約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/h_session/pages/7128.html
NIGHT WIZARD The 2nd Edition Character Sheet キャラクター名:上ヶ瀬 勇己(カミガセ イサミ) PL名:かなた 種 族:人間 ワークス:箒乗り 年齢:22歳 性別:男 髪の色:黒色 瞳の色:藍色 肌の色:黄色 身長:177cm 体重:67kg ウィザードクラス:箒騎士 Lv10 ☆ 魔剣使い Lv7 スタイルクラス :[[キャスター]] Lv5 総合レベル :Lv22 属性: 冥 / 火 使用経験点:225 未使用経験点:5 未使用LvUP権利:0 CF修正値:2 プラーナ 内包値:11 解放力:2 基本能力値 ベース 成長値 現在値 基本能力値 ベース 成長値 現在値 【筋力】 9 -- 9 【知力】 10 -- 10 【器用】 10 -- 10 【信仰】 4 -- 4 【敏捷】 7 -- 7 【知覚】 7 -- 7 【精神】 10 -- 10 【幸運】 6 -- 6 【戦闘能力】 :基本値(クラス修正) 特殊能力 総合Lv = 未装備 + 装備修正 戦闘値 命中値: 8 (2+0) =【10】 -2 【命中】 5 回避値: 7 (2+0) =【 9 】 -1 【回避】 8 攻撃力: 9 (3+0) =【12】 1 【攻撃】13 防御力: 6 (1+0) =【 7 】 11 【防御】18 魔導力: 8 (6+5) 4 =【21】 14 【魔導】37 抵抗力: 6 (2+2) =【10】 2 【抵抗】12 魔攻 : 10 (0+4) 15 =【27】 42 【魔攻】72 魔防 : 7 (1+2) =【10】 4 【魔防】14 耐久力: 59 (5+2) 47 =【113】 【耐久】113 魔法力: 55 (2+5) =【61】 -8 【魔法】53 行動値: 10 (8+4) 22 =【44】 1 【行動】45(48) 【移動力】 ベース 特殊能力 未装備 装備 最終値 (未装備状態【行動値】)÷10+1 = 5 -- -- -- 5Sq ■ライフパス 出自:天涯孤独 特徴:鋼の心 / MPの自然回復の際に【治癒力】+3でジャッジが行える。 生活:苦手な人 特徴:頭が上がらない / アンナ・イェンセン ■コネクション / 関係 アンナ・イェンセン / 恩師:箒乗りの腕を認められた、恩師の一人。 ラヴォウド・アウゼス / 強豪:猛将の名を持つ兵。戦士としての在り方に好感を覚える。 月城蒼真 / 友人:尊敬する人の血縁であり、第八世界時代の友。カップラーメン仲間。 フェルザアーミィ=ランブレイ / 敬意:ランブレイ第二王女。自ら前線に出る姿に感心する。 ジュラ / 相対:不死的な龍を操っていた。ひとまずの撃退に成功する。 ヒルト=レディニス / 好敵:ゼフィールファルコンの少年。戦う姿勢にシンパシーを感じ、興味以上の対象と捉える。 リン・ラン / 協力:技術部の少年。レア物調達を依頼される。 アクセル・ペンタグラム / 知合:フォースメイルを奪いにやってきた同郷人。まんまと騙された。 セファーナ・クラン / 僚友:白のクリスティーエの乗り手。良き僚友となることを願う。 “鮮血の女王”マルゥ=ファロス / 同行:協力関係にある魔王。はかりきれない意図を感じる。 アルメリア=リーフェント / 信頼:フォースメイル、シルファラインの乗り手。テラの空を知る人として尊敬。心惹かれている…? 紫櫻アギト / 敵対:ガイナベルクに下っていたウィザード。戦いへの渇望を視る。 [[フロウウェン=アヴァル]] / 共闘:ゼフィールファルコンの狙撃手。敵対姿勢をとりながらも、彼らの真意に興味を抱く。 姫様 / 関心:精霊船甲板上で交戦した、フォースメイルの乗り手。兵士たちに姫と呼ばれていたが…? 青年 / 敬意:エルダーの村で出会った名も知らぬ青年。男の覚悟に敬意を払う。 綺梨 / 同行:共に戦う者の一人。小柄ながらも巧みの技を感じる。 【黒】ケイ / 敵意:ガイナベルクの色付きの乗り手。エレノールが決着を着けた。 坂城・往人 / 同行:ミステリアスな少年。一体何者。なんだ… 碧 / 敵意:生体コアの研究をしているらしいエルダーの女性。いずれは争うことになるかもしれない。 ミエリ=キタオウジ / 強敵:なかなかのテクニシャンであると見た。再び相対することになるのだろうか。 ミネルヴァ=ガイナベルク / 共感:ガイナベルク皇女。武人としての在り方に共感するところがあった。愛だ。 カトレア / 敵意:人を見定めるような食えない態度。感情の波風を立たせたくなる。 三崎理夢 / 共感:戦う覚悟を決めた少女。真の意味で、彼女なりの決着がつけられることを願う。 深き闇の竜 / 敬意:物言いと姿勢にはシンパシーを感じた。安らかに眠ることを祈る。 愛の銃士 / 信頼:ユリウ……いや、今はラブ★ハンターだった。仮面を被った思惑、最後まで見届けさせてもらおう。 教授ミア / 同行:色々と依頼を持ちかけてきてくれる少女。頭脳労働はお任せする。 シンセシア=ランブレイ / 信頼:ランブレイの女王。その志に共感し、これまで戦いを続けてきた。 サンジェルマン三世 / 疑念:仁科の騒動で関わった人物。一体何者なんだ… リーザ・スレイヴ / 同行:並行世界のテラからやって来たというエルダー少女。どのような世界だったのか興味が沸く。 セルフィア / 共闘:ゼフィールファルコンのオペレーター。華揃いの艦だった。 スイーパー / 敵意:皇帝の侍女を名乗る少女。自覚した悪意に性質の悪さをみる。 グレイヴァ=ガイナベルク / 敵対:ガイナベルク皇帝。絶対的な力と共に、打倒すべき相手と見定める。 ヴィルヘルム / 敵意:ガイナベルクの背後で動く男。手段を選ばぬ蛮行に、憤りを覚える。 ■特殊能力 名称 :SL:タイミング: 判定値 :難易度: 対象 : 射程 : 代償 :効果 【汎用】 : : : : : : : : 《月衣》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :所持品を隠せる。マイナーアクションで飛行できる。(代償:1D6MP) 《月匣》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :イノセントを無力化できる 《伝家の宝刀》 :5: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :B‐Kシルバーバレット、破魔弓指定 《伝家の術式》 :3: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :ゴシックスローター指定 《愛用の箒》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :プリプレイに選択した箒に搭乗中、あらゆるジャッジに+1 《闘気の才》 :3: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :プラーナ内包値+3。 《空の色彩》 :-: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :5M (4M):攻撃の命中判定の直前に使用。メインプロセスに行う攻撃ダメージを属性の無い物理に。 《財力》 :-: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :プリプレイで[50+2D6*10]万入手。常備化は不可。 《魔装カスタマイズ》 :1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :ゴシックスローター指定。修正済み。 《魔装弾幕》 :-: マイナー : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :3C (2C):ゴシックスローター指定。メインプロセスで行う命中判定とDR+[魔装魔法レベル]。 《変身体質》 :1: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : 3HP :戦闘値に割り振った総合レベル値を振り直すことができる。1シーン1回。1シナリオSL回。 《急成長:魔攻》 :1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :【魔攻】を選択。総合レベル分のボーナスを振り振った場合、1点につき2点上昇。 《スタイルアデプト》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :《魔法攻撃力UP》の効果を[CL*2+3]に変更。 《耐久力UP》 :4: 常 時 : 自動成功 : なし : 自身 : なし : なし :【耐久力】+(未装備耐久力÷5×SL) 《耐久力UPⅡ》 :-: 常 時 : 自動成功 : なし : 自身 : なし : なし :《耐久力UP》の効果を変更。修正済。 【EX月衣】 《魔装器》 :1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :《魔器所持》で攻撃魔装選択。魔剣使い特殊能力の判定値と効果を読替。修正済。 《B-K[[ライダー]]》 :1: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : 3MP :「B-K」を含む箒に搭乗中、【行動値】以外のジャッジ達成値+10。1シナリオSL回。 《BFマスタリー》 :1: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : 3HP :「BF」を含む箒騎士特殊能力と同時使用。SL+3し、代償を無しに。1シナリオSL回。 【キャスター】 《魔法攻撃力UP》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 単体 : なし : なし :【魔攻】を[CL×2+3]する。 《マジックマスタリー:冥》 :1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :冥属性の魔装装備時【魔導】+2 《マジックマスタリーⅡ》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :《マジックマスタリー》で選択した属性の攻撃魔装を装備する場合、特定スキル効果を変更。 《ファストキャスト》 :1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :装備中攻撃魔装の行動修正を+[SL×2+1](最大0)。修正済。 《協調魔撃》 :1: オート : 自動 成功 : なし : 単体 :2Sq:3c (2c):自分以外の【攻撃,防御,魔攻,魔防】ジャッジ直後使用。達成値+[魔装魔法Lv*2] 《マジックルーラー》 :-: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : 1プラーナ :【魔攻】【魔導】【抵抗】ジャッジ直後使用。ダイス目をC値に。1シナリオ1回。 《複合弾幕》 :1: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : 2HP :《魔装弾幕》と同時使用。更にマイナーアクションを1回。1メインプロセス1回、1ラウンドSL回。 《エレメントマスタリー:冥》:1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :冥属性選択。【魔攻】ジャッジ達成値+[SL+2]。 《魔力励起》 :3: マイナー : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :6M (5M):使用時に属性選択。ラウンド間、選択属性の魔法攻撃DR達成値+[SL*5]。 《アラウンドキャスト》 :1: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :1P 4(3)c:魔法攻撃or発動魔法直前使用。対象をシーン内任意に変更。1シーン1回1シナリオSL回。 【魔剣使い】 《魔器所持》 :1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :ゴシックスローター指定。 選択した武器の魔攻修正に[SL+2] 《生命の刃》 :-: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :【CL+2】点以下の任意のHPを消費し、魔攻達成値に+[消費HP×2] 《刃の供物》 :5: マイナー : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :[SL×2]点HPを失い、そのシーンの間魔器の魔攻修正を+[SL×3] 。 《真名剣界》 :3: マイナー : 自動 成功 : 対抗 : 自身 : なし : 1プラーナ :シーン中かつ魔器装備中、魔器の移動力修正以外の戦闘修正ふたつを「SL*2+2」。 《封印解放》 :-: イニシアチブ : 自動 成功 : 対抗 : 自身 : なし : なし :ラウンド間、魔器の魔攻修正+10。クリンナップからシーン終了まで魔器使用不能。 《[[サトリ]]》 :-: イニシアチブ : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :即座にメインプロセスを一回行う。 1シナリオ一回まで 《全なる一の剣》 :1: メジャー : 【魔 導】 : 対抗 : 単体 : 武器 : 1P 5H :魔器魔攻修正を2倍に。「対象:単体」から変更不可。1R1回、1シナリオSL回。 《三千世界の剣》 :1: メジャー : 【魔 導】 : 対抗 :範選(3): 武器 :7M (6M):「範囲選択(3)」の対象に魔法攻撃。【魔導】【魔攻】に+2。1シナリオ1回。 《剣の魔力》 :1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :魔器装備中、【魔導】に+2。【魔攻】+[《魔器所持》による[攻撃修正]への修正]。 《霊破斬》 :1: メジャー : 【魔 導】 : 対抗 : 単体 : 武器 :3M (2M):1点でもダメージを与えた場合、与えたダメージ+[SL×2+5]点だけHPを回復。 【箒騎士】 《フラッシュロンド》 :-: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :3C (2C):【回避】ジャッジでC値時、リアクションを[絶対回避]。箒搭乗中1シーン1回。 《スカイハイ》 :-: セットアップ : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :4M (3M):ラウンド間、搭乗状態かつ飛行状態の箒による攻撃の【攻撃】に+[CL+2]。 《バディブルーム》 :3: 常 時 : 自動 成功 : なし : 単体 : なし : なし :《愛用の箒》で選択した箒OPスロット+SL。箒に応じた修正を得る(修正済)。 《スタビリティアジャスト》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :《愛用の箒》で選択した箒に搭乗中、特殊能力カウント‐1。MP代償‐SL(最低1)。 《シルフィードロンド》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :《フラッシュロンド》を【抵抗】適応。何度でも使用可。回避後、即座にSLSq移動可能。 《エアリアルハイ》 :1: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :《スカイハイ》+《愛用の箒》搭乗中【行動値】以外の戦闘ジャッジ+[SL+1]。 《フルドライブモード》 :1: イニシアチブ : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :R間、搭乗状態の箒「攻撃・魔攻修正」+10。クリンナップに箒破壊。1シナリオSL回。 《ナイトオブナイト》 :-: メジャー : 自動 成功 : なし : 単体 : 武器 : なし :対象に魔法攻撃を2回行う。箒搭乗中、搭乗中、1シナリオ1回まで使用。 《フェニックスウィング》 :1: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : 1プラーナ :装備or搭乗中の箒かOPが破壊or搭乗状態が解除される際それを打ち消す。1シナリオSL回。 《アドリブテクニック》 :1: オート : 自動 成功 : なし : 単体 : なし :2C (1C):再度ダイスロールを行い、出た目を使用。C値やF値にも使用可。1シナリオ[SL+1]回。 《クイーンオブスカイ》 :1: イニシアチブ : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :2C (1C):箒搭乗中、即座に通常移動を行う。1ラウンド1回。 《BFオフェンシブフライト》 :5: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :3c (2c):箒搭乗状態で移動後使用。ラウンド間【攻撃・魔攻】+[15]。【防御・魔防】-4。 《エースオブエース》 :2: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : 1プラーナ :【行動値】以外の戦闘値or基本値ジャッジ直後、C値に変更。箒搭乗中1シナリオSL回。 【アイテム】 《高機動魔法詠唱用補助D》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :アクセラレートデバイス。《スカイハイ》修正を【魔攻】ジャッジ達成値に適応。 《呪法弓》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :破魔弓。使用者の使用する魔法の射程を+1Sqする。修正済み。 《ソウルマテリアライズ》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :装備部位「片手」選択。装備中、攻撃魔装で行う魔法攻撃射程+1(修正済)。 《交通安全》 :-: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :BSを受けた直後使用。そのBSひとつを打ち消す。 《魔法戦型B-K》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :搭乗時装備可。衣服以外の防具と同時装備不可。搭乗中+飛行状態間【魔攻】達成値+4。 《マルチロックスペル》 :-: マイナー : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :メインプロセス中攻撃魔装の対象を[搭乗者の【知覚】÷3]体まで変更。1R1回。 《ふたり乗り》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :タンデムシート。搭載した箒に追加でキャラクターをひとりが同乗できる。 《オプションシュート》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :マジカルビット×4。搭載箒に搭乗中【魔攻】ジャッジ達成値+8。 《禁断の知識》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :使用者の魔法力+10。 《アンラック》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :【幸運】ジャッジ達成値-5。 《専用パイロットスーツD》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :防具の戦闘修正は名称に「B-K」を含む箒に搭乗中のみ有効。 《耐Gコントロール》 :-: 常 時 : 自動 成功 : なし : 自身 : なし : なし :名称に「B-K」を含む箒に搭乗中《ダメージコントローラー》の効果+3。 《オートドライブ》 :-: オート : 自動 成功 : なし : 自身 : なし :2C (1C):搭載箒に搭乗中、マイナーアクション直前に使用。通常移動1回。1ラウンド1回。 ■魔法■ 魔法記憶容量[【知力】+総合レベル]:32 名称 : LV : 種別 :タイミング: 判定値 : 難易度 : 対 象 :射 程: 代 償 :効果 ヒール : 1 :治癒(-): メジャー :【魔導】: 12 : 単体 :2Sq: 2MP :HP回復。【治癒力】3 ディフェンスアップ : 2 :付与(‐): オート :自動成功: なし : 単体 :2Sq:3M 2c:【防御】ジャッジ時、【防御】+10 プリズムアップ : 2 :付与(-): オート :自動成功: なし : 単体 :2Sq:4M 3c:【魔防】ジャッジ時、【魔防】+10 ダークバリア : 2 :付与(冥): オート :自動成功: なし : 単体 :2Sq:3M 3c:【魔防】ジャッジ時、【魔防】+15 リフレクトブースタ : 3 :付与(-): オート :自動成功: なし : 自身 : なし : 3MP :【行動値】+7 フェザーウォーク : 1 :付与(-): オート :自動成功: なし : 自身 : なし :2M 2c:移動力+1 スペルブースタ : 5 :付与(-): オート :自動成功: なし : 自身 : なし : 7MP :メインプロセス開始時に使用。メインプロセス間、未装備【魔攻】+5。 フライト : 1 :付与(-): メジャー :【魔導】: 10 : 単体 :1Sq: 3MP :対象を飛行状態にする。効果は1シーン間持続。 ヒートシフト : 1 :付与(-): オート :自動成功: なし : 単体 :1Sq: 5MP :ジャッジの達成値を+2。ただし[C]は発生しない。 ロケーション : 1 :汎用(-): メジャー :【魔導】:効果参照: 自身 : なし : 2MP :【魔導】ジャッジに成功すると目的の大体の距離を知ることができる。 ウィッチィズサルブ : 2 :汎用(-): メジャー :自動成功: なし : 自身 : なし : 4MP :[種別:[[その他]](箒)]のアイテムをひとつ作り出す。 計:24/32 ■武装■ 重量上限[【筋力】+総合レベル]:31 ■魔装■ 装備可能レベル合計[【知力】+総合レベル]:32 【武装】 名称 : 種別 : 部位 :重量LV:命中:回避:攻撃:防御:魔導:抵抗:魔攻:魔防:耐久力:魔法力:行動:移動: 射程 :備考 アークトゥルース・カスタムⅡ:武器(箒):その他: 5 :-2: : 4: 6: 6: : : 3: : : 1: :0Sq:BKシルバーバレット相当。総スロット8(+3)。 トライ・リアクター : 箒D : 箒 : 1 : : : : : 2: : 2: : : :-1: : :ラピスジェネレーター相当。 トライ・ブースター : 箒F : 箒 : 1 : :-1: : : :-1: : : : : 1: : :ジェットフライトシステム相当。 カリバー・ユニット :箒OP : 箒 : 1 : : :-4: : : : 4: : : : : : :BKクイーンフレーム相当。 スロット1。 ウイングバインダー :箒OP : 箒 : 2 : : : : : : : : : : :(3): : :スタビライザー相当。 スロット2。 アクセラレートデバイス :箒OP : 箒 : : : : : : : : : : : : : : :スロット1。 デルタ・ブレイザー :箒OP : 箒 : : : : : : : : : : : : : : :マジカルビット相当×4。スロット4。 オペレート・デバイス :箒OP : 箒 : 1 : : : : : : : : : : : : : :戦時自動操縦機構相当。スロット1。 ブルームコーティング :箒OP : 箒 : : : : : : : : : : : : : : :ステッカー“交通安全”相当。 増設スロット×3 :箒OP : 箒 : 3 : : : : : : : : : : : : : :スロット+2。 ブルームトリガー・R :その他 : 片手 : 1 : : : : : 2: : 2: : : : : : :破魔弓相当。 ブルームトリガー・L :その他 : 片手 : 2 : : : : : 1: : 1: : : : : : :シャーマニックシンボル相当。 トライアド・システム :その他 : - : 1 : :-1: : : 2:-1: 3:-2: : 10:-1: : :外道祈祷書相当。 BRジャケット :防具 : 衣服 : 2 : : 1: 1: 4: : : 1: 3: : : 1: : :B-Kライドスーツ相当。 ゴシックスローター :攻撃(冥): 魔装 : 8: : : : : 1: 1:29: : :-16:-2: :7Sq: マナスクリーン :防御(-): 魔装 : 1: : : : 1: : 1: : : : -1: : : : クイックエンブレム :付与(-): 魔装 : 1: : : : : : : : : : -1: 2: : : 合計 : :20 10:-2:-1: 1:11:14: 2:42: 4: : -8: 1: : : ■所持品■ 月衣収納上限[【筋力】×2+総合レベル]:40 名称 :重量:効果 0-PHONE : 0:携帯電話。《信用取引》 スマート0-PHONE : 0:携帯電話。《メモリ領域》《モバイルシステム》 幸福の宝石 : 0:Fを打ち消す。 シナリオ一回 タンデムシート : 1:箒OP。《ふたり乗り》 重量合計 : 1 所持金 :10200V. ■設定 箒メーカーと契約を結び、箒の試験運用を行ってきたブルームライダー。 幼い頃から空や異世界への憧れを抱き、早い段階でウィザードに目覚めて以後、箒乗りとしての道を歩んで来た。 戦線や部隊を回る中で技術者の目に留まり、新型試験箒の[[テスト]]ライダーとして採用。 試作箒のテストフライトと技術提携を兼ねて、スリ―エースを介して『テラ』への着任を迎える。 一人称は私。二人称は君or貴方。 容姿は細身かつ引き締まったもので、伸びた髪を邪魔にならない程度に束ねた青年。 毅然とした物腰を常としており、一見は大人な男にも見えなくもない。 内面は熱しやすく、闘争心の強い性格。悪く言えば落ち着きが無く、特に箒での空中戦闘において、戦士の本分を苛烈に発揮する。 家族を早くに失い、幼い頃は孤児として、身よりも無いままに施設を転々としていた過去を持つ。 そのためか、自由……それを象徴する“空”に対する強い執着が強くあった。 常識を振り切って夜を舞う。 そんな先達のウィザードに憧れを覚え、「ならば自分は、広大な空に挑もう」と箒乗りとしての道を選び、今に至っている。 中でも過去に名を馳せたウィザードを敬愛しており、自らの矜持と行動の指針にしてきた。 ◇ テラでの戦いの中、いつの間にかついた異名は「ミスター・カミカゼ」。 異世界テラの人型機動兵器……フォースメイルが生み出す悲劇を感じ入り、同時にその勇壮ぶりに心奪われてきた。 矛盾した想いを抱きながらも、テラに生きる人々との出会いや戦いを経て「誰かのために飛ぶ」という意識に目覚めていく。 本人はそれを「愛」という言葉で表しており、それが突拍子も無い言動に繋がることもあったりなかったり。 自身の内面を変えるきっかけとなったランブレイ……そしてゼフィールファルコンへの思い入れは強く、現在は一人の戦士として、テラでの戦いに最期まで関わることを決めている。 ■試験型高機動箒 アークトゥルース・カスタムⅡ(F兵装) 試験的に開発された機動用箒を、テストライダーが自分色にチューンした機体。別名オーバーアーク。 カラーリングは青と黒を基調とし、剣を模した機首や両サイドに伸びたウイングバインダー等、戦闘機を模したフォルムを成す。 さらに可変機構を実装し、戦闘時には腕部と脚部を展開。直線と曲線を交えた人型形態へと移行する。 テストライダーである上ヶ瀬勇己は、この可変機構を利用した戦闘マニューバ(カミガセ・ミラクルとも呼ばれる)を得意としてきた。 なお、変形による戦闘能力の差異は無く、現状では外観の変化に留まっている。 武装は、機首を兼ねた大型ライフル「デルタ・ブレイザー」から撃ち出す魔力砲撃。 腕部に収納されたグリップから精製される魔力刃や、脚部にし込まれた魔装ミサイルなど。 加えて、搭乗者の適性や戦況に応じてのスタイルチェンジ機能を実装。 スタイルの一つであるF兵装は高出力での魔装運用能力を有し、多彩な空間戦闘を得意とする。 元々は異世界テラとの技術提携機であり、評価試験と[[データ]]収集を想定とした箒だった。 しかし、同世界における戦況の激化を受け、テストライダーが本格的な参入を望んだことから、完全な戦闘仕様へと調整されてきた。 月衣機能の拡張を初めとしたカスタム化も積極的に進められ、実質的に乗り手の専用機と化している。 カスタムⅡは、テラで入手した新素材やゼフィールファルコン等から得られた戦闘データを活用した強化発展型となっている。 細かな点で効率化が進められ、内部に蓄積された魔力とプラーナを全面開放する戦闘システムにも磨きがかけられた。 一方、搭乗者にかかる心身の負担は変わらず無視されており、出力を上げる間は強烈な負荷に晒される。 初期取得 《マジックマスタリー:冥》《魔器所持》《生命の刃》《刃の供物》《刃の供物》 2.キャスターLv0→1 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+1 MP+3《ファストキャスト》《マジックマスタリーⅡ》 取得 3.キャスターLv1→2 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+1 MP+3《協調魔撃》《マジックルーラー》 取得 4.魔剣使いLv1→2 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+3 MP+1《刃の供物》《刃の供物》 取得 5.魔剣使いLv2→3 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+3 MP+1《刃の供物》《真名剣界》 取得 6.魔剣使いLv3→4 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+3 MP+1《真名剣界》《真名剣界》 取得 7.魔剣使いLv4→5 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+3 MP+1《三千世界の剣》《封印解放》 取得 8.魔剣使いLv5→6 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+3 MP+1《サトリ》《全なる一つの剣》 取得。 9.魔剣使いLv6→7 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+3 MP+1《剣の魔力》《霊破斬》 取得。クラスチェンジ《箒騎士》 10.箒騎士Lv0→1 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+2 MP+2《スカイハイ》《フラッシュロンド》 取得 11.箒騎士Lv1→2 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+2 MP+2《バディブルーム》《BFオフェンシブフライト》 取得 12.箒騎士Lv2→3 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+2 MP+2《スタビリティアジャスト》《BFオフェンシブフライト》 取得 13.箒騎士Lv3→4 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+2 MP+2《シルフィードロンド》《BFオフェンシブフライト》 取得 14.箒騎士Lv4→5 戦闘値 行動値+1 クラス修正 魔導+1 HP+2 MP+2《エアリアルハイ》《BFオフェンシブフライト》 取得 15.箒騎士Lv5→6 戦闘値 行動値+1 クラス修正 行動値+1 HP+2 MP+2《フルドライブモード》《BFオフェンシブフライト》 取得 16.箒騎士Lv6→7 戦闘値 行動値+1 クラス修正 行動値+1 HP+2 MP+2《ナイトオブナイト》《フェニックスウィング》 17.箒騎士Lv7→8 戦闘値 行動値+1 クラス修正 行動値+1 HP+2 MP+2《アドリブテクニック》《バディブルーム》 18.箒騎士Lv8→9 戦闘値 行動値+1 クラス修正 行動値+1 HP+2 MP+2《クイーンオブスカイ》《バディブルーム》 19.箒騎士Lv9→10 戦闘値 行動値+1 クラス修正 行動値+1 HP+2 MP+2《エースオブエース》《エースオブエース》 20.キャスターLv2→3 戦闘値 行動値+1 クラス修正 行動値+1 HP+1 MP+3《複合弾幕》《エレメントマスタリー:冥》 取得 21.キャスターLv3→4 戦闘値 行動値+1 クラス修正 行動値+1 HP+1 MP+3《魔力励起》《魔力励起》 取得 22.キャスターLv4→5 戦闘値 行動値+1 クラス修正 行動値+1 HP+1 MP+3《魔力励起》《アラウンドキャスト》 取得 ■購入履歴 ・初期 0-PHONE : 0 MUGEN-KUN : 0 幸福の宝石 : 100000 ディフェンスアップ : 40000 プリズムアップ : 40000 リフレクトブースタ : 50000 ロケーション : 10000 スペルブースタ : 50000 マナスクリーン : 25000 フライト : 6000 ヒートシフト : 15000 ヒール : 15000 タンデムシート : 20000 ウィッチィズサルブ : 50000 フェザーウォーク : 60000 合計: 481000 経験点購入 スマート0-Phone 39800 クイックエンブレム 1000000 アクセラレートデバイス 200000 スタビライザー 300000 ステッカー“交通安全” 400000 B-Kクィーンフレーム 400000 ラピスジェネレーター 2000000 外道祈祷書 2400000 増設スロット×3 600000 マジカルビット×4 2400000 B-Kライドスーツ 1000000 シャーマニックシンボル 1000000 ジェットフライトシステム 1000000 戦時自動操縦装置 250000 合計:12889800 13000000 経験点: 65 ・クラスチェンジ1回: 10点 ・EX月衣 ×3: 30点 伝家の宝刀 : 25点 愛用の箒 : 5点 闘気の才 : 15点 空の色彩 : 5点 財力 : 5点 伝家の術式 : 15点 変身体質 : 5点 急成長:魔攻 : 5点 魔装カスタマイズ : 5点 魔装弾幕 : 5点 スタイルアデプト : 5点 耐久力UP×4 : 20点 耐久力UPⅡ : 5点 合計 :120点 総合計:225 ■【セッション参加履歴】 11/02/11 『ガイナベルクの戦鎚』 GM:rougeさん 参加スタイル:CA 11/02/19 『食物連鎖』 GM:虎蔵さん 参加スタイル:CA 11/03/30・31『塗り替えられた日常』 GM:rougeさん 参加スタイル:HL 11/04/09 『不死の龍』 GM:りゅまこさん 参加スタイル:CA 11/05/21 『加速する混沌』 GM:rougeさん 参加スタイル:DF 11/05/22 『~覗きの犯人~』 GM:ボロックさん 参加スタイル:HL 11/05/28 『還ってきた泥いアイツ』 GM:氷神さん 参加スタイル:HL 11/06/10 『王真珠を手に入れろ!』 GM:りゅまこさん 参加スタイル:DF 11/06/18 『FM強奪…?』 GM:ぽんこさん 参加スタイル:DF 11/06/25 『[[セファーナ=クラン]]』 GM:rougeさん 参加スタイル:CA 11/07/02 『鮮血女王のオサンポ』 GM:氷神さん 参加スタイル:CA 11/07/15 『大戦の始まり』 GM:rougeさん 参加スタイル:DF 11/07/23 『獄中ウィザード』 GM:ぽんこさん 参加スタイル:HL 11/08/04・8『予定調和の悲劇』 GM:rougeさん 参加スタイル:DF 11/08/19 『盗まれた[[アルシェ]]』 GM:ごまみそさん 参加スタイル:DF 11/08/27 『虚栄の英雄』 GM:司書さん 参加スタイル:CA 11/11/20 『絶望の包囲網』 GM:rougeさん 参加スタイル:HL 11/12/09 『きつねのさとがえり』 GM:[[no.marcy]] さん 参加スタイル:DF 11/12/10 『微笑む悪夢』 GM:司書さん 参加スタイル:CA 12/01/01 『揃い踏み4色』 GM:rougeさん 参加スタイル:HL 12/01/14 『陥落の足音』 GM:rougeさん 参加スタイル:CA 12/02/11 『深淵の者と邪視』 GM:ボロックさん 参加スタイル:DE 12/02/18 『コーヒーブレイク』 GM:rougeさん 参加スタイル:特になし 12/03/17 『深き闇の竜』 GM:ボロックさん 参加スタイル:HL 12/03/24 『ヨルムンガンド攻略戦~第一陣』 GM:rougeさん 参加スタイル:CA 12/05/12 『ヨルムンガンド攻略戦~白と黒の戦女神~第2幕』 GM:rougeさん 参加スタイル:CA 12/05/26 『哨戒部隊救出ミッション』 GM:たまきさん 参加スタイル:DF 12/06/02 『邪視の力』 GM:ボロックさん 参加スタイル:CA 12/06/16 『尖兵』 GM:rougeさん 参加スタイル:HL 12/06/23 『~幻想種“帝竜”その2~』 GM:ボロックさん 参加スタイル:HL 12/06/30 『過ぎ去りし未来』 GM:no.marcyさん 参加スタイル:? 12/07/07 『ダークシード』 GM:たまきさん 参加スタイル:DF 12/08/17 『~並行世界からの来訪者~』 GM:ボロックさん 参加スタイル:CA 12/09/01 『天よりの光』 GM:rougeさん 参加スタイル:CA 12/09/22 『試練の滝』 GM:ボロックさん 参加スタイル:HL 12/10/13 『マヨイゴノシルベ』 GM:ささにしきさん 参加スタイル:DF 12/11/10 『施設襲撃』 GM:ぼろっくさん 参加スタイル:CA 12/11/17 『電脳林檎』 GM:rougeさん 参加スタイル:DF
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1526.html
タバサがネズミを倒した店では、報告を受けて出動した衛兵たちは火事場泥棒の防止や現場の保存に努めていた。周囲には物見高い住人が人垣を作っている。 「何があったんだい?」 野次馬たちの一人が声をかけられ、振り向くと、フードを被った女がいた。 「火事があったんだよ。結構激しくてな」 「へぇ、参ったね……。用事があったんだけど。店主はどこか知ってる?」 野次馬は燃えた建物が店と知っていることから、女が同じ裏の人間だとわかり、少し口が軽くなる。 「行方不明だと。逃げ遅れたのか、それとも雲隠れしたのか。それとも……。 まあ、とりあえず捕まっちゃいないようだな」 女はフーケだった。知り合いの店に人垣が出来ていたので、立ち寄ってみたのだが、思ったより大事になっていたらしい。 「やれやれ、心配だね……」 前回、老婆を訪ねたときの『人生最後』という言葉がフーケには引っかかっていた。 「他に何か、知らない?」 「そうだな……。火事があった後、店から出て来た奴がいたぜ。メイジみたいなガキだったが……」 フーケの目が細められた。 「メイジ? どんな奴だい?」 第二十一章 惚れ薬、その傾向と対策 袖を引かれ、リゾットは立ち止まった。袖を引いたのは後ろを歩くルイズではなく、横を歩いていたタバサだ。 「どうした?」 タバサの視線を追うと、そこには露天商が品を広げていた。 「……まさか、何か買って欲しいのか?」 先ほどルイズが買ったペンダントについて自慢していたため、そう言ったが、リゾット自身がそれはないな、と内心で否定していた。タバサが物を欲しがるタイプには見えないからだ。それだけにタバサが頷いた時、リゾットは驚いた。 「……なぜ俺に頼む? お前は金に困っているわけじゃないだろう?」 思わず訊くと、タバサはしばらく黙っていたが、俯いてポツリと答えた。 「貴方に何か買って欲しい」 「……俺に?」 「そう」 タバサなりの冗談なのかとも思い、リゾットは彼女の表情や仕草を注意深く観察する。だが、そこからは嘘や演技は読み取れなかった。 リゾットとルイズが驚きの余りしばらく硬直していると、タバサは首を小さく傾げた。 「……ダメ?」 「いや、構わないが……」 タバサには何度も助けられている。小物一つ買うくらいなんてことはない。 気を取り直して露天商を覗く。主に銀細工を扱っている店のようだった。様々な小物が並んでいるが、タバサの趣味がわからないので選びようがない。 「何か、欲しいものはあるか?」 尋ねられたタバサは顔を赤らめて首を振る。 「貴方が買ってくれるなら、何でもいい」 「……分かった」 体調も悪そうだし、情緒が不安定なのだろう、と無理やりな判断を下し、リゾットは商品に視線を戻す。買うからには無駄にならない物を選びたい。 しばらくして、リゾットは銀細工をあしらったしおりを手に取った。露店で売っているにしては凝った意匠で、中々の逸品に見えた。 店主に金を支払い、そのしおりをタバサに手渡す。 「ありがとう」 タバサはそれを宝物であるかのように両手で受け取ると、そっと本に挟んだ。 「な、な、何でわざわざリゾットに買ってもらうわけ?」 ようやく再起動したルイズが震える声でタバサに訊く。タバサはその質問に小さく首をかしげた。ルイズがペンダントを買ってもらったと聞いて自分も何か買ってもらいたくなったのだ。その感覚自体は今までにも幾度か感じていた。ただ、今ほど激しくなかっただけだ。今、ようやくそれが何か分かった。 「これが……」 何事か、小さく呟くと、タバサは身を翻して雑踏の中に消えた。 それを見送るリゾットの背中に、空気が凍るような冷たい声が掛けられる。 「リゾット……。あんた、タバサに何をしたわけ?」 振り返ると、ルイズはぎろり、と音が出そうな勢いでリゾットを睨んでいた。だが、リゾットの方にもまるで心当たりがない。 「特に何もしていない」 「嘘! あのタバサがあんな風になるなんて、どう考えてもありえないじゃない!」 「同感だが……。デルフ、お前は心当たりあるか?」 「いや、さっぱりだね」 ルイズは困惑するリゾットをしばらく唸りながら睨みつけると、八つ当たり気味に脛を蹴りつけた。リゾットは足を上げてそれをかわす。自分の身に覚えがないことで蹴られる道理はない。 「帰るわよ! しっかりエスコートしなさい!」 「分かった。また後ろをついて来い」 リゾットが先に立って歩き出す。ルイズはその後ろに寄り添うようについていった。 部屋に帰ってきた頃にはもう既に日が落ちていた。ルイズは、ベッドの上に横たわると、始祖の祈祷書を開いた。機嫌は持ち直したらしい。 リゾットは買ってきた服を自分の衣装箱にいれ、床に座り込んだ。特にやることもないので、ハルケギニアの文字の勉強を始めることにする。最近色々とやることが多くてサボりがちだったため、幾らか忘れているかと思ったが、覚えた単語についてはすんなり読めた。 しばらくそうやって勉強していると、視線を感じた。顔をあげると、ルイズがリゾットをじっと見ている。 「何だ?」 「退屈。何か話して」 「どんな話だ?」 「何でもいいわよ。ご主人様が退屈なんだから、お相手しなさい」 突然そんなことを言われても話題を思いつくわけがない。リゾットはしばし考えていたが、やがてルイズの抱えていた始祖の祈祷書に目を留めた。 「お前の『虚無』の呪文は、その本に書かれているんだったな」 「そう。私がこの『水のルビー』を嵌めると、白紙に浮かんで見えるの」 「この間は爆発だったが、他にも使えるのか?」 ルイズは首を振り、杖を取り上げた。 「他には何の呪文も浮かんでこないの。肝心の『エクスプロージョン』にしても……」 「問題があるのか?」 頷くと、ルイズはゆっくりと呪文を唱え始めた。 「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……」 そこまで唱えて、耐え切れなくなったようにルイズは杖を振る。直後、部屋の隅に置かれていたリゾットの毛布が爆発して飛び散った。 そしてルイズは白目をむいて、ばたりとベッドに崩れ落ちた。 「おい、ルイズ! どうした!?」 リゾットはルイズを抱き起こし、揺さぶりながら頬をぺちぺちと叩いた。しばらく揺さぶると、ルイズをぱちりと目を開けた。 「あうぅぅぅ……」 「起きたか……。大丈夫か?」 頭を振ると、ルイズは自分が抱きかかえられていることに気付き、頬を染めた。 「は、離して。ちょっと気絶しただけだから……」 「ああ……」 リゾットはルイズを床に立たせた。 「今のは?」 「うん……。最後まで『エクスプロージョン』を唱えられたのは、あのときの一回だけで、それから何度唱えようとしても、途中で気絶しちゃうの。一応、爆発は起きるんだけど」 「どういうことだ?」 「多分、精神力が足りないんだと思う。魔法の源が精神力だって言う話はもう知ってるわよね?」 「ああ……」 毎回授業に出ていたリゾットは魔法についての基礎知識は大体把握している。重ねる系統が一つ増えるごとに精神力の消費はおよそ倍になり、クラスが一つ上がるごとにその消費量が半分になる。 威力だけでなく、使える魔法の回数においても、クラス間の差は大きいのだ。 「つまり、お前が今、気絶したのは精神力が切れたからか?」 「そう。無理するとさっきみたいに気絶しちゃうわ。呪文が強力すぎて、私の精神力が足りないんだわ……」 「この間はどうして使えたんだ?」 「そうね……。どうしてなのかしら……。それが疑問なのよね……」 「普通に考えれば、長年溜まっていた精神力が爆発した、ということだと思うが……」 ルイズははっとした顔になった。 「そうかもしれないわ……」 「何か心当たりがあるのか?」 「ええ。スクウェアメイジといえど、スクウェア・スペルはそう何度も唱えられないの。下手すると、一週間に一度、一月に一度だったりするの。例えば、スクウェア・クラスの『錬金』は黄金を生み出せるけど、何度も唱えられないし、造れる量もわずかだから世の中が贋金だらけにならない」 「…………」 「つまり、強力な呪文を使うための精神力が溜まるのには、時間がかかるってことなの。私の場合も、そうなのかもしれないわ」 「大体どれくらいで溜まるんだ?」 「わかんないわ。自分でも……。一月なのか、もしかしたら一年なのか……」 ルイズは考え込んでしまった。 「しかし、呪文を唱えるのが途中でも効果が出るものなのか? 確か、途中で止めた場合は何も起きないと思っていたが……」 「そうね。やっぱり『虚無』は特別なのかも。呪文詠唱が途中でも効力を発揮するんだもの。他にそんな呪文、聞いた事がないわ」 「こういうのもなんだが……使い勝手が悪いな」 いつ、どれほどの威力で使えるか分からない能力というのは、戦術や戦略を立てる側からすると戦力に計上しづらい。そういう意味から言えば、『錬金』や『レビテーション』などの基礎的な魔法の方がまだ使える。 「う……。ま、まあ、これ一つっていうことはないだろうし、もっと使い勝手がいい魔法があるわよ、きっと。それに、簡単なコモン・マジックは成功するようになったの。それでとりあえずは我慢するわ」 ルイズはうんうん、と自分を励ますように頷いた。リゾットはそれを見て、若干安心した。突然、強力な力を手に入れると、その使い手は往々にしてその力を持て余す。虚無の魔法の威力次第だったが、この使い勝手の悪さだとそういった心配は無用のようだ。 「じゃ、そろそろ寝るわ。着替えるから、向こう向いていて」 リゾットはルイズに背を向けると、爆発で布切れになった毛布を片付ける。 「ん、いいわよ」 リゾットが毛布の残骸を部屋の隅に纏め終わった頃、ルイズは着替え終わり、もそもそと布団の中に潜り込んだ。片手だけ外に出してくるので、リゾットはその手を握った。最近、毎晩こうしないとルイズは眠らないのだ。 しばらくそうしていると、ルイズが布団から顔だけ出し、部屋の隅にまとめられた毛布の残骸を見た。 「そういえば、あんたの毛布、ふっ飛ばしちゃったのよね……」 「気にするな。実際に爆発の程度を知ることが出来た」 しばらく間があって、言いにくそうにルイズが言った。 「でも、毛布を台無しにしたのは私よね……。責任を取る必要があるわ。いつまでも、床ってのはあんまりだし。だから、その……ベッドで一緒に寝てもいいわ」 だが、リゾットは首を振った。 「……いや、遠慮しておこう。気遣いは無用だ」 「何で? ご主人様が気を使ってあげてるのに」 むっとしたルイズに、リゾットは淡々と答える。 「狭いし、俺は人が近くにいると眠れない」 それは暗殺者として培った悲しい性質なのだが、ルイズには口実と取られたらしい。ルイズは布団を頭から被り、中から拗ねたような声を上げた。 「……ならいいわ。床で寝てなさい」 それからしばらくして、リゾットは握った手と息使いから、ルイズが眠ったことを確認した。 その後、自分も眠ろうとしていたリゾットは廊下を誰かが歩く気配に目を開いた。誰かがトイレでも行こうとしているのかと思ったが、気配の持ち主は部屋の前で立ち止まっている。 リゾットは音もなく立ち上がると、ナイフの位置を確認し、扉を開ける。暗い廊下にタバサが立っていた。 「タバサか……。どうした、こんな夜中に?」 ルイズが眠っているため、声を潜めて尋ねる。 「相談がある。私の部屋まで来て」 「……今か?」 暗闇の中でタバサが頷いた。 「体調はもういいのか?」 再び頷いた。 「分かった。なら行こう」 タバサについて、廊下を歩く。道中、二人は口を開かなかった。階段を上り、五階のタバサの部屋についた。タバサは中へ入る。 「どうぞ」 リゾットは戸口で立ち止まっていたが、タバサに促され、中に入る。タバサがベッドに腰掛けたので、リゾットは空いている椅子に座った。 そのまましばらく、タバサは何も言い出さなかった。リゾットを何度か見るのだが、結局何も言わず、また俯く。 沈黙が部屋を支配した。お互い、無駄口を叩くタイプではないが、相談があるといわれたのに何も話さないのはどうも居心地が悪い。 「相談と言うのは?」 仕方なく、リゾットから話を振ってみた。タバサはしばらく躊躇するように口を開いたり閉じたりしていたが、やがて俯いて言った。 「一緒にいて欲しい」 「……どういうことだ?」 タバサが顔を上げる。その白い頬がほんのりと色づいていた。 「……会いたいと、思った」 「俺に?」 リゾットの怪訝な声に、タバサは頷く。 「会えばきっと辛くなる。でも、貴方が近くにいなければ、情緒が安定しない」 「……」 リゾットはじっとタバサを見つめた。その表情は熱に浮かされているようではあるが、やはり嘘や演技、企みの類は読み取れない。 「何かがおかしい。でも原因が分からない。このままだともうすぐ取り掛かる任務に支障がでる。解決するまで、一緒にいて欲しい」 タバサはそう言うと、熱っぽい目でリゾットを見つめた。こちらを頼り切ったような、それでいて断られることに対する不安に怯えているような、何ともいえない光がタバサの瞳をよぎる。 「……分かった。出来る範囲で、だが力を貸そう」 こくり、とタバサが頷く。相変わらず無表情なのだが、どことなく嬉しそうに見えるのが印象的だった。 「とりあえずもう遅い。今夜はひとまず帰る。俺も少し眠りたいからな」 席を立って扉へ向かうと、リゾットは袖を引かれた。振り返ると、タバサがコートの袖を掴んで不安そうにリゾットを見上げている。 「……行かないで」 「一緒にいる、というのは今からなのか?」 「貴方がいなければ多分、眠れない」 リゾットは少し考えた。 「……分かった。お前が寝るまでは側にいる。それでいいか?」 「いい」 リゾットがベッドの端に腰掛けると、タバサは布団の中に入った。リゾットはそのままタバサが寝付くのを待つ。ふと、手が伸びてきて、頭巾を取られた。 振り返るとタバサがリゾットの頭巾を抱きしめていた。 「おい……」 取り返そうとすると首を振る。 「これで我慢する」 こうまで態度を豹変させられるとどう扱っていいかわからない。仕方なく頭巾は諦め、タバサがこうなった原因を考える。 そこでふと、モット伯の屋敷を襲ったときにフーケが持ち出した薬のことを思い出した。あのとき、確かに惚れ薬がどうとか言っていた。魔法が存在する世界だ。惚れ薬の一つや二つあってもおかしくない。 (実際にどういう効果があるか、フーケに訊いてみるか……) 考えをまとめているうちに、タバサは安心しきった顔で眠っていた。リゾットはそれを確認すると、足音を消し、部屋から出て行った。 翌朝、ヴェストリ広場でいつも通り訓練を行うリゾットのところへ、タバサがやってきた。特に何をするでもなく、その場で本を広げて読み始める。 「また組み手でもするか?」 一応、聞いてみるがタバサは首を振った。その顔色を見る限り、どうやら一晩たっても症状は改善されたわけではないようだ。 基礎筋力トレーニング、格闘技術訓練、スタンドの操作訓練と、一通りこなして水場で汗を流していると、シエスタがやってきた。タバサに気がつき、少し意外そうな顔をする。 「おはようございます、リゾットさん、ミス・タバサ」 「ああ……」 シエスタから飲み物を受け取る。 「シエスタ、頼みがある」 「はい、何でしょう?」 「暇があるときでいい。これを修理してくれ」 今までの戦闘で破損した衣類を取り出す。 「汚れは自分で落としたんだが……」 「ああ、縫うんですね?」 「面倒掛けてすまない」 シエスタはそれを受け取り、クスッと笑った。 「どうした?」 「いえ、リゾットさんって何でもできるイメージがあったので……」 「……そう見えるだけだ」 「そういえば最初はお洗濯もできませんでしたね。大丈夫ですか? 何か困ったことがあれば、いつでも言ってくださいね」 デルフリンガーがカタカタと鳴った。 「生活能力のねー兄貴としっかり者の妹か、お前らは」 「あははははは……。私、お兄さんはいませんよ? 弟ならいますけど。 それじゃあ、確かに受け取りました。私はまだ仕事があるので、これで」 シエスタが笑い声をあげ、一礼すると帰って行った。 リゾットが踵を返すと、タバサがじっとこちらを見ている。 「何だ?」 「シエスタが好きなの?」 「いや、そういう関係じゃない。あの家事能力は尊敬しているがな」 「そう……」 本を閉じると、リゾットの後をついてくる。何となくその光景は雛が親鳥の後をついて歩く様を連想させた。 「これからルイズを起こしに行くが……ついてくるのか?」 タバサは頷いた。 「邪魔はしない」 「構わないが……」 ルイズは確実に不機嫌になるだろう、と思うと少し困った。 「一緒に居たい」 何の裏もない、純粋な態度にリゾットは弱い。渋々了承した。 「……分かった」 ルイズの機嫌は悪かった。何故といえば、自分の使い魔のせいだ。リゾットが何か仕事でミスしたわけではない。いつもの時間にルイズを起こしたし、食堂で椅子を引くことも忘れなかったし、授業にもついてきた。問題はそこではない。 その間、何故かずっとタバサが一緒にいたのだ。邪魔をしたりするわけでもないし、本を読んでいるだけなのだが、リゾットとの距離が近いのが気になった。 教室でタバサがリゾットの隣に座ると、ルイズの我慢は遂に限界を迎えた。 「もう、タバサ、貴方、一体何がしたいのよ!?」 「彼と一緒に居たいだけ」 『なっ!?』 ルイズはもちろん、騒ぎを聞きつけて近くに来たキュルケも驚いた顔をしている。 「う、うう~…どうせ本を読んでるだけじゃない! 別にリゾットの近くじゃなくたっていいはずでしょー!?」 「近くであってもいいはず」 「タバサ、貴方、急にどうしたの?」 キュルケが尋ねると、タバサは首をかしげた。 「分からない」 「分からないって……」 困惑した様子のキュルケに、タバサは視線を移した。 「ごめんなさい」 「謝らなくてもいいんだけど……ちょっと驚いちゃって」 ルイズはまだイラついている様子だった。 「う~っ、リゾット、あんたも何か言ってやりなさいよ!」 「実害があるわけじゃないから、いいんじゃないか?」 「良くない! 何だかイライラするのっ!」 リゾットは、タバサに向き直った。 「タバサ、ルイズが気に食わないらしい。出来れば」 「嫌」 言葉の途中で遮られた。仕方ないので、リゾットがタバサに代わって謝る。 「タバサは今、俺の近くにいないと情緒が安定しないらしい……。何かの影響だと思うが、今のところ原因を調査中だ。少し我慢してくれ」 「情緒が安定しないってどういうことよ?」 ルイズがタバサに詰め寄るが、タバサは本から目を離さずに答えた。 「……不安になる」 「何よ、それ~~っ!」 「授業」 タバサの声に教壇を見ると、コルベールが咳払いをしていた。 「ミス・ヴァリエール。授業を始めたいので、静かにしてくれませんか?」 「すいません、ミスタ・コルベール」 ルイズも渋々席につく。リゾットを小さく睨んで、呟いた。 「後で説明しなさいよ」 授業の後、人のまばらなヴェストリの広場にリゾット、ルイズ、キュルケ、タバサが集まった。 「で、タバサは一体どうしちゃったの?」 ルイズはじと目でリゾットを見る。リゾットは首を振った。 「今のところ、原因は分からない。ただ、原因は考えてみた。一つはスタンド攻撃の可能性、もう一つは惚れ薬だ」 「惚れ薬? ご禁制品じゃない」 ルイズの言葉に、リゾットが頷く。 「そうらしいな」 「タバサはそれを飲んじゃったの?」 タバサは首を振った。 「心当たりはない」 タバサの言葉に、キュルケは考え込んだ。 「単純にタバサがダーリンを好きになったって言う可能性もあるけど……」 「それにしても変化が急激過ぎるだろう」 「あら、恋はいつだって唐突なものよ?」 面白そうに笑うキュルケを、ルイズはじろりとにらんだ。 「キュルケ、ふざけないで。真面目な話をしてるのよ」 「ごめんなさい。でも、ダーリンも好かれて悪い気分はしないでしょう?」 「正気と引き換えだからな……。それに、タバサも俺もやらなければならないことがある。今のタバサの状態はその妨げになるな」 「ふーん……。まあ、いいけど、これからどうするの?」 「フーケに連絡を取った。裏の事情に詳しいからな。今夜には来るはずだ。 スタンド使いの攻撃だった場合は……本体を探さなければならないな」 「時間がない」 タバサが呟いた。 「何かあるの?」 ルイズが尋ねると、タバサは頷いて、付け加える。 「明日の昼には実家へ出発する」 「へぇ……。そういえば、タバサの実家ってどこなの?」 タバサは答えない。答えたくないのか、答える必要がないと思っているのか、その表情からはよく分からなかった。だが、全身からそれ以上の質問を拒む、頑なな気配を発していた。 「何か事情がありそうね。嫌なこと聞いて、ごめんなさい」 「いい……」 タバサは片手を本から離すと、テーブルの下にあるリゾットの手を握った。 「一緒に」 「お前の実家へ、か?」 「そう」 タバサはじっとリゾットの目を覗き込んでいた。ルイズはそれを見て不機嫌そうに横を向いていたが、その目に土で出来た小さなゴーレムが映った。 「ねえ、あれ……」 ルイズが指差し、その場の全員がゴーレムに気がついた。 「あれ、フーケのよね?」 ゴーレムの形はフーケがルイズたちと戦ったときのものだ。 「ああ。こんな日が高い時間に来るとは……何か急用があるのか?」 「とりあえず、ついて行ってみたらどうかしら?」 キュルケのその言葉で、全員、ゴーレムについて歩き始めた。ゴーレムは風の搭の入り口で土に戻る。 魔法学院は、本搭を中心として、五芒星の形に搭が配置されている。風の塔はそのうちの一つで、ほとんど授業にしか使われない搭であり、入り口は一つしかない。 四人は搭の扉を開く。中にはフーケが居た。 「おや、大勢だね。こんなに歓迎されてるとは思わなかったよ」 「色々あってな……。それより、こんな時間にどうした?」 「ああ、ちょっとね。確かめておきたいことがあって……」 フーケはタバサに視線を投げかけた。 「昨日の昼過ぎ、トリスタニアのあるもぐりの秘薬屋で火事が起きた。それだけなら大したことじゃないんだけど、そこの店主が消えちゃってね」 フーケの目つきが鋭くなる。 「火事が起きた直後、あんたが出てきたのを見た奴がいる。店主がどこに行ったか、じゃなきゃあ、どうなったか、知らないかい?」 「ちょっとフーケ、何か誤解があるみたいだけど」 「ルイズ、説明はタバサ自身にさせろ。……できるな?」 割って入ろうとしたルイズをリゾットが遮り、タバサに促す。タバサは頷いて、口を開いた。 「……彼女は死んだ」 「どういうことだい?」 タバサはネズミのスタンド使いとの間で起きた戦いの説明を始めた。 「……そう。スタンド使いにね……」 話を聞き終わった後、フーケは長いため息をついた。彼女が生きていないことはある程度、覚悟していた。ただ、殺した犯人がまだ生きているなら、何らかの報いを受けさせるつもりだったが、それも無用だったようだ。 「……納得したよ。あんたを疑って、悪かった」 タバサは頷いた。その無表情を見て、フーケは微笑んだ。 「あんたのことは良く知らないけど、無表情具合はリゾットといい勝負だね」 「リゾットと同じ……?」 「そう、もう少し感情を出した方が人生楽しいよ。リゾットもね」 リゾットは僅かに肩を竦めた。 「練習してみるが、すぐには無理だ」 「はいはい、『長年の癖だ』って言うんだろ? 強制はしないよ」 リゾットとクスクス笑うフーケのやり取りを見て、タバサはほんの少し眉根を寄せた。ただそれだけだが、タバサにしては最大限の感情表現になる。 「フーケが好き……?」 「……嫌いではないが、お前の思ってるような意味じゃない」 「嫌いではない、ねえ……」 フーケが苦笑した。 「そう……」 タバサは俯くと、きゅっとリゾットに抱きついた。ルイズの眉が跳ね上がる。 「ちょっとタバサ、人の使い魔に何をするのよ!」 だが、タバサはルイズに構わず、そのまま囁くように言った。 「私、頑張る」 「何をだ?」 「秘密……」 フーケはそんなタバサを見て、目を丸くした。 「その子、どうしたの? そんな積極的な子だっけ?」 「違うと思うんだけど……」 「惚れ薬よ! それ以外考えられないわ!」 「惚れ薬?」 苦笑するキュルケと、不機嫌そうなルイズに、フーケは反応に困ったような笑みを浮かべた。 それからしばらくして、状況の説明を受けたフーケは頭痛がしたかのように頭を抱えた。彼女の推測通りなら、今回の事件の責任は自分にもある。 「え~と……じゃあ、まずはその……、惚れ薬かどうかを確かめようか」 「できるの?」 ルイズの質問に、リゾットが口を挟んだ。 「『ディテクト・マジック』か?」 「あ」 キュルケとルイズがそろってその手があったか、というような顔をした。フーケは呆れたように首を振る。 「あんたたち、相当頭に血が上ってたんだね……。好きな男が独占された程度で冷静さを失っちゃ、立派なメイジにはなれやしないよ?」 「そうみたいね……。反省するわ」 苦笑してそれを認めたキュルケとは対象的に、ルイズは顔を赤くしながら不機嫌そうにそっぽを向いた。 「ふん、うっかりしただけよ。別に私は使い魔のことなんか何とも思ってないんだから!」 「はいはい。じゃあ、ともかく『ディテクト・マジック』を使うよ」 フーケは杖を掲げ、呪文を唱える。光の粒が舞う。 「やっぱりこの子、何か魔法がかかってるわね」 「惚れ薬とは限らない」 タバサが否定するように言うと、フーケは言いづらそうに切り出した。 「実はその……心当たり、あるんだよ。……惚れ薬に」 「どういうことだ?」 「モット伯から奪い取った惚れ薬があっただろう? あれを売り払ったのがさっき言った秘薬屋でね……。まだ売れてないなら、店にあったはずなんだ」 「飲んでない」 「それが厄介なことに、飲まなくても気化した薬を吸うだけで効果がある奴でね。火事の最中に吸ったんだろうね。 飲んだ場合と比べて、少し効果が落ちるはずなんだけど……」 「効果が落ちる? これでか?」 タバサはリゾットにぴたりと寄り添っている。これで効果が落ちているのだとしたら、本来はどれほどだというのか。 「直接飲んだときの威力はそんなもんじゃないよ。以前、まともに飲んだ人間を見たことがあるけど、もっと病的で盲目的だったよ」 その場の全員はそうなったタバサを想像してみたが、誰も想像できなかった。 「まあ、それはいい。……解除薬は?」 「店内にあったはずだけど、どうなってるかは分からないね。火事場泥棒の一人や二人いただろうし……買った方が早いんじゃない? 少し値が張るけど」 「お金なら大丈夫よ。ダーリンとやってる会社は好調だし」 タルブの戦いでほとんどの船を失ったトリステインは国の内外に船の製造を依頼していた。その恩恵はリゾットとキュルケの事業にも及んでいるため、二人ともかなり所持金に余裕があった。 「そうかい。じゃあ、解除薬を探してみるけど、希少だし、私が使ってたところがなくなったからね……。見つかるかは分からないよ」 「どれくらい持続するんだ? 場合によっては効果切れを待つ方が早そうだが」 「個人差があるからね。一ヶ月後か、一年後か……」 「探して。全力で」 ルイズが即答した。少し目が据わっている。その迫力に、フーケは思わずたじろいだ。 「あ、ああ……分かったよ。でも、そんなに急ぐなら、作った方が早いんじゃない?」 「作れるの?」 フーケは頷いた。 「秘薬作りは私の専門外だからどう作るか分からないけど、水のメイジなら作れると思うよ。まあ、そっちはあんたたちでも探してみて」 「明日の昼までには無理そうだな……」 「無理だね。何か期限があるなら、諦めるしかないんじゃない?」 リゾットは頷くと、自分の主人に話しかけた。 「ルイズ、悪いがタバサと一緒に外出する許可をくれ」 「仕方ないわね……私も行くわ」 「ああ……タバサ、いいか?」 だが、タバサは首を振った。 「駄目」 タバサのはっきりした意思表示に、ルイズは顔を曇らせる。 「何で?」 「駄目」 もう一度、はっきりと拒否する。それを見て、キュルケが口を出した。 「諦めなさいよ、ルイズ。タバサは惚れ薬の効果でこう言ってるんじゃないわ」 「何でキュルケにそんなことが分かるのよ」 「分かるわよ、親友だもの」 きっぱりと言ったキュルケの一言は、理屈を超えた説得力があった。ルイズは仕方なく諦め、リゾットに指を突きつける。 「タバサに何かしたら、お仕置きだからね!」 「……俺はそんなに信用がないのか」 「だって……あんた、肝心なところで命令を聞かないじゃない」 リゾットは今までを振り返る。確かにそういうところもあった。 「それを言われると返す言葉もないな……」 二人の様子を見ていたキュルケが名案を思いついたように声を上げた。 「じゃ、あたしがルイズの代わりにダーリンを見張っていてあげるわ」 「な、何よそれ! 余計な心配が増えるじゃない」 「そう? でも、あたしがどこへ行くかはあたしの勝手でしょう? ねえ、タバサ、あたしも一緒に行っていいかしら?」 タバサは少し考えると、頷いた。 「決まりね。最近暇だったし、旅行なんて楽しみだわ」 「遊びに行くんじゃないんだがな……」 リゾットは呟きつつ、ルイズが不貞腐れたように口を尖らせているのに気がついた。 「ルイズ」 「何よ」 「心配しなくても、俺は薬でおかしくなっている人間を襲ったりはしない。その程度の分別はある。信用しろ」 「……わかったわよ! あんたが帰るまでに解除薬を手に入れておくわ! きちんとその恩を返しなさいよ!」 「了解だ。……フーケも、頼んだ」 「まあ、金は貰ってるし、仕方がないね。任せられておくよ。代わりといってはなんだけど、無事、この件が解決したらどっか飲みに連れてってよ。もちろん、あんたの奢りで」 「分かった」 実は二人の台詞には『ルイズを』という言葉が隠されているのだが、それを言うと間違いなくルイズが不機嫌になるので、二人ともあえて名言を避けた。 大人は言わなくてもいいことは言わないこともできる生き物なのだ。 「それじゃ、私が解除薬の市販品を探すから、ルイズが作れる人間に当たりをつけておくってことで、いいね? 見つかればそれでよし、見つけられなかった場合はその人に頼むってことで」 「あんたと組むのは不本意だけど、仕方ないわね。それでいいわ」 「じゃ、早速調査にとりかかるから、今日はこれで」 フーケは風の搭を昇っていく。どうやら『フライ』を使って屋上から出て行くらしい。ふと、足を止めて、タバサに振り返った。 「そうだ、タバサ……。礼を言うよ」 「何に?」 「古い馴染みの仇を取ってくれて、さ。あの婆さんは食えないけど、嫌いじゃなかったからね」 「……」 タバサは表情を変えない。フーケも反応が欲しかったわけではないらしく、そのまま搭を昇っていった。 フーケがいなくなったので、後に残された四人は順に外へ出て行く。ふと、リゾットが振り返ると、タバサはじっとその場に立ち尽くしていた。 「どうした?」 声を掛けられ、タバサは振り返った。言おうかどうか、迷ったようだが、やがてぼそぼそと呟いた。 「……私は店主を盾にした……」 リゾットはその言葉の意味をしばし考えた。 「ネズミのスタンド攻撃からか?」 タバサは頷いた。 「死体だったんだろう? なら、気にするな。生き残るためにしたことだ。お前が悪いわけじゃない」 「うん……」 そしてしばらくしてから顔を赤らめ、呟いた。 「不思議」 「何がだ?」 「気持ちが少し軽くなった」 「……なんでも抱え込むのは心に悪い。今後も何か気になってることがあるなら、俺にでもキュルケにでも相談すればいい」 タバサは頷いて、リゾットのコートの裾を掴んだ。 「……貴方は?」 「?」 「相談できる人はいるの?」 「俺は……」 リゾットは言いよどんだ。考えてみればリゾットは元の世界にいる頃から、相談をされる立場になったことはあっても持ちかける立場になったことが余りない。それがプライベートな内容のこととなると尚更だ。 黙り込んだリゾットに、タバサは声を掛けた。 「私には相談していい」 「お前……」 「これは薬とは関係ない。私は薬を嗅ぐ前から貴方を信頼している」 「ちょっとリゾット! 何してるのよ! 早く行くわよ!」 外からルイズが呼ぶ声が聞こえ、リゾットは会話を中断した。 「今行く! ……タバサ、行くぞ」 タバサはこくりと頷いた。何かを訴えるような眼差しを向けてくる。 「……そうだな……。相談したいようなことができたら、そのときは頼む」 タバサは無表情に、しかしどことなく嬉しそうに頷くと、リゾットのコートの裾を掴む手に力をこめた。 搭から外へ、二人は連れ立って踏み出した。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/182.html
35 公爵と獣王 前ページ次ページ虚無と獣王 トリステイン魔法衛士隊は、ここ数日多忙を極めていた。 隣国の内乱が貴族派の勝利に終わりつつある今、首都トリスタニア近辺には厳戒態勢が敷かれ始めている。 例え王宮御用達の職人であっても荷物及び身体検査は厳重に行われ、『ディテクト・マジック』による敵メイジの操作の有無についても調べられた。 当然王宮上空はフネ・幻獣の区別なく飛行禁止令が出されている。 魔法衛士隊はグリフォン、マンティコア・ヒポグリフの3隊から構成されていた。 グリフォン隊はゲルマニアからの帰国後から休暇という扱いになっている。もっとも『レコン・キスタ』の侵攻に備え城の宿舎にて待機中ではあったのだが。 ヒポグリフ隊は訓練期間に入っており、郊外の練兵場にて腕を磨いていた。 という訳で、現在首都の警備に当たっているのはマンティコア隊という事になる。 この隊の長はド・ゼッサールといった。鍛えぬかれた体躯、厳めしい顔に髭をたくわえた姿は威厳に溢れている。先代隊長から受け継がれている『鋼鉄の規律』を体現している人物だった。 そのド・ゼッサールに非常事態が告げられたのは昼を幾らか過ぎた頃である。 「王宮に向かってくる幻獣を2体確認! 風竜とワイバーンです! 双方騎乗あり、迎撃出ます!」 マンティコアに跨った5人の隊員が、素早く空へと舞い上がった。 日頃の訓練の賜物か、5騎はあっという間に件の侵入者を取り囲む。2騎は前方、1騎は後方、上下に各1騎。当然全員が杖剣を抜いていた。 「この区域は現在飛行禁止令が施行されている! 直ちに進路を変更されたし!」 リーダー格のメイジが風魔法で声を相手に届かせるが、相手からの返答はない。 ここは多少強引な手段を取るべきかと衛士たちが判断しかけた時、ふいに幻獣たちが動き出した。 指示とは逆に、王宮の方へと。 「ッ、このっ!」 下方にいたメイジがとっさに『エア・ハンマー』を放つが、急加速した風竜の尾を掠めただけに終わった。 マンティコアは小回りと持久力に優れているが加速という点では他の飛行幻獣に劣る。 それでも後を追いながら魔法を放つ衛士たちであったが、それらは全て風の防壁で弾かれるか、また火の呪文で迎撃されていった。 距離も時間も短いが真剣な追走劇は、ほどなく侵入者の王宮中庭への緊急着陸という形で終わる事となる。 中庭に駆けつけたド・ゼッサールは、注意深く侵入者を観察した。既に抜杖しており、いつでも呪文を唱えられる状態である。 表情を険しくしたまま、しかし彼は内心で困惑していた。 城への強行着陸という乱暴な手段を取った者たちが、20歳にも満たない様に見えたからである。 風竜に乗っていたのは青髪に眼鏡をかけた、まだ12・3であろう少女。燃える様な赤髪の、こちらは19歳くらいと覚しき少女。そして同じく10代の金髪の少年であった。 更に虎ほどの大きさのサラマンダー、それより一回り以上大きなジャイアント・モールがいる。 一方ワイバーンに乗っていたのはピーチブロンドが印象的な13・4の少女と、見た事のない3メイルほどの大きさの鰐頭の獣人だった。 なかなか個性的なメンツであったが、彼女たちの共通点としてなぜか一様に土埃にまみれているという事が上げられる。 また獣人を初めとして幾人かは怪我をしているのがわかった。 まるでどこかの戦場を駆け抜けてきたかの様な姿に、歴戦のメイジである魔法衛士たちも息を飲んでいる。 しかし、ド・ゼッサールは他の隊員たちとは別の意味で息を飲んだ。 動きやすさを重視したのか乗馬服を着た桃色の髪の少女の姿に、激しい既視感を覚えたからである。 中庭は緊迫した空気に満ち溢れていた。 魔法衛士たちが周囲を取り囲む中、ワイバーンから降りたルイズは敢えて胸を張り声を上げる。 「私はラ・ヴァリエール公爵が3女、ルイズ・フランソワーズと申します。大至急、姫殿下もしくはマザリーニ卿にお取り次ぎ下さい!」 ピクリ、とマンティコア隊隊長の表情が動いた気がした。 「──ラ・ヴァリエール公爵のご息女、と申されたか」 「はい」 「なるほど、目元が母上によく似ておられる」 「そちらはマンティコア隊のド・ゼッサール様とお見受けします。両親からお話はよく聞かされておりました」 傍目にはどうという事のない会話であったが、2人の間ではアイ・コンタクトで様々な感情が行き来している。 ああ、『烈風カリン』殿のご息女ですか。大変でしょうなあ、こう、いろんな意味で。 いえいえ、ゼッサール様も母様の全盛期に部下をなされていたのでしょう? 心中お察しします。 とまあ、文にすると大体こんな感じになる。つまるところ、同病相哀れむという良い見本であった。 どうやらレコン・キスタの手の者ではないらしい、それどころか公爵家の令嬢である様だという事で、衛士たちは戦闘態勢を1ランク下げた。 流石に杖を降ろしたりはしないものの、隊員同士で素早くアイ・コンタクトや小さなジェスチャーが交わされ、意志の疎通が図られていく。 (赤髪の巨乳1択)(同意)(激しく同意)(同感)(お前は俺か) (わかってねえなあお前等)(ふくらみかけこそが至高)(つまりピーチブロンドの娘こそが最高) (貴様等は雅というものを理解できんようだ)(スレンダー=究極は世の常識だろう)(巨乳より微乳、微乳より無乳)(という訳で青髪が勝者) (寄んな変態思考)(いやでも将来的には垂れるだろ巨乳)(大切なのは今だ)(可能性を考慮すればふくらみかけは夢がある)(そこはむしろこのままで)(寄んな変態思考) 一応念の為に記しておくと、トリステイン魔法衛士隊はメイジの中でも特に優秀な者が厳しい選抜を経た上で入隊をも許されるエリート集団であり、少年少女たちの憧れの的である。 なお只の衛士ならともかく、魔法衛士隊は女性の入隊が未だ許されていない。 端からは決して判らない無言の論争を繰り広げる隊員たち(全員独身)をよそに、ルイズとゼッサールは交渉を続けていた。 「姫殿下にお会いしたいと言われるが、用件をお教え願いたい」 「申し訳ありませんが機密性が非常に高い内容なのです。更に言えば、早く報告しなければならないものでもあります」 ルイズの返答は切羽詰まったものであったが、立場上鵜呑みにできるものでもない。 「残念だがそれでは話にならぬ。お分かりかと思うが、現在トリスタニアは厳戒態勢が敷かれているのだ。その中で用件も告げられない者を姫殿下に取り次ぐ事など出来ないぞ」 「ゼッサール殿の懸念は私にも判ります。では『ディテクト・マジック』での探査の後、貴方だけにお話するというのは?」 ゼッサールは部下にアイ・コンタクトで、 (いつまで乳談義続けてる! そういうのは結論出ないんだから飲みの席だけにしとけ。それと大切なのは乳じゃなくて尻だ!) と伝え、ついでに『ディテクト・マジック』をかけさせる。 複数の衛士からルイズ一行に探査魔法が飛ぶが、いずれも反応はなかった。 ただこれは水魔法による『洗脳』や『強制』などがないというだけで、自分の意志で行動している場合は厄介な事になる。 ルイズは率先して自分の杖を手放し、ギーシュらもそれに続いた。キュルケはちょっと抵抗があった様だが、タバサの「王宮」という一言に仕方ないという顔をする。 クロコダインもグレイトアックスを石畳の上に置いて両手を後ろに回した。フレイム、ヴェルダンデ、シルフィードは地に伏せる。 攻撃の意志なし、と取った隊長はルイズへと歩み寄っていった。 先程の『ディテクト・マジック』でマジックアイテムの類を持っていないのも明らかになった以上、この辺りが妥協点であろう。 後は『静寂』の呪文を掛けて唇の動きを隠せば会話の内容は漏れまい。 そんなこんなで話が纏まりかけたその時、これまでの交渉や段取りを一気にひっくり返す一声が中庭に響いた。 「ルイズ! ああ、ルイズ・フランソワーズ!」 透き通った声の持ち主は、紫のマントとローブに身を包んだ見目麗しき乙女、アンリエッタ姫であった。 宮殿から全速力で駆けてきたアンリエッタは、その勢いのままルイズに抱きついた。 小柄なルイズは王女を受け止めきれず倒れ込みそうになるが、後ろにいたクロコダインが片手で支えたので事なきを得る。 「無事だったんですのね、本当に、本当に良かった……!」 目に大粒の涙を浮かべて力一杯しがみつくアンリエッタに、ルイズは嬉しさを覚えた。よく見れば王女の顔には薄化粧では隠しきれない隈がうっすらと見える。 ルイズたちを送り出してから禄に寝ていないのだと思われた。ただ、学友や魔法衛士隊が注視している中でのこの体勢は気恥ずかしさが先に立つ。 「ひ、姫様、ちょっと落ち着いて下さい。大丈夫ですから」 しかしアンリエッタはルイズの言葉が届いていないのかしがみついて離れようとせず、ルイズとしても無理に引き剥がせる訳がなかった。 どうしようかと思っていると、前触れもなく空から救いの主が現れた。 「ご無事で何よりです、ラ・ヴァリエール嬢」 中庭に面した建物のどこかから『レビテーション』で音もなく降りてきたのはマザリーニだ。手に羽根ペンを持ったままなのは、騒動を耳にして慌てて政務を中断したのだろう。 「マザリーニ殿、これは一体……?」 困惑した面持ちで問いを発したのはゼッサールである。 トリステイン王国の重要人物が立て続けに現れたせいだろう、どう対応するべきか判断に苦慮しているのがありありと判る。 「彼女らの身の証は私が立てましょう。お騒がせして申し訳ありませんでしたな」 この一件は自分が預かる、という答えにゼッサールはとりあえず納得する事にした。 王女と事実上の宰相が関わっているのが判明した以上、余程の事態と見るべきであり、近衛隊隊長の身でも現時点では知るべきではない事なのだろう。 これまでの経験から、知るべき事ならいずれ嫌でも耳に入るだろうとゼッサールは一種の悟りを開いていた。 部下に合図し再び持ち場へと戻る中で、あっさり包囲を抜かれた事への対応策と、マンティコア隊として乳と尻のどちらが重要かを考える彼であった。 人気の無くなった中庭で、マザリーニは深々と溜息をついた。 確かにアルビオンからどうやって帰還するかについては前もって決めていた訳ではない。また、出来るだけ早く事の次第を報告しようとするのは判る。 判るのだが、あんなド派手な帰還をされてしまっては困るというのが彼の本音であった。 マンティコア隊は『ディテクト・マジック』によって操られていない事が判明しており、なおかつ口も堅い。 しかし庭に面した建物の窓からこちらを伺っている貴族たちや宮廷婦人らの口からは、あっと言う間にこの一件が広まっていくだろう。 「人の口に『ロック』は掛けられない」ということわざがあるが、余り広まって欲しくない話題ではあるのだ。 考えなければならない事案がまたひとつ増えた、とマザリーニは暗鬱になっていたが、この後のルイズの報告でその様な些事は吹っ飛んでしまう事に、当然彼は気付いていなかった。 一行はとりあえず謁見の間へ移動する事となった。 とは言え、実際に報告するのはルイズとクロコダインのみである。 ギーシュは一応王女直々に手紙回収の任を依頼されていたが、ラ・ロシェールで別行動をとってからの流れは把握していなかった。 タバサもほぼ同様ではあるが、依頼を受けている訳ではない上にガリア出身であるという事実もあって、控え室までという対応となる。 キュルケはラ・ロシェールからずっとルイズと行動を共にしてきたが、ゲルマニアの、しかもヴァリエール公爵家とは因縁の深いツェルプストーの人間である事が大きなネックとなった。 加えて彼女は打ち身や切り傷が非常に多く、水メイジの治療が必要と判断されたのである。もっとも怪我の度合いからすればクロコダインの方が深手であったのだが、当の本人からは 「オレのは見た目ほど酷くはない。それよりキュルケを治してやってくれ」 などという返事が帰ってきていた。 ともあれ、小柄な主と大柄な使い魔が豪奢な謁見室に足を踏み入れると、そこには既に1人の先客があった。やや白いものが混じった金髪に見た目は細身だがその実鍛えぬかれた体を持った初老の美丈夫である。 「もうおいででしたか、グラモン元帥」 「正体不明のメイジが魔法衛士隊の包囲を抜いて中庭に着陸するような騒ぎがあれば、嫌でも体は動くものです」 涼しい顔で言い放った元帥は、更に付け加えた。 「その中に女神もかくやと言わんばかりの絶世の美少女が居るとなれば、尚更ですよ」 気の知れた者達にしか使わないべらんめえ口調こそ出てはいないが、ぶっちゃけ言ってるのはただのくどき文句である。 (ああ、ギーシュのお父様だけの事はあるわ) ルイズが変なところで感心していると、ふいに扉の向こうが騒がしくなった。 す、とさりげなくクロコダインがルイズの前へ出る。どんな攻撃があっても盾となって主を守る為だ。 だが、扉から現れたのはルイズに仇為す者ではなかった。 「父、様……?」 そう、勢いよく扉を開け放ったのはラ・ヴァリエール公爵その人だった。 ただ、一瞬ではあるがルイズが戸惑ったのは、いつも綺麗に髪を整え服装も一分の隙もない印象の父が、髪や服は乱れ、片眼鏡は落ちそうになっており、普段の威厳さが遠いサハラを越えて東方まで旅に出ているような有様だったからである。 公爵は早足でルイズの前まで行き、その両肩をぐっと握り積めた。 「大丈夫だったか? どこも怪我などしてはいないな? 私の小さなかわいいルイズ……!」 「は、はい! 大丈夫です」 ルイズの返事と、その間に短く呪文を唱え愛娘の身体におかしな水の流れがないのを確認し、ようやく公爵は安堵の息を吐いた。 親子の対面に涙を滲ませるアンリエッタはともかく、にやにや笑いを隠そうともしない悪友2人を睨み付けた後で、ようやく普段の表情を取り戻した彼はクロコダインに向け頭を下げた。 「クロコダイン殿、ですな。貴方の事はオスマン学院長などから伺っております。幾度も娘を助けて頂いたそうで、感謝の言葉もありません」 そう言いつつ、公爵は杖を取り出し『治癒』の呪文を唱える。 すると応急処置しかしておらず、火傷の痕も生々しかったクロコダインの身体が見る見るうちに回復していった。 通常、この手の呪文は秘薬を併用するのが常識であり、それがない場合術の効果は著しく下がる。それを単独呪文のみでここまで効果を引き出しているのだから、公爵の腕は相当なものであると言えるだろう。 そこへ更にオールド・オスマンがゆっくりと現れた。学院にはまだ帰っておらず、図書館と王宮と『魅惑の妖精亭』を往復していたのが幸いした形だ。 これでヴァリエール公爵夫人を除けば、今回の一件を知っている王室関係者がここに揃った訳である。 ひとつ咳払いをした後で、こういう場所では司会進行役になりやすいマザリーニが口を開いた。 「では、旅の成果を聞かせて頂けますかな?」 ルイズは学院を出発してから今までの事を包み隠さず報告した。 ただ一点、サンドリオンの正体については伏せている。父からアイ・コンタクトで「それは言わなくていい」という指示が飛んだからだ。 もっとも、マザリーニたちの表情を見る限り明らかに正体について知っている感じだったので、これはアンリエッタには知らせなくともよいという判断なのだろう。 一方で、虚無魔法についてはありのままを話していた。 未だ実感がないというのもあるが、隠し立てするには余りに事が大きく、またここにいる面子ならばきちんとした対応を考えてくれるだろうと思ったのである。 アンリエッタは己の血の気が引く音を聞いた様な気がした。 いかに自分が考えなしに行動していたか、ルイズの報告で思い知らされたのである。 ウェールズへの恋文は渡した翌日に当人の手によって処分されていたという。 一週間前にこの事実を知っていたら、アンリエッタはウェールズを恨んでいたかもしれない。 しかし今なら、何故愛しい従兄がそんな選択をしたのかがよく判る。始祖の名まで記した懸想文など、王族が出すには不注意にも程があると。 現にただの手紙一通で国家観の軍事同盟が反故の危機を迎え、幼馴染が死地を何度も潜りぬけて手紙の所在を確認しに危険極まりない任務に就くことになったのだ。 見事に彼女はその任を果たしてくれたが、土埃にまみれたその姿や使い魔である獣人が傷だらけになっている所からして、簡単な任務ではなかったのは一目瞭然である。 ラ・ロシェールに着く直前に傭兵たちに襲撃され、街では脱獄した『土くれ』のフーケを始めとした傭兵集団との戦闘があり、『遍在』すら扱うメイジとの戦いも経験した。 フネで出港すれば空賊に拿捕され、それが王太子の偽装であったのは良かったが、アルビオンでは操られたワルド子爵と死闘を繰り広げている。 王子には亡命を勧めたがそれは拒否され、代わりに信を得た結果として彼の国の秘宝『風のルビー』と『始祖のオルゴール』を預けられたルイズは『虚無の使い手』として覚醒した。 正しく波乱万丈の旅である。仮に自分とルイズの立場が入れ替わっていたとしたら、正直ここまでの結果を引き出せていたとは到底思えなかった。 どう考えても途中で命を落としている。 そんな場所に幼なじみを送り出した事を、アンリエッタは後悔していた。 ワルドを後から護衛に選んだのを含め、この一件での自分の行動は全て裏目にでていたと言える。 詰まるところ、王族の一挙手一投足がダイレクトに誰かの死に繋がるという事実に、今更ながら気が付いたという訳だ。 これは蝶よ花よと育てられたアンリエッタが初めて味わった挫折であり、世の中は決して自分の思うようには運ばないという現実を思い知った瞬間でもあった。 そんな、放っておけば止めどなくマイナス方向へ落ち込んでいくアンリエッタの思考を救ったのは、報告を終えたルイズの言葉である。 もっとも、これは救ったというよりは一時停止させたという方が適切であるだろう。 なんとなれば、彼女の『大切なおともだち』は報告を終えたその足で「学院へ戻る」と言い出したからである。 「……はい?」 「ルイズ!?」 「まあ待て、待て待て待て」 上から順にアンリエッタ、ヴァリエール公爵、グラモン元帥の発言を受け、ルイズは目を丸くした。 任務をなんとか終えて報告も済んだ以上、理由もなく王城に留まる訳にはいかない。学生である以上、学院へ戻るのは自明の理であり、ルイズとしてはそんな反応をされるなどとは夢想だにしていなかったのだ。 ある意味学生の鑑とも言うべき言動ではあったが、魔法学院最高責任者のオールド・オスマンなどは「いやそれは真面目すぎじゃろ」と、教育者にあるまじきツッコミを敢行している。 ちなみにこの少女、ワイバーンを飛ばせば午後最後の授業には間に合うねなどと考えていた。 そんなルイズに、何故かひどく疲れた表情のマザリーニが苦笑を浮かべながら言う。 「まずはお礼を言わせて下さい、ミス・ヴァリエール。貴女のお陰で最悪の危機を免れる事ができました。そればかりか、大変重要な情報をもたらして頂き、本当にありがとうございます」 事実上の宰相にここまでストレートに礼を言われるとは思っていなかったルイズは慌てて頭を下げた。 マザリーニは更に続ける。 「私が貴女の年齢の時、同じ条件でアルビオンに赴いたとしても、ここまで事を上手くは運べなかったでしょう。 この旅でどれだけの苦難を乗り越えてきたか、想像しただけでも頭が下がる想いです」 最高級の賛辞にルイズは顔を赤くした。『ゼロ』などという不名誉な二つ名を付けられている彼女は、誉められるという行為自体に慣れていないのだ。 「表立った任務ではありませんでしたので、報酬や勲章を出す訳にもいきません。ですが、せめて暫くの間、この城で歓待させて頂けないですかな?」 本来なら爵位と領地付きの城くらい与えなければならないところですが、というマザリーニにルイズはぶんぶんと首を横に振った。 「そそそ、そそそそんな、滅相もありません! 私ひとりでは何もできませんでしたし!」 「では、協力して頂いた方々にも一緒に過ごして貰いましょう」 よろしいですかな、と言うマザリーニに他の大人たちもあっさり承認した。 「ま、出席日数なんぞどうとでも誤魔化せるしの、立場上」 「あ、うちのギーシュはあまり歓待しなくてもいいですぞ。誰に似たのか知らんが図に乗りやすくていけない」 これが魔法学院長と国家元帥の言う事なのだからどうかしている。 え、ええと、と反応に困るルイズに、横にいたクロコダインが彼女の頭を優しく撫でながら言った。 「勉強に熱心なのはいい事だが、今のルイズに一番必要なのは休息だと思うがな」 休める時に体を休められてこそ一人前だ、という使い魔に、少女はうぅむと考え込む。 「お願いですから少し休んでいって、ルイズ」 結局クロコダインやアンリエッタらに説得される形で、ルイズは王宮に滞在する事になった。 差し当たって湯浴みでもしてきなさいと言われ、ルイズは案内役の侍女と共に退席した。続いてアンリエッタも心身の不調を訴え自室へと戻っていく。 少女2人を見送った大人たちは、扉が閉じられるのと同時に揃って頭を抱え込んだ。 「……問題が1つ解決したと思ったら違う問題が山積していくのは、呪いにでもかかっているのですかな」 「爆弾発言多すぎだろ。特に虚無関係」 「予想してはおったが、マジで『虚無の使い手』じゃとはなあ……。長生きはしてみるもんじゃの」 「暢気な事を……。まあそれはそれとして、色々と確認しなければならない事案がありますな」 公爵の言葉に頷いたマザリーニは、クロコダインに問う。 「操られたワルド子爵をヴァリエール嬢が解放したそうですが、件の子爵どのはどちらにおいでなのですかな?」 対してクロコダインは、腰から下げていたマジックアイテムを取り出して振ってみせた。 「彼はこの中だ」 この面子で『魔法の筒』の効果を熟知しているのはオスマンとクロコダインのみである。 『焼けつく息』で麻痺したワルドをロープで縛り上げたキュルケとサンドリオンは、更に荒縄を『練金』で鋼鉄に変えるという豪快さを遺憾なく発揮していた。 まあ操られていたとはいえワルドのした事を考えれば無理もない対応ではあるが、若干の私情が入っているのは否めない話である。 しかし、流石にそのままの格好で王宮に入れる訳がない。事情を知らない者からすれば、下手したら魔法衛士隊隊長を人質に取った悪党とも取られかねないからだ。 また、杖は無効化されているものの、剣として使う事も出来るので油断は禁物だ。 とまあ様々な要因が重なりあった結果、斯様な対応となった次第である。 「成る程、よくわかりました」 「まあ筒から出すのは後でもよかろ。こっちもそれなりの準備をしてから尋問せにゃならん」 マザリーニらの調べでは、レコン・キスタとワルドの繋がりは1年以上前からあったらしい。禁制の魔法薬でも何でも使って情報を聞き出さねばならなかった。 「それと『虚無魔法』の取り扱いだな」 もちろんその使い手を含めてだがな、と次の事案を提示したのはグラモン元帥だった。 「疑うつもりはありませんが、神学者としては実際に行使する所を是が非でも見せて貰いたいですな。あとは『始祖の祈祷書』の真贋確認も出来るでしょう」 トリステイン王家に伝わる秘宝『始祖の祈祷書』は全頁全て白紙という、ある意味漢らしい仕様となっている。 しかしルイズによれば、鳴らない筈の『始祖のオルゴール』から先祖にあたるブリミルのメッセージが聞こえたのだという。 凡人には感じ取れずとも、ルイズなら何事かを感じ取れるかもしれなかった。 「あとはこの事を公表するかどうかじゃが……」 一応確認だけはしてみる、といった口調のオスマンに、元教え子たちは口を揃えて「時期尚早」と答えた。 「まあ最低でも『大掃除』が終わってからです」 現在トリステインでは少なくない数の貴族が他国に通じている状態だ。そんな中で『始祖の再来』などと宣伝するのは百害あって一理なし、というのが3人の共通見解であった。 「いずれロマリアとも内々に接触しなければならないでしょうが、これはまあその時に考えましょう」 そん時ゃお前がパイプ役な、という元帥の言葉にマザリーニは溜息をつく。丸投げですか、などとは思わない。いつもの事だからだ。 溜息の理由はロマリアという国についてである。辞退はしたものの他国にずっと居た者(つまり自分の事だ)をコンクラーベに選出するというのは正直どうなのか。 しかしロマリアもあまり人材がいないのだろう、などとは思わないマザリーニだった。 現在の教皇、聖エイジス32世は20歳前後という若さでロマリアの頂点に立った人物だが、そんな年齢でこの地位にいるという時点で只者ではないと考えるべきなのだ。 どう話を持って行っても厄介な事になる予感がするのは多分おそらく気のせいだ、と若干現実逃避気味の『鳥の骨』だった。 「ロマリアに関してはそれなりにパイプがあるのでなんとかしましょう。それより先に解決しておかなければならない事があります」 マザリーニの言葉に苦々しい表情で答えたのはヴァリエール公爵である。 「ツェルプストーの娘、だな」 ルイズが『虚無の使い手』であるのを知っている人間は少なければ少ない程良いのだが、よりにもよって実際に虚無魔法使っているところを隣国の貴族にばっちり目撃されてしまっているのは、どう考えても問題だ。 しかも国境を挟んで度々衝突し、それ以外にもヴァリエール家とは様々な『因縁』のあるツェルプストー家の娘である。 ただでさえゲルマニアとは軍事同盟が結ばれていたりアンリエッタ姫が嫁ぐ事となったりしているのに、というかそれらの話をご破算にしない為の任務だったというのに、別方向から問題が発生している現状である。 だが一方で、彼女の働きがなければルイズやウェールズが命を落としている可能性が高かったのも、また事実であった。 「んで、肝心の娘はそういうのをポロッポロ喋っちゃうような性格なのか? あと胸はでかいのか」 などと言うのはグラモン元帥だ。対してオールド・オスマン曰く。 「ん! 胸はでかいぞ!」 そうじゃねぇだろ、と他全員が突っ込みを入れた。 わざとらしい咳払いの後、重い雰囲気を払うためのオチャメじゃないかなどと言い訳しつつオスマンは答える。 「まあ口ではなんのかのと言ってはおるが、ありゃ結構お主の娘に入れ込んどるぞ。そうでもなきゃフーケ追跡だの今回のアレだのに同行したりはせん」 複雑そうな面持ちの公爵に、クロコダインが更に口添えした。 「何か事情があるようですが、理を持って話せばルイズの不利になる様な事はしないでしょうな。何でしたらこちらから他言無用と伝えておきますが」 「実家との仲もそれ程良くはない様じゃし、そうペラペラと漏らしたりはせんと思うがの」 何せ親の用意した見合い話が嫌で半ば強引に留学したなどという噂のある少女である。我が強いのは確かだが説得方法を間違えなければ話は通じそうだった。 「他の面々は虚無について知ってそうですかな?」 「サンドリオンに関しては知られていると思って間違いないでしょうな。ギーシュやタバサには知られていないとは思いますが」 ちなみにサンドリオンとはラ・ロシェールの街で別れていた。避難民たちとの話があるのだと言っていたが、王宮に顔を出すのはまずいという判断もあったようだ。 「ま、ギーシュにはこっちから重々伝えておこう。まあ常から『ヤバげな物事には近づくな、考えもするな』とは教えてあるがね」 胸を張るグラモン元帥に、教育方針としてそれはどうかと皆は思った。 「そのタバサという少女に関してはどうですかな」 ヴァリエール公爵の質問に、眉を寄せたのはオールド・オスマンである。その顔を見たマザリーニは、1年ほど前の事をふと思い出していた。 「老師、ひょっとしてその少女は……」 ふぅ、と溜息を付いてオスマンは頷く。 「そういえばお主には入学前に話しておいたの。ひょっとしなくともオルレアン公の忘れ形見じゃ」 公爵と元帥が、タイミングよく口に含んでいた水差しの水を思い切り噴いた。 「ちょっと待ってくれ先生、オルレアン公ってなあ、『あの』オルレアン公かよ!?」 「ガリア王の姪がルイズのクラスメイトで、しかも今回の任務に同道していたと!?」 大慌てな2人に対し、事態が全く飲み込めないのがクロコダインである。ハルケギニアの国際事情に通じていないのだから当たり前なのだが。 「ああ、失礼しました。詳しくはいずれ説明致しますが、要はフォン・ツェルプストー嬢と同じくいささか厄介な事情がある娘なのですよ」 実際にはいささかどころではない位に厄介な事情が存在していたが、それは言っても始まらない。 結局のところ、オスマンやクロコダインがそれとなく探りを入れて、知らないようならそのまま、知っていたらその時に考えようという消極案が採られた。 問題が多すぎてここにいる面子の一部には投げやり感が漂いつつあり、後回しにできる事案は考えないようにする流れだった。 「まあこの場で思いつくのはこれくらいでしょうか。とりあえず我々も何か腹に入れて、後はそれから考えましょう」 マザリーニはそんな言葉でこの臨時会議を終了させた。 ルイズが案内された来賓用の浴室に入ると、そこには既に先客がいた。 「お、やっと来たわね。お先に頂いてるわよー」 湯船の中でご機嫌な挨拶をしてきたのは言わずと知れたキュルケである。 その横でタバサが無言のまま右手を上げた。どうやら挨拶のつもりらしい。 「あんたたちねえ……」 どっと疲れの出たルイズだったが、めげずに髪を洗いに向かう。服を脱いだ時にも結構な砂埃が落ちていたのだ。ここは念入りに洗っておきたかった。 「なによ、付き合い悪いわねー」 ちぇー、と口を尖らせるキュルケは一部だけ短くなってしまった髪を指先で弄んでいる。 「ね、いっそタバサくらい短くしちゃおうかしら」 「ダメ」 「あら、どうして? 似合わないかしら」 「なんとなくだけどダメ」 級友たちの他愛のない会話を聞きながら、ルイズはこれからの事を考える。 さしあたって湯船の2人に礼を言わなければならないのだが、いざ改まってみるとどう話を切り出して良いかわからないものだ。 これがクロコダインなら素直に言えるのだが。 髪を洗いつつ内心頭を抱えていると、何の前触れもなく後ろから胸を鷲掴みにされた。 「!!!!!!!!」 声にならない悲鳴を上げて体をのけぞらせるルイズに、犯人であるところのキュルケがそっと溜息をつく。 「ああ……相変わらず残念な胸ね……。アルビオンではちょっと憧れたけど、やっぱこれはないわ……」 「な、ななな、なにを失礼な! どどどんだけツッコミ入れ放題な言動かましてるのよツェルプストー!」 ちなみにルイズがキュルケをツェルプストーと呼ぶ時は大抵立腹している。すごく立腹している時はこれがゲルマニアンになるが。 「いやね、あのワルドと戦ってる時に胸が嫌ってほど揺れちゃってさー。あれって無駄に痛いのよ、マジで」 ほほうそんな経験などついぞした事のないあたしに対する挑戦か、とルイズは思った。 「考えてみると胸が薄いほうが敵の攻撃にも当たりづらいでしょ? 体積的な意味で」 (落ち着いて、落ち着くのよルイズ! 一応これは見た目落ち込んでる風にも見える可憐な私をコイツなりの方法で慰めようとしているの! 多分だけど!) 鎌女の脳内では、『清らかなルイズ』が説得を開始していた。 しかし抵抗しないのをいい事に右右左左上下な感じでルイズの胸を揉んでいるキュルケの勢いは留まることを知らない。 「あと普通に生活してても肩は凝るしでいい事ないとおもってたけど、実際こうしてみるとやっぱりあったほうがいいわね胸」 (OKわかったわ今あたしはキレていいブリミル様だってそうする筈よルイズ) 『清らかなルイズ』はあっさりと自説を変更した。 (ああ、コイツの胸が魔法で大きくなっているなら虚無魔法でツルペタにしてやるのに!) 始祖も6000年後に子孫が自分の魔法をそんな事に使おうとするとは夢にも思っていなかっただろう。 どう反撃しようかと思ったところで、今度は突然キュルケの方が声にならない悲鳴を上げて体をのけぞらせる。 見れば、湯殿ではばっちり持ち込んでいた古風な大振りの杖を抱えたタバサがこちらに向けて親指を立てていた。 どうやら魔法でお湯を氷水にしてキュルケの背中にかけたらしい。 流石シュヴァリエ良い仕事をする。ルイズは笑顔で親指を立てのだった。 「ちょ、タ、タバサ!そりゃ貴女的にも聞き捨てならなかったかもだけど、今のはマジ心臓止まりそうになったわよ!?」 「てや」 背を向けたキュルケの後ろから、お返しとばかりにルイズが胸を揉みしだく。 「……なに、この、なに……? このふざけた塊……」 想像以上のボリュームと弾力に、心が折れそうになる虚無の使い手だった。 前ページ次ページ虚無と獣王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1920.html
意外なことに、"お迎え"はまだ来ない。 別に来なくて困ることも無いんだが。 まぁ、暫くはのんびりと過ごせそうだ――― 宵闇の使い魔 第拾漆話:忘却と妄執 「ところで、授業の方は良いんですか?」 此処は学院の食を一手に引き受ける厨房。 その片隅にある、普段はコックやメイドたちが使う椅子に虎蔵は座っていた。 問いの主であるシエスタは、ポットの用意をしながらお湯を沸か沸かしている。 最近はルイズが普通の――つまり、学生達が食べるものと同じ食事を虎蔵にも用意するようになったため、 此処で食事を取るということはなくなったのだが、しょっちゅうやってきては茶やら酒やらを飲んでいる。 今日も、朝一の講義にルイズ共々引っ張り出された後で、休憩と称して逃げ出してきていた。 「あの根暗っぽい奴の時間だからな―――あいつも部屋に戻ったし」 「あら、何かあったんですか?」 「いや、爺さんの所に行ったと思ったら、なんか変な本を持ってきてな――― それ以来殆どおこもりだ。キュルケが迎えに来ると、渋々ながら出るんだがな。講義にも」 ギトーの名前をすっかり忘れている虎蔵は、ふぁっ、と小さく欠伸をする。 引っ張り出されたという講義で眠気を誘発されたようだ。 「変な本ですか―――なんなんでしょう、それって」 シエスタは虎蔵の欠伸にクスリと笑いながら、カップとポットをトレーに置く。 ポットに湯を注ぐと、慎重にトレーを持ち上げて振り返った。 すると――― 「始祖の祈祷書、よ。シエスタ、私にも頂けます?」 いつの間にかやってきていたマチルダが、シエスタにそう声をかけながら虎蔵の隣の椅子に腰を下ろした。 微かな香水の匂いが鼻腔をくすぐる。 「あら、ミス・ロングビルも。えぇ、すぐに用意しますね」 シエスタは一旦トレーを置くと、二つ目のカップを取りに行く。 虎蔵はそれを見送ると、肘を突いてマチルダへと視線を向けた。 「おう――どした」 「休憩―――爺のセクハラがね。ちゃんとお返しはしてきたけど」 肩を竦めるマチルダに、「若いな、あの爺さんも」と言って笑う虎蔵。 シエスタが離れたためか、マチルダの口調は素に近い。 よく話はしているようだが、猫は被ったままのようだった。 あまり意味があるとは思えないのだが。 「ところで聞いたかい? 来週頭に、アルビオンのおえらさんがトリステインに来るんだってさ」 「―――今更不可侵条約の調印式でもするのか?」 「いや、姫様の結婚の前祝を兼ねた表敬訪問だとか何とか―――」 怪しいわよね、と肩を竦めるマチルダ。 虎蔵も頷くが、かといって何かが出来る訳でもないし、しなければならない訳でもない。 本格的に戦争でも始まれば色々と面倒にもなるのだろうが――― 「ま、今はのんびりしとこうや。どうせなんも出来んしな」 「それもそうだね――」 気だるげにいう虎蔵にマチルダも同意したところで、シエスタがトレーを手にやってきた。 今度はカップが二つ乗っている。 彼女は二人の前にカップを置きながら、気だるげな雰囲気の二人に首を傾げる。 「何のお話ですか?」 「いえ、アルビオンとトリステインはどうなるのかと思いまして」 「あぁ―――怖いですね。戦争にならなければ良いんですけど」 シエスタは至極普通の意見を返しながら、カップに薄緑色の液体を注ぐ。 虎蔵は仄かな香りで、それの正体に気づいた。 「ん? こりゃ―――」 「あ、お気付きになりましたか? 東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品なんです。 《お茶》って言うんですけど―――やっぱり知ってましたね」 「妙な色ですね―――けど、やっぱりって?」 おぉ、と妙に感動しながらカップを手にする虎蔵に対して、 マチルダはその色と匂いに僅かな警戒を示す。 香りは悪くないな――と思いながら、ふとシエスタの言葉に引っ掛かりを覚え、問い返す。 「はい。前にトラゾウさんが「茶が怖い」って言っていたんですよ。覚えてます?」 「―――言ったか?」 「えぇ、ほら―――ミスタ・グラモンと決闘した後に」 ずずずっとお茶をすすり、満足気に息をつく虎蔵にたいしてにこにこと笑みを浮かべるシエスタ。 虎蔵は言われてようやく、言ったかも、位にまでは思い出した。 確かに、よく考えればあの言い回しが此処で通じることは考えにくい。 だとしたら、シエスタは何故――― 「私の曾お爺ちゃんがよく言ってたらしいんですよ。 それでお爺ちゃんにも口癖が移ったらしくて、私も聞いたことがあるんです」 「ほぉ―――」 「曾お爺ちゃん、東の遠い所から来たらしいんです。ロバ・アル・カリイエではなかったらしいんですけど。 それで、もしかしたらトラゾウさんもなのかなぁって思って」 虎蔵はふむ、とお茶を飲みながら考える。 此処は肯定の一手しかないが―――この世界にも日本的な地域があると言うのだろうか。 「確かに生まれは東の方だな―――」 後でマチルダなりオスマンなりから情報を仕入れるべきだと考えながら、 何時もどおりに飄々とした様子で茶を濁すのだった。 「あら、ダーリン。こんな所に居たの―――ミス・ロングビルも」 厨房からの帰りに廊下をマチルダと歩いていると、途中でキュルケ・タバサの二人と遭遇した。 二人、と言ってもタバサは本を読みながらキュルケに引っ張られているようなものだが。 そのキュルケは羊皮紙の束を手にやたらと上機嫌にしていたが、マチルダも居るのを見ると、 僅かにムッとした表情になる。何時ものことだが。 「厨房で一緒になっただけさ。あのチビっ子にも用事があってね」 「へぇ――まぁ、良いわ。私もルイズに用事があるのよ」 もはやマチルダも慣れたもので、肩を竦めてかるく往なす。 今日は珍しくキュルケもそれ以上突っかかることはなく、羊皮紙を丸めて胸の谷間に押し込むと、 タバサを掴んでいる手と反対の手で虎蔵の手も掴み、軽快に歩き出した。 マチルダは肩を竦め、彼女らの後を追う。 「で、なんなんだよ、いったい―――」 「あの子、最近塞ぎ込み気味じゃない。授業にもあんまり出てこないし。まぁ、気持ちは解らなくもないけど」 「授業に出ないのは理由があるんだろうけどね」 「あら、ミス・ロングビル。なにかご存知なの?」 両手で虎蔵とタバサの手を掴んでいるためうまく振り向けないキュルケに、マチルダは肩を竦める。 「すぐに解るよ――」 「あっそ。ま、それでね。気分転換になりそうなことを見つけてきたってわけ。 あぁ、なんて友達思いなのかしら。私って」 口ではそう言いながら、明らかに自分が楽しんでいる様子である。 ルイズのためというのも嘘ではないだろうが。 虎蔵はなにをする気だ、と言った意味を込めてタバサを見るが、彼女は本を読みながら首を振るだけだ。 ―――諦めろって事か――― ため息を一つ。 キュルケはルイズの部屋に着くと、問答無用でドアを開ける。 鍵は掛かっていなかった。 ルイズは机に向かいながら、うーんうーんと頭を抱えていたが、ドアの開く音にも振り返った。 「トラゾウ? 悪いんだけど、何か飲み物―――って、何よぞろぞろと」 「ルイズ! 宝探しにいくわよ!」 「はぁ!? ちょっと、これ正気?」 部屋に入ってくるなりそう叫ぶキュルケに度肝を抜かれ、残り三人に助けを求める視線を送るルイズ。 だがタバサは本を読み続けていて、虎蔵とマチルダは初耳である。 「正気かとは酷い言い草ね、ルイズ。 なんか最近引き篭もりがちだから、気分転換に連れ出してあげようって言うのに」 「引き篭もってないわよ! 詔を考えなきゃいけないの。姫殿下の結婚式のね」 あぁ、と頷くキュルケ。 アンリエッタの結婚相手は、ゲルマニア――キュルケの国の皇帝である。 「へぇ、なによ。大役じゃない―――で、どれ位進んだの?」 「うッ―――――まったく、全然――」 「駄目じゃない。何時までなの?」 「それを連絡に来たの。来週頭までだそうよ」 キュルケとマチルダの言葉に頭を抱えるルイズ。 既に三日は考えているが、一文も出てこないのだ。 「てか、詔ってどんなん何だ?」 「火に対する感謝、水に対する感謝って感じで、順に四大系統に対する感謝の辞を、 詩的な言葉で韻を踏みつつ読み上げるんだけど―――」 「ふむ―――火、風、土―――水だけ居ないが、専門家が揃ってるぞ?」 ルイズの説明に対して、虎蔵はキュルケ、タバサ、マチルダと見ていく。 確かにそうだ。 全員がそれぞれの系統のトライアングル。 アドバイスを受けるには最適の相手といえる。 一人で考えるべき物なのではないかと思わなくもないのだが――― 「うーん―――間に合わないよりは、相談してでも―――」 「丁度良いじゃない。昼は宝探し。夜は皆で協力して詔を作る、と」 ぶつぶつと呟くルイズに、キュルケがぽんっと手を叩いて笑顔を作る。 我ながら名案、といった調子だ。 だがルイズはまだ迷っているようで、腕を組んでは唸っている。 「授業は?」 「貴女、今だって出てないじゃない」 「う――確かに」 そんな調子でキュルケの説得攻勢が続く中、マチルダが虎蔵の腕をちょいちょいとつつく。 「―――なんか、いつの間にかアタシも数に入れられてないかい?」 「入ってるな。拙いか?」 「問題ないとは言えないけど―――んー」 ルイズたち学生もサボリが許可されている訳ではないが、マチルダ――ロングビルの場合はもっと問題である。 虎蔵は"自由業"生活が長いため、気にしていないようだが。 とはいえ、ルイズの現状はオスマンも理解している。 その辺りを理由に話してみれば、許可が下りるかもしれない。 爺の相手は疲れるから、ちょっとした休暇のつもりで付き合うのは悪くなさそうだ。 「しかし、宝の地図だなんてそうそう当たりは無いと思うんだけどね」 「だろうな。ま、気晴らしには良いだろ――――当たりが出れば儲けもんだしな」 「まぁ、ね―――じゃ、許可取ってくるよ」 マチルダは殆ど説得されたも同然のルイズを一瞥すると、ひらりと手を振って出て行った。 「ほら、折角あるんだ。座って読めよ」 虎蔵はソファーにぼすんと腰を下ろすと、空いている隣を叩いてタバサを促す。 タバサは無言でそれに頷くと、ソファーにちょこんと浅く座って読書を続けた。 その乱れないペースに関心半分呆れ半分で肩を竦めると、虎蔵は背もたれに身体をは窓越しに空を眺める。 「―――ま、なるようにならぁな」 タバサが声も漏らさずに、こくりと頷いた。 「――――大丈夫なの? これ――」 「仮に失敗したとしても、問題はあるまイ。所詮は死体ネ」 此処はアルビオンの王宮に用意された馬の私室。 シェフィールドの協力を得て、無数の機材が運び込まれている。 中央のベッドには死亡した筈のワルド。 彼は全身に無数の縫合痕や金属板を晒しており、何本ものチューブに繋がれている。 「時間があれば色々と手を加えてみるのだがネ―――まぁ、とりあえずはこんなところカ」 馬は一言呟くと、装置のレバーを引く。 ガチャンと音を立てて、チューブが外れた。 この機材の調達を手伝わされたシェフィールドは、不機嫌そうな表情を隠しもせずに、 壁際からその様子を眺めている。 「―――これで本当に生き返るというの?」 「生き返る、というのとは異なるがネ。まぁ、使い物にはなる筈ヨ。素体が良い物であるからナ」 「なら良いのだけど」 「さぁ、目覚めたまえ―――」 馬はニヤッと笑みを浮かべると、ワルドの首筋からプラグを抜き取る。 びくっ、と一度だけ痙攣を起こすと、ゆっくりと目が開かれた。 「っぁ――」 「やぁ、おはよう。目覚めは如何かネ? ワルド君」 「―――此処、は」 上手く声が出せないのか、ワルドは蚊の鳴くような声をもらす。 目の焦点は合わず、ぼんやりとした様子のままだ。 「私は―――生きているのか」 「左腕が炭化。胸部から腹部にかけて刺創痕14箇所。全身に無数の切創痕―――本当によく生きていたものだネ」 そうか、と答えながら、ワルドが一応は無事と言える右手を実の前に翳すと、ゆっくりと目の焦点が合ってくる。 シェフィールドは堂々と"生きている"と嘯く馬に視線を向けるが、ワルド自身はまったく疑っている様子は無い。 馬はシェフィールドにニィッと笑みを向けて、見ていたまえと言わんばかりに頷いた。 「とはいえ、左手は義手。各種内臓も殆どが使い物にならヌ。いっそ死んでしまった方が楽かもしれんがナ」 「真逆。私にはやらねばならぬ―――やらねばならぬこと、だと?」 「フム、記憶が混乱しているようだガ―――ルイズ、という名前に心当たりはあるカ?」 シェフィールドの力―――マジックアイテムによって全て理解しているにも拘らず、 馬は何も知らないような調子でその名前を口にした。 「ルイズ! そうだ、私のルイズ! ――ッぐ」 ワルドは無理に体を起こそうとして全身を引きつらせ、再度ベッドに倒れこむ。 弄くられた身体がまだ馴染んでいないためだろう。 「落ち着きたまえ、ワルド君。君の居た礼拝堂の近くから、城の外へと抜け穴が見つかってる。 恐らくは、君を倒した人物と共に逃げ出しているのだろうネ」 「くそッ――私はルイズを、ルイズを手に入れなければならなかったのに――」 息を荒げながらも、悔しそうに呻くワルド。 その様子を見てシェフィールドは首を傾げる。 クロムウェルの弁では、ワルドは彼にかなりの忠誠を見せており―――仮にそれが本心ではないにせよ、 任務を気にかける程度の演技はしてみせるような男、とのことだった筈だ。 それがどうだろうか。 まるで《レコン・キスタ》の事など忘却してしまったかのように、 ルイズ――あの虚無の力を持つ小娘のことだけに拘っている。 ―――この男、虚無について詳しく知っているとでもいうの?――― 警戒に目を細めるシェフィールド。 「なに、生きていれば、また機会はある筈ヨ―――奪われたなら、取り戻せば良いこと。 君を倒した男に復讐を果たし、彼女に君の力を見せ付けると良いネ」 「そうか。そうだな。奴を倒せば、ルイズは私の物になるに違いない―――」 以前の冷静沈着な様子など微塵も無く、憑かれたかのようにただルイズの事についてのみ執着を示すワルド。 しかしその瞳は僅かに濁って見えるが、十分に正気を感じさせる。 つまり、正真正銘本心からルイズを欲しているのだ。この男は。 一度、馬を問い詰める必要がある。 シェフィールドはそう考えながら、するりと部屋を抜け出した。 「あぁ、そうだトモ。発奮したまえヨ、ワルド君」 「勿論だ。ルイズは私の物なのだから――――」 「その粋ダ。が、今日はこのまま休みたまエ。まずは体力を戻すことネ」 馬はワルドにそう告げて部屋の明かりを落とすと、再見と一言残し部屋から出て行った。 残されたワルドは、暗くなった部屋の中で何度も手を握り締めながら呟く。 「あぁ、ルイズ。僕のルイズ。必ず手に入れてみせるよ。あんな男に渡すものか―――君は、私だけのものだ」 妄執に囚われたワルドを、窓から差し込む冷え冷えとした月明かりだけが照らしていた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5832.html
前ページ次ページ蒼い使い魔 夜、バージルがルイズの部屋へと戻り、ソファに座ると タバサから受け取った伝説が書かれている文献を静かに読み始める。 そうして本を読んでいるとその横にルイズが座り中身を覗き込むのもいつの間にか習慣になっていた。 「何を読んでいるの?」 「イーヴァルディの勇者…、子供向けの文献、童話か…こんなものなんの参考にもならんな…」 「その本、平民に人気がある本よね、あんたがそんなものを読むなんて思わなかったわ」 「…タバサが持ってきた本だ、こんな文献に興味はない」 バージルはそう言うと本をパタンと閉じ、テーブルに放り投げソファの背もたれに背を預ける。 「…ねぇ、ちょっと読んでみてよ」 ルイズはその本を手に取るとバージルに差し出す 「…なぜだ」 「いいから、私が聞きたいの、読んで聞かせなさい」 ルイズの要求にバージルは一瞬眉を顰めるも渋々と本を開き読み始めた。 イーヴァルディの勇者の内容は、有体に言えば英雄譚の一種。 始祖ブリミルから加護を受けた 勇者イーヴァルディが剣と槍を武器に竜や悪魔などの強大な敵を次々に倒していく物語だった。 静かに聞いていたルイズは不意にバージルへ話しかける 「イーヴァルディって」 「………?」 「案外、スパーダだったりしてね」 「親父が? まさか」 くだらない、といった感じにバージルが鼻で笑い否定する。 「案外否定もできないんじゃない? あんたのお父様、 スパーダは人間界ではどういう姿をしていたの? まさか悪魔の姿のままってわけじゃないでしょ?」 「…人間の姿をしていた、この世界に降臨していたころはどうだか知らんがな」 「あー、スパーダは人間の姿をしてたぜ、そのままでも十分強いくせに相棒みたく姿が変わった瞬間 見てわかるぐらいに強さが跳ね上がるんだからな…。マジに折られるって思ったね、あんなのとは二度と戦いたくないぜ…」 今まで黙っていたデルフが思い出したかのように口を挟む 「でもその息子がこんな性格してるんじゃちょっとそのイーヴァルディの伝説もありがたみが薄れるわよね」 ルイズがクスクスと笑いながらバージルを見る、 「好きに言え、お前も似たようなものだろう…」 つまらなそうにバージルが言うと今度こそ本を閉じテーブルへと投げる、 「終わりだ、寝ろ」 ぶっきらぼうにバージルは言うとソファへと背中を預ける。 ルイズはソファから立ち上がるとベッドへと歩いて行く、そして着替え終わるとベッドに横になりシーツをかぶった。 「それじゃあ、明かりを消すわ、おやすみ」 「あぁ」 バージルはそう言うとソファに横になり目をつむった。 ―深夜 誰もが寝静まり明かり一つない夜の学院にひとつの大きな影が舞い降りる 「(確か桃髪の部屋は…ここらへんかしら?)」 その影は何やらぼそぼそと呟きながら、寝ている人間を起こさぬように羽ばたく音を極限まで抑え窓から内部を覗き込んでゆく、 ベッドに寝ているおめでたい桃色の髪をもつ女の子…ビンゴ、この部屋の主であるルイズだ、 「(見つけたのね!)」 目的の部屋を見つけたのかちいさな声を上げると、目的の人物がいるかしっかりと確認した。 「(あら? 窓が開いてる、不用心!)」 ルイズの部屋はどういうわけか窓がほんの少しだけ開いていた、どうやら戸締りを怠ったのだろう それを確認すると、口で器用に窓をあけ、侵入を試みる。 大きな影はぼいんっ! と音をたて一糸まとわぬ女性の姿へと変わりながら部屋の中へと転がり込む。 その姿は今日の昼にバージルの前に現れた女性だった。 女性はすすっと部屋の中へと忍び込み中を確認する、 「起こさないように、そーっとそーっと…」 そして本当の目的であるソファで眠っている銀髪の男を見つけた。 「うふふ、寝てる時は眉間にしわが寄ってないのね…」 小声でソファで眠るバージルの頬を優しくなでる。 普段ならこの時点で飛び起きるはずのバージルだったがどういうわけか目を覚まさなかった。 彼はこの世界に来てようやく安眠を得ていたのだ、つまり、熟睡である。 それでも殺意や敵意というものを少しでも持っていれば跳び起きるのだろうが、 この女性は敵意や殺意、といったものをまるで持っていなかった。それゆえバージルが跳び起きることはなかったのである。 そして女性は静かにバージルに抱きつく様にソファへ横になると 「ふぁああ…眠くなっちゃったのね、おやすみなさい…」 そう言いながらバージルの頬へ口づけし眠りへと落ちて行った。 朝、やわらかな朝の陽射しが部屋の中へと差し込む、外はさわやかな晴天である、 そんな中、珍しく二人は同時に目を覚ました、 部屋の主、ルイズは優しく頬をなでる風と、さわやかな朝の陽射しに気が付き、むくりと起き上がる。 もう一人、バージルは自身にのしかかる妙な重さ、そして柔らかさに目が覚めたのだった。 そして、驚きのあまり二人の声が見事に調和した。 「「なっ!!」」 この部屋にゲリュオンでもいるのか、時間が、空間が停止する。 そんな時の止まった空間を動く、この部屋にいるはずのない人間が一人… 「あ…おはよう…おにいさま…」 バージルの上に覆いかぶさるようにして眠っていた全裸の女性が目を覚まし艶っぽく声をかけたその瞬間 ドンッ! とバージルが女性を突き飛ばし瞬きする間も与えずに即座に閻魔刀を抜刀する。 「い…痛いのね~…」 「なんだ貴様は! どうやって入った! いや、なぜここにいる! 答えろ!」 バージルは殺意全開で閻魔刀を女性の首に突き付ける。 「ひどい! おにいさま! 私を忘れるなんて!」 「ウッヒョー! やるじゃねぇか相棒! いつの間にそんな美人捕まえたんだよ! 見直したぜ!」 茶々を入れるデルフを無視し、バージルは女性を睨みつける 「貴様など知らん! 真面目に答えろ! さもなくば…! …っ!?」 凄まじい魔力を感じバージルがとっさにルイズの方向へ顔を向ける 「ふっ…うふふふ…ふふふふふ………」 ゴゴゴゴゴ…という音がルイズから聞こえてくる 「何を考えているかは知らんが、俺はこんな女など知らん」 油断なく閻魔刀を女性に突きつけながらバージルが静かにルイズに話しかける。 「へぇ…驚いちゃったわ、バージル…」 「ルイズ」 少々うんざりした表情でなだめるようにルイズの名を呼ぶ、穏やかな口調とは裏腹にルイズからはドス黒いオーラがあふれ出ていた。 「わたし、あんたのこと誤解していたみたい、こーゆー事に関してはとことん無関心な奴だと思ってたけど…まさかそんな女を捕まえてくるなんてね…」 ルイズはにっこりとほほ笑むと、両手を胸の前で組み演じるように女性の真似をする。 「『ひどい! おにいさま! わたしを忘れるなんて!』 ふふっ…最っ高…恋愛小説みたい… 劇のコンテストがあったら入賞間違いなしね!」 「だからこんな女知らんと―」 そこまで口を開いた途端、ルイズから何かが弾ける音がした 「不潔! 変態! なによ! いつの間に女なんて作ったのよ! しかもよりにもよってわたしの部屋に連れ込むなんていい度胸してるじゃないの!!!! スパーダの血がなによ!! そんなもの今ここで絶やしてやるわ!!!!! こぉぉぉぉぉのぉぉぉぉ……………馬鹿犬ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」 ついに真魔人に覚醒したルイズは部屋中所かまわず虚無を乱射する。 もはや部屋の中は戦場だ、前回タルブの上空で虚無を放った際に16年分の精神力を使い果たしたが 現在のルイズの精神力は今起こった現象ですでにフルチャージになったようだった。 「落ち着け!」 彼には珍しく声を荒げ、ルイズから杖を取り上げる。 「なによこのエロ犬!!!! じゃあそこの女は一体何よ!」 「これから聞き出すところだ! そもそも、そんなくだらんことをしている暇も余裕も、俺にはない! それはお前がよく知っているはずだ!」 荒い息をつきながら掴みかかってくるルイズをバージルがなだめる、 「た…確かに…ここ最近あんたは私のそばにいたし…それに…こんな女、学院で見たことないわ…」 その一言でなんとか落ち着きを取り戻すとルイズが殺意のこもった目で女性を睨みつける、 しかし見れば見るほど目の前の女性は腹が立つスタイルをしている、特に胸とか! 胸とか!! 胸とか!!! 「あああああ!!! もう許さない! なによなによ! そんなに胸の大きい女がいいの!? わたしだって成長するわよ! あとで後悔しても知らないんだからぁ!!!!」 再び暴走魔人化を始めたルイズをなんとかなだめ、とにかくこの女性から話を聞くことにする。 油断なく閻魔刀を突きつけながら、バージルは数歩下がり顎でクローゼットを指す 「まずは…ルイズ、お前の服の予備があったな? こいつに着せてやれ」 「ええっ!? きっとサイズ合わないわよ…?」 「他に着せるものがない、仕方がないだろう」 なにせ目の前の女性は生まれたままの姿だ、このままにしておくのはいろいろとまずい、 それにルイズとしても、女性の持つキュルケにも勝るとも劣らない体つきを見ているのもなんだか面白くないので渋々服を出すことにした。 「…き…きついのね…」 女性が無理やり着たルイズの服に文句を言う、サイズが全然違うせいでもうぱっつんぱっつんだ。 これはこれでかなり際どい格好である、しつこいようだがとくに胸のあたりとか…。 「しょうがないでしょ! あんたのサイズに合うものなんてない… って何言わせんのよぉ!! 悪かったわね! 成長はこれからよ!!」 再び杖を抜こうとしたルイズをバージルが腕で制する。 「落ち着けと言っている…、では、答えてもらう、少しでも妙な真似をしてみろ…、即座に首を斬り飛ばす、 貴様は誰だ、昨日も俺の前に現れたな、何が目的だ」 バージルは表面上は冷静を装っているが、殺気は全開だ。もし女性が妙な動きをしたら即刻斬り捨てるつもりだろう、 「バージル…いつでも手伝うわよ…塵一つ残さないんだから…」 ルイズまで始祖の祈祷書を開き臨戦態勢に入っている。 しかしその殺気を感じているのかいないのか、床に女の子座りをしながらあっけらかんとした口調で女性は口を開いた。 「もう…忘れるなんてひどいのね…わたしはシルフィなのね!」 「シルフィ…? …シルフィード…? タバサの使い魔のか?」 「えっ…? ど…どういうこと? だってこの人、人間じゃない」 女性が名乗った名前に少々驚きながら二人が聞き返すと女性は大きく頷く 「きゅいきゅい、そうなのね、でももうシルフィはおにいさまだけのものなの!!」 抱きついてこようとするシルフィードを名乗る女性の頭を押さえ近寄れないようにしながらバージルは質問を続けた。 「俺が知るシルフィードは竜だったはずだ、なぜそんな恰好をしている」 「"変化"の魔法を使えば人間の姿になるくらいかんたんなのね! えっへん!」 「…本当か?」 バージルがルイズに視線を戻すと、ルイズが軽く頷く。 「えっと…先住魔法には姿かたちを自在に変える魔法があると聞くわ、でもそれじゃあ…シルフィードは風韻竜…なの…?」 「そう言えばそんなことを言っていたな、タバサが他言するな、と言っていたが…、この際そうも言っていられん」 「むっ! 信じてないのね? 元に戻って証拠を見せるのね!」 「なっ! ちょっとやめてよ! 服が破けるし第一部屋の中が大変なことになるわよ!」 元に戻ろうとするシルフィードをルイズが全力で止めている横で閻魔刀を納刀しながらバージルは考えた。 「(こいつが本当にシルフィードだとして…なぜこうなっている? タバサにはしっかり忠誠を誓っているように見えたが…)」 少々疑問を感じつつもバージルは質問を続けた 「で、貴様が本当にシルフィードだとして…だ、なぜここにいる、そもそもどうやって入ってきた、答えろ」 「窓から入ってきたのね、窓が半分開いていたの、不用心!」 確かに、昨日は窓には近寄っていない、開いていたことに気がつかなかったのだろう。 「……それで? 何故ここにいる」 「目的? んもぅ、シルフィの目的は…お・に・い・さ・ま、なのね!」 シルフィードはそう言うが否やバージルに抱きつこうとするも 当然受け流され、シルフィードはそのままルイズのベッドへとボンっと倒れこんだ。 「きゅいきゅい…おにいさまったら積極的なの…、シルフィ…ついに奪われちゃうのね… いいの…望むところなのだわ! あ、桃髪、出て行ってくださる? きゅい」 「ルイズ…やれ」 「Alright...」 「急にバージルに会いたくなったぁ? なによそれ…」 「けほっけほっ…そうなの、昨日からおにいさまのことが頭から離れないの…これが恋なのね! 愛なのね!」 ルイズの虚無をくらいボロボロになったシルフィードから事情を聴くと、昨日バージルに文句を言いに行ったところ 顔を見た瞬間、急にバージルのことが愛おしくて仕方がなくなってしまったらしい、 それでついに耐えきれなくなり深夜に部屋へ忍び込んだのだという。 「ねぇ、バージル、何か心当たりないの? 昨日あんたに文句を言いに行った、とか言ってるけど…」 「…知らん、昨日俺の前に突然現れ、はしばみの茶を飲んで逃げて行ったことくらいしか覚えていない」 「…どういうことなのかしら?」 「そんなことはどうでもいいのね! シルフィはおにいさまと一緒にいたいの!」 シルフィードはそう言うやいなやバージルの腕にしがみつく、振り払おうとしてもなかなか振りきれないほどガッチリと腕をホールドしていた。 シルフィードの豊満な胸がバージルの二の腕に押し付けられているのを見てルイズが凄まじい目つきで睨みつけてくる。 相手がシルフィードではさすがのバージルも手が出せない、 シルフィードは重要にして貴重なハルケギニアにおける移動手段だ、 今までもシルフィードのおかげで助かってきたし、この先も必ず必要になる。 そんなわけで閻魔刀でバッサリ解決…というワケにはいかないのである。 「とにかく…タバサに話を聞くぞ、まずはそれからだ…」 痛む頭を押さえバージルがドアノブへと手をかける 「バージル、ちょっと待って…」 「なんだ」 腕にしがみつくシルフィードをそのままにドアを開けようとしたバージルをルイズが呼びとめる 「その…そのまま廊下を歩くつもりなの?」 「この状況だ、仕方あるまい」 「ま、待ちなさいよ! そのままでていったら…その…いろいろと問題になるわよ!」 「何が問題になるというんだ」 バージルが(美人でその上とんでもなくスタイルのいい)恋人を連れて歩いている、 などという噂が流れてはバージルは兎も角、 プライドの高いルイズにとって耐えられることではない、むしろ許せないことである。 特にキュルケに見られた日にはもう目も当てられないだろう。 「タバサは私が呼んでくるから、あんたはここにいなさい! いいわね! 一歩も外に出ないこと! それと、絶対に変なことしないでよ!? したらお仕置きだからね! っていうか塵一つ残さないから!!」 その言葉とともにバタンッ! と勢いよくドアを閉めルイズが部屋から出て行ってしまった 「そんなくだらん事をすると思ってるのか…?」 少々イラついたように吐き捨てると、腕に絡みつくシルフィードを引きはがし ソファへとドカっと腰を下ろし大きくため息を吐いた。 「うふふ…やっと出ていったのね! 二人っきり!」 シルフィードはついに邪魔ものがいなくなったことに喜び、ポンっとバージルの隣に座ると これでもかと腕を絡め脚を絡め体を摺り寄せてくる、耳元や首筋にシルフィードの熱い吐息がかかる。 健全な男子ならばこのままR指定ライブ…と行くところだが生憎とバージルはそうはいかなかった 生物の三大欲求のうちのほとんどが力への欲求へとベクトルが働いている彼にとっては 今のシルフィードは非常に鬱陶しい存在でしかない。 「こういうのは…ダンテ…お前の役目だ…」 吐き捨てるようにそう言うと仰ぐように天井を見上げた。 前ページ次ページ蒼い使い魔
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/117.html
前ページ次ページゼロの影 最終話 ????? 前編~世界が輝く時~ 大魔王はルイズ達を玉座の間から適当な部屋の一室に案内した。 魔界の王の住居なのだからさぞかし陰鬱なのだろうと思っていたが、その典雅さはトリステインの王宮にもひけをとらない。 部屋の中央には不思議な光沢を放つ金属でできているテーブルが置かれ、その周りには椅子が何脚か並べてある。 大魔王が“困った事態”について語り始めるとルイズは警戒を強めた。 『虚無』の力はトリステインやハルケギニア全体のために役立てたい。魔界の勢力争いの道具になるつもりは全く無い。 内心を見抜いたかのように大魔王は悠然と笑ってみせた。 「敵対する輩と戦えというのではない。それこそ、ミストバーンや余の得意とするところだからな」 冷酷な一面を見たため頷きかけたが、ふと疑いが首をもたげた。ミストバーンは罰を抵抗せずに受け入れていたが、もし全力で戦ったら本当に大魔王は彼を圧倒できるのか。 凄まじい威圧感と覇気は肌に突き刺さるようだが、外見はあくまで老人である。 ルイズの疑念を見抜いたのか大魔王は悪戯を思いついたような表情を浮かべ立ち上がった。テーブルから離れるよう身振りで示し、二人が下がると軽く指を弾く。 爪ほどの大きさの火がチロチロと燃え、テーブルに触れた瞬間轟音とともに巨大な火柱を形成し、真紅の炎を天井まで立ち上らせる。 スクウェアクラスのメイジでさえ破壊するのに苦労するであろうテーブルはあっけなく焼かれ、融かされた。 二人の表情をどう受け取ったか、火事にはならんから心配するなと告げる。 「ス、スクウェアスペル!?」 「しかし、詠唱は無かったようだが」 「今のはスクウェアスペルではない……ドットだ」 二人にも理解できるようハルケギニアの言い方に合わせたようだ。 力を実感させる機会を見つけ、こちらを威圧し、屈服させようとしているのだろうか。甘く見られているのだとしたら、なおさら退くわけにはいかない。 そう思って睨みつけると「これは失礼」と言った。二人の驚く顔が見たかったらしい。 (そういえばずいぶん退屈してたわね) 自分の魔法で他人をあっと言わせたい気持ちはわかる。珍しい客人が相手ならばなおさらだろう。 座り直した一同に話を続ける。 「今見せた通り、単なる戦いならば話は簡単だ。……だが見たであろう。魔界の姿を」 黒く厚い雲に覆われた暗い空。見渡す限りの荒れ果てた大地とたぎるマグマばかりが広がる世界。 最大の特徴として生物の源たる太陽が無く、人工の太陽は生命を育むほどの暖かさは持たない。 「その魔界の太陽に異変が生じたのだ」 今まで定期的に大魔王が魔力を注いでいたのだが、徐々に光が弱くなっているのだという。単に魔力を込めるだけで良いなら大魔王一人で解決できるが、問題は根本的なものらしい。 「偽りとはいえ太陽は太陽……それも無くなれば魔界はさらなる闇に閉ざされる」 あまり考えたくない事態だ。不明な点が多いためウェールズは考え込み、質問した。 「その太陽はあなたが作ったのでは?」 「直接には関わっておらん。六千年ほど前、一人の男が礎を作り出したが――詳しい情報を掴む前にすぐ姿を消してしまいおった」 六千年という言葉にルイズとウェールズの空気が変わる。 「始祖……ブリミル?」 あくまで可能性にすぎないが、『虚無』の使い手たるブリミルの仕業だと考えられなくもない。生涯が謎に包まれているため一時的に魔界に迷い込んだこともあり得る。 魔界の魔法とブリミルが扱ったとされるものには似通った部分がある。ただの偶然ではなく、彼の魔法の一部が元となって伝わっている呪文もあるのかもしれない。 ハルケギニアの知識を得る中で始祖について知った大魔王は、『虚無』の使い手こそが鍵を握ると考え、つながりが弱りつつあってもミストバーンを呼び戻そうとはしなかった。 何も言われずとも『虚無』に関する情報を探るであろうことを読んでいたためだ。 「お前は何があろうと余のもとに戻るからな」 確信に満ちた声に影が頷く。 事情を知ったルイズの心に協力したいという思いが芽生えた。 人工太陽の礎さえ作ってしまえば、大魔王が定期的に魔力を注ぐだけでいいためそこまで多くの精神力は必要としないらしい。 世界扉の時のように彼の力を借りれば成功させることができる。 勢力争いに利用されるのではなく、魔界全体のためになるなら問題は無いだろう。 だが、申し出ようとして彼女は力なく俯いた。 伝説の『虚無』の使い手でありながら、彼の苦しみを見ていることしかできなかったではないか。 『虚無』を完全に使いこなせるとは言えない。本当に、偉大なる始祖の行ったことを真似できるのか。 ――出来ない。 そう言おうとした彼女に低い声が響く。 「やれ」 「でも! ……始祖のように『虚無』を扱える自信なんて無いわ。わたしには何もできない……“ゼロ”なんだから」 絶望に染まった声が室内に響き渡る。 「あんたは『虚無』だけが目当てでそれ以外ちっとも認めてなくて……『虚無』が無ければ、ただのゼロだって思って――!」 言いながらルイズは自己嫌悪に陥っていた。こんな言葉をぶつける資格はない。 大魔王にはなれないという当然のことを知っていながら、大魔王に対するものと同じ忠誠を望んだ。 その結果起こったことや彼の苦しみを考えればもっと酷い言葉で非難されても仕方がない。 今も口にしないだけで激しい怒りをみなぎらせている。 それでも彼は首を横に振った。 「私は強者には敬意を払う。……許せん相手であってもだ、ルイズ」 彼の尊敬する対象は敵味方を問わない。相手が命を落とそうと抱いた敬意が消えることはない。 ルイズの肉体は強くないが、心はそこらの戦士よりよほど強靭だ。ゼロと呼ばれ続け、逆境の中何度も諦めずに立ち上がり、努力してきたのだから。 『虚無』は彼女の心の力を元に放たれるのだから精神力も立派な強さだ。 「嘘……嘘よ……」 誤解を悟ったルイズの顔が歪む。 ゼロではないと言われた気がしたのは思い込みではなかったのか。努力や逃げない姿勢を評価されたと思ったのも。 “ルイズ”として認めていたのか。 言葉に込められた響きは教室の時とわずかに異なっている。その中にあるのは本物の――。 信じられないと言いたげな彼女を見てウェールズが苦笑をにじませた。 「嘘かどうか、君が一番わかるはずだろう?」 表情を改めるとミストバーンに向き直り、深々と頭を下げる。 「命の恩人に……それも僕を救うため傷ついたというのに、あのような態度を取ってすまなかった。非礼を許してほしい」 ウェールズの謝罪にルイズは驚いている。憎むこともできないという言葉の意味や、どんな感情を向けていたかを知ったのだ。 「今まで暗い霧の中に隠れて思い出せなかったが、倒れた僕を爆発から庇ってくれた」 爆発を起こしたのも敵前逃亡の汚名を着せないため。彼一人ならば爆発の規模が大きくても対処できたはずだ。 ルーンが働いていてもウェールズの誇りを守ろうとした意思に偽りはない。 もはやウェールズの眼から怒りや憎しみの色は消えている。 その眼はもう一つの道を見据えていた。ハルケギニアに戻り、歩き出すことができるだろう。 辛く苦しい道のりになることは間違いない。 安易にアンリエッタを頼っては愛する者の国に戦いの火種を持ち込むことになり、彼女も恋人の命惜しさに自国を危機に晒したなどと言われてしまう。 レコン・キスタにどのように立ち向かうか、どこまでやることができるのか、まだわからない。 それでも――。 「君の姿を見ておきながら、うずくまったままでいるわけにはいかない」 傷つき、疲れ果て、それでもなお消せない想いがあるのなら立ち上がるしかない。 『もし、もう一度守る機会が与えられたならば――』 やはり、戦う。 それがウェールズの見出した答えだった。 自分が自分でなくなるという苦しみを味わった二人の間に、礼拝堂や戦場での空気が蘇る。 「君はラ・ヴァリエール嬢の名を忘れはしないだろう?」 憎しみだけでなく敬意を込めて、永久に記憶に刻むか。 ウェールズはそう訊いている。 かすかに、だが確かに頷く。それだけでルイズには十分だった。 ゼロになっていた力が蘇る。灰の中から復活する不死鳥のように。 彼らの立ち上がる様を見て心の力や本当の強さが何なのかわかった気がする。その姿はとても眩しいものとして彼女の眼に映った。 (悔しいけど……認めるわよ) 主への姿勢に嫉妬を覚えたけれど、同時に感嘆――尊敬していたのだと。 彼を見て、全てを懸けて誰かのために行動することの重さを知った。 忠誠を語ることは容易い。だが、真に口にする資格のある者はごく少数だ。 『大魔王さまのお言葉は全てに優先する……!』 それ以上言葉はいらない。 『怖いさ。でも、守るべきものがあるからね』 ウェールズが戦いを選ぶのもそれだけの理由だ。 二人ほど強くなくても、何も行動しなければ貴族を名乗れない。彼から向けられる敬意以外の感情も変わらない。 これ以上何もできないまま見ているだけなどまっぴらだ。 ここで諦めるくらいなら――ゼロと蔑まれ続けた時点で進もうとする意志を放棄している。 「やるわ」 ルイズは顔を上げ、宣言した。彼女が彼女であるために。 思わず「言わなきゃわかんないんだから、ばか」と憎まれ口を叩いてしまったが。 つい先ほどまで青ざめ唇を噛んでいた少女と同一人物とは思えない。今彼女の眼はハルケギニアにいた時より烈しく燃えている。 大魔王は満足そうに頷き、ルイズ達を案内した。 四人が向かったのは魔界を見渡せる広大な丘の上だった。 彼らの見上げた先には人工の太陽がある。ブリミルはここで魔法を唱えたらしい。 ルイズは唾を呑みこんだ。 本当にできるのか。世界扉を作り出したのも、彼の力が流れ込んできたのも、何かの間違いでただの偶然ではないのか。 だが―― 『お前が望むならば……高みへ上ることができる』 やらねばならない。出会いの――今までの歩みの意味がゼロではないと証明するために。 覚悟を決めて『始祖の祈祷書』を開く。手が途中で止まりかけたが、再びめくって眩しく輝くページを開ける。 息を深く吸い込んで詠唱を始める。 ゼロと呼ばれながらも諦めなかった『虚無』の使い手ルイズ。 ゼロからの再生を遂げた大魔王の部下ミストバーン。 ゼロとゼロ。 ルーンが輝き二人をつなぐ様を見た大魔王が呟いた。 「ミストバーンよ、今わかったぞ。何故お前がその娘――ルイズに召喚されたのか……!」 彼はどす黒い思念から生まれた暗黒闘気の生命体。いわば怒りや憎しみの結晶と言っていい。そのため、純度の高いエネルギー源となる。 先ほどは怒りと暗黒闘気の一部分が勝手に流れ込んだだけだが、あらゆる感情と自身を形成する暗黒闘気を意識して注ぎ込めば――その力は爆発的に跳ね上がる。 授業の時は共鳴を起こしただけだった。世界扉の時は調節できなかった。自在に力を与えることができるようになった要因は、時間の経過ではない。 ルイズは授業で掴んだ感覚や今まで味わった暗い想いを呼び起こし、流れ込んだ力を増幅させていく。 だが、まだ足りない。 もっと――もっと力を。 無音の叫びを聞いたミストバーンはためらわずさらなる暗黒闘気を注ぎこんだ。大魔王がそれを見て鋭い光を目に浮かべる。 己の身体を削る行為にウェールズが息を呑む。 「何故……何が君をそこまで駆り立てる!?」 処罰の痛手から回復していないのに、存在を維持する力をも振り絞り、自らの生命をすり減らし続ける。 「この忌わしい体が……お役に立てるのだ……!」 (君は――!) いざとなれば主以外の存在を道具と割り切れることにウェールズは気づきつつあった。おそらくは彼自身も例外ではないだろう。 そして、肝心な時に役に立てなければ道具にすらなれない。 もう二度と主の信頼を裏切らないために、残された力を放出する。 今ここで譲れぬものを語るために必要なのは、言葉ではなく行動――“力”だ。 制止しようとしたウェールズは立ち尽くした。 この時、彼を止めるべきだったのかもしれない。 だが何を言おうと無駄だとその姿が告げていた。 視線がルイズの蒼い顔に向けられる。人間の身でこれほど膨大な力を扱おうとすれば大きな負担が生じるはず。 ミストバーンにいたってはその先に破滅が待つというのに止めようとしない。 以前ウェールズはアンリエッタとの最後の逢瀬を条件に力を貸すと約束した。 懇願という形を避けただけで、いつ果たす機会が訪れるかわからなかった。戦闘に関してはミストバーンは彼より強いのだから。 だが、ようやく理解した。 「今が、その時だ」 ルーンが光を増した。 ウェールズの掌から放たれた黒い霧――かつてミストバーンから注がれた暗黒闘気の一部がルーンを通じてルイズの中に入っていく。 憎悪と敬意を向けあった者達が、ルーンを介して結ばれる。 ルーンがなければ、ウェールズを生かすことも、人形になることもなかった。 ルーンがなければ、世界扉で戻ることも、こうして共に“戦う”こともなかった。 ようやく詠唱を終えたルイズは凄まじい力が脈動するのを感じた。 そして思い描いた。 憎悪の闇の中で輝く光を。 自分達の抱いた絶望が、希望の象徴へと逆転、昇華される様を。 太陽となって天空から世界を照らす光景を。 ――太陽を我が手に。 「極大天候呪文(ラナルータ)」 天候系呪文(ラナ)。あるものは雷雲を呼び、あるものは昼夜を逆転させる。 『虚無』の使い手から空を操る魔法が放たれ、何かをゼロにする。 天が叫ぶ。地が唸る。 荒れ狂う力が濁流と化して丘の周囲に渦巻き、中心へ向かい術者達をも押しつぶさんとした時、大魔王が手を掲げ結界を張った。 その眼は状況を把握しようとわずかに細められている。 人工の太陽が作られた時もここまで空気が震えるようなことはなかった。光源の礎を作り出すだけならばそれほど消耗しないはずだった。 必要な力を計算して罰を与えたが、想像を超える事態が起ころうとしている。今、目の前で。 障壁とせめぎあった後、莫大な力が杖の先端が示す先――天空へと駆け上り頂点に達する。 その瞬間、世界が輝いた。 光に目を奪われた大魔王からほんの一瞬だけあらゆる表情が抜け落ち、空気が鎮まると広大な丘は空の一帯から降り注ぐ光に包まれていた。 黒雲が払われた隙間から覗く色は青。丘の周囲を力の残滓と思われる金色の粒子が乱舞し、淡い煌めきを放ってゆっくりと消えていく。 ルイズ達は言葉を失い、壮絶な美しさにただ見とれていた。 奪われ、待ち望んでいたものがようやく手に入ったかのような感覚。 今までに味わった苦しみの全てが吸い込まれ、溶けていく気がした。 宙を舞っていた光の粒が消え、今までと同じ暗黒の世界で変わったのはただ一点。 彼女達の立っている丘とその周辺に雲間から光が差し込めていた。 ――偽りではない、本物の陽光が。 最終話――『太陽は昇る』 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/k-os/pages/105.html
英名:The Shaman Dragno レアリティ:R 絵師:浅川圭司/末弥純 番号:BS01-014 収録:ブースター1/ゲームジャパン2010/09/30発売号 コスト:4 軽減:2 シンボル:赤 系統:竜人 種類:スピリット 1-LV1:2000 4-LV2:5000 LV1-2:『このスピリットの召喚時』 自分のトラッシュにあるスピリットカード1枚を選び、手札に戻す。 フレーバー 長い長いひたすら長い儀式の末に、 偉大な魂を呼び戻す事に成功した。 戦場にあいつが帰ってくる。 備考/性能 再録:GJ版/末弥純ver バトスピでは初のキラ→ノーマルへの仕様変更での再録。 捨て札回収 トラッシュに置かれたスピリットを手札に回収することが出来る効果なのでドロー&ディスカードが出来るネクサスなどとは非常に相性が良い。 一度使用してからトラッシュに落ちたカードを再利用するほか、序盤で必要ない重いカードを百識などでトラッシュに貯蔵しておき、 召喚できる状況が整ってから回収するなど、事故率の低減に活躍してくれる。 また、単純計算で持ち札が+1されるので速攻デッキなどの軽量なスピリットでの数押しにも有効。 エピソード/キャラクター ここを編集
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9334.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第42話 ブリミルの秘宝の秘密 バリヤー怪獣 ガギⅡ 登場! ハルケギニアは今、聖戦という巨大な嵐に巻き込まれようとしていた。 教皇ヴィットーリオの放った勅令によって、ハルケギニアのすべての国家に対エルフの挙兵が命じられ、史上空前の規模の戦争が巻き起ころうとしているのだ。 ”世界を覆う暗雲を作り出したのはエルフの仕業である。今こそハルケギニアの民は力を合わせてエルフを討つべし!” 教皇が見せたという天使の奇跡とともに、ハルケギニアの津々浦々にまで聖戦参加の激が届くのに時間は必要としなかった。 神に忠誠を示すための義勇兵として集まる人々や、功を狙った貴族や傭兵は即座にロマリアに従うことを高らかに叫び、ロマリアには膨大な数の兵力が集まりつつある。 むろん、エルフにはかつて人間は一度も勝利したことはなく、その圧倒的な実力を恐れる者も多かった。だがロマリアは神の祝福を受けた教皇の魔法はエルフの先住を上回ると高らかに宣伝し、同時に聖戦に非協力的な者は異端の疑いがあるとして、飴と鞭を使い分けて人々を意のままにさせていったのだ。 その巨大な流れはハルケギニアにとどまらず、噂に流れてサハラにも伝わっていた。 ネフテスの評議会では人間世界での大きな動きに、エルフの議員たちがどう対応するかの会議が開かれていたが、うろたえる議員たちに対してテュリューク統領は不思議なくらい悠然としていた。 「まあ諸君、そう金切り声をあげて議論しなくてもよかろう。もう少し落ち着いてみてはどうかね?」 「統領閣下、なにをのんきなことをおっしゃっているのですか。蛮人どもが我々に濡れ衣を着せて攻めてこようとしているのですぞ? 我々の兵力の再編がまだ中途半端な今、これは大変な事態ではありませんか!」 しかしテュリュークは気にした様子もなく、むしろできの悪い生徒に教え諭す教師のように言った。 「戦争になってしまえばその時点で終わりじゃよ。我々が勝つにせよ彼らが勝つにせよ、双方被害は甚大というものでは済むまい。そうなれば必ず第三勢力が漁夫の利を狙って割り込んでくるじゃろう。戦争の勝ち負けなど関係なく、それで世界は終わりじゃ」 議員たちは言い返しようもなかった。第三勢力がなにを指しているかということは今さら説明されるまでもない。戦争が始まれば、確実にテュリュークの言ったとおりになってしまうだろう。 「では議長、我々はこのまま手をこまねいて待っていろというのですか?」 「そうは言っておらん。しかし、我々から動くのはまだ早いということじゃ。しばらくは情報を集め、様子をうかがっておこうではないか。わしはすでにビダーシャル君に頼んで蛮人世界の動静を探ってもらっておる。どうやら蛮人たちの中にも、戦に反対の者がまだ数多くおるようじゃ。今は、彼らの行動力に期待してみたいとわしは思う」 「もしも、その蛮人の反対派が敗れた場合はどうするのですか?」 「説明しないとわからぬかね? だが、わしは賭けてみるだけの価値はあると信じておる。彼らの勇士はほんの少し前に、このアディールに乗り込み、我らエルフの心を動かすという大事を成し遂げた。その手腕にもう一度期待してみようではないか」 「ううむ……ですが、危険すぎる賭けではないでしょうか」 「当然じゃ、だが我々には効果的に蛮人世界に干渉する術がないのも事実じゃ。とはいえわしは、これがむしろいい機会ではないかとも思っておる。蛮人、いや人間たちが我々と対等な生き物であるか、それとも進んで自滅したがる愚かな動物であるのか、この騒乱を収められるか否かで本当にはっきりするじゃろうて」 そう言うとテュリュークは、乾いた喉を潤すためにテーブルの上に置かれていた茶をぐいっとすすった。その味は悪くなかったが、時間が経ちすぎていたために議員たちの心情を映したように生ぬるかった。 聖戦を起こそうなどというだけの兵力が、一朝一夕で整えられるわけがない。実際に奴らがサハラに侵攻してくるにはまだ数ヶ月の準備期間がいるはずだ。それだけ時間があるとも言えるが、一方的にこちらを敵とみなしてくる以上は話し合いが通用する相手とは思えないし、たとえば今から教皇を暗殺したりなどをやってみても火に油を注ぐようなものだ。かといって降伏などということができるわけもない。 会議はそのまま特に目立った成果もないままに閉会し、しばらく様子を見るという、なんの変化もないことをネフテスは続投しただけだった。 だが今はそれでいい。今下手に動けば、かえって聖戦推進の人間たちを刺激することになる。 「まったくわしも、大変なときに統領なんぞになってしまったものじゃわい。じゃが、もしも人間たちがこの難局を乗り越えることができたら、幾千年繰り返された彼らと我々との争いも終わりにすることができるやもしれん。やってみせい、小僧っ子ども、これから先の時代を作るのはわしらじゃのうてお前たちじゃからの」 はるか西の空を望んでテュリュークはつぶやいた。時代は入れ変わらなければいけない。古い世代から新しい世代へ、そして新しい世代が新しい時代を切り開くには試練を乗り越える必要がある。 若者が大人に成長して時代を切り開くか、それとも未熟な若者から脱皮できずに時代に押しつぶされて終わるか、歴史の女神は非情にジャッジを下すだけだ。 こうしているあいだにも、ビダーシャルは国境沿いのエウメネスという街を拠点にしてハルケギニアの情報を集めてくれている。 人間とエルフは完全に断絶されてきたというわけではなく、一部では交流が続けられてきた。商人の噂は、軍隊の伝達よりも時に速くて信頼性がある。ハルケギニアで何かあった場合には、ここが有力な情報源になるのだ。 商人の口を通じて、ハルケギニアの各国が武装を増強し続け、武器商人たちが需要に追いつけなくなっているという話が日々大きくなっていくのをビダーシャルは苦い面持ちで聞いていた。このままでは、このエウメネスまでもが戦火に巻き込まれてしまう日も遠くないことだろう。 だがそんなある日、変わりばえのしなかった情勢が大きく動いたことを知らせる情報が飛び込んできた。 「戦争だあ戦争だあ! 大変だあ! トリステインとアルビオンがロマリアとガリアを相手に戦争おっぱじめやがったぞお!」 話が入ってくると、ビダーシャルは即座に複数の人脈を通して話の裏を取り、信憑性の高い情報を纏め上げた。間違いなく、ハルケギニアの内部で激変が起きたらしい。しかも、自分たちにとって恐らくは追い風になるであろうことが。 「このとおりならば、聖戦とやらの計画も根底から見直さねばならぬだろうな。いや、教皇が真に悪魔的な存在であるならば、ようやくこれで対等な立場に持ち込めただけかもしれん。ともあれ、これを人間たちの『物語』で表すのならば『劇的な変化』というところか。思えば、直前にファーティマを送り込めたのも、大いなる意志の導きやもしれん」 人間たちが運命と呼ぶものがあるとすれば、それはなんと巧妙に作られているのかとビダーシャルは思った。 サハラを滅亡に導こうとする危機が目の前に迫っているというのに、自分たちができることは実質なにもない。あるとすれば、ハルケギニアに行っているファーティマやルクシャナたちの活躍に賭けるだけだ。 「大いなる意志よ、我が姪と友人たちに良き巡り合わせを与えたまえ、彼女らを守りたまえ」 西の空のかなたにいるであろうルクシャナたちの活躍と無事を願ってビダーシャルは祈った。 エルフが見守る中で、聖戦という最悪の運命の分岐点に立つハルケギニア。その内部では、まさに激動に言うにふさわしい騒乱が始まろうとしていた。 事の起こりはビダーシャルの知る数日前、トリスタニアで行われた女王アンリエッタの演説から幕を開ける。 「我が親愛なるトリステイン国民の皆さん、本日は皆さんに大切なお話があります。貴族、平民、老若男女問わずにすべての方々に聞いてもらうために、わたしはこうして場を設けました。わたしの声は魔法器具を通して、トリステイン全土の街や村にも同時に届けられています。どうか少しの間、わたしの声に耳を傾けてくださいませ」 嘘偽りなく、トリステイン全土に広がるアンリエッタの声。ラグドリアン湖から引き上げられた艦艇に取り付けられていたスピーカーを参考に作られた王立魔法アカデミーの努力の結晶は、まだ実験段階ではあるが十分にその性能を発揮してくれていた。 ただし、無線ができるほど便利にはまだできていないため、国の全土にケーブルを引くためにアカデミーと魔法騎士隊がこの三日ほど不眠不休で働いた。それだけのことをするほどに、これから始まる演説には価値があるということだろう。 「皆さん、今現在の世界を包む危機的状況は周知のことでしょう。そしてそれに対して、ロマリアの教皇聖下がエルフに対しての聖戦の参加を呼びかけていることも、知らない人はいまやいないと存じます。今日は、我がトリステインの聖戦に対する意思を、全国民に表明しようと思います」 やはりそれか、とうとう来たか、と国民の誰もが思った。 トリステインはこれまで、聖戦に対する意思を明確に表明せずにあいまいにしてきた。国外から入ってくる噂や新聞記事などでは、ゲルマニアで有力貴族が結集し始めたとか、ガリアで大衆を相手に志願兵を集めだしたなど、ぶっそうな話が次々に聞こえてきていたために、遠からずトリステインでも軍を大きく動かすだろうと皆が予想してきたのだが、とうとう来たのか。 ごくりとつばを飲み込む人間が、このときトリステイン中で星の数ほどいただろう。しかし喜ばしく考えている者はそうは多くない。戦争というものが、どれほどの負担を大衆にもたらすのかは、ハルケギニアの人間には身近な問題なのだ。 確かに世界の脅威は取り除かねばならない。自分の家族や恋人のためなら聖戦も辞さずと考えている正義感の強い者も多いが、犠牲なしで済ませることはできない。もしそんなことができるなら聖戦は教皇ひとりで十分だろう。 だがそれでも、女王が参戦の宣言をすれば、数多くの人間が聖戦に参加するだろう。空を不気味な虫の黒雲が包んで何ヶ月も晴れないという明確な危機感、ロマリアの教皇が奇跡を見せて元凶はエルフだと示したことによる敵愾心は、トリステインの一般市民にもそれほど強く根付いていた。 だが、トリステイン国民たちの予想は、女王の想像を絶する宣言によって打ち砕かれた。 「わたし、トリステイン女王アンリエッタ・ド・トリステインは、その名において宣言します。ロマリア教皇ヴィットーリオ・セレヴァレ聖下の発した聖戦への”不参加”を! そして今日この日を持って、教皇聖下に対して我がトリステインは宣戦を布告いたします!」 なっ!? と、数百万のトリステイン国民が貴族平民問わずに絶句し耳を疑った。 どういうことだ? 聖戦に不参加? それどころか、教皇に対して宣戦布告? つまりロマリアに、ブリミル教に反抗するということか? なぜ? 人々は混乱する頭で考えたが、納得のいく答えは女王が狂ったというくらいしか思いつかなかった。しかし、アンリエッタの言葉は冷静なままで、魔法の送話装置から続いた。 「驚かれたことと思います。しかし皆さん、わたしは決して乱心したわけでも、ましてブリミル教への信仰を失ったわけでもありません。ですがこれからお話することは、さらに皆さんを驚かすこととなると思います。ですがどうか落ち着いて、最後までわたしの話を聞いてください。はっきりと申し上げます。聖戦を布告したロマリア教皇ヴィットーリオは、人間ではありません! 我々の信仰心を利用し、自作自演の奇跡で騙して聖戦にでっち上げ、エルフと人間の共倒れを狙う異世界からの侵略者です!」 トリステイン全土に、悲鳴にも等しい叫びが轟いたのは言うまでもない。 教皇陛下が人間じゃない? 女王陛下は本当に狂ってしまったのか? いや、しかしそんな。 混乱する人々に対して、アンリエッタの言葉は続く。 「驚かれていることでしょう。わたしも最初は信じたくはありませんでした。ですが、考えてみてください。このハルケギニアを、ヤプールのような侵略者が我が物としようとするならば、誰を抑えるのが一番都合がよいのかと? そして、教皇が侵略者の手先であるという確かな証拠をお目にかけましょう。どうか、空を見上げてください」 人々は言われるがままに空を見上げ、屋内にいた者も一様に外に飛び出るか窓を開いた。 もう人々の関心はただ一点に集中していた。すなわち、ハルケギニアの民にとって絶対である教皇と、敬愛する女王のどちらが正しいのかと? それは自らの運命にも直結する。証拠を見せてくれるというのであれば、見ないわけにはいかない。 国民の関心を一身に集めたアンリエッタは、街を見下ろす王宮のバルコニーで今、トリスタニアの民の前に身をさらしていた。 「女王陛下! 女王陛下! 女王陛下! 女王陛下!」 アンリエッタの視界を、数え切れないほどの民衆が蟻の群れのように埋めている。トリスタニアの道という道には人があふれ、屋根にも多くの人が上っているのが見える。トリステインの人口からすれば氷山の一角に過ぎないはずだというのに、アンリエッタはまるで全世界の中心に自分が放り込まれてしまったかのような錯覚を覚えた。 ”お母様、ウェールズ様、どうかわたしに勇気をくださいませ” 表情には毅然とした気高さを見せながらも、内心では押しつぶされそうなプレッシャーとの戦いが続いている。いくら彼女が若くしての名君と世間ではたたえられていても、心のうちはまだまだ未熟さを残す十代の少女なのだ。 できるならば逃げ出したい。しかし、逃げるわけにはいかない。後ろでは、マザリーニ枢機卿や大臣らが緊張した面持ちで見守っているし、見えない場所でもカリーヌやアニエスらが万一の暗殺や妨害を未然に防ぐために張り込んでくれている。失敗したとしても二度目はないのだ。 民もまた、女王陛下の言葉を一言も聞き逃すまいと緊張して待っている。ただの戦争の話であれば、裏路地の浮浪者などは我関せずと昼寝でもしているだろうが、今回は事と次第によってはトリステインという国が文字通り消し飛ぶかもしれないという大事態だ、影響を受けない者などいるわけもなく、日ごろはふてぶてしい態度をとっている裏路地の武器屋の親父も落ち着かない様子で空を見上げ、荒くれの集まるチクトンネ街でも魅惑の妖精亭の全員が外に出て王宮の方角を望んでいた。 「お父さん……」 「大丈夫よ、ジェシカちゃん。私たちは女王陛下を信じる、それを忘れちゃいけないわ」 不安げな少女たちには、スカロンの厚化粧でたらこ唇な顔がなぜか頼もしげに見えた。なお、ドルチェンコ、ウドチェンコ、カマチェンコの三人は先日実験で屋根裏部屋を吹き飛ばしてしまったために店中の掃除をずっとやらされているが、まあこいつらは例外であろう。 誰もが、アンリエッタの言葉を今や遅しと待ち構えている。そしてアンリエッタは、従者に持たせてきた宝箱から奇妙な形の首飾りを出して高く掲げた。そう、才人が六千年前からミーニンに託して送ってきた、あの首飾りである。 「皆さん、この世には始祖ブリミルの残した四つの秘宝があることをご存知でしょうか。偉大なる始祖ブリミルは、その血を引き継ぐ我ら子孫のために自らの魔法の力を封じた秘宝を残しておいてくれたのです。我がトリステインには始祖の祈祷書が伝わっていることは知ってのことと思います。本来ならば、四つの秘宝を持つ四人の選ばれし始祖の子孫が世界の危機を救うはずでした。しかし、アルビオンは内戦で荒れ果てて秘宝すら行方知れずとなり、ガリアにはあの邪悪なジョゼフ王がのさばっています。残念ながら、始祖の秘宝が揃う望みはありません。教皇は、そこにつけこんだのでしょう。ですが、秘宝には実は五つ目があったのです。懸命なる始祖ブリミルは、世界に危機が訪れることがあったとき、万一に四人の子孫と四つの秘宝が揃わないことがあった場合のためを考えて、切り札を残してくれたのです。この始祖の首飾りがそれです! そしてこの秘宝に秘められた力と、始祖ブリミルの本当の意思を見てください」 アンリエッタはそう言うと、始祖の首飾りを高く投げ上げた。するとどうか、首飾りはひとりでにぐんぐんと空へと昇っていくではないか。 光りながら上昇していく首飾りを、トリスタニアの人々はあっけにとられて見上げ続けた。 そして、首飾りが不気味にうごめく虫の雲に到達したとき、奇跡が起きた。 「おおっ、そ、空が!」 首飾りが暗雲に触れた瞬間、まばゆい閃光が走り、空が晴れた。例えるなら、まるで油を張った水面に洗剤を一滴垂らしたときのような鮮やかさで、首飾りに触れたところから円形に暗雲が消滅していき、そこから青空が、太陽が輝きだしたのだ。 「おお、太陽だ! 太陽だ! お日様だ!」 今までどんなことをしても晴らすことのできなかった虫の雲が、始祖の首飾りから放たれる光にかき消されていく光景は見る間に広がり、トリスタニアからラグドリアン、魔法学院、ラ・ロシェールまですべてを含み、トリステインは懐かしの陽光に照らし出された。 人々は歓喜に震え、森は緑に輝き、動物たちは駆け、魚は水面に飛び跳ねて、久しぶりの生命の源泉をその身いっぱいに浴びる。 これは、これは奇跡か。女王陛下は、始祖の秘宝は奇跡を見せてくれているのかと、半信半疑だった人々は、アンリエッタの言葉を信じようと思えてきた。 そのときである。空を見上げる人々の耳に、ゆっくりとした若い男の声が聞こえてきたのは。 『皆さん、未来の皆さん。僕の声が聞こえていますか? 僕の名はブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリールという者です』 え? 人々は自分の耳を疑った。今の声は、どこから? 空から? いやそれより、今の声が名乗った名前はまさか! 動揺する人々の耳に、空からの声は子供に語りかけるようにゆっくりと穏やかな声色で続く。 『未来の、僕がハルケギニアと名づけた土地に住む、僕らの子孫の皆さん。君たちからして過去の時代から、このメッセージを君たちに送ります』 過去の時代から!? ということは、やはり声の主は……始祖ブリミル! ハルケギニアの民にとって最大の聖人の言葉に、人々のあいだに緊張が走る。本当に始祖ブリミルなのか! そんなまさか……いや、聞いてみればわかる。 『僕らの血を次ぐ子孫の皆さん、残念ながら、この秘宝の封印が解かれ、このメッセージをあなたがたが聞いているということは、世界に未曾有の危機が訪れたことを意味するのでしょう。僕らの時代でも、世界は滅亡の危機に陥りました。僕は、君たち子孫にそんな辛い思いをさせたくはなく、僕の力の一端を封じたアイテムを後世のためにいくつか残すことにしました。この秘宝に封じた魔法はふたつ……そのうちのひとつ、記録(リコード)の力で皆さんに僕の声を届けています。そして、見てください』 空に、まるで天地を逆さまにしたように別の風景が蜃気楼のように映し出された。それは、荒れた空と荒廃した大地がどこまでも続き、廃墟と化した街々が連なるばかりの、滅亡した世界。その地獄のような光景に、人々は戦慄した。 『これが、僕らの生きている時代の世界です。今や、数百万を誇った世界の人口は、僕の仲間たちの百人ばかりを除けばほとんど残っていないでしょう。僕は、この世界を復興するために旅をしているのです』 完全に滅亡した世界の、あまりに凄惨な光景は、人々に今のハルケギニアの将来を想像させた。だがこれはハルケギニアの過去の姿だという。この光景を見ていたブリミル教の神父らの中には、これこそトリックなのではと疑いを持つ者も数多くいたが、そういえば始祖ブリミルがハルケギニアの基礎を築いたということはブリミル教の基本であっても、具体的に始祖ブリミルが何をやったのかということは、教義があいまいで彼らさえ知らなかった。第一、空に過去の風景を映し出す魔法など、始祖の虚無の系統でもなければありえない。 やはりこれは、始祖ブリミルの生前の肉声なのか……人々はごくりとつばを飲み込む。そして、始祖ブリミルの残したもうひとつの魔法とは。 『そして、この秘宝に込めたもうひとつの魔法の名は分解といいます。これは万物を形作る最小の粒に働きかけ、そのつながりを忘れさせてしまうのです。すなわち、この魔法を受けたものは、いかに頑丈であろうとも関係なく消滅してしまうのです。使いようによっては、非常に大きな力となってくれることでしょう』 始祖の声による説明に、平民はただ感心し、貴族たちはなんと恐ろしい魔法があったものかと戦慄した。 あらゆるものを、その強度を無視して消滅させる。そんなことができるのならば、まさに無敵ではないか。 しかし、ブリミルの声は人々に釘を刺すように重々しく響いた。 『ただし、心しておいてください。この秘宝に込められた力は無限ではありません。なによりも、僕はこの命のあるうちに可能な限りの遺産を君たちに残したいと思っているけれども、それを生かすも殺すも君たち次第だということを。遺産を平和のために用いるもよし、一時だけの儚い夢に費やすもよし、僕は君たちに道を示すことはできるけれども支配者ではない。どんな姿のハルケギニアを作っていくかは、子孫の君たち一人一人の選択と努力にかかっているんです』 ブリミルの口調は穏やかだが、中には断固としたものが込められていて、人々に重責を感じさせた。 『僕が名づけたハルケギニアで、どんな未来がつづられていくかは僕にもわかりません。なぜなら、未来は人間の自由な選択によって作られていくからです。そこに決まった未来なんてない。あなた方すべての小さな選択の積み重ねによって、未来はいくらでも形を変えていきます。僕らだってそうです……僕は、虚無の系統という大きな力を持って生まれてきましたが、僕は誰かに言われたわけではなく、ただ苦しんでいる人を少しでも救えればと思い、旅をしています。君たちの身に降りかかっている危機がどれほどのものであろうとも、まずは皆さんの誰もが心の中に持っている、小さな良心の訴えを聞いてから道を決めてください』 迷ったときの道しるべは、自分の心の中に用意されているものだとブリミルの声は言っていた。 『そして最後にひとつ、僕はこの時代のハルケギニアを、この命の続く限り立て直していこうと誓っていますが、人の人生は短く、君たちの世代までに問題を残してしまうかもしれない。だから、身勝手だけれど君たちにお願いします。僕が初めてこの地を訪れた頃は、この地は平和で、豊かで、誰もが幸福に暮らす素晴らしい世界でした。ですが、この時代の人間たちは、その幸せの大切さを当たり前に思いすぎ、守る努力を怠った結果、この世界はヴァリヤーグという強大な侵略者の手の中に落ちてしまいました』 ヴァリヤーグ……この時代のヤプールのような侵略者が、始祖の時代にもいたというのかと人々は思った。 『僕は残りの生涯の中で、なんとしてでもヴァリヤーグだけは倒します……だからお願いします。僕らの世代で起きた過ちを、未来で決して繰り返してはいけない。平和や幸せは、待っていれば来るものではなく、誰かに与えてもらうものでもない。この世界に生きるものすべてが苦しみながら手に入れるべきものなのです。そう、この世界は多くの人が苦しみながら生きている。最大の敵は常に自分自身……君たちがどんな敵を相手にしているにせよ、自分が苦しんでいるのと同じように誰かが苦しんでいることを忘れないでください。そうすればきっと、あなたは誰かに優しくなれる……僕だって、ひとりで戦っているわけじゃない。長い耳を持つ人、翼持つ人、ほかにも様々な人に支えられて生きています。いつかヴァリヤーグとの戦いが終われば、彼らの子供たちが皆さんにつながっていくのでしょう。そうして未来の世界で、僕らの子孫たちが互いに助け合って平和に生きる時代を作り、守ってください……それが僕の変わらぬ願いです』 ブリミルの言葉はそれで終わり、空からは幻影が消えて元に戻った。 人々は、まるで夢でも見ていたかのように呆けて固まってしまっている。今見たもの聞いたものが真実だったのか違うのか、答えられる者はいなかった。 しかし現実は常に人間の都合などお構いなしで歩を進める。始祖の首飾りの効力で晴れたと思われた空が、またも沸いてきた虫の雲によって覆い隠されていったのである。 「ああっ、空がっ! せっかく晴れたのに」 やっと見れた太陽を再び隠されたショックは大きく、ひざを突いて落胆してしまった者もいた。ようやく、我々の上に光が戻ってきたと思ったのに、また昼なのに闇に閉ざされなくてはいけないのか。 けれども、落ち込む人々を励ますように、再びアンリエッタの声が魔法の通信機材から流れ始めた。 「皆さん、今の光景を忘れないでください。あれこそが、時代を超えて今に届けられた始祖の力とその意思です。残念ですが、始祖の首飾りに秘められた虚無の魔法はあくまで始祖の力のほんの一部。暗雲を生み出す元凶が残っている限り、ハルケギニアに太陽を取り戻すことはまだできません。しかし、皆さんはご覧になったはずです。始祖ブリミルが時代を超えても伝えたかったメッセージを!」 人々ははっとして、たった今見て聞いたばかりの記憶を呼び起こし、アンリエッタの声に耳を傾けた。 「始祖ブリミルは、六千年の昔に、わたしたちよりさらに苦しい戦いを強いられながらも、わたしたちにこのハルケギニアという世界を残してくださったのです。そればかりか、遠い未来のわたしたちのことを案じて、こうして遺産を残してくださいました。なんという親心でしょう……この秘宝は、先日アルビオン王家の宝物庫の封印から発見されました。同封されていた、秘宝の使い方を記した手紙には、使い方に混じって現代のわたしたちを心配する言葉であふれていました。発見された秘宝は、わたしが今使ったものを含めてふたつ。今頃はアルビオンでも、我が夫であるウェールズ国王陛下が同じように秘宝の力を示していることでしょう」 そのとおり、アルビオンでもアンリエッタの言ったとおりに、ウェールズによって同じことが行われていた。 人々の反応もおおむね同じで、トリステインとアルビオンを合わせて数千万の人口がふたりの王族によって見せられた奇跡を目の当たりにして心を奪われていた。 これこそまさに奇跡、神の力だ……始祖ブリミルは、やはり偉大な聖者だったのだ。そしてトリスタニアやロンディニウムで直接始祖の首飾りを見た人々の中には、あのハルケギニアでは見たこともない不思議な色彩を放つ首飾り、あれこそ神の御技によって作られた神器だと、心から感動して涙を流していた者もいた。 が、彼らにはすまないことではあるが、始祖の首飾りにはあるとんでもない曰くがあった。 それは、六千年前のアルビオンでブリミルや才人たちがミーニンを封印する前のこと。才人は未来に当てて手紙を出すのはいいとしても、せっかくこの時代から贈り物ができるのだから、何かほかに役に立てるものがないかと考えた。そこでブリミルが才人に、僕が将来ハルケギニアで偉人扱いされているのならば、僕の魔法を込めた品を贈れば役に立つのではないかと提案したのだ。 「なるほど、そりゃあ名案ですね。あ、でも貴重な魔法の力をこんなことのために浪費させてしまったら」 「なあに、最近は温存できていたし、このオアシスでたっぷり休めたおかげで魔力は十分さ。仲間のために役立てなくて、なんの魔法だい? 遠慮なんかしなくていいよ、万一なにか起きてもサーシャも万全だし、なあ」 「はぁ、まったくあなたはほんとに楽天家でお人よしなんだから。まあいいわ、ただしせっかくやるならそれなりのものを残さないと未来に恥をかかせることになるわよ。なにかなかったかしら? と、言っても私たちの持ってるのはほとんどガラクタばかりだしねえ」 サーシャの言ったとおり、放浪の旅をしているブリミルたちには見栄えのいいものはなにもなかった。生きるために必要のないものは極力持たず、必要最低限の物資しかないのでは、いくらブリミルの魔法を込めても少々みっともない。 これは困ったな。才人はなにか適当なものはないかとパーカーのポケットの中を探ってみた。すると、しばらく触っていなかった内ポケットの中に手ごたえがあったので引き出してみたところ、ブリミルたちの目が丸くなった。 「おやこれは。ずいぶんと鮮やかな色の紐だねえ」 「こいつは……ああ思い出した! 俺のケータイにつけようと思ってた首掛けストラップだ。秋葉原でパソコンの修理のついでに買って、そのまま入れっぱなしにしてたんだった……ん? ブリミルさん?」 ここまで来たらおわかりであろう。ポリエステル製で鮮やかな色をしたネックストラップならば『現代』のハルケギニアでもありえない素材であり、わかりやすく派手なので適当だと即決されたのである。 そうなると後はブリミルもサーシャも切り替えが早かった。ネックストラップの色彩はそのまま目立つようにして、本来ならば携帯電話を下げるところにサーシャがありものの素材で『それっぽい』飾りを作って、ブリミルが魔法を込めることで、始祖の首飾りと銘打たれたマジックアイテムは完成したのである。 ちなみに製作時間は七十五分で、材料の値段は二本入りパック百五十円(税別)である。 「うーん、これはいい出来だ。僕が作った中では最高の出来じゃないかな。サーシャ、君はどう思う?」 「そりゃいい出来に決まってるじゃない。なんたってこの私がデザインしたのよ。サイトもほら、もーっと褒めてもいいのよ」 「は、はは、そうですね……なんだろう、この胸のチクチクする感じは」 未来を救う必殺のアイテムが完成したはずなのに、ぜんぜんありがたみというものを感じられなかった。ブリミル教徒であれば、たいへんに光栄な場面に居合わせられたのだろうけれど、才人の口からは乾いた笑いしか出てこない。 なんかこう、こういうものを作るときには特別な儀式とか、アイテムを秘境にゲットしに行くイベントとかがあってもよかったんじゃないか? いや、前に水の精霊の涙をもらいに行ったときの苦労を思えば、簡単にいくならそのほうがいいってわかっちゃいるんだけど、なんかこう……あるじゃんか。 魔法の力を秘めたアイテムというものは、おおかたのアニメやらゲームやらで特別な存在であるもんだろと才人は思う。それをこうもたやすく作るあたり、ブリミルはすごいメイジであるんだろうけれど、なんか納得いかない。 が、ブリミルとサーシャは才人の憂鬱などどこ吹く風で、始祖の首飾りが思ったよりうまく出来上がったことで気をよくしてとんでもないことを言い出した。 「ううむ、あまり試したことはなかったけど、僕ってマジックアイテム作りの才能があるのかもしれないな。よーし、こうなったら他にもいろいろ作ってみようかな。そうだ! 僕の魔法を記した本に、必要なときに大事なことだけ読める魔法をかけておけばなんかすっごく便利じゃないかな。名づけて始祖の祈祷書、なんちゃって」 「あんたの魔法を記した書って、あれあんたのばっちい日記帳じゃない。そんなのなら、子供たちのオルゴールに魔法をかけて鳴るようにしてよ」 「えーっ、そういうのはどっちかというと君の魔法のほうだろ。やっぱりこういうアイテムは趣がなくちゃいけないよ。そうだ、この城に鏡と香炉があったけど、それならどうかな」 「それって粗大ゴミ置き場に捨てられてたやつじゃないの。そういうのは趣じゃなくてただのボロって言うのよ。そんなものよりさぁ……」 と、ふたりはかんかんがくがく楽しそうにオリジナルの魔法アイテムの作成について話し合っていた。それを見て才人は「子孫の皆さん、本当にすみません」と、良心の呵責に涙さえ流していたという。 始祖の秘宝の誕生の秘密に触れているというのに、ぜんぜんワクワクもドキドキもしない。というか、こんなひどい光景を見たことがない。いわしの頭も信心という言葉もあるにはあるが……伝説の正体なんてこんなものかもしれないなあと、才人はぼんやりと思うのであった。 ただ、それでも才人はブリミルたちを悪くは思えなかった。 ”まっ、いいか。秘宝の正体なんて、未来じゃどうでもいいことだし。それに、ブリミルさん……首飾りが届くかわからないのに、未来に向けたメッセージは本気で考えてくれたもんな” ブリミルの仲間を思う気持ちは本物だと、才人は首飾りに記録の魔法でメッセージを残していたときの彼の真剣な表情を思い出していた。 思いが本物であれば、その見てくれなんかは些細な問題でしかない。たとえそれが、原価百五十円(税別)であったとしてもだ。 頭の中を切り替えた才人は、その後ミーニンを送り出した後に、再びブリミルたちと旅立つことになる。ハルケギニアの、まだまだ解き明かせない謎を探すために。 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9059.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十九話「ナックル星人の逆襲」 用心棒怪獣ブラックキング 暗殺宇宙人ナックル星人 カプセル怪獣アギラ カプセル怪獣ウインダム 宇宙ロボット キングジョー 登場 ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式が三日後に迫ったその日、 トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号は新生アルビオン政府の客を迎えるために、艦隊を率いて ラ・ロシェールの上空に停泊していた。 後甲板では、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵が正装して居住まいを正している。その隣には、 艦長のフェヴィスが口ひげをいじっていた。 「やつらは遅いではないか。艦長」 ラ・ラメーがいら立って呟いた。アルビオン艦隊は、約束の刻限を超えても姿を見せないのだ。 「自らの王を手にかけたアルビオンの犬どもは、犬どもなりに着飾っているのでしょうな」 そうアルビオン嫌いの艦長が呟くと、檣楼に登った見張りの水兵が、大声で艦隊の接近を告げた。 「左上方より、艦隊!」 なるほどそちらを見やると、雲と見まごうばかりの巨艦を先頭に、アルビオン艦隊が静静と 降下してくるところであった。 「ふむ、あれがアルビオンの『ロイヤル・ソヴリン級』か……」 「あの先頭の艦は巨大ですな。後続の戦列艦が、まるで小さなスループ船のように見えますぞ」 艦隊を率いる『レキシントン』号をまじまじと観察して、ラ・ラメーとフェヴィスが言葉を交わした。 ラ・ラメーは鼻を鳴らす。 「ふむ、戦場では会いたくないものだな」 しばらく降下してくるアルビオン艦隊をじっとながめていた二人だが、後続の戦列艦の、 更に後ろについてくる飛行船の列が見え、怪訝な顔になる。 「おや? 列がまだ続いている。後ろの船は一体……」 先に聞いていた隻数より明らかに多いことに気づいて、戦列艦の背後の飛行船をよく見た途端に、 ラ・ラメーとフェヴィスのみならず、トリステイン側の艦隊の兵たちは全員が唖然となった。 「な、何だと!? あれはまさか……『円盤』ではないかね!?」 アルビオン艦隊の後尾を構成する飛行船は、大きさこそ『レキシントン』号には劣るが、 それとは別の意味で「異様」としか言いようのないものだった。 材質は木材ではなく、どう見ても金属製である。それだけでもハルケギニアの技術を大きく越えた 代物であるが、全体的な形状も、羽のついた帆船ではなく、ラダーつきの平べったい箱型と、 地球の戦闘機に近いものであった。当然、ハルケギニアの人間には馴染みのないものだ。 そしてこのような金属製の飛行物体は、宇宙人連合の最初のハルケギニア攻撃の際に、 ラ・ラメーらは目にしている。侵略者「ウチュウ人」の戦艦で、「円盤」と呼称されるものだと、 いつの間にか流れていた噂で知った。 「しかし何故、アルビオンの連中がウチュウ人とともに行軍しているのだ!?」 滝のように脂汗を流すラ・ラメーの疑問に、アルビオン軍は何も答えない。その代わりに、 アルビオン艦隊の後尾についている円盤群に動きがあった。 円盤の一機が機体を地表と水平を保ったまま一気に降下すると、底部からスポットライトのような 光を照射する。そして、どうやって積み込んでいたのか全く分からないが、円盤から身長が60メイルを 超える大怪獣が円盤の体積を無視して出現し、地上にドスン! と地響きを鳴らして着地したのだ。 「グルルルルル……!」 「ひッ!? か、怪獣まで!」 円盤から現れて、牙を剥いてうなり声を上げているのは、容貌だけで強者の貫録を漂わせている怪獣だった。 筋骨隆々の全身の体色は暗闇を想像させるほどに真っ黒で、胴体も四肢も蛇腹状になっている。頭頂部には 前に折れ曲がった金色の角が生え、背中にも同じ色のトゲが四本、横に並んでいる。装飾が少なく割とシンプルな 外見だが、その分理屈抜きの「力強さ」というものが見て取れる。 これは、工廠でボーウッドが目にした巨大怪獣と同じ個体だった。名前は、ブラックキング。 ナックル星人の誇る戦闘用の大怪獣だ。 「グアアアアァァァァ!」 ブラックキングは上を向いて首をトリステイン艦隊の方角へ向けると、口から紅蓮の熱線がほとばしった。 熱線は猛烈な勢いではるか上空まで伸びてきて、艦隊を構成する戦艦が一隻、一瞬で爆散して粉々になった。 「は……!?」 ラ・ラメーもフェヴィスも、完全に絶句した。怪獣が常識を超越した、恐るべき生物で あることは聞いている。しかしまさか、地上に仁王立ちしたまま上空の戦艦を狙い撃ちにして、 たった一撃で玉砕するなど、実際に見せつけられてもにわかには信じられなかった。 だが、攻撃してくるのはブラックキングだけではなかった。アルビオン艦隊側の円盤も 光線を照射し、更にはアルビオン艦隊までもが砲撃の雨を降らせてきたのだ。 「な、何が起きているのだ! 向こうの艦隊はどうしたというのだ!?」 怪獣と円盤、そしてアルビオン艦隊に攻撃されている事実が認められず、ラ・ラメーが 狂ったようにわめいた。部下に事態の説明を求めるための信号を送らせるが、アルビオン側は 砲撃を繰り返すばかり。 これでラ・ラメーもフェヴィスも悟った。アルビオンは親善訪問に来たのではない。侵略に来たのだと。 ようやく応戦するトリステイン艦隊。だが、ただでさえアルビオン側にも艦数と大砲の 性能差で負けているのに、そこに円盤と怪獣の攻撃まで加われば、勝ち目など微塵もなかった。 ものの数分の内にトリステイン艦隊は跡形もなく消し飛ばされ、生存者は一人も出なかった。 『クハハハハハ! 原始人の玩具の群れにしては、持った方じゃないか! ブラックキングの 準備運動くらいにはなったか!?』 アルビオン艦隊の後尾についている円盤の一隻の内部で、ナックル星人が哄笑を上げた。 この戦闘とも言えない一方的な虐殺は、ナックル星人の立てたハルケギニア侵略計画、 そしてウルトラマンゼロへの逆襲計画のほんの序章に過ぎなかった。これからクロムウェルの姿で 配下に置いたアルビオンの兵とともに、トリステインの全土を焼き払って陥落させるつもりなのだ。 『それにしても、事態を呑み込めずに恐慌していたトリステインの人間どもも愚かだが、 こっちの連中はそれに輪を掛けて愚かだな。さすがは下等種族だ』 ナックル星人はモニターに映る、アルビオン艦隊の兵士たちの様子を見やり、侮蔑の嘲笑を送った。 ボーウッドと、お飾りに過ぎない司令長官のジョンストンに代わって実質の指揮と執るワルド以外の 全員が、「アルビオン万歳! 神聖皇帝クロムウェル万歳!」と唱えて諸手を上げているのだ。 彼らは異星人と怪獣とともに侵略行為を働くという異常事態を、クロムウェルに化けたナックル星人の 「彼らは私の虚無の力により、アルビオンの盟友となった」というどう考えても無理のある虚言を 疑うことすらせずに信じ切った。ボーウッドとワルドだけは疑念を挟んでいたようだが、二人とも 特に反論を示すことはしなかった。 『無知蒙昧とはこのことだ。奴らは知性を持つ人間とも呼べん。都合のいい現実という、 与えられた餌だけが全ての犬畜生だな』 散々見下されているとも知らずに万歳を繰り返すアルビオン兵をこき下ろすナックル星人。 本来なら、こんな連中の後に続くだけでも我慢がならないほど腹立たしいが、今度の ウルトラマンゼロに復讐する計画には、「人間」の存在がどうしても必要なのだ。 だから蹴散らしたい衝動をぐっとこらえて、地上のブラックキングに指示を送る。 『ブラックキング、前に進め! 最初の行き先は、原住民のちんけな集落、「タルブ村」だ!』 「グアアアアァァァァ!」 ナックル星人のテレパシーによる指令を受けたブラックキングは、足を前に出し、行進を始める。 大地に散らばったトリステイン艦隊の残骸や、森の木々を薙ぎ倒して、タルブ村へ向けて進み出した。 その後ろ姿をアルビオン艦隊が追いかけて、それとともにナックル星人の円盤群も進んでいく。 怪獣と円盤、そして侵略者の言いなりと化した誇りなき軍隊は、トリステインの領空を不躾に犯していった。 ルイズたちの一行は、『竜の羽衣』を発見したことで宝探しの旅を終わらせ、魔法学院に 帰還することになった。ただシエスタだけは、アンリエッタの結婚式の祝祭が近いので、 休暇の名目でタルブ村に留まることになった。 ゼロ戦の方の『竜の羽衣』は、佐々木武雄の遺言により才人に進呈されることになった。 時代は違えども自分と同じ故郷の人間の遺物に妙な感慨を抱いた才人はありがたく譲り受けると、 ギーシュの父のコネで竜騎士隊を借り受け、彼らにゼロ戦を運んでもらった。 しかし、べらぼうに高い運送料までは考慮していなかった。いざ魔法学院の中庭まで運んでもらってから どうしようかと困っていたら、意外な人物が立て替えてくれた。 「なるほど! この風車を回転させて、風の力を発生させるのか! この翼も、羽ばたくようには 出来ておらんが、揚力を得るのに理想的な形状をしている! いやよくできておるな! まことに 素晴らしい!」 その人物が中庭に鎮座したゼロ戦をしげしげと見て回り、才人からの説明の一つ一つに感心した。 ミスタ・コルベール。御年四十二歳である。 「プロペラを回すには、ガソリンという油が必要なのか。それは『錬金』で調合すれば、 何とかなるだろう。機体も完璧に直さねばな。この継ぎ接ぎのままでは、飛ぶ前に プロペラの風で分解してしまうだろう。やることは多いが、是非実際に飛んでいるところを 見たいものだ!」 コルベールは、運ばれてきたゼロ戦をひと目見ただけで、ただの奇妙な物体などではないことを見抜き、 空を飛ぶ機械だと聞いた途端に年甲斐もなく大はしゃぎした。今はゼロ戦を元の飛べる状態にしようと、 あれこれ算段を立てている。 彼は火の系統のメイジだが、破壊と攻撃を至上とするのが常識のメイジ仲間とは大きく異なり、 火の魔法を生活や建設的なことに活かそうと日々研究している、いわば「変わり者」だった。 そんな彼が、魔法の力に依らずに空を飛ぶ「飛行機」に興味を抱かないはずがなかった。 彼は才人からゼロ戦を預かると、すぐさま修理のための研究をするために、研究室に駆け込んだ。 才人の方は、エアロヴァイパーに撃ち落とされ大破したゼロ戦を、元の通りに直してもらいたいという一心で、 コルベールに預けた。佐々木の遺言には、才人に向けての「なんとしてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい」 というメッセージがあった。だがそれは今となっては、到底叶わぬ相談だ。何故なら、彼の属した「大日本帝国」は はるか昔に無くなったからだ。だから、いつかゼロ戦を返す日を夢見て必死に形だけでも直したであろう 佐々木の無念に少しでも応じようと、完全な修理を頼んだのだ。 それから時間が経過し、アンリエッタの結婚式の予定日の三日前となった日。才人はルイズの部屋で、 ゼロに話しかけた。 「なぁゼロ、俺、ジャンボットが過去のハルケギニアに到着してたことも驚きだったけど、 シエスタのひいじいさんが日本人だったことはもっと驚いたよ」 『そうだな。お前以外にも、この世界に迷い込んだ地球人がいたんだな』 相槌を打ったゼロが、今までのことを思い返す。 『思えば、スパイダーを持ち込んだ科学特捜隊員や、人じゃないけどキュルケの家の家宝になってた 本とかあったな。このハルケギニアと地球は、意外なところでつながってるのかもしれないな』 当たり前だが、別の宇宙同士は通常の方法では往来など不可能だ。しかし世界は広いもので、 宇宙と宇宙をつなぐ時間と空間を超越した「場所」もない訳ではない。かの「怪獣墓場」がその一例で、 あそこには様々な宇宙から怪獣の魂が行き着くという。地球とハルケギニアも、そういう超常的な 「通り道」がどこかにあるのかもしれない。 『そうでもないと、三人も地球人がこの世界に迷い込むなんてことが説明できないもんな。 もしかしたら、他にもこっちに来てる地球人がいたりしてな』 「他にもか……。今までの人はもうお亡くなりだったけど、まだ生きてる人もいるかもしれないってことだな」 『もし出会ったら、俺はどうしようか……。当然地球に連れて帰すべきだろうが、任務があるからなぁ……』 「ちょっと! そこうるさいわよッ! 人が考えごとしてる時に!」 机に向かってうんうんうなっていたルイズが振り返って叱ってきた。彼女は式がもう目と鼻の先なのに、 まだ祝詞を完成させていなかった。色々案は出しているが、どうも納得できないらしい。 『ハハハ。大変だな、お互い……』 ゼロが思わず笑ったが、次の瞬間には声が強張る。 『ん何ッ!? 怪獣の鳴き声だ!』 「えッ!? また現れたのか!」 途端に才人とルイズが色めき立つ。だが次のゼロの言葉で、ますます驚愕することになった。 『それだけじゃねぇ! 一緒に円盤の飛行音もする! しかも何機もだ!』 「それって、また宇宙人連合とかいうのの攻撃!?」 トリスタニアでの円盤群の攻勢と、アルビオンの四大宇宙人を思い出すルイズ。どちらも ゼロたちに撃退されたが、性懲りもなく三度攻めてきたのか。 『違いないな。場所はラ・ロシェール……いや、タルブ村だ!』 「タルブ村だって!?」 瞬時に青ざめる才人とルイズ。既にゴルドンの被害に遭ったというのに、あの村はまだ苦しめられるのか。 それだけではない。あそこにはシエスタが残っている! 『やべぇ! もう攻撃は始まってる! 今から飛んでったら間に合わねぇぜ! こういう時は…… ミラーナイト! 来てくれ!』 ゼロが姿見に向かって叫ぶと、直ちにミラーナイトの姿が現れた。 『状況はこちらも把握してます。すぐに転送しますよ! じっとしてて!』 「相棒! 俺っちを忘れるんじゃねえぞ!」 存在を主張したデルフリンガーを才人が掴み、ルイズは『始祖の祈祷書』を抱きかかえると、 ミラーナイトが鏡の中から他者を自分のように鏡面を通じて移動させる光線技、ナイトムーバーを使用した。 才人とルイズはミラーナイトのシンボルの十字の光に包まれると、一気に姿見の中に吸い込まれ、 部屋から姿を消した。 次の瞬間には、タルブ村の側の森の中に、水たまりを出口にして転送された。 「わッ! ホントに一瞬ね。すごいわ」 『すみませんが、私はジャンボットが今、手を離せない状態なので、しばらく救援には行けません。 ゼロ、タルブ村の人々をお願いします!』 『分かってるぜ! 行くぜ才人! ルイズ!』 「ああ!」 才人とルイズはすぐに森から飛び出し、タルブ村へ駆けつける。そこで、地獄絵図を 目の当たりにすることになった。 「グアアアアァァァァ!」 「ひ、ひどい……!」 円盤群と混成しているアルビオン艦隊は、上空からタルブ村に砲弾の雨を降り注いでいる。 円盤もまた、光線を照射して民家を焼いている。そしてブラックキングが、熱線を吐き散らして 草原を火の海に変え、家を踏み潰す。ゴルドンの脅威がなくなり、家々の建て直しの着手が されたばかりのタルブ村が、炎と煙に包まれて灰燼へと帰していく。住人たちは焦熱地獄の中から 必死に逃げ回って村から脱出していくが、ほとんどの者は火の手に逃げ道を塞がれて 苦しみもがいていた。 「助けてくれええええ!」 「誰かぁぁぁぁ!」 「おお、始祖ブリミルよ! 我らをお助け下さい!」 「えーん! お母さーん!」 爆音とブラックキングの鳴き声に混じって、村人たちの悲鳴が休みなく上がる。顔から 血の気が失せたルイズは、空に浮かぶ最も巨大な戦艦を見上げた。 あの船には見覚えがある。アルビオンに赴いた際に、浮遊大陸の周囲を監視していた飛行船だ。 名前は『ロイヤル・ソヴリン』……いや、レコン・キスタに奪われて『レキシントン』号となったとか。 「あれはアルビオン軍!? どうしてアルビオンが宇宙人たちに荷担してるの!?」 「今はどうだっていい! 早く侵略者どもを追い払って、タルブ村を救わないと!」 才人がすぐにウルトラゼロアイを取り出すが、変身をゼロが制止する。 『待て才人! 今俺が出ていったら、奴らは今以上に激しく暴れるだろう。そうなったら タルブ村の人たちがますます戦火に巻かれちまうぜ!』 「けど、それじゃあどうするんだよ!」 焦る才人に、ゼロが指摘する。 『忘れたのか? 俺たちにはこういう時に力になってくれる、頼もしい仲間がいるだろ!』 ゼロの言わんとするところを、才人はすぐに理解した。 「そっか! カプセル怪獣だな!」 そうと分かるとすぐに小箱を取り出し、カプセルを二つ手に取った。そして右手を振りかぶり、 燃えていくタルブ村へ向けて投げ飛ばした。 「行け! アギラ、ウインダム!」 「お姉ちゃーん! 助けてー! 苦しいよー!」 半壊していたシエスタの生家は、村の者たちの努力により、とりあえず寝泊まりは出来る程度には 修復されていた。しかしアルビオン軍の襲撃により、家は炎に包まれて崩壊してしまった。しかも 倒れた柱に、幼い妹が下敷きになっている。運の悪いことに父母は用事で家を離れており、シエスタしか 助けられそうな者がいない。 「頑張って! すぐに、お姉ちゃんが助けるから!」 懸命に励ますシエスタだが、所詮女の細腕では、倒れた柱をどかすのは不可能だ。それでも 持ち上げようと力を振り絞っているシエスタの周りに他の弟たちがしがみついている。 しかし、危険もかえりみずに妹を救おうとするシエスタの兄弟愛を嘲笑うように、冷酷な現実が突きつけられる。 「グアアアアァァァァ!」 「!? きゃあああああああ!」 天井が崩れて外と内の境界がなくなったシエスタの家に、ブラックキングが迫る。足を振り上げ、 シエスタたちを虫けらのように踏み潰そうとしている。太陽光と明日を遮る影が自分たちを包むと、 シエスタは目をつぶって弟たちを抱きしめた。 しかし、彼女たちの命が踏みにじられることはなかった。 「キギョ―――――ウ!」 「グアアアアァァァァ!?」 シエスタたちが踏み潰される寸前、前に細長く伸びた頭部の額に、前に突き出た一本角を生やした 恐竜型の怪獣が突っ込んできて、ブラックキングに体当たりしたのだ。虚を突かれたブラックキングは 仰向けに倒れる。 「えッ!? な、何が起きたの!? 新しい怪獣!?」 「キギョ―――――ウ!」 恐竜型の怪獣は、ブラックキングとシエスタたちの間に立ち、起き上がるブラックキングに エリマキトカゲのような赤い襟巻きを逆立てて威嚇する。しかし目つきは眠そうに半開きに なっているのが、どことなく愛らしい。 この怪獣こそ、三体のカプセル怪獣の最後の一体、アギラなのである。 「グワアアアアアアア!」 アギラと一緒に召喚されたウインダムの方は、額のランプからレーザーを空に向けて撃って、 戦艦と円盤を牽制する。両者とも撃ち落とされては敵わぬと言わんばかりに上昇し、結果タルブ村への 攻撃の手を止めさせられた。 「シエスター! 大丈夫かー!」 「えッ!? さ、サイトさん! ミス・ヴァリエールまで!?」 アギラがブラックキングとにらみ合っている間に、才人とルイズはシエスタの下へ駆けつけた。 二人の姿を確かめて、シエスタは仰天した。 「ど、どうしてここに!? 学院に帰ったんじゃ……」 「説明は後だ! 今はすぐにここから避難するんだ!」 シエスタの言葉を遮った才人は、すぐに状況を確認。彼女の妹が柱に押し潰されて動けないことを把握した。 「相棒、俺を使いな! 木の柱なんか、軽く真っ二つよ!」 「おっし! でりゃあああッ!」 デルフリンガーを引き抜いた才人は、その刃でシエスタの妹にのしかかる柱を分割した。 それにより、妹は自由になる。 「お兄ちゃん、ありがとう!」 「お礼は本当に助かってからにして! さぁ、早く避難するわよ。シエスタも手伝いなさい!」 ルイズはシエスタの弟たちを誘導して、焼け崩れた家からの脱出を促す。シエスタも妹を背負って 逃げようとするが、才人が留まっているのに気づいて振り返る。 「サイトさん! 何してるんですか!? 早く逃げましょう!」 と急かすと、振り返った才人は、ひと言告げた。 「先に行っててくれ。俺は、あいつらと戦うよ」 「ええッ!?」 シエスタは、才人の言葉が信じられなかった。 「そんな、無茶です! あの悪魔のような軍勢相手に、一人でなんて! サイトさん、命を 粗末にしないで下さい!」 事情を知らないシエスタは懸命に説得するが、そこでルイズに手を掴まれて引っ張られる。 「早くしなさい! 妹背負ってるんでしょうが!」 「あッ、ミス・ヴァリエール!?」 シエスタがルイズに引っ張られていなくなると、才人はカプセル怪獣たちへの指示を飛ばし始めた。 「アギラはブラックキングを、ウインダムは円盤と戦艦を村から追い出すんだ! 頑張ってくれ!」 「キギョ―――――ウ!」 「グワアアアアアアア!」 命令を受けたアギラとウインダムは、それぞれの敵に挑んでいく。アギラはブラックキングに突進し、 ウインダムはレーザーを振りまいて空の敵を下がらせる。 「グアアアアァァァァ!」 ブラックキングは、正面から向かってくるアギラに熱線を吐き出した。だがアギラは跳躍して 足元に当たった熱線を跳び越えると、素早い身のこなしでブラックキングの懐に入り込む。 「キギョ―――――ウ!」 そして相手の両足に自分の足を引っ掛けると、力の限りを込めて足払いした。 「グアアアアァァァァ!」 大怪獣のブラックキングも、足の支えがなければ立っていることは出来ない。今度は前のめりに倒れて、 うつ伏せの状態になった。 「キギョ―――――ウ!」 ブラックキングを転倒させたアギラは尻尾を掴み、ズリズリ引きずっていく。ブラックキングは 瞬く間に村から森へと運ばれていった。 「グアアアアァァァァ!」 ようやく尻尾からアギラを振り払い、起き上がる。そしてアギラを叩きのめそうと腕と尻尾を振り回すが、 アギラは俊敏な身のこなしで打撃をかわし続ける。 アギラはウインダムのような遠隔攻撃も、ミクラスのような怪力も持っていない。だがその代わりに、 その二体にはない敏捷性がある。怪力自慢のブラックキングに正面から立ち向かって敵う訳がない程度の力量だが、 回避に徹すれば、重量級なのが災いして動きのとろいブラックキングを足止めすることは問題なく出来るのだ。 才人は、敵が離れていくことで村人たちが避難する時間が出来ていることを確認した。 「いいぞアギラ、ウインダム! 後ちょっとでみんなの避難が完了する!」 タルブ村の人々の避難が終われば、ウルトラマンゼロは気兼ねなく戦うことが出来る。 アギラとウインダムは、ゼロの戦いの場を作るために尽力し続けた。 カプセル怪獣に侵略部隊が翻弄されていることに、ナックル星人が苛立ちを見せていた。 『ブラックキングめ、何をやっている! あんなチンケな雑魚怪獣なんぞに振り回されやがって! どれだけの手間暇をかけて貴様を育て上げたと思ってるんだ!』 アギラを捉えることが出来ないでいるブラックキングに罵声を飛ばすが、それで戦況が変わったりはしない。 大きく舌打ちすると、次の手を打つことを決定した。 『仕方ない……ウルトラマンゼロが現れるまで取っておくつもりだったが、アレを加勢に出すとする!』 「キギョ―――――ウ!」 「グワアアアアアアア!」 アギラとウインダムのお陰で、逃げ遅れている人はもうわずかになった。そろそろ変身する時かと、 才人が改めてウルトラゼロアイを取り出す。 だがここで異常が発生した。いきなりアギラが、どこからか飛んできた怪光線に撃たれたのだ。 アギラは激しく横転する。 「キギョ―――――ウ!」 「何!? 誰が撃ったんだ!?」 位置的に考えて、ウインダムが牽制している円盤からの攻撃ではない。才人が怪光線の 飛んできた方向を見上げると、その方角の空に、四機の不揃いの形状の円盤が新たに出現していた。 『なッ! あ、あの円盤は!』 ゼロが声を荒げると、円盤が地上へと降下し出した。まず二つの円柱をくっつけたような円盤が 森の中に着陸すると、最も円盤らしい外観の円盤が、あろうことかその上に乗っかり、アンテナを収納。 次に前面を埋め尽くすほどの面積の二つの電光パネルを持った円盤が更に上に乗り、最後に残った 腕を持った円盤がジョイントした。 気がつけば四機の円盤は、一機の巨大ロボットに変わっていた。ロボットはグワアッシ、グワアッシと 駆動音を鳴り響かせながら、森の木々を踏み潰す。 「あ、あのロボットはッ!!」 驚愕する才人。円盤が合体して出来上がったロボットは、通信端末を使わずとも名前を知っている。 ゼロも、その脅威を父親のセブンから聞いていた。 宇宙でも指折りの科学力を有するペダン星人が築き上げた、かのウルトラセブンが自分一人の力では 勝てなかったほどの恐るべきスーパーロボット、キングジョーだ! 『フハハハハハ! 行け、キングジョーよ! その雑魚どもを蹴散らせ!』 円盤の中で、キングジョーを繰り出したナックル星人が哄笑した。 あのキングジョーは、ペダン星人のオリジナルではない。ナックル星が鹵獲した機体を解析、 逆利用するために造り上げた模造品なのだ。だがその性能は、決してオリジナルの引けを 取るものではないとナックル星人は自負している。 セブンを散々に苦しめたキングジョーが、セブンから授けられたカプセル怪獣に襲い掛かる! 「グワアアアアアアア!」 キングジョーはウインダムの方へと、一定の足取りで向かっていた。ウインダムはレーザーで 先制攻撃を仕掛けるが、キングジョーは直撃を受けてもびくともしない。 逆に、キングジョーの両目から放たれた怪光線を食らって吹っ飛ばされる結果になった。 「グワアアアアアアア!」 もんどりうったウインダムにキングジョーが接近し、頭部を片手で鷲掴みにすると起き上がらせ、 すさまじい握力で握り潰し出す。 「グワアアアアアアア!」 ウインダムの悲鳴が上がる。アギラの方も、倒れたことでブラックキングの尻尾に滅多打ちにされ、 蹴飛ばされた挙句に熱線を食らう。 「グアアアアァァァァ!」 「キギョ―――――ウ!」 ウインダムとアギラが一気に追い詰められたことに、才人は泡を食った。 「まずい! 戻れ!」 これ以上二体が痛めつけられる前に、カプセルの状態に戻す。黄色と赤のカプセルが手の平の中に 飛び込んできた。 「グアアアアァァァァ!」 ウインダムとアギラがいなくなったことで、せっかくタルブ村から引き離したブラックキングと 円盤、戦艦が、キングジョーまで加わって押し寄せてくる。 しかし、カプセル怪獣たちの奮闘は無駄ではない。彼らが敵を引きつけてくれたお陰で、 タルブ村の住人の避難はほとんど完了した。これなら、ゼロが万全の状態で戦える。 「デュワッ!」 才人は満を持してゼロアイを装着し、変身を行う! ……実はこの時、才人の身を案じたシエスタが、単身舞い戻って来ていた。しかし反対方向を 向いていた才人はそれに気づかなかった。 「サイトさん! 早く逃げ……きゃあッ!」 シエスタが駆けつけるのと、才人が変身を行うのは、ほぼ同時だった。急に才人の身体が光り輝いたので、 シエスタは思わず目を背ける。 そして目を開けた時には、才人の姿は目の前になく、代わりにウルトラマンゼロが天高く仁王立ちしていた。 「ええぇッ!? ど、どういうことですか……!? 何でサイトさんがいなくなって、ウルトラマンゼロが……。 まさか、サイトさんが……?」 「こ、こらー! 勝手に戻るんじゃないわよ! 危険でしょ!? さぁ早くこっちに! ……何も見てないわよね!?」 呆然としているところに、シエスタを探しに来たルイズに手を掴まれて、また引っ張られていった。 「グアアアアァァァァ!」 ゼロがタルブ村に登場すると、再び村に踏み入ったブラックキングが身体を揺らして威嚇し、 キングジョーは相変わらずグワアッシ、グワアッシと駆動音を鳴らして前進し続ける。 大怪獣とロボット怪獣相手に、ゼロが攻撃を仕掛ける。 「ゼアッ!」 頭に両手を添えてゼロスラッガーをキングジョーへ放り、振り向き様にブラックキングへ エメリウムスラッシュを発射した。 「グアアアアァァァァ!」 しかし、ゼロスラッガーはキングジョーの装甲に呆気なく弾き返され、エメリウムスラッシュは ブラックキングの交差した腕に防御された。 『くそッ、やっぱ一筋縄じゃ行かねぇか……!』 ブラックキングを操ることと、円盤の形状からして、黒幕はナックル星人。逆襲に来たのだろうから、 易々と倒せるような手下を連れてくるはずがない。 キングジョーとブラックキングに挟まれているゼロだが、そこに更に円盤群が一斉に光線を 発射して攻撃してきた。 『ぐぅッ!』 咄嗟に腕で顔をかばうゼロ。光線が四方八方から襲い掛かる上に、キングジョーの怪光線と ブラックキングの熱線まで飛んできて、集中攻撃を浴びる形になる。攻撃は途切れる様子がない。 『ちぃッ……! このまま動きを封じようって腹か!? せこい真似を……!』 集中砲火を食らうゼロは、防御に手一杯で身動きを取ることが出来ない。そうやってエネルギーが 切れる時を待つつもりであることは読んだが、だからと言って反撃に転じられる訳でもなかった。 『くぅッ! どうするか……!』 このままではジリ貧。無理をしてでも反撃に出ようかと考えたその時のことだった。 空の彼方から一発のミサイルが飛んできて、円盤を一機爆破して撃墜した! 『! 今のはッ!』 突然のゼロへの支援攻撃に、敵の攻撃の手が一旦止まる。ゼロの方も、ミサイルの乱入に驚きを見せていた。 科学技術が中世レベル止まりのハルケギニアに、ミサイルなんてものが存在する訳がない。 つまり今のは、ハルケギニア外の技術。そしてミサイルを扱う自分の味方に、ゼロは一人だけ 心当たりがあった。 ミサイルの飛んできた方向、『もう一つの竜の羽衣』が鎮座する洞窟のある山脈へ首を向けたゼロは、 山の向こうから、紅白の鳥の如き宇宙船が大空へ上昇していくところを目撃した。 『ジャンバード! 遂にお目覚めだな!』 『もう一つの竜の羽衣』ことジャンバードは、ブースターの火力を強めて急加速。一気に 円盤群と艦隊に接近していくと、ビームエメラルドで円盤をまた一機撃墜。それで開いた 戦列の隙間に突っ込んで、高速飛行が起こす風圧で隊列を乱した。 『ジャン! ファイト!!』 掛け声とともに宙返りを行うジャンバード。すると機首が上下に反転したかと思うと、 本来の下部から五本指の手が現れ、機首の小さなウィングが畳まれる。次に主翼が変形して 脚部に変わっていき、尾翼が本体から分離してその下からもう一本の腕が現れ、離れた尾翼は その肩に接合して盾となった。そして胴体の首になる部分が開くと、中から兜を被った 騎士のような頭部がせり上がり、黄色の目が光り輝いた。 ジャンバードは一瞬で、鋼鉄の武人の形態への変身を完了した! この巨大ロボットこそ、 ハルケギニアの平和を守るための、遠い星からの贈りもの、ジャンボットである! 『はぁぁぁぁぁッ!』 背面のブースターから火を噴かせるジャンボットは、ジャンバード時の加速に乗ったまま、 キングジョーにショルダータックルを決めた。それにより、キングジョーの4万8000tもの 超重量の機体が放物線を描いて吹っ飛んでいき、森の中に仰向けに倒れた。 『ジャンナックル!』 振り返ったジャンボットは握り拳を作った左腕を発射する。 「グアアアアァァァァ!」 左腕はブラックキングの腹部にめり込み、地面に水平に殴り飛ばした。ブラックキングもまた、 森の中に逆戻りして倒れ込んだ。 登場してすぐに二大怪獣を薙ぎ倒したジャンボットは、ゼロの左隣に着地する。 『ゼロ、すまない。私としたことが寝坊してしまったようだ。この過ちは、これからの戦いの中で償おう!』 『いいってことよ! 無事に復活して何よりだぜ!』 反対側、ゼロの右隣には、ミラーナイトが遅れて着地した。 『ミラーナイト! やってくれたんだな!』 『ええ。どうにか修理が間に合いました。ジャンボットはもう問題ありませんよ』 ミラーナイトの報告を聞き、ゼロの心に活力があふれてきた。 『よぉしッ! グレンファイヤーがまだいないが、ウルティメイトフォースゼロ、出撃だぜ! ナックル星人の大軍団をぶっ飛ばすぞ!』 『おう!』『はい!』 ゼロの掛け声にジャンボットとミラーナイトが応じ、三人がそれぞれ別の方向へ、自分たちを 取り囲む敵に対して構えを取った。 南の森の中へ避難をしたタルブ村の住民たちは、空を駆るジャンバードの勇姿を目にすると、 口々に叫んだ。 「あれは、『竜の羽衣』じゃないか!?」 「本当に空を飛んでるぞ! あんな鉄の塊が!」 「羽を羽ばたかせることもなく、火を噴いて! 信じられない!」 そしてジャンバードがジャンボットに変形すると、興奮は最高潮になった。 「『竜の羽衣』が、巨人の姿になった!」 「ササキの話は本当だったんだ! 巨人になって、人知れず村を助けたって!」 「俺たちのことを、助けてくれるのか!?」 周りが騒然としている中、シエスタは呆然とひと言つぶやく。 「ひいおじいちゃんのお話……嘘じゃなかったんだ……」 一方で唯一事情を知るルイズは、ジャンボットの復活とゼロ、ミラーナイトの三人で並び立つ姿を見やって、 力強い表情になる。 「ゼロ……ミラーナイト……ジャンボット……! 必ず勝って……!」 ギュッと『始祖の祈祷書』を握り締めながら、勝利を願った。 『ほう……鏡の巨人に加えて、ロボット戦士まで出てくるとは……。キングジョーを吹っ飛ばすとは大したものだ……』 円盤の旗艦の内部で、並び立ったゼロたちをながめたナックル星人がつぶやく。円盤が二機落とされ、 自慢の二大怪獣がどちらも倒れ伏したという、傍目から見れば旗色の悪い流れなのだが、その声音に 焦りの色はない。 『ククク……浮遊大陸の時はみっともない姿を晒したが、今度はそうは行かんぞ。たとえ何人増えようと、 相応の準備をしてきているのだからなぁ……。せいぜい今の内に調子づいてるがいい。直に、貴様らの方が 慌てふためくようになるさ……クハハハハッ!』 まだ奥の手を隠し持っているらしいナックル星人は、モニターの中のゼロたち三人に 不気味な嘲笑を浴びせかけた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5309.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《神はまた言われた。 「地は青草と、種をもつ草と、種類にしたがって種のある実を結ぶ果樹とを地の上に生えさせよ」。 そのようになった。…神は見て、良しとされた。夕となり、また朝となった。第三日である》 (『植物の創造』:旧約聖書『創世記』第一章より) 地獄の深淵をフネで飛び越え、松下一行は反逆地獄の中心……『悪魔大王』へと向かっている。 「ルイズさん、起きてください。到着しましたよ」 「ん…………ああ、おはようサトウ……ミスタ・サトウ。案外早かったわね」 地獄に落ちて三日目、と言っていいのか。ルイズは佐藤に揺り起こされて目を覚ました。 寝起きには少々ショッキングな容貌の佐藤だが、言動は紳士的と言ってよい。育ちはそれなりに良いのだろう。 異形の『案内人』は、ここまで松下と喋り続けていたようだ。 窓の外を見ると、黒くごつごつした岩肌が見える。フネの後方にはオロロン、オロロンという異様な風音が響いている。 悪魔大王とやらが口や鼻から噴き出している、霊魂の吹雪の放つ音なのだろうか。 「お蔭で、精神力もだいぶ回復したわ。……で、ここはどこなの」 「悪魔大王の頭上、ですね。現世へ帰還するための座標は頭頂部ですので、もう少しです。 ただ、私はここらでお別れとなりますが……」 松下は疲れた様子もなく、占い杖を手にして座席から立ち上がった。 「話し相手としては面白かったよ。もうぼくらがここに来ることはないと思うが、達者でな」 「みなさまも、どうぞ息災で……ささ、出口はこちらです。降りられましたら、そのまま真っ直ぐお進みください」 タラップを降りて上陸すると、確かに足元は赤黒く固まった熔岩のような、不毛の地だ。 しかし、ずっと向こうの小高い丘には、なにやら鬱蒼と樹木が生い茂っているではないか? 「ねえ案内人、あれは…………あれ、いないじゃない」 ルイズは振り向いて再び案内人を呼ぼうとしたが、彼らはすでにフネごとどこかへ消えていた。 「化かされたような感じだが、冥土ではあまり後ろを振り向かない方がいいぞ、ルイズ。 仕方ないな、真っ直ぐ進んでいくほかあるまい」 松下、ルイズ、シエスタ、佐藤は気を引き締め、力強く現世への道を踏み出した。 30分ほど歩くと、聳え立つ針葉樹の深い森が眼前に広がっている。 小さな道らしきものはあるが、森の中は全くの暗闇だ。松下が占い杖に魔法の光を灯し、先に立って進む。 暗い森を抜けると、やや開けた明るいところに出た。空には太陽もないのに、なぜか明るく暖かい。 そこには小川が幾筋も流れ、さまざまな草木が生い茂り、花が咲き乱れ、瑞々しい果実がたわわに実っているではないか。 「あっ、なんだか楽園みたいなところじゃないの……」 「葡萄に無花果、これは柘榴、それにアルビオン名産の桃リンゴ……。 野菜や果物がたくさんありますねぇ」 林檎、洋梨、マルメロ、花梨などの仁果類。 杏、梅、サクランボ、李、桃などの核果類。 アーモンド、栗、胡桃などの殻果類。 ブルーベリー、ラズベリー、桑の実、苺、木苺、蛙苺などの漿果類。 蜜柑、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、柚子などの柑橘類。 アケビ、柿、グミ、苔桃、山桃、棗、枇杷。 熱帯果樹ではナツメヤシ、ココヤシ、パイナップル、バナナ、パパイヤ、マンゴー、アボカド、ドリアン。 地面には芋やら根菜やらが盛んに葉を出し、大きな西瓜やメロン、カボチャの類も無数にある。 季節も産地も異なる草花や果実が、ここでは奇妙な調和を保って共存している。 「なんだこりゃあ、地獄の中心に楽園とは」 「いつぞや訪れた、蓬莱島みたいですなぁ」 「同じ木に、花と果実が同時につくなんて……」 「こっちの小川からは、蜂蜜や葡萄酒の香りがしていますよ!」 一行が意外な光景に見とれていると、奥の方から黒い犬のようなものが近づいて来た。 「むっ、気をつけろ諸君、あの犬からは妖気がする。それに硫黄臭い」 「そりゃあ、こんなところにまともな犬がいるとは思えないわよね」 警戒しつつ話し合っているうちに、黒い犬は後脚ですっくと立ち上がり、しゃがれた人間の言葉で挨拶をした。 「やあ、遠路はるばるようこそ。お前さんたちがメシア、《東方の神童》松下一郎ご一行かな?」 やはり尋常の犬ではない。名前を呼ばれた松下が進み出て、応答する。 「そうだ。この地獄の底から地上へ戻るために、我々はここへやって来た。で、きみは誰だ」 「ははは、おれぁまぁ、悪魔のたぐいさ。 大体の事情は聞いている、この園の中心部へご案内してさしあげよう」 どうやら、ここから先は彼が『案内人』というわけらしい。 黒い犬はそう答えると、前足を猿のような手に変化させ、よく熟れた桃リンゴの果実を一つもぎ取った。 ルイズは怪訝げな表情のまま、おずおずと彼に質問する。 「あの……ここは地獄、のはずよね? でもこの光景は、あまりにも地獄らしくないわよ」 「ご覧の通り、地獄にも楽園みたいな場所はあるのだ。どうだい、ひとつ」 「遠慮しとくわ。とても美味しそうだけど、ここのものを食べたら生き返れないんでしょう?」 「残念だなあ、こんなに美味ぇのに……」 ガブリ、ムシャムシャと悪魔はこともなげに果実を味わう。 いつの間にかその両足は、驢馬のように蹄のあるものに変わっていた。 「……さ、ともかくおれの後について来な。もうしばらく歩くから、雑談でもしながら行こうや」 二足直立のまま振り返ると、悪魔はスタスタと歩き始めた。四人は言われるままに、彼の後に従う。 あたりは本当に清らかなほど明るく、空気は澄んで芳しく、ほどよく暖かい。足元はふかふかした緑の芝生だ。 チピピピ、と美しい声で小鳥が歌い、樹木の枝陰には小動物が群れ集い、鹿やイノシシ、一角獣の姿さえ見える。 霊体になっている今はあまり寒暖の差を感じないが、今までの極寒地獄とは天と地の差である。 「……信じがたいけど、本当にここは楽園なんだわ」 「本当は、楽園のかけらみたいなものだ。『悦楽の園』と呼ばれている。 むかし悪魔大王が人類の祖先を堕落させるため、楽園に忍び込んだとき、頭上にちょいと種子が入り込んだらしい」 彼は歩きながら桃リンゴを食べ終わると、近くの低木の枝からまた一つ、見慣れない赤い果実をもぎ取った。 「……なにそれ、林檎(ポム)?」 「ああ、『黄金の林檎(ポム・オ・ドーロ)』……ポモドーロ、トマトというのだ。 またの名は『愛の林檎(ポム・ダムール)』だってよ。茄子の一種で、林檎とは全く別種なんだがな」 ガブリ、と一口齧ると、果汁がぽたぽたと地面に滴り落ちる。なかなか美味しそうだ。 ハルケギニアには地球の欧州でいう『大航海時代』がなかったのか、いわゆる新大陸産の植物は伝わっていないらしい。 もしくは存在していても、まだ有毒で食用には適していないと考えられているのかも知れないが。 《私の愛する者が若者たちの中にあるのは、林の木の中に林檎の木があるかのよう。 私は大きな喜びをもって、彼の陰に座った。彼の与える実は私の口に甘かった。 彼は私を酒宴の家に連れて行った。私の上に翻る彼の旗は愛。 干し葡萄をもって私に力をつけ、林檎をもって私に元気をつけて欲しい。 私は愛のために病みわずらっているから。 どうか、彼の左の手が私の頭の下にあり、右の手が私を抱いてくれるように!》 (旧約聖書『雅歌』第二章より) 「―――ところで、今度はおれから、お嬢さんに質問だ。ああっと、ミス・ルイズ・フランソワーズだっけか? たとえば林檎ってあるよな、林檎。 その林檎はなぜ、枝から離れるや地面に落下すると思う?」 唐突に悪魔に問い掛けられ、ルイズは目をぱちくりさせた。林檎が、地面に落下するのはなぜ、だって? 魔法が科学技術の多くを肩代わりしているハルケギニア文明世界でも、それなりに宇宙観、自然哲学は存在する。 しかし、空中に浮かび上がる『レビテーション』や『フライ』の魔法や『風石』などはあるものの、 《物体がなぜ落下するか》という根源的な問いに、はっきりした答えは実のところまだ発見されていない。 ルイズは不安そうに、松下の方をちらっと振り向いた。 「…………マツシタとか、学院やアカデミーの人なら、気のきいた答えが返せると思うけど……」 「質問されているのはきみだ。きみだって高等教育を受けて来たはずだろう。 授業で習ったり書物で読んだりしたことはないか?」 すげなくボールを投げ返され、仕方なくルイズは自分の学んだ知識を披露する。 松下を召喚して以来、常識はずれなことばかり起きているので、自分の常識もおかしくなりそうだが。 「……うーん、そうね、昔からいろんな説があるけど、私は一応こんな風に学んだわ。 万物は四つの元素、土・水・風・火から成り、それぞれは独自の性質を持つ。 一番重いのは土だから、それは自然に凝集して不動の大地となり、次に重い水がそれを包んで海や河川、蒸気となる。 風は大気となってそれらを覆い、向上する性質を持つ火はその上にあって太陽などの天体となる。 ならば林檎が地面に落ちるのは、それが土から生じるもので、あるべき場所たる土に帰るから、と。 まあ一番普及している答えは、そんなふうに神様が世界を創ったから、になるけどね」 自信なさげにそう答えて振り向くが、松下や佐藤は黙ったままだ。シエスタは笑顔で肯いている。 くっくっ、と悪魔は含み笑いをした。 「そういうふうに神様が創った、か。まぁ、そうかも知れねぇな。うん、いいセンいってるぜ」 悪魔は食べかけのトマトを掌の中で変化させ、自転する卵のような小宇宙の模型を現出させた。 「ついでだから、その宇宙についてもう少しお勉強だ。 お嬢さんの言う四大元素による層の上に『エーテル』という第五元素、霊的な光とか生気、の層を置くこともあるな。 これは天球層と言って、月より上にある諸々の輝く天体を構成し、絶えず球状の大地、《地球》の周りを回転運動している。 その階層は七つとも九つとも言われ、最上層には造物主、運動の原因である神が座している。 つまりァ、天国だ。どうだい、なかなか壮大な宇宙じゃないか?」 「……まあ、理にかなってはいると思うわ。 で、ここは地獄……地球の中心、つまりあんたの言うところの宇宙の中心というわけね。 そんな位置に悪魔大王なんて物騒なのがいるのも、どうかと思うけど」 ルイズはフウッと溜息をつく。大体地獄の底と言っても、この道は頭頂部への上り坂ではないか。 悪魔は小宇宙モデルをもとのトマトに戻し、一口でゴクリと呑み込んでしまう。 「うっほん、まぁ、そういうことだが……古くから、別の説も提唱されてきた」 今度はオレンジをいくつももぎ取って、頭上に投げ上げる。 すると一つの大きなオレンジを片方の焦点にして、空中で楕円軌道を描くように他の実が回り始めた。 「地球は宇宙の中心にはなく、こんなふうに太陽の周りを、他の星々とともに回っているのだと。 宇宙の摂理を司るのは、人格を持った神や天使・精霊ではなく、『数』……数学的法則であると。 そして四大元素も突き詰めていけば、それ以上分割できない最小の微塵、原子(アトム)である、とね」 それを聞いて、ハッ、とルイズは息を呑んだ。 ―――――四大元素より小さな、最小の微塵の粒。 それはひょっとして、あの『始祖の祈祷書』に記されていた『虚無(ゼロ)』の魔法が操るというものではないか? 先を歩く悪魔は足跡に火花を残し、手を後ろに組み、尻尾を蛇に変えてくるくる回している。 頭からはニョキッと山羊のような一対の角が生え、いよいよ悪魔じみた姿だ。 やがて前方に、非常に巨大な古木が聳えているのが見えてきた。高さも太さも、学院の本塔よりずうっとありそうだ。 比較的低い場所にも広々と枝を広げ、無数の林檎らしき実を星々のようにつけている。 ラ・ロシェールの町にあるような『世界樹』というものだろうか? あれは枯れ木だが。 それらを見ているうちにふと、ルイズの頭には疑問が浮かぶ。 「でも、もし大地が、地球がぐるぐる動いていたら、その上にあるものはみんな吹き飛んでしまうんじゃないかしら? それに、なんで地球や惑星は太陽の周りを回転しているの? 別に紐で結ばれているってわけでもないのに」 「ふふん、賢いお嬢さんだ、実にもっともな疑問だねぇ。 それを説明するために、天文学者ケプラーによって引力、つまり『物が他の物を引きつける力』というものが想定された。 磁石が鉄を引きつけるような、遠隔的に働く不思議な力だな」 悪魔の頭上には、オレンジの飛び回る宇宙モデルが浮かんだままついてきている。 「アイザック・ニュートンという自然哲学者は、この引力に一定の普遍的法則を発見した。 これは『2つの物体の間には、物体の質量に比例し、2物体間の距離の2乗に反比例する引力が作用する』というもので、 逆2乗の法則……一般的には『万有引力の法則』として知られている。 なぜ地球は林檎の上に落下しないのか? 地球は林檎より遥かに大きな質量を持つからだ。 そしてこの万有引力は、月を始めとする天体にも同様に存在して働き、それぞれの動きを司っている――――」 もはやルイズにはさっぱり理解できないレベルになってきた。 が、博学な悪魔は家庭教師にでもなったつもりか、かまわず授業を続ける。 「ニュートンの科学的業績は彼の前半生に集中している。 プリズムによる光の分析。二項定理と微分積分(流率法)の発見。力学の研究。 それに万有引力の法則……まさに彼は、自然哲学と数学の偉大なる天才だった。 だが後半生のニュートンは、造幣局長官として国家に仕えるかたわら、錬金術と神学研究に没頭した。 彼は理神論の立場から三位一体を否定したし、世界の終末がいつ来るかなんてことも予測しようとしたらしいな」 「「?????」」 「まあきみ、そのぐらいにしたらどうだ。どうも理屈が多くていかんな。 ぼくや佐藤には分かるが、ルイズやシエスタは理解の範疇を超えて目を回している」 「いやぁ、こりゃ失礼。なにせ悪魔だけに、つい悪い癖が出ちまう」 巨大な古木の根元まで来て、ようやく悪魔の逍遥講義は止まった。 「――――さあお待ちどう、到着したぜ。ようこそ地獄の底の底へ。 ここが大地の中心であり、悪魔大王こそ世界の最底辺、地球の半球の境目なのだ。 そして霊的に言えば、彼の背負う『罪の重さ』が、万物を大地に引き付け、堕落させるというわけだな」 悪魔は虚空からステッキを取り出し、くるくると回転しながら炎と煙に包まれる。 やがてその中から現れたのは、長身痩躯の年老いた男。 黒い燕尾服に蝶ネクタイ、背中に纏うは赤マント。 眼光鋭くして鼻と顎は長く尖り、灰色の髪は耳元を覆うが、頭頂部は禿げ上がっていて角が一本突き出している。 その顔つきは佐藤、いや『ヤモリビト』の仮面そっくりではないか! 「「!?」」 ふわりと禿頭の上に、黒いシルクハットが着地した。そのツバを、白手袋をした悪魔の指がつまみ、ちょいと持ち上げる。 「さてと、改めてご挨拶しようじゃあねぇか。 おれは地獄の大公、その名も高い悪魔、メフィストフェレスだ。うっほん、諸君よろしく」 《お前はエデンの園のどの木からでも、心のままに取って食べるがよい。 しかし、『善悪を知る木』からは取って食べてはならない。それを食べると死ぬであろう》 (旧約聖書『創世記』第二章より) (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ