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前ページ次ページゼロの魔王伝 ゼロの魔王伝――20 白々と輝く星と、淡い紅と朧な青の月光だけが光となる夜の闇に、岩礁にぶつかり砕ける波のような銀粉が散った。 三色の光に照らされ、刹那の時だけ眩く輝いた銀粉は、次の瞬間吹いた疾風に掻き乱されて、あえなく消え去る。 闇が衣と変わったようなロングコートの裾を翻す疾風はDという名前を持っていた。 神秘的な青い光を湛えたペンダントが、疾風さえも追い抜くであろう主の動きに乱れ踊る中、Dが一足飛びに跳躍した。 両手で握ったデルフリンガーを大上段に振り上げ、眼下に立つ自分自身同様に闇を傅かせた美貌の青年へと振り下ろす。 夜の帳さえも一太刀で裂くような一撃を、百条に及ぶ魔糸の斬撃の群れが受けた。 光の速さで指先に伝わる斬撃の威力に、魔糸の主である幻十は月輪を思わせる麗貌に氷から削り出したかの如く冷たい表情の仮面を被っていた。一太刀を防ぐために百条の魔糸を切断された幻十は果敢に追撃の手を放った。 刃を打ち合せた態勢で、二瞬ほど動きを停滞させていたDめがけて、前方より波涛の如く襲いかかる銀の光。 縦に放った千分の一ミクロンという細さの突き、無限長に伸びる魔糸を用いての斬撃の無数の組み合わせによって、D目掛けて襲いかかる魔糸総数二十条は、すべてが微細に異なる攻撃方法であった。 Dがデルフリンガーで風を貫きながら突きを放ち、最短距離を飛んできた一条の魔糸を絡め取る。刃毀れや錆の浮いた刃に不可視の魔糸を絡み付かせ、瞬時に手首を回す。 銀色の渦のようにデルフリンガーの刀身に絡み取られた魔糸が、Dの手首の動きに従順に従い、幻十の繊指の支配から逃れた魔糸は、他の魔糸達へと襲いかかり、Dと幻十との直線距離を覆うアーチの様に極細の死神達を追い払う。 絡み取った魔糸を、手首こねる動作で断ち切りながら、Dの足が大地に沈み、猛烈な反発の力を得て駆ける。 幻十は彼方にある木立に巻きつけた魔糸を引き、後方へ十メイル以上の跳躍を行いながら、神速で迫るD目掛け、左手を下方から掬いあげる様に振るった。同時に左手の五指全てが、百分の一ミリ単位で細やかな動きを見せる。 指一つとっても奇跡の産物の様な幻十の左五指は、あまりの動きの速さに霞んで見えた。放たれるはいかなる魔技か。そしてまた、迎え撃つDの剣はいかなる神業か。 Dが黒瞳を周囲に走らせ、上後方、全面百八十度、襲い来る五十以上の魔糸を認めた。 いずれも描く軌跡はこれまでのような、直線や弧ではない。 一本一本が意思を持った生物の様に、まるで一つの群れとなったかのようにDという獲物を駆り立てるべく縦横無尽に、じぐざぐと動き回り、螺旋を描き、多種多様に迫ってくる。 斬撃と数のみならず、描く軌跡と二色の月光のきらめきを利用した催眠効果を与える幻十の必殺を狙った攻撃であった。 Dの瞳が半眼に閉ざされた。視覚から脳髄に忍び入ってくる魔糸の催眠効果を遮断し、迎撃に、視覚を除く五感と直感に命運を委ねた夢想の剣が閃く。 右足を視点にその場で旋回し、それがどれほどの速度で行われたものか、コートの裾は刃の鋭さを得て襲い来る魔糸の幾本かを弾き返し、Dの体に淫らな意思を持った蛇の様に絡み付かんとする魔糸は、例外なくデルフリンガーの刃に迎え撃たれた。 Dの右腕が幻十の指同様に霞んで消える。迫る魔糸を迎え撃つDの剣舞もまた神速の領域へ到達したのだ。 魔糸を迎撃する中、Dは再びコートの内側から取り出した木針を幻十へと投じる。幻十の反応速度から言って、マッハ十前後で投じても迎撃されるのは火を見るよりも明らかであったが、わずかなりとも集中を崩さねば、反撃の一手を放つ切欠さえ掴めない。 魔糸の連続攻撃に神経を割いていた幻十の反応は万分の一秒遅れた。一万五千分の一秒の遅れであったなら、額を貫いた木針に脳漿をぶちまけられていただろう。 魔糸を操る指先はそのままに、体に纏っている防御用の魔糸『糸よろい』を数本外し、燃え走る流星となった木針の縦に両断し、その衝撃で木針はわずかな火の粉となって幻十の冷美な横顔をかすかに照らした。 Dは、思考を伴わぬ剣士としての本能に命運を委ねた夢想剣で、先程とおなじ迎撃手段を取った。 襲い来る魔糸のことごとくに刃を合わせると同時に刀身に巻きつかせ、デルフリンガーへと伸びる銀の筋が五十を越えると同時に、わずかに刀身の角度をずらして巻きとった魔糸を断つ。 「同じ手が二度も通じると思うのか?」 笑う幻十の声と同時、Dがその場上方へと跳躍する。切断し、幻十の指から離れた筈の魔糸が、断たれた事など知らぬとばかりに鎌首をもたげてDへと斬り掛かってきたのだ。 コートの裾を幾本かの魔糸に斬られたDは、空中で幻十の声を聞いた。 「コードレス・コード。糸は断たれても込めた殺意と技は残る」 その技の名を、かつて幻十と争った幼馴染もまた口にしたとは、幻十は知らない。しかし、断たれてなお襲い来る魔糸とはなんたる技か。 無論、幻十の指が直接操作していた時とは違い、単純な動作のみで、一瞬のみの発動とはいえ人間業ではあるまい。 跳躍し、空中の人となったDは、下で待ち受ける魔糸と前後左右から迫る魔糸を見ていた。 落ちるは斬撃地獄、待つも斬撃地獄。 漆黒のロングコートを、天界とのハルマゲドンに赴く魔王の如く広げ、Dがデルフリンガーを右下段に構えて空中でさらに飛翔した。 あろうことか後方から襲い来た魔糸の一本を足場代わりにしたのだ。タイミングを誤ればそのまま体を両断されかねぬ行為を、一瞬の躊躇いもなく行うのが、この青年であった。 そんな中、Dに握られたデルフリンガーは主の苦境とは別に恍惚の中にあった。それは一振りの刀剣としての歓喜であった。主の美しさにではなく、その技量への感動であり、かつてない高揚であった。 魔法によって知性を与えられたとはいえ、デルフリンガーの本質は剣だ。何かを斬り、誰かを斬り、何もかもを斬る道具だ。 道具としての自分の真髄をこの六千年の中で最も引き出し、使いこなし、振るっているのが今の主たるDであった。 刀剣としての自分をここまで完璧に使いこなし、これほどまでに鋭く、早く、重く、軽妙に振るい、壮絶な鬼気さえ纏わせた者は、これまでデルフリンガーを握ってきた者達の中にはいなかった。そう、かつてのガンダールヴでさえ。 なんという僥倖、数百年の退屈の果てにこのような出会いがあるとは、夢にも思わなかった。恐るべき使い手だ。凄さまじい剣士だ。称える言葉が思いつかぬほどの戦士だ。 ならば、そのような使い手に相応しい姿にならねばなるまい。 幻十めがけて跳躍するDの右手の中のデルフリンガーが、幻十の張った防御用の糸を天から地への一閃で斬り散らすのと同時に、デルフリンガーの刀身が目も眩む眩さで輝いた。 たちどころに刀身を覆っていた錆は消え、零れていた刃も欠損を埋めて、瞬く間にデルフリンガーはボロだらけのナマクラ刀から、剣匠の込めた魂の気迫が匂い立つ見事な剣へと変わっていた。 「ああ、そうだ、おれを振るえ、相棒!! このおれが認めてやる、お前さんはハルケギニア六千年の歴史で最強の剣士だ!!」 デルフリンガーの変身の中も目を閉じなかったDは、デルフリンガーの興奮した声を気にも留めず幻十へと目掛けて、右足が地を踏むのと同時に更に飛翔。 低空すれすれを這うように飛ぶ蝙蝠の様な影を月光に落としながら、ついには幻十の姿をその刃圏に収めた。振り下ろし切れば幻十の体を斜めに両断する構えは右下段、切っ先は後方に流れている。 幻十が大きく右手を振るう。万軍に命令を下す覇王の如く。 Dが右手を振るう。巨人の首さえも落とす神話の英雄の如く。 不可視の螺旋衝角――ドリルを形作った無数の魔糸の先端と、真の姿を取り戻したデルフリンガーの刀身とが激突した。 幻十の頭頂まで残り五十サントの位置で鮮やかに煌めく無数の銀粉。天空に輝く淡紅と白みを帯びた青い月光を受けて銀色から変わる光の燐粉は、デルフリンガーの刃に切り裂かれる魔糸の残滓の姿であった。 放たれたDの一刀にどれほどの力と技が込められていたものか、更なる魔糸の一撃を放つ余裕は幻十にはなく、デルフリンガーの刃に徐々に切り込まれる螺旋衝角の維持で手一杯であった。 ぎり、と奥歯を噛み鳴らし、幻十の美貌に初めて余裕以外のモノが翳を過ぎった。 デルフリンガーが魔糸を切り裂くかと思われた瞬間、螺旋が弾けた。さながらホウセンカの果実の様に。 常人には何もないと見える目の前の空間に、無数の糸が乱舞している様が見て取れるDは、デルフリンガーの刀身を縦に構えて自分に迫る魔糸のことごとくを弾く。 睨みつけた獲物を逃さぬ鷹の眼は、幻十の姿が前方上方六メイルの位置にあると認めた。互いに決め手を欠いたまま、今一度、飽く事無く二人の間で透き通った殺意が交差した。 天と地とに分かれて争う美影身を、タバサはただ呆然と見つめていた。 美しいからか? 然り。 恐ろしいからか? 然り。 辺り一帯を埋め尽くす二人の鬼気よ、殺気よ。それは尋常ならざる魔界の地に足を踏み入れたのかと錯覚するほどに濃密で、空を握った掌の内側に結晶の形となってしまいそうだ。 Dと幻十、あの二人で生死を賭けて戦い始めたその瞬間から、ここはただの人間が居てはならぬ異世界へと変わり果てていた。 息を忘れて、漆黒の魔人二人の戦いをタバサは瞳に映し続ける。 天空には双子月と浪蘭幻十。 大地には彼方まで広がる悠久の大地とD。 二組を繋ぐのは夜の世界を渡ってきた風と月光。 二人の戦いは、どちらの方がより美しいかという答えを出す為のものであったかもしれない。 六メイルの高みからDを見下ろしていた幻十が、何度目か必殺の意を万と込めた一撃を放った。Dの頭頂から両断すべく振り下ろされた魔糸。全長は一リーグ≒一キロを越す。 十分な余裕を持って回避できる筈の魔糸を見ていたDの瞳の中で、一条の煌めきは、たちまち一千の閃光と変わった。 千分の一ミクロンの魔糸千本を縒り集めた一ミクロンの魔糸を、敵の頭上で解き、たちまち一筋の斬撃を千の斬撃へと変える。 たった一本を回避する事から、千本にも及ぶ魔糸の斬撃の回避へと行動を変える事は、もはや不可能なタイミングであったろう。幻十の唇がひどく残酷な形に吊り上がる。 目の前で数千の肉塊へと変わる強敵の様を思い描き、サディスティックな愉悦に胸の内をどす黒く焦がそうとしているのだ。 成す術なくDが微塵に斬り裂かれるかと、彼の魂を連れ去るべく待っていた冥府の使い達が目を見開いたその時、動いたのはDの左手であった。降り注いだ魔糸の雨を防いだ時同様に、Dの左手に宿る老人が、死の運命の扉を塞ぐ鍵となったのだ。 左手を掲げるのと同時に老人の声はこう流れた。 「風だけじゃが、なんとかするしかないか」 開かれたDの左手の掌に浮かんだ老人が、再び抜け落ちた歯の目立つ口を、大きく開いた時、その喉の深奥でちろちろと燃える青白い炎があった。Dの左手に宿る老人は、世界を構成する四元素『火』『土』『風』『水』を食らう事で、膨大なエネルギーを生み出す生産プラントでもある。 幻十の放った魔糸を吸い込む時に吸引した風を元にしてエネルギーを生み出し、左手の老人は喉の奥から、青白い炎を一気に噴き出した。 それがどれほどの熱量と勢いを持っていたものか、襲い来る魔糸はすべて蒸発し、炎が舐めた大地はガラス状に解けた断面を晒しているではないか。 幻十が目の前まで迫った炎の舌に、かすかに目を細めたその瞬間、背筋を貫く鬼気の放射に愕然と炎の中から姿を見せた黒影に目を見張った。 自らの左手が生み出した炎の灼熱地獄の中を、右手に握るデルフリンガーで切り裂き、飛翔したD! 紅蓮の海を挟み対峙する両者の間を、白銀の弧月が繋いだ。 デルフリンガーの切っ先を真横へと向けたまま、Dは音もなく地面に着地した。すっくと立ち上がった時には、すでに戦闘の気配を納めている。 幻十の左頸部を狙った一撃が、肌に触れるその寸前、幻十の姿はDの目の前から消えていた。どこか遠くに巻きつけた魔糸を利用して幻十は退いたのだ。 それがどれほどの速度であったものか、発生した突風に千切られた風がはらはらとDの周囲に舞落ち、残っていた炎に燃やされて灰に変わる。実に、幻十が逃亡に用いた魔糸は、彼の体を音速を超えて運んだのである。 左手がやれやれ、と骨の髄まで疲労を溜め込んだ声を出した。 「なんなんじゃ、この世界は? あのメフィストとか言う医師だけでなく、幻十とか抜かすあ奴も大概バケモノときおった。 しかも、戦い始めた時から常に成長しておったぞ? 下手をすれば無限に成長するかもしれん。 ここで首を落とせなんだ事を後で悔やむ様な事にならなければ良いが、それも自業自得というものなのかの。お前があのチビのお嬢ちゃんを庇うとはな。構わなければ止めは刺せずとも深手くらいは負わせられたものを」 Dが真横の突きだしていたデルフリンガーを下げた。Dの一刀を浴びる寸前、幻十がタバサめがけて放った魔糸を防いだデルフリンガーを。 変貌したデルフリンガーの事は露ほども気にする様子はなく、Dは右手に刃を提げたままタバサへと歩み寄った。 タバサは自分に歩み寄るDの姿に、死を覚悟した。いわば自分はDを罠へと誘いだしたのだ。目の前の青年が、そんな相手を許す様な性根の主とは見えない。 両手で握りしめた杖が大きく震えるのを感じながら、タバサは目の前で足を止めたDの顔に見入った。 Dは冷たくタバサを見下ろしている。右手が動いた。デルフリンガーの刃が風を薙いだ。無造作に、草でも刈る様に。そうやって、タバサの首も刈るのだろう。 弁明も言い訳も何も意味を成さないと悟ったタバサは、静かに目を閉じて息を飲んだ。自分と家族の人生を狂わせた男への復讐を果たせず、母の心を取り戻せずに終わる事だけが心残りだった。 シルフィードは泣いてくれるだろう。きっとわんわん泣くに違いない。キュルケやルイズも、自分が死んだら涙を流してくれそうだ。ルイズは自分を斬り殺したDの事を責めるだろう。 本当なら、こんな所では死ねないと、終わるわけには行かないと、地べたを這ってでも生きようと足掻かなければならない。なのに、どうしてもそんな気力が湧いては来なかった。 思ってしまったのだ。目の前に黒衣の青年が立った時に、このまま殺されてもいいと。この美しい青年に、殺されてしまいたいと。自己破滅願望とこの世ならぬ美への恍惚が入り混じった極めて危険な心理に、タバサは陥っていた。 Dの手が振られた。タバサは、自らの体を両断する冷たい感触が流れるのを待った。 「……?」 しかし、待てども訪れぬ感触に、訝しげにタバサが目を開いた時、Dはデルフリンガーを握ったまま人差し指と親指で何かを摘まむような動作をしていた。 訳が分からずDの指を見つめるタバサに、Dが口を開いた。 「目には見えんが、糸がある。あの幻十という男のものだ。これが君の体に巻き付き、あらゆる情報を奴に伝えていたのだ」 「糸?」 「今は斬ったから何を話しても問題はないがな」 Dの告げた幻十の武器の正体に、愕然と眼を見開いてタバサはDの指先を見つめた。目を凝らして凝らしても、何も見えない。 ただ、時折降り注ぐ月光を反射して何かが煌めくのが見えた。それが、Dの言う糸なのだろう。Dはデルフリンガーで斬った魔糸を、左手の口の中にしまい込んだ。 タバサの体に巻きつけられた魔糸は、糸そのものを震わせる振動からその場で行われている会話、巻きついた対象の体温や血流、体内の電気信号などから感情、精神状態までを光の速さで幻十の指に伝えていたのだ。これまでタバサの会話や心は全て幻十の手の内に把握されていたと言っていい。 「知っている相手の様だな。何者だ?」 タバサが身を強張らせた。Dの声は質問に答える以外の言葉を許さぬ冷厳な響きであった。 「彼は、ガリア王ジョゼフの使い魔として呼び出された青年。けど、契約は結んでいない」 「続けろ」 「ジョゼフは、彼に何の命令も下していない、ただ彼の好きにさせているだけ。私は彼に従うように命令を受けた。だから、貴方を呼んだ。彼は貴方に興味がある様だったから」 「また命令が来れば同じ事をするか?」 「……しなければならない理由が、私にはある」 「そうか」 タバサは杖を握る手に力を込めた。つい先ほどまで生を諦めきっていたが、仇敵に従う振りをしてまで果たそうとしている事を思い出し、わずかでも可能性があるならそれに全霊を賭けようという気概が蘇っていた。 もしDが自分を殺そうとするのならば、わずかなりとも抵抗してみせる。 瞳に強い光を取り戻したタバサを見て、Dは何を思ったか、無言で踵を返した。その背に、タバサが声をかけた。 「待って、貴方に頼みがある」 Dが立ち止まってタバサの言葉の続きを待った。かすかな逡巡の後に、タバサが意を決して、言葉を続ける。 「彼を、ロウランゲントを斃して欲しい。貴方なら彼を斃せる。いいえ、貴方にしか斃せない。彼は明言はしていなけれどおそらくジョゼフの味方をする。 私は、どうしてもガリア王ジョゼフを斃さなければならない。私の前にロウランゲントが立ち塞がると思う。もし、ガリア花壇騎士団が全員私の味方になってくれても彼には勝てない。それに、彼はたぶんこの世界に来てはいけなかった人。ゲントの存在は、この大陸にとても良くない事を巻き起こすと思えて仕方が無い」 「おれは殺し屋ではない。吸血鬼ハンターだ」 再び歩み去ろうとするDに、慌ててタバサが声をかけた。浪蘭幻十と対抗しうるおそらく唯一の男を、味方にする千載一遇のチャンスだ。逃すわけには行くまい。 「なら、ゲントと彼の連れている吸血鬼を始末して」 「吸血鬼を従えているのか?」 足を止めて聞き返してきたDの様子に、タバサが安堵の吐息をひとつ吐いた。少なくとも興味を引く事は出来たようだ。しかし、吸血鬼ハンターとは、文字通り吸血鬼を狩る者の事だろうが、ハルケギニアではそう言った者は聞いた事が無い。 目の前の青年がはるか遠方から、それこそハルケギニアの名が伝わっていないほど遠いどこかから呼ばれたのだという噂が、タバサの脳裏に蘇った。だが、今はDの素性を確かめようとするよりもするべき事があった。 「私に払う事の出来る報酬は多いとは言えない。けれど、私が支払えるものであったなら、何でも払う。この体でも命でも構わない。 だから、お願いします。どうか、この世界の為にロウランゲントを斃してください」 深く腰を曲げて頭を下げるタバサを一瞥し、Dは無言のまま背を向けて学院へと歩き始めた。タバサの懇願も、誠実な態度も、まるで知らぬという様に。 顔を上げて離れ行くDの背を見つめていたタバサは、ひたむきな瞳を向けていた。 「どうして、私に何もしないの?」 タバサにとっては、その答えを得られぬ事が、Dの刃の露と消えるよりも辛かったかもしれない。 タバサは、Dの姿が消えるまで、そこに立ち続けた。世界のすべてから忘れ去られたような、ひとりぼっちのまま。 なお、Dの背に戻されたデルフリンガーが、 「相棒、おれが変わった事、気にしないの? ねえ?」 と寂しげに呟いたが、むろん黙殺された。 ルイズの部屋に戻ったDは、なにやら神妙な顔をしてこちらを見つめるルイズと、なぜか部屋に居るギーシュを見た。こんな夜遅くに女の部屋に男の姿がある。争った形跡もないという事は 「ませとるなあ、しかし、よりによって引っ張り込んだのがこいつか。お嬢ちゃん、もうちっと男を見る目を養った方が」 「違うわ。D」 いつもなら簡単にDの左手の挑発に引っかかるはずのルイズが、冷えた声を出した。いつもとはだいぶ違う様子に、左手もふむん? という声を出す。 ギーシュの方も口に薔薇を加えた気障なポーズはともかく、顔つきにはふざけた様子もおどけた調子もない。ルイズ同様に真摯な瞳でDの顔を見つめている。 どんな鈍感な人間でも、これは何かあると分かる二人の様子だ。 ルイズはDの目の前まで歩き、使い魔の顔を見上げた。正面から、逃げる事も恥じる事も何もないと、堂々と胸を張って、主人らしく。 「D、私アルビオンに行く事になったの。明日の朝、出立するわ」 「理由を聞こう」 Dに対して、ルイズは静かに事情を話し始めた。Dが浪蘭幻十と死闘を繰り広げていた時、ルイズはトリステイン王女アンリエッタの訪問を受けていた。 頭巾を取り、素顔を晒したアンリエッタは、膝を突くルイズの手を取って懐かしい友との再会を喜んだ。ルイズは、幼少の頃にアンリエッタの遊び相手を務めていたのだ。 お転婆娘だった小さな頃を懐かしみ、その頃の自由に思いを馳せている間は良かった。Dも特に反応を見せる様子はない。それで終わったなら、そもそもルイズはこんな神妙な顔はしないだろうし、ギーシュが部屋に居る理由も分からない。 雲行きが怪しくなり出したのは、アンリエッタがこのたびゲルマニア皇帝に嫁ぐことになった下りからである。 別段王室同士の婚姻など珍しい話ではない。アンリエッタにもトリステイン王家のみならずアルビオン王家の血が流れている。 では何が問題かと言うと、それはアルビオン王国の政治情勢に一因があった。Dも、下僕というか小間使いにしたフーケから話を聞き、かの浮遊大陸のきな臭い情勢については風聞程度で知っている。 アルビオンの貴族達がどこぞの司教を旗印にして王家に対して反旗を翻し、いまや王家は追い詰められ、始祖ブリミルが授けた三王権のひとつが倒れるのも時間の問題だというのだ。 トリステインは始祖ブリミルの子の血を引く由緒正しい王家であったが、国力で言えば小国と言われても反論できない。 平民といえども領地を購入すれば貴族となる事も出来、国力を増大させたゲルマニアやハルケギニア一の大国であるガリア、宗教的な理由から神聖不可侵な血であるロマリアと違い、トリステインは歴史の古さ位しか取り柄が無いのである。 さて、そこでトリステインとゲルマニアが、いずれアルビオン王家を打倒した反乱軍が、両国いずれかに矛先を向けると考えたのは至極当然であったし、対抗するために同盟関係を結ぼうとするのも自明の理だ。 その為にトリステイン王家の一粒種であるアンリエッタが、親子ほども年の離れたゲルマニア皇帝に嫁ぐのは、両国の関係強化にこれ以上ない方法だったろう。 アンリエッタも望まぬ恋ではあっても、王家に生まれ者の宿命とそこは諦めと共に受け入れてはいる。ここで、いよいよ大問題に差し掛かった。 ルイズが淡々と事実を述べる様に口を開いた。極力私情を交えぬようにと配慮しているらしい。 なんでもアンリエッタとゲルマニア皇帝との婚姻を妨げる材料が存在しているというのだ。よりにもよって戦乱のアルビオン王国に、よりにもよって渦中にあるウェールズ皇太子の手元に、である。 「なにが、王女と皇帝の婚姻を妨げる材料になるのだ?」 「姫様がいぜんしたためたという一通の手紙よ。内容はお教えくださらなかったけど、それが明らかになればゲルマニアの皇室は決してアンリエッタ姫を許さず、婚姻も反故にされるそうよ」 「たった一通の手紙でか?」 「……ええ」 その事を語る時のアンリエッタの様子は、ルイズに手紙の内容を容易に想像させたが、それをDには語らなかった。 「アルビオン王国が反乱軍の汚らわしい手で潰えてしまうのは悔しいけれどもう決定的。であれば来る反乱軍との戦いとの時に、トリステイン一国で相手をするのは……絶望的なのよ」 「では、王女の頼み事は」 いつもより冷たく見えるDの眼差しに、体の内側から冷やされる思いで、ルイズはわずかに息を飲んだ。それでも、一度だけ目を瞑ってから答えた。 「戦乱の只中にあるアルビオンから、その手紙を取り返す事よ」 ルイズはその時のアンリエッタとのやり取りを思い出した。 ルイズの目の前でそれまでの友との再会を喜んでいたアンリエッタが、たちまち顔色を蒼ざめさせて、狼狽しだしたのだ。ルイズはその変化に戸惑いながらもアンリエッタを宥めてその先を促した。 ウェールズ皇太子の元にあるという手紙と、その事を告げた時のアンリエッタの様子から、何を求められているのかは薄々分かっていたが、アンリエッタの口から直接聞きたかった。 「では、姫様、私に頼みたい事とは?」 「無理よ! 無理よルイズ! わたくしったらなんてことでしょう! 混乱しているんでしょう! 考えてみれば貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険な事、頼めるわけがありませんわ!」 弱々しく首を左右に振り、自分の浅慮を悔いるアンリエッタ。だが、その様子をルイズは不意に遠いモノの様に見ている自分に気づいた。つい先ほどまではアンリエッタ同様に大仰に喜び、芝居がかった言葉を交わしあっていたのに。 ふと脳裏に、今は部屋に居ない――ようやく気付いた――使いの間の姿が過ぎった。彼の影響だろうか? ルイズはそっとアンリエッタの手を両手で包みこんだ。アンリエッタが不意に顔を上げ、涙の粒を眼の端に浮かべた瞳に、慈愛に満ちた顔を浮かべるルイズの顔を見上げた。 ついさっきまで同じ過去を共有する懐かしいおともだちだったのに、今はアンリエッタの知らないルイズがそこにいた。 妹を慈しむ姉の様な、娘を想う母の様なそのルイズの姿に、アンリエッタは身惚れた。 「姫様」 「ルイズ?」 「わたくしは、わたくしをおともだちと言ってくださったことがとてもうれしゅうございました。このルイズ、姫様のおともだちとして、そして家臣としても、貴女様の僕であり、理解者でございます」 「ルイズ、ルイズ・フランソワーズ、貴女はわたくしの知らない間に、こんな立派な貴族になっていたのですね」 感極まって涙ぐむアンリエッタの目元をそっと、取り出したハンカチでぬぐってから、ルイズは膝をつき再び臣下の礼を取った。 「ルイズ?」 「ですが、唯一のわがままをお許しください。姫様、姫様はおともだちとして私にお願いしてくださいました。ですが、どうか、主君としてもご命じくださいませ。私に、命を賭して命を果たせと」 「ルイズ、どうしてそのような事を」 「姫様がご存じかは存じ上げませんが、わたくしはゼロのルイズと呼ばれております。満足に魔法を使えぬ未熟者という意味でございます。そんなわたくしが姫様の命を果たすには身命を賭す以外にありませぬ。 どうかおともだちの為に戦うという事以外にも、このわたくしに勇気を振るい起こすお言葉をお授け下さいませ。おともだちの為に、主君の為にと、勇を振るい起こすお言葉を」 「ああ、ルイズ、わたくしは貴女になんて事を頼んでしまったのでしょう」 かすかに肩を震わせるルイズの様に、アンリエッタは我に返ったように慄いた。ルイズが今、アンリエッタの願った事を果たす為に命を賭ける覚悟を決めている。そして、恐怖を必死に押し殺そうとしている事も分かった。 自分はルイズに死ねと言っているようなものなのではないか? アンリエッタは初めて他人の気持ちを慮るという事を考えていた。 では、自分がおともだちと呼んで泣き付き、頼りにしたこの少女になんというべきか。聞かなかった事にして欲しいと告げ、今宵の出来事を自分もまた忘れるべきか。 それでもルイズの願いどおりにおともだちとして、そして王家の姫君として戦の只中にアルビオンに赴き、手紙を取り戻して来いと、命を賭けて果たせと命じるべきか。 自分の言葉で目の前の少女の運命が変わると、アンリエッタは初めて感じる恐怖に震えた。 「おお、おお、わたくしはなんと浅はかだったのでしょう。懐かしいおともだちであった貴女が、この学院に在籍していると知った時は始祖ブリミルが哀れな私をお見捨てにならなかったなどと思いあがり、貴女を死地に赴かせる事を口にするなど」 打ちひしがれたようにベッドに倒れて手をつくアンリエッタの言葉をルイズはただ待った。アンリエッタの心が決まるのを待った。 震えるアンリエッタの肩が、ようやくおさまった頃、流した涙をそのままにアンリエッタが毅然と顔を挙げた。 少なくとも先程までルイズに泣き崩れていた弱々しい少女の顔ではなかった。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール、貴女に命じます。アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子よりわたくしがしたためた手紙を取り返してくるのです」 「はい、杖に賭けて」 ルイズもまた凛とした声で答える。人の上に立つという事の責務をようやく実感し出したアンリエッタとルイズだけの部屋に、ノックの音がしたのはちょうどその時であった。 「誰!?」 「失礼する」 ルイズの誰何の声に応える間もなく声の主は静かに扉を開いて入ってきた。フリル付きのシャツに鮮やかな色のスラックス、胸のポケットには薔薇の造花を模した杖が一輪。 ギーシュである。何を聞きとったのかはたまた単なる偶然か、ルイズとアンリエッタの会話を耳にしていたらしい。扉に鍵を賭けていなかったので容易く入ってきたギーシュはそのままアンリエッタに向けて膝を着いて首を垂れた。 「姫殿下、盗賊の如く様子を伺うという下劣な真似をいたしましたご無礼は、どうか、このギーシュ・ド・グラモンがミス・ヴァリエールと共に任務を果たす事でお許しくださいますよう、お願い申しあげます」 「グラモン? あのグラモン元帥のご子息かしら?」 「四男でございます」 涙の跡を拭いたアンリエッタが、やや赤くなった目元をきょとんとして、小首を傾げながらきょとんとした顔で聞き返した。なんともはや、抱きしめて頬に接吻したくなるように可愛らしい。 ギーシュはかすかに頬を赤らめながら、立ちあがって恭しく一礼した。 「ありがとう、あなたも私の力になってくださるというのですね。でも、とても危険な任務なのです。ルイズにも申しましたが、命を失うかもしれないのです」 「姫殿下、わたくしは武門の子です。物心ついた時には、こう教えられ育ちました。命を惜しむな、名を惜しめ。決して表に出るような任務ではないと存じております。 ですが、トリステインの可憐な花たる姫殿下のお心に一時でも私の名を覚えていただければ、それはなによりの名誉なのでございます。父にも母にも兄にも伝える事は出来ずとも、わたしはグラモン家の家訓を守る事が出来るのです」 「ルイズ」 「姫様の御心のままに、お決めくださいまし。ギーシュ、いえミスタ・グラモンにこの任務を任せるか否かは」 「今のわたくしにはその言葉が何よりも重いものなのですよ、ルイズ。……お父上は立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようですね。この愚かで身勝手な姫をお助け下さい、ギーシュさん」 アンリエッタはにっこりと微笑んだ。それは街道の脇を埋める民衆や、城のバルコニーから見下ろす民衆達に向けるいわば営業用のスマイルに近い。ただ決定的に異なるのは、そこに心からの申し訳なさと、それでも縋る他ないやるせなさが宿っている事か。 ギーシュは感動した様子でうっとりと首肯した。 モンモランシーはどうしたのよ? と内心でルイズは呆れていたが、まあ、ギーシュとは最近気心が知れてきたし、ドットメイジの割には優秀なのは分かっていたので、文句は言わずにおいた。 「ルイズ、ギーシュさん、旅は危険に満ちている事でしょう。おそらく反乱軍の手先たちがこのトリステインやゲルマニアに多く放たれている筈。あなたがたの目的を反乱軍が知ったならどんな手段を取ってでも妨害する事は明白。そんな任務に赴かせるわたくしを許してとは申しません。ですが、どうか生きて戻ってきてください、そしてその無事に、始祖への感謝を捧げさせてください」 そう言ってアンリエッタはルイズの机の上に在る羽根ペンと羊皮紙を使って手紙をしたためた。アルビオンの王党派とウェールズ皇太子への、ルイズ達の身分を証明する手紙であろう。 おそらく最後の一文までを綴ったアンリエッタが、羽根ペンを止めて苦悩する様子に、ルイズは自分の思う通りの内容であったのだろうと、アンリエッタの心中を想い胸を痛めた。 だから、耳に届いたアンリエッタの言葉は聞かなかった事にした。それはアンリエッタとウェールズの二人の間のささやかだが、なによりも輝いている秘密だ。それを他人が知ってはいけない気がした。 「始祖ブリミルよ……。この自分勝手な姫をお許しください。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるを得ないのです……。自分の気持ちに嘘を着く事は出来ないのです……」 熱に浮かされていたようなギーシュも、アンリエッタのひたむきなその横顔に身惚れたかの様に黙っていた。 アンリエッタは新たに加えた一文をじっと見つめていたが、やがて手紙を巻き、杖を振るうやどこかから封蝋が成され、花押が押される。ルイズはその手紙を神妙な気持ちで受け取った。 この手紙と自分達の行動に、これからのトリステインとゲルマニアの両国の命運がかかっているのだ。まさしく、ルイズの命を引き換えにしてでもなさねばならぬと、ルイズは心中の決意をより堅固なものにした。 「ウェールズ皇太子にお会いしたらこの手紙を渡して下さい。すぐに件の手紙を渡してくれるでしょう。それからこれを」 そういって、アンリエッタは右手の薬指にはめていた指輪と革袋をルイズに手渡した。透き通る様に美しい水を宝石にしたように美しい指輪であった。 「母君から頂いた『水のルビー』と私が都合を着ける事の出来たお金です。せめてもの贈り物です。お金が心配になったら売り払ってください。 この任務にはトリステインの未来が掛かっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなたがたを守りますように。 ルイズ、ちいさいころからのわたくしの一番のおともだち、貴方にこんな事を頼んでおいて、言えた義理ではないかもしれませんが、どうか生きて帰って下さい。貴女だけがわたくしの真実のおともだちなのですか。 そしてギーシュさん、宮廷では貴族とは名ばかりの権利と利益の亡者ばかり。この学院にきて、久しぶりに貴族らしい方とお会いできました。どうか、貴方のその気高さを持ったまま、立派な軍人になってください」 そう言って、アンリエッタは始祖に祈る様にして二人に手を組んだまま頭を垂らした。 以上が、ルイズがDに語った事の顛末であった。黙ってそれを聞いていたDの代わりに左手のしゃがれ声が口を開いた。 「お前ら二人とも死にに行く気か? 内乱真っただ中の外国に子供二人でか。命と精神力がいくらあっても足りんぞ。ずいぶん命が安いらしいの」 「D、確かにあなたにとってはそうかもしれないけれど、私は姫様のお願いを聞いたの。おともだちとして、そして家臣として。どうあろうとも私は任務を果たすわよ」 「任務を果たした所で、ゼロの汚名を返上する事はできんぞ」 若さの中に鋼の響きを交えたDの声であった。一切の嘘を許さないその声に、ルイズはかすかに声を震わせて答えた。 「分かっているわ。言ったでしょう? おともだちとして、家臣として、聞き入れたと。汚名を返上する為ではないの。そうでしょ、ギーシュ」 「……いや、実は、ぼくはちょっとそーいうのも、あるかなあ、と」 「ぬあんですってえ?」 般若も青褪めて逃げ出しそうな顔と声に変わったルイズの形相に、ギーシュはさっと顔色を青く変えた。本気で怒らせた父よりも怖い。 軍の元帥とあって威厳も迫力もたっぷりな父が怒ると、すぐそばに雷が落ちた様に恐怖に震えるのだが、今のルイズは氷の海に突き落とされたように背筋を震わせる恐怖の塊であった。 「いや、あのね、ぼくは四男坊だから家督を継ぐわけでもないし、かといって上の兄達に不幸があればいいなどとは思わないしね。 それにアルビオンの話が本当ならいずれ武勲に恵まれる機会もあるかもしれないけどさ、ほら、姫殿下にぼくの顔と名前を覚えていただくのは損な話じゃないだろう? それに、トリステインでもっとも美しい白百合か白薔薇の如き姫君の為に働ける事は、トリステインの男としてこの上ない名誉だよ。誉れだよ。誰かに口にする事は出来なくとも、生涯自分自身に誇れるからね」 「どいつもこいつも浮かれておるのう。なんじゃ、またわしらにケツを拭いてもらえると期待しておるのか? だとしたら甘い、甘いぞ。なんでそんな危険な真似に付き合わなければならんのだ。いくら使い魔でも限度はあるぞ」 「いいえ。D、今回ばかりは貴方を無理に連れていくとは言いません」 きっぱりと言い切るルイズに、ギーシュがおや? という顔をした。今、ルイズは何と言っただろうか。この中で最大戦力である使い魔を連れていく気はないと言わなかっただろうか? 「D、貴方には本当に良くしてもらっているわ。本当なら、貴方はわたしなんか気に掛ける暇なんてない人なのでしょう。それ位は私も分かるわ。そんな貴方を元の場所へ返すという約束を今も果たせていないけれど、せめて貴方に命の危険を負う様な真似をさせないくらいの事はさせて。フーケの時だってそうだったけれど、今回は比較にならない。 ここに姫様から頂いたお金と貴方から借りた黄金があるわ。節約していれば食べるのに困る事はないでしょう。私に無理に付き合わなくていいのよ、ね?」 「使い魔の契約はどうする?」 「契約が生きている間は新しい使い魔を召喚できないけれど、それだけの事よ。貴方が特に困る事はないはずよ。それに、もしこの任務の最中に私が死ねば、その契約も解けるはずよ」 ギーシュが、はっとした顔に変わった。そうだ、ルイズが死ねばDは使い魔の契約に縛られる事はない。 Dが特に使い魔としての扱いに不平不満を述べた事が無いから疑問に思わなかったが、むしろDにとってはルイズが死んだ方が都合がいいのではないだろうか。 Dを見つめるルイズとギーシュの前で、Dはルイズが机の上に置いた革袋を手に取った。Dが辺境のダラス金貨を溶かして作った黄金と、アンリエッタが用意した宝石や金貨の詰まった革袋だ。 ずしりと手の中に重みが伝わってくる。Dはそれをパウチの中にしまった。まさか、とギーシュが口を開きかけて止めた。誰よりもそう思っているのはルイズ自身だろう。ルイズは唇を固く閉ざしたまま、Dの姿を見ていた。 鳶色の瞳に揺れるのは不安か、恐怖か、口にした言葉への後悔か。それとも、別離への悲しみか。 踵を返し部屋の扉に手をかけたDに、ルイズが声をかけた。震えている。精一杯に押し隠して、それでも抑えきれない声。 「D、今までありがとう」 「達者でな」 それだけを告げて、Dは開いた部屋の扉を閉じた。 前ページ次ページゼロの魔王伝
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SSその2 ◆◆◆◆ 転送前にあれほどいた観客達はいない。 大隈サーバルは周囲を見渡す。 彼女が立つのはアリーナ。それを取り囲む大理石の建造物。 ここはローマの円形闘技場。コロッセオだ。 (観客達はモニターを通してこの試合を見ているのだろう) 「見せつける。私の勝利を」 大隈サーバルは呟き、そして目の前に並び立つ二人の闘士を見た。 一人は獣の頭をした男、ファイヤーラッコ。 もう一人はカンカン帽を被った中華風民族衣装を纏った少女、七月十。 自分は、ジーンズ、キャミソ、ニットセーターのアーバンスタイルの女、大隈サーバル。 一対一対一。これは三つ巴の戦いだ。三つ巴には三つ巴の戦い方がある。 試合開始のゴングはもう鳴っている。 臨戦態勢に移るべく、大隈サーバルは両腕を高く掲げ、片足を上げる。 選択したのは抽象的で捕らえどころのない構え。力に抗するのではなく、先の後を取るための防御の型。 それは父に教わった、大隈流大熊猫の型。 大隈サーバルの構えに呼応するように、七月十が拳を構える。 三者の距離は離れている。それぞれ目測でおよそ13歩。攻撃は届かないだろう。 全員がにらみ合う中、七月十は口を開いた。 「…お前達の願いを言え」 「勝利こそ私の願い。それ以外に求めるものはない」 サーバルは決然と答えた。 瞬間————大隈サーバルの体を黒いモヤが覆う。 能力発動「期待の視線(マスストーカー)」。嘘つきに取り憑き、動きを重くする悪霊。 能力の対象は彼女とて例外ではない。むしろそれが彼女を苛むのだ。 勝利。勝利が欲しい。だが、それが自分の本心でないことは、その言葉を初めて口にした時からとうに分かっていた。 (慌てるな。動きが遅い、体が重いことはデメリットじゃない) 父の言葉を思い出す。ここまでは全て当初の予想から外れていない。 自滅しそうになるサーバルを、ラッコと七月十が心配そうな目で見つめる。 「七月十。私の願いは弟の蘇生なんだ。」 そう答えながら、サーバルは一人で考える。七月十の能力を知った時からずっと考えていた。 おそらく最終的に、自分の本当の願いはそれになるのだろう。 願いを叶える。そんな奇跡が叶うなら、願うことなど人の命以外にありえない。 しかし、だからこそ。 「ならば俺も言っておこう。俺の願いはユーチューバーになり、楽して収入を得ることだ。」 ファイヤーラッコが割り込むが、これを積極的に無視して、サーバルは自分の発言を続ける。 「死んだマーゲイは大切な弟だった。その弟に優勝を約束していてね。だから一人の姉として、お前に殴られるわけにはいかない、というのが私の願いさ」 次の瞬間、七月十が飛びかかる。同意の代わりに拳を交えようというつもりだ。 だが、その拳は意外にもファイヤーラッコが食い止める。 ファイヤーラッコは両腕を十字に構え、七月十の拳を受けていた。山を砕く拳を受け止めるほどの、野生動物の筋力! 「さっきから勝手に話を進められても困るんですけど。これは三つ巴なんだぜ」 サーバルを包む黒いモヤ…悪霊がラッコに視線を送る。だが、ラッコに異変はない。表裏のない正直な発言に、「期待の視線(マスストーカー)」は発動しない。 ラッコを挟んで、七月十とサーバルの視線が交錯する。 「すごいね。弟のために戦うんだ。なら私も手加減はしない」 (違う。結局、私は自分のために戦っているのに) ラッコを挟み、視線が交錯する。 七月十が構えを変えた。姿がおぼろげになり、体が67体のゴリラに分裂する。 「玉龍拳奥義、ゴリラ拳。」 サーバルはこの技を既に知っている。第1回戦の試合映像で七月十が見せたフィニッシュブロー。 その正体は、ゴリラ67体に幻視するほどの67連撃だ。 まさか、構えただけでゴリラに分裂するとは。 七月十も全力でサーバルの弟を復活させるつもりなのだと、サーバル自身が自覚した。 強さは想定以上だ。だが、焦る必要はない。 (試合映像は見た。奴は稚拙なリップサービスを好む) 次の七月十の発言を待つ。サーバルが動かない限り、必ず七月十は次の言葉を放つ。 「かかって来いよ。戦おう、二人まとめて願いを叶えてやる」 「えっ俺も叶えてくれるのか!?すごい!」 七月十の太っ腹にラッコが歓喜する!すごい!そう、とてもすごい! すごい、すごーい! 「私に期待するな」 (私が七月十に願ったのは、あくまで"この試合での勝利") そうだ。何もすごくない。サーバルの体を包む黒い悪霊がゴリラの群れに視線を送る。 瞬間、ゴリラの群れが黒いモヤに包まれる。「期待の視線(マスストーカー)」発動。 サーバルは確信する。七月十は…サーバルの願いを叶える気はない!! (やはりだ。七月十が"私の勝利"を願うはずがない。言葉にすれば、それは嘘となる) サーバルの勝ちたいという願いを跳ね除け、彼女の心の奥底の願望、弟を復活させたい思いに掛けるつもりだ。 なんにしろ、これでもう七月十は動けない。ただの一箇所に集まったゴリラの群れだ。ウホウホ。 「いわばこれは、お前がマーゲイを復活させるか、私が勝利するかの駆け引き。七月十、お前なんかに私の弟は復活させない」 自らの発言を受け、黒いモヤはさらにサーバルを包む。七月十だけではない。サーバルもまた自らの能力の影響下にある。 だが、そんな中で能力の影響を受けていないラッコが一匹。 策は成った。 「目指せ不労所得っ」 ラッコ特有の甲高い鳴き声を上げながら、サーバルを無視して七月十に殴りかかる。その両拳は炎に包まれていた。彼は火炎系のラッコだ。 衝突する。爆炎、、、煙の中から、ラッコとゴリラの群れが姿を現した。 だが、さすがの七月十の筋力。ゴリラ67体のどれひとつとして傷を負っていない。 サーバルは知っている。筋力の前には炎など跳ね除けられると。 「俺はファイヤーラッコ!」 彼はファイヤーラッコ! 「私は七月十!」 彼女は七月十! 挨拶を交わすと、七月十のゴリラがファイヤーラッコの胴体を殴る。しかし、ラッコもまたダメージを負わない。むしろラッコの着ていた服が炎に変化していく。自らの炎を衣服に見せるほどの…火炎系能力者! 最近は火炎系能力者は炎を衣服のように変形させて着こなすのだ。 (口裏は既に合わせてある。それだけではない。私とラッコは、既に組んで戦っている) 安全圏いるサーバルを遠巻きに、ラッコの炎がゴリラ達 67体を包む!「ウホウホ」「ウホ」ゴリラの幻影達は呻き苦しむ! 「七月十、お前みたいな危険人物を一人で相手するわけないだろ。これは三つ巴だぜ?俺たちは事前にタッグを組んでいたんだよ」 ラッコが笑う。サーバルとラッコは、既にタッグを組んでいた。 二対六十七。一見不可思議に思えるが、数の上ではサーバルとラッコが圧倒的優位。これが三つ巴だ。 計算づくで作り出した好機。これを逃す手はない。 サーバルは黒い悪霊に取り憑かれ動けない状態で、ゆっくりと地を踏み鳴らす。 震脚。 「動きが遅い、体が重いことはデメリットじゃない。私は龍気を感得することが得意なフレンズなんだよ」 サーバルの足元が割れ、大地から白い人影が姿を現した。 「大隈流大熊猫の型・龍気(たつき)」 龍気(たつき)、感得(かんとく)。 七月十が驚きを口にしようとするが、高音の炎の中では不可能だ。 「龍気(たつき)、感得(かんとく)」 震脚を極めることで至る武の境地。それはサーバルに取り憑く悪霊と対を成すかのような。白色の幻影。 「私はこの"1年間"で既に龍気(たつき)を感得(かんとく)していたんだよ」 龍気(たつき)を感得(かんとく)するためだけに費やした1年間。 求めるものは勝利。そのためなら手段は選ばない。 続いてサーバルは腰に帯びていた銃を龍気感得(たつきかんとく)に手渡す。 勝つためには手段を選ばない。そのためなら龍気感得(たつきかんとく)に銃すらも握らせる。 武の境地に至ったことで得た、龍気感得(たつきかんとく)が握るごくありふれた普通の銃弾が…ゴリラの群れに炸裂した! ◇◇◇◇ 時は遡る。 第2回戦開始より5日前。大隈サーバルは対戦相手を自らの隠れ家へと招いた。 「私はユーチューバーになるんだ」 サーバルは言い切った。 第1回戦で勝利の美酒を味わったサーバルは、手段を選ばない行動に出た。予め、対戦相手の一人を味方につける作戦に出たのだ。 まずは甘言で惑わす。ラッコの人となりは既に調べてある。このラッコ、実はユーチューバーを目指しているのだ。ならばそれを餌にするのみ。 「私は2回戦にむけての修行風景をユーチューブに流すつもりだ。そこで君に提案がある。第二回戦、私と共闘しろ。ラッコ」 「えっマジで」 寝耳に水といった表情で、ラッコは驚いていた。食いつきは良い。 「第一回戦の試合を見たが、七月十はマトモに戦って勝てる相手では無い。一人では奴に及ばない。」 相手はゴリラに分裂して敵を倒すほどの力量。ゴリラ67体にボコられて生きている者などいない。 共通敵の脅威を煽り、危機感を募らせる。 ラッコは周囲を見渡していた。動物園の檻の中にいるのは初めてなのだろう。近くにいるのは全員が大隈サーバルの協力者達。 フクハラP。父のパンダ。そして…林健四郎。 ラッコはしばし思案したが、やがて結論を出した。 「いいぜ。俺は楽をしたいだけだ。そのためならお前とも協力しよう。具体的な作戦はあるのか?」 「今の私には龍気(たつき)がある。一年で、これを完成させる。」 龍気(たつき)、震脚。震脚を極めた先にある武の境地。 それは同じ大隈流である父ですら至っていない、龍気(たつき)、感得(かんとく)だった。 「ちょっと待て。一年!?長くない?一年も修行すんの?」 ラッコの疑問に、フクハラPが解説を入れる。 「ここに第1回戦でサーバルちゃんが倒した林ケンシロウおじいさんも連れてきてるワ。彼の能力「精神と時と野菜の部屋」は1秒で1年間の修行が出来るの。野菜空間で、三人で修行するのよ。七月十を倒せるレベルまで。その修行風景をユーチューブに流す」 「よろしく」 林健四郎おじいさんが元気よく挨拶しました。 (勝つためにはなんでもする。今度こそ完全なる勝利を得る。他人の命だって掛けてやる。) 「そいつは第一回戦の対戦相手だろ?本当に味方になってくれる保証なんてないだろ」 「安心せい。儂は既に負けておる。いまさら勝者に手を出すはずがない。むしろ儂はたつき感得を見たいのじゃ。だから協力する。ラッコにも一年間の食事と機材を提供してやる」 「ただ飯!?」 目先の欲にラッコが食いついた。彼はこういう感じで釣った方が早いかもしれないとサーバルは感得した。 「もちろん七月十はユーチューブに気づく。奴とて暗殺家系。見逃すほど間抜けではない。じゃが、与える情報は取捨選択する。ラッコの姿も映像に流さない。共闘戦以外にも情報戦がある。これが三つ巴だ」 「待てよ。なら条件がある。俺は楽をしたいラッコ。一年間も修行をするつもりはない」 ラッコは楽して金を得たいだけだ。もちろん、サーバルとてラッコ的モチベーションの低さは想定済み。 しかし、ラッコの身勝手な態度を、サーバルの父のパンダは気に入らなかったようだった。 「なんだと」 「アンタらは黙ってろよ」 何か言おうとしたサーバルの父のパンダを、ラッコは言葉で制した。 「大隈サーバル。お前は随分と周囲にお膳立てしてもらってるんだな?今まで自分で何かを成し遂げたことはあるか?」 「あなたは知らないだろうけど、この子はウチのスターなのよ」 フクハラPが反論する。 「ただ周りの大人の指示に従っただけじゃないか」 「{私は…勝ちたいんだ。勝つためならなんでもする}」 答えたサーバルの周囲を黒いモヤが包む。サーバルは嘘をついている。だが、ラッコはなんの影響もない。嘘つきではないからだ。 (確かに、ラッコの言うことにも一理あるのかもしれない。) サーバルは考える。今の自分に本当に必要なのは何か。 「今のお前に一番必要なのは…不労所得だ。不労所得を得て、経済的に自立するんだ。それが精神的な自立にもつながるんじゃないのか?」 「不労所得」 不労所得。ラッコが不意に口にした不思議と甘美なその響きが、サーバルの脳内に爽やかな鈴の音のように響き渡った。 (すごい。不労所得ってすごいね。今まで考えもしなかった。そもそも不労所得ってなんだろう。) サーバルは…不労所得の虜になった。 「サーバル、なろうぜ!ユーチューバーに!」 ラッコが手を差し伸べる。サーバルは迷わずその手を取った。 「ああ。私はお前のようなバカになることを願っていたのかもしれないな」 いつの間にか、サーバルから黒いモヤが消えていた。 (勝つためには手段を選ばない。そのためならユーチューバーにだってなってやる。) こうしてサーバルとラッコは精神と時と野菜の部屋でユーチューバーになり…1年間を1秒に短縮した圧倒的動画アップにより、龍気(たつき)を感得(かんとく)したのだ。 サーバルが目指すのは、ユーチューバーになって…10万再生を突破!! ◆◆◆◆ 舞台は第2試合会場、コロッセオに立ち戻る。 5日間で1年以上という矛盾した修行を積んだラッコは、ユーチューバーとして歩み始めた自分自身を振り返りながら、第2試合の趨勢を見守っていた。 (やはり、龍気感得(たつきかんとく)は違うな) 銃弾は強い。いかに魔人といえども、銃弾という圧倒的な殺意の前には無力だ。 鈍重なゴリラ67体七月十は、ウホウホと鳴くよりも前に銃弾に貫かれるだろう。 (だが、俺の理想としてはサーバルも相当のダメージを負うこと。ともに1年修行した仲間だが、今は敵。協力するのはあくまで七月十を倒すまで。) 「コォォォオ」 その時、龍気感得が銃を撃とうとしたのと同時に、七月十が一呼吸した。 いや、正確には、火炎に包まれるゴリラの群れの中から確かな少女の息遣いが、ラッコの耳に届いたのだ。 「ぷぅっ!」 肺活量。尋常ならざるただの呼吸が、弾丸にぶち当たる。押し戻され、龍気感得(たつきかんとく)の手に突き刺さる弾丸。 同時に、あまりにも強い息は、ゴリラの群れを覆っていた炎を掻き消す。 「玉龍拳奥義、龍の息吹」 「おいおいおい」 (ダメだ。規格外…過ぎる!!) 即座にラッコは絶望感に襲われた。彼はただ楽をしたいだけで、元よりゴリラの群れに挑むような気概はない。今回はたまたま、サーバルが手伝ってくれると言ったからユーチューバーになっただけだ。 鈍重なゴリラの群れが…ラッコを襲う!かと思われた。 だが、ゴリラの群れの動きが遅い。黒いモヤが纏わりつき、まさにゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ。 (そうだ、当たり前だ。今の七月十は「期待の視線」でマトモに動けないではないか) 「千載一遇のチャンス!」 ラッコは筋肉防御を最大限に発揮し、壁の如き隆々たる体格に変化した。火炎を跳ね除けるほどの筋肉があるからこそ可能な…力技だ! 「ちくしょう…楽に勝つには…サーバルが願いを叶えられて、なおかつ七月十が倒される相討ちが理想系だったんだがな。」 (林のじいさん。今頃なにしてるのかな…) 「今だっやれっ!」 ラッコが背後のサーバルに視線を送る。 サーバルは黒い悪霊に覆われ、白い龍気感得(たつきかんとく)に支えられていた。 もうサーバルは、いかにも誰かに助けて欲しそうな、1年間の獣の表情ではない。あの顔がラッコの同情を誘ったのも事実だが、今のサーバルは真っ直ぐな眼をしていた。 「私は勝ちたい。なぜなら弟のために負けたなんて、姉として思われなくたいから。私が使うのは父の技。だが…今の私はユーチューバーだ!」 悪霊とたつき感得がサーバルの肩を持つ。 「行こう。みんな」 サーバルとたつき監督と悪霊の姿が重なる。 三位一体。震脚ピストル弾。 あらゆる獣の命を刈り取る死神(フレンズ)、白と黒の混在したサーバルは、大熊猫のような渾然一体とした姿に変化した。 「三位一体震脚ピストル弾」 ラッコの姿が死角となり、三位一体震脚ピストル弾を放つ。 魔人能力と武の極致がその身に宿った姿から放たれるごく普通の弾丸。あらゆる拳や蹴りよりもよほど殺傷力が高い。 ラッコの姿が影となり、七月十には弾丸の死線を捉えられない。 「私は嘘つきだ」 弾丸よりも速いスピードで、七月十が呟くのをラッコは耳にした。 七月十は嘘つきだ。その言葉は、七月十が正直者であることを意味し———— 「!?」 刹那の交錯。ファイヤーラッコはゴリラの群れを覆っていた黒いモヤが消失していることに気がつく。 (嘘つきの…パラドックス!?えっそんなんありなの) 嘘つきのパラドックス。「私は嘘つき」その言葉は、発言者が正直者であり、嘘つきではないという矛盾を表す。 期待の視線を送るだけの悪霊には、この矛盾を解決する答えは持ち得ない。 システムエラー、悪霊が行動不能に陥る。七月十からモヤが消えている。 「あのさぁ、試合中に、ウダウダ考えてるみたいだけど」 ラッコの視界から、ゴリラの群れが消えている。 ラッコの視界から、七月十が消えている。 「もっと早く行動を起こすべきだったね」 これまでの稚拙なスピードが夢のように、ラッコが振り返った時には、大隈サーバルはゴリラの群れに突撃されていた。 速度で負ける。大隈サーバルは、コロッセオの大理石の壁に埋まった。 (サーバル場外!!) 七月十の拳が、光り輝いている! 「玉龍拳奥義、果報大願成就一念一殺。こいつの願いは叶えたぜ。さあ、お前の願いを言え」 ラッコには七月十の好戦的な笑みが悪魔のように見えていた。 大隈サーバルの願いが、叶えられてしまった!! サーバルの弟が生き返った!これでもう、戦いへのモチベーションを失ったサーバルは戦えない。 大隈サーバル、脱落————!? 試合場に残っているのは、僅かに黒い悪霊と龍気感得(たつきかんとく)だけだ。 (えっあれ?悪霊と龍気感得(たつきかんとく)残ってんの?) サーバルはギリギリで踏みとどまっている。悪霊と龍気感得(たつきかんとく)が試合場に残っている。サーバルはまだ生きている。未だ闘志を失っていない。 生きて喰らい付いている。獲物は逃さない獣の眼をサーバルは瓦礫の中から七月十に送っている。 そしてラッコが生きている限り、未だサーバルの勝利は生きている…! 試合続行!未だ四対六十七に変わりはない。 「へっ…!どうやら時間は俺たちに味方してくれてるみたいだぜ!」 「…?」 勝利を確信したラッコの発言に、ゴリラ67体は一斉に首を傾げた。 「試合開始から10分だ。知ってるか?試合開始から10分が経ったんだぜ?」 そう、あの時も。そしてあの時も。10分という数字は非常に重要な意味を持っていることを、ラッコは既に学習していた。 ◆◆◆◆ 瓦礫の中から瀕死の大隈サーバルが見たのは、突如として痙攣し、白眼を剥いて凶暴化するラッコの姿だった。 (ギリギリ間に合った。これがあるからこそ、第一試合の映像を見た私はラッコを味方に付けたんだ。) 痙攣しながら首を縦に降るラッコ。これは恋?いいえ、これは真実です。ファイヤーラッコ…否、爆発オチ太郎の真実だ!!!! 「田(wiki構文)!というわけで、はい!突然ですがここでオレ様爆発オチ太郎の出番でーす!」 ファイヤーラッコが意味不明の言論を発声する!! いや、今の彼はファイヤーラッコではない。多重人格者ファイヤーラッコの主人格…爆発オチ太郎だ! 「なんっ」 何か言おうとした七月十の顔面に、ファイヤーラッコ、いや、爆発オチ太郎がヒザ蹴りを咬ます! 「爆発オチ太郎は、文字数や時間や気分的な問題や試合で10分が経過することによって自然発生する形而上存在です!!」 「意味が…」 狂人に理屈は通用しない。彼にはこの世全てが第三者視点で見えているらしく、脳内でファイヤーラッコの行動やアマゾンのアフィリエイト、wiki構文などが混在して見えているそうだ。 これは、1年間の授業中、大隈サーバルがファイヤーラッコから聞き出したり悟ったりした確かな事実である。 爆発オチ太郎は、狂っていた。彼は生まれた時は人間の赤ちゃんだったが、幼少時に尊敬する歴史上の偉人、西郷隆盛の人生が、家族が死んだり意外と悲惨だったことを知り、ショックで己の顔面の皮を剥がし、代わりに家にあったラッコの剥製を頭に被って、細胞レベルからラッコ化したのだ。 そしてファイヤーラッコの人格が生まれた。これに義憤を感じた爆発オチ太郎の両親は、いつか彼が本当の西郷隆盛のような器の大きい男になれるようにと、全ての事実を伏せ、おたふく風邪の治療の為にラッコになったと嘘を吐いたのだ。 思えば、全ての伏線は当初より存在した。第一試合の勝利者インタビューで、ラッコだけが謎の爆発で中止になった。 それが、ファイヤーラッコの主人格爆発オチ太郎が今年の大河ドラマ、西郷(せご)どんの録画を観るために欠席したのだと、サーバルは運良く早期に気付いた。 (今年の大河ドラマは西郷隆盛。だから、奴が西郷隆盛を原理に動いているとピンときた。西郷隆盛は私も含めてみんなに慕われる英雄だから) そんなことを考えている間に、爆発オチ太郎の背後に亜空間が出現する。空間すらも焼き尽くし、ワームホールを現出させるほどの、高威力の炎!すべては、自らを形而上存在だと思っている狂人だからこそ通る理屈だ。 「よいサイズの石油コンビナート〜!」 二人の頭上によいサイズの石油コンビナートが出現!このまま引火すれば、三人全員が爆発オチで場外になる可能性が大! 「良いぜ物理上存在…私の拳で願いを叶えてやる!」 「俺は形而上存在だ。誰がなんと言おうと形而上存在なんだ…!」 七月十が爆発オチ太郎を挑発する。爆発オチ太郎は、自らが形而上存在であることを証明するために、物理上のパンチを放つ! 「形而上パンチ!」 「うおおおー!」 強さこそが証明である現代の倫理観からすれば、徒手空拳で形而上存在だと示そうとする爆発オチ太郎の行動を、誰が笑うことなど出来ようか。 サーバルが見たのは、爆発オチ太郎と七月十が拳を交えながら空中を二段ジャンプする光景だ。 「玉龍拳奥義、東京大空襲!」 そしてダイナミックな音が鳴り響く。二人の熱に石油コンビナートが引火し、大爆発を起こしたのだ。 空中で二段ジャンプしていたラッコと七月十は爆発から逃れている。 大隈サーバルは爆発に巻き込まれ、ギリギリ堪えていたが、ついに場外へと吹き飛んで行った。 ◆◆◆◆ 大隈サーバルは場外となったが、悪霊と龍気感得(たつきかんとく)はまだコロッセオに立っていた。 「同じユーチューバーとしてラッコの暴走を見ておくままには出来ない。思い出せ、爆発オチ太郎。いや、ファイヤーラッコ」 悪霊はこの1年間の修行で、ファイヤーラッコに友情を感じていた。その思いが、悪霊を踏みとどまらせたのだ。 その熱い気持ちは龍気感得(たつきかんとく)にも伝わった。白い人影は一層人間らしい造形を深め、今やそこに立っているのは社会的信用のある中年男性だ。 「こうなれば我々が奴を止めるしかない。受け取れっ我々の社会的信用だ」 龍気感得(たつきかんとく)と悪霊が空を飛び、爆発オチ太郎の姿に重なる。ラッコ!パンダ!ベストマッチ!! 悪霊と龍気感得(たつきかんとく)。二人の社会的信用を得た爆発オチ太郎の姿が、人間らしい造形へと変形してゆく。 「馬鹿な…あいつは!」 七月十が驚きの声を出す。今の爆発オチ太郎、いや、ファイヤーラッコ、いや、その男の顔面は…俳優の西田敏行にそっくりだ! 西田敏行の顔をした男は、空中で神々しく目を開いた 「きばれ、せごどん(薩摩弁でがんばりない、西郷隆盛。という意味の挨拶)」 今のファイヤーラッコは…三位一体、西田敏行太郎! 西田敏行は西郷隆盛の大ファンであることは業界でも有名だ。その縁故が、爆発オチ太郎を西田敏行太郎の姿へと導いたのだろう。 「ダメだ、作戦は失敗だ。きっと悪霊の社会的信用が足りないせいだ」 「俺のせいにするなよ」 悪霊は龍気感得(たつきかんとく)に怒りを覚えた。 「おいは、この世すべてのせごどんをきばらせようとする西田敏行太郎でごわす。きばれ!せごどん!」 「ダメだ。暴走が止まらない。七月十、頼む。我々が西郷隆盛のまま…こいつを殺してくれー!!」 龍気感得(たつきかんとく)が悲痛な叫び声を上げる! 「ラッコ!お前の求めた日常は西郷隆盛でもなければ西田敏行でもないはずだ!私にはわかる!私を見ろ!私と戦えー!」 七月十の全力の拳が、西田敏行太郎を貫く。 「玉龍拳奥義!果報!大願成就!一!念!一!殺!」 光り輝く拳が全てを包み込み、そして破壊してゆく…!空中では全ての威力が西田敏行に伝わり、ダメージの逃げ場がない!! ◇◇◇◇ 「見よ。二ヶ月前にアップした動画が13回再生じゃ。精神と時と野菜の部屋では1秒が1年じゃから、相当なペースじゃぞ。」 ファイヤーラッコの記憶の中で、林健四郎おじいさんが嬉しそうに言った。 林健四郎おじいさんの能力、精神と時と野菜の部屋で修行を開始してより十一ヶ月。既に大隈サーバルは龍気の感得に成功し、アフィリエイトの収入も僅かであるが増えていた。 「これは…俺の記憶だ」 自らの精神世界で、ファイヤーラッコは悲しそうに呟く。 次の瞬間、場面は変わり、そこには血を吐いた林健四郎おじいさんが力なく横たわっていた。 「バカヤロー!どうして、どうしてだ、ケンシロウおじいさん…!」 「ぐふっ!この野菜空間では…能力者か、敵が死ぬまで闘い続ける。つまり、儂が死ぬしか、お前とサーバルがここを出る術は無いのじゃよ」 ラッコは怒りに任せ、サーバルの胸ぐらをつかむ。 「サーバル!てめー…このことを知ってやがったな!お前はケンシロウおじいさんを殺してでも、自分だけがユーチューバーとして収入を得ようとしたんだ」 「私は勝つためならなんでもする。たとえ他人の命だって天秤にかけてやる」 そう言ったサーバルの姿が黒いモヤに包まれる。ラッコはやり場の無い怒りを感じていた。 「試合以外で殺人を犯した選手は敗退だ。ラッコよ。私は初めから、ケンシロウおじいさんの死をお前の責任に押し付けて、都合よく私だけが勝ち残るつもりだったのさ」 「嘘だ!なら何故そんな黒いモヤに包まれる!俺はただ楽に収入を得たいだけだったのに…いつの間にかお前に友情すら感じていたんだぜー!」 そして更に場面は変わり、そこには爆発オチ太郎が亜空間から石油コンビナートを出現させる光景が広がっていた。 「あれは、俺だ。俺こそが爆発オチ太郎だったんだ」 「突然ですが、ここでオレ様爆発オチ太郎の出番でーす!」 記憶のラッコが悲しそうに、孤独そうに叫ぶ。 「亜空間…!?そうか、このワームホールから、野菜空間を脱出するんだ!まだ林健四郎おじいさんが助かる見込みはあるぞ、ラッコ!お前は大した奴だよ…!」 サーバルが健四郎おじいさんを背負い、自我を失ったラッコにしがみつきながら、石油コンビナートの爆発を利用して亜空間へ放り出された。 「そうか。俺は自分に都合の悪い記憶を封印していたんだ。」 全てを思い出したラッコは…またもや場面が変わり、目の前にデカくてガタイの良い学生が現れるのを目にした。 「よう、久しぶりだな」 「お前は、第1回戦で死んだ俺の対戦相手のチョコケロッグ太郎」 チョコケロッグ太郎。彼は、ファイヤーラッコが第1回戦で倒した対戦相手だ。 「死んでないけどな。ここはお前の精神世界だから、なんでもアリなのさ」 「そうか。ケンシロウおじいさんが助かって本当に良かった。危うく俺は人を殺すところだった。本物のユーチューバーへの道のりは遠いな」 するとチョコケロッグ太郎は、ラッコに手を差し出した。 「受け取れ、コーンフレークだ」 「ありがとう…日常の象徴。俺はなんでもない普通の日常が欲しかっただけなのかもしれないな」 「行くのか?ラッコ」 「ああ、俺にはまだユーチューブがあるからな。シリアルキル…コンプリート!」 コーンフレークを握りしめ、ラッコは亜空間のワームホールへと足を運ぶ。その穴は、丸くてまるでちくわの穴のようだと少し思った。 ◆◆◆◆ 二度の全力。全てを出し切った七月十が目にしたのは、ファイヤーラッコ、いや、西郷隆盛太郎が全身の筋肉を巧みに用いて、さらなる変貌を遂げる絶望だった。 「ちくわああああ!!」 西田敏行太郎の姿が、穴の空いた練り物…巨大なちくわへと変形してゆく! ちくわ…チューブ…ユーチューブ。これが本物のユーチューバーだ!! 「ちくわああああ!!」 「えっちくわ」 一瞬の油断。七月十がちくわに食われる!!食われる七月十。これが自然界の掟だ 「一緒に10万再生を目指そうぜ?」 七月十を食われたゴリラ67体の幻影たちは、慌てふためき逃げ惑う。大将を破られた軍の末路などこんなものだ。 そのゴリラの群れを、ちくわは次々と捕食してゆく。すべては10万再生を達成するために。 圧倒的破壊。もはや試合会場にはちくわしか残っていない。だが、七月十はただ食われただけで、生死不明なのでまだ試合は終わっていないよね。 そして、さらなる異変。ゴリラの力を取り込んだちくわが、黒く変色してゆく。まるでゴリラの体毛のように。 ちくわゴリラホイール。 そこには、一体の巨大なタイヤが宙に浮かんでいた… 「奴はどこまで進化するんだ」 場外になったサーバルは、敗北を確信して尚戦う意思を失っていなかった。場外の領域から、コロッセオのちくわゴリラホイールに向け、無意味な大量のたつき感得を放つ。一体、二体…大量だ。 「ラッコ…日常に戻るんだ」 サーバルは苦しそうに叫ぶ。今のちくわゴリラホイールはいわばラッコと七月十が融合した存在とみなされ、両者健在の扱いのまま試合は続行している。 「こんな形の勝利は…私たちの求める勝利ではない!」 サーバルが、叫ぶ!その声はちくわに届く! 「なれ…ラッコ。本物のユーチューバーに、なれーーーっ!!」 心からの言葉!サーバルを包み込んでいた黒いモヤが、晴れてゆく…! 「お姉ちゃん、カッコいい」 不意に弟の声が聞こえたような気がした。 反射的に振り返るサーバル。 そこには、いた。最愛の弟が。マーゲイが。元気に立って、サーバルを応援していた。 「とりあえず生き返ったんだ。お姉ちゃん。ありがとう。七月十が殴った時に僕は生き返ったんだよ」 「マーゲイ!」 サーバルは最愛の弟に抱きつく。 「もう離さない!もう離さないからな!」 「あはっ痛いよ、お姉ちゃん」 マーゲイが嬉しそうに言う。サーバルが抱くその背中には、奇妙にも小さなタイヤが一つくっついている。 「えっタイヤ」 「お姉ちゃん。もう人類は自分たちの足で歩く必要は無くなったんだよ」 マーゲイが虚ろな目をして微笑む。 ちくわがケロッグコーンフロスティをばらまきながら爆炎を上げる。コロッセオから全世界へ放たれたケロッグコーンフロスティは、世界中の人間に取り憑き、背中にタイヤを生やすという奇跡を起こしたのだ。 「せごどん、きばれ(薩摩弁で、背中にタイヤを生やしなさい西郷隆盛。という意味の挨拶)」 絶望は終わらない。これは、キメラ存在に七月十の願いの力が悪い方向に働き、西田敏行太郎の願いを叶えてしまった結果に違いない。 弟が背中にタイヤが装着され、仰向けになってコロッセオ周辺を高速でドライブし始めた。 「見てお姉ちゃん。僕はもう歩く必要なんてない。これで病気も治ったんだよ」 「ああああーっ!神は!神はいないのかーーーっ!」 大隈サーバルは、自分自身もまた仰向けになり背中のタイヤでドライブウェイしていることにも気付かず、天に向かって叫んだ。 ◇◇◇◇ これは、記憶。七月十が戦うための原動力。 「もう…戦いたくない」 暗闇の室内で、一人の少女が呟いた。その表情は暗く、読み取ることができない。 「もう誰も殺したくないの。あなたも殺したくない。逃げて」 「おいおい、俺はなんでもないごく普通の少年だぜ?お前が家族の為に人殺しなんてさせられてるのは知ってるが、ハイかイイエで答えるためだけの正直さなんて、本当の正直さとは言えねーんじゃねーかな」 少年の姿もまた暗闇の中、明確に見ることは出来ない。彼は少女と向かい合い、対峙している。 「なら…どうすればいい。私はあなたを殺すよう命令を受けてる」 「明確な答えなんてないと思うぜ。ただ…こんな人になりてーって人の真似をすれば良いんじゃないかな」 暗闇の中、確かに少年は笑った。 「笑顔になれナナガツジュウ。笑顔の方が素敵だ」 「私の名前は、その読み方ではない。でも私の笑顔を見たいってことは…告白してるってことでいいのよね?とりあえず私の実家に行こうか」 「えっ」 ◇◇◇◇ 試合開始より5日前。七月十はグロリアス・オリュンピア参加者専用のホテルの一室で、ユーチューブの動画を見ていた。 「ねえ七月十お姉さま。まだ再生できないの?」 「なんで勝手に人の部屋にいるの。佐渡ヶ谷さん、悪いけど集中したいから出て行ってくんない」 「酷いわ〜」 「黙って、動画が始まった」 再生された動画には、「白人男性の講座」とタイトルが付けられていた。 「佐渡ヶ谷さん、見て。白人男性だよ」 動画の中の白人男性は、第1回戦で七月十が戦った対戦相手。佐渡ヶ谷真望のタッグパートナーだった男だ。 「SMとは心だ。真のSMに武器は必要ない。七月十。鞭打。鞭の理合を手に表す。近接拷問術は必ず玉龍拳に取り入れられるはずだ。」 白人男性は、ミラノから七月十へアドバイスを送り続けていた。 ◆◆◆◆ 「玉龍拳は…無体ぶりなんだよ!!!」 ちくわゴリラホイールからジャズの名曲whip lushの口笛が聞こえたかと思うと、少女の怒声が内外に響いた。 次の瞬間、ちくわゴリラホイールの穴から飛び出したのは、67体のゴリラと、女王様に鞭を打つ、白人男性達67体の幻影だった。 「おばあちゃんが言っていた。歩くことを止めた人類はやがて高速移動しながら電柱に頭をぶつけるだろうと」 「七月十、生きていたのか」 サーバルが背中のタイヤで高速移動しながらコロッセオ場内に再入場し、七月十に駆け寄る。 「ああ、ちくわには穴があったから、そこから脱出できた」 ————生物学上の盲点!ちくわには穴がある為、捕食されても脱出出来る! ゴリラと女王と白人男性の群れに囲まれた七月十は、沈痛な面持ちで上空を飛翔するちくわを見上げた。 「すげえよアンタラ、たった二人でここまで…お前たちは初めから組んで戦っていたんだな!全部お前達の仕業なんだな。決着をつけよう、サーバル!」 「えっ」 サーバルが素っ頓狂な声を出すが、テンションの上がった七月十には聞こえない。 「まだ試合終了じゃない!戦おう!サーバル!」 「私はもう場外で負けたわ。巻き込まないで!もうやめてー!」 「断る!」 七月十は構えを変える。 次の一撃で決着をつける。ユーチューブの力は強い。倒すことを諦め、白人男性拳で場外狙い。 手刀を天に掲げ、もう片手を地に向ける。これこそがSMの理合を両手で表す、鞭打の型。 続いて大地を破壊しながら平行移動、加速が頂点に達すると同時に空を飛行し、ちくわにタックルした。 「名付けて玉龍拳新奥義、白人男性拳、一気呵成の型。」 手刀を振り抜き、爆発が起こる。ちくわが爆発に巻き込まれて場外。 67体のゴリラと女王様とそれらに鞭を打つ白人男性が大量にばら撒かれ、エネルギーの幻影となって敵を打ち倒す。 ちくわと龍気感得(たつきかんとく)、悪霊、サーバルが苦悶の表情を浮かべたような気がしたが、全部まとめて吹き飛んでいく。 「この技を食らった者はミラノに行きたくなる。てめーらみてーなクソヤローどもは…ミラノまで飛んでっちまいな!」 三大アニマル大決戦。 ユーチューブVS龍気感得(たつきかんとく)VS白人男性の三つ巴の戦いは、白人男性に軍配が上がった。 ◆◆◆◆ 「えっ場外?」 グロリアス・オリュンピア会場、貴賓席にてエプシロン王国の王女、フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロンが言った。 「ちくわ殺してないの?えっどうすんのこれ。周辺の被害とか」 「ちくわが場外になった以上、勝利は七月十のものですが、このままでは全人類に被害が及びますね」 侍女のピャーチが冷静に分析する。 その時、試合場を移すモニターが、七月十の発言を捉えた。 「確か戦った後処理は全部フェム王女がやってくれるんだったな…あとは全部任せたぜ!王女様!」 「と、いうことだそうです。元はと言えばあなたが望んだことですよ、フェム様」 ピャーチが無感情に言い放った。その背中にはタイヤが生えており、室内を高速移動していた。 その時、緊急通信の連絡が入り、五賢臣のビデオ電話が映し出された。 「頼む…フェム王女、もはや君しかいない。我々五賢臣の力では…ぐあああああ電柱に頭をぶつけたあああああ」 五賢臣の連絡は途絶えた… 「NOOOOOOO!!!!」 不労所得の恐怖!フェム王女は叫んだ。背中のタイヤで高速移動しながら叫んだ! ◆◆◆◆ 試合決着より数時間後、疲労困憊で倒れているフェム王女が頭にタンコブを膨れさせてコロッセオに寝転がっていた。その傍らには国王が咽び泣いている。なんとかちくわを説得したのだ。 フェム王女は、ユーチューブの金ボタンと浮遊大陸油田の利権、20万円のポケットマネー(エプシロン王国が保有する財産の一割二分五厘)で手を打った。人類は救われたのだ。 その代わり、フェム王女はさすがにこっぴどく父上に怒られたわけだ。 周辺には、倒れている悪霊太郎、たつき監督太郎、サーバル、そして西田敏行太郎がいた。 「お前たち二人は今まで戦った中でもかなり強い部類だった」 七月十はボロボロの状態で、地面にあぐらをかきながらそう言った。 「私に期待しないでくれ」 サーバルは弟を抱きしめながら、照れくさそうに笑った。 瀕死の西田敏行太郎は、天を仰ぎながらゆっくりと口を開く。 「七月十。ひとつだけ頼みがある」 「なんだ」 「俺たちは勝ちにこだわりすぎるあまり、ユーチューバーとしての道を踏み外してしまった。頼む…俺たちの代わりに本物のユーチューバーに…」 「ああ、任せな!」 交通事故の発生件数は年間40万件を超えています。中には死亡も伴う痛ましい事故が3600件も含まれます。法律を守り、適正な運転を心掛けましょう。長時間の運転や、危険な走行ドリフトなど、決して無理はなさらないで下さい。 ◆◆◆◆
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『面白そうだから引き受けたが、一応アンタには話を通しておこうかと思ってよ』 サイパスの私室に来客が訪れたのは、とっくに日付が変わり夜の住民も寝静まろうかと言うほどの深かい時刻の事だった。 もっとも来客と言ってもアポイントメントがないどころか、ノックすらせず扉を開くような礼儀知らずではあるのだが。 勿論、鍵は閉めていたはずなのだが、この男にとってそんなものは在って無いようなものらしい。 ニヤつきながら扉を開いたのは、組織の最強戦力と評される男だった。 男は挨拶もそこそこに我が物顔で部屋の中央を突っ切ると、壁際にあるアンティーク調の食器棚を開いて、そこからグラスを勝手に二つ取り出した。 それをテーブルに並べて腰を下ろすと、男は持参したウォッカの栓を抜き宝石のようなカットデザインのグラスに注ぎ一方をサイパスの方へとすいと差し出す。 今更この男の勝手など咎める気にもならないのか、部屋の主は呆れたように頭を振りながらもその対面に腰かけた。 『それで、なんの用だヴァイザー?』 差し出されたウオッカに口を付けるでもなく、サイパスは来訪の理由を問いただした。 用もなく互いの私室を訪れるなど、この組織内ではそうある事ではない。 その中でも近寄りがたい立ち位置にあるサイパスの部屋を訪れる者など殆どいなかった。 そのサイパスの部屋をわざわざ人目を避けるような時間に訪れたからには、相応の要件があるはずである。 『イヴァンのガキが俺に依頼してきたぜ、アヴァンの旦那を殺せってな』 何か愉しげな報告でもするように、ヴァイザーは酒を片手にそう言った。 それを聞いたサイパスは表情を変えず、いつも通りの険しい表情のままグラスを傾ける。 『組織内での殺し合いはご法度のはずだが?』 『正当な理由がなければ、だろ? 後はバレなければか』 イヴァンはこっち狙いみたいだけどな、と付け足して下卑た嗤いを浮かべた。 サイパスはそのふざけた態度に取り合わず先を促す。 『それで、その理由とはなんだ?』 ヴァイザーが透明な液体をゆるりと口に運びグラスを空にする。 強めのアルコールに火を噴くように焼やかれた喉から、一瞬で酒気を帯びた息を吐いた。 『かぁーっ。アンタに合わせてキツめのウォッカにしたがキクなぁこりゃ』 話を進めようとしないヴァイザーにサイパスが眼を細めギロリと睨みを効かせる。 放たれる殺気に本気の色が混じりつつあるなと、敏感に感じたヴァイザーは肩をすくめて取り出した何かを空のグラスの横に放った。 それは資料の束だった。 『これは…………?』 『イヴァンは今回の事は秘密裏にやるつもりらしいが、こいつはイザ発覚して問い詰められたときのための保険らしい。 ま、でっち上げもあるだろうが、ここまでご丁寧に証拠を集められちゃこっちも納得せざる負えねえさ。 ったく。慎重と言うか、臆病と言うか。殺しは下手なくせにこういうことは徹底してやがる』 何がそんなに楽しいのか、獰猛な野生動物のような攻撃的な笑みを浮かべた。 資料を手に取り、目を通すサイパスの表情が徐々に普段以上に険しいものになってゆく。 『そこに書かれてる通り旦那は組織の情報を流してたらしい、ここ最近仕事がし辛くなってたのはそのせいだ。 ま、今のところ死者は出ていねぇが、この辺が差し止め所だろう。 しかも、野郎の脱出の手引きをしてのも旦那らしい』 野郎とは先日組織から離脱を果たしたルカの事だろう。 確かに単独では不可能なほど鮮やかな離脱劇だった。 何より、組織内で生まれ育ったルカが外部に頼る当てを持っているとも思えない。 協力者がいると言うのは考えてみれば当然だろう。 『これは重大な、組織に対する裏切り行為だぜ』 忠誠心なんてさらさらないであろう男が裏切り者を非難した。 それはきっと、本心ではなく言っているだけなのだろうけれど。 ざっと目を目を通しただけで動かしようのないような裏切りの証拠がいくつも出てきた。 成程。対外的な役割を果たしていたアヴァンならば情報を流すくらいは容易かろう。 『ま、そう言う意味じゃ、当のイヴァンの野郎も怪しくなってくるがな』 言って。ケケケと下卑た嗤いを零した。 彼にとってはアヴァンの裏切りもイヴァンが裏切っている可能性もどうでもいい事なのだろう。 『で、どうするよ。アンタがやめろってんなら止めておくが?』 ヴァイザーの問いにサイパスはつまらなさ気に深く息を吐くと、資料を読む手を止めヴァイザーに向かって投げ返した。 『それを何故俺に問う。正当な理由があるのならやればいい。 粛清を秘密裏に行おうと言うのは気に喰わないが、裏切り者を処断するのは間違いではない』 そう言うとサイパスはこれまで手を付けていなかったウオッカを呷り、机に乾いた音を響かせた。 ヴァイザーは愉しげ唇をゆがめると、空になったサイパスのグラスに新たにウォッカを注いだ。 『そりゃ問うさ。古い付き合いなんだろ、そいつを殺ろうってんだから話は通しとくのが人としての筋ってもんだろう?』 散々自分勝手に人の命を喰らい尽くしてきた殺人鬼がどの口で人の筋など説くのか。 そもそもまともな人間は人など殺さない。 致命的に人としてずれている。 『別に昔馴染みというのなら俺に限った話でもあるまい、筋と言うのならボスに通すのが筋だろう』 その言葉にヴァイザーは珍しく困ったように、あー、と呻いて視線を泳がせた。 元よりヴァイザーは真面目に報告義務を果たすような奴でもない。 面白そうだからという理由だけで秘匿する事もあるだろう。 それを許されるのは圧倒的な実績というサイパスを上回る程の発言力があるからだ。 だが、本気で秘匿するつもりならば、こうしてサイパスにわざわざ言いに来る必要はないし、公にしたいのならばサイパスではなく上に通すべきだ。 イヴァンがこの件を秘密裏に進めたい意図は分かる。 アヴァンの後釜狙いの犯行だろう、自らそれを進めたとなればいらぬ角が立つ。 そのために親殺しを行ったともなればなおさらだ。 だがヴァイザーには理由がない。 『ボスは――――ありゃダメだろ。あの人に言っても意味がない』 『どういう意味だ』 『俺の話なんか聞きゃしないって事さ、いや俺だけじゃあない。 あの人にまともに話を通せるのはもうアンタとサミュエルの旦那とアヴァンの旦那の三人だけだ』 その言葉は否定できない。 病床に伏した今のボスの精神は非常にデリケートだ。 扱いには細心の注意を必要とされ、長い付き合いで機微を理解した者でなければ、機嫌を損ねて殺されかねない。 『ならば、俺から話を通せという事か?』 『そうじゃないさ。ま、アンタがイヴァンの悪だくみをチクるのは自由だがね。 けど止めといた方がいい。事が大きくなってややこしい事になるだけだ。 どうせ答えも決まり切ってる、聞くだけ無駄ってもんだ。ボスに興奮されても困るだろ』 先日ルカの件があったばかりだ。 その時の激昂した反応を考えれば、あのボスが誰であろうと裏切り者など許すはずがない。 今のボスの容態を考えれば、確かに無駄に刺激することは避けたいところである。 『お前にボスの体調を気遣う心があるとは思わなかったよ』 『おいおい、今もこうしてアンタを気遣ってるじゃないか。 それに俺は面倒になるから止めとけといってるだけで、あの人の体調なんて気にしちゃいねぇよ』 それはボス自体がどうでもいいと言うよりも、ボスは心配いらないと言った風な言い方だった。 『俺からしてみれば他の連中がボスが死ぬだの騒いでんのか不思議でしょうがないね。あの人がそう簡単に死ぬものか。 ありゃ正真正銘の怪物だ。俺の見立てじゃ骨と皮だけになっても後20年は生きるだろうよ』 余命1年という闇医者の宣告を、命を扱う殺し屋は否定する。 それは暗に、後継者争いに精を出すイヴァンや後継者探しに躍起になるサイパス達の動きを、徒労だと嘲る言葉でもあった。 だからこそ彼はイヴァンの依頼を受けたのだろう。 『だからさ、俺はアンタに聞いてるんだ。 ボスでもなく、サミュエルの旦那でもない。アンタだから話したんだ』 ヴァイザーが話を引き戻す。 相手を逃がさない執拗な蛇のように、答えを出さず逃れることなど、この男は許さない。 『…………何故、俺に拘る?』 『忘れたのか? 俺はアンタが誘ったからここにいるんだぜ、アンタじゃなければここには来なかった。 解かるか? その敬愛しているアンタだから聞くんだ。なあ、どうなんだサイパスさんよ。殺していいのか? 悪いのか? それとも――――』 言葉とは裏腹にこの男からは敬意なんて微塵も感じられない。 愉しむように試すように、誘うように手を広げて最強の死神は問う。 『――――自分の手で殺したいか?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「はっ。死んだのかあのガキ」 吐き捨てるようにして、イヴァン・デ・ベルナルディはそう笑った。 今しがた放送によりアザレアの死が伝えられた。 ヴァイザーの死に比べれば意外な結果でもなんでもない。 平時から後先というものを考えず、生き残ると言う当たり前の思考が抜け落ちた鉄砲玉のような娘だった。 殺せば終わりの仕事と違って、生き残りゲームで死ぬのは当然の結果と言える。 所詮、愛らしい容姿と殺しの才能から組織内でちやほやされていたが、生き残れる器じゃなかったのだ、このイヴァン・デ・ベルナルディと違って。 どちらにせよ組織の連中は全てここで切り捨てるつもりだった。 無駄な手間を省いてくれたのだから、あの生意気なだけのクソガキが初めて役に立ったと言えるだろう。 イヴァンにとって死んだ殺し屋だけがいい殺し屋だ。 だが、何事にも例外はある。 「そうか、そう言えばお前もいたんだったな」 近寄ってきた影のような人物を認めて、イヴァンは幸運を噛み締めるように嬉しげに口元を吊り上げた。 殺し屋という下賤で破棄するべき奴等の中にもイヴァンの為に大いに働いてくれる利用価値のある者はいる。 ここでその唯一にして最強のカードを引き当てるとは、やはり、運命はイヴァンを愛している。 「よう、サイパス。お前と無事合流出来て何よりだ」 サイパス・キルラ。 肉体の全盛期はとうに超えているにも拘らず、未だヴァイザーという稀代の殺人鬼以外には譲らぬ、組織内でも随一の実力者だ。 そして忠実なる組織の駒。組織のためなら命すら投げ出す事を躊躇わない男である。 この場においても決して逆らうことなくイヴァンに付き従うことだろう。 そのサイパスをもってしてもこの舞台は一筋縄ではいかなかったのか、だいぶダメージを負っている様だが。 それでも五体満足で合流は果たせたのは上々だろう。 「サイパス。貴様には俺の護衛を命じる。それと余ってる銃かトカレフの弾丸があるならこっちに寄越せ」 この二人の関係性において、互いの無事を喜び合うなどと言う無駄な作業は発生しない。 指示を出す者と出される者。 この二人にあるのはそれだけである。 「護衛を務めろというのなら従おう。だが、まともな銃は一つしかないのでな、護衛を任される以上これは私が持つべきだろう」 「ちっ。仕方あるまい。なら護身用でいい、何か武器はないのか?」 「熱で銃身の歪んだミリポリならあるが、一応整備はしてみたが使えるかも怪しいぞ?」 「それで構わん、無いよりはましだ」 そう言ってサイパスの手からひったくる様にS WM10を受け取ると、パーツを解体して自分の手で検証と整備を始めた サイパスが確認したとはいえ、自分の手で確認するまで信用しないイヴァンらしい行動である。 「ちっ。確かにほんの僅かだが銃身に歪みがあるな、撃てない事もないだろうが、これじゃ狙いをつけるのは無理だな」 舌を打ちながら、解き慣れたパズルでも作る様に解体した拳銃を組み立ててゆく。 元より銃の射程と言うのはそれほど長くはない。 実戦で動く的相手に使えるのはせいぜい5~10m程度。 卓越したプロならばその限りではないのだろうが、少なくともイヴァンが扱うには致命的だ。 だが、今のイヴァンには銃以上のサイパスと言う武器がある、手持ちの武器などは最低限で十分だろう。 「まあいい、脅しや牽制くらいには使える。 それで、ここまでで俺以外の組織の連中とは出会えたか?」 何か錠剤をのみ込みながらイヴァンが問いかけた。 護衛を任されたサイパスは周囲に目を配り警戒をしながら、その質問に応じる。 「いや、ここで出会えたのはお前が初めてだ。 どうするのだ? お前を護るのはいいとして、ピーターたちとの合流を目指すのか? それとも俺たちだけで脱出を、」 サイパスが言葉を最後まで発することなく途切れさせ、あり得ない光景を見て目を見開く。 予想外の銃声が響き、サイパス・キルラは凶弾に撃ち抜かれた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『やぁ、サイパス。珍しいね君が僕を訪ねるなんて』 突然の来訪に怒るでも驚くでもなく。 暴力事などとは一生縁のないような優男は穏やかに微笑み、旧友を迎え入れた。 迎え入れられたサイパスは何も言わず睨みつけるようにアヴァンを見つめる。 その様子を見て、アヴァンはふっと穏やかに笑って全てを察した。 『そうか。君が僕の死神か、サイパス』 『違うな。それはヴァイザーの仕事だ』 最凶の死神の名を聞き逃げても無駄だと悟ったのか、アヴァンは驚くほど落ち着いた様子でソファーへと腰を下ろした。 それとも、逃げるつもりなど最初から無かったのだろうか。 『昔からの誼みだ一応言い分くらいは聞いておこうか?』 向かいに腰かけたサイパスは、躊躇うように僅かな間をおいて言葉を吐いた。 『………………何故裏切った』 『裏切ってなどいないさ。僕は君たちを裏切ってなどいない』 『惚けるな、証拠はそろっている。ルカの脱走を手引きしたのも貴様だろう』 突きつけられた明確な罪状を否定するでもなく、アヴァンは首を縦に振った。 『ああ、そうだ。ルカは新たな希望を見出した、僕はその手助けをしただけだ』 『手助け? ふざけるな、それが裏切りじゃなくてなんだと言うんだ!?』 バンと机を叩いて、サイパスが珍しく声を荒げた。 一般人なら気絶しかねないような迫力の恫喝にもアヴァンは動じるでもなくあくまで冷静に応じる。 『俺が護りたいのは『組織』じゃない。俺が護りたいのは『お前たち』だ』 『……どういう意味だ?』 サイパスが眉をひそめる。 サイパスにとってその二つに違いはない。 アヴァンにとっては違うというのだろうか。 『あの日から、カイザルはうまくやった……いや、彼はうまくやりすぎた。 組織は大きくなりすぎた、それこそ僕らの手に余るほどに』 サイパスも薄々は感じていた事なのだろう。 アヴァンの言葉を否定できなかった。 この組織は社会不適合者の集まりだ。 それぞれが勝手な行動で問題行動を起こすものは少なくない。 その中でも派閥が生まれ、組織内での亀裂も走りつつある。 ヴァイザーと言う組織の手に余る怪物も生み出した。 表面的には力をつけて潤沢になったように見えるだろうが、その実、このまま進めば立ち行かなくなるのは目に見えていた。 『だからどうしたと言うのだ。そんなものは幾らでも立て直せる。 その程度の事で、お前は組織に見切りをつけようと言うのか』 そんな事で組織は終わらない。 立ち行かなくなると言うのなら、立ち行けるようにすればいい。 これまでだってそうしてきた、これからだってそうだ。 『違う。組織は立て直すべきじゃないんだサイパス』 だが、同じ道を歩んできたはずの戦友は別の結論を出していた。 『組織は、アンナのホームに集まっていたあの頃とはもう違ってしまった。 皆を護るはずの組織が、新たな歪みを生み出している』 アヴァンは後悔と哀愁が入り混じった呟きを漏らす。 彼らを救うはずだったホームは彼らを歪める災厄と化していた。 例えばアザレア。 あの少女は間違いなく組織という歪みが生み出した怪物だ。。 組織ではなく一般家庭に拾われていたならば、ごく普通の少女として当たり前の幸せを掴めていたのかもしれない。 アヴァンの息子であるイヴァンだってそうだ。 殺し屋などでなければ、その才覚を正しく生かせる場所もあっただろう。 それは彼らだけの話ではない。 他の皆も、何か別の可能性はあったのかもしれない。 サイパスだって。 『…………だから壊そうと言うのか、他でもないお前の手で』 外部から無残に破壊される前に、ビル破壊の様に適切な手段で解体してゆく。 そうすることで組織ではなく、組織の面々を護るために。 『壊してどうなる。たとえお前の目論見通りに組織が解体されたとしても、寄る辺を失えば、俺たちは生きていけない』 『なぜそう思う』 サイパスが苛立ちを堪えるように強く奥歯を噛んだ。 『なぜ? 決まってるだろ、俺たちは所詮、溝の底でしか生きられない塵屑だ! ドブ川の底に生まれ落ちた以上、そこで生きていくしかない! そこで生きていくのならばこの組織以上の環境などない! 組織と言う庇護を失えば食い物にされるか野垂れ死ぬだけだ!』 清らかな水では息の仕方も分からない、汚れた川でしか泳げない魚もいる。 だから、そんな奴等の目にせめて泳ぎやすい世界を用意してやるのが組織の役目だ。 そのためにサイパスはこれまで尽力してきたのだから。 『それが無理だとなぜ決めつける。なぜ泥の底から這い上がろうとしない!? 俺たちの生き方が血塗られた道だけだとなぜ決めつける!?』 ここに居てはいつまでも地の底から這い出れない。 はた迷惑で排他的な享楽に浸るだけで、血塗られた生き方を増長するだけだ。 ルカの様に、日のあたる世界を歩める者もいるかもしれない。 そのために組織はもう足かせにしかならない。 『それをお前が言うのか……! 今もこうして暗闇の底を彷徨ってるお前が!』 『そうだ。僕たちはその暗闇の中で出会えたじゃないか。彼女に』 『…………ッ!?』 あの出会い。 あのホームで過ごした日々は、先も見えない暗闇の世界であり得ない奇跡だった。 そんな奇跡が、彼らにも訪れると言うのだろうか。 そんな訳が、ない。 『黙れ! 下らない理想を語るなよアヴァン! 俺達はここでしか生きられない! この組織だけが、俺たちが自由に生きていくための唯一の寄る辺なのだ!!』 どれほど足掻こうとも蛾は蝶にはなれない。 蝶になれずとも蛾は蛾なりの幸せがあるはずだ。 不幸の形が数多にある様に、幸せの形も一つではない。 世界から見捨てられた、誰からも選ばれなかった、天上に昇れぬ外れた連中の地底の幸福を追求する。 それがこの組織の在り方だ。 『理想を語っているのは、お前の方じゃないのかサイパス……?』 『…………なに?』 サイパスの表情が歪む。 さまざなな感情が入り混じった泣き笑いのような顔だった。 『その理想は誰の理想だ? 君の理想か? それとも――――アンナの理想をなぞっているだけなのか?』 『……貴様』 周囲が歪む程の黒い殺気がサイパスから膨れ上がる。 抵抗する力などなく、ともすれば1秒後に縊り殺されるような状況で、それでもアヴァンは一切怯む様子もなくサイパスから目を逸らさなかった。 アヴァンは誰よりも弱く、戦う力などなかったけれど、誰が相手だろうとも己の意思を変えたことなど一度もなかった。 あのホームにいた連中は、誰も彼もが変わり者で、生き方を変えることのできない不器用な連中ばかりだった。 『お前もカイザルも同じだ。カイザルは組織そのものにアンナを重ねて、お前はその理想を受け継ぐことでアンナを生かそうとしている』 『…………黙れ』 懐から抜かれた拳銃が突きつけられた。 最後通告である。 それでも、アヴァンは止めなかった。 『――――もう夢から醒める頃合いだ。『アンナの亡霊(そしき)』に囚われるのは終わりにしよう。サイパス』 決別を告げるように銃声が小さな部屋に鳴り響いた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 弾丸は右腰を直撃した。 サイパスを撃ったのはイヴァンだった。 歪んだ銃であろうと、射手の腕が悪かろうと1メートルにも満たない距離で止まった的を狙うのならば、弾さえ出れば問題はない だが、それだけではサイパスを仕留めるに至らず。 撃ち抜かれた腰元から血の線を宙に引きながらサイパスは後方に飛び退た。 着地した瞬間を狙った追撃の弾丸が放たれるが、痛みを感じさせぬ機敏な動きでサイパスが翻る。 ピンボールのような動きで瞬時に間合いを詰めたサイパスは、両足ごとへし折る勢いの足払いでイヴァンの体を宙に浮かせると、顔面を鷲掴みにして地面に叩きつける。 後頭部が固い地面にぶつかり、脳が揺さぶられイヴァンの意識が一瞬飛んだ。 そのまま仰向けに倒れこんだイヴァンの肩関節を靴の踵で踏みつけると、ゴリィという骨が外れる鈍い音が鳴った。 痛みにイヴァンの意識は覚醒し、その口から悲鳴のような呻きが漏れる。 「やるじゃあないか、イヴァン。お前にこんな才能があるとは思わなかったよ」 打ち抜かれた脇腹を押さえて、今の一撃は見事の不意打ちだったと評価する。 イヴァン・デ・ベルナルディという男をよく知るからこそ油断した。 まずは保身を考え、まだ利用価値のあるサイパスをここで切るようなことをするはずがない。 最後にサイパスを切るとは思っていたが、動くなら勝利の見えた最終局面だと思い込んでいた。 その思い込みが反応を遅らせた、サイパスの油断を見事についてきた。 だが、褒め称えるような言葉とは裏腹に、その顔に浮かぶのは見るものを凍りつかせるような残忍な笑みである。 「ち、違うんだ!」 「何が違う? 褒めてるんだぜ俺は?」 言いながら肩を踏みつけた足をグリグリと動かし、そのまま眉間に突き付けるように銃口を向ける。 いかにイヴァンと言えど、ただ銃口を向けられた程度で怯えるような生き方はしていない。 だが今銃口よりも恐ろしいのは、静かな殺意を湛えているこの男の存在そのものである。 「昔からの誼みだ一応理由を聞いておこうか? ここで撃って来るなんて、らしくないじゃないかイヴァン」 何故撃ったのか? イヴァンはその理由を自問する。 だが思い浮かぶ理由など大したものではない。 自分では決して勝てない相手だと思ったから殺せるときに殺さなくてはと思ったから撃った。 実際サイパスの不意を突けたのだから千載一遇の勝機ではあったのは確かだろう。 ただ、冷静に考えれば余りにも短絡的な思考であることは否めない。 長期的に考えれば、まだ利用価値のあるサイパスをここで切るのは明らかに損である。 堪え性のないガキじゃあるまいし、損得勘定を見誤るなどイヴァン・デ・ベルナルディらしくないというのならば確かにその通りだ。 それを理解していながら、撃たずにはいられなかった。 それは何故か、 「そうだ…………そうだ! マーダー病だ!」 「マーダー病?」 普段の自分ではあり得ない行動をとった自身の状況と、アサシンから得た情報を照らし合わせて。 あの時、アサシンに傷つけられて体内に潜伏した病原菌がようやく発症したのだと、ようやく思い至った。 サイパスに問い詰められるここに至るまで、自身に違和感すら感じる事すらできない。 その事実に薄ら寒いものを感じるが、彼は気付けた。 「そ、そうだ。病気なんだ、病気のせいだ、俺の意思じゃない!」 「おいおい。口の立つお前にしちゃあ、ずいぶんと杜撰な言い訳じゃないか」 イヴァンとサイパスの付きあいは昨日今日の話ではない。それこそ生まれた時から知っている間柄だ。 持病などないことは当然の様に把握しているし、人を殺したくなるなんてそんな奇病はこの業界でも聞いた事すらない。 「アサシンの野郎だ! アイツにやられたんだ! あいつの持ってるナイフに斬られちまうと、マーダー病ってイカレタ殺人鬼になっちまう病気をうつされちまうんだよ!」 「アサシンの……ナイフ」 それに関してはサイパスにも心当たりがある。 確かにサイパスの出会ったアサシンはナイフを持って怪しい動きをしていた。 「だが、何故奴がそんな病気を広める必要がある? ナイフがあるなら手っ取り早く殺せばいいだろう」 あのアサシンがイヴァン程度の相手を仕留めきれないとも思えない。 それとも一人で70名以上を殺害するのは無理と判断して、単純に手駒が欲しかったのか。 それにしたって殺しの駒ならイヴァンよりももっといい駒がいるだろう。 「……アイツはワールドオーダーから依頼を受けたと言っていた」 「成程」 何人か仕込みがいるとは思っていたがアサシンがそれか。 アサシンは性格には難があるが、暗殺者としては間違いなく最高峰だ。 それを雇うというのは確かに悪い選択ではない。 「話は分かった。仮にその病気が事実だとして、だ」 銃口を額に押し付けながら、驚くほど穏やかな声でサイパスが問いかける。 「なぁイヴァン。俺は本気でお前がボスになっても構わないと思っていたよ。 だからお前に付き従ってきた、どうしてだと思う?」 何故この場面でそんな事を問うのか。 その問いの意図をくみ取れず、イヴァンは素直に答える事にした。 「お、俺が一番組織を巧く運営できるから?」 「そうだ。お前は個人としては愚かだが、小賢しさとその臆病さは集団を率いる者としては悪くない。 少なくとも、立ち行かなくなりつつある今の組織をどのような形であれ持ち直す事はできるだろう」 人には適性があり、集団をまとめ組織を運営してゆくにはそれに応じた才覚が必要だ。 アサシンや今のボスのような殺しも運営もこなせるような万能の天才などそうそういるモノではない。 殺し屋ばかりを集めた組織の中にその適性を持つ者は少なく、イヴァンにはそれがある。 それ故に、イヴァンは組織の中で唯一無二の存在と言えた。 「だがなイヴァン。憐れなイヴァンよ。お前何か勘違いしてないか? 誰彼かまわず殺しまわるようなイカれた殺人鬼になっちまったお前に、俺が大事な組織を任せると思うのか? 俺がお前に付き従っていたのは、お前が組織にとって有用だったからだ。 組織を率いると言う役目を失ったお前に、俺が素直に付き従うと思うのか?」 イヴァンは自分が散々見下してきた組織の殺し屋たちと同じステージに落ちたのだ。 つまりこの状況は、イヴァンがこれまで殺し屋たちを切り捨てたように、イヴァンが切り捨てられようとしている。 「違う、治る! 治るんだこの病気は!」 「ほぅ。どうやって?」 問い返されて言葉に詰まる。 「…………い、意志を強く持つとか、聖者に治療してもらうとか」 妖刀の説明に書いてあった条件を思い返して口にするが。 自身の口から語る程、何ともバカバカしい事のように思えてしまった。 殺し屋が信じるのは己だけ。 殺し屋は意思なんて曖昧ものに頼らないし。 殺し屋が聖者に祈るだなんて笑い話にしかならない。 それは聞いているサイパスも同じ感想だったのか、バカにするように鼻で笑う。 「ハッ。意志? 聖者? おいおい、笑わせるなよイヴァン。お前の冗談で笑ったのは初めてだぜ。なぁイヴァン――――笑えよ」 「ひッ!?」 溶けた鉛のような息ができない程の重圧。 暗黒の化身のような男がくつくつと喉を鳴らす。 「そら、俺を納得させる言い分を持って来いよ。得意だろとういうの? そうじゃなければ俺に敵対したお前を生かす理由が無くなるぜ?」 殺される。 生き残るに足る理由を用意できなければ、この男に楯突いた以上、イヴァンは確実に殺される。 「…………だ、だいたい、俺を殺してどうする!? まともな後継者がいなければボスが死んだら本当に終わるぞ!? 俺じゃなければいったい誰が組織を導いて行けると言うんだ!?」 組織にいるのは運営どころか足し算すらできないような学のない殺人狂の集まりだ。 マーダー病というマイナスを差し引いても、イヴァンの価値はまだあるはずである。 「そうだな今のお前には任せるくらいなら、ピーターにでも任せるさ」 「ピー、ター…………?」 ピーター・セヴェール。何故ここであんな奴の名がサイパスの口から出るのかイヴァンには理解できなかった。 奴は取るに足らない、一殺し屋に過ぎないはずである。 だが、サイパスの評価は違う。 女専門の食人鬼という特殊性癖に目が行きがちだが。 サイパスがピーターを評価しているのは、そのクレバーさと危機に関するバランス感覚だ。 「まあ、本人にやる気がないのが問題だがな。だから俺はお前の野心を買ってやってたんだが」 イヴァンはマーダー病を患っており、ピーターは己の欲求以外にやる気を見せない。 双方にマイナスはあるが、ピーターのケツを叩く方が幾分かましだとサイパス判断したのだろう。 つまり、これで本当にイヴァンの唯一性は失われた。 凡百の殺し屋でかなくなったイヴァンなど、いつ背を撃つかもわからない危険物でしかない。 そんな相手を生かしておく価値はないだろう。 イヴァンは頭の中で生き残りの算段を立てる。 もう、この死の運命に抗うには、サイパスと戦うしかない。 事前に飲んでおいた現象解消薬の効果により脱臼は既に完治している。 相手が既に破壊し動かないと踏んでいる右手を使えば、上手く出し抜くことができるかもしれない。 勝てなくてもいい。ただ一太刀、魔剣天翔で傷つけることさえ出来れば。 「…………っ! ぁぁぁあ…………!!」 「誰が動いていいと言った?」 隠し持ったナイフを取るべく細心の注意を払って動かしたはずの右手の甲が撃ち抜かれた。 油断など、この男に微塵程もあるはずがない。 「く……くす、薬…………ッ」 反射的にイヴァンは現象解消薬を飲もうとするがそれは無意味な事だ。 この薬は飲んだ時点の状態を再現するものだ、後から薬を飲んだところでもうこの傷は治らない。 「ぅああ……っ! くぅ……っ!」 「おいおいイヴァン。お前は人の話を聞けないのか?」 だが、それ以前に、薬を取り出そうとした左手も打ち抜かれ薬を取り出す事すらできなかった。 イヴァンが呼吸を荒くし、風通しがよくなった赤く染まる両手を震わせる。 燃え上がるような両腕の痛みの中でイヴァンは思い出す。 組織に入った者は真っ先に教育係であるこの男に対する恐怖を植え込まれる。 組織で生まれ育ったイヴァンにとってもそれは同じ、いや他の者以上にそれを叩きこまれていたはずなのに。 父を殺して、その後釜に収まり幹部となって、全てを従えた気になって、忘れていた。 忘れてはならない、絶対的な恐怖を。 「ぁあああぁぁああぁあああああああああ!!!」 イヴァンの絶叫。 それを断ち切る様に銃声が鳴り響いた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『お前の始末はヴァイザーの仕事だ。あとは勝手に死ね』 サイパスとアヴァンの話し合いは、壁に穴を一つ増やしただけで、結局何一つ分かり合うことなく決裂した。 今更そんな結論になるのは解かり切っていた事なのに。 決して譲り合う事なく、分かり合う事もない。そんな連中の集まりだったのだ。 意見が割れた以上こうなるしかない。 それを仲裁できたのは、後にも先にもただ一人だけだった。 『なぁサイパス』 もはや語ることはないと立ち去ろうとしたサイパスの背を止める声があった。 これ以上何があるのかと怪訝そうな顔をしながらも、最期の言葉でも残すのかと思いサイパスが振り返る。 だがしかし、問われたのは別れの言葉に相応しくない、予想外の内容だった。 『ホームにいた、ジョン・スミスという男を覚えているか?』 ジョン・スミス。アメリカで最もありふれた姓名を組み合わせた名だ。 確かに、言われてみればそんな名を名乗った男が一時期アンナを中心とした集まりであるホームにいた気がする。 『……細かい事まで覚えているわけではないが。 ふざけた偽名だったからな、そんな奴がいたという事だけは薄らと憶えているが、それがどうした?』 覚えていると言ってもハッキリ言って印象は薄い。 何しろ古い話だ。存在と名前は思い出せても靄がかかったように顔は思い出せない 脛に傷を持った連中の集まりで偽名を名乗る輩は珍しくもなかったし、中には本当に名前がない奴すらいた。 偽名を名乗った程度では大した印象には残りようがない。 そういえば奴はどうしたのだったか。 気付けばいなくなったような、どうにも曖昧だ。 それも仕方ない事だ、これだけは覚えている事だが、アンナが死んだのは奴が現れたその直後だったはずである。 たしかカボネのアジト襲撃のメンバーにはいなかったはずだ。 いや、奴がどうなろうとも、旧友との最期の別れ際に話すようなことのようには思えないが。 『あの日、僕たちの情報をカボネの連中に売ったのはそいつだ』 『――――――』 サイパスは言葉を失った。 赤く染まる白い雪。 華のように摘まれた少女の死体。 あの雪の日が脳裏をよぎり目眩がする。 よろめいて壁に手を付いた。 それはつまり。 あの事件を引き起こしたその元凶が、あの男だったという事か。 一瞬。何者かの歪んだ口元がフラッシュバックしたような気がした。 『僕が突きとめられたのはそこまでだ。 それ以上は霞がかかったように捉えられなかった』 彼に無理だったと言うのなら、組織内の誰にも無理だろう。 『別にこの情報をどうこうしてくれという訳じゃあないんだ、ただ知っておいて欲しかったと言うだけだ』 そう言ってアヴァンはいつものように力なく笑った。 『それじゃあサイパス。カイザルとサミュエルによろしく言っておいてくれ。 僕はバルトロとアンナにお先に会いに行くよ』 重い扉が閉じる音だけが響く。 それがアヴァンとサイパスが最後に交わした言葉だった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 引きずるような思い足取りで、腰元を押さえた初老の男が灯台の足元を一人歩いていた。 男の押さえている腰元からは圧迫により止血がなされているが今だ血が溢れている。 その顔には紅い飛沫化粧が塗られていた。 自身の物ではない、おそらくは返り血か何かだろう。 男――サイパス・キルラは足を止めると、一先ず狙撃などの襲撃のリスクの低い灯台の影に隠れ身を休めた。 イヴァンとの合流と言う第一目標は破綻した。 早急に次の目標を定め行動しなくてはならない。 サイパスが動くのはあくまで組織のためである。 生き残りを目指すのも自身の命恋しさと言うよりも、自身と言う存在が組織のために必要だから生かすと言った意味合いが強い。 彼の全ての行動はその観点で定められる。 後継者候補は必要だ。 まずはピーターとの合流を目指すべきか。 だがしかし慎重なサイパスの性格だ。 組織の存続のかかった案件だ、イヴァンのみならず仮にこの場でピーターが死んでもいいように二重三重の保険はかけてある。 次善策を進めるにはサイパスが生き残った方が進めやすい。 となると生き残りを優先した方がいいのか。 その前にイヴァンに撃たれた傷も治療せねばならない。 圧迫していれば出血多量に至ることはないだろうが、戦闘に支障をきたす。 今後の方針を幾つか頭の中で取捨選択して行き、その結論が出る前にサイパスが深い息を吐いた。 その表情には憂いのような重さが見え、年齢以上の深い哀愁を感じさせる。 それは肉体的な疲労だけではないだろう。 生き急ぐように駆け抜けてきた、その疲れが今になって現れたのかもしれない。 「…………少し、疲れたな」 呟きを残し、重い肉体を引きずる様にしてサイパス・キルラは動き出した。 まだ止まるわけにはいかない。 彼にはまだ、やらなくてはならない事があるのだから。 【イヴァン・デ・ベルナルディ 死亡】 【D-3 灯台付近/日中】 【サイパス・キルラ】 [状態]:疲労(中)、火傷(中)、右肩に傷(止血済み)、左脇腹に穴(止血済み)、右腰に銃痕 [装備]:M92FS(11/15) [道具]:基本支給品一式、9mmパラベラム弾×45、サバイバルナイフ・魔剣天翔 [思考・行動] 基本方針 組織のメンバーを除く参加者を殺す 1 ピーターとの合流を目指す? 2 亦紅、遠山春奈との決着をつける 3 新田拳正を殺す 4 決して油断はしない。全力を以て敵を仕留める。 122.三人寄れば文殊の知恵 投下順で読む 124.第八次世界大戦を越えて 時系列順で読む 俺達のフィールド サイパス・キルラ 夢をみるひと 生と死と イヴァン・デ・ベルナルディ GAME OVER
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野球はやっぱり素晴らしい ☆ヾ( ̄ー ̄ ) 高校野球の決勝戦が行われた。 大会前のドロー(組み合わせ)を見てズバリ、密かに決勝の顔合わせを「帝京vs広陵」と予想していたワタクシにとって、広陵(広島)の勝ち上がりは予想通りだったが、対する佐賀北はまったく予想外のノーマークだった(恐らくは、ワタクシだけではなかったろう) ともに一回戦から登場した両チームであるが、過去センバツでは3度の優勝、全国大会でも2度の準優勝の名門・広陵が、初戦で昨年まで三年連続で決勝を戦った強豪・駒大苫小牧(北北海道)を九回の逆転劇で破ると、二回戦から準々決勝までの3試合に大勝を重ね、準決勝では春夏連覇を狙う常葉菊川(静岡)を接戦の末に下すなど、優勝候補に相応しい堂々たる勝ち上がりっぷりだった。 一方、佐賀北の方は過去の実績だけでなく、大会前の評判も殆どゼロというところからスタートしたが、開会式直後の第一試合に勝つと二回戦では宇治山田商と、延長15回引き分けの末に再試合を戦った。 実のところ「佐賀北」の名が、一気に浸透したのはここからであったろう。 その勢いに乗ったか、準々決勝では優勝候補の一角・帝京(東東京)と延長13回を戦って、大方の予想を覆す勝利を飾った勢いで、決勝まで駒を進める。 そうして、迎えた決勝。 佐賀北に勢いは感じたものの、実力的にはやはり広陵が上であろうというのが、ワタクシ(のみでなく、恐らくは殆ど)の見方であったろう。 その決勝は予想通りの展開で、7回を終わった時点で4-0というスコアだけでなく、佐賀北は僅かに1安打しか打てずにチャンスらしいチャンスすら、まったく作れない。 (広陵が最も苦しんだ初戦の駒大苫小牧戦や、準決勝の常葉菊川との戦いが、事実上の決勝戦だったんだろうな・・・) と思ったとしても無理はないような、力の差を感じさせるた展開だ。 これで終わっていれば、捻くれもののワタクシがわざわざこの 10ちゃんねる (* ̄― ̄)y-~~~~ で「白球の青春」を採り上げるべくもないが、そのワタクシも(そして、恐らくは誰もが)まったく予想していないドラマが、ここから待ちうけていた。 7回まで、まさに精密機械のように完璧なピッチングを続けていた、広陵の野村投手が突如としてコントロールを乱して満塁として、さらに四球で押し出し。 佐賀北の大応援団で埋め尽くされたスタンドが、唯一の盛り上がりを見せた場面だ。 この日に偶然、休暇をとっていたワタクシは、昨年のような「悪役・駒大苫小牧」に立ち向かう「早実のハンカチ王子・斎藤」に肩入れするような事もなく、平静な気持ちでTV観戦をしていた。 (ここでもう一、二点くらい入れば、決勝らしく盛り上がるのだが・・・) と思っていた矢先の、まさかの満塁ホームランだ ポポポ( ゚д゚)゚д゚)゚д゚)゚д゚)゚д゚)ポカーン… こうして8回に一挙五点を挙げ、絵に描いたような信じられない大逆転劇(5-4)の末、誰も予想しなかった佐賀北が見事な初優勝を飾った。 スポーツを語るにおいて、安っぽい「ドラマ」を軽々しく使いたくはないワタクシと言えども、去年の決勝戦に続いて これだけドラマに満ちた決勝も珍しいのではないか? 野球って、やっぱり素晴らしいスポーツだ! と、思わずにはいられない。 先にも触れたように、初戦に三年連続決勝進出の駒大苫小牧、そして準決勝では春夏連覇を目指した常葉菊川を破って充実ぶりを見せ付けていた広陵は、監督が熱射病で倒れた試合もあった。 対する佐賀北の方は、開幕第一戦に登場して最後の決勝を戦っただけでなく、その間引き分け再試合もあって出場校中ただ一校だけ、炎天下の中で7試合を戦い抜いた、逞しいチームである。 まったく無名のノーマークから急激に力を蓄えて優勝した、佐賀北の劇的な勝負強さこそは、大いに賞賛されるべきである (^-^)ノ∠※PAN!。. * ・ ゚☆。. * ・ ゚★゚ ・ *オメデトウ だが忘れてはならないのが、広陵のエース・野村投手の頑張りだ。 ここまで一人で投げ抜きながら、最後に力尽きたのは残念だったが、7回まで1安打と完璧に封じ込めながら、よもやの満塁弾を喰らっただけでも気の毒な野村投手に、更なる悪夢の追い討ちが待っていようとは。 最終回。 目の前で、味方の走塁死によって同点のチャンスが潰れた後の、最後の打者になってしまったのである。 あれだけ頑張った投手に対して、あまりにも酷な試練が与えられたものだと、これ以上観戦する気分にはなれず、表彰式の始まったTVを消した・・・(-ω-#)y-~~~~- 名前 コメント すべてのコメントを見る 朝青龍を追放せよ(後編) ポイッ (ノ-_-)ノ ~(_□_) 「その後の聴取の結果、またしても無断でのモンゴル帰国が判明するに及び、ここに至って遂に業を煮やした横審委員のナベツネ氏から 『今後このような、横綱としての自覚を著しく欠いた非常識な行動が続くようなら、引退勧告もありうる』 と、遂に最後通牒ともとれる発言が出された・・・」 という経過があった。 ところがご存知の通り、この後も朝青龍の暴走は止まるところを知らず 「勝てばいいんだろ」 とばかりに暴言、放言を繰り返すばかりか、負けた時の八つ当たりといった子供じみた言動のうちはまだしもかわいかったが、遂には八百長疑惑まで噴出し、裁判沙汰に発展して世間を騒がせるという醜態である。 八百長疑惑については、まだ裁判をしている最中であるにもかかわらず、先に行われた名古屋場所で優勝のかかった白鵬との結びの一番でも、明らかに「八百長」としか考えられないような、胡散臭い相撲を取っている(稀勢ノ里に敗れて、優勝を逃した琴光喜が花道で涙を流していたのは、単に優勝を逃した悔しさというだけでなく、あのような疑惑相撲で優勝を掻っ攫われた悔しさであったろうと、ワタクシは密かに推測している) 上記からお分かりの通り、ワタクシが3年以上も前に予言した 『朝青龍は、第二の北尾(双羽黒)になる!』 は決して予見が外れたのではなく、本来ならとっくの昔に追放になっていてしかるべきところが、横綱が一人もいなくなる事に怯えた協会のバカゲタ弱腰のために、運良く命拾いをして来たというに過ぎないのだ。 いつも事が起こった時だけは 「断固たる措置を取る」 と息巻いているのに、結局は殆ど実効性のないペナルティでお茶を濁してきたのが相撲協会であるが、度重なる不祥事には関係各所に抗議の電話等が殺到しているとも言われるだけに、これ以上ファンを愚弄する事は許されない。 「朝青龍の各界追放」を切実に望んでいる声は、多いはずなのである。 それは「朝青龍がモンゴル人(或いは外国人)の横綱だから」では、決してない。 過去にも曙や武蔵丸といったハワイの横綱や、新たに誕生したモンゴルの白鵬ら外国人で頂点を極めた力士はいたが、決してそのような差別はなかったし、今もまったくない。 逆に日本人であっても、横綱の地位を極めながら素行に数々の問題があったため、事実上の廃業に追い込まれた双羽黒(北尾)の例もある。 あるのは、ただ「横綱に相応しい品格と人格」を備えていないという事実のみであり、日本に来て10年も経つ人間が「日本の風習を理解していなかった」では、絶対に許されないのである。 と書いた後に「2場所連続出場停止と減俸30%(4カ月)」という、なんとも中途半端な裁定が下された。 この4ヶ月間は「執行猶予」期間でもあり、期間中に何か問題を起こすような事でもあれば、今度こそは「永久追放」の厳罰で臨んでもらわなければ困る Ψ(ーωー)Ψ 名前 コメント すべてのコメントを見る 朝青龍を追放せよ(前編) ポイッ (ノ-_-)ノ ~(_□_) 横綱・朝青龍の「仮病疑惑」が問題になっている。 「腰の疲労骨折とひざ痛で全治6週間」の診断書を提出した7月25日、母国モンゴルでサッカーに興じている姿が、ニュースで報じられた。 身勝手な行動に、夏巡業開催地でも怒りの声が噴出 というものだ。 朝青龍の暴走は、過去にも数え切れないくらいあった。 ワタクシは2004年に、この 10ちゃんねる (* ̄― ̄)y-~~~~ において 『朝青龍は「第二の北尾(双羽黒)」になる!』 という記事を書いたが、その中のポイントを以下に再録する。 「2003年の暮れに、横綱朝青龍が所属部屋の先代親方の通夜をすっぽかし、故郷のモンゴルに無断で帰国していたという、前代未聞の「事件」が明らかになりました。 朝青龍はこれまでにも、ケンカ紛いの相撲内容そのものや土俵態度の悪さ、或いは先輩力士に対する礼儀を欠いた振る舞いから同郷の先輩との確執など、繰り返し何度にも渡りその言動が問題視されてきたのは、好角家の方々なら既にご存じの通りです。 さて(中略)年明け早々に、まずは「稽古始め」、続いて年頭の大事な行事である「綱打ち」を欠席するという、背信行為が続きます。 「稽古始め」は、いうまでもなく一般人なら「仕事始め」に当たるものですし、また「綱打ち」というのは文字通り横綱の締める綱を若い衆が力を合わせて作る(打つ)もので、朝早くから起きて皆が汗水垂らして一生懸命に拵えている綱は言うまでもなく横綱、つまりは一人しかいないからには総て朝青龍のためのものです。 なによりも、伝統を大切にするのが国技たる大相撲というものであり、その中にあって一年の最初を飾る行事として位置付けられている事からも、その重要性や神聖さは素人目にも一目瞭然でしょう。 その証拠に過去には初場所は休場する事になった横綱でも、この綱打ちには万難を排して駆けつけた例(最近では貴乃花)もあったくらいで、打ち終わった純白の綱を締めて仁王立ちしてみせなければならないハズの、当の主役がトンずらしていたのでは、これほど皆の努力を足蹴にした振る舞いはありません。 しかも 「その間、どこでなにをしていたのか?」 と問われた親方も 「なにも訊いてない・・・ 今までも、一度でも報告した事がないヤツだから・・・」 とは良く言えたもので、まさにこの親方にしてこの弟子あり、と最早空いた口も塞がらぬとはこの事でしょう」 ちなみに今回の件でも、師匠の高砂親方(元大関・朝潮)は 「モンゴルに帰っているとは思わなかった。 そんな状況で、巡業に出られないのはおかしい」 と首をかしげた などと他人事のような暢気な事を言っていたらしく、どうやら事態の深刻さが未だに理解できていないようなのには呆れた ヽ( ̄ー ̄*)ノオテアゲ 名前 コメント すべてのコメントを見る 新横綱の誕生 オオー!!w(*゚o゚*) 「新横綱・白鵬」が誕生した。 しばらくの間続いた朝青龍の一人横綱の時代にピリオドを打つとともに、新しい時代の到来を感じさせるような、スケールの大きな横綱として白鵬への期待は大きい。 あのバカ強かった朝青龍に匹敵するほどまで、すっかり力をつけてきた白鵬であり、同じモンゴル力士とはいえ両者がまったく対照的なタイプである事が、このライバル関係をより一層、興味深いものにしていきそうな期待を持たせる。 まさに、静と動である。 仕切りの時から鬼のような表情で睨みを利かせ、必要以上の威嚇で相手を戦意喪失に追い込んでおくのを身上としているような朝青龍に対し、水が流れるようなゆったりとした仕切りの美しさが白鵬にはある。 立会いから爆発するような、人間離れのした集中力と圧倒的な体幹の強さ、さらには動物的な勘と反射神経で、相手の力を徹底して封じ込めて自分のペースで一気に勝負を決してしまうのが朝青龍であり、対照的に真正面から相手の力を吸収して、相手に合わせてじっくりと構えながら料理をしていくのが白鵬である。 白鵬といえば、必ず出てくるのが次のエピソードだ。 <元々、日本の相撲に興味はあったが、少年時代から仲良しだった保志光が力士になるため日本に渡ってから相撲への想いが一層強くなり、大相撲で活躍していた同じモンゴル出身の旭鷲山を伝手に、2000年10月25日に6人のモンゴル人と共に来日。 大阪の摂津倉庫で、相撲を習っていた。 共に来日した猛虎浪(立浪部屋)、大想源(式秀部屋)、大河(式秀部屋)らの入門が決まるなか、小柄だった白鵬を受け入れてくれる部屋は最後までなかった。 失意の帰国前日、彼を哀れんだ旭鷲山が師匠である大島(元大関・旭國)と会食中に相談し、大島親方は友人であった当時の宮城野親方(元幕内・竹葉山、現・熊ヶ谷)に受け入れを申し入れた> そうした苦労が下地となってか、実際のところはわからないがTVで見ている限り白鵬には殺伐とした某横綱とは違い、人間的な優しさを感じずにはいられない。 勝てば官軍とばかり、土俵の内外を問わず常識から外れた言動が目に余る某横綱とは対照的に、土俵上からも垣間見える相手への気遣いなど、白鵬には「品格力量ともに抜群」という器の大きな横綱になっていただきたいものだと、こっそりと応援したくなる好漢である (= ̄∇ ̄=)ニィ 名前 コメント すべてのコメントを見る G快進撃(後編) (*`▽´*) ウヒョヒョヒョ これだけでも、普通のチームであれば充分に戦える戦力だが、なんといっても最も大きいのは、やはり小笠原の存在感であろう。 これまで、小笠原について「イチローを凌ぐ最高打者」(生涯打率は現在のところ、歴代1位)の称号を耳にする度に (イチローより上なんて、あるわけないだろう・・・) と決め付けていたワタクシだったが、実際に目の当たりにする小笠原の力量は(イチローより上かどうかは、ともかくとして)確かに脅威である。 持ち前の芸術的な打撃センスに加え、一発のパンチ力を秘めているのがイチローとの大きな違いだが、そうしたバッティングの技術だけでなく、あの切れ長の目に代表されるクールさと、時折垣間見せる激しい熱情が同居しているような、不思議な人間性に魅力を感じさせられる選手でもある。 TVで観戦していても、この小笠原の打席だけは一球一球が非常にジリジリするような濃密な時間となっていて、ついつい魅入られてしまうのはワタクシだけではないはずだ。 やはり独特の世界を創る事の出来る、数少ない真のスター選手なのであろうと思う。 さらにここまで、この小笠原にも負けないような抜群の働きを見せているのが、同じFA移籍組の谷だ。 これまでは地味なパリーグという事もあって、また奥方があまりにも偉大すぎるがためか、どうしても「マスオさん」的なイメージが強く付き纏っていた谷であり、また言うまでもなく小笠原に比べれば、当初からの期待感は希薄だったのが正直なところだが、ようやく陽の当たる場所に出てきて(?)、活き活きとして見えるようである。 さらには、まったく期待していなかった8番打者ホリンズが、時折予想外の爆発をみせるなど、どこからでも火が点いて止まらないような強力な布陣が整った・・・と見ても良いのではないだろうか。 ここまでチーム打率2割8分台は、12球団でGだけである。 そればかりかチーム本塁打数、総得点、盗塁数までどれもがリーグトップというから驚くばかりだ。 稀に見るような好スタートの後に、前代未聞の信じられない凋落の醜態を見せ付けられた去年の悪夢が脳裏にあるだけに、まだまだ手放しでの油断は禁物だが、今年は久々にやってくれるのではないか・・・と期待が高まってきているのは事実である (*Φ皿Φ*)ニシシシシ 名前 コメント すべてのコメントを見る G快進撃(前編)(*`▽´*) ウヒョヒョヒョ Gが絶好調である ヽ(・∀・)ノ ワチョーイ 今日まで、34試合を終えて21勝13敗。 単に勝敗だけでなく、投打ともに非常に戦力が充実して来ているのが頼もしく、ファンにとっては待望久しい「強いG」を見る思いである。 投手陣ではまず、なんといっても高橋尚が凄い。 これまで毎年、期待外れが続いて泣かず飛ばずだったあの高橋尚が、今年はナント4月だけで早くも5勝(勿論、無敗)という、予想外の快進撃だ。 この左腕が、今年の開幕ダッシュの最大の立役者である点は、衆目の一致するところだろう。 さらに昨年から成長著しい若い内海に加え、ルーキーの金刃も4月に3勝を上げる活躍は素晴らしい。 また復活して来た木佐貫、さらに中継ぎでは八面六臂の大活躍で売り出し中の会田、抑えの林とどのポジションも戦力が充実して来ており、リーグ唯一の防御率2点台と最小失点である。 ここ数年に渡って「投壊」に悩まされ続けて来たGファンとしては、思ってもみなかった嬉しい誤算を通り越して、実に感慨深いでものがある ´ー`)y─┛~~ ワタクシは、数年前から「クワタ」など名前ばかりでクソの役にも立たない老兵なんぞは、さっさとクビにしてしまえと声高に叫んで来たが、ようやくクワタを追い出してあたかも厄払いが済んだかのように、一気に若返って見事な世代交代が果たせているではないか(ついでに、豊田と前田も居なくなれw) 今や「名ばかりのエース」となりつつある上原がいなくてもこれだけやれるのだから、復帰した上原も今までにない危機感を持って頑張ってくれなければ、最早ローテーションに居場所はないところに追い込まれている。 上原を一層脅かすためにも、久保や真田らにももっともっと頑張ってもらわないといけないと思っていたら、昨日は久保がプロ初完封をやってのけてくれたではないか (≧Д≦)ノ オー!! 一方、野手陣に目を転じると、これまた「絶」まではいかないまでも好調だ。 二岡、シンノスケに加え、トップバッター抜擢については疑問視されたヨシノブが、ここへ来てようやく本来の打撃を取り戻して来ているだけに、相手チームにとっては、さらに脅威が増して来ているはずである。 去年に続いて4番に座っている李の調子がイマイチだが、これから浮上してくるだろう。 これだけでも、普通のチームであれば充分に戦える戦力だが、なんといっても最も大きい存在は・・・(後編へと続く) 名前 コメント すべてのコメントを見る ミキティ、地獄から這い上がる(世界フィギュア観戦記・最終回) オオー!!w(*゚o゚*) 正直なところ、ワタクシ自身は以前から一貫して陽性の浅田贔屓なのだが、これまでの経過と今後の事を考えると、今回は非常に理想的な結果だったのではないか・・・と思う。 国際舞台にデビュー以来、順風満帆で来ながらここへ来てやや壁にぶつかりつつある浅田は、大会前から「200点で金メダル」宣言を繰り返していたように、それだけの自信もあったのだろう。 それが「世界選手権」という真の大舞台で、SP5位というまさかのミスに始まり、フリーで一旦は「大逆転金」の夢を掴み取った・・・と思ったのではないか。 結果的にフリーではトップになったものの、総合点の僅かな差で「金」を逃した事で、改めてSPの重要さや勝負の怖さを、身をもって体験したハズだ。 これからどこまでも伸びて行くような、あの伊藤みどり以来(または、それ以上の)稀に見る素質を持った逸材なのだから、今の色々な経験が総て将来のプラスになっていくはずだ。 インタビューなどを聞いていても、いつもしっかりと自己分析や課題の整理が出来ているだけに、ここでアッサリと逆転の金メダルを掴み取るよりは、寧ろこうした経験の方が今後より大きな財産になって来ると思う。 そして、まさにそのような経験をバネに、見事に復活をして来たのが安藤である。 五輪までの一年は、観るも無残な安藤だった。 ワタクシも、これまで散々に扱き下ろし続けて来た通り、とても国際大会の舞台に立てるような状態ではなく、TV観戦をしていても (もう止めてくれ・・・) と、まるで視聴者の方が拷問を受けているような、長きに渡って醜態を晒し続けていたあの安藤であり、それが同じ選手とは思えないほどに見た目も演技も、急激な変貌を遂げてきたのには、実に恐れ入った。 マスコミから面白半分に好奇の対象にされるという、他の誰よりも過酷な状況に耐えながらも、見えないところで血の滲むような努力を積み上げていたのに違いない。 先にも書いたように今回に関しては、現時点ではまだ実力的に上を行っていると思われる、浅田とキム・ヨナという「16歳コンビの自滅」に助けられた部分は否定できないが、いずれにしても選手にとっては結果が総てだ。 あの屈辱と悔しさを忘れずに、大舞台で見事に「金」という結果に結び付けてきたのは立派の一語に尽きるし、五輪に続いてまた日本に金メダルを齎してくれたという意味からも、今回は安藤には素直に拍手を送りたいものだ (。^〇^。) //パチパチ (。^〇^。)// パチパチ 名前 コメント すべてのコメントを見る 世界水泳観戦記 (`Д´)y-~~ちっ メルボルンで行われていた、世界水泳が終わった。 「観戦記」というタイトルを書いてから、考えてみれば大して観戦していなかったのを思い出した。 時間帯の都合であまり観る事が出来なかったし、スポーツ観戦オタクにして水泳も好きなワタクシとは言え、わざわざビデオに録画してまで観るほどの熱意はない。 結果的には、北島選手の「金」ひとつのみというのだから、日本にとっては「惨敗」だったのではなかろうか? 勿論、金銀を獲った平泳ぎの北島選手を始め、それぞれ銅メダル二つを獲得した自由形の柴田亜衣選手、背泳ぎの中村礼子選手は立派だし、また今回も念願の「金」には届かなかったとはいえ、銀2つと銅4つを獲得したシンクロのチームや選手たちも、(シンクロに興味のないワタクシは、まったく観戦はしなかったが)期待通りの活躍であった事は確かだ。 しかしながら、毎度こうしたスポーツイベントになると、飽きもせずにワケのわからないタレントが出てくる「スタジオ映像」とかいうのは、どうにかならないものか? 特に鬱陶しくて仕方がなかったのが、水泳には何の関係もないマツオカのボンボンである。 異様なまでにテンションが高く、偉そうな事ばかり言っていたが (一体、貴様は何様のつもりなんだ?) と言わずにはいられないくらい、押し付けがましいほどに態度がデカイ ウゼ──(-´д`-)y──┛~~ 言う事と態度のデカさを観ている限りは、あたかも自分はテニス界で頂点にでも立っていたような印象だが、実のところ100位以内をキープするのがやっとの選手だったに過ぎないのである。 「そんなアンタに、なんでメダリストの心境が理解できるのか?」 と、TVの前で毒づいていたのはワタクシだけか? みのもんたを気取って息巻いていたところで、日本のメダルが増えるわけでもなかろうに (゚c_,゚`)プッ さらに何故、解説が田中雅美と萩原智子なのか? にも疑問が沸いた。 シンクロの小谷はまだわかるが、田中も萩原も五輪でメダルを熱望されながら、悉く期待を裏切り続けて来た選手である。 世界トップの心境を最も理解できるのは、間違いなく岩崎恭子であり、また田島寧子といった、五輪でメダルを掴んだ人々に違いないのである。 萩原と田中は、かつて水泳選手としてはそこそこの美形である事から、マスコミに持て囃されていた選手だ(特に田中の方は、実のところ現役時代から、ワタクシの好みではあるがw) こうした人選を見ると、やはり 「TV局は実力ではなく「外見」で、解説者を選んでいるのか?」 などと、疑わしくなってこようというものだ(或いは、岩崎ら本人たちが忙しいのかもしれないが・・・) 結局、TV局の演出の不味さばかりに触れてしまったが、最後のリレーで日本が「銀」を獲ったといって、バカ騒ぎをしていたのには笑ってしまった。 アメリカが失格になったための「銀」であり、実質的にはいつもと同じ「銅」に過ぎないのだが。。。 北島選手が金を獲った200m平泳ぎでは、100mで北島を退けたライバルのハンセン選手との対決を楽しみにしていたが、ハンセンが風邪で欠場したのも実にしまらなかった。 超一流のアスリートが、こんな大事な場面に「たかが風邪で欠場」とは情けない。 これでは「敵前逃亡」と言われても仕方ないであろう。 そしてあれだけの「世界新記録の大安売り」を観せつけられると 競技施設も技術もスポーツ科学も、まったく条件の違う旧世代の人々の記録との単純な比較に、果たしてどれほどの意味があるのだろうか? と虚しくも思えてしまったのだった (´-ω-`)うーん 名前 コメント すべてのコメントを見る ミキティの執念(世界フィギュア観戦記part3) ノ゜ο゜)ノ オオオオォォォォォォ 続いて登場して来た、前回の金メダリスト・マイズナーにミスが出て得点が伸びず、遂に浅田がトップのままで最後の安藤の出番がやって来た。 浅田と安藤・・・ 同じ愛知県の出身(中野も)であり、余談ながらワタクシも愛知の出身である。 かつての絶対的な強さがやや蔭を潜め、追われる苦しみを味わい始めているのがこのところの浅田であり、対するにここ数大会で急激な変貌を遂げて、目覚しい急成長を見せているのが安藤である。 安藤の成長には確かに目を瞠るものがあるが、ワタクシの見るところではまだまだ総合力では、浅田の方が上だと思う。 この5ちゃんねるの「フィギュア観戦記」でも書いて来ているように、フリースケーティングの配点は、様々なエレメンツ(技の要素)の組み合わせによって決まってくるが、現在持っている技の難易度を含めたプログラム構成を見る限り、浅田が自身のプログラムで完璧な演技をこなしたら、他の選手は4回転ジャンプでも成功させない限り追いつかないハズなのだ(これに匹敵する高難度の技を盛り込んだプログラムは、五輪で金メダルを獲った時の荒川くらいである) だから、この時点で安藤が浅田選手を上回って優勝するためには、4回転でも決めるかミスのない完璧な演技をして見せるしかないが、4回転は失敗した場合は一気にメダル圏外に落ちてしまうというリスクが大きすぎるから、この位置でやるはずはない。 さらに安藤には、最終滑走と金メダルが目の前にちらついているという、様々なプレッシャーが伸し掛かってくる事も考え合わせた結果「浅田・金、安藤・銀」と密かに予想していた。 そんな重苦しい状況の中で、予想通り4回転は回避した安藤だったが、五輪の頃とは見違えるような安定感で、堂々たる演技を見せた。 SPは突然の電話で見逃したが、フリーに限って言えばやはりあれだけ観客の心を掴んだ浅田の方が、内容的には上回っていただろう。 結果、フリーの得点は 浅田 133.13 安藤 127.11 そして、SPを併せた総合得点では 安藤 195.09 浅田 194.45 とSPの貯金がものを言い、僅かに安藤が上回った (〃 o )(〃 O ) 名前 コメント すべてのコメントを見る ミラクル・マオの復活(世界フィギュア観戦記part2) ( ̄+ー ̄)キラーン 何より肝心の演技も、途中までは完璧な流れで (こりゃ、キム・ヨナの優勝で決まりか・・・) と思ったほどである。 ところが何度も言っているように、勝負だけはマコトに何が起こるかわからないものだ。 前日から、あの絶対的な安定感を誇っていたキム・ヨナが、まさかの転倒・・・しかも二度も。 TVの実況で言っていたように腰が悪いせいなのか、或いは「SPトップ」のプレッシャーだったのかはわからない。 キム・ヨナには気の毒だが、これで安藤は言うまでもなく、SPで大きく出遅れた浅田にも千載一遇のチャンスが訪れたわけで、嫌が上にも期待は高まった。 浅田の難易度の高いプログラム構成であれば、ミスなくいつも通りの演技が出来れば、SP5位からの逆転金メダルも充分に考えられた。 そして、いよいよその浅田が登場して来たが、キム・ヨナの得点がなかなか表示されない。 リンクでアップをしている浅田の顔が、これまで見た事のないような緊張感に引き攣ったような表情をしているように見えた。 そんな中で演技が始まると、最初はやはり恐る恐るという感じでどことなく動きがぎこちないようだったが、最初の3回転ジャンプをしっかりと決めると、徐々に堅さが解れて来たようだ。 ハンガリー民謡のチャルダッシュに乗って、軽快なスケーティングを見せる浅田だが、前に滑っていたキム・ヨナのしなやかで滑らかなスケーティングに較べると、タイプの違いはあるとはいえ全体的にゴツゴツとして見える感は否めない。 しかしながら浅田には、誰にも負けない技術力の高さがあった。 観客の溜息を誘うようなキム・ヨナの美しさとは違い、観客と一体になって演技を作り上げていくような、天真爛漫な明るさが浅田の最大の人間的魅力である。 ここ数試合の演技と比べ、この日はやや細かいミスこそ目に付いたが、それでも減点になるような大きなミスはなく、結果的にフリーではトップの高い得点を叩き出し、ライバルのキム・ヨナを抜き去ってトップに躍り出た。 個人的には、浅田の才能は最大限に評価しているワタクシだけに、この日の出来(特に、両足での着氷など)にはまだまだ不満があったが、それでも演技終了直後にドッと溢れ出した涙は、彼女自身にしかわからない様々なプレッシャーとの戦いなどが垣間見えた。 16歳の少女が背負っているものの重みを、感じずにはいられない。 そんな興奮醒めやらず涙の止まらぬ少女に、ハイエナのような無神経さで執拗にマイクを突きつけるTV局の浅ましさは、犯罪的な馬鹿さ加減だった(▼皿▼)アホちゃうか? 名前 コメント すべてのコメントを見る 妖精の舞い(世界フィギュア選手権観戦記part1) ヽ(´ー`)ノ 東京で開催された世界フィギュアスケート選手権で、安藤ミキティが優勝した。 ショートプログラム まずは、韓国のキム・ヨナが完璧な演技で71.95という、驚異的な高得点を叩き出す。 いよいよ、注目の安藤選手がリンクに登場して来たところで、間の悪い事に仕事関係の電話が入り、肝心の安藤選手と次の浅田選手の演技を見逃してしまう事に・・・ 40分にも及ぶ長い電話が終わった時は、既に全選手の演技が終わって、SPの結果が出ている時だった。 1.キム・ヨナ71.95 2.ミキティ 67.98 3.コストナー67.15 4.マイズナー64.67 5.浅田 61.32 安藤と浅田に関しては結果しか知らないが、当然ながら浅田のSP5位はまったく予想外で、何か大きなミスを犯した事は明らかである。 この時点では、SPで完璧な演技で観客を魅了したキムが圧倒的に有力であり、安藤があのキムに勝つには 「4回転でも決めるしかないのではないか?」 と思われた。 SPで大きく出遅れた浅田は、キムが余程大きなミスをしない限り優勝は厳しい情勢であり、そしてSPを見る限りはそれが起こる可能性は、極めて低く感じられた。 フリースケーティング この日は、前日のように電話が掛かって来る事もなく、じっくりと観戦。 最終組の6人の練習で、いやが上にも緊張感が高まってくる。 最初に登場したのは、イタリアのコストナーだ。 SPは非常に素晴らしい出来だったが、ジャンプで派手に転倒してしまい、その時点までトップにつけていた、中野よりも下に下がった。 続くアメリカのヒューズも、やはりジャンプで転倒して得点が伸びず、4人を残して依然、中野がトップである。 そして、いよいよ注目のキム・ヨナが登場。 表情を見る限りは緊張感はまったく感じられず、前日同様に完璧な演技をして200点近い高得点を出して、ブッチギリの優勝を掻っ攫っていってもおかしくないような、独特の雰囲気を持っていた。 白い衣装に身を包んで滑っているキムの姿は、まるで妖精のようにも見える。 実のところ、一貫してコリア及びコリア人嫌いのワタクシでさえ、あのバレリーナのようなしなやかで優雅なスケーティングと、顔にも全身にもまだ少女のあどけなさを残しながら、コリア人特有の骨太ではない可憐な感じのプロポーションにも、見惚れざるを得なかった。 名前 コメント すべてのコメントを見る 21 やはり《甲子園》の魔物が暴れだしたぞー \_(-_- 彡 -_-)_/ ~ 2004 虎鷹シリーズ毒舌日記part6 (= ̄∇ ̄=) その後、両チームとも決め手には欠けるものの、この日もやはり終始押し気味にゲームを運んでいるのは、ダイエーです。 このシリーズを通じて、ここまでワタクシの頭に描いたシナリオがズバズバと的中してきているのは何の不思議でもなく、巨人ファンであるワタクシは今年1年間を通じて、散々にこうしたパターンで煮え湯を飲まされ続けてきたからで、これを見過ごして2戦までを見た時点で 「ダイエー圧倒的有利!」 と言い出した評論家諸氏のボンクラ頭加減にはいつもながらといえ、最早愛想がつこうというものです。 そしてやはりいつも通りの、予測の付け難い《甲子園》での摩訶不思議なゲームが展開され、モチャモチャやっているうちに終わってみれば阪神の 《2試合連続サヨナラ勝ち》 といういかにも阪神らしい劇的な幕切れで、あっという間に2勝2敗のタイと縺れ込んでしまいました。 まさにここまではワタクシの読み通りの展開ですが、いよいよ今日の第5戦はシリーズの天王山となりそうです。 阪神としては、福岡ドームで2連勝は至難の業でしょうから今日は何が何でも勝っておき、王手をかけて福岡に乗り込むより他に日本一への道筋は残されていないでしょう。 一方のダイエーは、福岡で2連勝の可能性も残されているとはいえ《甲子園》3連敗で阪神及び阪神ファンを乗せてしまっては到底手が付けられなくなり、一気に4連敗という流れも充分に考えられるだけに、この5戦目はやはりなんとしても勝っておきたい。 何度も言っているように《甲子園》で阪神を倒すのは至難の技ですが、ここで1つ勝っておけば福岡の2試合のうち1つをものにすれば良いわけで、俄然日本一が近づいて来るわけです。 《甲子園》での2試合では、投手交代や代打の出し方のタイミングで王監督の采配に首を傾げざるを得ないところが何度かありましたが、あまりにも鮮やかな2連勝で余裕を持ちすぎたせいでしょうか? よもや阪神を甘く見過ぎたという事はないのでしょうが、些か気になるところではあります (-ω-#)y-~~~~ 名前 コメント すべてのコメントを見る 20 やはり《甲子園》の魔物が暴れだしたぞー \_(-_- 彡 -_-)_/ ~ 2004 虎鷹シリーズ毒舌日記part5 (= ̄∇ ̄=) 《第4戦 阪神6ー5ダイエー(阪神サヨナラ勝ち=10/24up分)》 ダイエー2連勝の後、舞台を《甲子園》に移し阪神が1勝して迎えた第4戦。 内容的には不充分ながらも、とりあえずのサヨナラ勝ちを収めた眠れる虎が、一転して目を醒ますのか? はたまた、ダイエーの強力打線が再び火を噴くのか? 非常に興味深い展開となってきました。 阪神としては福岡に戻って2連勝は殆ど不可能に近いだけに、日本一になるためにはこの《甲子園》で3連勝する道以外には残されていないでしょう。 一方、ダイエーの方は《甲子園》で1つでも勝てば福岡に戻って1勝すればいいだけだから、現時点で圧倒的優位は変わりません。 総合力では、ここまでのところ一段二段は上回って見えるダイエーですが、問題は《甲子園》におけるあのトラキチの醸す強烈なプレッシャーを、先発投手を始めとした投手陣が跳ね除けられるかどうかに掛かっています。 さて、そうして始まった第4戦。 以前からワタクシが再三指摘しているように、やはりこの《甲子園》での試合だけは、どうにも予測不可能な摩訶不思議な事が起こるものです。 4戦目にして、初めて先手を取った阪神。 エース井川の調子も相変わらずイマイチとはいえ、一時は4ー1まで差を広げようやく阪神ペースに流れが一気に傾きかけたと思いきや、さすがは強打のダイエーもすかさず反撃に転じ、なんなく4ー4の同点に追いついてまた振り出しに戻します (´-ω-`)うーん 名前 コメント すべてのコメントを見る 19 阪神ファン幸せやなー (^。^) ~ 2004 虎鷹シリーズ毒舌日記part4 (= ̄∇ ̄=) 《第3戦 阪神2ー1ダイエー(=阪神サヨナラ勝ち=10/23up分)》 が、あまり評判の良くなかったダイエー中継ぎ、リリーフ陣をなかなか攻略できない阪神には、どうも勝てる要素が見当たらない。 シーズン中はあんなにも強かった阪神が、このシリーズでは僅か1勝が出来ずにこんなにももがき苦しんでいます。 繰り返しますが、ワタクシは今年の阪神は嫌いです。 デリカシーに欠けるようなあの阪神ファンも嫌いなら、高校野球のようなダサい応援も嫌いですし、ジェット風船なんぞを飛ばして悦んでいる連中もウザイというほかはありません。 ワタクシの脳裏に、密かに期待した 「阪神4連敗」 のシナリオが着々と現実になりつつあるのをこうして目の当たりにすると、不思議な事に何故かかつての職場の同僚であった大阪からの出向チームの面々やら関西在住の知人、或いは旅先で見かけた誰とはわからぬ関西弁の気の良い兄ちゃんやらオッサンやらの、阪神に寄せる哀切な思いが何故か訴えかけ酔った頭が一瞬、不覚にも阪神ファンに感情移入してしまいました。 そうして我に返ると、まるで日本一を決めたかのようにホームベース上でお祭り騒ぎ繰り広げる、縦じまのユニフォームが無数に小躍りしています。 見上げれば空には色とりどりのゴム風船が、阪神ファンの異様なまでの執念が乗り移っているのか、まるでそれ自体に意思を吹き込まれたかのように空高く、喚起の舞を舞っています。 ようやく出番がやって来たワイ、と言わんばかりのしたり顔で登場した星野が、例によって独演会を始めんばかりの勢いで喋り始めたテレビの画面を眺めながら 「まあ、これで面白くなってよかったじゃないの」 と、何故か妙にホッとしてしまうワタクシでありました (;^。^ 名前 コメント すべてのコメントを見る 18 阪神ファン幸せやなー (^。^) ~ 2004 虎鷹シリーズ毒舌日記part3 (= ̄∇ ̄=) 《第3戦 阪神2ー1ダイエー(=阪神サヨナラ勝ち=10/23up分)》 ダイエーが地元福岡で2連勝して、迎えた第3戦。 舞台は、いよいよトラキチの待ち構える《甲子園》へと移りました。 なにしろ、あの第2戦でのダイエーの圧倒的な打線の物凄さばかりが印象強いだけに、風見鶏の評論家諸氏はここぞとばかり 「ダイエー圧倒的有利」 と言い始めましたが、この《甲子園》でやる野球だけはやってみなければまったく予測が付け難い、とワタクシは前から言っておりました。 そして、ズバリそのワタクシの予言通り、一転して白熱した投手戦となります。 さすがに3戦目ともなると、内容的には過去2戦とは比較にならないほどに密度の濃い攻防が繰り広げられる中、ダイエーがやや押し気味にゲームを進めながらも肝心なところでのあと一本に欠け、ピーンと張り詰めたような緊張感のある投手戦が続き、第1戦に続いて早くも2度目の延長戦に突入します。 これも前から言っていますが、巨人ファンのワタクシにとって阪神は憎い敵であり、ワタクシの応援するのはあくまでダイエーです。 しかしながら、この試合にダイエーが勝てば3連勝となり、シリーズの行方はほぼ決したようなものですから、それではあまりにもつまらないという思いと同時に、万一このままダイエーに一方的にやられるような結果になれば、枕を並べてこの阪神にコテンパンにやられつづけた巨人を始め、中日を除くセリーグ4チームは改めて大恥を掻く羽目となります。 延長に入った時点で (これは阪神得意の展開だな) とある程度、阪神の勝ちは予測できました。 名前 コメント すべてのコメントを見る -
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『Run For Yukkuri ~逃走中~』 序、 「お前らーーーー!!!ゆっくりしたいかあああぁぁぁぁ??!!!」 「「「「「ゆっくりしたいよーーーーー!!!!!」」」」」 「「「「ゆっくりさせてねっ!!!!!」」」」 テンション高めの男がマイクを握り締めて、眼下に散らばる饅頭共と会話をしている。その数15匹。個体としては、 れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種の6種類であり、数の内訳はれいむ4匹、まりさ 3匹、ありす3匹、ぱちゅりー2匹、ちぇん2匹、みょん1匹…である。 今回集まった饅頭共はなんと数字を15まで“覚える”ことに成功した驚異的な知能を持ったゆっくりたちだ。もち ろん、覚えさせるために、数多のブリーダーが血の滲むような(主にゆっくりが)努力をした結果なのであるが。 なぜ、こんな場所にこんな知能派(笑)のゆっくりたちが集められたかというと…番組収録のためだ。世間一般では 野良ゆは潰して然るべき…という風潮が蔓延しており、街のあちらこちらで潰れたゆっくりの死骸を目にするものだが、 それだけでは野良ゆの駆除は追いつかないのである。 そこでテレビという媒体を使って、一般市民が気持ちよくゆっくりを潰せるような環境を作り出すことができないだ ろうか…という考えから今回の番組の企画が上がった。 とはいえ、“ゆっくりを潰せない一般市民100人”を対象に行ったアンケートでは、 * 一生懸命生きてるから潰すのは可愛そう(78人) * 潰した時に叫び声を上げるのがイヤ(12人) * 自分の手を汚したくない(9人) * 可愛いから(1人) このような結果が出ており、まだまだ不思議饅頭のことをかけがえのない命の一つだと勘違いしている市民が大勢い ることを改めて認識させられた。 たとえ潰さなくても、捕まえて加工所に送ってくれるだけでもいいのだが、加工所がどんな場所かは市民もゆっくり も理解しているため、やはり“かわいそうだから”という理由でためらってしまうのだろう。 つまり、今回の番組は、“保健所・加工所の2つの団体の提供でお送りします”…ということだ。 だが、勘違いしているとはいえ、“命を壊す行為”を奨励する番組を作り上げることは相当な苦難を強いられた。も ちろん愛護団体などによるクレームも多数寄せられたし、番組放送にあたって各教育機関などからも反対意見が殺到し た。 しかも1時間という枠の中で、ゆっくりの“無能さ”、“傲慢さ”、“デタラメな生態”、…総じて“価値の無さ” を伝えるためにスタッフも試行錯誤を凝らすことになった。 人間が直接手を加えては意味がない。泣き叫ぶゆっくりを人間が潰すだけであれば、それは一般市民が毛嫌いしてい る行為を映像の中で行うだけだ。 もしかしたら今回の番組では上手く視聴者に制作者側の意図を伝えられないかも知れない。だが、必ずこの番組を見 た他のテレビ局が…同じような内容の企画を出してくれることだろう。 【Run For Yukkuri ~逃走中~】 《ルール》 一つ、 各ゆっくりの後頭部には1~15の数字が書かれたバッジが取りつけられており…その数字を別のゆっくりに見られ、 スタッフに“密告”されたら、その時点で失格となる。 一つ、 3時間後、9時間後、18時間後に「○○に集合せよ」などというミッションが始まり、制限時間内にそのミッション を達成できなかったゆっくりは、その時点て失格となる。 一つ、 15時間経過後に“あしながとしあき”がフィールドに投下され、“あしながとしあき”に数字を見られて密告されて も、その時点で失格となる。 一つ、 21時間経過後に“あしながとしあき”が1人追加される。“あしながとしあき”は連携してゆっくりを追い詰めるこ とができないものとする。 一つ、 最後まで生き残ったゆっくりにはあまあま一年分と銀バッジ、さらに幸福なゆん生が約束される。 《舞台》 [とある田舎の森林地帯] フィールド中央には霧の濃い湖、フィールド北側には“紅魔館”と呼ばれる西洋の屋敷のセットが配置されている 《プレイヤー》 1.れいむ/2.まりさ/3.ありす/4.ぱちゅりー/5.ちぇん/6.みょん/7.れいむ/8.まりさ 9.ありす/10.ぱちゅりー/11.ちぇん/12.れいむ/13.まりさ/14.ありす/15.れいむ 一、(♪:少女綺想曲 ~ Dream Battle) 15匹のゆっくりたちの頭部には小型のカメラが設置されている。当てずっぽうで密告するルール違反者を出さ ないようにするためだ。また、ゆっくりたちの口元にはやはり小型のマイクがセットされており、呟くだけでスタ ッフが把握できるようになっている。 最初の2分間で、ゆっくりたちの態勢を整えさせる。この間に思い思いの場所に隠れたり…あるいは他のゆっく りの数字を見つけやすい場所に移動するのだ。 「ゆっ?ゆゆっ??」 一瞬で散ってしまった他のゆっくりたちに取り残されて、7番れいむはその場を動かない。どうも何か考え事を していたらしく、司会者の話を聞いていなかったらしい。突然一匹残されてキョロキョロと辺りを見回している。 一方、他のゆっくりたちはすでにその身を隠すか遠くに逃げてしまっている。その中に一匹だけ…2番まりさが 7番れいむの後方に待機している。2番まりさは既に7番れいむの番号を把握している。 「それでは…ゲームを開始します!!!!!」 スタッフの声はやはり、ゆっくりにも届くようにカメラ脇に小型のスピーカーが設置されており、そこから聞こ えるようになっている。 (…れいむはぜったいゆっくりするよ!!!)←15番 (まりさはどんなてをつかってでもいきのこるよ!!!)←8番 (とかいはなありすはこんなところでまけたりしないわ!!!)←9番 (むきゅきゅ!!!もりのけんじゃ(笑)のぱちゅのひとりがちだわ!!!)←4番 (わかるよー!!!ちぇんがかつんだねー!!!)←11番 (みんなでいきのこってみせるみょん!!!)←6番 (…ッ!!!ゆっくりしていってね!!!)←7番 …今、戦いの火ぶたが切って落とされた…っ!!! 「…みっこくっ!するのぜ…れいむ…ななばん」 7番れいむはゲームのことなどすっかり忘れて、目の前をヒラヒラと飛んでいる蝶を追いかけるのに夢中になっ ていた。 「ちょうちょさん!!まってね!ゆっくりれいむにたべられt…んゆぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ッ??!!!!」 突然、7番れいむが苦痛に表情を歪める。それもそのはず。7番れいむに取りつけられたバッジとカメラとマイ クがいきなり放電し始めたからだ。 「あっが…ゆぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!!」 バチバチと青白い電流が7番れいむを執拗に襲う。その光景を密告した2番まりさは目を丸くして眺めていた。 「れ…れい…む…?」 「ゆ゛ん゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」 7番れいむが断末魔の叫び声を上げると共に、爆散する。飛び散った目玉が2番まりさの元にコロコロと転がっ てくる。顔の形がぐしゃぐしゃに崩れて…宙を舞っていた破れた皮がぺしゃぺしゃと音を立てて落ちてくる。焼け 焦げた揉み上げとリボンも、れいむがいたはずの場所に静かにたたずんでいた。 「ゆ…ゆわあああああ!!!れいむ!!!れいむ!!!しっかりするのぜーーー!!???」 草むらから2番まりさが飛び出す。こんなつもりではなかった。これはゲームなのではいのか?今、自分は一人 敵を脱落させただけではなかったのか?だが、目の前にあるのは7番れいむの無残な死体だ。死体と呼ぶにもおこ がましいほど原形を留めていない“それ”を見て、2番まりさは悲しみに打ち震えて泣いた。 当然、他のゆっくりたちもそれほど遠くまで移動しているわけでもなく、7番れいむの断末魔を聞いていた。移 動中のゆっくりたちが全員、動きを止める。声の発生源のほうを振り返り、不安そうな表情を浮かべている。 (*1) )) 「諸君!!!!」 突然、14匹のゆっくりたちの小型スピーカーから司会者の声が聞こえた。スピーカーの仕組みを理解していな いゆっくりたちはキョロキョロと辺りを見回しながら、 「お…おにーさん?どこ?どこぉ…?」 不安そうに呟く。司会者は言葉を続ける。 「言い忘れていたが、密告されたゆっくりは死ぬ」 「「「「「「「「「「「「「「ッ!!!!?????」」」」」」」」」」」」」」 ゆっくりたちが驚愕の表情を浮かべる。では、さっきのれいむの悲鳴は?れいむは死んだというのだろうか。そ なことを考えながら、ゆっくりたちはぷるぷると震え始めた。ゆっくりたちにとっては、あまあまをかけた軽いゲ ーム感覚のつもりだったのだろう。しかし、これはれっきとした、“死のゲーム”である。ただ、プレイヤーがゆ っくりだから多少コミカルに見えてしまいがちだが。 これは生き残るための…戦争なのだ。 「ゆ…ゆっくりできないよっ!!!やめてね!!!れいむたちにひどいことしないでねっ!!!!」←1番 「と…ととと…とかいはじゃないわ!!!こ…ここ、この…いなかものぉ!!!」←14番 「なんとでも言いたまえ。やめるならやめても構わないぞ?その時点で失格とみなして爆発して死ぬがな」 「~~~~~~~っ!!!!!」 【7番れいむ:死亡 / 00時間00分11秒】 言葉と共に、戦意を失うゆっくりたち。13番まりさは恐怖のあまり、一歩も動くことができないようだ。見つ かったら死ぬ。生き残るためには仲間を殺さなければならない。それは選択できない二択だった。 「むきゃきゃ」 13番まりさの背後から下卑た笑い声が聞こえる。驚いて振り返る13番まりさ。そこには10番ぱちゅりーが いた。遅れて、10番ぱちゅりーの浮かべた不気味な笑みの理由に気付く。 「ぱちゅ…りー…?もしかして…まりさの…」 「むっきゅきゅきゅ…」 先ほどのれいむの断末魔を即座に思い出す13番まりさ。10番ぱちゅりーのニヤケ顔が止まらない。10番ぱ ちゅりーは13番まりさの番号を把握している。密告が完了すれば、13番まりさは先ほどの7番れいむのように 無残な最期を遂げるだろう。13番まりさがガタガタ震えて泣き出す。 「ば…ばぢゅり゛ぃ゛ぃ゛…おでがい゛じばずぅ゛…やべでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛…」 頭を何度も地面に打ち付けて、10番ぱちゅりーに懇願する13番まりさ。しかし、いつまでたっても13番ま りさに死は訪れなかった。10番ぱちゅりーが見逃してくれたのかと思って、にわかに明るい表情を浮かべる13 番まりさだったが… 「むきゅきゅ…まりさ?」 「な…なに…?」 「ぱちゅのどれいになってね!!むっきゅ…むきゃきゃ…むーーーきゃっきゃっきゃっきゃっきゃ!!!!!」 「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛???!!!!」 10番ぱちゅりーは狡猾だった。加えてゲスだった。だが、このゲーム内に関してだけ言えば、間違いなくこの 10番ぱちゅりーは勝ち組の階段を一歩登ったと言える。数字を把握したゆっくりを即座に密告する必要はないの だ。この一件で、13番まりさは、絶対に10番ぱちゅりーに逆らうことはできない。なぜなら、13番まりさの 命は…まさに10番ぱちゅりーの手中にあるからだ。 10番ぱちゅりーは安全な場所に隠れて、13番まりさを使って他のゆっくりを捜索させる計画だ。その途中で 13番まりさが他のゆっくりに見つかって密告されても、10番ぱちゅりーに被害はない。つまり、10番ぱちゅ りーは、自動で捜索・防御を行う使い捨ての駒を手に入れたのだ。しかも、こんなゲーム開始早々に。 この行動にはスタッフ一同が目を丸くした。いくら他の個体よりも比較的賢いとはいえ、ゆっくりごときがゲー ムのルールを完全に把握した上で、これほどまで早く攻略の糸口を掴むとは思っていなかったのだ。 「…まぁだからと言ってそれで勝てるほどこのゲームは甘くないんですけどね…」 「ミッション時にもずっと隠れてるわけにはいかないからなぁ…。動かざるを得ない状況になったときが…13番 まりさ逆転のチャンスと言えるだろう…」 15番れいむは一生懸命に巣穴を掘っていた。15番れいむは、霧の湖付近に到達していた。視界の悪いこの場 所であれば、ある程度拠点を作るのに適している。今現在15番れいむは無防備だが、この湖付近に他のゆっくり は存在しない。視界の悪さが命取りになる…と判断したからだろう。15番れいむはそれを逆手に取った。 「ずっとずーりずーりしているわけにはいかないよ…つかれたらやすめるばしょをつくるよ…」 先ほどの10番ぱちゅりーとは違った意味で、賢い個体だった。いつ誰に見られているかわからない状況で拠点 を作りだすことは死と隣り合わせではあるが…拠点の巣穴から顔だけ出していれば、絶対に後頭部の番号を見られ ることはない。そのため15番れいむは常に他のゆっくりの番号を把握するのに専念できる。こちらもミッション スタート時にはどうしても拠点を出ざるを得ないが。 ゲーム開始から1時間経過後、フィールド内のゆっくりのほとんどが動かなくなってしまった。ちなみに各ゆっ くりのバッジには小型の発信器が取りつけられており、どこにどのゆっくりがいるかはモニターで一目瞭然である。 やはり、湖付近に陣取っているのは15番れいむのみで、その他のゆっくりはうまい具合にばらけてはいるが、身 を潜めるにはあまり適していない場所に待機しているようだ。 そして、10番ぱちゅりーは常に13番まりさの後ろで行動している。13番まりさは文字通り生きた心地がし ないだろう。10番ぱちゅりーに限ってそれはないだろうが、13番まりさは気まぐれで殺される可能性だってあ るのだ。そんな恐怖と戦いつつ、他のゆっくりの番号を探しながら、やはり自分の番号を隠して行動しなければな らない。 (ゆっくり…ゆっくりしたいよぅ…ゆえぇぇぇぇぇ…) 13番まりさは心の中で不満を叫びながらボロボロと泣きながら地面を這っていた。 「むきゅきゅ…まりさ!ぱちゅはここにかくれてるからみずうみのまわりでゆっくりをさがしてきなさい」 「ゆぐぅ…みずうみさんのまわりはよくみえないからあぶないよぅ…」 13番まりさが今にも泣きそうな声で10番ぱちゅりーに訴える。10番ぱちゅりーは舌打ちをすると、 「むきゅ!!!みっこくっ!されたいのかしら?」 「ゆ…ゆぅん…ゆぅぅぅぅぅぅん!!!!!!」 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、湖の方へと走っていく13番まりさ。10番ぱちゅりーはニヤニヤと笑いなが ら木に寄りかかる。だからと言って眠ることはできない。気を張りながら、周囲の様子の確認だけは怠らないよう にしている。そのとき、10番ぱちゅりーの背後…正確には木の反対側から他のゆっくりの声がした。 「まりさのすうじさんをおぼえて…どれいにしているのかみょん?」 10番ぱちゅりーの全身に力が入る。よもや1本の木に2匹のゆっくりが寄りかかっているなどとは思ってもい なかった。しかも、相手は声からすると、みょんらしい。 「みょんは…げすなゆっくりはきらいだみょん」 6番みょんが10番ぱちゅりーを非難する。10番ぱちゅりーはむきゅきゅと笑うと、 「みょんにもまりさのすうじさんをおしえてあげようかしら…?」 「…みょん…?」 「むきゃきゃ…みょんのすうじさんをぱちゅにおしえてくれればだけど…っ!」 6番みょんが唇を噛み締める。 「ぱちゅりーにとって…まりさはおなじゆっくりじゃないのかみょん?」 10番ぱちゅりーが更に笑う。 「むきゃ!みょんはばかなの?しぬの?ぱちゅはいきのこるためならなんだってやるのよ」 互いの位置関係からして、両者とも動くことはできない。実際、不利なのは10番ぱちゅりーのほうだ。みょん 種の戦闘能力は通常種の中でも随一。6番みょんが本気になって飛びかかってきたら、10番ぱちゅりーは一瞬で 倒されてしまうだろう。内心では10番ぱちゅりーは焦っていた。 そもそも、護衛役の13番まりさがいたからこそ、直接的な戦闘を苦手とする10番ぱちゅりーは湖への最短ル ートを選んで進んできた。考え方は15番れいむのそれと同じだった。視界の悪い湖で各ゆっくりたちを迎撃する。 ただし、体力的に他のゆっくりに劣るぱちゅりー種は湖へたどり着く前に殺されてしまう可能性がある。そこで、 まずは盾代わりになるゆっくりを作るところから始めたのだ。 しかし、今10番ぱちゅりーにその盾はない。6番みょんは木の枝…はくろーけんをその口に咥えた。 「みょんは…みんなでいきのこりたいみょん」 (………………むきゅぅ…!!!) 10番ぱちゅりーにとってはこの会話のやり取りも13番まりさが戻ってくるまでの時間稼ぎだった。2匹がか りなら6番みょんを倒すことも不可能ではない。 「…どうしてもというなら…たたかうみょん」 (むきゅううぅぅぅ!!!そんなにまりさがだいじなの?!ばかなの?!!しぬの??!!!) 10番ぱちゅりーが唇を強く噛み締める。ダメだ。もう戦うしかない。みすみす殺されるくらいなら、ダメ元で 6番みょんと戦うしかなかった。 「んぅっほおおおおおおおお!!!!!とかいはなみょんだわあああああああ!!!!!!」 絶叫が空を切る。声からして…ありす種だろう。6番みょんは、10番ぱちゅりーと会話をしながら、3番あり すと対峙していたのだ。 二、(♪:広有射怪鳥事 ~ Till When?) 6番みょんは3番ありすの体当たりをかわすと、口に咥えたはくろーけんを3番ありすに振り下ろす。3番あり すはそれをとかいはなバックステップでかわし、6番みょんを睨みつけた。 どうやら3番ありすはレイパー化してしまっているらしい。今回のゲームで精神的に追い込まれた結果であろう か。涎や体液をまき散らしながら突進してくる3番ありすを6番みょんが巧みにあしらう。 千載一遇のチャンスとみた10番ぱちゅりーは即座に寄りかかっていた木から離れ、この戦場を後にする。湖へ と向かう。そこには13番まりさがいるはずだ。まずはどうしてもそれを回収する必要があった。 「むきゅきゅ!やっぱりぱちゅはかみさまにあいされてるのだわ!!むきょーきょきょきょ!!!!!」 3番ありすの後ろを取ろうとするが、6番みょんをもってしてもそれは容易ではなかった。レイパー化している くせに、ゲームのルールは理解しているというのだろうか?それは違う。ただ単に後ろを取られたら、バックで責 められると勘違いしているだけだ。3番ありすはあくまで6番みょんをバックで激しく責めたてたいだけだ。だか ら、6番みょんの後ろを取ろうとする。 「…れいぱーのくせにいいたたかいかたをするみょん…」 6番みょんは完全に勘違いをしているが、3番ありすの行動はこのゲーム内の戦い方において限りなく正解に近 い戦法を取っていたと言える。もともと、戦いにおいて後ろを取られるのは致命的ではあるのだが…あえて後ろを 取らせてカウンター…という戦い方はこのゲームでは通用しない。数字を見られたら、どれだけ実力差があろうが 関係なくなるからだ。 じりじりと互いにあんよを這わせて牽制をする両者。互いに後ろを取られないよう、円を描きながら移動する。 パキッ… 3番ありすのあんよの下の木の枝が折れる音が聞こえたと同時に6番みょんがありすの脇腹めがけて飛び出す。 両者の前へと進む力が重なり、6番みょんのはくろーけんが3番ありすを激しく殴打した。 「ゆぎぃっ!!!」 6番みょんは3番ありすの攻撃のタイミング…すなわち体当たりのためにあんよに力をかけた際に、折れた木の 枝の音を頼りにカウンターを合わせたのだった。スタッフから拍手が沸き起こる。さすがはみょん種。通常種の中 で最も戦闘に適した個体。もはやゆっくりじゃねぇ。 「またつまらぬものをきってしまったみょん…」 しかし、3番ありすはそれで倒れはしなかった。血走った目が6番みょんを捉える。殺気を察知した6番みょん が即座にその場を飛びのく。3番ありすはさっきまで6番みょんがいた場所に自身の頭を打ち付けていた。顔を上 げ、額からカスタードを少量垂らしながら、6番みょんを睨みつける。 (おそろしいれいぱーだみょん…) その一瞬の思考が命取りだった。3番ありすの強力なぺにぺにが水平に振られ、6番みょんのはくろーけんを叩 きおった。 「みょんっ??!!!!」 「んっほおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!おどろいたかおもかわいいわあああああああああ!!!!!」 一転して防戦一方になる6番みょんに3番ありすは執拗に攻撃を繰り返してきた。未だに3番ありすのぺにぺに は屹立したままだ。恐ろしい持続力だった。 3番ありすの連続攻撃に6番みょんの体力も限界に近付いてきた。息を荒くする。額からは汗が滝のように流れ 落ちてきている。 (ありすにかったとしても…このあとがたいへんそうだみょん…) それでも6番みょんは3番ありすを倒した後のことを考えている。 (せめてはくろーけんのかわりになるものがあれば…) 武器を失った6番みょんとは対称的に、3番ありすには強力無比な“えくすかれいぱー”がある。あれを叩き折 りでもしない限り、6番みょんに勝機はなかった。 「み…みょんっ!!」 だんだん攻撃をかわす6番みょんの動きが鈍くなってくる。 モニター前のスタッフも、戦闘力随一のみょんがここで散るか…と手に汗を握って2匹のやり取りを眺めていた。 「ゆ…ゆわああああああ!!!!」 ついに6番みょんが3番ありすに捕えられた。 「んっほおおおお!!!!みょんのおかお…すっべすべねーーーー!!!!」 3番ありすが6番みょんに激しく頬ずりをする。あまりの気持ち悪さにしかめっ面になる6番みょんをよそに3 番ありすはぺにぺにを6番みょんに刺そうとしている。 「みょ…みょん!!!!」 「ほおおおおおおおおおおお!!!!ありすのとかいはなあいを…うけとってええええええ!!!!!!」 「みっこくっ!するんだねー…ありす…さんばんだよー…」 「ん゛っぼお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛??!!!!」 3番ありすが突然、咆哮を上げ始める。6番みょんは3番ありすの只事ではない様子に危険を感じたのか、即座 にその場を離れる。 「ゆ゛っぎゃあああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 6番みょんの顔を3番ありすの周りで走る電流の青白い光が照らす。そして、先ほどまで五分と五分の戦いを繰 り広げ、互いに“剣”を交えた剛のゆっくりが…大粒の涙を流し、その場でもだえ苦しんでいる。 (だれかが…みっこくっ!…したのかみょん…?) 倒されかけたとはいえ、あっぱれっ!な戦いをしていた3番ありすの死に行く姿を見るのは6番みょんにとって 寂しさを感じさせていた。 「みょん!!!み゛ょん゛!!!!ありずう゛う゛!!!じに゛だぐ…な゛…びゅべぎっ!!!!!」 勢いよく3番ありすの顔が破裂する。6番みょんに降り注ぐカスタードは…まるで3番ありすの涙雨かのようだ った。 3番ありすは極度の精神的ストレスにより、レイパー化することで自身を保っていた。結果、恐ろしい怪物と化 していたのだが…怪物として死ぬよりは…ある意味幸せな末路をたどったのかも知れない。 6番みょんはその場で目を閉じ、3番ありすに黙祷を捧げた。 【3番ありす:死亡 / 02時間18分46秒】 黙祷を終えると、6番みょんはその場を後にした。 モニターの前でスタッフたちがコーヒーを飲みながら、そのやり取りを見ている。 「意外でしたね…もっとバタバタ死んでいくかと思ってたんですが…」 「そうだなぁ…まぁ、ゆっくりとはいえ数字を15まで覚えた連中だ…。そこまで馬鹿じゃないってことか…」 「いい感じの展開ね…。10番がゆっくりのゲスっぷりを。3番がゆっくりの汚物っぷりを証明してくれてる。こ こまでは私たちの想像の範疇かしら?」 「残りは13匹か…」 「安心してください。ミッションの開始と“あしながとしあき”が投入されれば…もっとテンポよく死んでいきま すよ」 5人の男女はニヤニヤと笑いながら…“死のゲーム”に興じるゆっくりたちを見つめていた。 「むきゅーー!!!おねがいだからやめてちょうだいっ!!!」 4番ぱちゅりーが懇願する。しかし、二股の尻尾を持つ猫饅頭は聞く耳など持たなかった。生クリームを吐きな がら4番ぱちゅりーが身を捩る。…5番ちぇんは、4番ぱちゅりーの皮を噛みちぎり、致命傷を与えた。 「むきゅぅぅ!!どぼじでぇ…もりのげんじゃの゛ばちゅがあ゛あ゛…」 5番ちぇんは4番ぱちゅりーに体当たりして後ろ向きにさせると、その番号を確認した。番号を見られたことに 気付いた4番ぱちゅりーは泣きながら、5番ちぇんに向かって叫ぶ。 「むっぎゃあああ!!やめてちょうだい゛っ!!!やめでぐだざい゛い゛い゛!!!!」 5番ちぇんは冷たい目で懇願する4番ぱちゅりーを見下ろしながら、 「みっこくっ!するんだねー…」 「ゆ゛ぎゃあああああああああああああ!!!!!」 「ぱちゅりー…よんばんだよー…」 「…っ!!!!」 ちぇん種は通常種の中で最も素早い。走っているだけで、他のゆっくりに後頭部の数字を把握されることはない だろう。ゆえに、5番ちぇんは他のゆっくりを徹底的に狩る時間と、徹底的に休息する時間を決めて動いていた。 その結果、さながら暗殺者のように3番ありすと4番ぱちゅりーを葬ることに成功したのだ。 【4番ぱちゅりー:死亡 / 02時間59分06秒】 三、(♪:信仰は儚き人間の為に) ゲーム開始から3時間が経過した。 身を潜めてガタガタ震えているもの、ゲームのことを忘れて隠れた場所で眠っているもの。アテもなく彷徨って いるもの。思い思いの行動を取っているゆっくりたちのスピーカーからけたたましい声が聞こえてきた。 「ゆっくりしていってね!!!」 12匹のゆっくりたちが本能に従って挨拶を返す。眠っていたゆっくりもその時点で覚醒した。 「「「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」」」」」」」 「さて諸君。いよいよミッションの始まりだ」 「ゆ…?みっしょん…?」 (馬鹿饅頭共が…) 「いいか。これからお前たちは1時間以内に湖へ集合しなければならない!だが、一か所に集まる必要はない。湖 までたどり着けばそれでいい。ミッションをクリアしたらこちらからスピーカーで連絡する」 「ゆぅ…たどりつけなかったら…どうなるの…?」 「死ぬ」 「ゆげぇっ!!!????」 焦って行動を開始すれば、数字を見られる確率は増すだろう。しかし、湖にたどり着くのが遅くなればなるほど、 先着者からの待ち伏せを受け、それはそれで殺される確率が上がる。さらに、1時間経ってもたどり着けなければ、 その場で死ぬ…となれば頭の悪いゆっくりたちの思考回路は爆発寸前だった。 「今から花火を上げる。そこに向かうんだ」 それっきりスピーカーから声はしなくなった。かわりに、湖の方角から大きな花火が数発上がる。向かうべき場 所をゆっくり理解した饅頭共は一斉に行動を開始し始めた。 即席の巣穴をつくり顔だけ出していた15番れいむのスピーカーから声が聞こえる。 「お前はミッションクリア―だ。良かったな、最初から湖にいて」 15番れいむは何も答えない。このゲームを仕組んだ相手に対して、憎しみの感情でも抱いているのだろう。 スタッフ一同、クスリと笑った。 そして、もう1組。10番ぱちゅりーと13番まりさのスピーカーにもスタッフの声が届いた。 「ぱちゅりー、まりさ、ミッションクリア―。そのまま1時間待て」 「むっきゃきゃきゃ!!!けんじゃなてんかいだわーーー!!!!」 「ゆぅ…わかったよ…」 さらにもう1匹。比較的湖の近くにいた6番みょんの元にも同様のセリフが流れた。 この時点で、残り8匹のゆっくりによる湖へ向けての壮絶な攻防戦が始まることとなった。 一番最初に7番れいむを爆死させた2番まりさがとぼとぼと湖へと向かっている。それでも後ろは見られないよ うになるだけ草がたくさん生い茂っている場所を選んであんよを這わせている。 「そろーり!そろーり!!」 声を出しながらではないと移動できないゆっくりにとってこの最初のミッションは地獄としか言いようがなかっ た。それでも2番まりさは一生懸命に湖へと向かっていた。と、そこに、 「そろーり…そろーり…」 別のゆっくりの声が聞こえてきた。2番まりさが足を止める。どうやら向こうもこちらの存在に気づいているら しい。お互い、そこからぴくりとも動かない。 (ゆ…ゆぅ…うごけないのぜ…はやくみずうみさんにいかないといけないのに…) 2番まりさからは見えないが、ほぼ同じことを考えながらぶるぶる震えているのは9番ありすだった。 (だ…だれかしら…こわくて…うごけないわ…) 意を決して2番まりさが尋ねる。 「ま…まりさはまりさなのぜ!…そこにいるのは…だれ、なのぜ…?」 最後は声が小さくなっていき、しどろもどろになる。草むらから9番ありすが顔を半分だけ出して2番まりさを 覗きこんだ。 「ありすは…ありすよ…。まりさ…よかった…ぶじだったのね…」 9番ありすは敵である前に、同じゆっくりである2番まりさの無事を心から喜んでいた。お互いに、番号は悟ら れないように、会話を続ける。 「ほかのゆっくりたちはぶじなのかしら…?」 「わからないのぜ…すくなくともまりさは…ほかのゆっくりにはあってないのぜ…」 「そう…」 うなだれる9番ありす。2番まりさも最初に7番れいむを殺したのは自分だったためか、俯いている。そのとき、 ありすが閃いた。 「まりさ!わたしたち…きょうりょくしてみないかしら!?」 「ゆぅ…?むりなのぜ…ありすのことはしんじてるつもりだけど…さすがにそれはできないのぜ…」 「…だめかしら…?」 9番ありすがしょんぼりとした表情を浮かべる。9番ありすは寂しかったのだ。実はゲーム開始以来、2番まり さ以外に会うことはなかった。2番まりさとしても協力者がいることは心強かったのだが、裏切られたときのこと を思うと二つ返事はできなかった。 しかし、2番まりさが名案を思いつく。 「ありす…ありすのかちゅーしゃをまりさにかすのぜ?」 「だ…だめよそんなの…とかいはじゃないわ…って…ま、まりさ…?」 2番まりさが帽子を脱いで9番ありすに渡した。逃げない…と言っているつもりなのだろうか。2番まりさの意 図を汲んだ9番ありすは自分のカチューシャを外し、2番まりさに渡す。そしてお互いの数字を確認し合った。 「ありすは…きゅうばんだよ…」 「まりさは…にばんだわ…」 そして、お互いの飾りを返した。見つめ合う2匹。 「ゆっ!ここからはきょうりょくしてがんばるのぜ!!!」 「とかいはだわ!!がんばりましょう!!!」 そう言って、2匹の目で周囲を警戒しながら進んで行く。実はサイレントアサシンの5番ちぇんが9番ありすを 狙っていたのだが…今回ばかりは諦めざるを得なかった。湖にたどり着く前にもう1匹くらいは消しておこうと考 えていた5番ちぇんだったが…一直線に湖へと向かうことにした。 5番ちぇんはあっという間に湖に到着した。移動だけに気を割くことができるので当然のスピードだが。やがて、 5番ちぇんのスピーカーからミッションクリアーの通知が届く。 残り7匹。 ほどなくして、9番ありすと2番まりさも湖に到着した。10番ぱちゅりーと13番まりさの近くを通りかかっ たが、2対2だと体の弱い10番ぱちゅりーがいる分、不利になると判断したため、襲いかかることはしなかった。 残りは5匹である。湖の周辺は驚くほど静まり返っていた。 1番れいむ、8番まりさ、11番ちぇん、12番れいむ、14番ありす。ミッションの残り時間は既に20分を 切っている。5匹とも、すでに湖の近くまでは来ているのだが…一体何匹のゆっくりが、どこに潜んでいるのかわ からないため、動くに動けない。しかし、時間は刻一刻と過ぎて行く。 そんな中、11番ちぇんが目をつぶって湖に向けて全速力で走りだした。誰にも遭遇することなく湖にたどり着 いた11番ちぇん。誰かに見られていたとしても、11番ちぇんの番号を確認できるようなゆっくりはいなかった だろうが。11番ちぇんのスピーカーからクリア通知が届くと、嬉しさのあまりに11番ちぇんは泣いた。 残り4匹。今度は意を決して12番れいむが湖へと向かった。数字までは確認できないが、この様子を1番れい むと8番まりさはそれぞれ違う場所から見ていた。 (れいむがいったよ…まりさも…はやくいかないと…まちぶせされちゃうよ…っ) (れいむもれいむなのにあのれいむはすごくゆうきのあるれいむだよ…) だが、しかし。 「…みっこくっ!するね…!れいむ…じゅうにばん」 「ぎっぴぃぃぃぃぃぃぃぃっ??!!!」 「「??!!!!」」 突然、咆哮を上げる12番れいむ。そしてその様子を見て、白目になる1番れいむと8番まりさ。 「ゆ゛ぎゃあああ゛あ゛あ゛!!!いだい゛!!!いだい゛よ゛お゛お゛!!!!!」 (*2) 視界の中で揉み上げをバシバシと地面に叩きつけ、何度も何度も転がったり、飛び跳ねたりしてもがき苦しんで いる12番れいむを見て、1番れいむと8番まりさはガタガタガタガタ震えていた。やがて、 「も゛う゛や゛だあ゛あ゛あ゛!!!お゛う゛ぢがえりゅぶり゛ゅう゛!!!!!!!」 勢いよく爆発して、中身の餡子を四方八方にぶちまける12番れいむの壮絶な最期に、その様子を見ていた2匹 はおそろしーしーを大量噴射していた。 【12番れいむ:死亡 / 03時間49分42秒】 密告したのは、15番れいむ。巣穴の中からは湖に入ってくる12番れいむの位置は丸見えだった。このときの 12番れいむの絶叫は、湖に集まっていた他のゆっくりたちも当然聞いている。 また1匹…ゆっくりが死んだ…。 (…………) 黙祷を捧げる6番みょん。 「むきゃきゃ!さすがれいむ!ばかだわぁ!!」 死者を愚弄する10番ぱちゅりー。 (…てまがはぶけたんだねー…わかるよー…) 木陰で12番れいむが爆死するのを覗いていた5番ちぇんも冷笑を浮かべる。 1番れいむは泣きながら別のルートを探し始めた。8番まりさも同じだ。幸い、この2匹の周囲には他のゆっく りがいなかった。巣穴の中で待機している15番れいむだけが敵だったのである。湖の真ん中にまで行ってしまう と、待ち伏せ組の集中砲火を受けることになる。やがて… 「12番れいむ、ミッションクリアーだ」 「ゆゆゆっ?!」 スタッフの指定したエリアの中に入ったのだろう。12番れいむは言われるまで気付かなかったが、目の前に湖 がある。今度はうれしーしーを漏らしながら、 「ゆ…ゆっくり~~~!!!!」 叫ぶ。8番まりさも迂回するルートを通りながら、どうにか湖へとたどり着いたらしい。 残り時間は5分。 14番ありすは、まだ動けないでいた。不必要なまでに怯えている。 「と…とかいはじゃないわ…こわいよ!こわいよぅ…ありす…まだしにたくないよ…」 実は14番ありすはたった一匹、湖の北西部側に位置していた。他のゆっくりが南西から南東にかけての位置に 集中していたため、目の前の湖まであと数メートルあんよを這わせればミッションクリアーなのである。しかし、 14番ありすはその一歩を踏み出すことができなかった。死ぬことよりも、他のゆっくりに裏切られて殺されるこ とのほうが辛かった。泣きながらその場を動くことができないでいる14番ありすにスタッフからの声が届く。 「残り15秒」 「ゆゆっ?!まだ“たくさん”じかんはあるからゆっくりかんがえるよ…っ!」 致命的なミスを犯した。1から15という“記号”と“読み方”を覚えているだけで、数を数えることはできな い。それはここに集まったどのゆっくりたちにも同じことだったが。 「10秒……9…8…7…6…」 「ま…まだじかんはあるわ!とかいはなありすはこんなことで…」 「5…4…3…」 14番ありすはようやく震えるあんよを動かして、湖へと進み始めた。 「2」 (???!!!!!!) 14番ありすが目を見開く。途端にガタガタ震え始める。 「ま…まって!そんな…たくさん…」 「1」 「う…う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」 「0」 14番ありすが弾け飛んだ。 【14番ありす:死亡 / 04時間00分03秒】 湖近くに集合しているゆっくり達にスタッフからミッションの終了が告げられた。つまり、終了報告を聞くこと ができたゆっくりは、生き残っている…ということだ。歓喜の涙を流すもの…。当然の結果とほくそ笑むものと様 々であったが…。休む間もなく第2ステージが始まろうとしている。 まだ24時間のうちの4時間しか経過していないのだ。午前8時にゲームを開始したので現在は正午。ゆっくり たちも腹が減ってくることだろう。 つまり…他のゆっくりに見つからないように…今度は食糧を探さなければならないのだ。空腹はゆっくりたちの 判断を鈍らせる。単体で行動しているゆっくりにとっては手ごわい戦いになるだろう。 《残りプレイヤー》 1.れいむ/2.まりさ/5.ちぇん/6.みょん/8.まりさ 9.ありす/10.ぱちゅりー/11.ちぇん/13.まりさ/15.れいむ つづきます
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前話 京太郎「(俺は何をやってるんだろ…)」 京太郎がそう思うのは、染谷邸の浴室の中だった。 薄紅色の上品なタイルで覆われたそこは決して綺麗にされている。 家の外観からは想像も出来ないくらいにしっかりとしているそれは、普段から掃除されている証だろう。 水垢一つ残っていないその空間の中で、京太郎は裸になりながら、身を縮こまらせていた。 京太郎「(いや…俺にだって分かってるんだ。これが一番だって事くらい)」 実家に帰れば着替えがあるまこと違い、彼に着替えはない。 その身体を多少拭いたところで服が吸い込んだ水分が体温を奪っていくだろう。 それを防ぐ為にもとっととそれを脱ぎ去って、風呂で身体を温めるべきなのは理解できていた。 しかし、異性である先輩が日常的に利用している浴室だと思うとどうにも場違い感は拭えない。 そうやって先を譲ってくれたまこに押し切られた事も含めて、どうしてこうなってしまったとついつい思ってしまうくらいに。 京太郎「(とりあえず…さっさと上がらないと)」 勿論、まこは既に身体を拭いて、着替えている事だろう。 だが、それで失った体温がすぐさま戻ってくるかというと決してそうではない。 彼女もまたびしょ濡れになっていた以上、出来るだけ早くシャワーを浴びたいだろう。 そう理解しながら京太郎はぎこちなく、シャワーコックをひねり、温水の雨を降らせた。 京太郎「(あー…温かい…)」 それに身体がジュッと熱くなっていくのを感じながら、京太郎は筋肉を緩ませる。 どうやら自分の身体は思っていた以上に冷え込み、温かさを求めていたらしい。 それが一気に充足へと傾く感覚に、ついついため息を漏らしてしまう。 出来れば、ずっとこのままで居たいと思うほどの心地良さに、しかし、何時までも浸っている訳にはいかない。 そう自分を戒めた京太郎はシャワーを止め、シャンプーで髪を洗い始める。 京太郎「(まぁ…髪は良いんだけれどさ…)」 程よく泡だった髪を再び温水で洗い流した京太郎。 その前に現れるのは青とオレンジの2つのスポンジであった。 明らかに別の用途に使われているであろうそれに京太郎は逡巡を覚える。 勿論、それは彼がどちらを使って良いかが分からなかったからだ。 京太郎「(…このどちらかを先輩が使っているんだよな…)」 恐らくその二つは女性と男性とで使い分けされているものなのだろう。 しかし、その色からはどちらがどちらなのかまったく想像がつかない。 一般的に青と言えば男性用のイメージではあるが、決して女性が使わないという訳ではないのだから。 オレンジもまた中性的な色で、男女どちらが使っていても決しておかしくはない。 京太郎「(い、いや…勿論、変な意味じゃない。意味じゃないんだけどさ!)」 しかし、普段はサバサバとした先輩に停留所でドキリとしてしまった所為だろうか。 そのどちらかをまこが日常的に使っていると思うと、妙にドキドキしてしまう。 それと同時に京太郎の脳裏に浮かんでくるのは、それで珠の肌を磨いているまこの姿だ。 まるで尊敬する先輩を自分で穢すようなその想像に自己嫌悪を浮かべながらも、京太郎の頭からそれが消える事はない。 まこ「湯加減はどうじゃ?」 京太郎「うわぁ!?」 だからこそ、唐突に扉越しに話しかけられたまこの言葉に、京太郎はオーバーなリアクションを返してしまう。 浴室内に響くそれはキンキンと京太郎の耳を慣らし、微かな不快感を沸き上がらせた。 しかし、それさえも気にならないくらい、今の京太郎は狼狽し、そして混乱している。 もしかして、自分の妄想のことがバレてしまったのではないだろうか。 そんなあり得ない想像すら沸き上がらせ、京太郎はその身を硬く強張らせる。 まこ「どうした?」 京太郎「い、いや、なんでもないです」 そんな京太郎の感情など露ほども知らないまこは曇りガラスがはめ込まれた扉の前でそっと首を傾げた。 幼い頃から雀荘にかようあけすけな年頃の男性 ―― 所謂、おっさんに接してきた彼女はある程度、シモネタに強い。 しかし、その半面、彼女は青少年と呼ばれる年頃の男性に対して、接した経験が殆どないのだ。 自然、思春期の男子特有のドキドキ感を理解する事は出来ず、その思考は虚しくから回る。 まこ「(まぁ、他人の家の風呂って言うのは緊張するもんじゃしな)」 そう結論づけながら、まこはそっと扉の横にパネルに目を向けた。 そこには彼女の父好みの高めの温度が設定されている。 まこもまたそれに慣れているとは言え、もしかしたら京太郎には辛い熱さかもしれない。 まこ「もうちょっと温めの方がええか?」 京太郎「いや…実はまだ浸かってなくて…」 まこ「なんじゃ。遠慮しとるんか?」 京太郎「ま…まぁ…それもあると言いますか…」 そう思ったまこの疑問に、京太郎は要領を得ない言葉で返す。 まさか二つのスポンジのどちらかをまこが使っているか分からないから手が止まっているだなんて言えないのだ。 しかし、ここでまこが来てくれたのは、千載一遇の好機である。 湧き上がる羞恥心にヘタレそうになる自分にそう言い聞かせながら、京太郎はゆっくりと口を開いた。 京太郎「えっと、つかぬ事をお聞きしますが…」 まこ「ん?」 京太郎「俺はどっちのスポンジを使えば良いんでしょう…?」 まこ「あっ」 京太郎の言葉にようやくまこは彼の躊躇いの理由を知った。 そう言えば伝えていなかったと今更ながらに思いながら、まこは肩を落とす。 それは勿論、性差に関してあまりにも疎い自分に対して、自嘲を覚えたからである。 結果、京太郎にかかさなくても良い恥までかかせてしまった。 そんな後悔に浸ろうとする心を感じながら、まこはそっと首を振るう。 まこ「(そういうのが自信がないってゆわれる所以なんじゃ)」 勿論、後悔を忘れてはいけない。 しかし、失敗に一々、自嘲を覚えていればその分、歩みは遅くなってしまう。 折角、変わるように頑張ると言ったばかりなのに、こんな事ではいけない。 そう自分を戒めながら自嘲を振り払ったまこは、彼に応えるべく口を開いた。 まこ「オレンジの方を使えばええ」 京太郎「うっす。了解です」 そう応える京太郎の声には安堵が強く現れていた。 本格的に分からなければ最終手段として自分の手を使うつもりだったが、それはいい気分ではない。 正直、ヌルヌルした自分の手が身体を這いまわると想像しただけで、妙な吐き気を覚えるくらいだ。 そんな彼にとって、スポンジの使用許可が降りた事はかなり有難い。 まこ「後、ぼちぼち浸かってええぞ」 京太郎「いや、でも…」 まこ「風邪でも引かれたら大変じゃしな」 しかし、次いで放たれたまこの言葉に京太郎はありがたすぎて遠慮を覚えてしまう。 勿論、シャワー程度では冷えた身体は温まり切らず、湯船にゆっくりと浸かりたいと思っているのは事実だ。 だが、自分の後ろにはまだまこが身体を冷やして待っているのである。 それを知りながらも、一人だけじっくりと浴槽に使っている訳にはいかない。 元々、ここはまこの家の浴室だという事もあって早めに明け渡したいというのが京太郎の本音であた。 まこ「後、着替えここに置いとくぞ」 京太郎「あ…ちょ…っ!」 そんな彼の返事を聞かず、まこはそっと脱衣所のカゴに着替えを置いた。 父のパジャマから拝借したそれは比較的がっちりとしている京太郎の体格でも大丈夫だろう。 まぁ、大丈夫でなければ、また次のヤツを見繕って来れば良い。 そう判断しながら、まこはそっと京太郎の服を掴み、洗濯機へと放り込む。 まこ「元の服は乾燥に回すしもうちょい待っとれ」 京太郎「え……?」 そのまま手慣れた様子で脱水を選択するまこの言葉に、京太郎は驚きの声を返す。 何せ、それは自分の服を、まこが手にとった証なのだから。 勿論、そこにはさっきまで自分が履いていたトランクスも入っているだろう。 異性の先輩に下着を見られたというショックは、健全な男子高校生にとってはあまりにも大きすぎるものだった。 まこ「じゃ、ゆっくりな」 そう言って脱衣所から出て行く彼女には狼狽はない。 忙しい両親に変わって洗濯をする事も多い彼女にとって、それはただの布なのだ。 父親のものと何も変わらず、普通に洗濯槽へと入れる事が出来たのである。 勿論、まったく意識していない訳ではないが、それは京太郎のものよりも遥かに弱いものであった。 京太郎「うあー…」 そんな彼女とは対照的に、ショックから立ち直った京太郎の心は羞恥心で一杯だった。 一体、これからどんな顔をしてまこに会えば良いのか分からないくらいである。 勿論、まこが平常運転であった以上、変に意識してしまう方がおかしいのだろう。 だが、胸に湧き上がるそれらはどうしても彼の意識をかき乱し、顔を赤く染めるのだ。 京太郎「(とりあえず…とっとと身体を洗おう…)」 このまま上がってしまったら、折角、用意してくれた着替えまで汚してしまう事になる。 そちらへと京太郎は意識を動かしながら、ゆっくりとスポンジで身体を洗っていく。 しかし、その最中も、下着を見られた恥ずかしさが胸をつき、時々、腕が止まってしまう。 結果、彼が身体を洗い終え、浴槽に身を浸した頃には普段の数倍もの時間が経過していた。 京太郎「はぁ…あぁ…」 そんな彼にとって幸いだったのは、熱めに沸かされた風呂が身体に良く効いた事だろう。 シャワーのそれとは比べ物にならないほど身体があたたまるその感覚に彼は羞恥心を忘れる事が出来た。 そのまま浴槽に背を預けながら、天井を見上げた彼は、ほぅと熱いため息を吐く。 倦怠感混じりのそれお湯の熱さに身体から疲労が抜けている証だろう。 それにまこに一つ感謝の感情を抱きながら、京太郎は内心で100を数え始めた。 京太郎「はぁ…さっぱりした」 風呂から上がった頃には、京太郎の身体はもう十分温まっていた。 ポカポカと熱が肌の下で蠢き、心地よさがジィンと広がっている。 ついさっきまで震えそうなほど冷えていたとは思えない温まった身体を、京太郎は丁寧に拭いていく。 勿論、下手に時間を掛けた以上、今すぐ出て行ってまこと後退してやりたいが、彼は着替えを貸してもらう側なのだ。 下手に濡らして汚す訳にはいかないと逸る気持ちを抑えながら、京太郎は身体から水気をタオルへと移す。 京太郎「(で…着替えは…多分、これか)」 そうやって身体を拭き終わった京太郎の視界に映ったのは群青色の甚平であった。 これからの時期にはぴったりなそれは見るからに涼しげで、どことなく情緒のようなものを感じさせる。 腕を通してみたが、体格もそれほど違いはなく、鏡の中の自分は特に違和感のないものであった。 これからの時期だと意外と部屋着として甚平を使うのも良いかもしれない。 そんな事を思いながら、京太郎はそっと脱衣所の扉を開き、まこが待ってくれているであろうリビングへと足を踏み入れた。 京太郎「すみません。お待たせしました」 まこ「おう。あがったか」 京太郎がリビングに入った時、彼女はキッチンで鍋をかき回している最中だった。 しかし、まだ夕食を作るのには時間が早く、まことて今すぐ風呂に入りたい状況のはずである。 料理の準備ならばまだしも、そうやって鍋をかき回すほど本格的なものは作れないはずだ。 一体、何をしているのだろうと首を傾げながら、京太郎がそちらへと近づく。 まこ「ん?なんじゃ。気になるんか」 京太郎「えぇ…まぁ…」 まこ「ふふ…じゃあ、好きな方を選ばええ」 京太郎「…選ぶ?」 そう言いながらまこの手元を覗きこんだ彼の視界に二つのパックが目に入る。 ぐつぐつと煮えたぎるお湯の中で微かに動くそこにはキノコ雑炊という文字と、卵雑炊という商品名が書いてあった。 どうやら、まこは夕食を作っていた訳ではなく、お互いの身体を温める為の間食を用意してくれていたらしい。 気遣いの仕方に隙がない彼女に京太郎は感心とも感謝とも言い切れない感情を抱いた瞬間、まこがそっと彼の脇を通り過ぎる。 まこ「時間も時間じゃし、腹も減っとるじゃろ」 京太郎「あ…はい」 実際、京太郎の身体はそれなりに食べ物に飢えていた。 スイーツパラダイスでお腹一杯にはなったものの、冷えた身体を温めるには新しくカロリーが必要であったのである。 勿論、夕食もあるので本格的に食べる訳にはいかないが、ちょっとだけ口寂しい。 それを満たすには目の前の雑炊のレトルトはまさに最適と言っても良いものだった。 まこ「それじゃわしゃぁ風呂に入ってくるが…覗くなよ?」 京太郎「覗きませんよ」 さっきはドキドキしたものの、京太郎にとってまこは異性である以前に先輩だ。 その上、先に風呂を譲ってもらったり、食事まで準備してもらったりと良くしてもらっているのである。 そんな彼女の入浴を覗くだなんて、恩をアダで返すような真似は出来ない。 それこそ不遜であるという感情さえ抱きながら、京太郎は首を横へと振った。 まこ「なんじゃ残念」 京太郎「えっ?」 しかし、そんな京太郎に帰ってきたのはまこの意外な言葉であった。 まるで自分が覗いて欲しいと言うようなそれに彼の胸はドキリと跳ねる。 彼の意識がどうであれば、既にその身体はまこの事を異性として認識し始めているのだ。 その艶やかな髪に水気を乗せて、唇を尖らせるその姿に妙な期待と興奮を覚えてしまう。 まこ「それを弱みに一生こき使ってやれると思うたのに」 京太郎「俺は今、絶対に染谷先輩が入浴してる場所には近づかないと心に決めました」 だが、その期待はまこの言葉であっさりと霧散し、散り散りになってしまう。 それを肌で感じながら、京太郎はそっと肩を落とした。 勿論、それが冗談であるという事くらい、意識は理解していたのである。 だが、それでも根が青少年である彼はほんの少しだけ期待していたのだ。 そんな純情を弄ぶようなまこのそれに徒労感めいたものを感じてしまう。 まこ「(ま…まぁ…そうなるわなぁ…)」 そんな彼にクスリと笑いながら、彼女の内心は複雑なものだった。 勿論、京太郎に覗いて欲しくてそんな事を言った訳じゃない。 それは単純にいつも通りのやりとりがしたくて放った言葉なのだ。 しかし、それでもまったく狼狽を浮かべない彼に肩すかしめいたものを感じてしまう。 それは何だかんだ言いながらも、自分が女性として意識されている事をまこが望んでいたからだ。 まこ「(仕方ない。だって、わしゃあ…こんなんじゃしな)」 その感情はまだ決して大きなものではない。 寧ろ、それ本来が持つイメージとは裏腹に、まこの感情は小さく、まだ根を張り始めたばかりだ。 しかし、今日一日で、京太郎という後輩のイメージを見つめなおした彼女にとって、それは決して無視出来るものではない。 彼もまた自分と同じように意識してくれたら良いと、まこはそんな風に思い始めていたのだ。 まこ「とにかく…行ってくる。雑炊は好きな方を適当に皿に移して食べてええ」 京太郎「分かりました。ありがとうございます」 そんな感情から逃げるように、まこはそう言いながら背を向ける。 その背に御礼の言葉を放つ後輩に手を振りながら、彼女は脱衣所へと逃げ込んだ。 瞬間、そっと肩を落とす理由に、まこは未だ気づいては居ない。 さっきの自分が胸中に浮かべたそれもからかいがいのない後輩に対するものだと思い込んでいる。 しかし、彼女の心は明確に変化し、その色を変え始めていた。 まこ「(意外と…甚平似合っとったなぁ…)」 その手で自分のパジャマを脱ぎながら、まこが脳裏に京太郎の姿を真っ先に思い浮かべるのもそれが理由だ。 金髪で軽そうな外見をしているのに、群青色のそれは意外なくらい彼の顔立ちに合っている。 彼自身の体格が良く、また肉付きもしっかりしているという事も無関係ではないのだろう。 薄布から見える引き締まった身体は、彼には希薄な男性的雰囲気を強めていた。 その上、普段よりも少しは真面目そうに見えるのだから、見慣れているまこの目から見ても格好良く思える。 まこ「(それに比べてわしは…)」 パジャマを脱ぎ去ったまこはそっと洗面台の鏡と向き合った。 そこに居たのはすっきりとした顔立ちの美少女である。 そのスタイルも細身でありながら、意外と出るところは出ていた。 勿論、巨乳というほどではないにせよ、標準くらいはあるだろう。 普段から実家の手伝いをして動き回っているそのウェストはキュっと括れ、腰に向けて緩やかなカーブを描いていた。 決して女性的ではないにせよ、女性らしい身体つき。 けれど、まこはそれを認める事がどうしても出来なかった。 まこ「(なーんも面白味のない…)」 女性としては間違いなく及第点をつけられる自身の身体。 だが、それを素直に受け止める事が出来ないのは身近に久や和と言った魅力あふれる同性がいるからだろう。 久のように蠱惑的な足や、和のように豊満なバストを持っていない自分がまこはどうにも劣って見えるのだ。 勿論、そんなものなどなくてもまこの身体は高いレベルで完成されており、男に欲情を与える事だろう。 だが、そうやって裸を見せる相手などいない彼女にとって、それはまったく未知のものであるのだ。 まこ「(とりあえず…入るか)」 何時までも自分とにらめっこしている訳にはいかない。 そうやって見つめ合っている間に自分の身体が魅力的になるならまだしもそんな事はないのだから。 それに飄々としているものの、まこの身体は未だ冷えているままなのだ。 べたついた感覚もまだ肌に残っているし、さっさとシャワーを浴びたい。 そんな欲求に従って、まこは浴室の扉を開き、中へと一歩踏み出した。 京太郎「んー…旨ぇ…」 そんなまこの様子など欠片も知らない京太郎は一人リビングで座り、雑炊へと舌鼓を打つ。 丁度良い感じに出汁が効いたそれは、温まった身体をさらに温めてくれるものだった。 お陰でじっとりと肌に汗が浮かぶが、それは決して不愉快ではない。 実際、彼はその感覚に怯む事はなく、一皿分の雑炊をあっという間に完食して見せた。 京太郎「(まぁ…問題は…だな)」 それをシンクへと運び、手慣れた様子で洗いながら京太郎は考える。 既に雑炊を平らげてしまった以上、彼にはもうやる事がないのだ。 勿論、リビングにはテレビがあり、それをつけていても、きっとまこは許してくれるだろう。 だが、先輩の実家で一人テレビをつけてそれに没頭出来ないくらいには、京太郎はまこに敬愛の感情を抱いていた。 京太郎「(つっても…何をやるよ)」 京太郎たちが走って抱えてきた荷物は、既にまこの手によって水気を拭き取られ、大事そうに置いてある。 コンビニで買ったレインコートも玄関に干され、きちんと処理されていた。 自分が風呂でゆっくりとしている間に、するべき事を終えてくれたその手際の良さに京太郎は幾度となく助けられている。 しかし、今だけはそれが恨めしくなるくらい、彼にはやる事がなかった。 京太郎「(つか…今、先輩が風呂に入っているんだよな…)」 とは言え、そうやってやる事がなくなると、京太郎はそんな邪な考えを浮かべてしまう。 幾ら彼が彼女に敬意を抱いていると言っても、それはあくまでも意識レベルでの事だ。 若い本能に忠実な身体は既にまこの事を異性として認識しているのである。 自然、美少女と言っても過言ではない先輩がすぐそこで風呂に入っているというシチュエーションにドキドキしたものを感じてしまうのだ。 京太郎「(だぁ~!そういうの止めろよ…!節操ねぇんだから!!)」 そんな自分に自己嫌悪を感じるのは、京太郎には既に特別な女性がいるからだろう。 原村和というこれまた一流の美少女に、彼は懸想をし続けていた。 勿論、そういったものに疎い和にはまったく気付かれず、また部活仲間以上には意識されていない。 だが、それでも京太郎にとって和の存在は特別で、不可侵であったのだ。 そんな彼女ならばともかく、自分に良くしてくれている先輩に邪な想像を向ける自分が何とも愚かで節操なしに思えて仕方がないのである。 京太郎「(まぁ…確かに先輩は可愛いけれどさ)」 まこが思っているよりも京太郎は遥かに彼女の事を意識している。 可憐と言う訳でもなく美しいという訳でもないが、それでもまこは魅力的だ。 気心の知れた気安い関係の中、時折、恥じらいを浮かべるその姿にはギャップさえも感じる。 正直、それに庇護欲を擽られた事は、今日だけで何回もあった。 普段が頼り甲斐のある先輩であるだけに余計に顕著に感じられるそれに京太郎がどれだけドギマギしていたかまこは知らない。 京太郎「(それに…さっきのパジャマ姿も可愛かったな…)」 まこが身につけていたのは薄桃色に無地のパジャマであった。 殆ど飾り気のないそれは、サバサバしている彼女らしいと思えるものである。 だが、薄桃色という女の子らしいその色は、まこの姿を数割増しで可愛らしく見せていた。 普段は奥底に鎮めている女の子らしさを引き出すそのチョイスに、京太郎はつい可愛いと言ってしまいそうになったくらいである。 京太郎「(だー!違う!違うんだからな!!)」 再び自分の意識がおかしな方向へと流れつつあるのを悟った京太郎は言い聞かせるようにして胸中でそう叫ぶ。 しかし、それは虚しく彼の中で響き渡り、なんら変革のキッカケにはならない。 どれだけ彼が認めまいとしても、彼は少しずつまこの事を意識し始めているのだ。 それはまだ和に対するそれよりも遥かに小さいものだが、着実に京太郎はまこの事を異性として認識し始めている。 まこ「あがったぞー」 京太郎「うへぇあ!?」 瞬間、聞こえてきた声に京太郎はビクリと肩を跳ねさせた。 そのままバッと脱衣所へと入り口を見れば、そこにはさっきと同じまこの姿がある。 しかし、その顔は何処かさっぱりと気持ち良さそうなものへと変わっていた。 何より、その肌は急速に温まった所為か紅潮を浮かべ、何とも言えない艶やかさを演出している。 まこ「なんじゃ。人気投票一位になれそうな声をあげて」 京太郎「な、何でもないです!!」 そのまま首を傾げるまこの首元は何とも緩い状態であった。 風呂で温まった所為か、数段開いているそこはもう少しで谷間が見えてしまいそうである。 肌が紅潮し、髪が濡れる湯上がりの状態だけでも青少年にとっては目に毒なのに、何とも緩いその胸元。 そこから急いで目を背けながらも、京太郎の記憶にその光景は既に記録されてしまっていた。 京太郎「(そ、それに…なんでブラつけてないんだよ…!!)」 勿論、ついさっきまでまこも一応、ブラはしていた。 しかし、風呂あがりの熱い状況に一々、そんなものはしていたらすぐに痒みを覚え、汗疹が出来てしまう。 それを防ぐ為に、まこは普段から風呂から上がってすぐにはブラをつけないようにしていた。 そんな習慣そのままに出てきてしまった彼女のパジャマには今、微かにその突起が浮かび上がっている。 まこ「ん?」 そんな京太郎の様子にまこはそっと首を傾げた。 ついさっきまでまったく自分を意識していなかったはずの後輩の姿が何となく引っかかるのである。 しかし、まさか自分がブラを忘れて乳首を浮かばせている所為で、京太郎が恥ずかしがっているだなんて彼女は露ほどにも思わない。 これまで異性の前で風呂から上がってきた事のない彼女にとってそれはあくまで何時もの事であったのだ。 京太郎「せ、先輩…その…」 まこが一体、どういう意図を持っているのか京太郎には分からなかった。 また自分をからかっているのかもしれないし、まったく意識されていないだけなのかもしれない。 しかし、それでも今の無防備すぎるまこの状態は決して看過して良いものではないだろう。 少なくとも自分にとってそれが刺激的過ぎる事くらいは伝えなければいけない。 そう思って京太郎は口を開くものの、そこから言葉が出てくる事は中々、なかった。 京太郎「う…あ…その…」 まこ「???」 そのまま口ごもる京太郎の前で、まこはそっと首を傾げた。 瞬間、京太郎の視界の端で、プルンと柔らかな何かが揺れるのが見える。 まこの細身な身体の胸元で自己主張をしたそれは、勿論、彼女の乳房だろう。 そう思っただけで顔を真っ赤に染めてしまう初心な京太郎は大きく深呼吸をしながら、ゆっくりと口を開いた。 京太郎「あ、あの…う、浮いてるんですけど…」 まこ「…え?」 その言葉に、まこがピシリと硬直するのは、彼女がそれを完全に誤解したからだ。 浮いているという言葉でまこが真っ先に連想するのは、自分の格好の事だったのである。 精一杯の少女趣味とオシャレを兼ねて、買ったそのパジャマが似合っていない。 恐らく京太郎はそう言いたいのだろうと判断したまこの顔が引きつり、気分が昏く落ち込んでいく。 まこ「そ、そんなに浮いとるんか…?」 京太郎「い、いや…そこまではっきりしてる訳じゃないですけど…でも、見れば分かるなって…」 そして勿論、そんなまこの誤解を京太郎は知らない。 自分が主語を抜いてしまった所為で、勘違いをさせてしまった可能性など彼には考える余裕などないのだ。 見た目は遊んでいるように見えて、その実、京太郎は初心で、性的な経験も一切ないのだから。 そんな彼にとって異性の乳首が浮き上がっていると伝えるだけで頭が一杯になってしまうのである。 まこ「そ、そうか…大丈夫だと思うとったんじゃが…」 京太郎「え…い、いや、それは(俺が)きついっすよ」 まこ「ぐっ…」 そんな遠慮のない後輩の言葉がまこの言葉に突き刺さる。 精一杯の趣味を満たそうとしたその格好を根本から否定するそれに思わずよろめいてしまいそうになった。 それを歯を食いしばる事で堪えながら、まこは大きく深呼吸する。 いきなりの新事実にショックを受けているのは確かだが、それはこのままにはしておけない。 どうせならば問題解決の為にもう一歩踏み込もうと、まこはゆっくりと口を開いた。 まこ「じゃあ…どういうのがええんじゃ?」 京太郎「え?」 まこ「…どういうんだったらわしに似合うと思う?」 そう京太郎に尋ねるまこは既に冷静ではなかった。 何とか狼狽を表に出す事は堪えているものの、その内心はショックと恥ずかしさで滅茶苦茶だったのである。 だからこそ、彼女は普段であれば、絶対に聞かないであろう言葉を口にしてしまう。 ともすれば八つ当たりにも取られかねない詰問であり、また論理的ではないものだと言う事に動揺した彼女は気づいていなかった。 京太郎「え、えぇっと…」 しかし、そんな彼女の問いを、京太郎はまた大きく取り違える。 頭の中がブラの有無で一杯になった彼にとって、彼女がブラの事を尋ねていると勘違いしたのだ。 とは言え、男である彼がまこに対して何かアドバイス出来るはずがない。 そう言ったものとは縁遠い人生を送ってきた彼にとって、オススメのブラなんて言えるはずがなかった。 京太郎「さ、サイズさえ合っていれば大丈夫なんじゃないですかね…?」 まこ「さ、サイズが合っとらんのか…?」 京太郎「合っていないどころか…無いっていうか…」 まこ「ぐふ…」 後輩のその言葉を自分のセンスを貶めている言葉だと理解したまこの口からついに苦悶の声が漏れる。 そのままガクリと崩れ落ちる膝が、彼女のダメージを何より如実に物語っている。 しかし、京太郎にはそれが一体、どういう事なのかまったく理解出来なかった。 彼からすれば、まこのブラがない事を指摘しただけなのだから。 恥ずかしがるならともかく、こんなにもショックを受ける姿を見るだなんて想像してもいなかったのである。 京太郎「だ、大丈夫ですか染谷先輩!?」 まこ「う、うん…大丈夫。大丈夫じゃ…」 そんな後輩の気遣うような言葉に、まこは何とか自分を取り繕う。 しかし、その内心は、最早、泣きそうなもので溢れていた。 もしかしたらさっきのワンピースも内心、似合っていないと思われていたのかもしれない。 いや、それ以前に久をはじめとする友人たちにも迷惑をかけ続けていたのではないだろうか。 過去に遡ってまで後悔を覚える彼女の目尻がじわっと滲み始めた。 京太郎「(え…えぇぇぇぇ!?)」 勿論、それに一番の困惑を覚えるのは京太郎だ。 まさかブラがないという事が泣くほどショックを受けるだなんて一体、どういう事なのだろう。 それに違和感を感じながらも、彼の意識は目の前で瞳を潤ませるまこの方へと引きずられていった。 今にも泣き出しそうな彼女に一体、何を言えば良ってあげれば良いのか。 混乱する頭の中で必死でその答えを求めた京太郎はある言葉へと辿り着く。 京太郎「だ、大丈夫ですよ!そういう趣味もありますよね!!」 まこ「ふ…ふぇぇ…」 結果、それがまこへのトドメとなった。 ギリギリであった涙腺を一気に爆破するそれにまこは子どものような声をあげながら涙を漏らす。 それを手の甲でグジグジと拭う彼女に、京太郎はさらなる困惑を驚きを覚えた。 そうやって露出する趣味まで肯定したのに一体、どうすればよかったのか。 胸を突くような良心の痛みと後悔にそう思いながら、京太郎は再び言葉を探す。 まこ「う…うぅぅ…」 京太郎「(どうすりゃ良いんだよおおおぉぉ!)」 けれど、何を言ってもまこを追い詰める言葉にしか今の京太郎には思えない。 そもそも彼女がどうしてそこまでショックを受けているのかさえ彼には理解出来ていないままなのだ。 そんな彼に出来る事と言えば、泣きじゃくるまこが落ち着くのを狼狽しながら待つ事だけ。 それに無力感を感じながらも、下手をすればまた追い詰めるだけなのかもしれないと思うと何も出来なかった。 まこ「ふ…ぅ…すまん…見苦しいところを見せた…」 京太郎「いえ…」 数分後、まこも落ち着きを取り戻し、そうやって言葉を紡ぐ事が出来た。 しかし、それで全てが元通りになるかと言えば、決してそうではない。 二人の間には気まずい雰囲気が流れ、何ともぎこちない状態になっている。 お互いに自分が悪いと思い込んでいる二人はチラチラと相手の事を伺いながらも何も言えない。 一体、どう話を切り出すべきなのか、それともさっきの事は完全に忘れてしまうべきなのか。 困惑の中、その選択さえ出来ない二人は、牽制するようにお互いに視線を贈り合う。 まこ「(う…ぅぅ…き、京太郎の前で泣いてしまうだなんて…)」 そんな中、まこが思い浮かべるのは、さっきの自分の失態の事だった。 自分のセンスを全否定されたとは言え、あそこで泣いてしまうのはあまりにも子どもっぽ過ぎる。 それは微かに芽生えた気になる異性としての意識がそうさせたのだが、彼女はまだそれには気づいていない。 それほど自分がショックを受けた理由に、余裕のない彼女が思い至る事は出来ないのだ。 まこ「(と、とりあえず…何とかリカバリーせんと…)」 勿論、泣き顔を見せた程度で、自分の事を舐めるような後輩ではないとまこは知っている。 こうして休日に時間を割いてまで尽くしてくれる彼の敬意はそんなものでは薄れないだろう。 だが、それは自分の中のプライドが無事であるという事は決して=ではないのだ。 このままでは自分はもう二度と先輩として京太郎に接する事が出来なくなってしまう。 それだけは防がなければいけないと、まこは必死に言葉を探した。 まこ「そ、その…な。さっきの事なんじゃが…」 京太郎「え、えぇ…」 まこ「えっと…ごめんな。わしはええと思うとったんじゃが…迷惑かけてたみたいで」 ポツリポツリと漏らすその言葉に、京太郎はズキリと胸が傷んだ。 確かに狼狽したのは事実ではあるが、迷惑だなんて事はない。 精々、驚きと気まずさを覚えただけで、何か傷ついた訳でもないのだから。 それよりも過剰に反応し、まこを泣かせてしまった自分の方が遥かに迷惑だっただろう。 そう思いながら、京太郎は首を横に振り、口を開いた。 京太郎「いや…良いんですよ。俺も意識し過ぎていました」 そうやってまこが下着で出てきたのも、全ては自分を異性として意識していない証拠だ。 それを何だかんだと真っ赤になって指摘し、意識してしまった自分がこの騒動の元凶なのである。 全ては自分がまこの趣味を許容出来る程度の器か、意識しないくらい強固な理性があれば済む話だった。 そう結論づける京太郎は自嘲気味に肩を落とし、まこをじっと見据える。 京太郎「考えても見ればここは染谷先輩の実家ですし…下着身につけないのくらい普通ですよね」 まこ「へ…?」 ようやく京太郎から漏れでた事の核心を突く言葉。 それにまこが間抜けな声をあげて、再びその身体を硬直させる。 まるで身体を動かす力全てを思考へと回すようなその身体の中で、彼女の脳がフル稼働した。 麻雀をしている時と大差ないほどにニューロンを活性化させるそれは数秒後、視線を下へと向けさせる。 まこ「~~~~~っ!!!!!」カァァァ 瞬間、首元から真っ赤に染まったまこはバッと自分の胸元を隠した。 今更、そんな事をしても遅いと理解しながらも、彼女の身体は反射的に動いていたのである。 しかし、それと同時に湧き上がる羞恥の波が、彼女の心へと打ち寄せ、ただでさえ少ない平静さを失わせた。 結果、理性という留め具を外した彼女を身悶えさせる羞恥心は誤解させた京太郎への怒りへと変わり、その左手を振り上げさせる。 まこ「さ…最初から…!」 京太郎「…え?」 まこ「最初からそう言わんか馬鹿ぁああっ!」 京太郎「たわばっ!」 そのままビタンと叩きつけられた一撃に京太郎の首がグルンと回る。 瞬間漏れ出す悲鳴のような声を聞いても、まこの心は収まらない。 怒りと羞恥心は未だ彼女の胸を突き、心を揺さぶり続けているままなのだ。 まこ「(あぁぁ!もう!もうっ!!)」 勿論、まことて分かっている。 確かに京太郎は言葉足らずではあったが、誤解した自分にも責任があるという事を。 寧ろ、事態をややこしくしたのが自分であるという認識も彼女の中にはあったのである。 だが、それでも泣き顔とパジャマから浮き上がる乳首を見られてしまったという羞恥心が、それらを全て遮っていた。 まこ「う…うぅぅ…」 しかし、それだって何時までも続かない。 時間が経つ毎に少しずつ冷静さを取り戻したまこは、ゆっくりとその唇からうめき声をあげる。 そのままチラチラと京太郎を見つめる目には自責と自戒のものが強く浮かんでいた。 そして、それは彼の頬にピッタリと張り付いた真っ赤なモミジを見る度に、さらに強くなっていく。 京太郎「あー…なんか…すみません」 まこ「い、いや…京太郎は何も悪ぅないじゃろ…わ、悪いのはわしじゃ」 そんな彼女に謝罪の言葉を漏らす京太郎にまこはそっと首を振った。 ようやく口に出来たその言葉に、彼女はほんの少しだけ心が軽くなったのを感じる。 しかし、そうやって非を認めたところで、自分のやった事が帳消しになる訳ではない。 そう思う彼女の中では未だ、自責の感情が湧き上がり、その表情を落ち込ませていた。 まこ「勝手に誤解して…泣いて…張り手まで…本当にすまん…」 京太郎「あー…」 そのままシュンと肩を落とすまこは再びその顔に泣きそうなものを浮かべ始めていた。 どうやら、先輩は本気でさっきの事を後悔しているらしい。 それを感じさせる姿に京太郎は必死になって言葉を探した。 今度こそ、まこを元気づけられるような…そんなものがどこかにあるはず。 そう必死に脳細胞を活性化させる彼に、一つの答えが見つかった。 京太郎「…それじゃお詫びとして麻雀教えてくれません?」 まこ「え?」 京太郎のその言葉に、まこがそっと顔をあげた。 それは勿論、この場には決して相応しくはない言葉だったからである。 そんなもの先輩として言われずともやるつもりだったのだから。 少なくともお詫びとして求められるそれは相応しくはない。 そう思う彼女の前で京太郎はそっとテーブルの上の袋を掴んだ。 京太郎「どうせ服が乾くまで暇ですし…それに丁度、教本もあるじゃないですか」 まこ「あ…」 そう言ってウィンクする彼に、まこはそれが気遣いである事を知った。 何とも不器用で遠回しなそれに彼女の表情も少しだけ綻ぶ。 勿論、気分そのものが上向いた訳ではないが、彼からお詫びを求められた事で幾らか気も楽になったのだろう。 そんな風に自己分析が出来た頃には、彼女は悩んでいた自分が馬鹿らしくなり、そっと笑みを浮かべた。 まこ「…はは。まったく…馬鹿」 京太郎「いやぁ…割りと常日頃から実感しております」 まこの言葉に後頭部を掻くのは、こうした失敗が初めてではないからだ。 幸いにもアルバイト中にやらかした事はないものの、日常から細かいケアレスミスと言うのは多い。 それが分かっているのに中々、直せない自分に自嘲を覚えながら、京太郎はそっと目を背ける。 まこ「まぁ…折角のお詫びなんじゃし…ビシバシ行くぞ」 京太郎「お、お手柔らかにおねがいしますね…?」 まこは先輩としてほぼ理想的な要素を兼ね備えたタイプだ。 物事は順序立てて教えるし、後輩の質問には嫌な顔一つせずに答えてくれる。 失敗した時のフォローも上手く、ただ叱るだけの後処理はしない。 だが、それは決して、彼女がスパルタでない事を意味しないのだ。 本気になったまこがどれだけ厳しいかとバイト中に嫌というほど知っている彼は思わず表情を強張らせる。 まこ「それじゃ…着替えてくるからちょっと待っとれ」 京太郎「うっす」 そのまま自分に背を向けるまこに京太郎はそっと肩を落とした。 その仕草には特に違和感はなく、彼女がそれほど深く自分を責めている訳ではない事が分かる。 少なくともさっきのように泣き出すような事はないようだ。 それに一つ安堵した瞬間、まこの顔がそっと振り向き、その唇をゆっくりと動かす。 まこ「あ…後…あ、有難う…な」 京太郎「え…あ…」 そのままポツリと言葉を漏らしながら去っていく先輩に京太郎は何も言えなかった。 それは勿論、逃げ去るように脱衣所へと戻るまこの動きがあまりにも早かったからではない。 微かに振り向いたまこの顔が気恥ずかしさで紅潮するそれにドキリとし、そして見惚れていたからである。 京太郎「(…やっばいよなぁ…)」 停留所で雨宿りしていた時とは明らかに毛色を変えつつある自分の感情。 それをここで自覚した京太郎はそっと肩を落とした。 しかし、やばいと思いながらも、彼の頬は明らかににやけている。 実際、去り際の彼女は良い物を見れたと思うくらいに可愛らしく、そして魅力的だったのだ。 未だ彼の脳裏に焼き付くその姿は彼の表情筋を緩ませ続け… ―― ―― 数十分後、それを与えたまこ自身の手によって、それは苦悶のものへと変えられたのだった。 前話
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今でもその日の事は昨日の事のように思い出せる。 酷い豪雨の日だった。その記録的な降水は周囲を走る車の音すらかき消して、その一帯を雨の音で埋め尽くす程だった。 外に出た人が傘もなしでは目を開いて歩くことすら適わないと言う。 そんな日にとある病院の中で雨に負けない程大きな声を産声をあげたものがいた。 分娩台の上で母親は、泣きじゃくる赤子を抱える。 生まれたばかりの子供は弱い力で母に触れ、己の存在を示すかのように泣き叫んだ。 それは生まれてきた事に対する歓喜の叫びとも生きることへの恐怖への嘆きとも取れる声だった。 母は赤子を落とさないように包むようにして抱える。 少しでも力を緩めたら落としてしまいそうに思えたからだ。 「大丈夫、大丈夫だよ」 痛みを与えず、安心出来るように自らの子の生を祝福する。 赤子は落ち着き、泣くのをやめる。 その姿を見て私は思ったなんと赤子とは弱いものだろうか…。 ほんの小さな悪意、それからも身を守る手段を持たない。誰かが守ってあげなければ、すぐにでも生まれたばかりの命は尽きてしまうのだ。 少し落ち着きを取り戻し眠りに付く自分の子を見て母は愛おしく思った。 これが罪の始まり…。 愛する事が子のためだと信じた贖いきれない罪の始まり。 私達はあの目の存在を知らないから生きていられる。 あの目の存在を知ってしまったらきっと私達は生きている事ができなくなる。 何故、私はあの目を見てしまったのだろう。何故、私は目を調べようとしてしまったのだろう。 目だ、目がこちらを見ている。目が…目が…。 史竹幸三郎『遺書』最後の1文。 CR 5章 『その日は雨が降っていた』 -1- 第三の騎士 「S-22メインシステムスタンバイモードからアクティブモードに移行。再度システムチェック。」 秋常譲二はS-22ドライリッター胴部にある人が一人やっと入れるほどの狭い操縦ブロックの中でそうメインシステムに向けて音声入力を行う。 譲二のつけるゴーグルに走る文字列はS-22の各部に問題がない事を報告する。 それを確認した後、一息を吐いた後スピーカーから男の声が出力される。 「こちらCMBU司令部からドライリッターへ、聞こえているか?秋常譲二?」 「こちらドライリッター、聞こえている。機体のチェックも終了、問題はない、もうじきシステムも完全に再起動する筈だ。」 「そうかそれは僥倖だ、さて、作戦を始める前にセレーネ女史から君に直接激励の言伝をしたいと承っているのだが受けてくれるのかね?」 「セレーネが?」 譲二は顔をしかめた。 そして、少し考えた後諦めたように言う。 「作戦前だ。手短に頼むと伝えてくれ。」 「了解した、今つなぐ。」 電子的な雑音が発生し、その後、スピーカーから先ほどとは違う女性の声が盛れる。 「あーあー、聞こえてる?聞こえてるかな?譲二?」 「ああ、聞こえてるよ、セレーネ、今作戦前だが何のようだ?」 ぶっきら棒に答える譲二にセレーネ・リア・ファルシルは少し関しそうな声色で、 「何のようだ?ってそれはないんじゃないかね、仮にも君のフィアンセである事の私に向かって…。」 むくれたようにして言うセレーネに譲二はため息を吐く。 「別にあんたとそういう約束をした覚えはない。そういう話をしたいなら、帰ってからで充分だろう?」 「そうすると君はすぐ逃げるじゃないか、今が千載一遇のチャンスなのだよ。」 「――――セレーネ。」 頭に手を当てて咎めるようにして言う譲二。 それに対して笑うセレーネ。 「すまなかった、少し弄ってみたくなったんだ。それでは本題に入ろうか…。」 「作戦開始10分前だ、手短に頼む。」 「秋常譲二、君はこの1戦にどれほどの意味があるのか正しく理解しているかね?」 そう問いかけるセレーネに譲二は黙り込んだ。 「沈黙もまた答えだ。そう、この作戦の失敗は許されない。何故ならば、この1戦がこれから人類が奴らUHと戦えるかどうかの試金石となる戦いだからだ。我々は奴らに勝つ為に採算を度外視して今君の乗っているS-22ドライリッターを作り上げた。その機体にはありとあらゆる最新鋭の技術がつぎ込まれており、それがもしあの鋼獣に対処できないのであれば、もはや我々は両手をあげて奴らに投降すること他ない。もはや我々にはあのイレギュラーな黒い機体すらないのだ。」 「――――っ。」 黒い機体その言葉に譲二は苦いものが口に広がるのを感じた。 脳裏をかすめるのは漆黒の巨体に正体不明の紅の光を纏う悪魔のような鋼機だった。 それはそれまで鋼獣に対抗できる唯一であり、そして譲二からしてみれば羨望の対象だった。 「ただ勝つためだけでは駄目だ、これならば人類は奴らに対抗出来るそう思わせる説得力のある勝ち方を選ばなけばならない。いいか?今君の両肩に乗っているものは重い。」 「―――――ああ、わかってる。」 強く噛みしめるようにして頷く。 レバーを握る手に力が入る。 それに呼応するようにしてS-22ドライリッターの起動が完了する。 「だから、圧勝したまえ、君とドライリッターならば出来る筈だ。時間だ行け、英雄よ!」 譲二のゴーグルに文字列が表示される。 それにはこう書かれていた。 Anlock S-22 Takeoff. 大きな金属音が鳴り、機体は宙に放り出された。 ゴーグルがS-22のアイカメラから捕らえた映像を映す。 そこに瞳で全貌を捉えれるほど小さくなった木々や、山々、建築物などが見える。 風切音が鳴り、視界に移る風景は徐々に拡大されていく。そうS-22ドライリッターは高度1万m上空から機体ごと放り出されたのである。 譲二は落下位置の微調整をするために機体の重心を操作する。 今回の作戦では敵鋼獣が3機いるド真ん中に降下し一機で強襲をかける事になっていた。 緊張か、譲二はレバーを何度も握り直すようにしていじっていた。 一瞬の判断が全てを決めるその場へとまた足を踏み入れる。 そのことに少しの恐怖と少しの感慨が譲二にはあった。 高度が下がり、風景が狭く鮮明になる。 落下予定地点の高原では大きな火花と煙がのぼっているのを確認出来た。 敵鋼獣は犬型が3機、CMBUが率いる鋼機部隊と交戦しているのだ。 手に持ったアサルトライフルを鋼獣に向けて打つ鋼機達。 だが、その攻撃の全ては鋼獣の装甲ナノイーターで無力化され、無残にも1機、また1機とその凶牙に貫かれて破壊されていく。 その光景を目の当たりにして譲二から感じていた恐怖がなくなり別の感情が浮かび上がる。 燃え上がるような熱、全てを焼きつくす炎、人の最も強き原動力、怒りだった。 S-22ドライリッターはパラシュートを傘下させて交戦区域へと乱入する為に減速する。 そしてその真白色の機体は降下予定地に降下する。 譲二はレバー上部のアタッチメントを開きその中にあるスイッチを押した。 機体内でアラームが鳴り響く。 ――――ディールダイン炉加圧開始――全オーバーラインの接続――全駆動系供給150%――制限時間を15秒に設定 ――――『Polar Acceleration Mechanism』起動 S-22ドライリッターの額に3つ目の瞳を開き、肩部と胸部が展開する。 3体の内1体が鋼獣は急に戦場に現れた白い鋼機に気付き、すぐにその牙をもって征そうと走る。 1体がその鋭利な牙でドライリッターの鋼の体を貫こうと飛びかかる。 ドライリッターは腰にあった電装刀を抜き、それに立ち向かった。 交錯する2機、お互いが背中越しに静止する。 どちらにもダメージらしいダメージは見られずお互いの攻撃は当たらなかったかのように見えた。 鋼獣は振り返り、ドライリッターに再び攻撃をしかけようとする。 その時、鋼獣に異常が起こった。 鋼獣の視界が90度ひっくり返り、その鋼の巨体が思うように動かなくなる。 鋼獣は何が起こったのか理解できず困惑する。 それもその筈である。鋼獣の体は横一文字に切断され、上半分が大地に突き刺さるようにして落ちていたのだから…。 譲二はすぐさま残る2機の鋼獣の位置を確認する。 1機は自分に気づき迫り、1機は戦闘中であった味方の鋼機に襲いかかろうとしている。 襲われている鋼機は既に右腕と左脚を欠損しており、とても戦える状況ではない。 しかし、それを助けにいこうとすれば敵に背後を取られる事になりこちらの不利は否めない。 自身の生存を優先するならば、今迫る敵を排除した後、襲われている仲間を助けにいくとするのが正しい判断だろう。 もっとも、仲間を助けられる確率は格段に下がるのは自明の理だった。 それを認識し、 「――――決まってる!」 そう自分を鼓舞するように叫び、譲二は行動を即決する。 PAMの残り時間10秒。 ドライリッターは迫り来る敵に背を向け走り、アサルトライフルの銃口を向ける。 友軍機に牙を突き立てようとする鋼獣の顔面に弾丸の嵐が叩きつけられる。 物理攻撃を食らう特殊装甲ナノイーターがあるがゆえに鋼獣には銃弾による攻撃の効果は薄い。 だが、ドライリッターの左手に持つアサルトライフルは通常の鋼機用のものより口径が大きく、かつ対ナノイーター用の特殊弾である。 それは鋼獣に致命的な打撃を与えるほどのものではないが、その衝撃は確実に襲い姿勢を崩させた。 その間にドライリッターは接敵、即座に右手に持つ電装刀で一閃、真っ二つに叩き斬った。 PAMの残り時間4秒。 だが、それと同時に背後から飛びかかる最後の一匹。 救援に回ったがために、先手を奪われる。鋼獣の牙が迫る。 もはや振り向く時間すらない。ならばこそ、譲二は針の穴に糸を通すような集中力で、肘を後方に打ち付けた。 肘が鋼獣の顎と衝突し、その衝撃で鋼獣は吹き飛ばされた。 PAM残り時間2秒。 既に一息ほどの時間しか残っていない中でドライリッターは身を翻し疾風の如く駆ける。 鋼獣は倒れた体を起き上がらせながら敵を見る。 しかし、立ち上がった時既に眼前にギロチンを振り下ろす処刑人のようにドライリッターが電装刀を上段に構え立っていた。 そしてギロチンの刃が振り下ろされる。 鋼獣はその頭部から縦に真っ二つに切断された。 戦闘終了。 それと同時にPAMの時間が切れ、ドライリッターの全身の冷却装置が起動し上記が各部から吹き出す。 譲二はまだ隠れている敵がいないか索敵を行った後、自分の近くで倒れている鋼機に通信をつなぐ。 「―――生きているか?」 「あ、あぁ…。」 そう声が帰ってくる事を聞いて一息吐いた。 「あ、あんたは一体、それにその機体は鋼機なのか?」 「ああ、自分は、CMBU特務部隊所属の者だ。この機体はS-22ドライリッター。」 「S-22!じゃあ、噂の対鋼獣戦用の鋼機がついに完成したのか!」 驚きと少しの喜びを孕んだ声で半壊した鋼機の操縦者が言う。 鋼機は鋼獣に単騎で勝つことは出来ない。それは今、鋼獣と戦う兵士達にとっては絶対の常識であり、絶望であった。 その絶望を単騎で複数の鋼獣を破壊する事で覆した者がいる。その事実を飲み込み、つい声に喜びと期待の色が出ているかのようだった。 「ああ、そうだな。」 その歓喜の思いを消させないように譲二は笑顔を作って返事をする。 事実この成果は脅威の成果といえる。未発表ながら鋼獣を鋼機が倒すという偉業は既にイーグル鋼機部隊の隊長を務めるシャーリー・時峰の手によってなされているが、それは機体がボロボロになる状況で九死に一生を得ての勝利だった。 だが、今回は違う。単騎で完膚なきまでに敵を圧倒したのだ。 この事実は絶望にくれていた人々の心に大きな希望を宿すだろう。だが、それを成し、本来誇るべきである筈の秋常譲二の表情は晴れない。 頭に思い浮かぶのは一つの戦景だった。 あの最強とも思えた不可思議な鋼機リベジオンを圧倒した白い機体。 UHの首領格とも目されるその機体が起こした超常の数々は衛星映像で譲二も確認した。 その後で、何度も譲二はドライリッターであの機体で挑むシミュレーションを行った。 結果、得られたのは0%という可能性のない数字だけ…。 「ちくしょうっ…。」 誰にも聞こえないほど小さな声で譲二は感情を吐き出す。 結局、例え今人類が鋼獣に対抗する力を得たとしてもあれ1機でその微かな勝機の全てが覆されてしまう。 歓喜に盛り上がり兵たちが凱歌をあげる戦場の中で譲二は一人だけ己の無力さを呪った。 ―2― 混迷の世界 世界政府鋼獣対策本部会議室。 統制庁3階にある会議室の中で円卓を囲むようにして座る人間が5名。 イーグル総司令、秋常貞夫。 その副官である琴峰雫。 イーグル鋼機部隊隊長を務めるシャーリー時峰。 第六機関の長にしてCMBU顧問を務めるセレーネ・リア・ファルシル。 その秘書であるネミリア・バルサス。 イーグルの中心を締める3人を機関長特権を使ってセレーネ・リア・ファルシルが呼び出したのである。 「まずは希望はつながったと見るべきなのかね。」 円卓中央にあるディスプレイには人類の反撃の狼煙ともいえる戦果の光景が映し出されている。 それを見て眉を潜めて言うのは『イーグル』司令である秋常貞夫だった。 彼の率いる『イーグル』は鋼獣と先頭に戦った最大の組織であり、鋼機で数機の鋼獣を破壊した実績がある組織だ。 「不本意そうですね。司令。ご子息のご活躍というのはやはり複雑なのでしょうか?」 その様子を眺めて貞夫の副官である琴峰雫は言う。 貞夫は何か言いたそうに顔を上げるが顎に手を当てて、押し黙った。 「あら、あなた達親子って仲がこじれてるの?」 来賓の一人である第六機関の長でありCMBUの責任者であるセレーネ・リア・ファルシルはくすりと笑う。 未来予知じみた先見の明で第六機関統括区域の全てを立て直した『鉄の処女』が興味深そうに貞夫を見つめる。 「なに、ただの一家庭の事情ですよ、この会議には関係がない。」 貞夫はそう極めて静かにそういった。 その事については語りたくないというニュアンス、それを受け取ってセレーネは頷いた。 「ま、大した問題ではないですか。それに今私達が抱えている問題の方がずっと大きな問題だ。そしてイーグルの方々を今回お招きしたのはその問題について語り合いたいと思ったからですし。」 「抱えている問題?」 シャーリー・時峰は首をかしげる。 彼女は非公開ながらS-21のカスタム機で鋼機を2機破壊するという偉業を成し遂げた兵士である。 現在世界最強の鋼機乗りとしてかの『味方殺し』グレイブ・スクワーマーと双璧をなす者として見られるようになっている。 「ええ、そうです。我々は確かに鋼獣に対する力を得ました。S-22ドライリッターの量産体制が整えば今いる鋼獣との戦闘の勝率は格段に跳ね上がります。」 「S-22か…PAMだったか?ディールダイン炉を大きく加圧する事によってディールダインのエネルギー増幅の効率を上昇させ、それによって生まれたエネルギーを機体全体に循環させスペックを通常の1.5倍ほどに引き上げるシステム。」 「流石、シャーリー・時峰。よくご存知で…。」 「なに、私もCMBU製の鋼機に乗っているんだ。噂ぐらいは聞くさ。確かにあれを使っている時の機体の動きは異常だなまるで鋼獣のようだったよ。だが、あのシステム恐らくは問題がある。」 そう考察するようにディスプレイの中で回収されるドライリッターを見ながらシャーリーは言う。 ドライリッターの各部から蒸気のようなものが吹き出していた。 「ええ、確かにPolar Acceleraion Mechanismには問題があります。エネルギー増幅作用がある物質ディールダインに圧力を加えるとエネルギー増幅効率が跳ね上がる事は4年ほど前から判明していました。」 「では何故実用にこれほどの時間を?」 尋ねる雫。4年ほど前に完成していたのならば、S-21アインツヴァインが開発されていた時点で導入する事が出来たのではないか? そういった疑問が雫の脳裏に走る。 「ええ、問題はこのディールダインは圧がかかるとエネルギーを増幅しすぎるという点が問題だったんです。」 「しすぎる?」 「ええ、おおよそ70倍ほどになります。」 「70!?」 予想以上の数字に声を上げる貞夫。 「ネミリア彼らに資料を配ってくれ…。」 ネミリアと呼ばれたセレーネの秘書官にあたる女性が円卓から立ち上がり、周りの人間に資料を配る。 面々は資料に目を通しはじめた。 「今、お渡ししたのはS-22のスペックの要点をまとめたものだ。なにか質問はありますでしょうか?」 そう尋ねられ、シャーリーは考えこむようにしている。 「ふむ、このオーバーラインと呼ばれる物に加圧時だけディールダイン炉と直結させてエネルギーを循環させると…。しかし、これは…。」 「ああ、稼働し続ければ機体が持たん。」 「機体がもたないというのはどういう意味かね?」 「文字通りの意味だ、秋常司令。臨界点を超えるエネルギーを出し続ければ機体はすぐに爆発する。」 「だが、さっきの戦闘では――――」 「ああ、そうだ。さっきの戦闘では機体が爆発しなかった、それが肝なんだ。S-22はPAMを使うために開発された鋼機でな、基本的なカタログスペックはS-21と比較して頂いてもそれほど大きな差はない。だが、我々が開発したオーバーラインと呼ばれる特殊なラインを通し機体の全身に巡らせる事で臨界点に突入するまでの時間を遅らせる事が出来る。そして臨界点に突入するまでの間、鋼機は鋼獣に匹敵するスペックを有する事になる。それがPAMの概要だよ。」 「時間はどの程度?」 尋ねたのはシャーリーだった。 鋼機を扱う者として興味深くあったのだろう。 「おおよそ15秒。それ以上は危険だと実験結果が出ているのでな、緊急停止プログラムが作動するようになっている。その後に機体に緊急冷却をかけている為、オーバーラインの冷却終了までおおよそ5分その間PAMは使えない。また、オーバーラインへの負担も大きくてな、2回使用すればオーバーライン自体を交換しなければならない。」 「ふむ。」 頷き思案にふけるシャーリー。 リスクは高い、欠点も多い、だがこの機体は鋼獣に対抗するにたる戦力になるのも確かだ。 この機体があれば鋼獣を倒す事は出来るのかもしれない。 だが、ここで誰もの脳裏をよぎる一つの事実があり、その場の全員が沈痛な面持ちでいた。 「S-22の完成によって鋼獣に対抗する手段は得た、だがしかし、あの白い鋼機に勝つことは出来るのだろうか?きっと皆さんはそう考えていらっしゃるのでしょう?」 セレーネは笑っていう。 「ええ、そうですね、あれは我々にとって絶望的な光景でした。まさに――――」 「――――さっさと本題に入らないか?セレーネ・リア・ファルシル。」 セレーネの言葉を遮ったのは貞夫だった。 「本題?」 「ああ、そうだ『鉄の処女』よ、裏のメンバーの一人であるお前がこの状況を想定していなかったわけがないだろう?」 そう告げる。 『裏』、この世界を裏から動かす5人の黒幕。セレーネをその内の一人だと貞夫は言ったのだ。 セレーネは唇に一刺し指を当てて笑う。 「あら、何のことでしょう?」 その言葉に琴峰雫は呆れたように肩をすくめた。 「そもそもその猿芝居を続ける必要があるかすら疑問なのですが、我々が掴んでいる『裏』のメンバー5名の通称は『現実主義者』、『皮肉屋』、『貴婦人』、『道化師』、そして『鉄の処女』。あのですね…もうちょっと正体を隠す努力をした方がいいと思いますよ、あなた。」 その突っ込みに会議室に静寂が訪れる。 そして少しの時間がたった後、くつくつとしたセレーネの声小さく漏れ始める。 「ふふ、あはは、あはははは、よくわかったわね!この私が『裏』の一員だなんて!」 そう先ほどまでの冷静かつ厳格な物言いはなりを潜め、やたらとテンションの高い声でセレーネが言う。 その光景に貞夫とシャーリーは引きつった顔で見つめた。 「いえ、だからあなた隠す気あんまりなかったでしょ…。」 「だって、隠す必要ないんだもの、裏の名簿なんて裏の人間の誰かが横流ししない限り漏れないものだったし…。ま、正体バレてる前提で呼び出したんだけどね。」 快活に答えるセレーネ。 「キャラが違うぞ、こいつ…。」 貞夫はセレーネに聞こえないように雫に耳打ちする。 「あー、一応、私には人を率いてる立場があるからね、あれ、肩凝るのよ結構。ふふ、私が役者としてデビューすればすぐに実力派役者として大成する自信があるわ…流石私、やっぱり私凄い、とっても凄い。」 「うざ…。」 雫は率直な感想を漏らした。 「あー酷いうざいだなんて、そんなの自覚してるけど!でもうざいだなんて酷い!いいもん、私には譲二くんがいるもん!それだけで満足だもん!アイラブ譲二。」 「何を言っている…。」 「え、譲二くんラブという事だけですよ、その為に色々下準備をね…。」 「――――貴様ら、あいつを利用して何をするつもりだ!!」 激昂する貞夫。その眼からは殺意が放たれ、胸から銃を取り出してその銃口をセレーネに向けた。 「司令!」 慌てて静止の言葉をかける雫とシャーリー。 しかし、それに構わず引き金に指をかける貞夫。 「言え!そもそもおかしいと思っていたんだ。あいつのトラウマを考えれば、S-22の操縦者として選ばれる筈などないと…だが、何故かあいつが選ばれた。兵士として欠陥のあるあいつが…その理由はなんだ?『鉄の処女』?」 「あら、冷めてるって聞いてたけど、お父さんの方はなんだかんだで息子の事を心配してるのね。ちょっと良かったなーなんだかんだで親子の不仲って悲しいじゃない?私には両親がいなかったけど、だからこそ、そういう家族愛っていうのに憧れちゃうのよね。」 「答えろ!!」 自分の命が握られているという事実に構わず変わらず笑顔を浮かべるセレーネ。 通常、銃口を向けられた人間というのは何らかの緊張が表情に出るものである。 だが、セレーネにはそれがない。 まるで自分がそれでは死なないとでも思っているかのように…。 「先に1つだけ誤解を解いておきたいんだけど、私達『裏』は別に全員で何かを成そうとしているわけじゃないの。」 「どういう意味だ…。」 「つまりは『裏』っていうのはそれぞれ別の目的の持った烏合の衆だという事よ。それが偶然、目的に到達するまでの道中が途中まで一緒だったから、一緒に協力しあっていたというだけ…。でも、この間のメタトロニウス・アークの覚醒で、ついに私達の道は別れてしまった。実質的な話を言えばもうあなた達の言う『裏』という組織は解体されたも同然ということよ。」 「譲二を巻き込んだのは、そのうちの一人の思惑だと言いたいのか?」 「そ、ま、私なんだけどね。私が見たいのは英雄の誕生。昔からね、私は英雄って存在に憧れていたの…窮地に陥った人々の前に颯爽と現れて悪を挫いていく存在。そんなものが見てみたかった。けれど実際そういう人間を探してみると案外いないものなのよ。ある意味、時峰九条はそうとも言える人間なのかもしれないけど、まーあいつは見ての通りしわくちゃのババアだしねぇ?やっぱりちょっとは顔にもコダワリたかったのよ。」 「それで譲二を選んだということか!」 「そうね、彼は壊れているわ。傷ついていく人が、見ず知らずの者であろうと誰かが死んでしまう事が許せない。例えそれが間違っていると知っていても誰かを助けるために行動をしてしまう。兵士としては欠陥品もいいところね。けどだからこそ彼は英雄の資格がある。」 「英雄?この状況で確かに鋼獣を倒せばあいつは英雄ともてはやされるかもしれん…だがあの白い機体を倒せなければ、結局それも意味がないだろう。」 「そう、そうなのよ。結局の問題はね…。私も黒峰咲があそこまでやるなんて想定外だった。『ダグザの大釜』はね、至宝の中でも最も扱いが難しい至宝なの…なんでも作ることが出来るという事はそれだけ人の脳与える負荷も大きいのよ。あー至宝って言ってもわからないんだっけ、あのなんか不可思議な現象を起こすものね。あなた達と協力関係であった黒峰潤也も使っていた奴。」 貞夫達はリベジオンと呼ばれた機体が持つ黒槍を思い出す。 あの黒槍で突かれたものはありとあらゆるものが塵と化す。 そのメカニズムはまるで解明できずまるで超常現象のようだと思えていた。 「今回、あなた方を呼び出したのはこのままだと秋常譲二は英雄になる事ができなくなってしまう。私のシナリオではS-22だけでもこの逆境に対抗できる筈だったのよ…。でも出来なくなった。だからあなた方を呼び出したの…私の正体を知っているだろうあなた方を…。」 そう真剣に語るセレーナに貞夫は反吐が出そうな気持ちになった。 他の2人も同様だろう。 おそらくは『裏』がいくら関与しているこの事態に自分では収拾がつかなくなったからイーグルにコンタクトを取りに来たと彼女は言っているのだ。 唾棄すべき事である。 (だが、しかし―――) そう貞夫は考え銃をおろし、怒りを沈めるようにして一呼吸した。 「あなたは今人類が置かれているこの状況を人類側にいい形で終わらせたい、そう考えているのだな?」 「理解が出来る人で助かるわ、脳みそまで筋肉な人間だとここで話はご破算だったから…。」 「あなた方は私達に何をさせたい?」 「そうね、その前に一人ゲストを読んでもいいかしら、私よりも胡散臭い男だけど私よりも現状に詳しいわ…。」 「ゲスト?」 怪訝そうにする雫とシャーリー。 「どうぞ、入って…。」 その声と共に扉のノブが回り戸が開く…。 そして、その中から現れたのはこの場にいる一同の全員が知っている顔の男だった。 蓄えられた顎鬚に伸びきった長髪、だらけた着こなしのTシャツに塞がった片目。 面識はない、しかし、この世界に生きるものならばそのほとんどがその顔を知っている。 「初めましてかな?秋常貞夫、シャーリー・時峰、琴峰雫。私の名前は木崎剣之助、人は私のことを―――」 男は笑顔で誇示するように言う。 「―――『現実主義者』または、スーパーニート木崎と呼ぶ!!!」 部屋にいた全員に悪寒が走った。 ―3― 空がない日、染みる痛み 電子音が一定の周期で鳴っている。 ゆっくりとそれでいて断続的に聞こえるその音は寝台で寝ている男を不快にさせた。 「……くそ」 寝台で寝ている男、黒峰潤也は電子音の不快さに舌打ちして寝返りをうつ。 頭になにかがぶつかる痛み。金属の冷たさと硬さが軽い痛みとなって潤也に響く。 寝返りをうった時にベットの柵に頭をぶつけたようだ。 「くそ…。」 瞳が闇しか映さなくなってから既に何日目だろうか…。 外が夜なのか昼なのか視認できなくなった時点で、既に時間の感覚などほとんどなくて、メトロノームのようになる電子音だけが時が進んでいるのを潤也に示している。 右手を握る。 歯車が回るような音だけなるが、右腕の感覚はない。 試しに腹に手のひらを触るようにしてみたら、腹に冷たい感覚した。 搬送された病院で付けられた義手の感覚。 思うように動いてはくれているようだが、感覚が無いため違和感が強い。 試しに体を立てようとする潤也。 全身からきしむような痛みが走り、その激痛に顔を歪めた。 「あらあら、まだ無理はするもんじゃないよ。」 戸が開く音と共に誰かの声が潤也に聞こえた。 その声は聞き親しんだというわけではないが、ここ数日よく聞いてきた声だ。 「ばあさん…か…。」 声の主、時峰九条は潤也の元に近づきまだ生身である左手を握る。 潤也の左手をしわだらけだが、温かい手が包んだ。 「そうさ、あんたの味方の九条婆ちゃんだよ。」 「いつからあんたは味方になった…。」 力なく毒づく潤也。 時峰九条、おおよそ2週間、潤也たちのお目付け役としてイーグルから派遣されてきた老婆だ。 枯れていて今にも折れ曲がってしまいそうな老婆だが、その実、世界最強の名を欲しいままにする程の武芸者でもあり、イーグルの副司令の立場にあるらしい。 実際、人造人間であり、人を超えた能力を持つ藍が手も足も出なかったと藍本人から潤也は聞いている。 「あたしゃ、いつだってつらい目にあってる子の味方さ。ほら、あたしお婆ちゃんだからね、お節介なのさ。」 そういって九条は笑う。 その悪気のない言葉に潤也は感じていた苛立ちが萎える。 怒鳴ろうとした自分が馬鹿らしくなったのだ。 「そうかい…それで何のようだ?」 そうぶっきらぼうに聞く潤也。 九条は驚いたようにし目を開いて 「何って、勿論お見舞いだよ、それなりに付き合いがある仲だしねぇ…。」 「二週間ばかりでそんな大きい縁はなかっただろう?」 「何を悲しい事を言うんだい、偶然どこかで出会って話してみたら意気投合してメールアドレスを交換する事だってだろう?縁は時間じゃないのさ。」 「だからって、そもそも俺はあんたと仲良くやってたつもりは無かったんだがな…。」 事実、潤也はイーグルから監視役でついてきた九条を何度か置き去りにしてその場から去った事がある。 その度に、九条は次の目的地に先回りしてたどり着いていたのだが…。 「あたしが仲良くやってたと思ってたんだから仲良くやってたんだよ。」 「酷い暴論だな、それ。」 「あら、世の中言ったもん勝ちだっていうよ?」 「ああ、わかったよ。それで見舞いにきた?ならこの様だよ。全身ボロボロで目もまともに見えない。右腕に関しては吹っ飛んじまって、今じゃ機械仕掛けの腕にたよる始末だ。」 潤也はそう投げやりに言う。 「ああ、その事で1つあんたには謝らないといけないと思った事がある。」 「謝る?」 「あんたの右腕をふっ飛ばしたのはこのあたしだ。」 「――――っ。」 予想していなかった言葉に詰まる。 「あんたの右腕に貞夫から送られた発信機とか言われていた腕輪があっただろう?まあ、あんたも察してたとは思うがあれは発信機だけじゃなくてね、もしもあんたが人類の敵に回った時に使う為の爆弾も仕込まれてたんだ。そしてそれの起爆装置をあたしは渡されていた有事の時に起爆できるようにね。」 「―――それで暴走状態にあった俺を殺すために起爆したというわけか…。」 「いーや、それは違うよ、それなら致死に至らしめるような爆弾を仕込むさ、あんたが付けられたのは綺麗に右腕だけを吹っ飛ばす爆弾さ、正気を失ってありとあらゆる薬物投与も効かないあんたを操縦を不能にする。つまりは完全にあんたが怨念に取り込まれた時にあんたをこちらの世界に引き戻す為のジョーカーだったというわけさ。」 「―――なるほど、俺が今こうやってあんたとまともに話してられるのはあんた達のおかげって事か…。」 黒峰咲との戦い。あの戦いで勝つために確かに潤也は怨念に取り込ませて戦うという選択をした。 本来ならばその時点で黒峰潤也は黒峰潤也という人格を失い怨念の代弁者と化していた筈である。 しかし、それをすんでのところで右腕を吹き飛ばすという荒業で発する痛みが黒峰潤也を正気に戻したのである。 結果、黒峰潤也は黒峰潤也としての自我を持った状態で今ここにいる。 (けど、どうせなら―――) ふと潤也の頭に暗い考えがよぎる。 九条はそれを察して、 「なんだい、どうせなら自分を殺してくれればよかったのに…あれで死ねたらよかったのに…なんて思っているのかい?」 潤也は口には出さなかった思いを言い当てられ表情を曇らせた。 「まったく、坊やはわかりやすいんだよ。なんだい、あんた死にたかったのかい?」 「さあな、ただ、もう疲れていたのは確かだ…。」 「疲れていた?」 「ああ、あくる日もあくる日も怨念共に精神を蝕まれながら戦い続けてきた。いつか黒峰咲を倒してあいつを止められる。そう信じて色んな苦痛にも耐えてきた。」 「そうだろうね。」 「地獄だったよ…。家族の仇を取るために戦っていたら実はその原因が妹だって知らされて、妹が訳の分からない理想で世界を滅ぼそうとしていて、それを止めないといけなくて…自分を咲に対する呪詛と憎悪で固めて戦ったんだ。そうしなければならないと思ったから…。」 もはや戦う力を失ったからだろうか、潤也は今まで誰にも言うことがなかった思いが口から漏れだしているのに苦笑した。 そして今までせき止めていた思いは防波堤を壊し、止まらずに流れ出る。 「辛かったんだ。苦しかったんだ。なんで俺があいつを殺さないといけない。なんで俺だけしかその力を持っていない。誰かに変わって欲しかった。例えそれが正しい事だとしても俺に咲を殺すなんて宿行背負いたくなんてなかった。納得なんて出来ない。けれどやらなきゃいけない。だから必死に必死に必死に憎んで、あいつを憎む自分を作り上げて戦ったんだ。」 「だから死にたかった?責任を全て放棄したかった?」 「ああ、生きてる限り、あいつが人殺しを続ける限り俺はあいつに相対しなきゃいけない。そして、どうも俺はそれから目と耳を閉じる事も出来ない人間だったんだよ。だから終わりを望んでいた。誰かにこの戦いから解放して欲しかった。」 その声は悲痛という他なかった。黒峰潤也は元々ただの一般人だ。両親は軍事研究者であったが、潤也は両親が何をしていたかなんて、アテルラナにハナバラで知らされるまで知らなかった。 だが、その真実を知らされた時、潤也は変わらざるを得なかった。 世界の為などといった大義で戦う事は出来ない。 大義で戦うという事は、圧倒的多数の世界を守るという事だ。 それはつまり、怨念達につけ込まれる隙になる。ゆえにあくまでたった一人の意志で戦う強い覚悟が必要だった。 その為に選んだ手段が復讐。両親を殺した事実、それを持って咲を両親の仇だと見定めて潤也は復讐者として己を塗り固めたのである。 だが、黒峰潤也という人間の本質は、多大な期待を抱いてそれに応える英雄でもなければ、ありとあらゆるものを蹂躙し、支配する魔王でもない。 「俺は弱いんだよ。そうやって自分を塗り固めていないとすぐにも覚悟が瓦解してしまいそうで、婆さんみたいに強くもないし、藍に尊敬されるような人間でもない。軽蔑するかい?」 そう自分を責めるようにして左腕を右手の義手で握る。その頬には涙が垂れている。 老婆はその義手を握って腕から離して 「そんなわけないじゃないか。坊やがやってきた事は想像を絶するようなことばかりだ。それに耐えて今まで戦って生きている。そんなあんたをどうして軽蔑するっていうのさ…。」 老婆は優しく諭すように潤也にいう。 「―――。」 黙る潤也。 「不満そうだね、けれどこれは本心だよ、坊や。いいかい?この世の誰が責めようと、この時峰九条は必ずあんたの味方でいてあげるよ。たとえ世界を敵に回したってあたしはあんたの味方でいてあげる。けどね―――」 続けようとする言葉に詰まる九条。 これから続ける言葉を続けていいものだろうかと悩む。 九条は病室の窓から外を見た。 外は土砂降りの雨で、窓に雨が滝を作っている。 老婆のその光景を見て胸中にくるのはなにか…。 老婆は自分の指をかざすように見て、意を決するようにして口を開く。 「あんたは1つだけ聞いておかないといけない事がある。」 「―――何をだ…。」 尋ねる潤也。 「あんたにまだ戦う気があるのかっていう事さ…。」 そう静かに九条は言った。 少しの静寂が部屋を支配する。 「――――――言うんだ…」 潤也は俯いて小さな声でぼそりと続けて言う。 「なんで、そんな事を言うんだ…。あんたは…あんたは!俺に一体何を期待しているっていうんだよ!」 「何も期待しちゃいないさ、ただ、どうしたいのかそれだけを知っておきたくね。」 「もう、目は見えない!片手だってなくした!肝心のリベジオンは修復不能な状態まで破壊されて、唯一の対抗手段だった至宝までもを奪われた!!!!あんたは!あんたは俺の何処に戦う力が残っていると思っているんだ!!!」 怒りを露わにして叫ぶ潤也。それに九条は冷静に答える。 「ないだろうね。誰がどうみたって戦える体じゃないし、戦う力だってない。けどね、坊や。それでも戦うという事を諦めるか諦めないかを決めるのはあんただけなんだよ。」 「俺は頑張った…頑張ったんだ!!こんな体になるまで頑張ったんだ…これ以上、俺に何をしろっていうんだ…。そもそも俺は本当は黒峰咲(あいつ)を殺すなんて事したくないんだ!!!」 「そうだね、頑張ったさ。ここで折れたってあたしゃあんたを軽蔑しない。あんたはそれだけの事をしてきたと思うからね。けれどあんたは本当にここで折れてしまっていいのかい?それであんたは本当に納得がいくのかい?」 「いかなかったからなんだって言うんだ!さっきも言ったしあんたも認めただろう、俺はもう戦える力が残っていない。戦う事なんてできない。そんな俺に一体どうしろっていうんだ!」 そう叫ぶ潤也に老婆は優しく諭すようにいう。 「坊やそれは違うよ。あんたは戦う力を確かに失った。けれどあんたは戦う事自体は失っていない。いいかい、坊や、よく聞きな。人はね、どれだけ追い詰められようといつだって戦うことはだけは出来るんだ。それが勝てるか負けるかなんて話は外に置いておいてね。確かにあんたは戦う力を失った、けれどそれで本当に戦う事自体を諦めるのかい?そうあたしは聞いているんだよ。」 「そんなの――――詭弁だ。」 「そうかもね、でもあんたはこれを今決めないとどっちに転ぼうと必ず後悔する事になる。他の人に任せて世界の行く末をその暗闇の中で待ち続けるのもいい。それとも暗闇の中を自分の足で下唇を噛み締めながら歩いてがむしゃらに前を進んでもいい。どちらをいっても地獄だろうさ、だけれどここに停滞し続けるよりはずっといい。だからあんたはそれでも戦うのか戦わないのかそれだけは決めておかないといけない。」 「そんなの―――――」 続けようとする言葉が出ない。 答えなんて決まっている。そう思う潤也だったが、そこから言葉を続ける事ができなかった。 九条はそれを見つめた後、少し悲しそうに笑って席を立つ。 「また聞きにくるよ、今度会う時にまで決めておいてくれ。」 「ばあさん、俺は―――」 そう続けようとした矢先に扉がしまる音が聞こえた。 既に老婆この部屋を発った事を意味する。 「くそっ!!!」 潤也は右手でベットを八つ当たりに殴りつける。痛みは帰ってこない。 それに言葉に出来ないものを感じ頭を抱える。 「くそ…。」 そう力なくいう潤也の頬に一筋の雫が流れていた。
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語り部:ベアトリス・マクスウェル エーテル能力―― 星から排出され、有機無機の関係無く、全ての物質に内包される未知のエネルギー。通称エーテル。 そのエーテルを自らの意思で自在に操って、殺して、壊して、踏み躙る事だけに特化した異能の力。 力を持たない人間……無能力者は私達、エーテル能力者を恐れる。 そして、力の低い低級能力者は力の強い、上級能力者を妬む。 誰もが恐れ、羨む異能の力……こんな力が宿ったせいで、私の全てが狂った。狂わされた。 この力は未来を切り開く力なんかじゃない……ただ絶望と、死を広げるだけの狂った力。 こんな能力があるせいで、何もかも全部、みんな、みんな、私の前からいなくなってしまった。 パパ、ママ、庭師のライコフ、メイドのアリエッタ、コックのサントス、ペットのロッソ、親友のリズ。 命以外の全てを失ったあの日から三年―― ただ死んでいないだけの無意味な命を守るために、私は私以外の他人を踏み躙り続けて来た。 今日も、明日も、明後日も、来週も、来月も、来年も、死神の鎌が私の首に振り落とされる日が来るまでずっと、きっと…… だって仕方が無い。理不尽に抗う術は無く、反抗する力も無いんだから、殺されないように殺すしか無い。 私のせいで、大好きだったあの人たちはみんな死んじゃった。死んじゃった人たちのためにも私は死ねない。 ――ソレハ、ゼンブウソ――タダノ、イイワケ――ワタシハ、シヌノガコワイ――シニタクナイ―― 嗚呼、何て私は醜いんだろう。何て私は情けないんだろう。何で――私は弱いんだろう。 帝国なんか怖いだけで思い入れなんて無いし、共和国に怨みがあるわけじゃない。 地球人類の統一なんてどうでも良い。幸せだった、あの日を返して。 ――お願いします。返して下さい。 帰ってこない穏やかで幸せな日々――それを奪い取る側の立場になったくせに返してだなんて都合の良い話。 自分勝手で何が悪い? 望んで何が悪い? 自分勝手な事を考えても、望んでもどうせ手に入るわけが無い。 せめて、心の中で都合の良い未来を妄想して何が悪い? 悪くない。悪いはずがない。 悪いのだとしたら、どうすれば良い? 無謀にも抗えば良いの? それとも死ねば良いの? ――ふざけるな。フザケルナ。フザケルナフザケルナフザケルナ―― 自分がやっている事が悪い事くらい最初から分かっている。 だけど、抗えるものなら抗っている。抗えなんて簡単に言わないで。 じゃあ、死ねって? 死ぬのが怖いって何度も同じ事を言わせないで欲しい。 怖いから、優しい妄想を思い浮かべるしか残されていないんだから、それに縋って良い筈。 みんな同じ。みんな同じように奪われて、同じように絶望したのに……何で、あの人はみんなと同じじゃないんだろう? 人間狩りに襲われて、目の前で親しい人を多くの人を殺されて、圧倒的な力で抑え付けられたのに何で折れないの? 何で反抗しようとするの? 何で戦えるの? その身に宿るエーテル量は私と同程度、戦いに関しては素人で私よりもずっと弱い。 なのに私の事を同情してくれた、理解しようとしてくれた。私と違う。 エーテルナイトの存在すら知らなかった癖に陸戦騎を奪い取って、簡単に起動させた。 そんな能力者を見た事も無ければ、聞いた事も無い。私たちと全然、違う。 無駄なのになんで? なんで違うの? ――嗚呼、どっちにしても私に殺されるから、なんでなのか聞く事も出来ないのは少し残念。 あの人が差し伸べてくれた手は救いだったのかも知れない。 なのに、それを振り払ってまで、妄想の世界に救いを求めている自分の弱さが嫌になる。 誰か、この世界から私を助け出して……私に気付いて……私はずっと此処で泣いている……! 機神幻想Endless 第二話 エーテルナイト スクレイル帝国本土から遥か南方の広大な海に浮かぶ、七つの小島。通称セブンス。 文明と、時代と共に三国が引き起こした戦争からさえも置き去りにされた楽園。 だが、その楽園も一世紀遅れで惨劇の時を迎えた。 女、子供、老人、病人、怪我人の区別無く、命ある者は全て惨殺され、まるで絨毯の様にその残骸を大地に広げていた。 どれが誰の残骸なのかも定かで無い程の死界。気が狂いそうになるような惨状に人々の無念がセブンスの大空を茜色に覆い尽くした。 そして、この世の地獄と化したセブンスに四つの醜悪なオブジェクトが屹立していた。 セブンスのエーテル能力者と“交渉”するために派遣された人型機動兵器。 スクレイル帝国の主力兵器、エーテルナイト。その一号機、陸戦騎である。 尤も、四機の内一機はセブンスのエーテル能力者、閼伽王によって奪取されている。 最早、交渉の余地など何処にも無く、後は誰が死んでセブンスの土になるか、誰が生きてセブンスから出て行くかを決める為に殺し合うだけだ。 帝国兵が駆る三機の陸戦騎は脚部のローラージェットからエーテル光を放ち、砂塵を巻き上げながら油断無く、閼伽王を包囲した。 エーテルナイト乗り――エーテルライダーとしての経験は素人同然だが、帝国兵達は閼伽王に対して一切の油断も無く、侮りもしない。 本来、陸戦騎のカラーリングはカーキ色だが、閼伽王が奪取した陸戦騎は乳白色に染まっている。 特別仕様に塗装したのでは無い――ある意味、それでも間違ってはいないが、塗料を使って色を変えたのでは無い。 エーテルナイトにエーテルを使用するという性質上、力の強い能力者が搭乗すると、搭乗者のエーテルの色に染まる事がある。 乳白色に染まった閼伽王の陸戦騎。その白濁の色こそが閼伽王のエーテルの色であり、強い力を持つ能力者であるという事を示している。 能力者としての力量は閼伽王の方が遥かに上。その厳然たる事実が彼等から慢心を完全に奪い取っていた。 だが、愛機と共に幾多の死地を踏破して来た実績、三対一という数の利が彼等の表情から悲観の色を打ち消していた。 それに閼伽王が優れた能力者であるとは言え、その能力をエーテルナイトに生かせられるか如何かは別の問題だ。 相手を侮らず、油断せず、慢心せず。さりとて、恐れ過ぎる事無く、三人の帝国兵は一撃必殺の機を虎視眈々と狙う。 竜巻の様な高速旋回。迫り来る津波の様に間合いを詰めたかと思えば、何の行動を起こす事も無く、引き潮の様に間合いを広げる。 間合いの定まらない、その動きは包囲した者に疑心と、焦りを呼び、集中力を磨耗させ、精神力を削り取る。 ――その筈だった。 「こっちは既に右の頬を殴り飛ばされてんだ! 兆倍にして返してやんよォッ!!」 猛る怒りで、冷静な思考力を失った閼伽王に、帝国兵達の動きなど意識に無い。 閼伽王にあるのは、平穏を乱した輩が不愉快で仕方が無い。だから、ブチのめす。徹底的にブチのめす。ただ只管、ブチのめす。 精々、その程度の事しか無く、相手の意図など気付きもしない。 三機の陸戦騎が間合いを詰めた瞬間、閼伽王は白濁のエーテルを背に、弾丸の如く帝国兵の陸戦騎へと肉迫した。 警戒も、躊躇も、恐れも、迷いも無く、抜刀すらせずに拳一つ構えて、砂塵を巻き上げながら一直線に駆け抜ける。 彼等はその様を見て、閼伽王の事を一つの事しか考えていないが故に、迷いも恐れも無い。だからこそ質が悪いと評した。 そして、その評価は概ね正解。と言うよりも、今の閼伽王に余計な思考を差し挟む事が出来るだけの余裕は残されていない。 コクピットと一体化したエーテルジェネレーターが、閼伽王に流れるエーテルを喰らい尽くさんと貪欲に奪い取る。 陸戦騎を操る際に消耗するエーテル量は普段能力を使う時の比では無く、まるで血液ごと抜き取られていく様な虚脱感が全身に圧し掛かって来る。 だからこそ―― 「秒殺されちまいなァッ!!」 咆哮と共に力強い足取りで大地を蹴り抜き、閼伽王は迅雷の如く勢いで正面の陸戦騎に追走する。 それを迎え撃つ帝国兵は閼伽王の陸戦騎に向き直り、腰部にマウントされた強化セラミックソードを引き抜き、斜に構えて攻撃に備えた。 更に閼伽王の背後に回った二機の陸戦騎が強化セラミックソードから水飛沫の様なエーテル光を迸らせ、閼伽王を両断せんと駆け抜けた。 それでも、閼伽王は背後から迫り来る二振りの斬撃を意に介する事無く地を蹴った。 そして、閼伽王の拳が正面に捉えた陸戦騎に炸裂すると共に、頭部への縦一文字、腰部に横一文字、二つの剣閃が閼伽王に喰らい付いた。 閼伽王が放った乳白色のエーテル光を纏った拳打は盾代わりに構えられていた強化セラミックソードを圧し折り 閼伽王に放たれた剣閃は拳同様、装甲表面を満遍なく覆う乳白色のエーテル光に阻まれ、かすり傷一つ付ける事が出来ないでいた。 エーテルナイトは搭乗するエーテル能力者の能力を増幅し、その性能を何倍にも発揮するという性質を持っている。 そして、エーテル能力はより強いエーテルによって打ち滅ぼされる。それがルールであり、摂理である。 それまでに彼等がやってきた数の暴力を質の理不尽で捻じ伏せるというものを、そっくりそのまま閼伽王に返されたのである。 「くぅぅぅたぁぁばれぇぇぇぇぇぇぇッ!!」 帝国兵の硬直は一瞬。だが、その刹那の瞬間を無限に拡張するのがエーテル能力者という存在だ。 刹那の瞬間が無限ならば、最早、目の前の障害などただの案山子でしか無く、案山子を相手に技や構えなど無用、純粋な力が一つあれば事足りる。 閼伽王は逆手に引き抜いたセラミックソードを目の前の案山子の股間から斬り上げた。 閼伽王の怒りが込められた烈火の如き苛烈な一撃は、エーテル震となって空間を蹂躙し周囲を轟音で包み込んだ。 エーテル震が鳴り止むと同時に閼伽王の一撃で、へしゃげた強化セラミックソードごと一刀両断にされた陸戦騎が地面に崩れ落ちた。 その断面は滅茶苦茶に湾曲し、切り裂かれたと言うより力任せに捻じ切ったような有様ではあるものの 電光石火の早業は陸戦騎に乗る帝国兵に断末魔の声すら上げるどころか、自らの死を知覚する暇すら与えていない。 「まずは一機……ッ!?」 閼伽王が意気揚々と声を張り上げると共に分断された陸戦騎から分断された陸戦騎から爆轟が巻き起こり、密着状態にあった閼伽王を弾き飛ばした。 生命や物質が崩壊する際に発生するエーテルの突風――エーテルバーストと呼ばれる現象である。 本来ならば周囲に影響を及ぼす事は無く、エーテル能力者ですら意識を傾けなければ知覚するのも困難なのだが エーテルナイトの力で増幅されたエーテル能力と同様、エーテルバーストもまた増幅され、爆轟となって閼伽王を襲い掛かったのである。 閼伽王にとっては災難だが、帝国兵にとっては状況を打破する千載一遇の好機。 そして、エーテルナイトが破壊された際に発生する強烈なエーテルバーストの事を熟知している帝国兵達は 既に安全圏に離脱し左手に空間が歪曲する程の高密度のエーテルを収束していた。 エーテルを纏った陸戦騎の左手首の手甲がスライドし、排煙と共にエーテル発生装置の姿が露になる。 そして、発生装置から三叉槍の様な刀身が形成され、空を引き裂く甲高い音と共に閼伽王に向けて放たれた。 「ッざけてんじゃねぇぞ!!」 やぶ蚊の様に飛び交う二つの飛刃を紙一重の所で身を捩って避けると、鋭く尖ったエーテルの刀身は墓標の様に大地に深々と突き立ち、その動きを止めた。 だが、閼伽王が一息吐いたのも一瞬。 武装名、エーテル制御式ショットランサー。 エーテルによって形成された刀身を持ち、エーテルによって制御される無線遠隔攻撃装置である。 その名が示す通り、エーテルによって形成された不可視の腕に地面から引き抜かれ、再び、勢いを取り戻して閼伽王に襲い掛かる。 立ち上がる暇も無く、地面を転がりながら乳白色の装甲を泥で汚しながら、必死に逃げ惑う閼伽王を嘲笑うかの様にエーテルによって制御されたランサーは 常に最高速度を維持しながら、慣性を無視した軌道で獲物を狙う蛇の如く閼伽王を確実に追い詰めていく。 「しゃらくせェッ!!」 逃げ続けていては埒が開かないと、フラストレーションを溜め込んだ閼伽王は、怒声と共に背中のバネを使って宙を舞う。 その瞬間、ショットランサーの軌道が変わり、閼伽王を刺し貫かんと二条の閃光が空を走った。 そして、閼伽王が装甲全体を補強すると同時に二本のショットランサーが陸戦騎の両肩に突き刺さる。 閼伽王は生唾を飲み込むと同時に機体全体に回したエーテルを両肩に収束し、損傷を最低限に押さえ込むんだ――というのが閼伽王の目論みだった。 だが、閼伽王がエーテルを操作するよりも早く、両肩を捉えたショットランサーは間抜けな音を立てて地面を転がった。 「ああ?」 決死の覚悟とは裏腹にあまりにも間の抜けた結果に閼伽王は肩透かしを食らったような表情を浮かべる。 不発か? 否――帝国兵が企てた計略は、ほぼ完成していると言っても良い。 ただ閼伽王の意識をショットランサーに向ける。それも可能な限り長く。それが彼等の目的だった。 陸戦騎が弾き飛ばされる程のエーテルバーストに驚き戸惑った閼伽王が、愚直な怒りさえも忘れた事を帝国兵達は見逃さなかった。 そこで思考を乱した閼伽王に感知されるだけの膨大な量のエーテルを収束し、その警戒心を煽る。 案の定、閼伽王は膨大なエーテルの収束直後に放たれたショットランサーが一撃必殺の威力を持つエーテル兵器であると誤認した。 だが、事前行動とは裏腹にショットランサーに込められたエーテルは、発動に必要な最低限度の極僅かなエーテルのみ。 クラス分けされる程に差がエーテル能力者を相手に、不利を覆すのは並大抵の事では無い。 ましてやセラミックソードの直撃にも耐え得る閼伽王を相手に、ショットランサーでは威力不足であるのは彼等にとっても承知の上の事だった。 それでも、彼等に撤退の二文字は無い。何故なら、その不利を覆すだけの威力を持った兵器が陸戦騎に装備されているからである。 エーテルキャノン――搭乗する能力者のエーテルを物理的な破壊衝動に変換し撃ち出す、陸戦騎に装備された唯一のエーテル兵器である。 能力者の力量に大きく影響される上、発射準備にかなりの時間を要し、能力者に与える負担も決して無視出来ない程の物だが 大きな代償と引き換えに、大半の戦闘兵器を一撃で消滅させて有り余る圧倒的な火力を誇り、正しく切り札という形容が相応しい兵器である。 そして、帝国兵の思惑通り、閼伽王が長々とショットランサーに気を取られていた隙に、悠々とエーテルキャノンの発射準備を終える事が出来ていた。 陸戦騎の左腕に収束されていた膨大なエーテルはエーテルキャノンの砲口に飲み込まれ、二機の陸戦騎の姿を陽炎の様に揺らめかせた。 次の瞬間、無音の光芒が二条の閃光となって閼伽王の心臓を喰らい尽くそうと獣の様に宙を駆ける。 刹那――視界がセピア色に染まり、閼伽王は流れる時間が遅くなっていくのを感じた。 (どうせ殺るなら一思いに一気に殺りやがれってんだ……!) 時間の流れが遅く感じられても、自分の動きが早くなったわけでは無い。 ゆっくり――ただ只管、ゆっくりと眼前に迫り来るエーテルキャノンの弾光に閼伽王は内心で悪態を吐いて、破壊衝動の波に呑み込まれた。 だが、帝国兵の表情に喜色の色は無く、エーテルキャノンの再チャージを開始する。 エーテルナイト同士の戦いが始めてという事もそうだが、力が増幅された上位能力者との差が大きく広がっている事を嫌という程思い知らされた直後である。 既に彼等の頭の中では、今の攻撃で閼伽王を撃破出来ていなかった場合の対応策が頭の中で練られ始めていた。 そもそも、撃破出来ていない事はエーテルバーストが発生していない事からも明らかであった。 良くて虫の息。最悪の場合、無傷で反撃の機を伺っているという可能性も充分すぎる程に考えられる。 もしも、これで閼伽王が無傷だとしたら、必殺の機会を逃した彼等に勝ち目は無くなったと言っても良い。 今の一撃が彼等に出せる最大の一撃で、何をどう足掻いても先程以上の威力を出す事も、奇襲を仕掛けるのも困難だ。 何の脈絡も無く、唐突にBクラスのエーテル能力者にクラスアップすれば話は別だが、そんなに都合の良い話は滅多に無い。 そして、恐れていた最悪の事態が起ころうとする兆しが見え始め、彼等は思わず息を呑んだ。 セブンス全体を覆い尽くす程の急激なエーテルの高まり。大地から立ち上る、乳白色のエーテル光。 これが閼伽王から放たれているエーテルである事は把握出来るものの、閼伽王の気配は愚か、陸戦騎の姿すら何処にも見えない。 エーテルの出所を探ろうにも閼伽王のエーテルはセブンス全体に満遍なく、均一に広がっており、何処にでも居るような錯覚を起こしそうな程であった。 一回り近く年下の上官に縋り付きたくなる様な気弱な感情を必死に押し殺し、二体の陸戦騎は無言で背中合わせに立って全周囲を警戒する。 だが、一度自覚した恐怖を容易く払拭出来る筈も無く、背後から閼伽王が剣を振り被っているのではと根拠の無い疑心を抱く始末だった。 恐怖を自覚出来る程度には冷静なのだと自身を言い聞かせ、押し潰されかけた自らの意思を奮い立たせようとするが、その思考こそが恐怖に屈した事を意味する。 現に恐怖に破れたが故に彼等のすぐ傍で息を潜めている閼伽王に気付く事が出来ないでいたのだから。 「間一髪って奴かぁ? マジで死ぬかと思ったぜ……流石に年がら年中戦争やってる兵隊サンは場慣れしてやがんぜ」 閼伽王は陸戦騎のコクピットの中で冷や汗を拭う様な仕草をして深い溜息を吐いた。 「けど、使い方は把握した! 一方的にぶん殴られんのは終わりだ、な?」 必要以上にエーテルを膨張させ、帝国兵の恐怖心と、警戒心を煽り、検討違いの方向を警戒させる。 そして、湧き水の様に溢れるエーテルで砲弾を鋳造し、思考の海に浮かぶ砲身へと装填し、錆付いた撃鉄を火花と共に引き落とす。 照準を合わせる必要は無い。三者の距離は殆ど零距離。外しようが無い。 「ブッ飛べェェェェェェェッ!!」 閼伽王の咆哮と共に二機の陸戦騎の足元に亀裂が走り、その破片を押し上げるように乳白色の巨大な光芒が天を貫いた。 そして、光の昇天に呑み込まれた二機の陸戦騎が爆散し、大規模のエーテルバーストを引き起こした。 「畑弄りに能力を使っていたのが、こんな所で役に立つたぁな……世の中、何が役に立つか分かりゃしねぇな」 閼伽王は得意気な口振りで、地中から飛び出し、地表へと降り立った。 エーテルキャノンに飲み込まれる瞬間、閼伽王は足元の地面を溶かし、地下へと逃れ、帝国兵の足元という絶好の射撃ポジションを確保していたのだった。 セブンスに流れ着いて三年。途切れる事無く、能力を使ってセブンスの畑を耕してきた閼伽王にとって地質を操る程度、造作も無い。 それでも、気を抜ける様な状況では無い。セブンスに降り立ったエーテルナイトは四機。そして、始末した帝国の能力者は四名。 そして、セブンスに訪れたエーテル能力者は五名、後一人。セブンスの人間狩りを指揮するエーテル能力者―― 「ベアトリス……何処に行った……?」 一方、ベアトリスはアルトールの小屋から一歩も動かずに閼伽王の戦いを眺めていた。 同格の力を持つとは言え、つい先程、エーテルナイトの存在を知ったような物知らずが陸戦騎を帝国兵から奪取し 何の訓練も受けていないにも関わらず、容易く、陸戦騎を起動させ三人の帝国兵を撃破。 「そんな捕縛対象、見た事も聞いた事も無い……アイツが共和国に渡ったら、帝国は困った事になる……」 少数で戦火を広げ、戦渦を巻き起こし、戦果を得る力を持つ、エーテルナイトの台頭により帝国は圧倒的な力を身につける事が出来た。 それに対する共和国は技術力で帝国に遅れを取っているものの、潤沢な資源、物資、物量だけで帝国と拮抗出来るだけの力を持ち合わせている。 初期量産型の陸戦騎など帝国にとって人間狩りの部隊に宛がうか、廃棄処分して再利用する程度の価値しか無い。 だが、閼伽王が陸戦騎を手土産に共和国へと流れ、大量生産などされでもしたら帝国には打つ手が無くなる。 ベアトリスにとって帝国がどうなろうと知った事では無いが、そうなった場合、彼女に科せられる処遇は――ベアトリスは考えたくも無いと首を振った。 「おいで……」 その小さな呟きに応え、空の彼方から風を越え、雲を突き抜け、天空を自在に舞う第二の騎士がベアトリスの前に降り立った。 姫君に頭を垂れる騎士の様に肩膝を付いて、ベアトリスの搭乗を待つエーテルナイトは細身のシルエットをしており、陸戦騎の様な質実剛健さは無い。 だが、搭載されたエーテルジェネレーターは、陸戦騎に搭載されている物よりも遥かに大容量で、エーテルの循環効率に優れている。 更に血管の様に張り巡らされたオリファルコンの含有量は、陸戦騎の二十パーセント増で、搭乗する能力者のエーテルを余す事無く生かすことが出来る。 Bクラス以上のエーテル能力者の中でも、一際優れたエーテルライダーに支給されるエース専用エーテルナイト―― 「行くよ、空戦騎」 ベアトリスがコクピットに乗り込み、自身のエーテルを流し込み循環させると迷彩模様の空戦騎の装甲が深緑に染まり、額の単眼が深緑の光を放った。 背中のドラム缶の様な形状の二基のブースターから深緑のエーテル光を迸らせ、その名が示す通り空へと飛翔する。 そして、左腕に携えた長槍、強化セラミックランスを構え、閼伽王へと落雷の様に肉迫する。 「そのエーテルはベアトリスか!?」 雷光の如く勢いで急接近するエーテルを察知した閼伽王は、振り向き様に叫びながら剣を水平に振り抜いた。 間一髪――背後から陸戦騎を貫かんとしていた長槍は閼伽王の剣に阻まれ、火花を散らしながら陸戦騎の左肩を掠めた。 硬直する両者。閼伽王はベアトリスが二の手を使うよりも早く、更に一歩深く踏み込みながら、一刀両断にせんと縦一文字に剣を振り落とす。 「やっぱり、騎士の能力者を相手に格闘戦は不利……」 ベアトリスは臆するわけでも無ければ、口惜しげにするわけでも無く、淡々と述べながら残像を残して、斬撃の間合いから逃れる。 「逃がすかよッ!!」 閼伽王の叫び声と共に浮遊していたショットランサーが疾風を切り裂き、空戦騎に襲い掛かる。 「でも、騎士の能力者が魔弾の能力者に飛び道具を使うのは無謀――」 空戦騎の右腕に構えられたエーテルライフルに深緑のエーテル光が収束され、ショットランサーを飲み込んで尚、陸戦騎を穿たんと疾駆する。 「チッ……騎士だの、魔弾だの意味分かんねぇっての!」 閼伽王は吼えながら脚部のローラージェットから、乳白色のエーテル光を吹かしながら、空戦騎の銃撃を避け続ける。 怒鳴ってみせたは良いが、閼伽王の内心は焦りの色が見え初めていた。空戦騎の機動力は陸戦騎を遥かに圧倒している。 その上、空に逃げられたら陸戦騎には追撃の手段が乏しいのにも関わらず、空戦騎のエーテルライフルのチャージ時間は無いに等しい。 「対抗する手段はコイツだけか……」 左肩のエーテルキャノン。陸戦騎を一撃で葬り去る程の威力を持つが、チャージに時間がかかり過ぎる。 エーテルライフルを避け続けながら、チャージを完了させる事が出来るのだろうか? 両者の能力者としての力は同程度。一撃で仕留められる程、容易い相手なのか? 「まあ……知った事じゃねぇよなァッ!!」 一々、考えていては知恵熱を起こして脳が壊死してしまう。そして、閼伽王は自分の頭で考えても結果に繋がらない事を自覚している。 だからこそ、取り合えずやってみれば良い。なる様になるだろうという短絡思考で、迷う事無く動き出す事が出来る男なのだ。 閼伽王はローラージェットから出鱈目な軌跡を描きながら、空戦騎から断続的に放たれる銃弾を避け、エーテルキャノンのチャージを開始する。 「初めてでよく粘る……でも、もうこれまで」 「勝手に決め付けてんじゃねぇ! 俺はお前等なんざとは違うんだよォッ!!」 「そうだね……本当にそう思う。能力もだけど心も強い。此処まで歯向かえる能力者と出会えたのは初めて。 でもね、私も死ぬのが嫌だから……私が生きるために死んで……私から逃げる事が出来ても、もう道は無い」 「勝手に決め付けて、勝手に諦めて、勝手に帝国なんぞに負けてんじゃねぇ! 死ぬのが嫌なら歯ァ食い縛って死に損なえ! 先に道がねぇんなら、テメェで切り開け! テメェに宿ったエーテル能力は何だ! ただの貧乏くじか! テメェより弱い奴を殺す力か! それとも何か! テメェより強い奴に尻尾ふる力かよ! そんな奴等を相手に誰が逃げるかよッ!!」 「五月蝿い! 何も知らないくせに……!」 「自分の事を知らせようともしねぇ他人の事なんざ知るか! 辛いんだったらなぁ! 辛いから助けてくれって腹の底から叫んでみせろ! 勝手に絶望して、勝手に塞ぎこんで、勝手に自己完結してんじぇねよ、馬鹿餓鬼が! 心を殺さなくたってなぁ! 道なんざいくらでも選べんだよッ!」 そして、閼伽王は陸戦騎のローラージェットを停止させ、その動きを止める。 左肩のエーテルキャノンの砲口には乳白色のエーテル光が球状に収束され発射されるその時を今か、今かと待っている。 「ベアトリス。これで最後だ。俺は進むべき道を見つけた。お前はどうする?」 ベアトリスは閼伽王の問いかけに対し、エーテルライフルを下ろして応えた。 「私に同情してくれるって、私の言う事なら何でも聞くって言ってくれて……私の事を理解しようとしてくれてありがとう。 今も私を救い出そうとしてくれてありがとう……私と同じ立場なのに……本当に嬉しかった……」 「ベアトリス……」 ベアトリスの空戦騎が纏うエーテルが苛烈な物から穏やかな物へと変わり、閼伽王の表情が柔らかくなる。 「でも、ごめん」 ベアトリスのエーテルは穏やかでありながら、静かに研ぎ澄まされた殺気へと変貌し、ライフルの銃口には空間が歪んで見える程の高密度のエーテルが収束されていた。 「これが私の選んだ道……後には引けない。だから……さようなら」 ベアトリスにとって閼伽王の言葉はあまりにも甘美な猛毒の様なものだった。後一つ、小さく些細な切欠があれば帝国を棄ててしまいそうになる程の。 だから、ベアトリスは張り裂けそうになる想いを殺意で押し退け、言の葉を銃弾に変えて、閼伽王と共に行く道を撃ち貫いた。 「馬鹿餓鬼が……!」 閼伽王はこれ以上の説得は無意味だと悟り、空戦騎から放たれる光弾を飲み込む程の巨大な光芒を放った。 「本当にごめん……そして、騎士の能力者が、飛び道具で魔弾の能力者に戦いを挑むのは無謀だと言った」 光芒と光弾が衝突する寸前、光弾はその軌道を変え、光芒を縫う様に駆け抜け、陸戦騎のエーテルキャノンを破壊する。 そして、空戦騎へと迫る光芒にベアトリスは眉一つ動かさずにエーテルライフルを構え、光弾では無く、光芒を放つ。 空戦騎から放たれた光の柱はエーテルキャノンの光芒ごと、一瞬にして閼伽王の陸戦騎を飲み込んだ。 巨大なクレーターを穿たれ、セブンスから平穏な日々を謳歌していた島民達の痕跡が消滅し クレーターの中心地では、装甲を欠落させ、満身創痍の体となった陸戦騎が膝から崩れ落ちた。 とは言え、行動不能に陥っただけで閼伽王自身の死には程遠く、ベアトリスは感心の中に苛立ちを含ませた。 だが、それも此処までだ。ベアトリスは躊躇う事無く、エーテルライフルの銃口を陸戦騎のエーテルジェネレーターに向ける。 「バイバイ……嫌いじゃなかったと思うよ」 そして、ベアトリスが無感情にトリガーを引こうとした、その瞬間――空戦騎の右肩が爆発を起こした。 「エーテル攻撃……!」 陸戦騎が戦闘不能に陥った今、ベアトリスの空戦騎にエーテル攻撃を仕掛けられる相手は限られている。 と言うよりも空戦騎に攻撃を仕掛ける命知らずなど一陣営しか存在しない。 「共和国の戦闘航空機……今なら勝てると思ってるんだ……随分と甘く見られている」 ベアトリスが戦いに身を投じるようになって三年。閼伽王の様な敵と戦うのは初めてだったが、空を覆い尽す共和国の部隊と対峙してみて分かった事がある。 「他人の命なんて軽いくらいで丁度良い……」 自分を理解しようとして、必死に声をかけてくる閼伽王を撃った時の気分は最悪以外の何物でも無く、後ろめたさしか残らなかった。 だと言うのに、自分に殺気を向ける共和国の兵に向けて放つエーテルライフルのトリガーは何と軽い事か。 「だから……殺してあげる」 四機の陸戦騎を失った上に捕縛対象の閼伽王は死んだも同然。せめて、共和国の一部隊くらいは滅ぼしておかなければ割に合わない。 ベアトリスの呟きと共に空戦騎からエーテル光が放たれ、空を深緑に染めると同時に共和国の戦闘航空機――ズィーダーは一斉にエーテルキャノンを発射する。 刹那――ベアトリスはエーテルキャノンの弾道、弾速を読み取り、迫り来る弾幕に真正面から飛び込んだ。 そして、砲撃の軌跡が空戦騎の肩や脇、腰の隙間を、紙一重の所で通り抜けていくのを尻目に航空機部隊の中心に躍り出た。 一斉に散開しようとする戦闘航空機の中から、僅かに逃げ遅れた者がセラミックランスをコクピットの中に叩き込まれ、ズィーダーの中で木端微塵に弾け飛んだ。 更に空戦騎は錐揉みしながらエーテルライフルのトリガーを引き、放射線状に光芒を放ち、敵部隊の半数を撃墜し、速度重視の弾丸を鋳造し三連射。 何と無く逃げ足が遅い気がする――曖昧な判断基準で選ばれた敵は必死に回避運動を取ろうとするが、光弾はその軌道を自在に変え、猟犬の様に追い立てる。 そして、光弾を振り抜き、雲を抜けた瞬間、ズィーダーのキャノピーに差す陽光が、暗い影に覆われて途切れ――パイロットの意識は途切れた。 「この程度で私に挑むなんて、とんだ馬鹿……」 ベアトリスの表情から疲労の色は隠せないが、ズィーダーのエーテルキャノンでは脅威足りえるには程遠い。 エーテル兵器とは言え、エーテルジェネレーターで増幅されていなければ、通常兵器に毛が生えた程度の性能しか無いのだから。 それでも、共和国の兵士達は健気にもエーテルキャノンで必死に応戦しようとする。 ――強いエーテル能力は、より強いエーテル能力によって捻じ伏せられる 一斉に逸れた筈のエーテルキャノンの軌跡が鞭の様に撓りながら突如と軌道を変え、豪雨の様に空戦騎に降り注いだ。 閼伽王を撃った事による動揺、能力と性能差のある相手への慢心がベアトリスを窮地に追い込んだ。 「何……!?」 微弱なエーテルの中にその姿を隠していた禍々しいエーテルが急速に膨張し、深緑の空を白濁に染めていく。 だが、閼伽王は未だ陸戦騎と共に沈黙を保ったまま。閼伽王と同じエーテルの色を持ち、尚且つ、ベアトリスのエーテルを侵食する程の力の持ち主―― 「ドゥアーッハッハッハッハッハーイ!! どうよ、帝国の小鳥ちゃんよぉぉぉぉお!!」 「……気持ち悪。濃い、暑苦しい、汗臭い」 実際に顔を合わせたわけでは無く、ただの印象でしか無いが、その印象は概ね正解と言えた。 小麦色に焼けた肌は鍛え抜かれた筋肉で脂ギッシュにテカリを放っており、ズィーダーのコクピットの中で缶詰の様に抑え付けられている。 そして、顔はバナナの様に長く弧を描くように反っており、顎は二つに割れ、顔の半分程もあるのでは無かろうかという程の巨大な口に図太い眉毛。 鶏の鶏冠の様に立派にそそり立つ金髪のモヒカンはズィーダーのキャノピーで押し潰されていた。 これをベアトリスの言葉で簡潔に一言でまとめると―― 「不快」 「人の事を気持ち悪いだの不快だのとよぉぉぉお!! このAクラス能力者ワーグナルド・ミッテルシュナウダー様を舐めてんのかあああん!?」 「名前もウザいし、そもそも、聞いてない」 不快とは言え、Aクラスのエーテル能力者である事には変わりは無い。 そして、その実力はエーテルジェネレーターで能力を増幅していないにも関わらず、仲間の弾丸を操作し、空戦騎を追い詰めた事から察するに余る。 だが、それ以上に―― 「顔見てないけど、顔が生理的に無理」 ベアトリスは空戦騎のエーテルジェネレーターからスパークが迸っているのも無視して、侮蔑の言葉と共にエーテルライフルをマシンガンの様に連射した。 ワーグナルドは少女の声で自身を徹底的に否定され悲しみに暮れている所に銃弾を打ち込まれ、慌てて回避に転じる。 「あんまり手間ぁかけさせるなよォ? 大人しくソイツを渡せば、上には従順だったって報告出来るんでなァ!」 「こうも同じだと本当に嫌になる……」 つい先程の自分を焼き増したようなワーグナルドの言葉にベアトリスは不快感を露にした。 こんな不快な男と同じ言葉を発していた事に――閼伽王は今の自分と同じ気持ちになっていたのかと思うと―― 「……本当に不快」 「いい加減に黙れやァァァァァアア!! お前の言葉は地味に傷付くんだよォ!! そういう事を言っちゃダメって、ママから言われなかったんかぁ!? ああん!? 十八歳未満お断りなお仕置でもされたいんか、アアン!? 寧ろ、ヤんぞゴルアアアアッ!!」 「下衆」 ワーグナルドの怒鳴り声を一言で一蹴し、ライフルの銃口に収束したエーテルを散弾の様に拡散し、弾幕の網でワーグナルドを封じ込める。 「共和国のAクラス能力者ならミスの埋め合わせに丁度良い……私が生き残るために死んで……それに不快」 「まァだ言うか、この雌ガキャアッ!!」 空戦騎のライフルの銃口に深緑のエーテルが、ズィーダーのキャノンの銃口に乳白色のエーテルが収束され、まさに一触即発の状況。 そんな最中、空戦騎のコクピット内に新たな命令が届き、その命令内容にベアトリスは驚いた様な表情を浮かべた。 「現作戦及び、戦闘行動を破棄並びに中断。即時撤退命令……Sグレードの最優先命令……どう言う事……?」 だが、ベアトリスが疑問を差し挟む余地は何処にも無い。 どんな状況下にあろうとセブンスに放置されている四機の陸戦騎の残骸を放置してでも所属基地へと戻れ。それが、ベアトリスに下された命令である。 「エーテルナイトを棄ててでも戻って来い……帝国にとって私はまだ利用価値がある……まだ……生きていられる……」 「なァにをブツブツ言ってやがる!! ぶっっっっっ殺すぞぉぉぉぉああ!!」 「勝手に殺して、死んでいれば良い……下衆に付き合っていられない……」 ベアトリスは空戦騎を反転させ、空間が捻じ曲がりかねない程のエーテル震を巻き起こして、空の彼方へと飛び去った。 「暴言吐くだけ吐いて逃げんのか!? おおい!!」 ワーグナルドが叫び終わった頃には既に空戦騎の姿は芥子粒程の光点になるまで遠ざかっている。 追いかけようにも単機で帝国本土付近の海へと接近する程、無謀な男でも無い。 気を取り直したかの様な表情で、セブンスに穿たれた巨大なクレーターの中心地に横たわる陸戦騎を睥睨した。 「陸戦騎四機分の残骸に死に損ないのBクラスが一人か……」 セブンスのエーテル能力者、閼伽王の存在に気付いていたのは共和国も同じだったが、立地の都合上、帝国を出し抜くのは不可能だった。 其処でワーグナルドは、この事態を静観しつつも、彼の権限で動かせる兵力をベアトリス達に勘付かれない地点に配置させていた。 そして、セブンスで始まった戦闘は彼にとって非常に好都合なものだった。 閼伽王の手によって三機の陸戦騎が撃破され、閼伽王の陸戦騎も比較的綺麗な状態で撃破された。 彼等にとって一番厄介だった空戦騎と、ベアトリスは閼伽王との戦闘でエーテルを消耗し、精神状況も決して良好では無い所まで追い詰められていた。 残った陸戦騎の能力者も消耗状態。貴重なエーテルナイトのサンプルを手に入れる潜在一隅のチャンスが到来したというわけだ。 「空戦騎も欲しかったんだが……まあ、一先ずは成功だなぁーハッハッハッハァッ!!」 誰も為し得る事の出来なかったエーテルナイトの鹵獲。与えられる恩賞は如何程の物かを想像して、込上げる笑いを堪える事無く、大空に大きな笑い声を鳴り響かせた。 一方、帝国では―― 下士官の軍服に身を包んだ若い帝国兵が基地司令の執務室で、虚空に映し出された共和国の将官の立体映像と向かい合っていた。 「其方にエーテルナイトのサンプルと、野良を送った……G計画の進捗はどうなっている?」 「陸戦騎の鹵獲という切欠を得た今、長く見積もっても二ヶ月といった所だ」 「取り合えず、十機程完成させたら此方を襲わせろ。性能を確認しておきたい」 「了解した……相変わらず、随分な暴れようだな?」 帝国の下士官の背後には、帝国の将官や下士官達の骸が折り重なり、壁や天井には、おびただしい量の鮮血が飛び散り、あるいは滴り落ちていた。 「芝居に夢中になり過ぎる癖があってな。偶には塵を塵扱いしておかなければ、本当の自分を忘れそうになるのでな」 「……二ヶ月以内にGによる強襲を仕掛ける。そのつもりでいろ」 帝国の下士官は悪びれた様子も無く、おどけた態度で肩を竦めていると共和国の将官は呆れた口振りで通信を終了した。 「き……貴様……共和国のスパイか……!」 その一部始終を見ていた帝国兵が骸の山から這い出て、呼吸の乱れた荒い声を上げた。 自身の物か、それとも、他人の物かも分からないおびただしい量の血液に全身を染め上げた、その姿は地獄から現れた亡者の様にも見える。 「おやおや……すまんな」 スパイの容疑をかけられた帝国の下士官は、その様が無性に愉快だったらしく、目を細めて、口角を吊り上げ―― ――殺し忘れていた そして、紅い血肉が弾け飛び、新たに鮮やかな紅が執務室を塗り潰した。 【次回予告】 ヴィルゲスト共和国本土に運び込まれる四機の陸戦騎の残骸と、閼伽王。 遂に共和国はエーテルナイトの開発に大きな一歩を踏み出し、帝国に対し反撃の狼煙を上げた。 その最中、閼伽王は時代の影で、人を喰らう異形の群れと戦う学徒――君嶋悠との出会いを果たす。 機神幻想Endless 第三話 覚醒者 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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登録日:2020/01/10 Fri 00 11 30 更新日:2024/01/15 Mon 09 00 53NEW! 所要時間:約 14 分で読めます ▽タグ一覧 STAR_WARS SW ×ハグス将軍 アーミテイジ・ハックス イケメン エリート オールバック コート スター・ウォーズ スピード出世 ドーナル・グリーソン ハックス将軍 ファースト・オーダー プライドの塊 ヘタレ 二世 参謀 司令官 報われぬ人生 将校 将軍 小物 小物界の大物 川本克彦 幹部 愛すべき小物 愛猫家(?) 憎めない悪役 案外有能 残念なイケメン 終身名誉小物将軍 続三部作 苦労人 赤毛 軍人 転落人生 野心家 銀河帝国 「今日こそが共和国最後の日となる」 映画『STAR WARS』シリーズに登場する人物。 アーミテイジ・ハックスというフルネームが一応設定されてはいるものの、公式サイトのキャラクター紹介、スタッフロール、関連商品などでは基本的に「ハックス将軍(原語版ではGeneral Hux)」と表記される。(*1) 俳優:ドーナル・グリーソン(『ハリー・ポッター』シリーズのビル・ウィーズリー役、『ピーターラビット』シリーズのトーマス・マクレガー役など) 吹き替え声優:川本克彦(『『無限戦記ポトリス』のドラゴンブルー役、NARUTO-ナルト-疾風伝』のデイダラ役、『NHK高校講座「ビジネス基礎」』のナレーションなど) ●目次 【人物】 【過去】 【本編での動向】EP7 フォースの覚醒 EP8 最後のジェダイ EP9 スカイウォーカーの夜明け 【EP9没案】 【人物】 「貴様らの運命は定まった…銀河の塵と消え失せるのだ!」 銀河帝国の残党が結成した軍事組織ファースト・オーダーにて最高指導者スノークに仕える将軍。 軍服の上に黒いロングコートを身に纏った痩身の男性であり、ファースト・オーダー最高司令部の指揮官を務めている。 敵対するレジスタンスからの通信に対して降伏は一切認めないことを宣言するなど、冷酷非情な性格の持ち主。プライドが高く、芝居がかった尊大な言い回しを好む一面を併せ持つ。 組織の中での立ち位置としては、旧帝国時代の総督ウィルハフ・ターキンに近い。 もっとも皇帝やダース・ヴェイダーといった錚錚たる面々にすら一目置かれるほど、優秀な司令官・政治家として老成していた彼に比べると、やはり若さ故の未熟さか精神的な余裕の無さが散見される。 またターキンがヴェイダーよりも上の地位に就いていたのに対して、ハックス将軍はカイロ・レンとほぼ同等の位である。 レンからは実戦経験の浅さを理由に見下されており、ハックスもまた彼の存在を不快に思っている。年齢的にはハックスの方が数歳年上らしい。 日頃から主君スノークの評価と寵愛、即ち次期最高指導者の座を巡って、手柄の奪い合いや互いの失敗の告げ口などといった小競り合いを繰り広げ、非常に折り合いが悪い。 スノークも「何故あのような小物を重用するのか不思議に思っているであろう?奴の弱さは上手く操ればよく切れる道具となる」などと陰で彼が将軍の器ではないことを嘲笑し、時には遠距離からフォースによる体罰をも辞さない少々ぞんざいな扱いをしている他、(*2) レジスタンスの者からさえも作戦のためとはいえ散々扱き下ろされたりと、作中では敵味方問わず多方面から軽んじられている節が見受けられる。 しかしながら、彼が収集した情報や立案した作戦によってレジスタンスが幾度も窮地に追い込まれているのもまた事実であり、更にストームトルーパーの育成にも彼が採用した訓練メソッドが大きな貢献を果たしているため、一概に全くの無能とも言い切れない。 前述のスノーク評も裏を返せば、扱い方次第で能力を発揮すると認められているとも言えるし、スノークがハックスの働きぶりを褒めそやす場面も度々見られる。 とはいえレジスタンスを追い詰める度に後一歩の所で出し抜かれている背景にはレジスタンス側の奮闘や仲間の不手際だけでなく、彼自身の判断の甘さも少なからず関係しているのは否めず、ハックスが将軍として周囲からの評価をあまり得られないのも致し方ない部分はあるが。 なお大変どうでも良いことだが、2016年2月、ルーカスフィルムの社員であるパブロ・ヒダルゴ氏が、ハックス将軍はミリセントと名付けた猫を飼っているとSNSで公言した。 これが正式な設定なのか単なるジョークなのかは不明。いずれにせよ彼は自分でもこのネタが気に入ったのか、自アカウントのアイコンを一時期ミリセントと思しき猫を抱いたハックスの画像にしていたりする。 …そもそもスター・ウォーズの世界って普通の猫いるのかな? 【過去】 「良いリーダーというものは、チームの一員でありつつも、周りと馴れ合ってはいけないのだ」 彼の本編に至るまでの来歴は正史(カノン)の小説である『アフターマス』三部作、『ファズマ』、『フォースの覚醒前夜 ~ポー・レイ・フィン~』などで語られている。(*3) アーミテイジ・ハックスは、帝国将校の父と使用人の母との間に婚外子として生まれた。 父ブレンドル・ハックスは息子に対しては一片の愛情も抱いておらず、紙のように貧弱で役立たずだと侮蔑していた。その一方で、仕込めば化けるだけのポテンシャルはあるかもしれないとも思っていたようだが、それは息子への期待というよりも軍人としての見解だったものと思われる。 アーミテイジの幼少期、帝国は歴史的大敗を喫して凋落。彼と父は苦難の末、銀河系の未知領域へと逃げ延びる。 そしてブレンドルを始めとする帝国の元上級幹部ら数人が中心となって、徐々に勢力を拡大した。この一派が後にファースト・オーダーとなるのである。 幼きハックスは、帝国時代に父親の上官だったガリアス・ラックス提督の指導を受ける内、他者を支配するという行為に歪んだ悦びを見出すようになっていった。 さながら自身の抱く心の弱さを打ち消そうとするかの如く、人を思うがまま操って攻撃を行うことに快感を覚え始める。 そのまま大人へと成長してファースト・オーダーを構成する一幹部になった彼は、利害が一致したキャプテン・ファズマの謀略に加担して、自分の父親を死に追いやってしまう。 直接手を下したわけではないにせよ、奇しくも後のカイロ・レンと同様の所業を働いたわけであるが、レンが父親を手にかけることに迷いを抱き、殺めた後も後悔を捨て切れなかったのとは対照的に、ハックスは一切心が揺れることは無かった。 まあ生まれた頃から自分と母を虐待同然に冷遇してきた相手に情が湧かないのも無理はない。結果的にその父親と同じく支配欲に飢えた人間に成り果ててしまったのは何と皮肉なことか。 程なくしてハックスは、トップの思惑も相まって、亡き父の跡を継ぐような形で将軍の座を見事射止める。 将軍に就任して以降は、かつて帝国アカデミーの教官でもあった父が考案した訓練法をベースにしている教育プログラムを採用して、ファズマと共にストームトルーパーの洗脳・増強に尽力した。 昔の帝国と違って公然と徴兵することが出来ないので、兵士の数が少ない分、一人一人の質を高めていく必要があったようだ。 ちなみに彼はトルーパーの育成に当たって、ファースト・オーダーのために戦うことこそが正義であると頭に叩き込ませるという目的の下、訓練生達に毎日2回、自分の演説の映像を強制的に見せていることも発覚する。 単なる罰ゲームとしか思えない実に恐ろしい洗脳手法だと言えよう。 若くして順調に出世を重ねていくハックス将軍。 だが、そんな彼の覇道にも一筋の影が差す。最高指導者スノークが幾年か前より懇意にしていた男が、ついに自分と同格の地位に割り込んで来たのだ。 その男こそがカイロ・レンなのであった。 【本編での動向】 EP7 フォースの覚醒 シークエル・トリロジーの第一弾に当たる本作でシリーズ初登場を果たした。 「あんたの部下では心許ない」 「私のやり方に異論があるのか?」 カイロ・レンと共同でルーク・スカイウォーカーの居場所が記された地図の回収任務を担当することになる。 部下のフィンことFN−2187が裏切ったことで、ストームトルーパーの教育と管理の体制についてレンから皮肉を浴びせられ、ハックスも仕返しとばかりに彼のミスをスノークにばらすなど、この頃から二人の関係の悪さは垣間見えていた。 レイとフィンが地図のデータを持ったBB-8を連れて、ストームトルーパー達の追跡をかわした事実を重く見たハックスは、新共和国がレジスタンスに援助してルーク・スカイウォーカーを発見してしまう前に、新開発の破壊兵器スターキラーを使用して共和国を潰す許可をスノークに求める。 斯(か)くして彼は何千という兵士達が見守る中、至高の新兵器を御披露目する歴史的なセレモニーで大演説を行った。 このどこかナチス感のあるスピーチは、俳優のグリーソン氏および吹き替え声優の川本氏、両者の鬼気迫る熱演が光るので、ぜひ英語版と日本語吹き替え版の両方をご覧頂きたい。 演説全文 「…今日こそが共和国最後の日となる。秩序無き混乱の時代と決別する記念すべき日だ。 今この瞬間ここから遠く離れた星系で、新共和国は厳正に中立を守るなどと綺麗事を言いながら、その裏でレジスタンスに肩入れしている。 諸君が作ったこの恐るべき兵器───この究極の兵器が元老院に最期をもたらす…忌々しいレジスタンスにも。 生き残った星は全てファースト・オーダーの前にひれ伏すのだ…」 「そして今日この日が…共和国最後の日として長く記憶される!」 「発射!!」 ハックス将軍の号令と共にスターキラーは巨大なレーザー光線を放った。 恍惚とした表情を浮かべて光の槍を見上げる彼の視線の遥か先で、幾つもの惑星が塵と化してゆく。 このたった一撃で新共和国の首都があるホズニアン・プライム星系は壊滅。そして一瞬の間に数え切れないほどの命が失われた。 ところで、これまた物凄くどうでも良い話なのだが、演説直後ストームトルーパー達が一斉に片腕を振り上げて賛同の意を示すシーンでは、何故か一人だけ全身を使って元気良くガッツポーズを決めているお調子者がいるので、もし機会があれば探してあげよう。 その後、カイロ・レンが惑星タコダナでレイを捕縛することに成功するも、フォースに目覚めた彼女には地図の情報を吐かせることは出来ず、レンがBB-8を回収していなかったこともあって、ファースト・オーダーは苦境に立たされる。 しかしハックスは、レジスタンスの基地がイリーニウム星系の惑星ディカーに存在することを独自に突き止めており、スターキラーで狙うことをスノークに進言して準備を開始。 「兵器の充填を始めろ!」 一方ファズマは、スターキラー基地に忍び込んだハン・ソロ達に脅迫されて、スターキラー基地を守る防衛シールドを無理矢理解除させられていた。 防衛シールドの解除でレジスタンスの戦闘機部隊が襲撃。ハックスは基地の防衛に当たる。 スターキラーのレーザーが発射されるまで後ほんの数秒という所で、レジスタンスの破壊作戦は成功し、基地は惑星ごと崩壊していく。 敗北を悟ったハックスは基地内部の中央コントロール・センターで、雪原に倒れているカイロ・レンを拾って帰投するようスノークから命を受け、基地を離脱したのだった。 この時、彼はオペレーターから「将軍が逃げ出した」と言われてしまっていたが、一応弁護しておくと、引き際を弁えてスノークに今後の方針を速やかに尋ねようと退室したのは理に適った行動であると言える。 確かに避難を指示せず一人で部屋を飛び出したら部下からそう見られても仕方ないけど。 まあ森の中で死にかけているレンを救出するほどの時間的余裕はあったので、おそらく全員脱出は完了したことであろう。 EP8 最後のジェダイ 今回はかなり序盤から登場する。 「聞こえてないのか?」 「ハーグース〜」 「聞こえてた」 スターキラー基地は破壊されてしまったものの、前作の時点でレジスタンス基地の所在地は判明しているため、艦隊を率いて惑星ディカーへと向かう。自身は旗艦のファイナライザーの艦橋に陣取って、追撃作戦の司令塔に徹する模様だ。 基地から既に逃走していたレジスタンスの船を追いかけると、レジスタンス中佐にしてエースパイロットのポー・ダメロンがファースト・オーダーに交信を求めてきた。 ここからハグス将軍ハックス将軍は劇中で小物キャラとして大っぴらに扱われるようになる。ぶっちゃけ前作ラストの時点で既に小物臭さは微かに見え始めていたが。 ポーはハックスを好き放題イジり倒した後、爆撃部隊を率いて奇襲を仕掛ける。 彼らが多大な犠牲を払って決死の覚悟で攻め立ててきたこともあり、ファースト・オーダーの軍艦ドレッドノートを陥落させられる由々しき事態に。加えて、レジスタンスの勢力がハイパースペースに飛び込んで、どこか宇宙の遠くに逃げ仰せる始末。 「ハックス将軍!」 当然これほどの失態を最高指導者スノークが許すはずもなく、ハックスの前にホログラム体として臨場。言い訳しようとする彼を容赦無く遠距離からフォースで床に捻じ伏せ、そのまま大勢の部下が見ている前で引きずり回した。 だが、文字通り例え転んでもただで起きるハックス将軍ではない。何とか身を起こしながら既に敵の尻尾は掴んであると返答する。 「決して逃しはしません…最高指導者」 彼はレジスタンスに振り切られた時に備え、部下を使ってレジスタンスの艦艇をハイパースペース・トラッカーで捕捉していた。これは相手が仮にハイパースペース・ジャンプを使ったとしても航行先を計算して特定出来るという優れ物。 このシステムは元々、帝国時代にターキン総督が創設した研究チームによって提唱された機構であり、EP4の前日譚『ローグ・ワン A STAR WARS STORY』では、主人公のジン・アーソが惑星スカリフのデータ保管庫でデス・スターの設計図を探している時、これの資料を口頭で読み上げるシーンが確認出来る。 あれから約30年余りの年月が経過して、未だ理論段階で留まっていた研究を引き継いだハックスのエンジニアチームが実用化に成功したとのこと。しかも次作では量産型のTIEファイターもこの装置を搭載して、ミレニアム・ファルコンを延々と追跡してくるのだから恐ろしい。 「レン、レジスタンスは射程外に出た。この距離では援護出来ない。艦隊に引き返せ!」 愛機のTIEサイレンサーを乗りこなし、中隊を引き連れて獅子奮迅の働きを見せていたカイロ・レンに、遊撃を一旦中止して戻ってくるようハックスはメッセージを送る。 自分を補佐する僚機が通信から即刻両方撃ち落とされてしまったこともあって、彼の言う通り分が悪いと察したのか、レンは不服そうに唸りつつも渋々その言葉に従った。 次いでハックスは戦略を変更。 逃げに転じて速力が高い敵艦に追い付けず攻撃を当てられないとしても、構わず背後から撃ち続けることで、逃がさないという姿勢をレジスタンスに示威するよう指示を出した。 このまま攻撃を避けるためにスピードを出し続ければ、先にレジスタンスの方が燃料切れを起こして身動きが取れなくなると読んで、持久戦に持ち込んだのだ。 「では息の根を止めてやれ」 ハックスの思惑通り、医療船アノダインを始めとするレジスタンスの艦隊は長時間の高速航走に耐えられず自滅していき、敵機は残す所、母船ラダス一隻のみになろうとしていた。 更に諸々の騒動を経て、レジスタンスが小型の輸送船に乗り移って惑星クレイト(*4)に逃げ込もうとしていることを知った彼は、攻撃目標をラダスから輸送船へと移行。瞬く間に次々とキャノンで沈めていった。 仲間を乗せた輸送船が何機も撃墜されているのを見過ごせなかったアミリン・ホルド提督はラダスを駆って、最高指導者スノークが乗る母艦のメガ級スター・デストロイヤーに船を向ける。 ハックスはこれを標的から目を逸らすための囮だと判断して、変わらず輸送船を狙い続けたが、それが大きな誤りだった。 「あのクルーザーを撃沈しろ!」 彼女の真意に気付いた頃には時すでに遅し。ホルド提督の命と引き換えのハイパードライブ特攻でメガ級スター・デストロイヤー(とその他随伴していた多数のリサージェント級スター・デストロイヤー)は大きなダメージを受けた。 事態の収拾を付けるため玉座の間を訪れたハックスは、そこで既に事切れていたスノークの亡骸を目の当たりにする。 傍らに気絶したカイロ・レンも横たわっているのを見て、銃を取り出して彼を始末しようとするが、その時不運にもレンが飛び起きてしまう。 ハックスは銃を隠し、何食わぬ顔で何故スノークが死んでいるのか問い質した。レンも澄ました顔で自らが討ち取った主の死をレイの仕業だと偽証する。 スノークが死んだ今、二人の関心はただ一つ… 「全兵力をレジスタンスの基地へ。一気に片を付ける」 「誰に向かって口を利いている?私の軍を指揮するつもりか?最高指導者が死んだ今支配者はもう居ない!」 「最高指導者は…私だ!」 「最高指導者…万歳……」 長きに渡る主権争いは一瞬で決着が付いた。 直接的な戦闘に関しては一般人の域を出ないハックス将軍がカイロ・レンに逆らえるはずもなく、フォース・チョーク(首絞め)で屈服させられ、彼に従うこととなる。 もしハックスが単にレンの寝込みを襲ったのなら、気配で目を覚ましてルークと同じ轍を踏んでしまった可能性が高かったことだろう。だが、メガ級スター・デストロイヤーが崩落した衝撃で体を強く打ち付けられたレンは先程まで完全に意識を失っており、言わば千載一遇の好機だったのだ。 ハックスが後もう少し早く駆け付けてさえいれば、最高指導者の椅子はもしかしたら… そのままファースト・オーダーは、レジスタンスが潜伏している惑星クレイトに進軍を開始する。レンとハックスはユプシロン級コマンド・シャトルに乗って部下達に指示を送った。 「ハックス将軍、前進だ。捕虜は無用。皆殺しにせよ」 レジスタンスを追い詰めた時、そこにルークが登場。AT-M6ウォーカー部隊による一斉射撃を浴びせるも傷一つ付けられなかったため、レンが降りてライトセーバーで雌雄を決することに。 ハックスはこれをルークの罠だと見抜き、今は誘いに乗らずに目的を優先すべきだと異を唱えようとするが、聞き入れられず殴打されてしまった。 その上「私が良しと言うまで軍を動かすな」と言い残して戦場に舞い降りたので、ハックス達には後ろから二人の戦いを見守ることしか出来ない。もっとも彼は殴り飛ばされた時にすっかり伸びていたので、眼前の光景を眺める余裕があったのかさえも疑わしいが。 その間にレジスタンスの生き残りは秘密の通路から抜け出し、レイとチューバッカの操るミレニアム・ファルコンに搭乗して宇宙へ飛び去って行った。 これハックスの言う通りにしてたら一人と一匹(?)を除いて敵を殲滅することが出来てたのでは? レンが相対していたのが、ルークがフォースの力で生み出した幻影だと判明したことを受けて、ファースト・オーダーの一行は基地の内部へと侵攻する。 もぬけの殻となっていた基地の中、カイロ・レンの入った部屋に視線を送るハックス将軍…その目は深い憎悪に満ちた物であった。 EP9 スカイウォーカーの夜明け あれから約1年ほどの月日が流れた。 「ハックス将軍、俺の新しいマスクが気になるのか?」 「いえ…お似合いです」 カイロ・レンがファースト・オーダーの最高指導者として権威を振るう一方、ハックス将軍は見る影もなく落ちぶれていた。 組織の今後の方針、及び組織の情報を漏らしているスパイについて話し合う会議が劇中で開かれたが、席次からしてハックスの地位はもはや他のファースト・オーダーの幹部達と大差無い扱いだった。前作、前々作に渡って3度も敵方に自軍への大打撃を許してしまったためか、単なるレンの嫌がらせかは定かではない。 ハックスは、帝国時代に長年にわたり軍の将校を務めた経験を持つというエンリック・プライドという名の元帥の下に左遷され、軍の指揮権も彼に奪われていた。 ハックス役のドーナル・グリーソン氏は本作のパンフレット内で今作のハックスを取り巻く涙ぐましい状況について次のように語っている。 「彼は、ナンバーワンになることに生活のすべてを捧げてきた男という印象があるからね。そんな男にとって、それに満たないことはすべてが失望に繋がるんだ」 「カイロ・レンにとって、ハックスはもはや眼中にない。カイロ・レンは、ハックスを、失うよりは簡単というだけの理由で、ただ側に置いているんだよ」 悪党ながら何とも世知辛いことだ… レンの修復したマスクにお世辞を並べたり、発言中にフォースで喋れないようにレンに口を押さえられたり、連行中のチューバッカに耳元で吠えられて固まったり、相変わらず何かと残念な描かれ方をしているハックスだったが… 最新作の重大なネタバレ ポー、フィン、チューバッカの3人はファースト・オーダーのスター・デストロイヤーに潜入中、ストームトルーパーの部隊に捕まり、処刑されることになった。そこにハックスが現れ、「自分が彼らを始末する」と部下のストームトルーパーから銃を受け取る。 ハックスの持つ銃が火を吹き、倒れたのは何と部下のトルーパー達だった。 I am the spy! 「 私がスパイだ! 」 そう…ハックス将軍こそがファースト・オーダーを裏切って密かにレジスタンスに情報を漏らしていたスパイだったのだ。 何故仮にもファースト・オーダーで将軍にまで上り詰めたハックスが組織を裏切ったのか?それはカイロ・レンが負ける姿を見たいからという実に彼らしい理由であった。 銀河の支配者になる道を鎖されたことにより、ハックスの抱いていた野心はレン個人に対する私怨へと変わっていったのだろう。彼は小物なりに意地を見せようとしたに違いない。 というか戦闘方面は全くからっきしなように思えたハックスなのだが、至近距離で不意を突いたとはいえ、3名のストームトルーパーの急所を瞬く間に撃ち抜くって意外に凄いのでは… それからハックスは偽装工作のため自分の腕を撃つようフィンに言ったが、彼は無情にもそれを無視して足を撃ち抜いた。 ハックスは多くの罪無き人々の命を奪った人物であり、フィンからしたらストームトルーパー達に非人道的な行いを強いてきた張本人の一人でもあるので、その言葉に従えないのも無理からぬ話だったと言えよう。(*5) 彼らを解き放ち、撃たれた箇所に包帯を巻いて杖をつきながら、侵入者達が逃げ出して手傷を負わせられたとプライド元帥に報告する。 しかし元帥は迷わず、そして何の躊躇も無くハックスを射殺した。ハックスがスパイであることなど彼には完全にお見通しだったようだ。 今まで散々レジスタンスを苦しめてきた宿敵の一人とは思えないほどの呆気ない最期となった。 結局のところ彼が寝返った理由は出世争いに敗れた腹いせ以外の何物でもなく、別に改心したわけでも善の心に目覚めたわけでもなかったので、当然といえば当然の末路だったのかもしれない。 命乞いする暇すらなく死を迎えたハックスは、その瞬間に一体何を思ったのか… 残念ながら本編におけるハックス将軍の出番は 以上で全て終了となる。 彼はカイロ・レンに一泡吹かせるため組織を裏切って命を落とした。 けれどもレンは最終的には、復活して新たな首魁と相成ったパルパティーン並びにファイナル・オーダーを裏切りレイと共闘したわけだ。 よってハックスがポー達を逃がした行為は、別にレンにとってマイナスにはならないどころか、むしろ間接的にはプラスにすらなっているのだ。 言ってしまえばハックスは完全に無駄死だったということになる。それを知らないままこの世を去ることが出来たというのがせめてもの救いか。 最高指導者として銀河に君臨する野望を叶えられず、憎き仇に一矢報いることすら能わず… 確かに小心な冷血漢ではあったかもしれないが、燃え盛る野心を胸に抱き、常に全力で生きてきた男が描き上げた人生の結末としてはあまりにも虚しい。 …ただ紆余曲折を経て、彼の怨敵だったカイロ・レンはレイを救うために死亡し、スカイウォーカーの直系の血筋は完全に絶えることになった。 更には指揮官の座を乗っ取った挙げ句、彼自身の命を奪った上官のプライド元帥もまた失意のままスター・デストロイヤーの爆炎に呑まれるという凄惨たる終焉を迎えたので、ある意味結果だけ見れば満足だったのではなかろうか? 何だかんだ巡り巡って、ハックスの行動は本人も意図せぬ形で憎む相手を揃って道連れにしたのである。 シークエル・トリロジー完結後、ハックス将軍を最後まで演じ切ったグリーソン氏は、「BANGショービズ」というイギリスのニュース提供会社による独占インタビューにて、 ハックスのフィギュアをコレクションしていることを明かした。当人曰くそんなに数は出回っていないらしいが。 また、グリーソン氏はスター・ウォーズファンの集いに参加することについても前向きな姿勢を見せているそうで、今後も彼のハックス将軍に対する思い入れを拝聴出来る機会があると期待したい所。 【EP9没案】 本作の原案としてクレジットされているコリン・トレボロウ監督と脚本家デレク・コノリー氏の両名は、 当初『Duel of the Fates』(直訳すると『運命の闘い』)という副題で、実際に公開された『スカイウォーカーの夜明け』とは全く異なる物語のEP9を制作する予定だったことが公表された。 2020年1月にYouTubeでリークされた脚本及びコンセプトアートが話題となり、自身のTwitterでファンから質問を受けたトレボロウ監督も本物だと認めた次第である。 ストーリーが大幅に変わっているのに伴って、ハックス将軍を待ち受ける顛末も丸っきり違うので、彼を中心に大凡の展開を記載する。 興味のある方は下記を閲覧されたし。 『Duel of the Fates』草案 物語は惑星クレイトでの攻防より年月を経てファースト・オーダーが銀河のほぼ全域の征服を完了した時点から始まる。 組織の本拠地は、かつての銀河帝国と同様に惑星コルサントに置かれており、ハックスは「最高議長」として頂点に鎮座している。 最高指導者の座に就いたカイロ・レンはというと、更なる強大な力を体得するため、今は亡き皇帝シーヴ・パルパティーンの遺言を紐解いて邂逅を果たしたトア・バリューム(*6)の導きを頼りに単独で銀河を巡っていたので、 実質的にハックスがスノーク亡き後のファースト・オーダーを牛耳っているような状態だという。 そして彼は、フォースを操る力を自分も手に入れることに執着するようになったばかりか、どこぞの別の将軍よろしくライトセーバーの収集家になっていた。このフォースへの渇望は、おそらくEP8でレンに辛酸を嘗めさせられたのが発端だと思われる。 捕らえたレジスタンスの者達を尋問すべくレンのようにフォースを使おうとするも、当然全く何も起こらず、捕虜達にすら失笑されるなど、やはり少々冴えない役回りの模様。 他方、スパイの処刑に当たってライトセーバーをギロチンのような形で用いる残虐な一面を見せていたり、助力を求めたレンから信念の無さを指摘されたことで一念発起するという意外な場面も見られた。 苦闘の末レジスタンスは、ファースト・オーダーの工場からスター・デストロイヤーを始めとする様々な兵器や武器を奪った後、 フィン達の懸命な努力によって自身の在り方に苦悩するストームトルーパー達を味方に付けることに成功し、虐げられていた下層市民達も交えて反乱を起こす。 ハックスは残存兵力を投入して、これに応戦する。直にファースト・オーダーが優勢となるが、そこでランド・カルリジアン率いる援軍がレジスタンスに加勢したことで形勢逆転。 レイとカイロ・レンがモーティス(*7)の森で決着を付けようとしていた、ちょうどその頃、追い詰められて観念したハックスは、集めていた1本のライトセーバーで自ら命を断つという壮絶な最期を遂げるのだった。 …以上がリークされたEP9の初期案である。 大人の事情で実現には至らなかったものの、もしかしたらありえたかもしれないハックス将軍のもう一つの未来と言えるのではないだろうか。 コンセプトアートでは、議長室に一人、崩壊する惑星コルサントの都市を背にして、己の胸に真紅の刃(*8)を突き立てる因果応報なれど、どこか切ないハックスの姿が映し出されていた。 ごく短期間ながら銀河の支配者に近しい存在となれた世界のハックス将軍も、最後まで心なしか憐れでありながら、しかし全力で己が野望に生きる男であったようだ。 「気を付けろレン。個人的な興味を指導者の追記・修正より優先させるな」 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 7の終盤でスノークのホログラム室に駆け込んで来る時の走り方が小物丸出しで見る度ジワる。俳優さんの演技力すげえ -- 名無しさん (2020-01-10 00 28 34) まあ偉そうに顎で使ってきてたプライド将軍には最終的に一矢報いられたと言えなくもない -- 名無しさん (2020-01-10 00 31 11) 歴代の敵幹部だとガンレイやクレニック長官に負けず劣らず見てて色々不憫になってくる。もちろん3人とも悪事働いてるから因果応報だけど -- 名無しさん (2020-01-10 00 50 20) 新作での地位と犬死ぶり見てると7終盤で基地ごと爆死するか8終盤でカイロレンに締め殺されてた方がまだ幸せだったかもしれんな。 -- 名無しさん (2020-01-10 01 54 26) SWは完全に死亡確認されない限り胴体真っ二つにされても話の都合のために生還してたことになるし、「腹を撃たれて倒れてフェードアウト」程度じゃ死んだとは信じられない…時系列上の続編でサイボーグ化して生きてても驚かない -- 名無しさん (2020-01-10 01 58 12) ↑生きてたら生きてたで結局レンに仕返ししようとしてやったことが何も意味無かったって知るわけだから結局ビミョーな気が… -- 名無しさん (2020-01-10 02 03 47) ↑↑一応ライトセイバーで斬られた場合出血しないんだから当たり所によっちゃ死なないからモールに関しちゃ筋は通ると思ったんだけどなあ -- 名無しさん (2020-01-10 07 37 09) カイロハックスファズマが悪役として中途半端だったせいでわかりやすい悪役のプライドを登場させたって感じだよな EP9 そういった安直さが非難の的だったりする -- 名無しさん (2020-01-10 07 38 44) スターキラー基地の演説シーンはナチのプロパガンダとして知られる『意志の勝利』をモデルにしたらしい。 -- 名無しさん (2020-01-10 07 52 29) EP7,EP8共にカイロやファズマより遥かに真面目に仕事してたな。結局失敗に終わるのはあれだけど -- 名無しさん (2020-01-10 08 39 49) 旧三部作で言えば、ターキンにもピエットにもなれなかった微妙な中間管理職といったところか -- 名無しさん (2020-01-10 08 44 19) ↑4ハックスにはプライド元帥を上手く陥れて指揮権を奪い返すくらいは意地見せて欲しかったな、最後まで元帥はぽっと出過ぎて愛着湧かなかったし。 -- 名無しさん (2020-01-10 08 55 25) ファーストオーダーの人材不足は異常 -- 名無しさん (2020-01-10 16 52 33) このネタキャラっぷりそんな嫌いじゃない -- 名無しさん (2020-01-10 16 59 49) 本人は絶対に納得行かないだろうけど年齢と経験考えると本来は9の時みたいなポジションで経験積んでって、10年後20年後に司令官になるくらいが妥当だったよね -- 名無しさん (2020-01-10 17 15 05) ↑×3そもそもスノークに次ぐ地位にいるのが若造2人(俺よりは年上だけど)ってのが全く意味不明だった -- 名無しさん (2020-01-10 18 12 15) ↑設定的にはカイロ:数少ないダークサイドの使い手だからハックス:父親のを改良してより効率的なストームトルーパーの育成法を開発したからとなっている。そもそも古い将軍は反乱軍に敗北してるわけだから若いので固めるというのは分からないでもない。 -- 名無しさん (2020-01-10 19 18 21) ↑結局最終的に帝国時代の老人たちに主権を奪われたのは皮肉だな。 -- 名無しさん (2020-01-10 20 26 40) 未熟なカイロ・レンと若造のハックスしか人がいなかったって辺りがファーストオーダーの人材不足を感じさせる、残党なんだから仕方ないが…それでもレンは戦闘能力と操縦技術は頭一つ抜けてたしハックスも指揮は悪くはなかった -- 名無しさん (2020-01-10 20 43 07) 一時期ハックスも実はターキンの孫という設定で、祖父に憧れてるけど未熟だから中々祖父ほど上手く行かない〜みたいなキャラかと勝手に思ってた -- 名無しさん (2020-01-10 21 30 33) ある意味ベン・ソロ闇墜ちによる被害者 -- 名無しさん (2020-01-10 23 10 02) もしかして古参の有能な人材はファイナル・オーダーが先に引き抜きしてたからファースト・オーダーがあの人材不足っぷりだったのでは?(名推理) -- 名無しさん (2020-01-11 01 32 39) レンくんもハグス将軍も育てれば将来有望な人材ではあったんだけどなぁ -- 名無しさん (2020-01-11 01 44 27) 全盛期の帝国だとベイダーですら実質3番手で他の幹部から面と向かってボロクソ言われるような立場だったのにな(フォースで黙らせたけど) -- 名無しさん (2020-01-11 09 11 30) 「反乱者たち」ではカラスがベイダーに初めて会った時、誰だこいつ?みたいな反応してたからそこまで知られてなかったというのもあるんだろうけどね…… -- 名無しさん (2020-01-11 09 22 07) 死後はウィーズリー家の長男として生まれ変わって美人な奥さんもらってるぞ -- 名無しさん (2020-01-11 22 50 01) ほいほい艦隊くれるような連中を信用できるかよという至極真っ当な意見を言ったのに粛清された幹部の人は可哀想だった -- 名無しさん (2020-01-11 23 14 14) ↑あ、あれはカイロくんが幹部さんをリラックスさせてあげようとフォースで高い高いしただけだから…。 -- 名無しさん (2020-01-11 23 19 28) ↑2ハックスに裏切られたのもそうだが、ベン・ソロになった直後にレンプルナイツ(雑造語)が驚く風もなく淡々と襲い掛かってきたあたり、本当に元から人望ゼロだったのが分かって涙出た。あの調子じゃ仕方ないけど -- 名無しさん (2020-01-11 23 33 52) ベイダーは粛清するにしても無能だったりフォースを侮辱したりで理由はあったからな。レン君は正論言われて反論できないから実力行使って感じで小物感が... -- 名無しさん (2020-01-11 23 58 27) 最後のジェダイに出てきたトラッカーは追跡装置というより、敵船がハイパースペースに突入する直前の航跡を詳細に記録してそこからジャンプ先を算出する装置じゃなかったっけ -- 名無しさん (2020-01-12 00 09 24) ↑ごめん。確かに省略しすぎて誤解させる書き方だった。だから補足説明入れて書き直した。 -- 名無しさん (2020-01-12 01 40 18) 正直レンより好き。未熟ながらも芯が通ってるからかな。 -- 名無しさん (2020-01-12 01 54 11) 実質的に多くの星とそこに住む人々を宇宙の藻屑にしたのにどこか憎めないミスターKOMONO -- 名無しさん (2020-01-12 08 23 16) 非正史のレジェンズでも良いからモールみたいにしぶとく生き延びてて欲しい。 -- 名無しさん (2020-01-12 19 14 22) 小物界の中では将来性こそ秘めているものの結局大物には慣れなさそうな器。 -- 名無しさん (2020-01-15 00 17 38) 死んだと見せかけつつ地球のド田舎に逃げ延びて鬼畜うさぎとバトルする日々を送ってるんだろ?知ってる -- 名無しさん (2020-01-18 02 33 47) デマの可能性もあるがトレボロウ監督の原案したスカイウォーカーの夜明けだとハックスがコルサントを支配する予定だったらしい。そこに主人公サイドがスターデストロイヤーをハイジャックして奇襲仕掛けるんだと。 -- 名無しさん (2020-01-18 18 52 59) ↑9会議で「奴らは見返り求めてないんですか?」って聞いてきた幹部にカイロがキレてたのは見返りがレイ殺害だからかと思ってたわ。惑星キジーミごと例のスカベンジャー女ぶっ殺しましょう!って提案してたハックスのことも黙らせてたし -- 名無しさん (2020-01-20 01 14 09) ↑に続いて連投失礼。まあどっちにしろ痛い所突かれて実力行使ってのは変わらんけど -- 名無しさん (2020-01-20 01 14 58) スノークの部屋でカイロレンの始末に成功して最高指導者ハックスになってたらその後銀河はどうなってたんだろうか? -- 名無しさん (2020-01-27 21 45 05) 裏切る動機自体は納得行ったけど死に方が雑過ぎと感じたな…EP9初期案見た後だと尚の事。そりゃそこまで重要なキャラではないからと言われたらそこまでだが… -- 名無しさん (2020-02-13 23 23 15) ネタキャラとしても悪役としても中途半端なんだよな。完全にギャグに振り切ってくれたらこっちもそういうキャラとして見れたのに -- 名無しさん (2020-02-14 21 01 39) ↑英語の読み間違いの部分もあるかもしれないが、降板前の監督のリーク原案見る限りだと、情けない小物なりに最後の最後まで死にもの狂いで足掻いて根性見せるっていう今までのSW本編にはあまり無かったようなボスキャラになる余地がハックスにあったみたいでそこは心残りなんだよな。実際に公開されたEP9のシナリオを否定するわけではないが -- 名無しさん (2020-02-14 21 28 32) あの退場ぶりだと密かに生存して微妙な悪巧みしてるというダース・モールさんルートも充分ありうる。 -- 名無しさん (2020-02-15 05 59 22) 二度続けてすまない。↑↑泥臭く抵抗した後の死亡シーンで没脚本に"He lost the star wars"って下線付きで強調されてまで記載されてたの笑ったわ。レンくんに信念が無いと指摘されて決意を改める場面もあるみたいだし敵側の準主役みたいな扱いじゃんって。 -- 名無しさん (2020-02-15 06 03 44) むしろ速攻看破して処刑したプライド元帥に「なにこの人(帝国軍人なのに)有能!」って感激した(笑) -- 名無しさん (2020-04-18 02 58 14) このキャラを特別好きなわけでもなかったが、実は生きててこの後裏でプライド将軍相手に悪あがきしたりするのではないかと期待するほどには愛着があったようだ -- 名無しさん (2020-04-20 16 20 15) 生存して続編でチョイ役で出てくれたら個人的に嬉しい。 -- 名無しさん (2020-12-28 09 40 11) ↑9まあクレイトの戦いで足引っ張るレンがいないから、無事レジスタンスをほぼ根絶やしにしてファーストオーダーが天下取るんだろうけど、ハックスにそれほど人望があるとは思えないし、数年か下手したら数ヶ月で部下の裏切りに遭ってそう -- 名無しさん (2021-01-22 13 06 38) 絶妙な小物感がでてるキャラクター性は普通に好きだった。それでいて無能ではないという。アクバー提督やラックスのような有能な指揮官の元で経験を積んでたらどうなってたのか妄想させられる。 -- 名無しさん (2022-06-28 23 46 19) 今になって思えば当初想定されていたトレボロウ案のEP9のハックスの活躍を見てみたい気もしなくはない。 -- 名無しさん (2023-04-20 10 16 47) 名前 コメント
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▼下へジャンプ 【甍の波】姉の下着盗んでたのがパレた避難所【変態の海】 434 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 04 52 59 ID Qjaof32j おはよう お姉ちゃんを好きになるってありえないよね‥‥? 435 愛のVIP戦士 sage 07/05/08 05 33 12 ID 8NQCuGEY ありえなくはないがおすすめはできない。 他の女の子に興味を持てるのならそれにこしたことはない。 そういや女性恐怖症だったよな? ちなみに古事記ではいくつか近親相姦が出てくるけど、 実はいずれも兄妹の関係なんだよな。 436 愛のVIP戦士 sage 07/05/08 06 40 54 ID t4UrELc0 434 おはよう どうかしたのか 444 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 11 29 54 ID Qjaof32j 435 泣いてたら‥‥お姉ちゃん黙って後ろから抱きしめてくれて‥‥ 優しくしてくれてすごく嬉しくてさ‥‥ 445 愛のVIP戦士 07/05/08 12 11 32 ID ViBsaf9n 444 嬉しかったんなら何はともあれ「ありがとう」を伝えるんだなw 好きになるどうこうは、まあ慌てて答えだそうとするな 446 愛のVIP戦士 07/05/08 12 27 50 ID olhYKRpS 444 今までのレスを読んでると、ただの甘えん坊なだけの気もしない。 優しいから甘えてしまう>好きになるなパターンが・・ 447 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 12 34 27 ID Qjaof32j 445 ありがとうってちゃんと伝えてきたよ おかしいよな‥‥友2のことまだ好きなのに‥‥orz 448 愛のVIP戦士 07/05/08 12 40 45 ID ViBsaf9n 447 友2の時もそうだが、自分の気持ちがはっきり分からないのに無理やり「好き」とかに分類しなくていい。 もやもやしたまま引きずっておけ。みんなそうしてるんだ 449 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 12 48 51 ID Qjaof32j 446 どういう意味かな‥‥? 448 わかった‥‥そうする 450 愛のVIP戦士 07/05/08 15 44 06 ID 2/5RLeal 449 ストックホルム症候群じゃね 473 愛のVIP戦士 07/05/08 18 53 00 ID x5ek6uCh 472 辛い…まぁピリッとくるけど、このプリッツのは風味だけな感じかなぁ 勃妃はひつまぶしとか、よく食べるの?? 474 勃妃 ◆XFmOoXcnks 07/05/08 18 54 30 ID 7BtAO4th 473 ひつまぶしじゃなくてくっついてるのはたまにたべるよ? 478 愛のVIP戦士 07/05/08 19 09 06 ID vM1GJmyK 普通の蒲焼きとかのことかwwww 484 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 19 25 22 ID Qjaof32j 鰻は食べれないんだよな‥‥ 485 勃妃 ◆XFmOoXcnks 07/05/08 19 29 10 ID 7BtAO4th 484 なんで?? 486 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 19 35 41 ID Qjaof32j 485 なんかね‥‥昔姉ちゃんたちに山椒いっぱいかけられたの食べさせられて泣いたことを思い出すからw 辛かったなぁorz 487 勃妃 ◆XFmOoXcnks 07/05/08 19 48 08 ID 7BtAO4th 486 かわいそうに…うなぎおいしいよ? 489 愛のVIP戦士 07/05/08 19 51 02 ID x5ek6uCh うなぎ美味いよな 493 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 19 56 03 ID Qjaof32j そんなに美味しいなら今度食べてみようかな‥‥ 494 勃妃 ◆XFmOoXcnks 07/05/08 19 59 47 ID 7BtAO4th 493 まだ好きってよくわかってないんだから食べちゃだめだってwww 495 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 20 03 11 ID Qjaof32j 494 お姉ちゃんじゃないってwwwwww 鰻の話だwww 496 騎士 ◆eW40codo.c sage 07/05/08 20 06 03 ID XvYlG/oP 494-495 この流れに吹いたwwwwww 500 アホの子 ◆AQ5p3uIpXQ 07/05/08 20 11 49 ID 8l87UtqN 報告を 忘れてたっ! 503 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 20 19 23 ID Qjaof32j 500 kwsk 507 アホの子 ◆AQ5p3uIpXQ 07/05/08 20 43 52 ID 8l87UtqN 今日一緒に出掛けて思った フ ラ グ じ ゃ な い な 510 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 20 55 31 ID Qjaof32j 507 彼氏いたとか?‥‥ツラいよなぁorz 511 愛のVIP戦士 07/05/08 20 57 53 ID vM1GJmyK 510 自虐的になるなよwwww 513 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 21 02 26 ID Qjaof32j 511 凹むって‥‥本当に好きだったんだもんorz 532 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 23 04 06 ID Qjaof32j お姉ちゃんにビンタされたorz 533 騎士 ◆eW40codo.c sage 07/05/08 23 06 14 ID XvYlG/oP 532 k、kwsk!!!!!!111111 537 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 23 30 20 ID Qjaof32j 友2から、明日ちょっと話がしたいってメールが来たけどイヤですって送って無視してた その後お姉ちゃんに相談したらしくてお姉ちゃんが部屋にきてた ツラいかもしれないけど、謝りたいことあるから話だけでも聞いてあげてほしいって言われたけどうるさいって無視した そしたらいつまでもひねくれてないの!まだ友2のこと好きなんでしょ!!って‥‥ 538 愛のVIP戦士 sage 07/05/08 23 33 52 ID sJdQpO6d 537 今は会いたくないのか? 539 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/08 23 39 58 ID Qjaof32j 538 会いたいけど‥‥会ったら苦しくなりそうだから‥‥orz 540 騎士 ◆eW40codo.c sage 07/05/08 23 43 53 ID XvYlG/oP 鯉なんて常に苦しいものじゃね? 絶対に会わないっていうなら強要はしないけど 会ってみるだけならいいんじゃまいか? 541 勃妃 ◆XFmOoXcnks 07/05/08 23 45 06 ID 7BtAO4th 539 苦しいのはわかるけど…会ってお話ししてきたほうがいいと思うな…わたしは 542 愛のVIP戦士 07/05/09 00 04 03 ID 3/oNGlP1 539 恋をして、いっぱい泣たり、つらい思いした人ほど、強くなれるし、優しくなれるよ! 630 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 00 07 00 ID ZP8c8IU3 (つд`) 631 愛のVIP戦士 sage 07/05/10 00 10 01 ID gaG656FS 630 つ旦 どうした? 632 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 00 11 44 ID ZP8c8IU3 今日友2と話してきた‥‥ 633 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/10 00 15 23 ID UPETyM2f 632 kwsk聞こうか? 634 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 00 26 58 ID ZP8c8IU3 お姉ちゃんやスレで言われたこと考えてたけどやっぱり会いたくないって思った 朝お姉ちゃんと喋ったけど、そのことには触れないで、ただ昨日はビンタしちゃってごめんねって言われただけだった 学校は昼で終わって、さっさと帰ろうとしたら友2らしき人が前にいた 気づいて引き返したけどおいつかれた 635 愛のVIP戦士 sage 07/05/10 00 28 39 ID Q2kMCr4f 634 逃げるのは、 FFだけでいい。 えにくす{19??~2006} 636 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 00 37 59 ID ZP8c8IU3 友2「こんにちは」 俺「‥‥こんにちは」 挨拶だけして逃げようとしたら肩掴まれる 俺「なにするんですか!?」 友2「逃げようとしたでしょ?話だけでも聞いてくれないかな?」 俺「‥‥‥そんなの彼氏と好きなだけすればいいじゃん‥‥俺関係ないし」 友2「関係あるから話がしたいの‥‥それに彼氏とはもう別れたし」 俺「え!?別れたの?」 友2「うん、前から別れようと思ってたからね もうあんたとはこれまでって言ってひっぱたいて終わりw」 俺「そうなんですか‥‥」 友2「で、話聞いてくれるかな?」 俺「はい‥‥」 637 愛のVIP戦士 07/05/10 00 39 49 ID mUwUP6MQ ほー。別れたのか。それは意外な話の流れだなw 638 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/10 00 42 55 ID UPETyM2f 636 ktkr! 641 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 01 04 43 ID ZP8c8IU3 友2「ごめんね、最近やりすぎちゃってさ 勝手に脱がしたり首輪とかしたりしちゃって‥‥」 俺「うん‥‥」 友2「イヤだったでしょ?」 俺「‥‥別にそんなことないよ」 友2「え?」 俺「気持ち良かったもん、あれ」 友2「あれ??」 俺「温泉で‥‥手でやってくれたやつ‥‥」 友2「あぁ、あれかwww もしかして初めてだった?w」 俺「うん、今まで彼女とかいたことないし‥‥」 友2「そうなんだ、じゃ、まだチェリーボーイなのかな?w」俺「‥‥うん、まだ童貞‥‥キモイよね‥‥ごめん」 友2「そんなに自分を卑下しないのw 別に悪いことじゃないしねwww 頑張れば彼女くらいできるよw可愛いんだしw」 俺「それ凹むなぁorz」 友2「それで話なんだけどさ、これからも友達でいてほしいなって思ってさ」 俺「‥‥‥友達‥‥ですか?」 友2「うん、友達 この前みたいに遊びに行ったり色々したいし‥‥ダメかな?」 俺「‥‥わかりました‥‥よろしくお願いします」 友2「ありがとwww あ、言い忘れてたけど私結構Sだからね?w」 俺「‥‥‥」 642 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/10 01 06 03 ID UPETyM2f 641 こっからが本当の戦いって事かwwwwwwwww とりあえず、おめwwwwwwwwwwwww 643 モルボルワースト ◆UatvqBTYQ. ぷにぷにのむにむにのふにふに 07/05/10 01 06 56 ID gzOQhZ13 641 オメロス 644 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/10 01 08 07 ID HKsPMVT9 641 やはり友達からか 勝ち取るにしても長い戦いになりそうだなw 645 愛のVIP戦士 07/05/10 01 09 58 ID mUwUP6MQ 「またいっしょに行きたいね」権ゲットw 646 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 01 11 03 ID ZP8c8IU3 勢いで告白しようと思ったけど、出来なかったorz 647 勃妃 ◆XFmOoXcnks 07/05/10 01 14 40 ID yc6gsJDv 646 どうして? 648 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/10 01 16 00 ID HKsPMVT9 646 とっくにバレバレだと思うんだがw 649 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 01 18 02 ID ZP8c8IU3 647 先に言われたのが 「私一人っ子だからさ、こんな風にいじれる可愛い弟欲しかったんだよねwww」 で、言うに言えなかったorz 650 愛のVIP戦士 sage 07/05/10 01 27 28 ID Q2kMCr4f 649 まぁ決め台詞は今決まったんDA★ZE ①「 今でも僕は、貴女にとって弟ですか? 」 ②「 これからもずっと、貴女だけの弟にしてください!」 ③「 僕をいつまでもブタとののしってください女王たま~!」 651 愛のVIP戦士 07/05/10 01 30 10 ID mUwUP6MQ この間みたいに向こうから聞いてくるようなチャンスがまた来るさ あんまり思いつめずに自然に言える時に告ればいい 652 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 01 36 10 ID ZP8c8IU3 650 ③はドン引きされる‥‥ 651 そうする‥‥ 657 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 02 47 28 ID ZP8c8IU3 どうしよう‥‥‥ 658 勃妃 ◆XFmOoXcnks 07/05/10 02 52 14 ID yc6gsJDv 657 どしたの?? 659 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 03 05 31 ID ZP8c8IU3 お姉ちゃんが、手でやってあげようか?wって言ってきた‥‥ 702 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 18 57 51 ID ZP8c8IU3 688 痴漢にあったのか‥‥大丈夫? すごく気持ち悪いよな、やられるとorz 703 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/10 19 06 43 ID R2xyu+Y0 702 ちょwwwおまwwwwwドドンマイwwwwwww 704 愛のVIP戦士 07/05/10 19 10 26 ID V3OMMziH 702 ちょwwww 705 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 19 13 56 ID ZP8c8IU3 引くだろ?リアルに俺はよくこんなことされる人間なのさwww orz 706 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/10 19 30 23 ID R2xyu+Y0 705 いや、別に引かねぇけどwww お前も大変だなぁ…… で、それは男としてやられるん?女と間違われて? 710 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 19 49 00 ID ZP8c8IU3 706 女と間違われる‥‥orz んで、相手は男だったり女だったりorz 711 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/10 19 54 21 ID zhnyvpBO 710 それはキツイなwwwwww イ㌔(´・ω・`) 712 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 19 59 45 ID ZP8c8IU3 男は俺が男だって分かったらすぐ止めるんだけど、女は気づいてもお構いなしに続けてくるからタチが悪いorz 713 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/10 20 02 02 ID zhnyvpBO 712 女の方は最初から男って分かってやってるんじゃね? 714 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 20 09 07 ID ZP8c8IU3 警察も当てにならんしね‥‥ 男が痴漢に遭うわけがない、本当はお前がやった方なんじゃないのか? とか言いたい放題言われたしな‥‥(つд`) 715 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/10 20 16 02 ID zhnyvpBO 714 マジか… 強く…強くイ㌔…… 716 愛のVIP戦士 07/05/10 20 17 03 ID V3OMMziH 714 警察が人信じなくてどうすんだって話だな 717 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/10 20 18 44 ID HKsPMVT9 714 そういや朝はどうしたの? 718 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/10 20 29 14 ID ZP8c8IU3 だから電車には極力乗らないようにしてる‥‥ 717 結局押し切られてされるがままになってたよ(つд`) 719 愛のVIP戦士 07/05/10 20 46 54 ID V3OMMziH 718 慰めようと思ったけどどうしたらいいかわかんなくてそうなっちまったんじゃね? まぁあんま深く考えない事をおすすめする 751 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 10 59 15 ID eFiwhERg なんかお姉ちゃんが妙なモノ持ってるよ‥‥(つд`) 752 愛のVIP戦士 07/05/11 11 05 04 ID FPiILvev 751 うp!うp! 753 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 11 12 56 ID eFiwhERg 752 もう持ってっちゃった なんか穴の空いてる丸い玉にベルトみたいなのついてるヤツ 754 愛のVIP戦士 07/05/11 11 24 31 ID FPiILvev 753 ちょwwwwwwwwwwwwwwwww 755 愛のVIP戦士 07/05/11 11 28 19 ID FPiILvev 名称:ボールギャグ Wikipediahttp //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%82%B0 他サイト http //www.epism.com/info/ballgag.htm http //daimaoh.kir.jp/orism/kutikase.html 仕事中の人は開けない方が無難w 756 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/11 11 29 01 ID wS/oLNKW ボールギャグwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 757 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 12 10 02 ID eFiwhERg ボールギャグorz 758 愛のVIP戦士 07/05/11 12 11 40 ID cBLCpoEX この週末のプレイ用ってわけかwww 759 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 12 24 05 ID eFiwhERg 一応、お姉ちゃんと友2と3人で遊ぶ約束してるけど‥‥そっち系のことなのかなorz 760 愛のVIP戦士 07/05/11 12 27 53 ID cBLCpoEX そっち系もやるんだろうね 二人してチソチソにいろいろするんじゃないかとは思うが あんまり予想しないでおいたほうが楽しそうかwww 761 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/11 12 31 00 ID wS/oLNKW sneg? 762 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 12 34 34 ID eFiwhERg 760 じゃあ、今回は友2に協力してもらってお姉ちゃんをいじめてみようかな お姉ちゃんには秘密で計画たててさ 763 愛のVIP戦士 07/05/11 12 37 17 ID cBLCpoEX 762 う、うん。 積極的なのはいいことだw やるだけはやってみようwww 764 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 12 42 50 ID eFiwhERg 763 やるだけはってなんか出来ないの前提みたいな言い方やめてくれよorz 765 愛のVIP戦士 07/05/11 12 46 26 ID FPiILvev おもちゃ、って書くより、玩具って書いたほうが適当か・・・ いや、失礼・・・ 766 愛のVIP戦士 07/05/11 12 50 34 ID cBLCpoEX 764 すまんすまんww まあガンガレ 767 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/11 12 57 29 ID wS/oLNKW 762 お前の未来が幻視出来たwwwwwwwwww 768 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 14 38 43 ID eFiwhERg 767 kwsk 友2にメール送ったら、面白そうだねって来たw 何やろうかな~w 769 愛のVIP戦士 07/05/11 14 40 43 ID FPiILvev 768 そりゃおまえ・・・ 逆にやられる、だろwwwwwwww しかも、今からやろう、ってメール、妹に筒抜けだったりしてなw 友2が2重スパイみたいな感じでさwwwwwwwwwww 770 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 14 43 02 ID eFiwhERg 769 俺はやるときはやられない‥‥たぶん‥‥ お姉ちゃんに秘密にしてねって送ったらわかってるwって来たから問題なし 771 童貞神 ◆7bB2N4Vsqk sage 07/05/11 14 46 18 ID QFOm8pcR 770 いや、2重スパイでもそうじゃなくても同じ返信来るだろう で、クラスにvipperがいたわけですが 772 愛のVIP戦士 07/05/11 14 46 32 ID FPiILvev 770 ・・・・たぶん・・・・やられる 秘密にしてね→わかってる→さて、送信www でFA?wwwwwwwww 774 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 14 52 02 ID eFiwhERg お姉ちゃんに、友2から何も聞いてないよね?って送ったら、うん、何も知らないよ?天に誓って だって 771 経緯kwsk 776 愛のVIP戦士 07/05/11 14 54 52 ID FPiILvev 774 うわぁ・・・そんなこと聞いたらモロバレじゃねーか・・・ ひょっとして俺らを釣ろうとしてるんじゃないのかって気がしてきたwwwwwwwww 775 だからこそ・・・一緒にブーン・・・ 777 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 14 57 44 ID eFiwhERg 776 やっぱり自分一人で決めるわ‥‥なんか怖くなってきた 釣っても俺に何もいいことないしね‥‥そんなことしないよ‥‥ 779 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 15 50 32 ID eFiwhERg 最近友2のこと頭から離れない‥‥ずっと考えてるんだよね‥‥ 気持ち悪いよな俺orz 780 愛のVIP戦士 07/05/11 15 50 59 ID FPiILvev 779 いや、それ普通・・・ 781 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 15 54 53 ID eFiwhERg 780 普通かな‥‥? 俺今まで一回もこんなことなかったもん‥‥ 782 愛のVIP戦士 07/05/11 15 59 00 ID FPiILvev 781 別に普通じゃないって思っててもいいけど・・・ でも好きなんだからそれでいいじゃねーか、ウジウジ考えんなw 783 愛のVIP戦士 sage 07/05/11 15 59 23 ID prWoigxl 普通に女の子に恋ができるようになったのは歓迎すべきことじゃね?w 784 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 16 06 46 ID eFiwhERg 782 そうだよな、ウジウジしてすまんorz 783 友2とお姉ちゃん以外の人とは全く喋れないけどね‥‥‥すごく神経使うしさ‥‥ 785 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 17 11 35 ID eFiwhERg 勇者王いる? 786 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/11 17 31 36 ID oVQglYSc 785 呼んだ? 787 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 17 33 09 ID eFiwhERg 786 勃妃と会ったことあるんだっけ? 彼女どんな子なの? 788 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/11 17 38 14 ID oVQglYSc 787 会った事ないっスwwwww 789 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/11 17 49 01 ID eFiwhERg 788 あれ、そうだっけ? 俺の勘違い? 790 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/11 17 50 38 ID oVQglYSc 789 勘違いっスね ドドンマイっス 831 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 00 13 46 ID WsvGdVXO (つд`) 832 愛のVIP戦士 07/05/12 00 18 09 ID aK2z0fBg 830 831 なんなんだお前らwww 833 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 00 19 22 ID WsvGdVXO 俺‥‥もう男じゃない‥‥orz 835 愛のVIP戦士 07/05/12 00 24 17 ID 7rJgjTAh 833 834 なんかあっちもこっちもww 836 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 00 32 54 ID WsvGdVXO 理性が快楽に負けた‥‥もうダメだ俺 837 愛のVIP戦士 07/05/12 00 40 06 ID FrizsZ02 836 kwsk話を聞こうか 838 愛のVIP戦士 07/05/12 00 52 12 ID qv6pGswq 836 気にするな、オレは気にしない。でkwsk 839 愛のVIP戦士 sage 07/05/12 00 52 49 ID 9HssbvPa 838 レイ乙 836 でkwsk 840 愛のVIP戦士 07/05/12 01 23 08 ID tImKXmRA 836 手コキの快楽に負けていじめる計画を白状したかなwww 834 どうなったー? 841 愛のVIP戦士 07/05/12 01 25 23 ID P7pUZ9M0 836 そんなにボールギャグで苛められるのにはまったか それよりアホの子が気になる・・・ 842 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 05 01 17 ID WsvGdVXO 夕飯食べ終わって、リビングのソファーで寝てたはずなのに、気づいたら目隠しされて後ろ手に手錠かけられてた‥‥‥ 目が覚めたら真っ暗で、ちょっとパニクって叫んだらお姉ちゃんが 「やっとお目覚めかな?いい子だから静かにしてね? 別に痛いことはしないから。だから口開けて」 反射的に口開けたら、なにか入れられた‥‥たぶん例のボールギャグ‥‥orz 口が閉じられなくなってなんか変な感じだった 「気持ち良くしてあげるから、ズボン脱がすね?」 「あええ~(やめて~って言おうとしたけどうまく言えなかった)」 抵抗しても無駄だと思って大人しくしてたら、パンツも脱がされたあと足首にも何かつけられた‥‥ なんでそんなものいっぱい持ってるんだろ‥‥この人orz 一旦手錠外されてTシャツも脱がされて全裸になった そしたらまた手錠された 843 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 05 29 20 ID WsvGdVXO 途中でなんか気配感じたと思ったら、友2らしき人の声も聞こえてきた 姉「はい、あたしはあとは見てるから可愛がってあげてw」 友2「了解wいろいろさせてもらうねw」 何されるのかと思ってたら‥‥いきなり後ろから抱きしめられて、両手で乳首つままれたorz 力入れたり抜いたりしながらつねられて弄ばれる俺の乳首‥‥ 体よじってやめてって言おうとしたけど声にならないorz そのうちに今度は舌でペロペロされ始めた すごくくすぐったかった‥‥でも正直気持ちよかった そしたらなぜか勃起してきたorz 皮剥かれてなんか(たぶんゴム‥‥)付けられて、これでよしwって言われた あとは乳首摘まれたり舐められたり甘噛みされたり、ずっとその繰り返し‥‥ 乳首弄られただけなのに3回くらい逝かされちゃった‥‥俺男なのにorz 乳首は女の人が感じるところなのに、それで感じちゃって射精までした自分が情けなかった(つд`) でも‥‥この前の手コキほどじゃないけどオナニーよりずっとずっと気持ちよかった‥‥俺もう終わりです、男として失格orz 844 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 05 39 22 ID WsvGdVXO 一通り終わったら、2人に抱っこされてお風呂に連れて行かれて、チンコ洗われた なんでこんなことしたのかお姉ちゃんにきいたら‥‥ 「昼間にバカなこと考えたお仕置きだよw 今日はお母さん出かけてるし、絶好の機会だと思ったからねwww」ってorz やっぱりバラされてました>< 845 愛のVIP戦士 07/05/12 06 32 29 ID P7pUZ9M0 まぁ当然の結果というか・・・ 846 愛のVIP戦士 07/05/12 06 32 55 ID P7pUZ9M0 いい玩具だな・・・ 847 愛のVIP戦士 07/05/12 06 37 06 ID o8Y+NiGQ 足枷と目隠しも買ってあったかwww 848 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 06 49 21 ID WsvGdVXO 俺もう男としての自信がなくなったorz 849 愛のVIP戦士 07/05/12 06 53 22 ID o8Y+NiGQ 友2は泊まっていったのかな? 850 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 06 54 32 ID WsvGdVXO うん、今はお姉ちゃんの部屋にいます 851 愛のVIP戦士 07/05/12 07 00 21 ID o8Y+NiGQ そうか。この週末はたっぷり遊んでもらえそうだなww で、いたずらするのはもうあきらめたの? 852 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 07 09 21 ID WsvGdVXO 851 あきらめてはないけど‥‥向こうの方が上手だからなぁ‥‥ 853 愛のVIP戦士 07/05/12 07 14 18 ID o8Y+NiGQ おまいがちょっかい出す(出そうとする) ↓ 罰としてキモチイイことをされる って流れが出来かけてるからこの週末くらいは頑張って欲しかったがなww 854 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 07 20 41 ID WsvGdVXO 853 お姉ちゃんの胸の上にムカデのオモチャ置いてきたけどwww 最近さ‥‥友2になら何されてもいいやって思うんだよね 気持ちいいことはもちろんだけど、恥ずかしいことでも受け入れられる気がする‥‥ 重症だよなぁ‥‥orz 855 愛のVIP戦士 07/05/12 07 28 16 ID o8Y+NiGQ 854 おお、頑張ったなwww 重症だが、そう思えるならまたなんかしてもらえるのは楽しみだなw こっちも期待しとくよww ただ、自分が気持ちいいだけじゃなく、相手も気持ちよくしてあげたいって思うといいと思うけどね 具体的に手はだせないかもしれないが、まあ気持ちとしてね 856 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 07 37 24 ID WsvGdVXO 855 やっぱり重症だよなぁorz なんかね、友2はSだって言ってたからさ‥‥俺がMになったら受け入れてくれるんじゃないかなとか勝手に考えちゃったりしてる ま、所詮は童貞の戯言ですがwww でも、苛められて感じちゃったのは事実だし‥‥なんか自分がよくわからないorz 857 愛のVIP戦士 07/05/12 07 41 09 ID o8Y+NiGQ せっかく構ってくれてるんだから、できれば大いに楽しもうww 考えるのは後からでも間に合うよw 858 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 07 46 37 ID WsvGdVXO 857 だよなw楽しまなきゃ損だよなwww 童貞貰ってもらえないかなぁ‥‥ 859 愛のVIP戦士 07/05/12 07 54 19 ID o8Y+NiGQ 858 1.今の状態がエスカレートして奪われる 2.告ってOKしてもらって、恋人としてセクロスする 3.告って振られて、せめて1回やらしてくれと頼んでさせてもらう いろいろパターンは考えられる。 筆おろししてくれてもいい流れだとは思うが、あんまりがっつくなww 気まずくなっては何もかも台無しになるからな うまくきっかけがつかめないようなら妹に真面目に相談してみるのがいいかもしれない 860 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 08 17 04 ID WsvGdVXO 859 2>1>3だね‥‥ まぁ焦っちゃいかんのだろうけど、千載一遇の機会を逃したくないって思う‥‥ 正直、友2以外の人とはそういうのは絶対無理だから 今まで女の人なんて恐怖の対象でしかなかった‥‥雷とか地震とかとおんなじレベル‥‥冗談なしでね それがなぜか友2だけは違った 初めて自分から近づきたいって思った この人なら今までのこと忘れさせてくれるような気がしたんだ だから、気まずくなって関係が壊れちゃうのが何より恐ろしい‥‥ そういうの想像したら泣けてくる‥‥orz 861 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 08 22 31 ID WsvGdVXO すまんね‥‥今更だけど果てしなくスレ違いだな俺 ウザい書き込みもいっぱいしてしまったorz 半年ROMるわ スレ汚しスマソ ノシ 862 愛のVIP戦士 07/05/12 08 27 15 ID o8Y+NiGQ 860 まあ気持ちはわからんでもないがなwww おまいの場合はそういう事情で特に後が無い想いが強いだろうが 他の男だって恋して思いつめてる時は大して変わらんww がっつけば相手は引くぞww 自然にそういう関係になれるといいな 863 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/12 09 53 00 ID EiO7Jh6w 861 ROMんなwww 俺はお前の報告を楽しみにしてるんだwwwww 864 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 10 47 27 ID WsvGdVXO 863 実はさ、友2に聞いてみたんだよね‥‥どんな人が好きなのか‥‥ついでに俺のことどう思ってるかを‥‥ 866 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/12 12 11 02 ID EiO7Jh6w 864 答えは?www 868 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 13 16 01 ID WsvGdVXO 866 俺「どんな人がタイプですか?」 友2「そうだね~‥‥可愛く甘えてくる子かな? 男だからって偉そうな態度のヤツはキライだね あ、あと苛めさせてくれる人w」 俺「なるほど‥‥じゃあ、例えば俺とかはどうですかね?w」 友2「全くダメだねまだ、残念www」 俺「じょじょ冗談に決まってるじゃないですかwwwwww」 友2「あはは~wそうだよね~www」 即答orz 869 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/12 13 26 11 ID UGhOqbPb 868 好みにはヒットするじゃまいかw これから精進しようぜwwwwwwwwww 870 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/12 13 26 54 ID EiO7Jh6w 868 >全くダメだね『まだ』←この部分に注目 871 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/12 13 43 50 ID UGhOqbPb 870 もっとよく熟れてから食べようってわけか!!11 872 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 13 49 42 ID WsvGdVXO 女性います? 873 勃妃 ◆XFmOoXcnks 07/05/12 13 59 16 ID LGTm9qcz 872 わたし♀ですよ? 879 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 15 06 08 ID WsvGdVXO 873 男って憎い‥‥? 892 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 22 06 41 ID WsvGdVXO 凹むなぁorz 895 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/12 22 07 33 ID hRdO0WDe 892 kwsk 901 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 22 23 57 ID WsvGdVXO 友2の上に座らされて話してたんだけど‥‥友2最近告られたって言ってた‥‥ 返事はどうしたの?ってきいたら 今回は卑怯な言い方されたから断ったけど、もう一回ちゃんと言ってきたらどうなるかはわかんないねっていってたorz なんで黙ってたの?って聞いたけど、別に言ってもしょうがないでしょそんなことって‥‥ 確かにそうなんだけどね‥‥ だから最近ちょっと冷たいのかなとかいろいろ考えて凹んだorz 902 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 22 27 47 ID WsvGdVXO でもいつまでもウジウジしててもいけないから、さっき 友2が付き合うことになったら精いっぱい祝福しますねwって言ってきた‥‥ ありがとwって笑ってた顔見てますます凹んだorz 903 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/12 22 28 57 ID UGhOqbPb 901 黙ってたことについて追及するのはあんまり良く無かったかもね おっせかいも気になるのも相手に直接するのはほどほどに もっと仲良くなろうと頑張れば良いジャマイカ まだ仲良くなって浅いんだしw 904 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/12 22 29 04 ID hRdO0WDe 899 何て羨ましいヤツだ 900 やってやれwwwwwwwww 901 それお前の事じゃね? 905 愛のVIP戦士 07/05/12 22 30 10 ID 8nKJoGg7 904 それだ 906 騎士 ◆eW40codo.c sage 07/05/12 22 33 12 ID QPV2RGvz 901 ログより抜粋 俺「どんな人がタイプですか?」 友2「そうだね~‥‥可愛く甘えてくる子かな? 男だからって偉そうな態度のヤツはキライだね あ、あと苛めさせてくれる人w」 俺「なるほど‥‥じゃあ、例えば俺とかはどうですかね?w」 友2「全くダメだねまだ、残念www」 俺「じょじょ冗談に決まってるじゃないですかwwwwww」 友2「あはは~wそうだよね~www」 どっからどう見ても後から保険のように冗談って言ってる部分は 卑怯と取られるんじゃないか? 904 でも昼寝してたらいとこが来て姉ちゃんと揉みくちゃにされたけどな!orz 907 愛のVIP戦士 07/05/12 22 33 55 ID ysFDK4IM 904 俺「なるほど‥‥じゃあ、例えば俺とかはどうですかね?w」 友2「全くダメだねまだ、残念www」 これかw 910 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/12 22 38 49 ID UGhOqbPb そういう意味だったのか!! でもハズレてたらガッカリし過ぎるからあんま思いこんじゃいかんなw 911 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/12 22 39 58 ID WsvGdVXO 904 906 俺ってのは絶対違うorz なんかわかんないけどそういう感じではなかったもん 912 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/12 22 44 51 ID hRdO0WDe 911 『別に言ってもしょうがない事』をわざわざ言った理由を考えれ 913 騎士 ◆eW40codo.c sage 07/05/12 22 45 06 ID QPV2RGvz 908 これでも結構死にかけだったんだからな! 窒息死とか圧迫死とか・・・orz 911 まぁあくまで可能性の話なんだぜ でも実は(ryってこともあり得るしなー まぁあくまでも可能性の話w 965 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/13 00 39 29 ID z0mcOG4p ちょっと聞いてもらえないかな‥‥? 966 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/13 00 40 06 ID lHt8u0O2 965 どした? 967 愛のVIP戦士 07/05/13 00 42 08 ID bv57YTHV 965 щ(゚Д゚щ)カモーン 968 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/13 00 44 59 ID z0mcOG4p 引くかもしれんが聞いてほしい 俺、チンコいじるよりも乳首いじる方が興奮する‥‥というかチンコいじっても立たなくなったorz 969 勇者王F.F.M ◆GGGcLs7FFM 07/05/13 00 46 51 ID lHt8u0O2 968 いや、別に引かんけどwwwwwwwwwww 乳首開発おめwwwwwwwwwwwwwwwww 972 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/13 01 03 04 ID TUbuI5Ar 968 また友2に弄られたのか? kwsk! 973 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/13 01 10 55 ID z0mcOG4p 友2の上に座らさせられてテレビ見てたんだけど‥‥ 後ろからTシャツの中に手入れられて乳首いじられて射精しちゃったorz 974 デスピザロ ◆R1cD4WH686 07/05/13 01 15 33 ID TUbuI5Ar 973 ホント乳首って凄いんだなwwww 何分ぐらいでイった? 975 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/13 01 22 10 ID z0mcOG4p 974 詳しくはわからんけど、3分はかかってない‥‥ 976 愛のVIP戦士 sage 07/05/13 01 24 31 ID naFRws4E 早っwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 977 下僕弟(双子) ◆RG2y1MTKy6 07/05/13 01 26 30 ID z0mcOG4p 早漏orz INDEX にゃんこ-インデックス PREV にゃんこ-005 NEXT にゃんこ-007 ▲上へジャンプ