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それはシャミセンが俺のベットの上やカーペットの上で丸くなり もう終業式が終わり俺達の関心が完全に冬季休業へとその矛先を向けていたところ いつもの通り今となっては完全にSOS団の物となってしまった文芸部部室で古泉とオセロをしていると これまたいつもの様にドアが吹き飛ぶんじゃないかと思えるような音を立ててハルヒが入ってきた 全くこいつにはノックという偉大な文化がないのかねぇ 良かったなハルヒお前に男の兄弟がいなくて、いたらそのうち大変なことになってたかも知れんぞ さて、部室に入ってきたハルヒを見ると心なしかご機嫌だ つまりまた何か考えて来たと言うことで俺達、特に俺と朝比奈さんが被害を受けるかも知れないと言う2重の意味もある 「SOS団で忘年会をやるわよ!!」 忘年会か、そういえば小学校でクリスマスパーティと混同したようなのをやった覚えがあったな、なつかしい それにクリスマスパーティでなくて良かったよ。去年のあれ以来トナカイに関係あるものをを見るのがいやになっていたんでな 「いいんじゃないか? どうせ今年は忘れたいことが沢山あったしな、忘れないと新しい年が迎えられそうにもない」 「私も賛成ですね、年の終わりに騒ぐのもいいと思いますよ」 「いいと思いますけど…お酒はやめてくださいね…」 「解ってるわよ、言ったでしょ夏の合宿で『お酒は懲りた』って」 「………」 長門はいつもどうり無口だが顔を見たところ拒絶の色は無さそうだな 「それで、いつやるんだ?」 「そうね29日辺りがいいんじゃないかしら」 「それじゃあ場所はどこにする?」 「ここに決まってるじゃない」 「ここってお前明日からは冬休みだぞ」 「冬休みに入っていたってどっかの部活はやってたと思ったから学校には入れるでしょ」 全く、悪知恵だけはよく働く奴だ 「じゃあ決まりねキョンは飲み物、有希は食べる物、小泉君はゲーム、みくるちゃんは当日準備お願いね」 お前は何もしないのか?と言いかけてやめた、どうせいつもの事だ気にすることはない しかしどのぐらい用意した物かな、まぁ2リットルペットボトルで5~6本あれば足りるだろう どうせやるんだ思いっきり楽しんでやろうじゃないか、たまには羽を休めないと墜落するかも知れん 「それじゃあ今日は解散!!29日にまた会いましょう」 ハルヒの締めの言葉で2学期最後のSOS団の活動は終了した そうして無事冬休みへと突入したわけだが俺にはやることがある 俺は飲み物担当だ2リットルペットボトルで5~6本となると軽く10キロを越す 残念ながら体力が人並みの俺にはそれを担いであの坂を上る自信はない つまり数回に分けて運び込むしかないということだ、大変だな俺 出来ることなら買うのは少々高いコンビニなんかじゃなくスーパーマーケットで買いたかったんだがな 残念ながら俺の知ってるスーパーは学校とは反対方向だ、それよりならあの坂のすぐ下にあるコンビニを使った方が早い コンビニの中に入ると長門がいた 「お前も買い出しか?」 「そう」 何を買ったのか気になって長門の持ってるかごを見てみ… 「おい長門流石にそれはないんじゃないか?」 長門の持っていたかごの中には ホーム オー・ジャック印度カレー味、昭和製菓 コールカレー味、サーロインポテトスティックス劇辛カレー味 見事にカレー系統のみだ… 長門の後ろのほうにある棚に数箇所空白があるのはこれを取ったあとだろうな 「でもおいしい」 まぁ確かにカレーが旨いのは認めるがそこまでカレー尽くしだと飽きるぞ 「大丈夫、私は飽きない」 さいでっか 俺がお菓子だけでなくご飯とかおかずも買ったらどうだと言ったら迷わずカレーを買って行きやがった どこまでカレーが好きなんだお前は まぁ俺は俺の買い物に専念するとしよう カコカーラ、カルピスウィータ、ポカリSWAT、後藤園お~い麦茶、四菱サイダー、明痔おいちぃ牛乳 とりあえず手当たりしだい詰め込んだという感じだ まぁ学校に運ぶために数回に分けたから手間と時間はかかったがな 部屋に行ったら古泉が用意したのだろうが鼻メガネが人数分あったぞ。誰がかけるんだあんなの そんな訳で後は俺は当日楽しめばいいだけ、気楽で何より …だったはずなのだが俺はまた坂の下のコンビニに買出しに来ている 経緯はこうだ、当日午後1時集合ということだったのだが 行こうと思った矢先うちの母親が大掃除をすると言い出した 説得にかなりの時間がかかって…まぁ最終的には隙を見て抜け出したんだが 抜け出した頃にはすでに1時は過ぎており、急いで向かったところ電話が鳴って団長殿から 「ちょっと!!遅いわよキョン!!罰として飲み物と食べ物買って来なさい!!」と言われた おいおい、飲み物はもうすでに買ってあったはずだし食べ物は長門の担当だろ 「あれぐらいで足りると思ってるの!?それに有希ったら食べ物カレー関係しか買ってこなかったのよ 他の物が食べたくなっちゃったの!」 そうだったな、お前と長門は見かけによらずよく食うんだった それを考えたらあと4本は必要だと考えておけばよかった やっぱり長門にはあの場で他の物も買ったほうがいいと言って置くべきだったな こっちがとばっちりを受けちまった しかし電話を受けたのが坂の下でよかった コンビニも近いし第一登りきった後にこんな電話受けたら問答無用で殴り飛ばしてただろうしな そして俺は2リットルペットボトル4本とおにぎり十数個に菓子各種と まるで冬山に登山をしているかのような気分を味わいながらやっとこさ部屋の前に到着 やけに盛り上がっているからまたハルヒが朝比奈さんを玩具にしてると思っていたね 「ほらっ次はこのナース服を着るんですよ涼宮さん!!」 「みくるちゃんもうやめて、ゆるして…グス」 まさか逆だとは夢にも思わなかったよ 古泉は自分で持ってきたのであろう鼻眼鏡をつけて笑っている 何か妙だと思ったらいつもの薄ら笑いじゃなく声を出して笑ってる…正直気味が悪い もしやと思い部屋の隅のパイプ椅子がある場所を見てみるといつもの変わらぬ長門の姿があった これで長門までおかしくなってたら逃げてたかもな まぁいつもと違って本を読む代わりに自分が買ってきたスナックやらを夢中で食べていたがな 「長門、これは一体何があったんだ?」 「…」 何も言わずに指を挿した方を見てみると俺が買っておいたジュースがあった しかしよく見るとキャップが付いていた場所に何か別の物がはめ込んである どこかで見たことがあったと思ったら思い出した むかし読んだ未来から来た猫型ロボットがでてくる漫画でそんな道具があった 確か名前は[ほんわかキャップ]だったな そういえば長門が図書館の本を読破したといっていたから物置でほこりをかぶっていたこの本を全巻やったんだっけ それにしても未来の道具は朝比奈さんが出す物じゃないのか?ますます朝比奈さんの肩身が狭くなるな 「まぁ…聞くまでもないと思うんだがこれはなんだ?長門」 「内部を通すことによってアルコールを摂取したかのような状態にする物質を混入させる アルコールとは別の物質なので肝機能や脳に障害を与えることは無い 涼宮ハルヒが危惧していると思われる翌日起こる頭痛などの症状も10分の1まで軽減されているので使用してもよいと判断した」 「それじゃあもう一つ聞こう、このキャップの脇に顔のマークが書いてある物があるがこれはなんだ?」 「アルコールを摂取した時になると言われている『三上戸』を再現させる機能を付加した物、試験的に導入を試みた」 なるほどこの3人がいつもと違う状況になっているのはこれが原因というわけか 「あ、キョンくーんやっと来ましたね~、さぁ涼宮さんその姿をキョン君に見てもらいなさい今すぐに!!」 「ダメキョンこっち見ないで…グスン…恥ずかしいから…ヒッグ」 「だめですよー私はいつも着せられているんですからねー」 ナース服を着て泣いているハルヒというのも中々いいな… しかし朝比奈さんは怒鳴ってるわけでじゃないが妙に威圧感を感じる… これで閉鎖空間が発生しないだろうな… 「物質の作用で起こっている感情の変化で深層心理には関与していないので心配はない」 なら問題ない、この状態で小泉に神人退治に行かれても役に立つとは思えんからな 「キョンくーん、ほら~あなたもちゃんと飲まないとダメですよ~」 朝比奈さんに進められたものならただの水道水でも飲みたいがこの光景を見ると少し遠慮したくなるな… 持ってるボトルに付いてるキャップを見たところ顔マークはないが感情に作用しないだけで酔っ払うことに変わりはないはずだ 「いえ…おれは…「私の注いだジュースが飲めないんですか!!」 どうやら飲むしかないらしい…あまり変な事はしないでくれよ、酔ったあとの自分… と、ここまでが俺が覚えてることだ 正直全て夢だったと思いたいね なんせ今俺とハルヒは同じベットで寝ているんだからな、しかもお約束のごとく裸で 周りは泊まる事とは別の方に特化した部屋だ、ここがどこかなんてすぐ解る 起きた当初は頭が少しガンガンしていたがすぐに楽になった、流石だな長門 頭がすっきりしてくると記憶も少しだが戻ってきた あのあと暗くなるまで飲んで食ってのドンチャン騒ぎをして片付けは明日、つまり今日大掃除も兼ねてすることになって解散したんだ それでまぁ…ハルヒと帰ったわけだが、雰囲気に飲まれたというか…若気の至りというか 泣いて気が弱くなったハルヒというのは反則だと思える…そういうことだ そんなこんなで現在に到る…という訳だ そしてこの状況のもう一人関係者、ハルヒは隣ですやすやと眠っている まったく、いつもの常識を超えた行動さえなければかわいいのにな しかし起きたら超怒級の閉鎖空間が発生しそうだ、すまん小泉今回ばかりはもうダメかも 「ん…よく寝た…ってキョン!!」 起きちまったな…どうやら最後に今までの人生を回想させる暇すら与えてくれないようだ 「え、ここは…なんであんたは裸でって私もはだk…」 「え~なんだハルヒ落ち着いて聞いてくれるか」 正直俺もまだ落ち着ちつけてはないが他に言葉も見当たらん 「なぁハルヒ俺の話を聞いてくれないか 決してこんなことがあったから言うんじゃないということだけは解ってくれ」 「俺と…付き合ってくれないか」 「ばか…キョンのばか!!順番が滅茶苦茶じゃないの…でもいいわ付き合ってあげる」 「ハルヒ…よかった断られたらどうしようかと思ったよ」 「私とこんなことしたんだから付き合うのは当たり前なんだからね!! それと…確かまだだと思ったから…キスして…」 キスは初めてというわけではないがなんせあれは閉鎖空間内だノーカウントだな それにしても本当に順番が滅茶苦茶だな、まぁそれはそれで俺ららしいか そしてそれからが大変だった 昨日決めたSOS団室大掃除は午前10時開始、気が付くと時間はもう9時だった 急いで服を着て学校の方に向かった 昨日は家に帰らなかったから途中家に連絡を入れたんだが 「そういえばあなた居なかったわね」とか言われた、素で気が付かなかったらしい、なんて親だ 時間をぎりぎり過ぎながらも学校に到着すると校門のところに3人がいて …心なしか全員の顔が笑っているように見えるのは気のせいでは無い様だな 「なんでココにいるんだ?部屋で待ってればいいだろうに」 「いえ、あなた方がくるのが遅いと思ってましてね出迎えに来たというわけですよ」 遅れたといってもせいぜい2~3分だ 「それにしても二人並んで到着とは仲がよろしい事で」 「偶然よ偶然!!偶然途中であったのよ」 「まぁそれはそうと早く掃除をしてしまいましょう、部屋が結構な惨状と化していますので」 「そうだ、大掃除だし掃除用具を持って行かないとな、古泉ちょっと手伝え」 「掃除用具ってそれぐらいあの部屋にあるでしょ」 「箒とちりとり位はあるかも知れんが洗剤とかも必要だろ、大掃除だしな」 「ではそういうことでちょっと行って来ます」 我ながら名演技だ、まぁ完璧というほどもないがはあの映画よりはましだろう 「さて、私を呼んだのは掃除用具を運ぶだけではありませんね」 「当たり前だ、いくらなんでも2人がかりで運ぶほどそんな量はない」 「やはり話というのは昨日の夜、解散後のことですか」 「解ってる用だな、来た時にお前らの表情がいつもと違うと思ったのは間違いでは無さそうだ」 「何時もながら素晴らしい観察力ですね今といい、孤島のときといい」 「それは今はどうでもいい、何故お前らが知っている?」 「まぁ察しは付いているとは思いますが、あのホテルは機関関係者の物です 安心してください、中にカメラなどは取り付けられておりません、ただ二人が中に入っていったという報告を受けただけです」 「それを聞いて少しは安心できた、もし取り付けてあったら閉鎖空間を2時間に1回のペースで発生させてやろうと思っていたからな」 「それはよかった、まぁこれからは閉鎖空間の発生も無くなっていくと思いますので一安心ですよ」 おっと結構な時間話してたみたいだな、これ以上時間を食っていたら「中々見つからなかった」で通らなくなる 「さてそろそろ大掃除に行くか、団長殿がお待ちだ」 そうしてこの後団室の大掃除を行ったわけだがそのことはあまり話したくない 別に話してもいいのだが今は思い出すのもいやなんだ 何故思い出すのがいやというと食い散らかした物を片付け無かったのが原因だろう、 G がでた 言っておくが G てのは勇者王のことじゃないぞむしろ負のイメージの塊の方だ あれは勇気とかで何とかなるもんじゃないな、むしろ必要なのは覚悟だ もう G が出た瞬間朝比奈さんは膝から崩れ落ち、ハルヒは真っ先に部屋の外に逃げ、長門はいつの間にかいなくなっていた 小泉は俺と一緒に新聞紙を片手に奮闘していたがいつの間にか部屋の外に逃げていた 俺は一人頑張って奮闘していたんだがな流石に相手の数が多い 前にどっかで「戦いとは数」みたいなことを聞いたがその通りだと思ったよ 1匹みたら30匹はいると聞いたが20匹はみたぞ、何匹いるってんだ たまらず俺も待避しようと思ったがあろうことか G が外に出るのを防ぐためにドアを外側から押さえられた 小泉がバルタンを買いに行って帰ってくるまで開ける訳にはいかないと言われた時には失神しそうになったね 力ずくであけようと思ったが恐らく長門が情報操作したんだろうドアがびくともしなかった 密室空間に大量の G とに残されると言うのはまさにこの世の地獄だったね G はいくら新聞紙で屠っても沸いてくるし、気絶して G が俺の上を這いずり回ることを想像したら気絶すら出来ない あの時古泉は機関の人に頼んで10分ぐらいで持ってきたらしいが俺には永遠とも思えたね しかもドアが開いたと思ったらいきなりスイッチの入ったバルタンが3~4個放り込まれてきた 少しでも反応が遅れて出れなくなっていたら俺ごと駆逐されていただろうな 部屋から出た直後からの記憶がないから俺は気絶していたらしい 気が付いた時にはすでに5時間が経過しており大掃除もすでに終了していた 大掃除参加していなかったことを誤ろうと思ったら全員から「気にするな」と言われたよ …まぁこれは後に知る事になるのだが バルタン投下直後部屋から飛び出してきた俺に驚いて全員から箒で叩かれたらしい 道理で体のあちこちに痣が出来ていた訳だ 俺としてはこのことを忘れるためだけにまた忘年会を開きたかったね 今度長門にあのキャップを借りて一人で飲むか… そして経緯はどうあれ恋人同士になったと言うことで俺とハルヒは2年参りをしたりと冬休みを満喫していた 案の定宿題のことを忘れ最終日近くは夏休みの2の舞になったことは言うまでもないがな それから1ヶ月がたち2月も中盤に差し掛かった頃 元がかなり有名だっただけに今では俺達は学校では知らないものはいない位のカップルとなった 谷口は合うたびに別世界の人間を見るような目で見られているがもう慣れたな 3学期に入ってから俺達は一緒に団室で弁当を食べることにしていた ハルヒは学食を使うのをを止め自分で弁当を作ってきている 長門は気を使っているのだろう、学校の図書館で本を読んでいるらしい さてもう弁当を食べ終わったと思ったらハルヒが弁当のほかにタッパーをもう1つ持ってくることに気が付いた 「おい、そのタッパーなんだ?」 「あぁこれね、 これ を入れてきてるの」 ハルヒが開けたタッパーの中を見てみるとレモンが輪切りの状態で入っていた 言って置くがレモンの砂糖漬けとかそう言うのじゃないぞただのレモンの輪切りだ 1個貰って食べてみたがすっぱくて口が大変な事になった 「すっぱ…これどうしたんだ?」 「いやね最近無性にすっぱい物が食べたくなってね」 …「すっぱい物が食べたくなる」か、まさか…そういえばあの時近藤さんをしていなかったような… 「それでねキョン、あれから きてないの 」 何が きてない とかは流石の俺でも聞かなくてもわかる… これが卒業、就職を終えて家庭を持ったあとなら何の心配も無く喜べるんだが… ハルヒの親にはなんていえばいいんだ?それにハルヒは学校はどうなる!? そして俺の親は…生まれてきた子供は…将来は… だめだ頭が痛くなってきた、まだ今年の4分の1も過ぎていないが忘年会をやろうかね… 終わり
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 「はーい、おっじゃっましまーす!」 ハルヒは二年――つまり立場上上級生のクラスにノックどころか、誰かにアポを取ろうともせず、大きな脳天気な声で ずかずかと入っていった。俺も額に手を当てながら、周囲の生徒たちにすいませんすいませんと頭を下げておいた。 ここは二年二組の教室で、今は昼休みだ。それも始まったばかりで皆お弁当に手を付けようとした瞬間の突然の乱入者に 呆然としている。上級生に対してここまで堂々とできるのもハルヒならではの傍若無人ぶりがなせる技だな。 そのままハルヒは実に偉そうな態度のまま教壇の上に立ち、高らかに指を生徒たちに向けて宣言する。 「朝比奈みくるってのはどれ? すぐにあたしの前に出頭しなさい」 おいこら。朝比奈さんを教室の備品みたいに言うんじゃない。いやまあ、確かにあれほど素晴らしいものを 常にそばに置いておきたくなる必需品にしたくなるのは当然だと思うが。 突然の宣言に、誰もが呆然とするばかり。ちなみに俺の朝比奈さん探知レーダーはそのお姿をキャッチ済みだが、 とりあえずご本人の意向もあるだろうからハルヒには黙っておくことにする。何せまだ入学式から一週間だからな。 この段階で朝比奈さんがハルヒと接触を望むかどうかわからないし。 しばらく沈黙が続いたが、次第にクラス内の生徒たちがじりじりとにある一点に集中し始める。 もちろん、そこには他の生徒と同じように唖然とした朝比奈さん――そして、そのそばには見知らぬ女子生徒二人に、 あの何だか凄い人、鶴屋さんの姿もある。どうやらクラスの仲良しグループでお弁当タイムに入ろうとしていたらしい。 やがて集中する視線に耐えられなくなったのか、朝比奈さんがゆっくりと手を挙げてようとして―― 「はーい! みくるはここにいるけどっ、なんかよーなのかなっ?」 それを遮るように鶴屋さんが立ち上がり、ハルヒの前に立ちふさがった。昔から何となく感じていたが、 この人は朝比奈さんの防御壁の役割を果たそうとしているような気がする。 だが、ハルヒは鶴屋さんに構わずに、腕を組んで、 「じゃあ、とっとと教えなさいよ。朝比奈みくるってのはどこ?」 「おやおや、自分の名も名乗らない人にみくるを渡すわけにはいかないっさ。せめてキミの名前ぐらい教えてくれないかなっ? でないとみくるもおびえてちゃうからねっ」 相変わらず歯切れの良いしゃべり方をする人だ。それでいて、きっちり朝比奈さんを守ろうとしている。 この場合、どっからどうみてもハルヒが不審者だから、そんな奴においそれと朝比奈さんを渡せないということだろう。 正体不明の人間にほいほいとついていってはいけませんというのは、子供の頃からしっかりと学ばされている重要自己防衛策だし。 「あたしは涼宮ハルヒ。一年六組所属の新入生よ」 なぜかふんぞり返ってハルヒが言う。どうしてこいつは意味のなくこういう偉そうな態度を好むのかね。 さすがの鶴屋さんも驚きの顔を見せていた。だって下級生という話はさておき、入学式からまだ一週間しか経っていない。 つまりハルヒと俺はこないだ北高に入学したばかりの生徒であって――いやハルヒは何回目か知らんが、俺は3回目になるが―― そんなピッカピカの新米北高一年生がいきなり二年の教室に殴り込みに来たんだから、そりゃ驚くだろう。 しかし、やられっぱなしの鶴屋さんではあるわけもなく、ここで反撃の姿勢に転じる。 「おおっ、なるほど。今年の新入生かっ! じゃあ、せっかく二年の教室に来たんだし、あたしがあだ名をつけて上げようっ!」 「は? あ、えと、そんなことより……」 ハルヒは予想しない展開に持ち込まれて言葉を詰まらせているが、鶴屋さんはそんなことはお構いなしに、 うーんほーうと腕を組み頭を振るというオーバーリアクションで考え始める。 やがてぽんと手を叩き、 「ハルにゃん! うんっ、いいねっ。これで決定にょろ!」 「ハ……!? ちょ、ちょっと待ってよ!」 ハルヒはそのあだ名が相当恥ずかしく感じたようで顔を赤くして抗議の声を上げるものの、 鶴屋さんは胸を張って、いいよいいよ、のわはっはっはと愉快そうに笑い声を上げてそれを受け入れる気全くなし。 さすがのハルヒも困惑してきたのか、俺のネクタイを引っ張って顔を寄せ、 「ちょっと、この人何なのよ? あんたの知り合い?」 ここで知り合いというと違うというややこしい話だが、俺の世界の話に限定すると知り合いでSOS団名誉顧問だ。 ちなみにその役職与えたのはハルヒだぞ。鶴屋さんのことを偉く気に入っているみたいだからな。 ま、確かに竹を割ったような裏表がなく、かなりの大金持ちだってのに全く嫌味のない良い先輩だよ。 俺の返答に、ハルヒはふーんとジト目で返してくる。 が、ここでようやく向こうのペースに巻き込まれていることにハルヒは気がついたようで、あっと声を上げると 再度鶴屋さんの方に振り返り、 「ああもう、あたしのあだ名はそれでいいから朝比奈みくるって言うのはどこにいるのよ。あたしはその人に用があって来たの」 「ハルにゃんでいいのかよ」 「うっさい、キョンは黙ってなさい」 ぴしゃりと俺の突っ込みは排除だ。 鶴屋さんはフフンっと鼻を鳴らし、俺とハルヒの全身を空港の安全確認用赤外線センサーのごとく見て、 「みくるはここにいるけど何の用なのかなっ? 誘拐ならお断りだよっ!」 「そんなことしないわよ。ただどんなやつなのか見に来ただけ」 「見に来ただけ?」 「そ。見に来ただけ」 二人は顔をじりじりと近づけて威嚇しあっている。あの強力な自信に満ちた眼力をぶつけるハルヒ、それを疑いの半目視線で 応戦する鶴屋さん。うあ、なんか凄い攻防だ。いつの間にか、クラス内もしんと静まりかえって、二人のやり取りを 息を呑んで見守っている。 数分間に上る二人の静かな攻防戦は、鶴屋さんのふうっという溜息で幕を閉じた。どうやら彼女なりに 俺たちが朝比奈さんに害をなす不審人物ではないと判断したらしい。 いや……鶴屋さん? ハルヒはどうみても朝比奈さんに害を与えに来ているんですけど。 そんな俺の不安な気持ちも知らずに、鶴屋さんは朝比奈さんを指差しこちらへ来るように指示する。 朝比奈さんはしばらくおどおどしていたが、おぼつかない足取りでこっちにやって来て―― 「うきゃうっ!」 案の定、近くの机に脚を引っかけて倒れそうになる。しかし、それをまるで予知していたかのように 鶴屋さんが見事キャッチして床への落下を阻止した。ほっ、顔でもぶつけてその美しい女神の微笑みに傷ができたら、 俺も泣いて泣いて嘆きまくっただろうから、ナイスです鶴屋さん。 朝比奈さんはおずおずと鶴屋さんに抱えられて、ハルヒの前に立つ。しばらく腕をもじもじさせて下を向いていたが、 やがてゆっくりと不安げな表情をハルヒに向け、 「あ、あの……あたしが朝比奈みくるです……何かご用でしょうか……?」 か細く弱々しい声。しかし、久しぶりの朝比奈さんのエンジェルボイスに俺の脳の音声に認識回路は焼き切れる寸前だ。 いいなー、もうかわいくていいなー、もう! 一方のハルヒはそんな朝比奈さんの姿にしばし呆然と口を開けたまま、硬直している。 そして、次に短い奇声を上げた。 「か」 「……か?」 朝比奈さんは何なのか理解できず、首をかしげてハルヒの言葉を復唱した。 だが、すぐに悲鳴を上げることになる。なんせハルヒが飛びかかるように朝比奈さんに抱きついた。 「かわいいっ! 何これ可愛すぎ! ちょっとキョン、これどうなんてんのよ! うーあー、もう可愛くて抱きしめたりないわ!」 ハルヒは顔を真っ赤にして、感情を爆発させた。どうやら朝比奈さんの言葉にできない可憐さに脳みそが焼き切れてしまったか。 もうめっちゃくちゃにすると言うようにもみくちゃに抱きしめている。 一方の朝比奈さんはうひゃぁぁぁあと手を振り回して泣き叫ぶだけ。 ハルヒはそんな状態を維持しつつ俺の方に振り返り、 「ね、キョン。この子、うちに持って帰って良い?」 ダメに決まってんだろ。お前一人が独占して良い訳が――そうじゃなくて! 朝比奈さんをおもちゃ扱いするんじゃありません! 「じゃあ、せめてあたしのクラスに転入させましょう! 隣の席においておきたいのよ!」 朝比奈さんを勝手に落第させるな! その後、ハルヒの朝比奈さんいじりはエスカレートする一方だ。胸をでかいでかいとか言ってモミ始め男子生徒の大半が 目を背けることになり、または今度は耳たぶを甘噛みして女子生徒すら顔を真っ赤にして顔を背けるはめになったりと もう教室内はずっとハルヒのターン!って状態である。 やれやれ。世界は違うとは言え、趣味や趣向は全く変わらんな、ハルヒってやつは。しかし、これだけ弾けたハルヒってのも 久しぶりだ。前回の古泉の時は、相手が異性って事もあるんだろうがここまではやらなかったし。 一方鶴屋さんはうわっはっはっはと実に愉快そうに豪快な笑い声を上げているだけ。こういったことは、 鶴屋さんの考えでは虐待やいじめには含まれないようである。 この光景に俺はしばらく懐かしさ込みで呆然とそれを眺めていただけなのだが、いい加減これで話が進まないことに ようやく俺の思考回路の再稼働させて、 「おい、そろそろいい加減にしろ」 そう言ってハルヒを引きずり教室外へと移動する。だが、朝比奈さんをハルヒは決して離そうとしないんで、 結果ハルヒと朝比奈さんを廊下に引きずり出すはめになってしまう。とにかく朝比奈さんには申し訳ないが、 こっちにも目的があるんだからついてきてもらわなきゃならんし、これ以上上級生の教室内を フリーズさせたままにしておくわけにもいかんからな。 朝比奈さんをいじくり倒すハルヒを何とか廊下まで連れ出すと――一緒に鶴屋さんもついてきている―― 「おい、本来の目的を忘れているんじゃないのか? そんな事しに来たんじゃないだろうが」 「んん? おっと、そうだったそうだった」 ハルヒはようやく萌えモードから脱したのか、口に含みっぱなしだった朝比奈さんの耳たぶを解放すると、 ばっと朝比奈さんの前に仁王立ちになり、 「ねえ、あたしと付き合ってくれない?」 「はうぅぅぅ……ええっ!?」 ハルヒのとんでもない言葉に、朝比奈さんはいじくられたショックに立ち直るどころか、 さらなる追い打ちをかけられてしまった。 っておいおい。それじゃ別の意味に聞こえちまうだろうが。ああ、でもそういやこいつ最初にあったとき辺りに、 変わったものだったら男だろうが女だろうが――とかいっていたっけ。ひょっとしたらバイの気が……ああ、何考えてんだ俺は。 「ようはハルヒや俺と一緒につるみませんかって言っているんです。いえ、別にどこかの部に入ろうとかでなくてですね、 朝比奈さんの噂を聞きつけてぜひ友達になりたいと、このハルヒが――」 「何よ、あんたも鼻の下伸ばしてぜひとも!と言っていたじゃない」 人がせっかくフォローしている最中に余計な突っ込みを入れるな。 俺はオホンと一旦咳払いをして会話を立て直すと、 「とにかくですね。俺たちはあなたと友達になりたいんです。いきなり言われて困惑してしまうでしょうが。 ご一考願えないでしょうか?」 いきなり押しかけて友達になれなんて、頭のネジがゆるんでいるか社会的一般常識が著しく欠落しているやつの やることだと俺自身ははっきりと認識しているんだが、善は急げというのがハルヒの主張だ。 とっとと朝比奈さんを仲間内に入れて、未来人の動向を探る。その目的のためには、確かに朝比奈さんをそばに置いておくのは 間違っているとは思わないが、いくら何でも性急すぎるんだよ、こいつのやることは。 さてさて。こんな不躾で無礼で一方的な頼みに朝比奈さんはオロオロするばかり。保護者代わりと言わんばかりに 立ち会っている鶴屋さんも笑顔で見ているだけ。彼女の判断に任せると言うことなのだろう。 だが、そんなもじもじした姿勢を続けていたら、脳神経回路が判断→行動→思考になっているハルヒが黙っているわけがない。 「ああっもうじれったいわね! とにかく最初が肝心なのよ、最初が! ってなわけで今から一緒に学食でお昼ご飯を食べない?」 また唐突なことを言いだしやがった。最初のコミュニケーションとしては間違っていないと思うが。 だが、朝比奈さんはちらちらと鶴屋さんと教室内のお弁当グループに視線を向けて、 「でもでもそのぅ……あたし一緒に食べる約束をしたお友達がいますので……」 そりゃそうだな。朝比奈さんとしては、クラス内の関係維持のためにもクラスメイトとのお弁当の方が何かと都合が良いだろう。 ハルヒはちょっといらだつように髪の毛をかきむしり、 「じゃあ、今日学校が終わったら一緒に帰るって言うのはどうよ?」 「あ、あたし実は書道部に入っているんで帰りは少し遅くなるんです……」 ハルヒはその初耳だという情報に、何で教えなかったと俺を目で睨みつけてきた。 ああ、そうだすっかり忘れていた。朝比奈さんは書道部だったんだっけ。その後ハルヒに拉致られて、結局SOS団入りしたが、 その理由が長門がいたからだったはずだ。そうなると、SOS団もなく長門もいない状況で朝比奈さんに書道部を辞めてもらうのは かなり難しいだろう。元々ハルヒに直接接触するつもりじゃなかったようだからな、朝比奈さんは。 さーて、面倒になってきたぞ。どうする? ここで鶴屋さんが朝比奈さんの肩を叩き、 「あたしとみくるは一緒に書道部に入っているんだよ。一年生の時からの付き合いさっ。現在も部員絶賛募集中!」 ほほう、確かに朝比奈さんに――失礼ながら、ちょっと書道というものは路線が違うんじゃないかと思っていたが、 鶴屋さんとのつながりがあったのか。確かに彼女が和服姿で筆と墨を持って正座で達筆な字を書いているのは容易に想像しやすい。 と、ここでハルヒがぽんと手を叩き、 「わかったわ。じゃあ、あたしとキョンも書道部に入部させてもらう。それなら文句ないでしょ?」 ……本気か? しかも俺まで巻き込まれているし。正座して字なんて書きたくないんだが。 だが、この提案に鶴屋さんが同意した。 「おおっ、それなら話は早いさっ。これでみくるともお付き合いできるし、うちも書道部も新入部員をゲットできて 両者ともに目的が果たせるよっ。でも入部するからにはきちっと部活動に参加してもらうからねっ」 あーあ、話が勝手に進んでいる。 俺はぐっとハルヒを引き寄せ、 「おい、いいのかよ。お前字なんて書けるのか?」 「大丈夫よ。あんなの墨と筆があれば何とかなるわ」 根拠もないのに自信満々に語るな、書道をなめるんじゃないと説教してやりたい。 が、字の汚さで有名な俺の俺が言えるはずもなく。 やれやれ。今回は書道部入部決定か。こんな調子じゃSOS団への道のりはアメリカフロンティアの進んだ距離より長いぜ。 と、ここでハルヒは腹をなで下ろしたかと思うと、 「あ、何かお腹空いて来ちゃった。じゃ、あたし学食に行ってご飯食べてくるから。じゃあまた放課後! 入部届を持って行くから待っててね!」 そう言ってばたばたと学食に向けて走っていってしまった。なんつー自己中ぶりだよ。まるでスコール大襲来だな。 俺はとりあえず朝比奈さんと鶴屋さんに頭を下げつつ、 「いきなりとんでもない頼みをしてすみません。あいつ、一旦思いついたら誰も止められなくなるんですよ」 「良いって良いって! みくると友達になりたいって言うなら大歓迎だよっ、それに書道部も新入部員を会得しないと いけなかったからねっ!」 「あ、はい。あまり人気のない部活なので、人が増えるのはちょっと嬉しいです。涼宮……さんが入ると にぎやかになりそうですし」 「そう言ってもらえると助かります」 全く寛大な心を持った人たちで助かったよ。一般常識が厳しめの人ならどんな文句を言われていた事やら。 「じゃあ、朝比奈さん、鶴屋さん。すいませんが、また放課後よろしくお願いします」 「はいわかりました、キョンくん」 「じゃあまた放課後にっ。じゃあねキョンくん!」 俺たちはそう言葉を交わすと、それぞれの教室に向かって歩き出した。しかし、一つ重要な問題が起きてしまっている。 ……やれやれ。自分で名乗る前に、あだ名で呼ばれるようになっちまったよ。 さて、何でこんな展開になっているのかまるっきり説明していなかったから、とりあえず俺が昼飯を食っている間に 回想モードでどうやってここまで来たのか振り返ってみることにしようかね。 ……… …… … ◇◇◇◇ 「未来人?」 「そうだ、未来人。お前が俺を見つけたときに一緒にいただろ? 茶色っぽい長い髪の小柄な女の人が」 「ああ、あのちっこくて可愛い子のこと。ふーん、あの子が未来人ねぇ……全然そういう風には見えなかったけど」 お前にとっての未来人ってのはどんな姿をしているんだ。やっぱりリトルグレイか謎のコスチュームに身を包んでいるのか。 まあ、俺としても何で朝比奈さんが未来から送り込まれてきたエージェントなのかさっぱりわからん。 失礼ながら言わせてもらうと、どう見てもそういった危険の伴う任務には不釣り合いだろ。俺がどうこう言っても仕方がないが。 機関の反乱により崩壊した世界をリセット後、俺とハルヒは時間平面の狭間で次についての打ち合わせを進めていた。 幸いなことにリセットは無事成功し、情報統合思念体もハルヒの力の自覚を悟られていない状態に戻っているとのこと。 だが、ふと思う。 あんな地獄絵図の世界が確定したらたまらなかったから良かったと言える。しかし、考え方を変えれば、機関は人類滅亡を 阻止したとも言える。それは成功例と言えないか? 少数を切り捨てたとは言え、大多数は生存できたんだから…… いや、あんなことが平然と行われる世界なんて許されて良いわけがない。一体機関の攻撃で何千人が 死ぬことになると思っているんだ。 「ちょっとキョン。ちゃんと聞いているの?」 ハルヒの一声で俺はようやく目を覚ます。今更どうこう考えたって無駄だろうが。リセットしちまった以上は、 次の世界をどうするのかに集中すべきだろ? 俺は自問自答を終えると、ハルヒとの話に戻る。 「えーとどこまで話したっけ?」 「あんたの世界には未来人がいたって事だけよ。しっかりしてよね」 ハルヒはあきれ顔を見せるが、俺は無視して、 「とにかくだ。前回の機関を作った世界には未来人――正確には朝比奈みくるという人物はいなかった。 これも機関の超能力者と同じように、何かお前が手を加える必要があるって事になる」 「それがなんなのかわからないと話にならないわよ?」 ハルヒは団長席(仮)に座り、口をとがらせる。 確かにその通りだ。機関の超能力者はハルヒの情報爆発と同時に発生したと言うことを古泉から耳にたこができるぐらい 聞かされていたからわかりやすかったが、未来人が誕生したきっかけは何だ? 何度か朝比奈さん(大)の既定事項とやらを こなすためにいろいろ手伝わされたが、あれはハルヒとは直接関係のない話ばかりだった。ならそれ以外で何か…… ――俺ははっと思い出した。学年末にSOS団VS生徒会を古泉にでっち上げられて作った文芸部の会誌。 あの最後にハルヒが書いていた難解極まりない意味不明な論文が載っていたが、朝比奈さん曰くあれが時間移動の基礎理論に なったと言っていた。そして、朝比奈さん(大)の既定事項を考えると、やるべき事は一つだ。 「なあハルヒ、お前の近所に頭の良い年下の男子はいなかったか? たまに勉強とか教えていたり」 「んん? ああ、ハカセみたいな頭の良い男の子はいたわよ。家庭教師ってほどの事もないけど、確かにたまに勉強を 教えてあげていたわね。それがなんかあるわけ?」 よし、ならいけるはずだ。 「そのハカセくんに時間移動の理念を示した――なんだ論文みたいなのを書いて渡してくれ。それで未来人は生まれるはず」 「ちょ! ちょっと待ってよ! あたしだって情報操作とか情報統合思念体について理解している訳じゃないのよ!? ただ何となく使えるってだけで、それを字にして表せなんて無理よ、絶対無理無理!」 ここまで仰天するハルヒも珍しい。良いものが見れたと思っておこう。だが、それをやってもらわないと あの秀才少年に時間移動の理論が届かず、朝比奈さん(大)の未来も生まれない。亀やら悪戯缶、メモリーについては 朝比奈さん(大)の方から動きが出るだろうよ。あっちも既定事項とやらをこなすのに必死みたいだしな。 大元さえきっちりしておけば、後は勝手に広がる。機関と同じだ。 「そんなこといわれてもなぁ……どうしよ」 いつの間にやら紙とペンを用意したハルヒは、ネームに困った漫画家のように頭を抱えている。 なあに深く考える必要はないんだよ。俺の世界のハルヒだって、どう見ても思いついたまま書き殴っていたし、 俺が呼んでも耳から煙が立ち上るだけで全く理解不能な代物だったし。 「そりゃ、あんたがアホなだけじゃないの?」 「うるせぇ。さっさと書け」 そんなちょこざいな突っ込みをしている間に、がんばって書いてくれ。それがなきゃ始まらん。 ハルヒはうーんうーんと本気で唸りながら、得体の知れない図形や文字を落書きのように紙に書き始める。 だが、すぐにわからんと叫びくしゃくしゃに丸めては書き直し。 この調子だと当分かかりそうだな。やれやれ…… どのくらいたっただろうか。暇をもてあましたため、いつの間にやら椅子の上で眠っていた俺の脳天に一発の強い衝撃が走った。 完全な不意打ちだったため、俺の目から火花が飛び散ったかと思うほどに視覚回路に光の粒が発生し、 思わず頭を抱えてしまう。 「何しやがる……ん?」 抗議の声を上げるのを中断して見上げると、そこには仏頂面のハルヒの姿があった。その手には数十ページの紙の束が 握られていた。 「全く……人が頭を抱えているのにぐーすか眠っているとは良いご身分ね。ほら、あんたのご注文通り作ったわよ。 人が読めて理解できる代物かどうか保証はできないけど」 相当疲れがたまっているのか、半分ドスのきいた声になっている。俺はハルヒの書いた時間移動の論文をざっと見てみたが、 ………… ………… ……こ、これは確かこんな感じだったような憶えがあるが、今読んでもさっぱり意味不明だ。謎の象形文字と ナスカの地上絵もどきが大量に並びまくる宇宙からの電波をキャッチしてそのまま文字化したような得体の知れない カオスさである。あの少年は本当にこんなものから一瞬のひらめきを見つけられるのか? 全く天才ってのは 得体の知れない生き物だ。 ハルヒは達成感に身を任せうーんと一伸びしてから、 「何か疲れちゃったわ。それを使うのは一眠りしてからにするわね」 そう一方的に言い放つと、そのまま団長席(仮)に突っ伏してしまった。ほどなくしてかすかな寝息が聞こえ始める。 全く何だかんだで努力は惜しまないやつだ。どんなことでも全力投球、中途半端は大嫌い。わかりやすいったらありゃしない。 俺はとりあえず制服の上着をハルヒに掛けてやると、暇つぶしにハルヒの意味不明カオス論文の解析をやり始めた。 ◇◇◇◇ … …… ……… 以上回想終わり。そんなこんなでハルヒがあの少年にこっそりと論文を渡した結果、うまい具合に北高二年生に 朝比奈さんがいましたってわけだ。 ただし、それを少年の手に渡したのは、俺の世界では学年末ぐらいだったがハルヒが善は急げ!とか言って とっとと渡してしまった。ハルヒ曰く、高校一年のその時期まで情報統合思念体の魔の手から逃れて無事に過ごせる可能性は かなり低い――というか一度もなかったそうな。中学時代を乗り切るのはもう完全に可能になったものの、 高校になってからの情報統合思念体やその他の勢力――俺の知らないいろいろな勢力がいたりしたらしい――がちょっかいを出して それで結果ご破算になってしまうということ。朝倉の暴走もその一つに含まれているらしい。 結果予定を繰り上げて、入学前にあの少年に論文を渡すことになったわけだ。まあうまくいったから良いんだが。 「よっし、じゃあ乗り込むわよ!」 「そんなに気合いを入れて、殴り込みにでも行くつもりか?」 元気満々のハルヒに続いて、俺は嘆息しながらそれに続く。ドアの向こうは書道部の部室だ。 放課後、俺たちは約束通りここに入部するためにやってきたってわけさ。 「こんにちわ~! 入部しに来ましたー!」 でかい声でハルヒが部室に入ると、数名の書道部部員たちの注目の視線がこちらに集中した。 その中にはすでに朝比奈さんと鶴屋さんの姿もある。二人とも手を振っていた。 中には朝比奈さんたち二人を含めると、あと三人しかいない。まあ書道部っていう地味な活動を考えると 最近の若いモンには不人気な部活かも知れないから無理もないか。活字離れどころか、ワープロやパソコンの普及で 手書き文字すらなくなっている時代である。かく言う俺も相当な悪筆だけどな。 しかし、見れば全員女子部員ではないか。しかも容姿のレベルも中々高い。まるでハーレム気分だっぜ。 事前に朝比奈さんたちから話を聞いていたのか、部長らしい三年生が俺たちに仮入部の紙を手渡してくる。 さすがにいきなり入部って訳にはいかないらしい。大体、先週入学式があったばかりだしな。一年の大半もまだ部活を 探している生徒は大半だが、いきなり本入部っていう人間はスポーツ推薦でやって来た奴ぐらいで、大抵は仮入部だろう。 俺たちはさっさと仮入部の用紙にサインを入れると、とりあえず部室内を一回りしてどんな活動なのか紹介を受ける。 やっていることは単純で、普段は習字の練習を行い、たまに校内の掲示板に作品発表を行ったり、市で開催されている 展覧会っぽいものにできの良い作品を送ってみたりと、まあごく普通の地味な活動内容だ。ああ、そういえば、 今日北高の入り口におかれていたでっかい看板の文字もこの部で制作したものとのこと。書いたのは鶴屋さん。 すごい美しく見栄えのある文字だったことを良く憶えている。 「いやーっ、そんなにほめられるとテレるっさっ! でも、あのくらいでもまだまだにょろよ」 鶴屋さんは照れ笑いを続けている。一方のハルヒは部長の説明も聞かずに朝比奈さんをいじくりまわしている始末だ。 さすがに見かねた書道部部長(女子)が俺の耳元で、彼女は大丈夫なの?と聞いてくるが、 「あー、あいつはああいう奴なんて放っておいて良いですよ。むしろ関わるとやけどするタイプですから」 俺があきらめ顔でそう答えると、書道部部長は不安げな表情をさらに強くした。こりゃ結構心配性のタイプだな。 ハルヒには余り心労をかけるなよとこっそり言っておこう。 ついでにそろそろ止めておくか。 「おいハルヒ。朝比奈さんを弄って部活動の妨害はそれくらいにしておけ。余り酷いと退部にされるぞ」 「えー、でも凄いのよ。フニフニなのよ! あんたも触ってみればわかるわ」 何がフニフニなんだ。いやそんなことはどうでも良いからとにかくやめろ。 俺は無理やりハルヒの襟首をつかんで、朝比奈さんから引き離す。ハルヒはえさを止められた猫のようにシャーと 威嚇の声を俺にあげているが、 「まあいいわ。別に今日一日だけって訳じゃないしね」 「ふええぇ、毎日これやるんですかぁ?」 いたいけな朝比奈さんのお姿に俺も涙が止まらないよ。とにかく、仮入部とは言え入部したんだからきっちり部活動に 専念するんだぞ。朝比奈さんいじりは決して部活動の内容に入っていないんだから。いいな? 「部活動ねぇ……ようは墨で字を書けばいいんでしょ?」 子供の頃に中々うまくいかず、オフクロと一緒に泣きながら夏休みの課題の習字をやっていた俺から言わせると、 習字をなめるなと一喝してやりたい余裕ぶりだ。 ハルヒは手近な部員から習字一式を借りると、さっさと軽い手つきで書き始める。 そして、できあがったものを俺の方に掲げてきた。 「これでどうよ?」 まあなんだ。素直に言えば旨いな。しかし、書いてある文字が『バカ野郎』なのは俺に対する当てつけのつもりか? もう少しマシな書く内容があるだろう? ハルヒは俺の反応を受けて再度別の文字を書き始める。 そして、得意げな笑みを浮かべて掲げた作品『みくるちゃんラブ』――だからそうじゃねえだろっ! 「あのな、もうちょっとふさわしい文字があるだろ? 例えば、『祝入学』とか『春一番』とか」 「なによ、そんな普通の書いてもおもしろくないわ」 真性の変りもんだこいつ。普通の人と同じ事をやるのは自分のプライドでも許さないのか? ただし、その字は確かにうまい。俺の捻り曲がった不気味な字に比べれば雲泥の差だ。 俺はてっきり字の内容はさておきその技術には他の部員も感心していると思いきや…… 「うんっ、なかなかのないようだと思うよ。もうちょっと練習すればかなりうまくなるんじゃないかなっ」 鶴屋さんの言葉。決して絶賛ではない。どちらかというと、もうちょっと努力しましょうという意味である。 朝比奈さんや書道部部長(女子)も同意するように頷いていた。 ……つまりハルヒのレベルは実は大したことない? そこにちょうど顧問らしき教師がやってきた。部員の様子を見に来たらしい。 仮入部の俺たちの紹介を書道部部長(女子)が説明すると、ふむといってハルヒの書いたものをまじまじと見始めた。 そして、こう論評する。 まだ慣れていない部分が大きいね。そのために全体的に荒く自己流の悪いところが出ている。 さあこれを聞いたハルヒがどうなるかは、こいつの性格を知っていればすぐにわかるだろう。 世界一の負けず嫌い、相手に自分を認めさせる、あるいは勝つためにはどれだけの努力も惜しまない。 それが涼宮ハルヒという人間の性格である。 即座に習字に必要な一式をそろえるために専門店の場所を聞き出し、何を買えばいいのか、どこのメーカがお勧めか 顧問・部員に聞き出した後、俺もほっぽって学校から出て行ってしまった。店が開いているうちに、道具を買いそろえに 行ったんだろう。全く発射された弾丸みたいな奴だ。本来の目的忘れていないだろうな? 一同唖然とする中、さすがに居心地の悪くなってきた俺も帰宅の途につかせてもらうことにした。 その前に一応朝比奈さんに挨拶しておくことにする。 「今日はいろいろお騒がせして済みませんでした。しばらくご厄介になりそうですけど」 「ううん、大丈夫。きっとこれがこの時間――あ、えっと、そのとにかく大丈夫です」 危うくやばい話を暴露してしまいそうになってもじもじする朝比奈さんのもう可愛いこと可愛いこと。 ハルヒ、一度で良いからお前の身体を貸してくれ。そうすりゃ朝比奈さんを本気で抱きしめて差し上げられるからな。 あと朝比奈さんはすっと俺の耳に口を寄せて、 「それからどうぞあたしのことはみくるちゃんとお呼び下さい」 以前にも聞いたその言葉に、俺はめまいすら憶えるほどの快楽におぼれてしまった。 ◇◇◇◇ さて翌日の朝。俺は駐輪場前でハルヒと合流して、北高への強制ハイキングを開始する。しかし、この上り坂も 入学した当時は本気でうんざりさせられたものだが、今では慣れっこになっている自分の適応能力もなかなかのものだ。 ハルヒの片手には昨日買い込んできたと思われる書道部必需品セットが詰まった紙袋が握られていた。 本気でやる気になっているらしい。 「あったり前よ。あんな低評価のままじゃあたしのプライドが許さないわ! それこそ世界ランキング堂々一位に輝くほどの ものを書いてやるんだから!」 おいおい。熱中するのは構わんが、本来の目的を忘れるんじゃないぞ。 「何言ってんのよ。あたしは情報統合思念体がちょっかい出してこないように平穏無事に暮らせればそれで良いのよ。 だから書道部で世界一位を取ったって別に何の不都合もないわ。あたしから何かやるつもりはさらさらないんだからね」 その言葉に俺ははっと我を取り戻す。確かにそうだ。ハルヒの目的はそれであって、別にSOS団結成とか 宇宙人・未来人・超能力者を集めて楽しく遊ぶことではない。むしろそっちにこだわっているの俺の方じゃないか。 いかん。すっかり目的と手段が入れ替わっていることに気がつかなかった。 とは言っても俺の目的にはそいつらと一緒に仲良くすることは可能だと証明する事もあるんだから、なおややこしい。やれやれ。 と、ハルヒは思い出したように、あっと声を上げると俺に顔を近づけ、 「前回のことを考慮して、あんたに予防措置をやってもらうことにしたから」 「……嫌な予感がするが、その予防措置ってのが何なのか教えてもらおうか」 「簡単にわかりやすく言ってあげるから、一度で頭の中にきっちり入れなさい。まず、あんたの意識を2分先の未来と 常に同期しておくようにするわ。つまりあんたの意識は常に2分先の未来を見ていて、あんたが望めば元の時間に戻れるってこと」 うーあー、全然わからん。もうちょっとわかりやすく教えてくれ。歴史的などうでも良い雑学は昔にはまった関係で そこそこあるがSF科学についてはさっぱりなんだ。 ハルヒは心底呆れたツラを見せて、 「厳密には違うけど、あんた予知能力を与えたって事。それならわかるでしょ?」 おお、それなら俺でもわかったぞ。ってちょっと待て。 「何で俺がそんな役目を担わなきゃならんのだ? お前がやった方がいいだろ」 「あたしが予知能力なんて堂々と発揮していたら、即座に情報統合思念体に感づかれるわよ。だからあんたなら、 偶然、あるいは本当に未知の能力を持っているとして片づけられるはずよ。ただし、無制限って訳にもいかないから」 「なんかの条件とかあるのか?」 「予知能力が使えるのは二回まで。仮にも時間平面の操作を行うに等しい行為なんだから、余り連発すると 情報統合思念体も不審に思い始めるだろうから。二回予知したら、自動的にあんたからその能力は削除されるわ。 だからこの予知能力は切り札よ。安易には使わないで。宝くじとか競馬とかなんてもってのほか、論外よ! 二回目を使ったときはリセットを実行するときだと思っていなさい。わかったわね」 「使い方がわからんぞ」 「簡単よ。戻れって強く念じればいいだけだから」 ついに俺までハルヒ的能力者の仲間入りかよ。限定的だから情報統合思念体に抹殺されるって事はないだろうが、 どんどん一般人から離れていくことに自分に対して哀愁を禁じ得ない。さらば凡人の俺、フォーエバー♪ 俺たちはどんどん坂道を歩いて北高に向かっている。考えてみれば、意識はもう北高間近まで迫っているところにあるが、 俺の身体自体はまだ数十メートル後ろを歩いているって事になるのか。なんつーか、幽体離脱でもしている気分だ。 ところで、予知ってのはどういうときに使えば良いんだ? 前回の機関強硬派反乱みたいな自体だったら即座に 阻止するべき行動を取るが、今回の世界は機関はいないし時間という概念が俺たちとは異なる情報統合思念体に通じるのか わかったものじゃない。せいぜい、目の前で事故が発生したらのを阻止するぐらいしか…… ――唐突だった。俺の前方百メートルぐらいを歩いている一人の男子生徒が突然北高側から走ってきた乗用車に はねとばされたのは。しかも、その男子生徒はただ歩道を歩いていただけなのに、その乗用車がねらい澄ましてきたように 歩道に割り込んできたのだ。 しばし一帯が沈黙に包まれる。あまりに突然のことだったので、誰も何が起きたのか理解できなかったのだろう。 やがて、はねた自動車は止まることなく車道に戻ると、猛スピードで俺のそばを通り抜けていった。 同時にようやく事態を飲み込めた北高生徒たちの悲鳴が辺り一面にわき起こる。 はねられた男子生徒はその衝撃で車道まで転がり、中央分離線辺りで間接が崩壊した人形のようにありえない形で 倒れ込んでいる。辺り一面にはじわりと多量の血がアスファルトの上に広がって言っていた。 俺はしばらく呆然としていたが、とっさに戻れ!と叫んだ。思考よりもさきに感覚的反射でそう言った。 ――唐突に起こるめまい。そして、次の瞬間、俺の視界には二分前俺が見ていた光景が広がっている。 まだ事故も発生せず、北高生徒たちが和気藹々と坂を上って行っている。 俺は自然と足が動いた。さっき――いや、もうすぐはねられる予定の男子生徒まで百メートル。俺はそいつに向かって一目散に 走り出す。 「――あっ、ちょっとキョン! どうしたのよっ!」 突然の俺の行動に、ハルヒは声を上げて追いかけてきた。事情なんて説明している暇はねえ。目の前で起きる予定の事故を 阻止するだけで俺の頭は精一杯だった。 俺は事故を目撃してから数十秒――多分一分ぐらい思考が停止していたに違いない。そうなると、事故発生からは 一分ぐらい前までしか戻れない。あの男子生徒とは百メートル離れている。自慢じゃないが、帰宅部を続けてろくに運動していない 俺の足だと何秒かかる? ようやく半分の距離まで詰めた辺りで、北高側から一台の乗用車が走ってきているのが見えた。あのひき逃げをやった乗用車だ。 いかん、思ったよりも俺の呆然としていた時間は長かったのか? 「キョン! あんた一体なにやってんのよ!」 俺が全力で突っ走って息も絶え絶えになっているのに、俺の隣にはあっさり追いついてきたハルヒが大した疲労も見せずに 併走していた。だが、説明している暇も余裕もない。 ハルヒは必死に走る俺の姿に勘づいたらしい、 「あんたまさか……!」 「その通りだ!」 俺はそう言い返すと、震え始めている足をさらに加速させた。乗用車はすでに歩道へと割り込みを始めている。 もう少し。もう少しで……! ぎりぎりだった。本当にぎりぎりのタイミングで俺はその男子生徒の身体をつかむ。目の前に迫る乗用車に呆然としていた 男子生徒はあっさりと俺の腕に全く抵抗することなく身体を預けた。 俺は悲鳴を上げる足首を完全に無視して、車道側へと大きく飛び跳ねる。 その刹那、乗用車が俺と抱えている男子生徒の数センチ横を通り過ぎていった。 回避した。間一髪のところでこの男子生徒のひき逃げを阻止することに成功した―― だが、甘かった。歩道は車道の反対側は壁になっていたため、とっさに車道側に飛び跳ねてしまったが、 狙ったかのように俺たちの前に後続車である大型の引っ越し屋のトラックが迫っていた。 嘘だろ。せっかく避けたってのに、なんてタイミングが悪いんだよ―― 俺は観念して次に来るであろう全身への強烈な衝撃に備えて目を瞑った。 痛みはすぐに来た。しかし、全身ではなく俺の背中に誰かが思いっきり蹴りを入れたようなものだった。 その衝撃で思わず男子生徒が腕から抜けてしまっていることに気がつく。あわてて目を開いて状況を確認しようとするが、 その前に路面に身体が落ちたらしく勢いそのままに身体が転がり続け、固い何かが俺の背中にぶつかってようやく回転が止まる。 痛みと衝撃に耐えながら目を開けて振り返ると、俺はさっきまで歩いていた歩道の反対側のそれの上にいた。 背後には電柱がある。こいつのおかげで止まったのか。 だが、助けた男子生徒はどこに行った? それを確認すべくあたりを見回すと、俺のすぐ目の前を滑るように ハルヒが着地するのが目に止まる。勢いを減速するかのように、両足でしばらく路面を滑っていたが程なく摩擦力により その動きも停止した。見れば、ハルヒの脇には轢かれる予定だった男子生徒の姿もある。 つまり最初の轢き逃げを避けた俺たちだったが、さらに今度はトラックにはねられそうになったのを、 ハルヒが俺を蹴飛ばして逃がし男子生徒をつかんでかわしたってことか。あの一瞬でそれをやってのける――しかも、神的パワーを 使った形跡もなくできるなんて心底化け物じみているぞ、こいつは。 ハルヒはすぐに俺の元に駆けつけ、 「大丈夫、キョン!? 無事!?」 「あ、ああお前に蹴られたのが一番いたかったぐらいだ」 俺は別に抗議したつもりじゃなかったが、ハルヒは顔をしかめて脇に抱えた男子生徒――どうやら気絶しているらしい――を さすりながら、 「仕方ないじゃない。あんたとこいつ、二人を抱えるのは無理だったんだから。助けてもらった以上、礼ぐらいは欲しいわね」 「ああ、すまん。そしてありがとな、ハルヒ」 ハルヒはアヒル口でわかればいいのよと、男子生徒を歩道の上に寝かせる。やがてこの一瞬の大アクション劇に、 一方からは惨劇寸前だったための悲鳴と、見事な救出劇に対する拍手喝采が起きていた。 やれやれ、これでしばらくは注目の的だな。 だが、ハルヒはぐっと俺に顔を近づけ、 「あんだけ慎重に使えって言ったのに……使ったわね? 予知能力」 あっさりと見破ってくる。 仕方ないだろ。目の前で事故が起きようとしているのを阻止するのは、一般常識を持った人間なら当然の行為だ。 だが、ハルヒは納得していないのか、何かを問いつめるように言おうとしたがすぐに口をつぐんだ。代わりに、背後を振り返り 北高生徒たちが並んでいる歩道の方へ視線だけを向けた。そして言う。 「とにかく! この件の続きは後で話す。今は一切余計なことをしゃべらないで。事後処理に努めなさい。多分もうすぐ 警察や救急車も到着するだろうから」 ハルヒの言葉には強い警戒心が込められていた。それもそのはずで、俺たちを見ている北高生徒たちの中に、 あの朝倉涼子と長門有希――情報統合思念体のインターフェースの姿があったからである。やばいな、救出劇を切り取って 今の俺の行動を見てみれば、明らかに俺は不審な行動を取ったと誰でもわかることだろう。ハルヒはこれ以上のボロを出すなと 言っているんだ。 「それから、恐らく朝倉あたりはあんたに接触してくるはずよ。やんわりと予知したんじゃないかみたいなって事を言ってね。 学校についてそれを言われるまでにきっちり納得できる説明をでっち上げて起きなさい。いいわね」 ハルヒは俺の耳元にさらに口を寄せて話した。 程なくして誰かが通報したのだろう、救急車のサイレンがけたたましくこちらに近づいてくるのが聞こえてきた―― ◇◇◇◇ 俺とハルヒは警察とかの事情聴取――逃走中の乗用車の特徴・ナンバーは見ていないかとか――をようやく終え、昼休みに 自分のクラスの席に座ることができた。助けた辺りの状況についてはハルヒがうまい具合にごまかしてくれたおかげで、 予知能力についてボロを出さずに乗り切ることもできた。 ハルヒは程なくしてどっかに出て行ってしまうが、俺は机の上に弁当を取り出してとっとと昼食を取ってしまおうとする。 そこにここ一週間ぐらいでぼちぼち話す頻度も増えてきた谷口が国木田を伴ってやって来て、 「おいキョン、何か今朝は大変だったみたいだな」 「ああ、事故に巻き込まれて散々だった。ま、けが人もなくてよかったけどな」 しかし、谷口はどっちかというと事故よりも別のことについて興味津々らしい。突然にやついた表情に フェイスチェンジしたかと思えば、 「ところでよー。お前涼宮と一緒に朝登校しているらしいんだってなー。まさかお前らつきあってんのか? いや、そうでないと説明がつかねーよなぁ?」 「何でそんな話になるんだ。別にあいつと付き合っている訳じゃねぇよ。ただ一方的に振り回されているだけだ」 だが、俺の反論を完全に無視して今度は国木田まで、 「キョンは昔から変な女が好きだからね。そう言えば、彼女はどうしたんだい? てっきりあのまま続くと ばっかり思っていたんだけど」 「なにぃ!? お前二股してんのかよ!? 許せねえ奴だ。今すぐ俺が成敗してやる」 「違うって言っているだろうが。国木田も誤解を招くようなことを言うんじゃない」 勝手な妄想を並べて推測のループに突入する二人を諫める俺だが、こいつら全く俺の話に耳を傾けるつもりがねえ。 しかし、この世界でもあいつはいるんだな……一応、連絡ぐらい取っておくか? 俺の世界の時のように正月まで 放置っていうのもなんつーか後ろ髪を引かれる思いだからな。 さて、ここで真打ちの登場だ。俺と谷口、国木田の馬鹿話の間に、あの朝倉涼子が割って入ってくる。 あいつもあの現場にいたから確実に何か聞いてくるだろう。 「あら、あたしもてっきりあなたと涼宮さんが付き合っているものばかりだと思っていたけどな。 毎朝一緒に登校してくるぐらいだし」 それに対する反論はさっきしたばっかりだからもういわんぞ。 朝倉はお構いなしに続ける。 「でも、実はあたしもあの現場にいたのよね。突然あなたが背後から走ってきたかと思ったら、突然すぐ目の前の男子生徒を つかんで大ジャンプするんだもん。さらに、飛び跳ねた方に今度はトラックが突っ込んできたときはもうダメかと思ったけど、 涼宮さんが凄いファインプレーで二人を救出。まるで映画でも見ているようだったわ」 いつもの柔らかな笑みを浮かべる朝倉。さてさて、そろそろ言ってくるかな。いいか俺。慎重にだぞ、慎重に…… そして、朝倉は核心について話し始める。 「でも、どうしてあの男子生徒が事故に巻き込まれるってわかったの? あなたが走ってきたときには はねようとした車に不審な動きはなかったわ。まるであなたは事故が発生するのをわかっていたみたい」 「へー、キョンって予知能力があったんだ。中学時代から付き合いがあったけど、知らなかったよ」 国木田が言ってきたことは冗談めいているから相手にする必要なし。問題は朝倉の方だ。そのために、ハルヒの知恵も借りて それなりの理由を事前に準備してある。 「最初に言っておくが、俺があの男子生徒を助けられたのは完全な偶然だぞ。俺は朝ハルヒに言われて宿題をするのを忘れていた 事に気がつかされて、あわてて学校に向かっていただけだ。一時限目のものだったからな。早く言って適当に 少しでもやっておかないとどやされるし。それで途中で突然自動車が突っ込んできたら、とっさに近くにいた生徒を抱えて 逃げようとしたんだよ。だから走っていたのは別に事故を回避するためじゃない。まあ幸い――けが人がなかったからと言って 仮にも事故が起きかけたことを幸いって言うのもアレだが、警察の事情聴取とかで一時限目は出れなかったから、 宿題の問題は回避されたけどな」 「ふーん、ただの偶然だったって訳なんだ。だったらますますファインプレーよね。予測もしていないのに、あんな行動が取れる あなたに脱帽しちゃう」 これは嫌味なんだろうか。それとも正直な感想? 朝倉の変わらぬ笑みからは真意を読み取ることはできなかった。 ただこれ以上その件で追求するつもりはないらしく、それだけ聞き終えるとまた女子グループの中に戻っていった。 やれやれ、一応バレ回避はできたようだな。 と、ここで谷口が俺の前に割り込み、 「そうだキョンよ、お前部活どうしたんだ?」 「ん、書道部にすることに決めた。いい加減オフクロからも汚い字を何とかしろって言われていたからな。ちょうど良いと思って」 だが、谷口はお前が?と疑惑の視線を向けると、すぐに懐から一つのメモ帳をパラパラとめくり始めた。 そして、あるページを見てにやりといやらしい笑みを浮かべると、 「……なるほどな。キョン、お前の真意は読めたぜ」 何がだ。 国木田も不思議そうな顔で、 「何か良いことでもあるのかい、書道部にはいると」 「俺がチェックしたこのマル秘ノートに寄れば、書道部には女しかいない。しかも全員俺的ランクAA以上で、 その中には上級生では最高峰に位置する朝比奈みくるさんの存在もある」 「ああなるほど、キョンは部活と言いつつ可愛い女子目当てに入部したって訳か」 おい待て。勝手に人の目的を捏造するんじゃない。俺はただ単にこの煮えたぎる文字という魅力に―― 「んなことはいいから」 あっさり人の抗議を無視しやがった。 谷口はうんうんと頷き、 「確かにキョン、お前の見る目は間違っていない。あの書道部は美人揃いのパラダイスだ! ってなわけで俺も入部したいから 是非とも紹介してくれ」 「あ、それいいね。僕も混ぜてよ」 おまえら。女目的で入部する気かよ。ハルヒとは違う意味で習字をなめるなと言ってやりたい。 しかし、結局二人の熱意に押されまくり仮入部の紹介をしてやることを強制された辺りで、 「ちょっとキョン。話があるからこっち来なさい」 そう教室の入り口から俺を睨んでいるハルヒに、話を中断された。 ◇◇◇◇ 俺がハルヒに連れて行かれたのは、あの古泉と昼飯を食べていた非常階段の踊り場だった。 何のようかと聞くまでもない。今朝のことについてだろう。 「あんたね、あれほど言っていたのにあっさり切り札を使うなんて何考えてんのよ。残り一回は同じ事があっても 絶対に使わないこと。いいわね!」 ハルヒはそう説教するように睨みつけてくるが、正直なところ今後も同じ事があった場合自重できるかどうか はっきり言って自信がない。大体、目の前で人が死のうとしているのに、それを放置するなんていうのは 俺のポリシー――いや人としてのポリシーに反していると思うぞ。 だが、俺の思いにハルヒは呆れの篭もった嘆息で返し、 「あんたね、ちょっとは考えてみなさい。確かに本当に目の前で息絶えそうな人がいたら助けるのは当然のことよ。 でもあんたは通常知り得ない情報を元にそれを実行しようとしている。それは一種の反則技だわ」 「命がかかってんだぞ。守るためなら反則だろうが何だろうがすべきじゃないのか?」 「じゃあ、その行為で確かに目の前で死ぬはずだった人は生き延びたとして、その結果別の人が事故に巻き込まれたらどうする気? 最初に死ぬはずだった人は、その死因を作った人間の責任になるけど、その人を助かったばっかりに死んでしまった別の人の死の 責任はあんたが背負うことになるのよ? その覚悟はあるわけ?」 俺はその言葉にうっとうなるだけで反論できない。確かにその場合は、俺が責任を負うべきだろう。 助けたばっかりに別の人が不幸になる。十分にあり得る話なんだから。それはあまりに本末転倒な話と言える。 しかし……しかしだ。 「だったら使いどころがわからねぇよ。どうすりゃいいんだ?」 「あと一回だけにしているから、使いどころは簡単よ。リセットを実行する必要が明らかに発生した場合のみ。 前回で言うと、町ごと核でドカンっていう事態が発生した場合ね。言っておくけど、前回は古泉くんが口を割ってくれたおかげで 助かったようなものよ。一歩間違えれば、あたしとキョンも巻き込まれて死んでいたんだから。 あくまでもそんな事態を回避する――その一点に絞りなさい」 ハルヒの指示は明確でわかりやすかった。取り返しのつかない事態、そしてそれは個人の事情とかそんなのではなく、 ハルヒがリセットを実行するための助けとなる場合のみか。 わかる。それはわかる。だけどな、 「でも、自信ねぇぞ。もう一度同じ事が起きた場合にそれを見て見ぬふりなんて」 「わかっているわよ。だけど――あんたしか頼れる人がいないの。悪いとは思っている……」 ハルヒの言葉に、俺はどういう訳だか心臓が跳ね上がった。 目線こそ合わせないが、ハルヒが俺に対して明確な謝罪を意思を示すのを目撃する日が来るとは思ってもみなかった。 それもこれも自分の能力のおかげで世界の危機に招いてしまっていることへの罪悪感――あるいは世界を救わなければならいという 使命感がなせる技か。 これが力を自覚したハルヒ、ということなのだろう。全く俺の世界の脳天気唯我独尊傍若無人SOS団団長様が懐かしいよ。 ◇◇◇◇ 翌日の放課後。 俺とハルヒ+谷口・国木田コンビを連れて俺たちは書道部部室やとやって来た。すでに朝比奈さんや鶴屋さん、 その他部員たちは勢揃いしている。 ハルヒは谷口たちがいることに最初は不平を漏らしていたが、やがてそんなこともどうでもよくなったのか、 昨日買ってきたばかりの書道部必須アイテムを使って、とっとと習字の練習を始めた。やれやれ、やる気全開だな。 一方の谷口と国木田は朝比奈さんのお美しい姿にしばし鼻を伸ばしていたが、俺がとっとと仮入部の手続きをしやがれと 背中を叩いて促しておいた。全く、これから毎日こいつら――得に谷口の視線が朝比奈さんに向けられるかと思うと 気が気でならないね。 ちなみに俺も一応入部したわけだから、この機会に字の練習をしておこうと道具を借りて練習していたわけだが、 ――君の字には覇気がないな。まるで老人のようにくたびれていないか? そんな顧問からの痛烈な評価をいただいてしまった。まあ俺の悪筆は自分でもしっかり自覚しているから、 別にどうこう思ったりはしないんだが、こっそりと朝比奈さんにまで同意されてしまったのは、ショックだったのは言うまでもない そんな俺に谷口が腹を抱えて笑いやがるもんだから、ならお前が書いてみろとやらせてみたところ、 ――君の字は煩悩でゆがんでいる。 まさに的確な指摘に、部室内が大爆笑に包まれてしまった。当の谷口は口をへの字にして顔をしかめていたが。 だが、鶴屋さんの豪快なのわっはっは!という笑いに加え、朝比奈さんも可愛らしくクスクスと笑みを浮かべていたのを 見れたことに関しては谷口に大きく感謝しておこう。口には出さないがね。 ◇◇◇◇ そんな日々が一週間続いたある日のこと。 俺とハルヒ、それに朝比奈さんは部活動を終えて下校の途に付いていた。すっかり日も傾き、周囲がオレンジ色に包まれている。 3人は和気藹々と談笑しながら――まあ、ハルヒは相変わらず朝比奈さんにことあるごと抱きつく・いじくりまわすなどの 破廉恥行為を加えながら――歩いていた。 「でも涼宮さんは凄いです。入ったばっかりなのに、もう他の部員の人たちと同じレベルになっているんですから。 顧問の先生もあと今のペースで旨くなっていけば、あと一ヶ月もかからないうちに完璧な作品が描けるようになるって 言っているぐらいですから」 「当然よトーゼン! あたしは一番でないときが済まないの。それがあんな墨で字を書くだけの地味なものであっても 妥協は一切なし! 絶対にコンクールだろうが何だろうが一番を取ってみせるわ!」 やれやれ。こいつのスーパーユーティリティプレイヤーぶりを発揮すれば、本気で書道家級に達しかねないから なおさらたちが悪い。ま、こういう才能のある人物というのはどこかしら人格に欠点があったりするものだから、 ハルヒにぴったりと言えるかもな。いや、ハルヒは最低限の常識はきっちりわきまえているから、真の意味での芸術家には なれなかったりするのか? よくわからん。 「それに比べてキョンや谷口の成長しないことったらもう。あんたたちやる気あるわけ? 国木田を見習いなさいよ。 あたしには及ばなくても着実に腕を伸ばしているわよ。あいつ、何だかんだできっちりやるタイプだから」 「お前と一緒にするな。ついでに部活動の目的を完全にはき違えている谷口とも一緒にしないでくれ、マジで」 俺とハルヒも朝比奈さんに近づくという点では、谷口と大差ないように見えるかも知れないが、あいつは煩悩100%で 入部したんだから根本が完全に違う。大体、一応まじめに練習している俺とは違って、ぼーっと女子部員の姿を 鼻の下伸ばして追いかけている時点であいつは論外と言っていい。 ……まあ、朝比奈さんに関してはそのお姿をフォーエバーな視点で見つめていたいという気持ちは、大きく同意しておくが。 「そう言えばみくるちゃん。今日は部活に遅れてきたけどなんかあったの?」 「ふえ? え、ええっと大したことじゃないんですけど、クラスで用事があったので……」 「ふーん」 聞いてみたものの、どうでも良さそうな返事を返すハルヒ。 そういや、珍しく朝比奈さんが部活に遅れて顔を出していたな。まあ、ここの書道部は体育会系みたいに 時間厳守だとかそんなのはないからとがめられるような話ではないが。 そんな話をしながら、俺たちは長い下り坂も中盤にさしかかった辺りで気が付く。この下り坂の終着地点には 自動車通りの多い交差点があるんだが、そこの歩道で一人の北高男子生徒が中年ぐらいのおっさんと言い争いをしている。 なんだトラブルか? 若いから血の気が多いのは結構だが、マスコミ沙汰にするのは止めろよ。学校の評判――ひいては 生徒たちの迷惑になるからな。 「ん? アレってこないだ助けた男子じゃないの?」 「なに?」 ハルヒの何気ない一言に俺は目を細めてそいつの姿を追う。しかし、俺には北高生徒ぐらいしか判別できないぞ。 一体どんな視力をしてんだ、お前は。 「これでも視力には結構自信があるのよね」 フフンと得意げに胸を反らすハルヒ。まあ、ここでハルヒが嘘を言う意味なんて無いし、そういう事はしない奴だから、 あれはこないだ助けた男子生徒なんだろう。何をやっているんだ? しばらくするとケンカ別れするようにその男子生徒は悪態を付きながら、横断歩道を渡ろうとする――いやまて! 今、その横断歩道の信号は赤だぞ。しかもでかいトラックが接近中だ。 しかし、男子生徒も危うくそれに気が付いたようで、飛び跳ねるように歩道まで戻った。あぶねーな。 一歩間違えれば俺が何で助けたのかわからなくなったところだった。 だが、まだ終わりではなかった。驚いたのに合わせて、さっきの言い争いによるイライラ感が増幅したのか、 近くにあった時速制限の標識――数メートルの高さに丸い奴がくっついているアレだ――を思いっきりけっ飛ばした。 なんだあいつ、実は素行の悪い野郎だったのか? それが仇となった。蹴ったことにより少しイライラが解消されたのか、そいつはまた横断歩道の前に立ち、 信号が青になるのを待ち始めた。そこでそいつは気が付いていなかったが、俺の場所からはあることが見えた。 けっ飛ばした時速制限の標識が不自然に揺れ動き、めりめりと音を立てて男子生徒の方に倒れ込んできたのだ。 しかも、ギロチンか斧のように標識が盾となった状態で襲いかかる。そういや、犬のションベンで標識やミラーの根元が 腐食して勝手に折れたという事故を聞いた憶えがある。 その音に気が付いたのか、男子生徒がちょうど振り返ったのと同じタイミングで、そいつの真正面を標識が通過した。 豪快な音を立てて、標識が歩道の上をバウンドする音が耳をつんざく。 俺は息を呑んだ。あの重さのものが頭や身体に接触すればただでは済まない。最悪命を落とす可能性も…… ふとそいつがあまりのことに驚いたのかふらふらとおぼつかない足で動き始めた。一瞬こちら側を振り返った姿を見ると 本当に数ミリ程度の誤差で身体には触れず、制服の腹の部分が避けているのが見えた。どうやら無傷らしい。 なんて運の良い奴だ。 だが、相当驚いたようで錯乱状態になって千鳥足で事もあろうか車道に侵入して、そこに通りかかったトラックに ぶつかってしまう――とは言っても、正面からではなく走っているトラックの側面に男子生徒の方から接触したと言った方がいい。 そのため致命傷にはならず勢いでくるくると回転して車道に倒れ込んでしまった。 そこに今度は普通の乗用車が突っ込んでくる。 「きゃあ!」 誰かの悲鳴が聞こえてくる。恐らく近くを歩いていた通行人のものだろう。このままでは自動車にはねられる―― キキーッとタイヤの鳴く音が一面に広がった。運転手が必死にハンドルを切りブレーキをかけたため、あと数十センチの というところで男子生徒を轢かずに停止した。 まさにぎりぎり。危機一髪。もうどんな言葉を並べても表現しがたい状況だろう。死の危機の連鎖をあの男子生徒は 全て乗り切ったのだ。 「……よかった」 ハルヒの声。俺たち3人とも気が付かないうちに立ち止まり、それを見つめていた。 男子生徒はようやく正気に戻ったのか自力で立ち上がり、ふらふらと歩道の方へ戻っていく。やれやれ。 自分のことでもないのに寿命が何年分も縮まったぞ。勘弁してくれよ。 ――がちゃん! 突如不自然な金属音が辺り一面に広がった…… 俺もハルヒも唖然として固まる。 男子生徒がふらふらと立った歩道。突然、そこに鉄の板が降ってきたのだ。見れば、男子生徒の正面にあったビルの屋上に あった看板がなくなっている。 ……つまり突然看板が落下して、男子生徒を押しつぶした。これが今目の前で起きたのだ。 そこら中から悲鳴が巻き起こった。度胸のある数人の通行人が男子生徒の無事の確認、あるいは救出のために 落下した看板の周りに集まってくる。中にはすでに携帯電話で救急車の手配をしている人もいた。 だが、もう無理だろう……看板の周囲には漏れだした男子生徒のおびただしい血液が広がり始めていたんだから。 俺はこの結果を見ても、決してハルヒにもらった予知能力を使おうとは思わなかった。昼間に受けた説教のためじゃない。 次々と襲ってきた危機からとどめの一発まで完全に二分を超えていたからだ。つまり今二分前に戻っても、 もう惨劇の序章は開始されている。しかも、場所が離れているためどうやってもまにあいっこない。 ここで俺ははっと気が付いた。呆然としているハルヒはさておき朝比奈さんがこんな過激なスプラッタ劇を見たら、 卒倒すること相違ない…… だが。 朝比奈さんは何も反応していなかった。 うつろな目でその惨劇の現場をただじっと見つめているだけで。 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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四章 時刻は夜11時。俺は自宅にてハルヒの作ってくれたステキ問題集を相手に格闘中だ。 「やばい、だめだ。全然わからん。」 朝はハルヒに啖呵を切ったものの、今では全くもって自信がない。 今の時期にE判定を取るようじゃ、どう考えても結果は目に見えている。 そもそも俺よりも頭のいいあいつが、それに気付かない訳がないのだ。 ただ遊ばれているだけなのか? …………ハッ!いかんいかん!俺の中の被害妄想を必死でかき消す。 頭を一人でブンブン振っていると、俺の右手に違和感があることに気付いた。 俺の右手はいつのまにか机の引き出しの中に伸びている。 手は引き出しの中の『奴』を掴んでいた。 そのことを俺の頭が理解した途端、俺はバネにはじかれたように机から遠ざかった。 「はぁ、はぁ…」 これ以上ないくらいの恐怖を感じながらも、俺の手はまだ『注射器』を握り締めている。 「何で…何でこんなことになっちまったんだ…」 俺は力なくそれを床に叩き付けた。 あれは、きのう… 「ど、どうしたの?キョンくん?」 下駄箱で春日が俺をその大きな瞳で見ていた。 その時の俺が普通じゃなかったのは言うまでもない。 「クソ!俺はハルヒを!!バカだ!最低だ!なあ、春日! 明日から俺はハルヒにどう接すりゃいい?!」 突然激昂した俺に、春日は動揺したように言った。 「ちょっ、待って!話は聞くから取り敢えず落ち着いて!場所は…公園でいい?」 ここは公園。俺と春日はベンチで並ぶように座っている。 事情を知らない人が見たらカップルに間違われるかもしれない。 ここで俺が春日の肩に手など回せば完璧だな。だが生憎、俺にそんな余裕はない。 「どうしたの?涼宮さんと何があったの?」 春日とは朝の挨拶以外はほとんど話したこともなかったが、話は本気で聞いてくれるようだ。 俺は今までのことを呼吸をするのも忘れてぶちまけた。 ほとんど話したこともない女子に、こんな長々と話すのは俺のキャラじゃないんだがな。 今はとにかく誰かに話を聞いて欲しかった。春日は俺の話を真剣な目で黙って聞き、 俺がたまに同意を求めると目を優しくさせ、「そうだね」と相槌を打ってくれた。 「どう思う?!」 その最後の言葉を俺が吐き終えると俺の興奮は冷めていった。 が、代わりにいいようのない虚無感が襲って来る。 何もやる気が起きない。ふう、と俺が久々に肺に酸素を運んでいると、 春日は俺の質問には答えず、ベンチからすっと立ち上がった。 「ねえ!今からうちに来てみない!?ほら!いーから、いーから♪」 ハルヒにも負けないような笑顔を見せながら俺の手を引っ張る。 「お、おい、どういうことだよ?」 言葉ではこう言ってるが、俺は大した抵抗もせず、フラフラと春日のあとを付いていく。 正直、どういうことかなんてどうでもいい。全てが色褪せて見えていた。 春日の家につくと、すぐにリビングに通された。両親はいないようだ。 「それじゃ、早速あたしの意見をいうね?明日にでも涼宮さんに謝って? あたしは今までのキョンくんの頑張りを教室でいつも見て来た。 だからキョンくんがその反動で、涼宮さんについ当たっちゃった気持ちもわかるよ。 でも男の子から殴られるってことはあたし達女子にとっては、 とても耐えられないことなの。 好きな男の子からなら尚更…きっと今涼宮さんは泣いてるよ? お願い!涼宮さんを元気づけられるのは、あなただけなの!」 いつもなら『好きな』の所で何らかの反応をして見せるんだろうが…当然、どうでもいい。 わかってる、わかってるんだ。俺がこれから何をしなければならないのかくらい。 「だけど…俺は自分が怖いんだ。 あいつに会ったら…またあいつを殴っちまうんじゃないかって…」 今の俺は誰がどうみても、とてつもなくヘタレなんだろうな。 さすがにこれは春日も愛想を付かしてしまうか。と思っていると、 「ちょっと待ってて!」 と言ってリビングから出ていってしまった。 「おまたせ!」 戻ってきた春日の手には小さな怪しく光る注射器が握られていた。 夕日の逆光のせいでシルエットになっている春日と注射器はシュールで、とても気味が悪い。 「おい、それ何だよ。」 「ん?かくせーざい♪」 力なく問い掛ける俺の質問に、特に悪びれる様子もなくそう答える。 その態度と質問に対する答えは、俺を動揺させるには十分だった。今日一番の揺れの観測だ。これはさすがに力なく「そうか」で済ますことは出来ない。 「な…な……何を言ってるんだよ!馬鹿らしい! それをどうするつもりだ?! 俺にヤク中になれっていってるのかよ!」 「何言ってるの?たった一回だけだよ! 今のキョンくんは自暴自棄になっちゃって、自分に全く自信がない状態なの! そんな、どうしたらいいか分からない時のための、一生で一度だけの切り札! これさえあればどんどん自信がついてくるんだよ? まるで自分がスーパーマンにでもなっちゃったみたいに!」 いやいや、まてまて、おい。WHY!?いやマジでWHY!? 「覚せい剤だぞ?!そんなもん一度やったら、 二度と抜け出せなくなっちまうことくらい俺でも知ってる! 悪いな。邪魔した。俺はもう帰る。」 ここにいちゃいけない!そう警告している本能に言われるまま、俺は部屋を出ようとした。 「また涼宮さんを傷つけるの?」 その言葉に俺の足はいとも簡単に止められた。 「自分が何するかわからない、怖いって言ったのはキョンんだよ? このまま会っても今の溝がもっと深まるだけ… 涼宮さんのことを想うなら、これを使うべきじゃない?」 何度もいうがこの日の俺は本当にどうかしていた。 たったそれだけの言葉で気持ちが傾いて来やがるんだからな。 「だ、だけど!それを打っちまったら、俺は…」 「依存症なんて意志の弱い人だけ。あたしは知ってるよ?キョンくんがそんなに弱くないってこと。」 確かに、俺は薬物依存など意志が金箔よりも薄い奴がなるものだと思っている。 「それと、キョンくんが、誰よりも涼宮さんを愛してるっていうこと。」 春日は終止、優しい目で言う。でも…だけど… いや、もしこれを使えばまたハルヒと…楽しい日常を…こんな押しつぶされそうな気持ちも… 「いいの?涼宮さんを泣かせたままで… また仲良くしたいでしょ?何にもなかったように…」 「何もなかったように…俺は…俺はあいつと…また笑いあいたい…」 「うん、そうだよね。これさえあればその全てが叶うんだよ?」 ああ、藁をもすがりたいとは今の俺のためにあるんだな、なんて思っていると、 俺の口は勝手に動きだした。 「本当に…本当に一回だけなら大丈夫なんだな。」 「それはキョンくん次第だよ。でも…あたしはそう信じてる。」 その言葉を聞き、俺は春日から注射器を取り上げた。 おい、いいのか俺。本当にいいのか?顔からは脂汗が吹き出ている。 脳細胞を除いた体中の細胞がその全総力を結集して、奴の進入を拒んでいる。当たり前だ。 腕に針を刺すだけでも抵抗があるんだ。そのうえ、その針の中には悪名高い奴がたっぷり詰まっているんだからな。 だがその警告すら脳が一喝すると、あっさり解けていった。 腕に針先を添え、深呼吸をし、俺は………刺した。 想像以上の痛みを覚えたため慌ててピストン部分を押す。 次の瞬間、何とも言えない感覚が俺を襲った。…いや包みこんだ。 まるでこの世の全てが俺を受け入れた感覚。酸素は溶け、 俺に混ざっていき、俺も溶けて酸素に混ざっていく。 今、この瞬間のために俺の人生があったのではないかと錯覚してしまうほどだ。 今なら日本の裏側にあるブラジルのニーニョさんが何回ドリブルしたかも分かってしまいそうだ。 いや、その気になれば世界の改変でさえも… 「……ん!キョ…ん!キョンくん!」 ハッ!、意識が飛んでいたようだ。 「どう?キョンくん?」 「ああ、とても清々しい気分だ!」 一瞬春日が顔をしかめた気がした。 「これならきっとハルヒにもちゃんと謝れそうだ!」 ほんと、依存症とか、何を心配してたんだ?俺は! 俺がそんなもんになるはずない!なんてったって俺は あれだけハルヒに引っ張り回されたり、耳を疑うようなトンデモ体験をして来たんだ! 今さらそんなんでヒイヒイ言うようじゃ、SOS団万年ヒラ団員の名が廃るぜ! 「そう良かった。あっ、もうこんな時間だね。送って行こうか?」 春日がすっかり調子を取り戻した笑顔で言った。 いつのまにか七時すぎになっていたようだ。 「いや、自転車だし、大丈夫だ。」 「そう、はい!カバン!!」 飛び切りの笑顔で見送りした春日に俺も飛び切りの笑顔で、手を振った。 それから家に帰ってからだ。カバンの中に注射器と粉の入った袋を見つけたのは。 いつ入ったんだ。あいつが…入れやがったのか… 「はあ…はあ…」 床の上の注射器が怪しく光っている。 なんで今日あいつに話に行ったとき返さなかった。クソ!あいつ…俺をどうする気なんだ! いっそ警察に…いや!俺も捕まっちまう!そうしたらハルヒが……… もうハルヒを傷付けたくない!古泉とも約束したんだ! いや、でもこのままじゃいずれ…よそう、こんな考えは… それにしても…何だ、この感じは? 昨日は奴を拒んでいた体中の細胞が、今は奴を渇望している。 もう…逃げられない… 脳細胞があきらめかけたその時、ケータイが鳴りだした。 着信………長門 長門の 名前を見て、俺は心底安心した。今の長門には何の力も無いのにな。 やれやれ…すっかり長門に対して頼り癖がついてしまったらしい。 「もしもし、長門か。」 「そう。」 ………沈黙。いやいや「そう。」じゃなくて!そっちから電話をかけて来たんだから、 会話のキャッチボールは長門から投げるべきだろう。 だけど、それが余りにも長門らしくて、俺はまた安心した。 「あなたに謝らなければならないことがある。」 その言葉を聞いて、俺は考えを改めた。なるほど、さっきの沈黙は、 どう切り出すかを考えていたのか。 「いや、謝らなければならないことなら思い当たるんだけどな。」 「昨日、私はあなたの涼宮ハルヒへの第一撃目を、阻止することが出来なかった。 感情が………邪魔をした。」 そうだ、いくら長門でも今は普通の女子高生なんだ。俺がいきなりキレて暴れだせば そりゃ呆然とするだろう。 「いや、お前は全然悪くない。逆に俺が謝るべきだ。あのままじゃ、 俺はハルヒをリンチしていただろうからな」 「でも、私があの時もっと早く対処していればこんなことにはならなかった。」 一瞬にして顔が冷や汗でいっぱいになった。こんなことだと?もしかして全部気付いているのか? 「お、おい、俺はもうハルヒとはちゃんとケジメつけたんだ。 今日も部室で見てたろ?何だよ。こんなことって。」 「私にはわからない。だからこそ教えてほしい。何があったの? とても胸騒ぎがする。あの注射跡は何?」 全てを気付いてるわけではなさそうだ。だけど勘づいている。こいつから胸騒ぎなんて言葉が 出てくるとはな。 「だから、あれは献血で…長門、お前は知らないだろうが、俺はハルヒと古泉に約束したんだ。 もう二度とハルヒを苦しめたりしないってな。」 どの口がいってやがる。 「………」 無言だ、 「そ、そうだ!長門!手、大丈夫か?かなり力入れてたからな、 ケガ無かったか?」 「肉体の損傷は問題ない。ただ…」 「ただ、何だ?」 今なら長門が電話の向こうで思案している顔が、はっきりと分かる。 「あんな思いは…もうたくさん…」 俺ははっとした。そうだ、傷ついたのはハルヒだけじゃないんだ。こいつは、長門は 俺の暴力を目の当たりにしてしまったんだ。その心の傷は、計り知れない。 「ああ、本当にごめんな、もう二度と傷つけない。」 「そう、あなたを……信じたい。信じていいの?」 すがるように聞いて来る長門。ここは瀬戸際だ、全てを話すか、このことは俺の中に秘め、無かったことにするか。 そうだ、もう二度とやらなけりゃいい!『奴』の誘惑なんかに負けなければ今までどおりの平穏は、 守られるんだ 「ああ!」 「そう…なら…信じる。」 そういうと長門は電話を切った。 ふう、この注射器はもういらないな。ありがとう、長門。お前のおかげでこいつの誘惑に、負けずにすんだよ。 何を考えているかしらんが、お前の思い通りになんかなってたまるか!春日! 俺は!俺の欲望に打ち勝つぞ!! 「もしもし?古泉です。お久し振りですね。 実はですね………おお…察しがよろしいようで。そう、機関の創立6周年パーティについてです。 はい、もうそんな時期になるんですよね。 全く、今はもう存在しない機関だというのに。はい、もちろん主催者は今年も、森さんです。 彼女らしいといえばらしいですね。ええ、そこであなたも招待しようということになりまして………… いえいえ、あなたは今でも、そしてこれからも我々の仲間、いわば同士です。 そろそろ河村のことも、気持ちの整理がついたのではないですか? …はい、そうですか!それは皆さん喜ぶと思います! それでは、今週の土曜に。いつもの場所と時間で。 待っていますよ?春日さん?」 五章へ
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今日は12月23日。 …… 時は夕刻。俺は最寄りの店へと寄っていた。いろんな人形やぬいぐるみを手にとり凝視する俺。 「おいおいキョン、まさかお前にそんな少女趣味があったとはなあ…正直失笑もんだぜ!!」 はてはて、特にこいつは影が薄いキャラ設定でもなかったはずだが…俺はこいつの気配に 今の今まで気づかなかった。ここ最近ハルヒの閉鎖空間云々といった騒ぎに巻き込まれず、 温和な日々が続いていたせいだとでもいうのか?すっかり外的要因を感知する能力が衰えていた。 「外的要因??キョン、そりゃあんまりじゃねーか?俺はお前の親友だろ?」 悪友といったほうが正しいような気もするが。とりあえず、少女趣味云々イミフなことを言うヤツは放置に限る。 「あーあー、さっきのは悪かったって!あれだろ?妹ちゃんにやるクリスマスプレゼント探してたんだろ??」 わかってるんじゃねーか…ったく、別に俺がからかわれるのには構わないんだけどな。 そういうことを鶏が朝一番に鳴くようなレベルの大声で言うなと… もし側に俺の知人がいたら、こいつはどう責任をとるつもりだったんだ。 「だから悪かったって言ってるだろ…マジごめんって。」 まあ、わかればいいさ。謝ってる相手に追い打ちをかけるほど俺は畜生ではない。 「ところで谷口、お前はこんなとこで何やってんだ?」 「単にジュース買いにきたってだけだぜ。」 ジュース程度なら外で自販機がいくらでもあるだろうが。なぜ、いちいちこんなデパートに? 「おいおいキョン、外のこんな暑さをみてそんなこと言うのか?冷房のきいた店に涼みに来たってのも兼ねて、 ついでにジュースを買いにきたってだけだ。別におかしくもなんともねーだろ?」 なるほど、筋は通ってる。 「しっかし、冬至だってんのに夏みたいに暑いとか、 いよいよ地球もオシマイだよな。地球温暖化もくるとこまで来たってわけだ。」 …こればかりは同意しておく。実は、今年は12月に入ってずっとこの調子なのだ。何がって? もちろん地球気温のことだ。炭素税、クリーン開発メカニズム、国内排出証取引、排出権取引、直接規制による CO2削減義務、気候変動枠組条約、京都議定書…数えればきりがない。それくらい俺たちは現代社会等で 温暖化対策を強く教わってきたし、各国もそれなりの規模で取り組んできたはずだ。 にもかかわらずこのザマである。 もはや、これでは人間の努力の範疇を超えてしまっているではないか。…そもそもである。 人間ごときが地球規模レベルの変革を推進できるという考え自体が…傲慢だったというのであろうか。 …まあしかし、こればかりは俺たち一個人、ましてや一高校生にどうこうできるレベルではない。 つまり、谷口含む俺たち地球人は…。この苦い現実を受け入れ、生きていくしかないということである。 …… しばらくして、ようやく妹へのプレゼントを買うことができた。 用事を済ませた俺は、谷口と一緒にデパートをあとにしたんだが…その直後だったか。 「?」 違和感が襲う。足に力が入らない。 …… なぜ…俺は宙に浮いているんだ? …?? 空に舞ったあと、物体はどうなる?誰もがわかるように、ただ地球の中心に向かって 落下するだけだ。不変の真理である万有引力の法則に基づき、俺は地面へと強く打ちつけられた。 …どれだけ時間が経過したのだろう。俺は目を覚ました。どうやら気を失っていたようだ…証拠に、 いまだに地面に打ち付けた衝撃で頭がグラグラする。打ちどころが悪ければ…まさか死んでたのか俺は。 …… 一体何が起こった??わけもわからず、俺は必死にさっきの事象を思い出そうとする。 しかし、それは叶わなかった。思い出すとか以前の問題だった。目の前に広がる光景以外…考えられなかったから。 「…なんだってんだ…?これは…?」 周辺道路に亀裂がはしってたり陥没してるのはなぜだ??さっきまで俺たちがいたデパートが… 跡形もなく崩れ去ってるのはなぜだ??…なぜ、ありえない形で看板に人が突き刺さってる?? あそこで転がっているのは何だ…?!体の一部か?遠くから…煙や火の手があがってんのはなぜだ?? 視覚で物事を把握した途端に、今度は聴覚が冴えてくる。 「助け…」 ?! 「ひ、火を消してくれえええええええええええ!!!!」 「だ、誰か!!」 「ああ…あああ…!!!!!」 「私の子供が…っ!!瓦礫の下敷きに!!!」 「うわああああ痛いよおおおお!!!」 何を騒いでるのだこの人たちは? 「ちょ…おい、ま、待ってくれ…何だこの状況は」 聴覚で物事を把握した途端に、今度は嗅覚が冴えてくる。 「う…!」 異臭に鼻をふさぐ。この臭いは…腐臭である。 一体何の…? …… にん…げん…? 視覚、聴覚、嗅覚が正常に機能して 初めて俺はこの場所で何が起こったのか…それを思い出した。 「こんな地震見たことねえぞ…!?」 そう、さきほどこの地域全域で地震が起こったのだ…それも、考えられないくらいの強い地震が…!! これまでの経験上、一度も地震に遭ったことがないのでなんとも言い難いが…震度やマグニチュードで言えば 関東大震災や阪神淡路大震災の比ではないのではないか…!??直感でそう思った。 根拠はあった。でなければ、縦型の地震とはいえ、人間が空に舞うなど絶対ありえないだろう…? …… まさかこんな事態に見舞われようとは、一体誰が予測できる??先程までの俺や谷口はそんなこと微塵も… ?そういえば谷口はどうなったんだ? 俺は辺りを眺める。おかしい、地震があったとき確かに谷口は俺と一緒にいたんだ… それなら、ヤツは気絶してる俺を叩き起こしたり、惨状を見て発狂したり、取り乱したり… とにかく、俺に存在感を示すに決まってるんだ…あいつはそんなヤツだ。しかし、その気配はない。 認めたくなかった。それが意味するところを、それだけは絶対認めたくなかった。 最悪の状況を回避してくれることをひたすら信じ、俺は必死に辺りを見回した。 ふと、数10メートル先に瓦礫に埋もれている人間を確認できた。 ぴくりとも動かないことから、おそらく死んでいるのだろう。そしてその人間の服に、俺は見覚えがある。 考えが途切れた 「ははっ…嘘だよな…おい、嘘だよな?」 側まで近付いてみて疑念が確信に変わった ケガをしてたっていい、瀕死だっていい、 とにかく生きてさえいりゃよかった 死んでさえいなけりゃよかった …… 「谷口よお…お前だけは殺しても死なねー男だと思ってたのによぉ…」 …ッ!! 「あ…ぁあ…あ、うああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 その雄たけびが状況ゆえに発狂した奇声だったのか、友人を亡くしたことに対する怒声だったのか、 今にも崩壊しそうな自我を守るための悲鳴だったのか。今の俺には判断のしようがなかった。 というか、どうでもよかった。何もかもがどうでもよかった。 …… 「はははっ…」 俺は笑っていた。俺がさっきまで一緒にいたであろうヤツに 『外的要因を感知する能力が衰えていた。』と言ったことを思い出していたからだ…っ。 「さすがに…こんな大地震まで感知できるわけねえよ…っ」 皮肉とはこういうことをいうのだろうか。 それからどれだけの時間が経ったのだろうか。相変わらず、目の前には無残な光景が広がっており 悲鳴は絶えない。だが…どういうわけだ?理不尽にも、俺はこの状況に慣れつつあった。 例えば、ずっと暗闇の中で暮らしていれば、微量な光でも辺りを察知できるよう目は慣れてくるものだ。 ずっと大音量でイヤホンから音をたれ流していれば、耳はそれに順応するものだ。 同じことが起こっていた…それも、俺の全感覚を通じて。 落ち着きを取り戻した俺は、ようやく他のことに考えを回せる余裕をもった。次の瞬間、ある人物が脳裏をよぎった。 「…ハルヒ!!」 そうだ、ハルヒは一体どうなったんだ??まさかっ、死んじゃいないよな…?? 先程の谷口を思い浮かべ、俺は背筋に寒気が走った。すぐさまハルヒのもとにかけつけよう…ッ!! そう決心しようとした矢先に、大事なことを思い出した。 「…そういや、あいつは無意識のうちに願望を実現できる能力をもってんだよな…。」 ご察知の通り、涼宮ハルヒは自身の願望を実現させる能力を有している…それも無意識のうちに。 であるからして、ハルヒはとりあえずは無事だという結論に至った。人間危険な状況に臨めば誰しも 反射的に防衛反応をとる。ゆえに ハルヒが死ぬなんてことはまずありえないはずだ。 かく言う俺も、地震で宙に投げ出され地面に激突する際、確かに受け身をとっていた。…無意識のうちに。 わずかだが、今思い起こすとそういう記憶がある。 【ハルヒは無事だ】 そう納得した、いや、違う、納得したかったのは、実は他に理由がある。 それは…家族のことが気がかりだったからだ。ハルヒのほうが助かっているであろう根拠はあっても こっちは、生きている保証などどこにもないからだ…!! 「家に戻ろう…!!」 俺はすくんだ足をたちあがらせ、一目散へと自宅へ走り出した。 …… 自宅に着くまで時間はかからなかった。なぜなら、一々遠回りをせず、ほぼ直進してここまで来れたからである。 なぜ直進してこれたのか?障害物が見当たらなかったからである。いや、本来そこにあったはずのものが 瓦解消滅してしまった、という言い方のほうが適切であろう。その障害物とは何か?民家や塀のことである。 言わずもがな、住宅街はほぼ全壊していた。第二次世界大戦下で東京大空襲を経験した祖父から、 その様子を聞いたことがあったが…まさにそれがこの状況なのではないか?唯一の相違点は、今回は地震なため 空襲とは違い、そこまで火災があったわけではない。ないが、もはやそういう比較は意味を成さない。 双方とも言葉にできないくらいひどかったのは間違いないんだからな…。 民家はまるでダンプカーに押しつぶされたかのごとく、見事なまでに原型を失っている。 瓦礫の下から人間の手や足が覗いている。悲鳴やわけのわからない奇声があちこちからこだましている。 一歩一歩、歩くごと血を流し横たわってる死体…なれば、考えざるをえない。同じ境遇で生き残ってる俺は… 一体どこまで運がよかったのか…? 地獄絵図 しばらくして…俺は見つけた。 荒廃してて庭だったかどうか識別できない…そんな場所で、俺は倒れてる少女を見つけた。 「おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」 すぐさま妹のもとにかけよる 「きょ、キョン君…」 凄惨な光景には見慣れていたはずだったが…さすがに、肉親の肢体のあちこちから出血させられてる姿を見て、 平然としていられるはずがない…っ!いや、ある意味平然としていたのかもしれない俺は。あまりのショックに。 「今、止めてやるからな!!」 …血のことだ。 俺はもっていたハンカチやティッシュ、そして次々にちぎった着ていた服を布代わりに、 とにかく俺は妹に応急処置を施した。しかし…あまりに傷が深すぎて…出血が止まらない…ッ 「くそ!!何で止まんねーんだよ!?!?」 自分は無力だと実感する。本当に自分は無力だと実感する。兄のくせに俺は…! 妹のために何もしてやれないのか!?このまま何もしてやれないまま…妹は死んでいくのか!? …そうだ!!ハルヒに!!ハルヒに会えばいい!!ハルヒに会って妹の生存を望ませれば 妹は助かる!!よし、今すぐにハルヒをここに連れてきて 「おにい…ちゃん………」 !! 妹が何かをしゃべろうとしてることに気付いた。 「しゃべるな!!これ以上の出血はシャレになんねーんだぞ!?」 「もう…ながくない…よ。なんかね…さっきから意識が…消えそうだったり…」 「なら、尚更しゃべるんじゃねえ!!死ぬぞ!!」 「だか…ら。最後に…言わ…せて」 妹が最後の力を振り絞って何かを言わんとしていることがわかった。もはやその声はかすれ声そのもので、 読唇術でも使わない限り音声を完璧に把握できない…そう言っても過言ではないほど、事態は深刻なものに なっていた。俺は全身全霊をもってその言葉に耳を傾けた。決して、決して聞き逃さないように…! 「いま…ま…で」 …… 「あり…が…、……………………………」 その後、妹が口を開くことは二度となかった。どうやら、俺のかばんの中に入ってるぬいぐるみは 用無しになっちまったらしい。生きていて、そしていつものように笑顔を見せるお前に渡したかった。 …そういえばお前、最後の最後で俺のこと お兄ちゃんってちゃんと呼んでくれたんだな…はは…なんだかな。 こぼれきれないほどの涙が 目から氾濫する …… しばらくして、俺は放心状態のまま家をうろついた。そこで俺は…親父とおふくろを発見した。 しかし…すでに息はない。 …… 追い打ちとはこういうことを言うのか 俺の自我は 崩 壊 し た ナ ゼ コ ン ナ コ ト ニ ナ ッ タ ? リピート機能がついた壊れたレコーダーのごとく 延々と脳内から再生される片言 いつまでも、延々と ただその機械は 一定の行動を繰り返すだけだった …しばらくして、その輪廻から俺を解放してくれたのはある声だった。ある声といっても、 そこら中で聞こえてる悲鳴や轟音ではない。不思議なことに、その声は俺の脳内だけで鳴っているようだった。 これが幻聴というやつか?ついに俺も気が狂ってしまったか。まあ、こればかりはもうどうしようもないじゃないか。 これで狂わない人間など、もはやそいつは人間ではない。 しかし、その声がどこかで聞き覚えのあるように思えるのは…どういうわけだ? 『…けて……た……て…!』 何回も聞くうちに、しだいに何を言っているのか…聞き取れるようになっていた。 『助けて!キョン!助けて!!』 …確かにこう聞こえた。 …… これは…ハルヒの声…??どういうわけかはわからんが、俺の脳内にこだまするこの声は… ハルヒのものか!?ハルヒが俺に…助けを求めてるのか!? 例の特別な能力のおかげでハルヒの安否については大丈夫だろうと踏んでいた俺だったが… まさか、俺に助けを求めるほど事態が窮してたとでもいうのか!? 「くそお!!」 壁に拳を殴りつける。友人が死に、家族も死んだ…その上、ハルヒも死なせるのか…? 「これ以上誰も死なせてたまるか…!」 気がつけば俺は飛び出していた。どこにいるのかすらわからない涼宮ハルヒの行方を追って… いたるところを探し続けた。ハルヒの家、公園、商店街、広場…正しくはその跡を。 いずれの場所にもハルヒは見当たらなかった。一体ハルヒはどこに…!? っ!! 地面がまだ少し揺れている…余震はまだ収まっちゃいないってのか。とりあえず、この周辺がどうなってるのか 把握する必要がある。かといって、余震があることがわかった今、闇雲に歩き回るのは危険だが…そうだ、 携帯で地震速報を見ればいいわけか…!?あまりのショックの連続で、すっかり携帯電話の存在を 忘却してしまっていた。ついでにこれで…長門にも連絡しておくか…。とりあえず、 あいつなら力になってくれるはずだ!ハルヒにもその後かけよう…! …? どういうわけだ…??電話もメールも…できない? 特に壊れた様子もない。にもかかわらず 主要機能が総じてシャットアウトしてしまっている…?? くそッ!!これじゃ一体どうしろってんだ!? …… いかん…落ちつけ…。状況が状況だ。今ハルヒを放って発狂するわけにはいかない…。 「…それならラジオはどうだ?何とかなるんじゃないか?」 俺は側にあった倒壊しきった民家に立ち入り、ラジオを探した。 …ああ、わかってる。非常識極まりない行動だってことは…おまけに、見つかるかどうかもわからない。 だが、今の俺には何か一つでもいいから自分を安心できる材料が欲しかったんだろうな。 「ぁ…」 今思えばそれは必然ともいえる光景だった。誰かが屋根の下敷きとなっている。 生きてる気配は感じられなかった。 …… 俺は黙祷を捧げた… 一体何人の人が、この震災で命を落としたのであろうか…? これだけの地震だ。死傷者数・行方不明者数は過去最悪になっていてもおかしくない…。 右往左往しているうちにラジオが見つかった。この状態で見つかったのだから、ほとんど奇跡に近い。 もっとも、それが奇跡だと実感できる精神的余裕は、今の俺にはなかった。 …さっそく電源を入れる。 「~~~~~~~~~~~~~~」 しかし ガーガー雑音が鳴るだけで、一切音声は聞き取れなかった。 やりきれない思いが爆発しそうになる。どういうわけかはわからないが、 なぜかラジオまでもが機能しないらしい。…どうして!?どうして機能しない…!!? …… とにかくダメだとわかった今、自力でハルヒを探す他ない。…しかし、ハルヒはどこにいるというんだ?? 落ち着いて考えてみる。 …… 俺は賭けにでた。 「ハルヒ!!」 ようやくハルヒを見つけた…旧校舎近くで。よくよく考えりゃ、ハルヒが一番いそうな場所だからな…。 「キョン…無事だったのね…よかった…。」 「?どうしたハルヒ、大丈夫か??」 異様なくらいハルヒに元気がないのが見てとれる。いや、元気がないとかそういう問題ではない。 体を震わせて何かに脅えている…そんな感じだ。ライオンがシマウマを見て逃げ出すなんてことは 天変地異でも起こりえないことだが、今のハルヒは、まさにそのライオンに置き換えることができる。 …… 見た限り、ハルヒはケガなど身体的外傷を負っている様子はない。どうやら、顔が青いのは そのせいではないらしい。…さすが能力様様と言ったところか。とりあえず、ハルヒは無事だ…! そのことがわかり、俺は安心した。ということは、原因は精神的なものか…?そりゃ、この光景を見れば… いたるところに生徒の屍が転がっている。 …… 幸いなのが、今日が日曜だったということ…、もしこれが平日だったならば… 今俺たちが見ているこの光景は、今よりずっと杜撰だったのであろうか…? …わざわざ日曜だというのに学校に出向き、先程まで懸命に汗を流していたはずの彼ら。 まさかこれほどの規模の地震に遭うとは…ついさっき生きてる時は想像もしてなかったはずだ…ッ。 俺は…、彼らに静かに…黙祷を捧げた。 最悪の事態 ハルヒが精神を病むのも当然だろう。 しかし、ハルヒの様子がおかしいのは…どうもそれだけが原因には俺には思えなかった。 凄惨な光景のみで具合を悪くしているのだとしたら、俺もそうである。いくら見慣れたといえど、 あんな光景は二度と見たくもないし思い出したくもない。いまだに背筋がゾッとする… だが、ハルヒは何か俺のそれとは違う。うまく説明できないが…とにかくそんな気がする。 考えてみれば、ハルヒが無意識のうちに願望を実現できるっていうのは事実だ。仮に、この光景のせいで 気分を害しているのだとしたら、ハルヒは無意識のうちに…これを見たくないと思うはず。…ならば、 極論を言えば、ここにある死体ともども消滅させることだってハルヒには…造作もないはずだ。 「ハルヒ、お前…本当にどうしたんだ…?」 なるべく刺激しないように、かつ精一杯の優しい口調で、俺はハルヒに語りかけてみた。 「あ…あたしは…、自分自身が怖い…っ」 予想外の返答が返ってきた。 …自分自身?? 「ハルヒ、そりゃ一体どういう…」 気付けばハルヒは泣いていた。 「もう…あたし、どうしたらいいか……って、キョン!?」 あまりに不憫すぎるその挙動を見たせいか、気付いたときには俺は、ハルヒを抱きしめていた。 …普段の俺ならこんな言動はまずありえない。それくらいに、事態はやばかった。 …何がハルヒをここまで追い詰めているのかはわからない。だが… とりあえず、今は少しでもこいつを安心させてあげたい…とにかくその一心からでた行動だった。 「キョン…あたし…あたしは……」 ? その瞬間だった。俺の視界が真っ暗になったのだ。目をつむってもないのに真っ暗になるとは 一体どういうわけだ?俺が今立ってハルヒを抱きしめてる感覚はあるから、気絶したとか そういうわけではないらしい。日が暮れて夜になったからか?いや、それもおかしい。 まるで、辺りが黒いカーテンにでも覆われたのではないか?と言っていいくらい…何一つ周りは見えなかった。 確かに、地震で街灯などといった光源体は破損しているかもしれない。しかし、空に星さえ見えないというのは どう説明すればいいんだ??第一、急に真っ暗になったことを考慮すると…とてもではないが、 単に日が沈んだとかそういう問題でもない。…じゃあ、この状況は一体何だ…? 「キョン…どうして真っ暗に…??」 「……」 ただ確実に言えることは、これが異常事態以外の何物でもない、ということである。 …… まあ、あのとてつもない地震からして、すでに異常事態なわけだが…。 ふと冷静に考えてみる。そもそもあんな地震、いくら日本が地震大国と言えどそうそうあるようなものじゃない。 第一震度からして桁違いだし異常すぎる。それに、小さな地震ならともかく大震災レベルともなれば普通は… もっと警告なり何だのあってもよかったはずだろ…!?東海大地震や第二次関東大震災のごとくな…!! もちろん、俺たちの住む地域でこんな地震が起こるなんて噂…聞いたことがない。一回も聞いたことがない…! それすらなく、俺たちは…突発的にこの一連の大惨事に巻き込まれた。 もしかしてこの暗闇と地震は…何か関係あるのだろうか…? !! そんなことを考えてる余裕もなくなった。あたりが冷えだした…それも急激に。 わけがわからない。本当、何がどうなってるんだ??地震に暗闇に、 そしてこの極寒…まともな思考の人間なら、今頃発狂していてもおかしくはない。 そうはならないのが、俺がハルヒたちとともに、これまでいろんな修羅場をくぐってきた慣れというもんなのか…? 「これから一体どうなっちゃうんだろう…??」 身震いするハルヒ…。もっとも、この震えは寒さからくるものであって さっきまでの原因不明の震えとは性質が異なるみたいだが… ッ!? いかん、気温の低下に拍車がかからねえ…!普通に氷点下下回ってんじゃねーかこれ?! いや、もはやそういう次元でもないらしい。なんせ、今にも意識がとびそうなんだからな…ッ! …… いや、ダメだ…!今ここで倒れたら…ハルヒはどうなるんだ…!!? …… 俺は今まで以上に強く、強くハルヒを抱きしめていた。ただ体を密着させるだけで… この極寒に勝てるほどの熱を出せるとは、到底思わない。…だが!!今の俺にはそうする他なかった…っ 「守ってね……あたしを。」 会話はそこで終了した いつのまにか 俺は意識を失っていた 暗闇を彷徨っていた
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分裂の某シーン。 『涼宮ハルヒの驚愕』 ハルヒは一気に喋り終え、大きく深呼吸してから、そして奇異な目を俺の隣に向けた。 「それ、誰?」 「ああ、こいつは俺の……」 と、俺が言いかけた途中で、 「セフレ」 佐々木が勝手に回答を出した。 …ちょっとまて、今なんて言った? ハルヒの顔が形容しがたい驚愕めいた憤怒を交えた顔つきになってから 古泉のケータイのベルが鳴り始めたのは言うまでも無い。 ~DEAD END~
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高校を卒業してから、はや1年。 あのうるさいハルヒと別の大学に行ったおかげで 俺はめでたく宇宙人も未来人も超能力者もいない普通の日々を手にいれた ハルヒいわく「SOS団は永久に不滅なのよ!」とのことだが、 活動の根城であった文芸部室では現在、北高の新1年生数名が文芸部として活動している。 あるべき姿に戻ったとも言うべきだが、いまの部室にはガスコンロや湯飲みはない。 朝比奈さんが着ていた華やかな衣装も、コンピ研からかっぱらってきたパソコンもない、 普通の部室になっている。 昔のハルヒなら「ここはSOS団のアジトなのよ!」と部室を強引に不法占拠しただろうが、 楽しそうに活動する現部員、つまり後輩の様子を見ているとそんな気にもならないらしい。 拠点を持たない現在のSOS団にはどこか勢いがないと言うか、ごく普通の仲良しグループとなっている。 いつもの喫茶店に集まり、みんなで市内探索をしたり、イベントに参加したり・・・ そんな活動からも、最近は遠ざかっている。 それぞれの団員が新しい環境で忙しいのだろうか、 あのハイテンションの団長様からは、もう1年も召集命令がかかってこない。 実際、俺も忙しかった。 溜まっていたレポートをようやく仕上げ、自室でシャミセンを抱えてベッドに倒れこんだ。 ああ、疲れたさ。 人間というのは考え込むと突然憂鬱になることがあるそうだが、今の俺もちょうどそんな感じで、 何か釈然としない気分となりながら、激動が続いた高校時代の思い出を頭に描いている。 何気なく外に出た俺は、ハルヒの支離滅裂な行動を苦虫を噛む様な顔で振り返りながら、 朝比奈さんの素晴らしいお姿をもっと堪能していればよかったと後悔の念を抱き、 木漏れ日が射す道を、高校時代、毎朝苦しめられたあの坂を上っていた。 平日の学校だというのにどことなく静かで、相変わらず安っぽいプレハブ校舎が風情を醸し出している。 桜舞い散る校門を、卒業式以来久しぶりに通る。 おもむろに懐かしくなってきた俺は、かつて騒然とした毎日を過ごした場所を1箇所1箇所巡ってみた。 教室に入ることはできないが、セキュリティの欠片もないこの学校を見回るのは造作もないことだった。 古泉に能力を聞かされた中庭のテーブル。文化祭でハルヒと長門が観客の度肝を抜いた体育館。 なんだ、ほとんど何も変わってないじゃないか。 自然と口元が緩む。何もかもが懐かしい。 様々な場所を歩き回った俺は、校門を出る前によく分からない気持ちに駆られ、あの扉の前に来ていた。 そう、現在はSOS団のプレートが外されて、正規の活動を行っているあの、 文芸部部室の扉の前に。 4月の上旬、今は授業中。 かつてのハルヒのように、授業をサボってまでクラブ活動に精を出すような奴はいないだろう。 部室に鍵がかかっているのは当たり前のことである。 しかし、憂鬱というよりは懐古の面持ちが強くなっていた俺は、かつての思い出の1ページをさらうように、 いるはずのない朝比奈さんの着替えを目撃しないために、軽く扉を2回叩いた。 当然、反応はない。 俺が1番に来るとは珍しいじゃないか、と自分に懐かしく言い聞かせ、ドアノブに手をかけた。 ガチャリ・・・ 鍵はかかっていなかった。 まったく、部活動時間外にはしっかり施錠するのが部長の仕事だぜ。 ハルヒもその辺だけはしっかりしていたんだから、そこは見習っておくべきだな。他はともかく。 扉を明けると同時に、懐かしい言葉が浮かんできたのでつぶやいてみた。 世界を大いに盛り上げるための、 「涼宮ハルヒの団。」 つぶやきを言い切る前に、 扉の向こうから俺の高校生活をクソ面白いものに変えやがった声が聞こえた。 どこか色っぽいような顔で俺に微笑みかけたそいつはまさしく、 涼宮ハルヒだった。 なにやってんだお前はこんなところで・・・ と言いたくもなったが、ハルヒの顔を見ていたらどうも言葉が出てこなかった。 どうやら俺が忙しい日常の中で、もっとも再び見ていたいと思ったのは、こいつの顔だったようだ。 おかしい話だよな、こいつと会ったらもっと忙しくて面倒なことに巻き込まれるんだぜ。 でも、ひとつ言えることは、忙しさの中にも楽しさと、そして心のやすらぎを得ることができたということ。 いろんな思いが交差する中、最終的に俺の全思考回路がハルヒに向ける言葉として選んだものは、 「よう」という一言だった。 「あんた、よく覚えていたわね」 とハルヒがつぶやいた。 どちらかと言えば勘が鈍いほうの俺だが、これが何のことかは一瞬で思い当たった。 少しの間をおいて、はにかみながらハルヒにこう返す。 「団長、1周年おめでとうございます」 ハルヒの目が、かつてのように輝いた。 「ふん、相変わらずあんたはバカね」 これは思わぬ反応だった。と、同時に久しぶりに聞くハルヒ節がなぜか心地よく感じた。 「どうせあんたは卒業して1周年とか考えてるんでしょうが違うわよ! 今日はSOS団設立からちょうど4周年でしょ!だいたい1周年だったら卒業式から逆算しても 日にちが合わないじゃないの。ふん、あんたにしてはいい事言ったけど詰めが甘いわねー!」 まぁ、そういわれてみればたしかにそうか。 ただ雰囲気的には1周年って感じはするがな。もう4年経つのか。早いもんだ。 あらためて部室を見回してみると、随分閑散としている気がする。 現文芸部の作成した会誌や読書コンクール作品などが整えられて机の上に置いてあり、 至極まじめに活動している様子が見受けられる。 そういえば俺たちもハルヒ編集長の指示によって文芸部(ではないが)の会誌を作ったっけな・・・ 朝比奈さんのかわいらしい童話や長門の淡々としたエッセイ、鶴屋さんの大爆笑必至のアレ。 コンピ研の部長氏が目を充血させてまで書き上げたようなパソコンゲームなんとかの記事。 そしてできれば忘れたい俺の恋愛(というのかどうか分からんが)小説。 「あんたの恋愛小説にはもうちょっと期待してたんだけどねー、期待して損したわ。」 余計なお世話だ 「そういやお前、大学の方はどうなんだ?また変な団作ってんじゃないだろうな」 相槌を打つ程度に聞いてみるが、返答の内容はだいたい見当が付く。 「作ってないわよ。あたしはSOS団の団長なの。新しい団を作るつもりも入るつもりもないわ」 恐らく、ハルヒの高校生活はとても楽しいものだったのだろう。 そのひとつがSOS団の存在、ひとつというより大きなウエイトを占めているのは間違いない。 はじめて会話したときの、あのどこか不満気で釣り上がった表情だったハルヒはもうどこにもいない。 あいつはおそらく、高校生になって劇的に日常が面白くなるとは考えてなかったはずだ。 期待はするけど、どこかで晴れない気持ちが芽生えてたはずだ。 でも。 それが、この3年間だったもんな。 個性的な仲間たち。数々の不思議な体験、胸が躍る冒険。 地味な事件のひとつひとつさえ、とても面白かったんだろ、なぁ、ハルヒ。 なんで分かるかって? 何度でも言うさ。 俺も楽しかったからだ。 「なーににやついてんのよ!また変なこと考えてるんじゃないでしょうねっ!」 「また」って、俺がいつお前の思う変なことを考えたんだよ。 だいたいお前が思う変なことってのは、一般人にとってどれだけ驚異的な発想なんだろうね。 ・・・とは思うものの、1年の時の冬に雪山で変な空間に閉じ込められたときに、 「風呂を覗くな!」みたいな主旨の事を言っていたっけな。 こういうところでは意外に乙女ちっくというか、古泉に言わせれば常識的な考えを持っているんだよな。 バレンタインデーでもそうだっけか。義理義理義理義理言っておいて毎年ちゃんとくれて、 年々チョコの内容がグレードアップしていったのはなんだったんだろうな。 最後の年のバレンタインデーなんて大きさも凄ければ、 団長様直々にお書きなされたカードみたいのまで入ってたっけな。 まぁ古泉のも同じ大きさでカードが入ってたみたいだが、何て書かれてたは知らん。 ただ、俺に宛てたカードに書いてあった言葉は今でも覚えてるぜ。 1年の時に貰ったのは、チョコにバレンタインデーとぶっきらぼうに書いてあっただけだったが、 あのカードに書かれた文字を俺は生涯忘れることはないんじゃなかろうか。 なんて書かれてたか?それはだな、 禁則事項。ずーっとな。 ちなみに俺はそのカードを今でも大切に財布に入れてる。 クレジットカードやどこぞの会員証よりも優先順位が上な、一番目立つところに。 「ふん、まぁいいわ。でも、あんたよく覚えてたわねぇ。ちょうど電話しようかなーって思ってたんだけどさ。 団長様は授業真っ盛りの学校に団員を集合させる気だったのかよ。 「ちがうわよ。集合場所はここじゃなくていつもの喫茶店。」 喫茶店か、あそこには色々とお世話になったもんだな。 おそらく俺は、この部室に来なかったら図書館か喫茶店に向かっていただろう。 その先でも結局こいつに会ってたことになるんだな。 巡りあわせ、か。 ハルヒに出会ってから、俺はこの言葉をつぶやく機会が減った。 理由はお分かりのとおり、「自分の思いを実現する力が涼宮ハルヒにはある」というバカげた話を、 一般人とはかけ離れた奴から耳にしてしまったからな。 俺の中で、ほぼ必ず「巡りあわせ」はこの言葉に置き換えられた。 ただ、今の状況はハルヒがそう願ったから、というわけではないような気がする。 それとは別に・・・、なんだろうな。言葉にはしづらい内容だ。 「とにかく、せっかくの記念日なんだからねっ!みんなで集まりましょうよ!」 ハルヒの目がまた輝きだした。ホント、楽しそうなときののこいつはいい顔するねぇ。 SOS団専用スマイル。俺は勝手にこう名づけてるんだが、その名のとおり一般生徒には なかなかお目にかかれない特上のハルヒスマイルだぜ。 「それじゃ、喫茶店行くか。みんな集まってのSOS団だからな。」 別に深い意味があって言ったわけでもなく、そんなすぐに急いで行こうという意図があったわけでもないが、 「えっ・・・ちょ、ちょっと待ちなさいって!えっと・・あの、その・・・ふ、風情のない奴ねあんたもっ!」 と、全力で部室から出ることをわざとらしく拒否しやがった。なにがしたいんだ、こいつは。 「とにかく・・・たまにはいいでしょ、あたしとあんた二人で懐かしむのも・・・。あんたは団員その1なんだし・・・」 ハルヒが顔を赤らめている様子を想像した諸君、残念。 いきなり後ろ向いて細い声になるんだから顔までは見れなかった。 どんな顔してたんだろうな。 間髪入れずにハルヒは振り返り、俺のいる方へと近づいてくる。 よくみると、紙袋を後手に隠しながら歩いてくるのが分かった。 「ハルヒ、お前後ろに何隠してんだ?」 頑張って俺に見られぬように隠している紙袋に入っている物体について、 わざと先に聞いてやった。 「!!!!・・・ちょ、ちょっとあんた、そういうのは気付いても言わないのが男心ってもんでしょうが・・・」 立ち止まってハルヒはそっぽを向いた。 予想通り。この反応が見たかった。 たまにはいいだろ?俺のほうがお前を困らせてやっても。 「・・・バカ。」 そう言いながら、ハルヒは紙袋から包装された物体を取り出した。 「なんだこれ?」 おそらく万人がそういう反応をせざるを得ない、意外な代物が飛び出してきた。 年季を感じさせる、例えるならば中学生が3年間一度も買い換えずに使い込んだ筆入れのような、 財布だった。 先ほど意外な代物と言ったが、俺はこの財布に見覚えがあった。 喫茶店の代金を払うのは大体が俺の仕事のようなものになっていたので、見かける機会は少なかったが、 それはハルヒが使っていた財布と見て間違いはなかった。 「・・・お、お礼の言葉はないのっ!?団長直々の贈与品なんだからおとなしく謝辞を述べなさいっ!」 なんだそのめっちゃくちゃな理屈は・・・。 と思いつつも、何でまた財布なんだろうな。それもハルヒ本人の使っていた。 その辺はまた後で聞くとして、まず最大の疑問を投げかけてみた。 なんでまた、これをわざわざ包装してるんだお前は。 「プレゼントってものは普通包装してあるでしょ!当然の事しただけよっ・・・。」 まぁ・・・たしかにプレゼントって物はだいたい包装してあるものだが、 そもそも渡す本人が日常的に使っていたものをプレゼントするってのはかなりのレアケースなんだろうか。 いや、そんなことより根本的におかしいだろ。なんというか。 つーかこいつはもしかして包装紙だけをわざわざ買いに行ったのか? 包装紙を売ってる店なんて聞いたことないから、 大方近所のデパートの店員を脅してかっぱらってきたんだろうな。 そう思ってくしゃくしゃになった包装紙を眺め、さてどこの店の包装紙だ?と店のマークを見回したが、 なかった。店のマークも、特徴も。 それにどこか、一般小売商などのものにしてはやけに包装紙にムラが目立つ。 まさかこいつは、わざわざ包装紙とリボンを手作りしたのか? ・・・聞いたらそっぽ向きそうなので、これは言わないでおくか。 「・・・大学の同級生が財布をくれたのよ。だからそれはもういいの。あんたにあげるわ。」 要するにいらないものを恵んであげますよってことか。 フリーマーケットに売りに行くって選択やそのまま放置しておくって選択肢はないのかよ。 俺ならたぶん捨ててるな。 「けっこう使い込んであるけど、あんたのそのボロい財布よりはマシでしょ」 お前に言われたくはねーな、と言いたいところだが実際俺の財布も年季が入ってるからな・・・ でも一応まだ使えるっちゃ使えるぞ。これでもけっこう愛着あるんだからな。 「えっと・・・今まであんたには色々お金出してもらってたからさ。 その・・・なんというかお礼よお礼。借りた恩はちゃんと返すのが義理人情の世界でしょ。」 いつからSOS団は義理人情の世界になったんだよ、と思いつつ、 俺のハルヒへの投資は金以外にも、睡眠時間とか平凡な生活の終焉とか色々あったな、 お返しは財布1個で足りるもんじゃねーぜ、という気もするといえばするな。などと考えていた。 「そのかわり、あんたの財布はあたしが預かっておくわよ!ちゃんとありがたくあたしの財布を使いなさい!」 ああ、そういうことか。要するに俺の財布が欲しかったんだな、こいつは。 そんな質のいいもんでもないが・・・こいつなりに何か考えがあるんだろう。 ってことは大学の同級生が財布をくれたってのもたぶんデマカセだな。 相変わらず素直じゃないヤツだ。 「まーた!なーにニヤニヤしてんのよ!・・・べ、別に深い意味があるわけじゃないんだからっ!」 ん、またニヤニヤしてたのか?俺は。 別に意識あっての行動ではないんだがな、どうもクセになってるらしい。 外の景色が春らしく、穏やかな陽気で静けさの中にあるように、 文芸部室もまた静かになっていた。この空間には俺とハルヒしかいない。 それにしちゃやけに静かだな。 「さっ!キョン!おとなしく財布を渡しなさいっ!ついでにあんたの財布の中身も拝見させてもらうわよぉ♪」 ハルヒは強引に俺のパーカーのポケットに入っている財布に向かって腕を伸ばしてきた。 全く、ほんとにむっちゃくちゃな奴だなこいつは・・・ ん?俺の財布の中身・・・ これはまずい。 俺が理性を最大限に働かせて、財布の略奪を必死に阻止しようとしたときにはすでに、 ハルヒの手を伸ばした先にあった。 「ふぅーん、さぁーてさてっ!雑用キョン君の財布にはなーにが入ってるのかしらっ!」 俺は一瞬目を覆いたい気分になったが、もうどうしようもないのでハルヒを見つめた。 そもそも略奪を阻止したとして、アレだけを財布から抜くのなんて無理だろう。 これはしてやられた。 「・・・ちょっ、あんた・・・これ・・・」 ハルヒの顔が紅潮していくのが分かった。もうホント、これ以上ないくらいに分かりやすかった。 「あ・・・あたしは別に、それ、本気のつもりじゃ・・・っと、その、冗談よ!2ヶ月はやいエイプリルフールなのっ! あ、あんたもそれ見て冗談にしちゃきついなとか・・・い、いってたじゃないの! もう1年以上経つのに・・・それを・・・財布に入れてるって・・・」 どうしよう、ほんとにこれ。 団長様直々のお言葉だったので入れておきましたとか? どう考えても言い逃れにしかならない。 俺は・・・ 俺が3日間意識を失っていたときに、寝ずに俺を看病してくれていたハルヒ。 世界が改変され、北高から姿を消したハルヒを全力で探し始めた俺。 バレンタインデーで年々グレードアップするチョコを俺にくれたハルヒ。 どこかでポニーテール姿のハルヒを望んでいる俺。 雨の日の帰り道、結果的に相合傘を望んだハルヒ。 ・・・鍵をそろえよ、か。 俺はこの状況とは無関係な、そんな言葉を思い浮かべていた。 あの時、俺は自分で意識したわけでもないのに、気が付いたら仲間を集めていたっけ。 気が付いたら。 もしかしたら、そんなはずはないとは思うが、 俺は全ての騒動や日常の中で、平行してもうひとつの鍵をそろえていたのだろうか。 涼宮ハルヒ、という鍵を。 「なぁ、ハルヒ」 「なによ」 口を開くまで時間がかかった俺の、やっとひねり出した言葉に、ハルヒは間髪入れずに返してきた。 この辺はこいつらしいな、とつくづく思う。 色々な言葉が思い浮かんできたが、なぜか俺は突拍子もないものを選び取ってしまった。 「俺、思うんだけどさ。曜日によって感じるイメージはそれぞれ異なるような気がするんだよ」 ハルヒが「はぁ?」という反応をしている。 まぁ、そりゃそうだろ。この場面でこんな言葉を投げかける奴は宇宙探しても俺ぐらいだろう。 「色でいうと月曜は黄色。火曜は赤で水曜が青で木曜は緑、金曜は茶色、日曜は白、だな」 ハルヒは変な顔を少しゆるませて、「ってことは、月曜が0で日曜が6になるわよね。」と返答する。 懐かしい会話が、立場を入れ替えて喋る形になったが、 俺はこの部分をあえて自分で言った。 「俺は月曜が1って感じがするけどな」 ハルヒはきょとんとした顔で、 「そりゃあんたが日曜になにもしてなくて、学校が始まる月曜が週の始まりのように感じたからでしょ」と答えた。 この場違いな問答で、俺は何かが分かったような気がした。 もちろん、そこまで深い意味を持って投げかけた質問なわけでもない。 「あんたの意見なんか誰も聞いてない、じゃないのな。」 ここら辺は俺の記憶力を素直に褒めるべきだな。 普通は4年前の会話を一字一句覚えているなんて、ありえないことだろうが。 その後のハルヒの一言が、後ほどかなり大きな意味を持つことになってしまったからな。 前後の会話はなんとなく覚えていたよ。ここまで鮮明だとは思ってなかったが。 「え、あたしそんなこと言ったっけ?」 ハルヒが首を傾げながら俺の問いかけに答えた。 ひとつ考察してみると、過去の記憶を探るうえで、局地的な言葉の存在を忘れることは 誰にでも多々あることで、それほど珍しいものでもない。 だが、俺にはハルヒがなぜ、その言葉を忘れてしまったのかがなんとなく分かっていた。 出会い、SOS団を作り、多くの出来事を越え、歳月が経った俺たちの関係。 そこには見えない信頼関係が出来上がっているように思える。 今のハルヒは、俺の意見を無視することはあっても全否定することはなくなった。 初対面と3年の付き合いでは、そりゃ内面の意識も変わるだろう。それは信頼関係とみて間違いない。 でも、ひとつひっかかることがある。それがさっきそろえた「涼宮ハルヒ」という鍵だ。 信頼関係というなら、俺と古泉の間にもあるようにハルヒと朝比奈さんの間にもある。 つまり、部員全員が信頼関係で繋がっているはずだ。それが、SOS団だろう。 じゃあ、俺とハルヒとの間には信頼関係をある意味で越えている何かがあるのだろうか。 そうでないと、ここまで鍵をそろえた理由が説明できない。 そして、何よりも謎になるのはこのカードを財布に入れていた俺である。 今思えば、俺はなんでこのカードを財布に入れているんだろうか。 まずそこが矛盾点になる。 ハルヒの顔が不意にうつむいた。 そして、おもむろにこう呟く。 「あんたも回りくどい奴よね。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」 強気に聞こえたその言葉は、どこか恥じらいの成分を含んでいた。 回りくどい、か。脳内の俺を説明するならこれほど端的な言葉もねーな。実に分かりやすい。 ・・・ どうして、もっとはやく気づかなかったんだろうな。 回りくどく考える必要なんてこれっぽっちもないじゃないか。 俺は、ハルヒと2人になった閉鎖空間のときと同じように、手をハルヒの肩に乗せ、ぐっと引き寄せた。 「な・・・なによっ」 ハルヒの顔が、凄く近くにある。 あの時よりももっと近く、遠めに見たら抱き合っているようにしか見えない距離にまで引き寄せた。 今までハルヒと過ごしてきた日常の中で、顔が今くらい近くに来たことは、何回かある。 ただ、今までと違うのは、体も凄く近くにあるということ。 いつぞやハルヒが言った「黙って溜め込むのは精神に悪いわよ」という言葉。 それを倣うように、左脳をフル回転させて思考した考えを忘れ、 ハルヒの言った「はっきり」の一言で浮かんだ思いをヘタクソな言葉に乗せて、俺は言った。 「ハルヒ」 「どうやら俺はお前の事が好きみたいだ」 ・・・ 結局少し回りくどい言い方になってしまった。 どうして俺はこうなんだろうな。まぁ、そこは個性として考えてくれればありがたいよ。 「・・・バカ」 俺の腕の中で、ハルヒはそう呟いた。 「すまん」 これ以上先、言葉は必要なかった。 あの時感じたときと同じように、ハルヒの唇は温かくも湿りをもっている。 ________________________ | |本命、かも。 |________________________ 回りくどくなく、やたらストレートだったこの言葉。最後にやや照れ隠しのように記された団長のキメ台詞。 そういえば渡される前の日にハルヒが国語辞典を読み漁ってたな。こいつに穏やかってのは変だが。 ともかく、こうして俺はここでハルヒを立ちながら抱きしめ、唇を重ねている。 時が止まって欲しいとも感じたさ。体中に幸せを感じていたからな。 そんな状況下で、全く予期せぬ事態が発生した。 ガチャッ! 扉が勢いよく開いた。 こういう間の悪い奴を俺は一人知っている。 そのT君はアホなので変な方向に勘違いしてくれて助かったが、この状況はそうともいかない。 ドアノブをまわす音から扉が開くまで幾分かの間があったので、ハルヒから体を離すには充分だった。 離れるハルヒの顔が、どこか名残惜しそうな、そんな雰囲気を醸し出している。 それにしても、誰だ。いきなり。 だいたい今は授業中だろ。文芸部は今でも実は地下で突拍子もない活動をしてるのか? 授業が終わるまでも、あと30分くらいは時間があるはずだ。 すると、 パァン!という小さな火薬音と共に、これまた見覚えのある顔の奴が出てきた。 今のはおそらくクラッカーだろう。 「おやおや、ちょっと入室するにはタイミングが早すぎましたかね?」 古泉だった。 すると、ガタリ、という音と共に掃除ロッカーから長門が出てきた。 こりゃまずい、古泉はともかく長門は顛末全部分かってるんじゃないだろうか・・・ 古泉の後ろからは、なぜかメイド服を着ている、(大)と(小)の間くらいに成長した朝比奈さんが出てきた。 朝比奈さんの位置づけはとりあえず(中)ってことにしておこう。 「これはいいアダムとイヴですねぇ」 古泉がいつものニヤケ面を100倍増長させたような顔で皮肉を言うと、 「涼宮さんにもこんなところがあったんですねぇ!キョンくんを部室に呼び出すなんてぇ」」 「んなっ!ち、ちょっとみくるちゃん、違うって!これは、あの、その!偶然よ偶然!」 朝比奈さん(中)がほほえみながらハルヒをちょんっと小突いた。 意外な光景だった。 というか、朝比奈さんはわざわざ未来からやってきたのだろうか。 それにしても、ハルヒにちょっかい出すなんて、朝比奈さんは色々と成長していくんだな、と感心した。 体の方も順調に朝比奈さん(大)に向かって邁進しておられるご様子。 「・・・これはドッキリだったのか?」 そうつぶやくしかなかった。そりゃそうだろ。 「いえ、僕たちは特に打ち合わせなんてしていませんよ。」 と古泉が答えた。 じゃあなんだっていうんだ、その準備のいいクラッカーといい朝比奈さんの姿といい。 「よく分かりません。ただ、なんとなくです。クラッカーを用意させていただいたのも、 ただの僕の気まぐれです。なんとなく、皆さんと会える気がする。ただ、そう考えて北高を訪ねただけです」 少し動機は違うものの、古泉がここを訪れた理由はなんとなく俺と似ている。 懐かしい気持ちもあったが、少しだけこいつらに会える気がしていた。 よくもまぁ、とんでもないタイミングで出てきやがったがな。 でもこの理屈じゃ朝比奈さんとお前はともかく、長門の説明が付かないだろ。 掃除ロッカーに入ってるとか、こうなることを知ってないと無理だ。 「長門さんは何かが起こる気はしていたようですよ。もしかして、お二人を驚かせたかったのでは?」 そんなはずがあるかい。 と思いながらも、無表情とは少し違った、どこか笑いの成分をわずかに含んでいる顔つきをしている長門を見た。 長門はピクリとも動かずに、一言 「子供が丈夫に育つ事を願う」 ・・・ こいつ、なかなか痛いツボを突いてきやがる・・・ ハルヒはまだ朝比奈さんとじゃれあってる。いい景色だ。 それはいいとして、この恥ずかしい状況を少しでも逸らすために、この偶然性への疑問を問いかけた。 「・・・古泉。ハルヒはたしかにお前ら全員を集めるつもりでいた。これは間違いない。 ってことは、いつもの通りハルヒがそう望んだからお前らと、そして俺がここに来たという理屈も通る。 だが、あいつはバレンタインデーの時のこともあったが、こういう恥ずかしい結末になるのを 一番嫌がるような回りくどい奴だぞ(俺が言えることではないが)。 だとしたら、この状況はなんなんだ?起こりえないことが起こっているんじゃないのか?」 俺の長い長い問いかけに対し、古泉は意味をすぐに理解したのか、こう返してきた。 「涼宮さんが完全な神ではないから、と説明することも可能でしょうが、私は違うと思いますね。」 じゃあなんなんだよ。いい加減頭が混乱してきた。 「簡単なことです。涼宮さんが望み、あなたが望み、僕が、そして朝比奈さん、長門さんが望んだから。 これで説明がつきますよ。望む、の捉え方を少し変えて考えてみてください。」 俺が望み、他のみんなが望んだこと。 ああ、そういうことなのか。 文芸部の部室。かつてここはSOS団の拠点であり、根城であり、我が家だった。 団員は、すでに全員がこの北高を卒業している。 SOS団は団長の「永久に不滅」の言葉どおり、解散はしていない。残り続けている。 いつもの喫茶店がいつもの喫茶店であるように、この部室もまた、姿かたちは変わっても、SOS団の「家」だ。 俺たちとって文芸部部室は、もう駅のホームのようにただ通り過ぎるだけの場所ではなくなっていた。 みんなで過ごした日々を、決して忘れたくない。 環境は変わっても、その思いがあるからこそ、この部室に来る意味がある。 SOS団の創立記念日。この日だからこそ、みんな特別な思いを抱いているはずだ。 ハルヒが現実にしたわけじゃない。それぞれ思っている思いが合致したからこそ、 こうしてSOS団の面々はここにいる。もう一度、部室でみんなと一緒にいたい。それが「望み」なんだろう。 この不思議な団結力が、信頼関係ってやつなのかな。 それにしても、思わぬ展開になってしまったけど。 「なぁーんだ!電話する手間がはぶけたじゃない!みんな来るなんて!」 ハルヒは何事もなかったように、元気な声で団員を見回した。 「ちょうどいいわ、こんな機会もうないでしょうしね。やーっぱSOS団の活動拠点はここじゃないと!」 そういってハルヒは部室の隅にあった勉強机を自分のホームポジションに移動し、 その机の上であぐらをかいて、「第何回か忘れちゃったけど、定例会議の開始よ開始!」と笑顔で言った。 現在の時刻は3時50分。あと30分もすれば、正規の部員が部室に戻ってくるだろう。 不法侵入で通報されないためにも、30分でここから立ち去らないといけない。 メイド服の朝比奈さんは、どこからともなく水筒と湯飲みを取り出し、団員についで回った。 長門は教室の隅でハードカバーの本を読んでいる。ページをめくる音以外たてずに。 古泉はこちらを向いてニコニコしながらも、ときどきハルヒの意見に相槌を打っている。 30分。わずかな時間であっても、SOS団の活動に支障はない。 団長の名言「時間より中身」、ってな。 この状況を作り出した巡りあわせ、というより団員の不思議な団結力。 俺は心から誇りに思うよ。 SOS団は、最高だってな。 おわり えぴろーぐ 楽しい時間は、あっという間に過ぎた。 チャイムの音が聞こえると、団長の声のもと一斉に俺たちは学校を出た。 ・・・誰かに泥棒と間違われていないことを切に願う。 当初の予定通り、市内探索を行うことになった。 久しぶりだな、この感覚。1人で出歩くことはあるが、団員みんなで回るのはやっぱり楽しい。 そういえば、学校前の坂を全員で下ったことはあんまりなかったな。 「さぁて、ひっさしぶりの探索だから、相手も油断しているでしょうね!チャンスだわ!」 ハルヒは先頭をいつもの大股歩きで邁進している。元気な奴だ、全く。 さらに「本日の予定を説明するわよぉ!」 と高々に声を張りあげ、気の遠くなるようなハードスケジュールを宣言した。 おいおい、喫茶店や図書館、公園はともかく阪中の家って完全に逆方向じゃねーか。 「大丈夫よ!もう阪中さんには連絡しておいて、快い返事をもらったわっ♪」 いや、そういうことじゃなくてな・・・。まぁいいか、ルソーは元気にしてるんだろうかな。 ハルヒの言う場所の1箇所1箇所がそれぞれ思い出の1ページのようで、思わず顔が緩む。 全ての箇所を回り終えたころ、すでに時計の針は9時を過ぎていた。 まだ4月も上旬ということもあってか、夜になると横風が冷たい。 もうちょっと着込んでこればよかったかな、とも思うが、そもそも家を出る時にはこんなことは想定してなかったな。 「今日は楽しかったわねー!やっぱSOS団はこうでなくちゃ!」 ハルヒの顔が今日一番の満面の笑みになっている。ああ、俺も楽しかったさ。 で、いつまでその白ひげを付けてるつもりだ? 「んなっ、ちょっとぉ・・・!あんたもっと早く教えなさいよねっ!」 そういってハルヒは恥ずかしそうな顔をしながら、 口元についているシュークリームの残りカスをぺろんと舐めた。 駅に着いた俺たちは、名残惜しい感情を隠しきれないような顔でそれぞれ別れを告げた。 朝比奈さんは大きく手を振りながら改札の向こうへ、古泉はニコニコしながら駐輪所へ、 長門はそのまま自宅の方角へとテクテク歩いていき、ハルヒは「じゃあねー♪」と言ってみんなを見回す。 「んじゃあな。」と俺は軽く手をあげ、振り返って歩き出した。 5分くらい歩いただろうか。路地を抜けて公園の前を通りかかったとき、 後ろから誰かが俺の服をつまんでいるのが分かった。 そこにいたのは、 さっき駅前で別れを告げたばかりの、 ハルヒだった。 部室の時のように、顔を赤らめながら俺を見上げたハルヒは、消え入るような声で、 「・・・財布、まだ交換してないでしょ。」とつぶやいた。 ああ、そういえばそうだったな。あの時はいきなり古泉たちが現れて・・・ 「それに・・・ま、まだ・・・答えてないでしょ、あ、あんたの・・・こ、こっ、こく・・・」 とりあえず、道の真ん中でそんな話するのもなんだから、どっか座ろうぜ。 そう言った俺はハルヒの手を引き、公園にある大きなベンチに座った。 ハルヒは俺の手を握ったまま、顔を逸らして言葉を続けた。 「まったく・・・あ、あんたもいきなりすぎるのよっ・・・。その・・・心の準備ってものがね・・・」 3年間、俺は心の準備を常にお前によって無視され続けたけどな。 「そ、それとはまた話が別よ・・・!その、あの・・・。」 吹く風にかき消されるような、ハルヒらしからぬ小さく弱い声。 ハルヒの萌え部位がポニーテール以外にもあったということを、もっと早く知りたかったぜ。 谷口の話では、中学生時代、こいつはされる告白をすべて承諾していたらしい。 2週間とか直後に「普通の人間の相手をしている暇はないの」と言ってフッていたみたいだが、 どんなにつまらない奴の告白も受け入れていた。 おそらく、そのときもハルヒらしくサバサバと受け入れていたのだろう。 ところが今はどうだろう。 中学時代のハルヒがいちいちこんな風に恥ずかしそうにしていたとはまったく考えられない。 俺は超能力者でも未来人でも宇宙人でもないから、 ハルヒの頭の中をインチキして覗くことはできない。できたとしても覗こうとは思わないけどな。 でも、ひとつ分かることは、 ハルヒが俺のことを特別な存在だと考えてくれているということ。 それが何よりも、 嬉しかった。 「もう・・・、ひ、ひとの言おうとしていた台詞を先に言うんじゃないわよ・・・」 ハルヒはそう言って、俺に寄り添ってきた。 「あ、あたしのほうが、あ、あの、あんたのことを・・・・」 それ以上は言葉が出なかったみたいなので、俺はちょっとからかってみたくなり、 「団長が団員の心配をするのは当然だよな」と冷静にツッコミを入れた。 「う・・・ち、ちが・・・。そういうことじゃなくて、その、団員とかじゃなくて、あたしは・・・」 これ以上はちょっとハルヒが恥ずかしすぎるみたいで可哀想なので、 そのままぎゅうっと抱き寄せてやった。 「あ、あたしはさっきみたいな中途半端なのは嫌いなんだから・・・ちゃ、ちゃんと心を込めなさいよ」 お前もな。 部室のときよりも、柔らかく。 俺たちは唇を重ねた。 「だ、団長と下っ端のヒラ団員だけで行う特別定例会議は・・・か、必ず週3回以上行うわよ!」 「都合が悪くて週2回しか無理だったらどうするんだ」 「んなことがあったら罰ゲームよ罰ゲームぅ♪団長の命令は絶対なんだからねっ!」 そんなことを話しながら、俺たちは寄り添って夜空を見上げた。 罰ゲームか。 どんな罰を受けることになるんだろうな。 できることなら、一度も罰ゲームを受けないで済むようであってほしい。 谷口よ。 お先に失礼させてもらうぜ、悪いがな。 お前のお得意の女子ランクの判断基準がどういうものなのかは知らん。 でもな、 俺はどんなランクよりも上に来るような、 自慢の子を見つけたぜ。 ハルヒを家まで送り届け、特上の笑顔を堪能したあと、俺は自宅へと向かった。 今ほど幸せな気分であったことは、人生においておそらくなかっただろう。 家に帰る道の途中、長門のマンションの横を通りがかった。 長門、卒業してからなにしてたんだろうな、と気にはなったが、 なにせ今は頭の中がハルヒでいっぱいなので、深く追求するのはやめた。 すると、マンションの入り口に誰かが立っているのが見えた。 遠目には誰だかほとんどわからなかったが、マンションの光で周囲が照らされている位置まで来て、 そこにいる人物が他でもない長門であると分かった。 「お前、なんでまた外に出てるんだ?誰かを待っていたのか?」 「私が待っていたのはあなた」 意外な言葉が返ってきた。 なんだ、せっかくいい気分だというのに、また情報思念統合体だか何だかの騒動に巻き込まれるのか? 「これ」 長門はそう言ってひとつの封筒を俺に渡した。 「家に帰ったらあけてみて」 そう言って長門は、自室へと帰っていった。 _________________________________ | | 無視できない重要な問題が発生した。 | あなたは明日の午後1時13分に、隣町の駅前から南南西徒歩10分の | 距離にある建物の裏口から中に入って、 | その建物の1階にあるコインロッカーを開けなければならない。 | | 涼宮ハルヒを必ず連れて行くこと。ただし、涼宮ハルヒに詳細を伝えてはいけない | |_________________________________ ・・・・・・・・・ ・・・マジかよ、長門。今度は何が起こるんだ? 今までもいろいろなことに巻き込まれてきたが、少なくともこの1年間は平穏だった。 久しぶりにゴタゴタ巻き込まれることになりそうだぜ。 ただ、なんだろう。 このワクワクする気持ちは。 ともかく、長門がそういうなら従うしかない。 それにしてもハルヒを連れて行かなければいけないって、珍しいケースだな。 部屋に戻り電気を消して布団に入った俺は、色々と忙しかった一日を振り返りながら、 枕の下にかつてハルヒとツーショットで撮った写真をおいて、眠りについた。 翌朝。 まずはハルヒを呼び出さないといけない。詳細は隠さないといけないそうだから、そうだな・・・ 名目上は・・・特別定例会議、か。 「もしもし、どしたのキョン?え、今日会いたいって・・・?え、うん・・・別にいいけど・・・わかった、12時半に駅前ね。」 これから何が起こるかはまったく予測がつかない。 ただ、ハルヒと一緒ならなんとかなりそうな気がする。 「おっまーたせっ♪ってあれ、あんたが先に来るなんて珍しいじゃないの」 まぁな。朝から落ち着かなかったから集合時間の30分前にはここに来ていた。 さて、団長さん。一番最後に来た者は罰金、だな。昼飯代が浮いたぜ。 「んなっ、ちょ、キョンズルいわよあんた!まぁ・・・別にいいけど、今日・・・お弁当作ってきたから」 なんという桃色の図式なんだろうかこれは。 ハルヒの料理の腕前がたしかなのはクリスマスパーティの頃から周知の事実なので、これは期待できる。 ありがとな。 「お、お礼なんて別にいらないわよ!それよりも、一体どこに行くつもりなの?」 どこへ、か。詳しくは俺もわからないんだけどな。 とりあえず長門の指示通りに動くしかない。 「はぁ?詳しくわからないってなんなのよそれ。まぁ、たまにはあんたの行きたいところへ行ってもいいけどね」 なんとかハルヒに詳細を話さないように説明し、俺たちは隣町行きの電車に乗った。 「隣町って特に目立つような店も遊ぶようなとこもないわよねぇ、どこかあったかしら」 そんなこと言われても俺も詳しくは知らないし、 そもそも隣町には滅多に行くことなんてないから地理も分からん。 「・・・どうしよっかな、「あーん」ってのはベタよねぇ。うーん、キョンが・・喜ぶような」 ぼそぼそと小さい声でハルヒが何かつぶやいていたようなので、 「ん、なんか言ったか?」と聞いてみたが、 「んな、な、なんでもないわよ、なんでも!」とお茶を濁される。 気になる。これは気になる。 そんな会話をしているうちに、電車は隣町の駅へと到着した。 さて、ここからが本番だ。 時間は現在ちょうど1時。あまりのんびりしているヒマはない。 南南西の方角、詳しい指定はされていないのでまっすぐ、とにかく直進すればいいのだろう。 長門、これからなにが起こるのかはわからないが、 できれば頭を使わなくて済むようにしてくれよ。 レポート仕上げの疲れで頭の方はあまり調子がよくないからな。 ハルヒから特に要求されたわけではないが、 俺たちはお互い手をぎゅっと握り締めながら、指定地点へ向かって歩いた。 1時13分。 おそらく、ここだろう。駅から歩いてきた方角にある建物で、 裏口がこちらを向いてるのはこの大きな教会のような外観の白い建物だけだ。 中に入ってみる。綺麗な内装だな、どこか神秘的な感じさえする。 これはなんの建物なんだろうか。 なぜか、ハルヒは中に入ってからやたらとそわそわしている。 「ちょ・・・ここって・・・ね、ねぇ、キョン、わ、わたしたちにはまだ早いってば・・・///」 ハルヒは突然顔を赤らめた。 ここはどこなんだ? 「バ、バカ・・・。こんなところに連れてくるんだったら、さ、最初からそういいなさいよぉ・・・」 ハルヒはやたらと恥ずかしそうにしているが、とりあえず一刻の猶予もない。 俺はハルヒの手を引いて、コインロッカーがあるというところへ向かって駆け出した。 長門から渡された封筒には同封物として、ここのコインロッカーに対応していると思われる鍵が入っていた。 コインロッカーを発見した俺は、封筒から鍵を取りだし、番号を照らし合わせる。 69番か・・・えーっと、69、69はっと・・・ あった。 コインロッカーというにはあまりに大きなサイズのロッカー。 大きな駅に置いてある、人間1人がなんとか入れるくらいの大きさのロッカー。 って、まさかここから人かそれに順ずる何かが出てくるってことはないよな。 というか、勘弁してくれ、そういうのは。 俺はおそるおそる、ロッカーの鍵を開け、扉を引いた。 とんでもないものが飛び出してくるとか、 異世界への扉が開くとか、何年か前へ遡行するとか、そんな予想をしていた。 中に入っていたのは、また封筒だった。 この中に過去と未来を繋ぐデバイスでも入ってんのか? それとも、また別の場所に行って何かをしろという指令書でも入ってんのか? なにが出てきても驚かない覚悟をもって開いた封筒の中には、 さらに小さな封筒が2つ入っていた。 そのうちひとつには、 「祝電 長門有希」 と書かれている。 封を開けて字面を読んでみると、短く1行でこんな言葉が書いてあった。 「子供が丈夫に育つ事を願う」 ・・・・・っておい。 ・・・そういうことかい。 「・・・なぁハルヒ、ここなんていう場所だか分かるか?」 俺はやれやれとした顔でため息混じりにハルヒに問いかける。 「え・・・あ、あんたが連れてきておいて・・・な、なに言ってんのよ・・・け、結婚式場でしょ・・・」 これは皮肉交じりなんだろうか、それとも、マジで祝福してるんだろうか・・・ 掃除ロッカーの中で顛末を聞いていたとはいえ、的確な皮肉と言うかなんというか。 これは長門の意思なんだろうか。あえてこんなドッキリ作戦で皮肉を言おうと思ったんだろうか。 それにしても、長門。 お前はなかなか痛いところをついてくるな・・・。 終わり
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「あたしがいついなくなってもいいように、歌を作ってあげたいんだ。」 . _... --…-- .._ _..イ´ >..._ / > ´ ̄_二ヽ < ̄ト、 ,.' / _.ィ´ ヽニ,、\. / / / | ヘ ヘ、 ヽ.フ ヽ / / ! ,.' | ヘ '.べ. ̄ ヘ、 ヽ ,r'´ ! | / ! ! ト、 !∨| ヽ ',∨ ヘ. / .斗 !' | | l . | |l. | | ,.ィミマ ト.V ヘ. ′ / ィ! '; | | .斗 ─‐- l リ ,!ノん.ヘ lハ | ',∨ . | 〈 ハ ハ ,イ | V / マ_ハ. lハ ∧ 〈 |ヽ } | ヽ__! | ,〈.N\;Lム / ヾ-' , / ! ! | l !. ! | 〉‐ハ | ,ィ,xr,えヘ` 、 /'. Lノ ! !| '; | lイ j. |V ∧{〈从._))ヘ _. ヘ l l;′リ _,.、 '; l / l / ! V ヘ` ヾ.厶' r ´ `'. ,' | l. ,' ̄,. ,.ィ } l. Y ; iヘ \ ヽ. } ./ ! !,′.ノ '⌒',_. / . / / ヽ.\ \ ` ´ / ; /| ||  ̄ _)、. ,′ Y\/ \ \ー-------' ∧ / ! ハ  ̄ , j | / | \ `丶、 \> `二ゝ-' .._';! !/ ∨ {' | / | \ >ヘ、/ ヽ ' ∨-- . ! | ハ | | i ',`¨¨¨´ ,.' ∧ r'´ `⌒ヽ. 、| ∨ | | ハ } ノ ∧ r’ ヽ ヽ ト、 ∨ / リ ,ノ ハ '、 _ 'i、. jノ ノヽ∨ / _ノ ,′} r'`´ `ヽ-、 ) ( ヽ! / └、ヽ、| ゝ、 i ト、 __,、_,.- '´ ノ、 〉 '; ,! | ヽ\′ l.ノ 【チーム】 SOS団 【名前】 涼宮ハルヒ 【読み方】 すずみやはるひ 【種族】 人間 【15年後】 ひょっこり再来 【初登場】 6thday(回想) 【AA出典】 涼宮ハルヒの憂鬱 【人物】 半年前の雨の降る寒い日に行方不明となった元SOS団のボーカル。 翔門会に伊藤誠の客人として招待された後、突然消えてしまった。 彼女の歌には悪魔を呼ぶ力があり、悪魔召喚プログラムの根底に関わっている。 物語は完結したが、結局彼女は行方不明のままであった。 だが15年後の世界を描いた外伝で、生存していることが判明。現在はキョンと結婚し、SOS団へも復帰して人間界と魔界、二つの世界で音楽活動を続けている。 どうやら魔界へ消えた後音楽活動をしていたらしく、バアルとなり魔界へ向かった翠星石が発見したらしい。 特殊な覚醒者であるため『共生者』はいない。 SOS団は大ヒットを飛ばすが、「父親のいない子供」を身ごもったらしくその子供はキョンが育てている。
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今までにも、谷口にはいろいろとおかしな事を言われていた。 「お前には涼宮がいるんだろ?」とかな。 しかし・・・・ハルヒが俺のことをなんてよく言ったものだ。 有り得ん。地球が逆回転を始めようが、天地が逆転したところで有り得ない話だ。 俺は単なる団員その一にすぎない・・・いや、「その他雑用係」のような扱いすら受けているのだ。 ハルヒが俺のことを好いてるんだとしたら、もう少し優しくしてくれてもいいじゃないか。 せっかくの休日だというのに野球大会に参加させられたり、孤島までひっぱりだされたり、 荷物持ちさせられたり奢らされたり、冬の雨の日に駅二つはなれた電気街までおつかいさせられたりしたんだ。 こんなことさせるか? 普通。いや、あいつに普通とか日常やらを求めること自体愚かだということは理解しているが。 「有り得ないと思うぞ、谷口」 という俺の反論を谷口は否定する。 「いやぁ、何も無いって方がおかしいだろう? キョンよぉ」 おかしくも何ともない。普通の毎日だと思うぞ、俺は。 「毎日朝にイチャイチャしながらおしゃべりして、」 イチャイチャは余計だ、イチャイチャは。 「二人とも放課後は必ずと言っていいほど部室に向かう」 サボったらあいつが怒るだろうからな。仕方あるまい。 「あいつが『寂しがるから』じゃねぇのか?」 ・・・・だめだ。付き合いきれん。 ハルヒを一般的女子高校生と同じ視点で捉えてはいけないんだよ。 お前の常識が、あいつに通じるはずは無いんだ。 「アホなこと言うなよ。じゃあな」 弁当箱をナプキンに包み、カバンに放り込む。 「おい、キョン!!どこ行くんだよ」 ・・・放っておいてはくれないのだろうかね。適当に返答しておこう。 「腹ごなしの散歩だ」 まぁ散歩というのは半分嘘である。行き先は一応決まっているのだ。 SOS団アジトもとい・・・文芸部室に向かうことにする。 昼休みを静かに過ごすにはちょうどいい場所だ。 おそらく部屋の中には長門しかいないはずだ。 しかし、万が一のこともあるので(特に朝比奈さん関係)一応ノックしておこう。 コンコン・・・と軽く音をだし、ドアノブに手をかけようとしたとき。 聞いたことがあるような、しかしそう何度も耳にしたものではない・・そんな声が俺を招いた。 「どーぞー」 この声は、長門のものではない。いや、そもそも長門はこんな発言をしない。 ハルヒの声でもない。あいつにしては高い声だ。 朝比奈さんか? いや、朝比奈さんのものとも違うようだ。 女子の声なので古泉説は即却下である。いつかのように声マネでもしていたら殴ってやろうか。 ・・・・そんな思考を頭の中でぐるぐるさせつつドアを開ける。 するとそこには、パイプ椅子に座る、今朝あったばかりの人物の姿があった。 「あ、キョンさん。こんにちわ」 渡が、すぐ目の前にあるパイプ椅子に本を手にして腰掛けていた。 その本は、長門がつい最近まで読んでいたもの。 哲学系やミステリ系の物ばかりよんでいたあいつが最近良く手を出す種類の本。 恋愛小説だ。ケータイ小説を本にしたものらしい。 「長門に借りたのか?」 分かりきってはいるのだが、一応聞く。 あいつが他人に本を貸すところを見たことはあまりないからだ。 「はい。何かおすすめの本とかありますか?って聞いたらこれって」 長門のおすすめがこれ・・・ねぇ。意外としかいいようが無いな。 と呟いたら、渡に怒られた。頬を膨らませて、 「失礼ですよ。長門さんだって年頃の女の子です」 本当は宇宙人製のアンドロイドなんだがな・・とは言えるわけがない。 ここは素直に同意しておこう。 「あぁ、そうだな。ただ、長門がこういうのを読み始めたのはつい最近だからさ」 俺は単に、哲学物を読むのには飽きたのだろうとしか思っていなかったのだ。 好んで読んでいるとはな。やはり、ユニークなのだろうか。 ・・・それより、何でお前が部室にいるんだ? 「校内を探検してたんですよ。その途中で来たんです」 校内回りを探検と称するのは小学生とかせいぜい中学生ぐらいだと思うが。 まぁ、さして気にしないほうがいいのだろうな。 とりあえず、俺も椅子に座ろう。 そう思い歩きだそうとした瞬間・・・さっき開けたばかりのドアが開かれた。 思い切り開け放たれたそのドアは、目の前にいた俺の背中を直撃し突き飛ばした。 不意打ちを受けた俺は前のめりになって倒れこむ。 それだけならよかった。痛いだけで済む話だ、だが。 現実は違った。 「きゃっ!!」「うぉっ!!」 ・・・目の前にいた渡を押し倒すような感じ(実際そうだが)になってしまった。 床で仰向けになって倒れている渡の上に、俺が覆いかぶさっている。 四肢で体を支えているので、密着しているわけではないが・・・。 顔が近い。気色悪いときの古泉と同じくらいに。 急な状況に驚き、思わず息が止まっていた・・・しかし、ずっと息を止めてるわけにはいかない。 吐息がもれる。互いの息遣いが聞こえる。 妙に荒い自分の呼吸に気がつき、俺は飛び上がるようにして起きた。 ドアを開けた人物に文句を言ってやろうと振り返って、 「何するんだこの野郎!!」 と威勢良く発言したのはいいが、そこにいた人物を見てすぐに後悔した。 その人物は・・・眉間にしわを寄せ、拳をつくった手をわなわなと震わせていた。 「この・・・エロキョン!!!!!!!」 涼宮ハルヒがそこにいた。 ハルヒは俺をエロ呼ばわりしながら襟首をつかみ、ゆさゆさと揺らし始めやがった。 「このエロキョンが!!何で後輩を襲ってんの!?そんなのあんたには100万年早いのよ!!」 苦しい・・・苦しいから離せ、ハルヒ。そろそろ三途の川が見えて来ちまうぞ・・・・。 「何言ってるの。あんたが悪いんでしょ?神聖なる我がSOS団の部室でこんなことして!!」 「こんなことになったのはお前がドアをいきなり開けるからだろうが・・・」 俺の言うことは正しい。真実だ。神に誓おう。 なぁ、お前からも言ってくれよ渡・・・・と言いかけたところで気づいた。 渡が放心状態になっていることを。 仰向けのまま、ボーっと天井を眺めている。 非常事態というやつに、俺ほど慣れては居ないのだろう。 「そんなの関係ないわよ」 いや、あるだろ。 「この子をこんな状態にさせるほど・・・あんたは・・・あんたは・・・」 まて、ハルヒ。話せば分かる、なぁ。話そう、一時間くらい。な? 「そういうこと・・・したいわけ?」 ・・・・は? 「そういうこと・・・したいんでしょ」 「い、いや、そういうわけじゃ・・・」 曖昧な口調で話す俺。 そんな俺に、ハルヒは爆撃をしかけた。 正直、世界中どこをさがしてもこの破壊力をもつ物は見つからないだろう。 それだけ衝撃的で、しかも唐突だった。 「そういうことしたいんだったら・・・・」 正気の沙汰とは思えない、こんな言葉を。 あいつは、俺に投げかけた。 ・・・・というか投げつけた。 「・・・あ、あたしにしなさい!!!!!」 全世界が、停止したかのように思われた。
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イライラする。 いつからだろう?あいつの態度が気に入らなくなったのは…… イライラする。あいつとなら退屈な毎日から抜け出せると思ったのに…… 「おはよう」 「いってきます」 「ただいま」 「おやすみ」 何の変哲も面白未もない返事を、これまた何の変哲も面白未もない顔で言うだけの夫‐キョン‐北校を卒業したあと私たちは同じ大学に進学して結婚をした。いわゆる「学生結婚」ってやつ。 他のみんなはどうしたって?知らないわ、みくるちゃんと有希は私たちが結婚したあと音信不通。古泉くんはつい最近死んだばっかり。 死因は事故。遺体の原型を留めないほどの事故だったらしいわ。つまりもうSOS団が勢揃いすることはないってこと。 高校時代の友達なんて薄情なものよね。あぁイライラする! これは古泉くんの通夜に行ってきた帰りのお話し… 「ハルヒ、昼飯作ってくれ」 家に着くなりキョンがふざけたことを言う。 「疲れてるのよ、あんたがやりなさいよ」 「………おう」 何よ今の間は、言いたいことがあるなら言えばいいじゃない!あんたいつもそう!付き合い始めてからずっと私の言うことには絶対に逆らわない。 例え私が浪費をしても子供達と勝手に旅行に行っても文句の一つも言わない。一時期は浮気してんのかなって思ったこともあるけどそれも無い。まるで張り合いの無い夫、それがキョンって男のすべてだ。 私のことが好きだから結婚したはずなのに、なんで私に無関心みたいな態度とるの? それとも子供ができるなんて思わなかった? 「なんとか言いなさいよ!」 炒飯を作っていたキョンが驚いた顔をしている。感情が高ぶってつい叫んでしまった、適当にフォローしなくちゃ……でも、一度火が付いたら止まらないのが私だ。 「なんであんたはいつも私の言いなりなのよ!」 「そんなのお前を愛してるからに決まってるだろ」 「嘘っ!私のことを愛してるならそんな冷たい目で私を見ないわ!あんたどんなときだって目が笑ってないのよ!」 私の言葉にキョンが「しまった」という顔をする。なによ……否定しなさいよバカ… 「あんたは私のことを愛してなんかいない!子供が出来ちゃったから結婚しただけ!」 「ち、違う、俺は…」 「あんた有希のことが好きだったんでしょ? 高校の時からあんたらおかしかったもんね、どこか心が通じてるみたいなとこあ」 パンッ 乾いた音が室内に響く、キョンの平手打ちが私のセリフを遮った。 キョンのくせに…キョンのくせに!! 「あ、あんたなんか死んじゃえ!」 言うだけ言って私は部屋にひきこもった。これ以上あいつと同じ空気を吸っていたくなかったから…… 客観的に見ればどう見ても悪いのは私だ。誰だって長年連れ添ってた伴侶にあんなこと言われれば怒るわ。 でも「死んじゃえ」って言った時キョンの顔、あんな顔初めてみた。氷で固めた能面のような顔。 あんな顔されるくらいなら冷め目で見られるほうが幾分かマシよ… 明日謝ろう……… ~翌日~ 「刃物に旦那さんの指紋が逆手に付いてるし、まず自殺と見て間違いないんでしょうが……刃物が貫通していますからね、一応他殺の線でも調べてみます」 「そうですか…」 警官の事務的な対応に気の抜けた返事しかできなかった。 キョンは自殺した。 朝、私が台所に行くと胸に包丁をふかぶかと刺したキョンがいたの。 キョンの死体を見た時私は、心臓を刺した割には出血量が少ないとか、これならお掃除が楽だなとか、そんなことを考えてたと思う。 「なんで自殺なんかしたのよ……」 私が「死んじゃえ」って言ったから?あんなのその場の勢いで言っちゃっただけよ。それくらいわかりなさいよバカ…… 確かにキョンが定年退職してからキョンが邪魔だったり邪険にしたりしたけど私が本当にそんなこと望むわけないでしょ? いつからだろう。キョンがあの冷たい、脅えた目で私を見るようになったのは。生理がこなくなった時?それとも結婚してから? それとも初デートで「あんたは黙ってあたしの言うことに従ってればいいのよ!」って言った時? いつなのキョン? 教えてよ……… もう一度声を聞かせてよ…… 私がバカなことしたらちゃんと叱ってよ… 帰ってきてよ……キョン… 終わり