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「ミィ♪」 1匹の子タブンネがガラス越しに外の様子を見ている。 天気は雨。ガラスを流れていく水滴をおもしろそうに目で追いかけていく。 「タブンネ、外で遊ぶ時間だ」 後ろから声をかけられて子タブンネが振り向くと、いつもと同じ白い服を着た男が立っていた。 子タブンネは「ミィ♪」と笑顔になって男のもとへ歩いていく。嬉しい気持ちを表すかのように、尻尾がパタパタと揺れる。 1日中、せまい部屋の中に入れられている子タブンネにとって、外で遊ぶことはご飯の次に楽しみな時間なのだ。 「ミィッ♪ ミィッ♪」 激しい雨の中を子タブンネが楽しそうに走り回る。 固くて灰色の地面に溜まった水を手ですくったり、水たまりの中で転がったり。 せまい部屋の中では過ごす間は感じることのない楽しさ。 子タブンネは雨の日が大好きだ。 「ミィ……?」 しばらくして遊び疲れた子タブンネはふと気づく。 いつもなら傘をさして見守っているはずの男の姿がどこにも見当たらない。 不安になった子タブンネは、キョロキョロとあたりを見回し、「ミィッ! ミィッ!」と大きな声で男を呼ぶ。 しかし、どれだけ待っても男が姿を見せる様子がない。 子タブンネは男を探すために、激しい雨の中を歩きはじめた。 ……いったいどれだけ歩いたのか。子タブンネにはわからない。 ふわふわの尻尾は水を吸ってぐっしょりと重く濡れている。 体をプルプルと振って水を飛ばしても、雨の中ではすぐに濡れてしまう。 固い地面を歩き続けた小さな足には疲労がたまり、足の裏にはズキズキと鈍い痛みがある。 それでも男を見つけるために、子タブンネは歩き続けなくてはならない。 子タブンネ1匹だけでは何もできないのだから。 ……とても寒い。力尽きた子タブンネの頭にあるのはその言葉だけだ。 雨は子タブンネから体温を奪い、小さな体から容赦なく体力を奪っていった。 薄れていく意識の中で子タブンネは思う。 雨なんて降らなければいいのに。 子タブンネが次に目を覚ましたのはいつもの部屋の中だった。ふかふかの毛布に包まれていて、とても温かい。 自分の体を包んでいた毛布から出てくると、部屋の中にはいつもと同じ白い服を着た男がいた。 子タブンネは男のもとに歩いていき、男の足にひしっと抱きついて再会できたことを喜ぶ。 男は子タブンネの体を優しくなでながら尋ねてくる。 「タブンネ、雨の日は好きかい?」 子タブンネは首を振る。 寒くて寂しいのは嫌だった。 子タブンネは雨の日が大嫌いになった。 「ミィ♪」 子タブンネがガラス越しに外の様子を見ている。 天気は晴れ。ガラス越しでもわかるほど外は暖かいようだ。 「タブンネ、外で遊ぶ時間だ」 白い服を着た男が子タブンネに声をかける。 子タブンネは嬉しそうに男のもとへ歩いていく。 せまい部屋の中はとても退屈だ。広くて自由な外に出ることはとても楽しい。 それに雨の日と違って、晴れている日は寒くない。 子タブンネは晴れの日が大好きなのだ。 「ミ゛ィィィィ……」 強烈な日差しが子タブンネの体を焼く。 固くて灰色――コンクリートの床や壁は熱を蓄え、子タブンネの体に熱を加えていく。 上下から襲ってくる熱量に、子タブンネの体は熱を逃がすことを許されない。 ヒィヒィと息を吐く子タブンネの口から粘度の高いよだれが流れる。 よだれはコンクリートの床に落ちると、シュワッと音を立てて蒸発する。 タブンネという種族のもつ高い耐久性が、子タブンネを苦しみを長引かせていく。 体が焼け、水分を奪われていきながら子タブンネは意識を失った。 子タブンネが次に目を覚ましたのはいつもの部屋の中だった。 空調が効いた部屋はとても快適で、部屋の外の熱気とは無縁の環境だった。 目を覚ました子タブンネに、いつもの白い服―白衣をきた男が尋ねる。 「タブンネ、晴れの日は好きかい?」 子タブンネは首を振る。 とにかく暑くて苦しかった。 子タブンネは晴れの日が大嫌いになった。 子タブンネはあられの降る日が大好きだった。 いつものように白衣の男に連れられて、外に遊びに行った。 そして、目を覚ました子タブンネはあられの降る日が大嫌いになった。 子タブンネは砂嵐の日はもともと好きではなかった。 男に言われ渋々遊びに行き、子タブンネは砂嵐の日が大嫌いになった。 「ミィ……」 せまい部屋の中、子タブンネは壁に寄りかかりながらガラス越しに部屋の外を見ていた。 部屋の外は激しい雨のようで、ガラスに雨粒が次から次へとたたきつけられていく。 「タブンネ、外に遊びに行くかい?」 白衣の男にそう尋ねられ、子タブンネは首を横に振る。 部屋の外に出ればひどい目に遭う。それなら、退屈であっても部屋の中で過ごす方がよかった。 子タブンネは「ミィ……」と鳴いて、外には遊びに行きたくないと伝える。 「そっか、タブンネは部屋の中の方がいいんだね?」 自分の気持ちを理解してもらえたことで、子タブンネが笑顔になる。 尻尾を振りながら「ミィミィ♪」と鳴いて、男に感謝の気持ちをアピールする。 男は子タブンネを優しくなでながら、ドアの方に向かって「入ってきていいよ」と声をかける。 ガチャリとドアが開くと、部屋の中に次々と人間が入ってくる。彼らの手には様々なものが握られている。 何かが入っていそうな箱。トゲのついた金属の棒のようなもの。変な色をした水が入った容器。 入ってきた人間も、彼らが手に持っているものも、どれもが子タブンネには見覚えがなかった。 不思議そうな顔をする子タブンネに男が説明する。 「みんなで今からこの部屋で遊ぶんだよ」 子タブンネは大喜びした。 澪簿のない人たちが持っている見覚えのないものは、自分の知らないおもちゃか何かなのだ。 これから、たくさんの人たちに遊んでもらえる。子タブンネはそう考えた。 笑顔で手を振りながら、部屋に入ってきた人たちのもとへ歩いていく子タブンネ。 「たくさん遊んでね」と、ペコリと頭を下げる。 「ああ、嫌になるくらい遊んでやるよ」 次の瞬間、子タブンネの頭に強い衝撃が走った。 立っていることができなくなり、子タブンネは床の上にへたり込む。 何が起こったのかわからない子タブンネであったが、床の上に赤い液体が広がっていくのが見えた。 そして、それをきっかけに、激しい痛みが子タブンネの頭を襲い始めた。 「ミッ!? ミミィッ!? ミィィッ!?」 次々と襲いくる状況に、子タブンネは完全に混乱していた。 顔を上げて、救いを求めるように白衣の男の顔を見る。 「言ったじゃないか。みんなで今から遊ぶって。みんな、タブンネで遊びたいってさ」 子タブンネの首にひもが巻きつけられ、強い力で後ろに引っ張られる。 子タブンネの視界に映るのは、ニヤニヤと笑う人間たちと、その手に握られたいくつもの道具。 これから何が起こるのかを理解した子タブンネに、容赦のない暴行が加えられていく。 子タブンネの悲鳴を聞きながら、おもしろそうに男がつぶやく。 「部屋の外に遊びに行きたいって言ってればこういうことにはならなかったのに。 部屋の中がいいっていったのはタブンネ自身なんだから、しょうがないよな」 「…………」 うつろな目をした子タブンネが壁に寄りかかっている。 苦痛を与えられるだけの毎日。楽しみも、安らぎも、何もかも奪われてしまった。 ふわふわの尻尾も、カールした触覚も、ハート形の肉球も、何もかもなくなってしまった。 子タブンネには何も残されていなかった。 そんな子タブンネのもとに、白衣を着た男がやって来る。子タブンネは男の方を見ることもしない。 男がやって来たということは、これから苦しい時間が始まるのだから。 男の方を見ないのは、子タブンネにできるかすかな抵抗だった。 「タブンネ、『本当の外』に出てみたくはないか?」 その言葉に子タブンネの顔が上がる。『本当の外』という言葉に反応したのだ。 男の顔に視線を向けて、子タブンネは男の次の言葉を待つ。 「今までタブンネがいたところは実験施設の中なんだよ。 雨も晴れもあられも砂嵐も、どれもポケモンの技で作り出したものだったんだ。 施設の中じゃなく『本当の外』なら、あんなにひどい天気になることはないんだよ。 タブンネが望むのなら、そこに連れて行ってあげてもいいけど。……どうする?」 子タブンネは間を置かずにうなずいた。 ひどい天気でもなく、苦痛を味わうでもない、未知の世界に行ける。 それは子タブンネにとって、あまりにも魅力的な提案だった。 「よしわかった。こっちにおいで」 男にそう言われ、子タブンネは立ち上がる。 まともに力が入らないうえに、激しい痛みが全身を襲う。 それでも子タブンネは立ち上がり、不安定な足取りで1歩1歩進んでいく。 今の状態から抜け出せるという希望を目指して。 「ミィ……!」 外に出た子タブンネは今までにないものを感じていた。 ぽかぽかとあたたかい光。風に乗って運ばれてくる土や草のにおい。施設の中とは違うやわらかい地面。 それは子タブンネが初めて見る『本当の外』の世界。 「ミィ……♪ ミィ……♪」 ヨタヨタと子タブンネは歩き出す。 何もかもが新鮮で、何もかもが楽しい。世界は素敵なものだったのだ。 子タブンネは、生きることの素晴らしさをかみしめる。 子タブンネは近くの草むらへと足を向ける。草むらがかすかに揺れる。 「ミ……ッ!?」 草むらが揺れたと思ったそのとき、子タブンネは地面に押さえつけられていた。 次の瞬間、子タブンネの首が圧迫されて呼吸ができなくなる。 徐々に意識が薄れていき、体からゆっくりと力が抜けていく。 「あーあ。無警戒に草むらに近づくから」 白衣を着た男は楽しげな様子でつぶやく。 男の目の前では、肉食ポケモンにのどを噛みつかれ、力尽きた子タブンネの姿がある。 やがて、肉食ポケモンは子タブンネの体を離すと、小さな体をガツガツと食べ始める。 「施設の中で生きることを選んでいたら、こういうことにはならなかったのに。 次からはよく考えて……って、もう聞こえてないか」 男の目の前には、子タブンネを貪る肉食ポケモンと、お腹の中が空っぽになった子タブンネ。 ため息をついて立ち上がり、「次のタブンネを用意しないと」と言って施設の中に入っていった。 その光景を、かすかに残った意識で子タブンネは見つめていた。 タブンネの持つ生命力が、子タブンネが簡単に死ぬことを許さない。 生きながらにして自分の体が食べられていく感覚を子タブンネは味わい続けている。 やがて、肉食ポケモンの牙が子タブンネの頭に食い込んでくる。 目を失って視界がつぶれ、耳を失い音が何も聞こえなくなる。 自分の体を食べられることだけを感じながら、やがて子タブンネの意識は、二度と覚めることのない闇の中へ沈んでいった。 (おしまい)
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の執行部員 第2章(1) 「なンだァ、今日も超電磁砲の愛妻弁当かよ」 上条が広げた弁当を見て一方通行はからかうように言った。 青髪ピアスは上条の弁当を見てハンカチを銜えながら涙を流し、 土御門は何故か学園都市に侵入した魔術師に向けるような殺気を放っている。 上条は普段この三人と昼食を共にすることが殆どだ。 そして上条は特に意に介した様子も無く嬉しそうに言った。 「いやー、美琴が毎日弁当を作ってくれるお陰で昼休みに飢えることもないし、 おまけに待ち合わせに間に合うように部屋を出るから遅刻することもない。 上条さんとしては大助かりですよ」 上条の話はそこから自然な惚気話へと発展していく。 先日、上条から結婚を前提とした交際を申し込まれた美琴は上機嫌な日々が続いていた。 特に態度などに変化があったわけではないが、付き合いの長い上条には分かる。 そして美琴から昼食の弁当と夕食は毎日作ってあげたいと提案があったのだ。 『な、何よ、将来は朝食も含めて全部作ってあげるんだからいいじゃない!? それとも私が作った料理が食べられないって言うの?』 と、これまたテンプレ通りの言葉に押し切られた上条は 素直に美琴の厚意を受け取っているのだった。 一緒に並んで学校に登校するなど、前に比べてより恋人らしくなった関係に 上条と美琴は気恥ずかしさを感じながらも充実した日々を送っている。 ちなみに上条の惚気話を聞いた三人は… 「くっ、これだからリア充は嫌いだ。 男の友情なんて簡単に捨て去っていきやがる」 と、青髪ピアスは関西弁を用いるのを忘れ去り、 「俺には舞夏がいるから何も問題はないはずにゃー。 でもこの敗北感は何ぜよ? 教えてくれ、舞夏ーーーー!?」 と、土御門は奇声を発して、 「あン、何だか妙ォにこのコーヒーは甘く感じやがるなァ?」 と、一方通行は無糖のブラックコーヒーを片手に首を傾げている。 そして一方通行は自分が話を振ったことに責任を感じたのか、 話題を変えるべく自身は初めて参加する大覇星祭について話を始める。 「それよりも大覇星祭ってェのは、毎年こンなに面倒臭ェもンなのか? 正直放課後の準備とか、かったるくて仕方ねェンだが…」 「まあこんなもんじゃないかにゃー」 土御門が何処か面倒臭そうに言うと上条と青髪ピアスは相槌を打つ。 「まあ中学と高校じゃモチベーションが違うって部分も少なからずあるな。 特にウチのクラスは吹寄が運営委員をやってて張り切ってるっていうのもあるし…」 「でも実際の本番は暑さにやられて、だらけてしまうことが大半やな」 「あー、分かる分かる。 特に開会式なんかは地獄だよな」 一方通行は三人の話を聞いて、大覇星祭はやはり面倒臭いものだと偏見を持ってしまう。 吹寄あたりが聞いたら怒りそうな話だが、 どういうわけか仲のいい番外個体と転入してきたばかりの姫神と一緒に席を外している。 そんなこんなで四人の平和な昼休みは過ぎ去っていく。 しかし上条には放課後、思いも寄らぬ『執行部』としての仕事が待っているのだった。 放課後になり『執行部』の仕事が非番だった上条と美琴は共に夕食の買出しをし、 二人で並んで上条の部屋へと向かっていた。 するとエレベーターから降りた途端に甘ったるい匂いが漂ってきた。 顔をしかめる美琴とは対照的に、上条はその匂いに覚えがあった。 部屋に向かって走り出す上条の後を美琴も追う。 そして上条の部屋にいた人物は思った通りの人間だった。 「ステイル!!」 「やあ、待っていたよ上条当麻」 明らかに訝しげにステイルを見つめている美琴に上条は事情を説明する。 「前にインデックスっていう女の子について話したことがあっただろう? その時に一緒に戦ったイギリス清教の神父だ」 「…はじめまして、御坂美琴です」 先日のシェリー=クロムウェルの件もあってか、 イギリス清教と聞いても不信感が拭えないのだろう。 美琴の声音にはまだ警戒している様子が滲み出ていた。 それを悟ってかステイルの言葉にはいつもの刺々しさはあまり感じられなかった。 「先日のシェリー=クロムウェルの件はすまなかったね。 ただ彼女…いや僕達全体にも色々と問題があるのも事実なんだ。 許してくれとは言わないが、事情を察してもらえると嬉しいよ」 「イギリスは今どんな状態なんだ?」 「はっきり言って良い状態とは言い難いね。 本格的な戦闘こそ起こっていないが、各地で魔術師同士の小競り合いが続いている」 「そうか…」 「今日は君達に依頼があって来た。 学園都市の上の人間には既に話をつけてあるから心配しなくていいよ」 「依頼ですか?」 「そういえば美琴は初めてだったな。 偶にこうやってイギリス清教から直々依頼がくることがあるんだよ」 「今回はオルソラ=アクィナスという修道女を攫って来て欲しい」 「何者だ?」 「ローマ正教のシスターで何でも『法の書』の解読に成功したらしい」 「…」 上条はステイルの言葉に押し黙る。 美琴はそんな上条の様子を不思議に思うが、上条の代わりにステイルと会話を続ける。 「『法の書』って何なんですか?」 「僕達の世界で『伝説級の魔術師』と言われる エドワード=アレクサンダーによって書かれた魔道書だよ。 人間には使えない『天使の術式』が記されているとか、 解読と同時に十字教の時代が終わるとか、色々といわくが尽きない代物でね。 ローマ正教に兵器として利用されると厄介だから、 君達の手でオルソラ=アクィナスを回収してもらいたいんだ。 流石にバチカン図書館にある『法の書』自体はどうしようもないからね」 「オルソラは今何処に?」 今まで口を閉じていた上条が仕事の時の顔つきと口調になってステイルに尋ねた。 「どうやら天草式と呼ばれる魔術師の集団に拉致されて日本にいるらしい。 天草式の目的が僕達と同じローマ正教の戦力の補充の阻止だったらいいけど、 そればかりは話を聞いてみないと何とも言えないからね。 僕達イギリス清教は表立ってローマ正教と対立するわけにはいかないから、 学園都市の対魔術師のエキスパートである君達『執行部』に依頼することになった。 全て任せきりにするのは心苦しいが、よろしく頼むよ」 「…分かった」 上条と美琴は天草式のいると思われる大まかな位置をステイルから聞き、 今後の取り決めを行うと学園都市の外に向かって歩き出すのだった。 「美琴、天草式っていうのは相当手強いみたいだ。 何せローマ正教の部隊から一人の人間を奪取できるくらいだからな。 俺と違って美琴は対複数の魔術師との戦闘に慣れてない。 今回は基本的に俺を前衛として美琴は後方からの支援に徹するんだ」 「私だって当麻の隣で戦えるわよ」 「これは『執行部』の上司としての命令だ。 命令を破るなら『執行部』を抜けてもらう、分かったな」 「…分かった」 美琴は何処か不満が残るようだったが渋々といった様子で頷いた。 本当は美琴も分かっていた。 上条は『執行部』の名を出したものの、本当は恋人の自分の身を気遣っていることを… そして自分がまだ上条の隣で戦うには実力不足だということも… すると突然、美琴の前髪からバチンと静電気のようなものが飛び出した。 「どうやら当たりのようだな」 今のは今のが『人払い』という人間の感覚や認識に影響を及ぼす術式の効果と、 美琴の能力の制御法が競合を起こした結果、軽く美琴の能力が暴走したものだった。 実はこれか魔術師のねぐらを探すのに役立つ。 上条は『幻想殺し』という異能を打ち消す右手を持つため、 例え『人払い』という術式が張り巡らされていても 気付かず通り抜けてしまうことが殆どだった。 その場合、例え魔術師が近くに潜伏していても見逃してしまうことが多い。 しかし美琴と行動を共にすることで、そういった術式にも気付くことが出来るのだった。 「話し合いで済めばいいが上手くいかなかった場合、 俺が囮になって敵を引き付けるから、美琴は電磁波のレーダーで敵の動きと オルソラが囚われていると思われる場所の特定を急いでくれ」 「うん!!」 そして上条と美琴の共同任務が幕を開けるのだった。 結果として話し合いは決裂に終わった。 というよりも話し合いに至る前に天草式が襲ってきた。 『人払い』の術式を抜けられたことにより焦りが生じたらしい。 「くっ!?」 しかし上条に攻撃を仕掛けたはいいが、約50人にも上る天草式の戦闘メンバーは 一人しかいない上条相手に苦戦を強いられていた。 天草式は幕府の迫害から逃れつつも十字教を信仰するために仏教や神道で カモフラージュに『偽装』を重ねた宗派であり多角宗教融合型十字教とも称される。 用いる戦術もまさしく『偽装』で、 本命かと思えばフェイントで、フェイクかと思えば本物の魔術が襲ってくる。 よって天草式の術式を初見、しかも何の知識もなしに見切るのは不可能に近い。 にも拘らず上条は正確に物理攻撃と魔術による攻撃を見抜き、 確実に攻撃を仕掛けダメージを与えてくる。 それは上条の長年に渡る戦闘訓練と幾多に渡る魔術師との戦闘経験が生む技能だった。 「全員、下がるのよな!! ここは俺が引き受けるからオルソラ嬢の護衛に就け!! 敵がこの男一人とは限らないのよな」 恐らく天草式の代表であろうクワガタみたいな髪型をした男が言った。 まだ意識を失っていなかった数人の天草式の少年少女達が走り出す。 上条は心の中で毒づく。 天草式は決して弱くない。 実際に上条も壁を背にして直接相手にする人数を極力抑えて戦っていた。 このレベルの相手が五人以上いたら美琴も苦戦を強いられるに違いない。 上条は走り去った少年少女達の後を追いかけようとしたが、 その前に天草式の首領の男が立ち塞がる。 「まさかこれほどの男が科学側にいるとは思わなかったのよな。 名乗らせて貰おうか、天草式教皇代理の建宮斎字だ」 「…学園都市『執行部』の上条当麻だ。 話を聞いてくれ!! 俺はオルソラを保護してイギリス清教に匿ってもらおうとしてるだけだ。 別にお前達と争うつもりはない!!」 「必要以上に我らを傷つけようとしないお前さんの戦い方を見てれば、 お前さんが信頼に足る人間だということは分かるのよな。 だがイギリス清教を必要以上に信頼するなと女教皇様から言われてるのでな」 「…」 上条は建宮の言葉を否定することが出来ない。 上条自身が個人的な知り合いはともかく、イギリス清教のトップを信頼してないからだ。 上条と建宮は互いに睨み合い、相手の出方を模索する。 しかし二人の間に流れていた沈黙を突き破るように、辺りに爆発音が鳴り響いた。 「何だ!?」 互いに仲間の身を案じた上条と建宮は顔を見合わせると、 共に爆発が起こった場所へと走り出すのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の執行部員
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20 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 09 09.60 ID manA8BLGO [1/9] 上の上の階からこの教室まで聞こえる合宿部の練習が七回目にさしかかった頃、私は作業を一旦止めた。 クラスメート全員分のプリントをのけ、カバンからペットボトル飲料を出しフタを開き口をつけた。 「ん……」 喉をゴクリと鳴らして心地よく飲み込み身体の活力にする。 ポパイであればほうれん草。マリオであればキノコであるように、私のパワーアップアイテムはこれなのである。 もちろん彼らほど劇的に力があふれ出るわけではないが……作業で溜まった気だるさを吹き飛ばすには十分に足る好物だ。 「やーやー これはこれは委員長サマやないですかー えっへへー」 そこへクラスメートのイズミがやってきた。 彼女は家に着くまでが部活動の帰宅部のはずだが……何故まだ校内に残っているんだろう。 というか揉み手をしながらヘコヘコと媚びへつらっているのが気になる。 今までの事と、関西生まれだからか香る(ような気がする)お好み焼きスメルで、彼女の胡散臭ささが倍増中だ。 「あー……委員長! お願いがあるんや!」 21 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 14 23.34 ID manA8BLGO [2/9] ……ここまでで何を言い出すかは大体予想できたので、机の中からクラス日誌を取り出す。 それも流麗に、予備動作も感じさせず、コマンドキャンセルで。 「苦労も努力もせんで先生お墨付きのかわいい生徒って思われたいから、明日の数学の宿題写させて!!」 「なめんな」 少し斜め上の発言だったが……クラス日誌を顔面にHITさせた音が、二人しかいない教室に『すぱーん』と響いたのであった。 ―――――――――――――― 「あイター……もー、何するん。雪女並にキツい委員長って評判のチナミ様に勇気出してお願いしたのに……」 「……目ぇキラつかせてするお願いが、勇気を出しての懇願のようには見えなかったけれど」 確かに私はクラスメートから微妙に避けられ孤高の存在になっているのは認める。 しかし一人なのは嫌いじゃない。今日もこうして放課後に一人残りプリント整理をしていたが、静寂だからこそ聞こえる運動部や合唱部の練習声は中々いいBGMなのである。 勿論それにばかり耳を傾けクラスメートの頼みを無視するわけにはいかないが こんな学生の本分をなめたお好み焼き女にはただただ呆れてしまうばかりだ。 23 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 19 09.08 ID manA8BLGO [3/9] 「というか……今まで宿題はちゃんと嫌々ながらも教えてあげてたでしょう……」 そう。私は今までこの学年になってから、何度も彼女に勉強を教えた事がある(渋々と。これ大事)。 週刊少年ジャンプで言うなら、打ち切りレース優勝作品に顕著な、目新しさがないマンネリ展開を私達は幾度も繰り返していた。 頭が悪いなとは評価はしていた一方で、何度も挑戦する気概は買っていた…… しかしこの女には今まであったそれがなくなり、挙げ句の果てにはクラス委員長にイカサマの助力を求めている。 「いやー……それがな?」 【1】解き方教えてもらって提出出来たでー\(^o^)/ ↓ 【2】先生曰わく「なんだ、この素っ頓狂な答えは……」 ↓ 【3】先生から私に職員室へアブダクションのお・さ・そ・い☆ ↓ 【4】さっきまでコッテリ大目玉くらってもーた。仕方ない、応用出来ないなら丸写しで 「というワケなんよ。にゃ、にゃはは」 ………………なるほど。彼女は筋金入りのアホらしい。今まで私が眉を歪めながらも教えてやった事が身につけてないのを実感したら、目からさっき摂取した水分が流れ落ちてきた。 24 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 24 16.01 ID manA8BLGO [4/9] 「ああっ。で、でもいつかはちゃんと自分で予習復習するで! 赤ペン先生不要なほどに!」 いつかっていつだろうか。未来を定めるだけなら誰にでも出来るはずだが。 『明日って今さと』と命がけで行動した某漫画の某少年を見習って欲しい。 というかその言いぶりだと、予習はともかく復習していないようだが、そんな態度では赤ペン先生の顔の方が紅潮し赤くなるだけなんじゃ。 「どうしてもダメって言うなら土下座して床舐め掃除するし! ノート拝借するし!」 ……だから仮にもクラス委員長の前でそんな発言するだろうか。 ここまで発言する人間は……もう自身でプライドのない薄っぺらな人間なのを吐露しているだけだ。 「……はぁ」 私はため息を漏らすと、作業途中だったプリント用紙全てまとめ机でトントンと整える。 そしてカバンを取り出した私に、教えてくれるのかとイズミは期待の眼差しを送っていた。 「おぉう? もしかして教えてくれるん!?」 「帰る」 26 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 29 27.22 ID manA8BLGO [5/9] 今まで通り単に宿題を教えてと言うなら私は嫌な顔をしながらも手伝ってやっていただろう。 しかし土下座し床を舐め掃除してもいいから宿題を写させてと言う人間を評価し協力してあげようと思うだろうか? 答えは……『NO』である。私は彼女に『失望』したのだ。 「え」 「先生にまた怒られてきてね……それじゃ」 私は彼女を尻目に掛けながら、まとめたプリントとペットボトルをカバンにしまう。 プリントの作業はまだ残っているが八割のチェックが終わっている。 これなら家で15分程度時間を割けば終わるだろう。そして明日の朝に先生へ渡せばいい。 そんな事を考えながら立ち上がろうとすると、彼女が、イズミがいきなり私の手を取ってきた。 「そんな事……言わんといて……っ」 ……こんな顔もするんだと普段の態度とのギャップ差に私は目を見開いていた。 何せいつも笑顔のイズミが涙をうっすら浮かべながら唇を噛んでいたのだから。 「うち……勉強ただ見てるだけでもチンプンカンプンで……教えてもらって頑張っても、チナミに教わった事無駄にして…… そんなら最初から答え丸写しにした方がまだチナミのメンツが立つと思って……」 28 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 34 29.28 ID manA8BLGO [6/9] メンツ……か。 なるほど。勉強が出来なくても無神経に何にも考えてなかったわけじゃないらしい。 カンペキな丸写しの方がその場限りとは言え有用出来るのも事実だ。 「もう他に手伝ってくれるクラスメートが校内にいるわけでもあらへんし……チナミ以外頼れないんや。せやから……帰らんといて……」 そう言い終わると、イズミはこれ以上掴んでいるのは厚かましいと判断したのか力なく手を離した。 …………正直やめてほしい。こういう先が読めそうな展開は。 私は『廃部寸前の部活動に磨けば光る逸材が』といったご都合展開は嫌いだし 『友だちになりたいんだ』と全力全開でバトルした上で友人関係が築かれる王道展開もあざとい上に暑苦しくて大嫌いだ。 そして今回の場合は『私が結局イズミに突き動かされる』?そんな事はしたくない。 何分ひねくれた私はそういった展開を望まないのだ。 「あ……チナミ……?」 「…………」 そう、望まない。望まないのだ。 しかし私は……私はそんな展開に沿ってしまい、着席した上で数学の教科書とノートを取り出そうとしてしまっていた。 29 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 39 31.52 ID manA8BLGO [7/9] 「チナミ……も、もしかして……!」 彼女の曇っていた顔は一変し、期待に溢れた笑顔になっていく。 ……全く嫌だ。都合のいい方向に持っていかれるのもシャクだが、結局は人情を捨てきれず心動かされる自分が負けた気がするから。 「勘違いしないで。丸写しはダメ……けど今度は分かりやすく教えるよう私も努力するから」 「うん! うん! チナミはやっぱり……いーや。チナミはスッゴく、スッゴく優しいなー」 …………心外である。そんな事はない。ないったらないよ。 「だって『また?』とか『イヤ』とか渋っても最後には協力してくれるやん。せやから……チナミだぁーーーい好きや!」 何を言っているんだ、このお好み焼き女は。 二人きりの放課後の教室でめったな事言わないでほしい。恥ずかしいし恥ずかしい。 「だ、だから……そんなのただの勘違い。自分の知識を得意気に教えて優越感を得たいからやってあげるだけ」 やはりやめてもらいたい。こんな事を言わせて。これじゃあ私がホントに甘くて優しいみたいだ。 いや、でもこれは私が自ら発言したからであって別に誘導されたからとかじゃなく……あーうーあぁぁ、もうワケが分からない。 30 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 44 29.50 ID manA8BLGO [8/9] 「ジーッ」 気がつくとイズミが私を見ている。地の文もとい脳内で慌てふためいてたはずだが、顔と声に出してしまっていたのか。 だとしたら遺憾ながら私が呆気なく感情を揺さぶられていたのがバレたも当然になってしまう。 そればかりは勘弁してほしい。 「えへへ。本当はかわいい孤高の美少女委員長を独り占め出来てラッキーや」 「…………………………飲まなきゃやってられない!!!!!」 「うへぇ!?」 そう。こんな私の感情を簡単にぐらつかせる女といたら間がもたないしメンタルポイントももたない。 私は精神とテンションを安定させるために、大急ぎでカバンにしまったペットボトルを取り出しフタを外して口に含む、が。 「!!? ッ……げほっげほっ!」 変なところに入りむせた。 31 名前:『甘くないよ』[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 00 49 25.42 ID manA8BLGO [9/9] 「あ、ああー……もう。いきなり飲み込むからや。へーきか?」 現在進行形でむせてる私が平気なわけない。 というか違う。いきなり飲み込んだからむせたんじゃなく、こうなった原因はそもそもイズミのせいだ。 本当にこのお好み焼き女は……たまにこうやって私を乱すからたまったものじゃない…… これからは私のアドバイスが反映されてないのを確認する度に青海苔でもかけて復讐してやるべきか。 そんな仕返しの算段をしながら口元を手で拭っていると、イズミは私が吹き出してしまったペットボトル飲料を手に取り眺め始めた。 「ふぅーん……しかしあれやなー。チナミは無味無臭なミネラルウォーターなんかよく好むなあ」 「………………無味じゃないよ」 そう。無味じゃない。前々は本当に味一つない無色透明なミネラルウォーターだったが、私がこの学年に進級してから味が急に変わった。 不思議だが外見が変わったわけでもなく、メーカーが改良したとも聞かない。 しかしその味には不満があるわけでもなんでもなく…… 「とっても…………甘い、よ」 ~\終幕/~
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予選から、丸一日が経過した。 重傷を負ったジローではあるが、吸血鬼―――それも齢百年を超える古き牙の再生能力は伊達ではない。 既に、己の足で歩き回れるまでに回復していた。 月灯りが照らす白玉楼の庭園。縁側にそっと腰を下ろし、坐禅を組む。 涼やかな風が頬を優しく撫でる、いい夜だった。 月の光は、彼の身体を優しく包んでくれる。 その祝福の中、しばしジローは思索に耽った。 「ジローさん」 「ん…?」 呼びかけられ、思索を中断する。そこには、半人半霊の少女が立っていた。 「御身体の方、もう大丈夫なんですか?」 「ええ。心配をおかけしました」 「か、勘違いしないでよねっ!べっ、別にあんたの心配なんてしてないんだからねっ!」 「…妖夢さん。属性は無闇にたくさん付ければいいものではありませんよ」 「そりゃそうです。眼鏡っ子でお嬢様で優等生で知恵袋で天然で健気でスタイル抜群でドジっ子と、ハイブリッド で完全無欠の萌えキャラになるはずだった幸運☆の某ピンクさんなんて、人気的な意味で悲惨でしたもんね」 「どうしてそう無駄に敵を増やす発言を…」 「ま、某みゆきさんの話なんてよして、本題に入ります。これをどうぞ」 「む…」 妖夢が差し出したのは、一振りの刀―――望月ジローの愛刀にして、彼の二つ名の由来でもある<銀刀>。 受け取ったジローは、それを鞘から抜き出す。 銀のコーティングを施された傷一つない刀身が、月の光に煌めいた。 「しかしこれは、レッドとの闘いで折れたはず…何故?」 「幻想郷には様々な異能を持った連中が百花繚乱ですから―――<壊れた物を直す程度の能力>の持ち主くらい、 探せばいるものです」 値は少々張りましたが、と妖夢は親指と人差し指で円を作ってみせた。 「それはかたじけない。ただ、その…情けない話ですが、私は手持ちが…」 「んなもん、ミミコさんに養われてるヒモ吸血鬼のあなたに期待しちゃいませんよ」 「むっ…!」 容赦ない言い草に、日頃は温厚なジローも流石に腹に据えかねた。 ここは一つ、ガツンとかまさねば漢(おとこ)ではない! 「何たる無礼か、魂魄妖夢!誇り高き<賢者>の血統に連なるこの望月ジローを愚弄するとは、言語道断っ!ええ、 認めましょう。確かに私は弟共々ミミコさんに生活基盤の全てを委ねている―――しかし!それはお互いの信頼と 同意の上に成り立つ尊き関係なのです!それを<ヒモ>などと侮蔑的な一言で表すとは、笑止千万っ!そもそも が私はミミコさんの護衛役として日々を誠実に勤勉に送っているのです!いやまあ確かに遅刻率ほぼ100%ですし、 そのせいでミミコさんは下手すれば死んでた事もありますし、とある水曜日には機関銃をぶっぱなして建物を倒壊 させ、危うくミミコさんを巻き添えにしかけた事とかもありますが―――それでも私は断じて<何か縛るモノ>など ではないのですっ!半人半霊の剣士・魂魄妖夢っ!先刻の貴女の悪意と偏見に満ち満ちた発言に対して、私は 正式に謝罪と賠償を要求させて頂くっ!」 と、颯爽と立ち上がり妖夢に向けて毅然と言い放つ―――事が出来たらいいなあ、と空想してみた。 もちろん空想してみるだけであり、実際は何も言えずに口をへの字にしただけである。 <空しい想像>と書いて空想。 「ともかく、お金に関してはジローさんに請求するつもりはありませんよ」 「はあ。しかし、それでは…」 「この刀の修理を依頼してきた男とその友人達が、支払ってくれています」 「え?」 「ただ、彼等も懐具合が芳しくなかったので…労働という形で返す事と相成りました」 「それは一体、どういう…」 「まあ、別に難しい話じゃありません。要するに―――」 「あー、チクショウ!何だってこんな無駄にデケーんだよ、この家は!」 ―――サンレッドは手にした雑巾を放り投げて、大の字になった。 「朝から三人がかりで掃除してんのに、全然終わんねーぞ!?どーせここにゃ大食い亡霊と毒吐き従者の二人 しか住んでねーんだから、もっと慎ましやかな家に引っ越せよ!」 「あらあら、サンレッドったら」 くすくすと、様子を見守っていた幽々子が笑う。 「あなたが自分で言ったことでしょ?<銀刀を直すのにかかった金の分、働いて返す>って。だからこの白玉楼 の大掃除を頼んだんじゃない」 「そりゃそーだけど…ここまで広いとは思わなかったんだよ、くそっ」 「まあまあ、レッドさん。これもジローさんのためですよ」 ハタキを持ったヴァンプ様が、レッドさんを宥める。 「うるせーよ、ヴァンプ。つーかお前、何を当然のように正義の味方の手伝いやってんだ。悪の将軍のくせに」 「いや、それはほら。レッドさんとジローさんは<正義の味方>である前に、ご近所さんですから。ははは」 「そう!友情には正義も悪もないんだよ、レッドさん」 箒を握り締めたコタロウが、力強い笑顔で語る。 彼もまた敬愛する兄のため、過酷な労働に精を出しているのである。 「ったく…この脳味噌お花畑コンビが」 起き上がり、雑巾を拾って掃除を再開するレッドさん。 はあ~、と溜息をつきながら呟きを洩らす。 「俺、こんな他人のために身を粉にするお人好しなキャラだったっけ…」 「―――確かに、あなたのキャラではありませんね」 そう言ったのは、黒い髪と瞳を持つ、赤いスーツの吸血鬼―――望月ジロー。 いつの間に現れたのか、彼はモップを手にしてそこにいた。 「ジローさん!」 「兄者!もう起きて大丈夫なの?」 「ええ。もうすっかり良くなりました」 駆け寄る悪の将軍と弟に、ジローは笑顔を返した。 「だから、私も手伝いが出来ればと思いまして、ね」 「そんな…ダメですよ、まだ安静にしてなきゃ!」 「いいんです。我が愛刀の修理代くらい、自分で捻出しますよ」 構いませんよね、と、ジローはレッドとコタロウに目を向けた。 「まっ、本人がやるっていうんなら手伝ってもらおーや」 「そうだね。でも、無理はしちゃダメだよ、兄者」 「何を言います、コタロウ。お前は兄を甘く見ていますね?このくらいが無理なら、私はとっくの昔に灰になって いますよ」 「それもそっか…じゃ、兄者も一緒に大掃除~♪」 バスバス箒を振り回すコタロウである。余計な埃を撒き散らしているも同然であった。 ジローはふっと笑い、最愛の弟の脳天にエルボーをムエタイ式に鋭角で決めた。 コタロウは浜に打ち揚げられたカニのように泡を吹いて失神・昏倒する。 床にだくだくと赤色が嫌な感じに広がった。 それを見下ろし、ジローは真面目くさった顔つきで言い放つ。 「コタロウ。掃除は真剣に、そして丁寧にやりなさい」 「あのー、ジローさん…スパルタ教育にも程があるのでは…」 「ヴァンプ将軍。昔の人はこう言いました…痛くなければ覚えませぬ、と」 「…お前は大丈夫なのかよ、ジロー。掃除が得意そうには見えねーぞ」 「心配なさらず」 にやりとほくそ笑むジローさん。 「これでもミミコさんから給料を頂く前日には、自主的に家の掃除をしているのですよ?」 「そ…そうか…」 俺もかよ子の給料日には掃除してる、とは言えないレッドさん。 そんな二人を見ながら、ヴァンプ様はこっそり呟くのであった。 「この二人が妙に仲良しなのは、ヒモ共鳴してるからなのかも…」 「おい。何か言ったか、ヴァンプ。正義を行使しなきゃならねー気がすんだけどよ?」 「直ったばかりの銀刀の試し斬りをしなければならない気もしますが?」 ※レッドイヤーと吸血鬼は地獄耳です。 「いえ、何も。あは、あはは…」 日本人的な笑顔を浮かべるヴァンプ様。ちょっぴり殺気を発しながら詰め寄るレッドとジロー。 そして、未だに泡を吹き続けるコタロウ。 彼等を微笑ましく見つめながら、幽々子はそっとその場を後にするのだった。 「おや幽々子様。そんなゴキゲンな様子でどうしました?」 主の姿を見つけた妖夢は、開口一番にそう言った。 「あら、分かるかしら?ふふ」 「分かるわよ、そりゃ。にやけた顔しちゃって」 虚空にぽっかり開いた<スキマ>―――そこからぬうっと、八雲紫が顔を出した。 「…もっと普通に現れて頂く訳にはいきませんか、紫様。貴女様の登場の仕方は非常に心臓に悪いのですが」 「スキマ妖怪としてのレゾンデートルよ、これは」 「は、それは失礼をば」 反論はしない。この大妖怪に、自分如きが何を言おうがどうにもならない事など、妖夢とて弁えている。 「で、幽々子様は何故にそんな今にもマッパでリンボーダンスしそうな程に浮かれているのです?」 「長い亡霊生活の中でも未だかつてそこまで浮かれた事はないわよ…それはともかく、コタロウがね」 ふふ、と幽々子は優しげに微笑む。 それはただ純粋に、友の幸せを祝福するための笑顔だった。 「あの子は家族や友達に恵まれてるな、と思って」 「恵まれてる…そうですか?周りにいるのは甲斐性のない兄に、ヒモでチンピラのヒーロー、うだつの上がらない 悪の将軍ですよ?ミミコさんという方はどうだか知りませんが、恐らく一見まともそうでいて問題大ありの女性で ある可能性大です。むしろ残念な人間関係しか築けていない気もしますが…」 「貴女も意外に見る目がないわね」 クスクスと、紫は笑う。 「あんな混沌として面白い連中が周りにいてくれるなんて、最高じゃない―――ねえ、幽々子」 「ええ。きっと退屈とは無縁の毎日を送ってる事でしょうね。羨ましいくらいだわ」 「楽しければそれでよし…そういう事ですか?」 「そうよ」 「その通り」 境界を司る遊惰なる大賢者と、死を司る幽雅なる亡霊姫は、あっけらかんと答えた。 「楽しくおかしく面白く―――それこそ生きる醍醐味でしょう?」 「ま、私はもう死んでるけれどね」 「…貴女方は偉大な御方です。それは心の底から認めています。けど、その思考はよく分かりません」 妖夢は無駄と知りつつ、言い募る。 「楽しいだけじゃあ、やってけないでしょう」 「そう―――楽しいだけじゃ、やっていけないの」 「特に、コタロウは―――<賢者イヴ>の血統は、ね…」 返って来たその言葉は、妖夢にとって意外なものだった。 「あの子の未来に待ち受ける宿命は…とても重い」 「…………」 「だからこそ、ああいう友達は貴重なのよ」 幽々子は笑みを消して、遥か未来に想いを馳せるように月を仰ぐ。 「コタロウに何があろうとも…きっと、サンレッドやヴァンプさん、それにミミコさんとやらは、変わらずあの子の傍 にいてくれるでしょう。あの子の友達であり続けてくれるでしょう―――」 「そんな得難い仲間達を、コタロウは手にしている…それはそれは、有難い話だわ」 紫は目を閉じ、黙祷するように両手を合わせる。 妖夢はまだ納得できない、とばかりに仏頂面をしていたが、やがて。 「まあ、確かに」 渋々という様子ではあったが、こう言ったのだった。 「ヒモだったり悪の将軍だったり、その割にお人好しで―――面白い連中には、違いありませんね」 「でしょう」 紫は楽しげに答える。 「特にサンレッドには期待しているわ。どれだけカオスな事をやってくれるのか―――本当に、楽しみ」 「結局、御自分の享楽優先じゃないですか…」 やれやれだぜ、と言わんばかりに妖夢は深く溜息をつくのだった。 <境界の妖怪>八雲紫。 サンレッドと彼女の対決は、正しく頂上決戦―――トーナメント決勝戦にて実現する事となる。
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前ページ次ページるろうに使い魔 「それじゃあ皆に紹介するわね。ルイズちゃん、どうぞ~~!!」 「ル、ルルル…ルイズです。よよよ…よろしくお願いなのです」 怒りと羞恥でふるふる震えながら、ルイズは皆におじぎをした。その姿は先程の地味なワンピース姿ではなく、きわどく短いキャミソール姿だった。 あの後…、スカロンが経営しているお店『魅惑の妖精』亭に連れてこられたルイズ達は、そこでどんな仕事をさせられるのかを尋ねた。 曰く、この『魅惑の妖精』は、一見はただの居酒屋ではあるが、可愛い女の子が際どい服装で飲み物を運ぶことで人気のお店であるらしかった。 つまり、ルイズの可愛さを見初めたスカロンが、ぜひ給仕にと招き入れたのだ。 「あんな際どい格好で…?」 とルイズは信じられないような眼差しで給仕の女の子達を見ていた。 「…確かにきわどいでござるな…」 幕末時代の感覚を持つ剣心も、最初は彼女達の短いキャミソール姿に抵抗があるような風で見ていたが、だからといって特にそれ以上があるわけではない。 あくまでやっていることは注文を受け取ったり料理を運んだり、たまに客の愚痴を聞いてあげたりするぐらい。別に危ないことをされるわけでもなさそうだった。 それに居酒屋だったら、情報収集には事欠かない。お客の愚痴や噂話に、そう言った重要な話はあるかもしれない。拠点にするならうってつけだ。 「どうするでござる? ルイズ殿」 あとはルイズの気持ち一つ。とは言っても、今は選べる立場ではない。これを断ったらもう野宿するしか道は無いのである。 ルイズは暫くう~~、と唸った後、渋々といった具合で決めた。 「……………やるわ」 ということで今、そのあられもないキャミソール姿でルイズは会釈している訳である。プライドが高いルイズにとって、平民に頭を下げるなど許せない事であったが、これも使命のため…と必死に自分に言い聞かせていた。 ぎこちない笑みにぎこちない姿勢。それでもルイズからしてみれば頑張っている方である。何せいつ爆発して杖を抜いてもおかしくは無いのだから。 「それじゃ、さっそく開店よ~~~!!」 スカロンの声と共に、扉が開きどっと客が押し寄せてきた。 第三十九幕 『魅惑の妖精』 「しかし、凄い人入りでござるなぁ」 すっかり繁盛している『魅惑の妖精』亭。その裏で剣心は皿洗いに勤しんでいた。 剣心だってここに泊まる以上は働くつもりだ。なので今、雑用の一つであるこの仕事を任されたのである。 まあ、神谷道場に居着いてからは主夫のように身の回りの家事はこなしていたので、これくらいはまだ余裕があった。 しかし、それでも皿の数が一向に減らない辺り、相当繁盛しているようだ。 「おっ、精が出てるねぇ」 そんな時、後ろから声が掛かった。 振り向いてみると、ストレートな黒髪の派手な女の子がやって来たのだ。 「あたし、ジェシカ。あんたでしょ? 今日来たっていう新人は」 「ああ、緋村剣心でござるよ。よろしくでござる」 「ケンシン? 変わった名前ねえ」 軽く自己紹介すると、珍しい名前にジェシカが首をかしげた。すると今度は興味津々といった目で、剣心に近寄ってきた。 「ねえねえ、ルイズと兄妹って嘘でしょ」 「……イヤ、セッシャトルイズドノハキョウダイデゴザル」 「んなカタコトにならなくていいって。どう見たって兄妹の要素全くないじゃん」 ここに来る前、スカロンに「二人はどんな関係?」と聞かれたところ、取り敢えず『兄妹』という設定にすることにした。 スカロンはそれで納得したようだが、流石にジェシカには騙し通せるものではないようだ。 はぁ…とため息をつく剣心を見て、ジェシカはアハハと笑った。 「別にいいよ。ここにいる子は皆ワケありなんだから。他人の過去を詮索する奴なんかいないわよ。安心して」 そう言いつつも、兄妹じゃないと知れてジェシカはますます興味を惹かれたようだった。 「ねえねえ、でもあたしにだけ教えてよ。本当はどういう関係よ。何であんたとルイズはそんなに雰囲気違うのさ?」 その人懐っこい目に、剣心はかつて京都で世話になった『葵屋』の人達を思い出した。思えば彼らも、本当の素性が知れた後でも自分を家族の様に扱ってくれたっけ…。 ふとそんな風に昔を思い出しながらも、剣心は優しく言った。 「仕事の方は大丈夫でござるか? いつまでもここにいるとスカロン殿…じゃなくて、えっと…」 「ミ・マドモアゼル?」 「そうそう、そのミ・マドモアゼル殿に怒られるでござるよ」 スカロンは、この店で働いている時は自分の事をそう呼ぶように言われているのだった。ジェシカは面白そうにクスクス笑いをすると、衝撃の事実を剣心に告げた。 「あたしは特別よ。だってスカロンの娘だもの」 「……え?」 ……空気が凍りついた。剣心は皿を手に持ったまま目を丸くして立ち尽くしており、そしてまじまじとジェシカを見つめた。 「ま、やっぱり皆そういう反応するのよね」 いたずらっぽい笑顔を浮かべながら、ジェシカは言った。 成程、世界というのは広いものだ。魔法があったり幻獣がいたり、空に城があったり…久しぶりにそういった驚きを剣心は経験したのだった。 そんな時、ガシャンと大きな音が酒場から聞こえてきた。それに次いで怒鳴り声が聞こえてくる。 「何すんだ、このガキ!!」 「このげげげ、下郎! あああ、あんたわたしを誰だと思ってんのよ!!」 聞いたことのある声に、剣心はガックリと肩を落とした。別にこの展開を予想できなかったわけではないのだが。まあ逆によくもったほうだろう。 「この、おおお、恐れ多くもわたしはこうしゃくけ―――」 「ごぉめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」 遅れて何かを吹き飛ばすような音を立てながら、スカロンの声が聞こえてきた。 「いけない、ワインで濡れちゃったわね。ほらルイズちゃん、新しいワインをお持ちして! その間このミ・マドモアゼルがお相手を務めちゃいま~~~す!!」 その後直ぐに悲鳴やら何やらでお店の方は騒がしくなっていった。その一部始終を見ていたジェシカは、哀れむような目で剣心を見た。 「取り敢えず、弁償お願いね。お兄さま」 はぁ…。と剣心はこれ以上ない大きなため息をついた。 「えー、ではお疲れ様!!」 すっかり夜だった空が白み始めた頃、ルイズ達の仕事は終わりを告げた。既にルイズはグッタリとした様子で、足はフラフラと覚束無い状態だった。 それを気にせず、スカロンはニコニコ顔で給仕の皆にこう言った。 「今日はみんな、一生懸命働いてくれたわね。今月は色つけておいたわ」 どうやら今日は、ちょうど給料日のようだった。給仕の女の子やコックたちに、それぞれ給金を配り始める。 一通り配り終えたあと、今度はスカロンはルイズの方へと向き直り、一枚の封筒を渡した。 「はい、ルイズちゃんも」 「え、わたしにも貰えるの!?」 と一瞬だけ顔を輝かせたルイズだったが、封を切って出てきたのは一枚の紙切れだった。 そこに書いてある内容を見て、ルイズは首をかしげた。 「あの…これは?」 「請求書よ。ケンシンくんは頑張ってくれたんだけどねぇ…それを差し引いてもルイズちゃん、あなた一体何人のお客さんを怒らせたの?」 真顔になってスカロンは言った。その顔にはさっきまでの笑みが消えている。 ガクッと気落ちするルイズを見て、スカロンは励ますような感じで続けた。 「いいのよ。誰でも最初は失敗するもの。これから一生懸命働いて返してね!」 身も心も疲れはてたルイズは、剣心に引っ張られる形で連れて行かれた。しかし、彼女の気苦労はまだまだ絶えない。 二人に与えられた部屋は、二階に登って更にはしごを使った先にある屋根裏部屋なのだが、これがまた汚い。 薄暗い空間の中、埃やらクモの巣やらが辺り一面に広がっているそこは、もはや部屋というより物置だった。 一応、タンスやベット等、それらしい家具は置いてはあるが、どれもやっぱり埃まみれ。特にベットの方は、ルイズが座ると足が折れてドスンと傾いた。 「何よこれ!!」 「ベットでござろう」 剣心は、使いやすいようにクモの巣を払ったり埃を叩いたりした。同居人のクモやコウモリが、それに驚いてコソコソと逃げていく。 「何よ、貴族のわたしをこんなとこに寝かせる気!」 「愚痴ってもしょうがないでござるよ」 折れたベットの足を立て直して、それなりに使えそうな形に剣心は取り繕った。 「朝は早いでござるよ。ルイズ殿は夕方からお店の掃除でござろう?」 そう言って、どこか適当な木箱を見つけると、それに寄っかかってあぐら座りをする。いつもの剣心の寝る体勢だった。 「う~~、あんたは何でそんなに順応が早いのよ……」 「流浪人の頃は、よくこんな感じで野宿とかしていたでござるよ」 ルイズはそれでも納得できないのか、悶々とした様子で悩んでいたが、それで状況が変わるはずもないので、渋々、本当に渋々といった具合でベットで横になった。 暫くそうして時間が過ぎていったが、やはり布団が変わって眠れないのか、何度も目を開いたりしながら恨めしそうに天井を見上げた。 そして心細くなったのか、起こすのを承知でルイズは剣心に声をかけた。 「ねえ、ケンシン。ちょっとこっち来てよ。寝れないの」 ルイズに声をかけられるまで、ずっと目を閉じていた剣心だったが、眠りが浅かったのか、すぐに目を開けてルイズの方を向いた。 「寝れない、でござるか?」 「そうよ、こんな時ぐらい一緒にいてくれてもいいでしょ?」 「けど、流石に一つの布団に男女で一緒というのは…」 「いいからこっちに来る!!」 半ばキレ気味のルイズの声に、剣心はやれやれと首を振りながらも、それでも起き上がって今度はルイズのベットを背にもたれかかった。 「これでいいでござるか?」 「…まあ、いいわ」 少し不満はあるが、今は妥協しよう。そういった感じでルイズ再び横になって、もたれかかっている剣心の背中に顔を寄せた。 こんな汚い部屋で一夜を過ごすなんて…普通だったら考えられないものだった。 でも、ここでは一つだけ良い点がある。それは胸だけは立派なバカメイドやキュルケ、そして最近妙に気になっているあのタバサがいないことだった。 全く、三人共こんな使い魔のどこがいいのか…まあ、何となく理由は分からないでもないけど、それでもどこか釈然としない。 …そう言えば、学院でも剣心と親しむような人はいても、嫌うような人はそんなに見ない気はした。…やっぱり私の知らないとこで交友を作っているのかな…。 それでも、他に剣心に好意以上のものを持っている人はいないっぽい。それだけは素直に安心できる点だった。 (わたしは…ケンシンのこと…別に好きでもなんでもないけど…) それでも幸せそうに、気付けば頬を朱に染めていた。そして、この長期休暇ぐらい、もっと構ってもらうんだから…と無意識に、小声でそう呟いた。 それと…街の噂もちゃんと報告しなきゃ。黒笠っていうのも気になるし…でもケンシンは何か知ってそう…後でちゃんと問い詰めなきゃ…。 忙しいことになりそうね…そう思いながら、ルイズはゆっくりと眠りに入っていった。 ルイズが安らかな眠りについた、その一時間後だろうか、剣心は唐突に目が覚めた。 起こさないようゆっくりと立ち上がって、手に持つ逆刃刀を腰に指した。 剣心は一度、ルイズの寝顔を見た。すやすやと寝息を立てながら、どこか嬉しそうな顔をしている。 「…大丈夫そうでござるな」 唸されて眠れずに起き上がってくるのを心配していたが、今の彼女を見るにその様子はなさそうだった。 安心した剣心は、そのまま足音を立てずに屋根裏から降りていった。 「あら、どこへ行くの?」 梯子を降りて、廊下を歩いていると、スカロンとバッタリ会った。丁度閉店の準備が終わったのだろう。 不思議そうに聞いてくるスカロンに対し、剣心は当たり障りしないような返答をした。 「少し用事が。まあ家庭の事情でござる。昼の仕込みには戻るでござるよ」 「あらそう、大変ねぇ…ルイズちゃんも貴方も」 スカロンもスカロンで、特に気にする風でもないようだった。それからニッコリと微笑んで剣心を見つめた。 「何か困ったことがあったら遠慮無く言いなさい。できる限りの事なら力になるわ」 「う~ん、そうでござるなぁ…」 それを聞いて、剣心は思わず頬を掻いて考え込んだ。正直ルイズの事が気がかりで仕方ないのだ。 これから剣心は、続けて『黒笠事件』の真相を追うつもりだった。無論自分ひとりで。もしこれが剣心の予想通りなら、ルイズには余りにも荷が重すぎるのだ。 奴は、恐らく自分をおびき寄せる為に、このような事件を起こしてまわっているのだろう。そうだとするなら、いつも隣にいるルイズに真っ先に危険が及ぶのは自明の理だ。 ルイズに自分の身の上を、話そうかとも考えたが、彼女のことだ。それを聞いたらまた何かしらの無茶をしかねない。ルイズというのは、そういう娘だ。 だから今のルイズには、何処か隠れ蓑になる拠点は必須だった。連れて歩けばそれだけ危険が増える。大抵のことなら守ってあげられる自信はあるが…それでも避けられる危険は避けておきたい。 全財産すったのは予想外だったが…それだけに相手側も彼女がここで働いているなんて思いもよらないだろう。彼女自身が狙われる心配は取り敢えずないはずだ。 あるとすれば、自分との接触があるかないか。それぐらいだろう。 だから剣心は、なるべくルイズや『魅惑の妖精』亭には近づかないようにと考えていた。 ルイズだけではなく、関係のないここの人々にまで迷惑を掛ける。それだけは絶対に避けなくてはならない。 長く居ればそれだけ危険が降り掛かる。彼等も一生懸命に今を生きている人たちなのだ。それを自分たちの都合で巻き込むわけにはいかない。 だからルイズにはここで大人しく情報収集に専念してもらいたいのだ。 「けどなぁ…」 と剣心は、昨夜のルイズの働き振りを思い出す。彼女のプライドの高さは知っていたが、あの時点で既にスカロン達にとっては迷惑極まりないものであるのは確かだ。 ルイズを頼む。というのは自分勝手な押しつけではないだろうか? 追い出されるなら、それはそれで考えなければいけない。少し心配になった剣心は、ルイズの働きをどう思っているのかを聞いてみた。 それを聞いたスカロンは、それで可笑しそうな声を上げた。 「安心なさいな。確かに色々なっちゃいないとこはあるけど、それは充分に修正してあげればいいわ。昨日の出来事ぐらいじゃ追い出したりしないわよ」 「じゃあ…ルイズ殿を任せても良いでござるか?」 「はいはい、でも貴方も気を付けてね。最近は物騒だから。特に貴族を殺して回っているっていう奴がいるそうじゃない…ああ危ないわねぇ。ウチでも護衛を雇ったほうがいいかしら?」 『黒笠事件』そのものは、結構平民の間にも広まっているようだった。貴族の威信に関わることだから、詳細までは知らないようではあるが、人の口に戸は立てられないものだ。 剣心は、少しホッとしたような顔をすると、最後にペコリと頭を下げた。 「どうもかたじけないでござる。何から何まで世話になって」 「いいのいいの。困ったときはお互い様よ」 それから剣心は、手伝いに来るときは必ず裏側の扉から利用すること。余り自分達のことは言いふらさないで欲しいこと(この点は、『家庭の事情』ということで納得してもらった)。 その注意をスカロンに言い含めた後、ゆっくりと裏口から外へ出ていった。 朝日が昇り、建物の影が大きく写る中、剣心の姿は歩く人々の姿に紛れて消えた。 前ページ次ページるろうに使い魔
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トリステイン魔法学院で春の召喚の儀式が行われている。 順調に行われていた儀式の中で、たった一つだけ問題が起きていた。 ルイズ・フランソワーズが召喚したのが、人間だったのだ。 「なんだ?ここは。今まで供の者と街道を歩いていた筈なんが…」 体格が立派であるが。妙な格好をした男だった。 髪型は男でありながら長髪で結っていて、額には妙なバンダナを巻いている。 服装はトリステインで見たことのないもので、腰にはこれまた見たことのない剣を帯剣していた。 少なくとも貴族の外見ではない。 念のため本人に聞いてみたところ、自分は孤児なので貴族かどうかは判らない。 育ての親は平民だ。丁度、一仕事終えて育ての親の元に返ろうとしていた所、変な鏡が目の前に現れて気が付いたらここに居た。 との事。 使い魔については 「衣食住を保障してくれるなら、引き受けよう」 とアッサリ承諾した。 むしろ、ルイズの方が渋々という感じであった。 「何で平民なんかを…」 まあ、無いよりマシだし、使用人代わりにはなるだろう。 それにコントラクトを済ませないと二年生にはなれないし… そう考えてこの大柄な平民に、大事な大事なファーストキスを与えたのだった。 だが、ルイズの期待は裏切られた。 その男、ルイズがいくら言って仕事をしない。 下着を洗えと言っても「後で」と答える。 服を着せろと言っても面倒だと言う。 粗末な食事を与えても、元々素食だったので気にしない。 逆に、 「鶏をその様に食べるとは…見てるだけで吐き気がするなぁ」などと言い放つ。 食事を抜きにしてやったら、日がな一日ルイズの部屋でゴロゴロしだして教室にも顔を出さなくなった。 怒って殴ってみても、相手は体格のいい男、ルイズの拳が痛くなるばかり。 ならばと鞭で叩こうとした所、鞭を奪われ窓の外に投げ捨てられた。 キレて爆破してやろうとしたら、杖まで窓の外に捨てられてしまった。 「ああああ、あんたが投げたんだからあんたが取ってきなさい!!!!」 「…後で」 その後数時間、いつ今で待っても取りに行く様子も無く、仕方が無いので誰にも見られぬよう闇夜にまぎれて杖を探すルイズ。 「…種族も最低なら素行も最低……殺してサモンやり直そうかしら?」 真面目に物騒なことを悩み始めたある日、事件は起きた。 その平民が、香水ビンを拾って珍しそうに手で弄んでいた為に、ギーシュの二股がバレてしまったと言うのだ。 挙句決闘を申し込まれた。 近くでそれを聞いたメイドは「あの人大丈夫かしら…」等と心配していたが、 まさかギーシュも殺すまではしないだろうし、大柄で丈夫そうな男だから平気だろう。むしろ、多少痛い目にあって反省した方がいいわね。 だが、またもルイズの期待は裏切られる結果となった。 「僕はメイジなので、このワルキューレが代わりにお相手しよう」 ヴェストリの広場でキザったらしく薔薇の造花を構えたギーシュが言う。 言われた平民は驚いた。 「代わりでもいいのか?!では俺は面倒なので…」 面倒なので…?なに言ってるんだこいつ?殆どの貴族はそう思った。 「こいつに代わりに相手をさせよう」 こいつと言われた物を見て、ギーシュは悲鳴を上げる。 「ヴェ!ヴェルダンデ!?何してるんだ!!?」 平民の足元の地面を突き破ってギーシュの使い魔が現れた。 「ほれ。かかれモグラ」 平民のその一言でヴェルダンデがギーシュに突進する。 哀れギーシュは自分の使い魔を攻撃する事が出来ず、全身引っかき傷だらけになって敗北した。 さらに、決闘の商品として、寝具(ベッド除く)を一式奪われてしまったのだった。 ルイズは自分の使い魔を多少見直した。 他人の使い魔を使役できるとはただの平民ではないのだろう。 だがどうやったのか? 「ただ親しくなっただけだ」と言ってはぐらかされてしまった。 挙句、全然反省していないのでルイズの言うことも全然聞かない。 やっぱり死んだ方が良かったかも。 再度そう考えたルイズだった。 次に使い魔が活躍したのはフーケ討伐の時であった。 悪党の討伐ということで、流石に怠惰な使い魔も、渋々ルイズの言う事を聞いて参加したが、道中馬車の上では寝てばかり。 さらに宿敵ツェルプストーに膝枕されている始末。 怒ったルイズと、それをからかうキュルケと怒鳴り合いを始めても、面倒ごとに首は突っ込みたくないとばかりにタヌキ寝入りされた。 フーケが目撃された小屋に入ると、盗まれたという破壊の杖はアッサリ見つかった。 だがそこをフーケ操る巨大なゴーレムに急襲された。 全員が逃げ出そうとするなか、破壊の杖を持ちゴーレムに戦いを挑むルイズ。 しかし。 「なんで?!何で何も起きないのよ!!」 巨大なゴーレムの巨大な足が、踏み潰さんと小さなルイズに迫る。 後に、その時起きたことを聞いた魔法学院の教師たちは、一様に首を捻ったと言う。 ルイズが踏み潰されそうになった刹那、何かがでゴーレムの足の下に飛び込んできたのだ! それは馬だった!! ルイズ一行が乗って来た馬車を引いていた馬が、物凄い勢いでゴーレムの下を駆け抜け、ルイズを咥えて助け出したのだ!!! ………………。 その場にいた全員が我が目を疑った。 いや一人を除いて。 「うむ!無事だなご主人」 ルイズの使い魔が主人に声を掛ける。 「はい?」 馬の口から地面に落とされたルイズは、状況を把握しきれて居なかった。 主人の無事を見届けるとルイズの使い魔は馬車馬にこう命令を下した。 「次はあの化け物だ!行け!!」 信じられないことに、馬車馬によって、30メイルはあろうかと言うゴーレムが、滅茶苦茶に踏み砕かれて、木っ端微塵に粉砕された。 さらに、小屋に残っていた臭いからロングビルがフーケだと突き止めた馬車馬によって、フーケは捉えられた。 詰まる所、ゴーレムもフーケも名も無き馬車馬によって討伐されたのだった。 学園に戻って後、ルイズ、キュルケはシュバリエの称号を。 タバサは精霊勲章を。散々教師たちの頭を悩ませた結果、馬車馬にはサトウキビ50kgが授与される事となった。 因みにルイズの使い魔は、朝食を毎朝部屋に運んでもらう約束を取り付け、満足してさっさと部屋に戻ってしまった。 この討伐劇でルイズは使い魔がどうやってヴェルダンデや馬を操った秘密に気がついた。 あの使い魔は馬車を離れる際、馬に何か食べさせていたのだ。 どう聞こうか悩んだ末に、部屋の床にギーシュから分捕った布団を敷いてゴロゴロしている使い魔にストレートに聞いた。 「ねえ、あの時馬に何を食べさせてたの?」 「あの時?…フーケ退治の時か。これの事だな?」 アッサリ見せてくれた。 それはピンポン玉大の丸薬だった。 何の薬か聞いて見たが、薬ではないとはぐらかされただけだった。 それから数週間、相変わらず怠惰な日々を過ごしていた使い魔だったが、ある日、思いも寄らぬ事件巻き込まれる。 アンリエッタ王女が学園を訪れたのだ(その時、使い魔はルイズの部屋で昼寝していた)。 夜、ルイズが妙にソワソワしている横で、ダラダラ寝転がっていると、アンリエッタ王女がルイズに会いに来た。 一応、姫ということもあって、かしこまったルイズの使い魔。それを横目にルイズとアンリエッタは昔話に花を咲かせ始める。 所が、いつの間にか、戦争中のアルビオンに、アンリエッタ王女が送った恋文を取りに行ってくれという事に成って居るではないか。 ルイズは行く気満々である。 「ルイズの使い魔殿。わたくしの大切な友人を守ってくださいね」 と、姫直々のお言葉。 それに対する使い魔の答えは。 「面倒だから嫌だなぁ」 まさか姫様の命令を面倒で片付けるとは!! これにはルイズも空いた口が塞がらない。 その後真夜中ごろまで、ルイズとアンリエッタ、そしていつの間にか乱入してきたギーシュに説得されて、渋々行くことになった。 翌日、珍しく早起きした使い魔は厨房で何かを作っていた。 聞けばあの丸薬を作っているとの事だ。 厨房の材料で出来るの?と疑問に思うルイズだが、まともな答えは期待できそうに無いので聞くのは止めた。 ギーシュと、ルイズの婚約者のワルドと合流し、ラ・ロシェールへ。 出発から数十分後、ギーシュは一人馬を走らせ、その上で泣いていた。 その前方数キロの地点を飛んでいるワルドはルイズに聞いた。 「君の使い魔が乗っている馬はどこの名馬なんだ!?グリフォンが追いつけないなんて!」 「ただの…馬車馬です」 途中色々あってタバサとキュルケも合流し、無事到着。 船が出るのが明後日ということになり、丸一日ゴロゴロする使い魔。 翌朝、ワルドが申し込んだ決闘は「後で」と言って一応承諾した。ように見えたが。 ワルドがルイズから、「後で」言われた時はいくら待っても絶対にやらないと教えられたのは、既に暗くなってからであった。 夕食をとっていると謎の傭兵団に奇襲を受けた。 「このような任務は、半数が目的地に辿り着ければ、成功とされる」 ワルドの言い分を聞いてルイズの使い魔が頷く。 「なるほど…おいギーシュ」 「はい!」 「面倒だし、この程度の連中、モグラとお前だけで十分だな」 そう言うと例の丸薬を、床を割って現れたヴェルダンデに食べさせる使い魔。 そしてそのまま残りの全員が行ってしまった。 ギーシュは…その場に一人残され……恐怖ではなく、寂しさで泣いた。 その後、海賊に襲われたり、実は海賊の頭がウェールズ王子だったりしてアルビオンに到着。 アンリエッタの恋文を取り返したはいいが、ルイズに悩み事が一つ。 「ワルド様に結婚を申し込まれたわ…明日ウェールズ様に式を挙げてもらう事になったのよ…」 あてがわれた部屋でゴロゴロしている使い魔に何となく相談してみるルイズ。 こんな奴に言ってもあんまり意味は無いだろうけど、等と思っていたら 「止めた方がいいぞ」 と即答された。 「あいつは実はレンコン何とかの間者で、その目的はウェールズ殿の首とアンリエッタ姫の手紙、ご主人と結婚する理由は虚無の使い手のご主人を良い様に扱いたいからだそうだ」 それを聞いたルイズは… プッツ~ン 切れた!! 今までただの怠け者だと思ったら、とんでもない大法螺吹きだったのね!! そのままの勢いで翌日、式を挙げる事になった。 が、途中で使い魔の言葉が気になりだし、やはり式はトリステインに帰ってから挙げようと言って見ると、ワルドが本性を現した。 ワルドのエアニードルに胸を貫かれるウェールズ。 その時ルイズの使い魔は!? ボケーと見ていた。 「な!何でこうなると判ってたのに助けなかったのよ!!」 「死にたがってる奴を助けるなんて面倒な事はしないよ」 ごもっとも。 そこへ偏在を繰り出すワルド。 スクウェアクラスが四人に対して、こちらはキュルケとタバサのトライアングル二人と、爆発だけのルイズ、そして今まで自分じゃ戦わなかった使い魔のみ。 正に絶体絶命の状況だが、全然焦らない使い魔。 「そちらが四人で来るのであれば…」 そう言って例の丸薬を取り出す。 「こちらはな!一つ食べれば十人力よ!!」 そういって丸薬を食べたのだ!! 「これで四人に負ける筈が無い!!」 「フン」 鼻で笑うワルドたち 「それは…力を増す秘薬か?なるほどガンダールヴに相応しい能力だな。だが!それならば遠距離攻撃すれば済むだけのこと!!」 そう叫び距離をとるワルド。 だがしかし、今正に始まろうとしていた風のスクウェア四人と伝説のガンダールヴの戦いはまったく予期せぬ形で決着を迎えた。 ドカーン!! 突如、 天井を破って、 ワルドのグリフォンが飛び込み、 そのまま偏在たちを蹴散らし、本体のワルドをアッサリと捕まえたのだ!! 「ねぇタバサ?何が起こったの?」 「理解不能」 「ちょっと!!これはどういう事!!?説明しなさい!!」 「何、簡単な事。このグリホンとは来る途中の船で知り合いになっていたのだ。ワルドのたくらみも全てこいつが教えてくれたのだぞ」 それ以上の追求は、誰もしなかった。 その後、縛ったワルドをグリフォンに持たせ、そのグリフォンに乗ったルイズの使い魔と、残りの三人を乗せたタバサの風竜は、何だか釈然としないままトリステインに帰還したのだった。 それから数週間後、ルイズはアンリエッタ王女と成り上がりのアホとの結婚式で詔を詠む大役をまかされていた。 始祖の祈祷書と使い魔の言った言葉から、自分が虚無の使い手と判ったが結局何も浮かばぬまま式当日になってしまった。 だが、突如アルビオンが戦線布告し、現在タルブ村で交戦中との知らせを受け式はとりやめ。 虚無の力を使えば何とかなるのでは?!と考えたルイズはタバサに頼み、風竜で一路タルブ村へ。 だが、そこで見た光景はこれまた想像を絶するものであった!! 神聖アルビオン誇る巨大戦艦レキシントンが、何者かによって撃墜されていたのだ。 見ると、草原に落ちで轟々と炎を吹き上げる船からルイズの使い魔とワルドのグリフォンがやってくる。 「ああああ、あんたいつの間に私たちを追い越したのよ?!!!」 呆れ顔の使い魔。 「三日も前からこの村にいるぞ」 そういえば、詔の事で頭がいっぱいで気が回らなかったがここ数日こいつの顔を見ていない気がする。 何故この村に居たのかと問うと、シエスタというメイドと結婚するため、親の了承を得に来ていたとか。 「何それ?!そんなの初耳よ!!」 「そりゃ当然。言ってないから」 何でも、ギーシュと決闘した日の前の日、シエスタがモットとかいう悪党にさらわれて、手篭めに成りそうに成った所をヴェルダンデと助けたと言う。 「そっちの話も全然聞いてないわ!」 普段怠惰な使い魔も、さらわれたとあっては一大事と飛んで出たそうだ。 だから気づかなかったのだろうと。 なるほど、ギーシュと決闘の時にあのメイドが心配していたのは、こいつじゃなくてギーシュの方だったのか。 「それに悪党のモットって…ジュール・ド・モット伯の事じゃないでしょうね?」 「さあ?モグラにペコペコ土下座していたので、貴族には見えなかったな!」 頭が痛くなるルイズであった。 そんなこんなで色々あって今、ルイズの使い魔はモグラと馬車馬とグリフォンと共にアルビオンで7万の軍勢を待ち構えている。 『何を為さっているのですか?』 馬車馬がルイズの使い魔に聞いた。 「これが無いと、気分が出ないんでな」 そういって使い魔は地面に置いた白い旗指に何か文字を書き始めた。 『七万相手に勝てるとお思いですか?』 ヴェルダンデが聞いた。 「そりゃあ勝てるだろう」 旗に文字を書きながら答える。 「この黍団子は、一つ食べれば十人力、二つ食べれば百人力、三つ食べれば千人力よ。四つ食べればきっと万人力だ!それになあ…」 ふと文字を書く手を止める。 「前の戦いの時も、絶望的な状況から勝利を掴んだのだ」 『前の戦とは何ですか?』 グリフォンが聞いた。 「この国に来る前になぁ」 最後の文字を書きながら答える使い魔。 「犬、猿、雉と鬼の軍勢を退治した時の話よ。よし出来た!イザ出陣だ!!!」 そう叫び駆け出すルイズの使い魔と、お供の三匹。 背中に立てた旗指には大きく 【日 本 一 の 桃 太 郎】 と書かれていたそうな。 こうして、無事七万の兵を蹴散らした桃太郎とお供の者達はアルビオンのお宝を手に入れトリステインに帰り、 桃太郎はシエスタと末永く幸せに暮らしましたとさ。 めでたしめでたし。
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成歩堂所長の女性関係について 「ところでさ」 「はい? なんですか、オドロキさん」 「成歩堂さんって……みぬきちゃんを引き取った時、カノジョとかいなかったのかな」 それは何の気なしに思いついた疑問だった。 王泥喜法介の何気ない問いに、成歩堂みぬきは「うーん」と可愛らしく人差し指を唇に 当てて考え込む。当時8歳の少女を引き取った、という成歩堂の行為。それは彼自身の責 任感やら何やらも入り混じった結果だっただろう。 しかし、当時、もしも成歩堂に恋人が居たとしたら? 突然8歳の娘のパパになってしまった男を、どう思うだろうか。 「カノジョ、はいなかったと思いますよ? パパ、そういうのあんまり興味なさそうだし」 「興味がない?」 「はい。……みぬきと一緒に、とりあえず事務所を立ち上げるので一杯一杯でしたし」 みぬきの言葉に法介は首を捻る。興味が無いという言葉は今ひとつ信じられなかった。 小さな娘にそういう生々しい部分を見せないように成歩堂が気を遣った。そう考えるほう が筋が通っているように思える。 というか、当時20代後半の男性が女性に興味が無い、というのはいかがかと思う。二 次元が良いとか、男じゃなきゃ駄目だとか、そういう特殊な性癖の持ち主でもない限り。 「成歩堂さんって、そういえば特撮とか好きみたいだよな」 「? どうかしたんですか?」 「いや。なんでもない」 あの病院のベッド脇に山積みにされたトノサマンシリーズDVD全集を思い出す。 法介の頭の中で、なんだか事務所所長である成歩堂龍一に対するイメージが変わってき たような気がした。夜毎ビデオデッキを数台駆使してCMカットとかしたりして。自選の 名場面集とか作ったりなんかして。行き着いた先では部屋中にポスターとフィギュアなん かが溢れかえっていたりして。 「……いやいや。そんな。いやっ! 俺は趣味や嗜好で人を差別したりなんかしないぞっ!」 「どうしたんですか、オドロキさん。突然大声を張り上げて……あ、やめてくださいね! あんまり発声練習されるとお隣からまた苦情が――」 みぬきが顰め面、と呼ぶには可愛らしく頬を膨らませて人差し指を法介に突きつける。 その辺り、なんだかんだ言って親子なのだろうなぁ、なんて暢気なことを考えた法介は 事務所のドアに人影が映ったのに気付いた。 「あれ、みぬきちゃん。誰か来たみたいだ」 「え? ――あ」 途端、みぬきの表情が今度こそ『不機嫌』になった。 「また来たんだ……」 「え?」 ドアが開く。そしてそこから顔を出したのは。 「こんにちは、成歩堂さん……はいないみたいね」 そこには、細いフレームの眼鏡をかけ、どこか「ギョーカイジン」っぽさのあるスーツ 姿の女性がいた。後ろ髪をアップにまとめ、切れ者っぽさが漂っている。歳の頃は成歩堂 と同じくらいだろうか。20代以降の女性の年齢というのは、法介の目では今ひとつ見分 けがつかないのだが。 「こんにちは、みぬきちゃん。元気だった?」 事務所を見回し、そこで不機嫌そうな顔をしたみぬきを見つけた女性は、にっこりと微 笑んだ。そして、その隣に立っている法介に視線が移る。 「……あら。もしかしてみぬきちゃんのカレシかしら? お邪魔だった?」 「だ、誰がカレシですか! オレ、こう見えても弁護士ですからっ!」 法介の慌てふためいた抗弁に、女性が楽しそうに笑う。 「ふふ、ごめんなさい。えっと……確かダイジョーブ君、だっけ? 成歩堂さんから聞い てるわ。ちょっと変な名前だけど、見所のある新人弁護士さんだって」 「いやっ、俺、その、オドロキホースケですからっ!」 「――それで。なんの用なんですか、華宮さん」 そんな法介を他所に、みぬきは普段の愛想のよさは何処へ消えたのか、不機嫌極まりな い声で尋ねる。 「……ふふ。そんな怖い顔しないの。成歩堂さんに頼まれてたチケットが手に入ったから、 渡しに来ただけなんだから」 そういうと、華宮という女性は封筒をみぬきに差し出した。 「チケット、ですか?」 「ええ。トノサマングランドレジェンドショーのチケット」 この人も特撮なのか――なぜか法介の中でそんな考えがグルグルと回った。凄い切れ者 っぽいのに。凄い美人なのに。何故に特撮。何故にトノサマン。 「それじゃあ、これ。成歩堂さんに渡してもらえるかしら?」 「……はい」 みぬきが渋々という顔で頷くのを見て、女性は踵を返した。 「じゃあ、パパによろしく伝えておいてね、みぬきちゃん」 「――う~」 何やら消化不良な顔をするみぬきを他所に、女性はスタスタと事務所を出て行く。 残されたのは、今も唸り声を上げ続けているみぬきと、事情がさっぱり分からずに呆然 とする法介の二人きりだった。 カチリ、と時計の針が動く音がした。 法介はマグカップを口に運びながら、そっとみぬきの様子を窺う。 先ほどの華宮なる女性の来訪以来、みぬきの不機嫌は変わらなかった。何やら難しい顔 をして封筒を眺めている。 「あー、あのさ」 「……はい。なんですか?」 「さっきの人って……誰なの?」 「……パパの知り合いです。華宮霧緒さんっていって。昔、芸能事務所に勤めていたこと があるらしくて、成歩堂芸能事務所を立ち上げる時、少し手伝ってもらったって言ってま した」 「はぁ。芸能界の関係者、なんだ」 「今は違うそうですけど、昔の伝手でこうして手に入りにくいチケットとか探してきてく れるんです」 「……ふーん」 みぬきの声はどこか低いままだった。法介は地雷を踏まないように細心の注意を払いつ つ、情報を得るためにさらに先に進むことにした。 「みぬきちゃん、あの人が嫌いなの?」 ――所詮、法介は法介なのであるが。 「嫌いっていうか……あの人、パパにすぐ近づくから」 「近づくから?」 「……別に、嫌いじゃないです」 プイ、とそっぽを向いたみぬきを見て、法介はなんとなく合点がいった。 要するに、父親を取られたような気になって嫌なのだろう。子供が親に持つ独占欲、だ ろうか。法介自身にはよく分からない感情だったが。 「ところでさ! このチケットってどうするつもりなんだろ、成歩堂さん」 「あ。それはきっと、真宵お姉ちゃんたちのためだと思いますよ?」 「マヨイ? お姉ちゃん?」 法介の顔に疑問符が浮かんだ。 2 「異議あり! 弁護人の論証はまったく意味が無い。検察側の立証は何一つ揺らぐものではない!」 「検察側の異議を認めます。弁護側はもう少し考えて反証するように」 「……ぐ、ぐぅぅ」 「御剣検事。やはり、あなたの立証は完璧としか言い様がありませんな」 「無論だ」 フッと笑い、弁護席を見るのは御剣検事。検事局随一のやり手検事である。 「王泥喜くん。今回は残念でした。しかし、御剣検事の立証を参考に今後の糧とするよう に。それでは判決を言い渡します!」 木槌の音が、法廷中に響き渡った――。 「……ううう。惨敗だ」 法廷からの帰り道、王泥喜法介は肩を落としながら歩いていた。 今回の依頼人は誰も弁護の依頼を受けず、やむを得ず国選弁護人として選出された王泥 喜法介が担当したものだった。何故誰も受けなかったかといえば、明らかに、誰がどう見 ても犯人が被告以外にいなかったからである。 担当検事は御剣怜侍。検察局きっての辣腕検事であり、あの牙琉響也ですら頭の上がら ない主席検事らしい。彼の一分の隙もない立証を前に、法介はなす術もなく敗北したので ある。 「……あれ」 ふと、見知った背中が目に入った。 ニット帽を被っているが、そのニット越しにすら分かるツンツン頭。少し無精ひげが生 えたままらしい顎。ポケットに突っ込まれたままの両手。 成歩堂なんでも事務所所長、成歩堂龍一その人の後ろ姿である。 「……くそ、人が苦労して働いてたってのに、何してんだあの人は」 敗北の苦さも手伝ってか、法介は機嫌悪そうにつぶやいて成歩堂を睨みつけようとして、 立ち止まってしまった。 成歩堂の右腕に掴まるというよりは、絡めるようにして隣を歩いている少女の後ろ姿が 目に入ったから、である。 背格好からして、みぬきと同じくらいだろうか。何やら着物じみた服を着た少女が、楽 しそうに成歩堂の腕に自分の腕を絡めて歩いているのは、ある種怪しさすら漂っていた。 何せ成歩堂の今の見た目は、胡散臭い親父以外の何者でもないのである。 傍目から見れば援交の現場とも見えなくもない。まあ、だとしても少女の装束は中々に 奇抜であるのだが、コスプレとも考えられる。 ふと、視線が動いた。 成歩堂と少女の少し前にあったCDショップから女性が出てきた。――途端、周囲の男の 視線がその女性に釘付けになったのが法介には分かった。 成歩堂の隣に居る少女と同じような装束を着ている――けれど、なんというか、こう、 ボンキュッボーンな体型をしているのである。装束の裾から伸びている太ももの白さが目 に眩しい。 「……って、え?」 その女性はにっこり笑って手に持ったビニール袋を掲げて見せたかと思うと――成歩堂 の空いている左腕に自分の腕をするりと絡ませてしまった。 「――は?」 成歩堂はといえば、特に表情に変わりは無い様子で横を向いて話しているのが見える。 法介はしばし呆然としたまま立ち止まってしまい、そのまま歩み去る成歩堂と女性二人 の姿を見送ってしまったのだった――。 「……た、ただいま~」 事務所のドアをそっと開ける。いつもなら五月蝿いとみぬきに怒られる声は、蚊の鳴く ように小さい。 「あ、お帰りなさい。オドロキさん」 宿題でもやっていたのか、教科書とノートを広げていたみぬきが、顔を上げて法介を迎 え入れてくれる。 「ただいま……あ、あのさ。えっと、成歩堂さんは?」 「パパ? パパならちょっと出かけてくるって言って、そのままですけど」 娘をほっぽって何してるんだ、あの人は。心の中だけでそう吐き捨てる。 よりによって、あんなコスプレした女(しかも二人)と街を歩いているだなんて。 「? どうかしたんですか? あ、今日の裁判どうでした?」 「……惨敗。元々分かってはいた結果だけど、検察側が手ごわすぎてどうにもさ……」 「あー。今回の担当検事って御剣のおじさまでしたっけ。それはオドロキさんには荷が重 いですよねー」 みぬきのあっさりとした言葉に、法介は顔を上げた。 「知ってるの? あの、ひらひらした検事のこと」 「御剣のおじさま、ですよね? ええ。知ってますよ? パパのお友達だし」 「は?」 「おじさま、容赦ないからなー。あ、でも嫌わないであげて下さいね。おじさまもお仕事 なんだし」 「――はぁ」 なぜ、味方であるはずの彼女が、こうもあのひらひらした検事をフォローしてるのだろ う。そんな疑問を抱きながら、法介はカクンと頷いた。 「ただいまー。お、ちゃんと帰って来てるね。感心感心」 「あ。パパ、おかえりなさーい」 そんな法介の背中にかけられた、気の抜けた声。振り返らなくても分かる。あれは、こ の事務所の所長にして売れないピアニストな成歩堂龍一その人だ。 「……はぁ。おかえりなさい……って」 渋々振り返った法介の目には、成歩堂の姿が映っていた。正確にはその両腕である。 左右から成歩堂の腕を抱きかかえている、二人の女性。一人はみぬきと同年代らしい、 可愛らしい少女であり、もう一人は、なんていうかこう、色気すら漂っている美女である。 「な……」 あの街中で彼と一緒に歩いていた二人である事は、間違いなかった。 呆然としているオドロキを見て、成歩堂の左腕を掴まえていた年上らしい女性が、その 雰囲気から想像できないくらい闊達な笑みを浮かべた。 「お。君がオドロキくん? ふふん、後輩君は先輩に挨拶はなしなのかな?」 「え? あ、あの、王泥喜法介、です」 なんとなく、冗談交じりながらも促された。呆然としたまま、それでも軽く頭を下げて みせる。 「うん。はじめまして、綾里真宵です。君にとっては先輩、かな?」 「先輩……? あの、あなたも弁護士……なんですか?」 「あはは、違う違う。事務所の先輩。なんたってあたしは倉院流霊媒道の現当主にして、 この成歩堂……えっと、今はなんでも事務所なんだっけ? 成歩堂なんでも事務所の副所 長様なんだから」 「は?」 豊かな胸を強調するように胸をそらして見せる真宵を前に、法介は口をガクンとロボッ ト玩具のように開く。 「で、こっちが」 「……あの、綾里春美です。真宵さまの従姉妹です。霊媒を嗜んでおります」 真宵に促され、ぺこり、と成歩堂の右腕を離して頭を下げる楚々とした美少女。 「あ、ど、どうも。よろしくお願いします……」 何がなんだか分からないまま、法介は成歩堂の顔を見た。 なんだか、ニヤニヤしている。 「いやぁ、それにしても今日のオドロキ君のやられぶりは爽快だったね!」 「あっはっは。まあ、御剣の奴が相手じゃ、今のオドロキ君じゃ相手にはならないだろう ね」 かと思えば、真宵の発言ににこやかに受け答えをし――。 「って、今日の法廷、見に来てたんですか、もしかして!」 「うん。ちょうど時間が合ってたから、二人を迎えに行くついでに」 「いやぁ、オドロキ君の法廷は、あれだね。昔のナルホド君の法廷よりも危なっかしいよ ね。スリル満点!」 笑い飛ばす真宵と、そんな彼女と法介を見比べて、困ったようにオロオロしている春美。 そして、そんな二人を一歩下がったところで見ている成歩堂。 「……なんなんですか、この人」 思わずそう呟く法介であった。
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--------- 青年母「さあさあ、皆さんお茶が入りましたよ」 梓「あ、ありがとうございます」 青年の家に招かれた三人は部屋の中央に据えられたテーブルについてお茶をご馳走になっていた コトッ 青年母「この度は息子を助けて頂いたそうで、本当にありがとうございました」 そういって青年母は深々と頭を下げた 紬「あ、あの頭を上げてください!」 律「そうですよ!当然の事をしたまでです」 青年「お、おい、母さん、皆さんが困ってるじゃないか」 青年母「いえいえ、そうは言っても助けて頂いた事には変わりはありません」 青年「やれやれ…」 青年母「見ての通り私たちは貧しい農民です、畑の作物がやられたら冬を越すこともできませんでした」 紬「そうだったんですか…」 青年「すいませんね、どうしても母が皆さんに礼をしなきゃ気がすまないって言うもんだから…」 青年母「はい、なにもできませんがせめて感謝の言葉ぐらいは…ごほっごほっ!」 青年「母さん!無理して話すから!」 背を曲げて咳き込む母に青年が湯のみを渡す 青年「ほら、薬を飲んで」 青年母「ああ、すまないね…ありがとう」 --------------- 青年の家を出た四人は簡素な家が立ち並ぶ間を歩いている 四人はしばし無言で歩いていたが、程なく青年が口を開いた 青年「なんかすいませんでしたね…」 梓「いえ、そんな事ないです!」 律「ああ、感謝されて悪い気はしないしな!」 青年「…君達にそう言って貰えると気が休まるよ」 紬「あの、失礼ですけど、お母様は…」 青年「ああ…うちは早いうちに父を無くしてね…この村に鉱山があるのは知ってるだろ?」 律「ああ」 青年「母は女手一つで僕を育てるためにずっとそこで働いてたんだけど…その時に喉をやられてしまったんだ」 梓「そんな事が…」 青年「僕も本当は鉱山で働いた方が生活は楽になるんだ、けど母がそれを許してくれない」 律「そりゃあなー…」 青年「ああ、だから僕も母と同じぐらい君達に感謝してるんだ」 律「へ!またあいつ等が来たらすぐに退治してやるぜ!」 青年「ははっ、君達は本当に頼もしいな!」 --------- 青年「ここがこの村の鉱山さ、主に取れるのは石炭だけどね」 四人の前には炭鉱の入り口が大きく口を開けている 律「へぇー、結構大きいな」 梓「それにしても全然人が見当たりませんね」キョロキョロ 青年「まあ、今は魔物騒ぎがあってから村の人間は殆ど立ち入ってないからね」 紬「でもそれだと仕事の方は…」 青年「ああ、全くお手上げ状態さ、本当に畑も炭鉱もこのままダメになってしまったらこの村はお終いだよ」 タタタッ! キャッキャ! 律「お、おい、中から声が聞こえるぞ!?」 梓「本当です!これが魔物ですか!?」 青年「い、いや、こんな音じゃないと思うんだけど…第一こんな入り口近くに…」 四人が警戒して様子を伺っていると音はどんどんと近づいてきた 紬「くるわ!気を付けて!」 三人がそれぞれ武器を構えて前方を見据える キャッキャ! バタバタ! 青年「お、お前ら!」 律「こ、子供!?」 炭鉱の入り口から姿を現したのは、幼い子供達だった 男の子1「あ、青年兄ちゃんだ!」 女の子「あ、ほんとうだ!」 青年「こんな所で何やってるんだ!?ここは今立ち入り禁止なのは知っているだろ!?」 男の子1「うわ、しまった!そうだった!」 青年「しまったじゃないぞ!さあ、早く村まで戻れ!」 男の子2「ほら、やっぱり…怒られるからやめた方が良いって言ったのに…」 男の子1「なんだよー!お前だって楽しんでただろ!」 ギャーギャー! 梓「なんと言うか…」 律「はぁ、ほっとしたよ…」 青年「ほら、喧嘩はやめろ」 青年が騒いでいる子供達の間に仲裁に入る 紬「うふふ、元気ね……ん?」クイックイッ 紬の服の裾を女の子が引っ張っている 女の子「ねーねー、お姉ちゃんはぼうけんしゃさんなの?」 紬「そうよ、違う街からきたの」 女の子「じゃあ、このまえのまものをやっつけてくれたのもお姉ちゃんたちなんだね!」 紬「ええ、そうだけど…」 梓「よく知ってるんだね?」 女の子「うん!お父さんとお母さんがはなしてたの!」 男の子1「あー!それ俺も聞いたぜ!なんかすっげー強くて魔物をあっという間の倒しちゃったんだろ!?」 律「へへ!その通りだ!あたし等にかかれば魔物なんてへでも無いぜ!」シャキーン! 女の子「おおー!」 男の子1「すげー!」 梓「また調子にのって…」 女の子「ねーねー、じゃあお姉ちゃんたちはまおうもやっつけられるの?」 梓「魔王?」 女の子「うん!うみのむこうのくににはまおうがいて、わるいことばっかりしてるんだって!」 律「へー?魔王ねえ…」 男の子2「そんなの作り話だろ!魔王なんているわけ無いよ!」 女の子「むっ、そんなことないよ!おばあちゃんがいるってゆってたもん!」 ギャーギャー! 青年「ほらほら!落ち着けよ、全く…」 男の子1「なあ、お前どのくらい強いんだ?」 梓「お、お前…!?」 青年「おい!そんな口を聞くもんじゃ無いぞ!」 男の子1「だってこの人ちっちゃくて弱そうなんだもん」 梓「な、な、な……!」ワナワナ 律「あ、梓!?子供の言うことだぞ!」アタフタ 紬「そ、そうよ!梓ちゃん?気にする事じゃ無いわ!」アタフタ 男の子1「なあなあ、どうなんだよー?」 青年「この人たちはお前の百倍は強いよ」 男の子1「百倍ってどれくらいだ?凄く強いのか?」 青年「ほら!いつまでもくだらない事言ってないでお前らは早く村に帰るんだ!」 男の子1「ちぇー…」 女の子「ばいばーい!」 紬「うふふ♪」フリフリ 青年に促され渋々と言った様子で子供達は村へと引き返して行った 梓「…やっぱり、小さいのがダメなんですか?」ドヨドヨ 律「そ、そんな事ないぞ!なあ、ムギ?」 紬「そ、そうよ?梓ちゃんは…その、とっても可愛いし!」 律「そうそう、可愛いよな!」 梓「はぁ……」ドヨドヨ 青年「そ、それじゃそろそろ戻ろうか?」 ---------- 村に戻り青年と別れた三人は唯と澪の待つ家まで戻ってきた ドア「ガチャ」 律「ただいまー…っと、まだ二人とも寝てるのか?」 梓「でもそろそろ起こしたほうが良いんじゃないですか?」 紬「私、様子をみてくるわ」 律「おう、頼んだ~」 ドア「ガチャ」 律「んじゃ、あたし等は荷物の整理でもしときますか」 梓「そうですね、色々使いましたし」 律と梓はカバンをあけ、中から次々と荷物を取り出して行く 梓「律先輩、これは洗って干したほうが良いですよね?」 梓が外套を手に持って律に問いかけた 律「そうだな~、明日下着と一緒に洗っちゃうか」 梓「はい、そうしましょう」 二人は取り出した荷物で整備や補充が必要の無いものを再度カバンに詰めなおしていく 律「これでよしっと…ついでに澪達のもやっちゃうか」 梓「え、勝手にやっちゃって良いんですか?」 律「ん?大丈夫だろ?あいつ等そんな事気にしないって」 梓「はぁ、そうですか」 ドア「ガチャ」 唯「ふぁ~、おはよう~」 梓「あ、唯先輩!やっと起きたんですか」 唯「うん~、よく寝たよ」 寝室からは唯に続き澪と紬も出てきた 澪「……」ボケボケ… 律「お、澪もおはよう」 澪「…」ボケボケ… 律「澪?」 梓「どうしたんですか?澪先輩」 紬「なんか澪ちゃんまだ寝ぼけてるみたいなの」 律「はは、なんだそりゃ、まあ良いや、あたしは荷物の整備を…」 バッ! 律「あっ!」 澪「いい…自分でやる…」 律「ああ…そうか…」 梓「こ、これはどう言う事なんでしょうか?」 紬「さ、さあ?私にもわからないわ…」 座ってごそごそとカバンをあさり出した澪だが、時々頭がゆらゆらと船を漕いでいる 律「本当に大丈夫かよ…」 梓「あー!唯先輩!私の荷物の上で寝ないでください!」 唯「ふぇ…?」 梓「うわ、こんなによだれが…うぅ…」 紬「あらあら」 律「こいつら寝起き悪すぎだろ…」 ------------------ 辺りが薄暗くなる頃、村長の家には明かりが灯され村人全員が集まっての大宴会が開かれていた 家に入り切らない村人達は外に幕を張り、各々で楽しんでいるようだ ワイワイガヤガヤ 村長「さあさあ皆さんもっと召し上がって下され」 澪「あ、はい、頂いてます」 澪のセリフとは裏腹に目の前に置かれた皿の料理はあまり減っていない 律「どうしたんだ?…あ!まさかここまで来てダイエットか~?」ニヤニヤ 澪「違う!!」/// 律「あはは、ごめんごめん」 紬「じゃあ、どうしたの?あまり箸が進んで無いみたいだけど…」 澪「いや、本当にお腹いっぱいなんだ、さっきから食べても食べても皿に次の料理が盛られて…」 律「まあ、確かにやたらとサービスいいよな」 おじさん1「やあやあ、やっとるかね!はっはっは!」 梓「あ、はい、どうもです」ペコリ おじさん2「君達が魔物を追い払ってくれたお陰で酒も飲めるし、良い事尽くめだよ!」 おばさん「畑も無事だったし、あんた達には感謝しきれないよ、明日も頑張っておくれ!」 紬「ええ、勿論です」ニコ 律「へへ、明日も頑張んなきゃ!」 梓「そうですね!」 澪「ああ、この村に人達のためにもな」 唯「このパイ?みたいな奴美味しいね!」バクバク! 梓「あ、ほら、唯先輩!ボロボロ食べこぼさないで下さい!」 唯「えへへ、悪いねあずにゃん」 律「よくそんなに食べられるな~」 唯「まあね!私、食べても太らないし!」フンス! 澪「いや、そんな事は聞いてないし言ってない」 青年「やあ、みんな楽しんでくれてるかい?」 梓「あ!えーと…」 紬「そう言えばお名前をまだ…」 青年「ああ!!そう言えばまだ名乗ってなかったね」 律「そういやーそうだな、なんか今更って感じもするけど」アハハ 青年「はは、それでは改めまして、僕はアッシュ、アッシュ・クリアだ」 その後HTTの面々も簡単な自己紹介を済ませた アッシュ「あ、そうそうこれ、ウチの畑で取れた大根で作ったんだ、良かったら君達に食べて貰おうと思って」 紬「まあ!ありがとうございます」 唯「食べる食べる!」 --------- 宴も終盤に差し掛かり、集まっていた村人達が次第に座を後にしていく中、五人は人も疎らになった村長の家で食後のお茶を頂いていた 唯「ふ~、美味しかったね~」 梓「唯先輩は本当に良く食べてましたね…」 律「てか、唯ってそんなに食べる方だっけ?」 唯「う~ん…わかんないけど、なんかお腹が減るんだよね」 澪「そんなもんなのか…?」 律「それにしても今日だけで色んな人からすげー感謝されたな」 紬「そうね、こんなに盛大な会も開いてもらっちゃったし」 村長「ほっほっほ、それだけ皆がお前さん達に感謝しておるという事じゃよ」 梓「村長さん!」 五人が話していると村長がお茶の入ったやかんを持ってやって来た 村長「この村には滅多に旅人も来ないからの、わざわざ街から来て頂いて本当に感謝しておるんじゃ」 律「へへ、まあ感謝されるのは悪く無いよな!」 村長「なにしろ貧しい村ですからのう、この季節にしっかり収穫ができないと死活問題なんじゃ」 紬「村長さん!その事で少しお話があるんです!」 村長「?、なんですかな?」 紬「少し耳を貸してもらえますか?」 ゴニョゴニョ 村長「ほうほう…なんと!そんな事が!」 ゴニョゴニョ 村長「なるほど…それは良いですな!」 紬「どうですか?お役にたてると思うのですけど」 村長「ふむ、それでは早速明日にでも…」 唯「ムギちゃん、なんの話だったの?」 紬「ううん、大した事じゃないの」 律「なんだよ~いきなり内緒噺なんて」ニヤニヤ 紬「うふふ♪」 澪 梓 29
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むかーしむかし。 お正月のころ、親戚の家に向かう車の中でのことでした。 憂「っ……うぅ」 15キロの渋滞で、車は全く動かないのに、 憂が不穏にもじもじし始めました。 唯「憂?」 憂「お、お姉ちゃん……」 心配になって声をかけると、憂は泣きそうな顔で私を見つめます。 憂「もう、限界……」 みなまで言わなくてもわかります。 おまたを両手でおさえて、腰を座席にこすりつけるその姿。 憂はどうやら、おしっこの我慢が限界にきているようです。 唯「お母さん、憂が……おしっこって」 助手席のお母さんに助けを求めます。 母「えぇっ? 今は……」 お母さんが窓の外を見て、困った顔を返します。 母「次のパーキングまで、1.2キロあるわよ。……憂、我慢できる?」 憂「む、むりぃ……」 なにせ、100メートル進むのに5分はかかっています。 1200わる100かける5は60。つまりトイレに行くまで1時間も待たねばなりません。 唯「……」 いつもの学校までは1キロ。 登校時間は30分程度のはずです。 走れば、もっと早くなる。私は決断していました。 唯「憂、車おりて、歩いてパーキングまで行こう!」 憂「ええっ!?」 大きく驚いた後、憂はびくっとして顔を赤くします。 母「そうね。このままじゃもらしちゃうわよ」 憂「うぅ……」 憂がうめきます。苦しそうで、今すぐに助けてあげたくなります。 母「おりるわよ、憂」 唯「えっ、ちょっと」 お母さんが憂を連れていこうとしました。 それはずるいよ、お母さん。 唯「憂は私が連れてくよ!」 母「へぇ?」 ドアを開けようとしていたお母さんが、首をひねります。 へぇ、じゃないよ。 歩いていくのを考えたのは私なんですから、 私に連れてかせてくれるべきでしょう。 母「でも、危ないから」 唯「危なくないよ。車だって止まってるし」 お母さんと軽く口論になります。 お腹がムカムカしてきました。 父「いいじゃないか」 ところで、ハンドルから手を離して暇そうなお父さんが言いました。 父「唯も春から中学生なんだし、トイレくらいなぁ?」 唯「うんっうん! 連れてけるよ!」 母「……そうね」 お母さんも渋々という感じで頷きました。 ああ、大好きお父さん! 唯「よしっ憂! 行くよ!」 憂「う、うん」 ごそごそと、大きなコートを引っぱり、手袋をはめて外に出る準備です。 ドアをぐいっと開けて、憂の手をとって外に出ます。 唯憂「いってきます!」 きいんと冷たい空気と排気ガスの混ざった、寒いけど暖かい道路に立ちます。 後ろでドアの閉まる音がしました。 憂が閉めてくれたのでしょう。 自分のことでいっぱいいっぱいだというのに、本当にいい子です。 唯「よし憂っ、急ぐよ!」 憂「うん!」 道路の端まで行ってから、憂と一緒に駆けだします。 パーキングエリアまでの距離を書いた看板の下をくぐったかと思うと、 またすぐ次の看板が遠くに見えるようになりました。 あと900メートルと書いてあります。 なんだ、1.2キロなんてすぐじゃないか。 口もとがにやけるのが分かります。 唯「……ぜぇっ、ぜえっ」 ――そう思ったのも、つかのま。 次の看板の下をくぐるころには、もう息が切れて足も痛んでいました。 それでも、足を止めるわけにはいきません。 唯「大丈夫、うい?」 憂「うん、まだどうにか……」 時折、憂を気遣いながら歩き続けます。 足を止めそうな憂をひっぱって引きつけては、頭をなでてあげながら。 でも、安心させすぎないようにして。 唯「ふぅ、ふぅ……やっと、あと300」 頭がボーっとしてきますが、着実にトイレに近づいているという思いが 後押しして、どうにか歩き続けられます。 唯「入口だよ、うい……」 返事はありませんでしたが、憂の息がうれしそうに弾みました。 唯「……」 耳をナイフですらっと引いているような寒さの中、 どうにかパーキングエリアまでたどり着きます。 憂もまだ、ここからトイレまで歩くぐらいの余裕は残っていそうです。 間に合った…… そんな想いを抱えながら、建物の方へ歩いていきますと、 憂「あ……」 憂が、絶望した声を上げました。 ずらりと、建物から続く女性の列。100人どころではなさそうです。 トイレは大混雑でした。 唯「うい……先に入れてもらえないか、頼んでみよ」 憂「そ、だね……」 だめもとですが、やらないよりましです。 列の前あたりにいる、人のよさそうなおばさんに声をかけてみます。 唯「あの、すいません。妹がトイレ、もう限界みたいで、先に入れてもらえませんか?」 おばさんは私たち2人を見おろして、眉を八の字に曲げました。 「ごめんねぇ。おばちゃんも大変だし、後ろに待ってる人もたくさんいるから……」 唯「そうですか……ごめんなさい」 おばさんの言うのももっともです。 後ろで我慢している人たちもたくさんいるのですから、憂だけ特別ともいきません。 憂「お、お姉ちゃん、わたし……」 唯「……」 とはいえ、今から並んでいては、憂は絶対におもらししてしまいます。 何かないか、何かないか。 私はアゴをなでて、周りを見渡し――ふと、自販機に目を留めました。 唯「……そうだ!」 憂「へ? ……ひゃっ!」 唯「おいでおいで、憂!」 憂の手を引き、自販機まで連れていきます。 憂「お、お姉ちゃん、今ジュースの場合じゃないっ!」 唯「違う違う、ちょっと待ってね」 ポケットからお財布を取り出し、100円玉を2枚投入します。 少し迷って、最適のものを見つけ、背伸びしてボタンを押します。 黄色いパッケージの大きなボトル缶が出てきました。 憂「ねぇー……」 唯「よし、こっちだよ!」 憂「ま、まってよお姉ちゃん!」 それを両手で持ち、駆けだします。 普段なら、炭酸が振れてしまうので絶対にやりませんが、今ばかりは関係ありません。 憂「おねえちゃーん……!」 危なっかしい足どりで、憂がついてきます。 建物の隙間に体を入れて、奥まで進みました。 ここなら、人は来ないでしょう。 憂「ん、よしょ……どこ行くのぉ」 半泣きで憂も到着しました。 私は手に持ったボトル缶をぎゅっと開けて、蓋を外します。 黄色い缶から、泡になったビタミンドリンクが勢いよく溢れてきます。 唯「おっとと……」 私は腕をまわしてボトル缶を逆さにし、地面に炭酸ジュースを撒いてやります。 憂「ああっ、お姉ちゃんだめだよ、もったいない!」 確かにもったいないけれど、ゆっくり飲み干す時間もないです。 私は憂のほうに向き直りました。 私は、空になったボトル缶の口を憂に向けました。 唯「……憂、ここにしちゃいなよ」 ビタミンドリンクの甘い匂いが、背中から風にのってやってきます。 憂「……?」 ぽかんとぬけた顔で、憂は私を見ています。 なにしてるんでしょうか。 こうしている間にも、憂の限界はどんどん近付いているのです。 唯「憂、ほらパンツ脱いで。おもらししたいの?」 憂「し、したくないよっ。……けど、それもヤダ」 憂はボトル缶を横目で睨んでいます。 憂「……そこに、おしっこするの?」 唯「うん」 わずかに残っていたジュースが、ぱちゃりと揺れました。 唯「大丈夫だよ、憂。誰も見てないし、ほら」 私はボトル缶を掲げます。 唯「透明じゃないから、中も見えないよ。憂がここにおしっこしたことは、お姉ちゃんにしかわからない」 アルミでできたボトル缶を選んだのは、そういう理由でした。 唯「でも、おもらししたら皆に憂がおもらししたってばれちゃうよ? そんなのイヤでしょ?」 憂「う、うん……わかった、そこにおしっこする」 憂が頷きました。 唯「うん、良い子」 軽く頭をなでてあげて、私はしゃがみました。 唯「私があててあげるから。憂はおしっこするだけでいいからね?」 憂「……」 憂はむくれたような顔をしてしゃがみこむと、スカートの中に手を入れました。 私は耳をそばだて、誰か来たりしないか警戒を怠りません。 唯「大丈夫、誰も来てないよ」 憂「……ほんとだよね?」 唯「そんな嘘つかないもん」 憂「だね」 意を決したように、憂はするっとパンツを膝まで下ろしました。 あれ。すこし黄色くしみています。ちびったんでしょうか。 私は首をぐいっと曲げて、憂の足の間をのぞき込みます。 憂「やっ……」 憂がバッとおまたを手で隠してしまいます。 唯「うーい! 隠したら見えないよ?」 憂「見ちゃダメ!」 唯「見ないとこぼしちゃうよ? お姉ちゃんの服にかかったら」 憂「でもぉ!」 唯「……わかったよう」 頭の中で想像図を広げながら、ボトルの口を憂のあそこに向けます。 手袋をつけたままでは握りにくく、両手を憂のスカートの中に入れるために 少し工夫しなければいけませんでした。 太ももに足を開かせて憂をのっけて、肩に手を置いてもらって少し前のめりにさせます。 こうすると、私が手を前に出していてもバランスがとりやすいのです。 といっても、手元はまったく見えませんし、顔は息が触れ合うくらい近付いています。 この近距離で、憂がおしっこをする。 ボトルの口から外れたら、いったいどうなってしまうのでしょうか。 ものすごく緊張します。 唯「よいしょ……」 ボトル缶を前につきだしていきます そーっと、そーっと。 ぐっと押す感触に当たった瞬間、 憂「ひゃあ!」 憂が悲鳴を上げて、ぶるっと震えました。 そして耳に届く、ぱしゃっと水が地面を打った音。 寄りそい合ってあたたかい私たちの間に、何とも言えない匂いがたちこめてきます。 唯「か、かんいっぱつ……?」 手袋に濡れた感触はありません。 靴は分かりませんが、いずれ汚れるものでもありますから、かかっていても平気です。 唯「うい、ちゃんと当てるまで出しちゃだめだよ」 憂「ご、ごめんね。冷たくて、びっくりしちゃって」 唯「うーん……がまん、がまん」 憂「がまん、がまん……」 つぶやきを返して、憂はこらえるような顔で目をとじます。 その表情が一瞬「そのため」に見えて、うっかりまちがえてキスしそうになりました。 唯「……」 今のはほんのご愛嬌です。 唯「あてるよ?」 憂に訊くと、こくりと頷いてくれました。 再びボトルの口を憂のあそこのあたりへくっつけます。 憂「っ」 また憂はびくりと震えますが、今度はもれずに済んだようです。 さっきのおしっこの匂いが、鼻をつきます。 唯「あたってる?」 憂「ううん、ちょっと下すぎ」 憂に確かめながら、おしっこの出る位置を探ります。 憂「あ、そこ……かな?」 憂が言ったところで、私は手を止めました。 唯「じゃあ……だして」 さあ、憂のおしっこはボトル缶の中に入ってくれるのでしょうか。 それとも私の手袋にひっかかってしみつくのでしょうか。 緊張のときです。 憂「うん……んっ」 憂がイキみます。 憂「ふ……」 もう一度。憂がぷるぷると震えて可愛いです。 けれど、問題のボトル缶のほうは至って静かです。 本来なら、憂のおしっこが缶の底を打って、缶の中で響いて、ちゃぽちゃぽ聴こえるはずなのに。 まさか、と思いましたが、やっぱり手袋が濡れていくような感じはしません。 憂「う……んん」 とすると。考えにくいですが。 唯「うい……出ないの?」 開いた憂の目は、涙ぐんでいました。 憂「うん……なんでかなあ」 唯「まだおしっこしたいよね?」 憂はこくりと頷きます。前髪が軽くこすれました。 唯「……」 やはり憂も緊張して、おしっこが引っ込んでしまったのでしょうか。 かといって、ここで出しておかないわけにはいきません。 唯「……うい、しーしー」 2
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【違うわ違うの】TOAティアアンチスレ44【おやりなさい】 955 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/17(木) 23 18 31.44 ID a/y/j9jVO 951-952 あれが誰を指してるのか一周目で分かった奴はいないだろうな 今でもなんでそこでティアなのかさっぱり分からんが 956 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/18(金) 01 30 41.10 ID q0lyEciQ0 955 そしてティアに注目するカメラさん 957 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/19(土) 09 16 11.42 ID 1MkZnKBH0 信者が痛いのはまだ笑いですむけど公式が痛いともうダメだ ティアマンセーの為にsageられるキャラ、アビスだけならまだしも他作品のキャラまで被害者に 958 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/19(土) 14 17 15.27 ID VWzhiTXGO まあギャップがあると可愛らしいもんだが それを詰め込めば良いってもんじゃねぇだろ。 しかもティアの場合はそれがあざといしわざとらしい。更にはそれを披露する為に以前に発言した言葉を無かったものにされるわ、総マンセー化するから腹立たしいんだ。 959 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/19(土) 15 33 38.30 ID GtjX7uwZ0 設定に突っ込み所満載なのは周知の事実だが〝兵士となるべく育てられた″ってのもおかしくないか? この文面だと、幼い頃から戦う技術を教え込まれた暗殺者やアフリカの少年兵のような悲壮さを感じるんだが 960 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/19(土) 19 35 07.52 ID AEV67bjS0 ギャップを持たせるのは良いけどキャラの軸がぶれない程度にしろよ ティアの場合はもはや多重人格レベル 961 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 00 33 12.35 ID t0JLQsHA0 960 実際多重人格なんじゃね? 目的はよくわからないけど余所様の家を襲撃してでも止める→殺したくないナヨナヨ 中立派よ!→イオンを貶しモースを擁護する 公爵家の誰も巻き込むつもりはない→警備もメイドも譜歌に巻き込んで「覚悟!」 962 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 07 25 03.24 ID AWIAtpBl0 多重人格とは思えないかな… 1.追い詰められて我を失った獣だった 2.イオンやアニスに嫌われたくないから中立派と言っておこう 3.巻き込まないよう譜歌で眠らせてあげた 963 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 08 31 15.68 ID inHvcVoW0 その場その場で場当たり的に適当な事言ってるだけか… 自分は間違ってないと自らの行いを微塵も反省しない印象がある 964 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 09 53 44.44 ID h94NdVgb0 もっと冷徹で口数少ない、けど実はかわいいもの好き、なら良かった いらんことペラペラ言って人を不快にさせるくせに、肝心なことは言わないバカ 965 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 12 15 10.16 ID Z7z1DH4BO クールにしたいならクールに、可愛い系にしたいなら可愛い系に。お姉さん系にしたいならお姉さん系に。 全部詰め込んで闇鍋にするから批判くらうんだよ あといちいち他キャラsageしたり他キャラにすりよってするからそれも苛々する 966 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 12 17 16.37 ID QLk3E3kJO 959 967 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 12 17 44.45 ID QLk3E3kJO 959 菓子作りする余裕はあったようだしな 968 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 16 38 47.98 ID t0JLQsHA0 959 14歳の頃に士官学校を受けたがるがヴァンとテオドーロは猛反対してた事実が発覚してる 反対意見を素直に受け止めてユリアシティにカンヅメならどれだけ良かったことか… 関係ないが、リグレットはティアにこう言ってたんだよな 「自分にやましいことがないのなら、堂々としていればいいでしょう。 やってもいないことを、やったというのは無意味よ」 つまり誘拐後にあれだけふてぶてしかったのもその為か… 969 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 16 41 01.96 ID 069dhFi80 どんな理由で猛反対されて、どう言って認めさせたのか気になるところだな 970 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/20(日) 22 31 31.74 ID ZY02nkm1O ×兵士として育てられた ○周囲の反対を押し切って兵士になった 971 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/22(火) 15 22 00.92 ID vNBg2FB70 もしユリアシティにカンヅメのままだったら、 原作通りに育っていたとしても被害は外部に漏れなかっただろうな… 髭と爺さんもっと頑張ってくれよ… 972 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/22(火) 19 33 19.57 ID YrH4My/GO ティアの胸がBかC位のでかさだったらなぁ… スキットとかかなり減るのに 973 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/22(火) 21 04 14.99 ID +w+W7/hW0 969 順当にいけば危険だからと反対されたんだろうが 協調性のないお前に集団行動は無理だ、とかで反対されてたら受けるw 974 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/22(火) 22 26 22.17 ID JzSw3GyO0 970 俺の記憶だとテオドーロにしつこく食い下がり 根負け?した彼がヴァンを説得して、特別にリグレットがつけられる流れだったような 兄貴のコネでただの田舎娘が六神将に稽古つけてもらえるとか… 975 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/23(水) 07 48 30.13 ID OB7KaRPv0 974 田舎娘とはいえ、ユリアの子孫って事実やユリアシティは預言の監視者、その市長の孫って事で もあるし、自分は特別、的な意識はあっただろうな でなきゃあそこまで他人に傲慢にはなれないだろ 976 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/23(水) 13 39 58.55 ID MvPLaGNm0 小学生の年齢あたりから他人を見下す性格だったんだろうな 町の優しい子とか面倒見いい子がティアを誘おうとしても「あなたたちとなれあうつもりはないわ」的な 977 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/23(水) 15 56 41.92 ID aJMvHI4x0 975を見てティアもルークみたいな生い立ち設定だったらよかったと思った。 ファンダム2で兄貴に憧れてるのは良い妹キャラだと思った。 だけど軍人コントやりだすと一気にわけのわからないキャラになるし、 なんらかの事情で安全な部屋の中で大切に大切に育てられたお坊ちゃんとお嬢ちゃんが鉢合わせた!って話でよかった。 とにかくティアの軍人ギャグは蛇足すぎると思うんだ。 978 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/23(水) 18 37 54.76 ID x6lYimMP0 遅まきながらヒーローズのA枠がルークとガイだと知った 良かった、本っっ当に良かった! コレが入らなくて良かったんだが、他の出場キャラを見るに片方が回復持ち になると思ってたんだけど、A組はどっちも回復持ってないな・・・ まあとりあえず良かったよ これで第一の地雷は避けた 後はVSのようなデキじゃないことを祈るのみ! 979 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/23(水) 19 20 24.53 ID 6WWuNa4n0 ガイは集気法があるから一応回復持ちじゃね 何気にティアって祭りゲー皆勤だったんだよな 毎回出てこなくていいよ 980 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/23(水) 23 01 30.55 ID /CywF1qb0 あなた達はこのスレに監視されていますよ^^ http //kamome.2ch.net/test/read.cgi/net/1321957105/1-100 いつも楽しいヲチ対象になってくれてありがとう 981 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/23(水) 23 05 36.89 ID NptlT3Jq0 980 どういたしまして ところでヲチ先にわざわざ突撃してこなくていいのよ 982 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/23(水) 23 18 40.36 ID VFyWw7o30 堂々とローカルルール違反とは勇気あるな 983 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/24(木) 10 34 58.15 ID XSq3d6DbO 主人公とヒロインは今の所グレイセスだけ? シェリアアンチ多いからアンチスレは祭になりそうだなw このスレが祭にならなくて本当に本当に良かった! でもきっと短髪ルークならティアだっただろうな 親善大使ならティアよりまだガイの方が言う事聞くだろうし ティア意見 ↓ 親善大使否定 ↓ ティア呆れ怒号 ↓ 親善大使怯え無理やり納得 ガイ意見 ↓ 親善大使否定 ↓ ガイ苦笑意見 ↓ 親善大使渋々納得 984 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/24(木) 10 52 56.79 ID WfesyphU0 980 ルール違反犯してるお前もヲチ対象の一人になったな 985 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/24(木) 11 21 39.72 ID xjDrPJYI0 ちょっと何言ってるかわからない 986 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/24(木) 11 22 22.37 ID xjDrPJYI0 ごめん、 983ね 987 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/24(木) 11 34 42.61 ID g9NK+xQl0 985 ティアの方は親善大使じゃなくて短髪ルークが入るんじゃね? 988 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/24(木) 19 07 39.36 ID oO/IlUzlO 987 そんな真似をしたら、アビスだけ二枠になって「またアビス贔屓か」って盛大に叩かれるだけだろ いくらヲタッフでもこれ以上は叩かれたくないだろうし、流石にそれは無い……か? 989 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/24(木) 19 41 23.06 ID k/pDjG3o0 ティアが中ボスとして出る可能性もなくはないからヒーローズはこれからも様子見 本当、テイルズは結構お目当てばっかだったから予約して買う事が多かったが お祭りゲーやファンダム2のせいで買うのが億劫になったよ 本当ティア疫病神死神 990 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/25(金) 00 14 50.39 ID CsOpy4kuO ティアがボスなら良いじゃないか! 念願のボコボコが叶う!! でもやっぱり出ない方が良いけどね 991 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/25(金) 19 46 19.78 ID z/YzUM6z0 俺ティアは声も見た目も生理的にきついからもう出てこないで欲しい 992 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/25(金) 19 48 46.09 ID G5mHzIl80 990 バーサスやれよ 993 : 忍法帖【Lv=12,xxxPT】 :2011/11/25(金) 20 07 31.71 ID Tvki7RWZ0 ところで次スレは? 994 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/26(土) 00 37 07.88 ID d+ALlfRO0 1 995 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/26(土) 00 37 18.57 ID d+ALlfRO0 7 996 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/26(土) 00 37 29.20 ID d+ALlfRO0 5 997 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/26(土) 00 37 40.48 ID d+ALlfRO0 小 998 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/26(土) 00 37 50.69 ID d+ALlfRO0 さ 999 :名無したんはエロカワイイ:2011/11/26(土) 00 38 01.42 ID d+ALlfRO0 め 1000 : ◆IgQe.tUQe6 :2011/11/26(土) 00 38 12.30 ID d+ALlfRO0 キサラギ、サンサンじゃまくっさ s t - t a k a i @ e z w e b . n e . j p 1001 :1001:Over 1000 Thread このスレッドは1000を超えました。 もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。