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「おや、今日は長門さんだけですか」 いつもは騒がしいSOS団……もとい文芸部部室は水を打ったように静かであった。 世界を変革出来る力を持つ華麗な団長の声や、 それを止める鍵となる普通の男子生徒の声や、 未来から来た年齢不詳な巨乳なメイドの声も、今日はいっさい声が聞こえない。 居るのは本にかじりつく物静かな宇宙人だけだった。 「お茶、飲みます?」 問掛けに、顔を上げずに頷く長門。 その様子に溜め息を吐いてから古泉は問いを続ける。 「その本、面白いですか?」 首を縦に振る。 「何の本読んでいるんでか?」 黙って表紙を見せる。その言語は古泉の知らないものであった。 「長門さん、緑茶と紅茶どちらになさいますか?」 「……ほうじ茶」 「仰せのままに」 胡散臭い、と団員に言われてしまった笑みを向けるが、長門の興味は相変わらず本にのみ向く。 適切な温度で緑茶を煎れると、香ばしい香りが部室を支配する。 「どうぞ、長門さん」 視線を上げ、一瞬会釈。そして視線はすぐに本に戻る。 見えた本文からはどんな本か伺い知れぬような文字が群れをなしていた。 「長門さんは、」 自分の名前を出されても眉一つ動かさない。 動いているのは彼女の白く細い指のみ。 「キョン君が、お気に入りのようですね」 そこで長門は顔を上げた。そして、硝子玉のような澄んだ瞳で言う。 「私個人の感情としては、彼を気に入っている」 「それでは涼宮さんは?」 「興味深い観察対象だと考えている」 「それでは朝比奈さんは?」 「こちらから歩み寄ろうと考えている」 「じゃあ、僕は?」 そこまで言うと、長門は一度だけ瞬きする。そして淀みの無い声で言う。 「貴方は、涼宮ハルヒによって変わった人間の一人。それ以上でも以下でもない」 「……そうですか」 肩をすくめてそう言う古泉。 「僕は、長門さんを気に入っているんですがね」 「……そう」 パラリ。ページがまた捲られる。 「それでは、僕は帰りますね。戸締まりを……」 「古泉一樹」 長門が、古泉の発言を防ぐ。今度は本を閉じて真っ直ぐに言う。 「私は、確かに貴方を涼宮ハルヒによって変わった人間として捉えている」 「そうですか」 「しかし、貴方のその笑顔には興味がある」 「……」 「私は、感情が乏しいから」 「だから、貴方は興味深い」 そう言い、また視線は本に。詰まることなく、またページは捲られる。 「ありがとうございます、長門さん」 「私は、礼を言われることは言っていない」 「僕が言いたかっただけです」 「……そう」 古泉は穏やかに笑む。そして鞄を抱えてから言った。 「それでは長門さん。また明日お会いしましょう」 返事は無い。しかし古泉は気にせずに歩き出す。 部室には、冷めたほうじ茶が残されていた。
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「屋敷でクリスマスパーティーをするんだ!」 モルテがそう騒ぎ出したのが12月の20日 「わくわくして起きたのに雪が降ってないじゃないか!?」 モルテが寝起きで騒ぎ出したのが12月の24日 「おかしい…ホワイトクリスマスってのを楽しもうと根回ししたはずなのに一粒も雪が降っていないなんて!」 と言っても飾りや食事や何だのを用意したのは屋敷の召使達で、モルテは実現し辛い指示を出していただけである。 「どうしたのですかモルテ。日付が変わった頃に起きたと思ったら大騒ぎして」 「サミュラ!雪が降ってないんだよ!クリスマスがホワイトじゃないんだよ!」 「雪にも都合があるのでしょう?」 「空にも【冬】の気配はありませんな。時期通り今頃は新天地辺りを飛んでいるのでしょう」 モルテの晩餐の招待を受けた中でも真っ先に到着していた審議侯が相槌を打つ。 確かに今の時期に寒波降雪を促す精霊団【冬】はスラヴィア上空にはいない。 「私はサミュラ様がいらっしゃるというだけで満足至極でございます。ところでモルテ様の根回しというのは精霊に願いなどをして回ったなどでしょうか?」 平時より一層荘厳華麗なそれでいて邪魔にならないまとまりという絶妙なバランスは組み合わせと装飾に半日をかけたというレシエ卿。 異世界では天気予約というほど大層なものではないが、それなりに多くの大きな精霊と約束を交わせば臨む天候がやってくるのだが。 「三か四カ月前に湖の水精霊に言ったっけなー。12月24日から雪ドバーって降らせるんだぞ!って」 「全くモルテはもぅ…」 「相変わらずですな」 「本当に言っただけで終わっているのですね。降るはずもないでしょう」 三連続の溜め息に流石のモルテも少しばかり狼狽える。そもそも己の願いを精霊が聞き入れたことがあっただろうか?と思い起こす。無い。全くありません。 「がっでむ!」 悪戯大王禍々邪神と恐れ煙たがれるモルテの本気で地に落ち込む姿は貴重である。 「ふぅ…今からでも間に合いますでしょうか?雪となると水、闇、あと風精霊にも協力を取り付けなければいけませんが」 「都周囲の湖にいた多くの水精霊は先日南の商業港に風精霊と出掛けたと聞きましたな。何でも年末巡業で地球からプロレス団体がやってきているを見学に、と」 「私の領内のイベントですわ。ミズハミシマの闘士【潮流・力】などを交えて大々的に開催されるとか何とか」 「そうですか…なら無理に引き返してもらうのも悪いですね。もう夜まで間に合わせるのは難しいですね、どうしましょう」 夜までもう半日もなく、大気中の水分を上空にて雪に精製するだけの精霊を集めるにはかなり難しい。 それでも珍しく哀れな子羊の様にぷるぷる震えるモルテに何かしてあげたいと思うサミュラは悩まし気な面持ち。 「強き力を持つスラヴィアンは精霊との関りが他種より薄い面がありますからなぁ。こういう時はその力が逆に恨めしいですな」 一同溜め息と思案にふけるがどうにも良い案が浮かばず八方塞がりである。 「モルテ、今年は諦めて来年から頑張って ─── 古代ミイラの如くうずく丸くなるモルテに手を伸ばそうとしたサミュラ。そのスカートの下が突如蠢き出す。 蝋燭の光が作る影へサミュラのスカートの中から大量の【黒】が流れ込むのだ。 とめどなく流れる黒はやがて盛り上がり大きな体躯を形成する。サミュラの影と繋がったままに巨大な丸岩が出来上がった。 それはさざめく毛並み溢れる球体に四対八本の腕と太く短い脚の生えた漆黒のムークの影。影故に目も口も何もないシルエット。 「あら、闇さんがムークになってしまいました」 「むぅ…只ならぬ雰囲気を感じますな。これも闇がかつて影ごと取り込んだ者なのでしょうか」 「しかし何故ムークなのでしょう?」 どすんどすん。本来質量などないはずの影だが窓際へ進む足の動きには確かに重量を感じる。 屋敷の大窓までたどり着いたムークの影はおもむろにそれを開き夕闇訪れようとする赤い空へ向かって全ての腕を伸ばす。 ボォオエェエアァアアーーーーーーーーーーー 大気どころか屋敷全体が震える咆哮。しかしそれは耳を劈くことなく通りの良い風の音の様に体を透き通り空へと舞い上がっていく。 一しきり吼え終えたのか、ムークの影は腕を下す。するとたちまち空模様が灰色へと変化するのだ。 灰色の空は凍える大気で蓋をしたかの如くあっという間に零下へと冷え込み吐息を結晶と化す。 「信じられませんが、【冬】がやってきましたな?!」 スラヴィアの空を激しくうねり飛ぶ水と闇と風の精霊団。季節をもたらす彼らの不意の登場にスラヴィア全土にどよめきが起こった。 程なくして空よりひらひらと雪が舞い落ちだす。それはすぐに吹雪となり一面を白へと変えたのだ。 かつて異世界に人もまばらで国もなかった頃、それは己の多腕で波を掻き分け崖を登りありとあらゆる場所を巡った 高き山の頂にてそれが吼えると何処からともなく精霊が集まり雪を降らせ白い傘をかぶせた 遠き海の孤島でそれが吼えると立ちどころに雪が海に凍土を生み出した それは異世界の白き場所を決めた者 ともすれば神よりも古き存在 命尽きるまで異世界に白の色どりを与えたそれは最後を迎えた後に影に飲み込まれたという 「何か知らないけどホワイトなクリスマスだ!やった!」 「良かったですね。闇さんに感謝しないといけませんね」 「ふ、ふんっ!中々やるじゃないか!」 精一杯のモルテの謝辞に小さくなった不定形はサミュラのスカートの下でふんぞり返ってみせる。 「しかしこれは些か過度ではありませんかな?既に窓の下まで雪が積もってますな」 「何やら面白いことになっておる」 「サミュラ様、お招きいただきありがとうございます!急に雪が降ってきて地下迷宮の入り口が埋まって大変でした驚きました」 「…」 髑髏王に続き監獄姫、岩窟王と到着する。三人ともその身にたっぷり雪を積もらせていた。 「よーし人数も集まってきたことだし雪合戦といこうじゃないか!石入れるんじゃないぞ?入れるなよ?」 吹雪く庭に躍り出たモルテは上機嫌でマッハに雪玉を作り出していた。 「一件落着、ということでいいのでしょうか?ところでクリスマスに雪合戦というのはどうなのでしょうか」 危うく負の情念を暴走しかけたモルテであったがスカートの闇のおかげで事なきを得る。 スラヴィアの若干おかしげなクリスマスは賑やかに過ぎていくのだった。 時季外れのクリスマスinスラヴィア モルテって嫌われてるって分かっても次の日になったら忘れてるタイプだよね -- (名無しさん) 2017-01-22 15 38 56 異世界創生からいる神って少ない?異世界の大地を創った存在は面白そう -- (名無しさん) 2017-01-22 18 17 48 気象に関しては異世界の方地球より便利というか融通が利くのね -- (名無しさん) 2017-01-23 18 09 49 夜限定かはわからないけどサミュラに対してはとても便利な闇精霊だ -- (名無しさん) 2017-01-26 08 15 26 名前 コメント すべてのコメントを見る
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午前4時を回ろうとしている頃、裕【女子16番】はI-6の住宅街にいた。 「ここまで来れば・・・」と、一安心する裕。誰もいない家屋で、裕は少し休むことにした。 「みんな今どうしてるのかなぁ・・・。」裕がつぶやく。「やっぱり私もこれで、殺し合いしなきゃいけないのかな。」そういうと、裕は支給武器の牛刀を取り出した。 裕は切れ味を試してみた。民家にあった服を切ってみたのだ。 すごい切れ味だ。何の抵抗もなく切れる。これなら人の体でも・・・。と裕は思った。 刃は朝日を浴びて怪しく光っている。それを見て裕は気づいた。 「もう朝か・・・。このままじゃ・・・何も解決しないよね・・・。」 そう言うと、一呼吸おいてその場を後にした。 さっぴは偶然見つけた洞穴の中にいた。つまりH-4である。 さっぴはこの状況を受け入れたようで、どうせやられるなら・・・と思っていた。さっぴはデイパックの中から支給武器を取り出した。「何コレ・・・?」 中には茶褐色の瓶が入っており「Potassium cyanide」と書いてある。瓶についていた紙を取り、中を見ると、「シアン化カリウム(青酸カリ)」と書いてあった。 「でも、青酸カリじゃ・・・すぐには人は殺せないじゃん。」さっぴの言うとおりだった。 他の人の武器には銃も入っているに違いない。だが、それに対抗するためには青酸カリはあまりに脆弱だった。 さっぴは決断した。「私は生き残る。まず、誰かの武器を奪って・・・。」 さっぴは以前、殺人事件の現場を見たことがあった。そのとき、彼女に不思議な感覚がしたのである。 『殺人ってこんなもの?それなら私にも・・・』 そう考えていたさっぴは、今更、抵抗などなかった。教室を出るときは怯えていたが、今は違う。 全員を殺してでも・・・生き残ってやる。 さっぴの決意は固かった。 えっことあっか【女子1番】は2人で、学校を出てすぐの山の中にいた。 えっこの持っていた暗視ゴーグルで学校から出てくる人がどこへ行くか見ていたのである。 全員が出終わったらしく、学校の扉が閉められた。2人は深い溜め息をついた。 「これからどうする?」と、えっこが言う。 「とりあえず、しばらく様子を見ようか?」とあっかが返す。 そんなやり取りがあったが、最終的に朋子が6時間ごとに放送すると言っていた放送を聞いてから考えることにした。 2人はあまり大きな声を出さないように、つかの間の雑談を楽しんだ。 そんなに余裕があったのも、学校から出て山に登ってくる人が1人もいなかったためであろう。 2人は、目立たない場所に隠れ、少しの間睡眠をとることにした。 山は、限りなく静まり返っていた。 前へ 次へ
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「…………あー、こりゃ夢だ夢。なんか無駄にリアルだけど完ッ全に夢だ。いやー凄いなこりゃ、首輪の感触とかリアル過ぎて泣きたくなってくるわ。 イマジネーションって言うの? やっぱ俺って感受性が豊かなんだろうな~。本当…………夢ですよねぇええええええ!!!」 叫んでいた。 無人の市街地にて、気持ち悪いくらい汗を全身から垂らしながら、坂田銀時は叫んでいた。 四方八方には無言で聳えるビルディング。 漆黒の空には大きな満月と星が点々と輝いている。 この場で殺し合いが行われてる事を覗けば、ロマンチックとも受け取れなくもない光景が広がっていた。 勿論、そんな景色が現在の銀時に映る訳がないが……。 「よーし目を覚ませ俺。こんなつまらない夢を見ていても何にもならないぞ俺。 さあ1、2、3……ほ~ら目を開ければそこには何時ものボロ屋敷がある筈―――ない、か……」 という銀時の願いは当然叶う訳もなく、その眼前には無機質な街が広がっているだけ。 盛大な溜め息がその口から漏れた。 「…………はぁ……殺し合い、ねぇ……」 何時も通りの騒々しい一日を終わらせ、ようやく眠りにつき、そして目を覚ましたかと思えば真っ暗な謎の部屋。 キモいジジィが何かを勝手に喋りだし、パーフェクト脇役顔の男が首を吹っ飛ばされて殺害された。 え? なにドッキリ? としか思えない非現実的な光景の連続。 出来れば夢だと思いたがったが……どうにもそれは無理らしい。 銀時は気だるげに肩を落としながら、ビルの一つへ入っていく。 外部から見られないよう受付の影に姿を隠して、何時の間にか肩に掛けられていたデイバックを漁る。 「なんで俺なんか参加させるかねえ……ヅラとか真撰組とかもっと血気盛んな奴等を呼んだ方が盛り上がるだろうがよお。 ……ねぇ聞いてますか、兵藤さんー! 俺の代わりに他の奴等連れて来ません? ホント俺より盛り上がりますからー!!」 木霊する自分の声に包まれながら、返答を待つも当然ながらそれは無し。 再び溜め息を吐き、銀時は愚痴を続ける。 ぼやきながらも、デイバックを漁る手は減速の様子を欠片も見せてはいない。 「全く趣味が悪いったらありゃしねぇ。殺し合いなんか見て何が楽しいんだか、普通はトラウマもんだっつーの。……と、運が良い、こりゃ刀だな。 後は……サイコロ? こんなんでどーしろって言うんだよ、マジで。サイコロ投げて人殺せってか。やれるもんならやってみろ…………いや、神楽の奴なら普通にやりそうだな……」 ブツブツを呟きながらサイコロをデイバックへ、日本刀を腰へと差す銀時。 彼の右手が最後に探り当てた物は一枚の紙であった。 「なんだコリャ? 何か書いてあるぞ」 先程見つけたランプを点灯させ、目を細めながら銀時はその紙に視線を這わせていった。 視線が動いていくにつれ、銀時の表情が徐々に険しく変化していく。 死んだ魚のように無気力だった瞳が見開かれ、僅かな光が差し込む。 そして、書き記された内容全てに目を通し終えると同時に、銀時は紙を握り潰し、立ち上がった。 その口から排出される三度目の溜め息。 瞳は気だるげな物へと戻っていた。 「なーんで新八と神楽までお呼ばれしてるんだか……」 だが、その瞳には先程まで存在しなかった光が宿っていた。 それは、燦々と輝く星群にも劣らない真っ直ぐな光。 仲間の窮地を知り、ダメ人間の瞳はサムライのそれへと移り変わる。 そんな光を宿しながら、銀時はつい数分前に潜った扉を抜け、市街地へと舞い戻る。 「全く面倒くさえなぁ、おい。新八探して神楽探して首輪なんとかしてと……はあ、誰かドラ○もん呼んできてー、銀さんもう頭痛くなってきたよ~」 独り言を続けるサムライを見守るは、数多もの星々。 夜の市街地を歩く銀時は気付かない。 ビル街に潜む一人の少女の存在に、彼の数メートル後ろにてビルの影に隠れる少女の存在に―――銀時は気付かない。 少女の尾行が上手いのか、ただ単に銀時が鈍いだけなのか……それは分からないが、とにかく坂田銀時は少女の存在に気付けなかった。 「見ぃつけた」 ……ただ幸運だったのは少女が奇襲という最良の手段を選択しなかったこと。 『殺し』を遊戯の一つと位置付ける少女にとって、不意打ちで早々に終わらせるのは勿体無く、また退屈なもの。 だからこそ、少女は遊ぶ為の下準備に勤しむ。 ゲームが開始してから直ぐに中身を確認したデイバックから、一つの支給品を取り出し、両手で握り締める。 その支給品を一言で表すなら十字架。 聖職者が持ち歩くとしても少し大き過ぎる、だが礼拝堂に飾るには余りに小さ過ぎる、中途半端な大きさの十字架。 自身の腕程の大きさを誇る十字架を握り、少女はビルの影から踏み出した。 「ねぇ、そこのお兄さん」 前方を歩くサムライへ声を掛けながら、少女は腕の中の十字架を上下に振るう。 たったそれだけの動作で十字架は姿を変え、上半分を前方に、下半分を後方に突き出す形で展開した。 展開された十字架の先端に覗くほの暗い穴……先程までは隠れていたその穴が、真っ直ぐにサムライへと向けられる。 「……誰だお前?」 振り返るサムライの顔に浮かぶは困惑。 唐突に現れた少女と、少女から放たれる不穏な空気に、サムライは嫌な予感を覚える。 あの騒がしい日常の中で幾度となく嗅いできたトラブルの臭い。 その臭いが眼前の少女からプンプンと発せられていた。 「お兄さん、とても面白い格好しているわ」 「……いや、お前の方が面白い格好だと思うぞ。特にその機関銃とか、その機関銃とか、その機関銃とか、他にもその機関銃とか」 「ふふっ、確かにそうかもね。……ねぇお兄さん、私と遊びましょう」 「悪りーけど、俺はロリコンの趣味はないんでね。そういう誘いは新八辺りにしてやってくれや。じゃ、俺は忙しいんでこれで」 ここは関わらない方が勝ちだろうと判断した銀時は、会話を打ち切り、少女に背を向ける。 そして一秒でも早く、このヤバい雰囲気の少女と別れる為、早歩きで歩き始めた。 残された少女は、どんどんと遠ざかっていくサムライの後ろ姿を見て、頬を膨らませる。 「つれないのね……で、も」 同時に掲げられる十字架。 銀時の背中と十字架の矛先とが一直線上に並ぶ。 「―――逃がさないわ」 ―――そして次の瞬間、パン、と渇いた炸裂音が夜の市街地に響き渡った。 ■ □ ■ □ 「な、何すんだ、ボケエエエエエエ!! こ、こ、こ、殺す気かてめぇはああああああああああ!!」 が、結果として銃弾が銀時に命中する事はなかった。 引き金が絞られる寸前、サムライとしての勘が銀時の身体を動かしていた。 コンクリートの地面に刻まれた銃痕と、銃弾を放った少女とを交互に見比べながら銀時が叫ぶ。 「当たり前じゃない。この世には殺すか殺されるかしかないのよ?」 「何この子、やべーんですけど!! 誰か救急車ぁぁぁああああああ!!」 慌てふためいた様子で声を張り上げる銀時を見て、少女はふふっと微笑んだ。 勿論、その銃口は真っ直ぐに銀時へと向けられたまま。 その微笑みに銀時は顔を引き吊らせる。 躊躇いもなく引き金を引き、この状況を楽しんでいるかのように笑顔を浮かべる少女……正直に言えば、銀時はドン引きであった。 引き吊った笑みのまま、一歩二歩と後ろに下がる銀時。 相変わらずこちらに向けられている銃口を見詰め、どう逃亡するかを必死に考える。 とっちめるというのも手だが、子供を相手に大人気ないし、何より相手は銃持ち。 下手に動けば速攻で銃殺されてあの世逝きだ。 当然だが、それだけは絶対に嫌だった。 「さぁ遊びましょうよ、お兄さん」 再び、反射的に身体が動く。 連続して排出される弾丸を、横方向に何度も何度も飛び跳ねる事で回避。 だが、幾ら大きく動けど、その銃口はピッタリと銀時から離れない。 着弾箇所も徐々に銀時へと接近している。 「あはははは! やるぅ!」 「ちょ、洒落にならん! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!!」 笑う少女に焦る男。 戦況の有利不利は誰の目にも明らか。 何時もならギャグで済まされる事象もこの場では命に関わる。 ギャグ漫画の住人だからこそ分かるヤバすぎる現状に、銀時は必死で身体を動かし続ける。 全力で地面を蹴り抜き、大きく後退。 そして遂に腰に刺さる刀を―――抜刀する。 「あら、やっと遊んでくれるのかしら?」 「あ~んま甘やかしてっとロクな大人になんねーからな。ちょいとお仕置きの時間とさせてもらうぜ」 闇の世界を生きてきたその経験が、サムライが纏う空気の変化を敏感に読み取る。 変わらぬ微笑みの裏に凄惨な感情を混ぜながら、十字架型機関銃を握る少女。 躊躇いは欠片もなく、引き金が引き絞られる。 放たれる弾丸に対し、銀時が選んだ行動は今までと正反対のもの。 逃亡や回避の為の後退ではなく、闘争の為の前進。 常人離れした高速の踏み込みと共に、擦れ違い様の袈裟斬りを少女へと打ち込む。 「……へぇ」 その一閃を身を屈める事で楽々と回避しながら、少女は感嘆を呟く。 眼前の男が見せた別の一面。 今までのふざけた雰囲気から打って変わった一撃に少女は小さな驚きを見せていた。 「やるわね、お兄さん。なかなか楽しめそ……あら?」 振り返りながら呟かれた喜々の言葉が、当惑に変化する。 擦れ違い様に自分の後方へ回り込んだ筈の男が、忽然と消えていた。 少女は周囲へと注意深く目を飛ばす。 男の姿は直ぐに発見できた。 「ふははは! 誰がお前みたいなガキに本気になるかっつーの! 遊びたきゃ他の奴当たれ、ばーか!!」 十数メートル程先の道路……そこを男は全力で駆けていた。 戦闘の意志を見せたのも、少女へと斬り掛かったのも全てフェイク。 ただ単純に逃亡を果たす為だけの演技。 少し本気を出したかのように見せ掛け、確実に回避できるように手加減した、それでいて不振がられないような絶妙な速度の攻撃を行い、流れるように逃亡する。 追い追われの状況になれば逃げ切れる自信はあったし、この市街地という場なら隠れる場所など何処にでもある。 イッツ・ア・パーフェクト。 まさに完璧な計画だ……と銀時は自画自賛していた。 確かに急場で考えた計画としてはそれなりのもの。 騒々しい日常で鍛えられた彼の逃げ足を考慮するなら、逃亡できる可能性は相当に高いだろう。 「あら、凄い逃げ足……」 だが、折角見つけた獲物を易々と逃がすほど少女も甘くはない。 そして何より、少女は銀時に対して大きな興味を抱いていた。 やけにテンションが高く情けない言動、それでいて銃撃をしっかりと避ける反射神経と身体力、そして秘めたる実力を持ちながら最終的に逃亡を選択したその心……少女が今までに出会った事の無いタイプの人間であった。 だからこそ、興味の度合いも大きくなる。 だからこそ、もっと言葉を交えたくなる。 だからこそ、もっと遊びたくなる。 だからこそ―――殺してみたくなる。 少女は微笑み、もう小さくなってしまった男の背中を目指して走り出す。 殺して、殺され、また殺す―――そんな世界しか知らない少女が、殺しを求めて走り出す。 ■ □ ■ □ 「はぁー、はぁー……撒いたか? それにしてもおっそろしいガキもいたもんだぜ。躊躇いなくマシンガンぶっ放すなんてよお、お前はターミネーターかっつーの」 逃亡開始から十数分後、銀時は海岸線沿いのビルの中で一息ついていた。 顔中から滴る汗を着物の袖で拭いながら、支給されたペッボトルを開封し、水を貪る。 「こんなんだから昨今の子供は凶暴化してるだの何だのメディアに取り上げられるんだよ。ちゃんと親が責任もって育てなくちゃダメだって」 自分の家にも日常的にマシンガンをぶっ放す少女が居る事を棚に上げ、ひたすらに愚痴を続ける銀時。 その後ろに更なる不運が歩み寄っているのだが、哀れな事に彼は全く気付かない。 腕を組み、くどくどと愚痴と説教を繰り返す。 「つーか何であのガキはあんな銃の扱いに小慣れてるんだよ。おかしいだろ、一応法治国家じゃん。江戸っつたって日本じゃん、法治国家じゃん。ちゃんと取り締まれって、マジで」 脳裏に江戸で働くチンピラ警察集団を思い描きながら、銀時の愚痴は尚も続く。 そして、更に愚痴を続けようと銀時が口を開いたその時、ジャリ、という足音が響いた。 その音を聞き、ようやく銀時も他者の存在を察知。 後方に振り返りながら刀を抜き、臨戦体勢を整えた――― 『無駄ァ!』 「ぐおッ!?」 ―――と、同時に強烈な衝撃が銀時を襲う。 その衝撃を受け、足掻く事すら出来ずに宙を舞う銀時の身体。 一直線に吹き飛ぶその身体は、ビルの一面に備わった窓ガラスを易々と突き破り、数回のバウンドの後、向かいのビルに激突した事でようやく止まる。 銀時が起き上がる気配は―――ない。 「ふふ、これでもかなり手加減したつもりだったのだがな。やはり人間相手にザ・ワールドを使うのは少し大人気なかったか」 数瞬前まで銀時がいた空間に身を置きながら、謎の襲撃者が言葉を零す。 男の名はDIO。 人間を超越した存在であり、最強のスタンドをしたがえるスタンド使い。 DIOがこのビルに潜伏を始めたのはゲーム開始と同時の事。 ビルの中に隠れ、情報の整理や事態の把握に時間を裂いていたのだが……そこに銀髪のサムライ・坂田銀時が現れた。 彼の方針は参加者の全滅と、自分をこんな低俗な遊戯に参加させた兵藤和尊の抹殺。 DIOはその方針に従い、銀時を殺害すべく後方から接近し、そしてザ・ワールドの一撃を打ち込んだのだ。 「さて戦いの前の腹ごしらえとするか」 右手を掲げパキパキと指を鳴らしながら、舌なめずりと共に銀時へと近付いていくDIO。 彼の食料は人間の血液。美味そうには見えないが、腹が減っては戦は出来ぬという方言もある。 自身の食欲に従い、DIOは仰向けに倒れる銀時の側に立つ。 「私の栄養分となれる事を誇りに思うが良い、人間―――ッ!?」 そして、膝を付き右手を振り上げたところで―――自身の側方へ身体を隠すようにザ・ワールドを展開した。 展開と同時に、ザ・ワールドが前方の空間へと拳を走らせる。 その拳に弾き飛ばされるは、音速に迫る速度でDIOへと飛来する弾丸。 DIOは不快げに鼻を鳴らし、弾丸が放たれた方向へと顔を向ける。 そこには黒色のゴスロリ風なワンピースを着た少女が十字架を掲げ、立っていた。 「……不意打ちとはなかなか面白い真似をしてくれるじゃないか」 「その人は私と遊ぶ約束をしたの。それを横取りするなんてダメよ」 弾丸を防いだザ・ワールドを前にしても、少女の笑顔は相変わらずのもの。 天使の如く微笑みと美声で吸血鬼へと語り掛ける。 「……でもさっきので死ななくて良かったわ。お兄さんと遊ぶのも凄く面白そうだもの」 「ふん、まぁ良い」 対する吸血鬼も小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、少女の方へと身体を向け直す。 最強のスタンドもその後方にて重なるように立つ。 二人の狂人が相対する。 「ふふ、あなたは私と同じ臭いがするわ。血と硝煙、どぶと路地の腐敗した臭い……あなたは私と同じよ」 「このDIOが貴様如きと同じだと? ハッ、路端の糞にも劣るつまらんジョークだ」 互いに皮肉を交わし、そして二人は殆ど同時に動き出した。 少女は引き金に掛かった指へ力を込め、DIOはザ・ワールドを稼働させ拳を振るう。 始動は同時―――だが根本的なスピードに天と地ほどの差が存在する。 少女がトリガーを引き抜くよりも早く、命中するザ・ワールドの右拳。 その一撃は少女の肋骨とそれに守られた内臓とに甚大なダメージを与え、少女を地に叩き伏せる。 少女の口から鮮血が漏れた。 「見た目の割りには、なかなかな使い手だったようだが……所詮はこの程度。 スタンドすら使えない人間がこのDIOを倒そうというのが、そもそもの勘違いなのだ」 血反吐を吐き、痛みにうずくまる少女を見下ろし、DIOが語る。 その顔に宿るは変わらぬ確信の―――自身の勝利を信じきった―――表情。 少女が落とした機関銃をデイバックへと放り込むと、DIOは少女の襟首を掴み上げ、苦痛に染まったその表情を観察する。 少女の表情を見つめ、DIOの口端を持ち上がる。 「だが、子供の身で私に挑んだその勇気は認めてやろう……最後に何か言いたい事はあるか?」 圧倒的な余裕から生まれたその言葉を聞き、少女もDIO同様に口の端を持ち上げた。 今までのような天使の微笑みに幾分かの苦痛の色を滲ませ、吸血鬼を見詰める。 「何を……ゲホっ、ゴホっ……勘違い、してるの……? ふふっ……ゴホっ……私は、死なないの、よ……たくさん、人を殺してきたの…… 私は……それ、だけ生きることが……でき、るの……」 そう言う少女の瞳に宿る狂気に、さしもの吸血鬼も一瞬だけではあるが閉口してしまう。 そして、小さく溜め息をつくと、右手を振りかざす。 「それが貴様の思想か。くだらん、反吐がでる程にくだらん思想だ……」 不老不死である吸血鬼は心底から呆れた様子で少女を見詰める。 この期に及んで絵空事を信じ込み、頼どころとする精神……人間を超越したDIOには理解する事ができない。 人間を超越したDIOからすれば、その思想は人間ならではの弱小さを露呈したように感じるだろう。 DIOは眼前の少女に些かの失望を覚えつつ、右手を開き手刀の型へと変化させる。 「死んで目を覚ませ、狂った少女よ」 冷徹に、冷酷に、言い放ちDIOは手刀を走らせる。 ダメージにより身動きの取れない少女にとっては不可避の一撃。 だが、その一撃を前にしても少女の顔には微塵の恐怖も浮かばない。 ただ笑顔のまま迫る手刀を見詰め、そして―――その表情が驚愕に移り変わった。 笑顔が消え、目が見開かれる。 余りに唐突な表情の変化……その変化にDIOも気付きはするが、些末な事だと流してしまう。 死の間際にてようやく、信じ込んでいた思想の愚かさを理解したのだろう……その程度の事だとDIOは決め付けてしまう。 彼が、自身の決め付けこそが誤りだったと知らされるのは数瞬後の事。 「目ぇ覚ますのはお前だよ、このロリコン野郎」 ―――その言葉が鼓膜を叩いたその時、DIOは少女の表情が意味する真意を読み取る事ができた。 しかし、時既に遅し。 後方から振り抜かれた刀により、少女を貫く筈だった彼の右腕はスッパリと斬り飛ばされた。 予期せぬ一撃に少女を掴む左手の力が緩む。 その決定的な隙を見逃さず、後方から躍り出た人影が少女を奪い取った。 そして奪い取った勢いそのままに、少女を脇に担いだまま人影が走り出す。 「貴様……いつの間に目を覚ましてッ!!」 地面へと墜落した右腕に目もくれず、DIOは憤怒の表情で走り去る人影へと言葉をぶつけた。 勿論、人影が律儀に返答をしてくれる訳がない。 天然パーマの銀髪を上下に揺らし、右に刀を左に少女を持ちながら人影―――坂田銀時は全力で走り続けた。 「チッ、逃げ足の早い奴だ。追い付く事も可能だが……此処は腕の回復に努めた方が得策か」 見る見る小さくなる銀時の背中を見詰め、DIOが一人呟く。 斬り離された自身の右腕を事も無げに拾い上げると、傷口に接触させた。 ジョナサンの身体を乗っ取った事により治癒力は大きく減衰しているが、この程度の傷ならば問題ない。 このまま長時間接触させておけば、その内に全快している事だろう。 「とはいえ我が右腕を斬り落とした罪は大きいぞ、銀髪の男よ」 表向きは冷静を装っている彼であったが、心の内では銀時に対する灼熱の怒りが渦巻いていた。 ザ・ワールドの一撃を喰らっておきながら、ゴキブリ並の生命力でいち早く戦闘の場に復帰した男。 帝王たる自分の右腕を斬り落とした男。 許せない、許す訳にはいかない男だ。 「殺す……貴様はこのDIOが必ず殺してやるぞ……!」 憤怒の吸血鬼が歩き出す。 その右手から血液をこぼしながら、怒りに身を任せながら……吸血鬼が殺し合いの場へと踏み出した。 【一日目/深夜/H-6・市街地】 【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]右腕切断(治癒中) [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3、ダブルファング×1@トライガン・マキシマム [思考] 1:参加者と主催者を殺害 2 怪我を治す為に血が欲しい 3 銀髪の剣士(坂田銀時)は自分の手で必ず殺す ■ □ ■ □ そしてそれから更に数分が経過した市街地、銀時は路地裏に座り込み乱れる息を必死に整えていた。 体力にはそれなりの自信がある銀時であったが、大した間を置かずの連続疾走は流石に応えたらしい。 無言で深呼吸に努め酸素を肺へと送り込んでいた。 「何、で……?」 そんな銀時の横には一人の少女。 少女は痛みに顔を歪めながら、銀時へと疑問を投げ掛ける。 一度自分に殺され掛けた男が何故助けてくれたのか……純粋な疑問から少女は問うていた。 「おー痛て、あのカマ野郎思いっ切り殴りやがって」 銀時はその問いを無視し、少女の横へ並ぶように腰を下ろした。 ポリポリと頭を掻きながら、上手そうに水を煽り、大きく溜め息を吐く。 「……どんな危ないガキだろうとガキはガキ。こんな訳の分からねー殺し合いで死ぬ必要はない……俺の信念に従っただけだ」 相変わらずの無気力な瞳で銀時が答える。 「俺もお前みてーな危険なガキと一緒にいたかねーよ。ただこのまま死なれても寝覚めが悪ーしな、取り敢えずその傷を治療するまでは一緒に行動してやるよ。 ……あとお願いだから暴れないでね、ホント頼むから」 その返答に対して、少女は呆けたような瞳を一瞬浮かべ、そして微笑んだ。 今まで変わらぬその微笑み、だがその裏に殺意という感情は無い。 「ふふっ……お兄さんって……ホントに変な人ね」 「いや、お前程じゃないから。ホントマジで」 「……ゲホっ……ねぇっ……私の、デイバックから……水筒を取ってくれないかしら?」 「水筒? ……お、これの事か?」 「それを、飲んで……みて……」 「? これを? 俺が?」 「良い……から……」 少女の言葉に首を傾げながらも、銀時は水筒の中身をキャップへと移し、一口飲み干す。 その途端に変化は訪れた。 腹部から発せられていた鈍痛が弱まり、身体中の疲労が和らぐ。 「……何だこりゃ?」 謎の事象に驚きを見せつつ、銀時はこの魔法の液体をくれた張本人へと視線をやる。 「私の……支給品なの……あの紙に書いてあった事は……やっぱり、嘘じゃ……なかったみたい……」 言い切ると同時に、少女は力尽きるように意識を失う。 一瞬死んでしまったのかと慌てる銀時であったが、胸部が上下してる事に気付き安堵の息をこぼした。 「……こんな便利な物があんなら、まずは自分で飲めっつーの。てめーの方がよっぽど重症だろうが、全くよお」 銀時は、気絶する少女へその顔色が良くなるまで液体を与え、自身もまた液体を少しだけ飲む。 完全に消えた疲労に、具合を確かめるように肩や腰を伸ばした。 そして、大きく今日何度目かの溜め息。 気絶する少女の横で足を伸ばしながら、真っ暗な天を見上げた。 【一日目/深夜/H-7・市街地路地裏】 【グレーテル@BLACK LAGOON】 [状態]健康、気絶中 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ダブルファング×1 [思考] 0 気絶中 1 バトルロワイアルを楽しむ 【坂田銀時@銀魂】 [状態]健康 [装備]銀次の日本刀@BLACK LAGOON [道具]基本支給品一式、ファウードの回復液(700ml/1000ml)@金色のガッシュ!!、四五六サイコロ@賭博破戒録カイジ [思考] 1:グレーテルを守る。また新八と神楽を探す 2:カマ野郎(DIO)を警戒。 3 首輪も解除したい Back 会【まじんとこたえをだすもののであい】 時系列順で読む Next ヒカリノソトヘ Back 会【まじんとこたえをだすもののであい】 投下順で読む Next ヒカリノソトヘ GAME START 坂田銀時 Next GAME START グレーテル Next GAME START DIO Next
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日曜の午前中、私は街中を散歩をしていた。 昨日の大雨が嘘のような青空、私の心とは反対に雲ひとつ見えない。 普段なら家でネトゲでもしていただろう。でも、家にいてもかがみのことばかり考えて、辛くなるから。 気分が少しは晴れるかなと思ったけど、私の予想とは360°違った。 ……って、一周してるや。180°ね。 時間が経てば、季節が変われば、いずれ忘れられると思っていたけど、胸に刺さったトゲは、未だに抜けないまま。 歩いていくうちに、町外れの公園に着いていた。 誰もいないのが逆に嬉しかった。誰にも干渉されず、一人でゆっくりできるから。 「ふう……」 家からこの公園までは結構キョリがあり、疲れ切った足を癒すためにブランコに座った。 それからしばらく、ずっと空を眺めていた。かがみへの気持ちは、収まらない。 「……大好き」 ついに我慢できず、空に向かってそう呟いた。誰もいなくて、本当に良かったと思う。 「……私は……かがみのことが……大好き」 でも、呟いたからといって、何かが変わるワケもなく。私の心を虚しさが通り抜けていった。 ――少しくらい、私達に相談してもいいのよ? 私達は―― その後、かがみが何を言おうとしていたのかは、なんとなくわかる。 言われなくて、よかった。『親友』なんて言葉を聞いていたら、確実に暴走していただろうから。 だけど……なんで、言わなかったんだろう? 本当に恥ずかしかったのか、それとも…… どのくらい時間が経っただろう、チャプンという音と足の冷たい感触で我に帰った。 「あ……」 ブランコの下の窪みにあった、昨日の大雨でできたのであろう水溜まりに、私は足を突っ込んでいた。 靴を履いてはいるものの、隙間や足首から水がしみ込んでくる。 靴の中がグショグショで気持ち悪かったが、不意に笑みが零れた。それは、自虐の笑い。 晴れ渡った町で、私の靴だけびしょ濡れ。それが私を表しているようで、なんだかおかしかった。 〈Love is the mirage... ~せつない恋に気づいて~〉 このままここにいてもしょうがない、私はグショグショな靴のまま家に帰った。 ゆーちゃんが元気よく「お帰りなさい」と言ってきたけど、私は靴下を洗濯機に放り込み、無言のまま部屋へと戻った。とにかく一人になりたかったから。 「ふう……」 ベッドに仰向けに寝、思わず溜め息がこぼれる。疲れもあったのだろうが、原因はそれだけではなく…… 「やっぱり、諦めきれないんだな……」 諦めようと思えば思うほど、余計に心が痛む。 本当は、諦めたくない。かがみと付き合いたい。でも……諦めるしか、出来ないじゃない。 私の思いは、絶対に届かないんだから…… 「こなたお姉ちゃん、入ってもいい?」 ドアをノックする音とゆーちゃんの声。 「いいよ。何の用?」 身体を起こして返事をすると、ゆーちゃんが不安そうな顔で入ってきた。 「こなたお姉ちゃん、何かあったの? 元気がないみたいだけど……」 「……なんでも、ないよ……なんでも……」 「嘘。こなたお姉ちゃん、何か悩んでるんでしょ? 前から溜め息ばっかりだし」 ゆーちゃんはかがみ並みに……いや、それ以上に、私をよく見ている。 これが普通の悩みなら、相談するんだけど…… 「言っても、ゆーちゃんにはわからないよ」 「……」 帰って、と言わんばかりに横になる。実際、早く出ていって欲しかった。 「確かに、私にはわからない悩みかも知れないけど……一人で抱え込むより、少しは楽になると思うな」 「え……」 横になったまま顔を動かして、ゆーちゃんの顔を見る。 その顔は真剣そのもの、いつもの優しいゆーちゃんの顔ではなかった。 「それに私、こなたお姉ちゃんに頼ってばかりだもん。たまには私を頼って欲しいな」 ……負けた、かな。ゆーちゃんの親切心に、私の心が。 そう言われると、頼らなざるをえないじゃん。卑怯だよ。 でも、負けは負け。私は身体を起こしてゆーちゃんの顔を見る。 「ゆーちゃん。今から言うことは、全部本当のことだから、覚悟して聞いてね」 「う、うん……」 私の言葉に、ゆーちゃんが身構える。私は小さく息を吸い込み……覚悟を決めた。 「私、かがみのことが……好きなんだ。友達としてじゃなく、恋愛感情で」 「……え……?」 予想だにしてなかったのだろう、私の言葉を聞いたゆーちゃんが驚きで口をおさえた。 「私はかがみが欲しい。かがみとずっと一緒にいたい。だけど、私もかがみも女の子……」 「……」 スカートの裾をギュッと握り締めたままのゆーちゃんを無視して、私は喋り続ける。 最初は喋るのに抵抗してたけど、一度喋り始めると止まらなくなるから不思議だね。 「私は、かがみに告白したい。でも、かがみは私を友達としか見てくれてない至極まともな女の子。告白したところで、受け入れてくれるはずもない。 断られて、元の生活に戻れるとは思えないし、もしかしたら、私を軽蔑するかもしれない。そうなったら……傍にいることはできない」 小さく溜め息をつき、天井を見る。特に意味はないけれど……なぜだか、ゆーちゃんの顔を見たくなかった。 「いくら思ったって、私の恋は、絶対に叶わないんだ。だから諦めようとしてるんだけど……諦め切れないんだよ……」 瞳から、涙が溢れた。我慢してはいたけれど、涙腺が耐えきれなかったみたい。 「……どうして、諦めなくちゃいけないの? そんなの、会う度に辛くなるだけだよ」 その言葉に驚いた私は、ゆーちゃんの顔を見た。 さっきまでの顔はどこへ行ったのだろう、なんだかイラついているようにも見えた。 「やってもいないのに、なんで諦めてるの? まだわからないじゃない」 「わかるよ。常識的に考えて。同性に恋をするなんて、おかしすぎるじゃない」 「……何を持って常識なんていうの? 同性結婚が認められてる国だってあるんだよ?」 前言を撤回しよう。ゆーちゃんは、本当にイラついているみたい。 こんなゆーちゃん……初めて見る。 「芸能人と一般人との結婚もある。日本人とアメリカ人との結婚だってある。だから不可能なんてないんだよ。やろうと思えばなんだってやれる けど、こなたお姉ちゃんは何かしようとした? 何もしてないでしょ? ただ怯えてるだけなのを『常識』っていう言葉のせいにしてるだけでしょ!?」 ものすごい剣幕で言い寄ってくるゆーちゃんに、私は何も言えなかった。 しかも……ゆーちゃんの言葉は、まさにその通りだったから。 「かがみ先輩だって、告白したくらいじゃ軽蔑しないと思うよ。もしそうだったら、友達にだってなってないよ それに……もし何かあったとしても、私はずーっと、こなたお姉ちゃんの味方だから」 ゆーちゃんの言葉の一つ一つが、私の心の傷を塞いでいく。 気付けば私は、ゆーちゃんに抱きついていた。大粒の涙を流しながら、きっとあざが出来てしまいそうなくらい、強く。 「ひゃわ!?」 「ゆ……ゆーちゃ……あ、あり……が……ああああぁぁ……!」 痛がる素振りも、嫌がる素振りも見せずにゆーちゃんは、ただ私の頭を撫でてくれていた。 「私、頑張るよ。頑張ってかがみに告白して、かがみと付き合う」 あれから数分後、私はゆーちゃんの目の前で誓った。 ゆーちゃんが教えてくれたことは、諦めるよりも、何かを求めて傷つく方が良いということ。 私を励ましてくれたその気持ちを、踏み躙るわけにはいかない。 「じゃあ、約束だね」 ゆーちゃんが左手の小指を出してくる。指切りなんて、何年ぶりだろう。 そう思いながら、私も小指を出してゆーちゃんのと絡ませる。 『ゆ~びき~りげ~んま~ん、う~そつ~いた~ら……』 そこで、二人の声が途切れる。どうやら、同じことを考えていたようで。 「本当に針千本飲ませるわけにはいかないよね、さすがに」 「何か他にないかな……約束を破った場合……」 「あ、じゃあさ……」 ゆーちゃんがほんの少しだけ顔を紅くしてこっちを見てきた。 「私と付き合うっていうの、ダメかな?」 ……………はい? 「え、えと、だから、かがみ先輩と付き合えなかったら、私と、付き合うっていうの……ダメかな……//」 耳まで真っ赤になった顔を見て、やっと私は気付いた。 私がかがみに恋心を抱いているように、ゆーちゃんも、私に恋心を抱いていることに。 でも、ゆーちゃんの言っていることは…… 「いい、の……? だって、もし告白が成功したら……」 「いいの。一番大事なのは、こなたお姉ちゃんの気持ちだから。こなたお姉ちゃんが幸せなら、それでいいから。だって、こなたお姉ちゃんが……好きなんだもん」 ……ああ、なんで私はあんな程度のことで悩んでたんだろうか。 同性の友達に恋をした私なんかよりも、同性の『血縁者』に恋をしたゆーちゃんの方が、よっぽど辛い思いをしてたはずなのに…… それでもゆーちゃんは、私を…… 「ありがとう、ゆーちゃん……」 それだけでは、感謝の思いを伝えきれないけれど、優しく微笑んでくるゆーちゃん。多分、わかってくれてるんだと思う。 「あ……あれ……?」 刹那、瞼が重くなった。さっき泣いたせいだろう、ゆーちゃんの顔がぼやけて見えてきた。 「お姉ちゃん、眠くなっちゃった?」 「う……うん……」 私は睡魔を我慢できず、そのまま床に倒れそうになった。 固い床の衝撃がくると思いきや、柔らかく温かい感触が顔を包み込む。 言うまでもなく、そこはゆーちゃんの胸の中だった。 「いいよ、ここで寝ても」 「ありがと……ゆー……ちゃ……」 意識が遠くなる瞬間に見たゆーちゃんの瞳は、濡れていた。 夢を見た。 私がかがみと出会ってからの出来事を、まるで走馬灯のように。 二人で過ごした幸せな時。辿れば、眩しく光っている。 もう二度と、あの頃には戻れない。だけど、それは悲しいことなんかじゃなかった。 少し前までは絶望の道が広がっていたけれど、ゆーちゃんのおかげで、新しい道が開けた。 それは、決して絶望の道なんかじゃなくて…… 全てを決めるのは、他ならぬ柊かがみ。 私の運命が良い方向に行くか、悪い方向に行くか。それは、かがみの返答次第。 例え二人の距離が離れていったとしても、私はそれを受け入れる。 だってそれが、私が選んだ道なのだから。 ――柊かがみ。私の、最愛の人―― どんな結末が待っていようとも。 私がかがみを愛していたことに変わりはない。 かがみを忘れてしまうほどの恋が胸を焦がすまで。 私はずっと、かがみの幸せを祈り続ける――
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和「あっ、ああっ! 駄目っ!」 和の目から見てもそれは危なっかしくて見てられないと言った具合だった。 数秒後、 ドシャーン── 和「憂っ!!! 大丈夫!?」 転倒先に急いで駆け寄る和。 憂「だいじょうぶだよ……。自転車ごめんね」 和「いいのよそんなことは! もう……なんでこんなこと」 憂「二人だよ」 和「えっ……」 憂「世界で一人じゃないよ。乗れないの」エヘヘ そう言って笑う憂。 一人じゃない、だから……大丈夫だと。 和「憂……」 この時、和は決意したのかもしれない。 この子の為に絶対に、二人とも自転車に乗れるようになってやると。 和「憂、一緒に練習しましょう。ね?」 憂「うんっ!」 こうして二人の特訓は始まった。 憂に勇気をもらった和と、和のため自分のために奮闘する憂。 二人の決意は何よりも硬く……。 ドシャーン── 硬く……。 ドシャーン── 硬い筈だ……きっと。 ドドシャーン── ──火曜日── 学校が終わってすぐに帰り、自転車を押して近くの川原へ直行する。 頭には白いヘルメット。顎紐も抜かりなくつけられている。 和「憂~待ったかしら?」 憂「今来たところだよ和ちゃん」 和「それが憂の自転車……可愛いわね」 憂にお似合いの淡いピンク色の自転車だった。和の自転車は青っぽく、どちらかと言えば男の子が乗りそうな風体だった。 きっと自分には女の子らしい色は似合わないだろうと中学生の和は思ったのだろうことが伺える。 憂「えへへ。ありがと。お姉ちゃんとお揃いなんだ~」 和「ほんとお姉ちゃん子ね憂は」 他愛な会話をしたをした後、いよいよ練習にとりかかる。 和「やっぱりバランスが大事なんじゃないかと思うのよね。漕いだ時にもバランスを保てれば後はその繰り返しだから」 憂「じゃあ私が後ろで支えててあげるね!」 和「頼んだわよ、憂」 自転車に跨がり、いざ行かんと正面を睨み付ける和。 和「は、離していいって言うまで離したら駄目だからね?!」 憂「わかってるよぉ」 和「じ、じゃあ……」 片足で地面を蹴りつけ、ペダルに両足を乗せる。 憂「和ちゃんっ! 漕がないと!」 和「え、ええっ」 あたふたしながら漕ぐも、今にも転びそうな勢いである。 憂が手を離した瞬間、おむすびころりんよろしくな勢いで転がって行くだろう。 自転車の上であたふたしている姿を見ると、ついつい意地悪してしまうのが人の性。 それがいつもは完璧の和なら尚更可愛く見えるのだろう。困らせたくなる。憂も人の子であった。 憂「ふふ、離すよ~?」 和「待ってまってまって離さないでお願いだからっ!」 憂「嘘だよ~」 和「なんだ良かった……」 憂「今だっ!」 手を離した瞬間、 和「あーーっ」 ドシャーン── 和「離さないでって言ったのにぃっ!」 憂「ごめんごめん。でもちょっと乗れてたよ?」 和「ほんとに!?」 憂「うんっ! 後は漕ぐ時にバランスが取れたら乗れたも同然だよ!」 和「憂にそう言われるとなんだかやれる気がしてきたわ! 次、行くわよ!」 憂「がんばって和ちゃん!」 そうして彼女達の訓練は夜遅くまで続いた。 ──平沢宅── 憂「ただいま~」 唯「憂いいい~お腹減ったよぉ~」 憂「ごめんねお姉ちゃん。着替えたらすぐ支度するから」 唯「着替えたら? って憂泥だらけじゃないっ! どうしたの!?」 憂「えっ…えっと、ちょっとコケちゃって。えへへ」 唯「も~憂はおっちょこちょいだなぁ」 憂「心配させてごめんねお姉ちゃん」 唯「憂は先にお風呂入りなさい! 今日は私も晩御飯作るの手伝うから! 先に作ってるね!」 憂「お姉ちゃん!?」 唯「じゃがいも剥いとくね!」フンスッ! 憂「じゃがいも使わ……うん、ありがとうお姉ちゃん」 ──真鍋宅── 和「やっぱりバランスが大事みたいね……内腿筋で上手くバランスを取る……と」 和「漕がなきゃ慣性が生まれないから転けやすくなるのね……所謂ジャイロ効果ってやつね……」 和「ハンドルは押すんじゃなくて傾けるって感じか……いいこと書いてるわね」 和「ふう、ファイリングしてたら3つにもなっちゃった。ネットって便利よねほんと」 和「これで明日には乗れるわね! 待っててね、憂」ノドンッ! ──水曜日── 和「お待たせ、ちょっと生徒会の仕事があって」 憂「ううん。全然いいよっ! 生徒会長だもん忙しいよね」 和「憂こそ家事とか大丈夫なの?」 憂「朝早く起きて夜の分も仕込んでるから大丈夫だよ」 和「苦労かけるわね……」 憂「お互いのためだもん、平気だよ! 今日も頑張ろっ和ちゃん!」 和「ええ」 憂「離すよ~?」 和「だ、駄目! もうちょっと支えてて……」 憂「だーめ♪」 和「あーーーーっ」 ドシャーン 憂「凄いよ和ちゃん! 昨日より乗れてたよ!」 和「結構スパルタよね憂……」 憂「まだ腰が引けてるよ和ちゃん! こうやって体は真っ直ぐにして怖がらずに前を見て漕ぐんだよ!」 お手本を見せるように自分の自転車を乗って見せる。 和「なるほど…腰はまっすぐにした方が全体のバランスがいいのれてるうううう!???」 憂「えへへ~。昨日で大体コツ掴んじゃった」 和「……これが天才と凡人の差ってやつかしら……」 ──平沢宅── 唯「憂遅いなぁ……。どうしたんだろ」 憂「ただいま~」 唯「あ、憂。おかえり~ってまた泥だらけー!?」 憂「えへへ。純ちゃんと砂遊びして来たの!」 唯「憂……。高校生になって砂遊びは……どうかと思うよ?」 憂「そうかなぁ? 楽しいよ~砂遊び♪ じゃあお風呂入ってくるね!」 唯「しょうがないなぁ。じゃあまたじゃがいも剥いてるね!」 憂「うんっ! お願いお姉ちゃん」 ──真鍋宅── 和「これはあんまりやりたくなかったけど……背に腹は変えられないわね。高校生だけど自転車乗れない……と」 1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/18(木) 18 04 44 .54 ID NODOKA/50 乗り方教えてください(□‐□*) 和「頼んだわよ……!」 2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/18(木) 18 05 44 .34 ID tmadjjga0 (□‐□) ↑何この顔文字うぜぇ 3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/18(木) 18 05 54 .21 ID jmwjajg0 以後、この顔文字で1000目指すスレ (□‐□) 和「頼った私がバカだった……! 猫にもすがる思いを見事に踏みにじられ……」 121 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/18(木) 18 14 44 .44 ID AZUSA2GO0 恐怖心が一番の敵だと思いますよ。転けることは恥ずかしいことじゃないです。 転けて覚えろ、なんて古くさいことは言いませんが転ける勇気は大切だと思います。 和「……転ける勇気……か」 和「そうよね。転けるからって乗らなかったらずっと乗れないわよね。転けてもいいんだって気持ちが大事ってことね! 良いこと言うわねこの人。ありがとう……と」 ──木曜日── 第一種搭乗配置。 一番レッグ、装着。 二番レッグはスタンバイモードへ。 ハンドルは固定、ブレーキ、作動を確認。 脈拍、心拍数、共に正常。 ヘッドギアの防御装置稼働率、97%。 では、発進── 5m……10m突破!!! 補助輪、パージ!!! 補助輪憂ちゃん、パージ!!! ERROR!!ERROR!! 駄目です!バランス合いません!! ペダルとレッグとの神経接続、解除されていきます!脈拍、心拍数上昇!!! いかん!!転けるぞ!! 脱出しろ!! 駄目です!!!間に合いません!!! ドシャーン── 和「もう駄目よ……このまま一生乗れないのよ……きっと」 憂「きっと和ちゃんなら乗れるよ! だから諦めないで!」 和「でもこんなに練習してるのに初めの頃とほとんど進める距離は変わらないし……」 憂「そんなこと…」 和「憂はすぐ乗れたからそんなこと言えるのよ……。私は憂みたいに完璧じゃないわ……」 憂「ッ!!!! 和ちゃんのバカッ!!!! もういいっ!!!」 涙を滲ませながら自転車に跨がり去って行く憂。 和「あっ……憂……! もうあんな遠くに……。自転車って凄いわね…」 和「自分が乗れなくてイライラしてるからって乗れる憂に当たって……何やってるのよ私…」 俯くと、眼鏡のレンズに涙が溜まる。 情けなくて、最低で……。 和「何が完璧よッ! てんで駄目じゃない真鍋和!! 完璧なら完璧らしく自転車ぐらい乗りなさいよ!!!」 和「憂を泣かせてんじゃないわよ!!!」 和「私っ!!!」 自転車を掴み上げ乗り込む。 転けることもいとわず漕ぎつける。 和「絶対ッ! 絶対ッ! 諦めないッ! 諦めてたまるもんですかっ!!!」 ──平沢宅── 唯「あ、おかえり~憂。もうちょっとでご飯出来るよ!」 憂「うん……」 唯「今日はいつもと違って元気ないね、憂」 憂「喧嘩しちゃった……」 唯「純ちゃんと?」 憂「……」 唯「憂。憂が何やってるのかは聞かないよ。でも悩み事があるならいつでも言ってね」 憂「お姉ちゃん…」 唯「あっ! カレールーがないや。ちょっと買って来るね! お風呂沸いてるから!」 憂「あっ! お姉ちゃん!」 チリンチリン── 唯「久しぶりの出撃だね~自転太。風が気持ちいいね~」 土手沿いを自転車で走る。景色が後ろへ飛び去って行き、風が体を包む。 まるで羽根が生えたみたいに体が運ばれて行く爽快感。 気持ちがいい、まさにこの言葉が当てはまる。 唯「ん?」 風景を眺めながら自転車を漕いでいると、川原傍で自転車に乗っている人影を捉えた。 ドシャーン── 唯「練習中かな? でも転けても転けても立ち上がって……偉いなぁ」 和「はあ……はあ……もうちょっと……もうちょっと」 唯「あれ、もしかして和ちゃん……?」 和「よっ……とと」よろよろ 和「まだっ……まだよ!」よろよろ 和「後5m!!!」 和「よし20m行っ」 ドシャーン 和「っつた……でも目標達成ね。次は30mにしましょう」 そう言うと和は歩数を使って30mの目安線を引き始めた。 唯「ほんとに乗れなかったんだ……」 木陰でそれを見守る唯。 和「はあっ……はあっ」 唯「和ちゃん……」 唯「(初めから完璧な人間なんていないんだ。和ちゃんはああやって苦手なものは克服して来たからこそ何でも出来るようになったんだ)」 唯「そっか…憂は和ちゃんの自転車に乗る練習を手伝ってたから遅かったんだね…。じゃあ喧嘩したって言うのも………そうだ!」 ──真鍋宅── 和「はあ……」 何回目だろうか……、この溜め息は。 溜め息をつく度幸せが逃げると云う言い伝えがあるがそれが本当ならもう一生分の幸せがなくなってしまったんじゃないかと思うぐらい溜め息をついただろう。 和「結局30mはいけなかったし……はあ……」 ブーブー マナーモードにしてあった携帯が震える。 和「電話……唯から? 何だろ……」 もしかしたら憂のことかなと身構えつつ電話をとる。もしそうならば謝らなくては。 和「もしもし」 唯『もしも~し。和ちゃん?』 和「どうしたのよ唯。こんな時間に」 唯『ご飯もう食べた? 私が作ったカレー食べたくない!?』 和「唯がカレー?! ほんとに!?」 唯『そんな驚くことかなぁ? 憂も和ちゃんも大げさだよぉ』 和「憂……何か言ってた?」 唯『何が?』 和「ううん。なんでもない」 唯『……憂も待ってるから。来てね。じゃっじゃじゃ~!』 和「えっ!? ちょっと唯!? もしもし!? 切れてる……全くもう……勝手なんだから」 3
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※注意書き 【】←この括弧は誰視点なのかを示しています。 Kがかしゆか、Nのっち、Aあ~ちゃん。 《》←この括弧は場面(時間?)を示しています。 【K】 のっちと私は、出会ってからずっと、 あ~ちゃんを軸にして回っているだけだった。 お互いに重なることはなかったけれど、 記憶の中にはいつも、のっちがいた。 遠くもなく、近くもなく。 ちょうどいいと思っていたこの距離を、 いつからか、もどかしいと感じるようになっていた。 無意識のうちに、この感情は膨れ上がって、 友人に対して抱くはずのない気持ちへと変わっていたのだった。 あなたの全てが欲しい…。 《昼休み》 「ちょっとあ~ちゃん、先生に用事があるけん」 そう言うとあ~ちゃんは、教室を出て行った。 残された二人は無言のまま、あ~ちゃんの帰りを待つ。 この時間が私は一番嫌いだった。 積極的に会話の出来ない自分が情けなくて、 そして、黙ったままののっちが、 私を嫌っているんじゃないかと心配になって。 「…あ、ねぇ、私売店行ってくるから」 のっちが財布を持って教室を出ていく。 一人に残された私は深い溜め息をついた。 そういえばのっちは、私のことをめったに名前で呼ばない。 「ねぇ」だとか「あのさぁ」だとかで済ませている。 そして二人になるのを避けているような感もある。 この前も、コピーをとって来ると教室を出たっきり、 チャイムが鳴るまで帰ってこなかった。 「なんだかなぁ…」 私はもう一度深い溜め息をついて、窓の外を見る。 皮肉なくらいに明るい太陽が、グラウンドを照らしていた。 【N】 私は最近、ゆかちゃんとどう接すればいいのか分からなくなっていた。 昔から人見知りな性格の私が、 初対面から何の違和感もなくすんなりと仲良くなれたのは、 あ~ちゃんとゆかちゃんだけだった。 特にゆかちゃんには、私と同じにおいを感じて、 むしろ自分から積極的に話しかけたのだった。 だけどゆかちゃんは、なかなか私に心を開いてくれなくて。 ゆかちゃんが私に向ける笑顔は全て偽物のような気さえした。 ゆかちゃんの心の奥には何があるのか知りたくて。 けれど知るのが怖い気もして。 こんな感情を人に持つのは初めてだった。 あなたをもっと知りたい…。 《帰り道》 ゆかちゃんが委員会で遅くなる月曜は、 いつも私とあ~ちゃんの二人で帰る。 私にとっては一番気楽な時間だ。 「のっち」 「んー?」 「…あんたは、ゆかちゃんのこと嫌いなん?」 「えっ?」 あ~ちゃんの予想外の発言に、私は戸惑う。 「どうして、どうしてそう思った?」 あ~ちゃんはちらりとこっちを見て、また前を向いた。 「なーんとなく」 私が急に焦ったのを見て、図星だとでも思ったのだろうか。 あ~ちゃんはクスクスと笑った。 「なんてね、のっちの場合は、逆だよね」 「……?」 「だーかーら、のっちは感情表現が下手くそなんよ」 「……」 「本当に思ってることとは反対のこと言っちゃったり、しちゃったり」 「あぁ…」 「私から見たらまるわかりなんだけどね」 あ~ちゃんはまたまたクスクス笑う。 本当にあ~ちゃんは私のことを分かっているなぁ…。 「仲良くなりたいんだったら、もっと積極的にならんと」 「うん…」 私はトボトボと俯いて歩く。 半歩先を歩くあ~ちゃんの横顔が、 どこか寂しげに見えたのは気のせいだろうか。 【A】 私は自分の居場所を見失いかけていた。 元々私が引き合わせたのっちとゆかちゃんが、 どんどんと仲良くなった場合に、 私はどこに居ればいいんだろうか。 二人が仲良くなるのは微笑ましくもあり、苦しくもあり、 こんな妙な感情になるのは初めてだった。 最近は、苦しさの方が先行して、 いつの間にか二人に嫉妬するようになっていた。 それでも二人のお膳立てをしてしまう自分が、憎たらしかった。 私はどこまでお人好しなのだろう。 これほどまでに醜い感情を持つのは初めてだった。 二人を壊したい…。 【N】 《帰宅後》 私はベッドに仰向けに寝ころんで、 あ~ちゃんに言われたことを頭の中で反芻していた。 仲良くなりたいのは間違いない。 もっとゆかちゃんと話したい。 それがただ友人としてだけなのかはまだ分からないにしても、 仲良くなりたいのは事実だ。 「もっと積極的に…」 私はしばらく天井の模様をたどっていたが、 跳ねるように立ち上がって財布片手に部屋を飛び出した。 行き先は… 【K】 《帰宅後》 放課後遅くまで委員会の仕事をしたために、 私はすっかり疲れていた。 あー、頭働かないなー。 宿題はあとにしよう。 そんなことを思っていると、何やら来客。 重たい体を引きずって、ドアの外を覗く。 「えっ、のっち!?」 ドアを開けるとそこには、 汗だくで満面の笑みを浮かべたのっちがいた。 右手には私の大好きなアイスクリーム屋さんの箱。 「なんか…来ちゃった♪」 「あ…、よ、ようこそ」 妙な応対をしながら部屋に招き入れる。 アイスがあったから走って来たのかと納得しながら、 冷えた麦茶を用意する。 アイスはのっちが走ってくれたおかげで、 変形はしていたものの程よい柔らかさだった。 軽く世間話をしていると、 今まで悩んでいたことが馬鹿らしくなってきた。 のっちも、最近二人に微妙な空気が流れていたことに気付いていて、 それを打開するためにわざわざ来てくれたのだろう。 感謝、感謝だなぁ。 私はすっかり気持ちが軽くなり、 さっきまでの疲労も嘘のようになくなった。 「ねぇ、のっちのアイス、どんな味?」 一口ちょうだい、という意味で私はそう言った。 のっちは少し考える素振りをすると、 急に私に顔を寄せ… 「んっ………」 甘いチョコの味が、口一杯に広がる。 チョコの甘さとのっちの香りとが私の脳を麻痺させる…。 「このまま時が止まればいいのに…」 【N】 《夕方》 走ってきたことで、私はすっかり興奮していた。 まるで今まで何もなかったような雰囲気に拍子抜けしながらも、 元通りになれたことにすっかり気分が高揚し、 気付けば私はゆかちゃんにキスをしていた。 いくら仲の良い友達同士でも、 こんなコミュニケーションの取り方はしないだろう。 しかし、これがゆかちゃんへの、 私の精一杯の愛情表現だった。 ゆっくり顔を離すと、そこには真っ赤なゆかちゃんの顔。 唇にチョコがついている。 ゆかちゃんは唇を舐めながら、 「もちょっと普通に教えてよ…アイスの味…」 と言う。 拒まれなかったことに安堵し、 また、少し嬉しそうにも見えたゆかちゃんの表情に、 たまらなく愛しさを感じたのだった。 ゆかちゃんの家からの帰り道、 私は、今まで知らなかったゆかちゃんの表情を知ることが出来た嬉しさで、 時々ジャンプやダッシュをした。 一見すれば変質者のような動きをしながら自分の家の近くまで来て、 私は一つの影を見つけた。 あ~ちゃんだ。 【K】 《夕方》 のっちが帰ってから、私はさっきまでの出来事を思い返していた。 あまりの急展開に思考が追いつかず、 のっちが帰るとき自分が何を言ったかなどといったことは、 すっかり忘れていた。 ぼーっとしていると、携帯が鳴る。 ピンク色の光はあ~ちゃんからだ。 「もしもし…」 「あ、ゆかちゃん?」 「どしたん?」 「のっちどこにおるか知らん?」 「えっ…」 私はドキッとした。 が、友達が友達の家に行くなんて、 ごく普通のことだと思い直す。 「のっちなら、さっきうちに来て…」 「えっ!のっちがゆかちゃん家に?」 あ~ちゃんの勢いに少し押され気味になる。 「うん…、あの…貸したノートを返しに…」 「そっかぁ」 別に大した嘘じゃないよね。あ~ちゃんは、のっちの所在を聞いてきたわけだから、 それが分かれば大丈夫だよね。 それでも少し不安になった私は、のっちにメールを送る。 携帯をカバンに入れて、目を瞑る。 しばらく幸せな気分に浸っていたかった。 【A】 《夕方》 ゆかちゃんとの電話が終わると、 私は夕日を見て溜め息をつく。 のっちがしばらくメールを返さないことなんて、 よくあることなのに。 私はなぜか、のっちの家の前まで来てしまっていた。 「なんか、まぬけ?私って…」 そんなことを思っていると、足音が聞こえる。 「あれ、あ~ちゃん」 「あ、のっち」 私は照れながら言い訳をする。 「なんか、何度メールしても返信なかったけん、 心配で来てしもうた」 のっちが戸惑った表情をする。 「あのぅ、…散歩行っとったんよ……」 ……! 「ごめんね、わざわざ…」 「いいんよ、無事なら」 私はのっちの言葉を遮って背を向けると、走って家に向かう。 のっちの声が聞こえた気がしたけれど、もう、どうでもよかった。 私は、嘘をつかれた。 【N】 《夜》 変なあ~ちゃん。 あ~ちゃんが心配して私の家まで来ることなんて、 今まで一度もなかった。 喧嘩した後謝りに、 私があ~ちゃんの家まで行ったことは何度もあったけれど。 もう夕日も沈みかけて暗くなっていたので、 私は「送るよ」と去っていくあ~ちゃんに言ったけれど、 聞こえなかったようだ。 そしてとっさに散歩だと嘘をついたことに、 少し後ろめたさを感じながら部屋に戻る。 でも、まぁ、散歩みたいなものだよね。 ちょっと寄り道もしたけど…。 私はゆかちゃんとのことを思い出し、ニヤニヤしながら携帯を取り出した。 ニヤニヤの表情は一瞬にして奪われた。 あ~ちゃんからのメールが3件。 そしてゆかちゃんから1件。 散歩の嘘はあ~ちゃんにバレていたのか。 だから…、走って帰ってしまったんだ…。 私はすぐにゆかちゃんに電話した。 【K】 《夜》 のっちからの電話のあと、私は今日一番の深い溜め息をつく。 何か解決策を思いついたらまた電話しようと言って切ったものの、 何も思いつきそうになかった。 こんなとき、また嘘を重ねると泥沼にはまることは、 今まで読んできた多くの小説から学んでいる。 それに敏感なあ~ちゃんのことだから、 嘘は簡単に見抜いてしまうだろう。 だからといってありのまま話したところで、 丸くおさまる保証はどこにもなかった。 ハムスターは寝静まり、部屋の空間は時計の音に支配されている。 時計の針はまるで私たちのようだ。 重なったり離れたりを繰り返し、時を刻む。 あ~ちゃんは軸のような存在だと思っていたけれど、 当然あ~ちゃんにも感情がある。 あ~ちゃんは一番短い針で、私は長い針。 のっちは一番せわしない針かな。 こんな状況で、変なことを思いついて、私は苦笑いする。 最近、あ~ちゃんのことをちゃんと見ていなかった。 自分のことばっかりで…、いや、のっちのことばっかりで…。 あ~ちゃんは私にとって、かけがえのない存在であることは、 出会ったときから変わっていなかった。 一歩前に進む勇気をくれたのはいつもあ~ちゃんだった。 あ~ちゃんなしに時は進まないよ。 私はあ~ちゃんに電話をかけた。 【A】 《夜》 帰宅してひとしきり泣いたら、なんだか気持ちが落ち着いていた。 氷で瞼を冷やしながら、冷静に考える。 のっちが嘘をついたということは、のっちとゆかちゃんとの間に、 私には言えない何かがあるということだ。 そう思うと辛かった。 しかし、その状況を私は願ってもいたのだ。 ゆかちゃんとのっちは、私から見てももどかしい関係だった。 二人になるとあまり会話がないのだと、 ゆかちゃんは苦笑いしながら話していた。 のっちものっちで、 ゆかちゃんは壊れてしまいそうで怖いのだと言っていた。 二人を知っている私からすれば、 二人は確実に仲良くなれる。 私は二人が仲良くなれるようお節介をやいた。 二人の笑顔が見たいから…。 知らず知らずのうちに、私の感情はおかしな方向へと転がっていた。 二人が仲良く笑っていたのなら、それでいいじゃない。 私に言えない秘密が出来るくらい仲良くなったんだから、 私は喜ばないと。 二人が永遠に笑顔でいられるなら、 私は消えてしまってもいい。 そんな穏やかな気持ちになっていると、携帯が鳴った。 レモン色の光はゆかちゃんだ。 《電話》 ゆかちゃんはこの状況を把握しているのだろうか。 「も、もしもし」 「あ~ちゃん…?」 「ゆかちゃんから電話なんて久しぶりじゃねぇ。 いつも私がゆかちゃんに相談するのにかけるけん」 「あのね…」 あぁ、この気遣うような声は、全部、知っているな。 「……」 「今日はね…」 それからゆかちゃんは、全てを話してくれた。 今までどんな思いでのっちを見ていたのか。 のっちが積極的になってくれたのがどれだけ嬉しかったのか。 そして、私への思いも。 途中から泣き始めたゆかちゃんの声は、 ほとんど聞き取れなくなってきた。 「ゆかちゃん、私ね…」 私はゆかちゃんに、二人が笑顔でいられるなら、 私は消えてしまってもいいのだと思ったことを話す。 「馬鹿ッ!何を言っとん!」 これだけはっきりと発音して、ゆかちゃんはまたもや泣き始めた。 「ぁ、あ~ちゃんはねぇ…、ひっく、 短針なんじゃけぇ、ひっく」 たんしん? 「あ~ちゃんが、ひっく、おらんにゃあ、ひっく、 時間が、ひっく、止まったままな…、ひっく」 だめだ、完全にゆかちゃんワールド。 何を言ってるのか分からない。 けど、ゆかちゃんがこんなにまで私を思ってくれていたことが、 すごくすごく嬉しかった。 「ありがとう、ゆかちゃん、私どこにも行かないから」 「ひっく…」 「酔っ払いか!」 二人は笑う。 ちょうどそのとき、キャッチが入る。 おそらくのっちだろう。 長電話最長記録じゃね。 私は氷を取り替えながら、ゆかちゃんとの話を終わらせて、 のっちと話を始める。 そして、強く強く思った。 二人を守りたい…。 【K】 《朝》 また何事もなかったように時間が動き出す。 あ~ちゃんとのっち。 二人への愛情の、形こそ違えど、 その深さは同じように底が見えないくらい深くて。 更に絆を深めることが出来た喜びで、 朝の空気がより一層心地よかった。 「おはよー」 のっちがそう言うと同時に私の手を握る。 私はしっかりと握り返す。 顔を見合わせてにっこり笑う。 照れくさそうなのっちが、本当に愛しい。 そういえばのっちは腕時計をしていない。 今度あ~ちゃんと三人でお揃いのものを買おうかな。 きっと二人とも、 なぜそんなことをするのか不思議がるだろうけど、 「お揃い」という言葉の持つ楽しげな雰囲気に負けて、 快諾してくれるだろうことは容易に予想できた。 また三人で、時を刻んでいこうね。 後ろからあ~ちゃんの足音が聞こえたかと思うと、 のっちにのしかかる。 「ぐえぇ」 「あんたの長電話のせいで、 宿題できんかったんじゃけぇ」 「あっ…」 まさかという顔で二人がこっちを見る。 しまった…。 私はぺろっと舌を出す。 「えぇー、あてにしとったのにぃ」 二人が同時に言ったのがおかしくて、みんな笑い出す。 いつまでも一緒にいたい。 私は明るい太陽に笑顔で言う。 「時を止めないで…」 ≪END≫
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1932.html
掃除機 俺は困っていた。途方もなく困っていた。 趣味のゆっくり虐待に興じすぎて、餡子の処理を忘れていたのだ。 このままでは愛すべき我が家がゴミ屋敷ならぬ餡子屋敷になってしまう。 それだけは避けなければならない。虐待お兄さんの称号が餡子おじさんになっては 先祖のお兄さんたちが悲しむではないか。 途方もない餡の山を目にしながら俺は溜め息をついた。 ゆっくりに処理させるという手もあるが、あいつらの食べ方は汚い。 どのくらい汚いかというと、辺りにコーヒーをぶちまいたうえに吐くぐらい汚い。さながら肥溜めだ。 そしてなにより、虐待お兄さんの名にかけて、ゆっくりどもに「しあわせ~」と言われるのは避けたかった。 もうね、アホかと。あいつら脳がないのかと。いや、脳はないか。 だが俺は思い出した。 ゆっくりでありながら、食い物を跡形も残さず捕食する存在を。 俺は早速必要な素材を集めるため香霖堂へと向かった。 「・・・まったく君も物好きだね。そんな物どうする気だい?・・まあ深入りはしないが・・・」 素材を集めた俺は、この計画の要となるゆっくりを探しに森へと向かった。 「こぼね~」 あっさりと見つかった。 そう、この計画において最も重要な役割のゆっくり、ゆっくりゆゆこである。 腹も空かせているようだし丁度いい。 「ゆゆこ~おいしい物やるからお兄さんのお家にこないかいハアハア」 「こーぼね!!」 それにしても単純な奴だな。ある意味他のゆっくりより扱いやすいかもしれない。 俺はゆゆこを捕まえると麻酔を打ち込んだ。八意先生特製ブレンド、税込み6,500円。おかげで今月の生活費が足りないのは内緒だ。 俺は家に戻り早速制作を始めた。家に戻るとゆっくりが入り込んでいたのはお約束。 今回は虐待ではなく実験体になってもらうとしよう。 ゆゆこが目を覚ますと、そこは夢のような世界だった。 目の前に大量の餡子があるのだ。ゆゆこも満腹になるような量の。 目を輝かせて、ゆゆこは飛びつこうとした。だが、動けない。 本当に動けないのだ。涙目になってくるゆゆこ。 「おお、目が覚めたか。」 気がつくと目の前には昨日のお兄さんがいた。 「こ~ぼね!!」 抗議の声をあげるゆゆこを尻目にお兄さんはそこにあったとってを掴んだ。 すると、あれほど動かなかった体が動くようになった。喜びに顔を緩めるゆゆこ。だが、その表情は一瞬で苦悶の表情へと変わった。 「ピッ」 何の音かと思うまもなく、大量の餡子がゆゆこの口に入ってくる。 「ゆぶっゆ”ぶお”お”お”お”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉぉぉぉぉぉ」 さながら山彦の様に、ゆゆこの声が響く。 大量の餡子は10秒とたたぬうちに消え失せた。 ゆゆこは何が起こったのか分からなかった。 なぜだろう、おいしいはずなのに気持ち悪い。 ななになになにないなになになになになになになになになになになになに その内ゆゆこは考えるのをやめた。 後の大ヒット商品、ゆゆこほーるの誕生である。 後書き 2本目、正直すまんかった。スレのダイソンネタで書いてしまった。 ちょっと使ってみたい・・やっぱいいや ~白い人 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/800.html
掃除機 俺は困っていた。途方もなく困っていた。 趣味のゆっくり虐待に興じすぎて、餡子の処理を忘れていたのだ。 このままでは愛すべき我が家がゴミ屋敷ならぬ餡子屋敷になってしまう。 それだけは避けなければならない。虐待お兄さんの称号が餡子おじさんになっては 先祖のお兄さんたちが悲しむではないか。 途方もない餡の山を目にしながら俺は溜め息をついた。 ゆっくりに処理させるという手もあるが、あいつらの食べ方は汚い。 どのくらい汚いかというと、辺りにコーヒーをぶちまいたうえに吐くぐらい汚い。さながら肥溜めだ。 そしてなにより、虐待お兄さんの名にかけて、ゆっくりどもに「しあわせ~」と言われるのは避けたかった。 もうね、アホかと。あいつら脳がないのかと。いや、脳はないか。 だが俺は思い出した。 ゆっくりでありながら、食い物を跡形も残さず捕食する存在を。 俺は早速必要な素材を集めるため香霖堂へと向かった。 「・・・まったく君も物好きだね。そんな物どうする気だい?・・まあ深入りはしないが・・・」 素材を集めた俺は、この計画の要となるゆっくりを探しに森へと向かった。 「こぼね~」 あっさりと見つかった。 そう、この計画において最も重要な役割のゆっくり、ゆっくりゆゆこである。 腹も空かせているようだし丁度いい。 「ゆゆこ~おいしい物やるからお兄さんのお家にこないかいハアハア」 「こーぼね!!」 それにしても単純な奴だな。ある意味他のゆっくりより扱いやすいかもしれない。 俺はゆゆこを捕まえると麻酔を打ち込んだ。八意先生特製ブレンド、税込み6,500円。おかげで今月の生活費が足りないのは内緒だ。 俺は家に戻り早速制作を始めた。家に戻るとゆっくりが入り込んでいたのはお約束。 今回は虐待ではなく実験体になってもらうとしよう。 ゆゆこが目を覚ますと、そこは夢のような世界だった。 目の前に大量の餡子があるのだ。ゆゆこも満腹になるような量の。 目を輝かせて、ゆゆこは飛びつこうとした。だが、動けない。 本当に動けないのだ。涙目になってくるゆゆこ。 「おお、目が覚めたか。」 気がつくと目の前には昨日のお兄さんがいた。 「こ~ぼね!!」 抗議の声をあげるゆゆこを尻目にお兄さんはそこにあったとってを掴んだ。 すると、あれほど動かなかった体が動くようになった。喜びに顔を緩めるゆゆこ。だが、その表情は一瞬で苦悶の表情へと変わった。 「ピッ」 何の音かと思うまもなく、大量の餡子がゆゆこの口に入ってくる。 「ゆぶっゆ”ぶお”お”お”お”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉぉぉぉぉぉ」 さながら山彦の様に、ゆゆこの声が響く。 大量の餡子は10秒とたたぬうちに消え失せた。 ゆゆこは何が起こったのか分からなかった。 なぜだろう、おいしいはずなのに気持ち悪い。 ななになになにないなになになになになになになになになになになになに その内ゆゆこは考えるのをやめた。 後の大ヒット商品、ゆゆこほーるの誕生である。 後書き 2本目、正直すまんかった。スレのダイソンネタで書いてしまった。 ちょっと使ってみたい・・やっぱいいや ~白い人 このSSに感想を付ける
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漆黒のキャンバスに、赤の月が満ち、もう一方の月の色を侵食する夜。 闇色と朱色に彩られた庭園を、一人の幼い少女が駆けていた。 ―――はぁ……はぁ……はぁ…… 少女は、逃げていた。 嘲笑、蔑み、劣等感。 ありとあらゆる不の感情から逃げていた少女は、やがて一艘の船に辿り着いた。 ―――はぁ……はぁ、はあ…… 短く呼吸を正し、船に乗り予め用意されていた毛布に包まった少女は、みっともなく泣き腫らしている。 「―――無様ね」 少女しか居ないはずの船の上に声が響く。 苛立ったようなその声は、思い出したくも無い過去の失敗を穿り返された人間のそれに似ている。 誰にも見つからぬよう、声を押し殺し泣く少女だったが、不意にその顔が笑顔へと変化した。 頬を紅く染め上げ、はにかみながら笑う少女の視線の先には羽根つき帽子を目深に被った一人の男性が立っていた。 「子爵……様」 少女がその男性を知っているように、声の主もその男性を知っていた。 幼き恋心の対象。 そして、父と男性によって交わされている約束。 男性に手を引かれ、恥ずかしそうに船から降りた少女は庭園を後にする。 自分達を見つめている者の視線にまったく気がつかずに…… それもそのはず。 今、此処に展開されているのは、一人の少女の『記憶』 普段は日常に埋もれ、決して掘り起こされない、過去の事象。 それが、夢と言う幻燈機械に掛けられ、ただ一人の為に上映されているのだ。 観客はただ一人。 主役であり、脇役であり、脚本家であり、監督でもある存在。 その存在は、自らの過去である少女に侮蔑と決別の溜め息を吐きだして、幻燈機械を停止した。 「夢……か」 まどろみと陽射しに包まれ、何処と無く朦朧とした視線を漂わせる。 視界にあるのは、木々が生え、涼しげな池が存在する庭園では無く、一年間住み続けている自分の部屋であった。 「ホゥ、今日ハ、ヤケニ早イ目覚メダナ」 「存外に失礼ね、あんた」 椅子に座って、一枚のDISCを手で弄んでいるホワイトスネイクの軽口を適当に返事を返しながら、着替えをするルイズ。 性別不詳のホワイトスネイクを前にして裸になる事に、微塵の羞恥心すら無い事が、そこから窺い知れる。 手早く着替えを終えたルイズは、飽きずDISCを弄りとおしているホワイトスネイクに声を掛けて、さっさと食堂へと出かけていった。 食堂で、やたらと豪勢な朝食を食べたルイズは、その足で今日の授業が行われる教室へと向かう。 確か、今日の授業は、ミスタ・ギトーが講師を務めるはずだと思い出すと、朝からあまり良くは無かった機嫌が、一段と悪くなるのが分かった。 ミスタ・ギトーは『風』が最強と言う持論を生徒達にも強要する先生であり、その冷たい論調と傲慢な態度に嫌っている生徒も少なくない。 と言うより、ギトーを好きな奴を探すとなるとこの学院を、それこそ掘り返しても探さないと発見できないぐらいに嫌われている。 ルイズも、その例に漏れず、ギトーの事を嫌っている生徒の一人だ。 別に、何が最強と思うのは個人の勝手だ。 しかし、その考えを無理矢理他人に強要するところが、ルイズは好きにはなれなかったのである。 「あら、今日は早いのね。ルイズ」 「ちょっとね……そういう貴方も早いのね」 挨拶をしながら欠伸をするキュルケに、ルイズはそう聞き返すと、女の嗜みよ、となんだか良く分からない返答が帰ってきた。 ともあれ、教室の隣同士の席に座って話をしていると、暫くしてタバサも教室に現れ、キュルケに誘われ、同じ机に席を置いた。 女三人寄れば姦しいとは言ったもので、普段お喋りなキュルケはともかくとして、人並みに話すルイズと、普段まったく会話をしないタバサも、ぺちゃくちゃとお喋りに花を咲かせていた。 そうこうしている内に、授業の始業時間となり、ミスタ・ギトーが髪色と同じ真っ黒なローブを揺らしながら教室の扉を開け、教壇に立った。 「では授業を始める」 何の面白みも無く、淡々とした言葉遣いで始まりの挨拶をしたギトーに、生徒の大半は心の中で溜め息を吐いた。 学生と言う身分は勉強しなければならないと言う事は分かっているが、どうしてもそこに娯楽性を求めてしまうものである。 他の授業―――例えば、火の魔法の授業であるコルベールなどは、時々変な発明を授業で発表したりするが、 あれはあれで、そこそこ受けが良い。無論、外す時もあるが。 ともあれ、この授業は、娯楽性と言う点で言えば最低ランクのさらに下のランク外であり、生徒達はこの苦痛な時間が早く過ぎる事を祈っていた。 この時までは――― 「骨が燃え残るか心配なんですけど、私」 「何、心配には及ばない。君の炎は私のマントの切れ端すら燃やせないだろうからな」 睨みあうキュルケとギトー。 お互いに杖を引き抜き、すでに臨戦態勢だ。 こうなった理由は簡単である。 炎が最強であると言ったキュルケに、ギトーが、ならば君の力で証明してみせろとキュルケを挑発したのだ。 始めは乗り気で無かったが、家の事を引き合いに出されると彼女としても本気を出すしかない。 魔力で編まれた焔を、さらに巨大にさせた直径1メイルもの炎の弾は、喰らえば大火傷、下手をすれば命まで燃やし尽くされる程の火力を有している。 勝利を確信して焔を放つキュルケだったが、満を持して放った炎が掻き消され、自身もまた疾風によって吹き飛ばされた。 その光景に誰もが息を呑む。 普段、おちゃらけた態度で居る事の多いキュルケであるが、その実力は折り紙つきで、誰もが認める程であったからだ。 だと言うのに、ギトーは、キュルケに勝った事が規定事実のように、 少しの高揚も感じさせない声で『風』が最強であると言う、偉ぶった演説を始めた。 ルイズは、そんな演説などクソ喰らえだった。 吹き飛ばされるキュルケの身体を受け止めるように出現させたホワイトスネイクに彼女の身体を受け止めさせると、愛用の杖を握り締めて、こつこつと甲高い足音を響かせギトーへと向かっていった。 ギトーは突然立ち上がった生徒に眉を顰めたが、今、自分が吹き飛ばした生徒と同じくフーケ討伐で名を上げた生徒だと知ると、特に注意もせず、教壇と同じ高さに降りてくるまで待ってから、先程と同じように挑発から会話を始める。 「ほぅ、どうやら、君も『風』が最強と言う事に異論があるらしいな、ミス・ヴァリエール。 異論があるなら、先程の彼女のように私に魔法をぶつけてくると良い。 何、君に使える魔法があればの話だがね」 ギトーは、ホワイトスネイクの能力を知らない。 基本的に生徒に関して無関心である為に、生徒よりもさらに重要度の低い使い魔の事など、どうでも良いからだ。 その為、ギトーの中では、ルイズは魔法の使えない無能な生徒のままで時が止まっている。 ルイズは、とりあえずギトーの挑発を無視してキュルケの傍へと歩み寄る。 ギトーを如何こうするより、キュルケの体調の方が、重要度が高い為に。 「大丈夫、キュルケ?」 「平気よ。それにしても、ほんと、貴方の使い魔って有能ね。 あんなちょっとの時間で、私を受け止めてくれるなんて」 キュルケの言葉にルイズは、ちょっとだけムッとした。 確かに助けたのはホワイトスネイクだが、そうなるように位置やタイミングを合わせたのは、自分だからだ。 自分が行った行為に対する正当な賛美が無いと機嫌が悪くなる所は、まだ子供なルイズであるが、物事の切り替えの早さは、すでに他の人間と比べて特出するにまで至っている。 「それじゃ、ちょっと、あいつをとっちめて来るわね」 杖の矛先をギトーへと向けるルイズに、キュルケは、にんまりと笑った。 「手加減ぐらいしてあげなさいよ」 「あら、目上の人に手心を加えるなんて失礼じゃない?」 ルイズも釣られてニヤリと口元を吊り上げると、制服のポケットから一枚のDISCを取り出し、自分の頭へと差し込む。 巻き添えを食らわないように自分の席へと戻ったキュルケは、タバサに耳打ちをして、学生席を全て風の防護膜で覆う。 万が一の事態に備えた上の行動である。 ギトーは、風の防護膜に素晴らしいと言葉を漏らして、興味深げにタバサの魔法を観察していた。 彼にとって、ルイズなど眼中にすら入っていない。 典型的なメイジの思想を持っている彼にしてみれば、メイジ以外など下等も下等。 魔法を使えないルイズも、ご多分に漏れず下等に分類されている。 そんな事を知ってか知らずか、ルイズは詠唱を完了させると足元の地面を変換させる。 ルイズの魔法に、誰もが、『風』以外の属性を見下しているギトーですら唖然としてしまった。 石造りの床を錬金よって、質量保存の法則とかを強引に無視させ、天井までの大きさを持つ岩にルイズは創り変えたのだ 「先に行っておきますけど、死なないでくださいね?」 気持ち悪いぐらいに優しげな響きを持ったルイズの言葉と共に、その岩がギトーの方へと倒れていく。 もはや、魔法だとかそういう次元の話では無い。 相手は、火の玉でも無ければ氷の矢でも無く、土のゴーレですら無い、ただの岩の塊。 圧倒的な質量で自分に倒れてくる、その塊に必死で魔法をぶつけるギトーであったが、吹き飛ばそうにも、あんな質量の物体を弾き飛ばす事など彼には出来ない。 出来るのは、風によって、倒れてくる時間を引き延ばす事だけである。 「ぐっ、ぐぐ!!」 魔法の連続使用による負荷によって、ギトーは精神が飛びそうになったが、必死に意識を繋ぎとめる。 今、ここで意識を失えば自分の身体は………… その先は、考えたくも無い事柄だった。 「助け―――」 「命乞いなんてみっともないですよ、先生」 醜く、命乞いをしようと声を上げようとしたが、岩の向こう側に居たルイズが、何時の間にかギトーの隣で、チェシャ猫のように耳元まで裂けた笑みを浮かべて立っている。 ギトーは悟った。 こんな笑みを浮かべる者に、命乞いなど意味が無い事を。 そして、後悔した。 自分は、こんな化け物みたいな哂いを浮かべる者に、戦いを挑んでしまったと言う事を。 「うっ、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 すでに限界は来ていた。その限界を死にたくない一心で騙し続けていたギトーであったが、とうとう魔法の発動が止まり、岩の動きを遅くしていた風が無くなる。すると、岩は凄まじい速度でギトーに倒れこんだ。 ルイズは、その叫び声を、まるでフルオーケストラを聴いているように、うっとりとした顔で耳に刻みながら、タクトの如く杖を振る。 「ぉぉぉぉぉおおおお…………お?」 こつんと、ギトーの頭に石が当たった。 岩がギトーを押しつぶす寸前、ルイズが錬金を解除した為に、元の質量に戻ったのだ。 ルイズは、ギトーの先程までの醜態に満足したのか、何も言わずにキュルケとタバサが座っている席へと戻っていく。 「ちょっとやり過ぎだったんじゃない?」 「あれぐらいなら良い薬よ」 「良薬口に苦し」 席へと戻ったルイズに少し困ったような調子で注意するキュルケと、ルイズの行動を肯定しているのか良く分からない言葉を呟くタバサ。 そんな三人の様子を見ながら、ギトーはふらふらと教室を出て行く。 「やや! どうされました、ミスタ・ギトー、まだ授業中ですぞ!?」 廊下に出ると妙に着飾ったコルベールと鉢合わせたので、授業の代役を頼むと、返事も聞かずにギトーは自室へと戻っていく。 今日は、もう、誰とも話す気にはならなかった。 ケツの穴に氷柱を突っ込まれかのように、おとなくしなってしまったギトーの態度は、『風』を最強と自負していた頃と比べると、見る影も無い程に衰えてしまっていた。 同じ頃、燦々と太陽の光が降り注ぐ中、ご主人様から預かった洗濯物を干している才人は、同じく、洗濯物を干そうとしているシエスタと話し込んでいた。 本来なら生真面目な性格であり、仕事中の雑談などしないシエスタであったが、 才人と一緒の時だけは、どうしても仕事が疎かになり、会話を楽しんでしまう。 それが駄目な事だと理解はしているが、どうしてもそれに『幸福』を感じてしまうシエスタは、それを直そうとは思わなかった。 「へぇ、シエスタの故郷って、そんなに良いところなんだ」 「はい。片田舎ですけど、村の人は優しくて、山には色々な果実が実ってて、ほんと、平穏なところですよ」 二人の会話は、何時の間にか故郷に関する話となっていた。 自分の故郷、タルブ村を事細やかに説明するシエスタに、才人は楽しそうに笑っていたが、不意にシエスタの表情が曇る。 「あれ……どうかした?」 「あっ、いえ……あの、すいません、無神経な事を話して」 申し訳そうに謝るシエスタに、はてと才人は首を傾げた。 一体、今の何処に無神経な事があったと言うのか。 「えっと……なんで、シエスタは俺に謝ってるの?」 疑問をそのまま口にすると、シエスタは益々、身を縮めて悲しそうな顔をする。 正直、グッときた。 「だって……サイトさん……自分の故郷に帰れないのに、私、故郷の話をして……」 シエスタの言葉に、才人は、手をぽんと叩いた。 そうか、確かに帰れない人に、帰れる人間が自慢するのは失礼にあたる行為かもしれないが、特に自分はその事に対して何も感じていない。 「いや、俺、そういうのあんまり気にならないからさ。 むしろ、シエスタが故郷の話を聞かせてくれるのは、凄く楽しいから、もっと聞きたいなぁ、とか思ってるけど」 才人の返答に、シエスタは良かったぁと安堵の溜め息を吐き、豊満な胸をほっと撫で下ろした。 「でも――――――とか思わないんですか?」 「え?」 聞こえなかった訳では無い。 ただ、どうしてかその単語が脳内で理解できなかったので、才人はもう一度聞き返す。 シエスタは、不思議そうに先程と同じ内容を繰り返した。 「ですから、故郷に帰りたいとか思わないんですか?」 「――――――――――――あっ」 帰りたい――――――才人は、自分の中に在り得なかった、その発想に愕然とした。 思えば、異世界である此処に迷い込み、シエスタの曽祖父が自分と同じ世界の人間かも知れないと聞かされた時でも、 自分の頭に『帰る』と言う考えは浮かばなかった。 何故ならその考えは………………無駄だから? 「サイトさん?」 「あっ……れ?……」 シエスタの怪訝そうな声に、今まで考えていた事柄が思い出せなくなる。 「えっと……何の話だっけ……あぁ、そうだ、シエスタの故郷の話だったっけ?」 何処と無く不自然な顔をした才人に、シエスタは何も言わず、心配そうな視線を向けてくる。 才人は、自分の中に何か釈然としないものがあるのを感じながら、それについて考える事を放棄した。 放棄せざるをえなかった 「そういえば、前、聞かせてくれたけど、シエスタの故郷に秘宝みたいなのがあるとか言ってたよね? それって、どんなものなの?」 才人の何事も無かったかのような態度に、シエスタは何かを言おうとしたが、軽く頭を振ってから質問に答える。 「うちの曾御爺ちゃんが残したモノなんですけど……その『悪魔の牙』って―――」 「あっ、シエシエ、見つけた~!」 シエスタの口から、なんだか物騒な単語が出るのと同時に、シエスタと同じメイド服に身を包んだ少女が、才人とシエスタの近くまで走ってきた。 「どうしたんですか、そんなに急いで?」 同僚の慌しい雰囲気に、シエスタが尋ねると帰ってきた答えは意外なモノであった。 「王女様! アンリエッタ王女様が此処に来るんだって!!」 メイドが息を切らしながら伝えた内容に、才人とシエスタはお互いの顔を見合わせた。 四頭のユニコーンに引かれた特別製の馬車が、魔法学院の正門を通過し、姿を現すと、王女の到着を今か今かと待ち侘びていた生徒達は、一斉に杖を掲げた。 件の三人組も、他の生徒達と同じように杖を掲げていたが、心情は他の生徒とは若干違いがあった。 キュルケは、清楚で穏やかな王女よりも自分の方が綺麗じゃないかと詰まらなそうな顔をしていた。 タバサは、トリステインの王女自体にそこまで興味が無かったので、杖を掲げているだけで何も考えていない。 強いて言うならば、今日の晩餐は、王女が来たお陰で豪勢になると考えていた。 ルイズは、何か……遠い何かを見るような目でアンリエッタを見つめていた。 「思ウ所ガアルト言ッタ顔ダナ」 「別に……時間の流れって、無情って思っただけよ」 隣に立つホワイトスネイクの声に、返答したルイズは、馬車が見えなくなると同時に部屋へと戻る為に、踵を返した。 今のアンリエッタに、昔のような、見ると安心するような笑みは無かった。 彼女の顔にあったのは、張り付いたかのような作り笑いのみ。 幼少のみぎりに共に遊んだ少女は、あそこには居なかった。 あそこには、ただの王女が居るだけ。 「ほんと……無情ね」 ぽつりと、誰に言うでもなく呟いた言葉にホワイトスネイクは何も言わずに、ルイズの後に続くのだった。 その夜、夢と同じような赤色の月が光を提供する部屋の中で、ルイズは熱心にホワイトスネイクと会話するタバサを見ていた。 夜分遅いと言うのに、部屋に留まる蒼髪の少女にルイズは、頑張るものねぇ、と呟く。 「挑戦」 一通りホワイトスネイクとの会話を終え、手に持っていた一枚のDISCをタバサは、何の躊躇いもなくDISCを挿し込み―――案の定苦しみ始めた。 「はぁ……ホワイトスネイク」 落胆したかのようなルイズの声は、もう三度目だ。 ホワイトスネイクは、その声に反応し、これもまた三度目となるDISCの強制排除を実行する。 「……失敗」 自分の頭から抜き取られたDISCを渡されながら、苦々しげに呟くタバサだったが、何処と無く声に覇気が感じられない。 「今日ハココマデダ。ソロソロ、精神力ガ限界ダロウ」 ホワイトスネイクの言葉に頷くタバサは、ルイズに一礼をしてから、よろよろとおぼつかない足取りで部屋から出て行こうと扉に手を掛け、掴まれた。 「そんな危なっかしい歩き方しか出来ないのに、部屋を追い出したんじゃ、私がキュルケに叱られるわ。 少し、休んでいきなさいよ」 語尾を強めるルイズに、タバサは思わず頷いてしまう。 そのまま勧められるままに、テーブルの椅子に座るタバサだが、この申し出はありがたい。 正直、眩暈と吐き気によって気分が最悪で、部屋まで歩けるか分からなかったからだ。 「でも、あんたも頑張るわよね……初日から、こんなに気合入れるなんて」 「…………」 「まぁ、『力』を使いこなせるようになれば、便利だから頑張るのは分かるけどね」 あふ、と欠伸をして、眠たげにベッドに横になるルイズを見るタバサの瞳は、何時も通りの無感動を映している。 「相変わらず、人間味の無い眼をしているわね、あんた」 「自覚は無い」 「でしょうね。そんな眼、自覚してやってるとしたら、相当、性質が悪い奴だから」 タバサの体調が回復するまで、取り留めの無い話を振っていたルイズであったが、扉のノック音が部屋に響くと同時に、半分閉じかけていた目を強制的に開かせ、扉の方へと視線を向けた。 始めに長く二回、その後、短く三回ノックされたのを確認してから、ルイズは立ち上がり、扉を開けた。 扉を開けると、そこには黒頭巾を被った少女が、頭巾と同じ色のマントを羽織って立っていた。 「まさか……」 頭巾越しに分かる少女の顔立ちに、ルイズは驚きからか、言葉を漏らす。 少女は、ルイズの言葉に反応するように部屋へと入り、扉を閉めてから杖を振るった。 ホワイトスネイクが警戒の色を濃くし、何時でも少女の頭蓋を砕ける位置に立っている事に気がついたタバサは、声を掛ける。 「魔法での仕掛けが無いか確認しただけ」 その説明に、頭巾の少女は頷きながら頭に被った布を取り去る。 「驚いた」 本当に驚いているのか、激しく疑う程に単調に呟かれたタバサの言葉は、頭巾を取り去った少女―――アンリエッタ王女へと向けられたものだった。 「姫殿下」 アンリエッタ王女の眼前に居たルイズ、恭しく膝をついた。 そこに、タバサは違和感を感じた。 貴族たる事を、絶対として扱っているルイズにしては珍しく、その仕草に何処と無く不自然さが付き纏っていたからだ。 「あっ、ほら、あんたもさっさと―――」 「良いのよ、ルイズ。貴方のお友達なら、私にとってもお友達だもの。 ルイズも、ほら、立ち上がって。友達に対して膝をつく人なんて居ないでしょう?」 優しげであり、母親に抱かれるような抱擁感を覚えさせる声に、タバサは思わず息を呑む。 なるほど、確かに王女と言うだけはある。 風格と仕草、それに何者をも癒すかのような声には、カリスマに満ち溢れていた。 普段から、トリステインの王族は執政者としては他の王族に格段に劣っていると聞き及んでいたタバサは、よくそれで国が動いていると思っていたが、なるほど、このカリスマは、王族としては一流だ。 そこまで考えて、不意にタバサの顔に影が落ちた。 それは如何なる思考の果てなのか、無感動を歌うはずの彼女の瞳は、その時ばかりは揺れに揺れていた。 幸い、昔話に花を咲かせている、ルイズとアンリエッタは気付かなく、気付いたホワイトスネイクも別に声を掛ける義理も無いので放っておいた為に、彼女の思いが外に出る事は無かった。 「あの頃は……本当に楽しかったわね、ルイズ」 昔話が一頻り済んだ時に、アンリエッタはぽつりと懐かしむように呟いた。 「えぇ、本当に……」 それに対して相槌を打つルイズは、今朝見たアンリエッタと、今のアンリエッタの違いに内心、物凄く驚いていた。 あの時は、作り笑いを浮かべ、民に対して手を振るうだけの人間になってしまったと思っていたが、今、こうして目の前で話すと、昔のままのアンリエッタが存在している。 (人間って、凄く便利な生き物なのね) (何ヲ今更。人ハ、誰彼モ欺イテ生キテイケル、唯一ノ生キ物ダゾ?) 呆れたようなニュアンスを含んだホワイトスネイクからの返答に、そうなのかしら、と思いながら、ルイズはアンリエッタの言葉に返答していく。 だが、話の合間に溜め息を吐き続けるアンリエッタに、ルイズは眉を顰めた。 タバサに顔を向けると、彼女もまたルイズと同じ結論なのか首を縦に振る。 「あの……姫様、どうかなさったんですか?」 「えっ?」 「先程から溜め息ばかりを……何か、悩み事があるのでは?」 疑問系で聞いたルイズだったが、アンリエッタに何か悩み事が存在する事は確信していた。 思えば、もう何年も会っていない友人に会いに来て昔の話をしたのも、恐らくはその悩みで磨耗した気を紛らわす為だったのだろう。 「あぁ、ルイズ……やはり、貴方には分かってしまうのね。昔から友達である貴方には……」 誰でもあんなに溜め息を吐けば分かると言うものだが、それに突っ込むものは居ない。 ともあれ、アンリエッタは、眼を真っ直ぐルイズへと向けようとしたが、その前に、椅子に座っているタバサへと視線が逸れた。 「すいません。この話は国の重要事項であり、信頼の置ける人物にしか……」 「分かった」 申し訳無さそうに述べるアンリエッタに、タバサは立ち上がり、一礼してから部屋の扉に手を掛ける。 調子の悪さも、きちんと歩けるぐらいには回復していた。 「じゃあね、また明日……かしら」 後ろから掛けられたルイズの言葉に、振り返らずに頷いたタバサは、服のポケットに入っているDISCの重さを確かめながら、部屋を後にした。 「これで、今、この部屋に居るのは、私と私の使い魔のみ……話していただけますか、姫様」 タバサが完全に遠のいたのを確認してから、ルイズがそう言うと、アンリエッタは重々しく頷き口を開いた。 「そうですね…………では、話しましょう。私が、夜も眠れぬ程に悩む事柄を―――」 憂いを張り付かせ、笑みが掻き消えたアンリエッタの表情に、今更ながら、厄介事に巻き込まれる事になると気が付いたルイズであった。 第十話 後編 戻る 第11.4話