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嗚呼。それにしても酒が欲しい…… ◆AZWNjKqIBQ 振るう暴力を裁きの雷と言い放ち、自身を神と名乗る傲岸不遜な男――ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。 狂王の実験場に落とされて間もなく一つの命を奪い、月の出る夜空に哄笑を響き渡らせる。 そのけたたましい笑い声にか、それとも彼の足下に転がる死体から広がる異臭のせいか、 そこに一人の男が近づいて来ていた。 簡素な着物に赤いスカーフを纏った長身の東洋人。 片方の手にバックを提げ、もう片方の手には水筒を吊ってゆっくりと道を歩いてくる。 様は静かであったが、その細い瞳に映るは剣呑な揺らめき。 その男の名は戴宗。国際警察機構、最強の九大天王が一人――神行太保・戴宗。 自分に酔っていたムスカも、影の中から月明かりの元へと踏み出されればその男に気付く。 「……なんだ東洋人か。私の世界には必要ないな。ここから帰り次第国ごと滅ぼしてやろう」 無礼で挑発的な発言。だが、戴宗はそんな相手の不遜な態度を無視して静かに問うた。 「こいつをやったのはお前さんかい?」 戴宗が指す「こいつ」とは、勿論彼の眼前に横たわる黒焦げた遺体のこと。 細い目が見つめる先には、まだ若かったであろうと思われる小柄な亡骸が薄煙を上げている。 「神に逆らった愚か者の末路だよ」 にへらと笑いながら答えるムスカの眼には、狂気と自信が満ち溢れ爛と輝いている。 一方、そんな彼へと向けられる戴宗の眼は至って静。 ――何時何時此の身が如何なろうと、何処で死のうと誰も悲しまない。だから、如何な任務にも耐えられる。 戴宗が仲間に繰り返し聞かせた言葉であり、また彼自身にとっての矜持でもあり覚悟。 彼は今までこの言葉の通りに生きて来たし、これからもそうであることは変わりはない。 命はすでに国際警察機構に預けた身。例え、死を賭せと命じられても迷いなく殉じる覚悟が彼にはある。 が、しかし! 眼前に横たわる少年はそうではなかったはずだ。いや、ここにいる誰もが! 訳も解らぬままに見知らぬ場所に落とし込み、素性も知らぬ同士を殺し合わせるあの男――螺旋王。 奴も勿論許す事ない大悪。いずれは落とし前ををつけさせなければならぬ! して、目の前の男。神と嘯き、自分勝手な都合で年少の者をいとも容易く殺めたこいつ。 混乱する機に乗じ、跳梁跋扈して己が勝手な願いを達成せんと無辜の者を襲うこいつ。 こんな奴を何と言う? 簡単明瞭! たった一言――外道と言う。 ◆ ◆ ◆ 戴宗は片手に提げたバックを落とす。 続いてもう片手に持った虎柄の水筒から一口取って喉を鳴らすと、それも地面に落とす。 そして、空いた両手を握り締め、ゴキリを音を鳴らすと一歩前へと足を踏み出した。 「このラピュタ神に素手で挑もうというのかね?」 対するムスカは、眼前に迫る相手の心の内に秘めたものが読めぬのか余裕綽々。 相対する者の返事を待たずして手を突き出し、稲妻を走らせた。 ドンッ、と響く音とともに身動き一つ取らなかった戴宗の身体に薄煙が上がる――が、それだけだ。 神を名乗る男はこの時初めて目を見開き、意も介せぬように歩みを止めぬ相手にたじろいだ。 戴宗が一歩前に出れば、一歩下がる。もう一歩前に出れば、もう一歩下がる。 神の雷が通じない。何故か――と、ムスカは困惑する。だが真実はそうではない。 雷だからこそ通じないのだ。 国際警察九大天王。その末席に身を置く神行太保・戴宗。またの名を――『人間発電機』 ピタリと足を止め次いで突き出された戴宗の拳が、ブンという羽虫の様な音と共に薄い光を纏う。 その原理はムスカが背負うエレキテル――電磁誘導装置、それと同じ。 異なる点を挙げるならば、 エレキテルの方はあくまで誘導装置であって蓄電はできても、それ自体では発電することができぬと言うこと。 そして逆に、戴宗の有する特異な能力はその名の通り自らの身体で以って電気を起こす事ができる。 その発電量。例えば目の前の総合病院。それが使用に必要とする量を賄うことも容易い。 戴宗の全身を駆け巡る電流は身体の中で螺旋を描き、強力な電磁力を発生させる。 そして、エレキテル同様に大気を操り戴宗は拳の先に電磁場によって作り上げた気の拳を纏う。 これが人間発電機と呼ばれる戴宗の力。名づけて――噴射拳。 彼は内に巡る膨大な電力を雷として発するのではなく、己が身体を武器とするために操る。 九大天王の中でも単純戦闘に特化した能力で、末席と言えど、こと単一同士の格闘戦となれば一、二位を争う。 仇敵であるBF団の十傑集においても、彼と格闘戦を演じられるのは衝撃のアルベルトのみと言われるぐらいだ。 その有形無形の圧力に、戴宗と対峙するムスカの頬に冷や汗が垂れる。 しかし、彼もまた伊達に神を名乗る男ではない。 一度効かぬなら二度目を。二度目も効かぬなら三度目をと、再び稲妻を空中に奔らせた――が! 彼の目の前で、戴宗が姿を消した。 放たれた稲妻は虚しく宙に霧散し残光だけを残す。 サングラスをかけているので、閃光に視力を奪われたなどということはない。しかし、見失った。 戴宗は何処に? 霞と消えたか。いや、彼はムスカの背後に立っていた――。 戴宗は常に人間発電機と呼ばれはしない。彼を呼ぶものは皆こう呼ぶ――神行太保、と。 神行法。それが今の一瞬の種明かし。 強力な電磁の力を脚へと転じればその脚力は常軌を逸し、駆ける速さは音の速さにも達する。 先に拳へと発した様に、気を足元に置けばその歩み神をも目を見張る。故に神行法。 この能力こそ、文字通り彼の右に立つ者は居ない。故に彼は呼ばれる――神行太保・戴宗、と。 彼がそれに気付くよりも疾く戴宗は拳を突き出し、ムスカに衝撃の一撃を見舞った。 神の鉄槌ならぬ、義憤の鉄拳。喰らったムスカはアスファルトの路上を何度も転がる。 次いで倒れた者を鞭打つように降り注ぐのは、爆散したエレキテルの残骸だ。 車に跳ねられた様な衝撃に、指一本動かせなかったムスカではあったが この期に及んでなお彼の傲慢な姿勢は変わらず、あくまで不敵。その態度は崩さなかった。 「……き、貴様。神に向かって拳を振るうとはこの身の程しらず、め。報いを、受けるぞ」 対する戴宗は一つ嘆息すると、その手をムスカの額へと伸ばす。 「お前さんには、ちぃと眠ってて貰うぜ」 瞬間、電流が戴宗よりムスカへと流れ出し、その衝撃が不敵なムスカの意識を奪った。 「……やーれやれ、だ」 そう一人ごちると、戴宗は気絶したムスカと小さな遺体を抱え上げ目の前の病院へと入り込んだ。 ◆ ◆ ◆ 冷たいコンクリートの床の上。狭くて暗い物置の中にムスカの身体を横たえると 戴宗は彼が持っていた荷物の検分を始めた。 すでに死んでいた少年――エドの遺体はここではなく霊安室へと預けてきている。 そして、外道であるムスカの命を奪わないのは、何も情けからという訳ではない。 いるかどうかは知れぬが、あの少年の身内や仲間がここにいるやも知れない。 ならば、仇は譲るべきだと……そう考えた結果であった。そして、いなければその時こそ自分が討てばよい、とも。 「なんだこりゃあ……」 まず鞄に手を差し込んで最初に出てきたのが、大量のチョコレートだった。 確かにチョコレートはエネルギー豊富で、この様な状況ならばありがたいものかも知れなかった。 だが、大酒呑みの戴宗はどちらかと言えば辛党で、甘いものは好みではない。 「酒でも出てくりゃあ、ありがたいんだがなぁ……」 とは言いながらも、一つ包みを剥がしては口に放り込む。 世界最強候補の一人である戴宗ではあったが、ここに来てより何やら調子が悪い。 腹が減っているわけでもないというのなら、やはり酒抜きのせいかと戴宗は考える。 よもや何らかの術のせいかも知れぬが、そうなると戴宗には手が出ない。戴宗は根っからの武闘派だ。 「……言ってみるもんだな」 と、戴宗がバックから抜き出した手には一本の洋酒の瓶が握られていた。しかし――、 「空っぽかよぉ……」 残念ながら、もうすでに封は開けられており、中身も失われた後だった。 戴宗は他にもないかとバックを漁るがもう出てこず、空になった瓶を逆さに振るも一滴も酒は垂れてこない。 漏れてくるのは僅かに臭う山葡萄の香りのみ……。 「……未練だぜ」 考えれば、あの男はこの酒を飲んでいたのか。しかし、あのような妄言が飛び出すとはどんな悪酔いか。 どうせ碌なものではない――そう考えを切り替え、戴宗は酒瓶への未練を払う。 一通り検め終わると戴宗は曲げていた膝を伸ばし立ち上がる。 その手にはチャラチャラと音を立てる細長い投げナイフが幾本も握られていおり、 「こいつは没収……」という訳で戴宗のバックの方へと収められた。 戴宗は物置部屋を出る際に、床に投げ出されたムスカの方を見やる。 ピクリともしない。死には至らないが相当の電流を流し込まれている。 戴宗の見立てでは、気を取り戻すのに半日。それから身体を動かせるまでにもう半日。そういう按配だ。 それでも、一応と扉に安物の鍵を掛けて戴宗はその場を離れた。 「衝撃の旦那に、十傑集がもう一人。それなのに、こちらときたら俺一人かぁ……」 その上、まだまだ未知の存在が多数いるという……。最初に出会った男が男だっただけに気は滅入る。 せめて一清でもいれば釣合いが取れるのに、と考えても詮無き事。 「……まずは、酒だな」 暗澹たる思いを胸に、戴宗は病院を出て月夜の下を一人歩いていった。 【D-6/総合病院近く/1日目-深夜】 【神行太保・戴宗@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】 [状態]:若干の疲労 [装備]: [道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-[握り飯、3日分][虎柄の水筒(烏龍茶)]) アサシンナイフ@さよなら絶望先生×11本 戴宗に支給された何か(1~3つ)※戴宗は確認しています [思考]: 基本:不義は見逃さず。悪は成敗する 1.どこかで酒を調達したい 2.死んでいた少年の身内や仲間を探す 3.半日ごとぐらいにムスカの様子を見に病院へと戻る 最終:螺旋王ロージェノムを打倒し、元の世界へと帰還する ※登場時期は、アニメの1話開始直前です ◆ ◆ ◆ パタン……と、薄い扉が閉まる音がしてからしばらくのこと。 戴宗に痛めつけられ、ピクリとも動けなかったはずの男が弱々しいながらも身体を起こした。 「よ、よくも……あいつめ。私は神なんだ、ぞ」 サングラスの位置を直すと、男――ムスカは彼を痛めつけた東洋人が去った扉を睨み付ける。 「……しかし、幸運の女神はまだ私を見放してはいないようだ」 何故、ムスカが戴宗の鉄拳や電撃を受けたにも関わらず、こうも早く回復できたのか? 鉄拳の一撃は元よりそれ程の威力は込められてなかった。戴宗の目的はあくまで武器を奪う事だったからだ。 しかし、次の電撃はそうではない。殺しはしないまでもそう簡単には回復できないだけの量を戴宗は込めた。 ムスカは自信の両の手の平を見つめる。エレキテルの力ではあるが、何度かここから雷を放ったのだ。 その雷――何故、ダメージになるのか? 答えは簡単。電気抵抗がそこに熱を生み出すからだ。 電流が全身を駆け巡ることによって発生する熱。それによって、一人の少年は命を失った。 そしてその雷を放ったムスカは、エレキテルのもたらす二次作用として電流に対する抵抗が少ない体質へと 変質していたのだった。 それは、エレキテルを装備し全身に電気を纏う者に対する、エレキテル装置そのものの電磁ガード。 その不可視のフェイルセイフが、あの時エレキテルが破壊された直後も身体に少し残っていたのだ。 結果、ムスカの身体を駆け巡った電流は地に拡散し、戴宗の意図したものよりもはるかに少ないものとなった。 何度か手を握り身体が動く事を確認すると、ムスカはズボンの裾に手を伸ばして、 隠し持っていた1本の投げナイフを取り出した。 僅かながらに焦げが浮いてはいるが、使用に当たっては問題ない。 「待っていろよ。神への反逆は、神罰を持って迎えられる事を貴様に思い知らせてやる」 そう言うと、ムスカは自分の鞄を背負いなおし、ナイフを片手に扉へと立ち向かった。 【D-6/総合病院・物置部屋の中/1日目/黎明】 【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ(ムスカ大佐)@天空の城ラピュタ】 [状態]:激しく疲労、背中に打撲 [装備]:アサシンナイフ@さよなら絶望先生 [道具]:デイバック、支給品一式(食料-[大量のチョコレート][紅茶])、葡萄酒の空き瓶 [思考]: 基本:すべての生きとし生ける者に、ラピュタ神の力を見せつける 1.まずは、この部屋より脱出する 2.東洋人(戴宗)に復讐する 3.パズーらに復讐する 最終:最後まで生き残り、ロージェノムに神の怒りを与える ※エドワード・エルリック(@鋼の錬金術師)の遺体は病院の霊安室に移動されました ※エドワード・エルリック(@鋼の錬金術師)の荷物は病院の前の道路上に放置されています 時系列順で読む Back 私がみんなを知っている Next 失ったもの/失いたくないもの 投下順で読む Back ラッド・ルッソは大いに語り大いにバトルロワイヤルを楽しむ Next 紙は舞い降りた 神行太保・戴宗 080 紙視点――そして紙は舞い落ちた 007 ラピュタの雷 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ(ムスカ大佐) 066 蘇れ、ラピュタの神よ
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前:嗚呼、我等地球防衛軍(第41話〜第45話) 次:嗚呼、我等地球防衛軍(第51話〜第55話) 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第46話 ボラー連邦とガミラス帝国が戦端を開こうとしていた頃、デザリアム帝国は地球に関する情報の収集を必死に行っていた。 その結果、地球がトンでもない国であることに気付かされていた。 「地球人類は狂戦士の集団なのかね?」 「……否定できません」 スカルダートの冗談半分(半分は本気)の言葉を、サーダは否定できなかった。 何しろ地球人類は人口の8割を失っても抗戦し、波動エンジン関連技術を得た途端にガミラス相手に逆転勝利(相手の本星壊滅)。 さらに最近ではガトランティス帝国の移動首都(白色彗星)を1隻の戦艦で葬り、残った艦隊も無傷で殲滅したというのだ。 「確かに、あの適合率と生命力とバイタリティは惜しいが……」 さすがの聖総統閣下も躊躇する。 機械化によって殆ど失われた筈の本能が告げるのだ。「彼らに手を出すべきではない」と。 「しかし聖総統、彼らを放置しておけば後に禍根になるかと」 「ふむ」 今は自国のほうが技術レベルでは上回っている。しかしそれが続くとは断言できない。 何しろデザリアム人は種として衰えつつある。一方の地球人は信じがたいほどのバイタリティで星間国家への道を突っ走っている。 逆転されないと言い切るほど彼は楽観的ではなかった。 「ボラー連邦は?」 「支配している星の数に見合った生産力を持っています。ガトランティスに大敗したにも関わらず、戦力を回復させています。 ですが内政面では問題が多いようです。付け込む隙はあるかと」 「ふふふ。『魔女』のお前らしいな。地球やボラーを正面から攻めるのではなく、搦め手でいくと?」 「はい。策はあります。ただしさらに情報の収集が必要ですが」 「判っている。存分にやれ。必要なものがあれば参謀本部に私の名前を出して言えば良い」 デザリアムに対抗するべく地球防衛軍も軍拡を急いでいた。 イスカンダルから得た技術や資源に加え、デザリアム帝国軍やガミラス軍の残骸は連邦にとっても色々と有益だった。 強固な偏向シールドや装甲版などを回収したことで、従来の宇宙戦艦の砲撃力が非力であることが明らかに出来た。 議長と藤堂は防衛会議を動かして臨時の防衛予算を調達し、防衛艦隊の大改装計画を進めた。 「完成した戦略攻撃用潜宙艦は訓練航海を。ただし新規建造は遅らせて、その分の資材を戦艦群の改装に当てるのが良いだろう」 「了解しました」 「それと、藤堂長官、ヤマトはイカロスで改装させるのが良いかと。万が一のときも考えると……」 「ふむ。確かに」 議長の意見に藤堂は頷く。何かあったときの保険、それがヤマトの意義だった。 「ムサシはタイタン基地のドックで改造を急げ。本土防衛の穴はアイルオブスカイと実験艦隊で埋めれる」 かくして防衛艦隊の艦船は順次ドックに入り、必要な工事を受けていった。 特に主力戦艦の初期生産型は新型砲への換装や機関部の大改造(もはや新造)を受けることになった。 一部の艦はヤマトと同様に46センチショックカノンを搭載(連装3基6門)すると言う魔改造が行われた。 これによって敵の巨大戦艦の装甲を確実に撃ちぬける砲撃力や連続ワープにも耐えうる航行能力が手に入る。 「コスモタイガー�にかわる新型機の配備も急ぐ必要がある。制空権の有無こそ戦いの趨勢を決めるからな」 ガトランティスやイスカンダルの技術を多く得ていたこと、ボラーという仮想敵がいたことにより、航空機の開発は急ピッチで 進められていた。 これによってコスモタイガー�にかわる新型機、原作には無かった『コスモファントム』が配備されることになった。 コスモパンサーほどではないが、高い戦闘能力と汎用性、そしてステルス性を兼ね備えた機体だ。 これによって防衛軍空母部隊の攻撃力は大幅に向上することになる。尤も空母については艦の分類が変更されることになった。 宇宙空母と呼ばれていた艦を攻撃型空母と分類することにしたのだ。 「いずれ配備される本格的な宇宙空母(正規空母)と混同されるのは拙いからな」 議長はそう理由を述べた。 「あとは敵巨大要塞の攻略だが、ハイパー放射ミサイルの技術をボラーから得るのが良いだろう。 引き換えに我々が得たガトランティスの技術や情報を提供する。まぁ出すものはこちらのほうが多くなるだろうが」 このように新兵器開発を進める一方で、人的資源の保全も急がれた。 デザリアム帝国のサイボーグ技術は医療において非常に価値があった。このためこの手の技術開発が急がれた。 また被弾した場合、従来の戦闘服では生存性が低いことも問題視された。 「これ以上、人が減ったら堪ったものじゃない」 防衛軍高官の意見は、後方を担当する者にとって真理だった。 一部の人間はあまり装備をすると迅速な戦闘行動に支障が出るということで反対したのだが、最低でも被弾した際に 発生するかも知れない毒ガスなどから身を守るためとして、戦闘時にはヘルメットだけでも着用することが決められた。 さらに空間騎兵隊用にパワードスーツの開発も進められた。 「今の装備じゃ『死んで来い』と言ってるも同然だろう」 「でもこれって元ネタはボト○ズじゃ……」 「気にするな。使えるんだったら問題ない。モビ○スーツは大きすぎて使えないし、バル○リーは整備が大変になる」 転生者たちはそう話し合いつつ(一部の人間は血涙を流したが)、新兵器開発を急いだ。 この新兵器開発と並行して、超能力の実験も進められた。 尤もあまり露骨な人体実験はできないので、細々としたものだったが、それでも将来的には防衛軍の一翼を担う分野で あると思われていた。 「沖田艦長、土方艦長、山南艦長といった歴戦指揮官。さらに戦死していないヤマトクルー。 これで新装備と超能力者があれば、ボラーともある程度張り合えるだろう……これだけ強化しても、私の華やかな出番はないのか」 「諦めてください。観艦式くらいなら出来ますよ」 秘書の突っ込みに議長は沈黙した。 「………世知辛いな」 「議長は後方で必要にされる人ですから。何せ防衛軍は前線も後方も人がいないので」 「……畜生~!」 議長の苦闘は続く。 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第47話 一言で言えばガルマン・ガミラス連合軍は初戦から一方的な敗退を余儀なくされた。 6隻のスターレン級に加えて、自軍の5倍以上の兵力を叩きつけられては、いくら精強で知るガミラス軍も一溜まりもなかったのだ。 ガルマン民族の抵抗拠点は次々に潰滅し、脱出途中だった大勢のガルマン人は冥府に追いやられた。 「ボラーに逆らう者の末路だ!」 機動要塞を預けられたボラー連邦軍参謀総長であるゴルサコフは、非戦闘員に対しても容赦なかった。 多数の難民が乗る輸送船団に向けてマイクロブラックホール砲を撃ちこみ、周辺の少数の護衛部隊諸共根こそぎ殲滅。 さらに惑星の拠点にはワープミサイルとプロトンミサイルを撃ち込んで粉砕していった。 「本星(仮)の本隊が銀河系に展開していれば……」 ガミラス艦隊司令官は悔しがったが、どうしようもない。 元々、銀河系に展開しているガミラス軍はあくまでも安全に調査を行うための部隊なのだ。ボラーと真っ向から勝負を するのは分が悪すぎた。 機動要塞とスターレン級戦艦6隻を中心とした大艦隊は物量を生かしてガルマン・ガミラス連合軍を押し潰すかのように 襲い掛かった。 「一旦、引け! 銀河系外縁にまで撤退し、本隊からの援軍を待つぞ!!」 こうしてガルマン・ガミラス連合軍は後退していく。 戦艦スターレンに乗るボラー連邦軍前衛艦隊司令官バルコムは、撤退していく連合軍を見て嘲笑すると追撃を命じる。 「追うのだ! 奴らを逃してはならない!!」 「了解しました」 こうしてボラー連邦艦隊による猛烈な追撃戦が始まった。 ボラー軍は量での優越に加え、新規に開発した航空機を投入して各地で優位に立った。尤も新型機の姿を見たら議長が吹き出した のは間違いなかった。何しろその新型機はディンギル軍のそれに酷似していたからだ。 可変翼の単発戦闘機はガミラス軍戦闘機と互角に戦い、水雷艇を小型化したような攻撃機は俊敏な動きで連合軍艦艇にミサイルを 見舞っていく。 これらは、本来なら喜ぶ光景なのだが、バルコムは苦い顔だった。 「多少格好はつかないが、仕方あるまい」 ボラー軍はディンギルに勝った。だが受けた損害も少なくなかった。故に彼らはディンギルの優れた点を取り入れたのだ。 強化された圧倒的航空戦力、さらにスターレン級の新型ボラー砲が連合軍に振り下ろされていった。 しかしガルマン人も意地を見せる。 「反撃しろ!」 ガルマン民族の抵抗組織の幹部であったダゴン(連合軍結成に伴い将軍になっている)は、驚異的粘りで戦線の完全崩壊を防ぎつつ 起死回生の切り札として辺境の抵抗拠点で開発された次元潜航艇がボラーの側面を突く。 突如として行われた亜空間からの攻撃にボラー艦隊は大混乱に陥った。 「どんな手品を使ったというのだ?」 バルコムは歯噛みするが、対抗手段がない以上、どうしようもない。 だがそれでもスターレン級は撃沈されなかった。技術者達が太鼓判が押した防御力が発揮された瞬間だった。 従来の戦艦なら最低でも大破、下手をすれば轟沈していてもおかしくない攻撃を受けても尚、戦闘能力を継続する姿はボラー軍の 意地を見せ付けるものだった。 「素晴らしい、これがスターレン級か。ふふふ、この艦が量産された暁にはガトランティスや地球など物の数ではないな」 一方の連合軍にとっても。このスターレン級の打たれ強さは驚きだった。 「何と言う防御力だ」 フラーケンは驚嘆するが、すぐに思考を切り替える。 「奴らの後方を徹底的に撹乱し、味方を援護する」 後にガルマンウルフと称されるようになる活躍によってボラー連邦軍前衛艦隊は少なからざる打撃を被り、進撃速度を 落さざるを得なくなる。 「小癪なガルマン人共め!」 報告を受けたゴルサコフは忌々しげに、はき棄てるように言った。 だがそこには粛清に対する恐怖も見え隠れしていた。ディンギルを潰して多少は面目を取り戻したとはいえ、所詮相手は 一恒星系の国家に過ぎない。ボラーからすれば格下も良いところなのだ。 ここで再び躓けばボラー連邦軍は三流の烙印を押される。そうなれば軍制服組のトップである彼は粛清対象になる。 「バルコムを急かせろ! いや機動要塞も前に出せ!! 力押しだ!!」 一方、デスラーは本星(仮)からガミラス艦隊主力を引き連れて出撃し、銀河系に急行していた。 「奴らの鼻っ面を叩き折り、味方を救出する」 デスラーはボラー軍の大軍や戦いぶりを見て、士気を喪失するどころか逆に戦意を高めた。 要塞攻略のために威力を高めた新型デスラー砲の試作品(ハイパーデスラー砲のプロトタイプ)を搭載したデスラー艦、ボラーの 物と同等の威力を持つプロトンミサイルなどを装備したガミラス艦隊が銀河系に来襲しようとしていた。 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第47.5話 「タケミカヅチに続いて、北米州の戦艦アリゾナ、アイオワも配備された。主力戦艦が改装に回されている状況では有難い」 執務室で報告を受けた議長は、久しぶりに機嫌がよさそうな顔で頷いていた。 「それに、これらの艦のデータがあれば、次世代の戦艦建造にも弾みが付くな」 ボラー連邦がガルマン・ガミラス連合軍を押し潰している頃、地球防衛軍は次世代の戦闘艦艇の開発に余念が無かった。 ガミラスとは一時的に停戦したが再戦する可能性はゼロではないし、ガトランティス帝国は侵攻部隊主力と首脳部が壊滅したとは 言ってもアンドロメダ星雲の本国は健在。今は友好国だがボラーだって何時、敵に回るか判ったものではない。 「平和は次の戦争への準備期間に過ぎないのです」 防衛会議の席で議長が言った台詞は真理だった。 連邦政府は防衛予算の際限のない増額には歯止めを掛けつつも、外患に対応するために可能な限り予算を出していた。 加えて『原作』よりも消耗が少ないことも、防衛軍に余裕を持たせており、十分な時間を掛けた設計や試験運用を可能にしている。 「これで新型戦艦はダンボールどころか、風船みたいに爆発しないで済みそうだ」 集束モードと拡散モードを使い分けられる『拡大』波動砲を搭載した新型戦艦。 完結編ではディンギルの奇襲戦法によって呆気なく殲滅され、一部の転生者にとってはトラウマ物のこの艦は、防衛軍の期待の星だ。 何しろ拡散波動砲搭載艦と集束型波動砲搭載艦を両方配備し続けていくのは面倒だったのだ。 既存の戦艦の改装は、この戦艦で使われる各種装備のテストという一面もある。 一方で巡洋艦についてはひと悶着起きていた。 イスカンダルへの航海から「既存の巡洋艦以下の艦艇は遠洋航海には適していないのでは?」と言う意見が台頭していた。 波動エンジンによって長大な航続距離は確保できたが、長距離航海は乗組員への負担は大きいのだ。 「さてさて、どうするべきか……」 大型艦のほうが長距離航海には適しているし、今後、防衛軍では合理化のために戦闘艦の自動化、無人化も進められる予定だ。 実際、自動戦艦と自動駆逐艦の整備が進んでおり、実験部隊である第01任務部隊では試験運用が開始されつつある。 さらに将来、特に復活編あたりの年代になり、コスモパルサークラスの艦載機が開発されると、艦載機が駆逐艦の仕事を代わることができるようになる。 それを考えると、わざわざ有人の小型艦を艦隊用(それも外洋向け)に大々的に整備するのは効率が悪いとも言えた。 「巡洋戦艦、いや大型巡洋艦のような艦を作るか?」 現実だったら中途半端と言って却下されるだろう。 だが議長はそれなりに有効なのではないかと考えた。 しかしあまりに高価な艦を揃える事に夢中になると、今度は数が確保できないという恐れがある。 「……自国勢力圏外を長期間行動する可能性がある部隊には、2万トン級以上の巡洋艦を配備するか……。 戦艦と大型巡洋艦、空母の周りを自動化した駆逐艦が固めれば良いだろう。 いや、自動駆逐艦から構成される水雷戦隊を指揮できれば、より活用できるかもしれん。小艦隊旗艦にも使えるだろうし。 自国領土警備等の任務には数が揃えられる従来のような1万トン以下の艦が良いか?」 領土や通商路が拡大している状況では、数の確保も重要だった。 故に議長はハイローミックスでいくことを考えた。 「少なくとも、完結編の駆逐艦は要らないな。艦体が大きい割には武装が貧弱すぎる。 確かに劇中だと活躍したけど……正直、あれだけの艦体があるんだったら、もう少し火力を充実させて弾幕を張ることくらいできないと困る。 自動駆逐艦なら居住スペースがないから、もっと重武装化できるし無茶な機動もできるし……益々要らないな、あの船」 こうして議長は参謀本部や防衛軍司令部、防衛会議とも協議して次世代の巡洋艦の開発を推し進めることになる。 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第48話 デスラー率いるガミラス艦隊は連続ワープで一気に距離を稼ぎ、ボラー軍には信じられないほどの短期間で銀河系にたどり着いた。 デスラーは乗艦のデスラー艦でボラー軍の詳細な情報を知らされると、スターレン級がヤマトを意識して作られた戦艦であると即座に断じた。 「ボラーはヤマトの力を恐れたのだろう。だが、所詮は物真似だ。恐れる必要はない」 「それでは……」 「そうだ。タラン。奴らを叩きのめす」 かくしてデスラー自らが指揮するガミラス艦隊(後の親衛艦隊)はボラー軍との決戦を求めて進撃した。 一方のボラーもまたガミラス軍の増援が来たことを察知して、ガルマン軍と纏めて撃滅しようと目論み、銀河系東部に向けて進んだ。 「数で押し潰す!」 ゴルサコフはべムラーゼの支持を取り付けてボラー各地から更なる増援を呼び寄せた。 非常に太っ腹に見えるべムラーゼの決定だったが、その決定が下されたのはそれはガルマンの軍事技術、次元潜航艇の獲得をボラーの 政府首脳部が望んでいたからだ。 「あれがあれば、開戦初頭に地球を吹き飛ばすことも出来るだろう。そうなれば地球など一捻りだ」 「それだけでない。各地の反政府組織の掃討にも役立つ」 「アンドロメダ星雲のガトランティスと戦うのにもな」 狸の皮算用と言っても良いのだが、彼らの中ではボラー軍の勝利は既定事項だった。 ガルマン・ガミラス連合軍が増強されたと言っても、兵力差はまだ5対1と考えられていた。 これだけの兵力で負けると考える人間はいない。 「銀河の神がシャルバートなどの過去の遺物ではなく、このべムラーゼであることを思い知るが良い」 べムラーゼはこの決戦で一気にガルマン・ガミラス連合軍を撃滅し、さらに小うるさいシャルバート教信者の抗戦意欲を撃ち砕こう と考えていた。 こうして決戦の幕が上がる。 デスラーはまず機動要塞と宇宙艦隊を引き離そうとした。 何しろただでさえ宇宙艦隊が手強いのに、機動要塞まで相手にしていたら手が足らない。 「奴らをハロにおびき寄せる」 デスラーはボラー連邦軍艦隊と会敵すると、巧みに敗走しているように見せかけて彼らを『ハロ』と呼ばれる領域に誘導していく。 このハロというのは銀河系中心核と渦状腕の銀河円盤の外側に存在するこの領域のことであり、ここには暗黒物質やブラックホールによる 航路の難所が数多く存在した。 デスラーはガルマン人や、これまでの調査部隊の情報を基にして、この難所を決戦の場に選んだのだ。 一方、ボラー軍はこのデスラーの意図を認識できなかった。 「馬鹿な連中だ。わざわざ、あのような場所に逃げ込むとは」 バルコムは嘲笑しつつ、即座に追撃を命じる。 「あそこを奴らの墓場にしてやるのだ!」 こうしてスターレン級6隻を先頭にした艦隊は、次々にハロに突入していく。 だが暗黒物質によるレーダーの索敵能力の低下、加えて多数の障害物(ブラックホール含む)によってボラー軍は思うように 進撃できなかった。 逆にガミラス軍はその高い練度を存分に活用して、あちこちでゲリラ攻撃を繰り広げてジワジワとボラー軍に出血を強いていく。 「多少の犠牲は構わん、偵察機を出して奴らを見つけ出すのだ!」 バルコムはそう言って多数の偵察機(一部はディンギルの水雷艇もどき)を放ち、必死にガミラス艦隊を探した。 その結果、彼らはブラックホール周辺に展開していたガルマン・ガミラス連合艦隊を見つけることに成功する。 「急行するぞ!」 「しかし、バルコム司令、味方で急行できる艦はそう多くはありません」 「構うことはない。数だけでも3倍以上。包囲していけば奴らをブラックホールに押し込める。それに我らにはこのスターレン級戦艦がある」 急行してきたボラー艦隊を見て、デスラーはほくそ笑んだ。 「盛った獣のような連中だ。地球人ならもう少し芸があるのだが……」 「油断は大敵かと」 「判っているよ、タラン。窮鼠猫をかむとも言う。それでは行くとしよう」 こうしてガルマン・ガミラス艦隊はブラックホールを背にして砲撃を開始した。 「小癪な、一気に叩き潰せ!」 スターレン級の新型ボラー砲の一斉発射から始まったこの大攻勢をデスラーは見事に防ぎきった。 新型デスラー砲は一撃でボラーの戦艦をダース単位で吹き飛ばし、新型戦闘機で構成される航空隊はボラー軍戦闘機と互角以上に戦った。 そしてこの戦いではガルマン艦隊の活躍も目立った。 「我らの子孫であり、救世主であるデスラー総統閣下に無様な真似は見せられないぞ!」 原作では東部方面軍司令を勤めていたガイデル提督はそう言って部下を叱咤激励し勇戦した。 唯一、ヤマトに勝利できた指揮官の名に相応しく、彼の部隊は獅子奮迅の活躍ぶりを見せ、数倍ものボラー軍を食い止め、その進撃を 遅らせた。 そしてこれに業を煮やしたバルコムはさらなる攻勢を決意する。何しろこれだけの兵力を与えられて勝利できなかったとなれば自分が 粛清されかねないのだ。 「怯むな、敵は少数だ!」 だがこの直後、ガルマン・ガミラス艦隊がさらに後退を始める。それも整然としてだ。 「何だと?」 「閣下、奴らはブラックホールを重力カタパルトにして逃げ出すつもりなのでは?」 「ふっ、何を今更。奴らが腹を見せたら逆に葬ってくれる!」 しかしガルマン・ガミラス艦隊を追撃しようとした頃、ブラックホールに巻き込まれようとうする惑星や小惑星が現れる。 「ええい邪魔な!」 だがその直後、バルコムは凍りつく。 辛うじて生きていたレーダーがトンでもないものを捉えたからだ。 「あれは……プロトンミサイルだと?! 拙い、全艦分散しろ!!」 そう、それは巧みに偽装され、その存在を隠匿されてきたガミラス製のプロトンミサイルだった。 通常なら見つけることも出来たのだが、暗黒物質による索敵能力の低下、加えて戦力を前方の敵艦隊に向けすぎたことで発見が 遅れたのだ。そしてその遅れは致命的だった。 バルコムの指示を受けてボラー艦隊は混乱する。何しろ攻撃を開始した直後に、いきなり分散を命じられたのだ。 この混乱するボラー艦隊の動きを見たデスラーは勝利を確信した。 「作戦は最終段階に移る。気を抜かないように」 そしてガルマン・ガミラス艦隊の将兵が見守る中、ガミラスのプロトンミサイルがボラー艦隊の近くを通りかかった惑星や 小惑星に次々に命中した。 その結果、ボラー艦隊は大爆発と衝撃波に襲われることになった。 「た、体勢を立て直せ!」 だがそんな暇をデスラーは与えない。 全艦を反転させると即座にデスラー砲によって混乱するボラー軍の陣形中心に穴を開けた。 「突破する。全艦、続け!!」 ボラー軍の中央を突破したガルマン・ガミラス連合艦隊は、ボラー軍の背面に展開。逆にボラー軍をブラックホールに追いやっていく。 「馬鹿な、このスターレン級が、この私がこんなところで!?」 バルコムが絶叫した直後、機関部を撃ちぬかれた戦艦スターレンは、ブラックホールに飲み込まれていった。 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第49話 バルコムがブラックホールに飲み込まれて死亡するという悲惨な最期を遂げた後、残されていたスターレン級5隻諸共、ボラー艦隊は 宇宙の藻屑となった。さらにデスラーは救援に駆けつけてきたり、ハロでうろうろしていた残存部隊を片っ端から殲滅していった。 「これであとは、あの機動要塞のみだ」 「しかし総統、奴らの手足となる艦隊は撃滅しました。これ以上、長居は無用です」 タランはデスラーに早期の撤退を促した。 「ふむ。我々の目的は味方の救援。足の遅い機動要塞は放置しておけば良いと?」 「その通りです。一人でも多くのガルマン人を救出した後に、仮本星、いえ第二帝星に一旦引き上げるべきかと」 タランの言うとおり、目的はほぼ達せられた。 だがデスラーはここで引く気はさらさら無かった。 「いや、ここであの機動要塞も攻略する。あれは奴らにとっても切り札だ。ここであれを沈めておけば、後が楽になる」 デスラーが次の獲物としている機動要塞で指揮を取っていたゴルサコフは、信じられない敗戦の報告を聞いて狼狽していた。 「ぜ、全滅、いや前衛艦隊が文字通り消滅したと?」 「はい。バルコム司令は戦死し、スターレン級6隻も全て撃沈されたとのことです」 「そんな馬鹿な……」 だがゴルサコフは何とか頭を切り替える。 (拙い。これでは、私が全ての責任を負わされてしまう……こうなれば、何としてでも奴らを撃滅するしかない) ゴルサコフは何とか残っている艦で護衛艦隊を編成すると即座に追撃に乗り出した。 だが機動要塞を中心とした部隊は、ハロ領域手前でガミラス軍機の波状攻撃に遭う。 デスラー戦法によって送り込まれてくる無数の攻撃隊に、ボラーは手を焼いた。 「蛆虫どもめ! 追い払え!!」 だが当初動員した艦の大半がハロの戦いで潰えたため、護衛艦隊による対空砲火は疎らだった。 戦闘機も出たが、ガミラス機を追い払うことはできない。そんな中、次元潜航艇が現れ、護衛部隊を攻撃していく。 「第5駆逐隊全滅!」 「第2戦隊から救援要請が入っています!」 相次ぐ凶報。機動要塞こそ目立った被害はなかったが、このままでは護衛部隊が機能不全に陥る可能性が高かった。 味方の不甲斐無さにゴルシトフは怒ると同時に焦った。何しろこのままでは作戦の失敗は確実なのだ。 粛清の2文字が頭の中にチラつく。 (拙い……この要塞は落ちないだろうが、艦隊が全滅するようなことがあればボラー軍は大打撃を受ける) そんな彼の前にガルマン・ガミラス艦隊が現れる。それは彼にとって絶好の好機に見えた。 「マイクロブラックホール砲で発射用意!」 このとき、機動要塞の正面に展開した艦隊を指揮していたのはガルマン軍でシャルバート教徒の纏め役であるハイゲル将軍だった。 「奴らをかき乱すぞ。ブラックホール砲には気をつけろ」 「了解」 兵士の返事を聞くとハイゲルは頷き黙り込んだ。 (ふっ、信心深かったシャルバート信者も減ってしまった。最近では新参者であるガミラス総統デスラーへの信仰に鞍替えする者もいる。 だが私はめげない。宇宙の神はべムラーゼでも、デスラーでもないのだ) 原作では全面戦争中に宗教上の理由でクーデターを起こそうとした人物だったが、今はデスラーの体制を支持していた。 何しろこれまでシャルバート教を散々に弾圧していたボラーを叩くほうが優先だった。 ハイゲル率いるガルマン・ガミラス連合艦隊はボラー連邦艦隊を引っ掻き回した。 加えて機動要塞がブラックホール砲を搭載していること、これまでの戦いから尋常ではない防御力を持っていたことから要塞への 対応も十分に行われていた。 これにゴルサコフは苛立つ。 「ええい、素早い連中だ。マイクロブラックホール砲を連続発射、命中しなくても良い。奴らの足を止めるんだ!」 機動要塞が次々にブラックホール砲を撃ちこみ、周辺に小型のブラックホールを形成する。 この重力場に囚われて連合艦隊は足を止めてしまう。 「今だ、全部隊前進! トドメを刺せ!」 ゴルサコフが護衛部隊を前進させ、ハイデル部隊を撃滅しようとした。 だがこれこそがデスラーが待った好機だった。 「瞬間物質移送装置起動。艦長、戦果を期待しているぞ」 『お任せください。総統!』 モニター越しに総統直々の言葉を聞いた重爆撃機のパイロット(戦闘空母艦長)はそう言って敬礼する。 「では、作戦開始」 ハロに漂う暗黒物質で隠れていたデスラーは、デスラー艦の前に待機させていたドリルミサイルを装備した爆撃機(七色星団で ヤマトにドリルミサイルを撃ちこんだ機体)を機動要塞の正面に送り込んだ。 それは奇しくも、ヤマトを葬るためにドメルが採用した作戦と同じだった。 「何?!」 慌てたのはゴルサコフだ。 「応戦しろ!」 「ダメです、間に合いません!!」 突然、至近距離に現れた重爆撃機に機動要塞は対応できなかった。 そしてその隙を突くように、重爆撃機は搭載していたドリルミサイルをマイクロブラックホール砲の発射口に打ち込んだ。 『我、奇襲に成功せり!』 パイロットは鼻高々にそう報告しつつ、戦場を離脱していく。 そしてボラーご自慢のマイクロブラックホール砲が封じられたことを見たデスラーは、隠れていた艦隊で全面攻勢に出る。 「いまだ、全軍進撃開始!!」 暗黒物質から出現した連合艦隊は一気にボラー艦隊に襲い掛かった。 ゴルサコフは何とか体勢を立て直そうとするが、マイクロブラックホール砲を封じられた上、奇襲された護衛部隊は大混乱で どうすることも出来なかった。 「早くあの邪魔な物を撤去しろ!」 そう叱咤激励するしか彼にはできなかった。 だがそれも実を結ぶことは無く、ドリルミサイルは爆発して、発射口に大穴が生じる。それは鉄壁を誇った機動要塞の防御に 大穴が開いた瞬間でもあった。 「ま、拙い。応急修理を……」 そして、それを見逃すデスラーではない。 「デスラー砲発射!」 デスラー艦から放たれたデスラー砲は寸分違わず目標に命中した。 波動砲にさえ耐え切る装甲を持つ機動要塞も、内部に高エネルギー砲を撃ちこまれては堪らなかった。ブラックホールを生み出す ためのエンジンが、要塞を支えるエネルギーが、各所に置かれていた弾薬が次々に誘爆を起こしていく。 「そ、総員退避!!」 ゴルサコフは逃げ出そうとするが、それは適わず、機動要塞の爆発の中に消えた。 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第50話 ボラー連邦建国以来最悪の大敗北を喫したとの情報はボラー連邦を揺るがした。 機動要塞、スターレン級戦艦6隻、それに各地から引き抜いた宇宙艦隊が悉く失われたのだ。 それは軍制服組の責任追及だけでは終らない重大な問題であり、ボラー連邦のトップであるべムラーゼも苦境に立たされた。 「ボラー連邦が保有していた宇宙艦隊は大打撃を受け、自由に動ける部隊は殆ど無くなった」 「今回の敗北は戦術的な問題に留まらない。戦略的、政治的な大問題だ。首相の責任は重大だ!」 「この度の敗戦は首相の指導力不足、いや決断の誤りによるものが大きい。べムラーゼ首相は指導者の器ではないのでは?」 「首相の解任を要求する!」 べムラーゼの政敵達は次々に彼の責任を追及し、首相の解任を要求した。 勿論、べムラーゼは潔く失脚するつもりはなく、あらゆる手段を用いて対抗し、ボラー上層部は政争に明け暮れることになる。 軍でも主流派であった人間達が悉く戦死するか今回の敗戦の責任を追及されて失脚していった。そして主流派に代わって軍の 要職に就いた者たちは軍の再建に頭を抱えた。 「スターレン級を量産するより、まずは安価な従来艦を量産して戦力を回復させなければならない」 「まずは数だ。正直、数がないと話にならない」 「場合によっては地球防衛軍がやっているような無人艦を導入するべきだろう」 かくしてボラー連邦軍は各地の造船所をフル稼働させて艦艇の建造に勤しんだ。 デスラーも補給の問題から一旦兵を引いたこともあり、ボラー軍は再建の猶予が出来たかのように見えた。 だがその猶予もデスラーの気分次第でどうなるかわからない。 故にボラー軍は手っ取り早く艦艇を補充する方法として地球から艦船を購入することを考えていた。実際、ボラー軍は政府に 働きかけてその旨を地球連邦政府に打診した。 この打診を受けた連邦政府は勿論、困惑した。 「今の防衛軍に譲れる艦艇はありません」 「それにショックカノンを輸出するとなれば、地球の優位を崩しかねません」 藤堂と議長はそう言って反対した。 だが議長としてはボラーから色々と技術を得たいと思っていた。このためボラーに借りを作るべく防衛軍の艦ではなく、サルベージした 旧ガトランティス軍の艦を提供することを提案した。 「大戦艦や駆逐艦、それに大型空母を提供しましょう。資源としては惜しいですが、使いようによっては十分な対価が期待できます」 この議長の意見は防衛会議や大統領府でも審議された末、承認された。 波動砲が搭載されていない大戦艦、もう搭載できる艦載機がない大型空母など持て余すだけだった。 解体して資源にするよりはボラーに恩を売るのに使ったほうが良いかもしれないと政府は判断したのだ。勿論、議長はこれらの艦艇の 提供と引き換えに即座にボラーに対価を求めさせ、ハイパー放射ミサイルなどの各種技術を入手させた。 「全く、相手の弱みに付け込むと後が怖いですよ?」 連邦ビルの一角で行われた転生者たちの密談で、外交担当者が議長に苦言を呈した。 これに議長は堂々と反論する。 「だが今しておかないと、技術の提供なんて無理だろう。それに我々も貴重な資源を提供したんだ。文句を言われる謂れはない」 「そうですね。確かに資源を手放したのは痛いですが、引き換えにディンギル系統の技術を得られるでしょう。 要塞や大型戦艦攻略のための新型ミサイルの開発に弾みが付きます」 財務次官は満足げだった。 「それに例のアイルオブスカイで開発中の新装備があれば……防衛軍の戦闘力は大幅に強化できる、そうでしょう?」 「ああ。火炎直撃砲を参考にして開発が進められている新型の『波動直撃砲』。あれがあればディンギルのように小ワープして 逃げられることもない」 この言葉に誰もがニヤリと笑う。 「波動砲にエネルギーをチャージした状態の自動戦艦を相手の背後や側面に送り込むのも良いが、そのたびに戦艦1隻を危険にさらす のも大変だからな……まぁ必要ならするが」 「確かに、デザリアムは恐ろしい相手ですからね」 「それとガミラスもだ。連邦政府や防衛会議がすんなり艦艇の売却を決めたのはボラーを使ってガミラスを弱体化させたいからだろう」 これに外交担当者が頷く。 「ガミラスは地球人類にとって仇敵ですからね。彼らが銀河に来て暴れているとなれば何かしら手を打ちたいと思うでしょう」 この世界の人類にとって、ガミラスは不倶戴天の敵であることは変わっていなかった。 「それにしても暴れすぎだ。新型戦艦どころか機動要塞まで討ち取るのだから。『�』と『永遠に』を同時進行なんて冗談じゃないぞ。 まぁ議会も慌てて防衛艦隊整備計画の前倒しをしてくれるだろうから、少しは対応できそうだが」 地球連邦政府はボラーに旧ガトランティス軍艦艇を譲る傍ら、地球防衛艦隊の整備をより進めることを決定した。 デザリアム帝国に加え、ガミラス帝国が暴れるとなれば軍事力の整備は必要不可欠だった。ましてボラー軍が大打撃を被った以上は 自分の身を守るための力は少しでも必要になる。 「十十十艦隊計画か……野心的な計画だな」 「ですが必要です」 藤堂と議長は今後の防衛艦隊整備について2人きりで話し込んでいた。 「アンドロメダ、改アンドロメダ級あわせて10隻、戦闘空母と正規空母10隻、さらに拡大波動砲搭載型戦艦10隻を揃える。 これと並行して既存艦艇の改装も進めるか……これだけあれば防衛軍の戦力は飛躍的に向上するだろう。だが可能なのか?」 「議会対策は問題ありません。ガミラスがトラウマの方々はその恐怖から逃れるために賛同するでしょう。 ガミラスは今回暴れすぎました。誰もがボラーではガミラスを止めることはできないと思うでしょう」 「……」 「デザリアムにも備えなければならないことを考えれば、これでもまだ足りないと思っています」 「君はまだ軍拡をすると? 今でも負担を強いているのに?」 「表向き、地球は復興しました。ですがその立場はガミラス戦役のときより少しよくなった程度と私は思っています。 楽観するのはまだ早いのです」 ガミラス戦役、ガトランティス戦役勝利の立役者であり、地球最高の軍略家とされる議長の言葉には重みがあった。 「これからも前線部隊には負担を掛けると思いますが宜しくお願いします」 「……判った。それと言葉遣いはもうそろそろ改めたほうが」 「いえ、私にとって長官は長官です。2人だけのときや、気心が知れた人間しかいないときは今までのままで十分です」 これに藤堂は苦笑した。 「君も変わっているな」 「ははは、ユニークな知人が多いので、染まったのかも知れません。それでは失礼します」 こうして防衛軍は動き出した。 だが動いていたのは防衛軍だけではなく、彼らが仮想敵と見做していたデザリアムも同様だった。 「ボラーと手を組むと?」 「はい。現状ならそれも可能かと」 スカルダートの問いに、サーダは自信たっぷりに頷いた。 前:嗚呼、我等地球防衛軍(第41話〜第45話) 次:嗚呼、我等地球防衛軍(第51話〜第55話)