約 3,038,004 件
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2348.html
国民単位での寝不足の原因を、「深夜番組が面白すぎるから」とするユニークな意見がある。 なるほど、深夜ドラマあり、スポーツニュースあり、映画もあればお笑いもある。そしてこなたのような趣味の持ち主を夢中にさせてやまないアニメも……。 これだけあれば、自分に合うものを何かしら見つけ出す事は難しくなかろうし、少なくともこれだけ色々繰り出されればしばらくは飽きる事はない。寝不足になるほど熱中する気持ちも分からないではない。 ……でも、毎晩はいいなあ。 ゆたかはあくびをしながら、テレビの画面から目を離す。前に見た時は「1」のところで体を重ねて熱愛中だった時計の針が、今は背中を向け合うようにして別居状態である。眠気覚ましにと淹れたコーヒー同様、長針と短針の夫婦仲はすっかり冷めてしまったらしい。二人の子供か飼い犬のように、細い秒針だけが元気に文字盤を走り回っていた。 今、泉家にはゆたか一人。こなたは彼女の将来やら成績やらを心配したかがみに引っ張り出され、泊り込みの勉強会で不在である。何の教科かは分からないが、かがみは「基礎と根性を叩き直してやるわ」と息巻いていたという。でも今頃は、翌日が休みであるのをいい事に、深夜アニメをリアルタイムで見るべく臨戦体勢であろうか。 そうじろうも不在であったが、こちらは泊り込みではなく、恩義ある先輩作家の出版記念パーティに招かれているためである。ゆたかは、そうじろうの帰りを待って起きていた。というのも……。 「何の本なんですか?」 慣れない正装のため、ネクタイの長さの調節に苦心するそうじろうに聞いてみた。 「酒をテーマにしたエッセイ集だよ。業界じゃ『利き酒大魔王』の異名を持つほどの……まあ、言ってしまえばマニアでね。趣味が昂じに昂じて、連載の話が来て、それが好評で本まで出しちゃったのさ。あーあ、俺の趣味じゃそうはいかないなあ……」 ゆたかにはピーンと来るものがあった。酒に関連する本の出版記念パーティなら、即ちそれ自体が酒の席となることは想像に難くないし、恩義ある先輩作家が主役となれば、二次会・三次会にも付き合う事になるだろう。 「ゆーちゃん、先に寝てていいよ」 そうじろうはそう言って出かけていったものの、妙な胸騒ぎがしてならない。そうじろうはちゃんと帰って来られるだろうか。警察に保護された挙句にゆいの世話になるような事はないだろうか。確かめてからでないと眠れそうになく、例え眠れたとしても夢見が良いものにはならないだろう。そう思ったゆたかは、深夜番組を友にして起きている事にしたのだった。 テレビ欄にはタイトルの一部しか記載されていないため、内容が計り知れない番組の正体を確かめようとリモコンに手を乗せた時、外の方で車が止まる音が聞こえた。ゆいのヴィヴィオではない。第一停まり方が丁寧だ。 「伯父さん……?」 タクシーで帰ったか、誰かに送ってもらったか。やがて走り去る音がした。 ゆたかは立ち上がり、玄関へと向かう。ゆたかがすでに寝たものだと思っていたのか、インターフォンは鳴らない。その代わりドア越しに、 「鍵……鍵……」 という声が聞こえた。呂律が回らなくなってはいるが、紛れもなくそうじろうの声である。 「伯父さん、今開けます」 今会いに行きますくらいのノリでそう言って、ゆたかはサンダルをつっかけてロックを解除。ドアをそっと開ける。 「お゛お゛~、ゆ゛ーちゃん~。待っててくれたがぁ~」 そんな声とともにそうじろうが中に入ってきた。視点の低いゆたかからすると、伐採された大木の如しである。そうじろうはたたきの所で一回転すると、段差に当たって倒れる。バランスが悪かったのか、遠くから見た雪崩のようにゆっくりズルズルとたたきの方へ落ち、そこに膝を突く形で止まった。何故か太腿にネクタイが巻かれている。ネクタイは首に巻くからneck tieであり、「あたし●ち」の父を持ち出すまでもなく、ヨッパライなら頭に巻くというのが一般的なイメージである。どうやら動脈叢を撃ち抜かれたわけでもなさそうなので、これはそうじろうなりのオリジナリティなのだろう。さすが作家さん、とゆたかは感心した。 が、実際はそれどころでもないのである。というのも……。 「おかえり……なさい……伯父さん……。え、えーと……」 実子であれば「お土産は?」とでも聞くところだろうが、姪であるゆたかは遠慮して慎重に言葉を選んでからこう言った。 「……起きないんですか?」 そうじろうは、ツタからツタへの飛び移りに失敗したターザンのような格好のまま微動だにしない。すでに倒れて(寝て)いる以上、その答えは「然り」の模様である。 そうじろうは、玄関で寝ちゃったのである。 耳を澄ませば虫の声。そうじろうの寝息が混じってしまい、あまり風流ではない。 開け放たれたままのドアの向こうには、夜の世界が広がっていた。小早川ではなく尾崎なら、盗んだバイクで走り出していくところだろうが、ゆたかはドアを閉ざす事にした。そして難題に直面した。 長身のそうじろうの脚が、ドア枠の外にわずかにはみ出していたのである。これでは閉める事ができない。 「伯父さん、あの、脚が……」 ただの屍ではないが、返事がない。反応もない。 「……」 仕方なくゆたかは、そうじろうの足首を掴んで曲げさせた。だが手を離すと、城壁に向かって石を擲つカタパルトのように宙空に半円を描いて元に戻ってしまう。こうなったらやむを得ない。 「伯父さん……失礼します」 ゆたかはドアの方に立ってそうじろうの脚をもう一度曲げさせると、お尻で押さえ込んで戻らないようにした。端から見れば便座の上げ下げの様に見えるかもしれないが、当人至って真剣である。 それが功を奏して、ゆたかはドアを閉める事に成功した。 さらば、15の夜。さらば、便座。ゆたかがどくと、そうじろうの足は再び半円を描き……。 ガン ……ドアを蹴った。穴でも開いたら、全ての原因を作ったエッセイ集ででも塞ぐとしよう。 その衝撃は弱からざるものがあったが、そうじろうは起きようとしなかった。靴を脱がせ、自分もサンダルを脱ぐと、床に上がりそうじろうの顔を覗き込む。 「伯父さーん、起きてくださーい」 肩をゆすぶってみる。反応は限りなく無に等しい。あと五分どころか五週間でも寝ていそうである。もしそうなれば、三年寝太郎の足元くらいには匹敵するだろう。観察日記をつけておけば、そのまま出版できるかもしれない。医学的にも貴重である。だが、玄関でやられては困る。 というわけで、そうじろうを起こさなければらなない。 でも、どうやって? ……とりあえず、ゆたかはくすぐってみた。 「こしょこしょこしょ……」 そうじろうの脇腹を、ゆたかの指が騎兵突撃。蹂躙する。 「ん……んふ……」 反応あり。そうじろうは酒気交じりの息を吐いて笑う。だが、それだけだった。起きてはくれない。やがて指が疲れてしまったので、ゆたかは攻勢を停止させた。そうじろうの脇腹と酒という組み合わせは、ワーテルローのイギリス軍陣地並みに騎兵に対する耐性があるらしい。ウェリントン将軍もびっくりである。 「……」 疲れた指をさすりながら、ゆたかは玄関で寝ているそうじろうを観察する。それは何かを連想させた。岩崎家のチェリーだ。その事に気付いたゆたかは、以前チェリーに対してしたようにそうじろうの手を取って歌い始めた。 「♪ そうじろう伯父さん そうじろう伯父さん そうじろう伯父さんは 大きいな」 大木のように倒れたそうじろうであったが、横たわる姿はゆたか的には大河のように思えた。沿岸で文明が発生しそうである。何なんだろう、この理不尽な大きさは。これだけ大きいと、見えるもの全てが自分とは違うだろう。だからゆたかは、一度そうじろうに聞いてみたいと思っていた。 「夜明けは早いですか?」 と。 気の早いクリスマスソングに乗せて、そうじろうが大きいというテーマで三番まで歌ってみたが、起きてはくれなかった。まあチェリーも似たようなものだったから、こんなものなのかもしれない。 「ふう……」 結果に落胆して肩を落とすが、それでもめげずに次の一手を考える。 そうだ、ショック療法はどうだろうか。 そうじろうにとってショックな事というと何だろう。 仕事関係? 締め切りが一週間繰り上がったとか、出版社が倒産したとか……それでは悪辣すぎるだろうか。 では……。 「伯父さん、こなたお姉ちゃんの彼氏さんが見えましたよ」 カタカタカタと廊下を叩き、足音の効果音……のつもり。 こほん 咳払い一つ。声色を変え……。 「はじめまして。こなたさんとお付き合いさせていただいております、ゆたかです。突然ですがこなたさんを僕にください、お父さん」 ゆたかは、一人芝居を打った。 こなたを溺愛し、男が出来やしないかと普段から戦々恐々のそうじろうのこと。どこぞの馬の骨がいきなりこなたを嫁にしたいと言い出すほどのショックはないだろう。男みたいな名前も好都合だった……。でもまさかこなた役を演じるわけにもいかなかったので、彼氏の「ゆたか」君を案内したものゆたかだった。即席の脚本と役者不足ゆえ、これは致し方ない。 だが、そうじろうは起きなかった。まだ衝撃が足りないらしい。 ではこの後はどう展開させるか。ゆたかはすばやく考える。 さっき役所で入籍を済ませ、新居も見つけた。こなたは妊娠三ヶ月で、赤ん坊の性別も分かっており名前も決まっていて、そうじろうへの挨拶を済ませたらベビー用品を買いに行く予定……。 そういったプロットで芝居を続けようとしたその時だった。 「んごー」 拍手でも歓声でもなく鼾。それが唯一の観客である(はずの)そうじろうの反応だった。これではとても演技を続ける気なんて起きない。 「はあ……」 再び肩を落として溜息をつく。そこまで退屈な演技だっただろうか。それはこなたを嫁にしたい人にとっては好都合かもしれないが、ゆたかにとっては大いに不都合だった。 もうこうなったら正攻法しかない。力ずくで何とかする! ゆたかはそうじろうの腕を掴み、二の腕の辺りを肩の上に乗せて立ち上がろうとした。 「よいしょ!」 ビリッ 「!?」 ……何か嫌な音がした。まるで布地が破れるかのような……。 しかしそうじろうの体がゆたかの背中にぺったりつく格好になっているため、どうにも確かめようがない。ともあれ立ち上がる事には成功した。そうじろうは背後霊のようにゆたかに負ぶさる格好になっているが、背後霊と違って脚があるため、引きずられる事になる。とはいえこのまま放置する事はできない。どこで何が破れたか確かめるのも、運んでからだ。 「……うんしょ」 どうにか一歩を足を踏み出し、自分とそうじろうの体を前進させることに成功した。 よし、この調子で一歩ずつ進んでいけば……あれ? そういえばどこに運ぼうとしてたんだっけ? ていうか、伯父さんの部屋は二階……。 へなへな…… どってん 重大かつ致命的なその事実に気付いてしまい、全身の力が抜けたゆたかはそのまま床に崩れ落ちた。ゆたかは潰された上に肘を打ち、そうじろうは軽く額を床にぶつけてゴンという音を立てる。 「ご、ごめんなさい、伯父さん」 「んごー」 ゆたかは肘の痛みに耐えながら謝ったが、そうじろうは相変わらずだった。これでは朝まで目覚めないだろう。 二人の体は床に折り重なる形になっていて、そうじろうがゆたかを襲っているようにしか見えない状態だったが、ゆたかはすぐに抜け出そうとせずそうじろうの顔を見つめていた。それは肘の痛みのせいだけでなく、ある記憶を呼び起こしたからだった。 そういえば、夏場にもこんな風に一緒に昼寝したっけ……。 そうじろうの頭が再び勢い良く落下しないようにそっと抜け出し、ゆたかは考える。 このままじゃ二階はおろか、自分かこなたのベッドまで運ぶ事もままならない。運べない以上、玄関で寝てもらうしかないようだ。だが下が床では布団に比べて熱を奪われすぎて、体によくないだろう。それ以前に、ゆたかを襲う睡魔と疲労感が、彼女を限界に追い詰めていた。 ゆたかの選択肢は極めて限られていた。 「……」 ゆたかは疲れた体を引きずるようにして自室に行くと、ベッドの上の掛け布団を引きずって来て、玄関で寝ちゃったそうじろうの上にかけた。 「おやすみなさい、伯父さん……」 ゆたかもその布団の中に入る。 「……吐かないでくださいね」 そう付け加えながら。 「うおおおおおおおおおお」 翌朝。 そうじろうの一日は、こんな叫び声で始まった。それも、ゆたかが同じ布団の中に寝ていればこそである。 つまり彼は、 酔ってタクシーに乗ったところまでは覚えている ↓ ゆーちゃんが同じ布団で寝ている ↓ 酔った勢いでひどいことをしてしまった ↓ 姪に手を出しちゃった ↓ がーん と考えたのである。 「……?? あ、おはようございます、伯父さん」 そのやかましい声にゆたかは目を覚ましたが、そうじろうは脇の下が破れたスーツのまま何故か叫びつつ二階に駆け上がっていってしまったので、朝の挨拶は届かなかった。それは絶望の深さを表しているらしいのだが、寝ぼけ眼のゆたかは、何か画期的な小説のアイデアでも思いついたのだろうくらいに思った。 よかったですね、伯父さん……。 人の気も知らないでゆたかが微笑んでいると、そばにあった家の電話が鳴った。 「もしもし、泉です」 『おはよー、ゆーちゃん。こっちも泉だよ』 こなたからの電話だった。 「こなたおねえちゃん、おはよう。昨日どうだった? 勉強はかどった?」 『いやー、かがみに基礎を叩き込まれるついでに、別のモノを叩き込まれないかヒヤヒヤだったよ』 すかさず「変な事言うな!」というかがみのツッコミが聞こえてきた。 「そうなんだ……」 含意までは分からないので、取り合えずゆたかは納得しておいた。 『ゆーちゃんこそ、おとーさんに変な事されなかった?』 実は内心、それが心配で朝一の電話を掛けたのである。 「うーん……私の方が変なことしちゃったかも」 『寝ているおとーさんの額に「肉」って描いちゃったり?』 こなたが声を潜める。これくらいの冗談で済めばいいなという願望の現われだろう。 「……もっとひどいかも」 『ど、どんなふうに?』 「えと……伯父さんをくすぐったり、犬みたいに扱ったり」 こなたは、そうじろうを調教するゆたかを想像してしまった。 『……え゛』 「伯父さんの上に乗ったり、逆に乗られたり」 こなたは、ベッドの上でくんずほぐれつアーッな二人を想像してしまった。 『はわわわ……』 「伯父さんの服を破いちゃったり」 こなたは、嫌がるそうじろうを無理矢理脱がせるゆたかを想像してしまった。 『……』 「それにね、お姉ちゃん」 思いつめたようなゆたかの口調に、こなたは更なる爆弾発言の予感を覚え、心の中で身構えた。この愛くるしい従妹は、どれほどそのイメージにそぐわない事を言ってのけるつもりだろうか? 『うん』 「私……」 『うん』 「伯父さんと一緒に……」 『うん……』 「玄関で寝ちゃった」 おわり コメントフォーム 名前 コメント そうじろう\(^o^)/ -- 名無しさん (2013-08-05 10 07 13) 面白すぎるwww 最高!!GJ! -- 名無しさん (2010-04-12 00 58 45) ゆーちゃん可愛いw -- 名無しさん (2009-04-12 23 11 29) 「どうやら動脈叢を撃ち抜かれたわけでもなさそうなので」は笑えた。 ヤン.ウエンリーネタですね。 -- 名無しさん (2008-11-09 07 29 33) ぐっじょぶ! ニヤニヤさせていただきました。 -- 名無しさん (2008-11-09 07 06 57) で、こなたがゆい姉さんに言っちゃったらそうじろう マジでやばいことに・・・・・・www 酒とは怖いもんですなぁw -- taihoo (2008-11-09 02 31 17) 描写や表現が面白かったです。 コテコテのネタとは言え、完成度が高くて楽しく読めました! 過去作品も見てみようっと♪ -- 名無しさん (2008-10-26 07 27 02) はわわわ…… 誤解されるよ、そんな言い方じゃ(^-^; いや、言ってる事に間違いはないんだけどさ(-。-;) あの後、そうじろうは勘違いしたこなたにボコられたのか、誤解は解けたのか… -- Kーもんず (2008-10-25 19 09 57)
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/181.html
できちゃった その4から 「両親教室? 何だ、それは?」 「実質は父親教室みたいなものらしいんですが。いままで妊婦さん向けの母親教室は、どこの産婦人科でもやってたんですが、それだと父親になる側が、母親になる側と、知識にしろモチベーションにしろギャップが広がってしまうんで、両方が参加する教室を導入しているところが増えているみたいなんです。両親教室への参加が、立ち合い出産の条件になっているところも多くて」 「まあ、何も知らんバカを出産に立ち合わせても、騒ぐだけで役には立たんしな」 「あんたの場合、役に立たないどころか、追いだされたんでしょ?」 「バカ娘、それは正確とは言えん。母さんから『もう大丈夫』サインが出たんで、おとなしく退散したんだ。な、母さん」 「ええ。さすがにわたしもハルヒを生むのに集中したくって」 「ほら、見なさい。キョン、あたしたちは二の轍は踏まないで行くわよ」 「というわけで、親父さん、週に一回、仕事の方を抜けたいんですが」 「それはかまわんが。俺に着き合ってバイトに受験勉強、それに両親教室か? 学校の方もあんまり行けてないだろ。そっちは大丈夫なのか?」 「出席日数は計算してもらって、ぎりぎりのところで調整してます。結果が出てきたんで、まあ大目に見てもらえる余地が出てきたというか」 それについては、古泉の暗躍や長門の得意技もあるらしいのだが、詳しいことは気を使ってか、話してくれない。 一方、成績の方はと言えば、親父メソッドが脳に浸透してきたのか、まず学内テストが、ついで模擬テストの成績が、VTOL機(垂直離着陸機)の離陸のように、逆L字型に上昇し始めた。 自分で変化を自覚したのは、勉強のできる奴にとっては当たり前のことなのかもしれないが、メモも何もなくても、受けてきた試験問題を完全に再生できるようになったことだ。 問題文ごと暗唱する訓練が効いてきたのかも知れない。この能力が、受験勉強の後半以降、格段に記憶ものの効率を高めたのは言うまでもない。それまでは「これはさっき/昨日/前の模擬試験でやったやつよ!」と、よくハルヒに言われていたが、汚名返上の日も近い。いや、もう来ているかもしれん。 「でも、キョン、無理だったらいいんだからね。あんたがいるのは心強いけど、あたし、ふっきれたというか、ちょっと強くなったから」 「そうなのか?」 「うん。母さんにね、いろいろヒントもらったの」 「そうか」 「うん」 「でも、立ち合い出産は、俺のわがままでもあるから、なんとかやれるだけはやるつもりだ。それでいいか?」 「うん!」 ハルヒ母 ラマーズ法ってね、弛緩と呼吸がポイントなんだけど、わたしが習った古武術の呼吸法とか弛緩の考え方と結構似てるの。多分、これ以上、体に負担がかかると死んじゃうだろうし、お父さんが死ぬのはダメだってわざわざ頼みに来たものだから、無意識にそれをやってたみたいね。私、ハルヒを生んだとき、途中からほとんど無痛だったの。 ハルヒ母 護身術ってことで習ったんだけど、私ったら力は弱いし持久力もないし、逃げようたって走るとすぐ息が切れるから、そういう子にできるものと散々探したみたい。みつかった先生は、肺を半分切り取ったおじいさんでね、いつもゼイゼイいってるし、これなら大丈夫だろうということになってね。 そんな先生の武道だから、とにかく鍛えないの。むしろ体の力を抜くこと緊張をとることばっかり。それはそれは丁寧にやったわ。自分は抜いてるつもりでも、こことここの筋肉が緊張してますよ、という感じでね。すぐに全身の筋肉の名前、覚えちゃった。呼吸の仕方がその次。技みたいなものは、いくらも習わなかったわ。 でもおかげで、一通りバレエもできるようになったし、ピアノの運指はものすごく楽だったの、へんな癖がはじめから消えてるようなものだから。だから、先生の教えてくれたことは、少ない体力を上手に使う練習、体を楽に思いどおりに動かす練習なんだと、子供心に納得したの。だから今もすごく感謝してるわ。まさかお産のときまで役立つとは思わなかったけれど。 ハルヒ母 名前は覚えてないの。聞かないこと、調べないことが、教える条件のひとつだったみたい。ひょっとしたらすごい人だったのかもしれないわね。 ハルヒ母 ある日、心配した父がね、「あの、いつから術の方はお教えいただけるのですか?」と余計なことを聞いて、「もうやっておる」と先生が答えて、母さん試合みたいなことしなくちゃならなくなったの。父をうらんだけど、家にいる若い人たちが殴る係りになって、かわいそうだったわ。 先生が一言だけ、「あなたは耳がいいから、相手の呼吸をする音が聞こえるでしょう」といって、その後、すぐ試合ね。母さん、一応、そのうちのお嬢さんだから、みんな本気で殴れないわよね。でも確かに、息の音を聞いてると、相手がいつ動くか、どんな風に来るかが、よくわかったの。 あ、これなら、簡単によけられそうと思ってよけてたら、みんなが本気じゃないと父が怒ってね。ステッキか何かで殴りかかってきて、みんなに無茶言って、その上、娘を殴ろうなんて、母さんその時少し腹が立っちゃったから、よけるのは簡単だったけど、よけるときに少しトンと父を押したのね。 そしたら、ひっくりかえっちゃって、みんな大騒ぎ。母さんも、そこまでこっぴどくやるつもりはなかったから、必死であやまってね。あとで先生に、あの時私がしたのは何ですか、と聞いたら、 「人は攻撃するときには、バランスを失うことと引き換えに力を出すのです。その一番無防備な瞬間があなたには見えたのでしょう。捌きの中には、相手を倒す動きも含まれているのです。あと、すこしだけ技のようなものをお見せして、私がお教えすることはおしまいです。使わない方がいいが、今のあなたなら、ご覧になっておけば、何年か先になっても、ちゃんと役に立つでしょう」って。 実際に役に立ったのは、お父さんと知り合って、危ない目に会うようになってからだけど。 ハルヒ あんた、なにしたのよ? 親父 うーん。理由は忘れたが、30人くらいに囲まれてな、とりあえず手近なのから殴ってたんだが、疲れてくるし困ってたら、向こうから小さな女性が、大男たちをぽいぽい投げながら、モーゼが海を分けるみたいにならず者達を分けて、俺のところまで歩いてきた。もちろん母さんだ。そこで俺の顔にビンタ一発だ。パシンといい音がして、みんな動きを止めちまった。その後、俺は母さんに手首つかまれて、引きずられていった。 ハルヒ母 もうあんな立ちまわり、しませんよ。次は悪知恵でしのいでください。 親父 というわけで、10人以上は相手にしないと誓ってある。で、話の続きだ。母さんにおれが引っ張られてるのを見て、まだ俺を殴ろうとしたり、母さんを捕まえようとした奴もいたが、そんなのは、母さんがひとにらみで相手を凍らせてた。だから、おれが10人束になってもかなわんと思うぞ。 ハルヒ あんたみたいなのが10人もいたら、その方がたまんないわよ。 親父 なら、バース・コントロールはすることだ。どうもお前はまだまだ生みそうな気がする。隔世遺伝ってのもあるんだからな。俺みたいなのがほいほい生まれてきたら、どうするんだ? ハルヒ 全員、真人間にしてみせるわ。ご心配なく。 「キョン君、親父さんは?」 大量コピーを持って帰ってくると、親父さんの部屋のまえに、若い男女社員。 どういうわけか、親父さんの会社でも「キョン君」扱いだ。ただのバイトに「君」という敬称がつく理由は、親父さんによれば「あんな『人でなし』にこき使われているのに、文句のひとつもいわない人格が、高校生ながら尊敬を集めている」んだそうだ。俺はただ親子揃って荒い人づかい慣れているだけなんだが。 「さっきまでいたんですが、鍵は?」 「いや、ノックしても反応がなくて」 男性社員の方に、コピーの束をどさっと渡して、空いた手でドアのノブをまわす。鍵はかかってない。居留守だ、あるいは居眠りだ。 「キョン、ノックくらいしろよ。社会人の常識だ」 「ノックがあったら返事ぐらいしてあげてください。お二人が待ちぼうけをくらってました」 男性からコピーの山をうけとり、俺は自分の机に座った。 おやじさんは、言われちまった、といって肩をすくめてる。 「そりゃ、わるかった。で、何か用かい、お二人さん?」 「あの、『他の人には無理』なことなら、親父さん、いえ、涼宮さんは断らないと聞いてきたんです」 やれやれ、どうやら用件は、一筋縄では行かないような厄介ごとの解決らしい。現在の俺の雇い主、トラブル・メーカー兼トラブル・シューターを自認する、我らが親父はどんな妙手を(はたまた悪知恵を)見せてくれるのか。 「俺の見立てでは、どうやら色恋沙汰だ。キョン、おまえさんに任せる。得意だろ?」 「全然」 「おまえ、娘婿って立場、わかってるか?」 「親父さんは、婿には色恋沙汰の得意な奴がいいんですか?」 「いや、全然。むしろ逆」 「Q. E. D. (Quod Erat Demonstrandum かく示された;証明終了)」 「こらこら。俺たちは口先三寸で飯食ってるんだぞ。師匠を倒してどうする?」 「打ち返さないと、せっかく返しやすいロブをあげたのに、と怒るじゃないですか」 「そうだっけ?」 親父さんは心底不思議がって見せ、ようやく二人の社員の方に向き直った。 「ま、冗談はさておき、仕事でなんかトラブルか?」 「ええ、あ、はい」 「相手さんとやらかしちまったか?」 二人は何で分かるの?といった顔をしたが、その後大きくうなずいた。 「向こうのお家事情が苦しいのはわかるんですが」 「無理難題を吹っかけられた?」 「ええ」 「相手、どこだっけ?」 「○○市役所です」 「役人か。困ったもんだ」 「そもそも住民参加でやりたいと言ってきたのは、市の方なんですよ。それを今になって!」 どうやら腹に据えかねているのは女性の方で、男性の方は挟まれなくていいところに挟まって身動きが取れないといった様子のようだった。 「あー、ちょっと電話する。貸しのある奴が確か一人いてな」 親父さんは、何は口ずさむようにぶつぶついいながら、携帯のアドレス帳に見つかった「貸しのある奴」の一人を選んだ。 「……出やがった。ああ、俺だ。何度も言うようだが、俺は鈴宮じゃなくて涼宮だ。そう。『君が望む永遠』に出てくる方の。お前の携帯にもそう入力してやったろ?」 親父さん、それは名作ギャルゲーでウツゲーです。何気にやり込んでそうでこわいが、ネーミング問題はいろんな理由から黒歴史と化しているので、これ以上は追求しないぞ。 「うちの若い連中が、手を貸してる、ほら、何だっけ? ドブ川をせせらぎにする、とかいう奴だ、と。あれ、どこの担当だ?」 基本的に親父さんは一度覚えたことを忘れない。「何だっけ?」と聞くのは、未知の情報、単に知らないことを聞き出す時の常套句だ。 「××課? まだ、そんなもの、あったのか? △△が部長? 困ったぞ、貸しがありすぎて焦げ付くまでいってる奴だ。……じゃあ、あいつにな、5分後くらいに『親父』から電話があるぞ、って告げ口しといてくれ。5秒で済むだろ。てめえ、時給いくらだ? 頼んだぞ」 と、よくは分からないが、これにて一件落着といった顔で、親父さんは俺たち3人を見た。 「△△は、タヌキでムジナだ。机、派手にどついてたろ? 古いんだよ、あいつは。俺の名前、どこかでぶつぶつ言ってなかったか?」 「そういえば!」といったのは男性。 「ええ、それもあって、おやじ……涼宮さんに頼もうと」 といったのが女性社員の方だった。 「親父で構わんぞ。こいつだって、ここでもキョンだ」 「親父さんがそれしか使わないからでしょ」 「いい名前だな。今夜、どうだ?」 「悪いですが、ハルヒと約束がありますんで」 「つれないな、キョン。……おい、ほんとに5分待つと逃げるから、今すぐ電話しろ。どうせ、落としどころはもう考えてあんのさ。部外者怒鳴りつけて、内部まとめようって腹だ。2万年ほど古い手だ。もし、ぐずぐず言うようだったら、俺に替われ。貸したもの、全部今から回収にいくぞ、と言ってやる」 男性社員が電話し、そのなんとかいう部長を呼び出して、ぺこぺこしたり、笑ったり、まあ、向こうの話が大層長いのはそれだけでもよく分かったが、もめごともわだかまりも、とにかく解決してしまったのは、本当のようだった。 「無駄なことばっかりしやがって。だが、ともかく、一つ片付いたぞ、キョン。お前の英語を見てやろう。……過去問3周したって?」 「いや、今5回目に入ったところです」 「こんなに急に伸びるなら、志望校ふっかけて、ほんとに『ハルキョン桜』にすればよかったな」 「いや、ハルヒはしばらく実家を離れられないし、俺も1年も離れて暮らすのはごめんですから」 「面白みのない奴だ。あ?△△が、替われって? キョン、これでも読んで、ちょっと待ってろ」 親父さんが放り投げたでかい封筒の中には、英語の絵本が3冊入っていた。 電話を親父さんに替わった男性社員が、俺に話しかけてくる。 「すごいな、君の親父さんは」 いや、まだ、俺のじゃないです。というか、俺の、ってのは勘弁してもらいたいのが、偽らざる魂の叫びだろう。 「なんだか出来レースだったみたいだし、災難でしたね」 と話をそらせたい俺。 「いや、△△部長ってのは、やり手だが、荒っぽい人でね。当時、市長がぶち上げたあるプロジェクトの責任者になったんだが、独断専行が過ぎて役所でも孤立、地元住民とは全面対決、みたいなことになったんだ。それを解決したのが……」 男性社員と女性社員、それに俺は、それぞれ違った目で、電話にどなってる親父さんを見た。 「やれやれ。何度言えば分かる? おれは鈴宮じゃなくて涼宮だ。うちの若いもの、人前で恥かかせてくれたそうじゃないか。高くつくぞ。どっちがヤクザだ? まだに部下の書類、窓からこれ見よがしに捨ててるのか? 今は、ピンクの蛍光マーカーで修正してる? どっちにしろ、ろくな死に方しねえぞ。 いいや、これっきりだ。どのみち、しばらく日本を離れる。いーや、絶対にだ。衛星電話しか通じないところにいるから、税金じゃなくポケット・マネーでかけてきやがれ。じゃ切るぞ」 親父さんは携帯をポケットにねじ込み、二人の社員のお礼を聞き終え、どかっと来客用ソファに座り込んだ。 「だから日本は嫌なんだ。くだらない連中が気安く電話かけてきやがる。アフリカからだと、いまだに船メールが何ヶ月もかけて届くぞ。違うのは内容だ。『こんなことで困ったけれど、自分たちで工夫して、こんな風になんとか解決しました』みたいなことが書いてあるんだ。俺を便利屋か何かと思ってる連中全員に回覧してやりたいぞ。で、キョン、お前に渡したそれなんだが」 「絵本ですね。英語の」 「そうだ。そして商売道具さ。向こうじゃ暴力はやめて話し合いで解決しましょう、なんて絵本がわんさかあって、ガキの頃からそれを読んでくるんだ。だから暴力もオプション(選択肢)のひとつだとおもってやがる。犯罪は、暴力しかオプションをもたない下の連中の仕業だとさ。こっちでいう、しがらみや腹芸が、向こうじゃ方法と学問になってる。どっちもろくなもんじゃないがな。肉をたらふく食わないとやってられんぞ。昼間から、肉食いに行こうぜ、キョン」 「じゃあ外出中の札、出してきます」 「やれやれ、だ。人間関係で、しかも昔のそれで「仕事」するようになったら、お終いだぞ。何のアイデアもワクワクもない。殴りあった果てにできる友情も、キズ舐めあいながら飲む酒の楽しみも、だ。まあ、歳取ると体も無理が効かなくなるし、それしかできんようになるんだけどな。今いた兄ちゃんは、ハーバードのロー・スクールで、交渉学と紛争解決を学んだ修士号ホルダーだ。姉ちゃんの方も、なんか向こうで学位とってて、都市計画の技術士も持ってるらしいな。そして、持ちこんでくる話がガキの使いだ、とくる。このうえ家に帰れば、娘にいじめられるし」 「いや、そっちは自業自得の部分が大きい気が」 「言うようになったな、キョン」 「感謝してます」 「ガキ生まれたら、海外逃亡しようぜ。大学なんか慌てていくことないぞ。そうだ、いっそハルヒを乗っけて、機内で出産すれば、ガキは飛行機代タダになるぞ」 「予定日ちかくだと、医者を同伴しないと、そもそも飛行機に搭乗できないんです」 「なんだ、都市伝説なのに。調べたのか?」 「ええ、ハルヒが」 「嫌になるくらい、父と娘だな」 「嫌になるんですか?」 「突っ込むな。親父は今、浸ってるんだ、親娘(おやこ)の溝にな」 そうまでして埋めなくても、とはさすがに突っ込まない。突っ込めない。 「お前らを組ませたのは失敗だったかな。たいした強敵だ」 親父さんはニカッと笑った。 「さっきの兄ちゃんも姉ちゃんも、見所がないわけじゃないんだがなあ。俺がせっかちなのか?」 「ハルヒも、十人いれば十人とも、せっかちだと言いますよ」 「一旦、抜けたと思ったら、またハルヒ・トラップか。寄せがきびしいな。年寄りは敬って、少しは手を抜けよ、キョン。あと、もう少し、周囲(まわり)に心を開け」 「おれが、ですか?」 「他に、そんなマヌケなあだ名の奴がいるのか?」 「いや、あんまり言われたことがなくて、その、新鮮で」 「おまえさんの、似あわない忍耐力とか頑張りはな、人に言えない秘密を持っちまった人間が手に入れる類の奴だ。確かに人間は弱いしくだらないし信用ならないが、泣くほどじゃない。期待せずに待て。そのうち、なんか、いいことがある」 「いや、もう腹いっぱいなくらい、たくさんありました」 「じゃあ、これからも食いきれないほどある」 「楽しみにしてます」 「ふん。その時がきたら『泣きべそ』かかんようにな」 できちゃった その6へ
https://w.atwiki.jp/kyoronosuke/pages/401.html
男「よし。やっぱり別れるしかない! つかさを傷付けないなんて無理ポ! かがみんにはソーリーしちゃう!」 トゥルルルルル…… つかさ『はい。貴方のつかさです』 男「……」 つかさ『あ、あれ。だ、駄目だったかな。じゃあもう言わないです……』 男「つかさ」 つかさ『ん?』 男「別れよう」 つかさ『うん。わかった』 男「………………あの……本当にわかったの……?」 つかさ『わかってるよ。別れて、もう会わなければいいんだよね?』 男「つまり……そういうこと……」 つかさ『ん? どうしたの、男くん。なんか変だよ……あ! そっか! もう付き合ってないんだから、電話切らなきゃ』 男「待て、つか」 ツー……ツー…… 男「……」 つかさ「フラれちゃったな……。でもしょうがないよね……」 つかさ「……寝よう」 つかさ「おやすみなさい、男く――」 つかさ「――この写真も、外さなくちゃ」 つかさ「……うん。やっぱりとっておこう」 つかさ「このくらいはいいよね」 つかさ「……よし。男くんに聞いてみようかな」 つかさ「だめだ。別れたんだ」 つかさ「………………眠れないなぁ」 九月一日。 (=ω=.*)「だからー今日はちゃんと起こしたよ! 幼馴染みっぽくなってきたよね、私も」 男「どこがだ! それとも最近の幼馴染みキャラの間では、金玉を膝で蹴る起こし方が流行なのか!」 (=ω=.*)「それはたまたま当たっただけだよ」 男「たまだけに?」 (=ω=.*)「たまたまに」 男「今すぐ犯してやるっ!」 (=ω=.*)「じゃ、電車の中でどうぞ」 かがみ「相変わらず馬鹿な会話してるわねー」 (=ω=.*)「よ。かがみん」 男「あれ? つかさは? 寂しがり屋のかがみなら、新学期は二人で来ると思ったんだが」 かがみ「なに言ってんの、いるじゃない」 男「……いないぞ」 (=ω=.;)「もう電車きちゃうよ、ほら!」 ……カーンカーンカーン…… 男「つかさ終わったな。たぶんトイレにでも行ってんだろ」 かがみ「おかしーなぁー」 ガタンガタン! かがみ「うん! 本当におかしい!」 男「ん?」 かがみ「だって」 ドンッ…… (=ω=.)「え……」 男「…………………」 かがみ「……いないのは、お姉ちゃんのほうだから」 キキィィィィィーッッッッッ!……ぐしゃ。 男「………………あ……」 つかさ「気付かないもんだね。入れ替わってても」 男「……こなた………………」 つかさ「ウィッグなんだよ、これ」 男「なんで……なんで…………………………こ……こなた…………う、うぷっ」 つかさ「ん。お姉ちゃんにさぁ。全部聞いたんだ。三人の間のこと、全部」 男「おえ………げほっげほっ………………っ!」 つかさ「酷いよねー。私だけ除け者なんてー。久し振りに兄弟喧嘩しちゃったよー。いや、姉妹喧嘩?」 男「はぁはぁ……」 つかさ「それでね。最後にはお姉ちゃんったら、私の部屋の男くんを捨てちゃってさ」 男「……俺……?」 つかさ「困るよね、男くん、私だけの男くんなのに」 男「……ちがう…………」 つかさ「もういない……私の男くん…………」 男「俺じゃない……俺じゃ…………」 つかさ「あはは」 男「俺じゃない! 俺じゃないっ! 俺のせいじゃないっっっ!」 つかさ「あ…………」 男「俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃ」 つかさ「……大丈夫。男くんが望むなら、楽にしてあげる」 さくっ。 男「が………………」 つかさ「痛い?」 男「ああ……あ…………」 つかさ「大丈夫だよ、すぐだから。お姉ちゃんもそうだった」 男「あ……」 つかさ「私も…………すぐに……行くね………………なんかもう……疲れちゃったから」 男「…………俺じゃ……な…………い」 ENDING2「ににんにん! 参上偽かがみん!」
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/223.html
「うぅ~…、緊張するよぉ…」 ここは柊つかさの自室。その主であるつかさは、布団に潜りながらモゾモゾしていた。 「○○くん明日の大学受験の面接大丈夫かな…。はぅぅ~、考えると緊張してきちゃうよ~」 なぜつかさが緊張するのか少しおかしい気もするが、つかさは強張った顔をして布団の中にいる。 「メール送ってあげた方がいいかな…。でもでも、桜藤祭の時みたいに、 それで失敗しちゃったら可哀相だし…。うぅ~…」 つかさは自分が送ったメールで、○○がキスシーンを意識してしまった事 (それが直接の原因という訳ではないが)を思い出した。 「……あれ? でも劇はちゃんとお姉ちゃんがやってたよね?」 「?????」 つかさは桜藤祭時の記憶が混同してしまっていた。時間が繰り返した事によるものだろう。 「…うん、やっぱりメールしよう! …何もしてあげられないのは嫌だもん…」 そう決意すると、つかさは携帯を取り出し文字を入力していく。 (私の時も○○くんが応援してくれたし…、今度は私の番だよね) つかさは既に料理師の専門学校への入学が決まっている。 その面接の日、○○から「落ち着いていこう」といった内容のメールを貰い、不思議と気持ちが落ち着いたのだ。 「送信っと…。出来た~!」 小一時間かかってメールを作成し、ようやく送信した。 携帯を机に置き、やり遂げた顔をしながら改めて布団に入る。 (これで○○くんの支えになれたら嬉しいなぁ…) 寝返りをうち、頭の奥がぼやけていくのを感じる。 眠りに落ちていく感覚を自覚しながら、つかさは○○の顔を思い返した。 桜藤祭から、5人はほぼ毎日一緒にいた。 そして桜藤祭のループの中で、つかさは○○に対してほのかな想いを抱いていた。 それが桜藤祭以後、ほぼ毎日一緒に居た事で、○○がかけがえのない存在になっていたのだ。 (…だけど…) ○○への想いを自覚しながら、つかさはそれを封じてきた。 (…きっと…、こなちゃんも…ゆきちゃんも…お姉ちゃんも…、○○くんが好きなんだよね…) ○○以上に一緒の時間を過ごしてきた皆の事だ。いくらつかさでも、3人の想いには気付いていた。 (私なんかより、3人の方がずっと幸せになれるよ…) (こなちゃんはゲーム上手だし、料理も出来るし…) (ゆきちゃんはスタイル良いし、綺麗だし…) (お姉ちゃんは頭も良いし…、ツンデレだし…) 正直、つかさは「ツンデレ」という事が良く分かっていなかったが、 何となく魅力の一つなんだろうと思っていた。 それに比べ、自分には何もない。そう結論付けてしまっていた。 (…受験も…、恋愛も…、私は○○くんの応援が出来れば良い…。 ○○くんが幸せになってくれればそれで良いよ…) 寝返りをうつ。それと同時に、涙が一筋流れた。 (泣いちゃダメだよ…。明日○○くんを応援しに行くのに…) (泣いたら目が腫れちゃうよ…) (泣いちゃダメ…。泣いちゃ…) そう思えば思うほど、涙は止まらなかった。 (……好きだよ……、やっぱり私…○○くんが大好きだよぅ……) つかさは布団の中で小さく身体を丸め、涙を流しながら眠りについていった。 一方、○○も眠りにつけずにいた。 (明日は面接だもんな…。相対するのが紙とペンの筆記試験より、何倍も緊張するよ…) 眠らないと、間違なく明日へ影響する。だが、そう思えば思うほど眼は覚めてしまう。 (…ヤバいぞ…) 何度か寝返りをうっていると、携帯が鳴り出した。 ♪ハァ~! すっぽんすっぽんすっぽん! すっぽんすっぽんすっぽん! すっぽ…♪ 「白石やかましいっ!」 携帯を乱暴に取り、着信を確認してメールを開く。 「…つかささん?」 送り主はつかささんだった。 『落ち着いていこうよ』 『明日は面接だね。きっと○○くんなら大丈夫だよ。だって私信じてるもん。 面接の人も○○くんの良さが分かってくれるって。だから大丈夫。 明日は皆で応援に行くから。頑張って! つかさ』 (つかささん…) 終始根拠のない内容だったが、それでも○○は嬉しかった。 (そうだよな…。自分を信じてやるしかないよな) 携帯を閉じると、さっきまでごちゃごちゃしていた心が、嘘のように静まっていた。 (…ありがとう、つかささん…) 夜も遅いので、返信はせずに心の中でお礼を言った。 (…眠ろう…、全ては明日頑張るしかないんだからな) 布団に入り目を閉じる。応援してくれたつかさの優しい笑顔を想いながら、○○は眠りへと落ちていった。 翌日、○○が受験する大学の面接会場前に5人の姿があった。 「○○くんよく眠れた?」 「うん、昨日は早めにベッドに入ったから、寝起きもスッキリだよ」 「えぇ!? じゃあ昨日の深夜アニメ観てないの?」 「観る訳ないだろ…」 「○○くんをアンタと一緒にするな!」 「むぅ~、昨日はあんなに萌える展開だったのに…」 「でも、面接前日に夜更かしはよろしくないですし…。深夜アニメなら録画しておけますから…」 みゆきさんが控え目に正論をぶつける。 「旬なアニメはリアルタイムで観ないとダメなんだよ」 「アンタはそんなに○○くんを落としたいの?」 「うぐっ…」 かがみさんに突っ込まれ、返す言葉もなくこなたさんが押し黙る。 「あはは、大丈夫だよ。アニメ自体は録画してるからさ。面接後の楽しみにしとくよ」 3人の掛け合いを眺めていると、一人静かな人がいる事に気付いた。 (…つかささん…?) 一人俯いて何も喋っていない。どうしたのかと声を掛けようとしたが、いつの間にか面接の時間が押し迫っていた。 「あ、もうこんな時間! ほら、○○くん早く行って!」 「遅刻はマズいよ! 早く行きたまへ~!」 「落ち着いて下さいね!」 皆が思い思いに声を掛けてくれる。 つかささんはまだ押し黙ったままだった。時間が時間なので、急いで会場へ入ろうとした時。 「…○○くん!」 「つかささん?」 「…私…、ゆきちゃんやお姉ちゃんみたいに頭良くないから…、何言えばいいか分かんないけど…」 「―――頑張って!」 まっすぐに俺を見つめながら応援してくれる。 「…うん! ありがとう!」 皆の応援を背に、○○は会場へと入って行った。 「行ったわね」 「そうだね、後は彼次第だよ」 「はい、そうですね。…では、私達は行きましょうか」 「そうね。つかさ、行くわよ」 かがみが声を掛けるが、つかさは動こうとしない。 「つかさ? 行くわよ?」 「…ううん、ここで待ってる」 「つかささん、流石にこの季節長時間外に居ると、風邪をひいてしまいますよ? せめてどこか屋内に…」 「大丈夫だよ。カイロを20個持ってきたから」 「アンタ家中のカイロを持ってきたの?」 つかさは会場をじっと見つめて、梃子でも動く気配はない。 「…行こう、皆」 「そうね…。まったく…、つかさは乙女なんだから…」 「…少し…羨ましいですけどね…」 3人はつかさをそのままに、それぞれの帰路に着いた。 ○○は会場の控え室で座っていた。ついさっき自分の前の人が呼ばれ、次はいよいよ自分だ。 (大丈夫…、大丈夫…) 上着を脱ぎ身体をほぐす。軽くストレッチして再び上着を着ると、ポケットに何か入っているのが分かった。 (…?) 取り出して見てみると、ポケットに入れたままの携帯だった。 (やばっ。電源切らないと) 慌てて切ろうとするが、その前にメールを開く。 (つかささん…) 昨日の夜に来たつかささんからのメールを見る。 (他にも応援のメールは貰ったけど…) (何でつかささんのメールが一番嬉しかったんだろう…) そこまで考えて頭を振る。 (…分かりきった事だろ…) (俺は…、つかささんが好きなんだ) (つかささんの優しさが…、つかささんの笑顔が…) (いや、どこが好きかなんて事じゃない…) (つかささんだから好きなんだ…) (同じ笑顔でも…、同じくらい優しくても…) (…きっと俺は、他の誰でもない、つかささんを選ぶから…) 携帯を閉じ、電源を切って前を見る。 (ありがとう…、つかささん。俺を応援してくれて…) 控え室のドアが開き、○○の名前が呼ばれる。 「はいっ」 上着を片手に立ち上がる。 (よし、行くか!) 心で気合いを入れて、○○は控え室を出て行った。 (…………) 会場の外にいるつかさは手の平を合わせてじっとしていた。 「つかささん?」 名前を呼ばれハッと顔を上げると、自分の前に○○が立っていた。 「○○くん! 面接はどうしたの? 何でここにいるの?」 「いや、今終わったんだよ。つかささんこそどうしてここに?」 そう聞かれたつかさは、鼻の頭を赤くしながら笑う。 「え? …えへへ、ここで○○くんを応援してたの。『頑張って~』って」 「ここで? …ずっと!?」 「…うん、…だって私…、これくらいしか…してあげられないから…」 そう言いながら、つかさは鼻と手先を赤くして震えていた。 「それより、面接はどうだったの?大丈夫だった?」 「もちろんバッチリだったよ! それより、この寒空の中ずっとここに居たの? 風邪ひいちゃうじゃないか!」 「大丈夫だよ~。カイロ20個持って来たし」 得意そうに言いながら、ポケットからカイロを取り出す。 「一個しか開けてないの? 他も開けないとダメじゃないか!?」 「あれ? …そっか、応援するのに夢中だったんだ。…どうりで寒いんだね」 えへへ…、と頬を掻きながら笑うつかさを見ていると、○○は胸が苦しくなってくる。 「ゴメンよ、つかささん…。ほら、手を貸して」 「? …背中でも痒いの?」 ○○は困ったような笑顔をして、つかさの両手を包む様にギュッと握る。 「え? えぇ?」 「手が凄く冷たくなってるよ…、こんなになるまでゴメンね…」 「う…ううん、大丈夫だよ。それに…、私が出来るのは、やっぱりこれくらいだから…」 「そんな事ないよ。だって、つかささんからのメールのおかげで落ち着いて面接出来たんだからさ」 「本当…? えへへ、私でも支えになれたんだ…。嬉しいな…」 「……違うよ」 「え?」 「つかささん『でも』支えになれたんじゃない」 「つかささん『だから』支えになれたんだよ」 「つかささんからのメールが無かったら…、きっと面接は失敗してたと思うから」 ○○がそう言うと、つかささんは不思議そうな顔をしている。 「そんなに良い文章だった? 私あんまり現国の成績良くないよ」 つかさの言葉を聞いて○○は苦笑いする。 (やっぱりつかささんだな…。あの時と同じく、鈍いと言うか何というか…) ハッキリ言わないと伝わらない事が分かると、○○は覚悟を決める。 「つかささん。聞いてくれるかな? 今から大切な事を言うから」 そう○○が言うと、つかさの顔に緊張が走る。 「何? どうしたの?」 「俺さ、好きな人がいるんだ」 握っていた手から、緊張が伝わる。だが、つかささんの顔を見ると笑顔のまま俺を見ていた。 「受験も…、まぁ合格した訳じゃないけど一段落したし、想いを伝えようと思うんだ」 「そ、そうなんだー。私応援するよ!」 「ホントに? 告白して上手くいくかな?」 「…も、もちろん…だよ。だって…」 (…だって私なら…) だが、つかさはそう言えなかった。 (…きっと3人の内の誰かかなんだよね…) (じゃあ、やっぱり応援しなきゃ) (…だって、皆私の大切な友達だもん…) 「きっと上手くいくよ! だって○○くんこんなに素敵なんだもん…」 語尾が震えそうになりながら、つかさは笑顔で答える。 「そう…かな。じゃあ告白するよ。…つかささん、俺は…、貴女が好きです」 「…え? …つかさんって? 周りに誰もいないよ?」 (…わざとか…? わざとなのか?? …くそっ…こうなれば…っ!) グイッ つかさは突然前に引かれ、つんのめりながら○○の胸に鼻をぶつける。 「い、痛いよ…。どうしたの? ……あれ? 私抱き締められてる…」 慌てた様につかさは○○の顔を見る。 「はわわわわ! 私抱き締められてるよ!? ゴメンね、すぐ離れるから」 「イヤだ、離さないよ。ってか俺が抱き締めてるからね。つかささんが謝る事じゃないよ」 「だ、だって、○○くんの好きな『つかさん』に悪いよ…」 ○○は抱き締める手を緩めずに、つかさの耳元に口を寄せる。 「よく聞いてね? …俺は、柊つかささんが好きなんだよ」 「他の誰でもない、今俺の腕の中にいる人が、大好きなんだ」 耳元で囁かれる言葉を、つかさはパニックになりながら聞いていた。 (あれ? あれ?? え~っと、○○くんはこなちゃん達に好かれてて、 その○○くんは『つかさん』が好きで、今は『つかささん』が好きで…) (……私が好き…?) 考える内に落ち着いてきた思考が、結論に至る事で再び沸騰した。 「えぇ!? 私ぃ~!?」 つかささんは目を見開きながら、驚きの声を上げる。 「ダ、ダメだよ! 私なんか。…だって、きっと他に○○くんを好きな娘が…」 「…もしかして…、みゆきさんとか…?」 見開いていた目がさらに見開く。 「知ってたの!?」 「…うん、あとこなたさんとかがみさんも…ね」 「何で知ってるの? ○○くん心が読めるの?」 「そんな訳ないよ…。しばらく前に告白されたんだ」 ○○の話を聞くと、みゆき→こなた→かがみの順で告白されたようだ。 「何で○○くんは…付き合わなかったの? 皆○○くんの事が大好きなんだよ!」 「…うん、告白された時に感じたよ。こんなに好かれてるんだ…って」 「でもね、俺にはもう好きな人がいたから。それなのに告白を受け入れるなんて出来ないよ」 「それが私なの…? だけど、私なんか何もないんだよ?」 「胸だって小さいし、運動神経だって鈍いし…、ツンデレでもないんだよ?」 「最後のが何で必要なのか分からないけど…、そんなのは人を好きになる理由にならないよ」 「今のつかささんより、胸が大きかったり小さかったりしても、俺は何も変らない」 「柊つかさって『人』が、…俺は好きなんだ」 「…つかささんは、俺って『人』は嫌いかな…?」 つかさは自分の心が満たされていくのを感じ、気がつくとボロボロと大粒の涙をこぼしていた。 「…大好き…、大好きだよぉ…」 そう言いながら、つかさは○○にしがみつくように、手を背中に回す。 「で、でもぉ…、わ…私でいいのぉ…? 私…、私ぃ…」 泣きながら○○の顔を見つめる。○○は優しく涙を拭きながら、つかさに声を掛ける。 「つかささんが良いんだよ。他の誰よりも、つかささんが大好きなんだ」 「…うん…、うん…。私も大好き…! 誰よりも…大好きだよ…」 凍えた身体を温めるように、優しく、優しく抱き締める。 「うっ…、うぅ…」 「つかささん…、もう泣かないで…?」 「うん…、分かってるんだけど…。止まらないよぉ…」 頭を撫でていた○○は、そっとつかさの頬に手を添える。 「じゃあ、涙が止まるおまじないしてあげるよ。…目を閉じて…?」 「…う…、うん…」 止まらない涙を拭いながら、つかささんは目を閉じる。 …チュッ… 唇に柔らかい何かを感じた。それが何か分からずに、つかさはゆっくり目を開ける。 「…? 今のは何? ちょっと気持ち良かったけど…」 「おまじないだよ。恥ずかしいから見られたくないおまじないだけどね」 「気になるよぉ~。ちゃんと見せて。…私には見せるの嫌なの…?」 (…そんな目で見られたら…、ダメなんて言えないよ…) 「じゃあ、見せてあげるね…?」 「うん、何?」 目に力を入れて、しっかりと○○を見る。 ○○は深呼吸を一つすると、突然彼の顔がドアップになる。 暫くして、自分がキスされていると初めて分かった。 「ぅん…、ん…」 少し長めにキスをし、お互いの顔が離れる。 二人の吐息が、白く混ざり合いながら消えていく。 「…キス…しちゃった…の?」 「涙の止まるおまじないだよ。…止まったよね?」 「う…、うん…。だけど…、嬉しくてまた泣きそうだよぅ…」 「じゃあ…、もう一回する?」 「えぇ!? …うん…、して欲しいな…」 目を閉じて○○に顔を向ける。想いが通じてから3回目のキス。 初めてお互いが意識して望んだキスをした。 …チュッ… 唇から○○の想いが全身に広がる。 (こんなに愛してくれるんだ…。…○○くんを好きになって良かった…) 「…ねぇ、○○くん…」 「うん?」 「お願いがあるんだけどね…」 「何かな?」 「…つかさって、呼んで欲しいの…。『つかささん』だと…、他人行儀で嫌だから…」 「うん、良いよ…。つかさ、…愛してるよ」 その言葉を聞き、つかさは嬉しそうに○○の胸にギュッと顔を埋める。 それに合わせて、○○はつかさを強く抱き締める。 小柄なつかさが、○○の腕の中にスッポリ入った。 「…私…、こうやってギュッてされるの好き…」 「これからも…、たくさんギュッてしてね」 「うん、もちろんだよ。…ずっと、いつでも抱き締めてあげる」 ○○は言葉でないと伝わらない事を、つかさは温もりで想いが伝わる事を知り、二人は改めて想いを伝える大切さを感じる。 「つかさ…、ずっと…一緒にいてくれよ?」 それに答えるように、つかさは精一杯想いを込めて抱き締める。 この温もりは途絶える事はないだろう。つかさは○○に、○○はつかさに想いを抱いている限り。 そして二人は離れる事はないだろう。二人が共に紡ぐ想いがある限り。 「○○くん…」 温もりで○○に想いを告げながら、顔を上げてつかさは言葉を告げる。今を繋げる想いを、未来へと紡ぐ想いを。 「大好きだよ!」 FIN おまけ 「大好きだよ!」 一つの影となっている○○とつかさを、遠くから見つめる影があった。 「ネタキターーーーー(゚∀゚)ーーーーーーー! キタコレ! キタコレ!」 「ひより落ち着くネ!」 学校帰りのパティとひよりだった。 「まさかネタ探しに彷徨っていたら、生告白シーンを見られるなんて…!」 「遠出したカイがアリマシタネ!」 「さっそく帰ってプロットを書くよ!」 そう言いながら振り向くと、異様な空気がそこにあった。 「…ご機嫌ね…、お二人とも…」 「ホントにね~。…良いネタでもあった? …ひよりん…?」 「うふふ…」 そこには、髪が自然では有り得ない揺らめき方をして、仁王立ちしたこなたとかがみとみゆきが立っていた。 「人の妹の…、それも告白シーンをネタにしようとは…ね」 「ひよりん…、これはシャレにならないよ~?」 「うふふ…、うふふふふ…」 3人は口調こそ軽い(かがみはマジだが)が、目がカケラも笑っていなかった。 「お、お三方! 居られたッスか…?」 「ひ…、ひよりんマズいネ…」 闘気とも殺気とも思えるオーラを放ちながら、3人はひより達を取り囲む。 「今メモったの…、渡しなさい?」 「…な、何の事ッスか…?」 「…遺書を書く方が宜しいですか?」 「ひぃっ…。こ、これッス!」 渡されたメモをこなたは粉々に裂く。 「勘違いしないでよ!? ○○くんが書かれるのが嫌なんじゃないからね? つかさを書かれるのがイヤなんだから!」 聞いてもいない事を、かがみが弁解する。 「ツンデレ全開だねかがみん。だけど、本当にそうだからね」 「はい、私達フラれちゃいましたからね」 「そ…、そうなんッスか?」 「…まぁ…、ね。○○くんが他の女の子を好きってなら諦めないけど…」 「つかささんを好き…、という事なら仕方ありません」 「そうそう。だって、二人とも大切な友達だからね」 「たまにはアンタもまともな思考をするのね」 「愛人の座は諦めてないけどね」 「オイ!」 「い~じゃんかがみん~。私達ならつかさも許してくれるって」 「いずれ正妻の座を奪い取るって訳ですね…」 「みゆき、鬼気を出さない! 絶対ダメだからね! つかさが悲しむでしょ!」 「分かってるって。冗談だよかがみん」 チッチッチ…、と口の前で指を振る。 「…チッ…」 メガネの方から舌打ちが聞こえたが、全員スルーした。触れる勇気がない。 「だから、アンタ達も絶対同人誌なんか書いちゃダメよ! …もしどこかで見掛けたら…」 「「「覚悟はいいでしょうね!?」」」 「…はい…」 「ワカリマシタ…」 「さあ、帰るわよ」 「あの二人はあのままにしておきましょう。…お邪魔したら悪いですから」 帰る道中で、3人はひよりの目が妖しく光ったのを知らなかった。 数日後、ひよりとパティが記憶を頼りに『Tの純愛』という18禁同人誌を創り、 それを知った3人が即売会に乗り込んで全ての本を燃やしたのは、また別のお話。 FIN
https://w.atwiki.jp/kagakyon/pages/641.html
◆ugIb3.rlZc氏の作品 澄み渡る空、心地良い風、隣には想い人+α… 私は屋上が好きだ。 大好きな人が、私の作ったお弁当を美味しそうに食べてくれる場所… 彼の笑顔を一時だけでも独り占めに出来る場所… 今日は見物人が居るけどね。 ー君と響き合う屋上ー キョン「今日も一段と美味しいな。料理の専門学校に行くまでも無い位だ」 そう笑って言ってくれる彼が、私は好きだ。 純粋に、その言葉が私を幸せにしてくれる… つかさ「えへへ…やっぱりキョンくんは褒めすぎだよ~」 キョン「そんな事はないさ。だろ、長門?」 長門「そう」 そう、+αはユッキー。 初めてキョンくんにお弁当を作ってあげた日…唐突に現れて、お弁当の催促をしてきたの… キョンくんだけに作ってあげたかったのになぁ… でも、私の料理を美味しそうに食べてくれるから良いんだ!うん、良いんだ!納得しろ私!自重しろ私! ー教室ー かがみ「あんたもよくやるわね?毎日作って疲れない?」 教室に戻ると、お姉ちゃんがこなちゃん達と喋っていた。 つかさ「うん、大丈夫だよ♪食べて欲しい人に作るんだもん!疲れるなんて事ないよ~」 これは本心。あの笑顔を見れるなら、私は幾らでもお弁当を作れる… 彼が満足すれば、私も満足できる… 本当に彼が好きなんだなと、他人事の様にしみじみ思った。 こなた「料理は女の武器の1つだからネ!つかさの事は、ウェポンマスタリーと呼ぶヨ」 かがみ「意味が分からねぇよ」 みゆき「私も見習わなくてはいけませんね」 ー放課後ー あの日から、私は途中までキョンくんと帰る様になった。 キョンくん曰く、「礼をするのに邪魔に入られたくない」そうです。 お弁当を作る代わりに、帰り道にお礼をして貰うのがお約束になっちゃった♪ 寄り道をしたり、手を繋いで貰ったり……キスをして貰ったrくぁw背drftgyふじこlp;@:「 キョン「どうしたつかさ?顔が赤いぞ?」 つかさ「う、ううん!何でも無いよ!?」 妄想が走り出して止まらなくなってきちゃったよ~… …うん!今日はアレをして貰おう!! ふふふ…ふふふふふ… キョン「正直、怖いです」 勇気を出して言うんだつかさ!頑張れつかさ! つかさ「きょ、キョンくん!お願いがあるのっ!」 いきなり声を張り上げたせいか、キョンくんの肩がビクッてなった。ゴメンナサイ… キョン「な、なんだ?」 つかさ「キョンくんに……お姫様抱っこして欲しいの!」 ……… ………… キョン「…ず、随分と急だな」 キョンくんが狼狽してる…突然過ぎたね私! やっぱりダメ…かな? そう思った瞬間、彼が微笑み、私の腰に手を回してきた。 キョン「まぁ、それ位ならお安い御用さ」 そう言った刹那、私の体はフワリと浮かび、彼の腕の中に抱き上げられていた。 つかさ「………」 自分から言い出した事なのに… 突然だったのと、彼の逞しさを感じて、黙り込んでしまった… やっぱり、男の子なんだよね… キョン「どうした?落ち着かないか?」 つかさ「…はっ!う、ううん!嬉しくて…ね?」 ダメだ、顔が熱いよ~… でも…もうひと頑張りしてみよう! つかさ「キョンくん…このまま、キス…して欲しいな…」 あの日から、私は少し大胆になってきている。 少しじゃないよね… キョンくんは再び微笑み、私の唇に唇を重ねてくれた… キョン「…満足ですか?お姫様」 つかさ「…うん♪」 よく見ると、キョンくんが顔を赤くさせている…私もまた、同じ様に赤くさせているんだろうな… 長門「……」 キョン「長門さん!」 だから、どっから湧いてくるのユッキー! 長門「…私もお弁当を作ってくる」 なんで対抗意識を燃やしてるのユッキー!? ま、負けない!負けないよ私!! キョン「あー…、俺はどうしたら良いのでしょう?」 ー柊家ー ユッキーがどんなお弁当を用意してこようと、私は負ける訳にはいかない! かがみ「つかさが燃えてる…?何があったのかしら?」 ー長門宅ー 長門「明日は私がお弁当を作る」 朝倉「め、珍しいわね…ちゃんと作れるの?」 長門「無問題。カレーは得意」 『ラストを飾るは長門さん』 ー完ー 作品の感想はこちらにどうぞ
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/31.html
その日は日曜日を名乗るに相応しい、実に清々しい快晴だった。 日曜日からしたらとんでもない言われようかもしれないが、やっぱり日曜日と自負するからには気持ち良い一日を提供して欲しいものだ。そういう意味では、今日の日曜日はとても空気が読めている。 なんて、そんなどうでもいいことを考えながら、俺は雲ひとつない青空を見上げてゆったりと歩いていた。 「風が気持ちいいな。寒いってわけでもなし、かといって暑いというわけでもなし」 まあ、本音を言えば11月の空の下、やっぱり春のような気候と言うにはいささか無理があるのだが、そこは気分と演技力でカバーというものだ。待ちに待った今日という一日を、そんな暗澹な気分で迎えたくないし。 「さて、と」 時間も良い頃合だ。そろそろ向かっても大丈夫だろう。 朝から何度も鏡の前でチェックした、精一杯の外行きの格好を見回して最後の確認を済ませた後、もう一度空を見上げてみる。 空は、同じような色で、けれどもゆっくりと時間の経過を表していた。 決して止まることのない、ましてや戻ることもない、それが正しい世界の在り方だ。 「……信じられないよなあ」 独りごちながら、思わず頬を緩めてしまう。 つい最近自分が体験した不思議な出来事。 そこでは、同じ空が幾度も巡り、同じ風が何度も吹いていたのだという。 やはり冷静に考えてみれば、にわかには信じられないような事件だった。 だったらあの出来事は、全て夢だったのだろうか? 俺達が体験し、乗り越え、そして別れた、あの繰り返す時間の日々は。 そう考えた方がよっぽど現実的だろう。 だけどそれが現実でないことを、俺は知っている。 だって、あの数えきれないほどに繰り返した数多の時間の中で。 俺は、俺達は、確かに惹かれあい、そして恋をしたんだから。 失った時間と、別れた友達はもういないけれど。 あの時間の中で培った俺達の絆は、確かな現実として、今でも世界に存在していた。 石段を登りきると、視界が開けた場所に出た。どうやら道は間違っていなかったようだ。 「話には聞いていたけど……結構大きいなあ」 思わず周りをきょろきょろと見渡しながら、感嘆の息を漏らす。 家が神社とは聞いていたけど、こんなに本格的だとは思わなかった。 けど時間的にはもうすぐお昼時だというのに、人がまったく見当たらないのはどういうワケだろうか。 まあ神社だからしょうがないか。……流行ってないわけじゃないんだろう、きっと。うん。 「境内も立派なもんだし……お正月には賑わうんだろうな」 大体、神社ってどうやって生計しているんだろう。やっぱりおみくじとか御守りとかでかな? それにしては、売り場に誰もいないようだし……。 「……もしかして」 俺は目についた御守り売り場の小屋にそっと近づいてみた。 遠目では人の姿を確認できなかった売り場を、ひょいと覗き込んでみる。 「うわ、やっぱり」 予感的中。というか予想通り。 丁度隠れて見えなかったけど、近づいてみれば確かに売り場の中には人がいた。 椅子に座り、……座ったまま、小さく寝息をたてている。 よくそんな体勢で眠れるなあと感心してしまいそうなほど、まさに芸術的な姿勢で船を漕いでいた。 「うーん、起こした方がいいんだろうか」 あまりに気持ち良さそうに寝ているので少しだけ悪いかなとは思ったが、この季節、こんなところで寝ていては風邪を引きかねないし、なにより喋りたいことが沢山ある。ちょっとだけ気が引けながらも、俺は手を伸ばし、彼女の肩を軽くゆすることにした。 「つかささん。そんなとこで寝てたら色々と問題だよ」 「……うーん……むにゃむにゃ……もう食べらんなぁい」 「うわっ、寝言まで完璧……。じゃなくて! つかささん、つかささん!」 「……ふにゃ?」 ようやく小さな瞼が開かれる。いまだ眠そうにしばしばと目をこすりながら、まだ状況が理解できていないのだろう、つかささんは眠気まなこでぼんやりと俺を見上げた。 「あー、ようくんだぁ」 えへへー、とゆるゆるな笑顔を向けられて、思わずどきっとなってしまう。 「……うん。おはよう、つかささん」 「おはよぉー。……あれ? あれれ? でも、どうしてようくんが?」 「まあ、約束したからね」 「やくそく?」 ぱちくりと瞬き。 そうして、ようやく意識が戻ってきたのか、つかささんは慌てたように立ち上がった。 「ふわあぁ! そ、そうだ! 約束してたんだぁ! ご、ごめんね、ようくん!」 頬を赤く染めながらぺこぺこと謝ってくるつかささんに、思わず苦笑を隠せない。 「いいよ。お目当てのものも見れたしさ」 「ふぇ? なにそれ?」 「つかささんの寝顔。見れないかも、って言われてたけど案外簡単に見れちゃったね」 言うと、つかささんの顔が一気に真っ赤になる。さっきよりも赤い、リンゴのような色になってしまった。 「はう……、は、恥ずかしいなあ」 熱を引かせようと頬を押さえるつかささんを見ていると思わず意地悪を言いたくなってしまうのは、決して俺が悪いわけじゃない。つかささんの可愛さがいけないのだ。うむ。 「想像してたより、ちょっとだらしなかったかも」 「えぇぇっ!? ど、どうしようどうしよう! ようくんに嫌われちゃうよぉっ」 ……っと、いけないけない。思い込みが激しいのもつかささんなんだった。 この前みたいに勝手に納得されたら困るので、俺は慌てて訂正する。 「うそうそ! 想像してたより、ずっと可愛かったよ」 「えぇぇぇぇぇぇっ!? うう、そ、そんなことないよぅ……や、やっぱり恥ずかしいね」 「俺は得した気分だけど」 「私は恥ずかしいもん。今度は、ようくんの寝顔を見ちゃうからね」 分かってるのかなあ。その台詞、意外と大胆な意味を含んでるんだけど。 ……まあ、あんまり言って困らせてもよくないよな。聞かなかったことにしておこう。 俺は話題を変えることにした。と、そういえば言ってなかったことがあったな。 「それより、似合ってるよね。その巫女さん服」 「あ、これ? えへへ、そっかな?」 白い小袖をひるがえしながら、くるりと回転して見せてくれる。漫画やアニメで見る巫女さんそのままで、ちょっとだけ感心してしまう。こなたさんが萌えるのも分かるなあ。 ま、俺はつかささん限定萌えなんだけどね。 「ようくんを待ってたらついうとうとしちゃって……ごめんね、まだ境内の掃除が残ってるんだ」 「手伝うよ」 「ううん。ようくんはお客さんだもん。杜でゆっくりしてってよ。私、ぱぱっと掃除しちゃうから」 ぱぱっと……ねえ。 あまりつかささんに似合わない言葉だけど、本当に大丈夫なんだろうか? はたして、俺の不安はこれまた大当たりすることとなった。 とりあえずつかささんの掃除を眺めることにしたのだが、つかささんは要領が悪いというか、結果的に同じ場所を何度も掃いているのでかなり効率が悪い事になっている。 おまけに落ち葉は容赦なく降ってくるので、掃いてはまた掃き、の繰り返し。これじゃいつまで経っても終わりそうにない。 見かねた俺は、つかささんに申し出ることにした。何より本人がまったく危機感を感じていなさそうなので、このままいると日が暮れてしまう。 「つかささん、やっぱり手伝うよ。俺、待ってても暇だしさ」 「いいの? ごめんね、本当ならお姉ちゃんと一緒だからもっと早いんだけど……」 「そういえば、かがみさんは?」 するとつかささんは、少し照れくさそうにはにかみながら、 「えっとね、んっとね。ようくんが来るって話したら、今日は家の中のお手伝いするって」 「……そっか」 どうやら、気を遣われてしまったようだ。なんとなく照れくさい。 それはつかささんも同じだったようで、もじもじと小刻みに身体を揺らしながら顔を俯かせている。 微妙な空気。けれど、決して間が持たないわけじゃない、そんな居心地の良い空間。 「……やろっか?」 「うん。あ、私箒持って来るね」 「お願い」 こうやって、俺達は少しずつ慣れていくんだと思う。 この、『恋人同士』という温かな関係に。 「じゃーん」 「おお、美味しそう」 掃除を終えて、俺達は少しだけ遅い昼食をとることにした。 実は色々と考えていたんだけれど、つかささんがお弁当を作ったというので素直にその好意に甘えることにした。巫女さんを市内に連れまわすのは問題があると思うし、初デートはまたの機会にすることにしよう。 時間はあるんだ。 繰り返さなくても、俺達の時間はまだまだ目の前に転がっている。 「どうかな? 美味しい?」 「うん。やっぱりつかささん、料理上手だね。……ん?」 卵焼きをつまみながら、ふとした疑問を口にする。 「これ、味付け変えた? ……ていうか、戻したのかな?」 「えへへ。ようくんがこの前、そっちの味付けの方が好みって言ってたから」 「あ、覚えててくれたんだ」 別につかささんの味付けに文句などあるはずもなく、どれも美味しいので、俺はいつも「美味しい美味しい」と言ってたんだけど、たまにつかささんは自分で味付けを変えてきて、俺に「前とどっちが美味しいかな?」と聞いてくるのだ。 その度に俺は答えていたんだけど、まさか…… 「……もしかして、俺の好みを探るためだったとか?」 「ようくん、どれも美味しいって言ってくれるから。けど、やっぱり好きな味の方が喜んでくれるかなって思って」 「そんなことしなくたって、いつも喜んでるよ」 「もっと喜んでほしいのー。ようくん専用レシピ、早く完成させたいな」 そう言って楽しそうに微笑むつかささんは、なんというかとっても可愛い。マジ可愛い。 「ほんと、勿体ないよな」 「え? なにが?」 「俺の彼女に」 思わず漏れた言葉にはっとなったが、時既に遅し。 つかささんは、慌てたように両手を振って否定する。 「ふえぇっ、そ、そんなことないよぉ。ていうか、私のほうが勿体ないよ……いっつも思うもん」 「なんて?」 「本当に私が、ようくんの彼女さんでいいのかなーって……」 そう呟くつかささんの表情は、本当に不安そうで。 真剣に、俺の恋人であることに自信がなくて、だから一生懸命努力して……。 伏せ目がちな表情とその場違いな苦悩を、俺はなんとか取り除いてあげたかった。 どうすれば、自信を持ってくれるんだろう? 色々考えた。 直接的な言葉じゃだめだ。つかささんは天然だから、何を言っても心の奥までは届いてくれないだろう。 言葉よりも、強い力。それが必要なんだ。 「……つかささん」 「ようくん……?」 俺の変化を察したのか、つかささんが不思議そうに小首を傾げる。 「俺、つかささんのことが好きだ」 「……うん。私も、ようくんのこと、大好きだよ」 「ずっと一緒にいたいって思ってる」 「私も、おんなじ……」 「だったら、そんな悲しいこと言わないでよ。俺、つかささんじゃないとだめなんだ」 そっと、彼女の手を握る。 小さくて、華奢で、冷たくて……でもあったかくて。 「あったかいね」 「こうやって手を握るのも、つかささんだけだよ」 「こなちゃんとも握ってたよね?」 「あれは……まあ、作戦だったし。文化祭の日からは、握ってない」 「……こなちゃんの幼馴染より、どうかな? 私、彼女さん、やれてるかな?」 ここだ。ここにしよう。 つかささんに悟られないよう、小さく深呼吸をする。 俺達はまだまだ付き合い始めたばっかりで、ろくに経験値も溜まっていない、未熟な勇者パーティだ。 怪しげな経験値豊富のこなたさんより、ずっとずっとつかささんは幼い。 だけど。 「こなたさんには、色々と作戦でされてきたけど……つかささんにしかできないこと、あるよ」 「……何かな?」 答えず、俺はあいている手でそっとつかささんの肩を抱いた。 あ、と小さく漏れる声が、上気した肌と共に俺を刺激する。 まねごとのこなたさんとじゃ、絶対にこうはならないはずだ。 だって、こなたさんが瞳を閉じた時よりも。 今のほうが、何倍もどきどきしているから。 「……ん」 静かに、つかささんの瞳が閉じられる。 俺の視線は、つかささんのふっくらとした小さな唇に注がれて……それが、ゆっくりと迫っていく。 「ようくん……」 「……つかささん」 やがて、その距離が、どんどんゼロになっていって―― 「……ばっ、お、押さないでよっ!」 「……あんたがもうちょっと下がればいいでしょうがっ」 「……二人とも、あんまり声だしてたら見つか……」 「わああああっ!」 物凄い物音と共に、何かが崩れ落ちる音が静寂を打ち破った。 「…………」 「…………わ」 「あ」 目があった。 一番下になっているかがみさんと……その上で団子になっている知らない女性二人。 たぶん、あれが話に聞いたことのあるつかささんたちのお姉さんだろう。 まあ、挨拶したいなあとは思っていたので、会えてラッキーだといえなくもない。 ……こんな状況でなければ。 「え、えーっと……じゃ、じゃあ、私達はこれで……」 「う、うん。まあ、なんだ」 「ご、ごゆっくり~」 そそくさと杜のほうに消えていく三人。 俺達は、もう一度顔を見合わせた。 俺、つかささんの肩に手を置いたままの姿勢で固定。 つかささん、俺と鼻がぶつかりそうな至近距離で固定。 ………………。 「……ぷ」 「ふふ、あはは」 「ははははっ」 もうこうなったらムードも何もあったもんじゃない。ていうか笑うしかない。 俺達はばかみたいにお互い顔を真っ赤にして、それでも照れくさそうに笑いあった。 ちょっとは残念だと思わなくもないけど……いやまあ正直かなり残念ではあるけど。 ゆっくりと歩んでいこう。 焦る必要はないんだ。 だって世界は、今日も明日も穏やかに、けれど確かにまわりつづけるんだから。
https://w.atwiki.jp/kagakyon/pages/457.html
part15-159◆Ftc6.YoghEさんの作品です。 つかさ「ね、ねえキョンくん」 キョン「どうしたつかさ」 つかさ「きょ、今日ね、家に誰もいないの」 キョン「何でまた」 つかさ「お父さんたちと上のお姉ちゃんたちは温泉に行ってるの」 キョン「かがみもか?」 つかさ「ううん、お姉ちゃんはこなちゃんのお家」 キョン「なるほど正しく誰もいないな」 つかさ「だからね、そのね、キョンくん家に来ないかなって」 キョン「? 俺に一人で留守番しろってことか?」 つかさ「あ、ち、違うくって、私はいるの」 キョン「泉ん家に行くんだろ?」 つかさ「私は行かないの」 キョン「何でだ? のけ者にされたのか? 俺が言ってやろうか?」 つかさ「ちっ違うの。私から行かないって言ったの」 キョン「どうして? 行ったらいいじゃないか。誘われたんだろ?」 つかさ「そうなんだけどね、怖い映画見るから……」 キョン「あ~、なるほど。確かにつかさ一人じゃ不安だな。犯罪もそうだが、お前も」 つかさ「で、でしょう?」 キョン「でしょうって少しは反論しろよ。んじゃあまぁ夜までいてやるか」 つかさ「ありがと~キョンくん!」 つかさ「はいキョンくん。バルサミコ酢の酢豚にエビマヨだよ」 キョン「お~美味そうだな。つかさはホント料理が上手だな」 つかさ「えへへへ~」 キョン「いただきます」 つかさ「めしあがれ」 キョン「…………」 つかさ「ど、どうかな?」 キョン「ああ美味いよ。つかさは良い嫁さんになるな」 つかさ「ふえっ!?」 キョン「急に大声だしてどうした?」 つかさ「な、何でもないよ」 キョン「そうか? ならいいが」 つかさ「わ、私お風呂入ってくるね」 キョン「了解」 つかさ「の、覗いちゃ駄目だからね」 キョン「何分かりきったこと言ってんだよ。そんなことはしない」 つかさ「そっか、そうだよね。何言ってるんだろ私。あははは~」 テレビを見てしばらくすると突然暗闇なった。 キョン「……うわっ!? な、何だ停電か? ここ……だけじゃないみたいだな」 つかさ「ふえええぇぇぇぇえええ~!!!」 つかさの声が叫び声が聞こえ、携帯電話をライトがわりに風呂場へ向かう。言っとくが中には入らんぞ。 つかさ「キョンく~~~~ん!」 キョン「うわっと」 なんだ、ちょうど上がったのか。走ってきた所を見ると転んだわけでもなさそうだし、突然の停電で驚いただけか。 キョン「おちつけつかさ。ただの停電だ。すぐ直る」 俺の言葉に耳をかさずにずっとしがみついてくる。いや、それだと結局目の前が真っ暗で停電と変わんないんじゃないか? しばらくしてようやく部屋に明かりが戻ったが、つかさはしがみついたままだった。 キョン「もう明かりもつ……って何て格好してるんだお前はっ!?」 よりにもよってバスタオル一枚でいる。しかもちゃんと巻かれておらず、所々乱れている。 つかさ「だ、だって怖くて」 キョン「だからってその格好はないだろう。さっさと着替えてこい」 つかさ「こ、怖いよぉ」 キョン「電気点いてるだろ」 つかさ「キョ、キョンくん。着替えるからドアの外で待ってて、お願い!」 キョン「なぁっ!? い、いいわけないだろうがっ」 つかさ「お願いキョンくん」 キョン「~~~~、わ、分かったからあまり動くなっ。ほら歩け」 つかさ「う、うん」 つかさがようやく着替えた所でそろそろ帰ろうかと思っていた時間になった。 キョン「じゃあそろそろ帰るかな」 つかさ「ええっ!? だ、だめっ」 キョン「何でだよ」 つかさ「怖いもん、またいつ停電するか分かんないし~」 キョン「そんな日に何度も停電なんかしないって」 つかさ「お願いキョンくん。今日泊まっていって」 キョン「今度は何言い出してんだよ……」 つかさ「キョンくん……」 キョン「はぁ……分かったからそんな目で俺を見るな」 つかさ「ありがと~キョンくん。嬉しい!」 とか言って抱きついてくる。ええい風呂上りだけあって熱いっ! つかさと一緒にテレビを見ているんだが、停電の原因は一時的なトラブルだったらしい。 そのトラブルとやらを教えて欲しいもんだ。おかげで俺は一泊することになったんだからな。 隣でドラマを熱心に見ながらもなぜか俺の服のすそをつかんで放さない。伸びるんだが……。 トイレにでも行こうかと立ち上がるとつかさは慌てていた。 つかさ「キョ、キョンくんどこ行くのっ?」 キョン「トイレだトイレ。すぐ戻る」 つかさ「つ、ついていく」 キョン「……もういい。ついてくるんだったら勝手に来てくれ」 トイレに入るまでつかさはすそを掴んだままだった。ドアの外にいると思うと出るものも出ない、かと思いきや そういえば妹にも同じことされてたなと思い出すとなんてことはなかった。 済ませてドアを開けるとすぐ横に体育座りで待っていた。妹も同じことしてたな。 つかさ「わ、私も」 キョン「そうか、じゃあ俺は部屋に戻るから」 つかさ「ま、待ってて!」 キョン「……はぁ」 つかさ「行っちゃ駄目だよ」 キョン「はいはい」 とはいえこのまま突っ立ってるわけにもいくまい。俺は耳を塞いで背を向けて待つことにした。 しばらくすると水の流れる音がして、もう一度した。 つかさ「キョンくんっ!」 キョン「ぐふっ……」 出てきた所で振り返った俺につかさは体当たりをかました。いや実際には抱きついてきただけなんだがその速度たるや遠慮のかけらもなかった。 キョン「い、いったいなんだ……嫌がらせか……」 つかさ「だってだって何回も名前呼んだのに返事してくれないんだもんっ。一人で戻っちゃったって思ったんだから~」 と涙声で語る。 キョン「あ、悪い。耳塞いでた」 つかさ「もぉ~、キョンくんのバカ~」 とても紳士的な行動かと思ったんだがバカときたもんだ。俺の苦労ってやつは報われない運命なのかね。 それからというものつかさはすそを掴むのを止め、腕にしがみついてきた。ますます妹と同じである。 キョン「ほらうつらうつらしてるぞ」 つかさ「ん~……じゃあ寝ようよ」 キョン「俺もか……。まぁいい。布団とかいいから、俺適当に寝るし」 起きた後の体の痛さを思えば本当は欲しいんだがな。 つかさ「だめだよ~、そういって私が部屋に行ったら帰るんでしょ?」 おおその手があったか。って違うっ! キョン「そんなことしないから」 つかさ「じゃ、じゃあ……わ、私の部屋で寝て?」 キョン「お前はバカかっ!」 つかさ「ふえっ」 キョン「あ、悪い。でも寝られるわけ無いだろ常識的に考えて」 つかさ「じゃ、じゃあ寝るまで手繋いでくれるだけでいいからぁ」 キョン「……まぁそのくらいなら」 というわけで暗い部屋の中でつかさが寝るまでという条件で手を繋いでいる。こんな暗闇では本も読めず暇だ。 つかさ「おやすみキョンくん」 キョン「はいはいおやすみ」 つかさが目を閉じたらしい。物音を立てるのは悪いかなとじっと寝息が聞こえてくるまで待つ。 十分もしない内に呼吸が寝息に変わった。寝つきは良い方らしい。どこまで妹そっくりなんだろうな。 さて居間へ行って俺も寝るかなと思い手を離そうとするが離れない。起こさぬように弱い力だったからか。 今度は先ほどより強く引っ張り離そうとするがやはり離れない。というか引っ張ったせいでつかさの位置がずれた。 キョン「マジかよ……」 今日の出来事のせいで精神的に疲れきっていた俺は諦めてそのままここで寝ることにした。もうどうとでもなれ。 ???「……っと!」 誰かの怒声のようなもので少し覚醒する。 キョン「ん……」 ???「キョンくんっ!!」 キョン「ん……つかさか?」 ???「違うわよ! かがみよ!」 キョン「あ~? かがみがどうして俺ん家にいるんだぁ?」 かがみ「ここは私の家よっ。そ、れ、よ、り!」 キョン「ん~?」 かがみ「何でキョンくんが私の家にいて、しかもつかさの部屋で手を繋いで寝てるのよっ!!」 そこで思い出した。そうだ、俺は昨日……。 キョン「色々あってな」 面倒なのでそう言ったら、かがみの顔が真っ赤に染まった。おい赤面症だったのか? かがみ「こら~~~!!! つかさに変なことしてないでしょうねっ!」 キョン「はぁ? 何言ってるんだ? つかさと一緒に飯食ったり、風呂場に行ったり、トイレ行ったり、部屋で寝てただけだぞ」 かがみ「な、な、なぁあああああぁぁぁ!!!」 かがみはそばにあったティッシュ箱を投げつけてきた。慌てて空いている方の手でガードする。 かがみ「出てけ~! 今すぐ出てけ~!」 なぜそんな結論に至ったのか皆目検討もつかないが、つかさの手がちょうど離れていたので帰ることにする。 まだあれやこれやと俺の背中に投げつけてくるが、別段痛くは無い。むしろ床で寝たせいで痛い。 キョン「あ~、腰痛いなぁ~」 かがみ「なあぁっ!?」 俺の一言になぜか過剰に反応してタンスでも投げるかの勢いで物を投げつけてくる。だんだんと痛くなってきた。 キョン「お邪魔しました~」 かがみ「もー来るな~!」 キョン「つかさの相手をしてやったのにそんなこと言われるとは」 かがみ「あ、相手ぇ!」 声が裏返っている。 キョン「ああ。つかさが離さないからな」 かがみ「っ……っ……っ……」 金魚みたいに口をパクパクさせている。金魚運動か? でも金魚運動は足だったと思うぞ。 これ以上いたらかがみに言われもない非難を浴びそうなので帰った。 そして昼過ぎにかがみからメールが。 『ごめんなさい』 なんのこっちゃ?
https://w.atwiki.jp/konashin/pages/1959.html
つかさ16スレ目作品 16-184 16-271 16-493 16-573 16-682 16-892 つかさ17スレ目作品 17-262 17-309 17-470 17-571 17-640 17-714 17-898 つかさ18スレ目作品 18-218 18-254 18-256 18-660 18-730 18-776 18-832 つかさ19スレ目作品 19- 19- 19- 19- つかさ20スレ目作品 20- 20- 20- 20- 前 戻る メニューへ
https://w.atwiki.jp/mwmixi/pages/114.html
おくれちゃった! #ref error :画像URLまたは、画像ファイル名を指定してください。 基本マニ:8 最大マニ: コンボ情報 このカードを使ったコンボ このカードになるコンボ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/konashin/pages/829.html
つかさ6スレ目作品 6-86 6-247 6-267 6-754 6-839 6-927 つかさ7スレ目作品 7-27 7-90 7-270 7-272 7-442 7-476 7-484 7-486 7-763 つかさ8スレ目作品 8-155 8-254 8-367 8-518 8-848 つかさ9スレ目作品 9-56 9-125 9-176 9-178 9-189 9-382 9-454 9-569 9-738 つかさ10スレ目作品 10-464 10-559 10-622 10-721 ページ最上部へ 前 戻る 次 メニューへ