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桜川夏子 「この世界に復讐を、それが私の唯一の望み」 基本情報 スペシャルキャラクター 名前 桜川夏子(さくらがわ なつこ) 学年・クラス 高等部 3年Y組 性別 女 年齢 18 身長 155 体重 46 性格 人間を見下し嫌悪していてる刺々しい性格 生い立ち 聖痕の殺し屋滝沢丈の姉。両親が離婚し幼いころ弟と別れ双葉学園へ 基本口調・人称 人を馬鹿にした喋り方。私。~きみ 特記事項 通称白き魔女 キャラデータ情報 総合ポイント 29 レベル 8 物理攻防(近) 1 物理攻防(遠) 1 精神攻防 9 体力 1 学力 4 魅力 5 運 2 能力名 過剰殺戮《オーバーキルズ》 特記事項 カテゴリーF種能力者 その他詳細な設定 能力:魂源力を死者に送り込むことにより、無理矢理蘇生する能力。生き返った死者は生前が異能者ならば異能を使用可。 復活した死者は桜川に絶対服従で、その身体をぐちゃぐちゃに破壊されるまで動き続ける。 装備:なし 特徴:直接的な戦闘力は皆無。立浪姉妹虐殺のことで学園や異能者たちを恨んでいる。 四月下旬(タンゴのとき)には既に死亡が確認されている 登場作品 【白き魔女と傷だらけの道化師】 シリーズ 作者のコメント 誰かイラスト描いてくれー
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西野園ノゾミ(CN キャスパー・ウィスパー) 「私は魔女。人の心に潜り、掌握し、操る。世界に相対する存在」 基本情報 スペシャルキャラクター 名前 西野園ノゾミ(にしのその のぞみ) 学年・クラス 高等部 2年A組 性別 女 年齢 17 身長 170 体重 55 性格 典型的なお嬢様を演じているしかし実態は人の命をなんとも思わない魔性の女 生い立ち ラルヴァ信仰団体“聖痕”の殺し屋異能に目覚め、大量殺戮を行っているときスカウトされた 基本口調・人称 丁寧な口調だが、上から目線。~あなた。~私 特記事項 超美人実はレズっ娘 キャラデータ情報 総合ポイント 27 レベル 7 物理攻防(近) 1 物理攻防(遠) 1 精神攻防 6 体力 2 学力 5 魅力 7 運 2 能力名 『ウィスパー・ボイス』 特記事項 スペキャラ その他詳細な設定 能力:人の精神を侵食して意のままに操る能力。一般人は無制限で操れるが、異能者を操る場合は繊細な命令はできない。ただし強い魂源力をもつ異能者には一切通じない。 装備:なし 特徴:とりあえずオフビ初期のボスキャラってことでスペシャルキャラ。ノゾミ自身には戦闘力はない。ラルヴァと融合するがオフビートに敗れ廃人に。 登場作品 【反逆のオフビート 第三話】part.1part.2 作者のコメント 誰かイラストかいてー
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【名前】寒川 玲子 (さむかわ れいこ) 【クラス】2-I 【性別】女 【身長】172 【性格】真面目 暴走癖 かわいいもの好き 【口調・人称】一人称 私 二人称 あなた 三人称 さん 【能力】爆裂金属 (デモリッションメタル) 自身が精錬した金属に「強い衝撃を与えると爆発する」属性を付与する。 爆発の最大威力は手榴弾が炸裂した程度。 爆発しても金属自体は無傷で何度でも使えるが衝撃自体は爆発がそのまま伝わる。 精錬する金属の種類は問わないが他の魂源力が混じった金属だと能力が発動しないか爆発が強すぎて使い物にならなくなったりする。 寒川は基本的に大学の工学科の廃材で武器を作らせてもらっている。 今一番のお気に入りはネイルハンマーを1メートルサイズの大きさにしたもの。 衝撃を抑えるため先端部分にしか能力で精錬した金属をつけていないがそれでも鈍器としては十分な破壊力がある。 【その他詳細な設定】 かわいいものに目がなく、常に懐にカメラを忍ばせている。 あまりに自分の好みにマッチしたものがあると普段から想像できないほどぶっ飛んだ行動を取る時がある。 基本的には真面目で冷静な判断ができる。 好みにマッチしたかわいい藤沢と常に一緒にいる辻堂が少し羨ましい。
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安達 久 「姉さん……狙ってるでしょ」 基本情報 名前 安達 久(あだち ひさ) 学年・クラス 中等部2年F組 性別 男 年齢 14 身長 156cm 体重 45kg 性格 おとなしいが、引っ込み思案という程ではない。怒らせると大変 生い立ち 三年以上前の記憶が無い、母子家庭 基本口調・人称 一人称:僕、二人称:~(苗字)くん、~さん、~先輩、等基本的には大人しいが、怒らせると少しだけ口調が荒くなる 特記事項 色々と「無い」。詳しくは下記参照。髪は銀髪 キャラデータ情報 総合ポイント 16 レベル 4 物理攻防(近) 2 物理攻防(遠) 1 精神攻防 5 体力 2 学力 2 魅力 2 運 2 能力 永劫機ロスヴァイセの召喚・操作 特記事項 『異能』はあるが『魂源力』は無い その他詳細な設定 キャラ設定 母の遊衣、姉の凛と双葉区に住む、心優しい普通の少年……だった筈が、永劫機ロスヴァイセとの出会いで全てが狂ってしまう。 身体能力、学力ともに平均だが、魂源力をまったく持たないという特異体質。また、三年前以前の記憶がまったくない。 さらに言えば、永劫機を起動するのに必要な『時間』をまったく持たないことも判明。ついでに夢を見ない。 そのため異能が『永劫機の召喚、使役』とあるが、実際に行うためには姉の安達凛から『時間』の供給を受ける必要がある。 争いごとが嫌いだが「関わるのが嫌」ではなく「起こってるのが嫌」なので、人が言い争いや喧嘩をしている場面には ついつい割って入ってしまう損な役回り。いちおう機転は利き、損得勘定も出来るのだが…… 【契約永劫機「ロスヴァイセ」】 瑠璃の懐中時計を核とする永劫機、『機械仕掛けの天女』 鎧をまとった女性のシルエットを持ち、他の永劫機よりも一回り小さいサイズ 左胸(心臓)の箇所にねじ巻き式の時計が埋め込まれている 一話現在、「代替モード(Another Mode)」で起動する。これは、戦闘のショックで 「優先モード(Primary Mode)」の起動シーケンスが破壊された事による緊急措置である。 本来は兵装としてレイピアを持つが、代替モードでは使用不可、そのため現在は格闘戦オンリーとなる。 能力は『異なる時間軸を重ねること』、起動時に発生する瑠璃色の結界(直径50m前後)の中でのみ有効 結界はロスヴァイセの能力発動にのみ影響し、以下の特殊能力を使用するごとに『時間』を消費する。 「異なる時間軸と現在を接続し、過去に発生した現象を、今の時間軸に発生させる」という芸当が可能。具体的には 「3秒前に敵を蹴った→その3秒後、同じ方向からもう一回蹴りが飛んでくる」といった具合。 一度発生させた時間軸現象の繰り返し使用は不可能 同時に接続可能な時間軸は16、一度発生させる度に30秒のインターバルが必要となる 『未来の時間軸』とも接続が可能だが、代替モードでは使用不可 詠唱呪文は西城秀樹「ターンAターン」より 「時が未来に進むと、誰が決めたんだ 烙印を消す生命が、歴史を書き直す 刻は巡り戻ると 誰も信じてた 黒くくすんだ暦を 新たに書き直す」 本来は別の詠唱呪文があるが、凛が代替モード起動時に設定してしまったパスワードが適応されている 登場作品 【禁域の姉弟、瑠璃色の針 第一話前編】 【禁域の姉弟、瑠璃色の針 第一話後編】 作者のコメント 弟くんです。まだ設定はあるのですが話が進んでから
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【名称】 :ナイトヘッド 【カテゴリー】:デミヒューマン? 【ランク】 :中級S-4 【初出作品】 :怪物記 第四話 【他登場作品】: 【備考】 :一人称:僕 二人称:君 <ワンオフ> 登録番号4 世闇ノ魔人 シルクハットを被り燕尾服を着た少年の姿をしたラルヴァ その身体から牙、歯、目、耳、髪など頭部に関連した分身を出すことができる。 ただし、それらの分身は日光に当たると途端に分解されて消滅する。 また接触により他者の生気・魂源力を吸収する性質をもつことから吸血鬼の一種ではないかとも言われている。 しかし、上記以外の吸血鬼では説明のつかない事象も引き起こしているため、不可思議としてワンオフの一体と目されている ワンオフ 同種の個体が存在せず、最強・唯一・理解不能いずれかの力を持ったラルヴァの称号。 認定するのは一部のラルヴァ研究者。 ワンオフ の大半は恐ろしい力を持った人類の宿敵であるが、ごく一部人類側につく ワンオフ も存在する。 トップに戻る 世界観設定に戻る ラルヴァに戻る 上に戻る
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「コッチ目線お願いしま~す」 「ハ~イ。ホラ、ミヤミヤ博士も早く」 「ハイハイ。わかった、わかった」 カメラ小僧というには、いささか年を取り過ぎた大きなお友達に囲まれ、八島《やしま》響香《きょうか》と神楽坂《かぐらざか》美弥子《みやこ》は写真を撮られていた。 八月の最後の週末、第十三研究室の面々は本土で開かれた、とあるゲームのオンリーイベントにやって来ていた。 もちろんただ遊ぶのが目的ではない。 事の始まりは、数週間前に遡る。 八月の中旬、敷島《しきしま》藤次《とうじ》が配属されたばかりの第十三研究室は特に新しい事を始めるでもなく、怠惰な夏を過ごしていた。 神楽坂いわく、 「新しい機材が組み上がるまで、特にやる事無いのよね~」 との事である。 敷島も始めのうちは、これまでの研究資料やデータを見ていたが、それも尽きると一日マンガを読むだけの毎日となった。 響香はここぞとばかりに検査以外は部屋に篭って何かやっているようであって、きちんとすれば可愛いらしい少女であるのに、最近はいつも髪はボサボサで目にクマを作っている。 そんなある日、変化は突然やってきた。 計器の一つが点滅したのを見て、神楽坂は読んでいたマンガを放り出して、研究室を飛び出していった。 「どうかしたんですか?」 敷島も、とりあえず床に落ちた本だけはテーブルに拾い上げて後を追う。 「あの子が反応したのよ」 答える神楽坂はいつにもなく上機嫌であった。 「魂源力《アツィルト》が高まると体が活性化するの、資料に書いてあったでしょ?」 「あ、はい」 魂源力《アツィルト》に関する記述は、全く未知の分野の事であったので特に印象深く記憶に残っている。 「それで、あの子にはちょっと変わったブレスレットをしてもらってるの」 つまり八島君の魂源力《アツィルト》が活性化しているという事か。 「しかし、それがどういう……」 「ああもう、いいから来なさい」 何の事だかわからない敷島を、神楽坂はとにかく来ればわかると引っ張っていった。場所はモニタールーム……とは名ばかりのゲームをするための部屋である。現役稼動状態の物はプレミアが付いているような古い物から最新機種まで、なんでも揃っている。 「あ、ミヤミヤ博士、敷島博士」 そこで響香は、真剣に格闘ゲームをやり込んでいた。 「巫女☆ネコ☆天使(えんじぇる)☆らでぃかる#ユウナのコスチュームが完成したんで、溜まってたマンガやゲームを漁ってたんですけど、これ新作出てたんですね」 響香が今やっているのは、たしか結構人気があるシリーズだった。格闘ゲームは全くやらない敷島でも名前くらいは聞いた事がある。 「やりましたね、これで当面は新しいコスチュームの実験が出来ますよ」 喜ぶ敷島に帰ってきたのは、神楽坂のあからさまな呆れ顔だった。 「何言ってんのよ、そんなのは後回しに決まってんでしょ。新しい研究材料を得るチャンスなんだから」 神楽坂はモバイルを取り出して、ものすごい勢いでキーボードを叩いた。 「良し。イベント情報発見」 小さくガッツポーズして、キーボードをしまい電話機能を立ち上げる。 「例の実験来週の金曜にするわよ。無理でも揃えなさい! どうせ暇持て余してる連中なんだから」 とまあそんなやり取りの末、第十三研究室は自衛隊へ公開実験のついでに、響香の新コスチュームの創作意欲を刺激するためイベントにやってきたのだった。 「本当は先週のコミケに来たかったんですけどね」 ゲームのキャラの衣装に身を包んだ響香の顔は、笑ってはいたが少し残念な様子だった。 いつもの赤とピンクが基調のてぃんくる♪アスカとは違い、青と黄色のバチバチとした色使である。 響香は基本の造形がキレイに整っているので、大体どんな格好をしても似合うのだが、キャラの設定に合わせたのか胸の部分が衣装を持ち上げて少しちぐはぐな感じになっていた。 「自衛隊の実験で着るのも悪くないですけど、やっぱりコスプレの醍醐味って同じ作品が好きな仲間を見つけたり、話したりする事じゃないですか」 響香はくるりとその場で回って、キャラのポーズを決める。 「はあ……」 コスプレの事はよくわからない敷島であったが、あのてぃんくる♪アスカの同好の士はいないと確信できた。 もちろん口に出すような真似はしないが。 「さあ、ボチボチみて回るか」 何故か自分もキャラクターの衣装に着て、神楽坂がやってきた。 神楽坂がコスプレをしているキャラは、二次元ならではというか、理想というより妄想という言葉が当てはまりそうなグラマラスな体型をしている。 しかしそれを神楽坂は見事に再現していた。特に胸が無いと絶対に着られないだろう立体的な裁断の胸周りは、むしろ神楽坂のボリュームに負けて今にも零れないかと心配になる程である。 ウエストもコルセットのようなデザインで締め付けられているし、日ごろほとんど運動していないようにはずなのにヒップラインもキュッと程よく引き締まった盛り上がりを見せている。 「おい、アレ見ろよ」 「再現度高けぇ!」 「神コスキタコレ」 周りのカメラを持っている人達も、贔屓目を差し引いても飛び抜けて美形な二人を見つけてざわめきだした。 「あの、撮らせてもらって良いですか?」 「ハイ、どうぞ」 一人が声を掛けてきたのをきっかけに、辺りは一瞬にしてシャッターの音に囲まれた。 始めのうちは、ノリが良い響香を中心に出来ていた人だかりも、だんだんと完成度の高い神楽坂を中心にしたものへと変化していく。 そして、ついに響香は撮影の輪から弾かれてしまった。 神楽坂といえば、人垣の声からするとノリノリで撮影に応じているようだ。 確か目的は響香がこの作品のコスチュームを作りたくなるように仕向けることだったハズなのだが。 思い思いに楽しむ人々に、海から妖しい影が忍び寄る。 「何だ……ケーブル?」 イベントのスタッフの男が何かを踏んでしまったようだ。 しかし不自然である。 こんなところにケーブルが必要な機材を設置する知らせなど無かった、そもそも関係者ならこんな人が通る所に無造作に置いておくハズがない。 しかも何だか柔らかかったような。 ともかく、電源の不正利用などは重大なマナー違反である。 「一言注意しないと」 根元か先かどちらかに行き着けば、とにかく人がいるだろうと思い、男はケーブルを持ち上げようと手を伸ばした。 「!!」 そのとき、男の背後からケーブルが迫り逆に男は持ち上げられてしまった。 そして、そんな風に不審なケーブルが人を襲っていたのは、一箇所だけではなかった。 にょろにょろと動きまわる触手の一本が、響香の足を捕らえそのまま巻き上げられていた。 触手は持ち上げた人々を順番に、根本まで運んでいった。その後どうなっているのかここからでは確認できないが、悲鳴が聞こえなくなる事から、最悪の事態も想定しなければならないだろう。 そこに待ち受けていたのは、 「タコ?」 全身真っ黒のタコのような化け物だった。 「ぃ、イヤァ、ぬるぬるしますぅ」 響香を持ち上げた触手は、まだその場にとどまっている。 「響香君、どうして戦わないんだ?」 「ダメなんです。このコス、既製品なんです!」 自作のコスチュームでないと、キャラクターの能力が再現できないというのは、響香の能力における基本である。 「それでも魂源力《アツィルト》を体から出せば抜け出せるんじゃ?」 敷島は先日モニタールームで見た光景を思い出した。 「あれは勝手に出ちゃうんで、自分じゃどうしようもないんですよ」 (どうするんだ?) 会場に人々はパニックになっているし、唯一の戦力である響香がこれでは打つ手が無い。 「ちょ、ちょっと、どこ触ってるんですか!?」 響香を持ち上げた触手は、もぞもぞと彼女の体を這い回る。 「だ、だめ、へんな所……触らないで」 高く持ち上げられた響香の姿は、ここからではよく見えないが、途切れ途切れに声が聞こえてくる。 「ぃ、いやぁ、……んぅ……そ、そこは、自分でも……触った、こと、な……はぁ、無いのに……」 「響香」 神楽坂は素早くスカートを翻し、ガーターベルトから拳銃を引き抜き、触手目掛けて発砲した。 しかし、ぬるぬるとした体に衝撃を殺され、ただ虚しく弾がパラパラと落ちていく。 「クソ。九ミリパラじゃ話にならない」 神楽坂は自分に襲い掛かる触手を牽制しつつ、後退していく。 「ちょっと、大丈夫なんですか。拳銃なんか撃ったりして」 「平気よ。私は自衛隊からの出向扱いだから」 神楽坂のそういう立場の話しを初めて聞かされた。しかし、自衛隊員だからと言って銃の携帯が許されているとも思えないが。 「それより敷島、あなたここにいてもしょうがないから、ベースカー持って来て」 「は、はい」 とにかく今は事態を収集するためには、神楽坂の指示に従うのが一番だろう。 敷島はそう判断して走り出した。 けたたましいクラクションの音を立て、逃げ惑う人の流れに逆ってベースカーが神楽坂の元にやってきた、駆け足程度のスピードで。 「ちょっと、遅いわよ何考えてんの!」 「仕方ないでしょう? 人を轢くわけにはいかないんですから」 「まあいいわ」 神楽坂はベースカーからタンク付きの筒を取り出した。 「これなら……どうだ!」 筒からは勢い良く炎が吐き出される。 「火炎放射器!?」 タコの触手は炎に焼かれ、すぐに炭化して崩れていった。どうやら効いているようだ。 という事はヤツはラルヴァとしては下級もしくは中級という事か。 「うぅ、ベトベトで気持ち悪いですぅ」 助け出された響香は、触手の粘液でぐしょぐしょになっていた。 「響香、さっさと着替えてきて、私が抑えてるから」 「ハ、ハイ」 「敷島、アンタは助手席の横のモニタの電源入れなさい。ラルヴァの専門家に繋がるから」 神楽坂はテキパキと指示を出しながら、火炎放射器で迫り来る触手を押し戻しながら、つかまった人を助けていった。 「本物の恍惚の煉獄(エクスタシィ・インフェルノ)だ」 その姿を見て逃げていた参加者の誰かが呟いた。 敷島は言われた通りにモニタをつける。 画面に現れたのは、たまにモニタールームで神楽坂とスーファミで遊んでいる語来という男だった。 「ええっと……」 「わかってますよ。ラルヴァと遭遇したんでしょう。どんな感じのヤツですか?」 何から話していいかわからない敷島に、語来は落ち着いた様子で話しかける。 敷島は多少落ち着きを取り戻して、途中しどろもどろになりながらも何とか説明した。 「ふむ、どうやら人命に危険は無さそうだ。それは、間違いなく忘却の彼方だよ」 「また随分な名前ですね」 世間話のような語来様子につられ、ポロリと敷島が本音をもらす。 「洋名の直訳だからね。日本人じゃあこの名前は付けられないよ。それで大きさは?」 それかけた話を語来が引き戻す。その顔は表面上は穏やかでいるが、目は真剣なものだった。 「ああ、はい。本体は……五から六メートルくらい、触手の長さは一〇メートル前後だと思います」 敷島は語来の表面の雰囲気に安易に乗ってしまったことを反省した。 「大きいなあ。観測された中でも最大級じゃないか。厄介な種類じゃなければ、私が直接見に行きたいくらいだ」 しかし当の語来は、ラルヴァの大きさを聞いて興奮した声を上げた。 結局真剣になっていたのは、自分の研究分野の事にだけか。その辺りが何とも神楽坂の知り合いらしい。 「今神楽坂さんが火炎放射器で応戦しています」 「末端の魂源力《アツィルト》障壁が薄い部分ならそれでいけるだろが、中央部はそれじゃ無理だ」 「倒せるんですか?」 「そこには魂源力《アツィルト》を放射できる能力者がいるんだろ? 末端がただの炎で焼ききれるくらいだから、それで倒せるはずだよ」 やはり、大した事ではないという様子で語来が答える。 だが今回はそれが心強かった。 「慈愛と奉仕の魔砲少女(まじかる)★ナースメイド★てぃんくる♪アスカ推参! 悪いビョーマは駆逐します」 いつものてぃんくる♪アスに着替えた響香がベースカーから飛び出す。 「さっきはよくもやってくれましたね!」 キュインと背中のスピーカーから音が聞こえる。 「必殺・献身の心(ハート・オブ・デボーション)」 構えたステッキからタコに向かって強い光が放たれる。 「!!」 光を浴びたタコの表面が破れ、中から黒い霧のようなものが溢れ出し会場全体を飲み込んだ。 「な……大丈夫か?」 「平気だよ。忘却の彼方の本質は、エレメント系のラルヴァなんだ。外膜から溢れたのはただの残りカスさ。多少の記憶の混乱は起こすかも知れないけどね」 幸い霧は一瞬で消え去り、飲み込まれた人々も無事に出てきたようだ。 「あ、あれ? どうしたんだ?」 「何してんだっけ?」 「何か、凄いことがあったと思ったんだけど……」 どうやら語来の言った通り霧に包まれた人たちは、ここ数分の事を忘れてしまったようだ。 しかしその日会場にいた人々は口を揃えて言ったという、「本物の業火の魔女ウルスラがいた」と。 そして、その様子を遠くの街灯の上から眺めている人影が一つ。 「あれが、矛と盾の闘衣か。面白い」 呟いて影が消えた。 つづく トップに戻る 作品保管庫に戻る
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柴咲 結衣 「そ、それに、我とて……ビ、Bカップくらいあるわい」 基本情報 名前 柴咲 結衣(しばさき ゆい) 学年・クラス 3年F組(2009年) 性別 女 年齢 18歳 身長 148cm 体重 39kg スリーサイズ B 72 W 53 H 77(Aカップ) 性格 堅物 生い立ち 京都に本家を持つ異能者の家系の本家の娘 基本口調・人称 我、貴様、そなた、~じゃ キャラデータ情報 総合ポイント 24 レベル 8 近距離攻撃 2 遠距離攻撃 4 異能のレベル 5 体力・防御力 3 学力 4 魅力 3 運 3 能力 柴咲流縛縄術 その他詳細な設定 京都に本家を持つ異能者の家系・柴咲家の本家筋の娘 その魂源力は柴咲流で並ぶ者はいないが、技の精彩に欠ける所がある 2009年現在いまだ数少ない異能を持った生徒として風紀委員を務めている 春人との関係について 本人は否定するが春人を異性として意識している その影響で自分の幼児体型を気にしだしている 柴咲流縛縄術 京都の暗部を陰陽師の補佐として共に守ってきた術者の集団 罪人の捕縛からラルヴァを絞め殺すまで応用が効く術 流派の名前には縄が入っているが、ビニール紐やピアノ線・鎖などいろんな物を使う 登場作品 【超刃ブレイダー 第01話】 【超刃ブレイダー@2019 act.01】 作者のコメント
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洪炉示歳・壱 年の瀬が目前に迫る中、龍門は未知の敵「年」に向けて、大々的に準備を進めていた…… 第一章 迎春 子の矛を以て、子の盾を陥(とお)さん。子の盾を以て、子の矛を拒(ふせ)がん。子の矛を以て、子の盾を陥さん。子の盾を以て、子の矛を……矛を……矛を………………………ったく、何だってんだ。これじゃ一生終わらねぇじゃねーか。どうすればいいんだ?子の矛を以て、子の盾を陥さん。子の盾を以て、子の矛を拒がん……この先を……「それから」を考えねぇと。それから、それから……あ、そうだ!それから全部ドカンと大爆発!これで何もかも完璧じゃねぇか? p.m.11 15 天気/晴天 大晦日 龍門 外周防衛指揮司令部 「14区から報告、問題なし。」 「5区から報告、異常なし。全て正常。」 「1区問題なし、不信な状況も見られません。」 「全エリア異常なし。ご苦労。引き続き警戒せよ。」 「了解。」 「承知しました。」 軽薄な近衛局隊員「ふわぁ~あ——」 真面目な近衛局隊員「今夜はあなたが当直ですか、状況は?」 軽薄な近衛局隊員「あー、計画通りに移動中だ。速度も正常、異常なし。唯一報告が必要な源石反応はこのくらいだな、見てみろ。」 真面目な近衛局隊員「……「源石爆薬による爆発の疑い」?どういう状況ですか?まさか違法に公園で花火でも打ち上げているんでしょうか?」 軽薄な近衛局隊員「場所をよく見ろ、場所を。」 真面目な近衛局隊員「東芳街122番倉庫、借主はペンギン——なるほど、では問題ありませんね。今年も最後まで何もない平和な一年になればいいですね。」 軽薄な近衛局隊員「そうだなあ、本当にそうなればいいよなあ。あーあ、さっさと当直交代して家に帰って、メシでも食いてぇ。」 真面目な近衛局隊員「ちょっと、真面目にやってくださいよ。ウェイ長官も気を抜くなとわざわざ仰っていたでしょう?」 軽薄な近衛局隊員「んなこと言ってもよ、龍門でこの歳になるまで暮らしてきて、一応年の瀬はいつも気を引き締めてはいるけどさ……真の意味での「年関」ってやつには一度も出くわしたことがないんだよ。お前はあるか?一体何が起きるんだ?」 真面目な近衛局隊員「私もありませんよ。それに、同じことを去年にも聞かれましたが。」 軽薄な近衛局隊員「そうだったか?でも正直なところ「真の年関」なんて、今の若い奴らはみんな、都市伝説だと思ってるぜ。火を噴く百メートルの巨人が出るって噂もあったが……本当にそんな奴がいれば、龍門から数十キロ圏内に入れば発見できる。そしたら都市防衛砲をぶっ放せば終いさ。」 真面目な近衛局隊員「恐らく特別大きい野獣か何かの噂に尾ひれが付いたものなのでしょうね。我々もずっと警備をしてはいますが、そんなものが都市を襲撃する可能性は低いと思います。」 軽薄な近衛局隊員「まぁそうは言っても、みんなしっかり持ち場を守ってるけどな。お前も言ってたように、ウェイ長官直々の命令だし。」 真面目な近衛局隊員「皆さんの擁護はしなくていいですよ。あなたたちがモニター室で即席麵を食べていた件は責めはしません。年越しの食事ですから。ですがお年玉を出す用意はしておいてくださいね。」 軽薄な近衛局隊員「……あーところでさ、ウェイ長官は「真の年関」を経験したことがあると思うか?」 真面目な近衛局隊員「もしかして、長官を疑っているんですか?」 軽薄な近衛局隊員「はぁ!?そんなわけないだろ!俺はウェイ長官に憧れて近衛局に入ったんだ!だがなー、何十年も現れたことのない巨人のために、都市全体の人手を総動員して監視するってのはどうかと思ってさ。」 真面目な近衛局隊員「ウェイ長官は、何事にも万全を期す慎重なお方です。あなたもよくわかっているでしょう?」 軽薄な近衛局隊員「そうは言ってもなぁ……」 ???「あ、あのすいません!遅くなりました!こちらが一つ前の周期の源石観測報告になります!……えっ?あの……ウェイ長官は?」 真面目な近衛局隊員「……ここにはいらっしゃいませんが。」 ???「えっ、ええっ?ですがチェンさんは、ウェイ長官は総合モニター室にいらっしゃるって……」 真面目な近衛局隊員「ですがここは屋上ですよ……下の階に降りて左手の、一番大きな部屋が総合モニター室です。」 ???「ええっ、さっきそのあたりを通って来たんですが、気づきませんでした……すみませんでした!すぐに向かいます!」 軽薄な近衛局隊員「……誰だ、あれは?」 真面目な近衛局隊員「恐らく、どこかの技術部の新人でしょう。」 軽薄な近衛局隊員「あの慌てた様子、「年関」を迎えるのは初めてって感じだな。懐かしいなぁ、俺にもあんな時代が——」 ???「ふうっ、ふうっ、すみません、総合モニター室はどこでしょうか……」 チェン「……スノーズント?どうしてまたここに?」 スノーズント「あれ?チェンさんはもう到着されてたんですか?」 チェン「それはこちらの質問だ。」 チェン、龍門近衛局高級警司 史上最年少の高級警司の一人、スノーズントの上司。 スノーズント「すすすすすみません!迷子になってました!だだだ大事な情報を時間通りに届けられなかったということで、私には罰則が下されるんでしょうか……?」 チェン「さすがにそこまではしない。君はまだ近衛局に来たばかりだしな。私がしっかり引率してやれなかったのが悪い。ついて来い。」 スノーズント「わかりました。あっ、承知致しました!」 スノーズント「もう夜遅いのに、こんなにたくさんの人が……」 チェン「万が一に備えてな。毎年のことだ。」 スノーズント「……万が一?あっ、年関の伝説のことですか?」 チェン「君はこれまでクルビアにいたから、近衛局が年関を迎える様子を見たことはないだろう?」 スノーズント「はい。「年関」やそこに現れるとされる「年」については、小さい頃に、おばあちゃんから昔話として聞きましたが……あまりにも怖かったので、ただのおとぎ話だと思い込むようにしていました……人々が都市を造るときに目覚めさせてしまった全身燃えている四足歩行の怪獣が、地底からやってくるなんて……ううっ!そんなの作り話ですよね!?」 チェン「作り話、か。多くの者がそう考えているようだが、残念ながらそれは、平和を信じ込むための自己暗示に過ぎない。龍門がこれまでの歴史上で受けた多大な損失も、墓石に刻まれた名前も、どれも作り話ではありえないんだ。だから私たちは、平静な年関が続いていても、警戒を緩めず、万が一に備えている。君は龍門で暮らしたことはあるが、ここに戻ってきてからまだ日が浅い。君が知らない多くの物事について、よく勉強してもらう必要があるな。」 スノーズント「すすすすすみません!皆さんがこれほど気を引き締めているのに、私ときたら……」 チェン「いや、そこまで恐縮しなくていい……いまこのビルにいる者たちの中でも、年の侵攻を見た経験のある者は数えるほどしかいない。存在を疑問に思う新人も、近衛局の行動に疑いを寄せる者もいる。ある意味普通の事だ、もう慣れた。」 スノーズント「そうですか……近衛局は大変なんですね……」 チェン「ウェイ長官への報告が済んだら、君は先に休んでいい。明日また仕事に戻ってくれ。」 スノーズント「ままま待ってください!チェンさん!あの、えっと、ウェイ長官はどのような方ですか?こんな新人の私が、報告とはいえ、お会いしてもいい方なんでしょうか……」 チェン「そんなことを聞く前に、君はもう少し自信を持ったほうがいい。ウェイ長官は君がクルビアから戻るよう、直々に要請状を出した。それが何を意味すると思う?自分の能力を信じ、それ以上に、自分は今後の任務でも大いに役に立てると信じるんだ。言い方を変えれば、もう少し胸を張れ。」 スノーズント「す、すみません……」 チェン「……はぁ。だからいつまでも謝ってばかりもやめろ。今私と話しているように、君が持っている情報を漏らさずウェイ長官に伝えれば、なんの問題もない。考えすぎるな。」 スノーズント「わかりました、努力します。うう……」 チェン「ウェイ長官。」 フミヅキ「二人共、ご苦労さま。」 フミヅキ、龍門現任最高執政者、その身の上は——謎。……献身的な夫が家事全般を取り仕切っているという噂があるが、真偽は不明。 フミヅキ「一晩中奮闘している仲間に厳しいことを言いたくはありませんが、この報告が届くのは予定よりも少し遅いようですね。」 スノーズント「それは、わ、私が——」 チェン「申し訳ございません。報告内容の整理に時間を取られていました。また、先程22区のモニター室で即席麵を食べている者を見つけましたので、ついでに指導していました。私の管理不足です、ウェイ長官のご指示を仰げればと。」 フミヅキ「……そうですか、わかりました。まずは、あなたの隣にいる可愛らしい新人さんをご紹介いただけますか。」 チェン「こちらは前進防衛線設備のメンテナンスを担当する上級エンジニアです。コードネームはスノーズント、ウェイ長官もご存知かとは思いますが。」 スノーズント「はははははじめまして!スススススノーズントです!」 スノーズント、龍門外周防衛エンジニア部所属の実習生兼責任者。史上最速での昇進記録の保持者だが、本人は意識しておらず、仕事についての自己評価は低い。 スノーズント「どうぞよろしくお願いします!」 フミヅキ「はじめましてではないでしょう、スノーズントさん。「三日会わざれば刮目して見よ」という言葉がありますが、クルビアで経験を積んで、見違えるように成熟しましたね。」 スノーズント「ク、クルビアに行く前の私をご存じなんですか?」 フミヅキ「もちろんです。あなたの才能と人徳は、私を含む多くの人を惹きつけますからね。それに、あなたが龍門を離れる前に見せた活躍はとても印象深いものでした。」 スノーズント「そんな前から私のことを……わ、私、もしかして何かやらかしていたんでしょうか?」 フミヅキ「期待する価値のある若者に注目していただけですよ。」 スノーズント「たたたたたいへん光栄でございます!私は先輩たちみたいに口が立つわけではなく、気が利くわけでもないので、まさか注目されているとは思わずっ……」 フミヅキ「残念ながら、その先輩たちが語っていた他人の受け売りや利己的な考えは、私の耳には一言も届いていないのですけどね。」 近衛局隊員「ウェイ長官、失礼致します。停泊要請の信号を受信しました、協定先の艦船です。」 フミヅキ「——わかりました。スノーズントさん、報告は簡潔にお願いします。近衛局に客人がいらしているようですから。今夜は、龍門が最も堅固な一晩になるでしょう。」 スノーズント「あっ、はい!」 スノーズント「ふわぁ~、もうこんな時間ですか……」 チェン「本来ならもう少し早く済んだのだがな。」 スノーズント「うう……申し訳ございません。帰ってからマニュアルを読み直しておきます。」 チェン「それがいい。」 スノーズント「はい!安心してください!明日チェンさんに会うまでに、必ず正確に全フロアの構造図を描けるようになってみせます!」 チェン「……そこまでしなくてもいい。とにかく、これから君の担当事項は直接ウェイ長官への報告が必要になる。緊張しすぎないようにな。」 スノーズント「は、はい!ですが、あの……チェンさんは帰って休まれないんですか?」 チェン「ああ、まだ任務があるからな。近衛局がこれ以上の人手を割けなくとも、対処が必要な奴らもいる。私が行くしかないだろう。それに、市民には通達していないが、近衛局は……ある痕跡を掴んでいるんだ。」 スノーズント「痕跡……調べものもあるんですね……お、お疲れ様です。それなのに私はお休みをいただいてしまって……」 チェン「気にするな、いつものことだ。それより君は、龍門に戻ってから初めての年越しだろう。大切に過ごすと良い。」 スノーズント「はい!ありがとうございます!」 龍門公園 鬼の姉御「乾杯。」 人々「乾杯!!」 舎弟「鬼の姉御、一献差し上げます。来年も頼みやす!姉御のおかげで今年も順調っす!姉御!廟街にはいつ繰り出しましょうか?」 鬼の姉御「……ああ、慌てるな。時間なら山ほどある——だがまずは客人を待たねばならん。奴は必ず現れる。朝、鏡が割れたのもきっとそのせいだ。」 舎弟「えっ?客人ですか?誰でしょう?」 チェン「……私だ。」 舎弟「なっ、いつからそこに!?」 チェン「公務の妨害、公共物の破壊、不法侵入、公共秩序の撹乱、故意の暴行……。今年は散々暴れてくれたな、「鬼の姉御」。」 鬼の姉御「あれは奴らの自業自得だ。」 チェン「好きに言い訳すればいい。」 鬼の姉御「チェン殿は忙しすぎて、アレコレごっちゃになっているのだろう。それにしても、終わったことを今さら言い出すとはな。おい、チェン殿に酒を。」 チェン「遠慮しておく。お前たちがこれから街に繰り出すことは知っているが……今日はどこへも行かせない。」 鬼の姉御「……そりゃちょっと横暴じゃないか、チェン殿?これまでのことは、我々にも非があったと認めよう。だが今は何もしちゃいない。それなのに外出禁止とはどういう了見だ?」 チェン「よく言うな。その非を認めた昨年末、お前たちの「お祭り騒ぎ」が最後にどうなったか、言ってやらなければ思い出せないか?近衛局にはこれ以上、人員の余剰はない。お前たちに面倒事を起こされるわけにはいかないんだ。これは冗談などではないぞ。」 鬼の姉御「じゃあ逆に聞こう。チェン殿は、私が冗談を言っていると思っているのか?」 チェン「……」 鬼の姉御「ふぅ……まあいい、長い付き合いだ。気にはするまい。チェン殿。今年の年関も対する防衛体制には寒気すら覚えるしな。まるでウルサスの大砲に狙われているのかと勘違いするほどに厳戒態勢だ。ただ、そちらの言う通りにする前に、我々のルールで白黒つけさせてもらう。」 チェン「……いいだろう。初めからそのつもりだ。」 鬼の姉御「だが一つだけ条件を加える。もし私が勝ったなら、近衛局が掴んだ情報を私にも教えろ。「今年は特殊な状況だ」……そうだろう、チェン殿?」 チェン「それを知ってどうする?」 鬼の姉御「なに、ただの好奇心だ。」 チェン「いいだろう、構わん。最期まで付き合うとしよう。」 鬼の姉御「その言葉を待っていた!おい!酒だ!」 一般市民ウェイさん「何やら隣が騒がしいですな。」 定年退職した老人「毎年のことじゃろうに、気にせんでいいわい。ゴロツキにもゴロツキの儀式感が必要じゃ。」 一般市民ウェイさん「我々が警官だった頃は、奴らをこうも好き勝手にはさせなかったのですがね。」 定年退職した老人「そりゃそうじゃ。わしらは年ですら退けたのじゃから。」 一般市民ウェイさん「あのメガサブソニックムシの時ですか?」 定年退職した老人「地底軍団の時じゃよ。」 一般市民ウェイさん「あれはまだあなたが警官ではなかった時の話です。私は当時から警官でしたがね。」 定年退職した老人「そうじゃったか?覚えておらんわい。」 一般市民ウェイさん「……待ってください、今石をこっそり動かしましたね?」 定年退職した老人「バカを言わんでくれ。わしは待ったはかけん主義でな。」 一般市民ウェイさん「そうですね、あなたは待ったをかけることはない。全て私が油断している時にイカサマを働いたものでしたね。」 定年退職した老人「おやおや、面白い冗談じゃ、ホッホッホッ——」 セレブ令嬢「フンフフン~♪フフン~♪」 優等生「機嫌がいいみたいね。」 セレブ令嬢「だって年越しよ?機嫌が悪いはずないでしょ?」 優等生「その通りかもしれないけど……もっと特別に良い事があったように見えるのよね。」 セレブ令嬢「あんたが近衛局の試験に受かったことは良い事じゃないの?それにしても、あんたが近衛局に入りたいのはお父様の影響を受けたからとばかり思ってたけど、案外積極的ね。」 優等生「それも理由の一つだけど、他人の言いなりになるよりも、自分でやりたいことを選んだ方がずっといいって思ったの。」 セレブ令嬢「あんたらしくないわね……」 優等生「そう?でも気づいたの。で、あなたは本当に私のことだけで、そんなに喜んでくれてるの?」 セレブ令嬢「ちょっと……傷つくこと言わないでよ……。喜んでるじゃない、こうして。」 優等生「フフッ、ありがとう。」 セレブ令嬢「もう、人の好意は素直に受け取りなさいよ。」 優等生「ごめんなさい。てっきりあなたが、ヴィクトリアの為替レートが急落したのに乗っかって空売りでボロ儲けして、ほくそ笑んでいるのかと思ったものだから。誤解してたみたいね。」 セレブ令嬢「えっ。」 優等生「それとも、レム・ビリトンで投資した産業が当たったのかしら?確か鉱業だったわね……しかもグレーなルートで資金を動かしてるみたいだし。」 セレブ令嬢「な、なんでそんなことまであんたが知ってんのよ……」 セレブ令嬢「真面目に聞いてるのよ!真面目に!こっそり調査なんてしてないでしょうね!」 優等生「そんなことするはずないじゃない。……でも近衛局にあなたの弱みを握らせてあげれば、近衛局員としてはお手柄よね。」 セレブ令嬢「ダメ。絶対ダメだからね。分かったわよ、正直に言う。実はもう一つ嬉しいことがあったの。」 優等生「そうよね、私たちはここでぶらぶらして、食事会を楽しみにしてるのに、彼女は近衛局でデータとにらめっこ。気晴らしは巡回で外に出るくらい。そりゃ嬉しいわよね。」 セレブ令嬢「なんでまた分かったの!?」 優等生「直感よ。私がほとんど何の準備もしてなかったのに、どうやって捜査科の試験を突破したと思ってるの?」 セレブ令嬢「違う、そうじゃなくて……あんた本当に、表に出しちゃいけない情報を賄賂として近衛局に渡したりしてないでしょうね……?」 優等生「そんなことしてな……うわっ!」 セレブ令嬢「あら、打ち上げ爆竹!賑やかね~。これでこそ年越しの雰囲気が出るってものだわ。……あんた、なんで急にあたしの背中に隠れて……あっ。」 優等生「……何よ。」 セレブ令嬢「まだ爆竹なんか怖がってるの?」 優等生「違うわよ。ああいう制御の効かない爆発物が日常生活に溶け込んでるという現状が不安なの。」 セレブ令嬢「爆発物って、爆竹のこと?」 優等生「ええ。現代の爆竹は源石爆薬を使った爆発物でしょ?」 セレブ令嬢「ちょっと大げさじゃない?」 優等生「——そんなことないわ。」 セレブ令嬢「……ホントに?」 優等生「うん。」 セレブ令嬢「じゃあせっかくだから、あたしたちも小さい頃を思い出して、爆竹を買いに——」 優等生「そうだ、急に思い出したんだけど、あなたに関する調査報告書が私の引き出しに入ってるんだった。」 セレブ令嬢「……や、やっぱり会場へ急ぐとしましょう。」 警告:ご注意ください、艦船が停泊致します。ご注意ください、艦船が停泊致します。 アーミヤ「ドクター、着きました。」 【ここが龍門か?】 【イメージと少し違うな。】 【……】 アーミヤ「年越しの時期に龍門へ来るのは初めてでしたよね?新年を迎える雰囲気に惹かれるかもしれませんが、私たちには任務がありますから。」 【夜通し年越しを見守る……「守歳」というやつだな。】 【そういえば「年関」とは?】 【……】 アーミヤ「年関に現れる「年」は伝説に過ぎない……そう考えている人は多いです。ですが記録では、「年関」にまつわる怪奇現象は確かに起こっています。実際年の瀬になると、龍門から炎国全土、さらにはこの付近を巡行するウルサスの一部も攻撃を受けるそうです。」 【攻撃?】 【怪奇現象?】 【今日は暑いな。】 アーミヤ「はい。ですが各都市の損害記録はどれもちぐはぐで、さらに記録以前の伝説となると、ハッキリとした情報はほとんどありません。「年」は巨大な食人怪獣だと言うものもあれば、得体の知れない軍隊や、不思議な術師の集団と言うものまであります……さらに、犯罪組織や悪事を企む陰謀家による作り話だと決めつけている人もいます。「年関」を災いに仕立て上げて、それを隠れ蓑にして犯罪行為を行っていると…………というか、ドクター。会議では聞いてなかったんですか?」 【……】 【……】 【……すまない。】 近衛局隊員「ロドスの皆様、龍門へようこそ。ウェイ長官が近衛局でお待ちです。こちらへどうぞ。」 アーミヤ「とにかく、まずはウェイ長官にご挨拶しましょう。詳しいお話は長官がお話し下さるでしょうし。そういえば……ドクター、ラヴァさんを見かけませんでしたか?」 鬼の姉御「こ、これで何本目だぁ?」 舎弟「姉御、もうやめておきましょう……」 鬼の姉御「何本目だ!」 舎弟「十七本目です!」 鬼の姉御「うぇ……お前、いつの間にそんな飲めるようになったんだ?」 チェン「近衛局にいれば、接待に付き合わされることも多いからな。」 鬼の姉御「この*龍門スラング*が、何の接待だって……くそっ……うえぇ……あー、アチぃ!おい、水だ、ビールでも構わん!持ってこい!」 舎弟「姉御、もうこれ以上は……」 チェン「ちょうどいい。街へは行かずここでじっとしているように、しっかり見ておいてくれ。」 舎弟「はぁ、そうするしかないな。姉御、水だ。」 鬼の姉御「ゴク——ゴク——プハッ!おいチェンの字、来年も挨拶に来るなら……ゲエッ、もう……変な言い訳を作らないわけにはいかねぇのか?」 チェン「本来、我々は交わるべきではない存在だ。お前が負けを認めたなら、私は帰る——っ。」 舎弟「——?チェン殿、あんたもフラついてるように見えるが?」 チェン「気のせいだ。……お前たちも準備しておけ。万が一ウェイ長官の推測が当たった場合は、ロンエンぜんらいがいっちらんけつして——」 舎弟「チェン殿、あんた本当に大丈夫か?」 チェン「*深呼吸*スゥー——こいつが起きたら教えてやれ。近衛局は「年」の痕跡を発見した。」 舎弟「痕跡?まさか巨大な足跡でも見つけたか?」 チェン「原因不明の巨大な穴、融解した廃墟、広範囲に渡る焦げ跡だ。」 舎弟「えっ……「年」の正体はとんでもなく長い源石ワームだって噂を聞いたことがあるが……まさか本当なのか?」 チェン「さあな。斥候たちはアーツ使用の形跡は発見していない。しかしさっき言った痕跡は、間違いなく最近できたものだ。とにかく、もし本当に万が一があれば……お前たちに助力を求めるかもしれない。」 舎弟「なんで俺たちがサツに協力しなきゃいけないんだ?」 チェン「お前たちにはそれだけの力があるからだ。」 舎弟「……おいおい良い事言うじゃねえか!さすがチェン殿だぜ!」 セレブ令嬢「真面目な話、今日暑いと思わない?」 優等生「一足早い春の訪れでしょ。」 セレブ令嬢「でももう夜よ。春の訪れがどうって話じゃない気がするけど……あー、まぁいいわ!あの龍女からの返事は?」 優等生「……まだ。近衛局の通信システムは本来、こんな風に使うものじゃないんだけど。」 セレブ令嬢「普段のチームは今日は休みでしょ?大丈夫だって、どっちにしろあたしの個人回線だし。ふふーん。もしかすると今頃、あまりの怒りでダウンタウンの路上で悪態をついてたりして!」 定年退職した老人「・……ウェイ、どこかでボヤでもあったのではないか?」 一般市民ウェイさん「年の瀬にまた何の世迷い言ですか?」 定年退職した老人「わしは真面目に言っとるわ。日は沈んだというのに気温が上がり続けておるのは、明らかに変じゃろ。実のところ、悪い予感がしているんじゃ。」 一般市民ウェイさん「今年は娘と過ごせず心が落ち着かないのでしょう。歳をとってからできた子だけにかわいくて仕方ない……親馬鹿というやつですね。」 定年退職した老人「お主にはわからんよ。」 一般市民ウェイさん「それより、さっさと参ったをしたらどうですか。話をすり替えても無駄ですよ。私がこれ以上イカサマを働くチャンスを与えるとお思いですか?」 定年退職した老人「……チッ。」 軽薄な近衛局隊員「おっ、交代の時間だな。」 真面目な近衛局隊員「報告の整理はできましたか?」 軽薄な近衛局隊員「ああ、とっくにできてるぜ。ってことで、明日の朝もしお前が先に来たら、俺のコーヒーも用意しといてくれよ。」 真面目な近衛局隊員「まったく……」 軽薄な近衛局隊員「ああそうだ。暇潰しにこれやるよ。」 真面目な近衛局隊員「……なんですかこれは?『年関逸事:多国災害史考拠』?はぁー、くだらない。まだこんな怪獣学説を信じてる人がいるんですか?「年」はきっと正体不明の秘密結社ですよ。」 ???「ったく、探したよ。しばらく来なかっただけで、街の様子ががらっと変わっちまってるなんてな。いったい何なんだよ今時の奴らは。おっと、ここにあった。見てみるか。チッ、データの種類は山程増えてるけど、こんなの何の意味もねぇぞ。——レユ、ニ、オン?へぇ……ふむ……んん?何だぁ?情報はこれだけか?それなら私の想像力で……いや、止めとくか。あいつらが耐えきれるもんじゃねぇしな……んじゃあ、ちょっと考えてみるか……」 スノーズント「うう——よし——これで大丈夫かな?起動してみよう……」 室温校正システム「——*電子音*——システム起動成功。実験起動ログ、記録。声紋認証。所有者:スノーズント。現状の室温、14℃。判定:室温に異常あり。」 スノーズント「ああやっと成功した……!うう、これで使った電気代も報われる……あれ、異常あり?なんだろう……温度校正のログが残ってるはずだけど……どうやって見るんだっけ?」 室温校正システム「校正ログページ:1」 スノーズント「これかな?」 室温校正システム「室温判定:同エリア・同時期の温度より、明らかに高い傾向。実験によるものと推測される。熱源、源石反応は観測されず。以上を記録。」 スノーズント「うーん……源石反応の観測機能は追加されたものだけど、思ってたよりじっと感度が高いみたい……範囲を少し拡大してみよう。」 室温校正システム「観測範囲拡大失敗。原因:範囲内にて大量に無反応の対象が確認されたため。システム故障の可能性あり。調査中。」 スノーズント「えぇっ、失敗?えーっと……このシステムの観測技術は、源石反応の波形フィードバックを利用していて、無反応の対象というと、アーツでは完全に探知不能の——源石反応に対する絶縁体?源石に全く反応しない素材……?……そんなのあるわけない!うーん、だとしたら本当に故障したのかな……うう……また電気代が……」 フミヅキ「以上が今回の委託内容になります。ロドスはこれらの関連問題の処理について抜きん出ていますから、今回の依頼には期待していますよ。」 アーミヤ「ありがとうございます。ご期待に添えるよう、努力します。ウェイ長官。」 アーミヤ。ロドスの総責任者。年齢は若いが、人望は厚い。 アーミヤ(ドクター!まだラヴァさんは見つからないんですか?) アーミヤ「コホン。ウェイ長官、あの……龍門境内で行動するオペレーターのリストですが、本人不在の状況でも登録できますか?」 フミヅキ「……ラヴァさんのことですね?」 【ウェイ長官は鋭いな。】 【驚いたほうがよいか?】 【……】 フミヅキ「それなら問題ありません。ラヴァさんは素晴らしい災害専門家ですからね。彼女の古来の災害に対する独自の研究は、我々がロドスを信頼する理由の一つなんですよ。もちろん、ロドスの他のオペレーターの皆様も見事な実力をお持ちであることは知っています。ですがラヴァさんには年の——」 近衛局隊員「ウェイ長官!お話中失礼します、緊急事態です。」 フミヅキ「どうしましたか?」 近衛局隊員「龍門市内に識別不能の部隊が現れました。……レユニオンのシンボルを身に着けているとのことです。」 ???「この痕跡は……ということは、奴らは市内に身を潜めたということか。いや、一人だけのはずだ。奴らの中の一人、記録と同じだ。……まぁいい。」 ???「今回は誰が来ようと、私が止めてみせる。絶対に同じ轍は踏まない。そう……絶対に。」 文字数 11,278文字 原稿用紙29枚分
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12 白く燃え尽き、屈んでいる状態の×××××を、エリザベートは躊躇せず蹴っ飛ばした。 ×××××は二階通路に通じる大きな怪談をごろごろ転げ落ちた。仰向けになり、右腕を開いて手首を床に叩きつけて、×××××の足元で停止する。 「×××××・・・・・・。ここまで助けに来てくれたのに・・・・・・」 涙がまだ目元に残っている。やれることはすべてやり尽くした、すがすがしい表情をしていた。×××××が助け出してくれると信じているから、×××××は安心して眠ることができるのだ。 ×××××の中で怒りの炎が燃え上がる。仲間をほとんど失い、これほどにまで絶体絶命の危機に陥っているのに、×××××は絶望に陥ることはなかった。 「とうとう君一人だけになったか。『レミング』の××××××××××」 エリザベートが階段を下りてくる。両腕を広げると大きな赤い袖が垂れ下がって、まるで紅の十字架が迫ってくるようである。 「どうしてこんなひどいことをするの」 ×××××が立ちあがる。据わった低い声でそう言った。 「どうしてこんなことをするのよ! 何で! 何が欲しくて! 何をしたくて!」 「勝手に想像するがいいさ。魂源力を集めて私の糧とする。新しい異能を求めて奪って周る。それだけのことをするために私は異能者として存在するんだ」 「悪者として生まれてきたというのなら・・・・・・ここで死んでしまえばいい・・・・・・ッ!」 激しい敵意でもって赤い魔女を睨みつけた。装備品のバヨネットをしっかり手に握る。それまでの優しい心を捨て去り鬼と化した×××××は、エリザベートに死刑を宣告した。 「面白い、ならば私も全力で迎え撃とう」 エリザベートは懐から黄色の球を取り出した。何か魂源力系のアイテムだろうと×××××は思う。球からは午後の陽だまりのような山吹色の光が発生し、×××××もエリザベートもそれに包み込まれる。 発光が無くなったとたん、場所が一転して真っ暗な部屋となった。 徐々に目が慣れていくにつれ、天井や壁や床が石づくりで、壁際にろうそくの明かりが並んでいることがわかった。薄暗くて気味の悪い部屋である。 「転送アイテムを使わせてもらった。――あんまり騒ぎにしたくないものでね」 背後を振り向くと、真っ白な女の子たちの体が数体仰向けになって転がっている。 左から××××、××××、××××××××、×××××、そして先ほど魂源力を抜き取られてしまったばかりの×××××××××××である。さらに部屋の隅には中学生と思われる女の子の体も固めて置かれていた。 「死体部屋だ」とエリザベートは言った。「魂源力を抜き取った人間や、殺してしまった人間は、みんなこの地下室に隠していたんだ」 ×××××は仲間の顔を一人ずつ見ていった。自分を助けるためにわざと敵側に付いたという××と×。双葉島からここまで助けに来てくれた××と×××××。そして、×××。 「この子たちは私が助け出す。あなたの野望もそれまでだよ」 ゆらりと全身の力を抜き、相手の攻撃を受け入れる体勢に入った。いかなる殺意も無力化し、叩き潰してしまう得意の「合気」だ。ナチス・ドイツで運用されていた軍隊格闘術を使って、×××××は戦うのである。 「ふふふ。ようやく本気になったか、死神」 「その名で私を呼ばないで。私はあなたみたいな悪人じゃない」 「君は死神、私は魔女。いったい何が違う? 戦って殺すことに違いも何もあるまい」 エリザベートは真横を向いて姿勢を低くする。それが彼女の戦いのスタイルなのだろう。 長かった決戦は終わりのときを迎え、決着が近づいていた。 「どれ・・・・・・私は弱くないぞ」 ドレスの裾を摘んで持ち上げ、すっと×××××に接近してきた。重たいドレスを着ているとは思えない俊敏さだ。白い生足が飛んできた。 ×××××もそのハイキックをしっかり防御してみせた。エリザベートはそのまま流れるように大腿をぐっと上げて、脚を振り回してくる。回し蹴りだ。 このチャンスを逃さない。×××××は強烈な蹴りを受け・流し、勢いのまま地面に叩きつけた。 「がふぅッ!」 背骨がバウンドするぐらい強力な打撃に、エリザベートは一瞬だけ目の前が真っ暗になる。床面が硬い石でできているので、×××××の合気が効果的であった。魔女はすぐに体勢を立て直し、後ろに飛んで距離を取った。 ×××××は厳しい表情のままバヨネットを取り出し、手元でくるくる回してから握って構えて見せる。口元から出血しているエリザベートは笑顔を見せた。 「なるほど、ずいぶん鍛えているようだ」 「下手に触れると怪我するよ」 怒りに燃える×××××は言った。 「なら次はこれでどうだ」 バァンという破裂音が×××××を脅かす。今度は×××××の異能で発生させる、エクスプロージョンだ。 ×××××が真横に走り、飛び、転がり込むと、それに続くかのように爆発もパン、パン、パンと横に流れていった。水素と酸素を適切な配分でかき集め、爆発させる。水が発生して石の床がほんの少しだけ濡れる。 「この程度しか扱えないか。まぁ悪くは無い。だが私がオリジナルだったらもっと好き放題遊ぶのになぁ」 にたにた笑いながら、エリザベートは×××××の異能を弄ぶ。 「力を悪用しないで!」 ×××××は怒鳴る。自分の異能が親友を攻撃するために使われていることを知ったら、×××××はひどく悲しむだろう。何よりも、親友の異能をこのようなことに使われて不愉快極まりない。 「私たちはその愚かさをよく知ってる。暴力は何も生み出せないよ!」 「悪用? ふふ、この程度で悪用とは」 ×××××だって、×××××たちほかの仲間だって、かつて自分たちの力を使って双葉学園に牙を剥いた。×××××は「レミング」で醒徒会を苦しめ、×××××は醒徒会会計を痛めつけ、××や×××に至っては生徒の命を脅かしたり生徒を暗示で制御したりしたぐらい「力」を使って暴走した。 でも、彼女たちはそれで明るい未来など手に入れられなかったし、彼女たちにとっての新しい価値も何一つ手に入れることなどできなかった。 そんな彼女らに残されたものは「仲間」だった。×××××には×××××、×には××、××には××××がいるように、かけがえのない親友や相棒が、彼女たちにとって最後の心のよりどころとなる。 仲間を助けるために力を使う。守りたいもののために力を使う。そして、もっと多くの命――双葉島の人間や、双葉学園の生徒たち――をその手で守り、救い、助けるだけの力が彼女たち七人にはある。 「どうして××と×まで手を出したの!」 「あいつらがやってきてから決めていたことだ」 今度は×××××がバヨネットを振り回してエリザベートの首を取りにきた。赤いドレスの少女はそれをひらりひらりとかわしながら、×××××との会話を楽しむ。 「君たち全員の魂源力を手に入れたかった。×の力でパワーアップし、双葉学園を襲うつもりでいた」 双葉島侵攻のタイミングを随時うかがっていたエリザベートにとって、××××××の女子がのこのこと集まってきてくれたことは、まさに絶好の転機であった。並以上の質や量を誇る×の子たちの魂源力を全員強奪し、いよいよ満を持して学園少女を貪りに向かうのだ。 力を過信し、思う存分に暴走を続けるエリザベートはもう醒徒会など恐れない。猫耳少女だろうが女子駅員だろうが、欲望のままに頬張り尽くしてしまうのだ。そして双葉島でも魔女エリザベートの名を轟かせ、住民を恐怖のどん底に突き落とすのだ。 「君たち×の力を手にすれば醒徒会とやらも歯が立たないだろう。猫を飼うちびっこ会長か。ふふ、勝負してみたいものだ」 エリザベートの両目が張り裂けたように開かれる。「そして食してやるのさ!」 その瞬間、×××××の武器がエリザベートの首まで、あと数ミリというところで止まった。べらべらしゃべっているその隙を狙ったのだが、ぎりぎり相手に上体を反られて避けられてしまったのだ。危なかった、とばかりに魔女は苦笑を見せる。 短刀を首に突きつけたまま、×××××は強い語気で彼女にこうきく。 「本当は何を考えてるの。ただ女の子を襲いたいだけじゃないんでしょう」 「君に語るものなどもう何も無い!」 そう声を荒げたとき、×××××が鋭い視線を解いてもとの優しい瞳で見上げてきた。エリザベートは怪訝そうに片方の眉を上げる。 「やめてエリザベート。心を入れ替えるのなら殺さないわ」 この発言に、珍しく魔女がきょとんとするのである。 「解せない。私にそんなことを言った奴は君が初めてだ、×××××」 「放っておけないだけよ。あなたとはもっと語り合う必要がある」 「鬱陶しいッ・・・・・・!」 エリザベートはここで初めて、不快感に歪んだ怒りの表情を見せた。×××××を蹴っ飛ばして反対側の壁に叩きつけてしまった。 「力を見せつけたいからに決まってるだろうが・・・・・・!」 赤い瞳が毒々しい発光を見せた。赤い髪の毛先が、まるで火が着いたようにちりちりと動いている。本気だ。 「自分の力を、自分が幸せになるために使ってるだけのことだ」 「本当に・・・・・・、そんな身勝手なことでたくさんの女の子を?」 「それを君が言うか××××××××××! 己が力を見せ付けるために学園に牙を剥いた、君がか!」 やはり、エリザベートも×××××らが学園で起こしたテロのことを知っていた。やり返されるように突かれたくない点を突かれてしまった彼女は、くっと漏らす。 「強くて、素敵で、夢のある力! 君にもこの素晴らしさがわかるだろ?」 眼前に爆発が起こった。慣れた感覚で後ろに下がりそれを回避したのだが、爆風の中からエリザベートの凶悪な笑顔が飛んできてびっくりした。単なる目くらましだったのだ。 「力は自分のために使うのが一番だってことをなぁー!」 腹部に膝を入れてひるませてから、顔面を本気で殴りつけた。×××××は再び石の壁に叩きつけられる。 「君たちも私と同類なんだ。なぁ、もう楽になっちまえよ。自分のためだけに力を使うんだよ。双葉学園なんかにいるから、君たちはいつまでもそうして腐ったままなんだ」 壁際でひるんで動けない×××××に、ドンドンドンドンとエクスプロージョンが叩き込まれた。 死体部屋が何度も光に包まれる。惨たらしい暴力が振るわれる。血液が飛ぶ。肉片も飛んだ。これが力の使い方だといわんばかりに、エリザベートは容赦なく×××××を粉々にしようとした。 「双葉学園・恐れるに足らず」 ニヤリと笑みを浮かべてそう言ってのける。息が上がり、赤い髪が汗で湿り、前髪がべっとり額についていた。本気で力を使っていたのだ。 煙が散って晴れる。×××××は立ち上がった。エリザベートは表情を一変させて驚愕した。 「・・・・・・っ。なんて生命力だ」 「私たちはもう、悪者じゃない・・・・・・!」 骨が折れて千切れかけていた腕が、しっかり繋がって正常な方向へと落ち着く。 「むやみな戦いや力任せじゃ、何にも得られなかった」 おびただしい出血が止まり、露出していた肉片もすっと元の位置に収まった。 「学生として大事なものを失って悲しい思いをした。でもね、そんな私たちの味方をしてくれる人たちだっているんだよ」 細くて柔らかいアッシュブロンドの髪が揺れだした。魂源力が揺らめき立っているのだ。 「私たちには『仲間』がいる。『友達』がいる。『同級生』がいる。そして『愛する人』がいる。その人たちのために、今度こそ私たちは普通になるの。日陰から日当たりに出て。双葉学園生として胸を張るの」 ギンと、燃えるような緑の瞳。エリザベートはその気迫に戸惑った。そしてはっと気づくのである。 「そうか・・・・・・! それが君の真の力か! 驚異的な自然治癒力――」 エリザベートはジュンやシホたちの情報から、とんでもない思い込みをしていた。×××××の固有の異能が「レミング」だと思い込んでいたのである。 ×××××の本当の力はペインキラー――「生命力の強さ」だった。たとえ致命傷を負っても彼女は異能の効果でみるみるうちに回復してしまう。「集団死――レミング」は、その生命力の強さゆえに体内にウィルスが残っているだけの二次的なものに過ぎないのだ。 当然、心優しい彼女は望んでこのような体になったわけではない。しかし仲間たちを救い出すためなら、×××××は自分から望んで戦いに出て力を使うことだろう。 「島には入れさせないよ。ここであなたを食い止めるから。あなたを倒して、×××××たちを助けて、島のみんなを守る」 完治した×××××はこう叫んだ。「守りたいもののために、私たちは戦う!」 「守りたいもの・・・・・・。愛する人、か・・・・・・」 赤い魔女はやや視線を落とした。両肩の力を抜いて両腕を下げ、どこか哀しげな表情を×××××に見せる。そして両方の拳を強く握り、歯を食いしばってぶるぶる震えだしたのだ。 「間違ってる。間違ってるぞ×××××」 そしてエリザベートも真紅の瞳をぎょろっとさせ、こう一喝した。 「奇麗事では守りたいものなど守れない! 哀しさや寂しさをもたらすことだってあるんだ!」 「あなたこそ間違ってる、エリザベート! 決してそんなことはない!」 もうエリザベートは表情を崩すことはなかった。もう一度視線を鋭くして殺意をむき出しにし、×××××と対峙する。×××××もとうとう説得を諦めて、緑の両目に冷酷な魂を宿した。 「やはり力が絶対だ。ますます君の力が欲しくなった。返り討ちにしてくれる」 エリザベートが右手を掲げ、エクスプロージョンを叩き込もうとする。×××××の自然治癒力が追いつかなくなって力尽きるまで、何百発でも炸裂させるつもりだった。 そのとき、薄暗かった部屋がぱあっと明るくなった。しかしそれは決して穏やかな陽の光などではなく、世界を洗いざらい消し去ってしまうような、破滅や絶望を直感させる恐怖の「白」であった。 「なんだぁ!」 魔女は仰天して後ろを振り向く。白い光の向こうに、誰かが右手を伸ばして力を解き放っていた。 ××××だ。××××××××がエリザベートに熱線を浴びせてきたのである。 「ぐあぁあああああああああああ!」 赤いドレスが焦げて黒くなり、切れ切れになる。対照的に顔面が焼きただれておびただしい出血が起こり、真っ赤になった。「顔が、私の顔がぁ!」と喚いている。 なぜ××××が動けるのかが理解できない。シホとの激戦で片腕と片足を失い、まともに戦うこともできなかったはずである。どうして攻撃をすることができたのか? そしてエリザベートは信じられない光景を目の当たりにし、激震する。 「そんな・・・・・・馬鹿な・・・・・・ありえない・・・・・・ッ!」 魂源力が抜けて意識の無いはずの五人が、××××を支えているのだ。 下半身を支えているのは×××と××。××は失くした右足の箇所を支えていた。上半身の肩のそれぞれを××と×が持ち、×××××が××××の右手をエリザベートに合わせていた。×××××に至っては灰色に濁った瞳がしっかり宿敵に向けられており、何かこう、仲間を助けたいという「執念」すら感じられる。 「なぜだ! なぜ魂源力を抜かれてるのに君たちは動けるんだぁ――――ッ!」 この問いに、××××がニッと勝ち誇った微笑を見せる。それを見た瞬間エリザベートは「くっそおおおお――――ッ!」と激怒する。 魂の無い五人がぱたぱたと倒れていったのち、片足しかない××××もボディの冷却を終えてからその場に倒れた。まさに奇跡という表現がふさわしい、起死回生の技であった。 ×××××の言ったとおり、彼女のおごり高ぶった性格が災いしたのである。ボロボロの人形と小馬鹿にして××××を放置したのが、勝負の別れ目となった。××××はエントランスホールの仕掛けを作動させて隠し扉を見つけ、地下一階に降りてきた。 「許さない・・・・・・! このポンコツが、死体ともどもぶっ潰してやる・・・・・・!」 ふらふらと××××に近づき、エクスプロージョンを叩き込もうとする。 しかし、そんなエリザベートの背後に黒い影が立った。「あっ・・・・・・」と気づいたがもう遅かった。殺傷能力の高い刃物が鈍い光を見せる。 直後、×××××がエリザベートの背中にバヨネットを刺し込んだ。確実に心臓を突いた。死体部屋に禍々しい絶叫が響き渡る。 「・・・・・・これが仲間の『絆』ってやつだよ、エリザベート」 最初に壁に叩きつけられたときだった。石作りの階段を、××××が何とか降りてこられたのを目撃する。それからはエクスプロージョンを叩き込まれてでも時間を稼ぎ、××××が不意打ちをしてくるのを待っていたのだ。仲間たちが魂源力を失ってでも自分を助けてくれたから、自分に強い自信を持って魔女に抗うことができた。 本当はエリザベートの喉元にバヨネットを突きつけたとき、確実に血管を掻っ切ることができた。でも×××××は戸惑ってしまったのだ。エリザベートが何を考えて連続的な誘拐事件を起こしたのか理解できず、彼女の気持ちを知りたいと思ってしまったから。 しかし、そんな心優しい×××××もとうとう覚悟を決めた。 エリザベートは純粋な悪だと断定したのである。もう二度と持ち前の優しさを見せることなく、×××××は彼女の心臓を貫いた・・・・・・。 「ぐっ・・・・・・ぐぐぅ・・・・・・っ。まだ、まだこんなところでぇえええ・・・・・・!」 バヨネットを差し込んだまま、さらに上方向に突き上げて心臓を裂く。がふっと吐血したのを認め、×××××はエリザベートから刀を抜いた。 ばたばた出血している魔女はその場でよろけながらも、×××××を睨み上げてみせた。闘志衰えぬ赤い瞳がギンと輝く。 「許さない・・・・・・」拳を振り上げて襲い掛かる。「許さないぞ、××××××××××――――ッ!」 「もう、終りだよ」 ×××××の緑の瞳も、その視線に応えた。往生際悪く全力を振り絞って殴りかかってきたエリザベートを合気で受け、流れるような動作で投げ飛ばす。 魔女は逆さまの大の字になって壁面に叩きつけられた。紅の十字架をわざと逆さにしてはめ込んだかのようになった。石を砕いて体をめり込ませてしまうぐらい、×××××の武術はとてつもない威力をたたき出したのである。 その瞬間、もともと雑なつくりであった隠し部屋の各所が崩落を初め、床が崩れて抜けてしまった。 ×××××は仲間ともども、さらに地下へと落下してしまった。 エピローグ 「う・・・うん?」 しばらく閉ざされていた瞳に光が入る。 じんわりと体中が温かくなり、意識が透明になっていくようはっきりとしていった。 ××××は上体を起こした。ぱらぱらと小石が崩れて落ちた音を聞いたとき、自分が瓦礫の山にまみれていることに気がついた。 どうやら何かが崩落してこうなったようである。制服の汚れ具合からして、きっと自分はそれに巻き込まれたのだろうと思った。 「私はどうしてたのかしら・・・・・・?」 「いい加減どいてくださる? 重いですわ!」 真下から声が聞えてきたので、びっくりして立ち上がった。××はずっと××××××××の背中に乗っかっていたのである。 「××! ・・・・・・って重くないわよ!」 「ったく。数日ぶりに会ったのに随分なことしてくれますわね。おまけにあんだけ人を騒がせて!」 ぐぐぐと××は何も言い返せない。仲間を欺いてエリザベートの手先になった身だ。みんな多大な迷惑をかけてしまったのは、想像するに難くない。 後方から、ぱらりとかけらが転がる音がした。×××××××××××が目覚めたのだ。 「・・・・・・みんな生きてる? ああもう、髪の毛めちゃくちゃぁー」 「・・・・・・蘇生・・・・・・生還・・・・・・奇跡体験・・・・・・アンビリバボー・・・・・・」 ×××××も起き上がる。彼女は隣に転がっていた人形の頬をぺちぺち叩き、眠った状態から起こしてあげた。 「・・・・・・あ、直った。よかったぁ、動いてくれて」 「×××!」 ボディが再起動した××××××××のところに××が駆けつける。××は瞳を潤ませながら傷だらけの彼女の右手を取った。 「やったよ××ちゃん。エリザベート、やっつけたよ」 「ありがとう、ありがとう×××・・・・・・」 ×××××は髪の毛をまとめるゴムを××から貸してもらい、とても多い髪の毛を横にまとめてどうにかいつもの髪形に落ち着いた。××も×××××も眼鏡を失くしていたが、そのようなことがどうでもよくなってくるぐらい心はすっきりしていた。 「私たちが復活できたたってことは・・・・・・×××××がやってくれたってことだよね」 「エリザベートは死んだのね。・・・・・・そうだ、×! ×はどこ!」 「ここだよ××ちゃん!」 ちょうどたった今目を覚ましたばかりの××××が、勢いよく××のもとに飛び込んできて抱きついた。×が元気でいるのを見ただけで、先に××のほうが泣きだしてしまう。 「ごめんね・・・・・・ごめんね×、あなたを守ってやれなくて」 「そんな謝らないで××ちゃん。××ちゃんが側にいてくれたのわかったよ。ありがとう、すごく嬉しかった」 「これで、あとは×××××ですわね――」 ××××を除く五人は、瓦礫の山をほじくり始めた。 夢を見ていた。 それは××××××××××にとって何となく哀しい夢だった。 力を失い、最愛の人の愛を見失い、そして最愛の人そのものを失い。 ついにはその世界の何もかもを捨て去って、何もかもをやり直すことに決めてしまった。 そんな寂しくて、辛くて、物悲しくて、か弱き少女の夢。 自分はもう一度、きちんとやり直せるのだろうか――? 「・・・・・××! ×××××、起きて! ねえってば!」 アッシュブロンドの髪をした少女が眠りから覚め、緑色の瞳をみんなに見せる。そのとき、誰もが安心してほっと胸を撫で下ろした。 「よかったぁ・・・・・・! 私たち、生きて帰れるのよ!」 そう泣きながら喜んでいるのは、×××××だった。裸眼でいたので誰かわからなかったが、特徴的な髪形で自分の親友だと理解した。 ××と×もいる。半壊している××××を、××と×××が支えている。 「ありがとう×××××。あなたとみんなのおかげで助かったわ」 ××が優しい瞳をしてそう言うと、他のみんなも次々と温かいお礼の言葉を口にしてくれた。 あれだけ壮絶を極める戦いであったのにも関わらず、七人全員が無事でいられた。×××××は仲間を救い出すために全力で戦い、エリザベートを撃破することに成功したのである。 「みんな・・・・・・」 夢から覚めていないようなぼんやりとした意識の中、×××××は呟いた。 【終り】 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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Es schmeckt gut! 学園都市より北東方向の低級居住区にて。 夜闇は濃く、風は凪ぎ、音は失われている。 視界に入るのはジャンクフードの包み紙、底の方に少量の内容物が溜まるペットボトル、昼間の外出を諌める双葉区警察署発行のチラシ、油に塗れた手拭い、水分を失い始めている吐瀉物、罅割れたアスファルト、島の開発当初に建てられたと思しき集団住宅、ここで生活する人間たちへの心理的効果を狙って備えられた花壇、集団住宅のくすんだ白壁にはめ込まれた昼間の外出を諌めるプレート、花の一本も植わっていない花壇の上に転がるサッカーボール、昼間の外出を諌める野球ボール。 そして一人の女。 残念なことに、どんな女なのか結局わからなかった。 どんな女なのかがわかる前に殺してしまった。背後から近付き、首の後ろに右腕の刃を突きいれると、女は奇妙な吸気音と共に絶命した。右腕に断末魔の痙攣が伝わった。観察してみれば、どうにも気分の悪くなるような服を着ているように見える。こちらの気分を害するような気分の悪い服だ。これはよくない。 実際は夜闇が濃くてよくわからない。でも気分が悪いのはよくない。 とりあえず、もっと人目のつかないところへと運ぼう。 よし、ここならいいだろう。 服を切り裂くと、女の肌が露出した。脂分が少なく、肌理の粗い、がさついた不健康な肌だ。香水だか何だかの匂いもする。まるで淫売の肌じゃないか。ここにも昼間の外出を諌める文言が記されている。 続いて皮肌を剥く作業に移った。鋭い右腕を使えば造作もない。女の身体の前面は凸凹としている上に、弾力に富んでいて剥きにくいが、背面については朝飯前だ。身体に対して鋭角に刃先を入れて、そのまま滑らせればいいのだ。最初と二人目はかなり苦労したが、三人目となるともう達者なもので、他人に披歴したくもなるほどの出来栄えだ。 尻のすぐ上辺りから背中の半分辺りまで右腕を滑らせると、何の抵抗も無く、刃がスライドしていく。作業の途中にも関わらず、もう我慢が出来なくなった。 剥いだ皮の先端を左手で掴み上げると、赤く染まった皮の裏側が見える。まだ身体とつながったままのその皮は柔らかいゴムのような質感であり、光を当てれば向こう側が透けて見えるのではないかと思うほど薄かった。これは全く、技術向上の賜物である。 満面に喜悦を湛えながら、皮の裏面に舌先を近づける。どうにも興奮しすぎていて、荒くなった鼻息が皮を震わせた。そのせいで舌先に近づいたり離れたりとじれったい。 べろり、とようやく満足に一舐め。 蜜のような甘さと口当たり、脳を痺れさせるその香りが全身を支配する。 嗚呼、たまらない。 やはり皮と肉の間が一番旨い。栄養も一番ある。 三十分ほどかけて食事を終え、残った部分を適当な大きさに砕き、周囲のゴミと一緒にビニール袋に入れて回収ボックスへと放り入れると、元は人間だったものが入っているとは思えないほどに軽い音がした。ボックス内ですし詰めになっている他のゴミとまるで違いがない。残飯としての全く正しいありように、軽い感動すら覚える。 満足気に頷くと、この地区に設置された数少ない街灯から、昼間の外出を諌める光が発せられていることに気付いた。 そして突然、頭の中にチャペルの音が響き渡る。頭蓋の中を反響して、気分が悪くなる。 繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し。 ああそうだ。これは昼間の外出を諌める鐘じゃないか。もうこんな時間だ。 早く帰らないと、また罰として叩かれてしまう。いや、今は昼間だったろうか?わからない。何にせよ早く帰らないと。ラルヴァにでも襲われたらどうするんだ。人間の俺は……。いや、俺は人間だったか? どうでもいい。帰ろう、チャペルの音の響いてくる方向へ。福音の源へ。 道路のゴミを拾って、きちんと回収ボックスに入れたことを、昼間の外出を諌める居住区の人たちが感謝してくれると思うと、だんだんと気分が良くなってきていた。 * 冬の朝という時間帯には、人間は二つの宿敵と戦わなければならないことを彼女は知っている。睡魔と寒気と呼ばれる、抗いがたき人間の天敵。彼らは容赦なく、彼らに抗する手段はあまりにも少ない。そして質の悪いことに彼らは鉄の同盟を組んでいて、同じく同盟を組んでいる目覚まし時計の号令一下、歩調を揃えて人間たちに襲いかかって来る。それに耐えるには、彼らの鬨の声を無視し続け、時間と太陽の女神が彼の軍勢を打ちのめしてくれるまでじっと耐えるしかない。 それらのことを彼女は知悉していたが、スロースターターな彼女の意識は犯すべからざる失策を犯した。つまり、枕元の目覚まし時計の短針が文字盤の九に重なっているのを見て慌ててしまったのだ。 「ちょっと!……ッヤバッ!」 今日は月曜日。確実に一限目に遅れている。今頃教室では、社会科のあの老教師が独創性の乏しい授業を行っていることだろう。彼に睨まれるのは何とも思わないし、どんな評価をされようが知ったことではないが、バツが悪いことには変わりない。 急いで布団を飛び出し、四畳半の部屋で立ち上がった。天井にぶら下がる昔ながらの照明器具から垂れた点灯操作のヒモが、寝癖の激しい髪の毛に触れる。 例の二つの宿敵が全身を苛んで思わず彼女は身を竦めたが、押し入れの前でハンガーに掛けられている学園の制服に手を伸ばすと、そこでようやく、自分のスコアボードにEの文字が灯っていることに気付いた。 寒さではなく、怒りによって身体を戦慄かせる。 何たる失策。何たる不手際。口に出すだにおぞましいが、口に出して再確認しない限り、一度火の点いた登校への意欲を抑える方法を知らなかった。 「今日から冬休みじゃないッ……!」 自嘲と悔悟と悲哀を多分に含んだその言葉を吐きだした時、彼女こと隠善祈(いんぜん いのり)の意識と身体は今やすっかり目覚めてしまっていた。 昨夜の私は今朝の私よりも賢かったので、翌日から学園が冬休みだということ知っていた。そこで賢かった私は時間とモチベーションの有効利用を思いつき、深夜特有の妙なやる気の続く限り作業を進めてしまおうと考えた。その結果布団に入る時間は大幅にズレ込むが、翌日から登校する必要は無いのだから問題は無い。 そう。その時の私の考えは理に適っていた。事実、記事の作成はそれなりに捗ったのだ。 ただ、翌朝の私がこれほどまでに間抜けだと予想できなかっただけで。 結局、常よりも短い睡眠時間となってしまった。二度寝も考えないではなかったが、妙に目が冴えてしまったし、夕方まで眠ってしまい、生活のリズムが滅茶苦茶になってしまうのは望ましいことではない。新聞記者は何事にも即応できる姿勢を維持することが重要だ、とは尊敬する先輩の言だが、青春を謳歌せんと志す女学生が日常的に朝寝夜起きするのには賛成できない。それに、今日は重要な取材がある。新聞記者としての信頼を失わぬためにも、二度寝して寝過ごすわけにはいかない。 布団を畳んで、軽い朝食を取った後、自分の記事の見直しを行うことにした。 ジャージの上に半纏という出で立ちで、部屋の隅に置かれた昔の書生風な文机の前に座布団を敷いて座る。机の縁にはプライズで手に入れた愛嬌溢れるマスコットフィギュアたち。決して男の子には、女の子にさえ見せたくない光景ではあるが、長くもない経験上、これが一番温かいのだ。私は武士ではないので高楊枝を咥えて格好つける必要は無いし、それにここは私の家だ。 文机の上で休止状態のノートPCを立ち上げる。昨日書きあげた記事をディスプレイに表示し、文章を推敲して軽く手直しを加えていく。一時間もすると、主観的には文句のつけようのない記事になった。あとは先輩たちのチェックに通れば、この記事は終わる。私が担当することになっているはずの記事はあと一つ。今日の午後取材する予定の件についての記事だ。 私の所属する第八新聞部は学園非公認の組織である。非公認どころか、所属している私でさえその全貌については詳しく知らない。何故『第八』なのか。いつ頃成立したのか。部員は何人いるのか。その他諸々わからない。いずれ第八新聞部について調査して、それを記事にしてみたいと考えている。自己紹介記事ということになってしまうが、かなり面白い記事になるのは請け合いだ。非公認ならば学園から活動費を受け取っていないということだが、領収書を学園都市某所の安アパートの一角にある部室に持っていけば、タクシー代も経費として処理してくれるし、どこの誰だか知らないスポンサーさんは思想的な方向性を押しつけてもこない。こだわりと言えば、発行するのは紙媒体であることがそうかもしれないが、個人的にも新聞というのは紙媒体でなければ嘘だと思う。定期的に纏まりの無い記事の集合体をばら撒き、それなりの反響を受ける。そんな居心地の良い集団に所属して早一年と半年。私は高校生という身分の軽さを堪能しているところである。 取材の前準備として、手帳を捲り、箇条書きにした質問をメモしておいたページに目を通す。残りのページがもう少なくなっている。取材の帰りにでも買い換えようか。 「こういうトコって初めてだからなぁ……」 そのページには祈の女の子らしい丸文字で、今日の取材対象が記されている。 『古城調正房(ふるきちょうせいぼう)』 その名と既存の情報から、どんな店だろうかと想像力をあちらこちらへ羽ばたかせている内に、いつの間にやら正午を過ぎていることに気付く。 寝癖を黙らせ、自慢の長い黒髪をポニーテールへと纏める。化粧はしない。持って生まれた顔に過剰な自信があるのではなく、単に化粧の技術と知識に乏しいからだ。服装は双葉学園の制服で構わない。非公認とはいえ、部活動には変わりない。それに学園の制服を着ているだけで避けられる厄介事というのも少なくないのだ。狭い部屋で大きな存在感を放っている大鏡の前に立ち、軽くポーズをとってみると、ポニーテールが流麗に靡いた。 祈は満足げな頷きを一つしてみせると、記者としては不似合いな大きさのスポーツバッグを担いで家を出た。 * 房総半島にほど近い、双葉島南東部の外れ。学園都市領域を脱し、防風林の役割を担っている林を貫く林道を進むと、前時代的な光景が目に飛び込んでくる。双葉島中枢から最も距離のあるこの地区に存在するのは、古めかしい木造建築物の連なり。東京湾に面した島端まで1キロ足らずのこの街区は、学園都市の膝元にある商店街とは全く違った雰囲気の小規模な市場が、住民たちの生活の中心に据えられていた。街区の中心には円形の広場があり、気儘な露天商たちが不景気な顔でそこに店を並べている。 祈は街の入口でタクシーを降りた。この辺りでは定期的にラルヴァの異形が確認されている上に人通りが極めて少ない為、緊急時の対応と安全性を売りにしているVIP御用達のタクシーを利用した。予想以上に高くついてしまったが、これも必要経費だ。歩いていける距離でもないだろう。 「五時くらいに迎えに来て欲しいんですけど」 そうタクシーの運転手に告げ、連絡用にと自分の名刺を渡す。そこには彼女の部活動用の携帯電話のナンバーとメールアドレスが記されている。お返しにと自分の名刺を彼女へと渡す中年の運転手の顔は、妙にほころんでいた。それがプライベートなものではないとわかっていても、女子高生と連絡先を交換するという行為には喜びを覚えるのかも知れない。たとえ冬休みの最初の日にこんな場所をわざわざ訪れるような女子高生であろうとも。 祈がその街区に足を踏み入れると、今やそのほとんどが埋め立てられた東京湾からの独特の香りと海風が空間を満たしているのを感じた。防風林のざわめきも聞こえる。 昼間だと言うのに、随分と寒い。コートを着て来なかったことを後悔したくなるほどだ。 どうやら目抜き通りらしい一番幅の広い通りを妙にせかせかとしたペースで通り抜ける。 建造物数棟ごとに、薄暗い路地が割り込んでいた。人の姿は疎らであったが、木造建築物の並びに無数に存在する、隙間という隙間から視線を向けられているような気がする。 学園都市の雰囲気に慣れた祈の心の中は、未知への畏怖と好奇心がないまぜになって沸騰し、吹き零れそうなほどに不安定になった。怖いという気持ちを覆い隠すようにして、ジャーナリストとして堂々としていたいという矜持がある。そんな不安定さが表情や態度に出てしまっているだろうことを自覚して、酷く恥ずかしくなった。 薄く赤面しながら中央広場まで辿り着くと、円形の広場で環状に露店が連なっている。めいめいの雑事に耽っていた店主たちが一瞬こちらをチラリと、しかし全員同時に見たので、思わず全身が固まってしまった。 そんな彼女の隙を衝くように、それが起こった。 「アアアアアアアアアアアアアアァァァアァアァァッ!」 露店広場から四方に伸びた通りのうち、東へと伸びる通りから奇妙な男が奇声を上げながら広場へと転がり込んできた。酷くみすぼらしい格好をしている。祈が通ってきた北へ伸びる通りで見た人物も露店の店主たちも、流行とは切り離されているが、それなりにしっかりとした格好をしていた。だが、この男の格好ときたら。手術着のような貫頭衣に酷い汚れが付着している。髭も無造作に伸び、脂っこい髪の毛に覆われた頭には、離れていてもわかるほどにフケがこびりついていた。一見して普通ではないことがわかる。 「アアアアァァアアァァァアァアァァァアアッ!」 男の奇声がこだまする。風とざわめきがそれを攪拌して、更に不快なものへと変える。どんな忌まわしいラルヴァでさえ、こんな不快な声は出せないだろうと思った。 耐えきれずに耳を抑えると、男が現れた東への通りから別の男たちが走りながら現れた。 面立ちの良く似た三人である。彼らの顔は厳つく、外気に晒している生身の部分全てが節くれだっていた。こちらも一目でカタギではないとわかる。 着流しに下駄といった時代錯誤な格好をした彼らは、奇声を上げて転がる男を囲い込み、何の予告も無しに彼に暴行を始めた。 「手間かけさせんじゃねえぞ!」 「鼠野郎が!」 「口を閉じやがれ!」 口角泡を飛ばしながら口汚く罵る声が、塞いだはずの祈の耳にも聞こえる。あまりの衝撃に目を離すことが出来ない。 奇声に苦痛の色が混じっている。それでも彼は叫ぶのをやめない。 そして、どれぐらい経ったのであろう。着流しの男たちは痛めつけるのに飽きたのか、一通り暴行を加えた後に奇声の男に猿轡を噛ませると、革のベルトで動きを拘束してもと来た道へと引き摺って行った。 その途中。彼が引き摺られ、芋虫のように身体をくねらせていると、ちょうど祈の方へ視線が重なった。その彼の瞳に宿ったもの。あれこそが狂気の炎というやつだろうか。 彼は引き摺られながらも彼女から視線を外さなかった。彼が目を合わせることが出来ない角度まで引き摺られた時、祈は呼吸の仕方を必死で思い出した。 「何なのよ、この街は……」 彼女の疑問に答えるのは、遠ざかっていく奇声の残響だけ。 広場に気味の悪い静寂が戻ってきた時、祈はもはや学園都市へと帰りたい気持ちになっていた。取材先への中止と謝罪、そして引き返して行ったタクシーへの連絡のために携帯電話を取り出そうとスポーツバッグをまさぐったその時。 「あの、すいません」 「うひゃああぁいっ!」 突然に声を掛けられ、心臓が跳ね上がる。 同時に、取り出しかけていた携帯電話も宙へ放り上げてしまい、お手玉のように転々と宙を舞わせてから拝むような態勢でキャッチした。 「ああ、申し訳ありませんでした」 謝罪の念が籠められた声を再び後ろから掛けられた。 引き攣ったままの顔をどうすることも出来ずに、恐る恐る振り向くことが出来たのは、前を向いていても景気の悪そうな露店商を見るだけだから。 「第八新聞部の方ですよね?隠善祈さん?」 「は、はい!その通りです!」 混乱の為、あまりにも全力な挨拶を返してしまった。 今度は声を掛けた男の方が吃驚して、呆気にとられたような表情を見せたが、未だに混乱している祈はそのことに気付かなかった。 そのことをハッキリと認識して羞恥の念に苛まれるのは、声をかけてきた男性こそ彼女が取材を申し込んだ相手だとわかり、彼の店へと案内される道中においてである。 * 「どうにも運が悪かったですね」 座布団に座る祈の前に茶を置きながら、彼は苦笑する。 祈が案内されたのは、彼の店であり、本日の取材対象でもある『古城調正房』。 例の円形広場から伸びる南方向への通りを歩き、木造長屋の並びを進んでいくと、その通りの終端、つまり祈がタクシーから降りた北側通り終端と線対象の位置に到着した。 祈は既に海を視界に収められる場所に至ってようやく、『古城調正房』と記された立て札を見つけたのである。その立て札は海風の強さとそれに抗する為に土台の上に乗せられた重石の重さの板挟みに遭って、ギィギィと小さく悲鳴を上げていた。 「ただでさえこの街区は学園都市とあまりにも空気が違いますからね。中てられてしまう人も多いんですよ。そこにあの騒動ですからね」 柔らかい声で話しながら、次いで茶菓子を用意する店主。 「ああいうのは滅多にないんですけど…」 店の造りは簡単だった。玄関である引き戸を開ければ、畳一畳分の土間がある。靴を脱いで板の間に上がると、中央には囲炉裏が配され、玄関から向かって右手と正面の壁には無数の抽斗を備えた黒い箪笥が置かれている。左手には何があるかと言えば、サッカーボールが三つは入りそうな竹籠や用途のよく分からない長物、小さな鎌や中華庖丁のような刃物がある。左奥にある扉は居住スペースへと通じているのであろう。 祈は全方位から好奇心を刺激され、あまりに不作法だとは承知しつつも、あちこちに視線を飛ばすのを我慢することができなかった。それは、彼女の異能にも関係している。 彼女の異能がもたらすのは好奇心と探求心。それはいつでも、どこでも、あらゆる方法を使ってでも、止めることが出来ないものなのだから。 店主である彼が自分の草臥れた座布団を囲炉裏の奥へと置き、囲炉裏の右に座布団を敷かれた祈に対して四十五度の位置へと腰を下ろした時、彼女はようやく本格的な取材を開始することができた。 「今日はお忙しい中、時間を割いて頂いてありがとうございます」 「いえいえ、お気になさらず。興味を持って頂けるというのは嬉しいことです」 「改めて、第八新聞部の隠善祈といいます。先程はお恥ずかしいところを……」 「いや、これはご丁寧に。『古城調正房』をやっております、古城弥七(ふるき やしち)といいます。私は名刺を持ってないんですよ。申し訳ない」 祈の差し出す名刺を受取って、その視線を彼女と名刺の間を数度往復させた後、彼は率直に詫びた。 驚いたことに、店主である古城弥七はごく普通の青年のように見える。驚いたことに、というのは些か失礼かも知れないが、漢方薬や東洋の医学知識めいたものを商品として扱う人間は良く言えば仙人のような、悪く言えば似非教祖のような容姿をしているイメージが祈にはあったのだ。事前の調査では、一部で評判の漢方薬品店だということしかわからず、店主についての情報は全くの零であった。 実際に会ってみるとその平凡さに拍子抜けした、というのが祈の正直な感想である。 黒の作務衣を着た古城は確かに痩せ型の体型ではあるが、繊細さや弱さのような印象をほとんど受けない。それは単に節制の結果であるといった感じで、その瞳からは意志の強さが感じられる。黒髪を短く刈り込んでおり、不潔さからは程遠い。年齢はいまいち読みづらい、二十歳前後であろうか。少なくとも、いい加減な人間ではないことはわかる。 何しろ、私の異能が通じない。人間に対して自分の異能を行使するのは恐ろしいが、だからと言ってやめられるものではない。癌の危険性を説いたところで煙草を吸う人は吸うし、飲酒運転はいつまで経っても無くならない。 学園都市では飲んだことも無いような美味しいお茶を啜りながら、店の来歴や取り扱っている商品について訊いてみた。 テンプレートな質問はつまらないが、店の紹介記事には重要ではある。 すると、打てば響くような、といった闊達さはないが明快で平易な答えが返ってきた。 平凡な取材も終盤に差し掛かり、祈の最もぶつけてみたかった質問をする時が来た。 まわりくどい質問は古城の好むところではないであろう。ならば率直に。 「このお店には、かなりの上層階級の方が足繁く通っているとか。例えばこの島の開発計画者のリストに名を連ねる方々もいらっしゃったりするという情報があるのですが、実際のところどうなのでしょう?」 これはとある情報筋からのタレこみであり、祈がこの『古城調正房』に興味を持つことになった原因でもある。正直最初は、こんな薄気味悪い辺境にそんな人物たちが通っているという話はどうにも疑念を抱かざるを得ないし、通っていたところでどうなんだと考えていた。つまり、彼女の食指を動かすまでには至らないタレこみであった。 しかし、青臭く苦味のある果実が数日後には熟れて芳醇な香りを放つように、その情報もまた変化した。その情報を手に入れたのは、祈も含めた少数の情報喰らいたちの溜まり場と化していた、極めて特殊な招待制のSNSにおいてのことだったが、『古城調正房』についてのその情報が放出された数日後、唐突にそのSNSが解体されたのだ。それだけでは『古城調正房』が原因だとは断定できないが、その後、そのSNSの会員であり、祈と個人的に匿名での交流を持っているゴシップオタクの話によると、例の『古城調正房』のネタを流した本土在住のSNS会員が謎の急死を遂げたという。 そんな話を聞かされた上に、冬休みの開始が重なり、熟れた果実に齧りつきたくなったという次第だ。私自身、救えない性質であることは重々承知している。 「うーん。お客様のプライバシーに関わることはちょっとね……」 祈の質問に、古城はインタビューが始まってから初めて回答を拒否した。 「そこを何とかっ!」 「いやあ、そればかりはねえ……」 「何とかっ!」 見苦しいくらいに喰らいつく。記者としては重要なことなのに、それを見苦しいと感じてしまうのは祈が情報については雑食悪食の癖にその運用手段についてはインテリジェンスのイメージが強いという齟齬に由来するものだろうか。 身を乗り出してまで情報に肉薄せんとする祈の勢いに呑まれたのか、普段から押しに弱いのか。恐らくその両方なのであろうが。 「まあ、幅広い層のお客様方にご利用頂いているのは事実ですね」 と、古城は示唆を含んだ答えを返した。 やにわに祈は勢いづく。 「先程説明して頂いた限りでは、このお店には無数の素材があるとのことでした。権力のヒエラルキーの頂点付近を占める方たちは何を求めているんです?まさか、世間一般で手に入るようなものをわざわざここに買い求めているなんて事はないでしょう?」 「まあ、それは……」 「長命薬、不老不死の薬、それとも特別な強壮剤だったり?私、こういったお店に来るのは初めてなんですけど、何やら神秘的で……、浪漫を感じますよ!」 入店直後から感じていた興奮を言葉にする。 学園都市内部で生きていれば、超能力に魔術に超科学、超人からラルヴァまで、荒唐無稽な事物には事欠かないし。人生を前向きに過ごしていれば、刺激的でないはずはない。 しかし、そんな中でも東洋の神秘と称されるような幻想は死んでいない。空気中の物質について数字とグラフを用いて説明され、生き長らえるのに必要な要素への変換方法を図示されるよりも、俗界から隔絶され、未踏の秘境にて霞を食べて生き続ける人間のエピソードを好む人間は今でも大勢いる。もちろん祈もその一人だ。 「昔からの定番じゃないですか!一通りの栄華を極めた権力者たちが求めるのは神秘的な事象!永遠の命だったり、錬金術の知識だったり、悪魔崇拝への傾倒だったり!」 「それが東洋医学の漢方を通じた手法である可能性があっても?」 「おかしくはない!と、そう考えて取材を申し込ませてもらったんです」 鼻息荒い祈に対して、古城は何やら考える顔つきで顎を揉んでから応えた。 「う~ん。そこまで興味持ってもらえてるんなら、試してもらってもいいかな」 「試す?」 「ええ。ウチが贔屓にしてもらっているのは、ある薬が原因なんですよ。オフレコということならば、試して頂いて構いませんよ」 「是非是非!」 祈は予想外の申し出に舞い上がった。 顔を紅潮させ、がっつくような態度になっているのを自覚したが、古城はそういう自分の態度を喜んでくれているらしいことがわかってきたので、取り繕うこともなかった。 どんな薬か想像もつかなかったが、普通の方法では手に入れることのできない貴重なものだというのは常連のお大尽方のお墨付きだ。合法ではないかも知れないが、だからこそ心躍る。一番可能性の高いのは特殊なドラッグの類だろうか。 学園都市内に細々と流通しているドラッグの内、メジャーなものは大概試したことがある。第八新聞部所属の記者にドラッグ通の顔見知りがいて、彼女に『社会勉強』として少量ずつ渡されたのだ。しかし、どれも中毒状態に至る前に飽きてしまった。どの薬も、情報という名の甘露には到底及ばなかったのだ。 古城は自分の背後にある箪笥の小さい抽斗のいくつかをガサゴソと漁ると、紙片に小さく盛られた黒い粉末と二錠の白い錠剤を蒔絵の施された小皿に乗せ、祈の前に置いた。 漢方薬を外見で判断するつもりはないが、決して美味しいものではなさそうである。 「これが評判の薬ですか?」 「ええ。みなさんに好評です」 「効能としてはどういったものが?」 「なんと、貴女の美しさに更に磨きがかかるのです」 「え?」 あまりにも唐突だったので、それが基準点以下のからかい文句だということに気付くまで数秒を要した。 「か、からかわないでください!」 反発と羞恥からくる赤面顔で抗議の声をあげる。今日は不意を衝かれてばかりだ。 「いや、失礼。貴女のように溌剌とした方と言葉を交わすのは久々なもので。で、これの本当の効能なんですが。『魂源力の均整制御』であると僕は認識しています」 祈の反応に満足気な笑いを漏らした彼は、目の前の薬についてそう説明した。 「『魂源力の制御』というと、異能の制御精度向上ということですか?レッド・トランキライザーのような?」 脳裏に浮かんだとある薬品の名を口にする。 レッド・トランキライザーは、能力を暴走させた異能者に対して緊急的に投与される赤い溶液の鎮静剤の俗称である。事件現場において治安維持関係者が然るべき機関の許可を得て使用することがある。その後、更生・回復施設においてはイエロー及びグリーン・トランキライザーが使用される場合がある。それらの効能は魂源力の放出を抑制し、指向性を制御するというものだったはず。一部ではその副作用を危ぶまれている代物だ。 「まさか。この『対会和(トイフイホー)』はあんな乱暴な薬物とは違いますよ。この薬は中長期的に効果を発揮するものでしてね、異能云々ともあまり関係ないのです」 「『魂源力の制御』なのに異能が関係ないんですか?」 「異能を発現していなくても魂源力を持っている人はたくさんいますよ」 古城は続ける。 「異能が未発現だったり、そもそも異能を発現する才に恵まれなかったり、異能と分類されないほどに微弱なものであったり、発現していても気付いていなかったり。そんな人たちも多かれ少なかれ魂源力を持っています。実際、『対会和』を買い求めに来るお客様の半分はそういった方々です」 確かに、異能を持たずとも魂源力の保有を根拠にこの双葉島に編入してくる学生も少なくない。祈の所属するクラスも異能者と非異能者が半々といったところだ。魂源力の詳細は公開されていないし、研究中枢も実際にはほとんど解析出来ていないと聞く。 「なるほど。でもそういった人たちが魂源力を制御するということは、どういうことなのでしょうか?異能という形態をとらなければ、自覚することすら難しいというのに」 祈の疑問に、古城は同意するように頷く。 「異能を持たない人が自己に内在する魂源力を自覚するのは確かに難しい。私も、察するに隠善さん、貴女も異能者ですからね。そういった人たちの気持ちを理解するのは難しい」 その逆も然りだけどね、と祈は心の中で相槌を打つ。 彼女は本土にいる時分に異能が発現したクチなので、異能を理解できない人間との摩擦を、その身をもって経験していた。 「しかし、魂源力が人間に内在するエネルギーである以上、それが人間の身体と意識に影響を与えないはずがない。相互に影響し合っていると想定される。病は気から。肉体と精神は共鳴し合い、片方がもう片方の影響を受ける。ならば魂源力は。そう考えれば、この薬の『魂源力の均整制御』という効能も多少わかってくるんじゃないんでしょうか?」 その説明に、何ともつまらない結論が祈の思考の中で鎌首を擡げ、口を衝いた。 「つまりは日頃の健康維持の為に魂源力についても気を配るということですか?」 「まさしく。魂源力を調正、ああ、調正というのは僕の造語ですが、調正する効用を持つ薬というのは、世間にほとんど流通してませんからね」 「そう……、ですね」 祈は溜息を吐きたくなった。全身に鉛のような徒労感が充満していくのがわかる。 もう、なんてこと……。 謎めいた秘境で作られ、権力者たちが求めていた神秘の薬が単なるサプリメントだったとは。しかし、考えてみれば確かに道理ではある。健康は長命や不老不死に次いで貴重であるとともに失われやすいものだ。医療機関だって特権階級向けの治療プランを用意しているし、健康は今や金で買うものだというのは周知の事実だ。 「うぅ……、サプリメントですか~」 礼を失することだとわかっていても、不満げな声を出してしまう。 そんな彼女を見ても、古城はむしろ申し訳なさそうな顔で笑うだけだ。 「まあ、健康な若者の人たちからすれば、あまり価値を見出せないでしょうし、そうであっていいと思いますよ。若い身空で健康に気を遣わなければならないのは不幸なことです」 十分若く見える古城だが、年寄り臭いことを言っても妙に様になっていた。 恐らく、どんなことでも彼の言葉ならば尤もらしく聞こえるのだろうと祈は思う。 そんな不思議な印象が彼にはある。年齢が読みづらいからだろうか。自分と同い年だと言われても納得できてしまうが、精神的な部分ではきっと大きく水をあけられているだろう。しかし不快ではない。抱擁感というか、自分に兄がいたらこんな感じなのだろうか。彼自身、馴れ合いを好んでいるようには見えないが、礼節と距離感を保つことには長けていそうではある。この辺鄙な土地で様々な客層を相手にして生きていく内に必要とされ、身に付けたものだろうか。 「それで、隠善さん」 「はひぃッ!」 意識があらぬ方向へ飛んでいた。 古城の言葉で不意に我を取り戻す。 赤面するのは今日で何度目だろう。目の前の男性について思いに耽るあまり、現実を忘れて思考の網に絡まってしまうなど。もう記者などやめてしまおうか。 そんな私に気を遣ってくれているのだろう。古城は奇怪な返事を気にした風もない。 「どうです、試してみませんか?」 「は、はい。もちろん!」 もちろん!の部分を必要以上に強調してしまった。 目の前には『対会和』なる薬。 ここまで散々赤恥をかいたのだ。ここはひとつ挽回のチャンスではないか。 「二種類同時に。お茶で飲み下すといいですよ」 口を真一文字に結び、カクカクと頷きを返す。 決意が変わらぬ内に白い錠剤を口に含み、追って黒い粉末を含んだ。 口内に強烈な苦みが広がるその寸前、私はお茶を一気飲みすることによって、それらを臓腑の内へと流し込む。 直後、僅かな達成感と共に古城の反応を確かめようとした瞬間。 「あ、れりゃ?」 私の意識はぐらりと、大きく揺らめいた トップに戻る 作品保管庫に戻る