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とあるゆっくりありすとゆっくりしゃんはいの夫婦の間に子供が生まれました。 ありすとしゃんはい、ほーらいが1匹ずつ。 3匹が生まれたその日の内に、親は死にました。巨大怪獣の吐いた重粒子ビームに消し飛ばされたのです。 この巨大怪獣は八雲さん家の藍ちゃんが速やかに退治したので、長い目で見ると幻想郷に大した影響は出ませんでした。 問題は短い目で見た場合です。 生まれたばかりで右も左も分らない、目さえ開いていない3匹のいる巣穴は、3匹の目の前で消滅しています。 そこにいたはずの両親は残骸もありません。 訳も分らない赤ん坊は哀れ、このまま怪獣に踏みつぶされる運命かと思われました。 ですが幸いなことに、お隣のれいむお母さんが様子を見に来てくれました。 「ちょくげきだ! やられたか!? ……う?」 断じて野次馬に来た訳ではありません。 そこでれいむお母さんが見た物は、半ばから吹き飛んだ巣穴の中で身を寄せ合って震えている、生まれたばかりの姉妹の姿。 ついこの間まで子育てをしていたれいむお母さんにとって、その光景はとても放っておける物ではありません。 「あわわわわわ。で、でておいで! ゆっくりにげないとふみつぶされるよ!」 「ゅー、ゅー……」 「ぉかーしゃん、どこー?」 「ゅーゅー……」 「どうしよう、どうしよう。ゆー、ゆー……。! そうだ! ゆ! おかーさんはここだよ!?」 おや? とれいむお母さんの方を向く3匹。ここで初めて3匹がれいむお母さんに気付きます。 「おかーしゃんは、さっききえちゃったよ!」 「れいむたるもの、テレポートの1つくらいゆっくりまえさ!! かんいっぱつにげていたんだよ!」 「ゆ! おかーしゃんすごーい!!」 「しゃんはーい!」 「ゆー! ほらーい!」 「さ、はやくおかーさんのくちのなかにはいって! ゆっくりにげるよ!」 こうして親切なれいむお母さんに助けられた3匹は、父親のことも忘れてすくすくと育ちましたとさ。 めでたしめでたし。 『嫌われありすの一生』 1匹で食料調達が出来るくらいにまで成長したありすが、口一杯に木の実を詰め込んで巣まで帰って行きます。 新しく見つけた木イチゴの群生地を皆に報告したくて、帰宅の足はついつい逸ります。 そんなありすが、突然何もないところで転びました。 ぐべ、と地面に突っ伏したありすの上に乗っかってくる影2つ。 細い蔓を使ってありすを転ばせた、ゆっくりしゃんはいとほーらいです。 「しゃんはい! しゃんはーい! (やーいやーい! ありすざまあ!)」 「ほらいほーらい! (おお、みじめみじめ!)」 2匹はありすの上で散々飛び跳ねた挙句、ありすを投げ飛ばしました。 放物線を描いて、ありすは顔面から木に激突します。飛び散る朱い飛沫。 ベチャリ、と地面に落ちてきたありすの体は、真っ赤な液体で染められています。 あ、と硬直する2匹。やり過ぎに気付きました。 「しゃしゃしゃんはーい!! (ちちち、ちがでてるううう!!)」 「ほほほっほほおおお!!! (たたたったいへんだー!!!)」 ありすを濡らすそれが血であるなら、どうみても致死量に達しています。 アワアワと震える2匹が見守る先で、ありすがゆっくりと身を起こします。 「ふおおおおおお……」 「しゃー!!! (ぎゃー!!!)」 「らいらーい!! (ぞんびー!!)」 グロテスクな外見に驚いた2匹が、我先にと逃げ出します。 先に悪戯しようっていったのしゃんはいじゃん! しゃんはいが捕まってよ!! やだね、ぐずなほーらいが食べられればいいじゃん! いやあああ!!! 足下もろくに見ないで走ったせいで、先を行くしゃんはいがもんどり打って地面にダイブしました。 それにつまづいたほーらいも顔面スライディングを敢行します。 「はあああああい!! (したかんだー!!)」 「らあああああ!! (おでこすりむいたー!!)」 後から2匹に追いついた、木イチゴの汁で顔を汚したありすがため息をつきます。 口の中の木イチゴが台無しになったので、2匹を叱ろうと追いかけてきたのですが、 痛みに悶える2匹を見ているとあきれ果て、どうでも良い気分になりました。 「ばかねえ、あんたたち」 せっかくの木イチゴを台無しにしたので、2匹はお母さんれいむにこっぴどく叱られました。 「しゃんはーい…… (ちくしょう……)」 「ほらほらーい…… (ありすのとかいは(わら)め……)」 どうにかして仕返しをしてやろうと巣の近くをぶらついていると、れみりゃの死体を見つけました。 まだ日が高いのではっきり死体だとわかりますが、意外と損傷が少ないので暗くなってくると生きているれみりゃと区別がつかないかも知れません。 2匹は顔を見合わせ、お互いの思考が一致したことを確認しました。 ありすは、木イチゴを集め直しに行っている。帰りは少し遅くなるだろう……。 夕闇が迫る山中を、ありすが大急ぎで走っています。 昼間駄目にした木イチゴの分も挽回しようと欲張った結果がこれだよ!!! しゃんはいとほーらいは木によじ登り、ありすが来るタイミングに合わせてれみりゃの死体を落とそうと目論んでいます。 ありすを驚かせれば、少しは鬱憤も晴れるというものです。 「ほらら (きたきた)」 「うー……よくねむったお」 「しゃんしゃん (それはよかった)」 ……はい? 2匹が真っ青になって振り返った先では、れみりゃが大あくびをしながら伸びをしています。 はい、眠っていただけだったね。 「らあああああい!!?? (はっきりしたいだってわかるっていったの、だれえええ!!??)」 「ははははああい!! (しゃんはいじゃない、しゃんはいわるくないもん!!)」 「うー、ゆうごはんがめのまえにいるお。らっきーだお」 カポ、とれみりゃがしゃんはいの頭に齧り付きます。恐慌状態の2匹は木の上でアタフタするしかできません。 「ほらほらほらほら…… (あわわわ、こまりましたねぇ……)」 「ゆ゛うううううぅうううう!!!」 れみりゃの牙がしゃんはいの頭皮に突き刺さり、髪の毛がむしり取られていきます。 「じゃああんんん!!! (だすけ゛てえええ!!!)」 「うー、うるさいおー」 抵抗するしゃんはいに苛立ったれみりゃが、しゃんはいを地面にたたき落とします。 固い地面に切り裂かれたしゃんはいの顔面から餡が漏れ出し、 しゃんはいを踏みつぶしに落ちてきたれみりゃのプレスに耐えきれなかったしゃんはいの体がザクロのように破裂しました。 あたり一面にぶちまけられるジャムみたいなしゃんはいの残骸。 「じゃ……、じゃ……」 「ペロペロ、うー。おいしいくないお」 ぺー、としゃんはいだったものを行儀悪く吐き出し、木の上で震えているほーらいを引きずり下ろします。 哀れ、しゃんはいの命は2回舐められるだけの価値しかなかったのです。 「ほらああああ!! ほらああああ!!! (はなしてええええ!! たべないでええええ!!!)」 「こいつもうるさいお。しゃーらっぷ!」 れみりゃの鋭い翼がほーらいの口を真横に切り裂き、ついでに切り取られた舌がテロンと零れます。 こうなると、ほーらいの口からは「はふ、はふ」と空気が漏れる音しかしません。 さあ、今度こそ、と意気込むれみりゃの横っ面を重い物が張り飛ばし、れみりゃはゴロゴロと転がっていきました。 ハンマー代わりにしゃんはいだったものを咥えたありすが、鬼の形相で仁王立ちです。 「ゆー! ゆっくりできないれみりゃはやっつけてやる!!」 「うー、うわーん! さ゛くやー、へんなありすがいるどー!」 ありすの迫力に恐れをなしたれみりゃに反撃の意思は最早ありません。 何回もしゃんはいで殴りつけられ、自分の顔を汚しているのが自分の餡なのか、 しゃんはいの餡なのかわからなくなりつつ逃げていきました。 興奮が収まらないのはありすです。 よくもしゃんはいを、よくも。 それだけを繰り返し叫びながら、近くで動くものを殴りつけます。 「なにやってるの、ありす!!!」 そんなありすを突き飛ばしたのは、れいむお母さんでした。 え、助けに来てくれたんじゃないの? 驚いたありすがあたりを見回すと、視界に入ってくるのはれいむお母さんと……。 ボロクズになって息絶えたほーらいでした。 左側頭部は陥没して元に戻らず、破裂した左眼球から漏れた餡は鼻孔に詰まり、 裂かれた口は無惨にアチコチから破れて口の中を晒しています。 最後まで無事だった右目には目垢が大量に固まり、ほーらいがどれだけ長い間泣いていたかを物語っています。 言葉が喋れなくなっていたほーらいは、助けを求める事も出来ずに姉妹に殺されました。 「――ばかね、わたし」 「かぞくをころしたありすは、そこでゆっくりしないでいてね!!!」 「しゃんはいとほーらいはありすとなかよしだったのに、ざんねんだよ!!!」 「ゆー! ちがうの! しゃんはいをころしたのはれみりゃだよ!」 「うそまでつくの!? れみりゃのはがたさえ、しゃんはいにはついてないよ!」 家族を殺してしまったありすは、枯れ木の中の孔に閉じこめられてしまいました。 孔の出入り口は枝や石で厳重に固められ、外の音が何とか聞こえるくらいです。 この後彼女をどうするのか。れいむお母さんやご近所さん達が話し合っています。 「ありすは……うちのちぇんともなかが……」 「まさか……。でも……」 「なんで……。ずっとかぞくでゆっくり……」 孔の中では茫然自失のありすが縮こまっています。 自分は何てことをしてしまったんだろう。ごめん、ほーらい。助けられなくてごめん、しゃんはい。 そうこうしている内に、気疲れもあってありすは眠りに落ちていきました。 「――! ――!」 「――、――♪」 何やら外が騒がしいようです。騒音に目を覚ましたありすが外の様子を伺うと。 「にげでぇえぇぇ!! みんなはやぐううう!!」 「うー♪ あのありすをみつけて、ころしてやるどー♪」 「はい、おぜうさま!」 「かしこまりましたわ!」 「ありす゛はああ! そこのあなのなかだよ!」 「だまされませんわ。あななんてありませんもの」 「うー♪ さすがはさくやだお!」 「いりぐちかためたの、だれええええ!! はやくありすをそとにだし゛でええええ!!」 「ばちゅりいいは、もうしんじゃったよおお!!」 さっきのれみりゃとその家族のさくやが、家族やご近所さんを襲っています。 狙いはありす。どう見ても仕返しです。 しかも、入り口を枝と石で固められた孔に彼女たちは誰も気付きません。 「わだじはここよー! みんなをいじめないでえええ!!」 「う? なにかきこえるど?」 「げんちょうですわ、きっと」 「うー♪ さすがはさくやだお!」 「ありすをひろってあげたけっかがこれだよおお!!」 「おかーさん、た゛すげてえええ!!」 「わかああああああ!」 「ちぼっ、ちぼっ……」 見る間に数を減らしていくゆっくり達。さらに、反撃を受けたれみりゃ達にも少なくない被害が出ました。 さくやの顔面に齧り付いたまま絶命したまりさや、高みの見物を決め込んでいたれみりゃの羽根をもぎ、自分の死体の重さで潰したゆっくりらんは勇敢に戦いました。 最後に残ったのは1匹のさくやと、1匹の赤ちゃんぱちゅりー。 ピーピー泣いているぱちゅりーを、さくやがそっと咥えます。 「かえりましょう……、ぱちゅりーさま」 「むきゅーん……」 「おぜうさまもおまちですよ。うふふ」 「さくや?」 「うふふふふふふ」 この2匹がこの後どうなったのか、誰も知りません。 ありすは巣の中でずっと泣いて暮らしました。干からび、萎びれ、自分の命がどんどん減っているのを自覚してなお、何か行動を起こす気にはなりませんでした。 そしてそのまま死んでいればそれで終わりでしたが、このありすは相当運が良かったのでしょう。 キノコ狩りにきた老人が枯れ木の中でぐったりしているありすを見つけ、持ち帰ってくれました。 老人の手厚い看護のおかげでありすは一命を取り留め、一人暮らしの老人の貴重な話し相手になりました。 そして季節は冬。特別寒さが厳しいその年、幻想郷は一面雪に覆われています。 始めは塞ぎ込み、餌に全く手を付けようとしなかったありすも、老人の絶え間ない愛により少しずつ心を開き、 健康を取り戻しつつありました。 ――飼い始めの頃、自傷行為が見受けられたありすを老人はこう叱りました。 「お前さんの事情は知らん。あのあたりのゆっくりが全滅したのと関係がありそうなのは分るがな」 目をそらそうとするありすの顔をしっかりと掴み、視線を真正面から合わせ。 「お前さんは生き残ったんだ。なら生きなさい。お前さんにはその義務がある」 老人の家の仏壇に飾られているのは、若い女性と幼い子供の写真――が色あせた、ただの白い紙。 「後生だから生きて、私の家族になってくれ。1人はいい加減さみしい」 そう言われたありすは老人の説得に折れ渋々餌に口をつけ、傷の治療を受けたのでした。 少し昔のことを思い出して黄昏れていたありすの元に、夕飯が持ってこられました。 「さ、おこたに入って夕飯をお上がり。私は風呂に入ってくる」 そう言って老人は浴室に向かいました。残されたありすは幸せなような、申し訳ないような気分で餌をつつきます。 今でもしゃんはいやほーらい、家族やご近所さん達の死に様を夢に見ない夜はありません。 正直な話、死んでしまったらどんなに気が楽だろうと思っています。 それでも、あの老人の頼みを無下にして命を絶つのは気が進まなかったので、ありすは今も生きていました。 「ゆ。わたし、いきていていいのかな……」 誰かに許しを貰いたがっている自分に気付き、ありすは自嘲気味にため息を漏らしました。 許しなら、既にあの老人からたくさん貰っているではないか。 「ばかね、わたし」 彼は言っていました。「今私は幸せだ」と。 無い食欲を誤魔化しつつ、ゆっくりゆっくりと餌を食べます。時計の針が一回りをしてもまだ食べ終わりません。 「……おじいさん、おふろながいわね……」 数日後、文々。新聞の片隅にこんな記事が小さく載りました。 『1人暮らしの老人が孤独死 先日、○○村の××さんが浴室で死亡しているのが発見された。死因は心筋梗塞と見られる。 ××さんは1人暮らしが長く、最近は慰めにゆっくりを飼う孤独な老人だった。 近年増加する1人暮らしの老人の孤独死は、てゐさん行方不明の影響であるとの説が有力であり――』 飼いゆっくりの消息は載っていなかった。 PN水半分 なお、作者は『嫌われ○子の一生』を未読・未鑑賞なのでタイトルが似通っている以外の関係はありません。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/768.html
とあるゆっくりありすとゆっくりしゃんはいの夫婦の間に子供が生まれました。 ありすとしゃんはい、ほーらいが1匹ずつ。 3匹が生まれたその日の内に、親は死にました。巨大怪獣の吐いた重粒子ビームに消し飛ばされたのです。 この巨大怪獣は八雲さん家の藍ちゃんが速やかに退治したので、長い目で見ると幻想郷に大した影響は出ませんでした。 問題は短い目で見た場合です。 生まれたばかりで右も左も分らない、目さえ開いていない3匹のいる巣穴は、3匹の目の前で消滅しています。 そこにいたはずの両親は残骸もありません。 訳も分らない赤ん坊は哀れ、このまま怪獣に踏みつぶされる運命かと思われました。 ですが幸いなことに、お隣のれいむお母さんが様子を見に来てくれました。 「ちょくげきだ! やられたか!? ……う?」 断じて野次馬に来た訳ではありません。 そこでれいむお母さんが見た物は、半ばから吹き飛んだ巣穴の中で身を寄せ合って震えている、生まれたばかりの姉妹の姿。 ついこの間まで子育てをしていたれいむお母さんにとって、その光景はとても放っておける物ではありません。 「あわわわわわ。で、でておいで! ゆっくりにげないとふみつぶされるよ!」 「ゅー、ゅー……」 「ぉかーしゃん、どこー?」 「ゅーゅー……」 「どうしよう、どうしよう。ゆー、ゆー……。! そうだ! ゆ! おかーさんはここだよ!?」 おや? とれいむお母さんの方を向く3匹。ここで初めて3匹がれいむお母さんに気付きます。 「おかーしゃんは、さっききえちゃったよ!」 「れいむたるもの、テレポートの1つくらいゆっくりまえさ!! かんいっぱつにげていたんだよ!」 「ゆ! おかーしゃんすごーい!!」 「しゃんはーい!」 「ゆー! ほらーい!」 「さ、はやくおかーさんのくちのなかにはいって! ゆっくりにげるよ!」 こうして親切なれいむお母さんに助けられた3匹は、父親のことも忘れてすくすくと育ちましたとさ。 めでたしめでたし。 『嫌われありすの一生』 1匹で食料調達が出来るくらいにまで成長したありすが、口一杯に木の実を詰め込んで巣まで帰って行きます。 新しく見つけた木イチゴの群生地を皆に報告したくて、帰宅の足はついつい逸ります。 そんなありすが、突然何もないところで転びました。 ぐべ、と地面に突っ伏したありすの上に乗っかってくる影2つ。 細い蔓を使ってありすを転ばせた、ゆっくりしゃんはいとほーらいです。 「しゃんはい! しゃんはーい! (やーいやーい! ありすざまあ!)」 「ほらいほーらい! (おお、みじめみじめ!)」 2匹はありすの上で散々飛び跳ねた挙句、ありすを投げ飛ばしました。 放物線を描いて、ありすは顔面から木に激突します。飛び散る朱い飛沫。 ベチャリ、と地面に落ちてきたありすの体は、真っ赤な液体で染められています。 あ、と硬直する2匹。やり過ぎに気付きました。 「しゃしゃしゃんはーい!! (ちちち、ちがでてるううう!!)」 「ほほほっほほおおお!!! (たたたったいへんだー!!!)」 ありすを濡らすそれが血であるなら、どうみても致死量に達しています。 アワアワと震える2匹が見守る先で、ありすがゆっくりと身を起こします。 「ふおおおおおお……」 「しゃー!!! (ぎゃー!!!)」 「らいらーい!! (ぞんびー!!)」 グロテスクな外見に驚いた2匹が、我先にと逃げ出します。 先に悪戯しようっていったのしゃんはいじゃん! しゃんはいが捕まってよ!! やだね、ぐずなほーらいが食べられればいいじゃん! いやあああ!!! 足下もろくに見ないで走ったせいで、先を行くしゃんはいがもんどり打って地面にダイブしました。 それにつまづいたほーらいも顔面スライディングを敢行します。 「はあああああい!! (したかんだー!!)」 「らあああああ!! (おでこすりむいたー!!)」 後から2匹に追いついた、木イチゴの汁で顔を汚したありすがため息をつきます。 口の中の木イチゴが台無しになったので、2匹を叱ろうと追いかけてきたのですが、 痛みに悶える2匹を見ているとあきれ果て、どうでも良い気分になりました。 「ばかねえ、あんたたち」 せっかくの木イチゴを台無しにしたので、2匹はお母さんれいむにこっぴどく叱られました。 「しゃんはーい…… (ちくしょう……)」 「ほらほらーい…… (ありすのとかいは(わら)め……)」 どうにかして仕返しをしてやろうと巣の近くをぶらついていると、れみりゃの死体を見つけました。 まだ日が高いのではっきり死体だとわかりますが、意外と損傷が少ないので暗くなってくると生きているれみりゃと区別がつかないかも知れません。 2匹は顔を見合わせ、お互いの思考が一致したことを確認しました。 ありすは、木イチゴを集め直しに行っている。帰りは少し遅くなるだろう……。 夕闇が迫る山中を、ありすが大急ぎで走っています。 昼間駄目にした木イチゴの分も挽回しようと欲張った結果がこれだよ!!! しゃんはいとほーらいは木によじ登り、ありすが来るタイミングに合わせてれみりゃの死体を落とそうと目論んでいます。 ありすを驚かせれば、少しは鬱憤も晴れるというものです。 「ほらら (きたきた)」 「うー……よくねむったお」 「しゃんしゃん (それはよかった)」 ……はい? 2匹が真っ青になって振り返った先では、れみりゃが大あくびをしながら伸びをしています。 はい、眠っていただけだったね。 「らあああああい!!?? (はっきりしたいだってわかるっていったの、だれえええ!!??)」 「ははははああい!! (しゃんはいじゃない、しゃんはいわるくないもん!!)」 「うー、ゆうごはんがめのまえにいるお。らっきーだお」 カポ、とれみりゃがしゃんはいの頭に齧り付きます。恐慌状態の2匹は木の上でアタフタするしかできません。 「ほらほらほらほら…… (あわわわ、こまりましたねぇ……)」 「ゆ゛うううううぅうううう!!!」 れみりゃの牙がしゃんはいの頭皮に突き刺さり、髪の毛がむしり取られていきます。 「じゃああんんん!!! (だすけ゛てえええ!!!)」 「うー、うるさいおー」 抵抗するしゃんはいに苛立ったれみりゃが、しゃんはいを地面にたたき落とします。 固い地面に切り裂かれたしゃんはいの顔面から餡が漏れ出し、 しゃんはいを踏みつぶしに落ちてきたれみりゃのプレスに耐えきれなかったしゃんはいの体がザクロのように破裂しました。 あたり一面にぶちまけられるジャムみたいなしゃんはいの残骸。 「じゃ……、じゃ……」 「ペロペロ、うー。おいしいくないお」 ぺー、としゃんはいだったものを行儀悪く吐き出し、木の上で震えているほーらいを引きずり下ろします。 哀れ、しゃんはいの命は2回舐められるだけの価値しかなかったのです。 「ほらああああ!! ほらああああ!!! (はなしてええええ!! たべないでええええ!!!)」 「こいつもうるさいお。しゃーらっぷ!」 れみりゃの鋭い翼がほーらいの口を真横に切り裂き、ついでに切り取られた舌がテロンと零れます。 こうなると、ほーらいの口からは「はふ、はふ」と空気が漏れる音しかしません。 さあ、今度こそ、と意気込むれみりゃの横っ面を重い物が張り飛ばし、れみりゃはゴロゴロと転がっていきました。 ハンマー代わりにしゃんはいだったものを咥えたありすが、鬼の形相で仁王立ちです。 「ゆー! ゆっくりできないれみりゃはやっつけてやる!!」 「うー、うわーん! さ゛くやー、へんなありすがいるどー!」 ありすの迫力に恐れをなしたれみりゃに反撃の意思は最早ありません。 何回もしゃんはいで殴りつけられ、自分の顔を汚しているのが自分の餡なのか、 しゃんはいの餡なのかわからなくなりつつ逃げていきました。 興奮が収まらないのはありすです。 よくもしゃんはいを、よくも。 それだけを繰り返し叫びながら、近くで動くものを殴りつけます。 「なにやってるの、ありす!!!」 そんなありすを突き飛ばしたのは、れいむお母さんでした。 え、助けに来てくれたんじゃないの? 驚いたありすがあたりを見回すと、視界に入ってくるのはれいむお母さんと……。 ボロクズになって息絶えたほーらいでした。 左側頭部は陥没して元に戻らず、破裂した左眼球から漏れた餡は鼻孔に詰まり、 裂かれた口は無惨にアチコチから破れて口の中を晒しています。 最後まで無事だった右目には目垢が大量に固まり、ほーらいがどれだけ長い間泣いていたかを物語っています。 言葉が喋れなくなっていたほーらいは、助けを求める事も出来ずに姉妹に殺されました。 「――ばかね、わたし」 「かぞくをころしたありすは、そこでゆっくりしないでいてね!!!」 「しゃんはいとほーらいはありすとなかよしだったのに、ざんねんだよ!!!」 「ゆー! ちがうの! しゃんはいをころしたのはれみりゃだよ!」 「うそまでつくの!? れみりゃのはがたさえ、しゃんはいにはついてないよ!」 家族を殺してしまったありすは、枯れ木の中の孔に閉じこめられてしまいました。 孔の出入り口は枝や石で厳重に固められ、外の音が何とか聞こえるくらいです。 この後彼女をどうするのか。れいむお母さんやご近所さん達が話し合っています。 「ありすは……うちのちぇんともなかが……」 「まさか……。でも……」 「なんで……。ずっとかぞくでゆっくり……」 孔の中では茫然自失のありすが縮こまっています。 自分は何てことをしてしまったんだろう。ごめん、ほーらい。助けられなくてごめん、しゃんはい。 そうこうしている内に、気疲れもあってありすは眠りに落ちていきました。 「――! ――!」 「――、――♪」 何やら外が騒がしいようです。騒音に目を覚ましたありすが外の様子を伺うと。 「にげでぇえぇぇ!! みんなはやぐううう!!」 「うー♪ あのありすをみつけて、ころしてやるどー♪」 「はい、おぜうさま!」 「かしこまりましたわ!」 「ありす゛はああ! そこのあなのなかだよ!」 「だまされませんわ。あななんてありませんもの」 「うー♪ さすがはさくやだお!」 「いりぐちかためたの、だれええええ!! はやくありすをそとにだし゛でええええ!!」 「ばちゅりいいは、もうしんじゃったよおお!!」 さっきのれみりゃとその家族のさくやが、家族やご近所さんを襲っています。 狙いはありす。どう見ても仕返しです。 しかも、入り口を枝と石で固められた孔に彼女たちは誰も気付きません。 「わだじはここよー! みんなをいじめないでえええ!!」 「う? なにかきこえるど?」 「げんちょうですわ、きっと」 「うー♪ さすがはさくやだお!」 「ありすをひろってあげたけっかがこれだよおお!!」 「おかーさん、た゛すげてえええ!!」 「わかああああああ!」 「ちぼっ、ちぼっ……」 見る間に数を減らしていくゆっくり達。さらに、反撃を受けたれみりゃ達にも少なくない被害が出ました。 さくやの顔面に齧り付いたまま絶命したまりさや、高みの見物を決め込んでいたれみりゃの羽根をもぎ、自分の死体の重さで潰したゆっくりらんは勇敢に戦いました。 最後に残ったのは1匹のさくやと、1匹の赤ちゃんぱちゅりー。 ピーピー泣いているぱちゅりーを、さくやがそっと咥えます。 「かえりましょう……、ぱちゅりーさま」 「むきゅーん……」 「おぜうさまもおまちですよ。うふふ」 「さくや?」 「うふふふふふふ」 この2匹がこの後どうなったのか、誰も知りません。 ありすは巣の中でずっと泣いて暮らしました。干からび、萎びれ、自分の命がどんどん減っているのを自覚してなお、何か行動を起こす気にはなりませんでした。 そしてそのまま死んでいればそれで終わりでしたが、このありすは相当運が良かったのでしょう。 キノコ狩りにきた老人が枯れ木の中でぐったりしているありすを見つけ、持ち帰ってくれました。 老人の手厚い看護のおかげでありすは一命を取り留め、一人暮らしの老人の貴重な話し相手になりました。 そして季節は冬。特別寒さが厳しいその年、幻想郷は一面雪に覆われています。 始めは塞ぎ込み、餌に全く手を付けようとしなかったありすも、老人の絶え間ない愛により少しずつ心を開き、 健康を取り戻しつつありました。 ――飼い始めの頃、自傷行為が見受けられたありすを老人はこう叱りました。 「お前さんの事情は知らん。あのあたりのゆっくりが全滅したのと関係がありそうなのは分るがな」 目をそらそうとするありすの顔をしっかりと掴み、視線を真正面から合わせ。 「お前さんは生き残ったんだ。なら生きなさい。お前さんにはその義務がある」 老人の家の仏壇に飾られているのは、若い女性と幼い子供の写真――が色あせた、ただの白い紙。 「後生だから生きて、私の家族になってくれ。1人はいい加減さみしい」 そう言われたありすは老人の説得に折れ渋々餌に口をつけ、傷の治療を受けたのでした。 少し昔のことを思い出して黄昏れていたありすの元に、夕飯が持ってこられました。 「さ、おこたに入って夕飯をお上がり。私は風呂に入ってくる」 そう言って老人は浴室に向かいました。残されたありすは幸せなような、申し訳ないような気分で餌をつつきます。 今でもしゃんはいやほーらい、家族やご近所さん達の死に様を夢に見ない夜はありません。 正直な話、死んでしまったらどんなに気が楽だろうと思っています。 それでも、あの老人の頼みを無下にして命を絶つのは気が進まなかったので、ありすは今も生きていました。 「ゆ。わたし、いきていていいのかな……」 誰かに許しを貰いたがっている自分に気付き、ありすは自嘲気味にため息を漏らしました。 許しなら、既にあの老人からたくさん貰っているではないか。 「ばかね、わたし」 彼は言っていました。「今私は幸せだ」と。 無い食欲を誤魔化しつつ、ゆっくりゆっくりと餌を食べます。時計の針が一回りをしてもまだ食べ終わりません。 「……おじいさん、おふろながいわね……」 数日後、文々。新聞の片隅にこんな記事が小さく載りました。 『1人暮らしの老人が孤独死 先日、○○村の××さんが浴室で死亡しているのが発見された。死因は心筋梗塞と見られる。 ××さんは1人暮らしが長く、最近は慰めにゆっくりを飼う孤独な老人だった。 近年増加する1人暮らしの老人の孤独死は、てゐさん行方不明の影響であるとの説が有力であり――』 飼いゆっくりの消息は載っていなかった。 PN水半分 なお、作者は『嫌われ○子の一生』を未読・未鑑賞なのでタイトルが似通っている以外の関係はありません。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1116.html
とあるゆっくりありすとゆっくりしゃんはいの夫婦の間に子供が生まれました。 ありすとしゃんはい、ほーらいが1匹ずつ。 3匹が生まれたその日の内に、親は死にました。巨大怪獣の吐いた重粒子ビームに消し飛ばされたのです。 この巨大怪獣は八雲さん家の藍ちゃんが速やかに退治したので、長い目で見ると幻想郷に大した影響は出ませんでした。 問題は短い目で見た場合です。 生まれたばかりで右も左も分らない、目さえ開いていない3匹のいる巣穴は、3匹の目の前で消滅しています。 そこにいたはずの両親は残骸もありません。 訳も分らない赤ん坊は哀れ、このまま怪獣に踏みつぶされる運命かと思われました。 ですが幸いなことに、お隣のれいむお母さんが様子を見に来てくれました。 「ちょくげきだ! やられたか!? ……う?」 断じて野次馬に来た訳ではありません。 そこでれいむお母さんが見た物は、半ばから吹き飛んだ巣穴の中で身を寄せ合って震えている、生まれたばかりの姉妹の姿。 ついこの間まで子育てをしていたれいむお母さんにとって、その光景はとても放っておける物ではありません。 「あわわわわわ。で、でておいで! ゆっくりにげないとふみつぶされるよ!」 「ゅー、ゅー……」 「ぉかーしゃん、どこー?」 「ゅーゅー……」 「どうしよう、どうしよう。ゆー、ゆー……。! そうだ! ゆ! おかーさんはここだよ!?」 おや? とれいむお母さんの方を向く3匹。ここで初めて3匹がれいむお母さんに気付きます。 「おかーしゃんは、さっききえちゃったよ!」 「れいむたるもの、テレポートの1つくらいゆっくりまえさ!! かんいっぱつにげていたんだよ!」 「ゆ! おかーしゃんすごーい!!」 「しゃんはーい!」 「ゆー! ほらーい!」 「さ、はやくおかーさんのくちのなかにはいって! ゆっくりにげるよ!」 こうして親切なれいむお母さんに助けられた3匹は、父親のことも忘れてすくすくと育ちましたとさ。 めでたしめでたし。 『嫌われありすの一生』 1匹で食料調達が出来るくらいにまで成長したありすが、口一杯に木の実を詰め込んで巣まで帰って行きます。 新しく見つけた木イチゴの群生地を皆に報告したくて、帰宅の足はついつい逸ります。 そんなありすが、突然何もないところで転びました。 ぐべ、と地面に突っ伏したありすの上に乗っかってくる影2つ。 細い蔓を使ってありすを転ばせた、ゆっくりしゃんはいとほーらいです。 「しゃんはい! しゃんはーい! (やーいやーい! ありすざまあ!)」 「ほらいほーらい! (おお、みじめみじめ!)」 2匹はありすの上で散々飛び跳ねた挙句、ありすを投げ飛ばしました。 放物線を描いて、ありすは顔面から木に激突します。飛び散る朱い飛沫。 ベチャリ、と地面に落ちてきたありすの体は、真っ赤な液体で染められています。 あ、と硬直する2匹。やり過ぎに気付きました。 「しゃしゃしゃんはーい!! (ちちち、ちがでてるううう!!)」 「ほほほっほほおおお!!! (たたたったいへんだー!!!)」 ありすを濡らすそれが血であるなら、どうみても致死量に達しています。 アワアワと震える2匹が見守る先で、ありすがゆっくりと身を起こします。 「ふおおおおおお……」 「しゃー!!! (ぎゃー!!!)」 「らいらーい!! (ぞんびー!!)」 グロテスクな外見に驚いた2匹が、我先にと逃げ出します。 先に悪戯しようっていったのしゃんはいじゃん! しゃんはいが捕まってよ!! やだね、ぐずなほーらいが食べられればいいじゃん! いやあああ!!! 足下もろくに見ないで走ったせいで、先を行くしゃんはいがもんどり打って地面にダイブしました。 それにつまづいたほーらいも顔面スライディングを敢行します。 「はあああああい!! (したかんだー!!)」 「らあああああ!! (おでこすりむいたー!!)」 後から2匹に追いついた、木イチゴの汁で顔を汚したありすがため息をつきます。 口の中の木イチゴが台無しになったので、2匹を叱ろうと追いかけてきたのですが、 痛みに悶える2匹を見ているとあきれ果て、どうでも良い気分になりました。 「ばかねえ、あんたたち」 せっかくの木イチゴを台無しにしたので、2匹はお母さんれいむにこっぴどく叱られました。 「しゃんはーい…… (ちくしょう……)」 「ほらほらーい…… (ありすのとかいは(わら)め……)」 どうにかして仕返しをしてやろうと巣の近くをぶらついていると、れみりゃの死体を見つけました。 まだ日が高いのではっきり死体だとわかりますが、意外と損傷が少ないので暗くなってくると生きているれみりゃと区別がつかないかも知れません。 2匹は顔を見合わせ、お互いの思考が一致したことを確認しました。 ありすは、木イチゴを集め直しに行っている。帰りは少し遅くなるだろう……。 夕闇が迫る山中を、ありすが大急ぎで走っています。 昼間駄目にした木イチゴの分も挽回しようと欲張った結果がこれだよ!!! しゃんはいとほーらいは木によじ登り、ありすが来るタイミングに合わせてれみりゃの死体を落とそうと目論んでいます。 ありすを驚かせれば、少しは鬱憤も晴れるというものです。 「ほらら (きたきた)」 「うー……よくねむったお」 「しゃんしゃん (それはよかった)」 ……はい? 2匹が真っ青になって振り返った先では、れみりゃが大あくびをしながら伸びをしています。 はい、眠っていただけだったね。 「らあああああい!!?? (はっきりしたいだってわかるっていったの、だれえええ!!??)」 「ははははああい!! (しゃんはいじゃない、しゃんはいわるくないもん!!)」 「うー、ゆうごはんがめのまえにいるお。らっきーだお」 カポ、とれみりゃがしゃんはいの頭に齧り付きます。恐慌状態の2匹は木の上でアタフタするしかできません。 「ほらほらほらほら…… (あわわわ、こまりましたねぇ……)」 「ゆ゛うううううぅうううう!!!」 れみりゃの牙がしゃんはいの頭皮に突き刺さり、髪の毛がむしり取られていきます。 「じゃああんんん!!! (だすけ゛てえええ!!!)」 「うー、うるさいおー」 抵抗するしゃんはいに苛立ったれみりゃが、しゃんはいを地面にたたき落とします。 固い地面に切り裂かれたしゃんはいの顔面から餡が漏れ出し、 しゃんはいを踏みつぶしに落ちてきたれみりゃのプレスに耐えきれなかったしゃんはいの体がザクロのように破裂しました。 あたり一面にぶちまけられるジャムみたいなしゃんはいの残骸。 「じゃ……、じゃ……」 「ペロペロ、うー。おいしいくないお」 ぺー、としゃんはいだったものを行儀悪く吐き出し、木の上で震えているほーらいを引きずり下ろします。 哀れ、しゃんはいの命は2回舐められるだけの価値しかなかったのです。 「ほらああああ!! ほらああああ!!! (はなしてええええ!! たべないでええええ!!!)」 「こいつもうるさいお。しゃーらっぷ!」 れみりゃの鋭い翼がほーらいの口を真横に切り裂き、ついでに切り取られた舌がテロンと零れます。 こうなると、ほーらいの口からは「はふ、はふ」と空気が漏れる音しかしません。 さあ、今度こそ、と意気込むれみりゃの横っ面を重い物が張り飛ばし、れみりゃはゴロゴロと転がっていきました。 ハンマー代わりにしゃんはいだったものを咥えたありすが、鬼の形相で仁王立ちです。 「ゆー! ゆっくりできないれみりゃはやっつけてやる!!」 「うー、うわーん! さ゛くやー、へんなありすがいるどー!」 ありすの迫力に恐れをなしたれみりゃに反撃の意思は最早ありません。 何回もしゃんはいで殴りつけられ、自分の顔を汚しているのが自分の餡なのか、 しゃんはいの餡なのかわからなくなりつつ逃げていきました。 興奮が収まらないのはありすです。 よくもしゃんはいを、よくも。 それだけを繰り返し叫びながら、近くで動くものを殴りつけます。 「なにやってるの、ありす!!!」 そんなありすを突き飛ばしたのは、れいむお母さんでした。 え、助けに来てくれたんじゃないの? 驚いたありすがあたりを見回すと、視界に入ってくるのはれいむお母さんと……。 ボロクズになって息絶えたほーらいでした。 左側頭部は陥没して元に戻らず、破裂した左眼球から漏れた餡は鼻孔に詰まり、 裂かれた口は無惨にアチコチから破れて口の中を晒しています。 最後まで無事だった右目には目垢が大量に固まり、ほーらいがどれだけ長い間泣いていたかを物語っています。 言葉が喋れなくなっていたほーらいは、助けを求める事も出来ずに姉妹に殺されました。 「――ばかね、わたし」 「かぞくをころしたありすは、そこでゆっくりしないでいてね!!!」 「しゃんはいとほーらいはありすとなかよしだったのに、ざんねんだよ!!!」 「ゆー! ちがうの! しゃんはいをころしたのはれみりゃだよ!」 「うそまでつくの!? れみりゃのはがたさえ、しゃんはいにはついてないよ!」 家族を殺してしまったありすは、枯れ木の中の孔に閉じこめられてしまいました。 孔の出入り口は枝や石で厳重に固められ、外の音が何とか聞こえるくらいです。 この後彼女をどうするのか。れいむお母さんやご近所さん達が話し合っています。 「ありすは……うちのちぇんともなかが……」 「まさか……。でも……」 「なんで……。ずっとかぞくでゆっくり……」 孔の中では茫然自失のありすが縮こまっています。 自分は何てことをしてしまったんだろう。ごめん、ほーらい。助けられなくてごめん、しゃんはい。 そうこうしている内に、気疲れもあってありすは眠りに落ちていきました。 「――! ――!」 「――、――♪」 何やら外が騒がしいようです。騒音に目を覚ましたありすが外の様子を伺うと。 「にげでぇえぇぇ!! みんなはやぐううう!!」 「うー♪ あのありすをみつけて、ころしてやるどー♪」 「はい、おぜうさま!」 「かしこまりましたわ!」 「ありす゛はああ! そこのあなのなかだよ!」 「だまされませんわ。あななんてありませんもの」 「うー♪ さすがはさくやだお!」 「いりぐちかためたの、だれええええ!! はやくありすをそとにだし゛でええええ!!」 「ばちゅりいいは、もうしんじゃったよおお!!」 さっきのれみりゃとその家族のさくやが、家族やご近所さんを襲っています。 狙いはありす。どう見ても仕返しです。 しかも、入り口を枝と石で固められた孔に彼女たちは誰も気付きません。 「わだじはここよー! みんなをいじめないでえええ!!」 「う? なにかきこえるど?」 「げんちょうですわ、きっと」 「うー♪ さすがはさくやだお!」 「ありすをひろってあげたけっかがこれだよおお!!」 「おかーさん、た゛すげてえええ!!」 「わかああああああ!」 「ちぼっ、ちぼっ……」 見る間に数を減らしていくゆっくり達。さらに、反撃を受けたれみりゃ達にも少なくない被害が出ました。 さくやの顔面に齧り付いたまま絶命したまりさや、高みの見物を決め込んでいたれみりゃの羽根をもぎ、自分の死体の重さで潰したゆっくりらんは勇敢に戦いました。 最後に残ったのは1匹のさくやと、1匹の赤ちゃんぱちゅりー。 ピーピー泣いているぱちゅりーを、さくやがそっと咥えます。 「かえりましょう……、ぱちゅりーさま」 「むきゅーん……」 「おぜうさまもおまちですよ。うふふ」 「さくや?」 「うふふふふふふ」 この2匹がこの後どうなったのか、誰も知りません。 ありすは巣の中でずっと泣いて暮らしました。干からび、萎びれ、自分の命がどんどん減っているのを自覚してなお、何か行動を起こす気にはなりませんでした。 そしてそのまま死んでいればそれで終わりでしたが、このありすは相当運が良かったのでしょう。 キノコ狩りにきた老人が枯れ木の中でぐったりしているありすを見つけ、持ち帰ってくれました。 老人の手厚い看護のおかげでありすは一命を取り留め、一人暮らしの老人の貴重な話し相手になりました。 そして季節は冬。特別寒さが厳しいその年、幻想郷は一面雪に覆われています。 始めは塞ぎ込み、餌に全く手を付けようとしなかったありすも、老人の絶え間ない愛により少しずつ心を開き、 健康を取り戻しつつありました。 ――飼い始めの頃、自傷行為が見受けられたありすを老人はこう叱りました。 「お前さんの事情は知らん。あのあたりのゆっくりが全滅したのと関係がありそうなのは分るがな」 目をそらそうとするありすの顔をしっかりと掴み、視線を真正面から合わせ。 「お前さんは生き残ったんだ。なら生きなさい。お前さんにはその義務がある」 老人の家の仏壇に飾られているのは、若い女性と幼い子供の写真――が色あせた、ただの白い紙。 「後生だから生きて、私の家族になってくれ。1人はいい加減さみしい」 そう言われたありすは老人の説得に折れ渋々餌に口をつけ、傷の治療を受けたのでした。 少し昔のことを思い出して黄昏れていたありすの元に、夕飯が持ってこられました。 「さ、おこたに入って夕飯をお上がり。私は風呂に入ってくる」 そう言って老人は浴室に向かいました。残されたありすは幸せなような、申し訳ないような気分で餌をつつきます。 今でもしゃんはいやほーらい、家族やご近所さん達の死に様を夢に見ない夜はありません。 正直な話、死んでしまったらどんなに気が楽だろうと思っています。 それでも、あの老人の頼みを無下にして命を絶つのは気が進まなかったので、ありすは今も生きていました。 「ゆ。わたし、いきていていいのかな……」 誰かに許しを貰いたがっている自分に気付き、ありすは自嘲気味にため息を漏らしました。 許しなら、既にあの老人からたくさん貰っているではないか。 「ばかね、わたし」 彼は言っていました。「今私は幸せだ」と。 無い食欲を誤魔化しつつ、ゆっくりゆっくりと餌を食べます。時計の針が一回りをしてもまだ食べ終わりません。 「……おじいさん、おふろながいわね……」 数日後、文々。新聞の片隅にこんな記事が小さく載りました。 『1人暮らしの老人が孤独死 先日、○○村の××さんが浴室で死亡しているのが発見された。死因は心筋梗塞と見られる。 ××さんは1人暮らしが長く、最近は慰めにゆっくりを飼う孤独な老人だった。 近年増加する1人暮らしの老人の孤独死は、てゐさん行方不明の影響であるとの説が有力であり――』 飼いゆっくりの消息は載っていなかった。 PN水半分 なお、作者は『嫌われ○子の一生』を未読・未鑑賞なのでタイトルが似通っている以外の関係はありません。 このSSに感想を付ける
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あらすじ 俺「コンビ!!」 マイルズ「単独行動厳禁!!」 バッハ「ありがとう戦友よ!!」 以上!! ~~オアシス・ウィッチ用テント~~ ハルファヤ峠での戦闘が終わりオアシスへと戻った俺達一行・・・そしてやこでやることといったら一つ。 ケイ「それじゃあ俺君の初陣と無事帰還。そして初戦果を讃えて・・・乾杯!!」 ウィッチs「「「「かんぱーい!!」」」」 俺「乾盃(プロージイット)!!」 ガチャン!!と、ビールの入ったグラスをぶつけ合う・・・そうつまりは飲み会。または宴会である。 ~~数時間前~~ ハルファヤ峠でバッハたちにお茶を入れてもらったマイルズ一行(ちなみに普通に紅茶だった)はそのまま一息つきしばらくした後、その足で拠点でもあるオアシスへと戻っていた。 俺「いや~それにしても・・・死人が出てしまったのは残念だったがよ・・・戦い自体は結構楽しかったな」 死人が出たが、そこまで気にしない。おそらく俺がいた現代の人間が聞いたら『頭がイカれてる』とも思われそうだ・・・が、ここは戦場。そして兵士達はそこで戦い、死ぬ。悲しいがこれが戦争だ。 俺の横を走るマイルズはふうとため息を吐き、 マイルズ「まあね・・・ネウロイの数が異常だったし強かったのはあるわ・・・でもあんたが思いのほか働いてくれたから被害は少なく済んだわ。そこは評価してあげる」 マイルズの言葉に俺はきょとんとした顔になる。だがすぐににやっと笑い、 俺「ふっ、あんたもついに俺のことを認め「だ・け・ど!!勝手な行動は今後は慎みなさい!!今度やったら本当に40mm砲顔面にぶち込むわよ!!」 顎に手を当てながら古畑○三郎のようなポーズをとるも、マイルズが言葉をさえぎった・・・もちろん、ふざけるときは割りとマジでふざける俺にとっては面白くはない。 俺「あん?いいだろ別に結果的に被害が少なくて万々歳なんだからよ。ちょっと頭が堅いぜメンヘラ少佐」 マイルズ「確かに被害が少なかったのはいいことだけど、身勝手な行動はこっちが大変なのよ!!それぐらい考えなさい脳筋!!あと意味わかんないけどメンヘラは止めなさい!!」 俺の言葉にいつものように怒鳴りながら返すマイルズ。だがここで退かずにさらに煽るのが俺クオリティ。 俺「ああん!?誰が脳筋だとごらぁ!!俺の脳みそは筋じゃなくて鉄じゃこのドンベエ少佐が!!」 マイルズ「もっと悪いじゃない!!あんたの体一体何でできてんのよ!?それと最近あだ名(?)みたいなのが段々と辺になってきてるわよ!?」 俺「俺の体かい?俺の体はスコップに対する愛情でできてるんだぜ?あとあだ名は完全に気分だ!!変になるのはおまえ自身が可笑しいからだよジャストゥッ!!」 マイルズ「キモッ!!その反応は予想していたけど予想通りで気持ち悪いわ!!」 ギャースカギャースカエイメンチャオクリーク!! 歩きながら二人はギャースカギャースカと怒鳴りあう。戦闘後だというのにいつもと変わらない風景に隊員達は苦笑いを浮かべる。 軍曹「ま、まあまあ二人とも・・・ほらもうオアシスが近いんですから、そんな怒った顔をしないでにこやかな笑顔でいきましょ?ね?」 俺「むう・・・」 マイルズ「それもそうね・・・」 軍曹の言葉に、俺とマイルズは渋々という風に言い争いをやめる・・・本当にこういうところは息がいい。 軍曹「あはは・・・あ、二人ともオアシスが見えましたよ!!」 苦笑いを浮べたところで、ウィッチたちの目の前に自分たちが拠点としているオアシスが見えた。 ウィッチ1「着いた~」 ウィッチ2「もうクタクタ~」 オアシスが見えたことで安心したのか、ウィッチたちの気も緩んでいる。マイルズはそれを咎めようとも思ったが、 マイルズ「(頑張ったからこれくらいはいいかしら?)」 と考えたのだ。そんなことを考えていると、目の前のオアシスから次々と人が出てきた。 俺「ん?なんだここでも歓迎されるってか?本当ウィッチ様々だな」 俺はその様子を見てまた改めてウィッチの存在価値について驚く・・・が、マイルズはう~んと唸り マイルズ「むしろ今回はあんたのほうが歓迎されるんじゃないかしら?」 俺「?」 マイルズの言葉に首を捻りつつ、俺はザッザッとオアシスへと歩き続けた。 ~~オアシス~~ 兵士「おい、英雄のご帰還だぞ!!」 俺たちがオアシスの数メートルまで近づいた瞬間。オアシスの前で待ち構えていた兵士たちがいっせいに波のように押し寄せてきた。 俺「おおおお!?な、なんだありゃ!?俺のターン、ドロー!!モンスターカードでマイルズ少佐を召喚して永続魔法『マイルズは犠牲になったのだ』を発動!!」 マイルズ「ちょっと待ちなさい!!あんた何さりげなく私を盾にしようとしているのよ!?」 バッとマイルズの背後に回りこみながらそんなことを叫ぶ俺・・・なにやら言ってることが支離滅裂だが今回はしょうがない。そりゃ誰だって目の前で屈強な兵士たちが波になって押し寄せてきたら怖いものだ。 だが、そんな俺のことなんぞお構い無しに兵士達は俺へと駆け寄り、 兵士50「すげえな俺!!よくやった!!」 兵士51「ああ、本当だぜ!!お前のおかげで俺たちのウィッチたちも被害が少なかったしな!!」 兵士52「それだけじゃねえおかげで俺たちの仲間も助かった!!ありがとうよ!!」 グシャグシャワシャワシャと髪をグシャグシャにかき回され背中や腕をバンバン叩かれる・・・映画でみたような歓迎を俺はいま受けていた。 俺「あだだだだ!!おい、こら髪をかき回すな!!腕を殴るな肩パンやめい!!・・・っておい!!誰だいまさりげなく俺の尻触ったの!?俺にそんな趣味内からな!?阿部呼ぶぞ!!」 ギャースカホイホイチャーハン?ギャースカエイメンヤラナイカ?クリーク!! 大量の兵士達にもみくちゃにされる俺・・・本人は今までに受けたことのない歓迎に若干引きつつ、ゲシゲシと迫りくる兵士達を蹴る。 ケイ「想像はしていたけどまさかここまでとはねぇ・・・正直予想以上だわ」 苦笑いしながら現れたのはここの第31統合戦闘飛行隊『アフリカ』を率いる加東圭子だ。マイルズはそのケイの姿に気付き、そちらに近寄る。 マイルズ「あ、ケイ。そうね、正直私もかなり歓迎されるんじゃないかとは思っていたけど、まさかここまでとはね・・・」 二人は兵士達にもみくちゃにされる俺を見ながら苦笑いを浮べる。二人の予想通り・・・それはつまりこのように俺が兵士達に歓迎されることだ。 まあ普通に考えたらそれもそうだろう。普段から守りたいと思っているウィッチたち。しかし結局のところはウィッチに守られなければならない・・・そんなときに現れた男のウィッチである俺・・・ 自分達の代わりにウィッチを守ってくれる男の出現と聞けばこうもなる。 俺「おおい!?誰でもいいから助けてはくれませんかね!?てかそこの二人!!苦笑いしてないで助けろ!!まじで阿部さん呼ぶぞ!!」 ケイ「誰よその阿部って・・・まあいいわ。みんな少し落ち着いて!!」 マイルズ「ええ、本当。興奮する気持ちがわかるけど「うるせぇお前は尻ドラムの餌食になってろ!!」し、尻ドラム!?こ、この変態!!いきなり何言い出すのよ!?」 止めに入るケイとマイルズ・・・まあマイルズとはいつもどおりのやり取りをしているわけだ。すると、そこに ロンメル「すまない戦友諸君!!通してくれ!!」 パットン「おうおう、すまねえが通るぜ」 モンティ「通らせてもらうぞ諸君」 ドガドガドガッと足音を立てながら歩いてくる三つの影。兵士たちはその足音と声に気付きザザッと道を明ける。 兵士50「三将軍!!」 兵士52「我らが三将軍のお通りだぞ!!」 そこでまたワァと歓声が上がる。三将軍はその声を聞きながらまっすぐと俺の元へと歩いて行く。 パットン「おおう俺!!随分と派手にあばれたらしいじゃねえか!!」 ロンメル「ああ、大戦果だったそうだね。初出撃ですばらしい!!」 モンティ「おまけに多くの仲間が助かった。間違いなく君は表彰されるぞ」 俺「はあ・・・そりゃどうも」 バシバシと肩を叩くパットン。手をがっちり握って握手するロンメル。1,2歩離れたところでそんな二人を諌めるように見るモンティ・・・三将軍らしい組み合わせだ。 ロンメル「さてこんなときにアレだが俺君。どうだね?カールスラント陸軍に入隊を考えてみないかね?今ならこのストレートスコップと折り畳みスコップをセットで君に上げるが」 俺「なんですと!?」 そういいつつ、ロンメルは懐から銃を取り出すようにニョルンと二つのスコップ、わかりやすく言えば第二次世界大戦時にドイツ軍で使われていたスコップを二本取り出したのだ。もちろん俺の目が輝きだしたのは言うまでも無い。 パットン「あ、てめぇロンメル汚ねぇぞ!!おい俺!!ロンメルのところじゃなくてワシのところに来い!!そうすりゃリベリオン陸軍のスコップもやるぞ!!」 俺「それまた魅力的!!」 ゾルンとこれまたどこから取り出しのたか第二次大戦中にアメリカ軍が使っていたストレートスコップに取ってをつけT字のように見えるスコップ。つまりTボーンスコップが握られていた。 モンティ「あ、こら貴様ら!!俺君二人のところではなく私のところに着たまえ!!そしたらこのブリタニア陸軍のスコップを君に上げよう!!」 俺「おおおおお!!!」 モリャンと取り出し差し出すスコップを見ながらテンションがあがる俺。モンティの持っているのは俺でもなかなか手に入らなかったイギリス陸軍の分離式のスコップだ。ツルハシのように取り外しができるためなかなか 面白い仕組みなのだが、市場にあまり出回っていないためか、俺は欲しいと思いつつまだ手に入れていなかっものだ。 俺「(やだこれなに!?いま俺の人生最高潮なんだけど!?)」 右にアメリカ軍スコップ、左にドイツ軍スコップ。そして正面にイギリス軍スコップ・・・軍用スコップマニアの俺にとってはこれは天国に等しいかもしれない。・・・そこ、変態言わない。 ケイ/マイルズ「「だからあんたらどこからスコップ取り出してんのよ!?」」 三将軍「「「それは機密事項だ」」」 目の前のスコップで手一杯の俺。そしてそんなスコップをどこからともなく取り出しす三将軍。そしてその取り出し方にツッコミを入れるケイとマイルズ・・・正直カオスだと思われるのはまあ気のせいだと思いたい。 俺「あ、マジでどうしよう・・・いっそ三つとも入るってのも・・・」 マイルズ「あんたは落ち着きなさい!!」 やっぱりカオスである。 ~~そして冒頭に戻る~~ 推奨BGM(期待はしちゃだめだよ?)http //www.youtube.com/watch?v=zQiW5tV4sPc まあなんだかんだで色々とあり騒いでいたが、パットンがいきなり「宴会すんぞ!!」と言ってどこからともなく大量の酒を持ち込み、基地総出でドンちゃん騒ぎを始めたのだ。 俺「プロージイット!!プロージイット!!飲めー!!歌えー!!食えー!!ギャハハハッ!!!」 そして俺はウィッチたちと共に酒を飲んでいた。基本ここは男性現金なのだが、ウィッチである俺は特別に許可されているのはもはや常識・・・なのだが、 ケイ「なんであんたたちまで居やがるんですか?三将軍?」 ケイはヒクヒクと唇の端を引く付かせえながら目の前で酒を煽る三将軍を睨みつける。だが、もちろん三将軍。いくら多くの修羅場を乗り越えたウィッチの視線も まったく動じずにガハハと笑い声を上げた。 パットン「ガハハッ!!まあいいじゃないかケイよ!!今日は折角の祝いの席なんだ!!細かいこたァ気にすんな!!」 ロンメル「そうだ、そうだとも!!俺君の初陣、それに初戦果にしてネウロイ数十体!!これを祝わずになんと言おうか!!」 モンティ「うむ、そこの酔っ払い共はともかくその意見には賛成だ。これは世紀に残る偉業だ」 いつもなら殴り合いでもしそうな三人組。だが、今日はまるで逆だ。パットンとロンメルは肩を組み、モンティはそこに参加こそしないがうんうんと二人の意見に頷いている。 ケイ「(・・・この三人ってこんなんだったけ?)」 大抵酒が入っても昼間のように喧嘩するのがオチだと思ったのだが、とケイは考えるが、どうやら予想を斜め85度を超えたようだ・・・まあ、 パットン「ほれほれケイ!!お前も飲まねぇか!!」 ロンメル「そうだぞケイ君!!さあ飲むんだ!!」 モンティ「パアと飲みたまえケイ君。これは私のおごりだ」 ケイ「(・・・酔っ払いウザイ)」 ジジイの酔っ払いほど騒がしいものはないというのは、どこの世界でも同じである。 マイルズ「あっちも大変そうね・・・」 さて、そんな酔っ払いジジイの相手をしているケイがそんなことを思っている中・・・ジジイじゃないが酔っ払いでウザイと思っている人間がここにもいた。 俺「うえーーい!!おいこらマイルズ少佐!!なんでぇそんなしけた面して!!ただでさえしけているのにそれ以上しっけしっけになったらしけった煎餅みたいになっちまうぞ!?ギャハハハッ!!」 そうジジイでもない相手・・・それは俺である。普段でもかなりのハイテンションを維持している俺は、酒を飲むとそのテンションが天元突破してスーパーハイテンションになってしまうのだ。 そしてその相手を現在務めているのがマイルズなのだが・・・ マイルズ「うっさい!!第一あんたただでさえテンション高いんだから少しは下げなさいよ!!それとしけた面って何なんなのよ!?私そんな普段からしけっ面なんかしてないわよ!!」 バンと机を叩きながら、マイルズは俺へと言い放つ・・・そう、つまりはウザイ。酒が入ってテンションだけでなくウザさも天元突破しているのだ。 俺「おおう?ねえいま怒ってる?いま怒ってる?」 マイルズ「ええ、あんたのせいで絶賛激怒りよ・・・!!」 俺「やったね!!任務は完遂した!!ウェーーイ!!」 マイルズ「なに任務って!?私怒らせることが任務ってどういうことよ!?」 俺「そういうことよ!!」 と即座に返す俺。そして何が面白かったのかゲラゲラと大笑いをし始める。ただでさえテンション高いのにこれ以上高くなってはマイルズの身が持たない。 マイルズ「本当・・・ハルファヤ峠で活躍したのがこんな奴なんて・・・誰も想像しないわね」 ふうとため息を吐きつつ、そんなことを言うマイルズ・・・ 俺「うらァ!!まるぽっぽ!!てめェ今日はよくも俺の頭によくわからないもんぶつけくさったな!!これでも飲んでろ!!」 マルセイユ「うぷ・・・!?お、おい俺なんだこれは・・・!!生臭いドロッとした変な液体だぞ!?」 俺「当たり前だろ!!こいつは肝油といって日本・・・こっちで言うところの扶桑の伝統健康飲料だ!!ヤツメウナギの体液を使用していて体にいいんだぜ!!さあ飲め!!飲むんだ!!体にいいから!!ハリーハリーハリー!!」 マルセイユ「うぷ・・・!!ちょ、本当もう無理・・・あ、謝るからもう勘弁してく・・・!!」 俺「おらァ!!飲めェェ!!!食えェェェ!!歌えェェェ!!!ギャハハハッ!!!」 マイルズ「だあああ!!あんたは少し落ち着きなさい!!この大馬鹿!!」 マルセイユにヘッドロックを極めながら、器用にその口に肝油が入った一升瓶を口につっこむ俺・・・マルセイユは今にも死にそうな顔をしている。 マイルズ「(ああ本当・・・一体誰がこんな奴だと思うんだろう・・・)」 心の中で先ほどと同じ言葉を繰り返していった・・・。 そして夜はにぎやかなまま過ぎ去っていった・・・。 それから翌日、世界中の新聞の一面にこのような記事があがった。 『ハルファヤ峠の救世主!!たった一人でスコップ一本でネウロイを二十体撃破したエリート男性ウィッチ!!その名は俺!!』 エリート?
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前ページルイズとヤンの人情紙吹雪 これ見てください。 壁! これ・・・見てよ! ヒビですよ! これ全部! 脆そうだよね~。 ゴーレムのワンパンで砕けるよ! できるヨ! チャンス到来だわ! アレなら私でも行けるわ! でも・・・取り敢えず本業の前に、ある程度の後始末はやっておいた方がいいわね・・・・・・。 それにしても・・・。 乾いた音を立てて風が吹き抜け、枯れ葉が虚しく舞い上がる。 死屍累々とは正にこの事。 殺人事件の現場と言われたら納得出来る。 いや。 やっぱ納得出来ない。 それ以上のナニかが起きたんでしょ? って言いたくなる。 ヤンの吊るされた死体?が風に揺られてゆらゆらしている。 「そ、そこらじゅうボロボロ・・・」 「ホントに・・・これは頭が痛いですわ・・・」 この後、シエスタとロングビル、及び上空にいたタバサにてルイズ、キュルケ、ヤンらを介抱。 ロングビルは被害状況を報告すると言ってそそくさと去っていった。 この血闘事件は生徒達の巷間をたちまち駆け巡った。 もともと曰く付きの両家の令嬢である。 いつかはやるに違いない、と思っていた生徒も多く暇な貴族の子弟達の格好の的であった。 だが皆の度肝を抜く本当の事件はこのすぐ後。 その夜に起きるのだった。 盗賊フーケの侵入である。 *********************************************************** その時、ヤンは寮の屋根に寝っ転がっていた。 頭の後ろで両手を組み、二つの月を見上げる。 ルイズと、そして意図的ではないもののヒートアップしたキュルケからの流れ弾等で燃えカスにされかけた彼であったが、 シエスタの丁寧な治療と吸血鬼としての生命力。 そしてそれだけではない何かによって短時間で完治していた。 脅威の再生能力について現在、ヤンは左手・・・つまり自分の兄と会議の真っ最中。 「俺らには復元能力なんざ無かったのになー。 この速さはちょっとした再構築だよなー なーなーこれもガンダールヴの力なわけ?」 「そうだろうな ガンダールヴの力には武器を持った際の肉体強化と、武器を理解しその真価を引き摺り出す・・・という物がある。 どうやら徐々に吸血鬼の能力が高まっているようだな」 「武器ィ~? でも俺様縛られてただけだゼ? デルフだってタバサの野郎が持ってたしな」 直後に欠伸をしヤル気のヤの字も見せない愚弟。 「忘れたのか・・・ 俺達の肉体はミレニアムに強化された人工吸血鬼・・・。 『何の為』に作られた吸血鬼だ?」 「・・・・・・何のタメってそりゃァ・・・ブッ殺すためだろー? 気に食わねー奴らをヨー ケはハはははハハ」 正解へと導いたつもりが、それでも答えに辿りつかない。 昔から変わらぬ、考えない脳ミソを持つ弟。 ルークは半ば、というよりは完全に呆れながら解答を示してやる。 「・・・・・・つまりそれが答えだ。 俺達は『兵器』なのさ。 あの人らに利用される為の・・・ノーライフキング『アーカード』を倒す為の布石・・・駒だ。 武器である肉体は強化され、そして肉体である武器の潜在能力は引き出される。 その相乗効果・・・といった所か。 飽く迄推測だがな」 弟からの、解答に対する返礼は再度の欠伸。 ルークにとっては実に見慣れた光景なので、今更頭にも来ない。 「そーゆーお難しいお話はさー もー俺わけわかんネーや。 ま、アレだろ? 強くなってんだよな? スゴク」 「そうだ」 「オッケーオッケー 俺はそれだけ分かってりゃ十分だっツーの 細けぇことは兄貴にまかせたわーー」 兄弟水入らずのぐだぐだの時間。 餌は見つからない。 敵は見つからない。 静かな夜。 今日もこれで終わってしまう。 ああ、終わってしまうのだろうな。 そう思われた時、異変は起きた。 空気を大いに揺らす轟音。 爆発ではない。 例えるなら戦車が民家に突っ込んだような。 とにかく重量のある物が何かに突っ込んだ音。 いくらかの修羅場をくぐり抜けているバレンタイン兄弟には一目瞭然であった。 つまりルイズではない。 ルイズの爆発ではここまでの轟音がこの魔法学院に響くことなど、今まで無かった。 ナニが起きた? ナニかが起きた。 ナニかって何だ。 オモシロい事かもしんないね。 こりゃ行くしかないね。 そう思考を結んだヤンの動きは素早かった。 飛び起き、そして駆け出す。 久々に感じるきな臭いモノに、ヤンの貌は無邪気な子どものよう。 夜の闇を飛び跳ねて、直ぐ様騒音の発生源に辿り着く。 そこには蟻のようにケチらされた警備兵達と散乱する石片。 壁面には大穴。 そして足音を響かせ悠然と去ろうとする巨大なゴーレムの姿。 この巨大な土塊が、どうやら大穴の犯人に違いない。 「おホッ 何だありゃ? おいおい デケー! モビルスーツかってぇの! 兄ちゃん見てアレ! アレも魔法かよ!? ク、ククくははくクハッハハハハハハ!! 兄貴ィッ! あれさァ! すげーなアレ! デッケェ!! スゲェーッハハははは! なーなーなァなァなァなァなァなァナぁ兄貴よォ!! いいだろ!? アレ殺っちゃっていいンだろ!? イイんだよなァ兄貴!!!?」 何時ぞやの食堂でのガキを嬲ってやったとき以来。 あの金髪のクソガキ以上に面白そうなオモチャ。 しかも自分でも実感できるのだ。 イギリスの時よりも、遥かに力を得ている実感が。 その感覚を得たヤンのボルテージは上がり続けていた。 そんな時に『アレ』である。 ヤン・バレンタインに暴れるなというのが、土台無理な話である。 「ああ 殺れ」 ルークの許可。 それが合図だった。 その一言の瞬間。 引き絞られた弓のようにしなったヤンの脚が屋根を蹴り、砕いて跳んでいた。 屋根と巨人までの距離は既に300メイル程に広がっていた。 だが、その距離を瞬きよりも短い時間で跳んできたヤンは、自身を矢として巨人の頭部に突っ込んでいった。 宝物庫の壁を砕いた時のような音をたててゴーレムの頭が吹き飛ぶ。 ゴーレムの肩に掴まっていたフーケに、突然散弾となって飛び散ってきた岩の欠片を避けられるはずもなかった。 「ぐぁっああぅ! ぐぅッ!!! な、何事だい!?」 散弾によって強かに体中を傷めつけられる。 先刻までゴーレムの頭部があった場所。 もうもうと立ち上る砂煙の中には双月の月光を背にした黒い男が立っていた。 「なッ!?」 金色の瞳を爛々と輝かせて。 眼と口をサディスティックに、心底愉快そうに歪ませて。 黒い男がフーケを見下ろしていた。 「なん・・・で!?」 ヤン・バレンタイン。 ゼロのルイズの使い魔。 血闘騒ぎで重傷を負っていたのに・・・。 なのに・・・。 何故・・・? どうやってここへ? どうやってゴーレムを破壊したの? 様々な疑問が脳裏を駆け巡る。 そして瞬時にアイツらの姿が思い出される。 ミレニアムの吸血鬼。 最後の大隊。 トボけていながらも恐るべき能力を有する存在達。 私の知る『夜を歩く者』達とは一線を画す、正しく人ではない化け物(ミディアン)。 きっと普段の彼らの、アノ滑稽な姿は本性ではない。 そう。 きっと本性は・・・。 今眼の前に居る、この男のような。 金色の瞳が妖しく真紅に輝く。 それは獲物をみつめる獣の目であった。 「ニィやハハはハははははハハ なんだよォ くハハは オモチャだけじゃなくてお食事付きですかァ? 僕チンツイてるぅー!」 「ヒッ・・・!」 杖を振りかざし魔法を叩き込む。 たったそれだけの、今まで数え切れない程に繰り返してきた動作が出来なかった。 ハッキリと感じる死の恐怖に体が竦む。 男はゆっくり近づいてきて、そして。 「イッタダッキマァーース」 「い、いやッ! こ、来ない・・・ぐぁッ! あ、あ゛ぁアッあぁぁ・・・!」 牙が深々とフーケの喉に食い込んでいく。 皮膚を破いて肉を裂いて。 熱い。 大して永くもない人生の中では経験したことのない熱さ。 とてつもなく熱い。 体中を灼熱が駆け巡る。 食い破られる痛みを飲み込んで、遥かに巨大で圧倒的な熱がやってくる。 「―――んぁ」 眼の奥が白いヒカリに覆われてゆく。 「―――はっ―――あっっ あ゛ぁ」 ナニも見えなくなっていく。 「あああッ―――はぁ、ふぁあ、んあーーーー!」 喉に食いついている野獣以外が目に入らない。 「あぁ、あ゛んあぁ! あ!」 光に飲まれる。 「あぁぁぁあんァぁァあ、んはッ! あ゛ぁあ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!」 肉を食われている。 血を吸われている。 痛いはずなのに。 なのに何故だろうか。 只々、熱い。 ずっと熱い。 このマま溶ケてキエテしマいソウな程・・・。 男は女に夢中だった。 ひたすら無我夢中で貪っていた。 実に、実に久しぶりの感触。 喉を通りすぎていく熱い濃厚。 こんなに美味いものだったか。 血とは。 肉とは! こんなにも美味だったか!! 余りにも旨かった。 余りにもエサに夢中になり過ぎていた。 ついついうっかり隙だらけ。 歩みを止めたゴーレムに学院の連中が追いついてきてしまっていた。 空からも、アノ青髪のタバサとかいうガキが空飛ぶドラゴンさんに跨って迫ってきているようだ。 左手たる兄が言ってくれなければ、女の喉に食いついている様を目撃されてしまう所だった。 もっともっとこの感触に浸っていたがったが、それも出来そうもない。 血は頂いた。 極上だった。 だが、まだ肉を食っていない。 喉の本当に僅かなヒトカケラだけだ。 ヤンは渋々・・・渋々女の喉から口を離す。 「あ゛ッ ふあぁぁ・・・あ、ふぁあ・・・」 女の喉から血と唾液の混じり合ったものが糸を引いて千切れていく。 血を限界まで吸われた女は虫の息だった。 「っぷはー! ンめーッ! こいつぁ上物だぜ 兄貴にも一口分けてやりてーヨー」 女の首を掴んで立ち上がり当たりを見回す。 格好からして教師どもだ。 「あーりゃりゃ 来るのはえーよコイツら・・・・・・ チッ 場所変えてディナーにすりャ良かったぜ」 「見境なしめ・・・ 理性を保たんからだ」 「へーいへい すんませんねぇ不出来な弟で。 で? どうするよあんちゃん この女ほっとくとグール化しちまうぜ?」 「知らぬ存ぜぬを通せばいい。 お前はただ学院に侵入した賊を退治した・・・それだけだ。 グールになったらメイジ供が退治してくれるだろう。 ルイズ様に危害が及ぶ場合は、お前が処分すればいい・・・・・・それより口の周りを拭け。 女に付いた牙の跡を抉るのも忘れるなよ」 「へッ わぁーってるよォ・・・っと!」 ヤンは女を掴んだままゴーレムから飛び降りる。 主人が意識を手放しかけているゴーレムは既にボロボロと崩れ始め、只の土くれに戻りつつあった。 世間を騒がせた盗賊、土くれのフーケはここに捕縛された。 *********************************************************** 「このバカ犬!!」 「非道いじゃないダーリン!」 「そりゃあないぜ相棒!」 「・・・・・・KY」 「きゅい!」 いきなりコレである。 「な、なんだなんだお前ら!」 傍若無人の低脳男、ヤンもこれにはタジタジ。 理由がさっぱりである。 「私が気絶してる間にフーケを退治するってどういうことよ! このバカ犬ッ!! 御主人様をいつもいつもいつも置いてっちゃうんだから!!」 「私がいない時に危ない真似しちゃダメじゃない! ダーリンにもしもの事があったら私・・・・・・!」 「武器の俺様無しでゴーレムぶっ飛ばすなんて俺のメンツがーー! 潰れたよー潰れちまったぜー! 相棒は人でなしだー!」 「・・・観そこねた・・・・・・・・・今度から事前に一報欲しい」 「きゅいきゅい!」 今の発言で、なぜ自分が責められているのかは大体わかった。 1人・・・いや1頭を除いて。 取り敢えず、ルイズは何時も通りの叱責。 キュルケは純粋に俺の心配。 可愛いぜ。 デルフリンガーは武器の面目が丸潰れという訴え。 タバサは俺の戦闘の観察を行いたかったということ。 で・・・この竜はなんで俺に吠えてるんだ? 「きゅいきゅい!」 ・・・まだ吠えてるし。 まさかと思うが。 「お前、何となく流れで吠えただろ」 「きゅッ!?」 ・・・。 ・・・・・・。 ・・・・・・・・・。 「はぁ・・・まぁいいわ・・・もう過ぎたことだし・・・。 とにかく! 今後は何事にも私の許可を得なさい! 単独行動禁止だからね!!」 「エ゛ーーー」 「えーー じゃない! 分かったわね!! ・・・・・・ところでアンタ 手に持ってるの何?」 ルイズの言葉に一同の視線がヤンの右手に集中する。 ヤンの右手には見慣れぬ棒のような杖のような・・・パッと見、金属で出来た何かが握られていた。 「これ? パンツァーファウスト」 ほい、と軽い感じで手渡されるルイズ。 受け取りしげしげと見つめる。 「・・・・・・ぱんつぁ・・・なに? 杖?」 「いや その先っちょがな こう ヒュルヒュル~っつって飛んでって。 で アボーン! ってなる・・・・・・爆弾?」 身振り手振りを交えながらの、まぁ大体あってるヤンの説明。 「「「ば、爆弾!?」」」 「何処からこんな物騒な物持ってきたのよ! 盗んできたの!? 盗んできたんでしょ!」 グワッ!っと顔面を寄せて問い詰める。 問い詰めると言うよりは決め付けてるわけだが。 「ちげーよ! なんでそうなるンだよ! あの女が持ってたの! フーケ! で、俺様が持ってたほうが役に立つだろうから貰っといたんだよ」 「人はソレを窃盗って言うのよ! しかもフーケが持ってたってことはこれって・・・・・・ひょっとして『破壊の杖』?」 「・・・・・・多分そう」 タバサの相槌。 ルイズに冷や汗が滲み出てくる。 「ば、ばかーーーーーーー! 今、学院中で大捜索してるの知ってるでしょーが! か、返してくる!」 「あーーダメーダメー! それ俺のなんだー! 俺が俺の物って決めたんダー! キャーやめてー返してードラえもーん!」 「何よどらえもんって!? は、離しなさいって! きゃっ! ちょ、ちょっとどこ触ってんのよ!! はーなーせー!」 ギギギギギギギギギギ 吸血鬼と競り合うとは・・・ルイズ、脅威のパワー! 爆発物を奪い合い・・・。 その瞬間、ヤンとルイズを除いた面々に悪寒が走る。 「これって・・・もしかしてもしかするとマズくない? タバサ」 「もしかしなくても・・・・・・・・・マズい」 「きゅ、きゅい!(お、おねえさま! 早く逃げるのね!)」 「あ、相棒! 嬢ちゃん! 危ない物もって暴れr」 ぽろっ 「「「「あ゛」」」」 ガチン ヒュパ チュゴーーーーーーーン! *********************************************************** 「ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー両名、退院したその日に再度医務室送り。 此度はミス・タバサとその使い魔追加。 ミス・ヴァリエールの使い魔、同じく医務室送りになるも1時間後に退院。 尚、使い魔の立てた手柄によりシュバリエ授与が検討されていたミス・ヴァリエールですが・・・今回の破壊の杖爆破の一件でプラスマイナスゼロに。 ミス・ロン・・・土くれのフーケですが重傷を負ったものの一命は取り留め現在は塔に幽閉しています。 フーケの正体は一部の者にしか知らせておりません。 明日未明に監獄チェルノボーグへ移送される・・・・・・とのことです」 コルベールの顛末の報告。 いつもならば秘書ロングビルの仕事だった。 だが彼女はもういない。 「ふむ・・・まぁそんなとこだろうの。 生徒達をこれ以上動揺させない為にも彼女の正体の公表は必要なかろう。 幸い目撃者も少ない。 報告ご苦労じゃったな・・・。 コルベール君・・・今日はもう休んで良いぞ」 少なからずコルベールがロングビルを想っていたことをオスマンは知っていた。 そのロングビルが盗賊フーケとして捕縛されたのだ。 多少なりとも気が沈むのはしょうがない。 例え『炎蛇』でも。 だから気を使ったつもりだったのだが・・・・・・。 コルベールから学院長室を退出する気配が感じられなかった。 「・・・まだ何かあるのかね?」 オスマンの言葉に、やや俯き加減だったコルベールが顔を上げる。 「・・・・・・フーケはミス・ヴァリエールの使い魔、ヤン・バレンタインによって捕縛されました。 ・・・・・・その際の戦闘で彼女を殺しかけてしまった。 そう彼は言いました・・・・・・しかし・・・・・・フーケの体からは血液が殆ど失われていたのです。 あれ程の量の血を失えば、現場に血溜まりが出来ていてもおかしくないのですが・・・・・・そんなものは何処にもありませんでした。 まるで傷口から抜き取られたかのようです。 彼は・・・ヤン・バレンタインは一体どのような方法でゴーレムに立ち向かい、そしてフーケを倒したのか。 そして彼が時折見せるずば抜けた身体能力。 オールド・オスマン・・・・・・私は不安なのです。 そして気になる。 ・・・・・・彼の正体が・・・・・・。 彼にはガンダールヴ以上の何かがある。 そしてそれは・・・・・・何かとても危険なモノの様な気がするのです・・・・・・」 コルベールは何時になく真剣な面持ちでオスマンに語りかける。 コルベールは今でこそ温厚な人格者であり、優れた教師であるが、かつては極めて優秀な軍人として畏怖されていた。 そのコルベールの表情に、恐れの感情が見え隠れする。 「・・・・・・さすが炎蛇の二つ名は伊達では無いのう。 ・・・・・・血液・・・となると吸血鬼という線が疑わしいかの。 だがそれだけでは説明できぬことも多々ある」 オスマンは豊かな顎髭を撫でながら思索に耽る。 「私もそれは考えました。 しかし、彼は陽のもとでも堂々と活動しています」 「その通りじゃな。 ・・・・・・まったく・・・ガンダールヴかもしれぬ・・・というだけでも厄介なんじゃが・・・・・・。 性格もトラブルメーカーそのもので得体も知れぬし・・・はぁ・・・ オマケに情勢不安で各国との摩擦も大きくなっておるし 老体にはコタエルのぅー」 その言葉にコルベールは暗く微笑を浮かべ小さく、そうですねと答えるのみだった。 「ふぅ・・・ まぁ問題は山積みじゃが一つ一つ順に解決して行くことにしよう。 取り敢えずはフリッグの舞踏会の準備じゃ! 色々ゴタゴタしとったが、もう目の前じゃ 暗い顔ばかりもしておれんぞコッパゲール君!」 「コルベールです」 うっすら青筋をたてつつニコヤカに返答。 とぼけた老人だが、コルベールはオスマンのこんなところも好きだった。 確かに考えているだけでは事態はなんら好転することはないのだ。 自分にやれることをやる。 今はそれが精一杯だ。 だが・・・確実に。 確実に時代は悪くなっている。 それだけは間違いなかった。 前ページルイズとヤンの人情紙吹雪
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あらすじ 俺「コンビ!!」 マイルズ「単独行動厳禁!!」 バッハ「ありがとう戦友よ!!」 以上!! ~~オアシス・ウィッチ用テント~~ ハルファヤ峠での戦闘が終わりオアシスへと戻った俺達一行・・・そしてやこでやることといったら一つ。 ケイ「それじゃあ俺君の初陣と無事帰還。そして初戦果を讃えて・・・乾杯!!」 ウィッチs「「「「かんぱーい!!」」」」 俺「乾盃(プロージイット)!!」 ガチャン!!と、ビールの入ったグラスをぶつけ合う・・・そうつまりは飲み会。または宴会である。 ~~数時間前~~ ハルファヤ峠でバッハたちにお茶を入れてもらったマイルズ一行(ちなみに普通に紅茶だった)はそのまま一息つきしばらくした後、その足で拠点でもあるオアシスへと戻っていた。 俺「いや~それにしても・・・死人が出てしまったのは残念だったがよ・・・戦い自体は結構楽しかったな」 死人が出たが、そこまで気にしない。おそらく俺がいた現代の人間が聞いたら『頭がイカれてる』とも思われそうだ・・・が、ここは戦場。そして兵士達はそこで戦い、死ぬ。悲しいがこれが戦争だ。 俺の横を走るマイルズはふうとため息を吐き、 マイルズ「まあね・・・ネウロイの数が異常だったし強かったのはあるわ・・・でもあんたが思いのほか働いてくれたから被害は少なく済んだわ。そこは評価してあげる」 マイルズの言葉に俺はきょとんとした顔になる。だがすぐににやっと笑い、 俺「ふっ、あんたもついに俺のことを認め「だ・け・ど!!勝手な行動は今後は慎みなさい!!今度やったら本当に40mm砲顔面にぶち込むわよ!!」 顎に手を当てながら古畑○三郎のようなポーズをとるも、マイルズが言葉をさえぎった・・・もちろん、ふざけるときは割りとマジでふざける俺にとっては面白くはない。 俺「あん?いいだろ別に結果的に被害が少なくて万々歳なんだからよ。ちょっと頭が堅いぜメンヘラ少佐」 マイルズ「確かに被害が少なかったのはいいことだけど、身勝手な行動はこっちが大変なのよ!!それぐらい考えなさい脳筋!!あと意味わかんないけどメンヘラは止めなさい!!」 俺の言葉にいつものように怒鳴りながら返すマイルズ。だがここで退かずにさらに煽るのが俺クオリティ。 俺「ああん!?誰が脳筋だとごらぁ!!俺の脳みそは筋じゃなくて鉄じゃこのドンベエ少佐が!!」 マイルズ「もっと悪いじゃない!!あんたの体一体何でできてんのよ!?それと最近あだ名(?)みたいなのが段々と辺になってきてるわよ!?」 俺「俺の体かい?俺の体はスコップに対する愛情でできてるんだぜ?あとあだ名は完全に気分だ!!変になるのはおまえ自身が可笑しいからだよジャストゥッ!!」 マイルズ「キモッ!!その反応は予想していたけど予想通りで気持ち悪いわ!!」 ギャースカギャースカエイメンチャオクリーク!! 歩きながら二人はギャースカギャースカと怒鳴りあう。戦闘後だというのにいつもと変わらない風景に隊員達は苦笑いを浮かべる。 軍曹「ま、まあまあ二人とも・・・ほらもうオアシスが近いんですから、そんな怒った顔をしないでにこやかな笑顔でいきましょ?ね?」 俺「むう・・・」 マイルズ「それもそうね・・・」 軍曹の言葉に、俺とマイルズは渋々という風に言い争いをやめる・・・本当にこういうところは息がいい。 軍曹「あはは・・・あ、二人ともオアシスが見えましたよ!!」 苦笑いを浮べたところで、ウィッチたちの目の前に自分たちが拠点としているオアシスが見えた。 ウィッチ1「着いた~」 ウィッチ2「もうクタクタ~」 オアシスが見えたことで安心したのか、ウィッチたちの気も緩んでいる。マイルズはそれを咎めようとも思ったが、 マイルズ「(頑張ったからこれくらいはいいかしら?)」 と考えたのだ。そんなことを考えていると、目の前のオアシスから次々と人が出てきた。 俺「ん?なんだここでも歓迎されるってか?本当ウィッチ様々だな」 俺はその様子を見てまた改めてウィッチの存在価値について驚く・・・が、マイルズはう~んと唸り マイルズ「むしろ今回はあんたのほうが歓迎されるんじゃないかしら?」 俺「?」 マイルズの言葉に首を捻りつつ、俺はザッザッとオアシスへと歩き続けた。 ~~オアシス~~ 兵士「おい、英雄のご帰還だぞ!!」 俺たちがオアシスの数メートルまで近づいた瞬間。オアシスの前で待ち構えていた兵士たちがいっせいに波のように押し寄せてきた。 俺「おおおお!?な、なんだありゃ!?俺のターン、ドロー!!モンスターカードでマイルズ少佐を召喚して永続魔法『マイルズは犠牲になったのだ』を発動!!」 マイルズ「ちょっと待ちなさい!!あんた何さりげなく私を盾にしようとしているのよ!?」 バッとマイルズの背後に回りこみながらそんなことを叫ぶ俺・・・なにやら言ってることが支離滅裂だが今回はしょうがない。そりゃ誰だって目の前で屈強な兵士たちが波になって押し寄せてきたら怖いものだ。 だが、そんな俺のことなんぞお構い無しに兵士達は俺へと駆け寄り、 兵士50「すげえな俺!!よくやった!!」 兵士51「ああ、本当だぜ!!お前のおかげで俺たちのウィッチたちも被害が少なかったしな!!」 兵士52「それだけじゃねえおかげで俺たちの仲間も助かった!!ありがとうよ!!」 グシャグシャワシャワシャと髪をグシャグシャにかき回され背中や腕をバンバン叩かれる・・・映画でみたような歓迎を俺はいま受けていた。 俺「あだだだだ!!おい、こら髪をかき回すな!!腕を殴るな肩パンやめい!!・・・っておい!!誰だいまさりげなく俺の尻触ったの!?俺にそんな趣味内からな!?阿部呼ぶぞ!!」 ギャースカホイホイチャーハン?ギャースカエイメンヤラナイカ?クリーク!! 大量の兵士達にもみくちゃにされる俺・・・本人は今までに受けたことのない歓迎に若干引きつつ、ゲシゲシと迫りくる兵士達を蹴る。 ケイ「想像はしていたけどまさかここまでとはねぇ・・・正直予想以上だわ」 苦笑いしながら現れたのはここの第31統合戦闘飛行隊『アフリカ』を率いる加東圭子だ。マイルズはそのケイの姿に気付き、そちらに近寄る。 マイルズ「あ、ケイ。そうね、正直私もかなり歓迎されるんじゃないかとは思っていたけど、まさかここまでとはね・・・」 二人は兵士達にもみくちゃにされる俺を見ながら苦笑いを浮べる。二人の予想通り・・・それはつまりこのように俺が兵士達に歓迎されることだ。 まあ普通に考えたらそれもそうだろう。普段から守りたいと思っているウィッチたち。しかし結局のところはウィッチに守られなければならない・・・そんなときに現れた男のウィッチである俺・・・ 自分達の代わりにウィッチを守ってくれる男の出現と聞けばこうもなる。 俺「おおい!?誰でもいいから助けてはくれませんかね!?てかそこの二人!!苦笑いしてないで助けろ!!まじで阿部さん呼ぶぞ!!」 ケイ「誰よその阿部って・・・まあいいわ。みんな少し落ち着いて!!」 マイルズ「ええ、本当。興奮する気持ちがわかるけど「うるせぇお前は尻ドラムの餌食になってろ!!」し、尻ドラム!?こ、この変態!!いきなり何言い出すのよ!?」 止めに入るケイとマイルズ・・・まあマイルズとはいつもどおりのやり取りをしているわけだ。すると、そこに ロンメル「すまない戦友諸君!!通してくれ!!」 パットン「おうおう、すまねえが通るぜ」 モンティ「通らせてもらうぞ諸君」 ドガドガドガッと足音を立てながら歩いてくる三つの影。兵士たちはその足音と声に気付きザザッと道を明ける。 兵士50「三将軍!!」 兵士52「我らが三将軍のお通りだぞ!!」 そこでまたワァと歓声が上がる。三将軍はその声を聞きながらまっすぐと俺の元へと歩いて行く。 パットン「おおう俺!!随分と派手にあばれたらしいじゃねえか!!」 ロンメル「ああ、大戦果だったそうだね。初出撃ですばらしい!!」 モンティ「おまけに多くの仲間が助かった。間違いなく君は表彰されるぞ」 俺「はあ・・・そりゃどうも」 バシバシと肩を叩くパットン。手をがっちり握って握手するロンメル。1,2歩離れたところでそんな二人を諌めるように見るモンティ・・・三将軍らしい組み合わせだ。 ロンメル「さてこんなときにアレだが俺君。どうだね?カールスラント陸軍に入隊を考えてみないかね?今ならこのストレートスコップと折り畳みスコップをセットで君に上げるが」 俺「なんですと!?」 そういいつつ、ロンメルは懐から銃を取り出すようにニョルンと二つのスコップ、わかりやすく言えば第二次世界大戦時にドイツ軍で使われていたスコップを二本取り出したのだ。もちろん俺の目が輝きだしたのは言うまでも無い。 パットン「あ、てめぇロンメル汚ねぇぞ!!おい俺!!ロンメルのところじゃなくてワシのところに来い!!そうすりゃリベリオン陸軍のスコップもやるぞ!!」 俺「それまた魅力的!!」 ゾルンとこれまたどこから取り出しのたか第二次大戦中にアメリカ軍が使っていたストレートスコップに取ってをつけT字のように見えるスコップ。つまりTボーンスコップが握られていた。 モンティ「あ、こら貴様ら!!俺君二人のところではなく私のところに着たまえ!!そしたらこのブリタニア陸軍のスコップを君に上げよう!!」 俺「おおおおお!!!」 モリャンと取り出し差し出すスコップを見ながらテンションがあがる俺。モンティの持っているのは俺でもなかなか手に入らなかったイギリス陸軍の分離式のスコップだ。ツルハシのように取り外しができるためなかなか 面白い仕組みなのだが、市場にあまり出回っていないためか、俺は欲しいと思いつつまだ手に入れていなかっものだ。 俺「(やだこれなに!?いま俺の人生最高潮なんだけど!?)」 右にアメリカ軍スコップ、左にドイツ軍スコップ。そして正面にイギリス軍スコップ・・・軍用スコップマニアの俺にとってはこれは天国に等しいかもしれない。・・・そこ、変態言わない。 ケイ/マイルズ「「だからあんたらどこからスコップ取り出してんのよ!?」」 三将軍「「「それは機密事項だ」」」 目の前のスコップで手一杯の俺。そしてそんなスコップをどこからともなく取り出しす三将軍。そしてその取り出し方にツッコミを入れるケイとマイルズ・・・正直カオスだと思われるのはまあ気のせいだと思いたい。 俺「あ、マジでどうしよう・・・いっそ三つとも入るってのも・・・」 マイルズ「あんたは落ち着きなさい!!」 やっぱりカオスである。 ~~そして冒頭に戻る~~ 推奨BGM(期待はしちゃだめだよ?)http //www.youtube.com/watch?v=zQiW5tV4sPc まあなんだかんだで色々とあり騒いでいたが、パットンがいきなり「宴会すんぞ!!」と言ってどこからともなく大量の酒を持ち込み、基地総出でドンちゃん騒ぎを始めたのだ。 俺「プロージイット!!プロージイット!!飲めー!!歌えー!!食えー!!ギャハハハッ!!!」 そして俺はウィッチたちと共に酒を飲んでいた。基本ここは男性現金なのだが、ウィッチである俺は特別に許可されているのはもはや常識・・・なのだが、 ケイ「なんであんたたちまで居やがるんですか?三将軍?」 ケイはヒクヒクと唇の端を引く付かせえながら目の前で酒を煽る三将軍を睨みつける。だが、もちろん三将軍。いくら多くの修羅場を乗り越えたウィッチの視線も まったく動じずにガハハと笑い声を上げた。 パットン「ガハハッ!!まあいいじゃないかケイよ!!今日は折角の祝いの席なんだ!!細かいこたァ気にすんな!!」 ロンメル「そうだ、そうだとも!!俺君の初陣、それに初戦果にしてネウロイ数十体!!これを祝わずになんと言おうか!!」 モンティ「うむ、そこの酔っ払い共はともかくその意見には賛成だ。これは世紀に残る偉業だ」 いつもなら殴り合いでもしそうな三人組。だが、今日はまるで逆だ。パットンとロンメルは肩を組み、モンティはそこに参加こそしないがうんうんと二人の意見に頷いている。 ケイ「(・・・この三人ってこんなんだったけ?)」 大抵酒が入っても昼間のように喧嘩するのがオチだと思ったのだが、とケイは考えるが、どうやら予想を斜め85度を超えたようだ・・・まあ、 パットン「ほれほれケイ!!お前も飲まねぇか!!」 ロンメル「そうだぞケイ君!!さあ飲むんだ!!」 モンティ「パアと飲みたまえケイ君。これは私のおごりだ」 ケイ「(・・・酔っ払いウザイ)」 ジジイの酔っ払いほど騒がしいものはないというのは、どこの世界でも同じである。 マイルズ「あっちも大変そうね・・・」 さて、そんな酔っ払いジジイの相手をしているケイがそんなことを思っている中・・・ジジイじゃないが酔っ払いでウザイと思っている人間がここにもいた。 俺「うえーーい!!おいこらマイルズ少佐!!なんでぇそんなしけた面して!!ただでさえしけているのにそれ以上しっけしっけになったらしけった煎餅みたいになっちまうぞ!?ギャハハハッ!!」 そうジジイでもない相手・・・それは俺である。普段でもかなりのハイテンションを維持している俺は、酒を飲むとそのテンションが天元突破してスーパーハイテンションになってしまうのだ。 そしてその相手を現在務めているのがマイルズなのだが・・・ マイルズ「うっさい!!第一あんたただでさえテンション高いんだから少しは下げなさいよ!!それとしけた面って何なんなのよ!?私そんな普段からしけっ面なんかしてないわよ!!」 バンと机を叩きながら、マイルズは俺へと言い放つ・・・そう、つまりはウザイ。酒が入ってテンションだけでなくウザさも天元突破しているのだ。 俺「おおう?ねえいま怒ってる?いま怒ってる?」 マイルズ「ええ、あんたのせいで絶賛激怒りよ・・・!!」 俺「やったね!!任務は完遂した!!ウェーーイ!!」 マイルズ「なに任務って!?私怒らせることが任務ってどういうことよ!?」 俺「そういうことよ!!」 と即座に返す俺。そして何が面白かったのかゲラゲラと大笑いをし始める。ただでさえテンション高いのにこれ以上高くなってはマイルズの身が持たない。 マイルズ「本当・・・ハルファヤ峠で活躍したのがこんな奴なんて・・・誰も想像しないわね」 ふうとため息を吐きつつ、そんなことを言うマイルズ・・・ 俺「うらァ!!まるぽっぽ!!てめェ今日はよくも俺の頭によくわからないもんぶつけくさったな!!これでも飲んでろ!!」 マルセイユ「うぷ・・・!?お、おい俺なんだこれは・・・!!生臭いドロッとした変な液体だぞ!?」 俺「当たり前だろ!!こいつは肝油といって日本・・・こっちで言うところの扶桑の伝統健康飲料だ!!ヤツメウナギの体液を使用していて体にいいんだぜ!!さあ飲め!!飲むんだ!!体にいいから!!ハリーハリーハリー!!」 マルセイユ「うぷ・・・!!ちょ、本当もう無理・・・あ、謝るからもう勘弁してく・・・!!」 俺「おらァ!!飲めェェ!!!食えェェェ!!歌えェェェ!!!ギャハハハッ!!!」 マイルズ「だあああ!!あんたは少し落ち着きなさい!!この大馬鹿!!」 マルセイユにヘッドロックを極めながら、器用にその口に肝油が入った一升瓶を口につっこむ俺・・・マルセイユは今にも死にそうな顔をしている。 マイルズ「(ああ本当・・・一体誰がこんな奴だと思うんだろう・・・)」 心の中で先ほどと同じ言葉を繰り返していった・・・。 そして夜はにぎやかなまま過ぎ去っていった・・・。 それから翌日、世界中の新聞の一面にこのような記事があがった。 『ハルファヤ峠の救世主!!たった一人でスコップ一本でネウロイを二十体撃破したエリート男性ウィッチ!!その名は俺!!』 エリート?
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運命の巡り合わせ――とは、大概において、妄想。誤った思い込みである。 その場その時の雰囲気によって、偶然の産物でしかないものに、変なロマンを感じたに過ぎない。 しかし……ごく稀にではあるが、本当の必然にぶつかることもある。 たとえば、希有の品と、彼女の出会いのように―― 気紛れな誰かさんの、退屈しのぎの悪戯に、付き合わされた場合だ。 雛苺が、かつての同級生と約2年ぶりの再会を果たしたのは、3月のはじめ。 桃の節句と呼ばれる、麗らかな日のことだった。 美大生となって2度目に迎える、2ヶ月にもわたる長い春休み。 自転車での配達アルバイトに勤しんでいたとき、彼の家の前を通りがかったのだ。 懐かしい風景が、女子高生だった頃の記憶を、ありありと甦らせる。 かつては毎日、通学のために歩いた道も、今となっては随分と久しぶりだった。 いつも、彼の部屋の窓をチラチラと横目に窺いながら、通り過ぎるだけ―― そう……いつだって、それだけ。 劇的な変化をもたらしてくれるナニかを、ココロのどこかで期待しつつも、 彼女を引き留めるだけの理由は、遂に生まれることがなかった。 今日もまた、あの頃と同じように、何事もなく通り過ぎるだけなのか。 ちょっとだけ寂しい気持ちが、雛苺の胸を苦しくする。 今更だとは解っていても、静電気で貼りついてくる糸くずみたいな未練を、振り払えない。 払おうとすればするほど、却って意識してしまうのだ。 こんなコトでは、ダメ。ブンブンと頭を振って、雑念を粉々に砕く。 しかし、雛苺が足早に行き過ぎようとした矢先、ソレは起こった。 彼の家の門構えから、地を這うように勢いよく飛び出してきた、小さな影。 咄嗟に、猫か犬だと思った。だが、違った。 自転車の接近にビックリして、道のド真ん中で竦んだのは……真っ白なウサギ。 このままでは轢いてしまう。雛苺は息を呑んで、左右のブレーキを握り締めた。 ――が、あまりに強く握りすぎたから、ブツッ! 急なストレスに堪えきれず、ワイヤーが弾けた。 「びゃあぁっ?!」 止まらない。狼狽えるあまり急ハンドルを切り、民家の外壁に激突。 そのまま、雛苺は自転車と共に、バッタリと横倒しになってしまった。 配達途中の品は、幸いにもバッグに収められていたので、ブチ撒けずに済んだ。 時ならぬ甲高い悲鳴と、クラッシュ音を聞いたのだろう。 目を丸くした彼が、門から飛び出してきて…… そこに倒れている雛苺と視線が合うや、ハァ? と眉で八の字を描いた。 「なにやってんだ、おまえ」 「もー! 見れば解るでしょっ! 早く助けてなのーっ」 「……はいはいはい」 さも『しょーがねぇなあ』と言った風情で、彼は自転車を脇にどけて、 雛苺に手を差し伸べた。「大丈夫か?」 「そういうコトは、最初に訊いて欲しかったのよ」 「いや……こんな直線道路で、どうして壁に突っ込むかなぁって。気になるだろ、普通」 「だって! ジュンの家から、ウサギが飛び出してきたんだものっ」 「ウチじゃ飼ってないぞ、ウサギなんか。どうせノラ猫だろ。まったく、人騒がせな」 「ち、違うもん!」 両の拳を握り、ムキになって反論する雛苺のアタマを、彼―― 桜田ジュンは、ぽふぽふと叩いて、愉しげに笑った。 「解った解った。信じてやるよ」 「ぶー。なにその上から目線。失礼しちゃうのよ」 「ちびっこいだけじゃなく、子供っぽさも、相変わらずだな」 「チビはお互い様なのっ!」 べーっ! と舌を出す雛苺に、彼は悠然と、微笑で応える。 あれ? 思いがけない肩透かしに、雛苺は続ける言葉を失った。 高校の頃は、身長のことを口にするだけで、他愛ない罵りの応酬が始まったものだが。 ――たった2年。されど、2年。人が変わるには、充分すぎる時間なのか。 「それにしても、久しぶりだよな。元気そうで、なによりだよ」 「う、うい。ジュンもね」 変わっていないのは……精神的に成長していないのは、自分だけなのかも。 そんな、どこか置いてきぼりにされたような寂しさが、雛苺の胸に広がった。 水面に落とした墨汁の一滴が、ゆっくりと溶け馴染んで、淡い色を着けるみたいに。 それまでの騒がしさから一転、押し黙って俯いた雛苺に、ジュンの心配そうな眼が注がれた。 「どこか痛むのか? ちょっとウチに寄って、姉ちゃんに診てもらえよ」 「う、ううん……平気なのよ」 「いいから、こっち来いって。意地を張ったって、損するだけだぞ」 ――ホントに、平気だから。 言いかけた台詞は、彼女の唇から零れなかった。 なぜなら、ジュンに手を握られた瞬間、息と共に呑み込んでしまったのだから。 自分がアルバイトの途中だったことさえ、綺麗サッパリ忘れていた。 庭先に入ると、雛苺たちは、大小さまざまな荷物の群に出迎えられた。 なにごとだろう。引っ越しの準備だろうか……? 雛苺が訊ねると、ジュンは笑いながら、否定した。 「ないない。物置みたいになってる部屋があってさ。そこの掃除だよ。 姉ちゃんと2人がかりで昨日からやってるんだけど、ちっとも捗らなくて」 なるほど、運び出された品々は、色が変わるくらいに厚く埃を被っている。 開け放したドアの奥にも、まだまだ、あるみたいだ。 それにしても、どれだけ長く寝かせておいたら、こんな風になるのだろう。 眺めているだけで鼻がムズムズして、雛苺は顔を背け、クシャミを堪えた。 「まあまあまあぁ……。久しぶりねぇ、ヒナちゃん」 ジュンの姉、のりは、雛苺と顔を合わせるなり、パッと表情を輝かせた。 それでも、疲労困憊の様相は、隠し切れない。目元が暗く、窶れて見える。 ジュンの言っていたように、片づけに四苦八苦しているようだ。 「姉ちゃん、こいつ、チャリでコケたんだ。ちょっと診てやってよ」 「あらあらぁ、大変。それじゃあ、奥のほうで手当しましょうねぇ~」 「う……そ、そんな大袈裟な。ほっとけば治っちゃうのよ」 「そんなのダメよぅ! 目立たないケガほど、実は怖いんだからぁ。 お姉ちゃん、部活で応急手当の講習を受けたことあるから、任せといて」 ここにきて、やっと、雛苺はアルバイトのことを思い出した。 早く仕事に戻らなければ、日暮れまでに間に合わない。 ――が、のりは治療する気で、救急箱の中身をゴソゴソ探っている。 のりは基本的におおらかで、人当たりがよく、面倒見のいい人間だ。 しかも積極的で、意外に頑固な一面も併せ持っていた。 教師のような、継続的な辛抱強さを求められる職に就くには、いい性格だろう。 しかし、過ぎたるは及ばざるが如し。度が過ぎれば、お節介になってしまう。 ちょうど、今みたいに。 「それじゃあ、お願いしますなの」 雛苺は吐息して、素直に、擦り剥いた箇所を、のりに見せた。 ささっと手当してもらって、引き上げるのが得策。そんな判断からだ。 のりの手際の良さに感心しながら、雛苺は、片づけを手伝おうかと申し出てみた。 明日から週末で、アルバイトは休みだ。急ぎの用事もない。 けれども、彼女は雛苺の気遣いに感謝しながらも、やんわりと断った。 そして、憂いを含む笑みを浮かべた。 「お姉ちゃんね……もうすぐ、この家を離れちゃうのよぅ。 だから、ワガママだけど……後始末だけは、ね。この手で、しておきたくってぇ」 「どうしてなの? ひょっとして、お嫁に行っちゃうの?」 その問いに、彼女は、かぶりを振った。「マンションで、独り暮らし」 「この家にはジュン君と、お嫁さんが暮らすのよぅ」 ――え? 雛苺は胸裡で、のりの台詞を反芻した。3度目で、じわっと実感が戻ってきて…… 4度目にして漸く、アタマが理解した。ジュンは結婚するんだ……と。 考えてみれば、ジュンも自分も、今年で二十歳になる。 それに、服飾系の専門学校に進んだ彼は、この春に卒業して、社会人になるのだ。 所帯を持つのも、早すぎて損をすることはない。 対して、自分はどうか。大学に進んだけれど、休日にデートする恋人もなく。 バイト三昧の日々は、それなりに充足感を与えてくれるが……だけど……。 こういうの、負け犬って言うのかなぁ――なんて。 またぞろ、置いてきぼりにされた気分が甦ってくる。 雛苺は、治療を続けるのりの手元を、ぼんやりと眺めていた。 手当を済ませ、仕事に戻ろうと玄関を出た彼女を、ジュンが待っていた。 「よっ! なんともなかったか?」 「う、うい。ごめんね、心配かけちゃって」 なんとなく顔を合わせにくかったけれど、逃げ去るのも変な気がして、 雛苺は、深呼吸ひとつの後、にっこりとジュンに笑いかけた。 「それより、聞いたのよ。結婚するんですってね。おめでとうなの!」 「お、おう……ありがとな。なんか、本当に急なことでさ。 僕自身、自分のことなのに、まだ実感わいてこないって言うか」 「要するに、浮ついちゃうぐらい幸せってコトなのね」 「まあ、な」 臆面もなく惚気たジュンのみぞおちに、雛苺は頭突きを入れた。 もちろん、軽く。仔猫がじゃれるように。 「ねえねえ。ジュンのお嫁さんって、どんな子? ヒナの知らない人なの?」 「いや、知ってると思うよ。憶えてないかな。高校の頃の、学年のプリンセス」 「……あぁ。あの子なのね」 名前は失念してしまったが、面差しは、微かに憶えていた。 チャーミングという表現と制服がよく似合う、可愛らしい女の子だった。 どういった縁で結ばれたのかは、知る由もないが、いろいろ有ったのだろう。 雛苺が、ジュンと逢わなかった2年の間に。 「それじゃあね、ジュン。また、いつか――」 言って、雛苺はブレーキの壊れた自転車へと歩き出した。 その肩を掴んで引き留める、温かな感触。 ジュンの手は、いつの間にか、大きく力強く成長していた。 大切な誰かを、しっかりと守れるだろう男性的な手に。 「ちょっと待った。おまえに渡そうと思ってた物があるんだ」 言って、彼は、手にしていた古めかしい木箱を、ずいっ……と突き出した。 なぁに? 受け取って、蓋を開いた雛苺の満面が、喜色に満たされてゆく。 それは、80色セットのパステルだった。 「わぁあ……すっごぉい! どうしたの、これっ!」 「物置の整理してて、見つけたんだ。ウチの両親、世界中を飛び回っててさ。 いろんな場所で、アヤシイ物を買い漁っては、ここへ送ってくるんだよ。 蓋の裏に、注意書きっぽいのが貼ってあるんだけど、僕には読めなくってな」 ジュンが読めないということは、ラテン語とか、ロシア語だろうか。 それとも、もっと古い――くさび形文字や、甲骨文字? ……まさかね。雛苺は、蓋をひっくり返してみた。 「なぁんだ。これ、ドイツ語なのよ」 「解るのか? なんて書いてあるんだ」 「うーっと……このパステルで絵を描くと、その絵のとおりになる、って。 まだ続きがあるけど――紙が虫食いになっちゃってて、判読できないのよ」 「……ふん。なんともまあ、胡散臭いもんだな。いかにも、あいつら好みだ」 ――辟易。肩を竦めたジュンの口ぶりは、まさしく、その二文字に尽きた。 彼の小さな悪意に毒されて、柳の葉を想わせる雛苺の眉も、やにわに曇る。 歳の割にナイーブな彼女は日頃から、周囲の些細な機微にも、過敏に反応しがちだった。 それがプラスに作用するなら、素晴らしいインスピレーションも湧くのだろうけれど……。 「ご両親を『あいつら』呼ばわりするなんて、いけないのよ」 「いいんだよ。あんな、ろくでなし連中なんか、どう呼んだってさ。 ここ数年、ずっと会ってないし……もう、親って実感ないね。遠い親戚――みたいな? そのパステルにしても、どうせ買ったことさえ忘れてんだろうからな、きっと」 「……でもぉ。それなら、ヒナが貰っちゃダメなんじゃないの?」 「構わないさ。ウチにあったって、誰も使わないし。また、ホコリ被ったままになるだけだ。 どんな上等な道具でも、使ってくれる人が居なきゃ、ただのガラクタだろ」 それに……と、少しの間を空けて、ジュンは照れくさそうに続けた。 「高校の時にさ……チョコレート貰ってたのに、いっつも、そのまんまだったから」 数年遅れの、少し早いホワイトデーのお返し――と? 変なところで律儀なんだから。雛苺は呆れて、失笑を禁じ得なかった。 彼らしいと言えば、まあ、らしいのだけれど。 そういう渡され方をされては、女の子の心情として、固辞できなくなってしまう。 このパステルが使い手のないまま、ガラクタにされてしまうのも不憫で…… 結局、雛苺は受け取ってしまった。半ば、押しつけられるカタチで。 と、まあ。こう言うと、いかにも仕方なしの渋々といった趣があるが―― 実のところ、雛苺の喜びようは大層なものだった。 ついさっきまで感じていた、鬱々とした気分が、すっかり消えてしまうほどに。 些か現金だが、気持ちの切り替えが早いのは、彼女の長所なのだ。 小さな頃から絵を描くことが好きだった彼女にとっては、画材すべてが宝物。 ましてや、不思議な効力を秘めたパステルとくれば……。 「ステキ! ステキ! あぁ~ん、なにを描くか迷っちゃうのよー」 残りの配達を片づけているときも、木箱はずっと胸に抱きしめたまま。 いつもなら疲れて重たくなっている両脚も、ステップを踏みたくてウズウズしていた。 すぐにでも試してみたい。貼ってあった説明書が真実なら、凄いことだ。 沸きあがる衝動は、雛苺の心身を、かつて無いほど浮つかせていた。 アルバイトを終えて、寄り道もせずに帰宅。 夕食の時も。風呂で1日の疲れを流し、自室で洗い髪を乾かしている間も。 雛苺のアタマには、あのパステルで絵を描きたい欲求しかなかった。 とりあえず、どんなモチーフなら、実験に最適かしら? 物理的な変化――破損とか、誰にでも簡単に再現できるテーマなら、意味はない。 およそ有り得ない絵を描いて、そのとおりに変化するかを、検証すべきだ。 でも、奇抜なテーマ――たとえば、隕石が自宅の庭に落ちたり――を描いて、 現実になったら厄介だし、その隕石にナゾの物体Xなんかが付いていたら怖すぎる。 じゃあ、自画像は? 雛苺の閃きは、幾ばくもなく、落胆に変わった。 それなら、他者に迷惑はかからない。 でも、効力が本物ならば、少しの失敗でも、取り返しのつかない事態になろう。 ドラクロワやゴヤのような写実的な絵を、狂いなく仕上げられるのであればいい。 だが、キュビズムみたいな自画像を描いて、そのとおりに顔が変わるとしたら―― 交通事故で顔面がグチャグチャに潰れる様を想像して、雛苺は、ブルッと身震いした。 「うぅっ。やっぱり……初めは無難に、静物画でいくのよー」 モデルは、何にしたらいいだろう。雛苺は、ぐるり部屋を見回した。 どうせなら変形しにくかったり、壊れにくい物を選ぶべきだろう。 それでも絵と同じ変化を遂げたなら、パステルの効果を、少しは信じられる。 彼女の視線が、本棚に飾ってある、高さ20センチほどの石像を捉えた。 何年か前、キャンプで訪れた山中に投棄されていた、ベヘモス神像だ。 横たわった状態で、腐葉土に半ば埋もれた姿に、なんとなく愁情を誘われ…… そのままにしておけなくて、わざわざ持ち帰ったものだった。 「うんっ。これなら、簡単に形が変わったりしないから、もってこいなのっ!」 雛苺は愛用のスケッチブックを手に、ベッドに座り込んだ。 明日から週末で、アルバイトは休み。絵を描く時間なら、たっぷりある。 パジャマの袖をたくし上げて、気合いも充分。 きりりと表情を引き結んで、雛苺は、茶色のパステルを手にした。 -つづく-
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【初出】 禁書SS自作スレ>>747-750 学園都市のとある商店街。 其処を疾風のように走り去る一つの人影があった。 「ああぁあああああ―――ッ!」 馬鹿みたいな叫び声が商店街に響く。 道を行く人々の幾人かが驚きの表情で人影を見るが、その時には既に遥か遠くに走りさった後だった。 その人影の正体――結標・淡希は顔を真っ赤にして走っていた。 結標は数十秒前までの出来事を思い起こす。 『あァ?なんで俺がオマエに携帯の番号なんか―――』 『良いから教えて!』 あの爆弾宣言から暫く固まっていた両者だったが、先に沈黙を破ったのは一方通行の方であった。 しかし、一方通行の発言はすぐさま結標の悲鳴にも似た叫びに掻き消される。 結標は自分でも何を言っているのかわからなくなりつつも、必死に一方通行を睨みつける。 顔を真っ赤に染めた涙目の表情で迫られ、流石の最強も怯んだのか渋々と言った感じでポケットに手を突っ込む。 一方通行の取り出した携帯を見るなり、結標も慌ててジャージの上着ポケットから携帯を取りだす。 そして、互いの登録情報を交換して即座に、 『そ、それじゃ、見つかったら連絡するわ!じゃあね!』 『あ?って、速ェな、ォイ!?』 そのまま背を向けて走り去っていってしまったというわけだ。 そして、現在に至る。 正直なトコロ、結標は混乱していた。 一体自分は何を考えているのか、それすらもわからないのだ。 いや、本当はわかっているのだろう。 しかし、それを認めてしまっては、それをキッカケに己の心を"以前"の様に自分で壊しかねない。 それとは別の理由もかなりの割合で混じっている気もするのだが、それには目を向けようともしない。 ……これは敵の情報を知るため!知るためなのよ! そう自分に言い聞かせてなんとか心の均整を保つ結標。 その間にも彼女の疾走は止まらない。 ついには商店街を抜け、道路へと出た。 目の前にはアスファルトで固められた道路とそれを渡るための横断歩道。見上げてみれば信号が設置してある。 結標は信号を碌に見ずにそのまま横断歩道を渡りきる。 途中、なにやら叫び声と共に車のクラクションが鳴り響く。どうやら赤信号だったらしい。 渡った場所から少し走ると今度は緑が豊かな公園へと突入した。 と、ふと其処で結標は足を止める。 そして、ジャージの上着ポケットから携帯を取りだす。 二つ折りになるタイプの携帯を開き、幾つか操作をして電話帳を開いた。 緊張のためか顔が真っ赤になっているが、それは走ったせいだと自分を納得させた。 「えぇっと……一方通行の電話番号は……」 確認、確認、と携帯を弄り回す結標。 そういえば本名知らないわね、などと思いつつ見覚えの無い名前を探して行く。 暫くの間、平日のためか誰も居ない公園に携帯のボタンを押す電子音が響いた。 しかし、一方通行の本名と思わしきものは一向に見つかる気配が無い。 ……? 首を傾げる結標。 もう一度見るが、やはり見慣れた感じのする名前しか並んでいない。 例えば、一方通行とか。 「………」 見間違えたのかと、目を擦ってもう一度画面を見直す。 『一方通行 プロフィール』 「って、そのまま!?」 期待を大きく裏切る変化球に思わず叫びを上げる結標。 まさか呼び名をそのまま自分の携帯に登録するなど夢にも思わないだろう。 面倒臭がってこんな風にしたのだろうか、それとも名前すら忘れたか。 後者はなさそうなので恐らくは前者だろう、と結標は結論を出すと携帯を閉じて上着へと仕舞った。 深呼吸を一つ。 酸素を取り入れ、冷静になるため、脳を正常化させた後、すぐさま全力回転させ始める。 よし、と気合を入れるために声を上げる。 まずは状況の整理。 一つ、少女を探しだして、一方通行に連絡する。 二つ、少女から一方通行の弱点を聞きだす。 三つ、少女を一方通行へ引き渡し、褒めて貰う。 実は未だに冷静ではない思考の結標であったが、全く気にする様子もなく顎に手を当てて考えるポーズをとる。 ……問題はどうやってあの子を探すかよね。弱点を聞きだすとしたら一方通行より先に見つけなきゃいけないし。 一方通行がアレだけの上空から探したのに見つからなかったのだ。 恐らくは、かなり遠く。 もしくは何かビルの影になる様な場所に居るかのどちらかだろう。 取り敢えずは、 「足を使うしかないわね」 そう言って結標は早速一歩踏み出す。 何か踏みつけた。 「ひゃぁっ!?」 「だーうー」 何事か、と結標は妙な感触のした地面を見る。 其処にはなにやら白い衣装に身を包んだ少女が倒れていた。 なにやら力無く倒れる少女の身を包む衣装は良く見れば昔見た本に乗っていた修道女の服の様にも見える。 その暫定修道女は情けない声を上げつつ、コチラを見やる。 「お~な~か~す~い~た~」 「……」 捨てられた子猫のような目と言うのが、この場合の表現としては正しいだろう。 実際、少女の脇の下辺りから子猫が出てきて『いきなりすまないね、お嬢さん』的な視線を送っている。 この場合、飼い主と猫と見るべきだろうが、なんとなく結標には逆に見えた。 猫が保護者で少女が子猫っぽいのだ。 「おなかすいたって言ってるんだよ?」 「えぇっと……」 今度は体を引き摺るようにしてコチラへと方向転換する少女。 猫の方はしっかり少女の背中の上に避難している。 「……」 目の前の少女はなんなのだろうか、と結標は考える。 ……シスター、かしら?神学系の学校はこの辺りには無かったと思うけど。 それにしても妙な衣装だと思う。 なにしろ妙に豪奢な布を強引に安全ピンで止めている様な状態なのだ。 見た目としてはかなり豪華さと仕上げのバランスが悪い。 なんらかの意味合いがあるのだろうか、と結標が少女を凝視していると少女は、 「あのー、もしもし、聞いてる?」 「あ、ごめんね。なにかしら?」 ハッと思考の海に埋没していた結標は現実に戻ってくる。 それと同時に困ったような笑みを浮かべて目の前の暫定修道女である少女の目を見た。 綺麗な碧眼に腰まではありそうな銀髪。 どこをどう見ても日本人ではなさそうであったが、どうやら日本語は通じるようだ。 「えっと、とうまが道端で困ってたおばあさんの猫を探して走り去っちゃったから、お昼ご飯がないの」 とうま、というのはどこかで聞いた事があったが、取り敢えずは保護者の事だろう、と結標は納得する。 「大変ね。それで、私はどうすればいいのかしら?出来る限りの事なら手伝うわよ?」 すっかり子どもの相手モードに入った結標は笑顔を浮かべつつ腰を落として少女の顔を見る。 整った可愛らしい顔だ、と結標が評価を下していると少女はパッと顔を輝かせるように表情を変えた。 要求の予想は大体ついていた。 恐らくは、保護者である"とうま"という人物を一緒に探して欲しいとかそういうものだろう。 見た目でしか判断出来ないが、この年頃の少女は強がりと同時に寂しがり、怖がりでもあるのだ。 ……人探しなら、コチラの探し人も見つけられて一石二鳥というものだし。 結標は頭の中で人探しの計算も整えつつ、少女の次の言葉を待つ。 少女は流石に初対面の人になにかを要求するのは躊躇っているのか、モジモジとした後、 「ほ、ほんとう?」 「ええ、本当。お姉さんになんでも言ってみなさい?」 やはり躊躇いがちに聞いてくるが、結標は至って笑顔で応える。 こういう子の相手は怖がらせてはいけない。 笑顔で、優しく語りかけて上げるのが重要なのだ。 「それじゃあ……」 言葉を続ける少女。 なんとなく力がさっきより失われているようにも見える。 そして、飛来した少女の言葉は少々結標の予想とは違うものであった。 「なにか、食べ物を分けてほしいかも……げふ」 その言葉を最後にまた倒れ伏す少女。 暫しの間。 それほど長く無い間の後結標は思わず頬を書きつつ困ったような表情で苦笑いを一つ。 なんだか今日はまだまだ忙しくなりそうであった。 ○ 「つまりアナタはおばあさんにこの猫を届けるの?ってミサカはミサカは並んで歩きつつ聞いてみる」 「ミサカはミサカは、って重複してるよなぁ――まあ、そうだな。家までの地図も貰ってるし」 打ち止めと上条・当麻はとある商店街の道路を並んで歩いていた。 先程、上条が歩道で、ついに猫を捕獲した時に出会ったのだが、最初は随分と驚いた。 なにしろ、知っている少女が頭二つ分ほど縮んだように見えたのだ。 それはもう、新手のスタンド攻撃とかそういうものかー!などと意味不明な事を叫びそうになるほどだった。 なんとか落ち着き、自己紹介を済ませ、逃げようとした猫を確保するのに数十分。 随分と時間が経ってしまった。 周りでは、昼時だからか、この都市の象徴は科学だというのに無駄に熱い売り文句を叫ぶが響いている。 『安いよ安いよ!今ならこのサーモンピンクの河豚から取り出した実験食材がたったの――』 訂正しよう、やはり此処も例に漏れず科学万歳な場所のようだ。 その事実に半場安心しつつ、上条当麻は隣に並ぶ少女を見やる。 つい一ヶ月とちょっと前に知り合った少女達、御坂妹を含む約一万人の"妹達"。 その"妹達"全員に会ったわけでは無いが、この目の前の少女はなんとなく"妹達"の中でも特殊な気がした。 なんとなくあの"妹達"独特の雰囲気とは違い、妙に活発的な雰囲気が漂っているのだ。 今も物珍しそうに辺りを見回しては、変な物に興味を惹かれているようだ。 「おぉ、あれなんて中々格好良いかも、ってミサカはミサカは埴輪を見つつ目を輝かせてみる!」 本当に楽しそうだなぁ、と上条は笑顔で打ち止めの指さした方向を見る。 其処には、山積みにされた、妙にリアルに人の顔を模した埴輪があった。 正直、それが山積みになっている景色は不気味を通り越してある意味、荘厳だ。 「はは……」 思わず笑顔が引きつる上条。 やはりこの少女の感性は特殊で、少々斜め上に行っているようだ。 「おぉ、あれも珍しい!ってミサカはミサカは駆け寄って行ったりするー!」 楽しそうに左右に展開する店の前に飾られた展示品などの前を行ったり来たりする打ち止め。 どうやら出かけたりするのは稀らしい、と上条は微笑ましい光景を見つつ思う。 猫が腕の中で欠伸をかく。 どうやら追いかけている間に良きライバルとかそういうものと思われてしまったらしい、妙に友好的だ。 「まぁ、取り敢えずは……」 今日は平和だなぁ、と何か記憶の隅で蠢く白い悪魔の存在を敢えて忘れつつ、上条は空を見上げる。 取り敢えずは商店街の空はテントの様な物で隠されていて見えなかった。 視線を戻せば、打ち止めがまだまだ元気そうに走り回っていた。 そういえば、と上条は頭の隅に引っかかった事を言葉にする。 「そういやさ、お前、一体誰と此処まで来たんだ?」 「あ、そうそう。とミサカはミサカはアナタの下へ戻ってきつつ頭の中で情報を整理してみたり」 独特な口調にもそろそろ慣れ始めた上条の腕の中で猫が鳴く。 再び上条の横に並んだ打ち止めは自分が何故一人で居たか、何故相方が迷子になったか。 その理由を、色々改変しつつ話始めるのであった。 ○ 「オイ、ちっと悪リィが」 「あ、え、は、はい………?」 一方通行はいくら探しても見つからない現状に少しだけイラだっていた。 これだけ探して見つからないという事は相当遠くに行っているか、影にいるかという事だ。 それならば、しらみつぶしに探しても良いがそれでは買い物の時間が無くなってしまう。 それだけは避けたかった。 なにしろ、リハビリという名目で連れてこられたものの、未だに体は痛むし、動きずらい。 一人、助っ人を得たものの、碌に打ち止めの姿格好も聞かずに飛び出してしまったため当てにならない。 というわけで、最も簡単な方法―――人に尋ねるという手に出たわけだ。 ちなみに声をかけた少女は背格好から見て、恐らくは高校生と見れる人物だった。 茶色の混じった腰まである黒髪を、頭の横で一房だけゴムで縛り、ピョコンと飛び出させている。 そして、顔にはフレームの細い知的そうに見える眼鏡。 なぜか眼鏡は妙にずり落ちているように見えた。伊達だろうか。 「この辺で、こンな感じのガキ見なかったかァ?」 そう言ってポケットからメモ帳を取り出して開き、少女へと突き出す。 そのメモ帳には妙に上手い打ち止めの似顔絵が一枚書かれていた。 「えと……見て、ません。ゴメンナサイ……」 「そうか。邪魔ァしたな」 オドオドとした少女に言うなり、早速再び歩き出そうとする一方通行。 そんな一方通行へと慌てて少女は、 「あ、ちょ、ちょっと……待って、下さいっ!」 「あン?」 少女の声に気づいて振り向く一方通行。 振り向いた先では少女がもじもじと何か言おうしていた。 どうやら、目の前の少女は人見知りをするタイプのようだ。 というか、今日は妙にこういうシュチュエーションに出会う確率が高いような気がする。 暫くすると、少女は意を決したように口を開いた。 「あの、インデッ――あ、白いシスターさんを見ませんでしたか……?私の、友達なんです……」 「しすたァ?」 出てきた珍しい単語に首を傾げる一方通行。 シスター。 "妹達"の上位体である少女なら毎日のように朝から晩まで見ているが、白いのは見た事が無い。 「あ、えっと、修道女さん、の事です……」 「あァ?そっちかよ。なら見た覚えはねェなァ。悪リィけどよォ」 「そ、そうですか……」 しょんぼりと言った感じで肩を落とす少女。 頭の横に出た髪も少女の感情を表すようにヘニャリといった感じに萎れていた。 手伝ってやるか?という考えが一瞬鎌首をもたげるが、一方通行も一応人探し中だ。 目の前の少女には悪いが、手伝っている暇は無いのである。 「ンじゃ、俺ァ失礼するぜ」 「あ、ま、待って……ッ!」 「ごふゥッ!?」 いきなり襟首を掴まれて首が締まった。 いつもなら反射している所だが、演算補助装置の電源の都合上今はつけていないのだ。 したがって、一方通行は生き物の作りとして正常に、息が詰まり、思い切り咳き込んだ。 思わず蹲り、ぜぇはぁ、と呼吸を正すのに数秒。 立ち直り次第、思い切り立ち上がり、少女へと再び向き直る。 「なァにしやがるンだ、コラァッ!」 「ひっ……ご、ごめんなさい、その……」 思いきり怒鳴りつけるが、目の前の少女が泣きそうな顔でコチラを見ているのでそれ以上は言えない。 一方通行にも良心というものはあるのだ。 目の前の少女は先程と同じようにもじもじとしていた。 このパターンにそろそろ飽き飽きしていた一方通行は腕を組み、爪先でリズムを取るように地面を叩き始める。 「言え」 「で、でも……」 「いいから言え」 「う、は、はい……」 その顔は口は引きつった笑いを浮かべているが、目はイラつきを宿したものだった。 一応、目の前の少女が言いやすいように笑顔で言うつもりだったのだが、失敗したようだ。 少女は相変わらず泣きそうな、または小動物の様なとも例えられる表情で、一方通行を見た後。 「実は、私……」 少女は決心したかのようにかなり大きい胸の前で両手の拳を握り締め、 「ま、迷子なんです……ッ!」 一方通行の時が止まった。 「……あ、あの……?」 「……はァ」 少女が困った様な表情で見てくるが、それに構わず溜息を一つつく一方通行。 そのまま虚ろな目で空を見上げて一方通行は思う。 ……なンでェまた、今日に限ってこんな面倒ごとだらけなンだァ……? その頃、眼鏡の少女は相変わらず一方通行を見てオロオロしていた。
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59 名前:前217 投稿日:2006/08/01(火) 05 46 39.00 ID +pWGitUg0 (その1) 「私ね、妖精が見えるの」 「……何だって?」 これが、最初に俺が流依と交わした言葉だった。 学校の授業が終わり、その帰り道。 うだるような夏の日差しが肌を焼く。 輝く太陽が目に眩しい。 そして俺はいつものように、 いや、いつも以上に体調不良に喘いでいた。 「暑い……」 むしろ熱い。 自宅まで帰るだけなのに、何でこんなに苦労しなくてならないのか。 ふらふらとする足に力を込め、俺は自宅を目指して歩く。 と、その時、 「あら?」 不意に、一瞬目の前の景色がぐらりと揺れた。 あ、これはやばい……。 今までの経験上、こうなると倒れるまであと少しだ。 軽い眩暈で済んでいるうちはいいが、 このままだといずれ救急車で運ばれる羽目になる。 ……仕方ない、どこかで少し休憩しよう。 きょろきょろと辺りを見回してみると、ちょうど近くに公園があった。 木でもあれば、木陰の下で涼もう……。 俺は重い足取りで、公園へと向かった。 60 名前:前217 投稿日:2006/08/01(火) 05 47 22.67 ID +pWGitUg0 (その2) 「お、いい感じな木を発見」 公園の端に、大きなケヤキの木が1本、 その存在感を示すように隆々とそびえていた。 俺はその木を目指し、歩みを進める。 「ん?」 ふと近くに寄ってみると、そこにはすでに先客が座っていた。 女の子……? 長い髪。 線の細い体。 俺よりも白い肌。 そして、まるで西洋の人形のような整った顔。 その視線は、どこか遠くを見つめている。 「……」 俺はどうしたものかと、彼女の前で立ち尽くした。 隣に一緒に座ってもいいものだろうか? 声をかけようとしたその時、不意に彼女が口を開いた。 「私ね、妖精が見えるの」 「……何だって?」 彼女は、俺の方を見ないでそう言った。 俺も彼女が見ている方向へと目をやってみる。 その視線の先には……何もない。 あえて言えば、砂場があるくらいだ。 ……とりあえず、座ろう。 「……隣、いいかな?」 「……」 返答はない。 俺はそれを肯定と勝手に受け取ると、彼女の側に腰を下ろした。 61 名前:前217 投稿日:2006/08/01(火) 05 48 14.28 ID +pWGitUg0 (その3) 「妖精……って、どういう意味?」 「ほら、そこよ。見えるでしょう?」 彼女が自分の目の前を指差す。 そこにはただ、地面があるだけ。 「えーと……?」 どんなに目を凝らしても、俺には何も見えなかった。 「あの、何も見えないんだが?」 「どうして?」 「どうしてって言われても」 俺が聞きたい。 「綺麗な羽……。私もあんな羽があったら空を飛べるのに……」 「羽?」 虫でもいるのか? それとも虫を妖精に喩えている……わけじゃないよなぁ……。 「あら、そうなの。あなたも女の子なの……」 彼女が虚空へと呟く。 会話……してるのか? 「そう、そうなの……。それは良かったわね……」 虚ろな目で、何かと会話を続ける少女。 「なぁ、本当に……見えるのか……?」 「あなたはさっきから何を言っているの?」 「さっきも言ったが、俺には、何も見えないんだが……」 「おかしな人ね。すぐ目の前に、こんなにも美しい妖精がいるのに」 「目の前……?」 「そうよ。ほら、分かるでしょう? 今、彼女が羽を開いてあなたに挨拶してくれたわ」 「……」 62 名前:前217 投稿日:2006/08/01(火) 05 49 11.74 ID +pWGitUg0 (その4) 一瞬、寒気に背筋がゾクリとした。 冷たい汗が流れるのが分かった。 彼女の目には、本当に妖精がありありと見えているのだ。 これは……。 この症状は確か……。 ──フェアリーカウンター。 俺の脳裏へと、フッとその言葉が浮かんだ。 見えるはずのないモノが見える、重い精神の病……。 「ふふ、そうなの……」 彼女が楽しそうに笑う。 彼女にしか見えない「妖精」に向かって。 俺はただ、その姿を呆然と見つめていた。 63 名前:前217 投稿日:2006/08/01(火) 05 49 43.73 ID +pWGitUg0 (その5.ラスト) 「流依!」 突然背後からの声。 彼女がびくりと体を振るわせた。 「こんなところで何をしていたの? 探したわよ」 「流希姉さん……」 俺の目の前に、1人の女性が現れた。 ショートカットの髪。 活発に動く大きな目が印象的だ。 「あら?」 流希と呼ばれた女性が俺に気付く。 「流依のお友達……かしら? 珍しいわね」 「ど、どうも」 とりあえず会釈を返す。 流依というのが、隣に座る彼女の名前なのだろうか? 「ま、お友達でも何でもいいわ。ほら、立ちなさい」 「あ……」 流希と呼ばれた女性は、流依の手を引くと強引に立ち上がらせた。 「帰るわよ、流依」 「……」 流依は俯いたまま、答えない。 「じゃあね、お友達さん」 まだ事態がよく飲み込めない俺をよそに、彼女達は公園を去っていった。 「……」 何だったんだ、一体……。 これが、俺と流依との初めての出会い。 まさかこの時、俺はこの先再び彼女と出会うとは思いもよらなかったのだった……。 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/08/01(火) 17 55 55.70 ID v34Sb7O70 一日一ゼナ汁 山井「ん?ゼナ、パソコンなんかできたのか?」 ゼナ「ん。チャット作ってみた」 山井「俺パソコン関係は分からないからなぁ。で、何について話し合うとこなんだ?」 『ようこそ!「私が消えても代わりはいるもの」へ。』 つくしさんが、入室しました。 イヴさんが、入室しました。 ゼナさんが、入室しました。 流依さんが、入室しました。 露美さんが、入室しました。 つくしさんの発言:落ちたくないよぉ(泣 イヴさんの発言:これも運命・・・つくし、あきらめるしかないよ・・・ 露美さんの発言:気合だ気合!!! 青山さんが、入室しました。 青山さんの発言:いやはや、この私が落とされるとわねぇ(泣 流依さんの発言:あ、青さん。乙でした(汗 鈴華さんが、入室しました。 夏音さんが、入室しました。 ゼナさんの発言:御三家以外そろった・・・始めるよ・・・ 山井「これ以上見たくないwwwwwww」 206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/08/01(火) 18 14 08.09 ID SIP8xmuV0 200 一日一ゼナ汁は俺の公約だ 別の公約になさい 山井「ゼナがこの先生きのこるには会議ー」 ゼナ「ぱちぱち……」 山井「さて、早速だがゼナはこの先生きのこるために、自分が何をすべきだと思う?」 ゼナ「先生……」 山井「え?」 ゼナ「せんせいきのこる……」 山井「違う、この先生きのこr」 ゼナ「……今日は先生きのこ鍋にしよう」 山井「いやだから」 ゼナ「ふせお、調達してきて」 山井「……かしこまりました」 ゼナ「今日は……負けない……」 途中先生きのこ=山井のきのk(ry でエロネタに走ろうかとも思ったが どう見ても日和ってます。本当にありがとうございました 225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/08/01(火) 19 00 11.43 ID VuaLoIoi0 ブブブブ・・・ 突然枕元で携帯のバイブが鳴り出した。 手探りで携帯を手に取る。画面を見るとまだ6時を示していた。 「・・・?」多分今すごい顔してる。 「From:青山さん 件名:おい!! 本文:いきてるか!?窓のから顔だせ!」 メガネをかけ、布団からでて立て付けの悪い窓を力を入れて開ける。 外は空がうっすらと白んでいた。 目の前の道路に道に青山さんがたっていた。 また携帯が鳴る。 「今からそっち行くぞ!」 とりあえず返信する 「どうかしたんすか?」(送信っと・・・) 227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/08/01(火) 19 01 09.82 ID VuaLoIoi0 「何やってるんだ??」目の前にいきなり青山さんが現れた。 「早!?」さっきよりひどい顔してかもしれない。 「あぁ、返事を打ってたのか。悪いが先にあがらせてもらったぞ」 有無を言わさず靴を手に入ってくる 「・・・はぁ」仕方なく招かれざる客を招き入れる。 「で、どうしたんですか?」ベッドに腰掛ける青山さんに訪ねる。 「ん~?そんなことよりこっちきて隣に座りなさいよ!!」 「へ?」あ~、さっきから疑問系ばかりだな。。 「早く!」 「はいはい・・・」渋々と隣へ。 一人から二人になったことで少しだけベッドが沈んだ 「で、どうしt・・」もう一度同じ質問を仕様とした。 でも出来なくなった。メガネを取られ、口をふさがれた。 ぼんやりとしか見えない。甘いにおいがする。 「・・・・」 理解出来たときには部屋のぼやける天井を見ていた。 ベッドがさらに沈んだ。 ここから先は省略されました。続きを読むには保守と書き込んで下さい。 238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/08/01(火) 19 22 05.95 ID VuaLoIoi0 青山さんの香水なのか、それとも唇から伝わってくる物なのか、 甘いアーモンド臭がする。 頭がボーっとする。馬乗りにまたがられているみたいだ。 一瞬視界が暗くなり、目の前に突然青山さんの顔が現れた。 「ごめんね、山ちゃん。我慢出来なくなってさ・・・」 心なしか頬が桜色に蒸気している気がする。 「ちょ・・・青山さん・・・」下敷きの腕を動かして逃げようともがいてみる。 が、やはりそこは半病人。全く動かない。 というか、もがいてみて有ることに気がついた。出来れば気がつきたくなかった。 「あの、、青山さん、、、、下着は??」 「ん~?邪魔ななだけっしょ??履いてこなかったw」 さすがにここからは書いたらダメなキガスwwww 262 名前:225 投稿日:2006/08/01(火) 20 03 25.67 ID VuaLoIoi0 「邪魔って・・・何する気ですか!?」 二度あることは三度ある。本日三度目のすごい顔。 「何って・・・分かってるくせに・・・」ぼんやりとしか見えない。 けど、青山さんが妖しい顔で笑ってる気がした。 「ほら、何にも履いてないって分かった途端、急に元気になっちゃって」 「なっ!?」 言われて初めて気がついた。滅多に元気にならない物が固くなってる。 「あ・・・」 なんでなんでなんでなんで?? 糖分の足りない頭で必死に考える。 が、答えを出す間も無く、パジャマのボタンをはずされた。 「・・・っ」 冷たい指が、鳩尾から臍へ、そしてその下へ這うように進んでいく。 「青山さん・・・」 「ん~?どうしたの??」ニヤニヤしている。絶対。 264 名前:225 投稿日:2006/08/01(火) 20 03 46.89 ID VuaLoIoi0 ゆるゆるになったズボンのゴムを難なく超えて指が進入してくる。 指先が触れる。 「ぬるぬるしてるよ~?何を期待してるの?」 「期待なんて・・・」 「ホントに??」 「・・・」 「ほら、正直に言っちゃいなさいよ~?女の子にココまでさせてるんだよ?」 「・・・そんなこと言われても・・・」 「・・・」 「・・・」長い沈黙。 266 名前:225 投稿日:2006/08/01(火) 20 04 09.46 ID VuaLoIoi0 「そっか、ゴメン、もう帰るわ!ちょっと飲み過ぎちゃったみたい!」 俺の上からすっとどいてくれた。 「青山さん・・・」 「いやぁ~、宴会で飲み過ぎた!帰って一眠りしたら全部わすれてるんだろうな!」 「・・・」 「ほんじゃね!またくるわ!」 靴を持ってまた窓からとんとんと出て行った。 「ごめん・・・」聞こえない用につぶやく。 ブブブブ 机に置かれていた携帯が鳴っている。 「From 青山さん 件名:Re RE おい! 本文:メガネは枕元に置いておいた! さっさとねろ!」 やっと回り始めた頭で枕元をさぐる。 (・・・普通に返してくれればいいのに・・) 枕元に置かれたメガネは、少し濡れていた。 667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/08/02(水) 03 19 17.11 ID uUAb8zb80 香里奈「やまい~…あ」 山井「やあ香里奈さん」 真紀「出たわね、不純異性交遊女!」 香里奈「何でいいんちょが山井と一緒に居るのよぅ」 真紀「決まってるでしょ?あんたみたいな不純異性交遊女が 山井の健全な発育を妨げないように見張ってるのよ」 山井(…初耳なんですけど) 真紀「そういうことだから、さっさと山井から離れなさい!」 香里奈「…ちょいまち。 黙って聞いてれば、不純だの健全だの五月蝿いね。 だいたい私のどこが不純だって言うのよ」 真紀「な、なによそれ。逆ギレ?」 香里奈「違うって。思春期の女子が異性の体に興味を持つのって 不純と言うよりも、ごく健全な現象じゃないの?」 真紀「そ、それは…でも、あんたの場合は度を越えてるのよ」 香里奈「そうかしら。あくまでもスキンシップの範疇だと思うけど~。 でしょ?やまい~」 山井「(え、ここで振ってくるの?)う、うん…まあ…」 真紀「ぐっ…で、でもされてる山井が嫌がってるし…」 香里奈「…やまいく~ん。わたしに触られるの、イヤ?」 山井「別にイヤじゃないですけど」 香里奈「でしょでしょ~!それじゃあ早速~」 山井「え!?あ、あの香里奈さん?何か柔らかいのが当たってるんですけど…」 真紀「わ、わ?!な、なにやってんのよアンタはッ!」 香里奈「スキンシップよスキンシップ~」 山井(よ、よく分からないけど絶対にこれはやりすぎだと思う… というか、密着されて息苦しいって言うか…あの、呼吸…が……) 896 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/08/02(水) 20 41 31.55 ID KWTXf5mN0 すっかり忘れてた今日のゼナ汁 ゼナ「ふせお……わたし……こんな体になっちゃったよ……」 山井「仮面○イダー?」 ゼナ「赤レンジャイ」 山井「赤くないじゃん」 ゼナ「得意技はあくしょんびーむ」 山井「もうなんでもありだな」 ゼナ「決め台詞は『おいおいぼかぁシュールだぜ?』」 山井「それなんか違う」 むs(ry 979 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/08/02(水) 22 58 52.35 ID wci5faaF0 香里奈「あン。変なトコ、虫にさされちゃった」 山井(いちいち見せなくてもいいと思うけど…) 香里奈「ほらほら赤くなってるでしょ?」 山井(だからいちいち…あ、今日はしましまなんだ…) 香里奈「ね、お薬塗って」 山井「ちょ、ちょっとそれは…絵的にマズイと思う…」 香里奈「いーじゃない、ね?」 山井「うう…」 ??「そ、その役目!私が引き受けますですっ」 山井&香里奈「「誰ッ?!」」」 ??「わ、わわわ私は正義の味方のもろこしレディ! さあ、私のもろこし体操で貴女のかゆみを…」 香里奈「…自分でキンカン塗ってくる」 山井「うん、それがいいと思うよ。この人、なんだかアレだから」 ??「(´・ω・`)」 ??(アレって…まあ、山井くんの貞操は守れたからいいかな…? それでも二度としたくないな…こんなカッコ) まっさきに 思いついたは ギャグシチュエーション(字あまり)
https://w.atwiki.jp/jumpbattleroyal2/pages/19.html
第000話 オープニング ◆SzP3LHozsw ワックスのかけられた床、高い天井、バスケットボードのシルエット、染み付いた汗の匂い――。 たった今深い眠りから目覚めたばかりの三井寿は、ぼんやりとした暗がりの中とはいえ、さすがにここが体育館なのだということにすぐ気付いていた。 何故こんな真っ暗な体育館にいるのかわからず、練習後に疲れて寝入ってしまったのかという疑問も生まれたが、どうもはっきりしたことは覚えていなかった。 「なんだよ、誰か起こしてくれたってよさそうなもんだが……」 ぼやきながら、三井はゆっくりと身を起こす。 硬い床で寝ていた所為か、身体の節々が軽く軋み、あまり気持ちの良い目覚めとは言えなかった。 三井は欠伸をしながら何気なく周囲を見回す。そこで三井は信じられないものを目撃する。 薄闇の中で三井が目にしたものは、この体育館の中で眠る人間だった。それも一人や二人ではなく、何十人という人達――。 男女を問わず、とにかく何十人という人間がこのさして広くもない体育館を埋めていた。 「なんだよ……こりゃ……?」 それは三井がからかわれているのではないかと疑ってしまうほど、奇妙で不気味な光景だった。 三井は座り込んだまま、しばらく自分の置かれている状況が理解できずに考え込んでしまう。暗さで判然としないまでも、周りで眠る人間に三井は覚えが無かった。 よくよく見回してみれば、ここは三井の通う神奈川県立湘北高校の体育館ではない。それが益々三井を混乱させた。 「あの……もしかして、三井さん……?」 自分を呼ぶか細い声に、三井は驚いて後ろを振り向く。 「晴子ちゃん……か?」 「はい、そうです」 ちょうど肩くらいに髪を切り揃えた少女が、静かに頷くのが見えた。 頷いた少女――赤木晴子は、兄に似ず整った美しい顔立ちをしており、それは薄闇の中でも十分に知ることが出来た。 「なぁ晴子ちゃん、これ、どういうことだかわかる?」 「……わかりりません。私もさっき目が覚めて……そしたらここに……」 三井の問いに、晴子は申し訳なさそうに小さく首を振った。 「俺と一緒ってわけか……。……じゃあ赤木や他の奴らは?」 赤木や他の奴らとは、三井と同じバスケ部の連中を指してる。自分と晴子がいるのなら、他の連中がいてもおかしくないと思ったのだ。 「ゴメンなさい、それもちょっと……」 「そうか……。――それにしても一体何なんだろうな、これは…」 もう一度、三井は辺りを見回した。晴子もそれに倣う。 いつの間にか二人の他にも起き出した人がいるようで、囁き合う声や人が動く気配がしていた。 様子から察するに、どうやら他の誰もこの状況を理解してはいないらしい。 それを敏感に感じ取ったからか、二人の胸中になんとなく予感めいた不安が浮かび、次第にそれが二人を包み込んでいった。 「……出よう。なんだかここにいちゃいけない気がする」 「……そうですね。私も…なんか嫌な感じがします…」 二人の意見が一致し、三井が晴子の腕を取って立ち上がろうとしたその時、まるで計ったように頭上のライトが点き、眩しいばかりの白い光が幾筋も降り注いだ。 と同時に、幾つかある出入り口が一斉に開き、そこから武装した兵士らしき格好をした屈強そうな男達がぞろぞろと入って来た。 唖然とする三井らを余所に、兵士達はまだ眠っている者を見つけると、まるで道端の小石でも蹴るように無造作に蹴りを入れて起こしていく。 それほど強烈な蹴りではなさそうなものの、蹴られた者は衝撃に驚いたり、痛みに跳ね起きたりして一人残らず目を覚ました。 無論、兵士達の漂わす異様な雰囲気に気圧され、抵抗する者などはほとんどいなかった。 全員が目を覚ましたことを確認すると、兵士達は『参加者』達を取り囲むように、それぞれ壁際へと散っていき、それから微動だにすることなく沈黙を守った。 「おいおい、何の冗談だよこれは……」 三井はその兵士達の機械のように整然とした動きを見つめ、ひどく薄気味悪さを感じていた。 「三井さん、あれ…」 晴子は震える指先で前方の入り口を差した。 「ほっほっ。やあ」 肥満し過ぎた丸みをおびた巨体を揺らし、入り口から現れたのはカーネル・サンダースに似た好々爺だった。 三井はおろか晴子にとって、その人の登場はまさに青天の霹靂と言えた。 「安西先生!」 それは湘北高校バスケ部の監督を務める安西光義だった。 安西は、見る者に好感を抱かせる緩やかな足取りでのそのそと歩いて来る。 そのすぐ後ろから、これまた巨体の持ち主の髭面をした中年と、まだ若そうな男が続いて入ってきた。 「あぁ!マサさんぢゃねーか!!」 「川藤!?」 今度は別のところからいくつかの驚きの声が上がる。その中から、リーゼントをした少年が立ち上がった。 「おいマサさん、一体何の騒ぎだよこりゃ?」 その場にいた誰もが思い、誰もが感じていた疑問を、リーゼントの少年は臆することなく訊いた。 「前田、大人しく座ってろ。そのことについてはこれから説明がある」 マサさんと呼ばれた中年は、その少年に向かって手をかざし、座るように促した。 リーゼントの少年――前田太尊は、納得いっていない表情を作りながらも、言われたとおり渋々といった感じで腰を沈めた。 「コホン。近藤君、よろしいですか?」 「あ、申し訳ありません安西先生。さあ、どうぞ」 そう言って、近藤は安西に発言の場を譲る。 安西は呆然とする『参加者』達の顔を一人一人見回してから、静かに口を開いた。 「えー、君達には殺し合いをしてもらいます」 『参加者』達の中で、誰一人として安西の言葉を理解出来た者はいなかった筈である。 みな冗談でも言われたくらいに思ったらしく、キョトンとした顔をして、安西を珍しいものでも見るような目つきで眺めていた。 「ぶわっはっは!殺し合いだと?オヤジ、まさかボケたのではあるまいな?」 突然、赤いボウズ頭の背の高い少年が進み出て、安西の前に立った。 と思うや否や、安西の頬を引っ張ったり、顎をタプタプしたりと、赤ボウズはやりたい放題始めてしまう。 「やっぱり桜木もいたのか……」 その赤いボウズ頭を、三井はよく知っていた。三井の後輩であり、湘北バスケ部一の問題児・桜木花道である。 普段なら、恩師である安西に対しての桜木の振る舞いを注意しているところだが、状況が状況だ。 三井はいつでも飛び出せるように間を測りながらも、ここは静かに桜木と安西の動向を見守ることにした。 「桜木君、座りなさい」 弄りまわされているにも拘らず、安西は怒らず顔色も変えずに淡々と言い放つ。 「ぬ、オヤジのくせに偉そうなことを!」 桜木は目を吊り上げて怒って見せる。安西はそれにも怯むようなことはなく、一切表情を崩さない。 「桜木君、いいからそこに座りなさい」 「だからオヤジのくせ――――」 「……聞こえんのか?あ?」 桜木が言い終わらぬうちに、安西が言葉を被せた。 それまで仏のように柔和だった安西の顔が、一瞬、鬼のように変化したのを、端から見ていた三井は見逃さなかった。 「……白髪鬼(ホワイトヘアーデビル)だ…」 三井は嘗て白髪鬼と恐れられた時分の安西の恐ろしさを、少しだけ垣間見た気がした。そう、少しだけ……。 桜木もその安西のほんの一瞬の変貌に驚き、それ以上の横暴を重ねようとはせず、すごすごと元に位置に戻っていった。 「ほっほっ。どうやら君達はまだよくわかっていないようですね。――川藤君、あれを」 既に元の柔和な仏の顔に戻った安西が、近藤と並んで後ろに控えていた若い男に向かって言った。 「はい」 川藤が兵士達に目配せをする。川藤の合図に、兵士達が何かを運んで来た。 キュラキュラとキャスターを鳴らさせて運ばれて来たものは腰ほどの高さがあり、ひどく重そうで、全体が黒い布に覆われていた。 川藤はそれが運ばれて来ると、何の躊躇いも無しに覆われた布を取り払う。 噎せ返るほどの生臭い匂いと共に現れたのは、バスケットボールを入れておく籠だった。 普段ならボールで一杯になるはずのその籠が、今は別の『モノ』で一杯になっている。籠に詰まっているのは、バラバラに解体された人間の身体――。 ほとんどただの肉隗と化している為、どれが何処のパーツかは測り難く、剥き出しの筋組織から滴り落ちた血が見る間に籠の下に赤い水溜りを作っていった。 体育館の空気が冷たく凍りつくのを、三井は肌で感じていた。暗い静寂が体育館を支配していく。 誰も声を発そうとはしなかった。誰もが目の前の事実がとても現実とは思えず、目を皿のようにして籠に釘付けとなってしまっていた。 「……嘘……でしょ……?…おにい……ちゃん……?……いやあああぁぁぁぁ!!!」 張り詰めた静寂を切り裂くように、晴子が叫んでいた。 肉隗は晴子の兄、赤木剛憲その人だった。 晴子の悲鳴をきっかけに、そこかしこで同じような悲鳴や、安西達を非難する怒号が上がり始める。 近藤はそれを予期していたように、サッと腕を挙げて兵士達に合図を送った。発砲命令である。 合図を受け取った兵士が、装備していた銃を頭上に向けて乱射した。物凄い轟音が鳴り、銃弾が高い天井を突き破り、電灯を割った。 硝煙の臭いと轟音が体育館中をこだました。割れた電灯の破片や砕かれた天井の欠片が、三井達の上に降ってくる。 暫くして銃声が止んだ。 また静寂が体育館を包む。 「安西先生がお話し中だ。みんな静かに聞くように」 息をひそめる『参加者』を見渡し、近藤が厳しい口調で言った。 「すいません安西先生。どうぞ続けてください」 近藤が安西に話の先を促す。 「……赤木君は今回のことに反対してね。仕方ないので殺してしまいました」 籠に無造作に押し込められた嘗ての神奈川No.1センターに、安西は何の感情も抱いてはいないようだった。 その証拠に、安西は一番上に乗っていた赤木の頭部を掴み上げると、ボードに向かってシュートポーズに入る。柔らかく、無駄のない綺麗なフォームだった。 「私も本当は殺したくはなかったんですがね。あんまり五月蝿く反対するものだから……つい……ほっ」 ボールに見立てた赤木の頭部が、安西の手から放たれた。 薄く開かれた赤木の瞼から恨めしそうな眼が覗いているようで、それはとても正視に耐えられる光景ではなかった。 頭部は高く綺麗な弧を描き、まっすぐゴールに吸い込まれていく。バサッと乾いた音がして、安西は見事3Pを決めた。 顔の大きさが災いしてか、赤木の頭部はネットに引っ掛かって落ちて来ることはなかった。 「……正気かよ……安西先生は……」 安西の一連の動作を見た三井が、小さく漏らした。晴子はとっくに視線を逸らし、耳を塞いで目を硬く閉じていた。 ガタガタと震える晴子の肩を、三井はそっと抱き寄せた。 「大丈夫……大丈夫だ晴子ちゃん。きっと大丈夫だから……」 晴子の耳元で囁く三井にも、一体何が大丈夫なのかはわかっていなかった。 ただそうやって言い聞かせていないといても立ってもいられないだけで、三井自身、大丈夫だなどと楽観視は全く出来なかった。 「――と、まぁこういうことだ。こうなりたくなかったら、しっかりと言うことを聞くように。いいな。 ではこれからゲームの説明に入る。よく聞いておかないと、あとで取り返しのつかないことになりかねんぞ。特に前田、しっかり聞くんだぞ」 近藤は一度、太尊を注意してから先を続けた。 「お前達はこれからこの島で殺し合いをする。殴り殺す、刺し殺す、撃ち殺す、絞め殺す、騙して殺す、なんだっていい。とにかく殺せ。 殺して殺して殺し尽くして、最後に生き残っている者を決める。たったこれだけのことだ。簡単だろ?」 誰も口を挟まなかった。 誰の頭にも赤木の変わり果てた姿と、安西の狂気に満ちた行動が焼きつき、次は自分がああなるのではないかという不安に慄いていた。 「ルールは簡単だ。これからデイパックを配る。そのデイパックを手に、お前達はこの島の各所に振り分けられる。 そこからは自由に行動し、ただひたすら殺戮を繰り返すだけ。 デイパックの中には数食分の食料・水、それに参加者の名簿・筆記用具・地図・コンパスが入っており、他にランダムで得物となるものも入っている。 得物はそれぞれ違い、当たりもあればハズレもあるだろう。よく使い道を考えて好きに使うといい。 それから6時間ごとに1回、こちらから放送を入れる。その際、6時間以内に死んだ人間と、禁止エリアを読み上げる。 禁止エリアは重要なことだから絶対に聞き逃すんじゃないぞ。 …おっと、大事なことを忘れていた。それからお前達の首には『首輪』を嵌めさせてもらている。気付いていたか?」 近藤の言葉に、全員が自分の首に触れた。 三井も同様に触り、自分の首に巻かれた首輪の冷たい金属的な感触を確かめる。 「気をつけろよ、下手なことをすると爆発するぞ。なにせ爆弾入りだからな、その首輪」 ほぼ同時に、全員が首輪を触っていた手を放した。 「もうやだ……帰りたい……」 何処かで誰かのすすり泣く声が上がっていた。 「ははは、心配するな、何も今すぐ爆発しやしない。それじゃ意味が無いからな。…この首輪が爆発する場合は四つ。 一つは『無理に外そうとしたり、強い衝撃を与えた場合』。 二つ目は『24時間以内に誰も死ななかった場合』。 三つ目は『禁止エリアに留まった場合』。 四つ目は『定められた範囲から出た場合』だ。 この四つを破ると、即爆発する仕掛けになっている。もちろん爆発はそれ相応の威力で、爆発すれば首輪の持ち主は必ず死ぬことになる。 いいか、肝心なのは二つ目、24時間以内に誰も死ななかった場合だ。 これは例え全員生きていても、24時間ゲームに動きの無いときは容赦なく爆発する、という意味だ。最後の二人に絞られていたとしてもそれは同様だ。 だから最低でも24時間以内に1回は誰かが死んでくれないと、お前達は生き残ることは出来ない。 せいぜいそんなマヌケな死に方をしないように、一所懸命殺していくんだぞ」 近藤は一度全員を見回し、何かここまでで質問のある者は手を挙げろと訊いた。無論、手など挙げる者はいない。 「……よし、何も無いようだな。――では川藤君、君から何かあるか?」 そう言うと、近藤は川藤を顧みた。 近藤に話題を振られた川藤は、少し照れくさそうにしながら一歩前に出た。 「人間として最も大切なこと……夢を持ち、夢をつらぬくことの大切さを忘れない。そうあるべきだと思っています。 人間として最も大切なこと……夢を持ち、夢をつらぬくことの大切さを忘れない。そうあるべきだと思っています」 二度同じ言葉を繰り返す川藤は、何故か自信ありげだった。 「……で、では安西先生、先生から最後に何か一言お願いします」 特に川藤には突っ込まず、近藤は締めに入った。 「ふむ……」 近藤から締めの言葉を託された安西は、暫く考え込んでから口を開いた。 「優勝を成し遂げたいのなら、もはや何が起きても揺らぐことのない断固たる決意が必要だ。最後まで……希望を捨てちゃいかん。諦めたらそこで試合終了だよ」 「――以上で宜しいですね?」 近藤がそう尋ねると、安西はうんと頷く。 するとそれを待ったいた兵士が、用意してあったお面のようなものを安西と近藤と川藤に手渡した。三人はそれを装着する。 三井は嫌な予感がした。 「あれは……ガスマスク……?」 そう呟いた途端、プシューっとガスが洩れるような音がして、体育館を煙が包んでいった。 この煙を吸っちゃいけない!三井は口と鼻を手で覆ったが、もう遅かった。 「では、これより試合開始とする。健闘を祈るぞ」 近藤のその言葉を最後に耳にしながら、三井の意識は急速に遠のいていった――――。 【ゲームスタート】 投下順 Next 桜木花道の決意 時間順 Next 桜木花道の決意 初登場 桜木花道 桜木花道の決意