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アイテム分類 武器 名前 七支刀(シチシトウ) 所持者 光龍王サイガ黄龍帝フガク聖龍王サイガ 公式豆知識 七支刀とは 黄龍帝フガクが作成し、後に聖龍王サイガに受け継がれた宝剣。 単なる武器ではなく、使用者に特別な力を与えるようで、この剣が2本になることで聖龍王サイガは光龍王サイガにパワーアップしているし、魔王マステリオンを倒す際にも、この剣が触媒となっている。尚、この剣は実在し、現在は石上神宮に秘蔵され、国宝指定も受けている。モデルとなった本物は刀身に6つの突起物があり、剣先もあわせて7つの枝と見る事で「七支刀」と言われるらしい。よって神羅万象の七支刀はこの理論で行くと「八支刀」と言う事になってしまう。
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七支刀について 基礎アタック値LV100の数字 基礎クリティカル値LV100の数字 シカケ枠 固有シカケ 1レベルアップの成長 七支刀LV90 1 99999 2 ヌシダメージ特大 【神撃】七支刀 32532 200466300466 2 ヌシダメージ極大 アタック5クリティカル1000づつ 【神智】七支刀 16216 100233150233 3 ヌシダメージ極大かなしばり アタック2クリティカル500づつ 合成 Aタイプ Bタイプ Cタイプ 1 クリティカル2%アップ 紫ターゲットダメージ3倍 橙ターゲットダメージ3倍 2 クリティカル2%アップ 緑ターゲットダメージ3倍 桃ターゲットダメージ3倍 3 クリティカル2%アップ 黒ターゲットダメージ2倍 アタック100%アップ 4 強制海波 強制川波 水質万能化 5 パール波をクリティカル波化 クリティカル4%アップ レアドロップややアップ コメント 七支刀の神撃と神智は各々レベル10、25以上いくのでしょうか? -- (ハレルヤ) 2013-11-04 15 30 33 神智七支刀では、竿の耐久性なく洞窟中級でものがしますLV100です。ちなみに…使えない、新しいしかけ倍返しに望みかけますーいつのことやら… -- (名無しさん) 2013-12-26 12 04 43 以前ジャパウォックの方に、洞窟最深部 ☆15ヌシからのドロップアイテム狙いを提案しました。 神智 七支刀 Lv.34で行けますね。仕掛けは◎コスカ◎金縛り◎ドロップぶーすとの3個。 ヌシヌシでHITさせたら、ドロップしたアイテムを確認後[12月の書込より 竿ドラゴンを稀にドロップ]、メダルを使って挑戦、メダル1つで釣れました。 しかし、竿ドラゴンは出てこず 私的にはテストで欲しい竿でもありませんが(笑) -- (じーじ) 2014-01-29 01 50 16 名前 コメント すべてのコメントを見る 情報提供や七支刀についての雑談。
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~第十八学区・結標淡希の部屋~ 姫神「(迂闊。寝てしまった)」 6 40分。姫神秋沙は結標淡希のベッドで目を覚ました。 姫神「(小萌先生に似てきたのかも知れない。アラーム無しでも起きれるだなんて)」 むくりと身体を起こす。最終戦争が勃発するまで送っていた規則正しい学校生活は姫神の体内時計を正確に刻ませた。 はたと傍らを見やる。そこにはスウスウと小さな寝息を立て体を丸めて眠る結標淡希の寝姿があった。 姫神「(おへそが見えてる。やっぱり細い。本当にこの中に内臓が入っているのか。人体の不思議。女体の神秘)」 肩紐の外れた丈の短いキャミソール姿の結標の白く括れた細腰を見つめる。 もしかしたらウエストは五十台半ばかそれより僅かに細いか。 あまりの華奢さに同じ女として面白くないが、同時に興味が湧いた。 姫神「(恋人は。いるのかしら。抱き締めたら。壊れてしまいそう)」 何を食べればこんな硝子細工のような曲線の肢体が生まれるのか。 今の所結標から異性の存在を匂わせるものは何者も存在しない。 あのクローゼットの中の嗜好品の内容を鑑みれば無理からぬ話ではあるが。 姫神「(よし。今朝はサーモントーストサンド。略して。S・T・S)」 一瞬、結標の安らかな寝顔にキスしたくなって、止めた。 色気より食い気。石狩鍋に使った鮭の残りを使ったレシピが姫神の脳内を占めていた。 ~結標淡希の部屋・寝室~ 結標「んっ…姫神…さん?」 11 02分。結標淡希の意識は昼近くなってから覚醒へと向かった。 初夏の熱気が微かに寝汗に混じって汗を滲ませ、寝苦しくなって肌掛け布団を蹴飛ばす。 結標「…行っちゃったのかしら…」 姫神秋沙の姿はベッドから凝らした結標の目から見て影も形もなかった。 どこへ行ってしまったのだろうと僅かに訝り…そこでお酒を飲んだ翌日の寝ぼけた頭が働き始めた。 結標「そうだった…学校に手伝いに行ったんだったわ」 昨夜、眠る前に二人が交わした会話。それは姫神の側からの提案であった。 午前中の間に一切の家事を済ませておくから、家を空けたいと。 夕方には帰って来るから洗濯物も取り込まずにそのままでも構わないとも。 結標「…流石にそんな何でもかんでも押し付けられないわよ…馬鹿ねえ」 サアーッとカーテンを開け放ち窓辺より空を仰ぐ。天気は晴天そのものだ。 もう少ししたら蝉が鳴き出すかも知れない。今年の夏も熱くなりそうだと。 ただ、最終戦争で壊滅した第七学区では流石に常盤台中学の盛夏祭はないだろうし、第十五学区の織女星祭も開催は危ぶまれるかも知れないなとボンヤリ思う。 結標「みんな生きて行くのと自分の事で他の事になんて手が回らないわよ…ん?」 外れた肩紐を直しながらリビングに向かい冷蔵庫から飲み物を取り出そうとすると…ラップのかかったトーストと書き置きが置いてあった。 『お寝坊さんのあわきんへ。A・H』 結標「やだなにこの娘可愛い」 図太くズケズケ言う割に変な所で家庭的で細やかだ。 将来良いお嫁さんになるだろうな、などと思いながら結標はラップされたサーモントーストサンドを取り出し、かじった。 結標「イケる」 恐らく残り物だろうに良くここまで作れる物だと驚嘆に値する。 野菜炒めすら満足に作れない結標からすればまるでお抱えのシェフのようだ。 結標「喉渇いたわね…あった、ジンジャーエール」 昨日の鍋パーティーの最中、買って来た最初のアンカースティームは駄目になってしまったため、買い直したコロナと一緒にしたジンジャーエール。 すると姫神はビールとジンジャーエールを割って飲んでいた。 なんでもシャンディー・ガフというらしい。月詠小萌がそうしていたのを見たと。 結標「ん~…ジカジカする」 一気に呷り、寝起きの渇いた身体を潤す。寝覚めには持ってこいだった。 見やった窓辺の向こうには入道雲と、青空と、瓦礫の王国となった第七学区が遠くに霞んで見えた。 結標「そう言えばコレ飲む猫が出てくる小説なんて言ったっけ」 スタンダールの『赤と黒』の話を振っても理解した姫神なら知っているだろうかと… 結標は吹き込んでくる涼風にはためくカーテンから見上げる景色に思う。 今年はどんな夏になるのだろうと。 結標「そうだ、夏への扉」 ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』だとふと思い出した。 壊れかけた街、変わらぬ夏、自分達は今夏休みの子供のようだと詮無い考えが胸をよぎった。 結標「今日も…暑くなりそうね」 結標淡希と姫神秋沙の奇妙な同居生活、三日目の事である。 ~第七学区・旧学舎の園大通り~ 姫神「暑い」 マンションを出た姫神秋沙はモノレールで一度第八学区に降り立ち、そこから徒歩で自ら通う高校を目指していた。 学園都市の中心部に当たる第七学区は今や交通網の全てがズタズタであり、重機はおろか道によってはタクシーすら走れないほど破壊的な様相を晒しているからだ。 姫神「えっと。確かこっち。本当に困った。地図が当てにならない。何度来ても真っ直ぐ行けない」 捲れ上がりひび割れたアスファルトが歩みを阻み、倒壊寸前のビルディング群を避けて通り、至る所で光る剥き出しの鉄骨に制服を引っ掛けないようにする。 破れた水道管からスプリンクラーのように赤錆の水が吹き出している。 目印となる建物や施設が軒並み崩壊し、一日経てば廃墟と残骸の墓標が崩落して昨日通れたルートが塞がっている事など珍しくも何ともないのだ。 姫神「私にも。結標さんみたいな能力が。あったら良かったのに」 迂回を続け、人っ子一人いない旧学舎の園の大通りを行く。 何せ柵川中学と風紀委員第一七七支部、常盤台中学と警備員第七三活動支部も全壊しているのだ。 並んでいたお嬢様向けの店のほとんどから用品は姿を消していた。 生きて行くには仕方ないとは言え、さながらスラム街のようだ。 姫神「とりあえず。向こうに着いたら。避難所の手伝い」 第七学区のほとんどの学校が壊滅しており、今や姫神の通う高校は避難所の中核を為している。 当然生徒達も他の学区に移る者、保護者が迎えに来る者、いずれでもなく残る者と混迷を極めている。 姫神「吹寄さん。どうしているだろう。あれから。顔を合わせてない」 姫神の属するクラスでは上条当麻が行方不明に、土御門元春はイギリスに渡ったと小萌から聞いた。昨日だか一昨日、いきなりだったようだ。 青髪ピアスは何やら学園都市側の迎えの者が来たようでそちらにかかりっきりであると。 その事情は避難所で姫神のクラスを束ねている吹寄制理から聞いた。 結標に淹れたルイボスティーは健康志向の彼女が分けてくれた物だ。 姫神「着いた」 そしてあちこちで増え始めた声音を頼りに着いた先…そこは姫神達の通う高校である。 正面から見て校舎の右側が爆撃でも受けたように抉れて消失し、左側は今にも倒壊しそうに傾いでいる。 これが、今の学園都市の現実であり、現状であり。現在である。 ~とある高校・警備員・風紀委員仮本営~ 黄泉川「わかったじゃんよ。じゃあ2クラス72名そっちの受け入れ体制が整い次第連れて行くじゃん」 小萌「はい、はい、ではこちらにいらっしゃる前にもう一度御一報下さい。今各地で倒壊の危機がありますので、ご家族の方々は一度第八学区まで…」 初春「し、白井さん!またA―32ブロックの炊事場で乱闘騒ぎが!」 白井「またですの!?ああ衣食住足りて礼を知るとはこの事ですの!」 固法「次から次へと舞い込んでくるわね…白井さん、初春さん、次は私が」 喧々囂々の有り様である。教職員は軒並み疲労困憊、風紀委員は過労死寸前である。 残された生徒達に親元が迎えに来るまで、他の学区に受け入れ体制が整うまでとは言え交代要員すら慢性的に不足している。 『ナンバーセブン』ことレベル5第七位削板軍覇率いる全学連のボランティアがいなければ衣食住すら回らない状態である。 白井「申し訳ありません固法先輩お願いいたしますの!初春!今の内に食べてしまいますわよ!」 初春「は、はい!じゃあ私はオニギリを!白井さんはバナナを!」 白井「(先輩が、お姉様が、あの第五位が、初春の懸想する殿方まで奔走しておりますの。腹が減っては戦がなんとやらですの)」 固法美偉は自分達の昼食を取る僅かな時間を作るために自分達以上に疲れているにも関わらず飛び出していった。 レベル5第三位御坂美琴は第七学区の電力全てをほとんど不眠不休で回している。 レベル5第五位『心理掌握』は持てる全ての力を注ぎながら暴発寸前の学生達を押さえ、宥め、空かし、束ねている。 レベル5第二位垣根帝督はその持ち得る能力を用いて各地の倒壊を最小限に防ぎ、流通のパイプラインとライフラインの開拓に最大限勤めているのだから。 白井「(啖呵を切った以上、わたくしに半端はございませんの)」 結標に切った啖呵、それはそのまま白井黒子自身への啖呵でもある。 共に歩む御坂美琴に、渡り合った結標淡希に、そして何より自分自身に――白井黒子は負けたくなかった。 ~とある高校・体育館兼避難所~ 生徒A「すいませーん!姫神さん来てませんか!?向こうで割れたガラスで腕切っちゃった奴が…医者の先生みんな埋まっちゃっててー!」 姫神「待ってほしい。今。行く」 吹寄「助かるわ姫神さん。ありがとう、本当に戻って来てくれて」 姫神「私こそ。ありがとう。吹寄さん。吹寄さんが。口を利いてくれたから。私にも出来る事が見つかった」 そして、この少女…姫神秋沙も大勢の中の一人である。 『吸血殺し』の副産物である応急処置の手練手管は医者や医療機関、医療物資の不足の中にあって非常に有為であった。 結標淡希の部屋に転がり込むまで避難所からあぶれ各地を転々として腰を据えられずにいたが、腹を決めた姫神の行動は素早かった。 何せ学生達の数が数である。一回の食事、一回の洗濯、需要は莫大であり供給は膨大である。 一人でも多くの手が必要であった。物的資源もさる事ながら人的資源も同様に。 姫神「(みんな。頑張ってる。私も。頑張りたい。一緒に。頑張る)」 大きな能力が使える訳でも、特別な権限がある訳でもない。 でも何もせずにはいられなかった。近い言葉ならそれは衝動であった。 もうハンバーガーをやけ食いしている訳には行かないのだ。 生徒B「ツバつけてりゃ治るってこんな傷…痛たたた!?」 姫神「治らない。ちゃんと。腕を出して欲しい」 生徒C「はいはーい!次オレ!オレ!」 吹寄「並びなさい!それにあなたは擦り傷でしょう!これは遊びでも文化祭でもないのよ!」 姫神秋沙の戦いを始めるために ~第七学区・三九号線木の葉通り~ 結標「結局来ちゃったわ…」 一方、結標淡希も朝昼を兼ねた食事を済ませると第七学区まで来てしまった。 座標移動を持つ彼女は遅く起きたにも関わらず、ほとんど姫神が高校に着いたのと同じ時間には辿り着いていた。 結標「馬鹿ね…私に何が出来るって言うの」 昨夜の能力者狩りの現場を目の当たりにし姫神の安否が気になった事、白井の言葉、小萌の笑顔を、姫神の決心に引きずられるように来てしまったが… 結標「私に…何か出来るだなんて思えないわ」 大通りの行く手を阻む横倒しになったビルの瓦礫に腰掛ける。 こんな戦災と天災が一度に暴虐の猛威を振るったかのような場所に… 陽の当たる場所に、暗部にいた自分に何が出来るのかと… キキィィィー… 「オーライオーライ…はいストップストップー!もうこっからは無理だー!」 「マジかよ…昨日は通れたじゃねえかよ…おーいこの荷物どうすんだー?」 結標「(トレーラー?)」 するとそこへ…瓦礫の山を前にして立ち往生しかけている超大型トレーラーが停車した。 どうやらコンテナを見る限り戦災復興支援の物資のようだ。 「回り道ねえぞ!退かそうにも重機も入らねえ!八方塞がりだ!」 「どうすんだよこれ…このルート以外はタクシーも入らねえのに!ちくしょーあとちょっとなのに」 何棟ものビルがドミノ倒しのように大通りを塞いでいるのだ。 未だに日本国政府からの救援活動を拒否している学園都市にあっては空路すら選べない。 それを結標は見やり…嘆息した。無理だ。 結標「こんなの無理よ…私の力だけじゃどうにもならない…ねえ!そこの作業員の人!」 ボランティアA「ん?なんだお嬢ちゃん。道なら聞かないでくれよ今それどころじゃないんだ」 こんな瓦礫の山をちまちま座標移動させてもきりがないし、何より20トン越えのコンテナもトレーラーも飛ばせない。しかし。 結標「貴方達は能力者じゃないの?私はレベル4なんだけど…なんとかコレ、ならないかしら?」 ボランティアA「悪い…オレ風力系のレベル2なんだ。コイツはレベル0」 作業員B「クソーこんな時まで役立たずか…くそったれ」 結標「…力を合わせて…って無理よね」 三人して瓦礫の山の前で立ち往生する。照りつける初夏の陽射しが、割れたアスファルトを溶かすように降り注ぐ…するとそこへ… ?「為せば成る!為さねば成らぬ何事も!ようは根性だ!!まだ諦める所じゃない!」 結標「!!?」 瓦礫の街に立ち上る逃げ水の向こうから…腹の底から響くような声音でのっしのし歩いて来る… ?「そこで見てろ!オレの根性見せてやる!!」 純白を基調とした学ランを特攻服のように改造し、日章旗をアクセントに仕立てたハチマキ姿の男… ?「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!」 結標「まさか…コイツ…!」 恐らく、今や学園都市広告塔たる御坂美琴と互角の知名度を誇る超能力者(レベル5) その無軌道かつ非常識が服を歩いているような力の全てを戦災復興支援に費やしていると言われる男…その名は 削板「念 動 砲 弾 ( す ご い パ ー ン チ )! ! !」 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!! ボランティアA「削板さぁぁぁぁぁぁん!!!」 ボランティアB「軍覇さぁぁぁぁぁぁん!!!」 結標「なにこの空気」 ミサイルでも叩き込んだような爆発と威力に極彩色の爆煙と共に、行く手を阻む瓦礫の山と廃ビルの林を木っ端微塵に粉砕したその男の名は 削板「諦めは“言”の“帝”だ!!なら言葉より行動と根性だ!!そうだろう!?」 愛と根性をこよなく愛する嵐を呼ぶ漢…レベル5第七位『ナンバーセブン』…削板軍覇であった。 ボランティアA「ありがとうございます削板さん!ご苦労様ッス!」 ボランティアB「ごっつぁんでした軍覇さん!お疲れ様ッス!」 削板「よし行けお前ら!物資を頼んだぞ!!気合い入れてけ!根性出せ!」 結標「(…何よこのノリ…)」 削板がコンクリートとアスファルトを豆腐をハンマーど横殴りするように切り開いた道を、トレーラーが走って行く。呆然とする結標と、フンフンと三三七拍子で見送る削板を残して。 結標「ねえ貴方…さっきのアレなに?」 削板「?なにを言ってるんだ。根性に決まってるだろう」 結標「根性でどうにかなるレベルじゃないわよ!?」 削板「一応レベル5だからな!後は根性と根性と根性だ」 結標「貴方根性って入れないと話せないの!?何回根性って言ってるのよ?!」 削板「8回だ。撤去作業にかかる費用と人員を学園都市が外部の人間を借り入れてまですると思うか?国庫からの支援すら拒否するに違いないぞ。時間も機材も足らんのらなら根性しかないだろう。自分達でどうにかせにゃならん!」 結標「意外に理知的!?」 姫神といい削板というある種『原石』とは皆天然なのかと結標は突っ込みが追いつかない相手に溜め息をついた。 馬鹿ではない。しかし利口ではない。今まで会って来た男達のどれとも違う。 削板「自己紹介がまだだったな!俺は軍覇、削板軍覇だ!握手!」 結標「あ、淡希…結標淡希よ…よっ、よろしく」 意外に求められた握手は普通だった。あれだけの破壊をやってのけながら。そんな感想を結標が抱いた時、削板はまた違った印象を抱いたようで。 削板「そうか!ところでお前はこんな所で何をしてるんだ?避難民の学生か?それともボランティアのメンバーか?」 結標「わ、私は…」 なんと伝えれば良いのだ。焼け出された学生でもなければボランティアにもなれない。それどころか何をして良いかすらわからない元暗部…そんな結標の迷いを 削板「お前、能力とレベルは?」 結標「空間移動…レベル4」 削板「そうか!ならちょうどいい!手伝って欲しい事があるんだが聞いてくれ!」 結標「えっ!?ちょっ、ちょっと!」 削板「時間ばかりは根性じゃどうにもならんから歩きながら話す!うおおおー!」 削板軍覇は見抜いていた。そして握手した手をそのままに結標を引っ張って行った。 ~とある高校・ボランティア詰め所~ 削板「という訳だ!!今日からお前には“案内人”になってもらいたい!!」 姫神「これは。どういう事」 結標「私に聞かないで…この人、人の話聞かないのよ」 小萌「結標ちゃん…先生からもお願いしたいのですよー…ボランティア(自主性)の主旨から少し離れてしまうのですけど」 結標は引っ張って行かれた先であるボランティア詰め所で打ち合わせしていた小萌と姫神と再会した。 そこで紹介がてら任命されたのは…未だ各所で崩落の危険性のある第七学区から、学生達を安全な第八学区へと誘導する『案内人』である。 削板「いや。コイツはここ(第七学区)まで自分の足で来た。誰に言われた訳でもなく!迷いながらも自分の出来る事を探して迷っていた目だ!!それにコイツは――根性が、ありそうだ」 結標「………………」 削板の眼力は正しかった。結標自身迷いの最中にあり、悩みながらも第七学区まで来た。 そして…ある意味ではレベル5として、学園都市の闇を見てきた。そして結標からその匂いを感じ取った上で…連れて来たのだ。 白井『“この後”どうするかではありませんの。“この先”どうするかですの』 結標は反芻する。白井黒子の言葉を。 白井『あと数メートル長く飛べ駆けつけられたなら、あと数キロ重く人を抱えられたならと…』 結標は想起する。白井黒子の表情を。 結標「(ふー…)」 小萌は大人として戦い、姫神は子供として闘い、削板はレベル5として。 結標「(もう疲れたわ…ウジウジウジウジウジウジ悩むのに)」 ならば――結標淡希は何を為すべきか。その力で。レベル4座標移動の能力で。 結標「(もうウンザリなのよ…あなた達みたいに眩しい人達の中にいるのが)」 瓦礫の山はもう見飽きた。闇の底はもう見飽きた。 ――歩き出そう。座標移動ではない自分の足で―― 結標「私は―――」 答えはもう、決まっていた。
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‐ホール‐ 梓「唯さん」 唯「ん?」 梓「今までお疲れさまでした、とても面倒だったでしょうけど。 あっ、ちなみにこれは」 唯「純ちゃんのことだね」 梓「理解される方も可哀想なものです」 唯「面倒だって初めに言ったのは梓ちゃんだよ」 梓「そうでした」 梓「ところで知っていると思いますが、私は中学三年生です。 つまり、来年から高校一年生となります」 唯「そうだね」 梓「というわけで、よろしくお願いしますね、唯先輩」 唯「えっ?」 梓「そういうことです」 唯「本当なの?」 梓「唯先輩」 梓「私の前世は猫なんです」 唯「だから余計に信じられないんだよ」 第一六七話「猫を被るとは言うけれど」‐完‐ 梓「唯先輩」 唯「なに?」 梓「んー、何か違和感がありますね。 今まで“唯さん”と呼んでいたせいでしょうか」 唯「私は何も問題ないんだけど」 梓「そこで提案なんですが」 梓「“ゆいにゃん”なんてどうですか?」 唯「どうしようもないよ」 梓「可愛いですよ、ゆいにゃん」 唯「思いっきり私のこと舐めてるよね?」 第一六八話「ゆいにゃん、にゃんにゃん」‐完‐ 梓「何ですか、そんなにペロペロされたいんですか?」 唯「そんな物理的な意味じゃなくて」 梓「ちょっと待っててください、今から憂に確認取りますから」 唯「どういうことなの」 梓「オーケーだそうです」 唯「どういうことなの」 梓「憂もすぐに来るみたいです」 唯「本当にどういうことなの!?」 第一六九話「猫達のランチタイム」‐完‐ ‐キッチン‐ 姫子「おーい、注文だよー」 律「……」 姫子「何々、オーバーヒート?どうしたの律」 律「姫子、次の選択肢のうち一つを選んでくれ」 律「一つ、私にドライアイスをぶっかける。二つ、私を冷凍庫に閉じ込める」 律「どっちだ!?」 姫子「私が犯罪者になるという点では、選択肢が無いんだけど」 第一七〇話「Beef or Beef?」‐完‐ ‐ホール‐ 姫子「はい、こちらカルボナーラです」 唯「ありがとー」 姫子「……ねえ」 唯「ん?」 姫子「何で梓ちゃんはこっちを睨んでるの?」 唯「えーと、ランチタイムを邪魔されたからかな?」 姫子「……あー、なるほど」 姫子「ごゆっくり」 唯「理解したなら助けてよ」 第一七一話「空気を読む≠意図を読む」‐完‐ 梓「さあ、私のランチタイムの始まりですね」 唯「梓ちゃん、本当にそれだけは止めて」 梓「……仕方ないですね、わかりました。 唯先輩がそんなに嫌がるのなら、止めておきましょう」 唯「梓ちゃんが人の気持ちをわかる人で良かった」 梓「私はそういう気持ちの動きに敏感なんです。前世が猫だったので」 唯「そう思うなら、もっと前に止めて欲しかったな」 姫子「唯先輩……って、どゆこと?」 唯「いや、梓ちゃんが私と同じ高校に進むみたいでさー」 姫子「えっ!?」 梓「そうなんです」 姫子「じゃあ私の後輩にもなるわけだ?」 姫子「よろしくね、梓ちゃん」 梓「はい」 梓「……ひめにゃんは無いかな」 梓「姫子先輩、よろしくお願いします」 姫子「今さりげなく、凄いこと言わなかった?」 唯「逆に、なんで私ならいいの?」 第一七二話「見えない線引き」‐完‐ ‐外‐ 純「ふふふふふーん」←鼻歌 憂「純ちゃーん!」 純「おぉ、憂。どこか行く途中?」 憂「うん、お店に用があってね」 純「じゃあ一緒に行くかー」 憂「純ちゃんは何してたの?サボり?」 純「買出しだよ、買出し。 何でもかんでも私とサボりを結び付けんじゃない」 憂「えー、だって純ちゃんだよー?」 純「最近の私は、働くことを苦としていないからね!」 憂「へえ……噂には聞いてたけど、純ちゃん凄い変わったね!」 純「ふふん、仕事出来る私はカッコいいかい?」 憂「えっ」 純「何かごめん」 第一七三話「容赦もえげつもない」‐完‐ ‐ホール‐ 憂「お姉ちゃん、食べにきたよ」 唯「こちらがカルボナーラとなっております」 憂「そんなジョークは通用しないよ」 唯「えっ、割と真剣だったんだけど」 憂「だって梓ちゃんが電話で言ってたよ」 唯「それは止めてもらったから」 憂「私に独占させようとしてくれたんだね」 唯「憂はポジティブすぎるよ」 憂「仕方ないなあ」 唯「潔く諦めてくれて、良い子だね」 憂「梓ちゃん、ディナーが楽しみだね」 唯「それどういう意味」 梓「全くだよ」 唯「梓ちゃん」 憂「今日の晩御飯はお刺身だね!」 唯「……生々しいよ!」 第一七四話「純粋無垢に邪な気持ち」‐完‐ 姫子「これが唯の妹……。色々な意味で危なさそうだね」 憂「大丈夫です、お姉ちゃん相手にしかこんなことしません」 唯「私が相手だと大丈夫じゃないってことだよね」 唯「そんなことより、姫子ちゃん。あの準備は出来てる?」 姫子「うん、ばっちりだよ」 唯「そっか、良かった」 純「何かやるんですか?」 唯「まあ、色々とね」 梓「純のお別れパーティーみたいなものですか?」 唯「えっ」 姫子「あっ」 梓「へっ?」 第一七五話「ネタばらしサプライズ」‐完‐ ‐スタッフルーム‐ 梓「誠に申し訳ありませんでしたー!」←土下座 唯「いや、あのさ」 唯「そういうことを思いついてもさ、言っちゃダメだよね」 唯「実際ありそうなことなんだし」 梓「でも、まさか当たるとは思わなかったですし」 唯「実際有り得るから可能性があると思ったから、梓ちゃんはあんな予想したんじゃないの?」 梓「全くその通りです……」 姫子「まあさ、梓ちゃんには悪気なかったんだし、その辺にしといたら?」 唯「……そうだね」 唯「バレたところで純ちゃんを楽しませられることに変わりは無いし」 梓「確かにそうですよ」 梓「純は単純ですし」 唯「うん、もう少し反省させようかな」 姫子「ちょっと私も参加していいかな」 第一七六話「謝罪と反省の二乗」‐完‐ ‐キッチン‐ 律「澪、料理の準備は順調か?」 澪「……ああ」 律「そっか。こっちも大方仕上がってきたよ」 澪「……」 律「しっかし、すげえことするよな唯も。 “私がお金払うから、このお店のメニューで純ちゃんのお別れ会したい”だっけ?」 澪「……」 律「今まで稼いできたお金を、今まで働いてない純ちゃんのために使うなんて、 普通のやつじゃ出来ないことだぜ?」 澪「……そうだな」 律「やっぱり唯は、何だかんだで純ちゃんのこと大切に思ってたんだな」 澪「……」 律「おーい。お前は、まだ立ち直れないのかー?」 澪「……だって」 律「お前が言ったことが発端だろ?」 澪「そうだけど……」 律「……あー、もうわかった! お前は私のことわかってるつもりなんだろうけど、実は全然わかってないってことにしろ!」 澪「え?」 律「いいか、お前はまだ私のことなんか、これっぽちもわかってないんだ」 律「だからあの時、お前が言った事は何も恥ずかしくない、 ただの戯言だったってこと!」 律「だからお前が赤くなる必要は一ッ切無い!」 澪「そんな……」 律「……だからさ、お互いがさらに理解を深められるように、 これからもずっと一緒にいような、澪」 澪「……え?」 律「……」 澪「……律、その台詞の方がよっぽど恥ずかしいんじゃないか?」 律「うわああああああ!やっぱり、訂正!やり直し!」 澪「はははっ、律って面白いな、やっぱり」 律「くそー……待ってろ、もう一回違う言葉で仕返ししてやるからなー……」 澪「その必要は無いよ、私も同じ気持ちだから」 律「へっ?」 澪「手が止まってるぞー、律。ちゃんと働けー」 律「……はいよ!」 第一七七話「昇華、そして結束」‐完‐ ‐スタッフルーム‐ 純「はあ……」 紬「あら、どうしたの純ちゃん」 純「いえ、盛大なネタばれを食らっちまいまして、 どんな態度で皆と接すればいいのか、悩んでいたところです」 紬「それは深刻な問題ね」 純「本当に迷惑な話です」 紬「そういう時こそ、いつもの自分でいればいいんじゃないかしら?」 純「いつもの私ですか」 紬「……あっ、ダメね」 純「ダメですか」 第一七八話「こうして歴史は繰り返される」‐完‐ 紬「でも、ここで悩んでるだけっていうのは、得策じゃないわ。 最後の日だからこそ、ちゃんと働かないと!」 純「そうですよね、最後の日ぐらい」 純「……まあ、働いてきます。私なりに、私の仕事をしてきますね」 紬「行ってらっしゃい、純ちゃん」 ‐ホール‐ 純「憂ー、何かご注文はあるー?」 憂「お姉ちゃんを一人」 純「これはいつもの私でも対応出来ません、紬さん」 第一七九話「万事休す」‐完‐ 14
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すぐに一人に追い付き、相対速度をゼロにした世界で背中を打ち据える。力を無くした 体は過ぎ去る地面に接触し、後方に流れて消えた。 もう一人も同じようにこなした。今度は腹を突き上げたが、一瞬全体が跳ね上がった後 はさっきと同じだった。 あと一人。 最後に残ったニット帽のそいつは、もはや逃げることを諦めていた。怖くて逃げたくて 仕方ないのに、目を奪われたようにして立ちすくんでいる。 ああ、分かるぜ、そノ気持ち。俺も昔山の中で狼に鉢合わせした時は助からないと思っ た。自由に足運びできない中を、そいつだけは飛ぶような速さで近づいてくる――でも安心 シな。そんなもの、気を失ったら全部どっかへ行ってしまうから。 「アーディオース!」 最後の仕上げだ、俺はバットを握り直して歩きながら間合いに入った。スッと腕を引き、 横に凪ぐべく力をこめる。 が、自分の体が思うように動かせたのはそこまでだった。 「?」 後ろに引いた腕が、何かに絡み付かれたように動かない。 不審に思い、首だけを回して見てみると、 「止まるな!逃げろぉッ!!」 腕にしがみついていたのは金髪だった。いい加減しつこい。 それから二人は、俺越しに視線で言葉を交わしはじめた。多分、自室に残した恥ずかし いブツ等を片付けておいてくれとか、そんなドラマチックなやりとりをしていたのだろう。 ニット帽は悲愴な顔で頷き、きびすを返して路地の角に消えた。もういいだろう。そこ で俺はブロンド付きの腕を払って地面に投げ飛ばした。ニット帽とは反対方向にゴロゴロ と転がり、丸めた紙屑のようにガサリと止まる。 俺はその腹にむかって、フリーキックの真似をして足先をめり込ませた。 「良かったな、不良A。ちゃんと逃がせたじゃないか」 ビクンと転がるブロンドに、また蹴りを入れる。 「でもさ、いいのか?俺はお前が動かなくなったら、またあいつを狙うぞ?」 金髪の毛先がピクリと揺れた。その頭を踏み付ける。 「どうしようかな。お前が止めなかった方が良かったかもしれないな。次にあいつを見た ら徹底的にやってやるよ」 投げ出されていた腕にかすかな力が宿り、指先が震え始める。俺はぐりぐりと踏み躙っ て、頭皮に砂利を擦り込ませる。 「どうする?俺を止めなきゃいけない。だけど今のお前に何かできる事があるか?こんな 簡単に地べたに転がって、あいつを助けるために何ができるんだ?」 一瞬体が動いたが、俺はそれ以上の体重をかけてくたばらせ続けた。 「俺を恨むか?あいにく感情だけでは現象にはならない」 「何かに祈るか?いつかは叶うぜ、二世紀後くらいに」 「殴りたいか?一発程度じゃ解決しないさ」 「汚い言葉を並べるか?言ってみろよ。耳貸さないから」 頭にかけた足が浮き上がった。俺はさらに体重を乗せるが、一時勢いを失っただけで、 足またジリジリと押し戻される。頭が起き上がる。 「逃げちゃダメだろ。とっとと帰れよ」 「泣いて喚けよ。気持ち悪い」 「投げ出してんじゃねぇよ。早く諦めろ」 「負けを認めろよ。まだ希望はあるんだぞ」 その瞬間、俺の体は車に跳ねられたように後方ヘ吹っ飛んだ。 大太鼓の破裂するような音が沸いた。粗末なドアが歪み、あちこちで壁がひび割れ粉塵 が散る。 「俺の仲間に手ぇ出させるかよぉ!!」 ブロンドの周囲を、不可視のエネルギーが渦巻いていた。それは手を触れずして物体を 動かす力、一般的には最もポピュラーな能力、『念動力』だった。 スキルアウトに落ちぶれるようなレベルの力にしては有り得ない規模だ。しかし、能力 者が精神的な窮地に立たされると、時として爆発的な能力発達がみられる場合があり、そ れはそのまま、『能力爆発』と呼ばれている。 俺は腕をたてて起き上がり、口を伝う血を拭いながら少年漫画のカタルシス的なクライ マックスの光景に目を見張り―― ショボい。心底がっかりして首を振った。 舐めているのか、コイツは。火事場の馬鹿力というのは普段使っていない筋肉も総動員 することで数倍の筋力を発揮する。が、脳は平常時にどれだけ使われていないかを知らな いのか。俺が今まで見てきたヤケクソの中には、レベル5もかくやというものも何度かあ ったぞ。 「おぉぉらぁぁぁぁぁ!」 叫びに呼応して、そこらに落ちていたものがブワリと浮き上がり、狙いを定めて次々と 飛び掛かってきた。その一つ一つが直撃すれば大怪我間違い無しの殺傷力を持っていたが、 しかし俺にとってはそんなもの、気軽なドッジボールで使うゴムボールほどの脅威でしか ない。 「その程度かよ、アウトロー坊や」 能力爆発は風紀委員が最も警戒するものであって実際俺も幾度となく遭遇して対処して きたし、能力の規模が増したとは言っても戦闘のセンスまでがスキルアップするわけでは なかった。首を傾げ腰を振り、難なく飛来物を躱していく。ご丁寧にも放ってきてくれた 金属バットの片割れを左手で受け取り、二刀――もとい、二振流で障害物の処理速度を増や し、ブロンドの方に近づいていく。 「それがお前の限界か」 マンホールを弾き返し、コンクリートブロックを粉砕し、吊り看板をへし折りアスファ ルトの欠けらをはたき落とし照明を突き飛ばし壊れたバイクを撥ね除けながら歩み寄る。 「それならお前はもう黙ってろ」 脈動感のあるダンスのように身を翻しながらブロンドを射程圏内にとらえ、最後に自身 を庇おうとした不可視の障壁を打ち崩して、 「俺に大人しくぶっ壊されて、屍肉晒してればいいんだよ」 ブロンドの頭蓋は、二本の金属バットに左右から叩き潰された。大きく歪んだ血色の顔 面に、泣いているようにも笑っているようにも見える面白い表情が浮かんだ。 力を抜いてバットを離すと、間を置き遅れて体が倒れ始め、万歳のように両手を天に差 し伸べながら地面に崩れて動かなくなった。 今度こそはもう立ち上がる事はないだろう。 俺は散々殴りまくって使いものにならなくなった二本の鉄クズを、同じくゴミのように 転がる血まみれの上に放り捨てると、それに背を向けて路地の奥へ歩き出した。 次はどこを漁ろうか。こんな事を既に七、八回は繰り返しているので、十九学区の混乱 は相当なものになりはじめているはずだ。自然警戒も広まっているだろうから、より気の 置けない行動が必要とされるだろう。望むところだ。 体も温まって気分も大きくなってきたことだし、そろそろ能力も使って本気で行ってみ ようか。 裸足の足の裏に粗雑な感触を踏みながら、次の壊し場に最適な場所を思い出した。 学区の中心に広がる、巨大なショッピングモール。支部室の端末で確認した情報によれ ば、そこは現在スキルアウトたちの本部になっているらしい。 おあつらえ向きじゃないか。今ならそこには相手をしてくれるヤツがうじゃうじゃと犇 めいて待ってくれているだろう。しかし、それは最後のメインディッシュに取っておく方 が良いな。そのためにも、この学区を最大限に掻き乱さないといけない。 俺は心の踊る絵を想像して我慢ならなくなり、脚を赤く揺らめかせて爆発させると夜の 街を一直線に駆け抜けた。 ▼スキルアウトB02 笑っていた。『アイツ』は、最初から最後まで笑い続けていた。 ショウを警棒で叩いた瞬間から、落として、投げて、蹴って、殴って、打って、ぶつけ て、折って、はたいて、突き上げる間、『アイツ』狂った道化のように笑い続けていた。 そして……ニックが、オレを逃がすために犠牲になってくれた仲間が背中に取り付いた 時、『アイツ』は人間とは思えないような、いや、人間には絶対にできるはずのないような 冷たい顔をした。 嫌だ、『アイツ』は嫌だ、どうしてあんな事をしながら笑う事ができるんだ、どうしてあ んな表情を作る事ができるんだ、どうしてオレ達を襲うんだ、嫌だ、オレは嫌だ、オレに はもう無理だ、ニックはオレの身代わりになった、もうオレは『アイツ』に見つかったら おしまいだ、オレは一人で『アイツ』に殺される、それは嫌だ、一人は駄目だ、だから人 がたくさん必要なんだ。 本部に行けば、ニックが行けと言ってくれたスキルアウトの本拠地に行けば、人がたく さんいる、そうすれば安心できる。大丈夫なんだ。 自分を全力で励まさなければ走れない。そうしなければすぐに膝が柔らかくなって立て なくなる。しかしあの笑い顔を払い除けるのと体を動かすのを一緒にこなすのは難しかっ た。何度も足がもつれ、転びそうになる。体勢を立て直すのに体へ集中すれば、その後そ の分だけあの笑顔が近付いている。そして払い除けるのに集中すれば再び足がふらついて ――オレはついにバッタリと転んだ。拍子に頭のニット帽が落ちて、前髪がだらりと視界を 覆う。オレはその縦格子の隙間からあのひび割れた笑みが現れて来そうな気がして、唐突 な恐怖に襲われた。あわてて帽子をしっかりと被り直し、転がるようにして走りだす。 本部ヘ。人がいるところへ。あの化け物の襲来を知らせるために。助けを求めるために。 オレは必死に、力の限りに肺と脚を動かしたが、『アイツ』の笑顔からはちっとも逃げ出 せた気がせずに、何度も転びながら、その度に飛び跳ねるように起き上がりながら走り続 けた。 ▼クレイモア02 人は見た目が九割、って誰カが言ってたな。イや、至言だよ、至言。言い換エると名言。 でも俺はソレをちょっと改変したものを声高に叫びタいね。 人は見た目が十割、外見が全てである、と。 俺はいわゆる不良というものを毛嫌いしている。あいつらの顔を見ていると、食道の根 元あたりから言い様も無い嫌悪が噴き出してくるのだ。 明るいヤツはよく笑う。よく笑えばそれだけ表情筋が発達して頬が膨らみ、その結果、 外見的に明るい印象を持つ顔立ちになる。その変形させる程の感情はその者が最も大きく、 長時間に抱いているものだから、外見と中身は直結する。 前述の言葉はこの短絡な理屈によるものだが、これを俺は結構気に入っていて、なおか つ高く信頼している。しょっちゅう出くわす犯罪者や不良には、本当にゴミみたいな顔を したやつしかいないからだ。そしてそいつらは印象に違わず、ゴミみたいな事をして生活 している。そりゃ、たまにはまともな顔をしたのもいるが、そいつは大抵ゴミみたいな事 はしていない。何か筋の通った理由で大義ある仕事をこなしているか、並の人間にはこな せないとんでもない事をしでかしているかのどちらかだ。 出来損ないがいてくれるからこそこの世は安い労働力とかに困らないのであって、世の 中には無駄な事なんて一つも無いというこれまた名言な事実を再確認してはいるものの、 やっぱり不良の価値が平均以下なのも確かだった。それが第十九学区を壊して回ろうと思 った一番の理由だ。今この学区にいる者を皆殺しにしたなら――勿論こんなやつらでも死を 悲しんでくれる誰かがいる事を思慮に入れても――この世はプラスマイナスで言えば間違 いなくプラスに傾くだろう。さっき言った例外は居なくなってしまうとマイナスかもしれ ないが、分別する労力はそれ以上にマイナスだし、その存在がいつもプラス側であるとは 限らない。 この考えは一般的なところから見ると十分マイナスな思想である事は理解していた。だ から布教しようした事はないしもともとしようとも思っていないが、今日初めて疑問に思 った事がある。それはある瞬間突然に、今まで隠れていた障害物がパッと掻き消えてしま い、もはやどこにも誤魔化しようがなくなったような状態で頭の中に出現したのだった。 俺は、どうしてこんなに不良が嫌いなのだろうか。 ▼白井黒子01 初春からその命令を言い渡されるまで、私は手ごろなビルの屋上で精神感応(テレパス) 能力者と一緒にテロリストを探索していた。 「ぅうーん……ぅうーん……ううぅぅぅぅうーん……ふぅぅぅううぅぅん……」 が、その成果はあまり芳しくない。 「ふぇえぇぇ~ん、テロリストさん、見つかりませんよぉ~」 「口を閉じたままできませんかしら、先輩」 泣き言を吐く風紀機動員を、普段は取り払われる学年の上下をあえて持ち出して封殺す る。 何がふえーんだ異性に使うならまだしばきたくなるほどむかつくぐらいだが同じ女に使 っても吐き気をもよおすだけだしかしそのなよなよとした感じはいただきだな今度お姉さ まに使ってみよう。 この四葉という名の女子生徒は私より二つも年上だというのに先輩らしいところが一つ も無かった。立ち振る舞いはこのように誰かの保護がないと2秒で孤独死するような習性 だし、背は同学年の中でも低い方である私とほとんど変わらないし(そのくせ胸部には、 不釣り合いな程の脂肪が付着しているが)。 「ところで、そろそろ私のスカートを握っている手を放してくださいません?」 「うぅ……どうしても放さないといけませんかぁ……?わたし、高いところ苦手なんです よぉ……」 「……あなた、それでよく風紀機動員になれましたわね」それとも、精神感応にはこんな 気の持ちようが必要なのだろうか。 呆れて嘆息しながら、自分の平高線上よりも下に広がる街に目を向ける。 街中を走り回っているうちに消費した時間は太陽をとっくに地球の曲面の向こうに引き ずり下ろし、今は建造物によって作られた地平線から間接的な光が投げ掛けられるのみで ある。現在時刻は七時十四分。ここから約300メートルの距離にあるファミリーレスト ランでテロリストが被害を出してから、たった今30分が経過したところだ。そしてじき に東から夜に沈んでゆくであろう薄暗闇のあちらこちらでは、私と同じ第七学区の風紀機 動員が警備員の水増し役として要所を警備しているはずだった。 私もどちらかと言えばそっちに行って怪しそうな人間を心ゆくまで問い詰めたかった。 朝から働き続けで蓄積した疲労は数十分もつっ立っているとすっかり回復してしまい、 逆に何か運動をしていた方が楽なほどになっているのだ。頼りないパートナーの相手をし ているよりは犯人確保に駆けずり回る方がまだ心安らかな状態でいられるとは思うのだが、 しかし勝手にこの人をほっぽり出すわけにもいかない。 精神感応による広範囲探索の起点の移動を、瞬間移動(テレポート)によって迅速なも のにすること。それが今の私に与えられた命令だった。 高速移動検定準一級の速度でエスコートされる少女の感応探索は、今まで例のファミリ ーレストランの東西南北の四地点で繰り返し行われ、ここの南方面では5回目だ。時計で 言うと12時から3時、6時、9時とぐるぐる制覇して5周したことになる。しかし、テ ロリストはそれだけ探しても気配すら掴ませない。 (監視カメラに姿は確認されていない、道路は規制が敷かれていて使えない、鉄道も同様、 そして徒歩で逃げようとしてもこの半径3キロは被害の300秒後には警備員と風紀機動 員が包囲を完了している――現場からは離れる事はできないはずですのに、どこに行きまし たのよ……) ここまで来ては一つの結論を出さざるを得なかった。テロリストは、監視カメラに察知 されずに、しかも精神感応の効果範囲が届く前に自力で逃げ延びたのだ。 上の人間達も分かってはいるだろうが、私たち風紀機動員は所詮学生、つまり子供。い くらこの包囲網の中にテロリストの精神活動が見当たらないと報告しても、とりあえずも う一度探しておけという命令が返ってくるばかりだった。毎回同じ台詞で。 「うぅ……見つかりません……」 だから、フラフラになりながらもそんなに必死で探さなくていいと思う。私はそうしい るんだし。でもこの人はやめない。なぜそこまで必死になれるんだろうか。理解はできそ うになかったが、この人が風紀機動員になれた理由は少しだけ分かった気がする。 と、認めかけていたところで彼女がこけた。 「あゃーっ」 1メートル先の地面の終わりにむかって。 握られていた私のスカートも一緒に。 「な゛」 その時路上で『もうすっかり夜だね。ほら、一番星があんなに綺麗だ。おや、あれは君 の星座じゃないか』とかぬかしているヤツがいたなら、ソイツはビルの屋上で寝転がって 肩から上を空中に晒してあたふたするヘルメットと、薄いショーツだけ残して下半身を披 露しながらビールマンスピンのポーズで直立する女子学生を目撃した事だろう。 幸いにもスカートは私の足首に残ったままで、四葉が力いっぱい握り締めたまま空に引 きずり落とすという事は無かった。しかし私にはそんなサービスを続ける気など毛頭無か ったので、 「ぎゃあぁぁぁぁぁっ」 濁点を隠して聞いてもらいたいような悲鳴を上げながらスカートをたくし上げて(手汗 でしっとりとしていた)、次いで落ちかけている少女の両足をジャイアントスイングのよう に脇に抱えて引っ張り、安全な場所まで退いて事なきを得た。 「だっ、なぁっ、ばっ、もうっ、はっ、し、死ぬかと思いましたのよっ!」 私は目尻に涙を浮かべながら風紀機動員仕様防護ヘルメットの頭をペンペン叩いた。も はや年上だという事など頭の中から吹っ飛んでいる。 「あ、い、う、えぅ、ごめんなさいぃー」 ひとしきり叩き終えたところでようやく落ち着いた。雨風に研かれたコンクリートに身 を投げ出し、身なりを整えながら息を吐き出す。 「はーーーーーーーーーーーぁ……間違いなく、寿命が縮まりましたわ、5センチは確実 に。ついでに膝の皮も剥けましたし」 「ほんとぉに、すみませんでしたぁ……でも、白井さんにはテレポートがあるのに、なん で――」 「十一次元を『跳ぶ』には、面倒な計算が要るんですのよ!あんなふうにいきなりとっ掴 まれたら、対処なんて不可能なんですのっ!」 「うぅ……すみませぇん……」 「はぁ……まぁ、もういいでんすけれどね」 「すみませんでしたぁ……」 謝罪の言葉は、高みに浮かぶ地面の上、黒に近付く紺色の空に吸い込まれて消えていっ た。 しばらくの間、どちらも何も言い出さない沈黙が続く。多少気まずい雰囲気でない事も ないが、考えてみればさっきまでのサーチとあまり変わらない。 と、その静寂は不意に断ち切られた。 ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピ ーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピ―― 「ああうるさい!」 その電子音の音源は私の携帯電話だった。そしてそのメロディは風紀委員の任務時に使 用される番号に設定しているものだ。 また、探索地点の移動か。 口紅型のそれを開いて耳に響く音を黙らせ、それから発信者の確認をする。 しかし、ディスプレイに表示されていたのは、予想していた女警備員でも風紀機動隊長の番号でもなかった。 そこにあったのは第一七七支部のパソコン通話を知らせる数字の羅列。つまり、電話を かけてきたのは、風紀委員のオペレーター役を務める初春飾利からのものである事を意味 していた。 ▼スキルアウトB03 「そんなに騒ぐな。タカ達の報告に応えて、南区にはもう20人ほど送って増援しておい た。心配は要らない」 オレはその答えを聞いて一瞬言葉を失った。 20人?その程度でなんとかなると思っているのか?タカの奴、最初にくたばったと思 っていたら、何も見ないままに本部ヘ逃げ込んでいたらしい。 「冗談じゃない!リーダー、『アイツ』は20人ぐらいじゃ止められないんだ!南区の天道 大通りの、オレ以外の仲間はあっという間に全滅させられたんだ!20人ぐらいじゃ5分 でやられちまうよ!」 思わず大声で怒鳴ると、周囲の人間たちが食事の手を止めてこちらに目を向けた。 スキルアウトの本部、十九学区の中心的な建造物である大規模ショッピングモール、『ク リスタルシティ』。ここはその最上部の一角に設けられたレストランだった。そして今は、 スキルアウトの司令室だ。 食事処としても機能を続けている場の視線を一身に集めるほど声を荒げたオレに、リー ダーは決して機嫌を良くしてはいなかった。 「じゃあ聞いてみるがな、そのイカレた野郎はどうやっておまえたちをぶっ倒したんだ?」 「どうって、こっちの持ってた警棒をあっという間にもぎ取ってぶん殴ったり、金属バッ ト振り回したり――」 「だろうが。ソイツは能力なんか使わずに、素手で殴り込んできたんだ。能力も銃なんか も使ってない奴に油断して、おまえらは簡単にぶっ殺された。そうだろう、あぁ?」 「い、いや、でも、『アイツ』は、何十メートルも飛んで爆発して現れて――」 「風紀機動員でもない奴にそんなことができるわけないだろう。あれは手榴弾、そしてそ れはもう無くなった。そうだろう、タカ?」 リーダーはもはやオレの話に半分も耳を貸さず、フロアの隅にたたずむ男ヘ問い掛けた。 その隣では新入り女が気まずそうな顔をしてオレを見ていたが、タカは自信有りげに「そ の通りです、リーダー」と答える。 リーダーはそれに満足そうに頷き、横に太い腹から、肌で聞き取れるほど凄みのある声 で言った。 「そういうことだ。もう必要な対処はすませた。おまえは黙って役場に戻ってろ」 そう締め括ると、それきりテーブルに並ぶ料理にナイフとフォークを突き刺す作業に戻 り、オレの方など見向きもしなかった。 消えろ。 そう言っているのを感じた。リーダーだけじゃない、このレストラン全体から、リーダ ーのお気に入り達からも。 消えろ下っ端。ビビッて錯乱した三下。うるさい、目障りだ。 悟った。まるで相手にされていない。そして立ちすくんだ。ここにいる人間たちは、オ レの言葉などに一つも耳を傾けはしない。 膝が緩みはじめた。フラフラと、地面が柔らかくなる。テンパって、頭が真っ白になる。 ここに持ってきた希望は、すっかり崩れてしまっていた。 ボケっと突っ立つオレはとてもカッコ悪かったに違いない。ぶつけれる気配が、軽蔑す るようなものになった。早く消えろって言ってるだろうが、クズ。 自分の体に手が届かなかった。動けない。邪魔だ、能無し、マヌケ。打ちのめされて麻 痺してる。 やっと届いた。体を動かす。オレは夢中でレストランを飛び出した。遅刻寸前の朝に引っ掴まれるカ バンのように、そんな光景はもうずいぶんと昔に自分とは遠くなったはずだけど、なぜか そんな連想をした。 オレは自由になりたかったんだ。 どんな事でも、オレは、オレの意志でオレを決める。 スキルアウトになったのは、その方がオレに合ってて、うまくいけると思ったからだっ た。裏路地、自力、闘争、生存。 なのに、今のオレはどうしている?学区の端っこで、ショボい武器を渡されてショボい 事を命令される。マジメにやっていけばいつかなんとかなると思ってやってきたけど、見 ろよ、それがこの様だ。 オレはただ助けたいだけなんだ。こんなオレでも認めてくれる奴等がいた。オレを逃し てくれた。みっともなかったけど、せめてそこからはちゃんとしたかった。 畜生。 それなのに、どうして何も言う事を聞いてくれないんだ。 このままじゃ被害は絶対に増える。『アイツ』は今のままじゃ勝てない、全員の力を合わ せないといけないのに。 もうあいつらなんてどうでもいい。どうにでもなっちまえ。でも、あそこに残してきた やつらだけはだめだ。怪我をしてまだ地面に倒れているはずだ。そのままではいけない、 手当てをしてやらなければいけない。絶対になんとかしてやる。 他の助けなんて要らない。オレだけでもやってやる。オレがあいつらを助けるんだ。 エレベーターのボタンをガチャガチャ押して呼び出して、最上階から一階まで一気に降 りる。扉が開いたらすぐにダッシュして、建物の出口を飛び抜けた。 そこで、何かにぶつかった。 「ぎゃっ」 壁だと思った。なにせオレは反動で2メートルも跳ね返ったのだ。 しかし、そこに立っていたのは人間だった。 「ああ……すまない。……怪我はないか……?」 機械的な、抑揚の無いその声には聞き覚えがあった。 リーダーとは違う方向にデカイ体。短い焦げ茶色の髪に、調理服をピチピチに突っ張る 筋肉。 「駒場さん!?」 それは司令部のレストランで料理長をしているはずの人間だった。どうしてここに?そ れに、オレはエレベーターで降りてきたのに、なぜ先回りされてるんだ? 「ああ……ちょっと、おまえに用事があってな」 巨漢のコックは無感情に言った。 「用?」でもは今それどころじゃない。「悪いけど、オレは急いでるんだ。それに、もう上 の命令を聞くつもりは無いっ」 オレは駒場さんを大きく迂回して走り出そうとした。しかし、一歩も動かないうちに伸 ばされた腕に襟首を掴まれ、引き戻された。 「気が急くのは分かるが、まぁ聞け……。俺の用というのは、“おまえの仲間”を助ける事 を含んでいる」 「え?」本当か?「でも、なんで?」 言っている間に、巨漢のコックはその服を脱ぎ始 めていた。窮屈そうだった白い布の下から、ぴっちりとしたタンクトップと、軍人のよう なズボン、ぎちぎちに詰まった筋肉があらわれる。 「こんなに情報が少ないんじゃ何も始まらないからな…その“アイツ”は俺“達”と言ったん だろう?…なのにアイツはろくな情報収集もしない……それに……」 駒場さんは事もなげに、つまりいつもと同じ全くの無感情で答えた。 「末端の人間の面倒を見るのが……上の人間の仕事だろう」 ▼クレイモア03 片側二車線道路いっぱいに、スキルアウトが立ちふさがっていた。その数……何人だろ。 だいたい20人。ぐラい。 丁度いい数だ。もう準備運動は終えているので、本気で行く。 スゥ――、と一吐きして、頭を戦闘用に組み替える。水に沈んでいくようなイメージ。足 先から浸食して、じわじわと、頭の天辺までを感覚に包み込む。水面ヘ逃れる事はしない。 同時、要所に『焦点』を展開する。猫に尻尾の動かし方を聞けたとしても、人間にはちっ とも理解できやしないだろう。今体に走っているのは、学園都市の脳開発技術によって“開 かれた”、個人個人で全く違う、固有の回路。俺の場合、あえて言うなら、全身の筋肉骨格 皮膜を想像上の神経で直結させるような、ニトログリセリンのように不安定なエネルギー の塊を肉体という風船に詰め込むような、そんな感じだ。 腕に赤い光が浮かび上がる。脚をさざ波のような明かりが走る。 スウーと、細く長く吐き出し続けていた息を、ピタリと止めた。水中に飛び込む泳手の ように。 そして、足裏の光を限界ギリギリまで高め―― 爆発。 飛び出す。 五本の指でぐりぐりと地面を掴み後方ヘ蹴りつけ、十分にエネルギーを搾り取ったとこ ろで爆破。爆破。爆破。浮かび上がろうとする体を、飛行機のように水平に広げた両手に 爆発を連続させて地上に縫い付ける。 空気すら液体の如く絡みついてくるスピード。筋肉と爆発の衝撃を連動させた運動速度 は、人間の反応の限界を越えている。だが能力使用中の俺の頭には異常な量のアドレナリ ンその他の脳内麻薬が垂れ流されるため、時間の感覚が狂ってしまっていた。 鼻の先から切り分けられ、肌表面を流れて髪をくしけずる空気の動き。 足の裏の皮膚と地面との間で砕かれ、粉となる石粒。 指向を制御されていない、本来の爆発のままに飛び散るエネルギーの風が、自らの表皮 を波打たせる感触。 俺は感覚器官から送り込まれてくる情報、その一つ一つを完全に把握することができた。 それは金をかけすぎたCG映像のように、むしろ本物よりもリアルな世界を感じ取らせる。 そして、“壊し”の段階に入ると、それはなお著しくなる。 俺は両足で踏み切って高々と跳躍すると、ほぼ円状に広がっていたスキルアウト、その 中心に突っ立っていた人間の懐ヘ、何の妨害も受けずに着地した。 いきなり足元に降ってきた外敵。人に囲まれて安心していた顔が、その色を残したまま で硬直する。 俺はその顔を目がけて、殴り上げた。 屈んだ体を一直線に弾き戻す。俯いた額を爆破、上を向く。肘に爆発、腕が飛び出す。 握った拳は、顎を深く捉え過ぎたためか、気管にめり込んでいた。 パァ――ッ、と広がる赤色の飛沫は、唾液と血液が入り交じったものだろう。 別の物体が割り込んだために盛り上がった、周囲の肉。その波紋が伝わるにつれて、天 を仰ぐ体が後方に倒れこむ。俺はそれ先回りして、背中に隠れるように拳を構える。 今度は、打ち上げた。 仰向けに傾いた体、その重心直下の腰あたりに掌を添え、甲を爆破。海老反りになった 体は、空中5メートルまで上昇する。 エネルギーを高さに全転換し、重力の手に引かれ始める体。落下するより速く、追い打 つ。 下半身全体に『焦点』を展開、屈伸のポーズで足を折畳み、ケツ・膝・踵を爆破して垂 直跳び。一瞬で浮遊物に追い付くと、勢いをそのまま両手にこめて手渡しした。 再び夜の大空に舞い上がる体。 スピードを失って静止した俺は上方向ヘ爆発を起こして素早く着地し、再度ジャンプし て二度目の追い打ちをかけた。中心から少し外れた、肩あたりを突き上げると、支えの無 い体はクルクルと回転した。 もう一度殴り上げる。 再度叩き上げる。 空中を藻掻く体は噴水の勢いに乗っかったゴミのようにほとんど上下せず、ただ次々と 与えられる衝撃にでたらめなダンスを踊らせられるだけだった。俺は壁と壁の間で跳ね返 るピンポン球のように鋭く往復を繰り返し、無数の殴撃をたたき込んだ。 最後は、サマーソルトでしめた。 逆立ちで着地した状態からバネというバネを全て駆使し、回転を伴って飛び上がる。 下の位置から、力無く漂うそいつ腹に、足首あたりをまずぶち当てる。そこから脛と足 の甲で挟み捕らえ、ふくらはぎあたりを爆破して俺を中心にぶん回した。本来二人分の合 計からなる中心軸を、爆発による補助で無理矢理ずらしたのだ。 上下を逆転された体は素直に地上ヘ引きずり落とされ、危険な音を立てて衝突。それを BGMにして、俺は次なる“壊し”の見当をつけていた。 相手を下へ落とした事で、対照的に短時間浮遊する体。その空中の眺めから、瞬きの間 に判断決定、動きだす。 総標的数は19。 最大行動半径は13メートル。 想定爆破必要回数は29±3。 推定必要時間――20秒。 ▼スキルアウト ただ立ち続ける事だけしかできなかった。 徒歩での移動中、『ソイツ』はいきなり空から降って来て、僕たちの前に仁王立ちした。 かと思えば、赤く光ったとたんに『ソイツ』の姿が掻き消え、次の瞬間には僕の隣のヤ ツが空にいた。 何やってんだろう、と思った。 そいつはなかなか地面に戻ってこなかった。その代わりに、そいつとアスファルトの間 を、何か赤いものが行き来していた。その赤が、ほんの10秒ほど前まで今日の寝場所に ついて雑談していたそいつを、風に巻き上げられる木の葉のようにしているらしかった。 そう気付いた時には、生ゴミのようになった体が、地面に転がっていた。 その時、僕は、そしておそらく他の仲間たちも、『ソイツ』の姿を、初めてまともに見た と思う。 『ソイツ』は僕たちのど真ん中に浮きながら、見下ろしていた。 その顔にあったひび 割れが笑みだという事に気付いた時、『ソイツ』は既に消えていた。 ボンッと、音がした。 それはさっきまで俺たちが歩いていた方向との反対側、つまりほとんどのやつらにとっ ての背後から聞こえた。 そういえば、久しぶりに音を聞いた気がするなと思いながら振り向くと、そこには地面 に倒れたしんがりとそれを見下ろす『ソイツ』がいた。 と、姿を認めた瞬間また『ソイツ』は消えた。そしてまた背後で音がした。今度は先頭 だったやつが吹っ飛んでいた。また後方で爆音があった。しんがりの近くにいた男が血を 吐いていた。『ソイツ』の姿は、赤い光越しに一瞬だけ見えるだけだった。 右端が崩折れた。左端が転がった。皆首を回して目を向けるぐらいしかできなかった。 仲間がやられる時だけ『ソイツ』は姿を現すが、次の瞬間にはその反対側で誰かが餌食に なっていた。 ほぼ中心にいた僕は大まかな成り行きを目にする事になった。『ソイツ』は円の外側から、 ほぼ180度ずつ回転しながら、次々と僕達を仕留めていった。ボン、と耳に届く度に一 人がやられていった。赤いものを目にした時、そこには必ず誰かが倒れていた。その輪は 徐々に狭められていった。その輪に触れた時が、自分の番だった。 爆発音は今やリズミカルな程に連続して響いていた。最初は20人いた仲間が、もう1 0人ちょっとしかいない。それも見る間に少なくなっていく。 どこかの誰かが一時停止と再生のボタンを交互に押して遊んでいるのだろうか。 6メートル後ろにいたヤツが潰れた。『ソイツ』が頭を掴んで地面に押しつけていた。 7メートル左にいたヤツが消えた。腕を大きく振り抜いた格好の『ソイツ』だけがいた。 4メートル右にいたヤツが地面を滑っていった。拳を突き出した『ソイツ』が残ってい た。 3メートル斜め後ろにいたヤツが悲鳴を上げた。頭を鷲掴みした『ソイツ』がどこかへ 適当に投げ捨てた。 気が付くと、一人になっていた。無事な人間は、自分以外には一人もいない。皆どこか を徹底的に破壊され、立てる者はいなかった。 しかし、『ソイツ』の姿も見えなかった。 助かったのだろうか――と振り返ってところに『ソイツ』がいた。 直後、恐怖の感情を取り戻す暇すら与えられず、僕の視界は真っ赤に染まった後に暗転 した。 ▼スキルアウトB04 「爆発音だと!?」 オレたちが全滅させられた時の詳細を話し始めたとたん、いつも冷静な態度を崩さない 駒場さんが勢い込んで聞き返してきたので、かなり驚いた。 「いや、……いや――すまない。しかし……また……『アイツ』が……?」 何の事だ? 駒場さんはオレの疑惑に気付き、説明した。 「おまえは知らないだろうが……実は、俺達スキルアウトがその名で呼ばれるようになっ てから、五年も経ってはいないのだ」 声の調子は、いつもの抑揚の無いものに戻っていた。困惑が浮かび上がるが、黙って聞 く。 「もちろん、無能力者等、社会に弾き出された者達のグループはあった。だが、その目的 は『外』のならず者と同じ。彼等は数十人から数百人単位で集まり、自分達で決めたグル ープ名を名乗り、各々好きな活動を行っていた」 当時のオレはまだ普通の学生だったので、初めて耳にすることだった。しかし疑問があ る。 「なあ、じゃ、そいつらは何で今はいなくなってんだ?」 学園都市の不良集団と言えば、それはスキルアウト以外に存在しない。他の集団がいな いのだ。夜に街をうろつく人間は、連絡網に組み込まれていなくとも、まとめてひとつの 名前で呼ばれる。スキルアウト、と。 五年前までは、他のグループもいたのか?じゃあ、今そいつらはどこへ消えた? 「あぁ……その理由は、一人の能力者だ」 駒場さんは、焦茶色の眉を不快そうに歪めながら言った。 「五年前のある日を境に……学園都市の不良集団が一夜のうちに壊滅させられるというが 立て続けに起こった。情報が集まるうちに、それはたった一人の能力者による仕業だとい う事が判明した……」 駒場さんが視線をオレと合わせた。 「……『ソイツ』はあらゆる集団を片っ端から潰していった……。その内に、もとあった グループはひとつ残らず解散してしまった……スキルアウトは、バラバラになった無力な 者達を掻き集めて、ほとんど『ソイツ』に対抗するためだけに結成されたのだ……」 そして、核心は突かれた。 「後に風紀機動員となりながらも薄衣一枚でスキルアウトを狩り続けた能力者……俺たち はそれを“爆弾魔(ボマー)”と呼んだ」 ▼白井黒子02 「あはははははははー、白井さーん、私、Aランク秘匿検索鍵語に引っ掛かっちゃいまし たぁー」 どうしましょー、というような白々しい笑顔で迎えられた私は、一気に憤った。 「それが任務中の風紀機動員を別件に呼び寄せる理由になると、本気でそう思ってます の?」 この専属サポーターはとにかく第一七七支部ヘ来いと言うだけで、何の説明もしなかっ た。疑問に思いながらも第七学区風紀機動隊長と指揮官の警備員に任務離脱の許可をもら い、急いで駆け付けてみればこの出迎えだ。 Aランク秘匿検索鍵語? 何だそれは、からかっているのか? 「ああー、すいませーん、言葉が足りませんでしたねぇー、秘匿検索鍵語っていうのは、 学園都市さんが全ての検索機能に組み込んでる“網”みたいなものなんですー。特定のワー ドを検索しようとすると、その人はブラックリストに載っちゃうんですよー」 初春の声は、いつも以上に苛立たしい程の甘ったるさだった。が、怒鳴り声を上げる寸 前に気付く。その中には自棄になったような無気力さがあった。 彼女はこちらを見ないまま、専用のディスプレイに体を向けて俯いていた。 「何があったのか、最初から説明してくれませんこと?」 いくぶん柔らかに聞くと、初春は話し始めた。 「……命令が来たのは、20分前でした」打って変わった、陰欝な声。 「白井さんが四葉さんと一緒に精神感応の探査をしていた頃です。あの時、衛星映像に一 九学区で爆発みたいな光があったって言いましたよね?それに関わる命令です。学園都市 から、大能力者の風紀機動員白井黒子に」 覚えている。空間移動のせいでぶつ切りにされた通信の中、初春がポツリと呟いていた。 あちこちで不審な光が瞬いていると。 「スキルアウトが動きだしましたの?それで私の力が必要、と?でも――」 それはおかしい。一九学区に隣接する学区には十分な数の警備員と風紀委員が補充され ているはずだ。私一人が赴いたとしても、数百人単位のやりとりに違いが出るとは思えな い。 「違います」初春は否定した。 私は別の可能性を見いだした。「では、空間移動で誰かを護送すればいいんですの?」 初春はこれにも首を振った。
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あれから三日経った。 「でねー。その店員さんがさー」 「へー。あ、でもー」 「そうじゃなくってさー」 佐天「あはは。なにそれー?」 佐天涙子は、いままでとなんら変わらない学生生活を送っていた。 あの異能が周囲にばれる心配も無い。 だって、あれから一度も力を使っていないのだから。 体中調べたが、傷一つ残っていなかった。 ここに居るのは、ただの何の『力』も持たない女の子だ。 佐天「平和だねー……」 何とは無しに、そんな風に呟いた。 だというのに―― 「そうでも無いみたいだよ?」 友人の一人が、そんなことを言い出した。 【第一話・変身! アルカイザー!!】 黒子「一体どうなっていますのやら……」 白井黒子(しらい くろこ)は頭を抱えていた。 そこは風紀委員の第一七七支部。 風紀委員『ジャッジメント』とは、学生によって構成される街の治安維持組織の一つだ。 彼女は同僚である花飾りの少女を待ちながら、一人考え込んでいる。 最近この学園都市で起こっている、ある事件についてだ。 黒子「今週だけでもう三人も……目撃者もゼロだなんて……」 連続行方不明事件。生徒がある日、突然姿を消す。 何の証拠も残さず。それがすでに、一ヶ月で二十人以上も続いていた。 固法「それも、全員がレベル3以上の能力者。不思議なんてモンじゃないわね」 黒子の先輩にあたる固法美偉(このり みい)もまた、その事件の捜査に頭を悩ませていた。 学園都市で行われる「能力開発」。 簡単に言えば超能力を身につけるためのカリキュラムである。 能力者はレベル0~5までに分けられ、レベル0は無能力者、つまり能力の使えない、ないし低い者。 レベル5になると、一人で軍隊と戦えるとまで言われており、学園都市にも七人しか存在しない。 行方の知れない生徒のレベルは3~4。学園都市の基準でいえば、十分にエリートである。 固法「誘拐であれば、何かしらの抵抗にあうはず。並大抵の芸当じゃないわ」 再び二人は口を閉じ、それぞれ思考を廻らせた。 そこへ―― 初春「お、遅れましたー!」 花飾りの少女、初春飾利がやってきた。 佐天「連続行方不明事件……ねー……」 私は珍しい場所に来ていた。図書館だ。 それどころか、新聞を読んでいるというのだから更に珍しい。 友人曰く、「明日は火の雨が降る」だそうだ。 街燃えるわ。 事件のことを聞こうと初春に声をかけたところ―― 初春『駄目ですよー! 危ない事件なんですから首を突っ込まないでください!』 とのこと。 仕方なく、私は自分で調査することにしたのだった。 佐天「……って。言ってもなー……」 新聞に書いてあることなんて、大した情報になるはずが無い。 だって、もしそれ程の大事件なら、尚更情報開示には慎重になるはずだから。 それに、事件について分かったところで、私には手の打ち様が無い。 佐天「つまるところ。こんなことやっても無駄なんだよねー」 それでも調べることを止められなかったのは、やはり―― あの、『ブラッククロス』という組織の存在を知ってしまったから。 『シュウザー』と呼ばれた大男の、「死体を有効利用する」という言葉が、耳から離れないから。 でも、それを誰かに話すことは出来ない。 記憶を失うことが、恐ろしいから…… 佐天「結局手がかり無しかー」 当たり前だけど。 佐天「ふむ。完全下校時刻までまだあるし、初春の様子でも見に行きますか」 最近根をつめてるみたいだし。 ひょっとしたら、この間のお出かけは初春なりの気分転換だったのかも。 だとしたら、約束どおりに行けなかったのは、ちょっと悪かったなぁ…… 佐天「何か差し入れでもしてあげようかな」 ふと、脇にあるガラス張りの建物を覗き込む。 そこは時々通っているケーキ屋さん。 値段が高いのでたまにしか来れないが、味は申し分なかったりする。 が、止めた。 こんな気まぐれで高いケーキを買っていたんじゃ、私の薄ーい財布が悲鳴をあげる。 私はレベル0。成績に応じて貰える奨学金も少ないのだから、無駄遣いは駄目だ。 そう、レベル0。 ガラスに映った私は、赤いヒーローではなく、ただの無能力者の中学生だった。 初春「やっぱり、何の成果もありませんでしたね……」 黒子「仕方ありませんわ。」 白井黒子と初春飾利は、手がかりを求め街を巡回していた。 黒子「一日二日パトロールしただけで見つけられる大間抜けなら、そもそも問題ではありませんもの」 初春「ですよねぇ……」 黒子は苛立っていた。 自分が守るこの街で、生徒が何者かに誘拐されている。 それだけでもう、使命感の強い彼女には我慢ならなかった。 黒子「初春? 提案がありますの」 初春「何ですか? 改まって……」 黒子「やはり私、一人で歩いてみますの」 初春「ええ!?」 狙われるのはレベル3以上の能力者。 であれば、レベル4である自分が一人で歩いていればあるいは…… 初春「あ、危ないですよそんな……!」 黒子「これ以上被害を増やすわけにはまいりませんわ!」 初春「白井さん! 待って――」 一瞬で、白井黒子は姿を消した。 彼女の能力、レベル4の空間移動『テレポート』だ。 初春「もー! 勝手なんだからー!!」 帰ったらまた始末書ですからねー! と、一人残された初春の声が、夕暮れの学園都市に木霊した。 黒子「ここならば……」 黒子が訪れたのは、学区内でも特に人気のない裏通り。 不良たちでさえ滅多に現れないその場所なら、正体不明の犯人も襲撃しやすいはず。 黒子「犯人は証拠を残していませんの。ということは、姿を見られることを極力避けているということ」 「臆病な卑怯者め」と、黒子は心の中で罵った。 黒子「さぁ……どこからでも……かかっておいでませ!」 一対一の戦いに敗れるような無様は見せない。 実際、白井黒子を相手取ってまともな戦いになる人間など数えるほどだ。 だから、自分に迫ってくる悪人がいるのなら、絶対に仕留めてみせる自信があった。 黒子「………………」 しばらく歩いて…… 路地裏を…… 抜けた。 黒子「………………はぁ」 結局は徒労だった。 犯人は襲ってこない。 黒子「まぁ、そう上手くはいきませんわよね……」 気を張っていたのが馬鹿馬鹿しくなる。 そこへ、一本の電話が掛かってきた。 相手は、他の場所を巡回していた風紀委員の同僚。 黒子「もしもし? 白井ですの………………え?」 電話から聞こえたのは、怪人が街で暴れているというふざけた報告だった。 佐天「あ。初春ー」 初春「佐天さん。こんな時間まで何やってるんですか?」 たまたま、道を歩いていると向こうからやってきた印象的なシルエットが目に留まった。 初春だ。 佐天「ちょっと調べ物しててさ……」 初春「あ! 事件のこと調べてたんでしょ! 駄目ですっていったのに~!」 佐天「だってさ……自分の街でそんなことになってるの、ほっとけないじゃん……?」 初春「それは風紀委員の仕事です! 佐天さんは一般生徒なんですから!」 怒られた。 ちぇっ……やっぱりケーキ買わなくて正解だったなー…… 佐天「捜査進んでるの?」 初春「駄目ですねー……やっぱりどこにも証拠が……って! 佐天さん!!」 佐天「ご、ごめんってばー!」 まぁ。元気そうでなにより。 そう。そんな物騒な事件なんかより。ヒーローや悪の組織より。 私には、平和な日常と、この親友が何よりも大切なんだ…… だから、その平穏を脅かすそんな音を、私は聞きたくなかったんだ。 「キャーーーー……」 佐天「悲鳴……?」 脇の路地裏から微かに、女の子の声が聞こえたような…… 初春「!!!」 私が戸惑っている間に、初春は走り出していた。 佐天「初春!!?」 暗闇の奥へと遠ざかる親友の背中を、私は知らず追いかけていた…… 薄暗く細い路地裏を抜け、初春飾利は声の主の下へたどり着き―― 初春「そこまでです! 風紀委員です! 大人しく抵抗を……止め…………!?」 ――そして、言葉を失った。 その光景が、あまりに想像からかけ離れていたからだ。 倒れているのは常盤台中学の制服を来た少女。 そして、それを囲んでいる全身タイツの男達。 その奥で、身長3メートルはあろうかといういう巨人が、こちらを見下ろしていた。 眼光は鋭く、口からは牙がはみ出している。浅黒い、筋骨隆々の肉体。 角の生えたその姿はまさに、昔話に登場する鬼だった。 巨人「ジャッジメント? IRPO……か?」 初春「あ、あぁ…………」 恐怖に、初春飾利の体が固まった。 元々、初春の戦闘能力は皆無に等しい。デスクワーク派で、事実小学生よりも貧弱だ。 それでも、凶悪な犯罪者と戦う覚悟はある。みんなを守るために命を懸ける覚悟もある。 しかし、こんな怪物と戦う覚悟なんて、決めた覚えは無い。 巨人「ふん。ただの小娘か……そいつを連れて行け戦闘員ども」 巨人の指示で、タイツの男達が意識の無い少女を抱え上げた。 それを見て、初春飾利は正気を取り戻す。 そう、『みんなを守るために命を懸ける覚悟』ならあるのだ―― 初春「や、止めなさい! その子を離し――」 駆け出そうとする初春。その顔面を、巨人のつま先が捕らえた。 佐天「初春……?」 それを、ただ見ていた。 巨人の一撃で、親友の体は宙に浮いた。 鼻の骨が折れたのか、鼻血が噴出して、辺りに点々と付着した。 佐天「嘘……だ」 嘘じゃない。 佐天「ヤダよ。こんなの」 嫌でも起こる。 現実。目の前で、初春が―― 初春「う……ゲホッ!?」 佐天「初春!!」 生きている! でも―― あの巨人がトドメをさそうと迫っている……! あの日、私を殺そうとしたあの男のように……!! 止める手段ならある。 けど怖かった。 怖いけど……けど―――― 『そんな物騒な事件なんかより。ヒーローや悪の組織より。 私には、平和な日常と、この親友が何よりも大切なんだ……』 なら、『平和な日常』と、その『親友』ならどちらが大切か 考えるまでもない。 世界がスローモーションに見える。 心臓が燃えているようだ。 体中を、何か熱いものが駆け巡る。 握る拳は炎になる。 踏み出す足は光になる。 向かい風を額で斬り裂き、蒼いマントをなびかせた 気付けば、私の体は紅く染まっていた――! 佐天「変身! アルカイザー!!」 巨人「むぅ!?」 巨人の反応は速い。 こちらの存在に気付くや、すぐさま距離をとり身構えた。 ともかく、これで初春は安全だ。 いや―― 佐天「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 私がこいつらを退けて、初めて安全といえる。 生まれて初めてかもしれない格闘戦。 私は、記憶の何処かから無理やり戦いの記憶を呼び覚ます。 テレビで見た格闘技。漫画で読んだバトル。 映画で見たアクション。先日のヒーロー・アルカールの戦い。 そして――あの超電磁砲(レベル5)の少女を……! 佐天「お願い……当たってぇ!」 願いをこめた右の拳。 ストレートなのかフックなのかも分からないただのパンチ。 それを巨人の腹めがけて力いっぱい打ち込んだ。 巨人の体はその衝撃を受けて後退する。 確かな手ごたえ。 喧嘩なんかしたことないけど、これは綺麗に決まったと確信できる。 それなのに―― 巨人「うむ……なかなか!」 巨人は平然と立っていた。 巨人「むむぅ……なるほど! 貴様がシュウザーの言っていた!!!」 佐天「シュウザー……?」 あの男か――! なら、やっぱりこいつも! 巨人「うむ! 今の一撃! 我が敵と認識しよう!!」 効いていない……私のパンチはこの巨人に効いていない……! 巨人「名乗ろう! 俺の名はベルヴァ!! ブラッククロス四天王が一人よ!!!」 佐天「ブラッククロス……!」 悪の組織。誘拐犯。巨人。改造人間。 ヒーローが、正義の味方として倒さなければならない敵……! ベルヴァ「名乗れ仮面の! 褒美に『覚えて』やろう!!」 名前――? 佐天「悪党に――名乗る名前は無い!!!」 「キー!」 「キー!」 いつの間にか、戦闘員と呼ばれるタイツの男達が私を囲んでいた。 脅威は感じない。 「キー!!」 動きが全て見える。 右から飛び掛ってきた男の顔面に蹴りを入れる。 バランスを崩そうと、逆方向からもう一人が右手を突き出してくる。 それを左手で受け止めて捻り上げる。 そのまま勢いを殺さず、後ろから迫っていた男に投げつけて、振り向きざまに前方の男を殴り飛ばした。 ベルヴァ「むむぅ……見事な反射神経……!」 佐天「褒められても嬉しくないな」 やりたくてやってるんじゃない。 やらなければならないだけ。 記憶を呼び覚ます。 三日前、あのアルカールはどうやって戦った? 覚えているのは黒い閃光。 アルカールの攻撃は光を帯びて放たれていた。 あれがヒーローの戦い方なんじゃないのか? でも、あんなことができるの? 私は無能力者。自分の才能すら操れない人間に、人から貰ったものをどうこうできるの? ベルヴァ「もはや雑魚の出る幕は無い! 俺が自ら相手しよう!!」 佐天「来る!?」 ベルヴァ『魔人三段ッ!!!』 振りかぶられたベルヴァの巨大な拳。 それを回避しようと前かがみになり、気付いた。 この攻撃は避けられない……!! 佐天「ぐ、うううううううううううう!!?」 両腕を交差させ拳を受けると、巨大な岩か何かで殴られたような衝撃が、全身に走った。 骨が軋んで悲鳴を上げる。 でもかわせなかった。 何故なら。 初春「………………」 初春がそこに居たから。 初春は気を失っている。怪我は大したことが無いようだ。 この巨人の本気の一撃、というわけではなく、軽く小突いた程度だったのだろう。 鼻血は流れているが、顔が潰れるようなことはなかったらしい。 続けざまに、もう一度巨人の拳が迫る。 しかし、静かに眠る親友を守るために、私はこの位置でこの打撃を受け続けなければならない。 佐天「ぐ、うあああああああああああ!!!」 再び全身を走る強烈な衝撃。 防戦一方では、このまま初春もろとも潰される……! ベルヴァ「何だ! どうしたアルカイザー!! そのままその小娘共々潰れる気か!!!」 トドメとばかりに、三段目の拳が迫り来る。 やるしかない……! 心臓が、一つ大きく跳ねた。 佐天『うわあああああああ!! ブライトナックルッ!!!』 放たれた一撃に迷いは無い。拳に火が灯ったように熱い。 光を帯びた拳は、巨人の一撃に正面からぶつかり、そして―― ベルヴァ「む……ううううううううううううう!!!!?」 巨人の拳を四散させた。 ベルヴァ「よもや、一撃でこの拳を木っ端微塵にする威力とはな!!!」 佐天「はぁ……はぁ……!?」 出来た。 それも予想以上の出来だ! あのアルカールでさえ、この技で大男の一撃を止めることしかできなかった。 それなのに、私の技はこの巨人に打ち勝ったんだ!! 佐天「勝てる……!」 もう一度、拳に力をこめる。 自らの正義を示すように、再び光り輝いた。 ベルヴァ「うむ……その技こそ貴様の奥義というわけか」 巨人に防御の隙は与えない! すぐさま踏み込んで―― 佐天「トドメだ! ブライト――」 ベルヴァ「だが、『覚えた』!!!」 『ベルヴァカウンター』 気付くと、私の体は空に浮いていた。 ベルヴァ「そのまま叩き落す!!!」 巨人が遥か上空まで追ってくる。 何て脚力。あの巨体が、一瞬で地上十数メートルまで飛び上がった。 ベルヴァ「捉えた!」 残った左手で私の体を掴み、巨人はそのまま急降下する。 佐天「!?」 ベルヴァ『雷炎ッ!! パワーボムッ!!!』 何が起きたのかも分からないまま、私の体は上空からコンクリートの地面へ叩きつけられた。 口から血の塊を吐き出した。 内臓がシェイクされたような気持ち悪さ。 痛みで体が動かない。視界が霞む。 いつだったか経験した虚脱感。 ああ……また、私は死のうとしている。 どこか遠くから喧騒が聞こえる。 悲鳴? ざわめき? コスプレ? あ、私のことか。 佐天「ここ……」 私が叩き落されたのは、大通りのど真ん中だった。 佐天「う、ぐ……!」 体は動く。何だ、大したこと無い。 いや、実際一度は死に掛けたのか。それが、このヒーローの体のおかげで回復したんだ。 佐天「と、言っても、万全なはずは無いわけで……!」 瞬間、辺りが暗くなる。 佐天「ベルヴァ!?」 目の前に、巨人が立っていた。 通行人達が、ベルヴァの姿に慄き、一斉に逃げ出した。 ベルヴァ「やはり、片手落ちの技ではトドメにはいたらぬか……!」 佐天「冗談……! 十分効いたっつーの……」 ベルヴァ「しかし参った……まさか衆目に晒されるとは……」 ………………自分から出て来たんじゃん。 ベルヴァ「うむ! 戦いに我を忘れた!!」 佐天「……ははは……いいね。そのメンタリティ。うらやましいよ」 ウ~ウ~と警報が鳴り響く。 通報を受けて警備員が駆けつけたらしい。 ベルヴァ「早く済ますとしよう」 佐天「同感」 再び距離を開け、にらみ合ったまま膠着した。 黒子「な、何ですの? あれは……」 白井黒子は戦慄した。 あまりに馬鹿げた光景に、現実感が薄れていく。 全身紅い鎧に身を包んだマントの変人。 そしてその変人と対峙する三メートルの巨人。 その右腕は、手首から先が無い。 ただ、肌をひりつかせる得体の知れないプレッシャーが、黒子に「これは現実だ」と突きつけた。 黒子「じゃ、ジャッジメント……ですの……」 いつもの決め台詞も、ここからでは当事者には届かない。 それに、今黒子に出来ることは何も無いだろう。 何故なら、怪人達を取り囲む警備員達さえ、身動きできずにその様子を伺っているのだから。 「黒子」 そんな黒子に、一人の少女が声をかけた。 黒子「お姉さま! どうしてここに……!」 黒子がお姉さまと慕う、レベル5の少女。超電磁砲。常盤台中学二年、御坂美琴(みさか みこと)。 美琴「あれは何?」 黒子「いえ。黒子に聞かれましても……」 美琴「まぁ。そうよね」 そんな会話をしつつ、美琴の目は警備員達が包囲するその奥に向けられていた。 また、この街で良くない事が起こっている。 無意識に、美琴はポケットに手を入れ、一枚のコインを握り締めていた。 佐天とベルヴァ、ヒーローと怪人は睨み合っていた。 佐天は満身創痍。ベルヴァは右腕を失い、すでに多量の血液を流している。 全ては次の一撃で決まる。 ベルヴァは、佐天の攻撃を確実に受ける自信があった。 何故なら、すでに『覚えた』からだ。 一度でも『覚えた』なら、その技はベルヴァにとって脅威ではない。 絶対の一撃をもって『返す』ことが出来る。 一方、佐天にはベルヴァの攻撃を受ける体力などない。 つまり、先に動こうが後に動こうが、必勝。 もはや、ベルヴァの勝ちは揺らがなかった。 だから、早くこの戦いを終わらせなければならない彼は、当然の行動に出る。 ベルヴァ「見よ……これが俺の奥の手だ……!!」 ベルヴァの左掌に、高出力のエネルギーが凝縮されていく。 灼熱色に輝くそれを構え、巨人は眼前の敵へと狙いを定めた。 エネルギーの余波が、周囲の建物を崩壊させる。 包囲していた警備員達も、装甲車両ごと吹き飛ばされそうになる。 黒子「お姉さま!!」 美琴「平気よ。黒子は逃げて」 黒子「で、ですが……!?」 美琴「見極めたいの。あれが何なのか」 美琴の決意が固いと知り、彼女を理解している黒子は小さく溜息をついた。 黒子「わかりましたわ。ですが、無茶をなさらないように」 美琴「大丈夫。あれに乱入する気はないわ」 美琴の横顔をもう一度確認し、黒子は空間転移した。 美琴「あの巨人……機械?」 美琴は、巨人から放射される電磁波を体で感じていた。 そこから構造を理解しようと、さらに自分の電磁波を飛ばそうとし、止めた。 美琴「こっちに攻撃が向いたら危ない……か」 自分がでは無い。自分を守るように壁になっている警備員達がだ。 美琴は、もう一人の紅い鎧に目をやる。 一見、ただのコスプレにしか見えない。 しかし妙な違和感を感じる。 美琴「背が低い……私と同じくらい?」 あれは子どもだ。 超常の力で戦う子どもなど、学園都市では珍しくも無い。 それこそ、御坂美琴本人がまさしくそうだ。 でも……子どものヒーロー? 美琴「子どものヒーロー……ん? ヒーロー?」 美琴が自分の言葉に疑問を持ったその瞬間。 巨人が動いた。 ベルヴァ「終わりだ……!!!」 高エネルギーを放出する左掌を持ち上げ、巨人は疾走した。 佐天「……!!」 考えるまでもない。 あれをまともに受ければ、この体は塵も残さず消し飛ぶ。 脳裏に、親友の笑顔が浮かんだ。 彼女達は……力の無い私を受け入れてくれた…… 認めてくれた……それでいいと思った…… でも…… 今必要なのは……! ずっと欲しかった『力』……!! ずっと憧れるだけだった『力』……!! 掴んだと思って、期待して、すぐに無くしてしまった『力』……!!! ベルヴァ『ゴッドハンドッ!!!』 佐天『シャイニング――――』 佐天に、ベルヴァの一撃を受ける用意は無い。 しかし――――ー 佐天『キック!!!!』 打ち破る術ならある……!!! ………… 御坂美琴はその一部始終を観た。 音速に迫る速さで距離を詰めた巨人は、あの光輝く掌を敵めがけ突き出した。 しかし、次の瞬間。そこにあの紅い鎧は存在しなかった。 代わりに、掌と胸を一直線に打ち貫かれた巨人の残骸が、ヒザから崩れ落ちていた。 巨人の胸を貫いたのは光の弾丸。 紅い鎧の脚部が輝き、その足をもって分厚い胸板を蹴り抜いたのだ。 だが、そのスピードが異常。 まるで疾風。 美琴「空力使い『エアロハンド』? ……いや、あの動きは肉体強化系の……?」 やがて、巨人の体は爆散した。 上空に舞い上がった燃える巨人の破片が、炎の雨を降らせる。 周囲を取り囲む警備員と、御坂美琴に見つめられるその中で―― 紅い鎧が、一人佇んでいた…… 「お前は……お前は一体誰じゃん!?」 一人の警備員が叫んだ。 特徴的な口調の、気の強そうな女性だ。 「名前を……それと、所属と……この騒ぎの詳細を……!」 混乱の中、彼女は自分の責務を果たそうとする。 なら、答えないといけない。 でも何て? 『君は――』 佐天「私は――」 『今日から君はヒーロー――――』 佐天「私はヒーロー……」 『アルカイザー』 「アル……カイザー……?」 「アルカイザー……」 「アルカイザー……」 美琴「……アルカイザー……ヒーロー……!?」 佐天「私は、ヒーロー。正義のヒーロー『アルカイザー』!!!」 落ちこぼれのヒーローは、初めてそう名乗った。 【次回予告】 最先端技術と科学の結晶! その名は学園都市!! その学園都市に、次々現れるブラッククロスの怪人達!! それに立ち向かうのは大人か! それとも子どもか! 雷を操る超能力少女が、謎のキャンベルビルに挑む!! 次回! 第二話!! 【音速! 常盤台の超電磁砲!!】!! ご期待ください!! 【補足】 アルカイザーになった佐天さんは相変わらず佐天さんサイズです。 つまり体格は中学生女子で、見た目がアルカイザーです。 ベルヴァカウンターは本来なら近接技を全てカウンターする技なんですが このSSではベルヴァが見切った技に限りカウンターできるという設定になっています。
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すぐに一人に追い付き、相対速度をゼロにした世界で背中を打ち据える。力を無くした 体は過ぎ去る地面に接触し、後方に流れて消えた。 もう一人も同じようにこなした。今度は腹を突き上げたが、一瞬全体が跳ね上がった後 はさっきと同じだった。 あと一人。 最後に残ったニット帽のそいつは、もはや逃げることを諦めていた。怖くて逃げたくて 仕方ないのに、目を奪われたようにして立ちすくんでいる。 ああ、分かるぜ、そノ気持ち。俺も昔山の中で狼に鉢合わせした時は助からないと思っ た。自由に足運びできない中を、そいつだけは飛ぶような速さで近づいてくる――でも安心 シな。そんなもの、気を失ったら全部どっかへ行ってしまうから。 「アーディオース!」 最後の仕上げだ、俺はバットを握り直して歩きながら間合いに入った。スッと腕を引き、 横に凪ぐべく力をこめる。 が、自分の体が思うように動かせたのはそこまでだった。 「?」 後ろに引いた腕が、何かに絡み付かれたように動かない。 不審に思い、首だけを回して見てみると、 「止まるな!逃げろぉッ!!」 腕にしがみついていたのは金髪だった。いい加減しつこい。 それから二人は、俺越しに視線で言葉を交わしはじめた。多分、自室に残した恥ずかし いブツ等を片付けておいてくれとか、そんなドラマチックなやりとりをしていたのだろう。 ニット帽は悲愴な顔で頷き、きびすを返して路地の角に消えた。もういいだろう。そこ で俺はブロンド付きの腕を払って地面に投げ飛ばした。ニット帽とは反対方向にゴロゴロ と転がり、丸めた紙屑のようにガサリと止まる。 俺はその腹にむかって、フリーキックの真似をして足先をめり込ませた。 「良かったな、不良A。ちゃんと逃がせたじゃないか」 ビクンと転がるブロンドに、また蹴りを入れる。 「でもさ、いいのか?俺はお前が動かなくなったら、またあいつを狙うぞ?」 金髪の毛先がピクリと揺れた。その頭を踏み付ける。 「どうしようかな。お前が止めなかった方が良かったかもしれないな。次にあいつを見た ら徹底的にやってやるよ」 投げ出されていた腕にかすかな力が宿り、指先が震え始める。俺はぐりぐりと踏み躙っ て、頭皮に砂利を擦り込ませる。 「どうする?俺を止めなきゃいけない。だけど今のお前に何かできる事があるか?こんな 簡単に地べたに転がって、あいつを助けるために何ができるんだ?」 一瞬体が動いたが、俺はそれ以上の体重をかけてくたばらせ続けた。 「俺を恨むか?あいにく感情だけでは現象にはならない」 「何かに祈るか?いつかは叶うぜ、二世紀後くらいに」 「殴りたいか?一発程度じゃ解決しないさ」 「汚い言葉を並べるか?言ってみろよ。耳貸さないから」 頭にかけた足が浮き上がった。俺はさらに体重を乗せるが、一時勢いを失っただけで、 足またジリジリと押し戻される。頭が起き上がる。 「逃げちゃダメだろ。とっとと帰れよ」 「泣いて喚けよ。気持ち悪い」 「投げ出してんじゃねぇよ。早く諦めろ」 「負けを認めろよ。まだ希望はあるんだぞ」 その瞬間、俺の体は車に跳ねられたように後方ヘ吹っ飛んだ。 大太鼓の破裂するような音が沸いた。粗末なドアが歪み、あちこちで壁がひび割れ粉塵 が散る。 「俺の仲間に手ぇ出させるかよぉ!!」 ブロンドの周囲を、不可視のエネルギーが渦巻いていた。それは手を触れずして物体を 動かす力、一般的には最もポピュラーな能力、『念動力』だった。 スキルアウトに落ちぶれるようなレベルの力にしては有り得ない規模だ。しかし、能力 者が精神的な窮地に立たされると、時として爆発的な能力発達がみられる場合があり、そ れはそのまま、『能力爆発』と呼ばれている。 俺は腕をたてて起き上がり、口を伝う血を拭いながら少年漫画のカタルシス的なクライ マックスの光景に目を見張り―― ショボい。心底がっかりして首を振った。 舐めているのか、コイツは。火事場の馬鹿力というのは普段使っていない筋肉も総動員 することで数倍の筋力を発揮する。が、脳は平常時にどれだけ使われていないかを知らな いのか。俺が今まで見てきたヤケクソの中には、レベル5もかくやというものも何度かあ ったぞ。 「おぉぉらぁぁぁぁぁ!」 叫びに呼応して、そこらに落ちていたものがブワリと浮き上がり、狙いを定めて次々と 飛び掛かってきた。その一つ一つが直撃すれば大怪我間違い無しの殺傷力を持っていたが、 しかし俺にとってはそんなもの、気軽なドッジボールで使うゴムボールほどの脅威でしか ない。 「その程度かよ、アウトロー坊や」 能力爆発は風紀委員が最も警戒するものであって実際俺も幾度となく遭遇して対処して きたし、能力の規模が増したとは言っても戦闘のセンスまでがスキルアップするわけでは なかった。首を傾げ腰を振り、難なく飛来物を躱していく。ご丁寧にも放ってきてくれた 金属バットの片割れを左手で受け取り、二刀――もとい、二振流で障害物の処理速度を増や し、ブロンドの方に近づいていく。 「それがお前の限界か」 マンホールを弾き返し、コンクリートブロックを粉砕し、吊り看板をへし折りアスファ ルトの欠けらをはたき落とし照明を突き飛ばし壊れたバイクを撥ね除けながら歩み寄る。 「それならお前はもう黙ってろ」 脈動感のあるダンスのように身を翻しながらブロンドを射程圏内にとらえ、最後に自身 を庇おうとした不可視の障壁を打ち崩して、 「俺に大人しくぶっ壊されて、屍肉晒してればいいんだよ」 ブロンドの頭蓋は、二本の金属バットに左右から叩き潰された。大きく歪んだ血色の顔 面に、泣いているようにも笑っているようにも見える面白い表情が浮かんだ。 力を抜いてバットを離すと、間を置き遅れて体が倒れ始め、万歳のように両手を天に差 し伸べながら地面に崩れて動かなくなった。 今度こそはもう立ち上がる事はないだろう。 俺は散々殴りまくって使いものにならなくなった二本の鉄クズを、同じくゴミのように 転がる血まみれの上に放り捨てると、それに背を向けて路地の奥へ歩き出した。 次はどこを漁ろうか。こんな事を既に七、八回は繰り返しているので、十九学区の混乱 は相当なものになりはじめているはずだ。自然警戒も広まっているだろうから、より気の 置けない行動が必要とされるだろう。望むところだ。 体も温まって気分も大きくなってきたことだし、そろそろ能力も使って本気で行ってみ ようか。 裸足の足の裏に粗雑な感触を踏みながら、次の壊し場に最適な場所を思い出した。 学区の中心に広がる、巨大なショッピングモール。支部室の端末で確認した情報によれ ば、そこは現在スキルアウトたちの本部になっているらしい。 おあつらえ向きじゃないか。今ならそこには相手をしてくれるヤツがうじゃうじゃと犇 めいて待ってくれているだろう。しかし、それは最後のメインディッシュに取っておく方 が良いな。そのためにも、この学区を最大限に掻き乱さないといけない。 俺は心の踊る絵を想像して我慢ならなくなり、脚を赤く揺らめかせて爆発させると夜の 街を一直線に駆け抜けた。 ▼スキルアウトB02 笑っていた。『アイツ』は、最初から最後まで笑い続けていた。 ショウを警棒で叩いた瞬間から、落として、投げて、蹴って、殴って、打って、ぶつけ て、折って、はたいて、突き上げる間、『アイツ』狂った道化のように笑い続けていた。 そして……ニックが、オレを逃がすために犠牲になってくれた仲間が背中に取り付いた 時、『アイツ』は人間とは思えないような、いや、人間には絶対にできるはずのないような 冷たい顔をした。 嫌だ、『アイツ』は嫌だ、どうしてあんな事をしながら笑う事ができるんだ、どうしてあ んな表情を作る事ができるんだ、どうしてオレ達を襲うんだ、嫌だ、オレは嫌だ、オレに はもう無理だ、ニックはオレの身代わりになった、もうオレは『アイツ』に見つかったら おしまいだ、オレは一人で『アイツ』に殺される、それは嫌だ、一人は駄目だ、だから人 がたくさん必要なんだ。 本部に行けば、ニックが行けと言ってくれたスキルアウトの本拠地に行けば、人がたく さんいる、そうすれば安心できる。大丈夫なんだ。 自分を全力で励まさなければ走れない。そうしなければすぐに膝が柔らかくなって立て なくなる。しかしあの笑い顔を払い除けるのと体を動かすのを一緒にこなすのは難しかっ た。何度も足がもつれ、転びそうになる。体勢を立て直すのに体へ集中すれば、その後そ の分だけあの笑顔が近付いている。そして払い除けるのに集中すれば再び足がふらついて ――オレはついにバッタリと転んだ。拍子に頭のニット帽が落ちて、前髪がだらりと視界を 覆う。オレはその縦格子の隙間からあのひび割れた笑みが現れて来そうな気がして、唐突 な恐怖に襲われた。あわてて帽子をしっかりと被り直し、転がるようにして走りだす。 本部ヘ。人がいるところへ。あの化け物の襲来を知らせるために。助けを求めるために。 オレは必死に、力の限りに肺と脚を動かしたが、『アイツ』の笑顔からはちっとも逃げ出 せた気がせずに、何度も転びながら、その度に飛び跳ねるように起き上がりながら走り続 けた。 ▼クレイモア02 人は見た目が九割、って誰カが言ってたな。イや、至言だよ、至言。言い換エると名言。 でも俺はソレをちょっと改変したものを声高に叫びタいね。 人は見た目が十割、外見が全てである、と。 俺はいわゆる不良というものを毛嫌いしている。あいつらの顔を見ていると、食道の根 元あたりから言い様も無い嫌悪が噴き出してくるのだ。 明るいヤツはよく笑う。よく笑えばそれだけ表情筋が発達して頬が膨らみ、その結果、 外見的に明るい印象を持つ顔立ちになる。その変形させる程の感情はその者が最も大きく、 長時間に抱いているものだから、外見と中身は直結する。 前述の言葉はこの短絡な理屈によるものだが、これを俺は結構気に入っていて、なおか つ高く信頼している。しょっちゅう出くわす犯罪者や不良には、本当にゴミみたいな顔を したやつしかいないからだ。そしてそいつらは印象に違わず、ゴミみたいな事をして生活 している。そりゃ、たまにはまともな顔をしたのもいるが、そいつは大抵ゴミみたいな事 はしていない。何か筋の通った理由で大義ある仕事をこなしているか、並の人間にはこな せないとんでもない事をしでかしているかのどちらかだ。 出来損ないがいてくれるからこそこの世は安い労働力とかに困らないのであって、世の 中には無駄な事なんて一つも無いというこれまた名言な事実を再確認してはいるものの、 やっぱり不良の価値が平均以下なのも確かだった。それが第十九学区を壊して回ろうと思 った一番の理由だ。今この学区にいる者を皆殺しにしたなら――勿論こんなやつらでも死を 悲しんでくれる誰かがいる事を思慮に入れても――この世はプラスマイナスで言えば間違 いなくプラスに傾くだろう。さっき言った例外は居なくなってしまうとマイナスかもしれ ないが、分別する労力はそれ以上にマイナスだし、その存在がいつもプラス側であるとは 限らない。 この考えは一般的なところから見ると十分マイナスな思想である事は理解していた。だ から布教しようした事はないしもともとしようとも思っていないが、今日初めて疑問に思 った事がある。それはある瞬間突然に、今まで隠れていた障害物がパッと掻き消えてしま い、もはやどこにも誤魔化しようがなくなったような状態で頭の中に出現したのだった。 俺は、どうしてこんなに不良が嫌いなのだろうか。 ▼白井黒子01 初春からその命令を言い渡されるまで、私は手ごろなビルの屋上で精神感応(テレパス) 能力者と一緒にテロリストを探索していた。 「ぅうーん……ぅうーん……ううぅぅぅぅうーん……ふぅぅぅううぅぅん……」 が、その成果はあまり芳しくない。 「ふぇえぇぇ~ん、テロリストさん、見つかりませんよぉ~」 「口を閉じたままできませんかしら、先輩」 泣き言を吐く風紀機動員を、普段は取り払われる学年の上下をあえて持ち出して封殺す る。 何がふえーんだ異性に使うならまだしばきたくなるほどむかつくぐらいだが同じ女に使 っても吐き気をもよおすだけだしかしそのなよなよとした感じはいただきだな今度お姉さ まに使ってみよう。 この四葉という名の女子生徒は私より二つも年上だというのに先輩らしいところが一つ も無かった。立ち振る舞いはこのように誰かの保護がないと2秒で孤独死するような習性 だし、背は同学年の中でも低い方である私とほとんど変わらないし(そのくせ胸部には、 不釣り合いな程の脂肪が付着しているが)。 「ところで、そろそろ私のスカートを握っている手を放してくださいません?」 「うぅ……どうしても放さないといけませんかぁ……?わたし、高いところ苦手なんです よぉ……」 「……あなた、それでよく風紀機動員になれましたわね」それとも、精神感応にはこんな 気の持ちようが必要なのだろうか。 呆れて嘆息しながら、自分の平高線上よりも下に広がる街に目を向ける。 街中を走り回っているうちに消費した時間は太陽をとっくに地球の曲面の向こうに引き ずり下ろし、今は建造物によって作られた地平線から間接的な光が投げ掛けられるのみで ある。現在時刻は七時十四分。ここから約300メートルの距離にあるファミリーレスト ランでテロリストが被害を出してから、たった今30分が経過したところだ。そしてじき に東から夜に沈んでゆくであろう薄暗闇のあちらこちらでは、私と同じ第七学区の風紀機 動員が警備員の水増し役として要所を警備しているはずだった。 私もどちらかと言えばそっちに行って怪しそうな人間を心ゆくまで問い詰めたかった。 朝から働き続けで蓄積した疲労は数十分もつっ立っているとすっかり回復してしまい、 逆に何か運動をしていた方が楽なほどになっているのだ。頼りないパートナーの相手をし ているよりは犯人確保に駆けずり回る方がまだ心安らかな状態でいられるとは思うのだが、 しかし勝手にこの人をほっぽり出すわけにもいかない。 精神感応による広範囲探索の起点の移動を、瞬間移動(テレポート)によって迅速なも のにすること。それが今の私に与えられた命令だった。 高速移動検定準一級の速度でエスコートされる少女の感応探索は、今まで例のファミリ ーレストランの東西南北の四地点で繰り返し行われ、ここの南方面では5回目だ。時計で 言うと12時から3時、6時、9時とぐるぐる制覇して5周したことになる。しかし、テ ロリストはそれだけ探しても気配すら掴ませない。 (監視カメラに姿は確認されていない、道路は規制が敷かれていて使えない、鉄道も同様、 そして徒歩で逃げようとしてもこの半径3キロは被害の300秒後には警備員と風紀機動 員が包囲を完了している――現場からは離れる事はできないはずですのに、どこに行きまし たのよ……) ここまで来ては一つの結論を出さざるを得なかった。テロリストは、監視カメラに察知 されずに、しかも精神感応の効果範囲が届く前に自力で逃げ延びたのだ。 上の人間達も分かってはいるだろうが、私たち風紀機動員は所詮学生、つまり子供。い くらこの包囲網の中にテロリストの精神活動が見当たらないと報告しても、とりあえずも う一度探しておけという命令が返ってくるばかりだった。毎回同じ台詞で。 「うぅ……見つかりません……」 だから、フラフラになりながらもそんなに必死で探さなくていいと思う。私はそうしい るんだし。でもこの人はやめない。なぜそこまで必死になれるんだろうか。理解はできそ うになかったが、この人が風紀機動員になれた理由は少しだけ分かった気がする。 と、認めかけていたところで彼女がこけた。 「あゃーっ」 1メートル先の地面の終わりにむかって。 握られていた私のスカートも一緒に。 「な゛」 その時路上で『もうすっかり夜だね。ほら、一番星があんなに綺麗だ。おや、あれは君 の星座じゃないか』とかぬかしているヤツがいたなら、ソイツはビルの屋上で寝転がって 肩から上を空中に晒してあたふたするヘルメットと、薄いショーツだけ残して下半身を披 露しながらビールマンスピンのポーズで直立する女子学生を目撃した事だろう。 幸いにもスカートは私の足首に残ったままで、四葉が力いっぱい握り締めたまま空に引 きずり落とすという事は無かった。しかし私にはそんなサービスを続ける気など毛頭無か ったので、 「ぎゃあぁぁぁぁぁっ」 濁点を隠して聞いてもらいたいような悲鳴を上げながらスカートをたくし上げて(手汗 でしっとりとしていた)、次いで落ちかけている少女の両足をジャイアントスイングのよう に脇に抱えて引っ張り、安全な場所まで退いて事なきを得た。 「だっ、なぁっ、ばっ、もうっ、はっ、し、死ぬかと思いましたのよっ!」 私は目尻に涙を浮かべながら風紀機動員仕様防護ヘルメットの頭をペンペン叩いた。も はや年上だという事など頭の中から吹っ飛んでいる。 「あ、い、う、えぅ、ごめんなさいぃー」 ひとしきり叩き終えたところでようやく落ち着いた。雨風に研かれたコンクリートに身 を投げ出し、身なりを整えながら息を吐き出す。 「はーーーーーーーーーーーぁ……間違いなく、寿命が縮まりましたわ、5センチは確実 に。ついでに膝の皮も剥けましたし」 「ほんとぉに、すみませんでしたぁ……でも、白井さんにはテレポートがあるのに、なん で――」 「十一次元を『跳ぶ』には、面倒な計算が要るんですのよ!あんなふうにいきなりとっ掴 まれたら、対処なんて不可能なんですのっ!」 「うぅ……すみませぇん……」 「はぁ……まぁ、もういいでんすけれどね」 「すみませんでしたぁ……」 謝罪の言葉は、高みに浮かぶ地面の上、黒に近付く紺色の空に吸い込まれて消えていっ た。 しばらくの間、どちらも何も言い出さない沈黙が続く。多少気まずい雰囲気でない事も ないが、考えてみればさっきまでのサーチとあまり変わらない。 と、その静寂は不意に断ち切られた。 ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピ ーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピ―― 「ああうるさい!」 その電子音の音源は私の携帯電話だった。そしてそのメロディは風紀委員の任務時に使 用される番号に設定しているものだ。 また、探索地点の移動か。 口紅型のそれを開いて耳に響く音を黙らせ、それから発信者の確認をする。 しかし、ディスプレイに表示されていたのは、予想していた女警備員でも風紀機動隊長の番号でもなかった。 そこにあったのは第一七七支部のパソコン通話を知らせる数字の羅列。つまり、電話を かけてきたのは、風紀委員のオペレーター役を務める初春飾利からのものである事を意味 していた。 ▼スキルアウトB03 「そんなに騒ぐな。タカ達の報告に応えて、南区にはもう20人ほど送って増援しておい た。心配は要らない」 オレはその答えを聞いて一瞬言葉を失った。 20人?その程度でなんとかなると思っているのか?タカの奴、最初にくたばったと思 っていたら、何も見ないままに本部ヘ逃げ込んでいたらしい。 「冗談じゃない!リーダー、『アイツ』は20人ぐらいじゃ止められないんだ!南区の天道 大通りの、オレ以外の仲間はあっという間に全滅させられたんだ!20人ぐらいじゃ5分 でやられちまうよ!」 思わず大声で怒鳴ると、周囲の人間たちが食事の手を止めてこちらに目を向けた。 スキルアウトの本部、十九学区の中心的な建造物である大規模ショッピングモール、『ク リスタルシティ』。ここはその最上部の一角に設けられたレストランだった。そして今は、 スキルアウトの司令室だ。 食事処としても機能を続けている場の視線を一身に集めるほど声を荒げたオレに、リー ダーは決して機嫌を良くしてはいなかった。 「じゃあ聞いてみるがな、そのイカレた野郎はどうやっておまえたちをぶっ倒したんだ?」 「どうって、こっちの持ってた警棒をあっという間にもぎ取ってぶん殴ったり、金属バッ ト振り回したり――」 「だろうが。ソイツは能力なんか使わずに、素手で殴り込んできたんだ。能力も銃なんか も使ってない奴に油断して、おまえらは簡単にぶっ殺された。そうだろう、あぁ?」 「い、いや、でも、『アイツ』は、何十メートルも飛んで爆発して現れて――」 「風紀機動員でもない奴にそんなことができるわけないだろう。あれは手榴弾、そしてそ れはもう無くなった。そうだろう、タカ?」 リーダーはもはやオレの話に半分も耳を貸さず、フロアの隅にたたずむ男ヘ問い掛けた。 その隣では新入り女が気まずそうな顔をしてオレを見ていたが、タカは自信有りげに「そ の通りです、リーダー」と答える。 リーダーはそれに満足そうに頷き、横に太い腹から、肌で聞き取れるほど凄みのある声 で言った。 「そういうことだ。もう必要な対処はすませた。おまえは黙って役場に戻ってろ」 そう締め括ると、それきりテーブルに並ぶ料理にナイフとフォークを突き刺す作業に戻 り、オレの方など見向きもしなかった。 消えろ。 そう言っているのを感じた。リーダーだけじゃない、このレストラン全体から、リーダ ーのお気に入り達からも。 消えろ下っ端。ビビッて錯乱した三下。うるさい、目障りだ。 悟った。まるで相手にされていない。そして立ちすくんだ。ここにいる人間たちは、オ レの言葉などに一つも耳を傾けはしない。 膝が緩みはじめた。フラフラと、地面が柔らかくなる。テンパって、頭が真っ白になる。 ここに持ってきた希望は、すっかり崩れてしまっていた。 ボケっと突っ立つオレはとてもカッコ悪かったに違いない。ぶつけれる気配が、軽蔑す るようなものになった。早く消えろって言ってるだろうが、クズ。 自分の体に手が届かなかった。動けない。邪魔だ、能無し、マヌケ。打ちのめされて麻 痺してる。 やっと届いた。体を動かす。オレは夢中でレストランを飛び出した。遅刻寸前の朝に引っ掴まれるカ バンのように、そんな光景はもうずいぶんと昔に自分とは遠くなったはずだけど、なぜか そんな連想をした。 オレは自由になりたかったんだ。 どんな事でも、オレは、オレの意志でオレを決める。 スキルアウトになったのは、その方がオレに合ってて、うまくいけると思ったからだっ た。裏路地、自力、闘争、生存。 なのに、今のオレはどうしている?学区の端っこで、ショボい武器を渡されてショボい 事を命令される。マジメにやっていけばいつかなんとかなると思ってやってきたけど、見 ろよ、それがこの様だ。 オレはただ助けたいだけなんだ。こんなオレでも認めてくれる奴等がいた。オレを逃し てくれた。みっともなかったけど、せめてそこからはちゃんとしたかった。 畜生。 それなのに、どうして何も言う事を聞いてくれないんだ。 このままじゃ被害は絶対に増える。『アイツ』は今のままじゃ勝てない、全員の力を合わ せないといけないのに。 もうあいつらなんてどうでもいい。どうにでもなっちまえ。でも、あそこに残してきた やつらだけはだめだ。怪我をしてまだ地面に倒れているはずだ。そのままではいけない、 手当てをしてやらなければいけない。絶対になんとかしてやる。 他の助けなんて要らない。オレだけでもやってやる。オレがあいつらを助けるんだ。 エレベーターのボタンをガチャガチャ押して呼び出して、最上階から一階まで一気に降 りる。扉が開いたらすぐにダッシュして、建物の出口を飛び抜けた。 そこで、何かにぶつかった。 「ぎゃっ」 壁だと思った。なにせオレは反動で2メートルも跳ね返ったのだ。 しかし、そこに立っていたのは人間だった。 「ああ……すまない。……怪我はないか……?」 機械的な、抑揚の無いその声には聞き覚えがあった。 リーダーとは違う方向にデカイ体。短い焦げ茶色の髪に、調理服をピチピチに突っ張る 筋肉。 「駒場さん!?」 それは司令部のレストランで料理長をしているはずの人間だった。どうしてここに?そ れに、オレはエレベーターで降りてきたのに、なぜ先回りされてるんだ? 「ああ……ちょっと、おまえに用事があってな」 巨漢のコックは無感情に言った。 「用?」でもは今それどころじゃない。「悪いけど、オレは急いでるんだ。それに、もう上 の命令を聞くつもりは無いっ」 オレは駒場さんを大きく迂回して走り出そうとした。しかし、一歩も動かないうちに伸 ばされた腕に襟首を掴まれ、引き戻された。 「気が急くのは分かるが、まぁ聞け……。俺の用というのは、“おまえの仲間”を助ける事 を含んでいる」 「え?」本当か?「でも、なんで?」 言っている間に、巨漢のコックはその服を脱ぎ始 めていた。窮屈そうだった白い布の下から、ぴっちりとしたタンクトップと、軍人のよう なズボン、ぎちぎちに詰まった筋肉があらわれる。 「こんなに情報が少ないんじゃ何も始まらないからな…その“アイツ”は俺“達”と言ったん だろう?…なのにアイツはろくな情報収集もしない……それに……」 駒場さんは事もなげに、つまりいつもと同じ全くの無感情で答えた。 「末端の人間の面倒を見るのが……上の人間の仕事だろう」 ▼クレイモア03 片側二車線道路いっぱいに、スキルアウトが立ちふさがっていた。その数……何人だろ。 だいたい20人。ぐラい。 丁度いい数だ。もう準備運動は終えているので、本気で行く。 スゥ――、と一吐きして、頭を戦闘用に組み替える。水に沈んでいくようなイメージ。足 先から浸食して、じわじわと、頭の天辺までを感覚に包み込む。水面ヘ逃れる事はしない。 同時、要所に『焦点』を展開する。猫に尻尾の動かし方を聞けたとしても、人間にはちっ とも理解できやしないだろう。今体に走っているのは、学園都市の脳開発技術によって“開 かれた”、個人個人で全く違う、固有の回路。俺の場合、あえて言うなら、全身の筋肉骨格 皮膜を想像上の神経で直結させるような、ニトログリセリンのように不安定なエネルギー の塊を肉体という風船に詰め込むような、そんな感じだ。 腕に赤い光が浮かび上がる。脚をさざ波のような明かりが走る。 スウーと、細く長く吐き出し続けていた息を、ピタリと止めた。水中に飛び込む泳手の ように。 そして、足裏の光を限界ギリギリまで高め―― 爆発。 飛び出す。 五本の指でぐりぐりと地面を掴み後方ヘ蹴りつけ、十分にエネルギーを搾り取ったとこ ろで爆破。爆破。爆破。浮かび上がろうとする体を、飛行機のように水平に広げた両手に 爆発を連続させて地上に縫い付ける。 空気すら液体の如く絡みついてくるスピード。筋肉と爆発の衝撃を連動させた運動速度 は、人間の反応の限界を越えている。だが能力使用中の俺の頭には異常な量のアドレナリ ンその他の脳内麻薬が垂れ流されるため、時間の感覚が狂ってしまっていた。 鼻の先から切り分けられ、肌表面を流れて髪をくしけずる空気の動き。 足の裏の皮膚と地面との間で砕かれ、粉となる石粒。 指向を制御されていない、本来の爆発のままに飛び散るエネルギーの風が、自らの表皮 を波打たせる感触。 俺は感覚器官から送り込まれてくる情報、その一つ一つを完全に把握することができた。 それは金をかけすぎたCG映像のように、むしろ本物よりもリアルな世界を感じ取らせる。 そして、“壊し”の段階に入ると、それはなお著しくなる。 俺は両足で踏み切って高々と跳躍すると、ほぼ円状に広がっていたスキルアウト、その 中心に突っ立っていた人間の懐ヘ、何の妨害も受けずに着地した。 いきなり足元に降ってきた外敵。人に囲まれて安心していた顔が、その色を残したまま で硬直する。 俺はその顔を目がけて、殴り上げた。 屈んだ体を一直線に弾き戻す。俯いた額を爆破、上を向く。肘に爆発、腕が飛び出す。 握った拳は、顎を深く捉え過ぎたためか、気管にめり込んでいた。 パァ――ッ、と広がる赤色の飛沫は、唾液と血液が入り交じったものだろう。 別の物体が割り込んだために盛り上がった、周囲の肉。その波紋が伝わるにつれて、天 を仰ぐ体が後方に倒れこむ。俺はそれ先回りして、背中に隠れるように拳を構える。 今度は、打ち上げた。 仰向けに傾いた体、その重心直下の腰あたりに掌を添え、甲を爆破。海老反りになった 体は、空中5メートルまで上昇する。 エネルギーを高さに全転換し、重力の手に引かれ始める体。落下するより速く、追い打 つ。 下半身全体に『焦点』を展開、屈伸のポーズで足を折畳み、ケツ・膝・踵を爆破して垂 直跳び。一瞬で浮遊物に追い付くと、勢いをそのまま両手にこめて手渡しした。 再び夜の大空に舞い上がる体。 スピードを失って静止した俺は上方向ヘ爆発を起こして素早く着地し、再度ジャンプし て二度目の追い打ちをかけた。中心から少し外れた、肩あたりを突き上げると、支えの無 い体はクルクルと回転した。 もう一度殴り上げる。 再度叩き上げる。 空中を藻掻く体は噴水の勢いに乗っかったゴミのようにほとんど上下せず、ただ次々と 与えられる衝撃にでたらめなダンスを踊らせられるだけだった。俺は壁と壁の間で跳ね返 るピンポン球のように鋭く往復を繰り返し、無数の殴撃をたたき込んだ。 最後は、サマーソルトでしめた。 逆立ちで着地した状態からバネというバネを全て駆使し、回転を伴って飛び上がる。 下の位置から、力無く漂うそいつ腹に、足首あたりをまずぶち当てる。そこから脛と足 の甲で挟み捕らえ、ふくらはぎあたりを爆破して俺を中心にぶん回した。本来二人分の合 計からなる中心軸を、爆発による補助で無理矢理ずらしたのだ。 上下を逆転された体は素直に地上ヘ引きずり落とされ、危険な音を立てて衝突。それを BGMにして、俺は次なる“壊し”の見当をつけていた。 相手を下へ落とした事で、対照的に短時間浮遊する体。その空中の眺めから、瞬きの間 に判断決定、動きだす。 総標的数は19。 最大行動半径は13メートル。 想定爆破必要回数は29±3。 推定必要時間――20秒。 ▼スキルアウト ただ立ち続ける事だけしかできなかった。 徒歩での移動中、『ソイツ』はいきなり空から降って来て、僕たちの前に仁王立ちした。 かと思えば、赤く光ったとたんに『ソイツ』の姿が掻き消え、次の瞬間には僕の隣のヤ ツが空にいた。 何やってんだろう、と思った。 そいつはなかなか地面に戻ってこなかった。その代わりに、そいつとアスファルトの間 を、何か赤いものが行き来していた。その赤が、ほんの10秒ほど前まで今日の寝場所に ついて雑談していたそいつを、風に巻き上げられる木の葉のようにしているらしかった。 そう気付いた時には、生ゴミのようになった体が、地面に転がっていた。 その時、僕は、そしておそらく他の仲間たちも、『ソイツ』の姿を、初めてまともに見た と思う。 『ソイツ』は僕たちのど真ん中に浮きながら、見下ろしていた。 その顔にあったひび 割れが笑みだという事に気付いた時、『ソイツ』は既に消えていた。 ボンッと、音がした。 それはさっきまで俺たちが歩いていた方向との反対側、つまりほとんどのやつらにとっ ての背後から聞こえた。 そういえば、久しぶりに音を聞いた気がするなと思いながら振り向くと、そこには地面 に倒れたしんがりとそれを見下ろす『ソイツ』がいた。 と、姿を認めた瞬間また『ソイツ』は消えた。そしてまた背後で音がした。今度は先頭 だったやつが吹っ飛んでいた。また後方で爆音があった。しんがりの近くにいた男が血を 吐いていた。『ソイツ』の姿は、赤い光越しに一瞬だけ見えるだけだった。 右端が崩折れた。左端が転がった。皆首を回して目を向けるぐらいしかできなかった。 仲間がやられる時だけ『ソイツ』は姿を現すが、次の瞬間にはその反対側で誰かが餌食に なっていた。 ほぼ中心にいた僕は大まかな成り行きを目にする事になった。『ソイツ』は円の外側から、 ほぼ180度ずつ回転しながら、次々と僕達を仕留めていった。ボン、と耳に届く度に一 人がやられていった。赤いものを目にした時、そこには必ず誰かが倒れていた。その輪は 徐々に狭められていった。その輪に触れた時が、自分の番だった。 爆発音は今やリズミカルな程に連続して響いていた。最初は20人いた仲間が、もう1 0人ちょっとしかいない。それも見る間に少なくなっていく。 どこかの誰かが一時停止と再生のボタンを交互に押して遊んでいるのだろうか。 6メートル後ろにいたヤツが潰れた。『ソイツ』が頭を掴んで地面に押しつけていた。 7メートル左にいたヤツが消えた。腕を大きく振り抜いた格好の『ソイツ』だけがいた。 4メートル右にいたヤツが地面を滑っていった。拳を突き出した『ソイツ』が残ってい た。 3メートル斜め後ろにいたヤツが悲鳴を上げた。頭を鷲掴みした『ソイツ』がどこかへ 適当に投げ捨てた。 気が付くと、一人になっていた。無事な人間は、自分以外には一人もいない。皆どこか を徹底的に破壊され、立てる者はいなかった。 しかし、『ソイツ』の姿も見えなかった。 助かったのだろうか――と振り返ってところに『ソイツ』がいた。 直後、恐怖の感情を取り戻す暇すら与えられず、僕の視界は真っ赤に染まった後に暗転 した。 ▼スキルアウトB04 「爆発音だと!?」 オレたちが全滅させられた時の詳細を話し始めたとたん、いつも冷静な態度を崩さない 駒場さんが勢い込んで聞き返してきたので、かなり驚いた。 「いや、……いや――すまない。しかし……また……『アイツ』が……?」 何の事だ? 駒場さんはオレの疑惑に気付き、説明した。 「おまえは知らないだろうが……実は、俺達スキルアウトがその名で呼ばれるようになっ てから、五年も経ってはいないのだ」 声の調子は、いつもの抑揚の無いものに戻っていた。困惑が浮かび上がるが、黙って聞 く。 「もちろん、無能力者等、社会に弾き出された者達のグループはあった。だが、その目的 は『外』のならず者と同じ。彼等は数十人から数百人単位で集まり、自分達で決めたグル ープ名を名乗り、各々好きな活動を行っていた」 当時のオレはまだ普通の学生だったので、初めて耳にすることだった。しかし疑問があ る。 「なあ、じゃ、そいつらは何で今はいなくなってんだ?」 学園都市の不良集団と言えば、それはスキルアウト以外に存在しない。他の集団がいな いのだ。夜に街をうろつく人間は、連絡網に組み込まれていなくとも、まとめてひとつの 名前で呼ばれる。スキルアウト、と。 五年前までは、他のグループもいたのか?じゃあ、今そいつらはどこへ消えた? 「あぁ……その理由は、一人の能力者だ」 駒場さんは、焦茶色の眉を不快そうに歪めながら言った。 「五年前のある日を境に……学園都市の不良集団が一夜のうちに壊滅させられるというが 立て続けに起こった。情報が集まるうちに、それはたった一人の能力者による仕業だとい う事が判明した……」 駒場さんが視線をオレと合わせた。 「……『ソイツ』はあらゆる集団を片っ端から潰していった……。その内に、もとあった グループはひとつ残らず解散してしまった……スキルアウトは、バラバラになった無力な 者達を掻き集めて、ほとんど『ソイツ』に対抗するためだけに結成されたのだ……」 そして、核心は突かれた。 「後に風紀機動員となりながらも薄衣一枚でスキルアウトを狩り続けた能力者……俺たち はそれを“爆弾魔(ボマー)”と呼んだ」 ▼白井黒子02 「あはははははははー、白井さーん、私、Aランク秘匿検索鍵語に引っ掛かっちゃいまし たぁー」 どうしましょー、というような白々しい笑顔で迎えられた私は、一気に憤った。 「それが任務中の風紀機動員を別件に呼び寄せる理由になると、本気でそう思ってます の?」 この専属サポーターはとにかく第一七七支部ヘ来いと言うだけで、何の説明もしなかっ た。疑問に思いながらも第七学区風紀機動隊長と指揮官の警備員に任務離脱の許可をもら い、急いで駆け付けてみればこの出迎えだ。 Aランク秘匿検索鍵語? 何だそれは、からかっているのか? 「ああー、すいませーん、言葉が足りませんでしたねぇー、秘匿検索鍵語っていうのは、 学園都市さんが全ての検索機能に組み込んでる“網”みたいなものなんですー。特定のワー ドを検索しようとすると、その人はブラックリストに載っちゃうんですよー」 初春の声は、いつも以上に苛立たしい程の甘ったるさだった。が、怒鳴り声を上げる寸 前に気付く。その中には自棄になったような無気力さがあった。 彼女はこちらを見ないまま、専用のディスプレイに体を向けて俯いていた。 「何があったのか、最初から説明してくれませんこと?」 いくぶん柔らかに聞くと、初春は話し始めた。 「……命令が来たのは、20分前でした」打って変わった、陰欝な声。 「白井さんが四葉さんと一緒に精神感応の探査をしていた頃です。あの時、衛星映像に一 九学区で爆発みたいな光があったって言いましたよね?それに関わる命令です。学園都市 から、大能力者の風紀機動員白井黒子に」 覚えている。空間移動のせいでぶつ切りにされた通信の中、初春がポツリと呟いていた。 あちこちで不審な光が瞬いていると。 「スキルアウトが動きだしましたの?それで私の力が必要、と?でも――」 それはおかしい。一九学区に隣接する学区には十分な数の警備員と風紀委員が補充され ているはずだ。私一人が赴いたとしても、数百人単位のやりとりに違いが出るとは思えな い。 「違います」初春は否定した。 私は別の可能性を見いだした。「では、空間移動で誰かを護送すればいいんですの?」 初春はこれにも首を振った。
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同日 風紀委員第一七七支部 キーボードのタイプ音だけがリズム良く響く支部内。 と、タイプ音が止まる。 「くぁー白井さんも固法先輩もいないとなると、私だけって劣等感がします」 頭の花を揺らしながら初春飾利は椅子で伸びをする。 今この支部にいる風紀委員は彼女一人である。 風紀委員は… 「私がいるじゃなーい。はい紅茶」 後ろから差し出される紅茶。 ありがとうございます、と返事をしながらサラサラと砂糖を入れていく。 「佐天さんはお客さんです。現に仕事しているわけじゃないですし…」 「それ言われるとちょーっと痛いかなー」 同級生の佐天涙子は困ったように笑う。 「ってか砂糖入れすぎ!」 紅茶にミルクとシュガースティックを5本入れたところで飾利スペシャルの完成だ。 「だいたいジャッジメントオンリーのセキュリティに佐天さんも登録しているんだから、仕事をしてくれても何もバチは当たりませんよ」 ずずずっと溶け残った砂糖に心地良さを感じながら紅茶を味わう。 「私の仕事はねー初春をいじめることだー!」 わー!という掛け声と共に抱き着かれてソファーに倒れこむ。 「これじゃ私の仕事の邪魔ですー!」 と言っても佐天は聞くはずがない。 やれやれと思っていると入り口のドアが開いた。 「あら、初春に佐天さん。お早いことで」 この支部の風紀委員である白井黒子は初春たちの様子を見るなり怪訝な表情を浮かべる。 「あれ、私たちが一番じゃなかったの?」 黒子の後ろから御坂美琴も顔を出した。 「えぇお姉様。初春と佐天さんが既に…」 と、美琴も初春たちの様子を見て微妙な表情をする。 4人が一気に無言となり、居心地の悪い空気が流れる。 「あはは…こんにちは、白井さん、御坂さん。 あ、これはですね、初春が男の人に初めてを捧げるための予行演習で」 「かっ…勝手なことを言わないで下さい!それに今のこの空気を打開できる言い訳じゃないです!」 真っ赤になりながら必死に抗議する初春に、美琴と黒子はいつも通りだなと笑みを浮かべた。 「それにしても…遅いですね、固法先輩」 支部内の机の上には4つのマグカップが湯気を上げていた。 ポツリと呟く初春に対し 「どっかで買い食いでもしてんじゃないのー」 「佐天さんと違って、固法先輩はそんなことしないです」 「うわっ!ぐさっとくるねー」 ソファーに力無くもたれかかる佐天。 「あら、固法先輩今日はジャッジメントとアンチスキルの合同会議に出席されているはずですの、初春は知りませんでした?」 「あれ?そんなこと初めて聞きましたよ」 「何やら近頃騒がれている能力者暴走の件とかで… 緊急でしたから初春には回ってなかったのかもしれませんわね」 「あぁ、たしかにそんな事件あるわね」 美琴がマグカップを置きながら言う。 「なんだっけー?能力者の能力が暴走して周りの人や、それを取り押さえようとしたアンチスキルにも被害が出てるんだっけ?」 「アンチスキルだけではありませんわ、先日の発火能力者の一件ではジャッジメントにまで被害が出ていますの」 黒子は一つ、本当に困ったような溜め息を付いて 「しかも、今回の事件で一番の謎とされているのが、暴走した能力者本人。 まったく意志が無かったということですの」 え、と黒子以外の3人が驚く。 「ちょ…ちょっと待ってよ黒子、そもそも能力の暴走なんでしょ? 暴走なら本人の意志もなにも関係無いんじゃない?」 美琴が3人の心持ちを代弁する。 「えぇ…そうですわね…この事件の場合、 能力の「暴走」ではなく「乗っ取り」と言ったほうがいいかもしれませんわ」 「乗っ取りって…」 「お姉様達もご存知の通り、本来暴走と言うのは本人が無意識のうちに能力を使用してしまうこと、 しかしその暴走も能力者が意識すれば押さえ込めるはずですの」 「なるほど…ね…」 当の美琴も、とある少年の前では「ふにゃー」と能力を暴走させがちだが、 それはほんの気の緩みや焦りのため、しっかりと制御すれば正常に戻る。 「それに…どう考えても暴走では無いような気がするんですの…」 さらに?マークを浮かべる3人。 黒子もどう説明しようかと悩んでいるのか、考え込むが 「言葉で説明するよりも見ていただいたほうが分かりやすいですわ」 未だに?マークを浮かべた初春に声を掛け 「先日の発火能力者暴走の映像、ありますわよね?」 「はい、えっと…」 ソファーから立ちパソコンへ向かう初春。 しばらくタイプやクリックの音が聞こえた後、ありました。という返事。 黒子の返事を待たず初春は動画を再生する。 「見ていただけます?」 美琴と佐天もディスプレイを覗き込む。 そこで再生されているのは、ちょうど発火能力者と警備員が対峙しているところだった。 真っ黒な戦闘服に身を固めシールドを持つ警備員が横一列に並び。 対する能力者は何かに怯えているような表情だった。 再三警告をするも、能力者のほうは応じない。 そして、警備員達が徐々に距離を詰めようとした瞬間。 能力者の炎が彼らを薙ぎ払った。 「ここまで見て、お分かりなられました?」 「うーん…」 3者とも首を傾げるばかりだ。 必死に理解しようと、動画を見続ける。 体勢を立て直す警備員。 それを薙ぎ払う能力者の炎。 「次でお分かりになると思いますわ」 「あ…ジャッジメント」 美琴がディスプレイの一点を指差す。 駆け付けた風紀委員。 拘束しようと能力で応じるが、炎が風紀委員を狙う。 そう、 狙っていた。 「あ…」 3人がディスプレイから顔を上げる。 「ようやくお分かりになられましたか」 黒子は一つ溜め息を付き、 「そう、能力者はしっかりとアンチスキルやジャッジメントを狙って能力を使っていますの。 これはどう考えても能力の『暴走』とは言い難いですわ」 「でも、どうしてアンチスキルは暴走って言い切るの?」 「そうですよ、ここまで明らかな使い方をするのなら、れっきとした犯罪行為です」 「それが…」 美琴と初春の意見に言いにくそうに目を伏せる黒子。 しばらくして自分も信じ難いというように、ゆっくりと話し始める。 「容疑者である能力者によると…身体が無意識のうちに動いたとかで…自分が誰かに操られているようだと…」 美琴が眉をひそめる。 「どういうことよ!そんな言い訳で済むなら、街中暴れまくる輩で溢れちゃうじゃない」 「落ち着いて下さいまし。もちろん、アンチスキルも最初は相手にしませんでしたわ」 ですが、と黒子は一呼吸おいて。 「初めての事件が起きて以来、立て続けに同じような事件が起きましたわ。徐々に起きる頻度も高くなっていますし…」 うーん、と唸る4人。 「その容疑者の人って本当に悪いことした人じゃないんですか?その…悪い集団みたいなのが暴れて、口裏を合わせてるとか」 自身が無能力者であるがゆえか、佐天が遠慮がちに聞く。 「もちろんその可能性も考えましたが、暴走した能力者の方は至って普通の学生。 前科も無く、中には元ジャッジメントの方もいましたの。 不可解な繋がりもなかったですし… 先入観を持つのはいけませんが、どう考えても突然そのような道に進むとは思えない方ばかりですの…」 解けない謎に、4人がそれぞれ頭の中で考えていた。 あ、とパソコンで調べていた初春がと小さく呟く。 「スキルアウトによる『能力者狩り』も激化しているようです」 「ったく…ここぞとばかりに出てくるわね…」 美琴がやれやれと溜め息をつく。 スキルアウトは無能力者が自分の持てない能力を持つ能力者を妬み、 敵対視しているため、今回の事件はスキルアウトが暴れるのにはちょうど良い口実になる。 そのために、最近の警備員と風紀委員は能力者の暴走事件とスキルアウトの暴走への対処に追われ忙しく、人員不足と言っても過言ではなかった。 しばらくは各々が頭の中で事件を整理していたようで、沈黙が続いたが、 はぁ~と黒子が一つ大きな溜め息を付いて 「それに関しての今日の臨時会議でしたが… 遅いですわねぇ固法先輩。 もしかして本当に買い食いだなんて端ない真似を…」 「するわけないでしょ!」 黒子が言い終わる前に支部のドアが開き、固法美偉が抗議の声と共に入ってきた。 「げ、固法先輩…会議はもう終わったのですか?」 「遅いとか言っときながら、来たらその態度ってどういうことよ」 固法は黒子を呆れたように見ながら、鞄の中から書類を取り出す。 「まったく、これからは年末で冬休みも始まるからただでさえ忙しいのに…」 真面目な固法が珍しく愚痴をこぼしつつ、書類を黒子と初春に手渡す。 「今日の会議の資料よ。 最近起こっている能力者暴走の事件について、アンチスキルから正式な支援要請があったわ」 つまり、と固法は続ける。 「この事件については、ジャッジメントも捜査にあたれるわ」 風紀委員とは、本来学校内の治安維持をメインとした機関であり、都市内での活動は管轄外である。 そのために、初春は度々黒子の活動に対する始末書を書かされるわけだが… 「今回は白井さんのために始末書を書く心配が無いわけですね」 初春が心底安心したように呟く。 「心外ですわね…でも、この事件について公認で捜査ができるようになったのは大きいことですわ」 おもむろに、黒子は初春の後ろへ立つ。 黒子が今にも頭の花へ手を出しそうだったのを、首を振り避けながら初春は言う。 「でも、年末はその年の事件の整理とか、書類の提出とかで冬休みで学校が休みなのにジャッジメントはいろいろ大変なんですよね? それに加えて今回の支援要請。なんだかとても忙しそうですねー」 「人事のように呟いているあなたには余裕が感じられますわ」 「あぁ、そのことなんだけど…」 固法が思い出したように、別の書類を渡す。 「ジャッジメントの臨時募集?」 書類を見ながら黒子が呟く。 興味をそそられたのか、 今までの風紀委員限定の会話に微妙な居心地だった佐天と美琴も黒子の書類を覗き込む。 「えぇ、さっき初春さんが言ったように、年末ただでさえ忙しい状況なのに今回の支援要請。 さすがにそれではジャッジメントも仕事が多すぎるってことでの措置らしいわ」 「では、一般学生がジャッジメントになるための試験も研修もせずに配属されるってことですの?あまりにも無茶苦茶なことかと…」 「いいえ、誰彼無しにってわけじゃないわよ。大能力者以上で、もちろん本試験までとはいかずとも、試験もあるわ。 今回は急な話だから、初春さんみたいに隠れた能力を持った人が来られないのは心苦しいけど…」 「ま、どうであれ苦渋の決断ですわね…ってお姉様?」 黒子が隣を見ると、美琴が何やら真剣に書類を読んでいる。 「あ…あの、お姉様?」 「私…やってみたい」 黒子の悪い予感が当たった。 いつだったか、美琴が風紀委員に憧れて初春の腕章を使い、一日風紀委員をしたことがあった。 その時は大きな事件も起きず、何も無い退屈な風紀委員の仕事に、風紀委員の大切さを知りながらも飽きてしまった美琴だった。 だが、今回は状況が違う。 風紀委員が捜査を許されるこの事件。 臨時であろうと、風紀委員なら事件の捜査ができるだろう。 むしろ今回の事件をより早く解決するための臨時風紀委員なのかもしれない、だから大能力者以上なのかもしれない… 「やっぱりですの…」 「あれ?黒子、あんまり食いついてこないのね、私はてっきり反対されると思ってたんだけど」 周りを見れば、全員が黒子へ注目していた。 黒子は溜め息を一つ吐いて 「どのみちお姉様なら風紀委員でなくとも事件には関わってきそうでしたし、わたくしが言ったところで聞かないのはわかりきっていますわ」 それに、と黒子は続ける。 「おおかた、この手の厄介事にはあの殿方も関わるはずだとかお考えでしょう? そんな下心満載の乙女なお姉様には黒子はかないませんわ~」 黒子が呆れた目で美琴を見る。 なっ、と美琴が顔を真っ赤にしていると。 「白井さんの言ってる殿方ってやっぱりあのツンツン頭の高校生ですか?」 「え、え、初春!誰なのそれ?御坂さんの彼氏?」 途端に初春と佐天が食いついてきた。 「ばっ…バカ!なんで今あの馬鹿のこと考える必要あるのよ」 「あの殿方、いろいろと面倒事に巻き込まれているようですけど、お姉様はいつも置いてきぼりですものね」 「うっ…」 「これに乗じて急接近しちゃおうってことですか!?」 うわぁ…と目をキラキラさせ、乙女モード全開になる初春。 「ち、違うから!初春さんまで…」 「そうでもしないと接近できないなんて…御坂さんって案外奥手なんですね」 「さ、佐天さんまで…!」 必死に否定する美琴だが、周りから見れば顔を真っ赤にしながら否定するあたり、 どんなお約束だよ。 と突っ込みたくなるくらいだ。 (た…確かにアイツなら、この事件もどうせ放っておけなくて首を突っ込んでるんだろうけど… でもアイツに接近したいからとかじゃなくて、アイツいつも一人で突っ走ってるから… いやいやいや、そうじゃなくて! 私だって能力者の一人として、学園都市の一人としてやっぱりこんな事件は放っておけないわけで、決してアイツのことを考えたわけじゃなく… あ、でももしもアイツがこの事件に関わってるなら、やっぱり共同戦線張っちゃったり? 確かに接近できちゃうの?いや、だから決してそういうつもりがあったわけじゃ…) 「あぅあぅ~」 「お姉様、考えていることがダダ漏れですわよ」 「へっ!嘘!今考えてたこと全部嘘だから!」 「冗談ですわよ…そんな聞かれちゃまずいことをお考えでしたの?」 見事に鎌を掛けられた美琴だった。 「と、とにかく、御坂さんが臨時ジャッジメントに立候補するってことでいいのね?」 美琴の焦りように少し驚きながらも、固法は話を仕切り直す。 「はっ…はい!」 「それじゃ、この書類に必要事項をお願い」 いくつかの書類を渡される。 それらには自分の情報を書くものや、規則に対しての誓約書などが何枚もあった。 「でも御坂さんが捜査に加わってくれれば百人力ですよねー」 書類を記入していると、佐天がポツリと呟いた。 「本当、私も大能力者だったらなー…なんだか私だけ何もできないって疎外感感じちゃうよ。 今回はさすがにバット一本で何とかできる様子じゃないし…」 佐天が困ったように笑うのを見て 「そんなこと無いです! 佐天さんは…佐天さんは仕事に疲れた私たちを癒してくれる。 仕事を忘れさせてくれる大切な存在です! 私の隣に居てくれるだけで、十分なんです!」 初春が叫ぶように言った。 「初春…」 佐天は自分を必要としてくれる親友に心から感謝し、気を使わせてしまったことを反省した。 そして、 「ありがとー初春!」 飛びつかずにはいられなかった。 「わー!今は必要な時じゃないですー!」 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を見て、美琴は佐天のように 「何かしたくても何もできない」人がいるという事を実感する。 (そっか…) 誓約書へのサインへ力を込める。 (でも、) 頭に浮かぶのは、やはりあの不幸少年。 彼なら「何もできなくても」立ち上がるだろう。 (なら…) 自分だって立ち上がってやろう。 学園都市第三位と鼻を高くするつもりは無い。 誰かを助けたい。 助けたいと思っても何もできない人の気持ちも全部引っ括めて。 (やってやろうじゃないの!ジャッジメント!) 最後の書類にサインをした。 「お願いします」 書類を固法へ提出する。 「確かに受理したわ。 入るための試験は明日からやっているから、いつでも行ってね」 固法から試験場所などを記入してある書類を渡される。 「ま、お姉様なら受けるまでも無いですわ」 「馬鹿言ってんじゃないわよー」 美琴は否定するが、どうやら美琴以外は全員そう思っているようだ。 「これからよろしくね、御坂さん」 「改めましてお願いします」 「頑張ってください!御坂さん」 臨時風紀委員、御坂美琴が誕生しようとしていた。 車内は居心地の悪い雰囲気に包まれていた。 (……気まずい…) 上条は窓の外を見ながら、何か会話をしようかと考えるが、どう話しかけていいのかまったく分からない。 結局学校を黄泉川の車で出てから、上条は一言も話していなかった。 黄泉川のほうは特に気にした様子もなく、 急停車、急発進無く丁寧で上条にとって(身体的な面で)快適な運転をしていた。 と、気がつけば3車線道路が交差する大きな交差点に来た。 今目の前の信号機は赤だが、前を横切る車は無い。 今までも交差点には何回か止まったが、少ないとはいえいくらかの車が横切っていったはずだった。 だが、この交差点はまったく車が通っていない。 不思議に思い後ろを見ても信号待ちをしている車もなかった。 まるで「人払い」の魔術を使用したようだ。 上条は何か嫌な予感がした。 しかし、黄泉川は何も気にした様子は無く。 「上条、一つ聞かせて欲しいじゃん」 「え?はい」 緊張していたため、声が上ずる。 「アンタ、まさかとは思うけど。 生活費が苦しいとか、遊びたいがために、このアンチスキルをやるつもりじゃないだろうな?」 「え?生活費?遊び?」 上条は全くわけが分からず、間抜けな声をあげる。 「…ったく、その様子で安心したじゃん」 黄泉川は呆れたような、それでも安心したような表情で運転席の横の鞄に手を入れる。 そして取り出してきたのは、さっきの任命状だった。 「月詠先生から聞いてるけどアンタって後先考えず突っ走るバカらしいじゃん? でも、こういう書類はちゃんと読んだほうが人生得することがあるじゃん」 書類を手渡されて、上条は目を通す。 さっき見た「臨時のアンチスキルとして任命する。上条当麻」の下に、まだ文章が長々と書かれていた。 上条は校長室の時と同じように音読する。 「なお、学生からという特別な形のため、今回は特例としてアンチスキルながらに給与が発生する。 その額はこの文書では書かないが、それ相応のものとする」 「ま、物で吊ろうっていう汚い考えだろうけど、アンタがそんなバカじゃなくてよかったじゃん」 さっきから、後先考えず突っ走るバカだの、物に吊られないバカでよかっただのと言われているが、 いったい自分はどんな人間なのだろうと考えるバカ学生、上条当麻だった。 「ま、冬休みの課題もあって大変だろうじゃん。 そのあたりも踏まえて、お小遣い程度の軽い気持ちで貰っとくといいじゃん」 え、と上条の「果たして自分はバカであるのかないのか」というバカな思考が途切れる。 「や、やっぱり…宿題は免除されないのでせうか?」 「当たり前じゃん?ま、休憩時間とか隙間の時間にやればなんとかなるじゃん。 そのあたり、私が教師としてしっかり指導してやるじゃん」 「ふ、不幸だ…」 がっくりと頭を抱える。 先日の期末考査でさえ散々な結果だった上条は、今でも鞄の中に大量の補習用プリントが入っている。 それに加えて冬休みの宿題だ。 きっと不幸な自分は警備員の仕事に恵まれすぎて、やる暇も無いだろう。 二度目の一年生もそろそろ見えかけている。 実際今日、校長室に呼ばれたのもそれを覚悟してのことだった。 (留年とか親に会わせる顔がありませんよ。そして周りの連中にバカにされまくるんだ…不幸だ…) 「それで、上条当麻」 これからの人生どう生きようかと、本気で悩んでいた上条は、黄泉川に呼ばれ我に帰る。 「さっきアンタ。この道で車が通らないことに違和感を覚えたみたいじゃん?」 「え、えぇ…まぁ…」 そう言っている今も、車が通る気配も無い。 「いい観察力じゃん…ご褒美として、教えてやるじゃん」 黄泉川は運転席の位置を前後へ調整しながら言う。 「この道は一般道じゃないじゃん。 緊急車両用特別道路。つまりアンチスキルや救急の車が通る道」 何だか嫌な予感がした。 今までの不幸体質で養った、第六感が赤信号を灯している。 「こんなこともできるじゃん!」 目の前の信号機が青を示すと同時に、車の後部からタイヤの悲鳴が聞こえ、大きなGが上条の身体を襲う。 「口を閉じてろ、舌噛むじゃん」 口の中で上条は色々な意味を込めていつもの言葉を叫んだ。 ビルが立ち並ぶ街を一台のスポーツカーが凄い速度で走り去っていった。
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【作品名】カルタグラ~ツキ狂いの病 【ジャンル】エロゲ 【名前】高城七七(なな) 【簡易テンプレ】 主人公の妹。主人公より頭も腕っ節も上 【変態属性】良くわからん。なんかいろいろ 【詳細】巷で起こっている連続殺人に興味を示し、捜査を開始 犯人に行き当たるも、告発したりせず、犯人の思想や、犯行の様子を聞くだけに留まる その時食事を供される程親しくなっているが、出されたのが状況から考えて人肉 当人いわく「興味深い物をご馳走になった」 この時食べた肉は多分知人の物で、当人もそれは知っている 行方不明になった知人を、半狂乱になって探す、兄の前に現れ思わせぶりな態度をとり、 逆上した兄が首を締めると恍惚とした表情で「秋五(兄の名前)に殺されるなら、それも 良い」みたいな事を言い、兄がドン引きして冷静さを取り戻すと残念そうにする 最終的に真犯人を捕まえるのだが、その理由が「自分から兄を奪おうとするから」友人が 惨殺されているがそれは割とどうでも良いらしい 真犯人はかなりの狂人だが七七と対峙するとまともに見える。不思議 上野連続殺人の犯人に捕まり、両足切断され鎖で繋がれて、人肉食わされて、地下牢で飼われていた兄を救出する しかし、兄の精神は壊れており、抜け殻状態 長期渡る入院をし、見舞いに来る人も絶えたとき、行動開始 兄と一線を越え。念願叶って最愛の兄と結ばれる どうも狙ってやったっぽい ついでに血が繋がっていないという設定なんて無い 【簡易テンプレ】 厭わしい。怪物。狂人 By兄 参戦vol.1 137 修正 249 再考察 280 vol.1 156 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2012/08/05(日) 21 27 21.26 ID X7cvnyMZ 高城七七考察 吐き気を催すドS とにかく邪悪なドS。直接手を上げていない以上、龍水の下か。 御門龍水>高城七七>ある愛の国の王様 280 :適当考察:2012/09/01(土) 14 49 47.91 ID 0bHi67wM 高城七七再考察 最低のドS。しかしその上の連中とは格が違うので上がらず。 281 :格無しさん:2012/09/01(土) 14 56 43.84 ID ykIqNFdG 280 77は龍水の上に行けるんじゃなイカ? 282 :格無しさん:2012/09/01(土) 15 26 32.59 ID QCtG8Py4 龍水はテンプレのような行為を望んでたけど、あくまで自分から強制的にそういう状況にしようと行動したわけじゃないんだよな・・・ 能力でうわ本当にこうなったよ・・・ってなっただけだから、それ考慮すると下がるかもしれん
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(出願審査の請求の時期の制限) 第一八四条の一七 国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあつては第百八十四条の五第一項[書面の提出]、外国語特許出願にあつては第百八十四条の四第一項[外国語特許出願の翻訳文提出]及び第百八十四条の五第一項の規定による手続をし、かつ、第百九十五条第二項[手数料]の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第百八十四条の四第一項ただし書の外国語特許出願にあつては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。 (本条追加、昭五三法律三〇、改正、昭五九法律二三、昭六〇法律四一、昭六二法律二七、平一四法律二四) 趣旨 本条は、国際特許出願についての出願審査の請求の特例を規定したものである。出願審査の請求については、四八条の三によれば、出願審査の日から三年以内にできる旨されている。国際特許出願は国際出願日になされた特許出願であるから、国際出願日から我が国において出願審査の請求が可能となるが、出願審査の請求を認め、出願審査を開始するためには、当該出願が我が国において手続的に確定している必要がある。国際特許出願が手続的に確定するためには、日本語特許出願にあっては一八四条の五第一項の書面を提出し、かつ、一九五条二項の規定により納付すべき手数料を納付し、外国語特許出願にあっては一八四条の四第一項の翻訳文(これに代えて同条二項の翻訳文が提出された場合を含む。)及び一八四条の五第一項の書面を提出し、かつ、一九五条二項の規定により納付すべき手数料を納付しなければならないことから、それらの手続の後でなければ出願人は出願審査の請求をすることができないこととしたものである。 出願人以外の第三者による出願審査の請求については、国際出願は出願人から明示の請求がある場合を除き、国内書面提出期間(昭和六二年の一部改正については、一八四条の四の[趣旨]参照)が経過するまでは、締約国の国内官庁は処理または審査を開始してはならないこととなっている(PCT二三条、四〇条)ことから、それに合わせて時期を制限したものである。 なお、平成一四年の一部改正において、一八四条の四第一項に翻訳文提出特例期間が設けられたことに伴い、一八四条の四第一項ただし書の外国語特許出願については、出願人からの出願審査の請求の提出時期について、翻訳文提出特例期間の経過後とした。(青本第17版)