約 3,012,845 件
https://w.atwiki.jp/danmakujp/pages/31.html
永遠の宴会 季節:春 収録:基本セット テキスト 異変ステップのとき、各プレイヤーはカードを1枚引く。 (ドローステップはまだある) 解決―メインデッキがシャッフルされる。 説明 メインデッキが切れるまで毎異変ステップでカードを各プレイヤーが引く異変です。 異変ステップの効果でドローする順番は異変ステップを行っているプレイヤーから時計回りで行います。 異変ステップの効果でカードを各プレイヤーが引いている途中でメインデッキがなくなった時、捨て札をシャッフルして新しくメインデッキを作ってまだカードを引いていないプレイヤーから引き、その後異変を解決する。 詳細な処理
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/167.html
522 名前:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 18 24 35 ID uGKMtPti それは子供のころの話。 川原に居た僕は、そこで蜻蛉に良く似た昆虫を捕まえた。 一緒にいた姉にそれを見せると、彼女は僕に微笑みながら説明してくれた。 「これは蜉蝣ね。ふゆう目の昆虫。蜻蛉も同じふゆう目だから似ているけど、一応別物」 「かげろー?」 「そう。蜉蝣。短命の昆虫」 顔をみてみなさい。 姉は僕にそう云った。 云われるままに覗き込むと、すぐに違和感に襲われた。 無い。 生物にあるべきものが、それには欠落していたのだ。 「お姉ちゃん、こいつ、口がないよ?」 「うん。そう。口が無い」 「どうして口が無いの?これじゃあごはんが食べられないよ?」 「必要ないからよ」 すぐに死んでしまうから。 姉はそう云って、僕の掌の中の蜉蝣を空に放した。 どこまでもか細い、具象化した儚さはゆっくりと風景に消えて往く。 永遠に生きるものは無い。 不滅の生命は有り得ない。 生きとし生けるものは、皆土に還り。 形あるものは、皆滅ぶ。 それが早いか遅いかの差だけで。 本質は何も変わらない。 たとえそれが――数時間の命であったとしても。 姉はそう教えてくれた。 「じゃあ、お姉ちゃん」 「ん?」 「お姉ちゃんも、いつかは死んじゃうの?」 「・・・・」 僕が不安そうに見上げると、姉は眉をハの字にして笑った。 「大丈夫。私は死なないわ。大切な弟を置いて、死ぬわけが無い。私は永遠に――貴方の傍にいる」 子供心に、それは嘘だとわかった。 けれど、僕にはそれで充分だった。 人を幸せに出来る『優しい嘘』もきっとある。 それがわかったのだ。 その日の会話も。 その時の笑顔も。 総てが色鮮やかに。 今も僕の心に焼き付いている。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 僕にはみっつ歳の離れた姉が居る。 名前は鳴尾至路(なりお しろ)。大学生。 謹厳実直・頑固一徹・石部金吉を地で往く人物で、他人にも自分にも厳しいことで有名だ。 本人曰く、 「優しさこそが最も人を駄目にする。厳しさは人倫の根幹」 だ、そうで、周囲に居る人間は、目上・目下、はたまた同輩・友人であってもその『手厳しさ』から 逃れることは出来ないと云われている。 幼少のころに両親が「あいつは厳しすぎて困る」と愚痴をこぼしていたのを聞いたことがあるから、 その厳しさは筋金入りと云って良い。 「政治の要諦は寛厳両輪の均衡にある。けれどそれが無理なときは厳しさをこそ選ぶべき」 そう云い切る姉の愛読書は『韓非子』と『君主論』。 尊敬する人物は、織田信長、チェーザレ・ボルジア、李世民、、スッラ・フェリックス、 ハンニバル・バルカだそうで、大学では独裁、或は寡頭政治をテーマに論文を書いている模様。 523 名前:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 18 26 40 ID uGKMtPti そんな姉なので、周囲にはこう公言して憚らない。 「私は弟の躾を何よりも重んじている。決して甘やかさず、徹底して厳しく育てる。恨まれることも あるでしょうが、厳しさこそが優しさであるといつか気づいてくれるはず」 多分、姉は本気でそう云っている。 僕を厳しく育て上げることを主眼にし、鍛え上げている『つもり』なのだろう。 僕の名前は鳴尾来路(なりお くろ)。 優秀な姉とは似ても似つかない――不肖の弟です。 ※※※ 「いやあ、大したものだなぁ・・・」 五代(ごだい)先生は手に持った淡彩画に感嘆する。 某有名芸大の教師である彼から見ても、その目に映る四角い世界の精度は極めて高いのだろう。しきり に唸りながら驚嘆の声をあげる。 ここは五代邸の客間。 数多くの芸術品に囲まれた僕は豪奢なソファに座り、先生と対面している。 「きみの姉はあれだな、天才と呼べるかもしれんね」 手に持った淡彩画を目の前のテーブルに置き、五代先生は顎を撫でた。 「自分は天才ではない、と、姉は云っていましたけどね。そこまで到達するほどの才覚は無い、と」 姉は自分の評価も適正に出せる人間なので、この自己評価も間違いは無いだろう。 世にある名画家にはとても及ばない。 けれど凡百の絵描きよりは技量が上。 それが姉の下した自己評価である。 「ふぅむ・・・・」 先生は吐息して僕を見る。 「なんにせよ、惜しいよなぁ・・・・」 視線は再び姉の描いた淡彩画へ。 「私が鳴尾くん――きみのお姉さんに逢ったのは、彼女が高校のときでね。教え子がそこの美術教師を していたんだが、自分の教え子に大才の持ち主がいると報告してきて、その作品を見たのがきっかけ だった。これがまた凄い。鳥肌がたってね。以来事あるごとにうちの学校に来ないかと誘ったんだが」 ものの見事に袖にされたよ。 先生は残念そうに苦笑する。 「歴史と政治の研究のほうが面白い、そんなことを云われてねぇ」 「まあそうでしょうね。家でもそっち関係の本ばかり読んでいますから」 それでも誘いを断ったことに引っかかりはあるようで、たまに描く絵を五代氏に届けているようだ。 いつもは姉本人が五代邸に足を運ぶのだが、今日は先輩の見舞いに往くとかで僕が代役になった。 「いや、こう云っちゃ何だがね、彼女、歴史研究家としての能力は並だろう?特定のイデオロギーに 捕われずに歴史を公平に俯瞰できる才覚は認めるが、云ってしまえばそれだけだ。明らかに書画家 としての才能のほうが彼女にはあるだろう」 「姉は絵を捨てたわけでは無いですよ。人生の主眼に置かないだけです」 「それだよ」 五代先生は机を叩く。 「絵を主としない。そこが問題だ。これだけの才能の持ち主はうちの学校にもそうはいない!天賦の才 を開花させず、研鑽もせず眠らせてしまうなんてあまりにも勿体無いじゃないか」 先生の顔からは無念さが滲み出ている。 五代氏自体、画家を目指して叶わなかった人なので才能のある人間がそれを放棄することが残念で仕方 ないのろう。 「絵画に限らず最近の芸術界は人材が払底している。有為な人物は一人でも多く必要なのだ。なのに きみの姉ときたら・・・」 「ちょ、ちょっと待ってください。人無きってのは大げさでしょう。最近は若い世代の台頭が著しい って専らの噂ですよ?四道義彩子(しどうぎ あやこ)とか水沢(みずさわ)つぐみとか、声楽の世界 では月ヶ瀬聖理(つきがせ さとり)とか」 今日姉が見舞いに往っている相手も芸術ではなくセラミック技術の世界ではあるが当代最高と評される 人物であるし、若い才能が芽吹いているのだが。 「月ヶ瀬聖理?ふん、月ヶ瀬聖理ねぇ」 僕が名前を出した人物が気に入らなかったのか、先生は益益不機嫌になる。 「彼女こそ才能の無駄遣いだろう。声楽の世界では日本どころか世界屈指とまで謳われると云うのに、 ちっともそれを活かそうとしないじゃないか」 524 名前:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 18 28 41 ID uGKMtPti 吐き出すように云う。 「日本を離れないんでしたっけ、彼女?」 「日本を離れないどころじゃない。日帰りできる範囲までしか出て往かないんだぞ!?歌は世界中の 人間に聞いて貰ってこそ価値があるのに、そんな我侭を・・・・っ」 「でも裏返せば、それを是とさせるだけの才能があるという証左でしょう?天使とまで称される歌声は それを可能にすると。――でもなんで日本を離れないんでしょうねぇ?」 ふとした疑問を口にする。 すると先生は更に不機嫌になった。 「聞いたよ、理由」 「聞いたんですか?本人に?」 「知人の紹介で逢ったときにな。まったく意味不明の理由だったぞ。曰く、家にニートのくせに専業 主婦面しているドラ猫がいるのでそれをくびり殺してからじゃないとおちおち家を空けられないとか なんとか」 「なんです、それ?」 「知らん!ともかくあの女の話はするな、不愉快だ」 先生は子供のようにそっぽを向く。 「そう云えばきみも・・・・」 そっぽを向いたままの先生は瞳だけジトリと僕を捉えた。 「随分才能があるのに、無駄にしているそうじゃないか」 「は?何ですか、それ、初耳ですよ!?」 本人だがそんな覚えはまるで無い。 「鳴尾くんがいつも云っている。己は弟に如かず、とね。まったくイヤミな姉弟だ」 「ちょっと、先生、拗ねないで下さい。姉は確かに自分を含めて公平にモノを見れますけど、僕に 関しては出鱈目なんです。過大評価してるんです。珠に瑕なんです。画竜点睛を欠くんです。テストで 平均点より上をとっただけで優秀とか云いふらすような人なんですよ」 運動会で一等賞を取っただけでスポーツ万能と触れ回るような人間なのだ。姉の過大評価で苦労した事 は数知れない。本人は万能な人間だからいいのかもしれないが、そのレベルに合わせねばならない凡人 には相当な苦労が付き纏う。 艱難辛苦を口にしてみても「どうだかな」と先生は拗ねたまま。 居た堪れない空気のまま数分が経つと、客間の扉が叩かれた。 「失礼します」 入ってきたのは、愛くるしい少女。 大きな瞳の、小動物を連想させる女の子。 彼女の手にはトレイがあって、その上にはティカップが見える。お茶を持ってきたのだろう。 「どうぞ」 「ありがとう」 ティカップを置く少女に会釈する。使用人の類ではない。先生の身内だろうか。 「――ああ、きみとは初めてだったね。これは私の娘の絵里(えり)だ」 「はじめまして。五代絵里です。しろさんにはいつもお世話になっています」 少女はその容貌に相応しい甘い声で丁寧に挨拶をする。 興奮でもしているのか、僅かに頬が赤い。 「どうも。鳴尾くろです。こちらこそ姉がお世話になっています」 ぺこりと頭を下げる。 「先生の娘さんですか。随分歳が離れてそうですけど」 「40になってから出来た子だからね。確かに離れているよ。今中3できみのふたつ下だ」 そう答える先生の顔はゆるい。 どうやらこの少女が可愛くて仕方ないようだ。 「しろさんにお話は聞いてました。その・・・とても素敵な人だって」 憧憬の念をもって彼女――五代絵里は僕を見つめる。 けれど僕は気が重い。 (姉は一体どんなことを云ったんだろう) 万事がそこそこの僕が完璧超人とされるくらいだ。この子にどう吹聴しているのか想像するだに恐ろし い。 「鳴尾くんは滅多に人を褒めないが、きみのことはいつもべた褒めしていてね。娘もきみという人間が 来るのを楽しみにしていたんだよ」 「そ、そうなんですか。光栄ですね」 そう答える僕の笑顔はたぶん硬い。 一方の先生は愛娘の前だからか鷹揚な表情。他方の五代絵里ははにかんで笑っている。 「え、と。くろさんって呼んでも、いいですか?」 525 名前:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 18 30 39 ID uGKMtPti 「僕のことは好きに呼んで下さい」 「あ、じゃあ、私のことも絵里って呼んで下さい。あと敬語も使わなくていいですよ。くろさんの方が 年上なんですし」 「ん。了解。じゃあ絵里ちゃんで」 「はいっ」 絵里ちゃんはニッコリと笑う。 元気な小動物のような子だ。 愛を注いで貰っている人間で無いと、こんな顔は出来ないだろう。 「それで、くろさんは今日はどうして家に来られたんですか?」 「しろ姉さんのお使いだよ」 机の上に置かれた絵を指し示す。 絵里ちゃんは「失礼します」とそれを手に取った。 「うわぁ・・・・素敵な絵・・・・!!」 頬を紅潮させ、姉の淡彩画に見入っている。 「絵里ちゃん、絵、好きなの?」 「はいっ!大好きです」 彼女は元気良く頷いた。 「好きも何も、絵里は美術部所属の画家志望だぞ。油絵の方だがね」 「へえぇ。絵里ちゃん絵を描くんだ。どんなのか見てみたいな」 「そ、それはその・・・・は、恥ずかしいので・・・・」 途端に顔を真っ赤にしてわたわたと手を振る中学生。 実に初々しい。 「あの・・・しろさんに聞いたんですけど、くろさんも絵を描かれるんですよね?」 「いいや?」 「あれ?そうなんですか?しろさん、自分の弟は絵がとても上手いって仰ってましたけど・・・」 「・・・・」 確かに何度か姉を真似て描いてみた事はあるが、それだけだ。2~3枚しか描いたことが無い。 姉は無条件にべた褒めしいていたが、信用はまるで出来ない。これも姉の中の僕の過大評価のひとつ なのだろう。 「まったく惜しいよなぁ。鳴尾くんはそれだけの絵が描けるのだ。絶対に美術の道に進むべきだ。 きみもそう思うだろう?」 先生はまたその話題を蒸し返す。 「お父さん、私にはいつもやりたいことをやれって云ってくれてるでしょう?しろさんだってやりたい ことをやっているだけじゃないかな?」 「それはそうだが・・・・」 先生は云い澱む。どうやら娘には弱いようだ。 「人間には無限に支路がある。その道のどこを歩くのも自由だ。でもなぁ、多くの人を感動させられる 才覚があるのならば、その道こそを本道とすべきだろう?」 「それはお父さんの我侭だよ。強制されるものじゃないと思うけど」 「いや。それはわかる。わかってはいるんだが、悔しいのだ。やるせないのだ。生きた爪あとを残せる 力があるのに、それをしない。それが歯痒いんだ」 五代先生は心底悔しそうに云う。 生きた爪あと。 そこに居たという証拠。 生き、死ぬ間に残せる自分という足跡。 来た路と、至る路。 その道程を姉は残せるのだと先生は云う。 人生に足跡を刻める者は少ない。 姉はその少数にカテゴライズされるのだと。 けれど―― けれど姉は足跡を残すよりも、それを観察する道を好しとした。 英雄や豪傑の生き様を辿る事を道とした。 (その良し悪しなんて結局――) 僕は思う。 道を歩ききって振り返ったときにのみ、わかることなんだろうなぁって。 至る路。 その支路の寡多も。 その長短も。 526 名前:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 18 32 35 ID uGKMtPti 歩ききってみなければわからない――永遠の謎なのだ。 ※※※ 「ただいま~」 家に着く頃には夜になっていた。 季節が季節だけあって、かなり寒い。 「おかえり。ご飯もうすぐ出来るわよ」 母のそんな声が玄関に響く。 置いてある靴を見ると父も姉も帰宅しているようだ。 僕は自室に戻って部屋着に着替えると、姉の部屋を訪れた。 姉は和室を自室としているので、扉ではなく襖を叩く。 「姉さん、いる?」 「ええ。入っていいわ」 凛とした声。 身が引き締まる澄んだ空気が返ってくる。 「じゃ。失礼します」 襖を開くと独特のスライド音がして、その向こうに正座する女性がいた。 凛然とした美人。 知性と沈着を感じさせる立ち居振る舞い。 鳴尾しろ。 正真正銘僕の実姉である。 「おかえり。クロ」 「うん。ただいま。ねえさん」 帰宅の挨拶。 それはどちらかが戻ったら必ずすることになっている。 僕は姉の前に座る。 すると―― ぎゅ。 思い切り抱きしめられて、頭を撫でられた。 「ね、姉さん」 何で急に? そう問おうにも、顔を胸元に収められてしまっているので口が開けない。 「信賞必罰。良い子にはご褒美」 「良い子って、僕がなにを・・・・むぐっ」 「お使い。疲れたでしょう?」 苦しいほうが疲れます。 5分くらい呼吸困難が続いて、漸く開放される。 「ぶはっ」 水中から顔を出したように、口いっぱいで吸気した。 幽かに鼻腔をくすぐるのは、慣れ親しんだ『和』の匂い。 そして、姉の匂いだ。 しろ姉さんはそんな僕を見てもう一度、 「お帰り、クロ」 そう云って微笑した。 「じゃあすぐに病院から戻ってきたんだ?」 姉のいれたお茶を啜る。 ほうじ茶の香りが心地良い。 「ええ。朝歌(ともか)先輩は私の見舞いよりも見舞いの品のほうが御気に召したようだから」 「ふーん。何を持って往ったの?」 「四民月令」 大分時間が空いたので自宅に戻ってからは掛け軸を作っていたらしい。 姉の背後には無駄な達筆で「はらぺこ」と書かれた新作がある。先月までは確か「さもしい」だった はず。姉は絵のみならず書作や彫り物も嗜む。彼女の手の届く範囲には、筆やら彫刻刀やら半紙やらが 散見されて、何かの作業中だったことが窺われた。 「クロは、この時間まで向こうにいたのね」 「うん。なんか引き止められて。夕食もどうかと誘われたけど、断って帰ってきた」 「愚痴なんて聞いていて楽しいものじゃないからね」 527 名前:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 18 34 35 ID uGKMtPti 良くわかっていらっしゃる。 「でも先生本当に残念がってたよ?しろ姉さんには芸術の道を歩んでほしいって」 「何かを表現するよりも、何かを考察するほうが私は楽しい」 やんわりとした拒絶。 姉は自分の道を常に曲げない。 「そんなことより、この時間まで向こうに居たってことは、彼女には逢ったのね?」 「彼女?絵里ちゃんのこと?」 「絵里、ちゃん?」 ピクリと姉が蠕動する。 「クロ」 「え、なに?」 「女性の名を濫りに呼んでは駄目よ。それは大変な失礼にあたるわ」 「いや、でも絵里ちゃん本人が――」 スコン。 刹那。 僕の背後に音が響いた。 それが姉の投げた彫刻刀が柱に刺さった音だと気づくのに時は要らなかった。 「信賞必罰。悪い子には、お仕置き。――次は無いわよ?」 「あ、う・・・・ごめんなさい・・・」 「そう。わかってくれたのね。嬉しいわ」 姉は何事も無かったかのように微笑んだ。 「そ、それで・・・・絵・・・・じゃなくて、五代さんに逢ったのがどうかするわけ?」 「どうもしない。唯・・・」 「ただ?」 「あの子、一人っ子なのよ。だから兄弟に憧れているの。私が貴方の話をすると、とても喜ぶ。だから 何度かクロのことを話してあげたんだけど、それでいらぬ幻想を見始めているみたいだから」 それは僕に向けていた妙に爛爛としたあの瞳のことだろうか。 しかし、それは、 「姉さんが僕を実像以上に大きく宣伝するからなんじゃ・・・・?」 「私の評価は概ね正しい。それは貴方も知っているでしょう?」 「時と場合によりけりだ」 特に僕に関することは。 「あの子、私が五代先生の家に行くたびに、クロの話をねだるようになったのよ。それで、ちょっと 気にしていたのよ」 「ふぅん?」 いまいち良くわからない。 何にせよ姉が自分でまいた種ではあるようだが。 「しろー、くろー、ご飯できたわよー」 遠くから声が響く。 母のそれ。 聞きなれた呼び出しだ。 「もうそんな時間ね。往きましょうか」 「あ、うん。・・・・お茶、飲みきらなかったな」 「置いておいていいわ。後で私が飲むから」 「え?」 飲みかけですよ? 「何か問題が?」 「いや・・・」 問題と思わないことが問題か。 僕は首を振って立ち上がった。 ※※※ 「さて、久しぶりだな」 食事を終えた僕は部屋に戻ると久しぶりに筆を取った。 絵を描く。 それは本当に稀な行為。 美術の時間は総て手抜きかサボりなので、自分の意思で絵を描くなんて年をまたいでの“久久”だ。 種類は水彩画。 モチーフは幻想の風景。 528 名前:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 18 36 36 ID uGKMtPti 求めるものは――幻滅。 我ながら後ろ向きな理由であるとは思う。 あの娘――五代絵里に失望して貰うためのもの。 「くろさんの絵が見たいです」 あちらにいる間に、彼女は何度か暗にそう云った。 「見ても仕方ない」 そう答えても納得しない。 否。 謙遜として信じていない目をしていた。 百聞は一見に如かず。 実物を見れば嫌でも黙するようになるだろう。 精神的に虚弱な僕だ。 無駄な期待に応えるだけの強さはない。 だから“ここに”弱さを表現する。 百円均一で買ってきた安物の画材。 すぐに色あせ、今この瞬間ですらも満足に世界を表現できないチープな絵の具と、ばさばさの筆。 どうせ一枚しか描かないのだから、それで良い。 幻滅を目指す道に無力を乗せ、下書きも無しにかきなぐる。 期待されるのは嫌だ。 プレッシャーは嫌いだ。 重荷には耐えられない。 弱い。 弱い。 弱い。 弱い。 それが僕。 それが中身。 それを表す。 強さはわからない。 強さはしらない。 だからそれは絵に出来ない。 姉のように強くは無い。 描く。 ただ描く。 ひたすら描く。 時を忘れて描く。 どれくらい筆を走らせていたか。 集中力が途切れたその瞬間に、背後に気配を感じた。 よく知った、肉親の気配。 それがすぐ傍に在った。 「――姉さん?いつからそこに?」 「いつでも、ここに」 ドテラを羽織った姉が微笑しながら僕を見つめていた。 「クロが絵を描くなんて、珍しいわね」 「う、うん・・・」 僕が曖昧に頷くと、姉は僕の肩に顎を乗せて四角い世界を賞翫する。 「うん。・・・・良い絵だ。流石は私のクロね」 「そうかな?」 補正の入った評価ではあるのだろうが。 「ねえ、しろ姉さん」 「ん?」 「強さって、なんだろう?」 この人ならば。 強い人間ならば、それはわかるのだろうか。 僕が問うと、姉は僕を抱きしめた。 「それは“美しい”とか、“美味しい”とか“幸せ”とかの定義を求めるのと一緒ね。一つじゃない。 色色な強さがあるし、時と場合と人にもよるわ。強さとは我侭を押し通す力、とか単純に云えれば苦労 はないのだけれど」 529 名前:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 18 38 38 ID uGKMtPti そう云いながら僕をくすぐる。 何気にちょっかいを出すのが好きな人なのだ。 「・・・でも、しろ姉さんは強いよね?」 「全然」 肩の上で首を振る。 頬と頬が触れ合った。 「五蘊常苦にも耐えられるかどうか。愛別離苦も求不得苦も怨憎会苦も絶対に無理」 ギュッと姉は腕の力を強める。 「依存しなければ生きていけないのよ、私は。愛するものと離れるとか、欲しいものが手に入らない とか、泥棒猫をそのままにしておけないとか、我慢できないことが多すぎる」 「姉さんが?」 僕は驚く。 けれど姉はいつもの澄んだ笑顔で「ええ」と頷いた。 「とりあえず無理に強くあろうとすることは無いわ。履き違えなければいい。強さを身勝手さと。弱さ を優しさと。それに――クロには私がいる」 姉は僕の頭を撫でる。 「永遠なんて無い。不滅なんてありえない。それでも、矛盾しても、こう云える」 頭を抱き寄せ、頬を寄せる。 「貴方が先に死んで、私だけが残されても。私が先に死んで、貴方が残されることになったとしても」 それでも。 「それでも私は永遠に――貴方の傍にいる」 それは強さなのか。 或は弱さなのか。 僕には判断がつかなかった。 たとえ死がすぐそこに迫ったとしても。 それでも。 それでもこの人は、こうやって笑うのだろうか。
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/6865.html
12 名前:通常の名無しさんの3倍 :2012/11/24(土) 13 30 24.07 ID ??? このサザエさん時空では、バーニィっていつまで新入り扱いなんだろうw 16 名前:通常の名無しさんの3倍 :2012/11/24(土) 15 28 13.37 ID ??? 12 アリー「おい、新入り。コーヒー買ってこい」 リョウ「あ、俺も」 カティ「午後の紅茶。トレーズ観衆のな」 コーラ「俺もカティ……マネキン大佐と同じやつで頼むぜ」 カティ「准将だ」 レイヤー「プリンを頼むよ」 ヴィッシュ「エクレアで」 シロー「は、はいっ。行ってきます!」 ピューッ ミケル「パシらされてますけど、隊長ってそこそこ長く勤めてるんじゃないんですか?」 カレン「いや、永遠の新米隊長だよ?」 ミケル「??」 エレドア「まぁ。深くは気にすんな」
https://w.atwiki.jp/pmvision/pages/457.html
《永遠の巫女》 PR.080 Command <プロモーションカード> NODE(6)/COST(1) 効果範囲:目標を取らず、複数のカードに及ぶ効果 発動期間:持続 【デッキ1枚制限】 抵抗(3) 目標の〔あなたの冥界にある「博麗 霊夢」1枚〕を手札に加える。その後、ターン終了時まで、〔あなたの場のキャラクター全て〕は以下の効果を得る。 「【(自動α): 〔このキャラクター〕はダメージを受けない。】 【(自動α): 〔このキャラクター〕は、〔他のカード〕の効果の対象にならない。】」 「博麗神社の巫女として…」 Illustration:カズ コメント 収録 プロモーションカード スターターデッキ妖 関連 「博麗 霊夢」 博麗 霊夢/1弾 符ノ壱“博麗 霊夢”/3弾 符ノ弐“博麗 霊夢”/3弾 博麗 霊夢/5弾 博麗 霊夢/9弾 博麗 霊夢/13弾 博麗 霊夢/20弾 博麗 霊夢/PR 博麗 霊夢/PR2 博麗 霊夢/PR3 博麗 霊夢/PR4 博麗 霊夢/PR5
https://w.atwiki.jp/darkdeath/pages/283.html
No.1815 永遠の苦輪 條件:妹紅3 使用:充填 咒力:5 從自己的棄卡區,選出一張滿足使用條件的符卡,以起動狀態配置在場上。之後,自己的領導人不是『妹紅』的場合,這回合的戰鬥階段結束時,這張符卡放到棄卡區。
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/61693.html
【検索用 DANCEのしゃまをしないてよ 登録タグ 2023年 D VOCALOID あすぱらなす 初音ミク 宮守文学 曲 曲英】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:宮守文学 作曲:宮守文学 編曲:宮守文学 イラスト:あすぱらなす(Twitter) 唄:初音ミク 曲紹介 「DANCEの邪魔をしないでよ」 曲名:『DANCEの邪魔をしないでよ』(ダンスのじゃまをしないでよ) 第16回プロセカNEXT応募楽曲。 歌詞 (YouTubeコメント欄より転載) up and down 向かい合ってさ 胸が躍る先のDOOR開く 後はゆらりゆれるだけで様になるこのターミナル flight! 昨日今日で異なる音に翻弄されるのも一興 されど「調子どう?」って最高には程遠いテンション メンションしないでよ (どうしよう...) やりたいことだけやる まじ表裏一体の総理解 それじゃdumb it down down 頭カンカン看過して淡々と鮮やかにキメて簡単。 自由自在手の届く距離 ステップひとつで予想以上に rolling rolling オンリーなストーリー さらけ出すご用意 邪魔をしないでよ この街にないpopな感覚知りたいの ほら回転をかけて再生 no gravity いま未体験の先にキック 突飛なリリック gimme more more more corner corner corner corner 邪魔をしないでよ 掴む決定権やるなら徹底的 懇切丁寧で超キュートな命令 ほら回転をかけて再生 no gravity いま未体験の先にキック 突飛なリリック 動き出したんだ come in sight 夢中になるなんて案外なく 普通にパンクするからあっぷあっぷ CONFUSED ディテールに宿る足首手首 まあ実際どうしようとか迷うほど 次第に面白いところも減っていくんで 行き違いも気にしないの大事 右左をサーチ 1234 開始 I see メンタリティは十分 だけどフィジカルゆるゆる 俯くからくるくる in the hood 韻がふっと降る つまりオーダーメイド仕様と同じようにfitful 無限に湧くアイデア 積み重ねてるマイギア 夢中で gose on 宇宙へ行こう CONTACT お届けしちゃうshow 邪魔をしないでよ この街にないpopな感覚知りたいの ほら回転をかけて再生 no gravity いま未体験の先にキック 突飛なリリック gimme more more more corner corner corner corner 邪魔をしないでよ 掴む決定権やるなら徹底的 懇切丁寧で超キュートな命令 ほら回転をかけて再生 no gravity いま未体験の先にキック 突飛なリリック 動き出したんだ come in sight コメント 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
https://w.atwiki.jp/the_breakers/pages/34.html
焼け落ちていく太陽 砂はまだ熱いままなのに きみの肌はもう冷たくて 真昼の日差しを忘れてる 夏にだって終わりがあるもの きみの唇がそうつぶやく でも信じていたいよ 永遠のシーズン 消えていく二人の影 砂は熱さをなくしたけど 俺の肌は焼けるみたいに まだ痛みが残ってるんだ 終わりのない夏を見つけたい つぶやき唇を噛みしめる まだ信じていたいよ 永遠のシーズン 砂の数より 星の数より もっとたくさん時間をくれよ Oh 終わりのない夏を見つけたい つぶやき唇を噛みしめる まだ信じていたいよ 永遠のシーズン まだ信じていたいよ 永遠のシーズン
https://w.atwiki.jp/vision/pages/12.html
永遠の恋人 作者名:松木響子 サイト名:夢紡ぎの歌 長編・連載中 妖精? 薔薇の姫は二人の騎士の間で揺れる―光と影が織りなす中世ロマンス
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/562.html
296 永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM sage New! 2008/11/08(土) 15 26 58 ID wE+e31Ox ※※※ 趣味。 鳴尾しろと云う人間の趣味を、僕はあまり多く知らない。 いみじくも甘粕櫻子が指摘したように姉は優秀な人間であり、オールラウンダーである。 だから、編み物や調理も上手く、それ故それらは趣味であるのか実用であるのか、判らない。 読書もそう。彼女は歴史書や思想書の類を読む事を好むけれど、蓄積された知識は将来への肥やしとし て活用されるべきである、との考えから、そのまま論文に活かされる事が常である。 趣味も実益も不可分。 多分、それが実態だ。 「何故、別ける必要があるの?」 姉は僕の疑問にそう答えた。 定義付けやカテゴライズは必要に応じてされるべきであって、それ以外には用いても仕方がない、或い は単純に不可能である、というのが、彼女の弁だ。 「歴史とは、いかに物事を多角的に捕らえ得るかにかかっている。安易な分類は思考の硬直を招き、視 野を極端に狭める結果になる」 という考えが根幹にある所為かどうかは判らないが、姉は決めつけの類を好まない。就中、状況不明瞭 な質問は、それが遊びの問答であっても嫌いであるようだ。 たとえば、 「貴方にとって、一番○○なのは、何ですか?」 こう云うものを特に厭う傾向にある。 「ガチガチの堅物がそんな事を云っても、冗談にしか聞こえませんよ?」 と、誰かが云っていたが、それはこの際置いておこう。 兎も角、そんな姉の不可分な行動の中で、数少なく趣味と断じられるものの一つが、将棋であった。 一体、鳴尾家の人間は先祖からして将棋を好む。 僕等の父親、は嘗てはプロ棋士になりたかったそうで、成人して後、対戦相手を家族に求めた。僕や姉 が将棋を覚えたのは、つまり、それが理由だ。 不可分――その話の続きじゃないけれど、月月の小遣いが紙幣一枚の父は、真剣で酒代を稼いでいるく らいで、これも趣味と実益の合いの子であると云えるのかもしれない。 姉は真っ直ぐな人柄だ。 だから、それが武技であれ将棋であれ、外連味のない正統派の戦い方を好む。 今僕の目の前にある将棋盤――そこに配置された相手方の囲いは金矢倉。定石そのものである。 対する僕は穴熊一辺倒で、父などには、 「またそれか、性格が出てるなぁ」 と呆れられる事も少なくない。 盤の向こう側には、ドテラを羽織った姉が居る。 機嫌は良さそうだが、顔色はあまり良くない。 まだ、風邪が治っていないのだ。 それが少し心配だが、僕が一局指しているのは、つまり、療養中の姉の暇つぶしの相手としてだ。 彼女は恐るべき早指しである。 即断即決で駒を動かすが、総て理に適っている。 彼女の攻め方は『鋭い』と評すべきだろうか。 的確にウィークポイントにだけ、攻勢を仕掛けて来るのだ。 「クロはもう少し外に出た方が良い」 囲いを穴だらけにしながら、姉は笑った。 将棋か、リアルか、どちらの意味で云っているのだろう? 姉の部屋に入り浸って外出回数と時間が減っている事を戒めているのか。 それとも、防禦優先の僕の差し方に対してなのか。 或いは不可分な問いなのか。 質問の意図を察し切れないまま、意識を悲惨な戦場に向けて呟いた。 「父さんがね」 「ん?」 「桂馬の使い方が上手い奴に負けると、普通に負けるよりもストレスが溜まるって」 「待ったはしないわよ?」 「うん。まあ、知ってたけどね」 「そう。王手」 「・・・」 想像がつくだろうが、将棋でも姉には敵わない。 僕は肩を竦めて立ち上がる。 297 永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM sage New! 2008/11/08(土) 15 29 09 ID wE+e31Ox 「どこに往くの?」 「今し方、敬愛する姉君さまに、外に出ろ、と云われたからね」 「・・・私といる時は、外に往かなくて良いのよ?」 白く綺麗な腕が、きゅっと弟の服を掴む。 私といる時はって、貴女といる時が殆どな訳ですが。 そうツッコミたかったが、なんだか寂しそうな表情だ。妙な罪悪感が湧いてしまう。 僕は気持ちを切り替えるように、巫山戯た物云いをする。 「姉君さまは、舌の根も乾かぬうちに、前言を翻すおつもりですかな?」 「一面の事実は、イコールで総てに適用されるものではない。外に出るのは大切だけれど、今である必 要もすぐである必要もないわ」 「――母さんに買い物を頼まれているだけだよ。今日は卵が安いんだそうだ」 僕自身の意志では無い。 言外にそう云うと、姉は暗い表情を消して、真顔になった。 「母さんはどこに?」 「居間。煎餅囓ってるはず」 「そう少しお説教してくるわ」 眉を逆立てて起き上がろうとする姉を必死で押さえる。家の手伝いくらい、して当然だと思うのだが。 「家の事を家の人間がするのは当然。でも、子供に面倒を押しつけて親が怠惰でいて良いと云うもので もないでしょう?」 正論だ、とは思うけれど、何故だか必死な感じがする。いや、単純に怒っているだけだろうか?だとし たら、何に? 「鳴尾さんって、嘘が下手ですよね?」 場違いな。 この場にはないはずの、もの凄く柔らかい声が、背後から突然響いた。 良く知る、誰かの声。 目の前にある姉の顔が、不快そうに歪んで往く。 僕は頭を抱える。 何故ここにいるのかなんて、どうでも良い。どうか余計なトラブルに発展しませんように、と。 「素直にクロくんから引き離されるのが耐えられない、許せないって、云えば良いんですよ」 振り返れば、自称・姉がいる。 いつも通りの柔和な笑顔をした甘粕櫻子は、片手に洒落たビニル袋を下げて、僕に笑顔で微笑んだ。 「クロくん、こんにちは」 「あ、ど、どうも・・・」 肩越しに頭を下げる。 僕の後頭部から、鋭い声が飛んだ。 「クロ。不審人物とは口をきいてはいけないって、いつも云っているでしょう?」 「不審者じゃないですよ?私、この子のお姉ちゃんですから」 態とらしい動きで肩を竦める。 次いで、むにゅっと、柔らかい何かが背中に押しつけられた。背後から抱きしめられたようだ。 「ふふ~。クロくんの感触、大好きです」 「いや、あの・・・」 僕もこの『感触』は嫌いではないけれど、居心地が悪いのは嫌だ。困る。 そう思った瞬間。 ひゅん、と僕の顔の傍を何かが掠めた。 「あんっ」 と、云う、とぼけた声がした。 僕の横を通り抜けた『何か』を、先輩は躱したようである。 「鳴尾さん、将棋の駒は、投げる為の物じゃないですよ?」 めっ、とか云って姉を叱る。 明らかに挑発する為の物言いだった。 「甘粕、クロから離れろ」 「赤い糸で絡まっているので、それは無理です」 「では、妄想を命ごと断ち切ってやろう」 姉の目が細くなった。 本気で怒っている時の、彼女の特徴だ。 甘粕先輩も身の危険を感じたのだろう。 「もう、冗談です。そんなに怒らないで下さい」 298 永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM sage New! 2008/11/08(土) 15 32 14 ID wE+e31Ox 自称の姉はアッサリと戒めを解くと、手に持っているビニル袋を差し出した。 これをどうぞ、と、優雅な動きで将棋盤の上に置く。 挑発の限りを尽くしておいて、それを無かった事にするかのように。 「お風邪を引いてるって聞いたので、お見舞いに来たんです。早く治して下さいね?」 「見舞い?お前が私の為に?」 「いいえ。クロくんの為ですよ。だって早く治してくれないと、クロくんにうつっちゃうかもしれない じゃないですか」 にっこり笑ってそんな事を云う。 この人、場を掻き回しに来たのだろうか。 度重なる侮辱に怒り横溢する実姉は、病床から偽姉を睨み付ける。 「見舞いなどいらない。さっさと帰れ」 「これ、『Euclase』のミルクプリンなんですが」 「見舞いを置いてさっさと帰れ」 「鳴尾姉弟はいつ見ても飽きないですね」 ふふふ、と笑い、甘粕先輩は歩き出す。まっすぐに、出口へと。 「また来ます」 「二度と来るな」 アッサリと。 あまりにもアッサリと、彼女は退出して往く。 (何だか気味が悪いな・・・) そう思ってしまうのは、失礼だろうか。 「クロ」 「何?」 「買い物、往ってきて良いわよ。私はやることが出来た」 再び『不審者』の通行を許した身内を説教しに往くのだろう。 姉の顔色は悪いはずだが、怒りに塗り潰されてそうは見えない。 程程にしてあげてね、と呟いて、僕は和室から退去した。 廊下に出てすぐ、ズボンのポケットに違和感を感じた。 手を突っ込むと、かさりと音がする。 「何だ?何か入れてたかな」 出てきたのは、一枚の紙切れ。 それに目を通し、僕は頭を抱えた。 『大好きなクロくんへ。かどの公園で待っています。お姉ちゃんより』 「・・・」 すぐ帰る訳だ。 あの人、姉の目の前で堂堂と僕に誘いを掛けていたとは。 姉を怒らせたのも、目眩ましの為だろう。平静な状態ならば、多分気づくはずだから。 態態プリンを持って来たのも、『見舞』いを強調する為なのだろう。手ぶらでやって来れば、姉に逢い に来た等と云っても、信用されるはずがない。 真に計算され尽くしている。 実は甘粕先輩のアドレスは、最近姉に抹消させられた上に、着信拒否登録させられている。 非通知設定や知らぬ番号がコールされた時は、自分に知らせるようにとも云われており、電話という手 段に抜け道はない。 我が愛姉は療養よりもこんな事に血道を上げているのだから、何とも嘆かわしい事である。 ともあれ、彼女が僕に誘いを掛けるとしたら、こうやって直接逢いに来るしかないはずだが、僕は姉と いる事が多い。 特に、最近は具合の悪い身内の看病の意味もあるから、付きっきりに近い。 シャットアウトに相似した状態であったのだろう。 そう考えると、少し申し訳なくなる。 甘粕先輩は僕を可愛がってくれているのだし、往きすぎる行為は兎も角として、邪険にするのは忸怩た るものがある。 だから僕は、消極的だが自発的に誘いに応じる事にした。 泣きそうな顔で娘に怯える母親から買うべき物のリストを貰い、外に出る。 足は商店ではなく、公園へ。 299 永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM sage New! 2008/11/08(土) 15 34 49 ID wE+e31Ox 近所の公園は名もない(あるのだろうが、僕は知らない)小規模な場所だ。 以前は遊具が狭そうに佇んでいたのだが、子供が遊んで怪我をしたらどうする!?というヒステリック な抗議を受けて撤去されてしまった。 今はベンチと砂場しか無く、子供は消えて、犬の散歩をする大人や主婦等、高齢者しか見なくなった。 そんな場所に、スポーツカーが駐車されているのだから、目立って仕方ない。 オーギュオック。 それが、目の前にある車を作った会社の名前。 重工業から精密機器まで、技術部門を一手に牛耳る大企業だ。 『良い物だから、高く売る』を合い言葉にしていて、その通り、レベルの高いものを高価格で売りつけ いるようだ。 値は張るが製品は確かなので、一部、高級志向の人間には人気があるという。 「この車、甘粕先輩のですか?」 待っていた人――甘粕櫻子に挨拶もせず、僕は質した。 「お姉ちゃん、て云って下さい。他人行儀は駄目ですよ?」 事が成ったからか、甘粕先輩は上機嫌で僕に腕を絡めた。 勝利者の余裕、とも云うべき笑顔である。 「買ったのはお父さんですし、名義もお父さんです。でも、乗り回してるのは、私ですね」 事実上の専用車と云う事か、と納得する。 この人の家は裕福だ。 雪見台に住んでいる訳ではないので、周囲からは成金の家と目されているらしいが、この人は当然、そ んな評判を気にしない。それは美徳と云うべきだろう。 「私、柔術習っているじゃないですか」 嘗て、柔らかい先輩はそう云った。 「私の通っていた道場って、名門だったんですよ。技量も指導も一流でしたが、心根が腐れてまして、 名族にあらずんば人にあらず、を地で往く場所でしたから、一般人は迫害される傾向にありましたね」 あっけらかんと、そんな事を云う。 女子の苛めは、男のそれよりも陰険だと、彼女は笑う。 「辛くなかったんですか?」 「そういう日は、可愛い弟くんを抱きしめに往きました」 陳腐な僕の返答に、先輩は冗談で返した。 外見や声だけでなく、内面も柔軟なのだと再確認した。 「私は『やられっぱなし』ではいなかったので、そのうち待遇も改善されましたけど」 「された、ではなく、させた、じゃないんですか?」 「ふふ~。どうでしょう?」 と、彼女は笑顔で云って、それから僅かに目を落とす。 「・・・でも、仲良かった娘は、自殺しちゃいました」 「――そんなに、酷い環境だったんですか?」 「酷いかどうかは相対的なものですけどね、その娘、光陰館(こういんかん)の寮暮らしでしたから、 道場にいなくても辛かったのかもしれませんね」 「・・・」 光陰館。 この街の人間ならば誰もが知る名門校の一つ。 最高峰の学府ではあるが、家柄や血統に対する差別が激しい、と評判のある場所だ。 伝統や風習とは、一人歩きする怪物である。これらを御し得る者こそが、本物の貴族なのだと、しろ姉 さんは云っていた。 「先輩は強いですね」 「そう思いますか?」 「だって、耐えて往けたんでしょう?耐久力も、強さのうちだと思いますけど」 僕がそう云うと、先輩は眉をハの字にして笑った。 どこか寂しそうな笑みだった。 「慣れているだけですよ。感覚が鈍磨しているんです」 「慣れている?」 「私、道場に通う以前から差別されていましたから」 差別? 先輩が? 「それって、どういう――」 先輩の人差し指が、開きかけた後輩の唇に触れた。 彼女はちいさく首を振る。 僕は、それ以上何も聞けなかった。その資格がなかった。 300 永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM sage New! 2008/11/08(土) 15 37 23 ID wE+e31Ox 「私には、可愛い弟がいます。それだけで、充分なんですよ。それだけで、どんな事にも我慢出来るん ですよ」 そして、彼女は今も僕の横で微笑んでいる。 えっちな身体をしっかりと腕にくっつけて、上機嫌に。 「クロくん、最近鳴尾さんにばかり構っていて、私には全然じゃないですか」 見かけ上は拗ねたように云う先輩に、取り敢えず頭を下げる。最近全然、と云うのは、事実だ。 「いや、その・・・すみません」 「許しません」 罰です。 そう云って、ぎゅ~っと、頬を押しつけてくる。柔らかい。 「え~と、恥ずかしいんですけど」 「罰ですからね。幸福である訳がないです」 (甘粕先輩、凄く嬉しそうな顔してるな・・・) えへへ、とか云ってる。 僕は気持ちを切り替えて、姉を自称する昔馴染みに向き直る。 「それで先輩、今日は一体どうしたんですか?」 「お姉ちゃんが弟に逢うのって、理由はいらないと思いますけど」 「それはそうでしょう。でも、ただ逢いに来た訳じゃないんでしょう?」 「せっかちさんですね、ここじゃなんですから、移動しましょう?」 にっこり笑うと、、彼女は僕を車に乗せる。 否。押し込んだと云うべきか。 「あの、僕には買い物が・・・」 「気にしない、気にしない」 彼女は笑顔で遮って、法定速度を上回るスピードで爆走を始めた。 やって来たのは、飲食店が軒を連ねる大通り。 以前に仏蘭西料理を御馳走になった『trahison』がある区域だ。 本日連れ去られて来た場所は、『ふく禮』と云う名の、ふぐ料理店である。 トラフグを主に取り扱う高級店で、調理には時間がかかる。 早く帰らないと姉が心配する、僕がそう告げると、甘粕先輩は一瞬、むぅ、と頬をふぐみたいに膨らま せて、それから人の良い笑顔をつくった。 勿論、人が良いのは表面上だけである。 「鳴尾さんの欠点の一つは、お説教が長い事です。怒りの度合いに連動して延長する傾向があります。 ですから、クロくんのお母さまには、お菓子を差し上げておきました」 つまり、姉の目から見れば、賄賂に見えるように状況を操作した、と。 説教が長引けば、時間の経過も忘却される。 きちんと計算してある訳だ。 「それは判りましたけど、間食は一寸・・・」 「食べた後、運動すれば良いです。何なら、裏通りの方に往きますか?」 裏通りには、ラブの付くホテルが密集している。 「やん。何云わせるんですか」 とか、頬に両手を添えてクネクネしてる人がいる。 スルーさせて貰おう。 どうでも良いが、この人、先程から白子酒を痛飲しているが、飲酒運転するつもりなんだろうか。お 酒には頗る強いらしいが、酔ったふりをして抱きついて来る事があるから、警戒はしておくとしよう。 「それでですね、クロくん」 すすすす・・・と、身体を寄せて来る。 僕は距離を置こうと試みるが、それよりも早く捕捉されてしまった。 「デート先を決めたいんですけど、どこか希望がありますか?」 「・・・唐突ですね」 「唐突じゃないですよ?この間、仏蘭西料理食べた帰りに、お願いしたじゃないですか」 「あー・・・」 そう云えば、そうだった。 奢りになった代わりに、そんな話をしたはずだ。 そう思った瞬間、僕の背筋が冷たくなった。 今いる場所。 それを思い知る。 「・・・まさか先輩、今日の『ここ』も奢りですか?」 「はい。お姉ちゃんが御馳走しちゃいますよ。気にせず食べて下さいね?」 301 永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM sage New! 2008/11/08(土) 15 39 46 ID wE+e31Ox 「・・・今度は何を要求するつもりですか?」 「要求だなんて、人聞きが悪いですよ」 (否定しないって事は・・・) 文字通り、これは『餌』だ。 僕は再び蜘蛛の巣にかかったらしい。 「いや、自分で払います」 「クロくん?」 甘粕先輩は気味の悪いほど柔和な笑顔を『作って』、僕に抱きついた。 「ここ、すごぉ~く高いんですよ?お財布の中に、福沢翁が何人いますか?」 「・・・」 そこいらへお使いに往くだけだった僕に、持ち合わせなどあろうはずもない。 判っていて。 それを見越して、夜討ち朝駆けに僕を『攫った』のだ。 勝敗は既に決している。 戦略的勝利を確定されてしまえば、戦術的勝利は困難で、また多くの場合、無意味だ・・・と、しろ姉 さんが昔云っていたなと思い出す。 僕がガックリ首を垂れ下げると、先輩は忖度したのだろう。より上機嫌になった。 「クロくんは、良い子ですね」 「先輩は悪い子ですね」 「も~。酷いですよ。それで、お願いがひとつあるんですが」 おいでなすった。 「何でしょう。無茶はやめて下さいね?」 「無茶じゃないですよ。天凜を活かして欲しいだけですから」 「天凜?」 僕が首を傾げると、甘粕先輩は「ええ」と頷き、笑顔で笑った。 「絵を一枚――描いて欲しいのです」 ※※※ 結局、僕の右手に買い物袋がぶら下がるまで、二時間強を要した。 ふぐは美味しかった。悔しいくらいに。 ともあれ、時間的には早期に解放されたと云うべきだろう。 「しろ姉さん、怒っていなければ良いけどな・・・」 早く帰って来い、という電話はなかった。 これは姉にしては珍しい現象だ。 そんなに説教が長引いているのだろうか? 卵の入った袋をぶらぶら揺らしながら考えていると、丁度家から着信があった。 (しろ姉さんかな?) 多少の説教は覚悟しよう。 そう思って電話に出ると、届いたのは、母の声。 取り乱したようなその声を聞いて、僕の頭が真っ白になった。 母はこう云ったのだ。 「至路が倒れた」と。
https://w.atwiki.jp/c-atelier/pages/1527.html
Recipe024 ◆MvpJICe.d2 作品 胴無し 実際に読む(リンク) 前話永遠の歌 概要 胴無しのうた レシピ追加 無 登場キャラ 登場 無し 元ネタ解説 全体的に 「 胴無しモナー 」のノリ ブラックシュール。