約 19,732 件
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/662.html
428 名前:2-683[sage] 投稿日:2015/03/13(金) 13 07 12 ID zciMEekA 「のわきー! しょるいおわったから遊んでくるね!」 流石です司令。 身の丈に合っていない椅子から飛び降りるように立ち上がった司令は、年相応に駆けて執務室を出て行った。 目で追ったあの背丈も背中も肩幅も、この鎮守府のどの駆逐艦にも及ばない小さな体躯であるのに、 働きぶりは立派なものだとつくづく舌を巻く。 と言っても流石に執務を全てあの司令が一人で背負っているわけではないのだけれど、 それでも肉体年齢としてはまだ未熟というハンデがあるために、あの司令を見くびる艦は一隻とて存在していない。 物思いに耽るのも程々に、一先ずは自身に残る責務を果たすためペンを握り直した。 あの司令の父は昔からの持病を理由に椅子を子息に譲って早くに退役したが、 書類上ではそのようなことにはなっていない。 つまり、上層部には報告せずこのような環境になった。 ただし完全に隠居に入ったわけではなく、治療の傍らに裏から子息を補佐することもあるらしい。 全ての艦を一堂に会して退役を知らせた、 皺が出来始めた顔で申し訳なさそうな念を漂わせたあのときの様子は今でも憶えている。 うまく鎮守府を動かしてきた人ゆえに残念であったが、同時に初めて失望も覚えた。 命のやり取りがついて回る軍に子供を置くなんて、と誰もが考えただろう。 "前"のときも、そして今もこのような事例は聞いたことがない。 だがその失望に包まれたのも僅かな間だけだった。 「……ん? 司令、野分に何かお求めですか?」 庁舎の壁に向かって野球ボールを投げている司令をベンチから遠目で眺めていると、 不意に司令はそれを中断してこちらに駆け寄ってきた。 私の名前の由来には及ばない程度の風が司令の軍帽を吹き飛ばそうとし、 司令はその軍帽をグローブを持っていない方の利き手で抑えている。 「遊んでたらおなか空いたよう」 「ではおやつにしましょう。今日は何がいいですか?」 「のわきの作るものならなんでもいい!」 幼くして感情のままに他者を喜ばせるとは、流石です司令。 その無垢で快活な笑顔を見せられてしまうと、戦いのことなど忘れてお菓子作りに耽ってしまうではないですか。 「おんぶー」 背中を向けて屈んであげると、司令は迷いなく私に乗艦した。 難なく立ち上がる。私が艦である以上、人の子一人乗せるなど何の苦もない。 ないのですが。 「重くなりましたねえ司令」 「えー? メタボリック、シンドローム、なのかなあ?」 「そういう意味ではないですよ」 そんな言葉まで知っているとは流石です。 司令の体調管理は司令のお父上やこの鎮守府の艦が気遣っていますから、司令が言っているようなことはありません。 人の子の成長は早いことを実感しながら私は庁舎へ戻った。 「司令、"野分"の言葉の意味ってご存知ですか?」 「ううん、知らない。どういういみなの?」 「お父上に聞いてみるといいですよ」 この司令は、何事も吸収が早かった。 人の子とは総じて頭が柔らかいらしく、 退役を宣言してからも指導のために残った父を迅速に病魔の撃沈へ専念させた。 執務も艦隊指揮もまともにできるようになってしまった司令を、そうさせた父を、誰が軽蔑し続けようか。 それでもそれは与えられた知識の範囲内での話で、逆に知っている必要のない古い言葉は知らないようだ。 この司令はあくまでも、この鎮守府をあたかも父が運営しているように周囲に誤解させるために仕立てられたのだ。 大人の勝手な都合で島流しの憂き目にあった司令は、やはりまだ子供なのだ。 自分勝手だとは思うがそれでも。 子息を成熟していないうちから利用してしまう事になってしまうが危険に晒されないよう努める、と、 赤の他人が後続の司令になって今まで守ってきた伝統やら采配やらを失うよりはいい、と。 諦めの感情から垣間見せる責任感を伴う顔で説得されてしまって私は折れたのだ。 この鎮守府の伝統や采配その他諸々は気に入っていたため、あの元司令を認めてしまった。 仕方ないですねえ。と。 「のわきのホットケーキおいしい~」 「……ありがとうございます」 これでよかったのか否かと私が自問自答に駆られていることなど露知らず、 口の周りがシロップで汚れることも気にせず顔を綻ばせる司令を見ると、私の悩みも幾分か薄れてしまう。 この司令が嫌がっていないのだから、私たちがすべきことはこの司令を守るだけだな、と、 思考停止のようでありながらすとんと私の腹に落ち着いてしまったのだから申し分ない。 すかさずちり紙で司令の口元を拭うのも秘書である私の責務だ。 「のわきはにゅうきょしてね」 普段よりほんの少しだけ引き締まった、恐らく引き締まっている顔の司令を、艦隊皆の艦が一斉に見下ろしている。 最早慣れたものですが、世間一般的には異様な光景に写ることでしょう。 「おおがたかんのみんなは多少のひだんはガマンできるけど、こがたかんはそういうわけにもいかないから。 もう少しきかんを守れるようにがんばってほしい」 私の随伴艦を務めた大型艦一同は静かに頷いた。 "前"のときの戦法ではむしろ逆ではあるのですが、 過去に囚われすぎるのはよくないという元司令の言い分に皆納得しているために誰も何も言わない。 口だけでなく実際にこの戦法で充分な戦果を挙げているのだから、元司令の功績と影響力はただならぬものだ。 そうして元司令の戦法をそのまま受け継ぐこの司令もまた、皆から信頼されている。 「のわきももう少しかいひできるようになろうね」 「はい、精進致します……」 この鎮守府にいるほとんどの艦はこの司令の父がまだ帽子を被っていた頃から訓練を重ねている。 かくいう私もその多くのうちの一隻で、練度もそれなりに良いものであると自負していたが、買い被りだった。 司令から率直にこう指摘されてしまってはまだまだだ。 己の顔の筋肉が今どうなっているかも自覚する余裕もないままに、司令は解散命令を出した。 今日の出撃はこれにて終わった。 私の場合は入渠してから司令の執務を手伝い、艤装の点検などを経て眠りにつく。 艦隊の皆がこの執務室から立ち去り、さて私もドックへ赴こうと踵を返した直後。 「のわき。少し話があるから。ごめんね」 いえいえ。 司令のお話とあらば水底に沈もうが受け入れるために這い上がって参る所存です。 私のことは気にせずなんなりとどうぞ。 司令は机の椅子にも座ろうとせず、その場に佇んで口を開いた。 この執務室が、今はやけに広々と感じる。 見た目以上に人口密度が低く感じ、司令との遠近感がいささか過剰なまでに大きい感覚を覚えるのは何故だろうか。 年相応な普段の活発さが鳴りを潜めたような、はたまた借りてきた猫のような、 そんな諺を思い起こさせる程に軍帽の唾に目を伏せて鎮守府に取り残されたように佇む司令が原因だろうか。 「のわき。ぼくのやっていることは正しいのかな? みんな、ぼくをわるく思っていないかな?」 いきなり何を言い出すんですか、司令は。 司令が執り行う采配は、司令のお父上から見事に受け継いだ立派なものではないですか。 あの元司令も、今の司令にも、誰も歯向かう輩はいません。 日頃から"流石です"などと口癖とも疑うほど司令を褒め称える私ですけど、 それは別に司令をおだてて言っているわけではないのです。 心から出た感想を飾らずそのまま述べているだけなのです。 「逆に聞きますが司令。司令はこんなことをさせるあなたのお父上を恨んでいますか?」 「ううん。お父さんは体が弱いし、ここのみんなも大事だから。どうして?」 この司令がこうして重い責務をしっかりと認識した上で背負っているのもまた、 年相応な感情から来る動機が原動力なのだろう。 駆逐艦である私でさえ見下ろす小さな体躯の少年に心配をかけてしまうなど、私たちは、あの元司令は、情けない。 しかし、元司令や司令の采配があって私たちはやっと敵に立ち向かえるのだ。 逆に司令の運命を捻じ曲げたであろう元司令や私たちを恨んでいないか心配だったが、杞憂のものだったようだ。 私は安堵し、次いで司令も安堵させるために、司令の低い目線と自身の目線を合わせるために私は屈む。 さっきまでの艦隊の皆を叱っていた司令の顔はどこへ行ったんでしょうね? 「私たちはあなたのお父上を慕っていましたし、そのご子息である司令もまた慕っています。何も心配はいりません。 恥ずかしいのか誰も口には出しませんが、今の司令がいるこの鎮守府で生かされて、皆幸せに思っていますよ」 「ほんと?」 …………。 「のわき?」 「はっ……。本当ですよ。ええ、本当です」 司令。 即答できなかった野分をお許し下さい。 司令の疑問への返答は一寸の偽りもないのですが、違うのです。 恥ずかしながら野分は不安げな顔でこちらを見上げる司令に見蕩れてしまいました。 司令は大真面目に私たちのことを考えてくれているのに真面目にならず変なことにうつつを抜かす私をお許し下さい。 それでも司令の精神状態の荒波を無くすためと我に返れば、 時間をかけずに索敵するよりも素早く言葉を組み立てることができるのです。 「司令のような子に戦争へ協力して貰わなければならない点は私たちが間違っているでしょう。 ですが、司令が私たちにしていることに何一つとして間違いはありません」 「むっ、司令官をコドモ扱いするならけんぺいさんにおせっきょうしてもらうよ!」 「失礼しました。司令はおしゃまさんですよ」 「それ使い方違うー! 司令官をバカにするのわきなんかドックでしずんじゃえ!」 「はい。司令は大丈夫ですか? 一人で寝られますか?」 「だからコドモ扱いしないでよ!」 自身が手傷を負っていることも忘れて執務室を出た。 自身の扱いがおざなりになるくらい、司令との掛け合いを楽しく、幸せに感じてしまう。 しかし司令のいる空間とは隔絶された廊下に出た途端、溜まっていたであろう疲労が一挙に押し寄せた。 私は扉越しで司令に気づかれることのないように小さく嘆息し、遠い遠いドックを目指した。 433 名前:2-683 山城[sage] 投稿日:2015/03/13(金) 13 10 46 ID zciMEekA 次 「ううっ……、ふこうだわ……」 今自分の目の前で跪いてしまっているこの小さな少女は、戦艦(仮)山城だ。 あるいは戦艦(予定)山城と称しようか。 此奴も艦娘の一隻なのだが、此奴は他の艦とは事情が異なる。 山城の微かな悲鳴で振り返ってみれば、鼻緒が寸断された高下駄が一つ山城の足から別離を遂げてしまっていた。 鼻緒が切れる程山城は建造されてからこの下駄に波瀾万丈な歴史を刻んで来た訳でもなく、 ましてや山城は物を粗雑に扱うような子でもない。 だから自分は今日も唯々この山城を哀れむだけなのだが、自分はそれよりも山城の言葉が気に障った。 「こら。どこでそんな言葉を覚えてきたんだ。全く」 「だってふこうなんだもの……」 自分は屈んで山城を咎めたが、山城は訂正しなかった。 目線を合わせようとしても、幼い為か山城は気付いてはくれず地に視線を落とすばかり。 "不幸"等と言う言葉を教えたのは一体どこのどいつだ? 全くけしからん。 でも山城は常に自分の目の届くところに置いているし。 彼奴でもない此奴でもないと艦の写真付き名簿がモンタージュのように頭の中で次々と切り替わり、 結局絞られた心当たりは名簿ではなく自分の書斎となった。 ……幼くして文学に関心を寄せるのはいいが、短所もある事に気付かされた。 然し時既に遅し。 「嗚呼もういじけない。明石に下駄を直して貰うぞ。ほら」 「……ん」 体を回転させて背中を向けてやると、軽い重みがのし掛かった。 両腕で臀部を支え、転がっている高下駄を拾い上げ、自分らは明石の元へ向かった。 これまた山城に言わせると"不幸"な事に、生憎鼻緒の在庫が切れてしまっているらしい。 鼻緒が切れ在庫も切れ、次は自分の靴紐も切れるのかもしれないなと皮肉った。 勿論心の中でだ。山城の前で明るくない話は避けたい。 暇でもない明石に履物屋へ遣いに行かせるような図太い神経を持ち合わせていない自分は己の足で向かうことにした。 何も非はない明石に申し訳なさそうに在庫切れを告げられて更に落ち込んだ山城を何とかすべく、 自分は肩車で誤魔化す処置を取り、頭上の山城に声をかける。 「どうだ山城。いい眺めだろう」 「うん……!」 肩車とは体重の軽い幼子の特権である。 自分も含め平和な幼少期を謳歌してきた者なら、 今山城が味わっている気分を誰もが共感し懐かしむことができるだろう。 例に漏れずこの山城も戦から隔絶される生活をさせている為、感性はまだまだ健全であったようだ。 自分は安堵した。 行き倒れた幼子のような雰囲気を醸し出し、 あまつさえ突如として"不幸"なる単語を使い出した数十分前は膨大な不安に押し潰されそうになったものだが、 非常に手短な感想を述べる山城の声色には元気が戻ってきていた。 先程の似合わぬ面影がころりと消え失せ、年相応に喜ぶ山城の軽い重みを両肩で感じながら歩みを進める。 机に向かっている時間が多いのと運動が好きではない山城に合わせた行動サイクル故、 こうして散歩がてら出歩くのも貴重な運動だ。 流石に履物屋からも鼻緒を取り上げる程神は鬼ではなかったようだ。 神はあくまでも神である事を信じよう。 山城が気に入った柄の物を幾つか購入できたので、帰路に着く。 交通量が少ない故に舗装されていない田舎道をやはり肩に山城を乗せて歩いてゆく。 遠くが霞んで見えない都会の景色とは全く異なるので、排気ガスの臭いがない。 そしてあの履物屋も海から離れている場所ではないので、慣れた潮風が心地良い。 ……心地良い。少し風が強くなってきたが。 然し私の軍帽は山城が抑えている為に吹き飛ばされる事はない。 はっはっは神め潮風め。海軍の人間をこの程度の風で吹き飛ばす等甘いぞ甘 「いたぁい!」 どうした山城!! 自分は肩車する山城の両脇を両手で抱き、至極慎重に着陸させる。 高下駄のない方の足袋が汚れてしまったが、そこまで意識は回らなかった。 すまん。帰ったら洗濯してやるから、我慢してくれ。 山城は眉を顰めて目を強く瞑っていた。 「目に……すなが……ぐすっ……」 おお神よ。やはり貴方は実は鬼ではないのでしょうか。 舗装されていない田舎道も良い事ばかりではないようだが、それにしてもこれはあんまりだ。 いたいけもないこの少女が一体この地に何をしたと言うのですか。 この少女に涙を浮かべさせる権利が貴方にあると言うのですか。 せめてやるならこのわたくしめを選んで欲しかったです。 待て。山城を肩車した状態で自分の目が潰されてしまっては山城が危険だ。 どちらにせよ神は外道だ。畜生だ。超弩級の畜生だ。超弩級戦艦扶桑も真っ青だ。 「こら擦らない。目パチパチしてみなさい」 神へ反逆する呪詛を頭の中で並べ立てている場合ではなかった。 当然の道理だが山城は瞑った両目のうちの片方を手で擦ろうとしたので、自分はその片手を押さえる。 すまん山城。だがこれもお前を思っての事なんだ。 恨むなら私でなく神を恨んでくれ。 怒りの矛先が私に向けられれば私は死んでしまう。 「……~~!」 山城は瞼を痙攣させながらも、必死に、懸命に、健気に瞬きを行ってくれた。 然し成果は振るわないらしく、幾度も繰り返そうが改善しなかった。 勿論自分は成す術もない。 「……おんぶにするか」 非常に不本意だが諦めの選択を選んだ私は背中を向けて屈んだ。 すると、縋り付くようにやや強めに衝撃が背中を走った。 山城が私の背中にしがみついた事を確認し、自分は打って変わって落ち込んだ調子で歩き出す。 山城は私の背中に横顔を当てている。 未だに瞬きを繰り返しているのだろうか。心配で心配で胸が張り裂けそうだ。 臀部を支える両腕も不調になったようで山城が若干重く感じる。 「すん……、やっぱりふこうだわ……」 「ほらもうそれは言わない」 購入した鼻緒を明石の元へ納品してきた。 何事もなく無事に帰宅――家ではないが――できると言う 自分の期待をあっさり裏切った神への呪詛を頭の中で書き連ねる執務も忘れ、 夕暮れの茜色に染まる執務室の扉を開けた。 いつの間にやら静まり返っていた背中の山城へ声をかける。 「着いたぞ山城」 「…………」 「山城?」 どうした事か返事がない。 もしやと推測し来客用のソファに山城を静かに降ろして顔を確認すると、 山城の瞼は先程とは打って変わって安らかに下ろされていた。 眉を顰めている様子はない。目に入った砂は落ちたのだろうか。 「すー……すー……」 「……やれやれ」 自分は山城が目を覚まさぬよう割れ物を扱う手付きで横にさせ、土で汚れた足袋を静かに傷のない足から抜き取った。 それから眠る山城の横に腰を沈め文庫本を開いた。 まだ夜が来てもいないのにこうして本を開ける程度の執務量だから、山城の世話ができる。 この山城が生まれたのが敵の少ない海域沿岸に建つこの鎮守府でよかった。 その点は不幸でなく間違いなく幸運だった。 そもそも当初は工廠の妖精に戦艦山城を建造するよう命令したのだが、 誕生した姿はこのように特殊なものとなってしまった。 妖精が言うには設計図を元に建造したのに、何らかのミスなのかこのような結果になってしまったとの事。 建造したはいいがどうやらこの山城に戦闘能力は備わっていないらしく、重さで艤装もまともに持てないらしい。 原因を究明し、通常仕様の戦艦山城に改造したいのでその目処が立つまで待って欲しいとお願いされ、 その所為で止む無く私が世話を焼いている訳だ。 然し嫌々やっているわけではない。 幼子の扱い方を知らない当初こそ困ったが、今は違う。 もしかすると実は自分は子煩悩なのではないかと疑う程度には慣れ、寧ろ好んでやるようになってしまった。 何せこの山城、実に手がかかる。 今日も起きたように他の艦と比較して不運な出来事が不自然に多いのだ。 戦とも関わっていないのに、だ。 なので自分は山城が降りかかる不運から逃れるように目の届く場所に居させているのだ。 それなりの苦労はある。 あるが、山城がふとした時に見せてくれる無垢で無邪気な笑顔に自分は撃沈されてしまったのだ。 不甲斐なく不運の雨から完全に山城を守れている訳ではないが、 兎に角、自分はこの山城が笑顔を二度と見せてくれなくなるような事態を避けるために動いているのだ。 そして自分だけでなく他の艦娘共も。 今日の山城の不運によって損じた高下駄も、目を覚ます頃には明石が新品同様の状態にしてくれている筈だ。 音を発しない工廠は、恐らく閑古鳥が止まっているであろう。 暖かな夕暮れの陽と憑き物のない山城の寝息が、私の意識レベルを低下させてゆく。 一旦背伸びして栞を挟んだ本を目前の机に置き、山城が眠り続ける柔らかいソファに改めて体を沈めた。 …………………… ………… …… 「ふぁ……、てーとく?」 「……すぅ」 「……ありがと……」 ちゅ。 440 名前:2-683[sage] 投稿日:2015/03/13(金) 13 21 06 ID zciMEekA 以上! 艦娘と幼馴染の場合の話を書いてみたよ 特に山城については不幸に少しずつ曝され一見性格が暗くなっていくロリ城を提督が語彙を絞るように励ましつつ それでも無邪気さが薄れていくがたまに昔の無垢な面を垣間見せる成長した山城を見たいがなかったので書いた 441 名前:名無しの紳士提督[] 投稿日:2015/03/13(金) 16 55 04 ID SQzCpRz6 GJ! 戦艦娘が小さくなるシチュはよく想像してただけに嬉しいです。 これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3822.html
前ページ次ページゼロな提督 トリステイン魔法学院の朝は学生達の起床から始まる、と学院の人は言う。 実際には下男やらメイドやらが日の出前から起床している。 さて、当然のことなのだが、ヤンもルイズの執事として働くと言った以上、日の出前か ら起き出して主たるルイズを起床時間に起こさねばならない。 同盟・帝国を通じてヤンの異名は数多い。が、振り返ってみるに、その中に「寝たきり 青年」というものがあったような気がする、と考えていた。朝食の時間ギリギリになった 頃に、ルイズと二人で寝ぼけた顔をつきあわせながら。 のぼり始めた太陽を見て、慌てて飛び起きる二人。 第3話 執事? ルイズ曰く「貴族は下僕がいるときは自分で服を着たりしない」とのことで、ヤンは下 着姿のルイズの服を着せてあげねばならなかった。帝国の貴族は知らないが、ルイズはト リステインの貴族。その執事をする以上はやむを得ない、というわけでヤンは渋々ルイズ にブラウスを着せる。 自分を奴隷にしようと目論んだ魔法使い、歪んだ選民意識と鬱屈した劣等感を抱かざる をえなかった貴族の少女…と思ってはいたが、見た目はユリアンよりずっと年下の可愛い 小柄な女の子。最初にルイズが16歳と聞かされたとき、思わず本人に真顔で聞き返して 足を踏まれてしまった。 そんな彼女の着替えを手伝っていると、ふと、自分に娘がいたらこんな感じか…と想像 してしまう。ユリアンは親子というには年が近かったが、ルイズの外見は丁度自分の娘く らいの年齢に見える。 素直でしっかり者で家事の天才ユリアンが兄、我侭で意地っ張りで泣き虫な妹ルイズ、 気丈で気が利くけど料理はぜんぜんだった妻フレデリカ、そして粗大ゴミ扱いされるぐう たらな自分。一瞬、そんな妄想にふけってしまう。 でも自分の娘は遺伝学上、絶対にピンクの髪にはならないので、髪を染めるかも知れな いけどそんな色に染めないで欲しいと祈ってるので、とっても無理のある光景だなぁと、 苦笑いしてしまった。 「ちょっと、なにボサッとしてるのよ」 ルイズが、手を止めて遠くを見つめるヤンを見上げていた。 「…ん?あ、ああ、すまない。ちょっと家族のことを思い出してね」 「家族?あんた、家族がいたの?」 「そりゃいるよ。僕にはもったいないほど美人で優しい妻に、養子だったけどとても素直 で真面目で、家のことを任せっきりだった息子がね・・・」 いいながらも、視線はだんだんうつむいていく。 それを見上げているルイズの表情も、だんだんと陰が広がる。 「・・・会いたいの?」 「ああ・・・会いたいな。本当に、父としても夫としても大した事をしてやれなかった。 それでも、多分、僕が急にいなくなって悲しんでいるんじゃないか、と思って」 「…そう」 ルイズはプイとそっぽを向いて、それ以上何も言わなかった。 ヤンも、黙々と彼女に制服を着せた。 ルイズが部屋から出たと同時に目の前の扉が開き、出てきた生徒達が挨拶をする。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 「そしておはよう、使い魔さん♪」 キュルケはルイズの後に扉から出てきたヤンにウィンクした。 「おはようございます。ミス・ツェルプストー」 ヤンは、キュルケに礼儀正しく礼をする。 「あらあら、相変わらず他人行儀ねぇ。キュルケって呼んでいいわよぉ」 色っぽく大きな胸とお尻を揺らしながら、キュルケはヤンに歩み寄る。 そのしなやかな指は学者肌の頬に伸びていく。 ペチッ ルイズがキュルケの手を払いのけた。 「あんたねぇ、毎度毎度いい加減にしなさいよ!」 「あーら、いいじゃないの。ちょっと親交を深めようと思っただけよぉ」 キュルケのわびれない態度に、更にルイズはムキになって怒り出す。 「深めなくていいわよっ!ウチのご先祖様達みたく、今度はツェルプストーに使い魔盗ら れましたなんて、絶対許さないわっ!! 「やーねぇ、ウチのひい祖父さまがあなたの所のひい祖父さまから奥さんを奪ったり、ひ いひい祖父さまが婚約者を奪ったり、みたいな事はしないわよぉ。 で・も!その人はあなたの恋人でも何でもないもの。だからぁ、恋をするのは自由なの よねぇ~♪」 甘い響きの言葉と共にじわじわ近寄ってくるキュルケに、ヤンはじわじわと後退してし まう。 「行くわよ、ヤン」 ルイズはキュルケを無視してヤンを引っ張っていった。 ヤンがルイズの執事を始めて数日。 朝食に向かうヤンにキュルケが迫り、ルイズが割って入るのが始まったのも数日。 ヤンの新しい生活が今日も始まる。 ヤンはルイズの部屋の掃除を終え、かごを抱えて学院の水くみ場の隅に来た。 「おはようございます」 「あら、おはよー」 「なんだい、相変わらず馬鹿丁寧だネェ。ここにゃクソッタレの貴族どももいないんだ。 もうちと気楽にやりなよ!」 洗濯場には、主に貴族の衣服を持ち寄るメイドたちがいた。 ヤンもルイズと自分の衣服を入れたかごを洗濯場の隅に置く。 ヤンの仕事の一つにルイズの衣服、特に下着の洗濯がある。 養子であるユリアンが彼の家に来たとき、彼はゴミの中に埋もれて生活していた。彼の 部下たちは上官を指して「ユリアンがいなけりゃヤンは生きてけない」「生活無能力者」「冬 になったら春まで冬眠してるさ」等の、とても親愛に満ちた、そして正しい評価を下して いた。その上、ヤンの時代に機械を使わず洗濯する人などいるはずもない。だから最初、 彼には洗濯の仕方も分からなかった。 目の前の洗濯物と、10倍の敵艦隊。どっちが手強いだろうか そんな平和このうえない悩みについて、ヤンは真剣に悩んでしまう。そんなことを考え ながら洗濯板でシルクの下着をごしごし洗い、ぼろぼろにしてしまうのだった。 洗濯を終え、部屋の掃除が済んだら、すぐに学院長室へ向かう。 コンコンとノックすると、カチャッと鍵が外れる音がして、「どうぞ」という女性の声で 中へと促された。 学院長室には秘書のロングビルしかいなかった。 「オールド・オスマンはどちらへ?」 秘書は凛々しく立ち上がり、しなやかな足取りでヤンの前に来る。 「今はトリスタニアへ行かれていますわ。代わって私が講義をして欲しい、と依頼されて おります」 「そうですか。ですが、あなたの仕事はよろしいのですか?」 「ええ、そのための時間は頂いておりますから。とはいえ、私も教師ではないので大した 事はお教えできません。故郷のアルビオンの地理や歴史を簡単に、だけですが、よろしい ですか?」 「いえいえ!教えていただけることなら何でも結構です。何しろ僕はこの世界のことを何 も知りませんから」 「わかりましたわ。それではこちらへ」 ロングビルはヤンと机を挟み、ハルケギニアの地理と歴史と文化、特にアルビオンにつ いての授業を行った。 ルイズが授業を受けている間、ヤンはこうやってハルケギニアについて様々な知識を学 ぶことにした。彼はルイズが受けている授業についても興味はあったのだが、さすがに魔 法のことは専門外。それにこの世界の地理政治文化、何より歴史への興味の方が上回って いた。 そしてオスマンは、彼を召喚して無理矢理使い魔にしてしまった負い目から、教育者と しての立場からも、彼の学問を修めたいという要望を断れなかった。 「…で、どうしてその『白の国』アルビオンは、宙に浮きっぱなしなんですか?」 「え?いえ、さぁ・・・どうしてなんでしょうね?大陸の中に巨大な風石があるのでは? なんて言われてますが、土メイジがいくら探査しても見つからないので、それは違うと思 いますが。 やはり風の精霊の力かと思いますわ」 トリステインと同面積の浮遊大陸アルビオン、と聞かされたヤンが頭を捻ってしまうの と同じように、浮いている理由を尋ねられたロングビルも首を傾げてしまう。 ヤンの知的好奇心は、まるで外の世界を初めて見た子供のようにあちこちへ駆け回って いる。何の疑問もなく暮らしている普通の人々には、回答に困ってしまうものも多い。も う少し自然科学に興味を持ってくれれば、文明も発達するのになぁ、とヤンは残念に感じ てしまう。 もっともハルケギニアの人々からしてみればどうだろうか。ヤンの世界の人々を「精霊 を恐れぬ不心得者どもで、魔法の力を無視する盲目の蛮人」と嘆き軽蔑するのではないだ ろうか。 そんな事を考えるだけでもヤンは想像力が遙か遠くへ向けて羽ばたいてしまう。 お昼前になり、ルイズ達生徒と同じように、ヤンの授業も終わりとなった。 「あ、ミスタ・ヤン。こちらがオールド・オスマンから預かった図書館の使用許可証です。 学生が入れる場所なら入れますので。司書にも話を通してあります」 「ああ!やっとできましたか。助かります!ありがとうございます!」 受け取ったヤンは満面の笑みで頭を下げた。嬉しさのあまりダンスをしそうになった。 だが、相手がロングビルしかいなかったことと、以前嬉しさのあまりユリアンとダンスを したのを部下たちに見られて笑われたのを思い出し、なんとか思いとどまった。 お昼になり、アルヴィーズの食堂横にある厨房で、ヤンは食事をとることにした。 「よ~お。来たか」 「お邪魔します、マルトーさん。いつもすいません」 頭を下げて厨房に入ってきたヤンを迎えたのはコック長のマルトー。でっぷりしたお腹 を揺らしながらヤンの肩を叩く。 「まぁったく、そうかしこまんじゃねぇよ!同じ平民同士、困った時はお互い様さ!あん たの食事の事はヴァリエールのお嬢様からも頼まれてるからな!」 料理を厨房の隅の机に持ってきたのはシエスタ。 「はい、ご飯ですよー。でも、こんな簡単なモノで良いんですか?」 「ええ、ようやく図書館の使用許可が下りたので、急いで行こうと思うんです」 机の上に並べられたのはサンドイッチと水。それを大急ぎで口に放り込み、すぐに立ち 上がる。 「ふぅ、有難うございました。ところで何か手伝える事はありますか?」 手伝う、とヤンに言われたマルトーは、慌てて顔を横に振った! 「あー、いやいや、大丈夫だ!それよりあんたは早く本でも読んで、色々勉強した方がい いぜぇ」 「はぁ、そうですね。この前のような失敗をしないよう、この国の事を学んでくるとしま す」 ヤンは恥ずかしげに頭をかいて、そそくさと厨房を出て行った。マルトーは他のコック 達に肘で突かれ、ちょっと言い方が悪かったかと頬をポリポリ指でかく。 先日、ヤンは食事の礼にと思い、厨房の後片づけを申し出た。洗い物を頼んだ後、マル トーはかまどの火を消しといてくれ、と何気なく言ってみた。 次の瞬間、ヤンはかまどの火に水をかけて消そうとしたのを、シエスタに羽交い締めに されて止められた。 かまどの火は、くべてある薪を火バサミで壷に移し、壷に蓋をして消す。かまどに残っ た小さな火には灰をかける。もし、火がくべられたままのかまどに水をかけたら、爆発的 に吹き上がる水蒸気に灰が巻き上げられ、厨房が灰だらけになる。水浸しになった灰は、 ただの泥。火をつけるのに邪魔なので全部取り除かねばならない。 だが、ヤンが生活無能力者とかどうとか言う以前に、宇宙で商船や戦艦やイゼルローン 要塞の中でずっと生活してきたヤンに、かまどの使い方は分からない。彼にとって火を消 すとは、砲撃等で発生した火災を消火する、ということだ。その消火も大概は緊急消火ボ タンを押すだけ。 そして、一応士官学校でサバイバル技術を学んだはずなのだが、実技が赤点ラインを往 復していたヤンに、そんなモノを期待するのは無茶としか言いようがない。もっとも、た とえサバイバル技術を完全に身につけていたとしても、「薪を小さく割るには斧を振り上げ るより鉈(なた)がいい」なんて事は知らない。鉈なんていう、ナイフとも包丁とも斧と も異なる、軍用ではない日用品としての刃物なんて、彼には使う事も見る事も無いのだか ら。 科学の宇宙で生きてきたヤンにとって、この中世魔法世界ハルケギニアは毎日がサバイ バルだ。意地を張ってルイズの下を飛び出したらどうなっていたやら、想像しただけで寒 気がしてしまう。 彼は、自分はこの世界では赤ん坊並の知識しか持ち合わせていないのだと、思い知らさ れていた。 「これが立体TV辺りなら、こういう日常生活は全部カットされて、『科学知識を駆使して 大成功の連続!』という事になるんだけどなぁ…現実って厳しいんだな、ファンタジーな 魔法世界なのに」 図書館に向かいながら、魔法世界の厳しい現実に打ちひしがれつつも感心してしまうヤ ンだった。 図書館は本塔にある。門外不出の秘伝書、魔法薬のレシピ、教師のみ閲覧を許された区 画『フェニエのライブラリー』もある。始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以 来の歴史が詰め込まれている、と言われている。 当然、平民立ち入り禁止。入り口の若い女性の司書がメガネ越しに出入りする教師や生 徒をチェックしている。司書はヤンを見ると、不審な顔はしつつ、咎める事はなかった。 再び視線を読んでいた本へ戻す。 一週間くらい前にどこからか召喚された平民使い魔、食堂では主を擁護するため居並ぶ メイジ達を前に怖じ気づく事無く頭を下げた人物、そういう話しは彼女も知っている。だ が何故に突然、この正体不明の人物に図書館使用許可が下りたかまでは知らない。内心、 本が盗まれたらどうするのか、という不安を感じてはいたが。 そんな司書の不安は気にせず、ヤンは足取り軽く図書館に入った。 だが、入った瞬間に頭を抱えてしまった。 本塔の大部分を占める図書館は、高さ30メイルの本棚が壁際にずらりと並ぶ光景は壮観 である。壮観なのはいいのだが、ヤンには上の本が取れない。昼休みなので他の生徒も教 師もいるが、彼等は『フライ』で本棚の間を飛び、『レビテーション』で本を取っていく。 もちろんヤンにはどちらも出来ない。 つまり彼が読めるのは下から数メイルの間にある本だけ。彼は遙か上を飛ぶメイジ達へ、 おあずけを喰らった子供のように羨ましげな視線を送った。 「…と言っても、とりあえず下の方の本だけ読めれば、今はいいんだけどね」 なんて負け惜しみじみた独り言をいいつつ、本棚の下の方の本から目的のタイトルを探 した。下の方にある本、即ち魔法を使わず出せる本、ということは使用頻度が多いので取 り出すたびに毎回魔力を消費していられない、基本的かつ重要な本。 「ああ、あったあった、これだな…」 彼が取り出した本のタイトルは、『ハルケギニア全土図』。 つまり、地図。 放課後、ヤンは厩舎前にやって来た。 「遅いわよ!どこほっつき歩いていたの!?」 そんな愛情に満ち足りすぎて涙が出てきそうな言葉を投げかけるのは、乗馬用のムチを 手にしたルイズ。彼女は約束通り、放課後にヤンへ乗馬を指南していた。 「ごめんごめん、図書館で本を読んでいたら遅くなってしまって」 「ふん、まぁいいわ。さ、早くやるわよ!」 と言ってルイズは下男に厩舎から一番大人しい馬を連れてこさせる。 大人しい馬、のはずなのだが、ヤンはこの馬から落ちたり振り落とされた記憶しかない。 そんな乗馬初心者ヤンの不安は、ルイズには信じられないような基本的なものだ。 「あのねぇ、落馬は馬が何かに驚いて暴走した場合が多いんだけどね。乗っている人の不 安を感じて馬も不安になるから、なんでもない音とかで驚いてしまうのよ。 乗馬を習いたいって言ったのはあんたなんだからね!もっとビシッとしなさいよ!!」 「い、いや、そう言われても、なぁ…」 初日、近付くのも怖かった。 鞍を手でつかみ、鐙に左足をかけて登ろうとしたら、鐙がフラフラ安定せず、鞍のつか み所も悪くて、落ちた。 どうにか乗ったら、即座に振り落とされた。 周囲に集まってきたメイドやコックやら平民達や、通りすがりの貴族達がクスクス笑っ たり爆笑したり。その度に、教えてるルイズ自身も恥ずかしくて顔から火が出る思いだ。 「全く・・・また、あたしが先に乗るから、あんた後ろにのんなさいよ」 「う、うん。お願いするよ」 「早く、まずは馬に慣れてよね。でないといつまで経っても教える事自体が出来ないわ」 「…面目ない」 そんな感じで、前に乗るルイズに怒られながらヤンはおっかなびっくり乗馬を習い続け ていた。 夜、ルイズの部屋。 魔法のランプが照らす室内に、ティーカップを前にした浮かない顔の二人。 ルイズは鏡台の前に座り、財布の中身を広げてため息をついた。 背後では床に直接胡坐をかいていたヤンが、ひざの上に広げた本を見ながら、ルイズに 負けないくらいの大きなため息をついた。 じろりとルイズが振り返る。 「…何よ」 「そっちこそ、どうしたんだい?」 「あんたの入れたお茶が不味いのよ」 「…うん、僕もそう思う」 ヤンが入れたお茶。それは、二人揃って一言、不味い!と言い切れるものだった。 「修行しなさいよね」 「心得ました、ミス・ヴァリエール」 しばし視線を交じわせた二人は再び同時に、さらに大きなため息をついてしまった。 またも二人の視線が交わる。 先に口を開いたのはルイズ。 「予想はつくでしょ?」 「まあね…僕の治療費、そんなに高かったのかい?」 「オールド・オスマンが言ってたでしょ?大きな家が一軒買えるって」 ルイズは財布をひっくり返すが、手のひらの上に落ちてきたのは銀色の貨幣数枚のみ。 「これが骨折とか、ただの怪我だったら、もっと残ったでしょうけどね・・・」 「そうか…本当に、苦労をかけるね」 「いまさら、何よ。 それで、そっちは何なの?地図なんか眺めて」 ヤンの膝の上に乗せられていたのは、昼間に図書館で借りてきた本『ハルケギニア全土 図』だ。 「うん、まぁ、簡単に言うと、僕の国とトリステインの距離とかを知ることができないか、 と思ったんだけどね」 その言葉を聴いて、ルイズの顔は一瞬曇りが広がった後、すぐに晴れ渡った。 「ふーん、その様子だと、どうやらあなたの国は相当遠いみたいね」 「遠いなんてもんじゃないよ…自力で帰るのは、ほとんど不可能だ」 「そうなの?ところで、どのへんなのよ」 と言ってルイズは地図を手に取り床に広げてみる。そこにはハルケギニア5国と、その 東の聖地辺りまでが書かれている。 「その地図には載ってないんだ」 「へえ~、それじゃ、聖地の向こう側なのね。ロバ・アル・カリイエなんだ」 押し隠した嬉しさを含むルイズの言葉に、ヤンは残念そうに首を横に振る。 「なによ、それよりまだ遠いの?いったい何処なのよ、それ」 「何処といわれても、ハルケギニアでは知られていない場所だよ」 「ふーん。ちなみに、故郷はなんて名前?」 「故郷?故郷かぁ~・・・」 天井を見上げて、しばし思案してみる。さて、自分の故郷といえる場所はどこだろうか。 ふとルイズを見れば、ちょっと興味ありげなようで、ヤンに近寄ってくる。 彼は、なるべくハルケギニアの人でも分かるような言葉で語った。 「子供のころは、旅商人の父に連れられて船に乗っていたよ。いろんな場所を巡ってきた。 だから故郷と言える場所はないんじゃないかと思う」 ルイズは床にペタッと座って、ヤンの思い出話を聞き始める。 「16歳になる直前、事故で父が死んでね。たまたまハイネセン…ああ、ハイネセンは僕 がいた国の首都だよ。士官学校の戦史科に入学できたので、あとはずっとその士官学校に いたんだ。 でも、実際には最前線のイゼルローン要塞にいた頃が、一番思い出深いなぁ。もしかし たら、その要塞が僕の故郷かも知れないな」 「ふぅ~ん・・・でも、知らない名前ばっかりねぇ」 「そりゃそうさ。僕だってハルケギニアもトリステインも知らないよ。でも、もしかした ら…と思ったんだけどね。過去に僕らの世界と接触した跡でもないものかと」 そういってヤンは切ない視線で地図を見つめる。 「で、方向で言うとこの地図のどっち?」 ヤンの前に地図を置いて尋ねてくるルイズだが、ヤンは首を振った。 「方向は分からないよ。なにせ、このハルケギニアの地図を見て分かったんだ。ここは僕 らの国では、伝説とされる世界だって」 「伝説?」 ルイズはキョトンとして聞き返す。自分の住んでる世界って、伝説になるほど特別だっ たのかしら?という感じだ。 だがヤンは、途方に暮れたように天井を見上げてしまう。 「そう、伝説。存在自体は誰でも知ってるけど、決して行く事の叶わない世界。虚数の海 の彼方にある、別世界・・・パラレル・ワールドさ」 ヤンはジッと地図を見つめた。 同盟の公用語と多くの共通点を持つ言語で記された、地球のEU地域そっくりのハルケ ギニアを。 次の日の朝、やっぱり二人は寝坊して大慌て。 「全くもう!なんて役に立たない執事なの!?ほらブラウス取ってよ!」 ヤンは慌ててタンスからブラウスを引っ張り出す。いや、本人は慌ててるつもりらしい が、どうにもハタ目には慌ててるという雰囲気がない。実際、バタバタとブラウスを引っ 張り出し、ショーツ一枚で教科書を揃えるルイズに手渡しているにもかかわらず。 「いやぁ、人は僕を『ごくつぶしのヤン』『無駄飯食いのヤン』と呼んだものさ」 「自慢になるかー!!」 慌てている風にみえないのは、この減らず口のせいかもしれない。 悪運強く、どうにか朝食の時間には間に合った。二人とも早足で食堂へ向かう。 早足ながらも、ルイズはふと思い出したように口を開いた。 「ねぇ、昨夜言ってた話だけど、伝説っていうくらい遠いんじゃ、もう助けとかもこない わよね?」 「いや、う~ん、それが分からないんだ」 ヤンがウンウン唸りながら寮塔を出る。外には同じように寝坊したらしい学生達が早足 で食堂へ向かっている。 「でも、自分で言ったじゃない。行く事が出来ないって」 「ああ、いや、実際には『帰って来れない』という事だと思う。とは言っても、僕の勝手 な想像なんだけど」 「帰って来れない?」 「うん。実際、『虚数の海』は行くのは簡単なんだ。でも帰ってきた人がいないんだ」 「なんだか、すっごい難所なのねぇ…そのキョスウノ海って」 ルイズは面白い話を聞けて満足したようで、上機嫌で食堂へ入っていった。 ルイズの頭に浮かんでいたのは、難破船がゴロゴロする嵐の岩礁。 だが、ヤンの頭に浮かんでいるのは、アムリッツァ。核融合の超高熱の中、無数の原子 が互いに衝突し、分裂し、再生し、膨大なエネルギーを虚空に発散させる恒星の名だ。 このアムリッツァ星系において、かつてヤン率いる艦隊は敗残兵の一員となった。補給 路を寸断され、敵地に孤立し、全滅の危機にすらあった。実際、あと僅かの所で退路を断 たれそうにすらなっていた。 この時、敵艦隊に襲われた戦艦がパニックを起こし、大質量近くにも関わらずワープし た。進路算定も不可能なまま亞空間に跳躍した後どうなるのか?それは、死後の世界に定 説がないのと同じく、誰も知らなかった。 ちなみに、この時起きた時空震に退路を断とうとしていた敵艦隊が巻き込まれて混乱、 このスキを突き、ヤンの艦隊は撤退に成功した。 もちろんヤンは、大質量付近のワープが即ちパラレル・ワールドへの転移、と考えては いない。もしそうであるなら、帰還者も、別宇宙からヤンのいる世界へワープして来る者 もあるはずだから。帰還者も別宇宙から来る者もいないのは、本来はパラレル・ワールド へは飛べない、ということ。 だが、ヤンは来ている。それは即ち、来る方法はあるということ。要はそれに気付くか どうか、という点。 「期待は薄いなぁ・・・」 ルイズの背中を見送りながら、ヤンはそれでも帰る方法を考えていた。 「ハァ…それにしても、どうしたものかなぁ」 溜息混じりに学院長室に入ると、今日もロングビルしかいなかった。 「まだオールド・オスマンはトリスタニアですか?」 「いえ、今はミスタ・コルベールの所ですわ」 机の上に本を広げながら、ロングビルが事務的に答えた。 「そうですか。それじゃ今日もあなたが?」 「ええ、今日は、あなたの質問にも答えられるよう、ちゃんと予習もしてきましたわ」 見れば机の上の本には、沢山のしおりやタグが付いている。 「あはは、どうもすいません。秘書の方にこんなことをお願いして」 「構いませんわよ。私にとっても勉強になりますから。それでは今日は始祖ブリミルにつ いて・・・」 そんな話をしつつ、ヤンは今日もハルケギニアについて学ぶ。だが、その表情が冴えな い事に、秘書は彼の入室時から気付いていた。 「もしかして、ホームシックですか?」 問われたヤンは、ハッとして顔をあげた。 「あ、うん、まあ、それもあるんです。でも今目の前の問題としては…恥ずかしながら、 お金の事なんです」 「お金…ですか?」 ロングビルは、あまりにも意外な事を言われたかのような顔で、ヤンをみつめた。 「ええ、何しろミス・ヴァリエールは僕を蘇生するために全財産を払ってしまいましたか ら。ヴァリエール公爵からの次の仕送りまで、どうしたものかと・・・あの、どうしまし たか?」 今度はヤンが意外そうな顔でロングビルを見つめた。 彼女は、信じられないものを見るかのように、メガネを何度も直しながらヤンを見てい たから。 「あなたが、お金がないんですか?」 「ええ、ありませんよ。私は財布を持たずに召喚されましたら。もちろん私の財布には1 ドニエたりと入っていませんでしたが」 冗談を言ったつもりだったヤンだが、彼女は笑うどころか怪訝な顔でヤンを見つめ続け ている。 そして、驚きと怒りの顔へと瞬時に変化した。 「あんのエロオヤジどもぉ!!」 気品あるロングビルの下品な叫びに、今度はヤンが驚いた。 ジャン・コルベール。 二つ名は「炎蛇」。火系統の魔法を得意とするトライアングルメイジで、トリステイン魔 法学院の教師。魔法を特に火系統の更なる活用法を発見しようと日夜研究している。 そして彼は今日も火の塔横の掘っ立て小屋、もとい研究室で頑張っている。 まずは研究素材から試料を取ろうと、ヤスリで削った。 ヤスリ『が』削れた。 ならば切ってみようと、一番大きく頑丈なノコギリで切ってみた。 刃がボロボロになった。 では溶かしてみようと、二つ名「炎蛇」に相応しい高温の炎を杖から吹き出した。 研究室ごと熱くなっただけで、全然溶ける様子はない。 「ええい、らちがあかん。コルベール君、どくんじゃ!」 コルベールの背後から、オスマンが杖を振る。 鋼鉄の拳が練成され、学院長の最高の魔力をもって振り下ろされた。 ガッキイイイイインッッ!! 凄まじい金属音と火花が響き渡り、粉々に砕け散った。 鋼鉄の拳『だけ』が。 いや、それを置いていた台座もついでに砕け散った。 粉々になった鉄拳と台座の破片の中に埋もれたそれは、まったく何の変化もない。 「し・・・信じ、られん、わい・・・」 「な、なんなのですか!これは、ありえませんぞっ!!」 オスマンとコルベールは、疲労と驚愕で床に膝をついてしまった。 この研究素材に費やした体力と魔力に比して、得られたものは何か。 それは、研究する事すら出来ない、という事実だった。 「本当に…ありえませんわねぇ…」 二人の背後で、地獄の底から響くような声がした。 ビクッと肩をすくませた二人が振り向くと、鬼のような形相で仁王立ちするロングビル が立っていた。 「し、信じ・・・られない・・・」 ロングビルの後ろには、秘書に迫られる二人以上に驚愕しているヤンがあった。 ヤンの事など忘れたかのように、ツカツカとロングビルは二人に詰め寄っていく。 「一体、どういうことですか、これは!この方の所持品は、全部返却したのではなかった のですかっ!?」 「い、いや、そのですな…あの」「よすんじゃ、コルベール君…もう言い訳は無理じゃ」 二人は、諦めた様に肩を落とし手を地についた。 粉々の破片の中にあるもの。それはトマホーク。 柄の部分が切れヘッド部分しか無いが、炭素クリスタルの刃を持つヤンの世界で作られ たトマホークだ。 そして、これをヤンに返していないという事は… 「どういう事か分かりますか!?これは立派な窃盗です!あなた方は、彼が意識を取り戻 した時の騒ぎを忘れたとでも言うんですかっ!彼にとっては召喚と契約は、拉致監禁なの ですよ!? おまけに彼の所持品を隠匿し、あまつさえ破壊しようなどとっ!!」 「い、いや、別に盗むとか壊すとかじゃなくてじゃな」「そ、そうですぞ!これは研究のた めに」 「だまらっしゃいっ!!貴族の手本たるべき教員が、平民だからと彼の財をゆえ無く奪う など、恥知らずも甚だしい!だから貴族は平民に恨まれ、嫌われ、憎まれるのですっ!」 叱責される二人は、もう言い返す言葉もなく正座で説教され続けていた。 だが、ヤンの耳には彼女の怒号は届かないようだ。 震える足で、一歩また一歩とトマホークへ近寄っていく。 「こ…これは、まさか、そんな…」 彼の目は、これ以上ないくらいに見開かれている。 その姿にロングビルも気がついた。 「ええ、それはあなたと一緒に召喚された物ですわ。その斧の刃は、信じられませんが、 恐るべき巨大さのダイヤモンドですわね。先日、学院長室の机に置きっぱなしになってい たのを見て驚きましたわよ。 それを売れば、あなたの治療費を倍返ししてなお、お釣りが来ますわよ」 炭素クリスタルの刃、それは巨大な人工ダイヤモンド。といっても天然ダイヤモンドそ のものとは少し違う、衝撃にも強い物質だが。 ヤンの世界では、鏡面処理により光学兵器を弾き小火器程度ではダメージを受けない装 甲擲弾兵と近接戦闘を行うための武器。装甲を貫くための武器なのだから、刃がダイヤモ ンドというだけでなく、斧の本体も相応の硬度・重量を持つ。ビーム兵器の高熱にも耐え る。 ヤスリで削れたりノコギリで切れたり火で溶けたりトンカチで割られるようなシロモノ ではない。 売る、という言葉を聞いて、今度はコルベールが眼を見開いた。 「ま、待って下さい!そ、それは、いやダイヤの刃はともかく、その斧本体について、せ めて教えて下さいませんか!?」 「そう、そうなんじゃ!どうにかして調べたいのじゃが、恐るべき硬度と粘性で傷一つつ かんから、試料も取れず」 ギロッとロングビルに睨まれて、再び二人は黙った。 だが、ヤンも黙っていた。黙って斧を、特に柄の切断面を見ている。 「・・・間違いない・・・」 しばしの後、ヤンが呻くように呟いた。 その言葉に、背後の3人は顔を見合わせてしまう。 あの、と声をかけるロングビルの言葉も彼には届かない。 「間違いない、片刃式だ…同盟の、斧だ」 震える手でそれを手に取る。左手のルーンが輝くが、それすら気付かない。 「やった…やったぞ!来てたんだ、ローゼンリッターが!『レダⅡ』号にっ!!助けに来 てくれていたんだっ!!」 ヤンは、今度は本当に踊り出した。ヘッド部分しかない斧を持って、左手のルーンを光 らせながら、ヘタながらも軽やかに。 それを見ている3人は、果たしてヤンという人物は正気なのだろうか、と本気で考えて いた。 「ローゼンリッター?」 放課後になり、ルイズは再びヤンに乗馬を教えるべく厩舎前に来た そこにはヤンがいた。ただし、見た事もないほど上機嫌なヤンが。 「うん、薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊。我が軍最強の白兵戦部隊でね、その戦闘 能力は1個連隊で1個師団に匹敵すると言われる程だったよ」 二人は馬を並べながら、広場をポックリポックリまわっている。どうにかヤンも馬に嫌 われないようになったらしい。慣れない手つき腰つきながらも、ルイズの馬と並走出来て いる。 「その部隊が、あんたを助けに来ていたの?」 「その通りさ!そして恐らく、僕を召喚ゲートから引っ張り出そうとしていたんだ!」 と大声を出したとたんに、いなないて前足を振り上げた馬に振り落とされた。 ヤンの推理はこうだ。 ヤンが銃撃された瞬間、恐らくは失血死した直後に、ローゼンリッターの誰かが彼の傍 に来ていた。その人物はヤンの死体を見て、一時は絶望した事だろう。 だが、次の瞬間には驚愕した。何か光る鏡のようなものがいきなり現れ、ヤンの死体を 鏡面に吸い込もうとしたから。慌ててヤンの身体を押さえようとしたが、急な事で間に合 わなかった。もしくは吸い込む力に負けた。 斧で鏡らしき物をたたき割ろうとしたが、無駄だった。鏡ではなくゲートだったので素 通りしてしまう。 ならゲートの向こう側にいる人物を殺すか装置を破壊しようと銃を抜いた。だが慌てて いたため手が滑って銃もゲートの中へ落としてしう。それがヤンが持つ銃。 しょうがないのでさらに斧を突っ込み、ゲートを破壊するか開いたままで固定しようと した。だが、ゲートは閉じてしまった。同時に斧の柄は亞空間ごと切り裂かれた。 結果、ルイズが度重なる失敗の後に召喚したのは、ローゼンリッターの斧のヘッドと銃 と、瀕死のヤン。 尻の泥をはたき落として馬に乗り直そうとするヤンに、不安そうなルイズの声が届く。 「でも、召喚の瞬間に誰かが居たからって、ここまで助けが来るとは限らないわよ…ね」 「そうだね、その通りだよ」 よっこらせっ!というかけ声と共に馬に乗り直したヤンが、意外なほどあっさりと同意 した。ルイズも拍子抜けしてしまう。 「何しろ、僕が別の空間に行ってしまったのは分かるけど、どこに行ったかは分からない んだから。来るにしても、いつのことやら」 聞いているルイズは、喜びを隠そうともしない。馬の駆け足も早くなってる。 「そりゃそーだわ。ざーんねんだったわねぇ!とりあえず、あんたはお茶の入れ方でも学 んでくる事ね!」 「そうしようか。でも、その前に、君に追いつくとしようかな!」 そう言ってヤンは馬を早足で走らせて、ルイズを追いかけた。 だが、既に彼の頭の中では、さらに推理が進んでいた。 ヤンを救出に来たと言う事は、当然戦艦で来ていた。そして襲撃者の艦を破壊した。 『レダⅡ』号へ強行接舷した後も、襲撃者の援軍や帝国軍が来ないか、警戒していたはず だ。あらゆるレーダー・観測機器を最高度で稼働させていただろう。 ならば、召喚ゲートの開閉とヤンの亞空間転移もセンサーに捉えたのではないか? 召喚ゲート近くにいた隊員の証言。センサーの観測結果。何故か見事に切り裂かれたト マホークの柄。見つからない斧の頭。一つずつなら幻覚だ故障だ事故だと済ませたかも知 れない。 だが、4つが同時に存在すれば、それは信じるに足る重要な情報だ。 「問題は、やっぱりハルケギニアの場所が分からないって事なんだよなぁ。それに、そも そもあの戦乱の最中、私を捜しに来る余裕はイゼルローンのみんなには無いだろうし。第 一、魔法の扉がセンサーにひっかかるかなぁ?」 そんな不安がヤンの頭をかすめる。 とたんに、再び彼は馬に振り落とされた。 ルイズの笑い声が広場に響いた。 第3話 執事? END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/bngc145/pages/275.html
英語名 Admiral Kittyhawk 種類 航空母艦 / 船 性別 男性 所属 アメリカ海軍 概要 アメリカ海軍に所属する航空母艦。 エピソード 『ムーン メーター』 月から帰還するメーター、インパラXIII、ライトニング・マックィーンを回収するため、海上で待機している。 登場エピソード カーズトゥーンシリーズムーン メーター
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/3840.html
282 :名無しさん:2016/04/24(日) 16 17 46 以前、シャドウランのクロスネタを投稿した者です。 20分から5スレほど一発ネタを投稿したいと思いますが、よろしいでしょうか? 283 :282:2016/04/24(日) 16 20 54 時間になりましたので投稿させていただきます。 一発ネタ「提督の憂鬱×ケイオスヘキサシリーズ」 浅草の道路を緩やかに走る軍用自動車の窓から、カーキ色の軍服に身を包んだ男が辺り一帯を細めた目で眺めている。軍人にしては少々痩せ気味のシルエットだが、高い背と怜悧な眼光がそれを補ってあまりある威厳を見せている。加えて手袋の五芳星(ドーマンセーマン)は彼が呪術将校の一人であることを、そして膝の間に立てた関孫六は中でも特別な存在であることを明言している。 その隣では個性がないのが個性のような副官が影も薄く畏まっている。影のごとき男の唯一の特徴と言えるのは、万物を嘲笑しているような化け猫の笑みだけだ。 「武僧警官がずいぶんと多いな。何かあったのか?」 軍人……加藤 保憲の視線の先には眼光鋭く警錫杖を握り、腰のホルスターに経典を収めた武僧警官(モンクオフィサー)の姿が見える。中には梵字の刻まれたジュラルミン盾に甲冑を思わせる防護袈裟(アーマーカーシャ)まで装備した機動羅漢隊(ライアットボーズ)までいる始末。米国も崩壊し平時となって久しい内地にはふさわしくない光景だ。北米に向かう前は防呪ジャケットを着込んだ制服警官が巡回している程度だったはず。日本に帰り着く前に、大規模な霊騒乱でもあったのだろうか。 「はい、陸海合同文化祭を真似た民間の例祭で空間想念密度が飽和してしまったらしく、霊祭化を起こして一騒動あったそうです。それで次の陸海合同文化祭で同様のことが起こらないようにと、尻に火のついた内務省が僧警の尻を蹴ったそうで」 副官……乱堂 然が嘲笑を浮かべたまま答える。同じ国庫から予算を奪い合う味方の不幸はとても甘いのだろう。事実、例祭に招かれたイタコ芸人が分霊を降ろしてしまったせいで武僧警官だけでは手が足らず近隣の寺社仏閣から応援を呼ばざるを得なかったという話は、彼の嗤いを実に深めた。 「民間の例祭と違って十分以上に想念密度には気を使っているんだがな」 疲れたような声音で加藤は答える。逓信省の陰陽師が打った式だろうか。視線を空に向ければ丁の字をまとった鳩の郵便式神が手紙をくわえて西へ東へと飛び交っている。 「これを奇貨として内務省が武僧警察をねじ込もうとしているのでは?霊的技術(サイテック)関係といえばまず軍に話がくるのは有名ですから」 民間の手に負えない霊障となれば軍に話がくる現状に内務省が血圧を上げているのは有名な話だ。それを受け同じく霊障対応に立ち後れた仏教界と手を組んで武僧警察(モンクポリス)を設立したのだが、先日の霊祭化でずいぶんなケチが付いてしまった。そこで軍の牙城である陸海合同文化祭で存在感を示すことで巻き返しを図っているのだろう。 284 :282:2016/04/24(日) 16 21 27 「アラモゴードの大穴から未だに”魔”が湧き続けているというのに、内地の連中は暢気なもんだ」 「”内務”省ですから、内ゲバも仕事のようなものでしょう」 ため息混じりに顔をしかめる吐く加藤に、毒のこもった皮肉で乱堂が答えた。この副官を得てから胃の調子が悪くて仕方がない。加藤の顔に一層の渋味が混じる。性格も悪ければ根性も悪い。 その上人が悪くて意地も悪い。何より悪いのがそのくせ有能極まりないという点だ。 隣の副官から窓の向こうへ視線を逸らすと、下半身だけの自働力車(オートリキシャー)が裕福そうな身なりの夫婦を乗せて併走している姿が見えた。夫婦の格好からして大陸系だろうか。 二人は高価な真空管式易算機で次の行き先を占うのに夢中だ。旦那が紙幣を差し込むと、紙幣の金魂を水晶球で読みとった自働力車は、九十九神の憑いた解析機関を急回転させながら右に曲がるレーンへと滑り込んだ。 自働力車の向こうでは猿だけのチンドン屋が多色刷りのチラシをまき散らす。経立の猿回しとは珍しいと思えば、真ん中で猿の群に指示を出すのはアルビノ猿の神使だった。 どうやらどこぞの山神の指示で都内に出稼ぎにきたらしい。 神仏も銭神金魂の前には形無しか。頭痛が痛いと加藤はうんざり顔で目を閉じる。故郷紀州の神々がお布施求めて人里で媚びを売っているところなんぞ想像したくもない。深い息をこぼすと、息吹法ですかと乱堂が笑った。副官の存在を無視して、加藤は拡声器から流れる歌謡祝詞(ノリトポップス)を背景に浅草の光景を眺める。 送霊線(ケーブル)の端子から漏れた霊気を啜ろうと集まる雑霊に、八百屋の親父が面倒そうに安っぽい除霊剤を振りかける。 車道では過積載の飛鉢が交通課の制服警官にキップを切られて、鉢を飛ばしていた輸僧独覚(トランスホーシ)が大声を上げて抗議中。 通りを歩くモボやモガは流行の鬼角をこれ見よがしに空に突き立てて、携帯している伝信呪符(テルズマン)に話しかける。 電波教徒(ラジヲニスト)はGE製霊界通信機で神託の周波数を探るのに夢中のようだ。 街頭テレビのお天気番組では託宣を受けた祈祷予報士(ウェザーシャーマン)がトランスしながら明日の天気を予言している。 裏通りの剃髪愚連隊(ボンズヘッドギャングスタ)は「仏契りで逝けている」踊り念仏を見せつけ合うのに忙しい。 「……東京も変わったものだな」 ……否、人の世はみな変わりゆくものよ 答えを求めない加藤の愚痴に、千年この地を見続けた将門公が笑った気がした。 285 :282:2016/04/24(日) 16 22 02 数日後。東京のある寿司屋の座敷では、日本を動かす奥の院と呼ばれる夢幻会の会合が行われていた。自律お茶くみ人形から渡された煎茶を啜り、嶋田総理は加藤が書き上げた「ケイオス・モノ監査報告書」に目を通す。 「想像以上にケイオス・モノ(1)は効果を上げているみたいですね。この調子なら北米の地獄穴も目処がつきそうです」 「これだけ費用がかかったのだから、そうでなければ困ります。ここまで建造費用が延びるとは思いませんでしたよ」 嶋田の声にしかめ面で辻大蔵大臣が答える。故アメリカ合衆国が残した最大の負の遺産「北米の地獄穴」「アラモゴードの大穴」と呼ばれる、史上最大の奈落墜ち(フォールダウン)を起こした原爆実験地跡(グラウンドゼロ)。そこを封じるために建築されたのが、これまた史上最大の建造物である超弩級卒塔婆「バベル型積層都市」だ。 もっとも、現在建築済みなのはケイオス・モノだけでケイオス・ジ(2)も建造途中。以降のケイオス・ヘキサ(6)まで設計図がやっとで、最後のケイオス・ドデカ(12)に至っては計画だけなのだが。 「正直、あの建材を考えたくなります……冗談ですよ?」 その理由は単純明快、莫大すぎるコストだ。大規模な都市を地下から天上まで十二層重ねた代物というだけで頭が痛くなるが、その上風水・鬼門・結界などなど呪的・霊的建築が多重多層に織り込まれている。後々に大問題になるとても、頑丈で手に入れやすく何より安い人柱有魂建材を考えたくもなろう。 加えて建築開始してからわかったことだが、各国それぞれが担当した設計部分が教義衝突を起こしてしまっていたのだ。お陰で異宗・異教拒絶反応から自壊しかけたケイオス・モノを立て直すために各国が多額の費用と人材をそそぎ込む羽目になった。最終的に東京市開発計画を設計した天才的シスコン辰宮洋一郎の手で、本地垂迹接合と聖人免神構造を駆使して安定化したのだが、そこにかかった費用を見るや某国金融庁長官の髪が一気に白くなったほどである。 「しかしこうなると、英国の案に同意せざるを得ませんね」 元々は多義に因果数分解可能でどの文化圏でも聖なる数字として用いられる12のバベル型積層都市で結界を張り、大穴を塞ぐのが「ケイオス計画」であった。しかし、この圧倒的コストの前には12のバベル型積層都市など夢物語もいいところで、列強各国も両手を上げざるを得なかった。そこで英国が新たに挙げたのが「ケイオス・モノ(1)、ジ(2)、トリ(3)での三位一体構造案(トリニティストラクチャープラン)」だったのだ。 この案に経済力で日本に劣る欧州枢軸は信教的にも賛成に周り、日本は計画の信仰方向がキリスト教側に大きく傾くことから難色を示していた。しかし、だからといって建造費用が安くなる訳でもない。そし日本にもてケイオス・ドデカまで作る金はない。銭神を拝んでも金魂に誓願してもどうにもならない問題だ。 「そもそもアメリカが原爆なんぞ作らなければ何事もなかったものを……」 誰かの愚痴が虚空へと溶ける。それを聞く夢幻会の面々も同意の苦い表情を浮かべている。 286 :282:2016/04/24(日) 16 22 33 事の始まりは、二度目の転生を果たした夢幻会が「ケイオス・ヘキサシリーズ」世界であると気づいた事だった。原作の歴史においては、有魂兵器(ヤップアーム)や呪詛暗殺(カースマーダー)等により大日本帝国は対米戦を優勢に進めていた。だが、国家を挙げての総力呪詛攻撃で空間怨念密度が飽和値を遙かに凌駕した結果、史上初にして最大の奈落墜ちを起こして歴史上の存在となってしまったのだ。 当然、原作を知る夢幻会がそんな事態を許すはずもなく、南洋の無人島で総力呪詛攻撃のシミュレーションを行い、総力呪詛攻撃で奈落墜ちが生じることを証明してみせた。さらにこの件に関して夢幻会は他国での奈落墜ちを防ぐため、意図的に情報を流出させた。 これにより仏枢軸がロンドンへの瘴気爆撃(ミアスマボミング)を取りやめたり、英国が地中貫通爆弾への怨霊弾頭(マレイスウォーヘッド)搭載を諦めたりしたのが、ただ一国米国だけがこれを利用した兵器の開発に着手するという斜め上の判断をしてしまった。 もっとも米国からすればある種当然の選択肢だった。これを兵器転用したところで被害をこうむるのは猿擬きの黄色人種だけだし、一つの島を堕とせる戦略兵器ならば今後の外交においても大きなアドバンテージとなりえる。それに何より、原作同様、いや原作以上の苦境に米国は立たされていたのだ。 海は艦魂制御の自律軍艦群が米艦隊を飲み下し、陸は空霊十二祈祷エンジン搭載の不死身の機怪「學天則」がアメリカンボーイズに絶望を刻み、空は空中式神母艦が放つ無数の無人航空鬼でワイルドキャットを揉み潰す。アメリカの国力も大統領の支持率も急降下を繰り返し、増えるのは死人の数ばかり。 過労と呪殺で倒れる官僚も急増の一途をたどっていた。 なお、一部夢幻会員の暴走のせいで、艦魂が艦隊をコレクションするような姿を、學天則はエッチなのはいけないガイノイドなデザインを、無人航空鬼はパンツじゃないから恥ずかしくない外観をしていたのはまた別の話であり、それを見たマトモな夢幻会員の胃と毛根に重篤なダメージを与えたのはこれまた関係のない話である。 かくして夢幻会の未来技術でブーストされた日本に対し、霊魂技術に大きく後れをとる米国には太刀打ちできる手段も技術もない。かつて技術と武器でインディアンを狩っていたアメリカは、今や霊魂技術と呪的兵器で日本に狩られる立場となったのだ。 だからと言って膝を屈しないのがヤンキースピリッツだ。何せここで膝を折ったら次の選挙に負けてしまう。かくして米国は「原罪爆弾(シン・ボンバ)」(略称:原爆)による奈落堕ち実験「トリニティ実験」に手を付けた。 原罪爆弾はプルトニウムで覆った呪物を聖別された爆縮レンズで超圧縮することで、蠱毒化により莫大に増幅された呪詛が核爆発で辺り一面にばらまかれる素敵な代物だ。 これの爆発を祝福儀礼済み核ダンパー多重隔壁で一定範囲に抑え込み、意図的に奈落堕ちを起こすのがトリニティ実験の内容だった。 実験地にはニューメキシコ州アラモゴード爆撃試験場、実験用原爆「ガジェット 」の呪物は虐殺されたナバホ族のトーテムが使用された。国内で奈落堕ちを起こすことには反対の声が政府内部からも多数見られたものの、大西洋では欧州枢軸に押され太平洋を日本に抑えられた当時の状況では他国の目を欺ける実験地が国内にしかなかったのだ。 かくして実験は行われた。「ナバホ族強制移住(ロング・ウォーク・オブ・ナバホ)の経路で」「虐殺されたナバホ族のトーテムを呪核に使用した」「怨念兵器である原罪爆弾」の実験が。 結果に関してはアメリカにとっては予想外の、夢幻会にとっては想像通りのものとなった。起爆と同時に発された衝撃怨波が祝福儀礼済みの核ダンパーで反射され、呪詛の再収束と蠱毒化を繰り返した挙句、周囲一帯の同位相怨念と類感共鳴し強制活性化。ついにはアラゴモードを含む周辺地域全てが飽和怨念密度を突破して、全部まとめて奈落堕ちしたのだった。 さらに奈落堕ちの大穴からはウェンディゴやサンダーバード、サスカッチなどなどの”魔”が溢れ出し、南部・西部を中心に米国中を暴れまわった。 米陸軍も州兵も必死に応戦したものの祝福儀礼済み水銀弾の数は足りず、従軍牧師による祈祷の効果もわずかなもの。むしろ死霊の数と怨念の量を増やして穴のサイズを広げるだけに終わった。 一方的に日本に殴られるばかりで役に立たないどころか、この事態を引き起こした政府に愛想をつかした各州は、独自の呪的防衛を開始した旧ユタ州(現ディザレット共和国)を引き金に独自の行動を開始。 かくしてアメリカ合衆国は歴史上の存在へとなり、現実から姿を消したのだった。 287 :282:2016/04/24(日) 16 23 09 「文句を言っていても仕方ありません。国内の宗教で三に関わるものはありますか?」 「各所に確認を取ったところ、神祇院からは天照・月読・素戔男の三貴子が、仏教界からは仏・法・僧の三宝が、正教会からは父・子・聖神の聖三者が挙げられています」 嶋田総理は止まった会話を再開するよう呼び水を投げかける。それに対し、内務省の人間から間髪入れずに回答があった。所管の僧警が不甲斐ない現状、自分たちが内務省の泥を拭うのだと十分以上に気合が入っている。 「では、それらを本地垂迹接合で組み込む形としましょう」 「「「いぎなーし」」」 イエズス会布教の際の大臼(デウス)=大日如来、本地垂迹思想の大日如来=天照大神、さらに神仏習合より生まれた三宝荒神を用いれば、三貴子・三宝をキリスト教と結びつけることは十分に可能だ。正教会の聖三者は三位一体思想と非常に近しいため、こじつける必要性すらない。 これで、三位一体構造で安くすませても問題なさそうだと場の空気が軽くなる。 「しかし設計段階のケイオス・トリはいいとして、建設途中のケイオス・ジや建設済みのケイオス・モノに組み込むとなると大事ですな」 が、誰かの重苦しい一言で再び空気がずしりと重さを思い出した。教義衝突で崩れかけたケイオス・モノを再設計して宗教観衝機構を組み込むのにどれほどのコストと手間を要したか。多少なりとも予算に関わる人間ならば考えるのをやめたくなる規模だった。 「まあ、愚痴を言ったところで費用が減るわけでもありません。バベル型積層都市を12棟建設するよりはずいぶんマシです。将来に禍根を残さないための必要経費と割り切りましょう」 重い空気を割り切りよい言葉で辻大蔵大臣が持ち上げる。泣いて神仏にすがろうとどうにもならない問題なのだ。泣いている暇があるなら少しでも動いて事態をマシにすべきだろう。 「そうなれば、次に必要なのは指揮を執る人間ですな」 「とは言ってもケイオス・モノを立て直した辰宮君以外に適任はいないでしょう」 確かに、本地垂迹接合及び聖人免神構造を発案・設計し、各国の人間を説き伏せて自壊しかけたケイオス・モノを立て直した立役者である辰宮洋一郎をおいて相応しい人間は他にはいないだろう。たとえそれが一秒でも早く仕事を終えて帰国し、妹である辰宮由佳理と好き放題イチャつく為であったとしても、その能力に疑いを抱くものはいない。 「では、ケイオス・モノ及びジへの三位一体構造及び本地垂迹接合組み込みの総指揮は辰宮君に任せると言うことで」 「「「いぎなーし」」」 かくして国家の一大事たる大仕事を終えて、妹由佳理との砂糖も逃げ出すような甘ったるい蜜月を堪能していた辰宮洋一郎は、再びの難行を押しつけられて渡米することとあいなった。 なお、泣いて駄々こね渡米を嫌がる洋一郎に辞令を渡しに行った加藤が辟易したり、兄との逢瀬を邪魔された辰宮由佳理が恨みのあまり生き霊と化して日本政府上層部の抜け毛の数を激増させたのはまた別の話である。 終わり 288 :282:2016/04/24(日) 16 27 11 以上です。お目汚し失礼しました。Wikiへの掲載はOKです。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3797.html
前ページ次ページゼロな提督 「それで、結論を言ってくれんかの?ミスタ・コルベール」 「はい。あのヤン・ウェンリーという男性の左手のルーン、あれはガンダールヴです」 学院長室でオスマンは椅子に腰掛けながらヒゲを撫でている。 窓の向こうの朝日を見ながらコルベールの報告を聞いていた。 ガンダールヴ、という言葉をゆっくりと反芻した学院長は、報告者に向き直る。 「そして、もう一つの点は?」 もう一つ、と問われたコルベールは、非常に気まずそうに視線を落とす。大きく息を吸い、意を決して口を開いた。 「あの、ヤン・ウェンリーという男はハルケギニアの人間ではありません。ハルケギニアとは接触の無い、聖地よりも遙か遠方の国の人間です。 衣服の数カ所にあった文様は彼の国の文字と思われます。が、解読不能です。未知の言語ですぞ。 彼の衣服も銃も、全く正体不明な素材で作られていました。その頑丈さ、加工の精緻さから、技術レベルはハルケギニアを大きく引き離していると思われます。あれほどのものは、いかなる魔法でも練成出来ません」 「・・・結論を、言って欲しいのだが?」 結論。改めて問うオスマンの視線は、あまりにも厳しい。明らかに結論の内容を自ら予想している。 コルベールには、その視線を受け止める事が出来ない。彼が、そしてオスマンが予測する結論は、あまりにも重大すぎたからだ。 彼は黙して立ちつくす事しかできない。 「予め言っておくが、コルベール君。君の責任は問わんよ。これは全く想定外の、事故とすら言えるのじゃから。それに、ワシも現場にいて、この件に関わったんじゃし」 免責を確約され、ようやくコルベールは最終的な結論を語った。彼が導き出した、この学院の教師一同が大馬鹿揃いであることを示す結論を。 「ミス・ヴァリエールは、トリステインを遙かに上回る国力・技術力を持つ国の軍人を召喚しました。彼の階級章の模様の複雑さ、契約後に彼とミス・ヴァリエールが交わした会話等からの推測なのですが、彼は上級士官。もしかしたら、将軍クラス。ゲルマニアのように、功さえあれば平民でも報われる国なのでしょう。 恐らく彼の国では大騒動になっていますぞ。捜索隊が四方八方に放たれているかと」 第2話 平民以上、メイジ未満 一気に語ったコルベールは、大きく溜め息をつく。そしてそれを聞いたオスマンも。 再び老人は窓の外を見上げた。 二人の間にある机には、皮布に包まれた物体が置かれている。 「彼が嘘をついているとか、正気ではない、という可能性は?彼はどうみても軍人らしくないが」 「ありません。そもそも我々は彼の身分を尋ねてませんから、嘘もありません。彼の発言に矛盾点もありません。また軍人でありながら、あまり筋肉質でなかった事などから、前線に立たない階級でしょう。 ついでに言うなら、彼の所持品は、下着一枚に至るまで、その全てが人間技を超えた未知の技術の塊です。しかも彼が言うには、彼が持っていた銃らしきものすら『オモチャ』だと」 コルベールは半ば興奮しながら、自分の予測を語り続けた。その研究者としての目は、机の上の皮布に包まれた物体にも注がれている。 ヤンが暗殺されたのは宇宙暦800年、6月1日午前2時55分。ビーム銃による銃撃で左大腿部の動脈を損傷し出血多量を起こし死亡。享年33歳・・・のはずだった。 西暦2801年を宇宙暦1年としているので、ハルケギニアの科学レベルが中世ヨーロッパと同程度するなら、その差は2000年。ゴールデンバウム王朝成立と、同盟との永きに渡る戦乱で人類の科学も文化も停滞期に入ってしまったが、それでもハルケギニアとは比べものにならない。 だがそんな事は、髯の老人が知るはずもない。彼が知っているのは、いや知ってしまったのは、もっと近視眼的な事象だ。 「なんて・・・ことじゃ。 どうして『契約』前に言ってくれなかったんじゃ!彼がハルケギニアの人間でないと!異国の高級軍人だとっ!!」 立ち上がってコルベールを詰問するオスマンは、今さっき免責を保証したばかりだという事を忘れていた。詰問されるコルベールも。 「か、彼の話しを聞くまで、まさか、そんな大変な人物だとは思わなくて・・・ただ、凄い品々があるとしか考えなくて・・・それに、『契約』をしないとミス・ヴァリエールは進級出来ず・・・」 眉間に深い深いシワを刻んで座り直したオスマンは、眉間のシワに負けないほどの深い溜め息をついてしまった。 召喚の儀式を取り仕切っていたコルベールは、ただでさえ少ない頭髪が更に薄くなったかのように見える。 「こうなると、ミス・ヴァリエールの『契約』が彼の精神を支配しなかったのは幸運といえるじゃろうな」 コルベールも、ルイズの昨日の落胆を思い返しつつも、安堵したように頷いてしまう。「ですなぁ・・・もし捜索隊がトリステインに来た時、自分たちの上官がまるで犬かネコのように扱われているのを発見したら・・・」 二人の頬に冷や汗が流れる。 「あらゆる手段で『契約』を消し、彼の身柄を奪い返すじゃろうな。外交問題、というより戦になりかねん。最悪、ミス・ヴァリエールの命は無い。『契約』を強要した我々学院の教師も、な」 「さらにまずいのは、彼の国は王政を打破するための戦争をしていたらしい、ということです。アルビオンのレコン・キスタのように。 その彼等の士官が、このトリステイン王国の有力貴族に使い魔として無理矢理に拉致されたと知ったら、どうなるか・・・」 二人の予想は、あまりにも冷酷で絶望的なものだった。 何故、彼を使い魔として認めてしまったのか。どうして平民だからと『契約』をさせてしまったのか。『契約』前に彼の話を聞こうとしなかったのは誰か。身体が弱っているのを良い事に無理矢理押さえつけたのは。人間を物扱いしたのは。魔法を使えないからと軽んじたのは。 全て自分達だ。メイジだから平民を支配するのが当然だ、という傲慢が自分の首を絞めたのだ。 この学院は今、爆弾を抱え込んでしまった。しかも自分達で導火線に火を放ってしまった。ガンダールヴは、ほとんど伝説。だが彼が他国の軍人なのは、もっと切実な現実的問題。 二人とも、己の間抜けさに打ちひしがれて何も言えない。 コンコン 扉がノックされた。 「ミス・ロングビルかの?」 扉の向こうから若い女性の声がする。秘書のロングビルだ。 「はい。朝食の時間ですが、まだおいでにならないようですので」 「ああ、そんな時間じゃったか。もう少ししたら行くでな」 承知しました、という言葉を残して足音が去っていく。 溜息混じりにコルベールが口を開いた。 「念のために言っておきますが、口封じとか証拠隠滅とかは、不可能です」 聞いたオスマンは顔を紅潮させて立ち上がる。 「わかっとるわ!ヴァリエール家の三女が召喚した使い魔を消す!?その時点でわし等の首が飛ぶわい!! というか、そんな外道なマネ、教育者としてありえん!」 その言葉に、コルベールも安堵したかのように微笑む。 「そうですか。なら、捜索隊が来ない事を祈るしかありません」 「うむ、そして彼の身柄には最大限の注意を払ってくれ。さりげなく、じゃ。彼の過去については、本人が自ら語るまで聞くんじゃないぞ。誰に聞かれても『知らない』と言い張れ。不幸な事故とするしかない」 「はい。既に彼の所持品は返してあります。銃も含めてです。地位についてもミス・ヴァリエールの提案で、使い魔ではなく執事として雇用することになりました」 「そうか。とりあえず、それでよいわい。 ん・・・?待つんじゃ。何故これは彼に返していないんじゃ?」 そういってオスマンは皮布に包まれた物体を指し示した。尋ねられたコルベールは、狼狽してしまう。 「そ、それは、その・・・これは、どう見ても彼の物には見えませんでした、ので・・・それに、これは、その、明らかに壊れていますから・・・」 ジロッと老人は中年男を睨み付ける。 「ふんっ、よく言うわい。どうせ、好奇心とやらに負けたんじゃろ?こっそり研究するつもりじゃったんだろうが」 「いえ!いえ・・・その、はぁ、そうなのです。申し訳ない。で、ですがっ!こうしてここに持ってきたのですから」 「わかっとるわい。それにしても、なぁ・・・」 オスマンは皮布に向かって杖を振る。 すると物体は宙に浮き、皮布がほどかれていった。皮布にはベッタリと血がこびりついている。 二人とも、宙に浮いた物体を珍しそうに見つめている。 「信じられん、ですぞ・・・」 「うむ、そうじゃのぉ・・・一体、これはどうやって作ったんじゃ?」 オスマンは杖を下ろす。同時に物体も机の上に降りた。 「ミスタ・コルベール、彼に色々と便宜をはかってあげてくれ。他の教員にはわしから話しとく」 「分かりました」 二人は話を切り上げて朝食に向かう。だがその足取りは、足枷でも着けているかのように重い。 机の上には、皮布の上に置かれた物体が残った。ヤンの身柄の扱いに頭が一杯で、元通り片付けるのを忘れてしまったようだ。 机の上に置かれているのは、トマホークだ。 柄の部分が切れ、ヘッド部分しか無い。。鏡のような見事な切り口を下に覗かせる。 そして、その刃にはどす黒い血がついていた。だが、二人が注目していたのは血ではない。刃そのものだ。 宇宙歴800年。トマホークの刃は帝国でも同盟でも、炭素クリスタルで作られている。簡単に言うと、それは巨大な人工ダイヤモンド。 アルヴィーズの食堂では、生徒達の食事が終わる所だった。教師達も中階のロフトに揃い、お茶を飲みながら歓談に興じている。 二人はロフトに上がりながらも、生徒達の方を見やる。特にルイズの席の辺りを。だがいるのはルイズだけ。ヤンの姿はなかった。食堂全体を見回すが、やはり彼の姿はない。 二人が自分たちの席に着くと、メイド達がお茶を注ぎに来た。 コルベールはお茶を口にしながら、黒髪をカチューシャで纏めたそばかすのメイドに尋ねた。 「君、シエスタ君だったね?例の、平民の使い魔なんだけど」 「あ、はい。ヤン・ウェンリーという人ですね?」 「そうそう、彼は朝食はどうなってるのかな?」 「はぁ、それでしたら先日ミス・ヴァリエールから命じられまして、小さくて古くて堅いパン一個と薄いスープを床に直接置いておくように、と」 ぶふぉっ! 思いっきりお茶を吹き出した。コルベールも、ついでにオスマンもゲホゲホとむせこんでしまう。 「き!君っ!それは本当か?!」 慌ててテーブルや床を拭くメイドに必死で問いただしてしまう。 「いえ、確かに先日そのように命じられたのですが、今朝になって『厨房で他の平民達と共に食べさせよ』と。今、彼は使用人用の食堂にいます」 これを聞いたコルベールは、安堵の溜め息をついて胸をなで下ろす。 オスマンは、胃が痛くなってきた。 朝食が終わり、授業が始まった。 オスマンは学院長室に、コルベールは自分の授業に行く。ヤンがルイズの後をついて教室に向かうのを確認しながら。 そしてしばらくすると どっかーん どこからか凄まじい爆発音が響いてきた。 その爆発音の原因は何か、この学院に知らぬ者はいない。だが、その原因の近くにいるはずの人物について知る者は少ない。 少数の「知る者」であるコルベールは、即座に自分の授業を放り出し、音の方へ駆け出した。もくもくと窓から煙が上がる教室へ。 教壇には、爆発でボロボロになったルイズと、吹っ飛ばされ気絶してるミセス・シュヴルーズ。そして崩壊した教室があった。机も椅子も吹き飛び、使い魔達が暴走し暴れ回っている。 コルベールは冷や汗をだらだらと流しながら、ヤンの姿を探す。 しかし見つからない。 もし、外へ吹き飛ばされていたり、机や椅子の下敷きになっていたら・・・ そんな最悪の事態が脳裏をかすめる。 だが、最後尾の机の影に、壁際でへたり込んでいるヤンの姿を見つけた。見たところ驚いて腰が抜けただけらしく、怪我はない。 コルベールは安堵の溜め息をつく。同時にハラハラと頭髪も落ちていく。 学院長室の壁にかけられた大きな鏡に映し出された教室を見ていたオスマンは、彼に関する予想が外れてくれる事を、捜索隊がハルケギニアまで来ない事を始祖ブリミルに祈っていた。 痛む胃を必死にさすりながら。 これが、ゼロと呼ばれる理由だったんだね そう思い知らされたヤンだが、しょんぼりと箒を掃く少女に無神経な言葉をかけるようなまねは出来なかった。黙って吹き飛んだ机や椅子を片付けていく。 ルイズは教師に教壇で魔法の見本を示すよう命じられた。だが彼女が魔法を使うのを必死に止めようとするクラスメート達。結果、誰でもできる簡単で安全なはずの魔法を、大爆発させた事実。これらはヤンが自分の今後を考える上で、あまりにも頭の痛い事実だった。 使う魔法全てが爆発という結果になる魔法使い。 大貴族の子弟ではあるが、落第寸前の落ちこぼれ。 メイジでありながら、誰にもメイジとは認められない孤独と劣等感。 当然、彼女への風当たりは、彼女の下で働くことになった自分へも及ぶ。 なにより、自分を召還したはずの彼女が、自分を送り返すことができない。話を聞いたところ、そもそも送還魔法自体存在しないというが、あっても彼女の力量では戻せないだろう。 もっともヤンは、彼らの魔法で自分を元の場所に送り返してもらう、という希望はすでに抱いていなかった。 彼らの文明レベルは地球の古代ヨーロッパ並。当然宇宙に関して何の知識もない。「大地はまっ平らで、ゾウの背に乗っていて、星や太陽が周囲を回っている」とか考えている連中に、銀河の彼方や別宇宙へ送り返してくれと頼む。 冗談にもならない。 そもそも、本当に元の場所へ送り返せるとしたら、そちらのほうが大問題だ。ヤンが撃たれたのは、イゼルローン回廊という宇宙空間を航行していた巡航艦『レダⅡ』号の中。つまり、ヤンは真空の中に宇宙服もなしに放り出されることになるのだから。 救難信号を送れないかな・・・でも送れても、届かないだろうなぁ 外れた扉をはめなおしながら、そんなことをずっと考えていた。 「あんただって、あたしを馬鹿にしてるんでしょ」 箒を握り締めるルイズが、押し殺した声でつぶやく。 「ビックリしたのは本当だよ。すごい爆発だった」 「・・・昔から、そうよ。どんな魔法も必ず爆発させるの。成功確立ゼロ。だからゼロのルイズ」 「そうか・・・」 どうにか扉をはめなおしたヤンは、手をポンポンと叩きながら床のゴミを見渡す。 「でも、僕を召還することはできたようだね。あと契約も」 「それが、生まれてはじめての成功だったの・・・でも、やっぱり失敗だった。召還したのはあんたの死体。なんとか蘇生させて契約したけど、全然使い魔になってない」 箒でかき集めたゴミの山を前に立ち尽くすルイズ。そのしょぼくれた姿は、昨夜ヤンの前で見せた強気な少女と同じものだとは思えないほどだ。 自分を奴隷にしようとした娘ではあるが、さすがに痛ましい。なんとか彼女を元気づけられないものか、と慣れない思考に頭を捻ってしまう 「その、皮肉のつもりはないんだけど、でも、君のおかげで私は無事に生き返ることができたんだ。それに、こうやって使い魔としてではなく、一人の人として君と話をすることができる。 君にとっては不幸な事実だけど、でも僕はとても感謝しているよ。 まぁ、君は僕からの感謝ではなく、無条件の絶対服従が欲しかったんだろうけど」 「ええ。平民の同情なんか役に立たないわ」 ヤンはルイズのうつむいた顔を覗き込む。 そこには、落ち込んではいるものの、嘘とか虚勢とかは見られない。ただの真顔があるだけだ。つまり、本当に彼女は平民をメイジの所有物かその辺の動物と同類だと思っている。 その下等動物のはずの自分にすら彼女は、出て行かないで欲しい、と泣いて懇願せざるを得なかった。その屈辱はどれ程の物か、想像もつかない。 この世界の徹底した貴族制度。その中で平民として生きていくことを強いられる自分、メイジとして生きることが困難な少女。そんな二人が苦し紛れに結んだ雇用契約。 この目の前のゴミみたいには片付かない。ちり取りでゴミを拾いながら、今後の不安に胸を痛める二人がいた。 場所は再び学院長室。 お昼休みではあるが、昼食返上でオスマンとコルベールは議論を続けていた。 そして、ルイズ・ヤンと同じくらい二人も胸を、そして頭を痛めていた。 「・・・やはり、他の教師達はダメでしたか・・・」 「うむ…全く、笑われてしもうたわい。ただの平民を何故そこまで気にかけるのか、と」 「こちらもダメでした。彼が軍人だとか、遙かに高い技術を持つ国の出身だとか、誰にも信じてはもらえませんでしたぞ」 「そうじゃろなぁ。というか我々自身が半信半疑、推測が外れている事を願ってるのじゃから」 二人とも、ヤンの処遇について他の職員に話をしていた。だが、このトリステインはゲルマニアとは違う、昔ながらの封建的貴族社会だ。平民は、ただ平民と言うだけで人間扱いはされない事も多い。そしてハルケギニア以外の世界など想像した事もない人がほとんど。 理解など得られるはずもない。 二人してふはぁ~っと本日何度目かの溜め息をついていると、朝と同じように、いや朝より激しく扉がノックされた。 オスマンの言葉を待たず、ロングビルが扉を開け放ち息を弾ませて叫び出す。 「オールド・オスマン!大変です!今、食堂で生徒同士のケンカが起きて」 「なに?全くガキ共が・・・誰が暴れとるんじゃ?」 「そ、それが・・・ぜ、ぜっ」 ロングビルは、息を詰まらせてなかなか次の言葉が出ない。 「・・・ぜ?」 オスマンの促しに、ロングビルはようやく言葉を吐き出した。 「全員です!」 「「なっ!?」」 「ほぼ全生徒が、一人の女生徒を、ミス・ヴァリエールを囲んで、その、つるし上げにしようとしてます!!」 今度は男二人が言葉を失った。 アルヴィーズの食堂では、生徒達の食事が終わった所だった。 そして、それを待っていたかのように、事件は起きた。 「ちょっとぉ、ミス・ヴァリエールぅ?話しがあるんだけどぉ」 「・・・なにかしら?ミス・シャラント」 食事を終えたルイズに声をかけて来たのはトネー・シャラントという女生徒。周囲には彼女の友人達もクスクスと笑いながらついてきている。 トネーのニヤニヤとした下品な笑いにルイズの不快感がつのる。 「あなたが呼び出したゾンビの事よ」 ゾンビ。 その言葉だけでルイズにはトネーの、そして周囲の取り巻き達が何をしに来たかは理解出来た。瞬間、彼女の顔は真っ赤に染まる。椅子を跳ね飛ばして立ち上がる。 「ゾンビなんかじゃないわっ!れっきとした人間よ、ちゃんと生きてるじゃないの!?」 「はっ!死んでたのは事実よ。つまりアレは動く死体。ゾンビよ」 「治療して治ったわ!ちゃんとした人間よ!」 「ふーん、アレって人間なんだ」 「そうよ、もう元気になって歩き回ってるわよ」 「で、あなたは・・・何?」 「え・・・」 あなたはなに そう尋ねられたルイズは、質問の意図が分からなかった。 わたしは・・・何? 改めて、考えてみる。ルイズとは、なんなのか。 口の端を醜く釣り上げて、トネーはさらに続けた。 「よーく考えてごらんなさいな。使い魔は、主の魔力や系統をそのまま現すのよ。なら、死体を召喚するあなたの系統は、何?」 「何って・・・私の、系統・・・使い魔が、人間で、死んでて・・・」 ルイズの震える手が自身の顔を覆う。すくんだ足で後ずさっていく。 「死体の系統、それはただ一つ。『死』よ」 「死・・・」 何かの救いを求めるように、ルイズは周囲を見る。 だが、そこに救いはなかった。 ルイズを見つめる何百という生徒達の白い目。それは等しく軽蔑・疑念・嫌悪、いやもはや憎しみすら含んでいた。 トネーの取り巻きが、そして近くで聞いていた他の生徒達までもが、口々に彼等の心の中に溜め込んでいた物を吐きはじめる。 「あんた、始祖ブリミルの祝福を得ていないのは間違いないわね」 「使う魔法、全部爆発か・・・なるほど。『死』だな」 「もういい加減言わせてもらうけど、あんたの爆発で皆迷惑してるのよ!」 「まったくだ!さっきの爆発騒ぎで死んだ使い魔、俺のラッキーを返せよっ!」 「ヴァリエール家の三女だからって甘やかされて、いい気になってんじゃないわよ!!」 「どうせ、あの平民だってどっかから連れてきたんだろ?」 「爆発に紛れて召喚したように装おうとしたら、平民自身が巻き込まれたんだろうねぇ」 「ハッキリ言って、あんたメイジじゃないわ」 「始祖ブリミルより授けられし4系統。これを引き継がない者はメイジと言えない」 「つか、お前は呪われてる。死体を召喚した事でハッキリしたよ」 「ゼロのルイズならまだしも・・・呪詛のルイズか。もう退学だな」 「うん、退学しかないよ、これ」 「つか、出てって。今すぐ」 「みんなのために、消えて頂戴。死に魅入られた女なんて汚らわしいわ。こっちが祟られ るなんて良い迷惑よ」 周囲からは、消えろだの、出て行けだのという罵声が散々に浴びせられる。 もはやルイズも虚勢を張ることができない。耳を塞いで目を閉じてしまう。 だが耳を塞いですら、怒号と嘲笑が彼女の耳に届く。 震える足が、彼女のさほど重くもないはずの小さな身体すら支える力を失い、地に膝をつきそうになる。 「止めて下さいっ!!」 突然、厨房の方から大声がした。 そこにはヤンがいた。 軍服の上にエプロン姿、手には泡まみれの包丁。洗い物の最中だったらしい。 全員が静まりかえり、声の主である平民に注目する。 「えっと、あの、ですね。私が死にかけの状態で召喚されたせいで、皆さんに余計な心配をかけてるんだと思います。でも、私はこうしてちゃんと生きているわけですし、ミス・ヴァリエールは私を助けるために尽力して下さいました。 ですから、ミス・ヴァリエールは召喚に成功しましたし、呪われてもいません。系統の事は私には分かりませんが、どうかミス・ヴァリエールを責めないで下さい。 お願いします」 ヤンは、深々と頭を下げた。 ヤンの対応は、とても常識的で良識的なものだと言える。帝国でも同盟でも、大概の事はこれで収まったろう。 だが、ルイズの爆発魔法に日々迷惑していた若い貴族の生徒達は、たかが平民が頭を下げたくらいで頭に昇った血を下ろすはずがなかった。それはただの平民だと思われているヤンが相手でも同じだ。 「下がれ下郎っ!」 トネーが杖をヤンに向ける。 「たかが平民ごときが貴族に口出しするとは何事か!分際をわきまえよ」 「はぁ、確かに私は魔法の使えない身です。でも、命の恩人が困っているのを見過ごせないのに身分は無いと思うのです」 ヤンは平身低頭しつつも下がろうとはしない。 ルイズが、驚いてヤンを見つめる。この場でただ一人、並み居るメイジ達を前にしても恐れずに自分を擁護してくれる中年男を。 だが、貴族の子弟達は、ヤンの仲裁に耳をかそうとはしていなかった。 太った少年の杖がヤンに向けられ、口からルーンが漏れる。 「『ウィンド・ブレイク』!」 杖から放たれた突風が食堂を突き抜ける。 それは頭を下げているヤンを壁まで吹き飛ばし、したたかに叩き付けた。 「・・・?」 太った少年は、目の前に起きた事が分からなかった。 吹き飛ばしたはずの男が、壁に叩き付けられるはずが、壁に立っていたからだ。壁に垂直に着地した、と言える姿だ。 何のダメージを受けた様子もなく、そのまま床に降り立った。 「『ファイア・ボール』!」 横合いから別の生徒が火の玉を撃ちだした。 だが、ヤンは慌てるでもなく、飛んできた火の玉をヒョイと避けた。 避けられた火の玉が壁際の机に当たって火の粉を飛び散らす。 食堂に、どよめきが起きる。 中肉中背の、どうみても冴えない中年の平民が、いくら学生とはいえメイジの魔法を受けて平然としている。 そしてその様子を見渡したヤンは、再び深々と頭を下げた。 「私の無礼は、この通り謝罪致します。ですが、どうかここはミス・ヴァリエールを、私の命の恩人をお許し下さい。この通りです」 ヤンは、頭を下げたまま動かない。 そして食堂の学生達も、どうすべきか、どう答えるべきか分からず視線を泳がせる。 「諸君!ここは彼の言う通りじゃないか!?」 そう言って前に進み出たのは、薔薇の花を手にしたキザッたらしい少年。 大げさに両手を広げて、聴衆を前にした演説家よろしく朗々と語り始めた。 「これ以上ミス・ヴァリエールを叱責するのは、貴族の名誉に反するのではないかな?見ての通り、かの平民はゾンビでもなんでもないんだ。諸君らの疑念は晴れたと言うべきだろう!」 「ギーシュ、なぁ~にカッコつけてるのぉ?二股ばれたヤツがえらそーに」 生徒達の中から、甘ったるい女性の声があがる。 「うぐ、キュルケ・・・それは言わないでくれないかなぁ」 ギーシュに名を呼ばれたのは、炎のように赤く長い髪を持つ褐色の肌の女性。巨乳を揺らしながら、むせ返るような色気と共に前へ進み出る。 「大方、この前二股がばれてケティとモンモランシーに振られたから、名誉挽回にカッコつけようとしてるんでしょ?似合わないのよねぇ」 「ぐぐ、いや、それとこれとは」 言われたギーシュは、明らかに動揺してしまっていた。 「はいはぁい!そうよね、そう言う事にしといてあげるわ。確かにギーシュの言う事が正しいわね。 というわけで!あなた達、バカ騒ぎはこれでお終いよぉ」 二人の貴族にうながされ、生徒達はブツブツと不平や捨てぜりふを残しつつも、パラパラと散っていった。 あとに残ったのはギーシュとキュルケとルイズ、そして青い髪の少女に、ヤン。 ルイズは、へなへなと力なく床に座り込む。 ヤンは慌ててルイズに駆け寄り、ルイズを助け起こす。 メイド達はそそくさと食器を片付けたり焦げたテーブルを下げたりしつつも、チラチラとルイズ達を、特にヤンを見つめている。 「だ!大丈夫かねっ!?」「ミス・ヴァリエールもミスタ・ウェンリーも無事ですか!?」 二人の安否を問う叫びと共に食堂へ駆け込んできたのは、オスマンとコルベールだ。その後にロングビルも続く。 「あらあら学院長にミスタ・コルベールも、ゆっくりしたご到着ですことぉ」 赤い髪をかき上げながらのキュルケの皮肉も、二人の耳には入らない。 息を切らしながら騒ぎの主役の元へと駆けてくる。コルベールがヤンの身体をペタペタ触って無事を確認した。 「ミスタ・ウェンリー!怪我はありませんか!?」 「ええ、私はなんともありません・・・あの、ちょっと、止めて欲しいのですが」 「え?あっと、これは失礼しましたぞ」 コルベールは、慌ててヤンから手を離した。 「どうも。あの、でも、そのミスタ・ウェンリーというのも、なんです。私、ヤンの方がファミリーネームなんです」 「へ?はぁ、そうなのでしたか、失礼しました」 オスマンの方はルイズの無事を確認している。 「ふむ、どうやらミス・ヴァリエールも無事のようじゃ。良かった良かった。だが、大事 を取って午後は部屋で休みなされ」 「なら、私が送っていきますわ」 と名乗り出たのはロングビル。ルイズはコクリと頷いて秘書と共に寮塔へと歩いていった。 「それにしても、驚いたねぇ。冴えない風を装って、大した物じゃないか、平民君」 ギーシュがジロジロと上から下まで、ヤンを値踏みするように眺めたおす。 見られているヤンは、どうにも気持ち悪いようで顔をしかめてしまう。 「はぁ、まぁ、一応、軍にいましたので」 「そうかそうか!なぁるほどねぇ。ああ、名乗るのが遅れたね。僕はギーシュ・ド・グラモン。栄えあるグラモン家の四男だ。覚えておきたまえよ」 「あ、はい、こちらこそ。私はヤン・ウェンリーと言います」 右手を胸に当てて頭を下げるヤン。 ヤンの前にはキュルケも、不自然なほど色っぽい仕草でやってくる。 「あたしはキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。二つ名は『微熱』よ。よろしくね、ミスタ・ヤン。 それと、こっちにいるのが親友のタバサよ」 タバサと呼ばれた青い髪の少女が僅かに頭を下げる。 コルベールはようやく安心したようで、ダラダラと脂汗を滝のように流しながらも笑顔を浮かべた。 「さぁさぁ、もう授業の時間ですぞ。そろそろ教室へ向かいなさい」 ギーシュ達も立ち去り、後には冴えない中年男二人と老人が残った。 ぅおっほんっ! オスマンが誤魔化すように咳払いを一つ。 「ともかく、じゃ。ウチの生徒達が失礼をしたようで、申し訳ない。皆にはワシから叱っておくで、どうか恨まんで欲しいのじゃ」 「いえ、恨むだなんてとんでもない。それでは、あの、厨房に戻ってよろしいですか?まだ洗い物がありますので」 ヤンの手には、泡だらけの包丁が握られたままだった。 ヤンが厨房に戻るのを見つめるオスマンとコルベール。 厨房の方からは、もの凄い歓声が響いてくる。すっげぇじゃねえか!とか、尊敬しますわっ!!なんて叫び声も交じってくる。厨房に務める平民達にもみくちゃにされているのだろう。 オスマンが呆然としながら呟く。 「一体、彼は何者なんじゃろうなぁ」 コルベールも唖然として呟く。 「さぁ・・・いずれにせよ、あの柔和かつ勇敢、そして知的で謙虚な人となり。ただの軍人ではありませんぞ」 「そうじゃな。そして・・・これは本当に困った事じゃ」 オスマンは天をあおいでしまう。 「彼が大人物であればあるほど、大規模な捜索隊が組まれるのじゃ」 二人は突っ立ったまま、厨房から届く声を聞き続けていた。 夕方の学院。 あかね雲が広がる空の下、学院近くの森の中を走り回る人影があった。 狼のように草むらを走り抜け、猿のように木々の間を飛び、風のように何者にも遮られることなく駆けていく。 「おっと、ごめんよ」 森の中、眠っていた青い竜を見かけると、その人物は一言謝って即座に離れていった。 あっという間に学院の正門が見える場所まで森を抜けてきたのは、ヤン。右手は胸の銃に触れたままだ。 「いやぁ~、まったく凄いなぁ」 ヤンはじっと左手に光るルーンを見つめている。 「士官学校では実技は赤点だらけ。卒業後も全然鍛錬をしていなかったのに・・・。まさか、これほどの肉体強化を得られるなんて。さすが魔法の世界だなぁ。昨日のうちに気付いていなかったら、昼は危なかった」 銃から手を離し、学院へ足を向けた。 パチパチパチ・・・ 急に頭上から拍手がした。 ヤンが上を向くと、ずっと上空にロングビルが浮いていた。杖を手に持ったまま、器用に拍手しながら降りてくる。 「お見事ですわ。さすが異国の将、という所かしら」 「やれやれ、いやだなぁ。ずっと見ていたんですか?」 ロングビルはニッコリ微笑みながらヤンの前に降り立った。 「食堂での立ち振る舞いから、ただ者ではないと思っていましたが・・・やはり一軍を率いるだけの事はありますわね」 「まったく、どうして将だって分かったんですか?私の階級章は、この国の人には分からないはずですよ」 「ええ。今のあなたの言葉を聞くまで分かりませんでしたわ♪」 ロングビルの引っかけに気がついたヤンは、照れ隠しにポリポリと頭をかいてしまう。 「あの、この事は内密にお願いします」 「あら、よろしいんですの?ご自分の立場を理解してもらえれば、待遇はずっと良くなると思いますわよ」 「いいんです。私の故郷の事は信じてはもらえないでしょうから。故郷での私の地位なんて、この国では意味がないです」 「そうですか、分かりましたわ。 ところで、あなたの主の事なのですが・・・早く行ってあげた方がよろしいかと思いますわ」 「ああ、それで呼びに来てくれたんですね。わざわざすいません」 ヤンはロングビルに一礼して、学院へ駆けていく。 ロングビルは彼の背を見送った。 ルイズは布団に潜り込み、丸くなっている。 ヤンがベッドの横に来ても、何の反応もない。 「ねえ、ミス・ヴァリエール」 一瞬ビクッと震え、ますます小さく縮こまってしまうルイズ。 「僕はね、確かに士官学校を卒業して軍に入った。 でも、別に軍人になりたかったからじゃない。奨学金で歴史を勉強しようと思っての事なんだ」 よっこらせ、とヤンはベッドの横にあぐらをかく。天井を眺めながら、のんびりと語り続ける。 「途中で歴史を専攻する科が廃止されちゃってね。それで、戦略とかを専攻する科に移されたんだ。たまたま、そちらの成績が良かった、というだけの理由で無理矢理ね」 ルイズは何も答えない。 ヤンも気にせず天井へ向かって言葉を投げかける。 「そしたらビックリだよ。いつのまにやら、何というか、たまたま戦争に負けなくて。気がついたら軍を辞めるに辞められない所まで来てしまった。 時々思うんだ。あのまま歴史を勉強し続けていたら、どうなっていたんだろうかって。もしかしたら、ただの一兵士として前線に狩り出され、すぐに戦死していたかもしれないなぁ、と」 「・・・何が、言いたいのよ・・・」 ルイズの小さな声がヤンの耳に届く。 「うん、まぁ、何が言いたいかと聞かれると、少し困るんだけど。つまり、世の中って言うのは分からないものだって言う事だよ。どこでどう転ぶかなんて、誰にも分からないんだ。 暗殺されたと思ったら、いきなりハルケギニアに召喚されて、蘇生したと思ったら、使い魔にされてしまった私のようにね」 ルイズがヤンに背を向けて、のそっと体を起こす。 壁の方に顔を向けて、動かない。 「だから、その、いつか魔法がちゃんと使えるようになるかもしれないから、その時のために、ね。しっかり歩いて行こう、ということ・・・かな?」 肩越しにチラッとヤンを見るルイズ。 「何よそれ。バッカみたい」 言われたヤンは、ポリポリと頭を掻いてしまう。 「ねぇあんた・・・何か欲しいモノ、ある?」 「・・・うん?欲しいモノかい?」 いきなりの言葉に、ヤンもふと首を傾げる。 「急に、どうしたんだい?」 ルイズはぷいっと壁に向き直る。 「うぅっ、うっさいわね。何か言いなさいよ。もう、お金ほとんど残ってないけど、少しくらいなら、残ってるから。 平民が欲しがる程度のものなら買ってあげるわ!」 一瞬、クスクスと笑い出しそうになったヤンだが、すぐにオホンと咳払いをして誤魔化した。 「それでは、言わせてもらうよ。ただし、僕が欲しいのはモノじゃないんだ」 「・・・何よ」 「文字だ。この世界の本を急いで読めるようになりたいんだよ」 「なんだ、そんな事で良いの?」 「あと、乗馬も出来ないと。こんな辺鄙な場所じゃ移動に困ってしまう」 乗馬、と聞いて今度はルイズが首を傾げる。 「あんた、馬に乗れないの?軍にいたのに?」 キョトンとした瞳がヤンの方を向く。 その目には、泣きはらした後がくっきりと浮かんでいた。 「うん。僕の国には馬はほとんどいなかったから。数がとても少ないので、軍では使ってなかったよ」 「そう・・・」 ルイズはベッドからノロノロと降り立ち、机から本を取り出す。 「こっち、来なさいよ。文字、教えてあげる」 「うん、ありがとう」 「明日から、乗馬も教えてあげる」 「助かるよ」 「礼なんか、いらないわ」 その日は、夜遅くまでルイズの部屋に灯りがついていた。 第2話 平民以上、メイジ未満 END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4483.html
前ページ次ページゼロな提督 村の広場では、ルイズの前に金髪の若い騎士が立っていた。 「えー?戻って来なさいって、そんなぁ~」 「申し訳ありません。ですが、公爵は相当にご立腹とのことです。枢機卿も口頭での報告 が欲しいと」 「そんな、急に言われても…ねぇ?」 ルイズが後ろを振り向くと、ヤンとロングビルとシエスタも困った顔を見合わせてる。 「ねぇ、セブランて言ったっけ?確かアルビオンへ送ってくれたわよね」 セブランと呼ばれた少年騎士はビシッと直立不動をとった。 「はい!名前を覚えて頂き光栄であります!確かに先日、自分がミス・ヴァリエール一行 をアルビオンへ送らせて頂きました」 「そう、その節はご苦労様でした。でも、私達は村に用事があるので、もうしばらく滞在 したいのです」 「いえ、そう言われましても…」 彼等の周囲では村長はじめ村人達も突然の事に困惑していた。 第二十話 SPIRIT ルイズ一行がタルブの村に来てから数日が経った頃の昼下がり。村の広場に、突然若い 風竜が舞い降りた。 突然何事かと飛び出してきた村人達の前に、柔らかな金髪をなびかせた少女の様な顔立 ちの若い竜騎士、セブランが降りてきた。城からの使いとしてルイズ達を迎えに来たので すぐに呼んできて欲しい、とのことだ。 というわけで、村長の家でのんびり読書していたルイズ一行は、すぐに広場へ飛んでき たのだった。 「少しお待ち下さい、共の者と相談しますので。あの、村長」 ルイズがワイズを見ると村長は頷いた。 「ええ。それでは皆様、とりあえず私の家へどうぞ。騎士様は話が終わるまで、当家にて おもてなし致します」 一行とセブランは村長の家で話をする事になった。 ちなみに風竜は村の広場にいると皆が怖がる。竜騎士の風竜でも、竜が恐怖の象徴なの は変わらない。なので一緒に村長の家へ連れてこられた。 村長の家の横では、風竜がゴハンを食べている。と言っても竜の食べ物なんて村には無 いので村人用の食べ物を手当たり次第に引っ張り出してきた。 「ああ…ウチのブタを、丸飲みだなんて…せっかく育ててきたのに」 「しょうがないだろ。空腹で暴れられたらえらいこった。にしても、よく喰うなぁ」 竜を繋ぐような鎖も檻もないのでは危なくてしょうがない。なら満腹にさせて機嫌を取 ろうかということで、村で育ててたブタやら野菜やらをおっかなびっくり風竜の前に置い ていく村人達。若い風竜の食欲は凄まじく、目の前に出された物を片っ端から平らげてい く。 それを遠目から溜息混じりに眺めてる村の男達の姿は、執務室の窓からも見えていた。 執務室にはルイズとヤンとロングビルとシエスタ。 ルイズは窓際に立ち、上機嫌の風竜と不機嫌な村人達を眺めつつ指折り数えていた。 「ええっと、学院を出たのが…スカボローで2日で…ロンディニウムで一泊して…あらや だ、まだ十日ちょっとじゃない。これだけ色々あったのに、驚きだわ」 椅子に座るロングビルも目を閉じて思い出にふける。 「ホント、あっという間だね。色々あったよねぇ…。 ま~、あれだわね、ホラ。将軍に貸してもらった風竜でタルブ来た時、手紙だけ持たせ て返しちゃったじゃないか。枢機卿はともかく、公爵は『タルブで何を遊んどるかー!』 というとこじゃない?」 ルイズもヤンも思い返してみれば、確かにそうだったと頷いた。 扉の前に立ってるシエスタはちょっと苦笑いだ。 「エヘヘ…でも、それってミス・ヴァリエールを大事に思ってるんでしょうね。危険なア ルビオンを出たんだから、早く無事な姿を見せて欲しいんですよ、きっと」 実際、ルイズ達はアルビオンの調査を名目として派遣された。そして『ウェールズ皇太 子生存』情報という一定の成果を出し、大使であるド・ポワチエ将軍から風竜を借りてア ルビオンを飛び去った。タルブへ寄ったのはシエスタと合流するためなので、手紙なんか 出さずに風竜に乗って一緒に帰れば良かったはずだった。 それが、何故に調査報告書としての手紙だけ手渡して竜騎士を帰らせたかと言えば… 「でも~、だって、せっかく旅行に来たんだしぃ~。ゆっくりしていきたいわよねぇ?あ たしの系統については、祈祷書がトリスタニアにないなら急ぐ必要ないし」 と、ヤンに同意を求めるルイズ。 「そうだよ。そもそもこれはルイズと僕が見聞を深めるための旅なんだよ。焦って帰る理 由は無いじゃないか」 と、自己正当化をするヤン。 「あたしだってさぁ、学院長のセクハラからよーやく逃げれたんだしねぇ~。ちょっと羽 を伸ばすくらい、いいんじゃない?」 と、責任をオスマンに押しつけるロングビル。 「つーわけでタルブに残ったわけだ!でもおかげでサヴァリッシュの書とか、色々見つけ れたから良かったじゃねーか!」 と、結論をまとめたデルフリンガー。 「はぁ…ともかく、そろそろ学院に戻りましょう。私は学院じゃなくてヴァリエール家の メイドになったからいいですけど、ルイズさんとロングビルさんは帰らないと怒られるで しょ?」 と、シエスタの冷静かつ当然な予想。二人とも「ふぁ~いぃ…」と気のない返事を返す のだった。 ヤンはよっこらせっと机から降り立った。 「まぁとにかく、トリスタニアに戻らなきゃだめか。公爵も怒ってるみたいだし。枢機卿 には手紙で報告書を出したけど…足りなかったかなぁ?」 外を見てたルイズがクルッと振り向いた。 「そんな事はないと思うわよ、アルビオンで見聞きした事で虚無とテファに関わらない範 囲で全部書いたもの。多分、興味があるから直接話を聞きたい、ということじゃないかし らね」 壁に立てかけられたデルフリンガーも鞘からピョコッと飛び出す。 「んじゃ、早速帰るっきゃねーな!秘書のネーチャンも、ずっとお暇をもらってるわけに もいかねーんだろ?」 「うぅ、そうだねぇ…正直、あのセクハラジーサンの所に戻るのは気が重いけどね、しょ うがないわねぇ」 諦めの溜息混じりにぼやくロングビル。フーケを辞める以上、給料に縛られる生活もや むを得ないと観念した。 執務室の本を見渡しながら、ヤンが呟く。 「ま、帰るのは良いんだけど…この本がね」 その言葉にルイズとロングビルも執務室の書棚に並ぶ本を見る。 「確かに、ただ帰るのは…ねぇ」 「ホント、もったいないわ。村長と相談でもしようかね?」 それらの本は、全てハルケギニア語で記されている。サヴァリッシュの書庫にある冊子 とは異なり、何かの動物の皮で装丁され、各隅は鉄で補強された立派な本が並んでいる。 学院の図書館にあっても不思議はない。そのほとんどはハルケギニアの地理と歴史、教会 の教義、トリステインの法律、紳士録、魔法関連など。村長の家にあっても不思議はない 本ばかりだ。 ただ、その中に、背表紙に何も書かれていない本がいくらか混じっていた。装丁も他の 本と比べるといい加減、というより素人が手作業でやったかのようだ。 その内一冊をシエスタが取り出して広げる。もちろんハルケギニア語の文章と様々な絵 が描き込まれている。 「お祖父ちゃんに相談してみましょう。村のみんなの意見も聞いてみないと出来ない事で すし」 そんなわけで、食堂でタルブ名産ワインと手料理にて接待を受けているセブランを残し て、一行は村長の所へ向かった。 「…というわけで、ブドウを原料とする蒸留酒です。作ってみませんか?」 村の広場で、ヤンは村人達に蒸留酒造りを勧めていた。 広場には沢山の村人達が集まってきている。来ていないのは村長宅でセブランと風竜の 対応をしている人など、ごく少数だろう。無論、広場にいるのは村人とルイズ一行だけ。 よそ者がいても顔見知りの村人同士だからすぐ分かる。 提案を受けた人々は互いに顔を見合わせ、どうしたものかとそこかしこで囁き合っている。 一人の老人が声を上げた。 「それで、蒸留酒の作り方は分かるんかの?」 「ええ、もちろん。サヴァリッシュ氏がハルケギニア語で記していました。今も村長の執 務室においてありますよ」 ハルケギニア語で記されたサヴァリッシュの書。この言葉を聞いた時、村人からは驚嘆 の声が上がる。 当然、地下書庫の存在はサヴァリッシュ家の秘密。内容は帝国公用語で記されてはいる が、書籍の存在自体も口にするのはタブー。そもそも異国の言語で記された書を大量に隠 している時点で、異教徒だの間者だのと疑いをかけられる原因たり得る。その知識は口伝 を装っている。 それだけにハルケギニア語で記された書の存在はインパクトを持った。口々に「なんと まぁ!そんなものがあったのか…」「すると、オイゲンさんはわしらに作れと言ってる、と いうことなのか」「まさかぁ、あの方の力なしに出来るもんか」等の意見がザワザワと聞こ えてくる。 広場を埋め尽くす村人達の前に、今度は村長が進み出た。 「まずは、話を聞いてくれるかな?」 ガヤガヤと騒がしかった村人達が静かになってから、ワイズは朗々と語り出した。もち ろんサヴァリッシュ家の秘密に触れない範囲で。 サヴァリッシュの書。それはハルケギニアとは比較にならない超技術の塊であり、存在 自体を秘匿せねばならない。書を記したオイゲン自身も秘密を守り、平凡な平民として生 涯をまっとうした。 ただ、その中には公表しても危険性のない技術・知識もある。 例えば、現在タルブの村で使用されているワイナリーの知識。 もともとタルブではワインを作っていた。また、ワイナリーとしては秘伝の知識ではあ るが、既に数十年前からタルブ村はワインの名産として知れ渡っている。つまり、ワイナ リーとしての優れた知識がタルブに存在する事自体は周知の事実。これが外部に漏れたか らといって地下書庫の存在がばれるわけではない。 他に、ヤンが既に持っている知識もある。一例としては軍事・兵法関連だ。 突然『出所不明の知識』が小国トリステインの片田舎から湧き出すのが不自然だという のなら、出所がハッキリしていればいい。それに、オイゲンは後ろ盾が無い異邦人だった ことと、ワルキューレの存在を万一にも知られないため、一介の平民として生きた。しか しヤンはヴァリエール家の後ろ盾があるし、世界を滅ぼすような兵器も持っていない。な によりヤンが高度な技術を持つ異国から来ているのは召喚された時点で明白。 そして、最初からほとんど危険性の無い知識として料理もある。料理の本はハルケギニ ア語で記された書の一つだ。 その書にはチャーハン・ラーメン・餃子やクレープ・ワッフル等の作り方が記されてい た。材料さえあれば創作料理を装えば済む。ただ、オイゲンがそれをしなかったのは、タ ルブに来るまで自炊したことが無かったから。料理書に書かれたメモによると、故郷の料 理を懐かしみたかったものの、料理の才能は無かったので諦めたらしい。というより、成 功するまで延々と失敗作を自分で味見した上で始末せねばならず、懲りた。 オイゲンがハルケギニア語で記した書の一つで、ヤンが提案した蒸留酒作りがこれらに あたる。 「・・・というわけで、簡単に言うと『蒸留酒の作り方はヤンさんから聞いた』と言えば いいんだ。事実、ヤンさんは蒸留酒の作り方をある程度知ってるから、別に問題は起きな いと思うのだ。念のため、執務室にあった蒸留酒と蒸留器製造に関する書は読んでもらっ たし」 以上、ワイズは地下書庫に触れない範囲で、村人へ説明した。後ろのヤンも嬉しそうに 頷く。 村人達は様々な表情で意見をぶつけ合う。 面白そうだからやってみよう、という野心的意見。ワインだけで十分だわよ、という欲 のない意見。アストン伯や近隣の町や村にも話を通してみるべきだ、という周囲との軋轢 を不安に思う意見。蒸留酒ってことは蒸留のための設備がいるから金がかかるなぁ、とい う資金面を考える意見。本だけ見たって簡単に作れるもんじゃないよ、という技術面を考 える意見。サヴァリッシュが公にする事を禁じた知識だから秘密にし続けるべき、という 意見も聞こえてくる。 そんな彼等の前に、今度はルイズが進み出る。小さな身体に精一杯空気を溜め込み、大 きな声でしゃべり出した。 「いきなり蒸留酒なんて、と思うのも当然でしょう!でも、ハルケギニア語で記した書と いうことは、サヴァリッシュ家だけじゃなく、村の人々全員に末永く読んで欲しかった、 という意味だと思います!」 その意見に、騒がしかった人々も注意を向ける。 「当然、資金や技術など難しい事は多いと思います!何しろ、作り方は図解入りで記して はありますが、一から作り始めるとなると本の通りにはいかないと思います。最初は失敗 が続くでしょう。蒸留酒も樽で寝かせる場合は、売れるほどの品が出来るまで長い時間が かかるのも事実です!」 そこかしこから、そりゃそーだ、オイゲンさんだって村に来た時は散々苦労したそうだ しなぁ、という声が聞こえてくる。不安げな表情が村人達の間に広がっていく。 そんな否定的空気が広がる広場に向けて、ルイズはさらに元気よく声を張り上げた。 「でも!挑戦する価値はあると思うの!成功すれば村はさらに発展することは間違いなし よ! もちろん、このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、協力致 します!出資は惜しみません。父さまにも話を通しておきますわ!」 ヴァリエール家の名を知らない村人もいない。ヴァリエール家の後ろ盾があれば心強い なぁ、いやアストン伯が領内に干渉された事を怒るだろ、秘密を守るには貴族とは縁を持 たない方が、ヤンさん自身がヴァリエール家の執事やってるから今さら…等々、様々な意 見が広場を飛び交っている。 「ちょっといいかしら!?」 若い女性の元気な声が上がった。村長が声の主を見ると、長いストレートの黒髪を持つ 可愛くて活発そうな女性が手を挙げていた。 「おや、ジェシカじゃないか。いつトリスタニアから戻ってきてたんだ?」 「ついさっきよ。姫さまの婚儀で、お店のワインも足らなくなったので帰ってきたの。シ エスタから『迷い人』のヤンという人が村に来るって聞いてたし」 ジェシカはヤンの半開きな目を真っ直ぐ見つめながら、腰に手を当てて大きな声で意見 を述べた。 「ワインを蒸留するって言うけど、タルブのワインは高級品よ!そんなの勿体なくて蒸留 出来ないわ!第一、そんな事しなくてもタルブは十分ワインだけで潤ってるのよ。この上 もっと儲けようなんて考えたら、周りの村から無茶苦茶な嫉妬を向けられ、とんでもない 嫌がらせをされることは間違いないわ!」 ジェシカの意見に周囲の人々も頷く。様々な意見が再び広場中から湧き起こる。 確かにタルブはワイン商を通さず直接販売もやってるせいで街の問屋から嫌われてるよ なぁ、いやそれはハルケギニア中から直接買い付けが来ちまうせいだよ、俺達のせいじゃ ないよな、とか。実際私達のワインって高級品だから、わざわざ蒸留する必要はないよ、 とか。 これらの意見を背にして、ジェシカはヤンの反論を待つかのように彼を見つめ続けてい た。 ヤンは再び前に出る。村人達もシン…とすぐに静まりかえる。『2秒スピーチのヤン』と 呼ばれた彼だが、今回のスピーチはさすがに長かった。 「皆さんの意見は当然です!確かにタルブワインを蒸留するのは勿体ないです。そのまま で十分美味しいんですから!」 ヤンの率直な高評価に、村の人々も満足げに頷く。そして同時に、じゃあ蒸留の話はど うなるんだ?と首を傾げる。 「だから、タルブのワインを蒸留するんじゃないんです!ワインを作った後の、ブドウの 搾りかすを発酵させるんです!私の国ではマールとか、グラッパとか呼ばれている蒸留酒 です! また、タルブ以外のワインを蒸留する事も、別の村でやってもらう事も出来ます!」 ヤンは大きな声で静まりかえる広場に説明を続けた。オイゲンの遺した知識とヤンのア イデアを。 西暦時代のフランス産マールとイタリア産グラッパ。これらは共ににブドウ原料の蒸留 酒だが、使用するのはブランデーと違いブドウの搾りかす。マールはオーク樽で熟成させ るがグラッパは熟成を経ないものが多い。 ブランデーという蒸留酒は、16世紀のオランダ商人がフランスとのワイン貿易を行う 際に考えられたという説がある。ワインを少しでも船舶で大量輸送させるため、いったん 蒸留し濃縮させ、フランスに持ち込んでから水を足して売ろうとしたらしい。もう一つの 説は、ワインの過剰生産により余った在庫を処理しようと加工した結果、というもの。良 質なボルドー産ワインの前に、コニャック産ワインは1/3くらいの値段しか付かなかった ため、これをどうにか売れるようにしようと蒸留したところ、見事な蒸留酒が出来上がっ た。 オイゲンは若い頃、実家でワイン醸造を勉強していた。その課程でブドウの搾りかすを 有効利用する方法として、マールとグラッパについても調べていた。ただ、蒸留器の製造 には多額の資金と高い技術が必要になる。タルブのワインで手一杯だし、十分に儲かって いたので手を出す事はなかった。 「・・・でも、今なら出来ると思います!グラッパなら樽で寝かせないので、完成までの 期間はマールより短いでしょう! なにより、これは周辺の村々の為になると思うのです!」 ジェシカはじめ村の人々も、食い入るようにヤンの言葉を聞き入っている。特に周辺の 村々のためになる、という点に。 「恐らく、タルブのワインが高級品として出回っているため、他地域のブドウ農家やブド ウ商人から反発を受けていると思います!彼等のワインやブドウが値崩れして生活に困っ ている事でしょう!」 ヤンの予想は正解だったらしい。広場の人々は頷いたり困った顔を向け合ったり。そう だけど、でもそう言われてもなぁ…という不服げな言葉も多い。そんな中、「あー!なるほ ど!」「ふーん、でもそう上手く行くかなぁ?」「売れるほど美味しいモノは、なぁ」とい う声もちらほらと聞こえる。 ヤンは慣れない大声を出し続けて喉が痛くなり、ジュリアンから水を一杯受け取り一気 に飲み干す。そして大きく息を吸い、結論を述べた。 「だから、他のブドウ農家やワイン商人に蒸留酒の作り方を教えるなり、他地域の余って 値崩れしてしまったブドウやワインを、適正な値段で買い取って質の良い蒸留酒にしても いいんです!この村でも、たまにブドウの出来が悪い時はあるでしょうから、その時は自 前でやってもいいでしょう! タルブ村は蒸留酒で更に潤います!他のブドウ農家も人気が無くて買い叩かれるワイン を確実に適正な値段で買い取ってもらえたり、蒸留酒にできれば、タルブへの怒りも収ま るでしょう!技術供与の対価を受け取るなり、醸造の手数料をもらうなりで、村も儲かり ます! ワインと蒸留酒で客の取り合いになる事もあるだろうけど、味もアルコール度数も全然 違うので、深刻に考えるほどのライバルにならないと思います!」 広場の熱はどんどん上昇していく。もはや怒鳴りあいという程の大声で意見がぶつかり 合う。 是非やってみようという若者。これ以上タルブは目立つべきでないという老婆。オイゲ ン無き今、私達だけで出来るのかしらという妊婦。他の村々に話を通してみようという少 年。なんで他の村の事まで考えなきゃいけないのじゃ、という老人。やり方だけ教えてあ げればいいんだから、私たちが作る必要ないんじゃない?という少女。あたし達自身がや らないと他の連中も付いてこないさ、という奥方。これを機にタルブ村の知識を広めよう じゃないか!と気勢を上げるグループもいる。 そんな光景を広場の隅で眺めているのはロングビルとシエスタ。二人は熱い討議が行わ れる村人達を楽しそうに、嬉しそうに見つめていた。 「ははっ!なんだかあいつら、熱くなってるねぇ!」 ロングビルの口からも熱を帯びた言葉が漏れる。答えるシエスタは満面の笑みだ。 「そりゃそうですよ!ひいおじいさんの凄い知識の数々、自慢したいのをみんな我慢して たんですもの。 正直、ヤンさんが来てくれなかったら、村は知識を隠す者達と公にしようとする者達で 分裂していたでしょう」 「うん?どういうこったい…と、まぁ予想は付くけどね」 シエスタが語る話は、大方がロングビルの予想と一致するものだった。当然の成り行き と言うべきものだから。 昔から、オイゲンの知識を持ち出し金を得ようとか、酒の席でつい口を滑らすとかいう 不届き者が何度も現れた。何しろ、サヴァリッシュ最後の書にある航空写真から地図をお こすだけで、現行のいかなる地図より正確かつ広範囲な地図が描ける。どんな貴族も商会 も先を争い金貨を投げつけて買い求めるだろう。 特に医学に関しては、もっと世間に広めるべきだっていう意見が多かった。高価な水魔 法を使えず死に至る貧しき者達を黙って見過ごすなど、人として出来る事ではなかったか ら。 また、サヴァリッシュ家の持つ医学やワイナリーとしての知識を授けて欲しいと弟子入 りを志願する若者達も後を絶たなかった。特に貴族達相手だと、断るだけでも一苦労だ。 シエスタの言葉を聞いて、ロングビルが顎に手をあて空を見上げて考えこむ。 「ヤンが来ないうちに知識を公にしちまったら、『タルブはどういう村?』と不審がられる ね…教会にも目を付けられて、地下書庫を見つけられちまうかも知れない。でも『ヤンか ら聞いた』ということにすればタルブは安全ってワケかい? ヤンの知ってる範囲の知識を公にするということで妥協も出来る、と。まずは蒸留酒で 試してみるわけだね」 ロングビルの歯に衣を着せない推理に、シエスタはバツが悪そうに俯いた。 「はあ、その…そういう事なんです。ヤンさんには悪いと思ってますけど、二つ返事で承 知してくれましたし。ヤンさんにも悪い話じゃないと思いますから」 「あんたらも意外と性悪だねぇ」 「あなたに言われたくないです!」 ニヤニヤと笑いながら言う女を、少女はキッと睨み付けた。 だが睨まれてる女は怒りもせず笑ったままだ。 「まぁまぁ、そう怒りなさんな。ヤンを利用しようってのはお互い様なんだからさぁ。ヤ ンもその事は百も承知なんだし、もちつもたれつ。後ろめたいと思う事はないさね」 今度はニッコリと微笑みかけられ、シエスタはフンッとそっぽを向くついでに広場を見 つめる。ロングビルも広場を見る。 広場では、相変わらず激論が続いている。 ロングビルは独り言のように呟いた。 「新しい技に挑戦、か…ワクワクするわね」 シエスタも顔を紅潮させる。 「何年かして、蒸留酒作りが成功したら、どんな村になるのかしら…」 「もう、街になっちまうんじゃないかい?平民が作った、全く新しい街。いや、トリステ イン自体が変わっちまうかもよ」 「こうやって、ひいおじいさんの知識を少しづつ広めていったら、世界はどうなるのかし ら。蒸留器製造とかで、地下書庫の知識も少し使うかもしれないし…。 なんだか想像がつかないなぁ~。ちょっと怖いかも」 二人は空を見上げながら、まだ見ぬ世界に想いを馳せた。 さすがに村の将来を左右する話なので、簡単には結論が出せない。枢機卿への報告や姫 の婚儀もある。なのでルイズ一行は村の結論を待たず学院へ戻る事になった。 ただし、村を発つのは明日の朝。 村長の家で接待を受けていたセブランは、普段口にしない高級ワインを浴びるほど飲ん で酔いつぶれ、風竜も満腹でひっくり返り大イビキで熟睡していたから。 「いやぁ~、楽しい旅だったなぁ。んふふ、マールにグラッパ、ブランデ~。やっぱり紅 茶にはブランデーだよね~」 既に日も暮れた頃、村長の家ではヤンが旅の思い出を振り返り、まだ見ぬブランデーを 想い描きながら鼻歌混じりにデルフリンガーを磨いていた。 「嫁さんも手に入れたしな!」 いきなりなデルフリンガーの言葉に動揺したヤンは長剣を落としそうになった。 「ば、バカな事を言わないでくれよ!マチルダとは、まだ、そんな…僕は…」 「なんでい、やっぱり故郷に未練が残ってるのか?」 長剣に言われ、ヤンの腕からは力が抜けていく。 「いや、そんな事は、まぁ…ね。でも、ハルケギニアでやる事も増えたし、もう吹っ切る つもりだよ」 力なく膝の上に置かれた長剣。だがそのツバはヤンを元気付けるようにガチガチと打ち 鳴らされる。 「なら、なおさらだぜ!オイゲンみたく、ここで結婚して子供作っちまいな!」 「いや、だから、その…」 ヤンは赤くなりながらしどろもどろ。そしてデルフリンガーは更に彼を慌てふためかす 言葉を畳みかける。 「なんだ?もしかして、オメーはシエスタの方が好みってワケかぁ?それとも意外にルイ ズみたいなちみっこが!」 「ば!そ、そんなわけないだろ!?」 その後も扉がノックされるまで、ヤンは長剣にからかわれ続けた。 ルイズとロングビルの部屋では二人が荷物をまとめている。 ルイズは四角いトランクにヒョイヒョイと、柄付き行火・ティーカップ・小鉢・ブラシ に香水瓶などをキッチリ綺麗に並べて収めていく。ロングビルは畳んだ衣服と少々の小物 をズタ袋に詰め込んでいく。 「あ~あ、これで旅もおしまいかぁ…なんだかもったいないなぁ」 溜め息混じりのルイズに、ロングビルもボンヤリという感じで答える。 「ホントだねぇ、『虚無』とか、サヴァリッシュの書庫とか、盛りだくさんだったよ。 でもあたいは何と言っても!ヤンと、ね…フフフ」 長い緑髪の女性は頬を染めながら身をよじらせ、手を頬に当てたり自分の身体を抱きし めたり。まるで恋する少女のように…というにはあまりに艶めかしく妖しい姿だ。 ウエストウッド村での夜を思い出しているロングビルを見るルイズも、テファと一緒に ドアに張り付いていた時の事を思い出し、真っ赤になってしまう。顔を見られまいと暗い 窓の外へ向く。 「全くもう!いやらしいんだから!」 照れ隠しに叫ぶルイズを見るロングビルには、ピンクの髪から覗く真っ赤な耳が見えて いた。意地悪にニンマリと笑ってしまう。 「へぇ~、それをずっと覗き見してた、どこかのお嬢様は、どうなんだい?」 「うわわ!私は!その!あの…」 慌てて向き直り誤魔化すルイズだが、どんどん語尾がしどろもどろになっていく。 対するロングビルも、どんどん口の端が釣り上がっていく。 「その?あの?…ん~、なんだろーねえ?」 「うぅ…しっしゃべったら、許さないんだから!!」 虚勢を張るルイズの姿に、ロングビルは爆笑してしまった。 「キャハハハッ!アハハ…ふぅ。もちろん分かってますわよ。ま、これからもヤン共々、 よろしくお願いしますわ」 ヤン共々、という言葉を聞いたルイズは更にロングビルを睨み付けた。 睨まれた方は爆笑をやめ、服も髪も整えてから、今度はニッコリと微笑む。 「ご安心下さい。前にも言いましたが、決してヤンをミス・ヴァリエールから取るわけで はありません」 以前にも聞いた言葉ではあったが、今度はプイッとそっぽを向いた。 「当然よ!忘れないでね、ヤンはあなたの恋人である前に、私の使い魔であり執事なんだ から!」 「ええ、分かってます。私は王侯貴族が大嫌いですが、あなた個人の事は嫌いじゃありま せんから」 王侯貴族は嫌い、と言われたルイズは一瞬眉間にシワがよりそうになる。だがロングビ ルがサウスゴータを追われた事情を思い返し、尖らせそうになった口を元に戻した。 「そう…なら、それでいいわ。ところで、急に丁寧な口調になると、気味が悪いわね」 「そういわないで下さいな。学院では有能で上品な秘書のつもりなのですから。今から演 じておかないと学院でボロが出ますわ」 コンコン、とノックの音が室内に響いた。 扉の向こうからシエスタの声が届く。 「失礼します。準備が出来てますので、食堂へお越し下さい」 ルイズの「すぐ行くわよー」という返答を受け、シエスタの足音が遠ざかっていった。 そして少女はニンマリと笑い、反撃という感じで女に毒の籠もったセリフを投げかけて くる。 「…でも、気をつけないとねぇ~。ヤンってモテるから、油断してると若くて器量良しな 女の子に捕られちゃうカモよぉ~」 投げかけられた女の満面の笑みは、一瞬引きつった。 「もちろん、取られたりしませんよ。私も十分若いですし、容姿にだって自信あります。 何より、既に夜を共にしてるのですから!ヤンは女を傷つける人ではありませんよ」 「んふふふふ~。でも、ヤンだって男だもんねぇ~男は狼って言うモンねぇ~」 ますます楽しそうに意地悪な笑みを浮かべるルイズの言葉に、ロングビルも内心穏やか ではいられなくなってきた。 「もう!そんな話は後にしなよ!ほら、食堂でみんな待ってるから、さっさと行くとする よ!」 「あ、ちょっと待ってよー」 ルイズの言葉に耳を貸さず、ロングビルはスタスタと部屋を出て行った。 村長宅の食堂では宴会が開かれていた。 ルイズ一行を上座にして、サヴァリッシュ家の人々や村の有力者達等がしきりに乾杯を 繰り返し、肩を抱き合って歌を歌う。もちろん飲むのはタルブのワイン。目の前には野菜 やキノコの鍋、チーズとパン、フルーツなど、素朴ながら心のこもった家庭料理がズラリ と並んでいる。 一番上座にルイズ、その左にロングビル、そして更に左にヤンという並びで座ってる。 タルブ村の主賓は明らかにヤンなのだが、雇い主の貴族を差し置いて平民のヤンを中心に するわけにはいかない。デルフリンガーはいつものように背後の壁に立てかけられてた。 「ほーら、ヤン。もっと飲みなよ」 「あはは、いやー嬉しいなぁ。こんなに飲めるのは久しぶりだよ」 ヤンはグラスが空になるたびに隣のロングビルからワインを注がれてご満悦。宴会が始 まって以来、かなりの勢いで酒量を胃袋に流し込んでいる。 それを緑の髪ごしに眺めるルイズは二人にほっとかれて、ちょっとご機嫌斜め。 つまらなそうにチビチビとグラスに口を付けるルイズの姿に見習い執事も気が付いた。 「ルイズ、どうしたんだい?何を怒ってるのかな?」 といってヤンは小さな主のご機嫌を伺う。でも、ルイズはツンとそっぽを向いたまま。 そんな子供っぽい姿をロングビルは柔和な微笑みと共に眺めている。 ご機嫌斜めな少女と、少女の機嫌を直そうとあれこれ話しかける男。 二人に挟まれていたロングビルは、ふと二人を見る視線に暖かさが増した。 「ちょっと、いいかしら?」 二人にそう言うと彼女は自分の椅子をずらす。 「ヤン、ちょっとこっち来て…そう、ルイズの横」 自分のいた場所にヤンを座らせると、ロングビルはルイズを挟んだ反対側に自分の席を 移した。 「これでよし、と」 上座から、緑髪の女性とピンク髪の少女と黒髪の男が並んだ。 ロングビルがボトルをルイズのグラスに注ぎ直す。 「ほら、機嫌直しなよ」 「な、なによ。あたしは別に怒ってなんか…」 そう言いつつチラリと左を見ると、すぐ隣でヤンが彼女の顔を心配げに覗き込んでた。 右を見れば、ワインを注ぐロングビルが微笑んでいる。 「…ま、今夜でタルブも最後だし。楽しまなきゃ損ね」 と言うやルイズはグラスのワインを一気に飲み干した。 大人二人に挟まれたルイズをみて、デルフリンガーはボソッと一言。 「まるで親子だなぁ」 その言葉は、ワイワイガヤガヤと騒がしい食堂では誰の耳にも入らなかった。 宴もたけなわになった頃、キッチンからシエスタとジェシカが大盆に皿を乗せてルイズ 達の所へやって来た。 シエスタが手慣れた様子で彼等の前に皿を並べていく。 「はーい!それでは皆さん、本日のメインディッシュですよー」 ジェシカはヤンの前に皿とマスタードの入った小瓶を置いた。 「ヤンさん、ぜひ感想を聞かせて下さいね!」 目の前の皿に乗せられた食べ物を見て、ルイズとロングビルは目が点になった。 それは、メインディッシュと言うにはかなり奇妙なものだったから。 ルイズは皿の上に置かれた細長いパンを手に取った。 「なに、これ?サンドウィッチ?」 ロングビルは縦に切れ目を入れられたパンを開いてみる。 「えーっと…パンの中に焼いた腸詰めと、タマネギのみじん切り、それにキャベツの酢漬 け?いや、漬け物だね」 二人がふとヤンを見ると、手に取ったそれをしげしげと見つめていた。 「…ホットドッグだ…」 ヤンはマスタードを塗り、恐る恐る、ゆっくりとかぶりつく。 その姿をジェシカとシエスタは期待と不安が入り交じった目で見つめている。 彼はじっくり味わい、ゴックンと飲み込んだ。 「ホットドッグだ…間違いなく、美味しいホットドッグだ」 その言葉に、持ってきた二人は手を取り合って黄色い歓声を上げた。シエスタはヤンの 横に軽やかな足取りで駆け寄る。 「ホントに、ホントに美味しいですか!?故郷のものと比べてどうですか!?」 「うん、間違いない。これはホットドッグだよ!これって執務室にあった料理の本にのっ てたんだね!?」 ジェシカが満面の笑みで自慢げに答えた。 「その通りよ!嬉しいわねぇ、これでお店にも出せるわ! 実は昔から料理の本を読んでたのよ。ずっと作りたいなって思ってたけど、本物の味が 分からなくて。『迷い人』のお墨付きも手に入れたし、これで『魅惑の妖精』亭に新しい名 物料理が出来たわ!」 そんなジェシカの言葉は、ヤンの耳には届いていない。彼は取り憑かれたようにホット ドッグを頬張っている。 少々見苦しい姿に、ルイズは顔をしかめてヤンの服をツンツン引っ張る。だがヤンは全 然気付く様子がなかった。軽く頭をひっぱたこうとしたルイズの右手は、微笑むロングビ ルの手にそっと包まれた。 シエスタも夢中で懐かしい料理を頬張るヤンを暖かく見つめている。 「それじゃ、デザートの『スイギョーザ』や『シューマイ』も持ってきますから。是非感 想を聞かせて下さいね!」 ソバカス少女の言葉に、彼は上の空のままで頷いた。だから『何故餃子や焼売がデザー トなのか?』という質問をするのも忘れていた。 この後しばらく、オリジナルの味を知らず本だけ見て作った、しかもハルケギニアで手 に入る材料のみを使った様々な料理が並べられた。期待のこもる視線に囲まれたヤンは、 どう言えばいいのかと酔いが覚めるほど困り果てるのだった。 幸い、自炊した事がなかったオイゲンではなく、料理を作れる可愛いひ孫達の作品。さ すがに不味いという程のものはなかったが。 あらかたの料理が人々の胃袋に収まった頃、奥方の一人がクラシックギターに似た弦楽 器を持って来た。洋梨を半分に切ったような形状で、背面が丸く湾曲している。 それを見たへべれけ寸前の村長が、グラスを高々と掲げた。 「お~、久々にマリーのリュートが聞けるかぁ」 とたんに拍手喝采が湧き、マリーは酔いの回った聴衆へ深く礼をする。 そして椅子に腰掛けて、リュートの旋律と共に歌い始めた。 ヘイ、ジャン・ピエール、地獄がお前に媚を売っている ヘイ、ジャン・ピエール、お前に似合うのは偽りの微笑み ヘイ、ジャン・ピエール、魔王を閉じこめた地獄の氷を砕いて ヘイ、ジャン・ピエール、お前のグラスに浮かべよう… 聞き慣れない歌に不審を感じたのは壁に立てかけられた長剣だった。 「なぁ、ヤンよ。もしかしてこれもオイゲンの故郷の歌か?」 彼は何も答えず、頷きもしなかった。だが肯定の回答としては、それ以上明確なものは なかった。 さほど飛び抜けて上手というわけでもない歌。歌詞も目出度い宴会の席に相応しいもの とも思えない。だが、ヤンの心を掴むには十分だった。 それはまだ宇宙歴が始まらない、西暦の時代。開拓途上にあった星々を放浪する伊達男 を歌ったものだったから。 彼は黙って歌を聴き続けた。 ルイズもロングビルもシエスタも、デルフリンガーすらも黙って彼の傍で歌を聴いてい た。 第二十話 SPIRIT END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/imaska/pages/327.html
■シンガポール近海海戦(天海提督の決断)背景 交戦戦力(日本軍の沈没艦は駆逐艦を含めた戦闘艦艇全てを、それ以外の日本軍艦艇は巡洋艦以上を表示) 損害 戦闘経過 エピソード 参考文献 ■シンガポール近海海戦(天海提督の決断) 背景 1941年12月23日のマレー沖海戦に於いて英国東洋艦隊は壊滅状態になったが、英国海軍は直ちにイラストリアス級装甲空母『インドミタブル』『フォーミダブル』を中心とする機動艦隊をマレー沖に派遣した。 一方帝國海軍はニューギニア近海海戦を終えた第1機動艦隊をそのままブルネイに回航させ、1942年2月23日にシンガポールに向け出撃。 翌24日シンガポールを空襲するが、英国機動艦隊を発見する事には失敗した。 元々の目的がシンガポール攻略ではなく英国機動艦隊撃滅であった以上、即座に第2派を出撃させるのは得策ではないと判断した第1機動艦隊司令部は、第2派出撃を昼過ぎまで見合わせ、索敵に専念する事を決断。 正午過ぎに機動艦隊を発見し、即座に如月千早中将は攻撃隊発進を下令した。 交戦戦力(日本軍の沈没艦は駆逐艦を含めた戦闘艦艇全てを、それ以外の日本軍艦艇は巡洋艦以上を表示) +日本軍 第1機動艦隊(艦隊旗艦軽空母『瑞鳳』 艦隊司令如月千早中将) 航空隊計318機 +英国軍 第3艦隊(艦隊司令L・マウントバッテン中将) 空母2 戦艦5 巡洋艦5 輸送船32 直掩機36機 損害 +日本軍 航空機6機 +英国軍 沈没 空母2 戦艦5 巡洋艦4 輸送船17 直掩機36機 戦闘経過 第1機動艦隊第1次攻撃隊318機の強襲を受け、英国第3艦隊は空母『インドミタブル』『フォーミダブル』戦艦『ウォースパイト』巡洋艦1を撃沈される。 これを受け英軍第3艦隊司令マウントバッテン少将は残存艦をシンガポールへ逃げ込ませる事を決意する。 しかし、翌26日正午、英軍第3艦隊はシンガポール基地入港直前に偵察機に発見され攻撃を受けると言う最悪の結果に陥ってしまう。 この空襲で『リベンジ』『ラミリーズ』『ロイヤル・サブリン』『レゾリューション』の4隻のR級戦艦と巡洋艦3輸送船半数以上を失い、巡洋艦1と輸送船のみとなってしまった英軍第3艦隊はシンガポール入港を諦め、コロンボ基地へ敗走した。 エピソード シンガポール基地への第2次攻撃を正午過ぎまで遅らせたのには、陸上基地への空襲ならば薄暮空襲になっても大丈夫であるとの第1機動艦隊司令如月中将の判断があった。 参考文献 Wikipedia マレー沖海戦 天海提督の決断 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/721.html
380 :名無しの紳士提督:2015/12/25(金) 22 17 00 ID F.hV5l7U どうも、いつも鳥海のSSを書いている者です 今日はクリスマスなので二つ投下します 一つ目は別世界観での鳥海の話です 今まで投稿した鳥海のお話とは内容が違います 独自設定も満載です NGは『ここにいる理由』でお願いします 381 :ここにいる理由:2015/12/25(金) 22 17 39 ID F.hV5l7U 12月25日はクリスマスである。 家族で過ごす日という認識もあるが、 日本では恋人同士で過ごす日という認識が強い。 ほとんどの独身者はクリスマスを一人で過ごしているだろう。 まあよくて友達や同僚と過ごすか。 俺はというと部下と二人きりで過ごしていた。 いや、そういう言い方は少し違うかもしれない。 俺達は深海棲艦との戦いの後始末をしていた。 数年前の8月15日、深海棲艦という謎の存在が突如現れ、世界を恐怖に陥れた。 それを完全に討ち滅ぼしたのはクリスマスから17日前の12月8日の事である。 それは74年前、日本が世界を巻き込んで一度破滅へと向かいはじめた日であった。 そして今、破滅へと向かっていた世界を日本が救った日でもあった。 「……さん……司令官さん……」 「ん…」 「起きましたか、司令官さん?」 「あぁ………はっ!?」 「大丈夫ですか司令官さん」 「すまない、寝てしまったよ」 鳥海という秘書的な存在の声に俺は目を覚ました。 眼鏡をかけた彼女は秘書というイメージがぴったりだろう。 服装が全然秘書っぽくない事は忘れよう。 「仕方ありませんよ。ずっとお仕事していたんですから。 最近もあまり寝てないのでしょう?」 「夜遅くまでやっていたからな」 「司令官さん…いつもお疲れ様です…」 「ありがとな鳥海」 戦いの後始末に追われていた俺を鳥海が労ってくれた。 「ふぅ…………ったく…もう終わるだろうと思っていたのに、 まさかミスがあったなんてな…… もう鳥海一人で十分と判断したのはミス判明前だけど、 慢心せずに他のみんなにも手伝ってもらえばよかったかもしれん」 「ごめんなさい、私の力が及ばず……」 「君のせいじゃないさ。それよりも仕事の続きを…」 「大丈夫です、もう終わってました」 「終わってた……ああ、私の分は終わらせて気が抜けて寝てしまったか。 本当は君の手伝いをするべきだったのに…すまない…」 「気にしないでください、司令官さんはお疲れだったんでしょう? 私が司令官さんに迷惑をかけるわけにはいきませんから……」 「本当にありがとう、鳥海……まあ仕事が完全に終わっても寝るしかなかっただろう。 そもそもクリスマスに仕事があろうがなかろうが俺にはほぼ関係なかったし」 そう。独り身の俺にはクリスマスなんて関係ない。 寂しいかもしれないけど、殊更ひがむ気もない。 「あの……司令官さんはもし今日仕事が早く終わっていたらどうしていましたか?」 「どうしていたかな……深海棲艦との戦いに全力を尽くしていたから恋人なんていないし…… むしろ仕事があって君が手伝ってくれたのが皮肉にも異性と過ごせたという事に繋がったな」 「異性と……」 「あ……」 しまった。つい口が滑ってしまった…… 「鳥海、その…それは……」 「……あの………司令官さん。もし仕事がミスがなく終わったら…… これからの時間も一緒にいてよろしいでしょうか?」 「え……?」 女性からクリスマスを一緒に過ごそうと言われたのは 30年近く生きてきて初めての事だった。 恋人同士という関係にあったわけではなかったのだが、 俺には恋人なんていないし、鳥海にも恋人はいない(はず)。 「……ああ、いいぞ」 「ありがとうございます」 俺は鳥海の誘いを受け入れ、その返事を聞いた鳥海の顔は嬉しそうだった。 その鳥海の顔を見た俺は遠い過去に抱いたある想いを心の中に蘇らせていた………… 「なあ鳥海、お前、どういうつもりだ……」 「どういうつもりって……夜戦、ですよ」 あの後仕事は何のミスもなく完全に終わった。 俺は鳥海を自分の部屋に誘ってみて、了承したので連れて行った。 そして一緒にケーキを食べたりして過ごしていたが、 鳥海がベッドに腰掛けて服をはだけさせながら、 少し恥ずかしそうに俺を誘うような行動をしてきた。 「クリスマスに男女が二人きりでいてすることといえば、こういうことじゃないのですか?」 「確かにそうかもしれないけど……でも…」 「私はかつて司令官さんに命を救われました。だから夜戦で少しでもお返しできれば……」 「助けられたって…だけど君は深海棲艦との戦いで俺の期待に応えてくれたじゃないか」 「そうですけど…でも、あの時司令官さんを不安にさせちゃいましたから…… 大破しながらも出撃しようとした私を『俺はもう大切な人を失いたくない』 って言って引き止めようとしてくれていましたから」 「あ…ああ……」 確かにあの時の俺は大切に想っていた人を何もしなかった為に『また』失う事を恐れていた。 「だから司令官さんも私のことが好きなんだなって思ったんです。司令官さん、そうでしょ?」 「ああ………確かに俺は君の事が好きだ………」 「よかった……」 鳥海の表情は安堵の表情だった。少し暗さも感じたが…… 「だったらしましょうよ。しない理由なんてないでしょう」 「だけど…」 「もしかして自信がないのですか?」 「自信がない…確かにそうかもしれない。君を苦しめてしまわないかって思ってしまってな。 俺は女性とそういった事なんてした事ないからわからなくて……」 「司令官さん、経験なかったのですか!?」 鳥海が凄く驚いた表情をしながら声をあげる。 「ないさ。意外に思うかもしれないけどな」 「本当に意外です。司令官さんは結構スケベなところがありましたし」 俺が割とスケベな事は大抵の艦娘は知っている事だ。 同僚の若い提督達と猥談していたのを青葉に聞かれていて、 そこから艦娘達にも知れ渡ったからな。 幸いな事に日頃真面目に仕事をしていた為か、 艦娘達からは呆れられる事はあれど幻滅される事はなかった。 特に鳥海がこんな俺を軽蔑しなかった事は素直に嬉しかった。 「確かに経験はないがそれくらいで怖じけづいたりはしないさ。 それくらいで君とするのを諦めたりはしない」 「じゃあ私としてくれないのは私が人間じゃないからですか……?」 人間じゃない………… そう、鳥海は人間ではない。艦娘という存在である。 艦娘…………それはかつての世界大戦を戦った軍艦が悠久の時を越えて蘇った存在である。 なぜ人間の女の姿になったのか、それはわからない。 だが、なぜこの時代に蘇ったのか……それは深海棲艦という存在を討ち滅ぼす為と言えるだろう。 深海棲艦は艦娘が現れる少し前に突如現れた存在である。 深海棲艦は艦娘とは違い、人間の姿だけではなく、不気味な化け物の姿をしたものもあった。 その力は恐ろしいものだった。破壊力こそ70年前の兵器レベルであったが、 軍艦とは違い人間とほとんど変わらぬ大きさでそれ程の破壊力を持つ存在は脅威であった。 だが深海棲艦の一番恐ろしいところは我々のあらゆる攻撃が通用しない事だった。 破壊力で勝る近代兵器も精々相手を吹き飛ばしたり足止めをしたりするのが精一杯で、 深海棲艦に傷を付ける事は不可能であった。 そして人類は制海権も制空権も失い、 生まれ育った大地すらも深海棲艦によって破壊されていった。 そんな絶望の中、艦娘は現れた。 彼女達は70年前の艦船の生まれ変わりを自称していた。 人間達も最初は彼女達の事を信じられなかったが、 人類に対して敵意を持つ者はなく、 70年前の戦争を生きた人間達の証言等も彼女達の語った事と同じ部分があった為、 彼女達に対し訝しがれど悪意を持つ者はいなかった。 もっとも、それは深海棲艦を唯一討ち滅ぼせる存在である事が一番の理由かもしれない。 深海棲艦を討ち滅ぼし続ける彼女達を見てそんな事言ってる暇なんてないと思うだろう。 かくして、艦娘と人類の連携によって深海棲艦は完全に滅びた。 だが深海棲艦が滅びた事により艦娘達はその存在理由を失ってしまったかもしれない。 そして深海棲艦と戦う為に現れた艦娘は、 深海棲艦滅亡と共にこの世界から消えるのではないか…… 確かな答えこそなかったが、そう考える人間も艦娘もたくさんいたのだった………… 「それも違う………とは言い切れないかもしれない。 心のどこかでそう思っているかもしれないから。 けどそれも違う。俺が君の誘いに応えられないのも… …俺が君を愛していいのかと不安になってしまうのも…」 「不安?どういう意味ですか? 別に誰かが誰かを愛することは、 迷惑さえかけなければいいんじゃないんですか?」 「…………」 口が滑った…かもしれないけど、喋らなかったところで複雑な想いを抱いたまま生きていき、 いずれすれ違いの元になってしまい、悲しい事になるだろう。だから俺は覚悟を決めた。 「……聞いてくれないか……」 「え…………はい……」 鳥海の顔が真剣な顔になった。俺は言葉を続けた。 「俺が君を好きになった理由…… それは俺が昔好きだった人と君がとても似ているからなのかもしれない……」 「…………」 「……その子は俺が物心ついた時から……好きだった幼馴染の女の子だった…………」 俺は思い出したくない……楽しかったからこそ、今思い出す事が辛い事を思い出しながら続けた。 「ずっと一緒で……それが当たり前だった…… 俺は馬鹿で…あの子に色々としてしまったけど……それでも時間が経てば仲直りしていた…… 俺は…それに甘えていたんだろうな……変わらない日常……… ある時もちょっとした軽口を言った。 怒っていたけど、また仲直りできるって思って謝らなかった。 だけど………それが繋がっていた絆を断ち斬ってしまったんだ。 卒業式の時も仲直りする事なく喧嘩別れしてしまった。 住んでる所が一緒だからまたいつか会えるだろうって思っていた。 でも……二度と会う事はなかった…………」 「…………」 鳥海の顔が少し驚きと悲しみ混じりになった。 「俺は後悔したよ…………どうしてあの時すぐに謝らなかったのか…… なぜ人の気持ちがわからなかったのか……やりたかった事がたくさんあったし…… ずっと一緒に生きてきた彼女と…もっと色んな事をしたかった……けど、もう……」 「…………」 鳥海は何とも言えない複雑な表情をしていた。 「…………すまない、こんな事を言って…でも君の姿は本当に初恋の子に似ていて、 俺が君を好きになったのもそのせいなんじゃないかって思えて、 君と一緒にいるのは俺が初恋の女の子と出来なかった事を 君を代わりにして行う自己満足なんじゃないかって…… だから俺には君を愛する資格なんてないかもしれない…… 君をかつて好きだった人の代わりに愛してるかもしれないって知られたら、 愛想尽かされるんじゃないか…… あの戦いが終わってからそう考えてしまうようになったんだ……」 「…………そうやって勝手に思い込んで諦める。それが自己満足なんじゃないんですか……」 「な…」 鳥海の口から出た言葉はあまりにも意外な言葉だった。 「だってあなたの言っていることは、あなた自身のことしか考えてないんじゃないでしょうか。 自分で勝手に怖がって、私の気持ちとか、全然考えてるようには思えませんから……」 「…………」 そう言われればそうなのかもしれない。俺は何も言い返せなかった。 俺は昔から自分の中でばかり考えてしまい、 相手を自分に都合よいように善く解釈したり悪く解釈したりしていた。 相手の気持ちがわからなかったし、面と向かって聞くのが怖かった。 自分の気持ちを相手に知られて、そのせいで相手との関係が壊れてしまう事を恐れ、 そのせいで相手に誤解されてしまい関係が壊れてしまった事もあった。 その反省のつもりで今は正直に言ったがそのせいで駄目に…… いや、諦めるかよ。鳥海は俺の事を好きだと言ってくれた。 なら、俺が鳥海に諭されて間違いに気付いたと言おう。そう思って… 「……でも私も自分勝手なのかもしれませんね」 「は?」 鳥海に謝ろうとしたら意外な事を言われたのだった。 「艦娘がこの世界に生まれたのは深海棲艦を倒すためかもしれない。 だから深海棲艦を倒してしまった今、 役割を失った艦娘はじきに消えてしまうのではないかと思って…… だから私は司令官さんの大切な人という役割を得てこの世界から消えてしまわないようにした。 そう、私だって自分の勝手な都合で異性を利用しようとして…… こんな酷いことしようとした私なんて……」 鳥海は己を責めていた。まるでかつての俺みたいに…… 確かに酷いかもしれない。けど俺には一つ気になる事があった。 「鳥海、俺を利用してまでこの世界に残ろうとした理由は何なんだ?」 「理由…ですか……あなたに助けられた恩返しがしたかったからです。 私は数十年前に艦としての生涯を終え、 そして長い眠りの後に艦娘としてこの体でこの世界に再び生まれました。 どうやって、何故艦だった私たちが艦娘という存在として蘇ったのかは私や他の艦娘…… そして人間たちの誰もわからない。 だけど私は蘇ってすぐ、何故生まれ変わったのかという疑問を深く抱く時間もなく、 深海棲艦という存在を見てそれが敵だと本能的に思って戦いました」 鳥海の話を聞けば艦娘は深海棲艦と戦う為にこの世界に蘇ったと考えるのも不思議ではないだろう。 「そう、あの時の君はこの世界に蘇ったばかりって言ってたな。 なんにせよあの時君が俺を助けてくれなかったら今俺はここにいなかったよ」 俺はかつて海で深海棲艦と直接戦っていた。志願したわけではなく徴兵的な形で戦士にされたのだ。 鍛えた戦士達は深海棲艦との戦いで海に散っていったり、 生き延びても再起不能だったり長い入院生活をするハメになったりしていた。 そんなわけで戦力はどんどん減っていき、戦いの素人さえも戦場に送られていった。 しかし戦える力のある者達ですらまともに戦えないのに、 付け焼き刃で素人同然な人間が戦える道理ではなかった。 技術的な進歩こそあれど深海棲艦撃破という事だけはどうしても不可能だった。 俺も深海棲艦と戦ったが駄目だった。周りの艦が次々と沈んでいく中、 俺の乗っていた艦も被弾してついに死を覚悟した。 だがその時だった。俺の艦を狙っていた深海棲艦が突如吹き飛んだ。 鳥海が砲撃したからだ。それが俺と鳥海の出会いだった。 普通は人が海に浮いていれば驚くだろう。 だが俺には鳥海が女神に見えた。深海棲艦を撃破したというのもある。 彼女によって深海棲艦は撃破された。彼女は俺の乗っていた艦に招かれた。 彼女を間近で見た時俺は一緒驚いた。俺がずっと想いを抱いていた少女と似た雰囲気だったからだ。 髪の長さや胸の大きさこそ違っていたが、 俺が小さかった頃に抱いていた想いと似たような想いが芽生えていた。 「だけど、私が敵を全て倒したと思い込んで確認を怠ったために 隠れていた敵の私への攻撃からあなたが私をかばって大怪我をして…」 「気にするな。今生きてるからそれでいい。 それにあの時君をかばわなかったら君も俺もみんな死んでいたさ」 あの時の俺は他人を助けたというよりも半ば死に急いでいたという感じがした。 もちろん死にたいと思ってやったわけではない。 今まで人の役に立てた記憶がなかったから、 死ぬとしてもそれが他人の為になるなら、って感じだった。 実際鳥海を助けた理由も好きだった人に似てたからではなく、 深海棲艦を倒した彼女が無事なら彼女が深海棲艦を倒し、 生き残っていた者達や、世界を助けられるかもしれない、 だから自分が犠牲になる事になっても構わないと思ったからだ。 鳥海を庇って深手を負う事になった俺は、 鳥海が深海棲艦の生き残りを撃破したのを見てそう思って意識を手放した。 まあ幸いにも命に別状はなかったらしく俺は何とか生き延びた。 しばらく安静にしていれば動けはする状態だったからまた戦場に送られるのだろうと思っていたが、 俺達が鳥海と出会った前後に各地で他の艦娘と邂逅したとの報告が多数あり、 その艦娘達が集まって艦隊を結成し、人間ではなく艦娘が戦いの主役になった。 艦娘の運用は人間達の艦隊の運用とは勝手が違う為、 指揮経験を持った者と素人との差がほとんどない状況だった。 俺は他の者達と共に艦娘の指揮方法を模索しつつ猛勉強した。 結果、俺は艦娘を指揮する『提督』になった。 そして俺は艦娘や世界中の人々の命を預かる者の一人として深海棲艦と戦ったのだった。 「だからさ、あの時は互いに助け合っていた形だから、俺だけが君を助けたなんて…」 「……深海棲艦との最後の戦いの日、私は命を落としかけました」 「え?ああ……」 いきなりの言葉に俺は思わず驚いた。 「あの深海棲艦が鎮守府を攻めようと迫っていた日、 私は傷付き疲れ果てていて、艤装もほとんど破壊されていました。 それでも……傷付いた艦娘達の中では私が唯一戦える力を持っていました。 だから無傷だった他の艦娘達と共に深海棲艦を迎えうったのです。 司令官さんの引き止めも無視して……」 「そうだ。君が傷付いた体で出撃して、もし何かがあったらと思ったらつい……」 「そして私は奮戦したもののあと一歩というところで沈んでしまった……」 「あの時は本当にもう終わりだと思ったよ……」 「私もそう思いました。 でも…………薄れゆく意識の中、私の脳裏に様々なものが浮かんできたのです。 司令官さんの姿……それも司令官さんの小さかった頃の姿が。 そして司令官さんがたくさんの人達と楽しく遊んでいた思い出が…… その中で一際大きく鮮やかに輝いていた、私に似た少女の笑顔……………………」 「…………」 「その時…出撃前に司令官さんから言われた言葉が頭に響きました」 「……確か………『大切な人をもう二度と失いたくない』って、あの時君に言ったんだったな……」 「ええ。その言葉と…私の脳裏に浮かんだ、私に似た少女の姿…その二つが結び付き…… どんな事情だったのかわからないけど、 あなたは昔好きだった人と一緒になれなくて、その事が心残りとなっていて、 もし私まであなたと永遠に別れてしまう事になってしまったら………… そう思うととても悲しい気分になり、ある思いが芽生えました。 この人を支えたい……悲しませたくない………もう独りにしたくない…………」 落ち着きながら喋っていた鳥海だったが、その声に徐々に感情的になっていった。 「そう思っていたら…私の傷付いた身体が癒され、壊れた艤装も蘇りました。 そして、改二になれなかった私が、ほんのひと時とはいえ改二になれた…… もしかしたら、あなたへの想いが、きっと奇跡を起こしたのかもしれません」 「……確かにあの時の事は本当に奇跡だったのかもしれないな」 「私も驚きました。あんなことが起こったことに…… でもあなたへの想いが私を再び蘇らせ、深海棲艦を打ち倒させてくれた。 そして深海棲艦との戦いを終わらせてくれた…… そう、あなたが私を…いえ、世界中の人々を救ったんです」 世界中の人々を救ったのはあくまで結果論だ。 鳥海があのまま沈んでいても、他の艦娘が深海棲艦を倒していただろう。 だけど鳥海を救った事……それは間違いなく俺が救ったと言えるのかもしれない。 「だから私は救いたい。私を、世界を救ってくれたあなたの心を…… あなたの心の中にいる大切な人……その人と出来なかったこと、やり残したこと…… その未練のすべてを私が受け止め、再び立ち上がらせてあげたい。 人ならざるものだった私が人の……女性の身体を持ってこの時代に蘇った。 それも、あなたの心の中にいる大切な人の面影を持つ少女として…… それが私に与えられたもう一つの運命なのかもしれません」 運命…か。重巡洋艦鳥海の進水日は俺に命を与えてくれた人の一人がこの世に生まれた日… 重巡洋艦鳥海の戦没日は俺に命を与えてくれた人の一人に命を与えてくれた人がこの世を去った日…… 偶然かもしれないけど、数々の偶然は重なると運命となるのかもしれない。 理屈になってないかもしれないけど……鳥海は俺の大切な人の全てだと、そう言える気がした。 「深海棲艦を討ち倒す艦娘としての運命、そして…… あなたの悲しみを癒す者として……だから…………」 俺を見つめる鳥海の瞳はまるで全てを貫く蠍の心臓のアンタレスのように紅く輝いていた。 彼女が俺を想う気持ちは間違いのないものだろう。 たとえ自分が誰かの代わりとしてしか見られなくとも、 抱いた想いを最後まで貫き通すだろう。 そこまで覚悟を決めた彼女を俺が拒むなんてできやしなかった。 「…………ありがとう……鳥海…………そこまで俺を想ってくれて……」 「司令官…さん……」 「君が俺を想っているから消えたくないと思う気持ちと同じくらい 俺も君に消えてほしくないと思っている。 俺は君と一緒に生きていきたい、君と幸せになりたい。 君と一緒にいつまでいられるのかはわからない… けど!俺はもう後悔なんてしたくない!何もやり残したくない!だから…」 「ありがとう…好きです……ん!」 「ッ!?」 言葉を紡ごうとしたが言葉で遮られ、紡ぎ直そうとしたら唇を閉じられた。 だがそれは拒絶の意味ではなかった。 目の前に彼女の顔があった。彼女は自らの唇で俺の唇を塞いでいたのだ。 柔らかくて、温かくて、きっと人間のそれと本当に変わらないような………… 俺のドキドキは止まることなくどんどん加速していった。 これからの事に期待するかのように………… 「もう……準備は出来ています…いつでも…いい…です……」 鳥海は俺が少しでも早くできるようにしようとしたのか自分で自分を高めていっていた。 確かに俺には経験がないが…いや、何も言うまい。 俺は鳥海が指で開いた秘部を詳しく見る為に顔を近付けた。 「…おかしく…ない…ですか………」 鳥海は少し震えた声で聞いてきた。 経験のない俺には正しいのかどうかはわからなかったが、 本等で見たものとそれほどの違いは見られなかった。 俺が言うのもあれだが、経験のない処女のそれっぽかった。 「多分……な……」 「そう………」 「鳥海………挿れるぞ…………」 「…………」 鳥海は軽く頷くと眼を閉じ、力を抜いて受け入れようとしている風に見えた。 俺は熱く、硬くなっていたちんちんを手で添えながら 鈴口を鳥海の膣口にキスさせるように当て、入れようとした。 しかし入らなかった。ちんちんの先端は鳥海の大切な場所の入口、 そこを護る清らかなるヴェールに阻まれた。 その瞬間、とてつもない射精感が俺の股間に込み上げてきた。 今までの自慰での経験上それがもはや止められない事はわかっていた。 俺は外で出すわけにはいかないと思いっきり鳥海の膣内に突き入れた。 プチッ! 「くぁっ!?」 全力で突き入れたからなのか、高い音をたてて処女膜が敗れたような音がした。 俺はほぼ一瞬で鳥海に根本まで飲み込まれる形で最奥まで辿り着いた。 膣内の感覚は人生の中で今までに感じた事がないくらい温かくて気持ちのいいものだった。 だがそれを感じでいる暇はなかった。鳥海の膣が更にきつく締め付けてきたのだ。 異物挿入に備えて身体が阻止しようと勝手に反応したのかもしれないが、 俺の突き入れがあまりにも速く、逆に入ってきたものを離すまいとした形になっていた。 もはや射精寸前だったとはいえ、 それによってもたらされた気持ちよさは俺の射精を更に早めたのだった。 びゅるん それは解き放たれた。 期せずして一ヶ月ほど溜め込んでいたからか、 自分でもかなりの粘度を感じた。 びゅるっ…びゅるっ…びゅるっ… 凄く…気持ち良かった。尿道を駆け抜ける快楽と、 ちんちんが粘膜を押し広げるように膨らむ時に感じる快楽が…… びゅるっ…びゅるっ…びゅるん… 粘膜と粘膜が触れ合っている感触がこれほど気持ちの良いものとは思わなかった。 気持ちいいだろうとは思っていたけど、それは射精の時の律動くらいに思っていた。 びゅるん…びゅるん…びゅる… まだ出てる……まるで俺がずっと吐き出さずに内に押し止めていた想い、 それを全て吐き出すかのように…… だけど、その想いは鳥海への想いではない。 鳥海に似た、かつて俺の心の中にいた大切な人への想い… それを鳥海への想いに乗せて解き放っているのかもしれない。 びゅる…びゅる…びゅる…びゅる… ここまで…ここまで溜め込んでいたのか……それを鳥海は受け止めてくれていてくれる… それが、本来自分へ向けられなかったかもしれないものだとしても…… びゅる……びゅる………びゅ…………びゅ………… 俺は快楽に酔いしれながらも様々な事を考えていた。 びゅ………………びゅ…………………… やっと射精が終わった。思えば自分だけ気持ち良く………鳥海は!? ほとんど自分の世界にいた俺は鳥海の心配なんてしてなかった。 俺は鳥海の顔に目をやった。鳥海の顔は少し虚ろだった。 「鳥海……」 俺は言葉に力が入らないながらも思わず呼び掛けた。 すると鳥海はこちらに反応して俺の顔を見た。 「………終わった……の…………?」 「…………」 俺は鳥海の問い掛けに隠す事なく正直にただ頷くだけだった。 俺だけ勝手に気持ち良くなったんだ。 文句言われたり責められたりしても仕方ないだろう。 しかし鳥海は俺に対して笑顔で答えた。 痛みを耐えるかのような感じではあったが、確かに笑顔だった。 「ありがとう…………」 俺も少し笑顔になりながらもそう言って感謝の気持ちを表し、 そしてそのまま意識を手放した………… 俺は目が覚めた。覚めたとはいっても瞼はまだ閉じていた。目が覚めたのは重さを感じていたからだ。 俺は目を開いた。そこには鳥海が俺の目の前にいた。俺は仰向けのまま、鳥海に乗られていたのだ。 「ふふっ、起きましたか」 「鳥……か……………うおっ!?」 意識がはっきりしつつある中、鳥海が裸であり、俺も裸であり、 二人のあそこが結合していて、少し赤く汚れているのに気付いた時、 俺の意識は完全にはっきりとした。 「あ、そ、その……き、昨日はすまない!」 俺は昨日の事について謝った。 「初めてだったのでしょう?仕方ありませんよ」 「そ、そうじゃなくて…いや、それもそうだけど、 自分だけ勝手に気持ち良くなったあげく寝てしまって……」 俺は本当にすまない気持ちだった。 「最近お仕事ばかりでまともに眠っていなかったんでしょう。仕方ありませんよ」 「けど…」 「それに、あなたの寝顔、とっても安心しきった感じで、穏やかな顔でした。 少し前に仮眠していた時は、穏やかでなくて、 険しい顔をしていましたから…心配してましたよ……」 「そうか…心配かけてごめんな」 「でももう大丈夫みたいですね。何だか昨日までと比べて元気な気がしますし、 それに………こっちもとっても元気です…………」 「ん………」 鳥海が結合部の方に目をやった。俺は勃起していた。 「あ……これは、だな…男特有の…」 「わかってます。でも昨日はすぐに終わっちゃいましたし、だからもっと楽しみましょう。 あなただってもっと気持ち良くなりたいでしょうし。 ふふっ、大丈夫ですよ。昨日からずっと私の中にあなたがいましたから。 だから激しく動いたりしても……ね」 「……鳥海がそう言うのなら!」 俺は鳥海が下になるように体勢を変え、早速腰を動かした。 激しく、と所望していたがさすがに最初からそうするのはどちらにもつらいと思い、 まずはゆっくりと動いた。 「うぅ……ん……」 「鳥海…」 「大丈夫…あまり痛くない…です…」 鳥海はそう言ったが少しだけ苦悶に満ちた表情だった。俺はスピードを落とした。 鳥海の顔から苦しみが少し消えた気がしてそのまま続けた。 しばらくして滑りがよくなってきた気がしたのでまた少しずつペースを上げた。 じゅぷ……じゅぷ…… 膣内が濡れてきたのか水音も立ってきた。 その音が俺を更に興奮させ、腰の動きを早める。 俺は求めた。まるで心に残る思い出を作ろうとするかのように。 艦娘はいつ消えるのかはわからない。 明日どころか下手したら次の一瞬にも消えてしまうかもしれない。 しかしもしかしたら考えが間違っていて、艦娘は消えたりしないかもしれない。 どちらにしろ根拠なんてものは何もない。 楽しい思い出があれば後で苦しくなった時に余計につらくなる。 だけど、何もしなければ、何もしなかった事を後悔するだろう。 どちらにしろ後悔するのならやるだけやる。 俺は心の中の欲のままに動き続けた。そしてその時はまたやってきた。 「鳥海っ…もう…出る…」 「っ…ええ…来てください………全て受け止め…」 ドクン! 鳥海の言葉が終わらない内に射精してしまった。 びゅーっ、びゅーっ 一晩経ったとはいえ二回目の射精。最初の時よりも勢いがある気がした。 「くぅ…ん……うぅ……」 「ぁ…ぁぁ……ぁ……」 俺は我慢なんてしなかった。ただただ奥に腰を押し付けていた。 少しでも『今ここにいる』鳥海に子種を植え付けるかのように…… 艦娘が人間の精子で受精し、着床して、子を成せるのかどうかはわからない。 それでも……それでも俺は今、心から愛している女性との間に子供が欲しかった。 俺と鳥海が愛し合った証…鳥海を繋ぎ止めるもの…鳥海がこの世界にいた証…… 僅かな希望を信じ、俺は鳥海に全てを吐き出していた。 鳥海もきっと、俺と同じ事を考えながら、欲望とも言える愛の全てを受け止めていた。 「ん……あ………お腹の中………あなたので…暖かい………」 長い射精が終わった。鳥海の顔は昨日と同じく嬉しそうだった。 自分のお腹の中に感じる暖かな感覚…… それが自分が今生きていると彼女に実感させているのだろう。 とりあえずこれでひとまずの終わり…… かと思ったら射精が終わったにもかかわらずちんちんは硬さを保っていた。 「鳥海、もっと…」 「もっとください…」 俺も鳥海も求める気持ちは一緒だった。 俺は今目の前にいる女性を愛する事しか考えてなかった。 俺はまた動こうと腰を引こうとした。が、引けなかった。 鳥海が脚でがっちりと締め付けていたからだ。 俺は鳥海と目を合わせた。鳥海が少し恥ずかしそうな笑顔をしながら脚を解いた。 俺は再び…いや、三たび彼女を愛しはじめた………… そして、それから半年が過ぎた………… 「あの戦いからもう半年も経ちましたね……」 鳥海は今も俺の傍にいた。 「ああ……鳥海、さすがにこんな体でそんな格好はどうかと思うぞ」 「摩耶の言う通りね。いくら艦娘鳥海としての正装とはいえ、お腹を出すのはまずいわよ。 あなただけの体じゃないんだから、しっかりと着込みなさい」 「それにしても提督も隅に置けないわね。 今6ヶ月なんでしょ?つまりクリスマスの時に………きゃあっ」 鳥海だけでなく高雄型の重巡洋艦姉妹も…… いや、艦娘みんながまだこの世界に存在していた。 「しっかし、お前がまさかあたし達の上官で居続けるなんてな」 「深海棲艦との戦いで頑張った結果が認められたらしいからな。 まあ割と無茶ばかりしていたけどな。 別に俺は提督の座に今でも居続けるつもりなんてなかったけど、 提督辞めたって食っていけるとは限らんからな。 だから活躍が認められて提督でいられる機会を得たなら、 俺はその期待に応えて提督で居続けるつもりだ」 「まあ、子供がもうすぐ生まれますから安定したところにいたいですしね。 ご両親にも心配をかけたくないでしょうし」 「安定…か…」 「摩耶、どうしたの?」 「だってさ……あたし達艦娘っていつ消えてもおかしくないよな」 「そうかもしれないわね。艦娘が深海棲艦と戦う力を持って生まれたということは 深海棲艦がいなくなった今、艦娘の存在理由がないかもしれないから」 「鳥海は提督にとって大切な存在となることで存在を保とうとした…… いえ、それは後付けの理由ね。 提督が鳥海を好きで、鳥海も提督に想いを抱いていて…… それは人間の持つ恋心を艦娘も持っていたということかもしれない……」 「でも鳥海だけじゃなくて艦娘みんながまだこの世界にいる…… ……もしかしたら艦娘そのものにまた別の役割があるのかもね。 例えば深海棲艦がまだどこかにいて今は表に出てきてないけどまたいつか蘇って、 その時のために私たちがまだ消えることなくこの世界にいるのか……」 「もしかしたら艦娘が次に戦う相手は人間かもしれません…… 艦娘はかつて艦だったころも日本を守るために戦い、そして守り切れず敗れてしまいました。 だからこの国を守るために艦娘は未だに居続けている…… …もしかしたら私たちの力が侵略に使われたりも…」 「そんな事!人間同士の愚かな争いなんて二度と…… そりゃあ攻められたなら戦うが、相手を不当に侵すような事なんて、絶対に!」 高雄の不安がる言葉につい強く反応してしまった。 「提督……?」 「……俺は悲劇は二度と繰り返させない……過ちは二度と繰り返させない……」 俺は決意した。提督として、戦争という行為を二度と起こさせない。 そして艦娘達を人に仇為す存在にさせないと。 「……お前、本当に昔と比べて変わったな」 「摩耶……」 「昔出会ったばかりの頃は頼りなかったけどさ、 深海棲艦との戦いの終わり頃には随分と立派になったよ。 そん時でも対深海棲艦の時くらいしか頼りになる感じがしなかったけど、 今はもう十分立派だぜ」 「そうね。これなら鳥海ちゃんを安心して任せられるわね」 「鳥海が提督を好きと知った時はほんのちょっと不安になったわ。 鳥海の決めたことだから私たちがとやかく言えることじゃなかったけどね。 今の提督は本当に立派でかっこいいわ、うふふっ!」 「姉さん……ありがとう……」 姉に認められた鳥海は本当に嬉しそうだった。もし姉達に反対されていたら… それでも俺への愛は貫いていたかもしれないけど。 「ところで鳥海、あなたは今は改二じゃないみたいね」 「ええ…」 「私や愛宕はかつて改装され、摩耶も改装こそされなかったけど対空能力を強化された。 だけど鳥海は何の改装もされなかった」 「あたしでさえ改二になれるかどうかって感じで、まあ何とか改二にはなれたけど、 かつて改装されなかった鳥海は改二になることができなかった」 「はっきり言って絶望的だったわ。でも…どうしてあの時だけ改二になれたのかしら? 鳥海ちゃん、全てを失い沈み行く中、突然光に包まれたと思ったら艤装を再生…… いえ、変形させて燃料も弾も全て回復して、 そのまま最後の深海棲艦と戦い、そして打ち倒した……」 「あの時の艤装、間違いなく改二……もしかしたらそれ以上かもしれない。 見たこともないくらい光り輝いていた…… 戦いが終わった後は元に戻ったわ。それからはもうあの時みたいにはならないけど… 一体どうやってあんなことになったの?」 「どうやってって……あの時は司令官さんをもう独りにはしたくないって強く思って…」 「もう?」 「私の中に……重巡洋艦鳥海としての記憶や… そこに乗っていた人たちの記憶とは明らかに違う情景… 幼い頃の、楽しそうに女の子と遊んでいた司令官さんの姿が見えて…」 「…鳥海が見たものが本当に提督の過去の記憶だとして、どうしてそれが見えたのかしら?」 「提督、お前鳥海に何かしたか?」 「特に何も……ん……いや、まさかな………」 「何か心あたりでもあるのか!?」 「落ち着いて摩耶!」 「かつて俺は鳥海を深海棲艦から命をかけて庇った事があった…… その時は何とか二人とも助かったけど…… その時に血を多く流してしまって、 周りにいた他の奴らから輸血されなきゃ危なかったくらいで…… つまり鳥海や艤装に、命をかけた俺の血が大量にかかったって事……だよな?」 「ええ…あまりにも多くの血が流れて……本当に心配しました……」 「じゃあ、提督の血のせいなのか?」 「俺の血だけじゃないだろう。俺が鳥海を想う気持ちと鳥海が俺を想う気持ち、 それらが俺の命をかけた熱い血潮と合わさって奇跡を起こした…… それくらいしか考えられないな」 「そうだって証明することは出来ないけど、違うとも言えないな……」 「だけど愛の力が起こした奇跡だなんてとても夢がありますよね」 「でも愛の力が起こした奇跡の最も足るものは提督と鳥海の間に、愛の結晶を作った事ね」 愛宕の言っている事はもっともな事だろう。 そりゃあ愛のない関係であろうとも生まれるものもある。 命が生まれる事、命を育む事は本能であり、 愛というものは人間が考えた綺麗事に過ぎないものかもしれない。 けど…俺は愛を信じたい。 俺が鳥海に子供を宿させられたのは彼女を想う気持ちがあったから。 彼女が人間との間に子供を作れるかどうかわからない、 彼女がいつか消えてしまうかもしれない。 そう思ってもなお、俺は彼女への愛を伝えないではいられなかった。 愛を伝えぬ内に時が愛を伝えられなくしてしまい、後悔なんてしたくなかったから。 だから愛は形となった。これは人間同士でも変わらない事のはずだろう…… 「艦娘が人間との子供を母としてその身体に宿す…… 私たち艦娘という存在も人間と変わらぬ生殖能力を持つということが言えるかもしれないわね」 「でもさ、人間と艦娘のハーフってのは一体どんな子供が生まれるんだ? 男と女で能力に差があるのか、そもそも生まれた子供はどっち寄りの存在になるのか……」 「なんにしても、もし力を持って生まれたとしたら、どんな酷い事になるか……」 「人間の科学力は戦争に関係して進歩してきたという事実はあります。 遺伝子工学の進歩によって、能力者がたくさん生まれて、また悲惨な戦争が起きてしまう…… もちろん、今の段階では断定は出来ないから杞憂に終わるかもしれないけど…… それでも今いる艦娘という存在だけでも悲劇を生み出してしまうかもしれない」 「そうなるくらいならいっそみんな消えちゃえば…」 「…何かを犠牲にしなきゃ、何かが解決しないとか、 そんなのは嫌だな……綺麗事かもしれないけど、でも……」 「提督…」 また同じ話題になった。それだけみんな不安を抱いている事のあらわれなのかもしれない。 「何もしようとせず、ただ楽な方へ流されて不幸になるなんてのは、もうゴメンだ」 「あの時の戦争も、流れの末に起きたという側面もありますからね」 「戦争が起こる理由はそれぞれ違います。 領土が欲しい、資源が欲しい、支配をしたい、支配から解放されたい、 相手が自らの信じるものと相容れない存在である、長年の怨嗟を晴らす……… 多くの場合妥協をして戦争を回避しようとつとめますが、妥協が出来なくなった時。その時…」 「戦争が起きるってわけだ。いくら口では戦争反対って言ったって、 追い詰められた奴が我慢なんてできやしないだろうさ」 「だからこそ戦争が起きないように一人一人が動かなきゃならないんだ。 何をすればいいのか具体的な事がわからない俺には他人に偉そうな事は言えないけど………… 高雄、愛宕、摩耶、鳥海……君達や他の艦娘達には戦争の悲惨さを伝えてほしい」 「戦うために造られたあたし達が戦争の否定とか説得力ないんじゃないのか?」 「確かにな。だが、戦争の悲惨さを伝えられる人間は、今この時代にはもうほとんどいない。 恐らく君達ぐらいだろう、これからもずっと正しく伝えられるのは」 「確かにそうね。私たちはあの戦争の記憶を完全に覚えている。 戦争がどのようなことだったのか、そしてその結果どうなったのか……」 「だったらあたし達は伝えてかなくちゃならないな。いつ消えちゃうかわからないしさ」 深海棲艦出現前の日本は戦争への道を進もうとしていた。艦娘が日本に多く現れたのは、 永遠に戦争放棄をすると誓ったはずの日本が再び過ちを犯すことを防ごうとしたからかもしれない。 もしかしたらそれが艦娘が未だにい続ける理由なのかもしれない。 艦娘に寿命があるのかどうかはわからない。 見た目の年齢から人間と同じように歳を重ねていくのかもわからない。 でも鳥海は俺の子供を宿した。創作だと異種族での絡みには寿命差の問題とかもあるが、 それがわかるのは今ではないだろう。ならば考えても仕方のない事だ。 「でも日本とかを守りながらというのは大変そうね」 「それでもやらなきゃならないさ。後悔なんてしない為にな。 だからみんな、力を合わせて頑張ろう!」 「はい!」 「うん!」 「おう!」 「ええ!」 四人の声が同時に響いた。 誰も未来の事なんてわからない。何が起こるか、いつ死ぬか…… 予想は出来ても、その時にならなければわからない。 今まで当たり前だった事が今から当たり前でなくなるかもしれない。 だから人間は頑張る事が出来る。 最悪の未来から逃れる為。今の幸せを守る為。より良い未来へと向かう為。 俺はかつて頑張る事が出来なかった。その時に出すべき全力を出すことが出来なかった。 今までの日常がずっと続くと思っていた。 苦しい事があっても何とかなると思い、その日暮らしをしていただけだった。 だから俺は大切なものを失ってしまった。 時間、金、友達、知識、そして、ずっと一緒にいたかった大切な人を…… 俺は後悔した。全力を出してひたむきに生きる事をまったくしてこなかった事を。 だから俺はもう二度と後悔しないよう全力で生きようと誓った。 俺は今、戦争の悲惨さを知っている艦娘という存在と共に在る。 戦争もその時にすべき事をせずに流されてしまった為に起こってしまったという事もある。 だから俺は悲劇を二度と繰り返さない為に彼女達と共に戦争を否定し続ける。 今ある命、これから生まれて来る命を守る為、 そして――愛する人と離れる事なく人生を共に歩み続ける為に―― ―完― +後書き 402 :名無しの紳士提督:2015/12/25(金) 22 39 21 ID F.hV5l7U 以上です 今回はいつもの人間=艦娘とは違い、 かつての艦船=艦娘という感じで書きました 書いていた時にリアルで精神的に辛いことがあり 11月上旬に書き始めたのに途中で停滞して1ヶ月以上かかってしまいました 自分にはシリアスよりな話は向いていないのかもしれませんね…… これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/6336.html
731: 194 :2020/08/27(木) 19 55 35 HOST ai126162148238.56.access-internet.ne.jp 短編ネタ 現代日本大陸化&銀連神崎島クロスSS ある日、日本が『超』大陸と化してしまった件その9 かの国は如何にして考えるのを止めて、手の込んだ自殺をするに至ったのか 第二次日本海海戦その5 矢矧「各艦突撃!敵艦隊に雷撃を行う」 浜風「はい!」 霞「了解!目にもの見せてやるわ!」 雪風「雪風は沈みません!!」 そんな二水戦の様子に、艦隊は戸惑うも迎撃を開始しようとする。 艦長「突っ込んで来るようです。近接戦闘でケリをつけるつもりか?」 提督「各艦、迎撃!奴等を近づけさせるな!!」 混乱状態ながらも、各艦の主砲や対艦ミサイルが二水戦に襲い掛かる。ところが・・・。 通信士「か、各艦から報告。我が軍の攻撃が敵に届いていません!!」 艦長「何!?どういう事だ?」 通信士「分かりません!何かの壁にぶつかる様に、砲弾やミサイルが炸裂しています!!」 一体何が起きているのか?その答えは、その直後の光景で示された。 上空に突如現れる巨大船。光学迷彩と探知偽装を解いたヤルバーンが、自らの存在を誇示する様に姿を現したのだ。 ヤルバーンは、単縦陣で突撃する二水戦の周辺にシールドを展開。彼女達を守っていたのだ。 シエ「特上級ノドゥス共!弱イ者イジメは感心センナ。我々ノ名誉ニカケテ、彼女達ニハ指一本触レサセン!」 ティ連までもがはっきりと日本に加担しているという事実に愕然とする韓国軍。そんな中、砲撃音で放心状態が解けた少佐は、またもや激昂したのだ。 少佐「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!異星人共めぇぇぇぇ!!!何故チョッパリ共の味方をするかぁぁぁぁぁ!!!」 艦長「少佐、彼等は日本の友好国だ。肩入れをしても、何ら不思議では無かろう」 少佐「クッ!!異星人共めぇ!!弱い者いじめが、そんなに楽しいかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 完全に「お前が言うな!」なブーメラン状態なのだが、既に正気を失いつつある少佐は気付こうともしない。 その一方、矢矧の艦橋では・・・・・。 原「韓国軍の攻撃、此方に届いておりません」 矢矧「流石の超技術。ティ連様様ね。水雷長、距離3000で雷撃を開始します。準備を」 水雷長「了解」 732: 194 :2020/08/27(木) 19 56 05 HOST ai126162148238.56.access-internet.ne.jp 韓国軍はなおも攻撃を仕掛けるも、全く効果が無い。全て無効化されてしまっている。 その間も二水戦は距離を詰め続け・・・・・遂に距離3000に達した。 矢矧「各艦、転舵。魚雷発射、始め!!」 水雷「撃ぇー!!」 矢矧以下、二水戦は次々と魚雷を発射。そのまま離脱にかかる 少佐「離脱していくだと!?・・・・・そ、そうか!敵は我が方の勇猛さに恐れをなしたか!フハハハハハハハ!!所詮は死に損ないのオンボロ共よ!!」 提督「いきなり離脱だと?・・・いかん!?艦長、面舵!最大戦速で回避運動!!」 艦長「ハ?ハッ!!」 突然の指示に戸惑うも、言われた通りに回避運動を始める艦長。 その指示に、またもや少佐が食って掛かった。 少佐「何を言ってるのですか、提督!奴等は壊走している!追撃の好機ですぞ!!」 提督「知らんのか!連中は旧日本海軍。雷撃戦のスペシャリストなのだぞ!!」 少佐「・・・・・は?」 提督「奴等は逃げたのではない。魚雷をこちらに放ったのだ!!」 必死に回避行動に移る世宗大王。だが他の艦は雷撃に気付かなかったり、損傷で速度が低下している等の理由で回避が遅れた。 そして・・・、破局が訪れた。 水雷長「じかーん!!」 予測時間通りに、次々と水柱が吹きあがる。1本で駆逐艦を、2本で巡洋艦を屠る威力を誇る酸素魚雷をマトモに喰らったのだ。 辛くも回避が間に合った世宗大王以外に、無事な艦は一隻も居なかった。 特に機関故障で行き足が止まりつつあった大邱には二本の魚雷が命中。最新鋭とはいえ、所詮はフリゲートに過ぎない同艦は バラバラになりながら沈んでいった。 733: 194 :2020/08/27(木) 19 56 36 HOST ai126162148238.56.access-internet.ne.jp 最早勝利はあり得ない。誰もがそう確信する。 この末期的状態で、提督は遂に決断を下した。 提督「各艦に告げる。動ける艦艇は、釜山に向けて退避せよ!我が艦は殿を引き受ける!各艦は何としても生き延びよ!!」 提督の悲壮な決断を聞き、CICの要員達も悲壮な決意を固める。 だが・・・。この男だけは違った。 少佐「な・・・何を勝手な事を言っているのです、提督!我々はまだ・・・まだ負けてはいないのですぞ!!」 提督「いい加減現実を見たまえ、少佐。最早作戦続行は不可能な状態だ。ならば一人でも多くの将兵を、祖国に帰さねばならん!!」 少佐「何を馬鹿な事を!!ならばあの巨大戦艦(大和)に突撃を!!横付けして白兵戦を仕掛けて、艦を乗っ取れば・・・!!!」 艦長「いい加減にしろ!!そこまで言うなら、君が直接指揮してみろ!!」 少佐「な!?・・・そ、そんな事。出来る訳無いでは有りませんか!?」 提督「出来もしない事を口にするな!!口先だけの愚か者がぁ!!」 少佐「~~~~~~$#&%#&%’$&%&%#」 2人「「!?」」 突然、声にならない悲鳴を上げて倒れる少佐。あまりに突然の出来事に、2人は思わずフリーズする。 その直後、通信士から決定的な報告が齎された。 通信士「ほ、報告!ゆ、輸送艦隊から・・・・・」 艦長「どうした!?」 通信士「輸送艦隊から通信!!『ワレ、敵別働艦隊ト交戦中!至急援護ヲ!』と!!」 愕然とする艦長と提督。この瞬間、作戦は完全に破綻したのだ。 734: 194 :2020/08/27(木) 19 57 06 HOST ai126162148238.56.access-internet.ne.jp 輸送艦隊を襲撃したのは、南雲提督率いる第八機動艦隊。戦艦さぬきと空母かがを中心とした艦隊だった。 南雲「やれやれ、久方振りの艦隊指揮と思ったら、相手は無力な輸送船団、か」 艦長「しかし提督。もし逃せば、奴等は再びやって来ます。ここは、容赦無く殲滅すべきかと」 南雲「・・・そうだったな。山口提督にも連絡。攻撃隊を出し、敵船団を壊滅せよと」 艦長「ハッ!!」 かくして、第八機動艦隊は複数回空襲を仕掛けた後に水上艦隊をぶつけた結果、護衛(広開土大王級三隻を中心とした分艦隊)を含めた大半の艦を撃沈。 生き残ったのは、悪運強くミサイル一発の被弾で済みながらも機関が損傷し停止。漂流していた強襲揚陸艦・独島一隻だけだった・・・。 提督「・・・・・最早、これまでの様だな」 艦長「はい・・・残念です」 提督「やむを得ん・・・。白旗を掲げよ。我が艦は降伏する」 そう命じた次の瞬間、再びレールガンの弾丸が飛来。波の揺れで僅かに狙いが逸れ、艦橋基部への被弾は免れたが、砲弾の衝撃で艦橋上部が大破。 構造物の破片が、CICの天井から落下したのだ。 要員達が次々と潰されるのを見た直後、提督は艦長に飛び掛かられた感触を最後に意識を、失ったのだった・・・・・。 どれ位時間がたっただろう?痛みと共に提督は目覚める。奇跡的に破片の下敷きにはならなかった様だが、CIC内部に取り残されていた。。 提督「・・・・・。死に損なった、か。・・・艦長は何処だ?」 そう呟きながら周りを見渡すと、自分を突き飛ばして救った艦長の姿が。足がパイプに挟まれ、身動きが取れない状態となっていた。 提督「艦長!しっかりしろ!目を覚ませ!!」 艦長「・・・か、閣下。ご無事でしたか・・・」 提督「しっかりしろ!今、パイプを動かす!!」 すぐ傍に落ちていたパイプを使って、足を挟んでいたパイプをどかす。 何とか、艦長を助け出す事に成功。幸い、足以外は奇跡的に掠り傷程度で済んでいた様だ。 艦長「閣下。有難う御座います・・・」 提督「気にするな。私も、君に助けられたのだから」 艦長「はい・・・。負けましたな・・・」 提督「そうだな・・・」 とその時、瓦礫の下から微かに声が聞こえた。 驚きながらも、慌てて瓦礫をどける二人。其処に居たのは・・・・・。 下半身を潰された状態の少佐が、そこに居た。 少佐「た、助け・・・・・。腰から下の・・・・・感覚が・・・無い・・・・・」 少佐を助けようとする二人。しかしその時、大きな瓦礫が、無情にも少佐の頭に落下。 悲鳴を上げる暇すら無いまま頭を潰され、少佐は即死したのだった。 それから間もなく、救助に来た部下達の手で出入り口の瓦礫が撤去され、何とか脱出できた。 部下によると、被弾後に改めて白旗を挙げ降伏。日本側もこれを受け入れたとの事だった。 735: 194 :2020/08/27(木) 19 57 36 HOST ai126162148238.56.access-internet.ne.jp 艦長「・・・・・提督、行きましょう」 提督「いや・・・・・、私はこのまま艦と運命を共にするよ」 艦長「な・・・!やめて下さい!!そんな事は!!」 提督「私は結局、この戦いを止める事は出来なかった・・・。そればかりか、将兵の大半を無駄死にさせてしまった。そんな私が、おめおめと生き残る事が許される筈が」 艦長「いいえ、駄目です!艦長!!だからこそ、死んでいった将兵の為にも生きなければなりません!!死ぬ事は責任を取る事では無く、ただの逃げです!!」 提督「・・・・・・・・・・そうだな。スマン、艦長。まだ生きねばならんようだな。罪を償う為にも・・・」 艦長「閣下・・・・・」 提督「君の様な男がもっといれば、この悲劇は防げたのかもな・・・」 艦長「貴方の様な方が政府中央にもっといれば、こんな戦い自体が起きなかったでしょう」 提督「いや・・・。残念ながら、それは無いな」 艦長「閣下?」 提督「我が国と国民は、『反日』という薬に頼り過ぎた。辛い現実から逃れる為にな。そのツケがこの結果だ。誰が大統領だったとしても、この結末は変わらなかったさ・・・」 艦長「閣下・・・・・」 提督「では、行こう艦長。生まれ変わった日本をこの目に焼き付け、祖国を変えなければならん」 艦長「・・・・・はい」 その後、懸命のダメージコントロールが功を奏し、世宗大王は何とか自力航行能力を回復。その状態で日本側に拿捕された。 しかし、他の艦は助かる事無く全艦沈没し、乗員の九割が溺死を主な理由として死んでいった。 かくして、後に「第二次日本海海戦」と呼ばれる闘いは幕を閉じた。 出しうる第一線戦力の大半を投入したこの戦いで完敗した韓国は、外征能力を完全に喪失。 そしてかの国が再び外征能力を持つ事は、二度となかったのである・・・・・。。 736: 194 :2020/08/27(木) 19 58 06 HOST ai126162148238.56.access-internet.ne.jp 以上です。最後は完全に駆け足となってしまいました。二水戦と言えば何と言っても水雷戦ですので、矢矧以下の皆さんにはお家芸を披露してもらいました。 その結果、前回の時点でアカン状態になってた最新鋭()フリゲート・大邱に最大級の不幸が降りかかる事に(汗)。酸素魚雷が二本だからね、仕方無いね。 にしてもティ連のシールドはマジ万能ですね。彼女達も安心して雷撃が出来ました。今後は個艦単位で搭載されていくかも。 旗艦と今回の闘いの切っ掛けとなった島の名前(キムチ視点の)の揚陸艦は辛くも生き残りましたが、他の艦は全滅。乗員の九割を失うという、人材面でも 文字通り壊滅する事となりました。遠い未来はともかく、今戦争中に再建するのは絶対に不可能です。しかしながら、連中にはまだ手札が残っており、それを使って またまたやらかす事に・・・。それは次回以降で明かして行こうかなと。 さて、次回は政治のターンですな。各国の反応をお楽しみに。 wiki掲載は、自由です。
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/5548.html
118: 635 :2019/01/23(水) 22 38 22 HOST p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp 銀河連合日本×神崎島 小ネタ7 「神崎島の艦娘と妖精はそれぞれ、船霊神と靖国の大神の化身であると推測される。 また、神崎島に鎮まっておられる方を起こすような真似は慎むべきである。」 とある神職の艦娘と妖精の見解 「神崎島の艦娘と妖精は修羅道に堕ちたが再び人道へと戻ってきた。 これは徳を積んだ結果であり、彼女達もまた仏道を行ずる人と同じ御仏の弟子である。」 ある高僧の艦娘と妖精に対する考え 名前:名無しの提督 投稿日:左翼「神崎島の現政権を打倒すべき」 国連「日本は戦犯国だから神崎島への国連軍の進駐と日本人への民族浄化を受けるいれるべき」 中国「妖精や艦娘に人ではなく人権などない」 韓国「神崎と艦娘は処刑せよ」 ドイツ「神崎島はナチ」 名前:名無しの提督 投稿日:バチカン「艦娘も妖精も主の被創造物だから仲良くすべき」 神道「艦娘と妖精は神で神崎島の神はヤベエから手をだすなよ」 仏教「艦娘、妖精は人と同じ御仏の弟子やで」 礼号組「霞ちゃん改二を讃えよ」 俺ら「朝潮型はガチ」 名前:名無しの提督 投稿日:なぜ礼号組と俺らを入れたwww 名前:名無しの提督 投稿日:国家や政治思想より宗教がまともな状況とは 名前:名無しの提督 投稿日:バチカンがあんなに柔軟なの立川のデップが動いたんじゃねえよな? 名前:名無しの提督 投稿日:たまげたなあ 名前:名無しの提督 投稿日:ドイツと俺らの差に草が生えるww 名前:名無しの提督 投稿日:深海棲艦が御霊みたいなもんだからな 名前:名無しの提督 投稿日:神道かじった日本人なら御霊のヤバサわかるからな 名前:名無しの提督 投稿日:それに常世神宮で祀られてるの慈母の御兄弟やぞ。その荒御霊が出てきたら(*1))) ある掲示板の反応 「そういや知ってるか例の島の話。」 「政府が日帝の残党が占拠している我が国の領土と言ってるやつか。」 「それそれ、そこに艦娘とかいうのいるじゃないか?」 「あの亡霊だのなんだのいうやつか。」 「その艦娘、実は仙女らしいぞ。そして島も本当の蓬莱らしい。」 「本当か?」 「水母という艦娘もいるらしいから間違いないだろ?」 「水母娘々か!まてよ、今の政府はその蓬莱の仙女を怒らせているんだろ?」 「ああ、近い内に罰が下るぞ。」 大陸の田舎で暮らす信心深い老人達の会話 『追われた神々が最後に流れ着く神の島神崎島と大陸、半島に残されたケガレ』 オカルト研究者兼民俗学者の書いた論文 「霊魂とかどうやって生物学に組み込みゃいいんだよ!?」 「物理学的に魂とか重力の影響受けんのかな?」 「考古学は神の存在考慮せにゃならんぞ。」 「宗教学もだぞ。エルフなんか古代宗教に確実に影響与えてるだろうし。」 神崎島の存在で既存の学問が転換を余儀なくされた所に難民妖精というさらなる爆弾で阿鼻叫喚な研究者 119: 635 :2019/01/23(水) 22 39 05 HOST p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp 「神崎島は日本より進んだ技術を保有している。つまり神崎島の住民こそがムーの末裔だったんだよ!!」 「「「なっなんだってー!!!」」」 マガジンMRの最新作の一コマ 「世界中で目撃されていたUFOはナチスの超技術と現世で忘れられた超魔術で作り上げた神崎島の世界移動偵察機だった!!」 オカルト雑誌ヌーの記事 「どれを指しているのかしらね?」 「あれか?」 オカルト雑誌の記事を読んで神崎島の航空機格納庫に来たイントレピッドとグラーフ・ツェペリン、パンケーキとドイツのアダムスキーが鎮座している 「いやあの頃の戦車を見てる身としてはこんなに強い戦車が日本で作られるとは感慨深い。」 神崎島陸戦隊第十一戦車連隊に配備された10式戦車と16式機動戦闘車 「我ながらよく積めるなあ。」 「それ言ったらわしもじゃぞ。」 10式と機動戦闘車が配備された戦車連隊を載せた3隻の上陸用舟艇を装備した皐月と試験配備されたUS-2を4機搭載した日進 「確かに実用レベルだが(汗)」 「支那の水陸両用戦車相手なら使えるだろ。装甲は機関砲防ぐ程度らしいし。」 「追加の反応装甲105mm戦車砲弾圧し折るらしいからな。」 「だれだよ。イスラエルの60mm高初速砲調達してきたの。」 「チハたん∩(・ω・)∩ばんじゃーい」 地球の技術オンリーで最強のチハたんにする!と意気込んだヤル研とイゼイラ人に魔改造された九七式中戦車 「まあ、そうなるな。」 「新型機ですね!」 「僕も載せてみたいな。」 「申し分ない機体ですね!」 F-35には負けないと意気込む瑞雲が好きすぎるイゼイラ人が瑞雲を噴式化改造した『噴式瑞雲』とヤル研が一から開発した多用途噴式水上機『新瑞雲』を前にした瑞雲運用艦達 「大艇ちゃんも噴式化されてるかも!?」 「誘導弾用のハードポイントも増設されてますね。まるでレプンカムイ(シャチ神)のよう。」 イゼイラ人とヤル研によりそのノリのまま魔改造された大艇ちゃん 120: 635 :2019/01/23(水) 22 40 12 HOST p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp 「なあ。」 「なんだ。」 「コレ(MG42機関銃MG3仕様)使いやすいんだが。」 「こっちも頑丈だぞ(神崎島製M2重機関銃)」 神崎島から火器を支給された在神崎島陸上自衛隊 「まさか可動する四式自動小銃を生でみれるとは!」 「フェドロフM1916もあるぞ!」 「あ、一〇〇式機関短銃のデータ貰っとこ。」 「九七式自動砲のデータ取ったやつ作る気かよ!?」 鎮守府の火器を前にしたエアガン会社社員 ロシア(北方領土在住):小クリル列島在住だが日本へ帰属すべきだと思う アメリカ:なぜそう思うんだい? ロシア(北方領土在住):カンザキ島にはロシア帝国皇女殿下がいらっしゃる。ということはロシア帝国は現在でも存続している。 つまり皇女殿下がいらっしゃるカンザキ島はロシア帝国で、カンザキ島は日本に帰属しているから 日本はロシア帝国だ!だから問題ない。 フランス:何その超理論。 イタリア:ツァーリアナスタシア万歳! トルコ:神崎提督がツァーリじゃなかろうか。 オランダ:つまり東ローマ皇帝か。 イギリス:ローマ! 台湾:ローマ! スウェーデン:ローマ! フィンランド:ローマ! ある皇女に対する海外の反応 名前:名無しの提督 投稿日:海外のスレでは神崎島はロシア帝国で日本はローマ帝国らしい。 名前:名無しの提督 投稿日:どういうことなの…。 名前:名無しの提督 投稿日:皇女殿下がいらっしゃるからしかたないね。 名前:名無しの提督 投稿日:そしてそのスレではローマ!と叫んでいるそうな。 名前:名無しの提督 投稿日:実にローマであるのか(小並感) 名前:名無しの提督 投稿日:ローマだもの仕方ないね。 名前:名無しの提督 投稿日:つまり日本は大和ローマ帝国だった? 名前:名無しの提督 投稿日:ローマ! 名前:名無しの提督 投稿日:ローマ! 名前:名無しの神祖 投稿日:日本(ローマ)よ。お前たちもまたローマである。 名前:名無しの提督 投稿日:戦艦ローマ! 名前:名無しの提督 投稿日:戦艦まぜんなww 以下エンドレス 海外の大和ローマ帝国な状況への掲示板の反応 「このラーメン、日本海の魚介の出汁が効いていて美味しいですね。」(四条高音コス) 「チャーハンモカニガ入ッテ美味シイワヨ」(アルベドコス) 「おばちゃん、生追加で!」(管理局教導隊コス) 「高町、良く飲むな(汗)」(扶桑海軍少佐コス) 「坂本さん、飲んだり食べなきゃやってられませんよ!餃子もう一つも!」(大洗女子学園制服コス) その頃、イベント後ラーメンを食べている当人 121: 635 :2019/01/23(水) 22 43 19 HOST p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp 以上です。 転載はご自由にどうぞ。 深淵は深淵でも神崎島の深淵を覗いたら一番ヤバイのではないかと思う今日このごろです。