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華山一剣1 必要条件 必要名声 場所 報酬 草上飛習熟10 br;一流高手以上 名声501 華山東 br;華山一剣 柴虚神丹2個 華山一剣と会話し、狐皮10個と毒丹5個を持っていくと柴虚神丹2個貰えます。 柴虚神丹は金亀内丹と同様に魔境奥で凌空虚道習得の手助けとして使用できます。 名号が一代宗師の時、成功率が2倍になります。 凌空虚道を覚えている人は、気力上昇剤として使用しても問題ありません。 上へ 華山一剣2 必要条件 必要名声 場所 報酬 草上飛習熟10 br;絶世高手以上 br;華山一剣1終了 名声601 華山東 br;華山一剣 柴虚神丹3個 華山一剣と会話し、サソリのしっぽ10個と少林小丸丹1個を持っていくと柴虚神丹3個貰えます。 柴虚神丹は金亀内丹と同様に魔境奥で凌空虚道習得の手助けとして使用できます。 名号が一代宗師の時、成功率が2倍になります。 凌空虚道を覚えている人は、気力上昇剤として使用しても問題ありません。 上へ
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|主武器|副武器|防具|装飾品|道具|貴重品| 防具 ※標準装備:加入時の標準装備(詳細は、各キャラクターのステータスを参照) ※入手:加入時専用装備、敵、イベント ※未装備の場合、防御力「25」 フルプレート|ハーフプレート|ブレストプレート|レザーアーマー|マント|ローブ フルプレート ※標準装備:アンガス、ブラド 名称 ランク 属性 装備 装備クラス 防御力 属性 標準装備 入手 備考 傷んだ甲冑 ランク1 無 鎧 重戦 32 ◯ フルプレート ランク2 無 鎧 重戦 58 ◯ 要石の洞窟 宝箱 カッパープレート ランク3 無 鎧 重戦 84 ◯ 影角洞 宝箱 シルバープレート ランク4 無 鎧 重戦 110 ◯ 自走砦 宝箱 ゴールドプレート ランク5 無 鎧 重戦 136 ◯ 幻影城 宝箱 オーガプレート ランク6 無 鎧 重戦 162 ◯ 氷結湖迷宮 宝箱 ナイトスーツ ランク7 無 鎧 重戦 188 ◯ 土星宮 宝箱 ブラックレネゲイド ランク5 闇 鎧 ジオン専用 196 +10 蝕影宮 シアーライオン戦後 ブーステッドメタル ランク7 無 鎧 アンガス専用 198 黒の館 コルドロン戦後 フルカバード ランク7 無 鎧 ブラド専用 203 黒の館 コルドロン戦後 プラチナプレート ランク8 無 鎧 重戦 214 ◯ 溶解雨の湿地 宝箱 ミスリルプレート ランク9 無 鎧 重戦 240 ◯ 癌臓宮中枢部 宝箱 ブーステッドメタル ランク9 無 鎧 アンガス専用 250 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 ブラックレネゲイド ランク9 闇 鎧 ジオン専用 250 +10 虚神王の砦・前庭 ランク5が変化 ダークコーティング ランク9 闇 鎧 DS専用 250 +10 癌臓宮中枢部 オクトール戦後 CHAOS限定 フルカバード ランク9 無 鎧 ブラド専用 255 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 ディバインオーラ ランク9 光 鎧 ルーシェ専用 255 +10 イドクリスタル ルーシェ LV44以下 龍鱗鎧 ランク10 火 鎧 重戦 272 +10 ヴィンスの迷宮 ミカエル 貴重 ディバインオーラ ランク10 光 鎧 ルーシェ専用 281 +10 イドクリスタル ルーシェ LV45以上 上へ ハーフプレート ※標準装備:イングヴェイ、ラン、ジオン、ラーズ 名称 ランク 属性 装備 装備クラス 防御力 属性 標準装備 入手 備考 穴の開いた鎧 ランク1 無 鎧 重戦/剣士 31 ◯ 鉄の鎧 ランク2 無 鎧 重戦/剣士 57 ◯ 秘された抜け道 宝箱 鋼の鎧 ランク3 無 鎧 重戦/剣士 82 ◯ 風神塔 宝箱 銀の鎧 ランク4 無 鎧 重戦/剣士 108 ◯ 露角洞 宝箱 凍気の鎧 ランク5 水 鎧 重戦/剣士 133 +10 ◯ 幻影城 宝箱 熱波の鎧 ランク6 火 鎧 重戦/剣士 159 +10 ◯ 水龍の祠 宝箱 風雷の鎧 ランク7 風 鎧 重戦/剣士 185 +10 ◯ 木星宮 宝箱 ドワーブンメイル ランク8 地 鎧 重戦/剣士 210 +10 ◯ スーゼミの神殿 宝箱 ミスリルメイル ランク9 無 鎧 重戦/剣士 236 ◯ 癌臓宮中枢部 宝箱 甲虫の殻鎧 ランク9 無 鎧 バ・ソリー専用 242 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 神鉄鎧 ランク10 光 鎧 重戦/剣士 262 +10 ヴィンスの迷宮 ミカエル 貴重 上へ ブレストプレート ※標準装備:ガラ、ネイ、ヨシュア、シェン、ヴァイ、ヨルグ、カイ、マカパイン、ボル、バ・ソリー、ロス、サイクス 名称 ランク 属性 装備 装備クラス 防御力 属性 標準装備 入手 備考 ひび割れた胸当て ランク1 無 鎧 侍/忍者/魔剣 30 ◯ 鉄の胸当て ランク2 無 鎧 侍/忍者/魔剣 55 ◯ 小峡谷 宝箱 ジュエルドブレスト ランク3 無 鎧 侍/忍者/魔剣 80 ◯ 地龍の寝所 宝箱 シルバーブレスト ランク4 無 鎧 侍/忍者/魔剣 105 ◯ 露角洞 宝箱 セラミックブレスト ランク5 無 鎧 侍/忍者/魔剣 131 ◯ 幻影城 宝箱 サムライアーマー ランク6 無 鎧 侍 156 ◯ 樹棺城尖塔部 宝箱 アズベスタスベスト ランク6 無 鎧 侍/忍者/魔剣 156 ◯ 氷結湖迷宮 宝箱 ゴールドブレスト ランク7 無 鎧 侍/忍者/魔剣 181 ◯ 金星宮 宝箱 聖なる胸当て ランク8 光 鎧 侍/忍者/魔剣 206 +10 ◯ ランゲルハンス島 宝箱 ハーフプロテクト ランク8 無 鎧 ロス専用 212 黒の館 コルドロン戦後 甲虫の殻鎧(*1) ランク8 無 鎧 バ・ソリー専用 212 黒の館 バ・ソリー 溶暗の鎧 ランク8 無 鎧 ボル専用 212 溶解雨の湿地 ボル 銀嶺 ランク8 無 鎧 ヨシュア専用 212 溶解雨の湿地 ヨシュア ミスリルブレスト ランク9 無 鎧 侍/忍者/魔剣 231 ◯ 癌臓宮中枢部 宝箱 ハーフプロテクト ランク9 無 鎧 ロス専用 237 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 銀嶺 ランク9 無 鎧 ヨシュア専用 237 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 溶暗の鎧 ランク9 無 鎧 ボル専用 237 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 サーコンダクター ランク9 無 鎧 カル専用 239 虚神王の砦・前庭 カル 触手の胸当て ランク9 闇 鎧 アビゲイル専用 241 +10 癌臓宮 アビゲイル 嵐 ランク9 風 鎧 ガラ専用 241 +10 癌臓宮中枢部 オクトール戦後 レッドペインキラー ランク9 火 鎧 DS専用 246 +10 癌臓宮中枢部 オクトール戦後 LAW、NEUTRAL限定 ノブナガの甲冑 ランク10 火 鎧 侍 257 +10 ヴィンスの迷宮 ウリエル 貴重 岩霊の胸当て ランク10 地 鎧 侍/忍者/魔剣 257 +10 ヴィンスの迷宮 ウリエル 貴重 上へ レザーアーマー ※標準装備:ザック 名称 ランク 属性 装備 装備クラス 防御力 属性 標準装備 入手 備考 腐った革鎧 ランク1 無 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 29 ◯ レザーウェア ランク2 無 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 54 ◯ 秘された抜け道 宝箱 革鎧 ランク3 無 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 78 ◯ 風神塔 宝箱 魔法の革鎧 ランク4 無 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 103 ◯ 電角洞 宝箱 虎皮の装束 ランク5 無 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 128 ◯ 幻影城 宝箱 リビングレザー ランク6 無 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 153 ◯ 樹棺城尖塔部 宝箱 ボンデージレザー ランク7 闇 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 177 +10 ◯ 火星宮 宝箱 スタッドアーマー ランク8 無 鎧 ザック専用 212 黒の館 ザック 火蜥蜴の革鎧 ランク9 火 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 227 +10 ◯ 虚神王の砦 宝箱 スタッドアーマー ランク9 無 鎧 ザック専用 237 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 神獣の毛皮鎧 ランク10 光 鎧 侍/忍者/魔剣/格闘 252 +10 ヴィンスの迷宮 ミカエル 貴重 上へ マント ※標準装備:ダイ 名称 ランク 属性 装備 装備クラス 防御力 属性 標準装備 入手 備考 薄汚れたマント ランク2 無 鎧 吸血 52 ◯ 黄昏のマント ランク3 闇 鎧 吸血 77 +10 ◯ 薄闇のマント ランク4 闇 鎧 吸血 101 +10 ◯ 日蝕のマント ランク5 闇 鎧 吸血 125 +10 ◯ 常闇のマント ランク6 闇 鎧 吸血 150 +10 ◯ 氷結湖迷宮 宝箱 蝙蝠のマント ランク7 闇 鎧 吸血 174 +10 ◯ 水星宮 宝箱 ワイヤードマント ランク7 無 鎧 マカパイン専用 180 黒斑洞 マカパイン 月食のマント ランク8 無 鎧 吸血 198 ◯ スーゼミの神殿 宝箱 アニメイトショルダ ランク8 無 鎧 カイ専用 204 溶解雨の湿地 カイ 暁のマント ランク9 無 鎧 吸血 222 虚神王の砦 宝箱 貴重 ワイヤードマント ランク9 無 鎧 マカパイン専用 228 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 アニメイトショルダ ランク9 無 鎧 カイ専用 228 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 ドラクルのマント ランク10 闇 鎧 吸血 247 +10 ヴィンスの迷宮 ケルビム 貴重 上へ ローブ ※標準装備:D・S(ランク1)、カル、アビゲイル、シーン、イダ、シェラ 名称 ランク 属性 装備 装備クラス 防御力 属性 標準装備 入手 備考 綻びたローブ ランク1 無 鎧 魔使 27 ◯ ローブ ランク2 無 鎧 魔使 51 ◯ 要石の洞窟 宝箱 マジカルシルク ランク3 無 鎧 魔使 75 ◯ 雷神塔 宝箱 真紅の長衣 ランク4 無 鎧 吸血/魔使 99 ◯ 樫の牢獄 宝箱 幻影の法衣 ランク5 無 鎧 魔使 123 ◯ 幻影城 宝箱 ホーリーローブ ランク6 光 鎧 魔使 152 +10 ◯ 氷結湖迷宮 宝箱 メタルクロス ランク7 地 鎧 魔使 170 +10 ◯ 蝕影宮 宝箱 幻惑のトーガ ランク8 無 鎧 魔使 194 ◯ 溶解雨の湿地 宝箱 オートクチュール ランク8 水 鎧 シーン専用 200 +10 デュアディナムトンネル シーン ドーギ・クオッポー ランク8 無 鎧 ヨルグ専用 200 溶解雨の湿地 ヨルグ 龍血染めの法衣 ランク9 火 鎧 魔使 218 +10 ◯ 虚神王の砦 宝箱 ドーギ・クオッポー ランク9 無 鎧 ヨルグ専用 224 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 オートクチュール ランク9 水 鎧 シーン専用 224 +10 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 エルヴェンクロス ランク9 風 鎧 ネイ専用 226 +10 癌臓宮中枢部 オクトール戦後 ガープオブプリンス ランク9 光 鎧 ラーズ専用 230 +10 虚神王の砦・前庭 ラーズ 叡智の繭 ランク10 無 鎧 魔使 242 ヴィンスの迷宮 ガブリエル 貴重 上へ
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英名:The Hollow Providence Hououga レアリティ:M 絵師:藤井英俊 番号:BS15-027 収録:覇王編2弾-黄金の大地 コスト:11 軽減:6 シンボル:緑 系統:虚神・爪鳥 種類:スピリット 1-LV1: 8000 4-LV2:10000 7-LV3:16000 『手札常時』 自分のバーストをセットしている間、手札にあるこのスピリットカードをコスト7にする。 LV1-2-3:『自分のアタックステップ』 このスピリットと『暴風』を持つ自分のスピリットのアタックによって相手のライフを減らしたとき、 相手のライフのコア1個をボイドに置く。 LV2-3:『常時』 相手によって『暴風』を持つ自分のスピリットが破壊されたとき、相手のスピリット1体を手札に戻す。 フレーバー 虚神の嘴がロードの背中に突き刺さった! 備考/性能 コスト変更/コストカット/暴風サポート/コア除外/擬似ダブルシンボル/バウンス 再臨した6虚神の一つ。 他の11コス虚神と同様、暴風を失って暴風サポートを得ている。 公式Q&A/ルール エピソード/キャラクター 進化前:天帝ホウオウガ ここを編集 BS15-緑へ戻る
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―――北花壇警護騎士団はガリア王国の秘密部隊である。 騎士団であるからには、その団員は王国に忠誠を誓い、召集されれば必ずはせ参じなければならない。 忠誠など捧げる理由など何一つ無いタバサにとっても、その辺りの事情は同じだった。 アルビオン王党派の決戦が近い現在でも関係なく、任務は与えられる。 迎えの竜騎士に連れられて半日、タバサとグレンはヴェルサルテイル宮殿の一角、小宮殿プチ・トロワに来ていた。 タバサは今グレンを宮殿の外に待たせ、自分を呼び出したイザベル王女と会っている所だ。 王宮と言うよりも華麗な荘園といった趣のヴェルサルテイルは、今を盛りと花々が咲き乱れている。 手入れの行き届いた花壇に囲まれた焼きレンガの道を、黒いローブの男が歩く。 宮殿の様子を見回し、もし攻めるとすればどうするか、と考えるグレン・アザレイである。 尤も、本気で攻めるならそれほど苦労はすまい。 グレンはかつてこの世界とは魔法技術水準の違う魔法世界で、フラリと立ち寄った相似世界の『協会』支部、つまり相似世界最高最強の魔術機関に正面から単独で攻め入って、そこに詰めていた高位魔導師五十四大系・六百三名を殺害し、更に相似大系の文明そのものとも言える最高位魔導師を決闘で打ち破った男なのである。 宮殿に居る全ての貴族と兵士を相手に戦っても、なお無傷で居られるだけの実力をグレンは持っている。 その事実が、花を愛でる余裕さえもって闊歩するグレンに対し、誰一人誰何や制止をする事を許さない凄みとして伝わっていた。 悠々と歩むグレンが、旅をしてきた数多の世界では見ないハルケギニア独特の花を見かけて花壇へと顔を向ける。 万に達すると言われている既知魔法世界において、天体条件や動植物等は魔法による変異や改良を受けていない限り、どの世界でも同一になっている。 この世界で見るものは、旅人であったグレンにとっても新鮮な驚きで満ち溢れているのだ。 魔法世界でも特に発達した魔法文明である相似世界と比べて、人々の暮らしぶりは決して豊かだとは言えないが、動植物の相や風石、幻獣、亜人、先住魔法など、様々な資源についてはとても豊富な世界だと言える。 それに、ぶれの無い物理法則を持ちながら悪鬼の住まぬ環境。 魔法技術向上のための実験を望む魔法使いにとって、至上の環境がここにはある。 魔術師の理想郷をその花に凝縮して見た気がしてグレンは膝をつき、薔薇を飾るようにつつましく咲く可憐な花へと顔を寄せた。 その刹那。いずこかで見た顔を視界に捉えた気がして、神に似た男は顔をあげる。 あるのはただ美しく広がる花壇の花々だけ。 「―――気のせいか」 記憶の端にひっかかる、顔を包帯で隠した女の姿は何処にも見つけられなかった。 ……それから数時間後、タバサとグレンは車中の人となっていた。 地方領主であるアトワール伯の誕生日を祝う園遊会へと向かう、豪華な八頭立ての大きな馬車である。 幻獣であるユニコーンに引かれたゆうに10人は乗れるような馬車には、交差した杖と「更に先へ」と書かれた紋章が描かれている。 まぎれもない王家を表すその紋章。 父王ジョゼフから王女イザベラに与えられた御座車に、二人は同乗しているのだ。 それどころか、タバサは影武者として王女のドレスに冠までかぶって座っている。 そんな馬車の車中は―――実に奇妙な雰囲気で満たされていた。 女主人の席に座するのは『フェイス・チェンジ』の魔法で女王に化けたタバサ。 その隣には新任の侍女という触れ込みの、変装した従姉姫イザベラ女王。 向かいの席には東薔薇花壇警護騎士バッソ・カステルモール。タバサの顔に変身の魔法をかけた、二十代前半の美髯凛々しい騎士である。 そして彼の隣に、もう一人東薔薇花壇騎士の正装に身を包んだ人物が座っていた。 円形に四角形に菱形に三角形等、様々な図形を刻み込んだ、腕ほどの長さのワンドを傍らに立てかけている。 マントの色は鮮やかな青。 ガリアでは王族の警護を任された者だけに貸与される王家の髪色にちなんだそれは、隣に座るカステルモールと揃いの品。 マント留めには紅玉をあしらった薔薇の彫銀細工を使った、何処から見ても立派な東薔薇騎士団の貴族に見えるその人物は、整った、けれど美貌ではなく叡智の深さと苛烈さこそが感じられる顔の男性、グレン・アザレイその人であった。 海の底のように深く、けれど太陽のような灼熱を宿した灰色の双眸は、今は細められ、向かいに座る二人に静かに向けられている。 その視線の先で、いつもなら無作法に行儀悪く、意地悪な言葉と行動でタバサに絡むはずのイザベラは、カチンコチンに固まっていた。 傲慢さがなりを潜め、姿勢良く座り、握った小さなこぶしを軽くスカートの上に重ね、俯きがちに頬を染めて視線を彷徨わせる姿は、元々の美しい容姿とあいまって、まるで深窓の令嬢のようだった。 と言うか実際深窓の女王さまなのだが。 「あの、ミスタ・グレンは人ぎ……シャルロットの、使い魔、なのですね?」 「然り。わたしは雪風の娘によって召喚された者である」 「平民、だともうかがいましたけど、とてもそうは見えませんわ。 その、とても堂々となさっておいでですもの」 「遠い異邦の生まれゆえこの国の魔術とはいささか毛色が異なるが、わたしが使う魔術、相似大系における魔道の術理を極めつつあると自負している」 「そ、そうですか! そうでしょうとも! わたくしの従妹はとても優秀ですもの! 平民なんかを召喚するはずがありませんわ! ねぇ、シャルロット?」 「………………」 言葉遣いまでまるっきり変わっている従姉の様子に、毛虫でも噛んでしまったかのような表情のタバサ。 そうすると魔法でイザベラそっくりになっている容貌が、皮肉にも更にそっくりになった。 イザベラの異様な態度の理由は判っている。 騎士に変装したグレンを最初に合わせた瞬間にイザベラの目がハートになっていたから一目瞭然だ。 半分ほど飲んでいた紅茶を床に落としても気がつかないほどで、その時からイザベラはとても変だった。 「そうだわ! わたくし、とっても良い事を思いつきましたわ! ミスタ・グレンも強い魔法が使えるのなら、本当に我が国の騎士になられれば良いのよ! ああそれが良いわ! 私からお父さまに推薦して差し上げてもかまいませんのよ?」 「使える魔法の強さなど、なんら重要とする事柄ではない。 騎士して採り立てられるならば国を愛し、忠誠の心を持つ者を選ぶべきであろう。 異邦人であるわたしに、残念ではあるがそのような心など無いのだから、騎士に、などとは戯れにでも言うべきでは無い事だ、女王よ」 「ミスタ・グレン……」 ぽぉっと更に頬を染め、瞳を蕩けさせるイザベラ。 いつもなら自分の誘いを断ったグレンに怒り狂うような場面だったが、まるで気にならないらしい。 むしろ魔法の腕前に感じていた劣等感をグレンに気にする必要はないと言われた気がして、ますます想いに拍車がかかったようだ。 奇妙な生き物を見るようなタバサの目が、いっそう細められる。 「…………ちょっとキモい」 聞こえないほど小声で呟いたタバサの言葉に、給仕として同乗していた数人の侍女がコックリと頷いた。 もしも巷で言われる一目惚れが、神様の仕業だとしたら。 ルイズに一目惚れしたサイトといい、今回のイザベラといい、始祖ブリミルは実に罪深くて悪趣味で―――そして残酷に違いなのだった。 ……その夜。 予定の通り一泊する事なにった街の一番高級な宿で、タバサを一番豪華な客室に泊まらせて、イザベラは自分の部屋とした二番目に良い客室で計画の練り直しをしていた。 アルトーワ伯爵の誕生日を祝う園遊会に招待されたのを利用して、伯爵が謀反のために自分を誘拐しようとしていると言う陰謀をデッチ上げ、その護衛としてタバサを影武者にすることで、自分で用意した刺客とタバサを戦わせるというのが、そのたくらみだった。 刺客はガリア裏社会でも恐れられるメイジ『地下水』。その正体は手にした人間を操るインテリジェント・ナイフである。 もちろんアルトーワ伯に謀反を起こす気などまったく無い。ただのイザベラによる作り話だ。 だが、なぜかそんな計画を父王であるジョゼフがもちかけ、支援までしてくれたのだ。 イザベラは『雪風』などと呼ばれる、ちょっと魔法が得意だからと生意気な従妹の醜態をしっかり楽しむつもりだった。のだが…… 「と、言う訳でこのわたしが直々にグレンさまを人形娘から引き離す役をしてやるから、わたし達が夜の散歩でムーディーな感じに盛り上がってる間に、お前は生意気にもグレンさまを独占するにっくきチビを泣かせてやるんだよ?」 なんか目的が変わっていた。 そして目的が変わってもやることに変化が無いイザベラ様であった。 ともかく、イザベラは腹心の侍女を呼んで少し控えめな感じの化粧を施させ、派手では無いが品の良い服に着替えると、しずしずと階段を上り、タバサの部屋の前で警護の騎士然として立っていたグレンに話しかける。 「あの、ミスタ・グレン。今宵は二つの月が共に満ちてとても美しい夜ですわ。 わたくし夜歩きなどしようと思うですけれど、よろしければ、ご一緒していただけないかしら?」 モジモジと両手を合わせて恥ずかしそうな上目遣いながら、女王さま勇猛果敢に攻めています。攻め攻めです。 「誘いは嬉しく思うが、わたしは今王女の護衛をおこなっている。そなたは他の者を護衛に呼ぶが良かろう」 おっとグレンさん、華麗にスルー。 「おや、王女殿下のお誘いを断るなどなんと勿体無い事を。 騎士どの、ここは私が代わりますゆえ、どうぞお二人でお散歩へ」 「ふむ。それでは頼んだ」 ここで通りがかりの衛視Aを乗っ取ったインテリジェント・ナイフの『地下水』さんがナイスアシスト。 王女さま下向いて「計画通り!」って顔になってます。すっごい悪い顔です。 「あっ。この街、少し足元が悪いみたいだわ」 更に王女さま、宿を出たあたりで17歳にしては豊かな胸を押し付けるようにグレンさんの腕に抱きつきました。 やる気です。本気で攻めに来ています。 「気をつけよ王女。この世界では夜闇を照らす明りも少ない。 されど夜空の美しさを愛でるときには、それもまた良いことであるな」 しかしグレンさん再びスルー。 余裕です。流石に年齢差二倍となると貫禄が違うぞグレンさん34歳独身。 腕に王女を絡みつかせたまま、悠々と夜空を見上げて目を細めます。 「王女よ。この世界に星座や星星の物語があるのなら教えてもらいたい。 悲しいかな、わたしはこの美しい夜空に、あまりに馴染みが無いのだ」 「ええ、ええ! 喜んで教えてさしあげますしてよ! まずあの真北にひときわ明るく輝く星が始祖ブリミルの御魂が昇天したと言う―――」 嬉々としてガリアに伝わる星座物語を語り始める、高揚して微妙に言葉のおかしくなったイザベラさま。 けれど彼女は、とても重要な事を忘れていた。 グレンはタバサの使い魔であり、通常使い魔は主人と視覚を共有できる。 つまり――― 「……全部、見えてる」 従姉姫の、普段は絶対見られない異常行動が、グレンの視点でバッチリ見えているタバサであった。 イザベラはタバサにとって父親の仇の娘ではあるが、なにもイザベラ自身が憎いわけではない。 性格的に色々と問題がある王女ではあるが、彼女なりのプライドをきちんと持っているし、魔法の勉強等も隠れて頑張っている事も知っている。 両親の事に触れられると流石に殺意を抑える事に苦労もするが、正直なところ憎悪の対象になるほど気にする相手では無かった。 母親の事。父の仇を倒す事。数は少ないが学校での友人の事。使い魔の事。後は本の世界だけが、タバサにとって興味のある全てだ。 けれどイザベラのあんな初々しい姿を見せられたら……いつかタバサの魔法が父親の胸を貫くのを見たとき、彼女がどんな苦しみを受けるかと想像すると胸が痛む。 だからこそ、タバサは多くのものに心を向けないようにしていたと言うのに。 溜め息を一つ。 タバサは身長より大きな自分の杖で『ライト』の魔法をかけ、光源と共に布団の下に潜り込んで扉が開くのを待った。 グレンと交代で見張りに立った衛視はイザベラを『王女』と呼んでいる。影武者の自分が居るこの部屋の前で。 つまりは始めからグルなのだ。通りがかりなワケが無い。 それが一目惚れした相手と一時の逢瀬を望む一心なら問題は無い。 けれど超常の魔力を持ったグレンという護衛を自分から引き離す意図を持ってなら、次は仕掛けてくるに決まっている。 案の定、ノックも無しに開かれた扉から仮面を付けた衛視が真っ暗な部屋へと入ってきた。 「お休み中ですか、姫殿下」 扉を閉めてゆっくりと、ベッドに横たわるタバサへと近づく男。 その足取りは豪華な分厚いカーテンに遮られて星明りすら入ってこない客室の暗さを気にした様子も無い確かさだ。 「お芝居は、いらない」 言って跳ね起きるタバサ。 布団を勢い良く捲り上げると、ランプとは比べ物にならない魔法の明りが客室に溢れた。 普通の人間なら眼が眩んで一瞬まともに動けなくなるはずだ。 その中で衛視――『地下水』は正確に魔法を唱えてタバサに向けて放つ。 空気の固まりが敵を撃つ『エア・ハンマー』は、素早く次の一手を撃とうとしていたタバサの魔法と偶然にも同じ。 二つの魔法がぶつかり合い、二人の中間ではじけて消える。 「お見事。さすがは北花壇騎士の『雪風』ですな。しかし何処で私の正体がばれたのやら」 「使い魔」 「なるほど。そう言えば使い魔の視覚は主人と共有される。 人の姿の使い魔など珍しいので、すっかり忘れていましたよ。 まぁ、あのマヌケな使い魔殿は幸いにも騙せたようですが」 「違う」 「―――!?」 背後の気配に気が付いて振り向けば、眠らされた女王を腕に抱いた相似の使い魔の姿。 闇の中にあってなお太陽の如き男は、両手の塞がったままで、視線のみを送って魔術を完成させた。 「―――ぐっ!」 「ふむ。これを耐えるとは、その身体はお前の物では無いか」 昏睡している王女の脳と相似にされた衛視の脳が、自ら睡眠状態に落ちようとするのを『地下水』はその支配力で耐え抜いた。 しかし抵抗したカラクリ自体を気取られれば自然と正体もばれよう。 慌てて逃げを打つ『地下水』だが、グレンの魔術がその足を止めた。 同一デザインで作られたガリア王軍衛視のブーツと騎士のブーツが、相似弦で結ばれているのだ。 戦闘を意識してしっかりと脱げ難く設計されているため、最早グレンが足を動かさぬ限り縫いとめられたように動く事は無い。 「降参する。武器は渡すから殺さないでくれ!」 言って、右手に握っていた衛視の杖を足元に捨て、左手のナイフは柄を前に向けて差し出す『地下水』。 両手の塞がっているグレンの代わりにそれを受け取ろうとタバサが一歩踏み出したその時。 窓ガラスを割って円環状の刃物が飛び込んで来た。 「避けよ、刺客」 「うわわっ!?」 言われて咄嗟に跳ぶ『地下水』。 既に間にか足を縛り付ける魔術は解除されていたため、素早い動きで飛来する凶器の軌道から我が身を逸らす。 けれど『地下水』の動きを追うように、刃物――チャクラムの軌道が曲り、襲い掛かった。 銀の弦に結ばれたそれが、窓の外から操作されているのだ。 「相似魔術」 銀弦に目ざとく気付いたタバサが珍しく驚きの声を上げた。 ほとんど同時に飛び込んで来た、銀弦によって結ばれる同じ形のチャクラムが5本。 同じ軌跡を描く武器は、部屋の中の人間を皆殺しにする目的で放たれたに違いない。 だが、その刃は猛威を振るう前に空中に停止する。 相似魔術による物体操作など、グレン・アザレイの前では容易く操作権を奪われるのだ。 間髪入れず窓から飛び込んで来たのは、灼熱した砂の嵐と、帯電した砂鉄を含んだ雷撃。 「精霊大系の魔術で加熱した砂を因果大系の空気ピストンで送り込んだか。 それに、相似大系で集めた砂鉄を加えた円環大系の放電魔術……四人か」 いずれも初歩的な、けれど破壊的な魔術を部屋に傷一つ付ける事無くに無効化して、グレンはその魔術大系を看破してのけた。 いずれも対熱・対電だけでは防御しきれない、物理属性を加えた複合攻撃魔術だったが、この程度で倒せるようなら『神に似た者』などと呼ばれはすまい。 そのままグレンは軽く手を握り込んで腕を引く動作を行ったが、手ごたえの無さにか首をかしげた。 「雪風の娘よ、この世界に肺から酸素を抜かれても平然としている生き物は居るか?」 「いない」 普通の生き物は酸素が無ければ生きていけないという事実は、このハルケギニアでも知られている。 低酸素下でも生存できる火トカゲや水陸両方で活動するスキュラ、酸素の薄い高空を高速で飛行する風竜なども居るが、それらの種族も魔法的な力や肺とエラの両方を持つなど、なんらかの方法で酸素を得ている。 中にはバグベアードのように呼吸しているのか不明な物や、ガーゴイルのように呼吸など最初から不要の物も存在してはいるものの、そもそもそんな連中は肺も存在していないのだ。 だが、グレンは魔術によって敵の呼吸する空気から数兆の数億乗個に及ぶ酸素分子だけを正確に掌握して抜き取った。 ならば敵は、肺が有って呼吸をしていながら酸素を必要としない奇妙な生物と云う事だ。 「そうか。面妖な事だな」 「下がる?」 「いや、もう逃げた」 主人の問いに使い魔は端的に答え、眠る女王をベッドへと横たえてから窓の外を覗く。 因果大系や精霊大系、円環大系にとっての転移は高等技術だが、 相似世界に生まれた魔導師にとってなら、きちんと教育を受けた者なら子供でも扱える初歩の魔術だ。 ただし、転移先に自分の似姿を強制的につくるようなマネは流石に段違いの高等技術で、それも一瞬で移動などグレン以外は簡単には行えない。 普通は転移先に自分や同行者と『似た』人形を置いておかなければならないし、転移先の様子を知っていなければ『跳べ』ないという制限がある。 だがこんな襲撃をする敵だ。相似魔術師が転移先を用意しない理由が無かった。 案の定、三階の窓から覗いた外には怪しい人間など居はしない。 それどころか大きな物音に気が付いて集まる野次馬の気配すら感じられなかった。 おそらく、因果魔術か精霊魔術を使って音と光を誤魔化していたのだろう。 「今の音はいったい!? 女王陛下はご無事であられるか……」 だが、宿の中には音が聞こえていたのだろう。 宿の外での警備を申し付けられてはいたが、王女とグレンが二人で出て行ったのを見て、これはタバサに会う好機だと、この部屋へと向かう途中だったカステルモール卿が、あわを喰って飛び込んできた。 なにせ影武者であるタバサは彼にとって真の王女であるべきシャルロット姫。 その身が危機にさらされたとなれば、慌てるのも無理は無い。 飛び込んできて、そのまま言葉を失う若き薔薇花壇騎士。 割れた窓と立ち尽くす衛視、油断無く窓の外を覗いていたタバサとグレンまでは良いとして、そこにベッドの上でスヤスヤと寝息を立てる本物の王女が加わっては、何が起こっているのか到底把握できなかったからだ。 「な、なにが起こっているのだ? グレン殿はいったい何時の間に部屋に戻られた?」 そんなカステルモールをおいてきぼりにして、グレンがタバサに告げる。 「少なくとも四人、多ければ六人以上の魔術師による襲撃であったようだな、それも本物の王女を巻き込んでもかまわぬという者達だ」 「…………」 コクリと無言で頷くタバサ。 イザベラや『地下水』とは別口の刺客。それもグレンと同じ異界の魔術の使い手による襲撃だ。 本当にイザベラが狙われているのなら、今の警備体制は十全では無いし、なにより刺客ごっこで遊んでいる場合では無い。 今から必要なのは真に厳重な警備を敷くための、イザベラ達との協力。 二人が視線を向けた先で、『地下水』はバンザイをするように降伏の意思を表していた。 目が覚めて見慣れない天井を見上げて居ると云う事は、イザベラにとって珍しい事では無い。 一国の王女たるもの、多忙な上に趣味人な父王に替わって式典や祝典に招待される事がよくあり、そのために今回のような小旅行に出る機会も自然と多くなるからだ。 今日はアルトーワ伯の誕生日を祝う園遊会に出席するために出立して二日目。 その途上で宿泊した宿の部屋だと、覚醒しつつある脳から思い出してゆくイザベラ。 いつも通りのつまらない公務だが、退屈を紛らわせるための楽しい遊びと、胸をドキドキさせる出会いがあった事も加えて思い出した。 その事を考えてニンマリと笑みを浮かべて、ふと何かに抱きつかれている事に気がついた。 重い。 まさかあの後グレン様とめくるめく一夜を過ごしたのかと、ドキドキしながら横を見て硬直する。 自分と少しだけ似た顔立ちの、青い髪をした小さな少女。 北花壇騎士七号タバサこと、従妹であるシャルロットがあどけない表情で眠っていたのだ。 「母さま……」 その小さな娘が、苦しそうに寝言を吐き出していた。 イザベラのドレスをギュッと掴んで、額に汗を浮かせて。 「母さま、それを食べちゃ……ダメ、母さま……」 ドレスを掴む手の力が更に強くなる。 どうしたものかと流石のイザベラも困ってしまった。 タバサの母親が謀反の咎で名誉と貴族の権利を剥奪されている事は知っている。 父親である、イザベラにとっては優しい伯父であったオレルアン公が事故で死んでいるという事もだ。 だが、どんな風に謀反を企んでいたなどの詳しい話は知らされていなかった。 女官や家庭教師に聞いても、なぜか話を逸らされるからだ。 だから元の所領だった王国直轄地の邸で、蟄居を命じられているというタバサの母親がどんな状態なのか、イザベラは知らない。 「フ……フン。寝ぼけて母親の名前を呼ぶなんて、人形娘も所詮子供よね」 だから普段無表情を通すこの従妹が、こんなに辛そうな、切なそうな顔を見せる事に驚いてしまう。 憎まれ口を叩きながら、自由になる頭を助けを求めるようにめぐらせるイザベラ。 そのせいで、自分の右手が握っている物に気がついてしまった。 白刃を輝かせる鋭利なナイフが、自分の手にしっかりと握られていたのだ。 「ひっ!?」 状況を考えるとこれはダメだった。ダメダメすぎだ。 自分が潜り込んだのか、相手がそうなのかは判然としないが、シャルロットと同衾している自分の手にナイフ。 いくらなんでも従妹を自分の手で刺し殺そうなどと考えるほど憎んでいるワケでは無いし、そんな度胸も無い。 しかし状況証拠が、まるで自分がタバサを殺そうとしているようにしか見えないのだ。 「ちょ、なによこんなナイフ、わたしは知らないわよ!」 『それはつれないお言葉ではありませんか、姫殿下』 「地下水!?」 心の中に直接響いた言葉にイザベラはナイフの招待に思い至った。 『万が一に備えて姫殿下を守れるようにこうして待機していたと言うのに、知らないなどとは心外です』 「万が一? 守る? なにをワケの判らない事を言ってるのよ?」 『昨夜正体不明の刺客に襲撃を受けたのですよ。 その場に居た私も影武者も殿下もまとめて吹き飛ばすような魔法を使って、ね』 「冗談じゃないわ! 刺客ですって!? アルトーワ伯の仕業なの!? それとも国内の反乱勢力の仕業? あるいはアルビオンで王制打倒を叫んでる連中が? ともかく誰だろうと王女を狙うなんて許されないわよ! 即刻捕縛して首を刎ねなさい!」 「正体不明」 イザベラの声が大きかったためか、ムクリと起き上がったタバサが短くそう告げた。 汗は既にぬぐったのか、いつもと変わらぬ氷の彫像のような無表情だった。 「敵はとても強力。もう刺客ごっこで遊んでいる余裕は無い」 「ししし刺客ごっこ? 言いがかりをつけるなんて、さすが謀反者の――」 「『地下水』から全部聞いた」 「うぐっ!?」 「でも改めて狙われている貴女から聞きたい。アルトーワ伯は本当に怪しいの?」 じっと自分を見つめてくる湖水のような透明な瞳。 その圧力に負けそうになるが、ここで素直になるにはイザベラのプライドは高すぎた。 「な、なによ。アンタはもう王族じゃないのよ。わかってるの? そのアンタが王女を詰問するなんて、許される事じゃないんだからね! ちょっと魔法ができるからって、調子に乗るなんて身の程知らずもいいところよ」 脅すようにそう言うが、湖水の瞳は小揺るぎもしなかった。 吐息が触れそうな距離で、タバサがポツリと付け加える。 「刺客の魔法は私なんかよりはるかに強い」 息を呑む王女。 普段散々貶してはいるが、この従妹の魔法の腕が本物だという事は十分に知っている。 「それも、場合によっては私達の人数より多い」 それが決定打だった。 タバサの言葉は、いざとなったら守り切れない恐れもあるという意味だ。 吸血鬼を難なく討伐してきたような北花壇騎士以上の魔法の使い手などに襲われたらひとたまりも無い。 相手の目的がイザベラの命なら、他の仲間にタバサ達が足止めされている間に簡単に殺されるだろう。 ならば少しでも犯人特定を早めなければいけない事ぐらい、ワガママ王女にだって判る事だ。 「アルトーワ伯は白よ。もう真っ白。 王都の動向も気にせずに田舎で平和に過ごしてる、ただの平凡な地方貴族よ」 「そう」 コクリと頷くタバサ。 その短い言葉に、咎も無く謀反人にでっち上げられた伯爵への憐憫と、イザベラへの静かな怒りが込められている事に気がついたか。 イザベラはふと思いついたようにタバサに聞く。 「ところで人形娘。私達って、誰から誰までの事なのよ?」 「私と『地下水』とグレンとカステルモール卿の4人」 「では、今後の警備をいかにするか考えるとしよう」 タバサが答えた途端、部屋の窓側にグレンが、入り口の前にはカステルモールが現われた。 自分の背後と前面の光を『相似』にする魔術で隠れていたのだ。 「ググググ、グレンさ……ミスタ・グレン!?」 「存外普段の態度は快活なのだな女王よ。そのような元気さも好ましい」 フォローを入れるグレンの言葉に、ボッと顔を赤くするイザベラ。 頭の中では「好ましい」の一言がグルグルと渦巻いていた。 そんなイザベラ様子を、わかっていながら余裕で流してグレンは告げる。 「敵はこの国のものとは別の魔法大系を操る魔導師複数人。 姿を変える魔術や人の心を改竄する魔術を操る者も居る。 わたしとて離れた場所に分かれた二人を同時には守りきれるとは言えぬゆえ、 これより我等5人、常に行動を共にするとしよう」 その言葉に3人がコクリと頷いた。 ただし、イザベラが頷いたのは『地下水』が同意を表したからだ。 肝心なイザベラ自身は「いつも一緒……いつも一緒だなんて……キャー」とうわごとのように呟くばかりだった。 同じ頃、ガリア王宮。 玉座に座した青い美髯の偉丈夫に、しなだれかかる女が一人。 「ホンマにワルいお人やなぁ。自分の娘に惚れ薬を盛るやなんて……しかも刺客まで送って「殺しても良い」やなんて、トンでもない悪党やぁ」 「なに、それで神の如き男を縛り付けられるのなら、安いものであろう?」 ガリア王ジョゼフは、笑いすらせずにそう言い切った。 自分の娘すら、謀略の駒でしか無いのだと。 「あの薬はアンドバリの指輪を使ってシェフィールドが調合した特別の薬。 まず数年は効果が切れたりはせぬ」 「そんでも、あの男はんは目的のために殺せる男や。たとえ自分に惚れてる相手でもなぁ」 大きく胸元の開いたガリア仕立のドレスを着たジェルヴェーヌ・ロッソが警告する。 彼の『地獄』でのおこないなど知らずとも関係ない。 一目でもあの太陽のような男をみれば、魔術師になら誰でも理解できる。 物質文明という名の寄り合い所帯を作り上げて、集団で情や愛を交わして社会を構築して、集団になる事で世界と相対して生き延びようとする地獄人やこの世界の住人とは違うのだ。 魔法使いとは、自身が身につけた奇跡によってのみ、ただ独り世界と相対する者。 情愛などで曲げられない、強く苛烈な意思持つ者の頂点に、グレン・アザレイは立っている。 「かまわぬとも。鎖になどならずとも、わずかに絡みつく糸となるのであればな。アルビオンで踊る道化どもが、もうしばらく拙い芸を見せる時間が稼げればそれでよい」 そんな事は重々承知しているとでも言うように、ジョゼフ王は答えた。 彼もまた、たった一人知略をもって世界の全てに戦いを挑んだ男なのだから。 全ての争いの糸を引く、瞳に狂気を浮かべた人形遣いは独白する。 「その結果お前が殺されたなら、我が謀略の駒として死んだとしたら、おれの心はどれほど痛むのであろうな? 血を分けた一人娘の死が、どんな痛みを与えてくれるのか。 おれは今から、それが楽しみでならないのだよ、我が愛するイザベラよ」 歓喜と悲哀に満ちた言葉が吐息のように零れ落ちた。 待ち望むように、忌避するように、狂える王は来るべき未来を見通すように目を上げる。 「ミューズよ、余のミューズよ、聞こえているだろう? 刺客を送るのだ。休ませるな。疑いを向けさせてはならん。 彼等が恐るべき悪意にイザベラと我が姪が狙われていると思うように、本当に殺すつもりで襲わせるがいい」 虚空に響く指令は、確かに誰かに届いたのか。 その場に居るジェルヴェーヌにはただウツロであるように聞こえる。 「ヒドイお人やなぁ。そうやって、なんもかんもワヤにしてまうおつもりかいな?」 「どうせ全てが造られたモノなら、全て滅んで何の差しさわりがあろうものか……なぁ、シャルル?」 今は居ない誰かに向けられた王の言葉も、宮殿の高い天井へと消えてゆくだけだ。 次へ 前に戻る 目次に戻る
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. 【作品名】五霊闘士オーキ伝 【名前】四華船 【属性】宇宙創生時の超爆発の余剰エネルギーを保存してる船 【大きさ】花びら一枚数億kmの花 花びら一枚の全長数億kmを3億kmとしても1000光秒≒2天文単位。 ちなみに太陽の直径が139.2万mなので太陽直径の216倍。 【攻撃力】宇宙戦艦1万4千隻を数分で残り1割にまで減らした。 惑星サイズの船を軽く沈められる。 宇宙創生時の余剰エネルギーを自由に使える。 【防御力】上記艦隊の攻撃で無傷。 虚神騎士の攻撃で中破 【素早さ】虚神騎士と闘えるくらい(反応は超光速)、移動速度は不明 【特殊能力】超回復 :虚神騎士の連続攻撃を受けても次々と再生。 四華船の回復速度≧虚神騎士の破壊力 スレイブ:倒した敵艦隊をゾンビーな下僕として再生&使役 吸収 :倒した艦隊のエネルギーを吸収 :宇宙のどこかで惑星が壊れたら、そのエネルギーを吸収 【長所】驚異的な回復力。戦闘力 【短所】虚神騎士とは、互いの攻撃が効かないので決着がつかない。 四華船=次々に回復、虚神騎士=相手の攻撃で無傷 .
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分岐 名前 Rank 基本防御 火 氷 雷 神 スキル(備考) ◇│ レインフォース 7 748 460 460 460 748 救命回復量↑ カリスマ 合成 28000fc 黒曜鉄x1 強工具鋼x1 魔狼筋装甲x2 虚神筋繊維x2 虚兵鉄x2 │◇│ レインフォース 改 8 832 513 513 513 832 救命回復量↑ カリスマ 強化 18000fc 超密度複合コアx1 │◇│ レインフォース 修 9 939 578 578 578 939 救命回復量↑ カリスマ 強化 18000fc 極密度複合コアx1 │◇│ レインフォース 新 10 1046 645 645 645 1046 救命回復量↑ カリスマ 強化 18000fc 極密度複合コアx1 │◆ ※最終段階レインフォース 極 11 1190 734 734 734 1190 【B】捕喰時獲得弾数↑ 救命回復量↑ カリスマ 強化 23000fc 虚兵機蝕脚甲x3 虚兵耐衝体x2 虚神強靭維x3 虚神魔装x2 虚神羅刹眼x1
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分岐 名前 Rank 基本防御 非物理 強化時[合成時]追加スキル ◇│ レインフォース 7 529 神◎◎ [セイヴィアーLv10{【B】捕喰時獲得弾数Lv10 救命回復量Lv10 カリスマLv10}] 合成 9700fc 黒曜鉄x1 強工具鋼x1 魔狼筋装甲x1 虚神筋繊維x2 虚兵鉄x2 │◇│ レインフォース 極 11 843 神◎◎ --- 強化 16000fc 虚兵機蝕脚甲x1 虚兵耐衝体x2 虚神強靭維x1 虚神魔装x1 虚神羅刹眼x1 │◆ レインフォース 醒 15 1270 神◎◎ --- 強化 169600fc 虚兵機真脚甲x1 虚兵斬戟刃x2 虚兵機真兜x2 虚神修羅眼x1 虚神真機核x1 付加スキル一覧 セイヴィアーLv10
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英名:The Hollow Dragon Emperor Catastrophedragon レアリティ:M 絵師:安達洋介 番号:BS15-009 収録:覇王編2弾-黄金の大地 コスト:11 軽減:6 シンボル:赤/赤 系統:虚神・古竜 種類:スピリット 1-LV1: 7000 4-LV2:10000 8-LV3:20000 『手札常時』 自分のバーストをセットしている間、手札にあるこのスピリットカードをコスト7にする。 LV1-2-3:『このスピリットのアタック時』 自分のデッキを上から2枚オープンできる。 その中の『激突】』を持つスピリットカードを好きなだけ、コストを支払わずに召喚する。 残ったカードは破棄する。 LV2-3:『自分のアタックステップ』 このスピリット以外の『激突』を持つ自分のスピリットがアタックしたとき、このスピリットは回復する。 フレーバー かつて世界を滅ぼしたという伝説の虚神……。 なんで復活したんだ?? 備考/性能 コスト変更/コストカット/激突サポート/召喚コスト踏み倒し/回復効果/非転召ダブルシンボル 再臨した6虚神の筆頭。 他の11コス虚神と同様、激突を失って激突サポートを得ている。 性能は大きく変化したが、戦力補充と連続攻撃が可能な点は共通している。 公式Q&A/ルール エピソード/キャラクター 進化前:激神皇カタストロフドラゴン 虚神撃破 神殺しの覇王マナカによって最初に討伐された虚神。 侵攻からわずか一ヶ月で撃破されたため、炎楯の損害は軽微だったという。 白の虚神のみ氷楯の軍勢によって討伐されたが、氷楯の受けた損害はその数倍だった。 ここを編集 BS15-赤へ戻る
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名称 ランク 属性 装備 装備クラス 攻撃力 命中 属性 標準装備 入手 備考 刃の潰れた剣 ランク1 無 片手 剣士/魔剣 38 98 ◯ ブロードソード ランク2 無 片手 剣士/魔剣 62 98 ◯ 秘された抜け道 宝箱 ワイトスメイド ランク3 無 片手 剣士/魔剣 84 98 ◯ 雷神塔、影角洞 宝箱 ジューダスメイド ランク4 無 片手 剣士/魔剣 103 98 ◯ 夢角洞 宝箱 ルーンソード ランク5 無 片手 剣士/魔剣 122 98 ◯ 水妖の湖 宝箱 リビングブレード ランク5 地 片手 ロス専用 125 98 +10 金星宮 ブルバランサー戦後 セラミクス ランク6 無 片手 剣士/魔剣 138 98 ◯ 樹棺城尖塔部 宝箱 レアフォージング ランク7 無 片手 剣士/魔剣 152 98 ◯ 双雪山(左)双雪山(右) 宝箱宝箱 剛刀サナダ ランク7 無 片手 バ・ソリー専用 157 98 火星宮 スティンガーシープ戦後 ポイズンソード ランク7 無 片手 ボル専用 157 98 蝕影宮 シアーライオン戦後 罪人の剣 ランク7 無 片手 マカパイン専用 158 98 水星宮 リフレクトメイデン戦後 フライングV ランク7 火 片手 ラン専用 158 98 +10 火星宮 スティンガーシープ戦後 ギブソンソード ランク7 無 片手 カイ専用 158 98 氷獄塔中層部 アイスドラゴン(鍵番)戦後 朱闘羅刀 ランク7 光 片手 イングヴェイ専用 159 98 +10 木星宮 ドーサルアーチャー戦後 エルヴェンメイド ランク8 無 片手 剣士/魔剣 168 98 ◯ 黒の館 宝箱 雷神剣 ランク8 風 片手 ネイ専用 173 98 +10 ランゲルハンス島 キャンサードラゴン戦後 フラガラッハ ランク9 闇 片手 剣士/魔剣 181 98 +10 ◯ 虚神王の砦 宝箱 罪人の剣 ランク9 無 片手 マカパイン専用 184 98 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 ポイズンソード ランク9 無 片手 ボル専用 184 98 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 剛刀サナダ ランク9 無 片手 バ・ソリー専用 184 98 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 フライングV ランク9 火 片手 ラン専用 185 98 +10 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 ギブソンソード ランク9 無 片手 カイ専用 185 98 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 重力剣 ランク9 地 片手 ロス専用 186 98 +10 癌臓宮 リビングブレードが変化 雷神剣 ランク9 風 片手 ネイ専用 186 98 +10 虚神王の砦・前庭 ランク8が変化 朱闘羅刀 ランク9 光 片手 イングヴェイ専用 186 98 +10 虚神王の砦・前庭 ランク7が変化 氷の魔剣 ランク9 水 片手 カル専用 186 98 +10 虚神王の砦・前庭 カル 炎の剣 ランク9 火 片手 DS専用 186 98 +10 癌臓宮中枢部 オクトール戦後 クラウ・ソラス ランク10 光 片手 剣士/魔剣 193 98 +10 ヴィンスの迷宮 ミカエル 貴重
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雪風は世界の全てを結ぶ魔術を手に入れる。 ゼロは世界の全てを解体する魔術を身につける。 混乱と困惑にかき乱されながら戻ったアルビオン王党派の城ニューカッスルで、ルイズは更に困惑させられる事になった。 子供達に朝食を食べさせ、必ず戻ってくるからと約束をしてテファとモード氏と共に帰ってきた城は、すでにもぬけのカラ。 死体を焼いて空に帰すアルビオン式の葬儀の跡があるだけで、子猫一匹残っていなかった。 後は「用事が有るので出かける」と書かれたタバサの無味乾燥な置手紙ぐらいか。 大砲や弾薬すら、ここには残っていない。 「どうやら、もう出陣しちゃったみたいね」 「おや、この穴はなんだい……?」 「なんでしょうねぇ……」 城の端で人が通れるほどの大穴を見つけたマチルダがティファニアと共に中を覗く。 どうやら城の外に向かっているようだ。 「こっ、これは!!」 「ギーシュ、何か知ってるのか?」 「僕には判る! これを掘ったのは間違いなく我が愛しの「もぐー!」ヴェルダンデー!!」 穴から飛び出してきた使い魔と感動の再会で抱き合うギーシュ。 「おお、そうかい。王党派の軍隊はここから武器を運び出して出陣したんだね。 たくさん働かされたんだね。えっ? 宝石やミミズもたくさん貰ったから良い? キミはとっても優しいねヴェルダンデ! さすが僕の自慢の使い魔だよ! うん、うん。もう昨日の昼にはここを出たのかい。そりゃ大変だ。追いかけなくちゃ!」 見事な異種族間意思疎通でモグラの言葉を通訳。 ルイズ達はテファを連れて王党派生き残りの軍を追う事となる。 穴を抜けた所から、各々がレビテーションの魔法を使って浮遊。 先頭をエア・ダイバーのスピッツ・モードが逞しい背中にルイズとテファを乗せ、ギーシュがモグラを、キュルケがサイトをそれぞれ浮かせて、モード氏の脚に一列で掴まった。 「わはははははははははは! うわははははははははは!」 全裸魔術師(今回はテファのお願いによりパンツのみ着用)の後ろに5人が繋がった姿は明らかに変態。 アルビオンの空を、音速に迫る勢いで笑い声を響かせながら変態飛行するモード氏は実に気持ち良さそうだった。 「うわぁ、変態だぁ!」 「変態が空を飛んでいるぞー!」 「大砲だっ、大砲を用意しろっ! 撃ち落とせっ!」 「待てっ! アレは大使殿の一行ではないのか?」 あやうく撃墜されそうになりながら、野営していたアルビオン王軍に追いつくルイズ達。 最初は馬や牛も居ないので、大砲などを貴族達が引いていたため移動距離がそれほどでも無かったのが幸いした。 『最初は』と言うのは、意外なことにわずか300人にも満たなかった王軍の数が増えていたからだ。 レコン・キスタから離反の意を示して合流してきた貴族と兵隊、その数200ほど。 彼等が連れて来た馬や牛が、夜のうちに馬車や牛車に仕立てられて進軍速度を速めていた。 司令官に話があると告げ、陣幕に案内されるルイズ達。 30人程の貴族が集まった司令部で、彼等は今の状況を聞いた。 新兵器、あるいは伝説の虚無と噂された大勝を聞きつけて集まってきた離反貴族は、最初1000に至るほどだったらしい。 だが、王党派貴族達はそんな秘密兵器など存在しない事、この戦いは死にに行くだけという事を説明した。 尻馬に乗って甘い汁を吸おうとしていただけの貴族はコソコソと帰っていった。 それでも残ったのは、レコン・キスタの横暴に耐えかねていた者達だ。 自分の領地で勝手な振る舞いをされた貴族と、それに仕える忠誠心篤い兵士。 友人や家族に無体を働かれた人々や、畑を焼かれた人々が鍬の代わりに剣をとった民兵。 どんな方法を使ったのか、亜人を兵力として操るレコン・キスタには、それだけに敵も有ったのだ。 そんな決死の覚悟をした人々だから、彼等を説得するのは大変だった。 まずテファの血筋を証明するだけでも一苦労。 エルフが来たと恐れる人々の前でマチルダがサウスゴーダの名前を明かし、 ルイズとキュルケ、ついでにギーシュは家名に賭けて保証する。 結局4年前の事件の顛末を司令官である大臣が知っていたため、なんとか説明出来たのだが、 今度は進軍を止める様に説得するのを聞き入れない。 「生き残るのがそんなに悪い事なんですか? 死んだらもう何も出来ないのに!」 「だが死ぬ事で残るものがあるのですよ。我々が戦い、決して屈しなかったという事実が」 そもそも命よりも名誉を尊ぶような貴族でなければ、こんな絶望的な戦いに参加しなかったはずだ。 「もう決めたのだ。我々は王を弔うために敵と戦って果てるのだと」 「それは王様がもう居ないからだって言ってたじゃないですか! ここにそれを継げるティファニアが居ます。王党派だって王国だって再建できるじゃないですか!」 ティファニアの元勢力を結集して生きるために戦えと主張するサイト達と、 王と皇太子の弔い合戦として最後の一人になるまで戦うと主張する王党派残党。 「一矢報いて死ぬことより、戦って勝つ事を考える方が建設的なんじゃないのかって話じゃない!」 「元より勝ち目など無いのですよ、お嬢さん。 貴女がたはティファニア殿下とサウスゴータ令嬢と共にここを離れてくだされ」 噛み合わない双方の理論はしかし、テファの一言によって動く。 「でも貴族の人って、領民を守るのがお仕事なんですよね?」 「そ、それは……」 「私はレコン・キスタの人がどういう方達なのか知りませんけど、貴方達がここで死んでしまったら、領民の人達はみんな、そのヒドイ人達に支配されてしまうんでしょう? 皆さんが死んでしまったら、誰が悪い人達から皆を守ってくれるんですか?」 素朴すぎるティファニアの問いに、貴族達は誰も答えられなかった。 己の誇り以上に、それは守るべき貴族としての勤め。 恥を知り誇りを知る古い貴族だからこそ、彼等は自分達が生きる必要があるかもしれないと、もう一度自問を始めた。 誰かが戦おうかとこぼす。 死ぬためではなく、生きるための戦いをしようかと。 誰かが故郷の土地の名を口の端に登らせる。 自分の名と同じ地名。豊かで穏やかだった所領の名を、その土地の思い出と共に。 「我等は、己の不甲斐無さゆえに戴くべき王を失った」 大臣の、臨時の司令官の言葉。 「だが、守るべきものはまだ残されている。レコン・キスタなどに蹂躙されるわけにはいかぬ、大切な宝が」 髪も髭も真っ白になった、ルイズの父よりも年上な大臣は拳を握り唇を噛み締める。 「生きる、べきだろうか諸君? 不甲斐無い我々に、まだ出来る事はあるのだろうか諸君? 生き恥を晒し、老醜を晒し、けれど民草のために一身を賭するべきだろうか諸君? 新たな王の下、新たなアルビオンのために、もう一度生きるための戦いを成すべきだろうか?」 彼の悔恨、彼の言葉は本物だ。 己を恥じ、死をも望んだ気持ち、自分自身を情けなく思っている事に嘘偽りは無い。 けれどもう一度立ち上がるべきだと。 忘れかけていた守るべき人々のために、死に向かって突き進むのではなく、 生きて立ち向かうべきなのだと、そう思いなおしかけていた。 じっと待つ大臣。 彼に言葉を返したのは、意外な人物―――マチルダ・オブ・サウスゴータだった。 「死ぬのは簡単なのさ大臣。反対に生きるのはその何倍も難しい。 生きて理不尽な今を変えようって思うならその何十倍もね。 だから生きるんだよ。 アンタ達は、この王国を守るためにあたし達を殺そうとしたんだろう? だったら今度はこの国を守るために命を賭けるべきに決まってるじゃないか。 わたし達が必死に生きてるのに、アンタ達がここでカッコ良く楽に死のうなんて、そんな事許しゃしないからね」 じっと、本物の憎しみを込めて、マチルダの視線が大臣を射抜く。 蓮っ葉な言葉の端々に、彼女が重ねてきた苦労が滲んでいるようだ。 本当なら貴族として、深窓の令嬢として、なに不自由無く暮らしていたはずのマチルダ。 その彼女をティファニア共々殺そうとしてまで存続したアルビオン王国の罪を認めるならば、 今がその罪を贖う時だと大臣は悟る。 命を捨てるのではなく、命を賭ける事によって。 「すまぬ。そして礼を言わせてくれ、マチルダ・オブ・サウスゴータ殿」 深々と頭を下げる大臣。 軍議の場にざわめきが起こり、そして1人の貴族が立ち上がって頭を下げた。 1人、また1人と立ち上がり、それにならう。 それは生きる事を決めた男達の決意表明でもある。 やがて、その場に居た全員が、マチルダに向かって帽子を脱いで頭を下げてみせたのだった。 こうして、サイト達の説得は成功した。 だが、困難は終わったわけでは無い。 事態の変化を告げたのは見回りの兵士。 血相を変えた兵士が告げたのは、周囲に奇妙な濃い霧が発生している事だった。 「……これはいったい?」 陣幕の外に出て、内陸方向から迫る濃霧に首を捻る大臣。 短めに刈ったヒゲを撫でながら、この土地でこんな霧を見るのは始めてだと言う。 ここはアルビオンの外周からそれほど離れていないため、風も強くそうそう濃い霧は発生しないのだと。 「大変ですぞ司令官殿! あの霧の中から、続々とレコン・キスタの兵が!!」 報告に来たのはカラスを使い魔にしている風属性のメイジ。 他にも何名かのメイジが、その怪現象を確認していた。 「何も無い空間に現われた『門』から、溢れるように兵士が吐き出されております」 「あの向こうにちらりと見えた城、あれは間違い無くロンディニウムのハヴィランド宮殿! 我等が王城にして、今はにっくき反乱軍の首魁が占拠する城に間違いありません!!」 「馬鹿な!? ならばやつらは空間を繋げたと言うのか?」 「そんな魔法など聞いた事も無い……」 「いや、先日グレン殿が使われたあの魔術と同じなのではないのか!?」 口々に騒ぐメイジ達の言葉に、サイト達は思い当たる。 空間を繋ぐ門を作り出す魔術は、ワルドと戦った時に現われた女魔術師が使えたはずだ。 「……確か、宣名大系だったっけ?」 「ふむ、宣名魔導師なら龍門を生み出す魔術を使えましょう。 ならばこの霧は、サイト殿に門を破壊されないための防備でしょうな」 こちらの世界の魔術を使って霧を発生させ、それに隠して異世界の魔術を発動させる。 たった一人の悪鬼に対してあまりに慎重な、けれど合理的な方法に感心するモード氏。 サイトは手の平に拳を叩きつけ、苛立ったように叫んだ。 「だったら俺が行ってその龍門とか言うのをブッ壊してきてやる!」 「待ちなさいよサイト。あの、今展開している敵はどれぐらいですか?」 「およそ4万と言った所ですよ大使殿。今の様子だと、その倍程度まで増えるかもしれませんな」 部下に命じて敵軍を調べさせていた将軍の1人が答える。 生きようと、そう決めた矢先にこの敵襲だ。 動揺を見せるような無様はしていないが、内心は穏やかではなかろう。 「聞いたでしょ、サイト。あんた一人で突撃して門までたどり着ける数じゃないし、今更門を壊しても手遅れよ」 「じゃあ、どうすりゃ良いんだよ!」 「落ち着きたまえサイト。なにも君だけで戦っているワケでは無いんだ。 ほら、将軍達もこうして話し合っているんだから……」 「こうなれば後退してもう一度篭城するしかありませんな」 「いや、篭城した所で援軍が無いのだから先延ばしでしか無い。 ならばバラバラに逃げて生き残った者が潜伏し、再起を図るべきだ」 「そんな方法で逃げられる敵兵の数ではありませんぞ! 後ろから撃たれて死ぬのがオチだ!」 「いや、逆に突撃してあの濃霧の中に飛び込めばあるいは……」 軍議はグダグタだった。 そもそも500対4万だか8万という時点でマトモな戦術など始めから無い。 それ以上にレコン・キスタの用兵は無茶苦茶だった。 普通万単位の兵隊を動かすとなれば食料や武器を運ぶだけでも大仕事だし、その動きを察知できる。 ロンディニウムからこの大陸の端まで来るのに日数もかかるはずだ。 そんな常識的な戦いなら、逃げるなりどこかに誘い込むなり考える余裕もあるが、全軍を一気に空間転送などされては太刀打ち出来なくて当然だった。 しかも、転送されたのは兵隊だけに留まらない。 霧を割って現われる戦艦が4隻。 こちらは門からではなく、それぞれが船ごと空間転移してきたと、監視していたメイジが報告している。 そこから飛び立つ竜騎士がそれぞれの船から6騎。合わせて24騎も飛び立っていた。 圧倒的な、絶望的な、戦力差だ。 そんな中で、マチルダは必死に頭を回転させていた。 この中で一番世慣れていて、一番自軍の戦力を理解しているのが自分だという確信があった。 ティファニアを逃がすにしろ戦うにしろ、彼女の保護者である自分が頑張らねばという矜持もある。 それに、彼等に生きろと言ったのだ。こんな所でいきなり死なれては困る。 「一つだけ、策がある。アンタ達、乗るかい?」 そして、彼女はゆっくりと自分の作戦を口に出し―――結局、全員がその策に賭ける事になった。 陣地を構築し隊列を組み始めたレコン・キスタの将兵8万5千。 彼等全員と戦って勝つなどそもそも不可能な事だ。 ならば、その戦列が完成するまえに突撃して中央突破。 敵の城へと突入して転移の門を破壊すれば、手薄な敵本陣に直接戦いを挑める。 戦う相手は前方の数千人だけ……とは言っても、それだけで十分絶望的な戦力差だが。 それでも、攻め込まれる事を想定していないであろうハヴィランド宮殿に飛び込めば、土地勘のある自分たちなら逃げるのも容易。 その前提で、王党派は動いた。 ひたすら迅速に、敵軍が陣形を完成させる前が勝負。 万単位の敵に対してこちらは百単位。速度で立ち向かえばまだ分があると言える。 そうして、圧倒的早さを求める奇妙な縦列楔形突撃陣形が構築された。 先陣を切るのは土メイジ達が生み出す大型のゴーレム。 サイトの発案によって四本足で造られたゴーレムは、巨大なサイのような姿になっている。 中央にはマチルダの生み出した一際大きなゴーレムがそびえ立ち、サウスゴータ太守の血筋の魔力を貴族達に見せ付けていた。 「全軍、突撃イィィィ!!」 「アルビオン万歳!」 「我等の誇りを見せつけよ!」 司令官の号令一下、7体のゴーレムを先頭に500の王党派貴族達が走り出した。 隊列中央には『錬金』で全体を鋼鉄に変えた馬車が走り、その周囲を若く戦闘に馴れた貴族達が乗騎して守る。 中に居るのはティファニアとルイズ、それに二人の護衛としてのキュルケの三人。 始祖のオルゴールを用意し、二人の指には風のルビーと水のルビーが着けられ、呪文を唱える準備は揃っていた。 マチルダは自分の生み出したゴーレムの背に、サイトとギーシュはその後ろで先陣となって馬を駆る。 もちろん、馬になど乗れないサイトはギーシュの後ろでその腰につかまって、だが。 「敵襲っ! 敵襲ぅぅぅ!」 「ばっ、馬鹿な早すぎ――うわぁぁぁぁ!」 数の多さを傘に相手を見くびって油断していたレコン・キスタは混乱した。 逃げ出す事はあっても突撃など、ましてこのような整然とした突撃などして来るとは思ってもいなかったのだ。 おかげで弓矢や銃が放たれるのが一拍遅れた事は王党派にとって僥倖だったと言えよう。 巨大な質量兵器であるゴーレムの突進は深々と敵陣に突き刺さり、同士討ちを恐れた兵士達の飛び道具を牽制できたのだから。 だが、命中率の高い魔法による攻撃までは手控えてくれない。 質量を伴った土系統の、あるいは爆発による破壊をもたらす火系統の魔法を何発も打ち込まれ、一体また一体とゴーレムが破壊されていった。 「あぶねぇ!!」 ついに中央を疾駆していたマチルダのゴーレムも破壊される。 砕けた土くれから投げ出された彼女を抱きとめたのは、ギーシュの後ろから飛び上がったサイトだ。 「ギーシュ、この人をルイズ達の所へ!」 「ああ、任せたまえ!」 そのままギーシュのワルキューレにマチルダをあずけて、サイトは駆け出した。 「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 デルフリンガーを振りかざしてゴーレムだった土塊を跳び越し、視界を埋め尽くす兵士へと殴りこむ。 ガンダールヴのルーンは輝きを放ち、サイトの中には凶暴で力強い波動が溢れ始めていた。 「ふははははははははははははは! ふあっはあはははははははははははははは!」 同時に突撃するのは全裸飛行奇スピッツ・モード。 パンツすら脱いだ完全体の錬金大系魔導師が、上空からトンボ返りで敵軍の中に突っ込んだ。 触れた対象を切断するように設定された禿頭の魔導師の体表面が、完全武装の兵士達を鎧ごと切断する。 次々と敵を切り裂いて、再び上空へと飛び上がった。 あまりの攻撃力と変態に足並みを乱すレコン・キスタ兵士達。 その中に飛び込んだサイトが、数人の兵士をまとめて蹴り飛ばす。 「逃げるヤツは追わねぇ! 死にたいヤツだけかかってきやがれ!」 「おうおうおう、遠からん者は音に聞けぇ! 近くばよって目にも見ろい! 俺の相棒はガンダールヴ! 伝説をその身で知りたい命知らずには冥土の土産をくれてやるぜぃ!!」 嵐のような剣だった。 周囲を押し包むように向かっていった兵士が、まるで人形のように弾き飛ばされる。 熟練の戦士を当たるを幸いとなぎ倒し、その上で馬で駆ける仲間と同じ速度で走るのだ。 「ガンダールヴ!?」「伝説の?」「始祖の左手!」「無敵の盾?」 恐怖が流言となって伝播する。 人が多ければ多いほど、生み出された恐れは大きく増幅されるのは必定。 ましてやそこが戦場ならば余計に。 天には火竜以上のスピードで空飛ぶ変態。 地には馬よりも早い伝説の使い魔。 怯える平民を指揮する貴族達が馬上から魔法を放つが、殆どをデルフリンガーによって吸い込まれた。 何発かは死角から打ち込む事に成功するが、それは王党派貴族のスペルによって阻まれてサイトにまで届かない。 サイトとモード。 たった二人で百以上の兵士を倒す戦士に、恐怖にかられたレコン・キスタと、先陣の剣を援護する王党派、両軍の戦力が集中し始めた。 「ふははははははははは! 惜しいっ! 実に惜しいっ! お互いの立場さえ違わねば、空を飛ぶ者同士が戦う必要など無かったでしょうに!!」 集中しはじめる竜騎士の攻撃をたくみに回避し、手痛い反撃を加えるモード。 嘆きつつも、その羽の切れ味は変わらない。 天下無双を謳われたアルビオンの竜騎士が、翼を切り裂かれ胴を薙がれて次々と地に落ちてゆく。 「な、なんだよコイツは!?」 「ゴーレムだなぁ。こりゃあ剣士にゃあ荷が重いぜ相棒」 一方、サイトの前に立ち塞がったのは巨大な土人形。 その手には別のメイジが錬金したのか、巨大なハンマーが握られていた。 振り下ろされる鉄槌。 サイトは素早い動きでそれをかわすが、味方の1人が馬もろとも叩き潰される。 怒りをバネに反撃するサイトだったが、剣で殴ったぐらいでダメージを与えられるような敵ではない。 切り裂かれたはずのゴーレムの脚は、数瞬の後には元通りになっている。 「くそっ、どうすりゃ……」 焦るサイト。 その目の前で、ゴーレムが何かに躓いたようにバランスを崩した。 「もぐー!」 「ナイスだよボクの可愛いヴェルダンデ!」 歓声をあげるギーシュ。 それは敵の足元に穴を掘ったジャイアントモールの手柄だった。 瞬間、ゴーレムの肩にメイジを見つけたサイトの腕が動く。 「デルフリンガーミサイル・改っ!!」 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! またかよ相棒うぅぅぅぅぅ!?」 柄の方から一直線に飛んだデルフリンガーがゴーレム使いの頭と激突。 そのまま落下するデルフとメイジ。土に戻って崩れるゴーレム。 その巨大な手が落とした巨大なハンマーを、サイトはその手に掴んだ。 ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなす。 本来なら、平和な日本で暮らしていたサイトには大剣のデルフでさえ手に余る重さのはずだ。 それを振れるのなら、より大きなものでも可能ではないのか? 可能だ、という自信がサイトにはあった。 自分の背後にはルイズとテファという二人の虚無の担い手。 その彼女達を守るためなら、多少の無茶は道理を蹴り飛ばしてども通す。 それが虚無の使い魔の使命なのだから。 「う…………おおおおおおおおおおおおおお―――」 歌うように唱和する、二人分の『虚無』のルーンがサイトに普段以上の力を与えた。 ゴーレムサイズの、長さ20メイル、重さは数トンに及ぶであろう鉄槌が持ち上がる。 そのまま竜巻のように高速回転するサイトの身体。 巻き込まれた兵士が次々と弾き飛ばされる。 「ばっ、ばけものだあぁぁぁ!」 「伝説だ! ガンダールヴだ! 勝てるワケ無いっ!」 その光景は、士気崩壊しかかっていたレコン・キスタ兵士達を恐慌に陥れるのに十分なものだ。 サイト達を叩くべく新たに生み出されていたゴーレムが2体、あまりの光景に竦んだ瞬間。 「―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあぁぁぁ!!」 2体のゴーレムの真ん中へ向けて投げられるハンマー。 回転しながら二つの岩の胴体を砕いたハンマーは、勢い余ってそのまま数十メイルに渡って軍馬も兵士も関係無しに牽き潰す。 「ギイィィィシュ!」 「任せろサイト!」 地面に突き刺さっていたデルフリンガーを引き抜きながら叫ぶサイトに以心伝心でギーシュが答えた。 ありったけの精神力を込めての『錬金』が、地面から鋼鉄の塊を生み出してゆく。 それは長大な槍。 長さ30メイルに及ぼうかという、美しい薔薇の装飾がされた銀色に輝くランスだった。 その柄に、サイトの五指がミシミシと音を立てて食い込む。 左手に剣、右手に槍。 まさに伝説のガンダールヴの姿そのままである。 「貫けえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 更に強く強く強く光り輝く左手のルーン。 渾身の力で放たれた巨大な槍は一直線に敵陣を突き破り、霧を引き裂いて『門』の側まで届く。 「進めっ! ガンダールヴ殿に遅れるなあぁぁ!」 喉も裂けよとばかりに大臣が叫んだ。 雪崩もかくやという勢いで前進、否、突進する王党派の貴族達。 馬上の者は鞭を入れ、牛車の者は暴走覚悟で、徒歩の貴族は供にもフライの魔法をかけて。 今この瞬間こそ正念場。 精神力も尽きよとばかりに乱れ飛ぶ炎と風と氷と水と土と雷。 8万5千の大軍を中央から切り裂いて、一直線に『門』へと向けてなだれ込む。 そんな彼等に向かって、もはや敵も味方も関係ないとばかりに砲弾がふりそそいだ。 4隻の軍艦が、自軍を巻き込んでの砲撃を開始したのだ。 次々に吹き飛ばされ、肉片となる地上の兵士達。 敵味方の区別無く風のメイジは風の障壁を張り、水のメイジは水の膜を作り出すが、それとて儚い抵抗でしかない。 「馬鹿な!? 止めろ、止め―――」 レコン・キスタの指揮官がまた1人砲弾の直撃を受けて消し飛んだ。 その様子を、怒りをもって見つめる少女が二人。 決して平坦では無い大地を、鞭を巧みに操って馬車を疾駆させるキュルケに守られた少女二人。 鋼鉄の馬車の車中、ルイズとティファニアは身を乗り出して呪文を唱えていた。 「「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……!」」 唱和するそれは誰も聞いた事の無い、けれど本能的な敬意と畏怖を呼び起こさせる呪文。 「「エクスプロージョン!!」」 放たれる魔力と生み出される光。 右から迫っていた二隻と左から迫っていた二隻を、ルイズとテファがそれぞれ生み出した光が飲み込んだ。 それは抵抗不可能な破壊。純粋にして絶対の爆発。 瞬時にして風石と砲弾と火薬、そして帆布を失った軍艦は、成す術も無く地上に不時着する。 「な、なんだあの光は!」 「まるで太陽が3つになったみてぇな……」 怯えるレコン・キスタ将兵の上に降ってくるのは、アルビオン王党派の歓声だ。 「虚無の魔法だ!」 「伝説の復活だ!」 「女王陛下万歳! アルビオン王家万歳!」 叫びと共に、王党派残存兵士達は『門』へと駆け込んだ。 24騎の竜騎士を全滅させたモードもまた、門の中へと滑り込む。 それを確認して、サイトは両手から武器を手放した。 瞬間、魔炎となって燃え尽きる空間転移の『門』。 残されたレコン・キスタ将兵は千人近い兵士と4隻の軍艦、それに退路まで失ったまま、 ただ呆然とするしか無く、敵軍の消えた戦場に立ち尽くしていた。 満身創痍。 けれど奇跡的に致命傷は無くハヴィランド宮殿へとたどり着いたサイト達。 王軍もボロボロではあったが、400人近くが生きたまま門をくぐる事に成功していた。 しかし戦いはそこで終わるわけではない。 襲い掛かってきたのは本拠地の防御として残されていた死者の軍団だった。 宮殿前広場に布陣した、服装も年齢性別もバラバラな魔導師達がサイトを襲う。 雷撃、火炎、爆発、熱砂、エネルギー弾。 飛んで来る魔法をデルフリンガーで吸収し、疾風の速さで断ち切るが、敵は死んでもまた甦る。 「ちくしょう、キリがねぇ」 「娘っ子、嬢ちゃん、解呪だ! 虚無の魔法を使え!」 「はいっ、デルフさん!」 「わ、わかったわ!」 馬車の中でオルゴールを開き、同時にルーンを唱え始める二人。 その間にも敵の魔導師は殺到してくる。 吸い込む事が出来ない操作された飛来する剣を受け、疾風の速さで火炎を操る魔導師を斬る。 数人のメイジが協力して敵を倒した血路を走り、また1人刻印魔導師を殴り倒す。 馬車の側に空間転移して現われた魔導師に落ちていたナイフを拾って投げつけ、怯んだ瞬間に駆け戻り、間合いを詰めて切り掛かる。 本当にキリが無い。 相手の数は多く、不死身で、しかも一人一人が強力だ。 それでも、サイトはルイズ達の詠唱が終わるまで止まるつもりなど無かった。 「なんとか、もたせられる……か?」 「いいや相棒。そう簡単にはいかねぇみたいだぜ?」 空間がゆらぎ、大気の中から染み出すように新たな敵が現れる。 立ち塞がるのは半透明の人間に似た50メイルを超える巨体。 因果大系の高位魔導師フィリップ・エリゴルが大気を固めて作り出した因果巨兵は、メイジ達の魔法をやすやすと弾き返して迫って来た。 「まだだっ! 僕はまだやれるっ!!」 「そうよっ! ここまで来て負けるなんて、ツェルプストーの家名が泣くわよ!」 「ああまったくだね! 死人になんか殺されてたまるもんか!」 ギーシュが、キュルケが、マチルダが、最後の一滴まで精神力を振り絞って魔法を放つ。 それでも、半透明の巨兵を倒す事はできなかった。 「あっはっはっはっ! 無駄さ無駄さ! 僕の百手巨人四十号に、そんな豆鉄砲が通用するもんか!」 無暗と快活に笑う『百手巨人』フィリップを前に、ギリリと奥歯を鳴らすサイト。 相手が大系魔導師ならデルフを手放せばその魔法効果を消滅させられる。 けれど無数の魔弾だけでなく、操作された岩や武器が飛び交うこの場所でガンダールヴの力を消すのは危険すぎた。 『大気泳者』スピッツ・モードは先程から空を飛ぶ魔導師との戦いに集中していて援護は望めない。 ギーシュ達のみならず王党派のメイジ達も、もうほとんどが精神力を枯渇させていた。 ルイズ達が呪文を完成させるのにもまだ少し時間がかかるだろう。 「やっぱ、俺が守らなきゃならないって事か……」 「ああ、そうだぜ相棒。 虚無の担い手を守る事、それだけがガンダールヴに与えられた仕事だ。 お前さんも俺と同じなのさ。ただ一つの目的のために鍛えられた、一振りの剣なのさ」 「はっ、そりゃ簡単でいいな。ならあのヤロウはこの手で―――」 凶暴な野獣の笑みでサイトは笑う。 ルイズ達の詠唱を背に、巨大な敵を前に、サイトは不退転の決意で立ち塞がった。 湧き上がる戦意。燃え上がる闘志。 「―――ブッ倒す!」 純粋な、氷のような殺意。 切り掛かる。弾き返される。 殺意を高める。 打ち掛かる。反撃を辛くも回避する。更に突撃。 どこまでも殺意をたかめる。 「はーっはっ! 無駄だよ小僧! こんな貧相な魔法世界の、その魔法すら使えないようなヤツが僕に刃向かう事すら愚かしい。 さっさと諦めてゴミはゴミらしく踏み潰されるのがいいさ!」 「言ってろ馬鹿」 回避。攻撃。回避。攻撃。回避。攻撃。攻撃。回避。攻撃。攻撃。攻撃。回避攻撃撃撃撃撃!! サイトの腕が、脚が、人体の限界を軽々と超えて奔る。 一瞬に一撃の打ち込みが二度の打ち込みになり、三連撃に四連打に五連斬に。 「無駄だ! 無駄だと言っているのが――」 止まらない。止められない。 他の魔導師から放たれる妨害の魔術を、軽々とデルフリンガーによって吸収しながら、サイトは雷光のように剣を揮い続ける。 フィリップは気が付いているだろうか。嘲笑していたつもりの自分の声に、あきらかな怯えが混じっている事に。 倒せ殺せ守れ殺せ倒せ守れ守れ倒せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――― 震える魂のその果てに、サイトの心はある一点を突破した。 あまりに激しく震えすぎた心はその震動を停止して、ガンダールヴの力が一瞬だけ停止した。 替わりに働くのは、サイトが生まれ持った世界の法則。 すなわち―――地獄の『悪鬼』に宿る魔法破壊の力である。 「な―――んだとぉ!?」 瞬間、あらゆる魔法が燃え上がった。 「ひいぃぃぃぃぃ!」 「悪鬼……沈黙する悪鬼だあぁぁぁ!?」 犯罪者の心の中に刻まれていた恐怖が掘り起こされる。 明滅するガンダールヴのルーン。 断続的に破壊され、間炎を吹き上げる魔法たちの中を、サイトは神速度で走り、敵を切り裂く。 不死であるはずの魔導師達は逃げ惑い、中には空間転移に失敗して自滅する者までいる。 「ひ……ひ……何だ! 何なんだお前は!? 『鬼火』のような身のこなし! 『沈黙』のような魔法消去! 寄るなっ! 僕に近寄るな! 忌まわしい殺し屋! スローターデーモン!!」 腰を抜かしてみっともなく這いつくばったフィリップが尻で地面を擦って後ずさる。 百手巨人四十号など、とうの昔に燃え尽きていた。 「違うな。俺は、そんな悪鬼だとか戦鬼だとか呼ばれるようなヤツじゃあない」 一歩、また一歩とフィリップに近づきながら、サイトは静かに言う。 「何だと? ならばお前は何者だと言うんだ!?」 「俺は―――虚無<ゼロ>の使い魔だ」 それがサイトの得た答え。 自分が何者であるかをしっかりと胸に刻んだ少年の歩みは、揺ぎ無く力強い。 目に涙を浮かべ、小刻みに震えて、誇りも力も無くして怯える因果魔導師。 その横をサイトはただ黙って通り過ぎて行った。 「えっ?」 呆然として振り返るフィリップ・エリゴル。 次の瞬間、彼は怒りに顔を歪める。 あの小僧は自分を無視したのだ。因果世界において、誰もが優秀と認め褒めそ讃えた自分を。 許せない。許せない。許せないから、その背中を魔法で狙う。 悪鬼といえど、視界の外から放たれた魔法までは消去できないのだ。 醜悪な笑みを浮かべてサイトの背中へ向かって魔法を放とうとした瞬間。 「「ディスペル・マジック!」」 完成した虚無の魔法が、フィリップを含む宮殿前広場に居た全ての魔導師を死者に戻していた。 かくして、再びハヴィランド宮殿に王党派の旗が掲げられる事になった。 貴族派首脳陣はその殆どが捕縛され、数日の内に処断される事になる。 本来なら絞首台は免れない所だが、新たに戴冠する女王の温情により、大半は財産没収の上で追放となる予定だ。 ただ1人。 会議室で、何者かに首を切断された姿で発見されたレコン・キスタ司令官、オリヴァー・クロムウェルを除いては。 次へ 前に戻る 目次に戻る