約 542 件
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/303.html
双葉 五月 「としあき様っ!」 基本情報 名前 双葉 五月(ふたば さつき) 学年・クラス 中等部 2年 性別 女 年齢 13 身長 146㎝ 体重 36kg 性格 策略型猪突猛進娘 生い立ち かなり不幸な人生を送ってきた。ラルヴァに殺されそうになったところをとしあきに救われる。その後やってきた学園の情報処理班によって異能を確認され、双葉学園に編入する。 基本口調・人称 私、あなた、名字+さん。慇懃だが無礼にならない程度の丁寧語 特記事項 一応としあきと敏明はパラレルになってます キャラデータ情報 総合ポイント 16 レベル 4 物理攻防(近) 1 物理攻防(遠) 1 精神攻防 1 体力 1 学力 5 魅力 4 運 1 能力 『策士』:超人系。魂源の脳幹支配による思考の最適化。目的を達成するために自分の感情すら利用する その他詳細な設定 登場作品 【編入☆双葉学園】 作者のコメント
https://w.atwiki.jp/3738train/pages/30.html
Express Chat 旧交流用チャット。一応、管理人はアーバン(アーバンN)がやっているようだが、どうも真の管理人は夢急高町線高町駅名誉駅長のあの方らしい。 2009年に削除された。7月13日にTrain Junction Chat Roomという名前で復活している。 特徴 主に近鉄関係の改造がなされていた。 通常のチャットでは「お知らせ:」となるところがここでは「【なのはさんからお知らせ】 」となっていた。 その他、一部の動作が女性言葉になっていた(なぜか「~なの」という形式である)。 近鉄関係の絵文字がいくつか貼れた(PCのみ) 定型文 さまざまな定型文があった。 例としては… パンツめくれぇぇ!!(ティアナ・ランスター) 本当は「ファントムブレ」と言っていたのだが、空耳でこう聞こえてしまったのをネタにされる。したがって、こんな台詞は存在しない。 びゃーうまい…(フグ田マスオ) 寝ろ。(流石の源石) など 専用色を行使していた人 アーバン(管理人) orange 貴無 purple A 神無樹璃緒 deeppink 麺 2つめの不明 セブンだから mediumblue ドラノスケ cadetblue
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/235.html
日本の某県某所、深い森が広がる山の上を一機の減りが飛んでいる。 乗り込んでいるのは、双葉学園の異能力者で結成されたラルヴァ討伐チームの生徒達である。 「しかし、俺達を出すなんてよっぽど大物なんだろうな」 特徴的なオレンジ頭の伝馬京介が、いかにもめんどくさそうに言った。 「お前は何でさっきのブリーフィングをサボったんだ? これだから馬鹿の馬の字だって言うんだ」 眼鏡をかけた少年、氷浦宗麻は心底呆れたように吐き捨てる。 真面目な宗麻とぶっきらぼうな京介はお互いに仲が悪く、特に宗麻は事ある毎に京介の苗字にかけて馬鹿にしている。 「サボった訳じゃねえ、俺の超振動ナイフはお前の細っこい剣と違ってメンテが面倒なんだよ」 二人の間に緊迫した空気が流れたとき、姫川哀が間に入った。 「あの……私はギリギリになっちゃったから話聞けてないんだけど」 「何やってるんだよ、ノロマ」 京介と哀は学園に来る前からの幼馴染と言う事もあって、京介の哀に対する物言いは割とキツイことが多い。 「だって女子は水泳だったんだもん」 哀の方は京介の態度には慣れた様子で、むしろ濡れた髪を気にしていた。プールの水は塩素が強いので、このまま放っておけば痛んでしまうだろう。 体育の授業中の出動だったので、京介と宗麻は体操服のままである。 「コラ、姫川さんは何も悪くないだろう」 「けっ、俺のときとずいぶん態度が違うじゃねえか」 「当たり前だ。さあ、あんな馬鹿は無視して、今回のおさらいをしましょう」 これまでの態度が嘘のように、宗麻は喜々として語りだした。 「今回の目的は、M.I.A.――作戦行動中行方不明者の捜索です」 「捜索? 俺達に向いてる仕事とは思えねぇけど……」 「キョウちゃん、ちゃんと最後まで聞こうよ」 「行方不明になったのは、寺井歩、千倉美星、緑川昇の三名……」 哀は今出てきた名前が全部知らないものであった事に少しだけ安心した。 「このチームは、寺井の飛刃操作(エッジ・ワークス)と千倉の銃弾の雨(スコール・ブリット)で足止めし、緑川の魔滅の炎(フィアマ・デラ・プリフィカズィーネ)で止めを刺すというスタイルだったようです」 「ウチと同じ、ハッキリとキーマンがいるチームか?」 京介がつぶやく。その視線の先では哀が神妙な表情で何かを考えているようだった。キーマンという言葉に何か思うところがあるのだろう。 「緑川の能力は、対象の魂源力(アツィルト)を内側から燃やし尽くすそうです。魂源力(アツィルト)がたくさんある上級ラルヴァの方が効果的な能力ですね」 宗麻はずっと哀から視線を外さないまま、ニッコリと笑って答える。 「質問したのは俺だろうが」 「うるさいヤツだ。どうせお前に話したって、言ったそばから忘れるクセに」 「何だと!」 「もう……キョウちゃんも氷浦くんも、何ですぐケンカになるの!」 京介と宗麻はそれぞれお互いを睨み、哀にちらりと目線を送る。二人とも、頬がほんのりと赤くなっていた。 当の哀は二人の様子に気付かず、ポカンとしている。 「えーとにかく」 宗麻がごまかすように説明を再開した。 「三人は当初の任務通り熊鬼(ゆうき)を倒したという報告の後、影縫(かげぬい)と遭遇したと報告を入れたきり行方不明になっています」 「ユウキ? 誰だそいつ」 「カゲヌイってどんなラルヴァなの?」 二人の声が重なった。 「あー、ブリーフィングの途中申し訳ないが、到着だ」 今まで黙っていたヘリのパイロットから声がかかる。 「あ、ごめんなさい」 「悪いな、ここまでは来るのに燃料がギリギリなんだ。終ったら給油して拾いに来てやるから。帰って来いよ」 「オウ!」 「当然です」 「がんばります」 三人はもう一度軽く装備を確かめた。 「……ところで、降下ってまたいつものアレやるの?」 不安そうに哀が聞いた。 「あ? 当たり前だろ他にどうするって言うんだ」 質問の意味がわからないといった様子で京介が答える。 「パラシュートとか、梯子とか……」 哀の言葉はポツポツと最後には聞こえないほど小さくなっていった。 「高度や木の関係でパラシュートは使えませんから、使うとしたら梯子という事になりますが」 「俺は使わねーよ。下から見たらパンツ丸見えだな」 「キョウちゃん!」 慌ててスカートの裾を押さえる哀。 「決まりですね。行きましょう」 ドアが開かれる。 ローターのけたたましい音と共に大量の空気が流れ込んでくる。 「おっしゃあ!」 気合の一言で京介の脚に炎のような深紅の魂源力が集まり、鎧として結晶化する。 「ホラ哀」 「うう……なるべくゆっくりね」 しぶしぶといった様子で、哀は京介にしがみ付く。既に目には涙が溜まっていた。 「努力しますよ」 いつも穏やかに笑っている宗麻だが、このときの笑顔は何となく信用できないと哀は思った。 「行くぜ」 まず初めに、哀を抱えた京介がドアの外に飛び出す。 「きゃあぁぁぁぁ」 そして哀の悲鳴が響く中を宗麻が続いていった。 「死ぬなよ。ガキ共」 誰もいなくなったヘリの中で、パイロットが呟く。 外からはまだ、ローターよりも大きく哀の悲鳴が聞こえていた。 そして、空中。 「ああぁぁぁ」 未だに哀の悲鳴が続いていた。 よく続くこんなに息が続くものだと京介は思う。というか耳が痛いのでいい加減止まって欲しかった。 少し先行して落下していた自分と哀がが木の上に差し掛かったところで、宗麻をみやる。 宗麻がうなづくと、何か見えない力のようなものが自分達を受け止めた。 そして遅れて来た宗麻を京介が受け止めると、三人は再び落下を始めた。これが直接触っている物以外の半径五メートル四方の動きを止める宗麻の能力である。 途中で止まったとはいえ、それでも約三階分の高さから二人を抱えて着地できるのは、脚力を強化する京介の能力がもたらしたしなやかさと、バランス感覚の賜物である。 普段は何かと理由をつけてケンカばかりしている二人であるが、こういったチームプレーは絶対に外さなかった。 「うぅ、怖かったぁ」 無事に着地が済むと、哀は震えながらその場にうずくまった。 「いい加減慣れろよ、まったく耳元で叫びやがって」 これ見よがしに京介が耳をほじる。 「すみません、この方法が早くて確実なものですから」 哀の背中に向かって申し訳なさそうに、宗麻が声をかける。 「確実っていっても目安なんでしょ?」 恨めしそうに哀が首だけを回して宗麻を見やる。 「はい、この辺りで反応が消えているようですね」 視線から逃れるように、宗麻は急にきびきびと周囲を探り始めた。 「あーはいはい。わかったから、いい加減とっとと探して帰ろうぜ」 返事を待たずに京介が歩き始めると、宗麻と哀もそれに続いた。 「で、さっきの話なんだけど、どんな化物だって」 歩き始めて数分、ポツリと会話が途切れたところで京介がさっきのラルヴァについて話を戻す。 しかし、宗麻は答えない。 「さっきの話なんだけど、どんなラルヴァなの」 険悪な空気になるのを察した哀が同じ質問をすると、宗麻は喜んで話し出した。 「熊鬼は熊のラルヴァというか、ほぼ熊そのものです。昔は山の神として崇められていたとか。怪力の持ち主ですが、縄張りを荒らさなければ無害なため中級A-1となっています」 「無視とか子供っぽいこといつまでもやってんじゃねぇよ」 宗麻は、なおも無視して説明を続ける。 「影縫は、群れで行動する下級ラルヴァで、空飛ぶエビのようなものだそうです。尾の部分の針で影を射抜かれると動けなくなるとか」 「お前の力に似てるな、そいつらの方が強そうだけど」 「試してみるか」 宗麻と京介はそれぞれ武器に手をかける。 「だから二人とも、ケンカはやめようよ」 放っておくと、この二人は本当に戦い出してしまうので、哀はとにかく話を続ける。 「ねえ、その熊鬼はどうして討伐指定になったの? 縄張りを荒さない限り無害なんでしょ」 「この辺りはトンネル建設が決まっていて、その作業の人が襲われたんです」 「胸クソわりぃな、国の都合かよ」 「……それでも私達みたいな能力者が普通に生きていくためには、学園とか国の命令で動かなくちゃいけないんだよね」 哀のつぶやきに京介と宗麻は答えることができなかった。 「ねえ、あれ……」 しばらく続いた気の重い沈黙を破って、哀がある一点を指差した。 倒れた木の根元に、何か黒い塊が蠢いている。 一つ一つの大きさはおよそ二○から三○センチ。鈍く光る外殻に覆われたそれが群がる様は、無数の触手を持つ新種の生物を思わせる。 「影縫は群れで行動し……、動けなくした動物を生きたまま食べるんです」 びちゃびちゃと不快な音を立てるそれを指して、搾り出すように宗麻が言った。 「散りやがれ、このエビ野郎」 京介が駆け出していく。強化されたその脚力で蹴りだされた身体が、一瞬にして音の壁を超える。 群がる影縫のギリギリ手前で、京介が急停止すると、後からやってきた空気の波に、影縫のほとんどが吹き飛ばされた。 直接突っ込まなかったのは、生存の可能性を考慮してのことである。 「くっ、哀見るな」 しかし、出てきたのは、行方不明の誰ともつかない状態だった、 ゆらゆらと虚空を漂う影縫の無機質な緑の目が、哀達を捕らえる。 「来ますよ。離れないでください」 宗麻が能力を展開する。 近くにいた影縫やそれが飛ばした針が空中に押し止められる。 しかし、剣が届く範囲には限りがあるため、影縫に止めを誘うとすると、どうしても哀から離れてしまう。 「クソッ! キリがねえ」 京介が一呼吸の間に十数匹を切り裂く。 しかしその数はあまり減ったようには見えない。 「おかしい」 動きを止められた影縫を切り捨て、宗麻が言った。 「こいつ等が弱すぎる。報告で聞いていた能力者のチームだったら、この程度のラルヴァは二、三分で殲滅できるはずだ」 「知るかよ。疲れてたんだろ」。 背中合わせに立ち止まる京介と宗麻。 パラパラと京介に切り刻まれた影縫達が地面に落ちていく。 「キョウちゃん、氷浦くん」 立ち尽くしていた哀が二人に声をかける。 「哀、隠れてろ!」 「すみませんが、フォローする余裕は無さそうです」 「……」 哀の能力はとても強力だが、効果は一匹に限られる。こういったラルヴァが相手では、役に立つことはできない。 自分のアンバランスな無力さに、ただ苛立つことしかできなかった。 京介と宗麻、二人合わせて落とした数は百を超えたくらいだろうか、やっと数が目に見えて減ってきたように感じる。 しかし、まだ四分の一程度に過ぎない。 「とにかくやるしかねぇんだろ、だったらさっさと片付けてやる」 「そう言う事だな、考えるのは後でいい」 京介と宗麻は再び飛び出してく。 「別にお前は考えててもいいんだぜ、お前なんかいてもいなくても変わんねぇからな」 「抜かせ」 京介の着地のタイミングを狙った針を宗麻が切り捨てる。 哀を物陰に残して、二人はかなり群れの奥まで切り込んでいった。 「立チ去レ」 低い唸り声が響いてくる。 影縫の群れとの反対側、森の奥から木々を押し退け、大きな影が近付いてくる。 「人ヨ、立チ去レェェエェェ!」 哀が身を隠していた岩を砕き、その巨体が現れた。 「熊鬼!?」 「まだ生き残ってやがったのか」 熊鬼が凄まじい勢いで、哀に突進する。 京介も宗麻も影縫との戦いで手一杯で、今からでは哀のフォローに間に合わない。 「山ヲ、汚スナァ!」 熊鬼の動きが哀に向かって腕を振り上げたところで、急に停止した。そのまま影縫から哀をかばうような位置に回りこむ。 視線を交わしたラルヴァを完全に支配するという哀の能力である。 「姫川さん」 「哀!」 ようやく哀の元に京介と宗麻が駆けつけてきた。 「私は大丈夫。今からは私も戦うから」 後ろに控えていた熊鬼が身構える。 「心得タ」 「……ごめんね」 影縫に向かっていく熊鬼に哀の言葉は届かない。 熊鬼は圧倒的だった。 その巨躯からは想像がつかない俊敏な動きに加え、データ通りの怪力、鋭い爪は軽く触れただけで易々と影縫を切り裂いていく。その咆哮は、衝撃だけで影縫の針を吹き飛ばした。 「やるじゃねえか、クマ公。こっちも負けてられねえぜ」 熊鬼の活躍の前に京介も改めて闘志を燃やし、力強く地面を蹴りだした。 赤い閃光が尾を引く。それが通った後には切り刻まれた影縫の死骸だけが残された。 「お前だけにおいしいところを持って行かれてたまるか」 宗麻も、京介や熊鬼程ではないにしろ確実に影縫を屠っていった。 「ウオォォー!」 熊鬼も咆哮を上げ、更に死骸の山を築いていく。 数分後には影縫の群れはすっかり消えていた。 「思ったより時間が時間がかかったな」 地面を焼き焦がし、京介が停止した。 「お前がちょこまかと動きすぎるからだ。逃げて散らばったヤツをいちいち追い回すのに無駄な時間がかかった」 木の枝をなぎ払い、宗麻も戻ってきた。 熊鬼もまた付き従うように哀の傍らに控えている。 「ねえ氷浦くん、この子助けてあげる事はできないのかな」 ねぎらうように熊鬼の頭を撫でながら、哀は宗麻に問いかけた。 「それは残念ながら許可する事はできないよ」 気まずそうに顔を逸らした宗麻からは、それでもきっぱりとした否定の言葉が出る。 元々熊鬼の縄張りに踏み入ったのは人間だ。そして、熊鬼が現れてくれたおかげで影縫退治が助けられたのも事実だった。 しかし、哀の力は一度発動させてしまったら、その対象が死ぬまでは解除ができない。 「恨むなら僕を恨んでください」 宗麻が剣を構える。 「待てよ」 宗麻の肩に京介の手が置かれる。 「邪魔をするな」 振り払う宗麻に、京介が落ち着いた声で告げた。 「お前の細っこい剣じゃ、コイツは斬れないだろ」 「そんな、キョウちゃんまで……」 熊鬼の扱いに不満を持っていたはずの京介の言葉に、哀はショックを隠せないようだ。 京介も哀の方は見ずに語る。 「悪いな、確かにそのクマ公はかわいそうだと思うけどよ……、俺には、お前の方が大事なんだよ」 京介の脚を覆う魂源力の鎧が、刃を思わせる鋭いシルエットに変化する。スピードやジャンプ力を重視した通常形態に対し、一撃必殺に特化した京介の本気の力である。 「逃げて」 「させるか!」 「不需要我領受(いらないのなら私が貰い受けるぞ)」 京介が熊鬼に回りこむよりも早く、熊鬼の後ろに青年が立っていた。深い水のを思わせる青い毛髪と、サファイアの輝きを持つ瞳、温もりを感じさせない白磁の肌は、一目でその青年が人とは違う何かであると感じさせる。 青年が熊鬼に顔を近付けると、鈍い光が青年に向かって吸い込まれていく。 「魂源力《アツィルト》を吸ってる!?」 魂源力を全て吸われた熊鬼がぐったりと、青年の腕の中から落ちていく。 哀は自分の能力が解除されたのを感じた。つまり熊鬼は魂源力の消耗で事切れたのだ。 青年はゆっくりと哀たちの方へ歩いてくる。その後ろにある新たにできた肉の塊に生き残っていた二、三匹の影縫が飛びついていく。 「何者だ……お前」 不測の事態に備え、宗麻は能力を全開にする。哀と京介の動きも止める事になるが、この得体の知れない相手にはどれだけ備えても不足という事は無いだろう。 「是那樣(ああ、そうか)……海一つ越えただけで言葉がかように異なるとは、人間とは厄介なものだ」 薄笑いを浮かべ、青年は宗麻の能力の範囲にギリギリ触れない所で立ち止まった。 「何モンだテメェ」 宗麻の能力で動きを止められているなか、京介が無理やり口を動かす。 「幻死の遣い。確かそう人間には呼ばれている」 幻死の遣いは、ゆっくりと値踏みするように京介、宗麻と視線を送った。そして視線が自分にに向かって来た時、哀は全力で能力を放った。 しかし、ほんの一瞬前までそこにいたはずの幻死の遣いが、哀の視線の先から消えていた。 「ほう、お前は目玉に魂源力が集まるのか」 耳元で囁くような声をかけられる。 熊鬼の後ろに現れたのと同じように、いつの間にか幻死の遣いは哀を後ろから抱きしめるように立っていた。 「くぅっ」 宗麻は京介へ視線を送ると、能力を解除した。 「テメェ、哀から離れやがれ」 同時に京介が幻死の遣いに飛びかかる。 「少しはやるようだな。先程の小娘達は、言葉を聞く余裕も無かったからなあ」 幻死の遣いがその動きを読んで飛び退く。 余裕を見せるように、嘲ってはいるが初めて京介にも動きを捕らえる事ができた。そのまま一気に畳み掛ける。 しかし、あと一歩の所で幻死の遣いを捉えきることができない。 「ふむ、速さは互角か。しかし小回りは苦手なようだな」 「クソォ」 京介は能力の鎧を一撃必殺形態から通常形態に戻した。バランスを増した脚力で、更に加速する。 「ほぉ更に速くなるのか。だが動きが直線的過ぎてかえって読みやすくなったぞ」 「ほれ、鬼さんこちら」 幻死の遣いはその場をほとんど動かずに、超音速の突進をかわし続ける。その動きにはまるで踊りを踊っているかのような余裕が伺えた。 だがそれで良い。 ほとんど動いていないつもりの幻死の遣いだが、わずかずつではあるが確実にある一方に向かっている。 そして、丁度そこに到達したとき、事態は一気に進む。 「な、何」 幻死の遣いを、宗麻の能力が捕らえる。 「この馬鹿が上手く目立ってくれてたからな、僕の気配は読めなかっただろう」 「ふん、この程度で捕らえたつもりか」 押さえつける力を幻死の遣いが、無理やり振り解くように動く。 「もちろんそんなつもりは無いさ」 能力を破られ、苦痛を感じているはずの宗麻が不敵に笑い、右手を上げた。その先に繋がっていた哀が、幻死の遣い目の前に躍り出る。 瞬間、交わされる視線。 「く、しまっ……」 幻死の遣いの、彼が彼として最後に放つ言葉は、最後まで紡がれることは無かった。 「うりゃあぁぁぁ!」 次の瞬間には、京介の一撃必殺形態の蹴りが決まっている。お互いの行動のタイミングをそれぞれが熟知した完璧な連携だった。 凄まじい衝撃波が派手な土煙を上げる。今まで上級ラルヴァであっても文字通り一撃で屠ってきた、京介の一撃必殺形態での蹴りである。当然今回も土煙が晴れると、幻死の遣いが灰になっているものだとそこにいる誰もが信じて疑わなかった。 「マジかよ。これで倒せないなんて」 しかし土煙が晴れて現れた幻死の遣いは、額を少し切った程度で、ほぼ無傷と言って過言ではなかった。 「余裕ぶってた訳だぜ」 これだけの魂源力《アツィルト》障壁なら、まともにダメージを与えられるのは醒徒会長の十二神将くらいだろう。 改めて、敵の強さにぞっとさせられる。 「とことん付き合ってやるぜ」 「いいよ。キョウちゃん」 強がって再び魂源力を集める京介を、哀が制止した。 「この人もさっきの熊鬼も、ただ生きていくために行動してただけなんだと思う。それでも、こうやってぶつかってしまったら、戦って、殺さなくちゃいけないなら、私が背負うから」 戦闘で守られ、自分が背負うべき罪も肩代わりさせてしまったら、自分は何のために存在するというのか。 だから自分で命じなければならない。 人の形をしたものに、死ね、と。 哀の目が鈍く光る。 「御心のままに」 幻死の遣いは、自分の首に手刀を突き入れる。 それは直接手を下さない分、より一層自分がこのラルヴァ以上に理から外れた存在である事を思い知らせた。 「姫川さん……」 「私は大丈夫だから。帰ろ」 哀は無理に笑顔を作った。 しかしそれは、これからは仲間として自分の罪は自分で背負っていくと、そんな決意の表れだった。 ここで使っている外国語はエキサイト翻訳をベースにしています おかしいのがあったら指摘してくれるとありがたいです トップに戻る 作品投稿場所に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/535.html
インターフェイスを経由していないかたは一度ご覧ください できるだけラノのバージョンで読んでください 3 「ぬををおおおーーーッ!! ――よし、一匹は俺でなんとかなる。お前たち、あと二匹は頼ん だッ!」 クマ階堂悟郎が、満身の力を籠めた両腕で魔甲蜈蚣〈ダイア・ピード〉を押さえ込む。魔甲 蜈蚣の毒牙が悟郎の首筋に食い込んでいるようにも見えるが、ヒグマの分厚い毛皮が肉にまで 達するのを防いでくれているのだろう。 魔甲蜈蚣はおおよそ体幅が30センチ、そして節足肢の幅もほぼ同じくらい。長さは実に6 メートルにもおよぶ、実にラルヴァらしいラルヴァだった。 その毒々しい紅色の外殻は7・62ミリライフル弾を受けつけず、重火器以上の破壊力か、 心得のある異能者の、魂源力(アツィルト)をまとった攻撃によってのみ打ち砕くことができ る。といっても固さそのものが普通のムカデ並というわけではなく、魂源力の籠った日本刀で あっても、斬撃能力そのものが向上されていないと刃を通すのは至難の業だ。 これだけ巨大な中級怪物が3体も出た場合、普通なら6人だけで対処するということはない。 急ごしらえの第8分隊にとって、魔甲蜈蚣はあきらかに荷の重い相手だった。三匹中の一匹を、 悟郎がひとりで抑えてくれているだけでも相当の行幸だ。あとでクマ牧場のヒグマさんにはた っぷりとごちそうを振る舞う必要があるだろう。 魔甲蜈蚣の残り二匹は出遅れていたものの、その無数の肢でもって急斜面をガサガサと音を たてながら登ってきている。 クマ階堂と、ひときわ大きかった一匹目の魔甲蜈蚣の勝負は我慢比べに移行していた。ヒグ マのパワーを得ている悟郎が魔甲蜈蚣を押し潰すのが先か、あるいは魔甲蜈蚣の毒牙がクマ階 堂の分厚い毛皮を貫くのが先か…… 残された組み合わせは、2対5――魔甲蜈蚣に「助け合い」の精神はないとはいえ、依然厳 しい戦いとなるだろうことに変わりはない。 「米良さん、援護はたのむ! 〈降ろす〉……ヒマはないか」 綾乃へ明確な指示を出してから、明日羽がやや期待の入り交じった視線を投げかけた先には 二礼がいる。彼女は実家の祭神を喚び出す能力を持っている巫女ではあるが、降神の儀式とい うのはそんなに簡単ではない。 「〈場〉の準備からしてないっすからねえ。しかもここは蝦夷地だし……もしかしたら、物珍 しさでひょっこり出てくるかもしれないっすけど」 あまり自信のなさそうな口調で応じた二礼だったが、 「なら、やってみて。一匹はちょっと連れまわしてくるから」 といって、質が前に出た。 「へ? あの化け物をひとりで引きつけるっていうんですか?」 露骨に胡散くさそうな顔をした綾乃に対して、質はそっけなく答える。 「ひっぱるだけ。間違っても倒すのは無理だから期待しないで」 崖を登ってくる魔甲蜈蚣はもう20メートルほどにまで近寄ってきていた。右の一匹に狙い を絞り、質はポケットから銀色のものをつまみ出すと、そのまま落とす。パチンコ球だ。 パチンコ球を20メートルの高さから鉄板へ向けて落としても大した音はしないものだが、 質の手を離れた銀球は、魔甲蜈蚣の頭にあたって異様なまでに鈍い響きを発した。上へ跳ね返 らず、斜め下へ落ちていくところを見ると、衝撃はほとんど全部魔甲蜈蚣に加えられたことが うかがえる。 魔甲蜈蚣が長大な身をしならせ、多脚をせわしなく動かしてキチキチと音を鳴らした。これ がこいつなりの怒りの表現なのかもしれない。基本は巨大な虫であるから、発声器官はないの だ。 質はといえば、無表情にパチンコ球をもうひとつ落としただけ。 反り返っていた魔甲蜈蚣の、背面ほどの硬度はない、腹側にあたったパチンコ球は、今度は 跳ね返されずにめり込んだ。 耳障りな雑音をあげながら、魔甲蜈蚣が山肌に順面で着地し直す。心持ち、先ほどより地面 と胴体の間の隙間が狭くなったようにも見える。 確実に質ひとりを目がけて、大アゴを打ち鳴らしながら魔甲蜈蚣が迫ってきた。ギリギリま で引き寄せて、質が崖ぎわからジャンプすると、その身がふわりと宙に浮いた。魔甲蜈蚣は半 身を伸ばしたが、質はその頭上を飛び越えて、谷底へ緩降下していった。方向転換して、魔甲 蜈蚣がそのあとを追う。 質の声が響いた。 「倒す方法は持ってないですからね、期待しても無駄だからそのつもりで!」 「え? なに、弱いとかいっといて念動力者かなにかですかあの人? パチンコ球で怪物の装 甲ぶち抜くし!」 綾乃が素っ頓狂な声をあげたところで、三匹目の魔甲蜈蚣が崖のふちから頭を出した。牙の 先から、毒液が滴り落ちる。 明日羽は刀を構えて前に出た。 「説明はあとで。私が頭を抑えて、やつの隙をうかがう。拍手くん、私の合図で発勁を打てる か?」 「こいつにダメージ通すとなると、たっぷり30秒は練気しないと無理!」 「相変わらず役に立たないっすねえ」 右手で御幣をつけた榊の枝を、左手で鈴を振りながら、二礼が軽口をたたく。すでに楮(こ うぞ)と三椏(みつまた)で漉かれた和紙を敷き、中央に実家のご神木の枝から削り出した木 刀を置いた、簡易陣で降神の儀式をはじめていた。普通神事の間は無駄口を慎むものだが、彼 女の実家の神さまは割に鷹揚な性格らしい。 「……練り終わったあとなら、気を五秒くらいなら保持できる、たぶん」 先輩としての威厳を示すためか、敬がなんとか請け合う。明日羽はひとつうなずいて、綾乃 のほうへ首を巡らせた。綾乃もこくりとうなずいて、合図を待つ。 魔甲蜈蚣は崖を登りきり、長い長い胴体を二度ほど折り返してから、人間どもへ、感情のこ もらぬ四つの単眼を向けた。一瞬の停滞。 「いまだ!」 叫ぶと同時に、わずかに右まわりの弧を描きながら、明日羽が突撃を敢行する。 「――ッつぇいやァッ!!」 裂帛の気合とともに、綾乃が火焔弾を放り投げた。さほどの豪速球というわけではなかった が、確実に魔甲蜈蚣の頭部に命中し、派手な爆発を起こす。 狙いどおり、明日羽は視線を封じられた魔甲蜈蚣の側面にまわりこむことができた。 喚声とともに刃を振るい、節肢を二本ばかり斬り飛ばす。何百本あるのか見当もつかないほ どだが、わずかであってもダメージはダメージだ。 首を振って魔甲蜈蚣は炎を振り払ったが、 「まだまだァッ!!」 綾乃の二撃目、三撃目が、悪趣味な紅色の外殻に弾けて爆閃を散らした。 爆風で長大な身をあおられかけ、腹側をさらすのはまずいと本能で察したのか、魔甲蜈蚣は 地面を節肢でしっかりとつかむ。 体高が低くなった魔甲蜈蚣の上を取って、明日羽が刀を逆手に持ち替え、体節の隙間へ刃を 打ち降ろした。鈍い金属音が響いたが、魔甲蜈蚣の身体へ食い込むにはいたらない。 「くっ……なんて硬さだ」 背中側の外殻を貫くことはできない、明日羽はそう判断したが、ラルヴァのほうは、側面の 小娘に目もくれず、一番小うるさい相手のほうへと突き進んでいく。 もちろん狙われたほうはたまったものではない。 「ちょっ……こっちくんな!」 綾乃は迎撃の火焔を浴びせるが、当然ながらより引きつける結果となるだけで効果は振るわ ない。 テンパリかかる綾乃へ、二礼がうしろから声をかけた。 「メラ子、こっち!」 「いいか、あの紙踏む前に、二回お辞儀して、二回拍手して、もう一回お辞儀だぞ」 捕足を加えてから、敬は綾乃と魔甲蜈蚣の間に割って入った。肩幅に開いた両脚で地面を踏 みしめ、腰を落とす。 「さあこい、一発は入れてやる……って、シカトかてめぇッ!?」 立ちはだかる敬に対して、魔甲蜈蚣は面倒くさいとでもいいたげに長大な身を捻って迂回し た。それほど綾乃の火焔攻撃がうっとうしかったのか。 「俺の脇を素通りするたぁ、ふてえ根性だ。振り向かせてやるぜ……!」 全身の気を錬成して左の掌底へ集束させていく敬だったが、同じく魔甲蜈蚣から無視されて いる明日羽が声を張った。 「フルパワーで打つなら、頭部側から36個目の体節を狙って! そこがそいつの魂源力の 要のようだ。刃物は通らないが、発勁なら浸透させることができるはず」 「36個目って……これ数えろと!?」 一般的なムカデの体節が200を超えることはないが、魔甲蜈蚣の場合はあきらかにもっと 多い。しかもかなりの速度で動いている。 とっさには無理だろう。 「〈縛〉で止めるから、ちょっと待って! ほら、メラ子早く」 さすがに余裕がなくなってきたか、舞いの動作は止めないものの、二礼の言葉に常の軽い調 子はない。最後の一拝と同時になぜかすっ転びながら、綾乃が和紙の敷物に飛び込む。二畳ほ どしかない、大して広くもない空間だが―― 魔甲蜈蚣が綾乃の後を追って結界へ突っ込むと、雷鳴を凝縮したような、残響こそないがす さまじい音があがった。見えない巨大な手で頭をつかまれたかのように、魔甲蜈蚣の前進が食 い止められる。胴体部が暴れ狂い、敬と明日羽はとっさに身を伏せて躱した。 「……ちっ、経費は学園持ちだっていうから、思いっきり高いやつ持ってきたのに」 悠然とした所作を保って舞い続けてはいるが、二礼の額には玉の汗が浮かんでいた。敷物に 記されている祝詞の文字が、蒼く発光している。二礼が神楽を通じてささげている魂源力を、 片端から消費しているのだろう。中級ラルヴァは霊的にも強大なパワーを持っているらしい。 魔甲蜈蚣は、闇雲に振り回していた胴体を落ち着かせ、がっしりと数百本の肢で地面をつか んだ。拘束されていた頭部が、じりじりとだが、動きはじめる。大アゴを開いて、結界の下地 になっている敷物へと迫る。霊媒質になっているだけで、物理的にはただの和紙だ。 「結界を破る気か……!」 怪物の意図を察して、立ちあがった敬がうしろから距離を詰める。 「動きが止まった、拍手くん、チャンスだ!」 「よっしゃ、36番目だったな!」 明日羽は、異能の力で魂源力の流れを視覚的に捉えることができる。魔甲蜈蚣は魂源力を攻 撃的な能力にはあまり転化していない。ならば魂源力の中枢に打撃を与えれば、防御力が弱ま って、綾乃の火焔や敬の通常発勁で充分なダメージを与えることができるようになるはずだ。 魔甲蜈蚣が結界用紙に大アゴを触れさせようというところで、 「今日の俺の全力だ、釣りはいらねぇから持ってけやァッ!!」 敬の、文字どおりに全身全霊が籠った左の掌打が、頭側から36個目の体節にたたき込ま れる。 瞬間、魔甲蜈蚣の全節足肢が、動きを止めた。明日羽の眼は、たしかにラルヴァの魂源力と 敬の魂源力が衝突したのを捉えていた。敬の魂源力は、一般人にしては多い、という程度だが、 総量(ストック)と流量(フロー)はイコールではない。全身の魂源力ほぼすべてを瞬時に放 出し切ることのできる敬の全力発勁は、その一撃に限れば歴戦のベテラン異能者とまったく遜 色ない。 確実に魔甲蜈蚣を弱体化させた。 とはいえ、倒しやすくなっただけで、凶暴さや攻撃力が低下したわけではない。 魔甲蜈蚣の動きが変わった。肢を踏ん張って、結界に突っ込んでいた頭部を引き抜きにかか る。いまの一撃は相当に効いたらしい。 「冗談じゃねえ、食われてたまる……か」 力を出し尽くしてふらふらになった敬は、魔甲蜈蚣が結界から抜け出すのと入れ替わりに 〈縛〉がかかるのもおかまいなしで和紙の敷物へと倒れ込む。 「センパーイ、だいじょぶですかー?」 綾乃がその身を揺するが、精根尽きはて、その上、結界へ踏み込む際に礼を失したものを等 しくいましめる〈縛〉を食らった敬はまったく応答しない。 「しばらく転がしておけばある程度回復するから、それより隊長を援護してあげて。こっちは もうちょっとかかる」 榊の枝を振りながら、二礼が綾乃をうながす。狙っていた獲物がどちらも安全地帯に逃げ込 んでしまったことを察したのか、魔甲蜈蚣は明日羽のほうへと向かっていた。明日羽は退がろ うとしないが、いくら防御力が低下したといっても、いまだ鋼の強度を誇る魔甲蜈蚣の外殻を 貫くのは難しいだろう。 「結界内から撃っちゃダメですか?」 「たぶん〈縛〉がかかるから、出て」 簡易的なものとはいえ、神域内での荒事は厳禁だろう。大丈夫であれば、安全なところから 一方的に遠隔攻撃ができるので楽ですむのだが、いまもし失敗すれば明日羽の命に関わる。 「うひぃ、了解……っと、なんか身体軽いな」 「いちおう〈加護〉はかけたから、がんばれ」 二礼のエールを背に、綾乃は結界から足を踏み出した。 「っし、いくぜ化けムカデ、食らえぇぇっ!『祝福されし灼熱波〈セイクリッド・バーニング ウェイヴ〉』!!」 いま考えたばかりのかけ声とともに、綾乃の両手から炎の束が迸り出た。結界内にしばらく とどまって気力と体力が回復している上に、もらったばかりの加護が乗っている。即席でこん な芸当ができるとは、荒削りながら綾乃はかなりセンスが良いらしい。 魔甲蜈蚣の背に直撃した灼熱波は、先ほどまでの、爆発したり弾き返されておしまいだった ものとは違った。炎の渦と化して、長大な怪物を包み込む。魔甲蜈蚣が身悶えして苦しみはじ めた。 「おお、いけるんじゃね?」 我ながら会心の攻撃に、綾乃の頬がゆるむ。 しかし―― 魔甲蜈蚣は、その身を丸めると地面を転がりまわりだした。意思を持つかのようにまとわり ついていた炎も、振り払われて消えていく。 火を揉み潰し終え、再び全身を伸ばした魔甲蜈蚣は、片方の触角が焼け落ちた頭部を綾乃へ と向けた。 「結界に戻るんだ、米良さん!」 駆け寄った明日羽が、魔甲蜈蚣へと刀を突き込んだ。魂源力の隙間を狙った今回の攻撃は見 事に決まり、尖っ先が二割ほど体節の継ぎ目にめり込む。青紫の、毒々しい色をした体液が噴 き出した。 苦痛の感覚はあるのか、魔甲蜈蚣が大きく身を捻った。突き刺さってしまった刀は抜くこと ができず、明日羽は仕方なく得物を手放したが、跳び退がるのが一瞬遅れ、波打つ胴体の直撃 を受けてしまった。 吹き飛ばされる。 ぶつかってから明日羽へ攻撃を決めたことに気づいたらしく、一度地面ではねてから動かな くなった彼女へ向け、魔甲蜈蚣が動きだした。 「――先輩っ!」 後退するどころか前へ出ながら、綾乃が火焔弾を投げつけた。しかし、まだ中等部生である 彼女にフル・パワーの攻撃を連続で出せるほどの魂源力はない。さっきの「祝福されし灼熱波 〈セイクリッド・バーニングウェイヴ〉」も、結界内での休息と、もらった「加護」の賜物だ。 魔甲蜈蚣の側面で爆発が生じたが、注意を引くこともできなかった。どうやら、攻撃を受け たら単純に応戦する、という性質ではないらしい。直前にダメージを与えてきた相手を狙うの だろうか。 どうにか半身を起こした明日羽だったが、もう逃げられる距離ではなくなっていた。魔甲蜈 蚣が、大アゴを全開に広げる。 刹那。 すさまじい速度で飛来してきた二礼の木刀が、魔甲蜈蚣の頭を消し飛ばした。 木刀はそのままの勢いで、はるか山嶺の稜線目がけて飛んでいく。 振り返った明日羽と綾乃が見たのは、舞うのを終えている二礼と、相変わらず伸びたままの 敬、そして―― 雅やかな雰囲気の、羽衣をまとった天女。どうやら彼女が二礼の実家の祭神さまらしい。六 等身弱の、十歳ちょっとの少女にしか見えないのは、招請の儀式が完璧ではないからだろう。 神さまは、左手に光を束ねて象作《かたちづく》られている弓を下げていた。どうやらこれ で木刀を射ち出したようだ。 『結界の外へ攻撃する手段はこれくらいしかなくてな』 「いや、助かったっすよ。また木刀なくしちゃったのは痛いっすけど」 『まったくだ、あいつをあまり削るなよ。いちおうあれもあれで〈神〉なのだからな。従者が いなくなっては、出雲へ出向くとき恰好がつかん』 「次のはなくさないように気をつけるっす」 神さまとごく普通に会話をしている二礼の様子に、明日羽と綾乃は目をしばたたかせるばか りだったが、 『なんだその間抜け面は? こちらへこい、歩ける程度には体力を回復させてやる。だが、も う戦いは控えたがよいぞ』 神さまのほうは気安いようで、敬を足蹴にしながらふたりへ手招きする。敬がうめき声をあ げながらも、もぞもぞと動きだしたところを見ると、虐待しているのではなく回復させてあげ ているらしい。 そこへ、全身擦り切れまみれになりながらも、クマ階堂悟郎が現れた。 「いやあ、まさか中級の大物にひとりで勝てるとは思わなかったぞ」 「まじであれをひとりで倒しましたか……化け物め」 綾乃が呆然となるのも当然だろう。こちらは総力戦の挙句に、神さまの助けまで借りてよう やく勝ったというのに。 『あの奇怪な毛玉はなんだ?』 「いちおう、うちの学校の先輩っすよ。動物と融合できる能力を持ってるっす」 二礼の説明で納得したのかどうか、神さまはクマ階堂へも鷹揚に話しかけた。 『お主もこっちへこい、傷くらいは治してやろう。それと、お主蠱毒(こどく)に冒されてお るぞ。放っておくと、その羆神(カムイ)との合身を解いた途端に死ぬ』 「な、なんだって!?」 『とりあえず毒も抜いてやるから、あとで当宮へ詣るように』 「あ、はい、わかりました。お賽銭はいかほど準備していけばよろしいでしょう?」 『ふむ、話の理解が早いやつだな。あとでこいつに聞いておけ。……二礼、水増し請求して自 分の懐に収めようなどとは考えないようにな』 「いやっすねえ、金銭にはがめつくないっすよ自分」 『うん? だれと一緒だと思ってもらっては困るだと?』 「なにもいってないっす、なにも考えてないっす」 にこやかに首を振る二礼の表情が、普段より硬いのは気のせいだろうか。 ――ようやく、なにか忘れていたことを一同が思い出したのは、消耗した四人への応急処置 を済ませた神さまが去り、再出発の準備ができてからだった。 「……あ、重換先輩どこ?」 綾乃がぽつりとつぶやく。 「そういえば」 「あのムカデももう一匹残ってるはずなんだよな……」 「む、いわれてみれば足りなくなっている」 四人が崖ぎわへ行って周囲を見まわしている間に、明日羽は本営へ問い合わせてみた。こち らかテレパスを発信する手段はないので、モバイルを使うことになる。 回答まで十数秒。緊張していた明日羽の表情が、安堵へと変わった。 「――大丈夫、無事らしい。魔甲蜈蚣の反応も消えていないようだが」 「よかった。迎えにいけそうっすか?」 二礼の質問に、明日羽は少し難しい顔になった。 「北へ900メートル、結構いっちゃってるな。それに、あれがもう一匹いるとなると――」 「一度、戻ったほうがよさげじゃないかと」 綾乃の提案は現実的なものだった。神さまも、もう戦うのは避けたほうがよいといっていた ほどだ。綾乃本人に加え、全力で発勁を打った敬、降神を行った二礼も、歩く体力はあるもの の魂源力は空っぽだ。まだ元気に戦えるのはクマ悟郎くらいだろう。 明日羽自身も、傷を治してはもらえたが本調子にはほど遠い。しかも、魔甲蜈蚣の分厚い外 殻に負けて、刀は刃こぼれしてしまっていた。 「そうだな。ほかにも戻っている分隊があるようだし、二階堂先輩にはそっちのチームの元気 な隊員と合流して再出撃してもらうか」 撤収申請は受理され、ラルヴァのいないルートを教えてもらって、第8分隊はベースキャン プへ帰還することになった。 ※ 14個の分隊と12名の遊撃担当、さらにバックアップの自衛隊と政府直属の特務部隊―― これらすべての連携を保持するために、司令部はフル回転していた。 弥乃里の「位相界の眼〈Ethereal Eye〉」は、決して怪物の存在を見落とさぬ、神眼に等し い能力ではあるが、 「実際にフタを開けてみるまでなにが出たのかわからない」 というこまった特性がある。いまのところ蟲型ラルヴァ以外は出現していないようだが、蟲 型といってもその強さはピンキリだ。大々蚊〈ガガガンボ〉のようなネタレベルの雑魚もいれ ば、魔甲蜈蚣〈ダイア・ピード〉のように並の異能者では太刀打ちできないほど強力なやつも いる。 作戦開始から2時間で、すでに、14分隊のうち3分隊が継戦能力を喪失していた。下級を 16体、中級を2体倒した第8分隊は及第点といえたが、第2分隊と第14分隊は最初の遭遇 戦でリソースの大半を使い切り、遊撃隊員に救出されていた。 「戦力は等分に割り振ったはずなのよねえ。それが下策というのはわかっているけど、組織戦 じゃないし……やりにくいわあ」 各分隊と遊撃手、バックアップチーム、そしてラルヴァ反応――それらが刻一刻と投影型デ ィスプレイ上で動くのを見ながら、都治倉生徒課長はため息をついた。 通常の組織戦編成であれば、アタッカーをまとめて打撃チームが編成される。それと複数の 援護チームをセットにし、斥候の得てきた情報を元に展開、攻撃を開始――もっとも、古びて 久しいこのやりかたは、今世紀に入ってからの対テロ戦争においてはまったく役に立たなくな っているが。 相手が知性を持たない蟲型ラルヴァとなれば、もはやその動きには秩序の欠片もない。 「せめて軍隊アリレベルでいいから動きに法則があれば、罠張ってさっさと片づくんだけど」 そういいながら、都治倉はディスプレイへ目をやった。「位相界の眼〈Ethereal Eye〉」が 捉えているラルヴァ反応は547体。2時間で150は減っているが、このペースだとあと7 時間以上かかってしまう。そんなに長く戦い続けられるほど体力のある者は、異能者といえど も多くない。 「一度昼くらいで切り上げて、シフト制にして3日くらいじっくりやろうかしらねえ……」 そう、大儀げにつぶやく都治倉のかたわらへ、学園生がひとりやってきた。 涼しげな声が響く。 「私を使ってはどうですか? 50くらいなら一時間で片づけてきますが」 「あなたの仕事は本営の防衛よ。戦力になる人は出払っているのだから、きちんとポジション を守ってちょうだい」 大仰な動作で肩をすくめてみせた学園生に対し、都治倉は少し表情を緩めた。 「フォクシィア、あなたに頼んで楽をしたいとは、私も内心では思っているのよ。だけど今日 は特異技研もきてるし、自衛隊も展開してる」 「ええ、承知してます。出し惜しみということでしょう。しかし、連中は見てるだけで本当に 役に立たない。軽火器で始末できるものくらい、事前に処分しておけばいいものを」 「私の顔を立ててくれているのよ。裏を返せば学園側の指揮能力の不足を印象づけようとして いる」 フォクシィアと呼ばれた少女の表情が変わった。 都治倉は、自嘲ぎみに笑い、話を継ぐ。 「あなたは本当にこんな話にばかり興味を持つのね。——普段の好成績は末端の異能者チーム の編成と連携の妙によるもので、個々は充分に優秀なはずの急造チームをまともに運用できな いというのなら、学園上層部は分不相応な戦力を抱えているということになる。動員された学 園生の指揮権をもぎ取るには、充分な大義名分になるわね」 「それがわかっていながら、なお私を使おうとしないのはなぜでしょうか?」 「あなたが〈ジョーカー〉だからよ。ここでも〈ジョーカー〉にすがるというなら、私が普段 の仕事で学園を統括できているのも〈ジョーカー〉に頼っているからにすぎない、という証明 になるってわけ」 フォクシィアの顔に理解の色が浮かんだが、続いた科白は皮肉げな口調だった。 「あなたの〈ジョーカー〉というのは、デリンジャー軍曹ですか。上官にはしたくないが部下 にはもっといらないタイプの人間ですね。学園での彼女の、スタンドアロンな立場は適正にあ っていると思っていましたが」 「あなたNATOではOF2でしょ。もしあの娘と同じ戦場に立つことがあったら、あなたが 上官よ」 「学園での私はしがない中等部生ですよ。風紀委員長どのに逆らうなど」 そういうフォクシィアだが、実際のところまったく中等部生には見えない。168センチの 長身で、白皙の大人びた美貌。教室にいるときも口ぶりはいまとまったく同じだ。カナダから の留学生だから同い歳の日本の子より年上に見える、といっても、ここまでくるとやや無理が ある。 とはいえ彼女は本当に生まれて14年しか経っていないのだが。 「そういえば、戦術プランナーがいませんね。演算系の異能者も全員出払っていたのですか?」 フォクシィアが話題を変えた。それでも、あくまで戦術的なことだ。 「将来有望な〈策士ークオレンティンー〉ならひとり心あたりがあったのだけどね。歳之瀬(と しのせ)先生に拒否権を発動されちゃって、連れてこられなかったわ」 「拒否権? 双葉学園では一般教諭にそんな越権を与えているのですか?」 「比喩よ、冗談。でも、強く反対されたのはたしかだけどね。『雑魚の掃討戦に〈ワンオフ〉 を呼び込むつもりか』だなんてすごまれちゃ、さすがに無理を押し切れないわ」 「演算系の異能者ひとりに〈ワンオフ〉が興味を持つ? その一般教諭、偏執狂かなにかでは ないのですか。精神鑑定はしてあるのでしょうね?」 フォクシィアは、胡散くさいというレベルを通り越して、攻撃的な口調になっていた。都治 倉は、意識して穏やかな声で応じる。 「歳之瀬先生は、目をかけていた教え子が怪物に再起不能な障害を負わされて以降、戦闘に長 けていない有望な異能者を外部の目にさらすことを極端に恐れるようになっているわ。気持は わかるけれどね」 「ここに詰めている非戦闘要員は有能でないとでも? 自分が目をかけていない学園生なら、 どうなってもいいというのですかその教諭は」 僭越な物いいに、都治倉はさすがに柳眉をつりあげた。 「口が過ぎるわよ。あなたは強いからそういうことがいえる」 「あなたこそ、我々の過去をわかっていていったでしょう?」 「なら、目をかけていた者を喪った悲しみ、目を配れなかったがゆえに守りきれなかった後悔 ——わかってもいいんじゃない?」 「……浅慮でした。慎みます」 一礼し、ひとつ息をついてからフォクシィアはきびすを返した。見事な超ロングストレート の銀髪がひるがえる。 「やっぱりまだまだ子供ね」 司令室から退出するフォクシィアの背中を見送って、都治倉は教育者としての、慈しみある 笑みを浮かべるのだった。 その一方、四方山智佳は視線誘導方式のポイントカーソルを動かして、フォクシィアの行く 先をマスキングしていた。 「あんま動かんでほしいなあ。みーの異能って問答無用なんだからさ。ディスプレイ上にいき なり怪物反応が出たら大混乱になるじゃないか」 もちろん口に出してはいない。フォクシィアの正体を知らされているのは、司令部の学園生 スタッフの中では弥乃里と智佳だけだった。彼女はかなり高位のデミヒューマンラルヴァの一 種なのだ。ランクでいえば中級S−1。決して無条件で友好的な種族ではない。もちろんそう いう意味では、となりの国の同じ人間と大した違いはないというものだが。 ——と。 [まこちはだいじょうぶなの?] モニタの一隅に、テキストボックスが現れた。弥乃里からのプライベートメッセージだ。異 能力「位相界の眼〈Ethereal Eye〉」を使用している最中の弥乃里は、極度の集中を必要とし、 外界を知覚することがほぼできなくなる。つまり完全に無防備な状態になるわけで、彼女が通 常の討伐ミッションには喚ばれない最大の要因がこれだった。 智佳は、弥乃里の捉えた怪物反応の情報をコンピュータへ伝える脳発火読み取り装置にひと つデコード回路を追加して、自分の端末へ簡単な文章を送信できるように細工していた。返信 のほうは、弥乃里が周辺情報の遮断のためにつけているイヤホンの、緊急事態通知用のスピー カを通じてテキストを読みあげられるようにしてある。 いまのところ注意されたことはない。割に堂々と改造を施したので、ちょっと調べればわか るはずだ。つまり黙認されているのだろう。 各分隊へ伝達するべき情報を手早く選別してテレパス班の端末へ、あるいは直接、各分隊長 の持つ端末へ送りながら、智佳は返信メッセージを入力した。 [無事だよ。久留間先輩が迎えにいったから、たぶん15分くらいで戻ってくる] [よかった〜] ほんの短いテキストだが、弥乃里がどれだけ安堵したのか、智佳には我がことのようにわか っていた。質の異能はあきらかに戦闘向けではない。いや、ほかの、しかるべき能力を持った 者と組めば、ひょっとすると戦略級のすさまじい威力を生み出すかもしれなかったが、いまの ところは、まだ実現性はなかった。智佳自ら「情報集約〈Intelligent Node〉」の異能で調べ たのだから間違いない。可能性の示唆がなされたにとどまっている。 はやく質が帰ってきますように。この先は喚び出されることがありませんように。 その願いと裏腹に、今後学園が自分たちの異能を手放すつもりはないだろうということには、 智佳も弥乃里も薄々勘づいていた。 前へ 次へ インターフェイスページへ トップに戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/1343.html
水無瀬 響 基本情報 名前 水無瀬 響(みなせ ひびき) 学年・クラス 高等部 二年生 C組 性別 女 年齢 17 身長 157cm 体重 42kg 性格 温厚で物静かな平和主義者世界平和を真面目に願っている優等生 生い立ち 不明 基本口調・人称 おしとやかで感情を表にださない一人称は私 二人称はあなた 特記事項 他人に流されやすいが意外に芯は強い黒髪ロングヘアーの美人スリーサイズは87/58/64とそこそこおっぱい キャラデータ情報 総合ポイント 22 レベル 7 物理攻防(近) 1 物理攻防(遠) 1 精神攻防 6 体力 2 学力 4 魅力 4 運 3 能力 なし 特記事項 秀才 その他詳細な設定 戦闘能力に関しては不明な点が多い 異能力者ではないと自称しているが、魂源力は蒼魔と同じくらいある 力や体力は殆どないが学力は高い典型的なガリ勉タイプ かわいいので許されている 登場作品 【双葉学園忌憚研究部 第一話「薪流し」 前編】 作者のコメント 秘密の多いヒロイン 更新も多分多くなるヒロイン
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/732.html
音羽 繋 基本情報 名前 音羽 繋(おとわ つなぐ) 学年・クラス 高等部 2−A 性別 女 年齢 16 身長 165 体重 ? 性格 基本的には快活で積極的だが、現在は多少消極的になった 生い立ち 子供の頃にラルヴァによって両親が死亡。その後親戚に引き取られるも、スカウトを受けて中学より双葉学園に在籍 基本口調・人称 私、わたし。〜だよ。〜わよ。〜ね。口調に特徴はありません 特記事項 相当量の魂源力を持つものの能力は未発現。それがコンプレックスになっている キャラデータ情報 総合ポイント レベル 物理攻防(近) 物理攻防(遠) 精神攻防 体力 学力 魅力 運 能力 特記事項 その他詳細な設定 装備品やキャラの特徴、また上の項目で書き切れなかったことなど 思う存分設定を書きまくってください 登場作品 登場作品のリンクを貼ってください。後から追加もしていってください 作者のコメント 実質的な主人公ですが、フツーの子です
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/590.html
ラノで読む その日の放課後、ソラはヒナと一緒に下校している途中に呼び出された。 「危ないことしないでね」 「大丈夫。俺、結構強いんだぜ」 そんな何気ない会話しかすることが出来なかった。 だがそれも仕方の無い話だ。水際警備隊の仕事は、常に危険と隣り合わせで極秘扱いの物なのだから。 ヒナに話が聞こえないような位置に移動して、端末に応答する。 「遅くなってすみません」 「うむ、それはいい。空から百を超える魂源力《アツィルト》の接近を観測した」 用件はいつもの事といえば、それまでの内容だ。 「わかりましたけど、空軍や他の航空戦力は何やってるんですか?」 「別件で大量発生した鳥型ラルヴァの討伐に出動している。君の任務は、このタイミングの良すぎる襲撃に人間が関わっていればその撃退、ただのラルヴァの大量発生ならばその殲滅だ」 また、バックアップ無しの空中戦か。いつもの事と言ってしまえばそれまでだが、今回は気合の入り方が違った。 「良いもんだな、声をかけてもらえるのって」 「ん、何か言ったか?」 「いえ、何でも」 聞かれなくて良かったと思いながら、ソラはゆっくりと上昇していった。 * そんなソラを、ファインダーに収めていた人物がいた。 太陽の光を背に真っ直ぐに空へと上っていく人影、わざとハレーションを残し、丁度光で顔が隠れるようにしてシャッターを切る。 宗教画に描かれた天使のような一枚となった。 「……外には出せないな」 ボソっとつぶやいてカメラを構えていた男、二階堂侍郎はカメラをしまい、バイクに跨った。 (今日は空がキナ臭い) アクセルを絞り、自宅であるマンションへ急ぐ。 侍郎は武道に明け暮れる他の兄弟たちと違い、天才高校生カメラマンとしてその名を馳せていた。 高台にある高層マンションの最上階、カメラマンとしての収入があっても少し苦しいところだが、侍郎は多少の無理をしてでもここに住んでいた。 「シュン」 ベランダに出て腕を差し出すと、一羽の隼《ハヤブサ》がそこにとまった。 侍郎が唯一心を許せる友と認める隼《ハヤブサ》のシュンである。急降下で獲物を仕留める隼《ハヤブサ》は、生息にある程度の高さが必要なのだ。 「いくぞ」 侍郎の声に答えるように、シュンが泣き声を上げる。鷹狩りに利用される猛禽類だけあって、隼《ハヤブサ》も頭が良かった。 「合体変身!」 掛け声と共に侍郎は光に包まれる。それが晴れるとバイザーに鳥の翼の意匠をあしらった白い全身スーツの男が現れる。 「……空は俺が守る」 そう言って侍郎は、着ている服を脱ぎだした。 翼の力を使って飛ぶためらしく、侍郎は変身したら全ての服を脱がないとその力を一〇〇パーセント活かせないのだ。 上着をたたみ、パンツと靴下は洗濯機に放り込んで、侍郎は空へと飛び出していった。 * 「蜂? 凄いデカイ蜂だ」 学園の上空に現れた多数の魂源力《アツィルト》反応の元は、どうやらこの蜂の大群だったらしい。 「アイスさん、どうやらただのラルヴァの大量発生みたいです。これより殲滅に移ります」 ソラは『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』を展開させる。 「いや、待て! もっと上に一つだけ動きが違う反応がある、その正体を探ってくれ」 「でも……」 まだかなりの上空にいるとはいえ、ラルヴァは結構な数だ。学園に降りていったらちゃんと対応できるのだろうか。そもそも自分をすんなり通してくれる保障も無い。 「心配無い。どうやら物好きな空の守護者がやって来たようだ」 「空の守護者?」 ソラが周囲を見回すと、ブンと空気を切り裂くような音がして、蜂のラルヴァの一匹が消える。 代わりに現れたのは、白い特撮ヒーローのような格好をした人影だった。 「あなたは?」 「……空は俺が守る!」 ソラの問いかけと微妙に、ずれた答えを返す白い人影。 「放っておけ、そこはソイツに任せておけば大丈夫だ」 「わかりました。ここは頼みます」 アイスの指示に従いまた上昇を始めながら、ソラは白い人影に声をかけた。 答えの代わりに人影は、また一匹のラルヴァを切り裂く。 確かにこの強さなら、心配は要らなさそうだ。 * 侍郎は次々と蜂のラルヴァを墜としていった。 空を飛ぶ生き物の中で、隼《ハヤブサ》を超えるスピードを出す者はいない。 合体変身した侍郎も変わらずにその能力を持っていた。 上昇と降下を繰り返し、目にも止まらぬ速さで蜂の群れを鋭い爪で切り裂いていく。 (……数が多い) 合体した生物の能力を再現するには、魂源力《アツイルト》を消費するため、侍郎も長時間の飛行には耐えられない。 今の時点で倒したのはおよそ半分といったところである。 (早く片付けなければ) しかし、蜂型ラルヴァも全くの低能という訳ではないようで、徐々に群れとしての統率を取り戻し、侍郎のスピードに対応してきた。 上昇と降下の僅かな隙間を狙って、数匹の蜂が侍郎を囲む。 「くぅ」 侍郎はそれを足場に拳を放つが、一撃必殺の威力は無い。 四方から巨大蜂のグロテスクな顎が、迫ってくる。 「フェザーエッジ!」 侍郎の身体から、鳥の羽の形をした魂源力《アツィルト》の刃が放たれる。 侍郎を囲んでいた、蜂の群れがそれによって切り裂かれていく。 今のでかなりの力を使ってしまい、残りの魂源力《アツイルト》はもう心許無い。 巨大蜂はかなり減らしたが、それでもまだ半分ほど残っている。 (最後まで持つのか?) いや、弱気になる訳にはいかない。自分が守らなければ、誰が空を守るというのか? 気持ちを奮い立たせ、また構え直す。一撃必殺の切り裂き攻撃はもう使えないが、だからといって引く訳には行かない。 「うぉぉ!」 無口な侍郎にしては珍しく、雄たけびを上げてまだ五十を超える蜂の群れへと向かっていった。 * 侍郎が戦い続けるその上空でソラは、この騒動の原因らしい存在と対峙していた。 「女王蜂って訳か……しかし、それは何だ」 蜂をそのまま巨大化させた下のラルヴァと違い、蜂の怪人といった感じのラルヴァが愛おしそうな様子で、男を抱えて飛んでいる。 男はずっと笛に口をつけているが、音は聞こえてこない。 「アイスさん、蜂のラルヴァを操っていると思わしき存在を捕捉しました」 「どんな様子だ?」 アイスの問いに思わずソラは口ごもった。 なんて説明すればいいんだ、これ。 「ええと……、二人、いや一人と一匹です」 見たままを正確に言うなら恐らくこうだと思う。 「こちらでは魂源力《アツイルト》の反応は一つしか捕捉できていない。状況は正確に報告したまへ」 「は、はい。笛を吹いた男が、女王蜂らしきものに抱えてられて飛んでます」 「ラルヴァが人間に命令されて人を襲っているのか!?」 通信の向こうで、アイスが息を飲む。 「『別に珍しいこっちゃねえだろ?』」 女王蜂が、言葉を発した。 「『オレはハーメルン、このは孔雀蜂共の裏ボスってヤツだ』」 どうやら、この笛の男が能力によって女王蜂のラルヴァをひては、蜂のラルヴァ全体を操っているのだろう。 だったらやるべきことは一つだ。 「うりゃあ!」 ソラはハーメルンと名乗った男をめがけ蹴りを放つ。この際とにかくこの蜂の怪人は無視だ。 「『バカか? 初めから狙ってくる事がわかれば、コイツなら簡単に防げるんだよ』」 ハーメルンと名乗った男は、中肢に抱えられたまま勝ち誇るように宣言する。 「それはどうかな?」 ソラは指の微かな動きで狙いを定め、透明な脚で辺りを薙ぎ払う。 とっさの事に女王蜂は上脚を使ってガードする。 そしてその一瞬の隙をソラは見逃さない。 「ただの超能力による右ストレート!!《ファントム・ギャラクティカ》」 意識が他に移った刹那、ハーメルンの笛に拳を叩き込む。 バラバラに砕けた笛がソラに吸い込まれていった。 「な……」 初めて、ハーメルンという男が自分の声を発した。 「ぎゃぁぁああああああ!」 そしてそれはすぐ、断末魔の悲鳴に変わった。 * ソラ達の戦いを遠くの空から二人の人影が、観察していた。 以前学園に姿を現した直進する刺繍糸のスティッチ《ストレイト・ステイツチ》という小太りの男と、原点《ウルケル》を名乗る無精髭の男だ。 「これは、俺の任務のハズだろう」 スティッチが不機嫌そうな様子で、ウルケルに声をかける。彼の任務は、ソラなど水際警備隊にプレッシャーを与え、双葉学園に不和と違和を蓄積することである。 「良いじゃないか、利用できる物は何でも利用すれば、はグリムリアの連中も、自分の手柄だと思っているだろう」 ウルケルは、ニヤリと含みのある笑いを漏らす。 グリムリアとは、ラルヴァと共闘するゲリラ朽ち逝く灰姫《トウルーエンド・グリムリア》の事である。 ウルケルは事前にこの計画を察知し、裏から有形無形のサポートをしていたのだった。 * あれから更に六割近く減らしたところで、流石に厳しくなってきていた。 「……ハァハァハァハァ」 魂源力《アツイルト》を上手くやりくりしなければならず、全てを一撃必殺という訳にもいかない。 「どうした? もうギブアップか、侍郎兄さん? これだからもやしだって言うんだ」 突如現れた黒い影が蜂の一匹を打ち墜とした。 「悟郎!」 現れたのは五つ子である二階堂兄弟の五男、哺乳類との合体変身の能力を持つ二階堂悟郎である。 「蝙蝠《コウモリ》を捕まえるのに苦労してな」 その漆黒の姿は蝙蝠《コウモリ》と合体したものであるらしい。やはり飛ぶのに邪魔になるのか、普段は変身しても着ている胴着を脱いでいた。 「余計なお世話だ」 振り絞った魂源力《アツイルト》を拳に乗せ、近くの蜂に叩き込む。 バツンという音を立てバラバラになった蜂が落ちていく。 「空を守るのは俺だ」 「へ、それだけ言えれば問題ないな。真空・竜巻通し!」 悟郎の背中からマントのような物が現れ、回転する悟郎に巻き取られるうちに先端が鋭い砲弾のようになる。それが蜂の群れに飛び込み、一瞬のうちに数十匹の蜂を撃墜していく。 弟にばかりイイ格好させるものかと、侍郎もまた群れに飛び込んでいく。 (足りない力は闘志で補えば良い! 俺は、俺達は二階堂兄弟だ!!) 普段無口なためなかなか分からないが、侍郎はかなり熱い心を持った男であった。 * 女王蜂に首筋を噛み付かれたハーメルンは、一瞬のうちに干からび、灰になった。 「よくぞあの男から解放してくたな。礼を言うぞ少年」 身体に付いた灰を払い、女王蜂が口を開いた。 その威圧感は、ハーメルンに操られている時の比ではない。 「しかし、せっかくの我が子らがどうやら全滅させられてしまったようだ。たらふく食べてまた生まねばならんな」 「行かせるか!」 ソラは女王蜂に飛び掛っていった。同時に後ろから見えない刃で切りつける。 しかし女王は前股と中股を上手く使って両方を受け止める。 「また奇襲か芸の無い。お前のその玩具、あの男には見えなかったようだが、妾にははっきりと見えるぞ」 「それでも俺にはこれしか無いんだよ」 今度は女王蜂の足元から、槍を伸ばす。 女王蜂は身体を捻ねってかわすと同時に、ソラへ針を突き出した。 「ぐぅ」 何とかよけられはしたが、針がかすっただけでその部分から服がボロボロと灰になって崩れる。 「ったく、どうしてこうも破られるんだ」 「よく避けたな。しかし次はそうはゆかんぞ」 あらゆる角度から女王蜂がソラに攻撃を仕掛ける。手のような前股、脚のような後股、暗器のように奇襲を掛けてくる中股、そして一撃必殺の針とその攻撃は変幻自在にソラを攻め立てた。 (つ、強い) 見えないというアドバンテージを失ったソラは、何とかギミックを総動員して攻撃を防いでいるが、全く反撃に移る隙が見当たらない。 「まあ良い、面倒だ。貴様は妾をあの男から解放した功績もある故、今回は見逃してやろう」 決定打に繋がらないことに苛立ちを覚えたのか、女王蜂は『『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』をかいくぐって降下を始めた。 (しまった) ソラは慌てて追いかけるが、安全装置《セーフティ》のせいで思うように降下速度が出せない。 「くっそお!」 機能がだめなら自力で急ぐしかない。ソラは足場《ステップ》を飛び出して、表面を駆け出した。 * 「ハァ!」 「とりゃあ!」 ほぼ同時に侍郎と悟郎が蜂を打ち墜とす。 百を超えていた蜂の大群を、たった二人で倒してしまったことになる。 「もともと力が尽きかけてた割には、よく持ってるじゃないか」 「……お前こそ、飛ばし過ぎだ」 二人とも満身創痍といった様子であった。 そこに一つの影が迫る。先程まで相手をしていた蜂を大きくしたようなものではなく、蜂の怪人というシルエットだ。 「ソイツを通さないでください。ソイツが親玉です」 「兄さん、アレをやるぞ」 悟郎は侍郎に合図を送った。 「ああ、いいだろう」 頷いて侍郎が高く飛び上がる。 「うわああぁぁぁぁっ!!」 悟郎はまた漆黒のな竜巻となる。 「スーパー!」 「ダブル!」 「「キィィィィィック!!!」」 白と黒の人影が上下に分かれ、蹴りを放つ。 「グワァァァ!」 悲鳴を上げボロボロになりながらも、女王蜂はまだ下を目指そうとする。 「……倒しきれなかったか」 「いや、最後のトドメは間に合ったようだ」 再び身構える侍郎を制し、悟郎が女王蜂の上を指差す。 その先にはソラが、自分の能力で作り出した足場を真っ直ぐ女王蜂めがけて駆け下りて来ていた。 「ただの超能力による右ストレート!!《ファントム・ギャラクティカ》」 「ば、馬鹿な……妾が、死ぬなど……ありえん」 駆け下りた勢いをそのまま乗せた拳でソラの足場に叩きつけられ、女王蜂は灰になって崩れた。 「助かりました。大丈夫ですか? 二人とも」 ソラはあの大群を全部狩りつくしてくれたらしい二人に声を掛けた。 「……問題、ない……」 気が抜けたのか、ついに侍郎の変身が解ける。 すかさず悟郎がそれを受け止め、 「すまないな、地上まで降ろしてやってくれ」 気を失った侍郎を足場《ステップ》に横たえた。 「ちょっと、そんなの自分でやってくださいよ」 いきなり全裸の大男を押し付けられたソラが抗議する。 「俺もそろそろ限界なんだ。変身してられているうちに胴着を取りに行かないとならんのでな」 しかし悟郎はそれだけ言い残して、『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』を上手く足場に利用して急降下していった。 超音波で空間を把握する蝙蝠《コウモリ》にとって、透明な事は関係ないらしい。 ソラの苦労を知ってか知らずでか、シュンが一回ピィーと鳴いた。 結局ソラは、どうする事もできずに侍郎と一緒に降りてきいた。 (しかし、この後どうしたら良いんだ?) この気を失っている全裸の男がどこの誰なのか、ソラは全く知らない。 どうしたらいいのか全くわからないままソラは、地上についてしまった。 「また全裸か!!」「変態だー!」「この変質者!!」「どうして全裸の変態ばかり空から降りてくるんだ?」 どこか聞き覚えのある罵倒がソラを出迎える。 だがソラはそんなもの全く気にもならない。ただヒナがそこにいてくれるだけで何も恐れるものは無かった。 「ただいま」 「危ないこと無かった?」 「大丈夫」 ソラが「俺は結構強いっていっただろ?」と続けようしたところで、 「空は……、俺が……、守、る……」 まだ戦っているつもりでいるのか、最悪のタイミングで侍郎がうわ言を口にする。 「そんな、ソラ……、上半身はだけてるし、その人は裸だし……不潔、不潔だわ!」 わなわなと首を振り、ヒナが去っていった。 「ちょ、誤解だ。待ってくれ! ヒナぁぁぁぁ」 慌てたソラは、珍しく土煙を上げてヒナを追いかけていった。 ちなみにヒナのソラに対する誤解は数日で解けたが、侍郎の同性愛者説は島の外部にまで流れかなりあとまで尾を引いたという。 了 二階堂シリーズ トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/1092.html
【ある中華料理店店員の選択】 その3 7.最高の再会、最悪の再会 一瞬の圧迫感、そして続く浮遊感。 「うおっ」 背中から何か柔らかいものの上に拍手は落下した。 体の何処にも被害は無い。 床が薄く輝き、その光に照らされて周りを見ることが出来た。 周囲は一面黒い壁。 凡そ3m四方だろうか、上はもっと余裕がありそうだが夕焼け空は見えずに薄ぼんやり天井のような所が見える。 ここが、あの壁の中だった。 体が妙に重く感じられるのは。 「そうだ、あいつは?」 手元の鈴を見ると輝きは強くなり、振動でスズムシのように鳴いていた。 しかし周囲を見渡しても誰も見えない。 「何処にいるんだ!?」 体を起こして四つんばいになる。 床もあの柔らかなゴムっぽい感触なのか少し不安定な感じがした。 「遅かった……のか?」 がくりと肩を落し、うな垂れ床を見る。 「……」 「……」 目が合った。 光る床に長く黒い髪が広がり、所々汚れた制服、口元にはマフラー、腕には腕章、そして寝ていても自己主張を忘れないおっぱい。 約15時間ぶりの再会だった。 今までからすると短い時間での再会、しかし拍手の顔が笑うような、泣きそうな、くしゃくしゃの顔に変わっていく。 それを呆気に取られたような顔で見上げる黒い瞳。 「よ」 「の」 二人の声が重なる。 「良かったぶ」 「のかんか痴れ者がっ!」 四つんばいで覆いかぶさるようにしていた拍手の股間に下から掬い上げるような膝が入った。 「ふ」 口から僅かな空気を漏らすと、拍手はゆっくりと横向きに倒れていく。 余りの激痛に指一本動かすことすら出来ず、口の端からは泡が漏れていた。 「いきなり押し潰されたと思えば圧し掛かってきおるとは、恥を知れ!」 拍手はそれに応えない、いや応えられない。 余りにも綺麗に入りすぎたのか、白目を剥いていたからだ。 時折思い返したかのように拍手の体がビクンビクンと痙攣する。 それをまったく気にすることも無く胡坐をかいた少女がひたすら罵り続けるという全く持って、奇妙な空間が広がっていた。 「えらい目にあった……えーっと神様?」 「うむ、この身は神楽二礼《かぐらにれい》のものではあるがな」 発光する床に胡坐を掻いている少女が応えた。 それにまだ鈍痛が残る部位に負担を掛けぬためか、それとも敬を表するためか正座で向き合う拍手。 二人が座る光る床は神楽二礼の能力である神下ろしの舞台、ある程度の治癒効果が泡吹いて白目で痙攣していた拍手を10分ほどで動けるまでに回復させていた。 「何でまた神様が中に入ってるんだ? あいつは?」 「眠っておる、この空間を維持するのに随分と無茶をしおったからな」 3m四方の場を見回す神様。 「二礼だけでは場を維持できん、かと言って下りているのも燃費が悪い」 「はぁ」 「本来神下ろしとは巫女の身を寄り代にして行われるもの、これが一番良い選択だ」 しかし、と区切り。 「何しにここへ来た」 「知り合いが行方不明にあったら探すのが普通だろ?」 「格好着けたつもりか、たわけが」 サムズアップをまでして見せた拍手に三白眼になった神様が返す。 「いや、その、そんなにばっさり切り捨てられるとかなりキツイんですが……」 「本心からじゃ、余計なことをしおって。あれを見ろ」 神様が壁の方を指差した。 大人しく従う拍手だったが、特に何も見当たる物は無い。 だと言うのに何処と無く違和感を感じた。 先ほどまでと何かが違う? 「壁が少し近くなったような気がする?」 「うむ、場が狭まっておる」 「やっぱりか……あと、ここってやっぱりアレの中になるんだよなぁ」 さっき背中から取り込まれた時のことを思い出した。 その前に見て、触れた感触、そして今も場の向こう側で囲い込むようにある黒い壁。 「『転がり目玉』か、こいつ」 夏にこの場所で神下ろしを手伝いボロボロになって倒した下級ラルヴァ。 自らの形を変え、その身を石に変化する黒い目玉。 変化した時はラルヴァの反応を出さないという性質がせんせーさんの索敵能力から逃れていたのだろう。 しかしそれでも疑問がいくつか残る。 「夏のときにいたのは残さずに倒しきったんじゃなかったっけ、まだいたのか?」 「何を言っておる、こやつはあの時の畜生じゃ」 「へ?」 「貴様が倒し損ねておったんじゃろ、役立たずめが」 「いや、いやいや、それは無い」 あの時に放った渾身の発勁は間違いなく手ごたえがあった。 鉄鍋越しの一撃だったとはいえ、下級ラルヴァが耐えられるような威力では無いはずだ。 「とどめを貴様に託したのが最大の失策じゃ。こやつは何故にその身を変貌させた?」 「何故って、確かあの時は俺の血を吸って口付きになったんだったか」 止血の為に巻いたバンダナから俺の血を啜り、ただの目玉から進化した。 「まさか、俺の勁が無効化されていた……?」 あれは自分の出来る技のうちでも最大最高のはず、仕留めたと思っていたのは勘違いだったというのだろうか。 拍手が両の手のひらを見つめた。 あの時に空いた空洞は今は跡形も無く塞がっている。 「無効化などされておらん、仕留めきったと思っておったが……触媒となったのが貴様の血だったのが原因かのぅ」 「俺の血が?」 「うむ、血とは生命の源、貴様らのいう魂源力も溶け込んでおる。それを吸って変化しおったのだ、貴様の一撃も同じ力である以上その威力を軽減させたのであろうよ」 「なるほど、でも仕留めそこなったのはそれで納得いってもでかさがおかしい。あいつは50cm程のサイズしかなかった筈だ」 周りの壁、そして外にいたときに叩いた感触は分厚いコンクリートそのもの。 どう考えてもサイズが夏の時の比では無い。 「食ったんであろうよ」 対する神様の応えはシンプルなものだった。 「食った?」 「でかくなるには食うのが一番早い。仕留めそこなったとはいえその身は僅かであった筈、始めは己が身よりも小さき蟲どもを。次いで畜生どもを片端から」 食らい、肉とし、増える。 夏のあの日より5ヶ月と少し。 以前の轍を踏まぬよう、その身が獲物を取り込む罠と成り得るほどに周到に。 そういえば復讐心というか敵意を持った相手にはとことんまで抗うような性格のラルヴァだったな、と拍手は思い出した。 「そうか、文化祭の時からこっち風紀委員が総出で猫の失踪を探ってたな。その犯人はこいつか」 「童であろうと人一人消えれば騒ぎになるが、畜生が消えてもさほどのものではない。これほどの体躯になるまで幾つの魂を食ろうたのじゃろうな」 「そうして虎視眈々と機会を窺って、昨日ついに行動に打って出たってことか……」 昨夜、神楽が訪ねて来る寸前、裏口から妙な音が聞こえた。 あの時は直後に表の扉が開いたので引き返したが、あのまま裏路地に出ていればと思うと拍手の背に冷たい汗が流れる。 「しかしあの時、よくぞ儀を行っていたものよな」 「うん?」 「ちゃはんとかいう炒り米の奉納を受ける為に呼びだしに応じたが、あれが無ければ危うかった。場から出たとはいえすぐに戻るわけでは無い、貴様が持っている鈴の片割れの中でまだ居残っていたのよ」 そして、店を出た直後に路地裏の方へ進み、暗がりを覗き込んだ際に飲み込まれたということらしい。 「そうそう、これを返しておくぞ。実に良いものであった」 神様が胸元に手を突っ込み赤い何かを取り出し拍手に放る。 片手でそれをキャッチした拍手の手の中にあったのは、 「これ、俺が渡したお守り? 元から大分ボロだったけど酷くなってないか?」 昨夜に神楽と神具の鈴と交換した『安産祈願』のお守り。 拍手の言うとおり、端のほうが僅かに焦げたようになり、他の部分も糸がほつれて見るも無残になってしまっていた。 「それを作ったものは持ち主のことを相当気に掛けていたのだろう、下手な護符など及びにつかぬほど強き力が篭められておった」 「そっか……」 幼少の頃から病気がちで体を鍛えに鍛えても未だに人並みの力しか持たない身だが、致命的な怪我や病を持ったことは無かった。 聞けば難産で下手をすれば死産の可能性まであったと聞く。 それらの厄災を跳ね除け、ここまで身を守ってくれていたお守り。 「それが無ければこの場を作ることも出来ずに今頃は囲う壁の一部であっただろうよ」 最後に一仕事、己が使命を全うしてくれたのだ。 拍手はそっと胸ポケットにそれを仕舞い込んだ。 「さて、改めて問うが何をしにきた?」 そんな拍手に神様が問う。 「あいつは今寝てるんだよな」 「二礼のことか、うむ。一つの身に二つの心は持てんからな、この身に入っている間は無理やりに眠らせておる」 それを確認すると拍手は頷き、 「助けに来た」 本心を言う。 普段であれば隠すべき相手に聞こえぬ今は、聞こえぬからこそその目を見つめ返すことが出来た。 「ふむ、それは良いがどうするつもりだ?」 神様が続ける。 「体躯もそうだが生命力もこの間の比ではない、あの時ですら貴様の一撃では止めには至っておらん。今の貴様に何か術《すべ》はあるのか、よもや何も考えておらんとは言うまいな」 もっともな言い分だった。 今の状態は完全に籠の中の鳥、逃げ出すには籠を破壊するか入り口を開けるかしないといけない。 それに応えるかのようにゆっくりと正座の拍手は前に倒れていき、 「……ごめんなさい」 「貴様は本当に何も考えぬ馬鹿だな」 見事な土下座だった。 それからしばらく何も出来ず、無言の時間が流れた。 神楽の中に入っている神様は場の中央に胡坐を掻いて座り込み瞑想を、拍手は壁を観察して回っていた。 「何か無いか、突破口になりそうなものは……」 体の形を変え、石にもできる不思議生物とはいえラルヴァという生き物である以上何かあるはず、口元に手を当てあれこれと考えながら拍手は歩く。 こんな時、仲間たちならどうしていただろうか。 冬季休校に入る前まではほとんど毎日顔を合わせていた級友達を思い出す。 「ま、少なくとも諦めるって選択肢だけは絶対に持ってないわな」 それだけは間違いない。 変態揃いと悪名高い2-Cではあったが、あの連中の心が折れるのだけは想像がつかなかった。 簡単に折れた自分とはわけが違う、そして自分ももう心が折れはしない。 拍手が制服の上から自分の胸に手を当てた。 「しかし、それとこれとは話が違うわけでマジで何か方法無いもんか」 口調だけはおちゃらけているが、拍手の内心はかなり焦っていた。 気付かぬほどにゆっくりとではあるが、確実に場が狭くなってきている。 神様が瞑想してそれに抗っているのか今は侵食が止まっているようだが、そう長くは持たないだろう。 目を瞑るその額にうっすらと汗が滲んでいるのが見えた。 「俺に力さえあればなぁ」 拳を握り、魂源力を奮い立たせようとするが上手くいかない。 精神統一して時間を掛けて汲み上げるならともかく、拍手には咄嗟に魂源力を使うことはできない。 足りない分は気で補うが、それでも一般人よりも少しは強い程度。 手首には風紀委員の班長に掴まれた時の感触がまだある。 今こそいちかばちかで発勁を打ち込むかべきだろうか? 力を篭められた手がギリ、と音を立てた。 「力か、貴様は魂源力とやらが足らんのか?」 「神様は応えづらいことを聞くなぁ」 瞑想の体勢を崩さずに問うてくる神様に拍手が苦笑いを返す。 「魂源力が生まれつきもってはいるけどほとんど無いんだよ。無さ過ぎてちゃんとした異能力にすらならない」 友人にどうしたら仕えるのかコツを聞いたこともある。 帰ってきたのは「勘」や「慣れ」、「考えるな感じろ」という答え。 「無さ過ぎて使えないのなら、足せばよかろうに」 「足せばって……無理だ。超科学でも魂源力の供給する機械なんて聞いたことも無い」 魂源力と名はついて、計ることは出来てもその実態はあまり解明されていないのだ。 分かっていることは異能力を使うためのエネルギーで、ラルヴァに対する人類の切り札ということくらいだろう。 「ふむ、近《ちこ》うよれ」 「ん?」 「近《ちこ》うよれと言っている」 「はぁ」 拍手が言われるままに場の中央へと歩み寄る。 間近に立ったのを確認すると神様も瞑想を止めて立ち上がると、それにつられて床に撒かれた髪が僅かに上質な絹の擦れあうような音を立てて纏まっていく。 よく見ると服は汚れているが、髪や体には埃一つついていなかった。 「神様が入ってる効果か?」 思わず拍手の口から疑問がこぼれるが、 「何を馬鹿なことを言っとる、ほれ背中向けんか」 「何だよ神様?」 「つべこべ言わずにさっさとせい」 訝しがる拍手の腕を掴んで無理やり背中を向かせる。 当然拍手には神様の姿が見えなくなり、薄明るい床と真っ黒の壁しか見えなくなった。 微妙に不安を感じ始めた拍手をよそに、背後ではごそごそと神様が背中を撫で回しはじめた。 「ちょ、神様くすぐったいって」 「多少痛いかもしれんが、堪えろ」 「へ?」 言われて直後、拍手の背中に当てられた神様の手がほんの一瞬だけ眩く光った。 「ぐ、あ……」 拍手が膝をつき、両腕で自分を抱きしめたまま頭を床に擦り付ける。 意識の奥、普段魂源力を取り出す際にイメージする井戸が輝いていた。 普段は真っ暗な中にぽつんと浮かぶ井戸の奥から桶一杯分の魂源力しか取り出すイメージしかできないというのに。 今は井戸どころかそれ以外の部分も白く塗りつぶされていく。 「あ、あががが」 魂源力と気を混ぜた時とは比べ物にならないほどの衝撃が襲う。 内側から膨れ上がる何かに体が破裂しそうな気さえ拍手には感じられた。 「しまった、そういう力もあったか」 神様が呟く声も痛みで聞き取ることなど出来ない。 「――ッ!?」 声さえあげることなく拍手は一分程のあいだ、床をのた打ち回った。 本人の体感時間はおそらく一分ではなくもっととてつもなく長い時間であっただろう。 やがて暴れる動きが緩慢になり、ようやく荒い息共に拍手は動きを止めた。 「なんだ……神様何したんだ?」 ゴロリと仰向けに寝転がり息も絶え絶えに黒い天井を見上げる拍手。 「うむ、貴様の発勁とやらを真似てみた」 「ダメー! 人にそんな危ない事しちゃダメー!」 「やかましい。送り込み破壊するのではなく、密度を上げて純粋に送り込むだけだったのだが」 神様が寝転んだままの拍手の下半身を見やる。 「……ふむ、存外上手くいったな」 「え?」 つられて拍手も自分の足を見た。 制服のズボン越しに自分の足が輝きを放っているのが見える。 「何だコリャ」 対極図を捩った様な幾何学模様の光が足を取り巻き床にも模様が繋がったまま、まるで根を張ったかのように広がっていた。 「上手くはいったが非常に不味い、おい貴様」 「え、これ俺の能力? ひゃっほーい! これで俺も能力者だぁーッ!」 「黙れ馬鹿め」 嬉しそうに自分の足をペタペタと撫で回す拍手の頭に神様のおみ足が華麗な軌道を描いて直撃する。 「お、おおおおおおお」 学園御用達のローファーキック、硬い素材が側頭部にぶちあたりでかいタンコブになっていた。 今度は足ではなく自分の頭を撫で回す拍手。 しばらく掛かるかと思われたが、すぐにタンコブは小さくなりうっすら血がにじんでいた部分も傷跡すら無くなる。 「おお、凄いぞ俺ってあいたぁっ!」 「凄くなどあるものか、良く聞け」 今度は勢い良く頭を平手で叩いた神様が拍手に言う。 「貴様の能力はおそらく地より力を吸い上げる類のものだ。普段は呼び水になるべき力が溜まる前に使われていたのだろう、まぁそんなことはどうでも良い。 問題は、だ」 床に広がっている文様を指差し、 「今ここにおいては場の力を吸い上げておる、見よ」 次に壁の方を指差した。 言われるままにそちらを見れば先ほどよりも若干速い速度で場が縮み、壁が迫ってきている。 場の広さは2,5m四方にまで狭まっていた。 「状況は最悪じゃ。貴様が決めろ」 「決めろって何を……?」 うむ、とかなり神妙な顔をした神様が頷く。 「神楽二礼の力は場を作り我の寝床とを繋ぐ道を作るもの。我が帰るのと同時に無理矢理この身をあちらに引きずり込めなくも無い」 「何だそれ、ようするに神様とこいつは逃げれたのかよ?」 「だが、人をあそこに運び入れたことなど無い。どんな変化をもたらすか分からん」 「変化って……死ぬとかか? 逃げ込んで死ぬなんて本末転倒じゃねぇか」 拍手が叫んだ。 「死ぬかも知れんし死なぬかも知れん。だが、何より寝たままの二礼の魂がどうなるのかが分からん。だからこそこの場に留まっておったのじゃ」 神様の、神楽二礼の顔が歪む。 「本当に最悪の場合はその手を使うつもりであったが、まだ手段はある。貴様のせいで猶予がもう無いがな」 「手段? どんな手段だ?」 問う拍手。 「今のまま壁に穴を開けて抜ける自信はあるか?」 そう返されて拍手が手を握り、開く。 正直なところ良く分からない。 今までとは段違いに体の中に力はある。 あるが、既に厚みは1mを越えているであろう黒い壁を貫けるのだろうか。 しかもただ貫けば良いと言うわけではない。 人が通れるほどの広さを空けたところで、その上で進化した『転がり目玉』からは追撃の危険性もある。 いや、そもそも始めての力を制御できるかどうかもあやしい。 一撃で『転がり目玉』を倒し脱出するというのがベストだが、そう上手くはいかないだろう。 「わかんねぇ」 それが拍手の正直な感想だった。 いけるかもしれないが、いけないかもしれない。 最悪の場合、ほとんど効かずに無駄に場を狭めて壁に飲み込まれるという可能性もある。 何せ敵は拍手の血で進化したのだから。 それに、今日は入島ゲートを越えてから星崎と蛇蝎さんに会った。 あの二人が何かしらの行動を起こしてくれている可能性だって有る。まぁ、これは希望にすぎないが。 「でも、とりあえず試してみる価値はある!」 やらずに死ぬよりやって死ねだ。 行き当たりばったりその場のノリで、それでこそ拍手敬。 後先考えずに行動したせいでクラスメートの星崎真琴、六谷彩子《ろくたにあやこ》から何度飛ばされ殴られたことか。 今回は命が掛かっている分慎重になるべきなのだろう。 しかし縮こまっていてもしょうがない。 「よーっし、いっちょやってみっか」 壁の手前へと移動する。 手のひらを見ながら握り、開いた。 「うん」 力の通りは悪くない。 意識するだけで手のひらに力が集まるのが分かった。 これが考えずに感じるということだったのか、拍手は納得した。 結局のところ持たねば分からぬ類のものだったのだ。 うじうじと悩んでいてもしょうがなかった。 もう体の底から汲み上げるイメージはいらない。 呼吸を落ち着かせ、全身の力を左手の手のひらに集まるように。 「ぬおっ」 ズッと壁が近寄った。 力を集めたのに合わせて減った分を足に展開されている紋様が場から吸い上げたせいだ。 発動するには力を他人からもらわないとダメ、発動したら勝手に動く。 「厄介な能力にあたったなぁ」 ただ、この力を集める能力というのは拍手にとっては好都合だ。 己の持つ唯一の武器が非常に使いやすくなる。 力が集まったせいで輝きを増している左手に、もう一度全身から力が集まるようにして。 「いくぞ!」 さらに吸い上げたことで近寄る壁にカウンターを合わせるようにして渾身の勁を合わせた。 白く発光したエネルギー波のようなものが手のひらから膨れ上がり、黒い壁を抉り取っていく。 抉られた表面が波打ち、千切れ飛んだ黒い肉片が他の壁に触れては沈み込み溶けこんで吸収されていく。 放たれた光は一気に進み、分厚い壁の向こう、コンクリートに変化させている表面に達するとそこにヒビをいれ、 「くそっ、無理か……!」 そこで止まった。 掲げられた左手を中心として円錐のように抉り取った穴は周囲から水と肉が膨れ上がる醜悪な音を立てて盛り上がり元に戻る。 その部分の修復に力が向いたのか、狭まった場も元と同じように広がった。 「ぬお」 突如として体に圧し掛かってくる疲労感に立っていられることも出来ず尻餅をついた。 発勁を打った後に何時も襲い掛かってくるものだ。 能力で魂源力を増やすことは出来ても、それを操りきる為の体力が拍手には無い。 ふひー、と口の端から吐息を漏らして肩を落とした。 「何を勝手に馬鹿なことをしとる! この馬鹿が! 畜生脳が!!」 「あいだぁっ!?」 盛大に頭を張られて拍手が叫び声を上げる。 「見たか、勝手なことしおって場が減っただろうに!」 「えー、でも戻ったから問題無い問題ない」 「あるわ! 馬鹿が!」 もう一度頭に平手打ちをお見舞いしようとするが、拍手は頭を動かして避けて見せた。 「この阿呆ぅが……まぁいい。それで、さっきので何か思いつくことでもあったのか?」 避けられた手をプラプラ振りながら神様が問う。 「いや、全然。疲れただけだわ」 あっさりと無意味だったことを認める拍手にげんなりとした目を向ける神様だったが、急に真剣な顔になった。 「これで打つ手は無しか?」 「ああ、今ので無理ならもうどうしようもないな」 間違いなく現時点で最大の一撃だった。 連発をしようにも前にしか打てない上に一撃あてたら次の一撃を当てに前に進まねばならない。 そんなことしている間に間違いなく上下左右から壁に押しつぶされる。 ここで完全に拍手には打つ手が無くなった。 いよいよもっては愚作ではあるがその手段を取らねばならないだろう。 「ふむ、ではそこで手段だ。良く聞け拍手敬」 初めて神様が拍手を名前で呼んだ。 能面のように表情を消し、言う。 「貴様の命を捧げろ、それで間違いなく二礼は救えるだろう」 「俺を食うのか?」 拍手が動揺も無しに応えた。 古来より神は人身御供を贄として奇跡を起こす。 ある種予想出来なくも無い提案だった。 「誰が貴様など食うか、貴様を食うぐらいならちゃあはんとやらを食う方が良い」 「じゃ、何で命を」 「我が、貴様に下りる」 右手の人差し指が、拍手の胸元に突きつけられた。 まるで心臓を越えて拍手の魂を指差すかのように。 「……何だって?」 「神の力を貸してやろうというのだ。代償は間違いなく命になるだろうがな」 さぁ、と一つ置き、 「選べ、拍手敬よ。 人の子よ。 思い人の為に命を捧げる覚悟はあるか?」 歌うように、神楽二礼の顔で神様が笑う。 これが、ただの中華料理店店員だった拍手敬の人生最大の選択となる。 「俺は……」 『神様力を貸してくれ』 『きっと壁の向こうで仲間がいてくれる』 トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/789.html
天道 ユリカ 「もう十年だもん。私、あのときのお兄ちゃんと同い年なんだよ」 基本情報 名前 天道 ユリカ(てんどう ゆりか) 学年・クラス 3年M組 性別 女 年齢 18歳 身長 161cm 体重 49kg スリーサイズ B 85 W 58 H 84(Cカップ) 性格 物静か 生い立ち 学園の研究施設で働く考古学者の娘 基本口調・人称 私、あなた、~です 特記事項 キャラデータ情報 総合ポイント 24 レベル 8 近距離攻撃 1 遠距離攻撃 1 異能のレベル 9 体力・防御力 2 学力 1 魅力 7 運 3 能力 非能力者とマジックアイテムを融合契約させる その他詳細な設定 十年前自分の能力によって多くの人を不幸にしてしまった経験から自分の能力を嫌い封印している その壮絶な経験から周りより大人びているが外見とは裏腹にどこかおバカである 融合契約 意識を失った非能力者とマジックアイテムを一体化させる事によって 魂源力や契約を必要とするマジックアイテムの能力を非能力者に発動可能にする 融合契約中は身体も強化される 登場作品 【喫茶アミーガで今日も特訓中】 作者のコメント
https://w.atwiki.jp/wostomo/pages/16.html
熊狩行動イベントの詳細を記載するページです。 種別 内容 種類 通常イベント クールタイム/開催周期 2日。R4以上が開催予定を登録する 開催期間 開始から30分 概要 同盟罠に捕えた熊を殴ってポイントを競う 詳細 熊狩罠を設置し、開始し熊を捕獲して集結を行うことで攻撃する。攻撃ダメージによってポイントを得られる。個人でのダメージポイントによって、報酬がランクアップしていく。 報酬 報酬テーブル参照 必要アイテム 【爆発する矢】灯台報酬で手に入る 備考 報酬テーブル 一定ダメージポイントずつ、各個人で貰える個数が増えていく(ランキングは報酬に影響しない)。 小刻みに報酬のランクが用意されているが、アイテムが変わる箇所のみ記載。 変化するのは最初のアイテムのみ。 0~325K 10ポイント強化経験値パーツ同盟コイン生肉木材石炭鉄鉱 325K~ 精錬エナジー源石同盟コイン生肉木材石炭鉄鉱 罠強化テーブル 【爆発する矢】を収める事でレベルアップできる 貢献報酬として、同盟コインが1個納める毎に200得られる レベル 効果 割合 Lv.1 狂暴巨熊への攻撃力上昇 +5% Lv.2 〃 +10% Lv.3 〃 +15% Lv.4 〃 +20% Lv.5 〃 +25% その他 同盟罠の設置場所出来るだけ人の中心に配置したい:集結後の攻撃到達、復帰までの時間短縮のため 注意点集結は必ず最低5分待機となる 終了5分と少し前に新規集結をストップすること:終了後に到達しダメージは無視されるため