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ナターリア 「はっ!言うやないか!ほな赤いションベン垂らさせたるわ!!」 概要 賊の一員。 飛竜に跨り、射程の長い狙撃銃型の魔術銃を自在に操る。 飛竜に乗っているため機動力に非常に優れ、特に屋外戦でその実力を発揮する。 接近戦でも飛竜がその爪牙を振るい敵を引き裂き、遠近の両方で戦える。 強気で短気、好戦的な性格をしており、頭に血が上りやすい。 頭より身体が先に動くタイプで頭を使って戦うのは苦手だが戦闘における野生の勘は鋭い。 穴だらけの性格だが自らの利益や保身のためならば他人を陥れることも厭わない。 独特の方言で喋りかなり口汚い。 なお、虫は大の苦手でトンボや蝶などもダメ、ゴキブリや蛾など論外。 愛竜はアースガルド大陸産の飛竜で灰色の鱗を持つ。 名前はジュラーヴリク。 技・魔法 「銃(チャカ)やッ!」 魔術銃で早撃ち攻撃。 「狙い撃ちやッ!」 魔術銃で狙いを澄ませた一撃。 「蜂の巣やッ!」 大方の狙いをつけて魔術銃を連射する。 「メシやッ!」 飛竜に命じ、爪牙で引き裂き食い千切らせる。 経歴 2008年5月10日の山賊討伐なりちゃ 山賊の一員として登場。 アジトに貯めこんだ財宝を狙う一行と交戦するがカルスに出し抜かれ、一行にアジトを壊滅させられ逃走した。 2008年10月11日の闘技場なりチャ 対戦相手としてメルホーンス、ワルス、ファランシア、ロングボウと共に登場。 クウヤと交戦し銃撃で攻め立てるが最後はゼフィスの不意打ちを受けて敗北。 2009年4月18日邸宅警護なりチャ 襲撃者の一員としてフィーグ、スッデンアタック、サフラーと共に登場。 上空から屋敷を襲撃せんとするがヴィブラートに察知および妨害され、音波攻撃で撃墜され戦闘不能になった。 2010年2月27日平原討伐なりチャ 賊の一員としてマキナピガス、ヒュドラらと共に登場。 カルネアと交戦するがヴァルナーに邪魔され、ヴァルナーに標的を変えて襲い掛かるもカルスとヴァルナーの連携に敗北した。 由来 「Natalia(ナターリア)」…ロシア語圏にみられる女性名。 「Zhuravlik(ジュラーヴリク)」…ロシア語で「子鶴」。ロシアの高性能戦闘機、 Su-27 の愛称でもある。 余談 関西弁で喋る自分のところでは希少なキャラ。 しかし作者は生まれも育ちも大阪なのにエセ関西弁っぽく思えてしまうのは何故だ…orz ちなみにSu-27はNATOコードである「フランカー」という名称の方が有名かもしれません。 アースガルド 亜人 竜騎士 賊 銃火器 関西弁 騎乗 魔族
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波紋の吸血鬼/Ripple Vampire 波紋の吸血鬼/Ripple Vampire(B)(B) クリーチャー - 吸血鬼・ウィザード 先制攻撃 波紋の吸血鬼ではブロックできない。 各終了ステップの開始時に、このターン、あなたのコントロール下でトークンでないクリーチャーが戦場に出ている場合、あなたはあなたの墓地にある波紋の吸血鬼を戦場に戻してもよい。 2/1 《恐血鬼》もどき。幾度避けども、寄せては返す波の如く襲来する…のだろうか。 《恐血鬼》とは、蘇り方の雰囲気がだいぶ異なる。実際に使って帰ってくる頻度はあまり変わらないのだが、動きがまるで違うので印象が変わる。 《館に蠢く影》のピッチコストの生け贄や、《鴉天狗の潜入襲撃者》の追加コストのディスカードに使う動きがいい具合にインチキ臭い。 1ターン内に最大1回しか帰ってこないものの、先制攻撃を持ち、熊程度なら一方的に倒せるため、比較的強気に攻められ、死ににくい。頭数を並べれば、それなりに受けにくくなる。 自力で速攻を持てないが、復活タイミングの都合上、あまり必要ないだろう。 もちろん《死蝶「華胥の永眠」》や《宵闇の妖怪、ルーミア》等と組ませてもおいしい。 この手の軽量自己リアニメイト生物恒例のブロックに使えないデメリットも含め、いずれにせよ、生物を多用して殴りに行く前衛的デッキ向け。《幻想的粛清》《審判「十王裁判」》には注意。 「このターンの間にトークンでないクリーチャーを自分の元で戦場に出したか」のみを見る。それが終了ステップ時点で戦場に残っていなくても構わない。それどころか、彼女自身を出したターンに即生け贄に捧げてさえ、「《波紋の吸血鬼》というトークンでないクリーチャーがこのターン戦場に出た」という形で条件を満たすため、そのまま蘇ってくる。 黒でないクリーチャーにも反応する。つまり、捨てる手段さえあれば、黒くないデッキでも一応運用できる。 天然さでずむ全開なイメージが強いフランにしては珍しく、犠牲にされるために存在するかのようなマゾ仕様。デッキによっては「とりあえずフラン生け贄で」等の表現が頻発する。 参考 紅魔郷-レア
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闇の欠片事件――闇の書事件から一週間後に起きた騒動は、なのは達の活躍で無事終結した。 闇も、闇の欠片から生まれた者達も、今度こそ、完全に消滅した――筈だった。 「何なんだよこれは……」 「すみません、騒がしくて」 「あれー? もうお菓子ないよシーン。僕もっと食べたい」 「さっさと茶を注がんか、下郎」 この部屋の主――シン・アスカ・高町はがっくしと肩を落とし、溜め息を吐いた。原因は、目の前にいる三人の女の子。 謝罪しつつも、のほほんとお茶を飲んでいる星光の殲滅者。 中身が空になったスナック菓子の袋を逆さに振っている雷刃の襲撃者。ちなみに、袋の底に溜まっていたカスが床にブチまけられたのは言 うまでもない。 罵倒しつつお茶のおかわりを要求している闇統べる王。 彼女達三人は、闇の欠片から生まれ、闇の欠片事件で消える筈だったもの。どういう訳か、事件終了後もこうして現界している。 以前と違うところは、彼女達は闇の書の闇の復活を目論んでいる訳でもなく、外見年齢相応の女の子になっていた。 デバイスも所持しているし、魔法も使えるようだが、何か行動を起こす事もなく、今もこうしてシンの部屋で寛いでいる。 何故こんな事になったのかは不明だが、彼女達は通常の思念体とは違い、防衛プログラムの構築素体の一部で、独自の意識を持っている所 為ではないか、とクロノとユーノが結論づけた。 当面は様子見で――時空管理局提督、リンディ・ハラオウンの鶴の一声とも言うべき発言で、この小さな騒動も幕を閉じた。 嘗てのフェイトやヴォルケンリッター達と同じく、保護観察として処分されている。 (何も皆押し付ける事はないよなぁ) そして、保護監察官に選ばれた――白羽の矢が立ったのがシンだった。 シンは新暦六十四年、第九十七管理外世界の地球と呼ばれる惑星に次元漂流してきた。 シンは今住んでいる地球生まれではなく、異世界――遺伝子工学が発達している、コズミック・イラという世界から事故で流されてきた次 元漂流者だ。 戦争によって家族を亡くし、軍に入隊、争いのない世界を実現する為に戦い、その果てに嘗て上司だった男に敗北し、乗っていた機体が爆 発する寸前で意識を失い、彼が次に目覚めたのは、どういう訳か異世界だった。 文字通り右も左も分からず途方に暮れていたところに声を掛けてくれたのは、喫茶店『翠屋』を経営する高町夫妻だった。 高町家の人々はシンを優しく受け入れてくれた。時には衝突し、涙を流した事もあったが、本当の家族のように接してくれた事に、シンは 自分の正体を明かす。 異世界やロボット等、この地球の常識では漫画やアニメのような話でも、彼等は笑う事なく「シンの言う事だから」と信じてくれた。 そうして高町家の、真の家族として過ごしてきたシンの運命は、後にPT事件と呼ばれるものに、高町家の末っ子、なのはと共に巻き込ま れる事で、再び動き出す。 魔法――ジュエルシードと呼ばれる物を巡る戦いは、ある意味ファンタジーな世界からやって来たシンも、ファンタジーと感じられずには いられなかった。 魔法? 変身して戦う? おいおい、こっちの世界じゃテレビアニメでやってたぞ――と、当時のシンは開いた口が塞がらなかった。おま けに、自分自身も魔法少年に変身! という訳ではないが、魔法が扱えるなんて事に。 人の言葉を理解し、喋るフェレット――ユーノと、魔法少女として覚醒したなのはと共に、シンは魔法のステッキよろしく身の丈程もある 大剣で魔導士としてのデビューを果たした。 「……ン! シンってば、ねぇ!」 「!」 ハッとして顔を上げると、眉を吊り上げ、薄い紫の瞳でこちらを睨み、頬を膨らませている雷刃の襲撃者。後ろでは、闇統べる王が腕を組 んで「我は憤慨している」とアピールしていた。 「何ボーっとしてるんだ、暇だから僕と遊ぼーよ!」 「えっあぁ……悪い、ちょっと考えてた」 「いいから茶を注げ下郎。遅れた罰で茶請けも出せよ」 「お茶請けといえば、サトートーカドーのデパ地下で売っていたお饅頭がまた食べたいものですね」 過去を振り返っている暇なんかない。今はこのお嬢様方を満足させねば、とシンは気持ちを切り替え、ゆっくりと立ち上がる。 (敵だの何だの、言葉を交わして分かり合えるなら、それがいいもんな) コズミック・イラで悲惨な人生を歩んできたシンの心の傷は、この世界の住人達が優しく癒してくれた。 高町家の人々やなのはの親友、すずか達月村家、アリサ達バニングス家の人々。フェイト、アルフ、ユーノ達スクライア一族、クロノやリ ンディ、エイミィ達艦船アースラの乗組員。そして、はやてやヴォルケンリッターの皆。 自分の事を家族や友達、仲間と言ってくれた皆に、シンは心の中で何度も感謝した。そして、そんな皆の為に何かをしてあげたいとも。 人は分かり合える。それは幻想かもしれないが、その努力もしないのなら、人は滅んでも仕方のない生き物なのかもしれない。 人は言葉で分かり合える事を、シンはなのはから教わった。そしてシンは闇の書事件、闇の欠片事件で、敵であったヴォルケンリッターや 構築素体の彼女等に、何度も呼びかけた。 その結果が今のこの状況なのかは分からないが、もしかしたら……。 話せてよかった、と。分かり合えてよかったと、シンは思わずにはいられなかった。 まぁ、 「だから無視するなよシンのバカー!」 「いい加減にしろよぉ塵芥の分際でぇ……! 我を無視するとはいい度胸だなぁ文字通り塵にしてくれようかぁ!?」 「シンさん、このプリン頂きます」 本当に分かり合えたかどうかは、首を傾げざるを得ないシンだった。
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「「ガツガツガツガツ!!」」 忘れ去られたことにより、逆に食事を通して仲直りした孫親子。 レミリア達もカリスマをどこぞにほっぽりなげ、茶を嗜んでいた。 そして時は流れて…… ――キング・クリムゾン!―― 「ぶええええぇぇぇぇ!しゃくやあああぁぁぁ!!しゃちょおおぉぉぉぉ!!」 紅茶からかつての従者、咲夜を思い出してしまい、レミリアは号泣しだした。 普段なら怒りが優先されるが、カリスマブレイクした今ではどうのしようもなかった。 「ベジータ……おめぇまた死んじまったのか……」 そして悟空はベジータの死を知った。 おそらくはまた無駄に高すぎるプライドで墓穴を掘ったのだろうと思いながらも警戒は強めた。 「それにしても、また新生鷹の爪団が動き出すとは……」 「とうとう刑事さん達まで呼ばれていましたね……」 「空気王まで呼ばれていたのが気になりますが……」 探索者達は新生鷹の爪団の放送に考えこんでいた。 どれが味方で、どれが敵か? 「なんだかメタボオヤジに爆殺された気がしたが、別にそんなことはなかったぜ!」 タィケボロは謎の言葉を口走っていた。 もっとも、仮に死のうがこの世界では無限に再フュージョンできるのだが。 「なんだが僕ははぶられた気がします。でも、ちゃんと生きてますよ?」 幹也も謎の言葉を口走る。 さすがにこのまま寒いからと茶会を開きっぱなしというわけにもいかなくなった。 のんびりしていて彼らは失念していたが、自分たちも新生鷹の爪によるお尋ねものなのだ。 悟空に軽く宇宙までぶっ飛ばされはするが、すでに襲撃者の数は二桁だ。 戦力の少ない刑事達は少々苦戦するだろう。彼らに救援は必須だ。 「よし、飯も食ったしいいかげんに行くか!」 「ねえねえお父さん」 「ん?」 いざ出発、そんな時悟飯が父親を呼び止めた。 「ほらこれ、さっきの襲撃者が落としていったんだけどこれドラゴンボールだよね? これを集めて、【マーダーに殺された人を生き返らせて】って願えばいいんじゃないかな?」 「おお!その手があったか!よし、すぐにあつめんぞ!」 その後親子によるドラゴンボールの説明がなされ、彼らはドラゴンボールを集めることにした。 だが彼らは知らない。ドラゴンボールを探しているのは自分達だけではないということに…… 【四日目・0時20分/新惑星・東京都】 【孫悟空@ドラゴンボールZ】(クラス・ヒーロー) 【状態】健康、軽く煤付き、首輪無し、満腹 【装備】無し 【道具】無し 【思考】 基本: 主催者を倒し、元の世界に戻る。 0:ドラゴンボールを集める 1:青子、橙子…… 2:ショッカーを完全に滅ぼす。他の悪の組織も同様に滅ぼす。 3:レミリアを今度こそ守り抜く。 4:ベジータ…… 5:誰だ……?戦闘力がとんでもない奴(ナッパ)の気を感じる……! ※新生鷹の爪放送により主催者にも存在を知られました ※この世界の人間ではないので宝具は持っておりません。 ※『時間逆行』がかけられています。 数回は自動で発動。橙子と青子の魔力が切れた場合、悟空の気を使って発動します。 気の消費量等は次の書き手の方にお任せします。 【孫悟飯@ドラゴンボールZ】 【状態】健康、満腹 【装備】無し 【道具】七星球×5 【思考】 0:ドラゴンボールを集める 【探求者+英雄組】 【黒桐幹也@空の境界】(クラス・サーチャー) 【状態】健康、首輪無し 【装備】エーテライト 【道具】謎の本、他は不明 【宝具】此の者想いし最愛の人(両儀式) 【思考】 0:ドラゴンボールを集める 1:鮮花やその他の知り合いを捜す 2:文を手伝う 3:橙子さん…… 4:式に会えて嬉しい 5:鷹の爪放送で呼ばれた対主催と思われる人物たちとの合流を目指す 6:新生鷹の爪団及び自分たちを狙ってくるであろう敵を警戒 【射命丸文@東方Project】(マスター) 【状態】健康、首輪無し 【装備】手帳@現実 【道具】不明 【思考】 基本 真実を新聞にして客観的に皆に伝える 0:ドラゴンボールを集める 1:この聖杯戦争を生き延びる 2:元の世界に皆で帰る方法を探す 3:幹也、そして他の仲間を守る 【両儀式@空の境界】 【状態】健康、首輪無し 【装備】不明 【道具】支給品一式、ナイフ 【思考】 0:ドラゴンボールを集める 1:幹也を許(はな)さない 2:何があっても幹也を守る 3:トウコ…… 【レミリア・スカーレット@東方Project】(マスター) 【状態】健康、怒りと悲しみ、イナバを受け継ぐ決意 首輪無し、カリスマブレイク 【装備】ボロボロになったプータンのきぐるみ@魁!!クロマティ高校withイナバ製作所 【道具】 【思考】 基本:社長の思いを受け継ぐ 0:ドラゴンボールを集める 1:とりあえずサーチャー達と行動する 2:咲夜、イナバ君(仮)を殺した奴は必ず殺す 3:サーチャーの力でマーラ様の人、八雲紫を探す? ※固有結界『イナバの巣』を継承しました。しかし魔術の知識がないため、魔術は一切使えません。 ※固有結界を継承したことに気づいていません。 ※イナバの力を継承したことで吸血鬼の弱点とかがいろいろと大・丈・夫!になったようです。 ※孫悟空(英雄)のマスターになりました。 【タィケボロ@タケシ×ディアボロ】 【状態】合体状態(タケシとディアボロ)、全裸 【装備】なし 【道具】なし 【思考】 基本:この戦いの真実を知り、運命を覆す 0:ドラゴンボールを集める 1:サーチャー達を利用する ※あくまでフュージョンなので持続時間は60分ぐらいです、合体中は空を飛べて常人の10倍ぐらいの力を持ってます。 ※タケシの使用するポケモン、ディアボロのスタンドであるキング・クリムゾンの能力が使えるようです ※0時の時点で再度フュージョンしました。
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セッションハンドアウト トレーラー フランスとドイツの国境近い街で錯綜するオーヴァード達の運命。 UGN・ファルスハーツの両陣営から追われる少女 死んだ筈の同僚の影 かつての栄光を取り戻すべく"生命の樹"を捜し求めるナチスの機械化兵軍団 そして、否応無しに巻き込まれる不運な旅人達 血と硝煙漂う裏切りの十字路(ダブルクロス)は彼らをどこに導くのか── ダブルクロス The 3rd Edition ファントムペイン ダブルクロス──それは裏切りを意味する言葉。 キャラクターHO PC1 推奨カヴァー:なし ロイス:アルマ(庇護/無関心) ※偶然、幼いオーヴァードを保護する あなたはジャームに襲われる幼いオーヴァードを助けた。 UGNに保護して貰おうと思ったが、彼女はUGNから逃げてきたのだという。 非常に厄介な拾い物をしてしまったが…さすがに捨てるわけにはいかないだろう PC2 推奨:エド ロイス:元同僚(親愛/不信感) ※生命の樹の確保及び元同僚の影を追う UGNから"生命の樹"と呼ばれるオーヴァードの確保を依頼されたあなたは 現地の駅で死んだ筈の同僚の姿を目撃する。 PC3 推奨カヴァー:なし ロイス:吾妻 静(あずま しずか)(興味/猜疑心) ※ナチス残党より先に生命の樹を見つける あなたはフランスとドイツの国境近い街でドイツのエージェントを名乗るオーヴァードの少女を助けた。 彼女は襲撃者(ナチスドイツの生き残りらしい)より先に"生命の樹"と呼ばれる何かを見つけなければいけないらしい。 あなたは彼女に雇われ、生命の樹とやらを探すことになった。 ※PC1,2,3となっているが、いわゆる主人公的な位置を表すものではない
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「…クソっ…なんで…なんでこんなっ…!」 紅き月の下、バッグを片手に一人の少年は必死に走っていた。 少年の名前はシン・アスカ。本来の歴史ではザフト軍のエースパイロットになる筈だった彼は…その2年前である14歳の時にこの殺し合いに巻き込まれてしまった。 ここで時を少々戻そう。 シンがこの場に巻き込まれてしまったのはよりにもよって、MS同士の戦いの余波の爆風によって自分以外の家族が死に、妹の携帯を拾いに行った自分だけが生き残ってしまった直後からであった。 見せしめが殺された時、シン・アスカは思わず父の、母の、そして妹マユの亡骸を脳内にフラッシュバックさせてしまい…声にもならない嗚咽と慟哭を響かせ吐き気を催した。 それになんとか耐えながらも…死への恐怖と、自分だけが生き残ってしまった事への怒りと悲しみと、主催に対する怒りで感情がぐちゃぐちゃになり危うく発狂してもおかしくなかった所を…自分より年上であろう軍服を着た少女に保護された。 少女は口数こそ少なかったが…不器用ながらも優しく努めて、落ち着かせるように彼女がシンを励ました事によりなんとかシンは落ち着いた。 なおこの時、そんな余裕が全くなかったのもあって…彼女が下にパンツ…もといズボンしか履いてなかったことと、脚部に機械を装着していたことにシンは気付いていなかったのであった。 そしてその流れで少女が、自らの名前をシンに紹介しようとしたその時───襲撃者は現れた。 襲撃者はヒトの形をしながらも全身に蔦のような植物がまとわりついており、右腕からは植物状の触手を、肩には棘が生えた伸縮する蔓を生やしていた。 襲撃者が二人を発見できたのは、地中に根を生やして感知したからである。 「危ないっ…!!っ!?」 襲撃者が触手でシンを襲おうとしたところを、すんでで反応が間に合った少女が魔法陣のような何かを展開させて触手を防ぐ。 そのまま拳銃を取り出し相手を撃とうとする少女であった…が、発砲しようとした瞬間、突然まるで何かが脳裏に映ったかのように彼女の手は震え息は荒くなり、狙いは定まる様子がなかった。 一瞬の躊躇の後、その少女はシンに向かって叫ぶ。 「私が抑えてる内に、きみは逃げろ!!」 「…に、逃げろったって!あんたを放って行けっていうのかよ!?」 突然そんなことを言われたシンは思わず反発するも…彼女は先程展開した魔法陣のようなもので相手の触手を防ぎつつなお叫ぶ 「私なら…大丈夫だから…!…頼むっ…やらせて、くれ…今度、こそっ…今度こそ、守りたいんだ!!」 「…っ…わかった…死ぬなよ!」 少女の気迫に押されたシンは、躊躇を見せながらも逃げる事を選んだ。 去り際に、少女が一人溢した言葉に不安を抱きながらも…。 「…さて、おまえにも付き合ってもらうぞ……私の、罪滅ぼしに!!」 そして時は現在へと戻る。 シンは少女に言われるがまま…襲撃者から一目散に逃げていた。 …が、彼はふと足を止める。 (…いいのかよ…あんな事言ってたのに…あの人を見捨てて、放っておいて…僕だけが逃げてていいのかよっ!?) シンの足を止めさせたのは、突如脳裏に浮かんだ家族達の凄惨な最期。 (っ…このままじゃ、あの時と…何も変わらないじゃないか!また僕だけが…僕一人だけが、のうのうと生き残るのか!? ……嫌だ…こんなところで…こんなところで僕は……俺はっ……あの人を見捨てるなんて…ふざけるなぁっ!!) 吐き気に耐えながら一瞬の躊躇をした後、シンはバッグの中身を見る。 バッグの中に入っていた剣を手に取ったシンは、説明書を読んだ後…反対側の方向へと一目散に走り出した。 そして剣は、姿を変えて行く─── 一方シンを逃した少女は、魔法陣のようなもの…シールドを駆使して、なんとか相手の攻撃を防いでいた。 しかし今の彼女には、左手や背中から放たれる蔓の一撃や右手から振われる触手の一撃を防ぎ続ける事しか出来ず…また銃を撃とうにも撃てない状況にあった。 (くっ…なぜだ…銃の引き鉄を…引かなければ…だというのに…!!) 少女の名前はアンジェラ・サラス・ララサーバル。 第504統合戦闘航空団、通称アルダーウィッチーズに所属しているウィッチである。 そんな彼女はなお相手に発砲しようとする…が、引き鉄を引く寸前に、脳裏にこの殺し合いに呼ばれる前の出来事がまた映り込む。 かつてララサーバルは、ベルリンでの戦いにて住民達を守ることが出来ずに撤退せざるを得なかったことがあった。 その時のことがずっと心の片隅から消えずに残っているが故に、彼女は守ることに拘っている。 理由はどうであれ…住民達を見捨てて逃げた形になったという事実を悔やみ、また引き摺っていて…それを自らの罪だと背負い込んでいるのだ。 そんな中、504に所属したララサーバルはある時ネウロイと対話を試みるトラヤヌス作戦に参加する…も、作戦は失敗、多数のネウロイが現れる中彼女は肩に負傷を負ってしまう。 それでも彼女は、殿を務めてネウロイ相手に戦い…重傷を負いながらもなんとか持ち堪えて見せた。 ───だが、問題はそこから復帰した後だ。 傷が癒えた彼女は、隊の仲間と模擬戦を行なったのだが…そこでペイント弾を発砲しようとした際、負傷した際の記憶が脳裏に再生されて…結果なかなか発砲できず、発砲したはいいが、射線が乱れたのか初撃を当てれなかったりと不調が発生していた。 違和感を感じたララサーバルは…重要な作戦であるオペレーション・マルスの目前なのもあって、誰にもこの事を告げない事にした。彼女は一人で思い悩み、抱え込みがちな性格であった。 そして作戦が決行される前日の夜───気付くと彼女はこの殺し合いに放り出されていた。 再び時は今へと戻る。 発砲が出来ない現状では、ララサーバルの固有魔法である「魔法炸裂弾」は何の役にも立たない。 よって今の彼女には、シールドを使って防ぐか…シールドを使わずに攻撃を回避するかしか手段はない。 だが相手は避けさせる間も与えずに攻撃を重ね、更にララサーバル自身も記憶のフラッシュバックが理由で不調から脱せずにいた。 そんな状況が暫し続いた後、相手はララサーバルに背中の蔓の一撃を当てようとし…それとは時間差で右腕の触手を使い、不意を突き彼女を吹っ飛ばした。 「っぅ!?しまっ…ぁ、うぁぁ!!?」 相手はララサーバルに立て直す時間を与えずに、背中の蔓で全身を絡め取ってしまう。 そのまま相手は彼女の体液を養分として啜り出そうとし、またそれを効率良く行う為か右手の触手を使い、力任せに彼女の首を締めていく。 「ぁっ…!?ぁぐ、は…っ、ぅぁあ…!!」 思わず悲鳴をあげ、棘の生えた蔓で全身を絡め取られたせいで服がところどころ破けてしまいながら、自分の命の終わりが近付いている事を感じているララサーバルは一人思考する。 (…ここで私は、終わるのか…。 …報いなんだろうな、あの時…守れなかった罪の…。 …隊長、シュレーア大尉…シェイド中尉…すまない。私は…もう…戻れないようだ…。 …あの少年を逃がせたことが、せめてもの救いか……こうなることがわかっていれば、美味い飯を食べてから…死にたかった、な…… ……っ!?) 無理矢理自分を納得させ意識を闇に落とそうとしていた彼女はある光景を目に映し、混乱する。 それは…先程逃した筈の少年が、扶桑刀に近いが違う、まるで龍の尾のような三日月型の刃が鎖によって柄尻に繋がれている刀を持ちながらこちらに向かってきている姿であった。 (…な、んで…きたんだ…逃げろ…私なんて、見捨てて…きみだけでも逃げて…くれ…) ララサーバルの命が消える一歩手前で、少年は───シン・アスカは間に合った。 (…死なせない、あんたを…死なせるもんか!!) そのまま彼は、彼女を…ララサーバルを救う為に刀の能力を使う。 …しかし、説明を読んだとはいえ、扱うのは初めてであるシンには、ララサーバルの身体に絡まっている蔓のみを攻撃することは不可能…な筈だった。 だが彼は…彼女を救う為にひたすらに集中し、その結果───種が弾けるような感覚と共に、シンの目からハイライトが消え、更に集中力が研ぎ澄まされた。 相手は少女の体液を啜り首を折ろうとする事に集中していて、シンの接近には気付かなかった。そのままシンは刀の…氷輪丸の始解により発動可能な技である「群鳥氷柱」を使う。 射出された紫色の氷柱は…シンの驚異的なコントロール力によりララサーバルを傷付けず周りの蔓のみを切り裂いていった。 この一撃によりララサーバルは命を拾い、咄嗟に距離を取れた…が、相手は今度は集中力が切れたシンに向かって触手を伸ばそうとする。 (…ここで、ここで撃たなければあの少年は…!!) 再び銃を構えようとするララサーバルであった…が、過去の記憶が再び呼び起こされ手は震え息が荒くなってしまう。 (…引き鉄を引け私っ…!!頼む!!このままでは…また私は、守れずに…あの時に、ベルリンで敗走した時に決めただろう!? 今度こそ守ると…あんな、たった一度の負傷で…負けてられない…だからっ…!!) いつの間にか、震えは止まり息も落ち着いていた。 そしてララサーバルは…引き鉄を引き数発発砲。着弾と同時にそれらを、自らの固有魔法で炸裂させた。 結果───相手は、不死の怪物は首輪の制限もあり…その触手がシンの心臓を貫く直前に、緑色の血を流して倒れ込みあり得ぬ筈の死を迎えた。 怪物の敗因は、己の不死性を過信し銃弾を回避せずに受け止めようとした事と、目先の獲物を殺すのを最優先してしまった事である。 【プラントアンデッド@仮面ライダー剣 死亡】 ※死亡後にラウズカード(アンデッドを封じる為のトランプ型に近いカード)になるか否かは後続の書き手にお任せします。 ※プラントアンデッドの死体の近くに支給品一式が入ったバッグが落ちています。 「…倒せた、のか…?」 「おそらく…な」 「…良かった…間に合って…なんとかあんたを助けられた…」 ため息を吐くシンに対しララサーバルが抱く感情は二つある。 一つは、何故自分を見捨ててそのまま逃げてくれなかったのかという思い。 そしてもう一つは─── 「…感謝する。私を…救援に来てくれて…」 「…俺はただ、自分だけのうのうと生き残るのは…もう嫌だったから。無我夢中でやったら…いつのまにか出来てたんだよ」 「……そうか」 ララサーバルは彼の過去を知らない。だが…自分だけがのうのうと生き残るのはもう嫌だと、そう寂しそうに言った彼の表情に、親近感のような何かを感じた。 「しかしそれでもだ。きみがいなければ私は、間違いなくあの化け物の餌だっただろう。 …名前、言い忘れてたな。 私はアンジェラ・サラス・ララサーバル。アンジー…と、そう呼ばれることも多い」 「…シン。シン・アスカ」 「…よろしく頼む、アスカ」 「こちらこそ…よろしくな、アンジ…うわあっ!?」 握手を求めたアンジーにシンが応えようとした…その時であった。先の戦いでの消耗もあって身体をふらつかせてしまったアンジーが、シンを押し倒す形で勢いのまま倒れ込んでしまったのは。 いくらコーディネイターとはいえ、彼もまた先の戦いの際の消耗により注意力が散漫となっていた。 しかも運が良いのか悪いのか、シンの手の先には─── 「はぅ、ぁん……ぅ……っ!?」 「へ?…あぁっ!?ごめんっ…!!」 軍服越しとはいえ、アンジーの豊満な胸が鷲掴みの状態となってしまっていた。 シンは顔を赤くしながら年相当に慌てていて、アンジーはみるみる内にこの紅き空の如く顔を紅く染めて行った。 こうしてアンジェラ・サラス・ララサーバルは、本来オペレーション・マルスの作戦中に克服する筈だったPTSDらしき症状をそれより前に克服し、またシン・アスカに至っては、本来の歴史ならば2年後、MSのパイロットとして戦う最中に発現する筈であったSEED能力をそれより前に発現させ、トラウマを振り切る事を選んだ。 二人は過去に囚われながらも、なんとか未来を殺さないように足掻いてみせたのだ。 ───だがしかし、全てがプラスに働くわけではない。 殺し合いに巻き込まれてからずっと、心の片隅で考えていた。どうして父さんや母さんやマユが死んで…俺だけが生き残ってしまったんだろう…って。 でも、あの人に助けられて…何となく、理由がわかった気がした。 …ごめん、父さん、母さん。…マユ。俺はまだそっちには逝けないや。 俺は…偶然拾った命を使って、あの人を…年上なのに危なっかしくて、放っておけないあの人を…守るから。 …多分それが…俺にとっての、一人だけ生き残った俺の、罪滅ぼしなんだ。 【アンジェラ・サラス・ララサーバル@ストライクウィッチーズシリーズ】 [状態]:ダメージ(中)、恥じらい(大)、服がところどころ破けてる [装備]:ファロット G55Sストレーガ@ストライクウィッチーズシリーズ [道具]:基本支給品、グロック26@フルメタル・パニック!、ランダム支給品0〜1 [思考・状況] 基本方針:殺し合いの打破 1:今はアスカと共に行動。 2:できればアスカを信頼のおける誰かに預けたい…が、当人が拒否しそうな気もする。 3:シェイド中尉達が巻き込まれていない事を願う。 4:……胸を…胸を揉まれたのは、隊長…ドッリオ少佐に揉まれた時以来、だな……。 5:今度こそ守り切りたい。 [備考] ※参戦時期は「ストライクウィッチーズ 紅の魔女たち」の3巻、オペレーション・マルスの実行前日からです。 ※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。 【シン・アスカ@機動戦士ガンダムSEED DESTINY】 [状態]:健康、主催への怒り、決意、疲労(中) [装備]:氷輪丸@劇場版BLEACH The DiamondDust Rebellion もう一つの氷輪丸 [道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 [思考・状況] 基本方針:主催を許すつもりはない 1:アンジーを守る。 2:あんな事をする奴ら(メフィスとフェレス)…許すものかぁっ!! 3:…まだ俺は、マユ達の所には逝けない。 [備考] ※参戦時期はPHASE-01「怒れる瞳」にて、妹のマユの携帯を拾いに行った後爆風に吹き飛ばされ、トダカの制止を聞かずに家族が居たところに向かった際に遺体を発見した直後からです。 ※SEED能力が発現しましたが、まだ自由には発動させる事はできません。 【ファロット G55Sストレーガ@ストライクウィッチーズシリーズ】 大型のネウロイ戦を想定し、DB605DCMエンジンというリベリオンの高品位な燃料に対応したエンジンを搭載する事で攻撃力を強化したユニット。 しかし肝心のエンジンの数が少なかった為に、ごく少数のみがエース用として配備された。 【グロック26@フルメタル・パニック!】 同作の主人公である相良宗介が「フルメタル・パニック!The Second Raid」までのアニメ版にて携帯している拳銃。 サイズが小さい為日常的に隠して携帯し易く、またサイズの割には装弾数が多めなのも特徴。 【氷輪丸@劇場版BLEACH The DiamondDust Rebellion もう一つの氷輪丸】 斬魄刀の一つ。日番谷冬獅郎の斬魄刀…ではなく、こちらは彼のかつての親友である草冠宗次郎が所有していた方。日番谷の氷輪丸とは鍔の形状に差異があり、また日番谷の氷輪丸とは違い発生させた氷が紫色になっている。 能力は日番谷冬獅郎の物と同一で、大気中の水分を凍らせたり、刀に触れた物を凍らせたり、水と氷で竜を造り出したり出来る。 しかし日番谷とは違い、草冠は卍解へと至っていない。 なお今ロワでは、主催の手により始解と始解で放つ技は持ちさえすれば誰でも使用可能。 ただし卍解に辿り着くことは不可能となっている。
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67話 獄炎-hellfire- 伊東結は二階のホールに設置されたソファーに座り、食事を取っていた。 現在アレックスとブライアンが一階正面の警備、沖田総悟とムシャが一階裏の警備に当たり、 シーザーは自分と同じフロアでやはり食事を取り、リーヴァイとダーエロは一階への階段近くの 部屋(何の部屋かは分からない)で首輪を一緒に調べている。 先刻、ダーエロから首輪を解除出来る可能性が高いと聞かされ、 結やシーザーを含む全員の士気が大いに上がった。 (もうちょっとでこの首輪が外れるかもしれないんだね……) 首にはめられた首輪を指でなぞる結。 無理矢理外そうとしたり逃げようとしたりすれば爆発する死の首輪。 これさえ外れれば、脱出する事も可能になるはず。 (お願い、頑張ってダーエロ……) 首輪解除の最重要人物であるダークエルフの男に、結は願いを込める。 「……ん?」 「どうしたのシーザー」 「いや、今何か変な音が…」 「音? ……」 シーザーと結は、何の気なしに、市役所正面方向の窓を見た。 何かが煙の帯を引きながらこちらに向かって来ていた。 結、シーザー。どちらも行動を起こそうとした時にはもう手遅れで。 飛んできたそれはガラスを突き破り、結の隣にいたシーザーの胴を貫通した。 そしてそのまま、壁に当たり。 ドゴォォォン!!! 激しい爆音と共に二階ホールに大量の油が巻かれ、あっと言う間に炎が踊り狂う。 シーザーと伊東結の身体は、凄まじい爆風と火炎によって黒焦げの肉片となり消え去ってしまった。 恐らく二人は自分の身に何が起きたのか全く理解出来ぬまま退場してしまったのだろう。 「何だ! 一体何が起き…うわぁああ!?」 「な、何よこれ……!?」 轟音に驚いて籠っていた部屋から飛び出したダーエロとリーヴァイが見たものは、 炎に包まれ瓦礫が散乱する二階ホールの惨状。 「おい、結とシーザーは……!?」 「こ、これじゃあ……もう……」 「そ、そんな……! うわぁ!」 脆くなった天井板が崩れ落ちダーエロの足元に落ちる。 「ここにいたら危険だわ…一階へ行きましょう!」 「く…くそっ!」 二人は避難のため一階への階段を降り始めた。 だが一階も安全では無かった。 前方より、ギンギライガーの持っていたデイパックに入っていた、 使い捨て方式の焼夷ロケット弾発射器「彗星」にて市役所二階に焼夷ロケット弾を撃ち込み、 シーザーと結を葬った、サキュバスの美少女リュティ。 後方より、リュティと同盟を組んだ銀髪の少女、銀鏖院水晶。 市役所の表と裏から完全武装した少女が強襲を開始したのだ。 ≪表≫ 「あ、ああ…!」 「何て…事だ」 紅蓮の炎が窓から噴き出し、もうもうと黒煙が空に立ち昇る様をアレックスとブライアンが駐車場から見上げる。 二階にはダーエロ、リーヴァイ、伊東結、シーザーがいるはずだが、 この爆発、そして火災では四人の安否が気に掛かる。 特にダーエロの身にもしもの事があれば、首輪解除も不可能になるだろう。 アレックスとブライアンは安否を確認しに行こうとしたが、 銃声と同時に二人を弾幕が襲う。 「ぬおおっ!?」 「くっ!」 不意を突いた銃撃に驚くアレックスとブライアンだったが何とか回避する。 銃弾が放たれたと思しき方向に身体を向け直すとそこには突撃銃らしき物を構えた、 ピンク色の髪を持ったサキュバスの少女が敵意の籠った眼差しを二人に向け立っていた。 少女を一目見て、アレックスはリリアの最期の言葉――リリアを襲い致命傷を負わせた、 犯人の特徴と名前――を思い出した。 「お前……リュティか!?」 「! 何で私の名前を…?」 リュティは少し驚いた。相手と自分は今が初対面のはずだと言うのになぜ自分の名前を? その答えはすぐに相手――アレックスの口から出る事になる。 「俺はアレックス。そして隣にいるのがブライアン…お前が殺したリリアの仲間だ」 「リリア……そう、か、あなた達がアレックスとブライアン……。 私の事、リリアから聞いたのね」 「そうだ。よくもリリアを…! 市役所に何か撃ち込んだのもお前か!」 「…そうだよ」 「てめぇ、よくも…!」 仲間であるリリアの仇が、今度は自分達が拠点にしている場所を攻撃した。 怒りに顔を歪ませるブライアン。アレックスは表面上ではまだ冷静さを保っていた。 だが内なる激情はブライアン以上であろう。 「お前は絶対に許せない…! 香取に鉄槌を下す前に、お前を倒す!」 「俺にもやらせてくれアレックス」 「ああ…!」 「女の子一人に男二人なんてどうかな」 「「うるせえええええええええええ!!!」」 相手はフルオート射撃可能な小銃を持っている、こちらが持っている武器は近接武器の剣。 正面から行くのは非常に危険だと言う事ぐらい二人は分かっていた。 しかしそれよりも、自分達の大切な仲間であり友人だった青髪の少女を手に掛け、 そして今、脱出を共に目指している新たな仲間達を殺そうとしている目の前の サキュバスの少女に対する憤怒の念の方が勝り、アレックスとブライアンを動かしていた。 「真正面からなんて無策過ぎるよっ!!」 リュティは持っていたM4A1カービンの銃口を突進してくる二人に向け、 引き金を引き掃射した。 ダダダダダダダダダダダダッ!! 銃口から放たれた無数の5.56㎜NATO弾の弾頭は茶髪の勇者と紅白鎧の戦士を蜂の巣に変え―――無かった。 「甘いんだよ!」 「うらぁ!」 弾丸の雨をアレックスとブライアンは高く跳び上がり難なく回避してしまった。 普通の人間ならば到底回避不可能な距離だったが彼らは普通の人間とは言えない。 驚き、少し焦るリュティ。そして彼女に隙が出来る。 「「覚悟おおおおお!!」」 「う、あ――――!!」 アレックスとブライアンによる、高所からの斬撃が、リュティ目掛けて振り下ろされた。 リュティに美しい胴体にX字の深い傷が走り鮮血が辺りに飛び散った。 ごほっ、と大量に吐血し、リュティは仰向けにアスファルトの上に倒れ、血溜まりを作り静止した。 「はぁ…はぁ…やった…な……」 「ああ……リリア、仇は取ったぜ……」 息を切らせながらアレックスとブライアンはリリアに勝利を報告する。 その時、市役所裏手の方から機関銃系と思しき銃声が響いた。 「! 裏からも…!?」 「行こう、ブライアン! これ以上仲間を死なせてたまるか!」 アレックスが市役所へ向かって走り出そうとした。 ダァン! 「…………え?」 ブライアンは予想していなかった。いや、誰が出来たであろうか。 一発の銃声と同時にアレックスの頭が弾けてしまったなど。 「……あの世で……再会出来ると…良いね………ふ…ふふふ」 手にしたM4A1カービンを地面に落とすと、上体だけを起こしていたリュティは、 再び仰向けに寝転び、今度こそ完全に息絶えた。 「う、嘘、だろ……アレックス」 ブライアンが震えた声を出しながら、路面に血と脳漿を撒き散らし倒れるアレックスに話し掛ける。 だが、当然返事は返ってくるはずも無い。 頭蓋骨が砕け、脳が飛び出せば生きていられるはずが無いという事はブライアンも分かっていた。 だが分かりたくなかった。親友であり、仲間であり、勇者であるアレックスが、 こんなにも唐突に、あの世へ行ってしまった、など。 「う……うわああああああああああああああああ!!!」 駐車場に、戦士の慟哭が響く。 ≪裏≫ 突然二階から聞こえた爆発音。そして市役所の建物が激しく揺れた。 その衝撃で一階の窓ガラスが幾つか割れ、棚が倒れる。 「な、何だ!?」 沖田総悟と共に裏手の警備に当たっている鎧武者のムシャが叫ぶ。 様子を見にいくべきだと考えた二人は二階への階段へ向かおうとした。 ダダダダダダダダダダッ!! だがそれは突然の銃弾の掃射により中断させられる。 一階フロアの壁、柱、机、棚などあらゆる物にコイン並の穴が空いていく。 総悟は即座に床に身を伏せ、背中を少し掠めただけで命を落とす事は無かった。 「おい、ムシャ……!」 ムシャに声を掛けようとした総悟が硬直する。 鎧具足や兜に大量の穴が空き、そこから流れた赤い液体が床に広がっていた。 そして鎧武者は動く気配が無い――とても生きているとは思えなかった。 ダダダダダッ!! 「チィッ!」 舌打ちをしながら総悟は柱の陰に隠れた。 それとほぼ同時に、二階からダーエロとリーヴァイが降りてくる。 ダーエロは至る所に穴が空いた一階フロア、柱に隠れる総悟、 そして血塗れでうつ伏せに倒れるムシャを見て飛び出しそうになったが、 「待て! 出るんじゃねェ!」 「!」 総悟が怒鳴って制止する。下手に出れば襲撃者に蜂の巣にされ兼ねない。 「畜生…!」 ムシャの事が心配だったが、ダーエロは階段室の陰に身を潜める他無かった。 総悟は柱の陰から襲撃者がいると思しき裏庭の方の様子を見る。 銀髪を持った学生服姿の少女の姿が見えた。手には突撃銃らしき物を持っている。 …ダダダダダダダダッ…。 「!?」 総悟、ダーエロ、リーヴァイは駐車場の方からも銃声が響くのを聞いたが動くに動けなかった。 (これじゃ埒が明かねェ…ダーエロには死なれちゃ困るしな…こうなったら一か八か) 「隠れても無駄よ!」 襲撃者の少女――銀鏖院水晶が叫ぶ。 「…言われなくても出てってやるよ!」 総悟は意を決して柱の陰から飛び出した。 「死ね…!」 水晶は飛び出してきた総悟に向け、手にしたAKS‐74を掃射した。 しかし、紙一重で銃弾は総悟には当たらない。 総悟はムシャに渡していた直刀を拾い、元々装備していた打刀と合わせ二刀流の構えを取る。 そして、目にも止まらぬ速さで二振りの刀を振り回し、 水晶のAKS‐74から放たれた銃弾の雨を弾き返していく。 「嘘!? 何よそれ…有り得ないわ!」 余りに超人的な総悟の動きに水晶が驚愕する。 その時一瞬引き金を引くのを止めてしまった。その一瞬の隙を総悟は見逃さなかった。 ヒュンッ 水晶が最期に見た光景は二つの剣が回転しながら自分に向かって飛んでくる、というものだった。 「…ムシャ!」 襲撃者が死んだ事を確認すると総悟は倒れているムシャに駆け寄る。 ダーエロとリーヴァイもそれに続く。 だが――やはり、鎧武者は物言わぬ屍となっていた。 「そんな、嘘だろムシャ、お前まで…! 畜生……」 ドラゴナスに続き、ムシャまで失ったダーエロは悲しみに暮れた。 「…リーヴァイ、結とシーザーは……」 総悟がリーヴァイに、姿が見当たらない二人について尋ねるが、 目の前の水色と白の毛皮を持った雌の人狼は辛そうな表情で首を横に振るだけ。 総悟に何があったか理解させるにはそれだけで十分だった。 「…そうか…」 全てを悟った総悟は、それ以上何も聞かなかった。 水晶とムシャの所持品を回収したダーエロ、そして総悟とリーヴァイは駐車場に向かった。 「……! ま、マジ、かよ…おい」 ダーエロが震えた声で言う。 そこには、座り込み放心している紅白鎧の戦士と、 身体をXの字に斬られた少女と思しき死体、そして、 頭部がぐちゃぐちゃに損壊した――アレックスの死体があった。 「おい、ブライアン!」 何があったのかは恐らく聞くまでも無いだろうが、総悟はブライアンに駆け寄り問い質した。 「一体、何があったんだ…!?」 「…そこで死んでいる…リュティってサキュバスに…アレックスが殺された…。 リュティは…アレックスと俺の仲間の…リリアを殺した奴で…それで…」 「……分かった。もう良い」 総悟はブライアンに尋ねるのを止めた。 午前9時51分―――戦闘は終わった。 【伊東結@オリキャラ 死亡】 【シーザー@オリキャラ 死亡】 【アレックス@VIPRPGシリーズ 死亡】 【リュティ@オリキャラ 死亡】 【ムシャ@VIPRPGシリーズ 死亡】 【銀鏖院水晶@自作キャラでバトルロワイアル 死亡】 【残り6人】 【一日目/午前/D-4市役所前駐車場】 【ダーエロ@VIPRPGシリーズ】 [状態]健康、悲しみ [装備]一〇〇式機関短銃(30/30) [所持品]基本支給品一式、一〇〇式機関短銃マガジン(30×5)、クレアスの首輪(分解)、 工具(調達品)、AKS-74(0/30)、AKS-74マガジン(30×3)、S W M27(6/6)、.357マグナム弾(18)、 アーミーナイフ、中華包丁、ショートソード、木刀、ノートパソコン、農作業用鎌、除草剤 [思考・行動] 基本:殺し合いからの脱出。首輪を調査し解除方法を探す。 1:何てこった……。 2:リーヴァイ、沖田総悟、ブライアンと行動。 [備考] ※魔法は一切使えなくなっています。 ※首輪から盗聴されている事を知りました。 【リーヴァイ@オリキャラ】 [状態]精神的疲労(中)、頭部に軽い打撲、悲しみ [装備]ベレッタM93R(20/20) [所持品]基本支給品一式、ベレッタM93Rマガジン(20×3)、ニューナンブM60(5/5)、 .38SP弾(10)、文化包丁、ポータブルMDプレーヤー(MD挿入済) [思考・行動] 基本:殺し合いからの脱出。 1:……。 1:ダーエロ、沖田総悟、ブライアンと行動。 [備考] ※首輪から盗聴されている事を知りました。 【沖田総悟@銀魂】 [状態]肉体的疲労(中)、身体中に斬り傷、背中に弾丸が掠った傷、返り血(中)、悲しみ [装備]打刀 [所持品]基本支給品一式(食糧一食分消費)、二十二年式村田連発銃(8/8)、 8㎜×53R弾(16)、トカレフ式自動拳銃(8/8)、トカレフのマガジン(8×3)、 直刀、医療道具(包帯や消毒液等、調達品)、双眼鏡 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らないが、襲い掛かる者には容赦しない。 1:畜生…。 2:ブライアン、ダーエロ、リーヴァイと行動。 [備考] ※原作かぶき町四天王篇終了後からの参戦です。 ※首輪から盗聴されている事を知りました。 ※冬月蒼羅(名前は知らない)の容姿を記憶しました。彼女が死んだ事を知りません。 【ブライアン@VIPRPGシリーズ】 [状態]肉体的疲労(中)、精神的ショック、鎧が部分的に煤けている、深い悲しみ [装備]バスタードソード [所持品]基本支給品一式、コルトM1903(5/8)、コルトM1903マガジン(8×3)、 ベレッタM92FS(5/15)、ベレッタM92FSマガジン(15×3)、グロック26(11/12)、 グロック26マガジン(12×3)、手榴弾(3)、ドス、薬草(30) [思考・行動] 基本:殺し合いからの脱出。 1:……。 2:沖田総悟、ダーエロ、リーヴァイと行動。 [備考] ※首輪から盗聴されている事を知りました。 ※沖田総悟から聞かされた「襲撃者」がノーチラスだと言う事には気付いていません。 ※D-4市役所二階が破壊され火災が起きています。シーザーと伊東結の死体は跡形もありません。 また、二人の所持品は炎上しました。 ※D-4市役所駐車場にアレックスとリュティの死体、二人の所持品が放置されています。 また、市役所裏庭に銀鏖院水晶の死体とデイパック(基本支給品一式入り)が放置されています。 ≪支給品紹介≫ 【焼夷ロケット弾発射器「彗星」】 日本風異世界国家の国防軍向けに開発された使い捨て方式の対物兵器。 外見的にはパンツァーファウストに似ている。着弾と同時に炎を巻き起こす特殊焼夷ロケット弾を使用する。 敵陣地強襲用と題されていたが実用性に疑問有りという事で結局不採用に終わったらしい。 オリジナルの支給品。 Directorate of Operations 時系列順 Decisions,decisions Directorate of Operations 投下順 Decisions,decisions Directorate of Operations アレックス 死亡 Directorate of Operations 伊東結 死亡 Directorate of Operations ムシャ 死亡 Directorate of Operations シーザー 死亡 Directorate of Operations ダーエロ Decisions,decisions Directorate of Operations リーヴァイ Decisions,decisions Directorate of Operations 沖田総悟 Decisions,decisions Directorate of Operations ブライアン Decisions,decisions ココヨリトワニ リュティ 死亡 ココヨリトワニ 銀鏖院水晶 死亡
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未来の記憶(前編) ◆LKgHrWJock またあの夢を思い出す。 まるで現実の出来事のように熱や匂いすら併せ持つあの悪夢を。 夢の中で彼女は野生の竜となり、人間の集落を襲っていた。 ある者は彼女の吐き出す霧の中でのた打ち回りながら絶命し、 またある者は巨大な鉤爪にその身を引き裂かれて命を落とす。 巨獣と化した彼女の前では老いも若きも男も女もみな一様に 捕食されるべき下等な生物に過ぎなかった。 人としての原形を彼らから奪うことなど、彼女にとっては文字通り“朝飯前”だった。 ――嫌! こんなことしたくない! そう思っているはずなのに、身体が言うことを聞いてくれない。 肉体と精神が完全に分離してしまったかのようだ。 彼女は拒絶の声を上げることはおろか目を閉じることすらできず、 自らの引き起こす惨劇を眺めていた。 そして自分の悲鳴で目を覚ます。夢から覚めても闇の中。自分以外には誰もいない。 物心ついたときからずっと彼女は暗い部屋に幽閉されていた。 眠ることだけを強いられ、悪夢と闇を行き来する。 それが彼女――すなわち神竜族の王女として生まれたチキの幼少期のすべてだった。 何故自分がこんな目に遭わねばならないのか、誰一人として納得のいく説明をしてくれない。 だからチキはこう考えた。 自分がこんなに怖くて寂しい思いをしなければならないのは、あの夢と関係があるのだろう。 あの夢は“本当のこと”だから、つまり自分はいつか野生の竜になって人間を襲ってしまうから、 どんなに泣いても頼んでもこの暗い部屋から出してもらえないのだろう―― そしてそれは真実だった。彼女は真相に気付いていた。 しかし誰にもそのことを話さなかった。 「もう眠りたくない、みんなと一緒に暮らしたい」と泣きじゃくる彼女に 優しい言葉をかけてくれた大好きなマルス王子にさえも。 そんな話をすれば、マルスは不安になるだろう。 人間を無差別に襲うようになるだなんて知られたら、嫌われてしまうかもしれない。 マルスおにいちゃんに嫌われたらまた独りに戻ってしまう。 そう思うと、自分の抱える不安や恐怖を正直に打ち明けることなどできなかった。 でも、別にそれでも構わなかった。マルスのそばにいるときは、あの夢を忘れることができた。 マルスに「大丈夫だよ」と言われただけで、未来の自分が書き換わる。 理屈ではない。この人が言うのだから本当にそうなのだろうと純粋に信じることができる。 チキにとってマルスとはそのような存在だった。 しかし今、チキの隣にマルスはいない。 この世界に召喚される直前まで、彼女はアカネイアパレスにいた。 傍らにはマルスがおり、「もう少しで<封印の盾>が完成するよ」と彼女に笑顔を向けたのだった。 <封印の盾>が完成すれば、これからもずっと一緒に暮らせるとマルスは言った。 <封印の盾>が完成すれば、あの夢とは違う未来が自分に訪れるのだとチキは理解した。 ――マルスおにいちゃん、ありがとう! そう言おうとした次の瞬間、チキは暗闇の中に立っていた。 彼女は絶望した。泣くことはおろか、声を出すことすらできなかった。 マルスたちと過ごした日々は全て夢で、自分は今もあの暗い部屋に幽閉されており、 外の世界に出ることは未来永劫叶わないのだと思った。 しかし部屋には人がいた。それも一人や二人ではない。 大勢の人間が暗がりにひしめいているのが分かった。 首の辺りに違和感を覚える。 軽く指で触れてみると、身に覚えのない首輪がそこにあった―― ◇ ◆ ◇ 「それを寄越しな。そうすりゃ見逃してやることも考えてやるぜ?」 言いながら、男はチキに向かってゆっくりと足を踏み出した。 腰元には複数の刃物が見える。様々な形状のナイフがベルトから下がり、あるいは差さっている。 その口元は笑っているが、野獣の牙を思わせる凶暴な輝きが暗い双眸に宿っている。 あのときの人だ、とすぐに気付いた。赤毛のお姉さんを襲っていた人だ。 彼の姿を初めて目にしたそのときから“悪い人”と認識してはいたものの、 こうして間近で顔をつき合わせてみると改めて油断のならない相手だと思う。 しかもこの男、言っていることもどこかおかしい。 チキは男の顔を見た。 遠目で見たときはレンツェンとさほど年の変わらない“お兄さん”のように思えたが、 やつれた頬と青白い肌、そしてこの世のすべてを憎悪するかのような険しい表情を見ていると、 彼が一体どれほどの歳月を生きたのかすら分からなくなる。 チキは脳内で男の言葉を反芻した。 ――それを寄越しな。そうすりゃ見逃してやることも考えてやるぜ? チキは首をかしげた。見逃す、とは一体どういうことだろう。 先ほど彼は「怪我のお礼をたっぷりとしたい」と言ってきたが、 怪我を負わされたことに対して感謝するというその発想が理解できない。 それ以前に、このお兄さんの表情は「ありがとう」と言おうとしている人のものとは何か違う気がするし、 自分やレンツェンの行動とこのお兄さんの足の怪我がどう関係しているのかすらも分からないのに、 寄越せだとか見逃すだとか言われても話がまったく見えてこない。 そもそも、感謝しているはずの相手に物を要求するというのは何なのだろう。 分からないことが多すぎる。 知らず知らずのうちに、チキは右腰に下げたガラスの小瓶に手を伸ばしていた。 この臭い液体が何なのかチキにはよく分からないが、 レンツェンに言わせると子供には理解できない良さを秘めたものとのこと。 良いものなら、この局面を打開するための役に立つだろうか。 でもあんな意地悪なことを言うレンツェンの主張する“良さ”なんて―― 「俺を甘く見るなよ?」 凄絶な笑顔で男が凄んだ。 チキではなく、彼女を庇うような場所に立つレンツェンに対して。 レンツェンは崩れ落ちるようにへたり込む。 一体何をされたのだろう。 自分に背を向ける格好で震えているレンツェンの表情や 彼のこうむった被害の実態を確認することはできなかったが、 彼を見下ろす男の残忍な笑顔を一目見てチキは直感した。 男には、レンツェンの内心が手に取るように分かるのだ。 そしてチキには想像することもできないその詳細が、彼のいびつな心を満たしている。 その表情から察するに、この男は自分がとても強くて偉くて大きな存在になったかのような 錯覚に浸っているのだろう。 ――ホントに強くて偉い人は、誰かをいじめたり困らせたりしちゃいけないのに。 このお兄さん、すごく嫌! レンツェンがかわいそう! チキはレンツェンを助け起こすべく駆け寄ろうとした。 男の言っていることはよく分からない、でもこれだけは理解できる。 このお兄さんは、自分やレンツェンに決して優しくしてくれないだろう。 それどころか、意地悪なことばかりしようとするだろう。 彼は赤い髪のお姉さんをいじめていた人だ。そんな人とは仲良くできない。 「女の人をいじめるのは悪いことだよ。悪い人の言いなりになっちゃ駄目だよ」と マルスおにいちゃんだって言うだろう。そう、マルスおにいちゃん。 さっきはあんなことを言ってたレンツェンも実際にマルスおにいちゃんと顔を合わせれば きっとその正しさを分かってくれるだろう。 それにレンツェンはずっとチキと一緒にいてくれたのだ。面白いことを言って チキを沢山笑わせてくれたんだから間違ったことを言ったくらいで嫌いになっちゃ駄目、 マルスおにいちゃんだってハーディンおじちゃんが変になっても嫌いになったりしなかったんだから チキもレンツェンのことを嫌ったりしないでちゃんと助けてあげなきゃ――そう思い、 レンツェンに駆け寄ろうとした。 しかし男が先に動いた。 わずか半歩ばかり間合いを詰められただけだったが、 何をしでかすか分からない彼の異常な存在感にチキは思わず身をすくめた。 男はチキを見据えて嗤う。 己の勝利を確信しながら尚も貪欲に食らいつくような笑顔、 敗者に対する唾棄と憐憫を内包しながらそれら一切を食らい尽くそうとするかのような その笑顔は、今しがたレンツェンに向けられたものとよく似ていた。 男の表情は、チキの胸をざわめかせる。 まるで昨日の出来事のようにあの夢が脳裏に映り、 チキは知らず知らずのうちに胸の前で両手を握り締めていた。 男が楽しげに眼を細める。チキは反発を覚えた。 どうしてこのお兄さんはチキが嫌な思いをしているときに嬉しそうな顔をするのだろう。 ――チキはおもちゃじゃないのに。やっぱりこのお兄さん、すごく嫌! チキは男をねめつけた。男は大げさに肩をすくめて見せる。 「ククッ、怖いねぇ。 慈悲深い俺は身の程知らずなおまえらのしでかしたことを すべて水に流してやってもいいって考えてるってのに、その顔。 この俺の純粋な親切心を踏みにじりたくて仕方ねえってツラをしてやがるぜ。 なあガキ――」 「ガキじゃないもん! チキだもん!」 「は?」 チキの抗議に男は一瞬だけ真顔になり、ひどく間の抜けた表情を見せた。 無防備な顔をした彼はレンツェンとさほど年の変わらない若者に見える。 しかし次の瞬間には合点がいったようににやりと笑い、やがて元の悪辣な笑顔を取り戻した。 「ほう、おまえの田舎ではガキのことを“チキ”っていうのか。 聞いたこともねえなぁ、そんな方言は。 しかし人様を平然と踏みにじるようなクソガキが出来上がるくらいだ、 ロクでもねえ連中の吹き溜まりの言葉に違いねえ。 ハハッ、一体どんな扱いを受ければこんな歪み切ったクソガキになるんだろうなぁ?」 男は顎をそびやかし、蔑むような視線をチキに向けながら哄笑する。 チキは何も言わなかった。 言葉をあまり知らないチキにも目の前の男が自分や自分に優しくしてくれた人たちを 侮辱していることは理解できたが、不思議と腹立たしさを感じなかったのだ。 チキには男の言葉が自分ではない誰かに向けられているように思えた。 それが誰なのかは分からない。 ただ、人間であることを放棄したこの男の抱える人間的な絶望を垣間見たような気がして、 そこに安堵を覚えたのだった。憐れみにも似た、苦痛を伴う安堵ではあったが。 しかし実際に憐れみを表出させたのは男のほうだった。 男は出来の悪い妹を諭すように低い声で話し始める。 目には悪意を宿したまま、高価な砂糖菓子を味わっているかのような満ち足りた笑みを湛えて。 「図星で言葉も出ないか。 まあしかし、おまえを身の程知らずなクソガキに至らしめた肥溜めのクソどもを あまり恨むモンじゃないぜ。 腐った連中に潰されて駄目になるような奴は最初からその程度だったってことさ」 そこまで言うと、男は一旦言葉を切った。 チキには彼の話が理解できない。 男はどうやらチキが“肥溜めのクソ”とやらに恨みを抱いていることを前提に話をしているようだが、 排泄物を恨むという発想自体がチキにとっては青天の霹靂だった。 無論、人間を排泄物に喩えるなど想像の埒外である。 変なの。チキは男の顔を眺めながら小首をかしげた。 男の笑顔が曖昧になり、僅かな苛立ちが去来する。 彼が再び口を開いたとき、その笑顔からは余裕が失せ、 餓えた獣を思わせる凶暴な悪意のみが残っていた。 「さて、そろそろその剣を貰い受けたいんだがね。 あんたは剣を扱えないんだろう? 無力なあんたの代わりにこの俺がその剣を有効活用してやろうってんだ、悪い話じゃないだろう」 今度はチキにも理解できた。難しい言葉は知らないが、彼の望みはよく分かる。 「お兄さんはチキの鞄に入ってる剣がほしいの?」 「意外と話の分かるガキだ。そうさ、俺はその剣がほしい。 その剣を寄越すならこの怪我のことは見逃してやらんでもないし――」 男は喉の奥で声もなく笑う。 その顔ににじみ出た獣じみた残虐性が鋭く深く研ぎ澄まされていく。 「――何ならこの俺がその剣を有効活用するさまを特等席で拝ませてやってもいいんだぜ?」 チキは確信した。やっぱりこのお兄さんは変だ。 言っていることと表情や声色がちぐはぐでとても嫌な感じがする。 ただ意地悪なだけじゃない、ただ悪い人ってだけじゃない、 このお兄さんはなにか重大な隠し事をしている。 そしてチキには想像することもできないようなとても恐ろしいことを企んでいる。 このお兄さんはきっと、あの悪夢のような惨劇を引き起こしても平気でいられるのだろう。 そう思うと、今現在の気分だけでなく自分の未来までもが 黒く塗りつぶされていくような絶望感に囚われる。 チキはマルスの言葉にしがみついた。 大好きなマルスおにいちゃんが「大丈夫だよ」と言ってくれたのだ、 だからもうあの夢に怯える必要はない。自分はあの夢と決別できる。 悪夢の世界に生きるこの男にだって負けることはないだろう。 チキはデイパックの肩ひもをしっかりと握り締め、毅然と男に言い放つ。 「ダメ! この剣はマルスおにいちゃんのだもん! 悪いことする人にはあげないもん!」 「そうか。なら、仕方ねえなァ」 仕方ない。その言葉とは裏腹に男の顔は笑っていた。 チキのその返答を心の底から待ち望んでいたかのように。 男がチキに飛び掛る。その背後で何かが揺れた。 宵闇の村の景象そのものに男の影が差したかのように、男の背後の空間に暗い影が伸びていた。 チキの心に恐れはなかった。少なくとも数秒前までは。 しかし今は体が動かない。黒い影の中に浮かび上がる美しい女の目を見た途端、 まるで金縛りにかかったように足が竦んでしまったのだった。 この世のものならざる人影が陽炎のように揺らめきながらチキに向かって手招きする。 女のようでありながら男のようにも見え、 子供のように見えたかと思うと次の瞬間には老人のような表情を見せ、 あらゆる姿に変化しながらいずれの存在にもなり得ない混沌の化身たる死神が チキの身体に流れる神竜の血を凍りつかせた。 男の手元が鈍く光る。 襲撃者はチキの腹部に拳を叩き込みながらもう片方の手を左肩の向こうに伸ばした。 チキの呼吸が衝撃で止まり、焼けるような不快感が喉の奥に込み上げる。 腹部にちくりと痛みが走り、チキの肩の後ろにある何かを男の右腕が掴むのを感じた。 鞄から出ているあの柄だ。このままでは男に剣を奪われてしまう。 チキは右腰で揺れるガラスの小瓶に手を伸ばした。 しかしチキの指は冷たい瓶から滑り落ちた。 上半身に左向きの強い力がかかり、転倒しそうになったのだ。 しかし実際にバランスを崩していたのは襲撃者のほうだった。 男の左手がチキの腹部から離れ、石と金属のぶつかる音が足元で小さく鳴った。 その顔からは笑みが失せ、焦りと戸惑いが取って代わる。 一体何が起きたのだろう。 蒼白い顔で身体をよろめかせる男の姿はまるで死神に取り憑かれた重病人のようだった。 己を世界に繋ぎ止めようとするかのように、骨ばった指がチキのしなやかな二の腕を掴んだ。 短い爪が肌に食い込み、襲撃者の体重が小柄な体にのしかかる。 チキは悲鳴をあげながら左向きに転倒し、地面に横臥した彼女の上に男が覆い被さる格好となった。 視界に己の腹部が入る。 自身のまとうピンクのチュニックに大きなシミがついている。 色彩感覚を狂わせる夕闇の中にあっても、 それが自らの流した血であることを痛みによって理解する。 そして理解することによって痛みがいっそう存在感を増す。 永遠にも思える数秒の間、襲撃者はチキに全体重を預けていたが、 やがて荒い息をつきながらゆっくりと体を離した。 錯乱しつつあったチキの意識に男のかすれた声が割り込んでくる。 「クソッ、早いとこ終わらせねえとマズいな……」 襲撃者はチキの側頭部を右手で抑えつけながら脇腹の辺りに跨った。 傷口に直接触れられてなどいないはずなのに、 男の一挙手一投足が耐えがたい激痛を腹部にもたらす。 チキは苦痛に喘ぎながら「痛い、動かさないで」と懇願した。 しかし男はチキの訴えに耳を貸す気配など見せない。 地面についたその膝が立てるかすかな土埃にむせ返りそうになり、 伸縮する腹筋のもたらす激痛に呼吸が止まり、チキは耐え切れずに泣き出した。 どうしてこんなことになったのだろう。 両腕は自由に動かせるものの、男の体に遮られあの小瓶に手が届きそうにない。 一体どうすればいいのだろう。 さっきまであんなにチキを笑わせてくれたレンツェンはどこに行ってしまったのだろう。 「レンツェン……、レンツェン! レンツェンはどこに行ったの!? 助けて! 痛い……痛いよレンツェン……助けて……」 泣きじゃくるチキに男が問う。 「レンツェンってのは、あの派手な格好をした男のことか?」 チキは何も言わなかった。男の嘲笑が聞こえる。 「あの兄ちゃんならとっくに逃げたぜ。 つがいの鳥を狩るときは先に雌を殺るってのが基本だが、 おまえのようなガキごときに雌としての価値なんざねえってことだな。 それどころかあいつは心の中でおまえを邪魔者扱いしていたんじゃねえか?」 「チキ、意地悪な人とはお話ししたくない」 「だったら俺の前でガタガタ騒ぐんじゃねえ。 もうすぐ楽にしてやるからおまえを見捨てた奴のことなんざ忘れな」 視界の外にある男の表情を確認することはできないが、その声は意外なほど優しかった。 大人しくしているだけで苦痛を取り除いてもらえるのなら黙って従おうと思えるほどに。 しかし痛みが彼の本心を教える。 両肩を後ろに引っ張られるような感覚があり、チキははっと息を呑んだ。 チキの背負っているデイパックに強い力がかかっている。 男がデイパックを物色し、おそらくはその向きを変え、何かを力任せに取り出そうとしているのだ。 それが何なのかは見なくても分かる。 このお兄さんは、さっきからずっとチキの鞄に入っている剣を欲しがっていたのだから。 込み上げる絶望が、潰えたはずの闘志を復活させる。 この男はとても恐ろしいことを企んでいるのだ。 彼に剣を奪われたらマルスには二度と会えなくなるような気がした。 ――そんなの嫌! マルスおにいちゃんと離れたくない! チキは悲鳴をかみ殺しながら男の右足にしがみついた。 彼はさっきチキたちのせいで足に怪我を負ったと言っていた。 男の怪我がどの程度のものなのかは分からないが、 血が沢山出ているときは体を少し動かしただけでもたまらなく痛いということを チキは今日身をもって知った。 このお兄さんは怪我を負わされて「ありがとう」と言いに来るくらいだから、 本当は痛くなどないのかも知れない。 でも、たっぷりと礼をしたいと言いながらちっとも感謝しているようには見えないから、 やっぱりとても痛いのかも知れない。 このお兄さんの考えていることはチキにはよく分からない。 ただ、お兄さんのズボンの右足には血が沢山ついているから、 怪我をしているという話は本当なのだろう。 このお兄さんから剣を守るためには痛みを与える必要があり、 痛みを与えるためには怪我を負った個所を責めればいい。 どこに怪我をしたのかは大体分かる。 お兄さんのズボンは少しだけ破れているから―― チキは右手を男の太股に這わせながら、 ベルトに差したナイフを奪うべくもう一方の手を伸ばそうとした。 しかし頭を押えつけられているせいで左手が腰まで届かない。 両腕を少し動かしただけで腹筋までもが伸縮し、激しい苦痛に苛まれる。 それでもマルスとの別れに比べれば肉体の痛みなどほんの些事に過ぎなかった。 剣を奪われればマルスにはもう会えないだろう。 チキにとってマルスを失うことは世界の終焉と同義だった。 自分の人生からマルスが去ればあとに残るのは闇と孤独、そして終わることのない悪夢のみ。 マルスは光、怪物になるはずだった少女に人としての命を与えた救い主。 腹部の傷がまるで異物のように熱を帯びて疼き、チキの心身を支配しようとするが、 チキはマルスの笑顔を思い出し彼のもとに戻ることのみを考えて苦痛を意識から締め出した。 右手が布地の裂け目を探り当てた。 潜り込ませた指を力任せに突き立てるが、襲撃者の体には何の変化も生じない。 傷口そのものを責めなければ意味がないのだ。 素肌に指を滑らせると、明らかに他とは違う個所があった。 見つけた、これで勝てる。チキは湿り気を帯びたそこに指を突き立てようとした。 しかし男が先に動いた。 彼はチキの頭を押さえつけていた右手を離すと、膝をついたまま腰を浮かせ、上半身を前に倒した。 ナイフを奪うべく伸ばした左手が木製の柄に触れる。チキは柄に手をかけながら、 男の足から滑り落ちそうになっていたもう一方の手の親指を傷口の辺りにねじ込んだ。 「クソッ、往生際の悪いクソガキが……」 男が毒づき、デイパックの肩ひもが深く食い込んだ。 このままではこの男に剣を奪われてしまう。マルスおにいちゃんに会えなくなる。 チキは男の傷口を叩き、引っかき、指を突き立て、力任せに抉った。 加害行為の代償だとでも言わんばかりに、胴を引き裂くような激痛が腹部を貫く。 自らの意に反して無様な悲鳴が漏れるが、それでもチキは指先に込めた力を緩めようとはしなかった。 頭上から罵声が降り注ぐ。 布越しに感じる男の筋肉の動きから、彼が体勢を大きく変えようとしていることに気付く。 チキは左手に掴んだ木製の柄を力任せに引き抜くと、 形状すらも確認できないその刃を男の足に叩きつけた。 しかし返ってくるのは岩を刺そうとしているかのような手応えのみ。 チキの細い腕では分厚い布地と鍛え上げられた筋肉を切り裂き、或いは貫くことなどできなかった。 背中を地面に縫い付けられるような感覚に襲われ、 チキの両手が襲撃者の太股から滑り落ちた。 それがデイパックを踏みつけられたためだと気付いたのは、 もう一方の足で腹を蹴り飛ばされてからのことだった。 激痛に貫かれ薄れゆく意識の中で何かが割れるような音を聞いた。 奇妙な清涼感を伴う液体が腹部を濡らし、 人工的な甘さと鋭さを有する濃密な匂いが鼻腔を突く。 あの小瓶が割れてしまった。小さな希望がこぼれ落ちてゆくのを感じる。 襲撃者は身を転がしながら体勢を立て直す。 その手に握られた長剣の柄には見覚えがあった。 チキの鞄に入っていたものだ。男に剣を奪われた。 長剣を地面に突き立て、それを支えにゆっくりと立ち上がる 襲撃者の姿にチキの心が冷えていく。 ――マルスおにいちゃんごめんね……、チキはもう……。 このまま意識を失えば二度と目覚めることはないだろうと思った。 きっとあの夢すら届くことのない深い眠りに就くのだろう。 あの夢から逃れたい、あの夢とは違う未来がほしいと切に望んでいたが、 このような形での決別は不本意極まりなかった。でも、もう―― あまりにもひどい悪臭のせいだろうか。 チキの意識は消え失せるどころか冴え渡り研ぎ澄まされていく一方だった。 心なしか腹痛も和らいだように感じる。 全身にみなぎっていく活力を己の内にとどめておくことなどできず、チキはゆっくりと体を動かした。 慎重な動作は苦痛を警戒してのことだったが、思ったほどの痛みは感じない。 それどころか疲労が消え失せ身体が軽くなったようにすら思える。 チキは男から奪ったナイフを右手に持ち替え、しっかりと握り直した。 その刃は薄く、大好きなマルスおにいちゃんの手のひらほどの長さしかなかったが、 襲撃者を退けマルスの元に戻ることのできる可能性が未だ手の中にあるのだと思うと勇気が湧いた。 男の様子を窺うと、彼もまた手に入れたばかりの武器を両手で持って確認し、 片手で握り直していた。あんなに重いものを腕一本で扱うなんて。 相手との力の差を改めて実感し、岩のような存在感に圧倒されそうになる。 男は淡く輝く刀身をしげしげと眺めながら愉悦し、残忍な笑顔をチキに向けた。 「さて、切れ味のほどを試してみるとしようかね?」 言いながら、ゆっくりと歩を進める。 しかしその足が不意に止まり、男の顔から笑みが消えた。 「嫌な匂いだ。こいつ、ガキの分際で香水なんざ持ち歩いてやがったのか」 男は嫌悪もあらわに顔をしかめた。 半眼になった目にはもはや獣じみた貪欲さはなく、 拒絶にも似た憤怒が抜き身の刃物のような危うさをその視線に与えていた。 「ふざけやがって! おまえも心の中で俺のことを馬鹿にしていたんだろ! そうに決まっているさ、そういうものを身に付けたがるような女はみんなそうだ、 淫売の分際でこの俺を見下してやがる! クソッ、ナメやがって!」 感情の赴くまま怒鳴り散らす男の姿にチキは呆然となった。 このお兄さんは一体何を怒っているのだろう。 彼の支離滅裂な言動は今に始まったことではないが、 この激昂ぶりはあまりにも常軌を逸していると言わざるを得ない。 男は長剣を逆手に持ち替え、もう一方の手も柄に添えると、 その切っ先をチキの右太股に叩きつけた。 骨の砕ける衝撃に声を出すこともできないチキを冷ややかに見下ろしながら、 肉を抉るように刀身をねじり、ゆっくりと引き抜いた。 湧き水のように溢れ出す鮮血が地面に黒い模様を描く。 「一太刀で殺してやろうと思っていたが、気が変わった。 おまえには俺と同じ傷をくれてやる」 ◇ ◆ ◇ レンツェンハイマーは民家の外壁に背をもたせかけ、暗紫色の空を仰ぎ見た。 隙を見計らって民家の陰に逃げ込んだものの、 未だ足腰はまともに立たず、早鐘を打つ心臓は今にも口から飛び出しそうだ。 ――ええい、うるさいぞ! この鼓動は一体どうしたことだ。 こんなに激しく脈打っていてはあの少年に聞こえてしまうではないか! 俺の心臓よ、止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ、止まらんか! 何故止まらん! 俺の命令が聞けぬのなら無理矢理にでも止めてくれるぞ! ……あ、いや、それはまずい。それではこの俺様が死んでしまう。 ああ、俺の頭は一体どうなってしまったのだ。 俺は天才軍略家レンツェンハイマー、リーヴェ王になるはずだった男なのだぞ! レンツェンは両手で頭を抱え、視線をゆっくりと地面に落とした。 向こうからあの少年とチキの声が聞こえてくる。 会話の詳細は聞き取れないが、その声色からチキが泣いているのだと分かる。 彼女はしきりに痛みを訴え、半ば悲鳴混じりに「動かさないで」と懇願している。 恐らく、あの少年に強姦されているのだろう。 ――あんなガキに欲情するのか。浅ましい。これだから育ちの悪い奴は嫌だ。 レンツェンは苛立ちを覚え、そんな自分に疑問を覚えた。 ――どこの馬の骨とも知れないガキがならず者の少年に強姦されたからといって、 何故俺が腹を立ててやらねばならん? そのような行為に及ぶ者は俺の配下の兵士にもいたし俺はずっと黙認してきたというのに、 今朝知り合ったばかりのガキを特別扱いしてやる必要性がどこにあるというのだ? むしろこれは歓迎すべきことではないか。 少年の注意がガキに向いている隙に、俺は安全な場所まで逃……もとい撤退できる。 落ち着いて考えてみろ、あのガキが一体何の役に立った? 有能なボディガードを連れて来るどころか、 いらん騒ぎを起こして俺様の命を脅かしたではないか。 人間様に危害を加える家畜などただの害獣、殺されて当然だろう。 自分を取り戻すにしたがって、心拍も平常に戻っていく。 そろそろ動けるだろう。逃……もとい撤退の時間だ。 レンツェンは壁に立てかけていたゴールドスタッフを両手で持って地面に突き立てると、 杖に体重を預けながらゆっくりと立ち上がった。支えを外しても直立できることを確認してから、 杖をデイパックに収納し、音を立てぬよう慎重に歩を進める。 このまま民家の裏手に回り、村の外まで一気に走ろう。幸いこの靴は動きやすい。 あの少年に気付かれたとしても足に怪我を負っている彼に追いつかれることはないだろう。 そのときチキの悲鳴が聞こえた。 「レンツェン! レンツェンはどこに行ったの!? 助けて!」 レンツェンは思わず足を止めた。 首の辺りに違和感を覚え、首輪がそこにあることを自らの指で確認する。 自分の名を呼びながら助けを求める者の声など レンツェンにとっては虫の鳴き声同然の取るに足りないノイズだった。 彼らはレンツェンに命乞いをする。レンツェンが権力者だから。ラゼリアの太守だから。 レンツェンは常に彼らの期待に背くよう最大限の配慮をもってその声に応えた。 彼らが求めるのはレンツェンハイマーという人間の慈悲ではない。 自分に都合の良い支配者、すなわち憎きリュナンのような人間だ。 だからレンツェンは彼らを裏切る。 リュナンを求める者など苦しめばいい、彼らの姿を見たリュナンもまた苦しめばいい。 リュナンになれない俺を認めない者などみな死んでしまえばいいと思っていた。 しかしあの少女は違った。彼女は太守の意味すら理解しておらず、 このレンツェンハイマーがリュナンのような人間ではないと思い知ったにも拘わらず、 レンツェンに救いを求めたのだ。 では、助けに戻るか? レンツェンは振り返り、かぶりを振った。 ――馬鹿な。俺は一体何を迷っている? 一時の情に流されて無謀の挙に出るなど、 天才軍略家にあるまじき愚行の極みではないか。 あのようなガキなど見殺しにすればいい。 ガキは簡単に人を頼る、それだけの話だ。振り回されてやる義理などない。 息を殺し、足音を忍ばせ、レンツェンは民家の裏手に辿り着いた。 あとは駆け出すだけだ。 建物の向こう側からチキと少年の声が聞こえるが、何を言っているのかまでは聞き取れない。 レンツェンは地面を蹴ろうとして逡巡する。 チキの声が聞こえるということは、彼女がまだ生きているということだ。 今なら間に合うかも知れない。チキの言葉が脳裏によみがえる。 ――えらい人には、その地位にともなう責任と、義務があるんだって。 だから、えらい人は困った人や弱い人がいれば助けなきゃいけないの。 不快だった。その内容もさることながら、 善人気分を味わいたい連中の悪趣味な戯言ごときを黙殺できず 合理的な行動を取れなくなった自分に対して苛立ちを覚える。 ――俺は一体何をしているのだ? 赤の他人の悪趣味をわざわざ思い出して感情を揺さぶられてやるなど悪趣味の極みだ。 そのような娯楽はラゼリアに帰還して余暇ができてから気が済むまで満喫すればいい。 今は一秒すら無駄にはできない。余計なことを考えている暇があるならさっさと走れ―― 「クソッ! このガキは化け物か!?」 少年の怒鳴り声が聞こえ、レンツェンは踏み出すはずだった足をまた止めた。 少年は焦り、戸惑っている。チキが反撃に出たのだろう。 戦うすべを持たないガキなど足手まといにしかならないと思っていたが、 あの少年にここまで言わせたとなれば話は別だ。 戦力になるなら手元に置いておきたいし、助けに戻る価値だってある。 引き返そうかと思い始めたとき、再びチキの悲鳴が聞こえた。 「触らないで! チキは物じゃないもん! ……放して! チキに触らないで!」 怒りと嫌悪に腕が震えた。 育ちの悪そうなならず者ごときに自分の持ち物を勝手に汚されるなど許しがたく、 極刑をもって臨まねばならないほどだった。しかし身体が動かない。 チキが危害を加えられているのなら自分一人であの少年と戦わねばならないし、 あの少年がチキに何をしているのかをこの目で確認する羽目になるだろう。 許せない。そう思っているはずなのにレンツェンはその場に立ち尽くす。 空は紫から黒になり、風が冷たくなってきた。 ふとレンツェンは異変に気付いた。チキの声が聞こえない。 少年が一人で何事かを話しているようだが、声色が普通ではなかった。 その具体的な内容を聞き取ることはできないが、彼の声は到底勝者のものとは思えない。 今なら勝てる。確実に勝てる。天才軍略家の勘がそう告げる。 ――よし、出陣だ。あの見るからに育ちの悪そうな少年には、 この俺様の所有物に傷をつければどうなるのかを思い知らせてやらねばならん。 レンツェンは装飾過多な黄金の杖を取り出し、両手で握り直す。 この重みから察するに、純金製なのだろう。 大小様々な宝石を散りばめることで軽量化を図っているが、 それでも鉄の剣などとは比べ物にならないほどの重みがある。 この杖で相手の頭を殴りつければ命に関わるような怪我を負わせることも可能だろうが、 自分の腕力ではそのような使い方はできないだろう。 それに武器として用いた場合、耐久性に疑問が生じる。 相手に気付かれる前に、一撃で決めなければ。 逃……もとい撤退できるだけの隙さえ作り出せればそれで―― 「助けて! マルスおにいちゃん助けて!」 空気を引き裂くチキの悲鳴がレンツェンの心を切り裂いた。 見捨てられた。杖が手から滑り落ち、レンツェンはその場にへたり込む。 チキが最後に頼ったのは自分ではなくマルスだった。 ラゼリアの民が自分ではなくリュナンを求め支持したように、チキもマルスを選ぶのだろう。 やはり子供など気紛れで身勝手、さっさと見捨てて逃げ出すべきだった。 あの時走り出してさえいれば、自分の中のチキはいつまでも レンツェンを必要としてくれていたのに。 脳裏に映る記憶の中のチキが無垢な瞳でレンツェンに問う。 ――レンツェンも、マルスおにいちゃんと一緒でとってもえらい人なんでしょ? その言葉が弱音を粉砕し、死んだ心に命を与えた。 ――マルスおにいちゃんと一緒で、か。 貴様はこんな俺でもマルスやリュナンのように生きられると信じてくれていたのだな。 ならば貴様に対してだけは俺もそうなってやろう。 レンツェンは きれいなレンツェンに しんかした! のうないが 8ビットに なった! チキから 5パーセントの しえんこうかを えた! しぼうフラグ を てにいれた! → どうぐ → しぼうフラグ → すてる しぼうフラグ「わたしをすてるなんて ゆるさない! ころしてやる!」 レンツェンは Bボタンで キャンセルした! → どうぐ → しぼうフラグ → つかう しぼうフラグ「あなたのかのうせいを めざめさせてあげる!」 レンツェンは ハイプリンスに クラスチェンジした! テンションが 5 あがった! しえんこうかが 5 あがった! ごうとう の スキルを おぼえた! → ターンしゅうりょう 未来の記憶(後編)につづく 101 Legion 投下順 102 未来の記憶(後編) 100 臨時放送 時系列順 102 未来の記憶(後編) 098 ハイ・プレッシャー ヴァイス 102 未来の記憶(後編) 098 ハイ・プレッシャー チキ 102 未来の記憶(後編) 098 ハイ・プレッシャー レンツェンハイマー 102 未来の記憶(後編)
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赤伊柄 薊(アカイエ アザミ) 他人が彼女の事を知らないように彼女も同じく自分を知らない。 気づけば悪魔退治と死体回収と暗部の仕事を、していた。 そんな彼女の一番、古い記憶はジプスの社員証を握りしめて倒れていた事。 その社員証の名前が自分の名前か、どうか不明だが自分の名前として使っている。 この情報が正しければ彼女は【赤伊柄 あやめ】の妹である。 奇妙なマスクを着けており絶対に、はずさない。 理由は本人の心の中。 仕事道具であるチェーンソーは外出するときに必ず持って行く。 性別 女 身長 17?cm 体重 ??kg 性格 虚無 一人称 儂 二人称 名前呼び・主(ぬし)・少年or少女 好きなもの 仕事 嫌いなもの 無し ステータス 物理タイプ、力・速が高い。 人間関係(隔離前) 覚えていない 仲魔 Lv.35 霊鳥 カマソッソ スキル:吸魔・暗殺拳・嵐の乱舞/貫通・みかわし・衝撃強化/飛翔 Lv.40 邪龍 ファフニール スキル:デスバウンド・八相発破・マハラギ/貫通・英霊の加護・迅速の寄せ/邪念の波動 DAY BEFORE ~ 2nd DAY 任務遂行 3rd DAY 任務から帰ってきた薊は命令でジプスが管理する病院に赴く。 病院は人骨だらけで生存者は0と判断するが仲魔のカマソッソが地下を探索、 後について行くと3つの部屋を確認する。 1つめは錆付いたミニカーとズタズタの両親の写真が印象的な子供部屋。 2つめは特注のグランドピアノが置いてある音楽部屋。 3つめを調べようとしたが中に居た襲撃者に殴られ気絶する。 目を覚ませばカマソッソも同様に気絶していた。 急いで同じ男性の写真が気味悪い程に貼られた紫の部屋を後に、するが逃げられてしまう。 4th DAY 任務の最中に隔離が始まった頃から探していた【菖蒲】を発見する。 彼女の後を追うが【ロイガー&ツァール】に遭遇、追跡を諦め戦う。 だが攻撃を当てる前に乱入してきた【ディミオス】と戦闘。 結果、彼の攻撃を、くらい戦闘不能に、なる。 寸でのところで仲魔のファフニールが助けに来る。 後、ジプスへ帰還。 4th dayログアウト 5th DAY 完治した薊だったがハバキノカミ及び、霊体がジプスを襲撃。 チェーンソーを携え、ジプス居住区の廊下で一人戦う。 現在エンカウント不可能 エンカウント 【DAY BEFORE ~ 2nd DAY】 無し 【3rd day】 名前 自己紹介 コメント 幸月台夢 未 「…逃した…か…」 【4th day】 名前 自己紹介 コメント ディミオスさん 未 「不覚…」
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Aパート Bパート Aパート 世界の破壊者高橋愛、旅の行き着く先は? 【前回のまでの話】 フィフスの絆に導かれて、壊れ行く世界の紺野あさ美と新垣里沙を救いに現れた高橋愛。 世界の壁を越えて来た代償で疲弊した愛を救ったのは、突如現れた小川麻琴だった。 驚きを隠せない愛に対して決別を告げた小川は、保田の指示で「半分エスパー」の世界に赴き、真野恵里菜を仲間に引き入れようとする。 反射した真野のチカラで街を破壊して、真野を闇に落とそうとした小川の前に立ちはだかったのは、こくえけんの職員で無能力者の高橋愛だった。 「人は皆心に無限の可能性を抱いた半分エスパー」と言う高橋に対して、敵愾心を顕にする小川を制したのは保田だった。 …一方壊れかけの世界で新垣里沙や紺野あさ美に別れを告げた愛は、「A」の操縦するジェットストライカー乗り込み、次なる世界へ向かおうとする。 馴れ馴れしい愛を座席ごと射出した「A」は次なる世界の情報を確認する。 それは存在しないはずの「刃千史」の世界だった。 第16話 「千の刃」 ☆ 「ガオーッ! 俺の名はカメゴン。 この世界を滅ぼしてやるぞ」 総合病院の小児病棟で人形劇が演じられている。 長期間入院している子供たちの心を癒すためだ。 演じているのは病院の職員たち。 「アハハハ、正義の味方リンリンマン参上! 悪いやつはチョチョイのチョイと退治するあるよ」 正義のヒーローの活躍に目を輝かせる子供たちだったが、誰かが声を上げる。 「アレッ何か飛んでくるぞ」 みんなが空を見た。 パラシュートが風に乗って飛んでくる。 大騒ぎになった室内を児童学級の教員が鎮め、劇は再開されることになったが…。 「アレ? リンリンマンがいない」 病院の屋上、ドクターへリ用のヘリポートにパラシュートが無事?着陸した。 風に乗って運ばれてきたのは高橋愛だった。 絡みつくパラシュートをようやく外して自由になった愛を火球が襲う。 愛の身体を掠めていった火球はコンクリートの床に炸裂した後もしばらく燃え続けている。 職員用の白衣を身につけた襲撃者。 その手には小さなゴムの球。敵意が無いことを相手に告げようとした愛は、相手に見覚えがあることに気づく。 「水守の世界」で光井愛佳を守っていたリゾナンターの一員。その名は「リン…」 ★★ 幾つもの病棟が回廊で結ばれている病院の中央部。 院長室と表示された部屋の中には二人の女性。 長い髪の女性は白衣を身につけているが医者らしくはない。 キャンバスに向かって絵筆を滑らせている。 黒い執務机に腰掛けている若い女性は、私服姿。読むともなしに学術書を開いている。 「小川」 白衣の女性が年下の女性に注意する。 渋々といった様子で、机から降りると部屋を出ていこうとする。 白衣の女は携帯で誰かに連絡を取りながら、小川の行動を目で制する。 「あんたの働き場所はわたしが決めてあげる」 ☆★ 発炎能力で発火させられたボールの攻撃をかいくぐって襲撃者の懐に飛び込んだ愛。 しかし相手はむしろそれを待っていたようだ。 襲撃者の腕を掴み動きを制しようとする愛。 害意のこもった拳を繰り出す襲撃者。 目にも留まらぬ早業の応酬がいつまで続くかと思われた時、屋上に声か響いた。 「リンリンマ~ン、捜したんだから」 入院着を身につけた男の子が襲撃者に話しかける。 その途端襲撃者の顔に笑みが浮かぶ。 「ハイハーイ、お外は寒いから中に入りましょうね」 「あんたっ!!」 愛の呼びかけを見事なまでに黙殺しながら、男の子を屋内に誘った。 病院内で襲撃者の情報を集める愛。 襲撃者の名は「銭琳」。 1週間ほど前から働いているという。 陰日向の無い明るい性格で入院患者たちにも慕われているという銭琳の横顔が、自分を襲撃してきた際の様子と異なることに釈然としない愛は遠巻きに観察する。 子供たちにぶら下がられ笑っている銭琳。 首からぶら下げた医療機関用のPHSが鳴ると、病棟を出ていった。 吹き抜けの非常階段でPHSを切ると今度は私物の携帯電話を取り出す。 着信が表示されるとすぐさま、電話に出る。 機械で加工された声。 「同志蠍火よ。 無事に潜入できたようだな」 「このたびの標的はあの女、パラシュートで降ってきた女でしょうか」 ★★ 院長室で小川が本を読んでいる。 相変わらず執務机を椅子代わりにしている。 誰かが入ってきた。 先刻まで絵筆を握っていた女だ。 白衣のポケットに手を突っ込みながら、傲然と歩いてくる。 「飯田先生の院長回診はお済みですか」 からかうような口調で話しかける小川に、バカみたいと深く溜息をつきながら椅子に腰を下ろす飯田。 立ち上がり片づけてあったキャンバスを準備しようとする小川に対して、いいわと言うと背もたれに深く身体を預ける。 ★☆ 廃棄物の収集室に入っていく銭琳。 使用済みの注射器を載せたカートの台座に隠されていたビニール袋を手にする。 ビニール袋の中身は分解された拳銃の部品だった。 組み立てて動作の具合を確かめる銭琳に近づいてきたのは愛だった。 銭琳は愛の姿を見ても、顔色一つ変えない。 「お前の存在はイレギュラーだそうだ」 「イレギュラーって?」 「私の緑炎執行の対象ではないということだ」 「緑炎執行?」 「バカめ、お前は質問しかしないのか。 私は刃千史機関の緑炎執行人。 刃千史の正義を遂行する妨げになる存在を処断する」 刃千史という響きに違和感を覚えた愛は銭琳を問い質そうとする。 「待って、あんたはたしかパンダを守る特務機関刃千吏の一員じゃなかったの?」 「刃千吏、何だそのふざけた名前は。 私は千の刃を振るって中国の歴史を影で動かしてきた誇りある組織の一員だ」 「違う」 愛は銭琳に駆け寄った。 虚を突かれた銭琳は愛の接近を許してしまう。 「違う?何が違うというのだ」 「私の知っているあんたは、もっと優しくてもっとおかしい奴でいつもみんなを幸せにしていた」 「百の言語、十億を越える民を抱える中国の歴史を闇から支えることで、世界平和の安寧を図る。 そんな刃千史の正義を貫くためにわたしは戦っている」 「私の知っているリンリンは誰かの笑顔を守るために戦ってた」 「リンリンだと、ふざけた名、…愛称か?」 銭琳は自分の名の由来を愛に話した。 「私には名が無い。 私が発炎能力を持っている化け物だということを知った私の親は二束三文の銭で私を売った」 銭琳の告白に言葉を失う愛。 「そんな私を拾って、人がましい生活を送らせてくれたのが刃千史だ。 刃千史での私の呼び名は蠍火」 「銭琳」は潜入任務のために、身分証明が必要な時だけに使うと言った銭琳は愛に警告する。 「お前は緑炎の執行対象に指定されてはいないから命を奪いはしない。 しかし私の任務の邪魔をするならその限りではない」 弾装を充填した拳銃を愛に突きつけるが、愛は身じろぎもしない。 「バッチリです」 「は? ふざけてるのか」 「バッチリです」 「何を言ってるんだ?」 愛は銭琳の目を見つめる。 「あの娘の口癖だった。 何かが上手くいったときあの娘がバッチリですと言えば、喜びも十倍に増える。 ヤバイ時にあの娘がバッチリですと言えば勇気百倍になってピンチを乗り越えられる」 「バッチリです」はそんな魔法の言葉だと言う愛に冷たく告げる。 「お前はイカレテルな」 銭琳の携帯が鳴った。 部屋を出て行く銭琳の背中に愛は言葉をかける。 「屋上であの子に笑いかけた時のあんたの笑顔は本物だった」 「怪しまれないためにそういう人間を演じきる。 それが私の生き方だ」 ★★ 院長室でデスクトップのPCを操作する飯田。 膨大な数の入院患者のリストをスクロールさせている。 部屋の隅では小川が描きかけのキャンバスを首を捻りながら覗き込んでいる。 「あんたなんかにその絵の意味がわかるの」 小川は黙って首を振るとキャンバスを裏向きにして、執務机に歩いていくと飯田の膝に腰掛ける。 ちょっとと咎める飯田に対して、わざとらしく微笑む。 「飯田さん~ん。 一体何を探してるんですか?」 「あんたに言っても無駄ね」 「こんなわけの判らない世界に来て、病院の院長に収まった目的が何なのか。 私には知る権利がある」 小川の口調が他人行儀なものにガラリと変わった。 「私に全面的に協力しろと言われたはずよ」 「ええ、保田さんにはそう言われたし、そのつもりでこの世界に同行したんですけどね」 飯田の膝に腰掛けたままで、小川は問い詰める。 「この世界は最初から何も存在しない。 言ってみればブランクディスクのような世界だとあなたは言っていた」 飯田が自分の質問に反応せずに、スクロールする患者リストを見つめているのに苛立ちを隠せない。 「そこに高橋愛を誘い込んで、世界ごと消去してしまうというのがあなたの当初の計画だった。 世界を破壊者から救うための計画だと」 画面のスクロールが止まる。 マウスをクリックして、一人の患者の詳細なデータを呼び出す。 「しかし、いざブランクディスクの世界に来てみれば、ちゃんとした世界が存在していた。 そして目標の高橋愛がやって来たというのに私は足止めを喰らったまま」 聞いてるのかよ、と飯田の胸元を掴む小川。 PCを終了させた飯田は胸元を掴まれたままで小川を睨み付ける。 初めのうちは平然としていた小川だったが、徐々に震え出す。 「fragment」 飯田は一言だけ言った。 「断片」を意味する英単語を。 小川の顔は屈辱に歪む。 「あんたの記憶はいったいいつで終わってるのかしらね。 そしていつから再開してるのかしらね、知りたくない? 私は知りたい」 謎めいた言葉を紡ぎながら、拡げた手のひらを小川の顔にかざす。 慌てて飯田の膝から逃れた小川は出入り口に向かうが、飯田はそれを制止する。 「レンタルショップでDVDを借りて、中身が違ってたってことはない?」 この世界に中身が存在するのはそういうことだと飯田は笑う。 「それにあんたと高橋愛を戦わせないのだって理由がある。 私には未来が視えている。 だから私のする全てのことに理由がある」 世界を救うのには小川の力が必要だと言った飯田はカードキーを手渡す。 「あんたには要らないかもしれないけどね。 少しばかり働いてもらおうかしら。 但し高橋と事を構えるのはまだ早いからね」 ★ 広大な院内を移動する小川。 清掃員の作業着を身に着けている。 診療科ごとの待合室の壁には患者の描いた絵や職員の撮影した写真が掲示されている。 その一角に飯田が画用紙に描いた絵を飾っていく。 ―気味の悪い絵だ キャンバスに描いている絵も判らないが、こっちの絵も何を描いてるのか。 こんな絵を飾って何がしたいんだと思いながら、作業を続けていく小川の目に愛の姿が映る。 ―あいつ 走り出した小川は子供の患者とぶつかってしまう。 構わず愛を追おうとする小川だったが、転げたままで泣くのを堪えている姿を見て動けなくなってしまう。 舌打ちすると子供を助け起こしに向かう。 ★ 険しい顔で歩く銭琳。 職員や患者が声をかけるが、応えようともしない。 手にした携帯の画面には病院内の地図。 ある一点に×印がついているのを見ると、さらに険しい顔になる。 ★★ 入院しているという子供を病棟に送る小川。 無表情を装っているが、時折柔和な目になる。 しばらく歩いていると、頭が重くなる。 症状がひどくなり、立っていられなくなった小川を心配そうに見つめる子供。 大丈夫、という舌がもつれる小川に声をかけたのは飯田だった。 「かなり具合が悪いようね。 安静になさい」 車椅子を指し示すと、小川の傍らにいた子供に笑いかける。 「あなたがミクちゃんね。 丁度よかったわ。 あなたに会いたかったのよ」 ☆ 銭琳を探す愛は病棟と病棟を繋ぐ回廊にさしかかっていた。 長い回廊の先に人影が見える。 それは幾人ものこどもたち。 皆が同じ服を着て、同じように立っている。 愛が目を瞬かせると、子供たちの姿は消えていた。 小川と同じように頭が重くなる愛の耳にアナウンスが聞こえる。 「世界の破壊者、高橋愛様。 院長がお待ちです。 院長室までお越しください」 Bパート ★★ ミクを誘って歩いていく飯田。 ふらつく身体を柱で支えている小川が飯田を詰る。 「今のアナウンスは何です。どうしてあなたが高橋と。それにこの蜘蛛の糸のようなものは一体?」 「あんたにこれが見えるとは思わなかったわ」 目を細めながら差し上げた左手に、細い糸をよりあわせたような糸が握られているように見えた。 「あの絵、私が展示してきたあなたの作品の数々…」 「そう、この糸は私の思念を組み合わせて作り出したもの。殆どの人間にとって、実体のないものだけど、能力者に対しては強力な結界となりうる」 小川が展示した絵を媒介にして、病院中に思念の糸の結界を張り巡らしたと告げる飯田。 精神系の能力者ではない小川がこれほど影響を受けるとは思わなかったと嘲笑う。 「私を利用したのか? 保田さんを裏切ったのか!」 「さあ、それはどうかしら。私たちの関係は裏切ったとなか裏切られたとか、そんな底の浅いものではないから」 一般人には目にすることが出来ない思念の糸を幾重にも纏う飯田の姿が小川には巨大な蜘蛛の化け物のように映った。 「この蜘蛛女がっ」 そう言って、飯田からミクを引き離そうと手を伸ばした小川を嘲笑うようにエレベーターのドアが閉まった。 ☆ 自分のことを呼ぶ館内放送を耳にしたその時から、愛は動き始めていた。 館内の表示で院長室の所在を確かめると、長い回廊を進み出す。 飯田の張った結界の存在に気付いてはいたが、足取りに躊躇いはない。 回廊を渡りきり、階段を昇って院長室の前にたどり着く。 厚い扉に耳を当てて中の音を聞こうとするが、何も聞こえない。 精神感応のチカラで内部に人間がいるか確認しようかとも思ったが、強大な結界を張った何者かの存在が愛を慎重にさせていた。 ―自分を招いた者の正体を確かめるには入るしかない 意を決すると扉に手をかける。 ★ ―保田さんが心してかかれと言っていたのはこのことだったのか もつれる体を立て直しながら、小川麻琴は自嘲する。 「半分エスパー」の世界で、邪魔をしたこくえけん職員高橋愛を弊そうとした自分を保田圭は制した そして保田は次の任務を与えてくれた。 ―圭織を助けてあげてと保田さんは言った ―彼女もまた彼女なりのやり方で世界を救うために動いていると ―戦闘向きの能力者ではない彼女が目的を果たすには、手足となる協力者が要ると ―私は動けない、圭織が動こうとしているのは本来、存在しない筈なのに何らかの偶然で生まれてしまった世界 ―圭織という強力な能力者に加えて、私までがその世界に赴いてはその世界の存在が確定してしまう ―あなたでなければ行けないのよ、と保田さんは言った。 ―私はそんなにちっぽけな存在なんですか? と拗ねてみた ―ダークネスの幹部に比べれば、虫けらのような存在なのは判ってますけどね、と僻んでみせた私のことを保田さんは笑った ―バカね、あんたの"反射”は無敵に近いレベルにまで成長している ―私や圭織とあんたとの違いは、関わってきた人間の数、重ねてきた歴史の重み、背負ってきた思いの違い ―あんたは実質は生まれたての赤ん坊と云っていい真っ白に近い存在 ―そんなあんただからこそ、存在しない世界の因果律に与える影響も最小で済む ―でもね、圭織には注意しなさい ―私たちには見えない未来が視えている圭織は私たちとは違う価値観を抱いているかもしれない ―だから、心してかかりなさい ―今わたしが在る世界は、確実に存在している ―あの蜘蛛女はそのことが最初から判っていたに違いない ―そして、あの女は私を出し抜いて破壊者高橋愛と接触する ―クソ、忌々しい、気に食わない、許せない ―私だけでなく保田さんまで利用するなんて絶対に許せない ―この世界を訪れてからどんな手段を弄したのか判らないが、あの女はこの総合病院の院長に収まった。 小川もその件で動くことは動いたが、それがどんな風に作用したのか判らないし、説明されてもいない。 「あんたに言ったってわかんないでしょ」と蔑んだ飯田を小川が許したのも、保田の指令があったからだ。 ―私を蔑んだっていいし、軽んじたって構わない ―しかし、あの女は私を完全に欺いた ―小なりとはいえ保田さんの指令で動いている私を騙したのだ ―壊してやる、この世界ごと壊してやる 小川は知っている。 自分の前では倣岸を装っている飯田が体調に不安を抱えていることを。 自分に隠れて鎮痛剤を、それも劇薬に近い鎮痛薬を服用しているのを知っている。 自分に見えないところで、泥のように眠り込んでいるのも知っている。 ―私のやろうとすることを”予知”されたって怖くなんかない。 ―ただでさえ戦闘力に乏しい上に、体調の不安を抱えているあの女なんか潰してやる。 暗い愉悦を湛えた瞳で、院長室のある階の方向を見つめた小川の目に… ★ ―あれからどれくらい経つんだろう 蠍火は思い起こしていた。 刃千史の機関員として、初めて働いた時のことを思い出していた。 それは思い出したくは無い出来事だった。 しかし、心に深く刻み込まれて、今ある自分の一部となっている。 蠍火は最初から執行人として働いていたのではない。 執行人は刃千史に叛意を抱く人間にとって、恐怖の対象でなくてはならない。 叛意を抱く人間がいかなる強者であっても倒さなければならないのだ。 それもただ倒すだけではならない。 惨く倒したその屍を、酷いやり方で晒すことで正義の旗を掲げるのだ。 その大役をいくら発炎能力を発動できるからといって、いくら射撃、格闘、暗殺技術の習得が目覚しいからといって、年端も行かない少女に執行人の大役を任せるほど人材が枯渇した刃千史ではない。 将来の執行人候補として目をかけられていた蠍火には、ある辺境地域での情報収集活が初任務として命じられた。 中央と異なる言語、風習を有するその地域はこれといった産物も存在せず、産業も根付いていない貧しい地域だった。 その地域に価値があるとしたら、石油の生産地帯の近隣に位置するという地理的な状況しかなかった。 原油の生産地帯と工業地帯を結ぶパイプラインの敷設計画の噂がその地域の空気を不穏なものにしていた。 中央への反発は公安部によって抑制されてはいたが、彼らの墳墓の地をパイプラインの敷設で踏み荒らす事態になれば、暴動が発生することも十分に予測された。 そんな地にまだ幼さの残った蠍火は派遣された。 役所の中での権力闘争に敗れ、妻にも見限られた哀れな男とその娘。 蠍火とその上司は人生の敗残者としてその地を訪れた。 伝手を頼って得たことになっている役所の仕事をこなしながら、上司は蠍火を現地の学校に通わせた。 「特に何もしなくても良い。 普通に学び普通に遊んで来い。 もし級友の家に招かれることがあったら、必ず行ってくるのだ」 初仕事の緊張が隠せない蠍火に上司は告げた。 その言葉どおり、蠍火は学校に通った。 独自の言語を有しながら、中央の強権によって公用語を使わされている学校。 蠍火に対する風当たりは強かった。 しかし妻に逃げられた哀れな男の役割を演じ切る上司の動向が級友の親たちに伝わったことも影響したのだろう。 そして、何より蠍火自身の資質もあったのだろう。 蠍火は級友たちに受け入れられていった。 やがて級友たちの家にも招かれていった。 そこで会った人たちはその地に伝わっている唄を教えてくれた。 その辺境の地独特の民族衣装も着せてくれた。 そして普通の生きていくことの幸せさを伝えてくれた。 その地での生活が任務であることが頭の中から消えることは無かったが、どこか空ろになっていたのだろう。 上司は蠍火に言った。 「いいか、中国という行政単位には百を越える民族が混在する。 それら全てを併せれば十億を軽く越える。 全ての人間がおのれの自由、おのれの権利を主張すればどんな混乱が生じるか」 想像せよと上司は言った。 この国の安寧を保つために、千の刃を振るえ。 この国の平和はそうやって刃千史が守ってきた。 刃千史はこの国の歴史と共にある、と。 蠍火は改めて自分の立場を自覚した。 そして自分の果たすべき役割を演じ切った。 学校では快活な少女として級友に溶け込んだ。 招かれた家では、妻に逃げられた父を慕う健気な娘として同情を買った。 そして、行く先々で出会った人、目にした物を逐一上司に報告した。 それが一体どんな意味を持つか、その時はまだわからなかった。 その行為がどんな事態を招くのか、その時の蠍火には想像することが出来なかった。 …ある日のことだった。 まだ夜も明け切らぬ時間に上司に起こされた蠍火は任務が終了したこと、そしてこの地からの即時撤収を知らされた。 かねてから計画されていたパイプライン設置のために、この地の人口の40パーセントに相当する人々の家が強制撤去されるらしい。 その前段階として強硬な反対派住民数十名が拘束されることになった。 その任務には公安警察が当たり、直接介入はしないが、不測の事態を考慮して軍も待機するという。 上司と蠍火は軍のヘリに乗り込んで速やかにこの地を離れことになった。 親しくなった学友や、親切にしてくれたこの土地の人々に別れの挨拶をしたい。 そんな些細な感傷を口にするほど愚かな蠍火ではなかったが、少しの戸惑いがあった。 一切の私物を住居に残し、公安の車でヘリの発着地点に向かった蠍火が目にしたものは、自分が言葉を交わしたこともある人々が家の前で拘束されている姿だった。 蠍火の心はざわついたが、強硬派住民の拘束は粛々と進められていった。 見覚えのある家々の周囲を公安警官が包囲しており、所々には護送車が停められている。 やがて、車は町の外れに差し掛かった。 これまでに見たのと同じように、その家の住人も強制退去の対象になっているらしい。 家の中に向かって泣き叫ぶ女子供を公安警官が制している。 そこは蠍火のことを初めて招いてくれた同級生の家だった。 その家ではこの地方伝来の装束を蠍火に着せてくれた。 そんな蠍火を慕って、同級生の妹がまとわりついてきたことを覚えている。 何の大義も存在しないが、地に根を張って生きているという実感を与えてくれる暮らしがその家にはあった。 その暮らしを自分が壊した。 自分たちが収集した情報の如何に関わらず、住民たちの強制退去は行われていただろう。 それだけ意義深く大規模な開発がこの地で行われようとしているのだ。 そのことを理解していても、自分がこの辺境の地の人たちの暮らしを壊してしまったという思いは離れようとしない。 自分はあの家族の暮らしを滅茶苦茶にした。 気づけば自分を責めている蠍火に上司は声をかけた。 「お前があの光景を見て何を感じ、何を思っているかはわかる。 だがお前はこれから何千何万回とそんな思いを噛み締めることになる」 小異を捨て大義に生きよ、と説く上司に返事をしようとした蠍火の目に何かが飛来してくるのが見えた。 ―あれは瓶。 強制退去へのせめてもの反抗? でもちらちらと赤く燃えて…。 危ない、と思った時には護送車にモロトフ・カクテルが炸裂していた。 傍らに居た公安警官が炎の衣をまとっている。 どこか緩慢としていた警官隊の動きが、一気に緊迫感に包まれた。 苦悶する同僚を救おうとする警官。 無傷だった装甲車を盾に、屋内への突入体勢を取る者。 「待てっ!!」 上司の制止を振り切って、車外に飛び出した蠍火は混乱している警官隊の隙を突いて、家の裏口へと回る。 助けたかった。 彼らの墳墓の土地を奪うために動いていた自分に家族のように接してくれた人たちを救いたかった。 彼らの手を汚させたくなかった。 幾度か訪れていた蠍火はその家の裏口が鍵無しで開けられることをしっていた。 木の扉、まるで人の顔のような模様の口の部分を強く押す。 閂の緩んだ扉を引き開ける。 「小父さん、銭琳です。 これ以上警官に逆らわないで下さい」 中に飛び込むなり、声をかける。 敵意を持たないことを示すために、手は広げて掲げている。 ―誰もいない? 決して大きくは無い家の中に人の気配が感じられない。 探そうにも人の隠れる場所もない。 ― 一体何処に? 前後の事を考えず危険を冒してしまった蠍火だったが、彼女にも保身の感情はある。 ―誰も居ないなら、早く引き上げなくては…!! 衝撃を感じた。 背後から強い勢いで何かがぶつかってきた。 蠍火は自分の油断を恥じた。 この家の家長が逞しい体をしていたことは覚えている。 ―もしも、掴まえられたなら面倒なことになる そう思った蠍火は腕を振るった。 傷つけるつもりは無い。 自らの体の自由は確保した上で、家長を説得しなければならない。 この家の家長の体躯なら、仮に急所に入ったとしても負傷することは無い。 そう思い振るった拳は蠍火を襲った影を家の壁まで吹き飛ばしていた。 ―脆すぎる 自分が吹き飛ばした影の軽さを怪訝に思った蠍火の目に映ったのは、この家の一番年下の娘だった。 「琳姐・・・」 力なく呟いた幼子がやがて炎に包まれた。 …人は過去から逃れられない。 乾き切った現在を生き抜くために、標的の居る筈の場所を視認する蠍火。 「…お前もあの忌々しい占い女の仲間か!!」 ――続く―― 【次回予告】 標的の居場所に向かおうとする蠍火の前に立ちはだかる小川。 すれ違う思い、交錯するチカラ。 「わたしがこのチカラで世界を救ってやるよ」「世界を変えるのはこの世界に生きる全ての人の力デス」 思念の蜘蛛の巣に囚われた愛は、飯田の超越俯瞰によって封印されてきた過去を追体験する。 「…わたし、楽しんでる。 あんなひどいことして笑ってる」 他の誰にも視えない未来を視た飯田は何を思い、何をしようとする? 「あんたはこのキャンバスに…を描けるかしら?」 モーング戦隊リゾナンターR 第17話「世界を変えるチカラ」 魂を燃やし、未来を照らせ!! back 『モーニング戦隊リゾナンターR 第??話 「半分エスパーの世界(後)」』→ next 『モーニング戦隊リゾナンターR 第17話 「世界を変えるチカラ」』→