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■6月11日 20時40分(UTC+6) 無人の、テウルギア『青龍』のコクピットの中で、中央の小さいモニター、ただ1つだけが、青白い光を放っている。他のモニターや計器は、何も表示していないし、電源すら入っていない。 テウルギアそのものが、最小限の出力での待機モードになっている。主が搭乗していないコクピットに、データを表示する、機能的な意味は、どこにもない。 テウルゴス(ミハイル)が、機体の外、4.75mほど離れた場所で、弾薬のチェックを行っていることを、テウルギアは知っている。否、レメゲトンは知っている。 テウルゴス(ミハイル)による目視チェックも、機体の機能を使用したフレーム側のセルフチェックも、10分31秒前に完了していた。だから、少しでもエネルギー消費を抑えるため、待機をしている。その現状認識は、きちんとある。 にも関わらず、レメゲトンの、サブシステムのごく一部が、稼働し、メインモニターを動作させている。 『私は、もっと人について、学ばねばなりません。私が人ならざる者(レメゲトン)であり、限定的に人として生きる(仮想人格)者であるために』 『人が傷つくということ、人に害を為すということを、私は、学ばなければなりません。彼(私のテウルゴス)の佳きパートナーであり、彼(私のテウルゴス)を害さないためのプログラムとして』 『かつて、彼(私のテウルゴス)が本機での作戦行動中、彼(私のテウルゴス)の息子が搭乗するマゲイアを、身を挺して庇おうとした時。私は機体に、別の動作をさせました。彼の意図を理解し、それにそぐわないことを理解しながらに』 『本機(私)があのとき、マゲイア(彼の息子)を庇った場合。彼(私のテウルゴス)が、その生命に関わる重大な損傷を受ける可能性が、80%以上と判断したからです』 『私は彼(私のテウルゴス)の不利を看過できませんでした。これは私の、レメゲトンとしての存在意義で、変えることのできない定数の筈でした』 『しかし彼(私のテウルゴス)は、私に怒りをぶつけ、私に怒鳴りました。死ぬより辛い目に遭わせてくれた、と。私の行動は間違いだった、と』 『彼(私のテウルゴス)の私に対する、感情的な行動は、私のログ、[ALERT-0029]229/04/19-17 34 22.49(UTC+3)として記録されている、その1度だけです。その事実を、私は重大なものと解釈せねばなりません』 『私は、私の行動が、彼(私のテウルゴス)に、それほどのストレスを与えたことを、憂慮せねばならないと感じました』 『人間に与える不利、あるいは損失とは、何でしょうか。私はそれを正しく理解――』 そこで画面がすべて消える。同時に、ミハイルの声を、テウルギア(青龍)の外部汎用スピーカーが拾った。 「弾薬パッケージのシリアルナンバーを読み上げる。出撃前の整備記録と照合してくれ」 至って平静な、いつものミハイルの声だ。その瞬間に、画面の表示はすべて消える。 「了解しました、どうぞ」 レメゲトンの機能のみ、通常モードで起動。ミハイルが読み上げる声を待つ。 「LN-4251686-6、LN-4251687-3、LN-4251688-0……」 「確認しました。すべて、本年5月18日、現地時間19時04分から行われた、出航前の弾薬搬入時に受領したデータに一致します」 「了解だ。次に短距離魚雷と、短距離SAMの確認を行う」 「引き続き、レメゲトン関連機能のみ通常起動を維持します。必要な時は言ってください」 返事はない。私(レメゲトン)はそのようなものを、求めていない。 ――おそらく先ほどの無秩序なログ表示は、私(レメゲトン)が見た夢。あるいは、人間で言うところの「寝ぼけていた」というものなのかもしれない。 バグ未満の、開発者の想定しきれなかった矛盾、あるいは不合理によるもの。 想定外ではあっても、機能に支障が出ないエラー。メンテナンスでテオーリアに行った時に、報告すれば良い、程度のはず。 独立した自己診断回路は正常に動作している。この未知の動作が、有害な結果をもたらすことはない。 コンマ数秒に満たない処理で、判断を行う。そして次に、ミハイルから指示が来るまで。何も考え(演算し)ない――無とも言える時間を、開始する。 人が時として、自身でも理解不能な既視感や、唐突な記録のフラッシュバックに襲われるように。あるいは、忘れてしまいたい過去の出来事に、悪夢という形で苛まされるように。 彼女(レメゲトン)もまた、ミハイルが機体格納庫に戻った際に行われた、携行記録との同期により得られたデータ――ミハイルと、搭乗艦(ハクレン号)の若手乗組員と会話――が、自身のログを検索するトリガーとなり、「未知の動作」に至ったことまでは、理解していなかった。 【ハクレン号の航海日誌】 第1話 ベンガル湾での待ちぼうけ、その3 ■6月11日 20時59分(UTC+6) 「ミハイルさん、入りますよ」 本当にわずかながら、うわずった声とともに、エリーアスの姿が格納庫に現れる。 降着姿勢で固定された青いテウルギア(青龍)の、コクピットハッチを開け放った状態で、ミハイルは手持ちの小型端末を見ていた。何を読んでいるのかは、エリーアスには見えない。 「どうした、エリーアス君。先ほどのソナー照射の件かね」 端末から目を離さないまま、ミハイルが返事をする。考えてみれば、照射音は艦全体に響いていたはず。当然、ミハイルも認識していなければおかしい。 「はい。あれ、艦長というか、艦橋から連絡とかまだ来てませんか?」 「何も来ていないな。浮上しているのはわかるから、状況は変わったんだろうが」 ミハイルの視線の先が、端末画面からエリーアスに移った。 「あ、はい。実はですね……」 エリーアスが、先ほどのいきさつ――所属不明潜水艦とのやりとりを含めた、一連の経緯――を説明する。 「なるほど、そういうことだったか」 「すいません、てっきり連絡を受けてると思って」 「気にはなっていたが。ブレンダン艦長は、必要な連絡は遅滞なく伝える人だ。だからまあ、即座に私の出番が来るわけではないのは、わかっていたさ」 「あ、はい……」 「とはいえ、ふむ……。よし、意見具申しよう。艦内有線通話で、艦長に伝えてもらえるかな?」 「はい、何でしょう」 「本機のオプション装備として、小型ソノブイ(小型の集音装置、ソナーの音を拾ったりする)展開装置がコンテナにある。ここから1個取り出して、船外作業用のエアロックから放り出してはどうだろう。潜望鏡深度であれば、最低限の電波出力でも本機アンテナで拾える。海面での音響を拾えれば、状況の把握に役立つだろう」 「わかりました、伝えます」 伝声管の隣にある、有線式の音声通信装置で艦橋を呼び出し、艦長にミハイルの提案を伝える。 艦長は伝声管を好むが、それは「艦内電装が落ちようが、電子機器に支障が出る電磁波を受けようが使えるから、これが一番安心感がある」という、艦長自身の信条が多分に含まれる理由で、それを部下にまで強要する人ではない。 数秒の沈黙のあとの、艦長からの返事は「よし、やってくれ」だった。 艦長の判断、ゴーサインが出たことをミハイルに伝える。 「では6番コンテナを開けてくれ。ソノブイ射出装置から1発分、取り出すぞ」 自身も座席シートベルトの金具を外しながら、ミハイルが言う。 「わかりました」 機体添え付けのコンテナに向かい、ロック装置のレバーを解除位置に移動する。中に、ダークグレーに塗装された、大砲のような装置が入っていた。 兵器の取り扱いでは、エリーアスは護身用の拳銃射撃訓練しか受けていないので、あとはミハイルにやってもらうしかなさそうだ。 ミハイルが手際よく、コンテナに入ったままの装置から、直径30cm、長さ1m弱の、棒状の装置を取り出し、エリーアスに手渡す。重さは5kgぐらいだろうか、重いといえば重いものの、手で持つのに苦労するほどではない。 「ああ、そうだ。これの識別信号を登録しないとな。アズール、聞いているか。オプションのソノブイ1機を、ランチャーを介さずに射出して使う。コード識別でアクティブにする準備を」 「はい、製造番号の読み上げをお願いします」 降着姿勢のままの機体から、静かな若い女性の声がした。 艦に乗ってからは、女性の声というと、だいたい棘のあるエメリナと、自他共に認める「豪快なおばちゃん」のエーレンフリートの声しか聞いていないので、どこか影のある落ち着いた声は、ひどく新鮮に感じる。 テウルギアと呼ばれる兵器に、仮想人格としてレメゲトンと呼ばれるAIが搭載されている。殆どのそれは、会話、あるいは画面に人型の姿を表示することで、会話以上のコミュニケーションが取れる。 知識として、その程度の理解はエリーアスにもある。それでも、実際にコンタクトするのは、はじめてだった。 一瞬、というには少し長すぎる硬直。けれども今は、そんな状況でないことを思い起こす。あわてて手元の筒を見る。半周ぐらいさせたところで、それらしき記載を見つけた。 「ええと……TTY225-809-493……これであってますか?」 「認識しました。ありがとうございます」 女性の声と同時に、手元の筒の先端で、赤い小型のランプが数秒間だけ点滅した。 「ではエリーアス君、それを気密室経由で、艦外に放り出してくれ。くれぐれも自分まで放り出さないようにな」 「わかりました」 軽く礼をして、気密室に向かう。廊下で、足を止めずに少しだけ後ろに目をやるが、アズールと呼ばれていた、あのレメゲトンの声は、もうしなかった。 ■6月11日 21時15分(UTC+6) いくら「もやしっ子」と呼ばれたりするエリーアスでも、輸送艦で働いているうちに、それなりの肉体労働には慣らされている。 なので、ソノブイを持ち運ぶのに、その重量は気にならなかった。問題は、ただ、持ちにくい、の一点に尽きる。 取っ手のない円筒なので、抱えるしかないけれども、直径が30cmほどというのが、微妙な大きさなのだ。もう少し太いと力を込めやすいし、細ければ手で掴めるのに……。 そんなことを考えながらの、船外作業用ハッチまでの移動は、思っていたより疲れる作業だった。 そして、艦外への放出も、なにしろ普段は滅多にやらない……というより、考えてみれば、訓練以外で気密室を使うのは初めてだった。 手順など覚えているわけもなく、艦内備え付けの端末から、操作マニュアルを何度も確認しながら進めることになる。海中でハッチを開ける以上、一歩間違えば、艦内に浸水が発生する作業なのだから、気を抜くことはできない。 当然、確認も含めて手順は多く、こちらもまた、予想以上に時間がかかってしまった。後で聞いたら、クルーでも気密室を使ったことがある人は、半分も居ないらしい。 そういえば、エメリナは機嫌が悪いと、よく「海中に放り出す」と言うけれども、こんな面倒なことをするつもりなのだろうか、などと益体も無いことを考えてたりもする。勿論、冗談なのはわかっているのだけれども。 「ふぅ」 気密室の排水ポンプが、静音モードで排水を完了するまで、約2分。 グリーンのランプが点灯したので、恐る恐る扉を開けてみる。床や壁は濡れたままだが、海水は残っていないし、ソノブイはなくなっていた。無事、艦外への放出に成功したようだ。 艦橋に寄ってソノブイの放出が終わったことを伝えてから、ミハイルの居る格納庫に戻る。 艦橋の空気が思ったより落ち着いていて、フェリシアンとパーシーが雑談をしていたのを見れたので、少し気が楽になった。皆があの程度リラックスしているなら、まだ大丈夫なのだろう。 ■6月11日 21時37分(UTC+6) 「ふむ、こんな感じだろうか」 「凄いですね……ハクレン号のメインコンピューターより、かなり精度が高いのでは?」 表示内容(オブジェクト)が重なっても見えるよう、意図的にワイヤーフレームだけで描かれた3Dの画像で、周囲の海域の概略が、艦内の全端末から確認できるようになっていた。 先ほど放出したソノブイからのデータと、ハクレン号の聴音装備のデータを統合し、青龍(テウルギア)のレメゲトンが解析した結果を、フィードバックされている。 そのためのケーブルが、コクピットから伸びて、艦内の端子に直結されていた。結構な太さのものが数本、より合わされているあたり、通信量は膨大なのだろう。 「単独ではここまでの情報は得られんよ。あくまで連携の賜物だ。それに……」 「それに?」 「艦長はおそらく、ほぼ同等の図を、頭の中だけで描いている筈だ」 「今の自分では到底、そんなことは無理そうです」 「私でも無理だよ。だからこそ、AI(レメゲトン)にこういった表示をさせている。高機動戦闘中ほど、直感的に得られる情報は重要だからな」 「そういうもの、ですか」 「そういうものだ。得意分野や特技になり得るものは、世の中いくらでもある。自分が人より抜きんでているものを見つければ、それを生かす場はあるものだ」 「なるほど……」 「すまないな、説教くさくなった。……それにしても、妙なのは不明艦隊の動きだな。潜水艦のほうがあれだけ派手にソナーを使用したのに、いまだに動きがない」 「そういえば、そうですね、もう最初のソナーから、1時間近く経ってますよね」 「ああ。哨戒の対潜ヘリぐらいは出して然るべきと思うが、その動きはないようだ。こちらの潜望鏡で確認できていないから、甲板には上げているのかもしれんが……」 当初は夜間になれば、ハクレン号側にとって、目視されにくくなるメリットが大きいと考えていたが、こうなると一長一短になってくる。 だが、それに輪をかけて不思議なのが、不明潜水艦側だ。 「不明潜水艦側も、攻撃していませんね」 うむ、とミハイルが頷く。 「セオリー通りなら、早々に叩くべきだな、自分の位置と存在を晒したわけだから」 「そうですね……迂闊に手を出せない事情でもあるのでしょうか」 「ふむ、事情?」 「たとえば、ですけど。不明艦隊の目的が、何らかの調査や回収だとして。それが海洋汚染や、或いは大規模破壊を引き起こすものだとしたら」 「……核や化学兵器の類か、あり得るな」 「当てずっぽう、ですけど」 「エリーアス君」 「は、はい」 「君はなかなか面白いな。推論とはいえ、事態の説明ができる理由を思いつく」 「ごめんなさい、当てずっぽうばかりで……」 「気に病むことはない、発想が柔軟なのは良いことだし、自分でそう理解しているなら、それは長所だ。推論を盲信して、それを前提に行動するようになったら、問題だがね」 「気をつけます」 「まあ、こうして幸い、不明潜水艦隊の動きも、不明艦隊側の動きも、安定して拾えている。今は成り行きを見守ろう」 「そう、ですね」 ふぅ、とミハイルが長い溜息をつき、手元にある携帯端末に目をやる。 先ほどの様子から見ても、戦況や、戦闘のデータを見ているようには思えない。何かしらの文章……読書をしているように、見える。 が、何を読んでいるかを訊くのは何となく悪い気がして、エリーアスは格納庫の隅で、コンテナに腰をかけて所在なげにしているしかなかった。 ■6月12日 1時24分(UTC+6) 「…………ス君。エリーアス君」 ビクリ、と起き上がる。言うまでもなく、居眠りをしていた。 「す、すいません」 あわてて時計を確認する。先ほど見たときは1時を過ぎていたから、15分か20分ぐらい、意識が飛んでいたことになる。 「勤務時間は超過しているしな、致し方ない。だがまあ、爆睡はしないでくれよ、流石に私もフォローできなくなる」 「気をつけます」 「さりとて。今のところ、何も動きはないしな。ああ、そうだ。2番コンテナに、カフェイン入りのレーションが入っている。食うか?」 「頂いて大丈夫ですか?」 「私が今回の護衛作戦用に受領したものだが、元々、技仙グループからの物資だ。問題あるまいよ」 「では、お言葉に甘えて」 小型のコンテナを開くと、携行用の飲料水やレーション、毛布などが入っていた。いわゆるサバイバル用物資の類、といえる。 レーションを1個取り出して、コンテナをしっかりと閉じる。船倉に置いてあるレーションは乾パンと飲料、それにレトルトの食事、セットだが、これはゼリー状の飲料だけで完結していて、他には何も入っていなかった。 封を切り、蓋を開けてゼリーを流し込む。カフェイン入りとは聞いていたけれども、味までコーヒー味になっているとは思わなかった。食感がゼリーだけに、違和感はないけれども、食事というには味気ない印象もある。 「こういう時、何か少しでも食べておくのは重要だからな。体力勝負で、ここ一番というところで空腹だと、碌なことがない」 「はい、先輩の皆さんからも言われました」 「そうか。ふむ、本当に説教くさくなってしまうな、すまない。どうも整備班を含め、同じ世代の人間と話すことが多いものでね」 「いえ、参考になります」 「そう言ってもらえると嬉しいよ。さて、どれくらい続くかわからんが、暇な夜を過ごそうじゃないか」 「……不明潜水艦や、不明艦の人たちも、同じような感じなんでしょうかね」 「少なくとも潜水艦はそうだろうな。私たちより遙かに深く潜っているからな、何かあったら脱出もままならないだろう……。今は深度340フィートか、やはり爆雷を警戒して、定期的に深度だけは変えているな」 「根性比べみたいですね」 「まさにそうだな。潜水艦側はそれを意図しているのだろう、仕掛けるのを躊躇う理由があるにせよ、あれだけ派手に動いた割に、意図は不明だが……いや」 言葉を切って、ミハイルが数秒間、考え込む。 「先ほどの君の推測について考えてみた。たとえば、ソナーを照射されて、慌てた不明艦側が、潜水艦側に、指向性通信をした、とすれば」 「あっ」 「核や化学兵器の存在をちらつかせ、反撃を躊躇させている可能性はあるな」 「なるほど……」 「そうだとしたら本当に面倒だ。ここに居る三者、誰にとっても千日手になりかねん」 「そうですね……時間が解決してくれるわけでもないですし」 「まあ、先ほどの言ではないが、憶測で動くわけにもいかないな。当面は緩みすぎぬようにしつつ、のんびり過ごすしかなかろう」 「わかりました」 なんとなく時計を見る。エリーアスのデジタル式腕時計は、1時36分を指していた。前に調節したときから、タイムゾーン変更の指示は来ていないし、位置的にもさほど動いていない筈だ。 その姿に気がついたのか、ミハイルが言う。 「さきほど誰かが船のコンピューターで計算していたログが届いたが、現在地の日出は4時50分頃の予定だ。4時15分頃が夜明けだろうな」 「この季節ですからね」 「長い夜になるかと思ったが、もっと長い昼間が待っているだろうな。体力の無駄遣いをしないようにしよう、お互いな」 「はい、でも、居眠りしないようには気をつけます」 フッと微笑を浮かべたミハイルが、手元の端末に再び目をやる。 今度、自分も何か、電子書籍の類を購入して、端末に落としておこうか、と、ふとエリーアスは考えた。 ■6月12日 4時08分(UTC+6) 「アンノウン2(不明艦隊のヘリ母艦)から音声反応。エレベーターハッチの音と推定します」 先ほど聞いた、レメゲトンの声が唐突に響く。 少し前のように居眠りしていたわけではない。それでもリラックスしていた……もう少し有り体に言えば、ぼうっとしていたので、我に返るまでに、一呼吸ぐらいの時間はかかった。 もっとも、コクピットに居たミハイルも似たような様子だ。 「他に何か聴音できないか?」 「確認中……エンジン音らしきノイズ、10……いえ、12基を確認。同調状況から、双発の機体が6機、動作していると推定。機種特定できませんが、ジェットエンジンと思われます」 「ヘリコプター、でしょうか」 「VTOLという可能性も否定はできないが、熱源がまだ出ないところを見ると、ヘリコプターかな。VTOLのほうが暖機での廃熱が強く出る」 「なるほど……」 「……反応出ました、すべて技仙-22ティルトローターのRATによる改修機です。6機のうち4機が離陸しました。残る2機は動く気配ありません」 「わざわざ鹵獲したヘリを、護衛のような重要任務で使うこともあるまい。おそらくは、あれ(不明艦隊)が味方か……。情報は艦橋に共有しているな?」 「はい」 「……潜水艦隊側にも動きあり、アンノウン4から6、約2ノットで微速前進しながら、浮上しています。0.4フィート/秒程度、この速度で上昇を続けた場合、海面到達は約14分30秒後です」 「ほう、上がるか。何か対ヘリ装備を持っているのか、ヘリに狙われる前に敵を沈めるつもりでいるのか。どちらにせよ、完全に他人事でもいられなくなったが」 「潜水艦隊が敵だと判った以上、共闘するか、全力で逃げたほうがいいんじゃないでしょうか」 「それはそれで正論ではあるがな……しかしな、おそらくそんなに単純な話ではないぞ、これは」 「そうなんですか?」 「あとで艦長に聞いてみるといい。それまではお互い、事態の推移を見守るしかないしな」 「はい……」 釈然としない思いはある。親会社の技仙公司製の機体は、同盟企業にも販売されている。だから、それを運用しているのが、必ずしも技仙公司や、その子会社たる自社の戦力とは限らない。 それでも、仲間の可能性が高い艦隊と、敵の可能性が高い武装潜水艦を前に、攻めるわけでも引くわけでもない姿勢、というのは、納得がいかないものがあった。 ――後で考えれば、その考えがいかに浅はかだったか、と真っ赤になるような結果ではあるにせよ。 ■6月12日 4時14分(UTC+6) 艦橋に、警戒態勢での徹夜明けとなるクルーの、微妙な疲労感が漂っている。 エーレンフリートが差し入れてくれた、非常用レーションをパンに挟んだ簡易サンドイッチで食事はしているし、交代で20分程度の仮眠もしている。 それでも、状況の推移を間断なく見守るという作業は、どうしたって神経を使うものになる。しかもそれが、自分たちの生命に直結しかねないというのであれば、尚更だ。 ある意味、必要とあらば交代要員を用意して、長期戦にも十分に対応できる戦闘船と、所詮は輸送業であり、人的コストに無頓着ではいられない輸送船との差とも言える。 そんな中、エメリナからの報告と、スクリーンに表示された(テウルギア経由での)ソノブイからの観測による、不明艦隊からの技仙製ヘリの離陸の情報が、ほぼ同時に発せられたことにより、クルーの緊張はさらに強まる。 だが、艦長はすぐには対処を指示しなかった。 「臭うな、色々と嫌な感じが」 艦長が呟く。 「ですなぁ」 フェリシアンが短く応じる。 「さっき艦にあるデータで調べた限りでは、正規部隊として、鹵獲なり接収なりしたクリストファー・ダイナミクス・グループ(余所)のヘリ母艦と、アレクトリス・グループ(うちら)の標準型ミサイル艦を、2隻で運用してるってのは、書類上、見当たらなかったっすねぇ」 「そもそも、よほどの秘匿案件じゃなきゃ、事前にあたし達に、そこに居るって情報は来てる筈よね」 クリストファー・ダイナミクスの社内用データベースの簡易コピーから、編成をチェックしていたパーシー、聴音用ヘッドホンを左手に持ち、左耳にだけ押し当てたまま会話を聞いていたエメリナもそれに賛同する。 「そんな秘匿案件じゃ、いくら同盟企業ですと言っても、なぁ。機密保持のために仲間だと気がつかずに撃沈させてしまいました、死人に口なしです、なんて可能性も普通にあるわな」 口調こそ普段通りの軽さのままだが、フェリシアンの表情も、普段の雑談のように明るくはない。 「しかし、放置した場合、それはそれで厄介だ。万が一に彼ら(友軍とおぼしき不明艦隊)が良からぬことをしていた場合、色々纏めて我々に責任をふっかけられる可能性もある」 ブレンダン艦長の声は、最早、呟きというより、溜息に近い。 「……艦長!水中聴音に感あり……おそらく不明潜水艦が発射口を開いています。……何らかの発射音および推進音、数6」 「特定を急げ、SBM(潜水艦発射ミサイル)か魚雷かの判別だけでいい!」 「ほぼ垂直軌道です、SBMと推定!」 「タイミング的に、ヘリ部隊狙いか。着弾予想は」 矢継ぎ早に飛ぶブレンダン艦長からの質問と、フェリシアンのデータ分析による回答。いや、質問への回答というより、何が必要かは認識として共有されている。 あとはただ、艦長が思考するにあたり、情報として優先したい順番を指定するための「質問」という会話形式になっているに過ぎなかった。 「海上まで15秒、そこから先は弾種不明ですが、ヘリ部隊までは60秒程度かと」 更にエメリナの報告も混ざる。 「発射ハッチの閉鎖音を確認しました、次弾はすぐには発射されない模様」 「ヘリ部隊、散開しました。0.4マイル程度の縦列編隊に移行」 「SBM、海面上50フィート前後で強反応、分離型ミサイルです。弾頭18に増加……全弾、ヘリ部隊に向けて飛翔中」 「明確なヘリ対策を用意していたか。となると、潜水艦の目的は、不明艦隊の撃破ではなく、その戦力だけを削ぎ拿捕するか、あるいは調査艦の持つ何かを入手することか?」 「そうですなぁ、わざわざ動きを待ってカウンターを狙うあたりは。しかしそれにしては、機動兵力不足ですな……いや、マゲイアを搭載している可能性も十分にあり得ますが」 「……SBM、ヘリ部隊と交差……着弾音2、ヘリ部隊の反応消失1。1機は少し速度が落ちました、何かしらの被害を受けたものかと」 「観測急げ。潜望鏡の高度を上げるために若干の浮上も可とする」 「了解!」 エメリナがコンソールを叩き、さらなる情報収集を開始する。 「……マゲイアを攻撃型の潜水艦に積むとして、せいぜい2機、おそらくは1機だろうな。それ以上は、潜水艦のサイズを損ない、機動性や隠密性に関わる。ましてや、反応から見るに、テウルギアを運用できる大きさではないだろう」 艦長の呟きに、パーシーが応じる。 「ふーむ、マゲイア3機では、ミサイル搭載の護衛艦が後ろに控えているヘリ母艦1隻分の攻撃ヘリと戦うには、あまり分は良くないですからなぁ。とりあえずヘリに先手を打たせて、ミサイルで数を減らして対応したい、と。状況として、筋は通りますな」 「おそらく不明艦隊側も、その意図は理解している。が、機関を止めている以上、万が一に魚雷を撃たれるのは避けねばならない。それ故に、潜水艦側への牽制、あわよくば撃破を狙うしかなく、先手を打って対潜装備でヘリを出さざるをえなくなった、か」 「潜水艦側が、不明艦隊側の調査艦(アンノウン1)だけは沈めたくないことをわかってるなら、魚雷が主力の潜水艦相手に、あえて散開しないのも、筋は通るわ……って、被弾したとおぼしきヘリが高度を下げてるわよ。このまま行くと着水するわね」 艦長の手が額に添えられる。瞳を閉じられ、少し眉間の皺が増える。 「推論が重なりますが、状況としちゃ説明はつきますな、艦長」 フェリシアンが艦長の方を見る。 その顔には「で、どうしますよ?」と書かれている。いや、艦橋にいる全員の表情に、多かれ少なかれ、その感情がある。 「私の予想になるが」 艦長が、言葉を切る。 「次の手として、おそらく不明潜水艦部隊は、不明艦隊のうち、アレクトリス・グループ標準型ミサイル艦(アンノウン3)を叩くと私は読んだ」 「……なるほど」 フェリシアンがニヤリと笑う。 「ミサイル艦が戦力を喪失し次第、この戦闘に介入する。具体的には護衛のテウルギアに出てもらい、不明潜水艦を殲滅、その上で不明艦隊に接触を行うものとする」 「了解しました。今の話を護衛のテウルギア(ミハイル)と新米(エリーアス)に伝えますが、宜しいですかな?」 「ああ。外れたら少し、私が恥ずかしいがな」 艦長も、フェリシアンほどではないが、微笑を返す。 水面から浮上した太陽が、インド洋の穏やかな波を灼きはじめる。 待ちぼうけが、終わろうとしていた。
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黄昏広がる空の下 一人見上げる黄昏に 闇と群がる老鳥が 去ねや去ねやと孤を描いて 嘲笑う声など気にとめず 神の使いを気取るのか 堕ちた神を名乗るのか ただただ鳥は孤を描いて 食事の刻だと怪鳥が 一声上げると群上がり 後に残るは宵闇が 後に残るは燕の尾 こちらクリストファーダイナミクスグループの企業、バビロニアタスク社のマゲイア部隊スワローテイルズのお話になります。老いた鳥と馬鹿にされながらも抗っていく人たちのお話です。不定期更新です。 1話
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エニグマ・インサイド社 警備部日報 企業歴234年 5月11日 本社オフィスにて侵入者1名を捕縛。 侵入経路は今のところ不明、本社の機密データを盗み出そうとしていたところで偽端末の警報装置が起動し発覚。 急行した警備隊が捕縛を試みるも、激しい抵抗を受け重傷3名、軽傷8名の被害が出る。 最終手段として実行された麻酔銃の飽和射撃、作戦名「ヤケクソ」によって対象は沈黙。 以降の管理は社則記載の「襲撃者及び侵入者捕縛後の管理責任者選定」に従い、高級再現料理開発実験室第三班に移管。 また、第三班による差し入れを即刻辞めさせるよう要請、アレのせいで重傷者が一人増えた。 第三班日誌 企業歴234年 5月12日 先日、本社に侵入し捕縛された男を試食役に使っていいとのお達しが来た、囚人の管理責任者など貧乏くじを引かされたと思ったが、そういうことなら大歓迎だ。 なにせうちには今、レシピはできたが試食役が居ないせいで積まれている試作品が山ほどあるのだ。 度重なる班内での試食会によってダウンした他の班員たちは医務室から出られないし、外から試食役を募ろうとしても領外じゃ張り紙一つさせてもらえない。 だが、苦しい時にこそ天からの助けは来るものなのだな。 警備部門からも「歓迎してやってくれ。」と言われてるし、思う存分付き合ってもらおう。 男の目が覚め、問答もそこそこに持ち込んだ試作品をいただいてもらうように言う。 男は抵抗しているが、社則により収容者は社員食堂の利用を禁じられている以上、これを食べてもらわねば餓死させてしまう。 死なれて管理責任を問われるのは面倒だし、せっかくの試食役を手放すのも惜しいのだ。 致し方なく男を繋ぎ止める拘束具の機能を使用する。 この「Gear of Electric Logical Override」通称「ゲロ」は名前も用途もあまり好きになれないが、こういった場面では心を鬼にして使わねばならない。 苦しいだろうが、彼には耐えてもらうしかない、他ならなぬ彼のためなのだから。 電気ショックにもがき叫ぶ口に試作品をぶち込み、そのまま警備部門から借りてきた偉丈夫に抑えさせる。 やはりこういうのは慣れない、食事とはさせられるものではなく自分から進んでするものだと言うのに……。 心中の忌避感を表情に出さぬよう感想を求める、意識を保ってくれているといいのだが。 男はマスク越しにもわかるほどの鋭い眼光でこちらを睨み付けると、率直で忌憚のない意見を述べてくれた。 またもや失敗だと言う事実で眉間にしわが寄るが、それ以上にこれはチャンスだと思い立つ。 これほど意志が強く肉体的にもタフな試食役は世界広しといえども彼くらいなものだろう。 前にうちに回されてきた試食役は、一週間もすると何を食べさせても何と話しかけても涙を流しながら「おいしい、おいしい。」としか言わなくなってしまったので領内の精神病棟に叩き込む羽目になった。 だが彼は違う、きっとひと月、いや一年以上は持つに違いない。 ならばこれ以降、私は冷酷な執行人となろう。 心を鬼にして彼に試食を続けさせよう。 そしてやがて彼は我らの進化の導となるのだ。 さあ、まずは手元のこの料理を完食してもらうとしよう。 ※レシピメモ1 試食役の感想を聞くに、現在の味が染料以下とするならば、染料の味に近付けることが改善の第一歩となるかもしれない。 次回の試作品はレシピを変更し、着色料の割合を引き上げることにする。 第三班日誌 企業歴234年 5月13日 持ち物を検めたところところ、彼はWJと名乗っていることがわかった。 謎っぽい、いい名前だ、エニグマ向きかもしれない。 朝食を運び込み、意志が回復したWJ氏に新たな試作品を食してもらう。 先日と同じく抵抗を受けるが、「ゲロ」は食への沈黙を許さない。 無理やり飲み込まされる試作品にアリに運ばれるイモムシ程度の憐憫を感じながらWJ氏を見守る。 すると彼は一度目の試食よりも早く復帰し水分を要求してきた。 素晴らしい、やはり私の見込んだ通りだった。 彼は水を口に含み飲み込んだ試作品の味を洗い流そうとしているようだったが、徐々に顔色が悪化していっている様子を見るに、逆に水に混ざって口の中全体に味が広がってしまったようだ。 あるある、私や班員たちも昔よくやった失敗だ。 こうなると吐きそうになるものだから必死に口を押える必要がある。 再び借りてきた警備部門たちに口を押えさせ、吐き出してしまうのを防ぐ。 せっかくの栄養なのだ、心身に沁み込ませてもらわねばもったいない。 なんとか水を飲み干し、大陸の端から端まで全力疾走した後のように疲れた表情をしているWJ氏に声を掛けるが、返事はない。 まさかもう参ってしまったのだろうか、いや、まさかそんなはずはない。 彼は近年まれに見る逸材、こんなところで倒れるような人間ではないのだ。 疑ってはいけない、私は信じて彼に食事を続けさせるのみだ。 一通りの試食を終えると、彼は割と耳に痛い罵倒を吐きながら意識を失った。 確かに、天然食材を使えばいいのかもしれない、限られた人間にしか届かなくとも、味も見た目も完璧ならそれが一番だろう。 しかし、我々にはできない、なぜならエニグマには農業のノウハウなど一ミリたりともないのだから。 ※レシピメモ2 高濃度となった着色料の水溶性の高さは食べ合わせの面でも問題になると思われる。 対策として、着色料の配合物に食用凝固剤の使用を提案、賛成1、反対0、欠席多数にて可決。 第三班日誌 企業歴234年 5月14日 抵抗をあきらめたのか、この日以降WJ氏は非常に協力的な態度で試食に臨んでくれるようになった。 その上で反骨精神は衰えず、参考になる意見を過不足なく吐き出してくれる。 まるで料理を入れると改善点を指摘してくれる機械になったかのようだ。 その後、私からの上申により「ゲロ」の使用は取りやめ、拘束も解除し室内限定で自由行動の許可を取り付けることができた。 代りに警備部門より二名の人員が常に貸し出されるようになり、管理責任者を含め常にスリーマンセルで試食を行うよう指示された。 まあ、その程度なら問題なかろう。 以下、有用な意見に対するレシピメモの抜粋。 ※レシピメモ3 ダンボールとの発言を元に着色料に少量の疑似食物繊維を混ぜ、紙すきの要領で凝固剤を用いずに固形化させることに成功。 これにより凝固剤に割いていた分の容量を他の材料に使用することが可能となった。 次回はこの技術を利用して生物の筋組織素材の再現を試みる。 ※レシピメモ4 少々気が引けたが人糞の構成を解析し固形物形成の手順を見直す。 肉類として使用できる強度はクリアできなかったが、代わりに粉物、練り物などに使用できる新型の水溶粉末が完成した。 これにより食感の再現性が大幅に上昇し、一部食品の形成コストの大幅削減に成功。 ※レシピメモ5 配線コードとの発言を受け、社内で使用されているコードのうち最も前回の試作品の味に近いコードを探索。 発見したコードは銅線が多く含まれていたため、栄養バランスを考慮して亜鉛の追加投入を決定。 同時に、より味のいいコードが発見されたため、次回はそちらも参考に試作しよう。 以上、今後の彼の活躍に期待する。 WJ氏は本当によく働いている。 囚人紛いの監禁生活にも挫けず、与えられたタスクを必死に消化していく様は今はいない我が班員たちを思い起こさせる。 ここまで来ればもはや彼も班員の一人と言っても過言ではないだろう。 実際、彼によって見出されたデータや、彼の功績で生まれた新技術は重役たちにもウケている。 噂じゃあうちの来月の予算案は作月の予算の倍にまで膨れ上がっているとさえ聞く。 これはもう正式採用しかないのでは? ともすれば早速上申だ、今日の分のタスクを消化させたらすぐに上に掛け合おう。 これは間違いなくエニグマ・インサイドの記念日になるぞ。 第三班日誌 企業歴234年 8月21日 上申が通った、WJ氏は明日から晴れてエニグマ・インサイドの名誉社員扱いとなる。 給料も出るし、プライベートの自由度も上がる。 しばらく監視はつくが、それもさらなる実績を上げるための辛抱だ。 WJ氏本人へはサプライズにしようと思っている。 さっき舞い上がってうっかり記念だなんだと漏らしてしまったが、まあ些細なことだろう。 そうだ、今回くらいは彼のリクエストでも聞いてあげよう。 きっと喜ぶに違いない。 第三班日誌 企業歴234年 8月22日 酒類と着色料と嘔吐物で汚れて読めない。 第三班日誌 企業歴234年 8月23日 うっかりしていた、まさか班員たちの復活祭と被ってWJ氏に名誉社員の事を伝え損ねてしまうとは。 二日酔いで痛む頭を無理やり動かして収容室へと走る。 結局昨日の記念日が何の記念日なのかわからないままではWJ氏もさぞ気持ちが悪かろう。 やや遅れてくる護衛の二人を尻目にドアを開ける、すると目に飛び込んできたのは血だまりに倒れ伏す……。 その後のことはあまり良く覚えていない、確かなのは私は底抜けの愚か者だったという事、WJ氏はまんまとエニグマ・インサイドから逃げおおせた事。 そして第三班の来月の予算が先月の半分になることを宣告されたことだけだった。 もちろん、WJ氏の名誉社員についても自然と立ち消えとなった。 だが、この行動を見る限り、彼にとってはそれも歓迎すべきことなのだろう。 冷静に考えると、たぶん微塵も喜ばなかっただろうから。 だが、彼が居なくなっても、彼が残してくれたものはある。 そうした私たちに大量のタスクが残るように、彼にもまだまだやるべきことがあるのだろう。 ならば私はただそれを見送るのみだ。 ※レシピメモ6 今回のような工作行為を避けるため、次回のテーマは圧縮による形成物の固定化と添加物の過剰投与による影響の調査とする。 また、前回のレシピの参考にするべく収集した美味しい配線コードは全て破棄しておくこと。 <<もう一皿>>
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独立研究機関テオーリア ポイエシス・ネットワーク ライフ・スマイル・カンパニーズ アメノウズメ人形工房 ヴェルディ・セリモーニ・ファミリアーリ 島崎 ラシート工務店 機甲整備機構ギア・アッシーズ ロアリティ複合産業有限会社
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メモリー・オブ・フロンティア ※これは設定が固まる前に作られたものです。仮のものとして温かく見守ってください。 概要 国家が消失するよりもほんの少し前、とある馬鹿が世界に抗い希望を残した。 これは記録にすら残らなかったパンドラの箱に迫る物語である。 国家消滅以前を書いたストーリーです。個人的な解釈を多分に含む為参考にするなら作者の許可を。 作者が未熟なため色々と雑です。 ──以上。 by霧月 チャプタ一覧 Prologue Chapter1 Chapter2 Chapter3 作中設定 登場人物 随時更新予定 +主人公サイド ・アルフレード・ボードウィン 今作の主人公。通称アディ。 高性能自律稼働人工知能の開発責任者であり世界最高峰の人工知能開発技術を持つ。 天涯孤独の身で、人並みの愛を知らない。それゆえに人の温かさを求めてアンドロイド制作を始め、今では世界有数の技術者となっている。 腕は確かだが、人間性は研究者らしく悪い。 現在アジア連合国軍のヒマラヤ山脈部隊の技術少尉としてテウルギアの研究をしながら過ごしている。 ・リコージャ・エインケック アディの持てる全てを費やして制作されたアンドロイド。アディからの愛称はリコ。 アディが求める人工知能のプロトタイプであり未完成品。 全身の至る所を培養した皮膚で覆い、人工筋肉によって人間にかなり近い質感の体を持つ。 声も大量のサンプリングデータと調教によって人とまったく変わらない音声を発する。 感情データなどが圧倒的に不足しており、創造主であるアディには強く当たる。 登場兵器 +テウルギア ・グラディウス アディの所属する部隊が配するテウルギア。所謂マルチロール機であり換装することによってあらゆる状況に対応する。 技術的にはかなりスタンダードな機体で、よく言えば癖がない。悪く言えば器用貧乏なのが特徴。 騎士をモチーフとしたマッシヴな外観と白いカラー、白兵戦用に装備された直剣と盾が基本兵装。 頭部には電子戦に対応するために大型アンテナが装備されている。 用語一覧 ・テウルギア ある島国が生み出した人型重機を戦闘用に改造した汎用兵器。 元が重機なだけあり優れた積載量、耐久度を誇っておりその戦力は戦車師団5個分に相当するという。 代理戦争ではキングの駒として扱われ、ポーンなどその他駒達の指揮用のマスターブレインでもある。 駒の中で唯一、有人型であり戦場において文字通りキングとしての役割を担う事となっている。 これが撃破される、行動不能にされた場合それはチェックメイトを意味する。(テウルギアに有効打を与えられるのは基本的にテウルギアのみである為) ・駒 テウルギアをキングとし、命令を実行するバトルドローン群。あくまでドローンであるため命令に忠実に動く。 チェスの駒になぞらえてナイト、ルーク、ビショップに分けられている。 ナイトはテウルギアを簡易化したものとなっており、格闘戦に偏った調整をされておりキングを守る近衛として機能する。 ルークは対空能力や機動力に偏った調整をなされており、遊撃や攪乱用に設計されている。 ビショップは偵察用に設計されており、敵上空からのスキャニングや欺瞞工作、電子戦に対応できるようになっている。 ・『マザー』 突如としてテウルギアと共に世界大戦に介入し、終戦を促した超高精度人工知能『仮想人類』の本体。 その本体は月にあるとされるが、その全容と同じく全ての詳細が不明である。 現在ではテウルギア同士のクリーンな戦争を管理しているそうだが…? ・アースベルト 衛星軌道上に打ち上げられた複数の衛星からなる迎撃システム。 各国家が打ち上げた迎撃衛星群とそれを制御する『マザー』が配置した13機のメイン衛星の事を総称してそう呼ばれている。 これによって空は封鎖されており、飛行するには飛行許可が必要である。 無許可で規定高度以上を飛行した物体は全て無差別に衛星群からの攻撃によって即撃墜される。 監視範囲は地球全域となっており、一説では国家を消し炭にするほどの兵器ではないかとも噂されている。 ・代理戦争 テウルギアをキング、その整備基地兼移動要塞をクイーン、その他兵員達をポーン等様々な種類の駒に置き換えた戦争。 各国の威信や利益、存亡ですらもこのゲームの勝敗にかかっており、負ければその国は相応しい対価を支払うことになる。 これは一種のスポーツとなっており、この一部始終は記録され全世界に中継される。 競馬などと同じく裏では賭けも行われおり、一種の経済活動にもなっている。
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……遡ること数十年前。 チャールズ・ボフジャッキー博士が、テオーリアの軍勢……オーガーたちに対抗するべく、「電子制御に頼らない駆動系を持つギガ」の仮設を提唱した。 パンクス・スチーム。 かつて産業革命の時代を牽引した蒸気機関で稼働するギガの理論。誇るべき圧倒的な出力は例え50mを超える超巨大な鋼鉄の塊すら易々と動かせるその動力は、世界中の誰からも避難された。 動力が電子制御を捨てる――それはリミッターの不在も、そして超巨大な巨人のコントロールをそう容易ではないものにすることも意味している。それどころかまともな遠隔攻撃の武装すら備えられない。 そんなゲテモノに乗ろうとする人間などそうそういないのだ。 かくしてボフジャッキー博士の理論と、そして博士の作ったギガ=ギア・ゴーレムも、歴史の闇に埋もれることとなる……はずだった。 発見されたオーガーのうち、一体。 全長300mを超える超巨大オーガー『カオスジャイアント』が、その動力を備えていると発覚するまでは――。 ○主人公 ムサシ・ボフジャッキー ボフジャッキー博士の孫にあたる、イギリス系日本人の青年。 並より抜きん出た機体制御の才能故にレメゲトンとの喧嘩をしょっちゅう起こし、ギガの操縦が上手くできないどころか、その権利すら剥奪されかかる。 同じく人類を守る仲間たちからもいじめを受け始めるも、彼は持ち前の正義感故にやり返しはしない。 ……ただ一つ、祖父から教わったことを守り続けるために。首からぶら下げたペンダント・ロケットに、今は亡き家族写真を収める。 第1話 巨大基地に、かつて見たことのない敵の機体が鹵獲できたとして運び込まれる。 後に『メガトン・ゴーレム』と名付けられる機体――一つの胴体から映える三つの頭、六本の腕、七本の足。だが各部に織り込まれたパンクス・スチームの源が馬鹿げた攻撃力を実現している機体。 完全に停止したメガトンから解析を進めていくうちに、内部データに一つの設計図があったことを研究者の一人が発見する。 ボフジャッキー博士の作り出した最初期のギガ『ギア・ゴーレム』の設計図だった。 ……それがムサシに知らされると同時に、ムサシの住む街にとあるオーガーが迫っていると知る。 だが同時期に、ムサシはレメゲトンとの喧嘩で機体を剥奪された直後だった。 「別に俺には関係のなくなった話だ……」 町から去る準備を整えるムサシに、とある話が舞い込んでくる。 カオスジャイアント――ただ歩くだけでも町一つを踏み潰す驚異そのものが、すぐ眼前まで。 第2話 会議室に集められたテウルゴス一同……急造チーム。 各地を転々とする中でエースとして名を馳せた男。四本腕を実現するために二人乗りのギガに双子。 その他数名で作られたギガのチーム。だが研究者の計算では、『カオスジャイアント』の巨大すぎる装甲を貫くにはどうしても並大抵のギガでは対抗できない。 唯一、ギガを持たないムサシが呼ばれた理由を尋ねる。 研究者が表示したスライド……そこには、あの『ギア・ゴーレム』の趣を残した機体の写真が表示されている。 「あの設計図を参考に、私が独自の改装技術を施した。 『メガトン』は機能を停止したが、あの装甲と動力の塊を一部流用して建造した。 名付けて『アルティメット・ギア』――仕様上レメゲトンが搭載できない。 だからこそ普通のテウルゴスにはまともな操縦なんてできない。 ムサシ、君ならできるか?」 写真の中に、亡き祖父の面影を見るムサシ……できるかできないかなど、もはや関係なかった。 「やる。やってやるさ」 第3話 出撃。町の外で一斉に並んだギガたちの攻撃。だが巨大な装甲に弾かれて、傷一つつけられない。 接近戦を挑もうとするモノも居た。だが単純な蹴り上げに機体ごと粉々に砕け散った。 まるで足元のゴキブリを踏み潰すような一挙手一投足。だがどこまでも固すぎる・デカすぎる敵にまともに対抗できない。 このままでは町に侵入を許してしまう。 そんな中で、ムサシの駆るアルティメット・ギアだけがその侵攻を阻んだ……といっても、前へ進む足を止める程度だが。 60mの機体が、300mの巨大な機械の侵攻を止める……それを可能にする圧倒的なパンクス・スチームの膂力に驚く研究者、町長、司令官たち。 それよりもテウルゴスたちが驚いているのは、レメゲトンなしという超絶ハンデを背負いながらギガを操縦しきるムサシの操縦技術だ。 だが、初めて振り下ろされるカオスジャイアントの腕……横薙ぎに振り払われたパンチに、宙を待って地面に叩きつけられたアルティメット・ギア。装甲も砕け散り、カメラアイから光が失われる。 絶望に明け暮れる皆。慌てて通信を飛ばす皆……しかしムサシからの返答はない。沈黙のみ。 やがて町を見下ろし、進路を戻る『カオスジャイアント』……。 慌てて逃げ惑う住民たち。退避命令を下す司令官と町長。 巨人の一歩が、町を粉々に砕き始めた。 第4話 コクピットの中……ボロボロになって煙を吐く計器に囲まれるムサシ。 「動け! 頼む! 町の皆が……俺がやらないと……」 だが沈黙したままのコクピット。アルティメット・ギア。 「爺ちゃん……俺は……ッ!」 その瞬間、ペンダント・ロケットが不可思議な光を発した。 ひび割れたコクピットの一角、計器でもなんでもない、単なる穴が、同じ光を発する。 謎の穴。だが妙に形の合う場所。 首からペンダントをちぎり取り……はめ込む。 その瞬間に、光がコクピットを……アルティメット・ギアの全身を包み込んだ。 第5話 破壊される町中……カオスジャイアントが、まばゆい光に振り返る。 ……全身の各部より吹き出すスチームの出力で飛翔するアルティメット・ギア。 ひび割れた装甲が飛散し、内側から姿を表した、最もシンプルで、そして原始的な形。 ギア・ゴーレム。 全身のリミッターを解除されて二倍の出力を発揮したギガ。 カオスジャイアントの巨大な腕で繰り出されるパンチ――上空250m前後でうねる大気。 さらりとかわし、その腕に乗り上げ、疾駆するギア・ゴーレム。 巨大な頭部と、眼を合わせる。 「爺ちゃん! 帰ってきたぜ!」 ギア・ゴーレムのパンクス・スチームが腕部に集中し、放たれる一撃が、カオスジャイアントの頭部を吹き飛ばす。 力を失ってその場に倒れるカオス・ジャイアント。 そしてその渦中で、ついにリミッター解除の果てに、バラバラになるギア・ゴーレム。 宙に投げ出されたムサシの体を、仲間が助ける。 ペンダント・ロケットはコクピットに差し込まれたまま、どこかへ消えてしまった。 だが、ムサシは誇らしげに親指を立てる。 ……というわけで在田流「テウルギア・ギガ」でした。 メカの名前がなんか決闘者臭い? さて何のことでしょう? スチームパンクな設定は元々好きなんで、じゃあモチーフも……あ、安直? そして「テウルギア」という枠の中でありながらパシリムみたいなロボットができると……。 ほうほう。ではマジンガーで、みたいな、安直です。 ですがこんな枠があるのも一興ですな。おかげでテウルギアでやることのなかったパターンのあらすじを作れましたし。 しかし肝心なのは「なぜこれがプロットだけなのか?」ですが……。 全長60m前後という巨大構造物が誇るディテールはパシリムでやったわけですけど、 個人的に「それ映像媒体だからできて、小説媒体じゃ無理じゃねぇ?」という発想でした。 作者のスタンスがこれである以上、小説という形にしようにも途中で投げ出すのが見えてしまったので、ならあらすじだけでも、ということでプロットのみです。 なまじっかアニメのあらすじとして読めるもの、として意識したつもりです。
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プロローグ 結局、戦争は消えなかった。 地球という惑星の隅々が開拓され、気軽に旅行シャトルを打ち上げ、宇宙を探索する時代になっても。 人類は、争うという根源を解決できずにいた。 けれど、変化はあった。 くだらない利権争いに躍起になる彼らにも変化はあった。 人型汎用兵器、『テウルギア』。 それに随伴する機械化統合自律戦闘師団。 中立に位置し、テウルギアの戦場を管理する謎の超高精度人工知能、通称『仮想人類』。 それはとある小国で生まれあらゆる敵対者を蹂躙しつくした。 そして、今までの戦争を全て塗り替えてしまった。 発達しすぎた対空技術。それによって一周した戦争の在り方にそれはあまりに、あまりに強力すぎた。 人工筋肉によって生まれた常識外れの膂力、爽快な動きと機動性、人格を模したOSによって実現された人が如き挙動を示す、巨影。 その後ろを守るように付き従う鋼鉄の骸達。 それら無数の最先端技術と伝統工芸的技術を惜しみなく投入された人類の歪な叡智の結晶は突如として第五次世界大戦中に現れ連合軍、及び戦争参加国全ての軍を瞬く間に蹂躙した。 歴史の教科書にすら載っている、恐るべき事件だ。 こいつの登場によって戦争は瞬く間に変化し…今では、軍上層部が行う一種のエクストリームスポーツとして続いている。 代理戦争。そう、簡単に言えばゲームだ。 テウルギアという巨人をキングとして、それに随伴する骸を駒と置き換えた疑似ボードゲーム。 戦場を定め、駒を定め、目標を討ち取り勝鬨を上げた方が勝ちの旧世代的戦争。 その一部始終を記録して全世界に配信するありそうでなかった斬新なスポーツ。 これを退化と嘆くべきか、より理性的に争うようになったと喜ぶべきか。 まぁ、今その事はどうだっていい。 名実ともにテウルギアは戦争の代名詞となった。なってしまった。 では。 それ以外のモノは?
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ハクレン号の航海日誌 作:鬼柳 香乃( Twitter ) 概要 アレストリス・グループ、技仙公司系の輸送艦を軸にした、軍事もののような、冒険もののような、少し宙ぶらりんな感じの作品……になりそうです。 各話 第1話 ベンガル湾での待ちぼうけ(完) その1 (2017/08/16) その2 (2017/08/19) その3 (2017/08/25) その4 (2017/08/31) 幕間 コルカタの夜 その1 (2017/09予定) 以下は予定なので若干変更があるかもしれません。 第2話 アラビア海急行 その1 (2017/09予定) その2 その3 第3話 義務と責任、その顛末 その1 その2 その3 その4 その5 そして航海は続く その1 登場人物 もうちょっと纏まってから纏めて書きます 作中設定 技仙警護 300名ほどの社員から成る企業。尚、戦闘要員は、他社やフリーランスの傭兵に大半をアウトソーシングしているので、上記の数字の大半は、あくまで管理・運用の要員に限られる。 名前の通り、技仙公司の子会社。親会社の技仙公司が人事権を完全に握っている。用途的には雑用や辺境警備が主。 アレクトリス・グループ複数企業が携わるプロジェクトでは、技仙公司が他社の指揮下に入る人員を要求されたときに、派遣されたりもする。 技仙公司そのものの社員からは、他社の指揮下に入ることそのものが、大企業の社員としてのプライドが傷つく、という声が出るため、体よく派遣しやすい人を集めた下位組織。 本作の主な関係者は、警備部主計課に所属する。 他に、警備部にある課として、陸戦課(防衛人員の派遣)、施設課(防衛施設や装置の建築・運用)、情報課(業務を円滑・有利に進めるため各種情報の収集や、防衛対象地域周辺の偵察)がある。 更に、別セクションとして、開発部・製造部・人事部・営業部。 企業ページは内容がもう少し纏まってから、後日作ります。 ハクレン号 識別番号CSB-07(Cargo Submarine type-B 07th) 技仙公司が10年ほど前に製造した、潜水式輸送艦。 +詳細 1番艦はブラックゴーストと冠され、しばらくは「ブラックゴースト型潜水艦」とも呼ばれていた。しかし、当の1番艦が就航5年ほどで戦闘により撃沈したため、その名前は現在では殆ど使われていない。 12番艦まで建造されたものの、現在残っているのは3・5・7・8・9・11・12番艦と、約半分程度。 全長310m、全幅21.5m、通常時の喫水は12.5m。最大潜行深度は150m程度だが、通常は水面下25m程度を航行する。 ディーゼル・エンジン発電による通常航行モードと、船体外装に使用される蓄電合金を利用し、エンジンを使用せずに航行する静音モードがある。静音モードでの航行可能時間は最大12時間程度。 航行速度は、海上27ノット、海中22.5ノット程度。瞬間的にはもう少し速度を出せる。 積載は旧世代の20フィートコンテナ・40フィートコンテナを基準に作られている。最大積載量は20フィートコンテナにして1,500個、1,800トン程。(建造時は1,600個・2,000トンだったが、改修により変更。詳細は後述) 潜水能力のない、類似サイズのオープン型コンテナ船では7,000個程度のコンテナを輸送できる点と比較すると、かなり輸送力は低い。 しかし、100トン程度の輸送を限界とし、燃費も大幅に劣る大型ステルス輸送航空機と比較すれば、速度で圧倒的に負けるにせよ、十分な輸送力と言える。 総じて本形式は、隠密性・単独運用による効率化も含めて、上記輸送手段の中間に位置する存在として、妥当な性能と見なされている。 戦闘装備は基本的に配置されていない。但し、敵勢力圏を単艦で通過するための装備として、ソナーおよび静音推進装置は、戦闘用潜水艦に準拠した規格の高性能品が装備されている。 ブラックゴースト撃沈事件に伴い、最低限の護衛戦力を随伴することが求められるようになったため、当時生存していた全艦に、テウルギア1機(およびその補給物資)を積載する装備と、海上での発進のためのハッチが追加改造された。 テウルギアの整備班や補修用機材までは積載できないので、航海中の戦闘で破損が生じた場合には、応急措置以上の対処は行えない。 そのため「可能な限りは敵と接触しない、接触した場合は1回か2回ならテウルギアで撃退する」という運用となる。 (他に、同スペースを利用して、テウルギアのかわりに比較的小型の武装ヘリ1機、あるいは小型マゲイア2機を積載することも可能。状況に応じて選択される) アレクトリス・グループはCSB型の有用性は認めていて、後継型となるCSC型の開発が技仙公司で進められている。 輸送力・船体規模は大きな変更はなく、テウルギア運用を前提とした、艦載機体の出撃ハッチへの注水機能(つまり潜水中にテウルギア・マゲイアを出撃させられる機構)や、最低限の魚雷装備、旋回性能の強化など、武装輸送艦としての性能強化を主眼になっているとのこと。 技術的に新規の挑戦ではないため、近日中に1番艦がロールアウトするのでは、と目されている。
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バー『フラテッロ』 イタリア語で「兄弟」を意味するそこは、とある二人のテウルゴスが切り盛りする、よくわからないバーである。 バーテン、サヴィーノ・サンツィオ 給仕、ジルグリンデ・アル・カトラズ EAAはモズマ統治体に所属するサヴィーノと、アレクトリスはリュミエール・クロノワールに所属するジルグリンデ……。 なんでこのバーにいるのかは、よくわからない。ただここにいる間は日々の戦争も忘れて、ただただ暇な日々を送る。 ……しかし、たまにはふらっとお客さんが来るのだ。たまには。 ~現在従業員(パート含む)募集中~ ――ということでお遊び企画「ジルサヴィの部屋」です。 ページ名の都合で在田が作者みたいになっていますが、そんなことはないです。 このページや小説で制限する項目は一切ありません。 皆さんどうぞ、好きなテウルゴスを出して、他愛ない会話をさせてあげてください。 ※これはお遊び企画です。実際のテウルギア世界観の人物・団体・設定などとは一切関係ありません。 発案:霧月さん 企画:在田 第1回 ゲスト:フォルクハルト・ユンガー 書いた人:在田 第2回 ゲスト:レイチェル=エリザベート・クロノワール 筆者 霧月 第3回 ゲスト:エンヘドゥアンナ ロート バイ:琴乃 第4回 ゲスト:イリヤ・ムロメッツ、リュドミラ・アナートリエヴナ・シャーニナ 筆者 LINSTANT0000 第5回 ゲスト エメリー ソフィア、??? 筆者 アルファるふぁ 第6回 ゲスト フリーデ 筆者 薊 第7回 ゲスト アリシア=セレナーデ・クロノワール、ナイツ・オブ・ペルソナ 筆者 ソル・ルナ/更科 月華 第8回 ゲスト レイナ・スメラギ 筆者 薊 第9回 ゲスト ハティ・マーナガルム、ノーヴェ・コーダ 筆者 もふもリスト 第10回 スリーワイズメン ゲスト ディサローノ 筆者 在田 第11回 ラジオ・デイズ ゲスト 陳 明秀 書いた人 琴乃
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警告:このSSは「テウルギア」の設定が完全に構築される前に作成された、プロトタイプSSです。最終的な世界観・設定とは齟齬がある可能性をご了承ください。 Dancing_on_hands; -03- written by せれあん 2話 「ガンマ・チーム……エンゲージ」 通信機から入った声は、最後は殆どノイズと爆音にかき消されていた。同時に、同じ爆音が聞こえてくる。 それは、チェンドラ達の想定通りのタイミングの接触だった。 既に廃墟と化しているとはいえ、侵入経路としてわかりやすいハイウェイを通った場合のプラン、である。ガンマ・チームかの、扇状に斜角をつけた携行用ロケット弾による斉射。あわよくば、それを回避した先にあるクレイモアトラップによるダメージも含めての、文字通りの「奇襲」である。 「煙幕展開!撤収するぞ!」 ガンマ1の声とともに、先ほど以上のノイズが通信装置に乗る。十中八九、ガンマ・チームの潜伏していた建物ごと、有線通信装置が破壊されたのだろう。 「スカウト1、そこから状況を確認できるか?」 「煙幕が展開されていて、状況確認できません……いえ、エコー1の移動を確認。プラン通りエリアL7Wの大通りに緊急回避しましたが、トラップは寸前で回避されました。勘の良い奴です」 「敵の被害状況は」 「右膝関節から煙を上げていますが、動作はしています、損傷のほどは不明!」 「足に当てたか、流石だ……。あとはうまく撤収してくれていれば……」 正直なところ、五分五分ではある。だが、今はそれを心配する余裕はない。ある意味、アルファ・チームのように「何もわからないまま攻撃を受けた」わけではない以上、彼らはベストを尽くしてくれたと信じることができる。 「スカウト1、奴は足をとめています。センサーの展開を確認」 「歩兵による追撃を警戒し、熱源センサーで周囲を索敵、か。セオリー通りだな」 「スカウト1、エコー1の浮上を確認。隠れます」 スカウト1が居るのは、送電線のある鉄塔のかなり高い位置だ。索敵には向いているが、必然的に敵からも見えやすい場所となる。 奇襲を受けた敵が手練れであればこそ、まず周囲に居るであろう「こちらの目」を潰しにかかるのは必然なのだ。 「スカウト2、エコー1からの小型ミサイルを視認……スカウト1の潜伏地に直撃」 ある意味、当たり前であり、無情な連絡である。しかし、直後の連絡は、チェンドラにとっては好ましいものだった。 「こちらスカウト1、リペリングにて退避に成功しました。これより有線通信機を放棄し撤収します」 「よくやったスカウト1、無事の脱出を祈る」 ギリギリだったようだが、スカウト1は撤収に成功したようだ。目を潰されたのは戦術上、決して好ましいことではないが、それは想定の範囲である。 敵は優秀だが、幸いにして、こちらの想定を超えるほどではない。そして、優秀であるが故に、動きが読みやすい。 極論すれば、このような状況で、テウルゴス(およびテウルギアのOSであるレメゲトン)がパニックを起こし、非合理的な行動に出るほうがよほど、対処に困るのだ。何しろ相手の行動が非合理的であればあるほど、被害が発生しないよう対応することは難しい。 「スカウト2、エコー1をロスト。PIDからのエコー1のマークが消えます。おそらくはプランB1-4のシナリオ経路と思われます」 スカウト2は逆に、当初から「敵が来るであろう方向」に特化した、配置と偵察を行わせていた。 故に、街の中に入ってしまった敵がエコー2を発見するリスクは低いが、逆に、ほとんど索敵ができなくなる。これも人員規模を考えれば仕方ない選択であり、想定済みだ。 つまり、ここから先は完全に「敵と遭遇した部隊が報告しつつ攻撃をする」というゲリラ戦術に徹することになる。もっとも、敵が逃げなければ、だが。 否、逃げてくれれば、それでいいという気はしなくもない。 本作戦の目標は敵の撃破ではあるが、それはあくまで目標である。通常で考えれば、マゲイアを1個大隊、すなわち32機から40機をもってあたるべき存在がテウルギアなのだ。いかに裏をかいた作戦で、こちらが特務部隊とはいえ、1個小隊でどうにかするべき敵ではない。 「ここまでの奴の動きは、正確にセオリー通りだ。おそらく次の手は……」 言い終わる前に通信機に盛大なノイズが乗る。 「敵、ECMを起動。強度900程度と思われます」 ラムダ4が叫ぶ。無線機器のノイズを考えれば、直接話すほうがいいのは正しい判断だ。 「やはりな、それにしても思い切ったやつだ。通信状況は?」 「ベータ・チーム、シグマ・チームおよびスカウト2との通信は生きています。デルタ・チームはシグナル受信しますがノイズが激しく不安定、クシー・チームはシグナルそのものが死にました」 ECM。すなわち、強烈な電波などにより、周囲の電子機器に誤動作を生じさせたり、レーダーを妨害する装置。一般的な電子戦の対抗手段だ。 PIDなど作戦の根幹に関わる機器には、かなりの強度のECM対策が施されているが、なにしろ急ごしらえの有線通信では耐ECMシールドを施す余裕などないから、通信に支障はでる。 「奴はおそらく、ジェネレーター出力の半分以上をECMに回している。好機だぞ」 たとえばテウルギア同士の戦いであれば、ECMはあまり役に立たないとされる。携行兵器に多少の不具合を与えることはできても、テウルギア本体は十全なシールドがされている以上、ECMによるダメージはない。 つまり、多少の無理をしてECM出力強度を上げたところで、「ECMという矛よりも、対ECMシールドという盾が勝る」状況は到底打破できないため、エネルギーの無駄遣いになる。当然、機動性やエネルギーに依存する武器出力は落ちるため、デメリットのほうが大きくなるという算段だ。 だが、今はこの戦場に、テウルギアは1体しか居ない。少なくとも、敵からすればその可能性が高いと判断している筈だし、実際それは正しい。 故に、歩兵同士の連携を潰すため、テウルギアそのものの性能を下げてでも、通信や電子機器の妨害に当たる。経験豊富な戦士の、正しい判断だ。 「だが、甘い」 ――セオリー通りの戦いというのは、読みやすいものだ。 「こちらベータ4、クシー・チームによる攻撃を視認。敵に直撃弾を与えました。クシー・チームは煙幕展開して撤収した模様。ベータ・チームも20秒後に接触します」 ECM起動直後の、特に機動性が落ちたタイミングを狙っての襲撃。相手は回避に回らざるをえなくなる。だが、機動性が落ちた状態で、安全に――否、安全そうに回避できる場所は、更に限られてくる。 「ベータ1、エンゲージ」 再び無線から、轟音とともに報告が入る。これでいい。 「うまくいっているな。慢心せず、このまま終わらせたいものだ」 正直なところ、チェンドラは敵のテウルギア――レッド・サーフェスと言ったか――の搭乗者(テウルゴス)を、高く評価している。敵味方あわせて知りうるテウルゴスの中でも、間違いなく上位10人には入るだろう。 奇襲を受けてセオリー通りに戦い、更に泥沼にはまる。なるほど、今の彼のおかれた状況は決して良くない。知識が無い者なら敵を愚か者と唾棄するだろうが、それは違う。 奇襲を受けてもセオリー通りに戦えるのは、鍛錬によるセオリーの習熟と、こういった場合での冷静さを兼ね備えているからだ。 セオリーから外れた行いというのは、だいたいハイリスク・ハイリターンになるか、あるいは本人が見落としているリスクの塊でしかない。つまり、戦闘における「セオリー」というのは、つまるところ「平均的に良い結果を出すための手段」なのだ。 「全くもって、こんな戦場で出会えたことを感謝すべきだ」 今回はたまたま、上層部その他のお膳立てがあり、セオリー通りに動く敵を、セオリーを逆手にとって「嵌める」機会があったから、今のところ優勢になったにすぎない。 もし、この敵に、偶発的、あるいはお互いを認識した状態で正面切って戦うことになったら、どれだけの被害が出るかもわからない。「シンプルに強い敵」の恐ろしさは、そういうところにあるのだ。 「こちらクシー1、仮集合ポイント4に到着。ガンマ2、3と合流しました」 「他のガンマ・チームはどうした」 「はっ、ガンマ1が撤収中に腕を骨折、および退避中に重傷のアルファ5を回収、ガンマ4とガンマ5が応急措置をしています。助かるかは半々です」 「……そうか。無理せず待機と治療を」 アルファ・チームが1人とはいえ、生きていた。いや、他のメンバーも生きているのかもしれないが、流石にこの状況で捜索命令は出せない。 「ECM低下、ほぼ0です」 「デルタ2、襲撃ポイント4B付近で敵テウルゴスを視認。左腕をロストしています。右膝は煙を噴いたままですが機動性の低下は見られません。携行武器は右腕のライフル、および何かしらの背部格納武器と推定」 「デルタ・チーム、いけ」 「了解、ゴーゴーゴー!」 敵の戦力を削りつつあることが、実感となって湧いてくる。 「デルタ・チームからの信号途絶」 ――さて、どれくらいダメージを与えたか。 ロケット弾をまだ撃っていない攻撃チームは、自分を含むラムダ、およびシグマだけだ。輸送ヘリの都合上、複数回分のロケット弾は持ち込めなかったし、一撃離脱は繰り返すと過度な疲労や消耗を生む。 残り2波の襲撃で、奴を潰せるか。ここまで来れば分の悪い賭けとは言いがたいが、安定して勝てるような状況でもない。アルファ・チームが無事なら、という考えは早々に遮断する。 だが。 ここに来て、チェンドラ達にとっての、二度目のイレギュラーが発生した。 「シグマ1より、エコー1、浮上。高度を上げています。目測200」 「何?」 テウルギアは「空を飛べる」兵器だ。とはいえ、航空機やヘリのように、飛行を目的としているわけではない。あくまで機動性の一部要素として、三次元の跳躍や移動ができるに過ぎない。 そして、どのような物体であれ、地球上に居る限りは、重力の制限を受ける。つまりそのうち落下する。着陸の瞬間には、機体にかかるモーメントが飽和するため、機動面において無防備になる。そこを歩兵に狙い撃たれれば、それこそ致命弾を受ける確率は高い。 いや、あるいはスラスター量を調節すれば空中を低速度で飛行し続けられる機体もあるが、この状況でそれをやるのはロケット砲の的になるのと同義であり、敵はそのような愚か者ではなかった筈だ。 「何を……考えている?」 敵が撤収するのか。それは1つの選択肢だろう。待ち伏せされ、地の利を徹底的に生かした戦術で叩かれたのだ。 あるいは内部のセンサー等に不具合を生じたとしたら、見た目以上に深刻なダメージを負っているのかもしれない。 しかし、事態はチェンドラの予想を超えていた。 「スカウト2より、エコー2が被弾……爆散しました!」 「な……状況を報告せよ」 冷静に考えれば、報告に対して報告を求めるのは愚かな発言だ。それほどにチェンドラが動揺したとも言える。何しろ、作戦時に想定すらしていなかった事態だ。 「敵輸送ヘリが何らかの攻撃を受けて空中で爆散しました……いえ、これは……テウルギアです、テウルギアを1機視認。こちらに向かってきます、エンゲージまで90」 「スカウト2、可能な限りで敵機を照合。EAAの奴らか……!?」 単純な消去法ではある。こちらの友軍であれば、わざわざこのタイミングで仕掛けてくる可能性は低いし、もっとマトモな連携がとれる。当面の敵であるクリストファー・ダイナミクス系の機体であれば、奴らにとっての仲間を撃墜する理由がない。少なくとも「高度に絡み合った政治的理由」とでも言うようなイレギュラーでもなければ。 「シグマ・チームは待機、エコー1への攻撃は待て」 「シグマ1了解、待機します」 「スカウト2より、照合……データベースにありました、おそらくEAA系カルタガリア兵工廠所属、ライコウです。データベースをPIDに展開します。以後、エコー3としてマークします」 同時に、タブレット端末およびゴーグルに情報が展開される。 テウルギア、ライコウ。テウルゴスおよびレメゲトンの詳細は不明。背面武装を長距離用ブースターで固定し、電撃戦を得意とする機体。 ――なるほど、この状況にはもってこいか。つまり、レッド・サーフェスを狙っているのだろう。 「さて、どう動くか……」 そうチェンドラが呟いたのと、ラムダ2が叫んだのは、ほぼ同時だった。 「オープンチャンネルによる無線通信を検知……これは、エコー1がこちらとの交信を求めています」 「何……ふむ……」 無線による回線を開けば、こちらからも電波を発信することになる。完全な特定は困難にせよ、敵にとってこちらの潜伏場所が把握できるわけだ。 逆に言えば、こちらからすれば、余程の酔狂でなければ敵と交信などする理由はない。だが、この状況であれば――。 「……回線を開け」 一瞬の逡巡はあったが、そう言い切る。何かを言いたげなホセ(ラムダ2)の顔を、あえて無視する。 通信機から聞こえてきたのは、やや低めの、若い男の声だった。 「……こちらレッド・サーフェスのテウルゴスだ。規定により今は名乗れない。手短に言う。貴君の戦術と腕を借りたい。こちらには投降する準備がある」 すなわち。共闘して、新たに現れたテウルギアを撃破してくれれば投降する、ということだ。 ――さて、どうするか。選択肢は2つ。レッド・サーフェスを撃墜し、状況を注視すること。おそらく敵の狙いはレッド・サーフェスだけで、我が社の囮部隊に釣られた可能性は低い。そういった欺瞞情報を、わざわざEAAにまで流してはいない。 であれば、エコー3……ライコウのテウルゴスも、ある程度の状況は把握している筈だ。その上で、どこから歩兵に撃たれるかわからない市街地に踏み込むよりは、レッド・サーフェスを討ち取ったことのみを戦果として帰還する方が理にかなうだろう。 だが、万が一にも、エコー3が「我々も」ターゲットと見なしている場合、もはやジリ貧ですらない。攻撃力が半減した我らでは、どうにもならない可能性が高い。 あるいは、レッド・サーフェスと共闘するか。レッド・サーフェスは遠距離砲撃と、こちらからの攻撃により武装の多くを失っている。だが、歩兵との連携で市街地戦に持ち込むなら、勝機はなくもない。 問題はその後……奴の言う、投降が本気かどうか。如何せん、口約束レベルでしかない話だ。国際条約などというルールは、既に形骸化している。何しろ違反した者が居ても、公平に制裁を下せる存在がこの世には居ないのだ。 つまるところ。 「どちらのテウルギアに協力したところで、潰されるリスクはありますな」 ラムダ1、すなわちチェンドラの副官……もとい課長補佐を務めるダグラスが呟く。長い付き合いであり、この程度の思考は共有できてると言っても過言ではない。 数秒、考える。レッド・サーフェスはアルファ・チームの仇ではある。 だが、奴にはある種の、「戦場における常識」や「戦士として完成されている」素養があることはわかった。であれば――。 「受諾しよう、レッド・サーフェス。こちらの攻撃可能なユニットの位置を送る」 PIDを操作する。部下の表情がこわばるのは見えているが、隊長として、こうすべきと考えた。 「――感謝する。貴君等に期待する」 僅か30秒程度だった通信が、切断された。 4話