約 19,732 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3926.html
前ページ次ページゼロな提督 「ねぇ~、お願いよ~。ちょっとだけでいいの!見せてよぉ~」 「ダーメッ!あれはヤンのモノなの。つまり!ヴァリエール家のモノでもあるってことな のよ」 魔法学院の夕方。乗馬の練習から戻ったルイズ達の部屋の前で、珍しくキュルケが頭を 下げていた。頭を下げられるルイズはまんざらでも無いようで、誇らしげに胸を張りつつ キュルケのお願いを突っぱねている。 「そこをなんとか、ね!お願いっ!」 キュルケはもう、手を合わせてルイズに頭をヘコヘコ下げている。 「もうっ。いい加減にしてよね!あれの価値がどんなものか知ってれば、簡単に見せれな いモノだってわかるでしょ!?第一あれは、ここにはないわ。危ないから宝物庫の中よ。 分かったら諦めて、さぁ部屋に帰りなさいな!」 扉前でルイズにお願いしていたキュルケは、ネコみたいに追っ払われた。随分と色気過 剰な大ネコだが。 バタンと扉を閉めて、床にあぐらをかいて本を読んでるヤンに不機嫌に怒鳴る。 「あんたも本ばっか読んでないで、アレの削り方くらい考えなさいよ!」 ヤンは一言、ノンビリと答える。 「無理だよ」 飄々としたヤンの、さも当然というような返答に、ルイズはイライラしてくる。 「無理だよ、じゃないわよ!あんなでっかいダイヤ、高すぎてだーれも買えないわ!てい うか、本体からも外せないじゃないの!」 「といっても、ハルケギニアの技術レベルでは、傷一つつけられないよ。『錬金』でもかけ たらどうかな」 「それじゃ、価値が無くなるじゃない!あの斧本体もダイヤも、どっちも凄い値段が付く 事間違いなしなんだから!」 第4話 土くれのフーケ ローゼンリッターのトマホーク、その刃である巨大ダイヤモンド。そしてロングビルに 正座させられ説教された学院長とコルベール。 研究室が崩れんばかりの大音響と共に、当然これらの事実も学院中に響き渡った。そし て学院長はじめ教員が束になっても傷一つつけられないという、斧それ自体が驚異的な硬 度を誇る未知の物質で作られている事も。 ロングビルから「高値で売れる」と言われた事を、ルイズは自分の事のように喜んだ。 実際、ヤンは自分の治療費をちゃんと返すつもりだったので、それは自分の事として喜ん で間違いはない。 だがヤンもルイズも、すぐに気がついた。その斧を売る事が出来ないという事実に。 価値が高すぎるのだ。 神話級の巨大さを誇るダイヤモンドを刃とした、何者をもってしても破壊出来ない斧。 これはつまり、「加工出来ない」という意味でもある。その斧は丸々一つでしか売買できな い。なので、それは途方もない金が動くという事。 有力貴族ではあるが一介の学生でしかないルイズ。異邦人のヤン。もはや彼等が扱える 金額では、なかった。 おまけに斧という形状も問題だ。 ハルケギニアは魔法世界。支配階級の貴族はメイジであり、杖がその象徴。剣や斧は平 民の武器だ。至高の価値を持つ宝石が斧の形をしていては、購入する貴族や王族にしてみ ると、よろしくない。女性の装飾品としては最悪のデザインとしかいいようがない。 でも加工できないほど硬い物質な上に、刃だけを本体から取り外す事も出来ない。形状 も変えられない。 だからといって、本来の使い方である「トマホーク」として、新たに柄を取り付けて使 用するなど、少なくともハルケギニアの人間であるルイズからしてみたら、あり得ない話 だ。杖として使用するには大きくて重すぎる。 かくして、ヤンもルイズも斧の取り扱いに困り果ててしまった。でも、あまりに価値が 高すぎて部屋に置いておくのも危ない。なので、とりあえず学院の宝物庫に保管する事と なった。 保管するのはいいのだが、ルイズは気が気ではない。顎に手をあてながら室内をウロウ ロと歩き回ってしまう。 「大丈夫かしらねぇ、またあのハゲやエロジーサンが勝手に持ち出したりしていないかし ら?」 有力貴族出身のルイズは、もちろん仕送りの量もハンパではない。だからこそ屋敷が買 えるほどのヤンの治療費を支払えた。そのルイズをもってしても、斧の価値は動揺させら れるに十分なものだった。 「うーん、大丈夫じゃないかな?斧をおさめたケースの鍵はロングビルさんが管理してる から」 ヤンの言葉にルイズはキョトンとしてしまう。 「ロングビルって、あの秘書の人?ちょっと、大丈夫なの?あの斧盗られちゃうんじゃ」 「盗むつもりなら、この前学院長の机の上で見つけた時に盗んでるさ。少なくとも、あの 斧の存在を僕に教えても、彼女に利益はないよ。それに、宝物庫に入るには学院長の許可 がいるし」 「ああ、それもそうね…少なくとも、どこかのハゲみたいにぶっ壊そうとはしないでしょ うね」 納得して頷くルイズ。 ヤンは相変わらず焦燥とか不安とかとは無縁かのように、床に置いたお茶を飲む。とた んに不快と縁が出来た。 「うう、やっぱり不味い。明日はシエスタさんにお茶の入れ方を習うとするよ」 「そうしなさい。ともかくこっちは、あの斧について父さまに手紙を書いてみるわ。出入 りの宝石商を紹介してもらうから」 「あ、それなんだけど」 ヤンは何か思いついたようで、慌ててお茶を床に置く。 「宝石として売れないなら、それ以外として売れないかな?」 「宝石以外? …まさか、あれを斧として使えっていうの!?冗談言わないで!あんたの国ではただの 斧なのかも知れないけど、このハルケギニアじゃ、あんなでっかいダイヤ!もったいなく て平民になんか渡せないわ!」 肩を震わせて抗議するルイズにヤンは、まぁまぁ話を聞いて、となだめる。 「つまり、武器以外の実用品として使えば良いんだよ。例えば、カッターとか、研磨用の 研ぎ石としてとか。僕の世界ではダイヤモンドカッターと呼ばれているんだけど、ハルケ ギニアにもそういうのはあるかな?」 ヤンのアイデアを聞いて、ルイズは首を傾げる。そして、ポンッと手を打とうしとした が、すぐまた考え始める。 しばし顎に指をあてウ~ンと考えて、諦めたように溜息とともに肩を落とした。 「しょうがない・・・気はすすまないけど、アカデミーの姉さまにも連絡するわ」 「へぇ~。それじゃあ、アカデミーに売るつもりなんですか?」 次の日の午前、厨房でシエスタがテーブルにティーカップやお茶の葉を持ってくる。 「う~ん、まだ分からないよ。でも、宝石として使えないなら工具としてどうか、と思っ てね」 ヤンはかまどでお湯を沸かしている。 慣れない手つきでかまどに薪をくべ、お湯の沸き具合とにらめっこしていた。 「えっと、ねぇシエスタさん。お湯はこれくらいでいいのかな?」 お湯は沸騰し始め、泡が沸きだしている。 「いえ、もう少し沸かさないと。お茶は湯の温度が命だから、気をつけてね。それじゃ、 こちらのポットに茶葉を入れてみて」 ヤンは茶壺からお茶の葉を無造作に取り出し、ポットに入れようとする。 シエスタの手が彼の手をペチッとはたいた。 「ああ、ダメダメ!二人分だけのお茶なんですから。ちゃんと二人分だけの分量を取らな いと、濃すぎたり薄すぎたりしますよ。 で、次は茶葉を入れたポットに完全に沸騰して泡がごぼごぼ立っている状態の湯を素早 く注ぎます。カップは一般的に、予め暖めておくように、と言われてるわ。でも猫舌な人 も居ますので、それは人それぞれかもしれないわね」 「そうなのかぁ。それじゃミス・ヴァリエールの好みも聞いておかないとな」 そんな感じで、ヤンは慣れない手つきでお茶の入れ方をシエスタから教わっていた。 朝食の片付けも終わり、昼食準備までの休憩時間。厨房に若い女性と二人っきりでお茶 の入れ方など、色々と教えてもらう。ヤンは内心、こんな姿をポプランやシェーンコップ に見られたら、なんてからかわれるだろうかと苦笑いをしてしまう。 いつ来るかも、本当に来るかどうかも分からない自分の捜索隊。そのメンバーにアッテ ンボローなどイゼルローンの高級士官達が混じっていないことを、贅沢と知りつつも祈っ てしまうのだった。 そんな邪な願いを抱きつつ、シエスタ直伝のお茶がティーカップ二つにいれられた。二 人で口にしたそのお茶は、ヤンの贅沢な願いに影響されたかどうかしらないが、少しはま しになったと言う程度。やっぱり不味かった。 「う~ん、僕には才能がないみたいだね」 「そんな事はありませんよ!最初よりはずっとマシになってます。練習すれば、必ず美味 しいお茶が入れれますよ」 不味いお茶を飲まされたはずのシエスタが朗らかに励ましてくれるので、ヤンも嬉しい やら恥ずかしいやら。照れ隠しに頭をかいてしまう。 「そうだね、頑張るとするよ。洗濯とか掃除とかも、色々と勉強しないとね」 「ええ!私で良ければ色々教えますので、一緒に頑張りましょうね」 黒髪とソバカスが魅力的な少女の、小さくても元気なガッツポーズ。 軍で海千山千な敵味方と、騙し合い裏の読み合い殺しあいをしていたヤン。彼にとり、 まるで青春時代に戻ったかのような錯覚に陥らせるに十分なものだ。いや、彼の青春時代 に女っ気は無かったので、30代にして初めての青春時代か。 「助けが来るかどうか分からないけど、しばらくここでやっていくかな」 ハルケギニアの良さに気付きつつあるヤンだった。 その日のお昼休み、学院の宝物庫。 トリステイン魔法学院の宝物庫は本塔学院長室のすぐ下にある。学院秘蔵の秘宝からガ ラクタまで保管された巨大鉄扉の鍵は、オールド・オスマンが管理している。 その扉は今は開けられ、ロングビルと何人もの教師が中で一つのケースを囲んでいた。 長い黒髪に漆黒のローブをまとった、陰鬱な空気を漂わす若い男が、うわごとのように 囁いた。 「これが、例の…斧か」 紫のローブをまとった中年女性、先日ルイズの失敗魔法で吹き飛ばされたミセス・シュ ブルーズが斧の刃に杖を向ける。 「本当に、間違いなく、これはダイヤモンドですわ。…いえ、待って下さい。これは…凄 いですわよ!ダイヤよりもずっと衝撃に強くて、確かにこれなら武器としても使用出来ま すわ!」 周囲から、ダイヤよりも硬いと言うのか!?信じられない、といった嘆息が漏れる。 他の教師達も魅入られたように斧を魔法で調べ、強度を確かめ、ダイヤ部分を外せない か格闘してみる。だが、得られるものは無かった。オスマン達と同じく、恐ろしく硬いと いう以外は何も分からない。 ロングビルがパンパンと手を打って皆の注意を引く。 「さぁさ皆様、お昼休みはもうすぐ終わりますわ。そろそろ宝物庫を閉めますので、皆さ ん出て下さいな」 教員達は渋々といった感じで宝物庫を出て行く。だが斧のケースに鍵をかけたロングビ ルが出てこないのにシュブルーズが気がついた。 「ミス・ロングビルはでませんの?」 「ええ、私は宝物庫の目録を作ろうと思いますの。せっかく宝物庫に来ましたので、つい でにやっておきますわ」 秘書は教師達が皆立ち去るのを見送ると、宝物庫の扉を閉める。 窓もない、暗い宝物庫の中を魔法の光で照らす。誰もいない室内に、なんだかよく分か らない秘宝だかガラクタだかがずらりと並んでいる。 それらを横目に、彼女は一つの大きなケースの前に来た。パカッと開けると、そこには 金属製の筒のような壷のようなものが収められている。高さは1メイルくらい。ケースに は筒の名称が貼られている。 名札を読むロングビルは、明らかに邪気を含む笑みを浮かべた。 「くふふ…これが学院秘蔵の、『破壊の壷』てわけかい」 口の端を釣り上げながら魔法の光を近づけ、表面に描かれた文様を見つめる。 「ふぅ~む、読めないわ。どこの国のモノかしらねぇ?」 ふと視線を横に向けると、ローゼンリッターの斧を収めたケースがある。 彼女の脳裏に、遙か異国から来た冴えない男性の姿が浮かぶ。そして彼の服や持ち物に 記されていた文字らしきものも。 記憶の中の文字と目の前の『破壊の壷』に記された文字を照らし合わせてみる。 「・・・もしかしたら、あいつなら読めるんじゃ・・・」 次は宝物庫を守る壁を調べてまわる。 試しに壁に『錬金』をかけてみるが、何の変化もない。 軽く杖で叩いてみると、硬質な音が返ってくる。そして手で直接壁を触れ、壁の厚みや 材質を読み取っていく。 「こりゃ、ダメだわ。『固定化』以外はかかってないけど、あたしのゴーレムでぶん殴って も破れないほどの強度だわね。どっかに傷とかヒビとかあれば、なんとかなりそうなんだ けど・・・もちろん、ないわね」 ロングビルはぐるりと宝物庫を見渡し、肩を落とした。 そして紙とペンを取り出し、今度は本当に宝物庫の目録を作り始めた。 だがその口からは、書き連ねている宝物の目録とは別の言葉が漏れてくる。 「学院秘蔵の秘宝『破壊の壷』、欲しいねぇ…。でも、あたしのゴーレムで力ずくっていう のは無理か。今すぐってのもありだけど、それじゃ『あたしが犯人です』て言ってるよう なもんだし。まぁ、中に入る口実も手に入れたし、夜には当直の教師も寝ちまうんだし、 焦る事はないわ。じっくり盗み方を考えましょうかね。 それにしても惜しいわ。マジックアイテムじゃないけど、ヤンの斧の方が値打ちがあり そうなんだから。はぁ~もったいない。あいつが貴族だったら、遠慮無く頂いたんだけど ねぇ~・・・」 ふと彼女の頭にヤンの顔が浮かぶ。高級軍人にもかかわらず、何の裏も持ち合わせてい ないかのような、のんきで穏やかな…というか、寝起きのように気が抜けた顔が。 ふと、自分の顔も同じように気が抜けてしまっている事に気がついた。 慌てて頭を左右に振りまくる。 その時、背後から扉が開く音がした。 彼女は更に慌てて、目録作成を真面目にしていた風を繕う。 「ミス・ロングビルかの?」 扉を開けたのはオスマンだった。 「あら、オールド・オスマン。どうされましたか?」 「いや、昼休みが終わったのに戻ってこんから、どうしたのかと思っての」 言いながらオスマンはロングビルに歩み寄る。 「心配させて申し訳ありません。実は宝物庫の目録を作っておりました」 「おお、そうかのそうかの。相変わらず仕事熱心じゃな!」 「そして、学院長は、相変わらずスケベですわね!!」 秘書の尻をなでたオスマンは、ヒールで思いっきり蹴り飛ばされた。 その日の夜、ルイズの部屋に一通の手紙が届けられた。 ヤンが受け取った手紙の差出人を見ると、ルイズは驚いて大声を上げてしまった。 「うわっ!?父さまから、もう返事が来たわよ!今朝出したばっかりなのに早いわね」 「へぇ~。公爵ともなれば仕事が忙しいはずなのになぁ。よほど君から手紙が来たのが嬉 しかったんだろうね」 急いで封を開けて中を読むルイズは、さらに驚いて目を丸くしてしまった。 「えー!どうしてこうなるのぉ?明日の夕方、王宮に例の物を持って来なさいって!」 二人は顔を見合わせた ダエグの曜日、放課後。 学院の正門に立つルイズとヤンの前に、王宮からの迎えの馬車が一台やって来ていた。 そして二人の後ろには、斧を収めたケースを持つロングビルもいる。 「ありがとうございました、ミス・ロングビル。それじゃ持って行きますね」 ヤンがロングビルの持つケースに手を伸ばすが、彼女は彼の手を拒んだ。 「いえいえ、これは成り行きとはいえ、私が鍵を預かり守っている物ですから。ちゃんと 王宮までお守りしますわ」 それを聞いたルイズが怪訝な顔をする。 「あの、ミス・ロングビル。あなたには秘書の仕事もありますし…」 やんわりと断ろうとするルイズを、毅然とした秘書はビシッと右手で制した。 「申し訳ありませんが、この斧の価値は宝石としても研究素材としても極めて高い物なの です。あのエロオ…こほん!もとい、オスマン氏とミスタ・コルベールの例もあります。 最近は『土くれのフーケ』が出没していることですし、ちゃんと王宮までお守りします わ」 ルイズとヤンは何となく納得いかないようではあるが、斧の価値に比べて確かに馬車一 台だけでは不安を感じる。なのでロングビルの同行を認める事にした。 馬車は夕暮れの草原を通り、トリスタニアへと向かう。 初めて街に行くヤンは、見るからにワクワクしているのがわかる。ずっと窓から馬車の 進行方向を見つめ続けている。横に座るルイズは、そんなヤンを「みっともないわよ、落 ち着きなさい」とたしなめるが、あんまり効果がない。 彼等の前に座るロングビルは、ケースを膝に載せて静かに座っている。 「ねぇ、ミス・ヴァリエール。日没までに街に着くのかい?…おっと、こほん」 浮かれすぎて目の前にロングビルが居るのに敬語を使うのを忘れた事に気がついた。慌 てて咳払いして言い直そうとするヤンに、ロングビルは少し微笑んだ。 「お二人の事情は大体知っていますわ。私の前では気を使わずともよろしいですよ」 言われたヤンは少し恐縮してしまう。ルイズは伏し目がちになってしまう。 誤魔化すようにヤンがロングビルに尋ねた。 「ところで、さっき言っていた『土くれのフーケ』とは何なんですか?」 「そうですわね。城まで時間がありますし、お話しましょうか」 ロングビル、そしてルイズは、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れる怪盗について説明 した。 『土くれのフーケ』 近年トリステインを騒がす神出鬼没の大怪盗。 土系トライアングルクラスのメイジらしく、『固定化』された壁や金庫を『錬金』で土に 変えてしまう。また、30メイルの土ゴーレムも操り白昼堂々王立銀行を襲う。かと思え ば夜陰に乗じて鮮やかにお宝を盗みさることもある。 性別すら分からず、行動パターンも読めず、魔法衛士隊も振り回されている。 そして犯行現場には必ず『秘蔵の○○、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と ふざけたサインを残す。 狙うのは貴族が所有する、強力な魔法が付与されたマジックアイテムがメイン。 「マジックアイテムを狙うと言う事は、その斧は狙わないのでは?それに私は貴族ではあ りませんよ」 と疑問を口にしたヤンに、ルイズが呆れた顔を向けた。 「バッカねぇ、魔力は込められて無くても、桁外れの価値が込められてるわ。これだけの 品なら十分狙うでしょ。それにあんたはあたしの使い魔、つまり貴族同然と見なされるか もね」 ルイズの意見にロングビルも頷く。 「念には念を入れるべきですわ。私では少々役者不足ではありますが、必ずやお二人と斧 を王宮に届けますわね」 自身を持って胸を張るロングビルに、ヤンは頼もしさを感じてしまう。 そんな話をしていると、薄暗くなった草原の向こうにトリスタニアの街灯りが見えてき た。 ヤンは、人生の多くを宇宙で過ごした。 少年時代は16歳直前まで父と共に恒星間商船に乗って星々を巡った。 士官学校時代や、軍での地上勤務もあった。だが、同盟と帝国の戦争は大方が宇宙空間 での艦隊戦なので、艦に乗って宇宙を渡る時期が長い。そして「イゼルローン要塞司令官・ 兼・イゼルローン駐留艦隊司令官・同盟軍最高幕僚会議議員」という地位でイゼルロー ン要塞へ赴任、何度か同要塞を奪取もした。 つまり、彼は惑星上で生活した期間が長くない。ましてや、ペット以外の生物が人間と 共に暮らす中世の街なんて、本でくらいしかお目にかからない。彼は宇宙で科学に包まれ て生きてきたのだから。 なので、彼がこんな姿を見せても、やむを得ない事なのだろう。 「うわぁ~!すごいなぁ、松明だよ!本当に火を燃やして灯りにしてるんだね!全部魔法 で照らしてるのかと思ったよぉ。おや、あそこに見えるのは。ロバだ!すごい、こんな街 中にロバがいるなんて!おお、あれは!荷車を、人が引っ張ってる!荷物は…見た事のな い野菜だ、しかも、土がついたままだ!それにしても、なんて細い街路なんだ、ああそう か、城へ敵が直進出来ないよう、細く曲がりくねらせ迷宮化させてるんだねぇ。あらら、 道ばたに落ちてるのは、馬のフンかい?ははは、そうだね、動物がいれば当然だよね。そ れにしても臭いがきついな。衛生状態はお世辞にも良いとはいえないようだね」 白い石造りの城下町トリスタニアに入ったとたん、ヤンは子供のように馬車の窓にかじ りついて興奮しっぱなしだ。なにしろ彼にとっては多くの歴史書に記された古代地球の風 景が、テーマパークとは違う本物の中世の町並みが目の前に広がっているのだから。歴史 家志望だったヤンにとっては、もう天国のような世界なことだろう。 翻って見るに同乗者の女性2名は、どちらかというと地獄だろう。いい年をした大の男 が子供のようにはしゃいでいる。しかも、自分たちには見慣れた、というか、どこが面白 いのか全く分からない物を見て大喜びしているのだから。 馬車の前からも押し殺したような笑い声が耳に届く。御者が必死に笑いをこらえている らしい。 ルイズが肘でヤンをつつく。 「ちょっと、あんた…恥ずかしいのよ!落ち着きなさいっ!」 突かれたヤンは、ようやく我に返った。 「あ、ああ、ゴメン。興奮しすぎたね、気をつけ・・・うわっ!信じられない!あれは毛 皮屋さんかい!?初めて見たよ、動物の皮を、えと、なめすっていうのかな?へぇ~!あ んな風にやるんだねぇ」 我に返ったとたんに、すぐに道沿いの商店に目が移る。今しがたルイズに言われた事も 忘れて馬車の窓から身を乗り出そうとする。 ごすっ ルイズの足が、ヤンの足を力一杯踏んづけた。 声もなく踏まれた足を押さえて悶えるヤンに、ロングビルもクスクスと笑ってしまう。 大通りのブルドンネ街を通り、橋を渡り、大邸宅の間を抜け、大きな城門をくぐって馬 車はトリステイン城に到着。 ルイズとヤンとケースを手にしたロングビルは城内の一室へ案内された。 王宮の名に恥じない豪華な部屋の中には二人の人物、初老の男性と20代の女性が椅子 に座っていた。 「おお、ルイズや。久しぶりだね」 「父さま!お元気そうで安心しましたわ!」 そういってルイズは父に駆け寄り頬にキスをした。 「それにしても、どうして王宮ですの?別邸がありますのに」 「実は王宮で用があってね。そのついでなのだよ」 ルイズにキスをされているのはヴァリエール公爵。50過ぎで白髪交じりのブロンドと 口ひげ、左目にはグラスをはめた、眼光鋭い初老の男性だ。王族もかくやとうならせる豪 華な衣装を身につけている、ルイズの父。 「それと…その、お久しぶりです、姉さま」 そしてもう一人は、美しいブロンドの長い髪をもった長身の女性。ルイズの気の強い部 分を煮詰めて濃縮させて熟成したら、こんな風だろうかという感じだ。メガネの向こうか ら睨み付ける視線が、ルイズを萎縮させている。 「お久しぶりね、おちび。それでは、例の物を見せてくれるかしら?」 いきなり本題に入られたルイズは、既に怯えて縮こまっている。 「あ、あの姉さま…再会のキスくらい…」 「不要よ。私はアカデミーの主席研究員として忙しいの。その私をわざわざ呼びつけてま で売りつけたい物ですって?どんな物か楽しみだわ、さっそく見せなさい」 「こらこら、エレオノール。そう慌てなくても・・・」 諫める公爵をエレオノールはキッと睨みつける。 ギスギスとした雰囲気にルイズもタジタジ。扉で控えるヤンとロングビルは視線を合わ せて肩をすくめてしまう。 「そこの平民!」 いきなり平民と呼ばれ、一瞬ヤンは自分の事だとは分からなかった。 「随分と変わった格好をしているようですけど、あなたがルイズが召喚したとか言う異国 の平民かしらね?」 ちなみにヤンの格好は、同盟の軍服。白い五稜星マークが入った黒のベレー帽。襟元に アイボリー・ホワイトのスカーフを押し込んだ黒のジャンパー。そしてスカーフと同色の スラックスに黒い短靴。 同盟では当たり前の軍服だが、もちろんハルケギニアでは全く見ない服装だ。 「はい、ヤン・ウェンリーと申します。ヴァリエール家長女、エレオノール様ですね。お 初にお目にかかります」 恭しく頭を下げるヤンだったがエレオノールはフンッと、下らぬ物を見るかのようにヤ ンを見下ろしただけだ。 いくら平民相手とはいえ礼を失する態度に、横で見ていたロングビルも眉をひそめる。 だがヤンの視線に促され、特に何も言わず淡々とケースをデスクの上に置き、斧を取り 出した。 とたんに、公爵もエレオノールも溜め息がもれる。視線は刃のダイヤモンドに注がれた まま動かない。 「それでは、確かに斧はお渡ししました。これで失礼します」 と言ってロングビルは背を向けた。 扉に手をかける秘書にヤンが声をかける。 「ミス・ロングビル、もう帰るんですか?こんな夜中に駅馬車はありませんよ」 「ご心配なく。街の馴染みの宿で一泊して、朝一番の馬車で学院に戻りますわ」 そう言って彼女は部屋をあとにした。 部屋にはルイズとヤンと、手に取った斧を凝視する二人が残された。 二人は学院で教員達が行ったように、斧の材質を確かめ、強度を調べ、ダイヤの刃を外 せないかと考えつく方法と魔法をあれこれ試す。 もちろん「どうしようもないほど頑丈」という結論に至った。 エレオノールは公爵が手に持つ斧の刃に魅入られている 「素晴らしいわ…アカデミーに持ち帰り、必ずや刃を本体から外してみせますわ!」 斧を光にかざしながら公爵も満足げに頷いた。 「うむ!頼んだぞ、エレオノール。これほどのダイヤがあれば、姫殿下の婚儀には目もく らむばかりの宝飾品がウェディングドレスを飾り、ヴァリエールの名を世へ知らしめられ よう!」 姫殿下の婚儀と聞いてルイズは驚いて、えっ!?と声を上げてしまう。 仰天して目を丸くするルイズを見た公爵が、咳払いをして話し出す。 「そうか、まだルイズは知らなかったか。実は姫殿下はゲルマニアのアルブレヒト三世の 下へ嫁がれる事になったのだよ」 「ゲルマニアですって!?」 さらに驚き口も目も丸くしてしまう。 「何故ですか!?何故にあのような成り上がり共の国にっ!」 「ゲルマニアとの同盟を結ぶためですよ」 いきなり扉から声がした。 そこには豪奢なドレスをまとい宝冠を頭にのせた、ふくよかな女性が立っていた。 「失礼。何度もノックをしたのですが、返事が無かったので、勝手ながら入らせてもらい ましたわ」 「これはこれはマリアンヌ様。陛下の来室に気付かず、失礼致しました」 そういって公爵はマリアンヌの前に跪いた。エレオノールもルイズも恭しく跪く。なの でヤンも彼等の後ろに下がり跪いた。 マリアンヌは頷き、皆を起立させる。 共を連れたマリアンヌは室内に入ると、やはり斧へ目が向いた。 「ほほぅ…これが噂の…なるほど。これなら、未だかつて類を見ないほどのティアラや首 飾りやらが作れましょう」 公爵も自慢げに斧をマリアンヌへ手渡す。 「はは、さすがは陛下。お耳が早うございますな。いやはや、婚儀の日まで秘密にし、陛 下と姫殿下を驚嘆させかったのですが」 「ほほほ、それは嬉しい謀でしたこと。ですが、これ程の巨大なダイヤを持つ平民が、使 い魔として召喚されたとなれば、噂が疾風の如く駆けめぐるのも仕方ない事。いやでも話 は聞き及びますわ」 女王も満足げにダイヤの刃を光にかざし見る。 そして公爵の後ろ、ヤンの方へ目が向く。 「そして、件の異国から召喚された平民使い魔か。これ、名をなんという?いずこから参 られた?」 慌ててエレオノールが間に入ろうとした。 「へ、陛下!卑しき平民に自ら声をかけるなど」 だがマリアンヌはエレオノールの言葉を手で制した。 「かのアルビオンにおける内戦、反乱軍レコン・キスタの勝利が揺るがぬものとなりまし た。今、ゲルマニアとの軍事同盟はトリステイン防衛のために避けられぬのです。そのた め娘も、アンリエッタもゲルマニアへ嫁ぐのですよ。成り上がりの国でも、力はあるので す。かの国では平民でも貴族になれます。そのため今、姫はマザリーニと共にゲルマニア へ赴いています。 ならば私も、魔法の使えぬ平民だからと人を蔑むわけにはいきません」 その言葉にエレオノールも公爵も、苦虫を噛み潰したような顔をしつつも異議を唱える 事は出来なかった。ルイズも、多少は眉をひそめていたが、同時にヤンを認められて嬉し そうにもしている。 ヤンも女王の言葉に満足して名乗った。 「お初にお目にかかります。私はヤン・ウェンリーと申します。自由惑星同盟(フリー・ プラネッツ)という国から召喚されました」 「フリー・プラネッツ?聞かぬ名ですね」 王女は首を傾げてしまう。 「ハルケギニアとは交流の全くない、遠い遠い国です。恐らく過去に両世界の人が出会っ た事すら無いかと思われます」 「そうですか、それは遠い国から参られたものです。ヤン・ウェンリーとやら、そなたの もたらした斧、トリステインが買い取りましょう。代金は十分な額を公爵へ届けさせるが、 良いですか?」 「はい、よろしくお願い致します」 ヤンは、少年時代の父を思い出しながら、商人らしい礼を深々とした。 女王も頷き、公爵へ一礼して部屋を後にした。 「私は早速アカデミーに戻って、この斧から刃を外しにかかりますわ!」 そう言ってエレオノールも部屋を飛び出していった。 後に残った公爵はソファーに深く腰をおろし、まだルイズとヤンが残っているのも構わ ず大きな溜め息をついた。 「ふぅ~、どうにかエレオノールの機嫌が直ってよかった。わざわざ王宮に呼び出して気 分を変えさせた甲斐があったよ」 その言葉にルイズがキョトンとする。ヤンは最初のカリカリした姉の姿が思い浮かぶ。 公爵は、苦しげに溜め息をつきながら口を開いた。 「実はなぁ、エレオノールとバーガンディ伯爵との婚約が破棄されてなぁ…」 聞かされたルイズは、本日一番驚いた。目が文字通り白黒している。 「こっ!婚約!?婚約したんですか!?しかも、破棄って…」 「なんでもバーガンディ伯爵が言うには『もう限界』だそうだ…。いや、聞かんでくれ。 ルイズ、もうこれ以上は聞かんでくれ・・・」 呻くように呟いた伯爵は、ヤンには一気に10歳老け込んだように見えた。 ひとしきり大きな溜め息をついた後、ようやく伯爵はヤンに目を向けた。 「ともかく、ヤン・ウェンリーとやら、大義であった。 聞いての通りトリステインから代金が支払われる。だが、額が額なので安易には動かせ ぬであろう。もし金貨で支払われでもすれば、もはや馬車一台では運べぬ重さになるだろ うからな。 支払いは小分けにして、月々渡そうかと思うが、よいか?」 「お言葉ながら、今、まとまった額が必要なのです」 ヤンが深々と公爵へ礼をしながら、現金払いを要求する。 「私が瀕死の状態で召喚されたため、ルイズ様は私の治療費を支払って下さいました。礼 を込めて、その倍額を、急ぎルイズ様へ支払いたく思うのです」 その言葉に公爵は納得して大きく頷いた。 「良い心がけだ、ウェンリーとやら。城下の別邸に二人とも来るがよい。十分な金をおい てあるので、3倍の額をすぐにお主へ渡すとしよう」 ルイズもヤンも嬉しさを隠しきれない顔を見合わせた。 二人の嬉しい顔は、すぐに驚愕と不安に変わった。 公爵は、さらに老け込んでしまったかのようだ。 3人は城門を馬車で出てほどなく、闇の中にエレオノールの馬車を見つけたのだ。 数台の馬車が粉々に砕かれ、跡形もなく破壊されていた。 周囲には散乱した破片の中に、御者と使用人のメイドと、エレオノールが倒れていた。 そして遙か遠くには、月明かりに照らされた巨大な人型が地響きと共に去っていくのが見える。巨大なゴーレムだ。 無論、馬車の破片の中に斧が収められたケースは無かった。 第4話 土くれのフーケ END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4028.html
前ページ次ページゼロな提督 トリステイン魔法学院は、だだっ広い草原の中にある。 その学院から少し離れた所には小さな村があり、村人は慎ましい生活をしている。 真昼の太陽が照らす中、一人の男が馬に乗り、村のはずれへと向かっていた。 白い幅広の墓石が並ぶ共同墓地の一角に、一輪の花を持つヤンの姿があった。 素っ気ない、墓碑銘もない幅広の墓石の前に立ち、しばしの瞑想をする。 そして、手に持つ花を手向けた。 「必ずって約束は出来ないけど、もし元の世界に戻れたら、あなたの家族にもあなたの事は伝えるよ」 ヤンは馬に乗り、学院へと戻っていった。 第八話 名も無き墓 昼食も終わり授業が始まる頃、ヤンは学院長室を訪れた。オスマンのデスクの上には古ぼけた手帳、ボロボロの身分証明書、その他鏡だのクシだのといった小さな日用品が並んでいる。 そしてそれら全てには、銀河帝国の公用語が書かれていた。 ロングビルも興味深げに覗き込んでいた。 「30年前の物じゃからな、見つけるのに苦労したわい」 「わざわざすいません。それで、墓に入れなかった遺品はこれで全部ですか?」 「うむ。そっちは墓前には行ってきたかね?」 「ええ。それでは遺品を拝見させてもらいます」 「ああ、よいぞ。まず彼の名は?墓碑銘を刻みたいのだが」 「はい、えっと…」 ヤンは身分証明書を手に取った。血と泥に黒く汚れ、ささくれ、ひび割れた表面から僅かに覗く文字を読み取っていく。 「…ヨハネス・シュトラウス。帝国暦43…えと、436年かな?12月1日生まれ…帝国軍准尉、グレ…うーん、削れて上手く読めないけど、グレゴール艦隊第12工兵隊所属…かなぁ」 それはヤンの記憶に無い帝国軍艦隊名だ。だが、ハルケギニアとヤンの世界に時間的ズレ無く往来が可能と仮定するなら今より30年程前の宇宙暦770年、帝国暦460年頃に存在した艦隊だ。 30年前の艦隊で、同盟との交戦もなく吸収合併したり名称が変わったなら、ヤンが知らないのも道理だ。 ロングビルはヨハネス・シュトラウスの帝国語でのスペルと生年月日をメモする。 「後ほど墓碑に刻むよう依頼しておきますわ」 オスマンは小さく頷いた。 ヤンは他の遺品を一通り見渡してみる。 クシ、鏡といった日用品は、材質こそハルケギニアの物とは違うが、これといってヤンの役に立つ物ではなさそうだ。 「やっぱり、これだな…」 ヤンは手帳を手に取り、中を開いてみた。やはり身分証明書と同じく所々が読めないものの、帝国公用語の文章が書き連ねてあった。 手帳を開いてすぐに、ヤンは一心不乱に中を読み始めた。一言も発さず、瞬きすらしない。 その姿を見つめるオスマンとロングビルも、ヤンの姿にただならぬ物を感じて声をかけようとはしない。 さほど大きくもなくページも少ない手帳ゆえ、ほどなくしてヤンは読み終えて手帳を閉じた。だがそれでも彼は何も口にしようとはしない。 ただ眼を閉じ、天を仰いでいる。 オスマンとロングビルは困惑の視線を向け合う。意を決し口を開いたのは秘書の方だった。 「ヤン…どうだったの?」 問われたヤンはゆっくりと眼を開き、俯いて、手に持つ古ぼけた手帳を見つめた。 そして、ゆっくりと語り出す。 「彼は…ヨハネス・シュトラウスは、この手帳にハルケギニアに来てからの事を書き連ねていました。日記とかをつける習慣は無かったようで、時々大まかにあった事を記しているだけですが」 そしてヤンは語りはじめた。30年前にオスマンを救って帰らぬ人となった、名も無き帝国軍兵士の事を。 ハルケギニアの人々には通じない言葉が混じっている事も忘れ、彼の孤独と哀しみをそのままに。 ヨハネス・シュトラウスは、帝国首都オーディンの演習場にて軍事演習中だった。 彼の所属する工兵隊は装甲輸送車で走行中だった。突然正面に鏡の様なものが現れ、操縦者していた彼は回避しようとしたが間に合わず、そのまま鏡の中に突っ込んでしまった。 突っ込んだ次の瞬間、いきなり周囲の土地が盛り上がり、車輌真下の地面は陥没し始めた。 咄嗟にアクセルを踏み、ハンドルを切ってこれを回避したが、大地自身が敵意を持って襲いかかってくるかのような状況は止まらなかった。 急加速して逃走を続けるが、周囲の状況を見てパニックに陥る車輌内の隊員達。なぜか彼等はオーディンの演習場ではなく、半径10kmはある巨大なクレーターの真ん中を走っていたからだ。 しかもクレーターの地面そのものが波打ち、車輌へ襲いかかり、地の底へ飲み込もうとしている。 状況も現在地も分からぬまま、とにかく必死で大地からの逃亡というあり得ない行動をとり続けていた所、街らしきものを見つけた。 彼等は希望の灯を見つけたと歓喜し、そこへ全速力を維持して進路を向けた。 確かにそこは街、というか集落だった。ただし、そこに希望はなかった。 街の人々が逃げて来る車輌を見つけるや、とたんに車輌の進路が湧き出した岩に塞がれ、信じがたい程の突然の突風が吹き荒れるなど、彼等への攻撃が激しくなったからだ。 彼等は混乱の中、この異常な状況が目前の人々による敵対的行為だと判断した。 工兵隊員達は車輌に備え付けの砲、輸送中だった重火器や弾薬やゼッフル粒子、携帯していたビーム銃を使い、あるいは装甲車輌で街の粗末な建造物をなぎ倒し、明らかに害意を向けてくる街の人々との戦闘に入った。 激しい戦闘の末、車輌は大破。隊員達は彼を残して全滅した。彼も車輌を大破された時の衝撃で気絶した。 意識を取り戻した時、丁度、車輌の中に攻撃を加えてきた人々が入り込んで来ていた。 咄嗟にビーム銃で侵入してきた者達を殺し、車輌を再び動かそうと再起動させる。運良く車輌は咆哮を上げ、命からがら街から逃走した。 街から逃走し、大地や大気からの攻撃も無くなったものの、大破した車輌は砂漠の中で動かなくなってしまった。 砂に沈み行く車輌の中から、搭載していた一人乗りの小型ヴィークルに使えそうな武器弾薬・携帯食料・ゼッフル粒子発生装置・燃料などを載せれるだけ載せて、仲間と敵の死体を車輌の中に残して西に向かう事にした。 別に西に何かあるとは思っていなかった。 だが、東には彼等を襲った正体不明の連中がいる。なので、とりあえず西に向かった。 ほどなくして小高い丘の上に無人の城を見つけた。そして麓のオアシスを中心とした小さな交易地も。 だが、発見されれば再び謎の攻撃を受けるかと思うと、とても近寄る気にはなれなかった。 彼は、あてもなくハルケギニアを彷徨った。 最初、必死で人目から逃げ回った。 たまに民家に侵入して食料や衣服を盗み、山谷の中で野宿を続けた。 しばらくして、最初に襲ってきた耳の長い人々とハルケギニアの人々が違う事・マントを着た人々が魔法を使う事を知った。 同時にここが帝国とは全く異なる世界という事を思い知らされた。 たまに野盗となって商隊を襲い、時には助けてくれた村人のために山賊を倒し、その日その日を生き続けてた。 それでも帰る方法が無いかと必死に探し続けた。 星空の向こうから銀河帝国の艦艇が救助に来る夢を何度も見て、幾度と無く涙と共に目を覚ました。 そして持ち出した装備も弾薬も底を突き、ヴィークルも燃料切れで動かなくなった。 「・・・記述は、ここまでです。あとは、オールド・オスマンの語ったとおりでしょう」 ヤンの語った物語に、オスマンは目を閉じたまま頷いた。 驚いたように眼を見開いたままだったロングビルが、恐る恐るという感じで口を開く。 「その…知らない言葉や分からない状況が多くて、完全には分からなかったのですけど…その人は、聖地から来たのですわね。 しかも、僅か10人かそこらの小隊で、エルフの大集団と互角以上の戦闘をした、と」 オスマンは小さく頷いた。 「わしにも信じがたいが…しかし30年前に見た『破壊の壷』、ぜっふるりゅうしはっせいそうちとやらの威力。そしてダイヤの斧。納得するしかあるまい。 だが、まさか聖地が何もない、盆地のような荒野の有様とは…一体、どういう事じゃ」 ロングビルはヤンを、俯くヤンの顔ではなくジャンパーの胸ポケットを見た。 その不自然なふくらみの下にあるヤンの国の銃は、あの恐るべきエルフ達を軽々と殺せるということだ。 そんな銃が、もし自分に向けられたら…。 ロングビルは『破壊の壷』事件の時、ヤンに攻撃をしていたらどうなっていたかと、今さらに血の気が引いてしまう。 「鍵は聖地…エルフ、か」 ヤンの小さな独り言は、二人には聞こえなかった。 その日の放課後、学院長室にキザッたらしい少年が呼び出された。彼には『聖地』『エルフ』等の手帳に関する情報を除いた、オスマンの恩人についての説明がされた。 「つまり、オールド・オスマンの恩人の遺品が『破壊の壷』以外に残っていないか、この僕に調べてきて欲しい。そう言うわけですね?」 「うむ。お主の使い魔であるジャイアントモールは地中を馬並みの速さで掘り進み、様々な鉱物を見つけてくる事ができるはずじゃ。その力をもって、探して欲しい」 派手な服装をした少年は大仰に礼をした。 「学院長御自らの依頼とあれば、断る事など出来ません。このギーシュ・ド・グラモン、必ずやご期待に答えて見せましょう!」 というわけで次の虚無の曜日の朝。学院前にはルイズ・ヤン・オスマン・ギーシュがそれぞれ馬を連れていた。 もちろんロングビルも同行を申し出た。が、さすがに学院長の秘書まで同時に学院を離れると、王宮から急の使者が来た時など困るので、学院に残る事になった。なので彼女は門へ見送りに来ている。 「僕は剣は使えないって言ってるのに…」 と、ぼやくヤンをルイズが睨み付ける。 「何言ってるのよ!せっかく買ったんじゃないの。ワイバーンがうろつくような危険な場所なんだから、ちゃんと持っておきなさい。良い機会だから剣にも慣れておきなさいよ」 「そーだそーだ!俺を部屋にほっとくと、寂しくて泣いちまうぞ!剣としての待遇を要求するー!」 というわけで、ヤンはデルフリンガーを背負っている。ヤンが、だって重いし…とぼやいた所で、ルイズに蹴りを入れられた。 そんな彼等の足下の地面がポコッと盛り上がり、巨大なモグラが顔をのぞかせた。 「やぁ!僕のヴェルダンデ。どばどばミミズは沢山食べてきたかい?今日は君の力を存分に振るう機会だからね」 ギーシュはすさっと膝をつくと、巨大モグラの頭を抱きしめる。モグラも嬉しげに鼻をヒクヒクさせている。 ヤンが興味津々でモグラに近寄った。 「うわぁ~、大きなモグラだねぇ。それに目が大きくて愛嬌があるなぁ。これがジャイアントモールかい?」 その言葉を聞くや、ギーシュは待ってましたとばかりに立ち上がり、自分の使い魔を紹介しはじめた。 「その通り!これが僕の可愛い使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデだよ。ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジの僕にとって、、この上もない、素敵な協力者さ」 オスマンもモグラのつぶらな瞳を覗き込んだ。 「うむ、それじゃよろしく頼むぞ。鉱石とは違うが、かなり珍しい臭いのはずじゃ。きっと見つける事が出来るじゃろう」 そう言ってオスマンはヤンに視線を向ける。ヤンは頷いてジャンパーから銃を取り出してモグラの鼻に近づけた。 ヒクヒクとよく動く鼻がビーム銃の臭いを嗅ぎ取っている。そして大きく頷いて再び地面の下に潜っていった。 「それじゃ皆の衆、出発じゃ!」 オスマンの言葉に、皆馬に乗る。 ロングビルが騎乗したヤンに駆け寄った。 「無茶しちゃダメよ。ちゃんと無事に帰ってきなさいね」 「大丈夫だよ。それじゃ行ってくる」 そんな二人の姿を羨ましそうに見つめるオスマン。 「あ、あの、ミス・ロングビル…ワシは?」 「あー学院長も怪我しちゃダメですよーえーホントー仕事溜まってるんですからねー。最悪、右手と杖だけ無事だったらいいですよー」 振り返りもせず棒読みゼリフを投げつけられ、老人はガックリ肩を落とした。 馬に乗って去っていく一行をロングビルが手を振り見送った。 太陽が彼等の真上に来た頃、一行は森の奥にいた。 全員馬を降り、周囲を見渡している。幸いワイバーンなど危険な巨大生物の姿は見えない。 「さて、この辺じゃ。ギーシュ君、頼むぞ」 「承知しました」 ギーシュが地面を叩くと、すぐにヴェルダンデが顔をのぞかせ、森の奥をジッと見つめる。 「さすが僕のヴェルダンデ!もう見つけたのかい?」 「あっけないわねえ」 ギーシュを先頭に、拍子抜けしたルイズはじめ、皆森の奥へと進む。 茨をかき分け、倒木を乗り越え、獣道を進んでいく。 だが、再びヴェルダンデがギーシュの前に顔を出した。同時に膝をついたギーシュの顔がこわばる。 「どうしたんじゃ?」 尋ねるオスマンにギーシュは緊張した声で答えた。 「目的の物の近くに、人です。数は5人」 彼等は顔を見合わせた。 こんな森の奥に人が来る。しかも自分たちの目的地近くに。何者かは分からないが、それは自分たちと同じ目的で来たと見るべきだろう。 ヤンがベレー帽を被り直しながらオスマンに尋ねる。 「学院長、この場所の事を過去に誰かに話した事は?」 「いや、無い。『破壊の壷』の一件はあったが、なぜに30年経った今になって、我々以外に彼を調べる者がいるんじゃ?」 ヤンの背中の長剣が鞘からヒョコッと飛び出す。 「敵か味方かしらねーけど、油断は禁物ってこったな」 「そのようね…慎重に進みましょう」 ルイズの言葉に全員が頷き、メイジ達3人は杖を抜く。ヤンもジャンパーの胸元を開いて銃を抜けるようする。 そして鬱蒼と茂る木々の枝葉を突き抜けていくと、林の向こう30メイル程先にそれが見えた。 確かにヴィークルはあった。 ボロボロに朽ち、ツタが絡み、サビが浮いた機械の塊が地面にうち捨てられていた。 ただし予想通り、見つけたのはヴィークルだけではなかった。 そのヴィークルの周りには、数人の人間がいた。黒マントを着用し杖を構える男と、薄茶色のローブをまとい羽付の帽子を被った長身の男。そして付近で暮らしている村人とおぼしき初老の男。 彼等は茂みの中から現れた一行を向いていた。明らかに彼等もオスマン達が来るのを予期している。 オスマンは一行の先頭に進み出て、大きな声で名乗った。 「怪しい者ではない!こちらはトリステイン魔法学院学院長、オールド・オスマンと生徒達じゃ!敵でないなら名乗られよ!」 オスマンの声に長身の男が答えた。 「私の名はビダーシャル。出逢いに感謝を」 高く澄んだ声でそう言うと、長身の男は連れているメイジに合図し、杖を納めさせた。 それを見てヤンがオスマンの横に進み出る。 「こちらは争う意思はありません!隠れている人も出てきて頂いて結構です!」 そう叫ぶと、ヤンは他の者に杖を納めるよう促す。 オスマンと、渋々ルイズもギーシュも杖を納めるのを確認し、ビダーシャルは手を挙げる。 同時にヤン達の左右の茂みからメイジの男が一人ずつ、杖を納めながら出てきた。 オスマン達一行は安堵し、それでも正体不明の探索者達を慎重に観察しながらヴィークルへ近付く。同じくビダーシャルも彼等に歩み寄ってきた。 「すまない。こちらも争う意思は無い。だが、なにぶん不案内な場所ゆえ、必要以上に警戒せざるを得なかった」 つばの広い羽付の、異国の帽子を被った男が長い金髪を揺らす。 前に進み出たオスマンが怪訝な顔をして、長身の男の青い瞳を覗き込む。そして、一筋の汗を流した。 「お主…もしや、エルフか?」 「そうだ」 「ひぃっ!」 長身の男は当然のように答えたが、生徒二人には当然ではなかった。小さく悲鳴を上げてしまい、慌てて杖を抜こうとする。 ほぼ同時にエルフに付き添うメイジ達も杖を抜き放ち、高速でルーンを唱える。 「よすんじゃ!」「撃つなっ!」 慌ててオスマンとヤンがギーシュとルイズの杖を押さえる。同じくビダーシャルもメイジ達を手で制しようとする。 だが、一瞬遅かった。黒ローブのメイジがルーンを完成させていた。 「『エア・ハンマー』!」 杖から凝縮された空気の塊が放たれ、オスマン達へ襲いかかる。 ドゥンッ! だが、オスマン達には当たらなかった。彼等の手前で空気の塊が破裂し、周囲に突風が吹き荒れる。 オスマン達の前には不自然に伸びてきた枝葉が壁となっていた。樹木が自ら『エア・ハンマー』から彼等を守ったのだ。 学院長はじめ、その場の全員が目前の光景に目を見張る。誰からとも無く畏怖を込めたつぶやきが漏れる。 「エルフの先住魔法…」 「うむ。予め精霊にお前達も守ってくれるよう頼んでおいてよかった」 ビダーシャルとオスマンが改めてメイジ達に杖を納めるよう命じる。しばしのにらみ合いの後、ようやく全員が杖を納めた。 ヤンの背でデルフリンガーが安心した声を出す。 「いや~、やばかったなぁ。エルフとやり合おうなんて自殺行為だぜ」 オスマン達の心情を代表する言葉だった。 二つのパーティは朽ち果てたヴィークルを挟み、相対して立っている。ヴィークル横にヤンとオスマンとビダーシャル、他の者は少し離れて彼等の様子をうかがっていた。 ヤンはヴィークルを調べ、その状態や遺留品を確認する。ヴェルダンデもヴィークルの付近を調べまわり、同じく朽ち果てた帝国のビーム銃を発見して来た。 それは一目見て使い物にならないのが分かる有様だ。ヤンの背中のデルフリンガーも「ダメだな、こりゃ」と呟いた。 ビダーシャルは帽子を取り、長い耳を露わにしている。オスマンは彼に、ギーシュに話した範囲の事を語った。 「・・・と言うわけじゃ。30年も前の事ではあるが、良い機会なので彼がどこから来たのか、他に残した品がないか調べに来たのじゃよ」 聞いたエルフは満足げに頷いた。 「そうか。『大いなる意思』に導かれたこの出逢いに感謝する。私もお前達が探しに来た人物を追ってきたのだ。だが事情があるので、詳しくは言えない。 後ろの者達のように、お前達蛮人の協力を得て彼の者の足跡を追ってきた」 そう言って背後に待機するメイジ達と初老の村人を指し示す。メイジ達は軽く会釈し、村人もペコリと頭を下げた。 「そこの老人は例の男に出会った事があるらしい。この土地にも詳しいというので、案内を頼んだのだ」 紹介された村人は、おずおずと口を開いた。 「へぇ…そうです。昔、あのお方はわし等の村にフラリと現れたんで。食べ物を分けてあげたら、そらぁもう喜んで。お礼にと、近くに住み着いていて村を襲っていた山賊共を倒してくれたんですだ。 だども、貴族の方々がその噂を聞きつけてやって来ると、すぐにこの森の中へ逃げてしまわれたのです」 村人の話は手帳の手記と一致する。オスマンも、ヴィークルから顔を上げて話を聞いていたヤンも納得した。 孤独な異境の地で絶望していた時、思いもかけず得られた親切。その嬉しさは今のヤンには痛いほどよく分かる。 そしてメイジを恐れる気持ちも。 ビダーシャルはヤンが調べているヴィークルを珍しげに見つめた。 「それで、その不思議な物体なのだが…どうなのだ?それは一体何なのだ?」 聞かれたヤンは思案する。このエルフが今頃になって、何故ヨハネス・シュトラウスを追ってきたのか分からない。 だが、同じ世界から来たと分かれば、次はヤンに興味が移るだろう。 彼は、この世界に来てから上手になってきた演技力で、とぼけることにした。 「うーん、さっぱり分かりません。どうやら学院に持ち帰って調べるしかないようです」 その言葉を聞いてヴィダーシャルは少し困った顔をした。 「ふむ、それはこちらも持ち帰りたいのだ。悪いが渡してはもらえないか?」 今度はオスマンが困った顔をする。 「いや、彼の墓はこちらで作ったしのぉ。恩人の遺品でもあるし、こちらで管理しておきたいのじゃ」 そう言ってオスマンはヤンの顔を見る。 ヤンは少し頭を捻り、それでは…と提案した。 「では、これでどうでしょう。ビダーシャルさんは、我々に話せる範囲での情報を提供する。代わりに我々はこれを諦める」 その提案にオスマンも、そしてビダーシャルも頷いた。 「よかろう。では、何が聞きたい?」 オスマンは「聖地がどうなっているのか」、ヤンは「彼がどこからどうやってトリステインまで来たのか」と尋ねた。 これにビダーシャルは、先日ガリア王の前で語った事実を答えた。 「・・・以上だ。 これらは別に秘密ではないから、話す事に問題はない。いや、むしろお前達にも知っておいて欲しいくらいだ。お前達が光と崇める存在の真実と、その存在が残した物が、いかに危険かについて、な」 エルフの口から語られた聖地の惨状。 聖地が吐き出し続ける未曾有の災厄から世界を守るエルフと精霊。 それらを聞かされたギーシュとルイズは、見るからに信じられない様子で顔をしかめている。 いや、それはビダーシャルの同行者達も同じだった。『六千年に渡り敵対するエルフが、自分たちの神たる存在を、大災厄の源として愚弄している』と言う所だろう。 だがヨハネス・シュトラウスの手記を知っているオスマンの反応は違う。オスマンは、それら全てが真実であると認めざるを得なかった。 自分たちが信じてきた事実は、長い歴史の間で歪み、曲解され、美化してきた紛い物だと理解してしまった。 そしてこれらを他言すれば、教会から異端審問にかけられ殺される事も。 オスマンの顔は引きつり、手は汗でじっとりと濡れる。だがそれ以上にヤンの顔は蒼白だった。 彼の胸中は明らかに絶望で埋め尽くされていた。 そしてヤンの顔が色を失っている事はビダーシャルも気付いていた。 「お前達が光と崇めていた物が、敵であるエルフに闇と断じられているのだ。受け入れ難くもあるだろう。信じろとは言わない。 だが私は私が答えるべき事を答えた。約束通り、この奇異なる物体は私が持ち帰るが、構わないか?」 ビダーシャルの言葉に、ヤンは小さく頷いた。そして、震える唇で彼に尋ねた。 「最後に一つだけ、教えて欲しい…」 「何だ?答えれる事なら答えよう」 「『悪魔』が生む嵐で大地に穴が開き始めたのは…いつからです?」 ふむ、と呟いてエルフは首を傾げた。 「正確な年は分からないが…恐らく、ここ千年の事だ」 千年という年数を聞いかされたヤンは、明らかに更なる衝撃に襲われていた。 そして肩を落とし、力なくもと来た道を戻り出す。ルイズなど他の者が、いくら声をかけても彼は何も答えない。 皆、訳も分からずヤンの後を追って、朽ちたヴィークルを後にした。 結局ヤンは学院に戻るまで、いや、戻ってからも無言のままだった。 夜、ルイズの部屋では相変わらずヤンが押し黙ったまま床にあぐらをかいていた。 壁に立てかけられたデルフリンガーも、ベッドの上のルイズも、あまりに重苦しい空気で押しつぶされそうだ。 「もうっ!いい加減にしなさいよ!あんなエルフの言う事なんて信じる必要ないじゃないの!」 「そーだぜ、一体何でそんなに落ち込んでんだ?」 さすがに沈黙に耐えきれなくなったルイズとデルフリンガーが怒り出す。 俯いたまま口を閉ざしていたヤンは、ゆっくりと視線をベッド上のルイズへ向ける。 そして、けだるそうに口を開いた。 「…彼の言った事は、嘘じゃないよ。・・・そして、帰る方法が分かったんだ」 帰る方法が分かった その言葉を聞いた瞬間、ルイズは全身の血の気が引いた。 「ま!待ちなさいよ!まさか、あんた、聖地に行こうって言うの!?」 だが、ヤンは力なく首を横に振る。 さすがにその様子にルイズもデルフリンガーも不信がつのる。帰る方法が分かったならもっと喜んでいいはずだ。 「よぉよぉヤンよ、んじゃ、いってーおめーは、何でそんなに落ち込んでるんだ?」 デルフリンガーの問に答えるヤンの姿は、まるで10歳は老け込んだように見えた。 「帰る方法は簡単さ…聖地の門に向けて、救難信号を発すれば良いんだ。そうすれば、門の向こう側にいる誰かが、僕の助けを求める声を受け取ってくれる。誰かが確実に、ね」 聞き慣れない言葉にルイズが首を捻った。 「きゅーなん…しんごう…って、何?」 「助けて下さいって声を遠くに届けるアイテムだよ。60年前にハルケギニアへ飛び去ったという飛行物体か、砂漠に沈んだ装甲車を見つけて、搭載している通信機を聖地に持って行けば良いんだ。 あとは門が開くのを聖地の畔で待っていればいい。最近活動が活発らしいから、時間はかからない。いつかは誰かが門の向こうから駆けつけてくれる」 聖地の畔で待っていればいい、と簡単に言うヤン。だが彼が纏う空気はあまりに重い。 「んじゃよー、ヤンよ。おめーが落ち込む理由はなんだってんだ?」 「もっと簡単な事だよ…助けに来てくれた人々は大方が、いや、確実に死んでしまうからだよ」 ルイズがビダーシャルの語った聖地の有様を思い出す。大地を抉るほどの嵐を生み、灰になって死んでしまうという『悪魔』達の事を。 「死んでしまうって、エルフが言ってた『悪魔』みたいに?」 ヤンは暗い瞳を虚空に向けたまま頷いた。 「そうさ…僕が助かるためには、助けに来てくれる多くの人を、犠牲にしなくてはいけないんだ」 ルイズは絶望を背負って床に座るヤンを見つめる。その姿は一切の嘘も誇張も含んでいるように見えない。 再び室内に重苦しい空気が漂う。 デルフリンガーが、控えめにツバを鳴らして声をかけた。 「でもよぉ…なんで、みんな死ンじまうんだ?それも大嵐を起こして」 尋ねられたヤンは、ゆっくりと立ち上がった。そしてトボトボと扉へ向かう。 「君たちには、絶対に理解出来ないよ…星の海で暮らすのが、どういう事か」 星の海、と言う言葉が理解出来ない少女と剣を残し、ヤンは部屋を出て行った。 深夜、赤と青の二つの月が質素な村を照らす。 白い幅広の墓石が並ぶ共同墓地の一角に、力なく立ちつくすヤンの姿があった。 素っ気ない、墓碑銘もない幅広の墓石を、ただ見下ろす。 「全く…始祖ブリミルって、本当にバカだったんだなぁ」 ヤンは墓に向けて話し始めた。無論、墓は何も答えない。それはただの独り言だ。 「まぁ、しょうがない事ではあったんだ。六千年前と言えば、人類がまだ四大文明を生み出した頃だったんだから。エジプトでピラミッドを造ってる人に、人類が六千年後には宇宙で生活しているなんて、想像出来るはずがない。 それでも、死後は召喚の門を閉じておくくらいの事はやっておいて欲しかったね」 ヤンは天を見上げる。満天の星空に双月がぽっかりと浮かんでいる。 「ヨハネス・シュトラウス…君は一体、運が良かったのか悪かったのかなぁ?たまたま地上で車に乗っている時に召喚されたから、無事に門を越える事が出来たんだ。でも代わりに、死より苦しい孤独と絶望を味わう事になってしまったけど」 ヤンの瞳は星空を横切る流れ星を見つけた。それは光の帯を残し、一瞬で消えた。 そして、胸の中に溜め込まれた憤怒と絶望を叩き付けるように虚空へ向けて叫んだ。 「まったく…なんてバカな事をしてくれたんだっ!! 私達はもう千年も前から、宇宙で暮らしているんだぞ! 核融合炉を搭載した船に乗り!真空の無重力空間を!地上で言うならマッハ100や200なんて楽に出せるんだ!! おまけに中性子弾頭や熱核兵器やゼッフル粒子を満載した機体だってあるんだ!! そんなものが、そんなものを…いきなり地上に喚びだしたらどうなると思うんだ!?減速無しに大気圏突入させて地上に叩き付けたのと同じだっ!!半径10kmが吹き飛ぶ!? その程度で済んでいる事を幸運と思えっ!!」 叫びきったヤンは肩で息をする。 虚空に向けられた言葉は、答える者も無く虚しく空に消えていった。 後には、何事もなく静かな夜が戻ってくるだけだ。 「…もし、救難信号を聖地から送れば、確かに助けが来てくれるさ。ただし、無事に門を越えれるのは、ごく僅か。 聖地の大気に対する相対速度が極めて遅く、地上に着陸出来るか大気圏内飛行能力があり、放射性物質の拡散を防ごうとする精霊達の自動攻撃をかわす事が出来る者だけ。…ビダーシャルの言うとおり、30年に一度くらいは、そんなのも来てくれるさ。 この事実を通信機で伝えることが出来れば、強襲上陸艇なんかに乗って来てくれるかも知れない。 けど、そんな事をノンビリ話している間に門が閉じる。閉じなくても、門から生じる爆風で自分が吹っ飛ぶ」 そしてヤンは、再び口を閉ざした。 ただ静かに白い墓を見つめる。 もちろんヨハネス・シュトラウスは何も答えてはくれなかった。 ヤンの背後で何かが風を切る音がした。 振り返ると、暗い空の中に翼を広げる竜のシルエットが見えた。 それはあっという間にヤンの頭上まで飛来してきた。タバサの風竜だ。その背には何人もの人影が見える。 彼等は墓地の外れに着地し、すぐにヤンの方へと駆け寄ってくる。 ヤンはヨハネス・シュトラウスの墓を振り返る。 「済まない。もしかしたら約束は守れないかもしれない。私は…君の隣に、自分の墓を作る事になるかも知れないんだ」 そして墓に背を向け、歩き出した。 駆け寄ってくる人々へ。デルフリンガーを抱えたルイズや、ロングビルや、キュルケ、タバサ、ギーシュの方へと。 第八話 名も無き墓 END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/5667.html
16: ウルトラ星人の人 :2019/03/30(土) 03 11 54 HOST softbank126002170233.bbtec.net 金子監督版の白目ゴジラは深海棲艦と同じような存在だから厄介なんだよな・・・ 銀河連合日本×神崎島 小ネタ 『こんな夢をみた』 お盆に貴方はほっぽちゃんに連れられてとある海岸線の洞窟に入る・・・ ヲ級「おや、神埼提督?今回は提督も参加かい?」 提督「・・・何が在るんだい・・・この洞窟の奥に・・・」 ヲ級「なに・・・ただの宴さ・・・宴」フフフ 洞窟の奥から聞こえてくる太鼓と歌声・・・ ※イメージは「キングコング対ゴジラのテーマ」※ 提督「こっ、これは・・・(汗)」 洞窟の中には巨大な肉食恐竜の頭蓋骨が壁からむき出しで出ており ソレを中心部にして踊り狂う深海棲艦達・・・ ヲ級「・・・あれは『呉爾羅』 我々深海棲艦が崇めるべき存在だと《あの人》がおっしゃった・・・ あああ・・・今宵、御神体のお力で《あの人》が甦る・・・フフフ」(艶っぽい声) 歌が最高潮に達した時に御神体の下に有る石造りの椅子に蒼い炎が集まり人型を形成してゆく・・・ ヲ級「あああ・・・来た、《あの人》還って来た!!」 蒼い炎はボロボロだが提督と同じ帝国海軍の軍服になる・・・ そして《ソレ》はあなたに顔を向ける・・・ ???「クカカカカ・・・嶋田よ・・・我輩は戻って来たぞ!!」 提督「やめろろろう!富永ぁぁぁぁ!!!!」ガバッ! 鹿島「きゃあ!てっ、提督大丈夫ですか?」(汗) 提督「・・・あれここは・・・自室か・・・」 どうやら貴方は寝ていたようだ・・・ 鹿島「シリーズ物の映画をマラソン上映なんてするから変な夢でも見たんじゃ無いんですか?」 提督「そうか・・・俺は・・・ほっぽちゃんや第6駆逐隊の子達とゴジラシリーズを一気観してたんだっけ・・・」 ほっぽ「むにゃむにゃ・・・zzz…」 よく見ると自分の周りには寝落ちしたほっぽちゃんや第6駆逐隊の面々が・・・ 鹿島はそれに気がついてみんなに毛布をかけていたようだ・・・ 鹿島「かなり魘されてましたがどんな夢を見てたんですか?」 提督「ああ・・・実は・・・いや、止めておこう・・・正夢になったらやだし・・・すまないが何が飲み物を持ってきてくれないか?」(滝汗) 鹿島「分かりました♪」 部屋から出ていく鹿島・・・ 提督「・・・富永が深海提督だったとか流石に無いわ・・・アハハハハハハハハ…マサカナ」(滝汗) 以上です まとめ転載はOKです
https://w.atwiki.jp/kyoumoheiwada/
こちらはS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)にある 提督「今日も平和だ」 シリーズのまとめウィキになります その7 81まで反映済み 現行スレ 【艦これ】提督「今日も平和だ」その12 http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421029117/
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/4660.html
184: 弥次郎 :2017/07/08(土) 19 50 08 銀河連合日本×神崎島 支援ネタ2 304:名無しの提督さん スチュアートはよ!はよ! 日米同盟しているんだし急ぐべき! ついでに三笠も! 305:名無しの提督さん グラーフ・ツェッペリンがいいならペーター・シュトラッサーも…! ゆくゆくはH級を…! 306:名無しの提督さん 丹陽はまだですか(小声 307:名無しの提督さん 304 ニミッツ乙 そんなことよりもヴェルたんをデカブリストにすべき 308:名無しの提督さん イタリアの俺、高みの見物 早いとこ俺のローマに会いに行きたい 309:名無しの提督さん 308 カラビニエリさんこっちです ローマとイタリアは俺が口説くよ 310:名無しの提督さん 309 阻止 311:名無しの提督さん ここは落ち着いてクイーン・エリザベス級戦艦の順次実装すべきそうすべき 312:名無しの提督さん フランスだってワンチャンある……! 4chにおける海外提督たちによる争い(意訳) 総統閣下は神崎島の出現にお喜びのようです ワクワク動画に早速投稿された動画 神崎島なる島の武装組織が過去に存在した「東海」という名の航空機を運用していることから、 日本国が「日本海」と呼称している海域は我々が長年主張している「東海」という呼称が正しいと証明された。 某半島国家の主張 「ガワは東海ですけど、中身は全然違うんですけどね…」 上記の主張を耳にした「東海」の妖精さんの苦笑 本日、およそ70年もの時を経て、元橿原丸級貨客船(現飛鷹型航空母艦)の2隻/2名が里帰りしました。 日本郵船一同、大きな喜びを以て歓迎します。 おかえりなさい。 日本郵船ホームページより 「瑞雲で祭りをしないか?」 どこからか電波を受信した日向師匠 「明石さん!これ!これつくって!これで戦艦になれるって聞いたの!」 「ハハッ、NICE JOKE」 某OWのイラストを明石に見せながら駆逐艦 清霜 艦これ 調印式 帰属 神崎 猫 サーバー N〇Kの〇ぶやきビッグデータより 「これ、まさか……」 「この島って、戦時中の研究されたものが大体ありますし、妖精さんが勝手に作っちゃうので(汗」 神崎島某所にて「と号電気投擲砲のような何か」や「気球爆弾のようななにか」を発見した神崎提督と明石 185: 弥次郎 :2017/07/08(土) 19 51 11 以上、wiki転載はご自由に! 短いネタでもコツコツ支援です。 えっ?南朝鮮が何を言っているか分からないって? 私だってわかりません(白目
https://w.atwiki.jp/flightglide/pages/554.html
パルエ標準歴621年15月30日、クランダルト帝国において権勢を振るい帝国を私物化していた宮廷貴族を筆頭とした旧体制派は、国粋派の近衛騎士団を筆頭とした新体制派の起こしたクーデターによって今まさにその権力の座から引きずり降ろされつつあった。 そして旧体制派の有力な指揮官の一人であったマックス・フォン・カーレベルク提督も自らの属する陣営が敗北を迎えつつあるのをうっすらと理解していた。 (まさかこれほどまでに容易く負けるとはな……) カーレベルクは目の前で繰り広げられる醜態とも劣勢とも呼べる光景に忸怩たる思いを噛みしめていた。 彼の視界には彼が率いていた戦列が乱れ撃ち減らされた艦隊だったと言うべきみじめな小集団と、整然と陣形を組んでこちらを半包囲しつつある新体制派の艦隊の内の一つであるグレーヒェン艦隊、そして血と炎と煙を吹き上げて燃え盛る自らの座上艦ザルクバールの艦橋が映りこんでいた。 (もはや大勢は決したな…、しかしまぁ我ながらよくやったというべきかなんというか…) 新体制派と比べて数と火力で優勢ながら、明確な指揮系統と実戦経験がない打算とそれぞれの思惑の混じった烏合の衆の割にはよく奮闘したと言えよう。そう思ったカーレベルクの耳に副官であるヴァイグル中佐の声が届いた。 「閣下、ご無事ですか!?ご無事であられるならばご返事を!!」 「騒ぐなヴァイグル、頭に響く…」 先ほどから感じた右わき腹の苦痛と感覚はしなくなっており、半ば左手で抑えている実感すらなくなりつつあったがなんとか声を振り絞って副官ヴァイグル中佐の呼びかけに答える。 「あぁ閣下ご無事でs」 振り向きながら安堵の表情を露骨に浮かべながら口を開いたヴァイグル中佐が振り向くとともに途中まで言った言葉は途切れ、みるみるうちに顔が真っ青に染まる。 「あ、か、閣下ぁ!!軍医だ、軍医を呼べ!!」 普段の冷静沈着さからは考えられないような取り乱し方をしながら叫ぶ副官の様子を見て思わずおかしさを感じつつ彼は自分の脇腹を見た。 そこには深々と突き刺さった大きなガラス片があった。おそらくは先ほどの被弾時に飛び散ったものだろう。出血量と大きさから見て動脈を完全に切り裂き、内臓まで深々と突き刺さっているのがみてとれた。 (あぁ、これはもう助からんな…) 痛みはすでに麻痺して感じることはなく、ただ急速に失われていく体温だけが彼が死に近づいていることを示していた。 「まったく、こんなことならばもうすこし器用に生きればよかったな…」 思わず口から洩れる軽口に自分で笑いつつもふと思い出したことがあった。 「…ッう、そうだ、戦況は。ヴァイグル、戦況はどうなっている?」 それを聞いて一瞬呆気にとられた顔をしたヴァイグル中佐であったがすぐに表情を引き締めて報告を始めた。 「はい、現在わが方は艦隊を再編中であります。が、先ほどの宰相めの皇帝宣言により離反者が続出しております。すでに我が艦隊も一部の艦が離反しグレーヒェン艦隊に降伏、他艦隊に至っては造反者がでており、旗艦との砲戦や艦内での叛乱を繰り広げています。しかしながら新皇帝を僭称する宰相直属の艦隊は依然戦闘を継続しております」 「なるほど、まぁそうなるだろうな」 彼に言わせれば元々このクーデター自体が宮廷内の権力闘争の結果であり、さらに言えば初動で遅れをとった旧体制派が勝てる見込みなど最初からなかったのだ。むしろあれほどの愚行をやらかしながらここまで戦い抜いただけでも大したものであろう。 「そう考えれば…こういう最後であれば案外悪くはないな…」 そうつぶやいた後でカーレベルクはヴァイグルと先ほど到着した軍医に目を向ける。 「軍医殿、どうだ、この傷ではやはり助からんか?」 「それは・・・」 カーレベルクの問いかけに対し軍医が言葉を濁す。おそらくは助かる可能性は低いということなのだろうと察しつつカーレベルクはさらに続ける。 「自分のことは自分でわかる、私はもはや助からんよ。だが助かる可能性のある者を見捨てるわけにはいかん。軍医殿、私の傷は包帯を巻いて適当に止血するだけでいいので、まだ助かる可能性のある部下たちを見てやってくれないか」 「しかし閣下……いえわかりました。できる限りのことを行いましょう。」 少しの間反論しようとした軍医であったがカーレベルクの目を見ると何かを悟ったように引き下がった。 そして軍医が去っていくのを見送ったあとでカーレベルクは傍らに立つ副官に向かって語りかける。 「ヴァイグル中佐、幕僚団の中でも無事な者を集めてくれ。意識があるうちに最後の指示を伝えたい」 「了解しました」 そう答えたヴァイグルは即座に艦内伝声管を取り、幕僚と高級士官を呼びだす。 それを眺めながらカーレベルクはふとなぜこのようになったのか思い返していた。 そもそものきっかけは今から3年前の618年に勃発した北半球のアーキル連邦による侵攻、いわゆるリューリア戦役によって帝国の属領艦隊が全滅し、帝国軍を占領地や属国の支配に使っていたクランダルト帝国が対外戦争を行う国力を大幅に損失したことにあった。 これにより貴族たちは戦力の一部を国防軍によって徴発されており、その隙を突いて宰相とその取り巻きが自らの利益のために皇女等を幽閉するといった腐敗が横行する帝国を正そうと、近衛騎士団長ラツェルローゼを中心とする国粋派がクーデターを起こしたのだった。 クーデター勃発当時、彼は自らの艦隊の根拠地を離れ、修復なった乗艦ザルクバールの試運転に立ち会うために帝都近郊でザルクバールに座乗していたところで軍港爆破事件の報を聞いたのだった。 「なに、軍港で爆発だと!?」 「はい、詳細は不明ですが帝都軍港にて大規模な爆発が発生。ドッグの底部に停泊していた帝都防衛艦隊所属艦の多数が炎上中とのことであります。また未確認ながら軍警と何者かの間で銃撃戦が行われてるとの事です」 「そうか、わかった。詳細は追って報告せよ」 「はっ!!」 そう言って通信兵が艦橋を後にすると副官であるヴァイグル中佐が口を開く。 「閣下、これはいったい……」 「わからん、だがろくなことではないのだろう。連邦の破壊工作という可能性もある、各員警戒を厳となせ」 「はっ」 彼の命令を受けてヴァイグルが配下の兵に通達するのを聞き流しながら彼は今回の事件について考えていた。 (まさかとは思うが現政権に不満を持つ者のクーデターか……) 「閣下、どうかされましたか?」 ヴァイグルの呼びかけに彼は自らの思考をあり得ないものとして中断して答える。 「あぁ、なんでもない。それより急いで帝都に進路をとれ、一刻も早く帰還し帝都を守らねばならん。随伴艦2隻にも直ちに伝えろ」 「はっ!!」 そうして試運転も大概に急ピッチで巡空戦艦ザルクバールとその随伴艦であるクライプティア級駆逐艦2隻はすぐさま帝都への帰路についたのであった。しかしながら事態は急変しつつあった。 「報告、前方1時方向に艦影を確認。友軍艦です」 「なに、どういうことだ?」 「落ち着け、友軍艦との通信感を開け」 カーレベルクの命令により友軍の生体紋を確認したヴァイグルは安堵のため息をつく。 「よかった、どうやら味方のようですね。あれは確か……」 「あぁ、おそらくシュリッサー伯の旗艦、アーベルディアだろう。しかしこんなところで何をしているのだ?」 「わかりませんが、とにかく接触しましょう」 ヴァイグルの言葉にうなずくとカーレベルクは艦長に命じて艦を減速させつつ接近していく。 やがて艦影がはっきりと見えるようになり、徐々に近づいていくにつれその全容が見えてきた。 アーベルディアは旧インペリーア・ヴィマーナ造船所製のヴァスカラ級戦艦であり、貴族戦艦として典型的な豪華な装飾や設備を保有しているのと引き換えに戦闘能力はお世辞にも高くなく、主砲もいまでは旧式と言っても過言ではない大口径短砲身臼砲だった。 「間もなくアーベルティアと合流します」 「よし、私が行こう。接舷してシュリッサー伯に何があったか直接聞きたい。ヴァイグル、ついてこい」 「了解です」 カーレベルクはアーベルディアが見えてくると、ヴァイグルとともに艦橋を出て艦底部に位置する連絡艇格納庫に向かい、連絡艇に搭乗した。そしてしばらくすると連絡艇は離艦し少しばかり飛行してからアーベルディアに着艦した。 「はるばるご労足いただき大儀であった、カーレベルク提督」 「いえ、こちらこそ急に乗り付けて申し訳ありません、しかし一体全体帝都で何が起きたというのですか?」 カーレベルクの問いかけに対し答えたのはシュリッサー公爵だった。 「うむ、非常におぞましい事に北の蛮族どもが再度帝都に迫ってきおったのだ。奴らはどうやら我が国の力をそぐため、我らの艦隊が駐留する軍港を狙ったらしい」 「なんと、それで被害は?それに陛下たちは無事なのですか!?」 「軍港は爆破され一番底に停泊していた国防軍艦艇の半数がやられたが、幸いにして我が貴族艦隊は無事離艦できた。現在我々はシュヴィーツ候の指揮の元にネネツに向かっておる」 「ネネツにですか、しかしそれは条約違反ですぞ」 「わかっている。だが背に腹は代えられぬ」 シュリッサー公爵は苦々し気に話す。 「現在シュヴィーツ候が態勢を立て直すべく各艦隊の指揮を執りつつネネツに向っておる。貴官にも同行してもらおうと思うが」 「お言葉ですが閣下、まだ情報が錯綜しておりいかんともしがたいです。それにリューリアで大損害を負った連邦軍が再侵攻を行うとは到底信じられません。何より帝都とその周辺にはまだ部下を残しています、ズューデンベル泊地にいる彼らを回収してから考えさせて頂きたいのですが」 「何!?うぅむ、いやしかし…。ハァ、まぁ良い。武勲多く忠誠心ある卿のことだ、万が一も無かろう、行くがよい。シュヴィーツ候には私から説明しておこう」 「感謝します」 こうしてカーレベルクはほどほどに状況を確認するとシュリッサー伯と別れて、ザルクバールで随伴の駆逐艦2隻と共に帝都へと直行したのであった。 それからしばらくして帝都近郊に到着した彼はまず、駆逐艦の艦載機で帝都を偵察させつつ通信感を用いてズューデンベル泊地への集合命令を下し、麾下の艦隊を含めた友軍の糾合を図っていた。 「よし、これで大体の戦力は確保できるはずだ。後は帝都の状況を確かめねばな」 そう言って彼は麾下の艦艇の集結を待ちつつ帝都へ向かいながら、放送や通信感などを確認していた。 「これは、どういう事だ……?」 帝都の様子がおかしいことに気づいたのは彼が帝都上空に差し掛かった頃であった。 帝都防衛艦隊に割り当てられていた竪穴型ドックの位置する場所のあちこちで火災が発生しており、煙が立ち上っていた。 さらには駆逐艦艦載機からの報告では帝都民が逃げ惑い、軍警と近衛騎士団、さらには耳目省所属と思われる部隊が銃撃戦を交えている光景も散見された他、近衛騎士団所属の艦艇が続々と帝都に侵入していた。 そして極めつけは先ほどから鳴り響く放送、その内容はあまりにも衝撃的なものであった。 『帝都の市民よ!!我々近衛騎士団は正統なる皇族、宰相一派によって幽閉されていたフリッグ殿下をお救いし今まで諸君らを虐げ国政を意のままにした愚鈍な貴族どもに鉄槌を下すべく決起した。諸君らの苦しみは今この時をもって終わるであろう!!』 「なんだと!?」 その放送を聞いたカーレベルクは思わず叫ぶ。 (近衛騎士団がクーデターを起こしたのか?馬鹿な、いったい何故だ!?) 「提督、いかがなさいますか?」 ヴァイグルが心配そうな顔をしながら尋ねる。 「落ち着け、まずは友軍艦艇と合流するんだ。その後我々は貴族軍の艦隊と合流するぞ」 「という事はつまり…」 「そうだ、いくら現政府が腐敗まみれとはいえあのクーデターは違法なものだ。そして我々は既に赤襟に身を包んでいる以上軍人であり、いくら政府が腐敗しているとはいえ命令に従い、秩序を維持する義務があるのだ」 「はっ、了解しました」 カーレベルクは冷静さを取り戻すと、ヴァイグルに命令を下して帝都防衛艦隊の残存艦と合流してからの、ズューデンベル泊地への帰還を試みた。そしてようやく味方と思しき艦影を発見した時だった。 「ん、あれはまさか……」 「どうかしたか?」 「あの前方のガリアグル級、あれは近衛騎士団のものではありませんか?」 「そんなはずは……」 そう言いつつも見張り員とヴァイグルがザルクバールに搭載されている大型双眼鏡で確認すると、確かにそこには近衛騎士団の塗装が施されたガリアグル級1隻が航行しているのが見えた。 「間違いありません、近衛騎士団のものであります!」 「くっ、やはり近衛騎士団が裏切りを!…」 カーレベルクはその事実を認めると歯噛みしながらつぶやく。 「まぁいい、付近の友軍艦からの返答はあったか」 「今のところはまだです」 「報告、前方近衛艦隊ガリアグル級より入電、所属を明らかにし停船せよと言っています」 「却下だ、この状況下でクーデターを起こした近衛騎士団の言い分を聞く義理はない」 「しかし、このままでは交戦になりかねません。そうなれば他の艦艇が向かってくるかと小官は愚考します」 「それもそうだ、ならば仕方ない。駆逐艦フュルクはネネツの貴族艦隊のもとに向かいこのことを伝えろ、我々はズューデンベル泊地に向かう!!」 「了解です」 こうしてネネツに向かう駆逐艦を見送った後、カーレベルクも自身の旗艦ザルクバールと護衛のクライプティア級駆逐艦アインニムを伴って気付かれぬうちに帝都近郊から離脱を試みた。が… 「報告、近衛ガリアグル級が発砲!!」 「いかん、回避せよ!!」 その瞬間、近衛騎士団艦隊所属のガリアグル級軽巡が発砲。ザルクバールとアインニムは急旋回し近衛艦から放たれた砲弾をなんとか回避していく。 「敵艦はどうだ!?」 「追ってきます、更に新たな増援を確認、数は3隻。艦種は駆逐艦ゲダルン級です」 「ちぃ、やはり逃がす気はないという事か」 「どうされますか、閣下」 「逃げるしかないだろう、ここで馬鹿正直に戦っても勝ち目は薄い。ズューデンベル泊地に艦隊を集結させそこで態勢を立て直してからだ」 「了解です閣下、ズューデンベルに進路を取ります」 こうしてカーレベルク率いる艦隊はネネツへ向かうはずだった道を引き返して帝都南部にあるズューデンベル泊地へと向かうのだった。一方その頃、ネネツではシュヴィーツ候とシュリッサー伯が率いる貴族艦隊はネネツ艦隊から条約違反の領空侵入であると警告を受けるも侵入を強行したばかりかあまつさえネネツ艦隊に対し発砲。その結果優美な戦艦を中心に構成され、空母を持たない貴族艦隊は予め待機していたネネツのグランビアによる空襲に遭う。早くも統制を失った貴族艦隊は反転し、帝都へ逃げ込みつつあった。 一方そんなことを露知らぬカーレベルクは麾下の艦艇を糾合すべく可能な限り広範囲で国防軍艦艇に向けて近衛騎士団によるクーデター発生を知らせる通信とズューデンベル泊地への集合命令を発信するよう命令を下し、アインニムと共に近衛騎士団艦隊所属艦を丘陵と雲でやり過ごすと一路ズューデンベル泊地を目指したのであった。そしてザルクバールより1ゲイアス先頭に位置する駆逐艦アインニムが泊地の係留塔群を目視確認したのは帝都軍港での爆発から1時間が経った頃であった。 泊地には元からここを根拠地としていたカーレベルク麾下の艦隊の他、クーデター発生の報を聞いて押っ取り刀で駆けつけてきた国防軍艦艇や地方貴族の艦艇が終結しつつあった。ここズューデンベル泊地は帝都とバナージュの間に位置しており、元々は整備ドッグすら持たない単なるさびれた小規模な一軍港でしかなかったが、リューリア戦役時に連邦艦隊による攻撃を受けなかったことと、地理的要因から帝都防衛の要としてリューリア戦役後に整備されてからは大規模な軍港として機能していた。 そんな中ズューデンベル泊地に集った戦力は以下の通り。 カーレベルク艦隊:巡空戦艦1隻、重巡3隻、軽巡5隻、軽空母2隻、駆逐艦10隻 泊地防衛艦隊:重巡2隻、軽巡2隻、駆逐艦8隻、警邏艇12隻、砲艦8隻 近隣から来訪した貴族艦艇:旧式臼砲戦艦3隻、重巡3隻、軽巡6隻、駆逐艦8隻、砲艦16隻 カーレベルクはこれらの艦艇を集めると直ちに艦隊の再編を行い、艦隊旗艦である巡空戦艦ザルクバ―ルへと艦隊の幕僚や高位の軍人を集合させた。 「諸君、既に知っているとは思うが現在帝国は未曽有の危機に直面している。先ほど近衛騎士団がクーデターを起こし、帝都を制圧した。我々は近衛騎士団によって制圧されている帝都を解放し皇帝陛下と皇女殿下をお救いせねばならない。よって兵力を結集しネネツ方面に離脱した貴族軍と合流して帝都へ向かう、全艦出撃。直ちに準備に取り掛かれ!!」 「「「はっ!!」」」 カーレベルクの号令の下、幕僚たちや高位士官は出撃準備を整えると各艦は次々と係留塔群を離れ陣形を組んで出港を開始していた。 「各艦が離陸を開始しました」 「空母シュメレイン、並びに空母アルバドルフの発進を確認。更に後方の巡空戦隊並びに空雷戦隊も順次離陸中とのこと」 「重巡アルフェンリッツ出港、軽巡レンベルカ並びにアイジンガー伯旗艦、戦艦ヴァルシュタットも離陸を開始しました」 「よし、我々も出るぞ。艦長、ザルクバールを離陸させろ」 「了解です」 カーレベルクが乗るザルクバ―ルも戦艦用係留塔に繋がれていた係留索を切り離し、多数の武装を搭載した細長い船体を震わせながら、既に地表から離れ大空を先行して航行していたアクアルア級重巡やレウラグル級軽空母、クライプティア級駆逐艦やガリアグル級軽巡に合流していった。 「やはり壮観だな」 「えぇ、そうですね……」 ズューデンベル泊地上空を飛行する艦隊を眺めるカーレベルクのつぶやきにヴァイグル中佐が相槌を打つ。 「しかし、近衛騎士団が裏切るとは到底信じられません。やはりあれは連邦の工作では?」 「私も信じられんが、現に近衛騎士団はクーデターを起こして帝都を制圧した。更にはあの放送だ。つまりこれは紛れもない事実なのだ。今はこの危機を乗り越えることを考えねばならんだろう」 「確かにその通りであります」 「決まりだな、全艦に通達。進路を東へ、オージア方面に進出後にネネツにいるはずの貴族艦隊と合流する。全艦最大船速!!」 こうしてカーレベルク艦隊は進路を東へ向けると、足の遅い旧式艦で構成された近隣地方貴族の艦艇や、態勢が整わずに着いてこれぬであろう艦艇を置き去りにしつつネネツ方面へと向かうのだった。 そしてカーレベルクはまだこの時は後から知ることになる衝撃の事実と失望の存在を知る事になるとも知らずにいたのだった……。
https://w.atwiki.jp/kyoumoheiwada/pages/36.html
1~200 / 201~400 / 401~600 / 601~800 / 801~1000 ☆スター☆ 那珂「あぁ! 那珂ちゃんもついに街で声をかけられる存在になったよ」 龍驤「そうなん? 逆に今まで声かけられへんかったんか?」 那珂「まあ、堂々としてれば意外にばれないって言うじゃん」 龍驤「お前の場合堂々としすぎて鬱陶しいオーラが滲み出てんで」 那珂「嫌いじゃないくせに~~」 ☆断らない☆ 那珂「まあ基本的に那珂ちゃん何でもお仕事受けちゃうタイプだから」 龍驤「まあそれは偉いと思うわ。選り好みせんところはな」 那珂「で、でも最近忙しすぎて自分で首絞めてる気がしてきて……」 龍驤「頑張れやそこは。自分が決めた道やろ」 那珂「ちょっと呉にダメ元で交渉してくる」 龍驤「ほんまにダメ元やろうけど」 ☆お願い☆ 那珂「呉~、前スレの500以降出番がない呉~」 呉「あんたねえ……私はいないところでも真面目に仕事してるのよ」 那珂「あのねー」 呉「却下」 龍驤「まあこうなることは目に見えてたしな」 那珂「聞いてよーー!!」 ☆横領☆ 呉「変な呼び出し方しといて頼み事は訓練を減らせ、か……。なるほど」 那珂「那珂ちゃんも頑張ってると思うんだー? いいでしょー?」 呉「確かに実を言うとうちの収入源の40%があんたの給料から引いたものなのよね」 那珂「那珂ちゃんそれ初めて知ったけど 那珂ちゃんもしかして給料奪われすぎじゃない!?」 龍驤「まあ別に困ってへんやろ? 忙しくて使う暇もないやん」 呉「ひーどーいー!! 横暴だよー! いじめだよー!」 ☆物欲☆ 呉「何、じゃあ何か欲しいものなんでも言いなさいよ。買ってあげるから」 那珂「えっとねー、うーん……」 呉「ないんでしょう? じゃあ別にいいじゃない」 龍驤「うち可愛い洋服一杯欲しいー」 呉「あんたはダメに決まってんでしょう。 自分の給料から買いなさい」 龍驤「けちー」 ☆同士よ☆ 天龍「……」 愛宕「どうしたの? なんか疲れてる?」 天龍「最近な……。俺を監視しようとしている奴らが増えた気がするんだ」 雷「……ん?」 山城「……ん?」 ☆奇妙な友情☆ 雷(私のマーキングスポットと同じ場所に……?) 山城(私の特殊観測地点と同じ場所を選んでいるですって……?) 雷・山城(この人、できる……ッ!) 二人は無言のまま各々の観測もしくはマーキングを再開した。 ☆水分補給☆ 提督「電っ、ほら少し水飲んで」 電「あ、ありがとうなのですっ」 提督「最近は日中は暑くなってきたからな。しっかり水分補給もしないとだめだぞ」 電「ぷあっ……。なのですっ! じゃあもうひと頑張りしてきますっ」 提督「おーう。……」 提督「……」 加賀「電が飲んだペットボトル見つめて……何するつもりなんですか?」 ☆祝6半年継続☆ 提督「本日は~~、我々の記念すべき日として…… またしても大宴会を開こうと思われマッスル~」 摩耶「ことあるごとに開いてるが……大丈夫なのか?」 提督「何、心配するな。今日はもう仕事も終わっているので 何も怒られることはないのであるっっ!」 加賀「そうね、珍しく頑張ってくれたから今日は私も何も言わないわ」 ☆続々参戦☆ 金剛「久しぶりにテートクに会えるデーース!」 金剛「早く行きたいデース!」 呉「慌てなくても奴なら売り切れたりしないから大丈夫よ」 那珂「でも呉は売れ残る痛っっらないですっ!」 呉「もう一度言ってみろ」 ☆嫉妬☆ 佐世保「ど、どうして行ったらいけないんですか?」 雷「だめよ! あいつには近づけさせないんだからっっ」 佐世保「あいつ? 天龍さんのことですか?」 雷「そ、そうよ! あいつの近くに行ったら……と、とにかくだめなんだからっ!」 佐世保「そう言われましても先輩から直々に招待されてますので行かないわけには」 ☆ちょろい☆ 佐世保「電さんやヴェールヌイさんも来ると思いますよ?」 雷「うぅ……で、でもぉ」 佐世保「向こうで美味しいデザートを一緒に食べましょう?」 雷「うん、食べるっ!」 熊野(……ちょろい娘) ☆現状建築不可の駆逐って誰がいんの?☆ 舞鶴「今日は後輩くんのところでパーティだよ!」 隼鷹「まじ!? ご飯食べ放題!?」 響「漆黒の舞踏会……」 初雪「……たぶんそういうんじゃないと思う」 ☆暁ちゃん?知らない娘ね☆ 鈴谷「ところで今日は何パーティなの?」 提督「何パンティー? 今日の俺のパンツは紺色の 摩耶「わざとやってないか?」 提督「ちなみに摩耶は何パンティーなんだ」 鈴谷「今日は確か水色じゃなかった?」 摩耶「違うし!! 全っっ然違うし!」 提督(……水色なんだ) ☆IDがDQNかと思ったら違った☆ 金剛「テートクーー! さっそく来たネ! 今日はティーパーティーデス!?」 提督「違うぞ。今日は……ふふふ、白い粉を使ったパーリィだ」 金剛「Oh! そ、それはとてもクレイジーな大変危険なパーリィデース!」 提督「おやおや? この白い粉がそんなに……。ふふふ、怖いか~~?」 天龍「やめろし。ってかお前それ小麦粉だし」 ☆呉式教育術☆ 提督「えー、今夜はこの鉄板を使った 鉄板焼き小麦粉フェスティバルをする。よろしくな鉄板」 龍驤「おう、任せとき! って殺されたいんかいボケェ!!」 龍驤「うわーん呉~! デリカシー無いアホがうちのこといじめてくるー!」 呉「やられたら殺り返すというのはよく言った言葉だけども、 私が殺られた訳ではないし、自分で殺り返しなさい」 龍驤「そんなぁ!」 呉「あんたにはそれだけの他人に負けない戦い方と力を私は教えてきたつもりよ」 ☆粉物☆ 舞鶴「要は粉物を作って食べようってことね」 金剛「だったら私はテートクのために愛情たっぷりの お好み焼き作るネ! まずはこのLOVEを表現するための ピンクの着色料を……」 摩耶「グロッ! 気持ちわるっ」 鈴谷「任せて! カレーを混ぜれば万事解決だよ!」 熊野「まさかカレー味で誤魔化すつもりですの!?」 ☆直☆ 赤城「お主等、我に早く粉料理を振る舞うのじゃ!」 初雪「……は、はいっ!」 赤城「早くせんと呪うぞ! 呪うぞぉぉお!?」 響「ひぃぃ!」 加賀「何してんですか。あなたは。あなたにはこれです」ドンッ 赤城「何ですかその袋……まさかダイレクトでいけと!?」 加賀「あなたの分です」 ☆慈悲はない☆ 那珂「ねえさっきからあそこの幽霊、クマの●ーさんみたいに 小麦粉に手つっこんでもしゃもしゃ食べてるけど大丈夫なの?」 加賀「ええ、大丈夫ですよ。あの中には若干の清めの塩も混ぜときましたので 食べ進めて上手く行けばそのまんま成仏するはずです」 熊野「意外と酷いことするのですわね」 龍驤「熊野とプーさん」 熊野「わたくしをネタにするのはやめてくださいっ」 ☆許可制☆ 隼鷹「ひーっく! お酒足りないよーー!」 愛宕「こっちは平和にホットケーキでも作りましょうか」 電「わーい!」 初雪「食べたい」 雷「私も食べたい! ねえ佐世保、いいでしょう?」 佐世保「ええ、食べてきて下さい」 摩耶(あいつの所って食事制限でもあんのか?) ☆最新の扶桑事情☆ 山城「どこ見てるのよ。まさか私特性の高機動型武装乳母車、 通称”朧車”で私の帰りを待ってる姉様を見つめていたというのね!?」 天龍「どこから突っ込んでいいか分からんが、 とりあえず扶桑をあそこに置いてけぼりにしてるのは可哀想じゃ」 山城「何よ! あなたに姉様の心配をされなくても私はずっと姉様の心配をしてるんだから!」 天龍「じゃあ早く戻ってやれよ」 山城「あなたが姉様をも見ないで余所見してるから気になったのよ! 馬鹿ぁ!」 天龍「お前なんなんだよ!」 ☆迫り来る謎の刺客達☆ 天龍「っていうか退いてくれよ。俺は今から佐世保に話が」 山城「行かせないわよ!? 姉様を差し置いて男の所に行くですって!?」 山城「そんなことさせるもんですか!」 雷「そうよ! 私は今日、恋のライバルとしてあなたを見張るつもりでいるんだけど あなたのせいでホットケーキが響と電に食べられちゃうじゃない! どうしてくれるのよ!」 天龍「………………」 天龍「……はぁ。ホットケーキは一緒に取りに行ってやるから勘弁してくれ。 山城は早く扶桑のところに戻らないと手に持ってるお好み焼き冷めるぞ?」 鈴谷「あそこでキレずに飲み込むとは……天龍姉さすがっすわ」 ☆激突一航戦☆ 提督「赤城が大変なことになってんぞ!」 赤城「ぶるぁぁあああ! うぼああああ!」 加賀「効果は抜群のようですね。さあ、我が愛すべき相棒よ、覚悟ッッ!」 加賀「彗星っ、その清めの塩を大量に含んだ爆弾で赤城さんを爆撃しなさいっ!」 赤城「血も涙もねえええええ! ぎゃあああああっっ! ……なんてねっ♪」フッ 加賀「消えたっ!? チッ、逃げられた……」 ※加賀さんは親友として早く成仏して欲しいのであって 決して自分の分のボーキサイトが減るからではない。 ☆混沌の粉☆ 扶桑「……いつまでも持ってきてくれないから食べさせて貰えないのかと」 舞鶴「何よ呉、あっ! もしかしてホットケーキ食べたかったの?」 島風「ちくわ大明神」 龍驤「ちょ、お前このピンクのお好み焼きはよ食えや!」 鈴谷「げっ、このドロドロの奴何!? え? これ赤城姉……え?」 金剛「Noooo! もんじゃ焼き!? 最悪デーース! 無理デーース! 完全にただのry」 摩耶「だからあいつは誰なんだよ!」 ☆母の日A☆ 電「加賀お姉ちゃん。これ……」 加賀「カーネーション……。私はお母さんでは……」 鈴谷「何言ってんの。うちらにとっては第二の母と言ってもいいくらいだよね」 摩耶「あぁ、そうだな」 加賀「ありがとうございます」 ☆ママ☆ 那珂「じゃーん! 那珂ちゃん達もカーネーション買ったんだよ~」 呉「私に!?」 龍驤「うちらのおかんは呉しかおらんもんな」 金剛「Yes! ママ~~!」 那珂「ママ~~!」 龍驤「ママ~~!」 呉「気色悪っっ!! やめろ!」 ☆誰が☆ 初雪「……私達も買ったの」 響「そう、いつもありがとう」 初雪「ホットケーキ食べてる所悪いんだけど受け取ってよ」 舞鶴「おー、ありがとう~」 提督(あれはどっちがお母さんなんだか分からんな) ☆ママ野☆ 雷「……」 熊野「わたくし達にはそういった方はいらっしゃいませんね」 雷「残念。ねえ熊野さん」 熊野「わたくしは絶対に嫌ですわよ。お母さん役なんて」 ☆真面目なラブコメ要因達☆ 佐世保「雷……どこへ行ったんでしょうか」 天龍「なあ、ちょっといいか」 佐世保「っ! 天龍……さん」 天龍「天龍さん……か。まあいいや。その……何だ。 飯、美味かったか?」 佐世保「ええ、とても美味しかったですよ」 天龍「……そっか。なら良かった」 ☆阻止したい者と見守る者☆ 雷「はーなーしーてー! 佐世保が! 佐世保が危ないの!」 愛宕「んふふ~、だーめ。絶対行かせないからっ♪」 山城「わ、私は姉様の所に行きたいだけで!」 加賀「そこを少しでも動いたら……分かってますね?」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4336.html
前ページ次ページゼロな提督 シティオブサウスゴータを出立した一行は、夕暮れにはロンディニウムへ到着した。 遠目に見るロンディニウムは大国アルビオンの首都に相応しく、トリスタニアより広く て立派な街だ。大都市のわりに木々が多く、石畳もキチンと整備されている様に見える。 荷馬車から南を見ると、くすんだオレンジ色の屋根が並ぶ街の彼方、丘の上には立派な城 ――ハヴィランド宮殿――が見える。 第十七話 昔と今と 一行は荷馬車のまま街に入った。町並みに内戦の傷痕は見えない。どうやら最優先で復 興事業を行ったのだろう。石畳も町並みも綺麗なものだ。 アスファルトで整地されたわけでもない道を駆けてきた荷馬車に、ヤンはもう限界だっ た。全身の痛みでヒーヒー悲鳴を上げるヤンを引きずる一行は、即座に宿を取り荷物を放 り込んだ。だが今回は、ロングビルがマチルダとばれるとまずいので、貴族が出入りする 宿に泊まれない。なので平民向けな中の下程度の、レンスター・インという宿に入った。 それでも一番良い部屋で、ベッドが二つ並んだ部屋を。 自分の部屋で、床にだらしなく大の字で伸びたヤンの頭を、厩に馬と荷馬車を預けてド スドスと入ってきたルイズがギュムッ踏んづける。 「ちょっとあんた!ボサッとしてる暇はないからね。急いで身支度整えて、宮殿へ行くわ よ」 というわけで、小声で「おにぃーあくまぁー待遇改善を要求するぞぉ~…」という執事 のささやかな抗議の呟きは当然のようにスルーされた。 ルイズは大荷物の中から綺麗なまま取って置いた学院の制服を取り出し、マントもホコ リや汚れを落とし、クシで髪をすく。香水を混ぜてもらったらしい、心地よい芳香を漂わ すお湯を持ってこさせて湯浴みもする。 しょーがないのでヤンもヒゲを剃ったりと小綺麗に身支度を調える。 準備を終えたルイズは、ヤン達を連れて宿の前に立った。さすがに荷馬車に乗って王宮 に乗り付けられないので、宿の者に呼んでもらった馬車が待機している。 お供をするヤンを見るルイズの目は、冷たかった。 「あんた、ホントに冴えないわねぇ…ちゃんと支度したの?」 「も、もちろんだよ。失礼だなぁ」 確かにヤンは服も綺麗にしてるし、ヒゲだって剃った。髪も整えてる。 だが、横で見ているロングビルにも、ヤンの身なりが整っているかどうかと関係なく、 冴えないなぁ…と感じていた。さすがに遠慮して口にはしなかったが。 「やっぱ、おめーさんの人徳っつーか、魂の格ってヤツが滲み出てるんじゃねーか?」 デルフリンガーは遠慮しなかった。 「それじゃ、行ってくるわ。ロングビル、お留守番よろしくねー」 「はーい、頑張りなさいよー」 ロングビルは正体がばれるとまずいので、王宮には行けない。日の光があるうちは自由 に外にも出れない。遍歴の修道女っぽくローブで頭からすっぽり全身を隠してはいるが、 油断するわけにはいかない。なので、宿で待ってる事になった。 手を振るロングビルに見送られ、馬車は宮殿へ出発した。 道中、いつぞやのごとく、ヤンは暗くなり始めた街を興味深げに眺めていた。だがトリ スタニアの時と違うのは、何かを探すようにキョロキョロしていたことだろう。 座席に立てかけられたデルフリンガーは「?」な感じだ。ルイズも怪訝な顔をする。 「ねぇ、ヤン。一体何を探してるの?」 「ん?ああ、えーとねぇ…」 窓の外を見つめたまま、なんとなく上の空で答える。 「べーカー街とかさ、ビッグ・ベンとか、大英博物館とか…あるわけないよね。そりゃそ うだよね…うーん、残念」 「だから、なんなんだよそりゃ?」 もちろんデルフリンガーには何のことだか分からない。ルイズも「?」と首を傾げる。 ちなみに、大英博物館は西暦1759開館、ビッグベンは西暦1858年に完成。べー カー街は英国に実在するが、ホームズとワトソンが下宿したべーカー街221B、ハドス ン夫人所有アパートに至ってはシリーズ最初の『緋色の研究』が発表された1887年当 時は架空の住所。1930年にアッパー・ベーカー街がベーカー街と合併して221Bが 本当に生まれた。 いずれにせよ、この場所はロンドンではなくロンディニウム。時代は地球へ当てはめる と17~18世紀中頃辺り。どちらにしても、あるわけない。 目の前に広がる町並みは、木材をほとんど使わない石造りの町並み。トリスタニアより も道幅は広い。比較的新しい雰囲気を持っていて、古都と呼べる都市ではない。何より路 地が入り組んだトリスタニアやシティオブサウスゴータと違い、区画がかなり整然と整備 されている。おかげでルイズ達は荷馬車で街中に入っても、白い目で睨まれたりする事は なかったわけだ。 「全然木造家屋が無いんだねぇ。建物もトリスタニアに比べると新しいのが多いや」 そんなヤンの言葉に、ルイズは自慢げにうんちくを疲労する。 「それはね、百年ほど前にロンディニウムは大火に襲われてね。オーク材の建物が多かっ た街は全焼しちゃったの。以来、建物に木材の使用が禁じられたのよ。道路も広くされた わ」 へぇ~、とヤンは感心してしまう。デルフリンガーも鍔をカチカチ鳴らす。 「ほっほー。ルイズよぉ、意外と博学じゃねーか」 「エヘヘ、実は昔家族で旅行に来た時、同じ事を姉さまに質問したの」 そんな事を話してるうちに、馬車はロンディニウム宮殿に到着した。 城門で、ルイズが門番の騎士達に公爵からの手紙を見せると、すぐに城の中へ確認を取 りに兵士が走る。ほどなく戻ってきた兵士の報告を受けた騎士が「失礼致しました!ホー ルにて大使一行がお待ちです!」と敬礼し、馬車を城の正面ゲートへと誘導した。 馬車から降りた二人が侍女に案内されて来たのは、城の奥の大ホール。そこでは舞踏会 が開かれていた。 大勢の楽団が優雅な音楽を奏でる。気品ある女官達が貴族へワインや食事を配る。美髯 をたくわえた威厳ある紳士が、美しいドレスや輝く装飾品に身を飾った淑女をダンスに誘 う。手を取り合う男女が甘い語らいと共にゆったりと舞う。壁際や立派な彫像の横では、 高級官吏や大臣らしき人々が笑顔と共に言葉を交わし合う。その中にはトリステインの軍 服を着た者達もいる。大使として不可侵条約調印のために派遣されたトリステイン軍人だ ろう。 そんな王侯貴族の燦然たる権威を満たしたホールに、学院の制服の上にマントを纏った ルイズと、素っ気ない黒服に白手袋のヤンも案内されてきた。デルフリンガーは警備上持 ち込み禁止。入り口の衛士に預けられた。 舞踏会会場に案内されたルイズだが、赤く染めた顔を恥ずかしげに俯かせてしまう。 「ううう…こんな舞踏会にドレスも着ず列席するなんて…ヴァリエールの名に傷が付きそ うだわ」 「でも学校の制服って便利だねぇ。とりあえずフォーマルもこなせるから」 「とりあえず、じゃ困るのよ!」 ヤンのフォローは、彼の正直な感想だったのだが、ルイズにはあんまり慰めになってい なかった。 「まぁまぁ、服装の事は気にしないで。ところで、目的の人物はいるかい?」 ヤンに促され、ちょっとだけ顔を上げたルイズは会場を見渡す。 「…見たところ、いないわね」 「本当かい!?皇太子の顔を忘れてるとか、見間違えてるとかは?」 「それはないわ。あれほど美しい金髪の、凛々しい皇太子だもの。以前アルビオン旅行に 来た時、城で会ったのだけど、あれは忘れようがないわ」 そう言ってルイズは顔をちゃんと上げ、もう一度会場を見渡す。だが、金髪の凛々しい 若者というのはどこにもいなかった。 代わりに見つけたのは、長い口ひげが凛々しい黒マントの貴族。 「ワルド様?」 ルイズの声に、グリフォンをかたどった刺繍が施されたマントを纏う若い貴族は振り向 いた。 「…ルイズ?ルイズじゃないか!」 ワルドはちょっと驚いた顔でルイズ達の所へ駆け寄ってきた。 「遅かったじゃないか、一体どうしたんだい?僕らは今夜でアルビオンは最後だったんだ よ」 ルイズは、まずはスカートの端をちょっと持ち上げ礼をする。ヤンも後ろに控えて頭を 下げる。 「もうしわけありません。実は、スカボローからサウスゴータまでを旅して見聞を広めて いたのです。ワルド様は大使一行の警護ですか?」 「うん、大使として派遣されたド・ポワチエ将軍の警護をグリフォン隊が仰せつかったの だよ。まぁ、間に合って良かった。とにかく二人とも、こちらへ来てくれたまえ。大使を 紹介しよう」 そう言ってワルドは、ワイン片手に貴族と部下らしき騎士に囲まれて談笑している美髯 をたたえた四十過ぎの貴族、ド・ポワチエ将軍の前へルイズ達を連れてきた。 ルイズ達に気付いた将軍へ、ルイズとヤンは同じく礼をする。 「初めまして、将軍。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 お目にかかれて光栄ですわ」 威厳ある、というより傲慢そうな空気を漂わす将軍も、肩の金ピカなモールを光らせな がら名乗った。 「これはこれは、このような異国の地でヴァリエール公爵のご息女にお会い出来るとは、 これも始祖のお導きですな。 私はド・ポワチエ。今回は陛下より大使の任を拝命しておりましてな…」 あとは貴族らしい、もったいぶった社交辞令と当たり障りのない話題が交換された。ヤ ンは派閥作りとか権力闘争とかが好きではなかったので、こういう社交場での作法にはう とい。 ヤンが退屈してアクビが出そうになった頃、ようやくルイズの口から本題が出た。 「ところで…この会場には皇帝陛下がおられないようですが」 オリヴァー・クロムウェルを指して皇帝陛下、と呼んだルイズに対し、将軍は不機嫌そ うに鼻を鳴らした。 「かの逆賊、オホン、もとい神聖皇帝殿は、執務が忙しいとやらで、この晩餐には出席し ておらんのですよ」 わざとらしく言い間違えた将軍に、ルイズもヤンも苦笑いしてしまう。 「それは残念ですわ。是非ウェールズ皇太子と共にお目通りしたかったのですが…」 ウェールズ皇太子。 その名を聞いたとたん、将軍の目が見開かれた。そして横のワルドも。 「ウェールズ皇太子、と共に…とは、どういうことですかな?まさか、かの凛々しきプリ ンスが生きておられると!?」 今度は聞き返されたルイズが目を見開いた。慌てて振り返りヤンを見るが、グータラ執 事も半開きの目を大きく見開いている。 ロンディニウムの道中、そこかしこで聞いた『ウェールズ皇太子生存』の情報。まさか トリステインに伝わっていないとは、二人には予想外の事だった。 ヤンがルイズにヒソヒソと耳打ちし、ルイズがコクコクと頷く。 ヤン、まさか…皇太子が生きてるのを知らないのかしら? らしいねぇ。これは意外だね、まさか公の場に姿を現してないなんて 教えてあげた方がいいわよね? うん。思いっきり胸を張って教えてあげると良いよ こほんっ、と小さな咳払いをしてルイズが改めて将軍に答えた。 「はい、生きておられるはずです。 この街へ訪れる道中、ニューカッスルでの戦闘に参加した兵士達から皇帝陛下と共に歩 く皇太子の姿を見た、という話を多数聞きました。また、皇太子を生け捕りにした部隊の 兵士からも証言を得ています。 ですので、この城に来れば、調印式や記念パーティにて皇太子に会えるものと期待して いたのです。 お会いになりませんでしたか?」 将軍は何度も目をパチパチと開け閉めし、次いで話を聞いていた部下の騎士達に目配せ する。将軍に振り返られた部下達も、困ったように首を横に振った。 ヤンとルイズも顔を見合わせて、どういうことだろうと首を捻る。 「少々、興味をひかれますな。詳しい話を聞かせて頂けますかな?」 ルイズは将軍に、スカボローとサウスゴータで集めた証言を語った。もちろんマチルダ ことロングビルに関する話は除いてある。 聞き終えた将軍は、後ろの騎士達も含めて、顎に手を当てて考え込み始めた。 「ふぅ~む、本当だとすれば興味深い話ですな…こちらでも少し調べておきましょう」 話し終えたルイズは、トリステインの将軍すら知らない情報を得ていたという事で、鼻 高々。同時に、王家の秘宝に関する情報が得られないと分かり、残念そうでもある。相反 する感情が入り交じる、かなり複雑な表情だ。 後ろのヤンは、落ち着かない様子で頭をボリボリかいている。 すすすっとルイズの横に立ったワルドが耳打ちした。 「大手柄だね」 ルイズは可愛くウィンクを返した。 そうこうしていると、騎士の一人が将軍に耳打ちした。将軍は「おお、もうそんな時間 か」と小声で呟く。 「申し訳ない、ミス・ヴァリエール。人を待たせてあるので、この場は失礼しなければな らんのです」 ルイズは、チョコンと愛らしく礼をした。 「こちらこそ、時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。もしウェールズ皇太子に 会われましたら、よしなにお伝え下さい」 将軍も有益かもしれない情報を得て、満足げに頷いた。 「承知しました。ところで、今宵はどちらにお泊まりですかな?もしよければ、このまま ハヴィランド宮殿に留まりませんか」 この宮殿に留まる、そう勧められたルイズは慌てて首を横に振った。そんな事をしたら ロングビルを敵地に一人で取り残してしまうことになる。 正直、ヤンとロングビルが仲良くする姿は、ルイズには気に入らないとしか思えなかっ た。それが嫉妬だなんて、彼女は絶対に認めないが。とはいえ、学院長の秘書を危険に遭 わせようと思う程でもない。 「いえいえ、それには及びませんわ。こちらで宿をとっていますので。そちらに旅の共も 待っていますから」 「そうか、それは残念だね」 ちょっと興を削がれた将軍の横から、今度はワルドが尋ねた。 「ところで、今後の旅の予定は?よければ、我らと共にトリスタニアへ戻らないか?」 「今後の予定…ですか?え~っと」 ルイズは再びヤンとボソボソと言葉をかわす。 どうしようかしら、ヤン。 どうやら、このままロンディニウムに留まっても、皇太子には会えそうにないな そのようね。かといって、ここで諦めるわけにはいかないわ そうだろうね。でも秘宝の情報なら枢機卿や王女の方が早くて簡単だと思うよ それもそうか…それに、あまりここにいるとロングビルが危ないわ うん。必要な情報は得たと思うし、一度アルビオンを出よう そうね。それじゃ将軍と一緒にトリスタニアへ戻って、王家の秘宝を 待った。その前にタルブへ行ってシエスタを んじゃ、ラ・ロシェールへ送ってもらいましょうか だね ヒソヒソ話を誤魔化すように、コホンッと小さく咳払いして向き直るルイズ。 「あの、実はタルブへ行く予定なのです。ですので、ラ・ロシェールまで送って頂けると 助かりますわ」 「ほほう!タルブですか、あそこはワインの名産地ですからな。ラ・ロシェールの手前で もありますな。 では、タルブへ送りましょう。緊急伝令用の竜騎士を数騎連れているので、一騎をお貸 しするとしましょう」 「よろしいのですか?」 気前の良い将軍の申し出に、ルイズもちょっと驚いてしまう。 「なに、構いませんよ。どうせ明日には我らもこの地を離れるので、もはや急ぎの伝令も 必要性は少ないでしょう。一騎くらい構いませんぞ。 明日の朝、宿に迎えをよこしましょう。どちらにお泊まりですかな?」 「レンスター・インですわ。ベイズウォーター街です。ただ、平民向けの安宿ですので、 迎えの方にその旨お伝え願いますわ」 「平民向けの、宿…ですか!?」 意外な言葉に将軍が仰天してしまう。トリステイン屈指の大貴族であるヴァリエール家 の息女が平民向けの宿に泊まれば、それは驚きだろう。 「私は決して物見遊山の為だけに、この地へ来たわけではありませんわ。市井の噂話は、 やはり市井に留まらねば手に入りませんの」 自分の実力で手に入れた情報でもないのに、ルイズは誇らしげに語る。そんなルイズに 将軍は感心しきりだ。 「これはこれは、なんとも勇ましく機知に富むことですな。さすが、ヴァリエール家のご 息女だけはあります」 ルイズは将軍と、ワルドにも「トリスタニアで再会致しましょう」と別れた。ヤンも一 礼してルイズの後に従う。そして将軍は「公爵へよしなにお伝え下さい」というのを忘れ なかった。 城を出てからも、ルイズの鼻がちょっと高くなったように見えていたのは、恐らく内面 でふくらんだ矜恃が滲み出たためだろう。 そして、鼻高々な様子で馬車に乗り込むルイズ達を、ワルドは鷹のように鋭い目で城の テラスから見下ろしていた。 宿に戻ったルイズ達は、干し肉・ワイン・リンゴにスコーンをテーブルに乗せたロング ビルに出迎えられた。 「お帰りなさい。どーだったの?首尾は」 淑女の嗜みとして、舞踏会ではほとんど食事を取れなかったルイズは、スコーンとワイ ンを頬張りながら自慢げに語り出した。 「…なるほどね。でも、どうしてウェールズが会場に全く姿を現さなかったのかしら?」 窓を少し開け、双月が輝く星空を見上げながらワインを飲むロングビルは、当然の疑問 を口にした。 干し肉をかじるルイズも、うーむ~と呻る。 「そこなのよねぇ、分かんないのは。王党派の残存勢力をレコン・キスタに吸収するため にも、速やかにレコン・キスタの支配を国中に行き渡らせるためにも、レコン・キスタが 旧支配者である王家から認められた存在と示すためにも、皇太子の存在を国中に知らしめ なきゃいけないはずなの。 なのに、皇帝と一緒に歩いてるのを見たとかばっか。まるで幽霊みたいな扱いって、一 体どういう事なのかしら?」 壁に立てかけられたデルフリンガーも頭を捻る。どこが頭なのか、誰にも分からなかっ たが。 「う~ん、隠すんなら牢屋にでも閉じこめりゃいいし、隠さないなら堂々とすりゃいいの にな…やっぱ剣のおれにはわかんねぇな。ヤンよ、どう思う?」 尋ねられたヤンは、以前デルフリンガーと一緒に武器屋で買ったナイフでリンゴをむき ながら、のんびりと考えを示した。 「考えられるのは、いくつかあるよ」 ルイズもロングビルも、グッと前のめりになる。 「ウェールズ皇太子の状況は、つまり公の場に出れる状態じゃない…という事じゃないか な。つまり、レコン・キスタに本心から恭順していない、とかいうこと」 ルイズがポンッと手を打つ。 「あ、なるほどね!つまり、皇太子は脅されて無理矢理引きずり回されてるんだ!」 「うん、それもあるんだけど…」 むき終えたリンゴを切り分けて、ルイズとロングビルに配りながら、話を続ける。 「そこまでするかどうか分からないけど、洗脳。例えば、『誓約(ギアス)』という禁じら れた魔法があるらしい」 『誓約』という言葉に眉をひそめつつも、ロングビルが頷く。 「確かに、大昔に使用が禁じられた魔法ね。でも、もし『誓約』がかけられたら、眼を見 れば分かるらしいわ。魔法の光が宿るらしいから」 ルイズは頷きつつも、推理を続ける。 「ということは、『誓約』をかけたのがバレたら困るから、大勢の前には出せない…とか かしら?」 ヤンもリンゴを頬張りながら頷く。 「そういう類の話だと思う。他にも魔法じゃなく、薬物を使用したとか、いっそソックリ さんの偽物だとか、変装魔法『フェイス・チェンジ』を使ったとか、かな。 薬物を使われると厄介だなぁ。魔法じゃ探知出来ないし、ハルケギニアの医術や薬学で は洗脳を立証する事が出来ないよ」 「それだけなら、まだいいんだけどねぇ…」 ロングビルは、ワインでリンゴを流し込んでから言葉を続ける。 「実は、この食べ物を買いに行った時、街で妙な噂を聞いたのさ」 「噂?」 最後のスコーンを口に放り込んだルイズも、ナイフを布で拭くヤンも、双月の光で長い 緑の髪を煌めかせる女性へ注目する。 「クロムウェルの系統は、『虚無』」 瞬間、ルイズの目が見開かれた。 ヤンも信じられないという表情でロングビルを凝視する。 「ほ、本当かい!?」 聞かれた彼女は肩をすくめる。 「さぁね、なにせただの噂だよ。 しかも突拍子もない物さ…あの皇帝は死者を蘇らせる、とか言うんだよ?その力を持っ てレコン・キスタの貴族議会で総司令官に、そして皇帝に選ばれた、とね」 ルイズは驚愕の表情から、だんだん胡散臭げな表情に塗り替えられていく。 ヤンは腕組みして考え込む。 「死者の蘇生…そんな魔法あるのかい?」 ルイズが拍子抜けしたように、呆れたように答える。 「あるわけ無いでしょ。いくら伝説の『虚無』でも、突拍子が無さ過ぎよ」 「あたしもそう思うんだけどねぇ。で、デルフリンガーはどう?そういう魔法に覚えはあ るかい?」 と、問われたデルフリンガーの答えは、いつもと同じ。 「覚えてねぇなぁ」 予想通りの回答に、一同溜め息をついてしまう。 頭をボリボリ掻きながら、ヤンは推理を続けた。 「確かに『虚無』の線は薄いかもしれないけど、全くあり得ないワケでもないよ。君の妹 さんの例もあるし」 ティファニアの事を挙げられ、ロングビルも考え込む。 「今のところ、僕らは『虚無』について全くの無知だからね。最悪、ウェールズ皇太子す らも死体を魔力で動かした操り人形…という事も考えないと。 ただ、それだと僕はお手上げだなぁ。魔法は全くの専門外だよ」 「さすがに、そこまではないだろうけどね…」 ルイズもロングビルも、それぞれに推理を進める。デルフリンガーは、合いの手を入れ たりしながら聞き役に徹していた。 そんな彼等の姿を、特に窓の隙間から覗くロングビルを見つめる黒装束の姿がある。そ の人物は通りを挟んだ民家の屋根の上で、身を伏せたままルイズ一行の部屋の様子をうか がっていた。 しばらくして、黒装束は音もなく飛び去った――ハヴィランド城へ向けて。 ハヴィランド城、天守。 そこは城の主、オリヴァー・クロムウェルが執務室として使用していた。 「報告、以上であります」 「うん!ご苦労だったね!いやぁ、お疲れ様、下がって良いよ!」 黒装束の人物は、部屋の主に対し報告を終えて退室した。 報告を受けたのは30代半ばの男。高い鷲鼻に理知的な碧眼、カールした金髪を持ち、 豪奢な衣服とマントを纏っている。現在は神聖皇帝クロムウェルと呼ばれている。 そして皇帝の背後には、ローブをすっぽりと被った痩身の女性が立っている。 「聞いたかね?ワルド君!いやぁ、驚いたよ。まさか、マチルダ・オブ・サウスゴータを 発見するとはねぇ!念のため調査してみて大正解だ!!」 そしてデスクを挟んだ皇帝の眼前には、ワルドが立っていた。 鷹のように鋭い眼光が虚空を見上げる。 「サウスゴータ…たしか、4年前のエルフ事件で、モード大公投獄の際に新教徒狩りが行 われたという…」 「そう!そこの太守の娘だよ。ま、実際はもう少し複雑な事情があったんだがねぇ。昔の 話さ! 彼女は確か、土のトライアングルだったはずだよ。我らレコン・キスタの側に引き込め れば、非常に心強い味方になってくれるに違いない!さっそく接触を取るとするかな、う ん!」 「土のトライアングル!?」 マチルダが土のトライアングル。 この言葉を聞いた瞬間、ワルドの眼光が鋭さを増した。しばし顔を伏せ思索にふける。 しかる後、口の端が釣り上がり、唇の隙間から押し殺した笑い声が漏れだした。 皇帝が不審そうに目の前のトリステイン貴族を覗き込む。 「どうか、したのかね?」 尋ねられたワルドは、まるで長年の難問が解けたかのように晴れ晴れした顔で答えた。 「マチルダ・オブ・サウスゴータ。現在はトリステイン魔法学院学院長の秘書…そして、 恐らくは『土くれのフーケ』ですな」 その言葉に神聖皇帝も、背後の秘書も驚きの声が漏れる。 「間違い、ないのかね!?」 重ねて問う皇帝に、ワルドは自信を持って推理を示した。 トリステインで最近、王宮前で『ダイヤの斧』、魔法学院で『破壊の壷』と、立て続け に二件のフーケによる犯行が行われた事。だが即座に両方とも、森の中の廃屋で無事に発 見された事。トリステイン王宮でも事件の真相を調べたものの、何故無事に取り戻せたか 分からなかった事。 以上の事実をワルドは語った。 「私も捜査記録の詳細を見ましたが、その時は謎を解けませんでした。ですが…ロングビ ルがマチルダでありフーケなら、全ての説明が付きますな。 彼女は、恐らくは私の婚約者ルイズの使い魔であるヤン・ウェンリーの、情婦なのです よ。現に、今も危険を冒してまでヤンと共にロンディニウムに来ています。惚れた男に盗 んだ物を返したのです。 物証はありませんが、まちがいありますまい」 ワルドの推理を聞かされた皇帝は、少し呆気に取られていた。 そしてすぐに、「ぉ、おお、おお!」と感激の言葉を漏らしながら椅子を蹴倒し、ワル ドへ駆け寄り、彼の肩を力強く叩いた。あまりのオーバーリアクションに、さすがのグリ フォン隊隊長も圧倒されてしまう。 「す、素晴らしい!本当に、これは大手柄だよ!まさか、フーケを逮捕出来るなんて!わ が神聖アルビオン共和国最初の偉業としてハルケギニア全土に知らしめる事が出来るじゃ ないかっ!」 「閣下のご威光、さらに燦然と輝きますな」 と、皇帝のフーケ逮捕案に同意したワルドが、ふと首を傾げた。 「ですが…少々お待ち頂けませんか?」 「ふむ?何を待つのかな?」 「ここは一つ、私に任せては頂けませんか?」 「ほほぅ、何か妙案でもあるのかね!?」 「ええ、実は、ですね。そのヤンという男の事なのですが」 「ああ、君が報告してくれた、我らの策を見事に看破してくれた平民使い魔の事かい?」 ヤンの名を改めて出したとたんに、皇帝の精神衛生レベルは最高から最低へ一気に落ち 込んだようだ。 ヤンは2週間前、『アンリエッタ王女の恋文』事件を解決に導いた。というより、うま く王女を誘導して『ルイズ達に手紙を回収させる』という暴挙を回避した。おかげでトリ ステインとゲルマニアの同盟は、手紙の政治的処理を通じ強固となり、逆にレコン・キス タは文書偽造の濡れ衣をかけられた。 それに、もしルイズがアルビオンに潜入していれば、流れ矢にでも見せかけて亡き者と し、ヴァリエール公爵に叛旗を翻させる事も出来たかもしれないのだ。 10日ほど前に枢機卿へ進言した『姫の婚儀に出席する大使を乗せた親善艦隊に警戒す べし』というのも、見事に皇帝の策を看破したものだった。皇帝はトリステイン戦艦から の親善艦隊への攻撃を自作自演にて偽装するつもりだったのだから。10日後に派遣する 親善艦隊対して、どの程度の警戒をしてくるかは不明ながら、他の策を講じる必要が生じ たのは確かだ。 皇帝は彼の知略には感心した。が、ただの平民に軽くあしらわれたかのような不快感、 現在の肥大化した皇帝の自我には耐え難い物だ。 「ええ。かのヤンという男、先月トリステインに使い魔として召喚されたばかりです。ゆ えに、王家への忠義とかトリステインへの恩義とは無縁です。実のところ、他に行くあて もないからルイズの下で執事役に甘んじている…というところでしょう。 いえ、むしろ、あれ程の知謀の持ち主が単なる執事役で満足しているとは思えません。 また、先日の王女の手紙の件…捨て駒にされかかった彼は、トリステイン王家への不快感 すら抱いているでしょう」 顎に手を当てながら聞いていた皇帝は、フンフンと満足げに頷き続ける。 ヤンが実は『帰郷を泣く泣く諦め、立身出世に興味はなく、学院でルイズの執事として ノンビリ暮らしたい』と考えてるのは、さすがにワルドにも思い至らぬ点だ。だが、それ 以外は大体正解に達していると言えるだろう。実際、ヤンは内心でアンリエッタを「ラフ レシア」と評したくらいだ。 「故に、彼はアルビオンにて、我らレコン・キスタに力を貸す事に抵抗は無いでしょう。 彼ほどの人材、参謀としてでも側近として加える事が出来れば、我らの悲願は更に容易に 実現できます。 いえ、むしろ彼を重用する事で『平民でも力と功あれば報いる』と天下に知らしめる事 も出来ます。かのゲルマニアの如く、平民達の支持も得やすくなり、更に国力を伸張でき ます」 室内をクルクル歩き回りながらワルドの話を聞いてた皇帝は、最後にポンッと手を打っ た。 「そして!うん!かの平民使い魔の主は、君の婚約者ルイズ…というわけだね!」 「左様。彼女と結婚すれば、ヤンも自然とついてくる事でしょう」 「そして、彼の情夫であるマチルダも、だね!?土のトライアングルであり、『土くれの フーケ』として名をはせた大盗賊も、我らの同士となってくれるわけだ!!」 「御意。父君の名誉回復とサウスゴータ太守の地位を示せば、かの大盗賊も納得すること でしょう」 ワルドは、薔薇色の未来像に思いをはせる皇帝へ、恭しく頭を垂れた。 ここで、これまで部屋の隅でずっと黙って話を聞いていた秘書が、うん!うんうん!と しきりにワルドの策へ肯定の意を示し続けている皇帝へ耳打ちした。 「…ん?なんだね、シェフィールド君…ふんふん、ああ!なるほどね、うん。それはいい! 相変わらず君は聡明だなぁ!」 急に秘書と内緒話を始めた皇帝に怪訝な視線を向けるワルドに、話を終えた皇帝が、輝 くほどに明るい笑顔を向けた。 「君の策に乗ろうじゃないか!ミス・ヴァリエールとの婚儀、見事成立させたまえ!もち ろん協力は惜しまない! かつて僧籍に身を置いていた者として、若い君たちの門出!今から始祖ブリミルの名の 下に祝福させてもらうよ!」 「はい。あの愛らしい姫君と、幸せな家庭を築く事を約束致します」 再び深く頭を垂れたワルドの顔は、純粋な言葉とは裏腹に、邪気をはらんだ笑みに歪ん でいた。 「そして、こちらでも別の策を講じるとしよう!ついては君に一つ頼みがあるのだが」 「はい。閣下の御為ならば、なんなりと」 皇帝とワルドの密会は、その後も深夜まで続いた。密会終了後、ワルドは誰にもその姿 を見られることなく、風のように自室へと戻った。 次の日の早朝。 ルイズ達はスカボローから乗ってきた馬と荷馬車を二束三文で売り飛ばし、ハヴィラン ド宮殿で将軍が貸してくれた風竜に乗り込んだ。 急速に眼下へ小さくなるロンディニウムの街並み。森林を飛び越え、一気に後方へ遠ざ かっていくアルビオン大陸。 ルイズは若く逞しい竜騎士のすぐ後ろで、雲の合間に見えてくるはずのハルケギニア大 陸を探している。その胸にはデルフリンガーが抱かれ、話し相手になっていた。ロングビ ルはヤンの左で、同じように遠ざかるアルビオン大陸を眺めていた。ウエストウッド村の 妹を想い、故郷に後ろ髪をひかれているのかもしれない。 どう考えても浮遊している理由が分からない大陸を眺めながら、ヤンは今までの事や自 分の立場について思い返す。 かつて自分は星の海を巨大な鉄の船で渡っていた。 意に反して軍人として功績を重ね、望まぬ出世を重ねていた。 出来すぎな程の養子と美しい妻、そして有能で楽しい部下に囲まれていた。 民主共和制を守るため、圧倒的不利な戦況で戦いを重ね、どうにか負けなかった。 苦難の末、皇帝ラインハルトとの和平交渉にまでこぎ着けた所で、暗殺された。 そう、そのはずだ だが、今はどうだ 自分は雲の間を風竜で渡っている。 意に反してルイズに使い魔として召喚され、執事として雇われている。 背後のルイズと左のロングビル、そして学院の平民達や貴族の子弟達に囲まれている。 トリステイン王国を守るため、アルビオンで情報収集をしている。 そしてこれからタルブでシエスタと合流しようとしている。 一体、どっちが正しい自分なのだろうか いや、本当に自分は、自由惑星同盟にいたのだろうか? もしや…全ては召喚された際にすり込まれた偽りの記憶ではないのか!? 生死の境を彷徨った時に見た、ただの妄想ではないのか? 妄想?偽りの記憶?・・・どっちが!? ヤンの背に冷たい汗が流れる。 慌てて上着の中の銃に手を触れた。自分と共に召喚された、ハルケギニアでは絶対にあ り得ない技術で作られた、引き金を引くだけでエルフすら難なく殺せるブラスターを。自 分の召喚前に関する過去が偽りのものでないと確かめるために。 上着の中に、確かにブラスターは存在した。ヤンの体温で暖められた、そして硬い感触 が指先に触れる。同時に左手のルーンが光だすのが分かる。士官学校以来、気にした事も ないはずのブラスターの構造と使用法が頭の中に流れ込み、身体が羽のように軽くなるの が分かる。 どちらも、本当の記憶だ。 ヤンは頭を振り、脳裏に浮かんだ不安を追い払う。だが、自分自身に対する疑念は、ま るで影のように付きまとう。 ふと彼の左肩に、何かが触れた。 左を見ると、左肩に長い緑の髪がかかっている。 ロングビルがヤンの肩に頭を乗せていた。 左腕で細い肩を抱き寄せる。 フレデリカを愛してる。 でも、今はマチルダの肩を抱いている。 僕は…どうすればいいんだろう ヤンの頭に浮かぶのは、オリビエ・ポプランとワルター・フォン・シェーンコップ。二 人はイゼルローン要塞では女好きの双璧で、関係を持った女性の数は「いちいち覚えてい ない」とか、ベッドの上の撃墜王とか言われていた。 彼等を頭に浮かべたものの、彼等がどうして複数の女性と関係を持つ事が出来たのか、 は思い浮かばない。ヤンの頭脳は、その方面の策略には全く向いていなかった。 ヤンが人類発祥以来の決して解けぬ問に頭を悩ましていると、背後のルイズが声を上げ た。 ヤンとロングビルも風竜が向かう先を見る。そこには緑の海が広がっていた。広大な草 原が陽光に輝き、駆け抜ける風が波のように草花の上を渡る。草原の彼方にある山の斜面 には、規則的に並んぶ背の低い樹木が見える。ワインが特産と言うだけあり、ブドウ畑が 広がっている。 風竜は草原を越え、村の上空をしばらく旋回してから、律儀に村の入り口へ着陸した。 「では、小官はトリスタニアへ帰還致します!」 ビシッと敬礼する竜騎士へ、ルイズは礼を言いつつ2通の封書を手渡した。 「これは枢機卿と父さま、ヴァリエール公爵への手紙です。急ぎ届けて下さい」 「はっ!」 竜騎士は、ルイズ一行がアルビオンで収集した事実をしたためた報告書を入れた封書を 胸に風竜へ飛び乗った。もちろん、ウエストウッド村やティファニア等に関しては除いて ある。 ルイズとロングビルは、飛翔する風竜へ手を振った。 「おーい、ヤンよ。なにをボーッとしてんだ?」 風竜から降ろされた荷物の上のデルフリンガーが、立ちつくすヤンを不審がる。 遠くの空へ消えていく竜騎士を見送った二人も、村の入り口で突っ立ってるヤンに気が 付いた。 彼は、村の入り口に立つ立て札をジッと見ている。 ルイズは彼の背をツンツンつつく。 「ちょっと、ヤン。何ぼんやりしてるのよ?」 何の反応もない。立て札に見入ったまま動かない。 ロングビルも立て札を見る 「これがどうかしたの?…えっと、『ようこそタルブへ』。それと、その下に、何か書いて あるわね・・・え…え?えっ!?」 ロングビルも、まるで幽霊を見たかのような表情で看板を凝視した。 「なによ二人とも、この立て札がどうかしたの?」 と言ってルイズも読む。そこには確かに『ようこそタルブへ』という文が記されてた。 ただし、その下にもう一文が記されている。 「何これ、なんて書いてあるの?読めないわよ…て、え…ま、まさかっ!?」 ルイズの目がまん丸に見開かれ、両手が口を覆う。 3人の背中が邪魔で看板が読めないデルフリンガーが、抗議の叫びを上げる。 「おーい!一体なんなんだよ?何が書いてあるんだよ!」 長剣の問に、ヤンは震える声で答えた。 「『ようこそタルブへ 道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシュをお尋ね下さい』」 「は?道に迷ったって…道案内の看板か?」 伝説の剣には、何のことだか分からなかった。 左右からヤンを見る女性達にも、何の事だか分からなかった。 ただ、それがあり得ない文だというのは、一目で良く分かった。 何故なら、それは二人には読めないが、ヤンには読める文字だったからだ。 「・・・何で、なんでこんな所に、この文字が・・・」 それは、『破壊の壷』表面に記されていた文字であり、ヨハネス・シュトラウスの手記 に使用されていた文字だった。 つまり、銀河帝国の公用語。 第十七話 昔と今と END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/723.html
462 :名無しの紳士提督:2016/01/01(金) 23 01 31 ID WgoJ.gPI 新年明けましておめでとうございます。新春一発目のSSを投下します 鹿島との年末年始のお話で、、この前のクリスマスの話の続きです 今回も独自設定やわかりにくいネタがたくさんあります NGは『練習方法は実践する事だけ―年末年始編―』でお願いします 463 :練習方法は実践する事だけ―年末年始編―:2016/01/01(金) 23 02 16 ID WgoJ.gPI 「Guten Tag」 「Buon giorno」 「?…………こんにちは……」 提督室の大掃除を一段落させていた俺は突如外国人の美女二人に声をかけられた。 俺は乏しい知識から外国語での挨拶とわかり、日本語で返した。 「君達は………艦娘か?」 「私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルクよ」 「私はヴィットリオ・ヴェネト級戦艦2番艦、リットリオです」 「ビスマルクにリットリオだと……今日来るはずのドイツ艦とイタリア艦がもう来たのか? だが約束の時間にはまだ早いはず……」 「少し早過ぎでしたか。遅れないように早く来たんですが」 「それよりもあなた、提督はどこにいるのかしら?」 「…………私が提督だ…………」 そう。俺がこの鎮守府の一番上に立つ提督だった。 「あなたが提督!?冗談はやめなさい。 そんな格好の提督がいて、お掃除なんてしているかしら」 いるんだよここに。汚れないようにジャージを着て掃除をしているけど、俺は提督だ。 「生憎だが私は今日提督としての仕事をし始めたばかりでね、 不測の事態のせいで引き継ぎもほとんど出来ずに提督になる事になったからな」 「提督が掃除なんてするのかしら?」 「提督だろうが掃除をするものだ。 厳密に言うと大掃除の指示が俺の提督としての初仕事なわけだが」 「その初仕事をサボるなんていい度胸してるじゃないの、このクソ提督!」 「仕事をサボって女性と楽しそうに喋っているなんて、鹿島さんが泣くわよ」 海外艦娘と会話している俺を咎め、叱責する声が聞こえた。 駆逐艦娘の曙と霞だ。昔からきつい口調な彼女達だったが、 俺が提督になってからそれが更に増した気がする。 霞は俺が立派な提督になれるように厳しくあたっている節があるし、 曙は…まあ掃除をサボって美女と会話してたら俺にはああも言いたくなるわな。 彼女は不遇の運命だった駆逐艦曙の艦娘故か上官的な存在に無意識に反発する癖があったが 俺に対しては提督でない頃から関わりがあったからか、 俺に対しての言葉遣いがあまりきつくなかった。 「掃除は一段落したよ。それで海外艦のビスマルクとリットリオの二人と話をしていて…」 「ビスマルクとリットリオ?もう来たの?…………少し見苦しいところを見せたみたいね」 「……提督、この鎮守府の艦娘の上官への口の聞き方は酷いようね。 この鎮守府、少し規律がなってないようね」 「誤解しないでね。この鎮守府で口が悪いのは私たちくらいよ。 それと、この司令官がここの司令官に任命されたのはつい先日だから、 この艦隊の規律等についてこの新米司令官を責められるものではないわ」 霞は厳しい艦娘で、真面目にやらなかった時の叱責はきついが、全力で望んだ末の結果や、 その人物に責任を求められないような事を理不尽に責めるような真似はしない。 彼女に厳しく言われ続けたからといって、 彼女を脊髄反射で拒絶するのは少し思慮が足りない事だろう。 「提督、お掃除終わりました。提督室は……あら?」 昔からこの鎮守府の中心人物として働いている大淀が足柄と共に部屋にやってきた。 「ビスマルクにリットリオ!もう来られたのですか!?」 「そうよ。あなた達は?」 「私が大淀です。よろしくです」 「私は妙高型重巡洋艦三番艦足柄よ。よろしくね」 「こちらこそよろしく。ところで、この男の人が提督なの?」 「ええ…提督となったのは先日からですけど… 前提督が突如新泊地へ赴く事になったので、引き継ぎや準備が不十分で… 今は出撃や演習、遠征の指示等の艦隊指揮は私が代行しています。 それ以外のことは提督に順次させていっています」 「だからといって大掃除の指示が初仕事になるなんてな…」 「掃除は大切なことよ!掃除をすることによって心も引き締まるし、 大掃除は一年の汚れを全部落として、 新年を新たな決意で迎えるために特に大切なことなのよ! ……大掃除の段取りを一任してくれたことは感謝するけどね…」 「一任というと聞こえはいいけど、要するに丸投げってことじゃない?」 「司令官にまかせるよりはよっぽどマシよ。この司令官、あまり掃除しないし」 「それもそうね」 酷い言われようだが大体事実だから仕方ない。 この鎮守府に勤めるようになってから自分では掃除を頑張るようになったと思っていたが、 それでも霞にとってはまだまだらしい。 しかし霞に大掃除の段取りの指示を一任した判断は間違ってなかっただろう。 彼女は掃除に対するこだわりが人一倍強いらしく、 去年の大掃除で霞が担当した部分は他と比べて少しだが綺麗に感じた。 まあ普段他人に目をやらない俺が霞に目をやったのは きつい事を言われたので霞に言い返せる欠点を見つけてやろうとしたのではなく、 四日市に“かすみ”という名前の清掃船があるから、霞もきっと掃除が上手かもしれない という根拠のないアホらしい考えだったが、どうやら当たっていたらしい。 余談だが“かすみ”を所持している団体の本拠地は千歳町という場所で、 近くには大井の川町や曙町、 少し離れた所には清掃船かすみの名前の由来先と思われる霞という場所がある。 艦娘達と直接の関係はないにしろ名前が一緒なものが沢山集まっているので、 ちょっとした話のタネにはなるかもしれないし、ならないかもしれない。 「みなさん、お疲れ様です」 聞けば心躍る可愛らしい声が聞こえた。 「もうすぐ3時ですし、少しお茶にしましょ…あら?あなたたちは?」 「ビスマルクよ。よおく覚えておくのよ」 「リットリオです。覚えておいてください」 「ビスマルクとリットリオ…… 私はこの鎮守府の提督さんの秘書艦を務めます、 香取型練習巡洋艦二番艦、鹿島です。よろしくね。 よかったらお二人もお茶、どうぞ」 鹿島は初めて見た人が勘違いしそうな感じの笑顔ではなく、 誰が見ても普通の笑顔といえる表情で言った。 「提督さんのリクエストの汁粉サンドです。どうぞ」 そう言って鹿島はあんこが薄く挟まったサンドイッチを出した。 「それじゃ、いただくわね」 もぐもぐもぐもぐ…… 「この甘み、たまらないわね」 「喜んでもらえてよかったです。なにぶん汁粉サンドは初挑戦でしたので、 色々と試行錯誤を重ねました。その甲斐があったようですね」 「本当おいしいわ。日本の文化を取り入れたサンドイッチ、素晴らしいわ」 ビスマルクやリットリオら海外艦娘達には大好評なようだ。 「カツサンドが一番だけど、これもおやつとして考えたら中々いけるわね」 「餡もくどくなくておいしいですけど、白玉も餅に近い食感がいいですね」 足柄や大淀も喜んで食べていた。 「あれ、提督さん、お口に合いませんでしたか? ……長良さんや木曾さん、伊勢さん達も… 何か気になる点でもありましたか?」 「いや、美味しかったよ……」 確かにとても美味しかった。 サンドイッチは鹿島の代名詞と言えるくらい彼女にとって得意な料理であり、 具材である餡や白玉もとても美味しかった。 「美味しかったですよ本当に。でも…その……何て言えばいいのか…言いにくいですけど…」 「俺の知ってるしるこサンドじゃない!」 「そうそう、私たちの知ってるしるこサンドじゃないのよね」 東海地方出身の人がしるこサンドと言われたらこれを出されたならまず驚くだろう。 「……司令官、鹿島に何て言ったのかしら?」 「何てって……今日は軽くしるこサンドでいいって言ったはずだ…」 「クソ提督には頭が回らなかったのかもしれないけど、 サンドイッチが得意な鹿島さんにしるこサンドって言ったら お汁粉を挟んだサンドイッチって発想すると思うわ」 「確かにしるこサンドってだけ言ってそれっきりで、 鹿島は少し驚いた顔だった気がしたけど別に何も聞いてこなかったからな。 とにかく俺が指示を明確に出さなかったせいだ」 「まあそうなるな」 「これが戦闘関係だったら大変なことになっていたかもしれないわ。 これからは情報をちゃんと共有するように気をつけなさい」 俺は時々自分がわかっている事は相手もわかっていると思い込んでしまう癖がある。 艦隊指揮をする上ではそのような癖は死に繋がりかねない。 俺は今この場で失敗しておいてよかったと思った。 次からは絶対に失敗してなるものか。 「はぁ…着任早々言いたくはないけど、こんな人が提督だなんてね……」 「彼は新任提督なんだ。少々のことは勘弁してあげてくれ。 不満があるなら君が提督を立派にしてあげてもいいのではないか?」 「…そうね、新任提督なら育て甲斐があるものね。 いいわ。私が提督としての心構えを一から教えてあげるわ」 不満げだったビスマルクは日向の言葉に乗せられて上機嫌になった。 日向の人間観察力…前々から思っていたが並大抵ではないかもしれない。 俺は彼女を人間観察力を身につける為の師匠にしたいと思いつつあった。 「でもあなたが提督に付きっきりになったら鹿島が怒るわよ。 彼女は艦娘の他に未来の提督を育てる練習巡洋艦で、提督の秘書艦で…… そして何より提督のお嫁さんだから」 「ええっ!?この提督……結婚していたなんて……」 「つい先日……クリスマスに籍だけは入れたのですよ。 クリスマスを記念日にしたいからって書類も揃ってないのに無茶しますよ。 婚姻届けだけ届けて書類は後からでもいいとはいえ…」 「戸籍関係の書類なしって…何考えてるのよ。ちゃんと準備しときなさいよ」 「26日以降にちゃんと用意してもう出しておきましたよ」 「けど……前々から司令官と鹿島は仲が良かったみたいだったけど、 精々司令官が鹿島を片思いしているってくらいに思っていたのに まさか結婚を決めてしまうほど二人の仲がよかったなんて思わなかったわ」 「だって提督さんと気持ちが通じ合ったのがクリスマスイヴの日でしたから。 どうしても気持ちが抑え切れなくて、 翌日役所に行って籍だけは入れておいたんですよ。 クリスマスが結婚記念日っていうのもとてもロマンチックですしね」 「二人がそうなるに至った理由は、 提督が新泊地の司令官として着任する事が内定していて、 離れ離れになってしまうからってことがあったからかもしれませんね」 「そうですよ。イヴの日に香取姉から提督さんの新泊地行き内定の話を聞いて、 それでもしかしたらもう二度と会えないかもしれないって思って… 気持ちを伝えずに離れ離れになってしまう前に せめて思い出だけでも作りたいって思ったんです」 「ちょっと待てよ。思い出だけでも作りたいって……」 「ええ、実は最初はすぐに結婚しようとは考えていませんでした。 結婚しようって考えたのは、結局提督さんが新泊地に行かずに済んで、 それから……色々とあった時ですね。 結婚していれば、提督さんが本当にどこかへ行かなくちゃならなくなっても、 妻であれば一緒に行けるように融通も利かせてもらえるでしょうし」 「しかし…色々とって……イヴの夜に提督が新泊地に行かずに済むとわかって、 それからクリスマスの日に入籍したわけだろう。時間から考えて急過ぎないか?」 「いいじゃないですか。情熱的に恋の道を突き進み 愛し合うってとっても素敵なことじゃないですか」 「そうよ。若さに任せて自分の信じた道を貫く…… ホント、若いっていいわねえ…私もこんな情熱的な恋をしてみたかったな…」 「足柄…あなたはまだ若さに憧れるとか、 そんなこと言うような年齢じゃないでしょ。 それに情熱的な恋がしたかったとか、あなたの旦那と子供が泣くわよ」 「確かに情熱的な恋には憧れたわ。 でも今の私には暖かな家庭という、平凡な幸せが一番大事なのよ。 暖かな家庭……提督と鹿島だってきっと築けると思うわ」 「まあ提督は指揮官としての力はまだまだだけど、悪い人間じゃないし、 一度好きになった女性と結ばれておいて捨てるような人じゃないでしょうしね」 「あら?曙ったら、もしかして提督のことが気になっていたのかしら?」 「バ、バカ!?何言ってるのよ。ホント、冗談じゃないわよ! 第一私はまだ子供なのよ!年齢的に釣り合うわけないし、 提督が子供の私なんて相手にするわけないし……」 「曙ちゃん……」 「……鹿島、あなた、絶対に幸せになりなさいよね! 提督、もし鹿島を泣かせたりして不幸にしたら、 その時のあなたはクソ提督だからね」 「あ、ああ、絶対に不幸にはしないって約束する。 約束するよ、絶対に不幸にはしないってね」 急に曙に話を振られてつい一瞬言葉に戸惑ってしまい、 念を押すように鹿島を不幸にはしないと誓った。 しかし女の子ってどうしてみんな恋バナが好きなんだろうな…… 男の俺が口を挟む余地なんて全然ないくらい話に切れ目がない。 もしここに青葉と如月と秋雲がいたなら 最早収集をつけるのは無理だったかもしれない。 まあ、仕方ないから汁粉サンドイッチをバクバクと食べていたけど、 急に振られた時の為に耳を少しは傾けておくべきだった。 「あら、いけない。ちょっと休憩するつもりだったのに長話しちゃった」 「いいのよ、あなたたちと楽しくお話が出来たから」 「そうですよ。素敵な歓迎ありがとう」 「そうじゃなくて……業者さんや一般職員たちに他の艦娘… 彼らが大掃除をしているというのに私たちだけいつまでも休んでられないわ。 特に私は汁粉サンドを用意してって言われて ずーっと汁粉サンドイッチを作っていて、全く大掃除してなかったし… あっ、提督さんのせいじゃないわ。確認しなかった私が悪いのだし…」 鎮守府は広い。務めている艦娘や職員達 (男だけではなく、艦娘ではない女性もいる)だけでは掃除しきれない。 ましてや彼らは掃除に関しては素人である。 簡単な掃除ならともかく本格的な大掃除となると清掃業者に頼まざるをえない。 そこで鎮守府の外まわりの清掃に関しては業者に一任する形を取っている。 清掃業者は鎮守府と契約を結んでいるわけだが、 別に鎮守府専属ではなく、他にも得意先はある。 外部機関に等しい存在である為に内部機密流出防止の為、 鎮守府関係者による監視も欠かせないわけである。 彼らは清掃作業をしない事になるが、清掃業者の清掃作業の方が効率がいい為、 彼らは監視に専念出来るわけである。 鎮守府内部はさすがに内部関係者がせざるをえないだろうが、 監視者以外は外まわりに人手を取られない為効率はよくなる。 「司令官、倉庫の大掃除、終わりましたわ」 「玄関の掃除も終わったよー。お疲れちゃーん。 あ、そうそう、外まわりももうすぐ終わりみたいだよー」 「司令官、トイレ掃除、全て終わらせました」 どうやら鎮守府中で大掃除が終わったようだ。 「もう掃除できるところはないの……」 「パッと見ですけど、もうどこも終わりのようです」 「そう……」 鹿島は少し暗い顔だった。 「鎮守府の掃除がとりあえずひと段落したみたいね。 でも最後に私が確認するわ。もしまだ不備があったらその時に言うから」 「わかった。ところでこの部屋は……」 「…………とりあえず合格ね。でもだからといって毎日の掃除は怠らないことね」 「ありがとう……」 「提督室はもう掃除の必要はないのですか……」 「気になるところがないわけではないけど、でもわざわざ掃除をするまでもないわ」 「そうですか……」 「そうだ、鹿島、業者達の土産にペットボトルの熱いお茶を用意してくれないか?」 「ペットボトルのお茶ですか?」 「そうだ。大工や電気業者なんかが来た時にそういった事はするものじゃないのか?」 「今まではしたことはありませんけど……」 「そういうところに気を利かすのもいいけど、仕事もちゃんとしてよね」 「ああ……とりあえず熱いペットボトルのお茶がなければ 冷たいペットボトルのお茶とか、缶コーヒーとかでもいい。 業者の人数分より少し多めに用意しておいてくれ。 あと何かちょっとした食べ物とかないか? できればここでお菓子をよばれてほしかったところだが彼らも彼らで忙しい。 手で食べられるようなものとかないか?」 「えーと……あっ……」 鹿島が少し考え込んだあと何か思い当たったようだ。 「どうした?」 「実は……お汁粉を固めるために ゼラチンや寒天の量の調整をしていたら餡が薄くなって、 薄まった分餡を足したら今度は普通の餡みたいになっちゃって、 それでまた寒天とかを足していって……」 ……何となく予想はつく。ある意味駄目なパターンだ。 「つまり作りすぎちゃったってわけか」 「……はい…」 やっぱり。 「まあいい。サンドイッチ用のパンはいくつある?」 「サンドイッチ用のパンだったら長期保存が効くものがたくさんあります」 「よし、それで汁粉サンドイッチを沢山作っておいてくれ。 業者達のお持ち帰り用だけでなく 他の艦娘や職員達にもよばれてもらう為にだ」 「分かりました、急いで準備します。足柄も手伝ってください」 「わかったわ」 「リットリオ、私たちも手伝いましょう。 サンドイッチくらいなら私たちでも作れるわ」 「ええ、私たちも行きます」 鹿島は足柄とビスマルクとリットリオと共に準備に向かった。 「あっ、提督さん、忘れないうちにひとつ聞いておきたいんですけど、 しるこサンドって一体どういうものですか?」 「しるこサンドは餡をビスケットで挟んだ東海地方のお菓子だ」 「そうですか……分かりました」 そう言って鹿島達は再び準備に向かったのだった。 「提督さん、今年最後の夕焼けです。綺麗ですね」 「ああ、あの時は見れなかったけど、今こうして見ると感慨深いな」 大晦日の夕方、俺達は全てを終えて夕焼けを見ていた。 「提督さん、今年もあっという間でしたね……」 「ああ……今年は年末、特に一週間が今までにないほど慌ただしかったけどな」 「疲れましたか?さすがに提督ともなると苦労が今までの比ではないでしょうし…」 「まだまだ!こんな事でへばってちゃ、提督なんてやってられないよ」 「元気ですね。でも、無理はしないでくださいね」 「わかってるよ」 わかってるけど、どうしても俺はそこら辺の加減ができない。 やるかやらないかが極端であり、やると決めたらそれしかないという事もかなりあった。 いい加減な具合にやるべきだけど、そこが俺には難しいんだよな。 「だったら鹿島さんが司令官を見てあげればいいじゃない」 二人きりで夕日を見ていたところに突如可愛い乱入者が現れた。 一人前のレディを自称する暁だ。 「暁ちゃん、何か用事かしら?」 「鹿島さんにコーヒーを作ってもらいに来たの。 大晦日だからちゃんと起きていられるように 濃いブラックコーヒーを作って」 「ミルクは…」 「一人前のレディにはいらないわ」 「そうは言ってもなあ暁、ただでさえ珈琲を飲むと カフェインの効果でトイレが近くなるぞ」 「トイレくらいひとりで行けるもん!」 「それくらいならいいだろうが、珈琲をブラックで飲んだら わかめの味噌汁を戻す事になるぞ」 「はあ?」 二人は俺の発言に驚いていた。 「俺は中学一年の大晦日の前日に大人に憧れて珈琲をブラックで飲んだ事があるが、 それで胃を荒らしたのか、 その日の昼食に出たわかめの味噌汁を戻す事になってしまったんだ。 そうなってしまえば一人前のレディどころではなくなるぞ」 「……ミルクはそれなりにお願いね。お砂糖はいらないわ」 「はいはい」 暁の言葉に鹿島は優しく答えたのだった。 「あの、提督、ちょっといいですか」 また乱入者が現れた。今度は夕張だ。 「何だ?」 「実は相談があるんですけど…… 今日の午後十時半から明日の午前四時半まで暇を戴けないでしょうか?」 「……CSのアニメチャンネルでアレを見たいのだな。駄目だ、認めるわけにはいかん」 「そうですか……そうですよね……」 「後でブルーレイを貸してやるから今日は精一杯働け」 「本当ですか?ありがとうございます。ところでアレって何のことだかわかります?」 「十二星座の戦士達が大活躍するアニメだろう?」 「そうですよ」 「君は持ってないのか?」 「ブルーレイもDVDも……ネットの公開も見逃しちゃったし……」 「……何のことだかさっぱりです……」 鹿島は話についていけないようだった。 ちなみにアレの最終巻はクリスマスイヴ発売である。 色々あってその日に買えず、 自分へのクリスマスプレゼントにはできなかったが。 「あっ、もうすぐ日が沈むよ」 「ええっ!?」 暁の注意に日の入りを見逃しかけていた俺達は日の入りをなんとか見届けた。 「なんとか日がスッと落ちる瞬間を見ることができたわ。ありがとう暁ちゃん」 「えへへ……」 「ごめんなさい鹿島……邪魔をしたみたいで」 「いいのよ、日の入りの瞬間はちゃんと見られたし。 あなたも綺麗な夕焼けを見れたでしょう」 「はい、綺麗でした。でも二人きりの時間を邪魔してすみません」 夕張は俺達に少し負い目を感じているようだった。 もっとも、暁ちゃんの時点で邪魔されたと言えなくもないが。 「いいのよ、みんなで見る夕焼けも格別ですから。 ……提督さん、そろそろ年越し蕎麦ができる時間ですね。 私達は夜が忙しいですし」 「ああ。年越し蕎麦を食べて、今年最後の仕事を頑張ろう」 今年最後の夕焼けを見終わった俺達は、 年越し蕎麦を食べて夜の仕事に備えるのだった。 そして、年が明けた。 「新年、あけましておめでとう」 「おめでとうございます、提督さん」 俺は真っ先に鹿島に新春の挨拶をし、鹿島も俺に今年初めての新春の挨拶をした。 「司令官……あけまして……おめで…と…」 「寝るな暁!」 俺は暁を揺さぶって無理やり起こした。 本当はあまりするべきじゃないだろうが、 暁を眠らせてぷんすか!させちゃうのもちょっと可哀相だ。 「うぅ~……コーヒーが少し薄かったかも……もうちょっと濃いコーヒーを……」 「やめろって。これ以上飲んだら本当に腹を壊すぞ」 「でも……」 「……しゃあない。鹿島、珈琲を作ってやれ」 「珈琲を!?いいの!?」 「ああ、濃さはそれなりで頼むが……」 「皆さん、新年あけましておめでとうございます。ぜんざいをどうぞ」 「ありがとう、伊良湖……そうだ、鹿島、珈琲はもう少しだけ濃く作ってやってくれ」 「提督さん!?」 「いいから」 「……はい……」 鹿島は渋々濃い目のコーヒーを作った。 「どうぞ……」 「ありがとう。これをぜんざいに……」 「提督さん、何を!?」 「コーヒーぜんざいだ。 ぜんざいの甘さと珈琲の苦味がマッチして美味しいぞ。 暁、どうだ、食べるか?」 「当然よ!」 暁はコーヒーぜんざいをかわいくふーふー冷ましながら食した。 「うーん……なかなかいけるじゃない。 一人前のレディもたまにはこういうのを食べてもいいわね」 「それじゃ私たちも試してみるわ…………うん、美味しいです」 「これはなかなかですね」 「だろう?」 こうして俺達は初日の出の時間まで任務をしつつ たまに料理の話題を喋り合っていた。 途中でリットリオもやってきたが、 甘口抹茶小倉スパゲティと甘口いちごスパゲティをとても気に入ったのか 任務中にも食べるのかたくさん持ってきてやってきたのだった。 そして初日の出の時間…… 「綺麗……特にフッを出てくる瞬間が……」 「これが日本の初日の出……素晴らしいわ」 「今年一年……いいこと……ありますよう……に…………」 各々が感想を述べる中、暁は力尽きたのか、 初日の出を見届けた後、可愛い寝息を立てて眠りについた。 「あら?暁ちゃん、眠っちゃいましたか…」 「ここまでよく頑張ったな、暁……」 俺達は初日の出を見終えて暁を褒めた後、 暁を背負って彼女の部屋のベッドに寝かしつけた後、 新年最初の仕事を大淀に聞きに提督室に行くのだった。 「新年最初の夕焼けも、日の入りも、とても綺麗でしたね」 「とても綺麗だったな」 そして新年初めての仕事(主に挨拶だが)を終え、 仕事から解放された俺達は風呂に入ったあと、夕焼けを見ていた。 今日の夕方から明日まで俺達は正月休みだ。 大淀には苦労をかけるが、彼女が休んでくださいと言ってきたので 俺達はその行為に甘えようと思う。 「提督さん、今日も一日お疲れ様」 最愛の人の思いやり溢れる言葉と笑顔、 それが疲れきった俺に再び立ち上がる力を与えてくれる。 「あぁー、ありがとう…」 でもやっぱり疲れるものは疲れる。 特に今回の正月は提督になって初めての正月だ。 今までも鎮守府では正月だからといって 特に変わった事をしてきていたわけではなかったが、 普通の士官とは違い一応最高責任者の身となって迎えた正月だ。 やはり精神的に緊張してしまう。 「ありがとう鹿島、いつも支えてくれて。でも…」 それでも弱い面を見せるわけにはいかないと力を振り絞って元気に振る舞った。 「提督さん、そんなに無理しちゃダメですよ。 弱いところを見せられないって気持ちはわかるけど、 せめて私と二人でいる時くらい、弱いところを見せてほしいな」 そうは言われても中々他人に弱い所を見せられないのが男である。 つい最近男を知ったばかりの鹿島でもそんな男心はわからないだろう。 まあ最近女を知った俺だって女心は中々わからないものだから人の事は言えないが。 「特に今回の年末年始はとても慌ただしくて あなたもかなり疲れていたでしょうから…… 今回は私に任せてくださいね…」 「任せるって…」 何の事か疑問に思う間もなく鹿島は俺のパジャマのズボンを下着ごとおろした。 「…………」 「…………」 沈黙が走った。鹿島は意外さにきょとんとしていた感じだった。 俺のちんちんが小さくて皮を被っていたからだ。 勿論真正包茎というわけではなくちゃんと剥く事ができ、 勃起した時はちゃんとそれなりのサイズに膨張する為、行為の時に困る事はない。 だから臨戦態勢にない今小さくてそれを言われてもほとんど気にはしない。 「……ふふっ、可愛い」 鹿島は悪戯っぽい笑顔で言った。俺を馬鹿にするような事はしなかった。 まあ一度関係を持った事があったわけだから、 その時に最大限に膨張したモノを見た事があったからだろうけど。 「…ちょっと自信ないけど、お口で可愛がって、大きくしてあげますからね…」 「口で?待て…」 俺の止める声も聞かず鹿島は俺のちんちんの皮を剥き、口に含んだ。 「んん…」 「あっ、痛かったですか…?」 「いや、痛くない。ちょっと気持ち良くて…」 「よかった。でもこれからもっと気持ち良くさせてあげますからね」 と言って再び俺のちんちんを口に含んだ。 根元を唇で軽く甘噛みしながら、亀頭を舌で優しく舐めた。 「ぐ……」 俺は声を出さぬよう歯を食いしばった。 そんな俺を気にする事なく鹿島は亀頭を舐めていた。 ペロリ…ペロリ… 鹿島の舌技は決して強い刺激を与えるものではなかった。 しかし経験がないに等しい俺にはそれさえも十分過ぎる刺激だった。 また、鹿島自身もそんな経験はない為、 どれくらい強くすればいいのかの加減がわからないのかもしれない。 しかし彼女の優しい舌技がまるで彼女の心を表しているようだった。 小さな子供の頭を手で慈しむように優しく撫でて育むかのごとく、 舌で亀頭を優しく刺激して勃起を促していた。 やがて俺のちんちんは硬く大きく膨張した。 「もうちょっと刺激を強くしてもいいぞ…」 俺の言葉に鹿島が行為で応えた。先程よりも舌の動きが少し激しくなった。 鈴口や裏筋を舌先で刺激されたり、唇の甘噛みを強めたりしながら扱いたり… 鹿島のテクは決して上手とは言えないだろう。 だが俺の堪え性のなさにはそれでも絶頂へと導くには十分だった。 何よりも愛する人にされているという事実そのものが テクとかそういったものを超えて大事なものだった。 「もう射精る…離れて…」 もう我慢出来ないと俺は伝えた。だが鹿島は口を離さなかった。 それどころか強く吸ってきた。そこまでが限界だった。 ドプッ!ドププッ!ドクンッ!ドクン!ドビュッ! 一週間ぶりの射精だった。溜まりに溜まった欲望が鹿島の口の中に激しく解き放たれた。 「ん……んんー…………んー!」 鹿島は口を離す事なく、次々と発射される濃厚な精液を喉を鳴らしながら飲み込んでいた。 ドビューッ!ビューッ!ビュー! あまりにも溜まっていたからか、まだ吐き出され続けていた。 それでも鹿島は飲み込み続けていた。 まるで俺の愛情を全て受け止めようとしているかのように………… 「…ん………ん…………」 やがて射精は止まった。だが鹿島は鼻で息をしながら咥え続けていた。 そして口内に吐き出された濃厚な白濁の欲望を飲み込み、 萎えたちんちんについていたものも舌を這わせ、綺麗にお掃除フェラしていた。 「…ぁぅ……ふぅ……」 「鹿島……ごめん……」 口を離し、一息ついた鹿島に俺は謝った。 おしっこの出る所から出たものを飲ませてしまった事に少し心が痛み、 気持ち良かったとはいえ素直に喜べなかった。 「……気持ち良かったですか?」 「…ああ、とっても気持ち良かったよ…」 「うふっ、よかったぁ……」 しかし鹿島の顔を見ていると素直に気持ち良かったと言うしかなかった。 そして俺の素直な言葉を聞いた鹿島は、 自分のした事が間違っていなかったと裏付けられた事により、 とても安心した顔で嬉しそうに言った。 その笑顔は俺の心から申し訳なさを消していった。 「アイスキャンディで練習したつもりですけど、上手く出来るかやっぱり不安でした」 「上手く出来ていたよ。でもなんでこういう事を?」 「お正月はめでたいじゃないですか。だからそんな日くらいは飲んじゃおって思って」 特別な日でなくても飲みそうとは思うが…… 「それにこの前の大掃除、お手伝い出来ませんでしたから、 だからあなたが去年溜め込んでいたモノを全部吐き出させて、 綺麗さっぱり大掃除をして、スッキリさせてあげたかったんです」 鹿島は気にしていたようだ。別に俺は気にしていないのに…… 「あら?また大きくなってる」 俺のちんちんは再び勃起していた。 あれで終わりとは思わず何かを期待するかのように…… 「まだ掃除しきれていなかったみたい。もっとスッキリさせなきゃ…」 「鹿島…もっとしたい……」 「ああっ、あなたはじっとしていて。私に全て任せてって言ったでしょ。 去年から寝てなくてとっても疲れているでしょうし」 そう言って俺を押し倒してきた。 そして天に向かってそびえ勃つちんちんの鈴口に膣口をキスさせながら跨がった。 「こっちも……飲んじゃいます!」 鹿島は全体重をかけて俺のちんちんを飲み込んだ。 滑らかにちんちんを擦る刺激、そして鈴口と子宮口が激しくキスをする衝撃。 もし先程射精していなければ簡単に暴発していただろう。 「ん……」 「鹿島…大丈…」 「大丈夫だからっ!だから…私に任せて……」 まだ慣れていないだろうに、 濡れが少なくて痛みがないわけでもないだろうに、 鹿島は俺の為に激しく動き始めた。 「ううっ!くうっ!はあんっ!」 その動きは本当に激しかった。テクもなく、ただ力任せという感じがした。 だが単純な刺激にならぬよう時々止まったり、前後左右に動いたりもしたが、 結局激しい上下運動ばかりになっていた。彼女にも余裕はないのだろう。 感じた事のないような、自分で激しく動くのではなく、 他人から与えられる激しい刺激に一度発射していた俺でももう我慢はできなかった。 しかも新しい命を生み出す可能性のある行為をしているという事が、 本能を刺激していたのか、射精を早めようとしていた。 「私……もうダメ…です……ああっ」 鹿島が一際艶かしい声を出したかと思ったら膣が激しく締め付けてきた。 自分で動いたゆえに彼女は絶頂できたのか…… そう思って射精を抵抗する俺の心も虚しく…… ドビュルルルッ!ビュルルルッ!ビュクン! 彼女の胎内に先ほどよりも激しく射精した。 俺と鹿島が一つになっているように、 俺の精子がいるかどうかもわからない彼女の卵子と一つになり、 そして未来を作る為に………… 「うぅ……はぁ……」 動いてもいなかったのに疲れた感じがした。 元々の疲れを精神で耐えていたが、 二度の射精によってその緊張感が解けてしまったのか…… 「あぁ……」 鹿島は俺にドサっと倒れこんできた。 「あ……ごめんなさい……」 「気にしないでくれ。この重みだって、今はとても心地いい……」 「…私…もう限界……です……」 彼女の動きが激しかったのは彼女自身も疲れに囚われまいとした為だろう。 いつも俺の事を第一に考えてくれていた鹿島。 彼女も緊張の糸が切れたのか、眠そうだった。 「ありがとう……いつも……この瞬間も……本当に、ありがとうな……」 「えへへ……私……頑張れました……?」 「よく頑張ったね…とても気持ちよかったよ……」 「そうですか……私も嬉し…………」 限界を超えた鹿島は寝てしまったようだ。 俺も相当眠気に襲われたが、どうにか布団に入った。 性器の結合を解くことはなかった。 互いに一つになり、温もりを感じ合う。 それだけでも本当に俺には嬉しいことだった。 「おやすみ鹿島……今年もよろしく…………」 最後の力を振り絞って鹿島に感謝した俺は夢の世界に向かった。 彼女との楽しい初夢の世界に行く事を願って………… ―終― + 後書き 480 :名無しの紳士提督:2016/01/01(金) 23 19 22 ID WgoJ.gPI 以上です 今回は前回書き忘れていた事や 回収しきれなかった限定ボイスから閃いたネタも入ってます 年末ボイスの時点で書ける話もありましたが、 正月話に書くものがなくなってしまう為、 年末年始という事で一つに纏めました 未だに文章力は拙いですが、 妄想力だけなら誰にも負ける気がしないという思いで書きました それでは今年も一年よろしくお願いします これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/5398.html
203: 635 :2018/09/19(水) 20 44 45 銀河連合日本×艦これ神崎島 帰還 大和を旗艦とした艦隊が東京湾へと入る。 日本への帰属のための条約を調印するためだ。 神崎島鎮守府提督神崎博之は座乗している戦艦大和の甲板上から東京湾沿岸を見ていた。 「随分と人が集まったものだな。」 「やはりそれだけ関心が高いのでしょう。」 艦娘大和を傍らに双眼鏡を覗きこみ集まった群衆を眺めていた。 在りし日の軍艦を興味深そうに見ている者、 艦を指差し傍らではしゃいでいる幼子とその家族、 軍艦を懐かしそうに見ている老人、 戦争反対と横断幕を掲げる団体、 どれもがこの国が戦争と縁のない平和な国だと物語っていた。 「平和なものだな。」 「そうですね…。散って行った者達がこの平和の為に無駄ではなかった…。そう思いたいものです。」 「そうか…。」 大和の言葉にどれほどの思いが詰まっているのか、想像出来るが口に出すことはしない。 口を噤んだまま神崎提督は双眼鏡を再び覗き込むと日本政府特務交渉官柏木真人と共にある集団を見つけた。 おかえりなさいと書かれた横断幕が見える。 すぐにその集団の正体を察し、口を歪ませる。 「なるほど、そういうことか。」 「提督?」 「フフ、柏木君もなかなか粋なことをする。」 神崎提督は声を出して笑い初めた。 そんな提督の姿を見た大和は混乱していた。 ひとしきり笑い終えると提督は混乱する大和に命令を下す。 「連合艦隊全艦艇に通達、艦隊左舷方向の埠頭を注視せよ。目印はおかえりなさいと書かれた横断幕だ。」 「ふえ!?」 「復唱!」 「は、はい。連合艦隊全艦艇に通達、艦隊左舷方向の埠頭を注視せよ!目印はおかえりなさいと書かれた横断幕!」 「うむ、それでいい。」 大和は通信員妖精を呼び出し、即時に全艦艇へと提督の命令を通達するよう指示をだす。 混乱しながらも的確な指示を出す大和の姿を見た提督はこれも日々の訓練の賜物かと感じた。 「提督。今の命令は一体?」 「先程の通りだ。」 疑問を示す大和に対し提督は命令の通り行動しろと言う。 訝しげに大和は陸地の方を向きおかえりなさいと書かれた横断幕を探す。 ここは陸地から随分と離れているが並の双眼鏡以上の性能を誇る艦娘の目なら簡単なことだ。 すぐに横断幕を見つけた。 大和の目が大きく開かれる。 別に変なものを見つけた訳でなない、彼女がよく知る者を見つけたのだ。 腰は曲がり、白髪が増え、車椅子に座り家族に押してもらっている者もいる。 年を取り姿は変わったが忘れる訳がない。 かつてただの鉄の塊であった自分が水底へと沈む今際の際まで一緒に戦っていた者達なのだから。 いや、決して忘れてはいけない者だ。艦にとって乗組員というものは。 204: 635 :2018/09/19(水) 20 46 51 元彼女の乗組員だった者達はおかえりなさいと書かれた横断幕の下にいてプラカードや小さな横断幕を持つ者もいる。 大和お帰りなさい 乗組員一同、大和の帰還を待望せり 大和よ、我々はここにいるぞ! 彼らは敬礼をしていた。 その目には確かな親愛の情が浮かんでいた。 全員が大和に親愛を示していた。 「ウソ?…。」 大和は信じられなかった。 恨まれていると思っていた。 祖国を守れず、乗組員の家族を守れず、最後は多くの乗組員を巻き添えに水底へ沈んだのだから。 大和の瞳から一筋の涙が流れた。 自分を待っていてくれる人々がいるとは思わなかった。 故郷へと戻れるのは嬉しかったが、罵倒され石を持って追われると思っていた。 大和は甲板へと座り泣き始めた。 この世界へと戻り初めて泣きじゃくった。 悲しみからではなく嬉しさからの涙を流した。 提督はそんな大和を優しく見守っていた。 「大和。彼らに答えてあげなさい。」 「グス、はい提督ぅ。」 目を赤くしながら大和は提督に答えた。 提督の手を借りて起き上がると敬礼をした。 教本の手本としたいくらい見事な敬礼であった。 「総員甲板上へ集合。左舷へ登舷礼用意。」 「グス、了解しました!」 敬礼をする大和に変わりそばで一緒に涙ぐんでいた妖精へと指示を伝える。 妖精は合点と仲間と共に伝令へと走る。 急いで大和の妖精達が甲板上へと集まり登舷礼を行う。 皆目を潤ませ、中にはすでに涙を流している者もいる。 提督はその中へ加わらない。 この場、この時の主役は彼女達だからだ。 登舷礼を見た埠頭の人々も再度敬礼を返す。 ある老人は動かない体を懸命に動かして、 ある婦人は記憶の中の夫の姿を思い出しなれない敬礼をして、 ある幼子は傍らの曽祖父の姿を真似て、 皆が戦艦大和に敬礼をしていた。 大和達と元乗組員達が波を隔て互いに敬礼を交した。 かつて波間で隔てられた者達が再び波を隔て敬礼を交わす。 まるで物語のような光景であった。 カシャ シャッターを切る音がした。 「君か。」 「あややや、提督申し訳ありません。」 大和に乗り込んでいた神崎島の記者妖精だった。 「記者としてこんなこれを皆さんに伝えなければと思うのですが、その提督?」 「まあ、いいだろう許可する。あまり邪魔にならんようにな。」 「はい!」 記者は撮影を続けた。 艦と人、散った者と残された者、託した者と託された者、語り継ぐ者と語り継がれた者 彼らが今この場に共にいることを世の人々に示そうと。 艦娘も妖精も人も共に歩み始めようとしていると。 神崎提督はそんな彼らの姿を目に焼き付けていた。 「帰還か…。」 「提督?」 「いやなんでもない。」 提督の漏らした言葉を聞き記者は訝しんだ。 提督は空を見上げるとそれきり口を噤んだ。 見上げた空は全てが終わったあの日と同じように抜ける程綺麗な青空であった。 205: 635 :2018/09/19(水) 20 50 33 以上になります。 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! カレーの話を書いていたハズが調印式の時の話を書いていた… 頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… ホントなんで書いたんだろ? 転載などはご自由にどうぞ。