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三章 学校に行くのが憂鬱だ。体中がとてつもなくだるい。 昨日、あれから一晩中泣き明かしたからだろうか。ほっぺただけじゃなくて、 目も相当腫れているんだろうな。 ――返せ!俺の時間を返せ―― 昨日は結局、キョンは部室に帰ってくることはなかった。仮に帰って来たら、 今度はあたしが逃げ出していたんだろうけど… キョンの言葉が耳にこだまする。あたしは、あいつを………その………好いていた。 あたしがどんな無理なことを言っても、最終的にはそれに賛成し、協力してくれる。 そんなあいつに、あたしは心の底から信頼していた。 だけど…今はあいつが……とてつもなく怖い…… 所詮はご機嫌とり。能力のないあたしなんてもう関係ないってこと? 昨日のあれは三年間のあたしへの、鬱憤だったのかも… 楽しいと思ってたのはあたしだけ? 後ろ向きな考えばかりが浮かぶ。 そんな考えを払拭するために、あたしは早朝から、坂を上っている。 昨夜キョンからメールが来た。 『話したいことがある、明日、朝、 六時半に教室に来てくれ』 もしかしたら、また罵倒されて終わりかもしれない。 だけど、あたしはあいつを信じたい。 「ごめんね、古泉くん。 こんな朝早く付き合わせちゃって」 やはりまた殴られるのは怖い。昨日のうちに古泉くんに、 一緒に学校に来てくれるよう頼んでおいた。 「謝るなんてあなたらしくない。 昨日のあれは完全に彼の過失です。 あなたは毅然とした態度でいるべきですよ。 団長を守るのは副団長の務めです。」 古泉くんはいつも通りの笑顔であたしに優しくそういった。 「もっとも、本当は彼が、いの一番にあなたを 守らなければならないのに…それなのに………!!」 古泉くんはボソっと怒りを押し殺した声でそう言った。 学校についた。教室まで、もう少しだ。段々とあたしの鼓動が速くなっていくのがわかる。 それと同時に昨日の、キョンの血走った目。 殴られて倒れたあたしに伸びてくる紫色の拳が脳裏に蘇る。 切れた口の中がまた痛みだした。 教室の前まで来た。あとはドアを開けるだけ…だけど体がそれを拒む。 ドクン!ドクン! 取っ手を掴んだまま動かせないでいるあたしの手を、古泉くんはそっと握ってくれた。 ガラガラっと音を立ててドアが開く。キョンは……いた。 「古泉も来てたのか」 そういうとキョンは自分の机からゆっくり立ち上がり、近付いてくる。 昨日の血走った目のキョンと今のキョンが重なりあう。 逃げたい!今すぐ!ここから逃げ出したい! あたしが今にも動きだそうとしている体を必死で押さえ付けていると… がばっという音がした。思わずビクッと目を瞑ってしまったが拳は飛んでこない。 恐る恐る目を開けると、 キョンがあたしの目の前で、手と顔を床につけてうずくまっている。 「ど…げ…ざ…?」 あたしが思わず、呆然と呟くと…… 「昨日は本当にすまなかった!お前の気持ちも考えず… 自分のことしか考えていなかった!! 許してほしいだなんて思っちゃいない! だけど!お前をずっと傷付けたままにすることは出来ない!!」 ああ…いつものキョンだ…優しい目であたしを見てくれる、いつものキョンだ… あたしは思わず彼に抱き付いていた。 「こ…の!えぐっ…!バカ!!昨日はあれだけヒドいことしておいて…! あたしがどんな気持ちで学校に来たと思ってるのよ!」 「ああ、昨日は本当にどうかしていた… だけど今の俺はとても清々しい気分なんだ」 「え?」 そう古泉くんの言葉が聞こえた気がしたけど、今は関係ない。 「な…何よ!ヒック…!許してもらおうだなんて思ってないですって? バカ言ってんじゃないわよ!ヒック…許すに…決まってるじゃない!」 「じゃ、じゃあ…また勉強に付き合ってくれるのか? まだ東大を目指していいのか?!」 キョンの目が涙でいっぱいになっている。まったく!泣き虫ね! って思った瞬間、あたしの声に嗚咽が混じっており、 キョン以上に目に涙を蓄えていたことに気がついた。 あたしは最後の力で首を振り、肯定の意を表すと、いよいよもって、 大声で泣き出した。魂の慟哭だ。 「うわあああ!キョン!キョン!」 10分はたっただろうか? 昨日に引き続き泣いているので、あたしの喉はもうガラガラだ。 あたしが落ち着き、ひとまずキョンから離れると、古泉くんが近付いてきた。 古泉くんはキョンの胸倉を掴み、無理矢理起立させた。 「もし、この場に涼宮さんがいなければ、 僕はあなたを殴り倒してる所だ! あなたはさっき涼宮さんを傷付けたままには出来ないと言いましたが まさかこれで彼女の傷が癒えただなんて思ってないでしょうね!? これからあなたは、一生を懸けて涼宮さんの傷を、 癒していかなければならないんだ! もしまた彼女を裏切るような真似をしたら、オレはお前を許さない! わかったか!!!!?」 古泉くんが焦ったように早口で言う。 どうしたの?古泉くん?口調までかえて…古泉くんらしくない… 「分かっている。古泉…俺はもうハルヒを傷つけたりしない。 この罪は一生懸けて償っていくつもりだ。 それに俺は前からハルヒのことが好きだった。」 え?それって…もしかして… 「え~と、つまりだな、ハルヒ…俺はお前を好きなわけだ。 そうなると当然、お前と付き合いたいと思うわけで… そこに一生懸けて罪を償うという要素を取り入れるとだな… それはつまり…その…『結婚を前提としたお付き合いをお願いします』 ということになってしまうわけで…… それで、つまり……そういうことだ」 え?これってもしかしてプロポーズ?こんなグダグダなのが? だけどなんだろう…この胸から沸き上がってくる感情は? 随分長い間忘れていた気がするそれは…そうだ…喜びだ!! あたしはまたキョンに抱き付き大声で泣いた。 「お、おい!まだ俺は返事を聞いちゃいねぇぞ?」 「やれやれ…どうやら僕の思い違いだったようですね。」 安心した顔で、そういうと古泉くんは教室を出ていった。 その日、六限目は体育館で薬物防止の講習会が行われていた。 まったく、こんなのに手を出す奴の気が知れないわ!気持ちいいんだか知らないけど、 それで人生を棒にふるなんてバカのすることよ! あたしほどになると風邪にだって薬なんか必要ないんだから! それから薬物を使うとどんな症状にみまわれるのか、細かい話を延々と聞かされた。 あ~あ、早く終わんないかしら?今すぐ部室でキョンと一緒に勉強したい。 教室に帰るとキョンが話しかけて来た。 「あ、あのさ…ハルヒ…実は…」 キョンが蒼白した顔で話しかけてくる。 「何よ?」 わざと不機嫌そうに答えるとキョンは 「い、いや!何でもない!今日も部室で頼むぜ?!」 と言うと、今度はあたしの二つ隣りにいる春日さんの所に行き、 一緒に教室を出て行ってしまった。 ふん!何よ!朝はあたしにプロポーズまでしたくせに!大体何よ!春日って!! 名前があたしと被るのよ! 全く!作者は何を考えてるのかしら! オレは今体育館で薬物防止の講習を受けてる。 こういう話を聞いてるとどうしてもあいつを思い出してしまう。とても涼宮さんには言えない話… オレ達が所属していた機関は、涼宮ハルヒの発生させた閉鎖空間を取り除くことが、 主な仕事だった。しかしそれは多大なストレスを伴う。 そういう中で活動しているとたまにいるんだ。ストレスに押しつぶされてしまう人間が。 オレの親友だった。ドラッグに溺れたそいつは自殺の間際にオレにこう言った。 ――今の俺はとても清々しい気分なんだ―― それは普通に聞けば何の変哲もない、むしろ喜ばしい言葉だ。 だけど、オレにとってはトラウマ以外の何者でもない。 なんてったってオレはそいつの変化を少しも気付いてやることが、 出来なかったんだから…悔やんでも悔やみきれない…… 今朝の彼の言葉があいつの言葉を思い起こさせた。言い知れぬ不安に駆られた。 もっとも、それがいらぬ心配だったということは、その後の言葉で確信した。 「あなたの言葉…僕は信じていますよ」 オレは心の中で、そう呟いた。ふう、やけに疲れたな今日は。 たまには部室に寄らず帰ろうか。 う~ん、疲れたわね!有希の本を閉じる音と同時にあたしは背伸びをした。 「あら、キョン?」 キョンがスライムみたいになっていた。溶けた、緑色のブクブクいってる方ね。 「お、お前…いくらなんでもハイペースすぎやしないか?」 「ふん!あたしの未来の旦那さんが何弱音吐いてるのよ! このくらいやらなきゃ東大なんて夢のまた夢よ! はい!これ!今日の課題よ!明日までにやっておきなさい!」 キョンはやれやれといいながら背伸びをした。 「腕のそれ、ケガ?」 有希が短くそれだけいった。 あたしがキョンの腕を取ると、赤い点が一つだけあった。 よくこんなの気付いたわね。有希。 「あ、ああ!これか?いや、昨日近所で献血をやってたんだよ! 昨日の俺は頭に血が上り過ぎてたからな! 抜き取って頭を冷やしたというわけだ。 ほんと、単純だな!俺って。」 献血?そんなのはもっと人込みのある、主要道でやるもんじゃないの? 何で周りに家しかない、人通りの少ない道でやるのかしら? そうは思ったがそれ以上は聞かないことにした。 それ以上聞くとまた関係が崩れていってしまう気がしたから。 有希が黒い瞳でキョンをじっと見ている。 そういえば今日は古泉くん来なかったわね。 まあ有希もそうだけど、推薦で進路は決まってるみたいだし、家で休みたいのかもね。。 そしてあたし達は家路についた。 四章へ
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涼宮ハルヒの憂鬱 原作・構成協力 - 谷川流 原作イラスト・キャラクター原案 - いとうのいぢ 監督 - 石原立也 シリーズ演出 - 山本寛 アニメーション制作 - 京都アニメーション 製作協力 - ビッグショット 製作 - SOS団(角川書店、角川ヘラルド映画、京都アニメーション、クロックワークス) ・放送順が原作の発行順や物語上の時系列と異なる ・第一話が『朝比奈ミクルの冒険 Episode 00』 ・エンドレスエイト ・ライフライン と、良くも悪くも話題となったこの作品。その破天荒さが、物語の主人公=涼宮ハルヒにも重なり、一つのテーマとして成立していると感じた。もちろん、画力、演出力etcの実力があっての冒険であり、また構成がしっかりしているので、食わず嫌いの方にも是非オススメ。かく言う私も、原作を読んだ人からあらすじを聞いて「あ゛?」となった口なのですが、たいへんおいしく頂きました。 涼宮ハルヒの憂鬱 ブルーレイ コンプリート BOX (初回限定生産) [Blu-ray] 【オススメ度】 ★★★★☆ 【とは言え】 世間で言われている通り、ぬるぬる動く画には感心せざるを得ないが・・・いかんせん、第7話「ミステリックサイン」のカマドウマが馴染んでないのが・・・ 【こんなのもオススメ】 TVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」ED主題歌 ハレ晴レユカイ [N]
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涼宮ハルヒの憂鬱 【作品名】異世界人こと俺氏の憂鬱 【作者名】魚乃眼 【URL】https //novel.syosetu.org/13591/ 【原作】涼宮ハルヒの憂鬱 【地雷条件又は注意事項】オリ主 原作知識あり 能力だけクロス(ハンターハンター) 【あらすじ・概要・感想】 涼宮ハルヒに呼ばれた異世界人の主人公がSOS団に所属する 上でも書いたように原作知識ありの、なぜか念能力が使える状態という地雷設定だが 割とうまく絡めててそれなりに読めるものに仕上がってる 更新頻度も早く文量もそれなり、現在消失篇終了
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涼宮ハルヒいじめ短編集 1 2 3 4 5 6 7 8 気付いた時には 自覚 崩壊 赤の世界 キョン
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涼宮ハルヒの憂鬱 色 出演者 備考 黄色 涼宮ハルヒ(声:平野綾) 水色 キョン(声:杉田智和) 緑色 -
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ハルヒ「明日は個人的な理由によりSOS団恒例の不思議探しは中止とします! その代わりに各自日常の不思議を探してきて。どんな些細なことでも構わないわ!その些細な不思議がやがてとんでもない不思議になるかもしれないしねっ!というわけで以上っ解散!」 キョン「そんな無茶な…」 古泉「ツチノコを探して来いと言われるよりはましですよ。それに僕は日常の不思議に心当たりがありますしね…あなたには無いのですか?日常の不思議」 キョン「お前らみたいな奴らがいるのが一番の不思議だよ」 古泉「おやおやこれは手厳しい」 キョン「朝比奈さんはどうするんですか?よかったら一緒に探しませんか?」 みくる「ごめんなさいキョンくん。私も心当たりがあるんです」 キョン「そうですか…長門は?」 長門「ないこともない」 キョン「どっちだよ?」 長門「心当たりはある。ただしそれをあなた達が不思議と思うかは別の問題」 キョン「そっか、あるのか…しゃあねぇ一人で探すか…」 ハルヒ「みんなー!何してんのー?早く来ないと先帰っちゃうわよー!?」 キョン「やれやれ…」 ~発表日~ キョン「結局見つけられなかった…つか要求が曖昧すぎなんだよ!」 長門「………」 ツンツン キョン「なんだよ?」 長門「私の見つけた不思議にはあなたの協力が必要。援助を要請する」 キョン「マジか!?いや、願ったり叶ったりだよ!サンキュー長門!」 長門「お礼を言うのはこちらの方」 ガチャ ハルヒ「みんなー!不思議探してきたっ!?それじゃあ順番に発表してもらうわよ!まずは古泉くんから!」 古泉「コホン、では見てぐたさいみなさん!僕のこの天を突く勢いのテトドンを!これって不思議ですよね?」 ハルヒ「はあ?自意識過剰なんじゃないの?」 みくる「なんですかこの可愛いの?」 クスクス 長門「粗チン」 キョン「ダウトッ!!貴様の粗末な物で朝比奈さんの目を汚すな!」 ベキッ 古泉「ナアアアアアウ!!ぼ、僕のテドドンが直角に折れたっ!!」 ピクピク 古泉一樹 再起不能 ハルヒ「ふん!とんだ期待外れねっ!じゃあ次はみくるちゃんよ!」 古泉「ぼ、僕のツチノコが…ツチノコなのに…」 ピクピク ハルヒ「そこうるさいっ!負け犬はおとなしく死んでなさい!!次はみくるちゃんよ!すんごいの期待してるわ!」 みくる「ひゃい!で、では涼宮さん近くに来てください…あの、みなさんの前では少し恥ずかしいことなので…」 ハルヒ「ふーん、どれどれ?」 スタスタ みくる「じゃあそのままオッパイを直に揉んでください!」 キョン「なんですとー!」 長門「………」 ムカッ ハルヒ「な、なにあんたそういう趣味なの?」 みくる「違いますよー!これが不思議なんですぅ!いいから揉んでくだしゃい!」 ハルヒ「仕方ないわね」 モミモミ ハルヒ「あ、なんかにじんできた…」 みくる「そうです!妊娠してないのに母乳が出ちゃうんでしゅ!それが私の不思議!」 キョン「マニアック!?」 ハナヂブー ハルヒ「ふーん。で、どんなからくりなわけ?」 みくる「牛の遺伝子をインプリティングした、はっ!い、いえそれは禁則事項ですぅ」 ハルヒ「よくわからないけどイカサマなのね?ダウトッ!!有希、足腰立たなくなるくらい揉んでしまいなさい!今日は無礼講よっ!」 長門「了解した」 みくる「ひっ!」 長門「妬ましい…嫉ましい…疎ましい……」 ジリジリ みくり「い、いやあああああああ!!」 朝比奈むくる・キョン 再起不能 ハルヒ「じゃあ次は有希の番よ!」 古泉「ツチノコ…僕のツチノコ…」 みくる「もうミルク出ないでしゅぅ…そんなに強く揉んたら痛いですよぅ…」 キョン「百合…百合の花咲き乱れ…」 ハルヒ「てかなんであんたまで延びてんのよ!起きろバカキョン!」 ゴツン キョン「あいてっ」 長門「私の不思議は彼との合作」 ハルヒ「うっ、すごいマイペースね…てか二人で一つの不思議なの?それはちょっとやそっとの不思議じゃ許されないわよ?」 長門「問題ない」 ハルヒ「ふーん?凄い自信ね?で、肝心の不思議は何よ?」 長門「もう言った。私の不思議は彼との合作」 ハルヒ「どういうこと?」 キョン「さあ?」 長門「生命の神秘。処女妊娠。それが私。父親は彼」 ハルヒ「はあっ!?ど、どどどどどどういうことよ!!」 キョン「し、知らん!どういうことだ長門!?」 長門「心配無い。既に籍は入れてきたわ。あなた」 キョン「俺が聞いてるはそういうことじゃねぇ!」 ハルヒ「そうよそうよ!ちゃんと説明なさいよ!」 長門「チッ…昨夜彼の部屋に忍び込み彼の精子を確保。それを元に構成した」 キョン「ダウトッ!!」 長門「却下。あなたの子供にはかわりない」 キョン「そ、そんなこの年で所帯持ちかよ…」 キョン 再起不能 ハルヒ「そんなの納得いかないわ!」 長門「納得とは?」 ハルヒ「駄目よ…そんなの絶対駄目!」 長門「この子を降ろせと?」 ハルヒ「違うっ!そんなこと言ってるんじゃ…」 キョン「長門…いや、有希。不束か者ですがよろしくお願いします」 ハルヒ「あんたまで何言ってるのよ!そんなの絶対認めないんだからねっ!」 長門「何故?」 ハルヒ「だって…だって…私だってキョンと(夢の中で)キスしてから生理来てないんだからっ!!」 長門「!?」 キョン「な、なんだってー!…それは想像妊娠じゃないか?」 ハルヒ「違うわよ!あ、今お腹蹴った!これはもう確実に孕んでるわ!だから私もキョンと結婚する権利はあるのっ!!」 キョン「でももう籍入れちゃったみたいだし…」 ハルヒ「とにかく駄目なものは駄目ー!!」 長門「問題ない」 ハルヒ「へ?」 長門「多重婚が認められている国で籍を入れまたこの国に戻ってくればいい万事解決」 ハルヒ「え?いいの有希?」 長門「いい。私という個体はあなたにも好意を抱いている」 ハルヒ「マジで?」 長門「マジで」 ハルヒ「本当に?」 長門「本当に」 ハルヒ「指切り?」 長門「嘘ついたら針千本飲む。比喩ではなく」 ハルヒ「じゃ、じゃあ…」 こうして俺はなかば強制的にオーストラリアに連行され籍を入れさせられてしまったわけだ… ハルヒ「あなたー!早くしないと置いて行くわよー!」 キョン「うーい、今行くー」 ハルヒ「さっさとしなさいよ!今日は有希の出産予定日なんだから。遅れたらあの子に殺されるわよ?」 キョン「やれやれ…」 まぁ、優柔不断な俺にはこんな結末がお似合いなのかもな。とか思ったりして…しかし子持ちなのに未だに童貞とはどういう了見なんだ? ハルヒ「うるさいわね!特にオチも無いし締めるわよ。いい?」 キョン「どうぞ。好きにしてくれ」 谷口「はっ!ドリームか…」 谷口「長門有希や涼宮が妊娠に朝比奈先輩からは母乳か…我ながら凄い夢見ちまったな… そらユング先生もフロイト先生とケンカするわな………」 谷口「授業中に夢精しちゃった……」 クスン 国木田「谷口チャック、ってイカ臭っ!?」 キョン「お前授業中になにしてんだよ!?」 ハルヒ「なーに?谷口ったらまた授業中にナニしちゃったの?」 女子A「うわー最低…」 阪中「谷口くんは変態なのね」 女子B「いやー!今こっち見た!」 女子C「大変!B子が犯されちゃう!」 谷口「ち、違うって!これはそういうんじゃなくて…」 女子ブス「イヤアアアアアア!谷口がしゃべったわあ!」 女子デブ「妊娠しちゃううう!」 キムリン「ФжЯёнмЧЗψφДКИИ」 谷口「…………ちくしょう…」 完 注:作者さんの中では、谷口の夢の内容はエンドレスエイトの連続する夏休みの15497回目だそうです。
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第 三 章 太陽の光で目が覚めた。 微かににせせらぎが聞こえる。どうやら俺は眠っていたようだ。 太陽の位置からすると、昼前か昼過ぎあたりだろうか。 ちょうど木影になっていた俺の顔に日光が差してきていた。 季節はどうやら真冬のようだった。一月か二月か。空気が肌を刺すように冷たい。 ――ここはどこだ? 起き上がり、辺りを見回してみる。少し頭が痛む。 小川と遊歩道に挟まれた、並木が植えられている芝生の上に俺はいた。 公園のようだった。見慣れない風景。いや、見慣れないというのとは何か違う。 奇妙な感覚。 ――今はいつだ? 腕時計を見た。それは二月二十四日の午後二時五分を表示していた。 俺の格好は春先を思わせるような軽装だった。 真夏の格好よりは幾分マシとは思ったが、やはり少々寒さが身にしみる。 何だ、この違和感は? そうして俺は、場所や時間よりも重大な疑問に思い当たった。 ――俺は誰だ? 思い出せなかった。 冷静に考えてみたところ、どうやら俺は記憶喪失という状況におかれているようだった。 俺は目の前にあった遊歩道のベンチに腰掛け、所持品を調べてみた。 あったのは財布と手帳。 身につけているものはデジタル表示の腕時計とサングラス、それに季節外れの衣服。 財布に何か手がかりになるものが入っていないかと調べてみたが、俺の身元を確認出来るものは何ひとつない。 手帳も同様だった。 手帳のスケジュール欄の書き込みは九月十三日で始まり十月二十日で終わっていた。 それはそもそも予定ですらなく、以下のような意味不明の単なるメモ書きだった。 9月13日 29D03H48M 9月14日 29D03H57M 9月15日 29D04H08M 335×24×60÷20=24120 9月16日 29D04H18M ・ ・ 10月14日 01Y01M10D 10月15日 01Y01M12D ・ ・ 10月20日 06Y00M05D こういった書き込みが十月二十日まで一日も欠かさず毎日続いていて、十月二十一日の日付には赤い丸印が記されていた。それ以降の日付は空白だった。 一体何だこれは? アルファベットはおそらく年月日や時分を表していて、数式にも24×60という数字があ ることから、何か時間に関係することを書き留めているように思える。 これは俺が書いたものなのか? 試しに同じ字を手帳に書き込んでみた。同じ筆跡。俺の字に間違いないようだった。 せめて、日記のようなものでも書いておいてくれればありがたいのだが、どうも俺にはそう いう習慣はないらしい。 手帳のページを繰ると、後半のメモ欄に携帯電話の番号と住所が書かれてあった。 その番号も住所も、俺には全く心当たりはなかった。 俺は今まで何をやっていたんだ? 何となくだが、俺には何かしなくてはいけない重要なことがあったように思える。 だが、それは何だ? 足元を眺めながら俺はしばらく考えてみた。三十分ほどそうしていたが、思い出せることは何もなかった。 とにかく今の俺にとって必要なのは、何でもいいから情報を仕入れることだ。 公園を出てしばらく歩いた俺はコンビニエンスストアを見つけ、新聞を買ってみた。 日付はやはり二月二十四日。 手帳のスケジュールの日から、およそ四ヶ月が経過している。 手帳を四ヶ月間全く記入しなかったということだろうか。 それまでの日付は一日の抜けもなく毎日埋っているにもかかわらず。 だが、俺が四ヶ月以上記憶とともに意識を失っていたという推測はさらにありえないことだった。 一体どうなってんだ? 新聞の記事を読んでも特に手がかりになるようなものは見出せなかった。記事のほとんどはあまり理解出来なかったしな。俺の頭はどうもあまり出来がよくないらしい。 そしてまた途方に暮れた。 公衆電話を見つけ、手帳に記されていた番号に架けてみたが、現在その番号は使われていないというメッセージが返ってくるだけだった。 寒さに耐えかねた俺は、商店街の洋服店で適当な上着を買い、見覚えのある風景でもないかと、周辺を歩き回った。 商店街を出て二時間ほど歩いただろうか。辺りが暗くなり始めている。 腕時計の数字は夕方の五時過ぎを表していた。 行くべきところも解らず、ただ呆然と歩いていた俺は、いつしか人気のないところに迷い込んでいた。 いや、迷い込むという表現は適切じゃないな。 今の俺には知っている場所がどこにもなく、つまり俺は常に迷っているのだ。 不意に、右奥の路地の方から、口論をしているような声が聞こえた。 路地を覗いてみる。数人の男と、中学生と思われる長髪の少女がそこにいた。 少女の進路前方を塞ぐ男たち。三人だ。しばらく何かを言い合った後、男の一人が少女の肩を強引に掴み、少女を拘束しようとする。 少女は素早い動作でその男の手首を取ると、脚の付け根まで届こうかという長髪がふわりと揺れた次の瞬間には、男が少女の後方に吹っ飛んでいた。合気術かあるいは柔術か、どちらにせよ凄まじい身のこなしだ。 だが、投げられた男も他の二人も、それでひるむような気配はなかった。 じりじりと少女との間合いを詰める。 俺は急いで元の道に戻り、置かれてあったゴミバケツを見つけるとそれを左脇に抱えた。 路地まで助走をつけ、角を曲がる遠心力も使って、それを男たちに思いっきり投げつけた。 空中で蓋が取れ、逆さになったゴミバケツは内容物を散乱させながら放物線を描く。 蓋が手前の一人に、本体が奥にいた一人に命中。ゴミは三人に――厳密に言えば少女を含む四人に――漏れなく降り注いだ。我ながら見事なスローイングだ。 動きの止まった男三人がこちらを睨んだ。俺はなんとなくだがリーダー格と思しき男に見当をつけ、そいつを睨みかえした。どうやら俺は案外胆の据わったやつらしい。 男たちが襲い掛かってくることを予想して身構えた俺だったが、男たちは顔を見合わせると、俺とは逆方向に走り去っていった。 「助かったよ、ほんとありがとっ! あははっ、臭うなこのゴミっ!」 少女はゴミを払い落としながら笑っていた。今さっきあんなことがあったというのに、全く 動じていないようだ。俺以上に胆が据わっている。 「今のは知り合いか何かか?」 「いやっ、全然っ」 「じゃあ、なんだってあんな目に遭ってたんだ?」 「実はねっ、前にもあったんだよこういうこと。でもさすがに今のは危なかったよ。男三人がかりはあたしもツラいからさっ」 襲われやすい体質か何かなのか? などと思っている俺に少女が言った。 「ほんと助かったよっ! お礼がしたいんだけど、時間はあるっ?」 時間があるのかどうかは実際のところ俺自身にも解らなかったが、俺には他に行くべき場所も思い当たらず、少し迷ったがそれに応えることにした。 少女の家に案内された俺は、ただただ驚いた。門から家が見えない。左右を見回すと塀が遠近法に従って延々と続いていた。ここはどこかの武家屋敷か何かなのか? 一体どんな悪いことをすればこんな家に住めるんだろう、などと考えていた俺に既視感のような不思議な感覚が襲ってきた。そしてそれは一瞬で過ぎ去っていった。 残念なことに、やはり思い出せることは何もなかった。 家屋の玄関前で、当主と名乗る初老の男性が向かえてくれた。 「娘から事情は聞きました。危ないところを助けていただいたそうで、私からも礼を言います。本当にありがとうございました。こんなところでは何ですから、とにかく中へ」 この屋敷から察するに、さっきのはおそらく誘拐未遂事件か何かだったのだろう。 俺は身代金の額を想像しようとしたが、途方もない数字になりそうですぐさまあきらめた。 屋敷の応接に通された。家屋は日本風だがこの部屋は洋風の造りだった。 当然ながら、一般家庭のリビングを三つか四つばかり足したくらいに広い。 ゴテゴテとした飾りや置物などは一切なく、一枚の絵が掛けられているだけのシンプルな部屋。そうしたものがなくともこの部屋が充分に手のかかったものであることは一目で解る。なんと言うか、滲み出る品格のようなものがこの部屋からは感じ取れた。 純和風の衣服に着替えた少女は腕や髪を鼻に当て、匂いを調べていた。あれだけ髪が長いとさぞかし洗うのも大変だったろうな。ゴミバケツを投げつけたのはさすがにやりすぎだったか。 「失礼ですが、この近くにお住まいの方ですか?」 当主からの質問だった。俺の服装からそう思ったのだろうか。上着を買ったとはいえいささか季節外れの感は否めない。家の周りの散歩か、あるいは近所に買い物にでも行くような格好に違いなかった。 だが、俺は少し考えて旅行者ということにしておいた。 記憶を失っているという説明をすんなりと信じてもらえるようには思えなかったし、近所の話題を振られても困る。 今思えば俺は記憶を失ったことについてかなり楽観的に考えていたのだろう。すぐにでも記憶は戻るだろうと。 少女はニコニコしながら俺の返答を聞いていた。 「でしたら、もしご都合がよろしければしばらく当家に滞在されてはいかがですか。海側や少し西側の方に行けば、見るものもたくさんありますよ」 これは願ってもないことだった。 俺には行くべきところも解らなければ、帰るべきところも解らないのだ。 「そうしなよっ、お兄ちゃん!」 少女の言葉が、なぜか心地よく響いた。 不思議な懐かさとでも言おうか、そんな暖みがあった。 俺はありがたくその提案に甘えることにした。 そうして俺は、詳しくは書かないが今までに食べたこともないであろう豪華な夕食をご馳走になり、詳しくは書かないが小振りの銭湯としてすぐにでも営業出来そうな客用の浴室で疲れを取り、詳しくは書かないが老舗の高級旅館に泊まるときっとこんな部屋なんだろうという客間に案内された。 しばらく今日一日のことを振り返っていると、少女がやってきた。 「お茶持ってきたよっ!」 この娘は、一日中こんなにテンションが高いのか? 「いやー、おやっさんにこってり絞られちゃったさっ。いつもはあんな時間にあんな道通らないんだけどねっ。今日は学校でやることがあって特別なのだっ!」 「やっぱりあれは誘拐とかそういう類のものだったのか?」 少女は俺の持っていたサングラスに興味を示し、手渡したそれを眺めながら話しを続けた。 「多分ねっ。ここいらも物騒になったもんだよ。前にもあったってのは三ヶ月くらい前。ほんと危なっかしくておちおち学校にも行けやしないよっ」 会話の内容とはうらはらに、少女が楽しそうにしているのは気のせいか? 「まあそんなこと気にしすぎてもしょうがないっさ!」 当主も少女も、本当に気持ちのいい人たちだった。 俺は自分が嘘をついていることに関して、申し訳ない気分になっていた。 少女はしばらく話したあと、また明日と言って席を立った。 去り際に、 「お兄ちゃんって何だかちょっと変わった人だねっ」 と言い残して。 彼女は俺にも解らない何かを見抜いたのだろうか? それについてしばらく考えてみたが、早々にあきらめて俺は床についた。さすがに今日は色々と疲れた。 雪が舞っている。俺はベンチに座っている。見覚えのない風景。 辺りを見回す。遊歩道。ベンチ。外灯。柵に囲まれた茂み。 どこからか少女の泣き声を耳にした。 声を頼りに歩く。少し開けた場所に出た。ブランコや滑り台がある。 物憂げにうつむいた少女が一人、ブランコに腰掛けている。 少女は泣いてはいない。にもかかわらず泣き声はまだ聞こえている。 わずかにブランコを揺らしながら、足元を見つめる少女。 何かをじっと考えているようだ。 やがて静止するブランコ。 少女は静かに立ち上がると、うつむいたまま立ち去っていく。 目が覚めた。奇妙な夢だった。見覚えのない風景。公園だろうか。 あれはこの家の少女ではなかった。俺の失われた記憶に関係しているのだろうか。 朝食の後、俺は初老の当主に、少し時間をいただけないかと願い出た。 話したいことがあると。 あまり長くは時間を取れませんが、という前提で当主の書斎に通された俺は、これから少し奇異な話をしますが驚かないで聞いて欲しい、と前置きをしたうえで自分の身の上を正直に話した。 昨日の昼過ぎに、川沿いの公園で目を覚ましたこと。 そこがどこなのか、今がいつなのか、自分が誰なのかすら解らなかったこと。 自分の所持品から、自分の身元を調べようとしたが、全く手がかりがなかったこと。 手帳に電話番号と住所が書いてあったが、電話は繋がらず、その住所にも全く心当たりがなかったこと。 しばらく当てもなく歩いていると、偶然少女と男たちが争っている場面に出くわしたこと。 昨日はなんとなく記憶喪失であることを言わないほうがいいように思え、嘘をついたこと。 そして、自分には何かやらなくてはならないことがあったと思えること。 「それが事実だとしたら興味深い話ですな」 当主はにこやかに話した。 「こうして今話しているのも何かの縁。もしよろしければあなたの身元調査に協力させていただきますが。私もそれなりの情報網を持っておりますので、きっとお役に立てると思います」 「今の私には頼るものが何もありません。恐縮ですが、お言葉に甘えさせてください」 「ええ、ええ。どうかお気になさらずに」 当主は一呼吸おいて、 「では、まず私にも所持品を確認させていただきたいのですが。包み隠さずに申し上げますと、身元の解らない人物を当家に滞在させるとなると、こちらとしてもそれなりに調べさせていただくことがあります。ですがあくまで形式的なものだと思ってください。私もこういう立場の人間ですのでそれなりに人を見抜く目を持っています。私にはあなたが何かを企むような人間には思えませんので」 当主の要求は当然のことだ。早速俺は、財布、手帳、それに腕時計を差し出した。 しばらくの間、それらを検分した当主の見立てによれば、財布、手帳に関してはありふれた市販品で、特に手がかりになるようなものは見当たらない。 手帳に書かれていることも、電話番号と住所を除けば特に身元の解るようなことは書かれてはいない。 腕時計は一般的なクォーツ時計ではなく電波時計であるが、数万円あれば買える市販品とのことだった。製造番号の刻印などはなく、やはり手がかりにはなりそうにない。 そして当主は、疑問を正直に語った。 「あなたの所持品には不自然さが残ります。あなたは何らかの理由で敢えて自らの身元が所持品から判断されないようにしていると見受けられます」 それに関しては俺も同じ意見だった。大抵の場合、財布の中には身元が判断出来るようなものが必ず入っているはずだ。でないと、ビデオテープ一本借りれやしない。 「もしかしたら、あなたは諜報活動のようなことを生業とする方なのかもしれませんね」 当主は冗談っぽく言った。 仮にそうだとしても悪いようにはしませんので、記憶が戻られたら必ずお知らせください、とも。 「ひとまず電話番号と住所の線で調査してみます。あなたは調査が終わるまでは遠慮なく当家にご滞在ください」 「重ね重ねお礼申し上げます」 俺は深々と頭を下げた。 「いえいえ、もとはと言えば、娘を救っていただいた恩がありますし。それとあなたが記憶喪失であることを家人には話しておきたいのですが、よろしいですかな?」 「ええ、構いません」 ひとまず、俺は当面の宿を確保することが出来て、胸をなでおろした。 その日は当主の了解を得てまた周辺を歩き回った。 だが今日も手がかりは何も得られなかった。見知らぬ街並み、見知らぬ人々。 屋敷に戻った俺は、これからお世話になる身で客間を使わせていただくのは恐縮なので、出来れば別の部屋に移してもらえないかと当主に頼んだ。 広すぎる部屋は今の俺の身分ではなんとも落ち着かなかった。 「そうおっしゃるのであれば、こちらは全く構いませんよ」 当主は快諾し、俺に離れの部屋を用意してくれた。 「この部屋は先代が時々使っていた部屋でして」 俺がいかにも恐縮しきりなのを気の毒に思ったのか、当主は、 「もしよろしければ、ご滞在のあいだ娘の学校への送り迎えをしていただけると誠にありがたいのですが。いかがでしょうか?」 と提案してくれた。 俺は、是非そうさせてくださいと即答した。断る理由など欠片もない。 「やっほーっ! お兄ちゃん記憶喪失なんだってねっ。どおりでおかしいと思ったさっ!」 当主が去ってしばらく後、今度は少女がやってきた。 「俺におかしなところなんてあったか?」 「だってお兄ちゃんの言葉って、アクセントとかがうちらと一緒じゃない。明らかにこの地方の言葉だよ。それで旅行者ってのは不自然さっ!」 なるほど、そう言われてみれば確かにその通りだった。実に頭のいい少女だ。 だとすれば、やはり俺はこの近辺に住んでいたのだろうか。 ところで、君の言葉は周りの人とはかなり違うと思うぞ。 「あははっ、そうかいっ?」 あいかわらず、屈託のない笑顔。 「でも、おかしなのはそれだけじゃないんだけどねっ。それは記憶が戻ったらまた聞かせてもらうよっ」 少女にはまだ何か含むところがあるらしい。 「じゃあ、明日からよろしくねっ!」 次の日から、俺は少女とともに登校し、記憶を取り戻すために街中を散策し、少女とともに下校するという日々を過ごした。 「あー、お兄ちゃん、読みたい本があるから、悪いけどお迎えのときまでに買っておいてくれないっかな?」 「今日は、ちょっと別の道で帰りたいんだけど、大丈夫っかな?」 「スモークチーズ買っておいてくれないっかな? あたしの大好物なんだっ!」 「昨日のスモークチーズより別の店の方が美味しいから、今日はちょっと遠出してもらっていいかなっ?」 と、俺に色々と注文をつけてくれた。 おそらく彼女なりに俺を色々なところに出向かせて、少しでも記憶を思い出せるきっかけになるようにと考えてくれているのだろう。 単なるお使い要員なのか、スモークチーズにうるさいだけかもしれないが。 そして、結局のところ俺は記憶を取り戻す糸口すら全くつかめなかった。 また夢を見た。数日前と同じ、雪の舞う公園。 どこからか聞こえてくる少女の泣き声。ブランコに佇む少女。 ある日の朝食後、当主に呼ばれた。調査の結果が出たということだった。 「結論から申し上げますと、芳しくありませんでした。まず電話番号ですが、どうも今までに一度も使われていない番号のようです。あれは電話番号ではなくて何か別の意味を持つものかもしれませんね」 電話番号に似せた暗号か何かということだろうか。 俺はやはりスパイとかそういった職業の人間なんだろうか。 「住所は実在しましたが、あなたとの関連性は全く見出せませんでした。住人の家族、親戚だけでなく、友人や知り合い関係なども洗ってみましたが、行方不明者や旅行者あるいはこの近辺に住んでいる者、つまりあなたに該当しそうな人ですな、そういった方は見つけられませんでした」 当主は残念そうに首を振り、 「これであなたの所持品からの調査の線は断たれたということになります」 俺は率直な疑問を率直に訊いた。 「俺はいつまでここにいてよいのでしょうか?」 「実は、娘を誘拐しようとした連中がほぼ特定出来まして。ですがまだ確証は得られていない状態で、それが解るまでは娘も狙われ続けるということになります。よろしければ、しばらくの間は娘のボディーガードを続けていただけるとありがたいのですが。その後のことはまたそのときに考えましょう」 「申し訳ありません。記憶が戻りましたらいつか必ずお礼をさせていただきます」 「いえいえ、こちらとしても大変助かっておりますので。娘もあなたにはよくなついているようですし。実を言うとこれまでも何度かボディーガードを雇おうとしたことはあったのですが、いつも娘に断られて困っていたものですから」 お気遣い痛み入ります。俺は頭を深々と下げて、書斎を後にした。 もしこのまま記憶が戻らなければ、いずれこの家を出なければならないだろう。 いつまでも当主の好意に甘えるわけにもいかない。そうなれば俺は自力で生活の手段を考えながら記憶を取り戻す努力をしなければならない。 俺が自由に使える時間はあまり残されていないだろう。 俺は、あの奇妙な夢にかけてみることにした。 書店で近辺の地図を買い、公園を調べ、印を書きみ、しばらくの間それらを重点的に廻ってみることにした。 遊歩道。ベンチ。外灯。柵に囲まれた茂み。そしてブランコ。 どこの公園にもあるようで、しかし夢の情景を満たしているものはなかなか見つからない。 何よりも、夢で見た風景である。それを鮮明に思い出せるはずもない。 この近辺の公園だという保障はどこにもなかった。だが、俺にはこれ以外に記憶を取り戻すための手がかりは何一つないのだ。 三日間かけて、俺は地図上の公園全てに足を運び、さらに元の地図を中心として周囲八箇所の地図をあらたに買い求め、二週間かけてそれらを踏破した。 だが、結局俺の夢に該当する公園は一つも見つからなかった。 もしかしたら見落としがあったのかもしれない。 あるいは、ここよりもっと離れた場所にある公園なのかもしれない。 俺は途方に暮れていた。何しろ公園が本当に俺の記憶を呼び覚ますためのきっかけになるのかどうかすら解らないのだ。 俺がほとんど諦めかけていた頃、それは起こった。 ある日の昼過ぎ。俺は私鉄の駅前にいた。既にこの周辺には一度足を運んでいる。 駅前の道沿いには商店が立ち並び、北側には豪華そうなマンションが見て取れる。 俺はここ数日の間、念のためにと幼稚園や小学校に付随しているような公園を探し歩き、この日の午前中にそれら全てを調べ終わったところだった。 もはや打つべき手は何も思いつかなかった。 何の意図もなく予感もないまま、線路沿いの通りから人気のない路地に入った。 そして角を曲がってすぐのところにそれはあった。 「あれ……、こんなとこに公園なんてあったっけか?」 疲れのあまり思わず独り言が出る。 既に肉体的にも精神的にも疲労はピークに達していた。 地図と照合する。載っていない。公園の造りから、比較的新しく出来た公園のように思えた。 やれやれ、新しい地図を買ってもう一度洗いなおす必要があるかもな。 俺は大した期待もなくその公園に入った。 遊歩道、ベンチ、街灯の雰囲気などが夢の場所に似ているように思えた。 だがなにしろ狭い公園だった。ブランコや滑り台がないのは一目で解る。 俺はベンチに腰掛け、頭を抱えながらこれからのことを考えていた。 何も思い浮かばなかった。そして俺はいつの間にか眠っていた。 夢を見た。いつもの公園。雪が舞っている。 少女の泣き声とともに、ブランコの音がどこからか聞こえてくる…… 目を覚ました。薄暗がりの公園には外灯の明かりが点っている。 寒い。雪が降り始めていた。 山側から吹き降ろす風が頬を冷やす。 どこからか少女の泣き声が聞こえる。 ブランコの音が鳴り続けている。 待て? なんだって? 泣き声? ブランコ? あらためて耳を澄ませる。夢の続きでも幻聴でもない。 それは微かではあるが、確かに聞こえる。 俺はブランコの音を頼りに走った。 その公園は、樹木が植えられている茂みを挟んで、二箇所にエリアが分かれていたのだ。俺が寝ていたベンチがある一画とは反対側に、確かにブランコと滑り台が置かれていた。 そして、ついに俺はブランコに座る憂鬱げな少女を発見した。 夢のとおり、彼女は泣いていない。だが泣き声は依然として聞こえてくる。 俺の姿に気づいたのか、少女は、 「あんた、さっきベンチで寝てた人でしょ。こんなとこで昼間から居眠りなんて、大人ってのも随分暇なものなのね」 随分と口の悪いガキだな、そう思いながらも俺は話しかけた。 「お前こそ、こんなとこで一人で何やってんだ?」 しかし、そいつは俺の問いを無視して言った。 「あんたどう思う? 世界ってつまらないものだと思わない? あたしはもうこんな世界うんざりよ。誰も私の話なんか聞いちゃいないわ」 お前こそ俺の話を聞いちゃいないだろうが。 「どうしたんだ? 家か学校で何かあったのか?」 「あんたは……自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在なのか自覚したことある?」 何を言い出すんだ、こいつは? 「あたしね、この前野球場に行ったの。家族に連れられて……。あたしは野球なんかには興味ないんだけど。でも着いてみて驚いた……」 突然俺は、頭の中を揺さぶられるような違和感を覚えた。 「……日本の人間が残らずこの空間に集まってるんじゃないかと思った……」 誰かが俺の頭の中で、何かを叫んでいる。 「……実はこんなの、日本全体で言えばほんの一部に過ぎないんだって……」 少女は話を続ける。頭の中の叫びは次第に大きくなり、はっきり感じ取れるようになっていた。 言葉の主は繰り返していた。『思い出せ』と。 「……世の中にこれだけ人がいたら、その中にはちっとも普通じゃなく面白い人生を送ってる人だってきっといるわ。でもそれがあたしじゃないのはなぜ?」 少女は一呼吸置いて、俺に質問を投げかけた。 「あんた、宇宙人っていると思う?」 唐突に頭の中に一人の少女の顔が浮かんだ。短髪の、無表情で儚げな印象を与える少女。 「未来人は? 超能力者は?」 短髪の少女の隣に、無邪気に微笑む栗色の髪の美少女と、爽やかに如才なく微笑む美少年の二人が加わった。 思い出せ、思い出せ。 あらためて俺は目の前の少女に目をやった。 腰まで届く、長くて真っ直ぐな黒髪、それにカチューシャ。 意思の強そうな、大きくて黒い瞳。 俺は何かを思い出そうとしている。 「お前の……、名前を教えてもらっていいか?」 「そんなこと聞いてどうすんのよ」 俺の真剣な表情を見てあきらめたのか、少女は言った。 「まあいいけど。あたしの名前は、涼宮……」 俺は無意識に立ち上がって、叫んでいた。 「ハルヒ!」 ハルヒはブランコから立ち上がり、鋭い眼光でもって俺を睨みつけた。 「ちょっと……なんであんたがあたしの名前知ってるのよ?」 俺はその問いには答えず、興奮しながら続けた。 「宇宙人? そんなのは山ほど知ってるぞ。幽霊みたいにネットワークやらシリコンやらそういうのにとり憑く奴だっている」 いきなり何を言い出すのか、という表情で俺を見つめるハルヒ。 おそらくさっきの俺の表情がこんなだったに違いない。 「未来人? ありふれてる。現代人よりはるかに多いぞ。今より未来に生きてる奴らはみんな未来人だ」 ハルヒは呆気に取られていたが、そんなことはお構いなしに俺は続けた。 「超能力者? いくらでもいるぞ。奇妙な集団を作って奇妙な空間で奇妙な玉になってるような奴らがな」 ハルヒは呆れを通り越して訝しげな表情でこちらを見ていた。 俺は言った。ハルヒの目をじっと見据えて。 「いいか、よく聞けハルヒ。いずれお前はそういった連中の中心になって、好き放題、勝手気ままな人生を送るんだ。この地球、いや全宇宙の中でもそんなことが出来るのはお前だけだ」 ハルヒは目を見開らき、あらためて俺の表情をうかがっていた。 いつの間にか泣き声は聞こえなくなっている。 「だから周りのことなんか気にすんな。お前はお前が信じる道をただひたすら突き進めばいい。しばらく辛い時期があるかもしれんが、俺が保障する。お前は絶対に幸せになる。だから頑張って生きてくれ」 ハルヒは再び顔をうつむかせ、何かを考え始めた。 しばらくそうした後ハルヒは勢いよく俺を仰ぎ見た。 「よくわかんないけど覚えとくわ!」 そこには、俺が英語の授業中に初めて見たときと同じ、ハルヒの灼熱の笑顔があった。やっぱりお前にはその表情が一番よく似合う。 「話聞いてくれてありがと!」 そう言い残すと、ハルヒは俺がよく知る短距離走スタートダッシュの勢いで走り去った。 俺はハルヒの後姿が見えなくなるまで立ちつくしていた。 ハルヒよ、頑張って生きてくれ。 俺のためにも。 こうして、俺は全てを思い出した。 光陽園駅前公園から鶴屋家に戻った俺は、重要な話があると言って当主に時間を取ってもらった。 これからかなり奇異な話をしますが驚かないで聞いて欲しい、と前置きをしたうえで、俺は 話し始めた。 記憶が戻ったこと。 自分は十年先からやってきた未来人であり、詳細は明かせないがこの時空にいる俺はまだ小学生であること。 涼宮ハルヒという存在とその能力のこと。 宇宙規模的存在とそのインタフェース端末のこと。 俺よりはるか未来にいる未来人たちのこと。 ハルヒにより生み出される閉鎖空間、超能力者とその役割についてのこと。 そしてこれから自分はそれら超能力者を集めた機関を作らなければならないこと。 話し終えるのにざっと二時間はかかった。 俺はハルヒを救うために行動していることについては話さなかった。 それを説明するためには、情報統合思念体の企みについて話さなければならず、そうすると、俺がやつらと敵対する立場であることも明らかにしなくてはならない。 その事実を語ることについて俺は、慎重にならざるをえなかった。 結局のところ俺が当主に話したのは、俺が未来人であることに加え、俺が高校一年の時点で既に知っていた知識と、機関を作る必要があるということである。 当主は怒り出すこともなく、我慢強く話を聞いてくれていたが、その表情には当然の反応として明らかな困惑の色が見えていた。 「あなたの目に嘘は感じられません。それならば、あの電話番号についても納得がいきますからな。ですが、何か確証になるものがあるとよいのですが」 今の俺にとって、この電波話を信じてもらうのにさしたる苦労は必要なかった。 俺は当主の目の前で時間移動をおこない、三日後の新聞を入手して、それを当主に手渡した。当主は三日後を待つまでもなく、その場で新聞の内容にざっと目を通しただけで、俺が未来人であること、そして俺の話が全て真実であることを確信したようだった。 当主とは今の話を機密事項としてお互い他人に一切口外しない約束を取り交わた。 そして、当主は俺の機関立ち上げに全面的に協力する意向であること、詳細な計画を立てるためになるべく明日以降時間を取れるように努力することを表明してくれた。 結局俺は引き続き鶴屋家にお世話になることとなってしまった。 もはや俺には下げる頭も残っていない。 「いえいえ、私どもとしても地球滅亡の危機は避けたいですからな」 当主はどこまでも気立てのいい人物だった。そういうところは確実に鶴屋さんに受け継がれている。 「お兄ちゃん、記憶が戻ったんだってねっ。おめでとっ!」 離れに戻った俺に、将来の鶴屋さん――まあ今も鶴屋さんなのだが――がいつものテンションでお茶を持ってきてくれた。 妹からお兄ちゃんと呼ばれることは長きにわたる俺の念願だったのだが、それがまさか鶴屋さんによって実現されるとは。 「ありがとよ」 俺は笑顔で応えた。 「お兄ちゃん、名前なんていうのっ?」 俺は既定事項に則るならばこの名前を告げるしかないと思い、素直にそれに従った。 「ジョン・スミスだ」 「あははっ! それってどういう冗談っ?」 実に愉快そうに鶴屋さんは笑った。 「そういうことにしておいてくれ」 「まあいいさっ! でさっ、前に言ってたおかしなことだけど、聞いていいっかな?」 「ああ、なんでも聞いてくれ」 俺はお兄ちゃんと呼ばれたこともあって、とても気を良くしていて、かつ気を大きくしてい た。そして、俺は明らかに油断していた。 「ジョン兄ちゃんって、もしかして未来の人っ?」 お茶を含んでいたら、それは間違いなく俺の口から霧散していたはずだ。またしても、そして前回以上に俺は腰を抜かした。動揺が隠せない。 「ま、待て、なんだってそういう風に思うんだ」 満面の笑みを浮かべながら鶴屋さんは言った。 「だってお兄ちゃんのサングラス、割と有名なブランドだけど、それって今年の夏に初めて出る予定のモデルだよっ?」 参った。俺が数週間かけて、まさしく偶然とも僥倖とも言える奇跡で得た真実を、鶴屋さんは俺と初めて会った日からお見通しだったとは……。 「あー、ええとだな……」 考えながら話すのは未だに得意ではない。 「俺にはその、サングラスのメーカーに知り合いがいて、」 鶴屋さんが興味深かそうに俺を眺めている。 「……それでだな、そう、たまたま運良く発売前の試作品を譲ってもらったんだよ、これが」 「へぇーっ」 鶴屋さんの表情はとても楽しげだった。 「でもあのサングラス、随分とくたびれてたように見えたけど」 確かに……ハルヒにプレゼントされて以来、ロクに手入れもしてなかったからな。 そして、俺はやはりこの方を騙し通せるほどの才覚が自分にはないであろうという事実を受け入れ、うなだれながら白状した。 「これは君のお父さんにしか話してないことだ。君のお父さんも含めて絶対に誰にも内緒にしておいてほしい」 「わかってるよっ! 今までもこれからも誰にも言わないさっ。こんなこと他の誰も信じちゃ くれないしねっ!」 こうして俺と当主との約束は、この俺によって一時間を待たずして反故にされたのだった。 俺は情報統合思念体の統括者である老人から逃れるために時間移動し、その直前に老人によって記憶を奪われたのだろう。 ここはあのときから六年、つまり元の時代から十年半ほど遡った過去だ。 俺は最大でも六年間の時間遡行しか出来なかった。つまり少年が言っていた飛び石的時間移動がいつの間にか可能になっていたのだ。 これからのことは当主が言ってくれたとおり、明日からじっくり考えよう。 俺は床につき、すぐに眠りに落ちた。 それも束の間、俺は体全体が大きく揺さぶられる感覚に飛び起きた。 俺が幼い頃に経験した大地震、それを思い出させる強烈な衝撃だった。 だが冷静に辺りを見回してみると、おかしなことに何一つ揺れているものはない。 そして見たところ俺の体にも揺れは生じていない。 しかし俺は確かに激しい揺れを感じている。 何が起こっているのか、ようやく俺は理解した。時空振動だ。それもかなり特大の。 そして理由はすぐに思い当たった。 ハルヒによる最初の情報爆発が今まさにおこなわれている。 未来からでも観測出来た、という朝比奈さんの言葉を思い出す。 今まさに時空振の強大さを俺自身が感じていた。 おそらく今日の俺とハルヒとの会話が、この情報爆発を引き起こしたのだ。 そして驚くべきことに、つまり俺は、六年間の時間移動によりハルヒが作り出したという時 間断層を突破していたのだ。 あの老人ですらそれは不可能なことだと言っていた。 ハルヒは俺のために特別な抜け道を作ってくれていたのだろうか? 老人はあのとき、二度と情報爆発は起こらないだろうと言った。 超自然的かつ奇跡的な確率でおこなわれたことだと。 そしてそれは俺とハルヒの出会いにより再び引き起こされた。 もし運命というものが存在するのなら、俺はそれを信じてみてもいいと思った。 いや、今の俺にはそれを信じる以外に道はない。 第四章
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「おかえりなさいませ、ご主人様」 夕焼けで学校が赤く染まる頃、学校にようやくたどり着いた俺を待っていたのは、変態野郎からの気色悪い発言だった。 あまりの不気味さに、俺はその言葉を発した古泉に銃を向けたぐらいだ。 古泉は困った顔を浮かべて両手をあげて、 「失礼しました。いろいろつらい目にあったようですから、癒しを提供して差し上げようかと思っただけです」 「癒されるどころか、殺意が生まれたぞ」 俺はあきれた口調で、銃をおろす。まあ、本気で撃つつもりもなかったけどな。どうせなら朝比奈さんを連れて……う。 あの後、俺たちは北山公園を南下して無人の光陽園学院に入ったが、敵に動きが悟られないように、 そのまま数時間そこで待機していた。もちろんハルヒには連絡を入れておいたが。 俺はしばらく学校内を見回していたが、古泉が勝手に解説を始める。 「北高の方はほとんど無傷ですね。敵歩兵の襲撃もありません。涼宮さんに作戦失敗を印象づけるには、 北山公園に僕らが入ったのと同時に学校を襲うのがもっとも効果的だと思いますが、 どうして敵はその手を使わなかったんでしょうか。僕が相手の立場なら必ずそのようにしますがね。 ま、大体察しはつきますが」 「しらねえし、今はそんなことを考える気分でもないな」 古泉を無視しつつ、俺は学校内を歩き回る。どこにいるんだ? ふと、俺の目に学校の隅に並べられている黒い物体が目に入った。見るのもいやになるその形状は、 明らかに死体袋だった。あの中に谷口も入れられているのだろうか。 「死者52名、負傷者13名。これが北山公園攻略作戦で出て犠牲です。 死者よりも負傷者が少ないという事態が、今の我々の力のなさの現われかもしれません」 やや声のトーンを起こした古泉が言う。俺の小隊も合計16人の命が失われた。 鶴屋さん小隊なんて生き残った方が少ないし、ハルヒや古泉の小隊の損害もかなりあるはずだ。 と、そこでスマイル野郎が重苦しくなった空気を変えるようにわざとらしくぽんと手を叩き、 「ああ、なるほど。涼宮さんを探しているのですね。それなら、前線基地に詰めていますから、学校にはいませんよ」 「なんだと?」 古泉に向けた俺の表情は、鏡がないんだから確認しようがないんだが、どうやら抗議めいたものだったらしい。 めずらしくあわてたように、 「いえいえ、僕はきちんと止めましたよ。いつもとは違い、かなり食い下がったつもりです。 涼宮さんと言い争い一歩手前までいくなんて初めてでしたからね。閉鎖空間が発生しないかヒヤヒヤものでした。 しかし、どうやってもあそこにいると言い張りまして。ああなったら、てこでも動かないことは あなたもよくご存じでしょう?」 しかし、何でまた前線基地にいるんだ? 敵の襲撃が予想されるのはわかるが、 総大将がいる必要もないだろうに。 「何となく予想がつきますけどね」 古泉はくくと苦笑し、 「涼宮さんはあなたの帰還を学校でただ待っているなんてしたくなかったんですよ。 ぼーっとしているといろいろ悪いことを考えたりしますからね。何かして気を紛らわせたかったんでしょう。 あとは……」 古泉がちらりと背後を見る。そこには朝比奈さんが相変わらずのナース姿でこちらに走ってきていた。 「鶴屋さんのことを直接言いたくなかったんではないでしょうか。これはあくまでも僕の推測ですけどね」 「キョンく~ん!」 息を切らせて走ってくる朝比奈さんに、俺は激しく逃げ出したい衝動に駆られた。こんな気分は初めてだ。 「よかった……無事だったんですね……!」 感激の涙を浮かべる朝比奈さんに、俺の心臓はきりきりと痛んでしまった。この後、確実に聞かれるんだ。 鶴屋さんのことについて。 「本当に心配したんですよぉ……。学校からはなにも見えなくて、どうなっているのか全然わかりませんでしたから」 「ええ、いろいろありましたが、無事に帰って来れてなによりです」 「あ、あと、鶴屋さんは?」 この言葉とともに、俺は心臓がつかみ出されたのではないかと言うぐらいの痛みが全身に走った。 だが、次に朝比奈さんが言った言葉は予想外のものだった。 「古泉くんから聞いたんですけど、鶴屋さん、足を怪我してどこかの民家に隠れているんですよね? あたしもう心配で心配で……」 俺ははっと古泉の方を振り返ると、ウインクで返してきた。この野郎、しっかりと朝比奈さんに事前に告げておいたのか。 変なところで気が利きやがる。でも助かった。そして、つらいことをいわせちまってすまねえ。 「鶴屋さんは無事ですよ。いつものまま元気です。ただ、ちょっと動くには厳しそうなんで、 ばかげたドンパチが収まるまで隠れていた方が良いと思います。幸い、隠れ家には食料もあるらしく、 3日間隠れるには十分だそうですよ」 「無線とかではなせないんですか? あたし、鶴屋さんの声が聞きたくて」 俺はぐっとうなりそうになったが、ぎりぎりで飲み込む。 「えーあー、無線ですか、あー無線なんですけど、なにぶん学校から離れたところにいる関係で、 あまり連絡できないんですよ。敵に――そう敵に傍受されて発信源を突き止められたらまずいですからね」 「そうなんですか……」 がっくりと肩を落とす朝比奈さん。すみません、本当にすみません……! でも、朝比奈さんはそんな俺の大嘘を信じてくれたのか、 「仕方がないですね。みんな大変なんですから、あたしばっかりわがままは言えませんし」 「3日経てば、また会えますよ。それまでがんばりましょう」 何とか乗り切れたか。こんな嘘は二度とつきたくねえ。 と、朝比奈さんはいつものかわいい癒しの笑顔を浮かべて、 「あ、そういえば、皆さんご飯まだなんじゃないですか? 長門さんがカレーを作ってくれたんです。 ぜひ食べに来てください」 神経が張りつめたままだったせいか気がつかなかった。学校中を覆うカレーのにおいに。 ◇◇◇◇ 「食べて」 食糧配給所になっていた教室で待ちかまえていたのは、迷彩服の上に割烹着を着込んだ長門だった。 これだけ見ると、あの正確無比な砲撃の指揮官とは思えない。ちなみに朝比奈さんは作業があると言って、 またぱたぱたとどこかへ行ってしまった。 「すまん、もらうぞ」 「いただきましょう」 俺は紙製の皿にのったカレーを受け取ると、がつがつとむさぼるように食いついた。 よくよく考えれば、15時間近くなにも食べていない。戦闘中は携帯していた水筒の水ぐらいしか口にできなかったからな。 「おいしいですよ、長門さん」 こんな時まで格好つけたように、優雅にカレーを食する古泉。全くどこまで行っても余裕な奴だぜ。 しかし、長門は大丈夫なのか? 相当疲労もたまっているはずだろ。 「問題ない。身体・精神ともに異常は発生していない」 そうか。それならいいんだが、あまり無理はするなよ。 「今のわたしにできるのはこのくらい。できることをやる。それだけ」 「でも、あきらめるのが少し早すぎるのではありませんか?」 背後から聞こえた最後の台詞は俺でもないし、古泉でもない。どこかで聞き覚えがあるようなと思って振り返ると、 「なぜ、ここにいる」 長門の声。トーンはいつもと変わらないが、内面からにじみ出ている感情は【驚】だとはっきりと見えた。 声の正体はあの喜緑さんだったからだ。生徒会の人間であり、また長門と同じく宇宙的超パワーによって作られた 対有機生命体インターフェース……で良かったんだよな? 北高のセーラー服を纏っているが、 やたらとそれが懐かしく見えるぜ。 「私の空間・存在把握能力で確認した限り、ここには存在していなかったはず」 「この固定空間での時間座標で10分ほど前にこちらに来ました」 ひょうひょうと喜緑さん。ちょっと待て、最初はいなくてさっき来たと言うことは…… 長門はカレーをすくってお玉から手を離し、喜緑さんの元に駆け寄る。 「この空間に干渉する方法を有していると判断した。すぐに提供してほしい」 「残念ながら、それは無理です」 「なぜ」 「外側から必死にアクセスを試みて、本当にミクロなレベルのバグを発見することができました。 ここにはそれを利用して侵入しましたが、現在は改修されています。同じ手で、ここから出ることはできません。 思った以上にこの世界を構築した者は動きが速いです」 喜緑さんの言葉に長門はがっくりと肩を落として――いや、実際には1ミリすら肩を動かしてもいないんだが、 俺にはそう感じた。 「不用意。打開のための機会を逃したのだから」 「すみません。外側から一体どんな世界になっていたのかわからなかったんです。 まさか、こんな得体の知れないものが構築されているとは思いもよりませんでした」 めずらしく非難めいたことを言う長門を、あの生徒会室で見せていたにこにこ顔で受け流す。 「しかし、一つの問題からこの世界に介入することが可能だったのは紛れもない事実です。 なら、まだ別の方法が残されていると思いませんか?」 「…………」 喜緑さんの反論じみた台詞に、長門はただ黙るだけだ。 どのくらいたっただろうか。俺のカレー皿が空になったが、空腹感が埋まるにはほど遠くおかわりがほしいものの、 なんだか気まずい雰囲気の中でそれもできずにどうしたものかと思案し始めたくらいで、 「わかった」 そう返事?を長門はした。さらに続ける。 「協力を要請する。この空間に関しての情報収集及び正常化を行いたいと考えている。 ただし、私一人では効率的とは言えない。状況は悪化の一途をたどっているため短時間で完了する必要がある」 「もちろんです。そのためにここに来たのですから。お互い、意志は別のところにありますが、 現在なすべき目的は一致しています。問題はありません」 なにやら交渉がまとまったらしい。二人は食糧配給所の教室から出て行こうとする。 おいおい、こっちの仕事はどうするんだ? 「するべきことができた。そちらを優先する。現在の仕事は別の人間に変わってもらう。問題ない」 「砲撃の指揮はどうするんだ?」 「そちらは続行する。今持っている情報を精査した中では、私がもっとも的確にそれが行えると判断しているから」 長門の言葉にほっと俺は胸をなで下ろす。あの正確無比な援護射撃がなくなったら、 正直この先やっていく自信もない。しかし、一方でこの非常識世界をぶっ壊してくれるならそうしてほしいとも思うが。 「どちらも行う。状況に応じて切り替えるつもり。その時に最も有効な手段をとる。どちらにしても」 長門は俺の方に振り返り、 「私はあなたを守る」 ◇◇◇◇ さて、なにやら長門が頼もしい事を言ってくれたし、 少しながらこのばかげた戦争状態から脱出できる希望が見えてきたわけだが、 どのみちもうしばらくは俺自身もがんばらなければならないことは確実だ。 そのためにはいろいろとやるべきこともあるだろうが、 「台車でカレーを運搬するのを護衛するのは何か違うんじゃないか?」 「いいじゃないですか。腹が減っては戦はできぬというでしょう。これも生き延びるためです」 俺の誰に言ったわけでもない愚痴を、古泉がいつものスマイル顔で勝手に返信してきた。 今俺たちは、学校から前線基地へ移動中だ。別に散歩しているわけではなく、 2台の台車に乗せたカレー満載な鍋とご飯の詰まった箱を載せて、それを護衛している。 まあ、ストレートに言うとハルヒたちに夕飯を届けている最中というわけだ。 しかし、武装した10人で護衛して運搬するカレーとは一体どれだけの価値があるんだ。 「美味しかったじゃないですか、長門さんのカレー。犠牲までは必要ありませんが、厳重・確実に 涼宮さんたちに届ける価値は十分にあると思いますよ」 「それに関しては別に否定しねえよ」 実際にうまかったしな。腹が減っているからという理由だけではないほどに美味だったぞ。 護衛を担当しているのは、俺と古泉、他北高生徒10名だ。とは言っても、俺と古泉の小隊の生徒はいない。 さすがに疲労の色も濃かったので、今の内に休ませている。国木田もだ。今ここにいるのは、 その辺りをほっつき歩いていた生徒をかき集めて編成している。だんだん気がついてきたが、 生徒一人一人の戦闘における能力は全く同じだ。身体能力も銃の扱いも。そのため、生徒を入れ替えても 大した違和感を感じない。 そんな中、俺と古泉はカレー護衛隊の一番後ろを務めていた。古泉がこの位置を勧めていたのだが、 どうせ何か話したいことがあるんだろ。 「せっかくですし、お話ししたいことがあるんですが」 「……俺にとって有益なら聞いてやる」 「有益ですよ。それも命に関わる話です。ただし、内容はいささか不愉快なものになるかもしれませんが」 気分を害するような話は有益とは言えないんじゃないか? まあ、そんなことはどうでもいいが。 古泉は俺が黙っているのを勝手にOKと解釈したのか、いつもの解説口調で語り始める。 「まず、率直にお伺いしますが、あなたが生き残って鶴屋さんが亡くなった。この違いはなぜ起こったと思いますか?」 「俺は腰を抜かしてとっとと逃げ帰った。鶴屋さんは勇敢に戦い続けた。それだけだろ」 「言葉としては同じですが、意味合いは違うと思いますね」 どういう意味だ。もったいぶらないでくれ。 「敵は最初からあなたと鶴屋さんが植物園まで撤退することを阻止しようとしていなかったんですよ。 だから、あなたは犠牲者は多数でましたが、意外とあっさり戻れています。 これは、敵の目的は涼宮さんに自らの決定した作戦でぼろぼろに逃げ帰ってくる生徒たちの姿を 見せつけようとしていたのではないでしょうか」 「おい待て、それだと鶴屋さんもとっとと逃げれば死ななかったって言う気かよ?」 「率直に言ってしまえば、その通りです」 なんだかむかっ腹が立ってきたぞ。おまえは鶴屋さんの命をかけてやったことを非難するつもりなのか? どうやら俺の内心ボイスが表情に浮かんできていたのか、古泉はあわてて、 「いえ、別に鶴屋さんの判断が間違いだったとは言っていません。逆に、敵から主導権を奪い去ったという点では、 これ以上ないほどの英断だったと思いますね。おかげで敵は一部の作戦を変更する必要までできた」 「公園南部を散らばった鶴屋さん小隊を追いかけ回す必要ができて、さらにロケット弾発射地点を守る必要ができた。 そのくらいなら俺にだってわかる」 「それだけではありません。敵は鶴屋さんを仕留める必要に迫られたんです。 必死にあなたたちを鶴屋さんと合流させなかったのはそれが理由だと考えていますね」 「何だと?」 「敵は涼宮さんに逆らう――そこまで行かなくても反抗する人物なんていないと踏んでいたのでしょう。 見たところ、ある程度は涼宮さんとその周辺の人物の下調べも行っているようですし。 ところが真っ先に鶴屋さんは涼宮さんの指示を拒否して、自らの意志で行動した。 これはこの状況を仕組んだ者にとって脅威であると映るはずです。明らかに予定外の人物ですからね。 だから、あの場で確実に抹殺する必要に迫られた。今後の予定に影響を及ぼさないためにも」 古泉の野郎の言うとおりだ。なんだかだんだん不愉快になってきた。有益な情報はまだか? 「今、これを仕組んだ者はこう考えているでしょう。何とか鶴屋さんは抹殺できた。 ところがどっこい、今度は別の人間が涼宮さんに反抗――それどころかある程度コントロールした。 ならば、次の標的は当然あなたですよ」 古泉の冷静な言葉に俺はぞっとする。突然、周辺の見る目が変わり、その辺りの物陰に敵が潜んでいて、 今にも俺を狙撃しようとしているんじゃないのかという不安が頭の中に埋まり始めた。 「ご安心ください。そんなにあっさりとあなたを仕留めるつもりはないと思いますよ。 なぜなら、あなたは涼宮さんにもっとも影響を与える人物です。敵も扱いは慎重になるでしょう。 下手に傷つけて一気に世界を再構築されたら、元も子もありませんからね」 古泉は俺に向けてウインクしてきやがった。気色悪い。 まあ、しかし、確かに有益な情報だったよ。敵が俺を第一目標としながら、早々に手を出せない状態らしいからな。 うまく利用できるかもしれん。珍しくグッドジョブだ古泉。 「僕はいつもそれなりに良い仕事をしているつもりですよ」 古泉の抗議じみた声を聞いた辺りで、ようやく前線基地の到着した。 ◇◇◇◇ なにやら前線基地ではあわただしいことをやってきた。窓を取り外したり、どこからか持ってきた鉄板を廊下などに 貼り付けている。ハルヒはここを要塞にでもするつもりか? そんな中、ハルヒはトランジスターメガホン片手に指示をとばしまくっていたが、 「くぉらあ! キョン!」 俺の姿を見たとたんに、飛び出してきた。やれやれ、どうしてこいつはこう元気なんだろうね。だが―― 「あんたね! 帰ったなら帰ったと一番にあたしに報告しなさいよ! いい? あたしは総大将にして総指揮官なの! 常に部下の状況を把握しておく必要があるってわけ! 今度報告を怠ったら懲罰房行きだからね!」 怒っているのに、顔は微妙に笑顔というハルヒらしさ満点だ、と普通の人なら思うだろ。 でもな、付き合いが長くなってくると微妙な違いに気づいちまったりするんだ、これが。 ハルヒは運んできた台車上のカレー鍋をのぞきこみ、 「なになに? カレー? すっごいじゃん、誰が作ったの?」 「長門だそうだ」 「へー、有希が作ってくれたんだ。じゃあ、みんなで遠慮なく食べましょう」 ハルヒは前線基地の建物に戻ると、 『はーい! よっく聞きなさい! 何とSOS団――じゃなくて、副指揮官である有希からカレーの差し入れよ! いったん作業を止めて休憩にしなさい!』 威勢の良い声が飛ぶと、腹を空かした生徒たちがぞろぞろとカレー鍋に集まり始めた。 ただ、その中にハルヒはいない。 「では、僕はいったん学校に戻りますね。あとはお願いします」 そう古泉は何か言いたげな表情だけを俺に投げつけて戻っていった。言いたいことがあるならはっきりと言えよ。 俺は前線基地とされている建物の中に入り、 「おいハルヒ。せっかくの差し入れなのに食わないのか?」 そう玄関口に寝っ転がっているハルヒに声をかける。 「あたしは最後で良いわ。あんなにいっぱいあるんだし、残ったのを独り占めするから。 その方がたくさん食べられそうだしね」 「そうかい」 俺はヘルメットを取り、ハルヒの横に座る。 じりじりと日が傾き、もう薄暗くなり始めていた。がやがやとカレー鍋に集まる生徒たちの声が建物内に響いているのに、 「静かだな……」 「そうね……」 俺とハルヒは共通の感想を持った。 「あんなにいた敵はどこに行っちゃったのかしら。てっきりすぐにまた攻撃して来ると思ったのにさ。 ちょっとひょうしぬけしちゃったわ」 「来ないに越したことはないだろ。まあ、そんなに甘くはないだろうけどな」 ――またしばらく沈黙―― 「大体、何で連絡くれなかったのよ。いろいろ考えちゃったじゃない」 「何だ、心配してくれたのか?」 「あったりまえでしょ! 部下の身を案じるのは上官なら当然よ、トーゼン!」 ――ここでまた会話がとぎれる。そして、もう日がほとんど降りてお互いの表情も見えなくなった頃―― 「ねえ……キョン……あ、あのさ……」 「なんだ?」 「その……」 「はっきり言えよ。どもるなんて珍しいな」 ――それからまた数分の沈黙。俺はただハルヒが話を再開するのを待ち続け―― 「その……鶴屋さんなんだけどさ。なんか……言ってなかった?」 「何かって何だよ?」 「……恨み言とか」 俺はハルヒに気づかれないように、視線だけ向けてみる。しかし、もう辺りは薄暗く、その表情は読み取れなかった。 「そんなこと言ってねえよ。また学校で会おうだってさ。いつもと同じだった――最期まで」 「そう……」 ハルヒが俺の言葉を信じたのか信じていないのかはわからなかった。ただ、明らかに落ち込んでいるのはわかった。 いつものダウナーな雰囲気どころではない。完膚無きまで叩きのめされているような感じだ。あのハルヒが。 それを認識したとたん、激怒な感情がわき上がる。額に手を当てて必死に我慢しないと、すぐに爆発しそうなほどだ。 あのハルヒをこんなになるまでめちゃくちゃにしやがった。絶対に許さねえ……! ~~その5へ~~
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新学期が始まり、一ヶ月程過ぎた5月のある日。 SOS団の私室と化した元文芸部室で、 いつものように、朝比奈さんの淹れてくれた美味いお茶を飲みながら、古泉相手に将棋をしていた。 古泉が次の手を考えてる間、ふと顔を上げてSOS団メンツを眺めた。 長門はいつもの場所で本を読んでいる。 朝比奈さんはハンガーの前に立ち、コスプレ服を整頓したり掃除している様だ。 平和な部室。それというのも、いつも何かをしでかすハルヒが居ないからだ。 どこにいったのやら。どうせまたろくでもないことを考えなら校内を徘徊しているのだろう。 視線を元に戻す。古泉が駒を握り、手を進めたと同時に扉が勢いよく開かれた。 我らが団長様の登場である。ハルヒはニコニコとご機嫌な顔つきをしている。今度は何を思いついたんだ? そして俺は久しぶりに驚かさせられる事になる。 一応言っておくが、俺は今までに散々色々な事に巻き込まれ、ちょっとやそっとのことでは驚かない自信がある。 だが、今回のハルヒには意表を突かれた。ハルヒの横には小柄な少女が立っていた。 そんなに校内をうろついた事はないが、その少女を今まで見た記憶がない。 推測から言うと、新入生って所だろうか。俺が驚いたのはハルヒの次の言葉だ。 ハルヒは少女の手を引いて中に入ると、立ち止まりこう言った。 「皆、注~目!紹介するわ。新しい団員よ!」 今、なんて言った?WHAT?新しい・・団員!? 続いて横の少女が自己紹介を始める。 「新しくSOS団に入る事になった伊勢 海奈でーす。よろしくお願いしまーす」 伊勢と名乗った少女をよく観察する。見た目は本当に高校生か?というような童顔である。 さらに胸はぺったんで、長門といい勝負かもしれない。 総合的に考えて、妹と同じ年齢だと言われても驚かない様な容姿である。 ハルヒの指示で現SOS団の自己紹介が始まる。俺の番はハルヒによって遮られ、案の定キョンと紹介された。 しかし、そんな事はどうでもいい。普通の部活動ならロリ属性の一年生が入団しましたー。ですむだろう。 だが、ここはSOS団は普通の部ではない。未来人、宇宙人、超能力者が一同に集まるというおかしな集団なのだ。 という訳で、ここには俺を除いて普通の一般人はいないし、入団することもないだろう。 ということは、目の前のロリ少女も普通ではないはずなのだ。 ふと周りのSOS団メンバーの顔を見る。 長門は無表情の中にどこか怪訝な顔付きをしている。 古泉はぱっとみれば、いつものニコニコハンサムスマイルだが、どこか影りがある気がする。 朝比奈さんは慌てた様な、どうしたら良いのか分からない様な困った顔をしている。 ハルヒだけが能天気にニコニコ笑っている。お前はいいよな、悩みが無さそうで・・。 思い返すのは2ヶ月程前の朝比奈(みちる)さん拉致事件である。(参考原作小説陰謀) 古泉の機関に敵対する組織。その尖兵である可能性もあるのである。 メンバーの紹介後、ハルヒは伊勢にある程度のSOS団活動の簡単な説明をし、 既に時刻が日暮れ時な事もあり、その日の活動は解散となった。 ハルヒ達が帰った後、ハルヒを除いたSOS団メンツの集会が行われた。 内容は言うまではないとは思うが、伊勢についてである。 集まっているのは俺、古泉、長門の3人だ。 朝比奈さんの伊勢の見張りという事でハルヒと一緒に帰っている。内容は後で連絡するつもりだ。 「で、伊勢の正体についてだが・・何か心あたりはあるか?」と俺が2人に聞く。 「こちらにはなんとも言えない、といった感じですね。敵対組織の情報はある程度聞いていますが、 その数も少なくも無く、完全に特定はできません」と古泉。続いて長門が、 「ある程度は理解した。でも・・ありえない存在」 どういうことだ?という俺の更なる問いに、長門が続ける。 「彼女はこの世界に存在するはずの無い存在」 よく分からないな・・存在しているのに存在するとは・・幽霊とか、そういう類のものなのか? 「違う。貴方にも分かるように言えば・・彼女は別の次元の存在」 つまり・・、異世界人ってことか? 「そう」 俺は初めてハルヒを知ったあの強烈な自己紹介を思い出していた。 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところまで来なさい。」 現在そのハルヒの望み通り宇宙人、未来人、超能力者はSOS団に所属している。 ということは、1年越しで異世界人がやってきたということになる。 けれど妙だ、最近のハルヒは、今のSOS団の活動に結構満足している様子だった。 時には、ハルヒの気まぐれかもしれないが、まったく謎に関係のない事もしている。 そんなハルヒが、今頃になってそんな事を望むのだろうか?俺の問いに答えたのは、やはり長門だった。 「今回は、涼宮ハルヒが望んだ事ではない」 そうなのか?だったら、なぜ伊勢は俺たちの前に現れたんだ?古泉の敵対組織に関係あるのか? 「敵対組織に関係あるのかは分からない。でも伊勢海奈が自ら望んで私達の前に現れた事は事実」 「今まで割りと大人しく影で行動していた彼らが、とうとう表まで出てきたんでしょうか」 「わからない」古泉の問いに長門が答える。 いくら長門が万能宇宙人だとしても、未来との同期を止めた事で先のことは分からない。 結局伊勢が異世界から来たであろう、ということくらいしか分からなかった。 古泉は機関で情報を集めてみますといい、その日は解散になった。 完全に日も落ち、薄暗い道を歩いていた時。 「あの、---さんですか?」ふいに後ろから名前を呼ばれ立ち止まった。 自分の本名など久しぶりに聞いたので一瞬自分のことかわからなかった。 が、次の言葉で気づいた。「それとも、キョンさんと呼んだ方がいいでしょうか?」 振り返る。薄暗い夜道を照らす街頭の下に、一人の少年が立っていた。 北高の制服を着ているその少年は、俺と同じぐらいの年頃だろうか。 古泉の様に気持ち悪いほどのハンサムスマイルとはいえないが、それなりの笑顔で俺を見ている。 「こんばんは、キョンさん」そういいながら俺に近づいてくる。 「1年2組の鏡野と言います。時間が無いので手っ取り早く説明しますね」 俺は黙っている。というよりはいまいちよく分かっていなかっただけだが。 「僕はこの世界の人間ではありません。もう伊勢海奈には会いましたよね?彼女と僕は同じ世界の人間です。」 次々に喋る。その表情はどこか焦っているように見えた。 「彼女の動向に注意してください。彼女は・・」鏡野と名乗った少年は次に恐ろしいことを口にする。 「涼宮ハルヒさんの命を狙っています」一瞬、頭の中が真っ白になった。 なんだって?伊勢がハルヒの命を狙っている?そんなもん狙ってどうすんだ?新手のギャグか? いきなりの爆弾発言に完全に動転してしまい、何がなんなのか分からなくなる。
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夜のマップ画面で谷口を選択。 ↓ ハルヒとの会話が出る。 ↓ エンブレムを出し終了 キー会話は、映画のことから、もう追加撮影の必要はないよな?を選択し、気分が一定以上なら、映画のことに、本当に本当に追加撮影の必要はないな?が出るので、それで終了。 ループを繰り返し、一定時間経過するとバッドエンドの妹エンドになってしまう。