約 488 件
https://w.atwiki.jp/vipdetrpg/pages/253.html
2013/05/01と2013/05/08の冒険 使用システム ダブルクロス3rd 参加メンバー “魔剣士(ナイトメア)”仁後 玲一(ブラックドッグ/キュマイラ) “輝く稲光(シャイニー・ライトニング)”袴田 桜(ブラックドッグ/エンジェルハィロゥ) “《シュランゲ》”錦 刹耶(エンジェルハィロゥ/バロール) “Colony laser”闇雲 菖蒲(エンジェルハィロゥ) “災厄の枝”(レーヴァティン)建宮 雄二(モルフェウス/サラマンダー) ログファイル 2013/05/01、5/08HTMLログ版
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/675.html
そのころ、第七学区のいつもの病院にいる浜滝はというと… 「どうして入院しなければならないんだ。」 「はまづら仕方が無いよ。あのゴーレムをまともに肩に当たったんだから。」 浜面は今、入院する事になって病室にいた。 なぜ、浜面が入院しなくてはいけなくなったのかは数十分前… 「「にゅっ、入院!!」」 「そのとうりだが、見たら複雑骨折していたからな。私の手なら今日中には治せたけど、今日一日は安静にしたほうが良いからな。」 という事で浜面は今日、エリハル弐号機のせいで複雑骨折していたもんで入院する事になっていたのだ。 ちなみに、闇咲は今は一緒にいない。 「元々、罰ゲームではなかったのに初春さんに呼ばれて仕方なく付き合うことになったけど、どうして俺だけこうなるんだ?」 「はまづら、終わった事は遅いと思うよ。まあ、このあとのデートが無くなったのは嫌だったけど。」 「俺のせいでごめんな。でも、明日退院したらデートするから。」 「分かった。じゃあはまづら何か買ってくるから。と、その前に。」 というと滝壷は浜面にキスをした。 「じゃあ買ってくるね。」 滝壷は何か買ってくるために浜面の病室から出た。 そのころ、『喰わせ殺し』では盛り上がっていた。 まずは大所帯になってしまった初春達の個室だが、こちらは本当にカオス状態である。 「なるほど、白井さんが言っていたAIMジャマーが超効かない能力者って神裂さん達のことでしたか」 「絹旗、くれぐれも白井黒子達には秘密にしておいて下さい。我々の事情を知っているのなら分かってくれるでしょう?」 「超了解です。白井さんや固法先輩には私から超ごまかしておきますから」 黒子からAIMジャマーが効かない能力者がいるとは聞いていたが、それが神裂達だと知った絹旗は納得した。 絹旗はオルソラの乱の際、ずーっと天草式学園都市支部と一緒に行動し、魔術側の事情もその時に教えてもらっていたのだ。 「飾利だけじゃなく、こんな子まで私達の事情を知ってるとはね」 「絹旗なら問題は有りませんよシェリー。彼女は信頼できる子ですし、暗部のことも知っていますから我々のことにも理解がそれなりにありますから」 神裂とシェリーがこんな風に真面目な感じで話してる理由、それは単に初春が居ないからである。 その初春だが店長に罰ゲーム内容を収めた映像を皆で見られる場所を借りる為に、建宮と木山を伴って交渉に出ていた。 「妹こそ究極! 井ノ原姉、それがどうしてお前さんには分からんのにゃー!」 「寝言抜かすな、腐れシスコンが。 姉こそ最強だ! だからてめーはアホなんだよ土御門!」 こちらは顔を合わせて早々、妹と姉、どっちが素晴らしいかを激論している土御門と真昼。 その様子を真夜と彼に後ろから抱きついている赤音、そして彼氏の妹萌え全開発言に怒りを通り越して呆れている月夜が眺めていた。 「土御門も真昼さんも良く飽きないよなー。どっちが好きでも気持ちが本物なら上も下も無いのに」 「そうだよねー♪ 気持ちが本物なら二人同時でも実の姉弟でも問題ないもんねー♪ まるで私と真夜君と真昼ちゃんみたいに」 「……赤音ちゃん、変わったよね。すごく素直になった感じがするよ。井ノ原君のお陰なのかな?」 「まーね♪ 私の真夜君に対する愛、真夜君の私に対する愛がそうさせるんだー。でも月夜ちゃんも人のこと言えないと思うよ、私」 公然といちゃつく親友の赤音の変わりように月夜はちょっと嬉しく思いながらも、自分もああなのかと思うとちょっと恥ずかしくなっていた。 「ミサカは今日からおじさんの子供になるー! ってミサカはミサカは突拍子もないことを言ってみたり!」 「ぬうっ! そ、それは我の一存では決められぬし、そもそも反対なのである! ヴィリアンからも何か言って……ヴィリアンは?」 「なンか初春に付いて行っちまったぞ。色々お礼を言いたいからとか言ってよォ」 すっかり打ち止めに懐かれてしまったウィリアムは、未だに彼女を肩車したままで料理を口にしていた。 打ち止めの発言に異を唱えたのは彼女の保護者でもある黄泉川と芳川だった。 「あー、悪いけど打ち止め。あんたはウチの子だからそれは駄目じゃん。どうしてもってんなら一方通行は置いてけよ」 「ウィリアムさん、その子を養子にしたいのならもれなく一方通行が付いてくるわよ。それでも打ち止めを養子にする?」 「その少年は結局付いてくるのかそうでないのかどっちなのであるか! いや、そもそも我はこの少女を養子になどしないし、その少年はもっと要らないのである!」 実は昼間だというのにちょっとお酒を召し上がってる二人のペースにさしものウィリアムも途惑うことしか出来なかった。 自分を付属品扱いされて怒れる一方通行をいつの間にかウィリアムの肩から降りた打ち止めが、一生懸命慰めていた。 「二人って忍者さんなんですか! すごい! あたし初めて見ましたよ!」 「へ、へぇ、そうなんだ……。ところで佐天って言ったっけ? イギリス王室の王女様と一緒に来てたけどどうゆう関係なんだ?」 「知り合いです。パーティーをご一緒した仲ってだけですけど」 「それって凄いじゃないですか佐天氏! 半蔵様! これを機に私達も世界に目を向けましょう!」 半蔵と郭に興味を持った佐天は生で見る忍者に感動していたが、第三王女と知り合いだと驚かれるとは思っていなかった。 残るこの個室の利用者はインデックス、ステイル、小萌だが個室には居ない。 理由はインデックスが食欲全開で料理を個室に持ち帰らず平らげ、そんな少女をステイルと小萌が監視しているという、分かりやすいものだった。 「君はもうちょっと控えるべきだ。」 「そうですよシスターちゃん、先生の馬串がなくなってしまうんですよー!!」 「こもえはお酒を飲み過ぎなんだよ!!こもえこそ控えるべきなんだよ!!」 「そ、それは今は関係有りません!!シスターちゃんはシスターちゃんなのですから、神の教え通りに救われぬ子羊ちゃん達に救いの手をではないのですか!?」 「彼女のいう通りだ。少しはシスターとしての自覚を持ってほしいものだね」 「なっ!?タバコを年がら年中吸ってる二人に言われたく無いんだよ!!」 「「タバコが無い世界は地獄という(のです)!!」」 「ハモった!?」 「あっ、ステイルちゃんはまだ未成年なので吸っちゃダメなのです!!」 「さっきも言ったけどタバコが無い世界は地獄というと、一致したでしょう。」 「あわわわわ、タバコを先生に差し出してもダメなのですよ!!」 こうしてる間にもインデックスは食べ進めているのだが、二人はタバコ論議で気づかない。全く、困ったものです。 「まったく、どこに居ても食欲を慎むことを知らないシスターですわね」 「しゃあないって。あれがあの子のキャラゆうヤツやねんから」 インデックスの暴食をテーブルで自分達が持ってきた料理を食べながら観察しているのは青黒。 「それにしても料理をその場で食べるなんて非常識にも程がありますわ。ちゃんとルールは弁えてもらわないと」 「……なあ、黒子はん。せやったらあの子らも非常識の仲間や思うねんけど?」 「あの子達? んげっ!」 青ピが指差す方を見た黒子は女の子らしからぬ声を上げて驚いた。 そこにはインデックスと同じでその場で料理を食べている婚后、泡浮、湾内が人目を気にする事無く食べていたのだから。 「婚后さんはともかく、泡浮さんや湾内さんまであのようなことを……! ○○様、わたくしちょっと注意してまいりますわ」 同じ常盤台の生徒としてインデックスと同じことをされるのは恥ずかしいと思った黒子は婚后達に注意する。 「ちょっとそこのお三方。料理はそこで食べるものではなく、ちゃんと席に持ち帰ってから食べて下さいな」 「白井さん! あなたまでこちらにおいででしたの! ですが何を言ってますの? わたくし達と同じように食べてる方がいらっしゃるではありませんか」 「うぐっ……! あ、あれは特殊な例ですの! バイキング形式がどうゆうものか分かっていらっしゃらないんですの?」 自分達と同じようにしているインデックスを引き合いに出されて困る黒子だが、それでも婚后達に注意する。 しかし婚后の言うことを信じている泡浮が黒子に対して穏やかに反論する。 「立食パーティーみたいなものですわよね? でしたらわざわざ席に持ち帰る必要は無いと思いますが。ねえ? 婚后さん」 「は? あの泡浮さん、バイキング形式とはそもそも……なるほど、そうゆうことでしたの。分かりました、黒子が一から教えて差し上げましょう」 黒子は泡浮の発言に婚后のいつもの見栄っ張りが発動したと思い、バイキング形式の正しい説明をした。 その後で婚后のフォローをし、本人に泡浮と湾内に謝らせることに。 「本当に申し訳ございませんでしたわお二人とも。つい見栄を張ってしまい、あのようなことを……」 「気にしないで下さいまし。わたくし達はそんな婚后さんとお友達でいられて幸せなのですから」 「そうでございますわ。でも、次からはわたくし達に遠慮なく相談して下さいな。わたくし達はお友達なのですから」 更に仲良くなった3人を見た黒子は安心して青ピの所へ戻ろうとしたが、婚后からこんな提案がなされることに。 「ところで白井さんはお一人ですの?」 「え゛? ち、違いますわよ。連れというかわたくしの恋人が一緒なのですが……」 「本当ですの! それは是非ご挨拶しなければいけませんわ! この婚后光子のライバルの一人でもある白井さんの殿方、どのような方か興味がありますわ!」 「い、いや、そのような大層なお方では……いえ、立派なお方ですわ。ですがわざわざ挨拶するほどのことでは……。泡浮さんも湾内さんもお困りではありませんの?」 婚后一人なら力づくで黙らせるのだが、店内ということと人目が多いということから強行手段に出られない黒子。 仕方なく泡浮と湾内に話を振って何とかしようと思っていたのだが、お嬢様の好奇心を彼女は侮っていた。 「「わたくし達も白井さんがお付き合いされてる方にお会いしたいですわ♪」」 「……分かりましたわ(ど、どどどどうしましょう! ○○様は素敵な殿方、それは間違いありません。ですが! あの子達には刺激が強すぎますわ!)」 青ピのことは心から愛してる黒子ではあるが、婚后達の常識をある意味で凌駕してる点で不安だらけだった。 結局断るわけにも行かず、黒子は自分の恋人の青ピを紹介する為に婚后達を連れて自分の席へと戻ることに。 そのころ、神裂とシェリーはシェリーのある一言であることに気づいた。 「そういえば建宮はどこ行ったんだっけ?」 「たしか、飾利と一緒にビデオの交渉している……って」 「「あいつ、気づかない内に飾利と一緒に居やがる!」」 神裂とシェリーは自然に建宮が初春と一緒にいる事に気づいた。 そして、神裂とシェリーは初春の所に向った。 そのころの建宮達はというと… 「さっきから言ってるけど、そんな大勢で見れる所は無いんだよ。」 「ですから、そこを何とかしてくれませんか?」 初春達はビデオを見るのはOKと言われたが、見れる場所が無かったのだ。 「飾利姫が頼んでいるので、そこを何とかお願いしますよね!」 「分かった、分かった。そこまで言うなら何とかしてみるよ。」 という事で、場所は店長が何とかするということで交渉は終わった。 「建宮さん。ありがとうございます。これで何とか見れますね。」 「これも飾利姫の為にやった事なのよね。それに、飾利姫の為ならなんでもごふっ!」 建宮が何か言おうとしたらシェリーと神裂に殴られた。 「いきなり何をするのよね?」 「建宮、どさくさに紛れて飾利と一緒に居たでしょ。」 「そうだ。飾利と一緒に居ていいのは私だけだからな。」 「シェリー、あなたも何回言えば分かるんですかですか。」 さっきまで真面目に話していたシェリーと神裂は、さっきの仲は何のかけらも無く喧嘩していた。 また建宮だが、二人によって床で倒れている。 「そういえばヴィリアンさん。さっきは交渉していたものですみませんでした。」 初春は喧嘩している三人はほって置いて、さっきからいたヴィリアンと話し始めた。 ちなみに木山だが、交渉が終わるとすぐに個室に戻っていた。 「気にすることではない。私はただ、あなたに色々とお礼を言いたかっただけだから。」 「そうだったのですか。お礼なんて良いですよ。」 「私がお礼しないとすまないから。」 「分かりました。」 という事で、ヴィリアンは初春にお礼をした。 「ああ、飾利が王女様と普通に話してる……ああ、初春と言ってた頃が懐かしい。」 「ええと、確か上条からの紹介だったのか?王女様とのご対面って?」 「いいえ、飾利が兄さんの人間関係を極力調べ上げて、紹介してもらったんです。」 「なんか上条氏も初春氏も只者じゃないですね……」 「んであっちのおっさんは?もしかして歳の差カップル?」 ウィリアムは耳をピクンと立てたが三人は気にせず、 「王女様から聞いたんですけど、ウィリアムさんって言うらしくて、なんか命を助けられたみたいで、それからなんやかんやあったらしいですよ?」 「ちなみにそのなんやかんやが一番気になるんですけど?」 「それが教えてくれないんですよー、あっ、そういえば浜面さん?でしたっけ?あの人も危ないところ助けられたみたいですよ?」 「ほう、それは後でお礼しないとな……」 「それはいいいんじゃないですか?ウィリアムさんって兄さん…上条さんですけど…前殺そうとしたらしいですよ?」 「「どんな関係だよ!!」」 このウィリアムと上条との昔話は、必ずこのようなツッコミをするらしい。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/471.html
9月25日(午後1時30分)、ロンドンの日本人街(天草式の拠点) フルチューニングが、シェリー・クロムウェルに弟子入りして2週間近くが経過した。 その期間には、『残骸』を巡る戦い、『大覇星祭』、リドヴィアの使徒十字を使った学園都市攻略未遂など、 様々な出来事があったのだが、天草式の面々とは基本的に無関係であった為ここでは省略。 そして今、フルチューニングは天草式の少年香焼と立ち話をしていた。 「まだお茶っ葉は残っているのに、何でまた新しく買っちゃうんすか!」 「む!…店長が、これは最近仕入れたばかりの特別製だってお勧めしてくれたんです!」 「大して味なんて変わらないすよ!」 「そんなことありません。レイは香焼と違って舌が繊細なんです!」 「嘘だ!だって昨日レイが作ったエビチリ、ぶっちゃけまずい…」 「えい」 バリバリバリ!とすっかりお馴染みの音を立てて、フルチューニングの電流が香焼に直撃した。 「だからそれ卑怯…ギャアアア!!!」 ぷしゅー、と空気が抜けたように倒れる香焼。 それでも怒りが収まらないフルチューニングだったが、約束の時間が近い事を思い出して意識を切り替える。 「もうこんな時間ですか。ちょっとレイはお出かけしてきます」 「え!?…ここ最近しょっちゅう出かけてない?」 「ふふん、年頃の女性には色々お付き合いというモノがあるのです」 そう言い残すと、フルチューニングはいそいそと外へ出て行った。 「…」 どことなく香焼がむくれていると、対馬がやってきて彼の頭をポンポン、と慰めるように叩いた。 「何落ち込んでるのよ…最近レイに構ってもらえなくて寂しいんだ?」 珍しくニヤリとした笑みを浮かべる対馬に、香焼は必死で反論する。 「違うすよ!別に寂しくないし!」 「ホント?」 「当然じゃないすか!」 「そっか、分かった。あのね、男がツンツンしても意味無いのよ?」 「全然分かって無いじゃん!」 顔を真っ赤にして怒鳴る香焼を見て、対馬は溜息をついた。 (こりゃー苦労しそうね) (レイからの進展はまず期待できないし…) (どっちもまだまだお子様っていうのが問題よね) (まあ、レイをしっかりリードするなんて、期待できるとすれば…) 対馬がチラ、と後ろを見ると、ちょうど建宮がレイを探しに来たところだった。 「あれー、またレイは外出中なのよな?」 「そうみたいね。…あなたもやっぱり心配?」 対馬が探るように質問すると、建宮はニヤリと笑った。 (お、余裕ね。ちゃんと信頼してるって事かしら?) 心の中で、対馬が珍しく建宮を高く評価をする。 そんな事を知る由もない建宮は、チチチと指を振って答えた。 「確かに危なっかしいところはあるが、それでもレイは馬鹿じゃないのよな」 「まあ、そうよね」 「大体、俺はレイが“いない”事を確かめに来たのよ」 「…へ?」 「何せ、アイツは俺の秘蔵本(コレクション)を遠慮なく燃やしちまうからな」 「は?」 「鬼の居ぬ間になんとやら、今のうちに無事な本を隠さないといけないわけで…」 その言葉を聞き終える前に、対馬は教皇代理(今一番偉い人)の股間を蹴り上げた。 ぐおおおお!と悶絶する教皇代理(繰り返すが、今一番偉い人)。 (このバカに期待した私がバカだった!) (っていうか、リードするどころかこいつが一番ガキじゃない!) 怒り気味に歩いて、対馬はその場を後にする。 今日も天草式は平和だった。 9月25日(午後2時00分)、ロンドンのとある廃墟 日本人街からやや離れたこの廃墟が、フルチューニングにとっての教室である。 フルチューニングが時間通り到着すると、すでにシェリーがいつもみたいに不機嫌そうな顔で待っていた。 そのシェリーに、笑顔で頭を下げるフルチューニング。 「いつもありがとうございます師匠」 「毎回頭下げなくていいって言ったでしょう」 「でも…」 「それより、『課題』はキッチリこなしてきたんだろうな?」 「成功したのは一回だけでしたが」 「ふん、じゃあとりあえずここで試しにやってみろ」 「はい!」 元気良く返事したフルチューニングが取りだしたのは、シェリーからもらったオイルパステルだ。 「まずは復習。――浮遊術」 「はい」 フルチューニングが、勢いよくオイルパステルで自分の靴に魔方陣を描く。 5秒ほどで完成した術式は、すぐにその効果を発揮する。 最初は少しふらつきながらも、フルチューニングは地上15センチのところで浮いたまま安定した。 「うん、良い感じね。後は構築スピードを上げる事。何千回と反復しなさい」 「はい!」 「じゃあ本番。――人形作りを始めな」 その言葉に、フルチューニングも緊張する。 この術式は極めて難易度が高く、成功した(ように思えた)のはたった一回だけだからだ。 (落ち着いて、今まで習った事を確認) それでも、フルチューニングは臆することなくオイルパステルで魔方陣を生成する (大事なのは、具体的なイメージの構成と力の流れ!) (いけえ!) 「おいおい、まさか本当にゴーレムを!?」 誰よりもその難しさを知るシェリーが驚嘆する。 (ありえない…たった2週間程度学んだだけでゴーレムを作り上げるなんて、天才ってレベルじゃねえぞ!?) 慄くシェリーを無視して、フルチューニングは術式の完成を急ぐ。 術式の完成に3分ほどかかりながらも、フルチューニングは遂にゴーレムを出現させた! 言葉を失うシェリー。 「…なに、ソレ?」 「これがレイのゴーレムですが?」 「…」 フルチューニングの足元には、10センチほどの大きさで、一応2足。だが頭部が明らかにカエルっぽいモノがいた。 (焦らせやがって…良く見りゃ基礎理論のカバラからしてガタガタじゃねえか) (人間の複製どころか、これじゃ精々出来の悪いオモチャってとこね) (まあ、それでも一定の成果が出たのは褒めてやるべきか…?) 安堵するシェリーに、フルチューニングは少しムッとして告げる。 「レイのゲコ太をバカにするのですか?」 「いやいや、まずはここまでやれりゃあ…ゲコ太?」 「はい」 「ゲコ太ってナニ?」 「? 愛らしいカエルのキャラクターですが」 そう言ってレイは、お茶屋の主人から貰ったストラップを取り出した。 「確かに、最初に師匠が見せてくれた『エリス』とは比べ物になりませんが…」 「こっちの方がかわいいですよ?」 だが、シェリーはフルチューニングの話を聞いていなかった。 その取り出されたストラップと、ゴーレムを真剣に見比べている。 (…最初から、ゴーレムの造形はあのストラップを目指していた、ということ?) (私が教えた術式は、あくまで人型を作るための術式) (どう頑張ってもカエル顔になるわけがねえ) (それなのに、自分の中のイメージをここまで具現化させるなんて!) (これが、超能力者の持つ『自分だけの現実』ってやつなのかしら…) フルチューニングの作ったゴーレムは、大きさも強度も大したことはない。 ましてや、シェリーの『エリス』のように天使をモチーフにすることで強化されている訳でもない。 戦闘力としては0と断言できるレベルだ。 それでも、シェリーはそのゴーレムに恐れを抱いた。 魔術は学問だ。科学とは違うが、厳密なルールと法則が存在している。 あのゴーレムは、その法則を捻じ曲げなければ作り上げることは出来ない。 (そう、普通の魔術師には曲げる事の出来ないルールがある) (…私は、あの術式であんなゴーレムは作れない) (けど、レイは超能力者だ。“普通じゃない”) そもそも、超能力というものは物理法則を捻じ曲げて超常現象を起こす力の事を言う。 だから。 もしも超能力者が魔術を使えるならば――その曲げられない魔術のルールを捻じ曲げる事も出来るのでは? そこまで思い至って、シェリーはごくりと唾を飲み込んだ。 (あるいは) (レイに魔術を使えるようにした誰かさんは…) (それこそが目的だったのかもしれないな) シェリーがそこまで考えているとは知らないフルチューニングは、見つめられてもキョトンとしている。 「…やっぱり、全然ダメでしょうか…?」 「いやあ…」 「次は50センチ以上を目標に頑張りますから!」 「…そうだな」 ようやくほっとしたフルチューニングは、さらにシェリーに問いかけた。 「何か造形のコツがあれば、詳しく教えて欲しいのですが」 「…うーん…」 返答に悩んだシェリーは、結局こう答えた。 「とりあえず、レイの場合は…完成形を強くイメージするのが効果的だと思う」 「はい」 「ただ、なぜゴーレムが出来んのか、その理論体系もちゃんと頭の中に入れておけ」 「分かりました」 その時、フルチューニングの携帯に着信が入る。 シェリーが無言で出ても良いと促すと、フルチューニングは頭を下げて通話を始めた。 「はい」 「…いつですか?」 「…分かりました」 「はい、では」 20秒足らずの会話を終えると、フルチューニングはもう一度頭を下げた。 「すいません、もう帰らないといけなくなりました」 「別に構わねえけど、何かあったのか?」 「明日、天草式のみんなでイタリアへ行く事になりました」 「イタリアに…何で?」 フルチューニングは、少し嬉しそうに笑った。 9月27日(午前11時00分)、イタリアのキオッジア キオッジアでは珍しく、うだるような暑さを感じるほど気温の高いその日。 天草式のメンバーは、元ローマ正教(現イギリス清教)の修道女オルソラの引越しの手伝いをしていた。 当然フルチューニングも、汗を流して部屋の片づけに参加している。 「オルソラさん、この台所用品はもう箱詰めしますか?」 「あ、それはまだ置きっぱなしで大丈夫でございますよ。後でお昼ご飯を作る必要もありますし」 「そうですか。ではこっちの衣類を纏めておきますね」 「あ、レイちゃん。それ埃がすごいから、おしぼり使って?」 「ありがとうございます。…ところで五和さんは幾つおしぼりを持っているんですか?」 ただし、今この場で引っ越し作業をしているのはフルチューニングや五和を含む5人だけであった。 他のメンバーは、建宮と共にどこかへ出かけてしまっている。 (建宮さんは、『気になる事があるからちょっと調べてくるのよな』って言っていましたけど…) (いつものふざけた感じで話していましたが、やけに目が真剣だったのが気になります) 少し不安げな顔をするフルチューニングだが、そこにオルソラがいつもの笑顔で話しかけてきた。 「あらあら、レイさんはちょっとお疲れですか?」 「違いますよー」 「では、一緒に買い出しに行きましょう」 「…この場合話は繋がっていると判断するべきでしょうか…?」 マイペースなオルソラのおかげで、とりあえずフルチューニングは不安を一旦脇に置いておくことが出来た。 それにどうやら、オルソラは天草式のみんなに必要な日用品を買いに行くつもりらしい。 みんなに必要なものを聞いて回っている。 「分かりました、ご一緒します」 「さあさあ、外は良い天気でございますわよ」 「だから行くって言ってるのに、何でレイを引きずって行くのですか!?」 ズルズルと首根っこを掴まれながら、フルチューニングは買い物に出発した。 必要なものを購入し、オルソラの家へ2人が向かおうとした時のこと。 「あれ?」 フルチューニングの視界に、見た事のある純白のシスターが映り込んできた。 しかも、何故かジェラート専門店のウィンドウに張り付いている。 「…オルソラさん、あの子はもしかして…?」 「まあ、イギリス清教のインデックスさんでしょうか」 フルチューニングの声かけで気づいたオルソラも、はんなりと驚いた様に声を上げた。 とりあえず、2人はインデックスに話しかけてみる事にした。 「あれ?オルソラ、久しぶりだね!」 「お久しぶりでございます、インデックスさん」 「ねえねえ、オルソラ。これが本場のイカスミジェラートかな!?」 「そんなことより」 話が進みそうになかったので、フルチューニングが強引に割って入った。 「どうしてあなたがイタリアにいるのですか?」 「あれ?あなたは一緒にオルソラを助けてくれた…」 「レイです。で、何でイタリアに?」 「とうまと旅行に来たんだよ!」 「それは楽しそうでございますねえ」 「…で、その『とうま』は今どこですか?」 フルチューニングが呆れながら尋ねると、インデックスは顔を青くした。 「ああ!とうまが迷子になった!?」 「って言うか、あなたが勝手にはぐれたのでは?」 「違うもん!」 フルチューニングの辛辣な突っ込みに、インデックスが今度は顔を赤くした。 「どうしよう、とうまはイタリア語を喋れないんだよ!」 とりあえず、このままオルソラとインデックスを連れて人を探すのは遠慮したい。 ついでに引越しの人手も足りないから、インデックスと上条当麻にも協力してもらおう。 そう考えたフルチューニングは、インデックスとオルソラを先に家に帰し、自分で上条当麻を探すことにした。 「…オルソラさん、インデックスさんを連れて先に家に帰っていてください」 「あら?」 「レイが上条さんを探して、一緒に帰りますから」 「でも、とうまはこれから観光とか食事をするって…」 少し渋るインデックスを、オルソラが魔法の言葉で説得する。 「私がこれからお昼を作りますので、ご一緒されるのはどうですか?」 「行く!」 「…極めて簡単に説得できましたね…とにかく、レイは付近を探してみます」 「分かりました、気を付けるのでございますよ?」 「…はい」 そっちこそ気を付けて欲しい、と口に出せないフルチューニングは、とりあえず返事をして走り出した。 9月27日(午前11時30分)、キオッジアのとある大通り フルチューニングが上条当麻を見つけた時、予想通り彼は弱りきった顔をしていた。 「…こんにちは、久しぶりですね」 「あああ、インデックスはいねーし、言葉は分からねーし、マジどうすればいいんだよ!」 「あの」 「ちっくしょう、この異国の地で天涯孤独になるなんて、なんて不幸なんだー!」 「話聞けよ」 バリバリバリ!とフルチューニングが電撃を放つ。 右手にスーツケースを持っていた上条は、何の防御も出来ずに直撃を食らった。 「オアアアアア!?」 「ようやく気付いてくれましたか…でも、何故能力の無効化をしなかったのでしょう…?」 「な、なんでビリビリがイタリアに…って、あれ?」 「残念ですが、レイはオリジナルではありません」 「お前、確か天草式と一緒にいた妹達…」 「はい。名前はレイと言います。」 「レイ?」 何故か不思議そうな顔をする上条に、フルチューニングは堂々と説明した。 「妹達の試作型、検体番号00000号という最初の名前を元に、天草式のみんなが名付けてくれました」 「試作型…一番最初に作られたって事か?」 「はい」 「だって、その、妹達っていうのは、実験で殺される為に…」 「いいえ。妹達を作る最初の目的は、レベル5を人工的に作り出す事でした」 「試作型としてレイが作られた後、それが不可能と分かり実験は凍結。その後妹達はレベル6を作る実験に流用されたのです」 「そうか…で、なんでレイは天草式と一緒にいるんだ?」 「実験が凍結され廃棄されたレイを、製造者が金策の為売り払おうとしたのです」 「なんだって!?」 「ところが、その取引現場にいた天草式のみなさんが、レイを助けてくれました」 「そしてここにいろ、と居場所を作ってくれたんです」 「そっか…良かった…」 ほっとする上条に、フルチューニングは冷たい目で糾弾した。 「それなのに、あなたは天草式のみんなのことを、『あんな連中』だの『凶人』だのと…」 「う!」 「しかもレイや建宮さんを、思いっきり殴ったりするなんて…」 すいませんでしたー、と上条が土下座ダイヴを披露。 やたらと土下座に慣れた様子を見て、フルチューニングは彼の日常生活が気になった。 「もういいですよ」 「え?」 「あなたは、妹達をあの実験から救ってくれましたから」 「それでチャラにして上げます」 ポカンとしている上条に、レイは笑顔を向けた。 「それよりも、さっきインデックスさんを見かけましたが」 「ああ、そうだインデックス!」 「今は、オルソラさんと一緒に彼女の家へ向かっているところです」 「オルソラ?…オルソラはイギリス清教に入ったから、ロンドンにいるはずだぞ」 「オルソラさんは元々ここに住んでいて、まだ家財道具なんかが残っているんです」 「レイたち天草式は、その荷物をロンドンへ運ぶお手伝いに来ているんですよ」 「はー、なるほど。それでインデックスは…」 「たまたま買い出し中に、インデックスさんがジェラート専門店のウィンドウに張り付いているのを見つけました」 「あの馬鹿!」 「大丈夫ですよ。お昼を御馳走すると言ったら、喜んでオルソラさんに付いて行きましたから」 「ちっとも大丈夫じゃねえー!何だよアイツ、俺を置いて食べ物の事ばかり!」 今日はこっちが噛み付いてやる!と怒る上条だが、レイはそれを無視して会話を続行。 「とりあえず、オルソラさんの家に案内します。あなたの分のお昼もオルソラさんが用意してくれますよ」 「でも、それは悪いよ。それに俺たちこれから観光もするし…」 「ぶっちゃけますと、引越しの人出が足りないんです。黙って付いてきてください」 「ひど!?それが本音かよ!」 「じゃあ、このままイタリアで孤独に彷徨うといいでしょう」 「ちくしょう、拒否権がねえ!」 ガックリと項垂れながら、上条はフルチューニングと一緒に歩き出した。 「あれ、レイはイタリア語喋れるの?」 「当然です。学習装置によって、主要20カ国の言語をマスターしています」 「何かそれズルイだろ!?」 イタリアを舞台にした陰謀劇は、賑やかな2人の預かり知らぬところで密かに進行していた。 9月27日(午後3時00分)、オルソラのアパート 上条がオルソラのアパートに到着し、インデックスと合流してからおよそ3時間。 ジェラートを頬張るインデックスに脱力したり、何故か自分を見て怯える天草式に突っ込みを入れたり、 五和と呼ばれる少女からおしぼりを貰ったり、オルソラの作った絶品パスタに感動したり、 1品だけ美味しくないラザニアに顔をしかめたら、何故かフルチューニングから電撃を食らったり。 賑やかに過ごしながら、上条とインデックスも引越しの手伝いをしていた。 「なあ、なんでお前が怒ってるんだよ…?」 「別にレイは怒ってなどいませんが?」 嘘だよ、絶対キレてるよ!とは言いだせず、上条はピリピリしているフルチューニングと一緒に箱詰めをしている。 お昼を食べ終えてからもう2時間以上もずっとこんな調子なので、そろそろ上条の心も折れそうだった。 「…まだレイは経験が浅いから…!」 「いつか必ず…」 「それともオリジナルのセンスの所為で…?」 フルチューニングが、まるで呪詛のようにブツブツと独り言をいっていると、埃まみれのインデックスが現れた。 「うあー。とうま、何だか修道服のあちこちが汚れてきたかも」 「あのな。引越しの作業をしてんだから少しぐらい汚れるのは当然だろうが」 「それはそうですが、確かにこの汚れはレイも気になりますね」 上条が、ようやく呪詛を終えたフルチューニングに目を向けると、確かに彼女は人一倍埃まみれだった。 フルチューニングはずっとイライラしていた為、わずかに電撃が漏れていたらしい。 その電撃がまるで静電気のように埃を吸い集めた結果、フルチューニングの全身に埃が集まっていたのだ。 「まあまあ。では、お二人は先にシャワーを浴びるといいのでございますよ」 「…良いんですか?」 レイの問いかけに、オルソラは笑顔で頷いた。 「はい。まだ箱詰めされていないのは食器ぐらいですし、先にシャワーを済まされた方が時間を短縮できますでしょう?」 「じゃあ、そうさせてもらうんだよ!」 「ありがとうございます、オルソラさん」 そしてオルソラは、2人をシャワー室へ案内するため出て行った。 それから15分後。包装用新聞紙が足りなくなった上条は、新聞紙を探していた。 一応置き場所は聞いたのだが、オルソラに言われた場所は只の廊下で、その廊下には2つのドアが並んでいる。 どちらの部屋かオルソラに聞こうにも、彼女は今外にいるトラック運転手と打ち合わせ中だった。 (しょうがない、片っぱしから入って見るか…) 上条が大して考えずに左のドアを開けようとすると、中からインデックスの気持ちよさそうな鼻歌が聞こえてきた。 しかもご丁寧に、水音…シャワーの音までセットで。 (うお!…これはお風呂場という名の罠か!) (危うくボコボコにされるところだった…) 上条は慌てて手を離し、ホッとしながらもう一つのドアを開け放った。 「…何をしているのですか?」 その上条の眼前。溢れる湯気と共に、タオルすら纏っていないフルチューニングが無表情で立っていた。 「うぎゃああ!!え、あれ!?…こっちも風呂!?」 「…そう言えば、建宮さんが言っていました。あなたは夏の終わりに、女教皇の裸身も目撃していた、と」 「ひょっとして…そう言う趣味ですか?」 淡々と質問するフルチューニング。何分羞恥心が薄いので、誰かさんのように慌てることも無く冷たい目で見つめてくる。 「ち、違う!俺はただ新聞紙を探しに来ただけで…!」 「新聞紙?…廊下の奥に纏めてありますが」 「マジか!…っていうか、シャワー室は隣じゃねえのかよ!?」 「ここは“2部屋共”シャワー室ですが?」 「そんなのありかよ!?どっちを選んでも地獄しかねえじゃねえか!」 「…あなたには、ノックをするという概念が無いのですか?」 「あ」 その言葉を最後に、上条はフルチューニングによって蹴り飛ばされた。 さらにタイミングの悪い事に、その直後。 ドライヤーに驚いて飛び出したインデックスと遭遇した上条は、いつも以上に噛み付かれることになった。 9月27日(午後5時30分)、オルソラのアパート前 いつもどおりのお色気&暴力イベントが有ったものの、それ以外は順調に作業は進行した。 そして日が暮れた頃、ようやく引越し作業は終了となった。 荷物を積んだトラックが走り去るの確認したフルチューニングは、建宮に渡された通信術式でその報告をしている。 「こちらは無事に終わりましたよ」 『ご苦労さんなのよな。人手を送れずに悪かったなあ』 「それは構いませんが、一体建宮さんたちは何をしているんです?」 『あー…実はこの辺りで、不穏な魔術の動きがあってな』 「不穏な魔術?」 『そう、それも恐らくはローマ正教の術式と見て間違いない』 「まさか、オルソラさんを狙って?」 『“違う”。少しばかり連中を掻きまわしてみて分かったが…かなりの大規模魔術なのは間違いないのよな』 「?」 『要するに、オルソラ嬢1人を狙う術式にしては、どう考えても釣り合わんのよ』 「詳しい事は分かりませんが、とりあえずオルソラさんは心配ないのでしょうか?」 『・・・多分、としか言えないが。とりあえずお前さんたちもこっちに合流してほしいのよな』 「分かりました、どこに行けば?」 『ああいや、今から30分後に迎えに行く。何せ今我らは海の中なのよな』 「海の中?」 『そう、お前さんに携帯ではなく通信術式で連絡を取らせたのもそれが理由だ』 「電波が届かないからですか…」 『そう言う事よな。天草式の上下艦で海の中に逃げ込んで、連中から隠れたってわけよ』 「また危ない事を…!」 『ちなみにこの上下艦っちゅーのは、引越しの時レイが間違って濡らして大慌てしたあの霊装なのよ』 そう言って、建宮がクスクスと笑った。 もちろんこれは、心配したフルチューニングの意識を逸らすための誤魔化しである。 だが、そうとは気づかないフルチューニングは顔を真っ赤にして怒った。 「あ、あれは建宮さんたちがちゃんと説明してくれないから…!」 その時。 フルチューニングの耳に、インデックスの緊迫した声が届いた。 「みんな伏せて!」 「狙いを右へ(AATR)!!」 咄嗟にフルチューニングが振り返ると、オルソラが持っていた鞄が横に飛ばされるのが見えた。 「とうま、そこから離れて!!」 「狙撃!?オルソラ!!」 インデックスの声に反応し、上条がオルソラを押し倒して狙撃から守る。 その上条を、運河から伸びた手が海へ引きずり落とした。 (まさか、襲撃!?) 入れ替わるように這い上がってきた襲撃者に、フルチューニングが駆け寄った。 襲撃者は小柄な男で、柄の短い槍をオルソラに突き刺そうとしている。 「させません!」 フルチューニングがそう叫ぶよりも早く、彼女の鋼糸が襲撃者の腕に絡みつく。 そして、強力な電流がその腕を完全にマヒさせた。 「オルソラさん、大丈夫でしたか?」 「は、はい。私はなんともございませんが…」 フルチューニングが襲撃者を拘束するのと同時、上条も海から上がってきた。 さらに狙撃手の方は、インデックスが対処したらしい。 ほっとするフルチューニングに、焦る建宮の声が届いた。 『レイ、何があった!?』 「…オルソラさんを狙った魔術師の攻撃がありました」 『なんだと…』 「しかも服装は、ローマ正教のものだと思います」 『なんてこった…!』 「ですが、とりあえず全員の無力化に成功していますし…」 フルチューニングが言い終える前に。 「今すぐここで撤退の船を出せ!あの女は船の上で殺してやる!」 報告の途中で、狙撃手がイタリア語で怒鳴りながら海へ逃げようと走り出した。 「逃がしませんよ!」 そうはさせない、とフルチューニングが追いかけようとするが―― ドパァ!!という轟音と共に撒き散らされた海水が、その足を止める。 「なんですかコレは…!?」 驚愕するフルチューニングを威圧するように、運河に巨大な帆船が現れた。 (目測で40m以上…この運河のどこにも、この大きさの船を隠せる場所は無かったはず。すると…) (この常識外れな現象…タイミング的にも間違いない…) (これが、建宮さんたちが気にしていた『魔術』ってことですか!) (…!) その時、フルチューニングがある事に気づく。 急いで鋼糸を近くの家の屋上へ結びつけると、その鋼糸に巻きついた自分ごと磁力で引き寄せた。 (鋼糸を利用した高速移動、何とかうまくいきましたね) そしてその屋上から下を見つめて、フルチューニングはやっぱり、と呟いた。 (あの溢れた海水ごと、魔術船を構築しているのですね) (今もあの場に留まっていれば、レイも船に攫われるところでした) 思わず座り込みそうになるフルチューニングに、掠れた建宮の声が聞こえてきた。 『レイ…大丈…なのか…』 (術式の調子がおかしい見たいですね…この魔術の所為でしょうか?) 「建宮さん?」 『異常…術式を…感知…イは…で待機…』 「待機?」 思わずムッとするフルチューニング。 その彼女の目に、上条たち3人が船の上で降りられなくなっている様子が飛び込んできた。 「あれは…マズイですね、あの先にはヴィーゴ橋があります。きっと砕いて進む気です!」 フルチューニングは完全に沈黙した通信術式を投げ捨てると、鋼糸を操って船の後端に結ばせた。 そして先ほど屋上へ移動した時と同様に、自分ごと引き寄せて船へと移動する。 (また誰かを傷つけるつもりなのですか…ローマ正教は!) その目に怒りを宿して、フルチューニングは事件の中心へ飛び込んだ。 この事件が、彼女に今までを遥かに超える絶望を与える事になるとは、微塵も知らないまま。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/219.html
「な、なんですか?とりあえずその格好はやめてください!!」 「「あなた(とうま)が悪いんですよ(かも)」」 早くもショーだと勘違いして人だかりが出来ている。 「そんな格好でも当麻の気持ちは変らないわよ。それとも恥をかきにきたのかしら?」 「その勝ち誇った態度には我慢できないかも」 「じゃあ勝負しましょう。ビリビリ貧乳中学生さん」 「いいわよ。どういう方法で?」 「勿論コスプレです」 「私は持ってないわよ」 「遊園地だからいっぱいあるかも」 そんな話をしている間にもどんどんと人は集まってくる。 「で、誰が一番いいかを当麻が選ぶわけね。いいじゃない」 「それでは不公平なので面白くないので集まってきた人全員に決めてもらいましょう」 「どんなルールでも嫉妬するような奴には負けるわけがないわ」 何が不公平なのかは分からないがそういうルールになった。 「クソガキ!!引っ張るんじゃねェ」 「早くしないとコスプレショーがはじまっちゃうよーってミサカはミサカはせかしてみる」 「うーん…、どれにしようかしら…。」 美琴さんはただいま遊園地の衣装室 「うーん…よし、これにするか!!」 その衣装の名は 超子猫ミニメイド!! そのメイドの衣装はモコモコで、布がとても小さかった(色は黒!!) 美琴がコスプレ衣装を決めた頃、当麻はというと、 (美琴は何を着ても間違いなく可愛いのは目に見えてるからなー。上条さん的にはすでに勝負は決まったようなもんだが、美琴のコスプレ、早く拝みたいです!) 美琴がどんなコスプレで現れるのかを今か今かと待っていた。 しかしながら当麻に予知能力などあるはずもなく、美琴がどんな衣装で現れるのかも分からないのでとりあえず堕天使エロメイドで想像した結果、 「ブハッ!!!!」 物凄い大量の鼻血を噴出して、その場に崩れ落ちてしまった。 いきなりの大惨事にインデックスも五和も心配で駆け寄ったのだが、 「とうまっ! しっかりするんだよっ!」 「当麻さん!」 「くっ、な、なんて可愛いんだ堕天使エロメイド美琴……! ドジっ娘で甘え上手とは……! ダメだ美琴、結婚はまだ早いんだ!」 当麻の妄言を聞いた途端、無言で当麻の頭をどついた後でその場を離れた。 そして二人に芽生えたもの、それは美琴に対する死んでも負けられないという熱い思いだった。 そのころ、コスプレショー(だと思って)見るために集まった群衆の中に「とけこむこと」を得意とする集団が紛れ込んでいた。 「建宮!!離しなさい!!あの二人を止めねば!!!」 「プッ、プリエステス!!あの二人は殺しはしないからここは自重して観察することをお勧めするのよな!!!」 「何をねとぼけたことを!!…ってなに浦上たちも頷いてますか!?」 「こいつら…」 あきれ顔の対馬。 ちなみに五和はコスプレに集中し過ぎているせいか、彼らに気が付いていない。 そして建宮がとんでもないことを閃く!! 「プリエステス!!上条だけに救いの手というのは不公平なのよな!!」「藪から棒になんですか!?」 「プリエステスはここに集まったオーディエンスを失望させてもいいのよな!?」「なっ!?」 そう、そこにはすでに大きな人だかりが。 「で、ではどうすれば?」「ふっふっふっ、簡単なことなのよな。」 「なんですって?」「聞きたいのよな?」 「「「「聞きたいです。」」」」天草式、全員一致。 そして 「止める方もそれなりの格好をすればいいのよな!!!!」「…つまり?」 そして建宮ははるばるロンドンから持ってきた怪しげな袋を取り出す。 そう、それは! 「ジャーン!!大精霊チラメイド【レベル5】!!大精霊チラメイドをさらに強化した決定版なのよな!!!!!!」 「こっ、これを着ろと!!!???」 「「「「「「イエス!オフコース!!!!!」」」」」」天草式男集全員一致。 さあ、神裂、どうする? 「せめて、堕天使エロメイドにしてください…!!」 天草式の野郎どもが歓喜の声をあげたのは言うまでもない。(堕天使エロメイドもレベル5である。) その頃の上条は…。 「にしても、美琴が何着てもエロい気がする…。あいつは体のラインとかでもエロよな…。 それに最近も成長してきた気がするしな…。」などとほざいている。 その頃のインデックスと五和。 「のろけてますね…。」 「のろけてるんだよ…。」 とその時、五和は殺気を感じた。 (な、なんですか…、この殺気は…!!) その殺気は…
https://w.atwiki.jp/ng3ggc/pages/4119.html
名稱:陳叔寶 伺服器及顏色:5服藍類型:文 性別:男 生命值:待補 武力:36 智力:32 防禦:13 敏捷:49 運勢:104 敘述:陳後主陳叔寶(553年—604年),字符秀,南北朝時期陳朝末代皇帝(第五代,583年—589年在位),在位7年,年號至德、禎明。陳叔寶是一個荒*的皇帝,「奏伎縱酒,作詩不輟」(《南史·陳本紀》),為張麗華作艷詞《玉樹後庭花》,又大建宮室,濫施刑罰,朝政極度腐敗。唐朝詩人杜牧有詩《秦淮夜泊》:「煙籠寒水月籠沙,夜泊秦淮近酒家;商女不知亡國恨,隔江猶唱後庭花。」
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1601.html
「もう、それぐらいにしてあげたほうがいいと思うの。建宮さんっていう人がかわいそうなの」 一応、春上が止めに入った だが絹旗と佐天は攻撃を止めるつもりはなかった 「超いいんですよ、建宮だから。こいつは超こういうやつです」 「そうだよ、止めることないよ、春上さん。そういえば、今日はやけに飾利が静か「ふふっ……」ヒッ……!」 佐天が言い切るまえに不気味な笑い声がした 今まで黙っていた初春が動き出した。 そしてどこからともなく取り出した耳栓を絹旗と佐天以外に渡して付けさせるとしゃべりだした 「覚悟はできてますね、最愛さん、涙子さん♪」 「「ヒィィッ!!」」 不気味な宣言と共にこの日、三回目の初春の説教が始まった 「ま、待って下さい飾利! 私、シェリー、春上、建宮、闇咲は耳栓を渡されていますが周りの生徒は……」 「確かにここでは生徒の皆さんに迷惑かかっちゃいますね。だったら周りに迷惑のかからない場所へ移動しましょう」 神裂の助言を受けて食堂から違う場所へ移動することを決めた初春、とりあえず耳栓をしている者達に耳栓を外すように促す。 その後で闇咲の佐天と絹旗をお説教するのに適した場所を聞き、生徒指導室という答えが返ってきたので速やかに移動を開始する初春、神裂、シェリー、連行される佐天と絹旗。 「すみません春上さん。私、これからお二人にお説教をしなくちゃいけませんのでこれで」 「う、うん。初春さんも佐天さんと絹旗さんへのお説教は程々にしてあげて欲しいの……」 春上の頼みに笑顔で返答を返した初春、春上は安心したが初春の裏モードをよく知っている者達は不安を全く拭えていなかった。 初春一行が食堂を去り、変な緊張感が解けると建宮が闇咲が自分を笑ったことへの抗議を始める。 「闇咲、お前さんマジでひでぇのよな! 同じ学校に勤めててわしのこの格好は既に目にしてるだろ! なんで油断してると笑いやがるのよ!」 「む……。す、すまない。確かにその格好が理に適ってるとはいえ……な」 建宮がこの仕事着をチョイスした理由の一つに、侵入者を油断させる為という目論見もある。 忘れがちだが建宮が友愛高校で働いているのは『当麻、ならびに当麻の仲間達の警護』であり、彼の仕事着を見れば油断しない者はあまり居ない。 というわけで侵入者対策でもあるのだが、本人が実は単にお気に入りだからチョイスしたというのは内緒の話である。 「探したぜよ春上ちゃん。まったく一人でうちの高校を出歩くなんて危ないにも程があるぜい」 「そうだよ衿衣ちゃん。私も元春もとっても心配したんだよ」 「土御門さん、白雪さん、ごめんなさいなの。でも心配してくれてありがとうなの。あたし、とっても嬉しいの」 迷子(?)の春上と合流した土白、目の前の少女が自分達の高校の生徒に絡まれなくて一安心していた。 その後で土白は春上が一人で行動していた理由、ついさっきまで初春達と一緒にいたことを聞かされる。 「(初春ちゃんを怒らせるなんて佐天ちゃんと絹旗、一体何やらかしたんだ?)そっか、それは大変だったにゃー。それで春上ちゃんはこれからどうするぜよ?」 「一緒に来た人達で残ってるのは御坂さんだけなの。でも御坂さんは上条さんと一緒がいいと思うから邪魔したくないの。土御門さん、白雪さん。良かったら一緒に帰って欲しいの」 「あー、俺らの方は……いや、何でもない。分かったぜよ、中学生の一人歩きは何かと物騒だからな、寮まで送ってやるぜい。月夜もいいかにゃー?」 「オッケーだよ」 こうして土白は春上と一緒に下校することになり、食堂を後にしようとしたが、 「しっかし建宮のその格好はいつ見ても奇抜にも程があるにゃー♪ 俺らの仲間の誰一人として似合うって言われないのによくやるぜよ」 「建宮さん、悪いことは言わないからそろそろ変えた方がいいですよ? もう少し趣味のいい仕事着に替えることをおススメします」 「なんとでも言いやがれ。このわしの仕事着を飾利姫だけは似合ってると仰ってくれたのよ! やはりあの方はわしが見初め認めたお人なのよね!」 「初春ちゃんはなんつーかセンスが特殊な子だかぶへらっ!!!!」 建宮に目が行ったこと、土御門が謎の襲撃者に襲われたことで中断されてしまった。 「「3万円の独り占めは絶対にさせんっ!!!」」 謎の襲撃者こと浜面と半蔵、襲撃理由は朝陽からの3万円を独り占めさせない為である(単なる二人の思い込み)。 滝壺、郭も合流して騒ぎ出した土白、浜滝、半郭をとりあえず傍観することに決めた春上、建宮、闇咲なのであった。 ―――――――――― その頃、上琴はというと打ち止めを保護した一方通行と合流を果たしていた。 「おーい!パパ、ママ!ってミサカはミサカは呼んでみたり」 「お、見つかったみたいだな」 上条たちは打ち止めの呼びかけに気が付いた 「どこいってたの、打ち止め?心配したのよ」 「ごめんなさい、ちょっとパパとあの人の学校探検してたのってミサカはミサカは説明してみたり」 「ったく、勝手にどっかいくなよ。学校見回りたいなら今度アクセラと一緒に案内してやるからな」 「わーいってミサカはミサカは喜んでみたり」 今度、一方通行と上条で打ち止めに学校を案内することになった 「ねぇ、当麻。私もそのとき連れっててよ」 「いいぜ、じゃあ美琴も一緒にな」 否、美琴も案内することになった 「終わったかァ?ンじゃァ、帰っかァ」 「アクセラ、今日はどうするんだ?」 「ン、今日は普通に帰るぞ。いっつも世話になっちゃァ悪ィからな」 「そうか。じゃあ途中まで一緒に帰るか!」 そして4人は一緒に下校していった ―――――――――――――――――――――――――――― 一方、土御門を襲った4人はというと、 「結局、俺たちはレベル5には勝てないと言うわけで」 白雪に制裁を受けていた。なぜか土御門まで そして、なぜか白雪の説教を受けていた 「確かに普段から疑われるようなことしてる元春も悪いけど、事実確認もしないで元春を襲う浜面くんと服部くんはもっと悪いよ」 「「「ごめんなさい……」」」 「それから滝壺さんと郭さん。二人は傍観してないで止めないと駄目だよ。まあ、相手が元春だから仕方ないかもしれないけど」 「「気を付けます」」 浜滝と半郭が怒られるなら分かるが自分が怒られてることに釈然としない土御門、しかし相手が月夜ということと普段の自分の行動を顧みると素直に従うほか無かった。 ちなみに浜面、半蔵、そして土御門の頭には月夜の氷のハンマーで殴られ、頭に大きなタンコブが出来ている。 「というわけでお説教はここまで。3万円のことはアクセラくんに聞くようにしてよ。さてっとお待たせ衿衣ちゃん……って建宮さんと闇咲先生は?」 「建宮さんは食堂が忙しくなってきたからお仕事に、闇咲先生は校舎の見回りがまだ残ってるって行っちゃったの」 「ふーん、そうなんだ。じゃあ私達も帰ろっか。空を飛んで帰る? それとも歩いて帰る?」 「歩いて帰りたいの。あたし、土御門さんと白雪さんともっとお話がしたいの」 春上と一緒に下校しようとする土白を見て、浜面が「土御門、またシスコン再発か?」と呟くと、 「「再発してないっ!!」」 土白のWパンチを喰らって吹っ飛ばされて気絶してしまう。 滝壺と半郭は土白と春上が去った後で、気絶した浜面を抱えて下校する為に制服に着替えに行くのだった。 (そういえばむぎのが付いて来てない。きっとどこかではまづらを狙ってる、油断しないようにしよう) ―――――――――― 「ずいぶん探したよ母さん。赤音さんと一緒に居るとは思わなかったけど」 「あんまりウロチョロするなよな母ちゃん。おかげで探すのに手間取っちまっただろ」 「悪い悪い」 こちらは母親の朝陽を探していた井ノ原ツインズ、ようやく朝陽と会えたことに安堵していたが赤音と一緒だったのには少し驚いている。 しかしそれ以上に驚いているのは制服姿の井ノ原ツインズを見た赤音だった。 「えっ? どうして二人とももう着替え終わってるの? ずるいっ! みんなで一緒に着替えようって言ったのにー!」 「……赤音さん、堂々と嘘吐かないで」 「ま、積もる話は帰り道ですればいいさ。着替えるのなら早く着替えて来い、赤音。私達は校門の前で待ってるからな」 「はいっ、おばさま」 実は井ノ原ツインズ、朝陽を探しに行く前に帰る準備をしようという真夜の提案もあって既に制服姿だったのだ。 赤音は一人仲間外れになったことをちょっと寂しく思いながらも急いで着替えに行った、後で真夜に今の分の寂しさを埋めてもらおうと思いつつ。 「そういえばお前達が世話になってる木山って先生に一度挨拶したかったんだが」 「また今度でいいんじゃないかな? 母さんのことだから球技大会本番も美咲華ちゃんの付き添いで見に来そうだから」 「さすがわが息子、いい慧眼を持ってるな。でもその時はもしかしたら私のクラスの生徒全員で来るかもしれんがな」 「(母ちゃんのやっかましい生徒どもも一緒かよ……。数、減ってくれりゃいいけどな)頼むから木山先生に変なこと吹き込むのは止めろよな」 朝陽は「分かってるって♪」と軽く言うが、真昼はその軽い返事に不安を覚えずにはいられなかった。 それから井ノ原ファミリーは校門前で赤音を待って合流、そのまま帰宅の途に就くのだった。 ―――――――――― 「はぁ、この子らホンマにどないしよ……」 一方、朝陽に白子と赤見のことを任された青ピ、帰る準備は出来てはいるが未だ気絶してる二人を持て余していた。 「とりあえず起こそうか」 そういいながら青ピは二人を起こそうとした 「え~と、なんやったっけ?赤見と黒井とかいっとったな。おーい、起きろー、赤見、黒井」 「ん~、はっ、ここは!?」 「んあ、……先生に投げられてから記憶ないんやけど……」 青ピが声をかけながらゆするとわりとはやく起きた 「おー、起きたか、君達ー」 青ピはやる気のない声で二人に声をかけた 「「ああ、師匠!」」 「まだ認めてないんやけど……」 青ピは戸惑ったが、朝陽に言われた事を思い出し、二人に問いかけた 「あー、君らの先生にまかせるって言われたんやけど、ウチに来る?下宿先のパン屋やけど……」 「「はい!お供します!」」 二人は元気よく返事をした 「はー……」 青ピは全然乗り気ではなかったが、二人を連れて帰ることにした ―――――――――――――――――――――――――――――――― 一方、結標はわがままな二人のために走り回っていた。別にその日終わらせる必要もないのに 「駄目ね、さすがにうちのクラスの野球組はもう帰ってるか……。ったく他人の皮膚を使わなきゃ成りすませないなんて面倒にも程があるわよ」 「お困りのようね。よかったら力になるけど」 友愛高校に戻って野球組、それも比較的やる気の無さそうなクラスメートから皮膚を剥ぎ取ろうと考えていた結標、しかしクラスメートは全員帰っていた。 そこにいきなり声をかけられたことで警戒を強めた結標だったが、その人物を見て少し警戒を弱める。 「あんた確か……雲川芹亜」 「あら? 私と貴女は初対面のはずだけど。まあ、いいわ。協力してあげるけど。『グループ』の結標淡希」 実は結標、転入して数日経ったある日、土御門から雲川のことを聞かされており油断だけはするなと忠告を受けていたのだ。 結標の警戒心などどうでもいいような感じで雲川は結標に思いがけない提案をする。 「貴女が球技大会に引き込もうとしてる二人、短期留学生として貴女のクラスに入れてあげようと思ってるけど。どう? これなら二人分の皮膚を剥がす必要もないわよ」 「(何でこいつ私のやろうとしてることを……。土御門の言う通り、油断ならないわ。けど)ええ、お願いするわ。余計な被害を出さないならそれに越したことは無いし」 雲川の情報収集能力に驚きつつも、渡りに船の提案だったので素直に受け入れる結標。 自分の提案を素直に受け入れた結標に対して満足気な笑みを浮かべた後でいくつか注意事項を告げた。 「制服を準備する必要はないわ。なにせ球技大会の期間中だけの留学生扱いだから。それと男の子の方に素顔で来るように言っておいて欲しいのだけど」 「了解、とにかく感謝しておくわ。でも最後に一つだけ聞かせて。どうして私に協力してくれるの?」 「この学校は、いろんな刺激に溢れているから。その刺激をもっと強く激しく楽しいものにしたいと考えるのは当然のことだと思うけど」 結標は呆れた、目の前の少女の愉快犯的思考に。 そして用事を済ませた雲川が踵を返した後で結標が雲川に告げる。 「楽しそうねアンタ。この学校を滅茶苦茶にでもしたいつもり?」 「そんなつもりは無いわ。貴女がどう思おうが、私は今の生活を愛してるけど」 「あっそ、ならいいわ。そういえばアンタは球技大会、参加するの?」 雲川は決して振り返らず「まさか」と一言、参加しない意向を示した後で手を振って去って行った。 結標はすぐさまこのことをエツァリとショチトルに連絡をするのだった。 一方、生徒指導室では初春の説教が終わったところだった 「どうしましょう、火織お姉ちゃん。二人とも気絶しちゃいました」 絹旗と佐天の二人は初春の説教が終わった事に気が抜けて気絶してしてしまったのである 「(……どんな説教を……)私が二人を担ぎますから、とりあえず寄宿舎に帰りましょう」 「わかりました、後の事は寄宿舎についてから考えましょう」 「よし、神裂、さきに帰ってろ。私は飾利と一緒に「シェリーさん」……はい、神裂と仲良く帰ります」 シェリーは神裂を帰らして初春を独り占めしようとしたが初春の言葉に負けてしまった 神裂はその光景をいい気味です、と思いながら見ていた 「じゃあ、帰りましょうか♪……みんな、仲良く♪」 初春の最後の言葉に二人はおびえながら頷き初春と供に帰っていた その帰る途中、絹旗と佐天が起きたが、初春の顔を見てひどくおびえていたらしい 時間は少し進んで夜、黄泉川のマンションでは打ち止めと芳川が晩ご飯を作っていた。 「ねえ美咲華、味付けはこれで大丈夫かしら?」 「どれどれ……ウン、充分おいしいよってミサカはミサカはお母さんの料理の上達ぶりに感心してる!」 「まあ、戸籍上とはいえ貴女のお母さんになったんだからこれくらいは、ね。とはいえ先に料理を作り始めた美咲華には敵わないけど」 「でも近いうちにミサカはお母さんに抜かれるよってミサカはミサカはそのことを喜んでみたり♪」 打ち止めが小学校に行くにあたって彼女の母親になった芳川、あれ以来打ち止めの母親らしくなろうと頑張っているのだ。 とはいえまだまだ始めたばかりなのでぎこちない所は多々あるが、少しずつ親子らしくはなっている。 「いやー、実に微笑ましいじゃん♪ 桔梗と打ち止め、いい感じに親子っぽくなってるじゃんよ。一方通行もあの二人に混ざったらどうじゃん?」 「そこまで野暮じゃねェよ。芳川の健気な頑張り、見てる方が面白れェだろ。つーかてめェは手伝え、黄泉川よォ」 「私もお前と同じで野暮なことはしない主義じゃん。っとそうだ、お前に渡すものがあったじゃんよ。ホラ、ちゃんと読めよ」 親子歴が一ヶ月にも満たない打ち止めと芳川を見守ってる一方通行と黄泉川、結構ダラダラしてる感じである。 そのダラダラから抜け出した黄泉川、一方通行用の球技大会マニュアルを渡し、彼の反応を待つことに。 「……オイ黄泉川。『反射』の使用厳禁、打球による相手への攻撃厳禁、ホームラン厳禁……厳禁ばっかりじゃねェかァ!」 「当ったり前じゃんか。走塁中は『反射』設定にしてクロスプレーとかで相手を吹っ飛ばすだろ? 絶対。打球による攻撃は相手を即入院する威力は確実じゃん」 「グッ……伊達に同居歴が長いわけじゃねェってわけか。けどホームラン厳禁はやり過ぎだろォ! うちの高校の教師どもは俺らのクラスに恨みでもあるンですかァ!」 「あー、それな。簡単な話じゃん。お前らのチームの相手になりそうなのがどのクラス見ても居なかった、それだけじゃんよ」 自分の厳禁項目が多いことに納得していなかった一方通行だが、野球に自分達の相手になりそうなチームが居ないと聞いて納得せざるを得なかった。 サッカーは心理掌握、バスケは郭ならびに一年生達、バレーは結標が率いるチームが本命と言われているが、野球は自分達のクラスに敵いそうなのが居ないのだ、たとえ一年生達でも。 しかし一方通行も黄泉川も思いもしないだろう、結標のクラスにアステカな二人が球技大会中限定で短期留学して来ることなど。 「ほらほら二人ともその話は後で聞くから食器並べるくらいは手伝ってよ」 「お母さんの言う通りだよってミサカはミサカはあなたとヨミカワにテキパキ働けって命令してみたり!」 「「はいはい」」 黄泉川のマンション、今日も今日とて暖かい雰囲気である。 ―――――――――― 「なあ春上ちゃん、ホントのホントに俺の部屋に泊まるつもりなのかにゃー?」 「うん♪ あたしもっともっと土御門さんと白雪さんと仲良くなりたいの。お兄ちゃんとお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいの。……ダメ?」 こちらは土御門の部屋の前、自分の寮の部屋に帰ったと思った春上がお泊りの準備をして付いて来たのだ。 春上に懐かれたことに関しては歓迎している土白、しかし球技大会中は同棲シミュレーション中なので思う存分いちゃつきたいのである。 かといって春上にきつく断ることなど出来ない土白、どうすべきかを相談し合うことに。 「う、上目遣いはきついぜい。お、俺のシスコン魂に火が……」 「も、元春、我慢して。私も我慢してるんだから」 「と、とりあえず、今日は泊めて、一日がんばってみるぜい」 「うん、そうしよう、耐性をつけるのにもいいかも」 とりあえず春上を泊めることに決めたが、土御門となぜか白雪のシスコン魂に火が点こうとしていた 「……?どうしたの?白雪さん、土御門さん」 「きょ、今日だけね、衿衣ちゃん。」 「他の日はいそがしいからにゃー。今日だけで勘弁してくれにゃー」 「うん、わかったの。……でも、ひとつお願いがあるの」 「なにかにゃー?」 「遠慮いらないよー。さ、言ってみて」 土御門と白雪は春上のお願いを素直に聞く事にした それが自分たちを苦しめるとは知らずに 「今日から、元春お兄ちゃん、月夜お姉ちゃんって呼んでもいい?」 「「グオォッ!!」」 土御門と白雪の二人はあまりの事に衝撃を受けてしまった。二人のシスコン魂に火が灯るのも限界だった そして、断ろうにも断れないので苦しみながら受け入れてしまった その後、春上が寝るまで土御門と白雪は苦しんだとか ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 一方、滝壺たちは着替え終え、浜面を担いで帰ろうとしていた そして、その近くには麦野が潜んでいた 「んふふのふー♪ 滝壺が浜面を担ぎ上げる前に私のアームで浜面ゲットォ♪ さーて浜面キャッチャーの」 一瞬の隙を突いて浜面を閃光のアームで掴み上げて、そのまま即お持ち帰りの態勢に入っていた麦野。 しかし後頭部に何か固い感触を“ゴッ”という音と共に感じた麦野、それが彼女にとっての今日という日の終わりだった。 「衝打の弦」 「ピギャッ!!!」 麦野が感じた固い感触は闇咲の拳で、彼女が気付けなかったのは浜面ゲットに夢中だったこともあるが闇咲が『透魔の弦』で近づいたからに他ならない。 校舎の見回りを終えて職員室に戻ろうとした時、目に飛び込んできた麦野を不審者と認識、悟られないように『透魔の弦』で接近し『衝打の弦』を喰らわせたのだ。 麦野の断末魔+床に“ゴドンッ!”という派手な音を立てて打ち付けられたことで滝壺と半郭は気付き、浜面も目を覚ます。 「どうしたのやみさか? 何でむぎのを気絶させたの?」 「む? 君達の知り合いだったのか。すまない、何やら潜んでいたものだからつい不審者と思い……」 「大丈夫。それだったらむぎのは間違いなく不審者。きっとはまづらをそっと連れ去ろうと企んでいたに違いないから」 「そうか。なら彼女のことは君達に任せて良さそうだ。私は職員室に戻らなくてはいけなくてね。頼めるか?」 闇咲の頼みにすんなりと頷いた滝壺を見て、闇咲は職員室へと戻って行った(麦野が売店の売り子だと思い出すのは帰ってから)。 気絶した麦野を浜面がおんぶするが、そこでようやく自分がまだ着替え終わっていないことに気付く。 「な、なあ滝壺。せめて着替えさせてくんねーかな? なんつーかホラ、汗かいて匂いが……」 「心配要らない。私ははまづらが少しくらい臭っても構わない。それにむぎののことを考えてるなら無駄。現にホラ」 「す、すげぇなその女……。汗臭い浜面におんぶされて幸せそうにしてやがる……」 「浜面氏もとんだヤンデレ……というよりエロデレな麦野氏に惚れられてご愁傷様です」 麦野に惚れられた浜面に改めて同情した半郭、しかしこれ以上一緒というわけにもいかないので一足先に下校していった。 一方の浜滝は麦野を連れて浜面の部屋へと向かうことにし、滝壺もそのまま浜面の部屋へとお泊りすることを伝える。 「なぁ滝壺。俺なら別に麦野に誘惑されたりしねぇからさ、自分の部屋に帰ってていいんだぞ」 「はまづらのことは信頼してる。けどむぎのは信用できない、きっと無理矢理はまづらを襲うもの。だから今日はむぎのを見張る為にはまづらの所にお泊り」 「……そ、そりゃあそうだよな」 闇咲の『衝打の弦』で気絶してる麦野を見た浜滝、どうして自分達の元リーダーがこうなったのかと考えながらため息を吐いて下校するのだった。 なお麦野だが、浜滝の心配をよそに翌日の日の出前まで目を覚ますことはなかったりする。 ――――――――― こちらは上琴ハウス、すでに晩ご飯を終えた上琴が仲睦まじく食器を洗っている所だ。 本当なら洗い物とかは学園都市製の超万能全自動食器洗い機があれば10分もかからないが、上琴はこうゆう時でも愛を深めたいのだ。 「ねえ当麻。明日の放課後も練習見に行ってもいい?」 「おうっ♪ 美琴が応援に来てくれりゃあ上条さんはいつでも元気全開で頑張れるってもんですよ!」 「あ、うん、もちろん当麻の応援はメインよ。私だって当麻のカッコよく頑張る姿、見たいもん♪ でもね、もう一つ理由があるの」 「ん? もう一つ?(な、なんだろう、俺の不幸センサーがけたたましく鳴ってる感じが……)」 明日も美琴が応援に来てくれる、それだけだったら嬉しかったのだが理由がもう一つあると聞かされて嫌な予感を感じる。 いつの間にか皿を洗う手が止まっていたが当麻にそんなことに気付く余裕は無く、美琴の答えを待っていた。 「吹寄って女と話したいから」 (何で俺の不幸センサーはこうも的中率が高いんだーーーーーーっ! 不幸だーーーーーっ!) 当麻は嘆いた、美琴と吹寄がぶつかり合うことを避けられないことに。 念の為、当麻は美琴に吹寄と話をしたい理由を尋ね、そして美琴はその理由を皿を洗う手を全く止めずに話し出した。 「まず、当麻を攻撃した事。これをやめさせる」 「ほうほう、それは上条さんとしてはうれしいですな」 上条は吹寄の攻撃がなくなるならそれはそれでうれしいと感じていた しかし、それだけでは終わらないだろうなぁ、と考えていた 「そして、私を怒らせたことを思い知らせてやる」 「な、なるべく穏便にお願いします」 上条の予感【不幸センサー】はあたりそうだった そこで上条は被害を最小限に抑えれそうな事を思いつく 「そ、そうだ!一応、あいつには弱みがあるぞ」 「え?どんな?」 「俺の口から言った事がばれたら俺が殺されるから、明日、土御門に聞いてくれ」 「うん、わかった。さ、洗い物も終わったからお風呂入りましょう」 「おう!」 二人は洗い物が終わったので風呂に入る事にした 上条は、土御門、うまくしのげよ、と心の中で思うのだった
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1394.html
あの、言葉 をもう一度 -Christmas Night- 1 (前編) ――時は12月の初旬。 街は徐々にクリスマスに向けた賑わいを見せ始めている。 しかしいつもの4人組は、そんな喧騒とは裏腹に、のんびりとファミレスでだべっていた。「今年のクリスマスってイブが金曜なんですねー。冬休みの学生にはあんまり関係ないですけど……」「初春、それ以前に相手いないことには、元から関係ないんじゃない?」「さ、さてんさんっ!」 佐天涙子と初春飾利との掛け合いを苦笑いで眺めつつ、御坂美琴はストローでジュースの中の氷をかき混ぜる。 昨年の美琴は、特に親しい友人もおらず――LV5の宿命となかば諦めつつ過ごしており、クリスマスなどのイベントではコンサートに出かけたりして済ませていた。 しかし、今年は白井黒子を始め、仲の良い友人がいる。そして、心の大部分を占めてしまった、あの少年の存在も。――今年の美琴にとって、クリスマスはそれなりに期するものがあった。「白井さん、クリスマスイブの警備はどうなりますかねえ」「わたくしも、現在のところ非番申請しておりますけど……通ったとしても、実際事件が起これば駆り出されるでしょうし。困ったものですの」 ジャッジメントの二人は、深くため息をついた。 本来、ジャッジメントに夜番はない。しかし、イブの夜は肩がぶつかっただの何だのと、カップル絡みの小競り合いが例年起こっており、アンチスキルの人手不足により駆り出される可能性が高いと聞く。 ならば、時間外でも駆り出される当番を決めておこう、というのがジャッジメント内での結論となった。恋人といちゃいちゃしてる最中に呼び出されたら堪らない。 ただ、黒子は分かっていた。こうなると、ジャッジメント一年生で彼氏無しの初春飾利が貧乏くじを引くであろう、と。必然的にパートナーである自分も付き合うことになる。まして、現場対応は初春ではほぼ無理だ。……愛するお姉さまとのラブラブクリスマスイブ、は絶望的であった。「うーん、こんな状況じゃ、パーティとかも企画しづらいですねえ、御坂さん」 佐天は腕組みをして、どうしたものかとしかめっ面をしている。「そうねえ……、どうしよっか。あとで黒子たちが途中参加しやすいような、大規模なパーティとかあればねえ」「……ちなみに御坂さん」「ん?」「もし、気になる男の人いるなら、あたしの事は気にせず、そちらに行ってくださいね?」「ぶっ!?」 美琴はいきなりの不意打ちに、思わず吹き出した。「もしそうなったら、あたしはアケミのグループに紛れ込んじゃいますから。気にしないでゴーゴー! ですよ」「ちょーっと待って佐天さん。なんで私がそんな……?」「……この際だから口に出しちゃいますけど、御坂さんと噂になっている人、いるじゃないですか? 結構一緒に居るのを目撃されてる、あのウニ頭の人」「うっ……噂ーッ!?」「確か、大覇星祭で借り物競争を一緒にした人ですよね。エキシビジョンに映ってた人」 初春が合いの手を入れた。そして白井黒子は険悪な顔をしている。「他にも、そのストラップとか。それってペア契約キャンペーンのヤツですよね? 御坂さんはその辺の話題、一切しないんで、まあ隠しておきたいんだろうなとは思ってましたけどね」 全て隠し通せていると思い込んでいた美琴は、真っ赤になって口をぱくぱくするしかなかった。「その噂は、御坂さんが言い寄られているだけかと思ってましたけど……。そのストラップ見て、結構仲は進展してるんじゃないかなーって。ウニ頭さんはやっぱりスゴイ能力の持ち主なんですか?」「ちょちょ、ちょっと待ってよ! し、進展とかアイツとは別にそんなのじゃないし、契約も色々事情があって……!」 佐天は尻尾を掴んだ! とばかりに身を乗り出した。「あー、やっぱペア契約してるんだ御坂さん! しかもウニ頭さんと!? うっはあ~!」(……し、しまった!) ストラップは貰い物、とでも言えばかわせたのに、まんまと誘導尋問に引っ掛かってしまった。「しかも『アイツ』ですってよ、初春さん」「ですってよ、佐天さん」 にんまりと顔を見合わせる二人。 ……しかし。「お二人とも! 何をあんな類人猿とお姉さまを結びつけようとしてますの!? 冗談にも程がありますの!」 佐天がこっそりため息をつく。そう、美琴の噂を知っていても、全く突っ込めないのは、……この露払いこと、白井黒子の存在である。「し、白井さんはその人を良く知ってるんですか……? そういえばエキシビジョンで見た時、怒り狂ってましたけど」 初春が場を取り繕うかの如く問いかける。「ある程度は、ですわね。まったくお姉さまったら、ストラップ目当てとは言え、あのような類人猿に協力を仰いだりなさるから、このような誤解を受けたりするのです! ちょっとは反省なさっていただきたいですの!」 言い草は気に入らないが、助け舟には違いない。 美琴は、はは~気をつけます、と口を開こうとして、固まった。「オトコを知らないお姉さまが、後々碌でも無い殿方に引っかからないよう、あえて黒子は免疫という意味を込めて、あの類人猿が近づく事だけは許しておりますが! お姉様の貞操を守るのはわたくし白井黒子の務めですので、ヘタレで人畜無害とはいえ――」 美琴は真っ赤になって黒子の言葉を遮った!「ちょっと黒子! アンタ大声で何言ってくれちゃってんのよ!」「いえ、この際ですから。そもそも――」 飛びかかって黒子の口をふさぐ美琴を横目に、佐天と初春の二人はやれやれといった表情で顔を見合わせた。 また今回も、御坂美琴の噂は追求できず。 そして、クリスマスの事も、何も決まらず。――次の日の夕方。(うー、やっぱ色々知ってたかあ) 美琴は一人歩きながら、昨日のファミレスでの出来事を思い出していた。 よく考えれば、あの二人が今まで、あの少年の事を一度も話題に触れなかったのは確かにおかしい。 少なくとも大覇星祭での借り物競争やフォークダンスなど人目に付くことはしてしまっているし、他にも追い掛け回したりといった噂も一つや二つ、聞いていたはずだ。(なるほどね、黒子が防波堤になってた訳か……) ならば白井黒子がいない時に、というのはスキをついてやるようなもので、後で話がややこしくなるのを避けていたのかもしれない。 もしくは、美琴から口に出すのを待っていたか。「何にせよ、聞かれたって何も答えようがないけど、ね」 美琴は小さくつぶやいた。何せ、自分自身、彼への想いが整理できていない。 興味がある、というのは否定しない。こればっかりは、認めざるを得ない。 でも。 でも「恋」じゃない、と美琴は必死に抵抗していた。あんなヤツに、……あんなヤツに。(命の恩人だし、それで借りもあるわけだし! きっとそういう負い目とか感謝の気持ちってのが、アイツに対した時に変に出ちゃうだけで! そ、そんな助けてもらったからって惚れるほど、この御坂美琴サマは軽くないんだから!) あんな……あんな鈍感で、デリカシーもなく、自分のことをちっとも見てくれない男を。(そもそも、これが恋なら、私の初恋がアイツってなっちゃうのよ? ないない、絶対無い! 能力で負けて、泣き顔も見られて、……黒歴史を記念碑に残すようなもんじゃない!? ありえないってば!) 美琴は、フッと我に返った。 ここは……いつもの自動販売機がある辺り、上条の高校への道との分岐ポイントだった。(……またやっちゃった) 歩いてきた道を振り返る……ここまでどうやって歩いてきたか記憶にない。それほど、心の中の議論に熱中していた。 たぶん、誰かに話しかけられても、思いっきり無視してしまったことだろう。(あーもう! 全部アイツのせいだ!) 美琴はブンブンと首を振り、すっかり冷えてしまった左手をコートのポケットに突っ込んだ。 と、何かが指先に触れる。(……100円玉。あ、昨日のファミレスのかな) 貰ったお釣りをそのままポケットに入れてしまったような気がする。 ピン! と宙空に弾く。(表だったら、コレで何か飲もっと。裏だったら素直に帰って……クリスマス作戦考える!) パシッ、と落ちてきたコインを掴み、美琴は自分の手のひらを見つめた。(まあ、これかな) 美琴はさっきの100円玉をそのまま投入し、『ホット黒豆コーヒー』のボタンを押した。 ちなみに、前に上条から注意されてからは、自販機蹴りは封印している。 コーヒーを取り出し、コーナーに一つだけあるテーブルの、向かいあわせのイスの片方にちょこんと座る。 かじかむほどではないが、冷えた手を温めるように缶コーヒーを両手で包み込んだ。(それで問題は……クリスマスよね。どうしよっかな) 結局、クリスマス作戦に考えが及ぶ美琴。 4人組での予定が立ちそうになく、何かこのままでは去年と同じく、寂しいクリスマスを過ごすハメになりそうな気がしてきた。 考え方を変えれば、上条と過ごすクリスマスに向けて障害がなくなったとも言える。 しかし……(私が誘うしかないのよね……) 向こうは100%自分なんぞ誘わない。 しかし、ここで誘えるような性格なら、苦労はしない。今度の日曜遊びに行こう、すら言えないのに。(せめてクリスマスの予定、聞き出せないものかしらね) だが、もし特定の人物と過ごす予定だと聞かされようものなら、1ヶ月は寝込む自信がある。だからこそ、怖くて聞けない。(あのちっこいシスター……クリスマスにシスターなんてまたこの上ない組み合わせだわね) カシュッ! とプルタブを開け、一口飲んだ。(あーあ。自分から動かなきゃ、何も起こらないのは分かってるんだけど、でも……) ちょっと前のように、ケンカ売りまくったり、首根っこつかんで恋人ごっこしたりといった、強引なアプローチはできなくなっている。もうそういった嫌われそうな事が、怖くてできないのだ。 電話も緊張して掛けられない。メールはできるのだが、何故か不可解なほどに届かない、ようだ。 だからもう、この自動販売機前での『偶然』しか頼れない状況に……「よう」 突然の背後の声に、美琴は文字通り飛び上がった! 声をかけた上条当麻はドサッと美琴の向かいのイスにカバンを置き、そのまま自動販売機に向かう。 上条も黒豆コーヒーを選び(というより他がゲテモノすぎるのだ)、缶を手に持って戻ってきた。「席、いいよな?」「お……お好きに」 偶然に期待していたとはいえ、美琴は考えに気を取られて完全に油断していた。何とか平常心を取り戻そうと、心の中で深呼吸を何度も繰り返す。 上条はイスに座って、ふーっと一息付いている。「わ、私に何か用? わざわざ飲み物まで買って」「いや残念ながら。ちょっと雑誌読みたくてな、テーブルあるとこ……と考えたら確かココにあったな、ってな」 ちょっとカチンと来て、美琴はぐっと軽い怒りを飲み込む。人の気も知らないで……!「お前は何やってんだ? ヒマそうだな」「か、考え事よ考え事。色々悩みもあんのよ」「ふ~ん」 興味をなくしたのか、上条はカバンをがさごそと探り、雑誌を取り出した。 相変わらずのスルーっぷりに悲しくなってくるが、美琴は携帯をいじるふりをして上条の様子を伺う。(何よ! 知り合いが近くに居て、しゃべりもせず雑誌読むって! ほんとムカつく……) 上条はいつのまにか蛍光ペンを持っており、テーブルの上でパラパラ雑誌をめくりながら角を折り曲げたり、軽く印をつけているようだった。 怒りよりも興味が優ってしまった美琴は、ちょっと身を乗り出して誌面を覗き込んだ。「さっきから何やってんのよ?」「見ての通り、バイト探し」 別に上条には何の含みも無いのだろう、あっさりと答えてくれた。「なんだ、それならテーブル探すまでも無く、教室に残ってやればいいのに」「奴らにゃ見られたくねえんでな、探してるトコ。集中して探してえし」 集中して探したい、と言われると話しかけるのも申し訳ない気がしてきた美琴である。 しかし、色々と感情を押さえられているせいもあって、美琴の口は止まらなかった。 ページ欄外に『冬休み特集』のロゴが見える。「冬休みで探してるの?」「そうそう。と言っても、補習の嵐だから、ド短期で探してんだけどな」「ド短期? 1日限りってこと?」「クリスマスとか正月とか、その辺で結構あるんだぜ? 時給も高いのが多いし。まー、お前みたいなお嬢様にゃ無縁の世界だよ」 意外に上条はうるさそうにもせず、のんびりと答えてくれる。美琴を見ずに目は誌面を追いかけているが。「で、なにか目星ついてんの? いっぱい印つけてるけど」「ああ、これにしようかなと。印はどっちかというと第二候補探しだ」 ちょっとページを戻し、指差した上条が示したのはケーキ屋のバイトであった。どうやらサンタの格好をして、呼び込む担当らしい。 美琴は更に覗き込んで、文字を読み取った。向かいから見ているので、文字は上下逆だ。「んーと、9 00から21 00で休憩1時間……半日やんのねー。時給1000円だから1万チョイか」「そゆことだ。高いとこは競争率激しいしな、これちょっと安めなだけに、まだ募集間に合うかもしんねえ」 相場がいまいち分からない美琴は曖昧に頷いていたが、ある一点に釘付けになった。「アンタ、これ24日のみって……イブじゃない! 折角の日に何やってんのよ! こんな夜遅くまで……」 ここでようやく上条は顔を上げ、ジト目で美琴を見つめた。「遠まわしに嫌味ですかそれは? この俺にイブなんか関係あるかっつーの! 用事を意地でも入れてやる!」「ク、クリスマスパーティーとか……」「絶対イブその日にはパーティーはねえよ。皆見栄張って、その日は用事が、とかぬかすに決まってんだ! だから俺も!」 クラスでのパーティーをイメージしているのか、上条は拳を握って力説した。 さっきのバイト探しを見られたくない、というのもおそらくソレが理由なのだろう。 しかし今の言葉から判断するに。コイツは現状、イブに全く予定が入っていない……?――最初から諦めず、何か考えておけば。 美琴はほぞを噛んだ。 折角、上条がフリーだというのに、つなぎとめるアイデアが何も浮かばない。 1万円出すから私の1日召使になりなさい、等といった馬鹿な事しか思い浮かばない。 何かないか……、と美琴は目の前の雑誌に、再度目を落とす。 ……あれ? よく見ると……「ね。私も応募していい?」「はい?」「ここに、売り子も募集してるって、ほら。中学生から大学生まで、って」「……常盤台のお嬢様がバイト、ねえ? 金が目的……じゃねえよな?」 上条が目をぱちぱちしている。「いや~、アルバイトってやった事ないのよ。ちょっとやってみたいなって」「そもそも常盤台ってバイト可能なのか? まあ学園都市は中学でも結構バイト認めてるけどさ」「事前申請すれば大丈夫だったはず……よ。義務教育終了までに世界に通じる人材を育成する、が基本方針なんだし、実習にもなるバイトは止めないと思う。いざとなりゃ、全額募金します、ボランティアですって言っちゃえば通るわよ」「まあ、やるなら止めねえけどさ。さっきの台詞お返ししていいか?」「な、何よ」「バイト経験したいっつーのはともかく、イブだぞ? 何考えてんだ?」 何考えてると問われれば、上条と一緒の空間にいたい、それだけだ。「ほっといてよ! 私にも事情ってもんがあるの!」「……なんだ、また海原の時みてーに、理由つけて逃げ出す魂胆か? 出たくないパーティとか?」「ま、まあそんなとこね」 しかしむろん、本当の理由なぞ言えるわけもない。 美琴は、また情報誌に目を落とし、他の募集も眺めてみた。「でも、なんでサンタなの? 他時給いいの結構あるじゃない?」 意外なことに、上条がちょっと顔を赤らめて、頬をポリポリ掻き出した。(なにこの反応!?)「何か理由あるみたいね?」「……ま、お前には話せるんだけどさ」 上条は深く座りなおし、街のほうに視線をやった。「あの戦争でさ……とりあえず世の中を救ったっつーか、守ったっつーかわかんねえけど、今は平和じゃねーか?」「う……うん」「でも、実感てイマイチでさ。クリスマスに街に出て……皆の笑顔見れたら、俺のやってきたことって無駄じゃなかったって、実感できるかな、ってな」「…………、」「ちょっとした、自分へのご褒美みたいなもんだよ。中で作業してちゃ分からねーからな、だからサンタなんだよ。正直、金は二の次で、サンタ系なら何かの手伝いとかでもいいんだけどな。ま、稼いだ金で美味いモン食えば、ダブルご褒美ってなもんだ」 他の人間が言えば、何を浮いたセリフを言っているのか、と思うだろう。 でも美琴は、知っている。上条の思いを、知っている。『何ひとつ失う事なくみんなで笑って帰るってのが、俺の夢だ――』 シスターズの時も、残骸事件の時も、上条は何の見返りも求めてこなかった。恩着せがましいことも、一切言わない。 それは、美琴や黒子が病室の時点で『笑顔』を上条に返したから。 彼にとって、そこでもう話は終わっているのだ。 でも、あの戦争では、戦争直後のバタバタもあって、上条が帰ってきたのはもう世間が落ち着いてからだった。 もう、皆が通常モードに戻ってしまっており、彼の求める『笑顔』は、物足りなかったのだろう。 だから、きっと。 彼はクリスマスにサンタとなることによって、向けられる笑顔を……「自分へのご褒美ね、なるほど。じゃ、じゃあさ」 美琴は溢れる想いを押し殺して、勇気を出して口を開いた。「バイトして、その、お金貰ったらさ……帰りそのまま一緒に何か食べに行こ? 私も褒めてあげるからトリプルご褒美ってことで!」「お、お嬢様にお褒めいただけるんですか……。まあそれはともかく、屋台のラーメンぐらいしか空いてねーんじゃねえか? 結構遅いと思うから、数少ない店はカップルで占められてそうだし。そんなのでいいのか?」「屋台、いいじゃない。じゃ、そうしましょ? それ以前に、まだ応募の電話もしてないのに、こんな話してちゃ恥ずかしいわよ」「そりゃそうだ。じゃあ掛けるとすっかな……って」 上条は美琴をまじまじと見つめた。「な、何よ」「いやさ。店のアルバイト担当の人びっくりするぞ、と思ってな。お前が『常盤台中学の御坂美琴です』なんて名乗ろうもんならさ」――12月中旬。 美琴はバイト先の制服合わせに来ていた。 普通、ド短期バイトでそこまでする所はないが、むろん初アルバイトの美琴はその辺の事情は疎い。「こんにちは~」「こんにちは。わあ、ほんとに御坂さんだー」「こんにちは、よろしくね」 今回の1日クリスマス限定売り子アルバイトは三人採用されたらしく、美琴を含めた中学生二人と、高校生一人となっていた。 他の二人も感じのいい子で、ちょっと緊張していた美琴も、肩の荷を下ろしていた。 自己紹介などを交えつつ歓談していたが、やはり話題は美琴に集中する。「でもやっぱり常盤台の人がバイトするって不思議。さらに不思議なのが、なんでこの店か、ってこと」「あははー、売り子ってやってみたくて。店そのものは、目に飛び込んできたもので、たまたま……」 高校生のツッコミに当たり障りなく答える美琴。 中学生の子からは、あこがれの御坂さんモード、という美琴がよく食らうキラキラな眼差しが向けられている。「店長から聞いたときはビックリしましたよー。まさか御坂さんとご一緒できるなんてー」「いや、ほんと普通の人間だから。同い年でご一緒もへったくれもないってば」 と、そこまで話していた時に、部屋に店長が入ってきた。「お待たせ! 貴重な時間を割いてまで来てもらって済まないね!」 いくつかの説明の後、店長は急に改まったかと思うと、おずおずと切り出した。「……でね、実は今日来てもらったのは、制服の話と合わせて、お願いがあったからなんだ」「お願い?」「制服に着替えたら、その、撮影させて貰いたいんだ。3人がこう、ケーキをさし出したような図柄の、販促ポスターをだね」 三人は顔を見合わせた。「……なるほど、そんな企みですか」 高校生の子が、眉をひそめた。制服合わせっておかしいと思ったのよね、とつぶやいている。「ポ、ポスターは店頭に貼るだけと約束する。チラシには載せない。……OKなら、時給100円アップする」「「OKです!」」 二人が即答して、美琴は泡を食った。時給に興味のない美琴には、どうにも判断がつかない。「御坂さんはどう?」「いいですけど……なんでまた?」「美女ぞろいだからね、君たち目当てのお客様も増えるかと思ってさ。でもあからさまな宣伝に使うと、学園に睨まれるかもだから、あくまで店内限定でね」 店内に貼るだけで効果あるの? と美琴は思ったが、他の二人が賛成しているし、まあいいかと思うことにした。「わかりました。……ちなみにですね、私の預かり知らぬ話ではあるんですが……」「な、なんだい?」「私の写真って、結構検閲入るんでご注意くださいね。ネット等に流出しないよう、お願いいたします」 美琴の言葉に、店長はごくっと唾を飲み込んだ。 そう、このネット時代に、美琴だけでなくLV5の顔が出まわらないのには理由がある。 学園都市のネットワーク監視は、きっちり行き届いており…… 下手にアップロードしようものなら、何が起こるか分かりませんよ? そう美琴は釘を刺したのである。 ◇ ◇ ◇ 制服合わせも撮影も終わり、美琴は帰宅の途についた。(ま、あの程度のポスターなら問題ないわね) ピンク系の可愛らしい制服ではあったが、胸元が開いているわけでもなく至ってノーマルで、妙な心配をする必要はなさそうだ。 あれから上条と会えてないが、バイトの面接に受かった事だけは電話で聞いた。 クリスマスに一緒に働けるというだけで、美琴は数日前までの『これは恋じゃない』だのといった思考はどこへやら、『なにかいい事起こらないかなあ?』と終始ふわふわ気分になっていた。 そして、バイトの後は。(イブにラーメンデートなんてねー。……そりゃ綺麗な夜景だの理想ってのはあるけどさ。贅沢は言えないよね) 少なくとも、よく分からないライバル達よりは一歩リードだ! と美琴は自分を納得させた。(あと、問題は……) 上条へのクリスマスプレゼントを、思い悩んでいた。 手作りのマフラーなども考えたが、部屋には白井黒子がいる。彼女の目を盗んで、それは非常に難しい。それに、恋人でもないわけで、ちょっとハードルが高すぎる気がする。(アイツって、何に喜ぶのかしら) コンビニに立ち寄り、雑誌コーナーで情報系雑誌に手をのばしてパラパラとめくる。 時期が時期だけに、プレゼント特集などもあるが、いまいちピンとこない。(うーん……) ついにはメンズ雑誌にまで手を出してみた。 むっ!? 新製品特集のページで、美琴の手は止まった。(これだ……! これ面白そう!) 型番を一瞬で記憶して雑誌を棚に放り込むと、美琴はコンビニを飛び出した! 足は一路、スポーツ店へ。(よーし、これで準備オッケー! カモンクリスマス!)――12月23日。 世間は祝日だが、冬休みであるが故に、学生にとってはもったいない気分になる……というのはさておき、いつもの4人組は、ファミレスで慰めの会を行っていた。「はは……見事に監視の仕事入れられちゃいましたあ~」「自分の能力が憎いですの……」 内部事情はいざしらず、やはり二人はクリスマスイブに支部待機となってしまったようだ。「25日はオフなんでしょ? その日は相手してあげるから、頑張りなさいな」「黒子はそのお姉様との約束を糧に、頑張りますの……」 擦り寄って来る黒子を、美琴は全身で押し返す。 佐天涙子が頬づえをついて口を開く。「でも御坂さんがアルバイトなんてビックリですよ。でもケーキ屋さんってかわいくていいなあー」「えっへへー。一緒に働く女の子たちも良さそうな人たちばっかりだし。結構楽しみなのよねえ」「あたしもたぶん買いに行くんで、サービスよろしくですよっ」「ロ、ローソクのサービスならね……」「……それにしても、そのケーキ屋考えましたわね」 美琴は、黒子が何を言いたいか分かっていた。あの販促ポスターである。 確かに、ポスターは約束通り、店内のみに貼られていた。 しかし、上手くチラシと口コミを活用し、『あの』御坂美琴がアルバイト! という噂を広め、店内のポスターはその証ということで……おそらく、あのケーキ屋には相当の客が押し寄せるのでは、と見られている。「まったくあの店長ってば……まあいいけどさ」「あのポスター、あたしも見てきましたけど、御坂さんを始め、三人とも可愛らしかったから、男の人いっぱい来ますよきっと」「は、はは……」「まして、デートもせずそのバイトしてるってことはフリーの可能性が高いってことですからね! 帰り道、待ち伏せされてるかもしれませんよ~?」「え……」 その可能性は考えていなかった。 上条との約束を考えると、何かしらトラブルが発生するかもしれない。元々あの男は不幸が売り、でもある。(う、なんか嫌な予感するわね)「まあでも御坂さんの能力はみんなご存知ですから、あんまり無茶なことする人もいないんじゃないですか?」「ま、初春の言う通りですわね。そもそもお姉さまは、そういうナンパな殿方はお嫌いですし」「まあでも白井さん、御坂さんが男の人とのイブとかじゃなくて良かったですねー」 佐天涙子としてはもっと面白い展開を期待していたのだろう、『良かった』というわりには、どこかつまらなそうな口調である。「当然ですの! さすがお姉様、クリスマスイブにこのような愛らしいバイトをされるなんて! 妙な噂もこれで払拭できるやもしれませんわね」 コイツにかかればそういう風に思われるのか、と美琴は黒子をあきれた様な目で見つめる。 が、そこで美琴は、あることに思い当たった。(そういや佐天さん、店に来るって言ってたよね……まずい、店の前では、件のウニ頭が客引きを……) うひゃー、と美琴は頭を抱えた。佐天だけの話ではない、ウニ頭との噂、とやらの拡散状況次第では……。(うわっ、どうしよ。サンタ帽被ってるからバレないとか? け、結構ヤバイ綱渡りな気分……! あれーっ、噂の払拭どころか、一緒のバイトしてたなんて噂が加わっちゃう……?) 急に赤くなったり青くなったりしだした美琴を、他の三人は不思議そうに見つめていた。 ◇ ◇ ◇ その日の夕方の、上条当麻は。 補習で疲れた身体を引きずって、トボトボと歩いていた。 冬休みに入ってからも、毎日学校に通っている。今日が祝日なのも関係なかった。文字通り、補習の嵐だ。 明日は事前申請もあって休みとなっている。 小萌先生には、なぜか涙目で「上条ちゃん、誰とご一緒なのですか……?」と聞かれたので、ただのバイトっすよ、と答えたが、……信用してもらえなかった感じだった。 それにしても。(御坂がバイト、ねえ……なーんかあっさり私もやるとか言ってたけど) あのお嬢様、何を考えているのか。(シスターズ関連の話以外は、アイツほんと気楽そうに生きてるよなあ。悩みがなさそうでうらやましいぜ) 美琴が聞いたら間違いなくシバキ倒されるであろう事をのんびりと考えていると。 携帯が震えている。 見慣れない番号に首を傾げながら、通話ボタンを押して耳に当てた。「もしもし? ――あ、店長ですか!? はいはい、……ええ、大丈夫ですよ。――――えっ……」――12月24日、クリスマスイブ。 ケーキ屋の前は、大行列ができあがっていた。 やはり、目玉はピンク系のケーキ屋制服を着た御坂美琴である。 これは、学園都市のLV5を見てみようという人々が集まった、という要素もあるが、何よりも。 一人でも半端ないオーラを醸し出すと言われる常盤台中学の女生徒が、大挙して押し寄せたのが原因である。 なんせ、『常盤台制服・体操服以外の御坂美琴』を見ることができる機会はめったに無い。常盤台で絶大な人気を誇る美琴のコスプレ(?)をひと目見られるばかりか、注文時に普段はできない会話もできるかもと、学舎の園から出たこともないような純粋培養お嬢様クラスまで列に並ぶとどうなるか。 通りがかる人々は、『何だこの眩いまでの行列は?』『常盤台でブームのケーキ屋?』『自分たちも並んでみよう』となり。後は放っておいても列は膨れ上がっていったのである。 店側も、想像以上の状況でてんてこ舞いとなっていた。本来は応対からケーキピッキングまで一人で行うところを、美琴は応対専用、もう一人をそれ以外の作業に専念させて効率化を計っていた。 おかげで、美琴は朝からずーっと喋りっぱなしで、――まあ元々よく喋る人間ではあるので、問題はないのだが――ケーキを触らずに終わりそうなケーキ屋のバイトに、何だか違和感を感じていた。 でも、そんな違和感は実際のところどうでも良く。もっと大きな問題があった。 顔を上気させ、頭を下げて購入したケーキを持って去ってゆく常盤台中の子に手を振りながら、美琴は。(――なんで来てないのよ! あの馬鹿……!) そのケーキ屋の前に。――サンタクロースは、居なかった。 ◇ ◇ ◇「まさかまた、事件に……?」 美琴は小さくつぶやいた。 1時間の昼食休憩に入っていた。交代制なので、今は控え室に一人だけだ。 意を決して上条の携帯に掛けてみたが、捕まらない。圏外だ。(連絡もよこさないなんて……あの馬鹿!) そもそもバイトをサボって問題はないのか? 店長は死ぬほど忙しそうだが、バイトが来ないと喚いているようでもない。ならば、休む連絡は入ったのか。 でもそれなら代わりのサンタがいないとおかしい気もする。 店長に聞いてみたいが、そもそも上条とは無関係と思われているはずだ。非常に聞きにくい。 忙しいからこそ紛れているものの、上条がいない事は、美琴的にダメージが大きかった。 またスルーされた、空回りしてる、といった気分がひしひしと押し寄せてくる。 夜も……バイトの帰り道で、という約束だ。バイトそのものが成立していない。(幸せな……一日になるはず、だったのに、な……) 気分が沈みかけたが、美琴はブンブンと首を振った。「ま、まだ終わってない。それに、アイツがもしホントに事件に巻き込まれてたら、それどころじゃないし」 口に出して、気分を切り替える。例えば、またシスターズ絡みで何かあって、私に知らせたくないとか、色々あるかもしれない。落ち込むのは、全てが判明してからでいい……。 とにかく、目の前のアルバイトをきっちりやり遂げること。 まだ休み時間は残っていたが、美琴は立ち上がった。休んでいると、余計なことを考えてしまう。 戻ろうとドアの方に向くと、ちょうどドアが勝手に開いた。にゅっと、高校生の子が顔を出す。「御坂さ~ん。お友達来てるよー」「あ、はーい!」 誰だろう? と店の方に戻ってみる。「あ、佐天さん! 来てくれたんだ」「御坂さんだ! うっわ、可愛い~~!」 佐天涙子が友達を連れて来てくれていた。 佐天の顔を見てちょっと救われた気分になった美琴は、佐天の友達を見回しながら笑いかけた。「来てくれてありがとね! どれもオススメだから、じっくり見て選んでね!」(よし、頑張る! とりあえずあの馬鹿の事は横に置いといて……)――12月24日、20 30「完売! いっやあ、凄かったなあ~」 完売の張り紙を外に貼りつけて、店内に戻ってきた店長はニッコニコ状態で気持ち悪いぐらいだった。 例年なら、ケーキも人気に偏りがあるため、売れ残ったりする。それを店員で分けて持ち帰ったりするのが通例だったが。 それが閉店時間まで30分残して、見事に売り切ったのだから、エビス顔になるのも当然であった。「去年より多めに準備したんだけどねえ。いやあ、御坂さんサマサマだよ」「ははは……」 もう完全に美琴は、神サマ御坂サマ状態であった。 最初はあくまでアルバイト、対等に扱われていたが、誰が見てもこの客の入りは美琴の力であり、また仕事の方も、普段のんびりとしているのか店員の方が忙しさでパニックになる中、美琴は平然とこなしている所から、自然と店内で『御坂さんは別』という空気が出来上がってしまったのである。 特に、美琴の記憶力は半端ではなく、どれだけ客が来てもどれだけ多種多様のショートケーキの組み合わせが来ても、注文を全部覚えていた。包装した箱を美琴に渡すだけで、的確に該当の客に渡してくれるのだ。元々ハッキングなどで、膨大な情報の一時的記憶について鍛えこんでいる美琴には、何の苦労も無かったが。 ご機嫌な店長に対して、店員やバイトの子たちはグッタリである。やりとげた感はあるものの、あまりに忙しすぎた。 もう閉店にして片付けたい所だが、サブメニューのプリンや飲み物目当ての客が来るかも、という理由だけで店はまだ閉めないようだ。 一息ついている店長に、椅子に座りながら美琴はおずおずと切り出した。「あの……」「ん、なんだい?」「私、ここに応募したとき、サンタの呼びこみバイトも併記してあったなあって思い出したんですが。今日いなかったですよね」「あ、そういえばそうですねえ」 中学生の子も横から口を挟んできた。「ああ、あれね。……募集はしたんだけどね、後でその話、無くなっちゃってね。今年はサンタなしでやることになったんだ」 美琴は愕然とした。「な、なんで……。あ、いや、間近で見てみたかったなあ、って思っただけですけど」「ですよねー。でも今日の行列だったら、列整理するサンタさんという妙な事になりかねませんでしたけどねえ」 その子の言葉に、美琴はハッとした。……まさか!?「て、店長。ひょっとして、今日の行列を予想して、……もう呼び込みのサンタはいらない、と判断した……とか?」「……ボクはそのつもりは無かったけど、オーナーがね。コストカットに厳しくてさ。その、御坂さんがいるなら、客はきっと来るから、サンタは無しに、って話がね」「…………、」「決まってた子には断りの電話を入れつつ、ウチよりも時給のいい仕込みの仕事を紹介したんだけどね、いいですって断られちゃった。あの子どうしたのかなあ」――自分の、せいで。 自分でも、青ざめたのが分かる。 椅子に座っていなかったら、ぺたんと地べたに座り込むところだったろう。 この店に貢献できた! とちょっとした自尊心もあったが、一瞬で吹き飛んだ。「す、すみません、ちょっとお手洗いに」「あ、御坂さんもういいよ。こちらに戻らず、もう着替えだしていていいよ。昼休みも削ってやってくれてたしね。バイト代用意しとく」 美琴は何も言わず、一礼して控え室に戻り、トイレではなく、狭い女子更衣室に駆け込んだ。 更衣室のドアを背に、……美琴の瞳に涙がじわっと浮かぶ。「なんで……こんなことに……?」 まさか、自分が上条のアルバイトを潰していたとは。 連絡がないのも当たり前だ。 今日のは、彼にとってお金目当てのバイトではない。あの時、照れくさそうに喋っていたのを思い出す。 それを、単に一緒にいたいだけという自分の行動が、……彼の思いを叩き潰してしまった……?「うっ……」 彼の事だから怒りもせず、『不幸だ』と呟いて……そして。 自分との距離は、今以上に、離……れ……「うっ……ううぅ」 そんなつもりはなかったのに。私は、……ちょっと幸せになりたかった……だけなのに。 更に涙が溢れ出す。 どこで間違ったのか。ポスターの件を受けてしまったことか。 それとももう、何をやっても、こういう噛み合わない運命なのか。 もう、自分が近づかないほうが彼にとって幸せなのでは……?(い、イヤ。それだけは。近づかないなんて、離れるなんて、イヤ……) 美琴は逆に、悲しんでいる場合ではないとほんの少しだけ我に返った。 ぐしぐしっ、と手の甲で涙を拭う。(とりあえず……出よう。出て、何とか、アイツと連絡を……謝らないと……) 自分用の臨時ロッカーまで、ふらふらと歩み寄る。 のろのろと手を動かし、常盤台中学の制服に着替え、セーターを着込む。頭の中は真っ白だ。 カバンに放り込んでいた携帯を手にとった。時間は、20 59。 着信案内が表示されていないということは、誰からも電話はかかってきていない。つまり……、彼からも。(……21 00にな~れ) ぼんやりと、このアルバイトの終了を美琴は願う。 その時。ヴーッ、ヴーッと携帯が暴れだした。 美琴の目が見開かれる。食い入るように着信を知らせる画面を見つめた。――画面には。[上条 当麻]、と。 あの、言葉 をもう一度 -Christmas Night- 2 (後編) ――12月24日、21 15。「うー、寒い……ラーメンってのは大正解だったなー」 上条当麻はひとりごちて、首元のマフラーに口を埋める。(しっかし、なんだあのヤロー共は) ケーキ屋の通用口のあたりに、男共がたむろっていた。 一人か、二人組がバラバラと散らばっている感じだ。10人程いる。(彼女が出てくるの待ってんのかね? ……あれ、俺も傍から見れば彼女待ちみたいに見えたり……?) さっき御坂美琴に電話をしたら、もうじき出られるような事を言っていた。 そろそろ出てきそうなものだ。(しかし、なんか態度おかしかったような……初アルバイトで何かやらかしたか?) 一人であわあわ早口で喋ったかと思うと、そこを動かないですぐ行くから、と電話は唐突に切れた。 ま、色々あったのだろう、ラーメン食いながら愚痴でも何でも聞いてやって、それで……と考えていると、通用口のドアが開いた。 コートとマフラーを着用した美琴が現れた。 キョロキョロしながらドアを後ろ手に閉め、……とその時。 男共がわっと美琴の周りに群がった!(な、何だー!?) 上条が状況を把握できずに固まっていると、美琴がこちらの姿を見つけたのか、かき分けて走ってくる。「うっ!?」 美琴が、上条の腕にしがみついてきた!「行こ! 早く連れてって!」「へ? へ?」「早く!」 訳がわからないまま、男共の強烈な視線を浴びつつ、上条当麻は御坂美琴を腕に絡めたまま、回れ右をした。 早足でスタスタと歩いていた二人だったが、ひとまず後をつけている者がいなさそうだと分かると、足をようやく止めた。「な、何なんだ一体……?」「び、びっくりしたわね。なんかね、この後ご一緒にどうですかみたいな事を、口々に言われちゃった」「……ナンパかよ。お前の正体分かってんのかね」 あの集団の意味を理解した上条であった。「化物みたいに云うなっての! ま、まあ、イブにデートもせずバイトしてるのはフリーの証、って思うらしいわ……」「……モテますね御坂さん。俺帰ろっか?」「やめてよ馬鹿! ったく!」 美琴は一層強く、上条の腕にしがみついた。「……で、なんでお前はしがみついてんだ?」「フリよフリ。こ、恋人がいると思えば諦めるでしょ。これで行きましょ」 上条は改めて首だけで振り向く。「うーん、もういねえと思うけどなあ……」「そんな見えるトコから見てるもんですか。物陰に居られちゃ分かんないわよ。いいからこれで行こ」 上条は軽くため息をつくと、美琴を腕に絡めたまま、繁華街の方に向かって歩みだした。 しばし、無言で歩く二人。(なーんか変だよな、コイツ……) 上条は首を傾げる。 フリならば、軽く腕を絡めるくらいで問題ないと思う。しかし、これは……お化け屋敷でしがみつかれるとこんな感じか、と思えるようなしがみつき方である。『そばから離れちゃダメ!』とでも言いたげな。 美琴は美琴で、まだ心の整理がついていなかった。 たまたま、あの男達がいたお陰で自然と上条の腕にすがることができたが、会話は正直自分以外の誰かが勝手に答えていたような感覚で、頭は全く回転していなかったのである。『おー、御坂ー。俺もう店の外にいるけど、そっちはどんな感じだ?』 21 00丁度にかかってきた電話、この上条の一声――いつも通りの、何の屈託もなさそうな声に、美琴は救われた。 色んな感情が入り混ざって、どう返事したかも覚えていない。 上条との関係に、悲観的な思いで満ち溢れていたところに降りてきた、当人からの蜘蛛の糸。 上条の腕に、まさに蜘蛛の糸に見立てたように――美琴は無我夢中でしがみついていた。周りの目など気にもとめず、さながら「パパごめんなさい、もう悪い事しないから」と父親にすがる幼い娘のように。「あのー御坂さん……もうちょっと力抜きません? 歩きにくくねえか?」 上条の言葉に、少しだけ掴む位置を変える美琴。しかし歩きやすいように調整しただけで、上条的には何も変わらなかった。(……コイツ、とにかく離す気はないみたいだな。やっぱ変だ、バイトで何か嫌なことでもあったのか……?) 上条がそう思って本気で心配しかけたとき、美琴が口を開いた。「もう……今日は来ないと……思って、た」「へ? 食いに行くって約束したじゃん」「だって、サンタのバイトが……私のせい、で、無くなって……」「お前のせい? って何だ? いや確かにサンタは無くなったっつーか断られたけど、俺も向こうの話断ったしな」「……なんでサンタの話が無くなったか聞いてないの?」「聞いてねえ。諸事情でどうたらこうたら」 美琴は店内でさっき聞いた話を上条に伝えた。――言わずにはおれなかった。「……すげえなお前。そりゃ店側は正解だな。俺へのバイト代なんて無駄の一言だわ」「何言ってんのよ。私、それ聞いて泣きそうになっちゃった。アンタのバイト潰しちゃった、って。私がバイト、なんて、余計な事……」 実際は泣いてしまったのだが。 上条はようやく合点がいった。どうにも御坂美琴の様子が変である理由に。「……それが理由か、お前がなんか元気ないのは」「…………、」「そんな事気にしてたのかよ。お前な、上条さんの不幸の星ナメてんじゃねーよ。こんなの日常茶飯事すぎて、一々気にしてられるかっての」「……でも……、」「ああ、バイト無くなったんで、今日俺はちょっと学園の外に出てさ、知り合いが来日してるってんでオルソラ教会ってとこでミサの手伝いしてきた。決まったのが昨日の夜だろ、いきなりのミサ参加で外出許可証だのバタバタしてさ、お前に経緯を連絡するヒマなかったんだよ。店長に聞けば分かる話だし夜も会う訳だし、ってんで、お前にメールすらしなかったのがマズかったな」「きょ、教会の手伝いじゃバイト代もないでしょ? こ、これ足しにしてよ」 美琴は空いている手で貰ったバイト代の袋を取り出し、袋ごと上条に手渡そうとした。「バカかお前は。お前が初めて自分で稼いだバイト代なんだろ? ちゃんと自分で使え」「使えるわけないでしょ! 本来アンタが貰うべきものじゃない!」 上条は頭をガリガリと掻いた。このお嬢様の場合、社交辞令でもなく、本気で渡す気なのが分かるだけに、対処が難しい。「……だったら、俺にラーメン奢るってのはどうだ? お前の稼ぎでさ。俺はそれが一番嬉しい」「…………!」「前に言っただろ、金は二の次だって。ミサの手伝いをしたらさ、みな楽しそうに笑ってた。俺はそれで十分満たされたしな」「……、」 上条は美琴の思いつめたような表情が、ようやくかすかに緩んだのを見てとった。「というわけで奢り、な! よっし儲かった!」「……全部使い切るまで帰さないからね?」「……今から行こうとしてる屋台は、一杯千円しません、けど……」「一番高いの選んでお代わりしなさいよ。使い切るまで帰さないってば」 そう言って、美琴は改めて強く腕を絡める。「今夜は帰さないってか? へいへい、っと」「…………!」 むろん上条は冗談で返しただけだが、美琴は真っ赤になってうつむいた。 そ、そんなつもりじゃ、と小さくつぶやく美琴の心からは、ようやく上条への罪の意識が薄らぎはじめていた。――12月24日、21 30「言っとくけど、ほんと綺麗でもない、ただバカでかいだけの屋台だからな? お嬢様向きじゃねえぞ?」「お嬢様じゃないって。ウチの母見たでしょうが、一般家庭だわよ。普通に扱いなさいっての」 そう言って二人が入った店は、巨大な屋台と言うべき店であった。雨避け程度の屋根しかない。 テーブルが全部外にある。座敷席、椅子席、カウンターと何でもありである。 ラーメンそのものはトンコツ風でオーソドックスだが、名物はトッピングで、ニンニク・ニラ・キムチがテーブルにどかんと置いてあって、それが入れ放題となっていた。 白飯まで無料でオーダーできるが、ちょっとこちらは出来が不人気で、あまりお替わりする者もいないらしい。「どれもちょっとずつ、っと。ニンニク入れすぎると、黒子に鼻つままれる羽目になりそうだわね」「気にしちゃ負けだ、っと」 そう言いつつも、ニンニクは控えめにする上条。二人は座敷席の角で、90度に座っていた。「おいし♪ あったまるわー」「冬で、かつ、この時間のラーメン! 至高だなー」 とりあえず、美琴が元気を取り戻したようで、上条は安堵していた。 結局、ラーメン店までずっと美琴はしがみついてきており、まだ何か考え事をしている風な感じであまり会話もなかったのである。上条に言わせれば、「俺の不幸の星にコイツ巻き込んじまったなー」と、むしろこっちが謝りたい気分であったが、言えばまた気を使わせただのと悪循環に陥る可能性もあって、口に出せなかった。 ともあれ、普段、電撃をぶっぱなすわ襟首捕まえて振り回すわの美琴が、しおらしい女の子のように腕にしがみついてくる訳で、調子が狂う事この上なかった。理由が理由だけに振りほどくわけにもいかず。(まあ、腕を組んでたことで浮かずには済んだけどな……) ラーメン店は繁華街の中にあり、クリスマスイブということもあってカップルの嵐である。その中に溶け込むには、腕を組んで歩くこと自体は良い選択であった。ケーキ屋とラーメン店までは10分程度の距離だし、照れくさいけどまあいいか、と上条も美琴のやりたいようにさせていたのである。 ま、ここから仕切りなおしだな、とばかりに上条は美琴に話しかける。「で、初アルバイトはどうだったんだ?」「案ずるより産むが易し、ってヤツだわねえ。やたら常盤台の子が来てさあ……」 温かい物を身体に入れて、ちょっと落ち着いたのか、ようやく美琴の口が回りだした。 コートとマフラーを脱いで、白系のセーターを着た美琴……襟元で常盤台だと判断は出来るだろうが、パッと見では分からないはずだ。 この格好なら、と上条も周りの目を気にせず、美琴との会話に集中した。 ◇ ◇ ◇「……ふーん、クリスマスケーキっつーとデコレーションケーキ、みたいなイメージあったけどな。チョコ板に白文字でMerry Christmas! ってヤツ」「あれはやっぱり家族あってのものだと思ったわね。親元から離れてるココじゃ圧倒的にショートケーキ、次がミニタイプのデコレーション、って感じだったわ」 美琴は箸を置いて、ミニホールタイプのケーキの大きさを手で示す。「まあ『学舎の園でしか売っていないケーキ』みたいな売りはない店だったけど、美味しかったわよ。リピーターもつくんじゃないかな」「そう言うなら、おみやげ貰ってくるだろ普通。食いたくなっちまうだろうが」 言われて美琴はハッとする。実は店側は、少しではあったがおみやげを用意してあった。――しかし。 美琴もそれは聞いて知っていたのだが、……電話を貰った後はもう頭の中は上条一色になって、お金を貰うやいなや慌てて飛び出したが為に、ケーキを貰ってくるのを忘れたのだ。「あ、アンタを待たせちゃマズイかな、と思って、おみやげ交渉してこなかったのよ」 ちょっと頬を赤らめながら、美琴は適当に答えた。俺のせいですかい、と上条はブツブツ呟く。「そういや、お前がいつ電話取れるか分かんなかったからさ、とりあえず終わりの21 00丁度に掛けてみたら、すぐ出てちょっとビックリしたぞ」「ちょ、ちょうど携帯いじってたところでね。ちょっと早めに終われたから」 美琴は思う。――本当に、あの着信で、自分は救われた、と。「で、外に群がるオトコたちの図、ね。……もったいねえな、いい男いたかもしんねえのに」「……いい男、なんて関係ないわよ」「関係ない?」 美琴は答えず、一旦スープを飲んで一息入れた。「……そもそも私と付き合ってくれる人は、電撃を苦にしない人じゃないと、だし。あの中に偶然いるなんて思えない」「お前、条件厳しすぎね?」「ビリビリしたらビビっちゃう人と付き合えると思う? ケンカもできない仲なんて意味ないじゃない。その人と居てくつろぐどころか、力をセーブしなくちゃなんない、なんてホント勘弁」 上条が眉をひそめた。「……何か俺が範囲に入っているような気がするが……」「へー、アンタ電撃を苦にしないと? ビリビリしてもいいんだ?」 美琴は一瞬心臓が跳ね上がったが、平静を装って言葉を返す。「あ、やっぱ違いましたゴメンナサイ。……お前、某ゴム人間しか相手できねーぞ、そりゃ」「別に、電撃に耐えられるカラダ、でもいいのよん。ほいっ」 美琴は入れ放題のニンニクをガッと大盛りにすくうと、上条の丼に放り込んだ!「バカお前! なんでっ……!」「しーらない♪ スタミナつくから、カラダもきっと丈夫になるわよ♪」「俺のカラダ丈夫にしてどーすんだ! あーあ、俺の息がニンニク臭いと困るのはお前だろーが、ったく……」「……私に何する気?」「何考えてんだテメーは! クサイ男と帰り道一緒になるんだぞ、って話だ!」 あはは、と笑った美琴が、ちょっと表情を改めた。「そ、それで」 視線を目の前の丼に落としつつ、少し顔を赤らめる。「アンタの好みはどうなのよ……」 上条はニンニクだらけになったラーメンにおそるおそるレンゲを落としながら、口を開いた。「俺が選り好みできる立場かっての。ま、敢えて言うなら……しっかりした年上のお姉さんってとこかな」「……年上。」 美琴は一気にテンションが下がってしまった。丼に気を取られている上条はそんな美琴に気付かず、続ける。「だって年下って、お前みたいに中学生になっちまうじゃん。俺はロリコンの称号はいらねえ」「……年上年下の話じゃなくて、ロリコン扱いが嫌なの?」「そうだ! 来年俺が高二になりゃ、高一はアリだ!」「…………、」 心底あきれたような目で、美琴は上条を見つめた。「なんですかその目は」「でもこうやってアンタは私という中学生と一緒にいるのよ? これだけでもロリコン認定じゃないの?」「……お前は、別」「別?」「普通のヤツなら、『俺の隣にいる中学生』っていうのが客観的な姿だよな。だからロリコンっつー話になる。でもお前の場合、主従逆転するんだ、『超電磁砲の横にいる高校生』ってな。むしろお前が気にしないとな、噂とか」 美琴は佐天涙子に言われた噂、とやらを思い出した。超電磁砲の横にいるウニ頭、たぶんそういう噂になっているのだろう……「何バカ言ってんのよ。ほんと理屈っぽいんだから」「ま、俺がこうだから、相手はしっかりしたヤツの方がいいなと思ってるだけだよ。お前ぐらいしっかりしてりゃ、年上も年下も関係ねえしな。別に好みなんてねーんだよ」 え、それって……と美琴の手が止まる。「ふ、ふーん。それじゃ私も範囲に入っちゃうんじゃないかしら?」「いやいや、実は他にもあってだな」 上条は入れ放題のキムチのかたまりを美琴の丼にひょいっと投げ入れた!「あーーーーっ!」「食べ物に好き嫌いのない奴、は条件だったりするんだな」「ば、馬鹿! こんなの好き嫌い関係あるかっ! これすっごい辛いのにっ!」「ニンニクにした方が良かったか? クサイ仲になりたかった?」「馬鹿っ! あーもう、スープまで赤く……どうすんのよこれ!」「全部食うのがマナーですからね?」「アンタも汁まで全部飲むのよ!? ニンニクたっぷりのね!」「ふっふっふ、俺のは逆に美味しくなってたりするんだな。匂いをお前が我慢するだけだ!」 美琴は軽くふくれっ面で上条を睨む。「中学生いじめて何が楽しいのかしら、まったく……」「そのセリフ、高校生に置き換えて、普段のお前にのしつけて返すわ」「何よー! あうぅ、辛い……」 二人して軽口をたたきながら、湯気もおさまってきたラーメンを片付けるためラストスパートに入る。 何となく、誤魔化されたような気もするが、美琴は十分に満足していた。 こんなやりとりをする空間は、今までに無かった。とても、楽しいひとときであった。――12月24日、22 10「まいどっ!」 美琴は貰ったお釣りを、封筒の中に戻す。 初めてのアルバイト代で、二人の食事代を払った。――確かに、得も言われぬ充足感がある。 ちなみに全部使い切るどころか、万札まるまる残ってしまった。「ゴチソウサマです、お嬢様」 上条が大仰に頭を下げる。「ど、どういたしまして」 美琴は店の人に貰ったブレスケアカプセルを上条に手渡し、上条がそれを口に放り込んだのを見て自分も噛んで飲み込んだ。一時的な効果であれ、やはりこういうサービスは助かる。「うーん、でも悪い気がしてきたな。普通、初めてのバイト代って両親へのプレゼントとかだよなあ」「だから元々アンタの分だって言ってんのに……」「まだ言うかお前は」 美琴は時計を見た。――22時過ぎ。 今第十五学区で、隣の第七学区はすぐそこだ。だが、終電が終わっているため、歩くしか無い。寮まで歩くと30分強というところか。 門限は23時であった。バイトは21時まで、その後食事プラス移動で23時帰宅――という申請理由にしていたのだ。『あの』寮監の事だ、クリスマスイブはさぞかし爛々と目を光らせている事だろう。……喫茶店に立ち寄るどころか、繁華街中央の大クリスマスツリーをちょっと見に行く時間もなさそうだ。時間に余裕をもたせないと、「アレ」も渡せない。 残念だが、帰るしか無い。美琴はふうっ、とため息をついた。 帰り道も、きっかけがあれば手を握るなり、腕を絡めるなりしたいが……心に余裕が出来てくると、さっきのように出来ないから不思議なものである。「帰ろっか」「ああ……」 上条は、通りのイルミネーションを見つめていた。美琴も並んで見つめる。「……綺麗ね」「そうだな。……お前にゃ敵わねーけど」「え?」 美琴は目を見開いて上条を見つめた。 なにいまの? 聞き間違い? 上条が美琴の方に向き直って、ニヤッと笑った。「どうだ? 自然だったろ今の!?」「……え?」「いや、いっぺん言ってみたかったんだよ、今の流れ! お前がいいネタ振りしてくれたんで、自然に出てきたぜ!」 ネタ振り、って……。 冗談、……ってこと? 美琴はつい電撃を発しそうになって踏みとどまる。(お、落ち着け……ここで怒ったら、いつもと変わんないじゃない!) ふーっ、と深呼吸した美琴は、行きと同じく上条の右腕にしがみついた!「お、お前また!」「結構な冗談ですこと。じゃあ今の言葉をもう一度ね。……ただし、こうやって腕を絡めた女の子の目を見つめて、ね?」「……へ?」「へ、じゃないわよ。今の冗談だったんでしょ? なら、何度でも言えるわよね?」「ちょ、ちょっと待って下さい……」「じゃあ、言うわね。『イルミネーション、……綺麗ね』」 上条は、ごくっと唾を飲み込んだ。まさか、こんな逆襲を食らうとは。「お……、『お前の方が綺麗だよ』」「…………!」「……、あー」 見つめ合いながら、二人してみるみる真っ赤になっていった。「ば、馬鹿、セリフ変えないでよ! ちょっとビックリしたじゃない!」「違った『敵わない』だった……お前な、馬鹿なこと試すんじゃねーよ……」「ああもう! 帰ろ! 門限もあるし!」「あ、ああ……」 真っ赤なまま美琴は、腕を絡めたまま帰る方向に引っ張った。上条も毒気を抜かれたのか、逆らわず歩き出す。 冗談だと分かっていても、目を見つめられながら綺麗だよ、と……(やっ、やばい。ニヤケ顔が戻らない……) 思わず、くふっ、と変な声が出そうになって、美琴は俯きながら悟られないように飲み込む。「……寝るときに思い出すと身悶えして奇声を発したくなるシチュエーション、ナンバー1に躍り出たぞ、今のは……」 上条が呆然とつぶやいている。「に、似合いもしない台詞で中学生をからかおうとするから、そんな目に合うのよ」「勉強になりました……」 ◇ ◇ ◇ いつのまにか、第十五学区を抜け、第七学区に入っていた。 右手には、「学舎の園」が広がっている。ただ広大なエリアではあるので、入り口となるとまだもう少し距離がある。 ちなみに、第十五学区のラーメン店から学舎の園入り口、そこから美琴の常盤台中学学生寮、この両者の距離は同じくらいである。すなわち、もう少しでほぼ半分の道のりを歩くことになる。 途中まで大覇星祭の思い出など喋っていた二人であったが、だんだんと言葉数が少なくなってきていた。 喋りでは常にリードしていた美琴が、物憂げになって、あまり喋らなくなったためである。(はあ、この時間が終わっちゃう……) 美琴は、どさくさ紛れに絡めた上条の腕を、まだしっかりと両手で掴んでいた。 もうじき普段の通学路の帰り道ルートに差し掛かる。 そうなれば、否応なしに現実に引き戻されるような気分になっていたのだ。 そう、明日からはいつもの二人の関係に戻る。年内は会う予定すらない。こんな腕を絡めて、なんぞ当分無いだろう。 思わず、美琴は改めて、ぎゅっと上条の腕にしがみついた。(……もう決まりだな。あの、あの御坂が……甘えてきてるッ! 絶対間違いねえ……) 一方の上条は、また腕に強く圧迫感を感じながら、隣のこの少女のことを考えていた。 『恋人ごっこ』か何かのつもりだとは思われるが、食べてる時以外ずっと腕に抱きつかれているこの状況は、どう考えても甘えてきている。クリスマスイブ独特の空気に加え、バイトの件の影響もあるのかもしれない。学園都市の誇るLV5といえど、中身は普通の女子中学生だ、誰かに甘えたい時もあるだろうて、と上条は結論づけていた。 そもそも、と上条は思い出した。御坂美鈴、美琴の母親。彼女も酔っ払うとやたら構ってちゃんモードで抱きついてきたし、御坂妹も、ラストオーダーも、地下街では抱きついてきた記憶がある。(御坂DNAは抱きつき属性ってことですかね? ……っつーか、コイツにとって腕抱きつきなんて手をつなぐ程度の意識なのかもしんねーしな。俺が意識しすぎなだけか) 上条自身はこのシチュエーションに、流石に慣れてきていた……というのもあるが、こんなお嬢様にしがみつかれて、正直なところ不快なわけがない。単に照れくさいのと、他人に見られたくないだけであり、その点この帰り道はほとんど人がおらず、気楽だった。お互いコートを着ているせいもあって、厚着であるがゆえに接触部分もあまり意識しなくて済んでいる。(ケーキ屋バイトやさっきの繁華街で、さんざカップルにアテられただろうしな。まあ、ちょっと人恋しい気分になるのは分からんでもないわな) 元々バイトの件で引け目があるせいか(上条からすると気にしすぎとしか思っていないが)、普段と違って刺々しい所が全く無いので今日は非常に付き合い易い。ここぞとばかりに、「甘えんぼですね、御坂さんは」と一言言ってみたいところではあったが……余計なツッコミをして、今日一度も出してこない電撃を誘発したら元も子もない。 明日からはいつもの二人の関係に戻るだろう。天敵の自分と『恋人ごっこ』をしている様子の御坂美琴の胸中は計り知れないが、上条としては本人が満足してるんならいいか、といった心境であった。 ◇ ◇ ◇ あの、言葉 をもう一度 -Christmas Night- 3 (後編) 「えっと、ちょっと聞いていい?」 もうじき(学舎の園の)入り口だな、と上条が口にするより早く、美琴が上条に問いかけた。「ん? 何だ?」「今日、その……もしこの約束なかったら、何してたの?」「んー、その手伝ってた教会で、そのままパーティーに参加して飲み食いってとこじゃねえかなあ。誘われたけど、お前との約束あったし」「あら、……悪かった、わね」「ま、あっちは大勢でやってるし、俺がいねえからどうこうってのもねえよ。……たぶん」「そっか……」 上条は思い出していた。夜は女子中学生と約束があると漏らしたがために、お馴染みのシスター達に監禁されそうになったのだ。這々の体で逃げ出してきたが……。 美琴もまた、思いを巡らす。(間違いない、きっとみんなコイツに残っていて欲しかったはず……) 逆の立場だったら、自分ならもうパーティどころではない。誰かと約束があるなんて聞かされようものなら。 今、こうやって一緒にいられるのも、あのアルバイトを決めた日、ポケットにあった100円玉が、――もし逆の目だったら、自動販売機の前に行くこともなく……今頃ベッドの上で三角座りでもしていたかもしれない。 幸運。これは相当幸運だったと思っていい。美琴は今の幸せをかみ締めた。 しかし、その幸せの反面として、新たな不安も生まれている。この帰り道、上条にしがみついて考えていたこと。 自分の中にある、まだ眠っている、体裁を打ち破るほどの莫大な感情―― 今なら分かる。あの『恋じゃない』と否定していた心は、……それ自体に意味はなく、ただ『上条の事を考えている至福のひととき』の一つに過ぎないという事を。意味があるとすれば、心が彼に向かいすぎないように調整していた、程度のものだろう。 だが、今日こうやって始終しがみついて……この居心地の良さを、身体が覚えてしまった。特に、心にぽっかり穴が空いたところに、こんなに甘いモノが流れこんできたのである。――ひとたまりもなかった。 不安。 この眠っている感情、……もはや薄皮一枚の状態だが、もう押さえ込める自信がない。 次に感情が高ぶったら、自分は…… と、そこで美琴は何とか我に返り、軽く首を振った。これ以上は、きっと彼も拒絶する。――それは、お互い不幸なだけだ。 自信のある無しではない。押さえ込まなければ、今度こそ関係が壊れる。もうあのバイト先での思いは、二度としたくない。 美琴は自分の中の不純なモノを吐き出すかのようにため息をつくと、上条を見上げて話しかけた。「と、ところでさ。ちょっと、あの、いつもの自販機のとこ、寄っていいかな」 広い学舎の園の前を通り過ぎ、上条の高校との分岐点が見えてきていた。 その分岐点を、高校側に少し歩けば、あのいつもの自動販売機がある。「いいけど、門限大丈夫か?」「大丈夫、すぐ済むから」 少しルートを外れ、自動販売機の場所まで歩く。 アルバイトの相談をしたテーブルの前まで来ると、ようやく美琴は絡めていた腕を放し、上条を解放した。「飲み物でも買うのか?」 上条はう~~~ん、と伸びをしている。「ううん、ちょっと待って」 美琴はカバンをあのテーブルの上に置き……ごそごそとラッピングされた袋を取り出した。 おずおずと、上条の真正面からプレゼントを差し出す。街灯と自動販売機の灯りで、暗すぎるということは無い。「はい、これ。ここで今日の約束した時、私言ったでしょ、『褒めてあげる』って。これがご褒美、ね!」「えっ……いやいや、俺なにも用意してねえ!」「クリスマスのプレゼント交換じゃないってば。ご褒美だって言ってんでしょ」 うわ参ったな……と上条は躊躇っていたが、頬をポリポリ掻きながらも受け取った。「サ、サンキューな。開けていいか?」「う、うん。気に入ってくれると、いいんだけど」 丁寧にシールをはがし、そろそろと中身を取り出す。……上条が低く唸った。「お、お前これ……最新のアレじゃねえか!」「えへへ、これならアンタも持ってなさそうだったし」「持ってるわけねえだろ! ……シャレなんねーぞ……」 それは手袋だった。 しかし、最新のアレ、というだけあって学園都市最新技術が盛り込まれているシロモノで、この高機能手袋は極薄なのに防寒性・耐衝撃吸収を兼ね備えており、更に……「なんだこれ……ものの数秒で装着感無くなったぞ……すげえ」 早速右手にだけ装着した上条は再度唸る。「私の水着もそうなんだけど、その装着感無くなるのって、良し悪しな気もするけどね」 学芸都市でも着た美琴の競技タイプ水着も、高性能な中でも、着ていると装着感が無くなるというのが性能の一つとして挙げられている。本当に何も着ていないような気分になるのだ。「お前これは……いやもちろん嬉しいけど、ちょっと行き過ぎじゃねーか?」 値段は今日のバイト代で賄えるレベルではないはずだ。「アンタね、その右手で色んな人救ってきてんじゃないの? どうせこれからも酷使するんだろうし、せめてそれでちょっとは守りなさいな、ってね」「…………、」 上条は包装紙をコートのポケットにしまい込み、両手にきっちり手袋をはめ直し、にぎにぎと感触を確かめた。「マジですげえな……ありがたく受け取るけどさ、俺お前にこのレベルのお返し、なにもできねえよ……」「だからご褒美だと何度言ったら。……それにお返しって話なら、私に言わせりゃこんなの、アンタへの借りの足しにもなってないわよ? ただ市販品買っただけだもん」「借り、って……お前ひょっとしてシスターズかなんかの話してんのか? あれは俺が好き勝手やっただけじゃねーか」「それだけじゃ、ない。色々よ、色々。……アンタが好き勝手と言うなら、私もこうやって好き勝手にやる、それでいいでしょ?」「あーもうお前は! 何でこういう、いやそりゃ嬉しいけど、……うーん……」 上条的には、両親からの高校入学祝い級とも言える破壊力を持った品であった。 友人間のプレゼントのレベルではない。「……罰ゲームと一緒だけどさ、何でも言うこと聞くから、何か言え」「え……?」 上条には、もうこれしかなかった。「ご褒美なのは分かった。ありがたく受け取る。で、それはそれとして、お前には世話になってるし、……俺もお前にプレゼントしたい。出来ることなら何でもやってやる」 今日の御坂美琴の行動はちょっと読めない。よって、こういう「何でもやってやる」は結構危険な賭けであった。 しかし、日を改めてプレゼント返しをしようにも、ちょっとこれはマトモに返せない。金欠は解決していないのだ。 美琴は考え込むかのように俯いてしまっている。 しばし、二人の間に静寂が流れた。自販機の内部の音だけがやけに響く。 しかし思ったより早く、美琴が沈黙を破った。「じゃあ、……お言葉に甘えて……」(!? 早い! この展開を読んでた……ってのは無いか。てーことはつまり……) ひょっとして常日頃、俺に期待してる事がある? 今思いついたのではなく、前々から考えていた事。……そして言い出せなかった事。なんだか重くて、実現が厳しそうな予感がする。 だが上条は、動揺を押し隠しつつ、頷きながら言葉を促した。「出来ることなら、すぐ約束してやる。言っちまえ」「……その……アンタが前に言ってた言葉を、聞かせて欲しいな……ってのは、ダメ?」――言葉。(何だ!? でも、言ったことのある言葉、なら問題ねえ、よな……?) 二度と口にしたくないほどクサイ言葉があったかどうか思い出そうとする上条。あの橋の上では結構言っちゃった感はあるが、切羽詰った状況であまり明確に覚えていない。 しかし、ここで嫌なことに思い当たった。(まさか……記憶喪失前、とんでもねーこと口走ったとかじゃねーだろうな、俺? ひょっとして、俺がコイツをナンパしたのが出会いで、その時のセリフ……ってのもあり得るんじゃねーか!?)「そ、それでいいならお安い御用、と言いたいけど……、いつ、どこでの話だ?」 不安が何だか膨らんでくる。上条は俯き加減に視線をそらしたままの美琴に、おそるおそる問いかけた。「……夏休み、最後の日。」 夏休み最後の日。(偽デートやった日か! 何か言ったか俺……? そういえば夜も歩道橋で会ったっけ)「その……工事現場で、海原光貴に……、いつでもどこでも駆けつけて、って言ってたじゃない? 同じ言葉を、私にも……」「…………、って!」 今の言葉が上条の脳に時間をかけて染み込み……、そして上条に驚愕の声を上げさせた。 確かにあの時、御坂美琴が落ちてくる鉄骨の軌道を変えてくれたような記憶がある。――しかし、粉塵の舞い散る中、そんな聞こえるほど近くに居た、と!?「ちょ、ちょーっと待て! あ、あれ聞こえてたのかお前!」 美琴はこくん、と頷いた。そして、上条に顔を向ける。「かすかに、ね。だからいつかちゃんと、……あの、言葉……をもう一度、って」 上条は頭を抱えた!「バカお前、あんなの本人目の前に言えるかっ! あ、あれはつまり……アイツとの約束であり、俺の誓いで、しか……!」「……ダメ?」「…………、」 美琴は、上条をじっと見つめていた。 だが、引きつった上条の顔を見るとまた、うつむいてしまった。「ダメなら……いい。……アンタが何かお返ししようとしてくれた、その気持ちで十分。……帰ろっか、もうここからは一人で」「待て待て!」 チェックメイト。急にしぼんでしまった様な美琴を見てしまったからには、このまま帰るという選択肢はあり得なかった。「け、結論を早まんな! よりによって、何だってその言葉なん……だ?」「…………、」「い、いや、あのな? 言葉なら言える、恥ずいけど言える。でも、めちゃくちゃ上っ面な台詞になるぞ? 何かこう、お前が敢えてそれを選んだ理由とか教えてくれるとかしねえと……」「…………、」「やっぱり、言葉ってのは感情を込めて、じゃねえと、さ……今のままじゃ、言い方悪いけど、『言わされた』みたいになっちまう」 自動販売機のヴ…ンといった稼動音だけが、しばし二人の間の静寂を取り持った。 やがて美琴が、ぽつりとつぶやきだした。「……私とアンタって、肝心なところで縁が、ないのかな、って」「……はい?」 思ってもみない言葉に、上条は戸惑う。 美琴が顔を上げた。何か覚悟を決めたような表情をしている。「アンタってさ、私をほんとスルーするよね。無視じゃなく、視界に入ってない類の」「してねえよ、と言いたいトコですけど……」「今日アンタがバイトに来なくってさ、……色々考えさせられたのよ。そういや、メールは届いた試しないし、電話は肝心なところでブチブチ切れるし、恋人ごっこでも罰ゲームでも途中で邪魔されるし、他にも色々。……これはひょっとして、何かあるんじゃないかって」 これは確かに上条も不思議に思っていた。美琴とはいつも尻切れトンボな形で話が終わるのだ。 美琴は上条を見つめたまま――たまに視線を下に落としたりもしつつ、淡々と話す。「でも、シスターズの件や残骸事件の時は、そういう妙な妨害無かったしなあ、と思ったとき、気づいたの。あの2つの事件は、アンタの視点からしてみたら、あくまであの子や黒子が主役だったのよね。あくまで私は、オマケ、だった」 確かに、命の危険という意味では、主役は御坂妹であり、白井黒子であった。だが、美琴がオマケというほどに低いわけではない、と上条は思ったが、口には出さずに美琴の言葉をじっと聞いていた。 ちょっと間を開けて、美琴は改めて口を開く。「ではここで問題です。御坂美琴が一人単身でどうしようもないピンチになったとき、どうなるでしょう? 私が主役だったなら?」「…………!」「……なんかさ、アンタは来ない気がするの。今までの経緯を考えると、アンタは私をスルーしちゃう、と思うのよ……」 美琴の声のトーンが落ちる。「何なの……かしらね。アンタの右手は、私の電撃を防ぐのに飽きて、私との縁をぶった切ろうとしてるのかもね。私が死んじゃえば、防ぐ必要も無くなるものね。……冗談よ」 口を開きかけた上条を、美琴は制した。「……アンタも知ってるかな。学園都市のLV5が次々におかしくなっていってる、って話。噂じゃ五体満足な状態でもないって聞くし」 上条の脳裏に、ロシアでのアクセラレータの姿が思い浮かぶ。苦悩と狂気に彩られた、上条に向けた総攻撃……確かに、正常ではなかった。「私も、アンタがいなかったら、そうなってたと思う。精神的にか、物理的にかはともかくね……。でもまた、いつか……きっと何かに巻き込まれる。もう予想ってか、確信に近いわね」「…………、」「だから、さ」 美琴の声が……鼻声になった。「直接、あの言葉をもう一度……、と思ったの。……今のままじゃ、『お前だけは助けない』って言われてる気分でさ。……つらいじゃない、そんなのって」「御坂……」 美琴は俯いた。かすかに涙目になってしまったのを隠すかのように。「言っとくけど、アンタが来る来ないは本題じゃないわよ? 私は独りでやるもの。ただ、……どうせスルーされるって思って戦うのと、ギリギリまで諦めなければアンタが来るかもと思って戦うのと、どっちがいい? って話でさ……」 声のトーンは戻ったが、幾分自嘲気味に美琴は続けた。「これが理由。……あんまり言うもんじゃないわよね、白けちゃったかな。やっぱり言わなくていいわ、帰……」 美琴の言葉は、そこで途切れた。――上条が、美琴の頭の上に、優しく右手を乗せたためだ。「分かった分かった。お前またややこしいこと考えてやがんなあ……」「…………!」 上条はつぶやき、俯いた美琴の頭を優しく撫でる。美琴は胸の前に両手を揃えたまま、硬直していた。「縁……ね。俺は相当お前との縁は、あると思ってるけどな」 頭の上に乗せた右手を、上条は美琴の左肩に移動させた。手を頭から外せば美琴が顔を上げるかと思ったが、美琴は俯いたまま、上条を見ようとしない。「……ど、どこが……よ」「例えばあのバイトの話、ここで偶然会ったのが始まりじゃねーか。あれが縁じゃなかったら何なんだ? それに、今日の21 00の電話もそうだよ。肝心な電話が切れるっつー話も、微妙だよなこれで」「…………、」「そして、お前、今日ずーっと俺にしがみついてたけど、誰かに邪魔されたか? 妹も、白井も来なかったぞ?」「それは……」「それにそもそも、携帯のペア契約だの、両親の面あわせだの、……これで縁がないとか言うのかよ、お前は?」「だ、だから、縁自体はそれなりだとは思うけど、肝心な時、って話よ!」 美琴は小さく抗議した。「ま、確かに言われてみれば、俺とお前の繋がりみたいなのが、妙な力で邪魔されてるような感じは否定しねえ。お前のピンチに気づかないかもしれねえ」 でもな御坂、と上条は言葉を継いだ。「――お前には周りの奴らが居る。御坂妹が、白井が、皆がいるじゃねえか。そいつらがきっと俺に教えてくれる。お前は、独りじゃねえんだからさ。で、俺が――」(直接言う事による『責任』と、その『覚悟』――! ちっと重いが、まあ構わねえ!) 上条はもう一方の掌で美琴の肩を掴み、心のなかで誓いを新たにした。 両肩を上条にしっかりと掴まれた美琴。その『意思』を感じ取った少女は、弾かれるように顔を上げ、目の前の少年を見つめ――「いつでも、どこでも、誰からも。何度でも駆けつけて、お前を守ってやる。御坂美琴の世界を守ってやる」 上条ははっきりと、美琴を見つめ返しながら、言い切った。「…………!」「お前ホントどうしたんだよ今日は。イブだからっておセンチになりすぎだぞ、……って!」 上条は言葉に詰まった。 御坂美琴が――目を見開いたまま瞬きもせず、瞳から涙をぽろぽろ落し出した、から。 引き結んだ口元を、わずかに震わせながら。「だあー、泣くな! お、お前、今日は何だってそんな、おん……」――女の子みたいに。 言葉を飲み込み、美琴を改めてじっと見つめた。 女の子みたいに、しがみついたり、泣いたり。 そもそもコイツ、泣き顔見られたのを心底嫌がってなかったか? しがみつくってのも、明日以降からかわれる事を考えれば、本来ありえない事だ。からかわれると、とにかくムキになる性格だったはずだ。 今日は、クリスマスイブに乗じて『女の子らしく』しているのかと思っていたが、……そうではなく、ひょっとしたら。 上条の心に、フッ……と湧き上がる、思い。 今日の、この甘えたで泣き虫の姿が、御坂美琴の本来の姿……? 普段はLV5のプライドもあって弱さを見せまい、と……?(い、いや、そういう判断はあとでいいや! まずコイツどーすっか?) 上条は両手を離して一歩踏み込むと、美琴の左側から右肩を抱いた。(こうやって抱き抱えるようにしてやれば、ちょっとは落ち着くかな? 正面から抱きしめたら、表情わかんねえし……) 空いた左手でポケットをまさぐり、ハンカチを取り出した。 正面に上条がいなくなったせいか、やや視線は下におとしつつも、涙をぬぐおうとせず心ここにあらず、といった風である。美琴の目の下に、上条はそっとハンカチを当ててやる。「お前、マフラーぐしょぐしょになるぞ……台詞もどういうか分かってんのに、なんでそんなに……」 ようやく美琴がぴくりと動いた。 ゆっくりと、左側にいる上条へ顔を向ける。(うっ……!) 上条の身体を、電気のようなものが貫いた。決して、美琴の直接的な電撃ではなく。 見つめてきた美琴の潤んだ瞳、唇から視線が外せない。さっき真正面からの時は焦点があっていなかった感じだったが、今は、はっきりと上条を見つめている。(な、なんだこの空気は、……!)「……ぁ」 ありがとう、と言おうとしたのか。声にならずに美琴の唇だけがかすかに動く。 美琴の潤んだ瞳がとろん、と―― マズイ――! この顔の距離、顔の角度、……後は、少女が目を閉じようものなら。(ま、待て御坂。そこで目を閉じたら、『そういう』空気になっちまう! お、俺たちは『そういう』関係、じゃ……!) 美琴は、『あの言葉』を聞いてから、――感動して何も考えられなくなっていた。 自分が涙を流していることも、気づいていない。 そして、頬になにか布のようなものが当てられる感触で、ようやく我に返った。 左側に気配を感じて、ゆっくり顔を向けると、心配そうに見下ろす、『アイツ』の姿が。――何か言わなきゃ。 口を動かすが、出てこない。 それよりも、そんなに見つめられると、眩しくて……嬉しくて、幸せで……目を開けてらんない…… 美琴はゆっくりと目を閉じた。 上条はその美琴の幸せそうに目を閉じた顔を見て、吸い寄せられるように、唇を近づけ―― ビービービービービービー!!!「うわわわっ!?」「きゃっ!?」 突然の警報音に、二人とも思わず抱き合った!「な、なんだっ!?」「…………!」「じ、自販機か。何で警報が……?」 二人して自販機を見つめるも、何で鳴っているのか皆目見当がつかない。 上条も美琴も、一気に現実世界に引き戻された。(……た、確かにキスしそうな空気だったが、そこに完璧なタイミングの警報って何だよ……、って!)(し、幸せな気分に浸ってたのに、なんなのよこれ! コイツ絶対なんかあるわよ、間違いない! って!) 二人は同時にばっ! と離れた。「は、はは……」 さっきの危うい空気と、おもいっきり抱きしめあった状況に、赤面する二人。 甘い空気が吹き飛ばされ、仕切り直すにもこんな警報音の下ではあり得ない。 が、やにわに上条は美琴の手を差し伸べた。「……?」「と、とりあえず行くぞ。ここに居たらマズイ!」「! そ、そうね。通りの道まで戻りましょ!」 美琴は頷いて上条の手を取った。抱きしめあった後では、手を握るなど照れもなく出来るから不思議なものである。 上条は逆の手でテーブルの上の美琴のカバンを掴む。「カバンはとりあえず持つ! 行くぞ!」 巻き添えはゴメンとばかり、二人は逃げ出した。「……お前、やっぱ、自販機、蹴りすぎだ、ろ! 反撃だな、ありゃ!」「ば、馬鹿! んな、訳、ないでしょ! あ、警備、ロボットが」 走りながら途切れ途切れに会話していると、警備ロボットとすれ違った。あと30秒判断が遅れていたら、面倒な事になった事だろう。「とりあえず、あの、高架下、へ!」「う、うん!」 二人は頷きあうと、手をつないだまま走り続けた。 ◇ ◇ ◇ はーっ、はーっ。 高架下で足を止めた二人は、とりあえず息を整えていた。……手は握ったまま。(……御坂は手を離す気はないみたいだな。ああもう、今日はこのお嬢様の好きにさせとこう!) そんなことよりも、上条にとっては実際問題、キスしかけた自分の心理状態のほうが問題だった。(ぐうう、中学生相手に俺は……! な、流されたとはいえ、キスしてたら大問題だったろ俺! ううう……) 自称硬派が聞いてあきれる。 上条は美琴に気取られぬよう、そっとため息をついた。 一方、美琴は、思い出していた。『いつでも、どこでも、誰からも。何度でも駆けつけて、お前を守ってやる。御坂美琴の世界を守ってやる』 美琴にしっかり刻み込まれたこの言葉。 恋人でもないのに、現実的でもないのに、誓ってくれた上条の真意は分からない。 でも、真意を上条に問おうとして表に出せば、きっと『薄れる』。 描いた絵を解説して貰う必要はない、こちらは感じ取るだけでいい。感じたままに、心の奥底に、丁寧にしまい込んでおけば――。 この言葉があれば、明日からもきっと大丈夫だ。感情のコントロールができないと不安がる必要は、もうない。 美琴は、自分の中に芯のようなものができたことを感じ取っていた。物理的に上条にすがるのではなく、この芯にすがれば良い。(勇気を出して、言ってもらって良かった……) 繋げた手をぎゅっと握りしめた。「ああ、もう大丈夫か? じゃあ行くか。マジで門限きつそうだな」「正直、テレポートでもないと無理ね。まあでも叱られりゃ済む話だし。あ、ごめんカバン持つね」 自分のカバンを受け取って、一歩歩みだしたところで、美琴は足を止めた。「御坂?」 上条は、うつむいている美琴をいぶかしがる。「あの、さ……」「な、なんだ?」「自分で贈っておいてナンだけどさ。……手袋外して欲しいかな、って」 そう言って、美琴は手を離した。真っ赤な顔が見て取れる。 上条は、まじまじと繋いでいた手を見つめる。超薄手の特製手袋。(コイツは……いやもう敢えて言おう。マジで可愛いかもしれん! 今日だけかもしれねえけど!) 丁寧に手袋を外してポケットにしまい、上条は改めて手を横に差し出した。 美琴も、改めて上条の、素手を握る。「やっぱ、違うね」「ああ……お前手、冷えてんじゃねーか。手袋じゃわかんなかったぞ」「さすが防寒仕様ねえ」 走ったとはいえ、数分の短距離だ。手が温もるほどではない。 しょうがねえな、と上条はつぶやき、美琴の手を握ったまま自分のコートのポケットに手を入れた。 そして美琴を引っ張るように、歩き出す。「き、気のきいたことするじゃない」「あの繁華街でな、こうしてたカップルがいたんだよ」「か、カップルって……」「今更カップル云々で意識してんじゃねーよ。ずっとしがみついてたクセに」 美琴はカーッと赤くなりつつも、黙ってはいなかった。「な、何よ。アンタだって、さっき私が眼を閉じてた時に、何しようとしてたのよ!」「え、いや、何も! 何もしてませんですことよ?」「へー。すっごいニンニク臭いのが、濃厚に感じ取れたんだけど? あれは気のせいだったんだ?」「き、気のせいだ! 元々距離近かったんだから、ソレのせいだ!」 美琴はむーっと上条を睨んでいたが、やがてぽつりとつぶやいた。「……次は、そういう匂いのしないとこ、行こうね」「へ?」「何でもないっ!」 顔を赤くして顔を背けてしまった。 上条はそんな美琴の様子を見て、ははっ、と笑う。コイツこんなにいいキャラしてたんだな、と。「……じゃあ、次お前が選べ。ラーメンは俺が選んだしな」「……よ、よーし。きょ、今日のバイト代使いきれるとこ探してくるから、待ってなさい!」「つ、次は奢る必要ねえよ!」「アンタが私の初アルバイト代で奢れって言ったもん! まだ契約は終わってないんだから!」「こ、この……泣き虫娘が!」「あーっ、そん……」 不意に美琴の声が途切れた。「え?」 上条が思わず声を出した。 そこにいたはずの御坂美琴が、消えていた。 いきなり握っていた左手から、感触が消えた。 思わず振り返ると、そこには。「門限ですわよ、お・ね・え・さ・ま?」 これは門限破りか、と白井黒子がやきもきして探しにきたのだ。「ちょ、ちょっと黒子!?」「問答無用ですの!」 思いっきり白井黒子が睨んできたかと思うと、美琴と黒子の姿はかき消えた。「……ここでようやく、邪魔、か」 上条が小さくつぶやいた。 本当に彼女とは二人でいると、無難には終わらねーなと改めて思う。「ま、今日は御坂の……違った一面が見れたって事、でいいか。結構可愛らしい面があるってこったな」 フッとイルミネーションでの浮いた台詞や、キスしかけた事を思い出す。(くっ……アイツよりまず俺だ。いつもの上条さんに戻らねーと、明日からアイツの顔見れねー……) 上条はブンブンと首を振った。 携帯を取り出し、時計を見た。あと2分ほどで23時だ。(……ま、門限に間に合うなら白井に感謝しなくちゃ、だろう) 上条は天を見上げる。(さーって帰って寝るか。明日も補習だし、……って?) 黒かったので、至近距離まで気付かなかった。上から黒い網が降ってきたのである!「何だーっ!?」 網に絡まってもがく上条。機を同じくして、四方から現れたのは。一人の男と、数人の修道服の女たち。「た、建宮! 何のつもりだテメエ!」 クワガタみたいな光沢のある尖った髪に、ぶかぶかのシャツやジーンズ。首には小型扇風機を四つほど紐を通して引っ掛けてある――そう、建宮斎字である。 建宮は答えず、修道服の女たちに合図する。わらわらと上条に群がり、網で綺麗に巻きあげてしまった。 上条も女相手では無茶な抵抗もできず、ほとんどなされるがままであった。「な、何のつもりだ、と……」 建宮が不機嫌そうに口を開く。「……まあ積もる話はオルソラ教会に戻ってからなのよな」「へ?」「こちらのパーティを抜けだして、女子中学生とクリスマスデートとあっては、そのままにしておけんのよ」「な……に……?」「ああ、さっきは邪魔してすまなかったのよなあ。自販機を誤作動させるタイミングは我ながら完璧! と思ったものよ」「てっ、テメエ……、全部見て……?」 建宮は上条の呻きには反応せず、修道服の女たちに頷く。「さて、二人の関係を洗いざらい吐いてもらうのよ。科学の方に調査が及んでいなかったのは不覚。まさかインデックスの他にいようとは思わなかったのよな」「ちょ、ちょっと待て……」「では戻るとするのよ!」 女たちに担ぎ上げられた上条当麻は、思わずつぶやいた。「俺を、いつでも、どこでも、誰からも。何度でも駆けつけて、守ってくれる人はいねえのかなあ? 不幸だ……」 上条当麻のクリスマス・ナイトは、まだ終わらない――。fin.
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/146.html
「「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」」 「カックイイやん!!ホンマおおきに!!」 「どういたしまして。」 「黄泉川が化粧するって言って心配したけど結構いけるな…」 「私をなめるんじゃないじゃん♪」 「騎士団長も結構器用だにゃー…」 「まあそれ人並みにはな」 「(嘘つけ、思いっきり若作りしてるにゃー…)」 「何か言ったか土御門?」 「何でもないぜい!?」 「ならいいんだが…」 「ハッ!?ふざけんな!!これ本当に俺かよ!?」 「かっこいいでしょう?」 「こんなにまともな化粧なら最初から安心しとけば良かったなァ…」 「こら!!美鈴さんをバカにするんじゃない!!」 「母さん!!今あなたの息子はとても感謝しています!!」 「あらあら、当麻さん的には感謝しちゃった?」 そう言って自分の彼女の所に向かって行った。 「にゃー! 待ってるぜよ月夜ーーー! 生まれ変わった俺を見て思う存分惚れ直すんだぜい♪」 会場に一番乗りしたのは土御門だったが、それを阻止したのは会場から出てきた月夜とローラ。 「ありゃ? どうしたにゃー? 月夜。それに最大主教と一緒でどんな組み合わせぜよ?」 「おや、素顔の土御門とはいと珍しきものを拝めたるのよ。人間、化ければ化けるものなるな」 「も、元春……。す、凄くカッコいいよ! どうしよう、ますます惚れちゃうじゃない!」 「にゃー。最大主教のコメントはシカトするとして、月夜にそこまで言われるとは照れるぜい♪」 月夜に褒められたことで天にも昇るような気持ちになった土御門だが、ここからが彼の地獄だった。 「じゃあ早速だけどつ・ち・み・か・ど・く・ん♪ ローラさんからお願いされた罰、受けよっか」 「ば、罰って何のことぜよ! 最大主教、あんた月夜に何を吹き込んだ!」 「あらら土御門、いつもの口調を忘れてたるとはまだまだ甘甘なのよん。私と月夜が意気投合した、それだけのことなりけるのよ」 「駄目でしょ土御門君。ローラさんのような良い人をからかうなんて。安心して、そんなに痛くしないから♪」 このままでは何をされるか分からない、土御門は窮地に立たされながらも打開策を模索した。 そして目に付いたのは月夜とローラの後ろにいる初春だった。 (あの初春って子に助けを求めればねーちんと建宮は最低でも動いてくれるはず! ここは一つ……) 「初春ちゃーん! この二人はパーティーを台無しにつもりだにゃー! 助けて欲しいんだぜい!」 「ローラさんに白雪さん、お願いがあります」 初春の言葉に助かったと思った土御門だが、それがいかに甘い考えだったを思い知る羽目に。 「ここでは会場が滅茶苦茶になりますから外でお願いします♪ それとすぐに回復できる程度のお仕置きにして下さい。メインイベント(ゲーム)がありますから」 「「はーーーーーい♪」」 「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺が一体何をした! 初春ちゃんに説明を求めるぞ!」 「話を聞いたかぎりでは土御門さんに非がある=トラブルの根本は土御門さんにあると判断しました」 「そ、そんなこと言われたって納得できるかーっ! ねーちん、建宮、絹旗! ヘルプミー!」 わらにも縋る思いで神裂、建宮、絹旗に助けを求める土御門だったが、3人とも笑顔で手を振っているだけ。 土御門を月夜と共に外に連れ出す最中、ローラは神裂と建宮を手なずけている初春に少なからず興味を持つのだった。 「うわっ! 今のは土御門と白雪、それに……確か最大主教だよな。何か奇妙な組み合わせだったけど」 月夜とローラに強制連行された土御門とすれ違ったのは2番乗りした当麻だった。 今の自分を見て欲しい、そんな気持ちを隠すことなく会場に入ろうとしたが、目の前に飛び込んできた『あるもの』に咄嗟にドアを閉めた。 「テメェいきなり何閉めてやがンだよ! さっさとパーティー会場に入りやがれ!」 「せやでカミやん。ボクのこの姿に黒子はんがどんな反応してくれるんか楽しみにしとるのに」 「俺だって滝壺に早く会いたいんだぞ! それなのに入らねぇってまさか上条、怖気づいたんじゃねーだろーな!」 ブーイングをする後から来た3人を一度見渡した後で、当麻は一方通行の両肩に手を置いた。 「お、おい、一体何のつもりだァ?」 「一方通行、この先にある光景、お前は耐えられるか? どんなにシュールでもパニックにならないか?」 「パニックだァ? 誰に向かって言ってやがンだァ! 学園都市最強のこの俺がパニックになるわけねえだろうが!」 ここ最近ではもやしっ子のイメージが強い一方通行だが、彼はれっきとした学園都市最強なのだ。 当麻は一方通行を信じてそっとドアを開けるが、 「な、何だありゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」 一瞬でパニックに陥り、目の前の光景を吹き飛ばす為にチョーカーの電源を入れようとする。 しかしそれは神裂、建宮、絹旗に上手く取り押さえられ阻止されてしまった。 まだパニック状態の一方通行を初春が普通に宥めているその後ろには、 「わーいわーい♪ ってミサカはミサカは今まで見たことの無い最高の見晴らしにはしゃいでみる!」 「むぅ、なぜこのようなことをしなければ……」 ウエディングドレス姿の打ち止めが、アックアに肩車されて喜んでるなんともシュールな光景だった。 ちなみに一方通行がパニックになった理由はアックアに打ち止めが無理やり担ぎ上げられたと思い込んでのことだったりする。 アックアはこのようなことになった顛末を思い返していた。 …数分前 「はっはっは!!ミサカが一番乗りー!!ってミサカはミサカはくるりと一回転してみたり!!」 「おー、似合うな少女。」 「ミサカは現金なんだよ!!ってミサカはミサカは何かを要求してみたり!!」 「…しっかりしてるな、最近の子供は…」 やれやれ、この娘の育て親が見てみたいと魔術側の者達は思った。 「ん~…じゃあウィリアムの肩車でどうだ?」 「ぬう!?何故私に矛先を!?」 「いいじゃないかいいじゃないか!!」 「ミサかもそれがいい!!ってミサカはミサカはよじ登ってみたり!!」 「ってぬおう!?いつの間に上っておるのだ!?」 「いいじゃない!!ってミサカはミサカはごまかしてみたり!!」 ってな感じである しかし一方通行はそんな事情は知らない。一方通行は取り押さえながらも何とかして電極のスイッチを……… 入れた。 その後の結果を説明するのも面倒臭い、 一方通行は取り押さえていた人達を吹き飛ばし、そのまま打ち止め回収をして、 ウィリアムを外に引きずり出した……… 「ウィッ、ウィリアム!!??私のウィリアムを引きずりだすとはあの野郎は何者だ上条当麻!!!」 「ヴィリアン王女!?言葉遣いおかしくなってますけど!!!(なんか母親に似てるような……)」 「ごちゃごちゃうるさい!質問に答えろ!!!!」 「ギャーッ!!ヴィリアン王女落ち着いて首絞めないでーっ」 「ちょっと私の当麻に何すんのよ!!当麻の首絞めていいのは私だけーっ!!!」 「美琴サン!!なんか後半変ですよ!!ってギャー!!!!」 3人がドタバタと騒いでるのを見て。 女王が一言。 「…私が堅苦しい王室言葉をやめて今の言葉遣いになった時みたいだな……懐かしい」 しんみりとしている女王陛下の空気をぶち壊すのはもちろんこの男 「なんですと!!クソーっヴィリアン様だけはおしとやかな姫に成長されたと安堵してたのにコンチクショーッ!!」 「フッ青いな騎士団長、血は争えぬというではないか。」 「当のご本人に言われたくないわ!!おのれあの白モヤシ、抹殺してくれる!!!」 そう言って外へ飛び出した騎士団長が見たものとは…!! 雪像×3(土御門+一方通行+ウィリアム) それの前で仁王立ちしている白雪と それを見てガタガタ震えているローラである。 なぜこうなったのかというと。 すべては30秒前…。 ウィリアムをひっつかんで外に「文字通り」飛び出した一方通行。 そして何かにぶつかった。 当然ウィリアムもその何かにぶつかって二人してその「なにか」に倒れこむ。 「痛ってェなァ。何にぶつかったンだァ??」 「人をひっつかんで飛び出した貴様に言う資格はないのである。ってぬぅ!?」 二人は自分たちの下敷きになってる「何か」の正体に気がつく。 それは白雪月夜であった。 2秒前。 月夜は説教をしたうえで土御門を雪像にし、ローラと談笑して帰ろうとした月夜。 ドアに手をかけた瞬間そのドアがバーンと開かれて男二人がぶつかってきたのである。 避けられるわけがない。 そして。 「ぬぅ!!!イカン!!」ウィリアムが叫び、一方通行が青くなった理由。 男二人の手が 月夜の胸に…… しかも立ち上がろうとした二人はそれを「鷲掴み」。 ローラが息をのむ。 月夜の表情が消える。 男二人も命の危険を感じ取る。 上条さんも顔負け0.1秒で土下座体制に完全移行!! 「スマン!!ほんとに悪気はなかったンだァ!!!」 「こ奴に掴まれていたとはいえ済まないのである!!!」 「…」 月夜は黙る。 だが。 ヒュウウウ 二人は吹雪が来るような気がした。 が。 確認する前に 二人は雪像になった。 それを見た騎士団長。 (ウィリアムを一瞬のうちに雪像にしてしまうとは………世の中広いものだ…………) と、そんなとき二人の雪がぶっ飛んだ。 ウィリアムは聖人なのだから此のくらいなんてことない。 一方通行はもともと電極のスイッチは入っていたのだが最近は反射を極力使わない(電極節約のため)ようにしているため、 雪の中で反射を行っただけである。(顔は化粧が落ちるため使ってない。) 「うむ……早業だったのである………」 「ったくよォ……確かにこっちが悪いけどよォ……こりゃねェだろォ……」 と、その時とある国のお姫様は雪だらけの傭兵のごろつきを見て……… 「私のウィリアムに何をしているんだ………?」 そして、その手にはボウガン(しかも特大)が収められていた。 「っ!!ヴィリアン王女、落ち着いてください」 「黙りなさい騎士団長!!」 ボウガンの引き金が引かれ矢が放たれた!! と思ったのだが。 実際にはボウガンが「バラバラ」と崩れて散らばった。 「「「「なっ!?」」」」 一方通行、ウィリアム、騎士団長、最大主教は息をのむ。 そして白雪がドレスのすそをつまみ王女に例をしながら言う。 「失礼を致しました王女さま。しかしそこの野郎は私に対して性的嫌がらせをしたのです。」 「そ・う・な・の?」 「いっ、いやっそれは事故なのであるっ!!(ぬぅ!?母親に似てワイルドになっているのである!!)」 「にしてもよォ」空気を読まずに一方通行が発言する。 「どうしてボウガンが壊れたンだァ??」 「ああ、それはね♪」月夜がにっこりと人を100人は殺せる笑顔で言う。 「マイナス300度くらいに冷やしたから脆くなって割れたんだよ。」 ドライアイスに入れたバラがカチコチになって割れる実験の拡大版といったところか。 しかし 「マイナス300だァ!?絶対零点越えてンじゃねェか!!ありえねェだろォ!」 そうである。それ以上低い温度はないとされる絶対零点を超えている。 だが。月夜はあっさりという。 「そこはパーソナルリアリティーで。一応マイナス350くらいいけるよ。きついけどね♪」 土御門と付き合ってからどんどん雪女道まっしぐらな月夜であった。 そして。 ヴィリアンは月夜の発言を受けてウィリアムに詰め寄る。 「私の胸は揉んでくれないのにあの子のは揉めるんだっ! ウィリアムのバカ!」 「だからあれは事故だと言っているのである。それに私がヴィリアンに手を出さないのは」 「私のことを大事に思ってる、でしょ? 私はその言葉を信じてました、いつかウィリアムに愛される日が来ることも。でももう限界!」 そう言ってヴィリアンはウィリアムもビックリの腕力でウィリアムの手を自分の胸へと引き寄せる。 当事者以外はその様子をワクワクしながら見ていたが、その空気を壊す者達が現れた。 「みーなーさーん♪ 何をやってるんですかー? ヴィリアンさんも王女様なんですからハレンチなことは止めて下さーい♪」 「まったくいい大人が何を野放しにしてるんですか……。ここには小さな子供もいるんです。教育上宜しくないことは控えて下さい。……刻みますよ?」 「みなさん外は超寒いですから早く中に入ってください。超砕いちゃいますよ♪ あ、一方通行だけは超残るように」 先程、一方通行に吹き飛ばされた初春、神裂、絹旗の殺しかねないほどのプレッシャーに皆が我を取り戻すと、素直に上琴新居へと戻っていった。 一人名指しされた一方通行だけ(正確には土御門も)がその場に取り残される。 「オイ、執事の野郎はどうしたンだァ? それにテメエら揃いも揃って無事ってのもおかしいだろ?」 「建宮さんがあなたの攻撃を一身に受けてくれたおかげです。その隙に私と絹旗さんは神裂さんに助けられたというわけです」 「建宮に感謝するのですね。彼のお陰で会場が大変なことにならなかったのですから。もし大変なことになっていたら……」 「なってたら……どうだってンだァ?」 興味本位で『もしも』のことを尋ねた一方通行だが、 「簡単です。学園都市中に一方通行さんのあること無いことを広めるだけですよ♪ 例えば幼女と年上のお姉さん二人を囲ってる、とか。実はED、とか」 「ちょっと待てええええええええええええっ!! 何だその性質の悪ィ冗談はァ! 特に後半はダメだろうがァ!」 「それくらいで済むならいいじゃないですか。本当なら初春を傷付けようとした罪で服を切り刻んで、その後で明け方まで庭先に放置する所なんですから」 「その前に一方通行を私の『窒素装甲』のデンプシーロールで超ボコボコにします。そして神裂さんのワイヤーで一方通行を超血だるまです♪」 彼女達の(特に初春の)お仕置き方法を聞いて心底恐怖した一方通行。 そんな一方通行を見た3人はプレッシャーを解くと、初春が代表して一方通行に提案をする。 「でも会場も私達も無事でしたからこの辺で許してあげます。建宮さんはちょっと可哀想でしたけど……」 (建宮のことは忘れてなかったようですね。建宮、良かったですね。貴方の犠牲は無駄ではありませんでしたよ) 「その代わり、一つだけお願いがあります。それを聞いてくれたら一方通行さんのロリコン疑惑も後で解消してあげますから」 「ホントか! 分かった、何だってやる! さっさとその提案ってのを言いやがれェ!」 「簡単なことです♪ アホ毛ちゃんにキスをしてあげて下さい♪ さっきの白雪さんの件のお詫びも込めて」 そう提案した初春の横で、さっきのヴィリアン程ではないか怒ってる打ち止めの姿があった。 破格の条件、そう思っていた一方通行だったがとんでもない条件に冷や汗をダラダラ流している。 三人のメイドと涙目の打ち止めを前に一方通行は人生最大の難関に頭を悩ませることになる。 「…なんでキスなんだよォ…。」 「それはアホ毛ちゃんが怒っているからです。」 「ミサカのこと愛してる証拠を見せろ!!ってミサカはミサカは冗談抜きで、本気で怒ってみたり!!」 「「「さあ、(超)どうする!?」」」 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」 と、頭を抱えている。 そして一方通行の決断は!? 「やるよォ…」 「「「「(超)キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」 打ち止めと初春と絹旗はともかく、神裂まで興奮していた。 「それじゃあ早く♪早く♪ってミサカはミサカはいそいで目をつぶってみたり!!」 「…目ェ、ちゃんとつぶってろよ…。」 メイド達と打ち止めはもうドキドキである。 そして、一方通行の唇は… チュッっと…、 打ち止めのおでこに触れた…。 「こ、これで文句ねェよなァ……。そもそもどこって指定も無かったわけだしなァ」 「そこに気付いたとはさすが学園都市最強のレベル5。いいですよ、貴方のその顔を見られただけでも充分ですから」 おでことはいえ、打ち止めにキスをした一方通行の顔はこれでもかという程に真っ赤だった。 そんな一方通行に満足した初春だったが、満足していないのは他の3名。 「確かに初春の言う通りなんですけど、ここは流れ的に……」 「まったくもって超その通りです。あそこで唇じゃなくて頬を超選んだ一方通行は超へタレです」 「むーっ、あなたのファーストキスは嬉しかったけどここはやっぱり口が良かったってミサカはミサカは嬉しさ半分物足りなさ半分な気持ちを伝えてみたり」 「てめえらなァ! 言い出しっぺが納得してンだから余計なこと言ってンじゃねェ!」 キスの余韻から抜けてない一方通行はまだ顔が赤く、表情もどこか締まらない感じを受ける。 それを喜びと感じた打ち止めは嬉しくなって、不意打ち的に抱きつくとそっと耳元で一方通行に囁く。 「今度は二人っきりの時に口にキスしてねってミサカはミサカは淡い期待を伝えてみたり」 「……気が向いたらな」 一方通行の返答はあまりにも小さく、打ち止めにはよく聞こえなかった。 打ち止めをぶらさげたままの態勢で一方通行は初春に約束の件を念押しする。 「分かってンだろうなァ? ロリコン解消の件、ちゃんと守れよォ!」 「大丈夫ですよ。約束はちゃんと守ります。それにこれは元々、アホ毛ちゃんの為にやろうって思ってましたから♪」 初春はそう言うと、土御門を救出している神裂と絹旗が居る所へと向かった。 一方通行はこれでロリコン呼ばわりから解放されると思っていたが、実はその方がマシだったと思い知るのは少し先の話。 その頃の上琴、青黒、浜滝はというと……
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/115.html
「な、なんですか?とりあえずその格好はやめてください!!」 「「あなた(とうま)が悪いんですよ(かも)」」 早くもショーだと勘違いして人だかりが出来ている。 「そんな格好でも当麻の気持ちは変らないわよ。それとも恥をかきにきたのかしら?」 「その勝ち誇った態度には我慢できないかも」 「じゃあ勝負しましょう。ビリビリ貧乳中学生さん」 「いいわよ。どういう方法で?」 「勿論コスプレです」 「私は持ってないわよ」 「遊園地だからいっぱいあるかも」 そんな話をしている間にもどんどんと人は集まってくる。 「で、誰が一番いいかを当麻が選ぶわけね。いいじゃない」 「それでは不公平なので面白くないので集まってきた人全員に決めてもらいましょう」 「どんなルールでも嫉妬するような奴には負けるわけがないわ」 何が不公平なのかは分からないがそういうルールになった。 「クソガキ!!引っ張るんじゃねェ」 「早くしないとコスプレショーがはじまっちゃうよーってミサカはミサカはせかしてみる」 「うーん…、どれにしようかしら…。」 美琴さんはただいま遊園地の衣装室 「うーん…よし、これにするか!!」 その衣装の名は 超子猫ミニメイド!! そのメイドの衣装はモコモコで、布がとても小さかった(色は黒!!) 美琴がコスプレ衣装を決めた頃、当麻はというと、 (美琴は何を着ても間違いなく可愛いのは目に見えてるからなー。上条さん的にはすでに勝負は決まったようなもんだが、美琴のコスプレ、早く拝みたいです!) 美琴がどんなコスプレで現れるのかを今か今かと待っていた。 しかしながら当麻に予知能力などあるはずもなく、美琴がどんな衣装で現れるのかも分からないのでとりあえず堕天使エロメイドで想像した結果、 「ブハッ!!!!」 物凄い大量の鼻血を噴出して、その場に崩れ落ちてしまった。 いきなりの大惨事にインデックスも五和も心配で駆け寄ったのだが、 「とうまっ! しっかりするんだよっ!」 「当麻さん!」 「くっ、な、なんて可愛いんだ堕天使エロメイド美琴……! ドジっ娘で甘え上手とは……! ダメだ美琴、結婚はまだ早いんだ!」 当麻の妄言を聞いた途端、無言で当麻の頭をどついた後でその場を離れた。 そして二人に芽生えたもの、それは美琴に対する死んでも負けられないという熱い思いだった。 そのころ、コスプレショー(だと思って)見るために集まった群衆の中に「とけこむこと」を得意とする集団が紛れ込んでいた。 「建宮!!離しなさい!!あの二人を止めねば!!!」 「プッ、プリエステス!!あの二人は殺しはしないからここは自重して観察することをお勧めするのよな!!!」 「何をねとぼけたことを!!…ってなに浦上たちも頷いてますか!?」 「こいつら…」 あきれ顔の対馬。 ちなみに五和はコスプレに集中し過ぎているせいか、彼らに気が付いていない。 そして建宮がとんでもないことを閃く!! 「プリエステス!!上条だけに救いの手というのは不公平なのよな!!」「藪から棒になんですか!?」 「プリエステスはここに集まったオーディエンスを失望させてもいいのよな!?」「なっ!?」 そう、そこにはすでに大きな人だかりが。 「で、ではどうすれば?」「ふっふっふっ、簡単なことなのよな。」 「なんですって?」「聞きたいのよな?」 「「「「聞きたいです。」」」」天草式、全員一致。 そして 「止める方もそれなりの格好をすればいいのよな!!!!」「…つまり?」 そして建宮ははるばるロンドンから持ってきた怪しげな袋を取り出す。 そう、それは! 「ジャーン!!大精霊チラメイド【レベル5】!!大精霊チラメイドをさらに強化した決定版なのよな!!!!!!」 「こっ、これを着ろと!!!???」 「「「「「「イエス!オフコース!!!!!」」」」」」天草式男集全員一致。 さあ、神裂、どうする? 「せめて、堕天使エロメイドにしてください…!!」 天草式の野郎どもが歓喜の声をあげたのは言うまでもない。(堕天使エロメイドもレベル5である。) その頃の上条は…。 「にしても、美琴が何着てもエロい気がする…。あいつは体のラインとかでもエロよな…。 それに最近も成長してきた気がするしな…。」などとほざいている。 その頃のインデックスと五和。 「のろけてますね…。」 「のろけてるんだよ…。」 とその時、五和は殺気を感じた。 (な、なんですか…、この殺気は…!!) その殺気は…
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/598.html
そんな頃飛行機から6人のハンター達が降りたっていた。 (レベル5を倒した無能力者二人と学園都市最強の超能力者…こんなに根性あるやつらと戦えるなんてな…俺の根性見せてやりますか!!) (まあ、最近仕事少なくて鈍ってきたところなのよね…、楽しませてくれるかしら?) (出来れば上条当麻を殺りたいところだが、殺しは不味いと言われたからには違う奴と当たることを願おうか。) (飾利姫とのデートが……、まっ、コッからは仕事なのよね。……命日にならない様に気を付けろよ?) (さてと…ゴーレムの会見をイカすシェリーの方に変えたし、更に面白いことにしたし…、幻想殺しか浜面仕上のどちらかを狩れれば文句はないな…。) (禁書目録の前ではああ言ったが…面白い奴に会えればそれでいいのである。) それぞれの思いはそれぞれしか知らない。 ーーーーーーーーーーーー ピクンッ!!最初に起きたのは滝壺だった。 (今のは……レベル5?かなり大きいAIM拡散力場だから間違いない。……こっちに近づいてくる!?) 滝壺は体晶がないと正確な数値はだせないが大きいAIM拡散力場位の動きならすぐわかる。 「(ッ!?もうこんな時間!?)はまづら!!起きて!!」 「ん~…後五分………ってん!?…………ブハッ!!いきなりなんだよ滝壺!!」 「はまづら大変!!もう近くにハンターが来てる!!」 「なにぃ!?ヤベッ!!滝壺!!全員叩き起こすぞ!!」 「わかった!!」 その頃、学園都市にある天草式学園都市支部のアジトの一つに初春と神裂がいた。 無事にハンターのメンバーを送り出した後、二人は帰ってちょっとした話し合いをしていた。 「今頃ハンターの皆さん、到着してる頃ですよね。……火織お姉ちゃん、どうかしました?」 「どうかしたかじゃありません! 建宮をその気にさせたのはいいのですが、どうしてデートをするなどと言ったのです!」 そう、出発前にハンターに指名された建宮は他のハンターのメンバーがドン引きするくらいに駄々をこねたのだ。 そこで初春が交換条件としてデートをするということで落ち着かせたのだが、建宮はキスをねだったので交渉には時間がかかったのだが。 「だってそうしないと出発出来なかったじゃないですか。それに私、一度でいいから男の人とデートしたいなって思ってましたし」 「……それで飾利の気が済むのならそれでいいですけど。ですが当日は飾利のお姉ちゃんとして、女教皇としてデートに付いて行きます! 構いませんよね?」 「ぜひ♪ 建宮さんには二人っきりとは言ってませんし、火織お姉ちゃんと一緒なら楽しくなりそうですから」 初春飾利、どんなに精神的成長を遂げたとしてもこういった所はまだまだ子供である。 建宮の話題を切り上げた神裂はシェリーが参加を了承してくれたことが不思議だった。 「それにしてもよくシェリーが参加を認めてくれましたね。彼女が科学側の行事を受け入れてくれるとは予想外でした」 「……それなんですけど実はちょっとした約束をしまして。火織お姉ちゃん、怒らないで聞いてくれます?」 「怒る? 私が? 私が飾利のことを怒るわけじゃないじゃないですか。さあ、お姉ちゃんに話して下さい」 「えっとですね、もし科学と魔術の共生が出来なかったらその……殺してくれと」 初春の発言に神裂は心臓が止まるかと思うほどビックリしたが、目の前の少女ならそれくらい言っても不思議ではないと納得してしまう。 「でもシェリーさん言ってました。『分かった。あんたのことは認めてやる、殺しもしない。その代わり、最後まで成し遂げろ。私も協力してやるから』って」 「そ、そうですか。それは何よりです(しかしあのシェリーが我々の協力者とはいえ科学側の飾利を受け入れるとは……。これも飾利の人徳ですね)」 「それと彫刻のモデルも頼まれちゃいました。何でも『あんたのその芸術(アート)、形に残したいんだけどモデルになってくれるか?』とか言ってました。芸術って何のことか分かりませんけど」 神裂は瞬時に理解した、シェリーが初春の花飾りに芸術(アート)を感じたのだと。 しかしそんなことは初春本人には言えないことなのであやふやな返事で誤魔化すことにした。 「ところで飾利。あの闇咲という男は何者です? それとあの男をネセサリウスに入れるというのは本当なのですか?」 「闇咲さんはフリーの魔術師で使う魔術は梓弓を用いた風の魔術、あと縄縛術を得意としてます。ネセサリウス入りはローラさんの了承を得て、最終チェックをステイルさんとシェリーさんに任せてます」 「す、すでに最大主教と話をつけていたのですか……。ですが裏切るとかは考えられないんですか?」 「それは大丈夫です。闇咲さんは誠実な方でしたし、闇咲さんの大切な人を信頼出来る病院で看てもらうようにしましたから。ちゃんと見返りは払ってますよ」 ちなみに初春が闇咲に紹介した信頼出来る病院とは、カエル顔の医師こと冥土返し(ヘヴンキャンセラー)がいる病院である。 神裂はますます初春が裏の人間っぽくなってきてるのを成長として喜ぶべきか本気で悩むのだった。 「じゃあ後はハンターの皆さんにちょっとした助言を送るだけですね」 「助言、ですか? 彼らには自由にさせるのでは?」 初春の言葉に疑問を持った神裂だが、目の前の少女の考えは予想を超えていた。 「たまには当麻お兄ちゃん達には負けてもらわないと♪ 勝ってばかりだと後々困るような気がしますし」 「負けてこそ得る物があるということですね。ですがどのようにするつもりです? 私が意見できるとしたら建宮に土御門を任せるくらいしか言えませんよ?」 「火織お姉ちゃん、それいただきです! 成程、建宮さんなら土御門さんに惑わされてる可能性は低いですね。火織お姉ちゃんと違って」 神裂は自分の案を初春が受け入れてくれたことを喜んだが、その後のサラッとした毒舌に落ち込んでしまう。 落ち込んだ神裂を宥めた後で初春は次の案を考え出す。 「ステイルさんとシェリーさんで一方通行さんを30分間、押さえ込むことは可能だと思いますか?」 「学園都市最強を30分……厳しいですね、あの二人といえども。ですがルーンの配置を魔方陣とすればイノケンティウスは強化されますからあるいは……」 「じゃあルーンの配置は合宿参加者の脱落者の皆さんに協力してもらいましょう。もちろん理由とかは一切話さない方向で」 「おびき出しは打ち止めにシェリーの眼球式ゴーレムを使えば問題無いですね。あの子、どうやらシェリーのことを怖がってるようですし」 一方通行対策は時間が掛かるかと思われたが、神裂の助言ですんなり片付くことに。 次に初春が考えたのは浜滝、それと半蔵と郭の件だがこれはあっさりと解決することに。 「滝壺さんは非戦闘員ですから浜面さん、半蔵さん、郭さんを相手取ることになるわけですけど、あの人達の相手は闇咲さんに任せましょう」 「私は彼らのことはあまり知らないのですが闇咲という男一人に任せて大丈夫なのですか?」 「確かにあの3人は侮れません。でも闇咲さんは戦いの年季も実力も彼らより高いはずです。油断しないで格上を相手するつもりで倒すように伝えましょう」 次に考えるのは当麻の対処方法だが、こっちも思ったより簡単に終ることに。 「上条当麻はどうします?」 「当麻お兄ちゃんの相手は削板さんです。削板さんには思う存分、当麻お兄ちゃんと殴り合ってもらうんです♪ どっちも根性ありますからいい戦いになると思いますよ」 「ああ、あの変な格好をした少年ですか。ですが飾利の言うことを聞きそうに無いタイプでしたが大丈夫なのですか?」 「それも大丈夫です。削板さんをその気にさせる言葉もちゃーんと考えてますから」 そして残るのは月夜だが、神裂は彼女の能力を知っているので実は一番厄介なのではと思っていた。 しかし初春は月夜に関してだけはぶつける相手をすでに決めていたりする。 「白雪さんの相手は結標さんです。白雪さんには知ってもらわないといけません。魔術、いいえ暗部の世界の厳しさを」 「ですが白雪の能力は強力です。テレポーターが勝てるとは……」 「白井さんなら分が悪いでしょうけど、結標さんなら問題ありません。白雪さんを翻弄するにはこれ以上無い人選ですよ」 結標のことをあまり知らない神裂に、事前に彼女から『座標移動』について聞いていた初春は自信ありげに答えた。 悪魔と呼ばれるかもしれない、嫌われるかもしれない、それでも花飾りの少女は月夜、ひいては当麻達のことを思い、心を鬼にする。 「これで後はハンターの皆さんにそれぞれの助言をメールで送るだけです」 「お疲れ様でした飾利」 そして初春は、ハンター達にそれぞれに対する助言と『全力で捻じ伏せちゃって下さい♪』と添えたメールを送った。 色々と助言は送ったが、それでも当麻達に完全に勝てるとは思っておらず、これでようやく互角だろうと初春は考えていたりする。 いよいよ合宿最終日、サバイバルバトルが生温いくらいに思えるほどのハンター達との戦いの火蓋が切って落とされるまで後一時間。 場所は上条達の所に戻って… 「で、ハンターは何人居るんだにゃー。」 「分からない。でも能力者は二人も居るよ。」 「そうなのかにゃ(後はステイルも居ることだから三人だけなのか?)」 「まあ、時間も無さそうだから簡単に作戦会議しようぜ。」 上条がそう言ったので簡単に作戦会議をした。 「それで滝壷、その能力者の中にレベル5が居たというけど具体的には分かるか?」 「そこまでは分からない。でも、このAIM拡散力場は超電磁砲ではない。」 「そうか美琴では無いのか、ここに居るアクセラと白雪はありえないし、他にレベル5でありえない人物は…」 「二位と四位はありえないはずだぜい。」 「ということは五位、六位、七位だけかァ…」 「ちょっと待て、七位って一番ありえないでせうか。」 「性格からにしてそうかもしれないにゃ。しかも考えてみれば一回会っているしにゃ。」 「なら、レベル5は七位で決まりなんじゃねーかァ?」 「それなら、レベル5はカミやんに任せるぜよ。」 「でも元春、上条君の足大丈夫なの?」 「多分大丈夫だろ。じゃあ他は一方通行が待機で、白雪、浜面、半蔵、郭は出動してもらうぜよ。」 とりあえず作戦は決まったんだが… 「(オイ土御門、結標はどうするんだよォ?)」 「(それはあの四人の誰かと当ったとしても大丈夫だろうにゃ。浜面と半蔵と郭の実力なら大丈夫そうだからにゃ。)」 「(ならいいけどよォ…)」 一方通行は本当に大丈夫なのか心配になった。 「じゃあ、みんな準備はいいかにゃ。」 そういうことで作戦を実行した。 その頃、ハンター達はというとステイルのルーン配置待ちで、教師陣のベース跡地で待機していた。 「すまないみんな。いくら万全を期すとは言え僕一人の為に待たせるようなことになって」 「細けぇこたぁ気にすんな兄ちゃん! 待たせた分、てめぇが根性見せりゃいいだけのことよ! あー、早く上条って奴と戦り合いてぇぜ!」 削板は初春から『当麻お兄ちゃんは削板さん並みの根性を持ってます。最高に燃える戦いが出来ますよ♪』とメールを貰い、自分と同じくらいの根性の持ち主に思いを馳せる。 それを冷めた目で見つめてるのはシェリーと結標、面白そうに見ているのは建宮だ。 「やれやれ、能力者ってのは変わり者が多いねぇ。ところでお嬢ちゃん、大晦日の時にいたテレポーターよね? 戦えるのかい?」 「余計な心配は無用よ。これでもやばい仕事も戦いも何度もこなしてるんだ。そっちこそ大晦日の時のような負け方晒さないでよね」 「へぇ、言ってくれるじゃないか。けどその目、私は嫌いじゃないよ。あの芸術(アート)な子ほどじゃないけどね」 (面白い奴がいるのよな。この後で飾利姫とのデートが待ってるがそれは置いておくのよ。土御門を抑え、倒す、そのことに全てを出し切るのみ) 静かに佇むのは闇咲、しかしすでに『捜魔の弦』で当麻&土御門グループの陣地割り出しを行っている最中だ。 そして見事に探し当てると、他のハンター達にそのことを伝える。 「私達の標的はここから北東1.4km先にいる。数は9。まだ動きは見えないようだ」 「闇咲といったね。最大主教と初春は君のネセサリウス入りを歓迎している。でも僕とシェリーが君の実力を見て、それから決定をさせてもらう。それでいいね?」 「構わんさ。私はすでに色々と恩を受けている。それに報いる為ならどんなことでもやってみせるさ」 「あんたの索敵能力は大したモンだ。後は戦闘だね。私のこのゴーレムで戦いを見せてもらうよ」 シェリーはそう言うと、眼球型ゴーレムを一つ、闇咲に渡す。 そこに小萌からステイルのルーン配置が完了したことが告げられた。 「ステイルちゃーん。あなたに言われた通り、カード配置は無事に終了しましたー」 「ありがとうございます。こちらも準備出来てますので、上条当麻達に開戦を告げて下さい」 「了解ですー♪」 そしてハンター達は当麻&土御門グループの陣地へと駆け出す、削板と結標を除いて。 「おいおいねーちゃん! 何だよ俺に相談って? 早くしねーと置いてかれちまうだろ」 「私の『座標移動』ならそんな遅れ、すぐに取り戻せるわ。それよりもさ、ちょっと面白いこと考えたんだけど乗ってくれる?」 提案した結標の顔はそれはもう、悪企みしてますよって言ってるようなもので削板も不安になったが、彼女の提案を聞いて乗り気で頷く。 そして小萌に言って欲しいことを伝えた後で結標と削板は行動に出るのだった。 『ピンポンパンポーン♪ ただ今からハンターさん達を投入するですよー』 『ちなみにハンターさんはあれから3名追加して6名になりましたー。どうですかー、嬉しいですよねー♪』 『ではいよいよ始めようと思うのですが上条ちゃん達は陣地から逃げることをおススメしますよー。今から開戦の合図としておっきな爆弾が投下しますのでー♪』 そして小萌からの放送が終ると、結標の『座標移動』で当麻&土御門グループの陣地の真上に飛ばされた削板が降って来た。 「はっはっはーっ! あのサラシのねーちゃん面白れーこと考えんじゃねーか! 俺も漢を見せねーとな! いくぜ! すごいパーンチ大根性爆撃ーーっ!」 削板の『念動砲弾(アタッククラッシュ)』に重力加速度も加わった強力な人間爆撃が当麻達に襲い掛かる。 この奇襲を合図に当麻&土御門グループVSハンターの戦いが幕を開けたのだった。