約 74,366 件
https://w.atwiki.jp/jcbr/pages/141.html
0052:狼牙の受難 ◆zOP8kJd6Ys 女性の悲鳴が聞こえてから程なく、轟音がヤムチャの鼓膜を震わせた。 何かが爆発したような音だ。 悲鳴の主を助けに行こうか悩んでいたヤムチャだが、その爆音を聞いて頭を振る。 「畜生、やっぱ止めだ! 格好つけるより命が優先だぜ! 逃げる!!」 そして入り口のドアノブに手を掛け……思いとどまる。 先ほどの音は意外に近辺から聞こえてきた。 今外に出て発見されれば薮蛇もいいところだ。 ここは襲撃者が通りすぎるのを待つべきか…… ふと気付く。 ここは京都の市街からははずれにある民家だ。 隠れるにはいい場所だが、襲撃者もそう思うのではないだろうか? 『……そうだ、この場所に襲撃者が目をつける可能性は高い』 発見されるのを覚悟で外に逃げるか、鉢合わせを覚悟で潜伏を続けるか。 どちらが正解の道なのか……ヤムチャは悩み続けてとうとう結論を出した。 椅子にドカリと座って、大きく溜息をつく。 潜伏を選んだ。 決断したわけではない。悩んでいるうちに時間ばかりが過ぎてしまったため、 今更逃げても意味はないと結論したからだ。 つまりは優柔不断の賜物であった。 一息つこうとテーブルの上の壷に付属していた湯呑みを手に取り、壷の中身を注ぐ。 そしてそれを口につけようとして…… 「うおおおおおおっ!! あ、危ねぇ……思わず超神水を呑んじまうとこだったじゃねぇか……!」 何とか湯呑みをこぼさずにテーブルに置くと、全身から冷や汗が溢れ出てきた。 自分の間抜けさに呆れ果てる。 『足元どころか脳みそもお留守かよ俺は……とにかく落ち着け、俺』 必死に自分に言い聞かせ、深呼吸を数回繰り返す。 「よし、落ち着いた」 そしてヤムチャの心臓が――― ガチャリ ――― 一回飛ばして打った。 全身を硬直させたまま、機械の様にギギギと首を回し入り口のドアノブを見やる。 しばらく見つめるが異常はない。 気のせいか――と、思った瞬間。 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャッ!! ガタタンッ 今度は連続でノブが鳴り、ヤムチャは驚いて椅子を蹴飛ばしてしまう。 そしてそれと同時にノブも鳴るのをピタリと止めた。 ヤムチャは自分の愚かさをこの時ほど呪ったことはなかった。 全身から脂汗を噴出させてヤムチャはドアの前にいる存在に神経を集中させる。 チラリと後ろを見て、退路を確認してみる。1m四方の窓があった。 いざとなればその窓をぶち破って逃げ出すしかない。 ―――コン、コン ノックの音が響く。 ヤムチャは応えない。 猫足立ちに構え、いつでも動けるように体勢を整える。 すると―― 「あの、夜分に申し訳ありません。私は姉崎まもりと申します。 今、暴漢に襲われて逃げてきたところなんです。 お願いします、警戒するのは解りますけれどどうか匿って貰えないでしょうか?」 若い女性の声。その声にヤムチャは聞き覚えがあった。 『さっきの悲鳴と同じ声……か?』 何分聞いたのが悲鳴なので判断が難しい。 それに何か違和感が粘りつくように頭の中に残る。その違和感の正体は判らないが。 しかし、その証言と状況は一致する。 ここは同一人物と判断してもいいかも知れない。 だが今ここで問題なのは、襲撃者だ。 ここでヤムチャは意を決して尋ねてみることにする。 「その、あんたを襲った暴漢とやらはどうした?」 「何とか……撒けたと、思います。 しかし今も私を探しているでしょう。 お願いです! 私を助けてください!」 最後の方は涙声になっていた。 流石に罪悪感と同情心がヤムチャに芽生える。 自分の身を優先する余りに、か弱い女性にこんな仕打ちをしてしまうとは…… ヤムチャは自分の行いを上辺だけ恥じ、ドアノブに手を掛ける。 「すまない、不安だったろう。さぁ入って!」 ドアを開けるとそこにはヤムチャのストライクど真ん中の美少女が目に涙を溜めて立っていた。 余程怖かったのであろうか、そのままヤムチャの胸に飛び込んでくる。 『ウホッ♪』 ヤムチャは思わぬ役得に、相好を崩す。 「怖かっただろう……今からは俺が君を護るから安心して……」 まもりの肩に手を回そうとして、身体の動きが鈍いのに気が付いた。 「?」 何故だか脇腹の辺りが熱い。 それを自覚した瞬間、その熱さは灼熱へと変わりヤムチャの全身を貫く。 その灼熱がナイフで刺された痛みだと理解し、ようやくヤムチャは違和感に思い当たった。 『警戒するのは解りますけれどどうか匿って貰えないでしょうか?』 ――今、暴漢とやらに襲われたばかりなのに ――こんな殺し合いなんて異常な状況に放り込まれているのに 何 故 彼 女 の 方 が 警 戒 し な い ? それは彼女の方が襲撃者だから―― ヤムチャは自分の愚かさを海よりも深く後悔しながら、床に倒れ伏した。 まもりは扉を閉め、ヤムチャを部屋の中央まで引っ張っていく。 「……ぐっ、ち、畜生……頼む、助け……」 「あなたも、喋れるんですね。 それともこういう毒なのかな?」 まもりはヤムチャから手を離すと、不思議そうに血の付いたナイフを見やる。 ヤムチャは全身が痺れ、感覚が殆ど無くなって意識も霞がかっていたが、 未だ気を失ってはいなかった。 痺れのおかげで痛覚も鈍くなり、何とか助かろうと考えをめぐらす。 しかし――まもりにナイフを喉元に突きつけられ、言葉を失くした。 「ごめんなさい……こんなこと本当はしたくないんですけど……仕方ないんです。 質問に答えてください。あなたは小早川セナという少年を知っていますか?」 突然の質問にヤムチャはブルブルと慌てて首を振る。 そしてヤムチャは心底から震え上がった。 『ごめんなさい』 普通ならこの状況でこんな言葉をかけられても白々しいと考えるところだが、 ヤムチャには解ってしまった……この少女は 本 気 で謝っている! それは彼女が正気であることの証明。 しかし行動そのものはこの殺人ゲームの狂気に囚われたとしか思えない。 狂気の領域にいながらにして正気を保っている。 その彼女の精神の危うさにヤムチャは絶望を垣間見る。 自分はもう――助からないかも知れない。 まもりはそのヤムチャの答えに落胆したようだが、次の質問を開始する。 「あなたの知り合いと、その弱点になり得ることを教えてください」 ヤムチャは考える。 この女は悟空たちも自分のように罠にはめて殺そうとしている。 なら嘘の情報を教えてしまえば…… ヤムチャはニヘラ、と愛想笑いをして、偽情報をまもりに吹き込んでいく。 ヘラヘラと笑いながら調子に乗って喋っていると、突然右の小指を切り飛ばされた。 「うぎゃぁああああああ!?」 痛みは鈍い。しかし自分の指が目の前で切断されるのを見て正気でいられる筈もない。 怯えながらまもりを見ると、哀しそうな表情でこちらを見つめていた。 「ごめんなさい……でも、本当のことを教えてほしいんです。 あなたの先ほどからの言葉は少しも信用ができませんでした…… 仲間を想う気持ちは解ります。でも私も必死なんです。 どうかお願いします――」 ペコリ、と頭を下げるまもりを見て。 ヤムチャは喋った。 今度こそ真実の情報を。 内から湧き出る恐怖に押し出されるかのごとく、湯水のように吐き出した。 その情報をまもりは脳内に書き込んでいく。 必要なことを全て記憶し、今度はヤムチャの支給品について尋ねた。 その時、ヤムチャの脳内に電球が浮かび上がる。 机の上の超神水。説明書は自分の胴着の懐だ。 まもりがその詳細を知るには自分の口をもってするしかない。 『よくもさんざん嬲ってくれたな。報いを受けさせてやるぜ!』 「つ、机の上にある壷に入った水がそうだ…… 飲むと自分の中に隠された力が目覚めるらしい。 あ、あんたは見たところ普通の人間みたいだが その水を飲めば、超人になれるぜ?」 嘘は言っていない。 毒に耐えるだけの素質があれば超人になれるはずだ。 しかし目の前の少女にはどう見ても毒に耐性があるようには見えない。 「そうですか……」 まもりは机の上にあった湯飲みを手に取る。 『やった! こっちを疑っていない! そのまま飲んでくたばっちまえ!!』 ヤムチャは必死に頭の中で念じる。 すると、まもりはクルリとヤムチャのほうを振り向いた。 ビクっと硬直するヤムチャ。 「じゃあ、ヤムチャさん……これが最後のお願いです」 『最後? 最後ってことはこれで解放されるのか?』 僅かな希望に顔を輝かせる。 「この水を飲んでみてください」 ――時が……止まった ……そして時は動き出す。 「え?」 「この水を飲んでくださいと言いました」 「え? いや、でも。 それ飲むと俺の隠された力が目覚めてアンタに危害を加えるかも……」 「そうですね。でもあなたが強くなったからといって その全身を侵している毒を消せるとは思えないんです。 どうかご心配なく」 まもりは湯飲みを手にしたままゆっくりとこちらへ近づいてくる。 上体を起こされ、湯呑みがヤムチャの唇に近づく。 「ま、待て! やめてくれ!」 「どうしてですか? これであなたは強くなれるんでしょう?」 「そ、それは……」 まもりの右手がヤムチャの左頬を撫でる。 その手がヤムチャから離れたとき、その手にはいつの間にかナイフと、 奇妙な何かが指の間に挟まれていた。 ――それは……ヤムチャの左耳だった。 「うぉぉおおおおおおおおおおおおっ!!」 血がダラダラと顎を伝って胴着を朱に染める。 「どうしてですか? これであなたは強くなれるんでしょう?」 先ほどと一言一句同じ質問。しかし威圧感は全く別物だった。 観念したヤムチャは超神水の毒性も、説明書のことも全てを話す。 悟空だけしか成功者がいないと後から伝え聞いたことも。 「そうだったんですか……」 まもりは説明書に目を通しながら、深く頷く。 「それじゃあ、今度こそこの水を飲んでください」 「ちょ、ま、さっき説明しただろう? 俺には超神水の毒に耐える自信なんてない! 頼む、助け……」 「私もこの水の毒がどういったものなのか知る必要があるんです。 私があなたに要求することはこれが最後です。 どうかお願いします」 そう言いながら、まもりはヤムチャの鼻をつまみ超神水を ヤムチャの口に流し込んでいく。 身体の自由が利かないヤムチャはろくに抵抗することも出来ない。 「がぼっ、ぐぼぼ……グクンッ――プハッ、ケホッケホッ」 飲み込んだ。そして少しの間咳き込む。 「あれ?」 なんともない。 『まさか俺には悟空に匹敵する才能があったのか!? いやっほ……』 脳内で歓声を上げようとして、突如襲ってきた激痛に思考が中断される。 最初にナイフに刺されたときの痛みなど比ではない、 全身を焼けた鉄串で滅多刺しにされるかのような激痛。 「がっ……!ぐあ、ぎぇええ……!!」 全身が麻痺しているため暴れることも出来ない。 身体を痙攣させながらヤムチャは必死に声を絞り出す。 まもりは少し離れた場所で恐ろしそうにヤムチャの様子を見守っていた。 涙を流し、鼻水をたらし、涎を垂れながらヤムチャは白目を剥いた。 時折、思い出したように身体がビクッと痙攣する以外は、 もうピクリとも動かない。声も上がらない。 山吹色の胴着の股間あたりから湯気と液体が染み出してくる。 まもりは一つ、溜息をつくと超神水をカプセルに戻してデイパックの中に入れた。 入り口のドアを開け、思い出したかのように振り返る。 「ありがとうございました。 嘘でも私を護るといってくれて嬉しかったです……さようなら。 そして、本当にごめんなさい」 ヤムチャに向かって深々とお辞儀をする。 そして―― キィィィィーーーーパタン。 まもりはその場を後にした。 その時、まもりは一つのミスをしたと言えるかも知れない。 それはヤムチャの死を確認しなかったこと。 彼はここまで精神と肉体を蹂躙されながらも未だ生きていた。 麻痺毒で暴れることが出来ず、結果体力の消耗を抑えられたのが、 一つの幸運だったかも知れない。 気絶して痛みを遮断できたのが一つの幸運だったかも知れない。 その結果、仮死状態となり身体機能が低下したため、 傷口からの出血が止まったのが一つの幸運だったかも知れない。 そしてそれは……生きようとする狼の執念だったかも知れない。 ともかくヤムチャの命運は未だ尽きてはいなかった。 しかし例え目覚めても精神に傷を負っているかも知れない。 このまま彼が目覚めることなく黄泉の眠りにつくのか…… それとも新たな力に目覚め、立ち上がるのか…… それは誰も知らない。 【京都府 (1日目)/黎明】 【姉崎まもり@アイシールド21】 [状態]:若干の疲労 [装備]:中期型ベンズナイフ@HUNTER×HUNTER [道具]:魔弾銃@ダイの大冒険 空の魔弾×1 メラミ×1 ヒャダルコ×2 イオラ×2 キアリー×2 ベホイミ×2 超神水@DRAGON BALL 支給品一式、食料・水3人分 [思考]:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害 【ヤムチャ@DRAGON BALL】 [状態]:仮死状態、麻痺毒、超神水の試練中、失禁 右小指喪失、左耳喪失、左脇腹に創傷、中量の失血 現在は止まっているが活動を再開すれば再び出血の可能性アリ [装備]:無し [道具]:無し [思考]:……… ※ヤムチャの麻痺毒は例え目覚めても解毒されませんが、解毒自体は可能です。 超神水の毒は試練が終了するまで決して消えません。 目覚めても精神的疾患を負っている可能性があります。 時系列順で読む Back いちご白書 Next 近づく誤解 投下順で読む Back いちご白書 Next 暴走列島 035 月下の誓い 姉崎まもり 085 見えない価値 026 噛ませすらになれなかった漢 ヤムチャ 105 大蛇と餓狼
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/57.html
照り付ける太陽と紺碧の海。 熱い陽光を覚ますかのようにさわやかな海風がわたる。 透明度の高い海中に目をやれば、色とりどりの魚が薄い水色の海中に華やかさを添える。 東部オリョール海。 なにもなければここ南洋は楽園と称してかまわない海だろう。 「なにもなければ、な…」 双眼鏡を下した青年-というには少々歳のいった男は独り言ちた。 彼の頬に当たる海風に含まれる鉄と油と硝煙の匂いがここが楽園でないことを示していた。 水平線の彼方に黒煙が上がっている。 上空には任務を終え母艦に戻る艦載機の轟音。 「提督。撃沈、軽巡1。大破、雷巡2、戦艦と空母は無傷です」 太眉と切りそろえた前髪が印象的な艦娘が男-この艦隊の司令官に戦況を伝える。 「了解。航空先制はまずまずか…。一航戦を下がらせろ」 「はい、赤城さんと加賀さんには必要以上に前に出ないように伝えます」 「ふふ、相変わらず気が付くな。妙高」 妙高型一番艦妙高。提督の鎮守府には妹たちに遅れてやってきた。 どこか、ほんわかぼんやりしたような艦娘だが、さすがに4姉妹の長女だけあってかしっかりとしており何くれとなく提督に尽くしてくれる。 妙高の何気ない気づかいに思わず頬を緩め頭を撫でてしまう。 「……。では、行ってきます」 されるがままに掌を堪能した妙高は、ドキドキする胸と上気した頬を隠すよう にクルリと背を向けた。 提督の顔に緊張が走る。 「うむ。戦略的にはもう勝っている。無理をしないように皆に伝えてくれ」 「了解しました……、第5戦隊敵艦隊に突撃します」 号令一下、かつて連合艦隊が誇った一等巡洋艦4隻の魂を引き継いだ艦娘達が35ノットの快速力で飛び出した。 世界を瞠目させた強武装の一万トン級巡洋艦妙高型の魂は今、艦娘として蘇り、 再び祖国を脅かす夷敵-深海棲艦を倒すため戦場を疾駆する。 紺碧の海を割り裂いて白い航跡がたなびく。 眼前には戦艦を先頭とした敵艦隊が迫る。 戦艦ル級の生気のない青白い顔に薄い笑みが浮かんでいる事すら見える。 敵艦、発砲。 4隻の周囲、右に左に16インチ、8インチといった砲撃の水柱が上がる。 水柱の壁をくぐり抜けるように彼女たちは距離をつめていく。 柔肌を至近弾の破片がかするがものともせず疾る。 そして、距離10,000。 「撃ちます!」 「砲雷撃戦用意!」 「砲雷撃戦てぇーっ!」 「撃ち方、始めてくださぁーい!」 空と海の狭間に乙女たちの号令がかかる。 20.3サンチ連装砲が敵を指向し測距を始める。 同時に61サンチ魚雷発射管が敵の未来位置を定め回頭する。 いち早く4姉妹の中で最も冷静かつ戦術判断に優れる次女の那智が砲撃を開始する。 「敵一番艦に初弾、夾叉!良し、いいぞ。姉さん、ワレ統制砲撃ヲ希望ス」 「了解、目標敵一番艦、5戦隊統制砲撃始メ!」 砲撃データが姉妹たちに分配されるや否や、4姉妹で最も血気盛んな三女足柄が10門の主砲を斉射する。 「弾幕を張りなさないな、撃て!撃てぇー!」 砲撃時の発射干渉を避けるため0.03秒ずつ遅延して放たれた砲弾は彼女のかつ ての異名 餓狼”のように敵戦艦に襲い掛かった。 水柱と閃光。 足柄の砲撃を追うように妙高、那智、羽黒の砲撃も命中する。 近距離から放たれた20.3サンチ砲弾は敵戦艦の装甲を食い破り確実にダメージを与えていく。 ル級の能面が歪み、明らかに砲撃の精度が落ちていく。 速度が衰え、煙を吐き出しながら傾斜するル級の陰から空母ヲ級の姿が除く。 「いかん!艦載機を発艦させてるぞ!」 那智が振り返るよりも早く敵艦載機は後方の一航艦に襲い掛かっていた。 上空で直掩滞空していた零戦52型が銀翼を日本刀のように煌かせ敵機に突撃する。 しかし、慢心からか不用意に突出していた母艦を助けるには時間が足らなかった。 急降下爆撃機が猛禽のように赤城と加賀に襲い掛かる。 「敵機直上、急降下!」 飛行甲板に火柱が上がる。 「後方、一航戦に命中弾!火災が発生しています!」 最後尾を進む末の妹羽黒が悲鳴を上げる。 「あの、あのっ、助けに行かないと!」 「大丈夫、羽黒ちゃん。あれぐらいじゃ赤城さんも加賀さんも轟沈しないわ」 パニック気味に叫ぶ羽黒をやんわりと妙高が制する。 「それに対空戦闘は私たちには向いてないわ。私たちは-」 「目の前の敵を葬るだけだ、砲雷撃戦で!」 「そうよ、さあ行くわよ!勝利が私を呼んでいるわ」 三者三様の励ましを受けて羽黒はハッと我に返る。 まだ目に涙は溜まっていたが顔を上げ戦場を見据える。 「わかりました。精一杯、頑張ります!」 電撃を放ちながら雲海を進む一匹の竜のごとく妙高級は縦横に戦場を駆ける。 既にヲ級は爆発を繰り返しながら傾斜し、最後に残った重巡ももはや雷撃する 余裕もなくなっている。 距離5,000。 93式酸素魚雷の必中距離だ。 「青い殺人者」「ロングランス」と恐れられた連合艦隊所属艦艇の最大の秘密兵器にして最強の切り札。 「5戦隊統制雷撃戦用意」 「統制雷撃戦、ヨーソロー」 「そのままそのまま、よーい、テェーっ」 「魚雷発射、始めてくださーい!」 海原に放たれた32本の魚雷は静かにしかし素早く海中を進む。 3分後。 「敵戦艦に水柱4つ!巡洋艦に水柱2つ確認。敵艦大傾斜、沈みます」 冷静に敵情を見わたした那智が報告する。 「皆さんの努力結果です。よく頑張りました」 にっこりと妙高がほほ笑む。 「だって私がいるんだもの!当然の結果よね!大勝利!」 至近弾で少々傷を負ったが未だに元気な足柄が興奮冷めやらぬ様子で胸をそらす。 「勝って兜のなんとやら、だ。さあ、帰投しよう」 那智が怜悧な顔に満足げな笑みを浮かべてたしなめた。 4人姉妹は傷ついた2隻の空母を護衛しつつ母港への帰路に就いた。 未だ沸き立つ海面を眺めながら羽黒は呟いた。 「このまま、すべての戦いが終わってしまえばいいのに」 「以上で戦闘報告を終わります。……あの提督?」 東部オリョール海突破、おまけに戦闘後新しい仲間蒼龍を戦列に加えられたにも関わらず提督の顔は冴えなかった。 「主力空母が2隻とも大破、これは痛いな…」 母港にたどり着くやいなや2隻の空母はドッグ入りとなった。 「俺のミスだ。陣形をもう少し考えてやれば損害は防げたかもしれないな…」 この男は戦果よりも艦娘の損害を気にする、いや気にしすぎる傾向があった。 「それは後知恵というものだ。戦略的にも戦術的にも我々の勝利だ」 「そうです、そうです!大勝利ですよ」 冷静に那智が、興奮冷めやらぬ足柄が提督を慰める。 「あの、司令官さん。私ももっと頑張りますから…あの、その…」 わたわたする羽黒の頭を撫でながら提督はようやく笑みを浮かべた。 「そうだな、皆ありがとう。一航戦が使えない以上大規模な作戦は難しい。しばらくは蒼龍の慣熟訓練と資源の備蓄務めるとしようか」 「ということは?」 「第5戦隊もしばらくはお休みだ。みな、ご苦労だった」 4人の艦娘達は揃って執務室を辞した。 「さて、しばらくは休みだな。ということは少なくとも今日はしっかりと飲めるわけだ」 普段はクールな那智が相好を崩す。 「それなら獅南島に果物を使った美味しいお酒があるらしいわよ」 ほんわかと妙高が返した。 「なにっ?それはいいな。よし、みなで繰り出そう」 「勝利をつかむには休息も大事ね」 「あの、あの、頑張ります」 こうして4姉妹は夜の街に消えていった。 …… ……… ………… それから数時間後。 羽黒は多少フラフラする頭を抱えて鎮守府に帰ってきた。 4人は獅南島の一流ホテルのバーで杯を交わした。 いつものように、那智がハイスピードでグラスを開けていった。 妙高は那智に付き合ってしばらく飲んでいたが、とうとう 轟沈 してしまいカウンターに突っ伏して幸せな寝息を立てている。 獅南島は日本酒こそ少ないものの、かつてイギリス統治下だったこともあり船乗りの酒-ジンやラムが豊富に取り揃えられていた。 多分、那智は未だに飲んでいる。多分。 『今日ぐらいは飲ませてくれ』と那智は言うが出撃前以外はほとんど毎日飲んでることを羽黒は知っていた。飲んでもほとんど乱れないが飲み始めると止まらないことも知っていた。 さすがに出撃した後は自室の布団で寝たいと思った羽黒は妙高を起こすことを断念して一人鎮守府への家路についた。 「……羽黒山、飲みたいなぁ」 はるか遠い祖国のきりっとした飲み口と芳醇な香りを持つ酒を思い出しながらフラフラと鎮守府の廊下を歩く。 「そう言えば足柄姉さんはどこに行ったんだろう?」 飲んでる最中も興奮気味だった足柄は2時間ほど前に『おさまりがつかないわ。しようがない夜戦してくる』と大股で店を出ていった。 『頑張ってね~』と手を振る妙高と『ふんっ』とプイと顔を背け不機嫌にグラスを乾した那智をいぶかしげに見ながらその背を見送った。 「姉さんと一緒に帰れば良かったかな?」 そう思いながらふと顔を上げると司令官公室の方からなにやら声が聞こえてきた。 艦娘達の寮に行くのに提督の自室前を通るのが近道であることは鎮守府では半ば常識であった。 小首を傾げて扉に近づく。 「……ぅぅ……ぃぃ…ゃぁ……」 薄らと開いたドアから漏れ聞こえる声に羽黒は聞き覚えがあった。 「足柄姉さん?」 そっと中を覗いて羽黒は言葉を失った。 「あぁぁぅっ、おぉぉぉぉぉぅっ」 全裸の足柄がベットの上で四つん這いになり嬌声をあげている。 覆いかぶさるように足柄を抱きしめる影を見て羽黒は腰が抜けたようにしゃがみこむ。 「し、司令官さん」 夜戦で鍛えた目が影の正体をとらえる。汗みずくで腰を振る男は紛れもなく鎮守府の顔、提督であった。 「足柄、少し、強すぎないか?」 結合部は羽黒の位置からは良く見えないが長大な男根が足柄のすらりと伸びた足の間を行き来しているのがわかる。 「いゃいやぁん、もっと、もっと突いてぇっ」 ストロークが弱くなると足柄は尻を振って抗議する。 「いやぁん、おちんちん、ズボスボして、くださぁい」 普段の自信に満ちた表情から想像もつかない蕩けた”メス”の表情で肩越しに提督をねめつける。 「全く、仕方がない奴だっ」 「あぉぉぉ、ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 再び力強く抽挿を開始する。足柄の豊満な尻に提督の腰が当たりバシバシとリズミカルな音が響く。 「あっおっおっおっぉっんんんん、気持ち、いいっ」 提督は腰を叩き付けながらそっと足柄の股間に手をやる。 濡れた秘所、太い男根を食い占める膣口の上あたりをまさぐりそれを見つける。 「ひゃっんっ、それっ、イイっ」 背筋をビクンと跳ねさせて足柄の嬌声が一オクターブ上がる。 提督はクリトリスを摘まんだのだ。 「足柄はこれが好きだったな」 「くぅぅぅっクリ、お豆ぇもっと、もっとぉぉ、引っ張ってぇ、痛くしてぇ」 さすがに全力で引っ張ったりはしないがそれでも指の力を強める。 膨らんだクリトリスを引っ張るだけではなく押し込むようにぐりぐりと擦る。 「そ、それ、それぇぇ、くひぃぃぃぃぃ!」 ぶるぶると背を震わせながら足柄がよがる。 抽挿のたびに豊満な乳房が揺れる。 「あっあっあっぁっんん、気持ちいいぃぃっ」 「おちんちん、中にいるのぉ、いい、いいのぉ」 戦闘で昂ぶった足柄を落ち着かせるのに抱くようになったのはいつ以来だろうか。 この方法をとっている-肉体関係を持っている艦娘は何も足柄だけではない。 そのことを、自分以外の艦娘が彼に抱かれていることを彼女たちは皆知っている。それでもなお、彼との肉体関係を続けている。 提督自身これが最良の解決方法だとは思わないが少なくとも足柄達はこの方法を受け入れている。 だが、提督とて男だ。普段、きりっとした自信家の足柄が自分に組み敷かれてあられもない声をあげるのに興奮しないわけが無かった。 「ああああっ、好き、好きぃっ、くあぁぁぁぁっ」 「っく、そんなにセックスが好き、か」 自嘲も込めて提督が問う。 「ちがっ、違うぅんっ」 足柄は乱れた髪をさらに振り乱して答えた。 「提督もぉ、提督も好きぃぃぃ」 足柄の潤んだ眼を見て抽挿が止まる。 「提督も、提督の……おちんちんも、好きぃ」 ぞくりとするような会心の笑顔を見て、提督の心に火が付く。 さっきに倍する力で己が男根を足柄のぬかるみにねじりこむ。 「あっあっぁっあっあっ、すごっ、強いっ」 熱い肉筒が嫌というほど男根を食い締める。 「くっ、だめだ。出る」 そう言ってペニスを引き抜こうとする提督に足柄は尻を押し付ける。 「いやっ、いやぁっ、抜かないでぇぇ」 「お、おい、足柄」 足柄は後ろで回した手で腰を抑える提督の手を握る。 「お願い。このまま、はぁはぁはぁ、このまま来てっ」 足柄の手を握り返すともう一方の手で抱くように上半身を持ち上げる。 「いくぞっ」 今までに無い強いストロークで足柄の最奥を突き上げる。 「あは、ぉっおおっ、んっ、中に、中にきてぇぇぇっ」 「んっ出るっ」 ペニスが胴震いすると灼熱の白濁が艦砲射撃のように足柄の奥を叩いた。 「あっ熱ぃ、イクッ、イグゥ、イグぅぅぅぅぅぅ」 がくがくと体を痙攣させてそのまま後ろに崩れる。 受け止めた提督も荒い息のまま足柄とともにゆっくりとベットに倒れる。 ずるりとペニスが足柄の膣から抜け出る。 後を追うようにして白濁が秘裂からどろりと垂れた。 愛しい艦娘を胸に抱く男と戦いの高揚と快楽の絶頂を味わいつくした巡洋艦娘が戸口から足早に去っていく影に気付くことは無かった。
https://w.atwiki.jp/83452/pages/15704.html
929. 1です ◆duJq3nZ.QQ 2011/09/27(火) 03 05 03.74 ID o2+aJAfW0 →A:「ありがとう!! また今度も教えてね!」 ムギちゃん優しいなー。ありがとう! 紬のレクチャーの誘いを受ける。 唯がきらきらした目を向けると、紬も笑って、「もちろんよ!」と告げた。 紬「いつでもいってね。唯ちゃんならすぐにできるわ。それに、今だって十分美味しいもの」 唯「そ、そうかなぁ……えへへっ」 おだてられた唯がふにゃりと相好を崩すと、それを見ていた律の声が飛んできた。 律「果たしてうまく淹れられるのはいつのことになるやら……」 唯「むうう! がんばるもん!」 ようやく律の方を向いた唯に、こつりと小突いてみせる律。 律「……紅茶よりも、お前はもっとギターがんばれっつーの!」 唯「り、両方がんばるもん!」 澪「……唯、受験もな。勉強も頑張るんだぞ」 梓「今度テストありますしね」 唯「ぜ、ぜんぶがんばるもんっ!!」 唯が鼻息荒く決意すると、その様子がおかしかったのか、徐々に他の四人が笑い始めた。 唯はそれを見てどこか恥ずかしい気分になりながらも、つられて笑った。 紬(……うふふ、うれしい……) 紬(また、唯ちゃんと一緒にいられる時間が増えた……) 紬(たくさん、たくさん教えてあげたいな……) 紬(……なんだか、唯ちゃんとの距離が……皆より、縮まった気がする……) 紬(……それは、うぬぼれかな……? でも……ふふ♪) 紬の【楽しい】ステータスが 0/5 → 1/5 にアップしました! ※紬のレクチャーを受けることができるようになりました。 ※いつも受けられるわけではないので、ご注意を。 930. 1です ◆duJq3nZ.QQ 2011/09/27(火) 03 05 33.50 ID o2+aJAfW0 律(……なんだろう) 律(……なんで、置いてけぼりにされた気分になるんだ……?) 律(……唯に対する紬の態度もちょっとひっかかるし……) 律(……やめよう……唯が他の奴とどう付き合ってても……それは唯の勝手だし) 律(……もうあれこれ気にして、また唯と仲違いになんてなりたくない) 律(……でも……) 澪(どうしてだろう……) 澪(唯と律がふざけて、私が怒って梓が呆れて、ムギは笑顔で見ていて……) 澪(いつもの部活風景に戻っただけなのに……戻ってほしいって思っていたくせに……) 澪(律とは前以上に仲よさそうだし……ムギとも……) 澪(なんか、私に相談してきてくれた頃のことが……嘘みたいだ) 澪(まるで、最初からそんなことがなかったみたいに……) 澪(そんなの、いやだ……) 梓(……4月辺りから、なんとなく部活での空気が気まずかったのに……嘘みたい) 梓(……律先輩とはいつの間にか元通りになってて……) 梓(澪先輩とも、今日部活に来る前何かあったみたいだし……) 梓(……今日はずっと、ムギ先輩と一緒にいるし……) 梓(……でも、同級生なんだからそれくらいは当たり前、だよね……) 梓(新入生歓迎会のときにも思ったけど……やっぱり、こういうときって……年下は、寂しいな) 梓(……純なら、少しは違うのかな……って……私のばか) ※律と澪がかなり不安になってきているようです。 ※梓が、なんとなくもどかしくなってきているようです。 931. 1です ◆duJq3nZ.QQ 2011/09/27(火) 03 06 01.45 ID o2+aJAfW0 ティータイムのみで本日の部活は終わり、そろそろと帰り支度をし始めた。 鞄を肩にかけ、ギー太を背負う唯。 梓「唯先輩、置いて行かなくていいんですか? 外はまだ降っていますよ?」 唯「でもぉ〜、片時もギー太と離れたくないんだも〜ん」 梓「……もう、濡れても知りませんよ?」 くねくねとしながらギー太を抱きしめる唯に、梓が呆れたような顔を向けた。 五人は揃って音楽室を出て、まだざあざあと聞こえる雨音の中を歩きだして行く。 下駄箱にたどり着くと、五人は各々靴をはきかえ始めた。 唯がなんとなくぼんやりして動かずにいると、すでに靴をはき終えた澪が振り向いた。 澪「唯、どうしたんだ? 早く行こう」 紬「雨、もっとひどくなるかもしれないしね」 唯「うーん……」 唯はそこでしばし思案した。 *選択肢* A:「やっぱり部室にギー太を置いてくるね!」 濡れたら大変だしね。しばしのお別れだよギー太……。部室に向かう。 B:「そうだね、いこういこう!」 暗い天気だけど、皆と一緒なら怖くないよ! 学校を出る。 C:「ひいいっ? な、なに?」 なんかよく分からない雄叫びが聞こえてくる!? 声のする方へ。 D:「よしっ、私、早めに帰るよ!!」 皆より早歩きで家に向かう。すごい雨だねー。 967. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) 2011/09/27(火) 22 25 00.08 ID EwFAW+COo C 何かあずにゃんに純ちゃんフラグ立ったみたいになってる気がするのは気のせいか 973. 1です ◆duJq3nZ.QQ 2011/09/29(木) 01 40 41.97 ID wqJLCECx0 →C:「ひいいっ? な、なに?」 なんかよく分からない雄叫びが聞こえてくる!? 声のする方へ。 そのとき、唯の思考を遮るように甲高い声が耳に聞こえてきた。 悲鳴のような唸り声のような、得体のしれない音に唯は思わず体をぶるりと震わせる。 唯「ひいいっ! な、なななななにっ!?」 澪「ど、どうしたんだ唯?」 いきなり両耳に手を当てて体をすくめる唯を、澪が心配そうに見つめる。 降り続く雨音のためか、澪には今の音が聞こえなかったようだ。 唯「い、いま変な叫び声が聞こえてきたんだよぉ!」 澪「えっ……いや、こ、こここんなときに冗談言うなよ唯……なあムギ?」 紬「うん……私も聞こえなかったけど……」 律「あははっ、唯の冗談もまだまだだなー」 唯「ほ、ほんとだよ! 金切り声みたいな悲鳴が……」 澪「や、やややややめろよおおおっ!!」 唯の言葉に、澪は思わず恐怖の声を上げた。 なおも説明しようとする唯を、律は呆れたような目で、紬はわくわくしているように、そして澪はプルプルと震えながら固く目をつぶっていた。 すると、ひょいと梓が下駄箱の陰から姿を現した。 梓「もう靴はきましたよー。……あれ、先輩達まだですか?」 律「唯の怪談話に付き合ってたんだよ」 紬「うふふ、なかなかスリリングだったわ」 唯「ほんとだよう……すっごい悲鳴が」 澪「だからやめろよおお!!!」 梓「……だいたい何となく事情は呑み込めました」 唯「ほ、ほんとっ!? あっずにゃーん!」 唯が期待を込めた目で梓を見つめると、梓は軽くそれをいなして答えた。 梓「唯先輩、ふざけていないで早く帰りましょう」 唯「な、なんでええ!!」 律「だな。ほら、澪も早くしろよ」 澪「うう、う……」 紬「あらあら」 次々と靴に履き替えていく四人を少し恨みがましく見つめながら、渋々とギー太を背負いなおした。 *選択肢* A:「ちぇー。わかったよう……」 ぶーぶー。皆ひどいよう。でも雨がひどくならないうちに帰った方がいいかな? B:「本当に聞こえたんだよっ! 皆もちょっと来てみてよ!」 こうなったら何が何でも皆を信じさせるしかないよね! C:「むー! じゃあ私、確かめに行ってくるもんね!」 声の正体を突き止めに行くもん! 誰にも止められないよ! 974. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/29(木) 01 41 53.17 ID HUWbrAZHo A 979. 1です ◆duJq3nZ.QQ 2011/09/29(木) 02 33 14.36 ID wqJLCECx0 →A:「ちぇー。わかったよう……」 ぶーぶー。皆ひどいよう。でも雨がひどくならないうちに帰った方がいいかな? 唯「絶対聞こえたのにー。……ぶつぶつ」 律「おい、ゆいー。帰るぞ早く来いよ」 唯「むうう。みんなひどいよう……信じてくれてもいいじゃん」 唯は謎の悲鳴の正体に心を惹かれながらも、すでに歩き出している四人の後を追った。 一歩外に出ると、相変わらず雨が降り続いており、冷たい風が肌に吹きつけてくる。 五人は揃って傘を開くと、水たまりを避けながら家路を歩いて行った。 律「あーあ……こんな雨の中……うっ、さぶっ!! 帰りたくないよなぁ……」 梓「靴に水が入ってきましたよ……」 紬「そうね、少し早歩きで帰る? その方が皆いいだろうし……」 澪「そ、そうだな……そうしよう……」 唯はいまだに口をとがらせながらも、四人を見て何かを思いついたかのようににんまりと笑った。 *選択肢* A:「寒いといえばねー、りっちゃんが冬のときのカイロをずっと鞄の中に入れっぱなしだったんだよ! ぷぷぷ……」 ちょっとした仕返しだもん! りっちゃんをからかっちゃおう! 律とのことを皆に話す。 B:「水といえばねー、あずにゃんが私のブラウス濡らしちゃったんだよ。冷たかったなぁ……にやり」 ちょっとした仕返しだよ! あずにゃんらしからぬ失態を皆に暴露だよ! 梓とのことを皆に話す。 C:「こんな皆に優しいムギちゃんでも! 今日は私だけに紅茶を淹れてくれたんだよ! わっはっは!」 ちょっとした仕返し……かな? ムギちゃんとの秘密だったけど、いってもいいよね? 紬とのことを皆に話す。 D:「澪ちゃん、なんで震えてるの? もしかして……ユイーさんの声が聞こえたのかな? ひひひひ♪」 ちょっとした仕返し……にしては刺激が強いかな? うふふ、澪ちゃんをいじめちゃおう♪ 澪とのことを皆に話す。 E:「だ、だね……早く帰ろう!」 ……まあ、いっか。皆と楽しく帰ろうっと。 983. 1です ◆duJq3nZ.QQ 2011/09/29(木) 02 41 57.14 ID wqJLCECx0 短いですが、今日はここまでです。 皆さん、遅くまでありがとうございました! さて、このスレもそろそろ終わりですね…… これも、皆さんのおかげです! ほんとうにありがとうございます! 安価して下さる方々、コメントやご意見を下さる方々、集計して下さる方々…… このSSを読んでくださっている皆様には心から感謝しております。 四スレ目に到達できましたのも、改めて皆様のおかげです。厚くお礼申しあげます。 明日にでも次スレ立てようと思います。 スレの残りからして誘導はできなさそう……なので、お手数ですが検索してくださるようお願いします。次のスレタイは、Part4ですね。 Part3では、たびたび投下が空いてしまうことが多く、ご迷惑をおかけしました……。 さらに量・頻度ともにパワーアップしていけるよう頑張って参ります。 では、最後は安価時間ではなくこのスレの1000までです。 みなさん、お付き合い頂きありがとうございました! そして、次のスレでも宜しくお願い致します! 998. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/29(木) 12 18 11.52 ID EQWp3IkC0 A5 B3 C1 D0 E8 残り3レス、先に集まったほう優先だから、 仮にAに全部票が入ったとしても、この時点でE決定だね。 988 1の事だから単に一日を無駄にするような選択肢は無いんじゃね? 早く家に帰る=憂だと思う。 戻る
https://w.atwiki.jp/english_anime/pages/423.html
移転先でスクリプト作成続けています
https://w.atwiki.jp/ogasawara/pages/949.html
蒼のあおひと@海法よけ藩国様からのご依頼品 子供たちは能力者!? /*/ 蒼家の三つ子ちゃんにはヒミツがある。 緑の森と森国人が調和をなす海法よけ藩国。豊かな避けの森にほど近い、閑静な住宅地に瀟洒な一軒家が建っている。 薄緑の外壁が暖かく来客を迎える2階建てのこの家こそがかの蒼家のスイートホームである。 ちなみにこの真新しい家、女主人である蒼のあおひとが昨年のクリスマスに行われたのろけ大会で賞品として手に入れた。堂々の一位で、である。 ニューワールド広しといえども忠孝へののろけを語って家を手に入れるという快挙はこの人にしかなしえないであろう。いやまったく、いちゃラブぶりもここまで来れば芸術的ですらあり、あおひとの人となりを十二分に表したエピソードといえよう。 閑話休題。 そんなわけで甘ログの女王、秘密組織のクイーンと数々の異名をほしいままにしてきた彼女も今ではすっかり三児の母。愛する夫と三つ子ちゃんに囲まれ幸せも4乗倍であった。 今日はそんな幸せな家族のある一日を覗いてみよう。 1階にある明るいリビングでは最近歩き方を覚えた三つ子ちゃんが笑顔で声をかけたり手を叩いたりしているあおひとによちよちと懸命に歩み寄っていた。 「翡翠ー、柘榴ー、ひなぎくー」 あおひとに似て銀髪尖り耳の三つ子ちゃんにはそれぞれ特徴がある。 翡翠は緑色の瞳に少したれた耳。柘榴は赤い瞳に少しつり耳。ひなぎくは黄色い瞳にまっすぐ横に伸びた耳。と文字通り名が体を表している。 大きく腕を広げて待つあおひとまであと少し、というところで柘榴が転んだ。床にぺたんと座り込んで大泣きしてしまう。 「あー。よしよし、大丈夫ですかー? 翡翠とひなぎくはあんよが上手ですねー」 柘榴を抱き上げてあやしつつ無事にゴールインした翡翠とひなぎくの頭を撫でるあおひと。 ひなぎくはちょっと得意げにへへーと笑い翡翠はあおひとの足元にごろごろ、あやして貰って泣きやんだ柘榴はあおひとに蝉みたいにへばりついている。 中々どうして、個性的なのは名前だけではない三つ子ちゃんであった。 「もーぅ、柘榴はあまえんぼさんですね~」 何とも可愛らしい三つ子の様子に蕩けんばかりの笑顔で嬉しそうにあおひとが感嘆をもらすと、それまでテーブルについて新聞を読むふりをして微笑ましく様子を見ていた夫、忠孝が優しく声をかけた。 「一人受け持ちましょうか?」 「あ、じゃあ翡翠をお願いします」 微笑んで答えた妻にいそいそと立ち上がって翡翠を抱き上げる。実を言うと忠孝もこの団欒の輪に入る機会を伺っていた。 腕の中でだきついてくる翡翠に一際相好を崩す忠孝。何をさせてもそつのない彼らしく、こどもを抱いている姿も様になっていた。 さすが私の旦那さん~。とか暫し忠孝に見とれてから、あおひとは空いた片腕にひなぎくを呼んだ。 「ひなぎくもおいでー。 …すっごい幸せです」 危なげなくよちよち歩きしてあおひとの腕に収まったひなぎくと、へばりついたままの柘榴を膝の上に抱き寄せる。 笑顔を絶やさずこちらを見上げるひなぎくと甘え足りないのか抱きついたままの柘榴。どっちも可愛くてしようがない。 「えへへー、もうみんな可愛いなぁ」 「そうですね。今のうちに可愛がっておかないと」 ひなぎくのおでこにこつんと自分のおでこを合わせて微笑むあおひとだが翡翠を抱いた忠孝の声は浮かない。 「今のうちじゃないと駄目なんですか?」 「戦争が来ますから」 きょとんとして問いかけたあおひとに忠孝は端的に彼の抱える懸念を述べた。その間も抱き上げた翡翠を軽く揺すったり小さくステップしたりして飽きさせないのはさすがだが。 「ぅ…やっぱりそうですよね…この子達は守りたいなぁ」 肩を落として子供たちをぎゅっと抱き締めると、二人は揃ってその紅葉のような手であおひとの頬にぺたぺたと触れてにこーっと笑った。 「…元気付けてくれてるんですね、ありがとう」 「ははは。子供たちもなぐさめてますね」 「実はこの家で一番心配かけてるの、私かもしれないですね。 旦那さんに愛されて、子供たちにもいっぱい愛されてます」 腕の中の子供達につられて笑顔になったあおひとは感謝と愛を込めて柘榴とひなぎくのおでこに小さくキスした。 この家ではこんなふうに誰かの笑顔が誰かの笑顔になって常に笑いが絶えないのだった。 忠孝も笑っている。その腕の中では翡翠は指をくわえてあおひと達の方を見ていた。やはりお母さんの方がいいのかも知れない。 「翡翠もこっちにきますか?」 それに気付いてくすくす笑いながらあおひとが腕を伸ばした刹那。 翡翠は忠孝の手から消えた。 「ほへ?」 思わず気の抜けた声を上げてきょろきょろと翡翠の姿を探すあおひと。ふと視線を落とすといつの間にか子供達を抱く腕の輪が一人分増えていた。 ひなぎく、柘榴、翡翠。三つ子ちゃんが仲良く並んで抱かれている。 「……」 未だ翡翠を抱いた姿勢のまま、忠孝は口をあんぐり開けて瞬間移動した翡翠をみつめている。茫然自失とする忠孝はかなり貴重かも知れない。 「……うわあ…すごーーーーーい!!!」 「そう言う反応ですか」 きらきらと目を輝かせて翡翠を見ているあおひとに、ようやく呪縛が解けたように忠孝は苦笑して頭をかいた。 出会ってこのかた、こういった事態に対する免疫力というか即応性はどうしてもあおひとに勝てない忠孝であった。 「うわー、うわー、翡翠凄いですー!今のどうやったんですか?!」 「いやまあ、いいんですが」 「え?なにがですか? 翡翠は凄いことが出来るんですね~」 「母は偉大だ」 我が子の意外な才能?を発見して無邪気にはしゃぐあおひとに、忠孝はかなわないな、と感心して苦笑するしかなかった。歩み寄って再び翡翠を抱き取る。 まさしく、母は強し。 そこでふと忠孝は気付いて柘榴の隣でにこにこしているひなぎくに優しく呼びかけてみた。 「ひなぎくは出来るかな?」 その瞬間、ひなぎくはなんでもないことのようにあおひとの腕の中から消えた。 「………」 これはよく見掛ける、頭痛を堪える表情になる忠孝。 「だって、世の中には魔法使いもいるんですしー。 あ、柘榴も出来ますか?」 両親の注目を受けていると分かったのか、それともだっこを独り占めして嬉しいのか柘榴はにこーと笑った。 それだけだった。 「柘榴は出来ないんですね。いい個性です」 「いや、それよりひなぎくはどこに」 まあ何が出来ても出来なくてもあおひと的に万事オッケーらしい。対照的に忠孝はおろおろしている。 たしかに、言われてみればリビングの見える範囲にひなぎくの姿はない。 「ひなぎくー、ひなー?」 さすがに心配になったあおひとが柘榴を抱いたまま名前を呼びながら立ち上がって探しに出ようとすると、やはり唐突に空中からひなぎくが落ちてきた。 これまた狙い澄ましたようにあおひとの腕にすっぽりと収まる。 おまけに何故か大きな猫を抱えていた。 「あ、にゃんこさんだ…。 どこの猫さんなんでしょう?ひなぎく、この猫さんはどなたですか?」 あおひとが首を傾げるとひなぎくも不思議そうに首を傾げる。猫は、ひたすらに迷惑そう。 「ぅ…さすがに子供二人と猫一匹はつらいかも…」 安心して力が抜けたのか、ぺたんとその場に座り込むあおひと。その隙にするりと逃げ出した猫を忠孝が片腕でひょいと確保した。 「あらー、どうしたんでしょうね? 猫さんはどちらからいらっしゃったんですか?」 「お隣さんちの猫みたいですね。返してきますよ」 「すみません、お願いします」 忠孝はやれやれといった感じで歩いていった。その背中を苦笑気味に見送るあおひと。 「ひなぎくはお隣さんまで行ってたんですか? お父さんとお母さんの見えないところに行ったら心配しちゃいます」 言い聞かせてみるのだが、ひなぎくはやっぱり不思議そうに首を傾げる。あおひとは仕方なくこつんとおでこを合わせるに留めた。 程なくして忠孝が溜息をつきながら戻ってきた。 「いやはや。困ったな。どうしましょうか」 「どうしました?」 「この力ですよ。ふむ…」 「確かに、目の届かないところに行ってしまうと心配しちゃいますよねー」 「大きければ選びもできるでしょうが…小さいうちだと、あぶないことになりそうな…」 「翡翠とひなぎくに、どこかいなくなっちゃだめだよって教えてあげないと…」 ふにふにとひなぎくのぷくぷくしたほっぺをつんつんしながらあおひとが呟く。でもどうやって? 「なんとか封印とか…制御ができればいいんですが」 忠孝が悩ましげに翡翠に視線を落とした瞬間、再びその姿が消えた。 反射的に視線を走らせるがリビングの中にその姿はない。あおひとが二人を抱えたまま子供部屋に向かったものの、そこも空振りに終わった。 「翡翠ー?返事してくださいー。 忠孝さんとりあえず落ちついて、二階を探してください。いたら声出して伝えてください」 「は、はい」 再び翡翠を抱えていた姿勢のまま右往左往し始めていた忠孝はあおひとの言葉に反射的に敬礼を返すと、2階へ上がっていった。 忠孝、これでも英雄。かつては鬼善行とかも言われていた。 非常時も関わらずそんな夫の姿を可愛いなぁ、とか思いつつ、あおひとは庭に出てみる。 「翡翠ー?聞こえますかー、翡翠ー」 「上にはいません」 声を上げて探してみるもののやはり翡翠の姿はなく、同じく見付けられないまま二階の窓から顔を出した忠孝が非常に困ったという表情であおひとを見下ろしていた。 「…どこにいったんでしょう…わかりますか?」 柘榴とおでこを合わせてあおひとが呟く。柘榴は目を丸くしている。 と、三度唐突に翡翠が落ちてきた。 慌てて窓から身を乗り出してキャッチする忠孝。こういう時旦那さんが肉体派でよかった、とつくづく思うあおひとだった。 「よかった…」 胸をなで下ろしつつリビングに戻ると、丁度酷く疲れた顔をした忠孝が翡翠を抱いて降りてきたところだった。 「もーーー!!!勝手にいなくなったら心配するじゃないですかーー!! 今、心臓止まるかと思ったんですからね…」 思わず涙目になったあおひとが二人の子供たち抱いたまま、翡翠のおでこにこつんとおでこを当てるが、翡翠はやっぱり良くわかっていなさそうだった。 「伝わらないのは分かってますけれど…いなくなったらお母さんは心配します。 悲しいんです…」 「まいりましたね…」 さすがの忠孝も物理的に解決の出来ない問題には疎い。あおひとの肩に手を置いて嘆息した。 大いに悩む両親に対して元気を出して、というように柘榴はぺたぺたちっちゃい紅葉のような手であおひとの頬を触っている。 「柘榴…ありがとうございます…。 もう、大丈夫です」 柘榴は優しい子だな、とおでこに小さくキスする。すこし甘えん坊で泣き虫だけどあおひとを一生懸命気遣っているのが伝わってくるようだった。 忠孝はそんな家族の結びつきを見て激しく和んで立ち直ると、あらためて解決策を模索し始めた。 「さてさて、どうしましょうか。誰かに相談して、能力を封じちゃいましょうか」 「うぅ、どうしましょう…この子達が大きくなって、選べるようにとか出来るんでしょうか…?」 「いやまあ、便利な能力ではありますが、育つまえに僕が心労で死にます。たぶん」 「私も倒れそうです…。 あぁ、駄目です…今なんだか凄く不安になってしまいました…」 翡翠も抱き寄せて三人ともぎゅ、と抱き締めると不安な気持ちが伝わったのか三つ子ちゃんが揃って盛大に泣き出してしまった。 「うわわわわ、大丈夫、大丈夫ですから。…ね?」 忠孝と二人で慌ててあやし始めるあおひと。結局その日は三つ子ちゃんをあやして寝かしつけるのに手一杯で、具体的な対策を立てることも出来ずに一日が終わってしまった。 代わりに、というわけでもないだろうがそれからぴたりと三つ子ちゃんの不思議な能力の発現はとまってしまった。 数日後。 再び和やかな日常の戻った蒼家のリビングで忠孝は柘榴を抱いている。たかいたかいをさせる度きゃっきゃっと柘榴が笑った。 「結局あの能力はなんだったんでしょうねえ」 「んー、素養はあったんだと思うんですけれど…私が不安になったから、使わないようになったんじゃないですかね? どうも忠孝さんだけじゃなくてこの子達にも愛されすぎているみたいです」 「両親ともにそんな能力はないんですがねえ」 今度はぶーんと柘榴を滑空させた忠孝はどうにも腑に落ちなそうにそう言った。 くすくすと笑って家族の洗濯物を畳んでいるあおひとの言葉を聞いたひなぎくは、寝かされていたベビーベッドからちょっと浮きかけていたが、浮くのをやめた。 それを見ていた翡翠が目をまん丸にして手を叩いて、笑った。 蒼家の三つ子ちゃんにはヒミツがある。 それはもしかしたら赤ちゃんなら誰でも持っている、小さな幸せの魔法かも、知れない。 それに比べたらちょっと消えたり浮いたりするくらいは、まあ大したことではない。 /*/ 拙文:ナニワアームズ商藩国文族 久遠寺 那由他 作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) 指輪の購入>結婚式に続いて蒼家の幸せぶりを書かせていただきました。 いつもなぜ蒼家があんなに幸せそうなのかなーと不思議でしたが、今回の依頼を通してあおひとさんと忠孝さんがその時々に合わせて少しずつ柔軟に変化しているからじゃないかな、とふと思いました。 これからどんなことがあってもご家族皆さんで笑顔で乗り越えていけると信じています。 というか三つ子ちゃんにとろかされっぱなしでした(/ω\) -- 久遠寺 那由他 (2008-05-23 13 13 57) 名前 コメント ご発注元:蒼のあおひと@海法よけ藩国様 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one namber=643 type=591 space=15 no= 製作: 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1139;id=UP_ita 引渡し日: counter: - yesterday: -
https://w.atwiki.jp/299nobe/pages/741.html
「そない理由やったらなぁ……」 「はいよ、お待ちどうさん!」 腕組みして考え始めたロドニーの前に、子供の身の丈ほどもある巨大な皿が置かれる。大芭蕉の葉の包みを開けると、たくさんの香草と一緒に焼かれた川魚が盛んに湯気を吹き上げた。 蒸かした芋、魚のすり身と百合根のスープ、薄く切った煮こごりと付け合せのピクルス。貝の身と混ぜて炊いた粥や、海老と茸と根菜の煮込み。 瓜に似た星型の果物にイチジクの蜜漬け、と、続けざまに料理が運ばれ、最後に果実酒の瓶と人数分のジョッキが、皿と皿の隙間にねじ込まれた。 「ま、話は後にしてとりあえず飲め。 わしらのおごりじゃ」 「おっ、なかなか話がわかるやんけ」 シドは真っ先に酒瓶に手を伸ばし、相好を崩したロドニーがジョッキを差し出す。 「やれやれ……」 「ま、腹が減ってはまとまる話もまとまりませんからな」 苦笑しつつ、セシルたちも運ばれた料理に手をつけた。魚は身が柔らかく、香辛料のおかげで臭みもなく食べやすい。大の男が五人がかり、テラはあまり食欲がないようだが、それでも大量の料理が見る間に減っていった。 日が落ちきると次第に客が入りだし、ロドニーに挨拶がてらセシルたちに好奇の視線を投げていく。早くも出来上がったシドが彼らにも杯を勧め、小規模な宴会の輪が形成されいた。 「それで、磁力の洞窟の件だが」 器に盛られた木の実をつまみながら、ヤンが水を向けると、途端にロドニーは渋い表情を見せた。 「それなんやけどな…… 今はアカン。水が引いてしもうた」 トロイアは低地の国だ。雨季が訪れると、降り注ぐ雨で河があふれ、ごく一部の高地を除いてすっかり水に浸かってしまう。 その季節だけは、柱のように水中から突き立つ幹の合間を船で縫い、どこへでも行くことができる。 ロドニーの説明を受け、テラが尋ねる。 「ては、次の雨季は?」 「七ヶ月先や。ホンマすまんのぅ……」 木の実を口に運ぶセシルの視線の先で、シドが見知らぬ男たちと肩を組み、大声で歌っていた。聞き覚えのある旋律は、場内で巫女たちが奏でていた楽とよく似ている。歌詞はまるで異なるが。 「……ずいぶんかかるね」 申し訳なさそうなロドニーの視線を頬に受け、セシルは炒った木の実を音を立てて噛み砕いた。
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/9680.html
52 名前:1/3[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 09 14 37.37 ID yVTK7t8DO [1/3] 時間かけて物語を積み上げて、高まりきったそれを一気に壊したかったというGMに当たった話 報告が長ったらしいので詰まらなかったらNGか3だけ読んでほしい ネットやコンベで仲間募って、長期間かけて救国の英雄譚をやろうって企画に参加した 舞台はファンタジーで列強数国に挟まれ特に特徴もないから緩衝地帯扱いとして放置されてる中小国 だが一代で成り上がった大臣と信奉者、支援する異教集団によって国政は牛耳られ混乱の渦中にあったという設定 約一年のキャンペーンを繋いで、いよいよ国を私していた大臣とその支持者らを宮廷より追い落とし、国王を報じて自領にて抵抗する彼らと最終決戦をするのみとなった GMから、せっかくだから連休使って一気に完結編しないか? と提案があり、山のバンガロー借りて二泊三日工程で完結編をプレイすることになった セッション二回、紆余曲折ありながらも最終決戦を勝利し凱旋する 53 名前:2/3[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 09 16 05.90 ID yVTK7t8DO [2/3] エンディングのパレードや祝賀会はバーベキューしながら固まり肉を切り分けワインをのみ、なりチャ風にお互いの武勲を讃えあった 各自のその後を決めながらグランドエンディングとなった 予定より一日はやく終わってしまったため 単発でなにかやるかと話していると 後日談の外伝をやりたいとGMが申し出た 願ってもないことで快諾して睡眠をとった 後日談は数年後、大臣と異教集団が国民を使役して作り上げた異様な施設等は破棄され開拓村となり、国は王の治世の下で復旧されつつある という時代設定 そんな中、渡されたハンドアウトは急転直下のものだった わかりやすくいえばPvPしろと書かれていた 54 名前:3/3[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 09 18 06.38 ID yVTK7t8DO [3/3] 元大臣の遺臣と施設で洗脳された人々がクーデターを企んでいる、奴らは大臣の遺児を担ぎ上げようとしているから後顧の憂いを断つために謀殺しろと一部のPCに命令が下る その遺児とはキャンペーンヒロインのことでPC1と結ばれ彼女の身の安全のためにPC1は全てを捨てて大地を耕す事を選んだ そして一部のPCは大臣がやろうとしていたことは実は「近代化革新」で、異教集団とは先進技術者達で謎の収容施設とはラボや教育施設だったことを知る、自分たちは進化の芽を摘んだと知る そして教育をうけた国民が旧態復旧を許さず反乱を企画しているのが真相だった ・君命に従い仲間を消すか ・知った真実を明かすか、握りつぶすか ・民のためにたつか、王のためにたつか 三派閥に分断され、大体PCが対立するか、テロリストになるかの選択肢を用意された GMは「本当はこれがしたくてこのキャンペーンを組んだんだ」とカミングアウト 、自ら育てた英雄で英雄的最後をやりたいがために一年やっていたのだと知り怒りよりも愕然として声が出なかった 車はGMしかなく退路はないに等しい 結局、Pc1とヒロインを新天地に逃がし、他PCは足止して消えた 魔王を倒した勇者たちは新たな冒険に旅立ちました(=折を見て謀殺されました)をやりたいのは解るが、退路断って不意うち同然にされると感動も一気に冷めてしまう 正に車中はGM大満足、他はお通夜で下山と同時に解散!もはやお互い合うことはなかろうな別れだった むしろ破滅エンドやるために一年かけて準備するパワーはどうなってるんだろうなと思うよ 後日談さえなければ最高のキャンペーンだったのに 55 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 09 28 30.57 ID RKD4q9CG0 折角面白そうな最後の展開なのに不意打ちなのがいかんわな 事前の打ち合わせがあればなって感じ 56 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 10 00 56.29 ID gVqNODpB0 乙 しかしそういうGMは場の空気が凍ってるのに気づいてないのかな… 57 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 10 01 44.73 ID 2imiS8H/0 [1/2] 乙 56 単発として考えたら面白かったのかもしれん 盛り上がるけど賢者タイムでお通夜化 58 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 10 03 08.48 ID AXkSCsS00 今までキャンペーンを通してやってきたことは実は見当違いの行為だった これは流石にやっちゃいかんな 「近代化革新が良いものだと思うのは現代の風潮だし 旧体制の思想が骨の髄まで染みついたPC達はその思想の素晴らしさを微塵も理解できず 異教集団の残党とそれに毒されたテロ集団を鎮圧するため王に味方しました」 あえて乗ってあげるとしたら俺ならこのくらいが限度 少なくても今までのPCの行いが後出しで全部間違いだったことにされるのは納得いかん 59 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 10 04 36.63 ID kOanUfhS0 [3/5] これPL全員でGMが泣くまで責め立てても許されるよな 60 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 10 50 39.89 ID C5vnPft20 車をGMしか持ってないってのが一番厄介だったな…… やっぱNAISEI好きにロクなのがいないぜ 61 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 10 52 48.23 ID bhhHu19vO 52-54 長期キャンペーンで、影武者を一体ずつ出して足留めしてきたラスボスに逃げられるよりも性質が悪い・・・ 62 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 11 05 33.17 ID VXiIXDkl0 [2/4] 51 ダイスタワー買おうと思ってる そのイカサマ困、今の鳥取にもたまにくるんだよね 54 一年にも渡るキャンペーンで、正しい情報がPCに全く渡ってないってところが明らかにアンフェアだわ PCが旧時代的な人間だとしても、その教育機関の教育指針にも一理あるんじゃないかとか、その大臣の施行しようとした制度が合理的なんじゃないかとか、疑問に思ってもおかしくない ましてや具体的な情報が出てたらPLが勘付かないはずがない つまり、そこらへんの具体的な情報はGMがわざと隠蔽してたってことだろ 65 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 11 25 47.20 ID nqiZTJ+A0 55 不意討ちでPL陥れることだけを楽しみにしてたGMっぽいからなー。 66 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/09/03(水) 11 37 55.29 ID CuCOBERi0 [2/3] きちんとした教育を受けたなら、それこそまともな頭持ってるなら群雄割拠の大国に挟まれた弱小国が生き延びるには何が良いかは判るだろ 大臣どものやってた事ってただの現実を見ないカルト洗脳でしかないよな スレ394
https://w.atwiki.jp/3edk07nt/pages/315.html
てっきり、今日が初対面だとばかり思っていたけれど、彼女は違うと言う。 それは……いつ、どこで? 僕は、何度となく記憶を辿ってみた。 だが、どれだけ脳内検索を繰り返したところで、悉く空振りに終わった。 鳶色のロングヘアー。紺碧の双眸。容姿端麗。 これだけキーワードを並べれば、直撃はせずとも、少しぐらい掠るだろう―― そんな僕の認識は、この会場にあるどんなデザートよりも、甘かったらしい。 眉間に皺を寄せ、ジリジリと回想に耽るも、所詮は悪あがき。 程なく、僕は溜息まじりに両手を肩まで上げて、彼女に掌を見せた。「ごめん。降参だ」 「私のこと、ホントに思い出せないんですか?」 「うん。きみみたいに可愛い女の子を忘れるなんて、考え難いんだけど」 なんて言ってはいるが、あり得ないことでもないと、僕は思っている。 メイク、ヘアスタイル、衣装やアクセサリ、光の加減、その日その時の気分―― 些細な変化でも、女の子は身に纏う雰囲気や、見た目の印象を、がらりと変えてしまう。 デザイナーとして、日頃から多くのモデルたちと接している僕でさえ、 その都度、違った顔を見せる女性の魔性には、畏怖の念を抱かずにいられない。 だから、いつも思うのだ。 女の子の素顔とは『のっぺらぼう』で、仮面を付け替えているだけじゃないのか、と。 この娘も、ご多分に漏れない――ということか。 しかも、最近ではプチ整形なんて小細工まで、手軽に行われているから困りもの。 そうなっては、知人かどうかなど、もう判りっこない。 いや……そもそも、それで正体を当てろと言うほうがペテンだ。 彼女は、邪気のない澄んだ眼差しで、僕の困り顔を捉えていた。 忘れたなんて、ウソなんでしょ? 口元の微笑が、睫毛の揺らぎが、そう語りかけてくる。 なんだか尾骨の辺りが落ち着かなくなって、僕は、かぶりを振った。 「本当に、分からないんだ。悪いんだけど」 「そんな――」 愕然。その一言に尽きる、掠れた声。見開かれた瞼。 彼女が紡ぎだす言葉は、可憐な唇の奥で既に湿り気を帯び、ふやけきっていた。 「ヒドイ……酷いわ、そんなの。今まで私をからかって、遊んでただけなのね」 「はあ? 待ってくれ。きみ、僕と他の誰かを、取り違えてないか?」 まったくもって身に憶えなし。この娘は、何を言っているんだろう。 どうやら、彼女を深く傷つけてしまったらしいが―― 仮に、存在を忘れたくらいでショックを受けるほど浅からぬ仲だったのなら、 何かしらの記憶が濃く残っているのが、普通だろうに。 思い当たるフシもなく、一方的に詰られるなんて、納得できない。 それに、どうも言動がおかしい。 この娘、妄想癖でもあるのか? それとも統合失調症? 訝しんで、横目に盗み見ると、彼女は深く俯いて、肩を震わせていた。 両手は、ナニかを堪えるように、ドレスに包まれた膝を固く掴んでいる。 なんで泣くかなぁ。苛ついて、声を荒げたくなったが、逆上させては藪ヘビだ。 僕は、努めて静かな口調で、娘に話しかけた。 「なあ、頼むから落ち着いてくれ。冷静に、話をしようよ」 「……う…………くっ」 「参ったなぁ。これじゃ、僕が新人をイジメて泣かせたみたいじゃないか」 「く……く、く……ぷふっ!」 「ん?! な、なんだ?」 嗚咽にしては奇妙な音がしたぞと、思った直後―― 彼女は、もう堪えきれないとばかりに口元を両手で覆って、背中を丸めた。 ぴく、ぴく。小刻みに震える肩の下から、押し留めきれなかった笑声が漏れてくる。 僕は、ただ呆気に取られるばかりで、問い詰めることさえ忘れていた。 「……あ、こいつ! さては、からかったな」 やっと紡いだ僕の声は、我ながら失笑するくらい、憮然としていた。 彼女が、目元を人差し指の背で拭いながら、緩みきった顔を上げる。 「ごめんなさい。ちょっと、イタズラしてみたくなっちゃって」 「なんでまた、そんなことを?」 「確かめてみたくて。貴方が今も、あの頃のままか、どうか……。 だから、お料理を文字どおりのエサにして、話しかけてみたんです」 「――分からないな。あの頃って、いつのことなんだ」 「高校の、二年生のとき……と言えば、思い出してくれる?」 高校時代――それもド真ん中の二年生。あの頃、なにがあっただろう? 思い出そうとして、僕は『あれ?』と首を捻った。そこだけ記憶が薄いのだ。 一年時や三年時は、何組の何番だったとか、担任や級友の顔と名前などを、すぐ思い出せる。 それなのに、高二の時だけは、思い浮かべる景色の、ほとんどが霞んでいた。 まるで、霧のスクリーンに映したドキュメンタリー映画を眺めているみたいな…… 茫漠として、輪郭の不明瞭な世界しか、僕の中にはなかった。 本来そこに息づいているべき確かな自分が、亡霊のようにしか存在していない。 どうして、こんな曖昧な記憶しか、僕は持っていないのだろう? なぜ? ナゼ? 何故? 胸裡で叫んだ自問が、山鳴りの如く、轟き続ける。 その振動で、長く記憶に糊塗してきた日常を削り剥がしながら、僕は核心へと近づいていった。 ちょうど、ゴールデンウィークを過ぎたくらいでしたよね。 彼女は独り言のように呟いて、細めた瞼の奥に、遠い目を作った。 「貴方が、ぱったりと学校に来なくなってしまったのは」 ――そうだった。彼女の言葉が、核心への扉を穿つ。僕は、唇を引き結んで頷いた。 ようやくにして辿り着いた記憶の領域で、僕は17歳の自分と向かい合った。 「……ああ。当時の僕は、重度の鬱憂症で、精神的に不安定だったからね。 被害妄想に囚われ、周りのすべてが、巨悪の塊にしか見えてなかった。 そんな汚い世界とは関わる必要ないと、解った気になって、自分を正当化してた」 高二の一学期後半と、二学期を丸々、僕は学校に行かなかった。 一日の大半を目的もなく過ごし、起きている時はパソコンに向かうだけの生活。 もし運命のイタズラが、彼女と巡り合わせてくれなかったら、どうなっていたことか。 逃げられるだけ逃げ続けて、しまいには、首でも吊っていたかも知れない。 「それを知ってるってことは、きみは、僕の同級生だったのか。 ああ……なるほど。だから、ずっと前から僕を知っていた――と」 「私が、貴方と一緒のクラスになったのは、あの年だけでした。 しかも、実際に顔を合わせていたのは一学期の前半と、三学期のみですもの。 私を憶えていなくても、仕方ないですよ」 「んー。だけどな……僕としては、忸怩たる気分だ」 「あら、どうして?」 「僕も一応、デザイナーだしさ。あるんだよね、自分の感性に対する自負ってやつ。 なのに、きみのことを少しも憶えてなかったなんて、自信喪失ものだよ」 高校生の頃とは言え、この娘のような素晴らしい素材を、あっさり見逃していた。 それで鋭敏なセンスと眼力を持っているだなんて、どうして胸を張れようか。 自嘲した僕の肩に、彼女の腕が、労るように伸ばされる。 けれど、わななく指先は、素直に目的を遂げることなく―― 二度、三度……行ったり来たりを繰り返した後に、やっと、ひとつ所に落ち着いた。 僕の背中に触れる、彼女の手。 ワイシャツの生地を透して伝わる、しっとりとした温もりが心地よい。 「そんな、卑屈にならないでください。分からなくて当然なんです」 「……どうしてだい。君、整形手術したとか?」 「いいえ。でも、あの頃とは、私――もう違うから。身も、ココロも」 カムフラージュ、ですね。 言って、鳶色の前髪を指で弄びながら、彼女は翳りのある笑い方をした。 「でも、貴方は、ちっとも変わってなかった。羨ましいです……とても」 「そうかい? これでも、人類が月に行ったくらいに、激変したんだけどな」 「取り巻く環境は大きく変遷しても、素直なココロは、あの頃のままですよ。 繊細で、多感で――他人に影響されて、すぐ雰囲気に流されちゃうところとか」 「流されやすい、かな?」 「ええ。さっきだって、私の泣き真似に、本気で狼狽えちゃって」 「あれは――いきなりだったからさ。あの展開じゃ、誰だって動揺するだろ」 思いがけず醜態を晒した気恥ずかしさから、注がれる視線を避けるように、顔を逸らせた。 彼女は、そんな僕の様子を眺めて、さっきまでの翳りもろとも相好を崩す。 そして、サッと立ち上がると、僕の腕を引っぱった。 「冗談はさておき、宴もたけなわの内に、お料理を頂いちゃいましょうよ。 うかうかしてたら、美味しい物、食べ損なっちゃいます」 3. やがて夜も更けて、華やいだ時間は、だんだんと眠りの静寂に呑み込まれてゆく。 来賓の多くは、もう会場を去って、今や物好きなスタッフが僅かに残るばかり。 その居残り組の中には、僕らも含まれていた。 【JaM】のスタッフで残っているのは、僕だけだ。 柏葉を含む他の面々は、形ばかりの挨拶を済ませると、早々に退散してしまった。 まあ、そうするように奨めたのは、他ならぬ僕なのだけど。 だって、今夜はクリスマス・イブ。 各人にも予定があるだろうし、いつまでも、職場に拘束するわけにいかない。 ところが、飛び入りのモデル娘――この鳶色の髪の乙女は、帰ろうとしなかった。 「折角、こんな素敵なドレスを着られる幸運に、恵まれたんですもの。 もう少しだけ、シンデレラ気分を味わっていたいんです。ダメ……ですか?」 ――なんて、モジモジしながら上目づかいに訊くのは、ずるい。 それが計算ずくめの仕種だと解ってはいても、男なら、断れっこないじゃないか。 まったく、したたかな女の子だ。美しい薔薇には棘がある、か。 その棘に刺されて喜ぶ僕の酔狂にも、困ったものだけどね。 僕らは適当に飲み食いしつつ、他愛ない雑談に花を咲かせた。 喉が渇いては、気安くシャンパンに潤いを求めたせいで、些か酔いが回っている。 火照った身体は怠く、耳の奥でバクバクと鳴り響く鼓動が、うるさい。 ここ最近、ずっと酷使してきた眼も、アルコールで充血して、軽く痛んだ。 僕は、グラスに残るハチミツ色の液体を一息に干して、隣に座る彼女に話しかけた。 「今日は、悪かったね」 「……はい? なにが、でしょうか」 「こんな遅くまで、引き留めちゃったことだよ」 「まだ言ってる。私が、好きで残ったんです。まだ電車も走ってますし――」 言いかけた彼女の声色が、ふと、トーンダウンした。 「それに、どうせ急いで帰ったところで、待ってる人なんて……いませんから」 若い身空の独り暮らし、ということか。 僕は、そっか、と相槌を打ったきり、口を噤んだ。 けれど、彼女は二人の間に割り込んだ沈黙を排除するように、言葉を並べた。 「ひとつ、質問しても……いいですか」 「ん? なんだい。僕で、答えられることなのかな」 「たとえば――砂漠で遭難した場面を、想像してみてください。 道を見失って……たった独りで、もう三日。水も食料も、もうない。 露出した肌は、刺すような強い日射しに焼かれ、腫れ上がっています。 どこに向かってるのか判らない。不安で、心許なくて。 そんな、やり場のない寂しさに、胸を締めつけられたとき―― 貴方なら、どうしますか?」 「どう……って」 僕は、酔って朦朧としかけた頭で、真剣に考え込んでしまった。 でも、たった独りで砂漠を彷徨っている状況なんて、まったくイメージできない。 彼女は、どんな意図から、こんな質問をしたのだろうか。そっちの方が気になった。 答えるべき言葉を探して、でも見つけられなくて、僕は長い沈黙を続けた。 彼女の小さな溜息が、そこに、ピリオドを穿つ。 「――幸せなんですね。少なくとも、過酷な状況を、即座に想像できないくらいには。 でなかったら、自分を癒し慰める術を、経験的に知っているのかも……」 「僕は確かに引きこもり経験者だけど、寂しさを癒す方法なんて、知らないよ。 知らないものなら、欲しがりようもない。それだけだ」 ならば、やはり僕は幸せなのだろう。 甘えたいときに、無条件で受け止め、包み込んでもらえたから。 故に、完全な孤独、孤立無援には、陥らなかったんだと思う。 「今にして思えば、あんなアホ姉貴でも、居ないよりマシだったのかもな」 「のりさん……ですね」 「うん。姉貴と会ったことが?」 「学園祭実行委員で、一緒でした。優しくて、面倒見のいい先輩でしたよ。 お姉さん、貴方のことを、よく話してくれました」 「愚痴か、泣き言ばっかりだったろ」 「そんな! とんでもない!」 彼女は人目を憚らず怒気を露わにして、ぐいと身を乗り出し、僕と鼻を突き合わせた。 「あの人は、いつも自慢してました。悪口なんて、一度だって言ったことないです。 本当に……貴方を、誇りに思ってたんだと――今なら、私にも解ります」 「そう、だよな」 言って、僕は項垂れた。「だらしない弟を、軽蔑するどころか立ち直らせようと努力してた」 酒気に火照った彼女の手が、僕の頬を、そっと撫でる。 「眼に見える寂しさなら、誰かが気づいてくれる。親切な人に、慰めてもらえます。 貴方の傍には、いつも、優しい誰かが居たの。今も、多くの人が見守ってくれてる」 それは、とても……この上なく幸せなことよ。 言って、グラスを呷った彼女の横顔には、また、あの翳りが―― 存分に満たされていない者に特有の、貪欲なペルソナが刻まれていた。 私だって淋しいのに。身も心も、慰めて欲しいのに。 どうして、誰も気づいてくれないの? いい子いい子って、頭を撫でてくれないの? そんな声が聞こえた気がして、僕は――「よかったら……もう少しだけ、どうかな?」 くい、と。グラスを傾ける仕種をして、パチリとウインクを飛ばした。 彼女は目元を弛めて、口の端を、控えめに吊り上げた。 「あら、嬉しい。今を時めく【JaM】のデザイナーさんに、お誘いいただけるなんて」 「よせよ。そういう言われ方されると、背中がむず痒くなる」 「ふふ……ごめんなさい」 彼女のイタズラっぽい微笑は、筆舌に尽くしがたいほどチャーミングで…… でも、どこか挑発的な、見る者を不安に駆り立てる冷ややかな嗤いでもあった。 迂闊だった……かな。けれど、誘っておいて尻込みするのも、男として情けない。 この娘が、たとえ巧妙にカムフラージュした食虫植物だったとしても―― ならば、愚かな昆虫を演じて彼女を満たす養分になるのも、男の度量じゃないか。 僕は、だらしなく震える膝に鞭をピシャリと叩いて、立ち上がった。 「それでは、次なる舞台に参りましょうか。お嬢さん」 素面じゃ決して言えないだろうクサイ台詞を、臆面もなく口にして、悠然と腕を差し伸べる。 彼女は、妖しく濡れた碧瞳に僕の手を映し、コケティッシュな笑みを浮かべながら…… 「ちゃんと、エスコートしてくださいね」 しっとりと汗ばんだ手で、そっ……と、僕の手を握った。 つづく
https://w.atwiki.jp/nisina/pages/39.html
school life 141 名前:school life ◆NN1orQGDus [] 投稿日:2009/07/21(火) 20 56 10 ID Cx0dd9RJ “入学式前夜” 自然と頬が緩む。 新しい制服に袖を通すと中学生になったんだなあ、と実感する。 まだ着慣れていないせいか制服を着ると言うよりは着られている感じがするけれども、それはこの際気にしない。 鏡に映る私は今までよりもちょっぴり大人びて見えて、それがなんだか嬉しい。 部屋を見回すとテディベアが十二人ほどいるけれども、それはそれ。 テディベアは可愛いけれど、決して子供っぽい訳ではないはずだ。 多分、左から四番目に座っている昔気質の頑固者のパットンさんもそう言ってくれるのではなかろうか。 「へえ、見違えたよ。可愛いね、良く似合ってる」 よく知っている声に振り向けば、テディベアをプレゼントしてくれた人が眼鏡越しに柔和な瞳で私を見ていた。 「ちょっと! 勝手に入らないでよっ!いつからそこにいたの?」 「勝手に入った訳じゃないよ。ノックしたけど返事がないから心配したんだ」 悪びれもなくニコニコ笑う彼がちょっと恨めしい。 「そんなの理由になりません。返事をまってから入るのがマナーでしょう?」 キットと睨みつけるけれど、私の歳よりも半分年上の彼は年の功なのか余裕綽々と受け流した。 「そうかもね。でも僕は自然体の君が見たかったんだよ。背伸びしない年相応の君がね」 「背伸びなんかしてません! 私はいつも自然体です!」 「そんな事ないよね、ヤマシタさん」 相好を崩しながら左から五番目のテディベアの頭を撫でるけれど、それは一本気なヤマシタさんではなくて無駄口ばかりのムタグチさんだ。 でも、そんな事は関係ない。彼のペースに巻き込まれているのが問題だ。 「とにかく! 出てってよ! 明日入学式で準備が忙しいんだから!」 彼を部屋から追い出すと階段を下るリズミカルな足音と、母親と親しげに話をする彼の声が聞こえた。 全く、女の子の気持ちが解らないんだから、と一人ごちて本物のヤマシタさんの頭を撫でた。 誉め言葉なら可愛いよりも綺麗だよね。 ヤマシタさんは答えてくれないけれど、年頃の女の子の答えは一つに決まっている。 鏡の前に立ってターンを決めて髪を頭の両サイドで握ってツインテールを作ってみた。 髪型を変えれば彼も解ってくれるだろうか。 絶えない気苦労、揺れる乙女心。 ホントにもう、馬鹿なんだから。 ――to be continued. 投下順に 前 あお 次:Two birds
https://w.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/4124.html
てっきり、今日が初対面だとばかり思っていたけれど、彼女は違うと言う。 それは……いつ、どこで? 僕は、何度となく記憶を辿ってみた。 だが、どれだけ脳内検索を繰り返したところで、悉く空振りに終わった。 鳶色のロングヘアー。紺碧の双眸。容姿端麗。 これだけキーワードを並べれば、直撃はせずとも、少しぐらい掠るだろう―― そんな僕の認識は、この会場にあるどんなデザートよりも、甘かったらしい。 眉間に皺を寄せ、ジリジリと回想に耽るも、所詮は悪あがき。 程なく、僕は溜息まじりに両手を肩まで上げて、彼女に掌を見せた。「ごめん。降参だ」 「私のこと、ホントに思い出せないんですか?」 「うん。きみみたいに可愛い女の子を忘れるなんて、考え難いんだけど」 なんて言ってはいるが、あり得ないことでもないと、僕は思っている。 メイク、ヘアスタイル、衣装やアクセサリ、光の加減、その日その時の気分―― 些細な変化でも、女の子は身に纏う雰囲気や、見た目の印象を、がらりと変えてしまう。 デザイナーとして、日頃から多くのモデルたちと接している僕でさえ、 その都度、違った顔を見せる女性の魔性には、畏怖の念を抱かずにいられない。 だから、いつも思うのだ。 女の子の素顔とは『のっぺらぼう』で、仮面を付け替えているだけじゃないのか、と。 この娘も、ご多分に漏れない――ということか。 しかも、最近ではプチ整形なんて小細工まで、手軽に行われているから困りもの。 そうなっては、知人かどうかなど、もう判りっこない。 いや……そもそも、それで正体を当てろと言うほうがペテンだ。 彼女は、邪気のない澄んだ眼差しで、僕の困り顔を捉えていた。 忘れたなんて、ウソなんでしょ? 口元の微笑が、睫毛の揺らぎが、そう語りかけてくる。 なんだか尾骨の辺りが落ち着かなくなって、僕は、かぶりを振った。 「本当に、分からないんだ。悪いんだけど」 「そんな――」 愕然。その一言に尽きる、掠れた声。見開かれた瞼。 彼女が紡ぎだす言葉は、可憐な唇の奥で既に湿り気を帯び、ふやけきっていた。 「ヒドイ……酷いわ、そんなの。今まで私をからかって、遊んでただけなのね」 「はあ? 待ってくれ。きみ、僕と他の誰かを、取り違えてないか?」 まったくもって身に憶えなし。この娘は、何を言っているんだろう。 どうやら、彼女を深く傷つけてしまったらしいが―― 仮に、存在を忘れたくらいでショックを受けるほど浅からぬ仲だったのなら、 何かしらの記憶が濃く残っているのが、普通だろうに。 思い当たるフシもなく、一方的に詰られるなんて、納得できない。 それに、どうも言動がおかしい。 この娘、妄想癖でもあるのか? それとも統合失調症? 訝しんで、横目に盗み見ると、彼女は深く俯いて、肩を震わせていた。 両手は、ナニかを堪えるように、ドレスに包まれた膝を固く掴んでいる。 なんで泣くかなぁ。苛ついて、声を荒げたくなったが、逆上させては藪ヘビだ。 僕は、努めて静かな口調で、娘に話しかけた。 「なあ、頼むから落ち着いてくれ。冷静に、話をしようよ」 「……う…………くっ」 「参ったなぁ。これじゃ、僕が新人をイジメて泣かせたみたいじゃないか」 「く……く、く……ぷふっ!」 「ん?! な、なんだ?」 嗚咽にしては奇妙な音がしたぞと、思った直後―― 彼女は、もう堪えきれないとばかりに口元を両手で覆って、背中を丸めた。 ぴく、ぴく。小刻みに震える肩の下から、押し留めきれなかった笑声が漏れてくる。 僕は、ただ呆気に取られるばかりで、問い詰めることさえ忘れていた。 「……あ、こいつ! さては、からかったな」 やっと紡いだ僕の声は、我ながら失笑するくらい、憮然としていた。 彼女が、目元を人差し指の背で拭いながら、緩みきった顔を上げる。 「ごめんなさい。ちょっと、イタズラしてみたくなっちゃって」 「なんでまた、そんなことを?」 「確かめてみたくて。貴方が今も、あの頃のままか、どうか……。 だから、お料理を文字どおりのエサにして、話しかけてみたんです」 「――分からないな。あの頃って、いつのことなんだ」 「高校の、二年生のとき……と言えば、思い出してくれる?」 高校時代――それもド真ん中の二年生。あの頃、なにがあっただろう? 思い出そうとして、僕は『あれ?』と首を捻った。そこだけ記憶が薄いのだ。 一年時や三年時は、何組の何番だったとか、担任や級友の顔と名前などを、すぐ思い出せる。 それなのに、高二の時だけは、思い浮かべる景色の、ほとんどが霞んでいた。 まるで、霧のスクリーンに映したドキュメンタリー映画を眺めているみたいな…… 茫漠として、輪郭の不明瞭な世界しか、僕の中にはなかった。 本来そこに息づいているべき確かな自分が、亡霊のようにしか存在していない。 どうして、こんな曖昧な記憶しか、僕は持っていないのだろう? なぜ? ナゼ? 何故? 胸裡で叫んだ自問が、山鳴りの如く、轟き続ける。 その振動で、長く記憶に糊塗してきた日常を削り剥がしながら、僕は核心へと近づいていった。 ちょうど、ゴールデンウィークを過ぎたくらいでしたよね。 彼女は独り言のように呟いて、細めた瞼の奥に、遠い目を作った。 「貴方が、ぱったりと学校に来なくなってしまったのは」 ――そうだった。彼女の言葉が、核心への扉を穿つ。僕は、唇を引き結んで頷いた。 ようやくにして辿り着いた記憶の領域で、僕は17歳の自分と向かい合った。 「……ああ。当時の僕は、重度の鬱憂症で、精神的に不安定だったからね。 被害妄想に囚われ、周りのすべてが、巨悪の塊にしか見えてなかった。 そんな汚い世界とは関わる必要ないと、解った気になって、自分を正当化してた」 高二の一学期後半と、二学期を丸々、僕は学校に行かなかった。 一日の大半を目的もなく過ごし、起きている時はパソコンに向かうだけの生活。 もし運命のイタズラが、彼女と巡り合わせてくれなかったら、どうなっていたことか。 逃げられるだけ逃げ続けて、しまいには、首でも吊っていたかも知れない。 「それを知ってるってことは、きみは、僕の同級生だったのか。 ああ……なるほど。だから、ずっと前から僕を知っていた――と」 「私が、貴方と一緒のクラスになったのは、あの年だけでした。 しかも、実際に顔を合わせていたのは一学期の前半と、三学期のみですもの。 私を憶えていなくても、仕方ないですよ」 「んー。だけどな……僕としては、忸怩たる気分だ」 「あら、どうして?」 「僕も一応、デザイナーだしさ。あるんだよね、自分の感性に対する自負ってやつ。 なのに、きみのことを少しも憶えてなかったなんて、自信喪失ものだよ」 高校生の頃とは言え、この娘のような素晴らしい素材を、あっさり見逃していた。 それで鋭敏なセンスと眼力を持っているだなんて、どうして胸を張れようか。 自嘲した僕の肩に、彼女の腕が、労るように伸ばされる。 けれど、わななく指先は、素直に目的を遂げることなく―― 二度、三度……行ったり来たりを繰り返した後に、やっと、ひとつ所に落ち着いた。 僕の背中に触れる、彼女の手。 ワイシャツの生地を透して伝わる、しっとりとした温もりが心地よい。 「そんな、卑屈にならないでください。分からなくて当然なんです」 「……どうしてだい。君、整形手術したとか?」 「いいえ。でも、あの頃とは、私――もう違うから。身も、ココロも」 カムフラージュ、ですね。 言って、鳶色の前髪を指で弄びながら、彼女は翳りのある笑い方をした。 「でも、貴方は、ちっとも変わってなかった。羨ましいです……とても」 「そうかい? これでも、人類が月に行ったくらいに、激変したんだけどな」 「取り巻く環境は大きく変遷しても、素直なココロは、あの頃のままですよ。 繊細で、多感で――他人に影響されて、すぐ雰囲気に流されちゃうところとか」 「流されやすい、かな?」 「ええ。さっきだって、私の泣き真似に、本気で狼狽えちゃって」 「あれは――いきなりだったからさ。あの展開じゃ、誰だって動揺するだろ」 思いがけず醜態を晒した気恥ずかしさから、注がれる視線を避けるように、顔を逸らせた。 彼女は、そんな僕の様子を眺めて、さっきまでの翳りもろとも相好を崩す。 そして、サッと立ち上がると、僕の腕を引っぱった。 「冗談はさておき、宴もたけなわの内に、お料理を頂いちゃいましょうよ。 うかうかしてたら、美味しい物、食べ損なっちゃいます」 3. やがて夜も更けて、華やいだ時間は、だんだんと眠りの静寂に呑み込まれてゆく。 来賓の多くは、もう会場を去って、今や物好きなスタッフが僅かに残るばかり。 その居残り組の中には、僕らも含まれていた。 【JaM】のスタッフで残っているのは、僕だけだ。 柏葉を含む他の面々は、形ばかりの挨拶を済ませると、早々に退散してしまった。 まあ、そうするように奨めたのは、他ならぬ僕なのだけど。 だって、今夜はクリスマス・イブ。 各人にも予定があるだろうし、いつまでも、職場に拘束するわけにいかない。 ところが、飛び入りのモデル娘――この鳶色の髪の乙女は、帰ろうとしなかった。 「折角、こんな素敵なドレスを着られる幸運に、恵まれたんですもの。 もう少しだけ、シンデレラ気分を味わっていたいんです。ダメ……ですか?」 ――なんて、モジモジしながら上目づかいに訊くのは、ずるい。 それが計算ずくめの仕種だと解ってはいても、男なら、断れっこないじゃないか。 まったく、したたかな女の子だ。美しい薔薇には棘がある、か。 その棘に刺されて喜ぶ僕の酔狂にも、困ったものだけどね。 僕らは適当に飲み食いしつつ、他愛ない雑談に花を咲かせた。 喉が渇いては、気安くシャンパンに潤いを求めたせいで、些か酔いが回っている。 火照った身体は怠く、耳の奥でバクバクと鳴り響く鼓動が、うるさい。 ここ最近、ずっと酷使してきた眼も、アルコールで充血して、軽く痛んだ。 僕は、グラスに残るハチミツ色の液体を一息に干して、隣に座る彼女に話しかけた。 「今日は、悪かったね」 「……はい? なにが、でしょうか」 「こんな遅くまで、引き留めちゃったことだよ」 「まだ言ってる。私が、好きで残ったんです。まだ電車も走ってますし――」 言いかけた彼女の声色が、ふと、トーンダウンした。 「それに、どうせ急いで帰ったところで、待ってる人なんて……いませんから」 若い身空の独り暮らし、ということか。 僕は、そっか、と相槌を打ったきり、口を噤んだ。 けれど、彼女は二人の間に割り込んだ沈黙を排除するように、言葉を並べた。 「ひとつ、質問しても……いいですか」 「ん? なんだい。僕で、答えられることなのかな」 「たとえば――砂漠で遭難した場面を、想像してみてください。 道を見失って……たった独りで、もう三日。水も食料も、もうない。 露出した肌は、刺すような強い日射しに焼かれ、腫れ上がっています。 どこに向かってるのか判らない。不安で、心許なくて。 そんな、やり場のない寂しさに、胸を締めつけられたとき―― 貴方なら、どうしますか?」 「どう……って」 僕は、酔って朦朧としかけた頭で、真剣に考え込んでしまった。 でも、たった独りで砂漠を彷徨っている状況なんて、まったくイメージできない。 彼女は、どんな意図から、こんな質問をしたのだろうか。そっちの方が気になった。 答えるべき言葉を探して、でも見つけられなくて、僕は長い沈黙を続けた。 彼女の小さな溜息が、そこに、ピリオドを穿つ。 「――幸せなんですね。少なくとも、過酷な状況を、即座に想像できないくらいには。 でなかったら、自分を癒し慰める術を、経験的に知っているのかも……」 「僕は確かに引きこもり経験者だけど、寂しさを癒す方法なんて、知らないよ。 知らないものなら、欲しがりようもない。それだけだ」 ならば、やはり僕は幸せなのだろう。 甘えたいときに、無条件で受け止め、包み込んでもらえたから。 故に、完全な孤独、孤立無援には、陥らなかったんだと思う。 「今にして思えば、あんなアホ姉貴でも、居ないよりマシだったのかもな」 「のりさん……ですね」 「うん。姉貴と会ったことが?」 「学園祭実行委員で、一緒でした。優しくて、面倒見のいい先輩でしたよ。 お姉さん、貴方のことを、よく話してくれました」 「愚痴か、泣き言ばっかりだったろ」 「そんな! とんでもない!」 彼女は人目を憚らず怒気を露わにして、ぐいと身を乗り出し、僕と鼻を突き合わせた。 「あの人は、いつも自慢してました。悪口なんて、一度だって言ったことないです。 本当に……貴方を、誇りに思ってたんだと――今なら、私にも解ります」 「そう、だよな」 言って、僕は項垂れた。「だらしない弟を、軽蔑するどころか立ち直らせようと努力してた」 酒気に火照った彼女の手が、僕の頬を、そっと撫でる。 「眼に見える寂しさなら、誰かが気づいてくれる。親切な人に、慰めてもらえます。 貴方の傍には、いつも、優しい誰かが居たの。今も、多くの人が見守ってくれてる」 それは、とても……この上なく幸せなことよ。 言って、グラスを呷った彼女の横顔には、また、あの翳りが―― 存分に満たされていない者に特有の、貪欲なペルソナが刻まれていた。 私だって淋しいのに。身も心も、慰めて欲しいのに。 どうして、誰も気づいてくれないの? いい子いい子って、頭を撫でてくれないの? そんな声が聞こえた気がして、僕は――「よかったら……もう少しだけ、どうかな?」 くい、と。グラスを傾ける仕種をして、パチリとウインクを飛ばした。 彼女は目元を弛めて、口の端を、控えめに吊り上げた。 「あら、嬉しい。今を時めく【JaM】のデザイナーさんに、お誘いいただけるなんて」 「よせよ。そういう言われ方されると、背中がむず痒くなる」 「ふふ……ごめんなさい」 彼女のイタズラっぽい微笑は、筆舌に尽くしがたいほどチャーミングで…… でも、どこか挑発的な、見る者を不安に駆り立てる冷ややかな嗤いでもあった。 迂闊だった……かな。けれど、誘っておいて尻込みするのも、男として情けない。 この娘が、たとえ巧妙にカムフラージュした食虫植物だったとしても―― ならば、愚かな昆虫を演じて彼女を満たす養分になるのも、男の度量じゃないか。 僕は、だらしなく震える膝に鞭をピシャリと叩いて、立ち上がった。 「それでは、次なる舞台に参りましょうか。お嬢さん」 素面じゃ決して言えないだろうクサイ台詞を、臆面もなく口にして、悠然と腕を差し伸べる。 彼女は、妖しく濡れた碧瞳に僕の手を映し、コケティッシュな笑みを浮かべながら…… 「ちゃんと、エスコートしてくださいね」 しっとりと汗ばんだ手で、そっ……と、僕の手を握った。 【3】に続く