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中庭が見えてくる。おお、居た居た。相変わらずのムカツク程の爽やかな笑みで古泉は俺を待っている。 ただいつもと違うことがあった。 古泉と一緒に、なぜか我が愛しのエンジェル朝比奈さんもセットでついてきている。 昨日俺は朝比奈さんにも涙ながらのご叱責を受けている。しかも平手打ちのオマケつきだ。 正直いってかなり気まずいな・・・更に歩を進めながらそう考えていると 「お待ちしていましたよ。わざわざご足労頂きまして恐縮の極みです」 お前の社交辞令じみた挨拶などどうでもいい。それよりなぜ朝比奈さんもいるんだ? 「それは、私が無理行って古泉くんについてきたからです。 昨日はキョンくんの気持ちも知らずひどいこと言って・・・しかも叩いたりまでして・・・ごめんなさい」 朝比奈さんは申し訳なさそうに小さな身体を折り曲げる。 「いえ、俺の方こそ申し訳ありません」 俺も素直に謝罪の意を示す。 「あと今日こういう場を設けたのは謝るためだけじゃないんです・・・」 朝比奈さんは言葉を続けようとするが・・・。 「実はですね――」 急に話に割り込んできた古泉がその笑みを途端真剣な表情に変え、語り出す。 「昨夜、閉鎖空間の発生が確認されなかったのです」 そうだった・・・アレだけハルヒを怒らせたんだ。灰色空間の1つや2つ発生してもおかしくない状況だったろう。 そんなことまで失念していたなんて本気で昨日の俺はどうかしてたらしい。 「まあ、そのこと自体は我々機関にとっては喜ぶべき事実です。 しかし、この事実は違う意味を持ってもいるのですよ」 何だって言うんだ。もったいぶらずさっさと言え。 「涼宮さんはあなたを信頼していた、そしてあなただけは何があってもついてきてくれていると信じていた。 しかし、昨日のあなたはその期待を裏切ってしまった。その時の涼宮さんの怒り、悲しみ、絶望は いかほどのものだったでしょう?想像も及びません」 俺だって少しは反省している。説教なら聞き飽きたんだがな。 「まあ、聞いてください。 とにかく涼宮さんのあの時の感情の起伏は凄まじいものでした。 正直あの後、僕はすぐにアルバイトに駆けつけなくてはいけないことも覚悟しました。 しかし、閉鎖空間は発生しなかった。このことが何を意味するかお分かりですか?」 全くわからん。 「つまり、涼宮さんは『力』を失ってしまったのかもしれないということです。 普通、あれだけの感情の起伏や不満が観測されれば閉鎖空間どころか世界の崩壊だって ありえますからね。しかしそのような自体にはならなかった。涼宮さんの『力』が消失したためだ、 と考えるのは当然の帰結というものです。僕にも俄かに信じられませんでしたが・・・。 機関の上層部はこの『何も起こらない』という不気味さに戦々恐々としていますよ」 俺は呆然としていた。ハルヒが『力』を失っただと? 今まで俺達、いや特に俺をアレだけ何度となく騒動に巻き込んでくれたあの『力』を? そんな話、信じろと言われて「はいそうですか」と信じられるもんか。 しかしあの灰色空間が発生しなかったのは何よりの証明のなんじゃないのか・・・? いや・・・しかし・・・そんなまさか・・・。 「と、まあそんな話は嘘なんですけれどもね」 おい、古泉一発殴らせろ。というか黙って殴られろ。直立不動で歯を食いしばれっ! 「ここから先は朝比奈さんに説明していただきましょう」 今にも古泉に殴りかからんか、という俺を尻目に朝比奈さんはおずおずと前に出てきて 戸惑った表情を見せつつも、ポツポツと静かに語りだした。 「キョンくんに涼宮さんの本当の気持ちを知ってもらおうと思ったんです・・・。 昨日は私もどうかしちゃってて・・・落ち着いて話せなかったから・・・」 ハルヒの本心ですか・・・。俺も考えてはみたんですがね・・・。 「涼宮さんがまだバンド結成すると言い出す少し前、部室で偶然2人きりだった時、私に話してくれたんです・・・」 『涼宮さ~ん・・・今度の撮影でもまたあの衣装を着て外に出なくちゃいけないんですか~?』 『当たり前じゃないのよ、みくるちゃんは2作連続での主演女優よ?光栄に思いなさい!』 『ふえ~ん、恥ずかしいですよ~』 『泣き言言わないの。それに今回の文化祭は映画だけじゃない、取って置きのサプライズプランを考えてあるんだから!』 『・・・さぷらいずぷらん、ですか?』 『今はまだ言えないけど、きっと成功すればあたし達SOS団が文化祭での主役になること間違いなしよ! 皆の驚く顔が目に浮かぶわ、特にバカキョンなんて余りの驚きにアゴが外れるんじゃないかしら?』 『それは、私もやらなきゃいけないことなんですか・・・?』 『勿論よ!今回のプランはあくまでもSOS団団員全員が揃って初めて意味があるんだから!』 『映画の撮影は・・・』 『勿論、同時進行よ。まあちょっと時間的にきついかも知れないけど高校生活のたった3年間、2度と訪れない青春の 1ページなんだからそれくらいの無茶はなんてことないわ!』 朝比奈さんの回想をまとめると、大体こんな感じの会話が交わされたそうだ。 「きっとそのサプライズプランがこのバンドのことだったと思うんです。 あの時の涼宮さんは、本当に楽しそうな笑顔でした。この1年半、涼宮さんの色んな表情を見てきましたけど その中でも1番って言えるくらいでした」 俺は朝比奈さんの話に黙って耳を傾けていた。 朝比奈さんは更に続ける。 「それに涼宮さんは『SOS団の団員全員でやらないと意味がない』って言っていました。 私達皆でやらないと意味がないって・・・。 私、それでわかりました。涼宮さんはどうしてもSOS団の全員で文化祭のステージに立ちたいんだなって。 そしてそれが実現することを何よりも楽しみにしているんだなって」 朝比奈さんは語りは止まらない。 「確かに昨日の涼宮さんは凄い怒っていたかもしれません。古泉くんの言うように世界が崩壊してしまっても おかしくないくらいだったかも知れません。それでもそうしなかったのは涼宮さん自身のどんな大きな不満や 怒りなんかよりも全員でステージに立ちたいっていう気持ちの方がずっと強かったからなんじゃないかって思うんです・・・」 朝比奈さんはそこまで語り終えると小さく息をつき、真剣な眼差しで俺を見つめた。 「つまり今の話を要約しますとですね、涼宮さんは閉鎖空間を発生・拡大させ、この世界を崩壊させてしまうことより SOSバンドとして文化祭に出場するためにこの世界を守ることを選んだ、という訳ですね。 まあ、僕も朝比奈さんからこの話を聞くまでは、正直本気で『力』の消失を疑っていたのですが。 そういう訳ならば僕も納得がいきます。実際その『力』のせいで僕のベースの腕前は未だプロ級を保ったままですしね」 古泉がすかさず解説を入れる。 朝比奈さんの熱弁を受け、俺はなんとも複雑な気持ちだった。 「俺はどうすればいいんでしょうかね・・・」 「涼宮さんに謝ってあげてください。きっと涼宮さんもキョンくんには悪いと思っているはずで・・・ 素直になれないだけなんだと思います。それで『また一緒に練習頑張ろう』って。 そう言ってあげてください」 俺は、ハルヒがなぜアレだけバンドにこだわったのか、どうしてあんな短期間の内に3曲も書くほどの熱意を見せたのか、 その理由がわかった気がした。 「わかりました、俺、ハルヒと話をしてみます」 俺がそう答えると、朝比奈さんの真剣だった表情が天使かと見紛う程の嬉しそうな顔になった。 「本当ですか?」 「ええ、昨日は俺もどうかしてました、何とかハルヒと話をして、謝ってみます」 「よかった~。キョンくんならきっとわかってもらえると思いました」 朝比奈さんは本当に嬉しそうだ。 そして古泉はやれやれといった表情を浮かべ、 「話もまとまったようですね。いやはや良かったです。 実は僕もですね、演奏しているのが何だか楽しくなってきてしまってですね、 こんなことでバンドが解散、なんてことになるのはいささか悲しかったんですよ」 よく言うぜ、お前はハルヒのご機嫌取りが最優先だろうに。 「そんなことはありません。機関の思惑やその一員としての使命感を抜きにして・・・ いちSOS団の団員として、僕は文化祭でのバンド演奏を成功させたいと思っていますよ それにベースを弾くのも楽しくなってきましたしね。何と言っても重低音がいいですね。 下半身にこう、グッと響きます。なんとも気持ちのいいものですよ」 古泉のその台詞が何とも変態的に聞こえたのは気のせいだろう。 「私もです。最初はキーボードなんか弾けないって思ったけど、 皆で演奏してたら、何だか楽しくなってきちゃいました。 本番のために、鍵盤に突き刺す用のナイフも買ったんですよ?」 本気にしてたんですか・・・朝比奈さん・・・。 「冗談です♪」 「僕も涼宮さんの言うとおりにステージ用の靴下を新調しましたよ。 ただ困ったのが、なかなかサイズに見合うものがなかったことですね。 こうなったら着けないで出演しようかと考えたくらいですよ」 五月蝿い古泉。お前は黙っていろ。大体何だサイズって。そんなにデカイのかよ。 とにもかくにも、俺がハルヒに謝るということで話は何とかまとまった。 「そういえば――」 俺には1つ疑問に思っていることがあった。 「長門がこの場に来ていないのはなぜだ?」 そうである。今後の世界の行く末にも関るかも知れないという非常に重要なこの昼休み会合だったはずだが、 なぜかそういった事情に一番精通しているはずの長門の姿が見えない。 「長門さんは一応お誘いはしたんですがね・・・」 古泉は溜息をつき、答える。 「行く必要はない、と断られてしまいましたよ。理由を聞いたんですがね、 『彼を信じている』と、ただ一言。それだけですよ。 あなたを信頼しているのは涼宮さんだけじゃない、ってことです」 昨日、教室で呆然としている俺に同じ台詞を言った長門の姿が思い出される。 そうか、ありがとな長門よ。お前の信頼にも応えてやらなきゃな。 (おまけ 古泉視点です) その後、教室へ戻る道すがら、僕は彼に語りかけました。 「知っていますか? バンドというと一見花形はボーカルやギターのように思われがちですが、 実はそれ以上にベースやドラムの役割が重要なんですよ」 「それは初耳だな」 「この2つのパートはリズム隊と言ってですね、 バンド全体の演奏のテンポやリズムを司る役割として、非常に重要なんです」 「なるほどな」 「だからですね、ベースとドラムの演奏があっていないと、どんなにボーカリストが上手かろうが ギタリストの技量が高かろうが、キーボードが火を噴くような壮絶な演奏をしようが、 バンド全体としての音は締りの悪いものになってしまうんですよ」 「それはそれは、責任重大だな」 「つまりですね、バンドにおいてはベーシストとドラマーのコンビネーションが何よりも肝心ということです。 結論として、あなたと僕は一心同体も同然!ということです。 早速今夜から2人きりでの夜の個人練習に励みましょ・・・」 「黙れ、変態が」 彼はそう言うと歩を速め、スタスタと自分のクラスの教室に向け、歩いて行ってしまいました・・・。 「・・・マッガーレ・・・」 (キョンたんは相変わらずツンデレですね。まあ、そういうところも愛しいんですけどねwww) 教室戻った俺はハルヒを探した。 しかしその姿を見つけることは出来ない。 結局、その日は放課後までハルヒは教室には戻ってこなかった。 もしかして帰ってしまったのか? タイミングを逃したのかもしれない・・・。 そう考えながら、廊下を歩いていた俺の視界に見覚えのある人影がうつった。 「長門・・・」 その人影とは誰あろう長門であった。 長門はいつもの液体ヘリウムのような目で俺をみつめ、静かに言葉を吐き出した。 「涼宮ハルヒは軽音楽部の部室にいる」 「ほんとか!?」 どうやら帰ったって訳じゃなかったみたいだ。 「涼宮ハルヒはあなたを必要としている。行ってあげて」 俺はその一言で完全に決心がついた。 「重ね重ね済まないな。長門よ」 「いい」 ふと気付くと長門は手に筒状の何かを持っている。 「ところでそれは何だ?」 長門は表情1つ変えず答える。 「ダイナマイト。ステージでアンプを爆破するために調達した」 オイオイ・・・。長門もハルヒに言われたことを本気にしていたのか・・・。 それにしても・・・。 「お前も文化祭の本番を楽しみにしているのか?」 俺は何気なくそんなことを聞いてみたい気分になった。 「それなりに」 俺はそんな言葉を呟いた長門の表情の中に少しの期待を見出すことが出来た。 そして俺は今、軽音楽部の部室兼SOSバンドの練習室の前に立っている。 長門の言うことが正しければ、ハルヒはこの中にいるはずだ。 ふと気付くと、教室の中から何かが聞こえてくる。 それは聞き覚えのあるメロディー、昨日俺が聴いたハルヒのオリジナル曲に相違なかった。 意を決して中に入る。 するといた。ハルヒである。 ハルヒは背を向け、アンプに腰掛けてギターをつま弾いている。 そのメロディーは、昨夜俺が聴いた3曲の中の1曲、 確か『ハレ晴レユカイ』とかいうタイトルの曲だ。 俺はしばらくハルヒの弾くギターの音色に聴き惚れてその場に立ち竦んでいた。 しばらくして、演奏がピタッと止んだ。どうやら俺が入ってきたのに気付いたらしい。 ハルヒは首だけ振り返り、俺の姿を認めるとすぐにまた背を向けてしまった。 気まずい沈黙が流れる。俺は再度意を決して言葉を発する。 「今の良かったぞ。何て曲だ?」 知ってるくせにな。我ながら白々しい。 ハルヒは背を向けたままだ。無視されているのかと思いきや、静かに口を開いた。 「何よ、あんた脱退したんじゃなかったっけ?」 何とも厳しいお言葉だ。しかし俺はめげない。 「その筈だったんだがな。どうもこのままだと寝覚めが悪い――」 ハルヒは黙って俺の言葉を聞いている。 「そりゃあ俺は音楽的な才能もないし、いつまで経ってもまともに演奏できてない。 だから、お前の要求はいくらなんでも無理だろうって思う時もある。 でも・・・それでも俺はこのSOSバンドでの文化祭を成功させたいと思ってる。 朝比奈さんや長門や古泉と一緒に・・・、 そしてハルヒ、お前と一緒に・・・文化祭のステージに立ちたいと思ってる。 だから・・・昨日は済まなかった。俺にもう一度ドラムを叩かせてくれ」 俺がそこまで言い終えると、相変わらず背を向けたままのハルヒが口を開く。 「何よ、そんなこと言って、あんだけ取り乱したあたしが何だかバカみたいじゃない・・・」 抱えていたギターをアンプに立てかけ、ハルヒはこちらを向く。 「でもまあ、あんたがどうししてもって言うなら・・・許してあげないこともないわ!」 「ほんとか?」 「た・だ・し!団長に逆らった罪は重いわよ! これからあんたには罰として寝る暇も惜しんでドラムの練習に励んでもらうわ! 勿論映画の撮影に力を抜くことも絶対許さないだからね!」 かなり重い罰を課されてしまったようだがそれでも俺は心底安心していた・・・。 その安心感が俺に不用意で思い出すだけでも恥ずかしい一言を言わせてしまった。 「よかった。これでまたお前の歌が聴けるんだな・・・」 言った瞬間顔から火が出そうな恥ずかしさに襲われた。 手元にショットガンがあったなら、すぐにそれを口にくわえて引金を引きたいぐらいだね。 そうして涅槃の境地に到りたいくらいさ。 「ふ、ふんっ!SOS団団長の神聖なる歌声をタダで聴けるのよ! 少しはありがたく思いなさいよねっ!」 ハルヒも心なしか顔を赤らめているように見えるし・・・。 俺は気を取り直し、ハルヒに話しかける。 「実はな、さっきお前が弾いてた曲は既に知っていたんだ。 昨日お前が落としてったMDでな」 ハルヒは特に驚いたこともなく答える。 「何よ、無い無いと思ってたらあんたが持ってたってわけ?」 「別に悪気があったわけじゃないんだがな。まあとにかく曲聴いたぞ」 「ふん、せいぜい私の作った曲のクオリティの高さに驚いたでしょうね」 ハルヒは吐き捨てるように言う。 「ああ、凄かったよ。アレならオリコン10位以内だって狙える」 これは俺の本音だ。 しかし、ハルヒは一層顔を赤らめる。茹で上がったエビみたいだ。 「あ、当たり前じゃないっ!今の日本の音楽業界は腐ってるわ! あんな有象無象のクオリティの低い曲が売れるぐらいならそれくらい当然よ! むしろ1位を取って然るべきね!」 それは流石に無理だろうが、ハルヒの機嫌も何とか少しは上向きになってくれたようだ。 「とにかく! あたし達SOSバンドが文化祭のステージをジャックするにはまだまだ練習が足りないわ! 今からすぐに練習よ!キョン!そうとなったら今すぐに他の団員達を招集しなさい!」 こうしてSOSバンドの活動再開が高らかに宣言されたというわけだ。 そこからの数日はこれまで以上の多忙を極めた。 まずは映画の撮影。文化祭本番3日前に何とかクランクアップしたものの、 超監督の理解不能な撮影方針によって取り溜められた映像の殆どが訳のわからないものであり、 ギリギリのウェイトレス衣装で未来人的なナゾのビームを目から発射させられている朝比奈さんや スターリングインフェルノとかいうショボイ棒切れをくるくる振っている黒ずくめの悪い宇宙人長門、 やっとのことで自分の持つ超能力を自覚したはいいものの、ニヤニヤ笑ってるだけで存在感のない古泉、 その他、再度脇役で登場した鶴屋さんのぶっ飛んだアドリブ、国木田や谷口のビミョーな演技、 今回は人語を話すという暴挙は犯さなかったものの、 それではタダの猫であり劇中に登場する意図が全くわからないシャミセンのあくび、 訳もわからずはしゃぎまわるだけの俺の妹、といったようなものであった。 こんなものを編集させられる俺は一体どうすりゃいいんだ? 本当にこれなら朝比奈さんのプロモーションビデオを作った方がマシってもんだ。 まあ、そのくらいにヒドイ出来だったわけである。 そんな状況に頭を抱えていた俺ではあったが、ハルヒも何だかんだいっては手伝ってくれた。 しかしそれでも映画としての体裁を整えるにはほど遠い。 これはもう本気で今年こそ朝比奈プロモーションクリップにするしかないと思っていた俺に救いの手が差し伸べられた。 それは誰あろう長門である。何か長門に頼ってばかりだよな・・・俺。 長門は大量のビデオテープを目の前にし、ウンウン唸っている俺を見かねたのか 「貸して」 と言うと全てのテープを家に持って帰ってしまった。 するとびっくり、次の日には長門は全ての映像編集を完成させてしまっていた。 朝比奈さんの目から出るビームのCGや効果音、BGMまでばっちりだ。 「完成した」 そう言ってマスターテープを俺に手渡す長門、これまた去年も同じようなことがあった気がするな・・・。 そして問題のバンドである。 ハルヒの作ったオリジナルの3曲が既存の2曲と共にセットリストに加わり、 SOSバンドは殆どのメンバーが初心者にも関らず、5曲も演奏しなければならないという重荷を課せられた。 いや、初心者といってもハルヒのトンデモパワーでプロ並みの腕前になってしまった古泉と朝比奈さんはまだいい。 結局初心者のままの俺は、毎日ヘトヘトになるまでドラムを叩き続けていた。 God Knows...とLost MyMusicの2曲に関しては何とか形になってきたものの、更に3曲を覚えるのは相当にキツイ。 しかしハルヒにアレだけの見得を切ってしまった以上、俺も諦めるわけにはいかない。 とにかく毎日、暇を見つけては軽音部の部室に出向き、寝食を忘れてといっていいほど練習を繰り返した。 そのおかげかこれまでペンダコすら出来たことのない俺の指には立派なマメが出来てしまったりもした。 更に、ドラムのことは同じドラマーに聞けばよいと考えた俺は週末、映画の撮影の後、独りで駅前のライブハウスに足を運んだ。 そう、あのENOZのライブを見に行ったのである。 率直に言って彼女達の演奏は相変わらず素晴らしかった。 狭いライブハウスではあったがその分観客の熱気も凄まじく、演奏中はあちらこちらでモッシュ&ダイブまで起こっていた。 そしてGod Knows...とLost MyMusicに関しては彼女らが本家であり、岡島さんのドラム演奏は非常に参考になった。 俺はライブ終了後、挨拶も兼ねて彼女達の楽屋を訪ねた。 ENOZの面々は初め俺を見たときは誰だかわからなかったようだったが、ハルヒの名前を出すや否や、合点がいったらしい。 俺はSOS団がバンドとして文化祭に出演すること、彼女達が本家である2曲をカバーさせてもらうこと、 ハルヒが作ったオリジナル曲のこと(勿論デモテープも聴いてもらった。すこぶる好評だった)等をつらつらと話した。 「そうかー、あの涼宮さんがねー」 ドラムの岡島さんが感慨深げに呟く。 「涼宮さんならきっとまたスゴイ演奏をしてくれると思うよ」 「私達、ほんと涼宮さんには感謝してるんだ。 あのステージが無かったら私達の曲を皆に知ってもらうこともなかった思うし・・・。 きっと卒業してメンバーも皆バラバラになって、バンドも自然消滅してたかも知れない・・・」 ベースの財前さんは遠い目をして語る。 「今私達が4人で活動を続けられるのもあのステージがあったからだと思う。 本当、涼宮さんには足を向けて寝れないわ。勿論ギターを弾いてくれた長門さんもね」 ひとしきりの会話を終え、俺は本題でもあるドラム演奏についてのアドバイスを求めてみた。 するとドラムの岡島さんはひとしきり考えた後・・・ 「口で言ってもわからないところがあるし・・・。そうだ! 実際に叩いてみるのが手っ取り早いと思うよ?」 と言うと、客のいなくなったステージに俺を上げてくれ、実演を交えた指導を行ってくれた。 時々、「ここの叩き方はこう!」とか言ってスティックを持つ俺の手を握られたりしてしまうなど、 何とも気恥ずかしいば場面もあったりもしたが、岡島さんは流石本家だけあり、非常に的を得た指導だった。 「本当にありがとうございました」 俺は懇切丁寧なアドバイスをくれた岡島さんはじめとするENOZの面々に頭を下げた。 「いいのよ、このくらい。私達が涼宮さんに受けた恩に比べればなんてことないわ」 岡島さんが恐縮する。なんて腰の低い良い人達なんだろう。少しはハルヒに見習わせたいね。 「最後に1つだけアドバイスさせてほしいんだけど・・・」 「何でしょう?」 「バンドっていうのは、メンバーが誰ひとり欠けても成り立たないものだと思うの。 私達も今でもこの4人でやれてることに凄い喜びを感じてるしね。 だから君もバンドのメンバーを・・・SOS団のメンバーを大切にしてあげてね。 そうすれば技術とか関係なく、きっといい演奏が出来ると思うよ」 朝比奈さんや古泉が同じようなことを言っていたのが思い出される。 SOS団のメンバー全員で・・・か。俺にもやっとハルヒの気持ちがわかってきたのかもしれない。 俺はもう1度彼女達に謝辞を述べ、帰途につこうとした。 すると財前さんがニヤニヤとした表情で近寄ってきて、俺に耳打ちをしてきた。 これまたちょっと恥ずかしいな・・・。 「そういえば・・・その後涼宮さんとはどうなのかな?『オトモダチ』の関係から進展した?」 「はぁ?」 俺は何とも間の抜けた声をあげてしまった。正直彼女の質問の意図するところが掴めない。 そんな俺の間抜けな表情を見て、彼女達は意外そうな表情を浮かべたかと思うと、 一様にやれやれと両手を挙げ首を振るジェスチャーをしている。「だめだこりゃ・・・」なんて言葉も聞こえたりする。 まだ状況を良く掴めないまま呆けてる俺に財前さんは更に言葉を続ける。 「まあ、君のペースでやればいいんじゃないかな? そんな所も君の味だと思うし・・・。 でも女の子を余り長く待たせるのは感心しないよ~?」 「はあ・・・??」 最後まで彼女達の言わんとするところはわからぬまま、その日は終わった。 そしてとうとう文化祭の当日になるわけだが、実はこの前日ちょっとした問題が発生していた。 というのも文化祭のステージにおいて何らかの出し物をする際は文化祭の実行委員と生徒会の許可を取らなくてはならないのだ。 俺達はバンド練習と映画撮影に夢中でそんな当たり前のことも忘れていた・・・。 出し物の申請期限はどうやら一昨日だったらしい・・・。あの時は映画の編集で忙殺されていたからな・・・。 さて、この事実をハルヒが知ったらそれこそ世界崩壊一直線だ・・・。 しかし、この件に関しては生徒会長と「太いパイプ」とやらを持つ古泉の口利きによって何とかなり、 特別に申請抜きでも文化祭のステージに出演できる運びとなった。 古泉には感謝したいところだが、そもそもそんな基本的なミスをお前が犯すとはな・・・。 俺達がどれだけバンドと映画だけに集中していたかが伺えるというものだ。 ちなみにあの毒舌生徒会長は、 「フン、またあのおめでたい女のご機嫌取りの為に使われるのはいい気はしないが、 今度はバンドだろ?せいぜいマトモな演奏になるように願うぜ。 まあ、あの女にはマジで音楽の才能はあるみたいだしな――」 と、相変わらずハルヒのご機嫌取りに利用されるのに不満げながらも 「そうそう、古泉。お前ステージで全裸になるんだって? あの女の歌を聴いているのも癪だし、お前がぶら下げている方の『ベース』でも見に行ってやるよ」 と、煙草をくゆらせながらのたまってくれた。 というか生徒会としては文化祭のステージでストリーキング行為を行うことにはお咎め無しなのか? 古泉も古泉だ。「是非楽しみにしていてください」なんて言ってんじゃねえ。 さて、本当の問題はこのことではない。 実は、俺の腕が限界に来ているということだ。 端的に言うと、凄く痛い。 この1ヶ月、慣れないドラムという楽器を叩きに叩きまくり、 特にこの数日間は寝食も忘れて練習に没頭していたこともあり、とうとう腕が悲鳴をあげたというわけだ。 「何も前日にこんなことになる必要はないじゃないか・・・」 風呂の中で腕をマッサージしながらひとりごちた。 果たして、明日のステージを無事こなせるだろうか・・・。 文化祭当日である。結局腕の痛みは取れないままだ。 勿論、このことはハルヒはじめ他の団員には話していない。 後で考えれば、長門あたりに頼めば一瞬で治療してくれたりしたのではないかとも思うが、 残念なことにその日の俺はそこまで頭が回らなかった。 ステージでの出し物が行われるのは午後からである。 それまで俺は去年と同じように谷口と国木田と共に校内をグルグル回っていた。 視聴覚室では俺達が制作した映画が上映されているはずだが、 あんなわけのわからない映画を、しかも編集段階でイヤというほど見たものを、 改めて見に行くほど俺はヒマではない。 「まあとりあえずはナンパだろ。今年は結構他校からも女の子が来てるからな」 相変わらず谷口はナンパにしか興味がないらしい。成功率ゼロのくせによく懲りないもんだ。 「それより僕はお腹が空いたな。なんか食べに行こうよ」 とは国木田の弁である。 「そういえばキョン、今年は朝比奈さんのクラスの出し物の割引券とか貰ってないの?」 そうだった。去年と同様、朝比奈さんのクラスは焼きそば喫茶をやるらしく、その割引券をしっかり今年も貰っていたのだ。 ついこの間朝比奈さんが鶴屋さんと共に俺のクラスまでわざわざ足を運んでまでくれたのに失念していた。 「おお!マジか!今年も朝比奈さんのあの衣装が見れるっていうならこりゃナンパどころじゃないな!」 谷口も飢えた魚のような食いつきを見せる。 うむ。確かに朝比奈さんと鶴屋さんのあの麗しいウェイトレス姿を見れるというのならば行って損はない。 もしかしたら余りの麗しさに俺の腕も癒されたりしてな。 結論から言うと、今年も朝比奈さんのクラスの焼きそば喫茶は素晴らしかった。 何が素晴らしいって、ウェイトレス姿の朝比奈さんと鶴屋さん以外にない。 基本的に去年の衣装と似たものだったが、それをベースに更なるバージョンアップを施したものらしい。 しかし、本当に朝比奈さんのクラスにはプロ並みのデザイナーか何かがいるに違いない。 これがSSなのが残念だね。是非皆にお見せしたいくらいさ。 ちなみに、食券のもぎり役である朝比奈さんは少し恥ずかしそうな面持ちであったが、 それとは対照的に今年も廊下にまで出て客引きをしていた鶴屋さんは何とも元気であった。 「お、キョンくんとそのオトモダチ!いらっしゃいっ!」 「今年も盛況ですね」 「去年があんだけ大繁盛だったからねっ!味を占めて今年もまったく同じ出し物にしたのさっ! いやぁほんとにボロ儲けだよっ!笑いが止まらないねっ!」 「鶴屋さんや朝比奈さんがいますからね」 「ありゃー、キョンくんも上手いこというねっ!おねえさん感激にょろよっ!」 いやいや、本心ですよ。 「そういえばキョンくん、今年はバンドやるんだってねっ!みくるから聞いたよっ! めがっさ頑張るにょろよっ!あたしも見に行くよっ!」 「ありがとうございます」 鶴屋さんは台風が過ぎた後の晴れ渡った青空のような笑みでそう言うと、俺の腕をバンバンと叩いた。 正直、痛めていた腕にはかなりの衝撃だったが俺は何とか表情を崩さずにいた。 その後、ナンパをしに行ってしまった谷口と他のクラスの出し物を見に行ってしまった国木田と別れ、 俺は独りで校内をブラブラとしていた。午後のステージまではまだ時間がある。 ちなみに、朝比奈さん以外の団員達のクラスの出し物についてもここで紹介しておこう。 長門のクラスは今年も占いの館とやらをやっている。 どうやらこちらも去年好評だったのに味を占めたようだ。 黒ずくめの悪い魔法使いの衣装に身を包んだ長門が相変わらず、一歩間違ったら未来予知とも言えるような 具体的過ぎる占いをして、客を引かせてしまっているのではないかとの心配もしたが、 チラッと覗いてみた感じ、何とかしっかりやっているようだ。 古泉のクラスは今年は演劇ではないようだ。 「映画にバンドに演劇、いくら僕でもちょっとこれは厳しいですしよかったですよ」 なんて古泉は前に言っていたが、果たしてアイツのクラスでは何をやっているのかというと―― 何と、『執事喫茶』であった・・・。これはアレか、所謂メイド喫茶の男版みたいなもんか・・・。 パリッとしたタキシードに身を包んで接客をしている古泉、ムカツクが似合っている。 「お帰りなさい、お嬢様」とか白々しい台詞まで吐いてやがる。 客層も女の子が殆どで、他校からきたと思しき子も見受けられる。 その殆どが古泉のタキシード姿に見とれているようだ。やっぱりムカツクな。 というかよく執事喫茶なんてやろうと思ったな。それだけ古泉のクラスにはイイ男が多いってことか。 古泉は俺の姿を見つけるや否や気味の悪い笑みを浮かべ、こう言った。 「バンドの出番までにはまだ時間がありますからね。 今までそちらの活動で忙しく、クラスの出し物の準備に貢献できなかった分、 こうして午前中だけでもクラスのために奉仕している、というわけです。 せっかく来たんですし、お茶でも飲んでいきませんか?」 断る。野郎に「お帰りなさい、ご主人様」とか言われて喜ぶような特異な性癖は持ちあわせちゃいない。 「それは残念です。 実のところ、今回の出し物は当初は執事喫茶ではなく『自動車修理工喫茶』に僕はしたかったんですけどね。 ウェイトレスの衣装はタキシードでなく全員ツナギでね。勿論ターゲットとする客層は男性です。 でもその意見はクラス会議で却下されてしまったんですよね・・・」 当たり前だ、変態め。大体何だツナギって。そんなもん喫茶店じゃねえ。ハッテン場になっちまう。 そんな変態古泉を無視し、更に俺は校内をブラブラしていた。 しかし特に目につくような出し物はない。 正直、それでもこうしてブラブラしていないと午後のステージのことが気にかかってしまう。 そして腕の痛み。コイツはとうとう最後までどうにもならなかったみたいだ。 そして午後、俺はステージに出演する生徒の控え室である舞台裏の楽屋に足を運んだ。 そこには俺以外の面子が既に顔をそろえていた。 「ちょっと遅いわよ!キョン!」 そう言うハルヒは何とバニーガール姿でギターを抱えている。どうやら去年と同じ衣装でステージに上がるらしい。 ちなみに長門は相変わらずあの黒ずくめの魔法使いの衣装。 当初はハルヒとお揃いでバニーガール服のはずだった朝比奈さんは、映画で着ていた戦うウェイトレスの衣装である。 ハルヒいわく映画の宣伝の一環らしい。 そして全裸での出演を宣言していた変態古泉はなぜかさっきの執事の衣装である。 「本当は全裸のはずだったんですが・・・急遽文化祭実行委員の方からクレームが入りましてね。 土壇場での衣装変更ですよ。靴下を着けても駄目だそうです・・・」 残念そうに語る変態。実行委員の皆さん、グッジョブです。 しかし、俺だけ普通に制服か。逆に浮くんじゃないか、コレ? 「いよいよ本番ね!あたし達SOSバンドが文化祭を牛耳る日がとうとうやってきたのよ! みんな、気合入れていくわよ!」 張り切って叫ぶハルヒ。 「練習の成果を見せるときです~!」 意気込む朝比奈さん。 「全裸でないのは物足りないですが、やるだけのことはやりましょう」 ニヒルに微笑む変態古泉。 「・・・」 無言ながらその瞳の奥には燃える意気込みが感じられる、ように思える長門。 「みんな準備はいいわね!さあSOSバンドの華々しいデビューの瞬間よ!」 最後にハルヒが俺達に再度気合を入れる。 準備は整った。こうなったら俺も覚悟を決めるしかない。 腕の痛みを忘れるくらい叩いて、叩いて、叩きまくってやるさ。 俺達、SOS団のためにも。 そして、何よりもこの日を楽しみにしていたハルヒのためにもな。 舞台の袖、俺達は出番を待っている。 さっきまで興奮気味だったハルヒも黙っているし、朝比奈さんも幾らか緊張したような面持ちだ。 ニヤニヤ笑っていた古泉も真剣な表情になっている。 長門は・・・相変わらずだろう。生憎、トンガリ帽子と舞台袖の暗さによって表情は伺えないが。 舞台では俺達の前の出番である軽音楽部のバンドが演奏している。 メンバー皆がデーモン小暮みたいなケバケバしい衣装を着込んで、グロテスクなフェイスペイントを施し、 騒音とも思えるような大きな音にのせて「SATSUGAIせよ!」とか「下半身さえあればいい!」とか連呼している。 オイオイ、物騒なバンドだな。というか、コイツら去年も出てなかったけ? サクラと思しき一部の男達は盛り上がっているが、正直それ以外の観客はドン引きだ。 会場の空気も薄ら寒いものになっている。 オイオイ・・・俺達の出番の前になんてことしてくれるんだよ・・・。 「テンキュウ!」 曲が終わり、ボーカリストが吐き捨てる。 やっと終わってくれたみたいだ・・・。 次が俺達SOSバンドの出番である。緊張が高まる ステージではいったん幕が閉められ、楽器やアンプ、音響のセッティングが行われているようだ。 朝比奈さんも古泉も長門も誰一人言葉を発しようとしない。 そんな中、ハルヒは緊張した面持ちを更にグッと引き締め、ウサミミのヘアバンドを揺らしながら じっと舞台の床に視線を向けたり、虚空を見つめたりしている。 こいつがここまで緊張するのははじめて見るんじゃないか? 「ハルヒ、緊張しているのか?」 俺は思わず聞いてしまった。ハルヒは俺の方へ振り返ると―― 「そんなわけないでしょ、それよりキョン!今日こそはショボイ演奏は許されないんだから、 しっかり叩きなさいよねっ!」 ああ、わかってるさ。その為に一度は脱退したこのバンドに戻ってきたわけだし、今日まで練習してきたんだからな。 今日こそはハルヒ、お前の信頼とやらに応えてやろうじゃないか。 「続いては、一般参加の『SOSバンド』の演奏です」 放送部の女子部員によるアナウンスが流れる。いよいよ出番だ。 観客は『SOSバンド』という珍妙な名に反応しているようで、少しザワザワしている。 クスクスという失笑もあちらこちらから聞こえたりして・・・まあ予想はついたがな。 そんな会場の雰囲気もどこ吹く風、ハルヒはギターを抱えて颯爽とステージへと歩いていく。 それに続いて朝比奈さん、同じくギターを抱えた長門、ベースを抱えた古泉、 最後に俺、がステージへと上がっていく。 観客が意外に多い・・・。それにステージってこんなに高かったのか? 俺は今更ながら、多くの観客の前に立ち、演奏をするという行為にどうしようもない緊張を感じていた。 チクショウ、足が微妙に震えてやがる。 ハルヒや長門、古泉といったギター組はシールドをアンプに接続し、チューニングを行っている。 朝比奈さんはキーボードの前に立ち、念入りに鍵盤の感触を確かめている。 俺は、ドラムセットに座ると、1つ息をつき、前を見た。 観客席となっている体育館のフロアにはいつのまにか大勢の人が集まっている。 この全ての人間の視線が自分に向くんだ。これで緊張しない方が嘘ってもんだぜ。 そしてこの位置だと、俺の真正面にはギター&ボーカルのハルヒが立つことになる。 正直言って、ハルヒはバニーガール服を着込んでいるわけであり、ここからだとお尻のラインや 露出しているキレイな肩などが丸見えであり、目のやり場に困るところである・・・。 メンバーの配置は観客から見て左から―― キーボードの朝比奈さん、ギターの長門、ギター&ボーカルのハルヒ、ベースの古泉 そしてハルヒの真後ろにドラムの俺、という形である。 と、そんなこんなしている内にギター組のチューニングも完了したようだ。 相変わらず観客はざわついている。そりゃそうだろう。 『SOSバンド』なんて変な名前の集団が出てきたと思ったら、 見た目だけは文句のないバニーガールに妖精のように可憐なウェイトレス、 置物のように静かに佇む黒い魔法使いにタキシードの変態執事がいるんだもんな。 去年の文化祭でハルヒと長門のステージを目撃している人間なら少しは驚きが少ないかもしれないが・・・。 ふと気付くと、メンバー全員が俺へ視線を向けている。 朝比奈さんは女神のような微笑を浮かべ、長門は相変わらず無表情ながらも真摯な瞳で、 古泉はコレまでにないくらい気持ち悪いニヤケ顔で・・・。 それぞれがこのステージに立てたことに言いようのない満足感を覚えていることがそこから伺えた。 そして、ハルヒ。客席に背を向け、俺を見つめるその顔は―― おそらく一生忘れることも出来ないだろうというくらいに、優しい、優しい笑顔だった。 ハルヒが俺に向かって頷く。ウサミミが揺れている。 その仕草をみた朝比奈さん、長門、古泉は途端に真剣な表情になる。 どうやら演奏開始の合図らしい。 俺はハルヒに向かい、黙ったまま頷き返し、スティックを振り上げた。 後編へ
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5 章 それから数日、長門は会社を留守にしていた。物理学の学会で発表があるとかで遠方に出張していて、今日帰ってくるはずだ。 俺は駅前のケーキ屋でスイス風ケーキを買って長門のマンションを訪ねた。入り口でインターホンを押すと、もう帰ってきているらしくいつもの無言でドアを開けてくれた。エレベータで七階まで上がり、踊り場まで来ると七〇八号のドアだけが少しだけ開いているのが見える。長門はいつも、俺が来るのをドアの前でじっと待ってくれている。 「おう、おかえり」 「……ただいま、おかえり」 「研究会はどうだった」 「……いつもどおり」 「そうか。おつかれさん」 こいつなら四年も五年も待たずにさっさと博士号を取ってしまえそうなのだが、大学院にいるのはハカセくんのためで、本人はさほど学歴を必要とは感じてないらしい。まあ人間の作った称号だか。将来は長門博士と呼ばないといけないかもな。 キッチンに入ると、だいぶ様変わりした雰囲気だった。前は小さな冷蔵庫しかなかったが、三ドアの大型冷蔵庫とか水蒸気で調理するオーブンレンジなんかが揃っていた。食器棚に積まれた食器もカラフルなものが増えたし、コーヒーメーカーやフードカッターなんかも並んでいる。 俺がたびたび来るようになってから料理のレパートリーも増えた。キッチンの棚にフレンチにイタリアンに洋風一式、京料理に中華、メキシカンからハワイアン、アフリカンのレシピ本が並んでいる。すべてをマスターしたのかどうかは分からないが、イボイノシシのケニア風ソテーだといって食卓に出されればポレポレ言いながら食ってしまいそうだ。 俺は棚の上から紅茶の缶を取った。そんなに高いブレンドでもないが、北口デパートの専門店で二人で買ったものだ。その隣にペットのエサの缶詰が積んであるのに気が付いた。キッチンの床に小さな皿が二つ並んでいて、星の形をしたペットフードが入っていた。 「長門、犬か猫か飼ってるのか」 「……猫」 見回してみたが、その気配はない。確かに、シャミセンと同じ猫独特の匂いがする。 「どこにいるんだ?」 「……いつもはいない。ときどき、現れる」 「って、もしかして野良猫?」 「……そう」 マンションの七階の部屋まで登ってくる野良猫って、どんなやつだろう。たぶん他所んちの猫がたまに紛れ込んでくるのだろう、と、俺は勝手に解釈した。だいぶ前にメガネの長門に猫を飼えと勧めたことはあるが、この長門はそれを知らないはずで、それはそうとこのマンションってペット禁止じゃなかったっけ。 紅茶のポットにお湯を注いでいると足元でミャーと鳴き声がした。見ると、小さな黒い仔猫が足にまとわりついている。しっぽをピンと立てて俺の足に体をこすりつけるようにしてぐるぐる回っていた。鼻のまわりと両方の前足だけが白い。 「おう、こいつか」俺は仔猫を抱き上げた。「名前、なんて言うんだ?」 「……言えない」 「言えない?まだつけてないのか」 「名前はある。……でも、言えない」 「なんだクイズか?えーっとだな」 俺は冷蔵庫から牛乳のパックを取り出して猫の皿に少し注いでやった。小さなピンクの舌がチロチロとミルクをなめはじめた。皿の底が見えるまでなめ回し、満足したらしく毛づくろいをはじめた。その仕草がかわいくて、俺は海産物ファミリー的アニメな猫の名前で呼んでみた。 「おい、タマ」 仔猫は耳の後ろを二度ほどかいて、消えた。俺は目の前でなにが起こったのか理解できず、長門の顔を見た。 「今の、見たよな?」 俺が言う、この“消えた”というのはどこかに行ったとかいうんじゃなくて、本当にスッと消えたのだ。 「……この子は、ふつうの猫じゃない」 次の瞬間、仔猫は長門の腕の中にいた。 「……この子は、量子的存在を保持している」 ええとつまり、もっと分かりやすく教えてくれ。 「……名前を呼ぶと、居場所が分からなくなる」 「名前はなんて言うんだ?」 「……ミミ」 ちょっとためらってから長門がその名前を口にすると、仔猫は腕の中から消えた。 「また消えたな」 「……名前を呼ぶと存在が曖昧になる」 「じゃあ、呼ぶときはどうするんだ?」 「イメージを想像すれば現れる。あるいは、この子が自分が気が向いたときに」 試しに姿を思い浮かべてみた。すると、再び長門の腕の中に現れた。まん丸い目が二つ、なにごともなかったかのようにこっちを見ている。 「名前を言っちゃいけないのか」 「……そう」 うちに来て七年になるシャミもかなり妙な猫だが、こいつもまた変な猫だ。 耳の後ろをほりほりしてやると喉をゴロゴロと鳴らした。目の前で指を回すと、前足の爪を出して後を追う。この辺はふつうに猫だな。 ポットの紅茶を持ってリビングのこたつに移った。ミミは長門の膝の上に前足を乗せ、もじもじと足を動かした。長門の細い指がミミを抱えて膝の上に載せ、つやのある毛をなでた。たまに喉を鳴らす音がする。 「生まれて三ヵ月くらいだろうか」 「……それは分からない。さっき見たときは大人だった」 「よくわからんのだが、朝比奈さんとかハカセくんの亀みたいなタイムトラベルか」 「……あれとは理論的に異なる。この子は最初から、時空に対して曖昧な存在」 「もしかしたら十一人、いや十一匹が突然現れたりする?」 「……分からない。ゼロ匹とも、無数に存在するとも言える」 それを聞いて不安になった。どこぞの星の丸っこい動物みたいに増殖しだしたらどうしよう。 ミミは長門の指にじゃれていた。仔猫と遊ぶ長門を見ていると、ほのぼのしていていい絵になると思う。うちのシャミは、最近はもう昼寝をしているだけの肥満猫になってしまった。あれよりはこの子のほうが似合う。 仰向けになってじゃれついていたミミが、何かの気配を感じたのか起き上がって耳をピンと立てた。一心に壁を見つめ、漆黒の瞳孔がまん丸に開いている。長門が手を離すと、ミミは立てたしっぽを左右に振りながら壁に向かって歩き、そのまま壁の向こうへと消えた。 俺は目をしばたいた。 「いま、壁を通り抜けたように見えたが」 「……そう。どこにでも現れる」 ということは、隣の家に忍び込んでサンマを奪ってそのまま逃げることもできるわけだ。便利なやつだな。 俺と長門は、ミミが消えた壁を眺めながらケーキを食った。 「そのうち帰ってくるんだろうか」 「……気が向けば」 静かに紅茶をすすっていた長門が、ふっと呟いた。 「……わたしも、同じことができる」 「その、量子的なんとか?」 「……そう」 そういえば高校のときマラソンで同じようなことを言ってたな。長門はすくっと立ち上がって、バレリーナのようにつま先で立ち、くるりと回った。スカートの裾が舞った。回りながら消えた。俺はしばらくポカンとしていた。数秒後、同じところに現れた。 「思い出した。量子飛躍だったな」 「……そう」 「消えている間はどこにいるんだ?」 「……同じ空間にいる。あなたからは見えないだけ」 長門はそう言って、また消えた。数秒たっても現れなかったので不安になって呼んだ。 「おい……長門?」 気配を感じて振り向くと、真後ろにいた。 「あ、そこにいたのか」 「……捕まえてみて」 ニヤリと笑ったりはしないが、右の眉毛を上げてみせる長門はそんな雰囲気だった。なるほど、こういう遊びは好きだ。俺は笑いながら立ち上がった。 「よーし、捕まえてやるぜ」 俺は部屋の中をむやみやたらに走り回って長門が現れた場所を追いかけた。 「つっかまえた!ってあれそっちかよ」 ゼイゼイと息を切らせながら部屋のあちこちを手探りしていたが、こりゃ作戦がいるな。消えたり現れたりする長門を見ていると、現れるのは正確に三秒後だ。俺は消えた場所と現れた場所に、予測できそうな関係がありそうかどうか考えた。 「……こっち」 微笑を浮かべた長門が、さっきミミが消えたあたりに現れた。これ、かなり高度なもぐら叩きだよな。 長門が消える。三、二、一。「……こっち」声がして振り向くと、また消える。三、二、一。「……あなたの、後ろ」また消える。 手を述べようとするが間に合わず、何度か空振りして俺は宙をにらんだ。ぜったい捕まえてやる。こういうときはもう直感に頼るしかない。そう、頼りになるのは気配だけだ。 現れる直前に空気が少しだけゆれるはずだ、なんて格好つけて考えてみたがまったく分からない。俺は宙を飛ぶ羽虫を捕まえるかのように耳をそばだてた。 長門が再び現れる一秒くらい前だろうか。なんとなく、そこに、いる、ような気がしたのだ。俺は両手を広げ、なにもない空中を大きく囲んだ。 「……あ」 「捕まえたぜ」 背中から俺の腕の中に閉じ込められた長門がいた。 「……どうして、分かった」 少し驚いていた。 「ただの直感さ」 「……興味深い」 ふ。人間には第六感とかヤマ勘とかいう非論理的未来予測機能があるのさ。長門が、ほんとに?という顔をして横目でこっちを見た。ほんとに勘だったのかどうか自分でも分からん。ただの偶然だろう。 俺はじっとそのまま、長門を背中から抱きすくめていた。せっかく捕まえたのを手放すのはなんだか惜しい気がした。このままキスをしようかとふと誘惑にかられそうになったが、足元でミャーミャーと声がした。ミミが俺のズボンに爪を立ててよじ登ろうとしている。仔猫というのは他人が遊んでいると寄ってくるものだ。 「この子を呼ぶ方法がひとつ分かった。俺たちが遊んでいればいいんだ」 「……ときどき、わたしと遊んで」 おう、いつでも遊んでやるさ。俺が遊ばれてる気もするが。 それからミミと長門を追い掛け回す、超高度なかくれんぼに付き合った。ミミには名前を呼んで消えてもらった。壁抜けをする長門より、ミミを捕まえることのほうが存外難しかった。この子には直感が通用しないようだ。 遊び飽きて眠くなった仔猫をなでまわし、俺も時計を見て、そろそろ帰ることにした。長門の膝の上でスヤスヤと眠るミミを起こしたくなかったので、俺は見送らなくていいと言った。 マンションの外に出ると冷たい風が頬を刺した。そろそろ夜が寒い季節だ。帰りの道すがら、俺が長門を捕まえたのは本当に偶然だったのか、それとも長門が狙って現れたのか、ずっと考えていた。 自宅に戻り、部屋に入るとベットに太ったシャミセンが寝そべっていた。 「おい、デブ猫。どいてくれ」 シャミはしぶしぶ場所を空けた。 「今日な、長門んちにかわいい猫がいたぞ。お前も昔はあれくらい器量がよかったのにな」 シャミはいらぬ世話だというように、しっぽを一振りしただけだった。ほとんど家から出ないで食っては寝るだけの生活なんで、まるで歩くハムみたいなありさまだ。もうネズミすら追いかけないだろう。 「少しはダイエットしたらどうだ。肥満は心臓に悪いらしいぞ」 眠そうな目をしたシャミは、腹のたるんできたお前に言われたかねーよという感じなので、俺もどうでもいい感じに放っておいた。 毛布を広げようとしたところ、突然シャミが飛び上がった。ドアに向かって歯をむき出して唸り声をあげている。俺は向こう側に誰かいるのかと思い、ドアを開けてみたが、誰もいない。 「ほら、誰もいないだろ。なにをそんなに怒ってんだ」 なだめてみるが、シャミの戦闘態勢はいっこうに治まらない。しっぽがクリーニング後のセーターみたいにふわふわに毛立って膨らんでいる。 突如、閉まったドアを通り抜けて、一匹の猫が現れた。ミミだった。 「ミミ、お前、ついて来ちまったのか」 ミミはふっと姿を消した。長門に名前を呼ぶと消えてしまうと言われていたことを忘れていた。再びイメージを呼び起こすと、また現れた。あいつの説明によるなら、ついて来たというより直接やってきたというほうが正しいかもしれない。 「シャミ、こいつが長門んちの猫だ。仲良くしろ」 俺がミミを抱いてやると、シャミは警戒しつつ匂いをかいだ。 「ほら、友達だから」 ミミはシャミの鼻先をなめた。猫社会のしきたりは一応知っているみたいだな。 俺は携帯を取り出して、部屋にミミが現れたと長門にメールしてみた。すると返事には「こっちではまだ膝の上で眠っている」と書いてあった。 KYON もしかして異時間同位体みたいなやつ? YUKI.N 厳密には同位体ではなく、量子収束の一形態。 KYON よく分からんのだが。これもミミってことでいいのか? YUKI.N いい。存在が曖昧なだけで、同じ個体。 なるほど。量子世界の話はちょっと理解できん。 「シャミ、そういうことだそうだ。仲良くな」 なにがそういうことなのか俺にも分からんが。シャミは理解したのかしなかったのか、ミミの顔をなめて毛づくろいをはじめた。 オス猫を飼っている人は知っていると思うが、オスというのは季節によっては妙な行動を起こす。二三日ぷいっといなくなったり、傷だらけで帰ってきたり、丁寧に何度もマーキングをやったりする。シャミも若い頃はよく喧嘩傷を残して帰ってきたものだったが。 毛づくろいしていたシャミがミミに向かって嗄れ声で鳴きはじめた。 「おいシャミ、初対面で盛ってんじゃない。この子は長門んちの娘だぞ」 ミミはツンとすました顔で、やって来たのと同じにドアを通り抜けて消えた。まさか夏へと消えていったのではないだろうが。シャミは慌てて後を追いかけ、閉まったままのドアに激突した。鼻を思い切りぶつけたようだ。 「ふられたみたいだな」 俺はくっくっくと笑いを抑えられなかった。 ミミがなぜ長門の部屋に現れたのかを知ることになるのは、数日後のことだ。 何往復かは知らないが、あれから何度か未来とやり取りがあったようだ。分厚い大理石で蓋をしちゃ壊しを繰り返していた。向こうのハルヒからは相変わらず差し障りのない映像くらいしか送られてきてないようだが。 「そろそろ生き物を送ってもいいかもねぇ」 「俺はぜったい行かんぞ。死んでも行かんぞ」 時間移動中に分子レベルまで分解でもしたらコトだ。 「バカね、あんたがこの穴に入るわけないじゃない。もっと小さい、植物とかハムスターとかよ」 それを聞いて安心した。人体実験をやるときには社長自ら志願してくれ。 ハルヒは花束と鉢植えのサボテンを持ち出してきた。このサボテン……。 「あの、長門。ちょっと心配ごとがあるんだが」 「……なに」 「ハエ男って知ってるか」 「……知っている」 「転送中に分子が入り乱れてバケモンになっちまう話なんだが、まさかあんな事故は起こらないよな」 長門は笑いをこらえているようだった。 「……大丈夫。あれとはエネルギー媒体が異なる」 だったらいいんだが。タイムトラベルしてみたらサボテンがハエとかクモと合体してたなんていやだぞ。 「まずはこれ、送ってみましょう。あたし宛にね」 「自分に花束贈るなんて、ちょっと虚しくないか」 「なによ、あんたが贈ってくれるっていうの?」 「ううっ」 「僕が贈って差し上げましょう」 古泉が割って入った。 「うれしいわ、古泉くん。乙女心が分かってるわね。キョンも少しは見習いなさいよね」 よけいなお世話だっつの。 「では、未来の涼宮さんに」 古泉はメモ書きをメッセージカードにして花に添えた。崇高な科学実験だってのになにやってんだこいつらは。 またもや同じように分厚い石の板でフタをしてパテで埋めた。 「思ったんだが、この大理石のフタって意味あんのか」 「蝶番を取り付けて金属製のドアにしてはどうでしょう。毎回壊すのもコストが上がってしまうと思うので」 大量注文した大理石の板で会議室が埋まっている。高く積まれた石が二十枚ほどあり、もし地震でもきたら下敷きになるやつが出そうだ。 「……」 長門がなにか言いたそうだった。後で教えてくれたことだが、ハルヒのかしわ手と、この大理石の分子構造が微妙なマッチングにあり、このワームホールの機能を稼動させているらしい。かしわ手のエネルギーの波が大理石の一部をクォークまで分解して反粒子を生み出している、とか、ふつうにはあり得ないデタラメな現象らしいが。 「手間を惜しんでは科学の進歩はないわ。最初の手順どおりやってちょうだい」 ハルヒの一声で現状継続が決定した。まあ社長自ら肉体労働をやってくれるってんなら止めはしないが。 すぐにメモリカードで返事が来た。今度は小さな包みも一緒に来た。なんだろうこれ。映像には花束を抱えるハルヒが映っていた。 『古泉くん!花束ありがとう。もうあたしったら感激しちゃって(ここで涙を拭く真似)。花もサボテンも、DNA分析してもらったけど異常はないわ。あと、木のタネを送っといたわ。それ、どっか広い場所に、そうね、北高のグラウンドの隅にでも植えといて。あんたが植えてくれたら、あたしが成長した木を見に行けるってわけよ。キョン、これ何のタネだっけ?ああ、そうそう、バオバブ』 「大成功ね」ハルヒがにんまり笑った。 「バオバブって、幹が太いでっかい木じゃないか?」 「アフリカのサバンナに生えてるやつね」 「でかくなりすぎて星を食いつぶしてしまうとかじゃなかったか」 「それは絵本の話でしょ」 相変わらず妙なことを考えつくやつだ。セコイアとか屋久杉じゃなくてよかった。 翌日、ハルヒはペットの移動用ケージを抱えてきていた。中からミャーミャーと鳴く声がする。 「いよいよ動物実験をやるわよ」 「おい、ちょっと待て。大丈夫かそんなことやって」 「植物が大丈夫なんだから、問題ないでしょ」 とは言ってもなぁ。一抹の不安が拭いきれん。 「向こうでバケ猫になって出てきたらどうする」 言ってみて、我ながらバカだと後悔した。 「そんときは送り返してもらえば元に戻るんじゃないの?」 「戻るどころか巨大化したりしないか」 ケージを開けて出てきた猫には、確かに見覚えがあった。ミミだった。俺は長門に目配せをした。 「これ、あの仔猫だよな」 消えてしまうというので、名前は口に出さなかった。 「……DNAは同じ。でも、量子状態が異なる」 「というと?」 長門は仔猫に向かって名前を呼んだ。 「ミミ」 仔猫の姿は消えなかった。 「……この子はふつうの猫。もしくは、量子的変異を起こす前の猫」 「ということは、ハルヒの実験であんな姿になっちまったのか」 「……その可能性が高い」 これはやめさせるべきだ。いくら科学の進歩のためとはいえ、そんな残酷なまねができるか。俺がハルヒにやめろと言おうとすると、長門が袖を引いた。 「……実験を阻止すると、この子の因果律に関わる」 「因果律?」 「この子の未来は、すでにわたしの過去に存在する」 「だとしても、宇宙をふらふらとさまよう姿になっちまうのはかわいそうじゃないか」 「……わたしたちが、面倒を見る」 まあ長門がそう言うなら、命に別状がなければいいか。って今、わたしたちって言ったか。 「わたしたちって、長門と俺?」 「……」 長門は答えなかった。うっかり口がすべったとでもいうような表情をした。ともあれ、物質電送器みたいに細胞が分解したりバケモンになったりするのでなければいいが。 「やってもいいがハルヒ、ひとつだけ条件がある」 「なによ、言ってみなさい」 「時間移動中の心拍と脳波の状態をきちんと記録してくれ」 「なるほどね。あんたもたまにはいいこと言うわね」 たまには余計だ。 ハルヒの命令で獣医が呼ばれた。古泉が連れてきたという獣医のタマゴなんだが、どう見ても機関の人だ。ミミは包帯のようなもので胴体をぐるぐる巻きにされ、そこからコードが出ていた。かわいそうに。俺は自分で提案していて後悔した。しかし異常があったら向こうで治療してくれるだろう。そのための医療用モニタだ。 「そういえばこの子、名前付けてなかったわね」 「……ミミ」 「有希がつけたの?じゃ、ミミ、未来のあたしによろしく」 ミミはケージに入れられたまま、タイムカプセルに押し込まれた。フタが閉められるまでミャーミャー鳴いていた。ハルヒがかしわ手を打ってから数分間は鳴き声が聞こえていたが、突然静かになった。 「おい、そこのマイナスドライバーよこせ!」 俺はまだ乾いていないパテの隙間にドライバを押し込んで、大理石のフタをこじ開けた。 そこには何もなかった。 数分して、メモリカードが返ってきた。 『あんた、いったい何を送ろうとしたの?これくらいの医療機器ならこっちの時代にもあるわ。もっと性能がよくて小型だけど。いちおう残っていた心拍数と脳波のデータをメモリに入れとくわ。次はもっとましなものをよこしなさいよね』 映像のハルヒはコードがぶらんと垂れ下がった医療モニタを持っていた。ケージもそのままだ。 「ミミが消えちまってるぞ」 ハルヒは唖然としていた。 「もしかして、抜け出たんじゃないの」 ケージに入れられるところは全員が見ていたし、それがあり得ないことは分かっている。 「どうしよう……」 ハルヒは真っ青になった。安易に動物なんか使うからだ。 「時間移動中に横穴とか脇道があるんじゃないか」 長門に尋ねてみたが、考え込んでいた。 「……説明がつかない」 長門はメモリ上のファイルを開いて心拍数と脳波の数値を見ていた。 「……大理石のフタを閉じた時間、手を打った時間までは一致している。さらに十三秒後、測定値にエラーを記録。それ以降、データ不詳」 「どこに消えたんだろう」 俺と長門は目を見合わせた。俺はミミが消えたときのことをふと思い出して、試しに姿をイメージしてみた。足元に、やわらかい毛玉がミャーと鳴いて現れた。 「あらっ、ここにいたわ。今、ここに現れた、キョンの足元に」 ハルヒがミミを抱きかかえて頬ずりした。どこも異常はなさそうだ。 「猫ちゃん、ごめんね」 「無事帰ってきてよかったな」 そのとき、返事がもう一通届いた。メモリは手元にあるはずなんだが。封筒を開けると、新品のメモリカードが入っていた。だが容量が俺たちのより千倍以上ある。技術的には向こうのほうが上なんだから、こっちのレベルに合わせてくれないと困るんだがな。 「長門、これ容量が俺たちのよりでかいんだが、読み出せそうか?」 「……やってみる」 長門の超高速タイピングで、いくつかプログラムをいじった後、映像が再生された。 『ごめんごめん、猫ちゃん、後から届いたわよ。いきなり現れたから驚いたわ。今までどこにいたのかしら』 映像の中で、ハルヒの隣で長門がミミを抱えていた。それは届いたんじゃなくて、たぶんそっちにいる長門に会いに行ったんだろう。こっちのハルヒが、自分が抱えた仔猫と、画面に映った仔猫を見比べて、唖然としていた。 「これ、どういうこと?」 「俺には分からん」 「……」 長門はどう説明したものが迷っているようだった。考え込んでいると古泉が分かりやすい答えを披露した。 「未来と過去のエネルギーの総量を保つためにそうなったのでしょう」 つまり、この宇宙にある物質とエネルギーの全体量は決まっている。時間移動したときに勝手に減ったり増えたりするのはおかしい、と。現在でマイナスになった分を埋め合わせるために過去と未来で二匹の猫が生まれた、というのだが、どうやればそういう答えにたどり着くのか俺には分からない。 「なんだ、そういうことなの」 今の説明でほんとに分かったのか、ハルヒ。もし未来に一匹、過去に一匹が行ったんだとしたら、過去と現在の総和は二匹になるんじゃ……いや、やめよう。頭痛くなってきた。俺には長門の言う、曖昧な存在の猫ってのがいちばんしっくりくる。 「これが解決するまで動物実験は中止するわ。それからこの実験結果は社外秘よ、いいわね?」 異議ナシで全員賛成した。こんなことが動物愛護協会にでも知られたらえらいことだ。 ミミは長門が預かることになった。ハルヒのアパートはペット禁止らしい。まあ長門マンションも禁止なんだが。 ハルヒが帰った後、長門と朝比奈さんに尋ねた。 「ひとつ疑問があるんだが、未来のハルヒはなぜ猫が送られてくることを知らなかったんだろう?そのときの記憶がないんだろうか」 「これは別の時間軸が交差しているんじゃないかしら」 「……わたしたちのいる現時点が、別の分岐を生み出している」 「ということは、僕たちが新しい未来を作っているのでしょうか」古泉が口を挟んだ。 「……そう」 「それって、既定事項を真っ向から書き換えてるってことか?」 長門は非常に難しい質問をされたように顔を曇らせた。 「……おそらく、そう。すでにはじまっている」 「わたしが危惧していたのはこれだったの。未来の涼宮さんが知らない歴史が始まっているわ」 「どういうことでしょうか」 「今の涼宮さんが未来の情報を得て、新しい歴史の流れを作ってしまうということなの」 これがどういう状況なのか、俺にはまだピンと来ていなかった。 6章へ
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今更ながら気付いたが、まだ日中にも関わらず森の中は非常に気味が悪い。いやはや、よくぞハルヒは一人で追いかけてきたもんだ。 と、そんなことを思慮深く考えていたせいかは知らんが、俺は繋いでいた手に一層の力を込めた。 瞬間、白いシーツに赤ワインを垂らしたように、ハルヒの耳が朱の色に染まっていく。 そして彼女は、そんな乙女じみた反応に比例するように、とてもとても力強く俺の手を握り返してきた。 こんな初々しい様子を見せられて、愛しく思わないやつがいるだろうか? いるなら出てこい、俺が骨の髄まで叩き込んでやる。 ……なんてな。困ったもんだ、どうやら俺は本気でこいつに――。 俺がむやみやたらと感慨にふけっている間に、眼前にそこはかとない光が射し込んできた。 あまりの眩しさに目を瞑る。久しぶりに本物の光を見たような気分であるのは何故だろうかね。 いや、理由は分かってるか。俺の目の前にいる彼女。こいつが希望の光を与えてくれた。 森を抜け出た直後、完全に置き去りにされていた他の連中が、俺たちの姿を見つけるやいなや揃って駆け寄ってきた。 「キョンくん、あの、その、佐々木さんのことなんですけど……」 「もう大丈夫です、朝比奈さん。ご迷惑お掛けしました。早く佐々木を助けてやりましょう」 俺がなるだけ明るく、そう発すると、朝比奈さんはアスファルトに咲いたタンポポを見つけたように顔を明るくして、 「そうです、頑張りましょう。あたしも、あたしに出来ることなら何でもやりますから」 爽やかな風が通り抜けた。 美術館にも飾れるであろう容姿の女神様は、天候を操る能力まで兼ね備えているようだ。 ハルヒとは別種の救いを俺に与えてくれる。心の補完のためには確実に必要な存在だね。 「僕も尽力します。姫様たっての希望でもありますから」 「あ、あたしだって、佐々木さんのために頑張るのです!」 と、古泉と橘も続いた。 この二人にも感謝しなきゃな、とは思いつつも「ああ」と投げやりに返してしまう俺。本能のままに生きているということを証明した瞬間でもあった。 「じゃあみんな、張り切っていくわよ! 出発進行!!」 そのまま俺の腕をつかんで、再びハルヒは歩き出した。一国のお姫様とは思えぬ行動力。 しかし、ここは全力で抵抗をさせてもらう。 「待て、ハルヒ」 現在持ち得る力を全て足に集約させ、懸命にフルブレーキングを試みる。それでも引きずられるのはどういう了見であろうか。 そんな俺に対して、ハルヒは眉間にしわを寄せながら、 「あによ」 あによ、じゃない。無鉄砲に進みやがって。 そんなことやってたら佐々木を助けるのがいつになるかなんて検討もつかんぞ。ましてや、また犠牲者が増えるかも……。 「じゃあどうすんのよ! あたしに意見したんだから、何か考えの一つくらいあるんでしょうね!」 沈黙。 そこまでは全く考えていませんでした。 「いや、あの……えっと、じゃあ、朝比奈さん」 俺が苦し紛れに名を呼ぶと、朝比奈さんが肩をビクッと震わせた。 何にもしてないはずなのに、犯罪でも犯したような気分に苛まれる今日この頃。 「あー……うん、そうだ。一度アジトに戻って、喜緑さんのところを訪ねてもらえませんか。何とか協力をお願いしたいんですが」 たまには考えずに話し始めてみるもんである。俺の口から零れ出たその言葉は、今の状況に対して真に適切な案であったと我ながら思うね。 さて、当の朝比奈さんは、瞼で大きな目をパチクリと往復させて、 「ええっと……それ、あ、あたし一人でですかぁ?」 「いえ、もちろんもう一人付けますよ」 冗談じゃない、一人だなんて危険すぎる。 これ以上誰かを傷つけたくはないんです。朝比奈さんほどの可憐なお方は特に。 「僕がご同行いたしましょうか?」 「却下」 「冗談です」 冗談だかマイケルだかは知らんが、こいつにだけは任せられん。それこそ朝比奈さんが傷物になる可能性がある。 そんなことになったら、こいつを殴り倒すどころじゃすまんね。 「それに僕は姫様のお供をすることが至上命題でもありますから」 知るか、そんなもん。 「橘、頼めるか」 消去法っていったら橘に失礼だが、実質余るのはこいつしかいない。 女二人だけだが、橘だったらそこらへんの雑魚くらいは倒せるから大丈夫だろう。 「任せてください。あたしがついているからには、朝比奈さんに指一本触れさせません!」 頼もしい言葉だね。若干信用はしかねるが。 しかし、おい、あからさまに古泉を睨むのはやめなさい。 「大丈夫よ、橘さん。古泉くんには好きな人がいるから。みくるちゃんに手を出すようなマネはしないわ」 と、ハルヒ。 ちっとばかり肝を抜かれたが、まあ確かに、こいつなら普通の付き合いをしていても何ら不思議はないな。 しかし古泉は、何やら分かっていないといった表情で、 「僕に、想い人ですか? そんな方はお見受けしないように存じますが……」 「あれ、古泉くんって森さんのこと好きじゃないの?」 終始ニヤケ面だった顔が固まった。心なしか青白くなっている気もする。大丈夫かよ、こいつ。 数秒の後、古泉はやっとのことで有機活動を再開し、 「有り得ません、絶対!」 明確な拒絶を感じるね。 森さん、という俺にとって未知のワードは、そんなに古泉の琴線に触れるものがあるのか。 「ふーん、そうなんだ。あたしは結構お似合いだと思うけどなあ」 と、ハルヒが含みのある笑いをしながらのたまった。 古泉は未だにしどろもどろ。主従関係の常を見た。 うむ、しかしこれはいい弱みを握れた。さすがハルヒと言うべきか。 「ま、それでも健全な男女が二人きりだったら何が起きても不思議じゃないわね」 というわけで、なんだかんだで結局、喜緑さんのところには朝比奈さんと橘の二人で行ってもらうこととなった。 「ところでみくるちゃん!」 「は、はい」 「アジトって何、どこにあんのそれ?」 「えっとぉ、城下町の」「城下町! ああもう、それじゃあそんな格好してちゃダメじゃない。あたしが見繕ってあげるから、こっちに来なさい!」 朝比奈さんが全て話し終わる前に一気にまくし立てたハルヒは、その勢いを持続したまま、年下と間違えてしまいそうな彼女をテントへと引きずっていった。そんな彼女の手には巻き込まれた橘の姿が。 「ひょえええ」 荒野に虚しく響く二重の叫び声。 それをバックグラウンドとし、俺は近くの岩に腰掛けた。 「ふう」 今更になって体に痛みを感じる。それこそこれまで経験したことがない、焼けるような痛みだ。 アメージング。少しだけだが、みんなと触れ合えたことで安心したから再発したんだろうな。 などと、俺に似合わなずセンチメンタルな気分を味わっていると、 「お隣、失礼します」 失礼させません。 「冷たいですね。お姫様にはあんなに優しいあなたが」 俺は女には誰にでも優しいんだよ。紳士として当然のたしなみだ。 「いえいえ、しかしあれには驚かされましたよ。あなたの口からハルヒ、とはね」 お前は一度その減らず口を釘で打ち付けた方が良さそうだ。今なら俺が自ら承ってやる。 「ご遠慮願います。ところで、朝比奈さんたちはあなたのアジトとやらに行くとして、僕たちはどうするんですか?」 沈黙、再び。 「まさかとは思いますが、何も考えていないなんてことは……」 「悪いか?」 開き直るほかなかった。 「まあ悪い悪くないで言ったら、10 0の割合で悪いかと」 100%じゃねえか。だいたいさ、お前も何か考えろよ。 誰か知り合いに石になった人間を元に戻してくれるやつとかいないのか? 「残念ながら」 「……そうかい」 俺は少し残念そうに言った。端からこいつに期待なんてしてなかったがな。 その言葉を境に、それ以上古泉が話しかけてくることはなかった。俺は延々と続く荒野を見ながら思う。 今日はやけに沈黙が続く日だ。 「おっまったせー!」 一キロ先にも聞き取れるような声が沈黙を一突き。それは近くの山々にぶつかって、若干のエコーがかかっている。 俺は遠くからも聞こえてくる反響音にも耳を傾けつつも、目の前に降臨した三人の天使を眺める作業に躍起となった。 ……はずだったのだが、俺はハルヒ一人から目を離すことができなかった。そりゃ朝比奈さんも素晴らしいんだが……むう、こりゃどうしたもんかね。 それにしても人間塞翁が馬。辛いことがあったと思えばこれだ。これだから人生というやつは面白いのだろうけどな。 なんて俗物的な考えをしていると、ハルヒが多少訝しげにこちらを一瞥し、 「どしたの?」 分からないことは訊く、当然のこと。5歳児にだって簡単に行うリアクション。 しかし、それを答える側となると話は別だ。訊ねる側に比べ、飛躍的に上昇した言語レベルが必要とされる。ある所説によると、返答は限界への挑戦とも称されるそうだ。 まともに返す場合は少しでも相手に伝わりやすくするため、ごまかす場合は少しでも質問の主から遠ざけようとするために尽力する。 そして、今回の俺のケースは後者にカテゴライズされ、上手くそれを実行しようとした結果、もれなく辞書にも載ってしまいそうな悪い例を披露してしまった。 「えっと、だな……そう、空は青いな、と思って」 ポカーンとした表情のハルヒ。朝比奈さんと橘はその隙にとハルヒの腕から脱出し、おしゃべりモードに突入した。 二人の「綺麗ですねー」というレスポンスを耳の端で捉えながら言葉を反芻し、よくよく考える。 前述すら弾いてしまう、悪い例にすら分類されない超絶タームを自らが発したということに気付くのに、それからそう長くはかからなかった。 「……あんた、何言ってんの? バカじゃない」 ぐぅの音も出ないほどの的確さ。反論の弁も無いとはこのことを指すのだろう。 俺が言葉に詰まったところを見ると、ハルヒは古泉に森さんのこと言及したときと同種の顔をして、 「はっはーん、もしかしてあたしに見とれてたってわけね。ほら、素直に言っちゃいなさい、今なら許してあげないこともないから」 「ああ、めちゃくちゃ綺麗だ。三人の中で誰よりも」 恐ろしいほど滑らかに口から言葉が出た。これが若気の至りであろうか。いやはや、怖いもんだね。 虚を突かれ、呆気にとられていたハルヒは徐々に頬を赤く染め上げた。お話中だったはずのお二人も顔を真っ赤にしている。 ん、ああ、古泉は説明する気にもなれん。強いて言えば、殴りたくなるような顔をしていたよ。 「ふ、ふんっ! よく分かってんじゃないの! アホのあんたにしてはマシな答えね!」 「そりゃどうも」 褒められているのか貶されているのかイマイチよく分からん。 しかしまあ、ハルヒの照れた顔が見れたからよしとするか。 「照れてなんかなーい!!」 ……そんな軽口を挟んだ三時間後―― 「――おい古泉、てめえやっぱり道間違えたんじゃねえのか」 「そんな筈はないと思うのですが……」 またその返事か。だとしたら、どうしてこんな状況なのか説明してもらおうかね。認めたくないが、認めざるを得ない。 現在、俺たちは遭難している。 話は三時間前に遡る。つまりは、俺とハルヒのたわいもないやり取りが終わった辺りだ。 「そろそろわたしたちは行きますね」という朝比奈さんにしては珍しい、モデラートのリズムのお言葉が契機だった。 俺は「一段落したらこっちから連絡します」と残し、名残惜しくも二人と別れた。 ある程度の距離まで二人を見届けると、ハルヒはくるりと俺に向き直り、 「で、あたしたちはどうすんの? もちろん決めてあるんでしょうねえ?」 と、そのときの俺が最も追求されたくないゾーンに土足でずんずん踏み込んできた。 ハルヒの顔に浮かぶ悪の笑み。それによると、どうもこちらの様子が分かって訊いているらしい。ここはスキップを使ってもらいたかった。 それに俺は特にボロを出すようなマネはしなかったはず……ああ、あれか。シックスセンス恐るべし。 さて、悪魔の笑みの効能なのか、俺の手乗り文鳥並みメンタルに与えられたダメージは、存外大きいものとなっていた。 そして、そのように精神を病んでいたためであろう。古泉に助けを求め目配せなどしでかす始末。 しかし、そんな俺の大英断をダンゴムシのごとく丸め込み、あいつは我関せずとばかりに朝比奈さんたちが旅立った方角を細い目で眺めている。 ……後で覚えてやがれよ、くそっ。 わずかの時間、古泉をシバくという別ベクトルの感情に想いを馳せていると、いつのまにやら、ハルヒは笑顔を極悪から得意満面に変化させ、胸を張りながら物申す。 「あたしの知り合いに王女様がいてね、その人なら何でも協力してくれると思うの」 この言葉に反応したのは他ならぬ古泉。 「なるほど、鶴屋さんですか」 「そ、古泉くんも分かってるじゃない」 「確かに彼女なら快く協力してくれるでしょうからね」 完全に蚊帳の外にいる俺。 「そういうわけよ! あたしたちの目的地は鶴屋さんとこで決定ね!」 ふむ、別に反対する理由もない。よし、じゃあ俺たちも行くとするか。 佐々木、待ってろよ。 ――と意気込んどいてこの様だ。 情けない、ああ情けない、情けない。 一句読んでみたが気休めになるわけでもなく、余計にブルーになった。心の中も猛吹雪である。 「だいたい、この山は絶対通らなきゃならんのか? もっと安全なルートはねえのかよ」 「ごちゃごちゃうるさいわよ! これが一番近い道なの! ちょっとでも早く佐々木さんを助けたいんでしょ!」 「そりゃそうだが……」 「じゃあ文句は言わない! いいわね?」 「……了解しましたよ、お姫様」 だが、本格的にマズいんではなかろうか。先程から延々と同じ場所を歩いている気がする。あ、だから遭難か…………へっくしょん…………にしても、寒いな……。 「大丈夫?」 「ああ、大丈夫だよ」 「あんた、首寒そうね」 ん、そういやマフラーとかしてなかったな。 「しょうがないわね、はい、これ」 自分が巻いていたマフラーを外して、ずいっと突き出す。 「いいよ、お前が巻いてろ」 いくら寒いからと言って、女の子から防寒具を奪い取るほど落ちぶれちゃいないさ。 「うるさい! 大人しく言うこと聞きなさい」 ハルヒが「とりゃー」と嬌声を流しながら俺の首目掛けて飛びついてきた。 同時に、腕に柔らかいものを感じ、理性がフライングしかける。……生きててよかったなあ……。 「あなた方がいれば凍死する心配はなさそうですね」 遠い目で戯れ言を抜かすな、バカやろう。 「いや、しかしですね……あれ…………」 「おい、どうした?」 「……急に、眠気が……」 「あたしも……何だか……眠い……」 おいおい、冗談じゃねえぞ。 「お前ら、絶対寝るんじゃねえ! 本気で死んじまうぞ…………いっ!?」 二人の体がフェードアウトしていく。雪が溶けていくように。 「……んだよっ、これ……くそっ、ハルヒ! 古泉!」 俺の叫びも虚しく、やがて、二人の体は完全に消失した。 「…………嘘、だろ……」 情けなくも、泣きそうになったとき、ふと、そう、何の前触れもなく突然に、背中を冷たい汗が流れた。 二人が消えたからか……いや、違う。 「……お前、誰だ……?」 あまりの威圧感に意識を失いそうになったが、何とか紡ぐように言葉を吐き出す。 吹き荒れる吹雪の奥で、そこだけがぼやけている。夏の日の、蜻蛉みたいに。 「――涼宮……ハルヒ――」 対峙するだけで気絶しそうなほどのプレッシャーを受ける。 佐々木と共に戦った怪物より、遥かに強い。 ハルヒに借りたマフラーが顔にぶつかり、俺を現実に返した。 冷静になった俺は、そいつの言葉を省みる。確かに言った、涼宮ハルヒと。 「――――連れ戻す――――」 結論。 こいつは俺が倒さなければならない。あいつらが消えたのはこいつの仕業だ。 「……ハルヒは渡さねえ」 「――無謀――」 無謀、か。 確かにお前の言うとおりかもしれん。だがな、それでも……やるしかないんだよ。 「俺がみんなを守るんだ」
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入学式から2週間ほどがたつ。 ほとんどの生徒はまだ仮入部しているころあいかもしれないが、僕は真っ先にこの部活に入ったさ。 アイドル研究部 全く持ってすばらしい部活だ。こんな部活があるところに入学できるなんて。 今日も朝倉さんの髪からはいい匂いがした。 席が離れてるのが残念だ。今度は真後ろになるように祈っておこう。 さて、今日も授業が終わり、僕は部室にむかう。 昨日の放課後はクラスに残って、双眼鏡を持って校内のアイドルを観察してたんだけどね。 今日はその報告さ。 で、その報告をしているときだった。 扉が開いて、一人の少女が中に入ってきたのだ。 涼宮ハルヒ 朝倉さんより劣るものの、なかなかの美少女だ。 彼女がいろんな部活に仮入部していることは知っている。 だから、ここにも来たのだろう。 僕なら、こんな美少女がむこうから近づいてくるならたとえ、1日でも大歓迎さ。 ただ、今は違う。 だって、今僕が報告していることは、 昨日、涼宮ハルヒが仮入部していたテニス部についてなのだから。 とりあえず、ササッとメモを隠し、僕は冷静をたもったね。 「仮入部したいんですけど」 やっぱり仮入部ね。 まあいい、せいぜい楽しんでいってくれ。僕も一緒に楽しむことにしよう。 「部長さんは?」 部長は今、僕の目の前にいる。 報告している相手が部長だからね。 で、もちろん涼宮ハルヒは部長の近く、つまり僕の近くに来たわけだ。 フフ、まずは匂いのチェックをさせてもらおう。 なかなかいい匂いだ。 朝倉さんほどではないけどね。 「ここって何するとこ?」 それから、部長の熱心な説明が始まる。 喋り終えた後の涼宮ハルヒはポカーンとしていたが、まあいい。 きっと彼女のことだ。そのまま帰るということはあるまい。 案の定、彼女はこのままいつづけた。 まあ、今まで見てきたところ、彼女も人間観察が好きなようだし、もしかしたらそのまま入部してくれるかもしれない。 と思ったのだが、涼宮ハルヒは急に立ち上がり、どこかへ向かった。 ただ、観察用紙を持っていったから帰ったというわけではないのだろう。 さて、僕も今日も実行に移すことにしよう。 美術部の成崎さんあたりがいいかもしれない。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さて、今日もいろいろ収穫があった。 あの成崎さんのゆったりした手の動きが美しい。 今度、匂いを嗅いでみることにしよう。 そして、僕は部室に戻ってきたんだが、そのころには涼宮ハルヒも戻ってきていて、何かを読んでいるようだ。 あの紙には見覚えがある。 表紙にはこう書いてあるはずだ。 『観察対象:涼宮ハルヒ』 そりゃもう、背中は冷や汗ダラダラさ。 そりゃもう、涼宮ハルヒが次にこちらを睨んだときは怖かったさ。 そりゃもう、半殺しぐらいは覚悟したさ。 「あんた、何者?」 涼宮ハルヒは言った。 そんなことを言われてもなんていえばいいのだろう? 「白状しなさい。あたしに隠してること全て」 しかたない、ここはおとなしく言っておこう。 先ほど、髪の匂いを嗅いだこと、一番最初の体育の授業はちゃんと着替えを見ていたということ。 さらには、関係ないのに朝倉さんの後ろの席になりたいということまで言った。 「他にもあるでしょ?」 僕は、もしかしてめったに話をしない涼宮ハルヒと話していることはかなり貴重なのではないか?と思いながら 「断じてない」と答えた。 だが、涼宮ハルヒはそれでも納得していない様子だ。 他に何を知りたいというのだ? 「まあいいわ、でも今度あたしを観察しているようであれば、今度こそ白状してもらうからね」 だから、何を白状すればいいのか僕には全く持って分からない。 まあ、どちらにしろ、「分かった」とは言うけどね。 仕方ない、やっぱり僕は、朝倉さん一筋でいこう。 今度は、朝倉さんの後ろの席になりますように。 ん?あそこにも美少女が! ふむふむ、朝比奈みくるというのか・・・ 終わり
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中3の冬 受験勉強の息抜きにふと書店に寄ってみた。そこで一冊の本をみつけた 「『涼宮ハルヒの憂鬱』・・・?」 なぜこの本が気になったのかというと、この本の主人公と俺は同じあだ名だったからだ。妙な近親感ってやつ?しかも国木田って苗字のヤツも出てるし・・・ 感想はというとなかなかおもしろかった。そしてこの本は気晴らしに読んだ一冊で終わるはずだった。 おめでたいことに高校に合格した。国木田も合格した。これからどんな高校生活が始まるのかという期待と不安に俺も例外なく襲われる。 入学式が終わってクラスでのホームルーム、担任の岡部は顧問をつとめるハンドボール部について語った。そして出席番号順に自己紹介。俺はあたりさわりのないことを言ってすぐに自己紹介を終えた。そして俺の後ろの女子の番。 ハルヒ「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未 来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」 なんだと!?涼宮ハルヒ?そして自己紹介の内容はおぼろげな記憶だがあの本と同じ。どうなっているんだ? さっきしまったクラス名簿を引っ張り出す。朝倉涼子、国木田、俺、涼宮ハルヒ、谷口、これは偶然なのか? クラス中がハルヒの自己紹介にあっけにとられている、俺はあっけにとられるどころでは済まされなかった 「なぁ、あの自己紹介すごかったな」 俺はいろいろ探りをいれるためにハルヒに話しかけた。 ハルヒ「あんた宇宙人なの?」 「違うけどさ・・・」 ハルヒ「だったら話かけないで」 そうはいかないさ、あの本は俺が小さいころに忘れてしまったサンタクロースからのプレゼントかもしれないんだからな 「もしかして中学の校庭に奇妙な絵かいた?」 ハルヒ「誰からきいたの?」 「中学のときウワサできいた」 ハルヒ「本当よ」 ビンゴ、ということは・・・ 「教室の机全部廊下にだしたのもお前か?校舎の屋上に星マークをペンキで描いたのもお前か?学校中に変なお札を貼ったのもお前か?」 ハルヒ「そ、そうよ・・・だからそんなに迫らないで!」 そうはいかねぇ、まだまだ聞きたいことがあんだよ 「付き合う男はみんな振ったんだろ?普通の人間だからって理由で」 ハルヒ「あ~もうそうよそうよ!わかったならこれ以上質問しないで!」 その時教室に岡部が入ってきた。あとはあとで聞こう。 俺は確信した。おそらくあの本は俺の高校生活を著したものだと。すげぇよ、あれが全部本当なら俺は高校生活は薔薇色じゃねぇか。 休み時間もハルヒを捕まえていろんなことを聞いた 「髪型毎日変えてんだろ?」 ハルヒ「・・・・・・、あんた以前どっかであったことある?」 「いや、今日がはじめてだ。あと着替えは場所をきにしろよ」 ハルヒ「もう!なんなのよ!アンタってストーカーなの?気持ち悪い!」 ハルヒは走ってどっかいっちまった、不思議探索か・・・? ハルヒはすごく驚いていた。俺はやりすぎたと思ってはいるが、まるで人の心が見える能力を手に入れたようで興奮がとまらない。 今日はあれっきりハルヒは戻ってこない。そして昼休みの時間 谷口「おい、キョン。お前どんな魔法を使ったんだ?」 「魔法って何だ?てかもうあだ名で呼んでんのかよ」 谷口もあの本のまま、そういえば俺は思いっきりあの本のシナリオを無視しちまっている。 まぁ大丈夫だろ、こんなにも共通点が多いんだからちょっとくらい・・・ 谷口「俺、あんなに怖気づいたハルヒなんて初めて見たぞ。お前なんていったんだ?」 傍から見たら変態な質問を浴びせていたなんていえねぇよな。 谷口「驚天動地だ」 国木田「昔からキョンは変な性癖があるからねぇ」 ずいぶんな言い様だな 朝倉「あたしも聞きたいな」 でた、殺人宇宙メカ。ちょっと遊んでみるか 朝倉「入学初日からいざこざがあるのは気持ちよくないわよ」 「それより宇宙人っていると思うか?もしかしたら身近にいるかもしれない」 朝倉「・・・・、なんの話?」 この反応おそらく・・・ 「いや、あの自己紹介聞いちゃったからさ」 朝倉「そう、まぁとにかくみんな仲良くいきましょうね」 そういうと朝倉は笑顔で向こうにいった 次の日からハルヒは休み時間になるとすぐ教室から出て行き、放課後もすぐ教室を出るようになった。予定通り。 GWが終わって少し経ったある日、席替えをした。ハルヒは俺の後ろの席ではない。さすがにあの本どおりにはいかないか。仕方ないこっちから行こうか。 「部活作んないのか?」 ハルヒ「・・・・なんでよ?」 「全部の部活に仮入部してもしっくり来るものがないんだろ?だったら自分で作っちまえよ」 ハルヒ「・・・・、それもそうね」 「俺も手伝うからさ」 ハルヒ「別にあんたの手伝いなんていらないわ」 「一人で部員集めから書類提出までやれんのか?」 ハルヒ「・・・・・、わかったわよ」 「じゃ~俺は書類やるから、部員集めと部室確保よろしくな」 ハルヒ「なんで勝手に役割決めるのよ?」 「部員と部室は当てがあるんだろ?」 ハルヒ「・・・・・・・」 よし、とりあえず順調だ 終業のチャイムがなる。ハルヒが俺の前にやってきた ハルヒ「ちょっと来なさい・・・」 「部室に行くんだろ?」 ハルヒ「そうよ・・・」 そして文芸部の前にやってきた。ハルヒはノックもせずに入った。そして予定通り窓際にはパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読む少女。 ハルヒ「ここが部室よ、あの子は唯一の文芸部員だけど本さえ読めれば別にいいって」 長門「長門有希」 窓際の少女はわずかに顔をあげ、表情なくそう言った。 「長門さんとやらよろしくな」 長門「よろしく」 俺はハルヒを振り返って 「部員はあと2人は必要だな、心当たりあるんだろ?」 ハルヒ「・・・・・」 次の日、部室にいくと長門だけがいて昨日と同じ姿勢で本を読んでいた。 「何を読んでいるんだ?」 長門は返事のかわりにハードカバーの背表紙をみせた。SFの小説らしい 「面白い?」 長門「ユニーク」 「どこらへんが?」 長門「ぜんぶ」 「本が好きなんだな」 長門「わりと」 「そうか・・・」 長門「・・・・」 「長門は宇宙人なんだろ?」 長門「・・・・・・、いきなり何をいっているの?」 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」 長門「!!あなたは何者?まったくのノーマークだったはず」 ビンゴ 「俺は普通の高校生さ、ハルヒとその周辺の状況は結構知っているけどな」 すげぇ、俺は今宇宙人の一枚上手にいる。これが幼いころに捨てちまった非日常か 長門「・・・・・」 ハルヒ「ごめん、少し遅れちゃった。ちょっと捕まえるのに手間取っちゃって」 予定通りハルヒの後ろには可憐な美少女がいた、朝比奈さんだな みくる「なんなんですかー?ここどこですか、どうしてあたし連れてこられたんですか?」 実物もかなりかわいいな ハルヒ「静かにして」 みくる「・・・はい」 ハルヒ「紹介すr「朝比奈みくるさんだろ?」 みくる「ふぇ?どうして名前を・・・」 ハルヒ「そうよ、連れてきた理由とかはもう知ってんでしょ?」 「ああ、確かに年上なのにロリっぽくかわいくて胸が大きい。萌えが重要なんだろ?」 みくる「な、なんでそんなことまで・・・・」 ハルヒ「みくるちゃんゴメンね、あいつすごく変なヤツなの。あんなのと一緒にいたくななら無理に入らなくてもいいわ」 みくる「・・・・・」 視線の先には長門がいた みくる「そっか・・・私この部活に入ります」 ハルヒ「そ、そう?みくるちゃんなら殺伐とした雰囲気を和らげてくれるわ、よろしくね」 みくる「よろしくお願いします」 ハルヒ「あと部活名考えてきたわ」 「・・・・・・」 ハルヒ「今回は先に言わないのね」 「団長に花をもたせてやってるのさ」 ハルヒ「SOS団よ。世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」 みくる「ほ~」パチパチパチ 長門「・・・・・・」 ハルヒ「じゃ~明日からちゃんときてよね。今日は解散」 そう言ってハルヒは帰った 部室にはまだ俺と朝比奈さんと長門がいる 「朝比奈さん」 みくる「は、はいっ」ビクッ 「朝比奈さんは未来人ですよね?」 みくる「ふぇ!?い、いきなり何を・・・」 「ハルヒの監視のためにこの時代に派遣されているんですよね?」 みくる「あ、いやそのぉ・・・」 「あと胸に星型のほくろがあるはずです。確かめてみてください」 みくる「ふぇぇぇぇ!!!私、男の人に体見せたことないのに!!!」 「質問の答えは話したくなったらでいいですよ、それではさようなら」 そして俺は部室を出た。 キョンが帰ったあとの部室 長門「朝比奈みくる、これは予定された未来?」 みくる「いえ、しかし涼宮さんによる改変と考えれば納得がいくと思います」 長門「これは涼宮ハルヒが望んでいない事象、あの不確定要素が存在は涼宮ハルヒによるものではない」 みくる「でも、私たちのことを知っていましたよ?私たちと同じ異能力者と考えるのが適切かと・・・」 長門「涼宮ハルヒはあの不確定要素を快く思っていない、それでも存在している」 みくる「・・・・・、情報統合思念体はどう解釈しているのですか?」 長門「不確定要素はまったく因果関係がなく発生した。時間軸が異なる世界からの干渉の可能性も視野にいれている。情報統合思念体は今は様子をみるにとどまっている」 みくる「私たちも今は待機なようです」 長門「私と朝比奈みくるは不確定要素と接触して情報を引き出すべき」 そして部活は本格的に始まった。一応筋書き通りに進んでいる。パソコンを奪い取ったり、サイトを立ち上げたり・・・・そういえばサイト立ち上げのとき長門から本貸してもらってないな 「長門、俺に話さなければならないこととかないか?」 長門「あなたはすべて知っているはず。何も話すことはない」 なるほど・・・ ハルヒと朝比奈さんはちゃんとバニーガールでビラ配りもした。やっぱ実物は目にいい。 朝比奈さんはビラ配りの次の日学校を休んだ。 ハルヒ「みくるちゃんは?」 「今日は休みだ」 ハルヒ「そう・・・」 「新しい衣装か?」 ハルヒ「そうよ、みくるちゃんは本当にかわいいからね」 そういえばハルヒは朝比奈さんがいないとすごくつまんなそうだ ハルヒ「謎の転校生とか来ればいいのに・・・」 待望の転校生が来た 朝の教室はその話題で持ちきりだった 「今の時期にくる転校生なんて謎だな」 ハルヒ「そうね、同じクラスじゃないけど」 「もう転校生見たか?1年9組で古泉一樹って男子らしいぞ」 ハルヒ「へぇ~、あとで見にいくわ」 ついに超能力者が入部か・・・ その日の部活、朝比奈さんは復活した。今は俺が持ってきたオセロで俺と対戦している。 長門は相変わらず読書。 みくる「涼宮さん遅いですね。」 「転校生でも連れてくるのでしょう」 みくる「転校生ですか?」 「1年9組に来たようです、時期が時期ですしハルヒが興味を示したようで・・・」 みくる「へぇ、そういえばキョン君はどうして人の心とかいろいろ知っているんですか?」 「俺は一回この日々を見たんですよ。多少のズレはありますけどね」 今の俺かっこよくきまってたよな? みくる「どこで見たんですか?」 「禁則事項です」 みくる「そうですか・・・あ、また負けちゃいました・・・」 「オセロはとりあえずはさむだけでは勝てませんよ、二手三手先も読まないと」 みくる「ふぇ~奥が深いんですね」 「慣れればきっと勝てるようになりますよ」 視線を感じて振り返ると長門が盤をじっと見ていた 「長門もやるか?」 長門は首をわずかに縦にふった。 「ルールはわかるか?」 長門は首をわずかに横にふった 「じゃ~教えてやるぞ」 3人でオセロをしているとハルヒが転校生を連れてやってきた ハルヒ「転校生連れてきたわよ。1年9組に今日やってきたの、名前は・・・」 「古泉一樹くんだね?」 古泉「おや?もうご存知でしたか」 ハルヒ「古泉くん、アイツはめっちゃ変なヤツだから気をつけてね」 古泉「はぁ・・・ところでこの部活に入るのはいいのですが何をやる部活なんですか?」 ハルヒ「宇宙人や未来人や超能力者を見つけ出して一緒にあそぶのよ」 みくる「!!」 長門「!」 おもしろい光景だ 古泉「はぁ、なるほど。いいでしょう、僕も入部します」 ハルヒ「あの変なヤツがキョンで、あのかわいい子がみくるちゃん、あの眼鏡っこが有希」 古泉「みなさんよろしくお願いします。」 ハルヒは学校を案内してあげるといって古泉を連れ出し、朝比奈さんは用事があるといって先に帰ってしまった。部室には俺と長門だけ 長門はずっと本を読んでいて一緒にオセロをやる雰囲気ではない。俺も帰ることにした。 「じゃあな、長門」 長門「あなたに一つ忠告する。」 「なんだ?」 長門「涼宮ハルヒと出会ったばかりの頃のあなたは涼宮ハルヒに対してとてもしつこかった。そのことを涼宮ハルヒは快く思っていなかった。そこで涼宮ハルヒはあなたを予知能力者としてみることであなたの存在を合理化した。涼宮ハルヒはあなたの能力に惹かれているが、あなたの存在そのものには好意的ではない。これはあなたの未来に対する解釈と現実とに大きなズレを生むかもしれない。気をつけて」 これではますますあの本のことなんて言えないな、予知能力者を演じつつハルヒのご機嫌をとらないと楽しい高校生活とは決別か・・・でも俺にはあの本があるんだ、大丈夫だ 「わかったよ、創造神さまにこれ以上嫌われたら大変だもんな、ありがとな」 長門(そして涼宮ハルヒがいくらあなた自身を改変しようとしても改変できない・・・) 土曜日、朝9時北口駅前集合 金曜日の部活中の第1回ミーティングにて ハルヒ「果報は寝て待ってもやってこないわ。果報は探し出すもの。だから探しに行きましょう」 「不思議を探すんだろ?」 ハルヒ「そうよ、市内をくまなくさがすの。明日朝9時に北口駅前に集合。遅れちゃだめよ」 そして急遽決まった不思議探索、これも予定通り。 俺は突如決まるはずの罰金が嫌だから一番最初に集合場所につくようにした。 古泉「いや~みなさん早いですね」 一番最後は古泉、でも罰金はなかった ハルヒ「二手に分かれて街を探索して、何か見つかりしだいケイタイで連絡しつつ時間まで探索継続。あとで反省と考察をするわ。じゃ~くじでグループを決めるわよ」 俺は朝比奈さんと二人組になった。ハルヒは朝比奈さんをじっと見つめていた。 ハルヒ「キョン、これはデートじゃないんだからみくるちゃんに変なことしたら許さないからね」 「わかったよ」 不思議ったって簡単にみつかるもんじゃない。 「朝比奈さん、そこらへんをふらふら歩きましょう」 みくる「あの・・・ちょっとお話が・・・」 「どうぞ」 みくる「お分かりのとおり、私は未来人です。」 「ああ、はい。そのことに関しては全部知っていますよ」 みくる「では、お聞きします。去年の冬あなたは何をしていましたか?」 「していたことといえば受験勉強ですが」 みくる「かわったことはありませんでしたか?」 「・・・・・とくにありません」 みくる「そうですか・・・」 「去年の冬になにかあったんですか?」 みくる「はい、私たち未来人は私が今ここにいるように時間をさかのぼることができます。でも去年の12月3日から約1週間だけはどうしても侵入できないんです。」 俺があの本を購入して読み終えるまでの間か・・・ みくる「キョン君はいろいろなことを知っています。なら、この期間についても何かご存知なのかと思って・・・」 「残念ながら力にはなれません。」 そしてしばらくブラブラしているとハルヒから電話があった 『12時にいったん駅前に集合』 集合後、昼飯をファミレスで食べ、午後の部のくじ引きをした。 俺は長門とだ ハルヒ「じゃ~4時集合ね」 「行くか」 長門「・・・・」 「この前の話なんだが」 長門「なに?」 「俺は最近でしゃばらないでいるつもりなんだが、ハルヒはまだ俺を嫌ってるのか?」 長門「前よりは改善された、しかしあなたは一人の人間というあなたよりは予知能力者としてのあなたのほうが大きい」 「そうか・・・、でもどうして同じようなことされた長門や朝比奈さんは俺を避けないんだ?」 長門「あなたと決別するのは私と朝比奈みくるが所属する派にとって得策ではない。それにあなたは悪い人間ではない」 「そっか、ありがとな。そういえば長門は図書館って知ってるか?」 長門「?」 お礼と言ってはなんだが、俺は本好きな長門を図書館に連れて行った 長門「ここが図書館?」 「そうだ」 それからしばらく長門は本にかじりついて離れなかった、気がついたらもう3時だ 「長門そろそろいくぞ」 長門「・・・・・」 長門は名残惜しそうに本を眺めている 「じゃ~図書カード作ってやるよ」 長門「図書カード・・・?」 「それがあればここの本ならなんでも借りれるんだ」 俺はカウンターで図書カードを作った 「ほら」 長門「・・・・ありがと」 長門はさっそくデカルトとゲーリングスの哲学書を借りた 長門「最後にひとつ聞いていい?」 「なんだ?」 長門「あなたの未来に対する解釈ではこの先どうなる?」 「ハッピーエンドだな」 長門「そう」 そして駅前に戻ることにした どうやら向こうのグループも収穫はなかったらしい ハルヒ「次回は絶対に不思議を見つけてやるわ、今日はもう解散。月曜日は反省会よ」 ハルヒは真っ先に帰ってしまった 古泉「じゃ~僕も帰ります。話によるとあなたは僕の正体をもう見抜いているのでしょう?今日はゆっくり話す時間がなくて残念です。」 「ああ、じゃあな」 みくる「今日はありがとうございました。また月曜日にあいましょう」 「さようなら、朝比奈さん」 長門「さようなら」 「おう、じゃあな」 週明けの部室 長門と古泉はもう来ていた。ちょうどいい、古泉と話をしよう 「古泉、今ならハルヒもいないし話ができるだろ?」 古泉「そうですね、念には念をということで場所を変えましょう。」 俺たちは食堂まで行き、テーブルについた 古泉「といってもあなたは僕の全部を知っているのでしょう?」 「ああ、だから俺からの質問はない。お前から俺に聞きたいことはあるか?」 古泉「そうですねぇ・・・あなたの予知はどれくらい当たりますか?」 「俺の行動を含まなければ7割はあたると思うぞ」 古泉「そうですか、ん?あなたは自分の予知と同じようには行動しないんですか?」 「ああ、俺がみたのと同じように行動するのは不可能だ。環境は同じでも俺本人は言うことを聞いてくれないらしい」 古泉「予知の中でのあなたと現実のあなたの行動のズレで何か問題はおきないんですか?」 「そうだなぁ・・・今のところは大丈夫だ」 古泉「そうですか・・・では、部室に戻りましょう」 部室のドアをあけると予定通り朝比奈さんが下着姿で立っていた、エプロンドレスを持ったまま固まっている。ほら、俺の予知はすばらしい。 「失礼しました」 俺たちは廊下で待っていた 古泉「さっきのも予知していたんですか?」 「ああ、まったく同じだ」 古泉「んふっ、罪な人です」 しばらくして中から「どうぞ」という朝比奈さんの声が聞こえた。 「すみません」 みくる「いいえ、見苦しい姿をみせたこっちこそすみません」 朝比奈さんはハルヒの注文を守っているらしい。やっぱメイド服を着込んだ朝比奈さん(実物)はすげぇかわいい。 みくる「どうぞ」 朝比奈さんはみんなにお茶を注いだ、笑顔で湯のみをわたされると本物のメイドさんにお茶をくんでもらっているようだ。とてもすばらしい。 結局その日、ハルヒはこなかった 次の日の教室 「昨日もう一回歩ってなんか見つけたか?」 ハルヒ「うるさいわねぇ、知ってんならわざわざ聞かないでよ」 やっちまった・・・また機嫌損ねちまったか? ハルヒ「日常がつまんないから変なヤツに言われた通りにSOS団作ったのに。萌えキャラとか謎の転校生も入団させたのに。何も起こらないのはどうしてよ?なんか大事件でも起きなさいよ」 弱気なハルヒってのもいいな・・・やっぱり・・・ 体育で外に出ようと下駄箱を開けると一通のかわいらしい手紙が入っていた 「きたか・・・」 体育終了後に回収しよう。 もちろん内容はわかっている。差出人は朝倉だろ? 俺は無視する。殺されかけるなんてごめんだからな。あと長門に報告だ、バックアップがもうすぐ暴走するってな 長門「パタン」 ハルヒ「今日は解散」 いつもの長門の合図で今日の部活は終わった ハルヒは真っ先に帰り、古泉と朝比奈さんも帰った 残るのは俺と長門だけ、よし作戦決行だ 「長門、これを見てくれ」 長門「放課後誰もいなくなったら、1年5組の教室にきて・・・?」 「俺の下駄箱にはいっていた手紙だ。俺の予知では手紙はお前のバックアップである朝倉からのもので、俺が教室に入るなり暴走する。」 長門「・・・・・」 「だからちょっと叱ってやってくれ」 長門「わかった、いってくる」 まぁこれで大丈夫だろ、朝倉は明日からカナダだ 俺は長門が帰ってくるまで部室で待つことにした 1年5組教室 朝倉「どうして長門さんが?」 長門「あなたがここで暴走すると彼から聞いたから」 朝倉「長門さんはあの不確定要素の言うことを信じるの?」 長門「そうすることで今まで上手くいった、これからも上手くいくはず」 朝倉「私は彼に正体がバレているわ、彼相手に目立った行動なんてできるわけないじゃない。ただ私は最近の涼宮さんの教室での様子について話を聞こうとしただけよ。涼宮さん、最近いつにも増して不機嫌だから・・・。涼宮さんがいないときをはかってね。それに今彼の身に危険が及ぶことは情報統合思念体にとってなんの利益もないわ」 長門「ではなぜ彼はこんなことを?」 朝倉「徐々に予知と現実にズレが生じている証拠じゃない。」 長門「たしかに」 朝倉「長門さん、冷静になって。私はあなたのバックアップであなたに歯向かうことはできないのよ?そして私たちが頼れるものは最終的には情報統合思念体だけじゃない」 長門「そう、わかった。それでは帰る」 朝倉「さようなら」 部室 「よう、長門お帰り。朝倉はもう消えたか?」 長門「どういうこと?」 「なにが?」 長門「朝倉涼子はあなたから最近の涼宮ハルヒの様子を聞きたかっただけ」 「そんなはずはない、朝倉は俺を殺そうとするはずだったんだ!」 長門「あなたは朝倉涼子が私のバックアップだと知っている、朝倉涼子もあなたに知られていることに気づいている」 「ああ、初日ちょっとからかっちまったからな」 長門「正体が知られている相手に釣り針を落とすの?」 「・・・・・・・」 長門「あなたの予知にもズレが生じ始めている。これからはあなたを信頼しきるのはできない」 「・・・・・・」 長門「帰る」 長門は部室を出て行った。ちくしょう、どうなってんだ?俺は確かにシナリオに従わないときもある、しかし今まで上手くいったじゃないか。朝倉が明日からも学校にいるなんてあの本には書いていなかった。どうすればいいんだ・・・ 家に帰るとすぐにベッドに入った。あの本なんて手に入れなければよかった。そうすれば俺は予知とか関係なしにあの本のシナリオにそって行動したかもしれないじゃないか。 いつまでたっても眠れない、もう1時半だ その時携帯が鳴った、誰だよこんな時間に・・・古泉!? 古泉『大変です!涼宮さんが閉鎖空間に閉じ込められました!』 おい、うそだろ?まだそれは早いはず、さらに俺も一緒にそこにいるはずだろ? 長門“そこで涼宮ハルヒはあなたを予知能力者としてみることであなたの存在を合理化した。涼宮ハルヒはあなたの能力に惹かれているが、あなたの存在そのものには好意的ではない。” まさか!おいおい冗談だろ・・・、俺はアイツに願われてアイツと一緒にいくはずだろ! 古泉『ちゃんと聞いているんですか!!??』 「悪い、もう一回言ってくれ」 古泉『ですから、あなたの見解を聞きたいのです。あなたの予知ではこの状況で何がおきるんですか?』 「俺はハルヒと閉鎖空間に閉じ込められて、校舎を探索して・・・」 古泉『それで?』 「すげぇでかい神人がでてきて・・・ハルヒと一緒に校庭にいって・・・おびえるハルヒを庇って・・・・日常に嫌気をさしてるハルヒを説得して・・・」 古泉『それで?』 「き、キスして世界は救われる・・・」 古泉『あなたには失望しました・・・今回の閉鎖空間は我々でも姿をとどめることも、長時間いることもできないんです。生身のあなたでは到底そのシナリオは達成できるわけありません。我々は全力をつくしますが、明日また会えるかはわかりません。それでは・・・』 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、絶対そうなるはずだ!だってあの本に書いてあったんだから・・・ ?「それはないわ」 「誰だぁ!?なぜそんなことがいえる!!??」 ここは俺の部屋だ、俺のほかに誰もいないはず・・・ 身を起すと信じられないものを見た 朝倉がベッドのすぐ横に立っていたのだ 「お前、どうやってはいったんだぁ!?」 朝倉「私は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースよ、情報操作ができるに決まってるじゃない」 「何しにきたんだよ!?」 朝倉「昨日のお礼よ。あなたは私の読みどおりに私を救ってくれたじゃない」 いつの話だ?いつの話だ?いつの話だ?思い出せないぞ!! 朝倉「あなた、予知能力なんてないんでしょ?」 「!!!なんでだぁ・・・なんでしってるんだぁ・・・?」 朝倉「これ」 朝倉はあの本を持っていた 朝倉「本棚に置いておくなんて無用心ね、涼宮さんとかが家にくるときとかどうしていたの?」 言葉もでないし、頭は朝倉の言葉を理解できない 朝倉「この本、私たち急進派が去年の12月3日にあなたの視線が特定の本棚を向く瞬間に発生させた情報なの。そしてあなたはこの本を買った。」 朝倉「この本は私たち急進派が作戦を失敗した時のあなたの周辺の世界をあなたの視点で綴ったものなの」 意味がわからない意味がわからない意味がわからない・・・・ 朝倉「人は一回できあがったシナリオを完全に再現することはできないでしょ?台本を読んだあなたはおもしろいくらいにシナリオをずらしたの」 朝倉「急進派はタブーとされる限度以上の情報操作をしたわ、涼宮さんにもね・・・。そして長門さんも情報統合思念体ですら見抜けなかったわ」 「なんで俺が世界を壊さないとなんだぁぁぁ!!!なんで俺なんだぁぁぁ!?」 朝倉「それはあなたは急進派が失敗した世界でのキーパーソンだったからよ、そしてあなたを少しずらせばあっという間にすべてが崩れた」 「俺はぁ・・・・俺はぁ・・・!!」 朝倉「あなたはとてもおろかだわ、この本の世界のあなたは普通を愛せた人間だったのにこの世界のあなたは欲にまみれている・・・」 もう力がはいらない・・・ 朝倉「私たちは少しだけ涼宮さんに変化があれば満足したのに、あなたはすべてを壊した。まぁいいわ、お礼を言っておかなくちゃ。ありがと」 「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」 そしてこの世界は消失した。俺はとても馬鹿な人間だった。 おわり
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涼宮ハルヒの約束 機種:PSP 作曲者:神前暁,中矢博元 開発元:ガイズウェア 発売元:バンダイナムコゲームス 発売年:2007 概要 『涼宮ハルヒの憂鬱』の初のゲーム化作品。ジャンルは非日常体験アドベンチャー。 ゲームで初めてモーションポートレートを使用。開発元が同じ『とらドラ・ポータブル!』でも同じシステムが使われている。 アニメの音楽を担当した神前暁がスタッフに参加。 また「冒険でしょでしょ?」「恋のミクル伝説」といったアニメテーマソングも使われている。 収録曲(サウンドテスト順) 曲名 作・編曲者 補足 順位 さあ、行くわよ! いつもと変わらぬ日常 優しさの予感 かくしてトラブルの女神は舞い降りた あの…それ、本気ですか? 危険がいっぱい!? 憂鬱な午後 閉鎖的閉鎖空間 手のひらの中の世界 崩壊 なつかしい日々 伝えたいキモチ もう一度、アナタと… カタストロフ 恋のミクル伝説 涼宮ハルヒ(神前暁) 歌:朝比奈みくる(後藤邑子) 渚のビーチバレー ラブラブポーカー ザ・デイ・オブ・サジタリウス 最終未来を見せて!(ハルヒバージョン) 作:田代智一編:安藤高弘作詞:畑亜貴 歌:涼宮ハルヒ(平野綾) 最終未来を見せて!(みくるバージョン) 歌:朝比奈みくる(後藤邑子) 最終未来を見せて!(長門バージョン) 歌:長門有希(茅原実里) 最終未来を見せて!(三人バージョン) 歌:平野綾、後藤邑子、茅原実里 世界が夢見るユメノナカ(ハルヒバージョン) 歌:涼宮ハルヒ(平野綾) 世界が夢見るユメノナカ(みくるバージョン) 歌:朝比奈みくる(後藤邑子) 世界が夢見るユメノナカ(長門バージョン) 歌:長門有希(茅原実里) 世界が夢見るユメノナカ(三人バージョン) 歌:平野綾、後藤邑子、茅原実里 冒険でしょでしょ? 作:冨田暁子編:藤田淳平 歌:平野綾サウンドテスト未収録 サウンドトラック 涼宮ハルヒの約束 世界が夢見るユメノナカ/最終未来を見せて!
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4-318「佐々木の告白」(http //www10.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/574.html)から ---- 「涼宮ハルヒの告白」 私は、目の前に寝ている女性、涼宮ハルヒに対して、大きな興味を持っている。 彼女は私がこれまで出会ったさまざまな人々(その中には自称宇宙人や自称超能力者、 自称未来人なんて変人たちもいたが)の中でも飛びっきりにユニークな存在だった。 彼女がもつ、傲岸不遜さ、尊大さ、そしてそれに見合った美しさと聡明さを併せ持つ超人。 涼宮ハルヒ。 何が彼女を形作ったのか、知りたくないといえば嘘になる。彼女の誘いに乗って恥ずかしい 過去話をしたのも、この瞬間のためなのだ。 「さて、ハルヒ、キミはどんな子だった?」 バカで頭でっかちなガキだったわ。今思い返しても、恥ずかしくて穴を掘りたくなるわね。 もし、タイムマシンがあって、過去に戻れるなら真っ先に修正するわ。 「不思議探索を始めたのはなぜ?」 この世には、絶対に普通じゃないことがあって、そこには普通じゃない人たちが毎日を スリリングに過ごしているって信じてたから。日本の人口が一億二千万、世界人口なら 約67億。それだけの人生があるなら、あたしの人生は67億分の一のレアな人生でな けりゃ嘘だわ。 「すごい自信ね」 それこそ子供の頃から、やろうと思ってできないことなんかなかったわ。できないのなら、 力が足りないか、やり方が悪いのよ。まぁ、問題に対するアプローチの方法だったら、常に 十通り以上考えながら行動していたから、あたし以外の人にはあたしは努力もせずに、軽々 と障害を越えていくように思えてたでしょうね。気分がいいから、そう思わせておくことにしてた。 「そりゃ、敵も多かったろうね」 敵は多かったわね。でも、あたしは敵を選んでいたし、勝てないケンカを売る趣味もなかった からね。ああ、もちろん降りかかる火の粉は千倍返しに切って捨てたわよ。恩は倍返し、恨みは 三倍返しがあたしのモットーだから。 「味方はいなかったの?」 SOS団ができるまではいなかったわね。小学校の頃のツレとは、疎遠になっちゃったし、 中学時代は悪い意味で目立ってたし、小学校の頃のことが軽いトラウマだったのよね。 「小学校のこと?」 いま、思えばあたしが悪いんだけど。自分の人生が生活が平凡でつまらないって小学生の あたしは思いこんでた。だから、”本来は”普通じゃないあたしの友達は普通じゃダメなんだって。 そう思ったのよ、だから、ね。 あ~、やばいマジ自己嫌悪きた。だから、いつの間にか友達はいなくなってた。裏切ったのは あたしの方。でも、その頃のあたしはそうは思わなかった。あたしを理解できず、受け入れない のは彼らが”普通”だからだって、そう思ったのよ。 「なんで、SOS団を作ったの?」 涼宮ハルヒはココでございってのぼりを立てても、誰も来ないどころか敬遠して離れていくっ てのは中学三年間で学んだほとんど唯一のことだったからね。高校に入って身の回りの環境 が変われば、何かが変わるかなって期待はしてたんだ。 けど、まぁそんな物はGW明けにはゴミ箱に直行してたわね。 まぁ、そん時にね、出会ったのよ。 「そうか、”彼”が転機だったのね」 まぁ、前の席に座ってた背だけはでかいヤツって印象だったからね。黒板見るのに 邪魔だなって、その程度。クラス分けの初日に、自己紹介とかあったはずなんだけど、 印象にも残ってなかったわ。 「キミの自己紹介が印象的にすぎる」 誰から聞いたの? そんなこと。まぁ、その時点では、なんていうの。 あたし、王子様のお迎えを待ってるお姫様みたいな電波キャラだったからね。 うっわ、はっずかしい。 「ククッ、そう卑下するもんじゃないよ」 笑うな。探して見つける、から自分で作るに発想が変わったのが、その瞬間から だったのよ。いわゆる宗教的回心、コペルニクス転回があったってわけ。 それで大分、気分が楽になったのよね。 「気分がラク?」 ヘンな視点を持てばヘンなものを見つけられる、そう思い、そう行動してた。 必ずある、あたしの前にそれがないだけ、ってのがあたしの出発点だったからさ。 で、三年掛けていろんなアプローチしたけど、それはあたしの前に現われなかった。 だったら、あたしが不思議を作ればいいのよ。あたしがやろうと思ってできないこと なんかなかった。だったら、不思議を作ることだってできるはずじゃない。 「なるほど。ファインドではなくてクリエイト、その発想はなかったってヤツね」 それからは面白かったわ。いろんなことがあった一年だった。充実しすぎて、 気がついたら、一年経ってたってくらいにね。 たとえばさ……。 「それは素直にうらやましい一年ね」 でしょ、でしょ。あ、お香切れたわね。じゃ、これで終了。 「ちょ、ちょっとまって、肝心なこと聞いてない」 あら、なんのことかしらね。あたしはあなたの質問に真摯に答えただけよ。 「ずるい、涼宮さん。まだ、彼とのこと聞いてない」 あ~~あ~~、聞こえませ~~ん。 質問タイムはおわりよ。自分の浅はかさを呪いなさい。 それにね、聞くチャンスなら、いくらでもあるわ。 「佐々木、これからの一年はあんたにも付き合って貰うわ。これは決定事項よ」
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高校卒業後、すぐに免許を取った私は車を探していた。でも、何なのかしらね、これといった車が見当たらない。金ならたくさんあるのに、パートナーとしての車が見つからない。そんな日々が続いていたある日、廃車の中から、私は『ソイツ』を見つけた。なんだろう?この感じ、まるで呼ばれてるみたい・・・・・見た目はなんともないL型の初期のZ。 ためしに業者に頼んで中を見てみた。L28改ツインターボ、見た目はなんともないけど、中身は化け物みたい。でも、乗ってみたい。このZに、一度、あの湾岸を駆け抜けたい。 むりを承知でたのんだら、不思議にもOKしてくれた。ナンバーもそのままもとの持ち主の引継ぎ、車検証も書いたし、これでこのZはあたしのもの。ガレージも用意してあるから、早速走ろうかしら。夜の湾岸に。 「すごい、じりじりと熱気が伝わってくる、これがあたしの求めたもの、そして、あなたがあたしを呼んだ、ねえ?Z。」 ふと後ろからすごい勢いで走ってくる車がいた。速い。200キロ前後で走ってるのに、相手はそれ以上、車種は・・・・・ブ、ブラックバード?!望むところじゃない、相手にとって不足はないわ、勝負してやる!ってあら、付いて来いといってるのかしら、まあいいわ、ドライバーと話がしたかったし、ここから近いのは大井ね、そこまで誘導してもらいましょ。本当に、古泉君と有希は結婚するためにロンドンに行っちゃうし、みくるちゃんは芸能界に入ってからまったくあわないし、キョンは高校出てからぜんぜん見ないしsos団全員ばらばらになっちゃたわね・・・・・・・。 ~昔の思い出~ キョン「もう、卒業か・・・長いようで短かったな。」 あたし「キョン、あんたこれからどうすんの?」 キョン「社会人になるさ、大学には行かない。」 あたし「みくるちゃんは?」 みくるちゃん「私はもう社会人です、芸能界からスカウトがたくさん来てまして・・・・・」 あたし「そう?薬に手出しちゃだめよ?有希は?」 有希「主婦になりたい。」 あたし「主婦って誰がだんな様?」 有希「この中の誰かと。」 あたし「そう・・・・・古泉君は?」 古泉君「社会人になりますよ、僕も。もっとも、長門さんと一緒に暮らすつもりですが・・」 あたし「そうなの?お幸せに。じゃあ、またどこかで出会いましょ。」 ~これが事実上解散宣言だった。さあ、昔のことは忘れよう。ブラックバードのドライバーにいろいろ聞きたいことがあるからね。 涼宮ハルヒの湾岸(ブラックバード編)に続く
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涼宮ハルヒの憂鬱 涼宮ハルヒの憂鬱の曲一覧です。 No.40 雪、無音、窓辺にて。 曲元 キャラクターソングVol.002 アーティスト 茅原実里 BPM 280 変速 無 停止 無 難易度 周65 楽5 踊8 激14 鬼17 作20 歌詞 無 動画 無 容量 2.3MB ダウンロード ダウンロード No.38 世界が夢見るユメノナカ 曲元 涼宮ハルヒの約束 アーティスト 平野綾・後藤邑子・茅原実里 BPM 85-170 変速 有 停止 有 難易度 周0 楽0 踊0 激8 鬼13 作0 歌詞 有 動画 無 容量 4.21MB ダウンロード ダウンロード No.6 雪、無音、窓辺にて。 曲元 キャラクターソングVol.002 アーティスト 茅原実里 BPM 140 変速 無 停止 無 難易度 周0 楽0 踊11 激10 鬼9 作8 歌詞 無 動画 無 容量 2.16MB ダウンロード ダウンロード
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これは「涼宮ハルヒの改竄 VersionH」の続編です。 プロローグ あたしはこの春から北高の生徒になる。 そして明日は待ちに待った入学式だ。 担任教師からは「もっと上の進学校へ行け」と言われたがそんなのは耳に入らなかった。 親父と母さんは「ハルヒの人生なんだからハルヒのしたいようにするといい」と言ってくれた。 あたしにはどうしても確かめたい事があった。 それは「あいつ」と「ジョン・スミス」の関係。 もしかしたら「あいつ」も「ジョン・スミス」もいないかもしれない・・・ 何も無い退屈な3年間の高校生活が待っているかもしれない・・・ ハンカチを返せないかもしれない・・・ でも、「あいつ」とはまた会えるという予感は3年経った今でもはっきりしている。 「あいつ」と会ったらまず何を話そう・・・ 「あいつ」と3年間の高校生活で一緒になにをしよう・・・ なんて言ってハンカチを返そう・・・ そんな期待と不安が頭を支配して全然眠れない。 もし「あいつ」がいたら同じクラスだといいな。 もし「あいつ」が同じクラスだったら席はあたしの前がいいな。 そんな「もし」をいくつも考えていたらあたしはいつの間にか眠っていた。 とてもいい夢を見ていた。 どうせなら、現実と入れ替えたいと思うような夢だった。 なんで、夢だって分かるのかって? だって、それは現実ではありえないことだったから・・・ だから夢だって分かるのよっ! どうやら夢というのは一番いいところで終わるらしい。 あたしが目を醒まし、起き上がると目覚まし時計が床に転がっていた。 寝ぼけながら投げ飛ばしたらしい。 あたしってこんなに寝起き悪かったかしら? 時計を拾って時間を確認する。 そこで頭が一気に覚醒した。 ヤバッ、寝坊したっ!! 「涼宮ハルヒの入学 version H」 慌てて部屋を出て階段を駆け下りたあたしを母さんが出迎えた。 「あらあら、ハルちゃんおはよう。女の子が朝から階段でダッシュしちゃダメよ?」 「おはよう母さん、次からは気を付けるわ。って今はそれどころじゃないのっ!!寝坊しちゃったのよっ!マズい、このままじゃ完全に遅刻よっ!どうしよ~」 も~、どうしてあいつに会えるかもかもしれない大事な日にこんな大ポカかますのかしらっ!! あたしが地団太を踏んでいると母さんがあたしの肩を叩きながら言ってきた。 「まぁまぁ、ハルちゃん落ち着いて。今日は私たちも式に参加するからお父さんの車で一緒に行くって言ったでしょ?だから、まだ時間に余裕はあるから早く準備しちゃいなさい。いつまでも地団太踏んでるとホントに時間なくなるわよ」 あ、そうだ。 今日は親父の車で行くから時間に余裕があったんだ。 「でもハルちゃんが寝坊なんて珍しいわねぇ。というかハルちゃんが学校へ行くのにワクワクするなんてあの高校には何かあるのかしら?」 それを聞いたあたしは、顔に血が昇ってくるのを感じた。 母さんの勘は鋭い。 「べ、別に、何にもないわよっ!!ただ、普通に寝坊しただけよっ!!」 って言ったって顔が真っ赤になってたら説得力ないわよね。 すると母さんはあたしを後ろから抱きしめた。 「今度は、あの子と同じ学校になれるといいわね」 あたしにはそれが恥ずかしくて、小さく頷く事しか出来なかった。 あたしには、どうしても振り払えない不安があった。 あいつ、あたしのこと覚えてるかな・・・ もし忘れられてたら辛いな・・・ 「もし、あの子がいたら綺麗になったハルちゃんをたっぷり見せ付けてやっちゃいなさい。ゴリゴリ押して勝利を掴むのよっ!!」 母さんの言葉から沢山の勇気をもらった。 あたしはその言葉に感謝を込めて、今度は大きく頷いた。 「母さん、親父はどこに居るの?」 そういえば、まだ親父に会ってないわ。 「今、車を洗車しに行ってるわ。あと10分位で帰ってくるって電話があったからサクサク準備しちゃいなさいね」 あたしは時計を見てまたパニックになった。 あと15分以内に準備を済ませないとホントに遅刻だわ。 高速で身支度を済ませたあたしは、新しい制服に身を包み洗面所の前に立っている。 さて、今日はどんな髪型にして行こうかしら。 このまま下ろして行ってもいいんだけど、なんとなく括りたい気分なのよね。 よし、今日はポニーテールにしよう。 あたしはお気に入りの黄色いゴムバンドで腰まである後ろ髪を括り立派なポニーテールをつくった。 「ハルちゃ~ん、そろそろ行かないとホントに遅刻するわよ~?」 「は~い、今行くわっ!!」 外に出ると親父と母さんがスーツ姿で立っていた。 「おはよう、ハルヒ。晴れてよかったな」 「おはよ、親父。ホント最高にいい天気ね」 あたしは雲1つないそらを眺めた。 「じゃあ、時間も無いしそろそろ行くとするか」 あたし達は、車に乗り込むと北高へ向けて走り出した。 道路は空いていて予定よりも早く到着しそうだった。 あたしは助手席から北高へ続く長い長い坂道を眺めていた。 これからはこの坂を毎日往復しなきゃならないのね・・・ 入試の時は、ハイキング気分が味わえていいなぁと思ったけど、毎日だったらうんざりしそうだわ。 そんな事を考えていたら北高の正門に到着していた。 そこであたしと母さんが車から降りると、親父は指定された駐車場へ車を置きに行った。 あたしと母さんは親父を見送ると受付へと向かった。 受付には40代位の用務員がいて、あたしはそこで名前と受験番号を答えた。 「はい、では涼宮ハルヒさんのクラスは1年5組になります。座席表は教室の入り口に貼ってありますから教室に入る前に確認して下さい。保護者の方は体育館の方にお席を用意しておりますのでそちらの方でお待ち下さい。本日は御入学おめでとうございます」 「ありがとうございます。じゃあ母さん、行ってくるわ。また後でね」 「ええ、ハルちゃん。いってらっしゃい」 あたしは用務員にお礼を言うと、母さんと別れ1年5組の教室を目指した。 教室の前に着くとあたしは自分の名前を探す前に「あいつ」の名前を探した。 けど、あたしは「あいつ」の名前を知らない・・・ なにやってんだろあたし・・・ あたしは気を取り直して自分の名前を探し出すと、教室に入り席に着いた。 教室をぐるっと見渡すと、クラスの机のほとんどに誰かが座っている。 やっぱり「あいつ」はいないのかな・・・ あたしの心を嫌な予感がどんどん支配する。 いえ、もしかしたらクラスが違うだけかもしれないわ。 きっとそうよ、後で探しに行こう。 あたしの心が期待と不安の間を揺れているとこのクラスの担任教師が入ってきた。 「みんな、おはよう。このクラスの担任になった岡部だ。これから1年間よろしく頼む。色々話をしたいがそろそろ式が始まるので廊下に出て番号順に1列に並んでくれ」 担任教師の話を全く聞いていなかったあたしは、ぞろぞろと教室を出るクラスメイトに気づいて慌てて教室を出た。 体育館に着いてパイプ椅子に座った後、あたしは他のクラスの中に「あいつ」がいないかキョロキョロと探していた。 周りのやつらから見れば、あたしはかなり変な奴だったでしょうね。 でも、そんな事を気にしてる余裕は今のあたしに無かった。 もし、「あいつ」がいなかったらこの学校に来た意味が無い。 もし、「あいつ」がいなかったらあたしの疑問は一生解けない。 もし、「あいつ」がいなかったらまたハンカチを返せない。 もし、「あいつ」がいなかったらまたあたしは一人ぼっちだ。 もし、「あいつ」がいなかったらあたしは寂しい。 幾つもの「もし」を重ねていたら式は終了していた。 その後、来た時と同じくクラス毎に並んで退場し、あたしは式が始まるまで座っていたあたしの席に座っていた。 担任教師が全員が席に着いたのを確認すると教卓から話を始めた。 「まず最初に、1つ空いてる席があるが、そこの奴は、朝階段で転んで病院行ってから来ると式が始まる前に連絡が入っている」 初日からそんなドジするなんてどんな奴よ? って、あたしも人の事は言えないか。 「では改めて、このクラスの担任になった岡部だ。みんな1年間よろしく頼む。俺はハンドボール部の顧問をしているので、このクラス全員がハンドボール部に入部してくれる事を期待している」 さっきからハンドボールの話ばっかね、他に話す事無いのかしら? つまらない担任教師の話を聞きながら、未だに誰も座っていないあたしの1つ前の席をぼーっと見ていた。 初日に階段から落ちるなんてホント間抜けよね。 いい加減、「あいつ」が居ない事でいつまでもヘコんでいるあたし自身にイライラしてきた。 でも、あたしにはどうにも出来ない。 「あいつ」と会ったあの日からまた「あいつ」と会うことだけを目標にしてきたのだから・・・ 「あいつ」と会って変わったあたしを見てもらいたかった。 七夕の日に会ったジョン・スミスと「あいつ」がどういう関係なのか確かめたかった。 でも、どうやらそれも叶いそうにないな・・・ あの日からどんな事があっても絶対に流さなかった涙が滲んでくる。 「じゃあ、まずはじめに1人1人自己紹介をしてもらおうかな。出席番号1番から順番に頼む」 どうやら担任教師のハンドボール話が終わったようで、クラスメイトの自己紹介が始まった。 どいつもこいつも同じような事しか言わない。 趣味は読書とかスポーツとか、もっと具体的な内容まで言えばいいのに。 全く、オリジナリティが欠落してるわね。 なんて、クラスメイトの評価をしていたらあたしの番になった。 よし、オリジナリティってもんを見せてやるわ。 全員、耳の穴かっぽじって聞きなさい。 あたしは勢い良く席を立った。 「東中出身。涼宮ハr「遅れてすいませんでした~」 突然のやる気の無い声があたしの勢いを全て奪った。 あたしは自分の勢いを奪われたイライラとあたし自身へのイライラの両方でかなりプチっときた。 「あ~、とりあえずスマン」 反省の色が全然見えないので鉄拳制裁してやろうとそいつを睨みつけた。 ら、そこにはバツが悪そうな顔をしたジョン・スミスが立っていた。 「ちょっとジョン、なんであんたがここにいるのよ?」 「誰だ?そのジョンというのは?頼むからこれ以上変なあだ名は増やさないでくれ。はるひ」 「じゃあ、あんたはあの時の「あいつ」なの?」 「あぁ、久しぶりだな」 「ホントにね。ってか何であたしの名前知ってんのよ?」 「それは話せば長くなるんだが、とりあえず後にしよう」 は?なんで?と頭に?マークを浮かべていると「あいつ」は手で周りを見るように促してきた。 あたしはグルッと教室を見渡すと、クラスメイトが苦笑いしていた。 あたしはそんなのを気にしないけどこれから幾らでも話が出来るんだから今は我慢する事にした。 「あいつ」は担任教師に報告を済ませると、あたしの前の席に着いた。 階段から落ちたドジってこいつだったのね。 「じゃあ、今来た○○○○には最後に自己紹介をしてもらう。悪いが涼宮もう一回頼む」 すっかり勢いを無くしたあたしは 「東中出身。涼宮ハルヒ。趣味は不思議探索です、以上」 という中途半端な自己紹介しか出来なかった。 あとで「あいつ」にたっぷり文句を言ってやるわ。 その後、「あいつ」の自己紹介を期待していたんだけど、平凡な自己紹介だった。 ちょっと、がっかりね・・・ でも、あたしは「あいつ」の事何にも知らないのよね。 これから、「あいつ」の事いっぱい教えてもらおう。 そして、「あいつ」にあたしの事も知ってもらおう。 あの日から、頑張ってきた事を聞いてもらいたい。 今日の予定は全て終わったみたいでSHRの後解散になった。 あたしが「あいつ」に文句を言ってやろうとした時、他のクラスメイトが「あいつ」に話しかけていた。 「キョン、朝から災難だったみたいだね~」 「あぁ、全くだ」 どうやら「あいつ」のあだ名はきょんっていうみたいね。 あたしがそう呼んでも怒らないかな? 「キョン、この後はどうするの?」 「あぁ、ちょっと用事がある」 「そうなんだ、じゃあまた明日ね」 「あぁ、じゃあな国木田」 キョンが友達を見送るとこっちを見てきた。 「な、何よ?キョン」 それを聞いたキョンは少し驚いた顔をした後「やれやれ」と言いながら溜息をついた。 あたしにはそれがなんだかくすぐったかった。 「お前も、俺をその名で呼ぶのか?出来たら勘弁してもらいたいのだが」 「いいじゃない。キョンの方が愛嬌があるんだから」 「はぁ、もう好きにしてくれ」 もっと、言いたい事が沢山あったはずなのに、何も頭に浮かんでこない。 「そうするわ。でもホントに久しぶりだわ。キョンはあんまり変わってないわね」 背が伸びて格好良くなったなんて今のあたしにはとても言えそうにないわ。 「ははは、そうかもな。ハルヒはとっても綺麗になったな。一瞬誰か分らなかったぞ」 しばらく何を言われたのか理解できなかった。 理解したらぐんぐん顔が熱くなるのが分かった。 キョンはあたしの様子を見て、自分が何を言ったのか理解したらしい。 キョンも顔が真っ赤だわ。 全く、初日から何してるのかしらあたし達・・・ その時、あたしの携帯が鳴った。 発信は母さんだった。 キョンの方を見るとキョンの携帯もなっているようだわ。 あたしはキョンの方を見るとキョンもこっちを見てきて無言で頷いた。 あたしも頷き返すと電話に出た。 もうちょっとキョンと話がしたかったな。 「もしもし、母さんどうしたの?」 「あ、ハルちゃ~ん。お疲れ様~、今から昼ごはん食べに行くから早く降りてきなさい」 「分かったわ。今から行くわ、じゃあ切るわよ」 「ちゃんと、あの子と一緒に出てくるのよ。じゃあ待ってるわね」 「ちょ、母s「プチ」 ツー ツー ツー 何で母さんがキョンがいるって知ってるんだろ? 隣を見るとキョンがあたしと同じような事を考えてる様な顔をしていた。 キョンはまた「やれやれ」と溜息をついた。 あたしとキョンは横に並びながら昇降口へと向かった。 昇降口を出ると、親父と母さんが知らない人と話をしていた。 誰かしら?親父達の知り合いかしら? ふと隣にいるキョンを見てみたらポカーンと口を開けていた。 「キョン、どうしたの?」 「あれ、お前のとこの両親だよな?」 「うん、そうだけどそれがどうかしたの?」 「隣に居るのは俺の両親と妹だ」 「ふーん、そうなんだ。って、えぇ、な、何であたしの両親とあんたの両親が仲良く話してんのよ?」 「俺にもさっぱり分からん」 するとキョンの妹ちゃんがこっちに気づいたみたい。 「あ~、キョン君達来たよ~」 「や~っと来たの。もう、ハルヒちゃん可愛いから2人の世界に入っちゃうのは分かるけど、少し位周りの事も考えなさいねキョン」 「ですよね~。でもキョン君もあんなに格好良いからハルちゃんが夢中になるのも分かるわ。あたしもあと20歳若かったらキョン君狙ってます」 等と母さんとキョンの母が冷やかしてくる。 「ちょ、何勘違いしてるのよっ!?あたし達はそんなんじゃないわよ」 「「ふ~ん」」 「あ~もう!!黙ってないでキョンも何か言ってやりなさいよっ!!」 「スマン、ああなると母さんは止まらないんだ。諦めてくれ」 「あんた、苦労してるのね。親からもあだ名で呼ばれてるし」 「分かってくれるか?」 「えぇ、あんたに送ってもらった日からあたしの母さんもあんな感じだから・・・」 「お互い苦労するな」 「全くね。でも、あんたとなら誤解されてもあたしは嫌じゃないけどね」 「え、それはどういう意味だ?」 「なんでもな~いわよっ!!」 あたしはキョンを置いて母さん達の所へ走っていった。 その後、あたしの家族とキョンの家族とで合同入学祝いをやったわ。 「高校生にもなって酒も飲めんでどうする~」 とかいって親父がキョンに酒を勧めている。 キョン父が止めてくれるだろうと思っていたけど悪ノリして親父と一緒に飲ませようとしている。 母さんたちは母さんたちで 「早く孫の顔を見たいですよね~」 とか言ってるし。 孫って何よ? 幾らなんでも気が早すぎるわよ。 母さん達がアテにならなそうなのであたしは単身でキョンを助けることにした。 テーブルに置いてあった水を一気に飲み干してあたしは親父達に言った。 「ちょっと、あたしのキョンになにしてんのよっ!?いい加減あたしに返しなさいよっ!!」 って何言ってんのあたし? 何か頭回らないし、ぼーっとするわ。 親父達がポカーンとしている間にキョンは抜け出したらしく、慌ててあたしの手を引いて部屋から出た。 キョンは中庭に出るとあたしを備え付けられたイスに座らせた。 こうしてるとあの時みたいだな・・・ と思っていたらキョンが話し出した。 「どうしたんだ、いきなり?あんな事言うからビックリしたぞ」 「ん、ごめん・・・」 キョンは俯いているあたしの頭をやさしく撫でてくれた。 あたしは恐る恐る顔を上げてキョンを見上げた。 そこにはとっても優しい微笑があった。 「もう、すっかり元気になったみたいだな。これでも結構心配してたんだぞ?」 「ホントに?ホントに心配してくれたの?」 「あぁ、ホントに心配したぞ」 「ありがと・・・」 あたしはキョンに抱きついていた。 キョンは驚いていたけど、それでもあたしの頭を撫でてくれた。 あたしがキョンの胸元から顔を覗きこむとキョンは何かを決意したらしくそっとあたしの顔に自分の顔を近づけてきた。 あたしも応えるようにキョンの首に両腕を回した。 そしてあたしは目を閉じてキョンを待った。 「あ~、キョン君とハルヒちゃんがちゅーしようとしてる~」 突然の声に驚いたあたしとキョンはばっと離れて声がした方を凝視した。 そこにはキョンの妹ちゃんが指を指しながら立っていた。 「妹よ、そこで何をしている?」 「ん~とね、お母さん達がキョン君達帰ってくるの遅いから呼びに言ってきてって」 「そうか、分かった。今から行くから先に戻ってなさい」 「うん、分かった~」 キョンの妹ちゃんが足早に中庭を出て行ったのを見計らってキョンが話掛けてきた。 「だ。そうだ。残念だが次回に持ち越しだな」 「そうね、ホントに残念だわ」 「仕方ない。戻るぞ」 「えぇ、そうしましょ」 と立ち上がろうとした。 けどうまく立ち上がれなかった。 転びそうになったけど恐怖は無いわ。 だって、キョンが抱きとめてくれるから・・・ 「やれやれ」と溜息をつきながら 「大丈夫か?またおんぶしてやろうか?」 「大丈夫、歩いていけるわよ」 あたしは真っ直ぐ歩けないほどフラフラしていた。 次にくる台詞はなんとなくだけど分かった。 「なんなら、お姫様抱っこでもいいが?」 「そうね、そうしてもらうわ」 そう言ったらキョンはあっけにとられてたわ。 しばらく考えてたみたいだけど、ついに覚悟を決めたらしい。 「よし、いくぞ」 そう言ってあたしを持ち上げた。 あたしはもうドキドキしすぎて声も出せない。 「スマンが、慣れてないから首に掴まっててくれるとありがたい」 あたしは言われた通りに首に両腕を回しながら言葉を無理矢理搾り出した。。 「自分からするっていったんだから、しっかりしなさいよね」 「おう、任せとけ」 部屋に向かってる最中あたしはキョンに聞いた。 「ねぇキョン、あたし変われたかな?頑張れたかな?」 「お前が自分で変われたって、頑張れたって思うのなら達成出来てるんじゃないか?」 「うん、そうだよね。でもね、あたしを変えてくれたのも、頑張れるようにしてくれたのもキョンなんだよ」 「そ、そうなのか?」 「うん、そうだよ」 「そうか、それは光栄だね」 「だからキョン、これからずっとよろしくね!!」 「おう、こちらこそよろしくな」 部屋に到着するとみんなビックリしていた。 まぁ、当然よね。 あたしはキョンの腕から下ろされて残念だと思っていたら、キョンにハンカチを返すのを忘れていた事に気づいた。 あたしは制服のポケットからアイロンをかけたハンカチを取り出した。 「キョン、これ返すわ。いままでありがと」 「ん、あぁ、これか。なんだったらずっと持ってていいぞ」 「ありがと。でも、もう必要ないわ。だって・・・」 「だって?」 「これからはずっとキョンと一緒なんだからっ!!」 fin エピローグ どっちの両親もベロンベロンでもう帰れそうにないわ。 キョンの家はこっから近いみたいだけどあたしの家は結構距離がある。 どうしたものかしらと悩んでいたらキョンの母がとんでもない事を言い出した。 「涼宮さん、今日うちに泊まっていったらどうですか?」 「えぇ~、いいんですか~?ハルちゃ~ん、どうしよっか~?」 「だ、駄目に決まってるじゃない。何言ってるのよ?」 「ハルちゃんもあぁ言ってる事ですし、お世話になりま~す」 「やったぁ、じゃあ、そろそろ行きましょうか?ハルヒちゃんはキョンの部屋に泊まってね」 「人の話をちゃんと聞け~っ!!」 エピローグ2 キョンの部屋にて 「キョン、ホント迷惑かけてごめんね」 「もう気にすんな。そもそも迷惑だと思ってねぇよ」 「うん。ありがと」 「さぁ、もう寝よう。俺は疲れた」 「ぅん」 「ハルヒがベッドを使ってくれ。俺は床で寝るから」 「ぇ?一緒に寝てくれないの?」 「いや、流石にそれはマズいだろ、色んな意味で」 「あたし、枕替わると眠れないのよね」 「だからなんだ?」 「腕枕してくれたら眠れる気がする」 「・・・分かった。ハルヒがそうしたいならそうしよう」 「ホント?ありがとキョン大好きっ!!」 あたし達は今同じベッドで横になっている。 逆にドキドキして眠れないわ・・・ 「こんなに早く夢が現実になるとは思わなかったわ」 「そりゃ奇遇だな。俺もだ」 え?今のどういう意味?キョンも同じ夢を見てたの? だったらなんかうれしいな。 なんて思うのは一人ヨガリかな? なんか一緒にいるだけじゃ我慢できなくなってきた。 もっとキョンを感じたい・・・ 「ねぇ、キョン。さっきの続きしよ?」 こうして二人っきりの夜は更けていった・・・ 番外編 ver バカ親’S キョンの部屋の前 「ねぇ、キョン。さっきの続きしよ?」 H母「ずっと他人と距離を置いていたハルちゃんがあんなに積極的になって・・・母さんもう死んでもいいっ!!」 K母「ちょ、涼宮さん、声大きいですよ。これじゃ気づかれちゃいます」 H父「そうだぞ母さん、ここからがいい所なのに邪魔しちゃ悪いだろ?」 H母「分かってますよ、でもお父さんだって娘があんなに立派に成長してくれて嬉しいでしょ?」 H父「そりゃ、嬉しいさ。あんなに格好いい彼氏つくってまさしく青春って感じだな。そう思いますよね?」 K父「そうですね、でもハルヒちゃんはうちのにはもったいない位です。」 K母「ホントよね。キョンにはもったいないわ」 H母「そんなこと言わないで下さい。キョン君以外の子にハルヒを上げる気はないんですから!ね、お父さん?」 H父「そうですよ。十分ハルヒと渡り合っていけます。あの子が私以外の異性であんなに楽しそうに話すのはキョン君だけなんですよ」 K父「そう言ってもらえると光栄です。これからもうちのをよろしくお願いします」 K母「あたしからもよろしくお願いします」 H母&H父「「こちらこそ」」 その時、勢いよくドアが開いた。 ハルヒ&キョン「さっさと寝ろ~っ!!雰囲気ぶち壊しだ~っ!!!!」 涼宮ハルヒの入学 versionK