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■風紀委員第一七七支部 「あーもー! なんですのいったい!」 ツインテールが乱れるのも構わず頭をグシグシとかきむしった白井黒子が耐え切れないといった声をあげた。 「そりゃもう確かに? 風紀委員《ジャッジメント》は学生たちの治安維持機関ですもの? そりゃ当然学生たちの情報提供も受け付けておりますけども?」 憤懣やる方なしといった表情のままカチリとマウスを一回クリックする。 モニターに浮かび上がるテキストボックスを見て白井黒子はさらに頭を抱える。 「ですけど! 風紀委員の情報提供フォームは“目安箱”でも“目高箱”でも“妖怪ポスト”でもないんですの!」 もう耐えられない!といった先輩の叫びを聞いて初春飾利がホンワカとした声をあげる。 「はぁー また“アレ”ですかー?」 “アレ”とは学園都市に住まう学生たちからの報告。 曰く…学校帰り、ふと見上げると垂直に壁を歩く影を見た 曰く…早朝、気象飛行船のてっぺんに仁王立ちをする影があった 曰く…不気味な仮面が暗闇の中を通り抜けていった 曰く…ゲームセンターで99連勝をする子供がいた オカルトじみたそんな噂話のような報告がここ最近風紀委員のメールボックスにあふれんばかりに届いてくるのだ。 「面白いですよねー でもきっと噂話とかですよー そうだ、随分と疲れてるようですし紅茶でも淹れましょうか? 私一生懸命紅茶の本を読んで勉強したんですよー!」 お嬢様といえば紅茶ですものねー、と言いたげに笑う初春飾利の気遣いを察して白井黒子はフゥと小さな溜息をついた。 「…そうですわね。 では特別美味しいのをお願いしますの」 「まっかせてください!」 腕まくりをして小さな給湯室に向かおうとした初春飾利だったが、ちょうどその時来客を知らせるブザーが鳴った。 「あらまぁ… どなたでしょう? 今日は来客の予定は無かったはずですけども」 そう言いながら白井黒子が来客用のドアフォンモニターのスイッチを入れる。 そこには何ともアンバランスな高校生とおぼしき三人組が立っていた。 ■ 来客用のティーカップにコポコポと心地良い音を立てて琥珀色の液体が満たされていく。 「あ、あのー 紅茶なんですけども、よかったらどうぞ」 お盆の上に5つの紅茶を載せて緊張した初春飾利がそれを奇妙な来客達に差し出した。 「わーいっ! ありがと☆」 遠慮無くカップを両手で掴みフーフーと息を吹いて熱を冷ましているのは行橋未造と名乗ったどう見ても小さな子供。 「あら、すまないわね」 軽く視線で会釈をすると静かにカップを手元に引き寄せるギョロ目の少女は布束砥信。 「ふむ…中々いい茶葉を使っているようだな」 そして。 偉そうにそう評価しながらクイとその紅茶を口に含む金髪の男は都城王土。 そのままゴクリと一口喉に流すと、都城王土は優雅な態度を崩さずに初春飾利に文句をつける。 「ふむ… マイカイ油が少々多いな。 それにミルクを冷えたまま使ったな?」 「えっ? あ、はい…そうですけど…」 香料として使用するほんの僅かな油の量、急いで造ったためミルクピッチャーで温め忘れたムサシノ牛乳。 それらをことごとく指摘され驚く初春飾利。 . 「まぁ俺の口にあわん、とまで言うつもりはない。 むしろ中々のものだ。 これからは今言ったことを忘れずに精進すれば尚良くなるだろうさ」 そう言いながら再度紅茶に口をつける都城王土。 「はぁ…えっと…ありがとうございます?」 思わずそう感謝の言葉を口にしてから初春飾利が白井黒子の耳元に口を近づけた。 「す、凄いですよ白井さん! さすがは長点上機学園の学生さんです! なんかもう見るからに上流階級のお偉いさんみたいな空気がビンビンですよ! あと私の紅茶が褒められちゃいました!」 ヒソヒソと甘ったるい声に鼓膜を揺らされてくすぐったいような顔をする白井黒子。 「まったくあなたは… 少々褒められたからと言ってそう頬を緩ませてどうするんですの… しかも合格点ではなくて及第点だったじゃないですの」 そんな他愛も無い内緒話を二言三言交わして、ようやく白井黒子が来訪者達に向き直る。 「それでは…お話をまとめさせていただきますの」 この中では一番まともそうな人間、ウェーブ髪を無造作に肩に流している布束砥信に向かい先程聞いた話の確認をとる白井黒子。 「つまり、転校生であるそちらのお二方、都城王土さんと行橋未造さんが私達風紀委員《ジャッジメント》に興味をお持ちになられた…と?」 「sure その通りよ」 布束砥信がそう言うと当然のように都城王土がその後を引き継いだ。 「うむ。 なにせこの俺が暮らす街となるのだからな。 治安がどれほどのものか、治安を守るという者たちがどれほどのものか確かめておくのも悪くはないだろう」 そう言いながら空のカップを掲げ、初春飾利に二杯目を要求する都城王土。 まるでメイドのようにパタパタと給湯室に駆けていく後輩に内心溜息を突きながらも白井黒子が口を開く。 「……そうですわね。 そりゃ外部からの転校生ならばそういった不安があるのも当然でしょうし。 ちょうど今から諸用で買出し兼パトロールに行くつもりだったんですけども、ついてきたいというなら構いませんですのよ?」 こういう手合いは退屈な風紀委員の日常を見せればさっさと飽きてくれるだろう、それが白井黒子の考えだった。 紅茶に砂糖を一匙足しながら行橋未造が王土の顔を見上げる。 「だってさ☆ どうするの王土?」 その未造の言葉を聞き、僅かな時間考えたような風を見せた都城王土はこう言った。 「そうだな。 雲仙二年生の苦労を味わうのも一興か」 そう言って立ち上がった都城王土だったが、その背に飴玉を転がすような甘い声がかかる。 「あ、あのすいません。 都城さんと行橋さん? あの、もしよかったらでいいんですけど能力と強度《レベル》を教えてもらえたら嬉しいなーって…」 振り向くとそこにはモニターに向かった初春飾利がいた。 珍しく眉を潜めた都城王土がそのままオウム返しで問を発する。 「レベルだと?」 「そうですー。 やっぱり転校生だからなのかまだ全然[書庫《バンク》]に情報が無いんですよー。 ですので、どうせならここで登録しちゃおうかなーと思いまして」 そう説明しながらふにゃりと笑う初春飾利。 確かにこれは大事なことである。 誰がどのような能力を持っているのかという情報は有事の際の重要な手掛かりとなる。 出来る限り集めておくに越したことはないのだ。 そんな緩んだ顔で大事なことを聞いてどうするんですの…と心中で溜息をつく白井黒子。 だが、そんな初春飾利や白井黒子の思惑を都城王土はフンと笑い飛ばした。 「くだらんな。 俺の資質を図るなどこの俺ですら出来るわけがないのだ。 ましてやレベルなどという小さな括りで俺を推し量るなど不可能に決まってるだろうが」 「えっと…なるほど… そ、そうですよねー…」 「あの…都城先輩? そういうことじゃないんですの」 うむ、と頷く都城王土に呆れる白井黒子に助け舟を出したのは行橋未造だった。 「えへへ それ身体検査《システムスキャン》ってやつでしょ? ボクも王土も[無能力者《レベル0》]相当の[発電使い]なんだってさ☆」 そう言ってピラピラと薄っぺらい紙を背負った大きな籠のような鞄から取り出す行橋未造。 「ほう? そうなのか?」 今知った、と言わんばかりの態度で僅かに片眉をあげる都城王土。 「うん! ほら、なんだかやたら時間のかかった模試があったじゃない☆ あれがテストだったらしいよ?」 はいこれ、と言って身体検査《システムスキャン》の結果票を白井黒子に渡す行橋未造。 [無能力者《レベル0》] は測定不能や効果の薄い力を持つものに振り分けられる区分である。 測定の基準が違うのならばどれほど強大でデタラメな力を持っていようと問答無用で[無能力]と括られてしまうのだ。 都城王土は指先から電磁波を発する程度。 行橋未造は皮膚で電磁波を受信する程度。 確かに言葉にしてしまえばそれだけなのだから、機械的な身体検査《システムスキャン》ではレベル0と判定されるのも致し方無いのだろう。 そして当然。 白井黒子は、初春飾利は、布束砥信すら都城王土と行橋未造の真の力を知らない。 「無能力…ですの? まぁ長点上機学園は能力以外でも突出した一芸があれば入学できるって聞き及んでますけども…」 幾度も読み返してみるが、確かにそれは公式で使われている結果票である。 だが、どこか納得がいかず額にシワを寄せる白井黒子に、都城王土の憮然とした声がかかった。 「おいおまえ。 この俺をいつまで待たせるつもりだ? 行くと言ったのはおまえなのだからさっさとせんか」 お嬢様である白井黒子にとってここまで無礼で厚かましい男などそう出会いはしない。 生来の気の強さもあって思わず白井黒子は文句を口にした。 「なっ? いくら年上だとは言えレディに向かっておまえ呼ばわりはあんまりじゃないですの? そもそも私には白井黒子という立派な名前があるんですの!」 だが、そんな白井の抗議もこの男にとっては無意味である。 「シライ…クロコ? 白いのだか黒いのだかはっきりせんか。 …まぁいい。行くぞ白黒」 そう言うとドアに向かい歩みを進める都城王土。 だが白井黒子は動かない。 呆けた顔で硬直していたかと思えばプルプルと身体が小刻みに震え出す。 「しろくろ…? 白黒!? ちょっと! その呼び名はあんまりじゃないですの! 発言の撤回を要求するですの!」 ツインテールを逆立て、ギャーギャーと文句を言う白井黒子を華麗にスルーして都城王土が初春飾利に向き直った。 「おい花頭。 俺が手ずから助言をくれてやったのだ。 決して忘れるなよ? 次こそは俺が100%満足できる茶を用意しておけ」 「はっはいっ! がんばりますっ!」 思わず背筋を伸ばしてそう返事をした初春飾利を見て都城王土は満足そうに頷いて去っていく。 こちらを見ようともしない都城王土と視線を合わせるためにピョンピョンと跳ねながら白井黒子がその後を追う。 「聞いてますの!? 今度白黒なんて呼んだら風紀委員侮辱罪(そんなものはない)でしょっぴきますのよ!」 「おお怖い怖い。 今にも噛み付いてきそうではないか。 なぁ行橋?」 「えへへ! 気にしないでね白井さん☆ 王土は別に悪気があるわけじゃないんだ☆」 「well でも風紀委員侮辱罪なんてあったかしらね?」 「キィーッ!!! これはもう私堪忍袋の緒が切れますですの!!!」 まるで子供のように文句を言い続ける白井黒子をあしらいながら歩いて行く長点上機の三年生を見て初春飾利は面白そうに笑う。 仲良くなっている、とは口が裂けても言えないが。 それでも都城王土と行橋未造、それに布束砥信という高校生は悪い人ではないんだなと何となく思ったのだ。 ■学園都市・路地裏 (最ッ悪…超ツイてない…) 心のなかでそう佐天涙子が愚痴をこぼす。 事の始まりは偶然だった。 初春飾利が食べていたジャンボ王様パフェに惹かれ、今日はひとりでそれを買って学園都市の大通りを食べ歩いていたのが発端。 大通りに面する裏道から急に飛び出てきた数人のスキルアウトとおぼしきガラの悪い男と正面衝突してしまったのだ。 その名に恥じぬ超弩級のアイスと生クリームは男のジャケットにぶちまけられ、今こうして詰め寄られている。 「嬢ちゃんよぉ~ いったい何処見て歩いてんだぁ~!?」 「だ、だって… そっちからぶつかってきたんじゃないですか」 必死になって言い返すも、正当な主張などやはり通るはずがなかった。 「なぁ~にぃ~!? 人の服汚しといてイチャモンつけるたぁ~生意気じゃあねえかぁ! あ? どう思うよおめえら!」 「「「へいっ! アニキの言うとおりでさぁ!」」」 汚れたジャケットを見せびらかすようにして子分らしきチンピラに同意をとるスキルアウト。 (あぁもうホントまじで最悪…) 自分はなにか不運な星の下にでも生まれているんだろうか。 ■学園都市・大通り 「おい白黒。 退屈すぎてたまらんが」 生欠伸を今にも噛み殺しそうな気怠くつまらなさそうな言葉がかかる。 「ハァ… もう呼び名の件に関しては諦めましたの」 頭痛を抑えるようにこめかみを押さえて頭を振る白井黒子。 「ですけど。 退屈なのがいいんですの。 事件なんて起こらないほうがいいに決まってるじゃありませんの」 買出しの事務用品をブラブラと揺らせながらそう白井黒子が声をかける。 このまま何事も無く終わってくれれば、きっとこの無礼な男達と関わることなど二度とないだろう。 澄ました顔しながら街を歩く白井黒子だったが内心はグヘヘとほくそ笑んでいる。 その時だった。 「ね☆ 王土!」 クイクイと都城王土の袖を引っ張ってどこか遠くのほうを指差す行橋未造。 その指の先を見て、何かを察した都城王土の口元がニイと笑みを形作る。 「あぁそうだ。 白黒。 ひとつ聞いておきたいのだが」 前を歩く小さな少女の背中に声をかける都城王土。 「あぁもう…今度はなんですの?」 ピョコピョコとツインテールを揺らしながら白井黒子が背中を向けたまま返事をする。 「例えばだ。 暴漢に襲われている少女がいたとしたらおまえはどうする?」 「そんなの当然止めるに決まってますの」 何をいうんですの?と白井黒子は訝しみもせず即答で応える。 「ほう。 それを止めるのが風紀委員とやらじゃなかったのならば?」 そう問われ、白井黒子の脳裏に映ったのは片時も忘れたことのない最愛のお姉様。 「あまり…褒められた話ではありませんが。 わたくしも一般人であるお姉様に頼ってる部分も多々ありますし…正直言いますと助かるというのが本音ですわね」 あぁ、一緒に歩いているのがこんな粗暴で無礼な男ではなくて美しきお姉様だったらどんなにか素敵で百合百合なんでしょう…と妄想に浸り出す白井黒子。 あぁもうたまりませんの!お姉様分が不足してますの! 肩を自らで抱えイヤンイヤンと悶える白井黒子だったが。 そんな妄想も一瞬で冷めてしまう言葉を都城王土が口にした。 . 「ふむ。 喜べ白黒。 俺がお前の仕事を助けてやろう」 「……え?」 嫌な予感がした。 ザッと背筋に走ったのは形容しがたい冷や汗のような悪寒。 慌てて振り向くも、既にそこに都城王土と行橋未造の影も形もない。 「ちょ、ちょっと…今のはいったいなんですの?」 ヒクヒクと笑いながら、そこに一人残っていた布束砥信に問いかける。 「さぁ? 私には彼等が何を考えているかなんて分からないけども、とりあえずあっちの方に向かったのは確かよ」 肩をすくめ、オーバーなジェスチャーをしながらも白井黒子が今最も欲しいであろう情報を伝える布束砥信。 「ま…まさかとは思いますけども…厄介なことに首を突っ込んだんじゃないですわよね!?」 布束砥信が指さした方向に向かって慌てて駆け出しながら白井黒子が悲鳴のような怒声のような声をあげる。 そんな白井の後ろ姿を見ながら、冷静に布束砥信が独り言を呟いた。 「thought どう考えても厄介なことになりそうだけれど…」 ■学園都市・路地裏 「よお! よおよおよお! 俺たちゃあ何か間違ってること言ってるかぁ~? 人のものを汚したら弁償するのが人の道ってもんだろぉ?」 見栄を切って中学生の少女を囲むスキルアウト。 傍から見れば恥ずかしいにも程があるが、彼等はそんなことは気にしない。 詰め寄られ、しぶしぶ佐天涙子が財布を出した。 確か、今月の仕送りがまだだいぶ残っているはずだ。 痛い出費である。 今月は買い食いもオシャレもCDも諦めることになる。 だがそれでこの場が収まるのならば。 そう思ってこれ以上彼等の気を逆立てないように佐天涙子は恐る恐るスキルアウトに向かって口を開いた。 「べ、弁償って… 幾らですか?」 それを聞いたスキルアウトのリーダー格は両手を広げ、トントントンと片足でリズムを取った。 「おっととと! そうきたか! チューボーの嬢ちゃんにゃあ! あ! 判んないかもしれないが! こいつぁ学園都市外の高級輸入品! 名高いスキルアウトの俺様に相応しすぎる超有名ブランド! その名も[ゼロプラス]限定生産の! あ! 一着30万もするジャケットよ!」 生クリームでベトベトになったそのジャケットを歌舞伎役者の見栄のように広げたスキルアウトがポーズをとる。 「さ、30万!? 無理ですそんなお金払えませんって!」 「なぁにぃ~!? 御免ですんだら警察はいらねえってんだぁ~! とっとと30万耳揃えて払うかぁ! あ! さもなきゃあ俺等の言い分聞いてもらうとすんぜぇ!!」 歌舞伎役者のようなポーズをとったままの男の言葉と同時に周りの男達がジリジリと佐天涙子ににじり寄りだした。 その時だった。 どこかのツンツン頭のようなことを考えながら佐天涙子はがっくりと肩を落とす。 「えへへ! 嘘ばーっか☆ その服ってファッションセンターしましまで買った徳用セール三着1980円のジャケットのくせに☆」 あどけなく可愛らしい声が路地裏に響き渡る。 「なっ!? 俺が墓場まで持って行こうと決心した秘密を!? どっどこのどいつだぁ! あ! 出てきやがれぇ!」 そう叫んだ男の声に応えるように、ピョンと音を立てて小さな子供が姿を現した。 「えへへっ! 出てきたよ☆」 それは何処からどう見ても小さな子供である。 「…ヘッ! ヘヘヘッ! 何処の誰かと思えばなんだよガキかぁ!」 心底驚いたというふうに胸をなで下ろすスキルアウト達。 「えへへ☆ 三着1980円っていうのは否定しないんだね?」 「…ッ! そりゃああれだ! 偶然似ていただけだろうよぉ!」 そう言いながらもまじまじと見られないように慌ててジャケットを脱ぎ、丸めて路上に放り投げるスキルアウト。 「まったく…いくらガキとはいえ推測や憶測でものを言っちゃあいけねえだろうがぁ! いやほんと…いけねえだろうがぁ…」 どことなく悲しげな声でそう呟くも…すぐに頭の中身を切り替えたのだろう、両の手を広げて佐天涙子に再度にじり寄る。 「あ、さて! さてさて嬢ちゃん! 気を取りなおして始めるぜ! 準備はいいかぁ!? こっちの準備は万端だぁ! さぁてリテイクシーンワンアックション!!」 伝統芸能のような物言いをしながら、改めて佐天涙子に飛び掛ろうとするスキルアウトだったが…その言葉は完全に無視されていた。 「…あれ? おーい嬢ちゃん? いいの? …襲っちゃうよ? キャー!とか無いの?」 許可をとるようにそう佐天涙子に確認をとるスキルアウトだったが、そこでようやく少女の視線が中空に固定されていることに気が付いた。。 「えーっと… フヘヘヘヘヘ! どうした嬢ちゃん! あまりの恐怖に棒立ちかぁ?」 なんだかもういろんな意味で酷すぎるスキルアウトがニヤリと笑う。 だがそれも即座に否定された。 「えっと…そういうんじゃなくて… アレ」 そう言って空を指差す佐天涙子。 「…えっ? どれ? どこ?」 腰をかがめ、佐天涙子の指の先を追ったスキルアウトの目が驚きで見開かれる。 「…って!ハアアァァァァ!? なんだぁありゃあ!?」 そこには。
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【作品名】原神 【ジャンル】オンラインゲーム オープンワールドゲーム 【名前】七七 【属性】キョンシー 【年齢】200歳 【長所】かわいい 【短所】ゾンビになった影響で3日保たないほど記憶力が悪い 味覚も死んでる 【備考】一度死んで蘇ったが暴走し、琥珀に数百年封印されていたので最低値で200歳。 vol.8
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七支 影((ななし うつ)) 基本設定 学年・組 1年 丙寅組 学籍番号 生年月日 身長 160cm 体重 血液型 性別 男 国籍 能力値 健康 7 知性 8 感性 8 筋力 6 交渉 2 機敏 6 器用 8 学力 2 財力 3 蓬莱パワー 3 陰陽五行八徳 陰陽 五行 八徳 陰 木 礼 生活態度 昼行灯型 所属クラブ・委員会・団体 特殊環境委員会 9 地理学部 4 微生物研 4 あやとり研 7 所持応石 1 2 3 4 5 6 木 独 コロナワクチン副作用 犬並みの嗅覚を得る 有利/不利な特徴 有利な特徴 一目置かれる(4) 隠れ家がある(4) (隠れ家にヤクルト常備) 不利な特徴 印象が薄い(-6) ヤクルトを1日一回飲む(-2) 備考 そこそこの委員会の役職についてる人なのに 影が薄すぎて周りからすごい人なんだなという 認知しかされてない人。 ヤクルトが好物。毎朝ヤクルトを飲むことが日課。 隠れ家にはヤクルトが常備してある口下手な変人。 参加セッション 第114話『砂糖狂騒曲』by黒トド NPCとして登場 まだ登場していません。 参加セッション
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【名前】 七支柱 【読み方】 しちしちゅう 【人物】 中央の実働部隊の名称。 かつて地獄の七軍団として活躍していた悪魔達が所属し、構成もそのままに十支王の手足として世界を監視している。 ただし、一部の悪魔は七支柱を抜け市民としての名を持ち、市井で生活している者もいる。 主な任務は怪異討伐・暴徒鎮圧などの戦闘行動であり、元が悪魔であることもあり並みの市民では手も足も出ない。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド たった一人の 風紀委員第一七七支部。 学園都市の治安を守るために日夜活動に精を出す風紀委員の活動拠点の一つである。 普通こういった警察的組織の活動拠点といえば忙しいと相場が決まっているのだが、それでもまったく事件のない時は意外とあるもので、そんな時はやはりこういった場所ものんびりとした空気に包まれる。 さらにここ一七七支部に至っては、風紀委員でない御坂美琴や佐天涙子といった、風紀委員メンバーの友人達もしばしば訪れており、事件のない時はのんびりとした空気に包まれるどころか女子中学生の遊び場になってしまう。 はっきり言ってかしましいことこの上ない。 ちなみに今日の一七七支部はというと、ただの遊び場状態と化していた。 「ですから、私には理解できないんですよ。どうして色が白いだけであれが普通のタイ焼きより高いのかが」 「わかってませんわね、佐天さん。あれはただ色が白いだけではありませんのよ。普通のタイ焼きに比べてこう、高いなりのもちもちっとした触感がまるでお姉様の柔肌を思い出させて、ああ、ごめんなさいお姉様! 黒子はタイ焼きごときに浮気をしてしまいましたの! でもでも最近お姉様が黒子をほったらかしにするから!」 「ねえ、そもそもみんなどうしてタイ焼きなんて食べられるの? あんな、かわいいのに……」 「えっと……そ、その辺は個々人の趣味という物がありますし。そうだ初春、初春はどう思う? やっぱり数十円でもあの値段の差は私達には大きいと思わない?」 美琴や白井となんてことはない話に花を咲かせていた佐天が、同じ庶民としての意見を求めようと初春に声をかけた。 だが答えが初春から返ってこない。 初春は難しい顔をしてずっとパソコンの画面とにらめっこをしていたからだ。 佐天はひょいと初春の顔をのぞき込んだ。 「ん? どうしたの、初春、さっきから難しい顔して。最近大きな事件もないんだし、もっとふんわかいこうよ、ふんわか」 「うーん」 しかし初春の視線が画面から離れることはなかった。 「初春ってば最近ずっとこうですのよ、時間があるときはいつも過去の事件を調べているんですの。真面目というか、なんというか」 トリップ状態から帰ってきた白井がやれやれ、と言わんばかりに首を振った。 「ふーん、過去の事件ね。どんな事件なの?」 なんとなく興味を引かれた美琴が初春の後ろからひょいとパソコンの画面をのぞき込んだ。 「げ」 画面の文字が見えた瞬間、美琴は思わずおよそお嬢様らしくない声を出していた。 そこにあったのはグラビトン事件や地下街でのシェリーの事件、大覇星際に関わる騒動。 他にも色々あったのだが、とにかく共通するのは全て上条当麻、幻想殺しが関わっている事件ばかりだったのだ。 美琴は冷や汗を拭いながら努めて冷静な声で初春に話しかけた。 「う、うい初春さん、どうしてこういう事件を調べてるの?」 初春は大きくため息をついて美琴の方を向いた。 「それが、気になるんですよ。学園都市の都市伝説が」 「都市伝説?」 「ええ。ほら、木山春生の『脱ぎ女』や『幻想御手』があったわけじゃないですか。だとすれば『どんな能力も打ち消す能力』があっても不思議じゃないなって。ううん、きっとあるんだと思います」 「それ、それはそう、かも。でも、どうしてそんなことを気にするの?」 常に危険と隣り合わせな日常を送る上条にレベル1の初春が近づくのは危険だという思いと、あまり自分以外の女の子に上条への興味を持ってもらいたくないという乙女心から美琴はやんわりと初春の興味をそらせようと考えた。 しかし美琴の試みはあえなく失敗することになる。 「私、あのグラビトン事件のお礼を言いたいんです、その能力者さんに」 初春の決意の言葉によって。 「え――――!!」 美琴は再びお嬢様らしくない声を上げた。 「ダ、ダダダ、ダメ、ダメだってば初春さん。そんなことしたら危険、危険すぎるわよ! 絶対ダメ!」 「どうしてダメなんですか? それに危険て、もしかして御坂さん、その能力者さんのこと、何か知ってるんですか?」 「うぐぐ」 美琴は完全に言葉に詰まってしまった。 上条のことをここで言うのは簡単である、だが上条を女の子に紹介するなんてことが美琴にできるはずもない。 とはいえ美琴の性格上上手く嘘をつくこともできない。 結果として美琴は何も話すことができなくなってしまったのだ。 そんな美琴を見ながら白井は小さくため息をついた。 上条のことも、美琴の想いも全て知っている白井からすれば今の美琴の気持ちは手に取るようにわかるのだが、なんとなく美琴を助ける気になれないのは複雑な乙女心のなせるわざ。 結局美琴を救ったのは事情は知らないが空気の読める女、佐天涙子だった。 「ねえ初春、どうしてグラビトン事件のお礼とその都市伝説が結びつくの?」 「あ、それはですね。まだ私の中の仮定でしかないんですが――」 佐天の言葉に反応してパソコンを操作しだした初春を見ながら、美琴はほっと胸をなで下ろした。 そんな美琴を無表情に見つめているのは白井。 「ほら、この事件現場の写真を見て下さい」 初春はセブンスミストでのグラビトン事件の現場写真を画面上に表示させた。 「これ、みんなは御坂さんが私たちを救ってくれたと思ってますよね。私も最初そう思ってましたし、そう考えるのが普通です。ですが御坂さんの超電磁砲の能力を考えればちょっと違うな、と思ったんです」 「違うって?」 「もちろん私だって御坂さんの全ての能力を知ってるわけじゃありませんから私の考えそのものが間違っているのかもしれません。でもあの場で御坂さんが超電磁砲を全力で撃っていないのは確かですし、そもそも御坂さんは超電磁砲で、爆発物である重力子そのものを粉砕しようとしたんじゃないかと私は思うんです。それが一番確実ですからね。ですがもしそうならあんな風に私たちがいた場所だけ爆風を避けていた、という現象にならないと思うんです」 「うーん、なんかよくわかんないんだけど」 「ですから……簡単に言うと、御坂さんならもっと爆風の発生自体を押さえ込んで、ほとんど被害を出さない結果を出していたと思うんです。でも実際は私たちだけがギリギリで助かっていた。本当に私の仮定なんですが、もし、私たちの目の前に『能力を打ち消す能力者』が爆風を阻むように立ちはだかったとしたら」 「……この現場写真と、ぴったり一致する!」 「そうなんです! あ、み、御坂さん、ごめんなさい。私、御坂さんを貶したいとかそういうつもりじゃないんです。ただ……」 ここまで一気にまくし立てた初春は側に美琴がいることを思い出して、慌てて美琴に頭を下げた。 「え、な、何?」 しかし肝心の美琴は初春の話をまったく聞いていなかった。 どうすれば初春の興味を上条からそらせられるのか、それをひたすら考えていたからだ。 美琴は適当に愛想笑いを浮かべ、とにかく上条の存在をごまかすことだけを考えた。 「えーと、な、なんかよくわからないけど私なら別に気にしてないから。ね、黒子」 「そうですわね」 「そ、それにさ、ほら、誰が助けたとかなんてどうでもいいじゃない。みんな助かったんだし。ね、黒子」 「そうですわね」 「それから悪いんだけど、グラビトン事件? あのときのことって私あんまり覚えてなくって。超電磁砲撃ったとは思うんだけど、初春さんにそう言われればそう、妙な感じも。誰かいたのかな? ね、黒子。アハハハハ」 「……そうですわね」 もはや美琴の方を見る気もなくし、優雅に紅茶を飲みながら白井は気のない返事を返し続けた。 上条のことで頭がいっぱいなときの美琴に何を言っても無駄だと悟っているのだ。 それに白井にとってははなはだ不本意ではあるが、初春が上条に接触したくらいで美琴と上条の仲が揺るぎそうにないことくらい彼女だって理解している。 認めたくはないが今の二人は、週末になるとしばしばデートに出かけたりするほどの仲。 さらに上条の勉強を見るためだと言って平日美琴が門限を破ることも最近非常に多い。 本人達は認めていないものの、端から見れば完全に恋人同士である。 第三者の介入する余地などない。 だったら最近大きな事件もないし何か面白そうなので事の推移を黙って見守ろう、そう判断したのだ。 「つまり、初春としてはグラビトン事件の時に初春達を助けてくれたのは御坂さんじゃなくてその能力者さんだって思ってるわけね。だからその時のお礼を言いたいんだ」 「はい。御坂さんもああおっしゃってるわけですし、実は真相は闇の中なんですよ、グラビトン事件て。ですから私はそこに噂の人が関わってるんじゃないかって思ったんです。ですから私、その人にお礼が言いたくて、そのために目撃情報などからその能力者さんが関わってそうな事件をピックアップして何か手がかりはないかと調べているんです」 「ふーん、どれどれ?」 佐天はパソコンの画面を見ながら初春の説明を受け始めた。 魔術や幻想殺しに関しては完全に門外漢のはずの初春だが、その読みはかなり鋭く、的確に上条が関わった事件を探し出していた。 美琴は聞き耳を立てながら初春の洞察力に感心していた。 と同時に、なぜ初春がここまで上条にこだわるのか、ということも気になりだしていた。 そんな疑問を同じく抱いたのか佐天が美琴に代わって質問した。 「でもさ初春、お礼を言いたいくらいでどうしてそんなに必死になってるの?」 「そ、それは……」 初春はさっと頬を染めた。 その様子を見逃さなかった佐天はにまにまと笑みを浮かべながら初春にしなだれかかった。 「なーにー初春ぅ。そのウブな反応はなんなのよー。もしかして『恋』しちゃったとかぁ?」 「…………!」 一瞬、美琴の顔から一切の表情が消えた。 もちろん次の瞬間には慌てたような表情になったので、その変化に気づいたのは白井だけだったのだが。 後に白井は語る。 「あんな恐ろしいお姉様、初めて見ましたの。静かな怒りといいましょうか、この世の全てを凍らせるようなそんな冷たい怒り。お姉様は強く、優しく、高潔な方だとばかり思っておりましたのに、あんな激しい黒い感情も持ち合わせておられたのですね。黒子は、あの時のお姉様を思い出すたびに体の奥が疼いて……ああ、お姉様――!!」 語るだけではすまなかったようだ。 佐天にからかわれた初春は顔を真っ赤にしてあたふたと反論を始めた。 「ち、ちち違いますよ、からかわないで下さい佐天さん。第一、この人が男の人かどうかすらわからないんですよ」 「そう言えばそうね。あれ、でもこの目撃情報からすると男子高校生っぽくない? 初春、アンタ知っててとぼけてるんじゃないの?」 「え、あ、ああのその、えと……」 「んー? どうなのかなー初春ぅ?」 「で、ですからその、好きとかじゃなくて、憧れ、みたいなものなんですよ」 「憧れ?」 「は、はい。本当かどうかわかりませんが、この能力者さんが全て同一人物でしかも目撃情報通りだとすると、この人は本当にすごい人なんです」 「そりゃまあ、確かにこんなすごい能力持ってれば、ねえ」 「そうじゃないんです! ですから、この人の能力っていうのは能力を打ち消すだけみたいなんです」 「それが?」 「考えてもみて下さい。普通能力者同士の戦いっていったら攻撃手段は自分の能力ですよ。でもこの人は全ての能力を打ち消しちゃうんですから、当然自分だって能力で攻撃なんてできない。攻撃は全て自分の拳一つなんです。それにこの人の行動って、全て何かを守るための行動みたいなんです。おそらくグラビトン事件もその一貫じゃないかと」 「ふーん」 「自分の体一つで何かを守るために戦う、その、素敵、だと思いませんか?」 「なるほどね」 「…………」 美琴は初春の話を聞きながら背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。 非常にまずい。 初春は噂話や伝聞だけで上条にフラグを立てられていたのだ。 自分というものがありながらあの大馬鹿、と上条にとっては完全に八つ当たりでしかない怒りを覚えながら、美琴はどうすればなるべく穏やかに上条のことを初春に諦めさせられるのか、ということを考え始めていた。 そんな美琴の葛藤をよそに初春と佐天のテンションはどんどん上がっていった。 佐天はどんと胸を叩くとニカッと邪気のない笑みを浮かべた。 「よし、そういうことならこの涙子お姉さんにまっかせなさい! かわいい妹の恋を成就させてあげようじゃないの!」 「だから、私は佐天さんの妹じゃないですってば」 「あれ? 恋は否定しないの?」 「えっと……」 「ちょっと、二人とも……!」 美琴は慌てて二人の会話に口を挟もうとしたが、なんて言っていいかわからず言葉を詰まらせた。 かなり仲良くなっているという自負は少しはあるものの、やはり自分と上条は対外的にはあくまで友達なのだから、何も言う資格はないと思ったのだ。 悔しそうに歯がみする美琴を見ながら、やはり白井はなんの行動も起こそうとはしなかった。 ご自分の想い人はご自分で守って下さいな、そう思いながらあくまでも常盤台のお嬢様らしく優雅に紅茶を飲み続けていた。 結局その日は完全下校時刻まで初春と佐天は上条探しのプランを練り、美琴はいかにして上条のスケジュールを完璧に把握するかを考え続けたのだった。 翌々日。 初春の風紀委員活動が休みの日を利用して、初春と佐天は「あらゆる能力を打ち消す能力者」、つまり上条当麻を探すことにした。 探す、とはいっても特に具体的な方法があるわけではなく、とにかくこれまで集めた情報からそれらしい人を探していくしかないのではあるが。 「ふーん、で、これが初春の好きな人の特徴なわけ?」 「好きじゃなくて、憧れです。全然違います!」 「そんなもんかしら」 そう言いながら佐天は昨日のうちに初春がまとめた能力者の情報を読んでいった。 「何々? 男性、日本人、高校生、黒髪の特徴ある髪型、説教くさい……何この最後の?」 「えっと、目撃者の話によると、その人は事件を解決するときは必ず犯人に語りかけてるらしいんです。それもやたらとくさいセリフで」 「ふーん、それにしてもなんかぱっとしない特徴よね。さすがにこれじゃ探すの大変じゃない?」 佐天はややあきれ顔で初春を見たが、初春は自信満々で自分のネットブックを広げた。 「そんなことないですよ。私、書庫から男子高校生の無能力者を検索して、その中で髪型が特徴的な人をリストアップしたんです」 「へーって、どうして無能力者?」 「だって、あらゆる能力を消すなんて普通の能力じゃないんですから、おそらくその人は既存の基準で測れない、つまり無能力者の扱いをされていると思うんです」 「あ、なるほど」 「ですからレベル0の人を順に探していけば」 「初春の好きな人が見つかるかも、というわけね」 「だから違いますってば!」 涙目になりながら佐天をぽかぽかと叩く初春。 そんな二人を遠くの物陰からじっと見つめる怪しい影があった。 「初春さん、これはあなたの貞操をあの馬鹿の毒牙から守るため仕方なくやってることなのよ。だから尾行のこと、許してね」 言わずと知れた天下御免の電撃姫、御坂美琴である。 初春と佐天の二人は書庫にある男子高校生をしらみつぶしに探し始めた。 とはいえ直接その人に「あなたが『能力を打ち消す能力者』ですか」と聞くわけにもいかないので、目的の人を見つけ次第その人を尾行して様子を見るしかなかったのだが。 そして二人が上条を探して二時間後、ちょうど三人目の高校生が外れだとわかったとき。 「だあーもう疲れたー」 佐天は完全に飽きていた。 「さすがにちょっと私もちょっと疲れました」 しゃがみ込んだ佐天を道でもらった宣伝用のうちわで仰ぎながら、初春は苦笑いを浮かべた。 佐天は疲れ切った顔で初春に泣きついた。 「初春、もう止めにしない? やっぱり噂はあくまで噂だったんだよ。ああいう事件に関わった人がいたのは事実かもしれないけど、それと『打ち消す能力者』は関係ないんだよ。グラビトン事件もやっぱり御坂さんが初春を助けてくれたんだよ。あの人ああいう性格だからあまり自慢げに自分の手柄を誇ったりしないから、ああいう言い方しただけなんだよ」 「そうそう、だから早くアイツを探すのは諦めて!」 相変わらず初春達を尾行していた美琴は佐天の意見に全面賛成していた。 初春は大きく深呼吸をするとぱかっとネットブックを開いた。 「わかりました、じゃあこれで最後にします。次の人を調べて今日は終わりにしましょう」 「そう来なくっちゃ! それが終わったらなんか食べに行こ!」 急にやる気が出たのか佐天はばっと立ち上がって初春のネットブックをのぞき込んだ。 「で、どんな人なの?」 「えっとですね。あれ、この人は……」 ネットブックに出ていたデータは上条当麻の物だった。 「ん? 初春、知ってる人?」 「いえ。私自身、直接面識はありません。ただこの人、御坂さんの彼氏なんです」 「え――! 御坂さん、彼氏いたの!」 「ぶ!」 佐天の大声に美琴は思わず吹き出した。 「ま、まさか、次のターゲットはアイツ、なの? と、とにかくアイツにあの二人を会わせるわけにはいかないわね」 美琴は急いで上条に電話をかけた。 しかし上条の携帯は電源が入っていないらしく、美琴はがっくりと肩を落とした。 「あの馬鹿、私からの連絡はいついかなることがあっても受けなさいっていつも言ってるでしょうに!」 美琴は悔しそうに地団駄を踏んでいたが、電話に夢中でいつの間にか初春達の姿を見失っていることに気づいた。 「やば。二人ともどこ行ったのかしら」 美琴は慌てて初春達を探し始めた。 美琴が電話に出ない上条にやきもきしている間に、初春は簡単に自分の知っている上条の情報を佐天に伝えていた。 「ふーん、御坂さんの入院中にね。そう言えば私は会わなかったな」 「私だって直接会ったわけじゃないんです、御坂さんの病室に入ろうとしたときにちらっと見ただけで。とにかくすごく優しい目で御坂さんを見ていたんですよこの人。それで私が来たのに気づいたらすっと病室から出て行っちゃったんです」 「そうなんだ。私達に遠慮したのかな?」 「そうじゃないかと思います。確か『邪魔だよね』みたいなこと言ってたと思いますから」 「ふーん。じゃあ早速この人探そうか」 「はい。どうもこの人は自炊生活でクラブにも入っていないようですから、御坂さんに会ってない日は、学校とその近所の安売りスーパーの往復をするはず。ならその位置関係から今いる可能性の高い場所は……」 驚くべき情報処理能力で上条の位置の予測を立てていく初春を見ながら、佐天は感心のため息をついた。 「確かに御坂さんは今日大切な用事があるって言ってたから上条さんといっしょにいることはないと思うけど、本当に何かに興味を持ったときの初春の行動力ってすごいよね。それだけ情報を集めて準備するくらいその能力者さんに会いたいんだ」 「…………」 初春は頬を染めながら何も答えなかった。 「なら、上条さんは初春の探している人と違うといいよね」 「…………」 やはり初春は何も答えなかった。 やがて初春たちは上条の住む寮の近所にやってきた。 佐天は見慣れない場所に心躍るのか、きょろきょろと辺りを見回していた。 「さって、どこにいるのかな、御坂さんの彼氏は。レベル0で御坂さんの彼氏ってことは、『能力を打ち消す能力者』について何か知ってるかもしれないし。早く会ってみたいよね」 「佐天さん、そんなにきょろきょろしてたら危ないですよ」 「大丈夫大丈夫、ここは車も通ってないんだし……キャ!」 「うわ!」 前をよく見ていなかったため、佐天は前から歩いてきた人とぶつかってしまった。 「いてて……」 「大丈夫ですか、佐天さん」 地面に尻餅をついた佐天は恥ずかしそうに頬をかいた。 「いやいや面目ない。すいません、大丈夫、ですか……あれ?」 佐天はぶつかった相手に頭を下げようとしたが、その相手の様子がおかしいことに気づいた。 見たところ男子高校生のようなのだが、佐天とぶつかったときに地面に落としたらしい買い物袋をこの世の終わりのような表情で見つめていたのだ。 「……あああ、貴重なタンパク源が……目玉焼き、ゆで卵、親子丼、オムレツ……」 しかも何やらぶつぶつとつぶやいている。 そのあまりにも絶望に包まれた表情を見て罪の意識を感じた佐天は申し訳なさそうに声をかけた。 「す、すいませんぼうっとしてて、あの、大丈夫ですか……?」 「へ? あ、ああ、慣れてるから、こういうの……」 どう見ても大丈夫そうに見えないその男子高校生の顔を見た初春が突然大声を出した。 「あー、御坂さんの彼氏!」 「はい?」 この不幸な男子高校生はもちろん上条当麻である。 「えっと、その、すいません。卵台無しにしちゃった上にジュースまで」 「ははは、いや、ほんと俺、こういうの慣れっこだから。不幸なのは生まれつき、うん。それにお前達、御坂の友達なんだろ? 無碍に扱うわけにもいかないし」 近くの公園に場所を変えた初春たちはそこにあるベンチに腰をかけると上条から手渡されたジュースを受け取っていた。 上条は初春たちを見てにこっと微笑んだ。 「じゃあ、改めて自己紹介しようか。そっちの花飾りの子とは御坂の病室で一度会ったことがあるけど、名乗ってはいないよな。二人ともよろしく、俺は上条当麻、高校一年生」 初春は緊張した様子でばっと立ち上がった。 「は、はい。はじめまして、私は御坂さんの友達で、白井さんといっしょに風紀委員をやっている初春飾利といいます。中学一年生です。で、こっちが」 初春と同じく緊張した様子の面持ちの佐天もまた立ち上がって挨拶をした。 「佐天涙子です。初春と同じく御坂さんと白井さんの友達をしてまして、中学一年生です。えっと、その、さっきは本当にすいませんでした。卵は弁償します」 申し訳なさそうに頭を下げた佐天に上条は苦笑した。 「ほんとにいいって別に。確かに特売の卵が全部割れたのはかなり辛いけど、こういうのは本当に慣れてんだよ、俺。だからそんな気にするなって」 「でも、そんな迷惑かけた上にジュースまで奢ってもらってるんですよ、本当に申し訳なくって」 「いやそれもな、御坂にすっげえ言われててさ。『男なんだから女の子に奢ってやろうとする気持ちくらい見せてみなさい、自分のできる範囲でいいから』って。で、二人は御坂の友達だから上条さんとしてはその教えを守ってるだけ」 「……あの、その気持ちはあくまで御坂さん限定で、他の女の子や私達にそういうことをしろ、と言ってるわけじゃないと思いますが」 「えっと、違うのか……?」 初春たちはこくりとうなずいた。 「そ、そうか。色々と難しいんだな」 上条は不思議そうな顔をした。 「あ、あの、上条さん。ちょっとお時間、よろしいですか?」 おずおずと佐天が上条に話しかけた。 「えっと、夕飯の準備があるからそんなにあるわけじゃないけど、まあいくらかなら。で。何?」 「えっといきなりぶしつけなんですけど、上条さんて何かすごい力を持ってたりするんですか?」 「はい?」 「だ、だから、あのレベル5の御坂さんの彼氏なんだからそれ相応の能力があったりするんじゃないかと思って。例えば……『あらゆる能力を打ち消す能力とか』」 「…………!」 上条はさっと表情をこわばらせた。 だがその変化はごくわずかで、上条と親しくない初春たちにはその変化を捉えることはできなかった。 上条はできるだけ平静を装って答えた。 「それって確か学園都市の都市伝説だっけ?」 「そうですけど、上条さんがその能力者じゃ、ないんですか?」 「俺は正真正銘のレベル0で完全無欠の無能力者、期待に添えなくて悪いけど」 「そう、ですか。じゃあ、その能力者について何か知ってることとかはありませんか?」 「うーん、そもそもそういう人って本当にいるのか? あくまで都市伝説は都市伝説なんじゃないのか?」 「じゃ、じゃあ!」 今まで話に参加していなかった初春が大声を出した。 「グラビトン事件について何か知りませんか? セブンスミストであった!」 「グラビトン、事件?」 上条は心底不思議そうな顔をした。 実際には上条が重要な役割を担った事件ではあるが、竜王の殺息で記憶を失った今の上条は全く知らない事件であったからだ。 「ご存じない、ですか?」 「悪いけど」 「そう、ですか」 残念そうな、それでいてどことなくほっとしたような表情をした初春の肩を、ぽんと佐天が叩いた。 「ほんと悪いな、力になれなくて」 申し訳なさそうにする上条に慌てて佐天はぱたぱたと手を振った。 「そ、そんな、上条さんは何も悪くないですよ。元々都市伝説ですし、御坂さんの彼氏なら何か知ってるかもってこっちが勝手に思ってただけなんですから」 「そっか、そう言ってもらえるとこっちも気が楽だ。で、それはそうとさっきから気になってたんだけどな、なんなんだ、その御坂の彼氏って? もしかして、俺のことか?」 「違うんですか?」 不思議そうに首を傾げた佐天だったが、上条はその言葉に顔を真っ赤にした。 「な、なんなんなんななんなんだよ、それ! 違う違う違う! 俺は御坂の彼氏なんかじゃないぞ!」 「え――――!!」 上条の言葉に大声で返したのは初春。 「嘘です、嘘嘘! だってお二人はいっつも週末になるたびにデートしてるじゃないですか。それに平日だって御坂さん、上条さんといっしょにいること多いんですよね? 放課後、私達と遊ぶ回数が最近減ってるんですよ、あの入院騒動以来」 「そ、そりゃそうかもしれないけどってそもそもデートってのは違うだろ。あれって付き合ってる二人がやるもんだろ、俺は御坂と付き合ってないんだから友達と遊んでるだけじゃないのか」 「……仲の良い異性と二人きりで出かけたり遊んだりするのを世間一般ではデートって呼びますよ」 「マジか?」 初春達はこくりとうなずいた。 二人の態度を見て上条は考え込んだ。 「ちょっと待て、でも、え、けど、だから……」 「上条さん」 「え?」 上条は真剣な目をした初春の気迫にごくりとつばを飲み込んだ。 「本当に御坂さんと付き合ってないって言うんですか? じゃああのお見舞いしてたときのあなたの態度は嘘なんですか? ファミレスの前で御坂さんを抱きしめたのもごまかしですか?」 「ど、どうしてそれを」 「答えて下さい」 「いや、だからその」 「…………」 初春は何か言いたそうにしていた佐天を手で制しながら無言で上条の返事を待った。 「嘘でも、ごまかしでもない。けど、付き合っては、ない」 「どうして?」 初春は悲しそうな顔で上条を見た。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんでこんなことをお前に話さなきゃいけないんだ。初対面なんだぜ、俺達」 「私が御坂さんの友達だから、じゃダメですか? 大切な友達を心配するからこういうことを言うんです」 「…………」 「ちょっと、やめなよ初春!」 上条が初春の気迫に押し黙ってしまったところで佐天が初春の腕を引っ張ってその場から離れた。 上条から離れた佐天は小声で初春を詰問した。 「どうしたの初春? なんかおかしいよ」 「佐天さんは知らないことですけど、実は以前上条さんの女性関係で御坂さんがすごく悲しんでたことがあったんです」 「え。それ、ほんと?」 「はい。結局は御坂さんの勘違いだったんですけど、とにかく御坂さんは上条さんのことを想うあまりすごく哀しんだんです。だから、御坂さんと付き合ってないって言う上条さんの言葉につい頭に来てしまって。御坂さんと一番仲が良い男の人のくせにあんなこと言うなんて、無神経すぎますよ。鈍感なだけかもしれませんけど、今の上条さんがあんな気持ちなら、御坂さんがかわいそうすぎます」 「そっか……わかった。そういうことなら私も協力するよ。それじゃ、上条さんのとこに戻ろうか。ただもうちょっと穏やかにやろう。初対面の私だってなんとなくわかるくらい、あの人、いい人だよ。きっと御坂さんに対して不誠実なことはしないと思う。だからさ、もうちょっと上手く……上条さんを焚きつけちゃおう! 鈍感だって言うんならなおのこと、ね!」 「……はい!」 佐天が初春を引き離してくれたことで上条は多少は冷静になることができた。 そして冷静になって美琴のことを考えてみた。 御坂美琴。 学園都市の誇る第三位の能力者でレベル5、しかも名門常盤台中学に通うお嬢様。 でも上条にしてみればそんな肩書きは大した意味を持たない。 美琴はあくまでも気が強くていつも自分に突っかかってくる女の子。 でも本当は世話焼きで誰よりも優しい心を持ち、誰よりも深い哀しみを知る女の子。 自分を日常に戻してくれるかけがえのない女の子。 気兼ねなく話ができ付き合うことのできる、インデックスと並んで今一番自分に近しい女の子。 インデックスと並んで、でもインデックスとは確実に違う意味で自分の心の大切な場所にいる女の子。 でも、付き合ってはいない、と思う。 好きかどうか、もわからない。 そもそも「好き」がどういう気持ちになるものなのかがわからない。 じゃあ自分にとって美琴はどういう存在なのか。 上条の気持ちがまとまりきらないうちに初春達が戻ってきてしまった。 「上条さん」 佐天が穏やかな口調で上条に話しかけた。 「ごめんなさい、さっきの初春の態度はいきすぎてました。あの娘には良く言い聞かせておきましたから」 佐天の後ろに立っていた初春がぺこりと頭を下げた。 「あ、ああいや」 「それから初対面がっておっしゃってましたけど、逆に親しくない初対面の人間だからこそ気軽に話せたりしませんか? ほら、占い師や精神科医に話すみたいに」 「あ……」 「だから、もしよろしければ上条さんが御坂さんをどう思っているか、教えていただけませんか?」 「どう、思っているか」 「好きとか嫌いじゃなくていいんです。本当に御坂さんを上条さんが今、どう思っているか、で」 「…………」 上条は押し黙ってしまった。 「御坂さんにも、誰にも言いませんから」 「…………」 上条はやはり黙ったままだった。 「あの、やっぱり、無理ですか。すいません、変なことを聞い――」 「御坂には、内緒だぜ」 「…………!」 そのとき上条達のいるベンチの近くの木からがさがさっと音がしたが、誰も気に留めるものはいなかった。 「御坂を、どう思っているか」 初春たちは息を呑んで上条の次の言葉を待った。 上条は空を見あげ一生懸命に考えた。 確かに今はいい機会なのかもしれない。 美琴が入院したときからずっと晴れない、心の中にもやもやとあるもの。 それより前から上条の心の中にある不定形をさらにわからなくする嫌なもの。 それを考えるいい機会かもしれない。 佐天の言うとおり自分だけで悶々と考えるより、赤の他人に聞いてもらう方がよりはっきりするような気がする。 上条は自分の中の美琴をひたすら思い出した。 辛い思い出、楽しい思い出、泣いた顔、怒った顔、そして、笑顔。 そしてようやくもやもやが一つの形になった。 それは。 「俺は、アイツの涙を見たくない」 「涙?」 「俺は以前、アイツが深い絶望に包まれたときを知っている。そしてそれから解放されたときの笑顔も知っている。そのとき思った、コイツの笑顔は最高にかわいい、コイツには本当に笑顔が似合うんだって。この笑顔は絶対に曇らせちゃいけないんだって」 上条は深く息を吐いた。 「俺は、誰の涙も見たくない。できることならこの世の全ての人に笑顔でいて欲しい。泣いてる人がいたらどんなことをしてでも笑顔にしてやりたい、その笑顔を守りたい、それが俺だから。でも、もし、たった一人の笑顔しか守れないときが来るなら、たった一人の涙しか拭えないのなら、俺は、御坂を選ぶ」 「…………!」 初春達はごくりとつばを飲み込んだ。 「世界中の人の中からたった一人を選ばなければいけないなら、俺は、御坂美琴って女の子を選ぶ。それが、俺にとっての御坂美琴って奴だ」 夢から覚めたように上条は初春達の方を向いた。 そしていたずらっ子のように自分の唇に人差し指を立てた。 「御坂には、内緒だぜ」 顔を真っ赤にした初春と佐天は何度もうなずいた。 上条の告白の後、しんと辺りは静まりかえった。 だが次の瞬間、突然上条を激しい電撃が襲った。 「どわ! な、なんだなんだ!?」 慌てて上条は幻想殺しで電撃をかき消した。 その音に夢見心地だった初春達も我に返った。 「え? え? え?」 「あ、あ……アンタって男はー」 上条達三人の目の前に顔を真っ赤にした美琴が立ちはだかった。 その体からはバチバチと電流があふれ出していた。 実は初春達が上条と会った直後には彼らのいる場所に美琴はやってきていた。 だが尾行に対する後ろめたさや出るタイミングを逸していたことから彼女は仕方なしに上条達のいるベンチの側の木の影に隠れていたのだ。 三人の様子をうかがい彼らの間に何もなければそれで良し、もし万が一上条が初春や佐天にフラグを立てようとしたら超電磁砲を撃ってでもそれだけは阻止しよう、そう思っていた。 途中、上条の「付き合っていない」発言にショックを受けたりはしたもののなんとか当初の目的は達成されようとしていた。 だが彼らの会話が佳境を迎えようとした時、彼らの様子が変わった。 上条が本当に美琴への想いを吐露しはじめたのだ。 「あの馬鹿、なんてこと言ってんのよ! 初対面の、しかも私の友達に!」 上条の告白を聞きながら美琴は電流の漏電が始まっていることに気づいていた。 だがそれを止めることができない、というのも理解していた。 「どうしよう、ふにゃにゅ、どう、にゃにぃ、しよ、止まみゃにゃにゃ……」 なんとか心を落ち着けようとする美琴だったが、上条の告白を聞いたショックに自分の心が全く追いつかない。 「だって、にゅにゅにょ、たったひとふにゃりって、わ、わにゃしが、そにょ大切……」 結局オーバーヒートを起こした精神は、あっさり「切れ」た。 気がついた時には美琴の漏電は雷撃の槍へと変化して上条を襲っていた。 「み、御坂、さん? どうしてここへ?」 あせる佐天を無視して美琴はゆらりと上条へ近づいた。 その両手はバチバチと嫌な感じに帯電している。 「みさ、御坂、落ち着け! なんかよくわからんがとにかく落ち着け! ていうか土下座でもなんでもするから落ち着いて下さいお願いします!!」 上条は涙目になりながら必死に懇願したが三割の恥ずかしさと五割の嬉しさ、さらに二割の怒りで頭がいっぱいの美琴は全く聞く耳を持っていなかった。 無言で上条へ雷撃の槍を投げつけはじめていた。 上条は必死で幻想殺しを使ってそれらをいなした。 「アンタは、どうして……」 「えっと、何がどういうことで怒ってるんでしょうか、御坂様?」 「そういう大切なことは……」 そこまで言ったところでバチバチッと今までで最大電圧の雷撃の槍が完成した。 美琴はもちろん躊躇なくそれを上条に投げつけた。 「ちゃんと私に直接言えっつってんでしょうが――――!!」 「うわ――!!」 上条は必死になって逃げ出した。 初春達は鬼ごっこをはじめた美琴達を呆然とした表情で見物していた。 「ねえ初春」 「はい」 「すごい告白だったね」 「はい」 「下手に『好き』って言うよりよっぽど破壊力あったと思うけど」 「ですよね。あれで付き合ってないとか言われても」 「説得力ないよね」 「ですよね」 「結局上条さんって、ただの鈍感な人なだけみたいだね」 「御坂さん、苦労しそうですね」 「ほんと。……あれ? 初春、上条さんの、右手」 「え?」 「御坂さんの電撃、かき消してない?」 「あ……」 「初春……」 「…………」 「……辛い、よね」 「……き、気にしないで下さい、だって私のは『憧れ』だったんですし。それに」 目をごしごしとこすった初春は、顔を真っ赤にして上条を追いかける美琴を見た。 それは全身から「好き」の感情を溢れさせた、初春や佐天はもとより、白井さえも見たことがないであろう美琴の姿であった。 「あの二人の間になんて、入れないですよ」 「そっか……」 「はい……」 「……そだ、帰りにタイ焼き、奢ったげるね」 「……白いのにして下さいね」 「えー、あれ高いのに」 「だから奢ってもらうんですよ」 初春と佐天はまだしばらく続くであろう美琴と上条の鬼ごっこを楽しそうに見つめていた。 「いったいいつになったらちゃんと言ってくれるのよアンタは!」 「だから何がだよ!」 「たまには自分で考えろこの馬鹿! それに私のことは名前で呼べって何度言えばわかるのよ! 猿以下かアンタの記憶力は!!」 「不幸だ――!!」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド
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(二日目)10時22分 「なぜ本気を出さぬ?」 『魔神』は三〇メートル先に立つ白髪の少年に問いかけていた。 「…テメェこそなぜ本気を出さねェ。俺なんて秒殺だろうがよォ」 『一方通行(アクセラレータ)』は額に浮かぶ汗を拭った。 「余の遊戯だ。確かに貴様ごとき、一瞬で捻り殺すことはできるが、それでは余は満足できぬ。それに――――――――――」 ドン!!という爆音とまばゆい光にその声は遮られた。 粉塵爆発。 周辺に舞っている塵や埃を利用し、白髪の少年は一気に起爆させた。 己が身は「反射」を使い、無傷。 ベクトル操作で辺りの煙を吹き飛ばし、三〇メートル先に立つ少年の姿を見た。 「…チッ!」 『魔神』もまた、無傷だった。 「…ふむ。会話の途中とは頂けないな。『魔王』よ」 「その俺のアダ名は何とかナンねぇのか?そんな呼び方すンのはテメェだけだ」 「王は神になれない。人であるがゆえに、な」 「アァ?」 「これでも余は貴様を讃えているのだぞ?人の身で『神』の領域に踏み入った者への称号でな」 「テメェも人間だろうが。『ドラゴン』だか『魔神』だか知らねェが、見た目は『上条当麻』っつうフツーのコ―コーセーだろ。そんなテメェが人を見下してンじゃねぇよ」 「余より下等な生物を見下して何が悪い?」 「…テメェ!!」 「その憤りを払拭してみせよ、『魔王』。貴様に余を屈伏させるだけの力があったらの話だがな」 『魔神』が右手をかざした。 突如、轟音と共に爆風が吹き荒れる。 白髪の少年は一瞬で右方に逸れると、体中に触れた大気を操り、圧縮させる。 衝撃波。 秒速二〇〇メートルを超える風圧を『魔神』に向け、「反射」を使い、後方へと大きく距離を取った。 遮る壁や建物は周囲に存在しない。大気をコントロールし、『一方通行(アクセラレータ)』は上空五〇メートルに浮かぶ。 衝撃波が直撃した地面はアスファルトごと抉り取られ、砂埃が尾を引くように一〇〇メートル先まで舞っていた。 それでも『魔神』は無傷だった。 塵一つ、制服に付いていない。 『魔神』は平然と言葉を投げかける。 「分かったであろう?」 「ああ、テメェの能力は物体を消滅させる力だ。手をかざした瞬間に爆風が吹き荒れるのも説明がつく。テメェは手をかざした前方数百メートル直線上の物体を『大気ごと』消して、そン時の真空状態の空間に周囲の大気が入り込むから爆風が生じるんだろ」 「その通りだ。しかし、これは私、いや俺の能力と言った方がいいのか。『上条当麻』としての能力に過ぎん」 「…何だと?」 「貴様には全力を出せと言っておきながら余は鱗辺すら出していない。その無礼を詫びよう。本来の『余』の力を見せてやろうではないか」 白髪の少年は絶句した。 (あれが実力じゃないだと!?フザけんな!じゃあ一体…) 『魔神』は右手を白髪の少年に向けて突き出した。 「『現実守護(リアルディフェンダー)』、『幻想守護(イマジンディフェンダー)』を解放する」 パン!と『魔神』の右腕から服が弾け飛んだ。 右腕の端々から漆黒の『何か』が噴出し、右腕全体を覆い尽くし、腕よりも一回りも二回り大きく、黒い『何か』が渦巻いていた。禍々しい黒い『何か』はあるモノを形成する。 『竜王の顎(ドラゴンストライク)』 二メートルを超す巨大な漆黒の竜の頭部。竜の目が白髪の少年の目が合うなり、人間が飲み込めそうなほど大きな口を開け、竜の顎が地面に着いた。 「構えよ。『魔王』」 その言葉に『一方通行(アクセラレータ)』は戦慄した。喉が一瞬にして冷え上がる。 「――――――――――――――――――――――『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』」 突如、辺りが眩い光に覆われた。大気圏すら突破する巨大な光線が、放たれた。 (二日目)10時28分 「知りたいですか?」 唐突な第三者の声に、御坂美琴と白井黒子は口を噤んだ。 声の聞こえた方向に目をやると、一人の少女が立っていた。 絹のように麗しい漆黒の長髪に、深遠な黒い眼差し。それとは対照的に透き通るような白い肌。黒一色のコートを羽織る長点上機学園の女子生徒。 名を至宝院久蘭。長点上機学園高等部一年生。御坂美琴と同位にたつ『超能力者(レベル5)』の第三位。 「お姉様!?」「久蘭お姉様!?」「ああ、何とお美しい!」「あれが久蘭お姉様…」「長点上機学園の制服もお似合いで…」などと周囲の常盤台中学の女子生徒から黄色い声が上がった。 「皆、お下がりなさい」 その言葉一つで、騒ぎ立てる常盤台中学の生徒を制した。 熱い眼差しを送りつつも、無言で久蘭にお辞儀をして身を引く女子生徒たち。 「今、外では大規模な戦闘が展開されています」 「魔術側との戦い?…もしかして、また『戦争』を起こす気なの!?魔術師達は!」 「いいえ」 「これはたった二人の能力者の戦いです」 「『絶対能力者(レベル6)』同士の争い。それはもはや喧嘩と呼べるものでありません」 「これは――――――――――――――――――――――――――――――『戦争』です」 御坂美琴は至宝院久蘭に目を向けた。 全てを飲み込むような漆黒の瞳。彼女の眼を見ていると、心の全てを見透かされるような感覚に捕らわれてしまう。 実際に、その通りなのである。 「これから当麻様のところへ赴くのでしょう?」 久蘭は微笑みを讃え、軽く首を傾けた。じっと御坂美琴を見続けていた。 「…ええ」 御坂美琴は、強い意志が宿った表情で頷いた。 「お、お姉様?正気ですか!?外は今、『第一級警報(コードレッド)』が敷かれていますのよ!?それを無視すれば反省文どころでは済みませんわ!」 ツインテールの少女が揺れた。愛しのお姉様の行動が理解できなかったのだ。確かに彼女の心中は痛いほど分かる。しかし、いくら彼女が『超能力者(レベル5)』の第一位と言えど、相手はお姉様の恋人であり、また学園都市最強の『絶対能力者(レベル6)』である少年。その上、今回の出来事は私情を挟めるレベルでは無い。 そもそも『絶対能力者(レベル6)』と『超能力者(レベル5)』が別々に順位を付けられている時点で、両者には絶対的な隔たりがあるのだ。 久蘭が言う『戦争』という言葉も決して的外れな表現では無い。 半年前に起こった魔術側との『戦争』を食い止めたのは他ならぬ『絶対能力者(レベル6)』の上条当麻なのである。『一方通行(アクセラレータ)』を含めた『絶対能力者(レベル6)』の二人無くしては、先の『戦争』は停戦どころか『学園都市』側の敗北を喫していたのかもしれないのだ。たった二人で、学園都市に匹敵する大勢力と渡り合える力を持つ能力者(カイブツ)。その二人の争いの中に飛び込んでいくことなど自殺行為に等しい。 今年になって発表された『絶対能力者(レベル6)』の存在に、今一つ実感が湧かない大多数の人間よりも、上条当麻の実力を目の当たりにしている彼女だからこそ、そのことは誰よりも理解しているはずなのである。それを踏まえた上で、彼女は愛する者の所へ赴こうとしている。 彼女の心情を一番に理解していたのは、彼女を慕う白井黒子ではなく、同じ男性を愛する至宝院久蘭だった。 至宝院久蘭は御坂美琴に彼女が着ていたコートを羽織らせた。 「これを…」 「!!これって」 久蘭が常磐台中学に在籍していた時からいつも着用していたコート。地面に付きそうなくらい長いコートであり、見方によってはマントにも見える。彼女にとってこれがどのような物かを、どれだけ大切な物なのかを、御坂美琴は知っていた。 「美琴さんにはあまり必要ないかもしれませんけど、少しはお役にたてるかと思います」 「受け取れるワケ無いじゃない!これは…」 「平気ですよ。もう一着ありますから」 「…はい?」 いつの間にか久蘭の隣には、黒いコートを携えた栗色のウエーブのかかった髪の常盤台の二年生、剣多風水が立っていた。彼女もまた、久蘭と同じ黒いコートを制服の上に着用している。 「お姉様、これを」 久蘭は絹のように美しい長髪を掻きあげ、前に下ろすと、風水は久蘭の後ろに回ってコートを羽織らせた。たとえ学校が離れようとも、久蘭派閥を二代目の当主となった風水は、いつまでも久蘭の従順な僕であり続けるらしい。 「ありがとう。風水」 久蘭は風水の手をとり、手の甲に軽くキスをした。ボン!と茹でタコのように顔を真っ赤にする剣多風水。 その光景を薄い目で見つめる御坂美琴と目を輝かせて凝視する白井黒子。 「実は、これがわたくしのです。美琴さんが着ているのはわたくしが特注して作らせたもの。サイズはどうですか?合っているでしょう?」 そう言われてみれば、と御坂は思った。久蘭は御坂美琴より5センチほど身長が低い。久蘭に合わせて作られたのなら、若干小さく感じるはずだ。だが、自分が着てみて何の違和感も無かった。 いつ自分のサイズを知り得たのか、などとは聞くだけ無駄なのである。久蘭の持つ情報力に呆れる御坂美琴だった。 「心配してくれてありがとう、美琴さん。私はもう大丈夫だから…受け取ってくれるかしら?」 「…本当に、いいの?」 「ええ。それは貴女のために用意したんですから。そのコートも、美琴さんのことを気に入ってくれるわ」 至宝院久蘭の『お姉様』としてでは無く、『友人』としての笑顔。それに御坂も友人としての笑顔で答えた。 「ありがとう、久蘭。大切にするわ」 「そうでないと困ります。一着一〇〇〇万程しましたから♪」 ぶっ!と予想以上の値段に御坂美琴は吹いた。 「ちょ、これ!そんなにするの!?」 「ええ、デザインだけではなく、本来の役割もきちんと担っていますのでご安心くださいな。『命』はお金では買えませんから」 「…サラリとへヴィなことを言うわね」 美琴は若干頬を引きつらせつつも、笑顔を崩さない。ツインテールの少女は「これが一〇〇〇万もしますの?」と、目を丸くして、三人が羽織っているマントのように長い漆黒のコートを交互に眺めていた。 「美琴さんと当麻様はわたくしの命の恩人。あの時の借りはこれで返上ですわね」 御坂は袖を通すと、その場で一回転した。くるりとコートが靡く様は、常盤台中学で培われた御坂美琴の高貴さに、より一層、箔がついているように思われる。 「これ、似合うかしら?」 等身大の鏡が無く、自身の様子が分からない御坂は少しばかり恥ずかしがっていた。一般的に見ればよく似合っているのだが、自分自身で確認できなければ、やはり落ち着かないものである。周囲の常盤台生からも熱が籠った視線を浴びる。 「ええ、とっても。よくお似合いですわ」 「そ、そう?」 「…御坂女王様、とお呼びしてもよろしいですか?お姉様。というかわたくしの携帯の待ち受けにしてもよろしいですかよろしいですね!?」 「…私の寝顔の待ち受けよりはマシだからね。あとで写メ見せてよ」 カシャカシャカシャ!とあらゆる角度から撮り続けるツインテールの少女。また数人の常盤台生も御坂の姿を携帯で撮影していた。御坂美琴は白井を無視して、一番近くにいた金髪の常磐台生に話しかける。 「ねえ、さっき撮った画像、見せてくれる?」 御坂に突然話しかけられた女子は、慌ててペコリと頭を下げ、両手でゲコ太ストラップが付いたピンク色の携帯を献上した。 「え?あ、はい!どうぞ!」 手渡された携帯を御坂は覗き込んだ。先ほど撮られた画像を見て、少し首をかしげる。 「…うーん。なんか私のキャラと合ってないような気がするんだけど……やっぱりこれ、似合わないわよね?」 それを聞いた女子生徒は、両手でブンブン!と手を振りながら、御坂の意見を否定した。 「そ、そんなことありません!すごくお似合いですよ!久蘭お姉様に風水お姉様、それに御坂お姉様が並ぶとまさに壮観です!」 「そう?ありがと♪」 御坂はそう言って、携帯電話を返した。携帯を受け取った少女が緊張しているのは丸分かりである。そんな態度を見て、御坂は苦笑いをした。 彼女は分け隔てなく生徒に接しているつもりなのだが、学園都市第一位というレッテルが 「お、お姉様!すでに三〇枚は撮りましたのよ!ああ~!もうこれは黒子の週刊お姉様ベストショット10に堂々のランキング入りですわ!」 「……そう。よかったわね」 ツッコミたい衝動に駆られた御坂だったが、これ以上彼女に言及すると、愛しのお姉様について熱く語り出すのは目に見えていたので、何とか押し留まった。 二人のやり取りを見ていた久蘭は、一言、口にした。 「さてと、では美琴さんには一体何をしてもらいましょうか?」 「はい?」 久蘭の発言に首を傾げる御坂美琴。そんな美琴の表情に、久蘭はよりいっそう笑みを浮かべた。 「美琴さんにあるわたくしの『貸し』についてですわ」 「……お姉様?私、いつ貴女に貸しをつくりましたっけ?」 「あら?先ほどの情報料は別枠でしてよ?」 「何の屁理屈ですか?久蘭お姉様。わたし、そんなことで借りを作ったなんて認めませんわよ」 御坂の額に嫌な汗が流れ落ちる。含み笑いを浮かべる意地悪い笑顔。こういう表情をしている久蘭は手に負えない。 「そんなことをおっしゃってもよろしいのかしらー?美琴さん?」 「な、なんのことかしら?」 久蘭は美琴の傍に駆け寄り、そっと耳打ちする。 「大覇星祭の三日目の昼休みと五日目の夜…」 「っ!!!」 御坂美琴は絶句した。 「…の時のことは黙っておいて差し上げますわ」 「な、な、な…」 「……当麻様って、コスチュームよりもシチュエーションにこだわるのかしら?」 「ぜーったい、黙っときなさいよアンタ!!も、ももももしその事を誰かに告げ口したら…」 「分かってますわよ。『可愛い可愛い美琴』さ・ん?」 唇を大きく裂いて悪質な笑顔を作る久蘭。もはや御坂になす術は無かった。一番の弱みを握られてしまった。一番握られたくないヤツに。 「…この借りはいずれ返すわ。久・蘭・お・姉・様?」 「では、当麻様とのデート一回で手を打ちましょう♪」 ビキリ!と眉間にしわを寄せる御坂美琴。 「おーねえーさまー?…まだあきらめてないんですかー?私と当麻は…」 「うふ♪わたくし、他の女性と肉体関係を持ったところで諦めるような恋をした覚えはないですので♪」 正々堂々と、満面の笑顔で久蘭は試合続行宣言をした。 「なっっ―――ッ!!?」 強烈な爆弾宣言に絶句する御坂美琴。「に、肉体関係?み、御坂お姉様が?」などと顔を真っ赤にして剣多風水は呟いていた。箱入り娘の彼女にとっては刺激が強すぎる内容だったらしい。 言葉を詰まらせる御坂を見据え、久蘭は真剣な表情で、その場の空気を破った。 「でも、今、当麻様に何かしてあげられるのは他ならぬ貴女だけです」 鋭い視線が御坂美琴を射抜く。ハッと我に返った御坂はその視線を真っ向から受け止めた。 「ですから、お願いします」 久蘭は大きく頭を下げた。 周囲の常盤台生はギョッとした。 常盤台中学を卒業してもなおその名前と影響力がある久蘭お姉様が、学年が一つ下の御坂美琴に頭を下げているのだ。その異様さに皆は動揺を隠しきれなかった。 「…頭をお上げください。久蘭、お姉様」 久蘭の深淵な黒い瞳が、美琴の顔じっとを見つめる。 御坂は久蘭に何と言葉をかけていいか思いつかなった。 そんな思いは久蘭の声に遮られる。 「風水」 「はい。お姉様」 「協力してくれるわよね?」 「もちろんです」 背後で風水は了解の会釈をする。 「今から、常盤台中学の生徒と教職員に『御坂さんはずっとここに居た』という暗示をかけます。風水の派閥の方々は協力してくれるので操作はしませんが、いいかしら?」 「…ええ、お願いするわ」 「これで当麻様は一日中ずっと貸していただきますので♪」 「ぐっ!」と、歯ぎしりする御坂美琴。 「それで、黒子さんはどうします?」 美琴、久蘭、風水の三人の視線が白井に集まった。 やれやれ、と白井はため息をつくと当たり前のように返事をした。 「何を言っていますの?わたくしも行くに決まってるじゃありませんか。久蘭お姉様」 「黒子…アンタ、分かってんの?」 行動を共にすれば、間違いなく白井黒子は『風紀委員(ジャッジメント)』を辞めなければならなくなる。だが、白井黒子に迷いは無い。 「わたくしはどんな事があろうともお姉様についていきます。お姉様の傍が、わたくしの居場所ですから」 ストレートすぎる黒子の言葉に、御坂は今更ながら黒子の存在の大きさを実感した。久蘭と風水も目を見合わせて微笑んでいる。 「…ありがとう。黒子」 「では、お姉様とのデート一回で手を打ちましょう♪」 予想通りの反応に、御坂美琴は大きなため息をついた。けれど今回は仕方がない。自分のワガママに付き合ってくれるのだ。いざという時に頼りになる後輩に、美琴は笑顔で返事をした。 「…分かったわ。約束するわよ」 ポカン、と。白井は口を開けて、お姉様を見つめた。 思いもよらぬOKの返事にワナワナと体を振るわせ、キラキラと瞳を輝かせる白井黒子。 「ほ、ほほほほ本当ですのお姉様!?うふえへあはー!!夜は絶ーっ対、お姉様を寝かせたりはしませんわよ!覚悟してくださいませ!」 「な、何をする気なの!?黒子!あんまりベタベタすると電撃喰らわせるわよ!」 「あらー?当麻さんにはあんなことやこんなことをされても文句一つも言わないのに、私にはスキンシップも制限されますのーん?」 「…別にいいじゃない。付き合ってるんだから」 御坂美琴は頬を真っ赤に染めながら、黒子と目を逸らした。 お姉様の反応から分かる想定外の新事実に、白井黒子は愕然とする。 「って、お姉様ああああああああああ!?カマかけてみただけなのに、も、もうそこまで進展してますの!?あんなことや?こんなことまで!?」 ツインテールの少女の脳内では、「当麻…」「美琴…」などと名前を呼び合い、愛を確かめ合う二人。お姉様は何故か『堕天使エロメイド服』を着用しており、「これ、洗うの大変なんだからね!」と、頬を赤く染めるお姉様に、上条当麻は「へっへっへ。まあ、いいじゃないかぁ★」と、ビリビリと服をやぶ(自主規制)。 ブチッ!と、 白井の頭の中で何かが切れる音がした。 「フッ、あンの若造が!!きいいいいいいいいっ!もう『絶対能力者(レベル6)』なんて関係ありませんわ!第一七七支部の『風紀委員(ジャッジメント)』ことこの白井黒子が不純異性交遊の罪で抹殺(ころ)します!! さあ!行きますわよ、お姉様!!首を洗って待っていやがれですの!!よくもお姉様をおおおおおおおおおおおおおおお!!」 「ちょ、ちょっと!黒子ってば、待ちなさいよー!!」 鬼のような形相で『空間移動(テレポート)』をしながら、いち早く非常エレベータに向かう白井。御坂は慌てて彼女の後を追った。
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(手続の却下)意商 第一八条 特許庁長官は、第一七条第三項の規定により手続の補正をすべきことを命じた者が同項の規定により指定した期間内にその補正をしないとき、又は特許権の設定の登録を受ける者が第百八条第一項[特許料の納付期限]に規定する期間内に特許料を納付しないときは、その手続を却下することができる。(改正、昭四五法律九一、昭六二法律二七、平五法律二六、平六法律一一六、平八法律六八) 2 特許庁長官は、第一七条第三項[手続の補正]の規定により第百九十五条第三項の規定による手数料の納付をすべきことを命じた特許出願人が第一七条第三項の規定により指定した期間内にその手数料の納付をしないときは、当該特許出願を却下することができる。(本項追加、昭四五年法律九一、改正、昭五九法律二三、平五法律二六、平八法律六八) 旧法との関係 二四条 趣旨 一項は、一七条三項の規定により特許庁長官が指定した期間内に手続の補正がされない場合及び特許料が納付されない場合の処置ついて規定したものである。本項では「却下することができる。」と規定しており、却下するか否かは特許庁長官の裁量権に属するのである。たとえば、三〇日の指定期間が経過した翌日に手続の補正がされ、その補正がされた状態において手続を続行することが諸般の事情から考えてなんら支障がないような場合は却下することなく、補正を認めて続行することも可能なわけである。 二項は、昭和四五年の一部改正において追加された条文であり、一九五条三項の新設に伴うものである。一九五条は出願料の納付について定めたもので、同条二項(従来は一項)の規定の趣旨によれば、出願審査請求料はその請求人が負担すべきであるが、第三者が出願審査の請求をした場合において、出願人が明細書の補正をした結果、請求の範囲に記載された請求項の数が増加したときにも、請求人である第三者に追加の出願審査請求料は出願人が納付しなければならないこととした(一九五条三項)。 この出願審査請求料を納付しないときは、特許庁長官は、一七条三項三号の規定により補正を命ずるが、その命令に応じない場合、その出願を却下することを本項で定めたものである。 本来、出願審査請求料を納付しなかったのであるから、この三項を新設しないと一八条一項の規定により出願審査請求手続を却下することになる。しかしこの場合には、出願審査の請求は第三者のした手続であり、出願人が負担すべき手数料を納付しないことにより第三者のした出願審査請求手続が却下されるのは適当でない。そこで請求項の数を増加させながらその分の出願審査請求料を納付しないのは出願人にその出願を維持する意思がないものとして出願そのものを却下することにしたのである。 なお平成五年の一部改正において、出願公告の日から特許査定謄本送達日までに三年以上を経過した場合の特許料の納付期間を定めた一〇八条二項ただし書一号が削除されたため、本条中の該当箇所を削除した。 さらに、平成八年の一部改正において、本条中の「無効にすることができる」を「却下することにできる」に改めたが、これは行政庁の行う向こう処分は通常、確認行為であり、「無効にすることができる」のように形容的行為として規定するのは、講学上の「無効」の概念を考慮しても、あまり適切ではないと考えられたことによるものである。法人税法(七五条三項、一二三条)、所得税法(一三三条三項)、相続税法 (三九条二項)、執行官法(一五条三項)などでも、すべて「申請(申立て)を却下することができる」旨規定されている。 [字句の解釈] 1 <特許権の設定の登録>六六条二項の規定により第一年から第三年までの各年分の特許料の納付又はその特許料の納付の免除若しくは猶予があったときに特許権の設定の登録がされることになっている。 2 <却下>該当特許出願が却下されたときは、三九条の規定の適用については、初めからなかったものとみなされ、同一の発明についてその後に特許出願されたものに対しても、先願としての効力を主張し得ないことになる。しかしながら、二九条の二の規定の適用については、出願公開又は特許掲載広報の発行がされていれば、後願を排斥する効力を有する。(青本第17版)
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激動のサバイバルが終わり、上条以下全員の怪我も治ってバーチャル結婚式で一方通行がまた鼻血を出した翌日。 とある高校の男子寮で。 土御門元春が言う。 「この状態をどうすりゃいいのかにゃー…」 するとその隣わずか5センチから声が。 「ホントに困ったねー。」 声の主は。 白雪月夜。 ここの所一緒に寝ることの多い二人であり、今現在置かれている状況も何度も経験しているが、それでも言わざるを得ない。 「月夜の寝相が悪すぎだぜい。」 「私のせい!?ちょっとそれはひどくない?」 どういう状況かと言うと。 「ここまでからまったらどうやって起き上るのか分からないにゃー!!」 ハイ、この二人絡まってます。 「ちょっ!元春動かないで!!動くとっ!!…あぅっ!そこ触られると…ッ!」 「やめろ月夜!朝から耳元でそんな声出されるとー理性が崩壊するーっ!!!!!」 とまあこんな感じで土白が朝から昨夜に続いての第3ラウンドに突入した頃。 隣の部屋では。 「何か朝からまたやってるなあの二人。」 「まったくねえ。ここ壁薄いから昨日は寝れなかったじゃない/////」 「しかも今日はシェリーにつきあう罰ゲームだし…不幸だ。」 「まあいいじゃない。今日は土曜日なんだし明日休めばいいじゃない。」 それもそうだなと言い、朝食を楽しむ上琴。 だがこの時彼らはしらなかった。 シェリーの手伝いと同時に常盤台のお嬢様の相手(ヤバい意味で)をすることになるとは。 その頃、インデックスとステイルが勤める教会では二人の女性がいがみ合っていた。 「シェリー、飾利から離れなさい。いい加減にしないといくら温厚は私でも怒りますよ?」 「おー怖い怖い。なあ飾利。こんな怖い神裂がいる学園都市なんか離れてさ、うちの女子寮に来なさいよ。あんたなら大歓迎だからさ♪」 「う~~~~、シェリーさんってばさっきから頭撫ですぎです~~~。くすぐったいじゃないですか~~~」 「シェ、シェリー・クロムウェル! その羨ましい手をどけなさい! そして飾利を私に返しなさい!」 神裂とシェリー、二人の女性は男を取り合ってるのではなく初春を取り合っていた。 実はシェリー、初春の花飾り+彼女の容姿に芸術(アート)を見出し、さらに彼女の性格や仕草も気に入ってしまったのだ。 そのせいもあって合宿の次の日のデート(初春と神裂と建宮の変則デート)にも乱入、見事にぶち壊し、神裂との今の関係に至っている。 「やれやれ。毎度のことながら良く飽きないね、あの二人」 「そうだね。かざりはかざりで楽しそうだし、かおりもシェリーもじゃれ合ってるだけだから心配するのも無駄になってきたんだよ」 「……インデックス、せめて彼女達の足元にボロ雑巾のように転がってる建宮の心配はしてあげよう。これも毎度のことだけどね」 その様子を温かく見守っているのはインデックスとステイル、そして初春達の足元でボロボロにやられて倒れているのは建宮だ。 ここ最近ではこんな光景がほぼ毎日繰り広げられているので誰一人として本気で心配する者は居なかった。 そこへ来訪者、ネセサリウスでは新入りの闇咲がやって来た。 「初春、こちらの準備は全て終了した。あとは君達が来れば完璧だ」 「わざわざありがとうございます闇咲さん。じゃあシェリーさん、行きましょうか♪ 新型ゴーレムの性能テストを兼ねた罰ゲームの始まりです」 「お、もうそんな時間か。ところでさ飾利。本当に思いっきりやっても大丈夫なのかい? 私としてはありがたい話だけどさ」 「問題ありませんよ。ジャッジメントの訓練所、それに兵器試験場も今日一日は私達の貸切りですから♪ こちらの情報が漏れる心配もありません」 魔術師達には初春のやったことの凄さはイマイチ分からないが、第二学区をほぼ貸切状態にした初春の手腕は凄いというよりも異常の域に達しているのだ。 「それにしてもさ、飾利がネセサリウスのサポートをするって聞いた時は心配してたけど、ホント色々とやってくれて助かってるよ♪」 「当たり前です。飾利は私の可愛い妹なのですからそれくらいは朝飯前なんです!」 「神裂、別にあんたを褒めたわけじゃないから。つーかあんたは付いて来なくていい。大人しく建宮連れて帰りな」 再び始まった神裂とシェリーの喧嘩を無視して、初春は罰ゲームと言う名のシェリーの新型ゴーレムの性能テスト開始の旨を参加者にメールで伝えた。 参加者の当麻、土白、一方通行、浜面(浜面はシェリーの要望)よりも早く現地入りする為に教会を出ようとする。 「闇咲さん、重いかもしれませんけど建宮さんを背負って来てくれますか?」 「分かった」 「インデックスさんとステイルさんはどうします?」 「わたしもシェリーの新しいゴーレムがどんなものか興味あるから行くんだよ」 「暇だから僕も同行させてもらうよ(インデックスが行くのなら当然僕も行くに決まってる。彼女は僕が守るのだから)」 こうして初春、インデックス、ステイル、闇咲、気絶中の建宮は第二学区へと出発することに。 喧嘩してる神裂とシェリーは自分達以外に誰も居ないことに気付き、慌てて初春達の後を追うのだった。 そして罰ゲーム参加者もまた、初春からのメールを受け取ると、それぞれに第二学区へと向かう準備を始める。 「あの美琴さん。なんで一緒について来るのでせうか?」 「なんでって、当麻の近くに居たいからだもん。邪魔はしないから。」 「分かった。じゃあ、行きましょうか。」 と言うと、上琴は第二学区に向かった。 また、土白、一方通行、浜滝も同様に第二学区に向かった。 また、滝壷は美琴と同じ理由で浜面について行き、打ち止めは行こうとしたが、一方通行に来ない方がいいって言われたので来なかった。 そして数十分後、上琴、土白、一方通行、浜滝は第二学区のジャッチメントの訓練場に着いた。 「皆さん着きましたね。その前に言っとくことがあります。一応ゴーレムは本気で戦いますので気よ付けて下さい。」 「「「「「ええええええええええええええ!!」」」」」 みんなは、本気で戦うとは思っていなかったのだ。 「ちょっと待つにゃ。本気で戦うって聞いていないぜよ!!」 「だって言ったら来なかったでしょ♪しかも本気で戦わないと意味無いではないですか♪」 (*1)))))) 上琴、土白、一方通行、浜滝は初春が恐ろしいと思った。 また美琴は、初春が恐ろしいと思った事と昔の初春に戻って欲しいとも思った。 「それじゃあ、五人とも準備はいいですか?」 「「「「「準備いいわけ無いだろう(にゃ)(がァ)!!」」」」」 「そんなこと言ってないでさっさと殺るぞ。」 という事で五人とも納得いかなかったが、新型ゴーレムの性能テストが始まった。 「じゃあまずはコイツのテストからいくとしようか。行きなモトハル2nd!」 「「Nya~~~~~~~」」 シェリーが造り出したのはオルソラの乱で当麻と浜面を苦しめたゴーレム・モトハルの二代目ことモトハル2nd、しかも2体。 ゴーレムの性質上、全身形態を2体以上作れないので2体が限界なのだが。 モトハル2ndの泣き声がかなり脱力効果を与えるのだが、それを帳消しにするほどの速度でモトハル2ndが5人に襲い掛かる。 「うわっ! こいつ前の土御門モドキより早いぞ!」 「おいおいこんなの冗談じゃねーぞ! しかも前より戦い方が気のせいか器用にあだっ!」 かつてモトハルと戦ったことのある当麻と浜面はモトハル2ndの性能向上に驚きを隠せない。 一方、モトハルの劣化バージョンしか知らない土御門、一方通行、月夜はモトハル2ndの動きにビックリしている。 「おい本物。あれお前と同じくらいの強さじゃねェか! 責任取れコラァ!」 「本物とか責任とか変なこと言うにゃー! 俺だってビックリしてうおっ、危なっ!」 「た、確かに早いし攻撃の組み立ても見事だけど私の吹雪ならチョチョイのチョイだよ♪」 そう言うと、月夜はモトハル2ndをまとめて吹雪の竜巻で粉砕する。 しかしそこへ初春が笛を吹いて月夜の所へ近づくと、とんでもない規制をかける。 「白雪さんの吹雪、瞬間凍結は禁止です。これはあくまでシェリーさんのゴーレム性能テストですからあの手の広範囲攻撃は禁止です」 「えーっ! じゃあ私はどうすればいいの? 他に戦い方なんて知らないよ!」 「合宿の時にやったという氷の翼と剣、あれならいいです。これを機にそっちの戦い方を覚えましょう」 初春に言われて氷の翼や剣を使った戦い方も磨きたいと思っていた月夜は快く了承した。 次に初春は土御門、一方通行を呼び寄せて彼らにも規制をかける。 「土御門さんは術の使用は禁止です。みんなも巻き添えにしますからね。一方通行さんは電極の充電は2回までです」 「にゃー、確かに『赤ノ式』も『黒ノ式』も周りを問答無用に巻き込むから仕方ないぜよ」 「ちょっと待てコラァ! 充電二回ってこたァ一時間半しか能力使えねェってことじゃねーか! それで5時間休憩無しは地獄だぞ!」 「アホ毛ちゃんを連れてこなかったのが悪いんですよ。そうしたら4回充電出来たのに。2回でも譲歩したんですよ、だってそうしないとホラ」 土御門は初春の規制を素直に受け入れると、拳銃(弾はゴム弾)を取り出した。 一方通行は拳銃を持ってきてなかったので能力オンリーでやらないといけないわけだが、充電が2回だけなことに文句を言う。 しかし初春が指差す方向を見ると、そこには当麻が怒りのオーラ全開で立っていた。 「アクセラ、お前のチョーカーの充電、美琴にやってもらうんだぞ。本当ならお前に充電なんてさせたく無えんだけど2回で妥協したんだ。感謝しろ」 「お、おォ、感謝するぜ……(あンの焼きもち焼きがァ! そんなに俺とアイツが近づくのが不満かァ!)」 一方通行の心での指摘通り、当麻は単に一方通行と美琴がいちゃつく(当麻視点)のが不愉快なだけだった。 結局、一方通行も初春の提案を受け入れると、チョーカーのスイッチを入れるタイミングを考え始めるのだった。 「飾利、俺と浜面には何か制限とかあるのか?」 「当麻お兄ちゃんと浜面さんにですか? どうしてお二人に制限とか規制がいるんです?」 (*2) 初春からの規制が何も無かったこと、彼女からの悪意の無い毒舌に当麻と浜面は心に大きなダメージを負うことに。 「ちなみに残り2時間になったら大きな新型ゴーレム……そうそう、エリハル弐号機に変わりますからそのつもりでいて下さいねー♪」 エリハルを知っている当麻と浜面、そして美琴は残り2時間が地獄になりそうな予感がした。 かくしてモトハル2nd(2体)VS当麻&土白&一方通行&浜面が再開されることに。 「あれをどうすれば良いんだにゃ」 土御門達は、モトハル2ndに苦戦していた。 「元春、考えている間、一体戦ってていい?」 「月夜何をするつもりなんだにゃ。」 「いや、ただ単に氷の翼と剣の特訓したいだけだけど。」 「そう言うことならカミやん、カミやんも月夜と一緒に時間稼ぎを頼むぜよ。その間に作戦を考えているからにゃ。」 「分かった。」 そう言うことで、上条と白雪でモトハル2ndを一体ずつ戦い、時間稼ぎをすることにした。 「でも、二人だけで大丈夫なのかァ?」 「多分大丈夫だろうにゃ。にしても、月夜から頼んでくるとは思わなかったにゃ。」 「そんなことより、二人が時間稼ぎしている間にどうするか考えようぜ。」 「そうだったにゃ。」 という事で土御門、一方通行、浜面で作戦会議が行われた。 「で、どうすんだよ?」 「正直言えば術者のシェリーを倒せばそれで終わりだろうけど、これはあくまでゴーレムの性能テストを兼ねた罰ゲームぜよ」 「それが一体どうしたってンだァ?」 自分の言っている意味を理解していない一方通行に土御門はサングラスの上からでも分かるような哀れみの視線と小ばかにした笑いを送る。 激怒する一方通行を必死に抑える浜面に感謝すると共に、土御門は二人に説明をする。 「もしそうしたとして残り時間はどうするつもりぜよ? 誤魔化しは効かないんだぜい。あれを見てみるにゃー」 土御門が指差す方向にはビデオカメラを片手にこちらの様子を撮影してる建宮の姿があった。 そして一方通行と浜面は理解した、この映像を後で小萌たちに提出するのだと。 「なるほどなァ。証拠映像が残されンなら下手な真似したら更に罰ゲームが追加される可能性があるってわけか」 「そうゆうことにゃー。まあ、ここはあのカッコいい俺にそっくりのゴーレムをガンガン破壊、修復する間に体力を回復。これでいくぜい」 「確かにそれしか無さそうだ。後は余計なダメージを喰らわないようにしないとな。あの土御門モドキ、土で出来てるから攻撃痛いし」 「だなァ。あの不細工な土御門そっくりの土人形の攻撃はちとやグオッ!」 土御門のことを不細工と言った一方通行の後頭部に当てた一撃は、月夜の氷の翼から放たれた氷の羽の弾丸だった。 味方からの攻撃にまたも怒ろうとしたが、土御門と浜面に説得されて怒りを収めると、2人と一緒に戦線に復帰した。 一方、シェリーはモトハル2ndの自分でも予想外のいい動きにちょっとばかり驚いてた。 (まさか土御門の血を混ぜただけでここまで土御門の動きを投影するとはね。こいつはいい収穫だ。サバイバルの時、建宮にあいつの血を回収させて正解だったよ) 土御門の血液を触媒に組み込んだモトハル2ndの動きは実に見事で、当麻の右手を喰らわないように彼の死角から攻撃を繰り出している。 月夜の氷の翼による空中からの攻撃にも最初は押されていたが、本人同様の応用力を発揮し、徐々に攻勢に出始めていた。 罰ゲーム開始から一時間、疲れを知らないモトハル2ndと人間なので疲れる当麻、土白、一方通行、浜面に差が出始めていた。 「ハァ、ハァ、ハァ……。さ、さすがにぶっつづけであのゴーレムと戦り合うのはちょ、ちょっと辛いな……」 「ゼェ、ゼェ……。よ、よし、ここからは俺が30分、あ、あいつらの相手する。て、てめェらはその間、や、休ンでろ」 そして一方通行は他の4人の体力回復の為に一度目の能力使用に踏み切り、モトハル2nd二体を相手にするのだった。 そのころ、常盤台中学女子寮。 正確には第7学区にないほうの寮で危険な話し合いが行われていた。 ところで皆さんは女子しかいない空間でバスと学校と寮しか知らない状況に置かれた 箱入り娘がどうなるか想像したことはあるだろうか? はっきり言ってお年ごろ。 しかし異性とのかかわりは極限までカット。 まあ大覇星祭などではあるかもしれないが、はっきり言ってそんな状況でも気心の知れた女同士で固まって行動するので全く交流はないと言っていい。 さらにこの学校には『派閥』まであるので単独行動をとることはしにくい、という現実がある。 そのような状況で怒るのは…。 白井ほどではないが若干百合っぽい尊敬。 尊敬が向けられるのが高位能力者なのは言うまでもないことで。 結果。 「御坂様がどこの馬の骨とも知れない殿方と付き合ってるのは到底許せませんわ!!」 「聞けばレベル0と言うではありませんか!」 という事態となる。 そりゃそうだ、自分達はレベル3以上なのだから。 ここに。 戦争の勃発は回避不能となった。 そのころ黒子は、ジャッジメント第一七七支部にいた。 「はぁ。せっかくの土曜日ですのになんでジャッジメントがありますの?」 「そんなこと言ってないでパトロールに行ってきなさい!!」 黒子は、固法先輩に言われたので、パトロールに行った。 だが黒子はこの後、上琴の交際を認めていない常盤台の生徒に捕まるとは、まだ知らなかった。 「はぁ、早くパトロールを終わらせて○○様とあんなことやこんなことをしたいのに…」 黒子はため息をつきながら、独り言を言ってた。 「なら早く終わらせませんとね。」 黒子がやる気を出したその時!! 「あら、皆様方どういたしましたの?」 黒子の前には、上琴の交際を認めていない常盤台の生徒達がいた。 「白井さん。おとなしく捕まってくれませんか?」 「どうして捕まらなくてはならないですの?」 「御坂様とその彼氏を離すためです。」 「そう言うことでしたらお断りしますの。」 黒子がテレポートしようとしたとき!! 「ッ!?どうしてテレポートが出来ませんの?」 「AIMジャマーを使いましたので当たり前でしょ♪」 「どうやら捕まるしかありませんね。でも、あの二人を離すなんてムリだと思いますけど。」 黒子は逃げ道も無かったので、捕まってしまった。 そして数分後、黒子のケータイから黒子が捕まったことが青ピにメールで伝わった。 「黒子はん!!どうして捕まったんや!?」 青ピは黒子が捕まってしまったのでどうすれば良いのか分からなかった。 また、メールの内容は… 『白井さんの彼氏様。今、白井さんは私達が捕まえています。白井さんを解放して欲しいなら御坂様か御坂様の彼氏に伝えてください。常盤台の女子寮に来るようにと言ってください。』 っと書いてあった。 「とりあえずカミやんに電話するや。」 ということで上条に連絡した。 『もしもし』 「カミやんか。大変なことになったや。」 『あの、私は当麻お兄ちゃんではなく初春ですけど。それで青髪さん、どうしたのですか?』 青ピは上条に連絡したんだが、相手は初春だった。 「なぜカミやんに電話したのに初春はんが出るんや?」 『今、当麻お兄ちゃんは合宿の罰ゲームをしているので荷物を預かっているんですよ。』 「そうなのか。ならカミやんに伝えてくれや。今、黒子はんが常盤台の生徒に捕まって、解放して欲しいならカミヤンか御坂はんを常盤台の女子寮に連れて来いと言ってきたんや。」 『白井さんが捕まったのですか!!でも、当麻お兄ちゃんは今、行けませんよ。』 「分かっているからどうすれば良いのか分からないのや。」 『じゃあ、こう伝えてください。『今、俺と美琴はすぐには女子寮に行けないので第二学区に来い。』って言ってください。』 「でも、そう簡単に来ると思うかや?」 『目的は当麻お兄ちゃんと美琴お姉ちゃんだから絶対来ますよ。』 「でも、そっちに行かせて良いのかや?」 『大丈夫ですから伝えといてください。』 「分かったや。」 というと、電話を切った。 そして青ピはメールでこう書いた。 「カミやんが、言ってたけど『今、俺と美琴はすぐには女子寮に行けないので第二学区に来い。』だってや。」 っと書き、青ピは黒子のケータイにメールを送った。
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(二日目)10時22分 「なぜ本気を出さぬ?」 『魔神』は三〇メートル先に立つ白髪の少年に問いかけていた。 「…テメェこそなぜ本気を出さねェ。俺なんて秒殺だろうがよォ」 『一方通行(アクセラレータ)』は額に浮かぶ汗を拭った。 「余の遊戯だ。確かに貴様ごとき、一瞬で捻り殺すことはできるが、それでは余は満足できぬ。それに――――――――――」 ドン!!という爆音とまばゆい光にその声は遮られた。 粉塵爆発。 周辺に舞っている塵や埃を利用し、白髪の少年は一気に起爆させた。 己が身は「反射」を使い、無傷。 ベクトル操作で辺りの煙を吹き飛ばし、三〇メートル先に立つ少年の姿を見た。 「…チッ!」 『魔神』もまた、無傷だった。 「…ふむ。会話の途中とは頂けないな。『魔王』よ」 「その俺のアダ名は何とかナンねぇのか?そんな呼び方すンのはテメェだけだ」 「王は神になれない。人であるがゆえに、な」 「アァ?」 「これでも余は貴様を讃えているのだぞ?人の身で『神』の領域に踏み入った者への称号でな」 「テメェも人間だろうが。『ドラゴン』だか『魔神』だか知らねェが、見た目は『上条当麻』っつうフツーのコ―コーセーだろ。そんなテメェが人を見下してンじゃねぇよ」 「余より下等な生物を見下して何が悪い?」 「…テメェ!!」 「その憤りを払拭してみせよ、『魔王』。貴様に余を屈伏させるだけの力があったらの話だがな」 『魔神』が右手をかざした。 突如、轟音と共に爆風が吹き荒れる。 白髪の少年は一瞬で右方に逸れると、体中に触れた大気を操り、圧縮させる。 衝撃波。 秒速二〇〇メートルを超える風圧を『魔神』に向け、「反射」を使い、後方へと大きく距離を取った。 遮る壁や建物は周囲に存在しない。大気をコントロールし、『一方通行(アクセラレータ)』は上空五〇メートルに浮かぶ。 衝撃波が直撃した地面はアスファルトごと抉り取られ、砂埃が尾を引くように一〇〇メートル先まで舞っていた。 それでも『魔神』は無傷だった。 塵一つ、制服に付いていない。 『魔神』は平然と言葉を投げかける。 「分かったであろう?」 「ああ、テメェの能力は物体を消滅させる力だ。手をかざした瞬間に爆風が吹き荒れるのも説明がつく。テメェは手をかざした前方数百メートル直線上の物体を『大気ごと』消して、そン時の真空状態の空間に周囲の大気が入り込むから爆風が生じるんだろ」 「その通りだ。しかし、これは私、いや俺の能力と言った方がいいのか。『上条当麻』としての能力に過ぎん」 「…何だと?」 「貴様には全力を出せと言っておきながら余は鱗辺すら出していない。その無礼を詫びよう。本来の『余』の力を見せてやろうではないか」 白髪の少年は絶句した。 (あれが実力じゃないだと!?フザけんな!じゃあ一体…) 『魔神』は右手を白髪の少年に向けて突き出した。 「『現実守護(リアルディフェンダー)』、『幻想守護(イマジンディフェンダー)』を解放する」 パン!と『魔神』の右腕から服が弾け飛んだ。 右腕の端々から漆黒の『何か』が噴出し、右腕全体を覆い尽くし、腕よりも一回りも二回り大きく、黒い『何か』が渦巻いていた。禍々しい黒い『何か』はあるモノを形成する。 『竜王の顎(ドラゴンストライク)』 二メートルを超す巨大な漆黒の竜の頭部。竜の目が白髪の少年の目が合うなり、人間が飲み込めそうなほど大きな口を開け、竜の顎が地面に着いた。 「構えよ。『魔王』」 その言葉に『一方通行(アクセラレータ)』は戦慄した。喉が一瞬にして冷え上がる。 「――――――――――――――――――――――『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』」 突如、辺りが眩い光に覆われた。大気圏すら突破する巨大な光線が、放たれた。 (二日目)10時28分 「知りたいですか?」 唐突な第三者の声に、御坂美琴と白井黒子は口を噤んだ。 声の聞こえた方向に目をやると、一人の少女が立っていた。 絹のように麗しい漆黒の長髪に、深遠な黒い眼差し。それとは対照的に透き通るような白い肌。黒一色のコートを羽織る長点上機学園の女子生徒。 名を至宝院久蘭。長点上機学園高等部一年生。御坂美琴と同位にたつ『超能力者(レベル5)』の第三位。 「お姉様!?」「久蘭お姉様!?」「ああ、何とお美しい!」「あれが久蘭お姉様…」「長点上機学園の制服もお似合いで…」などと周囲の常盤台中学の女子生徒から黄色い声が上がった。 「皆、お下がりなさい」 その言葉一つで、騒ぎ立てる常盤台中学の生徒を制した。 熱い眼差しを送りつつも、無言で久蘭にお辞儀をして身を引く女子生徒たち。 「今、外では大規模な戦闘が展開されています」 「魔術側との戦い?…もしかして、また『戦争』を起こす気なの!?魔術師達は!」 「いいえ」 「これはたった二人の能力者の戦いです」 「『絶対能力者(レベル6)』同士の争い。それはもはや喧嘩と呼べるものでありません」 「これは――――――――――――――――――――――――――――――『戦争』です」 御坂美琴は至宝院久蘭に目を向けた。 全てを飲み込むような漆黒の瞳。彼女の眼を見ていると、心の全てを見透かされるような感覚に捕らわれてしまう。 実際に、その通りなのである。 「これから当麻様のところへ赴くのでしょう?」 久蘭は微笑みを讃え、軽く首を傾けた。じっと御坂美琴を見続けていた。 「…ええ」 御坂美琴は、強い意志が宿った表情で頷いた。 「お、お姉様?正気ですか!?外は今、『第一級警報(コードレッド)』が敷かれていますのよ!?それを無視すれば反省文どころでは済みませんわ!」 ツインテールの少女が揺れた。愛しのお姉様の行動が理解できなかったのだ。確かに彼女の心中は痛いほど分かる。しかし、いくら彼女が『超能力者(レベル5)』の第一位と言えど、相手はお姉様の恋人であり、また学園都市最強の『絶対能力者(レベル6)』である少年。その上、今回の出来事は私情を挟めるレベルでは無い。 そもそも『絶対能力者(レベル6)』と『超能力者(レベル5)』が別々に順位を付けられている時点で、両者には絶対的な隔たりがあるのだ。 久蘭が言う『戦争』という言葉も決して的外れな表現では無い。 半年前に起こった魔術側との『戦争』を食い止めたのは他ならぬ『絶対能力者(レベル6)』の上条当麻なのである。『一方通行(アクセラレータ)』を含めた『絶対能力者(レベル6)』の二人無くしては、先の『戦争』は停戦どころか『学園都市』側の敗北を喫していたのかもしれないのだ。たった二人で、学園都市に匹敵する大勢力と渡り合える力を持つ能力者(カイブツ)。その二人の争いの中に飛び込んでいくことなど自殺行為に等しい。 今年になって発表された『絶対能力者(レベル6)』の存在に、今一つ実感が湧かない大多数の人間よりも、上条当麻の実力を目の当たりにしている彼女だからこそ、そのことは誰よりも理解しているはずなのである。それを踏まえた上で、彼女は愛する者の所へ赴こうとしている。 彼女の心情を一番に理解していたのは、彼女を慕う白井黒子ではなく、同じ男性を愛する至宝院久蘭だった。 至宝院久蘭は御坂美琴に彼女が着ていたコートを羽織らせた。 「これを…」 「!!これって」 久蘭が常磐台中学に在籍していた時からいつも着用していたコート。地面に付きそうなくらい長いコートであり、見方によってはマントにも見える。彼女にとってこれがどのような物かを、どれだけ大切な物なのかを、御坂美琴は知っていた。 「美琴さんにはあまり必要ないかもしれませんけど、少しはお役にたてるかと思います」 「受け取れるワケ無いじゃない!これは…」 「平気ですよ。もう一着ありますから」 「…はい?」 いつの間にか久蘭の隣には、黒いコートを携えた栗色のウエーブのかかった髪の常盤台の二年生、剣多風水が立っていた。彼女もまた、久蘭と同じ黒いコートを制服の上に着用している。 「お姉様、これを」 久蘭は絹のように美しい長髪を掻きあげ、前に下ろすと、風水は久蘭の後ろに回ってコートを羽織らせた。たとえ学校が離れようとも、久蘭派閥を二代目の当主となった風水は、いつまでも久蘭の従順な僕であり続けるらしい。 「ありがとう。風水」 久蘭は風水の手をとり、手の甲に軽くキスをした。ボン!と茹でタコのように顔を真っ赤にする剣多風水。 その光景を薄い目で見つめる御坂美琴と目を輝かせて凝視する白井黒子。 「実は、これがわたくしのです。美琴さんが着ているのはわたくしが特注して作らせたもの。サイズはどうですか?合っているでしょう?」 そう言われてみれば、と御坂は思った。久蘭は御坂美琴より5センチほど身長が低い。久蘭に合わせて作られたのなら、若干小さく感じるはずだ。だが、自分が着てみて何の違和感も無かった。 いつ自分のサイズを知り得たのか、などとは聞くだけ無駄なのである。久蘭の持つ情報力に呆れる御坂美琴だった。 「心配してくれてありがとう、美琴さん。私はもう大丈夫だから…受け取ってくれるかしら?」 「…本当に、いいの?」 「ええ。それは貴女のために用意したんですから。そのコートも、美琴さんのことを気に入ってくれるわ」 至宝院久蘭の『お姉様』としてでは無く、『友人』としての笑顔。それに御坂も友人としての笑顔で答えた。 「ありがとう、久蘭。大切にするわ」 「そうでないと困ります。一着一〇〇〇万程しましたから♪」 ぶっ!と予想以上の値段に御坂美琴は吹いた。 「ちょ、これ!そんなにするの!?」 「ええ、デザインだけではなく、本来の役割もきちんと担っていますのでご安心くださいな。『命』はお金では買えませんから」 「…サラリとへヴィなことを言うわね」 美琴は若干頬を引きつらせつつも、笑顔を崩さない。ツインテールの少女は「これが一〇〇〇万もしますの?」と、目を丸くして、三人が羽織っているマントのように長い漆黒のコートを交互に眺めていた。 「美琴さんと当麻様はわたくしの命の恩人。あの時の借りはこれで返上ですわね」 御坂は袖を通すと、その場で一回転した。くるりとコートが靡く様は、常盤台中学で培われた御坂美琴の高貴さに、より一層、箔がついているように思われる。 「これ、似合うかしら?」 等身大の鏡が無く、自身の様子が分からない御坂は少しばかり恥ずかしがっていた。一般的に見ればよく似合っているのだが、自分自身で確認できなければ、やはり落ち着かないものである。周囲の常盤台生からも熱が籠った視線を浴びる。 「ええ、とっても。よくお似合いですわ」 「そ、そう?」 「…御坂女王様、とお呼びしてもよろしいですか?お姉様。というかわたくしの携帯の待ち受けにしてもよろしいですかよろしいですね!?」 「…私の寝顔の待ち受けよりはマシだからね。あとで写メ見せてよ」 カシャカシャカシャ!とあらゆる角度から撮り続けるツインテールの少女。また数人の常盤台生も御坂の姿を携帯で撮影していた。御坂美琴は白井を無視して、一番近くにいた金髪の常磐台生に話しかける。 「ねえ、さっき撮った画像、見せてくれる?」 御坂に突然話しかけられた女子は、慌ててペコリと頭を下げ、両手でゲコ太ストラップが付いたピンク色の携帯を献上した。 「え?あ、はい!どうぞ!」 手渡された携帯を御坂は覗き込んだ。先ほど撮られた画像を見て、少し首をかしげる。 「…うーん。なんか私のキャラと合ってないような気がするんだけど……やっぱりこれ、似合わないわよね?」 それを聞いた女子生徒は、両手でブンブン!と手を振りながら、御坂の意見を否定した。 「そ、そんなことありません!すごくお似合いですよ!久蘭お姉様に風水お姉様、それに御坂お姉様が並ぶとまさに壮観です!」 「そう?ありがと♪」 御坂はそう言って、携帯電話を返した。携帯を受け取った少女が緊張しているのは丸分かりである。そんな態度を見て、御坂は苦笑いをした。 彼女は分け隔てなく生徒に接しているつもりなのだが、学園都市第一位というレッテルが 「お、お姉様!すでに三〇枚は撮りましたのよ!ああ~!もうこれは黒子の週刊お姉様ベストショット10に堂々のランキング入りですわ!」 「……そう。よかったわね」 ツッコミたい衝動に駆られた御坂だったが、これ以上彼女に言及すると、愛しのお姉様について熱く語り出すのは目に見えていたので、何とか押し留まった。 二人のやり取りを見ていた久蘭は、一言、口にした。 「さてと、では美琴さんには一体何をしてもらいましょうか?」 「はい?」 久蘭の発言に首を傾げる御坂美琴。そんな美琴の表情に、久蘭はよりいっそう笑みを浮かべた。 「美琴さんにあるわたくしの『貸し』についてですわ」 「……お姉様?私、いつ貴女に貸しをつくりましたっけ?」 「あら?先ほどの情報料は別枠でしてよ?」 「何の屁理屈ですか?久蘭お姉様。わたし、そんなことで借りを作ったなんて認めませんわよ」 御坂の額に嫌な汗が流れ落ちる。含み笑いを浮かべる意地悪い笑顔。こういう表情をしている久蘭は手に負えない。 「そんなことをおっしゃってもよろしいのかしらー?美琴さん?」 「な、なんのことかしら?」 久蘭は美琴の傍に駆け寄り、そっと耳打ちする。 「大覇星祭の三日目の昼休みと五日目の夜…」 「っ!!!」 御坂美琴は絶句した。 「…の時のことは黙っておいて差し上げますわ」 「な、な、な…」 「……当麻様って、コスチュームよりもシチュエーションにこだわるのかしら?」 「ぜーったい、黙っときなさいよアンタ!!も、ももももしその事を誰かに告げ口したら…」 「分かってますわよ。『可愛い可愛い美琴』さ・ん?」 唇を大きく裂いて悪質な笑顔を作る久蘭。もはや御坂になす術は無かった。一番の弱みを握られてしまった。一番握られたくないヤツに。 「…この借りはいずれ返すわ。久・蘭・お・姉・様?」 「では、当麻様とのデート一回で手を打ちましょう♪」 ビキリ!と眉間にしわを寄せる御坂美琴。 「おーねえーさまー?…まだあきらめてないんですかー?私と当麻は…」 「うふ♪わたくし、他の女性と肉体関係を持ったところで諦めるような恋をした覚えはないですので♪」 正々堂々と、満面の笑顔で久蘭は試合続行宣言をした。 「なっっ―――ッ!!?」 強烈な爆弾宣言に絶句する御坂美琴。「に、肉体関係?み、御坂お姉様が?」などと顔を真っ赤にして剣多風水は呟いていた。箱入り娘の彼女にとっては刺激が強すぎる内容だったらしい。 言葉を詰まらせる御坂を見据え、久蘭は真剣な表情で、その場の空気を破った。 「でも、今、当麻様に何かしてあげられるのは他ならぬ貴女だけです」 鋭い視線が御坂美琴を射抜く。ハッと我に返った御坂はその視線を真っ向から受け止めた。 「ですから、お願いします」 久蘭は大きく頭を下げた。 周囲の常盤台生はギョッとした。 常盤台中学を卒業してもなおその名前と影響力がある久蘭お姉様が、学年が一つ下の御坂美琴に頭を下げているのだ。その異様さに皆は動揺を隠しきれなかった。 「…頭をお上げください。久蘭、お姉様」 久蘭の深淵な黒い瞳が、美琴の顔じっとを見つめる。 御坂は久蘭に何と言葉をかけていいか思いつかなった。 そんな思いは久蘭の声に遮られる。 「風水」 「はい。お姉様」 「協力してくれるわよね?」 「もちろんです」 背後で風水は了解の会釈をする。 「今から、常盤台中学の生徒と教職員に『御坂さんはずっとここに居た』という暗示をかけます。風水の派閥の方々は協力してくれるので操作はしませんが、いいかしら?」 「…ええ、お願いするわ」 「これで当麻様は一日中ずっと貸していただきますので♪」 「ぐっ!」と、歯ぎしりする御坂美琴。 「それで、黒子さんはどうします?」 美琴、久蘭、風水の三人の視線が白井に集まった。 やれやれ、と白井はため息をつくと当たり前のように返事をした。 「何を言っていますの?わたくしも行くに決まってるじゃありませんか。久蘭お姉様」 「黒子…アンタ、分かってんの?」 行動を共にすれば、間違いなく白井黒子は『風紀委員(ジャッジメント)』を辞めなければならなくなる。だが、白井黒子に迷いは無い。 「わたくしはどんな事があろうともお姉様についていきます。お姉様の傍が、わたくしの居場所ですから」 ストレートすぎる黒子の言葉に、御坂は今更ながら黒子の存在の大きさを実感した。久蘭と風水も目を見合わせて微笑んでいる。 「…ありがとう。黒子」 「では、お姉様とのデート一回で手を打ちましょう♪」 予想通りの反応に、御坂美琴は大きなため息をついた。けれど今回は仕方がない。自分のワガママに付き合ってくれるのだ。いざという時に頼りになる後輩に、美琴は笑顔で返事をした。 「…分かったわ。約束するわよ」 ポカン、と。白井は口を開けて、お姉様を見つめた。 思いもよらぬOKの返事にワナワナと体を振るわせ、キラキラと瞳を輝かせる白井黒子。 「ほ、ほほほほ本当ですのお姉様!?うふえへあはー!!夜は絶ーっ対、お姉様を寝かせたりはしませんわよ!覚悟してくださいませ!」 「な、何をする気なの!?黒子!あんまりベタベタすると電撃喰らわせるわよ!」 「あらー?当麻さんにはあんなことやこんなことをされても文句一つも言わないのに、私にはスキンシップも制限されますのーん?」 「…別にいいじゃない。付き合ってるんだから」 御坂美琴は頬を真っ赤に染めながら、黒子と目を逸らした。 お姉様の反応から分かる想定外の新事実に、白井黒子は愕然とする。 「って、お姉様ああああああああああ!?カマかけてみただけなのに、も、もうそこまで進展してますの!?あんなことや?こんなことまで!?」 ツインテールの少女の脳内では、「当麻…」「美琴…」などと名前を呼び合い、愛を確かめ合う二人。お姉様は何故か『堕天使エロメイド服』を着用しており、「これ、洗うの大変なんだからね!」と、頬を赤く染めるお姉様に、上条当麻は「へっへっへ。まあ、いいじゃないかぁ★」と、ビリビリと服をやぶ(自主規制)。 ブチッ!と、 白井の頭の中で何かが切れる音がした。 「フッ、あンの若造が!!きいいいいいいいいっ!もう『絶対能力者(レベル6)』なんて関係ありませんわ!第一七七支部の『風紀委員(ジャッジメント)』ことこの白井黒子が不純異性交遊の罪で抹殺(ころ)します!! さあ!行きますわよ、お姉様!!首を洗って待っていやがれですの!!よくもお姉様をおおおおおおおおおおおおおおお!!」 「ちょ、ちょっと!黒子ってば、待ちなさいよー!!」 鬼のような形相で『空間移動(テレポート)』をしながら、いち早く非常エレベータに向かう白井。御坂は慌てて彼女の後を追った。
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