約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8656.html
前ページ次ページゼロのペルソナ ルイズは目をかっと見開き、始祖の祈祷書を片手に杖を高々と突き上げた。 杖先から球が生まれる。杖先を中心にその球は大きくなっていく。 広がりとともにその拡大速度も遅くなっていき、戦場を全て、敵の使い魔たちを全て包み込んだところで完全に停止する。 トリステインを襲った爆発を彷彿とさせる光球、ジョゼフの作り出した小型の太陽と異なるのは殺さないという選択ができることだ。 破壊するものは自分の敵である三種の使い魔。 そして光球は力を放つ。 目が焼けてしまうのではないかというほどの光量と見た目以上のエネルギーを内包した光球はけれど人を焼くことはなく ヴァリヤーグ、ヨルムンガンド、火竜の命を奪い取る。 まぶしさに目をつぶった人々が目を開けると視界に入ったのは信じがたい光景だった。 そこには先ほどまで殺戮を行っていた異形の怪物たちが命を失い地面に横たわっていた。 重厚な鎧に身を包みながら素早く槍を振り回していた姿も、 どんな攻撃もまったく寄せ付けず拳を下ろし足を振るい人間を木っ端のように扱っていた姿ももはやそこにはない。 空には青い空が広がるばかりで炎の脅威を具現化した竜は全て消え去っていた。 彼らは何が起きたか理解できずに棒のよう立つばかりであった。 だが徐々に彼らが死地を脱したということに気付き出すものが増え、誰からともなく歓声が上がる。 戦いの剣戟、怒号、悲鳴にも負けないほどの大きな大きな生を得たことへの大きな喜びの声。 平民も貴族もない。誰も彼もが抱き合って勝利を、生の喜びを噛み締めた。 「っ」 エクスプロージョン “爆 発”を放ち放心したように立っていたルイズは膝をついた。 「大丈夫、ルイズ!?」 ルイズの近くにいた完二とキュルケ、クマはルイズに駆け寄った。 「大丈夫……ただ、精神力使い過ぎただけで。もう魔法は何も使えないわ」 ルイズは疲労が明らかな顔に笑みを浮かべた。 「ヘトヘトなのはみんな同じよ」 安心したキュルケは笑い返す。 「オレももうこれ以上はムリだぜ」 「クマももう魔法使えないクマよー」 ぐでーという擬音が似合いそうなほど疲れた様子をしておどける。 人々が喜びに沸き立つ大音声の中、さほど大きくない声が聞こえてきた。 「おーい、みんな大丈夫かー?」 しかしルイズたちの中でそれを聞き逃したものはいなかった。 「花村センパイ!」 「ヨースケ!」 陽介は片手を上げて「よう」と応えた。 カステルモールに肩を貸してもらって歩いており、目に見えて疲労している。 「大丈夫ッスか!?」 「大丈夫じゃねーかも……」 陽介はそういいながらも心配させないようにか笑っている。 「ヨースケ殿は我々が攻撃できるように魔力尽きるまでヨルムンガントに魔法を使い続けました。 そして魔力が尽きたあとも単身で戦い続けたのです」 「ブレイブザッパーで何体か倒したんだけどな」 陽介は疲労を隠せないながらも笑みを浮かべた。 ペルソナの物理スキルは精神力ではなく体力を消費して使うものだ。 物理最強クラスのブレイブザッパー、ヨルムンガントを倒すほどの威力を持つということはつまりその消費も並ではないということだ。 陽介は今、精神力も体力も使い切りまさに疲労困憊という状態だ。 「つーか悪かったな。ヨルムンガントを防ぎきれなくて……」 「花村センパイ……アンタ男だぜ!」 「へっ?」 申し訳ないというように翳った顔はキョトンとしたものに変わる。 「そんなになるまで戦うなんてすごいじゃない。見直したわ」 キュルケにもそう言われ陽介は面はゆくなってしまう。 「あ、いやでも……」 「ヨースケはホメられ慣れてないクマねー。いつもザツな扱いだから。プププ」 「うっせーよ!」 笑いが起こる中、二体のペガサスが飛来する。手綱を握っているのはガリアとトリステインの女王だ。 ペガサスの背から飛ぶように下りてアンリエッタはルイズへと駆け寄った。 そして服が汚れることなど気にせず自身も砂地に座り込むようにしてルイズに抱きついた。 「ルイズ!ルイズ!」 「ひ、姫さま!」 「ルイズ、ああ、ルイズ……わたしはどうあなたの働きに報いればいいかを知らないわ」 「そんな……もったいないお言葉」 もう一人の女王は彼女の友人と使い魔のもとへととことこと歩いていった。 「大丈夫?」 キュルケもルイズほどではないが疲労していたが友人の気遣いが嬉しくその顔に大輪の笑顔を咲かせる。 「ええ、もちろんよ」 そう。とタバサは安心したように言うとついっと顔の向きを変えた。 「ヨースケは?」 「もっ、クッタクタ。これ以上は無理だからな」 「そう」 スッとタバサは手を上げてカステルモールに寄りかかっている陽介の額に手の平を置いた。 「お疲れ様」 「ちょっ、撫でるって子供じゃねーんだから」 言葉では否定しながらも陽介は頭をなぜる手を払おうとせず、苦笑するだけだった。 ルイズがアンリエッタと抱擁し、陽介たちがタバサに労われる光景ををクマはじっと見ている。 「みんなお姫さまにねぎらってもらってるのにクマとカンジだけお姫さまが来ないクマ……」 「いや、しゃーねーだろ」 「クマもお姫さまに褒めて欲しいクマ!褒めて、撫でて、感謝のチッスー!」 「何言ってんだオマエ……」 誰もが戦いに勝ち、自分達は生き残ったのだと安心しきっていた。 へとへとの笑顔をしていたルイズもそうだった。 しかし彼女の体に緊張が巡る。慌てたように抱きしめているアンリエッタを突き放した。 突然の乱暴な行為にアンリエッタは驚く。 「ど、どうしたのですか、ルイズ?」 ルイズの顔は砂漠の向こうへ向けられている。 その表情は緊張からいつの間にか絶望になっている。 「うそでしょ……」 ただならぬ様子のルイズにみなは消え失せようとしていた心配という心象をあおられる。 「オイ!ルイズ、ナンだっつーんだいったい?」 ルイズはかすれたような声で言った。 「使い魔たちがまた現れてる……」 ジョゼフとビダーシャルの前には巨大な銀色の鏡のようなものが浮いていた。 それは使い魔がくぐるという召喚のゲートと酷似していた。 違うのはあまりにも大きすぎるということ、使い魔の前でなく使用者の前に姿を現していること、 そして一番の差異は一体の使い魔が通過しても消えないことだ。 使用者が消えろと命じるまでは使い魔を呼び出し続ける。 「なるほど、お前がすべての化け物どもは呼び出さなかったのは先の魔法を警戒してか」 「そうだ。エクスプロージョンの前にはどんな防御も、数すらも意味はない」 ジョゼフは新たに呼び出した火竜の一体の背に乗っている。当然、ビダーシャルはそれに乗ることをよしとせず空に浮いている。 「おれもこれほどの大規模な魔法を使ったことはないがな。 いったいどれほどの年月を待てばこれほどの力を出せるものやら。1年か?それとも10年か?」 だが、いずれにしろ。 「もう魔法は出せない」 火竜は空を飛び、ヨルムンガンドとヴァリヤーグは地面を踏みしめアーハンブラ城へと列をなして向かう。 彼らを無尽蔵のごとく呼び出す巨大な銀色のゲートは全てを遠く東方の地から呼び出し尽くすまで消えない。 ルイズの言ったことを理解するまでに完二たちは時間と努力を必要とした。 知りたくないことを理解することを拒み、そして理解すること自体が彼らの精神に負荷をかけた。 「それは本当?」 最初に衝撃から立ち直ったのはタバサだ。だがその声には冷静な彼女らしくなく焦燥の色が含まれている。 「本当よ」 ルイズは地面に座り込んで地面を見つめている。 「ど、どんくらいだよ!?」 「数を増やし続けてるように感じる……。たぶん、さっきと同じくらいか、それより……」 ルイズの言葉により、重い沈黙が流れる。絶望が形をなして見えない重りとして彼らに押しかかったかのようだ。 誰か何かを言おうとし、口を閉じということをしているとき、兵たちが急にざわめき始めた。完二たちはバッとサハラの向こうを見る。 地平線に現れたのは赤い一つの点、点は空に浮かんでいいきながら徐々に数を増やし、空を染め上げていく。 さらに空へと上がらず地を動く赤とは違う大きな金属光沢、そしてそれより小さな影が現れてきた。 それは砂漠の太陽に焼かれた砂の色を隠していく。 数を増やしていく敵を見ながら完二は覚悟を決めた。 「姫さん、ルイズを連れてってやってくんねえか?」 「カンジさん……」 アンリエッタは彼の顔を見つめた。そして彼の固い覚悟を見た。 「わかりました」 「あんがとよ」 「さあ、ルイズ。行きましょう」 アンリエッタは、地面にぺったりと座り込んでうつむいているルイズへと優しく手を伸ばした。 陽介とクマもショックから立ち直り、腹をくくる。 「危ねえから戻っててくれタバサ」 「キュルケちゃんもタバサちゃんと一緒に戻ってて」 タバサとキュルケは思いつめた顔で口をぎゅっと噛むように固く結んでいた。 「いやよ」 そう言ったのはルイズだった。 彼女は顔を上げて毅然とした顔でアンリエッタを見た。 「すいません、アンリエッタさま。その手をとることは出来ません。わたしはカンジの主ですから」 「な、おま、ナニ言って……」 ルイズはゆっくりと立ち上がる。途中、フラついてアンリエッタに支えてもらう。 「オマエ、フラフラじゃねーか!んなのでどーするつもりだ!」 弱りきった体を制しルイズはしっかりと完二の目を見据える。 「あんたこそどーするつもりよ?」 「オレぁ、戦うぜ」 「勝てるわけないじゃない。あんた死ぬ気?」 「んなわけねーだろ」 完二は当然というふうに答えた。 「そう、ならわたしも死ぬ気はないわ」 「おまえなあ……」 ルイズが使い魔を窮させているとき、タバサとキュルケは顔を上げた。 「わたしも戻らない。ここにいる」 「おい、タバサ!?」 「そうよね。ここで逃げるわけにはいかないわね」 「キュルケちゃん!?」 使い魔たちの主は顔を見合わせて笑った。 使い魔たちが困った顔をしているのに対照的だった。完二はルイズの決意への翻意を促す。 「つまんねえ意地張ってねえで……」 「意地なんかじゃないわ。兵たちが立っていられるのはどうしてだと思ってるの? 虚無の魔法使いのわたしがさっき敵を倒したからよ。もしわたしが逃げたらきっとみんな逃げ出しちゃうわ」 完二は閉口した。たしかにルイズの言うことはもっともらしく聞こえた。 事実、ヨルムンガント・ヴァリヤーグが戦列に侵入したときはわれ先にと逃げようとしていた人々が今は再び武器を取り、杖をとっている。 ルイズが敵を一掃すると信じているから取れる行動であり、もしルイズが逃げ出せば先ほど以上の混乱が起こるのは目に見えている。 「……というのは今考えた逃げないもっともらしい理由よ」 しかし悪びれずルイズは種明かしをした。 完二も気抜けしてしまう。 「んだソリャ……」 ルイズはアンリエッタの支えを離れて完二に歩み寄って、顔を上げて使い魔の顔を見る。 「魔法使いが使い魔を置いて行くなんて許さないわ。誰が許してもわたしが許さない」 「んなこと言ったってオマエもう魔法だって使えねーんじゃねえか」 「覚えておきなさい。魔法が使えるから貴族というんじゃないわ。敵に背中を見せないものを貴族というのよ。 背負っているものを放り出して逃げ出すものを貴族とは言わないわ」 紡ぐ言葉から、力強い瞳から確固たる決意を感じ取った。 「おまえ……」 「っ……」 ルイズは貧血のように足元をよろめかせた。 完二はそれを優しく受け止める。 「んじゃあ、離れんじゃねーぞ」 「当たり前よ。守ってくれるんでしょ?」 「ったく……」 かつて交わした約束を完二が忘れていないように、ルイズも忘れてはいなかった。 「たりめーだろ。任せとけ」 ルイズと完二の会話を見たタバサとキュルケも決心を固めたようだ。 「わたしもあなたのご主人さまとして残るわ。どうせタバサも同じでしょ?」 キュルケが笑いかけると、タバサもこくりと頷く。 「いや、タバサは王さまだろ。だったらこんなところで……」 タバサは首を振った。 「大切な仲間は見捨てない」 「タバサ……」 「そーいうこと。今さら固いこと言いっこなしよ」 「きゅ、キュルケちゃん……。クマ……クマ、よよよよよよよ」 「ほらほら、クマ泣かないで」 キュルケはクマの涙を拭う。 「シャルロットさまが残るならば私もここで戦わせていただきます」 「なんつーか悪いな、つき合わせちまって」 「ごめんなさい」 「いえ、このカステルモール、シャルロットさまに従うと決めておりましたから」 アンリエッタはじっとその様子を見ていたが、話がまとまったことを理解した。 「あなたたちという人は……」 「すいません、アンリエッタさま。アンリエッタさまはすぐにお戻りしてください」 トリステイン女王は少し考えごとをするような素振りをした。 「ユニコーンがあればいざという時、あなたを逃がすのに便利ですよね……」 「アンリエッタさま!」 アンリエッタは苦笑する。 「ごめんなさい、ルイズ。わたしはあなたを置いていけないわ。きっとわたしは王失格なのでしょうね……」 「わたしも同じ」 「あら、きっとわたしたち気があうのでしょうね」 タバサの言葉にアンリエッタは笑みで答える。 「アンリエッタさま……」 「あの時はわからなかった……ウェールズさまの気持ちも、今は少し分かる気がします」 彼女は誇りのために国と共に死んだ恋人を思い出している。 王族として、貴族として、国の誇りを持ちながら死んだ王子。 完二もその姿を思い出したが、彼はその人物と同じ運命を辿る気はない。 「死ぬ気はねーぜ」 「あら、もちろんですわ」 アンリエッタ女王は上品に答えた。 トリステインの新女王の気丈な態度に皆思わず笑みを浮かべた。 ルイズは今、窮地にありながら満たされた気持ちだった。 使い魔がいて、敬愛する女王がいて、仲間がいる。 彼女には絆があった。彼女を支え、強くする絆が―― 手の中にあった始祖の祈祷書が強く光る。全員がその光に目を引かれた。 ルイズはページをめくる。 ルーンによる詠唱はいらない。ただ金色に光る文字を口にする。 ワールド・ドア 「世界……世界の扉」 ゼロの旅人は世界にたどり着く。 前ページ次ページゼロのペルソナ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3957.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 四三二 体力点一を失う。 黄金石は持っているか? なければこの術は使えない。 三一五へ戻って選びなおせ。 持っているなら、石を手にしてこの少女に術をかけよ。 少女の表情が緩み、君のことを信頼の眼差しで見つめるようになる。 「本当はすごく恥ずかしいけど……あなたみたいに頼もしそうな人なら、相談しても大丈夫よね」と、 もはや警戒せずにしゃべりだす。 「あなたたちとの旅から帰ってきて以来、ギーシュの様子が変なのよ。ええ、あいつの言動や趣味が変なのはいつものことだけど、そういうのじゃなくって。 ギーシュったら朝から晩まで、まるで夢の中に居るみたいぼんやりとして、わたしがなにを言っても生返事ばかり。あれは絶対、誰か他の女の子のことを考えているのよ! そうに違いないわ」と。 どうやら、三日が経ってもあいかわらず、ギーシュの頭の中はアンリエッタ王女のことでいっぱいのようだ。 少女はギーシュのことを好悪入り混じった口調で語る。 「旅に出る前はわたしのことを麗しき薔薇だ、天上に輝く星だ、と褒めちぎっていたくせに、帰ってきてからはさっぱり。どこの誰のことを考えているのかしら、あの軽薄な浮気者は! どうせ、向こうには相手にもされていないでしょうに」と吐き捨てるように言う。 「別にわたしはあんなやつとの付き合い、いつだって終わりにしてやっていいのよ? でも、あの馬鹿ギーシュのことだもの、私に捨てられたと知ったらやけになって、どんな無茶をしでかすか…… そう考えたらほうっておけないじゃない、そう思うでしょ、あなたも? なんだかんだでギーシュとは古いつきあいだし」 おおよその事情を理解した君は、術の効き目が薄れる前にその場を離れようとするが、少女は休みなく語り続け、話を切り上げる隙を与えてはくれない。 よほどギーシュに対する鬱憤を、腹に溜め込んでいたのだろう。 君という腹蔵なく語れる聞き手を得たためか、彼女の言葉は止むことがない。 「それで、明日はギーシュとふたりで北の山へ秘薬の原料を採集しに行こうと思うんだけど……」 そこまで語ったところで、少女ははっと眼を見開き、両手で口を覆う。 「わ、わ、わたし、なんであんたみたいな平民にこんなことを……? う、嘘!?」 彼女の顔が、茹で上がったかのように真っ赤に染まる。 術の効果が切れたのだ! 君は相手に別れを告げ、そそくさとその場を離れようとするが、少女は 「待ちなさい!」と一喝すると、 細身の女のものとは思えぬ力で背嚢を引っ張るため、その場に留まらざるをえなくなる。 少女は肩を震わせ、巻き毛を揺らして、笑っているようにも泣いているようにも聞こえる声で言う。 「ふ、ふふ、ふふふふ。あなた、この≪香水のモンモランシー≫から秘密を聞き出しておいて、ただで帰れるとは思っていないわよね……。あなたは知りすぎてしまったのよ……」と。 君は慌てて、このことは何者にも口外せぬと誓うが、モンモランシーと名乗る少女は君を解放しようとはしてくれない。 彼女はしばらく君の顔をじっとにらんでいたが、やがて意を決したように 「こうなったら、恥のかきついでよ。あなた、明日のわたしたちの遠乗りに同行しなさい。そこで、わたしとギーシュのために働いてもらうわ、荷物持ち兼護衛としてね。 そもそも、あなたがギーシュを旅に連れていったりしなければ、こんなことにはならなかったんだから!」と告げる。 羞恥と困惑で混乱しているとはいえ、モンモランシーの振りかざす論理は無茶苦茶だ。 ギーシュが君たちの旅に同行したのは、彼が自ら志願したことなのだから! それに加えて、≪虚無の曜日≫である明日はタバサとの先約がある――彼女はいまだ学院に戻ってきてはいないのだが。 君はモンモランシーの同行せよとの命令に従うか(二ニ七へ)、それともタバサとの約束を優先して断るか(八へ)? 八 あいにくだが明日は先約があるし、主人でもないお前たちのために働く義理はないと言うと、モンモランシーは苦い顔をするが、すぐに薄笑いを浮かべる。 「その約束というのは、タバサとの逢引かしら?」とモンモランシーは囁くような声で言う。 君がぎょっとした表情を浮かべるのを見て、彼女は意地の悪そうな笑みを浮かべる。 「あら、当てずっぽうだったけど正解みたいね。あなたたちが学院に戻ってきたあの日、タバサとふたりっきりでなにやら話し込んでいたんでしょう? 覗くつもりはなかったんだけど、ふたりで部屋に入るところを偶然見かけて。あのガーゴイルみたいな子が、キュルケ以外の人間を部屋に入れるなんてわたしの知る限り初めてだから、気になったのよ」 タバサと石の肉体をもつ悪魔めいた姿の怪物は、似ても似つかぬだろうと不思議に思いながら、君はモンモランシーに言い返す。 確かに自分はタバサと≪虚無の曜日≫に出かける約束をした、どのような用件かは明かせぬが、と。 「ええ、そうでしょう、そうでしょうねえ」 いまや自分が優位に立っていることを確信したモンモランシーは、いくらか嗜虐的な口調で続ける。 「ところでルイズは、あなたのご主人様はそのことをご存知なのかしら?」 その言葉を耳にした君の背中を冷や汗が伝う。 ルイズはこの数日、君に対して妙によそよそしい態度をとっていたため、タバサの家族を治療しに行くということを話しそびれていたのだ。 モンモランシーは君の内心の動揺を、敏感に察する。 「知らないようなら、わたしから伝えてあげましょうか? タバサとのあいだに、やましいことはなにひとつないんでしょう?使い魔を信頼しきっていて、 少しも嫉妬深くなんかないルイズのことだもの、きっと気にもかけないわよね」 この言葉はあからさまな皮肉だ。 実際にルイズが、君とタバサがふたりきりで話し込んでいたことを知ればどうなるか、想像もしたくない! タバサとの約束を破ることになるのは心苦しいが、急を要することでもなさそうなので、彼女の家族を診てやるのは次の機会に延期してもよいだろう。 そう考えた君は、モンモランシーとギーシュの遠乗りに同行することを渋々と認める。 そのかわり、自分を利用するのはこれが最初で最後だと誓ってくれと言う――タバサとの件でそう何度も脅迫されては、たまったものではない! モンモランシーはおごそかな表情でうなずき、 「ええ、始祖ブリミルに誓うわ。わたしだって誇り高きモンモランシ家の人間よ、本当はこんなゆすり屋みたいなことはしたくなかったんだから。 明日、きちんと務めを果たしてくれれば、わたしもすべてを忘れてあげる」と言う。 ほどなくして朝食の時間は終わり、君はいくらか気落ちした表情でルイズが戻ってくるのを待つ。一七七へ。 一七七 その日の放課後、寄宿舎の部屋に戻った君はルイズに頭を下げて頼み込む。 明日まる一日、≪使い魔≫としての義務から解放してはくれぬかと。 それを聞いたルイズは怪訝そうな表情を浮かべて、≪始祖の祈祷書≫から顔を上げ、 「それはまあ、明日は≪虚無の曜日≫でとくに予定はないから構わないけど……どこかへ出かけるの? わたしに見られるとまずいことでも、するつもり?」と尋ねる。 君は、明日はギーシュと『北の山』へ向かうと約束したのだと言う――モンモランシーの存在を伏せているが、少なくとも嘘はついていない! 「あんたたち、いつのまにそんなに仲良くなったの? アルビオンではそこまで親しげには見えなかったけど。それにしても、あのギーシュが休日を男同士で過ごそうとするなんて意外ね。 モンモランシーと別れたのなら、さっそく他の子を誘いそうなもんだけど。……あ、わかった。ギーシュの奴、あんたに修行をつけてくれって頼んだんでしょ? 休憩時間に『祖国のため、麗しの姫殿下のため、軍に志願しよう!』とか言ってたわよね、そういえば。戦に備えて、闘いに慣れてるあんたに鍛えてもらおうって魂胆かしら」 君の返事を待たず一方的に納得したルイズは、そう言ったのち溜息をつく。 「志願が認められたところで、どうせ後方勤務なんでしょうけど……それでも偶然の流れ弾で死んじゃうかもしれないのに。どうしてこう、男ってみんな戦好きの馬鹿ばっかりなのかしら」 数日前にその眼で見たアルビオンの惨状を思い出したのか、ルイズは沈痛な表情を浮かべる。 迷惑のかけついでに君は、もしも明日タバサが戻ってきて自分のことを尋ねたときは、次の機会には必ず約束を果たすので許してくれ、と伝えてくれるようルイズに頼む。 「あんた、タバサともなにか約束してたの? 戻ってきたと思ったらすぐまた出ていったって、キュルケが心配してたけど」 立て続けに明らかになる君の意外な交友関係に、ルイズは驚きを隠せない。 タバサに病気の家族が居るということは、あまり軽々しく口にすべきではないだろうと考えた君は、彼女に故郷の伝説や歴史を語ってやると興味深そうにしていたので、 ≪虚無の曜日≫にふたたび話を聞かせるつもりだったのだ、と言ってごまかす。 「ああ、あの子っていつも本を読んでいるもんね。聞いたこともないような遠くの国の物語でも、夢中になっちゃうんでしょうね……」 そこでルイズは言葉をとぎらせ、君を見る。 あいかわらずなんの文字も現れぬという≪始祖の祈祷書≫を閉じると、 「ねえ、わたしにも聞かせて。あんたの国のお話……いや、それよりも、あんたが今までどんな冒険をしてきたかを」と言う。 君は驚く。 召喚されてから一月近くが経ったが、ルイズが君に話をせがむなど初めてのことだ。 「わたし、あんたのことをなにも知らないんだもん。しゅ、主人としては、使い魔がどこでなにをしてきたのか知る必要があるでしょ?」 ルイズの頼みを聞き入れ、君は国境の門をくぐり≪諸王の冠≫の奪還を目的とした旅を始めたところから、話すことにする。 厄介者の豆人との出会い、凶暴なマンティコアとの対決、魔の罠の都カレーへの潜入、カレーの北門を開くための四行の呪文。 これらの話を熱心に聞き入っていたルイズだが、バドゥ・バク平原の隠者シャドラクとの遭遇のくだりのあたりで眠気に耐え切れず、机に突っ伏してしまう。 そっとルイズを抱きかかえ寝台に運びながら君は首を傾げる――どうしたわけか、自分でも意外なほど話の細部を忘れてしまっている、と。八八へ。 八八 翌朝、充分に睡眠をとった(体力点三を加えよ)君は早起きし、ルイズを起こさぬよう静かに荷物をまとめデルフリンガーをつかむと、寄宿舎を出る。 厨房に頼んで昼食のためのワインやパンを用意してもらい、採取した秘薬の材料を入れる合財袋やガラス瓶を準備し、厩舎にも行かねばならない。 今日一日、君はモンモランシーとギーシュの従者なのだ。 厩舎から三頭の馬を借り受けて待っていた君を見て、ギーシュは眼を丸くする。 「モンモランシーから聞いてはいたが、まさか本当に来てくれるとは。きみの友情と奉仕の精神に感謝するよ。しかし、よくルイズが許してくれたね」 そう言って、君から手綱を預かる。 モンモランシーは勝ち誇った表情で君を見ると、 「よろしく、お優しい使い魔さん」とわざとらしく微笑み、 手馴れた動きで馬に跨る。 君は彼らに聞こえぬ小さな声でやれやれとつぶやくと馬の背によじ登り、『北の山』へと向かう。九三へ。 九三 『北の山』は、魔法学院から三時間ほど馬を駆った場所にある岩だらけの高地だ。 ギーシュが得意げに語ったところによると、まばらな草地からは薬効をもつ珍しい植物が、ぎざぎざの岩肌からは貴重な鉱石が見つかるため、学院創立以来、 幾多の若き魔法使いたちがここを訪れ、秘薬の原料を採取してきたのだという。 道は、山裾を登っていくにつれ、次第に険しくなる。 荒涼とした岩地に棲む存在は少ないらしく、生き物といえば空に鷹や鴉を何羽か見かけるだけだ。 君は途中で何度か馬から降り、ギーシュとモンモランシーの指示に従って薬草を引き抜き、奇妙な色に輝く岩を削り取る。 君が小さな鶴嘴(つるはし)や鋏を振るうのをよそに、ギーシュとモンモランシーは親しげに言葉を交わしている。 正確には、そっぽを向くモンモランシーを相手に、ギーシュが彼女を褒め称える美辞麗句を並べ立てているのだが。 さすがのギーシュも、見慣れた学院とはまったく異なった光景が周囲に拡がるこの地に居ては、王女のことを考えて惚けたりはできず、目の前の金髪の少女だけに集中している。 一方のモンモランシーは数々の褒め言葉を前にしても物憂げな態度を崩さぬが、よくよく見ればまんざらでもなさそうな様子だ。 ≪竜硫黄≫、≪氷水晶≫、≪呻き草≫などと呼ばれる、魔法使いである君でさえ見たこともないような奇妙なものを合財袋に詰めていくが、早くも昼前には袋がいっぱいになる。 小さな鞍袋に収まりきる量ではない――モンモランシーが君を連れて行くことにこだわったわけだ! 正午を過ぎたころ、モンモランシーは昼食にしようと言う。 君は素早く馬から降りると、手近の潅木に手綱をつなぐ。 パンやワインを鞍袋から取り出し、折りたたみ式の椅子と小さな卓(こんな物まで馬に載せていたのだ)を準備するのも君の仕事だ。 君が食事の用意を終えるのを待つギーシュは、なにげなく足元の握り拳大の石を蹴飛ばし、坂から転げ落とす。 石は途中まで落ちたところで唐突に止まり、驚いたことに逆走しだす! あっけにとられて見ていたギーシュのところにまで戻ってきて、勢いよく足首にぶつかる。 「痛っ!? な、なんだこれは……」 苦痛の声を漏らしたギーシュは足首をさすろうと身をかがめ、モンモランシーは気遣わしげな表情をし、 「どうしたの?」と言って彼に近づくが、 次の瞬間、ふたりそろって言葉を失う。 凄まじい地鳴りがして大地が揺れ、君たち三人をよろめかせたからだ。 つながれた三頭の馬が狂ったようにいななき、自由になろうと激しくもがく。 さらに、君たちから二十ヤードほど離れた岩山の頂が吹き飛び、そこらじゅうに岩をばらまく! 「な、なに? なんなのよ!?」 「逃げろ、モンモランシー!」 ふたりが悲鳴を上げるなか、君はかつて、これによく似た事態に出くわしたことを思い出す。 君は降りそそぐ岩を避けて逃げるか(一二四へ)、この奇怪な現象の原因を探すか(二〇三へ)、それとも術を使うか(三一へ)? 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/sinoalice_kousatu/pages/56.html
ウェポンストーリー 実装時期 none/ none/ none/ none/ none/ none/ none/ none/ none/羊飼いの書 探究の機装 none/金運の希少本 特化43 none/人魚の歌劇書 SS1点確定PickUpガチャ none/狡猾なる友の書 純真ノ花束 none/水底の封書 特化42 none/戦争の歴史書 金蛇と紫蠍 none/深林の地図書 束縛の発光 none/蠱惑の魔導書 特化41 none/憧憬の青 紅葉ノ寫宴 羽根車の魔導書 怠惰な薔熊 none/溶解図鑑 強欲ナ護鴉 none/忠霊の無念 夢幻の響剣 追想のアクアリウム(百錬) 百錬ノ果テ none/赤慰めの魔導書 覇者ノ頂キ2 none/氷の魔女の魔導書 特化40 none/処刑記録書 淘汰ノ深潭2 none/森の噴怒号の書 特化39 none/恋物語の魔導書 リサイクルガチャ9 none/哀樹の願書 淘汰ノ深潭 none/伯爵の残心 特化38 none/沈没の魔導書 特化37 none/仄暗い殺意 SS1点確定+SS出現率6%ガチャ~陰・陽属性武器PickUp~ none/真なる森の王 星海への旅 none/神罰の書 聖ノ祝祭14 none/夜風羽根の魔導書 特化36 none/幽霊船の伝説 魔晶石購入 none/妖精の扉 傲慢ノ獣戒 none/兄鹿の憤怒の書 世界ノ軌跡2 none/炎猫の飼育方法 特化35 none/風穴の魔書 卑劣の舞台 none/白雪兎の魔導書 リサイクルガチャ8 none/絡繰り文書 淘汰ノ深潭 none/天命のホロスコープ 死禍祭特化 none/ありふれた物語 4周年記念武器配布 none/蝙蝠伯爵の呪いの書 4th ANNIVERSARY SELECTION none/大空の記録 砂漠の悠奏 none/海底幽閉の書 冥宮ノ邁進2 none/真理の究明 冥宮ノ邁進2 none/王家の秘術 禍・凶禍・惨禍特化(復刻) none/獄熱鍛錬書 冥宮ノ邁進 none/朝露の書 冥宮ノ邁進 none/怨嗟詩集 強欲ナ疾鴉 none/旅人の画帳 淫蕩ナ亢蠍 none/珈琲の芳香 純潔の械好 none/海神の教典 特化34 none/邪霊の憤怒 リサイクルガチャ7 none/毒花の図鑑 特化33 none/魔媒の図鑑 淘汰ノ果テ6 none/薬屋の医書 特化32 none/自動図書 精霊奉葬水属性SS1点確定ガチャ 貴婦人の日記 初心者ナビリニューアル配布 氷雪の童話 初心者ナビリニューアル配布 none/扉の書 クリスマス記念武器配布 none/炎陽の魔書 特化31 none/叡智の水鏡 虚妄の撒き餌 none/北風の書 特化30 none/雨雫の書 リサイクルガチャ6 none/幸福の予兆 純光の踊り子 none/牢獄の書 特化29 悲囚の聖女 淘汰ノ果テ none/古代の碑文 清火の泡影 none/見棄てられた脚本 特化28 none/蒼涙の書 憤怒の破狼 none/晴れない街の日記 強欲ナ拘鴉 none/道化師の嘲書 特化27 自愛の虚像 リサイクルガチャ3 秘教の祈祷書 特化26 墓守の日誌 リサイクルガチャ5 お菓子な本 惨禍祭特化 爆風の誘い 精霊奉葬風属性SS1点確定ガチャ 決闘の記録 特化25 巣窟の掟 特化21 炎の遺書 子豚、三匹の願いイベント報酬 二人の出会い 3周年武器記念配布 堅物白書 3rd ANNIVERSARY SELECTION 月夜の魔書 精霊奉葬「淫蠍」報酬 封印扉の書 童歌ノ聖域イベント報酬 永久の叫声 悲哀の足枷 愛の指南書 防粉者達ノ宴(桜花ノ歌宴イベ) 行死の境界 嫉妬の鎖蛇 溢れる真智 特化23 灼熱の情念 憤怒の狼遊 寂滅の書 特化22 異端のゆりかご 新生 密猟者達ノ宴 囚われの物語 リサイクルガチャ4 秘密の航海日誌 傲慢の獣獄 エンジェル・ハート 憤怒ノ狼牙 女神の悪戯 嫉妬の紅蛇 呪封じの書 暴力の玩具箱 禁忌の魔書 夢想の歌弓 血乙女の書 嫉妬の刻蛇 王者の夢 依存の矯正 草原の記録 傲慢の獣騎 魔氷の封印書 聖夜の葬宴イベント報酬 あの日の憧憬 年末年始JD祭記念武器配布 枯れ木の書 強欲な黒鴉 秘伝のレシピ 特化20 灼眼の魔書 強欲ノ鴉爪 魔呪の教本 特化19 死の宣告書 従者と饗宴 悪ノ誘ゐノ書 怠惰な緋熊 冒涜の書 特化18 天幻の書(錬) リサイクルガチャ錬 天文の書 特化 朽ちた大樹の書 悲哀ノ魔術師 学徒の軌跡 純潔の小鳥 不可思議生物図鑑 2nd ANNIVERSARY SELECTION 滝壺の歌声 2周年記念武器配布 愚者火の煉獄 怠惰な魁熊 魔海の魔導書 嫉妬の舞蛇 祝裏の書 淫蕩ナ祈蠍 獅子王の心炎 特化17 血蜘蛛の禁書 淫蕩ナ輪蠍 氷樹の封印 嫉妬の狩蛇 先見の知将 特化16 神門の書 憤怒ノ狼紺 羽音の書 特化15 魔眠の厭柩 淫蕩ナ妖蠍 時限翼の書 怠惰の熊囃 鋼鉄の魔書 傲慢の獣震 古の風書 特化14 水鳥の魔書 強欲ノ鎧鴉 王妃の日記 ルペルカリアの祈り 勾魂の書 残響ノ唱名 全知の書 リリース記念ガチャ 波紋の呪書 終焉ノ声 死霊の聖典 特化12 時を司る者 虚ノ鼓動 風巡りの書 必勝の一振り 天鼠の書 嫉妬の毒蛇 風琴の書 CONCERT SELECTION 標本図鑑 籠ノ灯リ 乙女の日記 怠惰な小熊 悲恋の記録 特化13 蜂窩の書 強欲の鴉羽 炉心の本 傲慢の走獣 神木の巻物 特化11 海馬の書 特化10 夜の書 特化9 時空の哲学書 特化8 錠前師の独白 祈リノ学徒 氷国の軍記 氷国の軍記 異界式標識 三匹ノ晩餐 忘れじの教え 特化7 観測の書 密猟者達ノ宴 王の戒律 特化5 氷縛の魔書 特化4 古代遺跡の書 特化2 暗殺草稿 二人の淑女 天趣の聖典 リサイクルガチャ2 歌炎の調べ 紋日の銀煙管 刻の警告 リサイクルガチャ 獣魔条文 演者達ノ宴 兇賊の書 虚無ノ送火 熱鋼の禁書 Library Summer Collection 秘密ノ地図 黒の禁書 裁きの書 リリース記念ガチャ 雪下の骸 虚ノ鳥籠 騎士の日記 リリース記念ガチャ 異界街灯の書 妖艶ノ蠍 教訓の書 錬鉄ノ矢雨 人間の観察記録 リリース記念ガチャ 罪人の写本 賤劣ノ銃槍 闇ノ医学書 匣中ノ熱帯魚 終劇の預言書 特化3 電圧の辞書 紫煙の道化師 月影の経本 遠逝ノ旋律 炎魂の書 特化6 賢老の手記 リリース記念ガチャ 後悔の書 リリース記念ガチャ 命乞イノ極意 運命紡ぐ糸車 魔族の腕 リリース記念ガチャ 万戒の魔書 リリース記念ガチャ 黒竜ノ巻物 暗室ノ研究者 死者教典 蜜月ノ夢 城門の書 欠月の泪 黒ノ祭祀書 不思議の国の小夜曲 蘇生の禁書 ブリキの宝箱 無の教え 悲哀ノ雫 逆刻の呪術書 正義の鉄槌 近代宮殿記録 フレンドメダル 書架の巻物 茨ノ騎士 大洪水の記録 リリース記念ガチャ 拷問書誌 リリース記念ガチャ 異国の書 リリース記念ガチャ 夢幻の魔書 リリース記念ガチャ 混沌たる欲望 リリース記念ガチャ 白紙の魔書 リリース記念ガチャ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5668.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 朽ち果てた廃墟に作られた鉄扉がきぃきぃと軋みを上げて揺れていた。 そこは新しい集落を作ろうとした開拓村だった。田畑のない農民、一攫千金を夢見る若者が鋤鍬に大工道具を持って、時の領主の政策に応じてはじめた小さな計画だった。 しかし、その場所はハルケギニアの深い森に生息するデミヒューマン『オーク鬼』のテリトリーに隣接していた。開拓村の人々は出来上がり始めたばかりの自分達の居場所を守る為に武器を取った。また、領主も何度か討伐の手勢を派遣することもあった。 しかし森に潜むオークの数は多く、長引く討伐の中で領主もその地方への関心を無くすと、開拓民の願いも虚しく、村はオーク鬼によって蹂躙された。 そんな話も今は昔。既に開拓村だった場所は小さな寺院を中心にあばら家が点在する廃村となっている。 あばら家の一つからのっそりと大きな影が這い出てきた。不愉快を誘う体色の肌が皮下の厚い脂肪と筋肉で揺れ、その上を粗末なボロ布を巻きつけたオーク鬼が数匹…。 彼らは――オーク鬼の生態は不明である。一説には、彼らは雄しかいないのだという…――ただ無闇に外へ出てきたわけではない。豚によく似た鼻先は、先ほどからニンゲンの匂いをかぎつけていた。 フゴフゴと耳障りな音を立ててオーク鬼数匹が周囲を探索していると、ヒュン、と風を切った小石が鋭く飛んで、うち一匹のオーク鬼の頬に当たった。 「ぷごっ?!」 強かに小石があたり、オーク鬼は石の飛んできた方向を見た。そこには小さなニンゲンがなにやら紐のようなものを振り回している。 ニンゲンは振り回している紐をこちらに向けて振り下ろす。すると再び、鋭く飛んだ小石が顔に当たる。 「ぷごっ!ぴぎぃ!ぴぐぉぉぉぉ!」 単脳なオーク鬼は興奮して小さなニンゲンに向かって走り出した。周りの仲間もそれを見て一緒に走り出し、小さなニンゲンを追いかける。 追われる立場になった小さなニンゲンは、軽やかに走り始め、徐々に木々に囲まれた林へ逃げていく。 オーク鬼達は片手に巨大な棒を振り回し、聞くにおぞましい鳴き声を上げている。 追われる者は軽業師もかくやという身のこなしで木々をすり抜け、時折足を止めては先ほどのように紐を使って石を投げる。 それがオーク鬼達の興奮をさらに高め、オーク鬼達はニンゲンに連れられるままに林の奥へ入っていく。 数度目に立ち止まるニンゲン。その場所は周囲を木々に囲まれた林の中でも開けた場所だった。 興奮の頂点にあったオーク鬼達は、どすどすと足音を鳴らしてニンゲンに向かっていく。 しかし、後一歩でその棍棒がニンゲンに届くだろうという距離に踏み込んだ瞬間、彼らの視界からニンゲンが、消えた。 周囲が土壁に覆われ、さらに身体に痛みを感じる。 興奮のままに暴れるオーク鬼達は、上から降ってきた物に気付きもしない。 数拍の後、オーク鬼達は爆音と共に命を落とした……。 落とし穴を見下ろすギュスターヴの脇で、ギーシュの使い魔のジャイアントモール『ヴェルダンテ』がせっせと穴に土をかけている。 何とはなしにギュスターヴは、この巨大なモグラを撫でてみた。モグラらしい、硬い毛だ。 撫でられたヴェルダンテはモグモグと嬉しそうである。 そう、全ては廃墟に巣食うオーク鬼を退治するための罠である。 手順はこう。まず、人が隠れられるだけの茂みのある開けた場所に落とし穴を掘る。掘った穴のそこには先を斜めに切った棒を何本も立て、 上はそうと見られないように隠す。 後は、頭の悪いオーク鬼達をおびき寄せて穴に落す。最後に投げ込まれたのは、シエスタ特製の手投げ爆弾である。 爆発時の爆風と熱でオーク鬼に止めを刺したのである。 「それにしても、こんな簡単にオーク鬼を退治できるなんて…」 つぶやくギーシュはギュスターヴと同じく落とし穴を覗いていると、脇をキュルケに小突かれる。 「あてっ」 「何他人事のように言ってるのよ。林に潜んで落とし穴に掛かる直前のオークを見て勇んで突撃しようとしたくせに。 ギュスが止めなきゃせっかくの罠が台無しになるところだったじゃない」 「だ、だって戦いは先手必勝というじゃないか」 言い訳がましいギーシュにギュスターヴはちっちっ、と指を振る。 「それは違うぞギーシュ」 「何がだね」 「『先手必勝』というのは先手を取れれば必ず勝てる、という状況のことを言うんだ。先手が取れれば絶対に勝てる、という事じゃない」 「う…」 「まったく、トリステインの貴族はこれだから…」 そうしゃべっている内にヴェルダンテは掘られた穴に土をかけ終わり、もとの開けた空き地に戻った。 「ありがとうヴェルダンテ。戻っていいよ」 主人の声に満足したモグラはずももと地面に帰っていく。 「さて、シエスタ……シエスタ?」 キュルケが声をかけようとしたシエスタは――格好は例の、ディガースタイルである――、錘のついた紐をひゅんひゅんと回して、木の枝に止まっている鳥を見ている。 次の瞬間、シエスタはばっ、と紐を投げる。錘のついた紐は広がって飛び、鳥の身体に絡みつく。もがく鳥は羽ばたこうとするが叶わず地面に落ちた。 「これでお昼ご飯にできますね」 「すごいのね貴女。…正直こんなに役に立ってくれると思わなかったわ」 感心するキュルケにシエスタが手を振る。 「いえいえ、こんな事でよければお役立ててよかったです」 『来る僅かな手懸り』 数日前にキュルケが手に入れた宝の地図。その真贋を確かめようとキュルケはギーシュとタバサ、そしてギュスターヴを誘って探検に出かけたのだ。 本当はルイズも誘うつもりだったのだが、「私は今忙しいのよ!」と言われてやむなく断念した。 ギュスターヴの脳裏に付いていくと言った時のルイズの表情が離れない。 (ちゃんとお土産もって帰らないとな) そしていざ出発、という段になってギュスターヴはある提案を一同にした 「どうせならシエスタも連れて行こう」 「シエスタってあのメイドでしょう?足手まといよ」 キュルケの言葉にタバサとギーシュを頷いた 「そうとは限らないさ」 「そうかしら?」 そういうわけで四人が使用人の寮を尋ねようとしたところ、シエスタはちょうど寮の出入り口から姿を現した。その格好は皮のグローブやブーツに、ソフトレザーの重ねられたジャケット、そして大きな背嚢を背負ったディガーのようなあの格好だった。 「あ、ギュスターヴさん。それに皆様。どうかしましたか?」 「今から外出か?」 「お姫様の結婚式に合わせて使用人にも暇を出してもらってるんです。お土産を取りに行きながら故郷に帰ろうと思いまして」 「故郷ってどこ?」 「タルブですよ」 けろりと言うシエスタに、ギーシュは驚いた。 「馬でも丸2日以上掛かるじゃないか。そこを歩いて帰るって言うのかい」 「だって、駅馬車はお金が掛かりますし、歩いていけばお金も掛かりません。それに野宿もできれば宿代もいらないんですよ」 再びけろりと答えるシエスタ。なんと野宿前提での帰省のようであった。 「ところでシエスタ。ちょっとお願いがあるんだが…」 「はい?」 ギュスターヴが宝探しに出るので一緒に行かないかと言うと、シエスタは首を縦に振ってくれた。 「はい!是非同行させてください。こう見えて私は…」 「私は?」 「いろいろ出来ます!」 ずり、とギーシュがこける。 「い、色々って…」 「でも、料理とかも出来ますから、きっとお役に立って見せますよ。…その代わり、タルブに寄っていただけると嬉しいんですけど…」 「それくらいは大丈夫よね。ね、タバサ?」 これにはタバサも頷いた。多少、荷物があるかもしれないが、長い距離と飛ぶわけではないのだから。 こうしてギュスターヴの提案によって一行に加えられたシエスタは、果たしてキュルケやギーシュの想像以上の働きをしてくれた。 森の中を歩けばあっという間に獣道を見つけ、誰よりもやってくるモンスターや獣の気配に素早く反応する。 遺跡や廃墟に残されたトラップも解除して見せ、逆に何もないところにトラップをしかけ、モンスターを退治して見せる。 結果、当初の予定をはるかに上回る速さで宝の地図の場所を回る事ができた。先ほどの捨てられた寺院で、都合7件目の探索であった。 「…で、結局見つかったのはこれだけか」 焚き火を囲む一同の中でギュスターヴの嘆息が漏れる。七枚の地図が示す先を探索して手に入ったものは、古い銅貨が数枚、さび付いた聖具が数点、そしてラベルが腐食して読めない謎の液体の入ったボトルが数本である。 「モンスターに追いかけられて、トラップに死に掛けて収穫がこれじゃ割に合わない事極まりない」 糾弾されているキュルケは何処吹く風と爪を磨いている。 「まぁ、もともとタダでもらったものだしね。収穫があっただけ良かったかもよ」 「かも知れないがねー…」 火にかけられている鍋からシエスタが腕に汁を注いでタバサに渡す 「出来ましたよ、ミス・タバサ。粗野な料理でお口にあうか判りませんけど…」 腕の汁を食べるタバサ。 鍋に掛けられているのは周囲で取れた野兎の肉だった。そこに食べられる野草とシエスタが持ち歩いている香辛料を使った簡単なもの。 尚、他にも野鳥の肉がが丁寧に捌かれた上で串刺しにされ焚き火に炙られている。 「おいしい」 「そうですか!ありがとうございます」 「それにしてもシエスタ。貴女って本当に何でもできるのね」 「そ、そんな!たまたまこういうのが趣味みたいなものでして…」 「ギュスターヴ、君が同行してもらうと言った時はどうしたものかと思ったけどね」 いい具合に焼けている串肉を齧りながらギーシュが言った。 「前にこの格好で出歩いていたのを知ってたからな」 「でもシエスタ。君のその背負ってる背嚢には一体何が入ってるんだい?」 体健やかな村娘の荷物とはいえ、シエスタの背嚢はかなり大きい。 請われたシエスタは背嚢を一行の前で拡げて見せた。 「えっと…まず、飲み水を入れた皮袋、雨粒を凌ぐ為のポンチョ、炊き付け用の練り炭、ロープ5メイル、ワイヤー15メイル、火口箱、油瓶、香辛料、ナイフ、山刀、保存食料…」 「この箱はなんだい?」 傍に置かれた金属の箱を手に取るギーシュ。 「あっ!それは火薬が入ってるので注意してください」 「火薬?!」 びっくりしたギーシュは箱を落しかけるが、何とか両手に納めなおす。 「鉛の箱に火薬を突き固めて、上から薄い木の板に金属の珠をつめてあるんです。さっきみたいにオーク鬼とかが居そうな森で夜を過さなきゃいけない時は、自分の周りに仕掛けてから寝るんです」 「け、結構物騒なものを持ち歩いてるんだね…」 「他にもありますよ。ええっと…こっちの、紙で包んだ棒状の火薬は先の紐に火をつけて使います。さっきの箱は出っ張りを引っ張ると中の火打石が擦れて着火するようになってます。あと、鈴」 「鈴なんてどうやって使うの?」 「ワイヤーに結って眠る時に周りに張っておくんです。ワイヤーに何かが触れると音がしますからすぐに気付けるんですよ」 はぁ、と感心するキュルケ。つ、とシエスタの視界に空の腕が出される 「おかわり」 「あ、はい!ちょっと待ってください」 周りをささっと片付けてすぐさま取り掛かる辺りがメイドらしい。 「ともかく。結局のところ我々はこの古い地図に踊らされていたということさ」 はぁ、とキュルケとギーシュのため息が漏れる。 ギュスターヴとタバサは黙々として、タバサは腕をギュスターヴを串肉を食べていた。 火の始末をして荷物を片付けるシエスタを見る。 「…それじゃ約束どおり、彼女を送ってあげようじゃないか」 「そうね。結構手伝ってもらったし」 シルフィードが食事の余りに食いついているのをタバサが撫でている。 「早く食べて」 きゅいー、と鳴くシルフィード。 空になった鍋をシエスタが抱え、一同はシルフィードに乗って空に飛び上がった。 一人、徐々に翳っていく陽の入る部屋でルイズがベッドに寝そべり、白紙の祈祷書を広げている。 (……帰ってこなかったな。ギュスターヴ。……まったく、人の使い魔を連れ回すなんてどういうつもりなのかしら。そ、そりゃ、許可は出したわよ。出したけどそこは遠慮とかそういうものが必要でしょ!これだからツェルプストーは…) 目は白紙の祈祷書を追っているが、心が別を向いていた。 ふと視界をずらす。机の上に置かれた『水のルビー』が目に入る。 (……姫殿下。やっぱり嫌なんだろうな。…でも、トリステインだけじゃアルビオンの貴族派に勝てないのよね。……人の上に立つ者には責任があるって、前にギュスターヴが言ってたわ……) 以前なら深い同情だけで見ていたアンリエッタが、今は少し別の角度から見ることが出来そうな気がした。 (…私も責任を果たすわ。メイジとして、貴族として。……ひとまずは、任された巫女として仕事が出来るといいんだけど…) 再び白紙の祈祷書へ向く。 「…はぁ~」 (さっぱり浮かばないわね…) えいっ、とルイズは起き上がって机に置いてある過去の祝詞を集めた冊子を広げてみる。 「えーっと……『水は流れる刻、火が邪を払い、土石の如く変わらぬ想いにて、木々が国へ広がりてこれを護るだろう。命湧き上がりて声になり、民と大地と空を清める歌とせよ』……変なの。どうして火の魔法が災いを払ってくれるのかしらね。…ふーん。この祝詞は2000年も前のものなのね……」 ルイズは冊子を繰り、古い順に祝詞を読んでいく。 「…こうやって、読んでいくと不思議ね。時代が進んでいくと祝詞が段々単純になっていくみたいな…『命に流れる静かなる清水や。大地を借りて民草を包む石くれや。食い広がりて抗うものを打ち倒す火炎や。普く有りて皆を護る旋風や。始祖より下りし四つの気を束ね、汝らはこれを抑え、国を治め行け』……へー、これがもう500年くらい前なんだぁ……」 そうやって耽溺している内に日がすっかり翳っている。 「……そろそろ夕食ね」 一人で部屋を空けるルイズは、静かに淋しいと思った。 (不思議…去年まで、いつも一人で行動してたのに) それがあの、闊達な使い魔が居ないせいだとよく分かっていた。 時間は少し戻り、漸う午後の3時頃。 シルフィードは巡航速度、毎時約80から100リーグで高度約2000メイルを飛んでいた。 鳥瞰できる地平の森が開け、段々と人の気配を見せるものになっていた。 「見えました。あれがタルブです」 初めて乗る竜の背中で、がっしとシルフィードの背びれを掴んでいるシエスタが言う。 トリステイン南西部にあるタルブの村は、温和な領主に見守られた集落だ。 なだらかな盆地を切り拓いて作られ、斜面に濃い緑の縞模様が上空で観察できる。 タルブの特産は主に二つ。一つは水はけの良い斜面で栽培された葡萄で作られるワイン。 タルブ産のワインは7割が平民向け、3割が高給取りの商人や職人そしてそれらを含めた貴族の需要を当て込んで生産されている。特に最上級のブランド『カナリアハート』は五代前の領主夫人が喉を病んだ時に献上され、後に麗らかな声を取り戻したという逸話によって時には遠くガリアからも買い付けがくる。 もう一つ、隠れた特産がある。タルブの外れにある山より切り出される良質の石材である。その肌理細やかな石質から『ユニコーンの皮革』と言われ、こちらもハルケギニアの寺院や宮殿などに供される。もっとも、こちらはワインほどの恩恵を村と領主に与えているわけではなかった。 村の中心から少し外れた場所にシエスタの生家はあった。キュルケやギーシュはてっきり、あの斜面に見えるような葡萄畑を持つ、比較的裕福な農家の娘だろうと思っていた。 しかしシエスタの生家は確かに、並の農家よりも一段半ほど格の上がる家だった。石と土で作った壁、紙と所々にガラスが使われた窓、屋根は腐食を防ぐ緋色の塗料に染められた板葺きだった。全体に横に広く、二階建てのように見えたが、出入り口の様子を見るに半地下状になっているらしく、見た目よりも中は広いのかもしれない。 「ただいまー」 ノックして家へ入るシエスタを先頭にぞろぞろとギュスターヴ達は続いた。 瞬間、ギュスターヴ達はむせた。室内はむん、と植物の青臭い匂いを始めとしたさまざまな臭気が混ざって立ち込めている。 「ん…おかえり。『シエスタ』」 シエスタに答えた男性は秤の置かれた机の上で書き物をしていたが、振り向いてそう応えた。壮年も過ぎ、顔の皺と白髪交じりの頭に柔和な笑顔を湛えている。 「そちらの方達は?」 「学院でお世話になっている貴族様たちと…お友達です」 ギュスターヴは頭を下げた。恐らく父親だろう、目の前の男性とそれほど年の違わぬ者を友達と言ってくれることが、なんともこそばゆい。 「これはこれは。貴族のお嬢様若様方。このような辺鄙な場所へはるばるお越しいただいて、言葉もありません」 物腰柔らかな男性は腰を折って礼をする。 「よろしくてよ。シエスタは学院のメイドだけど、私達には親しい友人ですわ。ね?」 ギーシュとタバサが頷く。 「我が家の娘をそのように言っていただき、勿体無くございます。…申し遅れました。シエスタの父、『エド』と申します。むさ苦しいところではございますが、どうかおくつろぎください」 聞くに、出入り口すぐの場所は父親の仕事場なのだそうだ。 「父は薬師なんです」 ほのかに甘い香りのする薬湯の入ったカップで顎を蒸しながらシエスタは答えた。 「彼はメイジではないのだろう?なんで薬なんか」 「薬と言っても、山野で取れる薬草とかを煎じて、体の悪い人に使うんです。魔法みたいに凄い事はできませんよ」 エド氏は手を振って答えた。 「例えばせき止めの飲み薬。眠れない時に心を落ち着けてくれるお香。農地を荒らす鼠を殺す為の殺鼠薬。それくらいしか出来ませんが、メイジの方々の薬は高くつきますし、村の皆さんには喜んでもらっています」 ギーシュは感心していたが、キュルケは平然としていた。平民の伸張激しいゲルマニアでは魔法の使わない処方薬も出回っているのだ。 「…ところで、親子二人にしては家がやけに広いと思うのだけど…ご家族は?」 「母と兄弟達が居ますよ。今は多分山に居るんだと思います」 「「「山?」」」 「『ユニコーンの皮革』って知りません?あれの取れる山はうちの一家が管理してるんですよ」 「えぇーっ?!」 ギーシュが声を上げる。 「煩いわね。訪問先で」 「だ、だって『ユニコーンの皮革』と言えばものすごい高価な石材じゃないか!」 土メイジのギーシュから見れば石材の管理をしているというのは尊敬に値するのである。 「高価といっても、山の経営と領主様への納税でそんなに利益が上がるわけじゃないんですよ。一家で細々と維持していくのがやっとな位でして」 エド氏は困ったような顔でギーシュの熱い目に答えた。 「高価なのは私達の一族だけで切り出しているからです。タルブの近くの山で良質の石材が取れることを発見したのは私の母でした。母は当時の領主様に掛け合って一定の納税を条件に石材の切り出しと山の管理を任されました。人を雇ってたくさん切り出さないのは、山の環境を変えてしまうからです。母はそれを強く諌めました。あとを継いだ私もそれに習っているのです」 ギーシュは席を立つと、身を正してエド氏に向き直す 「エド氏。僕は土のメイジとして、是非ともその石材の産出現場を見てみたいですどうか許していただけませんか」 「…それは……」 明らかにエド氏の顔に困惑が浮かんでいる。 「どうか、このとおり」 ギーシュはテーブルに手を着いて頭を上げる。額がテーブルに着きそうなほど低い。 「…ギーシュ様、でしたね。どうか頭を上げてください。貴族の若様にそのようにされると、我々はどうしていいかわからなくなります。…『シエスタ』」 「はい」 「彼らを山に案内して差し上げなさい」 「はいっ!皆さん、済みませんが支度をしてきますのでそこで待っていてください」 シエスタはタタタっとかけて階段を上がっていった。 「ありがとうございます。エド氏、いえ、エド殿」 「とんでもございません。娘を友人と言ってくださる方々なら見せてもいいだろうと思ったまでですから」 何処までもエド氏の表情は柔らかい 「…皆は先に学院に帰ってもいいよ」 「どうしてよ?」 「さっきも聞いただろう?石材の切り出し場は彼らの一族が管理しているんだ。そういうところに貴族がぞろぞろと行くものじゃ、ないと思う」 エド氏は首を振る 「いいえ。私は娘の友人に見せるのですよ。決してあなた方が貴族だからとか、そういうつもりはございません。お好きにどうぞ」 かくしてエド氏は朗らかに笑った。 シエスタが着替えて戻ってくると、一同は外に出た。ギュスターヴは少し残って、留守番のエド氏に声をかける。 「…お気遣い感謝します」 こういうのは大人の役割である。 「いえいえ。…貴方は貴族ではないですね」 「はい。…彼らの学友の、召使のようなものです」 流石に使い魔である、というのは少し憚られた。 「いえ、そういう意味ではなく」 「は?」 「なんといいますか…貴方にはこの世に普くあるものが欠けているように思えます」 ギュスターヴの表情が硬くなる。 「かといって、貴方は今目の前に居る。不思議ですな」 以前、デルフにも同じような事を言われたことがある。それは恐らく、自分のアニマを佩びない体質について言っているのだろう。 しかし学院のメイジ達にもそのようなことは言われなかった。手元のデルフ以外で、ハルケギニアに生まれ育ったモノ達は、ギュスターヴを何処にでも居る「ただの人間」としか思っていない。 今この目の前に居る人物を除いて。 「……私に欠けている、世に普くあるものとはなんですか」 無意識の内にギュスターヴの声が、少し硬いものを混じらせていた。 「…これは母が言っていたことでもありますが、世界には普く命の力が宿っています。例えそれが石であっても、火であっても。それが貴方にはない」 エド氏が語る母親の言葉、それはハルケギニアの精霊を指しているというより……サンダイルのアニマを指しているようだった。 「……貴方の母親とは、一体…」 「…私の母の墓も、山にあります。そこに書かれた物が、もし読めるのであればお話しましょう」 「ギュスターヴさーん、行かないんですかー?」 出入り口から聞こえるシエスタの元気な声が呼びかける。 振り返ってもう一度礼をして、ギュスターヴはその場を辞した。 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/kenkyotsukaima/pages/49.html
謙虚な使い魔~アンドバリの呪縛~ アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号の後甲板から、艦長のボーウッドは鋭い眼をもって、深夜の砂浜を見渡していた。 タルブ攻略が開始されて以来、ボーウッドは卑怯なだまし討ちであるこの作戦への批判も、人間らしい情も、政治的不満もすべて頭から吹っ飛び、ただ忠実なる軍人となっていた。 隣ではクロムウェルが満足気な表情を浮かべて、タルブの砂浜に展開するアルビオン軍の松明の灯りを眺める。 「どうだね、ミスタ・ボーウッド?降下隊は無事、傭兵隊と合流できたのかね?」 「はっ、閣下。先ほどの伝令によれば、砂浜に降り立った三千、それに集められし傭兵隊の一千、合わせての四千が陣を編成中との事です」 「うむ、予定通りだな。それに加え、『支援者』からの水陸両用艦の二隻も間もなく到着するだろう。余が聞いたところ、何でも有能なメイジ達を集めた部隊が乗っているそうだ。戦力として五百、いや……一千と見ていいだろう」 その時、伝書フクロウの伝令を携えた水兵が二人の前に駆け込んできた。 「偵察隊より伝令!申し上げます!ラ・ロシェール方面にトリステイン王国軍が部隊を展開。その数二千。敵隊の中にトリステイン王女アンリエッタの旗印を確認!また、王国軍は明朝の日の出とともにラ・ロシェールを出撃し、タルブにて我々を迎え撃つつもりである、との事です」 「無謀な、制空権を取られ、数でも劣るのに、敢えて野戦を望むとは」 ボーウッドは静かに呟いた。 「この『親善訪問』に、御多忙であろう王女殿下が直々に迎えに出てくれるのだ、実に光栄な事ではないか。ミスタ・ボーウッド、くれぐれも王女殿下に粗相があってはならない。この『レキシントン』号で持て成す準備をしたまえ。確か、王族には二十一発の『礼砲』が習わしだったな?」 クロムウェルはにやりと不敵な笑みを浮かべる。 言葉に含まれた皮肉の意図を理解したボーウッドは直ちに水兵達に命令を下す。 「左砲実弾装填!夜明けまで半舷交代で待機!」 「左砲実弾装填、アイ・サー!」 ボーウッドは地平線の彼方を見つめ呟く。 「あと数刻で夜明けだな……トリステインの王権もそれまでか……」 ルイズとブロントを乗せたシルフィードは、黒鷲の先導の下、タルブ寺院近くの林に降り立った。 「以前と違って、夜は不気味ね……」 砂浜に灯るアルビオン軍のかがり火が薄らと見える以外、五歩先も見えない暗さだった。 先を歩く黒鷲の姿は闇夜に紛れてその姿が全く見えなくなってしまったが、鳴き声でルイズ達を誘導しているようだった。 シルフィードはきゅい~となんとも弱弱しく鳴き声を漏らし、オドオドとしている。 「図体に似合わず、あんた意外と臆病な風竜なのね」 と言いつつ、ルイズもブロントの腕にしがみ付いている。 「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」 「バレる、ってこんな所までアルビオンも展開しているわけないじゃ……もがっ!」 ブロントが咄嗟にルイズの口を塞ぐ。 「もっふぉ、ふろんふぉ、ふぉにふぃふぃふの」 「バレて援軍とか呼ばれて一巻の終わり」 そう静かに囁いた後、ブロントは林の奥を指差す。 松明だろうか、六つ程明かりが揺ら揺らと林の向こうで踊っている。 ルイズは耳を澄ますと、男達の喧騒が聞こえてくる。 『おい、襲撃されているぞ!』 『明かりを消せ!』 『何が田舎の寺院はお宝が眠っている、だ!メイジがいるなんて聞いてないぞ!』 『ぬぐぁ!』 風に吹かれ、木々がガサガサと激しく揺れる。 枝が弾けるような音とともに、明かりが一つ一つ消えてゆく。 やがて、林の中の明かりが全て消え、風も止み、辺りは静寂を取り戻す。 ルイズはブロントに口を塞がれたまま、じっと息を殺した。 シルフィードも茂みの中に頭を隠してふるふると震えていた、もっともその首から下は丸見えだったが。 闇の向こうからルイズ達に歩み寄って来る一つの足音があった。 パキ…パキン…ペキ… 枝を踏み折る乾いた音が次第に大きくなる。 ルイズは杖を抜くと、音が鳴る方向へと向ける。 ブロントもその手を腰のデルフリンガーにあてる。 足音はぴたりと止まる。 代わりにそこから「クァッ」と黒鷲の鳴き声が聞こえ、ばさばさと翼がはためいた。 「敵じゃない、私だ」 闇の向こうから語りかけた者が<ライト>の魔法を唱え、その杖の先に光を灯す。 ウェントゥスだった。 彼が着ていたガンビスンが泥だらけになっていた。 所々、茶色かかった赤い染みが付いていた、血だろうか? 「ウェントゥス様!お怪我は!?」 ウェントゥスは首を振った。 「大丈夫、そんな無茶はしてないよ。私が倒れてしまってはタルブの皆を守る者がいなくなってしまうからね。この服に付いているのは、一儲けを試みて本隊から外れ、寺院を狙ったはぐれ傭兵達のものだ」 ウェントゥスは手にした杖を鞘に収めた。 「良く来てくれた、友よ。この通り、私一人では一度に数名の傭兵を相手するのがやっとでね。あまり派手にやって寺院の存在がアルビオン本隊に知られてはまずいので、我ながら姑息な手段だが、夜襲をかけていたところだ」 「見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない。他にはいにぃのか?」 「先程ので、寺院に興味を持った『信心深い』者たちは全て始末した筈。今確認して貰っている、鳥にしては夜目が利く方でね」 ウェントゥスが上を指差すと、上空から甲高い黒鷲の鳴き声が返ってきた。 「シエスタや、タルブ村の人達は無事なの?」 「ああ、みんな無事に寺院の中に避難している。流石ブロントの姉上が建てただけの事はあるな、並のメイジでは傷も付けられない程頑丈な寺院だよ」 イージス誇らしげな表情を作り、頷く。 「当然じゃの。セラーヌがこれを建てた際、護る事に置いて右に出る者のないこの神楯イージスがその設計に携わったのじゃ。祭礼の場としてより、むしろ砦と呼ぶに相応しいかものう」 デルフリンガーが鞘から少しだけ刃を覗かせる。 「おい、イージス。てめ、仮にもタルブの御神体様だろ。姉御の村が大変だって時に、てめえの自慢している場合か?」 イージスはしかめ面の様な表情を作る。 「わかっておる。まずは村を焼いて回った竜騎兵隊を何とかせねばならぬ。そやつら我が物顔で飛び回っておるうちは、王軍も手がだせぬわ」 ウェントゥスは頷く。 「あれは確かにやっかいだ。制空権を握られたままでは、地上の王軍は火竜のブレスの格好の餌食になるだろう。時折、王国も竜騎兵を送っているようだが、あの方法ではハルケギニア最強を誇るアルビオン竜騎兵隊を打ち破れるわけがない」 イージスはにやりとする。 「ほう、流石少数にて大軍を相手にしていた事がある者じゃのう。そう言うからには何か良い方法があるのじゃな?」 「……寡兵を以って大軍を制す、か。そうだな、こちらも風竜があれば手が無い事もないが……」 茂みに頭を隠して震えているシルフィードに一同の視線が集まる。 「きゅい!?」 じっと見つめられる熱い視線を感じたシルフィードが首をぶんぶんと横に振る。 イージスはワザとらしい程に悲しそうな表情を作る。 「乗り気ではないようじゃの。仕方ないのう、このままタルブの裏名物、『トゥーナのかぶと煮』が二度と食せぬ様になってしまうとは、至極残念じゃ」 シルフィードの目がキラリと光る。 「ピリリとジンジャーがきいた甘辛い秘伝のタレで、骨から肉が蕩け落ちる程までに煮込んだ丸ごとのトゥーナの頭。このレシピを守ろうと、我こそはと立ちあがる風竜はおらぬのか……私が口利きすれば村の者は喜んで作ってくれるだろうに」 「きゅい!きゅい!」 シルフィードは嬉々として自分の事を指差した。 「おお、勇気ある決断!そちの様に勇敢なる風竜が、名乗り上げた事に、私は感動を禁じえない!」 「きゅい!きゅい~!」 大げさに演技するイージスを見て、デルフリンガーがハバキを鳴らして笑う。 「へっ、イージス、口先で丸めこむなんてよ、前からてめのそういう狡賢い所が気に入らねえんだよ。大体よ武具なら……」 「デルフや、潮風に当たるとそちの輝く見事な刀身に良くないのう。しっかりと鞘に収まると良いぞ」 「お?そうか?そうだな、おい相棒、俺様をしっかりと鞘の中にしまってくれ、隙間から潮が入ってこねえようにがっちりとな!」 ブロントは言われたように、デルフリンガーを鞘にがっちり嵌め、更に留め金をしっかりと掛ける。 ウェントゥスが軽く笑う。 「ハハハ、さて。緊張がほぐれた所で、急ごうか。夜が逃げてしまう前に始めなくてはな。友よ、弓はどれ程扱える?」 ブロントは首を横に振りながらカバンから弓と矢筒を取り出す。 「俺は弓術はどちかというとまったく使えないのだが」 ブロントの背中に背負われたイージスが呟く。 「あまり謙遜するでない。その左手の紋様があれば、そちも一流の狩人以上に弓を使えるはずじゃ」 「それは頼もしいな。うむ、そうだな、これで行こう」 ウェントゥスは思いついた作戦の内容を皆に伝える。 ルイズが少し不満そうな顔をする。 「ウェントゥス様、それは、少し卑怯じゃないかしら?」 「さあな、私は貴族ではないからな。空賊流儀で言えば、不意打ちだまし討ちは基本でね」 ブロントは頷く。 「先に違法行為で仕掛けてきたのが奴等だろ。俺は今のところ我慢してるけどいつ怒るが爆発するかわからない」 「そ、それもそうね」 ルイズ達はシルフィードの背に跨る。 「よし、行くぞ。ええと、何といったかな……まあいい、飛び立て『イーグル』号よ!」 「きゅい!?きゅい!きゅい!」 『イーグル』号と呼ばれたシルフィードは何やら否定をするように両手をぶんぶんと振る。 「ハッハッハッ、気にいったか!よし、『イーグル』号、微速浮上」 「きゅい~……」 シルフィードは主人のタバサ以外に人語で語る事を固く禁じられており、名乗り上げ正す事もできなかったので『イーグル』号と呼ばれるのを受け入れるしかなかった。 後でたっぷりとツナの頭をお腹いっぱい食べさせて貰うんだから、と自分に言い聞かせてシルフィードは音を抑えてゆっくりと飛び立った。 タルブ上空。 ハルケギニア最強の竜騎兵隊と謳われるアルビオン竜騎兵は旗艦『レキシントン』号を中心として、タルブの上空を巡回していた。 その数およそ二十騎。 暗闇の空の中、竜騎兵隊は互いに<ライト>の魔法を用いて連絡を取り合っていた。 『日ノ出ト共ニ、トリステイン軍ハ総攻撃ヲ仕掛ケテクル。警戒ヲ怠ルナ』 杖の先の光りを点滅させる法則は軍によって違い、空の覇者たるアルビオン竜騎兵のそれは、他国軍に手の内を読まれぬ様にともっとも複雑を極めた暗号ですらあった。 南の空に、チカチカと光が瞬く。 『東ノ空ニ敵竜騎兵斥候ガ飛来。各騎散開シ、追跡セヨ』 『レキシントン』号の周りを旋回していた竜騎兵はその信号を次々と他の竜騎兵に伝え、『レキシントン号』を離れ散開する。 またチカチカと光が瞬く。 『敵艦隊ヲ上空ニ発見。上空カラノ奇襲ニ警戒セヨ』 一人の竜騎士が上空を見上げる、 (夜に乗じて艦隊を用いた奇襲?トリステインはまだ艦隊をもっていたのか?) 「クァッ」 鳥の鳴き声が耳の横を掠める。 その時、一陣の風が隊員の頬を撫で、鈍い振動がその竜騎士の体に伝わる。 (な、何だ?高度が落ちているぞ。どうした!?) 騎乗した火竜を見ると、その首は穴をあけて抉られており、矢が矢羽根まで深く刺さって絶命していた。 きりもみしながら騎士は火竜ごと、タルブより離れた東の草原に、静かに墜落していった。 ウェントゥスは<ライト>の魔法で、アルビオン竜騎兵の暗号を用いた嘘の信号を空に送る。 アルビオン空軍の暗号を熟知していたウェントゥスの偽の信号であるとも知らず、撹乱されたアルビオン竜騎兵は空を右往左往と飛び回り、ひたすら上空を警戒し、低空で羽音もたてずに滑空するシルフィードには気が付いていない。 「友よ、いい腕だ。『イーグル』号、旋回して先程と同じ針路を戻れ」 ウェントゥスに<サイレント>の魔法をかけられたシルフィ―ドは静かに距離を取り、旋回する。 「クァッ」 単独で飛行する竜騎兵を目標として捉えた黒鷲が合図の鳴き声を送る。 ウェントゥスはブロントの肩を叩く。 「上方四十度、左に二十五度。微調整は私の風でやる」 ブロントは頷き、左手にローゼンボーゲンを構える。 左手のルーンから、弓術に関する技術の全てがブロントの頭に流れ込む。 魔法すらも凌ぐ程の威力を秘めた狩人の技が、体中に刻みこまれる。 ブロントの目が鷹の様に細くなり、上空に浮かぶ火竜の影を狙う。 固く張られた弦に矢を掛け、引き絞る。 弓を握る手がバチバチと電流がほとばしる。 「ウィンデ!」 ウェントゥスが杖を振ると、火竜へと繋がる風の通り道を作る。 ブロントはその作られた風の道に矢を乗せて放ち、矢が火竜へと吸い込まれ、突き刺さる。 「次、上方三十二度。正面だ。ここからでは首が見えない、翼を狙えるか?」 「隠された力を発揮する披露宴となる」 ブロントは矢筒から四本の矢を右手の指それぞれに挟むと、それを纏めて同時に射掛け、矢の<乱れ撃ち>を放つ。 散弾の様に放たれた矢が、火竜の翼に穴をあけ、片翼を破かれた火竜はぐるぐる回転しながら地面へと落ちてゆく。 次々と落ちてゆく竜騎兵に、不振に思い始めた竜騎兵が信号を送る。 『敵襲ヲ受ケテイルノカ?正確ナ情報ヲ報告セヨ』 ウェントゥスが杖で光りを送る。 『コチラハ異常ナシ、北ノ空二不審ナ動キアリ』 闇の向こうから返答が返って来る。 『ソノ方ノ所属ト名前ヲ名乗レ』 『雷ヲ運ビシ風ノ<ウェントゥス>』 竜騎兵が次の行動へと移れる前に、ガクンと火竜が右に傾いた。 火竜の右翼が矢によって胴体に縫い付けられていたのだ。 「くそ、トリステインの空に一体何が潜んでいるというのだ!うぉおおおおお!」 騎士は雄たけび上げながら草原へと墜落していった。 タルブの遥か上空に浮かぶ『レキシントン』号。 クロムウェルは、艦に取り付けられた水時計を確認する。 「間もなく夜明けだな。ミスタ・ボーウッド。君は実に運が良い。二つもの王権が潰える所をその目で見る事をできるなど、そうそうない事だぞ」 ボーウッドは表情を一つ変えずに白む空を見つめていた。 彼は軍人として、何とも言えぬ違和感があった。 空がやけに静かだった。 艦の周りを巡回する火竜のきりきりと響く鳴き声が静まっている。 トリステイン軍の総攻撃に備え休憩を取っているのだろうか? いや、展開している竜騎兵に艦に帰還する命はまだ誰も出していないはず。 (竜騎兵隊はどうした?姿が見えないぞ) その時、伝令の水兵が飛び込んでくる。 「差出が『支援者』と書かれた閣下宛ての伝書です!」 クロムウェルはにこやかに笑顔になる。 「おお、遂に水陸両用艦隊が到着したのか?よい、読み上げたまえ」 「はっ!」 伝令は伝書を広げ、高らかに読み上げる。 『支援者ヨリ送ラレシ我ガ艦隊ハ、オルレアン上空ニテ、『ブラックコフィン』号名乗ル空賊ニ襲撃サレシ。拿捕ハ免レタガ、両艦共ニ小破。作戦続行不能トノ判断ニヨリ帰還ス。『親善訪問』作戦ノ成功ヲ祈ル』 「なんと、ここまで来て空賊とはついてないな。仕方あるまい、我々だけでも十分に戦力でトリステイン軍を上回っているのだ。予定には変更はないな、なあミスタ・ボーウッド?」 クロムウェルがそう問いかけていた時、ボーウッドは別の伝令が渡したであろう伝書を読んでいた。 「何かあったのかね?」 「どうやら、昨晩のうちに竜騎兵隊が夜襲にあったようです。展開していた二十騎がいつの間にか撃ち落とされた、と」 クロムウェルは驚愕する。 「誰にも気取られず、アルビオンが誇る竜騎兵隊を撃ち落とせる精鋭を、トリステインは持っていたとでもいうのか?」 「生存した者の証言によれば、『風の如く忍び、雷の如く穿つ』謎の魔物が空に潜む、とあります」 クロムウェルは両手を広げ、頭を振る。 「馬鹿な、魔物などいるものか」 「ええ、しかし空中戦を熟知した相当な手錬がいたのは確かでしょう」 「子爵はどうした、彼も落とされたのかね?」 「いえ、報告では子爵殿の風竜は被害に含まれておりません。しかし、艦内にも子爵とその風竜の姿は無いようです」 「ふむ……まさか子爵が?いや、それは無いか。あのワルド子爵であろうと、流石に竜騎兵二十騎を相手にする空の技量は持ち合わせていないはず。それに一度裏切った祖国にまた加担する意味が無い」 「閣下、竜騎兵隊は全滅しましたが、本艦『レキシントン』を筆頭に、艦隊は未だ無傷です。ワルド子爵も彼なりに何か策があるのだろう。作戦の続行に何も支障はありません」 「そうであったな、ミスタ・ボーウッド。大事の前の小事に気を取られてはいかぬな。例え竜騎兵を落とす魔物がいようと、この艦隊の艦砲射撃を止める術はないからな。おお、夜が明けるぞ」 地平線から太陽が覗かせ、明るむ大地と共に、陣を組むトリステイン軍の姿を露わにした。 ボーウッドは艦に命令を告げた。 「左砲艦砲射撃用意!寝ている者は全員叩き起こせ!」 タルブ上空。 「何とか夜明けまで竜騎兵を全て潰す事ができたみたいだな」 シルフィードに跨るウェントゥスが白む空を見て呟いた。 一番前に座っていたルイズは驚いた表情で、地に落ちた竜騎兵を見渡した。 「信じられないわ、竜騎兵隊をこんな方法をもってたった一騎で倒しちゃうなんて。空賊流と言うのも凄いのね」 ウェントゥスは笑う。 「ハハ、今回は良い条件がたまたま揃っていたからだよ。これほどの利がいつもこちらにあれば空賊稼業も楽なのだがね。それに大局を動かすほど事ではないさ。上空に浮かぶ艦隊がトリステインにとっては大きな脅威であるのは依然変わりない」 ブロントが黙って、煙を上げ、焼け落ちたタルブの漁村を眺めていた。 潮の香りが混じる家屋の焼けた臭い、立ち上る煙と揺らめく海がブロントの心を揺さぶる。 今にも血が逆流し、頭の先を突き抜けて行きそうな感覚であった。 「どうしたの?ブロント」 「なんでもにい」 ブロントの左手が激しく火花を散らしている。 辺りの偵察に飛ばした黒鷲の目を借りて、ウェントゥスは目を瞑っている。 「ようやくトリステイン側も到着したようだな……何故だ!?」 突然ウェントゥスは声を荒げる。 「何故先頭の旗印がユニコーンと水晶の杖なのだ!?」 「え……それってもしかして姫さまの……?」 「ゲルマニア軍の到着を待たずに、アン自らが軍の先頭に立ち、戦場に赴くとは……、察するにゲルマニアは援軍を出すのを渋ったのだろうな……」 ルイズは心配そうに尋ねる。 「勝ち目はあるの?」 「難しいな、アルビオンの半数程の王軍しか集められていない。何より上空のアルビオン艦隊がいては万に一つも可能性は無いだろう。せめて艦砲射撃を遅らせる手立ては……くそ、あれだけの艦隊を一度には無理だ!」 ブロントはウェントゥスに背中を向けたまま語りかける。 「おいィ?お前それで良いのか?」 「良くはない!アンリエッタを護るべきものがあそこにいないのだぞ?ゲルマニア軍も、王宮の国軍も!あのままでは、アンリエッタは……」 「最強の義務は最強のプレッシャーとなって襲いかかってくる。お前それで良いのか?」 「友よ……一体何を」 「お前はこんな所で俺に話したりする余裕があるのか?」 ウェントゥスははっとした顔になった。 ブロントの背中に背負われたイージスがウェントゥスに面と向かって語る。 「彼女を護るべき者なら、今ここにおるではないか」 「しかし、私がアンを……今更そのような身勝手は……」 「なんじゃ、不意打ちだまし討ちが得意な空賊流を見せた者が、今更その様な事気にしておるのか。空の無粋な者共が気になるのなら心配は無用じゃ。このタルブを護りし神楯イージスが言うのじゃ、任されよ」 ウェントゥスは強く唇を噛む。 「……いいのか、この私が、この手で……?」 「お前がいないアんリエッタに未来はにい」 ブロントはウェントゥスの襟を掴み、シルフィードから放り投げる。 「ちょ、ちょっとブロント!」 ルイズが慌てふためくが、ウェントゥスは動じず、落ちながら<フライ>の魔法を唱える。 ウェントゥスは晴れ晴れとした笑顔で、飛び去るシルフィードに向けて叫ぶ。 「友よ!また大きな借りができてしまったな!そちらは任せたぞ!」 黒鷲が勇ましく鳴き、ウェントゥスの高らかな笑い声が轟く。 「さあ、行くぞ!この恥知らずのウェントゥス、今参る!」 黒鷲は主人の手を引き、王軍の下へと羽ばたいていった。 「と言ったものの、イージス、本当に何とかできるの?あれ」 ルイズは空の艦隊を指差す。 「逆にそちを問おう。そちはその祈祷書を持ちながら、何をしておるのじゃ?」 「……悪かったわね、何もできない『ゼロ』で」 「では何故この戦場に来たのじゃ?何かを成し得たかったのではないのか?」 ルイズはうー、と唸る。 「わたしだって、何とか姫さまの力になりたいと思っているわよ。でもブロントみたいに戦える訳ではないし、ウェントゥス様みたいに知略があるわけでもないわ」 イージスが威厳を込めて笑う。 「ホッホッホッ、そちが如何なる能力を持っているか等些細な問題じゃ。肝心なのはそちが、相手をどう想ってやり遂げるかじゃ。それを踏まえて、今一度祈りでも捧げてみれば良かろう」 (姫さま……わたしは……) ルイズはふとポケットの中に入れたあったアンリエッタよる譲り受けた水のルビーをそっと指に嵌めた。 (わたしは、ただ祈る事しかできないの……?) ルイズが何気なく、始祖の祈祷書を開いた時、ルビーと祈祷書が光り輝きだした。 「な、何よこれ!?」 第23話 「いきなりトリステインの危機」 / 各話一覧 / 第24話[後編] 「追憶の風に抱かれて」
https://w.atwiki.jp/domiorigin/pages/36.html
祈祷師(4)アクション 次の効果からひとつ選んで実行する。 「+1VP、+2カードを引く」 「このカードを廃棄する。+2VP」
https://w.atwiki.jp/nisesima/pages/160.html
祈祷 癒しの力を高める技能です。 LVが高いほど技によるHP回復効果が強化されます。 (LV5-6% LV10-14% LV15-22% LV20-31% LV25-40%)(45回の仕様変更でLV^1.15%からLV^1.3%に) (LV5-8% LV10-20% LV15-34% LV20-49% LV25-66% LV30-83% LV35-101% LV40-121% ... LV60-205%) 必要技能魔術20+命術20 習得技 技番号 技名 習得条件 非接触 対象指定 必須装備 消費SP 命中率 効果 コメント 2581 サルベイション 5 遠 対 - 100 - 味単体 / HP回復(20%+100) + (猛毒+炎上+混乱)を(2)軽減 2582 ラブラトライト 10 遠 対 - 150 - 味単体 / HP回復(20%+100) + 活泉LV2を付加 + (凍結+衰弱+麻痺)を(2)軽減 ⇒ DF/MDFが増加 2583 セーフティゾーン 15 遠 - - 150 - 味全体 / 次に受ける物理&魔法攻撃のダメージを軽減 2584 プレイア 20 遠 - - 200 - 味全体 / MHP+HP上昇(15%+150) + MSP+SP上昇(15%+10) + 敵全体 / MHP+HP低下(10%+300) + MSP+SP低下(10%+30) 2585 ザナドゥ 25 - 対 - 200 - 敵単体 / (中) ⇒DEF&MDF奪取 + 味全体 / DEF&MDF上昇 習得者感想 回復強化が必要なくとも10の技を取る価値はある。15の技も案外優秀なので余裕があれば。 -- 名無しさん (2008-03-06 01 59 29) セーフティゾーンお勧め。非接触全体で6割近くカットしてくれる優れ技。反射と共に非接触生存のお友に。 -- 名無しさん (2008-05-23 20 58 45) 馬鹿で回復効果の強化計算が分からなかったので調べてみたのですが、Lv35で101%になるのではないでしょうか……? -- 名無しさん (2009-04-11 19 49 42) ↑そうよ、ごめんね!なおした! -- 名無しさん (2010-03-20 12 41 57) Lv10で19%なのを確認。どうやら端数切捨てらしい -- 名無しさん (2010-04-23 14 26 47) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8746.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 最初、アルビオン兵の姿をしたエツィオをいぶかしんでいた傭兵達であったが、アニエスのとりなしで信用を得る事が出来た。 どうやら彼女は女性の身でありながら傭兵達を率いる身分らしい、相当な実力者のようだ。 そうして捕虜の傭兵達を解放したエツィオは、彼らに作戦を説明し、納屋にあった農具で武装させ待機を命じた。 アルビオン兵の姿に変装させたアニエスには納屋の見張り役に立たせ、合図を待たせる。 それからエツィオは何食わぬ顔で納屋を後にし、行動を開始した。 まずエツィオが向かったのは、村の中心に聳え立つ物見櫓だった。 櫓の上には石弓を持った兵が二人控えており、周囲を警戒している。こちらの行動を察知されては困るため早急に始末する必要があったからだ。 エツィオは櫓を登ると、何気ない風を装い二人の弓兵に声をかけた。 「おい、困ったことが起きたんだ、ちょっと来てくれないか?」 その言葉に反応した二人は、何事だろうかと首を傾げ、登ってきたエツィオに近づいてゆく。 その瞬間だった、エツィオの両腕から二本のアサシンブレードが弾かれたように飛び出し、二人の首を同時に切り裂いた。 声を出すこともできずに絶命した二人は、どさりと櫓の上に身を横たえる。この一瞬の早業に、気が付いたものは誰ひとりとしていなかった。 首尾よく櫓の上の敵を始末したエツィオは、彼らが持っていた石弓とボルトを回収し、素早く櫓を降りる。 次にエツィオは、先ほど隠した肉の入った手桶を手に取った。 そして、その中の肉の塊に、アサシンブレードに仕込まれた毒剣を突き刺し、ありったけの毒を注入する。 「それ、竜にも利くかね? 竜相手じゃ、精々腹痛起こすとかその辺なんじゃないか?」 その様子をみていたデルフリンガーがカチカチと音を立てる。エツィオは毒を注入しながら首を傾げた。 「こればかりはレオナルドを信じるしかないな、自信作とか言ってたが」 「その毒、中身はなんだ?」 「えーっと、確かドクゼリの根っこに毒ニンジン、ヒヨスのエキス……あと殴り殺した豚の肝臓に亜砒酸の混合……他色々だそうだ」 「うーん? 聞いたことねえのばっかりだな」 「だろうな、俺も毒については門外漢だ。とにかく、腹痛程度でも、無力化さえできればいいさ」 そう呟きながら毒を注入し終えたエツィオは、風竜の目の前にその肉片を放り投げると、すぐにその場から離れ様子を見守る。 待ちかねていた食事に、風竜は嬉しそうに一声鳴くと、肉に齧り付いた。それを確認し、エツィオはそそくさとその場を立ち去る。 あとは毒の効果が表れてくれるのを祈るだけ……そう思っていた、その時だった。突然風竜が苦しそうにもがき始める。どうやら毒が効果を発揮し始めたようだ。 風竜は口から涎と泡、そして吐瀉物をまき散らし、翼や頭を振り回しながら広場で大暴れを始めた。 「お、おいおい……」 予想以上の毒の効果にエツィオが思わず呟く。 レオナルドが作ったとはいえ、本来人間相手に使うものである、 人間より遥かに強靭な肉体をもった竜にどれほどの効果が及ぼせるか不明ではあったが、まさかここまで強力な物だったとは思わなかったのだ。 「竜すら殺す猛毒かよ……お前のその親友、おっかねえ野郎だな」 「……同感だ、あいつは恐るべき大天才だよ」 「それを人に使ったお前はもっとおっかねえけどな」 デルフリンガーが呆れたように呟いたその時、風竜の異常に気が付いたのか、警備の為に村中に散っていた兵士たちが広場に集まり続ける。 「どうした! 何事だ!」 「風竜が暴れ出したぞ!」 「と、止めろ! なだめるんだ!」 どうやら、村中の兵士たちの注意を集める結果になったようだ。これは予想外であったが、エツィオにとっては好都合だ。 必死になって竜をなだめようとする兵士たちを尻目に見ながら、次の行動に移るべく、そそくさと移動を開始する。ここからは早さとの勝負だ。 敵兵達の視線が、竜に釘付けになっている隙に、納屋の前のアニエスに向け手を振り、合図を送る。 すると納屋の扉があき、中にあった農具で武装した傭兵達が他の捕虜が囚われている家畜小屋や武器庫に忍び込み、没収された武器を運び出してゆくのが見えた。 捕虜を解放し、武装を終えた傭兵達が、アニエスの指示に従い、それぞれの配置場所へと移動してゆく。 全員が配置についたことを確認したエツィオは、すぐに物陰に隠れると、兵服からアサシンのローブへと着替え、フードを被る。作戦開始だ。 「くそっ……! 貴重な竜が……!」 「一体何があったんだ? 急に暴れ出すなんて……」 広場では、毒にのたうちまわっていた風竜がようやく息絶え、その巨大な身体を横たえていた。 その遺骸の周りに集まっていた敵兵達は、奇妙な急死を遂げた風竜を見て首を傾げていた。 「とにかく! これは責任問題だぞ! 原因を究明しろ! 最後に竜に触れた者は誰だ!」 「そ、それは確か……、あ、あれ? あいつはどこに……!」 エツィオに餌を与えるように命じた騎士は、あわててその姿を探す。 その時だった、兵士が一人、息を切らせて広場へと駆けこんできた。 「大変だ! そこの草むらで、フェルトンの死体が見つかった!」 「な、なんだと! してみると、敵襲か!」 「それだけじゃない、死体から装備がひんむかれてやがった。俺達の中に、フェルトンに化けている奴がいる!」 「と言うことは……、我々の中に敵の間諜がいるのか!?」 その言葉に、兵達の間に一気に緊張が走った。見えぬ敵の姿に、誰もが剣、或いは杖の柄に手を伸ばす。 その時であった。兵士たちが集まる広場に不意に一つの影が差した。何事かと振り向いた兵士たちは、全員言葉を失った。 兵達が視線を向けた先、村の寺院、そのファサードの頂上に立ち、天上に輝く二つの月を背にこちらを見下ろす一つの影。 目深に被った白のフードに、左肩に翻る血塗られた王家のマント……。その姿はまさしく、冥府より現れた死神のようだ。 「あ……アサシン……?」 手配書となんら違わぬアサシンの姿を見た兵士が、戦慄いたように呟く。 「アサシン? あれがっ……!?」 「う、嘘だろ……? な、なんで奴がここにっ……!」 動揺が、瞬く間に広場に集まった兵士たちの間に伝播してゆく。 それを俯瞰していたエツィオに、デルフリンガーが呟く。 「銃兵だ、相棒」 その言葉に、エツィオは広場に集まった敵兵達の中から銃兵をすぐさま割り出す。 「魔法なら俺がなんとかできる。だが弾丸はそうもいかねえ、狙われる前に銃兵を先に潰しちまえ」 「そうさせてもらおう」 エツィオは小さく呟くと、先手必勝とばかりに敵兵達の中心目がけて跳躍する、 同時に腰のナイフベルトから四本の投げナイフを両手で引き抜き空中からすかさず投擲。 ヒュンと音を立てて放たれた短剣は、死神が振う大鎌にも劣らぬ効果を発揮した。 眉間に深々と投げナイフが刺さった四人の兵士たちが、そのままどさりと地面に倒れる。 それとほぼ同時に着地したエツィオは、まるで猛禽が獲物を捕らえるかのように両腕のアサシンブレードで二人のメイジの首を貫く。 素早く死体からアサシンブレードを引き抜き、近くにいた敵兵の首や急所を、手当たり次第に切り裂き、貫いた。 横一文字に切り裂かれた敵兵達の首から真っ赤な鮮血が噴き出し、エツィオに降りかかる。その恐ろしい姿に、敵兵達がさらに竦み上がった。 その瞬間を見逃さず、エツィオは弾丸の様な速さで敵の間を駆け抜けながら、いつの間にか引き抜いていたデルフリンガーを振い、次々に敵兵達の胴体を薙いでゆく。 己の身を翻し、刃を閃かせるたびに、血しぶきが舞い、敵の身体が倒れてゆく。目につく敵をどんどん排除し、握ったデルフリンガーから鮮血を滴らせ、 弾を装填している銃兵達目がけ突っ込んでゆく。その突撃に完全に泡を食った銃兵達は、なすすべもなくなぎ倒されていった。 そして最後の一人である銃兵を斬り伏せようとした、その時。 「相棒! 後ろだ!」 デルフリンガーの叫びに、エツィオは素早く反応し背後に向け剣を振う。 するといつの間に放たれていたのだろう、背後から飛んできた火の玉が振ったデルフリンガーの刀身に吸い込まれ、消えて行った。 「礼は後だ!」 エツィオは叫びながら、すぐ後ろにいた銃兵の胸倉をつかみ、デルフリンガーの刀身を鳩尾に突き立てる。 それから死体とデルフリンガーを盾に、そのまま魔法を飛ばしてきたメイジの元へ猛然と突っ込んでいった。 呪文を放ったメイジは、その恐ろしい姿に思わずひるみ上がり、がむしゃらに呪文を放った、しかしその呪文のいずれもが、デルフリンガーに吸収され、或いは 哀れな味方の死体に阻まれ、ついにエツィオに届くことはなかった。 エツィオは盾となってくれた死体を払いのけ、デルフリンガーを小さく振い、最小限の動きでメイジの喉を切り裂いた、 切り開かれた傷口から、ぱっと鮮血が舞う。メイジは切り裂かれた喉を押さえながら、がくりと膝を突き、崩れ落ちた。 そうやって兵士たちをことごとく斬り伏せたエツィオがついと振り向くと、その姿に慄いたアルビオン兵達が恐怖のあまり後じさった。 「どうかな? 彼らには申し訳ないが、今降伏すれば、命だけは助けてやるぞ」 そんな彼らに血糊が付いたデルフリンガーを左手で振いながら、エツィオが提案をする。 すると士官と思われるメイジが、激昂した様子でエツィオに杖を突きつけた。 「ふっ、ふざけるな! 貴様こそ、この数の不利を覆せると思うなよ!」 その言葉に、怖気づいていた敵兵たちが剣や槍を構え、エツィオの周囲をぐるりと取り囲んだ。 メイジである者は杖を構え、呪文を詠唱しエツィオに突きつける。 「ここから生きて帰れると思うな! アサシン!」 「受け入れてはもらえないか……」 しかし、剣や槍、果ては杖に囲まれてなお、エツィオは泰然とした態度で不敵に微笑んでいる。 それからエツィオは小さくため息をつくと、すっと右手を高く掲げる。 「残念だ」 そう呟くや否や、エツィオは高く掲げた右手の指をパチン! と鳴らす。 その瞬間であった。真っ先に激昂しエツィオに杖を突きつけていたメイジが、ぐるんと白目をむき、ばたりと地面に倒れ伏した。 何事かと、敵兵が一斉にそちらを見つめる。メイジの背には、一本の矢が深々と突き刺さっていた。 「なっ、なにっ!?」 敵兵達の間に、再び動揺が走ったそのとき、エツィオを囲む敵兵達目がけ、大量の矢、或いはボルトが次々撃ち込まれてゆく。 完全にエツィオに気を取られていたアルビオン兵達は、闇に紛れ背後に回り込んだ傭兵たちに全く気が付くことが出来なかった。 傭兵達の奇襲に、アルビオン兵達はなすすべもなく体中に矢を受け、地面に伏してゆく。 それは杖を構えていたメイジ達も同じであった。杖を目印に集中的に狙われた彼らは、真っ先に多くの矢を打ちこまれ絶命していった。 「今だ! 突撃開始!」 あらかた矢を撃ち終えたのか、アニエスが号令をかける。傭兵達はそれぞれの得物を構え、広場へと突っ込んで行く。 エツィオもそれに合わせ、デルフリンガーを構え、アルビオン兵の中に斬り込んで行った。 アサシンの襲撃に傭兵達の奇襲、それにより士官のメイジを失い恐慌状態に陥りつつあったアルビオン勢、 片やガンダールヴの力を発揮したエツィオにアニエス率いるトリステイン傭兵隊、その戦いの優劣は最早火を見るより明らかだった。 あっという間に戦況をひっくり返し、広場にはアルビオン勢の死体がどんどん増えてゆく。 優勢を確信したエツィオは、デルフリンガーを振り回し、敵を薙ぎ払いながらアニエスに指示を出した。 「アニエス! 手勢を率いてあの屋敷に襲撃をかけろ! 指揮官はそこにいる!」 アニエスはエツィオの指示に耳を疑った。敵の身体を蹴り飛ばし、よろめいたところを止めを刺す。 血の滴る剣を抜きながら、彼女はエツィオを問いただした。 「お前は!」 「広場を制圧する! 言ったろ! 手柄はきみたちに譲るって!」 エツィオはフードの下でウィンクすると、左右から同時に飛びかかってきた男達を瞬時に斬り倒した。 「急げ! 奴を逃がすな!」 「簡単に言ってくれる……! 聞いての通りだ! 敵将はこの中だ! わたしに続け! 討ち取るぞ!」 アニエスは手早く傭兵に号令をかけ、村で一番大きな屋敷に突入してゆく。 勝利を確信したエツィオは、広場に残る敵兵達を睨みつける。もはやアルビオン勢の気勢は削がれ、武器を捨て命乞いを始めるものまでいた。 制圧は最早時間の問題だろう。 あとはアニエス達が出てくるのを待つだけか……。そう思っていた時だった。 突如、アニエス達が突入した屋敷の扉から烈風が吹き荒れる、それと一緒に、中から彼女と共に突入した傭兵達が扉を突き破り広場にまで吹き飛ばされてきた。 何事かと、エツィオが屋敷の扉があった所を睨みつける。すると中から、立派な杖を持ったメイジの貴族が姿を現した。 果たしてその貴族とは、先ほど風竜に乗って村に降りてきたアルビオン軍総司令官、サー・ジョージ・ヴィリアーズ公であった。 ヴィリアーズ公はゆっくりと広場を見渡すと、じろりとエツィオを睨みつけた。 なんとも威圧感のある男である、その男が姿を現しただけで、いつの間にか広場は静まり返っている。 「アサシン……! 貴様が……!」 ヴィリアーズ公は立派なカイゼル髭を揺らしながらエツィオに杖を突きつける。 だがエツィオは億した風もなく、優雅に腰を曲げて見せた。 「これはこれは、ヴィリアーズ公、お目にかかれて光栄の至り」 いかにもわざとらしい、皮肉を込めた慇懃な振る舞いに、ヴィリアーズ公は不愉快だと言わんばかりに顔をしかめた。 「ふん! 薄汚いアサシンめ! 私の首を狙いに来たか!」 「御明察恐れ入ります、閣下。つきましては、我が刃の露と消えていただきたく……どうか御覚悟のほどを」 エツィオはフードの下に笑みを浮かべ、左手を差し出す、同時にアサシンブレードが弾け、袖口から鋭い刃が飛び出す。 「成程、今までお前が殺してきた我が同胞たちのように、私もまたその刃で討ち取ろうというわけか。だがそうはいかぬぞ、アサシン!」 そう言うと、ヴィリアーズ公は後ろからぐいと何者かを引っ張り出した。 果たしてそれは、先ほどこの屋敷に突入して行った、アニエスであった。 「くっ……! アウディトーレ……、すまない……!」 アニエスは申し訳なさそうに俯くと、悔しそうに唇を噛みしめた。 ヴィリアーズ公はアニエスに杖を突きつけ、己の正面にまるで盾にするように立たせた。 「人質か、人のことを汚いと罵る割には、そちらも随分と卑劣な真似をするじゃないか」 「ほざけ! 貴様がこれまで行ってきた非道の数々に比べればどうということではないわ! 不意を打ち、その薄汚い刃にて多くの貴族の誇りを散々に踏みにじってきた貴様に比べればな!」 「お前も貴族だろう? だったら彼女を解放しろ。お前達が誇りとする魔法とやらで俺を殺してみろ!」 「貴様は挑発のつもりだろうが……、私は見ていたぞ、その剣に魔法が吸い込まれてゆくのを」 ヴィリアーズ公はねめつける様にエツィオの手元のデルフリンガーを見つめた。 「この女を離してほしいか? ならばその剣を捨てろ、そうしたら離してやるぞ」 「離してはだめだ! 離したら奴は魔法を放つつもり――あうっ……!」 「黙っておれ! ……さあ剣を捨てろ、アサシン。それとも、丸腰の女を見殺しにするのかね?」 はっとしたように叫ぶアニエスの顔をヴィリアーズ公が殴りつけた。それからエツィオを見つめ、楽しそうに呟く。 するとエツィオは肩を竦め、何を考えたか、手に持っていたデルフリンガーを地面へと放り投げた。 がちゃり、と音を立て、デルフリンガーが地面に転がった。 「馬鹿め! 卑しいアサシンめ! 死ぬがいい!」 それを見たヴィリアーズ公は盾にしていたアニエスを突きとばし、エツィオに杖を突きつけ、勝ち誇ったように叫んだ。 その時であった、すっとエツィオの左腕が伸び、掌をヴィリアーズ公にかざす。その瞬間、耳をつんざくような轟音と共に、エツィオの指の間から白煙が上がった。 「……卑しいのはお前の心だ。その穢れた魂とともに朽ち果てよ。――眠れ、安らかに」 ――どさり。と、直立不動のまま、ヴィリアーズ公の身体が仰向けに倒れ込む。 倒れ伏した彼の額には小さな穴があき、そこから鮮血が溢れ出て、見る見るうちに血だまりを作った。 周囲にいた人間は、何が起こったのか全く理解できなかった。それはヴィリアーズ公の最も近くにいた、アニエスもだった。 ただ分かったのは、アサシンが手をかざした瞬間、ジョージ・ヴィリアーズが額に穴を開け、地面に倒れ伏したということだけである。 「ひっ……!」 アルビオン兵の一人が、情けない声を上げ、持っていた武器を放り投げる。それからじりじりと後じさったかと思うと、踵を返し全速力で村の外へと逃げて行った。 それは他の兵達も同じであった。手を触れずして、文字通り一瞬で総司令官の命を奪ったアサシンに対する恐怖が、見る見るうちにアルビオン兵達の間に広がってゆく。 「し、死神だ……! 奴は死神だぁああっ!」 「た、助けてくれ! こ、降参だ!」 「殺さないでくれ! 投降する! この通りだ!」 ある者は地に跪いて命乞いをし、またある者は一目散に村の外へと逃げてゆく。 エツィオは、もう戦いを続ける必要が無いことを確信すると、地面に転がったデルフリンガーを拾い上げ、呆然と座り込んでいるアニエスの傍へと歩いていった。 「無事か?」 「あ、アウディトーレ? い、一体何が……?」 アニエスはヴィリアーズ公の死体とエツィオの顔を交互に見比べながら、訳がわからないと言った表情で呟く。 「さぁ? そんなことより、いま重要なのは……」 そんな彼女にエツィオはニヤリと笑みを浮かべると、近くに倒れていた傭兵の死体から、彼の持っていた拳銃を拾い上げ、こっそりとアニエスの手に握らせた。 そのエツィオの意図を測りかねているのか、さらに首を傾げる彼女を引き立たせながら、エツィオは大声で叫んだ。 「諸君!」 その力強く勇ましい声に、半ば呆然としていた傭兵達が、はっとした表情でエツィオとアニエスを見つめた。 「アルビオン軍総司令官、サー・ジョージ・ヴィリアーズは、彼女の機転によって討たれた! この戦、我らの勝利だ!」 デルフリンガーを天高く掲げ、エツィオが叫んだ。 「勝利は我らの手に!」 大胆な宣言に、傭兵達も拳を突き上げ、或いは武器を振りかざす。そして一斉に雄叫びをあげた。 「勝利は我らの手に!」 「うおおおおおおおおぉーッ!」 「勝った! 勝ったぞ! 俺達の勝ちだ!」 「アサシン! アサシンだ! 俺達にはアサシンがついてるぞ!」 静寂に包まれていたタルブの村に、勇ましい勝利の雄叫びが響き渡る。 傭兵達の歓喜に包まれる中、ただ一人、エツィオの隣で呆然としていたアニエスは、慌てたようにエツィオに喰ってかかった。 「へっ!? いやっ! ちょ、ちょっと待て! わ、わたしが……、わたしが討っただと!?」 「ああそうさ、やったじゃないか、大手柄だ」 悪戯っぽく微笑みエツィオがウィンクする。 「いや! しかし!こ、ここ、この戦果は……っ!」 「よかったじゃないか、うまくいけば貴族の地位だって夢じゃないんじゃないか?」 泡を食ったように慌てるアニエスを見て、エツィオはとぼけたように言った。 それからエツィオは傍らのヴィリアーズ公の死体に近づくと、驚愕に見開かれたままの彼の瞼をそっと閉じ、顔を整える。暫しの間瞑目し、祈りを捧げる。 そんなエツィオを見て、アニエスは小さく首を傾げた。 「何を……しているんだ?」 「祈りをな、死者には敬意を払うべきだ」 生憎、信仰するものは違うけどな。と、エツィオは小さく呟く。 アニエスはそんな彼の左肩にあるマントを見つめた。血で赤黒く染まったアルビオン王家のマント。 それを纏ったアサシンの噂は、当然彼女の耳にも入っていた。だとすれば、彼こそが『アルビオンの死神』その人なのだろう。 「『死神』と呼ばれるお前がか?」 アニエスが、わずかに皮肉をこめた調子で尋ねる。 アルビオン軍に『死神』の二つ名で呼ばれ、恐れられるアサシンが、自ら手に掛けた標的に祈りを捧げるなど、まさに皮肉のように思えたのだ。 「そう蔑まれてもだ」 そんな彼女の問いに、エツィオは顔色を変えずに答え、立ち上がった。 「……すまない。しかし、まさかお前があの『アサシン』だったとはな。何故もっと早く言わなかったんだ?」 「言っても信じてもらえないと思ってね」 「普段から真面目に振るまってりゃ、そうはならないんだがねぇ」 「ほっといてくれ」 デルフリンガーの茶々に、エツィオはむっとした表情で、つまらなそうに腕を組んだ。 それから気を取り直す様にアニエスに視線を向け、肩を竦めて見せる。 「さてアニエス、こうして総司令官を討ちはしたが、残念ながら戦はまだ終わってはいない、異変に気が付いた草原の部隊がこちらにくる可能性もある、迎撃の準備に取り掛かろう」 「あ、ああ……そうだな」 「連中に総司令官の死が知れ渡るまで時間を稼ぐ。何としても生き残らなきゃな」 エツィオの言うことにも一理ある、アニエスは素直に頷き、未だ広場で歓喜に沸く傭兵達に向け大声で叫んだ。 「聞いたな! 全員! 迎撃の準備――」 「待った」 アニエスがそこまで言った時だった、突如エツィオがそれを遮り、前に進み出た。 「諸君! その前にだ!」 引き継ぐように叫ぶエツィオに、何事かと傭兵達が首を傾げる。 そんな彼らをよそに、エツィオはぐるりと広場を見渡す。戦士者達には既にハエがたかり始めていた。 「死者を弔おう、手伝ってくれ。……仲間の死体を、野ざらしにはできないだろう?」 エツィオはそう言うと、前へと進み出て、戦死した傭兵の死体を担ぎあげた。 そんな彼を見た傭兵達は顔を見合わせると、誰ともなくその後に続き、死体を運び出し始める。 誰もが怒りと悔しさを噛みしめながら、そして死した戦友達と共に勝利を噛みしめながら、黙々と亡骸を弔った。 さて、時は遡りエツィオがラ・ロシェールに向かい馬を走らせていたその頃……。 こちらはトリステイン魔法学院のルイズの部屋。 入浴を終え、部屋へと戻ったルイズは、ふらふらとベッドに近づき、ばたっと倒れ込むと枕に顔を埋めた。 今の様な気分の時は誰とも会う気がしない。ベッドの中に閉じこもり、食堂に食事に行く時と、入浴の時だけ部屋を出た。 ギーシュの部屋にエツィオが転がり込んでいる事は知っていたので、先ほどギーシュが一人でいるところを捕まえ問いただしたら、 エツィオは何とあのメイドと共に彼女の故郷……タルブの村へと出かけてしまったのだという。 ひどい。それを聞いたルイズはますます悲しくなった。ショックで頭の中は真っ白になり、どうやって部屋まで戻ってきたか思い出すことが出来ないほどだ。 そうしてベッドに倒れ込んだルイズはしくしくとすすり泣いていた。悔しさと切なさで、どうしても泣けてきてしまうのだった。 そんな時、ベッドの端に置いてあった『始祖の祈祷書』が、どさっと床に落ちてしまった。 気が付いたルイズはもそっと身体を起こす、目を擦りながらそれを拾い上げようと、床の『始祖の祈祷書』へと手を伸ばした。 おや? 視界がぼやけた。そして、落ちた際開いた白紙のページに、一瞬、文字の様なものが見えた。 ん? とルイズは目を凝らす。しかし、次の瞬間、それは霞のようにページの上から消えていた。 今のはなんだろう? と思ってページを見つめた。しかし、もう、そこには何も見えない。 気のせいかしら、目が疲れてるのね……。と思った。どれもこれも、全部エツィオの所為よ。とルイズは呟き、『始祖の祈祷書』を拾い上げた。 その時、ふとその横に落ちていた、くしゃくしゃに丸められた紙片が目に入った。見るにどうやら手紙のようだ。 なにかしら? と首を傾げながらルイズはそれを拾い上げ、紙片を広げる。そして中身に目を通して言葉を失った。 中身は、先日エツィオが部屋の隅に落としてしまった、マチルダの手紙であった。 そこにはアルビオン軍が、すぐにでもトリステインに攻め込んでくるということ、 そしてその戦場がラ・ロシェールにほど近い、タルブの草原であろうことが事細かに記されていたのだ。 手紙の差出人にあるマチルダという名、それが誰なのか、そんなことは今のルイズにとってはどうでもよかった。 重要なのは、アルビオンの侵攻が予定通り行われるであろう、という文面であった。 そしてその戦場となるタルブの草原……。ルイズははっとした表情で顔を上げた。エツィオが向かったというメイドの故郷である村の名前と同じ……。 くしゃくしゃに丸められた手紙、エツィオが向かったというタルブの村、アルビオンによる侵攻。 どうにも嫌な予感がする。まさかエツィオは、トリステインに攻め込もうとしているアルビオン軍を迎え撃つためにタルブに向かったのだろうか? 「まさか……そんなっ……!」 湧き上がる不安に居ても立ってもいられなくなったルイズは、ベッドから立ち上がると、『始祖の祈祷書』と杖を手に、部屋を飛び出した。 階段を駆け下り、学院の正面広場まで一気に飛び出した。その時である。 トリステイン王立衛士の制服を着た一人の使者が、息せき切って現れる。 彼はオスマン氏の居室をルイズに尋ねると、足早に駆け去って行った。 その尋常ならざる様子にルイズは胸騒ぎを覚え、使者の後を追った。 オスマン氏は、式に出席するための用意で忙しかった。 一週間ほど学院を留守にするため、様々な書類を片づけ、荷物をまとめていた。 その時である、猛烈な勢いで扉が叩かれた。 「誰じゃね?」 返事をするより早く、王宮からの使者が飛び込んできた。大声で口上を述べる。 「王宮からです! 申し上げます! アルビオンがトリステインに宣戦布告! 姫殿下の式は無期延期となりました! 王軍は現在、ラ・ロシェールに展開! したがって、学院におかれましては、安全の為、全生徒と職員の禁足令を願います!」 オスマン氏は眉を顰めた。 「宣戦布告とな? なんと……戦争となってしまったか……。現在の戦況はどうなっているのかね?」 「は……はっ! あらかじめアルビオンの奇襲を察知していたことが功を奏し、制空権を奪われることなく、現在五分の状況に持ちこんでいる状況です。 しかし、地上部隊の降下を許してしまい、アルビオン軍はタルブの村を占領、現在地上部隊の本隊がタルブの草原に陣を張り、我が軍とにらみ合っている模様です」 「ふむ……ちと厳しい状況のようじゃな」 こうなることを予期していたとでも言うのだろうか、冷静に聞き返してきたオスマン氏に、少々戸惑いながらも使者は答えた。 「同盟に基づき、以前よりゲルマニア軍への派遣を要請していましたが、有事が起こらぬ限り動かぬと一点張りでして……、先陣が到着するのは、三週間後とか……」 オスマン氏はため息をついた。 「杞憂で終わればよかったのじゃがな……大鷲の働きも無に帰してしまったか……。あいわかった、すぐに禁足令を出そう、伝令御苦労じゃった」 学院長室の扉に張りつき、聞き耳を立てていたルイズは、戦争と聞いて顔を蒼白にした。手紙を握った手に力がこもる。 タルブの村が戦場に? そこはエツィオが向かった村ではないか! そこまで考えが至った瞬間、ルイズはすぐに踵を返し、走りだした。転がるように階段を駆け下り、息を切らせて馬小屋へと向かう。 鞍の付いた馬を一頭引っ張り出し、ひらりとそれに跨った。馬の腹に蹴りを入れ、学院の外へと走りだそうとした、その時である。 学院の正門の向こうから、一人の人物が、馬を走らせてくるのが見えた。 ルイズはその人物に見覚えがあった、あれはたしか、エツィオを追いだすにいたった原因であるあのメイド、シエスタではないか! しかし、見えるのは彼女だけである、エツィオと共にタルブへ出かけたと聞いていたが、そのエツィオがどこにも見当たらない。 「シエスタ!」 ルイズが大声で名前を呼ぶと、シエスタははっとした表情で馬を降り、息せき切ってルイズの傍へ駆け寄った。 「ミ、ミス・ヴァリエール!」 「シエスタ! エ、エツィオは! エツィオは一緒じゃないの!?」 ルイズも馬から降り尋ねると、シエスタは目に涙を浮かべながら激しく首を振った。それから自分達の身に起こったことをルイズに報告した。 エツィオと共にタルブに向かってる途中、避難するタルブの村人達と出会ったこと。 家族と共にトリスタニアへ向かい、落ち着いたらオスマン氏にこの事を報告するようにエツィオに指示されていたこと。 そして、やることがあると、エツィオはタルブへ向かったと言うこと。 それを聞いたルイズの頭の中で全てがつながった。 ルイズはポケットから、丸めて突っ込んだ手紙を取り出し、それを広げると、呻くように呟いた。 「あいつは……全部知ってたんだわ」 「え……?」 戸惑う様に首を傾げるシエスタにルイズはその手紙を手渡す。 「多分だけど……、あんたとタルブに行ったのは、村人達を避難させるためだったんじゃ……」 推測にすぎないが……、抜け目のないあの男のことだ、見ず知らずの他人の自分が行ったところで警告を聞きいれてもらえる可能性は低い。 それゆえに、多少危険に晒してしまうことになっても、タルブ出身者のシエスタを同行させたのではないか。 「そんな……エツィオさん……」 ルイズは再び、馬に跨った。 手紙を読み、言葉を失っていたシエスタは、はっとした表情でルイズの足にすがりついた。 「ミス! どこへ行くつもりなんですか!」 「タルブよ! そこにエツィオがいるんでしょ!」 それを聞いたシエスタは顔色を変えた。 「ダ、ダメです! 戦争なんですよ!? 行ったら死んじゃいます! それにエツィオさんが学院から誰も出すなって!」 「離して! エツィオが行ったのよ! あいつが死んでもいいの!?」 「エ、エツィオさんは、様子を見たら、すぐに戻るって……!」 「様子を見る? あいつがそれだけで終わらせる筈がないじゃない! あいつはっ……!」 アサシンなのよ! そう言おうとして、はっとした。以前オスマン氏に聞いた、とあるアサシンの話を思い出したからだ。 エツィオのルーツ。アサシン教団の伝説。 『戦争を終わらせるために、両勢力の要人達を暗殺した』 「あっ……!」 ルイズの頭の中で、悪い予感がどんどん膨らんでゆく。 ひょっとしたらあいつは、『戦い』に行ったのではなく、『暗殺』をしに行ったのではないか? 「や、やることって……、まさか……あのバカ……!」 「あ、あの……ミ、ミス?」 顔色を蒼白にし、ふるふると頭を振るルイズに、尋常じゃない雰囲気を感じたのか、ルイズの足を掴んでいたシエスタの手の力が緩む。 その時である。ルイズが突然馬を走らせ、わき目も振らずにタルブへと向かう街道を駆けだした。 「ま、待って下さい! ミス! わ、わたしも行きます!」 一人取り残されたシエスタは、慌てて自分の乗ってきた馬に跨ると、ルイズを追い馬を走らせた。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2633.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ タルブでのアルビオン艦隊殲滅から、数週間が経った。 あの日、侵攻して来た『レコン・キスタ』の大艦隊は、謎の《天変地異》によりほぼ全滅。 僅かな生き残りは、元旗艦艦長のボーウッド卿に率いられ、トリステインに降伏した。 変事を聞いて駆けつけたアンリエッタ王女とマザリーニ枢機卿らは、何が起きたのか分からないまま後始末に尽力。 この際、枢機卿の政治的判断により、王女は国家を救った『聖女』として祭り上げられる。 この頃ようやく目覚めた『救国者』松下を、論功行賞の結果、仮にタルブ周辺の領主『タルブ伯』に封じ、 ルイズにはラ・ロシェールの町の収入の十分の一を与えた。 しばらく宮廷内は混乱が続いたが、大勢は王女に戴冠させて国民の結束を固め、アルビオンに対抗する方向に決する。 アンリエッタ王女は前線基地となったタルブを視察して、松下と『密談』したのち、 ようやく戦勝記念パレードが催され、母である太后マリアンヌより王冠を受け取り『女王』として即位した。 「アンリエッタ万歳(ヴィーヴ・ラ・アンリエッタ)!!」「トリステイン万歳(ヴィーヴ・ラ・トリステイン)!!」 民衆の熱狂と歓呼の中、戴冠式は恙無く終了し、同時にゲルマニア皇帝との婚約も解消された。 いまや、トリステインは共和政の暴風からハルケギニアを護る《聖女の王国》となったのだ。 「なるほど、貴女は……ルイズ・フランソワーズは、始祖の力を受け継ぐ『虚無の担い手』。 そしてミスタ・マツシタは、貴女を護るべき使い魔、『ヴィンダールヴ』であると……いうことですね」 王都トリスタニアの王宮。アンリエッタ女王陛下は、ルイズと松下をにこやかに迎えた。 「退屈は二倍、窮屈は三倍、そして気苦労は十倍よ」と言いながら、彼女は始終笑みを絶やさない。 王族としての習い性か、生来の性格か。……あるいは、女王陛下という仕事が気に入ったのか。 その御前に立つルイズも、幼馴染の放つ威厳に、自然と身が引き締まる思いであった。 「始祖ブリミルは、その三人の御子と一人の弟子に王家を築かせ、各々指輪と秘宝を遺しました。 我がトリステインには『水のルビー』と『始祖の祈祷書』を。今は二つとも貴女のもの。 始祖の力を受け継ぐ者は、王家に現れると言い伝えられていますから」 「わ、私は、王族ではございませんのに」 「いいえ、貴女のラ・ヴァリエール公爵家の祖は、王の庶子。立派に資格はありますよ」 「けれど姫様、もとい女王陛下、あまり表向きに褒賞をお授けになるのは……私たちの功績、 つまり『虚無の力』が国内外に知られ、危険なのではないでしょうか……特に、マツシタ!」 ルイズはクルリと向き直る。松下は欠伸を噛み殺していた。 「このような何処の馬の骨ともわからない、危険で悪魔じみた不愉快な8歳児に『タルブ伯爵』だなんて。 本人の前で堂々と言わせてもらうけど、あんたはイカレているわ! 絶対に危険人物よ!」 「随分言うようになったな、『ご主人様』サマ。ミスタ・イチロウ・マツシタ・ド・タルブ伯爵と呼びたまえ」 「クソガキで充分よ! このヒョウタン頭!」 二人が険悪な空気を纏うのを制し、女王は答える。 「確かに、それはあまりにも強大であり、一国でさえ持て余すほど。 敵に知られたら間違いなく狙われるし、味方に知られても私欲のために利用しようとする者が必ず現れましょう。 ですから『虚無』の力は基本的に秘密です。今回は特別に褒賞を授けましたが、みだりに使うことはなりません。 ……けれども、いずれこの私と国家のため、ひいてはハルケギニアの安寧のために、 その大いなる力を振るって頂くことになるでしょう。『利用すべきものは親兄弟でも使え』、 それがマザリーニ枢機卿の、そして私の座右の銘ですから……」 ふふふふふふふふ、と笑う女王に、ルイズは慄然として跪いた。 ともあれ『祈祷書』を与えられたルイズは、女王直属の女官に任命され、女王の権利を行使する『許可証』を渡された。 王宮を含む国内外へのあらゆる通行と、警察権を含む公的機関への使用を認められている。つまりは某ご隠居様の印籠だ。 「貴女がたにしか解決できない内密の事件が持ち上がったら、必ずや相談いたします。 表向きには、これまで通り魔法学院の生徒として振舞って頂戴。ではマツシタ伯爵も、公務にお戻り下さい」 「ふむ。かなり高等な文書も読めるようになり、このハルケギニアについても、大分理解できたぞ……」 タルブ伯・松下は忙しい公務の傍ら、世界征服に向けて知識を集めていた。『知恵で武装したゴジラ』の異名は伊達ではない。 彼は母親の胎内で基礎教育を終え、幼稚園に入る頃には博士課程を1ダース程修了してしまう程の超天才児なのだ。 それこそ、人間の子供の姿をした悪魔か何かだと考えた方がいい。 40年以上死んでいたので、その後の『地球』の情勢については時々蛙男に『霊夢』で教わっている。 ソヴィエト連邦が崩壊する事は予測していたが、相変わらずあちらも紛争が絶えないようだ。 日本を襲った長期不況、コンピュータや携帯電話の爆発的普及、イスラーム教徒の相次ぐテロル、台頭する資本主義中国。 人々の混迷と心の闇、破滅的な新興宗教、蔓延する鬱病と自殺……。千年王国はまだまだ遠い。 それも問題だが、まずはこの世界、ハルケギニアを救わなければなるまい。地球千年王国の雛形として。 この世界の文明レベル……社会、国家体制、宗教観、思想、経済、医療技術などは、魔法うんぬんを抜きにすれば、 ぼくがいた世界『地球』の近世、西暦17世紀中葉の西欧に酷似している。 始祖ブリミルは『偉大な最初のメイジ』『文明の祖』として崇められているが、唯一神はその上にいるようなので、 彼はイエス・キリストと同等の存在と言える。降臨は六千年以上前だから、むしろ人祖アダムだろうか。 「今年は始祖降臨暦6242年か……実は歴史情報が改竄されていて、降臨が1600年ほど前だということはないかな?」 1年は12ヶ月だが384日で、1ヶ月32日、8日で1週間。月日や曜日には北欧のルーン文字の名が用いられているようだ。 アルビオンが英国に当たるなら、ここトリステインはベルギー・オランダから北仏のフランドル地方。 ガリアはそのままフランスで、その南部はスペイン・ポルトガルや南イタリア(ナポリ・シチリア王国)か。 ロマリア皇国はローマ教皇領で、南の半島(イタリア)にはヴェネチアなどの都市国家が割拠しているわけだ。 帝政ゲルマニアは神聖ローマ帝国(ドイツ・オーストリア)にポーランドやロシア帝国をミックスした感じである。 これらに並ぶ強力な『バルト帝国』ことスウェーデン、『海上帝国』デンマークはどこだか分からないが。 すると東のエルフが住まうサハラは中近東で、イスラーム系のオスマン帝国やサファヴィー朝イラン。 始祖ブリミルが降臨した『聖地』は、すなわち聖都イェルサレムの事だろう。それとも『神の門』バベルだろうか。 さらに『東方』にはモンゴル系諸王国やムガール帝国、シナ征服直後の大清帝国、江戸初期の日本などがあるはずだ。 タージ・マハル霊廟は建設中で、第三代将軍・徳川家光はそろそろ病死するだろう。 タイにはアユタヤ王朝、インドネシアには国家に匹敵する『オランダ東インド会社』が成立し、 フィリピンはスペインの総督が支配している時代だ。 ならば、『西方』に行けば南北アメリカ大陸があり、移民や西欧諸国が植民地を経営しているはずなのだが…… どうも海外については資料が手に入らない。フネだってあるし、六千年間文明が停滞していたわけでもあるまいに。 「始祖ブリミルかエルフが、移民制限の呪詛結界でも作ったのか? 単に海外進出する力が足りないためか?」 亜人やモンスターが数多く、冒険航海はできても航路は開拓できないということか。 先頃のクロムウェルの革命は、地球では1642~49年に起きた『清教徒革命』だ。 この戦いで国王チャールズ1世は捕らえられ、処刑されて10年ほど英国は共和政となる。 ゲルマニア……ドイツはハプスブルク家の帝国だが、1648年に終わった『三十年戦争』でスペインともども衰退する。 その北のホーエンツォレルン家のプロイセン公国が、英主フリードリヒ・ヴィルヘルム大選帝侯のもと勢力を伸ばし、 のちのプロイセン王国、すなわち『ドイツ第二帝国』の基礎を作る。 そしてオランダ・フランス・英国が次々と覇権を争い、植民地帝国たる『世界の列強』として台頭する。 特にブルボン朝フランスはリシュリュー枢機卿、続くマザラン(マザリーニ)やコルベールが重商主義を推し進めた。 ロマノフ朝ロシアはバルト海とカザークの騎馬兵を抑えて、東シベリアの開拓を進め、やがては清や日本と接触するだろう。 重要なのは、ルネサンスも終わり国家間戦争が続き、新教と絶対王政が成立するこの時代、 国際法、市民革命論、社会契約論が現れる一方、『魔女狩り』と『異端審問』の猛威が欧州に吹き荒れていたことだ。 プロテスタントとカトリックの対立は、しばしば政治絡みで虐殺にも発展し、悪徳聖職者やゴロツキの傭兵が横行する。 イエズス会などの海外宣教も盛んな反面、『悪魔学』も前世紀から盛んになり、王侯貴族は退廃的趣味に耽溺。 さらに世界的寒冷化による飢饉や、新大陸からの疫病が打ち続き、民衆の間には終末思想が流行する。 それこそ『メシア』を自称する連中や、『千年王国』思想は山ほどあったのである。 彼がこの世界のこの時代に召喚されたのも、案外偶然ではないかも知れない。フランス革命まではあと140年もあるが。 天文学ではケプラーやガリレイがすでに出て死んでいるが、怪しげな占星術や錬金術もなお盛んだ。 シェークスピアやベーコン、ジョン・ディーやベーメやグロティウス、 セルバンテスにエル・グレコにルーベンスは死んでいる。ニュートンは僕と同じ年頃だろう。 デカルトはそろそろ死ぬし、ロックやスピノザやライプニッツはまだ子供だ。 ホッブズやパスカル、ヘンリー・モアに当たる人物がいれば、出会えるかもしれない。 ボイルやホイヘンス、バニヤンやモリエールやレンブラント、ベラスケスにも。 おお、ラ・ロシュフコー公爵は? スウェーデンの道楽女王ことクリスティーナは? クエーカー派の教祖フォックスや『失楽園』のミルトンは、クロムウェル側だ。 マザリーニ枢機卿とも対話したいが、何かと理由をつけて面会してもくれない。警戒されてしまったな。 ミスタ・コルベール(やっと覚えた)も、また研究室に篭りきりだし……。 「ま、どこまで地球の歴史や人物をなぞっているやら分からんが、やはり異世界。 あくまで参考程度に考えておいた方がいいな。メイジだの幻獣だのがうろちょろしている世界だし」 それが賢明であろう。萌えラノベの二次創作にそんなの求められても困る。 「さて、やはり手に入れるべきなのは、やがて世界帝国を築く英国、いや『アルビオン』か……。 海軍力は知らないが、空軍力は充実している。艦隊も、その運用技術の蓄積もあるはず。 しかし艦砲外交はともかく、奴隷交易や阿片を用いて土人を分割・征服し、圧制的大帝国を建設するのは、 いまいち『千年王国』の理想に反する。いや、『魔酒』や『白い粉』はあるのだが……。 この際スウィフトのラピュータ島作戦で行くか? 彼も英国人、いやアイルランド人だったな」 アルビオン大陸を動かして、従わない地域の日光を覆い隠してしまうのか。ちなみにスウィフトは1667年の生まれだ。 しかしアルビオンは白い雲を纏っており、現れた地域に雨をもたらすのだとか。 トリステインの大きさがほぼオランダとベルギーを併せた程(7万平方リーグ)、つまり北海道(7.85万)より小さい。 ガリアはその10倍(70万)で、人口1500万。ほぼフランスと北スペインを併せた大きさだ。 トリステインと同じ大きさのアルビオンを取ったところで、国力が段違いである。 大体アルビオンがアイルランド(8.3万)より小さくてどうするのだ。韓国以下の国土面積で皇帝を僭称するな。 「それに産業革命か啓蒙革命を起こすにしても、社会がそれを受け入れられるだけ成熟していなくては、どうにもならん。 『新しい葡萄酒は新しい革袋に入れよ』とナザレのイエスも言っているからな。 いかに僕が一万年に一人の大天才とはいえ、『世界征服』と『世界政府の運営』には、優秀な協力者が必要だ。 政治的・思想的・技術的、また魔法面での……やれやれ、前途多難だな」 さしもの松下も、ふうっと溜息をついた。『第二使徒・シエスタ』の淹れた紅茶を啜る。 「エリ・エリ・レマ・サバクタニ(神よ、神よ、何ゆえ我を見捨てたもうや)か」 それから少し後。 新都市タルブに建設された、マツシタ伯爵の執務室兼書斎に、ルイズがばーーんと飛び込んできた。 「マツシタ! 探したわよ! ホウキで飛んでくるのに手間取ったわ」 「何だね、ルイズ。景気はどうだい」 「ぼちぼちね。それより! モンモランシーとギーシュを、さっさと元に戻しなさい!!」 涙目でキレるルイズの剣幕に、松下も重い腰を上げ、二人は『魔女のホウキ』で学院に舞い戻った。 件の二人は、すっかり変貌を遂げていた。 モンモランシーは、肌が黄色くヌメヌメして、黒い斑点が浮かび、四つん這いで跳ね回るようになった。 目は大きく飛び出して口は裂け、腹は不健康に突き出し、指の間に水掻きができ、脚が大きく長くなった。 水辺にいると安心するらしく、一日の大半は使い魔のロビンと水中で気持ちよさそうにしている。 ギーシュは全身が茶色い毛に覆われ、口は突き出し硬い髭が生え、目は退化し始めた。 手足には強靭な爪が生えて地面を掘り進み、日中は使い魔のヴェルダンデと穴の中に篭ってじっとしている。 菜園の野菜や蟲などを食べ、宝石を求めて地上をうろついたりもするらしい。 「従順なる使徒『蛙女』と『モグラ男』に転生させようと、脳内にベースを入れて実験台にしてみたのだが…… これは、やはりまずいな。外見がベースとなった動物に近くなりすぎた。これでは人間社会に溶け込めない」 「そおいう問題じゃあ、ないでしょおおおおおお!!! ちゃんと人間に戻してあげて!!」 蒼白になったルイズの肌を蕁麻疹が覆う。いつの間にこんな事に。やはり召喚から二日目の、あのアレからか? 二人の変貌を見て、学院の生徒たちも改めて驚愕する。 「ああっ、いつの間にこんなことに!?」 「あまりに自然すぎて、変化している事にさえ気づかなかったわ! なんて事なの!」 「そう言えば、最近欠席が多いかなとは思っていたが……」 あんたらの目玉は金平糖か。いや、他人の事は言えないけどさ……。 「しょうがない、元に戻してやろう。このままではちと不憫だ。 しかし、戻すには『秘薬』がいるのだ。心身の変成を起こす、かなり高価な秘薬がね。 話では、南の『ラグドリアン湖』に棲む精霊から手に入れた物らしいが、もう国内では品切れなんだ」 「よおし、早速そこへ行くわよ! 反論は認めない!!」 かくして、ルイズと松下は、トリステインとガリアの国境にある『ラグドリアン湖』へ向かう。 改造怪人と化した、ギーシュとモンモランシーを連れて……。 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/cw3rd-ed/pages/48.html
ステータスボーナス HP +6 SP +9 知力 +2 精神 +1 加護 +3 HP上昇 +3 SP上昇 +8 【装備適性】 《弓》 《弩》 《魔導具》 【クラススキル】 《龍脈の鎮守者》 SL上限 1 カテゴリ 自動 ブースト 属性 パッシブ 制限 - 自身の使用する《神憑》の効果に「「カテゴリ 支援」のスキルの効果に+5する」を追加する 《大祈祷 聖域》 SL上限 5 消費SP18 カテゴリ 選択 支援 魔術(光) 属性 セットアップ 制限 - 宣言後、自身は行動済みになる 視界内の任意のキャラクター全ての【防御力】と【特殊防御力】に+(SL+【加護】÷3)する この効果はラウンド終了まで持続する 《大祈祷 回帰》 SL上限 5 消費SP18 カテゴリ 選択 回復 魔術(光) 属性 セットアップ 制限 - 宣言後、自身は行動済みになる 視界内の任意のキャラクター全ての【HP】を((SL)D+【加護】÷2)点回復する ラウンド終了時、視界内の任意のキャラクター全ての【HP】を((SL)D+【加護】÷2)点回復する 《大祈祷 戦陣》 SL上限 1 消費SP18 カテゴリ 選択 魔術(地) 属性 セットアップ 制限 - 宣言後、自身は行動済みになる 戦闘に参加している全てのキャラクターは【前衛】に移動し、陣形変更を行えなくなる この効果はラウンド終了まで持続する 《大祈祷 護神》 SL上限 1 消費SP24 カテゴリ 選択 魔術(光) 属性 セットアップ 制限 シナリオ1回 宣言後、自身は行動済みになる 視界内の任意のキャラクター1体を選択し、対象が受けるダメージを適用段階で0にする この効果は戦闘終了、もしくは対象が1回攻撃を受けるまで持続する 《式神 強化弐式》 SL上限 3 カテゴリ 選択 属性 パッシブ 制限 - 自身の召喚する式神の【HP】および【最大HP】に+(SL×3+1)、【基本能力値】全てに+SLする 《式神 混》 SL上限 1 消費SP10 カテゴリ 選択 魔術 属性 効果参照 制限 - 《式神 召喚》と同時に宣言し、所持している「式神符」を2種類選択する その《式神 召喚》で召喚する式神は1体となり、選択した2種類の【基本能力値】【戦闘能力値】のそれぞれの値で高い方を適用し、両方のスキルを使用可能になる 《五行相生》 SL上限 3 消費SP16 カテゴリ 選択 攻撃 回復 魔術 属性 アクティブ 制限 - 単体に特殊攻撃を行う ダメージは2D+【特殊攻撃力】+(SL×3+1)となる この攻撃で対象に1点でもダメージを与えた場合、自身の【HP】を(2D+【加護】÷2)点回復する 《五行相剋》 SL上限 3 消費SP20 カテゴリ 選択 魔術 属性 ダメージロールの直前 制限 未行動 シナリオSL回 自身以外の単体が行う武器攻撃のダメージロールの直前に宣言する事で、その攻撃は対象の【防御力】【特殊防御力】を0としてダメージを算出する ダメージ算出後、自身は行動済みになる 《禹歩》 SL上限 3 消費SP4 カテゴリ 選択 属性 セットアップ 制限 - 自身は即座に陣形変更を行い、自身の使用する「カテゴリ 支援」のスキルの効果に+(SL+2)する この効果はラウンド終了まで持続する 《五行強化》 SL上限 5 カテゴリ 選択 属性 パッシブ 制限 - 取得には《五行合一 森羅万象》が必要 自身の使用する《五行励起》の効果に+SLする 《陰陽虚式》 SL上限 1 消費SP30 カテゴリ 選択 魔術 属性 アクティブ 制限 シナリオ1回 取得には《福音》5、《龍脈震天》5が必要 戦闘に参加している全てのキャラクターは「カテゴリ 妨害」を含むスキルを使用出来ず、既に適用されている「カテゴリ 妨害」の効果・バッドステータス・弱体効果も全て解除する この効果は戦闘終了まで持続する 《要石》 SL上限 1 消費SP15 カテゴリ 選択 召喚 魔術 属性 アクティブ 制限 戦闘中1回 取得には《大祈祷 聖域》5、《禹歩》3が必要 【後衛】に「要石」を1つ召喚する この「要石」はキャラクターとして扱うが、あらゆる行動と判定を行えず、あらゆるバッドステータスと弱体効果も受けない 「要石」が存在している間、自身の【防御力】と【特殊防御力】は2倍になる 「要石」は1回攻撃を受けるか、戦闘終了時に消滅する 《旋風の陣》 SL上限 1 消費SP14 カテゴリ 選択 属性 効果参照 制限 - 取得には《駿馬の陣》5が必要 《駿馬の陣》と同時に宣言する事で、その《駿馬の陣》の対象を「視界内の任意のキャラクター全て」に変更する 《軍神顕現》 SL上限 5 カテゴリ 選択 魔術 属性 効果参照 制限 シナリオ1回 取得には《式神 由良由良止布留部》、《式神 強化弐式》3が必要 《式神 召喚》と同時に宣言する事で、その《式神 召喚》で召喚する式神の【HP】および【最大HP】と【SP】および【最大SP】に+(SL×10)、【基本能力値】全てに+(SL×3)する ただし、自身は即座に「戦闘不能状態」になり、使用した「式神符」は戦闘終了後に失われる