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233 名前:闇の左手[] 投稿日:01/10/03(水) 21 29 北の国から@シーメール編 371 名前:闇の左手[] 投稿日:01/10/12(金) 19 06 冬のやおい SF要約選手権。 843 名前:闇の左手[] 投稿日:03/08/24(日) 18 20 男はつらいよ 第二回 SF要約選手権 202 名前:闇の左手[sage] 投稿日:04/08/28(土) 17 04 …解せん 476 名前:闇の左手[sage] 投稿日:2005/07/25(月) 05 50 26 寒くて死ぬかも 521 名前:闇の左手[] 投稿日:2006/03/02(木) 17 54 29 ブロークバックマウンテンの元ネタ 687 名前:闇の左手[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 17 47 04 おっさん、色気出すんじゃねえよ 704 名前:闇の左手[] 投稿日:2007/09/03(月) 22 56 37 やらないよ 【ネタバレ】名作を要約するスレ【上等】
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ありがとうございましたー コンビニで夕飯を買った後、私はまた寒い夜道を歩く。 まだそんなに遅い時間じゃないのにもうだいぶ暗い。 日が落ちるのもはやくなったんだなあ… ぶるるる… おっと唯先輩かな? ポケットから携帯を取り出すと、それを確認する。 そして交差点の信号が赤なのを見て立ち止まると電話に出る。 梓「もしもし?」 唯「あ、あずにゃん!さっきはごめんね、ご飯食べてたんだ~」 梓「やっぱりそうですか。いや、そうかなとは思ってたんですけどね。すみません」 唯「いいよいいよ~。ところでどうしたのかな、あずにゃん?」 梓「いや…」 そういえば電話を掛けた理由が見当たらない。 しいて言うなら… 唯「さみしかった?」 梓「なっ…そんなことないですっ」 唯「だってあずにゃん今外にいるんでしょ?車の音聞こえるよ?だからさみしかったのかなあって」 う…そこまで読んでくるとは…… 梓「そ、そうですよ!もう!」 唯「なーんだ、あずにゃんにも可愛いところあるんだね~。じゃあ明日会ってあげるよ。あずにゃんの家行くね」 なーんだってなんなんですか!? …と言おうとしてやめた。 その後の言葉が嬉しかったんだ。 梓「あ、はい!まってます」 唯「あずにゃん今素直だね~」 梓「ほっといてください!じゃあ切りますよ?失礼します」 唯「うん分かったよ。じゃあね~」 私は唯先輩が電話を切るのを確認すると携帯をポケットにしまい、また夜道を歩き出す。 梓「おっと…」 信号が点滅している、いそがないと。 私は小走りで横断歩道を渡る。 ーーーーーー ーーーー ーー ぼふっ 私は携帯を閉じるとベッドに寝転がる。 明日はあずにゃんとデートかあ。 こんなこと言ったらあずにゃんにまた怒られちゃうのかな? 今日はいろいろあったなあ… 楽しかったけど、疲れたや……… がちゃ 憂「お姉ちゃんお風呂沸いてる…よ…」 憂「…明日でもいっか」 憂「おやすみ、お姉ちゃん」 ぱたん 翌日 唯「あーずにゃんっ、来たよ~」 翌日、私はあずにゃんに会いに行った。 梓「あ、唯先輩。あがってください」 唯「ごめんね突然お邪魔して」 梓「いえいえ、こちらこそ昨日電話なんてしちゃってすいません」 唯「あずにゃんなら毎日でも掛けて欲しいけどなあ」 梓「そ、そんなこと…」 唯「えー、いーじゃんあずにゃんはケチだな~」 梓「分かりましたよ!時々掛けます、時々ね」 唯「…わかったよぅ」 梓「とりあえずあがってください、いつまでも玄関っていうのもなんなんで」 唯「あっ、ごめんごめん」 こうして私達の初デート?は始まった。 …とはいっても、やっぱりあずにゃんの家にいるだけじゃ何もない。 あ、あずにゃんの家に何もないって言ってるんじゃないよ?ほんよだよ? でもやっぱりなにかないとひまだなあ。 ふとあずにゃんの方を見る。 うつむいてなにか考えているように見える。 何を考えているんだろう? 私はそれを考えることにした。 ……あれ?布団… 何時の間にか私は寝ていたみたいだ。 梓「やっと起きましたか、おはようございます」 そうだ、あずにゃんの家に遊びに来たんだっけ。 なのに私は… 唯「ごめんね、あずにゃん」 梓「いいんですよ。それに…」 あずにゃんはどこかすっきりとした表情だ。 まるで悩み事がなくなったみたいに。 …ん? 忘れてた……結局あずにゃんは何を考えてたんだろう? 唯「それに…?」 梓「あ、いや何でもないです」 唯「なーんだ」 梓「ただ…」 なんだろう? 梓「あの、今年はクリスマス会やるのかなあって」 唯「なんだ~、もっと重要なことがあるんだと思ったよ~」 梓「いや、でも私…去年は私中学生でしたし話しか聞いてなくて…」 唯「あ、そっか~。今年ね…分からないけど、あるといいな~」 梓「ところでそれってあるとしたら24日なんですか?」 なにか聞かれたことのあるような質問だよ。 唯「うん、たぶんね」 梓「そうですか…あの…」 あずにゃんの顔が赤く見えるのは夕焼けのせいかな? 窓の外を見る。すこし暗いみたい。 梓「あの…その次の日ってあいてますか?」 思わぬお誘いだよ! あ…でも私その日は… そんなことを考えていた私は、変な返事をしてしまった。 唯「うん!もちろん!あ…でも…そn 梓「そ、そーですよね、すいません…無理なお誘いしちゃって」 唯「あ…うん…」 どうしよう… あずにゃんからのお誘いも嬉しいけど、憂は… 梓「ほら、外ももう暗いですし憂も心配してますよ」 唯「…」 外はもう真っ暗だった。 すぐ暗くなっちゃうんだな。 梓「じゃあ私唯先輩送りますよ」 唯「いいよいいよ、気にしないで」 梓「いえ、私が勝手に会いたいって思ってたから悪いんです…唯先輩はそれでわざわざ来てくださったんですから」 唯「そっか、ありがとあずにゃん。でも私も会いたいって思ってたよ?」 梓「そうですか、よかったです…」 それ以降私達の会話はないまま、私の家に着いてしまった。 唯「じゃあ…ばいばいあずにゃん」 梓「はい、失礼します」 あずにゃんの背中がいつもより小さく見える。 あずにゃんが角を曲がったのを確認すると、私はドアの方へ歩いて行った。 …ん?ちょっとまって。 あずにゃんが曲がったのって… 私は今来た道を引き返す。 唯「はあ…はあ…」 あずにゃんの家には誰もいないみたいだ。 やっぱりさっきはどこかに… 私のせいで…私の… 最後の望みだった公園にもいない。 走り回ってへとへとになった私はベンチに腰掛けた。 どこにもいない…どこいったんだろうあずにゃん… 憂に連絡したほうがいいかな? 梓「なにしてるんですか?こんなところで」 唯「…!あずにゃん…」 目の前にいたのはあずにゃんだった。 梓「ほら、風邪ひいちゃいますよ、立ってください」 唯「あずにゃん、どこ行ってたの?」 梓「私ですか?ここ数日間親がいないので買い物行ってました。今はその帰りです。毎日買うのも面倒ですし…。って言っても即席のものが多いんですけどね」 唯「あ…なんだ…よかった…」 梓「さあ帰りましょう。私もう一回送りますよ」 私達はもう一度さっきとおなじように歩き出す。 唯「あずにゃん、私片方もつよ」 梓「いいですよ、悪いです」 唯「遠慮しないであずにゃん、ほら」 梓「じゃあ…お願いします」 あずにゃんはそう言って左手の荷物を私に渡す。 私は右手でそれを貰うと左手で持つ。 空いた右手、そしてあずにゃんの左手。 突然あたたかい感触がした。 右を見るとこっちを見て微笑むあずにゃん。 私も微笑み返す。 ふと買い物袋の中を見る。 中にはまだ飲みかけのレモンティーが入っていた。 梓「あっ」 唯「どうしたの?あずにゃん」 梓「今流れ星が見えたんですよ」 唯「私もみたかったな~。あずにゃん何かお願いした?」 梓「いきなりすぎてそんなことできませんよ」 唯「そっか~、そうだよね」 私も空を見上げる。 月… 月が綺麗だね、あずにゃん。 そうだ。 唯「あずにゃんほらあそこみて!」 梓「どこですか?」 唯「違うよあずにゃん、あっちだよ」 梓「えー、何が見えるんですか?私には分かりません」 唯「そっか~…それは残念…」 梓「んっ…」 2人の影が重なる。 ……甘酸っぱい味がした。 …ごめんね、憂。 約束、守れそうにないや。 おしまい 戻る
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【TOP】【←prev】【Wii】【next→】 スゴロクロニクル タイトル スゴロクロニクル 右手に剣を左手にサイコロを 機種 Wii 型番 RVL-P-RDUJ ジャンル テーブルゲーム(ボードゲーム) 発売元 コンパイルハート 発売日 2008-11-20 価格 6090円(税込) タイトル スゴロクロニクル 右手に剣を左手にサイコロを バラエティーパック 機種 Wii 型番 SUGO-08001 ジャンル テーブルゲーム(ボードゲーム) 発売元 コンパイルハート 発売日 2008-11-20 価格 8190円(税込) 駿河屋で購入 Wii
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前ページ銀の左手 破壊の右手 最終話『銀の左手 破壊の右手』 「行くぜガンダールヴ、気合入れろー!」 「おう、任せとけデルフ!」 一度制御を失敗したとはとても思えないほど『破壊の杖』は手に馴染む。 デルフリンガーが補助していると言えどまるで手の延長の如く馴染むその感覚は、才人の決意を『破壊の杖』が汲んでいるからだ。 ARMは精神感応兵器、人の精神を喰らって力と為す武器である。 ただの少女でしかなかったアナスタシアが人間すべてを絶望させたロードブレイザーと互角に渡り合うことが出来たのは、偏にアガートラームやアークスマッシャーの持つその性質にある。 アナスタシアの力の源は人ならば誰もが持つその欲望、『みんなと一緒に生きたい』と言う他の英雄としての死を求めるような軽薄な人間では到底比肩しえない強大な欲望の心をアガートラームが力としたからだ。 ならば今の才人の心は? ガンダールヴの力によって増幅されたその感情が『破壊の杖』に作用したとしても不思議ではない。 「心を研ぎ澄ませろ! 空間に作用するその力ならあの破壊の光相手でも押し負けることはねぇ」 その感情は『守る』だった。 「あとは照準だ! あの右手だけを的確に打ち抜け、お前ならそれが出来る筈だ!」 「分かった、やってみる」 自らの責任でこんなことになってしまったことに、自覚なく力を奮うことにあれほど嫌悪を抱いていた筈の自分があんなことをしてしまったことに。 少しでも償い、そして今度こそ守る。 それが才人を突き動かす理由、アークスマッシャーに注がれる力の正体。 「ただはずしたら全部諸共に木っ端微塵だけどな」 「ちょ、それを先に言えって!?」 「大丈夫だ相棒、お前なら出来る。このデルフリンガー様が保障してやるぜ」 「――分かった」 破壊の力が右手に宿る、目の前の絶望を打ち砕く為の破壊の力が想いを糧に駆動する。 其れはまさしく破壊の右手、誰かを守るため駆動する力、鋼の左手を持つ誰よりも優しい一人の青年の残した想いの形。 いつしか才人は『破壊の杖』の以前の使い手が使っていた構えを再現していた。 ――ロックオン 極限の集中によってどんな小さな的だろうと確実に打ち抜く、ある渡り鳥が残した技。 ガンダールヴの力が『破壊の杖』を振るうに最適の形態を導いたのか、それとも『破壊の杖』に残された記憶を読み取ったのか、或いは…… いつしか才人の指の奮えは止まっていた。 「いけぇええええええええええええ」 才人はデルフの言葉に引き金を引き絞り。 「だめぇええええええええええええ」 アナスタシアを庇おうと飛び込んで来た少女の姿に、咄嗟に銃口の向きを逸らした。 才人が無力感に打ちひしがれている時間と、ルイズがアルビオンに向かう時間。 前者があまりにも長すぎた故に、後者があまりにも早すぎた故に起きたことだった。 ● ● ● ありとあらゆる障害を爆発で吹き飛ばして辿りついたあの場所で、ルイズは一人の少年と対峙していた。 言うまでもなく才人だ、彼の持つ『破壊の杖』がどれほど危険なものかルイズは身を以って知っていたが故に、ルイズは才人の決死の覚悟を力技で押しとどめた。 アナスタシアごとワルドを殺すつもりだと思ったのである。 ワルドはある意味自業自得と諦めることが出来る、だがアナスタシアは別だ。 彼女はルイズの為に命掛けでこの場に残ったのだから…… 故に自分の命と引き換えででも助けると言う覚悟をルイズは決めていた。 アガートラームが認めたのはその心、誰かを助けたいと一心に願うその心こそが仮初とは言えアガートラームが自らを振るうに値すると認めたただ一つの理由だった。 だからこそ、二人のすれ違い悲劇そのものだ。 ほんの少し運命が違えば共に歩むかもしれなかった一人の少年と、一人の少女、二人は些細な誤解故に互いに殺しあっていた。 「やめてくれっ、あんたに銃を向けたくない」 そう言いつつも才人は光に向かって狙いをつけるのをやめはしない、それがルイズを激昂させる。 「殺させはしない、アナスタシアは私が守るんだからっ」 それは本当に些細な誤解だった。 才人はルイズが二人に些細な傷さえ付けず助けようとしているのだと思っていた。 ルイズは才人が二人を諸共に殺して破壊の光を止めようとしているのだと思っていた。 だから才人はルイズの隙を見てワルドの右腕だけを射抜こうとしていた。 だからルイズは才人を無力化してから命と引き換えに光の中へ飛び込みアナスタシアにアガートラームを手渡そうとしていた。 「やめろ嬢ちゃん! 相棒もいい加減に……」 二人が優しすぎるが故に起きた悲劇は、その名に恥じぬ悲劇的な結末に終わった。 才人は自らの体に生えた氷の矢を才人は呆然として顔で見つめていた。 趣味の悪いオブジェの如く飛び出した氷塊に手を掛け引き抜こうとしたところで遅れて感じる激痛。 まだ何もしてない……強烈な無念を残し才人はその場に崩れ落ちる。 「タバサ……」 いくらなんでもやりすぎだとルイズは言おうとしたが、その前に才人に突き立った矢と同じくらい鋭い一言がルイズを貫く。 「時間がない、急がないと間に合わなくなる」 ルイズは知らない。 タバサがアナスタシアのことをイーヴァルディの勇者の如く見ていることも。 タバサの母親がタバサを庇って毒に倒れて以来、氷のような決意を胸に抱いて生きてきたことも。 今度こそ喪わないと言う悲壮な覚悟と共に才人へ向かってウインディ・アイシクルを放ったことも。 そしてタバサも知らなかった。 才人がタバサに勝るとも劣らない覚悟でその銃把に手を掛けていたことも。 『破壊の杖』を通じて才人の心が音叉の如く同じ“力”を持つ者たちの間に響いたことも。 ――助けたい。 周囲がその思念に気がついた時、胸から血を流しながら才人は今度こそ引き金を引き絞っていた。 『破壊の杖』から放たれた光がワルドの右腕だけを正確に打ち砕く。 極大の威力を極小に圧縮した光は破壊の力だけを虚無へと飲み込み、はじめから何もなかったように消え去った。 だが使い手が血を流し、意識が闇に落ちようとした状態ではいくら『破壊の杖』でもその力を発揮しきれなかったのか。 消しきれなかった破壊の光は制御を失って暴れ狂い、四方八方にその力を撒き散らす。 その破壊の力に向かって、ルイズはまっすぐに向かっていった。 その左手に銀の光を携えて。 ――行け、ルイズ! 自分たちが傷つけたはずの少年の声援にその背を押されながら。 ● ● ● 走る。 罪悪感と希望を胸に抱いて。 走る。 大切な人の元へと。 走る。 向かってくる光を斬り飛ばして。 まっすぐに光立つあの場所へ。 何処までも再現なく高鳴る胸。 白い粒子となった剣の欠片がスクリーンとなって見知らぬ光景を移す。 ――行ってらっしゃい才人、あんたはどっか抜けてるから事故に会わないように気をつけるのよ。 見たこともない材質で出来た四角い塔が立ち並ぶ異界の街で平穏な毎日。 ――隊長、本当にこのような卑劣な任務を上層部は命じたのでありましょうか!? 出世すればするほど痛いほどに実感してしまう愛する祖国の腐りきった恥部。 ――アナスタシアと申したか、と、特別にファルガイアの支配者たるわらわの『友達』となることを許すぞ、べ、別に寂しい訳ではないんじゃぞ? お主だからこそ許すのじゃ、いいなっ、特別じゃからな! 本当に普通の女の子として生きたあまりにも短すぎるその一生。 銀の左手が伝える多くの思いを受け止めて、ルイズは白く染まる世界を走っていく。 これまで会った数多くの人とそれと同じ数の想い、これまで気づかなかったあまりにも広い世界。 ――どんな時だって、わたしは一人じゃないってことに。 アナスタシアが来てくれたからこそ気づくことが出来た世界。 世界はこんなにも広くて、輝いていて、無限の可能性に満ちている。 守りたい、これから会うかもしれない人たち、見るかもしれない景色、掴むかもしれない未来を。 アナスタシアもこんな気持ちだったんだろう。 才人って男の子もこんな気持ちだったんだろうか? 走れ、走れ。 あの光の先にいる、大切な人のところへ。 アナスタシアのところへ。 ルイズは走る、ただひたすらにまっすぐに駆け抜けていく。 一人の少年が作った道を、ただこれからくる未来だけを見据えて。 「アナスタシアー!」 手を伸ばし、その手を掴む。 ――どんな時でも、あなたはひとりじゃないよ。 ――つないだ手は離さない。 「馬鹿ねルイズちゃん、わたしなんかのためにこんなに傷だらけになって」 ――信じてるあの日の絆 ――強い思いが 「馬鹿はあんたのほうじゃない、なんで世界を救う為にあんた一人が犠牲にならなきゃいけないの!」 それは怒り、“英雄”と言う理不尽とそれを必要とせずにはいられない世界に対する怒りだった。そして結局全て一人で背負い込んでしまったアナスタシアへの怒りだった。 「なんで一人きりで戦ったのよ! なんで助けてって言えないのよっ! なんで一人で全部抱え込もうとするのよ……」 血を吐くような叫び、それはルイズの剥き出しの感情だった。自分の命を引き換えにしてでもと考えていたルイズにこんなことを言う資格はないかもしれない、だがそれでもルイズは叫ばずにはいられなかった。 何故、アナスタシアだけがこんなに苦しまなければならないのか? 何故、アナスタシアだけが英雄にならねばならないのか? ただ悲しくて、悔しくて、ルイズはアナスタシアに向かって言葉を叩きつける。 ルイズの様子にアナスタシアは困ったように微笑むと。 「ごめんね、ルイズちゃん」 アナスタシアはゆっくりとルイズを抱きしめ、そして…… 「アナスタシア!?」 光の粒子となって崩れるように消え去っていった。 アナスタシアの手を握っていたルイズの手が空を切り、少女の嗚咽が巨大なクレーターを穿たれたサウスゴータの街に木霊する。 「ルイズ……」 周囲の者たちが心配げに見守るなか、ルイズは声もなく泣き続け――唐突に心に届いた言葉に顔を上げた。 “みんなでいっしょに明日へ行こうね” ――同じ夢を探し続けてる。 ● ● ● 「参ったなぁ、みんなともこれでお別れか」 どこまでも白く清浄な世界で、かつて居た事象地平の彼方よりもなお白い本当に何も無い世界でアナスタシアは笑っていた。 あっけらかんと、まるでこれまでの日常に少しも悔いがないとでも言うように。 「あーあ、もっとやりたいことあったのに」 そう言ってアナスタシアは笑い、その頬に一筋の雫が伝う。 「本当に、もっとたくさん……」 無理やりに作られていた笑顔がくしゃりと崩れる、普段の挫折など知らないと言った様子の彼女からは想像もつかないほど歪んだ顔で泣き続ける今のアナスタシアは弱弱しかった。 「たくさんたくさん、したいことがあったのに」 ――生きたかったのに。 そう呟いた言葉には悲しいくらいに力がなかった。 最後にルイズに言われた言葉は、どうしようもなく図星だった。 確かに自分は余計なものまで背負いんでいたのだろう、大切な人が傷つくのが見たくなくて、見ず知らずの人が苦しむのを見たくなくて、ファルガイアの大事が紅に染まるのを見たくなくて。 ただ一人で、ロードブレイザーに挑んだのだ。 それを間違っていたのはアナスタシアは思わない、自分が傷つくことには耐えられてもマリアベルやルシエドが傷つく姿を見るのはどうしても嫌だったから。 だが今さらになって思う。 もしあの時アシュレーがしたように世界中の想いを束ねられれば、自分はファルガイアで生きることが出来たのではないのか? ヴァレリアの人間が聖女の刻印を背負って自らに杭を刺すような行いに走ることもなく、降魔儀式によってアシュレーに仲間の隊員を殺させると言う出来事が起こることもなかったのではないか? 歴史にもしは禁物だが、アナスタシアは思ってしまった。 ――生きたい。 一人ではなくみんなと一緒に、 マリアベルやルシエド、アシュレーやルイズ。ファルガイアとハルケギニアに住むまだ会ったことない大切な相手になるかもしれない誰かと、一緒に生きていたい。 でもそれはけして叶わない出来事だ。 なぜなら今アナスタシアはその存在すら失って、僅かに残った意識すら拡散させようとしているのだから。 大切な人たちと、永久に会えなくなろうとしているのだから。 「嫌だよ、生きたいよ。誰か助けてよ……」 そのあまりの心細さにアナスタシアの口から初めて弱気な言葉が洩れた。 それがきっかけだった。 「え?」 何時の間にかアナスタシアの足元に転がっていたアガートラームとアークスマッシャー、それがゆっくりと紫と銀の光を放ち始めた。 二つの光は鼓動のように明滅し、それは次第に早くなっていった。 そして……光はゆっくりと一人の青年の形を取った。 左手を失った、青髪の、人のよさそうな笑顔を浮かべた青年。 彼は何も言わなかったが、しかしその想いはアナスタシアには痛いほどに分かってしまった。 そっか、英雄はもういらないんだね。 青年はごめんと一言謝って、まるで塵のように崩れ去っていく。 アナスタシアの代わりとばかりに、微笑みながら“未来”を守護した青年は崩れていく。 その青年に手を伸ばそうとして、青年の言葉にアナスタシアは振り返った。 帰るといい、自分の願う場所に。 振り返ったアナスタシアの先には二つの道が出来上がっていた。 一つはマリアベルやアシュレーの居る、彼女が守った大切な世界へ続く道。 もう一つはルイズや才人の居る、彼女を守ろうとしてくれた大切な者たちが居る世界へ続く道。 悩む時間はほとんどなかった、アナスタシアはほとんど反射的にずっと願い続けた故郷への道を踏み出し、 「アナスタシアー!?」 もう一つの道に向かって、全力で走り出していた。 走り去る背中、それを見つめながら青年は笑い、そして光の粒子となって消えた。 彼の名は“未来” 未だ見ぬ可能性を守る、心優しき守護獣。 エピローグ 「盗まれたぁぁぁぁあ!?」 青空に一人の魔法少女の叫びが響く、その視線の先にはかつてアガートラームの剣士だったこともあるパン屋の倅と聖女の末裔が脂汗を顔中に浮かべながら正座させられている。 周囲には冷ややかな目で彼を見つめる仲間たち。 そぁそれもしょうがない、此処でアガートラームを墓とすることを決めたのはアシュレーだし。カノンはかつてティムが言った「大事な剣なんでしょ? こんなところでお墓にしてて盗まれちゃわないかな?」と言う言葉を「そう簡単に抜けるものでもない」と否定したのだから。 その結果として今の状況がある。 「だがおかしい、二人の言葉通りアガートラームは簡単には抜けない」 ならばかつてそうしたように岩盤ごと削り取って言ったかと言えばそうではない、其処にはアガートラームが刺さっていた跡がはっきりと残っているのだから。 「ひょっとしてさ……」 蒼い蒼い空、それを見上げながらアシュレーは言った。 「帰ったんじゃないかな、アナスタシアのところへ」 遠い目、同じ青空の下にいるだろうアナスタシアに問いかけるようなそんな視線。 ずっとずっと続いていく終わらない物語、彼女もその物語を紡げるようにと。 ――祈りと共に吐かれた言葉は「そんなわけあるかー!」と言う叫びに遮られた。双子の兄妹を抱えたマリナがその様子を心配そうに見ていた。 物語は続いていく。 蒼と赤の二つの月と、どこまでも晴れ渡った空色の景色の下で。 いつまでもいつまでも…… 前ページ銀の左手 破壊の右手
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重なる右手と左手からの続き 真紅が不安げに水銀燈を見上げる。 「大丈夫なの?この時期は料金高いんじゃないの?」 水銀燈はニヤリと笑うとメンバーズカードを所定の位置に差し込んだ。 「この日の為に誕生日を12月24日に登録しといたのよぉ」 確かにクリスマスイブに利用するといつもより料金取られたりする。 しかし、誕生日に利用すると割引できたりするのも事実だ。 この情報は店舗によって違うので行くときは、事前にしっかりチェックしていきましょう。 水銀燈はテレビを付けて、画面に表示される料金をチェックするとリモコンを置いて、真紅を近くに引き寄せた。 そのまま強く抱きしめ、真紅の温もりを全身に染み込ませる。 真紅の顎を掬い、ゆっくりと口付けた。 「やっと二人っきりねぇ……」 イルミネーションは確かに綺麗だったし、真紅と久々にゆっくりデートできた。しかし、それだけでは足らないのも事実。 真紅もおずおずと言った感じで水銀燈の背中に手を回す。 備え付けの大きなベッドに腰かけると、二人でプレゼントの交換を始める。 勘のいい人はもうお気づきだろう。そう、ここはラブホテル。 ──重なる右手と左手と唇 とりあえず、とお互いにプレゼントを相手に手渡す。 「開けていい?」 と先に尋ねたのは水銀燈。言いながらもう手はリボンを外している。 黒を貴重とした光沢のある紙袋に真っ白のリボンがかけられている。 リボンを外して、中から丁寧に包装されたものを取り出す。 「わ、綺麗……」 中に入っていたのは腕時計。ベルトが薔薇をモチーフとしてシルバーの鎖でできている。 少しアンティークっぽくもある。 「貴女、時計ないって言ってたから。試験で使えるように」 入試では携帯を時計代わりに使うことは禁じられている。また、壁時計がないところも多い。 その為、腕時計を持参しなければならない。その内、買わねばと思っていたのだ。 「ありがとぉ。これなら絶対受かるわぁ」 真紅の頭を抱きしめてツムジにキスを贈る。 「ね、真紅も開けてみてぇ?」 そう言うと真紅も箱に手をかける。リボンでなく透明のテープで止めてあるためくるくるときっかけ探している。 あった、と呟きながら真紅はそこから丁寧に紙を破らないように開けている。 「あら……」 中に入っていたのは薄いオレンジを貴重に紅の薔薇が小さく描かれたティーカップ。 「貴女なら何個も持ってる気がしたんだけど、どうしてもコレに惹かれちゃってぇ……」 「大事に使わせてもらうわ。ありがとう」 割れないように再び丁寧に包み直しながら真紅はニコリと笑った。 「お風呂沸かしてくるわぁ」 と水銀燈が風呂場に向かった。 その間に真紅は水銀燈にあげた時計も包み直してやる。 「真紅……」 水銀燈は後ろからぎゅ、と真紅を強く抱きながら名を呼ぶ。 その声には今までなかった熱っぽさが含まれている。 「すいぎんと、……」 振り向きながら水銀燈の名を呼んだが、不自然にそこで切れたのは唇を塞がれたから。 ちゅ、と音をたてながら顔中を啄まれ、その擽ったさに思わず真紅は笑みを溢した。 「ふふ、……も、擽った……ぁ」 ペロリと促されるように唇を舐められ、それに誘われて舌を出すと甘く吸われた。 互いの体温を生で感じられる。それだけで体の奥底がじわりと熱くなるのが分かる。 いつの間にか真紅はベッドに押し倒され、首筋を水銀燈に愛されていた。 それだけでもう自分の呼吸が早くなるのが分かった。 目を開けると自分を強く見つめる水銀燈と視線があって、それだけで心臓がきゅ、と締まる。 水銀燈が自分を強く求めてるのだ、と実感してしまう。 真紅の両足を割って、水銀燈がそこに位置すると、ねっとりとしたキスを贈る。 服の上から申し訳程度に膨らんでいる真紅の胸を優しく揉んでやる。 「っぁ……ん、」 真紅のその甘い声を聞いただけでぞくぞくと背中が震えた。 もっと聞きたい。もっと言わせたい。もっと、自分だけに。 久々の行為だからだろうか。どちらともいつもより興奮しているのを感じた。 真紅の黒いTシャツを捲りあげると、赤を貴重とした白の薔薇刺繍がの少しついた愛らしい下着が見えた。 「可愛い……」 耳元でそう呟いてやるとそれだけで真紅はひくりと体を震わせた。 肩口を赤い跡を残しながら啄み、背中に手を回すと背中を少し浮かせてくれる。 ツーホックを器用に片手で水銀燈は外した。最近、この作業にも慣れてきた。 締め付けがとたんになくなったことで不安になったらしい真紅は、取れそうな下着を手のひらで押さえる。 「大丈夫ぅ……綺麗だからぁ」 落ち着けるように真紅の耳元で水銀燈は呟き、肩紐をゆっくりと滑らせる。 真紅はまだ不安そうだったが、力を抜くと素肌を水銀燈に晒した。 雪のように白い肌が薄くピンクに染まってる姿はひどく官能的に水銀燈の目に写った。 「いつ見ても綺麗……」 独り言のように呟かれた水銀燈の声に、また心臓がぎゅと締めつけられた。 その時、ピピピ、と電子音が響き、風呂が沸いたのを知らせる。 「先に入るぅ?それとも後ぉ?」 「それは別々という前提よね?」 「まさか」 心外だ、と言うように水銀燈は目を丸くした。 「……先に入って待ってるわ」 半ば諦めたように溜め息をつきながら、真紅は呟いた。 「行ってらっしゃぁい」 ニコリと笑った水銀燈を不信に思いながらも真紅は脱衣場に向かった。 真紅の姿が完全に見えなくなると、水銀燈はその笑顔をニヤリ、に変えた。 一文字違うだけでだいぶ違うのだ。 水銀燈に肌を晒すのを恥ずかしがる真紅はいつも先に入って後に出る。それは予想済みなのだ。 「さぁて、今の内に準備、準備ぃ」 鼻唄でも歌いってしまいそうなほど上機嫌な水銀燈のことなど、真紅は知る由もない。 一方、真紅は彼女好みの熱めの湯に浸かっていた。この水銀燈を待つ間がなんとも恥ずかしい。 その内、パチリと浴室の電気が消えた。それと同時に浴槽に内蔵されている七色のライトが淡く点灯した。 なんともそれらしい装飾だが、それが案外綺麗だったりするのだ。 ガタン、と浴室の扉が鳴った。真紅はいつも扉に背を向ける形で座っている。 「ふぅ……暖かいわねぇ」 かけ湯をした水銀燈が真紅の後ろに入ったと同時に真紅を抱きしめる。 「ね、真紅」 「えぇ」 恥ずかしいのは本当だが、こうやって二人でくっつくのが好きなのも本当なのだ。 「あ、これ入れていい?」 備え付けの入浴剤に目を止めると水銀燈は嬉々として聞いてくる。 真紅が軽く頷いたのを見るとジェル状の入浴剤を垂らす。 すると浴室いっぱいにくどくない程度に柑橘系の香りが広がる。 「体洗うのどうするぅ?」 もちろん普段の入浴ならば洗うのだが、出たあとにどうせ汗をかくような行為をすると分かっているので敢えて問いかける。 別に二度洗っても良いのだが、面倒と言えば面倒で。 「後ででいんじゃないかしら?」 同じことを考えたらしい真紅がそう呟いた。ならば、することは一つ。 「真紅ぅ」 甘く名前を呼んでやると、ピクリと肩口が震えた。何をされるか理解しているのだろう。 前にあった手を胸に回す。すると、真紅がピクリと跳ねた。 「ぁ、……んんっ」 既に自己主張を始めた中心の突起をくりくりと転がすとびくびくと敏感に跳ねる。 露になっているうなじをペロリと舐めてやる。 「ひ、ぁ……」 首だけで真紅を振り向かせると口を塞ぐ。舌で口内を犯してやると、真紅の腕が水銀燈の首にすがった。 「や、ぁ……すいぎ、とぉ……」 徐々に発情してきている真紅の頬を宥めるように水銀燈は撫でる。 「続きはベッドで、ね」 先に出る?と水銀燈が問うと首を振った。これも水銀燈の計算済み。 「先行ってるわねぇ」 と言いながら額にキスを贈り、水銀燈は浴室から出る。 水銀燈が脱衣場から出たのを確認すると真紅はそろそろと扉を開け、脱衣場に入る。 備え付けのバスタオルで体を拭き、これまた備え付けのバスローブを探す。 しかし、そこにあるはずのものがなく、代わりに他のものが。 「また……」 と真紅は呟いた。 そこには赤と白のこの時期によく目にするサンタクロースの衣装が置いてあった。 しかもブラウスワンピースにのようになっていて、スカート丈もかなり短い。 「あの女……」 と悪態をついてみるが、他に着るものはない。だからと言って全裸で出ていけるほど自分の神経も図太くない。 真紅は諦めて深く溜め息をつき、仕方なくその衣装に手を通した。 「あらぁ、似合うじゃなぁい」 ニヤニヤと笑う水銀燈を思いっきり真紅は睨むが、どうやらあまり効いてないらしい。 脱衣場の出入り口から近づいてこようとしない真紅に手を差しのべる。 「おいで……」 そう言うと警戒した目線のままではあるが、ゆっくりとこちらに近づいてくる。 「可愛い」 水銀燈の目の前に真紅が立つと、水銀燈は真紅の腰に抱きつく。 水銀燈の上に真紅を座らせると、真紅の目が期待と不安に揺れる。 水銀燈は真紅の服のボタンを二個外すと、露になった肌に吸い付く。 「ん……はっ……ゃ」 先ほどから何度かされているため、敏感になっているらしく真紅の体が反応する。 「……もっと声聞かせてぇ」 真紅の潤む瞳を真っ直ぐ見つめて水銀燈が囁く。 ボタンを更に外し、小振りの胸を優しく愛撫する。 「ん、ぁ……ひぁ」 ツンと尖った突起を貪る。吸いながら、時々舌で転がしてやると心許ない声が上がる。 「やっ、……それ、……やぁ、い、や……」 ふるふると首を横に振って迫る快感を逃がそうとする。嫌、と拒否する行為の多くは気持ちいいから、ということが多い。 だから、その行為をあえてやってやる。 「やぁ、って……言って、ひぁぁっ……んっ」 「嫌?嘘つかないのぉ。もうこんなに濡れてるくせにぃ」 そう言いながら下着越しに真紅の大事なとこに指を這わせる。 水銀燈の言葉通りにソコは下着越しでも分かるほどに湿っていた。 「やぁぁぁ……」 いきなり触れられたことに驚いた真紅が少し高めの声を上げた。 下着を両足から外すと、水銀燈の手が直接そこに触れた。 ぬるぬると愛液を指に絡めながら入り口を慰めるように愛撫する。 「ひ、ぁ……ん、……す、ぎん、と」 真紅の虚ろな瞳には水銀燈以外写っていない。それが水銀燈をものすごく煽る。 「真紅ぅ。今日はちょっとだけ頑張りましょうねぇ?」 「え……?」 水銀燈の言葉が解せずに考えていると、いきなり異物が挿入される感覚があった。 「え、ちょっと!……水銀燈、何して……!」 「もう少しぃ」 慌てて下を見ると桃色の球体が自分の中に入っていくとこが目に入った。 「な、にして……ひゃぁっ!」 中のものが勝手に振動し始め、真紅の紡ごうとした言葉はそこで切られた。 「これでよし、と」 水銀燈はおそらくその球体に繋がっているであろうリモコンを細いベルトで真紅の太ももに縛り付けた。 「や、やぁぁ……すいぎ、はずし……取って、あぁぁッ」 しかし、真紅の懇願も虚しく、水銀燈は膝から真紅を下ろすと少し下がった。 「や、何で……すいぎんと、やぁぁぁ」 「こっち来て?真紅ぅ」 真紅は歯を食い縛るとそろそろと這うように水銀燈の元に向かおうとする。 しかし、中のものが絶えず震えているので足が上手く言うことを聞いてくれない。 「ひぁッ……、や……あぁっ」 涙を瞳にいっぱい貯めて水銀燈を見つめるが、水銀燈は動いてくれないらしい。 「すいぎ、……おねが、やめ、」 自分だけを見てくれている。自分だけを頼ってくれている。自分だけを求めてくれている。 ゾクゾクとイケナイ感覚が水銀燈を支配する。 「ほら、……真紅。もう少しぃ」 手を差し出すと、その手を取ろうと必死にこちらに向かってくれる。 少し進んでは座り込む、少し進んでは座り込む、を何度か繰り返しやがて力なく水銀燈の手を掴んだ。 「よくできましたぁ」 真紅の腕を強く引っ張り、全身を抱きしめる。 「っ……ばか、……もう、しない、で」 幾分かもったいないが頷く変わりに、水銀燈は優しく頭を撫でた。 それで幾分か落ち着いたらしく、きついくらいに真紅は水銀燈を抱き返した。 「せっかくだから、このままイきましょうねぇ?真紅ぅ」 「ふぇ……?」 太ももからリモコンを外すと、スイッチを最大まであげた。 「ひ、……ひぁぁぁぁっ……ま、まって、やだぁ!」 今までとは比べ物にならないほどの振動と、それに比例して大きくなった快感。 「や、やだ……いやぁぁ……すいぎ、とめて、とめ、……ひぁぁっ」 水銀燈の首に強くすがり付いて、体を振るわせて快感を逃がそうとする。 「だぁめ。気持ちいいんでしょう?」 「や、……ちが、ひゃぁぁ、んっ」 甘い声が漏れる真紅の口を塞ぎ、胸の先端を痛いくらいに弄ぶ。 「や、……も、イっ……イくっ、あぁぁっ」 「イきそうなのぉ?」 水銀燈の問いかけに、真紅はガクガクと首を縦に振る。 水銀燈はそれを見ると、真紅の中に指を二本挿入する。 「あああ────っ」 中の質量が増したことにより、声といえない声が真紅の口から発せられた。 「だめ、や……すいぎ、と……やぁぁぁっ!」 口元に妖しい笑みを浮かべた水銀燈が指を素早く上下すると、真紅の太ももがびくびくと痙攣し始める。 「ひ、あ、あ……あアああ────っ!」 真紅の口から一際甲高い声が上がった同時に、真紅はびくびくと大きく痙攣して果てた。 水銀燈はそんな彼女の額に一つキスを贈るとニコリと嫌な笑みを浮かべた。 「まだまだこれから、よぉ?」 それを聞いた真紅はサッと血の気が引いたそうな。 終わり
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リタイア
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右手に盾を左手に剣を(OCG) 通常魔法 このカードの発動時にフィールド上に表側表示で存在する 全てのモンスターの元々の攻撃力と元々の守備力を、 エンドフェイズ時まで入れ替える。 魔法 同名カード 右手に盾を左手に剣を
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投稿日: 02/08/04 08 00 00254 能力名 奇跡の右手憤怒の左手(マジックハンド) タイプ 接触強化・治癒\治療 能力系統 強化系 系統比率 未記載 能力の説明 右手を患部にあてるだけで自己治癒を強化&病気の進行を遅らせる 左手はウィルスを退治可能 これで骨折やウィルス性の病気を治すことができ癌などの進行を鈍らせることも可能 制約\誓約 - 備考 - レスポンス 類似能力 コメント すべてのコメントを見る 強化系 接触強化 治癒\治療
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1: 名前:サスライ☆09/19(日) 09 31 05 とある次元の世界の、とある酒場にて。 ワイワイガヤガヤと雑音賑わす荒れくれ者に混ざって、小汚ない初老の男がテーブルに座っていた。向かいにはまだ15程の、若々しい胴着の少女が居る。 無精にも程がある小汚ない髭から口がたまにチラリと見えて、向かいの席に座る男に聞こえる程度に声を放っていた。 「……と、まぁ。ヤツの情報は以上だ」 「はい。ありがとうございます」 深く礼をして、少女は懐から皺だらけの紙幣をテーブルの上に置くと、小汚ない男にそれを流す。 それを受け取った彼は眉を潜めて小汚なさと反比例するギラリと恐ろしい輝きを隠さない眼を少女に向ける。しかし少女はあくまで凛としていた。 「お前さん、何だか知んねぇがソイツはヤベェぞ。強さだけなら最強の賞金首かも知らん」 「知っています、だから野放しにする訳にはいかないのです」 表情を崩さない二人の間に、特に変わらない張り詰めた空気が流れている。だからなのか気持ち周りに人が少ない。 「中途半端な正義心で動くなら止めとけ、人間誰だって最後には自分の命が惜しくなるんだ」 少女は眉間に皺を寄せて顔を赤くした。そして蒼白く燃える低い声を放つ。 「逃げません、中途半端なんかじゃありません。これはケジメなんです。 ……私の同族から犯罪者を出してしまった事への」 2: 名前:サスライ☆09/19(日) 10 00 35 †10年前† 丘の上で呑気に仰向けになる15歳程の少年が一人。口に草を喰わえて、そのつり目は空を踊る鳥を眺める。 「あ~あ~、良いねぇ。鳥は気楽で。俺なんて苦労が絶えねぇってのに」 誰に言うまでも無くて、天に唾を吐く様にグダグダな台詞を吐く。だから、唾が戻ってくるかを象徴するかの様に、空から顔面に糞を付けられた。 「……例えば、今お前等にクソ付けられた事とかな。降りてこいやクソったれ、焼き鳥にして喰っちゃろうか!」 青筋を健康に危ない位浮かべて立ち上がり、空にまた台詞を吐き捨てる。故に透明な虚しさが顔面から肛門にかけて通り抜けた。 「黄桜(キザクラ)様。こんな所で何を?」 「七海(ナナミ)か、よく俺の場所が解ったな」 下から少女の声が聞こえたので、呼ばれた男こと黄桜はそちらへ振り向くと思った通り一人少女がそこで指を絡めて立っていた。 年齢は黄桜と同じか年下と言ったところ。青みがかった黒髪で右目を覆い、腰まで届く長い後ろ髪を一つの三つ編みにするヘアスタイルを取っている。 しかし特徴的なのはそこでは無くて、幾何学的な模様を持つ青い神官の様な格好をしていて、腕からベルトの様な物を垂らしている事だ。 「いや、あれだけ大きな声で叫べば多分誰でもお気付きになると……」 特徴的な彼女は、平凡的な答えを出した。 3: 名前:サスライ☆09/19(日) 10 32 58 『ギルル黄桜』。その売れない一発屋芸人の様な、どこぞの売れない団体の悪役レスラーの様な名前がつり目の彼の名前だ。 どうしてそうなったかと言えば、次期里長は『ギルル』の苗字を名乗るのが里の習慣で、その基準は強力な『能力』を持つか否かでだからだ。運悪く彼は強力だった。 『能力』と言うのは、この里の血筋にのみに伝わる超能力の様なモノで、人はそれを『精霊の加護』と呼んでいる。 何故、そんな事が起こるか。それは黄桜達の住むこの世界が『とある次元の世界』だからだ。 ここは『ギルルの里』、精霊に護られた箱庭である。精霊の力は里の威光を強め、故に里の人間は精霊を崇めていた。 そんな精霊の巫女の一人、七海はチョコンと黄桜の隣に座って、延々と次期里長の愚痴を聞かされていた。 その薄っぺらな動作に里長としての威厳は少しも無くて、代わりに少年独特の熱意が溢れ出ている。 黄桜の愚痴を七海は軽く笑顔でソウデスカと受け流し、代わりに熱意溢れる雰囲気を楽しむ。 だから黄桜の愚痴は七海にとって苦では無くて、単なる雑談となんら変わり無い。 彼女は、幸せな今を噛み締めていた。 4: 名前:サスライ☆09/19(日) 11 02 13 はじめは次期里長としての愚痴だったが、段々と脱線して行き、とうとう今喰わえている草が苦いだの愚痴にするまでも無い話になってきた所で、ハッと黄桜は我に帰る。 「……あ、そう言えば七海。何か俺に用?」 ここに達するまで約40分、理に叶っていない悪い意味でロマンチック溢れる無駄な時間と言わざるを得ない。 そこでトリップしていた七海はハッと我に帰る。もしかしたら黄桜よりも質が悪い人間かも知れない。 「あ、そう言えばですね、里長が黄桜様を呼んでいました」 途端に黄桜が薬にならない苦虫を噛み潰した顔を見せたので、七海はフォローを入れるが、それを今度は苦笑いで受け取らなかった。 「なぁに、俺が愚痴ってたのがいけねーんだ。 て、言うか、俺を呼ぶのにお前を使ったあのジジイが悪いのかな。ガッハッハ」 豪快な笑いにはにかむ七海は、どう反応しているかを戸惑っている様で、取り敢えず笑ってみたら黄桜に誉められたので不思議と嬉しかった。 ヨッコラセと親父臭く腰を上げ、七海の手を引っ張って立ち上がらせる。手を繋いだまま丘を下るとまた他愛の無い雑談が生まれた。 その雑談の一つにこんな物がある。 「もしもこの力を悪用する様な奴が居たらさ、俺はソイツをブッ殺すわ」 「はぁ、それはまた物騒な」 「物騒じゃねーよ。俺の里長としての誇りってヤツだよ。次期だけどな」 そう言って彼はまたガハハと笑って胸を張った。 5: 名前:サスライ☆09/19(日) 11 55 03 道を歩いていると木綿の服を来た子供に出会った。かなり幼くてまだ性別の判断も付かない。 「あー、黄桜様だー」 「おう、なんだチビじゃねえか」 「違うよー、千鳥(チドリ)には千鳥って名前があるんですー」 千鳥は子供らしく、敬語と日常語が混ざるカオスな言葉で、それを聞いた黄桜は口元をUの字にして微笑んだ。 「ガッハッハ、そうかそれは済まなかったな。チビ千鳥」 「あー、だから違うよー。チビじゃないよー。怒るよー?」 膨らんだ頬を両の手で摘まむとひょっとこを不細工にした様な顔になって、一瞬苦しむ。 そしてゼイゼイと喉を押さえて頭を下げている所をクシャクシャと撫で回した。 「まあ、もっと強くなったら相手してやんよ」 「むー、覚えていろよー。そうやってイチャイチャしてる隙に追い抜いてあげますー!」 ソコでハッとしたのがさっきから外からニコニコと穏やかに眺めていた七海だ。 第三者として見ていたから楽しいものの、こうして突然蚊帳の中に入れられると対応に困る。取り敢えず彼女は笑って誤魔化す事にした。 「ちょ、そこはオロオロしとけよ!なんか子供に誤解されちまうだろ!」 「違うの、ですか……?」 哀しげな七海の瞳に思わず黄桜は次期里長の身体能力で、全力疾走した。いや、全力失踪の方が合っているかも知れない。 「……」 「逃げたー」 そして後には無言の七海と、はやし立てと言う勝利の鐘を鳴らす千鳥が残された。 6: 名前:サスライ☆09/19(日) 12 35 32 シンシンとした冷たい空気と、蝋燭の揺れる炎が集中力を高める。炎に照らされる木の床に精霊神の女体像。 ここはギルル神殿座禅室。 「遅いよ!」 冷たい空気を吹き飛ばす怒声が部屋に響いた。正座している黄桜は、それで床が震えているのが良く解る。 「アー ハイハイ ゴメンナサイ。でかい声してんなぁ、焔(ホムラ)」 七海と全く同じ顔、同じ服。違う事と言えば髪がやや赤みがかった黒髪で、神官服が赤いと言う事だ。 今説教垂れている焔と呼ばれたこの少女も、七海と同じく精霊の巫女で、ギルルの里ではこの二人が巫女をしている。 余談であるが、同じ顔なのは一卵性双生児の双子であるからとの事。 「全く、黄桜様はどれ位人を待たせれば気が済むのかなー、かれこれ40分は遅れてる気がするよ。 全く、七海も何やってんだか」 先程の千鳥の様にブスッとした顔を下から見上げる黄桜を「なぁに」と冷ややかな眼で見詰める。 黄桜は腕を組んで何かを味わう顔でウンウン2回頷くと再び焔を見た。 「いやな、先ずはお前も七海みたく可愛い所ねーかなーって見てたんだ」 「うん、『先ずは』の時点で大分失礼だけどそれで?」 「ああ、調度すきま風がスカートをなびかせてな。可愛いパンツでも履いてないかなーって思ったら、まさか、履いてなかっ……ウゴッ!何をする!」 耳までその衣装より真っ赤にして黄桜を一気に踏んづけた。そのまま何度でも踏みつける。 「ちょっ、死ぬっ!マジで!」 「死ね!死んでしまえ!」 木板はギシギシと揺れるのみ。スカートに合わせて。 7: 名前:サスライ☆09/19(日) 13 10 47 やっと気が済んだのか、踏みつけ地獄から解放された。黄桜は後頭部をさすりながら上目遣いで焔を見て唇を尖らせる。 「痛ってーな、禿げたらどうするんだっての。 それに良いじゃねえか、どうせその内に、そう言う関係になるんだしよ」 次期里長は巫女を許嫁、つまり妻とする迎える習慣がある。これは巫女が精霊神に直接遣えている為、里長が巫女と結婚すれば精霊の加護は護られ続けると考えられているからである。 しかし焔は黄桜を睨み付けて、心の底どころか地獄の釜の底にも響く低い声で腕を組んで言ってのけた。 「あ゛。 何、もう一回くらいたいの?黄桜様はマゾだねぇー」 「マジ御免なさい」 身体を捻り軽いフットワークで3歩程下がり、その勢いで空中に身を投げて同時に膝を曲げて地面に付いた途端に土下座する。 そんなアクロバット土下座は一瞬の出来事で、焔はフンと鼻を鳴らすと背を向けて、扉へ歩き出す。 「全く、物事には順番位あるでしょ」 「え、そんじゃ順番守れば良いの?」 嬉々してペカリと顔を上げる黄桜の問いに、まあねと答える焔。 「そんじゃ今からキスしない?」 「ア゛!」 「調子こいてすいませんでした」 頭を上げる速度よりも速く下げる。『引く速度は押す速度の約2倍』、ボクシングにおいて理想のジャブの形だった。関係無いが。 8: 名前:サスライ☆09/19(日) 13 46 02 畳と鏡のシンプルな部屋、それ故に雑念は消えて頭が働き身体が上手く動く。ここはギルル神殿鍛練所。主に神官が武道を学ぶ場所だ。 そこに一人、胴着を着、鏡に向かって片手を突き出している老人が居る。 白髭はかなり伸びているが、丁寧に手入れされているので寧ろ仙人の様な威厳があり、眼光も正にそれだった。 一瞬で手を上に引き、もう片腕を下に押して足を入れ換える。だから一瞬で型が変わって、それを繰り返す。 タンと震脚が部屋全体に染み渡った頃に、扉が開く。中から出てきたのは黄桜だ。 「いよぉ、精が出てんねクソジジイ」 「……」 黄桜の方を見ずに老人は鍛練を続ける。それは虚空に浮かぶ渦潮の如く、老人を中心とした見事な演武となる。 「トコロでジジイ、俺と勝負しない?実は俺さ、さっきジジイみたく禿げが出来そうになってムシャクシャしててよ」 「……」 しかし流水に石を投げても何も変わらない様に、老人も何も変わらない。 黄桜はフゥと一呼吸ついて余裕を作り、上を見て一気に跳び跳ねて足を突き出した。 「オラァ!無視してんじゃねぇよクソジジイ、ボケたか、アァ!?」 演武の最中の出来事だった。老人はその跳び蹴りの突き出された足の踵をすくい上げて、180°回転し黄桜が腹を上に向けた場面で、身を捻り逆ベクトルから黄桜の腹に掌を当てて一気に床に叩きつける。 腹を押される痛みと床に叩きつけられる痛みで悶絶しそうになった。その様を見届けると老人は満足そうに髭を擦り、口を開く。 「ふん、精が出ている様に見えんのはお前が鈍いからじゃろ。 そしてワシの事は利休(リキュウ)師匠と呼べと言ったじゃろが」 9: 名前:サスライ☆09/19(日) 14 19 02 黄桜は耳をほじくり、口を台形にして歯を見せたふてぶてしい顔でソッポを向く。 「はー、全く。クソなジジイだからクソジジイで何が間違ってんだボ……ウガフゥッ!」 利休は掌に更に力を込めると、腹を突き破ったのかと思える訳の解らない悲鳴が漏れる。 ため息一つの後に利休はスックと立ち上がり、掌の甲を前に向けた防御の構えを取ると呆れ声を吐き捨てた。 「ほら、さっさと打ち込んでこんかい。ちょいとモンでやろう」 眉間に皺をこれでもかと言う程寄せて、実はそれ神経なんじゃないかと思う程の青筋を浮かべて、腹をさする事も忘れてやせ我慢で立ち上がる。 その口は歯を光らせて獲物を狙う肉食獣の様。しかし、笑っていた。 「喧嘩上等じゃねえか、アアン?」 黄桜の左手からモヤが溢れ出す。モヤは身体を離れると桜の花弁の形に散り、花弁の熱は大気を揺らがせる。 これが、ギルルの里に住むギルル族の『精霊の加護』だ。 初めは只のエネルギー体で肉体強化程度(それでも大木をへし折る位なら出来るが)だが、段々と独自の物に変わっていく。故に、鍛練所の畳と鏡は相応の対策がしてある。 黄桜はこの変化の片鱗を生まれた時から使えた。潜在能力では里で一番強力な加護、故に次期里長を任されるのだ。 10: 名前:サスライ☆09/21(火) 06 29 48 ベッドに寝かされた手当て跡だらけの黄桜の左手側には七海と焔が居る。 傷が浅いと解っていながらも、七海は何か出来る事は無いかと取り敢えずギャンギャン喚く黄桜の額を撫でていた。 「あ~、もう。惜しかったんだって。あそこで左手を受け流されていなければ勝ててたんだって!」 「はい、そうですね。黄桜様は強いですもの」 クスクスと嫌味の無い硝子玉の様な笑いで応対する七海との会話は、利休と戦ってボコボコにされた事を忘れる位楽しい。 黄桜本人が認める位に惜しくもなんとも無いのを忘れて、やはり自分は強い気になれる程だ。 それを鼻息混じりに黒曜石の様な、雑じり気があるが吸い込まれそうな笑いで応対するのは焔だった。 「な~にが惜しいんだか。何も考えずに左手で突進したのが悪いんでしょ」 「んなっ、あれは先ず威力のある左手を先に出してビビらせたところに蹴りをだな……」 「じゃあ、尚更封じられちゃ駄目じゃないの。て、言うか他の人に効くからって別の人に効くとは別問題だから」 そこでグムと黙るが、しっかりと七海がフォローして、そのフォローを崩さない様に焔はそれを邪魔しない。 強者が負けない者と言う意味なら、黄桜とは強者だろう。倒されただけで、尚且つ支えてくれる仲間がいるのだから。 11: 名前:サスライ☆09/21(火) 06 55 20 あれから30分後、黄桜は何時もと変わらぬ傲慢とも言える笑いを浮かべて、ギルルの里現里長である利休の元に戻って来た。決してリターンマッチに来た訳では無い。 「んで、俺に何の用だよクソジジイ」 「ほぉ。よくこの間稽古をサボったから、その仕打ちでは無いと解ったの。 お前の脳ミソは猪と入れ換えても大差無いと思っとったわ」 「は、クソジジイは達人だけど挑発は俺の方が上手えな。もしもそうなら、一時間そこらで回復する様な浅い傷で済ませる訳ねえ」 それは単に黄桜がサボり魔で、かつ、やられ慣れているからこそ言えると、つつく事も出来るがそんな事をしても利休と不毛な口喧嘩になるし、今度また解らせてやれば良いので黙っておく。 利休は澄んだ眼でジイと黄桜を見て髭を一撫ですると、口を開いた。 「さて、理由は『依頼』じゃ。最近海賊が×××の町の商船を襲うからやってくれなそうな」 人外の能力である精霊の加護を持つギルル族はこう言った荒事を中心に生計を立てている。 無くても良い物だが、存在する事でギルル族以上の大きな組織が生まれない事もメリットとなっている。 「ふーん、大分調子乗ってんな、そいつらは。俺等に勝てる筈無いのに」 「まあ、精霊の加護その物をまやかしか何かと思っている連中は沢山居るしな。 それに、たまにお前みたく慢心したのがやられるからのう」 黄桜は舌打ち一つ。 12: 名前:サスライ☆09/21(火) 12 09 55 潮風の臭いが肌に染みる港町。特に案内も無しに利休と黄桜はやって来た。 海賊に困っているのには、護衛が手堅い時は現れず、しかし護衛が薄い小さな荷物の時のみに現れるしたたかさにある。 しかし決して大きな海賊では無い。が、その分低コストで長持ちしてだから大きな船を持たず、拠点は未だ見付かっていない。 その拠点探しから殲滅まで全て任されたのが今回の仕事だ。 「やれやれ、面倒臭い事押し付けおって」 「全くだな!それで、どうすれば早く暴れられるんだ?」 黄桜を見て利休は額を押さえて、深くため息をつく。これに突っ込んだら、また突っ込みの無限ループになる気がするので、心の中で黒金より重いため息をついた。 「……まあ、いいわい。『神槍グングニル』」 利休が手と手の間に空間を作り、精霊の加護の能力名をスイッチとして発動させると、手と手の空間にモヤが生まれる。 モヤは段々と棒状に形を変えていく、と、ここまでは黄桜と同じだが利休にはその先がある。 モヤが実体化し神々しい金属光沢を持って、やがて三ツ又の西洋槍となったのだ。その矛先にはルーン文字が彫られている。 『神槍グングニル』、北欧神話において主神オーディンの所有物とされ、投じれば外れる事は無く、持ち主に戻ってくると伝えられている伝説の槍。 その名の通り、彼の槍は外れる事は無い。だから、投げれば目的の場所が何処にあるかが解る。 「ほいっと」 理想的なフォームから槍投げをすると、グングニルは天高く飛び、しかし方向が直線では無くて、やがて見えなくなった。 「あー、あっちじゃな」 槍の方角に向かって利休は歩き出した。 15: 名前:サスライ☆09/22(水) 08 38 50 岩影の奥に中型の木船が見えた。その周りには五隻の小舟が浮かんでいる。 水夫の服を来た男二人がラム酒を飲みながら談笑して、近付く細身の人影がある。黄桜だ。 「こんにちは」 「はぁ、どうも」 黄桜の営業スマイルを掛けた挨拶に水夫の一人は返事した。何をしていますかと聞けば、水夫は特に目を泳がす事も無く真っ直ぐと応対する。 「ああ、俺等はしょぼい海運の人間でな。ハハハ、こんな事言ったらお頭に怒られちまうな。 まあ、補給の為に停泊してんだ。今、仲間が色々買いに行ってる」 絵筆宜しく堅実かつ親近感のある応えに黄桜は営業スマイルを壊さずに、ウンと二回頷いた後に今度は彼が応える。 「だから補給物資らしき麻袋がちらほらと見えるのですね。成る程。 ……じゃあ死ね」 「え?」 黄桜の笑顔が急に暗く崩れたと話して黄桜と話していない方の水夫は思った。 何故なら、黄桜と話していた水夫は最後の一言と同時に、顔面に放った一発の拳と一緒に意識が暗闇に落ちたから。 「取り敢えず三つ、突っ込み所がある。 補給すんなら岩影に隠さずに港に停めるだろ。 海賊が溢れる今のご時世護衛船無しに船が一隻ってのがおかしい。 そして、そんな中で見張りが二人しか居ないのがおかしい」 と、話している間に水夫は血のついた拳を見て、船の方に回れ右をして逃げ出した。 これは少数の海賊ならではの知恵で一人がやられてももう一人が連絡に行ける様にする為だ。 尤も、それは船内に人が居る事を知らせている様な物で、黄桜は敢えてそれを追わない。 16: 名前:サスライ☆09/22(水) 12 28 34 見張りが行った後、ゆったりこっそり船の中に入ると、中はその黄桜の進入に対応仕切れて居ない位に荒れていた。 黄桜が来た方向とは逆方向から利休が奇襲し、撹乱した為に陣形を崩しているのだ。 未だにそれが崩れているのは利休が見付かっていないから。さて、『神槍グングニル』は伝説とは裏腹に、暗殺に適している。 例えば今回の様に、『百発百中』の能力で船に高価そうな槍が突き刺さっていたとの理由でそれを回収させる。 そこから船に進入後『手元に戻す』能力を発動して事故に見せ掛け暗殺。事故の対処をしている間に背後から忍び寄り、体術で確実に仕留めていく。 黄桜は慌てている海賊達を物陰から見て、その一人の背後に忍び寄り口を封じて引きずり込み、声帯を潰して蹴りを叩き込み壁にぶつけた。 音に驚き、いっせいのせのタイミングでそちらを振り向く海賊達は、底知れぬ深い不敵な笑みを浮かべて物陰から出て来る黄桜を見た。 「ほら、かかって来いよ」 ザワザワとする船内だが、その中の一人が声を上げる。歳は30中盤だろうか、貫禄のある迫力のある大男で、腰には拳銃があった。 「待て、これは罠だ。恐らくコイツの仲間がまだ船内に二人位居る筈だ。 全員三人一組に固まり、仲間を探せ。俺は、コイツを殺る」 的確な指示、そのお陰でボスと実力勝負。しかも地の利はあちらにあると言うのに黄桜の不敵な笑いは、もう一層深くなる。 これが利休の作戦で、ボスを的確に叩くと言うものなのだから。 17: 名前:サスライ☆09/22(水) 13 54 21 黄桜と海賊のボスは数メートル離れていた。その為、拳銃が有効に使えるが対象が武闘家の為に迂闊に使えばかわされる可能性もあり、未だ睨み合いが続いていた。お互いに身振りだけで実力が解るから。 そんな時、海賊のボスが口を開く。親しみを持ち、されども決して油断せずに。 「お前、中々強いな。名前を聞いておこう。 俺は歌舞伎座 豪(カブキザ ゴウ)と言う」 「歌舞伎座……、成る程。強い訳だ」 『歌舞伎座ノ一族』;遠い国に存在した武闘派集団。 古来より要人護衛を行って来た為にその実力はかなり高く、政治的な面から見ればギルル族とかなり似ている。 しかし封建制が崩壊。一族に縛られていた者は自由の身分とされたのである。 「俺はギルル黄桜。ギルル族だ」 それを聞くと、豪の口に少し力が入った。一部の力の乱れは全体の力の乱れ。 黄桜はそれを逃さず、床板を一気に蹴った。拳銃の引き金を見て、発射のタイミングを計り上手くかわす。そこから更に間合いを詰めると、弾丸の様に鋭い抜き手を右手で放った。 「隙ありだ!」 しかし豪は、実は銃弾の発射と同時に拳銃から手を離していた。 その手で抜き手を稲妻宜しく叩き落とし、反作用を利用して宙の拳銃を掴み、黄桜の眉間に銃口を突きつけた。 はじめから狙っていたし、そうで無くとも落下した拳銃を掴んで次の体勢に移れるから出来る事だ。決して避けるのを見てから離した訳では無い。 豪は凝縮した一瞬を一服した息をフゥと吐く。 「浅いな、考えが。まるで、昔の俺みたいだ」 18: 名前:サスライ☆09/22(水) 14 28 42 ギルル黄桜と言う若者の目を見る。それを見てるとに、豪には昔の事が脳裏を駆ける。 この世は敗者に甘くない。自由と聞こえは良いが、結局浮浪者を増やしただけでは無いか。 歌舞伎座ノ一族が無くなったところで、一族に心を縛られた者達はどうすれば良い。 人は何かに繋ぎ止められなくては生きていけない、自由と感じている人間は自由に縛られた人間だ。 「なあ、お前は何でこんなに強いのに、その力を奪う事に使うんだ?」 生々しい火薬の臭いが新しい銃口に怯む事無く、黄桜は雑談をはじめた。 豪も口を開く。何故ならば、昔の自分も今の自分にこの様にされたら同じ質問をしてるだろうから。 「奪いたい訳じゃ無い、俺は生きたいかったからだ」 今の黄桜にとってチンプンカンプンな答えに、黄桜は取り敢えず解ったフリをしておいた。それでも愚直に質問を続けるのは何故だろうと、自分でも思いながら。 「何でこんな遠い国で海賊なんかしているんだ」 「俺より強い奴なんて見えないだけで沢山居た。それは賊の世界でも然りだ」 「一族に誇りは無いのか」 「あったさ、だから誰よりも縛られる事に安心する、今のお前みたくな。 俺は、他の奴等みたく器用に生きる事が出来なかったんだ」 そうかと黄桜は目を細める。鼻息を一つ落として、肩の力を抜けば話は終わったのだなと豪は引き金を引こうとしたその時だ。 「そうか…… ふざけるな!」 黄桜の顔の感情値が一気に跳ね上がる。目をランランと光らせ、顔を真っ赤にする。いっそ角と牙でも生やしてやろうと言った勢いだ。 そして左手が燃え上がる。モヤでは無くて、ハッキリと。 19: 名前:サスライ☆09/22(水) 14 53 08 豪は目の前の出来事に一旦驚き、しかし引き金に力を込めようとする。 ギルル族の事は知っていた、歌舞伎座ノ一族と似た様な物だと思い、高をくくっていた。 神話も噂が独り歩きした物に過ぎないと思っていたので、こうして本物を見るとやや驚く。 しかし、左手の火炎放射と眉間の拳銃では拳銃の方が早い。ところが、だ。 何故か拳銃は引けなかった。と、言うより拳銃の存在が意識から離れていた。 その隙に黄桜は顎に蹴りを入れる。身体強化の蹴りは巨体を浮かせた。 何故だ、そう感じる。豪が感じているのは身体強化でも炎でも無く、何故、生死の境目の筈なのに命綱から意識が離れていたか。 ふと、相手を見れば左手の炎は更に炎としてのクオリティを上げ、遂に炎では無い何かに成っていた。 確かに炎の様に燃えているが、その色は闇の様に深い漆黒で、火の粉は黒い桜の花弁だった。 そしてまた気付く。手に持っている『黒い塊』は何だっただろう、確か武器だった『気がする』が『何に使う』のだったか。 「ふざけるな、ふざけるな!俺はテメェとは違う、違うんだ!」 左手で床に叩き付けられた。黒炎を根元から浴びて、その能力を完全に理解する。 我慢出来ない顔で、誰だったか三人一組になっていた奴の一人が豪に駆け寄ろうとして、後ろから槍で貫かれた。 豪は思う、あいつ誰だっけ。何で思い出すと悲しくなるのだろう。 20: 名前:サスライ☆09/22(水) 15 18 32 黄桜の激情のまま、豪はマウントポジションで何度も殴られる。 その度に黒炎を浴びて、その度に『自己(アイデンティティー)』を燃やされていく。 何故、こんな所に居るのだろう。何故、周りの人間はあんなにハラハラしているのだろう。何故、目の前の男は怒っているのだろう。 様々な何故を繰り返す内に、段々自分が自分じゃなくなり、灰になっていくのを考えてゾッとした。それでも殴られる度に色々大切な事を燃やされていく。 「イヤだ……シにたく……ナい……」 それが豪の最後の言葉で、それ以後何かを口に出す事は無かった。 言葉を燃やされたか、全てを燃やされたを知る者は居ない。勿論、本人もそれを知る事は一生無かった。 「俺はよぅ……くそ、なんか言えよコラ」 殴るのを止めた黄桜は豪の襟を掴む。そこには火傷まみれになった廃人が居るだけだ。 そしてそれは、黄桜の求めている歌舞伎座 豪では無いのである。 ボロ雑巾を捨てる様に手を離せば、ドシャリと肉が墜ちる音がする。 人は否定したい自分を見る事が一番不快だ。そして目の前の空っぽの肉達磨は紛れもなく黄桜の否定したい己だった。 だから憤怒を沸き上がらせたのだが、今の完全に血が昇った黄桜は、目の前の肉達磨と同じでそんな事は考えられない。 これは、利休がある重要な決断をした時の話である。 23: 名前:サスライ☆09/23(木) 18 19 11 海賊を討伐した次の日の事だ。 広大な青空の下に大平原が広がり、その大平原の上に、虫がポツンと有るのかと思う位小さな人影が在った。 大平原の中ではギルル族の時期里長『だった』黄桜も、そこら辺の木より存在感の薄いチッポケな存在に過ぎない。 さて、精霊の加護の能力と言うのは、実は前例があるのが当たり前で、ギルル族はそれを長い歴史の中で記してきた。だから名前も使用法も解る。 『煉獄桜花』。それが黄桜の精霊の加護の名前で、能力は記憶破壊。黒い炎で相手に火傷させると、相手の記憶を燃やす(火の粉でも可)大変優秀な能力だ。 が、それは周りも巻き込んでしまうと言う事だ。確かに火力が僅かなら申し分無い。 しかし里長たるものが、僅かな火力でやっていけるものか。 何より黄桜は神に愛され過ぎた。その潜在能力の高さから、もし全力を出して戦うなら全てを破壊するだろう。 戦いが生業の職業だ、人生に全力を出さない事なんて無い。あのまま『里に残っていれば』、何時か黄桜は全てを破壊する。 それは突然の事で、黄桜は海賊討伐を境にギルルの里に戻る事は無かった。利休に、里から追放されたから。 さて、これからどうしようか。ふと上を見上げれば鳥が空を飛んでいた。ついこないだの様に、それを自由だとも羨ましいとも思わないが。 24: 名前:サスライ☆09/23(木) 18 50 40 港町で仕入れた旅のマントをなびかせて歩くと、かなり遠くだが、前に誰か居た。 気が付かなかったのは、遠かったからなのか自分の事ばかり考えて上を見ていたからなのか。 もう少し近付くと、それが見慣れた姿だと解る。赤みがかった黒髪に赤い神官服。焔だ。 彼女は腕を組み、肩幅程に足を広げて実に威風堂々としている。その表情たるや剣山の様に険しいものだ。 「ん、焔じゃねえか。おはようさん」 「……バカ、そんな事言ってる場合じゃないじゃん、黄桜様」 黄桜の作り笑いを見ておられず、焔は顔に影を落とす。それを見たら黄桜は苦いを浮かべるしか考え付かなかった。 「もう様は付けなくても良いんだぜ?今の俺は時期里長どころか、どっかでのたれ死ぬのがお似合いの只の旅烏だ」 「いや、黄桜様は海賊との戦いで敵のボスを道連れに勇敢に散ったと伝えられているんだ。 だから、黄桜様は何時までも黄桜様だ」 そうか、と、サッと利休に純粋に感謝の微笑みを浮かべる。それを見たら、焔が口を楕円に、目を丸く開けた。感情に流された顔だ。 「ねえ、悔しく無いの? 人生を費やして尽くしてきた物に裏切られたんだよ、少しは怒ろうよ!」 しかし黄桜は相変わらず微笑んでいて、寧ろ目を弓にして微笑みを深くしている。 「お前は、誰かに言われて此処に来たのか?」 「独断だよ。黄桜様が海賊なんかにやられる筈無い、だから利休様に粘着して聞き出た」 「……そうか、そんなにお前は俺の事を想ってくれていたんだな。嬉しいな、有り難う」 その壮大な器の人格は、まるで里長の様だった。 25: 名前:サスライ☆09/23(木) 19 43 26 暫く無言、しかし張り詰めた物では無くて寧ろ心地好い空気が続き、それを崩したのは焔だった。 彼女は黄桜に歩み寄り、優しく抱いた。え。と、黄桜は目を見開く。 良い臭いの髪の毛、温かい掌、華奢で柔らかい腕を感じる。 黄桜は思わず抱き寄せてしまった。そこに感じるのは花の様に細い腰があり、しかし身体の体温から生を感じる。 「……黄桜様、ちょっとこっち見て」 再び、え。と、無意識に焔を見るとそこには長い睫毛の整った顔があり、目を奪われる。 その隙に、唇に柔らかい感触を浴びせられた。口内に入る熱い気体と、続くヌメリから唇と唇をくっ付けているのだと気付く。 永遠とも感じる約3秒後に、焔は唇をヌラリ離して抱き締める腕を解く。黄桜も同様にした。 頬を赤く染め上げる焔は、何時もと裏腹に艶やかな声を出す。 「そ、その……、望むならこれ以上も……」 肩を萎めて、指をモジモジ絡めるその様はまるで小動物の様で、全てを奪いたいと官能的な気分になる。 しかし黄桜は、下腹に痛みを感じるのに何故だかそれを抑えた。 「スマンな、もう俺は行かなきゃいけないんだ」 そして焔の隣をサラリ歩いて横切る。焔は敢えて向きを変えず、故に黄桜は背中と言う近所に居るのに見えるのは何も無い大平原だ。 「もう二度と言わないんだからね、このバカ!バカ!オタンコナス!」 そう、地面に向かって叫ぶと地面に向かって涙を落とした。 「……頑張ってね」 聞こえない様に小さな声で最後の一声を落とすと同時に両膝も地面に落とす。それでも黄桜は振り向かない。 黄桜、焔。それぞれ15歳と14歳の時だった。 26: 名前:サスライ☆09/24(金) 09 27 55 町があったので宿を取る事にした。幸い路銀は、利休からたんまり貰っているので、食事付きと言う割とまともな宿に泊まる事が出来た。 決して多くは無い量の夕飯を食べて、ベッドに仰向けになると空一面の星が見える。 昔、焔と七海とで星を見に行って七海がはぐれて大泣きして発見されたのを思い出して、少し涙腺が緩んだ。 そうして思い出にふけっている時だ。扉のノック音が聞こえて中からホテルマンが入って来た。どうやら、客らしい。 「どんな客だ?」 「ハイ。青っぽい黒髪で片眼を隠した14程の女性で、七海さんと仰ってます」 「……通せ」 「畏まりました」 焔は予想内だが、七海が来るのは予想外だった。 焔と七海は一卵性双生児で、遠目の一見ではヒヨコの雌雄宜しく見分けはつかない。 それでも呼べば、慌てて来るのが七海で理由を声を上げて聞きながらやって来るのが焔と、対称的とも言える程の大した差がある。 七海は自分から行動を起こす事が滅多に無い。大抵は指示があるまでジッとしている、それ故にいざ行動となると心に余計な力が入って空回りしたりする。 ドアノブが回り、そう頑丈そうでない木の扉の向こうから、ビクビクと不安の眼を浮かべて見慣れた青い神官服が入って来た。 27: 名前:サスライ☆09/24(金) 10 16 28 予想外だが、今の黄桜に取って、タダソレだけの事に過ぎない。仰向けから一転してベッドに胡座をかくと前のめりで七海に笑いかける。 「おぉ、七海じゃん。七海だってのは聞かされていたけどさ。 まあ座れ、丁度明日飲もうとしていた酒があるんだ」 「いや、この歳でお酒はちょっと……」 「まあ言ってくれるなよ。水よりも酒の方が長持ちするんだ、元々腐ってるからな」 液体の入った瓢箪を片手に持ち、自虐と言うよりは、キザな苦笑いを、椅子に座った七海に向ける。 「んで、何しに来たんだ?俺にお別れを言いに来たのか」 途端に背筋をシャンと伸ばした七海の顔が険しくなる。その瞳には深淵さが、しかしダイヤモンドの様な輝きがある。強い意志の表れだ。 「いいえ、私は貴方を連れ戻しに来たのです。貴方は次期里長で無ければ十分過ぎる戦力になる」 「嬉しいね。しかし無理だな。お前は俺の今の立場をよく解っていない」 黄桜は片膝を立てる、肘をそこに乗せて腕を真っ直ぐ前に伸ばした。すると正面から見ると遠近法で七海に取って黄桜の身体が妙に遠く感じた。 「こないだジジイの書斎に潜り込んだ時に知ったんだがよ。 俺みたいなのはな、実は里の掟では殺される事になってるんだ。外に害が漏れない様にな。 でも、クソジジイは敢えて逃がしたんだ。自分の身も危なくなるのを承知でな」 前に向けていない、下ろしている腕が震えて黄桜は影を落とす。それでも、下を向く事は無かった。 「俺はそんな里を誇りに思っている。次期里長だった者として、そして何より一人の人間として。 だからこそ、戻れないんだ」 だから七海は開口一番、意見を反した。しかし本音は、いっそう深く。 28: 名前:サスライ☆09/24(金) 18 57 25 七海は椅子から脳天を糸に突然引かれた様にピンと立ち上がると、相変わらず意志の強い瞳で言う。 「じゃあ、私も貴方の旅に付いて行きます」 「へ……?」 こんなにも唖然としたのは太くて短い、今日に至るまでの黄桜の生涯で初めてではないかと、黄桜本人が思った。 あんぐり口を開いているのが容易に想像出来るし、事実その通りだ。 「いやいやいや、何でそーなる。新手の冗談か?」 「私は本気ですよ、本気と書いてパネェと読むくらいマジです」 何時もの七海と違うものを感じる。しかし、七海とはそう言う人間なのだ。 普段は何もしなくても状況は流れると知っているから何もしないが、反面、自分の意見を持った時は絶対に譲らない。感情を溜めて放つタイプなのだ。 黄桜は根気強く説得してみるが、決して首を縦に振ろうとせずに筋が通って無くとも勢いで踏み倒されそうだ。 「何でお前、そんな俺に固執すんの。恋愛感情か?」 「いいえ、そんな物ではありません。 情熱思想気高さ幸福感…… 貴方は私の全てだ、貴方が居ない人生なんて、私は死んだも同様なんです。 連れていって下さい、何でもやります。何でも差し上げますから!」 それは遠回しに連れて行かなければ死んでやるとの無茶振りだ、黄桜は困った顔で立ち上がると、掌を七海のうなじに回した。 頬を赤らめ顔を明らめ、感激に瞳を潤ませる七海に黄桜はキスの体勢でこう言った。 「……ごめん」 29: 名前:サスライ☆09/25(土) 15 01 39 カーテン越しに降り注ぐ日光の光を肌に感じて、七海は目が覚めた。 長い睫毛の目立つ目を緩やかに開き、まだガサガサする目を手の甲で擦って目を覚まそうとする。 が、未だにアクビすら出ないので酸素が頭に回らず中々すっきりしない。 「ええと、何でこんな所に居るんでしたっけ……」 取り敢えず掌を開いたり閉じたりを繰り返して強制的に血を全身に巡らせて、アクビ一つ身体を起こせば昨日やって来たホテルのベッドの上だと解る。 ああ段々思い出してきた。昨日私は彼が来うるこの町を調べて、先回りする為に早馬を借りてやって来たんだ。 「でも、誰を?」 部屋を見渡せば誰もおらず、しかし所々についさっきまで誰かが居た痕跡はある。が、それが誰かはどんなに考えても休むに似て思い出せないのだ。 少し怖くなって、ホテルマンに聞いてみるとやはり七海は誰かと一緒に泊まったらしい。しかし、肝心の彼は既に部屋を発ったと言う。 それを知ろうとしてもどうしようも無い事は、思い出そうとした時に解った。しかし、どうしてもそれが、自分自身の様に大切な何かだった気がする。 チェックアウトまで時間がある。その間、誰かが居た空間がポカリ空いた、この部屋の様に何かがポカリと空いた心で沢山泣いた。 ウナジに桜の形をした火傷跡を一つ残して。 30: 名前:サスライ☆09/27(月) 11 11 23 町を出てから数日経ったある場所。もしかしたら道の中かも知れない、もしかしたら町の中かも知れない、もしかしたら戦場の中かも知れない。兎に角、黄桜が存在している場所。 黄桜はふと七海の事を思い出す、本当にアレで良かったのか。もう少し良い手段は無かったのか。 人への思いやりを建前とした、今後の自分への不安を考えていた。 固まりきっていないゼラチンの様な、何となくの想い。何となくだが、あのままでは自分は何時か取り返しのつかない何かをしてしまうのでは無いかと感じる。 しかしそれが何故か、未だ若さ故に己を理解していない彼には悩むだけ無駄であり、しかし悩まざるを得ない事でもあった。 故にもっと良い手段を探そうとすればする程思想の泥沼に沈み込む。 結局自分は、誰かを護りながら自分を守り切る位強く無い。それでも一緒に居たいと言うのはエゴだ。 黄桜は、そんな何時も通りの回答を出して、尚歩を進める。 それは道を歩くだけかも知れないし、沈黙から動き出すからかも知れないし、戦いを続けるからかも知れない。 只、黄桜はソコで納得してしまっている。本当にその解答で正しいなら、何度も悩む事では無いと言うのに。 だから、また悩むのだろう。答えが出るその日まで。 神が与えた悪魔の左手 続き1
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技名 ASIDEMATOI/右手ふりけん、左手とめけん同時 演技者 ASIDEMATOI/右手ふりけん、左手とめけん同時 説明 同時に右手でふりけん、左手でとめけんをする。 備考 特になし。 タグ とめけん ふりけん 両手 複数 コメント 名前