約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/yaruschool/pages/26.html
ウィザードステータス 蒼天の書 __ ___ ト´、ミミヽ 、 , イ´三三三ゝ、 | . . . .><ミミヽ/彡_><´ . . . . . .| .| . . . . . . . . . . .| ̄ ̄| . . . . . . . . . . . . . . . | | . . . . . . . . . . | . . . . . | . . . . . . . . . . . . . . . | | . . . . . . . . . . .| . . . . . | . . . . . . . . . . . . . . | .| . . . . . . . . . . | . . . . . | . . . . . . . . . . . . . . .| | . . . . . . . . . . | . . . . . | . . . . . . . . . . . . . . .| L . . . . . . . . . .| . . . . . | . . . . . . . . . . . . . . .| ` ヽ_ . . | . . . . . | . . . . . . . . . . .>.┘ ‐‐| | >・  ̄  ̄ ̄ __ ,. ―< /‐、 `ヽ、 / / r ', \ / / 、 ∨ ', | ハ l ∧ | | | | ハl‐| リ-|、txヘ | | | | レ-、} /ハ圷、ト、 ヽ !| | r 、 ヽ∨ l{ 、 { rソ }'\ ∨ ∧ \\f'Vハヘ. rッ `´ / /,ヘ ∨ ヽ rミヘ ヾ| | | . -r</ / | ∨`ヽ \ ゞ ' } ヽ|f | |〈 { ,イ ! V \ ∧ー‐〈|V´ |∧||_/' / ∧. \ 〈 ` ¨´/' | ヽ∨ ,.イ´ ̄〈`ヽ、 ヽ \ 〈` ー‐〈 ∧ |ヘ/- r‐┐Vr、 `ー‐ヘ ヽ ヽ ___/ \` ヽ  ̄ ∨〉' 〉 ', V ', \ _/ | | | \ |}} ウィザードステータス 21スレ目 5858時点 ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻ 【能力解説:リインフォースⅡ】 戦闘開始時は「エンジェリックヴォイス」を外しているので行動値+5。 《大いなる業》を目指してひたすら錬金術師のLvを上げている状態。 「錬金秘密基地」の《アイテム改造ルーム》の効果を上昇させるEX月衣、《マギブラックスミス》を習得し、 自身に使用したので前回と比較して【魔攻】が30点以上上昇している。 MPも潤沢に存在するので《魔力開放》を連続使用しても大丈夫になった。 相変わらずやる夫の外付け強化アイテム扱いだが、まぁ致し方なし。 ┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳ 【戦闘能力値】 【HP】83/88 【MP】271+40/271 【Pra(開放力)】17/17(2) 【行動】10+3 【移動力】2Sq C値:6 F値:2 【命中】1+1 【回避】2+1 【攻撃】36+1 【防御】14+1 【魔導】49+1 【抵抗】14+1 【魔攻】216+9 【魔防】26+1 魔法ダメージ+8 水 属性魔法ダメージ+3 《アイテム改造ルーム》【魔攻】×3 《ブルームリコンストラクト》 ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻ 【名前】リインフォースⅡ 【属性】水/水 【総合レベル】Lv40 【ウィザードクラス】錬金術師Lv6/夢使いLv21 【スタイルクラス】キャスターLv13 【プラーナ内包値】17 【プラーナ解放力】3 【CF修正値】2 【所持金】23万2000v 【ワークス】魔導書 【ライフパス】出自:魔法儀式 / 生活:永遠のライバル 【コネクション】不倶戴天:アルナフス断章(ライバル) 超公爵:パール=クール(恩人) 【生活スタイル】ウィザード 【性格】無垢 【好感度/信頼度】126/20 (魂の絆) 【施設効果】防御/魔防+2 『ヘイスト』『リフレクトブースタ』『ディフェンスブースタ』『マジックディフェンスブースタ』『ヴァニシング』最大値+2 【基本能力値】筋力:5 器用:3 敏捷:9 精神:14 知力:15 信仰:9 知覚:5 幸運:6 【戦闘能力値】耐久:88 魔法:271+40 行動:10(15) 移動力:2Sq 命中:1 回避:2 攻撃:36 防御:12+2 魔導:49 抵抗:14 魔攻:216 魔防:24+2 【総合レベル40/40】魔攻+40(《急成長:魔攻》で+80) 【キャスターレベル 13/13】魔導+13 【夢使いレベル 20/20】魔導+6 行動+14(現在使用不可能) 【錬金術師レベル 6/6】魔導+6 【所持品:重量上限 0/45 月衣収納上限:8/50】 MUGEN-KUN ・0-Phone ・スマート0-Phone ・幸福の宝石 ・付与魔装拡張プログラム ・アッパーエレエント 錬金秘密基地 ・外道祈祷書 ・普通の服 ・魔導戦術書 ・ソーサルロッド ・付加魔術刻印・遠射式×2 付加魔術刻印・砕撃式×1 ♥スフェーンのネックレス 【武装:重量上限 45/45】 右手:ドリームブルーム ・箒ドライブ1:魔術刻印共鳴ドライブ ・箒ドライブ2:――― ・外装1:リフレクトミラーフレーム ・外装2:ナノリジェネレートフレーム ・フライトシステム1:カグヤフローター ・フライトシステム2:ジェットフライトシステム ・箒OP(7/7):増設スロット×3 付加魔術刻印・砕撃式×1 ・マジカルビット×4 ・スタビライザー ・ウェポンマウントラッチ×1 左手:“黄金の”アゾット ・箒ドライブ:――― ・外装:――― ・フライトシステム:――― ・箒OP(0/1):――― 衣服:ナイトメアスーツ 上半身:――― 頭部:パラレルリボン 肩:――― その他:破魔弓 その他:蒼天の書 その他:オラシオン ・箒ドライブ:――― ・外装:――― ・フライトシステム:ジェットフライトシステム ・箒OP(6/6):・増設スロット×1 デバイスエボリューダー×2 擬似人格システム“Iris ver.2” “Iris”用追加データカード 【魔装:装備可能Lv合計 11/52】 攻撃(-):エンジェリックヴォイス 防御(-):――― 付与(-):メイガスレリーフ×2 【魔法:魔法記憶容量 29/52】 リフレクトブースタ ・ディフェンスアップ ・ヘイスト ・スロウ ・レインボウフィールド ヒール ・スペルブースタ ・ソラリスオーシャン ・ヒートシフト ・プリズムアップ ・ロケーション クイックエンブレム×2 【特殊能力:汎用】・月衣 ・月匣 Lv3/10 耐久力UP ・Lv1/1 耐久力UPⅡ ・Lv5/10 魔法力UP ・Lv1/1 魔法力UPⅡ ・Lv9/9 闘気の才 ・Lv6/6 闘気の才Ⅱ Lv3/3 闘気の才Ⅲ ・Lv5/5 伝家の宝刀 ・Lv1/5 伝家の術式 ・Lv1/1 伝家の宝刀Ⅱ ・Lv1/1 超巨大武器 Lv1/1 属性物理防御:水 ・Lv1/1 属性魔法防御:水 ・Lv1/1 愛用の箒 ・Lv1/1 スタイルアデプト ・Lv5/5 モノエレメント Lv1/5 魔装カスタマイズ ・Lv1/1 変異属性 ・Lv1/1 急成長:魔攻 ・Lv1/1 超軽量武器 ・Lv1/1 空の色彩 ・Lv1/3 変身体質 Lv3/3 属性物理防御Ⅱ ・Lv3/3 属性魔法防御Ⅱ ・Lv1/1 魔装弾幕 ・Lv1/3 オープンカグヤ 【EX月衣:汎用】・Lv1/3 特化分野:付与 ・Lv2/3 迅速展開 ・Lv1/3 特性増幅 ・Lv3/3 ムーンミラージュ 【特殊能力:キャスター】・魔法攻撃力UP Lv1/1 魔力発動体 ・Lv4/5 連携魔法 ・Lv1/3 魔攻の極み ・Lv5/5 魔攻の極みⅡ ・Lv1/1 死点撃ち:魔法 Lv1/1 死点撃ちⅡ:魔法 ・Lv1/5 サクリファイススペル ・Lv1/3 マジックエキスパンド ・Lv1/3 協調魔撃 Lv1/1 マジックルーラー ・Lv1/3 アラウンドキャスト ・Lv5/5 魔力励起 ・Lv1/1 ジャストキャスト ・Lv1/1 ツインキャスト Lv1/3 ファイナルスペル 【EX月衣:キャスター】 Lv3/3 ディスターバー ・Lv1/3 セージ ・Lv3/3 ジャマー 【特殊能力:夢使い】 Lv1/1 夢想の姿 ・Lv10/10 不滅の夢 ・Lv1/3 狂月の使者 ・Lv3/3 ドリームペインター ・Lv1/5 現の夢 Lv5/5 スタン ・Lv1/5 時戻し ・Lv1/1 幻視 ・Lv1/1 幻夢の色彩 ・Lv1/1 夢幻の狩人 ・Lv1/1 夢の摂理 Lv3/3 紐ほどき ・Lv1/3 夢幻の抱擁 ・Lv1/1 幻夢の理 ・Lv1/1 幻実境界 ・Lv1/3 夢想転生 ・Lv1/3 幻夢の神域 Lv5/5 凍月 ・Lv1/1 幻夢奏者 ・Lv1/1 夢語り ・Lv1/1 偽りの記憶 ・Lv1/5 英雄幻想 ・Lv1/3 甘き夢 ・Lv1/5 幻実死 【EX月衣:夢使い】 Lv1/3 夢境牢獄 【特殊能力:錬金術師】 Lv1/1 サポートガジェット:知力 ・Lv3/3 ワンダーガジェット ・Lv1/10 ブルームマイスター ・Lv1/1 ブルームカスタマイズ Lv1/1 セイヴァーガジェット ・Lv1/1 オプションデバイス ・Lv2/3 ブルームリコンストラクト ・Lv1/1 アクティブユニゾン Lv1/5 マッハクリエイション 【EX月衣:錬金術師】 Lv3/3 マギブラックスミス 【特殊能力:武装】 ナイトメアフォース ・夢結界 ・夢の魔力 ・オプションシュート ・呪法弓 ・プログラム:属性増幅 水 ・付与魔装拡張 禁断の知識 ・アンラック ・叡智の連携 ・擬似人格サポート ・マナスコープ ・リフレクトミラーフレーム アイテム改造ルーム 【特殊能力:固有】・蒼天をゆく祝福の風 ・蒐集行使Ⅱ ・ユニゾンイン ┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳ 蒼天の書 16スレ目 5434時点 ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻ 名前:“蒼天の書” 種別:武器(本) 重量:1 装備部位:両手 命中:-1 回避:0 攻撃:3 防御2 魔導:2 抵抗:1 魔攻:2 魔防:2 行動:0 射程:0 特殊能力: 固有特殊能力:・蒐集行使Ⅱ ・ユニゾンイン ・蒼天をゆく祝福の風 《蒐集行使Ⅱ》 常時 対象:自身 マジックアイテムの能力を蒐集する特殊能力。同調融合の第一位階。「蒼天の書」の真の能力が開放された事により、以前は不可能だったアイテムからも蒐集できるようになり、使用したアイテムを破壊する事も無くなった。「蒼天の書」を所持したキャラクターが所持している、オリジナル以外のアイテムから特殊能力1つを選択する。その特殊能力を「蒼天の書」の能力として使用できるようになる。この効果で【搭乗する事で使用できる】特殊能力、【使用後に破壊またはアイテムを失う】効果を持つ特殊能力は選択できず、[《契約型魔導具:666式》のSL÷2(端数切捨て)]個までしか特殊能力を習得できない。特殊能力の習得、交換はメジャーアクションで行い、戦闘中は使用できない。 ユニゾンイン オートアクション 対象:特殊同調融合の第二位階。契約者と融合し互いの能力を自由に扱えるようになる。この位階に到達した「蒼天の書」は人書の合一により術者の能力を飛躍的に向上させる。この状態を永続的に展開し、「蒼天の書」を消滅させて術者をさらなる高みへと押し上げるのが同調融合の最終位階なのだが、リインフォースⅡの望みによりこの位階に留まっている。この特殊能力は「蒼天の書」を装備したキャラクター(以下、装備者)かリインフォースⅡしか使用できず、戦闘の開始時に宣言することで使用できる。使用時にリインフォースⅡが存在する場合、シーンから強制的に退場する。そのシーンの間、装備者の能力値は、自身かリインフォースⅡの能力値の高い方の数値になり、判定の達成値を上昇させる特殊能力やアイテムの効果も、より上昇量が高いほうで行うこと。また装備者はリインフォースⅡが習得している特殊能力を使用することができる。リインフォースⅡが習得しているウィザードクラスの特殊能力と、「蒼天の書」が習得している特殊能力のSLを+2する。(SL上限を超えても良い)装備やCLにより効果が変わる場合、その特殊能力やアイテム、魔法を習得しているキャラクターのデータを使用し、リインフォースのステータスや状態(箒の搭乗、BS等)はこの特殊能力の使用した時のものを参照する。この特殊能力の終了時、減少しているHP、MP、プラーナの点数分、装備者のHP、MP、プラーナを減少させること。この効果による減少は1日の終了時まで回復しない。 蒼天をゆく祝福の風 人を夢みる祝福の書の魂と真なる絆を結んだ事により、新たなる可能性が示される。あなたが行うクラスチェンジではクラスの制限が解消され、どのクラスでも変更可能になる。また、やる夫や他のキャラクターがクラスチェンジを行う時、クラスチェンジ先に『夢使い』が追加される。 ┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳ ┌────────────┐ 特殊能力を習得、または1Lv上昇するのに100万v必要。 │〇特殊能力解説 │ └────────────┘ 《財力》で得た金銭も使用可能。 レベル 名前 説明 Lv5/12 《契約型魔導具:666式》 常時。獣の欠片を所持している者以外、装備不可能。この特殊能力は通常の方法でレベルアップできない。 Lv1/1 《魔書人化Ⅱ》 オートアクション。装備品ではなくウィザードとして活動可能。もう一度使用する事で、装備品に戻る。PTメンバーが5人未満の時でないと、パーティ入りできない。 Lv5/5 《擬似魔力機関》 常時。この装備品自体が[SL×4]点のMPを持つ。このMPは1日の終了時以外、回復しない。 Lv3/3 《代理詠唱》 使用タイミングは能力参照。代償:3MP。1日にSL回、発動魔法1つをリインフォースⅡのデータを使って使用できるようになる。その魔法の代償は装備者が支払う。《代理詠唱》使用時。 【魔導】28 【魔攻】91 未装備【魔導】27 未装備【魔攻】72 Lv3/3 《ウィザード・スキル》…… 使用タイミングは能力参照。代償:1Pra。1日に1回、リインフォースⅡが習得している、習得Lv[SL×2]までのウィザードクラスの特殊能力を1つ使用できる。その特殊能力の代償は装備者が支払う。 Lv5/5 《バリアジャケット》 常時。以下のデータを持つ防御魔装を得る。この防御魔装は“蒼天の書”を装備していなくても装備できる。魔法LV:3 種別:防御(-)回避:0 防御:+[SL×2] 抵抗:0 魔防:+[SL] 魔法力:-[SL+2] 行動:-[SL÷2(端数切り上げ)] Lv7/10 《魔力放出》 オートアクション 対象:自身 代償:効果参照魔導書に蓄えられた魔力を放出し、攻防に使用する特殊能力。あなた【行動】ジャッジ以外のジャッジの直前に使用する。[SL×3]点以下の任意のMPを消費し、その達成値+[消費したMP]点する。 Lv3/3 《自律型魔書》 「蒼天の書」を装備者の周囲に滞空させる事で両手を空ける特殊能力。イニシアチブ。代償:3MP。対象:自身。そのシーンの間、「蒼天の書」を装備部位を使用せずに装備できるようになる。SL2で[代償:なし]に変更され、SL3で[タイミング:常時、「蒼天の書」を装備部位を使用せずに装備できる]に変更される。 Lv1/1 《夜天回帰》 メジャー 代償:1プラーナ 対象:自身「蒼天の書」を一時的にかつての姿へと変生させる特殊能力。1日に1回、そのシーンの間、「蒼天の書」が習得している特殊能力のSL+2(上限を超えても良い)。また、この特殊能力は特別にリインフォースⅡが使用することで、ウィザードクラスの特殊能力のSLを+2する事ができる。(上限を超えても良い)。 Lv1/5 《フリジットダガー》 オートアクション 対象:単体 射程:武装(4Sq) 代償:3MP氷の短剣を飛ばし攻撃を補助する特殊能力。対象が行う攻撃判定の達成値+[SL×2]。 Lv5/5 《ラウンドシールド》 オートアクション 代償:3MP 対象:自身魔力による盾を展開する特殊能力。1ラウンドに1回、あなたが行う【防御】【魔防】判定の直前に使用する。達成値+[SL×2+2]。 Lv5/5 《魔書人化Ⅲ》 常時 対象:自身リインフォースⅡと蒼天の書を分離して使用することが出来るようになる特殊能力。リインフォースⅡがPTに居る時でも、「蒼天の書」を所持する事ができる。ただし、《代理詠唱》、《ウィザード・スキル》等のリインフォースⅡの能力を参照にする一部の特殊能力が使用不可能になり、リインフォースⅡがPTに居る間、蒼天の書が習得している特殊能力のSL-「5-この特殊能力のSL(最低0)」。また、この特殊能力のSLが3以上の場合、リインフォースⅡに「蒼天の書」を装備させる事ができる。この特殊能力のSLが5以上の場合、リインフォースⅡが2個目の「蒼天の書」を得る。(能力はオリジナル準拠) Lv0/3 《強化成長術式》 常時 対象:自身「蒼天の書」の強化時に、蒼天の書を通して所有者を強化・成長させる特殊能力。やる夫の汎用特殊能力か汎用EX月衣を一つだけ《財力》のvでも習得できるようになる能力。この時、消費するvは本来のvの2倍になる。一度使うと「4-SL」日の間使用不可能。 Lv0/5 《柔らかき支柱》 オートアクション 代償:5MP 射程:3Sq 対象:単体緊急時に使用する魔力で編まれた柱群をその場に出す特殊能力。物理的な攻撃には効果が薄い。1ラウンドにSL回、対象がトラップの効果でダメージを受けたりHPを減少する効果を受ける直前に使用する。対象が受ける予定のダメージを[SL×2]点まで軽減する。 Lv0/5 《バリアバースト》 オートアクション 代償:10MP 射程:0Sq 対象:単体攻撃を受け止めた瞬間に爆発を起こし、対象を吹き飛ばす攻防一体の特殊能力。あなたが【防御】【魔防】を上昇させる特殊能力を自身に使用した直後に使用できる。あなたを攻撃した対象はHPを[SL×2]点失い、あなたが受ける予定のダメージを更に失った点数分、軽減する。さらに対象を任意の方向に1Sq移動させられる。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5821.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世とトリステイン王国王女アンリエッタ殿下の婚礼の儀式はトリスタニアの夕方から始まり、 ウィンドボナの朝日で以って終幕を迎える事となっている。 勿論たった一日の行程ではない。有力貴族を引き連れた遠大なる『結婚旅行』として企画され、総行程は6日、予備日2日を抑えたスケジュールが組まれている。 宮廷側ではその行程に管理される人間の便覧が用意され、その中にトリステイン側から選出された『祝いの巫女』役として、ルイズの名前も入っているのであった。 トリステイン魔法学院の早朝未明、まだ誰もいない学院の敷地で一人ギュスターヴがデルフを構えて立っていた。 彼は紫色にたなびく空が匂う中で中段に構えたまま、瞠目し静かに気を凝らしている…。 剋目、流れるような剣舞を放つ。飛び込み、或いは素早く身体を引く動作を繰り返す。 朝露の光る中で、ギュスターヴはかれこれ二時間はこうして剣を振っていた。鋼の王と呼ばれ、剣戟が達人の域になって久しいギュスターヴだったが、 こうして肉体の鍛錬を欠かしたことは無い。 何しろ、若々しい態度と余り老け込まない容貌で忘れられがちだが、齢49の肉体は怠けるとすぐに衰えてしまうのだ。ガンダールヴの刻印が肉体を強化すると言っても、 安心はしない。 最後、ぐっと踏み込んで一刀を振り込んでしなやかにデルフを納めた。 「…ふぅ……」 熱を持つ身体をゆっくり冷やすように静かに息を吐く。 「ご苦労さん相棒。そうやって剣として大事に使われると俺様なんでか涙が出そうだぜ。目、無いんだけど」 「何わけの分からない事を…。さて、そろそろルイズを起こしに行くか…」 学院の遥か遠くの山際に、朝日が昇り始めていた。 さて、そうして起こされるはずのルイズは、実はとっくに起きて――尤も、寝間着のままだったが――机に向かっていた。 机には開かれたままの本が数冊。ペンとインク壷、まっさらな便箋に加えて、丁寧に書き綴られた一枚の便箋が乗っている。 ルイズは本と書き取った便箋を読み比べて小さく呻っては、まっさらな便箋にちろちろと文を何度か書き、また呻ってを繰り返す。何度か繰り返してから、 書き綴った便箋に文章を加えていった。 「~~~………~~……~…で、できたわ…っ!」 ペンを置いて書き終わったばかりの便箋を取り上げる。便箋には美麗な語句をちりばめた音韻鮮やかな詩句が並んでいた。 恐る恐ると便箋を机の上に置いて、肩を揺らして大きく息をついた。 「やっと…やっと出来たわ~……」 椅子から降りて身体を解しながら、ルイズはカーテンの隙間から漏れる蒼い朝日に目を細めた。 ルイズはこの半月の間、ギュスターヴを助手に図書館に潜りこんでは文法書や詩集を引っ張り出し、必死に祝詞の製作に励んでいた。 加えてオスマンの添削を受けての作業だった。オスマンは国一の頭脳らしく丁寧な指摘をルイズに与えてくれたが、 ルイズは中々規定の字数まで文を作ることが出来なかった。 そして今日の添削を以って締め切りと宣告と言われた中、早朝になってようやく完成したのだった。 ふらふらとベッドに倒れこんたルイズは、布団の柔かな感触に頭を埋める。 「後は…これをオールド・オスマンに見てもらえばいいわね」 ベッドの上にはまだ自分の温もりが残っていて気持ちいい。 「朝食の時間まで、まだ少し時間があるから…ほんのちょっとだけ……」 根つめすぎていたのか、ルイズはそのままベッドの上でとろとろと眠りはじめた。 机に置かれた『始祖の祈祷書』が開かれたまま、ぱらぱらと風ない中で繰られている…。 『大きな一歩、躓いて…?』 その日の午前中、最初の講義はコルベールによる各種秘薬の取り扱い方について…のはずであったが、教室には生徒がかなり疎らに入っていて、 はっきり言ってスカスカだった。 実はここ暫くの間、コルベールは講義を殆ど休講にして自分の研究に時間を充てているのだ。 だから今教室にいるのは友人と談笑しに来ているような生徒くらいで、他の生徒は好きな場所に行っているのである。 そんな教室にルイズがやってくる。その姿は普段より服がよれ気味で、豊かなチェリーブロンドも少しぼさぼさしている。 …二度寝した結果朝食を食べ逃し、急いで仕度して部屋を出たのであった。お陰で今日もコルベールの講義が無いことをすっかり忘れていた。 「……もう、最悪。それもこれもギュスターヴがちゃんと起こしてくれなかったせいよ!まったくあの中年使い魔ったらどこに行ってるのかしら!」 ルイズの記憶では定時にギュスターヴが自分を揺り起こすところを覚えているが、その後がなんとも曖昧になっている。 もしかして起き切らない自分を放っておいて一人で朝食に行ったのかもしれない。 きゅうぅ、と下腹部が締め付けられる。空腹で苛々もしていた。 「…うぅ。お腹すいちゃったけど、どうしよう……」 途方にくれていると廊下からゆらゆらとした悪趣味のシャツがやってくる。 「…やぁルイズ。どうしたんだい、こんなところで」 色素の薄さが定着しつつあるギーシュは目の下のクマを濃くして壁に寄りかかった。 「なんでもないわよ…。ハァ、休講だし、食堂で何か作ってもらうかしら…」 ギーシュを袖にしてルイズは自分のお財布に今幾らお金が残っていたかを考えていた。因みに学院の食堂は三食以外について、 生徒教員が厨房に直接お金を払って料理をしてもらうようになっている。 ギーシュはゆらりと教室に入ると日誌らしきものを手に教室から出てきた。 「ははははは。…さぁ、僕も用事は済んだからコルベール師のところに行ってくるよ…」 日誌を片手に悪趣味なシャツはゆらゆらと去っていった。 再び下腹部が締め付けられる。 「…お腹すいた」 とぼとぼとルイズの足も教室から食堂へ向かっていく。 「そういえばミスタ・コルベールの実験ってどうなってるのかしら?飛翔【フライ】や浮遊【レビテイション】を使わないで空を飛ぶって行ってたけど…」 コルベール研究塔前は、天幕を中心として随分と様変わりしていた。 天幕の傍ではコルベールとギュスターヴの手で不可思議な物体が製作されていた。 それは木板を箍で半円錐状に締めた物体に、鉄棒で作った骨組みを乗せ、そこに布を張って翼のような形をとっている。 翼は大きく左右に張り出し、さらに円錐の先端に合うように後部にも二つの小さな翼がついている。すべての翼の後半分は可動できるように作られていて、 さらに各々にはワイヤーが繋がっている。ワイヤーはすべて、円錐の広がりの上部に張り出している二本のバーへ集まっているように見えた。 その部分だけを見ると、蝸牛の角のようでもある。 円錐の先端を挟み込む形で、16本の筒が付いている。『飛び立つ蛇君』改型噴射推進装置であった。 「右のレバーを引けば右方向へ、左のレバーで左方向に曲がれるはずです」 製作及び設計者コルベールは少々疲れた顔をしていながら、目に光が灯って溌剌としている。 円錐部には人が入り込めるだけのスペースがあり、そこにはいくつかのレバーが付けられていた。 今そこにはギュスターヴが収まっている。架台に置かれた巨大な乗り物の初の乗り手として、コルベールがギュスターヴに依頼したのである。 「コルベール師。この乗り物が風を掴んで浮き、空飛ぶ蛇とやらを動力に進むのは理解しましたが…これだけの物が本当にそれだけで飛ぶのでしょうか?」 動作を確認するように何度かレバーを引く。するとレバーに合せて、羽根と尾羽の末端が上下左右に動いた。 乗り物は最前端から後部まで3メイル、翼の端から端まで5メイル強、正面から見た厚みが1メイル弱とかなり大きい。恐らくちょっとした馬車並の重さがあることだろう。 問われたコルベールは羽根の可動部に油を注して答えた。 「うむ。残念ながら現在の『飛び立つ蛇君』型噴射推進装置の力だけでは離陸する事ができない。そこで」 と、コルベールが取り出したのは両端が板で閉じられた短い鉄の筒。 「機体の下部に4リーブルの風石消費器を設置します。離陸前に操縦部の脇にあるリールを回せば、消費器の中の風石に圧力が加わって約500リーブルの機体重量を 4分の一以下に減衰することができます。約125リーブル以下の重量であれば、16機搭載する『飛び立つ蛇君』型噴射推進装置を2機ずつ発動することで理論上は 離陸が可能なのです。離陸時は噴射推進装置によって機体は地面を滑走しますので、頃合を見て上昇下降レバーを引けば翼が風を掴んで空に上がる事が できるはずなのです」 「仮定や推論が多い話ですな」 スルッとギュスターヴは円錐部から抜け出る。いつもの服の上から革のベルトを肩掛けになるように身体に巻いている。 操縦部で身体を固定するためのベルトだった。 「仕方がありません。古今、このような方法で空に上がろうとするのは我々が初めてですから」 大人二人が夢か無謀か、挑戦に向けて準備をしているのを尻目にギーシュは一人作業に没頭していた。 溶鉱炉に隣接するように、ふた周りほど小さなドームを作っているのである。 ギーシュの技量では一発で作れないので作る場所にはじめ土を盛り、そこから魔法で徐々に形作っていた。 「ふぅ…ギュスターヴ。これでいいかい?」 呼ばれたギュスターヴはギーシュの作ったドームを確認した。隣の溶鉱炉よりも小さく、すこし歪だが、要望どおりの出来だった。 「ふむ…あとは溶鉱炉の方から排煙を出してもらって、吸気を一緒にもらえるように管を繋げられればいい」 「鍛冶打ち用の炉が欲しいなんて、君は鍛冶師か何かなのかい?」 問われたギュスターヴは頭をかいた。 「まぁ、鍛冶打ちもできる…って言った方がいいのかな」 らしくなく煮え切らない返事にギーシュは首を傾げるのだった。 昼食時となって、一旦解散したギュスターヴが貴族用食堂を覗くといつもの席でルイズが食事を取っていた。 「ちゃんと起きれたみたいだな」 声をかけられたルイズは振り返ってギュスターヴを確認すると、顔を背けた。 「…なんだ、起こさなかったと怒ってるのか?」 「当たり前でしょ…どうして朝起こしてくれなかったのよ」 「起こしたさ。起こしてやったのに二度寝して寝過ごしたのはルイズ自身だろう?」 普段どおりのふてぶてしい態度のギュスターヴに、ルイズは段々ムカムカしてくる。自分が根すり減らして貴族らしき義務を全うしようと苦心しているというのに、 自分の使い魔はそんなことをまるで気に掛けない、と。 「人が…誰にも任せられない重要な仕事で大変な苦労をしているって言うのに、なんなのよあんたは!」 無意識に手に持っているフォークが飛んだ。フォークの先はギュスターヴの頬を掠めて床に音を立てて落ちる。 その雰囲気に食堂を一瞬ただならぬ空気が包んだ。ギュスターヴの目は厳しいものだったが、次にはふっ、と笑った。 「それだけ元気なら大丈夫そうだな。しっかりやれよ」 そう言ってギュスターヴは厨房へ行き、視界から居なくなった。 「……ばか」 一人癇癪を起こしたのが情けなくて、ルイズはそのまま食事をやめて部屋に戻っていった。 「…で、頬に傷をもらってきたってのかい」 テーブルで静かに昼食を頂く脇で手の空いたマルトーが聞く。ギュスターヴの左頬には横一線に赤い晴れがうっすらと浮かんでいた。 「ま、人の手前説教するわけにもいかんだろう。あれでも主人だしな」 「でもよぉ。そのお嬢ちゃん、どう聞いてもギュスの主人にしておくにはもったいねぇな」 昼食に出した塩肉の余りを食べながらマルトーが続ける。 「…ギュスよ。俺の知り合いに侯爵家の料理番を代々やってる奴がいるんだ。そいつの主人は料理番風情の友人を家族みたいに優しく扱ってくれるんだとさ。 お前さんも剣の腕があるんならもっとマシな扱いをしてくれるところを探したほうがいいんじゃねぇか」 静かに食事をしていたギュスターヴはシチューのさじを置いた。 「ご馳走様。今日も美味かったよ、マルトー。…生憎と俺は暫く、主人を変える気はないよ。ルイズには色々と恩があるのは確かだし…それに……」 「それに?」 「……少しばかり気になるからな。色々と」 そういうギュスターヴの目は鋭さを佩びていた。 「…ま、ギュスがそういうなら俺は別にいいけどよ」 「気を効かせて悪いな。…じゃあ、俺は戻るから。美味い夕飯、期待してるぞ」 「へ!言われるまでもねぇな」 さくさくとギュスターヴは歩み、地下厨房を出て行く。 残された皿を洗おうと集めるマルトーは、ギュスターヴの出て行った先を振り返る。 「…堂々としたもんだよなぁ、ほんとに平民か疑っちまうね」 埒もないことをぼやいて、マルトーは頭をかいた。 食後しばらくして、ルイズは緊張した面持ちで学院長執務室へやってきた。手には今朝方完成した祝詞の原稿を手に持っている。 「失礼します…」 ルイズが部屋に入ると、既に執務室ではオスマンが待っていた。オスマンはいつもの調子で煙草を蒸している。 「祝詞の出来を見ようかの」 「は、はい。お願いします」 オスマンに渡す手が震える。渡されたオスマンはためつすがめつ原稿の文字列を読んでいるようだった。 直立して待つルイズは一秒一秒が非常に長く感じられた。皿に置かれた煙管の煙が揺れている。 「ふむ…」 「ど、どうでしょうか…」 普段は穏やかなオスマンの眼光が、今日はナイフのように鋭く見える。 「ミス・ヴァリエールや。短い期間でよくこれだけのものを書けたのぅ。これを持って儀礼上で殿下を寿ぐとよいじゃろう」 オスマンが暖かい語調でそう言うと、ルイズの足から力が抜けてフラリとした。 「あ…ありがとうございます」 脱力して腰を笑わせている生徒を細めで見ながら、オスマンはふと、彼女の傍に立つ意丈夫の使い魔を思い出した。 「ところでミス・ヴァリエール。君の使い魔君は最近どうしておるかの?」 「ギュスターヴですか?え、えぇ、とても元気にしてますわ」 何か空々しい風情でルイズは答えた。 「コルベール君とよくつるんどるようで、君としては複雑じゃろうな」 「は、はぁ…」 ルイズとしては答え辛かった。使い魔が構ってくれないなんてメイジとして情けなかろうという気持ちがある。 「ま、彼は君の使い魔じゃが一個の人間じゃ。扱いづらいところもあるじゃろうて」 「えぇ、そ、そりゃあもぅ……?」 話しかけたルイズが止まった。何やら外から轟音と微振動が伝わってくる。 「な、なんじゃ…?」 やおら窓に駆け寄る。ルイズの目下にはコルベール塔の脇を炎の尾を上げて蛇行する謎の物体が見えた。 「ああぁ~~~!誰か、た、助けてくれぇ~!」 がたがたと揺れながら走る物体から間抜けな叫び声が上がっていた。 コルベールの発明した空駆ける機(はたらき)、名づけて『飛翔機』に乗っていたのはコルベールでもギュスターヴでもなく、 悪趣味なシャツをはためかせるギーシュだった。 ギーシュは食事に出かけたコルベールとギュスターヴより先に戻って鍛冶用の炉を作っていたのだが、後は飛ぶだけと準備されていた飛翔機に 興味本位から乗り込んで色々と弄繰り回している内に推進器を発動させてしまったのだ。 「と、止まらない!だれか助けてくれぇ~」 がちゃがちゃとレバーを引くギーシュに合せて蛇行して走る飛翔機。そこに偶々居合わせたのは以前渡した秘薬の残りを譲ろうと研究塔にやってきたタバサと、 それにくっついてギュスターヴに会いに来たキュルケだった。 「な、何あれ~?!」 驚くキュルケに対しタバサはいつもどおりの無表情だったが、その目はぐっと凝らされ暴走する飛翔機を追いかけている。 「キュ、キュルケ!タバサ~!た、助けてくれ~」 ゴーゴーと火を噴きながら地面を走る物体からギーシュの声が漏れ聞こえる。 「ギーシュ!?何でそんなところに、っていうか、助けてって言われても…」 「私が止める」 困惑するキュルケを背にタバサが一歩踏み出て杖を構えた。ルーンを唱えると、飛翔機の軌道上の道に水が染み出してぬかるんでいく。 「わ!わ!ゆれ!ゆれる!あでぃ!し、舌、噛む、ぐへ!」 ぬかるみをガタンガタンと揺れながら、なおも走る飛翔機。タバサは次に別のルーンを唱えた。 するとぬかるんだ地面が段々と凍りつき、地面を走る飛翔機の車輪も一緒に凍り付いていく。 凍りついた車輪がギリギリ鳴りながら、徐々に飛翔機はスピードを落としていった。 偶然にも、火を噴いていた推進装置も徐々にその勢いを弱めつつあった。 「はぁ、はぁ、た、助かった…」 減速する飛翔機の中でギーシュが安堵の息をつく。…しかし今度は凍りついた車輪を軸に、飛翔機の後部が徐々に持ち上がっていく。 「あ…え…えぇ?」 抜けた声を出すギーシュを抱えつんのめっていく飛翔機は、ぬかるんでいた地面に頭から突っ込んだ。 「あ…」 キュルケのつぶやきも虚しく、飛翔機は泥の中に頭を突っ込んだまま推進器の力で地面にぐりぐりと押し付けられ、頭の部分がどんどんひしゃげていく…。 推進装置が完全に止まった時、ぬかるみの中で逆立ちし、まっさらな布張りを泥だらけにした飛翔機と、ベルトで固定されていなかったギーシュが円錐部から飛び出て、 頭をぬかるみの中にずっぽりと埋めている姿が出来上がった。 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/38870.html
平和の祈祷者ましろ P 光 (7) クリーチャー:メタリカ/ヒューマノイド 3000 ■S・トリガー ■ブロッカー ■このクリーチャーは攻撃できない。 ■このクリーチャーが出たとき、相手のクリーチャーをすべてタップする。 ■スマッシュ・バースト これが私の生きる道 P 光 (9) 呪文 ■クリーチャーをすべてタップする。次の自分のターンのはじめまで、それらのクリーチャーはアンタップしない。 ■各プレイヤーは山札の上から1枚目をすべてのプレイヤーに見せる。そうして見せたカードのコストが同じなら、このゲームは引き分けとなる。 作者:Mashiro フレーバーテキスト (なし) 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7633.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 一三六 扉を開けると、薬品と埃と油、そのほかさまざまな物が入り混じった臭気が鼻をつくが、君は嫌悪感よりもむしろ、懐かしさを覚える。 この匂いは君にとって昔からなじみ深いものだ──しかし、どこで嗅いだのだろう? 本塔と『火の塔』のあいだの一角、『研究室』──見た目は小さく粗末なあばら家だが──の主であるコルベールは、笑顔で君を出迎える。 彼は立ち上がると、長衣の袖についた粉末を払い落とし、君に椅子を勧める。 テーブルの上には薬品の入った瓶や壺、乳鉢やガラスの管が並んでおり、何かの実験の最中だったようだ。 君は挨拶をすませると、単刀直入に話題を切り出す。 自分の左手に刻まれた≪ルーン≫に関して、何か新しくわかった事はないか、と。 コルベールは申し訳なさそうな表情を浮かべると、力なくかぶりを振る。 「前にも申し上げたとおり、その≪ルーン≫自体は、とくに珍しくもないありふれた物です」 そう言って眼鏡をずり上げると、君の手をとり、≪ルーン≫をもっとよく見ようと顔を近づける。 「ふむ……あらためて見てみると、心なしか線がゆがんでいるようにも見えますな。まるで、石工が碑文を慌てて刻み込んだかのような……」 コルベールの言葉を聞いて、君は不安を覚える。 ルイズは≪コントラクト・サーヴァント≫の術に失敗し、君に間違った≪ルーン≫を刻んでしまったというのだろうか? 君がおどおどした表情を浮かべているのに気づいたコルベールは、慌てて 「いやいや、どうか心配なさらず」と言う。 「あの時、あなたは気を失っていたのでご存知ないでしょうが、ミス・ヴァリエールが正しい手順にしたがって≪コントラクト・サーヴァント≫を 執り行ったことは、このコルベールが保証しますぞ。何も恐れることはありません」 コルベールの気遣いの言葉は、暗澹たる思いにとらわれた君の耳にはほとんど届いていない。 君は、かつてタルブの村で、ルイズが≪始祖の祈祷書≫に書かれた呪文を唱えはじめたたときの、デルフリンガーの言葉を思い出す。 「……おでれーた。この呪文は≪虚無≫じゃねえか! まさか娘っ子が『担い手』だったってのか!?」 「だが、相棒は『使い手』じゃあねえ……。こいつはどういうこった?」 やはり、なんらかの間違いがあったのではないかという暗い考えが沸き上がり、君の脳裏を占める。 間違いは、ルイズの魔法か? それとも、自分自身か? コルベールは話を続ける。 「韻竜や亜人など、高い知性をもつ存在に≪ルーン≫が刻まれた際、それが使い魔の心身に与える影響についても調べてみましたが、 なにしろ事例がそう多くないうえに、大半は史料というより風聞か伝説のたぐいといったありさま。ほとんど参考にはなりませんな。 有名なところでは、千五百年前のアルビオンに君臨した≪烈火王≫アルバート五世と、使い魔の火韻竜ウォースパイトの物語が 知られていますが、これもさんざん脚色されており、どこまでが真実なのやら……」 普段の君ならば、コルベールが語る太古の王の物語に興味を示したかもしれぬが、あいにくと今はそのような気分ではない。 「……老境の王がついに崩御すると、その使い魔であるウォースパイトも主に殉ずるかのごとく、突然に息を引き取ったというくだりなどは、 美談ではありますが眉唾ものですな。なんといっても、韻竜は人間とは比較にならないほどの長寿を誇るそうですから。 他には、翼人を召喚したというアルトベルク=エーレンシュタイン伯爵の記録など……」 君はコルベールの話をさえぎり、彼の尽力に感謝の言葉を述べると、席を立つ。 結局のところ、左手の≪ルーン≫が君に及ぼす影響については、なにひとつわからずじまいということだ。 雑談に興じる気にもなれぬ君は、『研究室』から立ち去る。五〇七へ。 五〇七 君は石造りのベンチに腰掛けると、デルフリンガーの刀身を鞘から覗かせる。 自分に刻まれた≪使い魔≫の≪ルーン≫が、実は誤ったものなのではないかという考えに悩む君は、魔剣にそのことを打ち明ける。 「ああ、相棒の≪ルーン≫か……」 デルフリンガーは思案するような声をあげる。 「たしかに、娘っ子のような≪虚無≫の担い手には本来、特別な≪ルーン≫とそれに応じた能力を与えられた≪使い魔≫が、つき従うはずだ。 たとえば、あらゆる武器を使いこなす≪神の楯ガンダールヴ≫だな。ほかにも三人くらい居たはずだったが、細けぇことは忘れちまった。 とにかく、相棒の≪ルーン≫は四種類のどれでもねえ、どこにでもある代物だ。おまけに、普通の≪使い魔≫みてえに感覚を共有する ──つまり、娘っ子の見聞きした物を相棒が感じ取ったり、その逆ってことだが──そんなこともできねえんだよな?」 君はうなずく。 「お手上げだな。どうなってんだか、俺にもさっぱりわからねえよ」 デルフリンガーが溜息らしき音を立てると、その鍔は小さく揺れる。 「まあ、別にいいんじゃねえか? 相棒にゃあ≪使い魔≫の力はねえけど、すげえ魔法があるんだ。なにより、 娘っ子を何度も助けてきたじゃねえか。相棒はよくやってると思うぜ? 気落ちするこたねえって」 魔剣の励ましの言葉に、君は曖昧にうなずく。 ルイズが術をしくじったのでなければ、君が≪虚無≫のルーンを刻まれなかった原因は、自身にあるのではなかろうかと考える。 自分は≪虚無≫の担い手にふさわしからぬ、間違った存在なのではないだろうか? ベンチに座ったまま思い悩む君の耳に、名前を呼ぶ声が飛び込む。 「こんな所にいたのね! 早く来て!」 顔を上げると、君の『ご主人様』であるルイズが目の前に立っている。 汚れひとつない白いシャツ、黒いマント、腰まで届く薄紅色の髪、鳶色の大きな瞳──顔つきも装いも普段と変わらぬ彼女だが、 少し息を切らしており、顔には汗の玉が浮かんでいる。 どうやら、君の姿を求めて学院じゅうを駆け回っていたらしい。 君は立ち上がって自分を呼ぶ理由を訊くが、ルイズはそれに構わず焦った口調で 「いいから急いで! 正門前に馬車を待たせているのよ! オールド・オスマンもお待ちなんだから!」と言うと、 君の上着の袖をつかみぐいぐいと引っ張る。 ルイズの言葉に従い、学院の門に向かって小走りに駆けながら、馬車に乗ってどこへ行くのだと君は尋ねる。 ルイズは振り返って答えるが、その声からは非常な困惑が感じられる。 「トリスタニアの王宮よ。わたしとあんたとオールド・オスマン、三人そろって急ぎ出頭するように、だって!」 君は戸惑う。 偉大な老賢人であるオスマンはともかく、一介の女学生とよそ者の平民に、何の用があるというのだろう? 二六八へ。 二六八 君とルイズ、オスマン学院長の三人が乗った四頭立ての馬車は、そのきらびやかな外見には似合わぬ無作法なほどの速さで街道を駆け抜け、 学院を出てから一時間ほどで、夕陽を浴びて茜色に輝くトリスタニアの町へと到着する。 そのまま『ブルドンネ通り』を一直線に突き進み、王宮の門をくぐり抜け、広々とした中庭でやっと停まる。 馬車から降りた君は、こわばった手足をさすり、溜息をつく。 ルイズは学院長のほうを向くと、疲れきった声で 「あの、オールド・オスマン。これはいったい、どういった事なのでしょう?」と尋ねる。 君とルイズは、馬車の中でオスマンと向かい合って座っていたが、ひどい揺れのためにまともに話すこともできず、倒れこまぬよう手足を 踏ん張り、舌を噛まぬよう歯を喰いしばっていたのだ。 「私にもわからんよ。やって来た使者は事情も話さず、とにかく来てくれ、急を要するとの一点張りじゃ。やれやれ、年寄りの身に馬車の揺れは きついわい。どうせなら、竜籠をよこしてくれればよかったものを」 痛む腰に手を当て、杖につかまりながら、オスマンが愚痴まじりに答える。 「なんにせよ、ただごとではなかろうて」 その言葉と同時に、皺と白い髭に覆われたオスマンの顔はきっと引き締まり、眼には真剣な光が宿る。 「どれほどか忘れてしまうほど長いあいだ生きてきた私にとっても、このような呼び出しを受けたのは初めての事じゃ。 あまりよい報せは期待できぬな」 そう言うと、君たちを出迎えた侍従に導かれるまま、宮殿の中へと踏み入る。 トリスタニアの王宮は以前に訪れた時と変わらず、豪奢かつ壮麗きわまる場所であり、こういった場所に不慣れな君は、なんともいえぬ 居心地の悪さを感じてしまう。 君たち三人は長い廊下を進んだのち、とある部屋へと導かれる。 長方形の室内は、置物や帳(とばり)で優雅にしつらえられている。 立派なつくりの長いテーブルを囲んで、十人ほどの男女が腰を下ろしているが、入ってきた君たち三人に向けられた顔はどれも深刻なものだ。 彼らの中でまず目についたのは、テーブルの端に座った細身の男だ。 灰色の長衣をまとい、縁なし帽をかぶっている。 痩せ細り、真っ白な髪と口髭を生やしたその姿は老人のようだが、よく見れば、まだ中年とも思える。 この数週のあいだ城下町で噂を集めてきた君は、すぐに男が何者かを推察する。 彼はトリステイン王国の事実上の最高権力者、摂政を務めるマザリーニ枢機卿に違いない。 平民たちの──貴族からもだが──彼に対する評判はかんばしからぬものであり、その貧相な姿を皮肉った『鳥の骨』というあだ名で知られている。 王族をないがしろにして、権力をほしいままにする奸臣と中傷する者さえいるが、国の内外の問題を的確に処理する、 精力的で有能な人物であることは間違いないらしい。 今の彼は、何らかの容易ならぬ問題を抱えており──君たち三人はその件で呼ばれたのだろう──苦悩に身も心もさいなまれているようだが、 それでも、何物も見逃さぬ鋭い眼は曇らず、背筋はぴんと伸び、活力にあふれている。 マザリーニ枢機卿の背後、テーブルから少し離れた椅子の上には、アンリエッタ王女の姿がある。 君たちが入ってきたのに気づいて軽く会釈をするが、その顔は以前会ったときとはうってかわって、不安と恐怖に青ざめている。 部屋には、王女の他にもうひとりだけ女が居る。 白いシャツと、足首まで覆う長いスカートをまとい、波打つ豊かな金髪をもつ美しい女だが、その表情は険しい。 どういうわけか君とルイズに向かって、刺すように鋭い視線を眼鏡のレンズ越しに浴びせかけてくる。 君は、その顔立ちをどこかで見たように感じ、心の中で首をかしげる。 君よりやや遅れて金髪の女に気づいたルイズは、あっと小さく声を上げる。 マザリーニは、王宮にふさわしからぬ身なりで現れた君を見てわずかに眉を上げるが、すぐに表情を取り繕うと立ち上がり、 君たち三人に挨拶と急な呼び出しを詫びる言葉を送る。 枯れ木のような見た目からは想像もつかぬ、芯の強そうな声だ。 そして彼は、テーブルを囲んで座る人々を次々に紹介する。四九〇へ。 四九〇 マザリーニの紹介によって、君たちを睨みつけてきた金髪の女がラ・ヴァリエール公爵の長女、つまりルイズとカトレアの姉である エレオノールだと明らかになる。 言われてみればどこかルイズに似ているが、それ以上に公爵夫人に似ている、と君は思う。 その厳格で妥協を許さぬ高圧的な雰囲気は、母親に瓜二つだ。 彼女は『王立魔法研究所』という所に勤めているという。 エレオノールの向かいに座った、長身の老人には見覚えがある。 ニューカッスルの城で君たちを倉庫まで案内した、ウェールズ皇太子の侍従であるパリーだ。 彼が無事だということは、ウェールズも元気にやっているのだろうか? 少し離れた所に座った青年貴族は、ガリア王国からやって来たカステルモール卿だ。 先を尖らせた髭が目立つりっぱな顔立ちは気品に満ちているが、まとう衣服はひどい有様だ。 上等そうな上着とシャツはいたるところ鉤裂きができ、血と煤で汚れているうえに、マントの端は焼け焦げている。 また、彼の瞳はどこか虚ろだ──戦乱に故郷を追われ、疲れ果てた難民のそれを彷彿とさせる。 最後に紹介されたのは、白い髪と髭をなびかせ、堂々とした体躯の初老の男だったが、その男の名前と肩書きを耳にして、 君とルイズはそろって驚きの声を上げる。 男はホーキンス将軍──≪レコン・キスタ≫に牛耳られたアルビオンの軍を指揮する、名高い軍人だったのだ。 君も何度か、噂話で彼の名を耳にしたことがある。 内乱の起きる前から、アルビオンにこの人ありと謳われていた勇将だという。 ルイズは警戒の色を浮かべて 「≪レコン・キスタ≫の叛徒!?」と小声で叫ぶが、 マザリーニは静かにそれを諌める。 「落ち着きたまえ、ラ・ヴァリエール嬢。驚くのも無理からぬことだが、今のホーキンス将軍はクロムウェルの配下ではない。 将軍はクロムウェルの恐るべきたくらみを知り、その事を諸国の宮廷と軍に警告すべく、トリステイン軍に下ったのだ。祖国を、いや、 ハルケギニア全土を救おうとして」 君はびくりと身じろぎする。 『恐るべきたくらみ』とは、風大蛇の言っていた謎の兵器のことをさすのだろうか? ホーキンス将軍は何も言わずにうつむいているが、その表情は、マザリーニやアンリエッタのそれよりさらに深く重々しい、 絶望的な苦悩を感じさせるものだ。 マザリーニは苦渋に満ちた表情で話を続ける。 「しかし、警告は間に合わなかった」 その言葉を聞いたホーキンスの肩が、わずかに震える。 「≪レコン・キスタ≫とその同盟者──野蛮でけがらわしい、未知の亜人と蛮族ども──は、ガリアの王都リュティスに奇襲をかけた」 「なんと!?」 「嘘っ!?」 オスマンとルイズが同時に叫びをあげ、椅子から立ち上がる。 君はあっけにとられて、声も出せない。 ハルケギニアの地理に詳しいわけではないが、リュティスの都が、天空を漂うアルビオンから何百マイルも離れている事くらいは知っている。 クロムウェルは、そんな場所へどうやって軍勢を送り込んだのだろうか? 四六九へ。 四六九 「嘘ではございません」 カステルモールは立ち上がると、絞り出すように声を上げる。 「わたくしは、ほかならぬリュティスより参った者にございます。始祖のご加護で昨晩の襲撃を生き延び、この尋常ならざる変事を伝えるべく、 急ぎトリスタニアに参った次第にございます」 君たち三人のなかで最初に我に返ったのは、オスマンだ。 「して、被害のほどは? ジョゼフ陛下や大臣たちは?」 カステルモールは力なく答える。 「ヴェルサルテイル宮殿全域が奴らに蹂躙されました。『グラン・トロワ』は炎上。国王陛下とイザベラ殿下は、 今朝わたくしがリュティスを発った時点では、行方知れずのまま。敵は大軍であり、生ける津波のごとく押し寄せてきました。 わたくしが所属する『東薔薇花壇騎士団』をはじめ、警備の兵たちは全滅。身分の貴賎を問わず、生きてヴェルサルテイルを抜け出せた者は そう多くはありません……」 そう言って、カステルモールは顔を歪める。 君は、カステルモールの表情が生気に欠けていた理由を知る。 この貴公子は、突然の嵐のような激しい闘いに巻き込まれ、血なまぐさい虐殺を目の当たりにして、心を打ちのめされてしまったのだ。 オスマンは眉間に深い皺を寄せ、カステルモールの話に聞き入る。 ルイズは、ぼんやりと宙を見つめている。 話の内容があまりに衝撃的なため、放心してしまっているのだろう。 カステルモールの話は続く。 「地獄から現れたかのごとき輩(やから)──醜い亜人と、残虐きわまりない蛮族どもは、夜明けとともに攻撃をやめ、 ヴェルサルテイル宮殿へと引き返していきました。しかし敵は、こうしている今も王宮を占拠し、庭園を我が物顔でうろつき回り、 略奪に明け暮れているはずです。トリスタニアへ向かうべく竜の背にまたがったその時にも、奴らの狂喜の叫びが、風に乗ってわたくしの耳に 飛び込んできたのですから。それは、聞いたこともない奇妙な名前の連呼でした。奴らが棲む魔の国の名前なのか、そこの邪悪な王の名か、 あるいは意味などない鬨(とき)の声なのか。 ともかく、敵はこう叫んでいました。『カーカバード! カーカバード!』と!」 君は愕然として凍りつく。 なぜこの世界で、≪旧世界≫の汚点、『さいはての毒虫の巣』と呼ばれる危険に満ちた地の名前が叫ばれるのだ? わけがわからず、とにかく何かを言おうと口を開きかけた瞬間、部屋の扉の外から枢機卿を呼ぶ声がする。 マザリーニは眉をひそめ、立ち上がると 「何事だ、騒々しい! 今は秘密の会議の只中だぞ」と言ってとがめる。 扉の外から、おびえた声が返ってくる。 「お許しください、猊下(げいか)……しかし、アルビオンからの使者が……」 「なに!?」 マザリーニの顔がさっと青ざめる。 「莫迦な、あの者たちは、回答の期限まであと七日あると言ったばかりではないか! クロムウェルの気が変わったとでもいうのか?」 「いえ、今回は捕虜を引き渡しに来たとのことです」 「なんだと……?」 マザリーニはしばらく考え込んでいたが、意を決したように扉の取っ手をつかむ。 「失礼ながらしばらく中座いたしますぞ。お許しを、オールド・オスマン。ああ、ラ・ヴァリエール嬢……」 マザリーニが呼びかけた相手はルイズではなく、その姉のエレオノールだ。 「わたしが居ないあいだ、オールド・オスマンと妹君に事情を説明しておいてくれたまえ。今日、この宮殿で何があったかを」 エレオノールは緊張した面持ちでうなずき 「はい」と答える。 君は、ここに残っておとなしくエレオノールの話を聞くか(五七四へ)? それとも、アルビオンの使者とやらをひと目見るため、枢機卿に同行するか(三六六へ)? 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3531.html
前ページ次ページKNIGHT-ZERO Q6.ナイトライダーファンに女性は少ないですか? A6.少なくともこのスレでは多数派を形成しつつあります。問題ありません。 KARRになら何をされても構わないと豪語する猛者もいます。 2ch海外ドラマ板 ナイトライダースレッドのFAQより 夜明け前 朝露に濡れた芝生が沈みかけのふたつの月に照らされて銀色に光る、五つの塔に囲まれた庭 白い靄の中から、規則的な呼吸とリズミカルな足音、それに合わせて動く桃色の髪が近づいてくる トリスティン魔法学院の二年生ルイズ・フランソワーズは学院の庭を、朝早くからぐるぐると走っていた 基本的に夜明け前から朝食まで、そして授業が終わってから就寝する夜まで、時には深夜に及ぶまで 文字通り一日中KITTで走り回っていたルイズが自分の足で芝生を踏みしめ、単調な周回をしていた 自身を操るために不可欠な体力を養うべく、KITTがドライブの前に課した異世界の修行「ジョギング」 最初は庭をちょっと走っただけで息を荒げてブっ倒れ、運転禁止を申し渡すKITTを悪魔だと思った この苦行がKITTの居た異世界では都会人の娯楽であるという言葉をルイズは初め信じられなかったが それまで縁の無かった運動は成長期の体に馴染み、それはすぐにルイズにとってごく自然な日課となった スポーツウェアなど無いこの世界、ルイズは学院制服のブラウスとミニスカート姿で芝生の上を走っていた KITTの中で息づく水素核融合タービンのように力強い運動を繰り返す、ルイズの白くしなやかな両足 その腿には公爵令嬢として学院に入学した頃には無かった、まだ細いながらしっかりとした筋が通っていた ジョギングが終わると、早朝の庭で杖を構えて虚無魔法の訓練をする、武道の稽古のような動きと息遣い それはルイズが自主的に始めた事だった、それらの練習を終えた後、KITTとのお楽しみの時間が始まる ルイズは走っていた もうひとつの夜明け前 ハルケギニアの上空を浮遊する大陸アルビオンは、過日の戦乱による変化の時を迎えていた レコンキスタによる新政権の崩壊と彼らの離散、トリスティン、ガリア、ゲルマニアによる委任統治 本格的な総力戦の無きまま終わった戦争の戦後処理を話し合うべく各国の元首が港町リヴァプールで会談し 浮遊大陸の地理的にも文化的にも異なる三つの地域がそれぞれの国によって分割されることとなった 首都ロンディニウムや軍港、商業都市を抱え文化的、経済的に最も恵まれた大陸南部のスコットランド 大陸北部高地の広い面積を占め、肥沃な穀倉や農地と湖水魚の漁場、森林資源を抱えるイングランド 東部で酪農と酒造を行う敬虔で独立性の高い国民が、他の地域の干渉を拒み続けるアイルランド 戦後処理を話し合った結果、その三つの地域にそれぞれの国が総督と駐留軍を送り、占領を行う事となった 三つの占領国の中では最も高い軍事力と国力を持つゲルマニアがスコットランドの領有を出張し 農業立国を自認し、食料や工業材料の自給と輸出を国是とするガリアはイングランドを取った 他の二国に比較すれば小国に分類されるトリスティンはアイルランド地域の統治権を得る 人間より牛と羊の多いような田舎を押しつけられるアンリエッタの弱腰にルイズは嘆いたが KITTは「その地域は近い将来、世界を動かす人材を数多く輩出する事になります」と言った 政界や文壇で活躍するケルト人や、アメリカの公職者の多くを占めるアイルランド移民についての話を KITTは長々と語ろうとしたが、学校の退屈な授業の様な異世界の歴史話を嫌うルイズに早々に遮られた それはKITTが懸念していた地球テクノロジーの濫用への本能的な警戒感で、ルイズの不精でもあった 戦利品の略奪から始まり、本国への搾取を目的とした殖民を行うそれまでの占領とは異なった形の統治 それまでのアルビオンの国民はハルケギニア大陸の国々よりも前時代的な封権制度に甘んじてきたが 戦勝国からやってきて旧弊な貴族荘園を効率的な農業共同体に作り変える占領政策を概ね歓迎した それでも未だに残る身分制度や、山賊と変わらぬような地方領主から領地を奪うための武力行使など 地球の中世よりは進んだものながら、現在の地球の基準では人道的とはほど遠い占領だったが それはこの古くて新しい世界が得た、来るべき時代への移行を前にしたほんの少しの胎動だった ハルケギニアの国々を見下ろす島国、大陸から隔絶された地理条件故、文化的に遅れを取っていた国が 内乱で失われたいくつもの貴い犠牲と引き換えに、ハルケギニアで最も新しい実験国家として歩み始めた そして、国家と人間の動きの影に消えたレコンキスタの貴族達は、地下に潜伏し独自の活動を開始していた アルビオンは動いていた めまぐるしい春が終わり、季節は初夏になろうとしていた 王都トリスタニアから各地方へと伸びる馬車道路を、ルイズはKITTを駆り帰郷の途についていた 今回はルイズがしばしば行っていた無断欠席ではなく、学院から正式な休講の許可を得ている その数日前に実家から手紙が届いた、当主ヴァリエール卿の名で、至急帰られたし、と著された書面 ルイズは厳格な父と母を思い出して涙目になるもKITTの前で無理に虚勢を張る、膝は震えていた 「…ちょ…ちょうどわたしも言いたいことがあったのよ…わ、渡りに船って奴だわ…行ってやろうじゃない」 ルイズは実家に向けてKITTを走らせていた、KITTの故郷での制限速度を律儀に守っている 「いい?あんたはただの馬車、ちょっと不思議な魔法で動く馬車、決して喋ったりなんかしない馬車よ」 KITTは自身が嫌う「馬車」という呼び名を無神経に連呼するルイズに、珍しく鼻を鳴らす音を発する 「ルイズ、あなたが口を噤めというならば私はそうしましょう、しかし、もうバレてると思いますよ」 ルイズの使い魔であるKITTの性質を無闇に口外しないようにというアンリエッタ女王のお達しは あのタルブでの戦闘を目撃した兵士や村人のみならず、学院の生徒や職員にまで及んでいたが それはルイズとKITTの身の安全を守るためという名目で、その実彼女のKITTへの独占欲だった そして、決断力に富んだ清廉な元首として知られ始めた女王アンリエッタは、ツメが甘かった 使い魔品評会の後、それをサボって郵便屋の真似事をしたルイズにアンリエッタから個人的な感状が届いた 王室の便箋には流麗な筆跡でしたためられたKITTへのお礼と、ルイズやシエスタへの同様の感謝 よく似た文面ながら自分らへの礼はKITTへ綴った文の付け合せに見えたのは女の勘という奴だろうか 感状に添えられたアンリエッタ女王の直属女官としての辞令と、あらゆる権限を許可する身分証明書 タルブ戦以来なんとなく持ち続けてきた水のルビーと祈祷書も、正式にルイズの手元での保管が命じられた ルイズとKITTが真っ先に求めたのは、王宮の書庫に収められている全ての文献情報の開示だった 表から許可を求めるのも面倒だったので、ルイズはKITTの機能を駆使して勝手に頂戴することにした ルイズはまたしても授業をさぼって王宮に乗り込み、門衛に女王様の身分証明書を突きつけ下がらせると 王室所蔵の書物が収まっている巨大な「ミョズニトニルンの塔」に鼻先を向けてKITTを停車させる KITTはナイト財団が密輸摘発の為に開発した新世代のX線透視装置によるスキャナを起動させた 塔に向かって数分間X線スキャナを照射する、石壁を通し書棚を透過し、閉じたままの書物を取り込み KITTはミョズニトニルンの塔に収まっていた全ての王宮蔵書を自分のデータベースに収蔵し終えた 王宮を構成する建物は地球の土木建築に比して遅れていながら部分的に超越した技術で建てられていたが 土の魔法で建てられたそれらの建造物に比して異彩を放つ黒銀色の塔は人力で建築されたものではなくて はるか昔にとあるメイジが『使い魔』として召喚したものであるらしい、王宮に属する研究機関では この使い魔こそが始祖ブリミルの四人のしもべのうちの一つ、知を司る使徒だという仮説が建てられていた そのメイジが没した後もミョズニトニルンの塔は書物保管に理想的な内部空調を備えた便利な塔として 王宮の古文書から議事録や官吏名簿、下町の通俗小説までもが収納され、知の塔として生き続けている スキャナで蔵書と共に建物の走査をしたKITTは、その円柱が地球に存在するカーボンナノチューブに 極めて近い成分で形成されている事に気づいた、地球の宇宙開発を大幅に推進させるであろう素材の塔は 現在の地球では構想図の中にのみ存在する軌道エレベーターやシリンダー型コロニーに似た構造をしていた それよりKITTには、王宮訪問中にこちらを遠くから監視する平官吏の服を着た男のほうが気になった KITTが先刻収集した情報を早速駆使して骨格形状から認識した情報によると、彼の名はジュローム トリスティンきっての名門ヴァリエール家の執事で、内政情報を収集する役を負っているらしき男だった アンリエッタの勅命によりルイズとKITTに計られた便宜は、結局アンリエッタが秘することを望んだ ルイズとその使い魔の秘めた力についての情報を、一部の耳ざとい人間に少しづつ垂れ流す事となった 「ルイズ、"私達"の正体はバレてますよ、きっと」 実家差し回しの馬車ならヴァリエール領まで二日、領地に入ってから屋敷まで一日を費やすいつもの帰郷 KITTを飛ばせば3時間程で着く道中をルイズはゆっくりと走らせていた、上空を飛竜が追い越していく 原付バイク程の速度で一日を走り通し、宿を取るのも面倒だったのでKITTの中で一泊して、また走る アクセルは踏めるだけ踏むのが当たり前の操縦に慣れていたルイズにとって、最初はそれが苦痛だったが 実家のお膝元で目立つ真似はしたくない、それにゆっくり走らせるKITTも悪くないとも思い始めていた 領地の荘園を走りながら、こっちを指さして驚く者、貴族の酔狂と眉を顰める者の視線を楽しむルイズは 屋敷の敷地にほど近い、見渡す限りの平原にさしかかった、若い頃の父と母が武勇を磨いたという草地 平原の向こう側に見えた小さな人影、ズームカメラの画像と個人認識データを見たルイズの血の気が引いた 近づいていくにつれて肉眼でも見える、鋼の甲冑に身を包んだ騎士は平原に響き渡るような名乗りを上げる 「ルイズ・ラ・ヴァリエールの使い魔KITT!我が名は烈風のカリン、いざ尋常に勝負せよ!」 ルイズの母カリーヌ・デジレがそこに居た 名門ヴァリエール家の一人娘にして、王宮直属の最精鋭騎兵マンティコア隊の設立を成した伝説的騎士 幾多の戦場で、その殺戮の数よりも救った味方の数や敵を撤退させる策謀で勇名を馳せた烈風のカリン 桃色の髪を靡かせた甲冑のメイジは老いたマンティコアから降りた、全身から漂う迫力がKITTを圧する KITTは平原の中央、カリンと互いの姿が確かめられる位置で、ルイズに車体の停止を求めた ルイズやKITTの知る、通常のメイジが戦闘で取る間合いのほぼ10倍、大砲すら届かぬ距離 「ルイズ、降りて頂けますか?」 「KITT!何のつもり?もしも戦うっていうなら…当然わたしも一緒よ!」 「カリーヌ殿は私との勝負を希望しました、それは私をひとつの人格と認めて頂いてるということです 私にはそれに全力を以って答える義務があります・・・ルイズ、あなたを母君と戦わせるわけにはいかない」 「わかったわ、KITT……おねがい、わたしのお母さまを殺さないで……」 「ルイズ、私は決して人を傷つけません…私から降りたら500m、いえ1kmは離れていてください」 KITTは平原の中心で、琉球短槍のような杖を無造作に下げたルイズの母カリンと向かい合った ルイズが500m以上離れたのを確かめたKITTは放射状の土煙を上げ、カリンに向かって急発進した カリンは輪っかの形の雲を発てながら、フライ魔法による極めて高速な移動でKITTに突っ込んでいく 甲冑の重さなど感じさせない動き、低空で亜音速飛行するカリンはKITTに向かいながら杖を払った KITTとカリンがマッチを擦るように接近し離合する、高速でニアミスした二つの物体が発てる衝撃波は 700m離れた位置で双方を見守るルイズにまで届き、盾にしていた岩がカンカンと音をたてヒビ割れる KITTはルイズによって蓄積された走行データを存分に生かし、土埃の円幕を作りながらターンした カリンは競技水泳のクイック・ターンのように縦に回転して、空気の壁を蹴るような急加速で突進してくる KITTは分子結合殻が無傷であることを確めた、そして超音速で撃ちこまれた鋼の硬さを持つ氷の砕片も すれ違った瞬間に撃ちこまれた氷の魔法はタルブ戦で被弾したアルビオン軍の魔法攻撃など比べ物にならぬ KITTにとって未知の攻撃だった、戦艦の大砲を凌駕する質量の攻撃に人工知能は恐怖の感情を覚えた KITTはそれまで、魔法による攻撃の地球における近代兵器に対しての優位性を認めていなかった しかし、現在自らが対峙している強大な力は、KITTの記録にあるいかなる個人携行兵器をも上回った この一人のメイジが祖国アメリカの敵になったなら、原子力空母一隻程度では到底敵わないだろう カリンが再び杖を突き出した、KITTはミラーでその杖を弾く、カリンは飛んでいく杖に同調するように 体を飛ばし巧みにエネルギーを殺すと、そのまま頭上の杖を叩きつける、KITTはスピンして弾いた 半径数百mにも及ぶ範囲での一台の車と一人のメイジの速く激しく、美しくさえある剣戟はしばらく続き それは並のメイジには到底理解できぬタイミングで唐突に終わった、ルイズにもさっぱりわからなかった KITTはカリンの直前で止まる、鬢に一筋の汗を流したカリンは眉ひとつ動かさないまま杖を捨てた 「負けました、あなたは私が若き頃に目指し届かなかった『最強の不殺』をすでに成し遂げている」 ルイズは母カリンを助手席に乗せたまま、ヴァリエール家の屋敷までの緊張のドライブをしていた 異世界でKITTのお仲間を操る時に必須だという自動車免許などルイズは持っていなかったが 恐らくその免許を取るために課せられる試練と修行はこれに似たものなんだろうとルイズは思った 運転操作や目視確認、わたしが一度でもそれらをおろそかに行えば、きっと拳や蹴りや杖が飛んでくる カリンはといえば目新しい馬車での移動を楽しんでいた、そしてこの不思議な力を宿した馬車との会話も 「カリーヌ殿、貴殿の騎兵隊における活躍についての情報を王室の古い記録から拝見させて頂きました あえて付け加えさせて頂きます、あなたは私がこの世界に来て以来、最も敬愛を覚えた人物であると」 カリンは無表情のまま氷のひび割れるような声を発した、ルイズの心臓がまたドキンチョと跳ねる 「昔の私がどうであろうと、現在は老いた領主夫人に過ぎません、若さも強さも、過ぎ去りしものです」 助手席の上で足を組み、片肘をドアにもたれかけるカリーヌの桃色の髪は鈍く輝く甲冑との調和を描き 車窓を見つめる澄んだ鳶色の瞳といい、ルイズやその姉達が逆立ちしても敵わぬほどの色香を纏っていた 「機械である私に肉体の強さや外貌の老若はさほど意味を持ちません、ただ、その心に感銘を受けるのです」 顔を正面に向けたままKITTを操縦するルイズは、そっと横目で盗み見した母の姿に心底驚かされた、 それは生まれてこのかた一度も見た事の無かった物、厳格な母カリーヌが、烈風のカリンと呼ばれた騎士が 頬を赤らめていた 「KITT、夫ある身の女をからかうものではありません」 その後、ルイズは学院入寮以来数ヶ月ぶりに母カリーヌと父ヴァリエール卿と共に晩餐の食卓を囲んだ KITTがただの馬車であること、ヴァリエール卿にはその知能と人語の能力について黙ってる事を ルイズは母カリーヌとの密談で決めた、母が少女の悪戯のような真似を率先して行う様にまた驚かされた 数回の夕餉を重ねた頃、ルイズは帰郷の目的でありながら今まで言い出せなかった事を父と母に告げた 「お父さま、お母さま、わたくしはアルビオンに向かいます、わたしの成すべき事はそこにある」 カリーヌはルイズを横目で睨み、すぐに晩餐の肉料理に視線を戻すと、それを切る作業を再開した いつかルイズが邸の庭で汚い山猫を拾ってきた時からずっと、母が何かを許可する時の仕草は変わらない 威圧を覚える所作が逆にルイズを安心させる、最大の問題が解決して胸を撫で下ろすルイズは父の顔を見た ヴァリエール卿はといえば妻カリンの顔色を窺ってる、娘に許しを与えた母の顔を確かめると豪快に笑い オーバーアクションな身振りで成長した娘への感動と激励を表現した、ルイズは正直ちょっとウザかった 父であるヴァリエール卿もKITTの事を知っていた、執事ジュロームの収集した精度の高い情報を聞き タルブでの無血勝利やウェールズ皇太子との接触よりも、グラモン家の小童の『逮捕』に大喜びした 「ルイズ、お前一人なら私は牢に入れてでも止めただろう、しかし今のお前にはKITT君が居る」 どうやら父は晩餐の後でこっそりKITTを見に行き、言葉を交わし、ドライブまでもを楽しんだらしい ヴァリエール家が突然ルイズを呼びつけたのは、ルイズが使い魔として得たKITTを見定める為だった 後でルイズがKITTに聞いたところ、KITTはそれが地球の普遍定理であるかのように答えた 「スピードの出るクルマが嫌いな男子はそうそう居ません……ヴァリエール卿も男の子ですから」 翌朝に実家を出て、学院に戻る事を決めたルイズはその晩、子供の頃のように母と同じベッドで眠った いつも妻と同じ寝室で睦まじく眠りについているヴァリエール卿はといえば、またKITTと遊んでた 母の胸に抱かれながら「これが最後になるかもしれない」という言葉を飲みこむルイズの髪を カリーヌはルイズが幼い頃に好きだった子守唄を歌いながら、眠りにつくまで撫でつづけてくれた 「ルイズ、ルイズ、強く美しくなったルイズ、あなたはずっと、いつまでも、わたしの小さなルイズ」 前ページ次ページKNIGHT-ZERO
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6757.html
前ページ次ページゼロと魔砲使い そしてそこから遠いガリアでは。 「約束を違えて申し訳ない」 「気にするな。意図してのことではあるまい」 ガリア王ジョゼフの前に、久方ぶりにビダーシャルが姿を表していた。 「それにしても時間が掛かったものだな。傷か深かったのか?」 「いえ、怪我はありませんでしたが、シームルグの羽根を使う羽目になりまして」 それを聞いたジョゼフは事情を察して大笑いした。 「そうか、アレは確か故郷への帰還しか出来ぬもの。そなた、エルフの里まで帰る羽目になっておったのか」 「どのみち即座に報告せねばならぬ事があったゆえ、僥倖であったともいえましたが。ただそれ故、連絡と帰還が遅れたことについてはお詫びを」 「よいと言ったではないか」 再び頭を下げるビダーシャルを、ジョセフは諫めた。 「だがそういうことだとすると、彼の使い魔は」 「はい、紛れもないシャイターン、それも最悪のものでした」 「最悪、とは?」 問うジョゼフに、ビダーシャルは普段決して見せない感情の揺らぎをあらわにして、歯を食いしばりながら言葉を続けた。 「最低最悪、かつてエルフに致命的な被害を与えたシャイターンの魔法……彼女はその使い手でした。伝承のシャイターン同様、本人の人柄は決して邪悪なものではない……ですがそれ故に、自らの悪を自覚することがない」 ジョゼフは思わずそのシャイターン、タカマチナノハの方に同情した。 「本人は邪悪ではない。それ故に自らの悪に気づかず、認めようとしない。皮肉なことに邪悪でないが故に返って言葉が届かない……無邪気に、自覚なくこの世界にとって致命的な毒となる。それ故のシャイターン」 「わしからすればそちらの言い分が一方的なものに聞こえるがな」 皮肉るように言うジョゼフ。 対するビダーシャルは、表情一つ動かさぬまま、答えを返した。 「これは大いなる者により定められた天理。蛮人には理解及ばずとも、守らねばならぬ絶対の法。それ故に本来不干渉を定められた人の営みに、我らは干渉することになるのだ」 「で、協力がほしいと」 「ああ。残念ながらこちらから打って出たのでは、シャイターンに勝つのは我らであっても難しい。そもそも我々の魔法は、拠点を定め、そこを守るためのもの。打って出てしまっては普段の半分の力も出せぬ」 「それでも我らよりは強いと思うが?」 不敵な笑みを浮かべつつ言うジョゼフ。対して苦い笑みを浮かべ、ビダーシャルは返す。 「買いかぶりだ。地を定めず、契約抜きでは我らとてそなたらと大して違いはない。そちらのスクウェアなら、対一で我らを討ち取ることも出来よう」 「そんなモノなのか?」 「その程度のモノだ。我々の力は契約に大きく依存している。そしてあのシャイターンは、そんな我を正面から打ち砕くだけの力があるのだぞ」 そこには一切の過大も過小もなかった。ただ彼我の戦力差を冷徹に見つめる目があった。 「ただでさえそれだけの力があるのに、奴にはこちらのすべてを崩壊させるあの呪文がある。あの滅びの呪文を使われたら、我々には為す術がない」 「そこまでやっかいなのか、その呪文は」 「ああ。威力も桁違いだが、それ以上にその特性が恐ろしい。あの魔法が発動するとき、周辺の精霊がことごとくシャイターンに『喰われて』しまう。つまりあの魔法の発動地点の周辺では、すべての魔法が根こそぎ破壊されてしまう。 例外は器物などにがっちりと食い込んでいる魔法くらいであろう。いわゆる魔法道具のたぐいだな。その本体までは破壊はしないものの、発動している効果や、我々の契約、そちらの使う系統魔法などはすべて無力化されてしまうのだぞ」 「スキルニルのたぐいも元に戻ってしまうと言うことか」 「そうだ。いわばすべての守りをはぎ取られたところに、それらの分の力をすべて喰らってふくれあがった攻撃が炸裂するのだ。何人たりとも耐えられるものではない」 ジョゼフはその言葉を肯定しつつ、追加するように言葉を重ねた。 「その上その攻撃は、人は殺さぬもののある種の魔法道具などまで破壊するそうだな」 「ああ、特に精霊の力を結晶させたようなものは根こそぎやられてしまう。手持ちの風石が全滅する羽目になった」 「それでシームルグの羽根を使うことになったのか」 納得するように言うジョゼフ。 「そのとおりだ。それはともかく、本題に入ろう」 その言葉にジョゼフも姿勢を正す。表情も友人としてのものから為政者としてのものに切り替わる。 「我々長老会議は、ガリア王に対して一つの協力を要求したい。対価として我らの地の通行と交易、及びサハラの地における風石の採取を認めよう。 「これは厳しい要求のようだな」 エルフ側の対価はまさしく『大盤振る舞い』と言ってよかった。これほどの対価を差し出す以上、要求の方も半端ではあるまい。 そしてそれは文字通り半端ではなかった。 「要求はただ一つ、シャイターン・タカマチナノハの抹殺に対する全面協力。たとえトリステインを初めとする他の国すべてを敵に回してでも、その完遂を要求する。なお、先の対価はあくまでも報酬。必要経費として、エルフの戦士及び魔法具などを随時提供する用意もある」 さすがに一瞬ジョゼフの顔にも驚愕が浮かんだ。エルフ達は、たった一人の人間を殺すために、部族のすべてを掛けると言っているのだ。 「くっ……くっくっくっ、はっはっはっ!」 ジョゼフの口から、何とも名状しがたい笑いが漏れる。 「そうか、おまえ達はそこまであれにこだわるのか。いいだろう」 その返事を聞いて、「報告が有りのますので」と言って退出するビダーシャル。 彼が退出して一人になった室内で、ジョゼフはひとしきり哄笑を続けていた。 笑いながらも脳裏に浮かぶのは、かつての思い出。 彼が玉座を継ぎ、そして狂王と言われるようになるまでの出来事。 それは平穏なる過去。 いまだ自分が皇太子であり、弟もまだ少年であった頃。 今とは全く違う、笑いに満ちた時。 それが初めて崩れたのは、父から自分と弟が、真新しい本を渡されたときであった。 「父上、これは?」 表紙になにも書かれていない、手製本と思われる本を見てシャルルが問う。 近年開発された印刷と製本の技術によって、まだまだ高価ではあるものの、書物はある程度裕福な平民の手にも届くものになりつつある。もう数年もすれば、真面目に働いている平民なら月に一冊程度の書に手が届くまでになろう。 この流れはジョゼフも後押しをしていた。何より彼自身、読書が大好きだったと言うこともある。 だが、今手渡されたものは、明らかに個人の手によって作られたものだ。紙こそ使っているが、これが羊皮紙だったら昔の筆写本そのものである。 そして父は、弟の質問に答えた。 「これはわしが手ずから引き写した本じゃ」 「父上が、自分で?」 ジョゼフは驚くより先に訝しがった。決して暇ではなく、健康も害している父王が、わざわざ手ずからの筆写で本を作るというのは、決して愛情だけのこととは思えない。 だがシャルルはそうは思わなかったらしい。父が息子達のためにわざわざ、と思ったようだ。 「父上、ありがとうございます! お忙しいのに、わざわざ」 少年らしい満面の笑顔を父に向ける弟。 そして父は何故か笑みを--明らかに臣下や使節向けの、作られた笑みを、二人の息子に向けていた。 シャルルは気がつかなかったようであるが、ジョゼフは気がついた。 そのことを疑問に思っていた彼の上に、父王の声が降りかかる。 「その本はの、非常にためになる智恵の泉なのじゃが、残念ながら記載の一部に始祖の教えに逆らっている部分があってな。一応禁書の扱いになっておる。じゃから決してこの場にいない人物に見せてはいかんぞ」 「父上、そのようなものを……」 心配そうに上目遣いで父を見る弟に対して、父はさらに言葉を掛けた。 「安心しなさい。おまえが一度読んだ程度では、どこが始祖の教えに反しているかなど判るものではあるまい。実際、その問題部分というのはごくわずかなものでしかないのじゃ」 「でも……」 「読んでみれば判るのじゃが、この本は『大賢者』と呼ばれるものから語られたことをまとめた説話集のようなものなのじゃ。内容には問題ないとわしも思うのじゃが、後にこの賢者が異端とされてな」 そういわれてジョゼフにも何となく事情がつかめた。おそらく書の内容……賢者の語りはごく真っ当なのに、その当人が異端とされたためせっかくの智恵まで異端とされたのだろう。 憚りながらも読ませたい、という父王の心遣いが、ジョゼフにも伝わった。 ……と、この時点ではジョゼフもそう思い、父に感謝の言葉を述べていた。 ……実際に自分の部屋で、書を読んでみるまでは。 『大賢者プレシアの語り』 それが書のタイトルであった。内容は筆者が幼少の頃、地元を訪れた物知りの美女・プレシアから聞いた雑学をまとめたものだと書かれている。 『○月○日のプレシアさんのお話』 という、いかにも子供っぽい書き出しで各章が始まるこの説話集は、ものすごく斬新な目で世の中を見つめている物語であった。 読んでいるだけで、プレシアという知的な女性が、田舎町の少年少女達に、井戸端あたりで様々な知識を、子供にも判るような語り口で教えている情景が目に浮かんだ。 お堅い父の字面と内容の落差が激しいのが唯一の難点であったが。 初めは驚きの連続であった。ほんの身近な、子供が何気なく聞いてくるような質問に対して、賢者は驚くべきような視点と理屈で答えを返す。 たとえば、『何故雨が降るの?』という質問に対して、賢者は海と太陽と大地と風の間にある、莫大な規模の水の循環で答えていた。 これなど些細な始まりに過ぎない。100近くにも及ぶ質問は、子供の気まぐれのようにいろいろなところに飛び、そのすべてに対して賢者はこのようなとてつもない答えを返していた。 ジョゼフは興奮した。幼心、というにはいささか歳を食い過ぎていたが、そうとしか言えないものに火が付いた。 その日だけで七度は読み返した。三日後には内容をすべて暗唱できた。 そして四日目……それに気がついてしまった。 「あ、兄さん」 普通の家庭と違い、王族は家族が顔を合わせる頻度がどうしても一般家庭や貴族に対して低くなりがちである。今のように、家族で顔を合わせるのが四日ぶりなどと言うことも珍しくはない。 「シャルル、そちらは大過ないか」 「うん、今回の野外鍛錬でも、怪我一つなかったよ。そうそう、僕、初めて獲物を仕留められたんだ! あの本のおかげで」 「あの本の?」 ジョゼフは首をひねる。獣の仕留め方は書いてなかったはずだが……ああ。 思い当たる節があった。獣ではなく、森についての部分だ。内容はもっと大きいもので、森や川は単独でそこにあるのではなく、お互いが影響を及ぼし合っているという教えがあった。 案の定、シャルルの答えもその部分についてであった。 「ほら、森や獣は、お互いに与え合い、奪い合って生きているってあったじゃない。だから僕は、猟師さん達みたいに獲物の来そうな場所とかを見抜けたんだ」 「それはすごいな」 「うん、カーター達もびっくりしてた」 だろうなあ、と、ジョゼフはシャルルお付きの武官達の顔を思い浮かべた。 「獣の通る道を推測して、出てきたところをマジックアローで仕留めたんだ!」 「そうか、それはすごいな」 シャルルは自分と違って魔法が得意だからなあ、と思いつつも素直に弟をほめるジョゼフ。が、次の瞬間、ジョゼフはあることに気がついてしまった。 「……? 兄さん、どうかしたの?」 そんな兄の様子を不思議そうに見るシャルル。 ジョゼフは慌ててその場を取り繕った。 父はあの本が『異端』だといっていた。が、すっかり暗記してしまった内容を思い返してみても、あの書に異端と思われる記述は全くなかった。ただ、普通とは少し違う角度から、始祖に匹敵しようかという深い叡智で森羅万象について語っているだけであった。 が……今思い返してみれば。 あの書の記述の中には、『魔法』がただの一言も出てきてはいなかったのだ。 ジョゼフには判る。あの書に書かれていた知識は、どれも合理的で、且つ実に納得のいくものばかりであった。夢物語にしては実に筋が通りすぎていて、その内容は真実としか考えられなかった。 だが、そこに『魔法』の言葉はない。それはすなわち……この世の真実を解き明かすのに、『魔法』は必要ない、もしくはさして重要ではないということになる。 今こそジョゼフはあの書が異端とされていた理由が、そしてそれの意味する危険性が理解できてしまった。 貴族は魔法を持ってその根幹と為す。それは王であっても変わらない。 だがこの書は、間接的に魔法を否定している。いや、否定はしていない。が、魔法というものが今の世で考えられているような『絶対』のものではないと証明してしまっている。 そしてそれは、魔法をもたらしたもの……偉大なる始祖の御技の否定に繋がる。 なにが大したことはないだ。おそらくあの書は最大級の危険文書として教会が目の敵にしているに違いない。あの書に書かれた叡智が広まれば、今の貴族と宗教に対する最大の脅威となる。あの書に書かれた叡智とその応用は、平民であっても可能なのだ。 自分は弟のように魔法は使えない。だからあの本の叡智を素直に受け入れてしまった。 だからこそ気がつけたとも言える。 あの物言いからすれば、シャルルはこの危険性に気がついていないのかも知れない。 そしてそれは、数日後、再び父王があの本について聞いてきたとき、決定的なものになった。 「そうそう、二人とも、この間の本は読んだかな?」 父の言葉に、先にシャルルが答えた。 「はい! とてもおもしろく、ためになりました! 何で異端になったのかが不思議なくらいすばらしい本だと思います」 「はっはっはっ、じゃろうな。だが一応異端は異端。みだりに内容について人に話してはいかんぞ」 「判りました……残念ですけど」 ジョゼフは二人の様子を冷静に観察していた。そして父王の表情に、そうと意識していなければ気がつかない影が落ちたのを、ジョゼフは見逃さなかった。 「ジョゼフはどうかな?」 ここでジョゼフとシャルル、二人の資質の差が出た。 「はい、私もシャルルと同じく、すばらしい本だと思いました」 「そうか」 やはりほんのわずかに影が落ちる父王。それを確認した上で、ジョゼフは言葉を重ねる。 「ただ、私はシャルルほど聡明な質ではないので、いささか疑問に思ったこともありました。出来れば父上に詳しいお話が聞きたいのですが、時間は取れますでしょうか」 「うむ……いささか難しいが、息子にそう言われては父として応えぬ訳にもいかんのう」 「あ、兄さん、それはずるいです! 出来れば僕も父上のお話は聞きたいです」 シャルルが子供らしい焼き餅で割り込んでくる。王は、 「まあ、すぐにはいずれにせよ無理じゃ。じゃが何とか時間は作ろう」 「約束ですよ!」 そう意気込むシャルルを、ジョゼフは醒めた目で見つめていた。 シャルルにはまだ早いのだろうか、と思いつつ。 そしてその夜、ジョゼフは内密のうちに呼ばれたのである。 「……シャルルは気づかなかったようじゃな。さすがにまだ早かったか。あるいは、資質か」 父がジョゼフに向かって最初に言ったのが、この言葉であった。 ジョゼフはため息混じりに告げられた言葉に、やはり、と思った。その日の夜、シャルルが寝ている時間に呼び出されたことが、その裏付けであった。 「この書には魔法のことが全く書かれていない、ということでしょうか」 そうずばりと問い掛けるジョゼフに対して、王は頷くことで答えを返した。 そして壁の書棚に向かうと、なにやら怪しげな操作を行う。と、書棚の一部が動き、そこから隠し階段が現れた。 「父上、これは……」 「おまえには、これを見る資格がありそうじゃな」 ジョゼフの質問には答えず、王は階段を下りていった。 そこにあったのは、小さな部屋であった。魔法による明かりによって照らされた隠し部屋の壁には、たくさんの書物が置いてあった。 「すべて禁書じゃ。そしてほとんどが、おまえに見せたあれと同じ、大賢者プレシアの教えを綴ったものでもある」 「なんと……」 ジョゼフの思いは、その時これだけの書を残した、大賢者の元に飛んでいた。 「好きに読むがいい。この書には王として立つために覚えておくと役立つ知識がたくさん詰まっている。そしてよく考えよ。直接的には書かれていないが、その書の内容には、大きな謎が隠されている」 「謎、ですか?」 「うむ。おまえなら読み取れるであろう。そしてどうするかは、おまえ次第だ」 「父上は……読み取れたのですか?」 当然の疑問に、王は疲れたように答えた。 「何とか、な……だが私はそれを見なかったことにした。私にはどうすることも出来ないほど、大きなものだったからな。だがひょっとしておまえなら、わしを越えられるかも知れぬ」 そう言って父は、階段を上がっていった。 その時はまだ気づかなかったが、この日王は自分の後継者をジョゼフに定めていたのであろう。 しばらくの間、ジョゼフは父の示した大賢者ゆかりの書物に没頭した。 それはあまりにも深い叡智であった。自然だけではなく、社会のあり方や、市場経済などに関しても、いくつもの見方が語られていた。賢者の語りは、あくまでも『そういうものがある』ということを示すだけであり、どれが理想であるかなどとは決めつけていなかった。 そこから読み取れたのは、賢者はあくまでも『知識』としてそれを語ったのだ、ということであった。こんなものもあるよ、と例を示してくれただけなのであろう。 ただ、それはこの地にはない発想の知識だったので、それを聞いた人は驚いたのだろう。 そして是非とも記録しようと思い、こうして語録や説話の形で、記録が残されたのだと判る。 そして幾多の書を通して、ジョゼフは二つのことに気がついた。 一つは、この書が書かれたのが約六三〇〇年前、すなわち、始祖がこの地に降臨する前の時代であるということ。 そしてそれだけの長い間、これだけの叡智が、地に埋もれていたということ。 そう、ジョゼフは気づいてしまった。 人間の持つ可能性に。知性の持つ可能性に。 人はもっともっと先に進めるはずであることに。 それからのジョゼフは勉強を重ねた。歴史を学んだ。 そして気がついてしまった。 この世界が、呪われていることに。 それは不可思議なことであった。 人には知恵がある。これだけの年月があれば、もっと先に進めるはずである。 だが、この世界は全く変わっていない。 いや、正確には一度変わっていた。始祖以前と、始祖以後で。 始祖のもたらした魔法。これによって以前と以後の歴史は明らかに変わった。始祖以前の歴史はほとんど資料も残っていないが、わずかな資料から、今の世界から貴族と魔法を除いた、平民だけの社会があったらしいことは判った。 そして始祖によってもたらされた魔法によって、生活の水準は上がり、社会にも大きな変化が訪れた--わずか百年ほどの間だけ。 それ以降は今とさして変わらない、貴族による統治がずっと続いていた。 六千年の永きにわたって。 そう、六千年、だ。 始祖が魔法をもたらした百年。その百年の間に、劇的に社会が、文化が、生活が激変したのは残された資料が物語っている。大賢者に関わっていない資料--すべて禁書扱いのもの--のほとんどは、『魔法による社会と生活の変化』に関して、驚きと喜びを持って語った随筆のようなものが多い。 魔法がもたらされ、生活水準が上がって、飢えや怪我で命を失う人が激減している様子が手に取るように読み取れる。 だが、その手の記録の最後の方……魔法伝来から百年あまり経った時点での社会の様子は、まるで今の時代の記録を読んでいるかのようであった。 ジョゼフはこの点に、強い違和感を持った。 表の書庫に行き、『固定化』の恩恵で今に残る数千年前の記録を読み解く。 そして理解してしまった。 この六千年、世界はずっと、昨日と同じ今日、今日と同じ明日を過ごしていたことに。 停滞の呪い。 ジョゼフはそんなモノを信じたくなってしまった。 時は無常にも過ぎる。変わらぬ日々の中、父は少しずつ体調を崩し、文字通りの『崩御』が目の前に迫ってくるのを感じる。 宮中の諸勢力が、徐々に二つに割れていく。 そして運命の日は訪れる。 病床で王は、ジョゼフを後継者に指名した。 そしてその後まもなく、彼は始祖の元へ還っていった。 それは長子相続という面から見れば、ごく真っ当なものであった。ただ一点を除けば、ジョゼフには為政者としていかなる問題もなかった。 その問題も、本質的には問題はなかった。が、同時に最大の問題になった。 彼が、まともに魔法を使えない。その一点こそが。 宮中は大きく二つに割れた。王の意を尊重し、ジョゼフを王と認めるものと。 魔法が使えないという一点から王の資格無しとし、シャルルこそが正統なる王であるとするものと。 そしてその勢力比は……圧倒的に後者が勝っていた。 王位を継いで後、ジョゼフはすぐにそのことに気がついた。ごり押しせねば通らない自分の意。それすらも実現の段階で官僚達の手によってねじ曲げられていく。 特に何かを変えようとする動きに対してそれは顕著に表れた。 表だって反乱のようなものが起きないのは、為政者としてのジョゼフは先の一点以外全く瑕瑾が無く、政務能力を持って貶めることが出来なかったからであろう。 加えてシャルルが自分の登極を祝福を持って受け入れていたのが大きい。 反対派が内心王に掲げているのはシャルルである。そのシャルルが賛意を示している以上、表だった行動に出ることは出来ない。 そう考えているのは見え見えであった。 しばらくはそのままだった。だが、すぐに気がついてしまった。 こいつらは変わらない。今のままでは、自分を含めて、何一つ。 彼は日々政務をこなす裏で、ひたすらに考えづけた。停滞を、呪いとも言えるこの停滞を打ち破る何かを。 それほど時を得ずに、一つの答えに気がついた。 大きな力が必要である。世の中に衝撃を与えるには、いずれにせよ、大きな力がいる、と。 ガリアは大国であるが、世の中を動かそうとしたら大きな力がいる、と。 だが現状では、それは難しかった。国内をまとめるには力が足りない。反対派を粛清しても、結局は己の力をそぎ落とすことになるだけなのも判っていた。 それが変化を迎えたのは、些細な気まぐれがきっかけであった。 始祖の香炉、という秘宝がある。名前だけは知っていた。今自分が常に手にはめている、『土のルビー』と並ぶ初代の頃より伝わる宝。 だが、常に王の指にある土のルビーとは違い、香炉は厳重に秘蔵されている。 この時、王宮で宝物庫の整理点検・目録更新があり、ジョゼフは初めてその香炉を目にすることになった。 そして侍従長より聞いた、香炉に関するおもしろい逸話。 「これは香炉としては、不思議なことに役立たずなのです」 「役立たず? 香炉が?」 「はい。見たとおりの簡素な作りなのに。誰かがいたずらか呪いかで魔法を掛けたようで。香炉でありながら、この香炉にくべられた香は、一切の薫りを失うのです」 ジョゼフは唖然としてしまった。誰だ、そんなとんでもないいたずらをしたのは。 ……決まっている。この香炉が『始祖の香炉』である以上、犯人は一人しか考えられない。 「偉大なる始祖のいたずらなのか?」 「かも知れません。あるいは教訓ともいわれています」 「ほう?」 ジョゼフは少し興味がわいてきた。侍従長に続きを促す。 「始祖の名を冠する宝物は四つあると伝わっています。トリステインに伝わる『始祖の祈祷書』、アルビオンに伝わる『始祖のオルゴール』、ロマリアのとある家に伝わる『始祖の彫像』、そして我がガリアの『始祖の香炉』です。ですが……」 「ですが?」 言い淀んだ侍従長に、さらなる催促をする。 「どれも不思議なことに『意味のない』ものばかりなのです。 トリステインの祈祷書は、中に一切の文字が書かれておらず。 アルビオンのオルゴールは、いかなる調べも奏でず。 ロマリアの彫像は、何を象ったのかが誰にも理解できず。 そしてガリアの香炉は、いかなる薫りも発せず、です」 「なるほど。一つだけならともかく、そろいもそろって、となれば、始祖が謎かけの一つ位しておるのかもな」 ジョゼフの言葉に、侍従長も力強く頷いた。 「我が国を初めとする研究機関で、謎の解明に挑んだこともありましたが、結局のところ何も判らなかったそうです。特に我が国の香炉の場合、他と違って明らかに魔法の介入がありますからな」 文字のない書は子供にでも作れる。 意味不明な彫像も何とでもなる。 だが、音のしないオルゴールとなると細工物の知識が必要になるし、ましてや薫らない香炉は明らかに異常だ。 香炉はただの入れ物で、香が薫るのは香自身の働きだ。なのにそこに入れると薫りがしないというのは明らかに何か別の力が働いている。 「おもしろい。少し見てもいいか」 思えば、これこそがジョゼフにとって、最初の分岐点であった。もしここで彼が香炉に興味を示さねば、後の歴史は大幅に変わっていたことであろう。 他の人では許されないことであっても、王ならば通る。 管理のものは難渋を示したが、それでも王の意向がまかり通った。 そしてこの日、ジョゼフの人生は第一の激変を迎えた。 「まさか、この俺が、な……」 ジョゼフは悩んだ。自らの内に眠っていた魔法の力、『虚無』。 始祖の直系たる証。最高峰の魔法。 この事実を公開すれば、ガリアのすべてが自分になびくことは明白であった。 だが一つだけ懸念があった。 前例がなさ過ぎる。始祖の秘宝に秘められていた謎は、虚無である自分にしか理解できない。 すなわち、自分が『虚無の担い手』であることを証明することが難しいのだ。 自分が得た『虚無』は『加速』。すばらしい力であるが、いささか弱い。万人に自分が『虚無』であることを証明するには、ある意味わかりやすさが足りない。 魔法具のたぐいであろうといわれる可能性も高い。 証拠がいる、とジョゼフは考えた。 一つだけ幸いなことがあった。虚無に目覚めると同時に、コモンマジックが使えるようになったのだ。とりあえずそのへんは秘密にしたまま、ジョゼフは始祖に関する文献を調べまくる。 結論として思い至ったのが『使い魔の召喚』であった。 かつて始祖は、『四人の人間』を使い魔として持っていたと伝えられている。そして今の世に、『人』を使い魔として持つメイジは存在していない。もし自分が正しく『虚無の担い手』、始祖の後継たる存在ならば、『人』を使い魔として召喚できるのではないだろうか。 そう考えたジョゼフは、密かに準備を整え、召喚に挑んだ。 それが第二の激変となった。 「ここは……」 術は成功し、召喚のゲートから現れたのは、紛れもない『人』であった。 やはり、と思う中、ジョゼフは現れた人物に注目した。 若い女性であった。やや儀式張った服装からは、ロマリアの神官を思い起こさせる。 だがそれ以上に注目すべき点は、彼女が血にまみれていた点であった。 彼女自身には外傷は見あたらない。混乱はしていたが、その手に凶器を持っている様子もない。 だとすると、これは護衛か敵の返り血であろう。 ジョゼフは使い魔召喚の儀式における注意事項を脳裏に思い浮かべながら、ゆっくりと話しかけた。 「言葉は、通じているようだな」 「……あなたは? それにここは」 「私はジョゼフ。結果的にだが、そなたを召喚したものだ」 幸い彼女はきわめて理知的な性格であり、冷静に状況を受け止めた。 情報が交換され、そしてジョゼフは驚くべき事を知った。 「そちらも……か」 「私としては、うらやましい話ですけれども」 彼女の名はシェフィールド。但し本名ではなく、地位に付随した、役名のようなものらしい。真の名前は、明かさない風習があるらしい。 身分は神官。そして出身地は、東方--ロバ・アル・カリイエだという。 だが、そんなことはジョゼフにとっては些細なことであった。 彼に最大の衝撃を与えたのは、東方の現状であった。 東方は、戦争の中にあるという--一万年を遙かに超える、永遠の闘争の中に。 ジョゼフの問いに、シェフィールドは答えた。 東方は永遠の闘争の中にある、と。 彼女は神官の家系であり、過去の記録を知ることが出来る立場にあった。 生まれた時より続き、一度は終わったはずの戦いが、その直後より再び繰り返された。その光景に心を痛めた彼女は過去を調べ、そして知ったという。 誰も気にしていないこの戦いが、遙か過去より延々と続いているものであると。 ジョゼフは思わずそのことを詳しく聞いていた。 彼女も問われるがままに答えた。 彼女の調べによれば、まるで誰かがわざわざこの地に戦いを起こし続けているようだ、と。 これに対してジョゼフは、ハルケギニアを覆う、永遠の停滞について思うことを語った。 平和なのがうらやましい、と彼女は言ったが、ジョゼフの真意を誤解したりはしなかった。 ジョゼフの方も、永遠の闘争に、一つ不審な点を感じた。 戦争は文明を加速する。大賢者の知識から、ジョゼフはそれを悟っていた。 それは本能に直結した意志である。死にたくないという原初の本能が、武器を、防具を、戦術を、戦略を進化させる。 だが彼女の語る永遠の闘争には、それがなかった。いや、『意図的に抹消』されていた。 ジョゼフの問いに、彼女は語った。そういうものが萌芽することはあったらしいが、たちどころに対抗策が打たれて、定着することはほとんど無かったと。 これが決定的な疑惑になった。彼女から過去の記録を聞き、新戦術の発見とそれが潰えるまでの経過を聞く限り、発見はまれなのに対抗手段の確立があまりにも早すぎる。 まるで誰かがそれを望んでいないような様子であった。歴史に介入して、意図的に抹消したような印象を色濃く覚える。 そうでなければ、これほどの長い間、戦争が続くことはあり得ない。 戦争は巨大な消費だ。人か、物か、意志か。いずれかが不足して、戦いは終わる。正確には続行不能になる。 なのにそれが続けられるということは、そのためのシステムが出来上がっていることに他ならない。 戦争をするためにのみある世界。そんな世界でもない限り、そこまでの永きにわたって戦争状態を継続することなど、出来るはずもない。 それははからずしも、ハルケギニアのあり方に似ていた。永遠の闘争と、永遠の無変化。 意図は違えど、一つの世界を永遠に保つという点では全く同じであった。 そうしたことを二人は話し合った。そしてシェフィールドは、ジョゼフの使い魔となることを受け入れた。 現れた証は『ミョズニトニルン』。すべての魔導具を自在に使いこなす、始祖の使い魔が一つ。 ここにジョゼフは、虚無の担い手たる確かな証を得た。 だが、彼はそれを持ってガリアの掌握を行うことをしなかった。 なぜならばそれは…… ミョズニトニルンの力により、彼に第三の激変を与える事実が判明したからであった。 ミョズニトニルンはあらゆる魔道具を使いこなす。 それは始祖の秘宝といえども例外ではないはず。 そう考えたジョゼフは、彼女に『始祖の香炉』の力の解析を望んだ。 その結果-- ジョゼフは、知ってしまった。 この世界の真実の一端、大賢者の残した言葉の意味。 「この世界は『大いなる者』の遊戯場である」 はっきりと理解できたわけではない。そこまで踏み込むには、ジョゼフの智でも及ばなかった。 難しいのではない。足りないのだ。 異国語で編まれた文献は、その異国語を読めねば理解できない。そういうことだ。 彼に理解できたのは、ハルケギニアの停滞も、ロバ・アル・カリイエの戦争も。 自然のことではなく、意図的に為されていた、という事実。 この事を知った時、ジョゼフは狂った。 いや、ある意味正気に返ったとも言える。 「シェフィールド……壊そう、この世界を」 「御意」 「まずはエルフか……この軛を断ち切るには、奴らの存在を利用せねばなるまいな」 そしてガリアの地に、「狂王」が出現した。 弟を暗殺し、 その妻を辱め、 娘も、姪も利用し尽くす、慈悲を忘れた王が。 そして、そんな王の前に現れた、最大の「駒」。 あのエルフが心底より恐れる、絶対の力。 文字通り世界そのものを『物理的』に破壊できる存在。 「もうすぐだ。もう少しで、力が集まる。ロマリアも動いた。ゲルマニアも機を見て動くであろう……我々が動けばな。アルビオンに、すべてを集める。手向かうがよい、異界のメイジ、タカマチナノハよ」 ガリアの王は哄笑する。 「その力で、我諸共、すべてを破壊するがよい。ためらわば、我が壊すのみ」 そして、時空の間では。 「どうして、ここで待機なんですか!」 金髪紅眼の女性が、黒髪黒眼の男性にくってかかっていた。 女性の名前は、フェイト=T=ハラオウン。 男性の名前は、クロノ=ハラオウン。 名前からも判るとおり、二人は家族である。クロノは結婚して家を出ているし、フェイトは養子であるのである意味他人でもあるが、兄妹であるのもまた事実である。 二人が今いるのは次元航行艦『アースラ』のブリッジ。 未知の次元空間を旅してきたこの船は、あとわずかで目的の世界に接触をする、その寸前で停止していた。 「慌てるな、フェイト」 一刻も早く親友の元に駆けつけたい妹をなだめるべく、クロノは言葉を綴った。 「まず初めに、ここでいくら待機をしていても、向こう側での到着時間は変わらない。つまり、相手を待たせることにはならない」 「でも!」 「逆に、慌てて突入したら、むしろ大幅な遅延をもたらす可能性が高い」 「う……」 言葉を途切れさせるフェイト。 ここぞとばかりにクロノが言葉を重ねていく。 「向こう側の世界とこちらの時間の流れには、大幅な差違があるんだ。ここまではよかった。だが、最後の接触……相手の世界への突入は、やり直しがきかない。 最初の接触で、相手の時間流のどの位置に接続できるかが決まる。現時点の観測結果では、推定誤差五十年……うまくいけば彼女の召喚直後になるが、最悪だと五十年後になる」 フェイトの目に疑問が浮かぶ。何か方策はないのかと。 「いま最新の観測データを元に正確な進路を算定しているが、それでも誤差を五年以内にするのが精一杯だ。だが、一つだけ希望はある」 「何、それは!」 希望、の一言に弾けるように反応するフェイト。 「この世界は魔力の反応がきわめて大きい。そんな中に、明らかに彼女が発したと思われる魔力の残滓があるんだ。今現在においてもこれが大きな手がかりになっている」 「魔力の残滓って……なのはが、大規模な魔法を?」 「おそらく。負担が心配になるくらいの物らしい。明らかにリミット3を外している」 「そんな……」 よろめくフェイト。 「彼女がそこまでするとなると、平穏に過ごしている可能性は低い。だが、皮肉にも、それが希望になっている」 「どういうこと?」 問うフェイトに、クロノは図を空中に提示しながら説明した。 「三角測量だよ。後一度、彼女が大規模な魔力を放出してくれれば、そのデータを元に補正を掛けながら突入できる。そうすれば、間違いなく、その直後の時空にピンポイントで突入できる。諸刃の剣だけれどね」 「なのは……」 親友の嘆きをよそに、『その時』は着実に近づいていた。 前ページ次ページゼロと魔砲使い
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8898.html
前ページ次ページゼロのドリフターズ サウスゴータ地方はウエストウッドの森。 ウエストウッドの村の中、ティファニアの家には都合四人いた。 家主のティファニア、シャルロット、キッド、無力化されたメンヌヴィル傭兵小隊残党セレスタン。 セレスタンの杖は破壊され、縛られたままに轡まで噛まされて失神したまま床に転がされている。 "風のルビー"だけでなく、テーブルにはさらに"始祖のオルゴール"までもがあった。 シャルロットはティファニアから聞いた身の上話を頭の中で整理する―― ――ティファニアの父は現アルビオン王陛下にして、ウェールズの父でもあるジェームズ一世の弟。 つまりはウェールズの従兄妹であり、アンリエッタの従姉妹にもなる。 エルフの血を半分引くハーフでありながら、王家の血をも継ぐのがティファニアなのであった。 ティファニアの父は国王の弟という立場から、王家の財宝を管理する財務監督官という要職に就いていた。 そのような地位の人物であろうがなかろうが、エルフと交流があるというだけでも大問題になる。 それほどエルフとは恐れられる存在で、深く埋められることのない確執があるのだ。 人の目に触れさせることすら憚られるエルフを愛妾として、母娘共に日陰の中で暮らす日常。 そして父の仕事の関係上、ティファニアはルビーとオルゴールを幼少期から触れていたのだった。 ティファニアは優しい父母と、不便の中でも幸せに暮らしていたが・・・・・・それは唐突に終わりを告げることになる。 どこからかエルフの女を囲っているという情報が漏れ、事が公に露見する前に処断されることになった。 ティファニアは始祖のルビーと始祖のオルゴールを大層気に入っていて、子供ながらに持ち出してしまっていた。 一時的に逃れた父の部下の貴族の家にいることも、最終的にバレてしまって母は殺された。 ティファニアは幼少時にただ一人生き残ってしまったのだった。 その後は、匿ってくれたその貴族の娘にお世話になりながら、この孤児院代わりの小さな村で生活している―― (――そんな不祥事もまた・・・・・・) 今回貴族派が反乱を起こそうとした理由なのだろうかなどと、シャルロットは考える。 そういった積み重ねが王家の威光を失わせるに至り、取って代わろうという貴族派が動いたのだと。 「勝手に持ってきちゃったのは事実です。でも怖かった・・・・・・。父と離れ離れになったのも、母が死んだことも。 でもどんなに辛くて、悲しくて、苦しい時でも、オルゴールから流れてくる曲を聞くと不思議と心が安らいだの」 ティファニアを責めることは出来ない。人は・・・・・・生まれを選ぶことは出来ない。 (私がガリアの血を引くように・・・・・・) さらにハーフエルフであれば、人間からもエルフからも疎まれる存在となってしまうだろう。 目の前で母親を失い、偏見と差別の中で拠り所をなくした少女の苦悩は・・・・・・いかほどのものであったのだろうか。 そして今も・・・・・・人目を忍ぶように暮らし続けている、恐らくはこの先もずっと―― (でも・・・・・・) もしかしたらアンリエッタならばきっと歓迎してくれるのではと考えてみる。 アンリエッタにとって従姉妹でもあり、彼女は平民への偏見もない。 きちんと説明し、あくまで個人として――ハーフエルフの彼女を受け入れてくれるかも知れない。 ウェールズ皇太子にしてもそこまで無体なことをするような人物ではないと思う。 ただしやはり混血でもエルフ。両王が認めても、周囲は認めないだろう。 万が一露見した場合のことを考えれば、両王家にとって非常に憂慮すべき問題になりかねない。 「あの・・・・・・シャルロットさん、あなたのことも聞きたいな」 「そうですね――」 ティファニアにとって、辛い生い立ちの話でも、同年代の子と話すのは貴重で嬉しいことだった。 今まで生きてきて一度もない、夢見ていたこと。他愛無い話でも一向に構わなかった。 シャルロットもそんな気持ちを察して語る。短いながらも今だけはせめてと―― 「ガリア王国が滅びたことは知っていますか?」 「えぇ、姉さんからある程度。歴史や読み書き、計算は習ってます」 「なら話は早いです」 シャルロットはそれでも一応わかりやすく語る。ガリアの滅亡と自分達の軌跡―― 「――だから私はこの土のルビーを持っているんです。妹が香炉を持っています。 貴方が持っているそれは、きっと貴方が思っている以上に貴重なものなのです」 過去を語り、そこから通告しにくい本題へと繋げる。 6000年もの間、受け継がれてきた始祖のルビーと始祖の秘宝。 間違いなく本物であるのならば、始祖にまつわる最も尊い物品であり、決してお金には換算出来ないもの。 「それじゃあ・・・・・・」 悲しそうな顔のティファニアに同情しながらも、シャルロットは宣告する。 「はい、王家の所有物である以上は・・・・・・」 返還せねばなるまい。目零しするにはあまりに貴重なもの。 「そう・・・・・・ですよね・・・・・・仕方ないです。元々勝手に持ち出したものだし・・・・・・」 これ以上ないほどに落ち込むティファニア。シャルロットは思わず尋ねてみる。 「それほどまでに必要ですか?」 「わたしは・・・・・・これのおかげで・・・・・・」 「・・・・・・?」 ティファニアは少し悩んだ様子を見せたが、意を決するとオルゴールを動かす。 「・・・・・・聞こえますか?」 「いいえ?」 シャルロットはキッドへと目配せする、キッドも同様にかぶりを振った。 「わたしには聞こえるんです、それもこの指輪を嵌めている時だけ」 「はぁ・・・・・・」 呆けた声をシャルロットは漏らす。あまりにも要領を得ない。 動いてはいるようだったが、単に壊れているだけなのではないのかと。 なにせ大昔のシロモノだ。始祖の香炉もその役割は果たさないし、始祖の祈祷書もかなりくたびれていた。 しかも指輪を着けている時だけに聞こえる? ますますわけがわからない。 「貸してもらえますか?」 頷くティファニアから風のルビーを受け取ると、シャルロットは指に嵌める。 掛けられた魔法によって指輪がピタリとサイズ調整されて、風と土が隣り合わせに並んだ。 しばらく待ってはみたものの・・・・・・やはり曲はおろか音一つ聞こえない。 とりあえず指輪をはずして、ティファニアへと一旦返す。 「この曲を聞いていると安らぐだけじゃなく、歌とルーンが頭の中に浮かぶんです」 「頭の中に浮かぶ? ルーンが・・・・・・ですか」 「それで・・・・・・わたしはそれのおかげで生き延びれたの。その魔法のおかげで、今も平和なんです」 ティファニアはゆっくりと続ける。先程からとても嘘を言っているようには見えなかった。 いやそもそも嘘を吐けるような子にすら見えない。 「その魔法は・・・・・・"記憶を奪う"んです。母が殺され、わたしも殺されそうになった時。 それまでは歌だけだったんだけど、ルーンも頭の中に浮かんできて・・・・・・それを唱えたの。 そしたら怖い人達はみんな目的を忘れて去っていった。今も変な人が来たらたまに使ってるんです」 (記憶を奪う・・・・・・?) シャルロットの頭の中には様々な魔法と効果、ルーンの詠唱呪文が入っている。 それらは当然、自力で魔法を使うことを夢見て昔から詰め込んできたもの。 しかしその中に明確に記憶を奪う魔法なんてものは存在しない。 先住魔法ならば可能なのかも知れないが、その場合はルーン詠唱ではなく口語の呪文になる。 (強いて言うなら・・・・・・) 系統魔法であれば水魔法だろうか。 直接触れて精神操作なりすれば、似たようなことが出来ないこともなさそうである。 『制約』――ギアスと呼ばれる魔法でも、思考を封じて誘導することで近い状態作り出せるだろう。 他にはその道のプロフェッショナルが高度な水の秘薬を作り、惜しまず使えば或いは・・・・・・? 地下水も肉体を乗っ取っている間の記憶を残すかは自由に出来ると言う。 シャルロットが色々と考えていると、ティファニアは彼女にしか聞こえない旋律に合わせるように唄い出す。 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守り切る。 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。 そして最後にもう一人・・・・・・。記すことさえはばかれる・・・・・・。 四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた・・・・・・―― 「ミョズニトニルンだって?」 額にそれを刻むキッドが憶えのある歌詞に突っ込む。 「・・・・・・まぁ始祖の歌のようですからね。もし本物で本当に聞こえるというのなら内容に不思議はありません」 伝説を語る歌に出てくるルーンを宿すキッドとブッチ。 残りの二人はどこにいるのだろうと、シャルロットは思う。 「それで・・・・・・それが聞こえてくる歌、というわけと?」 「うん」 (あーーー・・・・・・思い出した) ともすると頭の中でデルフリンガーの声が聞こえる。 (何が?) (今の歌で思い出したよ、"ブリミル"のこと) デルフリンガーが口にした"名前"にシャルロットはポカンと口を開けてしまっていた。 「はぁ?」 無意識に声に出してしまって、キッドとティファニアが目を丸くする。 「・・・・・・失礼、ちょっと考え事をさせて下さい」 (またいつものか) と、地下水。地下水自身もそうだが、インテリジェンス・アイテムに込められた意思は長きを生きる為か、その多くを忘れている。 地下水は適度に暗殺者として働いていたから、そこまででもなかった。 しかしデルフリンガーはかなり大人しくしていた期間があって、いくつかの『特性』も忘れていた。 そしてたまに、ふとした時に思い出すことがある。 (おれぁ昔ブリミルに使われてた) (・・・・・・?) (・・・・・・何を言い出すんだコイツ) シャルロットのみならず地下水まで呆れる。されどデルフリンガーは冷静に話し出す。 (正確にはブリミルの使い魔、"ガンダールヴの盾"だった) 嘘・・・・・・は言っていないようであった。この場でいきなり言い出す意味もない。 地下水はそこまで思うところはないようであったが、シャルロットは驚くしかない。 つまりデルフリンガーは最低でも6000年の時を生きてきて、しかも伝説中の伝説。 始祖ブリミルの使い魔に使われていたなど、「はいそうですか」と信じられるわけはない。 (まだ明瞭としない部分もあるがね、証明出来るよ。あのおっぱいのでっかいお嬢ちゃんと話させてくれ) シャルロットは嘆息をついてナイフを引き抜くと机の上に置いた。とりあえず聞くだけ聞いてみようじゃないかと。 「・・・・・・?」 「意思が込められたインテリジェンスナイフです、名を"デルフリンガー"」 「デルフリンガー? そんな名前だったっけ?」 「いえ、以前に説明した地下水の他にもう一人いるんですよ。 ・・・・・・キッドさんは触った方が早いかも知れませんね」 シャルロットに促されてキッドは地下水に触れる。額のルーンが輝くとその性質全てをすぐに理解した。 「ああ、よくわかった」 「まぁ一応秘密なので、そこのところお願いします」 二つの意思があることを知っているのは、家族達とアンリエッタ王女くらいである。 切り札である以上は、おいそれと晒したくない。知る人も最小限に留めておきたい信条。 「おう、娘っ子」 一段落した後に、デルフリンガーはティファニアへと声を掛けた。 「えっ? あ、わたしですね。初めて見まして、その・・・・・・はじめまして」 「おうよろしく。そんでだなあ、お前さんの記憶を消す魔法っての・・・・・・『虚無』だな」 ティファニアは首を傾げ、シャルロットは静かに聞いていた。 もういちいち驚いていたらキリがなく、突拍子のないことを言い出すのだろうこともわかっていた。 「この世の物ってのは生き物も含めて小さい粒で構成されていて、系統魔法はそこに干渉する。 んでもって虚無ってのは、粒の中のさらに小さい粒に干渉する――みたいなことを言ってた」 デルフリンガーは、"誰が"とは言わなかったが、前後から考えれば一人しかいない。 それに虚無を使ったとされるのは、歴史上一人しかいない。偉大なる始祖ブリミルのみだ。 「わたしなんかがそんな・・・・・・何かの間違いですよ」 「そんなに凄いものなのかい?」 何も知らないキッド、さらにティファニアへも含めてシャルロットが解説する。 「虚無はおよそ6000年前の始祖ブリミル。ハルケギニアで最も広く崇拝されているその人が使ったとされる魔法です。 火・水・風・土のどれにも該当しない。幻の"五番目の系統"――いえ、伝説の始祖たるメイジの虚無系統・・・・・・。 だから言うなれば"零番目の系統"、ですか。いずれにせよその始祖ブリミル以降は誰も使えたことのない伝説です」 「いーや、ブリミルだけじゃねえよ」 シャルロットの言にデルフリンガーが訂正する。 「表沙汰になってないだけで、時代の中には何人かいた筈だ。潜在的なのも含めてな」 「そんな・・・・・・――」 ――わけがないと続けるよりも、実際に見るのが一番早いとシャルロットは判断する。 それはデルフリンガーも考えていたことのようであった。 「娘っ子、魔法見せてやれ。相棒のちっちゃい頭の中にない魔法の筈だからな」 「・・・・・・そうですね、見せてもらえますか? ティファニアさん。丁度いい実験台もいますし」 記憶を"奪う"魔法。地下水の水魔法はあくまで操っている間、精神を眠らせて記憶させないというだけ。 もしくはさながら眠って夢でも見ていたように思わせたりする程度だ。 いずれも操っている間だけのことであり、既に刻まれている記憶をどうにかすることは出来ない。 他の方法にしても、奪うと表現するにはいささか違う。 明確に奪うというのがどういうものなのか。それを見てみないことには始まらない。 シャルロットはキッドを一瞥し、次いでもう一人の男へと目を移す。 キッドもすぐに察したようで、転がっているセレスタンを何度か蹴飛ばした。 「――っ!?」 意識を取り戻したセレスタンを仰向けにし、キッドは銃を抜いて額へと突き付ける。 肩を足で踏みつけて、もがくのを多少大人しくさせたところで轡をはずしてやった。 「ッッ!! このクソ野郎が!! 殺すなら殺しやがれ!!」 自棄になっているのか、興奮しているのか、気性の荒さか、罵倒が目立つ。 だが本来の傭兵としての冷静さが、暴れながらも周囲を観察しているようだった。 「ここはあの村か・・・・・・よくも木偶で騙しやがって。チッ・・・・・・何とか言えよ!!」 戦慄するほどの強さだったが、だからって人形如きにやられたのが情けなく感じる。 ようやく落ち着き払って、見下ろされている状況を窮屈に感じた時・・・・・・セレスタンは気付いた。 「なっ・・・・・・てめえ!!?」 悠然と五体満足で立つシャルロットの姿。見覚えはある。 遠目ではあったが、確かウェールズ皇太子の影武者らしい者の横で、隊長と相対していた少女だ。 そいつがこの場にいるということは―― 「マジ・・・・・・かよ、隊長が・・・・・・負け・・・・・・た?」 あの隊長が獲物を逃がすわけがない。逃したところを見たことはない。 「そう、私が殺した」 少女の言葉。それなりに長い付き合いだった、隊長の強さもよく知っている。 だがこのガキがここにいるということは、肯定の言葉がなかったとしても、つまりそういうことなのだ。 シャルロットは一枚の紙を取り出すと、書かれた名前を読み上げる。 「・・・・・・ッ!!」 セレスタンは迂闊に喋るようなことはなかったが、表情を見ればわかった。 元々メンヌヴィルが嘘を吐いたとは思ってもいなかったが――ここに書いてあることに間違いはない。 セレスタンは一転して大人しくなる。完全に観念したようであった。 隊長が死んだのならもう自分が助かる可能性もない。自殺することすらままならないと。 「ティファニアさん、お願いします」 乱暴なやり取りに怯えていた少女に声を掛ける。それでも頷いて杖を取り出した。 「えっと・・・・・・」 ティファニアの瞳は「どれを?」と聞いてくる。 「先ほどまでの一連の流れを・・・・・・――可能ですか?」 「うん、大丈夫だと思う」 ティファニアは深呼吸をすると、その艶やかな唇からルーンが流れ出す。 「ナウシド・イサ・エイワーズ――」 なるほど、確かに聞いたことのないルーンだ。しかもどの系統にも当てはまらないパターン。 もしこれで四系統のどれにも該当しない記憶を奪う魔法とやらが発動したなら、納得するしかないだろう。 先刻の歌声のように、美しい旋律を奏でるように紡がれ続ける詠唱。 キッドはどこか得も言われぬ気分に身を任せる。 いつまでも聞いていたいと思わせる心地良さを感じた時、詠唱は終わりを告げた。 『忘却 』―― セレスタンの眼前の空気が歪む。少ししてそれが戻ると、セレスタンは呆けていた。 「成功した、と思います」 しばしそのまま観察する。セレスタンはボーッとした後にみるみる内に生気が戻って来るようだった。 「こんにちは」 タイミングを見計らってシャルロットは挨拶する。まるで今初めて会ったかのように。 「てめえ・・・・・・は・・・・・・?」 その表情と態度に既知感を覚える――確定だ。 「隊長は!?」 「言わないとわからない?」 「あ・・・・・・あぁ、でも・・・・・・あれ? 隊長は死んだ、だけど本当にお前が殺したのか?」 「えぇ、そうだけど・・・・・・?」 シャルロットは疑問符を浮かべる。忘れてはいるようだったが、どこか齟齬がある感じ。 「あの・・・・・・奪うと言っても消えるわけじゃなくて、大抵別のことで埋まるんです」 「なるほど」 シャルロットはこれ以上の問答は無用と地下水を握り、セレスタンを『眠りの雲』で眠らせた。 具体的に聞かれると面倒だし、乱暴に気絶させてはまたティファニアを怖がらせてしまうだろうと。 「つまり・・・・・・書き換えられるわけですか?」 「はい、当たり障りない感じで・・・・・・すり替えられるみたいです」 「ふむ――」 認めざるを得ない。記憶そのものに干渉してこうもあっさりと任意に改変するとなれば、四系統魔法の域を超えている。 シャルロットが椅子に座ると、キッドとティファニアも同様に座り直した。 「――虚無の担い手・・・・・・、間違いないらしいですね」 シャルロットは自分自身を言い聞かせるような声音で、そう言った。 前ページ次ページゼロのドリフターズ
https://w.atwiki.jp/praytohokuchurch/pages/101.html
「東日本大震災一年にあたり追悼と再生を願う合同祈祷集会」 (日本キリスト教協議会・カトリック中央協議会主催)において捧げられた祈り 共同祈願(連祷)(司式者の言葉に続いて自由に祈ることができる。下記の例文を利用してもよい。) 司式者 わたしたちと悲しみを共にしてくださる主キリストと共に父である神に祈りましょう。 先唱者 神よ,わたしたちの声を聞いてください。それは,不慮の死を迎えた犠牲者たちの声だからです。 (自由な言葉で続ける) 会 衆 主よ,わたしたちの祈りを聞き入れてください。(沈黙) 先唱者 神よ,わたしたちの声を聞いてください。それは,愛する人を失った悲しみの中にある人たちの声だからです。 (自由な言葉で続ける) 会 衆 主よ,わたしたちの祈りを聞き入れてください。(沈黙) 先唱者 神よ,わたしたちの声を聞いてください。それは,放射能の脅威によって故郷から離れなければならなくなった人々の声だからです。(自由な言葉で続ける) 会 衆 主よ,わたしたちの祈りを聞き入れてください。(沈黙) 先唱者 神よ,わたしたちの声を聞いてください。それは,被災した方々に寄り添うために心を尽くしている人々の声だからです。(自由な言葉で続ける) 会 衆 主よ,わたしたちの祈りを聞き入れてください。(沈黙) 司式者 恵み豊かな父よ,苦しみと悲しみの中からあなたに叫ぶわたしたちを顧みてください。あなたの慈しみ深いはからいに,いつも心から信頼することができますように。わたしたちの主イエス・キリストによって。 会 衆 アーメン。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8790.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第八十四話 守護鳥獣VS三億年超獣 怪魚超獣 ガラン 高原竜 ヒドラ 友好巨鳥 リドリアス 登場! ヤプールは、らしくもなくうろたえていた。 「うぉのれぇぇ! あと一息でつぶせたというものを、なんだあの怪獣どもは。なぜ人間どもに味方するのだ!」 マイナスエネルギーの波動を振りまきながら、ヤプールの怒号が響き渡る。 東方号を破壊せんものと、その眼前にまで迫っていたガランを跳ね飛ばし、挟み撃ちにして吼える二匹の怪獣。 一匹は、ワシのような頭部と屈強な四肢を持つ鳥人にも似た容姿を持つ土色の大鳥。 もう一匹は赤いとさかと骨翼のような細長い翼を持つ、青い鳥の怪獣。 その二匹が東方号と、人間たちとエルフたちを守るように現われ、今、超獣へと立ち向かおうとしている。 ”これはいったいどういうことなのだ?” さしもヤプールの想定も大きく超える出来事に、同じことを人間たちもエルフたちも思った。 あの二匹の怪獣は、自分たちを守ってくれるというのか? なぜ? いったい何ものなのだと? しかし、テュリュークは現れた二匹の怪獣を見て、感動にふけるように目を潤ませていた。 「おお……あれこそ、古に聖者アヌビスとともにあったという……大いなる意志よ。やはり、伝説は本当だったのですな」 代々、ネフテスの統領しか閲覧することを許されない古文書。それに記された絵に出てくるうちの一匹の怪獣と、 遺跡の入り口にあった石像、そして砂漠から現れた怪獣の姿が一致する。 古文書にはこうある。再び、世界に大厄災の兆しが現れるとき、地に眠れる守護者たちは目覚めて、心ある者たちを助けると。 そしてそのころ、ようやく遺跡から地上に上がってきた才人たちも、眼前に広がる壮絶な光景に息を呑んでいた。 「ええっ! か、怪獣が、三体!?」 「あれは、ヤプールの怪魚超獣ガラン! それに、あっちのは確か……高原竜・ヒドラ!」 頭の中に叩き込んであった怪獣と超獣のデータを引き出して、才人は叫んだ。 超獣がいるということは、やっぱりヤプールは東方号をつけていたのか。しかし、どうしてヒドラがここに……? 高原竜ヒドラ、科学特捜隊の時代に伊豆の大室山火口から出現した怪獣で、テロチルスやバードンなどと同じく日本に 有史以前に生息していた古代翼竜の生き残りとも言われている怪獣だ。だが、その生態には謎が多く、はっきりとした 正体はわかっておらず、初代ウルトラマンとの交戦中に逃亡後消息不明となり、現在なお幻だったのではという説さえある。 さらに、もう一匹の怪獣……GUYSアーカイブドキュメントにもデータのない、名も知らない怪獣だが、才人とルイズは その怪獣に確かに見覚えがあった。 「ルイズ、あの怪獣、覚えてるよな!」 「ええ……祈祷書のビジョンに出てきた、始祖ブリミルたちといっしょに戦っていた怪獣! まさか、生きていたの」 夢でも幻でもない。その怪獣こそ、エギンハイム村の森の地下に眠っていて、翼人たちに守られていた、友好巨鳥リドリアス。 ムザン星人とガギとの戦いの後、どこかに飛び去っていたはずなのに、不思議な力に導かれてここにやってきた。そう、彼らが かつて共に戦った大切な仲間と同じ、かけがえないものを持つ者たちを守るために。 驚くルイズたちの見守る前で、怪獣たちは何も答えず、戦いは待たずに始まった。 ヒドラ&リドリアス対ガラン。 怪獣と超獣のバトルは、まずはヒドラがくちばしでガランをつつきまわした。鋭いくちばしでの乱打で、ガランの無数に生えている うろこがちぎられて落ちていく。 苦痛で吠え立てるガラン、さらに怒りを増すヤプールの怒声が響き渡る。 「おのれぇぇっ! あくまで邪魔しようというのか。許さんぞ! ならばガランよ、先に目障りなそいつらから始末してしまえ!」 命令を受けるまでは棒立ちに近かったガランだが、命令を受けると素早くそれを実行した。異常に発達した腕を振るい、 ヒドラを弾き飛ばすと、向かってきたリドリアスに破壊フラッシュを放った。爆発が起こり、ひるまされるリドリアス、しかし その後方から再びヒドラがぶつかってきて、強靭な腕でガランと格闘戦にはいった。 体長八十五メートルと、ウルトラマンAをさえ大きく上回る巨躯を誇るガランに対してヒドラは六十メートル。鋭い爪で ガランをひっかいてウロコを傷つけ、ガランが体躯を活かして上から攻撃をかけてこようとすると、素早く動いて背中についている ヒレを引きちぎろうとする。 「なにをしている! そんな怪獣ごとき、超獣のパワーで叩き潰せぇぃ!」 ヤプールは激昂し、ガランは豪腕をふるうがヒドラはひるまない。くちばしと爪の攻撃で食い下がり、ガランに傷を与え続けている。 しかもガランがパワーで圧倒しようとすると、リドリアスが空から体当たりしてガランの姿勢を崩させて援護するではないか。 超獣は怪獣よりも強いはずなのにとヤプールは怒り、見守っている人間やエルフからは喜びの声があがり始めた。 「あの怪獣たち。強いじゃないか!」 「ああ、いいぞ! やっちまえ!」 しだいに、ヒドラとリドリアスを応援する声が増え始めた。その中にはギーシュたち水精霊騎士隊や、大勢のエルフも混じっている。 わずか数分の間とはいえ、ともに戦ったことが彼らを戦友の間柄へと変えていた。 一進一退の攻防が続き、体当たりをかけるヒドラ、尻尾でなぎ払うガラン、攻撃の余波から人間たちを守ろうとするリドリアスが 大地を踏み鳴らすたびに砂漠が震え、雄たけびが大気に悲鳴をあげさせる。 ガランが口を大きく開いた。その喉の奥から真っ白い煙が吹き出してヒドラを襲う。 「ガランガスだ!」 才人が悲鳴のように叫んだ。ガランの吐き出すガスは、別名をデボンエアガスともいい、浴びた物体を分解してガランガスと まったく同じ成分にして上で吸い込んでしまうという恐るべきものなのだ。コンクリートのビルでさえ一瞬で消滅させ、エースも 苦しめたそれがヒドラに向かう。 が、鳥怪獣に対してガス攻撃が効かないのは誰が考えてもわかることだろう。ヒドラは背中の翼を大きく羽ばたかせ、 ガランガスをあっさりと吹き飛ばしてしまった。 さらに、突風でよろめいたところにヒドラは口から火炎を吐いて攻撃する。すると、元々は魚のガランに対しての威力は 抜群で、背びれが焼け焦げて苦しげな声を出した。 ほぼ五分の戦い。いや、攻撃の勢いではヒドラが押し始めている。 超獣の強さを知ってるルイズは、善戦するヒドラとリドリアスに感心しながらも才人に尋ねた。 「ねえサイト、あのサカナモドキの超獣って弱いの?」 「いいや……ありゃたぶん、相性の問題だろうぜ」 才人は確信げに答える。ガランは確かに強豪とまで言える超獣ではないが、それでも豊富な武器を備えていて決して あなどれる相手ではないはずだ。それなのに怪獣に押されているのは、ガランとヒドラの性質の違いが大きいと思われる。 簡単に言うと、自己の意識が希薄でテレパシーでの命令に従って暴れるガランと、自分自身の意思で戦うヒドラとの差だ。 ガランは命令を受けるために、どうしても行動がワンテンポ遅れる上に機械的な行動になってしまう。元が魚だったのだから 知性が乏しいのは仕方がないといえば仕方ないが、これは大きな差だ。なにせ、ヒドラはウルトラ兄弟の中でも格闘戦に 秀でている初代ウルトラマンを、スペシウム光線を使われるまでほぼ圧倒していたほど猛烈な攻撃をするのだ。 それに、今見たとおりガランガスは風を起こせるヒドラに対しては極端に相性が悪い。卑怯な手を使って東方号やエルフたちを 狙おうとしてもリドリアスに邪魔される。リドリアスは、ガランの攻撃が人間やエルフに向かおうとする度に、身を挺して 彼らを守っていた。 「やっぱりあの怪獣は、六千年前に始祖ブリミルと……その当時のガンダールヴといっしょに戦っていた、あの怪獣なのね」 ルイズが、人々を守りながら戦うリドリアスの姿に始祖の祈祷書のビジョンで見た、怪獣たちすら傷つけまいとしながら 戦うブリミルと仲間たちの記憶を呼び起こしながらつぶやいた。すると、才人がファーティマを背負っているためにルイズに 預けられていたデルフリンガーが言った。 「懐かしいな……リドリアス、またお前に会えるとは夢みたいだぜ。お前さん、もう目覚めてたのかい」 「リドリアス? あの怪獣はリドリアスっていうの?」 「そうさ、六千年ぶりだぜ。ガンダールヴの翼として、大空を駆けたあいつの勇姿をもう一度見れるたぁな。変わってねえな、 俺も生まれてすぐにあいつの背で振られるようになったが、あんときは楽しかったな。ま、おれはだいたい敵の攻撃を 受けるのに使われてばっかしだったんだが」 しみじみと語るデルフの言葉を、才人とルイズは黙って聞いていた。またどうせ、今になって思い出したというのだろうから 突き詰めて聞くだけ無駄だということはわかっているし、デルフにはデルフの心情があったのだろう。しかし、あの太古の ビジョンの当人がまだ生きていたとは本当に驚きだ。 「怪獣って、長生きなのね」 「いいや……やっこさんでも、さすがに六千年も生きられやしないよ。思い出したぜ……あの戦いが終わった後、リドリアスは ほかの生き残った仲間たちといっしょに深い眠りについた。ブリミルたちが一命を賭してさえ、解決し切れなかった危機が 未来に蘇ったときのために」 「自らを、封印? そこまでして備えるって、解決し切れなかった危機ってなんなのよ?」 「……思い出せねえ」 やっぱりね、ルイズと才人はため息をついた。デルフは魔法で作られた精神体が剣に寄生している、いわば岩石宇宙人 アンノンのようなものらしいので、記憶構造も人間とは異なっているらしい。もしかしたら、特定のタイミングで記憶が蘇るか、 特定のタイミングが来なければ記憶が再生しないようになっているのかもしれないが、確証はない。 ガランとヒドラは激闘を続け、ときたまリドリアスが援護をかけている。 「けど、だったらどうしてあの二匹は今現れたの? わたしたちのピンチを、どう知ったっていうの?」 「野生の勘……いや、ハーフエルフの嬢ちゃん、あの子が呼んだんだろうな」 「ティファニアが? どういうこと?」 「……自覚はまだねえだろうけど、あの子はよく似てるんだよ……俺をふるって、救えないものまで救いたがった、不器用で 危なっかしいくらい優しい、あの娘とな」 デルフの心にぼんやりと、ティファニアのシルエットが槍を握って勇敢に戦うエルフの少女と重なる。 そのとき、リドリアスがティファニアのほうを向いて鳴いた。それは、巨体でありながら小鳥や子犬のように優しい声で、 歌うようなその音色は、殺伐としかかっていた人間とエルフたちの心に落ち着きを取り戻させた。 「えっ! なに、わたしを呼んでるの?」 リドリアスの視線を感じて、ティファニアは手にずっと握り締めていた輝石を見つめた。輝石は静かにまたたき続けており、 まるで生きているような感じを受けた。 けど、ぼっと見つめてる時間はなかった。リドリアスのなにかを訴えるような視線から、ティファニアは今自分がすべきことを思い出した。 「そうだ! サイト、はやくその人を手当しないと!」 「あっ! そうだった。今なら東方号に乗り込めるぞ、急ごう」 東方号にはクルデンホルフの用意した最新の医療設備が搭載されている。後に数千人単位での搭乗も想定されているので、 現在は満載ではないものの医薬品や水の秘薬の備蓄も多い。エルフの魔法で傷だけは治せても、失血や体力の消耗などは 治療が必要だ。 ウルトラマンAになってヒドラとリドリアスを援護しようかと思いかけていた才人とルイズは、東方号へと急いだ。大丈夫、 あの二匹は強い! そもそも鳥が魚に負けるものか、魔法で足を貸してもらいながら彼らは急ぐ。 守るために自ら蘇った伝説と、壊すために無理矢理太古の時代から引きずり出されてきた化石の戦いは佳境に入っていた。 激闘で疲労し、羽根を舞い散らせながらも果敢に戦うヒドラ。ガランは破壊フラッシュでヒドラを苦しめながらも、ヒドラも 負けずに突風と火炎攻撃で渡り合い、リドリアスも破壊光弾を放ってガランを追い詰めていく。 そしてついに、ガランが弱って砂漠に倒れこんだ。ここぞとばかりに、ヒドラはガランの上を取ってくちばしでつついていく。 「どうしたガランよ! 立て、立ってひねりつぶせ!」 怒りを最大限に燃え上がらせたヤプールの叫びがガランを叱咤する。しかし、もはやガランには命令を実行するだけの余力は 残っていなかった。冷静さを取り戻したコルベールが、ヤプールに冷たく言い放つ。 「無駄だヤプール、あの超獣はもう戦えまい」 「なんだとぉ!」 「いくら改造を施したとはいえ、砂漠の熱気の中でいつまでも魚が平然としていられるとでも思っていたのか? 我々でさえ、 エルフたちの大気の精霊の加護がなければ一時間と持たない酷暑だ。貴様もそれを承知していて、砂漠の地下水を 出現と同時に噴出させて冷やさせていたんだろうが、戦いが長引きすぎたな」 「うぬぬぬぬ……」 遊ばずに、さっさと東方号を破壊しておけばよかったとヤプールは後悔した。まさか、見下していた人間にこうまで冷静に 指摘されるとは、ヤプールにとっては憤怒以外の何物でもない。 ガランも、環境が整えば強かったのだろうが、今回はあまりにもガランにとって不利な条件が過ぎていた。抵抗力の衰えた ガランを、ヒドラとリドリアスが後ろ足で掴んで空へと飛び上がる。翼を大きく羽ばたかせ、クリーム色の竜巻を巻き起こしながらの 急速上昇、みるみるうちに高度数千、数万メートルの高高度へと達していく。 「すげぇ……」 恐るべき上昇力、風竜を見慣れたエルフたちも飛翔力のあまりの速さに舌を巻いた。もし彼らが地球人であれば、ロケットの ようだと評したに違いないが、あいにくとこの世界には匹敵するほどのものがなかった。 そして……成層圏。彼らは掴んでいたガランを放した。 後は重力の赴くまま、飛行能力を有しないガランは対抗できない星の力によって奈落の淵へと落ちていく。 落下加速度、毎秒9.8mとすれば、落下のエネルギーは速度と質量に比例するから、六万トン×落下の終末速度となる。 わざわざ計算などしなくとも、誰にでも莫大なエネルギーが墜落と同時に放出されることがわかるだろう。そしてこの場合、 その事実がわかるだけで十分であった。 星の引力という強大なパワーによって、隕石と化しつつあるガラン。ヤプールは、怒りに燃えながら空に手をかざした。 青空が割れて、異次元ゲートが不気味な口を開く。 「やむを得ん。今回は敗北を認めてやるわ。だが覚えていろ! 次はさらにパワーアップしたガランを持って、貴様らを 必ず叩き潰してくれるわ!」 落下中にガランをゲートで受け止めて撤退させようというのか。ヤプールは自らの作戦の不備を認めて、後日の報復を宣言した。 だが、異次元へと通じる地獄の門へ向けて、東方号の甲板から青い矢のような閃光がほとばしった。 「リージョン・リストラクター!」 閃光は異次元ゲートに突き刺さり、次の瞬間ゲートは水溜りが蒸発するように縮んで消滅してしまったではないか。 「なにいっ!?」 ヤプールの絶叫がこだまし、ガランはなにもない空間を素通りして落ちていく。 異次元ゲートを消滅させた光。東方号の甲板では、ガッツブラスターを構えた才人が不敵に笑っていた。 「ざまあみろヤプール。お前の思うとおりにさせるかってんだ!」 ガッツブラスターの先端には、キャプチャーキューブとは違った緑色のアタッチメントパーツが取り付けられていた。 これこそ、対異次元人ヤプール用のメテオール、リージョン・リストラクター。異次元空間封印用メテオール、ディメンショナル・ ディゾルバーのプロトタイプといえる兵器で、同じようにヤプールの異次元ゲートを強制的に閉鎖させることができる。 効果は短時間であるのが欠点だが、携帯できるくらいの大きさなのが大きな利点だ。 背負っていたファーティマを銃士隊に渡して、甲板にルイズとともに残った才人は、ガッツブラスターの引き金のリングに 指を入れてくるくると回して、この改造ガッツブラスターを誇らしげに握り締めた。 才人のガッツブラスターが特別なのは、このアタッチメントパーツで自由にメテオールを使い分けられることにある。 一般隊員のトライガーショットがGUYSメモリーディスプレイを使い、隊長の許可で一分間だけ使えるのに対し、才人は 別世界で単独行動が主になることから、特例中の特例ということで携帯武器に関してのみメテオールの自由使用が 認められていたのだ。 むろん、これはメテオールの使用実績が増えて、運用の安全性が増したということも関わっている。だが、それを 考慮しても、入隊試験も受けていない高校生にメテオールの全面使用許可を出すというのは前代未聞。それだけ、 リュウ隊長やサコミズ総監の才人への期待が大きいしるしであろう。 逃げ道を塞がれ、ガランは背中から真っ逆さまに砂漠に墜落した。これだけの高速と質量では、いかに砂で出来た砂漠でも 衝撃緩和の役にはまったく立たない。皮膚を思い切り叩かれるような衝撃が空気を伝わって才人たちの体をしびれさせる。 エースリフターで投げ飛ばされるよりも強烈な衝撃を受けて、ガランは体をわずかにけいれんさせた後で、両腕を上げようとした。 しかし、そこで力尽きて断末魔の鳴き声とともに、内部から大爆発を起こして消滅した。 「いよっしゃあ!」 「ガ、ガラーン! お、おのれぇぇぇーっ!」 才人のガッツポーズと、苦悶の表情で叫ぶヤプールの姿が対極的に砂漠という無地のキャンパスに映えた。 木っ端微塵に吹き飛んだガランの破片は砂漠に舞い散り、砂に埋もれて消えていく。古代魚から作られた、破壊することのみを 生存の目的とする操り人形は、その上空を飛ぶ、己の意思で生きる者たちにはかなわずに敗れさったのだった。 東方号は無事で、水精霊騎士隊、銃士隊は全員無事。エルフたちもテュリューク統領以下、ビダーシャルをはじめほとんどが 傷つかずに残ることが出来た。しかも、ウルトラマンの助力を借りずにである。 それを成し遂げた、ヒドラとリドリアスは東方号の上を旋回しつつ、まるで再会を喜び合っているように鳴いている。 勝利……砂漠から立ち上るガランの残骸からの煙もしだいに薄れていき、大気に満ちていたマイナスエネルギーの不快な 波動も消えていく。 しかし、世界が元に戻ろうとする中で、決して消えない黒い一点が砂漠に残っていた。 「……」 「ヤプール! 超獣は倒された。お前の負けだ! 我々は、お前の暴力に決して屈したりはしないぞ!」 背中を向けたまま立ち尽くすヤプールの人間体へ向かって、コルベールは叫んだ。隣ではテュリューク統領が、少し離れた 場所では水精霊騎士隊やエルフの騎士たちが遠巻きにヤプールを睨みつけている。いっせいに攻撃を仕掛ける好機では あるのだが、いまなおヤプールの放つ絶大な負のエネルギーが彼らを近づかせることを拒んでいた。 「ガラン……おのれ、バキシムに続いて今回もまた……きさまら、よくもこの私をコケにしてくれたな」 太陽の光を斜めに受けて、砂丘に伸びるヤプールの影が巨大な悪魔の姿に変わる。とげとげしく、まさに悪魔と呼ぶに ふさわしい、ヤプールの真の姿のシルエットに、見つめていた人間とエルフを問わずに背筋に冷たいものが走り去っていた。 この広大な砂漠からしたら、ほんの一点のしみにしか過ぎないというのに、ヤプールの周りだけ寒波が襲っている かのように異様な空間と化してしまっている。 はるか離れた東方号の甲板からも、ヤプールの絶大な怒りのマイナスエネルギーは感じられる。しかも、今までにない規模の、 噴火寸前のマグマのようにドロドロと煮えたぎるすさまじいパワーが膨れ上がりつつあり、戦慄しながらもルイズはヤプールに向けて叫んだ。 「ま、負け惜しみはよしなさい! あなたの姑息な策は破れたわ。人間とエルフは相容れないものなんかじゃない、それが 今証明されたわ。もう、これ以上ふたつの種族が憎みあうこともなくしてみせる。わたしたちの勝ちよ!」 「なにを……人間ごときが、きさまらごとき下等生命体が、我らを見下すか! 許さん、きさまら絶対に許さんぞぉ!」 触れるものすべてが腐りはて溶けてしまうのではないかという、憎悪のマイナスエネルギーの波動がほとばしる。 悪意、邪念、憎悪、ハルケギニアとサハラの人間とエルフの負の心を吸収し続けてきたヤプールから、人間の姿には 収まりきれないほどの悪のパワーが吹き出し、ヤプールのそばの空間が割れて異次元ゲートが発生した。 「なにっ!? リージョンリストラクターで封じたから、しばらくはゲートを開けないはずじゃあ!」 「我らヤプールをなめるなよ! この世界で得たマイナスエネルギーの量はすでにじゅうぶんに溜まっている。見るがいい! 我ら異次元人の悪魔の力を!」 異次元ゲートの奥から、暗黒の中で揺らめく複数の異形の影が覗き見え、すさまじい音量の超獣の声が響き渡る。 それはまさしく悪魔の軍勢のうなり声、戦慄と恐怖の中でルイズはつぶやいた。 「ち、超獣!? あ、あんなにたくさん……うそでしょう」 「ククク……なにを驚く、これらはみなお前たちの生み出したマイナスエネルギーによって育ったもの、いわばお前たちの 子供のようなものだ。本来ならば、お前たち人間とエルフが殺しあうだけ殺しあった後に、一挙に殲滅してやるつもりであったが、 きさまらが和解などをするようであれば話は別だ……手始めに、まずはエルフども、貴様らから滅ぼしてくれる!」 「な、なんだと!」 ヤプールの恐るべき宣戦布告に、テュリュークらエルフたちの顔色が変わった。ヤプールはそれを愉快そうに眺め、 高らかに笑いながら恐怖の計画を語り始める。 「クッハハハ! ここに我は予言しよう。今から三時間後、ネフテスの首都アディールは十体以上の超獣と怪獣の軍団に 蹂躙されて、ひとりの生き残りもなく地上より姿を消すであろう!」 今度は、怒りも驚愕の声も即座には流れなかった。それだけ、今のヤプールの宣言は悪夢じみたものであり、一切の 否定の余地なく、それを実行可能な戦力があると誰の目にも思い知らされるだけのものが、そこに存在していたからだ。 テュリュークだけでなく、無表情が常のビダーシャルも顔を引きつらせ、邪気に当てられて倒れかけたルクシャナは アリィーに支えられてかろうじて意識を保っている。ほかのエルフたちも、目の前にある否定のしようのない絶大な悪の パワーに、あるものは失神し、あるものは吐き気を覚えてうずくまる。 さらにヤプールは、異次元ゲートを背にし、才人とルイズのほうを向いて言った。 「ふっふっふ、今度という今度は我々の勝ちだ。これこそ、宇宙警備隊との決戦のために、用意していた超獣軍団よ。 まだ完全ではないが、それでもこのちっぽけな国を消し去るには十分な戦力だ。さらには、この地に眠っている怪獣たちを マイナスエネルギーで支配して我らの手駒と化させば、この世界にいるすべてのウルトラマンが集まったとしても太刀打ちできまい!」 「なんだと! ヤプール、てめえ!」 「くぁはっははは! いまさら後悔しても遅い。恐怖の中で自ら滅ぼしあっていれば、まだしも長生きできたものをな! マイナスエネルギーの供給源とならないなら用済みだ。死を目の前にした絶望の中で、断末魔をあげる数万の声となって 最後の役に立ってもらおう」 「やめろ! 相手にならおれたちがなってやる。関係ない人たちに手を出すな」 「そうはいかん。ここで貴様らを屠ったところで我らの怒りは治まらん! 貴様らが、守ろうと志していたものが灰になっていくのを 見て悔しがる様を見ない限りはなあ! 貴様らはせいぜい歯軋りしておけ。急いで追ってくるなら好きにするがいい、ネフテスの 滅びる様をその目で見てから死ぬだけだがなぁ!」 ヤプールは次元の裂け目に歩み去り、黒衣の人間体に代わって、異次元空間に揺らめく不明瞭な紫色の人型が多数現れた。 あれが、ヤプール本来の姿……異次元空間に集まった悪意……生き物の負の心、誰もがなくてよいと思い忌み嫌う感情が 凝り固まった形である。見れば心には恐怖が芽生え、声を聞けば怖気が走る。 「さらばだ、人間にエルフども。お前たちは運がいい、この国のほかの連中よりも少しだけ長生きできるぞ。わしの情け深さに 感謝しろ。ふはははは!」 「待て! 待ちやがれヤプール!」 才人の叫びも虚しく、異次元ゲートは消滅し、ヤプールの哄笑の余韻だけが残った。 砂漠には灼熱の太陽が戻り、陽炎がゆらめく自然の風景が戻る。 しかし、茫然自失とする暇も、現実逃避する権利も彼らには与えられていなかった。 「あと三時間で、アディールは十匹以上の怪獣と超獣に襲われる……そうなったら、アディールは終わりだ!」 あのヤプールの言葉がはったりだとはとても思えなかった。ベロクロン一体でさえ、かつてトリスタニアを焼け野原にし、 トリステイン軍を壊滅させているのだ。いかなエルフといえどもかなうわけがない。増して、現在エルフの守りの要である 空軍艦隊は半壊状態……とてもではないが、時間稼ぎすらできるかどうか。 ならば、行くしかない。そこでなにができるかなど考える必要はない、行かないという選択肢はそもそも存在しない。 東方号に人間たちはすべて乗り込み、乗艦を失ったエルフたちも全員同乗した。中にはまだ蛮人の船に嫌悪感を 示す者も少なからずいたが、彼らも自分の嗜好を表現する場をわきまえていた。 重力制御と水蒸気機関を全開にして、東方号は緊急発進する。さすが、本職のコルベールが指揮をとり、頭数が揃うと 仕事が早いもので、銃士隊だけでやっていたときの半分程度の時間で砂を蹴立てて巨体が宙に舞い上がっていく。 東方号のブリッジ、旧大和の昼戦艦橋にはコルベールとエレオノールのほかに、テュリュークとビダーシャルが招かれて 進路を指示していた。 「北北西の方向へ、それでいいのですね?」 「そうだ。大気の精霊が方向を示してくれるから、万にひとつも間違いはない。それよりも、もっと速く飛べないのか? この船は」 「残念ながら、これが全速です……」 焦った様子のテュリュークと、表情こそ変えずにいるが手足の動作に落ち着きがなくなっているビダーシャルに、コルベールは すまなそうに答えた。 現在、東方号は可能な限りの速力を出している。蒸気釜の圧力は限界で、プロペラは千切れんばかりに回っている。 恐らくはこの世界に存在するどんな乗り物はおろか、並の竜すら追いつくことは不可能な速度であろうが、それでも彼らの 求める速さにはまったく足りていなかった。 「いくらヤプールでも、あの数の超獣を一度に動かすにはそれなりの時間が必要なはず。アディールが襲われる前に、 市民に逃げるように勧告を出さなくては取り返しがつかないことになってしまう。すべてが終わってからついても……」 ビダーシャルが、地平線しか見えない風景を睨みながらつぶやいた。彼も必死に冷静さを保とうとしているのだろう、 いつもは立ったまま不動を保つ姿勢が何度も手足を組み替えて落ち着きがない。しかしそれも仕方がない、自分の 故郷がこれから滅ぼされようとしているというのに、無感情でいられるような性格のものはそうそう多くはないものだ。 けれど、もし風竜の一頭でも残っていたとしても無駄であったろう。風竜を休ませずに全速で飛んだとしても、渇きの 大地からアディールまでは半日はかかる。前にアーハンブラ城から脱出に使った風石の装置は、携帯はしているものの ごく短距離しか飛べない。あとあった非常用の魔法装置のほとんどは船といっしょにガランに壊されてしまった。 いくら急いでも無駄……ヤプールの勝ち誇った笑みが浮かぶようだ。時間があるだけに、ヤプールの陰湿さがこの上なく 憎らしく感じられてたまらない。 だがそのとき、東方号の両翼にヒドラとリドリアスが現れた。 「うわっ! い、いつのまに」 エレオノールが、窓外に現れた巨大な姿にびっくりして飛び上がった。だが、二匹の怪獣は襲ってくるわけでもなく、 東方号と並行して飛んでいる。 いったい、どういうつもりだ? 疑問の眼差しを向ける人間とエルフに見下ろされて、ヒドラとリドリアス、二匹の怪獣は 東方号の左右について飛んでいる。その行動に、なにかの意味があるのだろうか……? 二匹は語ることはなく、しかし 確かな意志を持ったその翼は、声なき言葉を語りかけながら風を切っている。 その一方で、医務室に運び込まれたファーティマは、かろうじてその一命を取り留めていた。 ファーティマの凶行は、すでにテュリューク統領も知るところとなっていた。本来であれば、重大な軍機違反で、そのまま 処刑になってもおかしくはなかったが、被害者側からの助命嘆願で彼女は治療を受けられることとなった。 死に掛けていたファーティマに施された、あらゆる手立ては幸か不幸か一応の成功を見た。容態は安定し、治療終了後に、 ティファニアは病室に残されたファーティマを看病すると残ろうとした。だが、鉄血団結党のファーティマのそばにティファニアを 残すことについてはほかが大反対した。それを彼女は、 「いいえ、だからわたしは残ります。この人がどれだけわたしのことが嫌いでも、わたしの中に流れる人の血は消せません。 でも、どうせ嫌われるならわたしという人間を知ってもらえた上で嫌われたいんです」 自分が理解されないのはなによりも悲しい。知った上で憎しみをぶつけられるなら、それと向き合っていくこともできるが、 知られずにただ嫌われるだけというのはどうしようもなく虚しい。ハーフエルフのティファニアの感情の吐露を聞いた皆は、 あくまで無理はしないでと言い残して、別の仕事に移っていった。 しかし、やがて意識を取り戻したファーティマは、やはりティファニアを見て怒りをぶつけてきた。 「き、貴様、悪魔の末裔のひとり。ということはここは蛮人の船の中か、私を人質に、いいや悪魔の生け贄にでも使うつもりか!」 とりつくしまもなく、ファーティマはわめきちらした。麻酔がまだ効いているおかげでベッドに寝かせられたまま動けず、暴れられこそ しなかったものの、人と話すことがまだまだ苦手なティファニアでは落ち着かせることもできなかった。 そこへ、助け舟に現れたのがルイズだった。ルイズは暴れるファーティマにめんどうくさげに近寄ると、壁にかけてあった鏡を 外して、枕に頭を預けてあるファーティマの顔の前にかざした。 「なんだ悪魔め! 私に呪術でもかけるつもりか!」 「そんなご大層なものわたしは使えないわよ。はーい、ここで質問です。あなたの目の前にあるものはなんでしょうか?」 「……鏡だろう。それがどうした?」 「はい正解、その鏡に映ってる、青筋浮かべて目を血走らせたぶっさいくな顔した女は誰でしょうか?」 ファーティマからの怒声はなかった。ルイズが鏡をどけると、彼女は怒りとは別の感情で顔を赤く染めている。 ルイズは、ふぅと息を吐いた。人は悪事をする自分の姿を自分で見ることは出来ない、だから自分のおこないの醜愚を 知らないままに他者を傷つけてしまう。ルイズは、妄信で己を見失っていたファーティマに、己自身を直接ぶつけたのだった。 感情のままに醜く歪めていた自分の顔にショックを受けているファーティマを、ルイズはじっと見つめる。どうやら、まだ 羞恥心は残っていたらしい。ほっとする、これでなおわめき続けるほど狂っていたとしたら、それこそ鎮静剤を叩き込むしか なかったところだった。 「大丈夫テファ、危ないことされなかった?」 「はい、ありがとうございますルイズさん。でも、ファーティマさんが……」 「ふぅ……あなた、甘いにも限度ってものがあるわよ。ミス・ファーティマ、わたしを悪魔と呼ぶのは勝手だけど、この子にぐらいは まともに対応しなさい。命の恩人なのよ」 「な、なに? それに、どうして私の名前を」 「そんなもの聞けばわかるわよ。一応言っておくけど、ぶっそうなものは全部預からせてもらってるわ。あと、わたしはテファほど 優しくないから、魔法を使って悪いことをすればすぐに空のもくずにしてあげる。まあ、そんなことはどうでもいいわね。頭部裂傷、 全身骨折箇所五箇所、内臓破裂、打撲箇所多数、その他もろもろで心肺停止状態。あんたがここに運び込まれてきたときの状態よ。 正直、エルフの医者もさじを投げるような、ほぼ死人だったわ。そんなあんたがどうして助かったと思う?」 ルイズの言葉に、ファーティマは感覚をたよりに自分の体を確かめた。麻酔で動かないけれど、全身の感覚は確かにある。 思い出してみれば、かなり楽になったような気がした。普通では考えられないほどの治りの早さに怪訝とするファーティマは、 ふとティファニアの指にはまった指輪を見て叫んだ。 「きさまっ! その指輪は」 「は、はいっ! えっと、これはわたしの母が故郷から持ってきたものだそうです。失われかけた命を呼び戻す力があるそうで。 でも、傷まではふさげなかったので、すいません」 うろたえながらティファニアは頭を下げた。その指輪は、三十年前にタルブ村で、吸血怪獣ギマイラとの戦いで命を落とした 佐々木隊員を救った魔法の道具だった。母からこれを受け継いでいたティファニアは、あのときと同じように、これを使って 絶命しかけていたファーティマを重傷の状態まで回復させていたのだ。 しかし、指輪の力の源であった宝石はこれで力を使いきって消滅し、今ティファニアの指にはまっているのは台座だけに すぎない。それでもファーティマは、傷が開きかねない勢いでティファニアに怒鳴った。 「そんなことを言ってるんじゃない。どうしてお前がそれを持っているんだ!? シャジャルの指輪を」 「えっ! どうしてわたしの母の名前を……まさかあなた……母の一族」 愕然とした様子でティファニアが言うと、ファーティマはそうだと怒鳴った。 なるほど……ルイズは才人と同じく、ファーティマに感じていた違和感に気がついた。そう、この二人は他人の空似と いうには似すぎている……目つきこそファーティマのほうがやや幼げだが、それ以外の顔立ちはそっくりだ。 ファーティマは、愕然としたままのティファニアに向かって怒りをそのままぶつけた。お前の母のシャジャルがハルケギニアに 逃亡したせいで一族は裏切り者扱いされ、その日の食べ物にさえ事欠く日を送ってきたことを。 しかし、怒りのたけをぶつけるファーティマとティファニアのあいだに、ルイズが突然割り込んできた。 「そこまで、もうそれぐらいにしておきなさい」 「貴様には関係ない、邪魔をするな!」 「わたしはテファの友人よ、理由ならそれでじゅうぶん。あなたこそ、不幸自慢大会はそろそろ見苦しいわよ」 「なんだと! 他人のくせに知ったような口をきくな!」 「不幸な目にあってきたのがあんただけだと思ってるの? あんた程度の労苦なんて別にめずらしいものでもないわ。 テファだって、決して恵まれた育ち方をしてきたわけじゃない。天涯孤独で人目を避けて隠れ住む日々、むしろ苦難を 分かち合う一族がいただけあんたのほうが恵まれてるわ。わたしはね、あんたみたいに自分の不幸を売り物にする奴が だいっ嫌いなのよ。なあにが選ばれた砂漠の民よ、あんたは誰かにかまってもらいたくてぐずる子供よ、いいざまだわ」 容赦なく、見下しきった目のルイズの言葉がファーティマを叩いた。 実際、ルイズはこういった輩が嫌いである。自分だって、ほかの貴族の子弟に比べたら、いい子供時代ではなかった。 それでも、一度たりとてそれを他人のせいにしたことはないのだ。 ファーティマは、ルイズの言葉に才人に言われたことも思い出した。あいつも同じことを言っていた。 人間としての器の違いが、ファーティマにルイズに対抗する意思を奪っていた。ただ怒鳴り返すだけならできるが、それでは ルイズの見下した冷たい目を消し去ることはできない。 そこへ、ティファニアがおずおずとながら、しかし強い決意を込めた目で入ってきた。 「ルイズさん、わたしにファーティマさんと話させてください」 「好きになさい。わたしはもう行くわ」 ルイズは憮然として立ち去り、病室にはふたりだけが残された。 「……ファーティマさん」 「なんだ」 「母のこと、教えていただけませんか?」 「知ってどうする? お前にとって、不快になるだけだぞ」 「かまいません。わたしにとって、母の思い出は幼いときのわずかなものでしかありませんが、母はとても優しい人でした。 その母が、そこまでのことを承知でハルケギニアまで来た訳……それを知らないと、わたしはずっと子供のままな気がするんです。 それに、あなたの中の怒りや憎しみ、それがわたしを相手に吐き出せるなら、あなたを少しは楽にしてあげることができるかも しれません……ですから、わたしを憎んで怒ってください……それがあなたの生きる糧になるなら、わたしは受け入れます」 「……」 悪魔と呼んでいた相手に、完膚なきまでに負けている。その屈辱が、ファーティマの心を焼いていた。 人それぞれの人生と戦い……誰しもが、そのドラマの中では主役であり、脇役に下がることは許されない。 すでに遺跡を飛び立ってから二時間が経ち、景色はまだ変わり映えを見せない。 東方号の後部艦載機格納庫。才人はそこで、ゼロ戦をいつでも発進可能なようにエンジンを温めている。 「なにも起らねえはずはないと思ってたけど、悪い予感ってのはたいてい頼みもしないおまけを引き連れてやってくるよな。 十匹以上の怪獣軍団か……さて、勝てるかな?」 才人は、これから起きるであろう戦いが、間違いなくヤプールとの最大の激戦になるであろうことを予測していた。 果たして、ウルトラマンAと未完の東方号でどこまで戦えるか。 しかし、不思議と負けるとは思っていない。それは絶望を糧とするヤプールへの無意識の反抗か、才人にはわからない。 だが決して、あきらめではない。 死闘が待つアディールへ向けて、東方号はひた走る。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8353.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第三十三話 灼熱の挑戦 ミイラ怪人 ミイラ人間 赤色火焔怪獣 バニラ 登場! 彼は、長いあいだ闇の中にいた。 いつから、どうしてここにいるのかも忘れてしまうほど長い時の中を、静かな闇の中でまどろんでいた。 ときおり、ぼんやりと夢の中で何かを思い出す。遠い昔……まだ、太陽の下を歩き回っていたころ。 そのころ、自分の周りにはたくさんの生き物がいたように思える。 大きいのもいれば小さいのも、数え切れないほどいろんなものがいる。 と、彼はその中で一つ、珍しいものがあるように思えた。 周りの生き物たちとはどこか異質な、人間のような気配。けれど、彼はそれが悪いものとは思えなかった。 顔はわからないが小柄な男性のようだ。隣には、髪の短い女性と、幾人かの人間がいるようだ。 ここはどこで、彼らは誰なのだろうか……? 思い出せない。でも、どこか懐かしいような感じがする。 そうだ、自分は彼らから…… やがて眠りは深くなり、また幾分か眠りが浅くなると彼は同じ夢を見た。 それを何万回、何十万回かと繰り返したろうか。 あるとき、闇に閉ざされていた彼のまぶたに光が射した。 太陽の光ではなく、ろうそくの薄暗い灯りだった。 いつからかの外からの刺激に、彼は延々と繰り返してきた夢の中から、外に向かって意識を向けてみた。 どうやら、大勢の人間がいるらしい。がやがやと、何かをしゃべっているようだが言葉の意味はわからない。 目覚めるときが来たのかと、彼は思った。 まぶたを開け、体を起こしてみた。感覚が蘇り、体が自分の思うように動くのがわかる。 と、彼は何気なく周りを見渡すと、人間たちの様子が変わっているのに気づいた。なにやら驚いたり怯えたり した様子で、奇声をあげて部屋から逃げ出していく。 どうしたのか? 彼は疑問に思ったが、目覚めたばかりからか考えがまとまらない。 しかし、部屋の中にあった祭壇に目をやった瞬間、彼ははっとした。 ここには、何かがあったはずだ。それは確か……思い出せない。 自分はそれを……思い出せない。 長すぎる眠りが、彼の記憶の重要だった部分までほこりに覆わせていた。それでも、彼はここにあったものを 取り返さなければいけないという意思で動き出す。 あれを、あれを取り返さなくては大変なことになる。なのに、彼の目の前に何人もの人間がやってきて 自分に攻撃をかけてきた。 彼らは何者なのだ? なぜ自分が攻撃されねばならない? 意味がわからないまま、彼は自分を守るために 彼らを排除していった。力では自分が上だし、なにやら術を使うやつらも目から出せた光を浴びせたら 簡単に倒すことができた。 そうして地上に出ると、彼はすっかり変わってしまった外の風景に驚きつつも、目的のものを見つけることができた。 よかった……彼は安堵した。しかし、まだ何かを忘れているような気がする。 それに、人間たちは徒党を組み、またも自分に襲い掛かってきた。 ここは危険だ。彼は大切なもの、赤いカプセルをかついで走り出す。 自分は、あの人たちからこれを…… 眠りに着く前にしたはずの、何か大切な約束。それを思い出そうとしながら、彼は一心不乱に駆けた。 ミイラの復活から、およそ一時間後…… 小雨の降り始める中、いまだ混乱の収まらぬトリスタニア郊外の発掘現場に、一機の竜籠が着陸した。 「これはいったい、どういうことなの!」 飛び降りるように竜籠から真っ先に下りてきたエレオノールの絶叫が、惨劇の現場となった遺跡に響き渡った。 所用で現場を留守にしていて、ようやく遺跡に戻ってきた彼女を待っていたのは、まるで戦場跡のような 惨状だった。掘り出した遺物を置いていたテントはのきなみ野戦病院のようになり、即席のベッドには 負傷者が並べられて苦しそうにうめいている。 なにがあったのかを、エレオノールは近場にいた人間に説いただしていった。混乱する現場では、 右往左往する平民、ひたすら怒鳴るばかりの貴族など、要領を得ない者にいらだたされはしたけれど、 ようやくテントの中で負傷者に治癒の魔法を使っていた若いメイジを捕まえることができた。 しかし、古代のミイラが蘇ったことまでを知った彼女は当然のように驚愕するのと同時に、歓喜した。 「ミイラが動き出した? ……ふふ……うっふふふ」 報告を聞くなり、エレオノールは口元を含み笑いを浮かべだした。逆に報告した若い研究者や、治癒を 受けていた土方の平民たちは悪い予感を覚える。案の定、彼女は眼鏡を光らせて手を上げると、 高らかに命令したのである。 「すばらしいわ! 数千年ものあいだ生命を保管する技術が存在しただなんて。これは不老不死に 人間が近づく大いなる一歩だわ! あなたたち、なんとしてでもそのミイラを生け捕りにするのよ。 アカデミーの総力をあげて、永遠の生命の謎を解明するのだわ」 「い、いえ! すでに警備班や幻獣捕獲隊から追撃が出ています。どうかご安心を」 「生ぬるいわ! これがどれほどの大発見だかわかってるの? さあ、発掘を再開するわよ。動けるのは 働きなさい! ミイラの追撃隊も、いるだけのメイジを送りなさい、あなたもよ!」 エレオノールの剣幕に、若い研究者は震え上がった。 しかし、興奮して命令を飛ばすエレオノールの肩を、彼女と同乗してきていた親友のヴァレリーが掴んで止めた。 「待ちなさいよエレオノール、負傷者が続出してる中で発掘の再開なんて本気? まして、追撃隊の 増強なんて、できると思ってるの?」 「なにを言ってるのよヴァレリー? あなたこそわかってるの。これは大発見なのよ、有史以前の 古代人の生き残り、歴史が根底からひっくり返るほどの大発見じゃない」 興奮を抑えきれていない様子のエレオノールの主張を、ヴァレリーはそれはわかるけどと受け止めた。 彼女も大発見だということは重々承知している。でも、エレオノールよりは社交性の高い彼女は、興奮を 押し殺した冷めた目つきで、彼女の耳元に口を寄せてささやいた。 「いいから、黙って周りの平民たちを見てみなさい。みんな、親の仇みたいな目でこっちを見てるじゃない」 エレオノールは、憎らしげに睨んでくる平民の工夫たちの視線に気づいたが、なおも強気だった。 「なによそんなの、平民が貴族のために尽くすのは当然でしょ」 その言葉がどれほど彼らを怒らせるか、ルイズと違って平民と対等に付き合ったことのない彼女には まだわからなかった。一方、ヴァレリーのほうは貴族らしい平民への蔑視と完全に無縁というわけでは なかったが、友人よりははるかに温厚で人との付き合い方を知っていた。彼女はエレオノールの耳元で 強い口調でささやいた。 「バカ、時と場合をわきまえなさいよ。いい? 研究するのは私たち貴族でも、現場で発掘作業するのは 大半が彼ら平民なの。彼らを怒らせて仕事が雑になったら、今後大発見があってもパーになるかもしれない じゃない。それに、無茶をして死傷者を出したら、私たち全員の管理責任になる上に、アカデミーの空気を 入れ替えてくれた姫さまの期待を裏切ることになるわ。冷静になりなさい、エレオノール・ド・ラ・ヴァリエール!」 普段温厚なヴァレリーの厳しい警告と、姫さまのことを出されたことでエレオノールもやっと気を落ち着かせると、 こほんと咳払いをしてうなづいた。 「ごめん、頭に血が上ってたわ」 「わたしに謝ってもしょうがないけどね。我が親友は物分りのよい人物で助かるわ」 「いいえ、私の独断で死傷者を増やしたら、お母さまにきついお叱りを受けるところだったわ。ヴァレリー、 あなたは命の恩人よ」 苦笑を浮かべたエレオノールを、ヴァレリーは微笑を浮かべて見返した。エレオノールは、きつい性格で 研究熱心で度を超してしまうところもあるけれど、決して残忍な人間ではないことを親友の彼女は知っていた。 「あなたも大変ねえ。ともかく、発掘は一時中断しましょう」 ヴァレリーは、エレオノールが同意するのを確認すると、現場責任者に先の命令は撤回、全員を 地上に上げて休息をとらせておくようにと命じた。これのおかげで、急落しかけていた工夫たちの 信頼はある程度つなぎとめられた。 「やれやれ、これはアカデミーの大失態ね」 「こんな事態を予想できた人なんていないから仕方ないわよ」 落ち着きを取り戻したエレオノールは、てきぱきと指示を出して混乱していた現場を片付けていった。 と、そのとき空から一羽の伝書フクロウが飛んできた。あて先はエレオノールになっていて、差出人は アンリエッタ王女。婚礼を控えたこの時期に、なんの用かと書簡を開いてみると、そこには早急なる 出頭を命ずる旨の内容が記されていた。 「こんなときに……間が悪いわね」 そうは思っても、姫さまはここの惨状は知らないのだし、知らせるわけにもいかない。エレオノールは 眼鏡の奥の瞳をしかめさせた後、現場は元々の監督官に任せると告げて、ヴァレリーを誘った。 「やむを得ないから、私は王宮に赴くわ。できるだけ早く戻るつもりだけど、ヴァレリー、あなたは アカデミーに戻りなさい」 「エレオノール、仕事を頼みたいのかしら? 見返りは」 不敵な笑みを浮かべる友人に、エレオノールは雨に濡れた口元を軽く歪ませると、研究者の目つきに 戻って答えた。 「緊急事態よ、ツケにしといて。ミイラは赤い液体のカプセルのみを持ち去ったんでしょう? だったら、 先日発掘された青いカプセルも狙われる恐れがあるわ。今のうちに開封して、中身を確認しておくのよ」 「なるほど、道理ではあるわね」 「この際だから、多少荒っぽい手を使ってもかまわないでしょう。それと、あの生きのいい新人がいたでしょ。 助手に使ってみるいい機会かもしれないわよ」 エレオノールの提案に、ヴァレリーもそれもそうねとうなずいた。少し前にアカデミーに来て以来、昼夜を 問わずに様々な分野の研究に顔を出している、金髪の新人。名前をルクシャナということ以外、ほとんど 自分のことを語らないけれど、どの分野でも秀でた才覚を見せている彼女ならこの仕事も任せられる。 エレオノールとヴァレリーを乗せた竜籠は、遺跡を離れるとトリスタニアの方角へまっすぐに去っていった。 同時刻、トリスタニアの郊外の森林地帯では、魔法アカデミーからの追っ手が必死にミイラを追撃していた。 「ユーノフとハイツは北から回りこめ、俺たちは西の道を塞いで退路を断つ」 「小隊長どの、見張りにつけていた使い魔のフクロウが落とされました!」 「くそっ! この雨じゃ人の視界が効かないし、奴は頭がいい」 捕獲の命令を受けてきた十人ほどのアカデミーのメイジは、すでに三人が負傷して脱落し、二人を救護のために 残して半数になっていた。残る五人も、長引く追撃戦で精神力を消耗し、使い魔も失って疲弊している。 「せめて抹殺命令が出ているなら気が楽なのだが、最低でもカプセルは奪取しなくてはならん。くそっ、やっかいな!」 小隊長は、受けた任務の困難さと、思うようにいかない苛立ちから吐き捨てた。彼らはアカデミーの中でも、 秘薬の材料となる入手困難な薬草や、危険な生物の捕獲を主として請け負う一隊なので魔法の実力は高い。 それでも苦戦を強いられているのは、ミイラの捕獲とカプセルの確保という、厳命された任務内容と、雨中の 森林地帯という追撃には不利な地形、そして予想以上に強力なミイラの武器にあった。 「奴の怪光線は風や水の防壁では防げません。この雨の中では火や土の魔法は効力が半減します。 このままでは、逃げられてしまいます」 「おのれ……我々がここまで手こずるとは。それにしても、あのミイラはいったいなんなんだ? 目から 光線を放つ亜人など聞いたこともない!」 彼もアカデミーの一員である以上、亜人などの知識には精通しているが、ミイラの正体はまったく わからなかった。とにかく、ケタ外れの腕力と体力を持っており、これだけの時間追撃しているのに 疲れる様子を見せない。特に目から放たれる怪光線の威力は絶大で、魔法と違って相手を見るだけで 発射できるために避けられず、近寄ることさえままならなかった。 「奴は北東へと逃げています。これ以上進まれると、街道に出ることになります。もし、誰かに見られる ようなことになったら大変ですよ」 「わかっている! くそっ、俺たちも残った精神力は少ないし、こうなったら賭けに出るしかないか」 捕らえるにしろ殺害するにせよ、近づくことができなくては無理だ。頭の悪いオークやコボルドなど ならまだしも、奴は人間並に頭が働くのは明らかだ。 考えた末に、小隊長は一計を案じた。 「確か、この近くに小川があったな。ようし、そこに奴を誘い込め」 起死回生をかけて、小隊長は最後の作戦を開始した。 追われるミイラは、森の木々のあいだを素早く駆け抜けていく。地面の様子は凸凹で、雨でひどく ぬかるんでいるというのに、それを感じさせないすごい脚力だ。また、肩には子供ほどの大きさがある 透明なカプセルを担いで、大事そうに守っている。これは、先日発掘されたカプセルと同型のものだが、 中の液体は赤色であった。 うなるような声を漏らし、木々のあいだを縫って逃げているミイラは、ふと空を見上げた。人間が一人、 こちらに向かって飛んでくる。追っ手だと気づいた彼は、そいつを向かって目を見開くと、眼球から 白色の破壊光線を撃ちだした。 命中、肩に攻撃を受けた追っ手のメイジはうめきながらふらふらと墜落していく。しかし、そいつと 入れ違いに現れたメイジが風をふるい、周辺の木々をなぎたおしてミイラの行く手を塞いでしまった。 あれは囮か、そう気づいたミイラは道が全部ふさがれる前に、残っている道へと駆け出した。 それを見て、伏兵のメイジは作戦通りとほくそえむ。ミイラの行く先には川があった。 一方、先回りをしていた小隊長は、部下の風のメイジ二人とともに川べりで隠れて待っていた。 作戦通り、誘導されてきたミイラが彼らよりもわずかに上流に現れる。 「小隊長」 「待て、焦るな」 はやる部下を抑えて、小隊長はじっとチャンスを待った。呪文の詠唱はすでに完了している。 しかし残った精神力すべてを注ぎ込んだ一撃であるから、万一にも失敗は許されない。ミイラは、 川辺に出たことで躊躇し、引き返そうかと迷っているように思える。 「来い、そのまま来い」 心の中で叫びつつ、気配を殺して彼らは待った。もし、ミイラが引き返したら作戦は失敗に終わる。 けれど、彼らの忍耐は望むとおりに報われた。ミイラは退路を塞がれることを焦ったのか、川の中に 入ってきた。幅はほんの四メイルほどの浅い川、すぐに渡れると思ったのも無理は無い。だが、それこそが 小隊長が待っていた瞬間だった。 「かかったな! くらえ、『ライトニング・クラウド!』」 三人分の電撃魔法が川に向かって放たれ、電撃が水を伝ってミイラを感電させた。 さしものミイラも巨像すら即死させる威力の電撃を浴びてはたまらないと見え、全身をけいれんさせて もだえている。作戦が図に当たって、小隊長は偽装をはぎとるとからからと笑った。 「どうだ怪物め、この雨中では電撃もまともに直進できないが、それならそれでやりようはある。人間様の 知恵をあなどったな。さあて、身動き取れまい。アカデミーに連れ帰ってじっくり調べてやる」 部下を傷つけられた恨みもあって、小隊長は残忍な笑みを浮かべてミイラに歩み寄った。 ミイラは大きなダメージを受けたと見え、小川の中にひざまずいて荒い息をついている。まだ、あの目からの 怪光線は脅威で慎重に近づかなければならないものの、もう逃げられる心配はなさそうだ。 「よし、ミイラは俺が捕まえる。お前たちはカプセルを回収しろ」 「はっ」 これで任務は終了だと、小隊長は部下に任務の半分をまかせて、自分はミイラに向かって『蜘蛛の糸』の 魔法をかけようと杖を向けた。 だが、そのとき……ミイラの手から取り落とされ、川の水につかっていたカプセルから乾いた音がした。 ”ピシリ……ピシシ……” まるで、卵から雛が孵化するような音が、一回だけでなく断続的に続き、次第に大きくなっていった。 そのころ、才人とルイズは馬車に乗って魔法学院への帰途を急いでいた。 「ひでえ雨だな」 窓から外を覗き見た才人は、忌々しそうにつぶやいた。街を出たときから雨は降り続き、すっかり 土砂降りになってしまった。冬の雨は冷たく、馬車の中も冷えて気がめいる。いや……気温などより、 向かい合って座っているルイズの沈黙こそが、才人にとって寒かった。 「なあ、ルイズ」 「なに?」 話しかけても気の無い返事しかしてこないルイズに、才人のほうがため息をつきそうになった。それでも、 おせっかい焼きの才人は、明らかに言外に話しかけるなと言われているのに続けて声をかけた。 「そんな、つっけんどんにしなくてもいいだろ。お前の姉さんと違って知識はないけど、もう短い付き合いじゃ ねえだろう、俺たち」 「このことは誰にも言わない秘密だってこと、もう忘れたの? どこに敵の目があるか、わからないのよ」 「ここには俺しかいないんだし、気兼ねする必要はねえだろ」 御者は自動操縦のガーゴイルなのだからと、才人はルイズをうながした。 けれど、好意はうれしいけれども、こればかりは才人に相談してもどうにかなるとは思えない。 「あんた、魔法のことなんかわからないでしょう?」 「そりゃそうだが、落ち込みようがひどいからな。虚無だかなんだが知らないが、すごい魔法が使える ようになったって、それだけのことだろ」 「はぁ、あんたの気楽さの半分でもあれば、わたしも気が楽なんだけどね」 『エクスプロージョン』の炸裂のとき、才人は魂を奪われていたために、その光景を見ていなかった。 それゆえ、ルイズがすごい魔法使いになったと言われても実感は薄かったのだろう。しかし、すごい 魔法使いという表現さえ、虚無の前には過少評価というべきだろう。 これを、あのエレオノールにどう説明すればよいかと考えるだけで、限りなく憂鬱になっていく。 そんなルイズの心境には思い至らず、才人は、むしろ「黙っていなさいよ」とか怒鳴りつけられたほうが、 まだましだと思った。から元気すらないルイズなど、まったくもってルイズらしくない。どうしたものかと 元気付ける方法を考える才人は、ふとかたわらに置いてあるデルフリンガーがやけに静かなのに気がついた。 「そういえば、デルフお前も何か言ってやれよ。このままじゃ葬式の帰りみたいでたまらねえぜ」 ここはデルフリンガーの軽口に期待しようと、才人はデルフリンガーを鞘から抜いて話しかけた。しかし、いつもは 饒舌なデルフリンガーが、今日に限ってはしゃべろうとしないので、才人は不審に思った。 「どうしたんだよデルフ、湿気でさびるのが嫌なのか? それとも、しばらく抜いてなかったんですねちまったか」 「……そんなんじゃねえよ」 「なんだ、ルイズに続いてデルフまでどうにかなっちまったのか? 勘弁してくれよ」 元来、めったなことでは物事を深刻に考えない才人は、大げさな身振りで呆れて見せた。しかし、ルイズも デルフリンガーも黙り込むばかりで、才人は自分が出来の悪い道化のようで情けなくなった。仕方なく、おどけるのを やめて真面目な口調でデルフリンガーに尋ねる。 「デルフ、お前らしくないぜ。なんで何も言わないんだよ」 「……」 「おい、おれのことを相棒って言い出したのはお前だろ? お前は口の軽い奴だとは思ってるけど、 嘘をつく奴だとは思ってないんだぜ」 「……そうだな、わりい相棒。少し、昔のことを思い出しててな」 「昔のこと?」 才人は、意外なデルフリンガーの答えに怪訝な顔をした。そういえば、デルフが自分のもとに来る前のことは ほとんど聞かされていなかった。デルフリンガー……意思を持つインテリジェンス・ソード。魔法を吸収し、 自らの姿を変化させることのできる、自称伝説の剣。 考えてみたら、自分はデルフリンガーのことを何も知らずに振るっていた。相棒と互いを呼んでいたのに、 いつどこで誰が何のために作ったのか、一つも知らなかった。 「昔って、いつぐらいのことだ?」 「さあな、俺は生き物じゃねえから寿命ってやつがない。時間の概念ってもんが、当の昔にふっとんじまって るんだ……けど、大昔だったのは間違いねえ。そう、虚無、嬢ちゃんの虚無に関するこった」 「なんだって!」 なぜそれを早く言わないんだと、才人だけでなくルイズも詰め寄る。お前は、昔に別の虚無の使い手と 会っていたのか? いったい虚無とはなんで、その人はどういう人だったのか、聞きたいことは山のようにある。 だがデルフリンガーは、期待をかける二人にすまなそうに告げた。 「すまねえ、話してやりたいのはやまやまだが、昔過ぎてなかなか思い出せねえんだ。さっきから思い出そうと 努力はしてんだが」 「おいおい、せっかく手がかりが見つかったと思ったのに。ほんとに、何一つ覚えてないのか?」 「いや、少しはある。例えば相棒、おめえに初めて会ったとき、俺はおめえを『使い手』と呼んだよな。 以前、俺を使ってたのもおめえと同じガンダールヴだった。それは感覚が覚えてんだ」 才人は、大昔のガンダールヴと言われて、今はルーンが消えてしまった左手の甲を見つめた。自分の 前のガンダールヴ、その人も自分と同じように虚無の担い手を守って戦ったのだろうか。 ほかには? と尋ねると、デルフリンガーはうーんとうめいた後、自信なげに言った。 「始祖の祈祷書にも書いてあったと思うが、ブリミルは四つの秘宝と指輪を残してる。そして奴は三人の 子供と一人の弟子に、力も分けて残した。だから、担い手は嬢ちゃんを含めて四人いるはずだ」 「四人? そんなに!」 「ああ、そして四人の担い手と秘宝と指輪、使い魔が揃ったとき、虚無の力は完成する」 「虚無の力の完成って、何?」 「覚えてねえ」 「デルフ……」 がっくりと、二人は肩を落とした。 「ほんとだ。ただ、ぼんやりとだが……でっかくて訳がわかんなくて、俺なんかの想像を超えてた。 それこそ、世界を変えてしまいそうなくらいの……そのことだけは覚えてる」 「世界を、変える」 ごくりとつばを飲み込む音が二つ響いた。漠然とではあるが、初歩の初歩の初歩である『エクスプロージョン』の 度を超えた破壊力からすれば、完成型の威力はデルフの言うとおり想像を絶するものなのだろう。それが もし悪用されたらと考えると、戦慄を禁じえない。 「シェフィールドの一味は、いったい虚無の力をどうしようというのかしら?」 ルイズのつぶやきに、才人も考え込む。聖地の奪還、虚無の存在する目的はそれだが、そんなことでは あるまい。力を背景にしての世界征服、手口の悪どさからして九割がたそんなところだろう。そんなこと、 絶対に許すわけにはいかない。 二人はそれからも、デルフリンガーに覚えていることはないのかと散々尋ねた。そのことの努力の多数は徒労に 終わったものの、デルフリンガーのにわかには信じがたい話は、才人とルイズに半信半疑ながらも、おぼろげな 道を示したように思えた。 ただし、デルフリンガーは何かを思い出したら必ず教える、と約束するのに続いて、不吉極まる勧告を二人に残した。 「二人とも、これだけは覚えといてくれ。虚無の力は、四系統とは文字通り格が違う。ブリミルのやろうも、 わざわざ警告を残したくらいだ。お前さんが成長すれば、威力も上がるし使える種類も増えてくだろう。 だが、虚無のことを思い出そうとすると何か嫌なものがひっかかるんだ……もしかしたら、俺は思い出せない んじゃなくて、思い出したくねえのかもしれねえ。何か……とんでもなく嫌な、悲しいことがあったような、 そんな気がするんだ」 それだけ言うと、デルフリンガーはしばらく考えさせてくれと言って鞘の中にひっこんだ。 才人とルイズは、デルフリンガーの話に大きな衝撃を受けて、頭の中の整理がつかずに押し黙った。 誰も言葉を発しなくなり、馬車の中はひづめと車輪の音、それに雨音だけが無機質に響いていく。 雨は先程よりも激しくなり、街道は彼らの馬車以外には通行している人影はない。 魔法学院までは、あと二時間くらいだろうか。ルイズは、始祖の祈祷書を握ったまま瞑目している。 才人も、次第に船を漕ぎ出した。疲れから、馬車の揺れがゆりかごに、雨音も子守唄のように 快く感じられて、睡魔が急速にやってくる。 このまま、着くまで寝てよう。才人は睡魔に抗うことをあきらめて、からだの力を抜こうとした。 だがそのとき、鼓膜の奥にわずかだが人の悲鳴のようなものが響いてきて、はっと顔を起こした。 「いまのは……」 「サイト、あなたも聞こえたの?」 ルイズも気づいたと見えて、鋭い目つきになっている。普通なら馬車と雨音に紛れて絶対に聞こえない ようなかすかな声だったけれど、ウルトラマンAと合体したことによる作用で、二人は聴力が常人の何倍にも 強化されているのだ。 聞こえてきたのは前からと、揃って馬車の前の窓を覗く。しかし、雨足が強くて視界がさえぎられて、 前方の様子は霧のようにかすんで判別しがたかった。 「だめだわ、これじゃ何もわからない」 「馬車を止めて、歩いて探ってみるか。傘、あったよな?」 「ええ、座席の下に……待って、あれ何かしら?」 「ん? なんだ、電灯? いや、そんなはずないか」 いつの間にか、街道の行く先にぽっかりと二つの白い光が浮いていた。まるで、東京にいたころに 毎日見ていた道路の街路灯のように、街道をはさむように二つが同じ高さで浮いている。 なんだいったい? 正体を掴みかねて戸惑う二人に向かって、白い光はじわじわと近づいてくる。 いや、光ではなく二人を乗せた馬車のほうが近づいているのだ。 好奇心がわいて、二人は光がよく見えるところまで近づこうと思った。 ところが、光が近づいてくるにつれて街道の先にぽっかりと暗い穴のようなものが見えてきた。 ”トンネル? いや、学院とトリスタニアのあいだにトンネルなんかなかったはずだ!” 背筋にぞくりと冷気を感じた瞬間、穴の中の上下に鍾乳石のようなとがった柱が幾本も見えてきた。 さらに、穴の奥には真っ赤な洞穴。いや、これは洞穴なんてものではない! その証拠に、白い光の 中に黒い瞳が動き、こっちを睨んでいるではないか。 「止まれぇーっ!!」 反射的に二人は叫んでいた。御者のガーゴイルが命令を忠実に実行し、馬の手綱を引く。 しかし、遅すぎた。勢いのついた馬車は止まりきれず、穴の中に突っ込んでようやく停止したとき、 天井が落ちてきて馬車を押しつぶそうとしてきた。 「きゃあぁーっ!」 「ルイズ!」 悲鳴をあげるルイズに、才人は覆いかぶさってつぶれてくる馬車から守った。だが、馬車の中に 何本もの鋭い柱が突き刺さってくる。馬車は踏まれた缶のようになり、馬は穴の奥へと悲鳴をあげて 落ちていった。 二人は、押し上げられるような感触を覚え、砕けた窓から外を見て絶句した。森が、街道が空から 見たときのようにはるかに下にある。このとき確信した。自分たちは何か巨大なものの口の中へと 飛び込んでしまったのだ。 馬車を咥えた巨大な何かは、歯ごたえでそれが何かを確かめているようだった。そうして、それが 食べ物ではないとわかると、ぺっと外へと吐き出した。馬車は地面に激突してグシャグシャになり、 その何かは興味を失ったかのようにきびすを返そうとする。 だが、そのとき! 「ヘヤァ!」 上空から急降下してきたウルトラマンAのキックが、何かの背中に炸裂して吹っ飛ばした。 間一髪、馬車が押しつぶされる直前に、才人とルイズは合体変身することに成功していたのだ。 着地したエースは、構えをとって敵を見据える。 しかし、起き上がってきた敵の姿に、才人は愕然としていた。 細身の体に、タツノオトシゴのような頭。らんらんと光る両眼に、なによりもその赤一色の姿。 (赤色火焔怪獣バニラ! なんでこんなところに!?) (サイト? 今度は知ってる怪獣なの) 知っているどころの話ではない。ウルトラマンに少しでも興味があれば、バニラの名前は知らない ほうがおかしいほどだ。 かつて、地球上に栄えていたといわれる古代文明ミュー帝国において猛威を振るっていた、 赤い悪魔と呼ばれていた恐るべき怪獣。かつても、科学特捜隊や防衛軍の攻撃がまるで通用せず、 オリンピック競技場を壊滅されられたことをはじめ、暴れるにまかせられた東京は甚大な被害を受けている。 その、バニラがなぜこんな場所にいるのか? 才人は理由がわからず戸惑った。 けれど、戸惑う才人とは裏腹に、ルイズの腹は明確に決まっていた。 (サイト、そんなこと考えるのは後でいいわ。怪獣が出たんなら、こいつが街に向かう前に倒すべきでしょう) こういうとき、ルイズのほうが現実的な思考をする。幼い頃から魔法を使えず、なぜ自分は魔法を 使えないんだろう。といちいち考えるのをあきらめ、ひたすら困難にぶつかってきた経験が形を変えて生きていた。 (そうだな、ルイズの言うとおりだ) 才人も、考えるよりもやるべきことがあると気がついた。同時に、ルイズへの信頼感と、ある意味の尊敬を 深くする。いかなるときでも折れない芯と、気高さが彼女の魅力なのだ。 寒風吹きすさび、雨がみぞれに変わりつつある嵐の中で、ウルトラマンAの戦いが始まる。 「トァァッ!」 先手必勝、エースは体当たり攻撃を仕掛けた。肩から突っ込み、バニラの胸板にぶつかっていく。 衝突! 太鼓を百個同時に打ち鳴らしたかのような轟音が響き、衝撃が木々の枝を揺さぶる。 組み合ったエースとバニラは、エースが身長四十メートル、バニラが五十五メートルだから頭一つ分 バニラがエースを見下ろす形となる。しかし、戦いは体の大きさだけで決まるものではない。エースは、 組み合ったまま、バニラの胴体へと膝蹴りを繰り出す。 「デヤッ!」 相手の動きを封じたままの姿勢での、巨岩をも砕くエースの攻撃が連続して炸裂する。 だが、バニラは細身の体に見合わぬ力で、がっしりとエースの攻撃を受け止めると、すかさず腕を ふるって逆襲に転じてきた。 「ヘアッ!」 振り下ろされてきたバニラの腕を、X字にクロスさせた両腕でエースは受け止めた。 (くっ! 重いっ) しびれるような感触が、両腕を通して体に伝わってくるのをエースは感じた。完全に止めたはずなのに、 まるで斧で打たれたような、強烈な感触だ。細身に見えてこの怪力、まともに組み合っては不利だと、 エースはガードを解くと、バニラの腹をめがけてキックを入れる。 「ヌンッ」 中段からの体重を込めたキックが、バニラの腹に当たって後退させた。 (よしっ、いまだ!) 間合いが開き、チャンスを逃してはなるまいと才人の檄が飛ぶ。エースはそれに応え、バニラへ 攻撃を続行した。人間に似た形の腕で掴みかかってくるバニラの攻撃をかわしつつ、比較的柔らかそうな 腹にパンチの連打を浴びせ、反動で距離が開くと助走をつけてドロップキックをお見舞いする。 (いいわよ、その調子) (そのまま一気にいけっ!) エースの猛攻に、ルイズと才人も歓声を送る。キックを受けたバニラが、森の木々を巻き添えにしながら 倒れてもがいているところへ、馬乗りになったエースはパンチを連打して追い討ちをかけていく。だが当然 バニラも無抵抗ではなく、鳥の鳴き声のような叫びをあげてエースを振り払い、尖った頭を打ちつけて 反撃を繰り出す。 (右だ! エース) 肉体を共有している才人の叫びで、エースはバニラの頭突き攻撃を寸前でかわした。そして、空振りして 体勢を崩したバニラの頭にキックを浴びせ、バニラは悲鳴をあげて倒れこむ。 (いいわよ。このままいけるんじゃない!) 優勢に運ぶ戦いに、先日から閉塞感を感じ続けていたルイズは胸のすく思いを感じていた。才人の ほうも、理由はともあれ元気を取り戻してくれたルイズにならって「いや、まだ油断はできないぞ」と 言いながらも声色が浮いている。 ウルトラマンAの攻撃は着実にバニラをとらえ、エースの勝利は疑いないように思われた。 しかし、湧き上がる二人とは裏腹に、エースは攻撃を加えるごとに違和感を感じていた。 確かに、攻撃して手ごたえはある。攻撃が着実にヒットしているという自信はあるのだが、それが ダメージに結びついているという実感がわかないのだ。例えば、腹など弱そうな部分を狙って打っても、 バニラにはこたえた様子がない。 戦いを見つめているうちに、才人も次第にそのことに気づいてきた。至近距離からのパンチを受けても なおバニラは平然と立ち上がってくる。 (なんて頑丈な奴だ!) そのタフさに才人は舌を巻いた。エースのパンチは蛾超獣ドラゴリーの体を貫いたほどの威力があるというのに、 耐え切るとは恐ろしい奴だ。いや……それにしても異常だと才人、それにエースは感じ始めていた。 このバニラは、これまでに見るところでは科学特捜隊が交戦した初代バニラと大きく変わるところはない。 なのに、この異常なまでのタフネスさはなんなのだろう? 無限の体力を誇る怪獣は、液汁超獣ハンザギラン など例はあるが、バニラにそんな能力があると聞いたことはない。第一、ウルトラマンと戦う前に倒された 怪獣なので、倒せないはずはないと思っていたがとんでもない。才人は、自分の知っている中で、何かバニラの 特徴に見逃しているところはないかと考えた。 古代ミュー帝国において、赤い悪魔と恐れられた怪獣。性質は凶暴で……いや、能力自体はそこまでの 脅威ではない。バニラと同程度の怪力や能力を持つ怪獣などは、探せばいくらでも見つかる。はるかに文明が 進んでいたと伝えられるミュー帝国の人々をして、悪魔と言わしめたものはそんなものではないだろう。 ならばと、才人は考える。確か、バニラは同時に暴れていたもう一匹の…… (そうか!) 頭の中でピースが組みあがったとき、才人にはなぜバニラが恐れられていたのかという理由がわかった。 もしこの仮説が当たっているとしたら、このままバニラといくら戦い続けても無駄でしかない。 そのとき、バニラの口が開かれると、真っ赤に裂けた口腔からさらに紅蓮の火焔がエースに向かって放たれた。 「ヌオオッ!?」 近距離にいたエースは火焔を避けきれず、胸に直撃を受けて大きくのけぞった。 これが、バニラが赤色火焔怪獣と呼ばれるゆえんである。 (エース!) (北斗さん!) (大丈夫だ……) 直撃を受けた箇所を押さえて、エースは苦しげに答えた。バニラの火焔は二万度の熱量を誇ると言われ、 エースの胸は大きく焼け焦げている。口では大丈夫というものの、そんな生易しい傷のはずはない。 その証拠に、カラータイマーも青から一気に赤の点滅を始めた。 この機を待っていたと、バニラはエースを見下ろしてさらに火焔を放射した。 (避けて!) (くっ!) 転がり避けた後を火焔がなぎ払い、森が一瞬のうちに炎に包まれていく。しかも、勢いあまった炎は、 そのまま数百メイルに渡って森を焼き、炎の壁ともいうべき森林火災が引き起こされた。 (な、なんて炎なの!?) (バニラの火焔は、空の上の戦闘機を狙い撃ちできるほどの射程もあるんだ。エース、もう時間がない。 一気に決めましょう!) カラータイマーの点滅は、バニラとの格闘戦が長引いたことで急速に早まっている。これ以上引き伸ばされては 光線技を放つエネルギーもなくなる。エースは、この戦いはここで終わらせると決意すると、腕をL字に 組んで最大の得意技を放った。 『メタリウム光線!』 赤、青、黄の輝きを放つ光の奔流が驟雨を貫いてバニラへ向かう。いかに奴が頑丈であろうとも、これを 喰らえばただではすまないのは確実だ。 ところが、バニラは避けようとするどころか火焔をメタリウム光線に向けて放射した。 (なにっ!?) 三原色の光線と、灼熱の火焔が空中で衝突して激しいエネルギーのスパークがほとばしる。三人は 信じられなかった。火焔がまるで障壁と化したかのように光線を受け止めている。そしてついに、メタリウム光線は バニラに届くことなく空中ですべてかき消されてしまったのだ。 エネルギーを大量に消耗し、エースはがくりとひざを折った。カラータイマーの点滅は一気に限界まで達し、 才人は愕然としてつぶやいた。 (メタリウム光線を防ぐなんて……なんて奴なんだ) 起死回生の一手もしのがれて、もはやエースにはまともに戦うだけの力は残されていなかった。 バニラは、今の攻撃がこちらの最後の切り札だったことを見透かしたかのように、安心して悠然と向かってくる。 (いけない! 奴が来るわよ、エース立って!) (くっ!) 急激な疲労感の中で意識が遠のきかける中、ルイズの叫びでエースは我に返った。目の前まで 迫ってきたバニラに飛び掛り、投げ倒そうとする。だが、逆に軽く弾き飛ばされてしまった。 「ウッ、フゥゥーンッ……」 地面に叩きつけられ、エースから苦悶の声が漏れる。森の木々をへし折り、仰向けに倒れるエースは 起き上がることもできずに、平然と接近してくるバニラを見上げることしかできなかった。 (エース! バニラがくるぞ! がんばれ、がんばってくれ!) (そうよ! あなたが負けたら誰がこの世界を守るの。お願い、立って!) 苦しむエースの心に、才人とルイズの必死の叫びが響く。二人とも、エースがダメージを受けたことによる 反動で、すでに激しい苦痛を受けている。それにも負けずに呼びかけてきた声にはげまされ、エースは 最後の力を振り絞った。起き上がろうと、しびれる腕に鞭を打ち、地面に手を着いて体を支えようとする。 だが、バニラはそれすらも許さなかった。火焔を放ち、周辺の森ごとエースを炎に包み込んだのだ。 「ヌワアアッ!」 (うあぁぁっ!) (きゃああぁぁ……) 太陽が地上に出現したような業火の中に、ウルトラマンAの姿が飲み込まれていく。 バニラの勝ち誇った遠吠えが、暗雲の中にとどろいていった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔