約 5,019,493 件
https://w.atwiki.jp/truexxxx/pages/21.html
最初に生まれてくるということ ◆OLR6O6xahk 酷い夢だ。 それが中野家の押しも押されもせぬ長女、中野一花が目を覚まして最初に思った事だった。 同時に、視界に違和感を覚える。 三年になる新学期の少し前から自分は実家のマンションのベッドではなく、 貸アパートの屋根の下で寝起きしているはずなのだが。 考えながら伸びをして、首に違和感があることに気づく。 まさか、と夢の中で見た悪夢が脳裏を過った。 妙に片づけられた、汚部屋のはずの自室を飛び出して家の外を見る。 そこに見慣れた風景はなく、知らない夜の景色が広がっていた。 血相を変えて今度はベランダから洗面台に向かう。 そのまま感覚だけで蛇口をひねり、冷水で顔を洗いながら電気をつけた。 明るくなった鏡に映っていたのは紛れもなく、冷たい首輪を付けた一花自身の姿だった。 「はは…」 首輪をそっとなでると、ピンクの髪の女の子が爆弾で吹き飛ばされるシーンが蘇ってくる。 知らない風景。眠っている間に取り付けられた爆弾付きの首輪。 どうやら、悪い夢は続いていたようだ。 一花は自分が出演していたホラー映画のシナリオを想起する。 「ッ、そうだ!」 我に返り、姉妹や自分が思いを寄せている男の事を思い出した。 彼と妹たちは何処にいるのだろう。嫌な予感がする。 連絡を取ろうと自分のスマホを探す。しかしポケットには入っていなかった。 部屋に踵を返して枕もとを探しても、やはり見当たらない。 今度からもっと整理整頓しようと心掛けても見つからない。 代わりにあったのは見覚えのないリュックサックが一つきり。 中をひっくり返してみると、食料や水、地図などがドサドサと零れ落ちてくる。 「二乃、三玖、四葉、五月ちゃんにフータローくんまで……」 リュックから出てきた三つの物に一花は興味を惹かれた。 まず一つ目は姉妹と上杉風太郎の名前が載った名簿。 そしてもう一つは、 (これ、本物だ……ていうか、どうやって入ってたんだろ) 恐る恐る検分するのは、明らかにリュックの大きさを超えた漆黒の刀だった。 刃物などカッターや包丁以外に持ったことのない彼女も、これが真剣であること分かった。 当然、こんなものを人に振るえばケガでは済まないだろう。 今の奇妙な状況と冷たい黒塗りの刃が、不吉な予感を持たせてくる。 これが夢やドッキリの類ならばいい。しかしこの刀で姉妹や風太郎が斬られるところが浮かんでしまった。 こうしてはいられない。 手早くリュックに出てきた荷物を入れなおす。 日本刀も少し考えてリュックの中に入れなおした。 自分では扱えないだろうし、余計な危険を招きかねない。 そして、最後に興味を持った玩具の様なカードケース…『ベルデのデッキ』というそれを上着のポケットに入れる。 これを使えば仮面ライダーベルデに変身できると説明書には書いてあった。 どう考えても眉唾物だが、お守り代わりにはなるだろう。 中々固いので何かあった時には石のように投げつけても良い。 よし、準備OK 殺し合いとか現実感ないけど、とりあえず二乃達やフータローくんと合流しよう。 そうしよーー 「今の刀を譲ってください!!」 ◆ 「で、タンジロー君も気が付いたら此処にいて、私以外の誰にも会ってない、と」 「そうです、どうかお願いします!」 私、中野一花が出会った少年、竈門炭治郎君を一言でいうなら変わった子だった。 格好も、言動も。 いきなり現れて「刀を譲ってほしい」と今も嘆願しているのだから。 何でも鬼…とにかく危険な人たちが少なくともここには四人いて、その人たちと戦うのに必要な物なんだとか。 にわかには信じがたい話だったが、その様は真摯を通り越して必死だ。 女優を目指している私から見ても演技ではないのは分かる必死さだった。 「いやー、お姉さんも本当は渡したいんだけどねー、危ないし」 「それは俺の刀なので心配には及びません。妹や大切な人たちを守るために必要なんです…!」 「妹?」 聞けば、タンジロー君の妹のねづこちゃんという子も此処にいるらしい。 礼儀正しいし、悪い子ではないようだが初対面の人間に危険な刃物を渡すのは万が一を考えると怖い。 私は少し考えて、 「よし、じゃあこれからお姉さんと一緒にお互いの知り合い探しをして、 その時タンジロー君が必要になったら返すよ」 半ば渡すのを了承した上で、そう答えた。 もし炭治郎が危ない子なら、両手までついて譲ってほしいと頼まないだろう。 私が彼に気づいていないときに強引にひったくって行くこともできたはずだ。 それをしなかったのは彼が義理堅く、約束を守る性格だからだと思う。 だから、フータロー君たちを探す手伝いをしてもらう口実を取り付けさせてもらった。 元より私は刀なんて扱えないので、いつ手放しても惜しくはない。 「わかりました、勿論中野さんの姉妹探しは手伝わせてもらいます」 「一花でいいよ、中野じゃ他に四人いるし。 それじゃお姉さんと一緒に頑張ろうか、お兄さんやお姉さんは下の子を守るものだもんね」 素直な子だと思った。 フータロー君にもこの素直さを少し分けて貰いたいほどだ。 と、感心しているとタンジローくんはごそごそとリュックを漁って、 「その前に譲ってもらう刀の分、俺も何か……」 「いや、いいよ。今渡すわけじゃないし。 少しだけ知り合い探しを手伝ってくれるだけで充分―――」 「そうはいきません!少し待ってください何か出しますから」 「あっはい」 前言撤回。 素直で義理堅いのも丁度いい程度があるな、うん。 「ではこれを」 「却下」 炭治郎君が出したのはオレンジ色のボディースーツだった。 ……ボディラインがはっきり出る扇情的なデザインの。 こんな服着てるところをフータロー君に見られた日にはどんな顔すればいいか分らない。 タンジロー君の顔に下心は感じないため、純粋な善意だけで言ってるんだろうけど猶更性質が悪い。 「それよりも、私は『そっち』のほうがいいかな」 「これですか?役に立ちそうにないですけど……」 「いいのいいの、ていうかそれ私の何だよね」 私が選んだのは、服を出す前に取り出されていたヘッドフォンとウィッグだ。 間違いなく、妹三玖の変装セットである。 何故こんなものが支給されてるのかはわからないけど、何かしら貰っておかなければ炭治郎君は納得しそうにない。 この場で役に立つかはわからないけど、貰っておくことにした。 「さて、そろそろ行こうか。 タンジロー君の妹さんも探さないといけないしね」 「はい!」 四葉のように元気な返事を受けながら、移動を開始。 物珍しそうにあたりを見回す炭治郎君を尻目に、私は最後にもう一度実家の景色を一瞥した。 かつての日常の象徴で、けれど姉妹の誰もいない、どこか寒々しい部屋。 しかし、私がこの異常な状況で落ち着いて炭治郎君に対応できたのはこの場所だったからだと思う。 だが、他の姉妹は大丈夫だろうか。怖い思いをしていないだろうか。 特に内向的な三玖は心配だ。 早く合流してあげなければ。 私の居場所はこの誰もいない家ではなく、四人そろった妹達の隣なのだから。 何時だってそうだった。 喜びは五倍に、悲しみは五等分にして分かち合ってきた。 今だによく分からない事に巻き込まれたと思うけれど、最後はフータロー君と、妹たちと一緒に。 全員そろってただいまと言えるはずだと信じる。 明日も、明後日も、いずれ大人になってそれぞれ違う道を進むその日まで。 【E-7/1日目・深夜】 【中野一花@五等分の花嫁】 [状態]:健康 [装備]:制服。 [道具]:基本支給品一式、炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、不明支給品0~1 [思考・状況] 基本方針:殺し合いはしたくない。 1:姉妹と風太郎に会いたい。 [備考] ※三年の新学期(69話)以降から参戦です。 (最初に会えた一花さんがいい人で良かった) 心の底からそう思った。 自分の日輪刀を持っていたのもそうだが、殺し合いに乗っていない妹想いの姉に会えたことが竈門炭治郎には嬉しかった。 殺意の匂いも全く感じない。少なくとも今のところは。 (……でも、ここは血の匂いに満ちてる。嫌な感じだ。 集中していないと重要な匂いに気づかないかもしれない) 血の匂いは何時も幸せを壊す。 まだ目覚めてからそう時間はたっていないはずなのに、この地には血の匂いが満ちている。 (……くそ、やっぱり禰豆子の匂いも辿れないか) 会場に満ちた血の匂いのせいで、鼻の利く炭治郎でも妹の禰豆子の居場所は分からない。 早く見つけてやらねばならないのに。 たった一人生き残った妹禰豆子は唯一の太陽を克服した鬼だ。 そのお陰で太陽の下でも命の心配はなくなった。 しかし、この地にはあの男がいる。 鬼舞辻無惨。炭治郎にとって仇敵である鬼畜。 鬼を生み出し、炭治郎の家族を手にかけ、多くの災厄をばら撒いた男。 その無惨が太陽を克服するために禰豆子を狙っている。 無惨とその配下の鬼が禰豆子と出会う前に何としても再会しなければならない。 柱である胡蝶しのぶや富岡義勇ともだ。 善逸は……今頃恐怖から求婚でもしているのではないだろうか。 伊之助にいたっては此処にいない。喜ばしいことではあるが。 (とにかく、禰豆子と一花さんの姉妹を見つけて守る。そして……) 禰豆子の次に炭治郎の思考を捉えて離さない物がある。 それは、 (微かだし、やっぱり居場所は分からないけど、煉獄さんの匂いだ。間違いない) 奇しくも炭治郎のスタート地点が高層マンションであるペンタゴンだったからこそ嗅ぎ取れた、忘れるはずのない匂い。 炭治郎を守り通し没した煉獄杏寿郎の匂いだ。 居場所までは分からない、しかし自分がこのにおいを間違えるはずがない。 燦々と輝く陽光の様な、静かに燃える焔のような暖かな匂いを。 初めは気のせいかと思った。しかし名簿にも煉獄の名前が刻まれている。 喪った命は戻らないし、回帰しない。 けれど、もし彼が本当にここにいるのなら……、 ――――煉獄さん。俺は、貴方のおかげであの頃より強くなれました。 ヒノカミ神楽を使えるようになりました。 上弦の鬼との戦いでも生き残れるようになりました。 柱の人達からも認めてもらえました。 禰豆子が、また陽の下で立っている所を見ることができました。 全て貴方と、俺の周りにいた人たちのおかげです。 だから。もし、貴方が此処にいるのなら。 今度は守られるのではなく、煉獄さんと肩を並べて戦いたい。 【E-7/1日目・深夜】 【竈門炭治郎@鬼滅の刃】 [状態]:健康 [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1 カルデア戦闘服@Fate/Grand Order [思考・状況] 基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。 1:禰豆子や仲間に早く会いたい。 2:一花さんの姉妹も探す。 [備考] 強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。 Next 心、わたしの胸のどこに Previous 月と太陽 前話 お名前 次話 Debut 中野一花 悲しみは仮面の下に Debut 竈門炭治郎 目次へ戻る
https://w.atwiki.jp/tosimami325/pages/3.html
更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/revival/pages/154.html
曲がり角を曲がった時――きっと少し浮かれて、注意を怠っていたのだと思います。 曲がった途端に私は何かとぶつかり、弾かれて倒れてしまいました。 「痛ったぁ……」 強く尻餅をついたせいでお尻が鈍く痛みます。 「何してやがる。そんなとこで寝てると蹴り飛ばすぞ、嬢ちゃん」 聞こえた声は、とても粗暴で――私はハッとして、ようやく誰かと衝突したのだと理解しました。 見上げた先に居たのは、白髪の男の人。歳はたぶん二十代の半ばあたり。 精悍な顔立ちだけれど、どこか歪な――そう、眼。金色の瞳がまるで獣のようにぎらぎらしてる。 「ご、ごめんなさい……」 乱暴な物言いは少しどうかと思ったけれど、私が飛び出したのが悪いのだし、素直に謝ることにしました。 すると、男の人は何も言わずに手を差し出してきて、私は一言お礼を言ってからその手を掴み、立ち上がらせてもらいました。 「見ない顔だな?」 その手を離さないまま、訝しげに言いました。そして私の腕時計を見て、他の人と同じように表情を変えます。 ただしその変化の質は違いました。――そう見えました、私には。 「ああ……なるほどな。ガルナハンの」 「は、はい」 そこでようやく手を離して、男の人は唇を微妙に歪めました。 皮肉げに、とでも言うのでしょうか。周りを嘲っているようで、あまり好きにはなれない笑みの形。 「で、どうだい?」 「え?」 「我等が本拠地を見学して回った感想は。いいところだろう?」 両手を広げて、芝居がかった仕草で言われたその言葉に、不快なものを感じました。 だって、自慢できるような場所ではないのですから、ここは。 「いいところ、って……」 「うん?」 「そんなわけないじゃないですか。だってここは、テロリストの巣窟なんですよ!?」 言ってから、自分の迂闊さを呪いたくなりました。 だって目の前の人は私がテロリストと呼んだ組織の人間に違いなくて、 そしてテロリストなんて呼ばれる事はきっとここの人達にとっては不快な事なのですから。 ――殺されるかもしれない。銃で撃たれるかも。罵倒されて刃物で刺されるかも。 そんな不穏な未来が私の脳裏を過ぎったころ。 「だろうなあ。嬢ちゃんみたいな平凡な一般人にとっちゃ、それはそうだ」 牙のような歯を見せてゲラゲラと豪快に笑った後、 「まあ、俺にとってはなかなかの住み心地ではあるぜ。武器も弾薬も、モビルスーツも。 戦争する相手さえ、ここは提供してくれる。他では得られない、こういう場所だからこその特権だな」 「なっ……」 今度こそ、我慢は出来ませんでした。 だってこの人は、戦争を、殺し合いを、平和を蹂躙する忌むべきものを楽しんでる。 あの黒いサングラスの人も乱暴で、粗暴だったかもしれない。 でも、少なくとも人殺しを楽しむような、そんな道を踏み外した人とは思えなかった……この人は違う! 「あなたって人は!――やっぱりテロリスト、犯罪者です。ラクス様が、みんなが頑張っているのに。 頑張って世界を一つにして、争いの無い世界を、憎しみの連鎖を断ち切った平和な世界を作ろうとしているのに!」 「ふん。憎しみの連鎖を断ち切るとは言うがな――聞くが、憎しみの連鎖が続いて何が悪い?」 「え……?」 いったい何を言っているのか、私には理解できませんでした。 まったく馬鹿げた事を言っている、という感じでした。 本気なのか冗談なのか分からないけれど、それは間違った言い分です。 憎しみなんてこの世から消えてなくなればいい。それは誰でも持っている共通の願いの筈です。 「悪いに決まっています。この世に憎しみなんてものはあってはなりません」 「憎しみも感情の一つだ。人間が持っていて当然のものだ」 「……要らない感情もあります」 「要らないかもしれんが、それは切り捨てられるものじゃない。――連鎖を断ち切る、か。 だったらまずはお前がそれを実践するべきじゃないのか?」 「何を――」 言っているんですか、と口に出そうとして。自分に向けられた銃口を直視してしまいました。 いつ抜き放たれたのかも分からないけれど、でもそれは確かに私の額に向けられた黒光りする凶器。 「今、この銃を向けられているのは他ならぬお前だ。――別にお前の肉親でもいい。 あと少し、この俺が引き鉄に力を篭めるだけで、撃たれた奴の頭の中身はミンチになって後ろから飛び出るぞ。 ……問題はその後だがな。例えばお前の親や兄弟、大切な人間が『そう』なったとして。 お前や、お前の肉親は俺に対して恨み言を言ったりはできないし、復讐する事は出来ない。 何せ、憎しみの連鎖を断ち切るんだからな。報復は無しだぜ? こいつはいい、やりたい放題だ」 あざ笑う男の声が癇に障って、――睨みつけようとしましたが、底冷えするような瞳の迫力に気圧されてしまいます。 年季が違いました。人を睨みつける、瞳の奥を覗き込むという事を続けてきた年月が。 誰かの奥底を、心の深淵を、きっとこの人は薄暗いところからずっと見続けてきたんだ。 「そうだ。やりたい放題だ。――憎しみの連鎖を断ち切るだの何だのと言って復讐しないような奴が本当にいるなら、 そいつにはもう血も涙も無いんだろう。俺は涙を忘れてさんざん楽しんで敵を殺してきた人殺しのクズだがね。 だがまだ戦場で流す血は流れてる。血も涙も無い奴は温かみが無いんだよ。肉親が殺されても犯人を許せるような、そんな『クズ以下』だ。 そういう奴はもう人間じゃない。ただの人形だ。それが群れをなして国を作ってる……薄気味が悪くて反吐が出るね」 銃口が下ろされる。ほっとする事さえ出来ないでいると、男は更に言います。 その声と表情、仕草にさえ隠そうともしない侮蔑が滲んでいました。 「人間って奴はそれぞれが自分の容姿や歴史や感情を持ち、存在している。 単体でさえ不安定で、常に迷っている奴が大多数だ。それが腐るほど居るんだぞ、この狭い世界に。 押し込まれた奴等は互いに摩擦しあい、いわゆる負の感情で一杯になるのは当然の事だ。 ――だが、それでいい。それが人間だ。憎しみあって傷つけあって、それでもなんとかよろしくやってくのが人間だ。 それができない、影の部分を切り捨てるなんて事が出来るのは、最初からそんなものが無い人形だけだ。 人形が群れても国を作る事などできん。 ……ふん、つまりあの国はたちの悪い『まやかし』だって事だ」 「……でも、実際にラクス様のおかげで世界は平和になっています」 ようやく絞り出した声は、少しだけど、自分でも驚くほどかすれていました。 「戦争は無くなったし。死ぬ人も、居ない――ってわけじゃないですけど、減りました。 それも仕方が無い事です。だって平和になるための、」 「仕方が無い? 仕方が無いから殺すのか。それではまるで俺達と同じだな」 「あ……」 「そういうものさ。殺さなければ殺される。殺さなければ理想の一つも実現できない。その通りだ。 だが、お前たちは分かっているようでいて分かっていない。殺すという事は、殺されるって事だ。 死んだ者が後に残した同胞の憎悪と銃弾で貫かれて、殺した奴は殺されなくてはならない。掟だよ。決まっているんだ。 だから、だ。俺達は殺される覚悟を持って殺している。それが戦場での最低限の礼儀だ。まさに憎しみの連鎖だな」 「――そこまでして、何で戦うんですか。あなたは何で戦うんですか?」 「何で? ふん、腐るほど聞いた台詞だね。今は――そうだな、奴等の作る世界が大嫌いだからさ」 「平和な世界です。嫌う必要なんてどこにもっ」 「奴等の世界には俺が居ない」 「……え?」 「奴等の世界は平和なんだろう。住まう人々は手と手を取り合い笑顔に満ち溢れ、愛を語る。 そこには争いなど無く。そこには理不尽な死など無く。なるほど理想的な世界だ。暖かい理想郷だ。 だが奴等の世界には居ない。汚い場所で生まれ育ち、汚い生き方しか出来ない人間は居ない。 戦争のために生き、まともな人生も与えられずに戦争の中に死んでいったガキどもも居ない。 奴等と同じく争いの無い世界を目指して、奴等を敵に回して死んだ男も居ないんだろうな。 肉親すべてを焼かれてばら肉にされて、復讐に狂った男も居ない。つまらんな、つまらんよ。 奴等の世界は奴等と同じものしか認めない。つまらん世界だ。面白味が無い。そんな世界はこちらから願い下げというものだ。 なにより――その世界は平和以外を認めないんだろう? ならば俺が居ないじゃないか。この平和が大嫌いなこの俺が」 もう話すことさえ出来るとは思えませんでした。 この人とは何かが違う。住んでいる世界とか、考え方とか、そんなものじゃなくて、根本的な何かが。 恐怖を感じました。私の中にある、常識のようなものを崩されてしまうような、そんな恐怖が。 気づけば駆け出していた私を、男の人は止めようとはしませんでした。――背中越しに声がかかります。 「おい、嬢ちゃん」 「……何ですか」 私は振り返らずに応じました。 「ここに残るか? なあに上の方には言っておいてやる。美味い飯とモビルスーツをくれてやるぞ」 「けっこうです!」 「そいつは残念だな。こんなご時世だ、また会おうとは言えんが――まあ、 せいぜいまともに生きてまともに死にな、嬢ちゃん。あばよ」 その台詞を聞き終わる前に、私は早くこの場から逃げ出したいと駆け出していました。 あんな男の言葉のせいで私の心が、価値観が、世界が崩されようとしている気がして、怖かった。 信じていたものを否定される、この嫌な感じ。あの男が、名前も知らないあの男の言葉が、たまらなく怖かった。 レイさんは何も言いませんでした。後から考えてみると、何も言わないでくれていたのかもしれません。
https://w.atwiki.jp/revolutionize/pages/30.html
目標 「日本の今後について考える若者を増やす」こと。 今やっている活動内容 【VIP】 新規開拓のため、テーマごちゃ混ぜで敷居の低い議論 とにかく浅く広く議論を何回でも繰り返す 頃合を見て公式掲示板を宣伝し、誘導する 【公式掲示板(したらば)】 深く関わろうと思った人が、VIPスレより深い内容の議論をする この活動全体に関する議論をする その他、VIPスレの支援やwiki編集に関する相談など 今議論中の内容 VIPからどうやって上手くしたらばに誘導するか VIPと同時進行で他の板にも手を伸ばすか、どの板がいいか まとめサイトのレス選別の基準などをどうするか 動画サイトなど新たな議論の場をどうするか VIPにどういう内容のスレを立てるか 議論している場所 活動内容に関する議論は活動全般を話し合うスレ VIPスレに関する議論はVIPスレを支援するスレ 余談:若者を奮起させるには?(過去スレより引用) やる夫で政治経済の話は今まで何度も立ってるだろうしそれだけじゃ作戦としては弱い 主体性を持たせるための工夫が必要 今集まってる人たちは知識もあって議論することもたくさんあるんだろうけど ここで問題点や解決策をさんざん議論し尽くしたあとに人を呼んできて 「過去ログ読んでね!」とか言ってもそいつらにとっては結局他人事になっちゃうと思うんだ だから早くから多くの人を取り込むべき、身近な問題だと思わせるにはそいつにも議論させればいいんだから こういう議論をVIPでやることの意味や可能性もよく考えようぜ 議論だけならTwitterでやってる人がたくさんいる 狡猾にやってかないと、そのうち「いつもの日本将来議論スレね。あの人たち熱いね」って華麗にスルーされる そうなってからレッテルを剥がすのはとても難しい 主体性がない若者は「こういうの頑張っちゃうのは俺とは違う世界の人」みたいにそっぽ向いちゃう可能性がある うまく外堀から埋めていくには拡散方法も一筋縄ではいかなそう Twitterなんかで毎日政治議論してる輩はたくさんいるけど誰も寄り付いてないだろ? 拡散にSNSを使うのはいいと思うが、議論自体をSNSに持っていくのはよくないと思う SNSというか参加者たちをある程度識別できちゃう場。 ゆとり的思考だとこういう議論に関わってる「人間」を認識した時点で 「自分とは違う熱意のある特別な人たちが頑張ってるなあ」と思って停止するから あくまで匿名のモワッとした集まりであるべきだと思うよ、少なくとも今の時点ではね わかりやすい教材なんてググればいくらでも見つかる 勿体無い事にそこまでの導線がないだけ ただ教えるスレじゃなくて、彼らが自分から知りたくなる内容のスレが必要
https://w.atwiki.jp/kaedevip/pages/71.html
火毒魔とは? 火毒魔は火と毒属性を扱う魔法使いです。 主に持続ダメージや麻痺状態にさせ敵をジワジワと削る戦闘スタイル 氷雷に比べ人口も少ない為120以降のMBは安価。 1次職(マジシャン) 1次職(マジシャン)時代 特に問題無いので頑張って30lvにしちゃいましょう。 2次職(ウィザード(火・毒)) スキル紹介 スキル名 発動形態 マスターレベル 効果 マジックドレイン パッシブ 20 一定確率で敵のMPを吸収する魔法攻撃を行う メディテーション アクティブ 20 一定時間PT全員の魔力を上げる テレポート アクティブ 20 一定距離を瞬間移動 スロー アクティブ 10 一定時間敵の移動速度低下対象6体まで ファイアアロー アクティブ 20 火属性貫通対象3体まで ポイズンブレス アクティブ 20 毒属性持続ダメージ対象6体まで ハイウィズダム パッシブ 10 永久的にINT上昇 ・攻撃スキルはファイアアロー、ポイズンブレスの2種ですが将来的に考えるとファイアアローを削る選択を推奨 3次職(メイジ(火・毒)) スキル紹介 スキル名 発動形態 マスターレベル 効果 エクストリームマジック(火・毒) パッシブ 20 持続ダメージ時間増加、状態異常のMOB攻撃時ダメージ増加 エレメントアンプ パッシブ 20 スキルダメージ増加,消費MP増加 エクスプロージョン アクティブ 20 火属性自身範囲攻撃、対象6体 ポイズンミスト アクティブ 20 毒属性設置型持続ダメージ対象無制限 シール アクティブ 20 通常MOBの反撃封印 マジックブースター アクティブ 20 自身の魔法攻撃速度上昇 ファイアデーモン アクティブ 20 火属性持続ダメージ付加、対象6体 テレポートマスタリー オン・オフ 10 テレポート範囲上昇,着地地点範囲攻撃気絶付加、対象6体 エレメンタルリセット アクティブ 10 属性攻撃の無属性変化 ・シールは全く使わないので削り推奨 4次職(アークメイジ(火・毒)) スキル紹介 スキル名 発動形態 マスターレベル 効果 クァンタムエクスプロージョン アクティブ 30 火属性多段ゲージ溜め攻撃、対象10体 アーケインイエム パッシブ 30 永久的に一定防御率無視、単体に対してダメージ上昇 ナムネスバインド アクティブ 30 毒属性麻痺持続ダメージ付加、対象6体 ミストエラプション アクティブ 30 毒属性ポイズンミスト爆破による多段攻撃、持続ダメージ重複によるダメージUP、対象無制限 イフリート アクティブ 30 火属性召喚型補助攻撃・永久的に属性耐性UP、対象3体 インフィニティ アクティブ 30 一定時間MP/HP回復,魔法ダメージ増加 メテオ アクティブ 30 火属性持続ダメージ付加広範囲攻撃、対象15体 マスターマジック オン・オフ 10 永久的に魔力上昇,バフ持続時間延長 ・メイプルヒーロー(MH),ヒーローインテンションについては共通スキルにつき省略
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/23044.html
あいしてるといまはいえない【登録タグ あ いっこう 曲 氷咲梨奈 蒼姫ラピス】 作詞:氷咲梨奈 作曲:いっこう 編曲:いっこう 唄:蒼姫ラピス 曲紹介 「特別な言葉は神様の前で誓いを交わすその時が来るまで取っておくよ・・・」 「今まで色々あったけどこれからもよろしくね」といった幸せ系で、とのことで、幸せ系だと結構行き詰まる私が頑張って書いてみました(笑)(作詞者コメ転載) 歌詞を 氷咲梨奈氏 が、イラストを るっこら氏 が手掛ける。 歌詞 当たり前の幸せ 置き去りにして 気持ち足りないなんて いじけた 零れ落ちてばかりの 時計の砂を そっと掬ってくれた 君でした ふたりに注ぐ 朝焼けのベール 空のドレスに負けない 私になれる 愛してると 今は言えない いつか 選んだ道が 交わるまで 探り合いは 今は要らない 明日 隣で「おはよう」 言えたならいい 零れ落ちた寂しさ 隠す苛立ち そっと許してくれる 君でした ふたりで見てた 夕焼けのフィルム 海と溶け合うように ひとつになれる 愛してると 今は言えない いつか 神様の歌 聴ける日まで 近い未来 想い馳せたら 明日 いつもの「好き」だけ 言えたならいい 明日 いつもの「好き」だけ ここに贈るよ コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/vipmaplekaede/pages/142.html
火毒魔とは? 火毒魔は火と毒属性を扱う魔法使いです。 主に持続ダメージや麻痺状態にさせ敵をジワジワと削る戦闘スタイル 氷雷に比べ人口も少ない為120以降のMBは安価。 1次職(マジシャン) 1次職(マジシャン)時代 特に問題無いので頑張って30lvにしちゃいましょう。 2次職(ウィザード(火・毒)) スキル紹介 スキル名 発動形態 マスターレベル 効果 マジックドレイン パッシブ 20 一定確率で敵のMPを吸収する魔法攻撃を行う メディテーション アクティブ 20 一定時間PT全員の魔力を上げる テレポート アクティブ 20 一定距離を瞬間移動 スロー アクティブ 10 一定時間敵の移動速度低下対象6体まで ファイアアロー アクティブ 20 火属性貫通対象3体まで ポイズンブレス アクティブ 20 毒属性持続ダメージ対象6体まで ハイウィズダム パッシブ 10 永久的にINT上昇 ・攻撃スキルはファイアアロー、ポイズンブレスの2種ですが将来的に考えるとファイアアローを削る選択を推奨 3次職(メイジ(火・毒)) スキル紹介 スキル名 発動形態 マスターレベル 効果 エクストリームマジック(火・毒) パッシブ 20 持続ダメージ時間増加、状態異常のMOB攻撃時ダメージ増加 エレメントアンプ パッシブ 20 スキルダメージ増加,消費MP増加 エクスプロージョン アクティブ 20 火属性自身範囲攻撃、対象6体 ポイズンミスト アクティブ 20 毒属性設置型持続ダメージ対象無制限 シール アクティブ 20 通常MOBの反撃封印 マジックブースター アクティブ 20 自身の魔法攻撃速度上昇 ファイアデーモン アクティブ 20 火属性持続ダメージ付加、対象6体 テレポートマスタリー オン・オフ 10 テレポート範囲上昇,着地地点範囲攻撃気絶付加、対象6体 エレメンタルリセット アクティブ 10 属性攻撃の無属性変化 ・シールは全く使わないので削り推奨 4次職(アークメイジ(火・毒)) スキル紹介 スキル名 発動形態 マスターレベル 効果 クァンタムエクスプロージョン アクティブ 30 火属性多段ゲージ溜め攻撃、対象10体 アーケインイエム パッシブ 30 永久的に一定防御率無視、単体に対してダメージ上昇 ナムネスバインド アクティブ 30 毒属性麻痺持続ダメージ付加、対象6体 ミストエラプション アクティブ 30 毒属性ポイズンミスト爆破による多段攻撃、持続ダメージ重複によるダメージUP、対象無制限 イフリート アクティブ 30 火属性召喚型補助攻撃・永久的に属性耐性UP、対象3体 インフィニティ アクティブ 30 一定時間MP/HP回復,魔法ダメージ増加 メテオ アクティブ 30 火属性持続ダメージ付加広範囲攻撃、対象15体 マスターマジック オン・オフ 10 永久的に魔力上昇,バフ持続時間延長 ・メイプルヒーロー(MH),ヒーローインテンションについては共通スキルにつき省略
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/2860.html
http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364226513/ プロローグ 京太郎「暑い……」 俺は夏のクソ暑い中、片手に大量の牌譜、もう片手にスーパーの大きな袋をみっつ持った状態で坂道を歩いている。 山間の長野県なら夏も涼しいでしょ? と聞かれることもある。 だが、声を大にして言いたい。山だろうが海だろうが夏になりゃが暑いもんは暑い。 涼しい夏を味わいたきゃ北海道にでも行けと。 京太郎「駅から……遠すぎだろこれ……」 地方のバスのダイヤなど都心のダイヤと比べたら無残なものである。 それが市内から外れた田舎のバスとなれば尚更だ。 最寄り駅に着き、目的地近くまで行くバスを調べたところ次のバスは2時間後。 タクシーも検討したがこの駅まで来るのに40分かかると来たもんだ。 田舎はタクシーは拾うものじゃなくて呼ぶものとはよく言ったもんだ。 結局、仕方なく徒歩で行くことを選択した。 駅近くの商店に入り、道を確認してから歩き始めて今に至る。 だが、絶賛後悔中である。 あぁ、店のおばちゃん。 あなたの言うことは正しかった。 バスを待ったほうがよかったかもしれない。 京太郎「優希め、これ幸いにと色々頼みやがって……」 片手に持っているみっつのスーパーの袋を思わずにらみつける。 本来の用件とは別に、ついでに頼まれた買出しリストはいつもの10倍の量があった。 ジュースやお茶の飲み物類、各種お菓子、アイス、カップラーメン、エビフライ、タコス、花火、CD-Rなどなど。 一般的な買出しでは頼まないだろってものも含まれている。 それにしても花火か。今夜皆でやるのかな? あぁ、羨ましい。 俺はこの荷物だけ置いたらすぐにとんぼ返りしなければならない運命だ。 京太郎「どうしてこうなった」 俺がこうして他のメンバーが他高校と合同合宿をしている合宿所へ向かっているには理由があった。 (2時間前。長野合同合宿所にて) 久「長野大会決勝の牌譜を忘れた?」 咲「ごめんなさい……京ちゃんに確認したらやっぱり部室に置きっぱなしになってるって」 まこ「やってしまったのう。今夜の検討会に使うはずじゃったんだが」 久「うーん、私もこの日まで確認してなかったのもまずったわね……」 咲「あぅ、本当にすみません」 まこ「ともかく、今は誰の責任といっても仕方ないけぇ、何とかせねば」 和「さっき他の学校の方々にも聞いてみたんですけど、皆さん持ってきてないみたいで……」 優希「風越のキャプテンに、うちが一番近いから取ってこようか? と逆に聞かれちゃったじぇ。さすがに断ったけど」 まこ「まぁ、さすがにうちのミスを他校に尻拭いさせる訳にゃいかんからのう」 優希「でも、今夜の検討会はやっぱりなし! ってするわけにもいかんじょ」 久「……仕方ないわねぇ。申し訳ないけど、須賀君に持ってきてもらいましょうか」 和「だ、大丈夫なんですか? 女子しか居ないこの合宿所に男の子って」 久「まぁ、合宿所に入らないようにして玄関先で受け渡しするだけなら問題ないでしょう」 まこ「うーむ、留守番させている挙句に使いっ走りにさせると言うのは気が引けるのう」 久「そうね……合宿から帰ったら何か奢ってあげますか」 咲「うぅ、ごめんね京ちゃん……」 そんな訳で俺は牌譜を届けにこうやって合宿所に向かっている。 連絡を受けたときは軽く二つ返事をしたのだが、その後に届いた買出しリストと この炎天下での行軍で安請け合いした少し前の自分を殴りたい気分だった。 京太郎「あぢぃ……あぢぃ……」 喉渇いた。 帽子を被ってこればよかった。 あぁ、蚊に食われた。足痒い。サンダルで来なきゃよかった。 暑い、暑すぎる。 つーか絶対アイス溶けてるだろこれ。 京太郎「し、死ぬ……」 優希は泣かす。 買ってきたタコスにジョロキアソースでもかけて持って行ってやろうか。 部長にはセクハラしてやる。 ヘアゴムを切り取った近藤さんにでも摩り替えてやろうか。ゴム違いだし。 いや、さすがにそれは俺が死ぬか。 だったら死ぬ前に和のおもちでおもち祭りじゃ。もちもち祭りじゃ。 奇跡的な和のおもちを作ってくれた神に感謝しながらこねこねこねこねしてやる。 つきたての白いおもちがほんのり桜餅になるまでこねこねしてやる。 そうなったら食べごろだ。 もっちゃもっちゃと貪り尽くしてくれる。 京太郎「やばい……俺、やばい……」 どうも先ほどから危険思想に陥りつつある。 暑さのせいだろうか? 意思判定に失敗した俺のマインドはガリガリと減っているようだった。 今考えていることが和にでもバレた日には、俺は諏訪湖に浮かんでいるか浅間山の火口に叩き落されているだろう。 いまどき人身御供とかは笑えない。 相手の心を読むオカルトとかなくてよかった。ほんとよかった。 ……ないよね? 京太郎「……あー。ようやく見えてきた」 そんなとっ散らかった思考の中歩いていると、田んぼと山とわずかな人家しか見えなかった景色の中に少し大きな建物が見える。 あぁ、あれが目的の合宿所か。 ようやく見えてきたことに思わず足取りも軽くなり早足で歩き始めた。 だが、その建物はただの村営体育館であり、目的地はもう1km先だと受付のおじさんに言われるのはその10分後の話である。 アゴと鼻が特徴的な某漫画家さんの表現で『ぐにゃあ~』ってなるのがあるのはご存知だと思う。 俺はその時、あの感覚って本当にあるんだってことを知ることになった。 知りたくもなかったけど。 (合宿所玄関) 咲「あっ、京ちゃん来た!」 優希「まったく、遅いじぇ」 和「……ちょっと待ってください。何か様子がおかしいですよ」 まこ「うむ。なにやら末期のゾナハ病患者みたいな顔になっとる」 久「懐かしいネタね。私は阿紫花さんが好きよ」 咲「いや、そんな話してる場合じゃないですって! きょーちゃーん!」タタタ 京太郎「お、おう、咲。遅くなったな」 咲「だ、大丈夫京ちゃん? す、すごい汗」ハンカチトリダシ フキフキ 京太郎「だ、大丈夫。ほれ、牌譜」 咲「あ、ありがとう」 和「す、須賀君。どうしたんですか? そ、そんなに大変だったんですか?」 京太郎「バ、バスが2時間後までなくて……だから、駅から歩いて……」 和「え、駅からこの暑い中歩いてきたんですか!? 1時間はかかりますよ!?」 京太郎「いや、バスを待とうとも思ったんだけど……やっぱり、その、早くしたほうがいいかなって」ゲッソリ 久「……須賀君。大変言いにくいんだけど」 京太郎「なんすか?」 久「電話、くれればよかったのに。鶴賀の人たち、車で来てるのよ」 京太郎「……えっ?」 久「言ってくれれば駅までの送迎ぐらいは私から鶴賀の人たちに頼めたのよ」 京太郎「」 久「ごめんね……私もちゃんと言っておくべきだったわ」 京太郎「」 京太郎「……ふひっ」 京太郎「う、ふ、ふふふふははははははははは。うへははははははははは」ケタケタ 咲「きょ、京ちゃん。しっかりしてぇ!」 (合宿所内、玄関脇のベンチ) 京太郎「あー、酷い目にあった」 まこ「お疲れ様じゃったののう。ほれ、お茶じゃ」 京太郎「いただきます……あーうめぇ」ズズッ 優希「遅いと思ってたらそんなことになっていたとは。驚きだじぇ」 京太郎「遅くなった原因の半分はお前のせいだけどな。何だよあの買出しリスト。全部そろえるのに時間かかったぞ」 優希「いやー、すまんな。お菓子とジュースぐらいだと思ったら意外と皆あれもこれも欲しがって」 京太郎「ったく、ほれ。アイス溶けちまってると思うけどとりあえず冷やしとけ。俺が中に入るわけにはいかないからな」 優希「おう、ご苦労だったじぇ。っとと、これ重……」フラフラ 咲「あ、優希ちゃん。私も手伝うよ」 京太郎「気をつけろよー」 優希・咲「「はーい」」 京太郎「ふぅ……あー、氷冷たい」ズズッ 久「……須賀君、本当にごめんね。帰りのバスはまた時間空いちゃうみたいだし、鶴賀の人に駅まで送って貰うように頼んだから」 京太郎「あぁ、助かります。さすがにもうあの道のりをもう一度歩くのはちょっと……」 和「正直驚きです。多分、20kgぐらい荷物があったんですがよく持ってこれましたね」 京太郎「えっ? そんなあった?」 和「2リットルのペットボトル5本。それだけで10kgですよね? 後はあの大量の紙の束と他の品を合わせればそれぐらい行くと思いますよ?」 京太郎「マジか……そりゃ辛いはずだ」 まこ「よく頑張ったのう。ほれ、お茶のお替りいるか?」 京太郎「いいんですか? いただきます」 まこ「おう、ほれ」トポトポ (その頃。合宿所台所にて) 優希「アイスは冷凍庫。チョコレートは一応冷蔵庫に入れておくか」ゴソゴソ 咲「飲み物少なくなってきたからよかったね。ちょっと詰めれば入るかな」ゴソゴソ 優希「エビフライ? 誰が頼んだんだ? とりあえずそこに置いとくじぇ」 咲「あっ、花火だ! 後で皆でやろうね!」 優希「おぉ、タコス。ちゃんと私の好きな味だな。流石わかってるじぇ京太郎」アムアム 咲「えっと、後はこの袋をっと」ゴソゴソ 優希「咲ちゃん……。牌譜を冷やしてどうするつもりだじぇ?」 ワイワイキャッキャ 華菜「あっ、居たし」ガチャッ 美穂子「よかった。何かお手伝いしますか?」 優希「おっ、風越の。もう大方片付け終わったから大丈夫だじぇ」 美穂子「そう……。買出しを頼んでしまったから後片付けぐらいは手伝おうと思ったんですけど」 咲「わざわざありがとうございます。常温の物はそこにおいてあるんで頼んだものは各自持っていってください」 華菜「おぉ、いろいろあるなー。プロ麻雀せんべいが大量にあるのが気になるけど……」 咲「あっ、お金はまた後でうちの部長が清算するようです」 華菜「はいよ。……ところで」 咲・優希「?」 華菜「玄関ホールのベンチに座ってる男の子が買ってきてくれたんだよな?」 優希「そうだじぇ。うち唯一の男子部員。よわよわだけど」 咲「ちょ、優希ちゃん……」 華菜「ふぅん、まあいいし。それより……あの男の子って、誰の彼氏?」ニヤーリ 咲・優希「!?」 美穂子「ちょ、ちょっと華菜」 華菜「あれ? キャプテンは気にならないですか? うちは女子高だし同じ部に 男の子がいるとか想像もつかないし、興味わきません?」 美穂子「そ、それは」 美穂子「えっと」 美穂子「その」 美穂子「あ、う」 美穂子「そ、その」 美穂子「ちょ、ちょっとだけ」 華菜「ですよね! さぁ、キリキリ吐くし!」 咲「そ、そんな。きょ、京ちゃんとは別に……」 華菜「わぁ、京ちゃんだって。すごいし! やっぱそんな関係なんだ!」 美穂子「ふわ……。男の子をそう呼ぶなんて、すごく仲がいいのね」 優希「(むっ)」 咲「ち、違うんです。ほんとに!」 華菜「またまた、照れなくてもいいし! いやー、流石共学は進んでるなー」 咲「ち、違うのに。どうしよう優希ちゃん」オロオロ 優希「……」イライラ 優希「違うじぇ!」ダンッ 華菜「にゃにゃ!」ビクゥ 美穂子「び、びっくりした」 優希「京太郎は、その、誰かの彼氏じゃなくて」 優希「あいつは……」 優希「その」 優希「えっと……」 優希「!」 優希「そう、犬だじぇ!」 華菜「い、犬!?」 咲「ちょ、優希ちゃん?」 優希「そう、あいつは麻雀部の犬だじぇ! 私たちの忠実な下僕だじぇ! 美穂子「げ、下僕って……」フルフル 優希「そう、私が躾けている犬」モガモガ 咲「優希ちゃん、ストップストップ! 落ち着いて」クチオサエ 優希「」モガモガ 華菜・美穂子「(ポカーン)」 咲「じょ、冗談ですからね? 彼氏でも犬でもないですからね?」 優希「」モガー! 咲「優希ちゃん、落ち着いてってば……。あっ、じゃあ私たちはこれで……本当に違いますから!」ヒキズリ 優希「」ヒキズラレ ズルズル、バタン 華菜「……本当に冗談なんですかね」 美穂子「どう、かしら? 冗談だと思いたいけど……」 (一方その頃玄関ホール) 久「本当にごめんなさい蒲原さん」 智美「いいさいいさ。気分転換にちょうどいいドライブだ」 京太郎「すいません、よろしくお願いします」 和「須賀君、くれぐれも失礼なことは……」 京太郎「しねーよ! 和の中で俺の評価はどうなってるんだ……」 智美「ワハハ。それじゃあ須賀君、行こうか」 京太郎「あ、はい。お願いします」 久「須賀君本当にありがとうねー」フリフリ 和「ちゃんと課題やっておいてくださいね」フリフリ まこ「帰ったら飯でも奢ったるけぇ。留守番頼むな」フリフリ 京太郎「うーっす、それじゃ失礼しまーす」スタスタ …… … 久「行っちゃったわね」 和「せっかくなんで須賀君にも打たせてあげたかったですね」 まこ「まぁ、仕方あるまい。強化合宿の名目じゃ。さすがに初心者を混ぜるわけにもいかんだろう」 久「そうねぇ。これから私たちはもっと忙しくなるし今のうちに練習メニューでも考えて……」 イタカ!? イナイッス! モウイッチャッタノカナ? オソカッタカ! ダガマダマニアウカモシレン! イソグッス! 久「ん? なんだか騒がしいわね」 ゆみ「竹井か! 蒲原に部員の送迎を頼んだと聞いたが本当か!?」 久「えっ? えぇ。ついさっき出発したけど……」 モモ「間に合わなかったっすか……」 ゆみ「くそっ、もう少し早く私たちが気付けていれば……」ガクリ 和「な、何をそんなに慌ててるんですか。確かに頼んだのは申し訳ないですが、 車で行けばすぐの距離ですよ? すぐ帰ってくると思いますが」 モモ「あー……」 ゆみ「その、だな」 佳織「智美ちゃん、その……運転がすごいヘタなんです」 (車内) 智美「なるほどー。須賀君はたった一人だけの男子部員なんだな」ギャリギャリギャリッ! 京太郎「え、えぇ、ぞうでず。……うっ、うぷ」 智美「しかし、周りが女ばっかりじゃあいろいろとやり難くないか?」ガリガリガリバキバキバキバキッ! 京太郎「路肩! 路肩に突っ込んでます!」 智美「んー? おぉ、すまんすまん。ワハハ」フラフラ 京太郎「お願いですからまっすぐ走ってください……。まぁ、肩身が狭くないと言ったら嘘になりますけど。 雑用をやらされることも多いですし」 京太郎「それでも、今は結構麻雀が楽しいんですよ。皆合間にいろいろ見てくれるし」 京太郎「それに雑用だってみんなのためになるんだったら楽しくやれるって前ーーー!」 智美「おっ? あぁ、赤か」キキキキーーーーーーーーー! 京太郎「(タイヤの焦げる匂いが……)」ガクガク 智美「なるほどー。つまり麻雀も楽しいし、かわいい女の子ばっかりでハーレムだから頑張れると」 京太郎「はい。……って、そこまで言ってないです」 智美「ワハハ、そうだったか?」 京太郎「……まぁ、否定はしませんけど」 智美「ワハハ。男の子なんてそんなものか」ガリガリガリガリガリ 京太郎「(縁石にタイヤを擦るぐらいじゃ動じなくなってきたな……)」 智美「聞けば聞くほどに面白い状況だなー。男一人で雑用とか任されてても楽しくやれてるのかー」ガッコンガッコン 智美「……須賀君って、もしかしてそっちの趣味が?」チラチラ 京太郎「ないですよそんな趣味!」 智美「ワハハ、それは残念。さーって、次の曲がり角を曲がれば駅だなー。ブレーキブレーキ……」グォン! 京太郎「うぉっ! なんで曲がる直前に加速するんですかっ!」 智美「ワハハ。ごめんごめん、ブレーキとアクセル間違えた。オートマ車はこれだからいけないな」 京太郎「マニュアル車でもアクセルブレーキは右足です。あーあ、曲がり角過ぎちゃった……」 智美「なーに、まだ電車の時間まで余裕があるんだろ。ゆっくり行こう」グォン! 京太郎「(何でそう言いながら加速するんだろう。もういやだ……)」 その後、駅は目と鼻の先なのに何故かもう30分ほど蒲原さんのドライブに付き合う羽目になった。 死んだ曾じいちゃんと、すごく鼻がとがった人と、黒シャツ着た人が 面子が足りないから来いと手招きしてるのが見えたのは幻だと信じたい。 本当に、思い出すだけで悪夢だ。駅のトイレでいろいろブチ撒ける羽目になったのは言うまでもない。 まぁ、紆余曲折あったが俺の目的は無事に果たせた。 俺はそのことにほっと一息つき、家に帰って皆からもらった麻雀の課題について取り組んでいた。 ――だが、それ以上の悪夢が 華菜「みはるん……かくかくしかじかってことがあったんだけど、どう思う?」 未春「まっ、まさかぁ。そんなこと、無いと思うけど」 未春「そんな、部の共有ペットとして日々屈辱の攻めを味わっているなんて、そんなこと……」 華菜「そこまで言ってないし」 未春「やっぱり普段はこう、ギャグボールっていうんだっけ? そういうのを嵌められて喋ることも許されず……」 華菜「聞いてないし」 未春「でもすっかり開発されきったその体はもう抗うことはできなくて自らその体を……」 華菜「みはるんが遠くに行っちゃった……」 ――着々と進行し 智美「ワハハ。帰ったぞ」 ゆみ「お帰り。駅まで送っていっただけなのに何でこんなに遅いんだ」 智美「いやーちょっと道を間違えちゃってな。須賀君との話が面白くて」 モモ「須賀さんも気の毒っすね……」 佳織「どんな話したの?」 智美「えーっと、須賀君は清澄たった一人の男子部員らしいな」 ゆみ「ほう。女子5人の中に男子1人とはいろいろ気苦労も多そうだが」 智美「雑用とかいろいろこき使われることも多いけど、須賀君はそういうのが(皆の役に立てるなら)大好きなんだって」 佳織「……智美ちゃん。なんだかすごく誤解を招きそうな言い方だけど、本当に言ってたのそんなこと?」 智美「おぉ、言ってたぞ。女の子に囲まれているから楽しいとも言ってたな。それが満足とも言ってたような……」 睦月「部長。なんだが須賀さんがどうしようもない人に聞こえてくるんですが……」 モモ「……確かに今日も20kg近い荷物を持って駅から1時間かけて歩いてきたとか言ってたっすね」 睦月「確かに普通の人だったら怒っても無理もないですよね」 智美「ん? 須賀君は全然怒ってなかったぞ? 別れ際も皆と和やかに別れていたし」 佳織「いや、そんな」 ゆみ「……まさか、なぁ?」 ――取り返しのつかない状況になっていることなど 透華「聞きました?」 純「あぁ。清澄には男子部員が居て、その子が、その、えっと……」 一「あっ、純くん照れてるー」 純「うっ、うるせっ」 智紀「……」カタカタ 衣「下僕……ハギヨシみたいな存在が清澄にもいるのか?」 一「いや、なんていうか、聞く限りだとそんな健康的なものじゃないというか」 純「勘違いだと思うんだがなぁ」 透華「とは言え、さすがに当人たちには聞きづらいですわね」 一「うん。お宅の須賀さんはMどれ(ムグッ」 純「ちょ! 衣の前だぞ! つーかなんて言い方だ!」クチオサエ 一「むぐむぐ」コクコク 衣「?」 透華「衣は気にしなくても大丈夫ですわ」 智紀「……」カタカタ ――知る由もないのだった。 久「なーんか夜の検討会の時皆がよそよそしかったような?」 まこ「そうか? 言われてみればそんな気がしたような……」 久「何かあったのかしら?」 まこ「むぅ」 優希「ほい。原住民の村からの宮廷で魔女を使って2人とも呪いを3枚ドローだじぇ」 咲「あぅ、私のデッキが呪い塗れに……」 優希「まだ私のターンは終わってないじぇ? さらにならず者を使うから2人と3枚になるまで手札捨てるじぇ」 和「せ、せっかく白金貨が来たのにお金が足りなくなりました」 まこ「あの3人娘は、本当にもう……」 久「ちょっと、なにやってるの! 私も混ぜなさい!」 まこ「こいつ……」 智紀「……」カタカタ 智紀「……」カタカタ 智紀「……」カタカタ 智紀「……」ッターン! 智紀「ふぅ」
https://w.atwiki.jp/manafee/pages/167.html
日向坂46の「ひ」 #29 影山優佳、高瀬愛奈 5年前の高瀬はポジティブになろうとしていた。 影山が「5年前の高瀬はポジティブだった」と語ったことに関連して、「今はネガティブというより独り言が多い」と付け加えた。 高瀬は「当時はポジティブになろうと頑張ってたのよ」「フェードアウトしたのよ、ポジティブが」と語った。
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/868.html
きつねちゃんには騙されない! あるはずのない焼き芋を白い毛並みのイヌの少年は、焼けた落ち葉の丘の中を枝で掻き分けながら必死に探していた。 無心に探し続ける彼の大きな尻尾にはらりと落ち葉が舞い落ちるが、気にせずに泊瀬谷のためにウソの焼き芋をさぐり続ける。 しゃがみこむ少年の側で泊瀬谷が片手をぎゅっと握って立っていたのは、滲み出す罪悪感からなのだろうか。 (ごめんなさい。わたくし泊瀬谷スズナは、ウソをつく子になってしまいました) まさか、聖なる境内の中でウソをつくとは思っていなかった。後悔しても誰も助けてくれやしない。 神さまの元でウソをつくという背徳感が、一層強く泊瀬谷を責め立てる。ウソをつくのはいけません。 そんなことは子どもでも知っている。大人だったら尚更だ。それでもウソをついてしまったことは、どう説明しようか。 そんな理屈を考えるより、ついてしまったウソを引っ込めることを考えろ。しかし、ウソをつき慣れない泊瀬谷には無理なこと。 ウソを塗りつぶすたびにウソをつく。そしてそのウソを塗りつぶす為に更にウソをつく。 終わることの無いウソの塗りつぶしあいを泊瀬谷には、無論耐えることなんか出来ない。 (ごめんね。ヒカルくん……) 忠実なイヌの少年は終わることない探し物をしていると、燃えかすが彼の白い毛並みに引っ付いた。 許していただけるのなら、許してください。小さな神社の神さまは、一人ぼっちのネコの願いを聞いて下さるのだろうか。 イヌの性なのかそれでも彼は、あるはずのない焼き芋を探し続けていた。 ―――土曜日の午後、用事で登校していた泊瀬谷は、テキパキといつも以上のスピードで仕事を片付けていた。 その甲斐あって、予定していた時間より随分と早く用事を済ませることが出来た泊瀬谷は、小さく自分に向かって拍手する。 秋の空が心地よい。すぐに帰るのはもったいない。泊瀬谷は、職員室隅に置かれたダンボール箱を開ける。 その中には、紅葉と見紛うほど紅いサツマイモがぎっしりと。秋の香りがふんわりと泊瀬谷の鼻腔に届く。 「英先生、いただきまーす」 実家からたくさん届いたと、英先生が学校に持ってきた秋の味覚の代表・サツマイモ。 自分だけでは食べきれないから、ご自由に……と、置いてあったものである。大地の恵みと英先生に感謝しながら、 泊瀬谷はサツマイモを適当に見繕い、手持ちの新聞紙に包んで紙袋に詰め込んだ。 「これが楽しみできょうは来たんだよね」 ぼそりと誰にも聞こえぬように呟くと、そそくさと荷物を持って仕事場から帰る準備を始める。 そう、泊瀬谷はこの日、とっとと用事を素早く済ませることができた原動力は『このあとのお楽しみ』をひとり企んでいたからだ。 紙袋の中のサツマイモが幾ら重くても、足取りはいつもの帰り道よりも軽い。 「それでは、獅子宮先生、そら先生、お先に失礼しまーす」 職員室に残った教師たちに深々と泊瀬谷はあいさつをすると、ライオンの獅子宮怜子は「おう」とPCに向かったまま返答し、 タヌキの百武そらは、椅子に座ったままデスクの上にお気に入りである籐の枕を頭に、諸手を突っ伏したまま手を振った。 そら先生曰く、「この時間がいちばん眠い」とのこと。正直者の時計が指す時刻は、午後の4時過ぎ。 外では、泊瀬谷と同じく用があって登校してきた生徒の声がちらほらと聞こえてくる。 購買部の側を通ると、ウサギの因幡リオがじっとガラスケースを睨んでいた。 グラウンドから大空部の部員がウォームアップする掛け声が聞こえてきた。 いつもと違う土曜日の学校にいると、校舎も校庭も何もかも独り占めできる気がしてくるのは何故か。 浮かれ気分の泊瀬谷は、足元をしっかりと踏みしめて廊下を歩く。靴に履き替えて、入り口の扉を開ける。 秋の風はきょうだけはお休みの模様。まあまあ、きょう位はゆっくりしていていいんですよ。 風に語りかけた泊瀬谷は、ふと何かを急に思い出したのか、静かに足取りが止まる。 「そういえば……。ヒカルくん、どうしているのかな」 つい、職場にいることを忘れて一人ごと。ヒカルはただの生徒にすぎない。なのに、どうして今思い出してしまったのか。 ぶんぶんと首を振って再び歩き出した泊瀬谷は、グランドの側を通り過ぎる。何故か、心臓の鼓動が身体の奥から鼓膜を刺激する。 無い物ねだりをする歳ではないではないか。そう言えば、イヌが天に瞬く星を手にすることを望んで、空をじっと見つめることがあるらしい。 ヒカルの気持ちは分からないけど、イヌの気持ちは少しずつ分かってくるような気が泊瀬谷はした。 「おや、泊瀬谷のお嬢ちゃん。何の御用事かな?」 「あ!す、すいません。真田さん!!えっと、あの……焼き芋!!」 考え事をしながら歩いていたせいか泊瀬谷は、用務員室の前まで無意識にたどり着いていた。 目の前に笑いながら腕を組んでいるのは用務員の老犬・真田勉、人呼んで『ベンじい』。 無論、真田に用事があってここまで来たのだが、まさか真田の方から話しかけられるとは思っていなかった泊瀬谷。 手短に今回の用件を話すと、「こんなこともあろうと思ってな」と、言い慣れた口調で呟き竹箒とポリバケツを泊瀬谷に渡した。 「ありがとうございます!でも、『お嬢ちゃん』はないですよお」 泊瀬谷が恥ずかしげにお辞儀をすると、孫が玩具で戯れるのを見るように、ベンじいは笑っていた。 竹箒とポリバケツ、そして幾らかのサツマイモとアルミホイルが入った紙袋を持った泊瀬谷は、校舎から離れた林に囲まれた石畳を歩く。 それでもここは学園の敷地内。小高い丘に広がる佳望学園は、林に守られて月日を刻んでいったのだ。 どこぞかへと続く石畳だけが、泊瀬谷の行く手を導いている。コツコツと新しく買ったショートブーツが響く。 ここまで来るともはや学園の音は聞こえない。学園内にいることを忘れるぐらいの静けさだけが、この空間にたたずむことを許される。 「着いたぞお!」 囲んでいた林が急に開ける。広い空き地が足元に広がる。その先に街が模型のように立ち並ぶ。 ここに着くと、泊瀬谷はなんだか子どもに戻った気になるのだが、気のせいだろうか。 右手には丘を降りる石段が目に入る。左手には石段から続いて並ぶ幾つかの鳥居。そして鳥居の右にはキツネ、左にタヌキの石の像。 目の前の丸く広い空き地は、子どもたちがながなわをするには十分な広さで、林との反対側は、学園の裏の街並みを一望できる高台だ。 丘の淵の手すりが錆付いていることから、殆ど人の手に触れていないことが分かる。 街並みを見守るように鎮座する建物は、古いようで意外というのはおかしいがしっかりと自分の居場所を守っていた。 街並みに飽きて振り返ると木々に囲まれて、まるで映画のパートカラーを見るように朱色の鳥居の群れぽつんと浮かび上がる。 そして建物に掲げられた額に書かれた文字は『佳望神社』。これでも、学園の敷地内なのだ。 学園に通うものでも知る人も殆どいない小さな神社。こっそり一人で焼き芋を食べるならここなら、と はなうた交じりで泊瀬谷は焼き芋をする準備を始めた。ざっざと土を掃く音が静寂を掻き消す。 しばらくすると、境内に落ち葉の丘が出来上がった。泊瀬谷はアルミホイルに焼き芋を包み、落ち葉の丘に潜り込ませる。 余り乾燥しすぎた葉っぱでは煙いので、あらかじめ汲んでいた水を軽く振り掛ける。 新聞紙を火種にするためマッチを擦ると、焦げた匂いが鼻にツンときて、思わずマッチから顔を遠ざける。 周りには、燃え移りそうなものは無し。消火の水も準備万全。役者は揃った、あとは開幕を待つのみ。 燃え上がる新聞紙を落ち葉の丘に投げ入れると、じわじわと赤い炎が見え隠れし始めていた。 「ふふふ。楽しみだなあ」 消火用のポリバケツの水面に、はらりと落ち葉が落ちた。やがて焚き火は灰色に塗りつぶされ始める。 揺れる炎を見つめているうちに、何だか自分自身がタヌキかキツネに化されてしまうんではないか、と錯覚する。 染みる煙に耐えかねて、泊瀬谷の瞬きの数が自ずと増え出していた。焼き芋はまだまだ遠い。 ところが誰もいないはずの祠の脇で、一人腰掛けるイヌの少年がいることに泊瀬谷は気付いた。 鳥居を囲んで泊瀬谷から見える少年は、毛並みが白いので嫌でも目に付く。薄暗い中少年が浮かび上がる。 彼は、尻尾を揺らしながら一人、本の世界に耽っている所である。その姿を見て、思わず声を上げてしまった泊瀬谷。 「ヒカルくん?ヒカルくんだよね?」 佳望学園の制服を着ているし、どう見てもヒカルなのだが泊瀬谷は少しこのことを受け入れることに時間を要した。 殆ど知られていないはずなのに、いや……ヒカルのことだとすれば、知っていてもおかしくはない。 パチパチと炎に身を焦がす落ち葉を気にしながら、泊瀬谷はイヌの少年に言葉を投げかける。 「ヒカルくんも学校に来てたの?」 彼は言葉を使うことではなく、首を縦に振ることで言葉を返した。 手にしていた文庫本を賽銭箱の上に置いた彼は、泊瀬谷に尻尾を揺らしながら近づく。 「先生」 たった、一言。そのたった一言聞いただけなのに、泊瀬谷の耳には心臓の鼓動が体の中から聞こえてくる。 焚き火のせいではないけれど、身体が少し温まる。あと、もうちょっとで冬だというのに、季節外れの火照りを許して欲しい。 「焼き芋、ですね」 「う、うん。こういう焼き芋も風情があっていいよね」 暖かい焼き芋が出来上がるというのに、それを置いてきぼりにするなんて、なんてひどい女だと思わないか。 泊瀬谷の自問自答が続くのを知ってか知らずか、彼はしゃがみこみ小枝を拾って、火の弱まってきた落ち葉の丘を突付き始めた。 落ち葉の山は、燃え尽くして頂が落ち窪んでいた。落ち葉が言うには、焼き芋が食べごろか。 「そろそろ、焼けるんじゃないんですか?」 「そうね。それじゃ、ヒカルくん。お芋を拾いなさい……なーんてね」 泊瀬谷は照れ笑いをしながら、少年の働きを見守る。 秋の色から、無機質な灰色に変わった落ち葉から煤だらけのアルミホイルの固まりが、小枝に促されて手元に帰ってきた。 カーディガンの袖を伸ばして、熱くないように焼けたアルミホイルに包まれた芋を取り上げた少年は、ちょっと驚いた顔をする。 「大丈夫!?」 泊瀬谷が駆け寄ると、煤が舞い上がり少年の白い毛並みを汚す。 カーディガン越しだが、いつの間にか泊瀬谷は少年の手をそっと掴んでいた。 「ヒカルくんも食べる?」 「いいんですか」 「いいよ」 わずかなのだが、言葉を返すのがやっとの泊瀬谷は、もう少し言葉が出なかったのかと悔やんだ。 アルミホイルから顔を出した焼き芋は、泊瀬谷と同じく紅い顔をしていた。 ふたつに割られた焼き芋からは、泊瀬谷と同じく湯気を立てていた。薄い皮を剥くと一層白い湯気が舞い上がる。 青空は、ダンボールの中のサツマイモと同じく紅く染まり始めた土曜日の黄昏どき。 肌寒い秋の空気の中、ふたりの肉球は、ほかほかの焼き芋で温まっていた。 「いただきます」 「いただきます」 二人一緒にかじったそれぞれの焼き芋が、ふたり一緒にそれぞれの口の中に広がる。焼き芋が甘い。 当たり前のことだが、当たり前のことを誰かに話さずにいられなかった泊瀬谷は、ついこのことを漏らす。 少年もそのことを否定することなく受け入れる。少年は、泊瀬谷に話しかけられるたびに、頬を赤らめる。 それに気付かない泊瀬谷は、ちょっと間を空けてショートブーツのつま先で地面を蹴っていた。 ふうふうと、熱い焼き芋を冷ましながら口を尖らせる少年を見ながら、二人で影を伸ばしてゆくが、 その影もふたりに呆れたのかどこかへと消えてしまった。街並みの灯が少しずつ灯るのが目に見える。 さっきまで近寄りがたかった落ち葉の丘も、赤い火の力を弱め始めて、自分の居場所を闇に譲る。 誰もが安らぎを求める、秋の夕暮れ。泊瀬谷は、思わずのどを鳴らして、二つ目の焼き芋を口にした。 落ち葉の丘の火が消え隠れし始めて、おなかもいっぱいになって焚き火を消そうとしたときのこと。 バケツを抱えた少年の肩を叩いて耳を回しながら泊瀬谷は、遠慮がちに問いかけた。 「えっと……。まだ一つあるみたいなんだけど。お芋がね……見つけてくれる?」 ウソだ。サツマイモは一つ残さず焼き芋にして食べてしまった。 なのに、あと一つあるってウソをついてしまったのは、泊瀬谷の純粋で不純な気持ちからだ。 真っ白な毛並みゆえに、それを真っ黒に塗りつぶすことが出来ること。少年は小枝を再び手にしてしゃがみこむ。 こうすれば、一秒でも長く白い毛並みを持った少年と時間を共有することが出来る。 こうすれば、一分でも長く白い毛並みを持った少年とくだらない話をすることが出来る。 こうすれば、一時間でも長く白い毛並みを持った少年のことを思い出に閉じ込めることが出来る。 燃えたうず高い丘をせっせとほじくる少年を泊瀬谷は黙って見つめていた。 (ごめんなさい。わたくし泊瀬谷スズナは、ウソをつく子になってしまいました) あるはずの無い焼き芋は無論見つかることなく、泊瀬谷は再び少年の肩を叩いて探すことをやめさせた。 「ごめんね。無かったみたいだね」 「うん。ごめんなさい」 咎を受けることの無い少年をどうやって慰めればいいのか、泊瀬谷は悩みに悩んだあげく、結局何もいえなかった。 後悔するぐらいなら、始めから言わなければいいのにと責める泊瀬谷は、鼻の奥が詰まる気がした。 悔し涙も出ない泊瀬谷が出来ることといえば、足元の小石をポンと蹴り上げることぐらい。 少年は水で満たされたパリバケツで灰の丘の火の粉を沈めた。いつの間にか空が暗い。白い雲の変わりに星が瞬く。 先ほどまで主役を張っていた落ち葉の山はあっという間に崩されて、彼らはここを立ち去る後方付けを始める。 そして、跡形も無く元に戻った境内を二人して寂しそうに見つめるのであった。 「あ!」 「何?どうしたの?ヒカルくん!!」 いきなりの少年の声に一瞬、焼き芋の暖かい空気が逃げ去った。 共に耳を立てて、あたりに止まりかけた時間が急に早く回りだす気がする。 「ぼく、帰らなきゃ……。ごめんなさい!」 立った耳で気配を感じた白い若きケモノは、挨拶そこそこに泊瀬谷の側から消えて行った。 取り残された泊瀬谷は、何も言葉をかけられなかったことをひどく悔やむ。 秋の空は空気を読むことが苦手なのか、それともお誂えの演出をしたつもりなのか、いつの間にか黒く塗りつぶしていた。 闇に浮かんだ林を潜ってくるものがいる。その姿は、結構小さい。 「今年も会えたね、オリオン座流星群ーの星たちよー」 少しごろの悪い一人ごとのような歌が境内に響くのを泊瀬谷は耳にした。 イヌの少年と入れ替わりに境内に入ってきたのは、泊瀬谷と同い年の地学教師・百武そらであった。 小さな身体に大きな望遠鏡を担いで、パタパタと使い慣れた靴を鳴らしてやってきたのだ。 「あれー、はせやんだ!何してんの?ってか、この神社のこと、知ってたんだ」 昼間が過ぎて夜が近づくと元気いっぱいになるそら先生。泊瀬谷が職員室を出るときにはタヌキ寝入りをしていたというのに、 泊瀬谷は、まさかタヌキに化されたのではないとか、とそら先生にこの愚問をぶつけてみた。 曇り顔の泊瀬谷を吹き飛ばすように、そら先生の顔は、雲ひとつ無い夜空のように明るかった。 「はせやん、なかなか面白いこと言うね。でも、ここの神社はキツネとタヌキの化かし合いの言い伝えがあるって言うからね」 「何、それ?そらちゃん…教えて!」 せっせと望遠鏡をスタンバイさせながら、そら先生はいきいきと語り始める。泊瀬谷は望遠鏡の匂いをくんくんと嗅ぐ。 「えっとね、もともとここはお稲荷さまでね、キツネの使いが住み着いていたのね。だけど、もともと小ずるいキツネは、 神さまの側にいることをいいことにワガママを始めちゃったわけ。街に降りて町人に化けて、油揚げを盗んできたり、 それはもうやりたい放題。トラの威を借るキツネってところかな、トラじゃなくて神さまだけど」 泊瀬谷は望遠鏡の匂いを嗅ぐのを一旦やめて、耳をそら先生の方へと傾ける。 「ところが、天網恢恢疎にして漏らさず。キツネの悪行が神さまにばれちゃったの。もちろん神さまは怒髪天を突いて、 キツネをここから追い出そうとしたんだよね。しかし、それを何とか止めてもらおうとしたのが…」 「したのが?」 「そうです!タヌキなのよ。でも、タヌキはある提案を神さまにしたのさ、等価交換の原則ってヤツかな。 『お願いがあります。我々タヌキもこの神社で神さまのお使いとして働かせていただけないでしょうか? その代わり、タヌキの一族がキツネを見張っているから、ここから彼らを追い出さないで下さい』ってね。 それで、ここにはキツネとタヌキが同居するようになって、『稲荷』の名前も取れたってわけ。 お陰でキツネはタヌキの温情で居残れたから、ここのキツネはタヌキに頭が上がらないんだよ。 ま、たまにタヌキの目を盗んで参拝客を騙くらかすこともあるってお話も聞くこともあるけどね」 そら先生は、自慢の望遠鏡を泊瀬谷にひとしきり見せびらかすと、手持ちの魔法瓶からココアを注いで口にした。 泊瀬谷にも勧めると泊瀬谷は、内心「甘いもので口がいっぱいだ」と思いながらも、そら先生のココアを味わっていたのだった。 「そう言えば、はせやんのクラスの子かな。白いイヌの男子ね、犬上くんだって?風紀委員長に連れられて働かされていたよ。 犬上くん、正直者だからねえ……。とっとと逃げればいいのに。でも、そんなところよろしゅうございませんか?ね、泊瀬谷せんせ」 泊瀬谷の尻尾が膨らんだ。もしかして、さっきまでいた少年はヒカルではないのではなかろうか。 しかし、それを確かめるすべはもはやない。 「……」 「はせやん!見て見て!!スピカがきれいだよ!」 望遠鏡を覗き込むそら先生は、子どものように声を上げていた。 今夜はきっと夜空が美しいだろう。曇りの無い空の星たちよ、地上のケモノの心を奪おうと瞬き始めるがよい。 青い星から遥かなる天体たちの自由な時間は、これからなのだから、そっと見守らせていただきますよ。と、そら先生。 「いけない!ハルキからの荷物が届くんだった!わたし、帰りますね」 泊瀬谷はそら先生にさよならの挨拶をしたあと、ヒカルのことを思い浮かべながら林を潜りながら学園校舎に戻っていった。 背後からそら先生の歓声が聞こえてくる。 箒とポリバケツをベンじいに返して、学園から自宅に帰ろうと、自転車置き場に向かうと白い毛並みのイヌの少年がいた。 ヒカルだ。彼もまた同じく家に帰ろうと自転車に跨っている所であった。 家でぐだぐだするのもなんだから、図書館で本を読もうと思って登校したものの、運が悪く風紀委員長のリオに捕まった。 「頑張れ!男の子!」と、リオに連れられて、学校の為、リオの為に働いていたので帰りが遅くなってしまった、と彼は言う。 彼も同じく、自転車に乗って自宅に帰るところらしい。泊瀬谷は我を忘れて白いイヌの少年の元へ駆け寄る。 「ヒカルくん!いっしょに帰ろ」 「……」 言葉は出さずとも、ヒカルの心を泊瀬谷は分かっていた。 ぐっとペダルを漕ぐ足は、いつもよりかは力が入る。話したいことなんか幾らでもある。 しかし、泊瀬谷の口から出たのはこの言葉。ヒカルについてのことを話しかける勇気が出なかった。 「い、因幡さん。は?」 「委員長なら、購買のおばちゃんと帰ってた」 学園をあとにしながら、二人一緒に自転車を進める。 ヒカルは半日中リオに引っ張りまわされたのに疲れたのか、ついついこんな一言をこぼす。 「きょうは……なんだか、先生といるとほっとする」 気の弱い泊瀬谷は、誰かと一緒にいることで安心していた。例え、相手が生徒であっても自分を受け入れてくれる者に心許す。 手を繋ぎたい。手を触れたい。できることなら……。しかし、自転車に乗っている限りそんなことは夢の話。 今度はきっと、今度はきっとと、心のうちで繰り返しながら、学園からの坂道の途中、泊瀬谷は自転車を止める。 あとから気付いたヒカルは泊瀬谷の先で自転車を止めた。心配させてしまったのかと感じた泊瀬谷は、俯き加減で言葉を吐き出す。 「なんでもないの。行こっ!ヒカルくんを追い抜いてやるぞお!」 ブレーキを緩めて、ヒカルに追いつこうと泊瀬谷は自転車を進めた。 その頃、因幡リオは購買部を守るタヌキの女主人が運転する車に同乗しながら、かきたくもない冷や汗をかいていた。 タヌキの女主人は、21世紀だというのに時代に取り残されたかのような軽自動車を操りながら、市電と競争していたのだ。 「生意気な電車だね。子どもの頃から乗ってるけど、ちっとも変わりゃしない」 「あの、おばちゃん。車のエンジン……大丈夫ですか?素人目に見ても」 「何だって?あたしのスバル360はあたしの青春時代を共にした相棒だよ。お前さんみたいな若造に同情されてたまるかい」 リオは学生カバンをぎゅっと握り締めながら、ハンドルを持つタヌキのおばちゃんを心配した。 家路を急ぐ人々で溢れた市電が、二人を乗せた軽自動車の側を追い抜いていった。 ―――祠の形が闇夜に浮かぶ。そら先生も夜空に囲まれてご満悦のまま自宅に帰って行った。 誰もいなくなった佳望神社。音の無いことがしんと耳に突く。 そこでは一人のキツネが夜遅く、境内で何処かでくすねてきたサツマイモで、焚き火で焼き芋をしている姿があった。 「おタヌキさまのいぬ間に、焼き芋作っちゃお」 佳望神社のキツネは、賽銭箱の上に置いていった本の続きを読みながら、誰からもじゃまされない夜を一人で楽しんでいた。 おしまい