約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/42483.html
知識の祈祷師ザビ・ミラ VR 闇/水文明 (7) クリーチャー:デーモン・コマンド/ナイト/エイリアン (パワー) ■このクリーチャーが出た時、カードを3枚引く ■このクリーチャーを墓地から召喚してもよい パンドラオーラ 闇文明 (3) 呪文 ■山札の上から2枚を墓地に置く。その後墓地からカードを1枚手札に戻す 作者:?の助 フレーバーテキスト ザビ・ミラは、超獣世界から様々な方法で知識を集めた 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8463.html
前ページ次ページ使い魔はじめました 使い魔はじめました――第二十四話―― 「ここまでは順調だったのに!」 アカデミーの一室で、エレオノールが悔しげにるつぼの中の液体を見つめていた。 ゲルマニアに蔓延する『カエルの呪い』の特効薬――になる予定のものである。 「まさか、『水の精霊の涙』の在庫が切れてるなんて……」 ヴァレリーもまた、困り切った様子で液体を見つめている。 この世界には『水の秘薬』という水の魔法の効能を高める薬が存在する。 『水の精霊の涙』の涙はその秘薬の中でもとてつもなく希少なもの。 水の精霊との交渉役を務める家から、極々稀に市場に出回るだけであった。 「あんまり出回ってないとは聞いたけど、ここまでとはね」 「あなたの荷物の中に代用が出来そうなものはないの?」 エレオノールに問われ、サララは考える。 考えたが、それに該当するものは今は手元にはなかった。 もし向こうの世界に戻れたら早急に『賢者の石』を入手しておこう、と決める。 「参ったわね……ゲルマニアは既に話を通してあるらしいし、あんまり先延ばしに出来ないわ」 ゲルマニアは非公式ながら、『カエルの呪い』が悪魔の手によるものであったと認めている。 風の噂では、実は皇帝自らも悪魔(エンペル)の姿を見かけていたらしい。 それを公に口にしなかったのは、悪魔を見たなどと言えば頭の病気を疑われ、 即刻帝位を奪われて幽閉されかねなかったからだ、とかなんとか。 その皇帝からは、国民の支持を取り戻すためにも早急に解呪薬を、という意見書が来ており 一刻も早く薬を完成させねばならないのであった。 「『別の』市場も覗いてみたんだけど、あっちにも全然無いみたい」 ヴァレリーが声をひそめる。別の、とはサララの世界で言うところの盗賊ギルドであろう。 ――目的を達するために必要な品がない。その状況でサララのとる行動は至って単純だ。 「え? 水の精霊が何処にいるか、ですって? あなたそれを聞いてどうするの?」 疑問符を浮かべるエレオノールに向かって、サララは微笑んだ。 ちょっと、取りに行ってきます、と。 欲しいものがあるなら危険を冒してでも手に入れろ。 それがだんじょんの町で生きてきたサララの信条だった。 面倒だからって夜中だけ開いてる店で買って済ますようなことは、性に合わない。 「それで、一度こっちに戻ってきたわけ?」 問いかけるルイズの膝には、一冊の古びた本が載せられている。 始祖の祈祷書、と呼ばれるその本は王族の婚姻で祝詞を読み上げる巫女が 大事に持っていなければならないとされるものだ。 ゲルマニアの件が片付けばウェールズと結婚する予定のアンリエッタが、 その巫女役をルイズに頼んだため、今はその場にある。 「ラグドリアン湖かぁ、何度か行ったけど綺麗な所なのよねぇ」 袋にせっせと荷物を詰め込むサララの背中に向かって呟く。 「いいところなのよねぇ、ラグドリアン湖」 それは楽しみですね、早く行きましょう、とサララが笑って答える。 「へ? え、ええ、勿論よ! ついていくに決まってるじゃない!」 本を小脇に抱えて立ちあがると、クローゼットへ歩みを進める。 「サララは私のパートナーなんだからねっ、私が一緒に居て当たり前じゃない!」 ぷりぷりと口を尖らせながらも、その表情には喜びが隠し切れていない。 正直少しルイズは寂しかったのだ。何しろ二週間もの間サララはアカデミーに籠り切りで、 自分のパートナーであるサララが自分の傍に居ないことが、不満だった。 だから、危急の事態とはいえサララと一緒に居られるのが嬉しいのだった。 こういう時にワクワクしてしまう辺り、ルイズも少々サララに感化されているようである。 「でもさぁ、どうやってその水の精霊に涙を分けてもらうわけ?」 ウキウキしていた主従の動きが、チョコの一言で止まった。 「……考えてなかったの?」 サララの視線が明後日の方を向いている。前髪で見えないが。 「はぁ……。ま、ちょっとボクにツテがあるから聞いてみるよ」 「ツテ、ってどこにあんのよ?」 ルイズが首を傾げる。チョコは得意そうに告げた。 「ふふん。ボクだって何も昼寝ばっかりしてたわけじゃないんだよ」 自慢の尻尾を揺らし、胸を張るチョコを二人は不思議そうに眺めて顔を見合わせた。 チョコに言われるままやってきたのは学園の一角にある広場だ。 ここでは使い魔達が好き勝手にくつろいでいる。 元は野生の動物とはいえ、メイジと契約を結んだからには人を襲うことはないし、 種族間での闘争もほとんど行っていない。なんとも暢気な光景がそこには広がっている。 あちらでカラスがオウムと共に歌っているかと思えば、 こちらの足元を狼とウサギが駆け比べをしている。 かと思えば、少し離れた噴水ではスキュラがまどろんでいる、といった様子だ。 チョコはその噴水へとてとて歩み寄ると、縁に手をかけて何やらにゃごにゃご言っている。 動物同士で話す際には人間相手に使うのとは異なった言語を使用するらしい。 そのにゃごにゃごが止まったかと思うと、噴水からぴょん、と一匹のカエルが跳び上がった。 ぬめぬめとした黄色い肌に黒い点が幾つも散った、いかにも毒がありそうなカエルだ。 「きゃっ、かっ、カエルっ」 ルイズが可愛らしい悲鳴を上げてサララの後ろに隠れる。 子供の頃、一番上の姉にカエル関係でからかわれて以来のカエル嫌いは未だ治らない。 「この子はロビン。この子のご主人さまが水の精霊との交渉役の家系なんだってさ」 チョコが彼女(ロビンはメスである)に聞いた話によると、 水の精霊との交渉は指定された一族の血を継ぐ者にしか行えないらしい。 幸い、ロビンの主がその一族の末席に名を連ねているため頼んではどうか、とのことだった。 「ボクたちも知ってる人だしね」 「あ、そっか」 その言葉を聞いて何やら思い出したのか、ルイズがぱん、と手を叩く。 「確か、水の精霊との交渉役って、モンモランシ家の仕事だったわね」 「ええ、その通りよ」 タイミングを計ったかのごとく、声がかけられる。 「厳密には元、だけど」 金の巻髪を揺らしながら現れたのは、モンモランシーであった。 「それで、どうして水の精霊と交渉しなきゃいけないのよ」 「それは、アン……むぐっ」 アンリエッタの命によるものだ、と答えかけたルイズの口をサララが慌てて塞ぐ。 どうして命を受けたのか、という話になればアンリエッタの密命をバラさねばならなくなる。 いくらなんでもそれはまずいだろう。 「……まぁ、あなたにはお世話になってるし、ちょっと分けてもらえるんなら私も問題はないわ」 と言っても、とモンモランシーはため息をこぼした。 「何年か前にお父様が水の精霊の機嫌を損ねたせいで、一度お役御免になってるのよね。 だから、何か交渉材料があればいいんだけど……」 「水の精霊が欲しがってるものがあればいいってこと?」 「そうね……そんなものがあればだけど」 あ! とサララが一声上げて袋の中から一つの指輪を取り出した。 先日エンペルの手から奪ってきた『アンドバリの指輪』だ。 確か本来ならば、水の精霊の持ち物であったはずである。 「……綺麗な指輪ね。でも指輪なんかで喜ぶかしら」 強い水の力はあるみたいだけど、と不思議そうに見つめながらも、モンモランシーは納得したらしい。 「それじゃあ、行きましょうか。ラグドリアン湖へ」 モンモランシーの言葉を受け、二人は馬小屋へと進んだ。 なおその馬小屋で後輩の少女と遠乗りをしようとしていたギーシュと遭遇し、 しばらくもめることになったのだが特に詳しくは書かない。 置いて行くと浮気しそうだから、というモンモランシーの一言でギーシュも連れ、 一行がラグドリアン湖に到着したのは昼を少し回った辺りだった。 湖畔近くの木陰に座ると、一行は昼食をとった。 「いやしかしこのスキヤキという料理は実に美味いね」 一人に一個宛がわれた鍋を空にして、ギーシュは満足げに呟いた。 「この甘辛いタレがおいしいのよね、今度レシピ教えてちょうだい」 モンモランシーの問いに、サララは笑みを返すばかりだ。 これの出所が知られたら、多分彼女は商売が出来なくなる。 ルイズは、サララのこの笑みが何かをごまかす時のものだと気付いているが、 それを突っ込んでこの美味しい料理が食べられなくなるのは嫌なので黙っていた。 「そういえばモンモランシー、交渉というのはどうやるんだい?」 「一族のものの血を使い魔に水の精霊まで届けてもらって、話をさせてもらうのよ」 モンモランシーは立ちあがると、腰の袋からロビンを取り出す。 ポケットからは針を取り出し、それで指先を突いて傷を付けた。 そこからこぼれた血を一滴、ロビンの背に垂らす。 「あなたの旧いお友達に、旧き偉大な水の精霊に伝えてちょうだい。 盟約の持ち主の一人が話をしたいって言ってる、って」 任せておけ、とばかりにゲコ、とロビンは鳴いて湖に潜っていった。 「そういえば、水の精霊ってどんな姿をしているの?」 ルイズが問いかける。 「どんな、と言われても困るわね。その時々で姿を変化させるから」 「とてつもなく美しい、と前に話してくれたっけ」 「ええ。陽光にキラキラと輝いて、とても美しいのよ」 ダンジョンでよく見かけるウンディーネと似た姿だろうか、とサララは一人考えている。 意思を持つ水が魔物と化したものだが、見た目と中身は愛らしい少女のそれだ。 しかし、見た目は美しくとも魔物は魔物。 その生きた水の中に冒険者の死体を貯め込んでいる恐ろしい一面もある。 冒険者の命を呼び戻すためサララは幾度となく彼女達に立ち向かい、 その死体を取り戻すために尽力した。その回数は数えきれない。 そう、彼女達に立ち向かったのは命を救うためである。 断じて、断じて、その冒険者が持っている金品の半分を、彼らを蘇生させる教会と 山分けにするためではない。彼らを救うためだ。救うためなのだ。 などと誰へとでもなく言い訳をしているサララは、ふと気配を感じて湖面を見つめた。 湖面は光り輝き、そこに水の精霊が現れたのである。 まるでそれ自体が意思を持つかのようにうねうねとうごめく。 盛り上がった水面は見えない手でこねられるかのようにして様々に形を変える。 戻ってきたロビンを迎えいれ、頭を撫でてやった後、モンモランシーは水の精霊に向き直る。 「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 旧い盟約の一員よ。カエルにつけた血に覚えがおありなら、私達にわかる やり方と言葉で返事をちょうだい」 水面がぐねぐねと形を変えていく。サララは驚いた。 その姿が、モンモランシーのそっくりのものになって微笑んだからだ。 ただし、実際の彼女よりは一回り大きく、服も身につけていない。 透明な裸のモンモランシーだった。氷の彫像を思ってもらえばいいかもしれない。 ギーシュがくるりと後ろを向いた。ポケットからハンカチを出して鼻を拭っているようだ。 存外、彼はウブである。 「覚えている、単なるものよ。貴様に最後にあってから月が五十二回交差した」 「よかったわ。お願いがあるの。あつかましいと思うけど、あなたの体の一部を 私達に分けてもらえないかしら」 そこまで言うと、モンモランシーがちらり、とサララを見やる。 アイコンタクトを受け、サララが水の精霊の方へ近づいた。 これをお返ししますから、どうかわけてください、と指輪を差し出す。 「おぉ……、これは悪魔によって奪われた、アンドバリの指輪……」 精霊は水の一部を触手のように伸ばすと、サララの手から受け取ろうとして触れる。 触れた途端、水の精霊の姿が大きく揺れ動いた。 「おぉ! おぉ!」 「え、ちょっと、ど、どうしたのよ」 こんな水の精霊を見るのは初めてらしいモンモランシーがうろたえる。 「単なるもの。貴様は『全ての始まり』の血族。我が遠き同胞を知るもの」 水の精霊は感極まった、とでも言うようにゆらゆらと揺れる。 「貴様が交渉をし、我は物品を受け取った。ならば、支払いをせねばなるまい」 アンドバリの指輪を受け取ったのとは、別の触手がサララの掌に伸びる。 その先端がぶつり、と切れたかと思うとそこに一掬いの水が残った。 「こっ、こんなに!」 モンモランシーが慌てて瓶を差し出し、サララは一滴もこぼさぬようにその中に収めた。 「指輪を取り戻したことを、感謝しよう。全ての始まりの血族よ」 再びただの湖面へと戻っていく水の精霊。 だが、そこへ向かってルイズが叫んだ。 「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 『全ての始まりの血族』ってなんなの!?」 また小さく湖面が揺らぐ。水滴の王冠を被った透明の少女、とでも 表せるような姿で水の精霊が姿を見せた。 「この世界はね、人の想いから生まれたの。魔女さんの一族が、その想いを集めた。 世界が出来て、私達が生まれた。だから、魔女さんは『全ての始まりの血族』」 先程まで感情がなかったのが嘘のように、水の精霊は笑った。 「嬉しいなぁ。はじめて、魔女さんからお買いものしちゃった。ずっと、憧れてたんだ」 その笑みを残して、ぱしゃん、と今度こそ水の精霊は消えた。 世界の成り立ちについて、ルイズ達は、否、ハルケギニアに住む人々の大半は 詳しいことを知らない。そもそもブリミル教徒はブリミル降臨以前のことを 深く考えることを異端と考えているのだ。 であるからして、この小さな魔女の血族が世界を作るのに関わっていた、などと 言われても理解が及ぶものではない。 「と、とにかくこれだけあれば十分なんじゃないかしら」 モンモランシーの言葉に、誰ともなく頷く。 「そうね。早く帰りましょう、サララ」 ルイズが声をかける。サララは押し黙っている。 「……サララ? ねぇ、どうしたのよ、サララ!」 肩をつかんでゆすぶられて、ようやく呼ばれているのに気付いたらしい。 なんでもありません、と笑う顔は、やはり何かをごまかしている顔だ。 ルイズの胸が不安で軋んだ。 サララが何処か遠くへ行ってしまいそうで寂しい、と心中をよぎり そもそも彼女は遠くからこちらへ来ているだけで、いつか帰ってしまうのだ、と 今まで忘れていたその事実がルイズの胸をさらに軋ませた。 顔を曇らせた彼女に、サララは気付かない。未だに考え事をしていたから。 彼女が思い出していたのは、おとぎ話だった。 一人の魔女が鍋いっぱいに集めたアイテム。 それにこめられた人々の想いの力で、世界が出来たのだという魔女に伝わるおとぎ話。 今まで考えて見たこともなかったが、この世界もサララの故郷と同じように 『魔女』が作り上げた近くて遠い世界なのかもしれない。 だったら、帰るための手段はきっと見つかるはずだ。 頑張って探してみよう、サララは決意を新たにした。 こちらでの生活も楽しいけれど、自分はだんじょんの町の商人なのだ。 あんまり長く、店を空けておくわけにはいかない。 そう決意したサララは、ルイズの顔が不安げなのに気付かなかった。 所変わって、アルビオンのとある場所。 数百年は経たであろう廃墟の片隅に奇妙な紋様があった。 円陣の中に六角星が描かれたその紋様が突如として光る。 光が消えると同時に、そこに人影が現れた。人影、と言ったがその姿は人間とは程遠かった。 青白い肌、銀の髪。ハルケギニアでは月目と呼ばれる左右で色の違う瞳。 だが何よりもその人影を異形たらしめているものは、背に生えた闇色の翼だ。 「なるほど……エンペルが言っていた『ハルケギニア』とやらはここか」 空を見上げる。二つの月が照らす世界は人影には少々眩しいようだった。 「だが、これくらい明るい方がアイツを見つけやすいな」 人影は独りごちて地面を蹴る。片方しか翼がないにも関わらず、 並み大抵の鳥よりも早く人影が夜空を翔けていく。 「魔力こそ多いが、アイツの魔力は独特だ。すぐに見つかるだろう」 空を翔けながら、人影はここへ来るまでのことを考える。 魔族である自分を、他の人間と分け隔てなく接する変わった魔女。 その魔女が行方不明になってから三十回以上月が巡った。 ダンジョンの中で倒れたとは聞かないが、黙って居なくなるような魔女ではない。 あちらこちらで魔女の安否を問う声がささやかれ始め、 彼自身も物足りなさを感じていた時に、部下の一人から彼女の匂いがして問い詰めた。 問い詰められた部下の言葉で、この世界に魔女が居ることが判明した。 それを知って、何故だか居ても立ってもいられずに迎えに来たのである。 魔族の少年は名をアイオンといい、時期魔王候補であり、サララの店の常連客であった。 前ページ次ページ使い魔はじめました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9090.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その二「セーラー服騒動のゼロ」 これは、ルイズが誤って惚れ薬を飲み、才人たちがラグドリアン湖に水の精霊の涙を取りに 行く羽目になったことに至るまでの経緯である……。 ウルトラマンゼロが平賀才人という少年と一体化してから、結構な日にちが経った。ゼロは当初、 才人のことは正直今一つ頼りない、なよなよした少年だと思っていた。もっとも、それも無理からぬ ことだろう。才人は防衛チームの一員でも何でもなく、ずっと平和な社会の中で育った地球人の 普通の少年。これといって強い信念を持っている訳でもない。ハルケギニアに召喚されてから しばらくも、考えなしの行動を取って余計なトラブルを招くこともしばしばだった。 だが今は、評価を180度覆していた。最初のきっかけは、ギーシュとの決闘。その時の彼は、 ルイズの名誉のために最後まで強大な敵に屈することなく戦い続けた。ガンダールヴの力に 助けられることにはなったが、その時の彼は確かに、己自身の力で抗い続けた。よほどの勇気を 心に秘めていなければ出来ないことだ。 そして始まった、怪獣、侵略者の侵攻。次々と休む暇もなく現れる恐ろしい敵の数々にも、 才人は怖気づくことなく、ともに戦ってくれた。ゼロがどんな窮地の中にあっても、何度でも 立ち上がる力を出せたのは、才人の勇気もひと役買っている。 助けられているのは才人だけではない。ゼロも彼に、見えないところで大きく助けられていた。 才人には、深い感謝を抱いている――。 (――はぁ……) のだが、今の状況は、正直頂けなかった。才人が勇敢な、既に立派な自分の仲間であることは 十分に分かっているのだが、この場面を見せられると、その思いに疑念を挟んでしまいそうになる。 人間、いいところばかりではない。あまり贅沢を言ったらいけないのかもしれない。しかしそれでも、 どうにかならないのか。この再発した、才人の「病気」は――。 「うぉおおおおおおおおおおおおおおオオオオッ! おれッ、サイッコォオオオッ! シエスタも最高ぉおおおおオオオオッ!」 ゼロが隠れてため息を吐いているとも露知らず、才人はもだえくるって奇声を上げていた。 その目の前には、セーラー服を着たシエスタの姿。 今才人は、アウストリの広場で、露店で買い取って改造したセーラー服を、シエスタに 着せている最中だった。セーラー服を着た、ただそれだけのシエスタの姿を見て尋常でなく 狂喜する才人の心理を、ゼロは理解できずに頭を痛めていた。 そうしていると、シエスタの腕輪から、ジャンボットが声を上げた。 『サイト……。一体何をそんなに喜んでいるのだ。これはいわゆる軍服だろう? 戦争の 装束などをわざわざシエスタに着用させて、あまつさえ歓喜するなど……理解不能だ』 「バカ言うなッ!」 がばっとはねおきてジャンボットに詰め寄る才人。結果的にシエスタに詰め寄ることに なったので、シエスタはひっ、とあとじさった。 「こっちのぉおおオオッ! せせ、世界ではぁッ! 確かにそれは水兵服かもしれませンッ! でむぅぉおオッ! ぼくの世界でぇはァアッ! シエスタぐらいの年の女の子はそれ着て 学校に通うッ! 現在進行形で通っているぅううウウウウッ!」 『そ、そうなのか……』 「それはぼくの世界でセーラー服と呼ばれてますッ! 生まれてすいましぇえエエンッ!」 『いや、謝られても……』 異常なハイテンションにドンびきのジャンボットだが、シエスタの方は、自分に故郷の 装いをさせて悦ぶ才人を愛おしく感じて頬を染めた。恋は盲目とはよく言ったものだ。 「最初はサイトさんがおかしくなったと思ったけど……わかりました! どうすれば、もっと 喜んでもらえますか?」 シエスタの申し出で、才人はシエスタの姿を見つめ直して、真剣に、命がけに考えた。 どうすれば今のシエスタがもっと輝けるか! (違うことにその思考力を使えよ……) ゼロが心の中で嘆息した。 そして才人は結論を出した。 「回ってくれ」 「え?」 「くるりと、回転してくれ。そしてそのあと、『お待たせっ!』って、元気よく俺に言ってくれ」 さすがにひきながらも、言われた通りにするシエスタ。 「お、お待たせっ」 「ちがーうッ!」 「ひっ」 「最後は指立てて、ネ。元気よく。もう一回」 シエスタは頷くと、言われた通りに繰り返した。見ると、才人は泣いていた。 「きき、き、きみの勇気にありがとう」 ジャンボットは理解が追いつかずに、呆然とつぶやく。 『これが地球人の嗜好なのか……? 度し難いな……』 『誤解しないでくれ。全部の地球人がこいつみたいなんじゃないんだよ』 いや、俺も地球のことをよく知ってる訳じゃないけど……と考えるゼロだが、それだけは、 何の確証がなくてもはっきりと言えた。 「次はどうするの?」 「えっと、次は……」 それはともかく、シエスタと才人が話していると、ぎくしゃくした足取りの二人組がこちらに 歩いてきた。ギーシュとマリコルヌ。物陰から覗いていたらしい。 おほん、とギーシュがもったいぶって咳をする。 「それは、なんだね? その服はなんだねッ!」 ギーシュは何故か泣きそうな顔で怒っている。マリコルヌも、わなわなと震えながら シエスタを指差した。 「けけ、けしからん! まったくもってけしからんッ! そうだなッ! ギーシュッ!」 「ああ、こんなッ! こんなけしからん衣装は見たことがないぞッ! のののッ!」 「ののの脳髄をッ! 直撃するじゃないかッ!」 (こいつらもか……) ゼロは頭が痛くなってきた。 シエスタはギーシュとマリコルヌの様子に身の危険を感じて、仕事を言い訳に走り去っていった。 それをぼーっと見送ったギーシュたちが、才人に問いかける。 「な、なあきみ。あの衣装をどこで買ったんだ?」 「聞いてどうする?」 ギーシュは、はにかんだ笑みを浮かべて言った。 「あ、あの可憐な装いを、プレゼントしたい人物がいるんだ。いつもそばにいて、ぼくを 見つめ続けてくれていた可憐なまなざしを……。あの麗しい金髪を。芳しい、香水のような微笑を……」 才人とゼロは、モンモランシーのことを言っているのだと気づいた。 「ヨリを戻したくなったのか。お前ってほんとうに節操ねえのな」 「きみに言われたくない。さてと、では教えたまえ。どこで売ってた?」 「ふん。お前なんかに芸術がわかるかっつの」 「しかたない。今の出来事をきちんと報告したうえで、ルイズに尋ねてみよう」 「あと二着ある。好きにつかってくれ」 あっさり折れる才人だった。 予備のセーラー服を渡す口約束をしてしまった才人に、ゼロが問いかける。 『才人……お前いいのか? あんなこと言って』 「しかたねえだろ。ルイズにこのこと知られたら、あいつのことだから、何するかわかんないし」 『けど、あいつらが使ってるとこを、ルイズに見られるってことも考えられるぜ』 その可能性に初めて気づいて、うッとうめいた才人だが、思考を楽観的な方向に切り替える。 「なーに、あいつらにも理性ってもんがあるだろ。人前で堂々と楽しもうなんてしないって。きっと」 『だといいんだけどな……』 この時点で、ゼロは悪い予感を抱いていた。 だが翌朝、ギーシュがプレゼントしたセーラー服を、モンモランシーが教室に着てきてしまった。 当然ルイズの目にもつき、それが才人の買ったものだとすぐに気がついた。 「ねえ、あれってあんたが買った服でしょ? どうしてモンモランシーが着てるのよ」 才人はガタガタ震えながら答える。ゼロは今日も頭を痛めた。 「その、えへ、あ、ギーシュがくれって言うから……」 「なんでギーシュにあげたの?」 「え? だって、欲しいって言うから……」 ルイズは、才人の態度に怪しいものを感じた。 「ねえ、なにをわたしに隠してるの?」 「え? ええ? なにも隠してないよ! いやだなあ……」 そんな言い訳では、ルイズの疑念は晴れない。放課後になってもう一度問い詰められそうに なったので、才人は逃げることにした。 「ハトの小次郎に餌やらなくちゃ」 ありえない理由を言い残して、教室から走り去っていく。残されたルイズが、ひと言ツッコミを入れる。 「いつハトなんか飼ったのよ」 『だから言ったのに。とんでもないことになるぞ。やめてくれよ、俺まで巻き込むの』 「うるさいな! とにかく証拠隠滅だ! まだ間に合うッ!」 才人は厨房へと駆けつけると、マルトーらの歓迎をすり抜け、すぐに洗い物中のシエスタに囁きかけた。 「シエスタ、あの例の服を、仕事が終わったら、持ってきてくれないか?」 「え?」 「そうだな……、人目につかないところがいいな……。ヴェストリの広場に、塔に上がる 階段の踊り場があるだろ? あそこに持ってきてくれ」 「は、はい……」 用件だけ伝えると、才人はすぐに立ち去った。その後で、シエスタがうっとりと顔を赤らめた。 「どうしよう。ああ、わたし、奪われちゃうんだわ……」 『サイトがシエスタを奪う? 何を言ってるんだ。サイトは服を返してもらいたいんだろう』 ジャンボットが不思議そうに指摘したが、シエスタはひそひそと否定する。 「違いますよ! 男の人が、人目につかないところに、特別な格好を指定して呼び出すということは、 女の人を頂いちゃうということ以外にありません! 遂に、遂にこの時が来たんだわ……」 『意味がよく分からないが……シエスタ? もう聞いていないか……』 ロボットのジャンボットは、シエスタの言う「奪う」「頂く」の意味もよく理解できなかった。 そしてシエスタが陶酔してしまったので、それ以上呼びかけるのはやめた。 ここで、強引にでも彼女とよく話していれば、この後の惨劇は起こらなかったかもしれないのに……。 待ち合わせの場所にシエスタがやってきた時には、すっかり日が落ちていた。風呂で体を清め、 身支度を整えていたので、時間がかかってしまったのだ。 階段の踊り場には、才人の姿はない。樽が二つばかり置いてあるだけ。シエスタは心配そうに きょろきょろと見回した。 「サイトさん……」 心細げに呟くと、がたん! と音がして、樽の蓋が開き、中から才人が顔を出した。 「シエスタ」 「わ! サイトさん! なぜそんなとこに!」 「いや、いろいろと事情があって……、って、え?」 才人はシエスタの格好を見て、目を丸くした。セーラー服を着用している。 「き、着てきちゃったの?」 「え、ええ……。だって、こっちの格好の方がサイトさん喜ぶと思ったから」 才人は持ってきて、じゃなくて返してくれ、と表現するべきだったと後悔した。ここで 脱げというわけにもいかない。あたふたしていると、シエスタがくるりと回転して、 例のポーズを取った。 「えっと、その……、お、お待たせっ」 がたん! と背後で樽が揺れる音がした。シエスタがきゃっ! と叫んで才人に抱きついた。 樽からは、にゃあにゃあ、と鳴き声がする。 「なんだ、ネコか……」 『お、おい才人……』 才人は安堵するが、ゼロは震えた声を出した。しかし今の才人は、それに取り合っていられなかった。 シエスタの胸が押し付けられている。その感触から、才人の顔が青くなった。 「シ、シエスタって、その……」 「なんでしょう?」 「ブラジャー、つけてないの?」 シエスタはきょとんとした顔になった。 「ブラジャーってなんですか? メイド服のときはシャツの下にドロワーズとコルセットなら つけてますけど……今はなにもつけてません。短いスカートにドロワーズをはくとはみ出ちゃうので……」 ブラジャーが存在しないことと、今のシエスタが下着を着用していないことを知り、才人は 茹でダコのようになった。 『才人ッ!』 ゼロが強く呼びかけるが、その声も耳に届かなくなっていた。 「サイトさんは意地悪だわ……。わたし、貴族のかたみたいにレースの小さな下着なんて 持ってませんもの……。それなのに、こんな、こんな短いスカートをはかせて……」 『おい才人!』 ゼロの声はやはり、シエスタの恥ずかしそうな声にかき消される。 「あ、あの……こ、ここで、ですかっ?」 「え?」 「もう、ちょっと、その、人が来なさそうで、綺麗な場所がいいなあ。あ、でも! これ願望でして! サイトさんがここがいいって言うんなら、ここでも平気よ。ああ、わたし、怖いです。だって初めて なんだもの。母さま許して。わたしここでとうとう奪われちゃうのね」 シエスタは激しく勘違いしているようだ。才人はどうにか本当のところを説明しようと、 考えをめぐらせた。 しかしもう遅かったのだ……。背後で、もう一個の樽の蓋が垂直に跳ね上がった。 「な、なんだぁ!」 振り返った才人が見たのは、樽の中から立ち上がる、ルイズの姿……。その形相……。 『樽の中に、ルイズが隠れてるぞ……』 ようやく、ゼロの声が届いた。 「何でもっと早く言ってくれなかったんだよ!」 『聞かなかったじゃねぇか……』 ルイズの顔は怒りで青ざめている。目はつりあがり、全身が地震のようにわなないている。 思いっきり震えた声で、ルイズは呟いた。 「随分と素敵なハトを飼ってるのね。へぇ。可憐な装いをプレゼントね。まあいいわ。わたしは優しいから、 そのぐらいのことなら許してあげる。ご主人様をないがしろにして、ハトにプレゼントを贈ろうが、 別にかまわないわ」 「ルイズ、あのね?」 「しかし、そのハトはこう言ったわ。『こんな短いスカートをはかせて』。下着もつけさせずに、 『こんな短いスカートをはかせて』。最高。今世紀最高の冗談ね」 「ルイズ! 聞いて! お願い!」 「安心して。痛くしないから。わたしの『虚無』で、塵一つ残さないようにしてあげる」 ルイズは『始祖の祈祷書』をかまえると、呪文を詠唱し始めた。本気だ。才人は命の危険を感じて、 思わずデルフリンガーを抜いた。シエスタは怖くなって物陰に体を隠した。 「なによあんた。ご主人さまにさからおうと言うの? 面白いじゃないの」 そう呟くルイズが怖い。ワルドより、怪獣より、どんな侵略者よりも、ルイズ怖い。 「相棒、やめとけ」 デルフがつまらなそうに呟いたが、才人は蛮勇を発揮して剣を掲げた。 「きょきょきょ虚無がなんぼのもんじゃあッ! かかってこいやぁッ!」 途中詠唱のままルイズが杖を振り下ろす。ボンッ! と音がして、才人が踊り場から吹き飛び、 下の地面へと叩きつけられる。 才人は立ち上がるなり逃げ出した。踊り場から顔を出したルイズが追いかけ出す。 「待ちなさいよッ!」 才人とルイズがいなくなると、ジャンボットがぼそりと発した。 『有機生命体……。私の頭脳の理解を超えるな……。全く恐ろしい』 ビートスターもかつてはこんな気分だったのだろうか……。いや違うだろうな、絶対……、 なんて思うジャンボットだった。 『才人、これでお別れだな……。まさかこんな別れ方になるなんて、俺も予想もしてなかったぜ』 「不吉なこと言うなぁー!」 ルイズから必死に逃げる才人は、寮塔内をしっちゃかめっちゃかに走り回っていた。恐ろしいことに、 どんなに速く走ってもルイズの気配を振り切ることは出来ない。 このままでは追いつかれる、そんな気がしてならない。そう思ったので、誰の部屋かも確認しないで、 一番近くの扉を開け放って中に飛び込んだ。 中にいたギーシュとモンモランシーが、ワインで乾杯しようとした手を止めて目を丸くした。 ここはモンモランシーの部屋だった。 「なんだ! きみはぁ!」 「かくまってくれ!」 才人はギーシュたちに構わず、モンモランシーのベッドに飛び込んで身を隠した。 『無駄だぜ才人。こんなことしたってルイズは見つけるに決まってる……』 「あ、諦めるかぁー! 俺は一縷の望みに賭けるぞー!」 一縷の望みは儚かった。すぐにルイズが飛び込んできて、才人を見つけてしまった。 「サイト、出てきなさい」 「才人はいません」 せめてもの、無駄な抵抗だった。ルイズはテーブルの上のワインのグラスを取り上げ、 一気に飲み干した。モンモランシーがあっ! と声を上げたが、もう遅かった。 「ぷはー! 走ったら喉がかわいちゃった。それもこれもあんたのせいね。いいわ、こっちから 迎えにいってあげる」 ベッドの上の布団を、ルイズはひっぺがした。ガタガタと震えている才人がそこにいた。 「覚悟しなさい……、んあ?」 しかし、おかしい。才人を目の前にして、怒り狂っているはずのルイズが、いつまで経っても 何もしてこない。才人がいぶかしんで立ち上がると、何とルイズはいきなり泣き出した。 モンモランシーは態度を急変させたルイズを目の当たりにして、頭を抱えた。 「おい、ルイズ……」 声を掛けると、ルイズは才人を見上げ、その胸に取りすがった。 「ばか!」 「え?」 「ばかばか! どうしてわたしを見てくれないのよ! ひどいじゃない! うえ~~~~ん!」 ぽかぽかと才人の胸を叩くと、顔をうずめて大泣きした。 「な、何が起きてるんだ?」 『さぁ……』 ルイズの激しい怒りはどこへ吹っ飛んでしまったのだ。才人は命の無事を喜ぶより、ルイズの 心変わりに戸惑った。それはゼロも同じで、ただただ首を傾げるばかりだった。 こうして才人は、ラグドリアン湖へ赴く原因を作り出し、テペト星人の暗躍やギロン人の 罠に巻き込まれることになったのだった……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3578.html
前ページWizardry Scenario 4.0 ○月○日 アミュレットを返してエセルナートに戻ってきたが、相変わらず私を狙う者は絶えない。まぁ100年前までの自分の所業を省みれば至極当然ではあるが。 刺客連中を死なない程度に叩きのめして追い払っているが、それにしてもいい加減飽きてきた。同じ連中が懲りずに二度三度と挑戦してくる事もザラにあるのだから困ったものである。 今の私にとって、エセルナートはもはや解き方が充分過ぎるくらい分かってしまったパズルのようなものだ。ここですることがなくなりつつある今、私は何処に向かうべきか? ○月○日 信じられない事が起きた。 すべては私の前に突然銀色の鏡のようなものが出現したことから始まった。鏡の中には桃色の髪の少女がいて、杖を片手に何やら言っていた。デュマスを使ってみると、どうも私を使い魔として召喚に応じさせたいらしい。 昔の私であれば一笑に付していたのだろうが、術式が私の知らない者だった事もあり興味が湧いたので鏡の招じ入れるがままに足を踏み入れたところ……私はエセルナートとは違う世界にいた。 私を召喚したのはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。この異世界の中の国・トリステインにある公爵家の三女であり、トリステイン魔法学院の生徒らしい。学校行事の一端で使い魔を召喚し、契約を結ぶそうだ。 そばにいた教員らしき男の話によると、普通はドラゴンやサラマンダーのような魔法生物が召喚されるもので、私のような人間が引っかかるのは非常に稀のようだ。ルイズ嬢は粗相をしでかしてしまったかのように動揺を隠しておらず、教員達や学院長も当惑していた。 周囲の人々は皆エセルナートのどの言語とも違う未知の言語で話しているが、何故か今の私にはデュマスなしでもそれが理解できる。恐らくあの銀色の鏡を抜けた際に言語知識を授けられたのだろう。 但しその言語知識には文字や数字は含まれていないようで、本を見せてもらっても謎の記号が書き連ねられた謎の文書にしか見えない。使い魔は文盲でも務まるからいいのかもしれないが、これを何とかしないと人生の楽しみが半減だ。 ともあれ彼女との使い魔契約は延期され、当面は学院の客間での寝泊りということになる。今も会議室では学院長や教員達が私の処遇を論議中だ。 空を見上げると、月が二つある事に驚いた。改めて自分が異世界に来た事を実感する。 ○月○日 教職員会議に呼ばれ、突っ込んだ質問を受けた。エセルナートの事、私が使える魔法の事、今後の希望の事など。 エセルナートの事については訝しく思っていたようだが、彼等の目の前でハリトやマラーを使ってみせると納得した。彼等の知る魔法とは全く異なる大系であり、それを使う私もまた彼等の知らない世界の存在であると認めたようだ。 このハルケギニアという世界では魔法使い(メイジ)が貴族階級を占めており、旧帝国のように魔法を重視した社会のようだ。 異世界からの人間、それも私レベルともなると存在そのものが高貴とされるようだ。戦士や盗賊さえも実力と運さえあれば一国一城の主になれるエセルナートとは随分違う。 こちらからは逆に使い魔の契約について質問してみたが、予想通りとはいえ主側が強い立場らしい。私が「随分一方的な契約なんだね」と皮肉を含ませて言ってみたら、オスマン学院長は汗を拭きながら申し訳ない済みませんとお辞儀を繰り返していた。 コントラクト・サーヴァントの実例をいくつか見せてもらったが、あのぐらいであれば私にも解除はできる。 2年間彼女の面倒を見てやり、卒業した際彼女が嫌であれば解除して彼女の元を去ればいい。たったそれだけの事なのだが、前例がないばかりに彼等はまだ会議を続けている。 御苦労な事だ。 ○月○日 私自身が望んで召喚に応じたということで契約の魔法まで完了。 彼女が呪文を詠唱すると地面に魔法円が描かれ、その真ん中で接吻をすることで術式は完成。齢300以上の爺をファーストキスの相手にしてしまった(所作から推測)彼女だが、むしろ光栄だと嬉しそうにしていたのが幸いだ。 その際私の左手に刻印された未知のルーン(この世界でも珍しいものらしい)が気になったので自分でも調べてみたが、どうやらこれは主であるルイズ嬢と私を繋ぐ「鎖」のようなものらしい。或る程度の行動を制限する力はあるが、逆に恩恵を与える事もできるようだ。 異世界という概念はこのハルケギニアという世界では説明しづらい上政治的にいろいろ面倒な事になる為、私は遙か東方にあるらしいロバ・エル・カリイエという所から召喚に応じたメイジということになった。 彼の地については召喚された際一部記憶が抜けてしまったということでごまかすことにする。 この双月の異世界ハルケギニアで私を待ち受けている運命は何か?新しいパズルを前に、私の心は久しぶりに躍っている。 ○月○日 使い魔としての生活が始まった。 人間、それもメイジということもあり、主・ルイズと同じ食堂で朝食。 異世界の料理はどんなものか、正直なところ期待半分・不安半分であったが、幸か不幸かリルガミンのそれとあまり変わりなかった。 ここで崇拝されているのは始祖ブリミルという神。強力な魔法を使うだけでなく、ハルケギニアに存在する4王国(ここトリステインの他にアルビオン、ロマリア、ガリア)は彼の3人の息子と1人の弟子が初代国王だったらしい。 ルイズに頻繁に話しかけてきた色黒の少女はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー(長いフルネームだ)。 何でもゲルマニアから留学してきているが、ツェルプストー家はヴァリエール家と伝統的に仲が悪いようで、私がキュルケ嬢と話していると機嫌がよろしくない。もっとも私の見た感じではルイズがキュルケ嬢に遊ばれているような感じだ。 彼女の二つ名は「微熱」、その名の通り火属性の魔法を使いこなす。 そのキュルケ嬢と一緒にいることが多いのがタバサという寡黙な少女(こちらはフルネームを教えてくれなかった)。眼鏡をかけた小柄な娘だが、十代でシュヴァリエの爵位を得ているエリートらしい。 グラマラスで色黒、社交的なキュルケ嬢と、細身で色白、無口なタバサ嬢の関係はまさに対照的だが、その二人がつるんでいる事が多いというのも妙な話だ。 ただタバサ嬢のの眼鏡の奥にある瞳の奥に、何か暗い炎が見え隠れしているような気がする。彼女の二つ名は「雪風」だが、その仮面の下には何があるのだろうか? この世界の魔法使いには皆二つ名があるようで、それが自身の得意分野をアピールする看板のようなものらしい。 で、我が主ルイズは「ゼロ」。どんな魔法でも何故か爆発になってしまう、成功率ゼロだからだそうだ。今日の授業でもそれが発動してしまったが、その時気付いたことがある。 あの爆発のプロセスは、私が持つ最強の攻撃魔法ティルトウェイトに良く似ていた。 物質を結びつけて物体としている力を束ねて爆発的な力を生むのだが、あまりに強大すぎる為爆発自体は異空間の中で行わせ、物質界へは熱と衝撃のみをもたらすようにするあの魔法である。 無論最高位クラスでなければ使いこなせず、実践経験が浅いであろう魔法学院の生徒には明らかに不似合いだ。 そしてもう一つ、全ての魔法があのような爆発になるということ。ライト(ロミルワ相当)でもサイレンス(モンティノ相当?)でも、 何はともあれ、文字が読めなくては考察と推測しかできない。今日からルイズに教えを請う事になったが、早いところ体得しなければ。 学校が終わった後、学院寮付近にある手頃な空き地を貰ったのでそこを使って地下室を作る。 いつものようにティツロウェイトを使ったのだが、見学に来ていた教員や生徒達は皆驚いていた。 ○月○日 大人げのない事をしてしまった。 いつも薔薇の造花を持ち歩いている色男のギーシュという少年が二股をかけていたのだが、それがちょっとした事で本命の少女に分かってしまったらしい。 で、そのきっかけを作ってしまった平民であるメイドの少女に八つ当たりを始めたので、義憤を抑えきれずに喧嘩を売ってしまった。 「グラモン元帥の御曹司は平民の少女に当り散らすのが関の山かね」「魔法なしでこの老骨が相手をするのがそんなに怖いのかな」等々。 今思うと汗顔の至りだが、若人達に囲まれていて心も若い頃に返ってしまったのだと自分自身に言い訳。 少年は「青銅」(土属性らしい)のドットメイジということで、大地から戦乙女の姿のゴーレムを造り上げてぶつけてきたので少なからず驚いた。 エセルナートでも四大の概念はあったものの、攻撃的な魔法の使い方としては非常に稀。私もかつてアースジャイアントやアイアンゴーレムを使役していた事があったが、あれはどちらも戦場ですぐに造り出すものではない。確かに、単なるお坊ちゃんではなかった。 だが残念な事に、彼には経験が不足していた。私が感心してゴーレム達を眺めていたのを、恐怖の余り棒立ちになっていると誤解したらしい。 予想通り、ワルキューレ達は甲冑で身を固めた人間同様関節部の装甲が脆弱だった。その攻撃をかいくぐって短剣を斬りつけるだけで、ワルキューレ達は破壊された。最後は残っている6体全部をぶつけてきたが、それも同じ運命を辿った。 万策尽きた彼は負けを認めたので、件のメイドに詫びを入れさせてケリはついた。が、私の心中にはまたケリのついていない問題がある。 戦いが始まった時、クリスナイフを抜こうとした際左手に僅かながら熱を感じたので見てみたところ、コントラクト・サーヴァントの際に刻印されたルーンが発光していた。 そしてそれから全ての動きが非常にはっきりと見え、相手の攻撃の軌道がまるで空間の中に線を描いているように予測することができた。 脚も馬のように駆けることができ、まるで羽が生えたように軽々と跳べる。手にした短剣も刃を触れただけで金属を薄紙のように両断した。 これもコントラクト・サーヴァントの効果なのかとルイズに聞いてみたが、彼女も分からないようだ(表情から察しても隠している様子はない)。読み書きができるようになれば自分で調べられるのに、非常にもどかしい。 ○月○日 ルイズに頼んでいくつか「実験」をさせてもらった。 まずはルーンの効果。彼女を標的にハリトをかけてみたが、全て跳ね返された。やはり使い魔は主を攻撃できないようになっているらしい。 ディオスは問題なくかかったから、攻撃的か否かを行為で判定して制限をかけているのか、殺意や害意の有無が判断基準なのか、それとも両方なのか? そして彼女の魔法が全て爆発するという事実の確認。爆発は全く制御できない訳ではなく、爆心地の指定ぐらいはできるようだ。おまけに呪文の無効化も受け付けないから、汎用性はないが用途を限れば効果は充分だろう。 やはり才能がない訳ではない。むしろずば抜けた才能を持っていながらそれを発現する方法が誤っているだけのようだ。 四大全ての魔法が爆発になってしまうことを考えると恐らく鍵を握っているのは第五の元素・虚無だろう。だが虚無はこの世界では禁忌の存在のようで参考文献が乏しいらしく、王室の最高機密文書にも記述があるかどうか怪しいというレベルらしい。 ○月○日 授業がない日ということで、ルイズに町への案内を頼んだ。。 着いた町は城下町ということだが、さすがにリルガミン程ではない。もっとも建物の造りや町並びの構造などは似通っている。手足が2本ずつの知的生命体がやることは、どの世界でも大差ないようだ。 まず買ってもらったのはマント。ルイズによればマントはハルケギニア全土でメイジの印であるそうで、「ワードナほどの高位メイジがマントなしなんて格好がつかないし、主の私も笑われちゃうでしょ」とのこと。 古書店では「始祖の祈祷書」「イーヴァルディの勇者」「炎の予言」を入手。どれも胡散臭い偽書じゃないかとは言われたが、全くの根も葉もない嘘というものは逆に書きにくい。千の嘘の中に一の真実がすくい出せるかもしれない。 帰り道に寄った武器店を冷やかしで覗く。店主は口八丁手八丁でなまくらを高値で売りつけようとしたが、どれもこれも問題外と一つ一つ問題を連ねてやったらおとなしくなった。 殆どが使い物にならないものばかりだったが、一つだけ興味深い掘り出し物があった。インテリジェンスソードだ。 店主と口論していた剣は自らをデルフリンガーと名乗った。錆は浮いているものの、十分使用には耐えられる状態。 店主はこの剣を厄介者扱いしていたようで、提示した価格もかなり安値だったのが幸いした。 用が済んだので学院に戻ろうとしたところ、キュルケ嬢とタバサ嬢に遭遇。キュルケ嬢はたまたま会ったと主張していたが、学院から我々をつけてきていたらしい(タバサ嬢は足の速い使い魔を持っているので足代わりにされた模様)。 キュルケ嬢からどうしても受け取ってくれと言われたので剣を貰ったのだが、ルイズから凄い目で睨まれた。女同士の争いは恐ろしいものだ。 ○月○日 未明 昨日、学院宝物庫に賊が入ったと聞かされた。犯人は「土くれ」のフーケといい、領収証を置いていったらしい。洒落が利いていると軽口を叩いたら、ルイズに八つ当たりの爆発魔法を喰らった。 何でも貴族ばかりを標的にしている愉快犯じみた盗賊だそうで、貴族の三女である彼女にとっては腹立たしいだけのようだ。口は災いの門である。 盗まれたのは「破壊の杖」。使い方が分からない為封印されていた代物のようで、悪用されたらどんな事になるか分からないらしい。 が、フーケの潜伏先が掴めたにもかかわらず教職員連中は軍隊を派遣してもらおうだの何だのと言いぬけて、自分が行こうという者は皆無だ。 そんな役立たず連中を尻目に立ち上がったのが我が主ルイズ、それとキュルケ・タバサ(彼女達にはとことん縁がある)。無論私も同行する。 道案内はフーケの居場所をつきとめたオスマン学院長の秘書・ロングビル嬢が務める。フーケの逃走を許さない為にも、この夜のうちに襲撃をかけることとなった。 ○月○日 昼過ぎ 事件は意外な形で解決した。ロングビル嬢はフーケだったのだ。 行きの馬車で妙に引っかかるところがあったのでいくつか罠のある質問をしてみたところ、引っかかってくれたので警戒できたが、学院宝物庫の罠に引っかからなかったのも納得がいった。学院長自らが情報漏洩をやっていたわけだ。 とはいえ乙女達も頑張ってくれた。ルイズは魔法失敗の爆発を攻撃に使う術をうまく攻撃に活かしてくれたし、キュルケは炎の魔法、タバサは風の魔法でフーケのゴーレムを攻撃、破壊に成功した。 ゴーレム破壊に成功して浮かれていた一瞬の隙を突いてロングビル=フーケは我々の後ろを取って杖を捨てさせたのだが、私の魔法が杖なしでも使えるということを彼女は知らなかったようだ。 マニフォを喰らって動けなくなってもらったところを捕縛して御用。学院に戻って衛士隊に引き渡して決着。 ルイズの話では貴族の財産を大量に荒らしまわっていたので死罪は免れないとのこと。正直なところ、あれほどの才能を消してしまうのはあまりに勿体ないが、彼女自身の行いの結果である以上仕方がない。 ルイズとキュルケ嬢はシュヴァリエの称号の授与、元からシュヴァリエだったタバサには精霊勲章の叙勲が決定。 但しルイズ自身は第一功労者である私に何の沙汰もないのはどういう事かと怒っていたのに驚かされた。人間といえども使い魔は使い魔、主の所有物同然でありその所有物に叙勲などありえないというのがこの世界の常識だが、彼女はその常識に異議申し立てを行ったのだ。 結局私自身が肩書きなど望んでいない事、主の出世は自身の地位(と収入)の向上にもつながるから受け取ってくれと説得して不承不承ながらも納得した様子。 ○月○日 今日はフリッグの舞踏会というお祭りの日らしく、学院全体が浮かれた雰囲気に包まれている。 ルイズは後から行くという事で先に会場にいたのだが、周囲から話しかけられることが多くなった。どうやらフーケの件で有名になったらしい。 久しぶりにギーシュとも話し込むこととなった。どうやら以前の敗北で自信が揺らいできているらしいようだったので、自分の欠点が分かったと前向きに考えていけと回答したところ、迷いが晴れたようだった。 そうこうしているうちにルイズが到着。一張羅と思しき最高級のドレスに身を包み、見違えるようなその姿に少なからず驚く。 彼女の踊りに誘われたので応じたのだが、まだまだ不慣れの為合わせるのがやっとだった。必死になっている私の顔を見てしてやったりと言いたげに微笑を浮かべていたが、不思議と嫌な気分はしなかった。 前ページWizardry Scenario 4.0
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2023.html
キュルケの提案で、私達は宝探しに向かうことになった。 シルフィードの背中で楽しそうに地図の説明をしているキュルケを見て、 子供じゃ無いんだからと言ってはみるものの――それなりに期待があることは否めない。 ずっと沈んでいた気持ちが、少しだけ良くなってくる。 キュルケには少しくらい、感謝して良いかな――なんて、思った。 宵闇の使い魔 第拾捌話:宝を求めて 「ほいよ――――仕舞いだ」 「ぴぎ――――」 最後の一体となったオーク鬼が、短い悲鳴を上げて動かなくなった。 左胸からデルフの切っ先が生えている。 虎蔵によって背後から一撃で心臓を貫かれていた。 此処はとある森の中にある、廃墟になった寺院。 古くは開拓民の村のものとして建造されたのだが、オーク鬼の襲撃によって放棄されたという。 その後も領主による討伐は行われず、かなりの数のオーク鬼の住処になっていた。 だが、虎蔵と三人のトライアングルメイジの連携に勝てるはずも無く、 オーク鬼たちは五分と持たずに全滅していた。 「いや、やっぱ斬るのは良いねぇ。楽しいったらありゃしねぇぜ! なぁ、相棒!」 久々に使ってもらえたデルフはやたらと上機嫌だが、虎蔵は軽く肩を竦めて峰で肩を叩く。 虎蔵は基本的に"刀を消耗する戦い方"をするのだが、この世界では刀の調達が困難――今の所は、完全に不可能である。 しかし、ギーシュのゴーレムやワルドを斬り捨てていった結果、 決して少なくはない数の刀を使い物にならなくしてしまっていた。 そこで今回はデルフの出番となったわけである。 「つーかよぉ、こう見えても俺ぁ伝説の剣なんだよ。もっと使ってくれても良くねえ?」 「わかった、わかった――――おう、お疲れさん」 「あ、こら。まだ話はッ――――」 虎蔵はデルフを鞘に収めながら、ルイズ達へと合図をおくった。 ルイズたちがオーク鬼の死体を避けながらやってくる。 彼女らの元へと向かおうとしたオーク鬼もいたのだが、 それらは全てはマルチダの《アース・ハンド》で拘束されてしまったため、全くと言って良いほど被害は無い。 それどころか汗一つかいていない。 「なんていうか、緊張感が無いわねー」 「まぁ、トラゾウがいるんだもの。当然でしょ」 杖を胸の谷間に収めるキュルケに対して、ルイズは自分の事のように胸を張って誇る。 辺りに転がるオーク鬼の死体に嫌悪感を抱いているようだが、怯えて立ち竦むほどではないようだ。 キュルケやタバサは討伐経験でもあるのだろう。 足元の血溜を避ける程度で涼しげな様子だ。 マチルダは言うまでも無い。 「随分と気を使ったじゃないか。アタシはもっと、バッサバッサ切り捨てるかと思ったよ」 「あぁ、ま――そっちのが面倒になりかねんからな」 マチルダがお疲れ、と言って僅かに浴びた返り血を拭くためのハンカチを手渡す。 意外なほどに気が利く彼女に感心しつつ、虎蔵はそれを受け取った。 ルイズたち三人娘は宝を求めて寺院へと入っていっており、デルフは既に何処かへと消えている。 久々の娑婆だというのあっという間にしまわれてしまったらしい。 マチルダは僅かに憐憫の情を抱きつつ、10メイルほどの土ゴーレムを作り出した。 「ま、とりあえずかたしておこうか」 「任した」 マチルダが作り出した穴に、オーク鬼の死体を投げ込むゴーレム。 今日は此処で野宿になるだろうから、必要な作業だ。 流石に、死体の近くで一夜を明かすのは虎蔵にしてもご免被りたい。 ルイズたちであればなおさらだろう。 マチルダによる"片付け"が終わって暫くすると、三人が寺院から出てきた。 ルイズが手に何かを持っている――――が、表情からしてまたハズレのようだ。 虎蔵とマチルダの視線に気づくと、ルイズは手に持っている物を放り投げてきた。 虎蔵がそれを取り、眺める。 「また大ハズレよ――安物のネックレス。なにが《ブリーシンガメル》だか」 「ま、物があっただけ良かったんじゃないの?」 祭壇の下に隠されていたチェストから出てきたのは、取るに足らないガラクタと数枚の汚い銅貨であった。 その中で辛うじて見れるものが、投げ渡された真鍮のネックレスだという。 虎蔵が「見るか」とマチルダに差し出せば、彼女は「冗談じゃない」と肩を竦めた。 「まったく、徒労も良いところね」 「なによ。戦ったのは殆どダーリンだし、此処に来るのだってシルフィードに乗ってきたんじゃない」 ぶつぶつと文句を言うルイズに、キュルケが呆れながらもっともな事を言う。 だが、心理的な徒労感があるのは否めない。 タバサなどは虎蔵のように岩に腰掛けて、本を読み始めてしまった。 キュルケはそれをみて肩を竦めると、手を叩いて注目を集めてから口を開いた。 「まぁ、兎に角――野営の準備をしなくちゃね。向こうに丁度良い中庭があったわ」 そして夜。 寺院の中庭で焚き火を取り囲む一行は、なんとか詔を完成させていた。 少なくとも、それなりの様にはなっただろうと、ルイズは満足気に《始祖の祈祷書》を抱きしめる。 そして、協力してくれたキュルケ、タバサ、マチルダを順に眺めては、僅かに頬を染めて口を開く。 「あー、の、その――――ありがとう。なんとか仕上げることが出来たわ」 「あら、珍しい。ミス・ヴァリエールが自分から礼を言うなんて」 ルイズの様子に芝居がかった調子でからかうキュルケだが、その表情は実に嬉しそうだ。 焚き火の明かりで本を読んでいるタバサも、本から視線を上げて、僅かにだが笑みを浮かべている。 彼女らの間の友情は、《破壊の杖》の事件やアルビオンでの経験を通して少しずつ強くなっているようだった。 「ま、完成して何よりだよ―――そこの二人が完全に役立たずだったけどねぇ」 葉巻を吹かす虎蔵と、その隣の地面に突き刺さったデルフを見て、マチルダがニヤニヤと笑う。 頭数があるに越したことはないという理由でデルフも参加させられていたのだが、当然ながら無力だった。 虎蔵も同様である。 「そりゃおめぇ、俺ぁ剣だぞ。剣に何を期待してやがる」 「――餅は餅屋と言ってな」 カチャカチャと自身を鳴らしながら抗議するデルフと、それに追従する虎蔵。 だが、虎蔵の言い回しは誰も理解できなかったようで首を捻るばかりだ。 虎蔵はふぅっと煙を吐き出して、いつものように肩を竦める。 「適材適所ってことだ」 「――――トラゾウって、たまに妙な言い回しをするわよね」 「しゃぁねぇだろ。此処の生まれじゃないんだから」 そう言えば、と頷くルイズ。 虎蔵自身がまったくと言って良いほど元の世界のことを口に出さないためか、意外と忘れそうになるのだ。 キュルケやタバサ、マチルダすらも似たような反応である。 「それは四大系統に対する感謝って言われても難しいわよねぇ」 「――――けど、アンタの世界にも魔法はあるんだろう。属性とかは無いのかい?」 キュルケは詔の話に乗ってこなかった虎蔵に納得する。 彼の性格からして、わざわざ知らない話に首を突っ込むようなことは――よっぽど暇でもなければ、ありえないだろう。 しかし、マチルダは彼自身が手品と証した雷の魔法や、元の世界に召喚されるという話を思い出して首を傾げた。 「専門家じゃねえから断言は出来んが――――聞いたことはねえな。四だの五だのってのは、別の話だ」 「――――あるの?」 「ん?あぁ――――考え方が根本から違ぇんだがな」 否定の後にぽろっと漏れた一言に、タバサが食いついた。 読んでいた本から視線を上げている。 よほど気になったようだ。 「あらゆる物質は、火、水、土、空気――もしくは風の四元素からなるっつー四大元素説。 地、水、火、風、空の五つの要素によって世界が構成されてるっつー五大思想――五輪とも言うな。 木、火、土、金、水の五種類の元素によって万物が構成され、そいつらが互いに影響を与え合っているっつー五行思想。 他にもまぁ色々あるが――共通して言えるのは、技やら術やらじゃなく、世界の在り方、捉え方ってことだな」 説明に聞き入っていたルイズ達だが、"世界の在り方、捉え方"という言葉に首を捻る。 虎蔵はぼりぼりと頭をかくと、焚き火用にと集めてきていた物の中から細い枝を手にした。 枝を教鞭のごとく揺らしながら、五行思想を例にするとだなと説明を始める。 「木の花や葉が幹の上を覆っている立木が元となっていて、樹木の成長・発育する様子を表す木行。 光り煇く炎が元となっていて、火のような灼熱の性質を表す火行。 植物の芽が地中から発芽する様子が元となっていて、万物を育成・保護する性質を表す土行。 土中に光り煇く鉱物・金属が元となっていて、金属のように冷徹・堅固・確実な性質を表す金行。 泉から涌き出て流れる水が元となっていて、これを命の泉と考え、胎内と霊性を兼ね備える性質を表す水行。 木行、火行、土行、金行、水行――――これらをもって五行とする」 手にした枝で、五角形の頂点になるように五つの丸を書く虎蔵。 それら五つの丸を矢印で繋ぎ、五角形を作った。。 「こいつらが木、火、土、金、水をあらわしてると考えれ。 こん時、木と木の摩擦によって火が生じる。物の燃焼にって生じる灰、即ち土。 地中を掘れば鉱物――金が存在し、金属の表面には水滴が生ずる。そして水が植物――即ち木を育てる。 これが五行相生。順送りに相手を生み出して行く関係で――」 次に、五角形の中で丸を頂点にした五芒星を書いた。 先程と同じように一辺一辺が矢印になっている。 「木は土の養分を吸収し、土は水を濁す。水が火を消して、火は金属を溶かす。金属製の道具によって木が切り倒される。 相手を打ち滅ぼして行く関係を、五行相剋という。 ま、実際は更に幾つかの法則があるんだが――そいつらの法則、関係性によって世界が成り立っているって考え方な訳だ」 「アタシらの概念からすると、木・土・金ってのが被って感じるねぇ」 「かもな。まぁ、お前らの属性ってのは現象そのものを示してるような感じだが―― こいつは、さっきも言ったように世界の在り方を説明してるに過ぎん」 パキッと乾いた音を立てて枝を折ると、それを焚き火に放り込んだ。 再び葉巻を咥えながら、何か質問は――とでも言った様子でルイズたちを見る。 「あー、じゃあ、その五行って奴で魔法――のような物は使えないってことかい?」 「わからん。俺は知らんが――――無いと断言はできんよ。 場の気の巡りをよろしくやって、道術やらなんやらの威力を高めるってのなら俺もやるしな」 「それが例の《ライトニング・クラウド》もどきってことかい」 マチルダの問いに、んだ、と頷く虎蔵。 すると、今度はタバサが手を上げてきた。 まるで学院の講義のように。 「―――――場の気の巡りって、何」 「あー、それはだな――――」 タバサはその未知の体系に知識欲をそそられたのか、次々と質問を投げかけてくる。 虎蔵はやや面倒そうにしながらも、タバサに説明を続けた。 それを見てルイズはやや不満そうになるのだが、タバサの中々見ることの出来ない生き生きとした様子に、 「今夜だけなんだから―――」 と呟いて、キュルケと共にそれを見守るのだった。 その後、虎蔵がタバサの質問攻めから解放されるのには、マチルダが夕食の用意を終えるまでかかった。 喋りつかれた様子の虎蔵に対して、タバサは実に満足気である。 ちなみに、何故マチルダが夕食の用意をしたのかと言えば、単純に料理が出来るのが彼女だけだったからだ。 立場は色々あれど、貴族のお嬢様方に野外で料理というのは酷なようである。 ――――もっとも、マチルダも元は貴族のご令嬢なのではあるが。 ルイズとキュルケが、一人女としてのスキルを見せ付けたマチルダに嫉妬心を抱いていたのは、触れるまでも無いことだろう。 野兎とキノコのスープを食しながら、一行は明日の予定について話し合っていた。 意外に美味しいマチルダの料理と詔の完成という達成感のお陰で険悪な雰囲気にはなっていないが、 宝の地図は悉くハズレという結果である。 誰もが流石に疲れを感じてきていた。 だが、キュルケだけは別なようで―――― 「次が地図が最後なんだから、行くだけ行ってみましょうよ。《龍の羽衣》だって」 「どの辺りにあるの?私はそろそろ学院に戻らないといけないんだけど」 「タルブ村の近くだって書いてあるけど―――」 アンリエッタの結婚式のために、ゲルマニアへ向かわねばならないためだ。 ルイズは式そのものを喜ぶことなど出来ないが、与えられた役目を果たさずにいられる訳でもない。 更には、詔はみんなの協力もあって、一応ながら完成しているのだから。 キュルケはルイズの問いに、羊皮紙の中から地名を見つけ出しては、 この辺りの地理にも詳しいマチルダへと視線を向ける。 「あぁ、ラ・ロシェールの近くだよ。此処からだと、ちょっと寄り道くらいで済むね」 「あら、丁度良いわね。じゃあ明日は、タルブ村に向かうってことで決定」 お誂え向けな最後の地図に、キュルケはぽんと手を叩いた。 まだ望みを捨てていないのか、それとも単に皆で宝探しという行為そのものを楽しんでいるのかはわからないが、 彼女だけはまだまだ楽しそうな様子である。 だが―――― 「――――ろくなもの見つけてないのに、よくもまぁあんなに元気だねぇ」 「まったくだ――――」 大人二人はそんなキュルケを見て、肩を竦めるだけだった。 トリステインを目指す艦隊の中で、ひときわ巨大なフネ――レキシントン号。 その後部甲板に、日焼けした浅黒い肌が目立つ精悍な顔立ちの男の姿があった。 腕組みをして雲海を眺めている。 サー・ヘンリ・ボーウッド――――レキシントン号の艦長である。 そこに、ひょろりとした眼鏡の男が近づいてくる。 「――――全く、恥も外聞も無いとはこの事ですな」 「何がだい、副長」 ボーウッドは振り向かずに答える。 苦虫を噛み潰したかのような声になったのは、眼鏡の男――副長の言わんとしていることが解っているからだろう。 「条約破りですよ。なんなら、栄誉ある竜騎士隊の指揮を、祖国を裏切った不気味な男に任せることを付け加えても良い」 副長は眼鏡を外し、ハンカチで拭きながら嫌味ったらしい口調で吐き捨てた。 能力はあるが、世渡りが下手な男である。 自分が上官でなければ、このような地位に上り詰めることは無かったであろう。 もっとも、今此処に居ることが幸せであるかどうか、ボーウッドには判断が付かなかったが。 「少なくとも後者は、我々が言えることではないな――――」 「確かに。我々も裏切り者でしたな」 自嘲的に笑いながら、副長は眼鏡を掛けなおした。 「とはいえ、それを別にしても――――不安ではあるのですよ。見ましたか、彼を」 「あぁ。《閃光》のワルド――聞いていた噂と、かなり異なる印象を受けたことは否定できないね」 「他に寄らず、寄せ付けず、女の名前をぶつぶつと繰り返すのみ――あれで指揮など取れるものでしょうか」 ボーウッドは、そうだな――とだけ頷く。 《閃光》のワルド――トリステインで有数の風の使い手。 そういった噂は、アルビオン軍人である彼らにも聞こえてはいた。 グリフォン隊隊長という肩書きを考えれば、指揮能力も優れたものがあると考えて良い筈だ。 しかし、異様なほどの威圧感を振りまきながら、「ルイズ、ルイズ」と呟く姿は、 それらの噂をかき消して余りある不安材料である。 「各竜騎士に、緊急事態には独自の判断で動く許可を出しておいてくれ。ただし、記録には残すなよ。後が面倒だ」 「――そうですな。了解しました」 副長が立ち去って暫くすると、ボーウッドはふぅっと深いため息をつく。 彼ならば汲み取ってもくれるだろうが、部下の前で堂々と政治批判をするわけにもいかないだろう。 なにより、あのウェールズ皇太子が従っているのだから。 しかし、本心としては全くもって彼の言うとおりであった。 条約破りを、よりにもよってこの《王権》で行うことになるとは――――なんと破廉恥なことか。 ――いつか自分には罰が下るのだろう―― 軍人は政治に口を出さず、命令を忠実に実行すべし。 その精神が間違っているとは思っていない。今も。 しかし、この行為が正しいなどとは死んでも思えなかった。 出来る事ならば、今すぐ礼拝堂に駆け込んで懺悔をしたいものだ。 だが―――― 「――――始祖ブリミルは、ぼくらの懺悔を聞いてくれるだろうか」 疲れた声の呟きは、誰に届くことも無く風に乗って消えた。 そして夜が明ける。 トリステインとアルビオンの――否。ハルケギニア全土を巻き込むことになる戦乱の第一歩が、始まろうとしていた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7988.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん ベッドに身体を沈め、瞼を閉じて何も見えない夢の世界に入り込んだルイズを待っていたのは、女性の声であった。 ――――まだ何も解決はしていないわ。むしろこれからってところね ルイズはその声に聞き覚えがあった。八雲紫の声だ。 霊夢と魔理沙のいる幻想郷を創った大妖怪で、同時にこれからのルイズの生活を大きく変えるであろう存在。 彼女の声には妙なエコーが掛かっており、瞬時にこの言葉が三日前のもの――つまりは過去の事なのだと理解した。 四日前、幻想郷に霊夢と共に連れてこられ、一日の時を置いてから紫が何人か集めて小さな会合を開いた。 それは今後の霊夢が何をするべきかを的確に指示し、同時にルイズはその内容に驚愕したのである。 その時の事をふと思い出しそうになったが、その前に再び紫の声が夢の世界を漂うルイズの頭の中に入り込んできた。 ――――――確かに貴女がゲートを開いた。でもそれを乗じて結界を侵食したのは、貴女よりも遥かに上の存在 …つまり貴女は鍵だったのよ。貴女だけの力では貴女のいる世界と幻想郷をすぐに繋げることなんて至難の業よ? 事実、わたしだっても見つけるのと繋げるのには相当苦労したしね 紫がそう言った後、今度は幼くも何処か危険な雰囲気を孕んでいる声が聞こえてきた。 ―――つまり、「貴女を煮ようが焼こうが異変は解決しない」という事よ。むしろもっと悪化するかもね その声にまたもや聞き覚えがあったルイズの身体を寒気が走り、無意識に自分の身体を軽く抱きしめた、 レミリア・スカーレット――――幻想郷で紅魔館という巨大な館の主をしているという吸血鬼。 最初に出会ったときは吸血鬼だということに驚きはしたが自己紹介の後、こんなことを言ってきた。 「安心しなさい。苛立ちはしているけれども、今の私は貴女にそれ程の殺意は抱いていないわ」 そんな事を言われる前に杖を向けてお付きのメイドに腕を捻り上げられたうえ、ナイフを向けられた後にこの言葉である。 絶対嘘でしょ。と思いつつも彼女の身体から溢れ出る威圧感にそのときのルイズはただただ頷くことしか出来なかった。 今度は、やけに落ち着いた感じの声が聞こえてきた。 ―――要は、逆に貴女を私たち側に引き入れて霊夢の案内役を兼ねた仲間になって欲しいということよ この声の主は八意永琳と名乗る薬師であったとルイズは覚えていた。 次に、紫の声が再び頭の中に響いてきた。 ――――流石月の頭脳といったところかしら?こちらの考えは大体予想していたようね 苦笑しながらもそう言った紫に、永琳は肩をすくめながらもこたえる。 ―――――ついさっき思いついた事を口にしたまでの事よ。頭のお堅い吸血鬼とはワケが違うわ 小馬鹿にするかのような永琳の言葉に、すぐさまレミリアが殺気の篭もった目つきで永琳の顔を睨み付けた。 ――…おまえ。この私を怒らせたいの? 段々と恐ろしくなっていくその場の雰囲気を止めたのは、一人の亜人と人間の少女であった。 ―――お嬢様。それくらいで怒っていては軽く見られてしまいますよ ミニスカートのメイド服を着た銀髪の少女は、落ち着いた口調でレミリアを宥めた。 レミリアはメイドの言葉にすぐさまハッとした顔になると、軽く咳払いをした。 ――いけないけない…あれだけ熱くなるなとパチェに言われてたわね…助かったわ咲夜 咲夜と呼ばれたメイドの少女はレミリアに頭を下げた。 ――し、師匠…何もこんなところで挑発しなくても良いじゃないですか…? 一方、兎の耳を頭に生やした鈴仙は少し怯えた声で永琳にそう言った。 自分の弟子の言葉に永琳は笑顔を浮かべ、されど何も言わずに肩をすくめた。 そんな時、一触即発寸前だったというのに何も言わずにその様子を眺めていた霊夢が、ふと口を開いた。 ――――つまり、私はこのルーンをつけたままあの世界にまた戻れっていうわけね 少し嫌悪感が混じった言葉を口から出しつつ、霊夢は左手の甲についた使い魔のルーンを紫に見せる。 それは、ハルケギニアでは神として崇められている始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴのルーンであった。 紫は霊夢の言葉に頷くと、ルイズの方へ顔を向けて喋り始めた。 ―えぇそうよ。…キッカケとはいえ、幻想郷とハルケギニアを繋いだ力を持った彼女の力は凄まじい。 恐らくは今後、そんな彼女を狙って色んな連中がやって来る。 そしてその中に、今回の異変を起こした黒幕と深く関わっている連中が混じるのも間違いないわ。 つまり彼女の傍にいれば、自ずと黒幕の方からにじり寄ってくるって寸法よ。 今度はレミリアの声がルイズの頭の中に響いてくる。 ――貴女の運命は今正に急展開と言って良いほどの動きを見せている 博麗の巫女を使い魔にする程の力を持っているのに、自分を卑下する事は無いわ それに… そこまで言って一息ついた後、レミリアは次のような言葉を口にする。 それは、幻想郷の住人達を前にして多少なりとも狼狽えていたルイズに自信を付けさせる程度の威力を有していた。 ――霊夢の左手には貴方達の種族が『伝説』と呼んで崇める存在が使役した使い魔のルーンが刻まれているんでしょう? という事は、貴女にはそいつと同等の力をもっているという事じゃないかしら。貴女がそれを自覚していないだけで… パチンッ! ◆ 「ん…んぅう…」 耳の中から入ってきた強烈な音に、ルイズは夢の世界から無理矢理締め出されてしまう。 それは乾燥した小さな薪が火に炙られて弾ける音で、すぐに暖炉から発せられているのだとわかった。 妙に重たい瞼を無理矢理こじ開け、柔らかい手の甲で両目を擦りつつもルイズは上半身をゆっくりと起こそうとした。 しかし、ルイズの体は脳から伝わってくる命令に反して一向に起きあがろうとしない。 どうしたことかと思ったが、すぐにその原因が隣で寝ている魔理沙の腕が原因だと判明した。 長袖、長ズボンの青い寝間着を着ている彼女の頭を、ルイズは思わずどつきそうになる。 そうなる前に、軽く力を入れれば腕をどけれると知り、すぐさまそれを実行した。 ルイズの体に乗っかっていた魔理沙の腕はあっさりとどけられ、ルイズは上半身を起こす事が出来た。 上半身を起こしたルイズは枕元を探り、懐中時計を手に取った。 霊夢を召喚する前に街で買った物で、色々な細工が施されている。 まだ半分寝ぼけているルイズはとろんとした目で時計をトントンと軽く指で小突く。 すると懐中時計の中に仕込まれていたマジックアイテムが作動し、時計の針が光る。 暗いところでも時間がわかる時計で、裏にはメイドイン ガリアという文字が刻み込まれていた。 「午前4時50分。大分早起きしちゃったわね…」 時刻を確認し、大分早くに起きてしまったことにルイズは苦虫を踏んでしまったかのような気分になった。 きっと授業の最中に居眠りしてしまうだろうし、二度寝出来るほどの時間もない。 そんなルイズとは対照的に、彼女の隣で魔理沙はぐっすりと寝ており、更にはブツブツと寝言も呟いている。 「うふふふ…に勝ったぜ…うふ、うふ、うふふふふふふふ…」 まだ知り合って日が浅いが、少なくともうふふ…など彼女には似合わない笑い方であろう。 一体どんな夢を見てるんだと思ってたルイズは、ふとベッドから少し離れた所に置かれた大きなソファーへと視線を移した。 滅多に来ない来客用にと置いている大きなソファーで、毛布にくるまった霊夢が寝ていた。 ※ 一昨日の晩、シエスタが持ってきてくれた夕食を食べてからしばらくし、そろそろ就寝の時間帯となった頃。 入浴を済ませたルイズはネグリジェ姿に、後の二人は幻想郷から持ってきたそれぞれの寝間着(魔理沙はパジャマで霊夢は寝巻き)に着替えて寝ようとした。 そんな時、ふと霊夢がルイズと一緒に寝ていたベッドを見つめながら、こんなことを呟いた。 「流石に三人も入ると左右で寝る奴が危ないし、何よりすし詰めになるんじゃない?」 霊夢の言葉に、ルイズも同意するかのように頷いた。 ベッドはそれなりに大きく、やろうと思えば三人とも同じベッドで横になる事が出来る。 だがギュウギュウ詰めになってまでも同じベッドで寝る必要など三人には無い。 さてどうしようかとルイズ達が思ったとき、ふと霊夢が部屋の一角に置いていたソファーへと近寄った。 柔らかい素材で出来たソファーは触り心地も良く、ベッドの代わりとして使っても問題は無い。 ※ そんなわけで霊夢がこのソファーで寝るようになってから早二日が経っている。 魔理沙はというとルイズの隣で寝ることとなったが本人は一切文句を言わなかった。 むしろ「こんな大きなベッドで寝られるなんて夢のようだぜ」と喜んでいた。 ルイズは最初だけそのことに難色を示したものの、異性ではなく同性ならば大丈夫だとすぐに納得した。 何よりそれを断ると魔理沙の寝る場所が無くなってしまうので、実際には納得しなければならないという表現が正しい。 まぁ距離を置いて寝てくれるので、ルイズも彼女の隣で寝ることに関してはある種の安心を感じていた。昨日までは… 「流石に体の上に腕とか足とか乗せられたら安眠も出来ないわねぇ…っと」 ルイズはそんなことを呟きながらベッドから出ると、暖炉の傍に置かれたイスに腰掛けた。 もうすぐ夏が到来するがトリステインの早朝は気温が寒く、暖炉の火が未だに欠かせないのである。 勿論昨日の夜からずっと火をともしているわけではなく、寝る前にちょっとした火種を暖炉の中に入れていたのだ。 それは石から出来た使い捨てのマジックアイテムで強い衝撃を与えた後、長い間空気に触れさせると自然発火を起こすのである。 つい最近になって街で流行始めた物で、トリステインの人々から重宝されているのだ。 大きさによって火力も違い、この魔法学院で支給されている物はかなり小さめの物だ。 小さい物だと発火するのに時間が掛かり、ついてもすぐに消えてしまうがその上に枯れ草や薪を置いていれば長持ちしてくれる。 「ホント…これって便利よねぇ…ふわぁ~」 ルイズは日々進化しつつあるマジックアイテムの恩恵に欠伸をしながら感謝しつつも、薪を一本手に取り暖炉に放り入れた。 暖炉の名かで何かが弾ける音を上げつつ燃え上がる炎を見つめていたルイズは、ふと先程の夢の内容を思い返す。 (何で今になって数日前の事を夢なんかで見たのかしら…) もしかしたら昨日のアレが原因なのかも知れないと思ったルイズ、ふと昨日の事を思い出し始めた。 ◆ 昨日の朝食後。ルイズと霊夢、そして魔理沙が学院長室へと赴いた時の事であった。 長い階段を上り終えて学院長室へとやってきたルイズたちを待っていたのは、ミスタ・コルベールと学院長であるオールド・オスマンであった。 というよりそれ以外の誰がいるのかとルイズは思いつつ部屋に入り、霊夢と魔理沙もそれに続いた。 霊夢はともかく、魔理沙の姿を見た二人は目を丸くし、ミスタ・コルベールがルイズに質問を投げかけてきた。 「ん?ミス・ヴァリエール、金髪の少女は誰なのですか?初めて見る顔ですが…」 ルイズがその質問に対して返事をする前に、魔理沙が頭に被っていたトンガリ帽子を取って二人に挨拶をした。 「私は霧雨 魔理沙。見ての通り普通の魔法使いだぜ」 年相応の少女の元気そうな声で形作られた言葉を耳にし、オールド・オスマンがある疑問を感じた。 その疑問はコルベールも感じており、ルイズもまた初めて魔理沙と出会ったときに感じたものと全く同じである。 「普通の魔法使い…とな?」 今まで見たことのない不思議なモノを見た後のような呟きに、魔理沙は思い出したかのように言った。 「あっ、そういえばこの世界ではメイジって言うんだっ…―――ムググッ!」 このバカ!と叫びつつ、ルイズは咄嗟に魔理沙の口を右手で無理矢理押さえつけた。 突然のことにコルベールはキョトンとしたものの、オールド・オスマンはそれを見てホッホッホッ…と笑い始めた。 「えぇよ、えぇよ、ミス・ヴァリエール。儂はもうある程度の事はわかっておる」 優しそうな微笑みを浮かべながらそう言ったオスマンに、霊夢が目を細めた。 「アンタ…もしかすると最初から気づいてたのかしら?―――私と魔理沙が何処から来たのか」 霊夢の口から出た言葉にルイズは思わず魔理沙の口を覆っていた手を離し、まさかそんなことが、と思った。 しかしそんなルイズとは逆に、霊夢は笑い続けているオスマンに鋭い視線を向けている。 そんな霊夢の視線の中にある質問に応えるかのように、オスマンは笑うのを一旦止めて言った。 「君の事は前々から調べておったが、これでようやく答えがわかったというものじゃ」 オスマンは杖を手に持ち、軽く呪文を詠唱すると戸棚に向けて杖を振る。 直後、戸棚がひとりでに開き中から古めかしい一冊の分厚い本が飛んできた。 「おぉ、やっぱり杖を使う魔法使いは中々様になってるなあ…。―――ん?それって、まさか…幻想郷録起じゃないか」 魔理沙はこの世界に来て何度目かになるハルケギニアの魔法に目を輝かせていたが、その視線が本の方へと移る。 年季が入り、色褪せてしまってはいるがその本のタイトルに見覚えがあった。 こんな所で目にしようとは思っていなかった魔理沙は、無意識的にその本のタイトルを口に出してしまう。 「…!あ、あなたにもこの文字が読めるのですか!?」 それを聞いたコルベールは驚愕を露わにし、一方のオスマンは予想的中と言わんばかりに顔に笑みを浮かべた。 「やはりお主も、彼女と同じくこことは違う場所の生まれの者のようじゃのう」 そこまで言われて観念したのか、霊夢はやれやれと言わんばかりに首を横に振る。 ルイズはというと、二人のことを何処まで話したら良いのか悩んでいた。 これに関して紫に「信用出来ない、又は口の軽い人間には絶対に話さないように」と厳しく言われている。 しかしルイズはこの二人を教師としてちゃんと信頼しているし、何よりちゃんと他言無用の誓いは守ってくれそうだ。 そこまで考えたルイズはまず最初に霊夢の方へ視線を向けた。 すぐに此方を見ていることに気が付いた霊夢はルイズの方へと顔を向け、コクリと頷いた。 どうやら彼女の方も、学院長にこれ以上の隠し事は不可能だと判断したようだ。 霊夢からのOKサインも貰い、ルイズは大きな溜め息をついた後に口を開く。 「…わかりました。とりあえず話せることだけは話しましょう。 ただ、他言無用で御願いします。この二人の事をよく知っている者からの忠告ですので」 出来る限り事が重要なのだと思わせるためにルイズは少し強めの口調で言った。 オスマンとコルベールはお互いの顔を見合わせた後、頷いた。 「良いじゃろう。…そもそも人間を使い魔にする時点で何かしらあるとは思ってはいたが。どうやら事はそれ程軽くは無さそうじゃな」 先程の笑顔とは打って変わって真剣な表情でそう言ったオスマンに対し、コルベールもまた真剣な表情を浮かべて頷く。 「えぇ、何せ伝説と謳われる始祖の使い魔の゛ルーン゛が蘇ったのですからね…。確かに事は重要ですな」 ☆ まずはルイズの話から始めることとなった。 彼女は二人の教師に霊夢と魔理沙が幻想郷という、この世界とは全く別の世界の住人であることを最初に説明した。 その事を話している最中オスマンとコルベールは目を丸くして驚いていたが、まぁ無理もないだろう。 何せ異世界など普通は劇や小説に出てくるフィクションの存在なのだ。普通なら誰も信じないに違いない。 (私だってその事をユカリに聞かされた時に驚いてたしね) あの時の事を思い出しながらも、ルイズは話を続けていった。 そしてアルビオンから戻ってきて翌日の夜、一度は迎えが来て霊夢と共にその世界へ赴いたのだが事情があってすぐに戻ってきたということも話した。 だが、幻想郷にほぼ丸一日いて゛すぐ゛という表現はおかしいのだがそれは致し方ない。 実は自分と霊夢がいない間、紫の式(使い魔と似て非なる存在らしい)達がルイズと霊夢の姿に化けて一日だけ代わりを務めていたのだという。 その事についてはあまり言わないで欲しいと紫に言われていたので、ルイズは全て話すといいながら少しだけ事実を歪めることになった。 「そして昨日の明け方に、レイムの知り合いであるマリサが幻想郷からやって来たのです」 ルイズが丁寧に説明した後、魔理沙は右手をヒラヒラと振った。 「まさか異世界に来れるとは思ってなかったが、まぁとりあえずよろしく。…ってところだ」 笑顔でそう言った魔理沙を見て、来なければ良かったのにと霊夢が心の中で呟いていた。 二人にはハルケギニアで『するべき事』があり、それが終わり次第元の世界に戻るという事を話してルイズの説明は終わった。 『するべき事』も含めて最後までルイズの話を真剣に聞いていたコルベールは未だに信じられないと言いたげな表情を浮かべている。 何せ教え子の召喚した人間が異世界人だったのである。驚くなと言う方が無理な話だ。 「しかし…ガンダールヴのルーンや異世界の住人といい、どうしてこう私は世紀の珍事にであえるのでしょうか?」 「それはお主がまだまだ未熟だからじゃ。もう少し年を取れば寛容にもなれる」 しかし、そんな彼とは対照的にオスマンは落ち着いた表情でコルベールに言った。 そんなオスマンの態度が気になって仕方なかったのか、ふとルイズはこんな事を聞いてみた。 「失礼なことをお聞きしますが…、オールド・オスマン。貴方は驚かれないのですか?」 その言葉に、オスマンは笑いながらこう言った。 「儂はこれでも随分と長生きしてきたからのぅ。思ったよりも世界が広いということぐらいとっくに知っておる」 オスマンのその言葉に、学院長は数百年近く生きているという噂があったことをルイズは思い出した。 (もしかしたら…あのユカリみたいな存在なのかも…) 溢れんばかりの笑顔でヒゲをしごいているオスマンを見て、ルイズはそんな事を思った。 ルイズの話が終わった後、今度はオスマンとコルベールの話す時間となった。 「さてと…次はワシ等の番じゃな。…此所はミスタ・コルベールに話して貰おう」 「わかりました。オールド・オスマン」 学院長に御指名されたコルベールは頷き、その時の事を丁寧に話し始める。 ◇ それは霊夢がルイズと共に幻想郷へ戻った日の事。 コルベールは研究室として使用している掘っ立て小屋で、ある作業に取り組んでいた。 それは今彼が発明した装置の欠点を隅の隅まで調べつくし、それを直すというものである。 気分も良いためか順調に進み、ここいらで少し休もうかなーと思っていた時、思わぬ客が来訪した。 コンコン、コンコン! ふと誰かがドアからノックする音が聞こえ、コルベールはそちらの方へ顔を向ける。 この所にお客さまとは珍しいなと思いつつもドアを開けて、一体誰が来たのか確認した。 「この掘っ立て小屋に住んでるって聞いたけど…本当だったようね」 紅白の変わった服を着込んだ黒髪の少女を見て、すぐさま相手が霊夢だとわかった。 その後、アルビオンから良く無事に帰ってきてくれたと言ってからとりあえず用件は何なのかと聞いてみた。 コルベールにそんなことを聞かれ、霊夢は思い出したかのように、 「あぁ、そういえばコレ…アンタには何なのかわかるかしら?」 そう言って霊夢は自身の左手の甲をコルベールの眼前にまで持ってきた。 突然の事に最初は何が何だか、わからなかったが、すぐに彼女の手の甲に何かが刻まれていることがわかった。 それが何なのかすぐにわかり… コルベールは手に持っていた薬品入りのフラスコを思わず取り落としそうになってしまった。 ◇ 「そう、私が最初に見たガンダールヴのルーンが…彼女の手の甲にしっかりと刻まれていたのです!」 「お、落ち着いてくださいミスタ・コルベール…」 役者の様に両手を振り上げて叫ぶコルベールを落ち着けるかのようにルイズか宥めようとする。 しかし彼がハイテンションになるのも無理は無いであろう。何せガンダールヴである。 伝説と呼ばれ、本当に実在するのかどうかも胡散臭いと一部では言われているのだ。 「なんというか…お前って案外大変な事になってるんだな…」 「出来れば今すぐアンタにこのルーンを移植してやりたいわ」 半ば躁状態とも言えるコルベールを見つめつつ、魔理沙は同情するかのように霊夢に話し掛けた。 一方の霊夢はというと手の甲についたルーンを指でなぞりつつ、苦々しげに言った。 流石のオスマンも、段々ハイになっていく教師を見て、やれやれと言いたげな顔をしている。 「う~ん…まぁ落ち着きたまえミスタ・コルベール…少し聞きたい事があるのじゃが?」 「はい、何でしょうかオールド・オスマン!」 コルベールの過剰な反応にオスマンは苦笑しつつも、とりあえず聞いてみることにした。 「その、何だね?ガンダールヴの能力というのは…見ることが出来たのかのぅ」 オスマンの言葉を聞き、コルベールと魔理沙にそれなりの変化があった。 コルベールは笑顔のまま表情が固まり、魔理沙は゛能力゛という言葉に反応した。 「ん?…霊夢のルーンには何かスゴイ能力とかついてるのか」 興味津々な魔理沙を見てオスマンはコホンと咳払いした後、ガンダールヴの能力を軽く説明した。 「う~ん、つまり何だ?ただでさえ強いコイツが武器を持ったら更に強くなるということか」 「大体そういう事じゃのう。してミスタ・コルベール…武器は持たせてみたのかね?」 意外と理解力の早い魔理沙に感心しつつも、オスマンは話を続けるよう促す。 しかし、先程から表情が固まっているコルベールはなんとか口だけを動かして渋々と話し始めた。 「えー、あの…その…色々とミス・レイムから話を聞いた後、 学院長から貰ったあのインテリジェンスソードを持たせてみたのですが…」 ◇ 「……お、あったあった」 鞘に収まった古めかしい太刀をチェストの中から取りだしたコルベールは、思わず声を上げた。 その声に霊夢もコルベールの側へと近寄り、彼の持っている物へと視線を移す。 霊夢が自分の傍へやってきたのを確認したコルベールは、まずゆっくりと鞘から太刀を引き抜いた。 錆が浮き出てとてもじゃないが質屋でも買い取ってくれなさそうなボロボロの刀身を見て、霊夢は目を丸くした。 以前何処かで…そう、確かここの学院長とか言う老人と初めて顔を合わせたときに… 「…?あれ、その鞘に入った太刀って…もしかして」 霊夢が何かを思い出したかのようにそう言った瞬間。 ひとりでに太刀の根本部分がカチカチと音を立てて動き出し――― 『お!なんでぇなんでぇ!今更外に出してくれたって礼は言わねぇぞ!』 ―――耳に障る声でしゃべり出した。 その声を聞いた霊夢はすぐさま、この太刀の名前を思い出した。 「デルフリンガー…だっけ?アンタまだ捨てられてなかったの?」 錆びてる癖に口から出る言葉が生意気な喋る武器に、霊夢は呆れた風に言った。 それを見逃すデルフではなく、すぐさま霊夢に噛みついてきた。 『あぁ!テメェはあんときの生意気な小娘じゃねぇか!!どの面下げて俺の前に現れやがった!?』 以前喋っている途中に無理矢理鞘に収められた事もあってか、 人間ならばすぐさま殴りかかってきそうな雰囲気を刀身から発しながらデルフは怒鳴る。 「別にアンタに会う為に、こんな場所に来たわけじゃないんだけど?」 しかしそれをものともせず霊夢は冷たく言い返したところで、コルベールが仲介に入った。 「まぁまぁ、ここは落ち着いてください…」 「私は落ち着いてるわよ。むしろ怒ってるのはそっちの剣じゃないの」 『何だとこの野郎!!』 霊夢の何気ない言葉に、デルフはまたもや怒った。 彼女の言葉に一々突っかかるデルフに、コルベールは溜め息をつく。 これがインテリジェンスソードであって良かったと内心思っていると、霊夢が話し掛けてきた。 「ねぇコルベール…一体こんな剣なんか取り出して何だっていうの?」 「あぁ、まだその事を話していませんでしたね…」 霊夢の言葉にコルベールはそう言うと、突然デルフリンガーを霊夢の方へ差し出した。 突然の事に霊夢は何が何だかわからず、首を傾げるとコルベールが言った。 「以前学院長が言ってましたでしょう。ガンダールヴはそのルーンの力で、ありとあらゆる兵器と武器を扱えるという事を」 コルベールの説明を聞き、あぁそう言えばそんなことを言ってたわね。と霊夢は呟く。 そして自分の前に差し出されたやかましい武器を一瞥した後、コルベールの方へ視線を向ける。 「…まさかこの剣で試してみようってワケ?」 霊夢は嫌悪感丸出しの表情を浮かべて聞いてみるが、コルベールはウンウンと頷く。 一瞬どうしようかと迷った挙げ句、仕方なく霊夢はデルフリンガーを手にすることにした。 別に貰うワケじゃないし、ほんのちょっと手に取るだけなら構うまいと思ったのだ。 「まぁ…ちょっとだけよ―――…っと」 不満そうな声でそう言いつつ、コルベールからデルフリンガーを受け取る。 しっかりとした重さが手に伝わり、思わず取り落としそうになったが霊夢はなんとか堪えた。 「あの…どうですか?何か変化はありましたか…」 デルフリンガーを手に持った霊夢に、コルベールはそんな事を聞いてみた。 もし伝説通りならば、すぐさま武器の正しい使い方が分かり、一瞬のうちに超一流の使い手になるという。 しかし、霊夢の口から出た言葉はコルベールが全く予想していないものであった。 「…いや、別にこれといった事はないけど…」 気怠げな表情を浮かべてそう答えた霊夢に、コルベールは首を傾げた。 (おかしいな…一体どういうことだ?) 全く予知していなかった自体にコルベールが頭を悩ませている、デルフがまたもや怒鳴り始めた。 『おいテメェ!その手で俺に触るなっ………て―――――…ん?』 最初こそ大声で怒鳴ったデルフリンガーではあるが、すぐにしぼんでいく風船のように声が小さくなっていった。 一体どうしたのかと霊夢は思ったが、耳を澄ますと何やらブツブツと独り言を言っていることに気がついた。 『一体コイツは…左手から…いや、まさか…でも…ということぁ…』 「何よコイツ?…もうそろそろ寿命かしら」 ほぼ本気で霊夢がそんな事を言った瞬間、再びデルフが大声で怒鳴った。 『…おでれーたぁ!!まさかこんな小娘が…ガンダールヴだったとぁなぁ!!』 ◇ 「…で。そのインテリジェンスソードが態度を変えて、彼女に懐いたというワケか…?」 話を聞き終えたオスマンは、盛大な溜め息をついた後コルベールにそう聞いた。 コルベールの方も申し訳ないと言いたげな表情を浮かべて頭を下げた後、口を開く。 「は、はい…結局、ガンダールヴの能力は見れませんでしたが…」 オスマンはそれを聞いてふむぅ…と唸った後、ルイズ達の方へと視線を向けた。 「ミス・ヴァリエール。お主はガンダールヴとしての彼女を見ておるか?」 学院長から出た質問に、ルイズはアルビオンのニューカッスル城で見た光景を思い出した。 あの時、殺されたと思っていた霊夢が剣を片手に裏切り者と化したワルドの遍在を倒してくれたのである。 その事を思い出しながらもルイズは恐る恐る答えた。 「は、はい…。ですけど、なぜルーンが光らなかったのは私にも…」 正直言って、ルイズ自身もコルベールから話を聞いて疑問に思ったのである。何故ルーンが発動しなかったのか。 彼女が裏切り者の遍在を倒した所を見ていたルイズにとって、それが唯一の謎であった。 だがその疑問に答えられる者は今この場におらず、三人の間に沈黙が漂っていく。 そしてガンダールヴであるのにも関わらずその能力が発動しなかった霊夢は何も言わず、ただボーっと窓から外の景色を眺めていた。 こうして部屋の中に冷たい空気が充満しようとした時、まるで場の空気を読めなかったのか魔理沙がその口を開いた。 「何だ。ルーンはついてるのにその能力が発動しないとは、思わぬ興ざめだぜ……ってイタッ!」 そんな言葉が口から出た瞬間、脊椎反射とも言える速度で魔理沙の方へと振り向いた霊夢が彼女の頭を叩いた。 景気の良い音ともに後頭部にキツイ一撃を貰った黒白の魔法使いはその場で頭を押さえて屈みこんでしまう。 「人を動物みたいに扱うなっての」 頭を叩いた張本人である霊夢の言葉と共に冷たい空気は何処へと消え去り、気を取り直したようにオスマンが口を開いた。 「…とりあえずガンダールヴとしては覚醒しておるのじゃろう?なら、もうしばらくは様子見せんとな」 老齢の学院長はそう言うと大きな咳払いをしてから、真剣な面持ちで喋り始める。 「とりあえずこれで話は終わりじゃが…良いか皆の者よ?今日の話は他言無用で頼むぞ。 迂闊にも誰かに話せばたちどころに広がるからのぅ。そこらへんには気をつけるのじゃ ―――無論。ミス・ヴァリエールの後ろにいる二人もな」 オスマンとの約束に、オスマンを除く四人はコックリと頷いた。 「わかっておりますオールド・オスマン。他言無用ですね」 コルベールは真剣な面持ちでそう答え、 「はい。このことは誰にも伝えません」 ルイズもまた揺らがない程の真剣な瞳をその目に宿らせてそう答え、 「…わかったわ。まぁ下手に話して群がられるのもイヤだし」 霊夢はそんな二人とは対照的な気怠そうに言い、 「そうか、ここで人気者になりたいのならペラペラと喋ればいいのか!」 ――ただ一人、魔理沙だけは冗談を大量に含めてそう答えた。 無論、空気を読めなかった発言をした魔理沙は、他の四人からキッと睨まれ、 「冗談だよ…そうカッカするなって?」と慌ててそう言った。 その後、オスマンは軽く咳払いをするとルイズに話し掛けた。 「あと、ミス・ヴァリエール。お主はこれからどうするかね?」 「…どういうことですか」 突然そんな事を聞かれて意味がわからない。と言いたげな表情を浮かべているルイズに、オスマンは説明を始めた。 「ミス・マリサはこの世界に来てまだそれ程時間も経っておらん、どうせならここにいる方が良いじゃろうて」 オスマンの言葉を聞いて、ルイズはここへ来る事になった理由を思い出した 「あ、はい!ですから学院長…何とかしてマリサをここへ置いてやれないでしょうか?」 ルイズの要求に、オスマンは長いあごひげを弄りながら考えた後、それに了承した。 「良いじゃろう。では昼食の際に彼女がここで暮らせる゛理由゛を作っておこう」 「えっ!ほ、本当ですか!?」 その言葉を聞き、まず最初に驚いたのがルイズであった。 一体どうして、顔を合わせてまだ数分しかたっていない相手を見てそんな事が決めれるのか。 そんなルイズの言いたいことがわかったのか、オスマンは笑いながら口を開く。 「ミス・ヴァリエール。お主は儂がそこまでする理由が何処にあるのかと言いたいのじゃな?」 そんな事を言われるとは思ってもいなかった彼女はその言葉に驚き、目を丸くしてしまう。 「えっ…?は、はい…一応」 「そうじゃろうな。今の若い者はそんな事を考えんじゃろう…」 ルイズの答えに、オスマンは何度も頷いてそう言うと、イスから腰を上げて背後にある窓の方へと振りむいた。 窓の外では青い空を下地に白い雲が流れ、小鳥たちが群れを成して空を飛んでいる。 そんな光景を話の途中に見て目を細めつつも、オスマンは口を開いて喋り始めた。 「しかし、だからといって他人を信じる事をやめ続けていれば。いずれ人の心は惨めになって行く。 もはや今の時代でも嘘や策謀が大陸中に渦巻いておる。数百年すれば人は嘘しかつかなくなるじゃろうな…」 空を見つめているオスマンの言葉は何処か重々しく、部屋の中の雰囲気は段々と重くなっていく。 確かに今のハルケギニアは昔と比べれば詐欺商法等が増えたと言われる。 ずっと前に偽物の宝の地図に騙されていた霊夢もまた、その言葉に納得していた。 オスマンは部屋の雰囲気がどん底にまで落ちる前に、再び喋りだす。 「だから儂は決めたのじゃ…自分が信用できる人間だと信じた者は、とりあえず信じきってみよう。とな?」 見事言いきったオスマンの表情には、深い深い慈悲の色が滲み出ていた。 ルイズとコルベールは、この歳で学院長を勤める程の者だと。尊敬した。 その後、ルイズが霊夢と魔理沙を連れて学院長室を出ようとした時―― 「ミス・ヴァリエールよ…部屋を出る前に一つだけ聞いて良いか?」 ドアノブに手を掛けようとしたルイズは、オスマンの方へと振り向いた。 そしてオスマンは、ルイズの返事を待たずして質問を投げかけてきた。 「今のお主は、既に普通の存在ではないと自覚しておるかな?」 その質問にルイズは一瞬だけ考える素振りを見せた後、こう答えた。 「自覚していますわ。これだけ不思議な現象に見舞われているんですもの」 ルイズの答えを聞き、オスマンは満足そうに笑った。 「さすがは…伝説の使い魔を持つうえに異世界の者と交流を持ってしまった者だわい。肝が据わっておる」 ◆ 「伝説の使い魔…ねぇ」 学院長の言っていたその言葉を、ルイズは暖炉の炎を見つめながら復唱した。 確かに、自分はとある異世界にとっての中枢である巫女を始祖の使い魔といわれているガンダールヴとして召喚した。 そしてその巫女のいた世界の住人から、自分には何か潜在的な力を有しているとまで言われたのである。 生まれてこのかたこれ程褒められた事が無かったルイズが鼻を伸ばすには充分な理由であった。 最も、自分の体にあるはずのその゛潜在的な力゛は未だに自分の体の中で眠り続けているのだろう。 「確かに私は普通じゃないわ…魔法だっておかしいし。何よりこんなものまで託されるんだから」 自分に言い聞かせるかのように呟き、テーブルに置いていた古ぼけた本へと視線を移す。 それは以前、ルイズが尊敬するアンリエッタ姫殿下から受け取った『始祖の祈祷書』だ。 トリステイン王室では、伝統として王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女が用意される。 そして巫女は、この始祖の祈祷書を手に式の詔を詠みあげる習わしがあるのだ。 本来なら学生の身分でこのような重役に就ける事自体、奇跡と言っても良い。 最初にこれを手渡されたとき、ルイズは目を輝かせ、自信に満ちあふれた表情で了承した。 そんなこんなで、自分の尊敬する姫殿下の結婚式で詠みあげる詔を考えることになったのだが… 不幸か否かルイズには詔、もとい詩を書く才能が無かった。 例えば、四大系統魔法の一つである゛火゛に関しての詩を書かせればこんな風になる。 「炎は熱いので、気をつけること」 まるで火を扱うマジックアイテムに付属している取り扱い説明書の如き注意書き。 そして゛風゛に関する詩は「風が吹いたら、樽屋が儲かる」。ことわざである。 このように、その発想は無かったと他人に言わせる詩をルイズは書くことが出来るのだ。 単に詩の神様に微笑まれることがなかったのか、それとも一種の才能なのか。 どちらにしろ、今のルイズは気むずかしい詔を考えられる程目は覚めていなかった。 ただ、今日の朝食は一体何が出るのかと考える事は出来たが。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/970.html
帰還! 魂の還る場所 日食が終わり――太陽がその姿を現す。 アルビオン艦隊の沈んだ空は、まさに青一色。どこまでもどこまでも晴れ渡っていた。 その青い空の中を、彼等は、彼女等は探す。 あの竜は何処。竜の羽衣は何処。承太郎とルイズは何処。 そして――すでにこの空にはいない事を知る。 「とりあえずトリステイン軍が勝ったけど、これから本格的に戦争が始まるわね。 トリステインにいると危ないかもしれないけど……どうする? よかったら私と一緒にゲルマニアに来ない? 疎開ってやつよ」 「いい」 「あら、そう? どうして?」 「しばらく学院で待ってみたい」 「……そう、そうね。それも悪くないわ。私もつき合う、文句は無いわよね?」 「うん」 「どうしたんだい? なぜそんなに泣いているんだい?」 「ごめんなさい。今は、泣きたいんです。泣かせてください」 「……女の子の涙を止めるのも、薔薇の役目だ。 彼が行ってしまってさみしいのも解るが、なぁに、きっとすぐ――」 「いいえ、きっと、もう、あの人は……帰ってきません。 お爺ちゃんの故郷へ行ったんです。二人で行ってしまったんです。 もう、私達の手の届かない所へ……遠い遠い……月がひとつの空へ……」 「……友達が泣いているのに、何もできないというのは、つらいなぁ」 「ありがとうございます。私を友達と呼んでくれる皆様がいらっしゃるから、 私はあの人を待ち続ける事ができます。できると思うんです」 こうして――ハルケギニアでの物語は終わった。 では、承太郎とルイズは――? 真っ白い光の中から飛び出した先は、空だった。 「うっ……?」 「気がついたか、ルイズ」 承太郎の膝の上で目を覚ましたルイズは、周囲を見回した。 「……ここ、どこ? タルブの村?」 「下を見てみな」 見てみる。 変な形の建物がいっぱい並んでいて、灰色の道の上を色取り取りの箱が走ってる。 これは、何だろう。どこだろう。ハルケギニアにこんな街並あったっけ? 「日本だ。やれやれ、何とか無事帰ってくる事ができたらしい」 「あ――そ、そうなんだ。よかった、よかった」 それってつまり自分も異世界に来ちゃった訳で……どうしよう? かなり頭が混乱していて、ろくに物事を考えられない。 喜ぶべきか、悲しむべきか、怒るべきかも解らない。 そんなルイズを膝に乗せたまま、承太郎はゼロ戦を降下させる。 「ジョータロー、どこ行くの?」 「学校の校庭に着陸させる。燃料タンクをやられたからな、 あんまり長くは飛べねーし、近場で広い場所は学校くらいだ」 「学校って、あんたの通ってた学校?」 「そうだ。ラッキーなのかアンラッキーなのか、俺の故郷の街の上に出てきたらしい」 そう言って承太郎は、一際大きな建物のある場所へゼロ戦の機首を向ける。 トリステイン魔法学院ほどの大きさはないが、どうやらそれが学校らしい。 校庭の隅へと車輪を下ろしたゼロ戦は、速度を落としながら校庭の反対側まで走る。 「ちょっと、ちゃんと止まれるの? ……って、何してるの?」 見れば、承太郎はメモ帳を取り出し、何かを書き込んでいた。 「陛下じゃあなく、国の所有物になるだろうが、 これでシエスタの祖父の魂は故郷に還ってきたって事になるかな」 そう言うと承太郎はメモ帳のページを一枚めくると、風防を開けてルイズを担ぎ上げた。 「ちょっ、何すんのよ!?」 「騒ぎに巻き込まれるのはゴメンなんでな。とっとと逃げるぜ」 空いた座席にメモ用紙を放ると、承太郎はゼロ戦の前に回り込んで、 スタープラチナで受け止めてブレーキをかけた。 おかげで校庭の反対側を突き抜けずにすむ。 「さて、さっさとズラかるとするか」 「きゃっ、わあ!」 目立つルイズの桃色の髪を隠すべく、承太郎はルイズの身体を自分の学ランで覆った。 それはある意味抱き合うような形でもある。 そして一目散に校庭から走り去り、近場の竹林へと逃げ込んだ。 学校では、授業中突然校庭に降りてきた戦闘機の姿に生徒達が大騒ぎを始め、 授業どころではなくなってしまった。 しかもパイロットらしき黒ずくめの男は、とっととどこかへ逃げてしまった。 服装が学生服っぽかったように見えたが、みんな校舎から見ていたため、 正確な服装を把握する事はできなかった。 警察に通報しつつ、ゼロ戦の様子を見に来た教師達は、 コックピットの座席に落ちている一枚の紙きれを発見する。 そこにはこう書かれていた。 『天皇陛下ヨリ預カリシ零戦ヲ 遅レバセナガラオ返シシマス 海軍少尉天田史郎』 後日、第二次世界大戦中行方不明になった天田史郎少尉の存在が明らかになり、 時代を越えて還ってきた謎の戦闘機として日本中に知れ渡る大ニュースとなった。 どうやら平日の昼間らしく、住宅街を歩く人影はほとんど無かった。 たまに通る車からも、承太郎はうまく陰になってルイズの髪を隠す。 ルイズは日本の建築物やコンクリートの地面に驚きつつ、 案内されるがまま空条家へと向かう。 貴族の屋敷に比べると小さいが、他の一般家屋に比べると広い敷地を持つ空条家を見て、 実は承太郎もこの世界じゃそれなりの家柄の人間なのではと見直したりもした。 久方振りに我が家へと帰宅した承太郎は、とりあえずルイズに玄関で靴を脱がせ、 スリッパを履かせた後、居間へと案内する。 「とりあえずここで待ってな。茶でも淹れてきてやる」 「あ、あの。ジョータロー……」 居間から出て行こうとする承太郎を、ルイズは不安げに止めた。 「わ、私、帰れるかな……? ハルケギニアに」 「……さあな……もう一度日食に飛び込めば帰れるかもしれねーが……正直解らん。 とりあえず小型飛行機の類ならじじいを頼れば調達できるだろうし、 スピードワゴン財団って組織の協力も仰げば何とかなるかもしれん」 「そ、そう」 「……すまないな、巻き込んじまって」 承太郎の謝罪なんていうとんでもないものを聞かされたルイズは、 大慌てで返事を考え、思いつくがままに喋る。 「こ、こんなのヘッチャラよ! それに、あんただって、その、 召喚された時は結構余裕見せてたじゃない? だったら、ご主人様の私も、これくらい余裕よ余裕! あははのはよ!」 「……そうだったな。光の中で怖くないとか言ってたのを忘れてたぜ」 「あっ……」 突如硬直するルイズ。あの時、ええと、何て言ったっけ? 『ジョータローと一緒なら、何が起こったって怖くないんだから!!』 うわ、恥ずかしい。 何か愛の告白にも聞こえない事もないような気が少しだけどするかもしれない。 「あ、ああ、あれは、あれは、その……」 「……何だ? あの時はよく聞こえなかったんでな、聞き間違いや、 聞き逃した部分があるんだったら、今言い直してくれて構わねーぜ」 「え――と、わ、私は虚無の担い手なんだから、何も怖くないって言ったの!」 「そうか」 咄嗟に嘘をついたルイズだが、承太郎はそれで納得したようだ。 いや、もしかしたら、本当は全部聞こえていたのに、イジワルしてるのでは。 何だかムカムカしてきて、何か言い返すものはないかと思考をめぐらせる。 (……あ、そういえば) ピコリーンと閃いた。 「そういえばあんた、あの光の中で、私の事を『ご主人様』って呼ばなかった?」 今度は承太郎が固まる。そして回想する。 『やれやれだぜ。意外とご主人様らしいところもあるじゃねーか……ルイズ』 「何かの聞き間違いだろう。俺はそんな事……一言も口にしてねーぜ」 ルイズはあの時の言葉を全部覚えているのかいないのか、 不適な笑みを浮かべて承太郎の背後に忍び寄ってきた。 「確かに聞こえたと思うんだけどなー。あんたが『ご主人様』って言うの。 それって何? つまり、ついに認めたって事よね? 私が『ご主人様』で、ジョータローが『使い魔』だって事を!」 「……妙な勘違いをするんじゃねー。 だいたいここはハルケギニアじゃないんだ。使い魔なんて存在しねー」 「でも、使い魔のルーン消えてないじゃない。まだ私の使い魔って証拠よ」 言われて左手を見てみると、ガンダールヴのルーンはしっかりと刻まれたまま。 これはこれで便利な能力だが、どうしたものか。 ――と、突然承太郎は脂汗をかき始めた。 「ど、どうしたの?」 「……気分が悪い。どうやら……今頃タバサの茶が効いてきたようだ……」 「え!? だってあんた、おいしいって言ってたじゃない!」 承太郎は知らない事だが、彼がタバ茶七号を飲んだ時、 ガンダールヴのルーンが反応していたのだ。 ゼロ戦を武器として反応していたのか、タバ茶七号を武器として反応していたのか、 それは些細な問題なのでどうでもいい。 重要なのはガンダールヴの力でパワーアップした承太郎の身体は、 タバ茶七号の持つ色々なパワーと奇妙にブレンドして、受け入れる事に成功したのだ。 だからガンダールヴの力が切れて時間の経った今、 タバ茶七号の猛威が承太郎の身体を襲っていた。 「うっ……」 「ちょ、ちょっとジョータロー!?」 突然足がふらつき出した承太郎は、手近にあた棚を掴んで身体を支えようとするが、 引き出しを思いっきり引っ張っただけに終わり、 その中にあった無数の紙(?)を撒き散らせながら倒れこんだ。 「ひゃあっ!?」 ルイズの上に。 195cm、82kgの体重に押し潰され、ルイズは目を回す。 承太郎もタバ茶七号の後遺症で頭痛を感じながら、何とか起き上がろうとする。 両手で上半身を持ち上げ、膝を使って立ち上がろうとして、 偶然――四つん這いの姿勢になる。 その下には、ルイズ。 その周囲には、写真。 ……写真? 「う、うーん……うん?」 何度もまばたきしながら、ルイズは自分の周囲にばらまかれている紙に気づいた。 それを手に取って見てみる。絵、というにはあまりにも精密すぎる絵があった。 「こ、これは……念写した、俺の写真?」 承太郎が呟く。 ルイズは写真を見て、顔を真っ赤にする。 背景は空。青い地面(シルフィードの背中)に座り込みながら、 承太郎の左腕に抱きついてスヤスヤと眠っている自分の姿。 彼等の周囲に散らばっているのは、承太郎の写真ばかりであった。 しかもルイズ、シエスタ、キュルケ、タバサと一緒の写真ばかり。 承太郎は絶句した。 そして、ルイズは承太郎に押し倒されているような体勢になっていると気づき、 顔をトマトのように真っ赤にして悲鳴を上げた。 その悲鳴を聞きつけたのか! 玄関の方からドカドカと二人分の足音がやってくる。 「承太郎!? 帰ってきたの!?」 「何じゃ今の悲鳴は! いるのか、承太郎!」 お母さんとお爺ちゃんとの感動の再会――にはならなかった。 ホリィは見た。ジョセフも見た。 承太郎がー念写に出てきた女の子の一人をー家に連れ込んでー押し倒し中ー。 「か、帰ってきて早々……真昼間から……何て事……」 「ろ、ロリ……ロリコンじゃと!? OH MY GOD!!」 こうして空条承太郎とゼロのルイズの冒険は終わり――。 何だかよく解らない事態に陥った。 あまりにも滅茶苦茶な状況に、冷静で優れた判断力を持つ承太郎も、 誤解を解くだとか事情を説明するなんて行動を取れず、ただ一言こう呟いた。 ――やれやれだぜ。 エピローグ 王女アンリエッタ 兵を率いて出陣した事によりゲルマニア皇帝との婚約は解消されるも、 まさかの大勝利により国民から持ち上げられ女王に就任。 その後もトリステイン王国を率いてレコン・キスタを相手に戦争を繰り広げる。 敗北寸前まで追い込まれるもガリア王国の策謀により戦争は終結。 傷ついた自国を憂い、国民が平和に幸せに暮らせる国造りに粉骨砕身する。 雪風のタバサ 戦争終結後もトリステイン魔法学院に在学。 コルベールの開発したタバコの宣伝のため『煙草王誕生!』なる歌を作曲。 タバ茶ナンバーズも日々改良を重ね、ついにタバサ特製はしばみ茶八〇号を完成。 その味はあまりの凄まじさのため飲んだ者は精神に異常をきたすほどだが、 逆に精神に異常がある者が飲むと正常に戻るため二回飲めば一周して元通りになる。 数々の画期的なタバ茶開発の功績によりはしばみ草愛好会の開発部に誘われた。 タバ茶八〇号を『とある女性』に飲ませたタバサは、失った幸せを取り戻したらしい。 微熱のキュルケ 戦争終結後、色々あってコルベールへの愛を燃やすようになる。 彼のためにタバサにタバコの宣伝ソングを作曲してもらい、キュルケは作詞を担当。 宣伝ソングの効果もあり紙タバコ『ツェルプストー・サラマンダー』は、 ハルケギニア全土で紙タバコブームを巻き起こす。 ツェルプストー家の財力はゲルマニアでも最高のものとなった。 その後はコルベールと釣り合う女性になるためメイジとしての勉学にも励む。 タバサとは学院卒業後も連絡を取り合い、互いに生涯の親友といえる関係を築く。 炎蛇のコルベール 戦争終結後、ツェルプストー家が全面バックアップにつき、 紙タバコやエンジンのみならず様々な機械を発明する。 『煙草王』『発明王』『コッパゲ』という名を歴史に残すほどの活躍を見せる。 色々あって教え子のキュルケに惚れられてしまうが、 彼女が学院を卒業するまでは一切相手をしなかったという。教師の鑑だ。 でも卒業後は不明。 何だかんだで幸せな人生を送る。 青銅のギーシュ タルブの村の英雄として祭り上げられ、シエスタからも尊敬されるようになる。 そのせいでモンモランシーから「今度は平民のメイドなんかに」と誤解を受けた。 学院卒業後は、承太郎達と共に送った冒険が忘れられなかったらしく、 ハルケギニア中を旅して回り人間的にもメイジとしても成長。 クイーン・ワルキューレの他に、様々な形態の開発にも成功している。 ゲッター・ワルキューレ。ジェネシックワルキューレ。ゴッドワルキューレ等。 しかしどれもこれも色物ゴーレムばかりで、あまり強くなかったと言われている。 だがタルブの村では竜の羽衣に代わり、 全種類のワルキューレの銅像が寺院に奉られるようになったそうな。 その中にスターダスト・ワルキューレと呼ばれる銅像があり、 ギーシュの友人が操っていたゴーレムがモデルと言われているが真偽は定かではない。 シエスタ トリステイン魔法学院でメイドを続け、休暇には実家に帰るという日々を送る。 時々キュルケ、タバサ、ギーシュとコルベールがヨシェナヴェを食べに厨房を訪れ、 コック長のマルトーも彼等と交流する事で貴族への偏見を緩和させる。 特にギーシュからご贔屓にされる事が多かったため、 モンモランシーから誤解を受け一時期目の敵にされるが、 ギーシュ達三人がシエスタをかばい、貴族と平民の身分を越えた友情で結ばれる。 承太郎との思い出を生涯大切に抱き続けた。 ゼロのルイズ 桃色の髪は目立つという事で、来日早々黒く染められる事になる。 スピードワゴン財団にハルケギニアへ帰る方法を探してもらいつつ、 秘密裏に設立された魔法研究部門への協力。 地球における科学の発展に触れ、数ヶ月ほど田舎物丸出しなんてレベルではなかった。 帰るめどが立たないためフランス系アメリカ人という国籍をスピードワゴン財団が捏造。 晴れて地球人となる。 しかし日本語しか理解できないため、数年間空条宅に居候をしつつ、 日本語の文字を覚えた後は大学に通い地球と日本の常識や知識を勤勉に学んだ。 メイジであるためスタンドは見えるがスタンド使いではないため、 スタンド使いは引かれ合うという法則に該当せず日常生活は平和。 ハルケギニアに残した家族や友人達の元へ帰ろうと、 始祖の祈祷書やスピードワゴン財団を利用し様々な努力をした。 しかし帰るチャンスが訪れた時、帰るべきか帰ざるべきか三日三晩悩んだという。 空条承太郎 スピードワゴン財団が報告してくるスタンド関連の事件解決に協力しつつ、 真面目に勉強をし某一流大学にを卒業、晴れて海洋冒険家となった。 後にアメリカ国籍の女性と結婚し女児を授かる。 だが海洋冒険家とスタンド使いという境遇が承太郎に平穏な生活を許さず、 妻子の待つ家にほとんど帰れなかったため、円満な家庭を築けず離婚してしまう。 だが後年、DIOの意志を継ぐ邪悪が動き出し、娘とその仲間の協力を得て戦う。 スタープラチナとガンダールヴの能力、そして娘のスタンドと、 彼女が母親から受け継いだもうひとつの能力に助けられ、 時を加速させ新世界を目指したスタンドに辛くも勝利を収める。 この戦いにより父への愛情を取り戻した娘に、気性の激しい元妻との仲を取り持たれ再婚。 今度こそ幸せな家庭を築いたようだ。 第一部 スターダストファミリアー 完
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8848.html
前ページ次ページデュープリズムゼロ 第二十五話 『閃光』 「フム…圧倒的ですな陛下。」 眼前にて繰り広げられるトリステイン軍と神聖アルビオン王国軍の戦闘を見やり裏切りの子爵ワルドは冷酷な笑いを浮かべて同じく戦場を見つめるクロムウェルへと声をかけた。 「あぁ、だが予想よりもトリステイン軍は健闘しておるようだな。どうやら王女自ら前線に立っている事が奴らの士気を高めておるのが大きいか。」 「ですが既にレキシントンある限り制空権は絶対的に我等の物です。それに…ククク…私よりも腕の立つ幻獣のりはトリステインには居りませんからな。」 「ハハハ、頼もしいな子爵。」 ワルドの言にクロムウェルは上機嫌に笑う。神職に就いていたこの男には戦の事はよく分からない部分であったが自軍が圧倒的に有利なのは素人目から見ても理解が出来る。 もはや制空権を奪われたトリステインはそれを覆さぬ限りどれだけ勇猛果敢に奮戦しようと勝てる見込みはあろう筈も無い… 「フム…しかし子爵、君はどこか退屈そうに見えるな。」 「はい、恥ずかしながら私はどこまで行っても所詮戦士ですからこれ程までに一方的な戦は些かに退屈でして…」 「ハハハ、勇ましい事だな。」 曖昧な取り繕った笑顔でクロムウェルにそう言ったワルドは義手で強く拳を握ると視線は遠く、地平線に隠れそうな魔法学園を恋い焦がれるような思いで見つめていた… (どうしたガンダールブ、ルイズ生きているのならば私の前に現れて見せろ!!) 「『ハッ……クシュンッ!!!』……う゛~…誰かあたしの噂でもしてんのかしら…」 盛大なクシャミを一つしてミントは高高度の冷えた風を浴びて思いの外冷えた自分の身体を抱くようにして前方の船団を睨みながらヘクサゴンを飛ばす。 「それもこれも全部あいつ等のせいよ…ボコボコの地獄巡り決定ね。」 ミントの乗るヘクサゴンは魔法学園からこの戦場へと直行してきた為、偶然とは言え丁度トリステイン軍と真正面から戦闘を行っているアルビオン軍の柔らかい横腹をつくような形で戦域へと進入している。 当然とも言えるが真っ赤に塗装されたヘクサゴン(スカーレットタイフーンエクセレントガンマ)の姿は晴れ渡った青空に良く映え、アルビオン艦隊の一隻が自分達に結構なスピードで接近するミントは捉えて迎撃態勢へと移行する。 「未確認飛行体本艦へと接近!!」 「伏兵か!?少なくとも味方では無い、カノン砲発射、用意急げよ、打ち漏らした場合は速やかに火龍隊で迎撃に当たれ!!」 見張りの報に艦長は素早く判断を下すと適切と思われる指示を風の魔法に乗せて全乗組員へと伝える。 「アイサー!!」 統率の取れた動きでカノン砲が接近する目立ってしょうが無い目標へと向けられると接近するヘクサゴンが射程範囲に収まるのを船員達は今か今かと待ち構えるのだった。 「よぉ相棒、やっこさんこっちに気が付いたみたいだぜぇ。」 ミントの背中で暗にこのまま行くのか?とでも言いたげにデルフが鍔を鳴らす。勿論目の前の軍艦が側面にずらりと並んだ砲塔をこちらに向けている事などミントも判っている。 だが、高度を上げるのも下げるのもまして転身後退などという選択肢はミントは持ち合わせてはいない。前進突破あるのみ、立ちふさがる物は撃滅必至!!いつだって多少の狡猾な打算と共にミントはそうしてきた。 軍艦から轟音と共に吐き出された鋼鉄の砲弾は何かしらの魔法の補助なのか、はたまた砲兵の練度の高さ故なのか幾つかの砲弾がミントへの直撃の軌跡を描いて飛来する。 「ヘクサゴン!!」 ミントの声紋に反応してヘクサゴンはその一対の蛇腹の豪腕を振り上げミントの乗る背中を守るように交差させる。 『ズドォォォ~~ンッ!!!!!!!』 という轟音と共に揺さぶられた足下にミントはぐらついた足を踏み込んで体勢を整える。 「危ない危ない、結構揺れるもんね…」 事も無げに言ってミントは前方の軍艦を睨む。直撃を受けたヘクサゴンの腕部といえば… 「命中、直撃です!!」 ヘクサゴンへの砲撃の着弾を確認した観測主が喜色入り交じった声を上げる。すると軍艦の内部で、歓声と口笛が沸き上がり、隣に立つ戦友とハイタッチを交わす砲兵達。 「良くやった!!だが警戒を怠るな!!」 その様子を満足げに見つめていた艦長はだが一度声を張り上げると各船員達へ檄を飛ばす。 有能な軍人である彼の言葉に喜びもつかの間、船内に再び程よい緊張と覇気が満たされ各員が再びそれぞれの軍務へと戻る…そして… 「艦長!!未確認飛行物体、尚も接近中です!!………しかも……ダメージ、ありません!!!!」 「何だとぉっ!!!」 観測主の報告に艦長は驚愕を隠す事も無く声を上げた… ミントは砕け散った砲弾から発生した独特の匂いのする煙を突き抜け、一気に自分の魔法の射程距離まで軍艦へと接近する事が出来た。最早射角の都合上カノン砲は役には立たない。 「相変わらずこいつは頑丈ね。」 ミントはデュアルハーロウを構えながら足下を、つまりはヘクサゴンの背中をみやり呟いた。 かつて何度かベルが自分にヘクサゴンを差し向けてきた時も全力の蹴りをぶちかまそうが強烈な魔法をぶち込もうが結局ヘクサゴンにはダメージらしいダメージを与える事すら出来なかった。 そんなヘクサゴンが唯の砲弾の直撃ごときでどうにかなろう筈も無い。『ヘクサゴンに弱点は無いよっ!』とはベルの言葉だったが結局の所ヘクサゴンを止めるには背に陣取った操者を倒すしか無いのだ。 「相棒、上から来るぞっ!!」 デルフの声に従ってミントは魔力の螺旋を頭上に掲げる…そこには目の前の軍艦から出てきたのであろう火龍に乗ったメイジが二組急速接近していた。 「上等よ!!」 火龍の口から放たれた灼熱の吐息…それを容易く霧散させ、ミントの放った『緑』の魔法タイプ『サークル』『サイクロン』立ち上る竜巻は火龍の巨体二体を纏めて錐揉み状に吹き飛ばし、その意識を刈り取った。 ___トリステイン軍 本隊 「このままじゃ…」 ルイズは戦装束を身に纏ったアンリエッタの直ぐ側で歯痒そうに上空を見上げて言葉を漏らしていた。 『このままじゃ負けちゃうわ。』そう最後まで言葉にはしなかった物のルイズの…否、アンリエッタにも慌てて戦列に加わったマザリーニ卿にも戦場に居る誰もがその事を悟り始めている… 太陽を遮り、影を大地に落とす軍艦の群れ…陸上では何とか均衡を保てているようでも砲撃と火龍等の航空戦力の前では碌な準備も出来ていないトリステイン軍には些かに厳しい闘いであった。 前線は後退し、国内に残されていた魔法衛士隊の幻獣達も傷つき戦列を離れていく… それを認め、アンリエッタも無論マザリーニを始め各将校達の表情は苦い… ルイズはその戦場という物を恐怖と共に体感しながら少しでも強く始祖への祈りが届くようにと水のルビーを身につけ、始祖の祈祷書を抱いて瞳を閉じると祈りを捧げる… 『おぉぉっっ!!!』 と、突然兵士達の間に歓声に近いような響めきが響いたことでルイズは目を開く…周囲の人達の視線は一様に上空、ルイズ達から見て左舷の方向へと向けられていた。 「あれ…は?」 ルイズの目に映ったのは燃え上がるメインマストに、まるでゴーレムの豪腕で抉られたように傷ついた船体が徐々に高度を下げながら積載していた火薬類に火が回ったのか派手に爆散していく光景だった。 その光景によって火が付いたように兵達の歓声が沸き上がる。 アンリエッタも少しの困惑と大きな安堵に絶望に打ちひしがれそうだった気持ちを何とか繋ぎ止めた。 全員の視線は自然、何があのアルビオン艦に起きたのかを確認しようとその周囲の空を注視するがそんな中、誰よりも早くその姿を発見したのはルイズだった。 空を行く赤い巨体は接近する火龍や風龍を叩き落とし、あるいは握りつぶし。迫る砲弾さえ意に介さずひたすらに敵陣中央を突破していく。 「ヘク…サゴン…」 ルイズはそれが先日までミントが自分を置いて冒険した末に何処かから拾ってきたガラクタだと認識するとその名を口にする。 (でも何で赤いのかしら…?) そしてルイズの呟き、それを耳ざとく聞いていたのはマザリーニだ… 「諸君聞け!!空を行くあの紅の暴風こそかつてエルフすら震撼させたブリミルの遺産『ヘクサゴン』だ。我がトリステインの危機にブリミルが答えたのだ!!この戦勝てるぞ、各々今一度奮い立て!!」 無論マザリーニはそもそもヘクサゴンが何なのか知りもしない。口から出たのは戦意を高揚させる為だけの出任せである。 『ウオオオォォォォォ~~~~~~!!!!!』 士気が低下していた兵士達に再び闘志が宿る。 「マザリーニ様、あれは「ヴァリエール嬢、アレが例え何であれ今は関係ないのですよ。」」 マザリーニはそう言ってルイズの言葉を遮ってまるで誤魔化すように気恥ずかしそうに軽く笑った。ルイズは何とも言えぬ思いを抱きながらも高揚する兵士達に気圧されて呆れた様な苦笑いを浮かべるしか無い。 「ルイズ、もしやアレは?」 「はい。恐らくミントです姫様。」 ユニコーンの背から馬上のルイズの耳元に口を寄せたアンリエッタの問い。それは答えに半ば確信めいた物を持っていた。 そしてルイズもそれが他の兵達に伝搬しないよう小さな声で、しかし力強くアンリエッタに答えると上空を見上げる。また一隻、アルビオンの軍艦の船底にヘクサゴンの豪腕が突き入れられた… 「やはりそうですか……」 「姫様…わたくし…」 ルイズはアンリエッタを真っ直ぐに見つめ、アンリエッタもまたルイズのその真っ直ぐな瞳から何を伝えたいのかを何となく理解していた。 「えぇ、ここまでわたくしに付き添ってくれてありがとうルイズ。行って下さい、メイジと使い魔は一心同体。いえそれ以上にわたくし達の友人の為に…わたくしはここまでに貴女達に十二分に勇気を分けて頂きましたから。」 「はっ!!ありがとうございます!……行ってきます姫様。」 戦場に似つかわしくない柔らかで暖かい笑顔でルイズを促すアンリエッタ。それにルイズは臣下の礼と友人としての態度を持って答えると意を決し、馬の腹を蹴る。 手綱をグイと力を込めて引いた。ルイズを背に乗せた馬は前脚を擡げて嘶くと引き絞られた矢のように戦場へと駆けだしたのだった。 ___レキシントン甲板 ワルドは伝令より伝えられたその情報に両の手を握りしめ微かに震えていた…怒りでも恐怖でも無く、無論歓喜でも無く…もしかするとその全てであったのかも知れないがとにかくわるどの身体は闘いを前に溢れ出る感情に打ち震えていた… 伝令の報告は__曰く、空を飛ぶ赤いゴーレムの進撃を受けている。 曰く、物理攻撃は一切通用せず、さりとて魔法を放てども魔法は何故か何かに吸い込まれるように掻き消されてしまいその勢いは留まる事を知らないと。 曰く、ゴーレムの背では剣を背負い、一対の金環を手にした少女があり得ぬ魔法を行使して艦を落としていると… ワルドは己の心の赴くままに足を運び始める。その先はレキシントンの甲板後部、火龍や風龍を係留しているエリアである。 報告と予想だにしていなかった緊急自体に狼狽えるクロムウェルが何か訴えるように声をかけてくるがもはやワルドの耳には夜耳元で飛ぶ蚊の羽音並みに鬱陶しいだけであった。 臣下の礼はとっているもののワルドはクロムウェルを皇帝の器と認めてはいなかった… 「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド!風龍で出るぞ!!」 勇ましく出陣の名乗りを上げてワルドは風龍の手綱を引いた。ハルケギニア最速の飛行生物はその翼を広げて真っ直ぐ情報へと飛翔する… 「フハハハハハッ待っていろ…ガンダールブッ!!!」 アルビオンで切断された右腕…本来痛みなど最早感じぬ義手となった筈の右腕に走る確かな痛みに口元を歪ませてワルドは笑いながら戦場へと飛翔した。 水蒸気の塊である雲の中、ミントは濡れた髪が頬に張り付いてくる事を煩わしく感じながらもアルビオン艦隊の中央を唯々強引に圧し進む!! 「見つけた、あれが本命ね!?」 幾つかの軍艦を墜として雲を抜けたミントはようやくレキシントン号のその巨大な姿をはっきりと視界に捉えた。 しかしミントとて流石にずらりと並ぶ砲門からの斉射は怖いのでレキシントンよりも高い高度を維持する。もっとも恐れるべきは振動故のヘクサゴンからの落下なのだから。 「見つけたぞ、ガンダールブ!!!」 と、レキシントンを見下ろす形を取っていたミントの更に上空から何者かの怒声と共に凄まじい速度で風龍がミントの視界を横切った。 「あんたは…ワルドッ!?」 一瞬とは言えミントははっきりとそれが誰で在るかを確認していた。自然と表情は不機嫌な物になる、生きているとは思っていたが出来れば二度と出会いたくは無かった男だからだ。 「嬉しいぞガンダールブ、再び相まみえる事が出来るとは!!」 「しつこいわよ!!」 ワルドが放ったエアカッターをミントはデルフで吸収するとヘクサゴンのソーサルドライブを全開にしてワルドの駆る風龍を追う…現状、ミントの魔法の射程範囲には若干遠いし追尾性の高い魔法でも風龍相手では分が悪い… しかしハルケギニア最速は伊達では無い…ヘクサゴンではスピードにおいて風龍との間に埋まりそうに無い差が存在していた。 そしてさらにミントにとって喜ばしくない事態が迫る。 「ワルド殿!!助太刀します!」 ワルドの後を追って出て来たのであろう如何にも練度の高そうなメイジがそれぞれ飛龍に乗って四人ワルドの援護に現れたのだ… ミントはこの厄介な状況に内心歯がみした… しかしここでミントの予想だにしない事態が続けて起きる事となった… 「邪魔を…するなっ!!!」 ワルドは自分に追従する編隊を組む為に近づいてきた部下に当たる筈のメイジ達をあろう事か、一瞬の内に発生させた偏在達でそれぞれ首を撥ね、心臓を貫き、その飛龍達を強奪したのだった。 まさか味方に攻撃されるなどとは思っていなかったメイジ達は「何故?」等という言葉を残す間もなく眼下に広がる緑の大地へと落下していく。 「あんた相変わらずね…」 ワルドの外道な行いに憤りを隠せずミントは避けられる事を承知で魔法を放つ。 「フン、どうせ奴らはクロムウェルの虚無で人形として蘇る!!死ぬ事で私の役に立てるのだ…哀れに思うなら素直に首を差し出せガンダールブ!!」 「ふざけた事いってんじゃないわよっ!!」 魔法による五方向からの同時攻撃、ヘクサゴンのボディがワルドのエアハンマーとウインドブレイクで大きく揺れる… ミントも自身に襲いかかるエアカッターをデルフで凌ぐがここまで統率が取れた連携を相手にするのは骨が折れるであろう事は容易く察する事が出来た。 「ガンダールブ、貴様がフライを使えぬ事を私は知っているぞ!!そんな貴様が空で私に勝てる通りは無い!このまま奴らのように地面に叩き付けてくれる!!」 「くそっ…一対一で戦いなさいよ!!この卑怯者!!」 四方向からの同時攻撃を何とか凌ぐミント…だが 「相棒、上だ!!」 ミントの認識の外からの攻撃にデルフの注意が響く。 「とったぞっ!!!」 詠唱しながら飛龍の背から飛び降り、自由落下を駆使した偏在ワルドの上空からの特攻… ミントは咄嗟にデルフリンガーを振るったがワルドが唱えていた魔法は『エアニードル』唯一デルフの魔法吸収を凌ぐ魔法… 刹那の交差… ワルドの偏在は霞に消えた… そして… 「げげっ!」 「あ~れ~~~。」 一度高く舞い上がった後で空を切り裂くように真っ逆さまに落下していくデルフリンガーの間抜けな声が戦場に響いた。 「ここまでだなガンダールブ。」「切り札を失った貴様はもう終わりだ。」「まずは腕を切り落とす。次は足だ。」「散々なぶった後で一思いに地面に叩き付けてやろう。」 四人となったものの勝利を確信したワルドが口々にそんな下卑た言葉をミントに向けてイヤらしく笑う。その姿はもはや貴族では無く唯の外道だ。 「何言ってんの…切り札?デルフが?」 「何?」 とさっきまで少なくともワルドから見ても狼狽えたような調子だったミントが再び冷静な様子を取り戻す…否、それは闘いの中でする賭けに対し腹を括った様に見て取れた。 ミントは素早くデュアルハーロウを構えるとそのままいつでも魔法が放てる体勢に移行する。 「ライトニングクラウド…討ってきなさい。あたしの魔法とあんたの魔法どっちが早いか勝負しようじゃない…」 「…良かろう、この『閃光』に早さで挑むか…おもしろいではないか。」 ワルドは知らず感じた圧力と精神の高ぶりにに思わず唾を飲み込むと、本体含め全員でライトニングクラウドの詠唱を行う。幸いと言うべきかミントの真正面のワルドは偏在なのだ… 次の瞬間、トリステインの上空には轟音と共に以降、『裁きの雷』と評され伝説とされる小さな紫電を伴った『眩き閃光』が走った。 前ページ次ページデュープリズムゼロ
https://w.atwiki.jp/codmw3wiki/pages/52.html
概要 登場人物TF141 -DISAVOWED- ロシア体制派(Royalist) デルタフォース アメリカ合衆国政府 SAS(Special Air Sevice) ロシア連邦警備庁(FSO) ロシア政府 GIGN 超国家主義派(Ultranationalist) その他 ミッション一覧BLACK TUESDAY/暗黒の火曜日 HUNTER KILLER/ハンターキラー PERSONA NON GRATA/歓迎されざる人物 TURBULENCE/乱気流 BACK ON THE GRID/再び舞台へ MIND THE GAP/足下に注意 DAVIS FAMILY VACATION/デービス一家の休日 GOALPOST/ゴールポスト RETURN TO SENDER/返送 BAG AND DRAG/大捕物 IRON LADY/鋼鉄の淑女 EYE OF THE STORM/台風の目 BLOOD BROTHERS/血の盟友 STORGHOLD/城塞 SCORCHED EARTH/焦土 DOWN THE RABBIT HOLE/ウサギの穴へ DUST TO DUST/塵は塵に 概要 ウラジミール・マカロフ率いるロシアの超国家主義派と、アメリカ軍のシェパード大将の陰謀で引き起こされたアメリカとロシアの戦争は、タスクフォース141とアメリカ軍の活躍で終結しつつあった。しかしマカロフは西側世界に更なる打撃を与えるため、ヨーロッパ諸国に狙いを定める。マカロフの野望を打ち砕き、世界の平和を取り戻すため、プレイヤーはTF141やデルタフォース、SASの一兵士として戦うことになる。 登場人物 TF141 -DISAVOWED- タスクフォース141。世界中の特殊部隊から選り抜かれたエリート達で構成される対テロ部隊。アメリカ軍のシェパード大将が指揮していたが、彼の陰謀により多くの隊員が殺害され、権限も剥奪された非合法部隊になってしまった。 ユーリ/Yuri 英語版声優:ブライアン・ブルーム 吹き替え版声優:江川央生 TF141編の主人公。元スペツナズで、マカロフを憎んでいる。 ジョン・ソープ・マクタヴィッシュ/John "Soap" McTavish 英語版声優:ケビン・マクキッド 吹き替え版声優:岡林史泰 SAS出身のエリート兵。前作ラストで重傷を負ったが一命を取り留めた。 ジョン・プライス/John Price 英語版声優:ビリー・マーレイ 吹き替え版声優:石塚運昇 ソープと同じくSAS出身。数々の修羅場を潜り抜けている老兵。 ロシア体制派(Royalist) ロシア政府を支持し、超国家主義派と敵対するロシア人の一団。ロシアの世論が超国家主義に傾いてもなお西側と協力し戦っている。 ニコライ/Nikolai 英語版声優:スヴェン・ホルムベルイ 吹き替え版声優:大塚芳忠 ロシア人の元スパイで、豊富な人脈や物資を駆使してTF141を支援する。 移動や作戦の下準備などはお手の物で、稀に戦闘に参加することもある。ソ連時代にアフガニスタンで従軍経験あり。 カマロフ/Kamarov 英語版声優:マーク・イヴァニール 吹き替え版声優:林一夫 元ロシア陸軍某特殊部隊隊長。ニコライの上官だった。 CoD4においてSASと海兵隊の作戦に協力し、今作ではチェコのレジスタンスと共にTF141を支援する。 デルタフォース アメリカ陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊。アメリカ軍の切り札として戦局を左右する数々の重要な任務に従事する。 デリク・"フロスト"・ウェストブルック/Derek "Frost" Westbrook デルタ編主人公。二等軍曹。 サンドマン/"Sandman" 英語版声優:ウィリアム・フィクナー 吹き替え版声優:鈴木達央 デルタフォースの曹長。 トラック/Truck 英語版声優:イドリス・エルバ 吹き替え版声優:楠大典 黒人の一等軍曹。機関銃などで部隊を支援する。別行動を取ることが多い。 グリンチ/Grinch 英語版声優:ティモシー・オリファント 吹き替え版声優:間宮康弘 ベースボールキャップを被っているためよく目立つ一等軍曹。MK14ライフルを愛用する。軽口と愚痴が多い。 グリズリー/Grizzly デルタフォース、アンヴィルチーム隊長。サンドマンらメタルチームと合流後、共にニューヨーク証券取引所の入り口を確保。 メタルチームにジャマーの破壊を任せ、自らは部下を率いて証券取引所のロビーを保守する。 SEALsチームリーダー 吹き替え版声優:井上剛 オスカー級潜水艦強襲作戦で、メタルチームを誘導、支援したSEALsチームのリーダー。 オーバーロード/Overlord 英語版声優:ブルース・グリーンウッド 吹き替え版声優:立木文彦 アメリカ中央軍情報司令部からアメリカ軍全体を指揮する総司令官。 AC-130パイロット 吹き替え版声優:石川ひろあき AC-130TVオペレーター 吹き替え版声優:西凛太朗 AC-130火器管制士官 吹き替え版声優:田中理恵 A-10パイロット 吹き替え版声優:甲斐田裕子 アメリカ合衆国政府 アメリカ合衆国大統領 吹き替え版声優:小川真司 アメリカ合衆国大統領にしてアメリカ軍の最高司令官。 オーバーロードに対し、マカロフに繋がる重要な情報を持った唯一の生き証人であるヴォルクを、 あらゆる手段を用いて生きたまま連行するよう指示する。 戦時下にあるため、再建中のホワイトハウスの地下シェルターから政権の行使ならびに軍への指示を行っている模様。 SAS(Special Air Sevice) イギリス陸軍特殊空挺部隊。対テロ戦闘のエキスパート集団。ロンドンで超国家主義派のテロを阻止するため出動する。 マーカス・バーンズ/Marcus Burns SAS編の主人公。階級は軍曹。 ウォールクロフト/Wallcroft 英語版声優:クライグ・フェアブラス 吹き替え版声優:白熊寛嗣 CoD4にSAS隊員として貨物船作戦に参加していた兵士。北米版及び字幕版では過去作に登場したGaz、Ghostと同じ声優が担当。 グリフィン/Griffin 英語版声優:ジェームズ・パトリック・スチュワート 吹き替え版声優:遠藤大智 同じくCoD4で登場した兵士。 マイヤーズ/Meyers 吹き替え版声優:森一丁 SAS隊員 フレミング/Fleming SAS隊員 レッドグレーブ/Redgrave SAS隊員 ベースプレート/Baseplate 英語版声優:トニー・カラン 吹き替え版声優:菅生隆之 SAS司令官。その正体はかつてプライスと共にザカエフ暗殺作戦を行った歴戦の兵士。プライスを通じTF141を支援する。 ロシア連邦警備庁(FSO) ロシアの国家機関。和平交渉に赴く大統領を警備する。 アンドレイ・ハルコフ/Andrei Harkov FSO編主人公。 レオニード・プドフキン/Leonid Pudovkin 吹き替え版声優:乃村健次 FSOの隊長。 アントン・フェドロフ FSOの隊員。 ロシア政府 ボリス・ワルシャフスキー/Boris Vorshevsky 英語版声優:デヴィッド・アンソニー・ピッズト 吹き替え版声優:内田直哉 ロシアの大統領。戦線が拡大し続けるばかりの戦争に懸念を覚え、和平に動こうとする。 アリョーナ・ワルシャフスキー/Alena Vorshevsky 吹き替え版声優:植田佳奈 大統領の息女。 GIGN フランス国家憲兵隊・治安介入部隊。 セイバー/"Sabre" 吹き替え版声優:陶山章央 GIGNの隊長。デルタフォースと共にヴォルクを追跡する。部下のほとんどを毒ガス攻撃で失った。 ファコン/Faucon GIGNの隊員。セイバー、サンドマンらと行動を共にする 超国家主義派(Ultranationalist) ロシアの過激な愛国主義集団。世界中の過激派と手を組み、ロシアが世界を支配する為に非道なテロを繰り返す。 MW2以降のロシアでは国民的支持を受けており、ロシア政府にも強い影響力を持つ。 ウラジミール・R・マカロフ/Vladimir R. Makarov 英語版声優:ロマン・ワルシャフスキー 吹き替え版声優:藤原啓治 前作に引き続き登場。ザカエフの遺志を継いでるかのようだが、その実は冷酷な利己主義者である。 西側諸国を破滅させる暗躍する。 ヴィクトール・"ヴォルク"・フリステンコ/Viktor "Volk" Khristenko 吹き替え版声優:麦人 マカロフの部下。アフリカで製造した毒ガス兵器をフレガータ工業を通じてヨーロッパ中に流通させた。 アレクシー/Alexi 吹き替え版声優:諏訪部順一 マカロフの部下。チェコの古城に潜伏し、大統領の息女を誘拐する部隊を派遣する。 イムラン・ザカエフ/Imran Zakhaev 吹き替え版声優:若本規夫 超国家主義派の指導者。 スターリン主義の信奉者で、ロシアをかつてのソ連の様に強大な国家にするために兵士達を率いて活動。 CoD4で核ミサイルを巡る激戦の末、ソープに射殺された。 MW2以降のロシアでは国民的英雄になっており、その名を冠した空港まである。 その他 ワラーベ/Waraabe 吹き替え版声優:志村知幸 ソマリア・ボサソの民兵集団のリーダー。地元の港湾施設を管理している。 シェパード大将/Gen.Shepard アメリカ軍の将軍。CoD4で中東に進撃した海兵隊を指揮していた。 その際超国家主義派が引き起こした核爆発により三万人の部下を失い、その事態を傍観した世界を憎むようになった。 MW2において、自身の理想とする国粋的なアメリカを創るためにマカロフを利用してロシアとの戦争を引き起こしたが、 最終的にはソープとプライスの報復により死亡する。 ミッション一覧 + ネタバレのため収納 BLACK TUESDAY/暗黒の火曜日 8月17日/10 18/デリク・フロスト軍曹/デルタフォース/マンハッタン,ニューヨーク 激戦の末ワシントンDCを奪還したアメリカ軍だったが、ニューヨークを始めとする東海岸の多くは未だロシア軍の支配下にあった。 デルタフォースは自軍の電子支援を妨害している敵の広域ジャミング施設を破壊すべく、壊滅したウォール街に向かう。 ミッション名は世界恐慌の引き金となった日を指す「ウォール街大暴落 (1929年)」から。 HUNTER KILLER/ハンターキラー 8月17日/16 32/デリク・フロスト軍曹/デルタフォース/ニューヨーク港 マンハッタン島を制圧したアメリカ軍は、ニューヨーク湾に陣取るロシア艦隊を無力化する事を試みる。 デルタフォースとSEALsは敵司令部を兼ねているオスカー型潜水艦を海中から強襲し、 巡航ミサイルのコントロールを奪取しようとする。 ミッション名は航空対潜水艦作戦の事。 第2次世界大戦頃までは、探知装置を装備した「ハンター」役と、攻撃兵器を装備する「キラー」役が、 チームを組んで対潜水艦戦を行なっていた。 PERSONA NON GRATA/歓迎されざる人物 8月17日/9 51/ユーリ/TF141/インド,ヒマーチャル・プラデーシュ 重傷を負ったソープをなんとかインド北部のセーフハウスまで移送したプライスとニコライ。 しかしソープの容態は一向に安定せず、更にマカロフの部隊にも捕捉され一刻の猶予も無い状態にあった。 プライス、ニコライ、そして新たに仲間に加わったユーリはロシア体制派の援護のもと安全な場所へ脱出するため敵部隊に立ち向かう。 ミッション名は外交用語ペルソナ・ノン・グラータから。 TURBULENCE/乱気流 10月3日/18 30/アンドレイ・ハルコフ/ロシア連邦警備庁/IL-96-300PU-コマンドポイント アメリカ本土の戦闘が終結してから一ヶ月半。 反アメリカに染まったロシア世論とは裏腹に、ワルシャフスキー大統領は和平を模索していた。 厳重な警備に守られながらハンブルグの和平会議に向かう大統領専用機だが、侵入していた超国家主義派にハイジャックされてしまう。 BACK ON THE GRID/再び舞台へ 10月5日/18 27/ユーリ/TF141/アフリカ,シエラレオネ ロシア大統領の失踪がマカロフの仕業であると読んだTF141は、超国家主義派の次の計画を阻止するべく動き出す。 ユーリの情報を元に、シエラレオネでマカロフが輸送させている貨物の正体を探るが後一歩という所で逃げられてしまう。 MIND THE GAP/足下に注意 10月6日/04 11/マーカス・バーンズ軍曹/SAS 第22連隊/ロンドン,カナリア埠頭 フランスの情報機関から、ロンドンに不審な貨物が搬入されているとの情報がSIS(イギリス情報局秘密情報部)に寄せられる。 安全保障上の脅威と判断したSISは、SASに出動を要請。作業が行われている港湾施設を襲撃させる。 ミッション名は、ロンドンの地下鉄で年がら年中流れているアナウンスから。 DAVIS FAMILY VACATION/デービス一家の休日 休日を利用してロンドンに遊びに来たデービス一家。しかし運悪く超国家主義派の毒ガステロの現場に居合わせてしまう。 父親のハンディカメラにテロの一部始終が記録されていた。 GOALPOST/ゴールポスト 10月6日/13 01/デリク・フロスト軍曹/デルタフォース/ドイツ,ハンブルグ 超国家主義派の毒ガステロにより欧州の政府・情報機関が混乱する中、畳み掛けるようにロシア軍がヨーロッパ全土を総攻撃。 統制を失った欧州各国軍は為す術なくロシア軍の侵略を許してしまう。 アメリカ軍は戦火に包まれたハンブルグに取り残されたアメリカ副大統領を救出すべく、デルタフォースを載せた揚陸部隊を派遣する。 ミッション名の「GOALPOST」とは副大統領のコードネームである。 RETURN TO SENDER/返送 10月8日/09 30/ユーリ/TF141/ソマリア,ボサソ SAS司令官と連絡を取ったプライスは、毒ガス兵器がソマリア・ボサソから輸送された事を知る。 マカロフの手がかりを探るため、TF141はPMCの兵士達と共にボサソの港湾施設を強襲。 施設を取り仕切るワラーベを尋問する。 ミッション名は郵便配達などで宛先不明等により返送することを意味する。 BAG AND DRAG/大捕物 10月8日/14 10/デリク・フロスト軍曹/デルタフォース/パリ,モンマルトル丘 ワラーベから兵器の受け渡しがパリで行われた事を知ったプライスは、情報をサンドマンへと伝える。 パリ市内に潜伏している超国家主義派のエージェント・ヴォルクがマカロフに繋がると判断したデルタフォースは、 GIGNと共にヴォルクを追跡する。 IRON LADY/鋼鉄の淑女 10月9日/07 42/デリク・フロスト軍曹/デルタフォース/フランス,パリ ヴォルクを確保したデルタフォースだが、迎えのオスプレイが撃墜されたため別の回収地点へと向かう。 既に市内の制空権を確保したアメリカ軍は、AC130とA10の爆撃で一行を援護する。 ミッション名の「IRON LADY」とはエッフェル塔の呼び名である。 EYE OF THE STORM/台風の目 10月10日/21 36/ユーリ/TF141/チェコ共和国,プラハ ヴォルクから聞き出した情報により、プラハのホテルでマカロフが幹部と会合を行う事が判明した。 TF141はマカロフを始末すべく、レジスタンスの手引きでロシア軍占領下のプラハに潜入する。 BLOOD BROTHERS/血の盟友 10月11日/07 01/ユーリ/TF141/チェコ共和国,プラハ マカロフの現れたホテルを襲撃するプライスと、隙を見て狙撃を試みるソープとユーリ。 しかしマカロフは攻撃を事前に察知しており、潜入していたカマロフを拘束しプライスの目の前で爆殺。 更に狙撃地点の教会も爆破されてしまう。 ユーリを庇って深手を負ったソープを運びながら、敵だらけのプラハ市内を脱出する。 ユーリの回想 ユーリはかつて超国家主義派の一兵士であり、マカロフの友でもあった。 愛国心に燃えるユーリはザカエフの指導下でテロ活動を行うが、権力を得ると共に狂気に染まるマカロフと距離を取り、 西側と内通するようになる。 そして空港襲撃事件の直前、裏切りを知ったマカロフに撃たれるも一命を取り留め、虐殺を阻止しようとする。 STORGHOLD/城塞 10月12日/22 48/ユーリ/TF141/チェコ共和国,プラハ ソープを失ったプライスは、かつての戦友であるSAS司令官・マクミランに援助を求める。 ユーリとマクミランからの情報を元にプラハ郊外の古城が怪しいと睨んだプライスは、パラシュート降下で古城に潜入する。 SCORCHED EARTH/焦土 10月13日/10 18/デリク・フロスト軍曹/デルタフォース/ドイツ,ベルリン 古城での作戦により超国家主義派がロシア大統領の息女・アリョーナを追跡している事が判明した。 彼女が敵の人質になれば、ロシア大統領は核ミサイルの発射コードをマカロフに渡してしまう危険がある。 アリョーナがベルリン市内に隠れている事を突き止めたデルタフォースは、ドイツ陸軍と共に彼女の保護に向かう。 DOWN THE RABBIT HOLE/ウサギの穴へ 10月14日/11 08/ユーリ/デルタフォース・TF141/ロシア,東シベリア デルタフォースの奮闘も虚しく、超国家主義派に連れ去られたアリョーナ。 しかしその行き先がシベリアのとあるダイヤモンド鉱山である事、更にそこで大統領もが拘束されている事が判明した。 デルタフォースはTF141と共に、敵の巣窟である鉱山に殴り込む。 ミッション名「Down The Rabbit Hole」とは不思議の国のアリス第一章の題名。 DUST TO DUST/塵は塵に 1月21日/22 14/プライス大尉/TF141/アラビア半島 デルタの犠牲によってロシア大統領は無事救出され、アメリカ・ヨーロッパ・ロシアを巻き込んだ世界大戦は終結。 しかし全ての元凶であるマカロフはまだ生きていた。 プライスとユーリは今度こそマカロフの息の根を止めるべく、ジャガーノートアーマーに身を包みアラブの高級ホテルを襲撃する。 ミッション名は聖公会祈祷書の埋葬の儀式の一節から。 ちなみにこのミッションではすでにTF141の非正規部隊扱いは無くなっている(エンブレムにDISABOWEDの文字が無い)。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1890.html
第三十一話 『湖畔ダイバー』 ロンディニウムの城の一角にある鍛錬のための場所。そこに一人の男がいた。剣に酷似した杖を構えている。 ヒュッ、という風を切る音とともに鋭い突きが放たれる。最初は一突き一突き丁寧に、そして今は――― 「シッ!」 目にも留まらぬ高速の剣技となっている。しかし丁寧さが損なわれるわけではなく、より正確に、それでも流れるように、だ。その様はまるで――― 「まるで『閃光』だな子爵」 その声にワルドは手を止めて正面を向く。鍛錬のために裸になった上半身に汗が浮いている。 「これは閣下、お見苦しい恰好で申し訳ございません」 「いや、気にする必要などないよ子爵。君がそうして鍛練を積み力をつけることは、ひいては余の力となるのだからな」 相変わらずの笑いを浮かべるクロムウェルの傍らにはシェフィールドが控えていた。貴族として染みついた思考で、さすがに女性の前で裸は失礼かと思い、地面に置いたタオルを拾って体をさっと拭き服を身につけていく。当然、銀のロケットも。 「しかし、閣下には申し開きのしようもありませぬ。閣下より賜った竜騎士隊、それらを全て失うだけではなく先発隊までも守りきれず失う羽目になってしまったのは、ひとえにこのわたくしの力のなさであります・・・」 膝を突き深々と頭を垂れるワルドにクロムウェルは責めるでもなく言う。 「なに、君の失敗が原因ではないだろう」 頭を垂れているワルドは判断に困っていた。アルビオンの力の象徴でもある『レキシントン』号を筆頭とした強大な艦隊。圧倒的な数的有利。だが結果は大敗。 『勝利はこれ疑いなし』というクロムウェルの言葉通り、自軍でこの結末を予期できた者はだれもいないだろう。現に今アルビオン軍の中には動揺が縦横無尽に駆けめぐっているのだ。 だが、クロムウェルには動揺が一切見られない。本当の大物なのか、ただ単に現状が理解できぬド低脳なのか・・・・・・ その時、首から垂れ下がるロケットがワルドの目に入った。 そうだ。たとえ目の前の男が始祖だろうが神だろうが自分には関係ない。泥船だろうと構わない。途中で沈むのなら沈め。ならば俺は泳いでいくまでだ。 歴代の英雄達は皆こう言っている。『信奉すべきは神でも金でもない。最後にお前を救うのはお前の剛力唯一つ』だと。あくまで貴様は道先案内人だ、『閣下』。不案内だとわかればその瞬間に貴様の役目は終わるのだ。 『ガンダールヴ』を翻弄した事実が、ワルドの体に自信を漲らせている。ロケットの表面をなぞると、その冷たい感触が興奮する自らをなだめているように感じた。 「そう、失敗の原因は他にあるのだよ」 クロムウェルが片手を上げると、傍らのシェフィールドが報告書らしき巻物を要約して読み上げた。 「なにやら空にあらわれた光の球が膨れ上がり、我が艦隊を吹き飛ばしたとか」 「つまり、敵に未知の魔法を使われたのだ。これは計算違いだ。誰の責任でもない。しいてあげるなら・・・・・・、敵の戦力分析を怠った我ら指導部の問題だ。一兵士のきみたちの責任を問うつもりはない。是非とも鍛錬に励んでくれたまえ、子爵」 クロムウェルはワルドに手を差し出した。ワルドはそこに口をつける。 「閣下の慈悲のお心に感謝します」 上辺を取り繕いながらワルドは桃色の髪を思い出していた。思えば、あの飛行機械にはルイズも乗っていた。ならばあの魔法は、あの光は恐らく『虚無』だ。仔細は解らないがまず間違いないだろう。 そして、その使用者がルイズだとすればどうだろうか。ワルドの見込んだとおり、ルイズは素晴らしい才能を秘めていたのだ。 しかし、それではクロムウェルの『虚無』とはあまりにかけ離れすぎている。生命を操ったクロムウェルに対して、ルイズは謎の光だ。どちらも、個人が操るにはいささか強大すぎるとも思えるが・・・・・・ 「あの光に関して、余は一つの可能性を考えておる。恐らくは『虚無』ではないかというな・・・。あまり考えたくない事実だが、あれほどの魔力、スクウェアクラスでさえ持ち合わせているかどうか」 最後の部分は自分への皮肉かとワルドは眉をひそめた。 「もっとも、余とて『虚無』の全てを理解しているとは言い切れぬ。『虚無』には謎が多すぎるのだ」 シェフィールドがあとを引き取る。 「長い、歴史の闇の彼方に包まれておりますゆえ」 「歴史。そう、余は歴史に深い興味を抱いておる。たまに書を紐解くのだ。始祖の盾、と呼ばれた聖者エイジスの伝記の一章に、次のような言葉がある。数少ない『虚無』に冠する記述だ」 クロムウェルは詩を吟ずるような口調で、もったいぶって次の言葉を口にした。 「"始祖は太陽を作り出し、あまねく地を照らした"」 『ガンダールヴ』や『虚無』についてならば、ワルドとて歴史を調べているのだ。よっぽど知っていると言ってやろうかと思ったが、何とか抑えて相づちを打った。 「・・・なるほど、あの光は小型の太陽ともいえなくもない」 「謎が謎のままでは、気分が悪い。目覚めも悪い。そうだな、子爵」 「おっしゃるとおりです」 「トリステイン軍は、アンリエッタが率いていたと言うではないか。ただの世間知らずのママッ子かと思っていたが、どうしてどうして、やるではないか。あの姫君は『始祖の祈祷書』を用い王室に眠る秘密をかぎ当てたのかもしれぬ」 「王家に眠りし秘密とは?」 「アルビオン王家、トリステイン王家、そしてガリア王家・・・・・・、もとは一本の矢だ。そして、それぞれに始祖の秘密は分けられた。そうだな?ミス・シェフィールド」 「閣下のおっしゃるとおりですわ。アルビオン王家の秘宝は『風のルビー』ともう一つ・・・・・・。しかしいずこに消えたのか、風のルビーは見つからず、もう一つは未だ調査が済んでおりません」 ワルドは地味な感じのするその女性を見つめた。深いローブで顔を隠しているために表情が窺えない。働きぶりを見ればクロムウェルの秘書にも見えるが・・・、どうしてなかなか、ただの秘書ではなさそうだった。 強い魔力は感じない。しかし、クロムウェルにここまで重用されるからには何か特殊な能力があるのだろう。 「いまやアンリエッタは『聖女』、ウェールズは『勇者』として崇められ、アンリエッタに至っては女王に即位するとか」 「敵の士気は昂揚し、外の敵に対してはどこまでも強気で攻められるでしょう」 なんとも含みのある言い方だ。ワルドはシェフィールドに注意を向けるようにした。 「真に失礼ながら、今の我が軍にトリステインを再び攻める力はありません。力を蓄えなければなりませんが、かといってその間攻め手を緩めては敵もまた身を休めてしまうでしょう。ですから、今度はトリステインの中から攻めるのです」 「理想的ではありますな。しかしながら、当てはあるので?」 「以前よりトリステインの中枢に位置する人物とコンタクトをとり続けておりますわ。すでに彼者は我らの同士」 「手の早いことだ。それで、そのものに何をさせるつもりだ」 「新型の銃と、流れのヒットマンを紹介して差し上げましたわ。そのヒットマンは世を儚んでおり、命を惜しまない人物でしたので・・・」 それは恐らく凱旋パレードでの暗殺未遂事件のことだろう。ワルドにも情報は入ってきていたが、この女が一枚噛んでいるとは思わなかった。 「しかしながらミス。その者を使った作戦はすでに失敗に終わっていると聞き及んでいるが?」 「それはあくまで敵の目を中に向けさせるためのものですわ、子爵。自分の体の中に病気があると知れば、人は不安になりますでしょう?本命ならばかねてよりトリステインに忍ばせておりますわ。そう、この『白の国』アルビオンを破滅へと導いた悪魔―――」 そこで、シェフィールドの口元が妖しく歪んで見えた。 「『白の粉』がトリステインを覆い尽くすでしょう・・・」 「うむうむ!そう言うわけだ子爵。トリステインは病魔に冒された患者も同然。我々は力を蓄え、その間トリステインには存分に弱って貰おうではないか」 はっはっは、と笑いながらクロムウェルたちは城に消えていった。しかしワルドは鍛錬を再会する気にはなれなかった。先ほどのシェフィールドの妖しげな笑みが脳裏にこびりついて離れないのだ。 あの笑みはただ妖艶なだけではない。あれは裏切り者の笑みだ。そう、自分と同じ。クロムウェル以外に信じ崇拝しているものがある奴の笑みだ。 「クッ・・・面白くなってきたな」 思わず口元が歪んだ。だが奴が誰であろうと、何に仕えていようと関係ない。自分と母の邪魔さえしなければ興味の欠片も沸きはしない。 「しかし、クロムウェルも暢気なものだな、どうも。トリステインは体内に病気を持った患者と言っていたが・・・・・・貴様の腹の中には爆弾が二つはあるというのに・・・」 杖を振るうと旋風が起き、地面に置かれた帽子が巻き上がった。それを掴んで頭に乗せる。 「死が友人だというのならば、この俺が一生遊んで暮らせるようにしてやろう。クロムウェルも、『ガンダールヴ』もな」 「っくしょい!」 「なんだ、風邪かいウェザー?」 「なに!なら私が暖めて・・・」 「いや、大丈夫ですから結構です」 ウェザーはアニエスの申し出をキッパリと断った。そもそも本当に風邪ではないのだ。大方、誰ぞが噂でもしているのだろう。 「だが、四十度の熱出してても見にくる価値があるぜ。この光景はよォ」 今一同が立っている丘から見下ろすラグドリアン湖は青く眩しく、陽光を受けて湖面がガラスの粉を塗したように瞬いているのだ。波打ち際まで下りてみると、水中が透き通って見える。話では、夜中でも月光に照らされて水中が透けて見えるとか。 「ヘンね」 その湖面を見つめながらモンモランシーが小首を傾げた。 「うした?」 「水位が上がってるわ。昔、ラグドリアン湖の岸辺は、ずっと向こうだったはずよ」 「ホントか?」 「ええ。ほら見て。あそこに屋根が出てる。村が飲まれてしまったみたいね」 モンモランシーの指差す先に、藁葺きの屋根が見えた。一同はそこで、澄んだ水面の下に黒々と家が沈んでいることに気付いた。モンモランシーは波打ち際に腰を下ろすと、水に指をかざして目を瞑った。 そしてしばらくの後に立ち上がると、困ったような顔をした。 「水の精霊はどうやら怒っているようね」 「それでわかるのか?」 「舐めないでよね。わたしは『水』の使い手、香水のモンモランシーよ。このラグドリアン湖に住む水の精霊とトリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、『水』のモンモランシ家は何代もつとめてきたわ」 今は色々あって他の貴族が務めているけどね、と付け加えた。 「その水の精霊に会ったことはあるのか?」 「小さい頃に一度だけ。領地の干拓を行うときに水の精霊の協力を仰いだのよ。大きなガラスの容器を用意して、その中にはいってもらって領地まで来てもらったわ。 水の精霊はプライドが高いから、機嫌を損ねたら大変なのよ。実際機嫌を損ねて、実家の干拓は失敗したわ。父上ってば、水の精霊に向かって『歩くな。床が濡れる』なんて言ったもんだから・・・・・・」 「水の精霊ね・・・どんな形なんだ?」 精霊というと、どうしても『あのピノキオ』を思い出してしまうために何だかいい印象が持てないウェザーだった。 「そう言えばわたしも話しに聞いただけで知らないわね」 「ぼくもだ」 「私も」 ルイズたちも気になるようだった。『水』のイメージとして綺麗な感じはするが、どうなのだろうか、と。 「ものすごーく、綺麗だったわ。そう、美しい!スゴイ美しいのッ!百万倍も美しい・・・・・・」 恍惚とするモンモランシー。その時、木陰から老農夫が一人、一行の元へとやってきた。 「もし、旦那様。貴族の旦那様」 「どうしたの?」 モンモランシーが尋ねると、農夫は拝むように手を組んだ。 「旦那様がたは、水の精霊との交渉に参られた方々で?でしたら助かった!はやいとこ、この水を何とかして欲しいもんで」 一行は顔を見合わせた。どうやらこの農夫は湖に沈んでしまった村の住人らしい。 「わたしたちは、ただ、その・・・・・・湖を見に来ただけよ」 まさか水の精霊の涙を取りに来た、ということもできず、モンモランシーは当たり障りのないセリフを口にした。 「さようですか・・・・・・。まったく、領主様も女王様も、今はアルビオンとの戦争にかかりっきりで、こんな辺境の村など相手にもしてくれませんわい。畑を取られたわしらが、どんなに苦しいのか想像もつかんのでしょうな・・・・・・」 はぁ、と農夫は深いため息を漏らした。 「いったいラグドリアン湖になにがあったの?」 「増水が始まったのは、二年ほど前でさ。ゆっくりと水は増え、まずは船着き場が沈み、寺院が沈み、畑が沈み・・・・・・。ごらんなせぇ。今ではわしの屋敷まで沈んじまった。 この辺りの領主様はご領地の経営などより、宮廷でのお付き合いに夢中でわしらの頼みなど聞かずじまい」 よよよ、と農夫は泣き崩れた。 「長年住み慣れた土地が無くなっちまったのもありますが、このままじゃわしら村民は全滅してしまいます・・・・・・」 かすれそうな声で絞り出した農夫に、アニエスが進み出て助け起こした。 「ご老人、私は見ての通り騎士だ。この村の現状を女王陛下にお伝えしてみよう」 アニエスの言葉に老人はハッと目を見開き、再び泣き崩れてしまった。 「ありがとうごぜぇます・・・ありがとうごぜぇます・・・」 その様子を見ていた一行は、感心したように眺めていた。 「ふうん・・・惚れ薬を飲んでいても、困った人は捨て置けないって騎士道精神は忘れないのか?」 「え?う~ん、どうかしら・・・基本は惚れてしまった者を第一優先に行動するハズなんだけど・・・」 ウェザーに話を振られたモンモランシーは考え込むように腕を組んだ。 「鋼の精神力ってやつじゃないかな」 「ギーシュあなたってそういうの好きそうだものね」 ルイズのからかいにギーシュは頭をかいた。 農夫が愚痴を言いたいだけ言って去ったあと、モンモランシーは腰に下げた袋からなにかを取り出した。それは一匹の小さなカエルであった。鮮やかな黄色に、黒い斑点がいくつも散っている。 カエルはモンモランシーの手のひらの上にちょこんとのっかって、忠実な下僕のようにまっすぐにモンモランシーを見つめた。 「カエルッ!」 カエル嫌いなルイズが悲鳴をあげてウェザーの背に隠れた。しがみつきながら毛を逆立てて威嚇する様はまるで猫である。 「自己主張の激しいカエルだな・・・・・・ド派手で毒々しい。ヤドクガエルか?」 「毒々しいなんて言わないで!わたしの大事な使い魔なんだから!」 どうやらその小さなカエルがモンモランシーの使い魔らしい。モンモランシーは指を立てて使い魔に命令した。 「いいことロビン?あなたたちの古いお友達と、連絡が取りたいの」 モンモランシーはポケットから針を取り出すと、それで指の先をついた。赤い血の玉が膨れ上がる。その血をカエルに一滴垂らした。 それからすぐに、モンモランシーは魔法を唱え、指先の治療をする。ぺろっと舐めると、再びカエルに顔を近づける。 「これで相手はわたしのことがわかるわ。もっとも、覚えていればの話しだけれど。じゃあお願いね、ロビン。水の精霊に盟約の持ち主の一人が話をしに来たと伝えてちょうだい」 ロビンはそれに頷くと、ぴょんと跳ねて水中に消えていった。 「さ、あとは待つだけよ」 「そんなもんなのか。じゃ、さっきの百万倍も美しい水の精霊についての続きを聞かせてくれよ」 「そうねえ・・・まず、水の精霊は人間なんかより遙かに長く生きている存在なのよ。始祖ブリミルが光臨した六千年前よりも昔から、ね。 その体に既存の形は無いわ・・・自在に姿形を変え・・・・・・そう、まるで水ね。そしてその体は陽光を受けてキラキラと七色に・・・・・・」 そこまでモンモランシーが口にした瞬間、離れた水面が光り出した。 「おでましね。百聞は一見に如かず。見た方が早いわ」 岸辺より三十メイルほど離れた湖面の下が眩く光り、まるでそれ自体が意思を持っているかのように水面が蠢いた。それから餅が膨らむようにして、水面が盛り上がり、まるで見えない手にこねられているようにして、盛り上がった水が様々に形を変える。 湖からロビンが這い上がり、跳ねながら主人のもとに帰ってきた。そのロビンの頭を撫でたモンモランシーは、水の精霊に向けて両手を広げ、口を開いた。 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたらわたしたちにわかるやりかたと言葉で返事をして頂戴」 すると、ぐもぐもと蠢いていた水の精霊が、モンモランシーそっくりの形をつくり、微笑んだのだ。ただ、そのサイズは一回りほど大きいのだが。 なるほど、確かに美しい。宝石が塊となって動いて見えるのだ。 しばし様々な表情を作り出していた水の精霊だったが、それから無表情になりモンモランシーの問いに答えた。 「覚えている。単なる者よ。貴様の体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」 「そう、よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。厚かましいとは思うけど、あなたの一部をわけて欲しいの」 一部という単語に一同は怪訝な顔をして見せたが、モンモランシーはそれらを無視して前を向いたままだ。そして、しばらくしないで水の精霊がにこりと笑みを見せた。 「やった!OKみたいだ!」 しかし、ギーシュの喜びも虚しく、向こうから出てきたセリフは真逆のものであった。 「断る。単なる者よ」 「そりゃあそうよね。残念でしたー。さ、帰ろ」 あっさりとモンモランシーは背を向けたが、すぐに踵を返して水の精霊に向き直った。 「ってな具合にいけたら楽なんだけど、今回ばかりはそうもいかないのよね。わたしが捕まっちゃうってのもあるけど、それ以上にわたしのせいで他人様に迷惑かけてるかと思うと、寝覚めが悪くてしようがないわ!」 少し語調を強めて言ってみるが水の精霊は無反応だ。腰に手を当てて指まで立てているモンモランシーにまったく反応を示さない。 気まずい沈黙の中、ウェザーが口を開いた。 「盟約とか、一部とかよくわからんが・・・・・・タダで貰おうとするのがいけないんじゃないのか?」 「う~~ん・・・・・・ねえ、水の精霊。あなたがあなたの一部をくれると言うのなら、わたしたちもあなたのために何でもするわ」 すると再び水の精霊は蠢き、ふるふると震えたかと思うとピタリと止まり、 「よかろう」 と言った。 「世の理を知らぬ単なる者よ。貴様は何でもすると申したな?」 「ああ、言った」 う、と尻込みするモンモランシーに代わってウェザーが答えた。 「ならば、我に仇なす貴様らの同胞を、退治してみせよ」 一行は顔を見合わせた。 「退治?」 「さよう。我は今、水を増やすことに精一杯で襲撃者の対処にまで手が回らぬ。よって、その者どもの退治ができれば、望み通り我の一部を進呈しよう」 「ああ、やっぱり厄介事だわ・・・・・・」 「豚箱にはいるのとどっちが厄介かなんてことは・・・・・・」 「言われなくてもわかってるわよッ!もう!こうなったらトコトンやってやるわよ!」 こうして、ウェザーたちは水の精霊を襲う連中の退治をする羽目になったのだった。 襲撃者たちは夜になると、魔法を使い水中に侵入し、遙か湖底の奥深くにいる水の精霊を襲うというのだ。一行は水の精霊が示したガリア側の岸辺の木陰に隠れ、作戦を立てていた。 「水中か・・・・・・」 「たぶん風の使い手ね。空気の球をつくって、その中に入って湖底を歩くんじゃないかしら。水の使い手なら水中でも呼吸が出来るけど、水の精霊相手に水を使うなんてのは自殺行為だわ。だから、風ね。空気を操り、水に触れずにやってくるに違いないわ」 「でも、水の精霊って傷つけられるのかしら?水に手を突っ込んでも水は痛がらないと思うんだけど・・・・・・」 ルイズの疑問はもっともだった。規格の違うものを相手にするときは未知だらけなのだ。 「水の精霊は動きが鈍いし・・・・・・それにメイジならただの水と精霊の見分けはつくわ。水の精霊は魔力を帯びてるからね。近づいて、強力な炎で体を炙る。徐々に蒸発して・・・・・・、気体になったらさすがにもとの液体として繋がることは出来なくなっちゃうわ」 「繋がる・・・?」 「水の精霊は、まるでコケのような存在なのよ。千切れても繋がってても、その意思は一つ。個にして全。全にして個。わたしたちとは全く違う存在なのよ」 「ふーん・・・」 「そして相手が水に触れていなければ、水の精霊の攻撃は相手に届かない」 「偉そうな割りには制限の多い奴なんだな」 「まったく・・・・・・。水の精霊の怖さをちっとも知らないのね。いい?少しでも精神の集中が乱れて、空気の球が破れ、一瞬でも水に触れたら心を奪われるのよ。他の生物の生命と精神を操る事なんて、あの水の精霊には呼吸と大差ないわ。 それと、水の精霊にとっては襲撃者とわたしたちの区別なんてついてないと思うから、水に落ちたらお終いね」 「なかなか肝の据わった奴らみたいだな。それじゃあ水に入られる前に勝負をつけるしかないか。こっちはまあ、そこそこの数だが・・・」 「あ、そのことなんだけど」 モンモランシーが挙手した。 「わたしは戦いの方は無理だから、戦力には数えないでね」 その代わり後方で回復の援護ができるわ、とフォローした。 「となると、モンモランシーを抜いた四人か・・・・・・、アニエスお前戦えるか?」 くっつきそうなくらい近い隣でアニエスはずっとウェザーを見ていたのだが、話を振られて視線が合ってもそらすことはなかった。 「ウェザーが必要だと言うのなら、水の精霊とでさえ戦って見せよう」 「バカ、そいつを守るのが俺達の役目だぞ」 ウェザーは手頃な枝と石を数個手元に集める。それから空を見て、湖を見た。と、ギーシュが少し不安そうに尋ねてきた。 「大丈夫かな、ウェザー。もし敵が大人数だとしたら・・・・・・」 「心配するな。当方に迎撃の用意ありってな」 そう言って枝で地面に円を描いた。どうやら湖のようらしい。 「これから言う作戦はお前の魔法が火蓋を切るんだ。最初でこけたら全部こける・・・・・・いけるな?」 「・・・・・・ああ」 ギーシュは目に力を込めて返した。それに満足そうに頷いて、ウェザーは描いた湖の周りに石を置き始めた。 「まずはギーシュが・・・・・・」 作戦会議も終え、あとは見張りを交代で行いながら夜を待つのみとなった。時刻はまもなく夕方に入る頃だろう。 現在の見張りはアニエス。一緒にいてくれとぐずられたが、作戦のために休養は必要だと言うと、職業柄理屈に納得できてしまったのか名残惜しそうに離れていった。 見張りの順番を上手いこといじり、少しの間とはいえ自由を手に入れたウェザーはしばし近くをぶらついたあと、湖畔の林の木に背を預けて座るルイズを見つけて歩み寄った。 「はあああああ~~~~、ため息出るなあ。こういう湖って・・・・・・。ほっとする・・・美しい・・・こーゆー湖のある湖畔に家を持って日向ぼっこしながら子供時代のこと思い出してノスタルジイにひたりてえなあ~~~」 「・・・・・・ぷっ、なーにジジ臭いこと言ってんのよ」 何やら近寄りがたい雰囲気を出して祈祷書を開いていたルイズだったが、ウェザーのセリフに思わず吹きだしてしまった。木にもたれてウェザーはルイズにリンゴを差し出した。 「そろそろ腹がへる頃だと思ってな、みんなの分も買ってきたんだ」 「へえ、気が利くわね」 ルイズが受け取るのを見ると、ウェザーはもう片方に持った真っ赤なリンゴに豪快にかじりついた。それを見てルイズもマネしてかじりつくが、ルイズの小さな口ではかみ切れずに歯形だけが残ってしまう。 「ガハハハ、へたっぴだなあ。無理せずにチビチビ食えばいいじゃねえか」 「う、うるさいわねえ、言われなくたってそうするわよ!」 頬を赤く染めて浅くかじりつくルイズ。その様子を笑ってみていたウェザーだったが、軽い調子でルイズに尋ねた。 「なんか今日は元気がないが・・・・・・どうかしたのか?」 その言葉に、ルイズは口に運んでいたリンゴを下ろした。手元のそれをしばらく眺めていたが、ゆっくり訥々と話し始めた。 「実はね、『虚無』のことなんだけど・・・・・・がっかりさせたくなくて、姫さまにも言えなかったことなんだけどね・・・・・・」 本当はウェザーとアニエスのことが気になりすぎてだなんて口が裂けても言えないルイズだが、しかしそのもったいぶった言い方にウェザーは先を促す。 「なんだよ。言やいいじゃねーか」 「実は・・・・・・・・・『虚無』の魔法、『エクスプロージョン』があれ以来唱えられなくなっちゃったのよ・・・」 驚愕の事実にウェザーは目を見開いた。 「それはもう『虚無』が使えないってことか・・・・・・?」 「そういうわけじゃないみたい。唱えられないって言うのは、最後までって事なの。練習していたときも、何度唱えようとしても途中で気絶しちゃうのよ。一応爆発はするんだけど」 「気絶?どういうことだ」 「たぶん・・・精神力が足りないんだと思うの」 「精神力ゥ?」 「そ。魔法は精神力を消費して唱えていることは知ってるわよね?」 ウェザーは頷いた。それは初期の授業で聞いていることだった。そして精神力を使い、どれだけの系統を足せるかでクラスが決まるということも。 「で、精神力が最後まで持たずに切れちゃったのに無理して唱えようとすると気絶しちゃうわけ。伝説の『虚無』の系統だもの。強力すぎてわたしの精神力が足りないんだわ」 「でも、この前は唱えられた」 「そこなのよね・・・・・・どうしてかしら・・・・・・」 ドットがスクウェアクラスの呪文を唱えられないように、精神力の絶対量に上限がある以上はルイズも『虚無』の詠唱が不可能なはずなのだ。だが、事実ルイズは一度唱えている。 「精神力は寝れば回復するから、睡眠もちゃんととってるんだけどなぁ・・・・・・」 「そうだな・・・例えば、お前が実はもの凄い精神力の持ち主だったとかはどうだ?今まで魔法が成功することのなかったお前の精神力は、家から出られない犬のフラストレーションのように溜まり膨らみ、しかしそれを全てあの一回で使ってしまった・・・とか」 確かにこれなら一晩寝れば元に戻るはずの精神力の回復の遅さの説明にはなる。他のメイジの精神力がエリー湖くらいだとするならば、ルイズの精神力プールはカスピ海並なのかも知れない。だとすれば、そこに再び水を満たすことはかなりの時間を要するというものだった。 「そうね・・・そうかもしれないわ・・・・・・」 「だとすれば、次最後まで唱えられるのはいつくらいかね・・・・・・」 「一月かかるか・・・・・・一年かかるか・・・・・・」 「十年とかな」 「冗談言わないで!」 「だが、魔法は一応成功してはいるんだろ?その、爆発が」 「そうね。規模は小さいけど、爆発はする。『虚無』は本当に未知のことばかり。呪文詠唱の途中でも効力を発揮する呪文なんて、聞いたことないもの」 さすがは伝説、右も左も解らないとはこのことだろうかとウェザーは湖面を見ながら思った。リンゴをかじる音だけが響いた。 「・・・・・・なんにせよ、今晩にそなえて寝ておくべきだな。お前は後方支援だが、切り札的な位置でもある。少しでも精神力を回復しておけ」 そう言うとルイズの隣に腰を下ろした。 「あんたいいの?アニエスの所にいなくて・・・・・・」 「俺はご主人様の使い魔でありますから、ハイ」 ふざけた調子でそう言ったウェザーは、肩に何かが触れるのを感じてそちらを向いた。ルイズの桃色の髪と、心なしか赤くなっている顔が見える。 「これはあくまで最近その使い魔の仕事もサボりぎみの使い魔に、わたしがわざわざ仕事を作ってあげるだけなんだからね」 「感謝の極みに恐悦至極」 「ちゃ、ちゃんと時間になったら起こしなさいよ!」 「了解」 「へ、変なことしないでよ!」 「しねーよ」 しばらくはもぞもぞと動いていたルイズだったが、そのうちに大人しくなった。ウェザーも作戦でかなり使うであろう力のために仮眠に入った。 二つの月が天の頂点を挟むようにして光っている。一日の内でもっとも闇が深くなる時刻がやってきたのだ。 そんな時刻にこのラグドリアン湖の岸辺に人影が現れた。人数は二人、大と小と区別はしやすいが、漆黒のローブを纏っているために素顔はおろか性別もわからない。 その二人組は水辺に立つと杖を掲げた。呪文を唱える小さな声が歌うように湖に染み渡りだしたのと同時に二人組の足下の土が隆起し、大きな手が二人の足を固定した。それに合わせて背後の木陰から影が飛び出してくる。 槍らしき武器を持ったその影は、三十メイルの距離を凄まじい勢いで五秒とかからずに縮めた。 しかし、二人組の反応はさらにすばやかった。迫りくる数瞬の間に、大影が足下の戒めを炎で焼き払い、それが終わるか終わらないかという絶妙のタイミングで小影が横に飛んだ。同時に風の魔法で大影を柔らかく飛ばし、距離を取ったのだ。 その間わずか三秒。結果突撃してきた影は二人の間を通過してそのまま湖に落ちていく。 「うわあああああッ!」 しかしこの叫びはその影のものではなかった。横に跳んだ二人は突っ込んできた影を見ていたためにお互いが向き合う形になっていたのだが、そこへ別の二つの影が剣を振り上げて背後から襲いかかったのだ。 一瞬。一瞬だけローブの二人組は驚いたようだったが、すぐに対処した。大小の影は自分の背後の敵ではなく、相方の背後の敵に照準を合わせたのだ。振り向く時間が無くなる分、行動は迅速になる。 ローブの二人の顔面を避けて進んだ火球と風は、正確に襲いかかる者達に向かった。その二人は何とか攻撃を避けるが、その間にローブの二人は再び合流して詠唱に入りだした。 先の魔法は状況から脱するための威嚇だったが、今度のは本気だ。片方が詠唱をずらしているのはお互いが隙を作らないための作戦だろう。 だが、二人の集中力は再び途切れることとなってしまった。またも何かが足を掴んでいるのだ。だが、今度は土ではない。別の何かだ。 二人組が足元を見ると、どうやら手らしいのだが、それは湖から伸びている。そして、何かを考える暇もなく、二人組は湖の中に飲まれていった。 水飛沫の上がった湖面の波紋も静まった頃、木陰からルイズとモンモランシーが顔を出した。 「作戦は上手くいったのね」 「うん。一応ね」 それに答えたのはギーシュだった。ローブの二人組を背後から襲ったのはギーシュとアニエスである。 「作戦通りウェザーが水中に引きずり込んだよ」 ウェザーの作戦はこうだった。ギーシュの『ワルキューレ:ブリュンヒルデ』の突貫によって敵を分断し、背後から強襲する。それで決着が付くのならばそれでいいが、もしもの保険にとウェザーが水中に身をひそめていたのだ。 しかし夜でも浅い場所なら透けて見えるラグドリアン湖でなぜ接近に気付かれなかったかというと、『全反射』を利用したのだ。 ウェザーの話では、『オゾン層を操作してこの湖畔に降る光の角度と空気の屈折率を変える。『ヘビー・ウェザー』の応用だ。カップに入れたコインが見る角度によっては消えて見えるの知らないか?『全反射』っていうんだよ。 エネルギーはバカみたいに食うから、範囲も狭くて長持ちしないがな』ということなのだが、この中の誰もが曖昧な顔をしたものだ。コルベールがここにいたのならば食いついてきたのだろうが。 実際に月を映し出すだけで湖の様子は窺えない。だが、それも徐々に薄れ、やがて中の様子が少し見え始めた。 「ウェザーだ!」 ギーシュの指差す場所には、雲の潜水服を纏ったウェザーの姿と、向き合うように構えている大小ローブの姿があった。しかしそれもすぐに見えなくなる。暗くてよくは見えなかったが、全反射を解いたのはどうやらそちらに回す余裕がないからのようだ。 「あの咄嗟で風の呪文を唱えていたのか・・・」 「この策は失敗だな。奴らはかなりの手練れだぞ、二対一はキツイ・・・・・・よし!」 やおら湖に飛び込もうとするアニエスをギーシュが慌てて取り押さえた。 「放せ!私が援護に行くッ!」 「だから、生身で入ったら水の精霊に心を奪われるんだってば!」 つまり、ルイズたちはただ指をくわえて見ているしかないのだ。ギャーギャーと暴れるアニエスたちをよそに、ルイズは自分がどうすべきかを考えていた。 (指をくわえてみているだけなんてイヤ!ここでなにもできなかったら、わたしは・・・わたしは何のためにこの力を持ったのか・・・・・・) ぎりっ、と歯がゆさに拳を握るが、そこで祈祷書を持っていることに気がついた。そして、まるで本が開けと囁いているかのような声が聞こえてきたのだ。誘われるままにページをめくっていくと、『エクスプロージョン』以外のページが読めるようになっているのに気がついた。 だが、そこに書かれた古代ルーン文字を見て力が抜けそうになった。 「・・・・・・ディスペル・マジック?これでどうしろっていうのよ・・・」 「ああ!水面が揺れているッ!」 水中の戦いは熾烈を極めているのかも知れない。考えている暇はない。この魔法が今出たのには何か意味があるのだ。 そう信じてルイズは詠唱を始めた。 水中に潜ったウェザーは舌を巻いていた。引きずり込んだはいいが、まさかあの咄嗟に魔法で水の精霊の干渉を防ぐとは思わなかった。 水面を通ってきた揺らめく月光をバックに、体勢を立て直した二人は潜水服を着たウェザーを見ると、何かを話し、杖を構えた。ウェザーも身構える。 先に動いたのは大きい方だった。一直線に湖底目指して潜り出す。どうやら水の精霊を先に攻撃しようとしているらしい。そうはさせじとウェザーも潜る。 潜水服は取り込んでおいた空気を排出することで加速して進めるが、ウェザーが吸う分の空気の残量もあるので無駄遣いは出来ない。 すぐに追いつくかと思われたが、回り込むウェザーの目の前を水を切って進む風が通りすぎた。視線を向けると、小さい方が杖をウェザーに向けているのだ。先にこちらを片づけないといけないらしい。 「かかってこいってか?」 ウェザーが接近を試みると、それを阻止するように風を飛ばしてくる。それをスタンドで弾きながら進む。あと少しで射程距離だが、何か違和感を感じる。 あれほどの反応を見せていた手練れが、なぜか大人しすぎる。水中だからといえばそれまでだが、その部分が小骨のように引っかかりだしたのだ。 (何かがあるッ!) その瞬間、後から気配を感じ慌てて振り向くと、湖底に向かったと思っていた大きい方がいつの間にか背後に戻ってきていたのだ。恐らくはこれが狙いだったのだろう。すでに向こうの射程距離だったのだろう、杖の先から炎球が放たれた。 ウェザーは咄嗟に潜水服の空気を排出してそれをギリギリでかわす。水中だからだろうか、炎球はすぐに萎んで消えてしまったが、ウェザーは挟まれる形になってしまった。しかも今回は少しでも傷を負えば、水の精霊の餌食になってしまうという条件付きなのだった。 だが、それ以上にウェザーを焦らせているのは空気残量がなくなりつつあることだった。敵もここが正念場と腹をくくったのか強力な魔法を唱え始めた。 (く・・・これしかない!) 二つの杖の先から強烈な風と巨大な炎球が放たれるのと同時に、ウェザーは残りの空気を使い体を上方に持っていく。そして自分がいた場所に向けて風圧の拳を放った。 三つの力はその地点でぶつかり、圧縮し合う。そして逃げ場を求めて力が一気に外に向けて炸裂したのだ。もの凄い力で押し上げられたウェザーとローブの二人は巨大な水柱とともに空中に投げ出された。 最初にルイズの異変に気付いたのはギーシュだった。謳うような声が耳に入り、振り向けばルイズが詩を諳んじているのだ。いや、詩ではない。これは・・・詠唱? 続いて気がついたモンモランシーが声をかけようとしたが、それをギーシュが制した。 「彼女には・・・今のルイズには何も届きはしないよ」 魔法を扱うものであれば一目見ただけでこのルイズの凄まじい集中力に驚くことだろう。 いったい彼女は何をしようとしているのか。かすかな期待が胸の内に生まれ始めたとき、背後で轟音がした。 「何が起きたんだ!」 「上だ!ウェザーたちが出てきたんだ!」 事態を見まもっていたアニエスが空を指差すと、確かにウェザーとローブの二人が見えた。しかもウェザーの雲の潜水服は背中が大きく裂けてしまっている。あれで落ちたのでは間違いなく水の精霊の餌食だ。 そして待ってましたとばかりに水の精霊が水面に現れる。もごもごと蠢くと、次の瞬間には湖が波打ち、何かの形を作り出したらしい。 横からでは見えないが、真上――ウェザーたちから見ると、湖が悪魔の顔のようになり、口を開いて落ちてくるのを待っている、とでも言ったところだろうか。 さらに悪いことに、ここで二対一の差が出た。大きい方が小さい方にレビテーションをかけたのだ。体制を立て直し、ウェザーの方を向かせると、小さい方が杖から魔法を放つ。 スタンドでガードしても下に押されてしまい水の精霊に捕まることは必至。ギーシュたちも魔法での援護をしたいがいささか遠すぎる。 誰もが最悪を想像したとき、眩い光が辺りを包んだ。 「ウェザァァ――――ッ!」 飛びそうな意識の中、敵の杖が自分に向くのをウェザーは人ごとのように感じていた。意識を繋ぐのに必至で体が動かない。 「くっそ・・・」 搾るような声が漏れたが、それだけだった。しかし、魔法をスタンドで防ごうとしたその瞬間に辺りが眩い光に包まれた。 「ウェザァァ――――ッ!」 ルイズの声がする。光に包まれると、不思議と心が落ち着いた。あの時と同じだ。タルブと、同じだ。 光は敵を包み込むと、放った風をかき消し、レビテーションまで無効化させてしまったらしい。真っ逆様に湖に落ちていった。しかしそれはウェザーも同じだった。どうする間もなく着水する。 「プハッ!」 すぐさま顔を出すが、水の精霊の攻撃らしきものは感じない。顔も消えてしまっている。ルイズの放った光に目でも眩んだのかと思っていると、二人組も湖から空気を求めて顔を出してきたのだ。攻撃しようかと腕を振り上げたが―― 「まってウェザー!あたしたちよ!キュルケとタバサ!」 ローブの下から現れたのは学校を休んで出かけていたハズの二人だった。 「お、お前ら何やって・・・・・・」 「それはあとよダーリン!下から水の精霊が来てるわ!」 ウェザーには見えないが、メイジであるキュルケたちには今まさに迫る水の精霊が見えるのだろう。だが、再び風を纏う精神力はなく、岸まで泳ぐには距離がある。 絶体絶命には変わりはなかった。だが二人は慌てず、タバサが指笛を吹く。そして間をおかずに羽ばたきの音が。 「きゅいきゅい!」 どこからやってきたのか、シルフィードが最大速力で湖面を駆け、すれ違いざまに三人は首や翼にしがみついた。手の形を作り出し捕まえに来た水の精霊は、しかし紙一重で取り逃すこととなった。 モンモランシーの『水』の魔法で治療を受けながら、ウェザーたちはキュルケたちの話を聞いていた。焚き火に焼かれる肉の匂いが鼻をくすぐる。 「しかし、お前らがあそこまで出来るとは・・・正直侮ってたぜ」 「まあね。これでも修羅場はくぐってきたつもりよ。あなた達の作戦も分断とか奇襲とかよかったけれど、連携は心の繋がりだからね。その点あたしとタバサは以心伝心、ハート・トゥー・ハートってやつ?」 「でも、なぜ君たちは水の精霊を襲っていたんだい?」 「何であなた達は水の精霊を守っていたの?」 肉をつつきながら尋ねたギーシュに、キュルケがそっくり返してきた。と、その話しそっちのけでアニエスが焼けた肉をウェザーの口に持っていく。 「さあ焼けたぞ!私が捕ってきた肉だ、存分に味わえ!あ~ん」 「いえ、前回十分堪能させていただきましたので結構です!」 「遠慮することはない。貴様のために捕ってきたのだからな。ほら、あ~ん」 アニエスはついにはウェザーを押し倒して実力行使に出始める。ドタバタと暴れる二人を苦笑いしながら見てギーシュがキュルケに答えた。 「あれをなんとかしにね。『水の精霊の涙』が必要なんだけど、そのための条件が君たちを倒すことだったとは」 「『水の精霊の涙』?じゃあやっぱり惚れ薬のせいだったのね」 惚れ薬の単語にモンモランシーが反応してしまい、当然それを見逃すキュルケでもなかった。 「作ったのあなただったのね。大方ギーシュにでも飲ませるつもりだったんでしょうけど、ギーシュの手綱くらい握れなきゃあ自分に自信がないって言ってるようなものよ」 「うっさいわね!そのギーシュが浮気ばっかりするからいけないんじゃない!あの浮気性はもはや重病よ?悪性腫瘍なのよ!」 「もとを辿ればぼくのせいなのかもしれないけど、それにしたって二人とも酷くない?」 ガックリと肩を落とすギーシュだった。そしてキュルケも困ったように隣のタバサを見つめる。彼女はただじっと、焚き火の炎を見ているだけだ。 「参っちゃったわねー。あなたたちと戦うわけにもいかないし、かといってここで退いちゃうとタバサの立つ瀬がないし・・・・・・」 「タバサが?何かあるのか?」 「え?あ、そ、その、タバサのご実家に頼まれたのよ。ほら、水の精霊のせいで水かさが増して、おかげでタバサの実家の領地が被害に遭ってるらしいの。それであたしたちが退治を頼まれたってわけ」 となれば手ぶらで帰すわけにも行かない。しばし考え込んでから、ウェザーは結論を出した。 「ようは水が引いて土地が戻ればいいんだろ?だったら交渉して決着つけりゃあいい。幸いこっちにゃ『水』の使い手がいるんだからな」 視線が一気に自分に集まったモンモランシーは「え?あ、あたし?」と狼狽えていたが、ウェザーに促されて水際に立ち、水の精霊の呼び出しを開始した。しばらくしないで水の精霊がモンモランシーの姿で現れる。 「・・・・・・・・・・・・お前たちか。不思議な光のせいで襲撃者を逃したようだが、何用だ?」 思い出すのにタイムラグがかなりあった辺り、ウェザーごと飲み込もうとしたのは覚えていないのだろう。さすがは悠久を生きる存在。 「逃がしてはいないわ。もうあなたを襲うものはいなくなったのよ。約束通り体の一部をちょうだい」 モンモランシーがそう言うと、水の精霊は細かく震え、体から水滴を飛ばした。それをギーシュが持っていたビンで慌てて受けとめる。そして、もう用はないとばかりに沈みだした水の精霊をウェザーが呼び止めた。 「もう一つお願いだ。水かさを増やすのをやめることは出来ないのか?もちろんタダとは言わん。理由があるなら聞くし、力になれるならなる」 そのセリフに水の精霊は様々な仕草を見せたが、やがてしゃべり出した。 「お前たちに任せてよいものか我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った。ならば信用してもよいと思う」 回りくどい言い方で切り出すと、水の精霊は唄うように語りだした。要約すると、古より守ってきた秘宝が二年くらい前に人間が盗んだ。水かさを増やすのはそれを探すためであって、見つけるまでは底なしに増えるらしい。 「よーするにだ、その秘宝を取り返せばオールオッケーなんだろ。秘宝の名前はなんだ?」 「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 聞いたことがあるわと言ったのはモンモランシーだ。 「『水』系統伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与え、傀儡の如くに扱えるという・・・・・・」 モンモランシーの説明にギーシュ、キュルケ、タバサ、そしてさすがのアニエスも互いに顔を見合わせた。 「そりゃまたけったいなモンをパクッたもんだな。誰が欲しがるんだか・・・・・・」 「恐らくはクロムウェルね・・・聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝よ。間違いないわ・・・タルブ村での戦闘の時、レコン・キスタはアルビオンで死んだウェールズ皇太子の部下たちの死体を操って襲ってきたわ」 ウェザーとルイズが目を見開いた。短い間では合ったが、同じ城の中で過ごした時もあった仲だ。やるせなさと同時に、吐き気を催すようなやり口に怒りが沸いてきた。 「いいだろう。その『アンドバリ』の指輪は必ず取り返してやる。彼らの魂の安らぎのためにもな」 「わかった。ならば約束通り水を増やすのをやめよう。我はお前たちの寿命が尽きるまで待とう。明日も未来も、我には変わらぬ・・・・・・」 水の中に姿を沈めながらそう言い残した。しかし、いざ消えようとしたところでタバサに呼び止められた。タバサが他人を呼び止める事に全員が驚いていた。 「待って水の精霊。あなたはわたしたちの間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」 「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違うゆえ、理解ができかねる質問だ。が、おそらくは我の変わらぬ存在に、お前たちは変わらぬ何かを結びつけ祈るのだろう」 タバサは頷き、目を瞑って手を合わせた。いったい誰に何を誓っているのか。キュルケだけがその肩を優しく抱いた。 「それではぼくも」 そう言ってギーシュが胸を張り高らかに宣言した。 「ギーシュ・ド・グラモンはこれから先、如何なる時もモンモランシーを愛し守ることを誓います!」 「ギーシュ・・・・・・ふ、ふん。ちっとも嬉しくなんか無いんだから。あんたの事だから、どうせ三日坊主でしょうからね」 素直でないモンモランシーに一同は苦笑した。その時、アニエスがウェザーの裾を引いた。 「私たちも誓おう」 「・・・できかねるな」 ウェザーの言葉にアニエスは眉をひそめた。もしかしたら泣きそうなのを必至で堪えているのかも知れない。 「なぜだ?やはりこんな筋肉女ではダメなのか?女らしさが足りなかったのか?」 「そうじゃあねーよ。ただ、今のお前じゃ話にならないってことさ。この件に片がついて、それでも誓って欲しいって言うなら考えてやらないでもないがな」 そしてアニエスの頭を優しく撫でた。 「オメーはキレイだよ。そこんところは自信持っていいぜ」 アニエスは俯いてしまったまま動かない。しばらくの沈黙の後にキュルケが切り出した。 「そう言えばダーリン、あたしたち付近で悪事を働いていたスタンド使いを一人捕まえたのよ!」 「何ッ!大丈夫だったのか?」 「ふふーん、あたしとタバサにかかったらちょちょいのちょいよ。ねータバサ」 「それでも全滅間際だった」 「あん!バラしちゃやーよ、せっかくのお手柄なんだから脚色して褒めて貰おうと思ったのに」 タバサが言うからには本当なのだろう。スタンド使い対メイジならば、先制攻撃がとりやすいスタンド使いにアドバンテージがあるものだ。ましてメイジはスタンドに干渉できても視認できない。そのハンデを覆しての勝利となればこれは大殊勲ものだった。 「ふぁあぁあ・・・何か眠くなって来ちゃったよ」 ギーシュのあくびが伝染したのか、急に眠気が全員の瞼にのしかかってきた。 「あたしたちは報告に戻るわ。ダーリンたちはどうするの?」 「せっかく来たんだし、湖畔で野宿も悪くないさ」 翌朝スタンド使いの身柄を引き渡すことにして、キュルケたちはシルフィードに跨り深夜の空に飛び立っていった。 ウェザーたちも持ってきた毛布を纏い、疲れに引きずられるように眠りに落ちていった。対面の木には仲良く頭を預け合って寝ているギーシュとモンモランシーの姿が。ウェザーも木にもたれて寝ようとすると、右にルイズ、左にアニエスが寄りかかってきた。 「ものすっごく寝にくいんだが」 「がまんしなさい」「耐えてくれ」 問答無用で同時にそう言われて、反論する間もなく二人は睡眠に入ってしまった。 「ったく・・・・・・」 ため息を漏らしながらもそれほどイヤな感じがしないのはどうしてだろうか。 空と湖。四つの月が見える湖畔に吹く風は初夏にしては冷えるが、五人の体は温かかった。 「で、本当に治るんだろうな?」 「大丈夫。これで失敗でまた同じ苦労するのはわたしもイヤよ」 翌日、件のスタンド使いを引き取り一行は学園に帰ってきた。スタンド使いは火傷などの重傷を負っており、処置はしたが意識不明のままだった。もっとも、犯した罪の重さから死罪は免れないとのことである。 帰ってきてまずモンモランシーの部屋に駆け込み、突貫作業で調合を済ませて解除薬を完成させたのだ。モンモランシーは額の汗を拭いながら、椅子の背もたれにどっかと体を預けて疲れたようにそう言ったのだった。 「よし、これを飲めアニエス」 「うっ・・・!く、臭いぞ、これ」 何を混ぜたらこうなるのかと言うような臭いがるつぼから立ちこめている。アニエスが拒むのも当然と言えるが、ここは無理にでも飲んで貰わなければならない。 「これは・・・そう、特訓だ。毒に対する耐性をつけるために用意した特訓なんだ」 「特訓・・・ウェザーが私のために用意してくれたのか!ならばどんなものであろうと飲み干してみせよう!」 言い放つとウェザーの手からるつぼを奪い取り、一気に飲み干した。さすがに一気はまずくないかと一同が心配そうに見守る。と、そんな中でモンモランシーがウェザーの脇をつついた。 「取り敢えず覚悟しといた方がいいわよ」 「覚悟?」 「だって、惚れ薬の効果でメロメロになってた時間の記憶はまるまる覚えてるわよ。アニエスって人がどういう性格かは知らないけど、自分の意志とは無関係にあれだけのことやってればねえ・・・」 だったらお前の方が危険なんじゃないかと言いかけたところで、ひっく、としゃっくりが一つ聞こえてきた。 「ふぁ?」 間の抜けた声を出したあと、憑き物が取れたように表情がハッキリとしてきた。そしてみるみる顔を紅潮させ、額に血管を浮かばせて引きつった笑みを見せた。 「あー・・・まず殴る?」 一撃くらいは覚悟してやるかと奥歯を食いしばったが、アニエスは引きつった笑みのままそれを辞退した。 「私はこのあともスタンド使いの取り調べがあるんでな。これで失礼する」 指の関節をごきごきと鳴らしながらそう言ってのける。この時ウェザーは心の底からスタンド使いを捕まえたキュルケとタバサに感謝したという。あとは質問が拷問に変わらないことを祈るのみだ。 アニエスは出ていくときにルイズとすれ違った。 「治ってよかったわね」 「ああ、そうだな。君の使い魔を借り受けて君にも迷惑をかけたな。だから―――」 最後の部分はルイズにもよく聞き取れなかったが、アニエスは歩みを止めることなく去っていった。 罪人を運ぶ護送馬車に乗りながらアニエスは空を見ていた。 「キレイ・・・・・・か」 力が物言う職場上、腕を磨くことのみを考えて生きてきた。それが自分の目的のためにもなることは解っていたからだ。だから、面と向かって『キレイ』だなんて言われたことはない。 アニエスが最後に言った言葉は「また迷惑をかける」だった。それがどういう意味を持つのかは言った本人でさえよくわからなかったが、少し興味が湧いてきた。 「なにか良いことでもおありでしたか?」 隣の御者の声に我に返った。顔を触ってみれば、なるほど、確かに笑んでいたようだ。 「そうだな。疲れたけれど、いいことだったよ」 空は夏らしく高く、入道雲が昼寝をするかのように横たわっていた。 後日談として。 誰が流したのか『アニエスがウェザーに惚れている』という噂が王宮に広まり、その後の二人の様子から『アニエスはウェザーに捨てられた』に発展し、アニエスを隊長に据えた新組織の銃士隊の面々から、ウェザーはしばらく刺すような視線を浴び続けたとか。 To Be Continued…