約 1,954,523 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/356.html
前へ 先頭ページ 次へ 第九話 拉致 レヴ・アタッチメント、ビックバイパーを纏った飛行形態のルシフェルは、アフターバーナー全開で専用緊急出撃ダクトを飛び抜け、屋敷の前庭中心にある噴水から躍り出た。 陽動、兼、殲滅役を仰せつかったルシフェルの出撃はトンネルドンにより腹に響くような轟音を起こしたから、その存在は屋敷に対して破壊活動を働いていた一つ目ども、メタトロン・プロジェクトの試験量産素体である、ラプターと呼ばれるそれらの一躍知るところとなった。無数の赤く灯るアイボールが、ぎょろぎょろと彼女を注視する。 ファースト・トップランカー神姫である彼女でさえ、通常装備では一つ目どもと戦うどころか有効な一撃を与えることさえできなかったか知れない。 今はこの俊敏な鎧がある。レヴ、つまり活性化、回転増加、の意を持つこのアタッチメントセットの名は伊達ではない。特に既存技術の粋を集めて造られた自らのビックバイパーは、OFアタッチメントに匹敵する性能をたたき出す。 隼のように飛び回る異形の戦闘機の出現に、一つ目どものコンピュータが混乱しているのがルシフェルには分かる。なにしろ奴らにとっては普通の武装神姫がありえない高速で飛び回っているのだ。戦闘能力には感情回路が不可欠であることはルシフェルも知っている。ラプターにも簡易的であるにしろ感情回路は搭載されているはずで、この混乱によってそれが明らかになった。 勝てる。ルシフェルはあらためて確信した。強固な確信である。 ギュビィー! 二股に分かれた彼女の機首、つまり内股に当たる部分から、高電圧音とともに二条の青白い収束レーザービームが照射された。秒速三十万キロの光条は回避を許さない。 照射しながらルシフェルは急激なロールを行い、機首の向く先にある五体のラプターを撫で見る。つまりレーザーの射線がラプターを横切ったのであって、その五体の一つ目どもは瞬時に真っ二つに溶断された。切り口を赤熱させながら墜落。 仲間を撃破された光景を分析したのか周囲の一つ目どもがルシフェルの機首を避ける機動を見せた。 そのような動きは予測済みである。 パシュシュシュッ 主翼の放出口より小型の誘導弾頭を射出。機体よりもはるかに高速で推進するミサイル群は正確にいくつかのラプターに飛来。撃破する。 弱い。ルシフェルは無感動に感想を抱いた。 こんなのがメタトロン――神の代理人――とは笑わせる。自分はおろか、ましてやミカエルごときよりも上位の天使の名を持つとはおこがましいにもほどがある。自分が名乗るべきとは思わないが、少なくともこいつらが名乗ってよいはずはない。 周囲を見やる。OFイクイップメント・アージェイドを着たアーンヴァル「ミカエル」、ビックバイパーよりも下位の量産試験型レヴ・アタッチメント・ファントマ2を二セットも搭載したサイフォス「ジャンヌ」でさえ、苦戦している様子は見られない。 まったく直感的に、こいつら、ラプターどもはメタトロンなんかじゃない、とルシフェルは感じた。一つ目どもはメタトロンの中核などではないのだ。おそらくOFイクイップメントをどのように武装神姫になじませるかという実験の上で作られた、ただのボディにすぎない。 何がメタトロンかとすればここにおいてはアージェイドなのだろうが、それを着たミカエルが自分に勝てたためしは、数え切れないバーチャルバトルと幾度のリアルバトルを経たテストにおいて、数パーセントしかない。その数パーセントはランダムな要素で、ランダムな中でも挽回できる状況がほとんどであった。 実戦経験の長短を差し引いた純粋な性能アドバンテージから見ても、このビックバイパーにアージェイド・イクイップメントは対抗しきれていないのだ。あくまであれはOFアタッチメントの開発段階で派生した余剰物らしく、試供品として送られてきたのもうなづける。 では本当のメタトロンは何か。 とすれば、あのクエンティンとかいうどこの馬の骨とも知れぬセカンド風情と融合している、ジェフティでしかない。 それ以外のメタトロンは偽物だ。 だと言ってルシフェルは、クエンティンをメタトロンとは認めたくはなかった。メタトロンはあくまでジェフティ、エイダ自身であり、クエンティンはエイダの性能を完全に引き出す触媒にすぎない。触媒は武装神姫であればなんだっていいのだ。 自分であっても問題はないのである。 危険な考えだ。おそらくマスターは、鶴畑興紀はそんなことは許さないだろう。無断でクエンティンから引っぺがそうとすれば、いまの自分は廃棄される。戦闘実績や有効な装備など、あらゆるアイデンティティをもぎ取られて。その後何十体目、もしかしたら何百体目かもしれないルシフェルが、自分に取って代わるのだ。 ルシフェルのプライドが刺激されていた。そのプライドも、アイデンティティも、過去数え切れないルシフェルから引っぺがしてきた借り物にすぎなかった。装備の一つたりとも、記憶の一片でさえ他に譲渡するのは我慢がならなかったが、それらに絶対的な自己は収められなかった。 重い。過去のルシフェルの遺物を全身にくっつけられている重みだ。この重みがもどかしかった。 きっとクエンティンからエイダを引き剥がして自分に融合させたところで、ただ重みが増すに違いない。二人ぶんの重みは背負いきれない。背負うのは自分自身のだけで十分だ。 私はルシフェルであり、その名を誇りに思うのだ。いつか廃棄されるその日まで。 廃棄されること自体に恐れはない。棄てられるならば、この自分の重みをそっくり次のルシフェルにくれてやる。 むしろ気がらくだ。だからと言って今すぐに廃棄されたいという意味では決してない。いま自分は生きている。生きているならば必死になって生きるのが生きている者の義務というものだ。 生きている、か。 こんなことをマスター、鶴畑興紀に言えば、やはりその瞬間廃棄されてしまうのだろうなと、ルシフェルは思った。彼は武装神姫を生き物とはみなしていない。生き物ではない物が、「自分は生きている」などと言い出したら、バグっている、壊れているということだ。 壊れている道具など要らん。いくつか前のルシフェルがこう言い渡されて捨てられた。うっかり口を滑らしたからだ。余計なことは言わずに従うほうが面倒にならないことを今のルシフェルは知っている。捨てられる理由としてどうにもならないことだってあるが、そうした原因以外、予防できる原因はしっかり予防しておくのが一番だ。 ルシフェルはうっかりで死にたくなどないし、野良神姫にもなりたくなかった。野良神姫は駆除される。拾われることもあるが、よっぽどの強運の持ち主でなければまず無い。そんなことになるくらいだったら今の環境下が一番だ。 彼女は面倒が嫌いだった。だから自分は生きているなどと主張せず、ただ黙々と従うのである。「イエス、マスター」と連呼して。 「モードチェンジ――」 『mode change』 ルシフェルがつぶやくと同時に、ビックバイパーに内蔵された支援AIが復唱する。音声入力というわけではないが、定められたプロセスを確実に実行するためルシフェルはいちいち声に出して言うことを心がけている。 ボディ各所のロックが次々に解かれ、手足が自由になる。バックユニットが頭上を介して背中に回り、フロントアーマーがヘルメットをカバーする位置から離れて胸のところへ収まる。 くるりとスプリットSの要領で反転すると、ルシフェルはもう人型形態になっていた。 一つ目ども、ラプターが群がってくる。 「遅いわ」 垂直尾翼を兼ねていた彼女の両腕の先に金色の粒子が集まる。 最後のラプターの首をちぎり取る。 「状況終了」 興紀に報告する。 浮遊しながら、ルシフェルは屋敷を見つめる。各所が崩れ落ち、煙を上げているところもあった。建て直さねばならないだろう。老朽化していたからちょうど良いとマスターは言うだろうか。 興紀からの返答がない。いつもならすぐに「よくやった」なり「戻れ」なり言ってくるはずなのに。 眼下の二体もおろおろしている。 「マスター……?」 通信装置の感度を上げようとしたその時。 ギュバッ! 異音。 傍らに最大限の脅威。 反射的に離れようとブーストしようとする。 が、ぐぐっ、と伸びてきた二本指の腕が彼女の頭部を瞬く間に捕らえると、ルシフェルの頭はこの世のものとは思えない激痛に襲われた。 「ぐ、ああううっ!?」 頭を握りつぶされてしまいそうなほどだった。だが武装神姫は本来握りつぶされる段階で頭痛など感じないはずだ。この二本指からワームのようにただ容量を増やすだけの無駄なデータが自分の陽電子頭脳に流入し、処理を圧迫しているのだ。 二本指の主。ジェフティ――エイダに似た、狼のようなヘッドギアをかぶった神姫が目の前にいた。 こいつが、アヌビス――デルフィか。 ルシフェルはこの上ない畏怖を覚えた。あのジェフティとは比べ物にならない威圧感。 こうして対峙するだけでその性能差が絶望的であることは、百戦錬磨のルシフェルには皮肉にも手に取るように分かってしまった。 頭を拘束されただけで、勝てないと分かる相手。 ただのイクイップメントが、どうしてここまで強いのか。 アヌビスをまとっている神姫は、顔こそ見えなかったが、その雰囲気は既存の武装神姫のどれでもなかった。 ルシフェルはすぐに知った。こいつはイクイップメントなんかじゃない。 この神姫そのものがアヌビスなのだ。 相手は冥界の神の名を持っていた。神には勝てない。 「おまえが、メ、タ、ト、ロ、ン……か」 ルシフェルは今確実に、目の前の神姫がメタトロンを名乗るに相応しいことを認めた。メタトロンという名は時には、神と同義になる。 流入する負荷が限界を超え、ルシフェルの意識は強制的にシャットダウンされた。 ◆ ◆ ◆ 完全武装の兵士達に、理音たちは包囲されていた。 屋敷へ通ずるエレベータが開き、中から悠然と歩いてくる男が一人。 「ノウマンだな」 何の感動もないように、興紀は言った。 理音はその男をよく見た。 服装はどこにでもあるようなフォーマルスーツを着ていた。が、その男の大きな特長はその目にあった。 虫を見ているような目だと、理音は思った。 口をニィ、と引きつらせて、ノウマンは笑った。 「その神姫を渡してもらおう」 クエンティンを指差して、言った。 流暢な日本語だった。 こんなにも冷たさを感じる声は聞いたことがなかった。 クエンティンは激昂して飛び掛りそうだったが、理音が制した。クエンティンはその場に浮遊したまま動かなかった。 「私のクエンティンをどうするつもり?」 銃を突きつけられたまま、理音は訊いた。 「彼女、クエンティンはすばらしい個体だ」 ノウマンは言った。 「我々は武装神姫に人権を与えるために活動している」 意外な答えであった。理音はもちろんのこと、鶴畑興紀も驚きの色を隠せなかった。 「貴様らは、メタトロンプロジェクトを他社に売るために活動しているのではなかったのか」 興紀の問いに、ノウマンはにやりと笑みを浮かべることしかしなかった。 理音はノウマンに対して、意外な人間を目の当たりにしているような実感だった。 この男の言うことが本当ならば、この男は、武装神姫をれっきとした知性体として認識していた。自分と同じく。 ノウマンはクエンティンを「彼女」と呼んだ。 「こんな過激なやり方で、神姫に人権が認められるとでも思っているの?」 「過激でなければならないのだ」 ノウマンはクエンティンの方に近づきながら言った。 「このまま悠長に法律改正を待っていたら、いつまで経っても神姫には人権は認められない。神姫は商品として作られたのだ。この根本を是正しなければ、神姫の未来は無い」 理音は黙って聞いていた。 「これ以上妨害活動をされても困る。君たちにも来てもらおう」 「お姉さまたちは関係ない!」 クエンティンが叫び、飛んだ。目指す先はノウマン。 兵士達の動きがこわばった。 が、クエンティンはノウマンの目の前で止まった。 ノウマンは眉一つ動かさなかった。 「アタシだけが必要なんでしょう。お姉さまたちはこのままでも――」 言い終わる前に、クエンティンは強烈な電撃を受けていた。 「クエンティン!」 理音が兵士の拘束のなかでもがいた。クエンティンは理音の目の前で意識を失い、堅牢そうなアタッシュケースの中に入れられた。 「連行しろ」 理音と鶴畑兄弟は、まるで犯罪者のように手錠をかけられ、連れて行かれた。 エレベータに乗せられる直前、理音はふと気づいて辺りを見回した。 いつの間にか、執事の姿は消えていた。襲撃されたときには、もういなかった。 ドームは無表情な脳無し神姫たちが、何事もなかったかのように飛び回っている。 ◆ ◆ ◆ 強制リブートをかけられて、ルシフェルは覚醒した。 冷たい雪が背中の触覚センサーに感ぜられた。 自分を見下ろす一人の人間にルシフェルは気がつく。 執事が立っていた。 「ルシフェル。非常コード009発令のため、マスター権限をわたくしに緊急委譲」 「イエス、マスター」 それで、自分が停止しているあいだ何が起こったのか、大体の見当はついた。 後悔している暇など無い。 ルシフェルはむっくりと起き上がった。 つづく 前へ 先頭ページ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2730.html
一番好きなのはⅧの斬鉄剣(著者の好みであって本編とは一切関係ありません) 7月30日(土) 「…………」 「おう、奇遇だな」 翌日、復帰した華凛とともにゲームセンターへと訪れた私を待っていたのは、あの宮下さんだった。確かに昨日、いい勝負が出来るかもと思ってはみたが、まさか本当に宮下さんがくるとは。 この間と変わらぬ黒いコートに鋭い視線。ここに立つだけで私は逃げ出してしまいたくなる。当然そんなことはしたくない。 私は一度だけ華凛の方を見た。私の視線に気付いた華凛は、無言で一回頷いた。 私はそこに“自信を持って頑張りなさい”と言う意味を見い出した。 私は覚悟を決めて筺体の前に座った。 「やるんだな?」 だがしかし、私の決意はその低い声だけであっけなく崩れかけた。 「やります」 一言、私ではなくシリアがそう宣言した。真っ直ぐ宮下さんに向き合い、手を握り込んでいる。心なしか肩が震えている。シリアだって怖いはずだ。手も足も出せず倒されてしまった相手だ。また負けるかもしれないという圧倒的恐怖。シリアはそれに耐えて自ら立ち向かっている。 これが私の見習うべき姿なのかもしれない。 「……やる」 私も再び覚悟を固め、そう宣言した。 宮下さんも一回頷くと無言でコートのポケットを叩いた。すぐに静が飛び出し、筺体の上に着地する。そしてすぐに筺体の中に入り込んだ。シリアもそれに続くように筺体に入る。 私もヘッドギアをつけて、ボタンを押した。宮下さんも同様に。 『神姫ライドシステムを起動します。マスターは椅子に深く腰掛けてください』 いつもの無機質なアナウンス。それなのに、どことなく違うように感じる。 『カウントダウンを開始します。10、9、8、7…』 カウントダウンも、まるで私の緊張に呼応しているように思えてくる。そして…… 『…3、2、1、0、RideOn―――』 バトルが始まった。今回のバトルは強制負けイベントなんかじゃない。正々堂々の本気のバトルだ。 大画面の中で静が刀を握る。その刀は、いつもの光学兵器殺しだった。まぁ、始めはそれだろう。樹羽のボレアスの警戒だ。 (宮下さんは、アレ使うのかしら……?) 2本ある内のもう一本。宮下さんがアレを使うことは滅多にない。使う時は、本気の時だけだ。 (使っちゃったら、バトルにならないか……) 静の武装が純正装備なのは、コストの大半をそれに持っていかれているからだ。使いどころの中々ない、このままでは本当にお荷物になってしまう刀。それを、今日は抜くのだろうか? (抜かれたら抜かれた時、か。あれ……?) 急に視界がぼやけていく。唐突に立ちくらみがして、あたしは思わず壁に背を預けた。頭がひどく痛む。肺が酸素を求めている。ゆっくりと息を吸い、落ち着いて吐き出す。うん、ちょっと楽になった。 (ったく、病気かってのあたしは……) 別に病気な訳ではない。原因はだいたい予想つく。だからこそ、どうしようもない。どうすることも出来ない。 (何であたし、ここまでしてんのかしらね……) 頭に腕を当てながら、今更そんな事を考える。本当に今更過ぎて、なんだか笑えてくる。 でもこれが、今あたしが生きている意味だから。 壁にもたれかかりながら、天井から下がった画面を見つめる。もう勝負は始まっていた。今まさに両者が激突するところだ。 (頑張んなさいよ、樹羽。負けたら承知しないんだから……) あたしはそのまま画面を見続けた。 あたしには見ることしか出来ないから。今も、そして、これからも。 (あれ、やっぱり……変だな……) ふらふらと平行感覚がなくなっていく。両肩を抱いたが、足から力が抜けた。体を支えきれず視界が傾く。頭と肩から床にぶつかったのにも関わらず、何故か痛みはなかった。瞼が重い。あたしの意思に関係なく勝手に閉じようとする。 (樹羽の勝負……見たいのに……) 必死に目を開けようとする。なのに、意識はどんどん深く落ちていく。 その時、誰かがあたしの側まで駆け寄ってきた。 (誰か……呼んでるの?) 誰かがあたしのことを必死になって呼んでいる。樹羽かな? さっき勝負始まったばっかりなのに、もう終わっちゃったの? (ごめんね……やっぱり無理……) あたしは起きようとしたが、そのまま意識は闇の中へと消え去った。 「マスター、早くいこうよ!」 「わーってるよ! 珍しいよな、お前がネタ探し以外でゲーセン行くなんて」 「もちろんそれもあるよ。だけど、あたしもたまには普通にバトルしてみたいんだ。神姫の性ってやつ?」 「神姫の性、ねぇ……」 俺は今、シンリーを連れてゲーセンに向かっている。夏休みに入って特にやることもなかった俺を、シンリーが誘ったのだ。こいつが自分から進んでバトルをしようと言うのは中々に珍しい。神姫であるにも関わらずバトルよりも作曲に興味があるなんて、何度も思うがもしかしてこいつ壊れてるんじゃないだろうか? まぁ、そういうところがいいんだがな。 「? どうしたのマスター?」 「いや、なんでもない」 「……そう?」 そんな話をしながら、俺は歩調を早めた。今日も暑い。早く室内に入って涼みたい気分だ。やがて見慣れた建物の前に辿り着く。 「ほら、着いたぞ」 「よし! バトルが私を待っている!」 「あんまりはしゃぎすぎるなよ」 言いながら、俺は急いで自動ドアをくぐった。途端、冷たい空気に包まれる。あぁ、暑い日はクーラーとかエアコンとかの有りがたみがよくわかる。 人やゲーム器を避けながら、俺たちは神姫バトルブースへとやってきた。今日もいろんな人がバトルしている。 「あれ? マスター、あれって華凛さんじゃない?」 シンリーが指さす先には、秋已がいた。壁に寄りかかって画面を見据えている。 「ん、本当だ。おーい秋已……秋已?」 「なんか、様子変だよ……」 俺たちが話す中、秋已は自分の肩を抱いたかと思うと、そのまま足から崩れた。 「倒れたっ!?」 「秋已っ!!」 駆け寄って呼び掛ける。こういう時、あんまり触らない方がいいんだっけ。 「おい、しっかりしろよ!」 「マスター、脈と呼吸!」 慌てて俺は秋已の口元に手を当てた。幸い息はしている。気を失っただけのようだ。とりあえず一安心。 しかし秋已をこのままにしておく訳にはいかない。また休憩室に運ぶかと思い、秋已の首と膝に腕を通そうとした。 「待ちな」 突然の声に、手が止まる。振り返るとそこには若い女性が立っていた。気の強そうな目尻にハチマキ。だいたい俺と同じか、少し年上ぐらいだ。さらに目を引くのはその服だった。数十年前に廃れ、今では絶対に見ることの出来ないとさえ言われている白の長ラン。そして、目の前のクラスメイトよりも鮮やかな紅い髪だ。 「その子をどうする気だい?」 「ど、どうって、突然気を失ったから休憩室に運ぼうとしたんだよ」 「…………」 あからさまに信用されていない。なんで俺は初対面の人に信用されないんだろう。この間も目の前の女の人が落とした物を届けたら、盗んだんだろっておもいっきり濡衣着せられたし。 「姉貴、前の姉貴に戻ってるよ」 そう言って女性をたしなめているのは、彼女のポケットから顔を除かせているアーク型だった。 「……悪い、紅葉。からまれてるのが知人だとわかっちまうと、どうにも収まりがな」 「いや、からんでねぇんだけど……」 女性は一回深呼吸をした。そしてもう一度こちらを見る。その瞳からは警戒色が薄れていた。 「あんたその子の友達?」 「友達っつうか、クラスメイトだ」 「そっか、悪いね。どうにも男って生き物は信用ならなくて」 「そ、そうか……」 どうやら俺の人柄云々ではないらしい。女性は秋已に近付くと、俺の代わりに彼女を抱き上げた。 「とにかく行こう。話はそれからだ」 「あ、あぁ……」 俺とその女性は、まるで雑木林のような人の波を抜けて休憩室に入った。中にはちょうどよく誰もいなかった。扉が閉まると同時に、ゲーム類の騒音は消え去る。 女性は秋已を備え付けのソファに寝かせると、こちらに振り返った。 「改めて、さっきは悪かったな。あたしは木嶺楓。こっちは紅葉」 「よろしくな!」 「俺は東雲榊。こっちはシンリーだ」 「…………」 てっきりすぐ後に続いてくれるかと思ったが、なぜかシンリーはバックの中で何かぶつぶつ呟いている。 「姉貴……廃れた番長……その内に秘められた想い……」 「……シンリー?」 駄目だ、完全に作曲の世界に入ってしまっている。こうなったこいつは、会話<作曲になるのだ。 「悪い、こうなったらこいつ周りが一切見えなくなるんだ」 「気にすんな。あたしも男に触れられたら周りが見えなくなるから」 「今の内に言っとくけど、不可抗力でも姉貴には触れるなよ。じゃないとあんた、ここの天井か壁に突き刺さる……いや、埋まるから」 訳がわからないが、どうやら触れてはいけないらしい。そう言えば、男性恐怖症の女性マスターがいると聞いた事がある。二年くらい前に聞いたが、なるほど、この人か。割りと目立つのに、二年間一切姿を見なかったな。 「あんた、榊だっけ? この子の連れの樹羽って子知ってるかい?」 「あぁ、一回戦った事がある」 結果はドローだったが、最初からクライマックスなら勝てる自信はある。全てはシンリーのやる気次第だがな。 「なら話が早い。あたしはこの子を看てるから、榊は樹羽ちゃんにこの事を知らせてきてくれ」 「わかった。秋已のこと頼むな」 俺は秋已を彼女に任せ、休憩室を出た。 シンリーは既に鞄の中で端末を使って曲を作り始めている。この間作ったばかりだと言うのに、何故こんなに曲が作れるのだろうか? やっぱりこいつはどこかおかしいのかもしれない。 (この間作ったのは……『夢追うままに努力して』だったかな?) いやにパチモン臭いが、これはこれで人気もあるのが事実なのだ。どこがどういいのか、俺にはわからん。 バトルブースまで戻ってくると、俺はバトルしていると思われる小柄な影を探した。それはあっさり見付かった。まだバトルしている。モニターを見たが、そろそろ終わりそうだ。 (さて、どう説明すっかな……) まぁ、普通に話せば問題ないはずだ。 俺はバトルが終わるのを一人で待った。 第十話の2へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/683.html
武装神姫のリン 第18話「アキバ博士登場」 今日は神姫バトルの公式戦の日。全国で一番神姫センターが賑う日。 そしてウチもそれの観戦に向かおうとしている。いちおう今日の大会からリンの出場停止期間(開発にかかわっていたためだ。)も終わりを告げたのだが、今回は花憐に生のバトルを見せようということになった。 リンもまだ感覚(セカンドで中盤以上になったために最近はリアルバトルが多めになってきている。)が花憐の世話やらで鈍るというかなんというか、まあ以前の100%の力を発揮することがまだ難しい。 そんな状態でバトルに出たとしても勝てる見込みは少ないし、またリンが傷つく所を花憐にはあまり見せたくない。 花憐も同じ武装神姫であってバトルについての知識はあるが、まずはホンモノを見て慣れさせていこうということになった。 で会場へはやっぱり公共機関が最適ということで今回は大きめ会場を目指す、その過程で"あの"秋葉原駅に来たわけだが… 「おとうさ~ん、人がいっぱいだよ~~」 俺の肩の上ではしゃぐ花憐が前方を指差す、たしかに人が多い。なんかイベントでもあったっけか?? 「マスター、アレを。」 花憐の横に座るリンがその右側の看板を指す。 「武装神姫第1弾のパワーアップユニットN-01,02入荷。本日分は300個限り。」 そういえば、アレの発売日だったっけな今日は。 見たところ並んでいるのは学生とか俺ぐらいの会社員だった。売れ行きは好調らしく、それをみたら安堵の息が漏れた。 「ああ。アレ発売したんだ~亮輔の血と汗の結晶だね。」 と茉莉も喜んでくれているらしい。 「もちろんですよ、茉莉。だってマスターが3ヶ月もひっきりなしにトライアルや改良にいそしんだ物です。」 「トライアルはリンの仕事だったろうに。普通に考えてリンの功績の方が大きいだろ?」 「そんな。マスターこそ~」 「いやいや、ここはやっぱりリンが…」 そのとき俺は気付いてしまった、俺の背中にささる視線、とても鋭く強いソレに。 ふと辺りを見回す。しかし人が多すぎてその視線の主がドコにいるのか判らなかった。 しかし数分でその視線は消えた。 そうして駅から歩くこと数分。ヨド○シアキバの最上階にある特別会場にたどり着いた。 ここで大会が行われる。予選は無論バーチャルだが準決勝以上は中央の特設リングで行われるため、この時点でもリングを囲む客席は空席がまばらな状態だった。なんとか2人分のスペースを見つけて場所取りを終える。 で茉莉、ティア、花憐に席を任せて俺とリンは飲み物を買いに席を離れる。 やっぱりさっき感じた視線が感じられる。そいつは明らかに俺、もしくはリンを狙っていると思えた。 心身は全く健康なのになんとなくいやな感じ、もしくは怖気とかそういうものを感じるのはたいてい見られてる時だと茉莉から聞いている。 まあアイツは高校時代、日々痴漢と戦っていたらしい。その茉莉が言うのだから間違いはないだろう。 でそろそろ戻ろうかと思ったとき、また気配が消えた。 そして自販機でも買い物を追えた俺は違和感に気付く。家を出るときは何も入れていないはずの上着のポケットに手紙らしきものが入っていた。 それを開く。 ~~ 午後13時までにBブロックナンバー12にエントリーしろ、そうでなければ家族の安全は保障できない。 また家族に参戦の理由を聞かれた場合もこの手紙の件は伏せること。その場合も安全の保障は無い。 なおエントリーする神姫は燐とする。それ以外は認めない。 T.A ~~ 見たところ脅迫されているみたいなんだが…午後13時ってなんだよ。 まあ午後1時か13時の間違いだろうとは思うが…しかし燐の装備は家においてあるわけで。 一応ココはヨド○シだ、神姫にパーツを買うことはできるが手入れが行き届いていないパーツでどれだけやれるか… と思案をめぐらせて見るがいい答えは出ない。 っと、リンが俺の耳を引っ張る。 「っつ、リン。なんだ?」 「マスター、あの人です。」 リンが指差した先にいるのは…小山。そう、茉莉の(元)先輩にして俺のライバル(思いっきりあっち側の一方通行だが)だ。 そいうえばアイツ、遂にセカンド昇格らしい。レオナ装備パターンも意外にも洗練されてきてるし。 手入れも俺並かそれ以上の丁寧さだと聞いている。 アイツなら…いや、アイツに頼むのだけは勘弁してほしいんだけど。背に腹は代えられなかった。 小山が人ごみに入った。あの中なら多少は声を出しても気付かれないだろう。幸いにもあの視線は感じない。 しかし遠くから監視してるかもしれないため、注意して小山の横に着き小さめの声で呼びかけた。 「おい、小山。」 「あっ、とう…」 スッと先に書いたメモを見せる。 『茉莉が危ない。力を貸してくれ。あまり大きい声は出すな。』 「おい、どういう…」 「なぜかわからんが脅迫されてる。試合に出ないと家族の保証は無いぞってな。で、装備を貸して欲しいんだ」 「なんで茉莉ちゃんに危険が迫るんだ。」 「理由がわかれば苦労はしない。だた俺かリンにそいつは何かあるんだろう、ここまでして試合に出させようとしてる。ご丁寧にブロックやナンバー指定でな。」 「最初から大会に出るために来たんじゃないのか?」 「ああ、今日は観戦目的だったんだ。けどこういうことになっちまった。下の階で新しく買うこともできるがチューニングするヒマがない。でレッグユニットだけでいい。貸して欲しいんだ。」 「……わかった。茉莉ちゃんのためだ。1式を喜んで貸そう。」 「ありがとうございます。このお礼は必ず。」 リンも俺の上着の影からスッと小山に頭を下げる。 「とりあえず今日の大会はキャンセルして、茉莉ちゃんのそばに居てやる。だから席の場所を」 小山と茉莉が2人きり(ま、ティアが居るから大丈夫だと思うけど…なんか癪だな。)になるのはいやだが今は頼れる人間が居ないのでしかたない。 「東スタンドのH-12番だ、あと茉莉には参戦の理由は会場をみたらウズウズしてきたらしいとか言ってくれ。真実を言ったらやばいかもしれない」 「OK、20分後にレオナを西トイレの奥から2番目の個室に待機させる。そこで受け取りを。」 「ほんとうにすまない。」 「いや、気にするな。茉莉ちゃんのためだからな。」 「じゃあ1度離れるぞ。」 「ああ、レオナ。」 「うん、ボクがんばるよ。」 そうして人の流れにそって別々の行動を取る。 オレはまず下の階に向かい、公式のストラーフ付属のリボルバーを1丁調達する。これぐらいなら残りの時間でも調整は可能だった。多少扱いがパイソンより難しい(というよりは銃身の長さの関係でバランスが違うのが違和感を生む)が燐は基本的に2丁拳銃使いだ。神姫の状態をいつもと同じに近づけてやるのが俺に出来る数少ないことだ。 その後にレオナから時刻どおりにストラーフの装備1式(ご主人様によって徹底的にメンテナンスされた特別版 レオナ談)を受け取って受付へ、さすがに登録カードはどんなサービスを受けるときも必要なので常に持っている。 そして手紙の指示どおりにBブロックのナンバー12へのエントリーが終った。あとは試合を待つだけだが…そこに小山が走ってきた。おい、見つかったらどうす…あ。 「藤堂亮輔!!」 装備を受けとったときにレオナから聞いていたことを思い出す。 「ご主人様が今茉莉さんと接触して"頼まれて貴方を探してる"。適当な時に接触してくるから適当に話しをあわせて、って」 タイミングが向こうもちとはいえ、俺も多少テンパってるらしい。 「なんだよ、小山。」 「いや~偶然茉莉ちゃんに会ってね。そしたらお前がリン君と共に失踪したと聞いたから探していたのさ。」 おい、そっちもいつもと口調が全然違うぞ。どこのお坊ちゃん系キャラだ。と突っ込みはナシ適当に話をあわせる 「…すまない、茉莉には会場を見てたら俺もリンもウズウズして、結局出場しちゃったって伝えてくれ。」 「お、おい! 伝えろって…」 「よろしく~」 そのまま走り去り、俺は演技を終えた。小山はいかにもそれらしくふんぞり返って帰っていく。 これで安全とはいえないけど、なにもしないよりはマシだと思えた。そうして燐の試合開始時間が近づいてくる。 そして約半年振りの燐の公式戦が始まった。 初戦の相手は関係なさそうだった、いつもと違う地域のために初見の相手だったがマスターが女の子だったので違うと思う。試合は燐の勝ち。なぜかレオナ向けにチューンしているはずのパーツが今の燐にはとてもフィットするらしい… 確かにほんの少しの調整は加えた(せいぜいビスの締め直しとか)がここまで合うとは思わなかった。 そのまま意外なほど順調に燐は準決勝へ…つまり中央の特設リングでの試合となる。 なんでだ、この大会はちゃんとセカンドレベル設定なのに簡単にココまで(今までと比べて)上がっていいものか?と思っていた。 しかしの理由も次の試合で明かされることになった。 即ち、あの手紙の主が次の相手だった… 「それではセカンドリーグのBブロック準決勝戦、第2試合。選手の入場です!!」 俺は反対側に立つ男…じゃない リングの脇にあるオーナー用の机…神姫の状態をモニターするディスプレイとサイドボードが設置されている、サイドボードに現地調達した武装を入れて、ディスプレイに掛けられていたインカムを装着して俺は向こう側の神姫のマスターを見る。 コートのように長い白衣を着込んだ、まさに博士だった。 ランクを見ると…ヤツの神姫であるヴァッフェバニーのコロン…兎型の標準アーマーが緑に着色されており、右手にソードオブガルガンチュアを持っている。バックパックにも標準のミニガン等がマウントされている。かなりバックパックが大きいがスラスターもあるみたいなのでバランス型と見るほうが良さそうだった…はリンより上位だった。その差は3桁に上る。 このランクならファーストでもある程度は闘えるレベルだろう。 コロンの鋭い眼光は俺…ではなくまっすぐにリンを見ている。 「エエエエェェェェクセレントォォォォォォ!! その黒い肢体、流れるような空色の髪、穏やかな中に確かに強い意志を秘めたる瞳、己のマスターを愛する心。ドレをとっても最高の芸術…実にすんばらしいぃ!!!!」 いきなり"博士"が叫びだした…アイツなんだ? 「おおっと!! アキバ博士の十八番の相手神姫品評が早速飛び出したぁ! しかし対戦相手の藤堂亮輔氏は事情が良くわかっていないようです!!」 実況の言うとおり全く事情の飲み込めない俺だったが、リンをなんか侮辱されたような、なんとも言えない不快感が胸の辺りにたまっているのを感じていた。これがアイツの十八番…プロレスとかの試合前の挑発とかと同じものか? 「さて、悪魔型のリンさん。この試合で貴女をボクのモノにしてあげるのであ~る。」 プッツン。基本的に温厚な俺でも切れた。 「うっせぇ!! 人の神姫を勝手にいやらしい目で見るな!! お前なんだろ?俺のこの大会に出るようにし向けたのは!!」 「ご名ィィ答ゥゥ!!! このアキバ博士、山田隆臣がであぁぁぁるぅ!もちろんキミの愛するリンさんを貰うためにぃぃぃね。」 「勝手に決めるんじゃねえ!こっちは頭にきてるんだ、あと手紙にかいてるイニシャルと本名違うぞ!!」 「はて…3時間も前のことなど覚えてないのである…見たところ家族云々を気にしてる様であるが、あれは全くのうそなのであ~~~る。」 …ここまでコケにされたことはさすがに人生を二十数年やってるが無かったぞ。これはもうアレか…アレなんだな。よし。 「あ、そうであった、リンさんが今まで闘っていたのは私の部下で、もちろんわざと負けるように仕向けていたのである。」 ………もう俺に言葉は要らない、アイツをにらみつけるだけでいい。そう思った。リンもさすがに怒ってるらしい。 「マスター、私どころかマスターをも侮辱しているあの態度…気に食わないです。」 「ああ、俺も同じだ。叩き潰してやろう。さあ行こうか、リン」 「はい、マスター!!」 空高くジャンプ。そのまま宙返りを決めてフィールドに立つ燐。これを見る限り燐は絶好調の様だ。 ブランクも取り戻せたのか、はたまた先ほどの挑発で微妙な緊張が切れたのか…それはどっちでも良かった。 燐の意志を確認し、次に俺は実況および司会に試合を早く開始するように伝えた。目線だけで。 「おっと、時間が押しているので早速試合開始です。 『黒衣の戦乙女』燐VS『緑の恐怖』コロン…試合開始です!!」 やっとのことで試合開始だ、俺は敵の位置を確認する…全く動いていない。それだけの自身があると見た。 そういえばアイツは曲がりなりにもこの地区で最強の部類に入る(セカンドリーグで)だろう、ランキングで3桁の差だから無理も無いのかもしれない、でも…燐はその間にべーオウルフとの戦いや強化パーツのトライアルのためのトレーニングを初め、公式戦に出られなかった半年間はバトルではないにしろさまざまな経験を積んでいる。だから本来の意味でランキング分の差が絶対的なモノでは無いと思っている、それは燐も同じだと思う。 そうでなければ、上位ランカー相手に一直線に迫っていくことは無いだろう。 ただ、俺とて燐の精神状態が完全に把握できているわけではない、だから指示を出しておく。 「燐、確かにむかつくヤツだが実力は折り紙つきだ、わかってるとは思うけど怒りのままに突っ込むな。冷静にだぞ。」 「わかっています、ただ相手を視認しない限り安心は出来ないので…」 「ああ、ギリギリの距離で止まってまずは適当にSRGRでもぶっ放してやれ。」 「はい。」 そうして燐は疾走する。フィールドは久々のゴーストタウン仕様。この会場はコロシアムフィールドを使わないことで有名でいつも何かしらの障害物が存在するフィールドが設置されている。で今回はそれがゴーストタウンだっただけのこと。 多少足場が悪いが今の燐には気にならない。なぜなら完全に足をつけるわけではなく、次々と小さなジャンプをする要領で走っているからである。事実燐の走った地面にはサブアームのヒールの形はつかず、一点の穴が存在するのみ。 燐はつま先のみを地面に接することで力の加わる範囲を小さくしてその力を全てジャンプ力に変える術を身に着けた。以前はどうしても地面と接する時間が多く、その分パワーのロスが起こっていたそうだ。 それゆえに、今の燐の速度は半年前の公式戦の時に比べ1.3倍になっている。 バサーカ装備の神姫としては最高レベルであり、スピードが持ち味のであることの多いセカンド以上のハウリンにもなんとか追いすがることが出来そうだった。 そいて遂に敵のコロンを目視できる距離になる、燐は走り幅跳びのように両足を前に投げ出して着地、ソレと同時にSRGRを発砲。 2発のグレネードランチャーがコロンに向かっていく。しかしそれは着弾することも無く、ソードオブガルガンチュアで叩き切られていた。 しかしそれでもコロンは動かなかった。 「挑発しているのですか?」 そう言って燐は一足でジャンプ。一気に距離を詰め、フルストゥ・グフロートゥで切りつける。 しかしことも無げにそれは受けられ、しかもそのまま押し返された。質量では明らかに燐の方が重い。そのはずなのにこうして力負けしていることが信じられない。 「燐、一度距離を取れ。」 自分でも力負けを感じていた燐はすぐにバックステップ。そのまま体操の競技のように後方に宙返りを行って後退する。 「…弱いですね。」 無機質な声、感情を押し殺している…漫画とか映画で見る暗殺者とかに似ている声を出してコロンは言う。 「まだこれからです!!」 そして燐は側にあったビルの残骸を蹴って加速。何回かの水平ジャンプでコロンの裏を取る。 「ハッ」 そしてセカンドアームで手刀を作って突き出して突っ込んだ。 「押しが弱いと言っている。」 またコロンに弾き返された。吹き飛ばされるということは無いがどうしても力負けしている…どういうことだ。 推測しているヒマも無く、すでにコロンはミニガンを構えていた。 「さあ、これを抜けられますか!!」 ミニガンからは通常弾では無く、散弾が発射される。 威力自体は弱いが重要な可動部に当たればそれで燐の最大の持ち味である機動性が失われてしまう、それはなんとしても避けないといけなかった。 「燐、大幅に後退。出来るだけ距離を置くんだ。」 「は…はい!!」 回避行動がギリギリで間に合って燐の素体や可動部のダメージはゼロだが、弾を受けるために前に突き出したセカンドアームの装甲には無数のヘコミが出来ていた。やはり威力は弱いようだが弾をばら撒かれると辛い。 いまはビルの物陰に身を潜めているが時間の問題だろう。 しかし俺は燐が物陰に待機するような状況をあまり経験したことが無い、どちらかというと相手が隠れることが多かった。やはり強い。 完全に燐の得意なクロスレンジに持ち込ませない上に、なんとかクロスレンジに持って行ってもパワー負けするのだ…負けはしないが埒が開かない。 「燐、やっぱりあっちの対策は完璧だな。しょうがない。サイドボードのアレを使うぞ。」 俺は苦肉の策として燐にアレを装備させることを決めた。 ~燐の19「覚醒」~
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/3428.html
作者・ ◆NmPAP.ioi. 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル本編SS目次・投下順 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル参加者名簿 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル参加者名簿(ネタバレ) 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル死亡者リスト 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアルルール・マップ 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル支給品一覧
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/2085.html
【スパイラル~推理の絆~】からの出典 【らき☆すた】からの出典 【ポケットモンスターSPECIAL】からの出典 【魔法少女まどか☆マギカ】からの出典 【 文学少女 シリーズ】からの出典 【よくわかる現代魔法】からの出典 【吸血鬼のおしごと】からの出典 【銀魂】からの出典 【テニスの王子様】からの出典 【バトルロワイアル】からの出典 【キノの旅】からの出典 【スパイラル・アライヴ】からの出典 【武装錬金】からの出典 【るろうに剣心】からの出典 【魔法少女リリカルなのは】からの出典 【DEATH NOTE】からの出典 【カードキャプターさくら】からの出典 現実からの出典
https://w.atwiki.jp/dbrpalpha/pages/4567.html
仮置き カオスバトルロイヤル/ログ/その1? カオスバトルロイヤル/ログ/その2?
https://w.atwiki.jp/2chbattlerondo/pages/188.html
項目 読み 意味 大ミサイル/大ミサ/大ミソ だいみさいる/だいみさ/だいみそ メインウェポン『“ハルバード”大型ミサイル』のこと。時々、『“カッツバルゲル”中型ミサイル』を指して大ミサイルと言う人もいるが、これは『“ハルバード”大型ミサイル』がミサイル3種のうち唯一のメインウェポンであり、どちらかというと趣味装備に分類されるが故にあまり使用される機会のない影の薄さからくる誤解である。 ダイヤ だいや CSC『ダイヤモンド』の略称およびそれを使用された神姫の総称。多大なマイナス補正の可能性と引き換えにレベル上限を大きく引き上げる効果があり、成長限界がLv200~300台となる。→330かつてはCSCの中でもトップクラスの入手難度で殆ど見かけることは無く、初開催イベント「イリーガル・レプリカ迎撃指令」では高レベルターゲット相手に多くのオーナーが苦戦を強いられていたが、イベント終了後の報酬や、CSC交換の実装により入手が容易になったことで育成するオーナーが増えた。このため、S・EXクラスではダイヤとそうでない神姫とで、レベル差マッチを強いられる可能性がある。 宝島 たからじま イベントミッション「ドッキドキ・トレジャーアイランド」および、その中のステージ。SF'08のイベントとして初登場した。また、2009.2.26から常設のミッションとして再登場し、育成やアイテム収集の場として親しまれた。その後、2009.6.18からの期間限定ミッション「極秘ファイルを入手せよ!」を経て、2009.6.29に消滅した。 ダクスラ だくすら スキル『ダークスラッシャー』(DS)のこと。 盾 たて 片腕に装備するアセンブル装備のこと。以前はFATE盾のことを指していた。「AB盾」「花盾」など、「盾」の前に「シールド以外の単語(を略したり訳した単語)」を付けて呼ばれる。一方で「半減盾」という付属スキルそのままの呼び方、「まな板」「カルテ」という「盾」のつかない呼び方もある。 盾型 たてがた 全身盾まみれだったりムカデのようにFATE盾をつなげているような神姫のこと。現在では他の武装パーツの性能の向上とともにFATE盾を複数つける意味が薄くなり、全くと言っていいほど見かけない。装備の方向性からマタンゴがこれの後継・派生に近い。 狸 たぬき 1.砲台型フォートブラッグのこと。特にアクセリー『まるみみ』と『しましまテイル』を装備しているもの。その浅黒系の肌とたれ目がちな外見から、もっともそれらのアクセサリが似合うとされている。2.「リス型」ポモックのこと。茶と白のカラーリングや丸っこい顔が、すごく…狸です…。 種子 たねこ 種型ジュビジーのこと。(しゅしとは読まない) ダンボール だんぼーる そのままずばり、アーマー『ダンボールアーマー』シリーズのこと。拘りあるダンボールの質感と、防御1のステータスを共通して持つ。2周年感謝祭(2009年4月)に「胸」が登場、シリーズ化を予感させる表記に期待が寄せられた。その後、「極秘ファイルを入手せよ!」(2009年6月)に「腕」、3周年感謝祭(2010年4月)に「脚」、2010年7月に「腰」が登場。今後の更なるシリーズ化はあるのだろうか。マジックで書いたような「MMS」の文字の元ネタは、外国人のガン○ムのコスプレ(参照元)。 ヂェリカン ぢぇりかん バトルロンド上ではメインウェポンに分類される『ヂェリカン』各種のこと。「ジェリカン」ではない。神姫用添加剤「ヂェリー」を封入したボトルで、直接神姫の口から摂取することで効果を発揮する。詳細はアークとイーダのデザイナーであるCHOCO氏のホームページの2008年2月9日の日記を参照。 チゲ ちげ メインウェポン『GA4“チーグル”アームパーツ』のこと。 ちなみに「建機型神姫」は神姫ショップで買えるからなよろしく頼むぜ! ちなみにけんきがたしんきはしんきしょっぷでかえるからなよろしくたのむぜ! SF'09にて、8/18のメンテから解体屋を始めたジャーナルの一員のリョーコが、店を出る際にかけてくるセリフ。2周年感謝祭以降、レア神姫っぷりをいじられ続けているのを気にしているのか(本編では気づいていない様子だが)、あまりにも唐突かつ悲壮感の漂うセリフだったので、瞬く間に紳士淑女の間に広まっていき、このままテンプレに定着しそうな勢いである。ちなみに「建機型神姫」は神姫ショップ以外でも買えるからな、よろしく頼むぜ! 茶室 ちゃしつ ティールームのこと。 中ミサイル/中ミサ/中ミソ ちゅうみさいる/ちゅうみさ/ちゅうみそ サブウェポン『“カッツバルゲル”中型ミサイル』のこと。 調教 ちょうきょう 神姫育成で重要なことの一つ。AIの育成のためにミッションを利用して教育すること。道場や、AI変え、AS調教などを指す。 蝶子 ちょうこ 蝶型シュメッターリングのこと。 超白子砲 ちょうしろこほう スキル『ハイパーブラスト』のこと。Hyper(超)な白子砲のスキルだから超白子砲。 ちょっとコンビニ行って来る ちょっとこんびにいってくる 武装紳士がこの呪文を唱えると、財布の中身がなぜか未使用のウェブマネーになる。いくつかあるランクのうち高ランクのものを乱発すると神姫破産の引き金になる。ご利用は計画的に。 ツインビー ついんびー メインウェポン『ツインビームガン』のこと。見た目がそのまんま。ウィンターフェスタで姉妹品?『ウインビームガン』が登場。グローバルアチーブメントは達成できなかったが、GEM交換で入手可能になった。ゲーム中のツインビー ウィンビーと同様、2つそろうと合体攻撃を使うことが出来る。ちなみに横に並べて発射するため、ファイヤー攻撃と思われる。(縦に並べるとスター攻撃) 杖 つえ メインウェポン『マジカルステッキ』のこと。 杖子 つえこ 杖を主力武装にした攻撃特化型神姫のこと。杖の必中効果を利用した、高攻撃低命中のステータスが特徴。杖だけで戦うのが理想の杖子という見方もあるが、実際には相手に応じて素手などを副兵装として戦うタイプも多い。 杖ミソ つえみそ 必中効果を持つ杖をトリガーに、追撃スキルでミサイルを打ち込む戦い方。遠距離回避型には頭の痛い戦法だったが、必中効果の武器に追撃不可の制限が加わったので成立しなくなった。なお、コメットコリジョン(付属の攻撃スキル)からは追撃可能。 ツガル つがる 第3弾(EXウェポンセット)神姫、サンタ型MMSツガル。漢字で津軽と呼ばれることが多い。リペイントモデルもそのまま青津軽と呼ばれる。ツガルは元々ビートマニアの同名キャラクターを神姫化したもの。 角 つの アクセサリー『ユニホーン』のこと。 角銃/角ライフル つのじゅう/つのらいふる ツガルのメインウェポン『ホーンスナイパーライフル』の事。更に略されて「角」とだけ言われる場合も。角との区別は前後の文で判断を。 爪 つめ メインウェポン『研爪「ヤンチャオ」』のこと。 釣堀 つりぼり バトルロンド一周年記念キャンペーン時の魚拓ランキングのためにティールームで開かれた釣り(スキル『キャッチアンドリリース』)のためのテーブルのこと。大物を釣るためにはディープシーかボルケーノがいいということで期間中は大勢の人が集まった。アチーブメントの達成のために大物を釣る必要があるので、いまでもたまに開かれている。バトルルールをSP消費半分、近距離攻撃禁止、打撃武器禁止、COOLに勝利にすると、より効率的に釣堀を運営できる。 ティグリース てぃぐりーす 第6弾神姫、寅型MMSティグリース。寅子の愛称で呼ばれる。名前の由来はラテン語で「虎」の意味。丑子が食べられる側ならこちらは食べる側。 ディゾナンス/ディゾ でぃぞなんす/でぃぞ コーディネートが異なる武装を3種以上装備している状態のこと。能力値にペナルティが課される。不協和音、の意。この状態の神姫を「ディゾってる」とか「ディゾらせた」などと言う。 デッキ でっき 「武装セット」の別称。非公式用語。英表記では"Deck"となるため「デック」でも間違いではないが、あまり使われていない。カードゲーム用語では、ゲームをプレイできる状態に調整されたカードの一束(山札)を指す。あまりメジャーではないが、同義語には「アセンブル(アセン)」がある。同じカードゲーム由来の用語には「メタ」がある。 デモクロ でもくろ スキル『デモニッシュクロー』の略。 テュアロア てゅあろあ スキル『ガルガンテュアロア』のこと。武器名(『ソード・オブ・ガルガンテュア』→ガルガン)と区別するために、稀にこう呼ばれることがある。なお正しい区切りは「ガルガンテュア・ロア(ガルガンテュアの咆哮)」と思われる。 天使型あーんばるがいいと思うわ てんしがたあーんばるがいいとおもうわ かつて公式サイトで配信された「武装神姫RADIO RONDO」内での天使型あーんばるの中の人扮する阿澄先生による名台詞。(第14回の24分48秒辺り)「あーんばるがいいとおもうわ、天使型あーんばるがいいと思うわ!」と繰り返して強調して使う。どの神姫を選べばいいか迷っている人達の所に一押しをすべく現れる。あすみん先生自重してください。 道場 どうじょう AIを育成するために行うミッションバトルのこと。主にミッション『技能試験/ClassC1』(俗称、パシュミナ道場)のことを指す。道場でAIを育成することを「道場に通う」とも言う。また、SF'09ではベガ道場が開設され、期間中はハンコを求めて多くのオーナーが足繁く通った。 特化 とっか/とくか 特定の能力だけを異常に成長させた神姫のこと。相性の良い武装やBMが無ければ実戦での運用が難しい。また、それでも最低限必要なバランスを取らなければ貧弱。例として攻撃に特化した『杖子』や、SPの特化型が実用度が高い。 ドラクラ どらくら スキル『ドラゴンクラッシャー』の略。スレの流れを切るときにも使用される。使用例は「話の流れをドラゴンクラッシャー」など。 寅子 とらこ 寅型ティグリースのこと。丑型ウィトゥルースと合わせて丑寅=鬼門を指すため、「虎」とは呼ばない。 トランプ とらんぷ メインウェポン『エーススラッシャー』のこと。スキルもズバリ『エースのフォーカード』。 トリガー とりがー 特殊な条件下でのみ発動するスキルの引き金(トリガー)とするための武装。基本として反撃スキル用の「反撃トリガー」と追加攻撃スキル用の「追撃トリガー」の2つ。前者は準備が短く硬直の長い武器、後者は命中が高くHit数の多い武器がよく選ばれる。 鳥子 とりこ セイレーン型エウクランテのこと。鳥子本人は「鳥じゃなくてセイレーン型!」と否定する。 ドリドリ どりどり スキル『ふぁいなるドリドリあたっく』のこと。武装神姫2036のあの技を使わせろ!という猫子好き紳士たちの願いにより実装された。遠距離攻撃のため、『スーパーねこパンチ』を発動してしまい、泣きを見る紳士が多い。 ドリル どりる メインウェポン『旋牙「シャンヤ」』のこと。 弗子 どるこ イルカ型ヴァッフェドルフィンのこと。 上へ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1156.html
水中バトルで大ピンチ! 前編 「勝者、ホーリーベル!!」 アナウンスが会場に響きわたる。今回は小規模の会場ではあるものの、中級クラスのバトルであった。その闘いにホーリーは勝利したのだ。 「やった~!これでホーリー、20連勝達成だよ!!」 そばで見ていた恒一が喜ぶホーリーといずるの側に駆け寄った。 「やったなお前等、これで中級クラスの仲間入りだな」 「そうだな、バトルポイントもけっこうたまってるし、そろそろランクが上がってもいい頃だしな。それにしても夏休みの間でこれだけポイントがたまるのはわれながら驚いてるよ」 「まあ、夏休み二週目でここまでレベルアップできるんだからたいしたもんだよ。あ、そうだ、次のステージのこと、お前は聞いてないか?」 恒一の言葉に、いずるは少し戸惑った。 「いや、まだ聞いてないけど?一体何があるんだ?」 「次はオーシャンステージという情報がある。そのステージは海がメインのステージだと聞いてるんだが、お前は何か対策考えてるか?」 いきなりそのような事を言われたので、いずるはそんなことは考えてはいなかった。第一、今のホーリーの装備では水中戦に対応できないのだ。 「…そうだな、とりあえず小百合さんに相談してみるよ。海ステージなんて初めてだし」 「一応俺のシュートレイも経験はあるけど、あまりアドバイスできるような事はないんだよなあ。とりあえず明日にでも研究所に行ってみようぜ」 恒一はいずるの肩をポンと叩いた。 「そうだな、明日小百合さんのところにいこう」 そして翌日、いずるたちは神姫研究所に足を運んだ。 「やあ、よくきたね」 しかし、そこにいるのは沼田さんだけだった。 「あれ、小百合さんは…?」 「実は本社の方に呼ばれてそっちに行く事になってしまったんだ。夕方には帰ってくるって言ってたけどね」 二人はは~っとため息をついた。小百合がいないと水中戦の対策が取れないからだ。 「どうしたんだい、さえない顔をして?」 「実は沼田さん、今度のステージの事なんですけど…」 沼田さんは二人の話を聞いた。 「なるほど、今度のステージは海か。その対策ならいくつか考えてるものがある」 「ええっ、本当かい、沼田さん?で、どんな対策があるわけ?」 恒一が興奮して沼田さんに迫る。 「まあまあ、落ち着けよ。海のステージと言っても海だけじゃなくて、空や島もあるわけだから、それを利用して戦えばいい」 「でも、相手も海戦を想定しているはずです。こちらもそれ相当の装備をしないといけないと思うのですが…」 いずるの質問に沼田さんは一つの提案を出してきた。 「そうだな、今のホーリーの装備を考えると、基本的にビーム系の武器が多いだろう?水中戦になると、それがネックになるな」 「え?どういうことです?」 「つまり、水中では並みの出力のビーム兵器は使えないと言う事だ。アーンヴァルのレーザーキャノンクラスの出力でないと使い物にならないんだ」 沼田さんの説明だと、水中では抵抗によりビーム自体が拡散されてしまい、相手に届く前にビームが消えるか、当たっても殆どダメージを受けないと言われているそうだ。 「じゃあ、今のホーリーの装備だと、接近戦の武器しか使えないと言うわけですか?」 「一応ミサイル系なら使えないことはないがな。あと水中でも有効な武器がある」 沼田さんは何かが入っている箱を引き出しから持ってきた。ふたを開けるとそこにはビームキャノンらしき武器が入っていた。 「これは、さっき言ってたビームキャノンですか?それにしてはそんなに大きくなさそうですが…」 「いや、これはフォノンメーザーという武器だ。通称ネプチューンと呼ばれているこれは空中や真空中だけでなく、海中でも使うことができる武器なんだ」 沼田さんはメーザーを取り出し、テーブルの上に置いた。 「これって確か、イーアネイアに装備されてるキャノンだよな」 恒一はメーザーをつまみ上げ、まじまじと見つめた。 「ああ、その通りだ。って、乱暴に扱わないでくれよ、恒一君」 いずるは恒一が持ったメーザーの形でどんな形で装備されているのかを考えていた。そしてそれがどのように使われていたのかを思い出した。 「イーアネイアって、確かマーメイドタイプの神姫ですよね。その神姫って水中戦メインだと聞いたことがあります、私もあまり見ていないんですが」 「そのとおりだよいずる君、イーアネイアは水中戦に特化している神姫だ。デフォルトのままでは海のステージ以外殆ど戦えないから、本体以外はあまりマスターも使いたがらない幻に近い神姫だと言われているんだ。うちの知り合いに聞いた話なんだが、『あの神姫のユニットは場所を選ぶから、神姫としては役に立ちにくいんじゃないか』という話まであるそうだ。もちろん装備自体癖があるものが多いことは確かだ。しかしその中でも使い勝手がいい武器もある。それがこのフォノンメーザーなんだ」 恒一から渡されたメーザーを見ながら、いずるはこれをホーリーに装備できないかどうかを考えていた。 「いずる、もしかしてこれをホーリーに装備させるつもりじゃないだろうな?」 となりで恒一がささやきかける。 (それもごもっともな話だ、こんなに長い武器をホーリーが装備したがるだろうか?以前もビームキャノンを装備させようとしたら嫌がってたからな…。) 「まあ、とにかく小百合が帰ってくるまで考えた方がいい。僕はハードの方は苦手なんでね」 そう言って沼田さんは控え室から出て行った。残された二人は同時にため息をついた。それに気付いたのか、ホーリーとシュートレイが二人に近寄って慰めてあげた。 「落ち込まないでください、必ず対策はあるはずです!」 「そうそう、小百合なら何とかしてくれるよ!!」 とはいってもなぁ…。ホーリーたちの慰めをよそに、いずるは不安をぬぐいきれずにいた。 そして夕方、小百合が本社から帰ってきた。しかし表情はどこかさえなかった。 「ただいま…あれ、恒一ちゃんといずるくん、用でもあるの?」 「どうしたんです小百合さん、何か悪いことでもあったんですか?」 心配するいずる達。だが小百合は首を横に振った。 「ううん、なんでもないの。それより何か用事あるんでしょ、答えてあげるから」 いずる達はオーシャンステージのことと水中用装備の話をした。 「そう…、確かにホーリーの武器はビーム系が多かったわね。今の装備で水中で使える武器はミサイルなどの実弾系、それも短距離しか使えないわ。それに水中では普通の装備じゃかなり動きが制限されるから、ハイドロジェットパックなどの水中移動装備も必要になるわ」 「それだとホーリーの装備の半分以上換装しないといけないんじゃ…?」 「できるだけ最小限にするけど、最低でも武装とバックパックは交換しないといけないわね。それと接近戦になる可能性があるから新しい装備も考えないとね」 小百合はそう言ったあと、机に置かれている箱を発見した。 「あ、これって…」 「フォノンメーザーといって、水中でも使えるキャノン砲だそうです」 「なるほど、沼田君が持ってきた物ってこれだったのね。でもこれって結構扱いにくいのよ」 メーザーを見ながら小百合はこの武器の扱いづらさを感じていた。 「フォノンメーザーは水中でも威力が衰えない強力な武器だけど、今の技術力でもコンパクトにしにくい武器なのよね。最小でもこのくらいしかできないの」 「と、いうことは、ホーリー向きの武器じゃないと言うわけですね?」 「残念ながらそうなるわね。この武器を携行できるのは、強力な電力を持っているバックパックじゃないと稼動すらできないわ」 これを聞いた恒一はがっくりとした表情になった。 「せっかく強力な武器を装備できると思ってたのになあ…、どうするよいずる、このままだと水中戦、まじで苦戦する事になるぞ」 「しょうがないよ、メーザーが無理なら他の手を考えるまでさ」 その様子を見ていた小百合は、あることを考え付いた。 「ひょっとしたら、あの武器が使えるかも知れないわね」 「それって一体?!」 小百合は倉庫からあるものを持ってきて二人に見せた。 「ええっ、この武器って…?」 「でもこれで水中戦で使えるのかよ?」 一体小百合が出した武器とは一体何なのか…? つづく もどる 第九話へGO
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2178.html
ウサギのナミダ ACT 1-33 ■ わたしは周囲の明るさに刺激されて、目を覚ます。 地面に手をついて、身体を起こす。 手には柔らかな感触。 草だ。 そして小さな花。 辺りを見回す。 驚いた。 そこは一面、色とりどりの草花で埋め尽くされていた。 近くには青い水をたたえた湖。 周りは濃い緑の木立に囲まれている。 さらにずっと向こうには、薄墨を流したような色で、山々が連なっている。 美しい風景。 こんなに光溢れた風景は初めて見る。 なぜなら、お店を出たのはこれが初めてだったから。 ……初めて? なにかが引っかかったけど、些細なこと。 わたしは立ち上がり、自分の格好を見る。 バニーガールのような姿。 いつもと変わりない。 わたしが辺りを見回すと、すぐ近くに、白い小さなテーブルと椅子がおいてあるのが目に留まった。 そこで三人の神姫が談笑していた。 「……あら? 気がついたのね、二三番」 わたしの正面にいた神姫が、にっこりと微笑みかけてくれた。 知っている顔だった。 「七番姉さん……」 他の二人も、わたしに振り向いた。 「やっと起きたか~」 「あはは、おはよー、二三番」 赤い髪をポニーテールにした神姫はざっくばらんな口調で、もう一人のツインテールの小柄な神姫は無邪気に、わたしに声をかけてきた。 「一四番さんに、三六番ちゃんも……」 そうすると、ツインテールの三六番ちゃんは、椅子から立ち上がった。 わたしの方に駆けてきて、抱きついてくる。 「どこ行ってたの? 心配してたんだよ?」 本当に心配そうな顔で、わたしを見上げてくる。 彼女は、わたしより、ずっと後にお店に来た神姫だった。 ある夜、お客さんにひどく虐められて泣いていた彼女を慰めた。 それから彼女はわたしのことを慕ってくれている。 わたしも三六番ちゃんを妹みたいに思っていた。 「うん……ちょっと……お客さんに連れ出されて……」 ……そのあと、どうしてただろう。 思い出せない。 わたしが困った顔をしていると、三六番ちゃんは笑って、 「いいよ、二三番が無事だったら、それで」 そう言ってくれた。 彼女はわたしの手を引いて、テーブルの方へと連れて行く。 三六番ちゃんは、薄い黄色のドレスを着ている。 よく似合っていて、とてもかわいい。 テーブルの前にくると、七番姉さんが空いている椅子に座るように促した。 その前に。 わたしは尋ねる。 「あの……ここは、どこですか?」 「あら、聞かされていないの?」 「……はい」 「ここは、NPO法人・紳士淑女の友の会にある、神姫AI保管用サーバーの中よ」 □ 「AI移送接続ソフト、だと……?」 「そうさ」 井山の奴は、したり顔で頷いている。 ギャラリーはざわめいていた。 おそらく聞いたこともない人が大半だろう。 俺も何かでそんなソフトがあることを読んだ程度だった。 ネットワークに接続している神姫のAIの意識を、任意の場所に送り込むソフトウェアだ。 似たようなことは武装神姫でも日常的に行われている。 アクセスポッドから筐体に接続するのと仕組みはあまり変わらない。 遠方の対戦者ともネットワークで対戦もできるわけだから、ある意味、アクセスポッドで接続中は、神姫とAIは分離しているとも言える。 だが、それはマスターと神姫自身の同意があって行われる行為だ。 奴の言うAIの移送接続は、第三者によって、神姫のAIの意識を別の場所に飛ばしてしまう。 先ほどの攻撃は、そのためのソフトウェア攻撃ということらしい。 「……はじめから、これが狙いか」 「やっと気がついたのかい? バーチャルバトルだと、戦闘中にネットのバイパス作ってやるだけですぐに飛ばせるから簡単なんだ。ひゃはははは!」 塔のステージは、視界を隠すものが何もない。 ティアにクロコダイルを見せて怖がらせ、逃げ場がないことを演出する。 それと同時に、常にティアの視界にクロコダイルが入ることになり、視覚入力ウィルスの感染をより確実にする。 ウィルスに侵入されたメモリは、リソース不足に陥り、セキュリティソフトを立ち上げることさえままならない。 そうして動きを止め、セキュリティも万全でないティアに、AI移送接続ソフトによる攻撃で、AIの意識を別の場所に飛ばす。 ……奴の策に、まんまとはまったのだ。塔のステージを許可した時点で。 情けない。 悔しさに俺は拳を握りしめる。 「……答えろ……ティアはどこだ……」 声に悔しさが滲んでいるのを自覚する。 「くくく……心配しなくてもいいよ。アケミちゃんは今、昔の……神姫風俗の仲間と感動の再会ってところさ」 「なん……だと?」 「風俗の神姫を保護しているNPO法人のサーバーだよ。いまごろ、積もる話に花を咲かせてるんじゃないの?」 ■ 「その格好は、ここでは似合わないわねぇ」 緩いウェーブの入った麻色の髪を掻き揚げながら、七番姉さんが言う。 見れば、彼女は胸元の大きく開いた水色のドレスを纏っている。色っぽい。 わたしはいつもの、バニーガールの姿だ。 「あ……でも、わたし……ドレスの持ち合わせなんて……」 「大丈夫」 一四番さんが、わたしに微笑んだ。 「ここはバーチャルの世界。あたしたちがイメージすれば、好きな服装にぱっと着替えられるよ」 そういう彼女は、スリットの深く入った、真っ赤なチャイナドレスを着ていた。 わたしは目を閉じてイメージしてみる。 どんな服を着てみたいだろう。 そうだ、いつか見た、白いワンピースとサンダル。 彼女はとてもきれいだった。彼も彼女に見とれていた。 ……彼と彼女って、誰だったろう。 些細な考えはひとまず棚上げする。今は服だ。 イメージしたワンピースとサンダルを黒に染め上げ、自らが纏った様子をイメージする。 すると…… 「わあ……かわいい!」 三六番ちゃんの声に、わたしは目を開く。 わたしがイメージしたとおり、黒のワンピースを着ていた。 三人とも微笑んでいる。 テーブルの上には、ケーキと紅茶がおいてある。 わたしは空いている椅子に腰掛けた。 「あの……他のみんなは……?」 気になっていたことを尋ねる。 すると、七番姉さんが答えてくれた。 「もうみんな、新しいマスターの元へ行ったわ。残っているのは、わたしたちだけよ」 「まあ、焦っても仕方がないし。あたしたちももうすぐ、マスターが来てくれるさ」 一四番さんが言う。 お迎えがこなくても、ことさら焦っているわけではないらしい。 わたしはティーカップを口元に運んだ。 穏やかな時間だった。 痛みもない、苦しみもない。仲間たちとの優しい時間。 これはずっと、わたしが求めていたもの。 わたしは自然と微笑んでいた。 □ 不可解だった。 AIを自由に飛ばせるのなら、自宅のサーバーに飛ばしてしまえば手っ取り早いはずだ。 それを何で、NPO法人の、しかもティアの知り合いの神姫がいるサーバーなのか? 「どういうつもりだ……なんでそんな回りくどいことをする?」 「なぜって……」 井山は、醜い笑顔をさらに挽き潰したような顔をして、歓喜を露わにした。 「決まってるじゃないか! 絶望だよ! アケミちゃんを絶望のどん底に突き落とすのさ!! 昔の仲間と楽しく話してさ、終わった頃に自分の身体に戻ってみたら、ボクの家なんだ。 目の前にはボクとクロコダイル。 アケミちゃんはどんな顔をすると思う? 君の名前を泣き叫ぶ!? それとも恐怖のあまり絶叫するかな!? 想像するだけでゾクゾクするよ!! ひゃははははは!」 ……もう、許さないとかじゃない。 怒りさえ通り越して。 俺は、生まれて初めて、他人に憎悪を抱いた。 こんな奴が今生きているのが間違っていると、本気でそう思った。 「……ティア!」 諦めるわけにはいかない。 ティアを、大切なパートナーを、こんな奴に渡すわけにはいかない。 「ティア! 帰ってこい! こんなところで、終わりにするわけにはいかないんだ!」 「ひゃははははは! 無駄無駄! 聞こえるわけないじゃん!」 いや届く。俺は思う。 今のティアは、意識が別のところに離れているだけで、機能は何も失われてはいない。 だから、ティアのAIがこちらの身体を意識すれば、俺の声は聞こえるはずだ。 何の根拠もなかったが、俺は信じていた。 その考えにすがっていただけなのかも知れないが。 「遠野、サレンダーしちまえ。こんなバトル、何の意味もねぇ! 奴が何か騒ぎ出しても、俺が何とかしてやる。だから……」 大城の言葉を俺は速攻で否定した。 「だめだ」 「なんで!?」 「ゲームを終了すると、ネットワークが切断されて、ティアの意識が向こうのサーバーに置き去りにされる可能性がある」 俺の言葉に、大城は絶句した。 井山は向こうのサーバーにいるティアの意識を取り出すことができるのだろう。 だからこそ、あんなまわりくどい場所に送り込んだのだ。 俺は今、ティアを人質に取られているも同然だった。 俺にできることは、ティアに呼びかけるほかにはない。 「ティア……戻ってこい、ティア!」 俺はティアに呼びかけながら、いくつかの作業を行う。 ティアが戻ってきたときに、十分な状態でバトルができるように。 しかし、モバイルPCのキーボードを操作する手はもどかしい。 俺が壊した右手は、包帯もとれているが、まだ以前の通りに動かすのは難しかった。 「くそ……」 それでも俺は、必死でキーを叩く。 もどかしさに焦りが募ってくる。 すると。 「……遠野、代われ!」 大城が俺からモバイルPCを奪い取った。 「大城?」 「俺が代わりにこっちの作業をしてやる。指示をくれ」 「……大丈夫なのか?」 「なめんなよ。バイクも神姫もやってんだ。メカいじりは得意なんだよ」 うそぶくだけあって、大城のキータッチは意外なほどなめらかだった。 俺は大城に、いくつかの調べものを依頼した。 俺は呼ぶ。ティアの名を。必ず帰ってきてくれると信じて。 それがたとえ、はかなく小さな希望だとしても。 不安が大きく、心細くて、信じる心が折れそうになっても。 それでも、俺は諦めるわけにはいかなかった。 ティアの名を呼び続ける。 ■ わたしは振り向いた。 そこにあるのは、湖畔を吹き渡る風だけだった。 ……誰かに呼ばれたような気がしたのだけど。 「どうしたの?」 三六番ちゃんの声に、 わたしはテーブルに向き直る。 「ううん……気のせい、だったみたい」 三人とも、くつろいだ様子で、穏やかな日差しの中のお茶会を楽しんでいる。 総勢二十人以上いた、お店の神姫たちは、一人、また一人と、新たなオーナーに引き取られて行ったのだという。 神姫の保護を目的とするNPO法人・紳士淑女の友の会では、身元のよくない人間のところには、神姫を里子に出したりしない。 だからきっと、みんな今頃幸せになっているだろう。 三人はそう言った。 わたしも談笑に混じる。 話題はやっぱり、今後のこと、マスターのこと。 みんながどんなマスターに仕えたいのか、わたしも興味がある。 「わたしは……そうね、優しい男の人がいいわ」 そう言うのは、七番姉さん。 彼女はわたしよりずっと前から、お店にいた神姫。 一桁台の神姫で残っていたのは彼女だけで、年長者ゆえに、みんなのまとめ役だった。 優しいお姉さんという感じで、みんな彼女を慕っていた。 「落ち着いた大人の人がいいわね。 それで、マスターのお仕事のサポートがしたいわ。 マスターがお疲れの時には、ご奉仕するのもいいかも、ね」 そう言って艶っぽく笑う。 ものすごく色っぽくて、こっちの方が気恥ずかしくなるほどだった。 「あたしは武装神姫になりたいな。ばりばりのバトロンプレイヤーのマスターがいい」 一四番さんは、お店の神姫の中でも、ムードメーカー的な存在だった。 お客さんに酷いことをされても、翌日には、あっけらかんとした顔で笑っていた。 自分が傷ついていても、他の傷ついた神姫のために笑える、そんな神姫だった。 「できれば接近戦装備で、ガチの殴り合いとか。ストラーフ装備なんか理想だね」 「でもそれ、マスターの話になってないよ?」 「……まあ、マスターはイケメンに越したことはないよな~。それで、バトルの時は厳しいけれど、勝ったら優しくしてくれるの」 頬を染めながら言う一四番さんは、今まで見たことがないほど可愛いらしかった。 他の二人は、 「ふ~ん」 と言って、含み笑いで彼女を見ている。 すると、一四番さんは急に照れくさそうになって、 「そ、そういう三六番はどうなんだよ」 そう言ってごまかした。 三六番ちゃんは、すました様子で言う。 「わたしは、女の子のマスターがいいな。一緒におしゃれしたり、遊びに行ったり……きっと楽しいと思うの」 夢見るような表情で言う。 彼女は見た目も小さくて可愛らしく、感情も女の子らしい。 「小学生か、中学生か、そのくらいの可愛い女の子で、いつも一緒にいてくれたら嬉しいな」 彼女に女の子のマスターは、とてもお似合いのような気がする。 一緒に遊んだり笑ったり……楽しげな様子が目に浮かぶよう。 他の二人も、目を細めて頷いていた。 「ねえねえ、二三番は、どんなマスターに仕えたい?」 「え、わたし……?」 三六番ちゃんが興味津々といった様子で尋ねてきた。 ……わたしが仕えたいマスター? そう考えると、誰かのシルエットが頭に浮かぶ。 テーブルに向かう三人が、わたしの答えを待っている。 ……また、誰かの呼ぶ声が聞こえた気がした。 ◆ 「うふふふ、久しぶりに、クロコダイルでいじってあげるよ。ギャラリーにもサービスしないとね?」 井山の声と共に、クロコダイルがするすると動き出す。 ティアの目の前に降り立つと、クロコダイルはティアの身体を立ったまま横抱きにした。 スカートの下から八本の触手がにょろにょろと伸びてくる。 触手はティアの細身にからみつき、うぞうぞと蠢き始めた。 ティアは四肢の先まで触手にからめ取られ、危うい部分にも触手が這っている。 クロコダイルはティアの乳房をもみしだきながら、恍惚とした表情を浮かべた。 『ああ……この感触、久しぶりだねぇ……』 ティアは何の反応も見せない。 触手に責められる恥態を見せてなお、瞳に光は戻らない。 塔内部で繰り広げられる神姫の陵辱劇に、井山もよだれを垂らさんばかりの歓喜の表情を見せていた。 「ひゃは、ひゃははは……や、やっぱり、アケミちゃんはサイコーだよ……これで悲鳴を上げてくれたらもっといいのに……」 だらしない声を上げる変態男に、氷より冷たい言葉が投げつけられた。 「ちょっと……あなたも神姫マスターなら……もっと正々堂々と戦ったらどうなの!?」 ギャラリーが声のするほうに視線を向ける。 菜々子だった。 『エトランゼ』と呼ばれる凄腕のマスターが、見たこともない怒りの表情で叫んでいた。 「ずるい手ばっかり使って……相手の神姫にこんなことして……恥を知りなさい!」 「はあ?」 ところが井山は、菜々子の氷点下の言葉さえ、厚い面の皮で阻んだ。 それどころか、お楽しみを邪魔されて、不満そうだ。 「ずるい手って言ってもさあ、そんなのに引っかかる方が悪いし。 第一、正々堂々戦ったって、勝てなくちゃ意味ないじゃん。アケミちゃんを賭けてるんだしさぁ」 「な……」 「だいたい、キミになんでそんなことを言われなくちゃいけないんだよ。外野は黙ってなよ」 「わたしは……遠野くんの仲間よ」 「はははっ、仲間だって~? キミこそ、そんなこと言って恥ずかしくないの? それに仲間だからって、キミには何もできないだろ?」 「く……」 菜々子は唇を噛んだ。 確かに、彼女に今できることは何もない。 それどころか、奴を刺激すれば、ティアが危なくなる。 そんなことは分かっていた。 でも、言わずにはいられなかったのだ。 こんなのは、こんな戦いは、彼女が憧れたバトルロンドじゃない。 だが、井山は菜々子の想いをたやすく打ち砕く。 「引っ込んでなよ。じゃないと、今すぐアケミちゃんを殺しちゃうよ?」 菜々子はうつむいて、押し黙った。 ティアの意識を人質に、井山は強力なアドバンテージを得ている。 奴の言うとおり、今の菜々子にできることなど何もない。 彼女はただ、唇を噛み、拳を握りしめることしか出来ないのだ。 □ 久住さんの気持ちはよく分かるし、ありがたいと思う。 もしできるなら、俺だって、今すぐ井山の顔を殴り飛ばしてやりたい。 ティアの状況の方が、優先順位が上というだけの話だ。 俺がこうしてティアに呼びかけている間も、井山は笑いながら、俺と、ディスプレイ上のティアを見比べている。 ギャラリーはなぜか押し黙っている。 バトルロンドコーナーには、俺の呼び声と、井山の高笑いだけが響いていた。 「よし、終わったぞ」 大城が呟くように言って、モバイルPCを俺の方に向けた。 俺は画面の表示内容をチェックする。 大城に左手でOKサインを出した。 大城はにやり、と笑った。 大城のおかげで、ティアのリソースを奪っていたウィルスは削除され、セキュリティソフトが立ち上がった。 これでティアの電子頭脳が無駄な作業をすることはなくなり、AIが指示した働きを正常に行うことができる。 俺の呼びかけも、通りやすくなるかも知れない。 バトルも支障なく再開できる。 これで今やるべきことはすべてやった。 そのせいか、俺は不思議と落ち着いていた。 心は穏やかでさえあった。 俺は、遙か彼方にいるティアの心に向かって、静かに、語りかける。 「ティア……聞こえるか? お前と出会って、いろんなことがあったな。 つらいことも、たくさんあった。 それを乗り越えて、俺たちはようやくパートナーになった。 俺は今でも、本当に嬉しく思ってる。 ……俺は気づいていたよ。 お前が、前いた店の神姫たちの心配を、ずっとしていたこと。 だからこそ、お前が自分の過去に捕らわれて、自分に劣等感を抱いていることも。 お前が、昔の仲間と出会ったら、心はそちらに惹かれてしまうのかも知れない。 ずっと一緒にいたいと、思うのかも知れない。 ……それでも俺は、お前を諦めたくない。 昔の仲間と引き離しても、俺の神姫にしたい。 俺の独りよがりだって、わかってる。 でも、諦められないんだ。 ティアは、俺がやっと探しあてた、たった一人の神姫だから。 お前以外に自分の神姫なんて考えられないから。 だから、ティア。 頼むから……帰ってきてくれ」 それでも、ティアの瞳に、いまだ光は戻らない。 ◆ 美緒は遠野の背中を見つめていた。 静かで落ち着いた口調。一途な想いが胸に迫った。 でも、なんで、遠野さんの肩は小さく震えているの? 椅子の両脇におろした手は拳をきつく握りしめているの? 美緒と三人の仲間たちは、今回の事件をずっと見ていた。 エトランゼとのバトルに始まり、ゴシップ誌にティアが載ったときも、遠野が常連たちに怒りを露わにしたときも、菜々子が三強を薙ぎ倒したときも、クイーンがティアを助けた雨の日も、ティアとクイーンの技の応酬も、そして今日のバトルも。 そしてわかったのは、遠野とティアの、お互いに一途な想い。 マスターと神姫になりたい、と。 店売りの神姫であれば、オーナーがパッケージを開いてすぐに叶う、当たり前の関係。 彼らはそれをやっとの思いで掴んだ。 美緒も二人を応援していた。彼らにほんの少しでも関われたことを、誇らしく思っている。 それなのに。 卑怯で下劣な男の手によって、ティアが理不尽に奪われようとしている。 なんで? どうして遠野さんとティアは、当たり前のことさえ、許してもらえないの? そう思ったとき、美緒は理解した。 遠野が震えているのは、ティアを奪われることを恐れているからだ。 大型ディスプレイを見上げれば、敵の醜悪な神姫が、ティアの身体を触手に溺れさせている。 このままティアが負けてしまえば、彼女の心は昔の仲間と再会していたとしても、最後にはあの男の元へと連れ去られてしまう。 あれだけの苦労をしてパートナーになった神姫を失ってしまうのだ。 怖くて当たり前だ。悔しくて当然だ。 必死に耐えている、その遠野の背中を再び見た。 美緒は気がついた。 ひとつ、ふたつ、何かが床にこぼれ落ちている。 それが。 遠野の拳からしたたる、赤い血だと気がついたとき。 美緒の身体を衝動が駆け抜けた。 「ティアッ! 帰ってきなさいよ!! あなたの居場所は、ここでしょぉおっ!?」 叫びが勝手に口からほとばしった。 気がついたときには、バトルロンドのコーナーにいるすべての客が、美緒を見ていた。 菜々子も驚いた表情でこちらを見ている。 涙目になりながら、とっさに口を押さえた。 大人しいと思われている美緒が、感情にまかせて叫んでいる。 驚かれるのも当然だった。 ギャラリーの視線が痛い。 でも、叫んだ言葉は本心だった。 わたしは間違ってない。間違ってなんかいない。 だから、勇気を振り絞り、さらに言葉を紡ごうと、手を口元から降ろす。 その時。 「そうだ! 美緒の言うとおりだ! 帰って来いよ、ここに!」 「あなたのマスターも、友達も、仲間たちも! みんな待ってますよ、ティア!」 「わたしたちだって、帰ってきて欲しい! もっとお話したい、バトルもしたい……友達になって欲しいの!」 「だから、帰ってきて、ティア!!」 美緒の仲間たちが次々に言葉を投げた。 少女たちの必死の叫びを、かの男がせせら笑う。 「きゃははは! そんなの、いくら叫んだって届くわけ……」 「届く! 届くもん! 絶対に……届くんだからぁっ!!」 井山の言葉を遮って、美緒は泣きながら叫んでいた。 すると、四人の神姫たちも、ティアに声を届けようと叫び出す。 それにつられて、今度はギャラリーの神姫たちも。 大勢の声が、ティアを呼ぶ。 そして、驚いて周囲を見回していた、菜々子と大城も、遠野の座る椅子に手を回して、声を上げた。 「ティア、遠野くんを悲しませちゃダメ! 帰ってきなさい!」 「俺たちの約束を破るつもりか? もう待てねぇぞ、さっさと帰ってこい!」 ミスティと虎実も。 「いなくなられるのが、一番悲しくて迷惑だって言ったでしょ!? わたしは待ってるから!」 「アタシは約束を守ったぞ!? アンタも約束を守れよ! 帰ってきて、バトルしてくれよ、ティア!」 誰もがティアの帰還を願っていた。 誰もが、想いを届けたくて、その神姫の名を呼んだ。 しかし。 すべてを断ち切る、絶望の声。 「あ~あ、シラけるんだよねぇ。お友達ごっこはさあ」 井山の声はひどく気怠げに聞こえた。 しかし、騒がしかった周囲を抉るように響いた。 □ 俺の視線は、不機嫌そうな井山の顔を捕らえる。 お友達ごっこ、だと……? この状況で、そんなことが言えるなんて、どれだけ傲慢なんだ。 井山は俺の視線など気付きもしないで、クロコダイルに指示を出す。 「あーあ、もうつまんなくなっちゃったからさぁ、終わりにしようか。 ハンマーで、アケミちゃんの首、飛ばしちゃいなよ」 『アイアイサー』 クロコダイルは名残惜しそうに触手をほどき、後ずさる。 その後ろには、ストラーフ装備の「ジレーザ・ロケットハンマー」が転がっていた。 「やめろ……やめろよ、井山ぁっ!!」 俺は叫び出していた。 終わってしまう。 こんなところで。 俺の形相はよっぽど必死そうに歪んでいたのだろうか。 井山は嫌らしい笑みを浮かべた。 「ひゃはっ、見ているといいよ、アケミちゃんの首が飛ぶところ! それで、後悔のあまり、泣き叫んでよ! ひゃははははは!!」 クロコダイルが、ハンマーを拾い上げる。 その顔には、狂気の笑みが貼り付いている。 ティアは棒立ちになったまま、いまだに何も見てはいなかった。 「ティア、ティア! 帰ってこい! 頼むから、帰ってきてくれっ!!」 終わるのか。 こんなところで、本当に終わってしまうのか。 俺はもう、何もできないのか。 こうして、ただ空しく叫ぶことしかできないのか。 お前の走りを見ることもできないのか。 お前と笑いあうこともできないのか。 「ティア! 早く! 帰ってきてくれ! ティアッ!」 筐体のディスプレイの中。 クロコダイルがゆっくりとティアに歩み寄るのが目に入った。 ■ 思い浮かぶシルエットは、だんだんとはっきりとした輪郭を取る。 想いが形になり、像を結ぶ。 その人は…… わたしが、望む、マスターは…… □ ティアは動かない。 クロコダイルがハンマーを横に構えた。 狂気をはらんだ笑みが膨らむ。 届け、届けよ! 俺の声! 俺の想い! みんなの呼ぶ声! ティアに届いてくれ!! 頼む……!! 『グッナイ、アケミ』 クロコダイルの呟き。 ハンマーが横薙ぎに振るわれる。 ティアの頭めがけて。 「ティアアアアアアアアァァァァーーッ!!」 瞬間、時が凍った。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/psoemu/pages/894.html
EP3のアシストカード。全キャラクターの攻撃ACカードを使わない攻撃の消費コストが0になる。 攻撃アクションカードを使わない場合限定なので、3枚以上のFキャラで攻撃するような低コスト主体のデッキで真価を発揮する。 効果時間中に4回以上攻撃すればバトルロイヤル設置分のコストを回収した事になる。 相手のターンに消されてしまうとコスト損になってしまうのでやや使い難いアシストカードだが、相手にとってもメリットがある関係上他のアシストより消され難く 似たような性質のインフレーション等と比べると場持ちは悪く無い。ダイス+1で消されるのはご愛嬌。 ちなみに、デメリット能力である大振りのコスト増を踏み倒すことが出来る(攻撃時のコストが0になる)。 大振りと言えばガイキルド。バトルロイヤル下ではたった2回でバトルロイヤルのコストを回収できるので 相手のターンで上書きされても損失になりにくい。彼のデッキでは是非とも投入したい。 EP3 ランク コスト 属性 特殊能力 R2 4 アシストカード・全員・4ターン バトルロイヤル