)は韓国推理作家協会が編者を務めている。『季刊ミステリ』は韓国内外の短編推理小説や評論、最新のミステリニュースなどを掲載するほか、短編ミステリおよび評論を募集する季刊ミステリ新人賞(계간 미스터리 신인상)により新人発掘も行っている。2008年冬号に掲載された季刊ミステリ新人賞受賞作、ソン・シウ「親友」(좋은 친구)は『ハヤカワミステリマガジン』2012年2月号に訳載されている。 (2)韓国推理作家協会主催 韓国推理文学賞 受賞作一覧 ※受賞作で邦訳されているものは1作もない ※この賞はいまも続いているが、ここでは1990年代までのものを示す ※新人に対する賞は「新人賞(신인상)」とされた時期と「新鋭賞(신예상)」とされた時期があるが、このページでは「新人賞」に統一する ※韓国推理作家協会会員の推理作家ソン・ソニョン氏のブログ記事「歴代韓国推理文学賞、新人賞、その他受賞作整理」(2010年10月6日)を参照した ※大賞の受賞には韓国推理作家協会の会員で、かつ推理小説の創作活動を5年以上していることが条件となる。新人賞には特に条件はなく、会員以外でも受賞できる。(『韓国推理作家協会 会員手帳 1993』「推理文学賞授賞規定」参照) 韓国推理文学賞 大賞 韓国推理文学賞 新人賞 第1回(1985年) ヒョン・ジェフン(玄在勲、현재훈)(1933 - ) 『絶壁』(절벽) チョン・ギュウン(鄭奎雄、정규웅)(1941 - ) 『影絵遊び』(그림자 놀이) 第2回(1986年) キム・ソンジョン(金聖鍾、김성종)(1941 - ) 『悲恋の火印』(비련의 화인) チョン・ヒョヌン(鄭賢雄、정현웅)(1949 - ) 『女子大生殺人事件』(여대생 살인사건) 第3回(1987年) イ・サンウ(李祥雨、이상우)(1938 - ) 『悪女、二度生きる』(악녀, 두 번 살다) ユ・ウジェ(柳禹提、유우제)(1955 - ) 『夜』(밤) 第4回(1988年) ノ・ウォン(魯元、노원)(1931 - ) 『危険な外出』(위험한 외출) ハン・デヒ(韓大煕、한대희)(1952 - ) 『華麗なる情死』(화려한 정사) *注1 第5回(1989年) イ・ウォンドゥ(李源斗、이원두)(1938 - ) 『暴君の朝』(폭군의 아침) カン・ヒョンウォン(강형원)(1956 - )キム・サンホン(金尚憲、김상헌)(1955 - ) 『青い王冠』(푸른 빛 왕관)『恍惚のゲーム』(황홀한 게임) 第6回(1990年) - - アン・グァンス(安光洙、안광수)(1955 - ) 『死刑特急』(사형 특급) *注2 第7回(1991年) ハン・デヒ(韓大煕、한대희)(1952 - ) 『憤怒の季節』(분노의 계절) チャン・セヨン(張世娟、장세연) 『広開土魔王』(광개토 마왕) 第8回(1992年) カン・ヒョンウォン(강형원)(1956 - ) 『ソウル・エッフェル塔』(서울 에펠탑) イ・テヨン(李泰栄、이태영) 『悪魔の駆け引き』(악마의 흥정) 第9回(1993年) ユ・ウジェ(柳禹提、유우제)(1955 - ) 『不死鳥の迷路』(불새의 미로) カン・ジョンピル(姜鍾弼、강종필)(1960 - ) 『都市の誘惑』(도시의 유혹) 第10回(1994年) イ・スグァン(李秀光、이수광)(1954 - ) 『死者の顔』(사자의 얼굴) ペク・ヒュ(白恷、백휴)(1960 - ) 『楽園の彼岸』(낙원의 저쪽) 第11回(1995年) イ・ギョンジェ(李慶載、이경재)(1928 - ) 『日本を裁判する』(일본을 재판한다) チャン・グニャン(張根亮、장근양) 『核心』(핵심) 第12回(1996年) - - - - 第13回(1997年) ペク・ヒュ(白恷、백휴)(1960 - ) 『サイバーキング』(사이버 킹) ファン・セヨン(黄世鳶、황세연)(1968 - )チェ・チョリョン(최철영) 『美女ハンター』(미녀 사냥꾼)『赤き十字架のコウモリ』(붉은 십자가 박쥐) 第14回(1998年) - - - - 第15回(1999年) キム・ヨンサン(金容相、김용상)(1942 - ) 『殺人者の仮面舞踏会』(살인자의 가면무도회) チェ・サンギュ(崔尚圭、최상규) 『悲しい出会い』(슬픈 만남) *注1 『華麗なる情死』および『華麗なる情事』の両方の意味をかけたタイトル(「情死」と「情事」がハングルでは同じ表記) *注2 『死刑特急』ではなく『私刑特急』かもしれない(「死刑」と「私刑」がハングルでは同じ表記) 1984年にも韓国推理文学賞が実施されており、チョン・ゴンソプ(鄭建燮)(정건섭)(1944 - )が長編推理小説『罠』(『덫』玄岩社、1983年)で新人賞を受賞している。授賞式は1984年2月7日。このときの主催は韓国ミステリクラブだったようである。チョン・ゴンソプは『罠』をはじめとして初期にはアリバイトリックなどを用いたクラシカルな作品を発表したが、1980年代後半からはスパイ小説『死の天使』(죽음의 천사)などに代表されるスリラーを発表するようになった。邦訳に、大韓航空機爆破事件を題材にした長編小説『真由美 最後の証言』(光文社、1988年)がある。 主な大賞受賞者 第1回(1985年)大賞受賞者 - ヒョン・ジェフン(玄在勲)(현재훈)(1933-1991)第二章参照。邦訳なし。 第2回(1986年)大賞受賞者 - キム・ソンジョン(金聖鍾)(김성종)(1941 - )第三章参照。韓国推理作家協会3代目会長(任期:2006年~2008年)。邦訳に『最後の証人』(論創社、2009年)、『ソウル 逃亡の果てに』(新風舎文庫、2005年)、「帰ってきた死者」(『ジャーロ』2001年夏号)、「失踪」(『コリアン・ミステリ』)。 第3回(1987年)大賞受賞者 - イ・サンウ(李祥雨)(이상우)(1938 - )韓国推理作家協会2代目会長(任期:1987年~2005年)。新聞記者出身の作家。『スポーツソウル』や『スポーツトゥデイ』などのスポーツ新聞の創刊やその経営に携わっている。1961年に新聞連載『新・林巨正伝』(歴史小説?)でデビュー。ミステリではチュ・ビョンテ警官シリーズなどで知られる。1987年、『悪女、二度生きる』(악녀, 두 번 살다)で第3回韓国推理文学大賞。『悪女、二度生きる』と『犬と詩人』はベストセラー。ほかに、初心者向けミステリ入門書『イ・サンウの推理小説探検』などの著書がある。エドガー・アラン・ポーの翻訳もしている。邦訳に「地獄への道行き」(『コリアン・ミステリ』)。 第4回(1988年)大賞受賞者 - ノ・ウォン(魯元)(노원)(1931 - )スパイ小説の第一人者。KCIA(韓国中央情報部)の元局長という異色の経歴の作家。50代なかば過ぎから推理小説を書き始めた。ペンネームの「ノ・ウォン」は「no one」(=誰でもない)から来ている。1988年、『危険な外出』(위험한 외출)で第4回韓国推理文学大賞。『背信の季節』(배신의 계절)はテレビドラマ化され話題になった。ほかの代表作は『三号庁舎』、『夜間航路』など。邦訳に「ブラック・レディ」(『コリアン・ミステリ』)。 第10回(1994年)大賞受賞者 - イ・スグァン(李秀光)(이수광)(1954 - )韓国推理作家協会4代目会長(任期:2009年~2011年)。1983年デビュー。推理小説のほか、歴史小説も多く発表している。1994年、『死者の顔』(사자의 얼굴)で第10回韓国推理文学大賞。邦訳に長編実録小説『シルミド 裏切りの実尾島』(ハヤカワ文庫NV、2004年)、「その夜は長かった」(『ミステリマガジン』2000年10月号)、「月夜の物語」(『コリアン・ミステリ』)。 (3)韓国推理作家協会と日本推理作家協会の交流 1984年3月、東京で開催された国際ペン大会に当時の韓国推理作家協会会長だったイ・ガヒョンが韓国代表として参加し、その機会に中島河太郎と面会している。この面会の様子は中島河太郎が『日本推理作家協会会報』1984年6月号(No.426)掲載の記事「李会長訪問」で伝えている。また正確な年は分からないが、その数年前には中島河太郎は韓国ミステリクラブ総務のファン・ジョンホ(黄鐘灝、황종호)と何度か書簡のやり取りをし、面会もしている。 1990年代に入ると日韓の推理作家協会の交流が活発になる。1990年8月に韓国推理作家協会の代表団が来日。1992年6月には、韓国・釜山(プサン)市海雲台(ヘウンデ)の推理文学館(추리문학관)(1992年3月開館)で日韓の推理作家協会の交流会が行われ、日本推理作家協会からは生島治郎、山村正夫、豊田有恒、麗羅、大沢在昌、西木正明が参加した。 推理文学館前での日韓推理作家集合写真(韓国側の参加者、クォン・ギョンヒ氏のブログ記事) - 1枚目の写真は1992年3月の開館式の日のもの。2枚目の写真が1992年6月8日の日韓交流会の日のもの。 1993年5月には韓国推理作家協会の代表団が再度来日。しかし残念ながら、この後交流は途絶えている。これらの交流をきっかけに、1993年には韓国で日本推理作家協会推薦・韓国推理作家協会編訳『日本サスペンス傑作選』(일본 서스펜스 걸작선)が刊行されている。山村美紗、赤川次郎、小泉喜美子、阿刀田高、夏樹静子、戸川昌子、多岐川恭、原尞、森村誠一、生島治郎、大沢在昌、麗羅(収録順)の短編を収録。同年に韓国で『韓国サスペンス傑作選 金来成(キム・ネソン)から権敬姫(クォン・ギョンヒ)まで』(한국 서스펜스 걸작선 김내성에서 권경희까지)が刊行されているが、これは日本では翻訳刊行されなかった。 詳細記事:日本推理作家協会と韓国推理作家協会の交流 (1990年代) 韓国推理作家協会と台湾の推理作家の交流 1989年には、台湾の推理作家・林仏児(りん ふつじ)の招待で韓国推理作家協会の一団が訪台している。韓国の推理作家イ・サンウ氏のブログでその際の写真を見ることができる(リンク先、上から6枚目の写真)。「歓迎韓国推理作家協……」と書かれているのが読める。 イ・サンウ氏の説明によれば、写真は後列左から、キム・サンホン(金尚憲)、イ・ガヒョン(李佳炯)、イ・サンウ(李祥雨)、イ・ギョンジェ(李慶載)、林仏児、キム・ナム(金楠)、チョン・ヒョヌン(鄭賢雄)、前列左から、ハン・デヒ(韓大煕)、パク・ヤンホ(朴養浩)、キム・ソンジョン(金聖鍾)、ユン・フミョン。(前列一番右の人物は不明) ちなみに林仏児(りん ふつじ)は1980年代の台湾ミステリ界における最重要人物である。詳細は「台湾ミステリ史 中編」を参照のこと。 第二節 スポーツ新聞や雑誌での新人作家発掘 (1)スポーツ新聞の新春文芸公募 このころの韓国では推理小説のメインの発表の場は新聞だった。韓国最初のスポーツ新聞である『日刊スポーツ』(일간 스포츠)(1969年創刊)は1970年代からキム・ソンジョンらの推理小説を掲載していたが、ソウルオリンピック(1988年)の開催決定や1982年のプロ野球発足などでスポーツ新聞の発行部数が増大し、これも推理小説の読者の増加に拍車をかけた。一方、大手の新聞では文学作家による推理小説が掲載されるようになった。『中央日報』や『韓国日報』などには、チョ・ヘイル(趙海一、조해일)(韓国語版Wikipedia)、キム・ソンイル(金成一、김성일)(韓国語版Wikipedia)、イ・ビョンジュ(李炳注、이병주)(韓国語版Wikipedia)、パク・ポムシン(朴範信、박범신)(韓国語版Wikipedia)らが推理小説を連載した。パク・ポムシンは韓国推理作家協会の会員にもなっている。邦訳に『掟』(角川書店、1989年)(原題『틀』)があるが、これはミステリではない。 1985年創刊の『スポーツソウル』(스포츠 서울)は推理小説を掲載しただけでなく、1986年から新春文芸公募に推理小説部門を置き、短編推理小説を公募した。邦訳のある作家ではファン・セヨン(1995年受賞)とイ・ウン(1996年受賞)がここからデビューしている。なお『スポーツソウル』の創刊を主導したのは、のちに韓国推理作家協会の会長にもなるイ・サンウである。イ・サンウは新聞記者出身の作家で、いくつかのスポーツ紙の創刊や経営に携わっている。 ファン・セヨン(黄世鳶)(황세연)(1968 - )1995年、短編ミステリ「塩化ナトリウム」(염화나트륨)が『スポーツソウル』新春文芸公募・推理小説部門に入選してデビュー。1997年、『美女ハンター』(미녀사냥꾼)で韓国推理文学賞新人賞を受賞。2011年、短編「スタンリー・ミルグラムの法則」(스탠리 밀그램의 법칙)で韓国推理文学賞の黄金ペン賞(황금펜상)(2007年新設の短編賞)を受賞。長編の邦訳に『第二次朝鮮戦争勃発の日 D-DAY』(扶桑社ミステリー、2004年)、短編の邦訳に「天の定めた縁」(『ミステリマガジン』2000年10月号)、「本当の復讐」(『コリアン・ミステリ』)がある。 イ・ウン(李垠)(이은)1996年、短編ミステリ「ほくろのあるヌード」(점이 있는 누드)が『スポーツソウル』新春文芸公募・推理小説部門に入選してデビュー。2003年に長編ミステリ『誰がスピノザを殺したか』を発表し、本格的な作家活動を始めた。2007年には美術商である自身の知識を活かした長編ミステリ『美術館の鼠』(邦訳2009年、講談社《アジア本格リーグ》)を発表。以来、『不思議な美術館』(수상한 미술관)(2009年)、『美術館占拠事件』(미술관 점거사건)(2011年)などの美術業界を扱ったミステリを主に発表している。 チョン・ソッカ (鄭石華)(정석화)(1965 - ) ※カタカナでは「チョン・ソクファ」「チョン・ソックァ」とも表記されうる2000年、短編ミステリ「夫をひどく愛する女」(남편을 지독히 사랑하는 여자)が『スポーツソウル』新春文芸公募・推理小説部門に入選。それ以前から編集業のかたわら作家活動をしており、1999年には同年公開の韓国映画『シュリ』(쉬리)のノベライズを担当。このノベライズ本は同年のうちに邦訳『シュリ ソウル潜入爆破指令』(文春文庫、1999年12月)が出ている。オリジナル作品の邦訳はない。 (2)『小説文学』長編推理小説公募 1983年10月15日、小説文学社から不定期刊行物『ミステリ』(미스터리)が出版された。2号まで刊行されたのち、3号からは同社の出版する雑誌『小説文学』の別冊付録となっている。なお2号では「ミステリ」は副題となって『推理小説 ミステリ』(추리소설 미스터리)というタイトルになっており、別冊付録のときは単に『推理小説』というタイトルになっていたようである。掲載内容は国内外の短編ミステリや評論。日本の作品では、1号に森村誠一「魔少年」、2号に同じく森村誠一の「侵略夫人」が訳載されている。 『推理小説 ミステリ』2号と、小説文学1984年12月号別冊付録『推理小説』の書影 (推理作家のイ・サンウ氏のブログ記事、2011年7月8日) なお小説文学社からは1983年、森村誠一の『狼たちの夜会』(流氷の夜会)が出版されている。当時の新聞広告には、「日本推理小説の天才森村誠一が日本の『小説宝石』と韓国の『小説文学』に同時連載した作品『狼たちの夜会』は連載中、両国の推理小説読者たちを熱中させた」と書かれているが、この日韓同時連載が正式に許可を取ったものだったのかは分からない。韓国が万国著作権条約に加盟したのは1987年のことである。 『小説文学』は長編推理小説の公募も実施した。第1回(1985年)はユ・ウジェ(柳禹提)『死のセレナーデ』(죽음의 세레나데)が受賞、第3回(1987年)はカン・ヒョンウォン『証券殺人事件』(증권살인사건)が受賞した(『証券殺人事件』は後に『見えざる手』(보이지 않는 손)に改題)。 ユ・ウジェ(柳禹提)(유우제)(1955 - )1985年、長編ミステリ『死のセレナーデ』が『小説文学』第1回長編推理小説公募で受賞作となりデビュー。1987年、『夜』で第3回韓国推理文学賞新人賞受賞。1993年、『不死鳥の迷路』で第9回韓国推理文学大賞受賞。邦訳に短編「敵と同志」(『コリアン・ミステリ』)がある。 カン・ヒョンウォン(강형원)(1956 - )本名はカン・ヒョング (姜亨求、강형구)。弁護士を務めながら作家活動を行っている。1987年、長編ミステリ『証券殺人事件』(後に『見えざる手』に改題)が『小説文学』第3回長編推理小説公募で受賞作となりデビュー。1989年、『青い王冠』(푸른 빛 왕관)で第5回韓国推理文学賞新人賞受賞。1992年、『ソウル・エッフェル塔』(서울 에펠탑)で第8回韓国推理文学大賞受賞。2012年1月より、韓国推理作家協会の5代目会長を務める。作品の邦訳はない。 (3)『季刊推理文学』と金来成推理文学賞 1988年12月にはキム・ソンジョンが『季刊推理文学』(계간 추리문학)を創刊。さらに創刊号で、長編推理小説を公募する金来成(キム・ネソン)推理文学賞を立ち上げた。 『季刊推理文学』創刊号(1988年冬) 表紙・目次等の写真 『季刊推理文学』3号(1989年夏) 表紙・目次等の写真 創刊号は金来成を特集しており、「初めて発掘公開する金来成の短編ミステリデビュー作」というあおり文句のもと、日本のミステリ雑誌『ぷろふいる』1935年3月号に掲載された金来成のデビュー作「楕円形の鏡」(日本語作品)の韓国語訳が掲載された。ほかに金来成の変格短編「霧魔」(拙訳)や、金来成についての評論なども掲載されている。創刊号には特集記事以外では座談会「韓国推理文学の展望」や韓国内外の短編ミステリが掲載され、日本の作品では松本清張「証言」が訳載された。 『季刊推理文学』は韓国の初の推理小説専門誌だとされている。1980年代末から1990年代にかけて韓国ではいくつかのミステリ雑誌が創刊されているが、どれも長続きしていない。『季刊推理文学』も1991年9月発行の第10号(1991年秋号)を最後に休刊となっている。金来成推理文学賞も全3回【注】で終了した。 金来成推理文学賞 受賞作一覧 受賞者 タイトル 第1回(1990年) クォン・ギョンヒ(権敬姫、권경희)(1959 - ) 『痺れた指先』(저린 손끝) 第2回(1991年) イ・スンヨン(李勝寧、이승영)(1963 - ) 『ミス・コリア殺人事件』(미스코리아 살인사건) 第3回(1992年) イム・サラ(林紗羅、임사라)(1963 - ) 『愛するとき、そして死ぬとき』(사랑할 때, 그리고 죽을 때) 韓国の江戸川乱歩ともいわれる金来成(キム・ネソン)(韓国ミステリ史特別編参照)の名を冠した金来成(キム・ネソン)推理文学賞は長編推理小説を公募する新人賞で、受賞作は推理文学社から刊行された。なお金来成の名を冠した文学賞にはほかに、金来成の死去直後に制定された来成(ネソン)文学賞(1958-1960、非公募、京郷新聞主催)があるが、これは推理小説の賞ではない。 金来成推理文学賞の受賞作で日本語に翻訳されているものはない。『コリアン・ミステリ 韓国推理小説傑作選』(バベル・プレス、2002年5月)には、第2回受賞者のイ・スンヨンの短編「隠しカメラ」と第3回受賞者のイム・サラの短編「標的」が収録されている。 第1回受賞者のクォン・ギョンヒ(権敬姫)氏のブログ記事へのリンク第1回金来成推理文学賞授賞式の写真 右から3番目がクォン・ギョンヒ(権敬姫)氏 受賞作『痺れた指先』の書影など 受賞時に新聞に掲載されたインタビュー記事 1(スポーツソウル1990年4月25日)「日本の作家の三島由紀夫の『金閣寺』が特に好きで、推理小説ではイギリスのアガサ・クリスティ、日本の森村誠一、韓国のキム・ソンジョンの作品を多く読んで来た」と紹介されている。 受賞時に新聞に掲載されたインタビュー記事 2(民主日報1990年5月3日)記事では「韓国初の女流推理作家」などと書かれている。またインタビューに答えて「暴力やセックスを排し、知的なゲームを中心にし、社会問題などを提示しながら文学性の高い推理小説を書いてみたいと思っている」ということを語っている。 金来成推理文学賞はいわば韓国版の江戸川乱歩賞とでも言えると思うが、第1回金来成推理文学賞でのクォン・ギョンヒの受賞と、公募制になった最初の回の江戸川乱歩賞(1957年)での仁木悦子の受賞は、単に女性作家ということ以外にもいろいろとオーバーラップする点があるように思えて興味深い。 注:金来成推理文学賞は李建志(り けんじ)「現代韓国ミステリの思想と行動(上)」(『創元推理 20号 人形の夢』2000年10月)では全4回の公募があったとされている。韓国推理作家協会の公式サイトでは全3回とされており、メールで問い合わせたところ、第4回の募集は行われていないとの回答を得た。 第三節 ミステリ専門の出版社も登場 (1)国産ミステリ出版の活況 キム・ソンジョンやイ・サンウの作品がベストセラーになると、明知社(명지사)、現代推理社(현대추리사)、推理文学社(추리문학사)、南島出版社(남도출판사)などの推理小説専門の出版社も登場する。そしてそれらの出版社や、ほかに小説文学社、ヘネム出版、ヘンニム出版などが国産ミステリを多く出版した。 韓国のミステリファンのDELIUS氏がまとめた以下のページで、1980年代の韓国の国産ミステリの新聞広告を見ることができる(翻訳ミステリも数点含む)。 1980年代の推理小説新聞広告 (1980年~1986年) (2011年12月1日)キム・ソンジョン(金聖鍾)やチョン・ゴンソプ(鄭建燮)などの推理作家の作品の広告のほか、パク・ポムシン(朴範信)やイ・チョンジュン(李清俊)などの文学作家が書いた推理小説の広告も見られる。4枚目の写真は森村誠一『狼たちの夜会』(流氷の夜会)の広告。10枚目の写真はフレデリック・フォーサイス『第四の核』、12枚目の写真はロバート・ラドラム『(?)』およびケン・フォレット『獅子とともに横たわれ』の広告。 1980年代の推理小説新聞広告(1987年~1989年) (2011年12月1日)キム・ソンジョン(金聖鍾)やチョン・ゴンソプ(鄭建燮)のほか、ヒョン・ジェフン(玄在勲)、イ・サンウ(李祥雨)、ノ・ウォン(魯元)、カン・ヒョンウォン、ハン・デヒ(韓大煕)、『季刊推理文学』の広告などが見られる。2枚目の写真はジョン・ガードナーの作品の広告。 1996年には韓国推理作家協会の企画による国産ミステリの選集《韓国ミステリコレクション》(全23巻20作品、高麗院メディア)も出版されている(ラインナップ)。 (2)ミステリ読者の団体「韓国ミステリクラブ」の結成 【2012年6月20日追加】 1990年7月、韓国推理作家協会が主催する第3回夏季推理小説学校に参加したミステリファンの約20名が中心となり、ミステリ読者の団体である韓国ミステリクラブ(한국미스터리클럽)が結成されている。主な目的はミステリの読者の拡大と、ミステリの批評の場の提供。同年のうちに会報の発行も開始しており(1991年説もあり)、年末までに会員数は200名近くになっている。1992年に韓国推理作家協会が作成した小冊子では、当時の韓国ミステリクラブの会員数は約350名とされている。 韓国ミステリクラブ制定 推理文学読者賞 受賞作一覧 受賞者 タイトル 備考 第1回(1992年) イ・スンヨン(李勝寧、이승영)(1963 - ) 『ミス・コリア殺人事件』(미스코리아 살인사건) 第2回金来成推理文学賞受賞作 第2回(1993年) イ・スグァン(李秀光、이수광)(1954 - ) 『その日のことは誰も知らない』(그날은 아무도 모른다) 第3回(1994年) イ・イナ(이인화)(1966 - ) 『永遠なる帝国』(영원한 제국) 邦訳2011年、文芸社 ※イ・スグァンの受賞作は『その日のことは誰も知らない』ではなく『憂国の目』(우국의 눈)とも言われる。詳細不明。 ※イ・イナの経歴をネット上で検索してみると、「推理文学読者賞」(추리문학 독자상)ではなく「推理小説読者賞」(추리소설 독자상)受賞となっている。第3回から賞の名称が変わったのかもしれない。 ※1994年2月に韓国ミステリクラブ会長となったパク・ヒョンサン(박형상)のブログの写真(リンク)を見ると、第4回・第5回も実施されたことが分かるが、受賞者が誰だったのかは分からない。第4回と第5回は「推理小説読者賞」という名称になっている。また、第6回以降が実施されたのかは不明。 イ・イナの『永遠なる帝国』は1993年に韓国で出版されベストセラーになった作品。正祖(チョンジョ、在位1777~1800)時代の宮廷での変死事件に始まるミステリで、映画化もされている。『ハヤカワミステリマガジン』2010年10月号の洋書案内コーナーや、『創元推理』20号(2000年10月)および『創元推理21』2001年夏号(2001年5月)に掲載された李建志「現代韓国ミステリの思想と行動」でも紹介された作品である。 この韓国ミステリクラブは少なくとも1994年までは存続したようだが、その後の活動については不明である。 (3)翻訳ミステリの出版 1970年代末からの翻訳ミステリ叢書の出版ブームも終わりを見せず、1980年代から1990年代にかけては主に以下のような叢書が出版されている。 この時期の主な翻訳ミステリ叢書《自由推理文庫》(자유추리문고)(1986年、全50巻、自由時代社) - SFも数冊含む。日本の作品なし 《アガサ・クリスティー・ミステリー》(1985年~1990年、全80巻、へムン出版社[해문출판사]) 《Qミステリ》(1989年~1992年、全46巻?、ヘムン出版社) - 日本の作品は森村誠一『人間の証明』 《キム・ソンジョン精選 最新世界推理小説》(1982年~1993年、全16巻、大作社・推理文学社) 《キム・ソンジョン選ミステリシリーズ》(1988年~1993年、全16巻、南島出版社) 1990年代以降、翻訳ミステリの出版に大きな貢献を果たした人物にミステリ研究家・翻訳家のチョン・テウォン(鄭泰原)(정태원)(1954-2011)がいる。高麗院メディアのミステリ・シリーズ(全20巻)、時空社のエラリー・クイーン選集(全20巻)など、およそ500冊の企画、出版に携わり、そのうち70冊ほどを自ら翻訳している。英語だけでなく日本語にも堪能であり、1990年代には中島河太郎と書簡のやり取りをしていた。2000年代になってからは東野圭吾『白夜行』、首藤瓜於『脳男』などを翻訳している。 1980年代の韓国では、日本の作家では1970年代に引き続き、松本清張、森村誠一、梶山季之が人気を博した。『日本文学翻訳60年 現況と分析 1945-2005(일본문학 번역 60년 현황과 분석 1945-2005)』(召命出版、2008年)(邦訳なし)によれば、1980年代の韓国で多く翻訳された日本の作家(推理作家以外も含む)は順に、三浦綾子、森村誠一、梶山季之、松本清張、井上靖、遠藤周作、曽野綾子、落合信彦である。それらの作家に数では及ばないが、1980年代前半には西村京太郎、西村寿行、笹沢左保らの作品の翻訳も始まっており、1990年代にかけてそれぞれ10冊から15冊程度翻訳出版されている。 同書を見ると、1990年代には村上春樹と村上龍が翻訳数の1位・2位となっており、推理作家では森村誠一、梶山季之とともに赤川次郎が上位に入っている。赤川次郎の作品が最初に韓国語に翻訳されたのは1980年代前半だが、1990年代末に三毛猫ホームズシリーズを中心として多くの作品が訳された。 1999年には韓国・テドン出版より日本推理作家協会・韓国推理作家協会共編の日本の短編ミステリのアンソロジー『Jミステリ傑作選』(J미스터리 걸작선)(全3巻)が出版されている。この翻訳を担当したのは前述のチョン・テウォンである。 早川書房『ミステリマガジン』2000年10月号では「コリアン・ミステリ・ナウ」と題する韓国ミステリの特集が組まれている。この号に掲載の記事で、2000年当時の韓国における日本ミステリについてチョン・テウォンは以下のように書いている。 鄭泰原(チョン・テウォン)「韓国ミステリ事情」(『ミステリマガジン』2000年10月号) 最近は綾辻行人の〈館シリーズ〉、鈴木光司『リング』『らせん』、東野圭吾『秘密』『白夜行』などの人気が高い。少年物では『名探偵コナン』、『金田一少年の事件簿』が若者の心を摑んでいる。 綾辻行人の作品が最初に韓国語に翻訳されたのは1997年で、《館シリーズ》第1作の『十角館の殺人』から第6作の『黒猫館の殺人』までが鶴山文化社より同時刊行された(なおその後、21世紀になってから十角館、水車館、迷路館、時計館は再刊されたが、人形館と黒猫館は再刊されておらず、入手難の状態が続いている)。東野圭吾の作品が最初に韓国語に翻訳されたのは1999年である。 また、島田荘司の『占星術殺人事件』は1990年代の韓国では異なるタイトルで三度出版されている。最初は1991年で、タイトルは『顔のない時間』(얼굴없는 시간)とされていた。翌1992年には『アゾート』(아조트 )というタイトルで同じ出版社から刊行され、1997年には原題を直訳した『占星術殺人事件』(점성술 살인사건)というタイトルで、また同じ出版社から刊行されている。 (4)苦戦するミステリ雑誌 ミステリの単行本や叢書の出版はそれなりに活況を呈していたが、ミステリ専門誌の出版は必ずしもうまくいかなかった。前述のとおり、1988年12月にキム・ソンジョン(金聖鍾)が中心となって創刊した『季刊推理文学』は、約3年後の1991年9月発行の第10号(1991年秋号)で休刊となっている。ただこれは、この時期の韓国のミステリ雑誌としては比較的長く持った方だった。1990年1月に創刊された『月刊推理小説』(월간 추리소설)(途中で『月刊推理小説ダイジェスト』[월간 추리소설 다이제스트]に改題)は、同年4月号(第3号)をもって休刊となっている。1994年4月にはチョン・テウォン(鄭泰原)が編集長を務める『月刊ミステリマガジン』(월간 미스터리 매거진)が創刊されたが、この雑誌も1年も持たず、1994年4月号から1994年11月号までの全8冊で刊行を終えている(韓国国立中央図書館の蔵書は全8冊だが、ネット上では全部で9冊出ているという情報もある/未確認)。1997年には韓国語版『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』(엘러리 퀸 미스터리 매거진)と韓国語版『アルフレッド・ヒッチコック・ミステリ・マガジン』(알프레드 히치콕 미스터리 매거진)が創刊されたが、どちらも年内に2冊出ただけで休刊となっている。 『月刊推理小説ダイジェスト』1990年4月号(最終号)の表紙・目次写真 (推理作家のイ・サンウ氏のブログ記事、2011年6月22日)目次の写真を見ると、江戸川乱歩「月と手袋」が連載小説として訳載されていたことが分かる(完結したのかは不明) (なお2012年現在は、韓国推理作家協会編のミステリ雑誌『季刊ミステリ』の刊行が2002年の創刊以来続いており、2012年春号で通巻35号に達している) 第四節 20世紀末: 出版不況の影 1990年代後半から、アジア通貨危機(1997年)などによる出版不況が韓国ミステリ界に影を落とし始める。創作を発表する場が減り、出版点数も激減。国産ミステリが1年に10冊も出ない低迷期に入る。長編推理小説賞を公募していた金来成推理文学賞は1993年に終了していたが、2000年代に入るとスポーツ新聞の短編ミステリの公募もなくなってしまい、新人のデビューも難しくなった。 次章で扱う内容をやや先取りして言えば、その後翻訳ミステリのファンの増加で韓国におけるミステリ出版は再び活気を見せ始めるが、韓国の創作ミステリ界はそこから取り残されたような形になってしまった。韓国の創作ミステリ界がこの停滞から抜け出す兆しを見せ始めたのは、ここ3、4年のことである。 第五節 邦訳された1980年代~20世紀末の韓国推理小説 原著刊行1981年:金聖鍾(キム・ソンジョン)『ソウル 逃亡の果てに』(祖田律男訳、新風舎、2005年)(原題『나는 살고 싶다』) 原著刊行1988年:鄭建燮(チョン・ゴンソプ)『真由美 最後の証言』(李鍾相[イ・ジョンサン]訳、光文社、1988年)(原題『마유미 최후의 증언 언니 미안해』) 原著刊行1993年:イ・イナ『永遠なる帝国』(武田康二訳、文芸社、2011年12月)(原題『영원한 제국』) 原著刊行1997年:朴商延(パク・サンヨン)『JSA 共同警備区域』(金重明[キム・ジュンミョン]訳、文春文庫、2001年5月)(原題『DMZ』) ※映画の原作小説(映画のノベライズ本ではない) 原著刊行1998年:『コリアン・ミステリ 韓国推理小説傑作選』(祖田律男ほか訳、バベル・プレス、2002年5月) - 短編13編収録。韓国推理作家協会編、1998年版『今年の推理小説』の翻訳。 『コリアン・ミステリ 韓国推理小説傑作選』の収録内容は「韓国ミステリ 読書案内」を参照のこと。ほかに『ミステリマガジン』2000年10月号に韓国の短編ミステリが4編訳載されている。(以下のあおり文句は目次より引用) 『ミステリマガジン』2000年10月号 (特集 コリアン・ミステリ・ナウ)「その夜は長かった」 李秀光(イ・スゴァン)(※当ページではイ・スグァンと表記)――霊魂となって現世を彷徨う男の悲哀 「天の定めた縁」 黄世鳶(ファン・セヨン)――妻が盗み見た、殺人計画を綴った夫の小説 「精神病を引き起こす脱毛剤」 白恷(ベク・ヒュ)(※当ページではペク・ヒュと表記)――画期的新薬の恐るべき副作用とは!? 「妻を守るために」 李源斗(イ・ウォンズ)(※当ページではイ・ウォンドゥと表記)――癌ノイローゼの男を待ち受ける皮肉な運命 参考文献 韓国ミステリ史 参考文献 (新しいウィンドウで開きます) ※便宜のためWikipediaのリンクを貼っている箇所がありますが、Wikipediaを情報源としては使用していません。 『韓国ミステリ史 第一章』(20世紀初頭~1930年代) 『韓国ミステリ史 特別編 - 金来成(キム・ネソン)(1909-1957)【1】』 『韓国ミステリ史 特別編 - 金来成(キム・ネソン)(1909-1957)【2】』 『韓国ミステリ史 第二章』(1940年代~1960年代) 『韓国ミステリ史 第三章』(1970年代) 『韓国ミステリ史 第四章』(1980年代~20世紀末) ←今見ているページ 『韓国ミステリ史 第五章』(1990年代末~21世紀初頭)(未公開) 『読書案内』
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/155.html
2011年2月3日 2011年8月4日増補(詳細はページ最下部の「第一章 更新履歴」参照) 「中国ミステリ史」は、19世紀末から現代(2011年)までの中国の探偵小説(偵探小説)/推理小説/ミステリの歴史を、第一章から第六章の全6ページに分けて紹介するものである。 『中国ミステリ史 第一章』では、そのうち19世紀末から1910年代まで(清末)を扱っている。 目次 『中国ミステリ史 第一章』 19世紀末~1910年代 はじめに 第一章 19世紀末~1910年代: 欧米探偵小説の受容と国産化の試み第一節 東アジア・東南アジアでのホームズの受容 第二節 裁判小説から探偵小説へ(1)中国初の創作探偵小説 (2)中国古来の裁判小説 (3)翻訳探偵小説とその国産化の試み 参考文献 第一章 更新履歴 『中国ミステリ史 第二章』 (1910年代~1940年代) 第二章 1910年代~1940年代: ホームズ、ルパンからフオサン、ルーピンへ第一節 中国ミステリ草創期: 上海の「青」と「紅(あか)」(1)程小青(てい しょうせい)/名探偵フオサン (2)孫了紅(そん りょうこう)/怪盗紳士ルーピン (3)同時代の中国探偵作家 第二節 1940年代の探偵小説雑誌の隆盛 第三節 同時代の日本から見た当時の中国探偵小説界 第四節 邦訳された19世紀末~1940年代の中国探偵小説 『中国ミステリ史 第三章』 (1940年代末~1970年代) 第三章 1950年代~1970年代: 社会状況の変化による中国ミステリの転変第一節 中華人民共和国の成立と旧ソ連探偵小説の流入 第二節 中国の推理作家とソ連の推理作家の交流(1956年) 第三節 ソ連の探偵小説の変化(アルカージイ・アダモフ『雑色事件』(1956)) 第四節 文化大革命期の"写本"現象 第五節 邦訳された1950年代~1970年代の中国探偵小説 『中国ミステリ史 第四章』 (1970年代末~1990年代) 第四章 1970年代末~1990年代: 翻訳ブームと中国ミステリの多様化第一節 日本の社会派推理小説が中国でもブームに 第二節 中国ミステリの多様化 第三節 1990年代末の中国翻訳ミステリ事情 第四節 邦訳された1980年代~1990年代の中国推理小説 『中国ミステリ史 第五章』 (1990年代末~21世紀初頭) 第五章 20世紀末~21世紀初頭: 新たなミステリの潮流第一節 インターネットという新天地/新たな創作の場 第二節 ネット上で活躍していたミステリ執筆者が紙媒体へ/雑誌『歳月・推理』創刊 第三節 邦訳された21世紀の中国ミステリ 『中国ミステリ史 第六章』 (現代) 第六章 現代の中国ミステリ界第一節 北京偵探推理文芸協会の活動 第二節 現代の中国ミステリ作家 第三節 賞・ランキング・雑誌・その他 おわりに はじめに この「中国ミステリ史」は、『中国科学幻想文学館』(上巻、下巻)(武田雅哉・林久之著、大修館書店、2001年)という中国SFの歴史を紹介する本に触発されて作成したものである。このような書籍が出ていることからも分かるように、日本では、中国のSF小説の紹介は少ないながらもそれなりになされてきた。早川書房の『S-Fマガジン』で中国SF特集が組まれたこともある(2008年9月号)。一方で、中国の推理小説については、日本ではほとんど知られていない。「中国には推理小説はほとんどないらしい」とさえ言われることがある。そこで、ここに中国の推理小説の歴史をまとめ、紹介することにした。中国の20世紀以降のミステリ史を日本語でまとめたものは、あるいは学術論文などではあったかもしれないが、ミステリファンの視点でミステリファンがまとめ、ネット上で公開するのは初めてではないかと思う。 当初は、今までに収集した数少ない中国ミステリ関連資料をメモ書き程度にまとめるつもりだったが、まとめている途中で「百年華文推理簡史(ひゃくねん かぶん すいり かんし)」つまり「中国語圏ミステリ百年略史」という詳細かつ信頼できる資料を見つけたので、基本的にここでの中国ミステリに関する記述はこの資料に大部分を拠っている。 「百年華文推理簡史」の執筆者は、中国最大手のミステリ総合サイト「推理之門(すいり の もん)」の管理人・老蔡(ラオツァイ)氏と、中国のミステリ雑誌『歳月・推理』などで作品を発表している推理作家の杜撰(ずさん)氏である。現段階では「推理之門」や『歳月・推理』と言われてもピンとくる人は少ないと思うが、この「中国ミステリ史」を読めば、これらのWebサイトや雑誌が中国ミステリ界においてどのような地位を占めるものかが分かるはずである。なお、「百年華文推理簡史」ではふんだんに写真が使われているので、この「中国ミステリ史」とあわせて、ぜひそちらも参照してもらいたい。 個人的な興味から、中国ミステリ史を略述すると同時に、同時代のアジアでの動きにもしばしば触れている。 【注】 中国語の「偵探 zhentan」という語について 中国初の探偵小説雑誌は、1923年創刊の『偵探世界(ジェンタン シージエ)』である。この雑誌名は、日本語の文献ではそのまま『偵探世界』と書かれる場合もあるし、日本語にあわせて『探偵世界』とされる場合もある。混乱を避けるため、このページでは書籍・雑誌のタイトルや団体名などに使われている中国語の「偵探(ジェンタン)」という語は、そのまま「偵探(ていたん)」とする。 【注】 中国語の「華文 huawen」という語について 中国語の「華文(ホアウェン)」という語は「中国語」という意味である。賞の名前などに使用された際に、「華文(ホアウェン)」を「中国語」と直すと非常に座りが悪くなってしまうため、このページでは中国語の「華文(ホアウェン)」はそのまま「華文(かぶん)」とする。 「偵探(ていたん)」も「華文(かぶん)」も本来日本語にはない語だが、「ミステリ」や「アリバイ」などと同じ外来語だと思って、覚えてもらえれば幸いである。 第一章 19世紀末~1910年代: 欧米探偵小説の受容と国産化の試み 第一節 東アジア・東南アジアでのホームズの受容 【日本で最初にホームズものが訳された年代について誤りがありました。資料を手に入れたら直します。失礼いたしました】 「推理小説的な物語」の起源は探ればきりがなくなるが、現代にいたるミステリの流れを考えるにあたっては、各地でのシャーロック・ホームズシリーズ(発表時期:1887年~1927年)の受容とそのローカル版の成立を見ていくのが分かりやすいと思う。日本では、1899年4月から7月にかけて『A Study in Scarlet(緋色の研究)』(1887)の翻案『血染の壁』が毎日新聞に連載されたのがホームズシリーズの最初の紹介だとされる。翻案者は「無名氏」。この『血染の壁』では、ホームズは「小室泰六」、ワトソンは「和田進一」とされていた。『緋色の研究』のみに着目してその後の流れを見ると、この作品は翌1900年には『新陰陽博士』、1901年には『モルモン奇譚』、1906年には『神通力』というタイトルで翻訳(翻案)されている。『神通力』では、ホームズは「堀見猪之吉」、ワトソンは「和田真吉」とされているという。 その後、1917年には岡本綺堂が「江戸探偵名話」シリーズの連載を開始。このシリーズの主人公は、その第1作で「彼は江戸時代に於ける隠れたるシャアロック・ホームズであつた」と紹介されている。ホームズシリーズの影響下に誕生したこのシリーズは、1924年の単行本刊行時より「半七捕物帳」の名で広く知られている。また1923年には江戸川乱歩がデビューし、翌年には探偵・明智小五郎が初登場している。 中国では、1896年に張坤徳(ちょう こんとく/チャン クントー)がホームズシリーズ4編を翻訳し、上海の新聞『時務報』に掲載。これが中国語になった最初のホームズシリーズとされる。最初に訳された作品は、「海軍条約文書事件」(1893)(中国語タイトル:「英包探勘盗密約案」)である。ホームズの最初の翻訳は中国よりも日本の方がわずかに早かったが、ホームズ全集の刊行は、日本より中国の方が早かった。中国で最初にホームズ全集が出たのは1916年であり、一方、日本でホームズ全集が最初に出たのは、1931年末から1932年末にかけてであった。 19世紀末から20世紀初めにかけて中国(清および中華民国)では翻訳小説ブームが訪れており、ホームズなどの欧米作品のみならず、黒岩涙香や押川春浪などの日本の作品(翻案作品含む)も中国語に訳されていたという。 タイでは1912年に「第二の汚点」(1904)がルアン・ナイウィチャーン(筆名シースワン)によって翻訳され、『パドゥン・ウィッタヤー』に掲載されたのが最初である。1915年には、ルアン・サーラーヌプラパンにより『バスカヴィル家の犬』が翻訳刊行され、その後もホームズシリーズは次々と翻訳された。同時期に、タイ人の手による最初の探偵小説『トーンイン物語』が発表されている。主人公のトーンインがホームズばりの活躍をするストーリーで、執筆したのはシェイクスピアの翻訳やミステリ小説の翻訳もおこなっていた国王のラーマ6世(Wikipedia)である。(宇戸清治(2009)) 現在のマレーシア・インドネシアに当たる地域では、1910年ごろ(確実なのは1914年)にホームズが初めて翻訳された(「マレー語」(現在のマレーシア語・インドネシア語)への翻訳)。(柏村彰夫(2010)) 朝鮮半島ではホームズものの最初の翻訳は1918年の「三人の学生」(1904)だった(bookgram(2009))。また、それ以前から黒岩涙香の翻案作品を再翻案したものが人気を得ていた。代表的なものに、黒岩涙香の翻案小説『巌窟王』(1901)を再翻案したイ・サンヒョプの『海王星』(1916)がある。 第二節 裁判小説から探偵小説へ 【主要参考文献:老蔡(ラオツァイ)、杜撰(ずさん)(2009)「百年華文推理簡史 引言」、老蔡(2009)「百年華文推理簡史 一、中国偵探小説的起源」】 【2011年8月4日追加】 (1)中国初の創作探偵小説 中国では、1885年発行と推定される知非子(ちひし)「冤獄縁(えんごくえん)」が初の創作探偵小説だとされている。ただし、中国で初めて欧米の探偵小説が翻訳されるのより11年も早く、またシャーロック・ホームズが登場する最初の作品『緋色の研究』より2年も早いことから、その発行年に関しては議論がある。 日本の最初の創作探偵小説は、1888年の須藤南翠(1857-1920)「殺人犯」、または1889年の黒岩涙香(1862-1920)「無惨」(青空文庫)とされるので、「冤獄縁」の発行年の1885年というのが正しければ、中国では日本よりも早く創作探偵小説が誕生していたことになる。なお韓国では、イ・ヘジョ(李海朝、1869-1927)が1908年末から1909年初めにかけて新聞に連載した『双玉笛(そう ぎょくてき)』が初の創作探偵小説とされている。 (2)中国古来の裁判小説 1890年には、作者不明の長編探偵小説『狄公案(てきこうあん)』【注1】が刊行されている。この作品は、オランダの推理作家・東洋学者のロバート・ファン・ヒューリック(1910-1967)が英訳し、また自らそれに題材を採った推理小説〈狄(ディー)判事シリーズ〉を執筆したことで、欧米ではよく知られている。江戸川乱歩はヒューリックによる英訳で『狄公案』を読み、「一本を求め帰って読んで見ると、棠陰比事(とういうんひじ)【注2】などの短篇と違い、長篇本格探偵小説の体をなしていて西洋のガボリオやボアゴベイに比べても、大して見劣りしないほどで、その上、長篇探偵小説として西洋にも例のない面白い構成になっている。日本の小説家は棠陰比事の類ばかり輸入して、こんな優れたものを、なぜ注意しなかったのかと、不思議に思われる」(探偵作家クラブ会報第33号(1950年2月))と、この作品をフランスの探偵作家ガボリオやボアゴベの作品と並べて称賛している。この作品は、欧米探偵小説の影響を受ける以前の中国古来の探偵小説、すなわち公案小説(こうあんしょうせつ)の形式で書かれたものである。残念ながら現在にいたるまで日本語の完訳は出ていないが、有坂正三氏による抄訳『狄仁傑(てきじんけつ)の不思議な事件簿』が2007年に刊行されている。 公案小説は、中国の明の時代の末期(16世紀末 - 17世紀初め)ごろから多く書かれるようになったジャンルで、名裁判官が事件の謎を解き、真犯人を明らかにするというものである。裁判官役としては、包拯(ほうじょう)や狄仁傑(てき じんけつ/ディー・レンチエ)などの実在の人物があてられる。代表的なものに、『包公案(ほうこうあん)』【注3】(別名:龍図公案(りゅうとこうあん))や、『施公案(しこうあん)』【注4】などがある。これらは現在のミステリと必ずしも同じものではなく、やはり現在のミステリは欧米ミステリ(及びその伝播)に始まると言って差し支えないが、公案小説は中国のみならず、日本や韓国を含む東アジア諸国が欧米探偵小説を受容する際にその基層となったものなので、まったく触れないというわけにもいかないだろう。(中国の公案小説が日本や韓国に与えた影響については、のちに「東アジアミステリの源流」(未完成)で簡単にまとめる予定) その後、1896年に上海の新聞『時務報』にホームズシリーズ4作の中国語訳が掲載され、中国に初めて欧米の探偵小説が紹介されると、『時務報』のほかに『新小説』、『月月小説』、『礼拝六(The Saturday)』などの雑誌も探偵小説を掲載するようになる。 上海の小説家・呉趼人(ごけんじん、1866-1910)は、欧米探偵小説を手本に公案小説の改造を試みた『九命奇冤(きゅうめいきえん)』(1903年連載開始)や、中国の古書から34の事件簿をとりまとめた『中国偵探案』(1906年出版)などを発表しているが、これらは欧米探偵小説のファンの好評を得ることはできず、1910年の彼の死をもって、中国の伝統的な探偵小説である公案小説は終焉を迎えることになった。 注1:『狄公案(てきこうあん)』の成立年代はよく分かっていない。書籍として刊行されたのは1890年(井波律子(2003))とのことだが、物語自体はそれ以前からあったようである。ロバート・ファン・ヒューリックが英訳に際して使ったのは、古典籍を扱う東京の琳琅閣(りんろうかく)書店(公式サイト)で手に入れた写本だが、その写本は17世紀か18世紀ごろのものだとヒューリックは言っている。中国文学者の辛島驍(からしま たけし)氏は、ヒューリックや乱歩を交えた座談会で、どんなに早いとしても1798年に出版された『施公案(しこうあん)』よりはさかのぼらないだろうと述べている(このとき、辛島氏は『狄公案』の英訳を読んだだけで、『狄公案』の写本には目を通していない)。 注2:『棠陰比事(とういうんひじ)』(桂万栄(けい ばんえい)編、1207年)は、中国の宋の時代に成立した裁判エピソード集。「棠陰」(とういん)は"梨のこかげ"転じて「裁判所」という意味、「比事」は「事件・案件を比べる」という意味であり、『棠陰比事』というタイトルを分かりやすく和訳すれば『名裁判くらべ』となる。似通った2つの事件を一対として、七十二対、計144のエピソードが収録されていることからこのタイトルがつけられている。収録されているエピソードはすべて実話とされている。日本では、1649年に『棠陰比事物語』というタイトルで翻訳出版され、人気を博した。その後日本では、井原西鶴が1689年に、「棠(なし)」を日本風の「桜」に変えた『本朝桜陰比事(ほんちょうおういんひじ)』(裁判エピソード全44編を収録)を刊行。日本初の創作探偵小説とされる黒岩涙香「無惨」の発表のちょうど200年前、有栖川有栖や北村薫のデビューのちょうど300年前に刊行されたこの『本朝桜陰比事』は、「日本の推理小説の源流」と見なされることもある。なお、『棠陰比事』は岩波文庫版の表紙によれば、「推理小説ファンにとって見のがせぬ一冊」であるとのこと。 注3:『包公案』のエピソードのいくつかは、有坂正三『包青天奇案―中国版・大岡越前の物語』(文芸社、2006年)で読むことができる。北村薫は、『包公案』のエピソードの翻案だと推定される都賀庭鐘(つが ていしょう、Wikipedia)の「白水翁(はくすいおう)が売卜(まいぼく)直言(ちょくげん)奇(き)を示(しめ)す話(こと)」(『古今奇談 英(はなぶさ)草子』、1749年)を、日本初の本格ミステリだとしている。 注4:中国文学者の辛島驍(からしま たけし)氏は、1798年に出版された『施公案(しこうあん)』を中国初の長編探偵小説だと見ている。これは辛島氏の言を借りれば「折り畳み式長編、螺旋階段式長編」であり、1つの事件が解決しないうちに次の事件が起き、エピソードが200回、300回と重ねられていくタイプの長編である。 (3)翻訳探偵小説とその国産化の試み 【未完成。加筆予定】 1907年に出版された呂侠(吕侠)の『中国女偵探』(中国女侦探)は、収録作3編のうち2編が『新青年』に訳載されている(詳細は「第二節第三節」で改めて述べる)。 参考文献 中国ミステリ史 参考文献 (新しいウィンドウで開きます) 第一章 更新履歴 2011年2月3日:公開 2011年8月4日:「第二節 公案小説から探偵小説へ」を新設。 『中国ミステリ史 第一章』(19世紀末~1910年代) ←今見ているページ 『中国ミステリ史 第二章』(1910年代~1940年代) 『中国ミステリ史 第三章』(1940年代末~1970年代) 『中国ミステリ史 第四章』(1970年代末~1990年代) 『中国ミステリ史 第五章』(1990年代末~21世紀初頭) 『中国ミステリ史 第六章』(現代)
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/254.html
2015年4月14日 最終更新:2015年10月30日 ※2015年10月30日記 前回の更新(9月5日)以降、あまり情報を追えていないので、既刊作品に漏れもあるかもしれません。 Index 刊行順一覧 国・言語圏別一覧 予定 刊行順一覧 ※タイトルからのリンク先は、それぞれの出版社サイトの書籍紹介ページ(サイト内に書籍紹介がない場合はamazonにリンク) 既刊 1月10日 ドイツ ドイツ語 フェルディナント・フォン・シーラッハ 『禁忌』 東京創元社 酒寄進一訳 1月19日 マルティニーク フランス語 パトリック・シャモワゾー 『素晴らしきソリボ』 河出書房新社 関口涼子、パトリック・オノレ訳 1月22日 スウェーデン スウェーデン語 M・ヨート、H・ローセンフェルト 『模倣犯 犯罪心理捜査官セバスチャン』【上下巻】 創元推理文庫 ヘレンハルメ美穂訳 1月24日 ドイツ ドイツ語 フランク・シェッツィング 『緊急速報』【上中下巻】 ハヤカワ文庫NV 北川和代、田中順子、岡本朋子訳 1月29日 イタリア イタリア語 ウー・ミン 『アルタイ』 東京創元社 さとうななこ訳 1月末 フランス フランス語 フランシス・ディドロ 『七人目の陪審員』 *注1 論創海外ミステリ 松井百合子訳 1月末 ベルギー フランス語 ジョルジュ・シムノン 【初の完訳】『紺碧海岸のメグレ』 論創海外ミステリ 佐藤絵里訳 2月5日 ノルウェー ノルウェー語 ヨルン・リーエル・ホルスト 『猟犬』 *注2 ハヤカワ・ミステリ 猪股和夫訳 2月13日 ドイツ ドイツ語 ペトラ・ブッシュ 『漆黒の森』 *注3 創元推理文庫 酒寄進一訳 2月21日 デンマーク デンマーク語 エルスベツ・イーホルム 『赤ん坊は川を流れる』 創元推理文庫 木村由利子訳 3月15日 スペイン スペイン語 ハビエル・シエラ 『最後の晩餐の暗号』 イースト・プレス 宮崎真紀訳 3月20日 フランス フランス語 エルヴェ・コメール 『悪意の波紋』 *注4 集英社文庫 山口羊子訳 3月23日 スウェーデン スウェーデン語 アンナ・ヤンソン 『死を歌う孤島』 *注5 創元推理文庫 久山葉子訳 4月5日 中国 中国語 普璞(ふはく) 「理解者の死」(短編/無料公開) 電子小説サイトE★エブリスタ 阿井幸作訳 4月10日 フランス フランス語 ジャン・マルセル=エール *注6 『Zの喜劇』 近代文藝社 中原毅志訳 4月22日 デンマーク デンマーク語 シュテフェン・ヤコブセン 『氷雪のマンハント』 ハヤカワ文庫NV 北野寿美枝訳 5月4日 中国 中国語 羅修(らしゅう) 「Wの喜劇」(短編) 風狂殺人倶楽部 *注7 稲村文吾訳 5月8日 スウェーデン スウェーデン語 カーリン・アルヴテーゲン 『バタフライ・エフェクト』 小学館文庫 ヘレンハルメ美穂訳 5月8日 アルゼンチン スペイン語 グスタホ・マラホビッチ 『ブエノスアイレスに消えた』 ハヤカワ・ミステリ 宮崎真紀訳 5月26日 メキシコ スペイン語 ホルヘ・ボルピ 『クリングゾールをさがして』 河出書房新社 安藤哲行訳 6月12日 ドイツ ドイツ語 ネレ・ノイハウス 『悪女は自殺しない』 *注8 創元推理文庫 酒寄進一訳 6月24日 スウェーデン スウェーデン語 アンデシュ・デ・ラ・モッツ 『炎上投稿』 ハヤカワ・ミステリ文庫 真崎義博訳 6月24日 スウェーデン スウェーデン語 フレドリック・T・オルソン 『人類暗号』【上下巻】 ハヤカワ文庫NV 熊谷千寿訳 6月25日 ドイツ ドイツ語 ハラルト・ギルバース 『ゲルマニア』 *注9 集英社文庫 酒寄進一訳 6月25日 イタリア イタリア語 ダニーラ・コマストリ=モンタナーリ 『剣闘士に薔薇を』 国書刊行会 天野泰明訳 6月25日 ロシア ロシア語 ボリス・アクーニン 【改訳】『堕天使(アザゼル)殺人事件』 *注10 岩波書店 沼野恭子訳 6月25日 ロシア ロシア語 ボリス・アクーニン 『トルコ捨駒スパイ事件』 *注10 岩波書店 奈倉有里訳 6月29日 スウェーデン スウェーデン語 カーリン・イェルハルドセン 『子守唄』 創元推理文庫 木村由利子訳 7月15日 フィンランド フィンランド語 サラ・シムッカ 『ルミッキ1 血のように赤く』(3部作) 西村書店 古市真由美訳 7月17日 ノルウェー ノルウェー語 ジョー・ネスボ 『ネメシス 復讐の女神』【上下巻】 集英社文庫 戸田裕之訳 7月29日 アイスランド アイスランド語 アーナルデュル・インドリダソン 『声』 東京創元社 柳沢由実子訳 7月29日 フランス フランス語 セバスチアン・ジャプリゾ 【新訳】『新車のなかの女』 創元推理文庫 平岡敦訳 8月6日 イタリア イタリア語 アントネッラ・ボラレーヴィ 『もしもを叶えるレストラン』(ミステリ?) 小学館文庫 中村浩子訳 8月7日 中国 中国語 程小青(ていしょうせい) 『ホー・ソン探偵集 中国的推理小説』 *注11 Amazon Services International 村上信貴訳 8月12日 スウェーデン スウェーデン語 クリスティーナ・オルソン 『シンデレラたちの罪』 創元推理文庫 ヘレンハルメ美穂訳 8月14日 中国 中国語 羅修(らしゅう) 「Wの喜劇」(短編・再頒布) *注12 風狂殺人倶楽部 稲村文吾訳 8月19日 ドイツ ドイツ語 メヒティルト・ボルマン 『希望のかたわれ』 河出書房新社 赤坂桃子訳 8月20日 フランス フランス語 ミシェル・ビュッシ 『彼女のいない飛行機』 集英社文庫 平岡敦訳 8月21日 フランス フランス語 モーリス・ルブラン 【新訳】『ルパン対ホームズ』 ハヤカワ・ミステリ文庫 平岡敦訳 9月30日 ノルウェー ノルウェー語 アンネ・ホルト 『ホテル1222』 創元推理文庫 枇谷玲子訳 10月9日 フランス フランス語 ピエール・ルメートル 『悲しみのイレーヌ』 文春文庫 橘明美訳 10月20日 スペイン スペイン語 トニ・ヒル 『よき自殺』 集英社文庫 宮崎真紀訳 10月21日 ドイツ ドイツ語 ニーナ・ブラジョーン 『獣の記憶』 創元推理文庫 遠山明子訳 10月23日 中国/香港/台湾 中国語 (アンソロジー) 『現代華文推理系列 第二集』(以下の4短編の合本) KDP 稲村文吾訳 10月23日 台湾 中国語 冷言(れいげん) 短編「風に吹かれた死体」 KDP 稲村文吾訳 10月23日 中国 中国語 鶏丁(ジーディン) 短編「憎悪の鎚」 KDP 稲村文吾訳 10月23日 中国 中国語 江離(こうり) 短編「愚者たちの盛宴」 KDP 稲村文吾訳 10月23日 香港 中国語 陳浩基(ちんこうき) 短編「見えないX」 KDP 稲村文吾訳 10月27日 フィンランド フィンランド語 サラ・シムッカ 『ルミッキ2 雪のように白く』(3部作) 西村書店 古市真由美訳 10月30日 ドイツ ドイツ語 ライナー・レフラー 『人形遣い 事件分析官アーベル&クリスト』 創元推理文庫 酒寄進一訳 近刊 秋? スウェーデン スウェーデン語 ヘニング・マンケル 『霜のおりる前に』 創元推理文庫 柳沢由実子訳 11月 スウェーデン スウェーデン語 エミリー・シェップ 『Ker 死の神』 (集英社) ヘレンハルメ美穂訳 12月 フィンランド フィンランド語 サラ・シムッカ 『ルミッキ3 黒檀のように黒く』(3部作) 西村書店 古市真由美訳 注1:フランシス・ディドロ『七人目の陪審員』 … 森英俊編著『世界ミステリ作家事典 本格派篇』(国書刊行会、1998年)では、「植草甚一が絶賛したことでも知られている。その評価に偽りはなく、まさにディドロの真骨頂が発揮された法廷ミステリの傑作である」と紹介されている。翻訳ミステリー大賞シンジケートの「書評七福神の一月度ベスト発表!」(2015年2月12日)では酒井貞道氏が1月のベストに選んでいる。 注2:ヨルン・リーエル・ホルスト『猟犬』 … 2013年ガラスの鍵賞(北欧最優秀ミステリ賞)受賞。 注3:ペトラ・ブッシュ『漆黒の森』 … 2011年ドイツ推理作家協会賞(フリードリヒ・グラウザー賞)新人賞受賞。 注4:エルヴェ・コメール『悪意の波紋』 … 2012年末の『このミス』で『水の波紋』として予告されていた作品。 注5:アンナ・ヤンソン『死を歌う孤島』 … 「【新年特別企画】2015年 東京創元社 翻訳ミステリラインナップのご案内」では『無人島の七人の女』というタイトルで予告されていた。 注6:ジャン・マルセル=エール … 『Zの喜劇』(Série Z)は2010年の作品。この作家は2012年には『シャーロックの謎』(未邦訳 Le Mystère Sherlock)という作品を発表している。ホームズ・マニアたちの変死事件の謎を解明するユーモアミステリだそうだ。「こちら」の日本語ブログでレビューが読める。 注7:風狂殺人倶楽部の同人誌『現代中国・台湾ミステリビギナーズガイドブック』の印刷特別増補版に収録。第20回文学フリマ東京(2015年5月4日)にて頒布。同書のKindle版には収録されていない。2015年9月5日より、東京・神保町の中国書籍専門書店、東方書店にて購入可能になった。「こちらのページ」から店舗での取り置き依頼および通信販売での購入ができる。 注8:ネレ・ノイハウス『悪女は自殺しない』 … 『いけすかない女』の仮題で予告されていたもの。 注9:ハラルト・ギルバース『ゲルマニア』 … 2014年ドイツ推理作家協会賞(フリードリヒ・グラウザー賞)新人賞受賞。 注10:ボリス・アクーニン『堕天使(アザゼル)殺人事件』『トルコ捨駒スパイ事件』 … 「編集者からのメッセージ」(岩波書店公式サイト内) 注11:「中国推理小説の父」と呼ばれる程小青(ていしょうせい、チョン・シャオチン、1893-1976)の名探偵・霍桑(フオ・サン、ホー・ソン)シリーズの短編を3編収録。「養子殺人事件」、「京劇女優失踪事件」、「幽霊屋敷の謎」。なお、amazonの販売ページと異なり、電書本文では訳者の名前は「満田貴信」となっている。 注12:羅修(らしゅう)「Wの喜劇」を収録した風狂殺人倶楽部の同人誌『現代中国・台湾ミステリビギナーズガイドブック』の印刷特別増補版は第20回文学フリマ東京(2015年5月4日)で頒布され完売。8月14日、コミックマーケット88にて再頒布された(東地区ペ29b)。2015年9月5日より、東京・神保町の中国書籍専門書店、東方書店にて購入可能になった。「こちらのページ」から店舗での取り置き依頼および通信販売での購入ができる。 雑誌掲載の短編マルセル・エイメ「三つの事件」(『ミステリマガジン』2015年5月号、島津智子訳) ※高野優氏主催、〈フランス・ミステリ未訳短篇発掘プロジェクト〉応募作関連記事:翻訳ミステリー大賞シンジケート、2015年3月14日 高野優「フランス・ミステリへのいざない」 ほかに、『ミステリマガジン』に近いうちにスウェーデンのヤーン・エクストレムの短編が載るらしい(『ミステリマガジン』2014年9月の小山正氏のエッセイ参照) 関連書籍(原語は英語)8月7日 ハンヌ・ライアニエミ『複成王子』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ、酒井昭伸訳)フィンランドのSF作家による英語作品。怪盗物。『量子怪盗』(邦訳2012年10月/文庫化2014年3月)の続編。 12月予定 ジェイムズ・トンプソン『血の極点』([集英社]、高里ひろ訳) 文庫化3月6日 イタリア(イタリア語) ドナート・カッリージ『六人目の少女』(ハヤカワ・ミステリ文庫、清水由貴子訳) 4月3日 ドイツ(ドイツ語) フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(創元推理文庫、酒寄進一訳) 4月10日 フランス(フランス語) ピエール・ルメートル『死のドレスを花婿に』(文春文庫、吉田恒雄訳) ※元版は2009年、柏書房刊。 5月29日 アイスランド(アイスランド語) アーナルデュル・インドリダソン『湿地』(創元推理文庫、柳沢由実子訳) 9月12日 ドイツ(ドイツ語) フレドゥン・キアンプール『幽霊ピアニスト事件』(創元推理文庫、酒寄進一訳) ※『この世の涯てまで、よろしく』改題文庫化 国・言語圏別一覧 スウェーデン 1月22日 スウェーデン スウェーデン語 M・ヨート、H・ローセンフェルト 『模倣犯 犯罪心理捜査官セバスチャン』【上下巻】 創元推理文庫 ヘレンハルメ美穂訳 3月23日 スウェーデン スウェーデン語 アンナ・ヤンソン 『死を歌う孤島』 *注5 創元推理文庫 久山葉子訳 5月8日 スウェーデン スウェーデン語 カーリン・アルヴテーゲン 『バタフライ・エフェクト』 小学館文庫 ヘレンハルメ美穂訳 6月24日 スウェーデン スウェーデン語 アンデシュ・デ・ラ・モッツ 『炎上投稿』 ハヤカワ・ミステリ文庫 真崎義博訳 6月24日 スウェーデン スウェーデン語 フレドリック・T・オルソン 『人類暗号』【上下巻】 ハヤカワ文庫NV 熊谷千寿訳 6月29日 スウェーデン スウェーデン語 カーリン・イェルハルドセン 『子守唄』 創元推理文庫 木村由利子訳 8月12日 スウェーデン スウェーデン語 クリスティーナ・オルソン 『シンデレラたちの罪』 創元推理文庫 ヘレンハルメ美穂訳 秋 スウェーデン スウェーデン語 ヘニング・マンケル 『霜のおりる前に』 創元推理文庫 柳沢由実子訳 11月 スウェーデン スウェーデン語 エミリー・シェップ 『Ker 死の神』 (集英社) ヘレンハルメ美穂訳 デンマーク 2月21日 デンマーク デンマーク語 エルスベツ・イーホルム 『赤ん坊は川を流れる』 創元推理文庫 木村由利子訳 4月22日 デンマーク デンマーク語 シュテフェン・ヤコブセン 『氷雪のマンハント』 ハヤカワ文庫NV 北野寿美枝訳 ノルウェー 2月5日 ノルウェー ノルウェー語 ヨルン・リーエル・ホルスト 『猟犬』 *注2 ハヤカワ・ミステリ 猪股和夫訳 7月17日 ノルウェー ノルウェー語 ジョー・ネスボ 『ネメシス 復讐の女神』【上下巻】 集英社文庫 戸田裕之訳 9月30日 ノルウェー ノルウェー語 アンネ・ホルト 『ホテル1222』 創元推理文庫 枇谷玲子訳 アイスランド 7月29日 アイスランド アイスランド語 アーナルデュル・インドリダソン 『声』 東京創元社 柳沢由実子訳 フィンランド 7月15日 フィンランド フィンランド語 サラ・シムッカ 『ルミッキ1 血のように赤く』(3部作) 西村書店 古市真由美訳 10月 フィンランド フィンランド語 サラ・シムッカ 『ルミッキ2 雪のように白く』(3部作) 西村書店 古市真由美訳 12月 フィンランド フィンランド語 サラ・シムッカ 『ルミッキ3 黒檀のように黒く』(3部作) 西村書店 古市真由美訳 ドイツ語圏 1月10日 ドイツ ドイツ語 フェルディナント・フォン・シーラッハ 『禁忌』 東京創元社 酒寄進一訳 1月24日 ドイツ ドイツ語 フランク・シェッツィング 『緊急速報』【上中下巻】 ハヤカワ文庫NV 北川和代、田中順子、岡本朋子訳 2月13日 ドイツ ドイツ語 ペトラ・ブッシュ 『漆黒の森』 *注3 創元推理文庫 酒寄進一訳 6月12日 ドイツ ドイツ語 ネレ・ノイハウス 『悪女は自殺しない』 *注8 創元推理文庫 酒寄進一訳 6月25日 ドイツ ドイツ語 ハラルト・ギルバース 『ゲルマニア』 *注9 (集英社) 酒寄進一訳 8月19日 ドイツ ドイツ語 メヒティルト・ボルマン 『希望のかたわれ』 河出書房新社 赤坂桃子訳 10月21日 ドイツ ドイツ語 ニーナ・ブラジョーン 『獣の記憶』 創元推理文庫 遠山明子訳 10月30日 ドイツ ドイツ語 ライナー・レフラー 『人形遣い 事件分析官アーベル&クリスト』 創元推理文庫 酒寄進一訳 フランス語圏 1月19日 マルティニーク フランス語 パトリック・シャモワゾー 『素晴らしきソリボ』 河出書房新社 関口涼子、パトリック・オノレ訳 1月末 フランス フランス語 フランシス・ディドロ 『七人目の陪審員』 *注1 論創海外ミステリ 松井百合子訳 1月末 ベルギー フランス語 ジョルジュ・シムノン 【初の完訳】『紺碧海岸のメグレ』 論創海外ミステリ 佐藤絵里訳 3月20日 フランス フランス語 エルヴェ・コメール 『悪意の波紋』 *注4 集英社文庫 山口羊子訳 4月10日 フランス フランス語 ジャン・マルセル=エール *注6 『Zの喜劇』 近代文藝社 中原毅志訳 7月29日 フランス フランス語 セバスチアン・ジャプリゾ 【新訳】『新車のなかの女』 創元推理文庫 平岡敦訳 8月20日 フランス フランス語 ミシェル・ビュッシ 『彼女のいない飛行機』 集英社文庫 平岡敦訳 8月21日 フランス フランス語 モーリス・ルブラン 【新訳】『ルパン対ホームズ』 ハヤカワ・ミステリ文庫 平岡敦訳 10月9日 フランス フランス語 ピエール・ルメートル 『悲しみのイレーヌ』 文春文庫 橘明美訳 イタリア 1月29日 イタリア イタリア語 ウー・ミン 『アルタイ』 東京創元社 さとうななこ訳 6月25日 イタリア イタリア語 ダニーラ・コマストリ=モンタナーリ 『剣闘士に薔薇を』 国書刊行会 天野泰明訳 8月6日 イタリア イタリア語 アントネッラ・ボラレーヴィ 『もしもを叶えるレストラン』(ミステリ?) 小学館文庫 中村浩子訳 スペイン語圏 3月15日 スペイン スペイン語 ハビエル・シエラ 『最後の晩餐の暗号』 イースト・プレス 宮崎真紀訳 5月8日 アルゼンチン スペイン語 グスタホ・マラホビッチ 『ブエノスアイレスに消えた』 ハヤカワ・ミステリ 宮崎真紀訳 5月26日 メキシコ スペイン語 ホルヘ・ボルピ 『クリングゾールをさがして』 河出書房新社 安藤哲行訳 10月20日 スペイン スペイン語 トニ・ヒル 『よき自殺』 集英社文庫 宮崎真紀訳 ロシア 6月25日 ロシア ロシア語 ボリス・アクーニン 【改訳】『堕天使(アザゼル)殺人事件』 *注10 岩波書店 沼野恭子訳 6月25日 ロシア ロシア語 ボリス・アクーニン 『トルコ捨駒スパイ事件』 *注10 岩波書店 奈倉有里訳 中国語圏 4月5日 中国 中国語 普璞(ふはく) 「理解者の死」(短編/無料公開) 電子小説サイトE★エブリスタ 阿井幸作訳 5月4日/8月14日 *注12 中国 中国語 羅修(らしゅう) 「Wの喜劇」(短編) 風狂殺人倶楽部 *注7 稲村文吾訳 8月7日 中国 中国語 程小青(ていしょうせい) 『ホー・ソン探偵集 中国的推理小説』 *注11 Amazon Services International 村上信貴訳 10月23日 中国/香港/台湾 中国語 (アンソロジー) 『現代華文推理系列 第二集』(以下の4短編の合本) KDP 稲村文吾訳 10月23日 台湾 中国語 冷言(れいげん) 短編「風に吹かれた死体」 KDP 稲村文吾訳 10月23日 中国 中国語 鶏丁(ジーディン) 短編「憎悪の鎚」 KDP 稲村文吾訳 10月23日 中国 中国語 江離(こうり) 短編「愚者たちの盛宴」 KDP 稲村文吾訳 10月23日 香港 中国語 陳浩基(ちんこうき) 短編「見えないX」 KDP 稲村文吾訳 予定 東京創元社北欧スウェーデン:クリスティーナ・オルソン(Kristina Ohlsson)『灰かぶり』or『シンデレラたち』(ヘレンハルメ美穂訳)→『シンデレラたちの罪』8月12日 ノルウェー:アンネ・ホルト『1222』(「クリスティへのオマージュ満載、極限状態の密室殺人を車いすの探偵が解く。」)→『ホテル1222』9月30日 ドイツ語圏ドイツ:シャルロッテ・リンク『最後の足跡』 ドイツ:ライナー・レフラー『血塗られた夏』(酒寄進一訳)→『人形遣い』10月 ドイツ:ニーナ・ブラジョーン(Nina Blazon)『狼憑き』(Wolfszeit)→『獣の記憶』10月 フランス語圏フランス:フレッド・ヴァルガス『ポセイドンの爪痕』or『ネプチューンの風』(Sous les vents de Neptune) 田中千春訳 ※以前は『汚れた手』というタイトルで予告されていた(英題は『Wash This Blood Clean From My Hand』)。アダムスベルク警視シリーズ。 フランス:【新訳】セバスチアン・ジャプリゾ『新車の中の女』(平岡敦訳)→『新車のなかの女』7月29日 南欧イタリア:ウンベルト・エーコ『プラハの墓地』(橋本勝雄訳)(「19世紀ヨーロッパを舞台に繰り広げられる歴史大陰謀小説」) スペイン:ハビエル・マリアス『執着』 ?フランス:【新訳】カミ『名探偵オルメス』(高野優訳?) 早川書房スウェーデンダビド・ラーゲルクランツ『ミレニアム4』(2015年夏) フランス【新訳】ガストン・ルルー『黄色い部屋の秘密』(高野優訳) ピエール・ルメートル『Au revoir là-haut』(平岡敦訳) ※純文学作品(2013年ゴンクール賞受賞) 国書刊行会イタリア:ダニーラ・コマストリ=モンタナーリ(Danila Comastri Montanari, 1948- )『死に行く者のあいさつ』(仮) Morituri te salutant (1994) →『剣闘士に薔薇を』6月25日 19世紀後半~20世紀前半の作品を中心とする非英語圏のホームズ・パロディーを集めたアンソロジー 角川書店オーストリア:マルク・エルスべルグ『ゼロ』 集英社スペイン:アントニオ・G・イトゥルベ(Antonio G. Iturbe)『アウシュヴィッツの図書係』(La bibliotecaria de Auschwitz)(小原京子訳) ※ミステリ? ノルウェー:ジョー・ネスボ『ザ・サン』(戸田裕之訳) ※ノンシリーズ作品 小学館スウェーデン:ダン・T・ セールベリ『SINON』(原題) ※2014年9月に邦訳出版されたSFスリラー『モナ 聖なる感染』の続編 論創社2016年7月予定 ピエール・ボワロー『震える石』 ※1934年のデビュー作 2016年秋 【新訳】ジョルジュ・シムノン『十三の被告/十三の謎』(※戦前に『猶太人ジリウク』、『ダンケルクの悲劇』として邦訳があったが、どちらも1編ずつ省略されていた。初訳は『十三の被告』収録の1編?) 未定 【新訳】ジョルジュ・シムノン『サンフォリアン寺院の首吊り人』 未定 【新訳】ガストン・ルルー『Les Étranges Noces de Rouletabille』 ※1922年に『水中の密室』のタイトルで邦訳されている 情報源 東京創元社 「【新年特別企画】2015年 東京創元社 翻訳ミステリラインナップのご案内」(2015年1月1日) 翻訳ミステリー大賞シンジケート「第3回出版社対抗ビブリオバトル~栄冠は誰の手に」(2015年5月12日) 『このミステリーがすごい! 2015年版』の「我が社の隠し玉」 論創社 刊行予定 関連ページ 非英語圏ミステリ2013年の邦訳出版一覧 非英語圏ミステリ2014年の邦訳出版一覧 フランスミステリベスト100 (2014年7月~8月アンケート実施) 非英仏語圏ミステリベスト100 (2014年9月アンケート実施) (1)叢書等 ポケミス非英語圏作品一覧 創元推理文庫海外ミステリ非英語圏作品一覧 ハヤカワ・ミステリ文庫非英語圏作品一覧 年間ミステリランキング 非英語圏作品一覧 (2)地域別 欧州北欧ミステリ邦訳一覧 南欧ミステリ邦訳一覧 ドイツ語圏ミステリ邦訳一覧 オランダ語圏ミステリ邦訳一覧 ロシア・中東欧ミステリ邦訳一覧 その他中南米ミステリ邦訳一覧 東アジアミステリ邦訳一覧 東南・南アジアミステリ邦訳一覧 中東ミステリ邦訳一覧 アフリカミステリ邦訳一覧 (3)賞 フランスのミステリ賞 - 受賞作の邦訳一覧 北欧のミステリ賞 インターナショナル・ダガー賞 受賞作・候補作一覧 (4)その他 『ミステリマガジン』洋書案内〈世界篇〉で紹介された本とその邦訳状況 ヨーロッパの推理小説 - ヨーロッパの推理小説に関する日本語文献の一覧 《世界探偵小説全集》のラインナップを本当に「世界」規模で考えてみる 非英語圏ミステリー賞あ・ら・かると (翻訳ミステリー大賞シンジケート)
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/159.html
2011年9月3日 2011年10月15日:増補(詳細はページ最下部の「台湾ミステリ史 中編 更新履歴」参照) 『台湾ミステリ史 中編』(第四章)では、1977年から1990年代半ばまでの台湾ミステリ界の動向を紹介している。 島崎博氏は1977年を「実質的な台湾の推理小説元年」としており、1977年から1984年までを準備期、1984年から2000年までを第一期、2001年以降を第二期としている。 ※「台湾ミステリ史 前編」(19世紀末~1970年代)と「台湾ミステリ史 後編」(20世紀末~21世紀初頭)は未完成です。 目次 台湾の言語と文字に関するごく簡単な注釈 台湾ミステリ前史 (第一章~第三章 要約) 第四章 1970年代末~1990年代半ば: 林仏児(りん ふつじ)と『推理雑誌』の時代第一節 1977年: 松本清張『ゼロの焦点』の翻訳刊行 第二節 1984年: 台湾初の長編推理小説 林仏児(りん ふつじ)『島嶼(とうしょ)謀殺案』と『推理雑誌』創刊 第三節 1987年: 台湾における日本ミステリの第1次ブーム 第四節 1988年~1992年: 林仏児推理小説賞 参考文献 台湾ミステリ史 中編 更新履歴 台湾の言語と文字に関するごく簡単な注釈 台湾で刊行されている小説で使われているのは「台湾語」ではなく、日本で言うところの「中国語」である。たとえば、「台湾では日本の推理小説の台湾語版がたくさん刊行されている」といった言い方は誤りである。 中国で画数が省略された漢字が使われていることは、テレビのクイズ番組などでもたまに取り上げられるのでそれなりに知られていると思う(たとえば中国では、「学習」を「学习」と書く)。一方、台湾や香港ではそのような省略した漢字は使われておらず、日本で言うところの「旧字体」が今でも使われている(たとえば「学習」を「學習」と書く)。中国で使われている漢字は簡体字(かんたいじ)、台湾や香港で使われている漢字は繁体字(はんたいじ)と呼ばれる。 台湾ミステリ前史 (第一章~第三章 要約) 台湾の推理小説の歴史は、1898年に台湾の新聞『台湾新報』に連載された『艋舺(もうこう)謀殺事件』(日本語作品)(艋舺(もうこう)は台湾の地名、現在の萬華(ばんか)【注1】)及び、1909年に『漢文台湾日日新報』に連載された「恨海(こんかい)」(中国語作品)に始まり、必ずしもその数は多くなかったが、20世紀前半は日本語および中国語で創作探偵小説が発表されていた。この時期に台湾で探偵小説を発表した人物は、まず日本人から挙げると、江戸川乱歩がデビューしたのと同じ1923年に創作探偵小説を発表し始め、3年間で中短編計15編を発表した座光東平や、鉄道関連の職員だった福田昌夫、第二次世界大戦末期に長編探偵小説『船中の殺人』や《龍山寺の曹老人》シリーズを林熊生(りん ゆうせい)という台湾人風の名前で発表した台北帝国大学医学部教授の金関丈夫(かなせき たけお、1897-1983)らがいる。彼らは日本語で作品を執筆・発表しているので、これらは台湾ミステリ史の前史であるのと同時に、日本のミステリ史の一部分でもある。一方、中国語で探偵小説を執筆した台湾人作家としては、武侠小説を執筆しながら数編の探偵小説を発表した李逸涛(り いっとう、1876-1921)、モーリス・ルブランのルパン物『虎の牙』の翻案も行った魏清徳(ぎ せいとく、1871-1953)、小学生の椿孝一が算数の能力で警察を助けるという児童向け探偵小説を書いた謝雪漁(しゃ せつぎょ、1886-1964)らがいる。また、台湾人の医学博士・葉歩月(よう ほげつ、1907-1968)は、終戦後の1946年に2冊の日本語単行本、『探偵小説 白昼の殺人』と『科学小説 長生不老』を刊行している。 ほかにも、台湾にホームズがやって来て事件を解決するという作品(餘生「探偵小説 智闘」『台南新報』1923年、中国語)や、臍皮乱舞・大舌宇奈児・無理下大損・正気不女給というどこかで聞いたような名前の執筆陣によるリレー小説「連作怪奇探偵小説 木乃伊の口紅」(『台湾鉄道』1934年、日本語)【注2】など、興味深い作品が書かれている。 終戦後、1946年10月25日に新聞・雑誌での日本語の使用が禁止され、葉歩月のような日本語で執筆していた台湾人作家は発表の場を失ったが、上海や香港からは探偵雑誌が輸入され、主にアメリカのパルプマガジンから作品を翻訳していた『藍皮書(らんひしょ)』(1946年7月上海で創刊、1949年5月に休刊、1950年に香港で復刊)【注3】などが人気を博した。1949年、大陸で中華人民共和国が成立し国民党政府が台湾に移ってくると、海外からの出版物の輸入が難しくなり、台湾独自の探偵雑誌がいくつか創刊された。多くは長続きしなかったが、1951年に創刊され10年以上【注4】続いた『偵探雑誌(ていたんざっし)』【注5】のような雑誌もあった。この雑誌の作品は9割がパルプマガジンからの翻訳だったが、作品に作者名は付されず、訳もめちゃくちゃで低俗なものだったという。この時期は、散発的に台湾人作家によりスパイ小説などの推理小説の一種が発表されることはあったが、専門的に推理小説を執筆する作家は生まれなかった。 注1:萬華は2010年に邦訳が刊行された台湾の推理小説、寵物先生(ミスターペッツ)『虚擬街頭漂流記』の舞台でもある。 注2:それぞれ、江戸川乱歩、大下宇陀児、森下雨村、正木不如丘のもじりだろう。 注3:江戸川乱歩は1956年から1958年ごろにかけて、香港版『藍皮書』を定期購読している。 注4:「台湾における日本ミステリー出版事情」では「10年以上」となっているが、『2009 本格ミステリ・ベスト10』に掲載された同じ講演のまとめでは「20年以上」となっている。 注5:単に『偵探』と書かれる場合もある。また日本語の文献では、『探偵雑誌』とされている場合もある。 第四章 1970年代末~1990年代半ば: 林仏児(りん ふつじ)と『推理雑誌』の時代 【同時期の中国の推理小説については「中国ミステリ史 第四章(1970年代末~1990年代)」を参照のこと】 第一節 1977年: 松本清張『ゼロの焦点』の翻訳刊行 戦後、台湾では外国文学の翻訳が制限されていたが【注6】、1975年に蒋介石(Wikipedia)が死去すると、規制は少しずつ緩んでいった。そして1977年4月、林白出版社から松本清張『ゼロの焦点』が翻訳刊行される(台湾国家図書館のデータを見ると、同出版社からは1969年にも『ゼロの焦点』が翻訳出版されている。訳者は同じ)。林白出版社はその後、この『ゼロの焦点』を第1巻とする《松本清張選集》の刊行を1979年に開始。1980年(1979年?)には叢書「推理小説系列(シリーズ)」(推理小說系列)(~1994年、全115冊)を創刊し、清張以外の日本の推理小説も刊行していった。台湾で「推理小説(トゥイリー シアオスオ)」という外来語が定着し始めたのはこの時期である。1986年(1987年?)には別の会社も日本のミステリの翻訳出版に参入するが、それまでは日本ミステリの翻訳出版は林白出版の独占状態だった。林白出版社が1977年から1986年までに刊行した日本ミステリの翻訳本は約70冊である。島崎博氏は、林白出版社が『ゼロの焦点』を翻訳刊行した1977年を、「実質的な台湾の推理小説元年」だとしている(島崎博インタビュー4、p.1110)。 日本語では「探偵小説」という語は、「古き良き時代」のロマンにあふれた作品群をイメージさせるが、台湾では「偵探(ていたん)小説」という語には、パルプマガジン翻訳時代の低俗なイメージが付きまとうという。そのため、日本の雑誌『幻影城』で「探偵小説」という語を積極的に使った島崎博氏も、台湾では「偵探小説」という言葉は使っていない。 欧米の推理小説では、1978年に星光出版社がイアン・フレミングの007シリーズの作品を刊行。続いて、1981年に水牛出版社がフランクリン・ディクスン(Franklin W. Dixon)の少年向け推理小説・ハーディ兄弟シリーズを刊行。1982年(1983年?)には遠景出版社がクリスティー全集を刊行し、続いて1986年にはE・S・ガードナーのペリー・メイスンシリーズの刊行を始めた。クリスティー全集はよく売れたという。 注6:一方で児童向けの推理小説は出版されていた。1950年代には台湾の東方出版社(社長:林呈禄)から児童向けのホームズ全集、ルパン全集が刊行され、海賊版が数種類出るほどの人気を博していたという。また、同社は1960年代初頭にはクイーンやカー、アイリッシュ、ミルンらの推理小説も児童向けに刊行している。 日本の推理小説の受容に関するもう一つの証言 【2011年10月15日加筆】 以上で提示した台湾の推理小説元年に関する説明は島崎博氏の証言に基づくものである。1977年に台湾で刊行された松本清張『ゼロの焦点』が日本の推理小説の最初の翻訳単行本で、それ以降台湾では「推理小説」という語が次第に使われるようになっていったというもので、島崎氏は21世紀になってから各所で同じように説明している。ところが、ほかならぬ島崎氏自身がこれとは大きく異なる証言をしている文献がある。日本の雑誌『推理界』の1968年7月号に掲載された島崎氏の「台湾の推理小説」という記事である。この記事で島崎氏は以下のように述べている。 島崎博「台湾の推理小説」『推理界』1968年7月号 映画007が話題になってから、007が翻訳され、推理小説の出版はさかんになった。いままでホームズとルパンの二全集しかなかった翻訳ものも、007の外、クリスティ選集、スピレンの全作品など出版された。 日本作家の長編も、新聞の副刊(文芸欄)によく翻訳連載されるようになった。そのうち単行本になったのは、 白髪鬼(江戸川乱歩著、洪明訳) 地獄の傀儡(江戸川乱歩著、永思訳) 魔鬼の標誌(江戸川乱歩著、方圓客訳) 蜘蛛人(江戸川乱歩著、余蔭訳) 霧影魅影(角田喜久雄著、金美訳) 死神的地図(島田一男著、何年訳) 神秘之門(高木彬光著、摩斯訳) 魔弾的射手(高木彬光著、何年訳) 猫影踪謎(仁木悦子訳、許振江訳) 黒色的喜馬拉雅山(陳舜臣著、刘慕沙訳) などがあるが、訳名を見て、原作名を推理するのも楽しみである。 これを見ると、日本のミステリの単行本は松本清張『ゼロの焦点』以前にも刊行されていたことが分かる。クリスティや007シリーズなどの欧米ミステリの翻訳出版も、後の島崎氏の説明よりもずっと早くに行われていたようである。 またこの記事で島崎氏は、台湾では「偵探小説」という言い方をすると説明した後に、「「推理小説」が使われるようになったのは、最近のことで、これは日本の影響である」と述べているので、『ゼロの焦点』が翻訳される10年近く前の時点で、すでに台湾で「推理小説(トゥイリー シアオスオ)」という語が使われていたことが分かる。 この記事によれば1968年当時、台湾には『偵探』(『偵探雑誌』から改題)、『偵探之王』(『偵探小説専号』の後進)、『偵探世界』などの探偵雑誌があり、日本の作品も翻訳されていた。また、文芸誌『文壇』(1952年創刊)も手当たり次第に日本の新刊雑誌から推理小説を翻訳していたという。台湾における日本の推理小説の受容については、もう少し詳しく調べてみる必要がありそうだ。 同時期の他のアジア地域の動向 対岸の中華人民共和国では、1970年代末に文化大革命が終結すると翻訳ミステリブームが起こり、欧米の黄金時代の推理小説から日本の社会派推理小説、さらにはソ連や東欧諸国の推理小説まで各地の作品が翻訳刊行された。特に松本清張や森村誠一などの日本の社会派作品は人気を博した。 韓国では1977年、欧米ミステリの叢書《東西推理文庫》全126巻(日本語からの重訳)と、《河西推理選書》全36巻(江戸川乱歩『孤島の鬼』『陰獣』、横溝正史『本陣殺人事件』、松本清張『点と線』『ゼロの焦点』『砂の器』、森村誠一『高層の死角』『人間の証明』『野性の証明』などのほか、韓国オリジナル作品も含む→ラインナップ)の刊行が始まり、韓国ミステリ中興の祖である金聖鍾(キム・ソンジョン)の活躍も相まって、推理小説ブームが訪れた。この時期の東アジアでは、日本のみならず台湾・中国・韓国と各地で日本の社会派推理小説が読まれていたことになる。 日本では1975年から1979年にかけて、島崎博氏が編集長を務める探偵小説専門誌『幻影城』が刊行されていた。 第二節 1984年: 台湾初の長編推理小説 林仏児(りん ふつじ)『島嶼(とうしょ)謀殺案』と『推理雑誌』創刊 『ゼロの焦点』を翻訳刊行した林白出版社の創設者は、1960年代に詩人・純文学作家としてデビューし、いくつかの雑誌の編集者なども務めた林仏児(りん ふつじ、1941- )である。彼は1984年4月、同社から自身が執筆した推理小説『島嶼(とうしょ)謀殺案』を刊行する。この作品は、台湾初の長編推理小説だと言われている(異論もある、後述)。そして同年11月、林仏児は林白出版社の子会社として推理雑誌月刊社を立ち上げ、台湾ミステリの草創期に大きな役割を果たすことになる月刊の推理小説専門誌『推理雑誌』を創刊する(誌名は単に『推理』と書かれる場合もある)。 『推理雑誌』は、6割が日本ミステリ、2割が欧米ミステリ、残りが台湾オリジナルのミステリと評論というものだった。林仏児に『推理雑誌』を創刊するよう勧めたのは、1979年の『幻影城』休刊後、台湾に戻っていた島崎博氏である【注7】。 島崎博インタビュー1、p.330 『推理雑誌』は今年(二〇〇四年のこと)の十一月でちょうど創刊二十周年になるのですが。その社長というのが、呑み友達だったので、ぼくともう一人の友人が彼に勧めたんですよ。推理雑誌を出しなさいと。それ以前の台湾のミステリーは、『推理雑誌』の親会社の林白出版社からで年平均四冊しか出てなかったんです。この頃の事情は『毎日新聞』【注8】の方に書きました。 『推理雑誌』の創刊に当たって、ぼくがけしかけたんです。そうしたら、雑誌が創刊したときに勝手に顧問にされてしまいました。 なお、この時『推理雑誌』の顧問には島崎氏のほかに、香港の推理作家・SF作家の倪匡(げい きょう)【注9】や、のちに島田荘司推理小説賞の最終選考委員を務める文芸評論家の景翔らも名を連ねている。 『推理雑誌』に掲載された作品は基本的に無断翻訳だったが、林仏児が日本の推理作家側と連絡をとった場合もあるようである。山村正夫『推理文壇戦後史 4』【注9】(1989年)によると、『推理雑誌』第21号(1986年7月号)には仁木悦子が林仏児にあてた手紙(1986年5月19日付)の原文とその中国語訳が掲載されているという。仁木悦子の手紙は『推理文壇戦後史 4』にも転載されているが、その文面から判断するに、林仏児は1986年の5月頃またはその少し前に、世田谷の仁木悦子邸を訪れているらしい。仁木悦子は、「台湾で多くの読者の方に私の作品を読んでいただけるということは、こんなにうれしいことはございません」などと記している。 注7:島崎博氏は1979年12月5日、一時帰国のつもりで台湾に帰郷した。しかし、帰国の5日後に台湾で大規模な民主化要求デモ――美麗島(びれいとう)事件(Wikipedia)が起きると、島崎氏は事件とは無関係だったにも関わらず当局に目を付けられ、出国できなくなってしまった。この後、日本のミステリ界では島崎氏は「消息不明」とされる。1987年~1988年ごろに一度その消息が明らかになり連絡もついたが、しばらくするとまた連絡がとれなくなり、帰国後の島崎氏についての詳細が明らかになるには1979年から数えて実に約25年の歳月を待つ必要があった。 注8:島崎博「台湾 冬の時代経て、今、第2次ブーム 日本ミステリー小説事情」(『毎日新聞』2004年12月28日夕刊 6面) 注9:邦訳に『貓(ねこ) -NINE LIVES-』(徳間文庫、1991年、「衛斯理(ウェイスリー)」名義)がある。 注10:山村正夫『推理文壇戦後史 4』には、『推理雑誌』第23号(1986年9月号)に掲載された島崎博氏のインタビュー記事が抄訳されている。そこには島崎氏の言葉として「五十を過ぎた私には、二つの目標しかありません。一つは日本の推理小説を書くこと、もう一つは、台湾の現代文学史を書くこと」と書かれている。これを受けて山村正夫氏は、「氏の自説にもとづく日本の推理小説の創作を、ぜひ一日も早く読みたいものである」と書いているが、「日本の推理小説を書くこと」というのは『推理雑誌』の誤植であり、実際は「日本の推理小説史を書くこと」だったことが島崎博インタビュー3で明らかになっている。 林仏児の台湾ミステリ界への貢献 林仏児(林佛兒/りん ふつじ)は1941年12月10日生まれ。1960年代に詩人・純文学作家としてデビューし、雑誌の編集者を務めながら作品を発表した。1968年に林白出版社を創設(「林白」は彼の筆名の一つ)。1970年代から1980年代初めにかけては、同社から『北回歸線』(1980年)(2009年版)などの中間小説(最近はあまり聞かないが、純文学と大衆小説の中間的な作品を指す日本の用語)を刊行した。 林仏児が創設した林白出版社は、1977年に松本清張『ゼロの焦点』を刊行して以来、年に数冊のペースで日本ミステリの出版を続ける。1984年4月には、林仏児自身も推理小説『島嶼(とうしょ)謀殺案』を同社より刊行した。同年11月、島崎博らの勧めで『推理雑誌』を創刊、編集長となる。1985年から1986年にかけて同誌に社会派推理小説『美人(びじん)、珠簾(しゅれん)を捲(ま)き』(美人捲珠簾)を連載(単行本刊行は1987年5月)。先に『島嶼謀殺案』を台湾初の長編推理小説だと紹介したが、この『島嶼謀殺案』は中編程度の分量だとして、『美人、珠簾を捲き』の方を台湾初の長編推理小説だとする説もある(『島嶼謀殺案』を台湾初の長編推理小説としているのは島崎博氏、『美人、珠簾を捲き』を台湾初の長編推理小説としているのは台湾推理作家協会所属の評論家・杜鵑窩人(とけんわじん)氏)。1987年には『推理雑誌』誌上で自らの名を冠した林仏児推理文学賞を創設。1980年代末にはカナダに移住し、『推理雑誌』の編集の一線から退く(完全に関わりがなくなったわけではないようである)。1991年にはカナダ華文創作協会(加拿大華文寫作協會)を設立し初代会長になった。推理雑誌に発表した推理小説関連のエッセイ等は、『心緩緩航行』に収録されている。 2007年には、台湾ミステリの発展過程や、そこで林仏児が果たした役割などを論じた研究書『推理小說研究-兼論林佛兒推理小說』が刊行された。 (林仏児の経歴については、台北市文化局の林仏児紹介ページなどを参照した) 林仏児は日本ミステリの出版や『推理雑誌』の創刊、林仏児推理文学賞の開催などで台湾ミステリ界に大きな貢献をしたが、推理小説の創作は少なく、前述の長編2編以外には、短編「東澳之鷹」と「人猿之死」があるだけである。『島嶼謀殺案』と『美人、珠簾を捲き』は2009年末(2010年年初?)に復刊されており、前者には「東澳之鷹」と「人猿之死」も収録されている(『島嶼謀殺案』2009年版、『美人、珠簾を捲き』2009年版)。 島崎博氏は林仏児の推理小説4作品の中で、最後に書かれた『美人、珠簾を捲き』を最も高く評価している。この作品は、2001年には中国で第2回北京偵探推理文芸協会賞の長編賞を受賞している(「中国ミステリ史 第六章 第一節」参照)。 林仏児『美人、珠簾を捲き』(1985-1986)あらすじ台湾人の葉青森(よう せいしん、36歳)は、数年前に日本人の阿部一郎と組んで、台湾の特産品や衣服を輸出する事業を立ち上げた。2か月に1回は日本に出張するが、出張の際には必ず韓国を経由している。韓国では2年前に、レストランチェーンの株主の朴仁淑(パク・インスク)と知り合った。葉の母親は既に死去しており、葉は現在は、台湾の高級住宅街の大邸宅に妻と子供2人と、父親の葉丹青(よう たんせい)とともに暮らしている。葉が日本に出張している時、事件は起きる。葉の父の葉丹青が、台湾の自宅寝室で殺害されたのだ。そして、日本に出張していた葉も突如行方知れずになり、数日後に韓国の仁川(インチョン)港で死体となって発見される。なぜ父と子は、台湾と韓国で同時に殺害されることになったのか。そしてその後、葉丹青の行きつけの喫茶店の従業員女性が殺害される。葉親子の殺害事件との関係は……? 第三節 1987年: 台湾における日本ミステリの第1次ブーム 1977年の松本清張『ゼロの焦点』の出版以来、台湾における日本ミステリの出版は林白出版社の独占状態だったが、1986年(1987年?)には皇冠出版が日本ミステリの出版に参入する。そして1987年3月には、希代書版から島崎博氏が作品選定および序文・解説の執筆を担当した『日本十大推理名著全集』全10巻が一挙に刊行される。 日本十大推理名著全集江戸川乱歩『黒蜥蜴』 横溝正史『獄門島』 高木彬光『破戒裁判』 土屋隆夫『危険な童話』 松本清張『時間の習俗』 仁木悦子『林の中の家』 佐野洋『透明受胎』 笹沢佐保『空白の起点』 森村誠一『高層の死角』 夏樹静子『遠い約束』 島崎氏はこの全集の企画を引き受けるにあたって、「必ず10冊出す、解説を付ける、訳者紹介を付ける」という3つの条件を出版社に飲ませたという。この当時、台湾では翻訳小説に解説を付ける習慣はなかった。また、訳者紹介を付けたのは、訳者にも責任感をもってもらおうという考えからだった(1950年代~60年代のパルプマガジンの翻訳の頃は、訳者の名前は示されないのが普通だった)。 その後希代書版からは、同年から翌年にかけて、『日本名探推理系列』全10巻と『日本推理名著大展』全8巻が刊行される(ラインナップは、Wikipediaの島崎博氏の項目(リンク)で見られる)。この2つの叢書も島崎氏が手掛けたものである。 これらの日本ミステリの叢書の成功により、他の出版社も日本ミステリの出版に参入し、台湾における日本ミステリの第1次ブームが訪れる。この第1次ブームでは、2、3年間で約200冊の日本ミステリが翻訳刊行された。この時の人気作家のトップ3は、松本清張、西村京太郎、赤川次郎であった。主な叢書に、前述の林白出版社「推理小説系列(シリーズ)」のほか、皇冠出版社の「日本金榜名著」シリーズ(1987年~1992年、全80巻)などがある(こちらのサイトが全80巻のリストを掲載している)。 しかし、このころの台湾の単行本は200ページほどが一般的で、それ以上になると訳者や編集者が勝手に一部をカットしてしまっていた(島崎氏は、カットされないように自分の企画では短い作品を選んだという)。そのため、謎解き部分はあるのに事件の部分が省略されていたり、あるいは事件は描かれているのに謎解き部分がカットされていたりと、ひどい訳書が多々あった。また、翻訳自体にも問題があり、「江戸川乱歩」が「江戸川を散歩する」と訳されるようなこともあったという(島崎博インタビュー4、p.1110)。そのため次第に読者が離れていき、2~3年でブームは終わった。日本ミステリのブームが去ると、今まであまり人気のなかった欧米ミステリが次第に読者に受け入れられていく。1990年代は欧米ミステリは好調だったが、日本ミステリは年10冊ほど刊行の低迷期になった。 第四節 1988年~1992年: 林仏児推理小説賞 1987年には『推理雑誌』創刊3周年を記念して林仏児推理小説賞(林佛兒推理小說創作獎)が創設された。短編推理小説を募集するもので、年1回のペースで全4回行われた。主な受賞者に、思婷(してい)(第1回大賞)、余心楽(よ しんらく)(第2回大賞)、葉桑(よう そう)(第3回大賞)、藍霄(らんしょう/ランシャウ)(第2回第3席)らがいる(ここでは「第一名」(第一席)または「首奨」を「大賞」と呼んでおく)。なおこの賞は応募を未デビューの新人に限ってはいない。上記の4人も、受賞以前にすでに『推理雑誌』に別の作品が掲載されたことがあった。 毎年上位入賞するのはほぼ同じ面々だったため、第4回を持って終了となった。 大賞受賞者第1回(1988年)大賞受賞者 - 思婷(し てい/スー ティン/Si Ting)(1948 - )1948年4月1日、中国福建省生まれ。本名は陳文貴。1978年に香港に移住し映画やドラマの脚本家として活動。1986年、短編「神探」で『推理雑誌』に初登場。1988年、暗号を扱った短編「死刑今夜執行」で第1回林仏児推理小説賞の大賞を受賞。ほかに、「最後一課」で第2回第2席、「一貼靈」で第3回審査員特別賞。『推理雑誌』では1986年から1991年にかけて計6編の短編を発表した。1989年に台湾に移住。1998年以降は北京で暮らしている。1993年のテレビドラマ『包青天』(中国語版Wikipedia)の脚本などで高名で、時代劇の脚本の第一人者と呼ばれている。 第2回(1990年)大賞受賞者 - 余心楽(よ しんらく/ユー シンロー/余心樂/Yu Xinle)(1948 - ) 『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』(角川文庫、2001年8月)に短編「生死線上」(1990)が収録されている。1948年6月4日、台湾生まれ。本名は朱文輝。1975年よりスイスに居住。スイスのチューリッヒ大学卒業。1989年、「松鶴樓」で『推理雑誌』に初登場。1990年、スイスの快速列車を題材にしたアリバイ物「生死線上」で第2回林仏児推理小説賞の大賞を受賞。ほかに、「真理在選擇它的敵人」で第3回佳作。『推理雑誌』では1989年から2000年にかけて7短編と1長編(『命案的版本』、連載中断後2001年の単行本版で完結)を発表した。1992年に林白出版社より刊行した『推理之旅』は、台湾初の長編本格推理小説だと言われている。緻密に組み上げたロジカルな本格ミステリを得意とする。ほかの長編作品に、『命案的版本』(2001年刊行)がある。2008年には短編集『洗錢大獨家』(本名の朱文輝名義)を刊行した。 第3回(1991年)大賞受賞者 - 葉桑(よう そう/イエ サン/Ye Sang)多作で知られる推理作家。その浪漫的な筆致は連城三紀彦になぞらえられることもある。『推理雑誌』では1988年から2000年にかけて短編36編を発表している。1988年、「再一次的死亡」で第1回林仏児推理小説賞佳作。1990年、「遺忘的殺機」で第3回大賞を受賞。単行本に『愛情實驗室』(1991年)、『耶誕夜殺人遊戲』(1991年)、『遙遠的浮雕』(1992年)、『魔鬼季節』(1992年)、『顫抖的拋物線』(1993年)などがある。 連城三紀彦の影響を受けたということは本人もエッセイに書いている。葉桑にとって連城三紀彦の短編集『戻り川心中』(台湾では1985年に出版)は、「推理小説は一回読めば充分」という自分の思い込みを打ち破ってくれた作品集で、創作に行き詰まると何度も読み返し、その影響を受けた作品もいろいろ書いているという。また一方で、自分の創作の方向を決定づけたのは『推理雑誌』に掲載された夏樹静子や山村美紗、仁木悦子ら日本の女性推理作家の作品だったとも語っている。 連城三紀彦の短編集『戻り川心中』がこの上なく好きで、この短編集は、「推理小説は一回読めば充分」という自分の思い込みを打ち破ってくれた作品なのだという。創作に行き詰まると何度も読み返し、その影響を受けた作品もいろいろ書いているそうだ。(本人のエッセイより) 第4回(1992年)の大賞は荘仲亮(そう ちゅうりょう/ジュアン ジョンリアン/莊仲亮/Zhuang Zhongliang)の「M16A2與M16」だが、この作者はこの1作のみで消えてしまったようである。なお、第1回から第3回までは、受賞作(佳作含む)を集めた単行本がそれぞれ刊行されている(『林佛兒推理小說獎作品集1』、『林佛兒推理小說獎作品集2』、および第3回の受賞作を集めた『遺忘的殺機』)。 『推理雑誌』に登場したそれ以外の重要作家禄文(ろく ぶん/ルー ウェン/祿文/Lu Wen)1986年から1988年にかけて、『推理雑誌』で6編の短編ミステリを発表。その作品は、香港が舞台となっており、科学トリックの使用に特徴があった。台湾で女性の探偵を起用した初の作家でもある。この作家については、香港の華僑だということしか知られておらず、経歴もその後の消息も不明である。 藍霄(らん しょう/ラン シャウ/Lan Xiao)(1968 - )講談社のアジア本格リーグで長編『錯誤配置』(原著刊行2004年/邦訳2009年)が刊行されている。1967年6月4日、台湾の澎湖諸島に生まれる。まだ高校生だった1985年、『推理雑誌』に「屠刀」が掲載されデビュー。その後しばらく間が空くが、1990年、第2回林仏児推理小説賞の第3席となった第2短編「医院殺人」で復帰。『推理雑誌』では1996年までに計12短編を発表した。邦訳された長編『錯誤配置』は、1990年から藍霄が発表している秦博士シリーズの長編第1作。台湾ではほかに長編第2作『光與影 A Maze Murder Case(光と影)』(2005)、長編第3作『天人菊殺人事件』(2005)が刊行されている。 ネット上ではblueというハンドルネームを使っている。2004年には島崎博氏が台湾のミステリファンと交流する模様をサイトにアップし、島崎博氏が日本ミステリ界に「発見」される契機をつくった。2005年2月に台北で行われた国際ブックフェアでは、有栖川有栖・藍霄・島崎博氏の3人の座談会が行われた。 既晴(き せい/ジー チン/Ji Qing)(1975 - )1975年、台湾生まれ。1995年、『推理雑誌』に「考前計劃」が掲載されデビュー。『推理雑誌』では1997年までに計3短編を発表した。英米ミステリも日本ミステリも原文で読みこなし、評論家としても力を発揮。2001年には、台湾推理作家協会の前身となった台湾推理倶楽部を創設。人狼城推理文学賞を設けて新世代の推理作家を次々と発掘し、台湾ミステリ界に多大な貢献をした。代表作は、2000年に自費出版し、2004年に大手出版社より再刊された『魔法妄想症』。この作品は藍霄『錯誤配置』巻末の玉田誠氏の解説によれば、「悪魔の召喚によって死体が動き出すという、島田荘司の『眩暈』を彷彿とさせる幻想的な謎に、不可能犯罪趣味と魔術的装飾を凝らした長編小説」である。本格ミステリからホラーまで多彩な作風を見せる。ほかの著作に、『請把門鎖好』(2002年、第4回皇冠大衆小説賞受賞作)、『別進地下道』(2003)、『網路凶鄰』(2005)、『超能殺人基因』(2005)、『修羅火』(2006)、『病態』(2008)、『感應』(2010)、短編集『獻給愛情的犯罪』(2006)がある。 2005年には芦辺拓(と島崎博氏)、2006年には綾辻行人(と島崎博氏)、2007年には島田荘司とそれぞれ会談している。 以上の6人の作家は、『台灣推理作家協會傑作選 1』に掲載された巻頭解説で、台湾推理作家協会所属の評論家・杜鵑窩人(とけんわじん)氏が特に重要な作家として挙げている6人である。一方、同解説で杜鵑窩人氏は、必ずしも好ましくないものとして、「風俗派」推理小説の存在にも触れている。これは、社会派のあとにうまれたある推理小説群を指して日本で使われた「風俗派」という用語と同じ意味だと考えてよい。必ずしも謎解きなどの要素がメインになっていない作品群である。なお島崎博氏によれば、林仏児の作品も『美人、珠簾を捲き』以外は風俗派推理小説に分類される。 風俗派林崇漢(りん しゅうかん/リン チョンハン/Lin Chonghan)(1945- ):画家。推理小説の単行本は『收藏家的情人』(林白出版社、1986年)のみ。ほかに、『推理雑誌』で変格推理小説を7編発表。 杜文靖(と ぶんせい/ドゥー ウェンジン/Du Wenjing)(1947- ):新聞記者。サスペンスフルな風俗派推理小説で知られる。作品に、『情繭』(林白出版社、1986年)と『墜落的火球』(1987年)がある。 楊寧琍(よう ねいり/ヤン ニンリー/Yang Ningli)(1966- ):作品に、『童話之死』、『藝術謀殺案』、『要命的5日』、『鑽石之邀』、『心魂』、『失去觸角的蝴蝶』などがある。 葉建華(よう けんか/イエ ジエンホア/Ye Jianhua):作品は1999年刊行の『殺意的空中迴廊』(林白出版社)のみ。この作品は、日本の紀伊半島を舞台にした旅情推理もので、日本の警察が頭を悩ませているところに台湾から引退した刑事がやってきて事件を解決するというストーリーだという。 1980年代から1990年代にかけては、台湾では長編推理小説の創作はあまり多くなく、収穫と言えるものはさらに少なかった。既晴氏作成・杜鵑窩人氏監修の「台灣推理文學年表」では、重要作品として1984年から1997年まででは32作品が挙げられているが、そのうち長編作品は、林仏児『島嶼謀殺案』(1984)、『美人、珠簾を捲き』(1985-1986)、余心楽『推理之旅』(1992)の3作だけである(正確に言えば、もう1編、1994年のところで藍霄『天人菊殺人事件』が挙げられているが、この作品が出版されて一般の推理ファンの目に触れたのは2005年のことである)。 【台湾では1990年代後半になると、日本の社会派推理小説や『推理雑誌』ではなく、欧米ミステリあるいは漫画やドラマなどをきっかけにミステリ愛好者になる人が増え、ミステリの普及が進む。またインターネットの普及もあり、ミステリファンはネット上のサイトや掲示板に集い、情報交換をするようになる。そして2000年、台湾ミステリの第一期を終了させ、第二期の幕開けの契機となった「時報推理小説賞事件」が起きる。/『台湾ミステリ史 後編』(未作成)に続く】 参考文献 台湾ミステリ史 参考文献 (新しいウィンドウで開きます) 台湾ミステリ史 中編 更新履歴 2011年9月3日:公開 2011年10月15日:第四章第一節に「日本の推理小説の受容に関するもう一つの証言」を追加。 『台湾ミステリ史 前編』(19世紀末~1970年代) 『台湾ミステリ史 中編』(1970年代末~1990年代) ←今見ているページ 『台湾ミステリ史 後編』(1990年代末~21世紀初頭)(未公開) 『読書案内』
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/53.html
2010年6月5日 最終更新:2015年5月1日 2012年10月19日:姉妹ページ「英訳された日本のSF・ファンタジー・ホラー小説、ライトノベル」を作成しました。 If you cannot read Japanese and can read English, jump to this page (The list of Japanese crime fiction in English translation), which I made in March 2014. 『姑獲鳥の夏』が昨年(2009年)に英訳されていた!という事実に衝撃を受けて、ほかにどんな日本のミステリが英訳されているか調べてみた。 気になるのは新しい作品がどれぐらい訳されているかということで、たとえば日本SFに関しては2009年夏から《Haikasoru》(「High Castle」を日本人ぽく発音した音らしい)というレーベルで翻訳が進められており、ほかにも数は少ないとはいえライトノベルもそれなりに英訳されている。では、ミステリはどうなのか? 乱歩の英訳(短篇集)は以前に買って持っているし、乱歩、横溝、あとは松本清張あたりはそこそこ訳されているだろうと予想できるが、一方で最近の作品はいったいどうなのか。乙一だとか、ライトノベルと隣接するあたりは訳されているかも……などと考えながら、amazon.comでいろいろ調べてみた。 調べ方 1.(2010年6月5日) 米国amazonでミステリ作家の名前で適当に検索し、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」のところをたどっていく。 2.(2010年6月10日頃追加) 国際交流基金が作成している「日本文学翻訳書誌検索」を参考にして、赤川次郎2冊(国内で出版された英訳本)・陳舜臣1冊・西村京太郎1冊追加。 3.(2010年6月20日頃追加) 早川書房『ミステリマガジン』2007年6月号掲載の「ニッポン小説英訳本リスト」(早川書房編集部編)を参照し、佐々木譲1冊・船戸与一1冊追加。 ※見落としは少なからずあると思います。あくまでも、自分が見つけた分だけのリストということで。 (英国amazon、カナダamazonの方では調べていません) ブログ「翻訳ミステリー大賞シンジケート」に寄稿した以下の記事も合わせてお読みください。 非英語圏ミステリー賞あ・ら・かると 第9回 日本のミステリー小説の英訳状況 (2013-11-14) 非英語圏ミステリー賞あ・ら・かると 第10回 アメリカのミステリー賞と日本ミステリー (2013-12-19) 非英語圏ミステリー賞あ・ら・かると 第12回 グーディス、密室、ボリウッド (2014-02-13) 『本格ミステリー・ワールド2015』(南雲堂、2014年12月)に「日本作家の英米進出の夢と『EQMM』誌」(pp.22-26)を寄稿しました。 Index あ赤川次郎 (Jiro Akagawa) 秋月涼介 (Ryosuke Akizuki) 芥川龍之介 (Ryunosuke Akutagawa) 芦辺拓 (Taku Ashibe) 阿刀田高 (Takashi Atoda) 阿部和重 (Kazushige Abe) 天樹征丸 (Seimaru Amagi) 綾辻行人 (Yukito Ayatsuji) 荒井曜 (Akira Arai) 泡坂妻夫 (Tsumao Awasaka) い・う・え池波正太郎 (Shotaro Ikenami) 伊坂幸太郎 (Kotaro Isaka) 石川智健 (Tomotake Ishikawa) 石田衣良 (Ira Ishida) 内田康夫 (Yasuo Uchida) シュウ・エジマ(江島周) (Shu Ejima) 江戸川乱歩 (Edogawa Rampo) お逢坂剛 (Go Osaka) 大阪圭吉 (Keikichi Osaka) 大沢在昌 (Arimasa Osawa) 岡崎大五 (Daigo Okazaki) 岡本綺堂 (Kido Okamoto) 奥田英朗 (Hideo Okuda) 乙一 (Otsuichi) 小野不由美 (Fuyumi Ono) か行木内一裕 (Kazuhiro Kiuchi) 貴志祐介 (Yusuke Kishi) 北方謙三 (Kenzo Kitakata) 京極夏彦 (Natsuhiko Kyogoku) 桐野夏生 (Natsuo Kirino) 栗本薫 (Kaoru Kurimoto) 小池真理子 (Mariko Koike) さ行桜庭一樹 (Kazuki Sakuraba) 佐々木譲 (Joh Sasaki) 佐藤春夫 (Haruo Sato) 佐藤友哉 (Yuya Sato) 島田荘司 (Soji Shimada) 清水義範 (Yoshinori Shimizu) 鈴木光司 (Koji Suzuki) 清涼院流水 (Ryusui Seiryoin) 瀬名秀明 (Hideaki Sena) 蘇部健一 (Kenichi Sobu) 曽野綾子 (Ayako Sono) た行高木彬光 (Akimitsu Takagi) 高嶋哲夫 (Tetsuo Takashima) 高田崇史 (Takafumi Takada) 高橋克彦 (Katsuhiko Takahashi) 高見広春 (Koushun Takami) 谷崎潤一郎 (Junichiro Tanizaki) 陳舜臣 (Shunshin Chin) 辻原登 (Noboru Tsujihara) 積木鏡介 (Kyosuke Tsumiki) 戸川昌子 (Masako Togawa) な行中井英夫 (Hideo Nakai) 中里友香 (Yuka Nakazato) 中村文則 (Fuminori Nakamura) 夏樹静子 (Shizuko Natsuki) 仁木悦子 (Etsuko Niki) 西尾維新 (NISIOISIN, Nisio Isin) 西村京太郎 (Kyotaro Nishimura) 乃南アサ (Asa Nonami) 法月綸太郎 (Rintaro Norizuki) は行浜尾四郎 (Shiro Hamao) 東野圭吾 (Keigo Higashino) 久生十蘭 (Juran Hisao) 平山夢明 (Yumeaki Hirayama) 船戸与一 (Yoichi Funado) ま行舞城王太郎 (Otaro Maijo) 松浦寿輝 (Hisaki Matsuura) 松本清張 (Seicho Matsumoto) 水上勉 (Tsutomu Mizukami, Tsutomu Minakami) 皆川博子 (Hiroko Minagawa) 湊かなえ (Kanae Minato) 宮部みゆき (Miyuki Miyabe) 森晶麿 (Akimaro Mori) 森博嗣 (Hiroshi Mori / MORI Hiroshi) や行山田風太郎 (Futaro Yamada) 山田正紀 (Masaki Yamada) 山村美紗 (Misa Yamamura) 結城昌治 (Shoji Yuki) 夢野久作 (Kyusaku Yumeno) 横溝正史 (Seishi Yokomizo) 吉田修一 (Shuichi Yoshida) 米澤穂信 (Honobu Yonezawa) 米国EQMM掲載作品 ミステリアンソロジー 黒田藩プレスの非ミステリアンソロジー その他のアンソロジー リストの見方 ミステリ・サスペンスからホラーまで、広く関連するジャンルの作家を集めています。また、作家で選んでいるので、リストの中にはミステリではないものも含まれています。 英訳が短編のみの作家については見出し化していない場合があります。英訳短編の雑誌掲載やアンソロジー収録についてはページ下方をご覧ください。 ISBNをクリックすると米国amazonの該当ページが新規ウィンドウで開くようになっています。 当ページで示している英訳書の出版年は、あくまでもリンク先(amazon)の書籍の出版年を示しているにすぎません。たとえば、松本清張『点と線』の英訳"Points and Lines"(ISBN 0870114565)の出版年をこのページでは「1986年」としていますが、これはリンク先の英訳書が1986年に出版されたということを示しているだけであり、『点と線』が最初に英訳されたのが1986年だという意味ではありません。 それぞれの書籍が最初に英訳されたのはいつか、ということについてはいつか追加で調査します。 あ 赤川次郎 (Jiro Akagawa) 長編および短編集Midnight Suite / 『真夜中のための組曲』 ISBN 4061860054 (Gavin Frew[ギャビン・フルー]訳、講談社インターナショナル、《講談社英語文庫》5、1984年) Three Sisters Investigate / 『三姉妹探偵団』 ISBN 4061860097 (Gavin Frew[ギャビン・フルー]訳、講談社インターナショナル、《講談社英語文庫》9、1985年) 短編Beat Your Neighbor Out of Doors / 「沿線同盟」(Gavin Frew訳)米国『EQMM』1992年3月号 アンソロジー『The Deadliest Games Tales of Psychological Suspense from Ellery Queen's Mystery Magazine』(1993)に収録 + Midnight Suite 収録作 Midnight Suite 収録作 The Car Park 駐車場から愛をこめて The Wardrobe 我が愛しの洋服ダンス If I Were You 幸福な人生 The New Man 見知らぬ同僚 A Dangerous Petition 危険な署名 『真夜中のための組曲』と『三姉妹探偵団』の英訳は巻末に日本語による英文解説、単語解説を付した日本人向けの《講談社英語文庫》での刊行。日本の書店で販売された。英語圏の書店では流通していないと思われる。 秋月涼介 (Ryosuke Akizuki) The Giftedシリーズ「The Gifted Vol.1 - つきまとう女」(2013)/ The Gifted Vol.1 - The Haunting Woman (三萩野英次訳、The BBB、2013年3月) 「The Gifted Vol.2 - 帰ってくる死んだ仔猫」(2013)/ The Gifted Vol.2 - The Return of the Dead Kitten (三萩野英次訳、The BBB、2013年10月) 英語圏進出プロジェクト「The BBB」の書き下ろし作品。日本語版とその英訳版が電子書籍で販売されている。 芥川龍之介 (Ryunosuke Akutagawa) 『日本探偵小説全集第11巻 名作集1』に採られている「藪の中」や、『文豪ミステリー傑作選』(河出文庫、1985年5月)に採られている「開化の殺人」、山前譲編『文豪の探偵小説』(集英社文庫、2006年11月)に採られている「報恩記」などは英訳がある。 芦辺拓 (Taku Ashibe) 長編Murder in the Red Chamber / 『紅楼夢の殺人』(2004) ISBN 4902075385 (黒田藩プレス、2012年1月) 短編短編「五瓶劇場 戯場国邪神封陣(かぶきのくにクトゥルーたいじ)」の英訳が黒田藩プレスの英訳クトゥルー短編集『Inverted Kingdom Lairs of the Hidden Gods Vol. 2』に収録 黒田藩プレス公式サイトの英訳版『紅楼夢の殺人』紹介ページも参照のこと。2012年4月8日付のオンライン版『The Japan Times』にはDavid Cozy氏による『紅楼夢の殺人』の書評(英語)が掲載された(18th-century murder mystery still delivers)。 阿刀田高 (Takashi Atoda) 長編Prince of the Dark Yamihiko / 『闇彦』(2010) (Wayne P. Lammers訳、日本ペンクラブ、2010年)(2010年の国際ペン東京大会で海外からの来賓に配布された。非売品) 短編集Napoleon Crazy and other stories / 「ナポレオン狂」ほか、全10編 ISBN 4061860194 (Stanleigh H. Jones[スタンレー・H・ジョーンズ]訳、講談社インターナショナル、《講談社英語文庫》19、1986年3月) The Square Persimmon and other stories / 「四角い柿」ほか、全11編 ISBN 0804816441 (Charles E. Tuttle Co、1991年4月) 短編The Visitor / 「来訪者」 (米国『EQMM』1988年12月中旬号掲載、Gavin Frew訳) Napoleon Crazy / 「ナポレオン狂」 (米国『EQMM』1989年3月号掲載、翻訳者名記載なし) Woman With Hobby / 「趣味を持つ女」 (『New Mystery』第1期第1号、1991年、Gavin Frew訳) 「こちら」で公開されている + Napoleon Crazy and other stories 収録作 Napoleon Crazy and other stories 収録作 Napoleon Crazy 「ナポレオン狂」 短編集『ナポレオン狂』より My Friend in America 「アメリカの友人」 ショート・ショート集『食べられた男』より Welcome Aboard 「本日はようこそ」 ショート・ショート集『食べられた男』より The Visitor 「来訪者」 短編集『ナポレオン狂』より 1979年、第32回日本推理作家協会賞短編賞受賞作 The Wager of the Century 「笑顔でギャンブルを」 ショート・ショート集『食べられた男』より Innocence 「無邪気な女」 短編集『だれかに似た人』より The Perfect Gift 「すばらしい贈り物」 ショート・ショート集『食べられた男』より The Transparent Fish 「透明魚」 短編集『ナポレオン狂』より The man Who Was a Meal 「食べられた男」 ショート・ショート集『食べられた男』より Disaster 「凶事」 短編集『夢判断』より + The Square Persimmon and other stories 収録作 The Square Persimmon and other stories 収録作 The Mongolian spot 「モンゴル模様」 短編集『ガラスの肖像』より Paper doll 「紙人形」 短編集『風物語』より Dried fish and an electrical leak 「干魚と漏電」 短編集『夢判断』より The destiny of shoes 「靴の行方」 短編集『ガラスの肖像』より Of golf and its beginnings 「ゴルフ事始め」 短編集『ナポレオン狂』より The honey flower 「蜜の花」 短編集『迷い道』より The glow of lipstick 「紅(べに)の火」 短編集『ガラスの肖像』より Night flight 「夜間飛行」 短編集『ガラスの肖像』より A treatise on count St. German 「サン・ジェルマン伯爵考」 短編集『ナポレオン狂』より Floating lanterns 「精霊流し」 短編集『ガラスの肖像』より The square persimmon 「四角い柿」 短編集『ガラスの肖像』より 『The Square Persimmon and other stories』収録の「靴の行方」(The destiny of shoes)はアンソロジー『Japan A traveler's literary companion』(2006年)にも収録されている。(訳者・訳文が同一かは不明) 阿部和重 (Kazushige Abe) 文芸評論家の池上冬樹氏が「日本推理作家協会賞をとってもおかしくない群像ミステリの一大傑作」(リンク)と評した『シンセミア』が文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(JLPP)で英訳出版される予定。 『シンセミア』のミステリ、パルプ・ノワールとしての評価については講談社文庫版『シンセミア』(上下巻、2013年5月)巻末の池上冬樹氏による解説を参照のこと。 天樹征丸 (Seimaru Amagi) 漫画『金田一少年の事件簿』の原作者・天樹征丸による小説版が4作英訳されている。ただし講談社英語文庫および《Ruby books》での刊行なので、海外では流通していないと思われる。 金田一少年の事件簿シリーズThe new Kindaichi files / 『金田一少年の事件簿 オペラ座館・新たなる殺人』(1994) (玉置百合子訳、講談社インターナショナル、《講談社英語文庫》129、1996年) The new Kindaichi files 2 Murder on-line / 『金田一少年の事件簿 電脳山荘殺人事件』(1996) (玉置百合子訳、講談社インターナショナル、《講談社英語文庫》137、1998年) The new Kindaichi files 3 The Shanghai river demon's curse / 『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説殺人事件』(1997) (玉置百合子訳、講談社インターナショナル、《講談社英語文庫》144、1998年) The new Kindaichi files Deadly thunder / 『金田一少年の事件簿 雷祭殺人事件』(1998) (玉置百合子訳、講談社インターナショナル、《Ruby books》5、1999年) 《Ruby books》は日本の英語学習者向けの叢書で、本文中の難しい英単語に日本語でルビがふられている。 綾辻行人 (Yukito Ayatsuji) 長編Another, Vol. 1 / 『Another』(2009) Kindle版 (Yen Press、2013年3月) Another, Vol. 2 / 『Another』(2009) Kindle版 (Yen Press、2013年7月) 短編2012年12月刊行の日本SF英訳短編集『Speculative Japan 3』(黒田藩プレス書籍紹介ページ)に短編「心の闇」収録。 『Another』の英訳出版の決定を報じる英文記事→(Yen Press Adds 'Another' Horror Novel Manga, Junya Inoue's BTOOOM! Manga - News - Anime News Network、2012年7月13日)。 ちなみに『Another』はWikipediaでは2013年1月30日現在、日本語のほかに英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、ペルシャ語、インドネシア語、韓国語、中国語の計12言語で記事が作成されている。アニメ化の力、恐るべしである。(小説『Another』の英訳がきまったのも、アニメ化があったからこそだろう) 『Another』の英訳版は電子書籍のみの販売。英訳版の出版社のサイトによれば、電子版の売れ行きが良ければ紙版も販売するとのこと。 荒井曜 (Akira Arai) A Caring Man / 『慈しむ男』(2011) ISBN 1935654179 (Vertical、2011年7月) 日本・アメリカ・中国・韓国の出版社が共催し、世界に通用するエンターテインメント小説(日本語)を公募するゴールデン・エレファント賞の第1回大賞受賞作。2011年7月、日米同時刊行。(同回のもう1編の大賞受賞作、中村ふみ『裏閻魔』は日米のほかに中国・韓国でも刊行されている) 受賞作の英訳出版が確約されている新人賞には過去にランダムハウス講談社新人賞(2008-2009年)もあった。また、2012年募集開始のハヤカワSFコンテストは受賞作を英語および中国語に翻訳し電子書籍化することを約束している。 関連記事日本発の世界的ベストセラーを狙う、「GE賞」の可能性 (2012年4月18日、日経トレンディネット) 泡坂妻夫 (Tsumao Awasaka) かつて『11枚のとらんぷ』(1976)の英訳計画があったが、出版には至っていないと思われる。 『幻影城』1977年3月号の編集後記(「編集者断想」)には以下のように書かれている。 ■〈幻影城〉読者に、とっておきの嬉しいニュースをお知らせします。 〈幻影城〉から国際的作家現われる――泡坂妻夫氏の『11枚のとらんぷ』が遂にアメリカで英訳されることが決まりました。翻訳は映画『夜の大捜査線』でアカデミー賞を受賞したジョン・ポール氏と木琴奏者ナンバー1の平岡養一氏の異色コンビが当ります。 日本の長編探偵小説で英訳されたのは、在米の講談社から刊行された、松本清張氏の『点と線』に続いて『11枚のとらんぷ』が二冊目です。 上に引用した文中では「ポ」ールになっているが、ただしくはジョン・ボール(John Ball, 1911-1988)。アメリカのミステリ作家で、代表作は『夜の大捜査線』のタイトルで映画化された小説『夜の熱気の中で』。『ミステリマガジン』1966年11月号の扉ページには、ジョン・ボールが来日したとの記述がある。同誌1968年11月号にはジョン・ボール会見記が掲載されており、日本語を勉強しているとの情報がある。(ほかに1966年12月号、1976年4月号、1983年2月号にインタビュー等の記事、1980年2月号、1981年5月号に評論やアンケート) 『EQ』1979年1月号にアメリカのミステリイベントに参加した人物のレポートが載っているが、サインを求めるとジョン・ボールは英文とカタカナでサインをくれたという。同号に載っているジョン・ボールのコメント(p.160)「ごく一部の知識人を除いて、米国人は日本のミステリーのレベルを知らない。あれほどミステリーが愛読され、優れた日本のミステリーが存在することを知らされていない。残念なことですヨ。日本のEQ読者から優れた翻訳家(和文→英文)が出ること、世界で読まれるミステリーが一日も早く生まれることを心から望んでいます。」 『11枚のとらんぷ』の英訳はなぜ実現しなかったのだろう。平岡養一氏(1907-1981)がその頃に病気になっているらしくそれが原因だろうか。 大内茂男「推理小説界展望一九七六年」(『1977年版 推理小説年鑑 推理小説代表作選集』講談社、1977年) 「11枚のとらんぷ」は、久方ぶりに探偵小説独自の醍醐味を満喫させてくれる傑作として世評高く、すでに平岡養一とジョン・ボールによる共同英訳のアメリカにおける出版予定も伝えられている。 い・う・え 池波正太郎 (Shotaro Ikenami) 「和製ハードボイルド」とも評される仕掛人・藤枝梅安(ふじえだ ばいあん)シリーズ全7巻のうち最初の2巻が英訳されている。 仕掛人・藤枝梅安シリーズMaster Assassin Tales of Murder from the Shogun's City / 『殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安 一』 ISBN 4770015348 (講談社インターナショナル、1991年)Two wives (おんなごろし) The uncertain assassin (梅安迷い箸)※日本では第3巻の『梅安最合傘(ばいあんもやいがさ)』に収録 Four killers (殺しの四人) Autumn journey (秋風二人旅[しゅうふうににんたび]) Leave him to his fate (後は知らない) New Year's noodles (梅安晦日蕎麦)2000年に改題版『Ninja Justice Six Tales of Murder and Revenge』(講談社インターナショナル、ISBN 4770025378)が出ている Bridge of Darkness The Return of the Master Assassin / 『梅安蟻地獄 仕掛人・藤枝梅安 二』 ISBN 4770017286 (講談社インターナショナル、1993年)Spring snow (春雪仕掛針) Rabbit stew (梅安蟻地獄) Autumn rain (梅安初時雨) Bridge of darkness (闇の大川橋) 伊坂幸太郎 (Kotaro Isaka) 長編Remote Control / 『ゴールデンスランバー』(2007) ISBN 4770031084 (講談社USA、2011年3月) 短編The Precision of the Agent of Death / 「死神の精度」 (米国『EQMM』2006年7月号、「Passport to Crime」コーナー掲載)のちに同コーナーの掲載作をまとめたアンソロジー『Passport to Crime』(2007)に収録 現在、伊坂幸太郎の海外版権はエージェント会社「コルク」が扱っている。2013年5月11日にNHKで放送された週刊ニュース深読み、特集「世界に売り出せ! ニッポンの文学」にはコルクの社長の佐渡島庸平氏が登場。現在伊坂幸太郎の作品を村上春樹作品の英訳で知られるフィリップ・ガブリエル(Philip Gabriel)氏に訳してもらい、売り込み中とのこと。 石川智健 (Tomotake Ishikawa) Gray Men / 『グレイメン』(2012) ISBN 1935654500 (Vertical、2013年2月) 日本・アメリカ・中国・韓国の出版社が共催するゴールデン・エレファント賞の第2回大賞受賞作。 石田衣良 (Ira Ishida) 【短編】Ikebukuro West Gate Park / 「池袋ウエストゲートパーク」 (日本の21世紀の短編小説の英訳アンソロジー『Digital Geishas and Talking Frogs』[2011年2月]に収録) 【電子書籍 / 北米のSony Reader Storeのみでの販売】Call Boy / 『娼年』(2013年5月24日発売、特設サイト(英語)) 2013年5月23日、集英社が日本の小説の英訳の電子書籍販売を開始した。最初のラインナップは乙一『夏と花火と私の死体』(Summer, Fireworks, and My Corpse)、浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』(The Stationmaster)、そして石田衣良『娼年』(Call Boy)。このうち新たに訳されたものは『娼年』のみで、ほかの2作はすでに紙の書籍で英訳出版されていたものを電子書籍化したもの。販売は北米のSony Reader storeのみ。 Facebook「Shueisha English Edition」 http //www.facebook.com/ShueishaEnglishEdition乙一特設サイト http //otsuichi.com/ 浅田次郎特設サイト http //jiroasada.com/ 石田衣良『娼年』特設サイト http //callboynovel.com/ 2013/06/17「時事ドットコム:世界に売り込め日本の作家=石田衣良作品など英訳電子化-集英社」 その後、2013年8月29日に乙一『ZOO』、9月26日に乙一『暗黒童話』の販売が始まった(どちらもすでに英訳出版されていたもの)。上に貼った報道記事によれば、今後は矢野隆『鉄拳』(『蛇衆』で小説すばる新人賞を受賞した矢野隆によるゲーム「鉄拳」のノベライズ)、清水義範『迷宮』(1999)、高嶋哲夫『TSUNAMI』(2005)、嶽本野ばら『エミリー』、万城目学『偉大なる、しゅららぼん』など、年間10冊程度のペースで配信を続けていくとのこと。 内田康夫 (Yasuo Uchida) The Togakushi Legend Murders / 『戸隠伝説殺人事件』(1983) ISBN 0804835543 (Tuttle Publishing、2004年5月) 意外にも訳されているのは浅見光彦シリーズではなく、信濃のコロンボというシリーズの作品。 シュウ・エジマ(江島周) (Shu Ejima) Quick Draw / 『クイックドロウ』(2013) ISBN 1939130050 (Vertical、2014年4月)(とみさわ昭仁氏による日本語版のレビュー) 江戸川乱歩 (Edogawa Rampo) 英題 原題 ISBN 出版社、出版年 備考 Japanese Tales of Mystery Imagination (短編集) ISBN 0804803196 Tuttle Publishing、1989年12月 初版は1956年 The Boy Detectives Club 『少年探偵団』 ISBN 4061860372 講談社英語文庫、1988年8月 amazon.comになし The Black Lizard and Beast in the Shadows 『黒蜥蜴』と『陰獣』 ISBN 4902075210 黒田藩プレス、2006年1月 The Edogawa Rampo Reader (短編、エッセイ集) ISBN 4902075253 黒田藩プレス、2008年12月 Moju The Blind Beast 『盲獣』 ISBN 1840683007 Shinbaku Books、2009年5月 The Fiend with Twenty Faces 『怪人二十面相』 ISBN 4902075369 黒田藩プレス、2012年3月 Strange Tale of Panorama Island 『パノラマ島奇談』 ISBN 0824837037 ハワイ大学出版、2013年1月 + Japanese Tales of Mystery Imagination 収録作 Japanese Tales of Mystery Imagination 収録作 The Human Chair 人間椅子 The Psychological Test 心理試験 The Caterpillar 芋虫 The Cliff 断崖 The Hell Of Mirrors 鏡地獄 The Twins 双生児 The Red Chamber 赤い部屋 Two Crippled Men 二癈人 The Traveler With The Pasted Rag Picture 押絵と旅する男 + The Edogawa Rampo Reader 収録作 The Edogawa Rampo Reader 収録作(短編小説のみ示す。収録エッセイについては黒田藩プレスの「該当ページ」を参照のこと) The Daydream 白昼夢 The Martian Canals 火星の運河 The Appearance of Osei お勢登場 Poison Weeds 毒草 The Stalker in the Attic 屋根裏の散歩者 The Air Raid Shelter 防空壕 Doctor Mera’s Mysterious Crimes 目羅博士の不思議な犯罪 The Dancing Dwarf 踊る一寸法師 黒田藩プレスでは「D坂の殺人事件」と『パノラマ島奇談』の英訳も予定されていたが、そのうち『パノラマ島奇談』については中止になっている(英訳作業中に、ハワイ大学出版が同作の2012年末の英訳出版を発表したため)。少年探偵団シリーズは『怪人二十面相』以降も英訳版刊行予定。黒田藩プレス公式サイト参照。 1956年の英訳短編集『Japanese Tales of Mystery Imagination』の出版の経緯や原文と訳文の相違などについては、「シャーロック・ホームズの異郷のライヴァルたち(番外編) 明智小五郎」を参照のこと。 お 逢坂剛 (Go Osaka) The Red Star of Cadiz / 『カディスの赤い星』(1986) ISBN 4902075245 (黒田藩プレス、2008年12月) 大阪圭吉 (Keikichi Osaka) 【短編】 A Ginza Ghost / 「銀座幽霊」(1936)(My Japanese bookshelf、2013年10月31日 ※個人のブログ) 大沢在昌 (Arimasa Osawa) Shinjuku Shark / 『新宿鮫』(1990) ISBN 1932234373 (Vertical、2008年1月) The Poison Ape A Shinjuku Shark Novel / 『毒猿 新宿鮫II』(1991) ISBN 1934287245 (Vertical、2008年12月) 岡崎大五 (Daigo Okazaki) Black Wave / 『黒い魎(みずは)』(Bento Books、201X年◆予定) 岡本綺堂 (Kido Okamoto) 短編集The Curious Casebook of Inspector Hanshichi Detective Stories of Old Edo / 半七捕物帳 ISBN 0824831004 (University of Hawaii Press、2007年1月)※14編収録(収録内容は光文社時代小説文庫版第1巻と同じ) 短編The Room Over the Bathhouse / 「湯屋の二階」(米国『アルフレッド・ヒッチコックス・ミステリ・マガジン』(AHMM)2008年5月号に掲載、情報源:The Alfred Hitchcock Wiki) その他戯曲「細川忠興の妻」の英訳"Lady Hosokawa"が宮森麻太郎『Tales of the Samurai and Lady Hosokawa』に収録されている。 + 『The Curious Casebook of Inspector Hanshichi Detective Stories of Old Edo』収録作(光文社時代小説文庫版第1巻と同じ14編) 『The Curious Casebook of Inspector Hanshichi Detective Stories of Old Edo』収録作(光文社時代小説文庫版第1巻と同じ14編) The Ghost of Ofumi お文の魂 The Stone Lantern 石灯籠 The Death of Kampei 勘平の死 The Room Over the Bathhouse 湯屋の二階 The Dancer's Curse お化け師匠 The Mystery of the Fire Bell 半鐘の怪 The Daimyo's Maidservant 奥女中 The Haunted Sash Pond 帯取りの池 Snow Melting in Spring 春の雪解 Hiroshige and the River Otter 広重と河獺 The Mansion of Morning Glories 朝顔屋敷 A Cacophony of Cats 猫騒動 Benten's Daughter 弁天娘 The Mountain Party 山祝いの夜 半七捕物帳は文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(Japanese Literature Publishing Project JLPP)の第1回対象作品(2002年)に選ばれ、英訳出版された。同事業ではほかに『半七捕物帳』のフランス語訳も出版された。またその後、重訳かどうかは分からないが、おそらく英訳・仏訳の出版を契機として、イタリア語訳やスペイン語訳も出版されている。 奥田英朗 (Hideo Okuda) In the Pool / 『イン・ザ・プール』(2002) ISBN 4925080946 (Stone Bridge Press、2006年4月) Lala Pipo / 『ララピポ』(2005) ISBN 1934287210 (Vertical、2008年7月) 乙一 (Otsuichi) 英題 原題 ISBN 出版社、出版年 備考 Calling You 『きみにしか聞こえない―CALLING YOU』(2001) ISBN 1598168525 TokyoPop、2007年6月 GOTH 『GOTH―リストカット事件』(2002) ISBN 1427811377 TokyoPop、2008年10月 ZOO 『ZOO』(2003) ISBN 1421525879 VIZ Media LLC、2009年9月 Haikasoru Summer, Fireworks, and My Corpse 『夏と花火と私の死体』(1996) ISBN 1421536447 VIZ Media LLC、2010年9月 Haikasoru 『Summer, Fireworks, and My Corpse』は、『夏と花火と私の死体』(「夏と花火と私の死体」および「優子」)のほかに『暗黒童話』(Black Fairy Tale)も収録。 英訳版の『ZOO』は2009年度のシャーリイ・ジャクスン賞個人短編集部門ノミネート。 北米Sony Reader Storeにて電子書籍販売(Shueisha English Edition フェイスブック / 乙一特設サイト)2013年5月23日発売 Summer, Fireworks, and My Corpse / 『夏と花火と私の死体』(「優子」も収録) 2013年8月29日発売 ZOO / 『ZOO』 2013年9月26日発売 Black Fairy Tale / 『暗黒童話』 小野不由美 (Fuyumi Ono) 『十二国記』の初期4作が英訳されている。 詳細は「英訳された日本のSF・ファンタジー・ホラー小説、ライトノベル」を参照のこと。 か行 木内一裕 (Kazuhiro Kiuchi) A Dog in Water / 『水の中の犬』 ISBN 1939130034 (Vertical、2013年8月) 貴志祐介 (Yusuke Kishi) The Crimson Labyrinth / 『クリムゾンの迷宮』(1999) ISBN 193223411X (Vertical、2006年10月) 北方謙三 (Kenzo Kitakata) Ashes / 『棒の哀しみ』(1990) ISBN 1932234020 (Vertical、2003年6月) Winter Sleep / 『冬の眠り』(1996) ISBN 1932234136 (Vertical、2005年1月) The Cage / 『檻』(1983) ISBN 1932234241 (Vertical、2006年9月) City of Refuge / 『逃がれの街』(1982) ISBN 1934287121 (Vertical、2012年11月) 『City of Refuge』(逃がれの街)は遅くとも2010年春には米国amazonにデータが登録されていたが、(amazonのデータで見る限り)たびたび発売が延期になり、2012年11月にやっと発売された。 『檻』は文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(Japanese Literature Publishing Project JLPP)の第1回対象作品(2002年)に選ばれ、英訳出版された。 京極夏彦 (Natsuhiko Kyogoku) The Summer of the Ubume / 『姑獲鳥の夏』(1994) ISBN 1934287253 (Vertical、2009年8月) Loups-Garous / 『ルー=ガルー ― 忌避すべき狼』(2001) ISBN 1421532336 (VIZ Media LLC、2010年5月) - Haikasoru Why Don't You Just Die? / 『死ねばいいのに』(2010)(iPhone向けアプリ及びiPad向けアプリでの販売、講談社、2011年1月) 2011年1月、すでに販売されていたiPhone及びiPad向けアプリの『死ねばいいのに』がアップデートされ、英訳『Why Don't You Just Die?』(訳:Takami Nieda)が読めるようになった。下に貼った講談社が配信したPDFによれば、「世界同時配信開始」とのこと。 iPhone版アプリの説明文(日本語) / iPhone版アプリの説明文(英語) iPad版アプリの説明文(日本語) / iPad版アプリの説明文(英語) 関連リンク講談社BOOK倶楽部 『死ねばいいのに』特設サイト 講談社 PDF「京極夏彦×講談社 世界同時配信開始」 (報道)asahi.com 2011年1月16日「「死ねばいいのに」英語版」 桐野夏生 (Natsuo Kirino) 英題 ISBN 出版社、出版年 備考 Out 『OUT』(1997) ISBN 0099472287 (Paperback) Random House、2004年9月 同上 同上 ISBN 1400078377 (Paperback) Vintage、2005年1月 Grotesque 『グロテスク』(2003) ISBN 1400096596 Vintage、2008年2月 Real World 『リアルワールド』(2003) ISBN 0307387488 Vintage、2009年7月 Goddess Chronicle 『女神記』(2008) ISBN 1847673023 Canongate、2013年1月 In 『IN』(2009) ISBN 1846554241 Harvill Secker、2015年5月◆予定 ※英国amazonにリンク 英訳版『OUT』は2004年、アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)の1つであるエドガー賞最優秀長編賞にノミネートされた。(受賞したのはイアン・ランキン『甦る男』[2003年邦訳、ハヤカワ・ミステリ]) 栗本薫 (Kaoru Kurimoto) 《グイン・サーガ》の初期5作が英訳されている。 詳細は「英訳された日本のSF・ファンタジー・ホラー小説、ライトノベル」を参照のこと。 小池真理子 (Mariko Koike) The Cat In The Coffin / 『柩の中の猫』(1990) ISBN 1932234128 (Vertical、2009年6月) A Cappella / 『無伴奏』 ISBN 0857280449 (Thames River Press、2013年5月) さ行 桜庭一樹 (Kazuki Sakuraba) GOSICKVolume 1(2003) ISBN 1427805695 (TokyoPop、2008年4月) Volume 2(2004) ISBN 1427805709 (TokyoPop、2010年3月) 佐々木譲 (Joh Sasaki) Zero Over Berlin / 『ベルリン飛行指令』(1988) ISBN 1932234098 (Vertical、2004年7月) 佐藤春夫 (Haruo Sato) 『怪奇探偵小説名作選4 佐藤春夫集 夢を築く人々』(ちくま文庫、2002年)の収録作では、「西班牙犬の家」「指紋」「美しき町」の英訳がある。 佐藤友哉 (Yuya Sato) 【雑誌掲載】Gray-Colored Diet Coke / 「灰色のダイエットコカコーラ」(2002) ISBN 0345503570 (Del Rey、2009年6月、アメリカ版ファウスト2号に掲載) 島田荘司 (Soji Shimada) Tokyo Zodiac Murders Detective Mitarai's Casebook / 『占星術殺人事件』(1981) ISBN 4925080814 (IBC Books、2005年9月) 米国EQMMに中編「Pの密室」の英訳掲載(2013年8月号)。 『占星術殺人事件』は文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(Japanese Literature Publishing Project JLPP)の第1回対象作品(2002年)に選ばれ、英訳出版された。 清水義範 (Yoshinori Shimizu) 【電子書籍】Labyrinth / 『迷宮』(1999) 北米Sony Reader Store (Shueisha English Edition、2013年10月31日)(英訳版『迷宮』公式サイト) 鈴木光司 (Koji Suzuki) リング三部作と『バースデイ』および、『仄暗い水の底から』、『楽園』、『神々のプロムナード』、『エッジ』が英訳されている。 詳細は「英訳された日本のSF・ファンタジー・ホラー小説、ライトノベル」を参照のこと。 『リング』は世界中で翻訳出版されている。短編集『生と死の幻想』の英訳『Death and The Flower』(ISBN 1934287008)が近日刊行予定?? BOOK.asahi.com、2012年06月16日 「世界一怖いトイレットペーパー、海外へ 経産省が支援」 清涼院流水 (Ryusui Seiryoin) 日本の作家を英語圏へ進出させるためのプロジェクト「The BBB」を進めている(公式サイト 2012年12月1日公開 The BBB Breakthrough Bandwagon Books)。 自作の『キング・イン・ザ・ミラー』(PHP研究所、2010年10月)は自ら英訳し、2012年11月より電子書籍として販売している。このプロジェクトにはほかに、メフィスト賞作家の蘇部健一、積木鏡介、矢野龍王が参加している。 清涼院流水の小説の英訳は『キング・イン・ザ・ミラー』が初だが、小説以外では講談社の文芸誌『ファウスト』の北米版1号および2号に清涼院流水のコラム「ヤバ井でSHOW」の英訳が載っている。 関連記事『ハヤカワミステリマガジン』の杉江松恋氏の連載「ミステリちゃんが行く!」の第5回(2012年9月号)は清涼院流水インタビュー。「The BBB」について語っている。 【出版の新常識!?】(上)英語圏へ ロマンでなく必要条件 (MSN産経ニュース、2013年1月7日) - 「The BBB」が紹介されている 「日本のエンターテインメント(特にミステリー)小説は世界に通用する!」(執筆:清涼院流水) (翻訳ミステリー大賞シンジケート、2013年1月30日) なお杉江松恋氏も以前にブログで日本ミステリの英訳について書いている(「(8/18)異文化交流」、2009年8月18日)。 瀬名秀明 (Hideaki Sena) Parasite Eve / 『パラサイト・イヴ』(1995)ISBN 1932234195 (Vertical、2005年10月) ISBN 1932234209 (Vertical、2008年5月) 蘇部健一 (Kenichi Sobu) 短編「叶わぬ想い」(2005)/ The Hopeless Dream (清涼院流水訳、The BBB、2012年12月) 短編「きみがくれたメロディ」(2005)/ Your Melody (清涼院流水訳、The BBB、2014年3月) 『六とん2』(2005年)収録の短編SFミステリ「叶わぬ想い」が英語圏進出プロジェクト「The BBB」にて英訳され、電子書籍で販売されている。同短編集の「きみがくれたメロディ」も英訳される予定。 曽野綾子 (Ayako Sono) No Reason for Murder / 『天上の青』(1990) ISBN 4925080636 (UNKNO、2003年) 『天上の青』は文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(Japanese Literature Publishing Project JLPP)の第1回対象作品(2002年)に選ばれ、英訳出版された。 た行 高木彬光 (Akimitsu Takagi) The Tattoo Murder Case / 『刺青殺人事件』 ISBN 1569471568 (Soho Crime、2003年7月) Honeymoon to Nowhere / 『ゼロの蜜月』 ISBN 1569471541 (Soho Crime、2003年7月) ※『No Patent on Murder』という英題で出版されたこともある The Informer / 『密告者』 ISBN 156947155X (Soho Press、2003年7月) 高嶋哲夫 (Tetsuo Takashima) Fallout / 『メルトダウン』(2003) ISBN 1934287156 (Vertical、2013年1月) 【電子書籍】『TSUNAMI』(2005年)がShueisha English Editionより発売予定。 『Fallout』(メルトダウン)は遅くとも2010年春には米国amazonにデータが登録されていたが、(amazonのデータで見る限り)たびたび発売が延期になり、2013年1月にやっと発売された。 高田崇史 (Takafumi Takada) The BBBにて、「三人小坊主 千葉千波の事件日記」が英訳される予定。英訳者:清涼院流水。『試験に出るパズル 千葉千波の事件日記』に収録の短編「夏休み、または避暑地の怪」の改題か? 高橋克彦 (Katsuhiko Takahashi) The Case of the Sharaku Murders / 『写楽殺人事件』 ISBN 0857281291 (Thames River Press、2013年9月) 文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(Japanese Literature Publishing Project JLPP)で英訳出版された。 高見広春 (Koushun Takami) Battle Royale / 『バトル・ロワイアル』(1999)ISBN 156931778X (VIZ Media LLC、2003年2月) ISBN 0575080493 (Gollancz、2007年5月) ISBN 1421527723 (Haikasoru、2009年11月) - Haikasoru 谷崎潤一郎 (Junichiro Tanizaki) 「私」(創元推理文庫『日本探偵小説全集第11巻 名作集1』や集英社文庫『谷崎潤一郎犯罪小説集』に収録されている作品)The Thief (谷崎潤一郎『Seven Japanese tales』に収録、1963年) The Thief (アンソロジー『Murder in Japan Japanese Stories of Crime and Detection』に収録、John L. Apostolou編、1987年6月) 「秘密」(ちくま文庫『明治探偵冒険小説集4 傑作短篇集 露伴から谷崎まで』に収録されている作品)The Secret (谷崎潤一郎『The gourmet club a sextet』に収録、講談社インターナショナル、2001年) 「柳湯の事件」(集英社文庫『谷崎潤一郎犯罪小説集』に収録されている作品)The Incident at Willow Bath House (『Studies in Modern Japanese Literature Essays and Translations in Honor of Edwin McClellan』に収録、1997年) 『日本探偵小説全集第11巻 名作集1』に「私」とともに収録されている「途上」はおそらく英訳されていない。集英社文庫『谷崎潤一郎犯罪小説集』には「柳湯の事件」、「途上」、「私」、「白昼鬼語」が収録されているが、「白昼鬼語」もおそらく英訳はない。 陳舜臣 (Shunshin Chin) Murder in a Peking Studio / 『北京悠々館』(1971) ISBN 0939252155 (Arizona State Univ Center for Asian、1986年4月) 辻原登 (Noboru Tsujihara) Jasmine / 『ジャスミン』(2004) ISBN 0857282506 (Thames River Press、2012年12月) 英国推理作家協会(CWA)のインターナショナル・ダガー賞(最優秀翻訳ミステリ賞)の選考委員であるKaren Meek氏がブログで公開している2013年度用の「ノミネート資格のある作品一覧」には『ジャスミン』も入っている。 『ジャスミン』は文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(Japanese Literature Publishing Project JLPP)の第2回対象作品(2005年)に選ばれ、英訳出版された。 積木鏡介 (Kyosuke Tsumiki) 都市伝説刑事シリーズ「都市伝説刑事 事件1 メリーさんのメール」(2013)/ Urban Legend Detectives Case 1 The Merry's Mail (清涼院流水訳、The BBB、2013年4月[2分冊]、2013年11月[合本]) 「都市伝説刑事 事件2 ひとりかくれんぼ」(2013)/ Urban Legend Detectives Case 2 Solitary Hide and Seek (清涼院流水訳、The BBB、2013年11月) 英語圏進出プロジェクト「The BBB」の書き下ろし作品。日本語版とその英訳版が電子書籍で販売されている。 戸川昌子 (Masako Togawa) 英題 ISBN 出版社、出版年 備考 The Master Key 『大いなる幻影』 B00235SX3Q Dodd, Mead Co.、1984年 表紙写真なし 同上 同上 ISBN 014007645X Penguin、1986年8月 Lady Killer 『猟人日記』 B002DITQNE Dodd, Mead Co.、1986年 表紙写真なし 同上 同上 ISBN 0345345487 Ballantine Books、1987年7月 A Kiss of Fire 『火の接吻』 ISBN 0345355806 Ballantine Books、1989年11月 Slow Fuse 『深い失速』 ISBN 0679418628 Pantheon、1995年10月 な行 中井英夫 (Hideo Nakai) 短編「地下街」の英訳「Underground City」が英語圏のウェブマガジン『Words without Borders』の2012年7月号に掲載された(リンク)。 中里友香 (Yuka Nakazato) Silver Wings of the Campanula / 『カンパニュラの銀翼』(第2回アガサ・クリスティー賞受賞作)(Bento Books、2014年11月◆予定) 中村文則 (Fuminori Nakamura) The Thief / 『掏摸(スリ)』(2009) ISBN 1616950218 (Soho Crime、2012年3月) The Rule of Evil and the Mask / 『悪と仮面のルール』(2010) ISBN 1616952121 (Soho Press、2013年6月) Last Winter, We Parted / 『去年の冬、きみと別れ』(2013) ISBN 1616954558 (Soho Press、2014年10月◆予定) 『掏摸(スリ)』は2009年の出版物を対象とする第4回大江健三郎賞の受賞作。大江健三郎賞は受賞作の英訳(またはフランス語訳・ドイツ語訳)の出版を約束している賞で、大江健三郎が1年間の出版物(小説に限らず、評論等も含まれる)から選出する。 『掏摸(スリ)』は日本ではあまりミステリとは見なされていないと思うが、松本清張『砂の器』や高木彬光『刺青殺人事件』を出版しているSoho Crimeからの出版であるのでリストに加えておく。米国amazonで「この商品を買った人はこんな商品も買っています」を見てみると、東野圭吾『容疑者Xの献身』や北欧のミステリ作家(ユッシ・エーズラ・オールスン、オーサ・ラーソン、アンネ・ホルト、ジョー・ネスボ等々)の作品が並んでいるので、やはりアメリカでは「クライム・フィクション」として受容されているようである。 『掏摸(スリ)』は2013年1月にはフランス語訳"Pickpocket"も出版された。 毎日新聞2013年11月5日東京夕刊の記事「読書日記 著者のことば 中村文則さん」によれば、『去年の冬、きみと別れ』は「ゲラ段階で英訳の申し出があった」とのこと。 夏樹静子 (Shizuko Natsuki) 英題 ISBN 出版社、出版年 備考 Murder at Mt. Fuji 『Wの悲劇』 ISBN 0312552874 St Martins Pr、1984年5月 同上 同上 ISBN 0345337611 Ballantine Books、1987年1月 The Third Lady 『第三の女』 ISBN 0345337654 Ballantine Books、1987年5月 The Obituary Arrives at Two O'Clock 『訃報は午後二時に届く』 ISBN 0345352378 Ballantine Books、1988年10月 Innocent Journey 『黒白の旅路』 ISBN 0345356454 Ballantine Books、1989年4月 Portal of the Wind 『風の扉』 ISBN 034536032X Ballantine Books、1990年6月 Death from the Clouds 『雲から贈る死』 ISBN 0345366670 Ballantine Books、1991年3月 1977年のエラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)初来日の際に夏樹静子は京都散策の案内役を務め、それ以来交流が続いた。(フレデリック・ダネイは1982年9月に死去) 『Ellery Queen's Japanese Golden Dozen The Detective Story World in Japan』(エラリー・クイーン編、タトル商会、1978年)に収録 「断崖からの声」 / Cry from the Cliff 米国EQMM掲載 (11編訳載。日本の作家で最多。[次点の松本清張は4編]) タイトル 英題 掲載号 備考 「質屋の扉」 The Pawnshop Murder 1980年5月号 アンソロジー『Murder in Japan Japanese Stories of Crime and Detection』(1987)に収録 「足の裏」 The Sole of the Foot 1981年9月号 アンソロジー『Murder in Japan Japanese Stories of Crime and Detection』(1987)に収録アンソロジー『Murder Intercontinental Stories from Ellery Queen's Mystery Magazine and Alfred Hitchcock Mystery Magazine』(1996)に収録 「愛さずにはいられない」 I Can't Help Loving Him 1982年7月号 「階段」 The Stairs 1985年6月号 「狙われて」 A Very Careful Man 1987年1月号 「カビ」 The Taste of Cocoa 1988年3月号 「毒」(旧題・モーテルの毒) The Love Motel 1989年7月号 Robert B. Rohmer訳/アンソロジー『The Year's Best Mystery and Suspense Stories 1990』(1990)に収録 「艶やかな声」 The Woman on the Phone 1990年5月号 Robert B. Rohmer訳 「酷い天罰」 Divine Punishment 1991年3月号 Gavin Frew訳/アンソロジー『The Oxford Book of Detective Stories』(2000)に収録 「深夜の偶然」 A Midnight Coincidence 1992年5月号 Gavin Frew訳 「独り旅」 Solitary Journey 1994年6月号 Gavin Frew訳/アンソロジー『Women of Mystery III』(1998)に収録 ※「ひとり旅」は別作品 ※「モーテルの毒」は初出時のタイトル。1988年の短編集『湖・毒・夢』刊行時に「毒」に改題された。 ※1979年10月のエラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)夫妻の来日時、兄の五十嵐均がクイーンに夏樹静子の短編の英訳原稿を渡し、『EQMM』に載せてもらえないかと頼んでいる。クイーンは一読してすぐに掲載を決めたという(ローズ・ダネイ「エラリイ・クイーン夫妻最後の旅」[仙波有理訳]、「第5回 夏樹さんの短篇」『ミステリマガジン』1989年5月号)。これが1980年5月号に掲載された「質屋の扉」だろうか。 米国『Ellery Queen's Prime Crimes』掲載 タイトル 英題 掲載号 備考 「遠い秘密」 It's Best Not To Listen 3号(1985年秋号) 「遇わなかった男」 The Missing Alibi 4号(1986年) 『New Mystery』掲載 タイトル 英題 掲載号 備考 「死ぬより辛い」 Harder Than To Die 第1期第2号、1992-93年 「独り旅」か? Solitary Journey 第2期第2号、1994年 同時期に米国『EQMM』に載ったものと同一? 以上の掲載作のうち「足の裏」について、『夏樹静子のゴールデン12(ダズン)』(文藝春秋、1994年)巻末の鼎談(夏樹静子、五十嵐均、権田萬治)で夏樹静子の兄の五十嵐氏は以下のように語っている。 これは一九八二年にヨーロッパで、当年の最優秀短篇に選ばれて、イラスト入りで新聞掲載されたりもしました。アメリカのEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリーマガジン)に英文で載ったのが、フランス語やスウェーデン語に転訳されたのですが。 最優秀短編に選ばれたということについて、詳細は分からない。 『Wの悲劇』の英訳について マーク・シュライバー(高山真由美訳)「日本ミステリ英訳史――受容から創造へ」(『ミステリマガジン』2007年6月号)、p.21より引用 これはあまり知られていないことだが、翻訳小説のマーケティングにおいて、小説に大きく編集が加えられるだけでなく、欧米の読者に受け容れられやすいように物語自体が書き換えられることもある。夏樹静子の『Wの悲劇』が Murder at Mt. Fuji になったときにも、日本語版の原作には出てこないアメリカ人女性が主役のひとりとして新たに登場した。 夏樹静子は《トーキョー・ジャーナル》誌(一九八七年七月号)のインタヴューに答え、こう言っている。「その部分は翻訳用の原稿を送るまえに書きました。変更を加えれば、つまり、理解できる登場人物がひとりでもいれば、外国の読者にもより興味を持ってもらえると思ったのです」 一方、2002年のエッセイでは以下のように書かれている。 夏樹静子 エッセイ集『往ったり来たり』(光文社文庫、2008年)、pp.67-68 [初出:西日本新聞、2002年] 完成した『Wの悲劇』の英訳原稿を、エージェントのSさんがアメリカのいくつかの出版社に持ちこんでは断られた。やっとセント・マーチンズ・プレス社が承諾してくれたが、思いがけぬ要求を持ち出された――。 アメリカで無名の日本の女性作家の作品を出版するとなれば、物語の中にどこかわが国との接点がなければならないと、先方の編集者はいった。それに、なるべく日本情緒も加味してほしい――。 協議のうえ、私は『Wの悲劇』の探偵役で劇作家の卵の若い女性を、日本文学の勉強に留学中のアメリカ娘に変えることにした。日本情緒のほうは、舞台が山中湖畔で富士山がよく見えるから、そのムードを強調したいと先方が提案し、タイトルも変えることになった。私はやむをえず目をつぶって、とにかくまず出版にこぎつけたいと考えていた。 仁木悦子 (Etsuko Niki) 短編 The distant drawing / 「遠い絵図」(『The Kyoto collection stories from the Japanese』、1989年) 『宝石』1958年3月号に掲載された仁木悦子の短編「灰色の手袋」に付された江戸川乱歩のルーブリックは「"猫は知っていた"英訳のこと」と題されており、仁木悦子本人からの報告として、「仁木さんの一番上の姉さんは若いころアメリカに留学したことがあり、その当時の先生であったアメリカの学者が今東京のある文化団体の長をしておられ、"猫は知っていた"を読んで、姉さんを介して英訳出版のことを勧められ、アメリカ大出版社との連絡もすでに出来ている模様だというのである。結構なことだから承諾なさいと勧めておいた(以下略)」と書いている。ただ、この話は実現はしていないようである。乱歩は日本版『EQMM』1958年9月号でも「長篇では『猫は知っていた』が英訳されるという話もある」と書いている。 西尾維新 (NISIOISIN, Nisio Isin) 著者名英字表記は「NISIOISIN」。「Nisio Isin」、「Nisioisin」などとも表記。 戯言シリーズ / Zaregoto series (Del Rey)『クビキリサイクル』(2002)/ Zaregoto Book 1 The Kubikiri Cycle (2008年7月、ISBN 0345504275) 『クビシメロマンチスト』(2002)/ Zaregoto Book 2 The Kubishime Romanticist (2010年6月、ISBN 0345505786) その他『DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件』(2006)/ Death Note Another Note (VIZ Media、2008年2月、ISBN 142151883X) 『xxxHOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル』(2006)/ xxxHOLiC AnotherHOLiC (Del Rey、2008年10月、ISBN 0345505182) 『xxxHOLiC アナザーホリック』の第1話の英訳は、日本の文芸誌『ファウスト』の北米版第1号(2008年8月)に先行掲載された。北米版『ファウスト』第2号(2009年6月)には「新本格魔法少女りすか 第一話 やさしい魔法はつかえない。」の英訳が掲載されている。 西村京太郎 (Kyotaro Nishimura) The Mystery Train Disappears / 『ミステリー列車が消えた』(1982) ISBN 0942637305 (Barricade Books、1990年12月) The Isle of South Kamui and Other Stories / 『南神威島(みなみかむいとう)』 ISBN 1783080116 (Thames River Press、2013年9月) 『南神威島』は文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(Japanese Literature Publishing Project JLPP)で英訳出版された。 乃南アサ (Asa Nonami) The Hunter / 『凍える牙』(1996) ISBN 4770030258 (講談社インターナショナル、2006年12月) Now You're One of Us / 『暗鬼』(1993) ISBN 1934287032 (Vertical、2007年12月) Body / 『躯(からだ)』(1999) ISBN 1934287377 (Vertical、2012年12月) ※ホラー短編集 『Body』(躯)は遅くとも2010年春には米国amazonにデータが登録されていたが、(amazonのデータで見る限り)たびたび発売が延期になり、2012年12月にやっと発売された。 法月綸太郎 (Rintaro Norizuki) 【短編】 An Urban Legend Puzzle / 「都市伝説パズル」EQMM 2004年1月号 アンソロジー『Passport to Crime』(2007年1月)に収録 アンソロジー『The Mammoth Book of Best International Crime』(2009年)に収録 【短編】The Lure of the Green Door / 「緑の扉は危険」EQMM 2014年11月号 アンソロジー『The Mammoth Book of Best International Crime』は2013年にチェコ語訳『Světové krimipovídky』(ネット書店リンク)が出ている。「都市伝説パズル」のチェコ語訳題は「Záhada městské legendy」。 は行 浜尾四郎 (Shiro Hamao) The Devil's Disciple / 『悪魔の弟子』 ISBN 1843918579 (Hesperus Press、2011年9月)「The Devil's Disciple」(悪魔の弟子)と「Did He Kill Them?」(彼が殺したか)の2編を収録。どちらも1929年に雑誌『新青年』に掲載された短編である。 東野圭吾 (Keigo Higashino) ガリレオシリーズThe Devotion of Suspect X / 『容疑者Xの献身』(2005)Minotaur Books 2011年2月ハードカバー版、2012年2月ペーパーバック版 (アメリカ) Little, Brown 2011年7月ペーパーバック版 (イギリス) Thorndike Press 2011年5月ハードカバー版 (大活字版) Salvation of a Saint / 『聖女の救済』(2008)ISBN 0312600682 (Minotaur Books、2012年10月) A Midsummer's Equation / 『真夏の方程式』(2011)2015年冬◆予定 加賀恭一郎シリーズMalice / 『悪意』(1996)ISBN 1250035600 (Minotaur Books、2014年10月◆予定) その他Naoko / 『秘密』(1998)ISBN 1932234071 (Vertical、2004年8月) Journey Under the Midnight Sun / 『白夜行』Little, Brown、ペーパーバック版 ISBN 1408704110 (2015年10月◆予定) Little, Brown、Kindle版 (2015年10月◆予定) 『容疑者Xの献身』はアメリカ図書館協会(ALA)により2012年のミステリ部門最高推薦図書に選ばれたほか、エドガー賞最優秀長編賞、バリー賞最優秀新人賞の候補になった。エドガー賞ノミネート以前にも複数の言語に翻訳されていたが、エドガー賞ノミネート後はさらに翻訳が進み、『OUT』以来の日本ミステリの世界的大ヒット作となった。 参考:『容疑者Xの献身』の翻訳本(+各地のネット書店の該当ページへのリンク)(当サイト調査)アジア 韓国・韓国語 『용의자 X의 헌신』(2006年) 台湾・繁体字中国語 『嫌疑犯X的獻身』 (2006年)※リンク先は2010年版 タイ ・タイ語 รัก ลวง ตาย (2006年) 中国・簡体字中国語 『嫌疑人X的献身』(2008年版、2010年版) ベトナム・ベトナム語 Phía Sau Nghi Can X (2009年) 欧米 ロシア語訳 Жертва подозреваемого X (2007年) 英訳(アメリカ) The Devotion of Suspect X (2011年2月) 英訳(イギリス) The Devotion of Suspect X (2011年7月) カタルーニャ語訳 La devoció del sospitós X (2011年9月)(スペイン東部で話されている言語) スペイン語訳 La devoción del sospechoso X (2011年10月) フランス語訳 Le Dévouement du suspect X (2011年11月) オランダ語訳 De fatale toewijding van verdachte X (2012年5月) イタリア語訳 Il Sospettato X (2012年9月) ハンガリー語訳 X - A gyilkos ismeretlen (2012年10月) ドイツ語訳 Verdächtige Geliebte (2012年11月) チェコ語訳 Oddanost podezřelého X (2012年) ギリシャ語訳 Η αφοσίωση του υπόπτου Χ (2012年) 関連記事:東野圭吾『容疑者Xの献身』エドガー賞ノミネート関連記事一覧 久生十蘭 (Juran Hisao) 短編「母子像」の英訳がニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙主催、第2回(1953年)世界短編小説コンクール第一席入選。 (ブログ「久生十蘭オフィシャルサイト準備委員会」の2005年12月31日のエントリー「久生十蘭の仕事部屋から(16)」がこのことについて詳しい) 最近では、2012年6月頃に刊行された日本の怪奇小説の英訳アンソロジー『Kaiki Uncanny Tales from Japan』第3巻に短編「妖翳記」の英訳が収録された。 平山夢明 (Yumeaki Hirayama) 短編Summoned by the Shadows / 「或る彼岸の接近」(Lairs of the Hidden Gods 第2巻『Inverted Kingdom』、黒田藩プレス、2005年) 長編Diner / 『DINER(ダイナー)』(2009) 売れ行き不振によりレーベルが休刊、『DINER』も発売中止にイギリス版 ISBN 1909223840 (Exhibit A、2014年7月予定→発売中止) 北米版(アメリカ・カナダ版) ISBN 1909223859 (Exhibit A、2014年7月予定→発売中止) 電子版(英米共通) ISBN 1909223867 (Exhibit A、2014年7月予定→発売中止) 船戸与一 (Yoichi Funado) May in the Valley of the Rainbow / 『虹の谷の五月』 ISBN 1932234284 (Vertical、2006年12月) ま行 舞城王太郎 (Otaro Maijo) 【雑誌掲載】Drill Hole in My Brain / 「Drill Hole in My Brain」(2003) ISBN 034550206X (Del Rey、2008年8月、アメリカ版ファウスト1号に掲載) 文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(JLPP)で『阿修羅ガール』の英訳・仏訳の出版が予定されていたが、事業が2012年6月に「廃止」の判定を受けてしまったためどうなるのか不明。 松浦寿輝 (Hisaki Matsuura) Triangle / 『巴』 ISBN 162897026X (Dalkey Archive Press、2014年6月) 文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(JLPP)での刊行。「形而上学的推理小説」。 松本清張 (Seicho Matsumoto) 長編Points and Lines / 『点と線』 ISBN 0870114565 (講談社アメリカ、1986年6月)(初刊は1970年) Inspector Imanishi Investigates / 『砂の器』 ISBN 1569470197 (Soho Crime、2003年7月) Pro Bono / 『霧の旗』 ISBN 1934287024 (Vertical、2012年7月) 短編集The Voice and Other Stories / 「声」ほか ISBN 4770019491 (講談社インターナショナル、1995年7月)(初刊は1989年)The Accomplice(共犯者) The Face(顔) The Serial(地方紙を買う女) Beyond All Suspicion(捜査圏外の条件) The Voice(声) The Woman Who Wrote Haiku(巻頭句の女) 米国EQMM掲載 タイトル 英題 掲載号 備考 「地方紙を買う女」 The Woman Who Took the Local Paper 1979年6月号 アンソロジー『Ellery Queen's crime cruise round the world 26 stories from Ellery Queen's mystery magazine』(1981)に収録アンソロジー『Murder in Japan Japanese Stories of Crime and Detection』(1987)に収録 「証言」 The Secret Alibi 1980年11月号 アンソロジー『Murder in Japan Japanese Stories of Crime and Detection』(1987)に収録 「百円硬貨」 The Humble Coin 1982年7月号 「捜査圏外の条件」 Beyond All Suspicion 1991年1月号 Adam Kabat訳(松本清張英訳短編集『The Voice and Other Stories』[1989]からの掲載) 「地方紙を買う女」(The Woman Who Took the Local Paper)は米国EQMMに掲載された最初の日本ミステリ。 その他の短編 「一年半待て」 / Just Eighteen Months または Wait a Year and a HalfJust Eighteen Months 『Japan Quarterly』1962年1号(9巻1号)、朝日新聞社、John Bester訳 ★松本清張作品の最初の英訳 Just Eighteen Months 『Ellery Queen's Prime Crimes』1号(Davis Publications、1983年) Wait a Year and a Half 『The Mother of Dreams and Other Short Stories』(Kodansha America、1986年) Wait a Year and a Half 『Japanese Short Stories』(Folio Society、2000年) 「証言」 / Evidence『Japan Quarterly』1962年1号(9巻1号)、朝日新聞社、John Bester訳 ★松本清張作品の最初の英訳 のちに「The Secret Alibi」というタイトルでEQMMに訳載 「奇妙な被告」 / The Cooperative Defendant『Ellery Queen's Japanese Golden Dozen The Detective Story World in Japan』(エラリー・クイーン編、タトル商会、1978年) 『Classic Short Stories of Crime and Detection』(Garland、1983年) 『The Oxford Book of Detective Stories』(Oxford University Press、2000年) 「顔」 / The Face『Japan Quarterly』1980年4号(27巻4号)、朝日新聞社、David W. Wright訳 松本清張短編集『The Voice and Other Stories』1989年 「張込み」 / The Stakeout『Japan Echo』12号(1985年)、ジャパンエコー社、Daniel Zoll訳 『The Columbia Anthology of Modern Japanese Literature From 1945 to the Present』(2007年4月)(上記の訳文の再録) 北九州市立松本清張記念館 松本清張研究奨励事業研究報告書 松本清張研究奨励事業第8回(2008年) 短編集『隠花の飾り』英訳(収録短編11編のうち5編を英訳。なお、「隠花の飾り」というタイトルの短編は存在しない)Tabi socks(足袋) Woman's best friend(愛犬) Plumes of fire in the north(北の火箭) The departure(見送って) A case of misinterpretation(誤訳) 松本清張研究奨励事業第11回(2011年) 短編「黒地の絵」英訳Tattoo on the black soldier's breast(黒地の絵) また、長編『熱い絹』の日米同時発売の企画もあったらしい。(山村正夫『続々・推理文壇戦後史』、双葉社、1980年4月、p.203) 関連リンク:宮脇孝雄「松本清張作『砂の器』英語版で翻訳の楽しみを味わう」 水上勉 (Tsutomu Mizukami, Tsutomu Minakami) The Temple of the Wild Geese and Bamboo Dolls of Echizen / 『雁の寺』と『越前竹人形』 ISBN 1564784908 (Dalkey Archive Press、2008年3月) 皆川博子 (Hiroko Minagawa) 長編The Case of the Curious Cadaver in the Dissectorium of Dr. Daniel Burton / 『開かせていただき光栄です』 (Bento Books、201X年◆予定) 短編「文月の使者」 "The Midsummer Emissary" (『Kaiki Uncanny Tales from Japan 3』、黒田藩プレス、2012年) 「夕陽が沈む」 "Sunset" (『Speculative Japan 3』、黒田藩プレス、2012年) 早川書房の英訳プロジェクト「ハヤカワ・ワールドワイド」で、2012年の本格ミステリ大賞受賞作『開かせていただき光栄です』が英訳され、電子書籍として出版される予定。このプロジェクトでは、東野圭吾『容疑者Xの献身』や伊藤計劃『ハーモニー』の英訳者であるアレクサンダー・O・スミス氏らが創設したアメリカの翻訳出版社、BENTO BOOKSが作品選定と英訳を担当している。同プロジェクトではほかに森晶麿『黒猫の遊歩あるいは美学講義』、中里友香『カンパニュラの銀翼』、小川一水『天冥の標』、五代ゆう『アバタールチューナー』の英訳も進んでいる。 関連記事2013年5月31日「日本の小説、英訳し電子書籍に 早川書房、映画化を期待」(ブック・アサヒ・コム、朝日新聞デジタル) 2013年5月31日「SF、ミステリーを英訳電子化=ハリウッド映像化も視野に—早川書房」(ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版) 2013年6月26日「Bento Books Announces Translation and Publishing Tie-up With Hayakawa Publishing」 湊かなえ (Kanae Minato) Confessions / 『告白』(2008) ISBN 0316200921 (Mulholland Books、2014年8月) 2011年5月にイタリア語訳が出ている。 宮部みゆき (Miyuki Miyabe) 英題 ISBN 出版社、出版年 備考 All She Was Worth 『火車』(1992) ISBN 0395966582 Mariner Books、1999年5月 Shadow Family 『R.P.G.』(2001) ISBN 4770030045 講談社USA、2006年1月 最初の刊行は2004年? Crossfire 『クロスファイア』(1998) ISBN 4770030681 講談社USA、2007年7月 最初の刊行は2006年? The Devil's Whisper 『魔術はささやく』(1989) ISBN 4770031173 講談社USA、2010年3月 The Sleeping Dragon 『龍は眠る』(1991) ISBN 4770031041 講談社USA、2010年4月 ファンタジー小説 Brave Story 『ブレイブ・ストーリー』(2003) ISBN 1421527731 VIZ Media LLC、2009年11月 Haikasoru The Book of Heroes 『英雄の書』(2009) ISBN 1421527758 VIZ Media LLC、2010年1月 Haikasoru ICO Castle in the Mist 『ICO 霧の城』(2004) ISBN 1421540630 VIZ Media LLC、2011年8月 Haikasoru Apparitions Ghosts of Old Edo / ホラー短編集『あやし』 Haikasoru、2013年11月 『ブレイブ・ストーリー』の英訳版は2008年1月、アメリカ図書館協会(ALA)の児童図書部門(Association for Library Service to Children, ALSC)が主催するバチェルダー賞(Batchelder Award)を受賞している。これは英訳された児童文学を対象とする賞である。1968年から続く賞で、日本の作品ではほかに、1983年に丸木俊『ひろしまのピカ』、1997年に湯本香樹実『夏の庭 The Friends』、2009年に上橋菜穂子『精霊の守り人』が受賞している。 森晶麿 (Akimaro Mori) The Black Cat Takes a Stroll / 『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(第1回アガサ・クリスティー賞受賞作)(Bento Books、2015年◆予定) 森博嗣 (Hiroshi Mori / MORI Hiroshi) 短編「小鳥の恩返し」(1999)/ The Girl Who Was the Little Bird (清涼院流水訳、The BBB、2013年12月) 短編「片方のピアス」(1999)/ A Pair of Hearts (清涼院流水訳、The BBB、2014年6月) 短編集『地球儀のスライス』(1999年)に収録の短編「小鳥の恩返し」が英語圏進出プロジェクト「The BBB」にて英訳され、電子書籍で販売されている。同短編集の「片方のピアス」も英訳される予定。 や行 山田風太郎 (Futaro Yamada) The Kouga Ninja Scrolls / 『甲賀忍法帖』(1959) ISBN 0345495101 (Del Rey、2006年12月) 山田正紀 (Masaki Yamada) 『アフロディーテ』(1980)と『イノセンス After The Long Goodbye』(2004)が英訳されている。 詳細は「英訳された日本のSF・ファンタジー・ホラー小説、ライトノベル」を参照のこと。 山村美紗 (Misa Yamamura) The Dark Ring of Murder / 『黒の環状線』(1976) ISBN 1561672475 (Noble House、1996年5月) 第18回(1972年)の江戸川乱歩賞候補作。この回の受賞作は和久峻三の『仮面法廷』。 結城昌治 (Shoji Yuki) I'm not a dog / 『ぼく、イヌじゃないよ』(1985) ISBN 0907349412 (Spindlewood、1985年8月) 河出書房新社の叢書《メルヘンの森》(全6巻)の1冊として刊行された絵本。 夢野久作 (Kyusaku Yumeno) Love After Death / 「死後の恋」 (日本文学英訳アンソロジー『Modanizumu Modernist Fiction from Japan, 1913-1938』[2008年2月]に収録) Bottled Hell / 「瓶詰地獄」 amazon.comでKindle版(2011年8月)が販売されている ※日本の翻訳グループによる英訳 Hell in a Bottle / 「瓶詰地獄」 (日本近代文学英訳アンソロジー『Three-Dimensional Reading Stories of Time and Space in Japanese Modernist Fiction, 1911-1932』[2013年7月]に収録) ほかに随筆「恐ろしい東京」の英訳(Terrifying Tokyo)が『Tokyo Stories A Literary Stroll』(2002)に収録されている。 横溝正史 (Seishi Yokomizo) The Inugami Clan / 『犬神家の一族』(1951) ISBN 1933330317 (Stone Bridge Press、2007年9月) 横溝作品はフランス語訳は3冊刊行されている(『犬神家の一族』、『八墓村』、『悪魔の手毬唄』)。ドイツ語訳はなし。 吉田修一 (Shuichi Yoshida) Villain / 『悪人』(2007) ISBN 0307454940 (Vintage、2011年8月) Parade / 『パレード』(2002)ISBN 1846552370 (Harvill Secker、2014年3月) ※英国amazonにリンク ISBN 0307454932 (Vintage、2014年7月) 英国推理作家協会(CWA)のインターナショナル・ダガー賞(最優秀翻訳ミステリ賞)の選考委員であるKaren Meek氏がブログで公開している2011年度用の「ノミネート資格のある作品一覧」には『悪人』も入っている。サイト閲覧者が同リストに対して書き込んだコメントを見ると、『悪人』がノミネートされるのではないかと予想している人もいる。 2012年9月に、米国のミステリ編集者のオットー・ペンズラーが「面白くて歴史的意義のあるミステリ小説はすべて英語圏の作品であると言ってよい」と主張するエッセイを発表した(Why the Best Mysteries Are Written in English)。このエッセイでペンズラーは、「つい最近までアジアにはミステリ小説はほとんどなかった」(Until very recent years, there were very few Asian mystery stories)と書いている。当然ながら反論コメントが即座に複数ついたが、日本にもミステリがあると反論してくれた人が挙げた作品は吉田修一の『悪人』だった。この作品を日本の「クライム・フィクション」の代表作とみなしている人もいるようである。(記事に対するコメントは一定時間が経つと消えてしまうようで、現在は見られない) 米澤穂信 (Honobu Yonezawa) 『ボトルネック』(2006)の部分訳が米国タフツ大学の「Tufts Digital Library」にある(リンク)。 米国EQMM掲載作品 EQMM=エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン。米国のミステリ雑誌。1941年創刊。初代編集長はエラリー・クイーン(の1人であるフレデリック・ダネイ)。 1950年代前半、江戸川乱歩はエラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)と文通している。このとき乱歩は手紙と一緒にジェームス・ハリスに英訳してもらった自作5、6編を送って、EQMMに載せてほしいと頼んだが、この願いは叶わなかった。(「シャーロック・ホームズの異郷のライヴァルたち(番外編) 明智小五郎(1-2)乱歩の短編集の紹介が『クイーンの定員』(1951年)に載った経緯」参照) 早川書房『ミステリマガジン』の前身である日本版『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』でかつて、海外を視野に入れた「EQMM短篇探偵小説年次日本コンテスト」(1958~1963、全6回)が実施されている。第1回の告知は1958年9月号に掲載。短編探偵小説を募集し、入選作1編を英訳して米国『EQMM』に送り、掲載を狙うという賞だった。ただ、第1回の入選作、結城昌治「寒中水泳」の英訳「A Midwinter Swim」はクイーンから「今一歩」との評が日本側に届き、掲載はされなかった。第2回~第5回は入選作が出ていない。第6回は土井稔「会議は踊る」が入選第一席に選ばれているが、やはり米国『EQMM』には掲載されていない(英訳が米国編集部に送られたかどうかも不明)。 著者 タイトル 英題 掲載号 備考 谷崎潤一郎 「私」 The Thief 1967年10月号 谷崎潤一郎『Seven Japanese tales』(1963年刊)からの転載 松本清張 「地方紙を買う女」 The Woman Who Took the Local Paper 1979年6月号 『Ellery Queen's crime cruise round the world 26 stories from Ellery Queen's mystery magazine』(1981)に収録 夏樹静子 「質屋の扉」 The Pawnshop Murder 1980年5月号 松本清張 「証言」 The Secret Alibi 1980年11月号 夏樹静子 「足の裏」 The Sole of the Foot 1981年9月号 『Murder Intercontinental Stories from Ellery Queen's Mystery Magazine and Alfred Hitchcock Mystery Magazine』(1996)に収録 松本清張 「百円硬貨」 The Humble Coin 1982年7月号 夏樹静子 「愛さずにはいられない」 I Can't Help Loving Him 同上 エラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)死去(1982年9月) 夏樹静子 「階段」 The Stairs 1985年6月号 夏樹静子 「狙われて」 A Very Careful Man 1987年1月号 夏樹静子 「カビ」 The Taste of Cocoa 1988年3月号 阿刀田高 「来訪者」 The Visitor 1988年12月中旬号 阿刀田高 「ナポレオン狂」 Napoleon Crazy 1989年3月号 夏樹静子 「毒」(旧題・モーテルの毒) The Love Motel 1989年7月号 『The Year's Best Mystery and Suspense Stories 1990』(1990)に収録 夏樹静子 「艶やかな声」 The Woman on the Phone 1990年5月号 松本清張 「捜査圏外の条件」 Beyond All Suspicion 1991年1月号 松本清張英訳短編集『The Voice and Other Stories』(1989)からの掲載 夏樹静子 「酷い天罰」 Divine Punishment 1991年3月号 『The Oxford Book of Detective Stories』(2000)に収録 赤川次郎 「沿線同盟」 Beat Your Neighbor Out of Doors 1992年3月号 『The Deadliest Games Tales of Psychological Suspense from Ellery Queen's Mystery Magazine』(1993)に収録 夏樹静子 「深夜の偶然」 A Midnight Coincidence 1992年5月号 夏樹静子 「独り旅」 Solitary Journey 1994年6月号 『Women of Mystery III』(1998)に収録 ※「ひとり旅」は別作品 五十嵐均 「セコい誘拐」 What Goes Round Comes Round 1995年7月号 以下はEQMMのPassport to Crimeコーナーに掲載 法月綸太郎 「都市伝説パズル」 An Urban Legend Puzzle 2004年1月号 第55回(2002年)推協賞短編部門受賞作/『The Mammoth Book of Best International Crime』(2009)に収録 光原百合 「十八の夏」 Eighteenth Summer 2004年12月号 第55回(2002年)推協賞短編部門受賞作 伊坂幸太郎 「死神の精度」 The Precision of the Agent of Death 2006年7月号 第57回(2004年)推協賞短編部門受賞作 横山秀夫 「動機」 Motive 2008年5月号 第53回(2000年)推協賞短編部門受賞作 長岡弘樹 「傍聞き」 Heard at One Remove 2010年2月号 第61回(2008年)推協賞短編部門受賞作 永瀬隼介 「師匠」 Chief 2013年2月号 第63回(2010年)推協賞短編部門ノミネート作 島田荘司 「Pの密室」 The Locked House of Pythagoras 2013年8月号 『The Realm of the Impossible』(2017)に収録 法月綸太郎 「緑の扉は危険」 The Lure of the Green Door 2014年11月号 『The Realm of the Impossible』(2017)に収録 島田荘司 「発狂する重役」 The Executive Who Lost His Mind 2015年8月号 甲賀三郎 「蜘蛛」 The Spider 2015年12月号 大阪圭吉 「寒の夜晴れ」 The Cold Night's Clearing 2016年5月号 大阪圭吉英訳短編集『The Ginza Ghost』(2017)に収録 島田荘司 「疾走する死者」 The Running Dead 2017年11・12月号 我孫子武丸 「人形はテントで推理する」 A Smart Dummy in the Tent 2019年7・8月号 芦辺拓 「疾駆するジョーカー」 The Dashing Joker 2020年9・10月号 (このリストの作成にあたっては、「翻訳道楽」の宮澤洋司氏にご協力いただきました) ※谷崎潤一郎「私」は三門優祐氏からリスト漏れを指摘していただき、2015年2月25日に追加しました。 ※最初の5編(谷崎潤一郎「私」、松本清張「地方紙を買う女」、夏樹静子「質屋の扉」、松本清張「証言」、夏樹静子「足の裏」)は『Murder in Japan Japanese Stories of Crime and Detection』(1987)に収録 ※法月綸太郎「都市伝説パズル」、光原百合「十八の夏」、伊坂幸太郎「死神の精度」の3編は『Passport to Crime』(2007)に収録 Passport to Crimeコーナー(2003年6月号~)について アメリカのミステリ雑誌『Ellery Queen's Mystery Magazine』の「Passport to Crime」コーナーは非英語圏の短編ミステリを英訳掲載するコーナーである(※ただしインドの作家が英語で書いた作品が掲載されたこともある)。2003年6月号より毎号掲載されており、日本の作品も何度か掲載されている。 「Passport to Crime」コーナーの初期の掲載作は『Passport to Crime』(2007年1月)というタイトルでまとめられて刊行されており、日本の作品では法月綸太郎、光原百合、伊坂幸太郎の作品が収録されている。 「十八の夏」は米国『EQMM』の読者投票で、掲載短編の年間第5位。(『ミステリマガジン』2007年6月号、p.39) 2013年1月、エドガー賞の候補作が発表され、2012年3・4月号の「Passport to Crime」コーナーで英訳紹介されたTeresa Solanaの"Still Life No. 41"が最優秀短編賞にノミネートされた。Teresa Solanaはカタルーニャ語(スペイン東部で使用される言語)で書くミステリ作家。「Passport to Crime」コーナー掲載作がエドガー賞にノミネートされたのはこれが初である。今後、日本の作品が同賞にノミネートされる日も来るだろうか? 『Ellery Queen's Prime Crimes』掲載作品(EQMMの増刊号のようなもの?) 著者 タイトル 英題 掲載号 備考 松本清張 「一年半待て」 Just Eighteen Months 1号(1983年冬号) 夏樹静子 「遠い秘密」 It's Best Not To Listen 3号(1985年秋号) 五十嵐均 「ビジター」 The Visitor 3号(1985年秋号) 本名の五十嵐鋼三(Kozo Igarashi)名義 夏樹静子 「遇わなかった男」 The Missing Alibi 4号(1986年) (このリストの作成にあたっては、「翻訳道楽」の宮澤洋司氏にご協力いただきました) 五十嵐均の「The Visitor」は日本でデビューする以前の掲載。日本でのデビュー作『ヴィオロンのため息の―高原のDデイ―』(角川書店、1994年5月)の著者略歴には『'85年EQMMに「ザ・ビジター」を執筆』とあるが、正確にはEQMMではなく『Ellery Queen's Prime Crimes』への掲載である。「The Visitor」の日本語版「ビジター」は日本推理作家協会編『ミステリー傑作選・特別編6 自選ショート・ミステリー2』(講談社文庫、2001年10月、pp.121-130)で読むことができる。 ミステリアンソロジー Ellery Queen's Japanese Golden Dozen The Detective Story World in Japan (エラリー・クイーン編、1978年5月) 石沢英太郎(Eitaro Ishizawa) 「噂を集め過ぎた男」 Too Much About Too Many 松本清張(Seicho Matsumoto) 「奇妙な被告」 The Cooperative Defendant のちにアンソロジー『Classic Short Stories of Crime and Detection』(1983)に収録のちにアンソロジー『The Oxford Book of Detective Stories』(2000)に収録 三好徹(Tohru Miyoshi) 「死者の便り」 A Letter from the Dead 森村誠一(Seiichi Morimura) 「魔少年」 Devil of a Boy 夏樹静子(Shizuko Natsuki) 「断崖からの声」 Cry from the Cliff 西村京太郎(Kyotaro Nishimura) 「優しい脅迫者」 The Kindly Blackmailer 佐野洋(Yoh Sano) 「証拠なし」 No Proof のちにアンソロジー『City Sleuths and Tough Guys』(1989)に収録 笹沢左保(Saho Sasazawa) 「海からの招待状」 Invitation from the Sea のちにアンソロジー『Murder on Deck!』(1998)に収録 草野唯雄(Tadao Sohno) 「復顔」 Facial Restoration 戸川昌子(Masako Togawa) 「黄色い吸血鬼」 The Vampire 土屋隆夫(Takao Tsuchiya) 「加えて、消した」 Write In, Rub Out 筒井康隆(Yasutaka Tsutsui) 「如菩薩団」 Perfectly Lovely Ladies Murder in Japan Japanese Stories of Crime and Detection (John L. Apostolou編、1987年6月) 江戸川乱歩 「心理試験」 The Psychological Test 「赤い部屋」 The Red Chamber 志賀直哉 「剃刀」 The Razor 「范の犯罪」 Han's Crime 谷崎潤一郎 「私」 The Thief 芥川龍之介 「藪の中」 In a Grove 石川達三 The Affair of the Arabesque Inlay 耕治人(こう はると) Black Market Blues 松本清張 「証言」 The Secret Alibi 「地方紙を買う女」 The Woman who Took the Local Paper 安岡章太郎 「雨」 Rain 安部公房 「夢の兵士」 The Dream Soldier 夏樹静子 「質屋の扉」 The Pawnshop Murder 「足の裏」 The Sole of the Foot 黒田藩プレスの非ミステリアンソロジー 以下のクトゥルーアンソロジー、怪奇小説アンソロジー、SF小説アンソロジーの収録内容は「英訳された日本のSF・ファンタジー・ホラー小説、ライトノベル>ホラーアンソロジー」、「英訳された日本のSF・ファンタジー・ホラー小説、ライトノベル>日本SFアンソロジー」で示す。 クトゥルーアンソロジーLairs of the Hidden Gods (全4巻)東京創元社から刊行されたアンソロジー『秘神界』(歴史編および現代編の全2巻、2002年9月)の英訳。 怪奇小説アンソロジーKaiki Uncanny Tales from Japan 第1巻 (京極夏彦、宮部みゆき、岡本綺堂 etc) Kaiki Uncanny Tales from Japan 第2巻 (高橋克彦、日影丈吉 etc) Kaiki Uncanny Tales from Japan 第3巻 (村山槐多、江戸川乱歩、皆川博子、久生十蘭 etc) (2012年6月頃(?)刊行済み) SF小説アンソロジーSpeculative Japan 第1巻 Speculative Japan 第2巻 Speculative Japan 第3巻 (綾辻行人の短編「心の闇」などを収録) その他のアンソロジー The Columbia Anthology of Modern Japanese Literature From Restoration to Occupation, 1868-19452007年4月刊/全888ページ。1868年から1945年までの日本の短編小説・詩・エッセイ等の英訳を収録。ミステリ関連では、江戸川乱歩「人間椅子」、谷譲次「上海された男」。 The Columbia Anthology of Modern Japanese Literature From 1945 to the Present2007年4月刊/全864ページ。1945年から2007年までの日本の短編小説・詩・エッセイ等の英訳を収録。ミステリ関連では、松本清張「張込み」"The Stakeout"、星新一「おーい でてこーい」"He-y, Come on Ou-t!"。 Modanizumu Modernist Fiction from Japan, 1913-19382008年2月刊/全605ページ。1913年から1938年までの日本の短編小説。広義のミステリ関連は、村山槐多「美少年サライノの首」、橘外男「酒場ルーレット紛擾記」、江戸川乱歩「二銭銅貨」「押絵と旅する男」「芋虫」、谷譲次「上海された男」、夢野久作「死後の恋」。 amazon.co.jp内のリスト (2010年6月6日追加 表紙をざっと一覧するのに便利) 英訳された日本のミステリ著者名50音順あ行 著者名50音順か行 著者名50音順さ行 著者名50音順た行 著者名50音順な・は行 著者名50音順ま行 著者名50音順や~わ行+アンソロジー 関連ページ 英訳された日本のSF・ファンタジー・ホラー小説、ライトノベル 「日本ミステリの海外刊行」に戻る
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/111.html
2011年2月8日 『中国ミステリ史 第四章』では、1970年代末から1990年代までの中国の探偵小説(偵探小説)/推理小説/ミステリの歴史を紹介している。 目次 第四章 1970年代末~1990年代: 翻訳ブームと中国ミステリの多様化第一節 日本の社会派推理小説が中国でもブームに 第二節 中国ミステリの多様化 第三節 1990年代末の中国翻訳ミステリ事情 第四節 邦訳された1980年代~1990年代の中国推理小説 参考文献 第四章 1970年代末~1990年代: 翻訳ブームと中国ミステリの多様化 第一節 日本の社会派推理小説が中国でもブームに この「中国ミステリ史」では触れていないが、井波律子(2003)『中国ミステリー探訪 ― 千年の事件簿から』で詳しく述べられているように、中国には欧米ミステリ受容以前から、1000年を越える長いミステリ(的なもの)の伝統がそもそもあった(またそれは、日本が欧米ミステリを受け入れる以前から、日本の物語様式に影響を与えていた)。そして19世紀末からの中国ミステリの歴史は、国外から新たに入ってきたミステリ様式と、もともと持っていたミステリ様式との止揚の歴史であった。 中国に訪れた国外からの第一の波は、19世紀末にアジアで翻訳小説文化が花開くと同時に流入したホームズやルパンなどの欧米ミステリであり、それを受容した結果、程小青(てい しょうせい)と孫了紅(そん りょうこう)の青紅コンビを中心とする上海探偵小説の時代が幕を開けた。第二の波は、社会状況の変化によって突如大挙して押し寄せてきたソ連の反スパイ小説であり、それは中国では反特小説となり、文革下ではその変異形が"写本"の形で流通した。 そして、文化大革命終結後、中国に第三の波が訪れる。その中心となったのは、日本の社会派推理小説である。前掲の李長声(2002)「中国のミステリー事情」によれば、この頃には、こんなフレーズが流行したという。「若者の愛読書は、アメリカのラブ・ストーリーと日本の推理」。 1970年代末に文化大革命が終結すると、中国も次第に文化の鎖国状態を解き、翻訳小説も刊行されるようになる。1979年に刊行された雑誌『訳林』(译林)創刊号にはアガサ・クリスティ『ナイルに死す』(1937)が翻訳掲載されたが、これがこの種の作品に飢えていた民衆の需要に合致し、いくら刷っても売り切れ、最終的には100万部以上を売り上げたという。 この時期に訪れた翻訳ブームでは、すでに中華人民共和国成立の1949年以前から多く訳されていた欧米の黄金時代の探偵小説やその後流入したソ連の反スパイ小説のほか、日本の推理小説や欧米のハードボイルドなどが大量に刊行された。翻訳された日本の作品には江戸川乱歩の作品なども含まれていたが、社会性のあるミステリが特に受け、松本清張、森村誠一、水上勉らの作品が人気を集めた。 ソ連や東欧の作家では、ソ連のアナトーリィ・ベズーグロフ(阿纳托利·别祖格洛夫)、ユーリイ・クラロフ(尤利·克拉洛夫)、ロマン・キム(金罗曼)、ブルガリアのボゴミール・ライノフ(博戈米尔·拉伊诺夫)、アンドレイ・グリャシキ(安德烈·古利亚什基)、チェコのVáclav Folprecht(瓦茨拉夫·福尔普列特、Вацлав Фолпрехт)らの作品が翻訳刊行された。 1970年代末のアジアの動向 日本では1975年から1979年にかけて、島崎博が編集長を務める探偵小説専門誌『幻影城』が刊行されていた。 台湾では1977年4月、松本清張『ゼロの焦点』が翻訳刊行されている。日本ミステリの台湾での翻訳刊行はこれが最初だった。台湾ではこの7年後の1984年、傅博(ふはく/フーボー/=島崎博)の提案を受けて林仏児(りん ふつじ/リン フォー)が『推理雑誌』を創刊し、台湾ミステリの草創期が始まる。台湾についてはこのページではなく、後に別のページでまとめる。 韓国では1977年、翻訳ミステリの叢書である《東西推理文庫》全126巻(欧米ミステリの日本語からの重訳)と《河西推理選書》全36巻(江戸川乱歩『孤島の鬼』『陰獣』、横溝正史『本陣殺人事件』、松本清張『点と線』『ゼロの焦点』『砂の器』、森村誠一『高層の死角』『人間の証明』『野性の証明』などのほか、韓国オリジナルの作品も含まれる→ラインナップ)の刊行が始まり、韓国ミステリ中興の祖である金聖鍾(キム・ソンジョン)の活躍と相まって推理小説ブームが訪れた。(金聖鍾(キム・ソンジョン):邦訳に『最後の証人』(論創社、2009年)などがある) インドネシアは産油国であるため1970年代に「オイルブーム」(日本では「オイルショック」)が訪れ出版界が活況となり、ホームズ受容期以来の2度目の推理小説ブームが訪れた。1970年代末にはアガサ・クリスティなどの作品が刊行され、その翻訳をしていたS・マラ・Gd(エス・マラ・ゲーデー)が1985年に推理作家デビューする。(S・マラ・Gd(エス・マラ・ゲーデー):邦訳に『殺意の架け橋』(講談社、2010年)がある) 第二節 中国ミステリの多様化 【主要参考文献:老蔡(ラオツァイ)(2009)「百年華文推理簡史 八、“文革”後的偵探小説創作浪潮(上)」、「八、“文革”後的偵探小説創作浪潮(中)」、「八、“文革”後的偵探小説創作浪潮(下)」】 過去に中国語に翻訳された作品が再び読めるようになり、また新たに国外から大量のミステリが入ってきたことから、中国ミステリも社会派、サスペンス、SFミステリなど、多種多様な作品が生まれるようになる。 (以下、「推理之門」に掲載されている作品リストに作家名からリンクを貼っている(ただし、やや情報が古い)) 藍瑪(らん ば/ラン マー/Lan Ma/蓝玛)(1951 - )(ブログ)北京偵探推理文芸協会(第五章参照)副会長。現代中国の代表的な推理作家。北京生まれ。1987年に創作開始。1992年以降、英米ミステリの趣を持ったユーモアミステリ・探偵桑楚(サンチュー)シリーズを執筆している。老蔡(ラオツァイ)(2009)では、「(2009年)現在でも創作を続けている数少ない専業探偵小説作家の一人」と紹介されている。作品に、「天国は遠くない(天堂并不遥远)」、「地獄のドアを敲く音(地狱的敲门声)」、「アイドル失踪の夜(女明星失踪之夜)」など。2009年までに出版した長編ミステリは50作品、中短編は20作品で、現在までの中国のミステリ作家の中でも屈指の作品数である。中国国内では文学賞や推理小説賞を何度も受賞している。また、児童文学でも高い評価を受けている。 李迪(り てき/リー ディー/Li Di)(1950 - )北京生まれ。1970年に創作開始。1978年には自費で日本に留学し、帰国後、専業作家に。1984年に雑誌『啄木鳥』(啄木鸟)に掲載された短編「夕暮れにドアをノックする女(傍晚敲门的女人)」は社会に衝撃を与えた。同作品で翌年、第1回金盾賞受賞(この賞は、のちに啄木鳥文学賞に改称)。またこの作品は、1998年に実施された第1回北京偵探推理文芸協会賞(第五章参照)の旧作部門で佳作賞を受賞している。 王朔(おう さく/ワン シュオ/Wang Shuo)英訳された著書に『玩的就是心跳』(Playing for Thrills)や『千万別把我当人』(千万别把我当人、"Please Don't Call Me Human")などがある。このうち、"Playing for Thrills"は、桐野夏生や宮部みゆきなどの日本の作品と並んで、イギリスの推理作家キャサリン・サンプソンが選ぶアジアミステリーベスト10(2007年、イギリスの新聞「ガーディアン」に掲載)にも選ばれている。ほかにフランス語やドイツ語にも作品が訳されている。 鍾源(しょう げん/ジョン ユアン/Zhong Yuan/钟源)(1941 - )(ブログ) 1979年より作品の発表開始。80年代の推理小説界の人気作家。映画化も多くされた。短編「夕峰古刹」で第1回北京偵探推理文芸協会賞・旧作部門の佳作賞受賞。 湯保華(とう ほか/タン バオフア/Tang Baohua/汤保华)(1949 - ) 1977年より創作開始。文革の時期を背景とする作品を書いている。 莫懐戚(ぼ かいせき/モー ファイチー/Mo Huaiqi/莫怀戚)(1951 - ) 「東方のホームズ」シリーズ(东方福尔摩斯探案集)を執筆している。 師承燕(し しょうえん/シー チョンイエン/Shi Chengyan/师承燕) 1982年、青海師範学院中文系卒業。 劉侗(りゅう とう/リウ トン/Liu Tong/刘侗) 1984年、蘭州大学中文系卒業。 馮華(ふう か/フォン フア/Feng Hua/冯华)(1973 - ) フランス語訳に"Seul demeure son parfum"がある(原題未調査)。 創作とともにミステリ史の研究や理論研究などを行う作家に以下の3人がいる。 何家弘(か かこう/ホー ジアホン/He Jiahong)(1953 - )中国の現代推理作家で初めて、作品のフランス語訳、イタリア語訳が刊行された作家。北京生まれ。米国ノースウェスタン大学に留学し、法学博士号取得。「洪鈞(こうきん/ホンジュン)弁護士」シリーズを発表するほか、海外作品の翻訳も多く行う。『瘋女』(疯女)で第1回北京偵探推理文芸協会賞旧作部門ノミネート賞。この作品は2001年、"Crime de sang"(血の犯罪)というタイトルでフランスで、"La donna pazza"(英訳すると"The crazy woman")というタイトルでイタリアで刊行された。特にフランスでは好評をもって迎えられ、続いて"L'énigme de la pierre Oeil-de-Dragon"、"Le mystérieux tableau ancien"、"Crimes et délits à la Bourse de Pékin"などが訳されている(原題未調査)。また、"Crime de sang"(瘋女)は、前述のイギリスの推理作家キャサリン・サンプソンが選ぶアジアミステリーベスト10にも選ばれている。2010年には『瘋女』を『血之罪』と改題の上、改訂版を出している。ほかに、「人生狭路:黒蝙蝠·白蝙蝠」(人生狭路:黑蝙蝠·白蝙蝠)で第2回(2001年)北京偵探推理文芸協会賞ノミネート賞。北京偵探推理文芸協会理事。 曹正文(そう せいぶん/ツァオ ジョンウェン/Cao Zhengwen)(1950 - )上海生まれ。心理探偵小説を執筆。「紫色的誘惑」(紫色的诱惑)で第1回北京偵探推理文芸協会賞・旧作部門の佳作賞受賞。研究書に『世界偵探小説史略』(世界侦探小说史略、1998)がある。 陳翼浦(ちん よくほ/チェン イープー/Chen Yipu/陈翼浦)(1940 - )北京生まれ。1993年より探偵小説の創作を開始。「錯乱人生」(错乱人生)で第1回北京偵探推理文芸協会賞・新作部門の三等賞。「情死真相」で第2回同賞ノミネート賞。 理論研究ではほかに、1996年の黄沢新(こう たくしん/ファン ゾーシン)ほかによる『偵探小説学』(侦探小说学)、2001年の任翔(にん しょう/レン シャン)『偵探小説史論』(侦探小说史论)などが出ている。また、SF小説との結節点には以下のような作家がいる。 倪匡(げい きょう/ニー クアン/Ni Kuang)(1935 - )上海生まれ。香港で著作活動。邦訳に『猫 - NINE LIVES』(徳間文庫、1991年、「衛斯理」名義)がある。武田雅哉、林久之『中国科学幻想文学館』(大修館書店、2001年)に詳細あり。 葉永烈(よう えいれつ/イエ ヨンリエ/Ye Yonglie/叶永烈)(1940 - )(ブログ)1980年代に科学を取り入れた少年向けの探偵もので人気を博した。『中国科学幻想文学館』に詳細あり。 警察機構とのつながり 警察官 兼 小説家(中国では「公安作家」と呼ばれる)尹曙生(いん しょせい/イン シューション/Yin Shusheng)(1937 - ) 王建武(おう けんぶ/ワン ジエンウー/Wang Jianwu)(1953 - ) 1980年代初頭から創作を開始。「小橋疑案」(小桥疑案)で第2回北京偵探推理文芸協会賞優秀賞。 海岩(かい がん/ハイ イェン/Hai Yan)(1954 - )(ブログ) 短編「私服刑事」(便衣警察、1985)などがある。 彭祖貽(ぼう そい/ポン ズーイー/Peng Zuyi/彭祖贻)(1956 - ) 北京偵探推理文芸協会特別会員。1970年代に創作を開始し、80年代半ばから、警察を題材にした推理小説を書いている。「天国への夢旅行(天堂梦旅)」で第1回北京偵探推理文芸協会賞・新作部門の三等賞。 孫麗萌(そん れいもう/スン リーモン/Sun Limeng/孙丽萌)(1957 - ) 1984年より創作開始。「血象」で金盾文学賞および第1回北京偵探推理文芸協会賞・新作部門の二等賞受賞。 胡玥(こ げつ/フー ユエ/Hu Yue)(1964 - )(ブログ) 胡祖富(こ そふ/フー ズーフー/Hu Zufu) 「地火」など。 李長声(2002)によると、2002年当時、推理小説を掲載している雑誌としては『啄木鳥』(1985年創刊)、『警壇風雲』、『警方』、『警苑』、『藍盾』、『東方剣』、『金盾』、『警探』などがあった。ただし、これらはほとんどが警察機構のもとにある雑誌であり、必ずしも自由ではなかったという。老蔡(2009)によれば、文革終結後の20年間、推理小説専門雑誌はなく、単行本やアンソロジー以外では発表の場はこれらの警察機構のもとにある雑誌しかなかった。そのため、中国ミステリは確かに多様化はしつつあったが、公安法制小説がその大部分を占め、発展の方向も一方向的であったという。(公安法制小説=中国に私立探偵が存在できなくなった1949年以降の中国ミステリを称してこのように言う場合がある。警察官などの公的機関に属する主人公が、法律や制度に基づいて犯罪を捜査するタイプの小説のことである) 20世紀の中国ミステリの短編を集めた前述のアンソロジー『20世紀中国偵探小説精選』(2002年、全4巻)で、この時期を対象とする第3巻および第4巻の収録作は以下のとおりである。『20世纪中国侦探小说精选(1980-2000) 夕峰古刹』李迪「傍晚敲門的女人」(傍晚敲门的女人) 湯保華「紅色荘園」(红色庄园) 鍾源「夕峰古刹」 藍瑪「仏羅倫薩来客」(佛罗伦萨来客)(フィレンツェ来客) 彭祖貽「氷層下的火焔」(冰层下的火焰) 『20世纪中国侦探小说精选(1980-2000) 饮鸩情人节』(飲鴆情人節)余華(よ か/ユイ ホア/Yu Hua/余华)「河辺的錯誤」(河边的错误) ※ 余華 … 邦訳に『兄弟』(文春文庫、2010年)などがある。 葉兆言(よう ちょうげん/イエ ジャオイエン/Ye Zhaoyan/叶兆言)「危険女人」(危险女人) 刁斗(ちょう とう/ディアオ ドウ/Diao Dou)「六面骰子」 (香港)鄭炳南(てい へいなん/ジョン ビンナン/Zheng Bingnan/郑炳南)「不招人忌是庸才」 莫懐戚「飲鴆情人節」(饮鸩情人节) 張和平(ちょう わへい/ジャン ホーピン/Zhang Heping/张和平)「黒色憤怒」(黑色愤怒) 尹曙生「教授之死」 翼浦(=陳翼浦)「禍満五福楼」(祸满五福楼) 陳鉄軍(ちん てつぐん/チェン ティエジュン/Chen Tiejun/陈铁军)「激情殺人」(激情杀人) 張策(ちょう さく/ジャン ツォー/Zhang Ce/张策)「無悔最終」(无悔最终) 孫麗萌「月隕」(月陨) 王炳輝(おう へいき/ワン ビンフイ/Wang Binghui/王炳辉)「血色柔情」 王建武「最後的佳作」(最后的佳作) 第三節 1990年代末の中国翻訳ミステリ事情 上で述べたように、文革が終了すると、中国では過去に翻訳した作品の復刊も含め、翻訳ミステリの刊行ブームが起こった。しかし、1990年代初頭に中国が国際的な著作権条約に加盟すると、以降は翻訳は下火になる。古典的名作は刊行が続いたが、国外の新しいミステリはあまり翻訳されなくなってしまった。 李長声(2002)では、90年代末ごろの中国における日本ミステリの刊行状況が記されている。それによると、以前は翻訳ミステリといえば、警察機構に属する出版社・群衆出版社の独壇場だった。1996年には「日本推理小説文庫」の刊行を開始しており、2002年当時までに70冊程度が刊行されている。その後、日本ミステリの翻訳に新規参入したのが珠海出版社で、20世紀末から21世紀初頭にかけて、「日本優秀偵探小説叢書」、「乱歩偵探作品集」、「金田一探案集」、日本推理作家協会編のアンソロジーなどを翻訳刊行している(そのほとんどが無許可だったと推定されている)。ほかには、時事出版社が2001年に「小五郎探偵サスペンスシリーズ」を刊行している。 また、日本ミステリの紹介に熱心な翻訳者・編者として朱書民(しゅ しょみん/チュー シューミン)(朱书民)という人が挙げれられている。長編を何作品も訳したほか、アンソロジー『日本推理小説精選』を編んでいる。 このころには、日本の新本格ミステリはほとんど(まったく?)訳されていなかった。 第四節 邦訳された1980年代~1990年代の中国推理小説 【2011年7月31日、加筆】 艾国文(がい こくぶん)、黄偉英(こう いえい) 「人民公社殺人事件」 (『サンデー毎日』1981年6月14日号~7月19日号、全6回) 中国のSF小説の歴史を詳細に記述している『中国科学幻想文学館』(大修館書店、2001年)を読んでいて初めて知ったのだが、1981年6月から7月にかけて、毎日新聞社の雑誌『サンデー毎日』に、中国の推理小説「人民公社殺人事件」が連載されていたという。著者は艾国文(がい こくぶん/アイ グオウェン)と黄偉英(こう いえい/ファン ウェイイン/黄伟英)。翻訳者は伊藤克。『中国科学幻想文学館』では、連載の第1回が手元にないため原題及び翻訳者の経歴については不明とされている。 作者名で検索すると、1981年1月に刊行された短編集『中国民族風格的偵査小説:駆散渾濁的迷霧』(中国民族风格的侦查小说:驱散浑浊的迷雾)に収録された5編のうち、表題作の「駆散渾濁的迷霧」がこの2人の共著による短編だということが分かる。ほかにこの2人が共同執筆した作品は、少なくともネット上では見つからないので、とりあえず「人民公社殺人事件」は「駆散渾濁的迷霧」の翻訳だと推定していいかもしれない。また、翻訳者の伊藤克という人は、「中日の懸け橋となった日本女性 伊藤克の生涯」で取り上げられている方とおそらく同一人物だろう。 「人民公社殺人事件」が訳された時期にはほかにも中国ミステリが翻訳されたことがあったかもしれないが、どのように調べたらいいのか分からない。 近年では、張平(ジャンピン、1954 - )の『十面埋伏』(じゅうめんまいふく)が新風舎より2005年に刊行されており、自費出版系の出版社からの刊行ではあったが、ロシア文学者の米原万里が雑誌で書評を書いたこともあり話題になった(書評は現在は米原万里『打ちのめされるようなすごい本』に収録されている)。原著は同タイトルで、1999年の刊行。また2004年には、張平『凶犯』も同じ出版社から同じ翻訳者で邦訳が出ている。こちらは現実の事件に題材をとった小説である。原著は1992年。 参考文献 中国ミステリ史 参考文献 (新しいウィンドウで開きます) 『中国ミステリ史 第一章』(19世紀末~1910年代) 『中国ミステリ史 第二章』(1910年代~1940年代) 『中国ミステリ史 第三章』(1940年代末~1970年代) 『中国ミステリ史 第四章』(1970年代末~1990年代) ←今見ているページ 『中国ミステリ史 第五章』(1990年代末~21世紀初頭) 『中国ミステリ史 第六章』(現代)
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/165.html
2011年11月15日 『韓国ミステリ史 第三章』では、1970年代を扱っている。 目次 第三章 1970年代: 後継者不在の時代に現れたキム・ソンジョン第一節 キム・ソンジョン(金聖鍾)登場 第二節 1970年代の翻訳ミステリ(1)1972年、韓国ミステリクラブの結成 (2)1970年代末の翻訳ミステリブーム 第三節 邦訳された1970年代の韓国推理小説 参考文献 第三章 1970年代: 後継者不在の時代に現れたキム・ソンジョン 韓国の最初の創作探偵小説は1908年から1909年にかけて新聞連載されたイ・ヘジョ(李海朝)の『双玉笛(そうぎょくてき)』だった。その後、欧米や日本の探偵小説の流入が続き、創作探偵小説もいくつか書かれるが、しばらくは探偵小説専門の作家は現れなかった。1930年代半ばになると、金来成(キム・ネソン)が初の探偵小説専門作家として登場し、「韓国の江戸川乱歩」【注1】とでもいうべき活躍で人気を博したが、しかし戦後は金来成は大衆文学作家に転向してしまう。その後の三十年ほどは、後世まで読み継がれるような推理作家はなかなか登場しなかったが、そんな後継者不在の時代に現れて一躍人気推理作家となったのがキム・ソンジョン(金聖鍾)である。キム・ソンジョンは1970年代半ばに発表した最初の長編推理小説『最後の証人』がベストセラーとなり、2011年現在まで韓国ミステリ界を代表する作家として推理小説を発表し続けている。最新作は、日本の福岡を舞台にしたサスペンス小説、『福岡殺人』(2011年10月刊)。 注1:『日本推理作家協会会報』1984年6月号の黄鐘灝(ファン・ジョンホ)「韓国推理小説の現状」に以下のようにある。「わが国の推理小説は金来成から始まったと言っても過言ではないでしょう。勿論古典小説や特に李朝時代のいわゆる「公案類」小説にも推理的要素の濃い作品がありますが、近代的意味において氏はいわば韓国の江戸川乱歩でした。」 第一節 キム・ソンジョン(金聖鍾)登場 ◆生い立ち~純文学作家としてのデビュー キム・ソンジョン(金聖鍾/김성종)は1941年、中国の山東(さんとう)省済南(さいなん)市に生まれた。父親は韓国の求礼(クレ)出身だったが、一時期中国に渡っており、キム・ソンジョンはそこで生まれたのである。終戦後はソウルで暮らし、1950年に朝鮮戦争が勃発すると韓国南部の求礼(クレ)に避難し、そこで少年時代を過ごした。 延世(ヨンセ)大学の政治外交学科に進学。大学時代はフランス文学を耽読したという。卒業後、新聞記者などを経て小説家デビュー。デビュー作は、1969年に『朝鮮日報』の新春文芸公募に入選した短編小説「警察官」である。キム・ソンジョンは当初は純文学作家として活動しており、この作品も警察官を主人公にしてはいるが推理小説ではなかった。その後、文芸誌に「我らが少年だったとき」(1970)、「十七年」(1971)、「悲しみ」(1972)、「ある娼婦の死」(1973)、「鎌」(1973)などの短編小説を発表。このうち、「ある娼婦の死」には『最後の証人』の探偵役である刑事のオ・ビョンホが登場している。 ◆推理作家としてのデビュー作『最後の証人』 1974年、『韓国日報』創刊20周年の長編小説公募に『最後の証人』(최후의 증인)(邦訳2009年)を投稿し、受賞。1974年6月から翌年6月まで同紙に連載。1977年には単行本が刊行され、ベストセラーになった。刑事のオ・ビョンホが捜査本部の方針に反抗し、単独行動で殺人事件の捜査をしていくうちに、その原因となった数十年前の悲劇が明らかになっていくというハードボイルド作品である。1980年には映画化されたが、検閲によって大幅にカットされた上、上映は10日間で打ち切られてしまった。映画の完全版は2009年になってやっとDVDとして一般に販売され日の目を見た。また2001年には『最後の証人』を原案とする映画『黒水仙』も公開されている。 キム・ソンジョンはその後もハードボイルドや国際謀略小説を中心とする長編推理小説を次々と発表。1974年の『最後の証人』以降、推理作家デビューから10年になる1984年までに発表した長編には、『七本の薔薇』、『Zの秘密』、『白色人間』、『霧の中に消える』、『私は生きたい』(邦訳2005年、邦題『ソウル 逃亡の果てに』)、『死を呼ぶ少女』、『第五の男』、『反撃の壁』、『迷路の彼岸』、『第三の情死』、『凍りついた時間』、『浮浪の河』などがある。2011年現在までで、発表した長編は約50編にのぼる。 ◆創作以外でのミステリ界への貢献 次々と長編推理小説を発表する一方、1988年には『季刊推理文学』(계간 추리문학)を創刊。さらに同誌上で長編推理小説を公募する金来成(キム・ネソン)推理文学賞を立ち上げた。(『季刊推理文学』は10号?で休刊、金来成推理文学賞は全4回で終了している。この雑誌と賞については第四章で紹介する) 1992年3月には、韓国有数のリゾート地である釜山(プサン)市海雲台(ヘウンデ)に、キム・ソンジョンが私費を投じて建設した推理小説図書館の推理文学館が開館している。同年6月にはここで日韓の推理作家協会の交流会が行われ、日本推理作家協会からは生島治郎、山村正夫、豊田有恒、麗羅、大沢在昌、西木正明が参加した。1993年5月には日本推理作家協会が韓国推理作家協会の推理作家らを日本に招待したが、その際にはキム・ソンジョンも来日している。(1990年代初頭には日本推理作家協会と韓国推理作家協会の交流があったが、1993年以降、交流は途絶えているようである) 推理文学館前での日韓推理作家集合写真(韓国側の参加者、推理作家のクォン・ギョンヒさんのブログ記事) - 1992年3月の開館式の写真と、1992年6月8日の日韓交流会の日の写真 ◆日本を舞台にした最新シリーズを執筆中 2011年10月には、3年半ぶりの新作長編『福岡殺人』を上梓した。タイトルから分かる通り、日本の福岡を舞台にしたサスペンス小説である。プサン日報に掲載されたインタビュー記事(2011年10月22日、韓国語)によれば、『福岡殺人』は日本を舞台にした全5作のシリーズの最初の1作であり、2012年以降に『大阪殺人』、『東京殺人』、『札幌殺人』、『名古屋殺人』を予定しているという。2012年には福岡にも住居を用意し、プサンの自宅と往復しながら執筆する予定だという。キム・ソンジョンの『福岡殺人』の刊行については、日本の新聞でも記事になっている。 韓流ミステリー 舞台は福岡 釜山(プサン)の巨匠・金聖鍾(キム・ソンジョン)さんが長編出版 (西日本新聞朝刊、2011年10月29日付) ◆中国でも刊行されているキム・ソンジョンの作品 キム・ソンジョンの作品は日本では『最後の証人』と『ソウル 逃亡の果てに』しか出版されていないが、中国では少なくとも7作品が出版されている。代表作の『最後の証人』の中国版は出ていないようだ。 中国版 『七本の薔薇』、『白色人間』、『ソウル 逃亡の果てに』、『迷路の彼岸』、『ピアノ殺人』、『国際列車殺人事件』、『燃える女』 第二節 1970年代の翻訳ミステリ (1)1972年、韓国ミステリクラブの結成 【2012年6月11日、加筆】 キム・ソンジョンが『最後の証人』によって推理作家デビューする少し前の1972年、韓国推理作家協会(1983年2月8日設立)の母体となった韓国ミステリクラブが結成されている。国外の推理小説に関心を持つ英文学の大学教授が中心となったもので、1972年1月5日に結成された【注2】。発起人はイ・ガヒョン(李佳炯)、イ・グンサム(李根三)、ファン・ジョンホ(黄鐘灝)ら。 黄鐘灝(ファン・ジョンホ)「韓国推理小説の現状」(『日本推理作家協会会報』1984年6月号、No.426、p.4) 【金来成が1957年に亡くなったのちには】追蹤者達のエログロ時代があり、良心的な一部の作家がありましたが、大体において一応低質視された推理小説の復興など絶望的な状態でした。一九七二年一月五日おもに大学英文学教授からなる「韓国ミステリクラブ」が鍾路(チョンノ)区清進(チョンジン)洞にある飲食店「雲情」の5号室で結成されたのはこういう時期でした。外国推理の飜訳が主な目的でしたが、新人作家の発掘も事業の一部でした。メンバーは十名に、スポンサーである「雲情」の女主人韓(ハン)女史といわば「テン・プラス・ワン」、李佳炯(イ・ガヒョン)会長と、黄鐘灝(ファン・ジョンホ)総務で始まりました。 会長のイ・ガヒョン(李佳炯)(이가형)(1921-2001)は英文学者。1942年、熊本の旧制第五高等学校卒業。その後東京帝大文学部に進学。1956年から1年間、アメリカのウィリアムズ大学に留学。その後、大学教授を務めながら多くのミステリの翻訳を手掛け、韓国におけるミステリの普及に尽力した。1983年、韓国ミステリクラブから発展して韓国推理作家協会が設立されるとその初代会長も務めた。1984年3月、東京で開催された国際ペン大会に韓国代表として参加し、日本推理作家協会の中島河太郎と面会した。この面会の様子は中島河太郎が『日本推理作家協会会報』1984年6月号(No.426)で伝えている。1990年と1992年の日韓両国の推理作家協会の交流会に参加(→詳細はこちらの記事)。1995年、自身の戦争体験を日本語で綴った『怒りの河 ビルマ戦線狼山砲第二大隊朝鮮人学徒志願兵の記録』(連合出版)を上梓した。 総務のファン・ジョンホ(黄鐘灝)(황종호)(????- ? )も英文学者。大学教授を務めながら多くのミステリを翻訳した。中島河太郎はファン・ジョンホとは何度か書簡のやり取りをし、1982年ごろには面会もしている。 なお、1966年2月28日付けの京郷(キョンヒャン)新聞に、イ・ガヒョンとイ・グンサムが中心となって仮称・ミステリ文学協会の設立を準備している――と報じる記事が載っている(情報提供:韓国推理作家協会クォン・イリョン氏)。ただ、韓国ミステリクラブの設立は前述の通り1972年なので、このときの計画はおそらく立ち消えになってしまったのだろう。 注2:韓国ミステリクラブ(あるいは単に「ミステリクラブ」)の結成年は、引用したファン・ジョンホの記事によれば1972年となっているが、パク・クァンギュ(2008a)では1971年、鄭泰原(チョン・テウォン)(2000)では1970年、金容権(キム・ヨングォン)(2001)では1960年代末とされている。ここでは、唯一日付まで示されているファン・ジョンホの記事の記述に従っておく。 (2)1970年代末の翻訳ミステリブーム キム・ソンジョンが『最後の証人』を連載しはじめた1974年、河西(ハソ)出版社が《世界推理文学全集》(全10巻)(ラインナップ紹介)を出版している。ドイルやクリスティと並んで、日本の推理作家では江戸川乱歩と松本清張の作品が収録された。そして1970年代後半になると、複数の出版社から翻訳ミステリの叢書の創刊が相次ぐ。主なものは以下の通りである。 《東西推理文庫》 1977年~1980年頃?、全128巻(一部、SF作品も含む。日本の作家の作品はなし) - 2003年以降、《東西ミステリブックス》で大部分が再刊された 《河西推理選書》 1977年~1978年、全36巻(ラインナップ紹介) - 日本の作家では江戸川乱歩、横溝正史、松本清張、森村誠一の作品を収録 《三中堂ミステリ名作》 1978年~1981年、全40巻(ラインナップ紹介) - 日本の作家では横溝正史、坂口安吾、高木彬光、森村誠一、水上勉、黒岩重吾、佐野洋の作品を収録 (これらの叢書でも上述のイ・ガヒョンとファン・ジョンホは多くの作品の翻訳を担当している) 日本の作家の中で、当時の韓国で特に人気を集めたのは松本清張と森村誠一だった【注3】【注4】。1970年代末には中国でも松本清張と森村誠一が人気を博していたし【注5】、また台湾でも1970年代末から松本清張作品が次々と翻訳刊行されていた【注6】。この時期、日本の社会派推理小説は日本国内だけでなく東アジアにまで広まり多くの読者を獲得していたのである。 注3:松本清張の韓国での人気については、南富鎭(なん ぶじん)「松本清張の朝鮮と韓国における受容」(2011)に以下のようにある。「松本清張の作品は韓国において幅広く受容されてきた。膨大な量の翻訳が無造作に行われるかたちで韓国の読者に提供されてきたのである。また韓国推理小説にも多大な影響を及ぼしていると言える。韓国を代表する推理小説家である金聖鍾への影響関係も強くうかがわれる。」(p.69)。 注4:森村誠一の韓国での人気については、李建志(り けんじ)「松本清張と金聖鐘(ママ) ――日韓の戦後探偵小説比較研究」(2006)に以下のようにある。「韓国でもっとも人気のある日本の推理小説作家は森村誠一だといわれている。」(p.11)、「一九七〇年代、金聖鐘(ママ)によって拡大されたミステリマーケットに、日本を代表する作家として森村誠一が参入し、高い評価を受けたのだ。」(p.12)。 注5:1998年の第1回北京偵探推理文芸協会賞では、1979年に中国語版が刊行された松本清張『点と線』と森村誠一『人間の証明』が翻訳作品賞を受賞している(1950年以降の約50年間に中国で出版された翻訳ミステリが対象になっており、松本・森村作品を含む計16作品が受賞している)。 注6:島崎博氏は台湾で松本清張『ゼロの焦点』が翻訳刊行された1977年を「実質的な台湾の推理小説元年」だとしている(『ファウスト』Vol.7(2008年8月)掲載の島崎博インタビュー、p.1110)。 第三節 邦訳された1970年代の韓国推理小説 金聖鍾(キム・ソンジョン)『最後の証人』(上下巻)(論創社、2009年2月)(原著 1974-1975年) 李文烈(イ・ムニョル)『ひとの子 ――神に挑む者――』(集英社、1996年4月)(原著刊行 1979年) また、キム・ソンジョンと同時代に日本では麗羅(れいら)(1924-2001)が推理作家として活躍していた。本名チョン・ジュンムン(鄭埈汶、정준문)。1924年12月20日、朝鮮に生まれる。1934年に来日。1973年、「ルバング島の幽霊」でサンデー毎日新人賞を受賞して日本で作家デビューした。ペンネームの「麗羅」は、下の東洋経済日報の記事によれば、高句麗(こうくり)と新羅(しらぎ)から一文字ずつとってつけたものである。1983年には『桜子は帰ってきたか』で第1回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞している。1990年代初頭には、日本推理作家協会と韓国推理作家協会の交流に貢献した(詳細は「日本推理作家協会と韓国推理作家協会の交流」)。2001年8月4日逝去。76歳。(『日本ミステリー事典』新潮社、2000年 参照) 日本推理作家協会会報2001年8月号 作家・麗羅さんの思い出(東洋経済日報 2001年8月24日) - 無署名記事 ミステリ作家・評論家の野崎六助氏のサイトで著作の書影を見ることができる。 参考文献 韓国ミステリ史 参考文献 (新しいウィンドウで開きます) 『韓国ミステリ史 第一章』(20世紀初頭~1930年代) 『韓国ミステリ史 特別編 - 金来成(キム・ネソン)(1909-1957)【1】』 『韓国ミステリ史 特別編 - 金来成(キム・ネソン)(1909-1957)【2】』 『韓国ミステリ史 第二章』(1940年代~1960年代) 『韓国ミステリ史 第三章』(1970年代) ←今見ているページ 『韓国ミステリ史 第四章』(1980年代~20世紀末) 『韓国ミステリ史 第五章』(1990年代末~21世紀初頭)(未公開) 『読書案内』
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/157.html
『台湾ミステリ史 前編』(19世紀末~1970年代) 『台湾ミステリ史 中編』(1970年代末~1990年代半ば) 『台湾ミステリ史 後編』(20世紀末~21世紀初頭)(未公開) 『読書案内』 参考文献 台湾ミステリの歴史 【中国語】『文訊』269号(2008年3月号) - 特集:台灣推理文學的天空(上)綜論陳國偉「本土推理・百年孤寂 台灣推理小說發展概論」(台湾ミステリ通史) 金儒農「喧囂以前 台灣推理小說出版概況」 呂淳鈺「新大眾娛樂 台灣日治時期偵探小說淺介」 陳瀅州「推理小說在台灣 傅博與林佛兒的對話」 - 島崎博と林仏児の対談。『推理雑誌』281号(2008年3月)により詳しい文字起こしあり 創作者群像呂淳鈺「白晝殺人 葉步月與偵探小說」 陳栢青「仇亦深,籌義伸 李費蒙小說世界初探」 (以下、推理作家本人によるエッセイ)葉桑「無可救藥的愛上」 余心樂「以「讀」工「睹」犯罪推理文學與我」 藍霄「台灣推理小說與我」 林斯諺「我只想通霄寫推理小說」 【中国語】『文訊』270号(2008年4月号) - 特集:台灣推理文學的天空(下)林佛兒「我的推理小說之路」 陳琡分「因為有謎,所以迷人 資訊推理迷的回眸與告白」 王品涵「謀殺與創造之時 台灣推理文學研究概況」 編輯部「1980年代以後台灣推理小說目錄及提要(1980~2007)」 台湾ミステリ通史玉田誠(2009)「台湾の本格ミステリー事情」(藍霄『アジア本格リーグ1 錯誤配置』講談社、2009年9月、pp.307-315) 松川良宏(2011)「東アジア推理小説の日本における受容史」(『ハヤカワミステリマガジン』2012年2月号、pp.12-19) 20世紀前半の台湾探偵小説中島利郎(2001)「日本統治期台湾の探偵小説」(林熊生『船中の殺人/龍山寺の曹老人 第一輯・第二輯(日本植民地文学精選集38 〔台湾編13〕) 』ゆまに書房、2001年9月、pp.1-7) 中島利郎(2002)「日本統治期台湾探偵小説史稿」(『日本統治期台湾文学集成9 台湾探偵小説集』緑蔭書房、2002年11月、pp.351-399) 中島利郎編(2002)「台湾探偵小説年表」(『日本統治期台湾文学集成9 台湾探偵小説集』緑蔭書房、2002年11月、pp.401-418) 1960年代~1980年代の台湾ミステリ島崎博(1967)『日本推理作家協会会報』1967年3月号(231号)会員消息欄に寄稿(タイトルなし、戦後の台湾で翻訳出版された日本ミステリの単行本のリスト)、p.2 島崎博(1968)「台湾の推理小説」(『推理界』1968年7月号、pp.31-32) 中島河太郎(1974)「台湾の偵探・武俠小説」(『推理文学』第16号、1974年5月、pp.30-31) 中島河太郎(1987)「台湾の推理小説」(『日本推理作家協会会報』1987年10月号、466号) 1980年代以降の台湾ミステリ【中国語】 作成:既晴、監修:杜鵑窩人「台灣推理文學年表」(林斯諺『雨夜莊謀殺案』巻末) 【中国語】 杜鵑窩人「台灣推理創作里程碑」(『台灣推理作家協會傑作選 1』台湾推理作家協会編、2008年3月、pp.5-20) 21世紀の台湾ミステリ事情『本格ミステリー・ワールド』に掲載ミスター・ペッツ(2007)「台湾ミステリー事情2007」(島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2008』南雲堂、2007年12月、pp.156-157) ミスター・ペッツ(2008)「台湾ミステリー事情2008」(島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2009』南雲堂、2008年12月、pp.166-167) 寵物先生(ミスター・ペッツ)(2009)「受賞のことばと2009年台湾ミステリーの発展」(島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2010』南雲堂、2009年12月、pp.22-26) 陳國偉(2010)「台湾ミステリー事情」(島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2011』南雲堂、2010年12月、pp.159-160) 陳國偉(訳 洪蕙玲)(2011)「台湾ミステリー事情」(島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2012』南雲堂、2011年12月、pp.191-192) 「黒蜘蛛クラブの挨拶」(島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2012』南雲堂、2011年12月、pp.226-228) - 台湾推理作家協会会員の張東君が台湾の若手ミステリ作家について寄稿 その他小泉優(2010)「この台湾ミステリーがすごい!」(萌えるアジアNo.8『萌える台湾読本2010』 発行人:小泉優、発行所:萌えるアジア、2010年7月、pp.4-16) 小泉優(2010)『この台湾ミステリーがすごい! 2010』(発行人:小泉優、発行所:萌えるアジア、2010年11月、全36ページ)「こんなにハイレベル! 台湾ミステリー小説」pp.6-19 「たったこれだけ!? 日本語翻訳版」pp.20-23 「台湾ミステリーの歴史」pp.24-25上記の『萌える台湾読本2010』に収録された特集記事「この台湾ミステリーがすごい!」の拡大版。 張筱森(ちょう しょうしん)(2011)「二〇一一年台湾ミステリ事情」(『ハヤカワミステリマガジン』2012年2月号、pp.22-25) 台湾探偵小説の周辺 20世紀前半の台湾通俗文学(探偵小説にも言及あり)中島利郎(2002)「日本統治期台湾の「大衆文学」」(『日本統治期台湾文学集成7 台湾通俗文学集 一』緑蔭書房、2002年11月、pp.347-372)『日本統治期台湾文学集成8 台湾通俗文学集 二』にもまったく同じものが収録されている。 中島利郎編(2002)「日本統治期台湾通俗文学目録」(『日本統治期台湾文学集成7 台湾通俗文学集 一』緑蔭書房、2002年11月、pp.373-390)探偵小説については「台湾探偵小説年表」にまとめられているためこちらのリストからは探偵小説は外されているが、こちらのリストでも探偵小説に近いと思われる作品をいくつか見出すことができる。 黄美娥・黄英哲(翻訳 青木沙弥香)(2007)「〈台湾漢文通俗小説集一〉解説」(『日本統治期台湾文学集成24 台湾漢文通俗小説集 一』緑蔭書房、2007年2月、pp.477-494) 黄美娥・黄英哲(翻訳 青木沙弥香)(2007)「〈台湾漢文通俗小説集二〉解説」(『日本統治期台湾文学集成25 台湾漢文通俗小説集 二』緑蔭書房、2007年2月、pp.403-426)上の2つの解説は前半はまったく同じもので、後半の収録作品解説の部分だけ内容が異なる。 20世紀前半の台湾の文芸誌『台湾鉄道』中島利郎(2007)「雑誌『台湾鉄道』解説」(『日本統治期台湾文学集成21 「台湾鉄道」作品集 一』緑蔭書房、2007年2月、pp.373-392)『日本統治期台湾文学集成22 「台湾鉄道」作品集 二』にも同じものが収録されている。 中島利郎編(2007)「『台湾鉄道』文芸関係目録(伝統文学は除く)」(『日本統治期台湾文学集成21 「台湾鉄道」作品集 一』緑蔭書房、2007年2月、pp.393-408) 作家論 金関丈夫およびその作品について浦谷一弘(2004)「植民地統治期〈台湾〉の探偵小説 ―林熊生『龍山寺の曹老人』―」(花園大学国文学会編『花園大学国文学論究』第32号、2004年12月、pp.57-89) 葉歩月およびその作品について下村作次郎(2003)「葉歩月の文学」(『日本統治期台湾文学集成19 葉歩月作品集一』緑蔭書房、2003年7月、pp.327-337) 下村作次郎(2003)「葉歩月の大河小説『七色の心』」(『日本統治期台湾文学集成20 葉歩月作品集二』緑蔭書房、2003年7月、pp.527-538) 葉思婉・周原七朗編(2003)「葉歩月年譜」および「葉歩月著作年譜(未定稿)」(『日本統治期台湾文学集成19 葉歩月作品集一』緑蔭書房、2003年7月、pp.339-346、pp.347-351) 島崎博氏に関連する文献 島崎博氏へのインタビュー2004年11月22日収録 「「幻影城」編集長 島崎博さんに聞く」(「幻影城の時代」の会編『幻影城の時代』回顧編、エディション・プヒプヒ、2006年12月、pp.10-56/『幻影城の時代 完全版』pp.310-340に再録)インタビュアー 岩堀泰雄、石井春生 インタビュー日不明 「ベテランインタビュー 島崎博」(島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2008』南雲堂、2007年12月)pp.148-155(インタビュアー つずみ綾) 2008年4月18、19日収録 「"もう一人の島崎博"が欲しかった 島崎博インタビュー PART II」(本多正一編『幻影城の時代 完全版』講談社 講談社BOX、2008年12月)pp.341-353インタビュアー 沢田安史、新保博久、本多正一 2008年4月収録 「Editor×Editor 『幻影城』編集長 島崎博」(講談社『ファウスト』Vol.7、2008年8月)pp.1094-1112/インタビュアー 太田克史 2004年以降の島崎博氏執筆の記事島崎博(2004)「台湾 冬の時代経て、今、第2次ブーム 日本ミステリー小説事情」(『毎日新聞』2004年12月28日夕刊 6面) 【中国語】 傅博(2009)「推理小說縱橫談」(傅博『謎詭‧偵探‧推理』序文) 【中国語】 傅博(2009)「林佛兒的推理文學軌跡」(林佛兒『美人捲珠簾』序文) 【中国語】 傅博(2010)「最具潛力之新世代推理作家──林斯諺」(林斯諺『芭達雅血咒』序文) - taipeimonochromeさんによる翻訳 島崎博氏の講演・対談「島崎博が語る日本ミステリin台湾」(構成 末國善己)(探偵小説研究会編『2009 本格ミステリ・ベスト10』原書房、2008年12月)pp.194-1972008年9月20日、日本推理作家協会事務局で開催された「土曜サロン」での談話をまとめたもの 関連サイト:日本推理作家協会会報2008年11月号、「台湾における日本ミステリー出版事情 土曜サロン・第一六五回 二〇〇八年九月二〇日」 「島崎博・林佛兒対談 「推理小説在台湾 ――解嚴二十年後推理小説發展」 其の一」 「島崎博・林佛兒対談 「推理小説在台湾 ――解嚴二十年後推理小説發展」 其の二」 「島崎博・林佛兒対談 「推理小説在台湾 ――解嚴二十年後推理小説發展」 其の三」 「島崎博・林佛兒対談 「推理小説在台湾 ――解嚴二十年後推理小説發展」 其の四」 「島崎博・林佛兒対談 「推理小説在台湾 ――解嚴二十年後推理小説發展」 其の五」 「島崎博・林佛兒対談 「推理小説在台湾 ――解嚴二十年後推理小説發展」 其の六」 「島崎博・林佛兒対談 「推理小説在台湾 ――解嚴二十年後推理小説發展」 其の七」 島崎博氏に言及した文献等山村正夫(1988)「異色探偵専門誌『幻影城』の創刊」(山村正夫『推理文壇戦後史 4』双葉社、1989年、pp.203-224)※初出は『小説推理』、号数未調査 権田萬治(1993)「台湾に帰った友」(『日本経済新聞』1993年12月10日朝刊、40面) 権田萬治(1994)「泡坂妻夫と雑誌『幻影城』」(泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』(創元推理文庫、1994年)解説、pp.71-81) 新聞記事「顔 島崎博さん 75」(『読売新聞』2008年9月25日朝刊 2面) 「『幻影城』元編集長の島崎博さん29年ぶり来日 本格ミステリ大賞特別賞贈呈」(『毎日新聞』2008年9月29日夕刊 4面) 島崎博氏の台湾での仕事をまとめたリスト野地嘉文(2006)「島崎博の仕事リスト抄 2.台湾編」(「幻影城の時代」の会編『幻影城の時代』資料編、2006年12月)pp.24-32 島田荘司推理小説賞に関連する文献 第1回島田荘司賞 募集要項「第一回島田荘司推理小説賞募集要項」(日本語訳)島田荘司ウェブサイト「WS刊島田荘司」に掲載の日本語訳。 第1回島田荘司推理小説賞 選評島田荘司(2009)「いま、アジアのミステリーに何が起きているのか」(文藝春秋『オール讀物』2009年11月号(2009年10月)) pp.446-453受賞作の選評部分は寵物先生『虚擬街頭漂流記』(文藝春秋、2010年)巻末に転載されている。 この記事の抜粋は文藝春秋公式サイト内の『虚擬街頭漂流記』特設サイトでも読むことができる(『虚擬街頭漂流記』巻末の抜粋とは違う箇所) 第1回授賞式のレポート執筆者不明「第一回島田荘司推理小説賞レポート in台北」(東京創元社『ミステリーズ!』vol.37 OCTOBER 2009、2009年10月、pp.320-321) 冬陽(2009)「第一回島田荘司推理小説賞受賞(ママ)式レポート」 (島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド2010』南雲堂、2009年12月)pp.18-21 第1回受賞者と島田荘司の対談島田荘司、寵物先生(ミスターペッツ)「スペシャル対談 島田荘司×寵物先生(ミスターペッツ) アジアから現れた本格ミステリーの超新星」(構成 澤島優子)(文藝春秋PR誌『本の話』2010年5月号、pp.2-6)同じ対談が文藝春秋の特設サイト「寵物先生(ミスターぺッツ)『虚擬街頭漂流記』|特設サイト|文藝春秋」(2010年4月8日サイトオープン)にも掲載されているが、末尾の5分の1ほどがカットされている。 その他 その他「綾辻的台湾事情 ―日本にいちばん近いミステリ好きの国」(スニーカー・ミステリー倶楽部編『綾辻行人 ミステリ作家徹底解剖』角川書店、2002年10月、pp.138-139) 有栖川有栖(2005)「新本格推理作家的台灣體驗」(講談社『メフィスト』2005年5月増刊号、2005年4月、pp.42-55) 浦谷一弘(2006)「台湾とミステリ」(探偵小説研究会編 『2007 本格ミステリ・ベスト10』原書房、2006年12月)p.144 戸川安宣(2008)「台湾ミステリ紀行」(東京創元社『ミステリーズ!』vol.29 JUNE 2008(2008年6月))pp.282-285 洪蕙玲(2008)「世界のミステリ雑誌 台湾」(早川書房『ハヤカワミステリマガジン』2009年1月号(2008年11月))pp.70-71 シンポジウム「越境する探偵小説――日本と台湾の異文化交流」第二部「柄刀一氏を囲んでの意見交換会」レポート(探偵小説研究会『CRITICA』第5号、2010年8月)pp.106-128、文字起こし・編集:諸岡卓真井上貴翔、大森滋樹(探偵小説研究会)、押野武志、金儒農、高嘉励、朱恵足、張麗嫺(独歩文化)、陳國偉、柄刀一、成田大典、藤井得弘、諸岡卓真(探偵小説研究会)、吉田司雄 未読【中国語】 日治時期台灣偵探敘事的發生與形成
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/153.html
『中国ミステリ史 第一章』(19世紀末~1910年代) 『中国ミステリ史 第二章』(1910年代~1940年代) 『中国ミステリ史 第三章』(1940年代末~1970年代) 『中国ミステリ史 第四章』(1970年代末~1990年代) 『中国ミステリ史 第五章』(1990年代末~21世紀初頭) 『中国ミステリ史 第六章』(現代) 『読書案内』 参考文献 中国ミステリ I (江戸川乱歩とその周辺)東震太郎(1947)講演「中国の探偵小説界」(「第13回土曜会記録」『探偵作家クラブ会報』第2号、1947年7月) 東震太郎(1947)「中国の探偵小説」(『探偵作家クラブ会報』第2号、1947年7月) 柴田天馬(1947)講演「中国文学に現れた犯罪、探偵」(「第18回土曜会記録」『探偵作家クラブ会報』第7号、1947年12月) 江戸川乱歩(1949)「福爾摩斯(ホルムス)偵探案全集」(『探偵作家クラブ会報』第30号、1949年11月) 江戸川乱歩(1950)「中国十八世紀の長篇探偵小説」(『探偵作家クラブ会報』第33号、1950年2月) ファン・ヒューリック(1950)「中国の推理小説について」(『朝日評論』1950年6月号、朝日新聞社) - 実際の表記は「ヴァン・グーリク」 江戸川乱歩、ロバート・ファン・ヒューリックほか(1950)座談会「中国の探偵小説を語る」(『宝石』1950年9月号、pp.130-147)ロバート・ファン・ヒューリック『柳園の壺』(早川書房、2005年)巻末に、三分の一程度に縮められたものが収録されている。 『探偵作家クラブ会報』第37号(1950年6月)で「第47回土曜会記録」として座談会の要旨がまとめられている。 江戸川乱歩(1956)「香港の探偵雑誌」(『日本探偵作家クラブ会報』第110号、1956年7月) 中国ミステリ II (『ミステリマガジン』、20世紀末まで)TEN(1964)「香港偵探小説巡羅」(『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』1964年2月号、p.25、「マガジン・パトロール」コーナー) ジェフリー・C・キンクリー(1986)「ポスト毛の中国探偵小説」(『ミステリマガジン』1986年3月号、pp.108-109) 西夜朗(1989)「香港で見つけた翻訳小説シリーズ」(『ミステリマガジン』1989年12月号、pp.106-107) 狩井善人(1991)「ありました。香港の名作ミステリ・シリーズ」(『ミステリマガジン』1991年5月号、pp.106-107) H・K(1999)「中国語圏のミステリ」(『ミステリマガジン』1999年3月号、p.48) 中国ミステリ III (公案小説の周辺)実吉達郎(1988)「4章 包孝粛・ホームズ・越前守 ―なぜ、中国に名探偵は生れなかったか」(実吉達郎『シャーロック・ホームズと金田一耕助』毎日新聞社、1988年8月、pp.89-118) 芦辺拓(1995)「重たい本をカバンに詰めて 一探偵作家の中国小説メモ」(『幻想文学』第44号、pp.110-115) 中国ミステリ IV (21世紀以降)李長声(リー チャンション)(入交みず 訳)(2002)「中国のミステリー事情 大衆文学への渇望」 (光文社『ジャーロ』7号(2002年春号))pp.273-277 井波律子(2003)『中国ミステリー探訪 ―千年の事件簿から』日本放送出版協会、2003年11月 ※第4回(2004年)本格ミステリ大賞 評論・研究部門候補作 池田智恵(2009)「発展途上の中国ミステリー」 (水天一色『アジア本格リーグ4 蝶の夢 乱神館記』講談社、2009年11月)pp.383-394 天蠍小豬(2009)「中国ミステリー事情」 (島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2010』南雲堂、2009年12月)pp.27-30 「黒蜘蛛クラブの挨拶」(島田荘司監修『本格ミステリー・ワールド 2012』南雲堂、2011年12月、pp.226-228) - ジャーナリストの臧歆春が中国の最新ミステリについて寄稿 中国ミステリ V (『ミステリマガジン』、21世紀)「海外ベストセラー」コーナー、2008年6月号、2008年12月号、2009年6月号、2009年12月号、2010年6月号で中国amazonのミステリ売り上げランキングを紹介 松川良宏(2011)「東アジア推理小説の日本における受容史」(『ハヤカワミステリマガジン』2012年2月号、pp.12-19) 阿井幸作(2011)「昨今の中国ミステリ事情について」(『ハヤカワミステリマガジン』2012年2月号、pp.26-29) 阿井幸作(2012)「《青春》では言い尽くせない不良たちの学園ミステリ」(『ハヤカワミステリマガジン』2012年3月号、p.237) - 王稼駿『明暗線』レビュー 中国ミステリ VI (外国語文献)曹正文(1998)『世界偵探小説史略』 第十五章 中国侦探小说概况「第一节 中国侦探小说的起源与发展」 「第二节 程小青的侦探小说」 「第三节 旧中国其他侦探小说家概述」 任翔(2002)「凭栏十里芰荷香(代序)」 (『20世纪中国侦探小说精选』(全4巻、2002年)の序文) 李卫国(2006)「公安法制小说研究之概述」 汪政(김택규 訳)(2006年ごろ?)「중국현대추리소설론(中國現代推理小説論)」 (韓国推理作家協会『계간 미스터리(季刊ミステリ)』2007年夏号) 老蔡、杜撰(2009)「百年华文推理简史」 (中国の推理作家・杜撰(ずさん)氏のブログに連載されたもの)老蔡、杜撰「引言」 老蔡「一、中国侦探小说的起源」 老蔡「二、程小青与霍桑(上)」、「二、程小青与霍桑(下)」 老蔡「三、孙了红和他的“反侦探小说”」 老蔡「四、民国时期的其他原创作品(上)」、「四、民国时期的其他原创作品(下)」 老蔡「五、民国时期的侦探杂志(上)」、「五、民国时期的侦探杂志(下)」 老蔡「六、新中国的反特小说」 老蔡「七、“文革”中的地下侦探小说」 老蔡「八、“文革”后的侦探小说创作浪潮(上)」、「八、“文革”后的侦探小说创作浪潮(中)」、「八、“文革”后的侦探小说创作浪潮(下)」 杜撰「九、网络推理小说的创作热潮」 杜撰「十、《岁月·推理》与现今华文推理」 中国における日本ミステリ『第六回松本清張研究奨励事業研究報告書 日本の探偵小説・推理小説と中国 ――その中国における受容と意味 共同研究』(北九州市立松本清張記念館、2006年1月)王成「中国における日本探偵・推理小説の受容とその意味」(pp.2-12) 林濤「中国における日本女性推理小説の翻訳と紹介」(pp.13-22) 王中忱「中国における日本の探偵・推理小説翻訳作品目録」(pp.45-106) 中国公案小説とその日本への影響江戸川乱歩(1951)「原始法医学書と探偵小説」(『新版 探偵小説の「謎」』現代教養文庫、1999年、pp.196-200/初出:『自警』1951年9月号(未確認)) 荘司格一(1991)「裁判を通して社会の実相を伝える稀覯本の数々」(『翻訳の世界』1991年7月号、p.66、[国別・地域別/未訳ミステリ紹介]中国) 北村薫「中国公案小説と日本最初の本格ミステリ」(『謎のギャラリー 名作博本館』新潮文庫、2002年、pp.51-76)※初出未確認 訳者あとがき類(中国ミステリ関連)張平(ジャンピン)『十面埋伏』(じゅうめんまいふく)(新風舎、2005年11月、pp.391-394) ジョー・シャーロン『上海の紅い死』(下巻)(田中昌太郎訳、早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫、2001年11月、pp.339-345) ダイアン・ウェイ・リャン『翡翠の眼』(羽地和世訳、ランダムハウス講談社、2008年6月、pp.309-311) 追加1岡本綺堂「怪奇探偵話」(赤膏薬 / 支那の探偵小説 / 怪奇一夕話) 水島爾保布「偽雷神(支那の探偵奇譚)」(『探偵文藝』1925年8月号) 橋本五郎「支那の探偵小説」(『探偵クラブ』1933年3月) 橋本五郎「支那偵探案「仙城奇案」」(『月刊探偵』1936年6月号) 橋本五郎「面白い話」(『真珠』1947年4月) 追加2無署名記事「中国の探偵小説出版」(『出版ニュース』1950年3月下旬号、p.7) 陳舜臣「ファン・チェン・ファン」(『日本推理作家協会会報』1979年7月号、367号、p.3) 鮎川哲也「ちょっとしたミステリー」(『日本推理作家協会会報』1981年1月号、385号、pp.3-4) - 香港の探偵雑誌にほんの少し言及 林久之「驚険小説在中国 現代中国のミステリー」(『EQ』1981年11月号、pp.161-168) 石沢英太郎「中国の読者からの手紙」(『日本推理作家協会会報』1981年12月号、396号、p.2) 石沢英太郎「中国の翻訳者からの手紙」(『日本推理作家協会会報』1982年1月号、397号、p.2) 中島河太郎「中国刊行の「日本短篇推理小説選」」(『日本推理作家協会会報』1982年9月号、405号、p.4) 井波律子「「中国ミステリー」の愉しみ」(『岩波講座 文学6 虚構の愉しみ』岩波書店、2003年12月、月報pp.1-3) ソ連ミステリ (主なもの。ソ連ミステリに関する日本語文献の一覧は「こちら」で示している)江戸川乱歩(1956)「探偵小説の世界的交歓 チェーホフの長篇探偵(?)小説」(『宝石』1956年10月号)pp.68-77 - ロマン・キムからの第一信の全文が転載されている(原卓也訳) 江戸川乱歩(1957a)「ソ連と中共の近況 ――ロマン・キム氏から第二信――」(『宝石』1957年1月号)pp.137-140 - ロマン・キムからの第二信の全文が転載されている(原卓也訳) 江戸川乱歩(1957b)「海外近事 ――アメリカ、ソ連、オランダ――」(『宝石』1957年8月号)pp.238-243 - ロマン・キムからの第三信の大部分が転載されている(木村浩訳) 袋一平(1957)「ソ連の探偵小説界近況」(『日本探偵作家クラブ会報』第120号、1957年7月) 飯田規和(1965)「ソ連の探偵小説」(『EQMM』1965年4月号)pp.70-72 飯田規和(1972)「ソ連の推理小説」(『世界ミステリ全集12』早川書房、1972年)月報 pp.3-4 その他ミステリ中島河太郎(1993)『日本推理小説史 第一巻』東京創元社、1993年4月「第六章 探偵実話とホームズの移入」(初出:『宝石』1962年6月号(未見)) 「第十八章 綺堂の捕物帳創始」(初出:『宝石』1963年4月号(未見)) 「第二十七章 乱歩出現の前夜」(初出:『宝石』1963年11月号(未見)) 郷原宏(2010)「シャーロック・ホームズの来日」(『物語日本推理小説史』講談社、2010年11月) 玉田誠(2009)「台湾の本格ミステリー事情」 (藍霄『アジア本格リーグ1 錯誤配置』講談社、2009年9月)pp.307-315 (台湾) 米津篤八(2009)「韓国ミステリー百年の現在」 (李垠『アジア本格リーグ3 美術館の鼠』講談社、2009年11月)pp.231-237 (韓国(朝鮮半島)) 부끄럼(bookgram)(2009)「셜록 홈스 시리즈 한국어 번역 연표(Sherlock Holmes series 韓國語 飜譯 年表)」 (韓国の国文学研究者(博士号取得)パク・チニョン(박진영)氏のブログの記事 宇戸清治(2009)「タイ・ミステリーの過去と現在」 (チャッタワーラック『アジア本格リーグ2 二つの時計の謎』講談社、2009年9月)pp.275-283 (タイ) 柏村彰夫(2010)「インドネシアの推理小説」 (S・マラ・Gd『アジア本格リーグ5 殺意の架け橋』講談社、2010年3月)pp.387-395 (マレーシア・インドネシア) 中国語圏SF武田雅哉、林久之(2001)『中国科学幻想文学館』(上下巻)大修館書店、2001年12月 Wikipediaにリンクを貼った箇所もあるが、情報源としては利用していない。 以下、未見 阿部泰記「中国近代における探偵小説の創作」(樋口進先生古稀記念論集刊行会編『中国現代文学論集』中国書店、1990年4月)
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/203.html
2012年9月20日 Index 2002年、ミステリの売り上げに占める日本作品の割合は1.1% 日本ミステリの翻訳の急増 人気・評価の高い作品は? 最も多く作品が翻訳されている作家は? 主なミステリ作家の翻訳状況翻訳書が10点以上出ている作家 その他の作家 旧作の翻訳は?横溝正史とその他の探偵作家 松本清張と赤川次郎 その他 2002年、ミステリの売り上げに占める日本作品の割合は1.1% 日本の推理小説の韓国での翻訳出版は1960年代に始まり、1970年代~80年代には松本清張や森村誠一、梶山季之の作品が人気を集めた。そして1990年代には島田荘司の『占星術殺人事件』や綾辻行人の館シリーズ(6作目まで)、赤川次郎の三毛猫ホームズシリーズ、大沢在昌の『相続人TOMOKO』および新宿鮫シリーズ(4作目まで)、桐野夏生の『顔に降りかかる雨』、『OUT』、高村薫の『マークスの山』、『照柿』、森博嗣のS&Mシリーズの第3作『笑わない数学者』などが翻訳出版されたりしたが、英米のミステリと比べれば翻訳出版数はあまり多くなく、韓国における日本の推理小説の存在感はまだそれほど大きくなかったようである。韓国大手の書店チェーン教保文庫のデータによれば、教保文庫の2002年のミステリ小説の売り上げは英米の作品が86パーセント、韓国の国産作品が7パーセントを占めており、売り上げに占める日本の作品の割合は1.1パーセントに過ぎなかった(参照:中央日報2012年6月19日「国別に楽しむ推理小説」※リンク先韓国語)。 日本ミステリの翻訳の急増 日本ミステリの翻訳出版数が急増するのは2006年・2007年ごろからである。韓国推理作家協会が年間のミステリ出版点数を2006年から記録しているので、元言語別のデータを見てみよう。 韓国におけるミステリの年間出版点数(韓国推理作家協会『季刊ミステリ』34号[2011年冬号]より) 英語圏 日本 韓国 その他 合計 2006年度 77 32 20 18 147 2007年度 111 72 17 35 235 2008年度 103 96 27 41 267 2009年度 125 98 38 33 294 2010年度 113 125 32 32 302 2011年度 90 95 44 49 278 ※毎年末に刊行の『季刊ミステリ』冬号にデータが掲載されるため、集計期間はそれぞれ前年12月~当年11月である。 ※広義のミステリ。また、復刊や新訳も含まれる。 これを見ると、まずミステリの出版点数自体が2006年以降急増していることが分かる(残念ながらそれ以前のデータがないので、この「急増」が正確にいつ始まったのかは分からない)。2006年におよそ150点だった出版点数が3年後の2009年には年間約300点と倍になっている。その中でも特に伸びが見られるのは日本ミステリの出版点数である。2006年に韓国で翻訳出版された日本ミステリは32点だったが、それが翌年には72点と倍以上になり、そしてその翌年には100点近くに達している。 いくら日本ミステリの翻訳出版数が伸びているとはいえ、それでも韓国では英語圏のミステリの翻訳出版数の方が多い――と、少し前までは説明していたのだが、つい最近になってやっと2010年と2011年のデータを手に入れたところ、ついに2010年には日本ミステリの翻訳出版数が英語圏ミステリの翻訳出版数を上回ったということが分かった。もっともそんなに大差がついているわけではないので、韓国では英語圏と日本のミステリの翻訳出版数が均衡していて、どちらもだいたい年間100点ほど出版される、とここ数年の傾向をまとめてもいいだろう。 気になるのは、2006年以来上昇傾向にあったミステリ全体の出版点数が2011年に減少に転じていることである。英語圏ミステリも日本ミステリも出版数が減少している。これは一時的なものなのか、それともこのまま減少の傾向が続いてしまうのか、気になるところである。全体的な減少の中で非英語圏ミステリの翻訳出版数が増加しているが、これは北欧やドイツのミステリの翻訳出版が増えているためである。 韓国の国産ミステリの割合は毎年10パーセント台である。1980年代初頭から1990年代初頭にかけて、韓国ではキム・ソンジョン(金聖鍾)を筆頭とする国内作家が人気を集め、国産ミステリが比較的好調な時期が続いた。それがアジア通貨危機(1997年)などによる出版不況で低迷期に入るのが1990年代後半のことである。作品を発表できる機会が少なくなり、新人がデビューするための道も閉ざされ、ミステリ市場における国産作品の存在感は低下していった。有望な新人が出るなどして韓国の国産ミステリが復活の兆しを見せ始めたのはここ数年のことである。 ちなみに韓国では現在、年間600点ほどのペースでライトノベルが出版されている。そのうち、日本のライトノベルの翻訳が占めるのは約530~540点で、残りの約60~70点が韓国の国産ライトノベルである。詳細は「韓国におけるライトノベルの年間出版点数と歴史」参照。 人気・評価の高い作品は? 日本のどの作家の作品が訳され、どの作品の人気・評価が高いのかを知るには、日本ミステリのファンが集う韓国のWebサイト「日本ミステリを楽しむ」が参考になる。このサイトでは2007年以降、日本ミステリの年間ランキングを決定するためのアンケートを毎年実施している。 韓国のWebサイト「日本ミステリを楽しむ」の日本ミステリランキング 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 1位 『暗黒館の殺人』綾辻行人、『ZOO』乙一 『贄の夜会』香納諒一 『告白』湊かなえ 『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午 『奇想、天を動かす』島田荘司 2位 - 『インシテミル』米澤穂信 『警官の血』佐々木譲 『首無の如き祟るもの』三津田信三 『山魔の如き嗤うもの』三津田信三 3位 『殺戮にいたる病』我孫子武丸 『倒錯のロンド』折原一 『私が殺した少女』原尞 『名探偵の掟』東野圭吾 『カラスの親指』道尾秀介 4位 『OUT』桐野夏生 『GOTH リストカット事件』乙一 『天使のナイフ』薬丸岳 『沈黙の教室』折原一 『密室殺人ゲーム2.0』歌野晶午 5位 『チーム・バチスタの栄光』海堂尊 『楽園』宮部みゆき 『生ける屍の死』山口雅也 『冤罪者』折原一 『追想五断章』米澤穂信 6位以下の作品は以前に「こちら」でまとめました。 こうして見ると、日本の最新の話題作が軒並み翻訳されていることが分かる。 最も多く作品が翻訳されている作家は? ランキングを見るだけでは分からないが、21世紀以降の日本ミステリの翻訳出版ブームで最も多く作品が翻訳されているのは東野圭吾と宮部みゆきだろう。東野圭吾は1999年に『秘密』が翻訳されたのが最初で、以来2011年末までに約50点の翻訳書が出ている。特に2007年から2009年にかけては年間平均9点というペースで翻訳書が出版されていた。東野圭吾の代表作の一つである『白夜行』が日本より早く韓国で映画化されたということにその人気が伺える。ほかに『容疑者Xの献身』も韓国で映画化の予定である(2012年10月公開予定)。宮部みゆきは2000年に『火車』が翻訳されたのが最初で、2011年末までに約40点の翻訳書が出版された。『火車』は韓国で映画化されている。なお韓国では東野圭吾は「ヒ先生」、宮部みゆきは「ミミ女史」という愛称で呼ばれることもある(一応説明しておくと、「ミ」ヤベ・「ミ」ユキのようにイニシャルを取っているわけである)。韓国のミステリファンの方に聞いてみたところ、この種の愛称で呼ばれるのは今のところこの二人だけだそうである。 ミステリ作品の割合はそれほど多くないが、恩田陸も2005年に『夜のピクニック』が訳されて以来、40点ほどの翻訳書が出ている。その人気のほどは、2001年にデビューした韓国のファンタジー作家のチョ・ソニ(조선희)が近年、「韓国の恩田陸」と呼ばれるていることにも伺える。「韓国の恩田陸」という呼び方は今では出版社も使っているが、最初に使い出したのが読者たちなのか、それともそもそも出版社側が使い始めたものなのかは分からない。韓国にはほかに、「韓国の東野圭吾を夢見る若い作家の誕生!」という売り文句でデビューしたヤン・ジヒョン(양지현、1983年生)という作家もいるが、2010年のデビュー作『記憶は眠らない』以降、新作は刊行されていない。「韓国の宮部みゆき」と呼ばれている作家はいないようである。 主なミステリ作家の翻訳状況 2011年に韓国で出版された日本ミステリで、ファンの間で最も高い評価を得たのは島田荘司の『奇想、天を動かす』だった(上で示したランキング参照)。なおこの作品は、2011年に韓国で出版された全ミステリ小説を対象とするランキングでも1位に輝いている。 韓国のミステリ情報サイト「ハウミステリ」(How Mystery)のミステリランキング 順位 タイトル 作者 国 年 1位 奇想、天を動かす 島田荘司 日本 1989年 2位 死んだギャレ氏 ジョルジュ・シムノン ベルギー 1931年 ラスト・チャイルド ジョン・ハート アメリカ 2009年 4位 パイは小さな秘密を運ぶ アラン・ブラッドリー カナダ 2009年 5位 精神自殺(*仮) ト・ジンギ(都振棋) 韓国 2011年 6位 フランス白粉の謎 エラリー・クイーン アメリカ 1930年 7位 山魔の如き嗤うもの 三津田信三 日本 2008年 8位 白雪姫には死んでもらう(*仮) ネレ・ノイハウス ドイツ 2010年 9位 弁護側の証人 小泉喜美子 日本 1963年 戻り川心中 連城三紀彦 日本 1980年 シャーロック・ホームズのライヴァルたち チョン・テウォン編訳 英米 - 5位:도진기『정신자살』(闇の弁護士シリーズ第3作。本格推理小説) 8位:Nele Neuhaus, Schneewittchen muss sterben (酒寄進一氏の翻訳で東京創元社より邦訳予定。『白雪姫には死んでもらう』は酒寄氏による仮題) 12位以下の作品は以前に「こちら」でまとめました。 島田荘司は中国語圏で高い評価を受け、台湾でも中国でも作品が軒並み翻訳されている。一方で、実は韓国ではまだあまり翻訳が進んでいない。1990年代に『占星術殺人事件』が『顔のない時間』、『アゾート』、そして原題通りの『占星術殺人事件』とタイトルを変えて三度刊行されていたというのは「韓国ミステリ史 第四章」で述べた。その後、2006年に『占星術殺人事件』が新訳で刊行され、2007年に『魔神の遊戯』、2008年に『龍臥亭事件』、2009年に『斜め屋敷の犯罪』、2010年に『異邦の騎士』が翻訳され、それに続く6作目の翻訳紹介作として2011年2月に刊行されたのが『奇想、天を動かす』である。この作品の評価が高かったこともあってか、その後島田荘司作品は2012年9月現在までにさらに5作品が翻訳出版されている。 翻訳書が10点以上出ている作家 さて、そのほかの作家の翻訳状況だが、挙げていけばきりがないので、翻訳書が10点以上出版されている作家をまず見てみよう(ここでは近年の翻訳ブームについて記述しているので、主に1990年代までに翻訳され、その後はほとんど翻訳されていない作家[たとえば森村誠一や西村京太郎、笹沢左保ら]については言及しない)。 綾辻行人、有栖川有栖、折原一はそれぞれ翻訳書が10点ずつ出ている。 綾辻行人の作品は、まず1997年に《館シリーズ》の最初の6作品(十角館、水車館、迷路館、人形館、時計館、黒猫館)が翻訳刊行されたが、売れ行きが振るわずすぐに絶版になってしまった。しかし数年経つとミステリマニアの口コミで評判が広まっていく。2005年に『十角館の殺人』と『時計館の殺人』が復刊され、2007年にはシリーズ第7作『暗黒館の殺人』が翻訳された。《館シリーズ》はその後、2011年1月に『迷路館の殺人』、2012年3月に『水車館の殺人』が新訳で刊行されたが、『人形館の殺人』と『黒猫館の殺人』についてはまだ入手不可が続いている。シリーズ第8作『びっくり館の殺人』は訳されていないが、最新のシリーズ第9作『奇面館の殺人』は2012年内には翻訳刊行される予定である。また、『黒猫館の殺人』の復刊(新訳?)と《囁きシリーズ》の第1作『緋色の囁き』の翻訳出版も予告されている。《館シリーズ》以外では『霧越邸殺人事件』、『殺人方程式』、『Another』が翻訳されている。 有栖川有栖はまず2007年に学生アリスシリーズの『月光ゲーム』が翻訳されている。同シリーズはその後、2008年に『孤島パズル』、2010年に『双頭の悪魔』が訳された。作家アリスシリーズでは、2008年に短編集『白い兎が逃げる』、2009年に短編集『絶叫城殺人事件』と『46番目の密室』、2011年に『朱色の研究』、2012年に『ダリの繭』が訳されている。またノンシリーズ作品では2010年に『山伏地蔵坊の放浪』、2011年に『虹果て村の秘密』が訳された。 折原一は理論社のヤングアダルト向けレーベル《ミステリーYA!》から出た『タイムカプセル』が2008年に翻訳されたのが最初で、その後同年に『倒錯のロンド』、2009年に『行方不明者』、『倒錯の死角』、2010年に『冤罪者』、『失踪者』、『逃亡者』、『沈黙の教室』、2011年に『異人たちの館』、2012年に『倒錯の帰結』が訳されている。 歌野晶午の翻訳は2010年以降急増した。現在までに15点の翻訳書が出ているが、内訳は2005年が1点、2010年以降が14点である。まず2005年に『葉桜の季節に君を想うということ』が翻訳出版された。そして2010年に順に『死体を買う男』、『そして名探偵は生まれた』、『女王様と私』、『密室殺人ゲーム王手飛車取り』、『ハッピーエンドにさよならを』、2011年に順に『密室殺人ゲーム2.0』、『魔王城殺人事件』、『長い家の殺人』、『白い家の殺人』、『世界の終わり、あるいは始まり』、『動く家の殺人』、2012年に順に『舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵』、『舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵』、『密室殺人ゲーム・マニアックス』が訳された。 京極夏彦は翻訳書が12点出ている。2000年、百鬼夜行シリーズのサイドストーリー集である『百鬼夜行 陰』がなぜが最初に翻訳刊行された。その後同シリーズは、2004年に『姑獲鳥の夏』、2005年に『魍魎の匣』、2006年に『狂骨の夢』、2007年にサイドストーリー集『百器徒然袋 雨』、2008年にサイドストーリー集『百器徒然袋 風』、2010年に『鉄鼠の檻』が訳された。また、2009年に『巷説百物語』、2010年に『嗤う伊右衛門』、2011年に『続巷説百物語』、『死ねばいいのに』、『厭な小説』が訳されている。 道尾秀介は翻訳書が11点出ている。2008年にまず『シャドウ』が訳され、続いて2009年に『向日葵の咲かない夏』、2010年に『片眼の猿』、『鬼の跫音』、『龍神の雨』、『ソロモンの犬』、2011年に『月と蟹』、『カラスの親指』、『カササギたちの四季』、2012年に『球体の蛇』、『水の柩』が訳された。真備シリーズは『背の眼』の漫画版(全3巻)が2010年に翻訳されているが、小説版は翻訳されていない。 非ミステリ作品も多いが、貴志祐介は翻訳書が10点出ている。2003年に『天使の囀り』(2003年版は上下巻、2007年に1冊にして復刊)が訳され、2004年に『黒い家』、『青の炎』、2006年に『硝子のハンマー』、2009年に『新世界より』、『十三番目の人格 ISOLA』、『クリムゾンの迷宮』、2010年に『狐火の家』、2011年7月に『悪の教典』、2012年7月に『ダークゾーン』が訳された。2011年10月と2012年8月には韓国で貴志祐介のサイン会も行われている。 伊坂幸太郎は翻訳書が20点出ている。2005年に『チルドレン』が訳され、2006年に『ラッシュライフ』、『死神の精度』、『重力ピエロ』、『終末のフール』、『魔王』、2007年に『陽気なギャングが地球を回す』、『砂漠』、『フィッシュストーリー』、『アヒルと鴨のコインロッカー』、『陽気なギャングの日常と襲撃』、2008年に『ゴールデンスランバー』、2009年に『モダンタイムス』、『オーデュボンの祈り』、『グラスホッパー』、2010年に『SOSの猿』、『あるキング』、2011年に『バイバイ、ブラックバード』、『マリアビートル』、『オー! ファーザー』が訳された。日本で単行本化された作品で韓国で翻訳出版されていないのは2012年刊行の『PK』と『夜の国のクーパー』だけである。 松本清張と赤川次郎についてはのちほど扱う。 その他の作家 まず、翻訳書が7点~9点ほど出ている作家を目についた限りで挙げていく。 おそらくは日本国内の『謎解きはディナーのあとで』ブーム、東川篤哉ブームが伝わったのだろう。東川篤哉はこの1年半ほどで一挙に9作が翻訳されている。最初の翻訳は2011年4月の『館島』。2011年5月に『謎解きはディナーのあとで』が訳され、その後2011年内に『完全犯罪に猫は何匹必要か?』、『密室の鍵貸します』が訳された。2012年になってからは『密室に向かって撃て!』、『放課後はミステリーとともに』、『はやく名探偵になりたい』、『もう誘拐なんてしない』、『殺意は必ず三度ある』と、すでに5点が翻訳出版されている。なお、『放課後はミステリーとともに』と『殺意は必ず三度ある』のカスヤナガトによる表紙イラストは韓国でもそのまま使われている。日本のライトノベルは韓国でも同じ表紙で刊行されるが、ミステリで日本と同じ表紙が使われるのは珍しい。 横山秀夫(翻訳書9点)はまず2004年に『半落ち』が訳され、2005年に『クライマーズハイ』、2007年に『臨場』、『ルパンの消息』、『陰の季節』、『動機』、2008年に『真相』、『第三の時効』、2010年に『顔』が訳された。 海堂尊(翻訳書8点)は2007年に『チーム・バチスタの栄光』が訳され、2008年に『ナイチンゲールの沈黙』、『ジェネラル・ルージュの凱旋』、『ジーン・ワルツ』、2010年に『螺鈿迷宮』、『医学のたまご』、2012年に『夢見る黄金地球儀』、『モルフェウスの領域』が訳されている。 若竹七海(翻訳書8点)は2007年に『ぼくのミステリな日常』、2008年に『プレゼント』、2009年に『死んでも治らない』、『依頼人は死んだ』、2010年に『ヴィラ・マグノリアの殺人』、『古書店アゼリアの死体』、『猫島ハウスの騒動』、『名探偵は密航中』が訳された。 我孫子武丸(翻訳書7点)はまず2006年に『弥勒の掌』が翻訳され、2007年に『殺戮にいたる病』、2009年から2011年にかけて《人形シリーズ》全4作(『人形はこたつで推理する』、『人形は遠足で推理する』、『人形は眠れない』、『人形はライブハウスで推理する』)、2012年に『探偵映画』が訳されている。なお、『殺戮にいたる病』は韓国では19禁書籍に指定されてしまっている。 貫井徳郎(翻訳書7点)は2008年に『慟哭』が訳され、2009年に『失踪症候群』、『誘拐症候群』、『殺人症候群』、2010年に『愚行録』、2011年に『乱反射』、2012年に『後悔と真実の色』が訳された。 米澤穂信(翻訳書7点)は2007年6月に『春期限定いちごタルト事件』と『夏期限定トロピカルパフェ事件』が訳され、2008年に『インシテミル』、2010年に『儚い羊たちの祝宴』、2011年に『追想五断章』、『犬はどこだ』、2012年に『折れた竜骨』が訳された。古典部シリーズはまだ翻訳されていない。 以下は、ページ作成者の趣味で新本格作家やメフィスト賞作家の翻訳状況について。 法月綸太郎は2010年に『生首に聞いてみろ』が翻訳され、2011年に『怪盗グリフィン、絶体絶命』、2012年に『頼子のために』が翻訳された。麻耶雄嵩は未訳だが、2012年に『貴族探偵』の翻訳刊行が予定されている。 北村薫は2004年に『月の砂漠をさばさばと』が訳され、2006年に『語り女たち』、『スキップ』、2007年に『リセット』、2009年に『ターン』、『紙魚家崩壊』が訳された。山口雅也は2009年に訳された『生ける屍の死』が高い評価を受けたが、訳されているのはこの1冊のみである。倉知淳は2011年に『星降り山荘の殺人』が訳されている。 鮎川哲也賞受賞作家のうち韓国語訳書があるのは芦辺拓、加納朋子、近藤史恵、北森鴻、岸田るり子の5人である。芦辺拓は2007年に『紅楼夢の殺人』が訳された。加納朋子は2008年に『螺旋階段のアリス』、『虹の家のアリス』、2010年に『ガラスの麒麟』、2011年に『掌の中の小鳥』、『少年少女飛行倶楽部』が訳された。近藤史恵は2008年に『凍える島』、2009年に『サクリファイス』、2010年に『賢者はベンチで思索する』が訳された。北森鴻は2012年に『花の下にて春死なむ』、岸田るり子は2008年に『天使の眠り』が訳された。 森博嗣は意外にもあまり翻訳されていない。1996年にS&Mシリーズの第三作『笑わない数学者』が翻訳され、その後2005年にシリーズ第一作の『すべてがFになる』が翻訳されたが、それ以降シリーズの紹介は進んでいない。ほかに訳されているのは、『STAR EGG 星の玉子さま』、『少し変わった子あります』、『探偵伯爵と僕』である。 メフィスト賞受賞作で『すべてがFになる』以外に翻訳されているのは、殊能将之『ハサミ男』、舞城王太郎『煙か土か食い物』、佐藤友哉『フリッカー式』、西尾維新『クビキリサイクル』、北山猛邦『『クロック城』殺人事件』、辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』、森山赳志『黙過の代償』である。第33回受賞作の森山赳志『黙過の代償』は日韓同時刊行だった。ほかに、清涼院流水『コズミック』が2012年中に翻訳刊行の予定である。 受賞作を含むメフィスト賞作家の全翻訳状況は「こちら」でまとめた。 旧作の翻訳は? 横溝正史とその他の探偵作家 翻訳されるのは比較的新しい作品が多く、1970年代以前の作品の翻訳は毎年数えるほどである。そんな中で、横溝正史の金田一耕助シリーズは韓国で異例の人気を得ている。エキサイトニュースの記事「韓国で今、横溝正史がヒットするワケ」(2008年10月17日)によれば、韓国では漫画『金田一少年の事件簿』の人気が先にあって、その結果「金田一耕助って誰?」ということで横溝人気に火がついたのだという。同記事によると、『犬神家の一族』は韓国では発売から1か月半で1万6000部を販売している。『犬神家の一族』発売の1か月後に刊行されたジャンル小説誌『ファンタスティーク』18号(2008年10月号)では横溝正史特集が組まれている。2005年から2012年9月現在までに、韓国・時空社から翻訳出版された金田一耕助シリーズ作品は順に『獄門島』、『八つ墓村』、『悪魔の手毬唄』、『犬神家の一族』、『悪魔が来りて笛を吹く』、『夜歩く』、『女王蜂』、『三つ首塔』、『本陣殺人事件』(「車井戸はなぜ軋る」、「黒猫亭事件」併録)の9点である。 江戸川乱歩の作品は中国では海賊版も含めれば軒並み翻訳されており、紹介が遅れていた台湾でも2010年から2012年にかけて島崎博氏監修の全13巻の《江戸川乱歩作品集》が刊行された。一方、韓国では2008年から2009年にかけてちくま文庫の『江戸川乱歩全短篇』(全3巻)が翻訳されているというのは乱歩ファンとして嬉しいが、ほかに韓国で出ているのは長編『孤島の鬼』および、『陰獣』を表題作とする短編集(「陰獣」+新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』に収録の9編)ぐらいである。 2005年には小栗虫太郎『黒死館殺人事件』が翻訳され、2011年には新訳版も出た。2008年には夢野久作『ドグラ・マグラ』が翻訳されている。三大奇書の残りの1冊である中井英夫『虚無への供物』は2009年に翻訳された。なお、四冊目の奇書とされる竹本健治『匣の中の失楽』は、韓国推理作家協会の理事などを務めたミステリ評論家・翻訳家のチョン・テウォン(鄭泰原、1954-2011)氏による翻訳が完成しているらしく、数年前には出版が予告されていたが、いまだに出版されていない。 夢野久作はほかに、2011年に『少女地獄』が出ている。収録作は角川文庫の『少女地獄』と同じである。ほかに戦前の探偵作家では、2009年に小酒井不木の短編集『恋愛曲線』、2010年に岡本綺堂の『半七捕物帳』、2012年に甲賀三郎の短編集『血液型殺人事件』が出ている。 以前に作成した「韓国語に翻訳された日本の探偵作家の作品一覧」も参照のこと。 松本清張と赤川次郎 松本清張は1970年代~80年代にはよく訳されたが、近年では代表作しか入手できない状態が続いていた。2012年2月からは推理小説の出版社ブックス・フィアーと歴史小説の出版社モビーディックが手を組み、松本清張の著作を翻訳刊行している。両社で計30点ほどが出版される予定である(2012年9月までで既刊5点)。 赤川次郎の作品は近年多く刊行されているが、どれが復刊でどれが新訳でどれが初訳なのかは未調査。2010年だけでも三毛猫ホームズシリーズの長編第1作~第7作(『三毛猫ホームズの推理』、『三毛猫ホームズの追跡』、『三毛猫ホームズの怪談』、『三毛猫ホームズの狂死曲(ラプソディ)』、『三毛猫ホームズの駈落ち』、『三毛猫ホームズの恐怖館』、『三毛猫ホームズの騎士道』)、早川一家シリーズの全3作(『ひまつぶしの殺人』、『やりすごした殺人』、『とりあえずの殺人』)および、『悪妻に捧げるレクイエム』、『マリオネットの罠』、『上役のいない月曜日』の計13点が出版されている。 2011年には『夜会』が刊行されている。2012年には、日本でテレビドラマ『三毛猫ホームズの推理』(4月~6月)が放送されるのに合わせたものか、2012年3月から6月にかけて、2010年に刊行された三毛猫ホームズシリーズの7点が新装版で刊行され(推理、追跡、怪談、狂死曲(ラプソディ)、駈落ち、恐怖館、騎士道)、さらに短編集の『三毛猫ホームズの運動会』、『三毛猫ホームズのびっくり箱』、『三毛猫ホームズのクリスマス』が刊行された。また、2012年8月には杉原爽香シリーズの『若草色のポシェット』、『群青色のカンバス』が出ている。 その他 2010年には鮎川哲也『りら荘事件』が翻訳されている。鮎川哲也の韓国語訳書は今のところこの1点のみである。また2011年には、日本で2009年に復刊されて話題を集めたことが影響したのか、小泉喜美子の『弁護側の証人』が訳されている。泡坂妻夫は2010年に『亜愛一郎の狼狽』、2012年に『亜愛一郎の転倒』が訳された。連城三紀彦は2011年に初期作の『戻り川心中』と『夕萩心中』が訳されており、ほかに2011年に『美女』、『白光』、2012年に『造花の蜜』が訳されている。 関連記事 韓国ミステリ史第一章 (20世紀初頭~1930年代) 第二章 (1940年代~1960年代) 第三章 (1970年代) 第四章 (1980年代~20世紀末) 第五章 (21世紀) ※未公開 韓国におけるライトノベルの年間出版点数と歴史 (2012年8月4日)