約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8004.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 トリステイン魔法学院の敷地内で、もっとも広い中庭に集められた生徒達が、それぞれに整列して、教師達を待っている。 やがてそこに学園長オールド・オスマンを筆頭に、教師達は生徒に対面するように並んだ。 オスマンは拡声の魔法をかけた杖に両手を乗せて、集まった二百人近い生徒達に向かって声をかける。 「諸君。本学院の今年度上半期の学期は、本日の正午をもって終了し、ふた月ばかりの休暇に入るわけだが、本年度は隣国との紛争などもあり、領地に帰っても休まらない生徒もおるだろう。 そこで儂は、通年確保しておる夏季休暇中の在学許可の枠を広げ、例年より多くの生徒や教師が学院に残れるように準備しておる。勿論、係累等後見人の承認は要るがの。 この休暇をどのようにつかうのも諸君らの意思次第である事を言っておこう。避暑に赴くもよし、独自に何がしかの研究に励むのもよいじゃろう。しかしこの学院の責任者として、 諸君らが壮健であって次学期を迎えられることを切に願っておる。 ふた月後にまた会うとしよう」 生徒側から感謝の拍手が送られ、次に教師達を先導とした移動が始まる。移動は学院の内壁正門で止まり、再び整列する。オスマンはそこで正門に向かって杖を構え、魔法で厳重な鍵を掛けた。 この鍵は原則、次学期の始業式まで掛けられたままになっている。裏門や脇の出入り口がいくつかあるから、学院に残る者たちにとって不便というほどでもない。 祭事の時に鳴らされるいつもとは少し違った鐘の音が学院に響いた。 終業式が終わり、生徒達は各々の予定に従って行動しはじめる。既に学院の裏門の前には生徒達を迎えに来た大小の馬車が並んで待っているのである。ルイズ・フランソワーズはまず、私物をトランクに詰め込むところから始めた。 「といっても、大したものはないのよね。姉さまのところに大体揃っているし」 ルイズの夏季休暇は、王都トリスタニアでアカデミー研究員をしている姉エレオノールが住むヴァリエール家所有の別宅で過ごす予定である。暫くの寄宿だが昔から使い慣れた勝手知ったる場所で、 わざわざ持っていかなければならないものはそれほどない。 したがって、ルイズの手荷物は貴族の旅荷としては比較的軽量な規模に収まった。 それを運んだシエスタ曰く、 「えぇ。ミス・ヴァリエールのお荷物はとてもよく纏められていて、他のお嬢様達が大型トランクを三つはお使いになるのに、ミス・ヴァリエールはお一つしか使われてませんでした」 人一人は優に入るトランクを引っ張るシエスタを連れて、ルイズは学院の本棟から少し離れた小塔に向かう。そこはコルベールが自分の為に学院で用意した研究室だ。 塔の脇に建てられた小屋からは細く煙が煙突より伸びている。ルイズが小屋の中に入ると、壮年の男が小屋の奥に作られた炉の火を落としているところだった。 「早かったじゃないか。手伝いに行こうと思ったんだが」 「煤けた格好で手伝いに来られても迷惑だわ」 「聞いたかい相棒、嬢ちゃんは使い魔である相棒の手なんて借りたくないってさ」 「それは困ったな。明日から職の手を探さなくちゃならないな」 「あんた達……!」 ルイズの癇癪が弾けると同時に炉の中に残っていた小さな火がかっと燃えて弾けた。溜まった煤が炉口から噴き出して二人と一振りに降りかかる。 二人は盛大にせき込んで、ルイズは息を吐いた。 「まぁいいわ。あんたはもう準備できてるの?」 「そこに置いてある荷物で全部だな。あとはコルベール師に挨拶して終わりだ。あの人は休みの間も学院にいるらしいな」 「休暇の時くらい家に帰ればいいのにね。何処の出身なのか知らないけど」 壮年の男は己の荷物が入った背負い袋を身体にくくりつけた。月日に焼けた金髪を長く後ろに撫でつけ、その動きは実年齢よりもいくらか若々しい。身なりからみて貴族ではない。しかし平民らしからぬ振る舞いに、 どこか気品がにじみ出ていた。 コルベールは自室に居た。窓の少ない塔の中は、埃っぽさと熱気が入り混じって、入ってくるものを立ち竦ませる不快さを感じさせた。 しかし塔の主人はそんなことはまったく気にしておらず、訪問者を快く迎え入れてくれる。 「おや、ミス・ヴァリエールにギュスターヴ君。今日は何か……?」 「はい。私はルイズについてここを離れますので、その間小屋の管理をお願いしたいのです」 自分の使い魔はこの禿頭の教師と仲が良いな、とルイズは前から思っている。趣味が合うのだろうか? そんな少女の呟きも知らず、コルベールは壮年の男――ギュスターヴの要請を聞きいれてくれた。 「ではお二人とも、休暇の間息災で」 「ありがとうございます。では」 「そう言えばシエスタは休まないのか?」 「メイド仲間のうちで何人かはこの機会に帰省するみたいですけど、私は残ってお仕事しますよ。お手当ても出るんですから」 「学院長も太っ腹よね」 裏門までの道でそう話していると、三人を誰かが呼びとめる。 振り向けば、赤髪の娘と青い髪を短く刈った少女が木陰から手招きしていた。 「ハァイ」 「なによキュルケ。私達急いでるんだけど」 赤髪のキュルケと言われた娘はルイズの険のある言葉に肩を竦ませた。 「ちょっと声掛けただけじゃない。もう少し肩の力抜いたら?」 「どうでもいいでしょう。で、何か用?」 「私達休暇中も学院に居るんだけど、何か休みの間予定があったら教えて頂戴、遊びに行ってあげるから」 「遊びに行って『あげる』ですって?」 ルイズのこめかみがぴくぴくと動いているのがギュスターヴから見える。この娘は感情の波が激しいことこの上ない。それを知っているくせに、キュルケはこう言い放った。 「だって貴方の事だもの。どうせ帰っても相手してくれるのがギュスだけじゃ、流石にギュスがかわいそうでしょう?」 「そ、そんなこと……」 「そんなことは、ないさ」 言いよどみかけたのを遮って、ギュスターヴは自信満々といった風に言った。 「俺たちはトリスタニアに行くんだ。ヴァリエールの末娘なら顔くらい見たい貴族だっているだろう。それほど暇じゃないかもしれないぞ」 「そうかしら?」 「そうさ。……だから遊びに行きたいなら素直にそう言ったらどうだ?」 「う……」 口ごもってキュルケは隣に居て沈黙を守る青髪の少女タバサに向けられた。 見返すタバサの目に表情はない。それが鏡を覗きこむような気分にさせた。 「……そうね。実はねルイズ。寮に残るのは女生徒ばっかりで男が全然いないの。当然よね、戦争になりそうなんだもの。だから退屈になったら、貴方のところにいってもいいかしら?」 ルイズは煮えかけた頭がだんだんと冷めてくるのがわかった。要するにキュルケは寂しいから構ってくれと言っているのだ。そう思えばほんの少し、自尊心がくすぐられる。 「来てもいいけど、姉さまも一緒にいるから居心地は保証しないわよ」 「あのお姉さんはいじり甲斐がありそうでいいわね」 キュルケの答えにルイズはさらに頭が冷めていくのであった。 寄越した馬車に乗せられたルイズとギュスターヴが到着するのが見えて、エレオノールは階下のロビーに降りることにした。 ヴァリエールの別邸は、王都の高級住宅街に数ある貴族の邸宅の中でも、上から数えた方が早い位に豪華な屋敷である。勿論ヴァリエール領にある本家と比べれば慎ましい出来であるが、調度品や建築の見事さは是非に及ばない。 ロビーでは使用人に荷物を託したルイズと、使用人について屋敷の奥へ行こうとするギュスターヴの後ろ姿があった。 それがちらっと見えただけでエレオノールは胸の奥がかっと熱く打たれてしまうのだ。 (あぁ、あの人もここで過ごしてくれるのね……) 一目会ったその日から、密かにエレオノールはギュスターヴへ思慕の情を募らせており、一時期は暇さえあればギュスターヴが立ち上げた百貨店に通いつめて、ギュスターヴの姿が無いか歩いたものだった。 ……その姿は周囲から「貴族の婦人が通い詰めるほど百貨店は良い店なんだ」というというように見られていたりする。おかげで店を切り盛りするジェシカは右肩上がりの左団扇である。 「……姉さま?」 出迎えに来てくれたらしい姉があらぬ方を見たままぼうっとしてるので、ルイズは手持無沙汰のままロビーに立たされる羽目になったのだった。 正気に戻ったエレオノールはルイズを連れて談話室に入ると、テーブルで薬湯と菓子を啄みながら学院での生活について事細かに聞き出し、オスマンが休暇中の寮滞在を認めた話を聞いて関心していた。 「よくそんな財布の余裕があったものね。アカデミーなんて予算を削られてしまうんじゃないかって汲々としてるのに」 「どうして?」 「軍備に国費がかかるからよ。アルビオンの奇襲で軍艦はほぼ全滅で、タルブでの合戦では勝ったけど王軍も被害甚大だそうだから」 そういうエレオノールに相槌をルイズは打てない。王軍の被害の一端は自分が行った虚無の発動が原因やも知れないから。 「王軍はタルブ戦役で功あった傭兵部隊を正規軍に組み入れたと聞くし、トリステインの格が落ちるというものよね。アンリエッタ女王には頑張ってもらいたいわ」 「姉さま、陛下を助けるのが私達貴族の義務でしょう?」 「当然よ。現にヴァリエール家は王家に資金と人足を供出したし、私もアカデミーでアルビオン軍が残した船から見つかった、砲弾の解析に駆り出されてるもの。うちで何もしてないのはあんたとカトレアだけよ」 「……仕方がないでしょう、まだ学生なんだもの……」 だがルイズは先日、内々にアンリエッタから彼女直属の女官としての権限を与えられているのだ。いざ王女からの命令があれば一目散に駆けつけなければならない。 その時は意外に早く訪れるのだが、ルイズとギュスターヴが別邸に着いたその日の夜、ギュスターヴはあてがわれた部屋で背中を伸ばしていた。 部屋を見渡すに一応、使用人用の部屋らしい。質素なベッドと椅子、テーブルと小さな衣装箱が一つだけ置いてある部屋だ。 「あまり歓迎されてないようだな、俺は」 独り言に答える声が荷物から帰ってくる。 「まぁ、仕えてる貴族のお嬢様がどこの馬の骨ともしれない男を連れてきているんだから、歓迎はされないわな」 答えたのは荷物に収まっている一振りの剣だった。知恵ある魔剣インテリジェンス・ソードの一つであり、古の虚無の使い魔『ガンダールヴ』が使っていたと自ら主張するデルフリンガーである。 「時に相棒よ。あんたはこれからどうするんだよ?お嬢ちゃんはひと夏ここで過ごすわな。その間それにつきあっているつもりかい?」 「そこなんだ、デルフ」 ベッドから起き上がって荷物からふた振りの剣を引っ張りだすと、それぞれをテーブルに乗せた。一方はデルフだが、もう一方は石でできた長剣だ。 「俺がルイズにアニマの使い方を教えたのは、一つにはそれがルイズの未来につながるものだと思ったからだ。この世界ではアニマの術を使えるものは居ない。ただ一人のアニマ術師になる。 あとはそれを自分で使いこなせるだけの精神を持っていれば自由に生きられるだろう」 世間知らずでわがままなルイズだが、ギュスターヴはそれが出来ると信じている。 「一つってことは、もうひとつあるんだな」 「始祖の祈祷書とやらが変化した卵型のクヴェルが気になる。鉛の箱にしまってあるが、あれは尋常な代物じゃない」 「アニマとやらが無い相棒に解るのかよ?まぁ、俺っちもありゃやばい代物だと思うどな……」 虚無に使われる立場のデルフから見ても、卵形と化した祈祷書は異常な存在なのだという。 「もしあれを再びルイズが手にする時があれば、ルイズ自身で制御できるようにならなきゃいけないだろう」 「それまでの訓練、ってことかい?」 「そんな時が来ないに越したことはないんだがな……」 ちらりと目が白い石剣を映す。 「嬢ちゃんに対する理由はそれでいいとして、あんたはその、なんだ……サンダイルってところに、帰りたくないのかい?」 「……帰りたいさ。帰って友人達に謝りたいな、黙っていなくなって済まないってさ」 「相棒は妻子居ないんだろ?その年でやもめたぁ、寂しいよなぁ……」 そこまで言って、デルフは何か閃いたようにカタカタと鳴った。 「解ったぜ、相棒がこっちに後ろ髪引かれて元の世界に帰る方法を探し渋っている理由。あんたは嬢ちゃんを自分の娘か何かみたいに思えて仕方がねぇんだ」 「ルイズが娘だって?」 「そうさ。手元で大事にしたいって気持ちがあるんだろ。だから離れるのを渋ってるのさ」 得意そうに魔剣は笑った。 だがそう指摘されたギュスターヴは、怒るでも笑うでもなく、むしろ神妙に表情を暗くして考え込んでしまうのだった。 「ど、どうしたよ?」 「……これが親の気持ちという奴のなのか?」 「いや、そうなんじゃないかって思っただけだよ。実際のところは知らないね」 そう言ってやるとギュスターヴはますます悩み深げにうつむいた。 皺を寄せて黙っている相棒をどうしたものかとデルフが考えていると、夜更けだというのに部屋を尋ねる者が居た。 「客だぜ相棒」 ノックにギュスターヴが答える間もなく訪問者は勝手にドアを開け部屋へと入ってくる。 部屋着に着替えたルイズだった。ルイズは部屋を一瞥し、自分の使い魔の境遇に文句をつけた。 「こんな貧しい部屋がこの屋敷にあったなんて知らなかったわ。私の使い魔に相応しくないと思うの」 「それで嬢ちゃんはどうするのよ?」 「明日から家令に言いつけて他の部屋を用意させるわ」 「別にこの部屋でいいだろう。気を使われると居づらくなる」 「あんたはそれでいいかもしれないけど、それで召使たちに舐められているんなら許しがたいわ」 部屋にやってくるなり青筋立てて息を巻くルイズに、先程まで考えていた事を頭に押しやり、ギュスターヴは言った。 「わざわざこの部屋に文句をつけにきたのか?」 「あっ、そうだったわ。姉さまと夕食を済ませた後、私宛に手紙が来たの」 これよ、とルイズが懐から出したのは小奇麗な封筒だった。送り主の名前はなく、ただ宛名だけが記されている。しかし、封蝋等の格式から見て、貴族の使う梟便で運ばれたものらしい。 「梟便?」 「伝書用に調教された梟に手紙を持たせて送るのよ。貴族の屋敷なら梟を受け入れる鳥小屋が天井裏にあって、そこに手紙を持った梟が入ってくるのよ。学院には何十羽も入ってこれる梟小屋が置いてあるわ」 「わざわざ梟に持たせるなんて手間暇かけるもんだな」 「中には自分の使い魔にやらせる人もいるけど……って、そんなことはいいのよ。問題はこの中身よ」 言ってルイズは剥がされた封蝋の下から便箋を取り出して見せた。その様子なら既に中身は確認済みなのだろう。 「読んでも構わないか?」 「汚さないでよね」 ギュスターヴは受け取ると、便箋に目を走らせる。ジェシカと手紙のやりとりをするようになって、一応日常の読文に支障はない。 「なんて書いてあるんだい?」 「かいつまんで言えばお茶のお誘いさ」 「茶ぁ?」 「もっと上品に言ってくれる?陛下からわざわざ謁見に来るようにという申し渡しよ。内々に送ってくるところを見ると、何か任務を与えられるんじゃないかしら」 一見、そう冷静にルイズは言っているが、内心では働ける事に喜んでいるに違いないと、ギュスターヴは思った。この娘のアンリエッタ女王への尊敬とトリステイン王国への忠誠は揺るがないものらしい。 「この手紙の日付を見ると明後日になっているな」 「そうよ。それまでに身の回りの物をそろえなくちゃいけないわね。明日は忙しくなるわよ」 「どうして?」 「休み一杯任務に費やすかもしれないから、明日のうちにめいいっぱい遊んでおくのよ。あと、買い物とか」 にひ、と意地の悪い顔をするルイズを少し疲れた気持ちでギュスターヴは見た。女の買い物に付き合うのはいつ何時でも大変なのだから。 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4013.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《父よ、御心ならばどうぞ、この杯を私から取りのけて下さい。 しかし、私の思いではなく、御心が成るようにして下さい》 (新約聖書『ルカによる福音書』第二十二章より) 時はヤラの月半ばの深夜、ところはスカボローから50リーグ手前の丘陵地にある谷間の隘路。 『東方の神童』松下率いる『千年王国』軍団1000人と、『東方の王』バエル率いる66個の悪魔軍団が激突する! その谷の奥、月光も射さぬ暗闇の中では、『虚無の担い手』ルイズが街道の石畳に座っていた。 切り札の『虚無の呪文』を長々と詠唱しながら、アルビオン大陸を縦横に走る『霊脈』をとらえ、魔力を吸い上げているのだ。 ―――――この丘陵地は上空から見ると、頭をスカボローに向けて仰向けに横たわった女性の体にやや似ていた。 隘路を挟んで並んだ双丘は、かつては『妖精女王の乳房』と呼ばれ、平民から信仰の対象にもなったという。 その中心にいるルイズが呪文を唱えるたびに、そこに集まる霊脈の力は強まる。霊脈の上には、街道が走っている。 活性化した霊脈の周りでは大地が熱を持ち、降り積もった雪が溶けて春の草花が咲き乱れ、蟲たちが目を覚ましている。 40リーグも彼方に駐屯していた七万の軍勢は、その魔力に魅了され、ルイズの方へと引きずり寄せられていた……! 「おお、俺は呼ばれている」「召されている」「彼女が喚(よ)ばわっているぞ!」「うわーっ、たまらん!いい気分だ!」 「俺が必要とされているんだ!」「いいや、呼ばれたのはこの俺だ!」「ばかな、俺だ俺だ!」「あたしが呼ばれたのよ!」 「彼女を迎えに行こう!」「そうだ、あそこへ帰ろう」「彼女のもとへ還ろう!」「そうだそうだ!」 将軍も士官も兵士も捕虜も、老いも若きも男も女も、人も亜人も動物も幻獣も、さかりがついたように駆け出す! 彼らはみな猛り立ち、勇み立ち、いきり立ち、熱狂し、本能に衝き動かされて走り出す! ああ、誰も彼もが彼女に召し寄せられ、喚び寄せられる! 地響きを立て、荷物を打ち捨て、七万人と無数の獣たちが40リーグ先のルイズの胸元へ、飛ぶように駆けてゆく! 竜や幻獣、軍馬などは、騎手を振り落とす勢いで先を急ぐ。亜人は大股で走り、牛や犬がそれに続く。 アルビオン軍四万が前に、反乱したトリステインの兵やサウスゴータ市民や捕虜たちが後になり、ぞろぞろと駆けてゆく! 《谷神は死せず、これを玄牝と謂う。玄牝の門、これを天地の根と謂う。 綿綿して存するごとく、これを用いて勤(つ)きず》 (『老子道徳経』より) 「「むぅ、なんじゃあこの異様な気配は!? 魔力が吸い取られる心地じゃ! マツシタよ、その谷間には、いったい何がおる!?」」 「さあな、聖母なのか大淫婦なのか! まあ待っていろバエル、今に分かる!」 『炎の杖』を振るう松下は、驚くべきことに大悪魔バエルと互角に渡り合っていた。 教団兵は次々と魔法や銃弾を放って、増え続ける悪霊を撃墜する。対抗して悪霊も魔法を放ち、兵士たちを撃ち殺す。 デカラビアは鳥の使い魔を無数に召喚して悪霊たちの目玉を突つかせ、ブエルは水メイジらとともに負傷者を治癒する。 『ヴィンダールヴ』で潜在能力を引き出されたケルベロスに組みつかれ、さしものバエルもよろめいた。 「「ええい埒が明かん、無理にでも押し通るぞい! 開けゴマ、じゃ!」」 しびれを切らしたバエルの三つの口から、おびただしい蛙とネズミとイナゴが吐き出される! 《第六の天使が、その鉢の中身を大河ユーフラテスに注ぐと、川の水が枯れて『日の出る方角から来る王たち』の道ができた。 私はまた、竜の口から、獣の口から、そして、偽預言者の口から、蛙のような汚れた3つの霊が出て来るのを見た。 これはしるしを行う悪霊どもの霊であって、全世界の王たちのところへ出て行った。 それは、全能者である神の大いなる日の戦いに備えて、彼らを集めるためである。 …汚れた霊どもは、ヘブライ語で『ハルマゲドン(メギドの丘)』と呼ばれる所に、王たちを集めた》 (新約聖書『ヨハネの黙示録』第十六章より) 松下は『炎の杖』を再び回転させて『青銅の蛇』に変え、蛙とネズミとイナゴを呪力で押し返す。 地面やケルベロスのたてがみからは無数の蛇が湧き出し、蟲どもを呑み込んで退治する。 「ははははは、動物を操る『ヴィンダールヴ』に、その術は効かないぞ!」 だが、東の空から激しい羽音が轟き、アルビオン軍にいた竜や幻獣などが飛来する! その眼はぎらぎらと輝き、谷間へ向けて一直線に急降下だ! 「「ひょひょひょ、そちらこそ命運尽きたのうマツシタ! アルビオン軍がこちらに近づいて来るぞ!!」」 しかし、谷間からはぶしゅーーっとガスが噴出され、蚊トンボのように竜たちがぼたぼたと落ちる。 それを浴びたバエルや悪霊どもも、体がしびれて動けなくなる。松下たちは無事だ。 「「な、なんと、このわしが動けんとは……!!」」 やがて彼らは、石化してしまった。『霊脈』から溢れ出た、強力な大地の霊気のようだ。 それに続いて、ぐらぐらと地震が起こる。ルイズは魔力を目いっぱいに溜め込み、ついにゆっくりと立ち上がった。 「……始まったか! よーし諸君、散開して二つの丘の上に登れ! 前方で陥穽と塹壕を守っている者たちには、『錬金』で作った油に火をつけるよう伝えろ! アルビオン軍の本隊が来るぞ!!」 トランス状態に入ったルイズが歩むたびに、膨大な魔力によって大地が揺れる。まるで巨人が歩いているようだ。 口からは『虚無の呪文』が紡がれ、両手は神々しく天に向かって挙げられている。 その右手には杖が、左手には『始祖の祈祷書』があった……。 「《バガビ ラカ バカベ ラマク カヒ アカバベ カルレリオス……》」 松下がルイズのそばに駆け寄ると、ルイズはすーーっと左側の丘に飛び上り、その頂に立つ。 そして松下も、右側の丘の頂に『魔女のホウキ』で飛び上がる。 「メシア、先ほどの戦いでの殉教者は185名。それと、第四使徒ギーシュがモグラのように穴を掘って逃げました」 「分かった、第二使徒シエスタ。殉教者は祝福されて天国に入り、背教者は裁かれるだろう。 ではタルブでの如く、ぼくの体を支えてくれ。バエルとの戦いでかなり傷を負い、魔力を使ったからな」 「はい、メシア!」 ルイズと松下は双丘の上に向かい合って立ち、谷間を挟んで同一の呪文を詠唱する。 ケルベロスは二体の悪魔を左右に配し、四肢を踏んまえて隘路を守るように立つ。 街道の向こうからは、七万人の男女と禽獣が、信じがたい速さで駆けて来る! 彼らは皆、ルイズに呼び寄せられているのだ! 陥穽に嵌った亜人や獣たちを踏み潰し、泥と油と火の中を潜り抜け、40リーグを駆け抜けて、彼らはやって来た! Bagabi Lacha Bachabe Lamac cahi achababa Karellyos Lamac Lamac Bachalyas Cbahagi Sabalyas Baryolas Lagoz atha Cabyolas Samahac atha femyolas Harrahya ついに『虚無の呪文』は完成し、彼らの足下の地面がすっぽりと消失した。 二つの丘の挟間から、『横たわる女性』の丘陵が真っ二つに裂ける。 彼女の胸部から股間まで、巨大な『虚無の深淵の裂け目』が開き、七万人をまるごと混沌の奈落へ呑み込んだ。 その中はあらゆる異なる時空間とつながっており、入ったものを何処とも知れない時空へ転移させる。 始祖ブリミルは、かつて異なる世界から『虚無の門』を潜り、このハルケギニアにやって来たという。 これこそが、極めて不安定で不完全ながら、その門なのだ! 『虚無』とは世界を構成する極微の粒子を操作し、奇跡を起こす魔法。 ルイズが失敗だと思い込んでいた『爆発』も、その粒子が僅かに動いて衝突したために起こったに過ぎない。 『解呪』は自然ならざるもの、呪いを退去させる魔法であり、『幻影』は逆に自然ならざる幻影を招来する魔法。 いずれも『虚無』の魔法の中では、下級のものだ。 だが、この『虚無の門』は上級に属する大魔法。 ルイズがこの撤退戦で溜め込んだ多大なストレスを解き放ち、半日以上かけて呪文を練り上げ、 アルビオン大陸中の『霊脈』とリンクして魔力と血を吸い上げ、メシア・松下の力も借りてようやく発動できた代物だ。 「「汝ら、我らが召喚せし者たちよ!!」」 「「我らは汝らを必要とせず!! 速やかに、在るべき場所へ還れ!!」」 「「異邦人はその故郷に、敵は地獄に、獣は野山に還れ!!」」 「「我らが開きし『虚無の門』を通りて還れ、『送還』!!!」」 二人の力強い声が、闇の中に雷鳴の如く轟き渡る。 『虚無の門』の暗黒が渦巻いて銀色に輝く『送還の門』となり、あらゆるものを呑み込んでゆく。 バエルが、ホーキンスが、悪鬼が竜が亜人が幻獣が牛馬が士官が兵士が捕虜が男が女が、ことごとく呑み込まれる! アルビオン大陸の底が抜け、彼らは無限の深淵へと落下し、奈落の底へ消え失せた。 ある火竜は、いつの間にか生まれ故郷の火竜山脈上空を飛んでいた。 ある軍馬は、いつの間にかゲルマニアの東に広がる草原地帯を走っていた。 石化したバエルと悪鬼は地獄の宮殿に帰り、トリステイン軍の捕虜たちはトリスタニアの練兵場に戻っていた。 『アンドバリの指輪』によって反乱した人々も呪いから解放され、サウスゴータや故国へ戻される。 そしてアルビオンの軍勢は、底知れない地獄へ送られて、堕ちていった……。 それを見守りながら、ルイズの口は『祈祷書』に現れた始祖の言葉を呟く。 『おお、これは我が故郷を思い、編み出したる、大いなる「送還」の魔法。 されど、これを用いて我ブリミルは帰還することあたわざりき。 我にとりて、もはや、かの荒れ果てたる地は故郷にあらざるか? ああ、なれど我が子孫よ、これを覚えよ。 いつの日にか、我がこの世界に現れし場所「聖地」をエルフの手より奪回せよ……』 「ほうほほう、素晴らしい! 『虚無』とはこういう力なのか! とても勉強になったよ!」 その場所から約4リーグ後方の空中、ゲルマニア艦隊旗艦の甲板にて。 オペラグラスと『千里眼』で大異変を見守っていたブラウナウ伯爵は、上機嫌に笑った。 「大悪魔バエル王をも打倒し、七万の軍勢もガダラの豚よろしく、雪崩を打って溺れ死んだか! 小人の王様(アルベリッヒ)と巨人の女王様(タイターニア)が、母なる地獄の釜の蓋を開いたか! ああ、素晴らしい! 本当に素晴らしい!! キキキキキキキ」 「は、伯爵、大丈夫かね?」 「いやいや侯爵、いたって正常ですよ僕は。さて、気を取り直して、後始末をさせてもらいましょうか。 まず、言霊には言霊を、歌劇には歌劇を。ジュリオくん、あの『銃』を持って来てくれ」 「はい、ダニエルさま。ここにございます」 ジュリオが差し出したのは、古ぼけたマスケット銃。新開発のライフリングも施されていない、ただの猟銃だ。 しかし、ダニエル・ヒトラーの『ガンダールヴ』と魔術を組み合わせれば、恐ろしい兵器となる。 「さ、諸君、歌声を合わせて《呪歌》を唱え、戦争と狩猟を讃えよう。 《Das Wild in Fluren und Triften,Der Aar in Wolken und Luften…》」 《Mein Sohn, nur Mut! 耐えよ、勇気を持て! Wer Gott vertraut, baut gut! 神を信じる者は行わん! Jetzt auf!In bergen und Kluften, いざ行かん!山にも谷にも喜びは溢れ、 Tobt morgen der freudige Krieg! 明日こそ、うれしき戦の日! Das Wild in Fluren und Triften, 森や牧場の獣ども、 Der Aar in Wolken und Luften, 空を翔け行く鷲や鷹、 Ist unser, und unser der Sieg! 勝利は我らがものなるぞ! Lasst lusting die Horner erschallen! 角笛よ、高らかに鳴れ! Wir lassen die Horner erschallen! 角笛よ、森に谺せよ!》 (カール・マリア・フォン・ヴェーバー作曲のドイツ歌劇『Der Freiscutz(自由射撃/魔弾の射手)』より) マスケット銃に込められているのは『魔弾』。嵐の悪魔ザミエルの呪いを受け、自在に獲物を仕留める弾丸だ。 ヴェーバーの歌劇の舞台は三十年戦争終了頃のボヘミアで、作られる魔弾も七つきりだが、 元来の18世紀の伝説では七×九、つまり六十三発の『魔弾』が作られたという。 それに歌劇では、射手の恋人アガーテは魔弾から守られるが、本来の伝説では彼女は撃たれて即死し、射手は気が狂う。 「僕に恋人などいないし、悪魔は僕の下僕だ。六十三発の全てが僕の意のままに命中する! まあ、『ガンダールヴ』の僕には一発で充分かな。距離は4リーグ、問題なし。 恋人とは違うかも知れないが、ヒロインのルイズ・フランソワーズもついでに始末するか。 松下の体を支えている、あの女信者もな! さあて、鉄の杖は振るわれ、審判の日の最後のラッパは、今こそ鳴るぞ!」 マスケット銃を構えると、ダニエル・ヒトラーの右手にある『ガンダールヴ』のルーンが強い光を放つ。 「《Es sei!!bei den Pforten der Holle! よかろう!地獄の門にかけて!》 自分で蓋を開けた魔女の釜の底へ、地獄へ堕ちろ、松下一郎!!」 運命の魔弾が一発、マスケット銃から放たれた! 双丘の頂上にて。 松下は満身創痍で力を使い果たし、目を閉じてぐったりとしている。シエスタは松下の体を抱きかかえるように支える。 ルイズは微動だにせず、あの『始祖像』のように両手を広げて立ったまま気絶している。 何が起きたのかは分からないが、あの悪魔どもとアルビオンの大軍は、メシアの奇跡によって残らず地獄へ消え去ったのだ。 食い止めるどころではない、殲滅だ。これでスカロンやジェシカたちも逃げ延びられるだろう。 トリステインがガリアとゲルマニアに攻め込まれても、故郷のタルブだけはきっと無事だ。 このメシアが、神の祝福を受けてこの世界に現れた人類の救世主が、その知恵を以って都市を築きあげた『聖地』なのだから。 そうだ、『千年王国』では平民も貴族も王族も、みな同胞となる。貧困も病気も、様々な悪徳もそこでは見られない。 老人も不具の人も蔑まれず、自由な人民が共に和して、主なるメシアのもとで賢い政治を行うようになろう。 ブリミル教会が説いてきた偽善的な教えは、この新しい真理にすぐ塗り替えられる。悪はことごとく滅び、罪は赦される。 世界は一つとなり、千年、いや未来永劫に渡って、神とメシアの支配による繁栄が続く。時は止まり、歴史は終焉を迎えるのだ! シエスタは狂おしいほどの歓喜のあまり、思わず叫んだ。 「ああ、メシア! 戦いは、世界革命はこれからです! この輝かしい勝利の福音を世界中に告げ知らせ、誰もが成し得なかった地上天国を完成させましょう!」 だが、凶弾が背後から、ルイズ・フランソワーズの胸を貫く。 その血が噴き出すより早く、松下一郎の心臓に『魔弾』が命中し、貫通する。 そしてもちろん、彼を抱きかかえていた第二使徒・シエスタの胸をも。 「………え」 「………う」 「………!」 三人は同時に倒れ、丘の下の谷間にまだ開いていた『送還の門』へと崩れ落ちる。 事態を一瞬で理解したシエスタの、呪わしい断末魔の絶叫が、最期に響いた。 「神よ、神よ、何故我を見捨てたもうた!!」 その声を残して、三人は何処とも知れない奈落の底へと堕ちていった……! 残された『千年王国』軍団に、空から鉄の雨が降り注ぐ。 ゲルマニア軍の艦隊からの機銃掃射だ。やがて焼夷弾や爆弾も次々と落下し、一木一草も残さず焼き払われる。 さてその頃、スカボローにいるトリステイン軍の総司令部は、焦りに焦っていた。 フネはある、あるにはあるが、ありったけの風石をかき集めても、ぎりぎり本国へ戻るには足りない。 このまま出港しては海に落下してしまう。小型船で総司令部だけ出発しようとしたが、それを知った兵士たちが暴動を起こす。 そこへ、見覚えのある十数隻の艦隊が港の外の空中に現れた。旗は青地に白百合、トリステイン王国の旗だ。 「おお、あれは我がトリステインの軍艦だ! ロサイスから脱出して、生き残っていたか!」 「そうだ、もう助けが来るころだと思っていた! 万歳、始祖ブリミル万歳!!」 「これで帰れるぞ! アンリエッタ女王陛下万歳!!」 「おーい、ここだ! ここだ! 助けてくれーっ!」 しかし、するするとトリステインの旗は降ろされ、代わってアルビオン共和国の三色旗と帝政ゲルマニア国旗、 それに『鉤十字(ハーケンクロイツ)』の旗が掲げられる。将軍や兵士たちの表情が、凍りついた。 数十隻に増えた艦隊は揃って横腹を向けると、火砲の口を港に向けて、一斉に砲弾を放った。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/80.html
第四話 偽りの生命 前ページ次ページゼロの影 ウェールズの後ろからアンリエッタが姿を見せるとルイズが悲痛な面持ちで呻いた。 「姫様! そのウェールズ皇太子は、アンドバリの指輪で蘇った亡霊です!」 叫びを聞いてもアンリエッタは足を踏み出せない。タバサのウィンディ・アイシクルがウェールズの全身を貫いても、なお。 現実から目を背けるように首を振り、苦しそうな声を絞り出す。 「お願いよ、行かせてちょうだい。偽者でもかまわない……私は誓ったのよ。水の精霊の前で、ウェールズ様への愛を」 「そうさ。通してくれたまえ」 ルイズの杖が力無く下がった。他の者達もかける言葉が見つからない。彼女の想いを知って止めることなどできるはずが無い。 胸の重くなる沈黙を低い笑い声が破った。 ミストバーンがはっきりと口元に笑みを刻み、肩を震わせている。 「何がおかしい?」 ウェールズの問いに彼は可笑しくてたまらぬと言うように笑い声を響かせた。 「フハハハハッ! 偽りの生命しか持たぬ人形風情が、ウェールズのような顔をするとは笑わせる」 アンリエッタに指を突きつけ、告げる。どこまでも温度を感じさせぬ声音で。 「そこの小娘……私も似たような技を使うからわかるが、それは所詮躯にすぎぬ。……本物の生命を持つ者が、偽りの存在に安息を求めるとはな」 彼女は気づいていないのだろうか。偽者と知りつつ従うことがウェールズへの侮辱になることに。 彼にはレコン・キスタのやり方を責める権利はない。 ただ、ウェールズではないモノがウェールズのように振舞うのが不愉快だった。彼の誇りを汚された気がしたから。 「あなたに……あなたにこの人を偽りだの人形だの言う資格があって!?」 耐えかねたアンリエッタが叫んだ瞬間、放たれる空気がはっきりと変わった。 まるで憎悪が人の形をとったかのように、彼の全身からどす黒いものが立ち上る。 含まれているのは純度の高い怒りや憎しみ、それだけではない別の感情も見えた。 ルイズの肌が粟立ち悪寒が走る。 ――どこまでも深い闇から生まれた化物。 その言葉が重く心にのしかかり、彼女は思わず自分の体を抱きしめた。 「どきなさい。これは命令よ」 アンリエッタが精一杯の威厳を振り絞るが、叩きつけられた殺気に息を止め、呻きを漏らした。 「命令……? 私に命令できるのはバーン様だけだ!」 絶対零度の言葉と共に走る彼を水の壁が阻み、その壁も爆ぜる。それを合図として戦闘が始まった。 ミストバーンはデルフリンガーを使い瞬時に敵の四肢を切断し、心臓を破壊し、頭部を踏み潰した。 キュルケが動けなくなった敵にとどめを刺していくが、その顔が曇る。 雨が降り出したのだ。これでは炎が通じなくなってしまう。 ルイズが焦りながら『エクスプロージョン』を連発しているとデルフリンガーが呆れて止めた。 助言に従い『始祖の祈祷書』をめくると文字が浮かび上がっている。 ディスペル・マジック。惚れ薬を解くのと同じようなものだ。 詠唱を始めたルイズを中心に円陣を組む一行を見て、アンリエッタは悲しげに顔を曇らせた。行く手を阻む者は――許さない。 ウェールズとアンリエッタが詠唱を始める。『水』、『水』、『水』、そして『風』、『風』、『風』。 詠唱が干渉し合い膨れ上がる。王家のみ許されたヘクサゴン・スペル。二つの三角形が絡み合い、巨大な六芒星を竜巻に描かせる。 「あんなのまともにくらったらせっかくのお化粧が台無しね」 笑みを浮かべてみせたキュルケが目を丸くする。ミストバーンが前に進み出たためだ。どこまでも平静な表情で、自分に任せろというように。 彼はウェールズに名を覚えておくことを約束した。それは単なる字の羅列ではなく、深く『理解』し、永久に魂に刻みこむということだ。 かつて決戦の地に導き、散っていった相手を見据える。 おそらくウェールズは、亡霊が動き回ることに耐えられぬはず。 巨大な水の竜巻の前に飛び出しデルフリンガーを使って受け止める。 「無茶すんなー相棒」 呆れたような呟きが聞こえるが、無謀だとは思わなかった。 なぜなら彼は『理解』しているのだから。 ウェールズの心を。 ルイズの力を。 より恐ろしい、六芒星の真の力を。 凄まじい水流に飲み込まれ、全身を砕かれるような痛みが意識を責め苛む。 しかし彼は全く表情を変えない。小雨に打たれているような風情で悠然と立っている。 彼を従えることなど不可能だと悟ったように竜巻は形を失い、崩れ落ちた。 ミストバーンがゆらりと身体を動かし、生じた空間にルイズが『ディスペル・マジック』を叩きこむ。 すると浄化の光が辺りを照らし、ウェールズとアンリエッタは倒れた。 アンリエッタにとどめを刺そうと歩み寄るのを、ルイズが立ちはだかって杖を突きつける。 「お願い、やめて」 彼を止めようと思っても言葉は通じない。力で――戦ってでも止めると決意した彼女の予想に反して歩みは止まった。 力ずくでどかせることは簡単なはずなのに攻撃はこない。 (なんで……?) よく見ると顔色がわずかに悪い。原因は精神的なものなのか、それとも身体に異変でもあるのか。 彼は攻撃に移ろうとはせずに立ったままだった。 やがてアンリエッタは目を覚まし、震える手で顔を覆った。 「私は……何と言って謝ればいいの?」 ルイズも言いたいことはあるだろうがぐっと飲みこみ、彼女を立ち上がらせた。 アンリエッタが負傷者の怪我を癒し、夢を覚まさせた青年を探すと、彼はウェールズを見下ろしていた。 何の言葉もかけず静かに、悼むようにただ立っている。 だが、アンリエッタが近づくとウェールズの目が開いた。その眼には偽りではない真の輝きが宿っている。 彼は驚愕したように息を呑み顔色を変えた。唇が動き、かすれた音が声にならず零れ落ちる。 「すまない、ミストバーン」 ――せっかく最後に格好をつけさせてくれたのに。そう語るウェールズは穏やかに言葉を紡いだ。 「ありがとう……!」 宴の時と同じ、死を目前にしながらどこまでも静かな眼差しだった。 目の前で起こった事象は彼の理解を超えていた。 (奇跡が、起こったというのか!?) ――これは神の起こした“奇跡”とやらか。 だとしたら、こちらの世界の神はよほど慈悲深いのだろう。少なくとも暇で気まぐれことは間違いない。 (馬鹿な……!) 奇跡などというわけのわからないもので理が覆されてはならない。そんなことがあっていいはずがない。 思考がバラバラに乱れかけるが軽く首を振る。 彼に分かるのは、今アンリエッタと言葉を交わしているのが本物のウェールズであることと、己に奇跡は起こらないことだけだ。 奇跡など信じるつもりはないが、ウェールズがウェールズとして死んでいくならばそれを送るしかない。 最期の瞬間まで彼らしくあったと言えるのはきっと幸せなことだろう。彼の主も、最期の瞬間まで『大魔王バーン』であることを望むはずだ。 ラグドリアンの湖畔まで移動し、二人の会話を眺めていると名も知らぬ感情が湧き上がってくる。 目の前の光景は、体を持たぬ者には踏み込めぬ領域だと知っている。 彼は言葉も無く立ち尽くしていた。 その時“彼”の感覚の網に何かが引っかかった。 己の影の気配をかすかに感じ、額にある第三の目に意識を集中させ探っていく。 すると、一瞬全く知らぬ世界が映った。 ここに己の部下がいる。 今はまだ世界の像をわずかに捉えただけだが、いずれ影を見つけるつもりだった。 学院まで戻ったミストバーンは占い師の渡した羊皮紙に目を通した。 滲んだ部分が多く読める個所は少ない。落胆と安堵の混じった奇妙な気持ちが彼を包んだ。 『――が完全に食われる時、――が――、――を――。――の光が姿を現し、影を包む』 羊皮紙から目を上げ、中庭を赤く染める落陽と長く伸びる影を見て、彼は何かが変わる予感を覚えた。 光と影が巡り、風が吹き、王国に影差して物語は終わりへと加速する――。 第三章 影差して 完 最終章 太陽と影 へ続く 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/ucserver/pages/98.html
概要 Q.祈祷師ってなに? A.ひとことでいうとレイドボス戦の案内人です。 天に祈りをささげるひとで、現世モロクに一名確認されています。 モロク祈祷師の場合、10 20,22 20のタイミングで祈祷を行い、成功すると道が開かれます。 参加条件は、現世で1回以上転生しているLV85以上のノービス職以外です。パーティーは所属なしで参加可能です。 導かれた先の仕様:マップ上では敵に与えるダメージは見えません。HPゲージバーで進行度合いを判断してください。ジークフリードの証は使えません。イグ葉などを持参ください。制限時間は30分です。 討伐に成功すると報酬としてLinkオプション付き簡易装備が手に入ります。 タイムテーブル: 20分 祈祷開始、祈祷成功すると以下へ。祈祷失敗時は何も起きない。 20分-25分 5分間ワープポータル開放 25分 ポータル閉鎖、戦闘開始 25分~55分 戦闘可能時間 報酬:100ショップポイントチケット3個、ポリンコイン3個、モンスターコイン2個、LinkHSE付き装備1個
https://w.atwiki.jp/h_session/pages/3538.html
キャラクター名:杜野 海 (もりの うみ) プレイヤー名:[[きゅうび]] 種族:人間(多分) ワークス:高校生 年齢/性別:15歳/男 髪の色:-- 瞳の色:-- 肌の色:-- 身長/体重:149.6㎝/39.7㎏ ウィザードクラス:陰陽師 1LV :メイジ 2LV :異能者 4LV スタイルクラス:ヒーラー 0LV 属性:〈冥〉/〈天〉総合レベル :7LV CF修正値: 6 プラーナ 内包値: 8 解放力: 2 消費/獲得経験点:73/218 送致/受領経験点: 0/ 0 レベルアップ待機: 0(+6) 基本能力値 ベース 成長値 現在値 基本能力値 ベース 成長値 現在値 【筋力】 6 -- -- 【知力】 11 -- -- 【器用】 8 -- -- 【信仰】 6 -- -- 【敏捷】 7 -- -- 【知覚】 6 -- -- 【精神】 11 -- -- 【幸運】 8 1 9 戦闘値 ベース クラス修正 特殊 総合 未装 装備 最終戦闘値 【命中】(器用+知覚)÷2 = 7 0/ 2 -- -- 9 -- 【命中】 9 【回避】(敏捷+知覚)÷2 = 6 2/ 0 -- -- 8 1 【回避】 9 【攻撃】(筋力+器用)÷2 = 7 0/ 0 -- -- 7 -- 【攻撃】 7 【防御】(筋力+信仰)÷2 = 6 0/ 2 -- -- 8 11 【防御】19 【魔導】(精神+幸運)÷2 +1= 11 2/ 3 2 -- 18 9 【魔導】27 【抵抗】(敏捷+幸運)÷2 -1= 7 3/ 1 -- -- 11 -- 【抵抗】11 【魔攻】(知力+精神)÷2 = 11 2/ 2 -- -- 15 13 【魔攻】28 【魔防】(知力+信仰)÷2 = 8 4/ 3 -- -- 15 9 【魔防】24 【耐久】 = 22 2/ 3 -- -- 26 -- 【耐久】26 【魔法】 = 30 5/ 4 -- -- 36 -5 【魔法】31 【行動】(筋力+敏捷+知力+信仰)÷3= 10 1/ 0 -- 7 18 -4 【行動】14 【移動力】 ベース 特殊能力 未装 装備 最終値 (未装備状態【行動】)÷10+1 = 2 -- -- -- --Sq ■ライフパス 出自:呪いの家系 特徴:魔導の血/【魔導】+1/【抵抗】-1 生活:秘伝の継承者 特徴:--/-- コネクション /関係 --/-- 瑠璃/興味 “誘惑者”エイミー/師匠? --/-- ■特殊能力 名称 :SL: タイミング : 判定値 :難易度: 対象 :射程: 代償 :効果 汎用 : : : : : : : : 《月衣》 :-: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :所持品を隠せる。マイナーアクションで飛行できる。(代償:1D6MP) 《月匣》 :-: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :月匣を展開できる 《蘇生の光》 :-: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし : 《代償軽減:付与》 :3: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :付与魔法の消費MP-(SL) 《ネイティブギフト》 :5: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :使用魔法の消費MP-1、最大値に+(SL+1) 《ポテンシャルブースト》:1: オート :自動成功: なし : 自身 :なし: 3H :好きな判定の達成値に+(SL+2)、ラウンド1回 《マトリクスシフト》 :1: メジャー :自動成功: なし : 自身 :なし: 2M :見た目を変える、精神+SLで知覚と対抗ジャッジ 《ミューテーション》 :-: オート :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :シナリオ1回、常時以外の使用されたスキルをSL=1として習得する 《魔導書》 :1: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :魔導+2、魔法習得+(SL×2) 《虹色の才:地》 :-: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :地属性の呪文を習得できるようになる 《符術》 :1: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :発動魔法の消費カウント-SL、魔装のカウント+SL 《絶技符》 :1: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :プリプレイで選んだ魔術の最大値に+(SL×2) 《魔力拡大》 :2: マイナー :自動成功: なし : 自身 :なし: 3C :(SL+1)体に呪文の範囲を拡大する 《伝家の宝刀》 :1: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :合計(SL+1)×100万vまでのSL個のアイテムを常備化する 《訓練:幸運》 :1: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :幸運をSL増加する : : : : : : : : ■魔法 魔法記憶容量[【知力】+総合レベル]:20 名称 :LV:種別: タイミング : 判定値 :難易度: 対象 :射程: 代償 :効果 キュア :1:治癒: メジャー :【魔導】: 15 : 単体 :1sq: 1M : ヒール :1:治癒: メジャー :【魔導】: 15 : 単体 :1sq: 1M : ディフェンスブースター :2:付与: オート :自動成功: なし : 単体 :1sq:1M2C:【防御】+(魔導-10)、最大10 プリズムブースター :2:付与: オート :自動成功: なし : 単体 :1sq:1M2C:【魔防】+(魔導-10)、最大10 ヴァニシング :3:付与: オート :自動成功: なし : 単体 :1sq:1M2C:【防御】/【魔防】-(魔導-8)、最大10 ダークバリア :2:付与: オート :自動成功: なし : 単体 :1sq:1M3C:【魔防】+(魔導-10)、最大10 リフレクトブースタ :3:付与: オート :自動成功: なし : 単体 :1sq: 1M :【行動】+(魔導-13)、最大7 ■武装/魔装 重量上限[【筋力】+総合レベル]:13 魔法装備可能レベル合計[【知力】+総合レベル]:18 名称 :種別:部位:重量/LV:命中:回避:攻撃:防御:魔導:抵抗:魔攻:魔防:耐久:魔法:行動:移動:射程:備考 破魔弓 : 他 :片手: 2/ : : : : : 2: : 2: : : : : : :魔法の射程+1、符術の効果+1 ダークブレイド :魔装:攻撃: / 3: : : : : 1: : 6: : :-9:-3: : : 呪練制服 :防具:衣服: 1/ : : 3: : 7: 4: 2: : 5: : : : : : レザージャケット :防具:上半: 2/ : : : : 2: : : : : : : : : : マジカルリボン :防具: 頭 : 1/ : : : : 1: : : 2: 3: : : : : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : ミラージュウォール :魔装:防具: / 3: :-1: : 3: :-1: : 3: :-6: : : : 外道祈祷書 : 他 : : 1/ : :-1: :-2: 2:-1: 3:-2: :10:-1: : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : 合計 : : : 7/ 6: : 1: :11: 9: 0:13: 9: :-5:-4: : : 武装/魔装 ■所持品 月衣収納上限[【筋力】×2+GL]: 名称 :重量:効果 スマート 0-Phone : : 幸運の宝石 : : : : : : : : : : : : : : ■設定 ・遠野の山奥の、人知れない小さな村の出身。 その村の小さな神社の神主の孫として生まれたが、両親は幼くして行方不明に、祖父に育てられた。 幼い頃から見鬼をし、陰陽道を家にあった文献で自ら体得するなど特異な才を見せた。 しかし、あまりに高すぎる魔力が周囲との調和が取れなくなってきたため、祖父から修行の名目で輝明学園への入学を言い渡され、入学。 ・弱気で自信もなく、ぱっと見は単なる中学生か、小学生に見える。 本人としては身長も体重もせめて150センチ40キロにしたいと思っているのだが、小食でなかなか増えてくれないのを密かに悩んでいる。 だが、小さいときからの祖父の教えで 「男は、女を守らにゃいかんぞ」 と言われて育ったため、女性が危険な目に会いそうな時には、率先して危険に飛び込むことも。 動物には好かれる体質を持っているがクラスでは内気で友人は少なく、余計に動物を見ると思わず擦り寄ってしまう。 ・性的な体験は殆ど未体験で、“誘惑者”エイミーに手で絶頂に導かれた1回のみ。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/152.html
あくまで同名スレのまとめサイトです。wikiへの直接投稿はお控え願います。 まだ一覧ページがない新規の作品をwikiに回収する場合 既に一覧ページが作成されている作品に新しい話を追加する場合 小ネタのまとめ方 その他の注意点 長編作品の各話ページ名の付け方 Extra まだ一覧ページがない新規の作品をwikiに回収する場合 新規作品用の一覧ページを作る。まとめページ左上の@wikiメニューで「新規ページ作成」を選ぶ。 ページ名(作品名)を入力し編集モードを選ぶ(アットウィキモードでお願いします!) 「作成」で次へ。 作品の概要を書き込む(○○「作品名」より××「召喚キャラ名」を召喚、等。なくてもよい) 作品本文を書くページを同様の手順で作る。ページ名は”作品名-01(二桁の半角数字)”という形式にすること(*詳しくはこちらを参照) 先に作った一覧ページを編集して作品内容を書いたページへのリンクを作る。リンクは[[作品ページ名]]で作成できる。 「長編(五十音順)-01」~「長編(五十音順)-11」の中から、登録した作品が該当するページを探して目次から一覧ページへのリンクを必ず追加する。姉妹スレの作品の場合は「お預かり作品」のページにも追加すること。 既に一覧ページが作成されている作品に新しい話を追加する場合 追加する物の前話(「ゼロの使い魔-15」を追加するときは「ゼロの使い魔-14」のページ)を開く。 まとめページ左上の@メニューから「新規ページ作成(その他)」→「このページをコピーして新規ページを作成」を選ぶ。 追加する話のページ名を付ける(前の話が「ゼロの使い魔-14」だったとしたら「ゼロの使い魔-15」とし、作成を選択する。 上の方に*(*はページ名)の編集(@wikiモード= 編集方法はこちらをご覧ください)と出ていることを確認する。 タグ(#naviなど)が色々あるかもしれないがとりあえず無視して、文章部分に追加したい作品の文章を書き込む。 naviやsetpagename等、何らかのタグがあった場合、前のページに倣いタグを書き込む。 一覧のページへ追加した話へのリンクを前の話までに倣い作成する。 一定の話数に達した場合、長編(話数順)-01、02、03ページに一覧ページへのリンクを追加できます 。他の作品と同じ形式で追加する。単純に一番下に追加すればよい。ただし、こちらのリンクは編集者の任意です。 物語が完結した場合、長編(完結)ページに、一覧ページへのリンクを必ず追加する。 小ネタのまとめ方 まとめページ左上の@wikiメニューで「新規ページ作成」を選ぶ。 ページ名(作品名)を入力し編集モードを選ぶ(アットウィキモードでお願いします!) 「作成」で次へ。 作品の内容を書き込む(コピー ペーストを上手く使おう) ページ末に「----」を追加 長編(五十音順)と同様に「小ネタ-01」~「小ネタ-12」の中で該当するページを編集して追加した作品のページへのリンクを必ず追加する。長編と微妙に目次の型式が違うので注意すること。他の作品と同じ形式で登録する。 その他の注意点 行頭使用における注意文字 例:「 (半角スペース)」、「-(半角ハイフン)」、「・(全角中点)」、「・(半角中点)」、「(タブ)」、「*」、「*」 これらの文字は行頭に用いると引用文・リストとして扱われソースと表示が違ってくる。 三点リーダーを用いる際には「…(2byte)」を用いたり、空白を入れたい場合は「 (全角スペース)」を使うのが望ましい。 長編作品の各話ページ名の付け方 基本 例:ゼロの使い魔-01 作品名-(ハイフン)xx(二桁の半角数字)という形式を使う。 一覧ページでの表示名は変更することができる(*後述)ため、必ずこの形式に従って名前をつけること。 プロローグ等、1話の前の話は「ゼロの使い魔-00」等とし、後述の方法で表示名を変更するとよい。 この連番形式にすることで、便利なnavi機能(*後述)を使うことができる。 *注意:「/」半角スラッシュをページ名に使わないこと。スラッシュを使いたい場合は全角スラッシュ「/」を使う。 ○○/××というように半角スラッシュをページ名に使うと、ページ名の表示が○○ ××という形に変換され、#navi機能も適応されなくなる。 「()」半角括弧も同様に「()」全角括弧を使う。 リンク名とページ名を別にする方法 例:[[ゼロの使い魔2 風のアルビオン ゼロの使い魔-02]] 通常のリンクは[[ページ名]]とするが、[[リンクとして表示させる名前 リンクするページ名]]という形式で書くことで表示名を変更することができる。 前中後編等、複数に分かれる場合のページ名 例:ゼロの使い魔-03a / ゼロの使い魔-03b / ゼロの使い魔-03c 前中後編に分かれた場合、例のようにページ番号の後にアルファベットをつける。 前述の表示名変更を使い、リンクは[[ゼロの使い魔3 始祖の祈祷書(前編) ゼロの使い魔-03a]]などと表示するとよい。 外伝ページ名の付け方 作品に外伝や幕間のようなページを作る場合、2種類の方法がある。 純粋に外伝として本編とは切り離したい場合、「ゼロの使い魔外伝-01」のように違うページ名にする。違うページ名であるためnavi機能は適応されず、本編とは切り離される。 幕間として連続して読んでもらいたい場合、9話と10話の間であれば「ゼロの使い魔-09a」というように9話の後に来るようなページ名を付け、リンクを[[ゼロの使い魔外伝1 ゼロの使い魔-09a]]とすればよい。この場合navi機能が適応され順番に読める。 Extra 作品をまとめる上で必須ではないが、通常とは変わった表示、表現をしたい場合、@wikiのプラグインを利用する。 代表的な機能を紹介する。 特にnaviは長編作品を読みやすくするため是非使っておきたい。 navi機能 例:#navi(ゼロの使い魔) 「#navi(一覧ページ名)」と記述することで、前後ページ・一覧ページへのリンクが自動で生成される。 尚、naviは比較的後になって追加されたプラグインのため、昔から続いている作品はnaviの利用を考慮しないページ名になっているものもある。 そういった作品は以下の形式を使い手動でリンクを作成するとよい。 #center{[[前ページ 前ページ名]] / [[表紙へ戻る 一覧ページ名]] / [[次ページ 次ページ名]]} ---- ページ名表示の変更 例: setpagename(ゼロの使い魔2 風のアルビオン) 「#setpagename(任意のタイトル)」と記述することで、作品ページ上部に表示されるページ名を変更できる。 一覧ページでタイトル表示を変更したり、各話ページでサブタイトルを付加したい場合に利用する。 タイトル表示の変更 例:#settitle(任意のタイトル) 「#settitle(任意のタイトル)」と記述することで、ブラウザのタイトルバーの表示を変更する。 通常は「あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ - ページ名」と表示される。 タイトル表示も上記ページ名に合わせたい場合等に利用する。 水平線 例:---- 行頭で4つの - を書くと水平線になります。本編の罫線として以外にも、 naviを使用しない小ネタで自動挿入される広告との間等に使うのが望ましい。 本文中での中央揃え、右寄せ 例:#center(){ゼロの使い魔} / #right(){ゼロの使い魔} 「#center(){中央揃えしたい文章}」と記述することで、{}で囲った部分が中央揃えされる。#rightであれば右寄せ。 投下時にはスペース間隔を調整すると思われるが、wikiにまとめる際はどんな環境でも確実に中央に表示されるこちらを使うのが望ましい。
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/118.html
前ページ次ページゼロの影 最終話 太陽は昇る 後編~The Other Sun, The Other ...~ 雲間から差し込める光が温かく四人を包み込んでいた。 ルイズは自分の魔法がもたらした結果が信じられないのか、魂が抜けたように呆然としている。 夢でないと確認するため頬をつねり、頭を叩き、大魔王の視線に気づいてようやく我に返った。 丘とその周辺だけとはいえ、今までとは比べものにならぬ明るさをもたらしたことに怒るのではないかと警戒し、身構えている。 彼女の予想に反して大魔王は本物の感嘆をにじませながら告げた。 「見事だ。『虚無』の使い手ルイズよ」 額の目を光らせて解せぬというように腕を組む。 「……わからん。この輝きは本物の太陽……地上を吹き飛ばした様子はなく、幻でもないというのに」 ブリミルの作り出した人工の太陽はすでに消えている。その役目を果たしたというように。 ルイズは祈祷書を読み返しながら手探りするように慎重に答えた。 「人工の太陽に関する呪文は途中に載ってるわ。だけど、なぜかこっちが光っていたの」 ブリミルは何故最初からこちらを唱えなかったのか。もしかすると唱えてもこれほどの効果は発揮できなかったのかもしれない。 本来ラナルータは昼夜を逆転させるだけであり、地上と黒雲に閉ざされた空を晴らすことはできない。 だが、大魔王のメラゾーマが不死鳥の姿になるように、術者の行使した力が桁違いであったため別次元の効果を発揮したのではないか。 疑問を追及するより先にミストバーンの体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。 慌てて駆け寄ったルイズの視界が暗くなり、足から力が抜けて傍らに倒れこんでしまった。意識がかすむのを叱咤し、地に肘をつき顔を覗き込む。 すっかり霧が薄くなり素顔が見えている。目の光も弱く、消えかかっていた。 罰を受けて消耗した状態で生命を削り続けたのだ。とっくに限界を超えている。 最も遠いはずの消滅がすぐそばに迫っていた。 主の望みを少しでも叶えることが出来たという喜びも、これ以上役に立てない申し訳さに飲みこまれているようだ。 口が動くが声は聞こえない。ただ、何を口にしているかは分かる。 主への謝罪だ。 「嘘……せっかく、せっかくここまでやってきて、それなのに」 彼がどれほど主のために力を尽くしたか知っている。これから先、主の望んだ光景をともに見られるかもしれないのに。 彼の行いに応えきれたか。――否。 召喚されてから今までの間、本当に喜ぶ姿を一度でも見たか。――否。 主の大望が叶う可能性を目にしたというのに、苦しみながら死んでいくのを許せるか。 (そんなの、認めないんだから) 憎まれたまま永遠に別れるなど耐えられない。 それでは――自分もずっと笑えない。 「……けて」 歩んできた道や価値観が全く違うことも、数え切れぬ戦いと屍の上に立っていることも知っている。 命令がなければ殺されていたことも、今どんな感情を向けられているかも。 それでも――。 「ミストバーンを、助けて」 もし本当に生命を司る力の持ち主がいるならば、願わずにはいられない。 彼女は倒れ伏したまま、初めて心の底から祈りを捧げていた。 恐れ、憎み、尊敬した相手のために。 フーケやウェールズとは違う、越えられぬ淵の向こうにいた存在のために。 三種族の神々が彼を救うとは思えない。神々を憎む大魔王の忠臣のために奇跡を起こすはずもない。 始祖ブリミルや名も知らぬ偉大な存在に――彼を救い得る力を持つ者にただひたすら祈り続ける。 鳶色の瞳から零れた熱い涙が、冷たい頬に落ちていく。 ウェールズは魂から絞り出された言葉を聞き、一瞬だけ瞼を閉ざした。 『私はお前の名を忘れはしないだろう……永遠に』 『わたくしはこう聞きました。あなたは勇敢に戦った、と』 (君は、“勇敢に戦った”と告げてくれたのだな) 覚悟を決めたように眼を開く。 掌をかざすと、命をつなぎ止めていた黒い糸が彼に吸い込まれていく。 穏やかな表情を浮かべるウェールズとは対照的に彼は動揺を露にした。 「馬鹿な……! 何故生命を……!?」 力を貸すという約束はすでに果たされたはず。 彼はウェールズがもう一つの道を選ぼうとしていることを察していた。 それなのに、生命力の劣る人間が違う世界の住人に――それも異なる種族のために命を削るなど理解を超えている。 ルイズのことはもっとわからない。 彼を恐れ、意思と力を奪っておきながら危険を知りつつ取り戻そうとする。 今にも死にそうな蒼い顔で誰かのために涙し、祈りを捧げる。 彼女の心や涙の理由は一生理解できないだろう。 混乱するミストバーンにウェールズは静かに告げた。 「ここで何もせずにいては、僕が僕でいられなくなる」 その双眸は気高さに満ちていた。単に負債を返済するのではなく、譲れぬもののために戦おうとする眼だった。 自身の安全を考えるならば放っておくのが一番だ。呪文への協力ですでに限界に近付いている。これ以上力を放出すれば命を失う可能性が高い。 だが、このままハルケギニアに戻ったとしても前に進むことはできない。 後悔に苛まれ、己と向き合うことから逃げた抜け殻と化すだろう。そんな姿を晒す方がよほど耐え難かった。 最後の力を振り絞るが、滅びへ向かうのを遅らせるだけで精一杯だ。 そこに、もう一つの力が加わった。 「二人……必要なようだな」 チェスの盤面を眺めるように観察していた大魔王も重ねるようにして力を注ぎ始めたのだ。 両者の力によって眼光が徐々に明るさを増していく。 「……バーン、様?」 とりかえしのつかない失態を犯し、厳しく罰され、許されることはないと思っていただけにミストバーンは目を丸くして戸惑っている。 「たわけ。お前にはまだまだ働いてもらわねばならん」 過酷な罰を与えることで償いとさせた。いつまでも責める気はなく、優秀な部下を失おうとしているのを見過ごすつもりはない。 力を取り戻すにつれてミストバーンは悟らざるを得なかった。 元々不安定な状態にあったウェールズの体は避けられない死へと近づいている。 暗黒闘気で蘇らせたとしても、主が肉体を作り変えたとしても、ウェールズではなくなってしまうだろう。 勝利のために人間の体を捨てる意思があるならば力を与えたかもしれないが、本人は望んでいない。 身を起こすと同時にウェールズは倒れ、ほとんど聞き取れないほど小さな声である問いを吐き出した。 彼は形容しがたい感情を声に浮かべて答えた。 二度は無いことだった。 「お前は勇敢な戦士だ……ウェールズ」 純粋な尊敬の声が眠りに落ちそうな意識をかろうじてつなぎとめる。 ルイズが体を引きずるようにして近寄り、冷たくなっていく手をとった。指にはめられた水のルビーに触れた瞬間、ウェールズの目が大きく見開かれる。 死にゆく者に対する餞のように鮮明に映ったのは、想い人の姿。 水のルビーにウェールズの想いが流れ込んでくる気がしたため、ルイズはますます力を込めて手を握る。 記憶からそのまま再生されたように声がはっきりと心に響く。 『わたくしの知るウェールズ様は勇敢なお方です。今までも……これからも』 (そう、か) ハルケギニアに戻り戦いに身を投じることは果たせなかったが、裏切り者にはならなかった。 力が及ばぬことも多くあったけれど、最後に大切なものを守り切った。 その面に満足そうな微笑が浮かぶ。 「……ありがとう」 ウェールズはウェールズとして瞼を閉ざした。 そして、二度と目を覚まさなかった。 大魔王は日に照らされる丘の姿を飽くことなく見つめていた。 いろいろと探ってみたが地上が魔界の蓋になっていることに変わりは無い。だが空の輝きは作り物や幻ではない。 まるで地上が存在しないような――直接空を見上げているようなありえない現象だ。 術者であるルイズ本人にも呪文の効果がはっきりとはわかっていないようだ。 『始祖の祈祷書』で読める部分がないか見直し、「爆発と世界扉と解呪を足した感じ?」と非常にあいまいな答えを返していた。 本来破壊できぬ障壁を吹き飛ばしたのなら爆発、空を直接届けるのなら世界扉、世界のあり方を戻すなら解呪、とそれぞれ考えることができそうだが結論は出そうにない。 肝心なのはこれからのことだ。 大魔王の誇りにかけて、二人に任せきりにするわけにはいかない。 まだ空の大半は暗いままだがミストバーンが消耗している状態でさえこれだけのことができたのだ。 彼が万全の状態で、ルイズが力を溜めて挑めば。ルーンによる共鳴を利用し大魔王の魔力や暗黒闘気と合わせることができれば。 ウェールズも一部とはいえ力を注ぎこめたのなら、不可能ではないはずだ。 ルイズやミストバーンの負担を減らすことも考えなければならない。 より大きな力を扱うと彼女の身体がついていかず失敗してしまうかもしれない。 また、予想外の事態だったとはいえ唯一無二の能力を持つ部下を失いかけた。 役に立とうとするあまり限界を見誤り、万全の状態でも力を注ぎすぎて命を落としかねない。 「余の影となり得るのはお前だけだというのに」 この場にいない部下に溜息を吐きつつ呟く。もしルイズが聞けば「本人に言いなさいよ」と指摘したかもしれない。 異世界の者とはいえ人間と魔族、それも大魔王が手を組もうと考えるなど魔界の住人が聞いたら耳を疑うだろうが、強者は種族を問わず認めるのが彼の信条だ。 今まで地上を消し飛ばすことを目標に力を蓄えてきた。 その最大の目的は魔界に太陽をもたらすため。いざとなれば自身をも駒の一つとみなし、囮を引き受ける覚悟があった。 さらに、冷遇の証を吹き飛ばし、天界へ攻め込むためのきっかけづくり――神々への復讐も大きな動機だった。 かつて神々が世界を分けたのは三種族が争う状況を憂いたため。協力することなど全く期待しておらず、力で押さえつけただけだった。 だが、もし人間と魔族の――もしかすると竜族も――力で魔界に太陽をもたらすことができたなら。 彼らが捨てた可能性を叩きつければ。神々でも成しえなかったことを達成すれば。 それこそがこの上ない復讐になるのではないか。 「それもまた一興かもしれんな」 ルイズは地上の人間と違い、三種族の神々の庇護とは無関係だ。人間でありながら神々の定めた世界の在り方を変える可能性を秘めている。 脆弱であると同時に強大な力を持つ彼女は、まさに異世界からの風。 黒雲を吹き払い、新たな時代の到来を告げる者。 陽光に照らされた魔界の姿を見る日が近づいている。同じ太陽でも魔界から見る“もう一つの太陽”はまた違った趣があるかもしれない。 地上破滅計画を捨てたわけではないが、極大天候呪文の方を優先するつもりだった。太陽を手中に収めてから改めて天界や地上への対応を考えればいい。 黒雲が全て晴れても全てが終わるわけではない。 状況が変われば戦いが生じる。それらに勝利しつつ部下が得た知識や道具――フーケとの取引で入手した品など――を役立て、魔界を豊かにするつもりだった。 陽光によるマグマの海など環境への影響の調査、不毛の大地に緑を芽吹かせるための試案など、すべきことは山積みだ。 今まで豊かにするための試みは全て徒労に終わったが、太陽さえ手に入れば一気に動き出すはずだ。 大魔王といえど闇雲に殺戮を欲し破壊を性とするのではない。彼が神々を憎むのも人間にのみ平穏を与えたことが許せなかったためだ。 その一方で、最強の軍の編成を諦めたわけではない。個性豊かな強者達が集い、相互に影響を与える様を想像するだけで胸が躍る。 障害は多いだろうが全て焼き尽くすのみ。力こそが全てを司る真理――それが彼の正義なのだから。 タルブの村の草原と同じような光景を魔界で目にすること。それがどれほど難しくてもやり遂げるだけの自信があった。 「……おお、そうだ。名物のシチューとやらを作らせるのを忘れておった」 大魔王バーンは心から楽しそうな笑みを浮かべた。 ルイズはしばらく魔界に滞在することを決めた。 ハルケギニアに戻る世界扉を作るにはミストバーンの協力が必要だ。一人だとどうしても精神力を溜めるのに時間がかかってしまう。 それに、始めたことは責任を持って最後までやり遂げたい。ゼロではないという証明を完結させたい。 初めは贖罪の意識が強かったが、ミストバーンやウェールズの姿を見て誰かのために力を振るう意味がわかった気がする。 そして、地上についての情報も欲しいと思った。 大魔王の狙いについて明確に知らされてはいないが、魔界の住人が陽光を浴びるには地上の支配か破壊が必須だった。 大魔王や部下の性格から考えて、人間ごと地上を吹き飛ばす計画を企ててもおかしくない。 太陽を手に入れたとしても、直後に地上と魔界の間で戦いが起こることは十分あり得る。 争いをやめろなどと簡単に口にすることはできないが、異世界とはいえ同じ人間が大勢殺される可能性を無視することはできなかった。 もっとも、要求や取引をするならばその条件として空が晴れることが必要だろう。 大魔王に慈愛を説いても効果は無いのだから、“力”で語るしかない。 太陽に祝福された丘にウェールズは眠っている。ルイズは水のルビーにそっと触れて思いを馳せた。 「……帰る理由が増えたわね」 彼の魂とともにハルケギニアに帰り、込められた想いと最期の言葉をアンリエッタに伝える。 そう意気込みながら設置された旅の扉をくぐると先客がいた。 魔界を見渡している先客――ミストバーンは丘の周囲に不穏な気配を複数感じ取っていた。 大魔王の勢力圏とわかっていてもこの丘を狙う輩がいる。 侵入者は全て殺し他の連中への警告としたが、機を窺う者は多い。結界を張るよう主に進言するつもりだった。 最初に本物の陽光を浴び、魔界の歴史に名を刻むことになる特別な地。 呪文の成功に尽力し、彼が心から尊敬した者が眠る場所。 それを汚すことは許せなかった。 強者への敬意は相手が命を落としても失われることはない。永遠に彼の魂に刻まれている。 彼は宮殿に戻ってからのことを思い浮かべた。 侍女にルイズを部屋まで案内させた後、玉座の間で大魔王と腹心の部下は向かい合った。大魔王の面には不敵なものや冷笑ではない、満足そうな笑みが浮かんでいる。 特別な報酬や賛辞は必要ない。 その微笑とただ一言で十分だった。 『お前は余の――』 「私は、あなた様の――」 続きを胸の内で呟くと力が湧きあがる。 それだけで、これまでに味わった苦難も全て吹き飛ぶ気がした。 思索に耽る白い背に向かってルイズは名を呼んだ。 「ミストバーン」 彼はルイズを許していない。怒りの炎は消えておらず、時折噴き上がるのがわかる。 それでも彼女の功績を認めている。今見ている景色や主の態度が何よりも評価に値するのだから。 「……ルイズ」 振り返った彼に歩み寄っていく。 まだ彼への恐ろしさや苦しさを感じる。完全に心が晴れたわけではないが、“ルイズ”として認められていると実感できるためどこか穏やかだった。 これから先、心の重りが全て消えるか、心から笑えるか、わからない。 「始祖はどんな人で、何をして……どうして大魔王と出会わなかったのかしら?」 返事は無い。予想済みだ。 六千年前、『虚無』の使い手ブリミルと大魔王バーンの道が交わることは無かった。 だが、現在の『虚無』の使い手ルイズと大魔王の部下ミストバーンは巡り合い、誰も成しえなかったことに挑もうとしている。 (できる。こいつとわたしなら) あの時向けられた憎悪や殺意、味わった恐怖や絶望に比べればどんな困難も恐れるには値しない。 (……あれ? 淑女として失っちゃいけないものを失いかけてるような……気のせいよねきっと) 心の中で乾いた笑いを漏らし、気を取り直して再び問いかける。 「ずっと前から決まってた――特別な意味を持った出会いってあると思う?」 今度は頷いた。意外な反応にルイズが目を見開くと、彼はどこまでもまっすぐに答えた。 「私とバーン様の出会いがまさにそれだ」 ルイズは盛大に転んだ。ウェールズの苦笑いしている顔が見えるようだ。 「この話の流れでそっち? ……まだまだ認めさせる余地があるわね」 決意も新たにほんの少し覗く青空を見上げると、召喚した日と同じように太陽は燦々と輝いていた。 そして月日は流れ――トリステインに戻ってきたルイズは何があったのか語ろうとはしなかった。 だが、キュルケやタバサに向かって誇らしげに、太陽のように輝く笑みを浮かべた。 彼女の力でもう一つの結末にたどり着くことが出来たのだから。 ゼロの影~The Other Story~ 完 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/chibicos/pages/125.html
祈祷の箱(2005年5月28日) (グランデュール東町の道具屋にて500,000GOLDで販売中) LV150 頭: 胴: 脚: 右:祈りの大剣 左: LV150 頭: 胴: 脚: 右:祈りの剣 左: LV150 頭: 胴: 脚: 右:祈りの斧 左: LV150 頭: 胴: 脚: 右:祈りの槍 左: LV150 頭: 胴: 脚: 右:祈りの短剣 左: LV150 頭: 胴: 脚: 右:祈りのこてα 左:祈りのこてβ LV150 頭: 胴: 脚: 右:祈りの扇 左: LV150 頭: 胴: 脚: 右:祈りの杖 左:
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4383.html
5 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 16 39 ID J0Zz/K6a その日の朝はいつもとどこか違っていた。 平賀才人がそのことに気付いたのは、目が覚めてゆっくりと上半身を起こし、いつものように欠伸をしながら背を伸ばしたときである。 隣に、ルイズがいない。枕に桃色がかったブロンドが乗っていないのだ。 数瞬ほど瞬きしてから、苦笑する。よく見てみると、掛け布団の半ばほどの位置に小さな盛り上がりがある。 (寝相が悪くて布団に潜っちまった訳か) ちょうどいい、このまま布団引っぺがしてからかってやれ、と囁く悪戯心に、才人は素直に従った。 「ほら、起きろこのねぼすけめ」 楽しく笑いながら布団を引っ張ったとき、才人の頭を一つの疑問が掠めた。 (ルイズって、ここまで小さかったっけ) 小柄なルイズではあるが、さすがに本物の幼児ほどではない。 しかし、布団の盛り上がりはせいぜい本物の幼児ほどのサイズしかない。 その事実に才人が気付いたとき、布団は既に完全に宙を舞っていた。 そして才人は硬直する。 布団の向こうで小さな体を丸めて眠りこけていたのは、ルイズとよく似た顔立ちをした幼子だった。 (え、なにこれどういうこと。なんなんですかこの子。ルイズの隠し子か) そんな訳ねえだろと思いつつも、あり得ない憶測が凄い勢いで頭の中を飛び交う。 混乱する才人の前で、その幼児はむずがるように顔をしかめたあと、欠伸をしながらゆっくりと体を起こした。 子猫を連想させる仕草で目をこすったあと、その幼児は眠たげな目つきで周囲を見回し、才人を見つけるとぱっちりと目を開いた。 そして、嬉しそうに微笑みながらこう言った。 「おはよう、サイト」 底抜けに元気な甲高い声で挨拶され、才人はへなへなとベッドに膝を突いた。 (落ち着け、落ち着くんだ平賀才人。冷静にこの状況を整理するんだ) 後ろから聞こえてくるやかましい声を敢えて無視しつつ、才人はベッドの上に座り込んで思考に没頭する。 (昨日俺の隣ではルイズ・ド・ラ・ヴァリエールその人が寝ていた。これは間違いないな。 で、朝目覚めるとそこにルイズの姿はなくて、その代わりにルイズをもっと小さくやかましくしたこのお子様がいた。 俺はルイズに妹がいるって話は聞いたことがないし、隠し子なんてのも年齢その他から考えてあり得ない。 以上のことから導き出される結論は) 頭に浮かんだたった一つの答えを、才人は苦笑で無理矢理追い払った。 「ないない、そんなことあるはずないって」 「サイト、サイトってばー」 当のお子様はこちらが名乗ってもいないのに名前を連呼しながら、才人の肩に跨って遠慮なく髪の毛を引っ張ってくる。 才人は大きく息を吐き出すと黙って幼女をベッドに座らせ、正座して彼女と向き合った。 6 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 17 31 ID J0Zz/K6a 「ちょっと、聞きたいんだけど」 「なあに」 大きく首を傾げて鳶色の円らな瞳でこちらを直視してくる幼女。こちらが反応したためか上機嫌である。 才人は躊躇した。一度唾を飲み込んだ後、思い切って問う。 「お嬢ちゃんのお名前は、なんていうのかな」 「どうしてそんなこと聞くの」 幼女は不思議そうに問い返してきたが、才人が「いいから大きな声で言ってみなさい、さんはい」と促すと、満面の笑みで答えた。 「ルイズ」 一瞬絶望的な気分になりかけるも、才人は「いやいや待て待て」と首を振って気を持ち直した。 (まだ分からんぞ。同じ名前の他人ってこともあるかもしれねえし) 地球でも外国の人ってやけに同じ名前多かったしな、と考えながら、才人は問い直した。 「名字も言えるかな」 「え、うんとね、うんとね」 ルイズと名乗った幼女は小さな腕を組んで一生懸命考え込んだあと、またも全開の笑顔で答えた。 「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」 決定だ。確定だ。敗訴だ。 何故か敗北感に打ちひしがれながら、才人はベッドの上に膝を突く。 (なんてこった、要するに) もう一度唾を飲み込み、才人は頭の中で再度その事実を確認する。 (ルイズの奴、縮んじまったのかよ) 信じがたい事実である。信じたくない事実である。 しかし目の前のちびっこはルイズとそっくりの顔でルイズと同じ名前と名字を名乗っている訳で、それはつまりこの結論が間違いなく正しいことを示している。 (誰かが俺を騙そうとして似たガキを連れてきたんじゃ) 一瞬そんな推測に希望を抱きかけた才人だったが、そんなことをして喜ぶ人物など才人の周囲には一人もいない。 大体にして、死体を自由に操るような魔法が存在する無茶な世界なのだ。 人間をちょっと行き過ぎなぐらいに若返らせる魔法が存在したとして、特に不思議ではないような気がする。 結局のところ、ルイズがちびっこくなったらしいという事実を否定することができず、才人はまたもや絶望に打ちひしがれる。 これでまたどんな災難が自分に降りかかってくるのかと思うと、晴れた空に厚い雲がかかってくるようにすら感じてしまう。 「ねーねーサイト、サイト」 そんなサイトの服を、ルイズがせがむように引っ張る。 疲労感を堪えて顔を上げると、ルイズが小さくはにかむような表情でこちらを見ていた。 「あたし、お名前言えたよ」 「ああ、そうだな」 一人称が微妙に幼くなってるなあと変なところに気付きつつ、才人はぼんやりと「それで」と言う。 するとルイズは何かを期待するような甘えた表情で言った。 「ほめてほめて」 何で名前言えたぐらいで褒めてやらなくちゃいけねえんだお前ホントは16歳だろうが。 という文句を口にすることなどもちろんなく、才人はため息を吐きながら適当にルイズの頭を撫で回した。 「ああ、よく言えたな、偉いぞルイズ」 我ながら投げやりな褒め言葉だったが、それでもルイズは万歳するように両手を上げて、 「わーいサイトにほめられたー」 と、また笑顔全開で喜んでいる。 そんな無邪気なルイズを見ていると、なんだか自分があれこれと悩んでいるのが馬鹿らしく思えてくる才人である。 (そうだな、まあこういうのもたまには悪くないかなあ) 7 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 18 27 ID J0Zz/K6a 「なんて言うと思ったかコラァ!」 モンモランシーは悲鳴を上げた。唐突に怒鳴り声が響き、何者かが扉を蹴破りながら自分の部屋に侵入してきたのだ。 「なに、なんなの一体」 朝、そろそろ出かける支度しなくちゃなどと考えていた時分である。 部屋に飛び込んできたのは才人であった。目をギラギラと怒りに燃やし、こちらを睨みつけている。 両手を後ろに回して誰かを背負っているようだったが、その人影が小さいせいで誰を背負っているのかはよく見えなかった。 何よりも、そんな余裕がない。こちらがまともに反応するヒマもなく、才人が遠慮のない足取りで迫ってきたからである。 そして一言、 「吐け」 叫び声の凄まじさと訳の分からない迫力に押されて、さすがのモンモランシーも半泣きで後ずさってしまう。 「なんの話よ」 「しらばっくれるんじゃねえこのモンモンめ。あれだけ言ったのにまたルイズに変なもの飲ませやがったな」 「いやだからなんの」 「言い訳してる暇があったらさっさと解毒剤作りやがれこの変てこパーマのお蝶夫人が」 才人は足を踏み鳴らして怒鳴りつける。全く以って意味不明である。 よく見るとこの騒ぎを聞きつけて部屋のすぐ外に人垣が出来ており、モンモランシーは本気で泣きたい気分になった。 「こらこらサイト、君はまた何を騒いでいるのだね」 慌てた声で呼びかけながら、頼りにならない救いの主が部屋に飛び込んでくる。 余程急いで来たのだろう、いつもは念入りにセットしている髪を汗で乱しながら、ギーシュが息も荒く才人とモンモランシーの間に割って入った。 「今度はなんだ、モンモランシーは何もしてないぞ」 及び腰ながら両手を広げてこちらを庇うギーシュに、モンモランシーは遠慮なく部屋の隅に退避する。 それを厳しく目で追いながら、才人は体の向きを変えて自分の背に背負っていた人影を見せてくる。 「嘘吐け、これ見りゃそこのでこっぱちがやらかしたのは一目瞭然だろうが」 その人影を見て、モンモランシーは目を瞬かせる。 見覚えのある顔の幼女である。才人の背におぶさりながら「いけーサイト、やっつけろー」などと無責任に囃し立てている。 「なんだこの子は、ずいぶんと君のご主人様に似てるじゃないか」 驚きの声を上げるギーシュもまた、モンモランシーと同じ感想を抱いたようだ。 才人はイライラしたように地団太を踏み、片手で幼女を支えたまま、こちらに指を突きつけてくる。 「こんな阿呆なことやるのはそこの面白い髪型の女しかいねえんだよ。全く猿漫画の主人公みたいな名前しやがって」 「待って」 モンモランシーは才人の罵声を手で制止つつ問いかけた。 「あなたの口ぶり聞いてると、どうもその子がルイズ本人だって言ってるみたいに聞こえるんだけど」 「そうだよこれルイズ。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールその人。お前が縮めた女」 相変わらず誤解している才人の言葉を無視しつつ、モンモランシーはその幼女の傍に行き、顔を覗き込む。 「こんにちは」 そう言うと、その幼女は目を瞬いて不思議そうに問いかけてきた。 「おばちゃん、だあれ」 モンモランシーは一瞬顔を引きつらせかけたが、「子供なんてこんなもんよ」と自分を宥めつつ、 「ちょっとごめんなさいね」 とその幼女の額に手を当てた。 目を閉じ、意識を集中する。 水魔法の使い手たるモンモランシーは、こうすることで相手の体内の情報をある程度把握することが出来る。 以前授業でも同じようにしたことがあり、そのとき組んだのがルイズだったので、彼女の体内の情報は少し覚えていた。 体内の情報というのは、要するに水の流れである。 ほとんど感覚的なものなので説明することは難しいが、だからこそ断言できる。 この幼女は、ほぼ間違いなくルイズ本人である、と。 モンモランシーはため息を吐き、きょとんとしているルイズから手を離した。 8 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 21 27 ID J0Zz/K6a 「本当みたいね」 「ほれ見ろ、やっぱりお前が」 息巻く才人に、モンモランシーは首を振る。 「でもわたしじゃないわ」 「今更言い逃れ」 「そもそも、こんなことできっこないもの」 きっぱりそう言ってやると、才人は目を見張った。 「できないって」 「水魔法の秘薬って言ったって、若返りの秘薬なんかないってことよ。 そんなものがあったらこの国の女貴族は皆ずっと若いままでいるでしょうよ」 非常に分かりやすい例えのつもりで言ってやると、才人も彼なりに納得した様子でガックリ肩を落とした。 「じゃあ、これ元に戻すのも無理なのか」 「そういうこと。分かったらさっさと出て行ってくれない。今ならまだ許してあげるから」 朝っぱらから言いがかりでこんな騒ぎを起こされたのだから、怒る権利は当然こちらにある。 本来ならもっとネチネチいびっているところだが、許してやることにする。 確かに前回同じぐらい迷惑な騒ぎを起こしたことだし、何よりも今は少し上機嫌だからだ。 才人本人もさすがに気まずかったらしく、「ホントすまん、俺はまたてっきり」と謝罪しつつそそくさと部屋から出て行く。 ちなみに騒ぎの原因ともなったルイズは、そんなことなど知らぬ顔で「ねーサイトおなかすいたー」などと才人の背中で無邪気に喚いていた。 見物していた生徒たちも見世物が終了したことで散っていき、結局残されたのはモンモランシーとギーシュだけになった。 「なんだったんだ、一体」 首を傾げるギーシュに、モンモランシーは笑いかける。 「さあね。あの二人が騒いでるのなんていつものことだし、気にしなくてもいいんじゃない」 「それもそうか。やれやれ、全くあの二人といると気が休まらないなあ」 相変わらずあっさり納得するギーシュに苦笑しつつ、モンモランシーは部屋の外に向かって歩き出す。 「それよりほら、早く食堂行きましょうよ。朝食始まっちゃうわよ」 自覚するほど優しい物言いにギーシュも気がついたようで、すぐに目を輝かせてこちらに飛んでくる。 「おおモンモランシー、ついに僕の愛を受け入れてくれるぶぁ」 「調子に乗らない」 文字通り飛び掛ってきたギーシュの腹部に肘鉄を打ち込んで撃墜しつつ、モンモランシーは鼻歌混じりに歩き出す。 何となく上機嫌な理由は、騒ぎが起こってからギーシュが駆けつけるまでにほとんど間がなかったことと無関係ではなさそうだった。 9 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 22 59 ID J0Zz/K6a 時は過ぎてその日の夕方、才人はコルベールの研究室の中の椅子に座っていた。 満身創痍と言って差し支えないほど、心身ともにボロボロの状態である。 ルイズは、才人の予想どおり行く先々でヴァリエーション豊かな騒動を巻き起こしてくれた。 「あらルイズったらずいぶん可愛くなっちゃったわねえ」 と大爆笑してルイズを抱えあげたキュルケの指に思い切り噛みつき、 「きゃーミス・ヴァリエールとっても可愛いです、抱っこさせてください」 と言ったシエスタの胸を腫れ上がるまでビンタしまくり、 「……」 といつものように無言で無視を決め込んでいたタバサの本を素早く掻っ攫って「いちまーいにまーい」と破り捨ててみたり。 特にタバサが無言で氷柱を連発してきたときは本気で死ぬかと思ったものだ。何とか本を直して事なきを得たが。 他にも授業中に「ねーサイトおしっこー」と言っては猛ダッシュさせ、 食堂ではスープが熱いと言ってふーふー冷まさせたと思ったら今度は温いと喚き出す。 ようやく大人しくなったと思ったら物影で学院長のネズミをいじめていたし、 マリコルヌにデブを連発して言ってキレさせたりギトーを隠れハゲ呼ばわりして分身殺法喰らわせられたり。 落書きされたデルフリンガーがマジ切れしたときはさすがの才人も泣きそうになった。何とか落書きを消してなだめたが。 それでいてこちらが怒ると泣き喚いてエクスプロージョンを連発したりするのだ。 いやこの辺などまだ温いレベルと言ってもいい。 終いには火蜥蜴のフレイムの尻尾を踏んづけて遊んだりシルフィードの口に棒で突き刺した犬の糞を突っ込もうとしたり。 そんなこんなで一日中走り回った才人は、疲れ果ててコルベールの研究室の机に突っ伏すこととなったのである。 出てくる言葉は愚痴ばかりだ。 「なんで子供ってあんなにウンコ弄りたがるんですかね」 「それは女性の心理と同じく永遠の謎というものだよサイト君」 さすが先生こんなくだらねえ質問にも知的に答えてくれると才人は感激して顔を上げる。 そんな才人を微笑んで見つめ返すコルベールの頭が以前よりも光り輝いて見える。 「うわぁ、先生の頭とっても眩しいナリ」 「これは知性の輝きというものだよサイト君」 さすが死の淵から生還した先生、こんなに失礼なこと言われても全然怒らねえぜと才人は尊敬しながらコルベールを見つめる。 きっとこのパワーアップしたコッパゲ先生なら、この異常な事態も解明してくれるに違いない。 ちなみに騒ぎの原因であるルイズは研究室の片隅の簡易寝台ですやすやと眠り込んでいる。 走って叫んで逃げ回る才人の肩で無責任にはしゃぎまくった挙句、「ねむい」と呟いてさっさと寝てしまったのである。 ナメとんのかこのガキャア! とキレるつもりは毛頭にない。そんな元気はもうとっくにない。 今はただただこの悪夢が可及的速やかに解消されることを願うばかりである。 「で、どうなんですか先生」 期待して聞くと、コルベールは微笑んだままそっと明後日の方向を見て、 「分からん」 「もっぺんくたばれこのハゲェ!」 才人は叫んで立ち上がって立ちくらみを起こして床に倒れこむ。 疲れすぎたせいで堪忍袋の尾が短くなり体力の限界値も低くなっているのだ。 コルベールはあくまでも怒らずにそんな才人を椅子に座りなおさせ、淡々と説明する。 「落ち着きたまえサイト君。原因については大体察しがついている」 「本当ですか」 「というより、推測できる原因はただ一つだと思うがね」 「というと、つまり」 「虚無だよ」 人差し指を立ててコルベールが断言する。 ああやっぱりそれかと才人は肩を落とす。何となく、想像はついていたのだ。 虚無。伝説の系統。ルイズが必要としたときに必要な魔法が祈祷書に浮かび上がるという、よく考えれば都合良すぎな魔法。 ちなみにコルベールは才人が伝説の使い魔であることから大方の事情を察していたらしく、 ルイズが虚無の担い手であることは説明するまでもなく知っていたようだ。 とにもかくにも、虚無である。なるほど虚無ならどんな魔法が出てきても納得できる。 爆発させたり幻作ったり魔法解除したり。 よくよく考えたらあまり関連性がない魔法ばかりである。 いや本当はもっと細かいところでいろいろ共通しているものがあるのかもしれないが、才人には理解できないし興味もない。 10 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 24 16 ID J0Zz/K6a 「つまり、虚無の魔法に人間の時間を巻き戻すといったものがあったということではないかな」 「今度は時間操作ですか」 本当に何でもありだなあと才人は感心するよりも早く呆れてしまう。 コルベールは重々しく頷いて解説する。 「私が思うに、虚無の魔法というのは空間や光など、他の四系統とは異なる概念に対して作用するものなのだろう。 他の四系統は物の素材を変えたり炎を起こしたりとあくまでも物質的なものにしか影響を及ぼさないが、虚無系統は」 「先生、俺に説明したって小難しい話は分かりませんよ」 本当なら聞いてあげたいところだったが、疲れ果てている才人にそんな余裕はない。 コルベールもそこのところは察してくれたようで、少し残念そうに頷きながらも結論を話してくれる。 「虚無の魔法は、ミス・ヴァリエールがそれを必要としたときに祈祷書に浮かび上がってくるのだったね」 「そうみたいですけど」 才人はちらりと部屋の隅に目をやる。ルイズは相変わらず健やかな寝息を立てているようである。 コルベールは一つ頷き、嬉しそうに言った。 「では解決方法は簡単だ。ミス・ヴァリエールが元に戻りたいと願えばいい」 「本当に単純ですね」 才人が呆れて言うとコルベールは苦笑して肩をすくめた。 「なに、どんなに難しく思える問題も、後で答えを知れば意外なほど簡単に思えてくるものだよ」 「そんなもんですかねえ」 「少なくとも、今回の件に関してはこれで間違いないはずだ。ミス・ヴァリエールが子供になりたいと願ったからこそ、 時間を巻き戻す魔法が祈祷書に浮かび上がったのだろうからね」 「なるほどねえ。でも、ルイズはなんでそんなこと」 才人が疑問を口にすると、コルベールは教師が宿題を出すときの口調でこう言った。 「それを考えるのは使い魔たる君の仕事だよ、サイト君」 「仕事ったってなあ」 ベッドに横たわったままルイズの部屋の天井を見上げ、才人はため息混じりに吐き出した。 ちなみにルイズは子供のままで、才人の隣で未だに眠っている。さすがお子様、眠りが深いらしい。 「なあルイズ、お前なんで子供になんかなりたがったんだ」 問いかけてみるも、返事はない。 眠っているから当たり前だが、起きたところでちゃんとした答えが返ってくるかは怪しいところだ。 才人は再度ため息を吐いて仰向けになる。 ぼんやりと天井を見上げながら、今日一日で分かったことやら疑問に思ったことなどを思い浮かべてみる。 まず一番に疑問に思ったことは、モンモランシーに対して「おばちゃん、だあれ」などと言ったことだ。 才人のことは覚えていたのにモンモランシーのことは忘れていた、ということなどあり得るだろうか。 他の女性陣に対する態度も気にかかる。 記憶ごと子供に戻っているなら、シエスタの胸に対する嫉妬の発露じみた行為はどう考えてもおかしい。 (ひょっとして、こいつ皆のこと忘れてる振りしてるだけなんじゃねえのか) つまり、子供に戻るのは肉体だけということだ。 だが、もしそうだったとして一体何故忘れた振りなどしているのか。 そんなことを考えていたとき、不意にルイズが小さく呻いて体を起こした。 11 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 25 31 ID J0Zz/K6a 「ここどこ」 「お前の部屋だよ」 短く答えてやると、ルイズは眠たげにしょぼしょぼさせていた目をぱっちりと開き、満面の笑顔で抱きついてきた。 「サイト」 そのまま、甘えるように才人の服に顔を擦りつける。 (普段のルイズならこんなことしないしなあ) 才人は首を傾げたあと、ふと下からの視線に気付いて顔を下げた。 見ると、ルイズがお子様らしい柔和な顔に似合わぬ不安げな表情でこちらを見上げている。 「どうした、ルイズ。怖い夢でも見たか」 才人は笑いかけながら、ルイズを持ち上げて自分の膝に乗せてやる。 ひょっとしたら中身は元のルイズかもしれないと疑いつつも、今日一日でお子様扱いがすっかり染み付いてしまったのだ。 そのままの体勢で、しばらく頭を撫でてやる。するとルイズは昼間の元気が嘘だったかのように遠慮深げな声で、恐る恐る訊いてきた。 「ねえサイト」 「なんだ」 「怒ってる?」 「どうして」 「いっぱいいたずらしたから」 まあ確かになあ、と苦笑しつつ、サイトはもう一度、ルイズの頭を少し乱暴に撫でてやった。 「怒ってねえよ」 「ほんとう」 「おう。お前も反省してるみたいだしな。その代わり明日はもう一回皆のところに謝りに行くからな」 才人がそう言うと、ルイズはもうすっかりお馴染みとなった全開の笑顔で「うん」と元気に頷き、 「あのねサイト」 「なんだ」 「だいすき」 不意打ちである。 ルイズは急に身を翻して才人の頬に唇を押し付けると、猫のような素早さでさっさと布団に潜り込んでしまった。 12 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 27 37 ID J0Zz/K6a しばらくの間頬を押さえて呆然としたあと、才人はぷっと吹き出した。 「ってなに焦ってんだ俺。子供にキスされたぐらいでよ」 とは言え、心臓が高鳴っているのも事実である。 子供に戻っているとは言え、あのルイズに「だいすき」などと言われては動揺するなという方が無理というものである。 「なんだかなあ」 誰もいないのに誤魔化すように笑いつつ、才人はそっと布団をめくる。 布団に潜り込んだルイズは、朝のように体を丸めてぐっすり寝入っているようだった。 その無垢な寝顔を見ていると、自然と口元に微笑が浮かんでくる。 (何がなんだかわかんねえけど、まあいいか) 才人は一つ欠伸をしてベッドに横たわった。 夢うつつに、誰かが何事かを呟いているのが聞こえたような気がした。 そして次の日目覚めてみると、全ては元通りになっていたのである。 ルイズは才人の横で相変わらず朝に弱い低血圧ぶりを発揮し、昨日のことを尋ねても「覚えてない」と唇を尖らせるばかり。 結局才人の疑問が解決されることはなかったものの、この騒動はこれで一旦幕を閉じたのであった。 後日。もしもそのときルイズの部屋を覗き込む者がいたならば、剣に話しかける一人の少女を目にすることが出来ただろう。 「ほら見ろ、俺が言ったとおりだっただろう」 「まあ確かに、あの馬鹿犬あたしを放り出したりはしなかったけど」 「それどころか存分に甘えさせてくれたじゃねえの」 「まあ溜まりに溜まったストレスは十分発散できたわね」 「全く、単に『素直になりたい』って願ってただけだってのに、何だってあんなことになんのかね」 「知らないわよ。あたしだって子供に戻ってたときはビックリしたんだから」 「でも記憶はあったんだろ」 「あったけど、何か楽しくてどうでもよくなってた気がする」 「なるほど精神は子供のときに戻ってたって訳か。確かに子供は無邪気で素直だからね。いい意味でも悪い意味でも」 「そういうことなのかしら」 「そうだろうよ。で、お前さんはしたいことをしたわけだ。相棒にいつも以上に我侭言ってみたり素直にやきもち焼いてみたり」 「誰もやきもちなんて焼いてないわよ」 「へいへい。まあそういうことにしときましょうかねえ。ま、お休み前に素直になれてよかったじゃないの」 「なんの話よ」 「『あのねサイト』『なんだ』『だいすき』ぶちゅっ。いやああのときは相棒が犯罪者にってちょ、俺をどこへ連れて行くの」 「コルベール先生の研究室に溶鉱炉はあるかしら」 「いやさすがにそんなものはねえと思うけどってでも止めてあの先生に体弄られるのはイヤァァァァァ」 こうしてデルフリンガーの悲鳴は誰の耳にも届くことなく、魔法学院の片隅に消えていくのであった。 蛇足ではあるが、平賀才人が今回の騒動以降しばらくの間顔を洗うのを拒んだことを追記しておく。 3 名前:205[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 14 04 ID J0Zz/K6a っつー訳で幼児化SS投下しますっつっても非エロですが。俺には濃厚エロは無理だよ。 で、誰が幼児化するかってーともちろん流れに乗っかって才人 13 名前:205[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00 31 50 ID J0Zz/K6a 3なんて言うと思ったかこのド低脳どもがぁ! この205の最も好きなことの一つは、 「幼児化した才人に感情移入してシエスタのおっぱい吸う妄想にひたりてえ」 とか思ってやがる貴様らの期待を見事に裏切ってやることだ! ……いやごめんなさいちょっと調子に乗ってました自分。 まあなんてーか昨日の書き込み見て勢いで書き出したんですが、 勢いで書き出したおかげで構成が無茶苦茶だったり安易だったりもう散々ですはい。 やっぱ幼児化して抵抗できないルイズをシエスタがヨシェナヴェの材料にしちまうSSとかの方がよかったかなあ と思いつつまた次回。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8716.html
前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) 「……それじゃあ、皆さんシンさんと戦って?」 港町ラ・ロシェールからタルブの村へ向かう道すがら。 チハはハーマンの昔話にそう尋ねる。 大型の高速乗合馬車で移動するシンたち四人とティファニアとチハたち 大所帯は、彼女たちだけでほぼ馬車を占有する状況だった。シンたちは 馬で移動する手段もあったが、ティファニアの護衛という観点から、 一緒に馬車で移動することを選んだのだ。馬車にはティファニアたちの 大きな荷物だけでなく、シンが背負っていた無機質な金属製の箱なども 積み込まれ――過積載だとして追加料金を請求されたのだが、シンが なにやら書状を馬主に見せるとそれで話はお仕舞いになっていた。 「まあね。あたしとカルナーサは賞金稼ぎだったし。シーナは違ったけど、 立場の相違って似たような理由でシンと対峙して、結果素手のシンに あたしら全員ぼろ負けだったよ。 変な武術使うし、瞬発力はあたし以上だし、腕っ節はカルナーサ以上、 知覚もシーナ以上なんて反則だよ」 「はは……まあ、私たちは正規の軍人としての訓練を受けてますし、 それ以前に鋼の乙女ですし……」 シンさん、いったい何をしたんだろう――チハは思わずシンに視線を 向けるが、当のシン本人は、ティファニアと一緒に子供たちに囲まれていた。 その様子からはとても単機で敵軍を圧倒する超兵器である鋼の乙女の 姿は想像もできないが、チハには、シンが子供たちの相手をしながら 周囲への警戒を怠っていないことがよく分かった。 ――そういえば、シンさん、テファのことを『姫様』って…… あれ、どういうことだろう? チハは改めてティファニアとシンに視線を向ける。相変わらずシンの ペースに調子を崩されっぱなしのティファニアだが、その緊張も徐々に 解けているように見える。その様子に、チハは少し安心する。 そう。シンという鋼の乙女は、最初に出会ったときからそういう雰囲気を 持っていた。 鹵獲され友軍となってはいるが、敵として戦っているはずの国の乙女で あるチハにも、シンは敵愾心の欠片も見せなかった。そればかりかともに くつわ……もとい鉄帯を並べてアフリカの砂漠を駆け抜け、最終的に ドイツ第三帝国に占領されたフランスを解放する大きな力となった。 イギリスを代表する陸戦型鋼の乙女、陸の女王とも讃えられる歩兵戦車 マチルダII マチルダの影に隠れ大きく取り上げられなかった存在だが、 彼女はチハにとってはエイミーとならぶかけがえのない戦友だった。 馬車は途中の駅で馬を替えつつタルブへと向かう。不安定な政情から 盗賊が出没するとのことだったが、結局チハたちはその姿を一度も目に することはなかった。 チハたちがラ・ロシェールを発った翌朝。タルブの村はいつも通りの 朝を迎えていた。 村外れの『竜の道』近くに設定された練兵場で、駐留部隊である 第1小隊と第7小隊の訓練がいつも通り行われている。『サンパチ』の 通常使用許可が下りたため、その銃剣の扱い方を彼女たちは一日も早く 習得しようと躍起になっていた。 何しろ『サンパチ』の銃剣は今までのマスケット銃に取り付ける刺突型の 太く長い針のようなバヨネットとは違い短剣型なので、その視覚的な 威嚇効果も高いが、これまでと違ったまるで槍のような扱い方を習得 しなければならないのだ。おまけに普段の装備にこれが追加されたので、 短剣の扱いに慣れていない隊員にはいっそうの重荷となっていた。 「ふっ。いくら得物が同じだからって、このアタシに勝とうなんて思って ないよな?」 金髪をラフにカットしたアシンメトリーなヘアスタイルで、前髪の 一部にグリーンのメッシュを入れた勝ち気な銃士が相手を挑発する。 それを受けるのは、光の加減で水色を帯びたようにも見える金髪を ミディアムボブにした少女。銃士というにはまだ経験が浅く見えるが、 訓練用の木銃剣を正面に『構え銃』の形で構えるその姿は、なかなか 堂に入っている。 「いくら第1小隊の突撃隊長ルフィーさんが相手でも、負けません!」 「やれー!ミルク!相手が第1小隊だからって負けるなー!」 「頑張れー!ミルク!」 少女の後ろから、同じ第7小隊の少女たちの激励が飛ぶ。ミルクと呼ばれた 少女銃士は一瞬だけ後ろに視線を向けて微笑むと、再び目の前の強敵と 向き合った。 『サンパチ』の銃剣は三八式歩兵銃をモデルとした銃本体と同じく 大日本帝国の三〇年式銃剣がモデルのため、その扱い方もオリジナルに 準拠している。違うのは威圧目的ではなく当初から実戦を想定しているため、 最初から黒染めされた刀身に刃があることくらいだ。技術的に無理が ないため完成は『サンパチ』よりもはるかに早く、ハルケギニアの人間に とってはつば付きの片刃の短剣として扱われるが、銃剣としての扱いを 知っているのはここでは海軍陸戦隊を指揮したこともあるあかぎか 武内少将くらいなものだった。 その二人のうち武内少将は『サンパチ』完成を見ることなくこの地に 眠り、あかぎもこの五年間活動を停止していたため、配備された第1小隊と 第2小隊の訓練はあかぎが書き残した教本を元に行われていた有様だった。 それに加えて数が揃わず秘匿兵器扱いという状況のため、まともな訓練が 行われていたとは言いがたい。 それに対して第7小隊は小隊長のエミリーがアメリカ陸軍の鋼の乙女のため、 当時使われていたM1905/42銃剣やそれを扱いやすくしたM1銃剣だけでなく、 イギリスのP1907銃剣(原型は大日本帝国の三〇年式銃剣)をモデルにした M1917銃剣も実際に使用したことがあったため、彼女たちはここ数日で 先行する二小隊に追いつくべく(エミリーの命令は『一週間で追い越すよ! 大丈夫みんなならきっとできる!』だったそうだ)、エミリーとあかぎの 二人がかりで日米両方のハイパースパルタな銃剣術の特訓を休みなく 受けた格好になっていた。 「はじめ!」 審判役の第1小隊分隊長の号令に合わせ、二人は日本式に九歩離れた 開始位置からじりじりと間合いを詰めて互いに攻撃の機を探る。 先に動いたのはルフィーだった。 「おらっ!」 一瞬で間合いを詰めての体当たり刺突……と見せかけて、素早く体を 入れ替えての左体転刺突。しかし、ミルクもそれを巻き落とし刺突で返す。 くるりと巻き落とされた木銃剣にルフィーが驚く暇もなく、その首筋に 木銃剣が押し当てられていた。 「勝負あり!勝者、第7小隊、ミリセント!」 審判役の第1小隊分隊長が高々と手を上げる。最初の位置に戻ってから、 訓練通りに日本式の『立て銃』の姿勢で一礼するミルクの周りに、 第7小隊の少女達が歓声を上げて群がった。 「勝てた……」 「すっげー!本当に勝った!」 「い、痛いよフェイス」 仲間たちにもみくちゃにされて祝福されるミルク。マミなど僅かな 例外を除いて本来なら採用試験に落伍した者ばかりが特例措置で集められて いるため、今まで『いらん子小隊』と呼ばれて精鋭の第1小隊に何一つ 勝てるところがなかった彼女たちが初めて勝利を収めたのだから、 その喜びようは並ではない。 だが、秘密部隊である第8小隊を除く他の小隊で実施されている ハルケギニア式とは異なるアメリカ陸軍式の苦しい訓練に耐え抜いた 彼女たちに足りなかったのは確固たる自信だけであり、決して他の小隊に 劣るものではないと知っていたのは、彼女たちを束ねるエミリーと、 アニエスを筆頭とする隊長と小隊長たちだけだったというのはある意味 悲しむべき事だったのかもしれなかった。 その輪の外で、ルフィーは憤懣やるかたない表情で木銃剣をミルクに 向ける。 「もう一本!もう一度勝負しやがれ!今のはお前をなめてかかってただけだ! こんな負け方ありえねぇ!」 その怒りの矛先を向けられたミルクが声を出す前に、一番ミルクに 構って喜んでいた赤毛の少女がミルクの手から木銃剣を取り上げて 構えてみせた。 「今度はあたしがお相手しますよ。ルフィーさん。突撃隊長同士、 いっちょお相手願います」 「フェイスか。なんで突撃隊長のお前やマミじゃなくて斥候のミリセントが 先陣切ったのかわかんねーが、勝負するってんなら受けて立つぜ」 そう言って木銃剣を槍のように振り回すルフィー。だがその肩を不意に 叩かれる。 「こっちも選手交代よ。ルフィー。あなた熱くなりすぎてる。実戦だったら あなたの首は今頃胴体と泣き別れているわよ」 「そうね。キャティの言うとおりよ。第一、相手を甘く見て戦場に立つなんて、 あなたいったい何を考えているの?アニエス隊長がいないからって そういう態度は感心しないわね」 そう言ってルフィーから木銃剣を奪ったのは、藤色の髪をボックスボブにした 少女銃士。あくまで冷静な彼女の言葉に、審判役の第1小隊分隊長も同意する。 「悪かったよ。ったく。キャティだけじゃなくエルザまでかよ…… しゃーねぇ。譲ってやるから、負けるんじゃねえぞ」 渋々、という表情でルフィーはキャティの肩を叩くと、そのまま外の 輪に戻っていく。それを見てから規定の位置に移動するキャティに、 フェイスは苦手意識をあらわにした。 「……うーわーよりにもよって……あの人、同い年とはとても思えないんだよな…… 落ち着きすぎて何考えてるのか分かんないし」 小さく言葉にするフェイス。だが、その勝負は村の入り口に到着した 高速乗合馬車によって中断することになったのであった―― その頃――トリステイン魔法学院の学院長室には、一人の来客があった。 学院長オスマンの向かいに座るのは、純白の女官服に身を包み、 ハーフアップにした長い藤色の髪の女性。髪をまとめる黄金のバレッタに 浮き彫りされた紋章から、彼女がトリステイン王家に深い関わりがあることを 知らしめている。髪型のせいか、二十代中盤に見えるその女性は、 その見た目に反した落ち着いた雰囲気で、マチルダが運んできた紅茶に 口を付けた。 「いいお茶ね」 「東方の最高級品。王家の人間にも滅多に出さん代物じゃが、お前さんを 迎えるのには、これでも力不足なくらいじゃわい」 「手紙、読ませてもらったわよ」 「手間をかけさせたようじゃな。しかし、キャティ、お前さん以外に これを頼める人間を、ワシには思いつかんかった」 そう言ってオスマンは座ったまま頭を下げる。退席を命じられなかったため 仕事を続けるマチルダだが、そんなオスマンを見たのは初めてだ。 ちらり、とオスマンはマチルダを見る。それを『席を外せ』との 意思表示と受け取ったマチルダが立ち上がろうとすると、キャティと 呼ばれた女性がそれを制した。これで二度目だ。 「……部外者に聞かせてもいい話ではないと思うが」 「あら?彼女も当事者よ。今はまだ違っていても、ね」 「まぁ、お前さんが知らぬはずもない、か」 二人の会話は意味深だ。特にこのキャティという女性はどこまで自分のことを 知っているのだろうか?――マチルダは背筋が寒くなる思いがした。 マチルダは、このキャティ――キャティ・ネヴュラートという女性に ついて、トリステイン王国宮廷女官長だと聞かされていた。名前から 自分と同じアルビオン出身のようだが、自分とさして変わらない年齢に 見えるその姿で、この落ち着きようはある意味異様だ。 そんなマチルダの思いをよそに、キャティはもう一度紅茶に口を付けると、 話を切り出した。 「さて。それでは本題に入ろうかしら。 ジョルジュ、あなたの要請した『始祖の祈祷書』の貸与だけれど、 条件付きで許可が下りたわ」 キャティのその言葉を、オスマンは半ば予想していたかのように小さく 溜息をつく。 「その『条件』とやらの予想はつくが……聞かせてもらおうかの」 「そうね。ジョルジュ。あなたの予想は当たっているわ。 まず、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの 身柄を王家で預からせてもらうわ。そうね。アンリエッタさまの義妹になる、 ということね。アンリエッタさまの義妹であれば王家の関係者、 『始祖の祈祷書』を持っていても何ら不都合はないわね。 次に、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロア・ ド・ラ・ヴァリエールの所属をアカデミーから王家直属に移管。 とりあえず、私の下についてもらうことになるのかしら。 アンリエッタさまが、アカデミーの横槍が入らない任務を任せたいと おっしゃっていることに関係していることよ。 この二つの条件をラ・ヴァリエール公爵が呑むのであれば、 『始祖の祈祷書』の貸与を認める。これが王家の回答よ」 「ワシの予想よりも厳しいの。すでに分家した次女以外全員を王家に 寄越せ、とは。果たして、それをかの公爵が呑むかの?しかも、真の理由は 話せまい。 ワシが話すにしても、果たして……」 オスマンはさっきよりも深く溜息をつく。キャティはもう一度紅茶に 口を付けてからその問いに答える。 「……これはまだ内密のことだけれど……」 キャティはそこまで言うと一度言葉を切り、ちらりとマチルダに視線を 向けた。マチルダが思わず息を呑むのを見てから、キャティは続ける。 「近々王宮の大掃除が行われるわ。その後、ゲルマニア皇帝アルブレヒト 三世陛下との婚礼の儀に行われるアルビオンからの攻撃を待ってゲルマニアとの 同盟および皇帝陛下との婚約を破棄。これはゲルマニアが安全保障条約が 含まれる同盟を締結しているにもかかわらず援軍の即時派遣を実施しないと いうことが理由ね。 その上でアンリエッタさまは女王に即位し、ティファニア姫殿下を 助けるという名目でアルビオンへの侵攻作戦が開始されることになっているわ。 ラ・ヴァリエール公爵閣下へのお話は、それからね」 「な、なんじゃと!キャティ、お前さんがいて、どうしてそれを止めんかった!」 (な、なんだってー!?い、いったいどういうことだい!?) 思わず立ち上がるオスマンと、何とか声に出さずにすんだが思わず 顎が外れそうなほど驚くマチルダ。そんな二人に、キャティは静かに 微笑んだ。 「私はアルビオン王家とトリステイン王家をずっと見守ってきた。 その私に、どうしてアルビオンの王権復興に反対する理由があるのかしら?」 「ああ、知っておるとも。お前さんに頼み込んで情けをもらってから、 ワシも三百年移ろう刻の只中に置き去りにされておるからの。 テューダー王家は滅亡した。これは事実じゃ。 そして、それがトリステイン王家、いやアンリエッタ姫殿下にとって どういう意味を持つのか、知らぬお前さんではあるまい」 「あのころのあなたは本当に可愛かったわね。ジョルジュ」 オスマンの抗議をにっこりと笑っていなすキャティ。その様子に、 オスマンも毒気を抜かれたように腰を下ろす。そして溜息をまた一つ ついた。 「お前さんが『そうである』と知っておれば、ワシもああいうことは せんかったわい。 三十年前にようやく真実にたどり着いた時も、お前さんは言ったな? 『やっと気づいたの?』と。忘れもせんわい」 「でもそれは事実よ。王家の血統とは違っても、私も『そう』なのだから」 (いったい何の話をしているんだい?この二人は?) マチルダ一人ついて行けない状況だが、それを言葉にすることはできない。 だが、噂話だと思っていたオスマンの年齢が、ほぼ事実だと言うことに マチルダは驚いた。そして、目の前のキャティという女性は、間違いなく それ以上の年月を生きているということにも。いったいどんな魔法を 使っているのだろうか?『水』の禁呪でも、三百年以上もの時を 凍り付かせる魔法など聞いたことがない。 マチルダのオスマンを見る目が変わったことに、自分自身が気づくのに 時間はかからなかった。ある意味かわいそうな老人だ。まぁ、聞いている 内容から察するに自業自得とはいえ、肌を重ねた相手に魔法をかけたか、 それとも彼女自身にかかっている魔法が体液を通じてオスマンにも移って しまったのか――それはマチルダにも分からない。どちらにしても完全では ないことは、二人の容貌を見れば明らかだ。それとも、オスマン自身が 流れゆく刻にも変わらない自分を何とかしようとして、髪と髭を伸ばした、 のかもしれない。 だが、今のマチルダには、それ以上に重要なことがあった。 「……一つ、質問してもよろしいでしょうか?ミス・ネヴュラート」 「どうぞ」 それを受けてマチルダが言葉を口にしようとして……目の前にある カップの中身がほとんどなくなっていることに気づいた。 「先におかわりをお持ちした方がよろしいみたいですね」 「お願いできるかしら?」 「かしこまりました」 マチルダはそう言って一度席を立つ。彼女がお湯を取りに出たのを 確認して、オスマンが口を開いた。 「……知っておって聞かせたな?」 「彼女は優秀な秘書ね。あなたにはもったいないかも。でも、それも 当然かしら?」 「彼女はもう貴族ではない。それに、彼女が匿っているティファニアどのも、 もう姫と呼ばれることはないはずじゃ。モード大公家は、あの日、教会の 圧力によって滅亡という言葉すら生やさしい事態を迎えたのじゃからな」 オスマンの追求に、キャティは静かに答えた。 「知っているわ」 「なら、何故今になって蒸し返す?いや、最初からそのつもりじゃったな? お前さん、いや、『ゼロ機関』の情報網なら、盗賊時代の彼女を捕縛し 無理矢理言うことを聞かせることもたやすいはずじゃからの」 「『ゼロ機関』も変わったわ。ジョルジュ。あなたがいた頃から。 でもね、一つだけ間違っているわ」 「何が違う?」 オスマンの眼光が鋭さを増す。だが、三百年の貫禄も、彼以上の刻の 流れを見つめ続けた相手には通じなかった。 そう。『虚無』を捜すために『ゼロ機関』を設立したフィリップ三世だが、 一つだけ誤算があった。 彼は『虚無』を知らなかった。 だからこそ、ガリアと双子の国といわれたトリステインが、戦役の 和平の証として最初にアルビオンから后を迎え入れた時から千年近く トリステイン王家を守り続ける盾ともいわれる『魔女』を、自身が捜し 求める『虚無』とは別系統の『虚無』を、そこに組み入れてしまった。 だが、『魔女』は王家のために働いた。そして、それは今も変わらない。 オスマンがその『魔女』の正体に気づいたのは、今から三十年前、 『ゼロ機関』設立後のことだ。彼は『魔女』を知っていた。それは若き日に 探求心を満たすための旅の仲間として、そして、自分を受け入れてくれた 相手として。だが、オスマンの追求にも、『魔女』は笑みを絶やさなかった。 彼は思った。そういえば、今まで一度も彼女が笑う以外の感情の起伏を 見せた姿を見たことがなかった、と―― オスマンの眼光をいなしたキャティは、空になったカップに視線を 移してから静かに言った。 「……これはアンリエッタさまのご提案よ。あかぎは本当に素晴らしい 師だわ。もし、彼女に出会わなければ、今のトリステインはもっと危うい ことになっていたでしょうね」 「色々余計なことを仕込んでくれたようじゃな。あのばーさんは……」 オスマンは苦虫を噛み潰したような顔を隠さない。 「あら?本当に良い友人よ。あかぎは。それに、女性に対してその言い方は 失礼ね。第一、あなたの方が年上よ」 「大日本帝国の、いや異世界の智慧と技術は、ワシらには危険すぎるわい。 現実に独学でそれに近づいたロマリアのダ・ヴィンチとカンピーニは 異端として火刑に処された。じゃから、ワシはコルベールくんにも その轍を踏まんように注意しておるがの。 まったく。ふがくが現れた時にもしらを切り通したのに、あのばーさんが 目覚めたおかげで台無しじゃ」 オスマンは三十年前の『キョウリュウ』との戦いで非公式に公にされた 『竜の羽衣』に触発され、独力で独自の発動機を開発して異端審問を 受け火刑に処されたロマリアの天才メイジの名前を出す。特に変わり者として 知られたダ・ヴィンチと違って癖こそあれど社交的だったカンピーニの 弟子は多く、異端審問を免れた何人かはアルビオンやゲルマニアで研究を 続けていると聞いたことがあるが、彼もそれ以上のことは知らなかった。 「でも、マリアンヌさまと違って、アンリエッタさまはご自身であかぎに 教えを請うたわ。兄弟がいらっしゃらないから、気負っているところが あるわね」 「お前さんは……」 オスマンがそう口にしたところで、そこに新しい湯気の立つカップを 手にしたマチルダが戻ってくる。ドアがノックされると同時に二人は 何食わぬ顔でマチルダを迎えた。 「お待たせ致しました。……何か?」 二人が自分を見る視線に、思わずマチルダは問い返す。だが、二人とも その問いには明確な答えを出さない。 「……?」 腑に落ちないものを感じながらも、マチルダはキャティのカップを 交換し、後ろに下げると改めて彼女の前に座り直す。 そして、先程言いかけた言葉を続ける。 「それでは、よろしいでしょうか?」 「どうぞ」 新しいカップに口を付けてからにこやかに答えるキャティ。 見た目の年齢はさして変わらない二人だが、その様子は真逆。マチルダは その笑みに隠された無言の圧力に気圧されそうになりながらも、気丈に 踏みとどまった。 「……どうして、そっとしておいてくださらないのですか?」 「あなたが望んだことではないかしら? 事が及びそうになった時、あなたは彼女にタルブのミス・エンタープライズを 頼るよう言付けていた。そうそう。あなたがミス・エンタープライズのことを 知る前は、その相手はラ・ロシェールのミスタ・トゥールビヨン―― いいえ、彼はミスタ・サンダーヘッドと呼ぶべきでしょうね」 「全部お見通し、ってことですか」 マチルダの語気が剣呑さを帯びる。だが、その程度で何が起こるわけでもない。 「あたしは、煉獄の炎に焼かれても構わない。生きるためと言い訳しても それだけのことをやって来た自覚はある。でもね、あの子には…… ティファニアに指一本でも触れたら、そのときは……」 「彼女の意志よ。そして、皆の意志でもあるわね」 キャティのその言葉に、マチルダは吐き捨てるように頭を振る。 そして、貫き通すような鋭い視線でキャティをにらみつけた。 「はっ!聞いて呆れるよ。いったい、誰の意志だって?モード大公家も、 サウスゴータ家も、エンタープライズ家も、サンダーヘッド家も、 みんな炎の中に消えたんだ。 あたしは、ティファニアには、今のシティ・オブ・モードは見せられない。 絶対にね」 マチルダは、子供を守る母のように、今にもつかみかからんばかりの 勢いでキャティに迫る。キャティはカップにもう一度口を付けると、 静かに席を立った。 「そうね。彼女がアルビオンの最後の王権でなければ、あなたの望む 未来が手に入れられたかもしれないわね。いくら彼女自身が己を蔑んでも、 それは変えようのない天命よ。 それに、彼女はもう選んでしまったわ。もうじきタルブに着く頃ね」 「……なっ……!?」 驚愕に目を見開くマチルダ。その様子に、キャティは静かに告げる。 「未来を変えたいなら急ぎなさい。アンリエッタさまもタルブに向かうわ。 私は、できればあなたには彼女の、ティファニア姫殿下のそばにずっと いて欲しいと思っているわ。あなたがそばにいれば、あなたが望まない 運命を、変えられるかもしれないわね」 そう告げるキャティの顔からは表情が消えていた。感情のない言葉に マチルダはその真意をはかりかねる。だから、キャティがそのまま学院長室から 去っても、後を追うこともできず、オスマンと二人その場に立ち尽くした。 ようやく立ち直ったマチルダは、横に立つオスマンに尋ねる。 「……いったい、あの方は何者なのですか?」 「もう一つの『伝説』じゃよ。ワシも彼女がどれくらい生きているかしらん。 睦言の冗談交じりに『白銀の姫騎士』と背中を合わせて戦ったこともあると 聞いたこともあるがの。 ま、ああ見えて娘が百人下らんくらいおるしの。ワシの娘も数十人だか 創ったと……あいたたた」 思わずマチルダはオスマンの足を踏みつけていた。『このスケベジジイ』との 心の声は、それが的外れであると気づかない。思わずうずくまるオスマンに、 マチルダは言い放つ。 「……一週間ほど休暇をいただきます!よろしいですね?」 答えは聞いてないとばかりにそのまま学院長室を出て行こうとする マチルダを、オスマンは呼び止めた。 「……何か?急いでいますの」 「待つんじゃ。今から馬で駆けてもトリスタニアからの姫殿下には追いつかん! ふがくに頼んで連れて行ってもらえ。それしか方法はない! ワシが緊急事態じゃと言っておったと言えば、ミス・ヴァリエールも 拒まんじゃろう」 「わかりました。ありがとうございますっ!」 マチルダは礼もそこそこに学院長室から走り去る。その後ろ姿に、 オスマンはつぶやいた。 「『虚無』も、『異世界』も、ワシらには過ぎた代物じゃて」と。 マチルダがふがくを捜して学院長室から飛び出した頃。トリスタニアの 王宮では―― 「本当によろしいのですか?」 王宮の最上層にあるテラス。そこにいるのは一頭の風竜だ。その頭を なでるのは、ワルド子爵。そして、アンリエッタ姫もそこにいた。 ワルドの問いかけに、アンリエッタ姫はにこやかに微笑む。 「わたくしがいなくなれば、王宮に巣食うネズミどもが目を覚まします。 戻ったばかりのアニエスには少々苦労をかけますけれど、わたくしが 戻るまでちゃんと対処してくれるでしょう」 「彼女が負う責は、軽くないと思いますが」 「一時的なことです。わたくしが戻れば、そんなものは元からなかったの ですから」 アンリエッタ姫のその言葉に、ワルドは内心でアニエスに同情する。 確かに、真実を知らぬままリッシュモン高等法院長とつながっている 第2小隊小隊長ミシェルを油断させるためには、アニエスたちに何も告げずに 行動するのが一番だ。だが、この行動は、アニエスに王宮守護の手落ちの 責を負わせることになる。 ならば――ワルドは目前の風竜を見上げる。この任務に必要なのは速度。 可能な限り短時間で任務を完了させ、王宮に戻ること。それを果たすために、 ワルドはグリフォンではなく風竜を手配した。予定では今朝ティファニア姫は 途中で合流した『ゼロ機関』のエージェントである銃士隊第8小隊とともに タルブの村に到着しているはず。彼女と接触し、アルビオンの女王として 起つことを約束させるために、アンリエッタ姫は自らの手中にある 『ゼロ機関』を最大限に活用していた。 「さあ、行きますわよ。エスコート、宜しくお願いしますわ。ワルド子爵」 ――そして。トリスタニアの王宮から、一頭の風竜が飛び立った。 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)