約 1,001,258 件
https://w.atwiki.jp/suproy/pages/60.html
ベトレイヤー 「君の所属していた部隊―――チーム・ジェルバと言ったか。 部隊は全滅し、君だけが残った。そして君は部隊の仇を討つ為に行動している。 そうだな?セレーナ・レシタール君」 仮面の男、ユーゼスは通された扉の向こうで私にこう言った。 「よくそんな所まで調べたものね。あなた何者?何が目的?」 「君に質問する権利は無いよ、レシタール君。取引をしないかね?」 「・・・条件によるわ。」 「君にはこのゲームを滞りなく進める為に24時間以内に3人を殺して貰う。 勿論、機体の破壊だけではない。パイロットの生命活動を停止させろ。」 (やはり、そうくるわね。けど生命活動?妙な言い方をする・・・) 「で、貴方は私に何をくれるのかしら?」 「チーム・ジェルバを壊滅させた君の仇を教えてやろう。」 「・・・!」 「私が知っていることに不思議はあるまい?君が仇を追っていることを知っていた私だ。 その程度の情報、掴むことなど造作もない」 「・・・そう。ならば私に断る理由は無い。その取引乗りましょう。指きりげんまんでもしましょうか?」 「セレーナさん!」 ずっと黙っていたエルマが溜まりかねて口を挟む。咎めるような口ぶりである。 「あなたは黙ってなさい、エルマ。ジェルバの、みんなの復讐は全てに優先される。そう、私の命よりもね・・・!」 「フ、いい心がけだ、レシタール君。その決意に敬意を表して君にぴったりの機体を用意させた。 君が乗っていたASソレアレスと同じような運用が可能な機体だ。これを使って“人殺し”に励んでくれたまえ。 特殊部隊に居た君の人殺しの腕を堪能できることを期待してる。ハハハハハハッ!」 ぐにゃりと空間が歪み、ユーゼスは高笑いと共に消えた。 「ここは・・・E-2というエリアみたいね」 支給された地図をエルマに読み取らせながらセレーナは呟く。周囲は廃墟のようだ。 「セレーナさん、どうして取り引きなんか受けたんですか!ボクは、ボクは納得できません!」 傍らでライトを点滅させてエルマが声を荒げた。 「エルマ、戦場に納得なんていらないのよ。死んでいったジェルバの皆は納得しながら死んだと思う?違うでしょう?」 「それは・・・」 と、突然セレーナは首につけられた首輪を握り締め、エルマに顔を寄せて囁く。 「いい?あのユーゼスという男が本当に情報を持っているかは分からない。 仮に持っていたとしても24時間後、3人殺したとして私にマトモな情報をくれるかも分からない。 でもたった1%でも可能性があるなら私は悪魔に魂を売るわ。 それに、あいつが私を利用すると言うのなら、私があいつを利用してやる。 私だって殺人狂じゃない。あの部屋にいた小さな子供たち・・・あんな子を殺したくなんかないのよ! だからこの馬鹿げたゲームに乗っている人間を探して殺す。そう決めたわ」 「セレーナさん・・・」 「それからエルマ、この首輪は主催者側から支給されたものよ。盗聴されている可能性が高い。 だから反抗的な言動は慎みなさい。とりあえずは24時間の辛抱よ。」 「・・・ラジャ」 セレーナはエルマの頭を撫でて言う。 「上出来よ、エルマ。全て終わったらチューしてあ・げ・る。 さ、まずは暫くの相棒にお目覚め願いましょうか!」 スイッチを入れると微かな音と共にコクピットに光が点る。 声紋チェック開始、姓名と認識番号を 低い男の声でAIが要求する。確かトリセツには“アル”というコールサインだと記されていたっけ。 「セレーナ・レシタール、D-138」 確認しました。ARX-7・アーバレスト起動します 身体に伝わる小さな揺れがこのアームスレイブ、ASが目覚めたことを伝えてくれた。 そういえばソレアレスもASと名付けられていたな・・・ふと思う。 「エルマ、アクセスしてこの機体の把握をヨロシク。トリセツ読むの面倒だったのよね~」 「全く、セレーナさんってば・・・」 エルマがごちてアクセスを開始する。数十秒の後、エルマはアーバレストの“ほとんど”を把握した。 単分子カッターが二振り、散弾銃が一丁、手投げグレネードが五発。これがアーバレストの全てだ。 「まだコンプリートしないの?ダメダメねー、エルマちゃんったら。オシメ取れるのはまだ先かな?」 「すいません、セレーナさん。実はアーバレストにはブラックボックスがあるみたいなんです。」 「ブラックボックスぅ?そんなもんある兵器なんて信頼性全然ないじゃない。しっかしりなさいよ、エルマ!」 セレーナはエルマの背中(?)をバシバシ叩く。 「・・・やっぱりダメです。かなり厳重なプロテクトがかかってるんですよ。」 「ねぇ、アル。このブラックボックスって何よ?」 回答不能 「ケ~チケチしてないで教えなさいってば。海に沈めちゃうわよ?」 回答不能 「だぁぁ~っ!埒が開かないわ。 エルマ、プロテクトの解除作業は地道に続けておいて。ついでに索敵、ジャミングよろしく!」 「ううう、メカ使いが荒いですよ?セレーナさん・・・」 2時方向から敵機が接近 「かなり速いです!」 アルとエルマがが同時に警告を告げた。 「二人ともこれから仲良くしてね?それにしても、もう来客?お持て成しの用意もしてないって言うのに・・・」 ホバーしながら高速接近してくる機体は緑色、そして無骨な外見をしていた。 全高はアーバレストのほぼ二倍、右手にバズーカ、左手にライフルを持っている。 『早速エモノ見ぃつけマシター!倒させてもらいマース!』 冗談のようなインチキアメリカ人的口調が外部スピーカーから聞こえてくる、と同時にバズーカを発射した。 「やる気充分のようね。ならばこっちも容赦はしないわ。消す!」 単分子カッターを抜き逆手に持つと同時に左へと跳躍。斜め後ろで轟音。さっきまで立っていた場所を緑の機体が通り抜けていく。 「このパワ-、凄い。確かに高性能な機体ね・・・」「セレーナさん!後ろ!」「エルマ!耳元で怒鳴るな!」 再び跳躍。月面宙返りをすると同時に敵へグレネードを投げる。着弾したが敵の動きは止まらない。 『アレレ、蚊にでも刺されたような攻撃デース!このウォーカー・ギャリアに勝てるとでも思ってるんデスカー!?』 バズーカ・ライフルに加え頭部、腹部の機関砲まで乱射。迫りくる弾頭をビルを縦に横転を繰り返してかわす。 (こちらの武装は全て近距離戦向き。近寄らなければこのままだと蜂の巣ね。 敵のパイロット、言葉使いはともかくなかなかいい腕をしている・・・ 闇雲に撃っているように見えて狙いは正確だ。狙いが正確?そうか、ならば!) 一斉射撃が止み、隠れたビルを壊そうとウォーカーギャリアがバズーカを構えた瞬間にアーバレストは陰から躍り出た。 『カミカーゼ戦法デスカ?アーメン!!』 バズーカの弾が一直線に迫ってくる。射撃が正確だからこそ、絶対に機体へ向かって一直線に向かってくる。 弾筋が予め分かっているなら、実弾を避けることなど容易い!弾を紙一重、前転して避け低い姿勢のまま敵へと一直線に駆ける。 バズーカは最も反動が大きい。隙だらけだ!グレネードを前方に投げ、間髪入れずにショットガンで撃つ。グレネードは空中で爆発。 ウォーカーギャリアの視界を爆炎が遮る。刹那、ジャック・キングの前からアーバレストは姿を消した。 『オオっ!どこに行きましたカ!?』 「ここよ、外人さん」 足を腰に絡めウォーカー・ギャリアを背後から優しく抱きしめるように、アーバスレトの手がコクピットへと回される。 単分子カッターが耳障りな音を立てて回転を始め、 「――アディオス」 コクピットを蹂躙した。 「このバズーカとライフルはアーバレストでも使える?」 アファーマティブ、運用可能 「外人さんが撃ちまくってくれたおかげでそう残弾はないけど、遠距離用の武装は無いし、頂きますっと。」 「セレーナさん・・・」 「これで一人目、もう後には引けないわ。ゲームに乗ってる奴を必ずあと二人・・・殺す。」 【セレーナ・レシタール 搭乗機体:アーバレスト(フルメタル・パニック) パイロット状況:健康 機体状況:損傷なし。グレネードを二発使用(残り三発)。 現在位置:E-2 第一行動方針:ゲームに乗っている人間を二人殺す 最終行動方針:チーム・ジェルバの仇を討つ ※ウォーカーギャリアのバズーカ、ライフルを奪取。】 【ジャック・キング 搭乗機体:ウォーカーギャリア(戦闘メカ ザブングル) パイロット状況:死亡 機体状況:中破(コクピット以外に目立った損傷は無い。但し搭乗は不可能)】 前回 第30話「ベトレイヤー」 次回 第29話「美少女と親父」 投下順 第31話「幸せの材料」 第29話「美少女と親父」 時系列順 第31話「幸せの材料」 前回 登場人物追跡 次回 - セレーナ・レシタール 第65話「覚悟」 - ジャック・キング - 第2話「ルール説明~開始」 ユーゼス・ゴッツォ 第33話「水面下の状景」
https://w.atwiki.jp/moemonss/pages/554.html
黒白灰色、三原色と程遠い無色透明。 それでいて、チューリップ畑のように立ち並ぶそれらはどこまでも執拗な陰鬱さと纏わり付く不快感、そして決別。 手の届かないものを忘れないように、そして捕われないようにと、それらは造られる。 どこまでも無数の色彩を失くした色が土の下に眠る塔。 その塔に今、罰当たりとも言うべき場所を弁えない闖入者達が存在していた。 ……あるいは珍入者というべきか。 黒ずくめの服に真っ赤なRのロゴが刻まれたその姿が、墓の立ち並ぶたった一つの通路で階段を睨んで目を細くしながら、今か今かと時を待っていた。 それはある意味で悲壮な決意ではあったけれど。 彼は階段の奥の塗込められた灰色を見据えながら、たった十分前のやりとりを思い出していた。 ――いいか兄弟、我々は五人が連続で戦う戦法で敵に臨む。 ――クロバットを持つイサキが大将、副将と中堅を地道な戦闘力を持つ二人で固める。 ――お前は次峰である私の前に立つ。 ――お前の役目が一番牽制として大切だ。 ――覚悟して戦え。 「どう見ても捨て駒です本当にありがとうございました」 事実上の敗北決定。 組織のネームバリューを使って首尾よくフジ老人を半ば監禁する事に成功したのも束の間。 謎の少年がべらぼうな強さで階下の幽霊達や幽霊に操られたトレーナーを撃破して、その現場へと刻一刻と近づいていた。 そもそも下っ端である彼らにそれほどの戦闘力があるわけでもなく。 どうやら状況は芳しくない。 彼らにとっては、老人から早目早目に全てを引き出せなかった時点で既に終わっていたのかもしれない。 「別に泣かんでも」 ふあ、と大きく欠伸をしてから、彼の傍に佇んでいたそれが、気だるげに声を掛けた。 罰当たりにも墓石に座り込んで、二本の小さな足をこつこつと、刻み付けられたその人間の呼称にあてこする。 髪の毛も服も全身が毒々しい紫、ドクロマークまで付けられたその服の端々からは、今も腐臭を撒き散らしながら得体の知れない空気が零れ出ている。 「うっせえよ、泣いてねえよ! ちょっと目から汗が流れただけだよ!」 「はいはい、わかりましたわかりました」 ドガースがそっぽを向きながら、彼自身のそれを押し留めるように両手のひらをその場で上下させる。 彼が黙って目尻を拭くと何かをすするような音は消えたが、代わりに小さく低い唸り声が出てくることになった。 楽な仕事だったはずなのにと。 半ば階下から向かってくるはずの少年に対して、理不尽にも苛立ちながら。 その矛先を、近くに向けた。 「大体、お前が強ければ問題ないんだよ。ちょっとは働けよお前!」 「えーちょっとぉ、人のせいにしないでよマスター。戦闘中に裏目指示ばっかり出すくせにさぁ」 もう毒になってるのに毒ガスとか、相性を無視したり、そもそも相性自体知らなかったり。 咎めるように彼女が文句を言うと、彼も続けようとした言葉を飲み込まざるを得なくなった。 その様子を見て嘆息しながら、彼女は右手で髪をかき上げる。 「大体あたし、戦いなんて好きじゃないしー」 「この前は、にたにた笑いながらやたら楽しそうに戦ってなかったか……?」 確かに彼女はつい一週間ほど前、その様子をコラッタ相手にでも披露したところだった。 そのやる気が無い顔を、何かに陶酔するように捻じ曲げながら。 もっともその時は、彼女の持ち手である彼自身も似たような顔をしているわけだったが。 しかし彼女はそう尋ねる彼に対して、両手を水平に持ち上げながら、一つため息をついて肩を竦める。 「弱いものイジメは好きなの」 そして、一切の遠慮も呵責もなくそう言ってみせた。 「……それって、どーよ? お前ひねくれものだっけ?」 「何よぉ、マスター達だって同じじゃない。あたしはただ、素直なだけー」 ぶすっ、と彼女が開いた口から、紫煙が吐き出される。 トレーナーではない彼等にとっては公平公正な戦いなどというものはもっての外で、自分の優位性が確かめられさえすればいい。 公正公平を求めるのは、それ自身が自分の正当化になる場合のみ。 へらと笑いながら呟くその言葉は、だからこそ彼らを逆撫でするものだったけれど。 「そういうところがひねくれてるってんだよ、全く」 苛立つような言葉を受け流して、ドガースは両手を腰の横である墓の上に戻した。 それでもなお収まらずに、彼女の主は天井を仰ぐ。 「あーもう……何でもっと素直で強いもえもんじゃなかったんだろ」 手の届かない天井に向かって、手を伸ばす。 それは墓石に立って跳びでもすれば、簡単に手が届くものであったけど。 彼がそれに気付くことは、恐らくずっとないのだろう。 「ちょっとー、勝手なことばっかり言わないでよね。あたしだって現状に不満ぐらいあるんだからさー」 「俺が不満だってのか。じゃあ、どんなヤツがいいってんだよ?」 かつかつと爪先が床を踏む音が塔の中で響き出す。 「マスターと同じき・ぼ・う」 彼女はわざわざ語句を強調すると、ようやくその石の上から腰を上げた。 不規則な足音を響かせながら、彼の視界の横を通り過ぎて階段側へと向かう。 「……生意気なヤツ」 自然と視線を切られることになった彼は、彼女を追うようにして階段へと視線を移した。 塔の中には、先ほどから音が響き止まない。 複数の大小様々な足音が、刻々と迫る彼らへの宣告を示すように、階下から大きくなりながら近づいてくる。 「どーでもいいよー。それより来るよ、どーすんの?」 「……このままで終わってたまるか。俺にも意地がある」 帽子のつばを掴んで、ぐっと目深に被り直す。 吹けば飛ぶような意地で、どちらかといえば悪あがきに近い見苦しいものだったが意地は意地。 「えー、面倒だな。適当にやればいいじゃん、適当にさぁ」 両手を組みながら階段の向こうをぼうっと見つめる彼女の、気だるげな声は直らない。 それに気を使うこともなく、彼はほぼ一方的な憎しみを、来るべき階段の向こうへとぶつけていた。 「いや、絶対にやる。せめて主力の一匹でも毒にしてやらなきゃ気が済まない」 「ちっさいねぇ」 「うっせ、お前もちゃんとやれよ! 戦うのはお前なんだからな!」 やれやれ、と彼女は今日何回目かの溜息をついた。 そもそも普段からしていい加減なのだから、偶然やる気を出した時にそれに人を巻き込まないで欲しいと。 そんな事は口に出さずに組んだ両手を解いた彼女をどう見たか。 同時に階下から現れる影を捉えると、彼は吼えた。 そして―― 「周囲のもえもんにモテモテで幸せしてるようなヤツなんかに、負けてたまるかァ!!」 「別に泣かんでも」 「泣いてねぇっつってんだろ!」 「はいはい、わかりましたわかりました」 ――突撃する。 ◇ ◇ ◇ 戦いは決した。 そこは(わりと一方的に)死力を尽くした戦いが行われた跡とは思えないほど、ただ静かに変わらずに。 通路をうつ伏せの状態で這いつくばって、がんがんと拳で床を打ち付ける人間が一人。 「ううっ、ちくしょー……」 無数の靴跡と足型が収まった背中が、色々な意味で痛々しい。 今生のあらゆる彼を体現するものを踏み潰された格好で、何にあたればいいかもわからないまま、とりあえず床に八つ当たりした。 「いやー、攻撃の暇もなかったねえ」 くぐもった声は、また遠くから。 通路の横の壁に、絵画か何かのように磔にされているのはその毒紫。 ぴくぴくと手足を僅かに動かしながら、けぷりと口から煙を吹いた。 「フーディンって何だよっ……?! サイコキネシスってお前ッ!」 「いや、マスター。あれ念力」 「っせえよ!」 どちらにしても、手も足も出なかったことには違いがなく。 障害どころか、まるで軽い段差でも踏み越えるかのような気軽さで軽く踏み潰されてしまった。 「おまけに、何だッ……?! 『弱いヤツは群れる』って何だ! 知ったような口利きやがって!」 「いや、マスターに関しちゃそれ事実だし」 うー頭ががんがんする、と彼女はその場で頭を左右に振りながら、床に八つ当たりする彼の姿を見つめた。 煤けた負け犬。 「っせえよ!」 「別に泣かんでも」 「泣いてねえっつってんだろ! ちょっと踏みまくられて痛かっただけだ!」 「はいはい、わかりましたわかりました」 けぷ、と紫煙を吐き出して、彼女はそれきり目を背けて黙り込んだ。 てっきり自分への罵倒が来ると思っていたから、彼女自身としては少々拍子抜けですらある。 「ちくしょー……覚えてろ……絶対に見返してやる、何か絶対にやってやるっ!」 「……目標が明確じゃない辺りが泣けるねー」 いつまでもちぐはぐな関係の中、彼は八つ当たりの方向を違うものに定めていた。 少し考えて出来もしないこと、大きな事はそれだけで人を惹きつける。 例えそれが出来なかったとしても、魅力的な事には変わりない。 出来なかったとしても、それを責められることもない――もちろん、自分に。 (どーせ出来ないのに、やめよーよ。そーゆーのさぁ) けぷり、と煙を吐き出した。 数年後、彼らはやる事は小さくて弱々しい上にそれほど大きくもない犯罪をするくせに、、危険な場数を数え切れないほど踏みながら、 何故か追い立てる警察にも捕らえられずにしぶとく生き残り続けている変わった犯罪者としてその方面で多少、名が知れる事になるのだが。 それはまた、別のお話。
https://w.atwiki.jp/miitohosizora/pages/16.html
流星が朝起きていつものようにTVをつけると、丁度占いカウントダウンをやっていた。 8位か、微妙だな。とぼやき、ラッキーアイテムだというシルバーの時計を腕に付けていると、次のコーナーが始まった。 お天気お兄さん・・・否、お天気オジサンは淡々とした口調で今日の天気を洗濯指数を告げる。 流星はそれを見てはぁと溜め息を吐いた。 雨は好きじゃない。いや寧ろ嫌いだ。 だって傘をさすのは面倒だし、濡れるのは気持ち悪い。 今日は部屋干しかぁと主婦のような事を考えて――――でも洗濯を干した事はほとんどない――――もう1度溜め息を吐くと、彼は洗面台に向かった。 ハブラシをくるくると回しながら鏡を見ると、前髪が一本ピョンとはねていた。 僕はアホ毛萌えなんだ、なんてそれこそ阿呆みたいな事を考え、苦笑する。 そして敢えて髪をとかずにハミガキ粉を手に取った。 その時、ペン回し・・・ならぬハブラシ回しを失敗してしまい、歯ブラシがくるくると中を舞って埃っぽい洗面台の隅に着地した。 「・・・あ。」 と流星は間抜けな声を出し、始まったばかりだと言うのに、本日3度目の溜め息を吐いた。 「おはよ、星野君。」 「あぁ、うん。」 流星は球恵に返事をしながら首を傾げた。 福地さんが「おはよ」って言ってくれたけど、何か足りないような・・・・・ 翔は今日も気持ちよさそうに眠っている。これはいつも――――って言ってもまだ学園生活は始まったばかりだが――――と同じだが・・・・・ 「ん、ヨーコ??」 陽子の様子がおかしかった。 真っ先に「おっはよー!!」と元気に手を振ってくれると思っていたのだが、なぜか翔と同じように机に突っ伏して、どんよりと濁った空気を漂わせていた。 そう、それはもうあの雲に閉ざされた空のような。 「・・・大丈夫か、ヨーコ??」 声をかけても返事がなかった。代わりにいつの間に起きたのだろう、翔が答える。 「ヨーコは太陽が隠れるといつもこうだ。晴れたらすぐ元に戻るから気にするな。」 「あぁ・・・・うん、分かった。」 昨日と同じ命令口調に頷くと、翔は満足したように笑顔を見せ、自分の席に戻るともう1度机に突っ伏した。 ・・・起きていた時間約30秒。 よく分からない奴だ。・・・・・・今更だけど。 流星は苦笑すると、自分もその隣に腰掛けた。 ボーっとしているといつの間にか坂田が来ていて、流星の机をーゴンーと三角定規――――因みに二等辺の方――――で叩いた。 「をッ!?」 と流星は死ぬほど驚いて飛び上がる。 教室がわいた。 彼は赤くなって俯くと、坂田の奴恥かかせやがって、と心の内で罵った。 「星野、流星・・・・だよな。」 突然名前を呼ばれたものだから、流星は思わず「はいっ」と上ずった声で返事をした。 「あ、いやそんな怖がんなくても大丈夫だから・・・」 が、その反応はビビったものだと思われて頭を下げられてしまう。 流星はぶんぶんと首を振った。 「違うよッ、別に驚いただけだからッ!!」 焦ったようにそう言うと、ロン毛の男はすっと顔をあげて強面の顔を緩ませた。 しかしその笑顔は凶悪犯が人殺しに成功した時のような笑みで、流星は思わず顔を引きつらせてしまう。 ロン毛――――腰まで届きそうな勢いの――――はそれに気付かず話を進めた。 「俺は千秋実咲っていうんだ。・・・顔に似合わず女みたいな名前だろ??」 クスクスクス、と悪人顔を歪ませて自嘲気味に笑う。 「でさぁ、お前あの3人と知り合いな訳??」 急に真面目な顔になったから、それがまた怖くて、流星は少し身を退いた。 「・・あ、いや悪りぃ。そんなつもりじゃなかったんだ。」 ロン毛・・・・実咲は自分の髪を手ですく。 「・・・・あ、うぅん、こっちこそゴメン。」 流星は軽く頭を下げてから実咲の目を見据えた。 「・・・まぁ、知り合いって言ったら知り合いだけど。」 そう自信なさげに答えると、実咲は「そっか、そっか!!」と嬉しそうに笑った。 「あのさ、あそこで寝てるあいつ、付き合ってる人いる??」 実咲が指差した先には陽子の姿。 ・・・いきなり何を言い出すんだこの人は。 「いや、知らないけど・・・いないと思うよ。」 一昨日の事を思い出し、流星は頬を赤く染めた。 実咲はそれを目ざとく見つけ、訝しげに彼の顔を覗き込む。 「・・・なにかあったのか?」 詮索するような実咲の表情にビクリと肩を震わせ、彼は首を振った。 「いや、別に何も。」 彼はそう言ったが、実咲は何を思ったのか肩を落として溜め息を吐いた。 「・・そっ、かぁ・・・・・」 全てを悟ったような彼の表情を見て流星は慌てて否定しようとしたが、いいんだという風に片手で制された。 実咲にはそんなつもりはなかったが、流星は憂いを帯びたその表情に殺気を覚え、何も言う事が出来なかった。 4時間目。 昼休憩後に体育を控えているというのに晴れてきた空を憎らしげに見上げながら、流星はザビエルヘアーの英語教師の話を頭の端で聞いていた。 そして「はぁーっ」と本日2桁目であろう溜め息を吐いた。 ・・・丁度その時である。 「んはーっ、おっはよー!!」 でっかな声が後ろの方で炸裂した。 「なッ、ヨーコ!?」 流星は思わず呟いてしまう。 珍しく起きている翔とその2つ隣の球恵はしかし、いつもの事だとでも言う風に苦笑した。 「授業中は立たないようにな。」 独特の耳につく声でザビエルが軽く睨むと、陽子は「ごめんなさぁい。」とこれまた軽い調子で頭を下げた。 「星野ぉ、一緒に弁当食わねぇ??」 昨日と同じように陽子と球恵と翔と3人で弁当を広げようと思っていた流星は、実咲の突然の申し出に目を白黒させた。 「え、千秋・・・・君と??」 「あぁ。・・・・・別に嫌ならいいんだけど。」 そう言って彼が見せた表情は、初めの印象とはかけ離れていた。 流星は強面と悲しそうな笑顔のギャップに思わず噴き出す。 「・・・え、な、なんだよ?」 「ごめっ・・・くふっ。いいよ、一緒に食べよ。ヨーコと福地さんもいい??」 「・・・・・・あ、あぁ。」 ・・がしかし、そう頷いた彼はまた、少しだけ悲しそうに笑っていた。 「ヨーコ、福地さんっ。千秋君も一緒に食べていい??」 「うん、いいよッ♪多い方が楽しいもんね。大歓げぇ!!」 「えぇ、いいわよ。」 「・・・ありがとな。」 2人に歓迎され、実咲は照れたように礼を言った。 了承を得た2人は、陽子と球恵と一緒に販売の方へ向かう。 翔を合わせて5人は親から離れて暮らしている為か、いつも販売の弁当なのだ。 朝のうちに買った弁当券と海苔弁当を交換して貰ったのは流星と球恵。 陽子と実咲、それから球恵が交換してやった翔の分はから揚げ弁当だった。 4人がそれぞれ弁当を抱えて1年F組の教室に戻ると、翔が自分の机と流星の机をくっつけていた。 彼は球恵の姿を目にすると「抹茶プリン・・・」と小さく呟いたが、「お弁当の後よ。」と咎めるように首を横に振られた。 「ちぇー。」とつまらなそうに唇を尖らせ――――それはその場にいた全員が息を飲むほどに愛らしかった――――席に着く。 実咲もすっかり溶け込んで4人――――翔は弁当を一瞬で平らげてしまうと球恵に抹茶プリンをねだり、弁当の10倍の時間をかけてそれを食べ終えると、すぐに眠ってしまった――――は弁当を食べ終わってからも談笑していた。 今日初めて話をしたとはとても思えない。 実咲の強面に最初こそ戸惑ったが、慣れてしまえばほんの少しの表情の変化も分かるようになった。 だがそれは笑顔の裏側も見せてしまって。 1番彼の事が分かってしまった流星は、なんだか居心地が悪かった。
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/767.html
前へ いつもの朝、僕の前に現れたのは、今日もご機嫌そうな大きな熊さんだった。 「おはよう!」 「お、おはよう、く、熊井ちゃん」 先日の長説教の記憶もまだ生々しい僕は、挨拶もちょっと緊張気味になってしまった。 そんな僕の内面など、もちろんこの人にとっては全く関係の無い事だ。 熊井ちゃんは、今日もまたいきなり脈絡の無いことを僕に言ってきた。 「ねぇ、抹茶は好き?」 何だよ、また唐突に。 まぁ、そんなのいつものことだけど。 「抹茶? 別に嫌いじゃないけど、なんで?」 「なにその答え。好きなのか嫌いなのか聞いてるんだけど。どっちなのかハッキリしなさいよ」 彼女の聞いてきたことに対してあいまいな答えと質問で返したのはまずかった。 そんな僕の質問などはサクッと無視され、高いところから詰問してくる大きな熊さん。 こんな何気ない会話でさえも、主導権はすぐにこの人に握られてしまうんだな、僕は。 「す、好きです・・・」 僕のその答えを聞いた熊井ちゃん、直前の怖い顔(実は単なる真顔)がウソのように満面の笑顔になった。 その憎めない笑顔。 こういうところが彼女の魅力なのかもしれないな、なんて。 「そっかー! それは良かった!!」 「どういうこと?」 「うちね、新しいユニットを組むことにしたんだ」 またロクでもないことを考えついたのか。 それはいいけど、お願いだから僕を巻き込まないで下さいね。 「ユニット名はね、抹茶ーず。って言うの」 「抹茶ーず?」 「そうだよ、抹茶ーず。」 「抹茶好きの子の集りなんだ。 抹茶ーず。っていう名前ね、文末の「。」までがユニット名なんだって。変なとこにこだわるよねーw」 聞いてない、誰もそんなこと聞いてない。 でも、見るからに楽しげな熊井ちゃん。さっきの僕の答えを受けて話しを続けた。 「そっか、そんなに抹茶が好きなんだったら、分かった。入れてあげてもいいよ、抹茶ーず。」 だから、僕を巻き込むなと。 さっきは熊井ちゃんが怖いからそう答えたけど、そんなに大好きって程の抹茶好きではないのだ。 第一、熊井ちゃんの作るグループになんか関わりたくないっつーの。 もぉ軍団だけでお腹一杯です。 普段見てても、確かに熊井ちゃんは抹茶が好きなんだろう。 メニューに抹茶系を見つけると、大抵それを注文するし。 抹茶、ねぇ・・・ 日本人の心、ではある。 上品な学園生なら茶道のひとつも嗜んでいるのかも知れない。授業でもやってたりしそうだし。 だけど、この熊井ちゃんからは、そのような上品な空気はあまり感じ取れない。 だいたい熊井ちゃん、本物の抹茶というものを飲んだことあるんだろうか。それすら疑わしい。 抹茶が好きとか言ってるけど、どうせ抹茶風味のお菓子が好きだってだけのことなんだろ。 そんな、抹茶大好き!とか言ってる女の子に限って、本物の抹茶を飲ませると「何これ、苦~い!」とか言い出すのだ。 うん、おおかたそんなところだな。 どうせ上辺だけの抹茶好きだったりするんだろう。 そんなんで抹茶好きを名乗ったりしたら、抹茶の産地の商工会議所の人に怒られちゃうぞ。 そこのところ、この僕が直々に説教してあげようか、その抹茶ーずとやらに。 なーんて、脳内で吠えまくってみましたけど、熊井ちゃんに僕がそんなこと言ったりは出来ません、もちろん。 実際熊井ちゃんを目の前にしたら、僕は引きつった笑いを浮かべながら彼女にヨイショするしかなかったりする。このように。 「そ、それは楽しそうだね。抹茶好きが集まって研究とは素晴らしいことだと思うよ。うん・・」 「結成したばっかりだから、メンバーもまだ2人しかいないんだ」 「2人・・・熊井ちゃんと、あともう一人だけ?」 「それでね、今日抹茶ーずの初会合をするの、あのカフェで。だから、今日は席を一人分多く取っておいて」 熊井ちゃんとユニットを組む、しかも今は2人っきりだなんて、その生徒さんはずいぶん勇気のある人だな。 それとも、なーんにも考えていない人なのか、そのどちらかなんだろう。 どっちにしても余り関わらない方がいい人なのは間違いないな。 熊井ちゃんとユニットを組むような人だもん。きっと桃子さんのような変ry 「それから、来るときに何か抹茶のデザート探して買ってきておいて」 「なにそれ・・・僕が買って行くのかよ・・・ てか買ってきたものを店に持ち込んだりするのって、それはまずいんじゃ・・・」 「あ?」 「はい、わかりました。探しておきます」 「そうだ!いま抹茶マシュマロっていうのが評判らしいから、それがいいなー」 「抹茶マシュマロね。で、どこで売ってるの?」 「知らないよ」 「え?」 「それぐらい自分で調べなさいよ。すぐ人に頼るんだから、もう」 咎めるような熊井ちゃんの目付き。 なんで僕が悪いみたいな雰囲気になってるんだろう。 「いい? うち達が満足できるようなものじゃないとダメだからね!」 「うん、努力してみる・・・」 「よし!」 何が、「よし!」なんだろう。 なんか熊井ちゃんがとても張り切っている。 それを見て、僕は不安な思いでいっぱいになるばかり。 あぁ、今日はあのカフェに行きたくない。 心底関わりたくないのだ。熊井ちゃんの作った新しいユニットなんていうものには。 でも、熊井ちゃんのお願い(命令)を断るなんて、もちろん僕にそんな勇気があるわけも無い。 僕は言われた通りに、依頼の品を探し出してきて、一席多めの席取りをしておくしかないわけで。 まぁ、お陰様で僕は検索能力がかなり身に着いてきたような感じはするので、熊井ちゃん所望のそれを何とか見つけることも出来るだろう。 熊井ちゃんは充実感漂う風情で学園に向かっていった。鼻歌を歌いながら。 ♪会いたい時~ 会いに行っちゃ いけませんか~♪ 本当に楽しそう。 僕が第三者であったなら、その光景をとても微笑ましく眺められたことだろう。 だが、残念ながら僕は熊井ちゃんの言ったことの当事者なのだ。 熊井ちゃんにまた無理難題を吹っかけられて、ただもうひたすらげんなりとした気分になっていた。 そんな僕だったが、今から目の前に広がるであろう光景を思うと気持ちが戻ってくる。 そう、もうすぐ舞ちゃんがここを通るはずだから。 生きる為のエナジーってのがここにあるからなのだ。 そして僕のエナジーの源のそのお方がやって来た。 今日の舞ちゃんも別格の存在感だ。 まさしく天使。 あぁ、やっぱり舞ちゃんが一番かわいいな。 舞ちゃんのことを思えば、このように僕の気分は一気に上昇するんだ。 そして、舞ちゃんのためなら僕は何でも出来るような気がする。 舞ちゃんかわいい。かわいすぎる。このままずっと見ていたい。舞ちゃん、あぁ舞ちゃん。 ・・・思わず朝から興奮してしまったが、もちろんそれを外面に出したりはしていない。 爽やかな笑顔(とかいってw)で舞ちゃんを迎える。 そんな僕のそばまでやってきた舞ちゃん。なんと僕の前で立ち止まってくれた。 この予想外の展開に、僕の心が一気に高鳴る。 そして、舞ちゃんは僕に対して声をかけてきてくれたんだ! まるで今日ここで僕に会ったら話しかけようと決めていたかのように躊躇無く。 何ということだろう!嬉しすぎる!! まぁ、舞ちゃんのその表情は、決して僕に好意的な表情というわけではなかったが、そんなことは問題ではない。 舞ちゃんが僕に話しかけてくれたことこそが重要なんだ。(それに舞ちゃんって結構ツンデレっぽいry 「あのさ、話があるんだけど」 舞ちゃんが僕に話しとは? な、なんでしょう!! そう言って僕を見つめてくる舞ちゃん。 僕は緊張しつつもドキドキさせられてしまう。 こんな風にしっかりと舞ちゃんと向き合うのは、あれ以来初めてのことだから。 一瞬の沈黙ののち、舞ちゃんが僕に言った。 「でも今はちょっと時間が無いから、今日の放課後、時間を作ってくれるかな」 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3754.html
前ページ次ページゼロの魔獣 グリフォンの背に揺られながら、ルイズは物思いに耽っていた。 傍らでグリフォンを操っているのは、トリステイン魔法衛士隊隊長・ワルド アンリエッタが遣わした、今回の任務の助っ人。 そして、ルイズの幼き日のかりそめの許婚者。『憧れの子爵様』 「随分浮かない顔だね? やはり 使い魔の事を気にしているのかい?」 「―ッ! そんな事は! ない・・・です・・・」 だが― 昨夜の事はやり過ぎだった、ともあらためて思う。 慎一が死ぬ時、彼の中の真理阿も死ぬ・・・自分自身が、かつて彼にいった言葉だ。 王女の友誼にのぼせ上がっていたあの時の自分は、そこまで考えて行動していただろうか? さらに言えば、慎一の居ない今の自分に、どれ程の事が出来ると言うのか? 内と外に被保護者を抱えた慎一は、珍しく慎重な判断を下していたのではないか? 無論、王女に対するぶっきらぼうな物言いと、高圧的な態度は許せないが、 彼なりの忠告を見過ごし、使い魔に多大な負担を強いる主には、それを咎める資格は無いだろう。 無事にアルビオンから戻ったならば、ちゃんと謝ろう。 そんな珍しくも殊勝なルイズの思考は、5分後に吹っ飛んだ。 眼前に、返り血にまみれた彼女の使い魔が見えて来たからである。 「女王陛下の魔法衛士隊・グリフォン隊隊長 ワルド子爵だ 今回の旅に同行する よろしく頼むよ 使い魔君」 「ああ」 あの時の狼か・・・などと考えながら、慎一はぶっきらぼうに答えた。 「それにしても・・・」 ワルドが辺りを見回す。 遺体の埋葬こそ済ませたものの、辺りは死臭が立ち込め、大地が赤く染まっている。 「いくら賊相手とは言え、こちらは女性連れなんだ もっと他に・・・やりようというものは無かったのかい?」 「そんな生ぬるい相手じゃ無かったぜ」 「・・・・・・・・・」 「初日からいきなりこのザマだ 王女の近辺にスパイでもいるんじゃ無ぇのか・・・? 衛士隊長さんよ」 「そんなワケないでしょッ!! このバカ犬ッ!!」 2人の会話に、ルイズが割って入る。 状況だけ見るなら、ここは怒る場面ではない。 彼女の使い魔は、自分勝手な主を見捨てずに付いてきてくれたばかりか、 先行して障害を取り除いてくれたのだ。 ギーシュから事の仔細も聞いている。 惨劇の責任が慎一には無いのも理解した。 それでも、全身を赤く染め上げ、許婚者に悪態を突く慎一を見ていると 彼は、ただ暴れ回りたいだけの戦闘狂ではないかと思えてくるのだ。 主を省みない傍若無人ぶりに、ルイズは反駁せずにはいられない。 「・・・大体 なんでアンタがここに居るのよ 今回はアンタの力は借りないって言ったでしょ」 「―気が変わったのさ こっちはこっちで アルビオンに行かなきゃならねえ用事ができちまった」 ―最悪の返答であった。 ルイズの怒りの炎に、再び油が注がれた。 「―――ッ!! いいわよ! アンタはそうやって好き勝手に暴れてりゃいいのよッ!! 行きましょう! ワルド!!」 ルイズがずんずんとグリフォンへと乗り込む。 慌ててルイズを追いかけるワルドだが、ちらりと慎一を見る。 人を値踏みするような、気に入らない眼だ。ブン殴ってやろうか。 「さ 私たちも行きましょ ダーリン」 理不尽な事を考えている慎一に、キュルケが促す。言われるがままにシルフィードに乗り込む。 何故かワルドの前では、魔獣の翼を見せる気にはならなかった。 「忘れ物」 言いながら、タバサが慎一にそれを手渡す。 「・・・あ」 慎一の両手の上で、デルフリンガーが泣いていた・・・。 ―ラ・ロシェール 『女神の杵』亭の一室では、インテリジェンスソードの愚痴が続いていた。 永遠に続くかのようなその話を聞き流しながら、慎一は考え事をしていた。 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド― 『閃光』の二つ名を持つルイズの許婚者を、慎一は既に『敵』と決め付けていた。 根拠は無い。全ては野生の勘であり、慎一の危機を幾度と無く救ってきた感情である。 (目だ・・・) 慎一は思う。アレは、目的のためなら平然と他人を踏み台にする人間の目だ。 ああいう目をするヤツは、一刻も早くこの世から抹殺せねばならない・・・。 それは、明らかな言いがかりであり、暴言であり、被害妄想の類であろう。 しかし、慎一を見るワルドの冷めた瞳は、彼のよく知る人物達のそれを髣髴とさせた。 「-なあ デル公 ひとつ頼まれちゃあくれねえか?」 「ああ!? ふざけるな! どの口がいうか!! 置いてけぼりを食らわしやがったクセによー!!」 「・・・少しの間 ルイズの側にいてやってくれ」 「―ッ!! なんだよシンイチ らしくねえな! お前さんもライバルの登場で・・・」 ひやかしかけて気付く。この男は、こんな風に誰かを頼りにする男だったろうか? 慎一の異様な静かさが、事態の深刻さを雄弁に語っていた。 「―わかったよ・・・ 相棒が見つかるまでっていう 真理阿との約束だったしな」 「頼む」 「・・・だがよう シンイチ 俺は足が無いんだ 置いてけぼりにされちゃアウトだぜ」 「この任務が終わったら 僕と結婚しよう ルイズ」 ―隣の部屋では、件のワルドが決定的な一言を放っていた。 「ワルド・・・ でも わたし・・・」 真っ白になったルイズの頭の中で、様々な思考が浮かんでは消える。 元々ワルドは憧れの男性だ。許婚者なんて親同士の戯言と諦めてもいた。 実際、この告白は不本意なものでは無い。 ―だが、あまりにも話が性急過ぎる。 ここで結婚を承諾したら、その後の生活はどうなってしまうのだろう? 魔法学院には今までどうり通えるのだろうか? そして―。 「やはり 使い魔の彼が気になるかい?」 「―そんな事は! そんな事は無いわッ!!」 そう。確かにそんな事は無い。 慎一と自分が恋に落ちることなど、宇宙が一巡してもあり得ないだろう・・・。 だが・・・。 ルイズには直感的に分かる。 慎一とワルドは、恐らくは『合わない』 ルイズがワルドを選べば、慎一はにべも無く、ルイズの元を離れるだろう。 「ルイズ・・・君の使い魔は『異邦人』だ いずれは君の許を去る」 「―! それは・・・!?」 「分かるさ・・・ 彼は どう見てもこの世界の住人じゃない 戦いに倦んでこの大陸に来て いずれは戦いを求めてこの大陸を去る ・・・違うかい?」 確かにワルドの言う通りであろう。 慎一の中に宿る激情の炎を消し去る事のできる人間など、存在するはずが無い。 遅かれ早かれ慎一はこの世界を去り、未来永劫続く戦いの世界に身を投じるであろう。 (そして・・・ 真理阿も) 誠実な使い魔であり、かけがえの無い友であり、優しい母親であった真理阿。 この世界での生活が、慎一にとって一時の休息というならば できうる限り、その安息の日々を伸ばしてやることのみが 彼女の友誼に応える手段なのではあるまいか? 「ワルド・・・ わたし」 「・・・どうやら少し 急ぎすぎていたようだね 今 返事をくれとは言わないよ でも この旅が終わったら 君の気持ちは 僕に傾くハズさ・・・」 ―翌朝 慎一の部屋のドアを叩く音がする。 ドアの外にいる人物が何者なのか、慎一には、既に検討がついている。 「おはよう 使い魔くん」 「おはよう 色男 出航は明日だ 寝かせといてくれるか?」 「君にルイズを守るだけの力があるのか 使い魔としての力量が知りたい お疲れのところすまないが ひとつ手合わせ願えないかね」 「お疲れなのですまないね じゃれ合いはゴメンだ」 ワルドは周囲の様子を確認すると、慎一が大嫌いな目をして言った。 「・・・ハッキリ言おう 僕は君のことが気に入らない 君は少しばかり力があるのを良い事に 使い魔の領分を超えた行動をとってルイズを苦しめている アルビオンに向かう前に その思い上がりだけは叩いておかねばと思ったのさ」 「へえ・・・」 慎一は、ワルドは結構いいヤツなんじゃないかと思い始めていた。 ルイズを憚って言えなかった事を、まさか彼の方から口にしてくれるとは・・・。 「今日はえらく気が合うじゃねえか 叩くのは思い上がりだけじゃ済まさねえぜ コッチはよぉ・・・」 ハルケギニアに来て以来一番の、実に爽やかな笑顔で慎一が言った。 前ページ次ページゼロの魔獣
https://w.atwiki.jp/chaosdrama/pages/1922.html
《りめる()/Limer》 #ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。 種族 いぬ 年齢 不明 性格 女 能力 そげぶ 賢さ レミリア以上ギレン・ザビ以下 好物 オレンジジュース 趣味 文を追い越すこと ハヤテが思いつきで考えたアホ毛でチビでいぬな娘。 外見はいぬさくやと竜宮レナを足して2で割ったような感じ。 賢さがレミリア以上ギレン以下、ただし言葉は殆どひらがなだがな! 因みに無断使用禁止のゲストでは荒らさなければ誰でも使って良しのキャラ第一号…なのか? デュー氏設定のりめる 可愛い顔して時々深い事を語る不思議ちゃん。座布団とオレンジジュースがあればなんとか生きていけるらしい。 しかし深すぎる故結論が読めないこともあり、相手に分かってもらえない時もある。 そんな彼女の台詞集↑Old ↓New 「どっかにわすれものをした。きょーしつだったか、おかーちゃんのおなかのなかだったか。」 「たのしけりゃわらえばいいし、かなしけりゃなけばいい。けど、むなしいときはどうしたらいいわかんない。だからおれんじじゅーすをのむ。」 「なやみだしたらきりがない。くだらないことかんがえて、へこんでも、あしたわらえばそれでいいじゃもん。」 「いやなものをいやといったら、こんなきょーにたどりつくんだ。」 「にんげんってのは、ひとつやふたつのけつらくはあるんじゃもん。」 「おわりはいつかやってくるとしったとき、はじめてひとがいとしくなる。ばかげたことかもしれないれど、どうかいきていてほしい。」 「おわりがあるからうつくしいの?そんなのわかりたくもない。おわりはいつもはやすぎるんだよ、おわりのばーか。」 「このあいだしったんだ。いってきのなみだが、うみにまさるとはしらなかったよ。」 BGCOLOR(silver) 関連ページ 関連画像 キャラクター紹介へ戻る|キャラクター紹介 【】へ戻る コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/katayoku/pages/92.html
ゲームをすることである。ゲームを和英するとGAME(がめ)となることから。怪盗はわざとつづりを間違えて「GEAM」と言う。それに詩人が必ず「がめですよwwがめww」と言い、またそれに対して怪盗が「がめかwwスマww」というやりとりが必ず行われる。こっとわざGEAMなどをやる際に「がめるかw」とのように使用する。
https://w.atwiki.jp/mipo-2727/pages/56.html
今日、とても驚くことがあった。僕の騎士が僕との結婚を望んでいると言ったのだ。 ~ベルカインの日記より。 「ベルカインー」 縁側でお茶の用意をして待っていると、いつもの声で、いつものように僕の騎士が訪ねてきた。 マントをひるがえし息を切らして、慌てているようにみえる。 今日の弓美はずいぶんと急いで駆けてきたようだ。 まだ飾り気のない少女のような僕の騎士。 そんな様子をみて、穏やかな気持ちで微笑みかける。 「まっていました」 「お待たせしちゃったのかな? ……それとも何か話あるのかしら」 歩み寄り、僕の隣に座った弓美は僕に体を寄せてきた。 弓美の髪がさらりと揺れる。 見上げる澄んだ瞳を綺麗だと思った。 「話は、ないね」 そう言いながら、僕は弓美にお茶をそっと出す。 僕からの話はとくにない。弓美から呼ばれたのは嬉しかったけれど。 「そっか……あ、ありがとう」 受け取りながら礼を言う弓美。 素直な言動に微笑ましさを感じる。僕の騎士の美徳だ。 「そしたら、私のこと待っててくれたんだ。連絡したから?」 「そうだね」 受け取った弓美は、お茶のほうに視線をやり小首をかしげる。 何のお茶だろう。顔にそう書いてあるのが見える。 全く騎士らしくない弓美の行動と、ここまで周りに体調を気遣われている自分に対して苦笑いしながら答える。 「薬草茶は、少し……」 「薬草茶……バルク様かな」 弓美も苦笑いしながらお茶に口をつけた。 気持ちを共有したようでなんだかくすぐったい気持ち。 僕も弓美の隣で静かに茶を味わう。 安らぎを感じるのは弓美が僕の側にいるからか。 「あ、おいしい」 お茶を飲んだ後、弓美は僕に体をもっと寄せてきた。 弓美のぬくもりを感じながら僕は不思議な気持ちになる。 弓美は今まで僕に仕えた騎士にはない言動が時々ある。まず騎士が、主である僕の隣に座るなんて僕の世界ではまずありえない。ましてや体をこんなに寄せて座るなんてない。 咎めるどころか、それをまた心地よいと感じている自分も不思議な気がする。 「……えと、ね。私の方は、ちょっと話、って言うかあなたに言いたいことがあって」 「なんだろう」 彼女の真剣な様子に僕も受け止める用意をする。 「私はベルカインの世界の習慣とか知らないから、私の言葉で言います。私は、あなたのお嫁さんに……妻に、なりたい」 うん?妻? 僕は率直な疑問を口にする。 「君は僕の騎士なのでは?」 「騎士が妻になっちゃ駄目なの? ……ベルカインの世界ではそうなのかもしれないけど、その前に私はあなたを好きな、1人の女です」 僕は驚いた。彼女の真剣な気持ちが伝わってくる。しかし真剣であればあるほど、彼女にはまだ早すぎる気もして、申し訳ないがくすくす笑ってしまった。少なくとも女性が剣を刷いたまま言うようなことではない。 あまりにもかわいい行動。そんなところも好きなのだけれど。 だからつい聞いてしまう。 「誰に吹き込まれたんだい? そういう言い回し」 僕はまるで妹を見守る兄のような気持ちになる。 弓美の様子から察するに、恋に恋しているような、傍にいる年の離れた人に憧れるような、そんなところだろうか。 茶菓子を渡すと少し拗ねた様子で受け取る弓美。そんなところもかわいいと思う。 「私の言葉だって言ったよね? ベルカインはすぐ、そうやって笑ってばっかりで」 「そうか、ちょっと驚いたよ」 「僕が知る限り、そういう話、したことなかったから」 僕は弓美を大切に思っているし今の二人の関係は安定しているとおもっているが、弓美の求めるのはもっと別のものなのだろうか。 「考えるだけでこう、頭の中がぐるぐるしちゃって。それにいろいろあって、言う機会が全然なかったから」 真っ赤な顔の弓美。 しかし僕は疑問に思い、口にする。 いつだって側にいる僕の騎士。そんな弓美なら、 「いつでもいえたと思う」 「じゃあ多分、私の心の準備がちゃんとできてなかったのね」 じっと僕の目を見ながら潔く自己反省する姿に好感をもつ。 確かに心の準備がいるのだろうと思い、微笑みながら、なるほどと答える。 「……返事が、欲しいな。ベルカインが私のことをどう思っているのか、どうしたいのか、知りたい」 どう思っているか。 弓美にまっすぐな偽りない気持ちを伝える。 「そういうことは想定してなかった」 「驚いている」 弓美は、それでもめげることなく僕をまっすぐに見つめる。 「そか。じゃあ……私はあなたの傍に、ずっといてもいい? 私がそうしたいなら、じゃなくってベルカインの答えをください」 僕は微笑んだ。 今の自分の率直な気持ちを伝える。 「僕の騎士がいないとさびしい。」 「私があなたの騎士じゃなくなっても、傍にいていい? 恋人として、……いや要するに妻の座の予約をしたいんだけど」 「今日は強引だね。なにかあったのかい?」 いつもはここまで言う子ではない。 僕は弓美の髪をなでた。 何が彼女をここまで不安にさせたのか。心配しながら彼女の目をみつめる。 「だって何かどこかからあなたのお見合いの噂聞いちゃったんだもん、恋人としては気が気じゃないのよ」 言いながら弓美は、ぎゅーと僕に抱きついた。 なでようと手を伸ばしかけて、ふとひっかかる単語。 「お見合いとは、なんですか?」 「噂は噂か……よかった。えっと、結婚相手をさがしてる男の人と女の人が紹介者と一緒に会うの。それで、相性が良さそうだったらそこから結婚を前提としたお付き合い」 「貴方が最初にきたように?」 「……そういえばそうか。あ、でも私は、その、ベルカインの話を聞いて、会ってみたいなーって思ったから……そんでもって会ってみたらすごく良いひとだったから……」 僕の胸に顔をうずめる弓美。 だから不安になったのか。僕をとられるとでも思ったのだろうか。 僕は今のところ結婚する予定はないのだけれども、たとえ結婚したとしても僕と弓美の関係は変わらないというのに。 君は何にも代えがたい僕の大切な騎士だ。 だからこその背伸びの言葉だったのだろう。 大丈夫だよ。 言葉の代わりに弓美の頭をなでた。 FIN ■□■それから~■□■ ある日のことである。 ベルカインはいつものようにお茶を用意して、自分の騎士を待っていた。 湯の温度も加減よく、季節を感じる茶菓子もある。 あとは待ち人が来るだけ。 悠然と庭を眺めるベルカインに、いつもの元気な声が聞こえた。 「ベルカインー」 笑顔でそちらを見やり、そのまま見つめてしまったベルカインである。 目に映ったのは、レースのドレス。 上品な水色を基調として、リボンと白いフリルで彩られたスカートは、パニエのためかふんわりと広がって揺れている。 背中にも細いリボンとレース。 ヘッドドレスをつけた彼女はベルカインに微笑みかける。 「おまたせ」 ベルカインは言葉にならなかった。 王族である。気の利いた言葉はいくつも知っているはずだったが、真に驚いたときにはそんな知識など役には立たなかった。 彼女は全くいつものようにベルカインの隣に座り、近くに寄った。 ベルカインの心臓が跳ねる。 しばらく考えた後、やっと口にしたのは、今日はどうしたのですか?の一言。 「どうもしないよ?ただベルカインに私が女だって知ってほしかったから」 にっこりと可憐な笑顔で返す弓美。 知っていますよ、とは言えないベルカイン。 そういえば、彼女は初めから騎士の恰好をしていたわけではなかったことを思い出す。 彼女と唇を合わせた感触と匂いを思い出し、赤面するベルカイン。 今の彼女からはそのときと同じ、いやそれ以上のいい香りがする。 もちろん騎士の姿でも甘く清楚な香りを感じていたが、どうしてだろう。今日はこんなに動揺している。 「お茶。用意してくれてたんだ。私入れようか?」 「あ、いえ。僕が」 お茶を渡すと、彼女は香りを楽しみ、ベルカインに笑顔を向けた。 そのままお茶をしながら座る二人。 弓美の様子は、服装以外普段とあまり変わらない(あえて言えばスカートのためか立ち振る舞いが女性らしさを増していた)が、ベルカインはちらりちらりと横を見て無言。 「あー、おいしかった。いつもありがとう、ベルカイン」 嬉しそうにベルカインにぎゅーする弓美。 かなり悩んで、やっと弓美に手をまわすベルカイン。 「なんというか、照れますね」 ベルカインの口にした言葉で、顔を真っ赤にする弓美。 こんな言葉をベルカインから久しぶりに聞いた気がした。 思い切って、着てみてよかったと思った。 まるで初めて触れるようにそっと抱きしめあう二人。 お互いの体温が同じになるくらい抱きしめあった二人。 ベルカインは弓美の手をそっと取り、庭の奥へ誘った。 それは貴婦人に対するような優しいリード。 ベルカインがいつもと違った! 自室に帰った後、弓美は転げまわりたい気持ちを我慢しながら真っ赤な両頬を手で冷やしながら思い出す。 いつもより、すっとずっと優しかった! 抱擁を思い出し、今度こそ倒れる弓美。 それから弓美の部屋のワードローブには、レースとフリル満載の服があふれるようになった。 ふたりはそれから、もっと仲良しになったのは言うまでもない。
https://w.atwiki.jp/lcss/pages/138.html
前話 夜の帳が落ちたエリア11。 その闇夜にライトアップされた政庁が浮かんでいる。 ルルーシュは学園の屋上でその光景をただ無言で見つめ続けていた。 そんな彼の背後にはスザクが居た。 しかし、ルルーシュはスザクと向き合おうとしない。いや、今向き合う事は出来ないと言う方が正しいだろう。 ルルーシュの表情には隠しきれない程の苦悶と憎悪の色が浮かんでいたのだから。 原因は単純明快。 スザクは携帯片手に先程までルルーシュが会話していた人物、ナナリーと話しているからだ。 自分を売った男が何食わぬ顔をして最愛の存在と会話をしている。 幾らルルーシュと言えども、お得意のポーカーフェイスを貼り付ける事は不可能だった。 唯一の救いと言えるのは、スザクと話しているナナリーの声がルルーシュには聞こえない事だろうか。 ルルーシュは手摺に凭れ掛かり視線を落とす。そして、今度は心此所に有らずといった様子で中庭で行われている舞踏会を見つめた。 一方、スザクはそんなルルーシュの背中にチラリと視線を送った後、通話口から聞こえるナナリーの声に耳を傾けた。 『すいません。スザクさん』 「こっちこそごめん、ナナリー。変な期待させちゃったみたいで……」 ナナリーという単語にあらん限りの力で手摺を握りしめるルルーシュ。だが、背中が死角となりスザクがそれに気付く事は無かった。 『いえ、雰囲気が似ていたので驚いてしまって……あの……』 「何だい?」 言葉に詰まるナナリーに向けて、スザクは柔和な声色で問うた。だが……。 『学園の皆さんはお元気ですか?』 「っ!!」 返って来た問いにスザクは絶句した。すると、返答が無い事が余程不安だったのか通話口より響くのは震えるようなナナリーの声。 『スザク…さん?』 「えっ!? あぁ……うん……元気だよ」 『そうですか。よかった…よかった…』 依然としてナナリーの声は震えたまま。しかし、そこに先程までの不安の色は無い。 彼女が心の底から安堵している事が分かり、スザクは唇を噛み締める。が、今の彼の表情を知る由も無いナナリーは――。 『それでは来週エリア11で』 「うん」 『お会い出来る日を楽しみにしていますね』 待ち遠しさを隠しきれない様子で、やや高陽した口調と共に会話を切り上げた。 ナナリーとの通話が終わるとスザクは携帯を制服のポケットに仕舞い込む。 一方、漸く悪夢が終わりを告げた事に安堵したルルーシュは、気取られぬよう軽く一息吐くと振り向いた。 その顔に先程までの苦悶の色は無かった。仮面を貼り付けたルルーシュが問う。 「終わったか? スザク」 「終わったよ。ルルーシュ」 そう告げるとスザクはルルーシュの傍らまで歩み寄る。 ルルーシュは近づいて来るスザクに向けて極自然な笑みを浮かべてみせた。 「それじゃあ、行こうか。主賓が居ないままだと会長がふて腐れるぞ?」 「そうかな? 結構楽しんでるみたいだけど……分かったよ」 手摺より少し身を乗り出して中庭を見たスザクが苦笑すると、ルルーシュもそれに習う。その時、二人の視線が交差した。 目が合った彼等は互いに釣られるかのようにどちらとも無く気恥ずかしそうな笑みを浮かべると、肩を並べ出口に向かって歩き出した。 傍目に見れば、その光景は如何にも仲の良い友人同士だと映るだろう。 だが、彼等の間にはお互い一年前には想像も出来なかったような……深い谷が広がっていた。 ―――――――――――――――――――――― 一見、庭園かと見紛うばかりに花が咲き乱れる一室。 その部屋の中央に彼女、ナナリー・ヴィ・ブリタニアは居た。 彼女の表情は芳しくない。ナナリーには3つの懸案事項があったからだ。 一つは言わずもがな、兄であるルルーシュの行方。そしてもう一つは学園メンバーの安否だった。 皇族として復帰したナナリーは、それらを調べる術を持ち得なかった。何故か。 ブラックリベリオン以降、父である皇帝シャルルに彼女は学園との接触、その一切を禁じられていたからだ。 それでも気になったナナリーは皇族への復帰もそこそこに訪ねて来たシュナイゼルへ真っ先に相談したが、逆にルルーシュの捜索はアッシュフォード家の立場を危うくするとの指摘を受けてしまう。 そのような事を言われてしまえば心優しい彼女が動ける筈も無い。 ナナリーはこの一年ただひたすらに兄や学園の仲間の安否を気遣う事しか出来なかった。 だが、ここに来てルルーシュの無事はナナリー本人によって確認された。 本来なら彼女にとって何よりも喜ばしい事の筈。が、ナナリーの表情は優れなかった。 それは単(ひとえ)にルルーシュから告げられた頼み事の真意と、その後のスザクの態度に起因する。 それらが新たな懸案事項として燻る事となったからだ。 ――お兄様……スザクさんは嘘を吐いてるのかしら? ナナリーは一人思考の海に沈む。が、未だルルーシュの真意は分からず仕舞い。 出口の見えない迷宮に迷い込みそうになったナナリーは、ひとまず残りの懸案事項へと思考を切り替えた。 ――学園の皆さんは元気……良かった。本当に……。 スザクから告げられた言葉を胸の内で反芻した時、ナナリーはやっと表情を和らげた。 と、同時に最後の懸案事項も霧散していった。 最後の懸案事項。それは、突如として現れた新しい異母兄、ライ皇子に関する事だった。 学園での記憶を奪われたライは一年近く前、皇族としてオデュッセウスを始めとする他の皇族達と顔合わせをしていた。 そこにシャルルの意図があったのかは定かでは無いが、復帰したばかりのナナリーはその場には呼ばれなかった。 8年近くも他の兄姉とは疎遠となっていた彼女をオデュッセウスやシュナイゼルは快く迎え入れたが、対するギネヴィアやカリーヌはナナリーを疎ましく思う傾向が強く、会話らしい会話を交わしていない。 特にカリーヌは殊の外ナナリーを毛嫌いしており、久方ぶりの再会であるというのに陰湿な言葉を浴びせた程だ。 結果として、その事をナナリーに知らせたのはオデュッセウスだった。 当初、その名を聞いたナナリーは大層困惑し執拗に問うたが、オデュッセウスが知っているのは容姿程度で詳しい事は一切知らされていなかった。 しかし、余りにも執拗に問うナナリーに困り果てたオデュッセウスは「何れ会う機会もあるだろうから、その際に尋ねてみるといいよ」と窘めるとその場を後にしてしまう。 困ったナナリーはシュナイゼルにも同じ事を問うたのだが、シュナイゼルに至っては「彼の事は放っておこう」との一点張りでライに関する情報は一切引き出せなかった。 初めて見せるシュナイゼルの頑な態度を若干不思議に思いつつも、ナナリーが次に訪ねたのは警護担当として赴任してきたアーニャだった。 が、アーニャの答えはオデュッセウスのものとそう大差が無かった。 その為、最後にナナリーは藁にも縋る思いでアーニャと同じくその場に居たというスザクに尋ねた。 だが、スザクは「殿下は彼とは別人だ」と断言してしまう。 スザクの発言は嘘と言えば嘘になるが、聞きようによっては真実とも言える。あのライはライでは無くライゼルなのだから……。 ナナリーはその時のスザクの悲しそうな口振りが気になりつつも、やっと安心する事が出来た。 そうして、やっぱり有り得ない事だった、同名の別人なのだとの結論に至った。 至ったのだがそれでも妙な胸騒ぎが消える事は無く、それは彼女の心を燻り続けた。 その結果、近いうちに会って自分自身で確認すればいいと己に言い聞かせたのだが、彼女の思惑とは別に二人は終ぞ出会う事は無かった。 ナナリーは先程のスザクの言葉を今一度反芻する。 そして、その中には当然ライも入っているのだと思った。いや、思い込んでしまった結果、ナナリーの懸案事項は一つとなった。 但し、その事で彼女の気が楽になる事は無い。 彼女にとってルルーシュの真意が分からない事は何よりも心苦しいのだから。 しかし、今はそれよりも重要な事が有るのをナナリーはまだ知らない。 暴君と化したライが今この時、銀色の仮面を被りカリフォルニア基地を騒がせていたという事を……。 ―――――――――――――――――――――― コードギアス 反逆のルルーシュ L2 ~ TURN04 太平洋奇襲作戦(前編)~ ―――――――――――――――――――――― 機情の長を出迎えるべく、左右に分かれた兵士達が居並ぶメインターミナル。 当初、そこに現れたカリグラの姿を見た兵士達は、ゼロを彷彿とさせるその容姿に慌て蓋めいた。 が、幸いにも到着前に皇帝の身辺警護を司る特務総督府より連絡が入っていた為、警戒こそすれカリグラを拘束しようという動きは無い。 尤も、彼に対してそのような行為に及べばこの場に居る者達全員良くて人形、悪ければ屍に成り果てるだけだが。 ざわめく兵士達を余所に悠々と歩みを進めるカリグラ。そんな彼の視線の先には二人の男女が居た。 二人の傍まで歩み寄ると仮面の奥でライはその内の一人、眼鏡を掛けた男を見定めた。 「出迎エ御苦労。オ前ガ"ロイド・アスプルンド"カ?」 「そうだよ。そういう君がカリグラ卿だね?」 問われた男、ロイドは飄々とした口調で返す。するとロイドの傍に居た女が慌てて咎める。 「ちょっとロイドさん!……も、申し遅れました。セシル・クルーミーです」 全く物怖じしないロイドにセシルは気が気でなかった。 しかし、カリグラは特に気にも止めずにセシルの名乗りに小さく首肯して返すと言った。 「早速ダガ、私ノ軍馬ヲ見タイ」 「軍馬? 面白い表現をするね。まぁいいや、どうぞどうぞ」 足取り軽く案内役を買って出たロイド。そんな彼の後ろをカリグラは無言で続く。 喧噪醒めやらぬメインターミナルが視界に入っていないのか。 まるで無視するかのようにその場を後にする二人の姿に、皆の奇特な視線が痛いセシルは一人肩を竦めながら後に続いた。 メインターミナルを抜けた三人は連絡通路を進む。 通路のガラス窓の向こうには、滑走路と無数の巨大な航空艦が離陸前の整備を受けている光景が広がっている。 カリグラは歩きながらガラス窓の向こうに見えるその光景を眺めていた。 隣には相変わらずの態度で楽しげに語るロイドの姿。 その後方を歩むセシルは憮然とした態度であったが、最早咎める気も起きないようだ。 「いやぁ、君の騎乗データを見せてもらった時は本当に驚いたよ?」 「………」 「何せ久々だったからねぇ。スザク君クラスのデータを見るのはさ」 反応が無い事などまるでお構いなしといった様子で嬉しそうに語り続けるロイド。 しかし、スザクという名が出た時カリグラはやっと反応を示した。 「"ナイトオブセブン"……」 「そうそう。君の反応速度は彼には及ばないみたいだけど、それも僅かな差……いや、部隊指揮のシュミレートじゃ完全に上回ってる。よく似た身体能力なのに、タイプは全く違うよねぇ。ンフフ」 脳裏で二人のデータを思い浮かべているのか、ロイドは恍惚の笑みを浮かべていた。 そんなロイドの台詞に背後からセシルが追従する。 「そうですね。スザク君は例えるなら一騎当千の騎士ですけど、あなたはまるで――」 「ソレ以上ハ止メテオケ。帝国デソノ名ヲ冠スル事ガ出来ルノハ皇帝陛下只オ一人」 「し、失礼しました!」 カリグラが振り向く事無く窘めると、セシルは慌てて謝罪した。 すると、ロイドは意外だとでも言いたげな口調で呟いた。 「ふ~ん。優しいところもあるんだねぇ」 「何ガダ?」 「君の噂は色々と聞いてるよ? 機密情報局長官、カリグラ。公爵さえも粛清する男。一部の人達は君を帝国の影の暴君だって言って畏れてる」 公爵・粛清。それら二つの単語を聞いたセシルは瞳を見開いた。 「えっ!? あの事件って……」 「そう、彼の仕事だよ」 告げられた事実にセシルは今更ながら目の前を歩む男、カリグラに畏怖の眼差しを送った。 一方、ロイドは「ねぇ?」とでも言いたげな視線でカリグラを見やるが、カリグラの視線は相変わらず窓の向こう。 「ヨク知ッテイルナ」 「貴族社会は狭いからねぇ――っと、着いたよ」 特に気にした様子を見せず、ロイドは壁に埋め込まれたパネルに指を走らせアヴァロンへと続く扉を開いた。 ◇ そのアヴァロン内部にあるナイトメアの格納庫。 そこには新型のヴィンセント指揮官機を初めとする数体のナイトメアが鎮座しており、格納庫内では慌ただしく動き回る技術者が多数見受けられる。 だが、そこには明らかに技術者では無いと分かる二人の男が居た。ギルフォードとデヴィッドだ。 デヴィッドは眼前に佇む一機のナイトメアを見上げると疑問を口にする。 「この機体は何なのでしょうか? ギルフォード卿……」 問われたギルフォードもまた、デヴィッドと同じくその機体を見上げると顎に手を当てた。 「枢木卿のランスロットに似ているが……頭部が全く違う。それに、あれはフロートユニットか? 初めて見る形だ……」 「しかし、フロートにしては少々小さ過ぎませんか? この大きさの機体を飛ばせる程の出力があるのでしょうか?」 「……見た目だけでは判断出来ないな」 二人は互いに言葉を交わしながら、眼前に佇むナイトメアについて考察していた。 ギルフォードが言ったようにそのナイトメアは傍にある彼等の機体、ヴィンセント量産型や指揮官機とは明らかに違っていた。 外殻はランスロットを基調としているようでもあるが、頭頂部にその存在を雄弁に主張する1本角と深い海のような蒼い双眸、そして輝く銀色の体躯。 その間接部位は黒色で、それが銀色と相まってこの機体の存在を更に際立たせている。 更に特筆すべきはその大きさ。隣に控えるヴィンセントより頭二つ程抜け出ていた。 「枢木卿専用の新型でしょうか?」 「それは……無いだろう。先程ロイド博士はコンクエスターの整備に手間取った、と仰っていたからな」 ギルフォードはやや困惑した様子で返すと、格納庫の中央に主の如く佇む白いナイトメアに視線を移す。 「あれがコンクエスターだろう」 「では、これは?」 「分からない。しかし……」 再度の問いにギルフォードは言葉に詰まった。するとその時、入口より楽しげに語るロイドの声が格納庫に響いた。 二人はほぼ同時に背後を振り向く。 すると、ロイドの隣を歩む仮面の男が視界に入ったデヴィッドは思わず吐き捨てるかのように言った。 「彼奴は……」 「やめておけ」 「……はい」 しかしギルフォードに咎められてしまい、デヴィッドは渋々といった様子で口を噤んだ。 「お久しぶりです。カリグラ卿」 ギルフォードが軍隊式の敬礼で出迎えるとデヴィッドは無言で後に続く。 すると、カリグラが応じる前にロイドが口を開いた。 「あれ? 知り合いだったの?」 「えぇ、ですが――」 「実際、コウシテ直ニ会ウノハ初メテダガ……久シ振リダナ、"ギルフォード卿"。アノ作戦以来カ……」 「その節は……申し訳無い」 ギルフォードは若干表情を強張らせつつ謝罪した。 しかし、カリグラたるライとしてはほぼ思惑通りに動いたギルフォードを咎めるような気は起きなかった。かといって、褒めるのかと言えばそれこそ有り得ない。 「謝罪ハ不要。結果デ示セ。ソウダナ……案外近イウチニ訪レルヤモシレナイナ」 「近いうちに?……まさかっ!!」 「可能性ハ有ル」 短く頷くカリグラを見たギルフォードの瞳が光る。 「そう思うに至る情報を掴んでいると?」 「タダノ勘……イヤ、コレハ願望ダナ。ダガ、貴公ハ何モ思ワナイノカ?」 直ぐ傍で二人の会話を憮然とした態度で聞いていたデヴィッドは、その何とも曖昧な返答を聞いた瞬間、露骨に訝しんだ。 だが、ギルフォードは違った。彼は一言断りを入れると自身の思いを吐露した。 「いえ……ゼロは油断ならない男です。アプソン将軍にもご忠告申し上げたのですが、聞き入れては……護衛も不要とまで言い出される始末で……」 「危機管理能力ノ欠如。アレハ所詮ソノ程度ノ男ダ……デハ、共ニ行クカ」 その場に居た一同はカリグラの提案に心底驚いた様子で一斉に瞳を丸くした。その中で、皆を代表するかのようにセシルが問う。 「あ、あの……カリグラ卿もお乗りに?」 「アァ、陛下ヨリ允可ハ得テイル」 カリグラは面食らった様子のセシルに向き直ると外套の下から封筒を取り出した。 受け取ったセシルは中身を確認して一言、「た、確かに……」と述べると、満足げに頷いたカリグラは指示を下す。 「"レーダー網"ニ引ッ掛カラナイヨウ艦隊ノ後方ヲ飛ベ。"アプソン"ニ気取ラレルノハ面倒ダ」 「こちらの方が先に進発する予定ですけど……」 セシルは少々不満げに言った。既に管制塔には飛行計画を提出済みであり、作成したのは彼女だったからだ。 だが、当然それはカリグラには関係の無い事だった。 「修正スレバイイ」 平然と告げられたセシルは、思わず視線でロイドに助けを求めた。が――。 「従うしか無いんじゃない?」 「……他人事ですね」 ロイドに裏切られた格好となってしまったセシル。 が、カリグラの手前声高に拒否する訳にもいかず抗議の眼差しを浮かべるしか無かった。 一方、ロイドはそんな寒々しいまでの視線を受けても「雑務は任せてるからね~」と何とも軽いノリで告げるのみ。 カリグラに至っては、見向きもしていない。 そんな中で唯一焦った素振りを見せたのはギルフォードだった。 「で、では、我々はこれで。皇女殿下へのご挨拶に伺いますので……」 セシルの不機嫌さを感じ取ったギルフォードは、デヴィッドを引き連れるとそそくさとその場を後にした。 ロイドはヒラヒラと手を振りギルフォード達を見送った後、カリグラの前方に歩み出る。そうして振り向くと両手を広げ嬉々とした笑みで告げた。 「おめでとぉ~。これが君の機体だよ」 しかし、対するカリグラは何のリアクションを見せる事無く、腕を組むと眼前に佇む機体を無言で見上げていた。 ロイドもまた、それ以上語る事無く機体に視線を移す。 暫しの沈黙が流れる。 やがて、未だ眺め続ける二人の傍を気を取り直したセシルが通り過ぎる。 彼女は機体の足下にある機器類にまで至ると書類を手に取り説明を始めた。 「多少違う箇所もありますが、外郭はランスロットを基調としています」 銀色の仮面の下。ライは機体に宿る蒼色の双眸を見つめつつ、セシルの解説に耳を傾ける。 「全高は5.65m。全備重量は9,327kg。装備目録はこちらになります」 セシルは機器類の上に置いてあった厚手のファイルをカリグラに手渡すと、やや誇らしげな面持ちで概要を語り始めた。 「指揮官機をご希望との事でしたので、各種の情報処理能力とデータリンク。他にはECCMへの抗堪性及び索敵能力を強化しました。それらは隣にある指揮官機より上です」 「何しろ予算は潤沢だったから」 セシルの解説にロイドが合いの手を入れた。余談ではあるが、ロイドはその資金を幾らかランスロットに回していたりする。 二人の説明を聞きつつ、カリグラは書類を読み進める。 「麾下"ナイトメア"及ビ艦船ノ発射管制サエモ統治下ニ置ケルカ」 「はい。この機体に搭載されている命令権限を上書き出来るのは皇族方の直接命令のみです。しかし、ラウンズ専用機には元より拒否権限が与えられています」 「ソレラヲ除ケバ概ネ絶対遵守ノ命令ニナルトイウ訳カ……」 カリグラの呟きに対してセシルは小さく頷くと説明を続ける。 「他の装備は現行のランスロット・コンクエスターと概ね同じですが、ハドロンブラスターは取り除いています。その代わりと言っては何ですが、遠距離用装備として強化型ヴァリスを採用しています」 「理由ハ?」 「ハドロンブラスターは、発射時に姿勢制御を必要とするので機動性に難点が残ります。その点、この機体は現行のナイトメアの機動性能を限界まで追求していますから」 「ソレニシテハ、ヤヤ大型ノ機体ダガ?」 「ですから新型のフロートユニット、エナジーウィングを搭載しました………試作型ですけど」 「成ル程………待テ、試作型ダト?」 最後の一言が引っ掛かったカリグラは顔を上げると問うた。が、それに対する答えは直ぐ横に居たロイドから発せられた。 「そうだよ。理論は彼女が完成させてるんだけど、なにぶん実戦データが不完全でね。いきなり僕のランスロットに装備する訳にはいかなかったからさ」 「私ノ"データ"ヲ使ウ気カ?」 ロイドの意味する所を察知したカリグラは二人を交互に見据えた。視線が合った気がしたセシルは自然と後退る。 しかし、ロイドは「そうだけど?」とあっさり白状すると特に悪びれる様子も無く笑った。 そんな無邪気な子供のような笑みを向けるロイドを見て、カリグラは少し拍子抜けした。 「飛ブノダロウナ?」 「それは流石にテスト済みだよ。ただ、もう少しデータが欲しいんだよね」 「ソウシテ得タ"データ"ヲ元ニ、完成型ガ"ランスロット"ニ搭載サレルノダロウ? ナラバ――」 「今何かと忙しいんだよね、彼。でも、そこに君が現れた。ランスロットとの適合率89%っていう君がね」 「………」 「シュミレート値を当て嵌めただけだから誤差はあるけど、それを差し引いてもこの数値は十分優秀だよ」 ロイドの視線を受けて、モルモットにされるのは我慢ならないと思ったライ。 だが、彼は躊躇した。取り外させるには書類に記載されているスペックは余りにも魅力だったのだ。 ライは手に持った書類に再び視線を落とす。 「型式番号Z-01/X――」 「機体名はトライデント。陛下直属の機密情報局、そのトップが乗る機体としてはいい名前だと思うけど?」 「ちょ、ちょっとロイドさんっ!!」 ニヤリと口元を緩めるロイドを見たセシルが慌てて止めに入るが――。 「陛下ハ"ポセイドン"カ?」 シャルルの容姿を思い起こしたのか、仮面の下でライは微苦笑を浮かべると僅かに肩を揺らした。 それを見たロイドはすかさず釘を刺す。 「僕はそこまで言ってないよ~」 が、その顔には笑みが浮かんでいた。セシルはそんな二人を見てただただ唖然とするばかり。 「シカシ、何処ガ"トライデント"ダ? アレデハ"ランス"ダガ……」 顎で機体を指し示すと率直な感想を述べるカリグラ。すると、ロイドは「待ってました」とでも言わんばかりに破顔した。 「セシル君。見せてあげて」 「はぁ……分かりました」 二人のやり取りに付いて行けなくなりつつあったセシルは、切り替えるかのように溜息を一つ吐くと声を張り上げた。 「全員一時作業を中断して!」 格納庫内にセシルの声が響いた。 それまで彼等を横目に黙々と作業をしていた技術者達の手が一斉に止まる。 技術者達の視線を一身に受けたセシルは再び口を開く。 「今から起動させます。データのバックアップをしておくように」 セシルが理由を告げると、技術者達は再び慌ただしく動き始めた。それを不思議に思ったカリグラはロイドに問う。 「ドウイウ意味ダ?」 「この機体は起動時に大規模な電波障害を発生させるんだよ。機体に内蔵してる高出力のレーダーとサクラダイトが干渉し合ってるんだけどね。一度、作業中に起動させちゃってデータが吹き飛んだ事もあったからさ」 「電磁波ノ類カ? 身体ニ悪ソウダナ……」 「ほんの2~3分の事だし。まぁ、大丈夫でしょ」 根拠の無い言葉だったが、仮面の下でライは思わず顔を顰めるに留めた。 やがて全技術者からのバックアップ完了の知らせを受けたセシルは、そこで始めて機体の足下に設置してあるコンソールに指を走らせた。 機体より小気味良い電子音が格納庫内に響き渡る。 「起動しました。続いて、指揮形態に移行します」 セシルが告げた次の瞬間――。 ジャキンッ!! トライデントの頭頂部に有る一本角。それが三叉に分かたれた。 「成ル程、コレガ……」 それを仮面越しに認めたライは納得した様子で呟いたが、次の瞬間には彼は思わず目を見張っていた。トライデントの双眸が蒼から紅に変わったからだ。 ――これではまるで……。 「データリンク完了。システム異常無し。トライデント、形態移行完了しました」 「今は、このアヴァロンのメインシステムと連結させてるよ」 二人からの知らせに、ライは紅く変化した双眸を見つめながら問う。 「……当然、理由ガ有ルノダロウナ?」 その最もな問いにロイドは「まぁね」と前置きした後、再び口を開く。 「君が望んでる複数の大部隊への指揮を一度に処理出来るような演算システムは、大き過ぎてナイトメアには積めないからね。一個小隊規模なら十分可能だけどさ」 「膨大ナ情報処理ハ艦船搭載ノ"システム"ニ行ワセルト言ウ訳ダナ?」 カリグラの指摘にロイドは短く首肯した。が、急に神妙な面持ちになると言葉を紡いだ。 「……そこで一つ。胸部部分への被弾には注意してね。この機体の心臓部とも言えるAPA方式のレーダーとESMを内蔵させてるから。ここが損傷したら指揮どころじゃ無くなるよ」 「分カッタ。ソレデ? ソノ"レーダー"ノ有効範囲ハ?」 「最大で約250kmです。しかし、このレーダーはモードとの組み合わせ次第ではそれ以上の索敵能力を発揮出来るかと……」 「確カニ最重要部位ダナ……」 「後は陸戦用としてファクトスフィアと熱源探査能力も向上させてる」 セシルとロイドからの説明を受けたカリグラは質問を変えた。 「良ク分カッタ。ダガ、個別戦闘ニ関シテハ?」 「コンセプトは指揮官機なんだけどねぇ……」 カリグラの質問にロイドはやや肩を竦めた後、告げた。 「まぁ、いいや。遅れは取らないね。でも、その際に気をつけて欲しいのは指揮形態のまま戦わない事。併用した場合のエナジーの消費量は尋常じゃないから、10分も戦えば空っぽになるよ」 「胸部ノ件トイイ急所ガ多イナ」 「それは君の理想が高過ぎるんだよ」 「ロ、ロイドさん!」 「ん? 何か間違った事言った?」 一見すれば非難とも取れるロイドの発言にセシルは慌てた。 しかし、当の本人はセシルに首を傾げて見せた後、カリグラに向き直る。 「指揮能力や索敵能力を特化する為に性能の大部分をそこに持って行ってるんだよ? 同時に個別戦闘でも圧倒しろってのがそもそも無茶な話だもの」 「ダガ、オ前ハ遅レハ取ラナイト言ッタ……ソレヲ可能ニシテイル絡繰リハ?」 「君の実力も理由の一つだけど、コアルミナスと機体各所に使用しているサクラダイトの比率はランスロットより多いからね。勿論、多ければ良いってもんじゃないよ。そこは――」 「制作者ノ腕ガ物ヲ言ウ?」 ロイドの言葉を遮ったカリグラは値踏みするかのように仮面を向ける。対するロイドは口角をやや吊り上げて見せた。 「そういう事。えぇと、他には――」 そうして、ロイドが再び口を開いたその時――。 「私のエナジーウィングですねっ!」 セシルの声が周囲に響いた。 「はいはい、そうですね」 ロイドが少々拗ねた様で口を尖らせると、それまで一歩引いていたセシルが胸を張って前に出る。すると、不承不承といった様子でロイドは語り始めた。 「彼女が言った様に、これの機動性能は既存のフロートユニットとは一線を画す程。絶対の制空権を与えられてると言ってもいいね」 「シカシ、実戦投入ガ成サレタ事ハ一度モ無イノデハ無イカ。アクマデモソレハ机上ノ話ダロウ?」 ロイドの賞賛混じった説明を誇らしげな笑みを浮かべながら聞いていたセシル。 カリグラの発言にも彼女が笑みを崩す事は無かったが、その額にはうっすらと青筋が浮かんでいた。 それを見たロイドの表情が強ばる。笑いながら怒るセシルの怖さを良く知っていたからだ。 「い、今はね。でも、間違い無いと言ってもいいよ」 「マァ良イ。乗レバ分カル事ダ……」 ロイドの狼狽を余所に、再び眼前の機体を見上げたカリグラはポツリと呟いた。 「短期間デヨク作ッタモノダ」 「あれ?褒めてるの?」 「タダノ感想ダ」 食いついて来たロイドを軽くあしらうかのように言うと、あしらわれたロイドは微笑を浮かながら同じように機体を見上げた。 「開発計画は昔から有ったからね」 ロイドの言葉にカリグラは僅かに首を傾げて続きを促すと、その役目をセシルが買って出た。 「以前より指揮官機を含む次世代機の開発計画は進められて来ました。トライデントはその初期に考案された計画を元に製造されています。ただ……」 「適正を満たせるパイロットは片手で数える程度でさ。結果、製造コストが跳ね上がっちゃって計画は頓挫。その後に僕のランスロットが注目された。当然だけど」 「最終的にはシュナイゼル殿下の後押しもあり、ランスロットをベースにした今の次世代機の量産が始まりました」 シュナイゼルの名前に仮面の下のライの片眉がピクリと動く。が、二人がそれに気付く事は当然無い。 ライは仮面越しに紅く変化した双眸を見つめながら言葉を紡ぐ。 「幻ノ機体ト言ウ訳カ……世代ハ?」 「計画された当時は第4世代が主流だったけど、性能としては第8世代と第9世代の中間ぐらいかな。当時としては、規格外の怪物だね」 「シカシ、ソノ怪物デサエ至ラナイ……第9世代トハ一体ドレ程ノモノニナルノダロウナ」 「ンフフ、興味有る? だったら、それを見る為にもエナジーウィングのデバイサー頑張ってね」 「………………」 ロイドの要望にカリグラが沈黙でもって答えると、暫しの間周囲に静寂が訪れた。 やがて、徐にカリグラが口を開く。 「角モソウダガ、瞳ノ色ガ変ワル……面白イ趣向ダナ」 「あぁ、それ? 陛下の指示だったんだよね」 あっけらかんと告げたロイド。その言葉に思わず瞳を見開いたライは慌てて仮面を向けた。 「何ダト?」 「あれ? 言ってなかった? これの開発資金を出したのは――」 「皇帝陛下自らお出しになられました」 セシルの一言に、仮面の下のライの表情は開いた口が塞がらないといった様子でいた。 しかし、そこまでの驚きとは知るよしも無いロイドは飄々と語る。 「頼めば幾らでも予算が下りて来るんだもん。ホント、潤沢過ぎて逆に怖いくらいだったよ」 「………………」 「あの……カリグラ卿?」 微動だにしないカリグラを不思議に思ったセシルは恐る恐るといった様子で尋ねると――。 「クハハハッ!」 カリグラは突如として笑い出した。格納庫に哄笑が響き渡る。 やがて、呼吸を整えたカリグラはやや肩を震わせながら言った。 「陛下ノゴ期待ニ沿ワネバナ」 そうして再び銀色の機体を見上げた。 ――味な真似をしてくれる……。 仮面の下でライが射抜かんばかりの視線を機体に浴びせていた時、彼の肩にロイドが手を置いた。 「ところでさ。出発が延びた訳だし、君は暫くはこの基地に滞在するんだよね?」 「ソレガ?」 それを不快そうに手で払ったカリグラ。一方で、全く気にしていないように笑みを浮かべるロイド。 「ちょっとシミュレーションして行かない? こっちとしては、データも欲しいしさ」 「…良イ考エダナ」 一瞬の思考。しかし、シュミレート事態は嫌いでは無かったライは、暇潰しにはなるか、と思ったのだろう。次の瞬間には同調していた。 それを受けて、再びロイドの顔が破顔する。 「決まりだね。じゃあ、セシル君。準備よろしく」 「はい」 その後、次から次へと湧き出て来るシュミレーションに、心身ともに疲れ果てたライは自身の決断を心底後悔する事となった。 →02 ライカレ厨 43 *
https://w.atwiki.jp/henroy/pages/510.html
双大将再会 ◆gry038wOvE 血祭ドウコクの目の前には、巨大な嘆きのエネルギーの集合体が光っていた。 位置はF-5(衛府之五)の山頂。不穏な光を見つけてやって来てみれば、そこにあったのは巨大な不可思議である。人々の嘆きや恐怖が集合し、それが集合する場所。 青い光を発し、その中央に、どこかで見たような真っ赤な光を発するその施設。 その名は、忘却の海レーテ──。 「こいつぁ一体……」 然るドウコクでさえ、先ほどまでなかったはずのその物体に、不穏な気配を感じずにはいらなれなかった。このレーテには、人々がビーストを恐怖する負の記憶が封印されている。 そんな場所だが、ドウコクがそんな物を知る由もない。 ただ、その膨大な嘆きの力だけは彼も感じていた。 「……わからねえが、ただのデカブツってわけじゃなさそうだな」 ともかく、他の参加者に比べれば、彼は動じない部類だっただろう。 嘆き──そこから感じるマイナスエネルギーに不安を感じる事はなかった。 血祭ドウコクの場合は、突如としてこれが現れた理由に不穏な気配を感じずにはおれなかった。 これが今後、この殺し合いでどういう意味を持つのだろう。その疑問に答える者は何もない。 『──ドウコク殿』 ふと聞こえたのは、ドウコクを呼ぶ声だ。 血祭ドウコクを呼ぶ、何者か。──ドウコクは、瞬時に後方のその人物に向けて剣を振るった。 何故、こんな行動に出たのか。 それは簡単だ。相手は利用価値とは程遠く、また、ドウコクの知る人物──参加者外の存在であると、認識できたからだ。 「久しぶりだな……マンプク。いつぞやにテメエがくたばって以来じゃねえか」 脂目マンプク。かつて、夏の陣にてシンケンジャーに敗北し、死亡したはずのクサレ外道衆の大将である。ドウコクが三途の川から掬いだしてやってみれば、ドウコクを家臣などと扱う傲慢さだ。 まあ、ドウコクはそこを咎めるつもりはないし、何故彼がここにいるのかなど今更疑問に思う理由もない。 彼が主催側からの使者である事は明白だ。 昇竜抜山刀は、マンプクの喉元で止まっていたが、マンプクが動じる様子はなかった。 『ご挨拶ですな、ドウコク殿。拙者は目的を果たしに参上仕った次第。今ここに現れている私の体そのものは幻影でござる』 そう言って、マンプクはドウコクの刃に指を通した。 どこから、血を撒き散らすわけでもなく、指がちぎれるわけでもなく、まるで刀か指かのどちらかが存在しないようにすり抜けていった。 なるほど、今ここでマンプクに余計な力を使う必要はなさそうだ。要件だけ話すべきだと思い、ドウコクは刀を下げる。 「で、テメエの目的ってのは何だ? この殺し合い、それにこのデカブツの話も聞きてえな……」 『手短に』 そう、前置きしたうえで、マンプクは語る。 『……拙者はドウコク殿に、この殺し合いにおける縛りの解除──即ち、貴殿の死後、二の目が発動する事と、近々筋殻アクマロの二の目が解放される旨を申しに参ったのでござる』 「……何?」 アクマロの二の目は、この殺し合いで発動していない。 それらしい様子もなかったので、てっきりアクマロはこの殺し合いの会場では二の目になる事もできずに死亡したと思っていたが、どうやら何らかの縛りがかけられてアクマロが二の目を解放できずにいたのみだという話だ。 『言葉通りでござる。これは全て、アクマロ殿自身は知らない話。もしまみえる事があったら、アクマロ殿にはドウコク殿の口から説明していただきたい』 「フン……。まあいい。だが、とっととテメエも俺のもう一つの質問に答えろ」 この殺し合いは何なのか、その問いにはマンプクはまだ答えていない。 ドウコクに関心があるのは、アクマロがどうという話ではないのだ。あんな奴の話はもうどうでもいい。 『ドウコク殿、拙者はただ、この殺し合いの縛りを無くす事だけ教えに来た身でござる。ここでそれ以外の事を口にする義理はござらんのだ。この嘆きの海もまた、別の者には説明する事はあっても、ドウコク殿に話す義理はない』 「何だと……?」 明確な叛逆だと受け取って良いのだろうか。──マンプクは何食わぬ顔で、説明を続けた。 『貴殿は、偶然この殺し合いに巻き込まれ、拙者は、偶然こちら側になれた。……それだけの事。残念な話だが、次に会って話す事があるとすれば、それは貴殿がこの殺し合いで二の目を使わずに勝ち残るができた時でござる。それまで、貴殿は命ではなく、駒。死んだシンケンジャーやはぐれ外道、アクマロ殿もまた同じ……壊れた駒でござる。何も知らぬまま、この殺し合いで好きに動けばいい……』 言葉の節々から、マンプクのかつてのような傲慢さが漂っていた。ドウコクにさえ、それは明確な叛逆であると認識させた。 これは戯れではない。現に、ドウコクの身を危険に晒している。マンプクは恩を仇で返そうとしているのである。本来ドウコクに奉公すべきであるマンプクは、一かけらの情も──外道衆にとって、この言葉は変かもしれないが──見せる様子がなかった。 「オイ、テメエ、今言った事、俺にはもう二度と撤回させる余裕がねえとわかってるだろうな……? 戯言として受け取る気はねえぜ。たとえ冗談だとしても、本気の言葉として受け取っておく」 『無論でござる。……しかし、変な話でござるな』 「なんだと……?」 マンプクは不敵に勝ち誇ったような笑みを見せる。一見すると表情は変わらないようだが、ドウコクはそれを感じ取った。 『いつから、世は、家臣が主に口答えできるようになったのでござろうか……』 それだけ言い残し、マンプクの幻影は消え去った。 どうやら、マンプクは本気でドウコクを家臣程度にしか思っていないらしい。 腐れ外道、と呼ぶに相応しい外道っぷりであった。 「……あの野郎。すぐにブッ殺してやる。……だが、その前に」 そうだ、筋殻アクマロ──彼もドウコクを殺しに来るに違いない。奴に全てを説明する義理はないが、いずれにせよ倒さなければならない。 このサイズであれ、ドウコクは外道衆を縛る力は持っているし、アクマロの二の目を撃退するくらいの実力は持っている。 早い話が、アクマロなど敵としては倒し甲斐がないほどであった。この刀は、やがてアクマロに会う事があれば、その体を二つに引き裂くだろう。 ドウコクは、自身が二の目となる気はない。ゆえに、彼から得た情報では、アクマロが二の目となって襲い掛かってくる以上の、意味はない。 アクマロがどこかに現れるまでに、ドウコクはともかく志葉の屋敷に向かう方針であった。 この珍妙な光──嘆きの海、と呼ばれていた──に誘われてやって来てみれば、次に得たデータはアクマロの出現の話だ。 アクマロと共通してよく知っている場所といえば、志葉の屋敷だろうか。やはり、行動方針としてそこに向かうのは変わらない。 ──状態表のあと、(ry 【1日目 夜中】 【F-5/山頂・忘却の海レーテ前】 【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】 [状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷 [装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー [道具]:なし [思考] 基本:その時の気分で皆殺し 0:志葉の屋敷に向かう。アクマロを見つけたら殺す。 1:首輪を解除できる人間を捜す 2:加頭、マンプクを殺す 3:杏子や翔太郎なども後で殺す 4:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問 [備考] ※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。 ※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていませ 時系列順で読む Back 壊れゆく常識Next X、解放の刻/楽園からの追放者 投下順で読む Back 壊れゆく常識Next 愛 Back 覚醒(後編) 血祭ドウコク Next The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - Back 第三回放送X 脂目マンプク Next 第五回放送Z