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前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-13「襲撃」 「ルイズ、誰が来ても部屋の中に入れるな」 そう言ってチーフはキングサイズはあるベッドを簡単に抱え上げ、ドアに立てかけた。 大の男が数人がかりで動かす物を、まるで小さな空き箱を持ち上げるかのように動かした。 もとより身体を強化されているチーフ、小口径の弾丸一発や二発で貫けないエリートのエネルギーシールドやブルートのアーマーさえ一撃で殴り打ち破るだけのパワーがある。 スーツのパワーアシストをも利用すれば、数十トンもの戦車さえもひっくり返す事が出来る。 そんな法外な膂力を持つチーフに掛かれば高だか木製のベッド、キングサイズであろうと簡単に持ち上げられる。 「え? どうして?」 そんなチーフの突然な行動に戸惑うルイズ。 部屋に入ってくるなり、ベッドから降りる事を要求。 従って降りれば今の行動、訳が分からない。 「敵が来た」 ただ一言、そう言ってドアの前に物を積み上げていく。 室内の大きいと言える物をあらかた積み終え、窓の正面に立たないよう歩み寄ってほんの一瞬顔を出して覗いた。 敵と言うフレーズを捉え、内心戦々恐々とするルイズだったが。 それを見抜いたのか、チーフは簡潔に声を掛けた。 「片付けてくる」 平坦だが力強く、安心感を生み出す声。 何か言わなくちゃと、口を開くが。 「そ……その、き、きき気を……」 「……ああ」 喉で止まる言葉、だけど言いたい事が分かったのかチーフは頷く。 振り向き窓を開け、窓枠に足を掛けて体を乗り出した。 宿の外に降り立つと同時に速攻、腰に掛けてあるデルフリンガーを掴んで駆け出す。 ガンダールヴによって強化された身体機能、その速度は優に人の限界を超える。 チーフの着地、その音が聞こえた方へ視線を向けた時には、4人の傭兵たちに緑色の鎧が襲い掛かっていた。 「ブッ!」 デルフリンガーの峰、一回転させながら一人の傭兵の胴に打ち込む、まるで車に撥ねられた様に飛んでいった。 その傭兵が地面に落ちる前にそのままの勢いで体を回転、踏み込みバットを振る様に3人の傭兵を巻き込み打ち飛ばした。 鎧を着込んだ3人の男達の悲鳴が上がり、合計400リーブル以上、200キログラムは超える傭兵達が5メイル以上空を飛んで地面に転る。 発見しても成す術無く、接近、戦闘、終了まで5秒も掛かっていない。 「ヒュー、流石は相棒だ」 デルフリンガーが茶化すが、それに答えず。 「………」 チーフは飛来した矢を左手で掴み止めた。 「ヒッ!」 矢を撃った男、矢を圧し折りながらチーフが視線を向ければ悲鳴を上げた。 この距離、約30メイルの距離で当てれると確信を持ったのだろう、弓を引き絞り、矢を放った。 だがチーフはいとも簡単に掴み止めた、時速200キロメートル近いスピードで飛来する矢をだ。 どのような絶技か、人間ならば止められずに体に当たっていただろう。 チーフに見据えられた傭兵、慌てて第二射を放とうと矢柄に手を伸ばし。 弓に矢を掛け、敵を確認した時には目前の振り上げられた長剣。 双月が照らすその緑色の、人の形をしたそれの顔面に映る、怯えた自分の顔が見えた。 この男は後日後悔した、あんな美味い話に乗るべきではなかったと。 怪しむべきだったと、怪我に涙を飲みながら後悔した。 だがこの男だけではない、この宿襲撃に参加した者の殆どが後悔する事となる。 「何だ?」 これから貴族様が泊まる宿を包囲しようって所に、端から一際煩い怒声が上がっていた。 視線をやると、……なんだありゃ? 人が空を飛んでいる、浮き上がるフライじゃなくて上がって落ちる、放物線に吹っ飛ばされる人間。 次第に近付いてくる喧騒が頂点を迎えた所に、原因となった存在が視界に入った。 「ありゃあ……、ゴーレムか?」 全身緑色の、顔の部分に金ぴかの何かを張り付けた、人の形をしたモノ。 2メイルを超えそうなほどデカいそれが、包囲網の一角、雇われた傭兵達をなぎ払っていた。 人の頭を丸々掴んで持ち上げられそうな右手に錆びた長剣を持ち。 そのぶっとい足で人間では出し得ない速度で駆け。 他の奴らを殴り、蹴り、投げ、鈍器と化した長剣で一撃の下に叩きのめしていた。 「おいおい、えらい強いゴーレムだな」 やられた数は既に20人を超えていた、現れた方向には窓から逃げないよう20人ばかし居た筈。 つーと、窓から出てきた? 置いてた奴らは逃げたかやられたか、どっちにしろ戻ってはこないだろうな。 てかあの旦那、あんな強いゴーレム出せるメイジがいるなんで聞いてねーぞ。 スクウェアメイジでも居たのか? あんだけのゴーレムは早々お眼にかかれねぇ。 精巧に出来た操作型のゴーレムか、機械的、効率的に倒し続けるそれは同じメイジとして感嘆を覚えた。 しかしだ、前金も貰ってるし、ここで見逃したり、逃げるわけにもいかねぇ。 「このままじゃあやべぇーな、おい、あのゴーレムぶっ潰すぞ」 杖を取り出す、周りに居た奴らも頷き杖を取り出す。 言っちゃあ何だが、俺を含め周りに居る奴は元貴族。 ラインとトライアングルで構成される実戦派メイジ集団、戦闘経験もたっぷりで殺したメイジは100人を超えている。 スクウェアメイジも殺った事もある、ちょっとは名の知れた傭兵団。 その傭兵団の頭として激と命令を飛ばす。 「目標、敵ゴーレム!」 軍隊方式に則って行動し、整列、杖を構えて集中。 声を張り上げ、各々が得意な魔法を練り上げる。 傭兵の群から頭一つ分ほど飛び抜けていたゴーレムの頭が此方を向いた。 気が付いた所でもう遅い、既に魔法発動の分の精神力は溜まっている。 「構えーッ!」 一際大きな声をあげ、魔法を撃ち放つと宣言する。 それに気が付いた他の傭兵どもは、巻き込まれまいと挙って逃げ出し始めたために群集が一気に開け、傭兵団とゴーレムの間に障害物はなくなった。 「チッ」 だが魔法を放つ号令を出す前に、緑色のゴーレムは魔法から逃れようと走る奴らを壁にして逃れる。 「邪魔だァ!! さっさとどかねぇとブッ殺すぞ!!」 その怒号で更に傭兵どもが慌てふためき逃げ回る。 一向に緑色のゴーレムの全身が見えない、人の壁によって守られた存在。 そのくせ、ゴーレムが駆ければ人が跳ね飛ばされる。 ただの傍観者であれば、面白い光景ではあったが。 自分たちも鎮圧対象だからいただけない。 「クソが! 1番2番3番、発射用意ッ!」 もう他の奴らなんて知るか、無理やりにでも障害物を退ける。 「──放てッ!」 3本の杖から放たれる魔法、火球、風刃、氷矢、各々が得意とする攻撃魔法。 3メイルの火の玉が地面を削りながら飛び、不可視の鋭利な風の刃が走り、歪な氷の矢が数十本と駆ける。 目標はゴーレム、だがこれは障害物を退ける為の物、ゴーレムに当たらなくても良い。 火球で燃え上がり、風刃で両断され、氷矢で串刺しに。 阿鼻叫喚、俺ら以外の人間が幾ら死のうと関係ない、俺たちはあのゴーレムを排除して宿の中に居る奴らを殺すだけだ。 「開いた、4番5番6番!」 大勢の傭兵が死に、道が開ける。 それが失態、障害物が無い。 その状態がどれ程危険だったのかはこの時気が付かなかった、そして気が付いた時にはもう遅い。 炸裂音、何かが弾けた様な音が一帯に響く。 「ギッ」 杖を構えていた仲間の一人が、声を上げて蹲った。 「あ?」 座り込んだ仲間を見れば、杖を持っていた右腕があらぬ方向へ圧し折れていた。 血が噴出し、人の芯と言える骨が飛び出ていた。 「おいおい、何が……」 何が起こったのか、疑問はすぐ晴れた。 緑色のゴーレムを見てやれば、俺たちに何かを向けていた。 月光で白銀に輝く、無骨なデザインのそれ。 向けられた穴、微かに見えるそれから上る白い煙。 「まさか……」 あれと似たものを何度か目の当たりにした事がある。 火の秘薬を使って、鉛を撃ち出す銃。 近づかないと当たらない上、そこまで威力が無い武器。 なのに、あのゴーレムが使ったのは短銃身の銃で、この距離で当ててきた。 撃たれた奴を見た事がある、2サントも無い穴が開く程度だった。 だがこれは何だ? どうして仲間の腕が圧し折れ、骨が飛び出ている? あれは銃なのか? こんな馬鹿げた──。 ゴーレムが構えるそれは本当に短銃なのか、思考を巡らせていれば再度破裂音。 無事だった仲間が、押し飛ばされたように倒れる。 「冗談じゃねぇ、逃げるぞッ!」 すぐさま詠唱を破棄、かがんで蹲る仲間を無理やり引っ張り、四の五の言わずに逃げ始める。 こんな奴が居るとは聞いてない、こんな奴を相手取るならあれだけの前金では到底足りない。 腕を圧し折り、骨を飛び出させる銃を持つ奴なんぞと戦えるか! 「ギャア!」 さらに破裂音が聞こえれば、横に回転しながら飛んで転がった全身鎧の傭兵。 弾が当たった部分、右肩の金属が大きく拉げ、赤い花が咲いていた。 「連続発射とかふざけんな!」 悪態をつきながら逃げる。 あの距離で金属の鎧を貫通する威力だと? おまけに連続で撃てるなどと、常軌を逸した銃。 それを自分に向けられる恐怖、それが銃に対してのトラウマを植えつける。 「ほら! 逃げろ逃げろ逃げろ!」 撃たれた仲間を抱え、無事な仲間と走って逃げる。 フライで逃げれば、目を付けられるかもしれない。 他の奴らを盾にして走った方が撃たれ難い。 必死扱いて逃げる、他の奴らとは反対方向。 何人もの傭兵達とすれ違う。 無謀にも切りかかる他の傭兵ども、さっさと逃げれば良いのにと思いながら走る。 横目でその光景を覗けば、剣を振り上げ襲い掛かる奴の手を簡単に掴んで投げ飛ばし。 軽装の鎧の奴が槍を突き出せば、その穂先が体に触れる前に柄を掴み、引っ張り奪い取る。 矢が飛んでくれば簡単に叩き落し、奪い取った槍を振り回す。 左手に持つ長剣をまるで小枝を振り回すように振るい、悉く叩きのめし。 右手の奪い取った槍で近づかれる前に薙ぎ払う。 「化けもんじゃねぇか……」 秒単位で地に伏せる者が増える。 長剣と奪い取った槍、その2本が猛威を振るう。 暴風と言っても良い、駆けながら攻撃を繰り出し、あのゴーレムが通った後は倒れ伏す傭兵たちだけ。 他の奴らを相手にしている今なら……、と考えて頭を振る。 また撃たれたら堪ったもんじゃねぇ。 やはり逃げて正解だった、あんなの幾ら金を積まれても絶対に戦わないと決心した。 最優先排除目標、メイジの一団の撤退を確認。 残る目的、宿周囲の敵を掃討。 「一番厄介なメイジが居なくなった、後は簡単だねぇ」 周囲の敵を見据える。 確認できるだけでも100人ほど。 誰もが剣や槍、弓など原始的な武器を持つ。 「簡単だ」 デルフリンガーを回す。 そして一歩、高く跳躍した。 人を優に超える高さまで飛び上がり、数人の頭上を通り過ぎる。 着地地点、重量が400キログラム以上有るマスターチーフが傭兵の一団へ突っ込んだ。 空中で足蹴、蹴られた傭兵は大きく仰け反り転倒。 「このッ!」 着地と同時に前方から剣を振り上げ、斬りかかろうとする男の左脇腹へ右手の槍で払い打つ。 殴り飛ばされ、他の傭兵にぶつかり転がる。 その場で横に回転、槍で大きくなぎ払い、当たった傭兵達が吹っ飛ばされる。 その反動、大きく撓っていた槍が圧し折れ飛んでいく。 手元に残るのは折れて短くなった槍、見てからそれを投げ捨てる。 「調子乗ってんじゃねぇぞ!」 そう息巻きながらも、チーフに打って向かう者は居らず周囲を囲むだけであった。 怯えるのも無理は無い、今の行動だけで10人以上が戦闘不能に陥った。 攻撃すれば自分達も同じようになるかもしれない、と考えたからだ。 「………」 右、傭兵の壁。 左、傭兵の壁。 正面、傭兵の壁。 後方、傭兵の壁。 周囲を完全に囲まれている。 「で、どうすんだ相棒」 「決まっている」 道が無いなら。 「ぶち抜いて作る」 デルフリンガーを一回転。 5メイルの距離を一歩で埋め、デルフリンガーを振るう。 傭兵たちが構えていた槍を叩き折り、勢い付けたまま肩から体当たり。 そのまま腕を振るえば4人ほど重なって払い飛ばされる。 飛んだ4人が他の傭兵にぶつかり、10人以上が転倒して怪我を負う。 「くそッ! 何なんだこいつは!?」 たった一つの存在に蹂躙される100人以上の傭兵達。 その光景を見て誰かが苦辛を吐いた。 異常とも思える光景は、当の本人、マスターチーフにとって当然でなければいけない光景。 『彼』、スパルタンは人より速く、より強く、より強靭に。 より強力な者として作り上げられた超兵士。 ならば、策を用要らないただの人間が勝てる訳も無い。 ……いや、『負けてはならない』。 勝たねば、勝ってしまわねばならない存在である。 それが彼らが生まれた理由、人類に勝利を齎す存在として作り上げられたのだ。 「ば、化け物が!」 人類をはるかに上回る存在を打倒する為に彼は生きる。 より凶悪で、より醜悪で、より強大な存在も明らかになっている時。 生きて元の世界に戻り、最終兵器の破壊と寄生虫どもの殲滅。 これらを成し遂げるための、足がかりとなるべき存在である。 故に負けない。 折れぬ心、諦めぬ精神、如何なる苦境でも突破し、這い上がる。 今この場、今まで体験してきた数多の苦難、その時の状況と比べてたらはるかに温い。 「終わりにしよう」 囲まれた中、落ち着きの有る声。 それを聞いた周囲の傭兵たちは、この存在がゴーレムではないことを理解する。 たった一人の人間に、魔法を使わない奴にここまでやられたのか、と。 チーフに対して向けるべきではない、自業自得でありながら理不尽な怒りに燃える。 「こぉろせぇ!!」 誰かが声を張り上げて言った。 途端に襲い掛かり始める無数の傭兵達。 「手加減する必要はなくなったな、相棒」 最初から正当防衛、殺しに掛かってくる者たちへの止むを得ない武力行使。 害意を持って襲ってくる者たちへの相応の対応、それは程度により、最悪の場合殺害さえも許可されている。 多数によって少数を襲う、そして先の『殺せ』と言う言葉。 この状況はマスターチーフが他の人間を殺害する事も良しとされる状況。 「殺しても意味が無い事も確かだ」 だが、それでも殺す事を良しとしない。 戦意の喪失を狙う事はあっても、命の喪失を狙う事はない。 彼が殺すのは人類に敵対するもの、預言者達が率いるコヴナントや寄生虫と、それに取り付かれた者達だけだ。 故に、彼は殺さない。 詰まらない理想と言われるだろう、だが彼にはその理想を実現するだけの力がある。 「143……、136……、131……、119……、103……、100人切ったぜ相棒」 纏めてなぎ倒され、見る間に数を減らしてゆく傭兵たち。 その状況を見ていきり立つ者、冷静になる者、傭兵たちはその二つに分かれた。 雄たけびを上げて突っ込み、容易くなぎ倒され気絶する者。 我に返り、その異常に恐れをなして逃げ出す者。 どちらが正解か、考えなくても分かってるだろう。 元よりこの存在と敵対、向き合うべきではなかったと。 「……外、静かになってきたわね」 キュルケは盾にしたテーブルに寄りかかり、外の音に耳を澄ます。 飛び出そうとしたタバサを押し留めた頃から大きくなった喧騒。 消耗戦に持ち込もうとしていただろう襲撃者、不本意ながらそれに付き合うしか出来なかった自分たちだったが。 争っているような声がどんどん小さくなる事に疑問を持ち始めていた。 「ダーリンかしら……?」 「かもしれないね、彼なら一人で蹴散らしそうだし……」 ギーシュが相槌を打つ、ギーシュの言う通り本当にやりかねない。 「彼が外に? まさか……」 そう言った子爵が宿入り口を一瞬だけ見遣る。 「玄関の傭兵達も外に出たようだ」 「あら? 私達嘗められてる?」 メイジである私達を抑えず、外に居るらしいダーリンを優先する? ある意味正解かもしれないわね、メイジを圧倒する魔法を使えない軍人がそんじょそこらの傭兵に負ける訳が無い。 外の奴らは魔法が使えないなら数で圧倒する位しか無さそうね。 「彼が囮になってくれている今がチャンスだな」 「……チャンス?」 「ああ、僕達は出来るだけ早く任務を達成しなければいけない。 なら今最も優先される事は『先に進む事』だ」 「ダーリンを置いて行くって事?」 「ああ、今ならすんなりと奴らの包囲網から抜けられるだろう」 そう言って身を低くしたまま階段へ走り出す子爵。 恐らくルイズの部屋に向かってるんだろう。 「……どうする? 子爵の言う事は一理有るわ」 「子爵の言う事は分かるが、彼を置いて逃げるなんて貴族の風上にも置けないんじゃあないか?」 「ダーリンに貴族や平民なんて関係無さそうだけどね」 「……誰かが残らねばならない」 異国の軍人であるチーフ、ある程度地図で確認はしていたものの。 やはり知らない土地では道に迷ったりするかもしれない。 だから、少なくともチーフより土地勘がある私達の誰かが残らねばならない。 「誰が残るの? 私でもギーシュでもタバサでも、モンモランシーはどうでも良いわね」 「ちょっと! そんな言い方無いんじゃないの!?」 「貴女は怪我した時の治療要員、どっちにしろ危ない方に残る必要があるわねぇ」 つまり、一番強いスクウェアメイジである子爵とはお別れになる。 そう言ってやれば、何かを喉に詰まらせたように唸るモンモランシー。 「なら僕はモンモランシーと共に居るよ、僕はモンモランシーの騎士だからね!」 そんな格好付けの言葉に感動するモンモランシー。 「はいはい。 で、誰が残る? 希望する人は優先するわよ?」 「……私は彼女に付いて行く」 「彼女……、ルイズの事?」 頷くタバサ。 ついて行くのはダーリンの主だからかしら。 それに、チーフが外にいるならば、もう私達の出番は無いかもしれない。 「子爵が彼を置いて進むなら、私は彼女と一緒に居る」 「……そうね、ならタバサがルイズと子爵に付いて行って」 流石に子爵とタバサに守られるなら、いかにゼロのルイズでも無事で居られでしょうね。 「ちょ、ちょっと待って!」 と、階段の上から聞こえるルイズの声。 「置いて行くってどういう事!?」 「そのままの意味だよ、彼が囮になってくれている今がチャンスなんだ」 「そんな……、囮になるなんて一言も言ってなかったわ!」 「君の事を心配させないようにしたんだ、彼の気持ちを汲み取ってやってくれ」 そんな問答、子爵がルイズの手を取ったまま降りてくる。 「君達はどうする? 僕達と共に行くか、ここで傭兵どもを迎え撃つか」 「タバサはお二人に付いて行きますわ、私とギーシュとモンモランシーは残って彼を待とうかと」 「……分かった、さあ行こうルイズ」 「本当に置いていかなくちゃいけないの!?」 「ああ、外にはかなりの数の傭兵どもが居る。 今ここで抜け出さなければ危うくなるんだ」 「で、でも」 「分かってくれ、この任務は非常に大事な事なんだ。 それは君にだって分かっているだろう?」 「………」 ワルドの剣幕に押され、押し黙るルイズ。 黙ったが、まだ何か言いたそうな雰囲気。 あまり時間が無いのに、こんな問答をしている暇なんて無いでしょうに。 「ルイズ、さっさと行きなさい。 子爵の言う通り大事な任務なんでしょ? ダーリンなら囮どころか全滅させるわ、心配するだけ無駄よ」 「……そうね、でもチーフは私の使い魔なの。 置いては行けないわ!」 「もう、こんな事言い合ってる場合じゃないの! すぐに追いつくからさっさと行きなさい!!」 怒声、余りの愚図り様が癪に障る。 「……タバサ、お願いね」 すぐにルイズから視線を外し、隣のタバサを見てお願いする。 それに頷き、立ち上がるタバサ。 「さぁルイズ、行こう」 私に怒鳴られ、半ば放心状態のルイズを引っ張っていく子爵。 その後ろにタバサが付いて歩いていき、カウンター横の裏口へと進んでいった。 「……さて、主役はこの舞台から退場してもらったわ。 これからどうしましょうか」 「どうするって言ったって、あの使い魔が無事だなんて本気で思ってるわけ?」 「思ってるわよ? だってトライアングルのタバサに勝ったのよ、そんな人がそこら辺の傭兵に負けるわけ無いじゃないの」 「それは本当なのかい!?」 ギーシュが仰々しく驚く、その隣でモンモランシーも眼を丸くしている。 「本当よ、その場に居たもの。 ……この目で見なかったら貴方達と同じように信じてなかったでしょうね」 「嘘……じゃ無さそうね」 「こんな時に嘘なんて付かないわよ、不謹慎すぎるでしょ」 これが嘘で、チーフが既に倒されていたら次は自分達の番になる。 実際はそんなこと無いだろうと、チーフの実力を知るキュルケは露にも思っていなかった。 「それにしても、もう殆ど聞こえなくなってきたわね」 散漫に聞こえてくる音。 10分前にはうるさいぐらいの喧騒だったのに。 「とりあえず、外を確認してみましょ」 そう言って盾にしたテーブルから頭を出して、宿内を見渡す。 宿内に敵は誰一人居ない、テーブルの陰から飛び出して壁沿いに進む。 ゆっくりと進み、窓から外を覗こうとすれば……。 「ヒィ!?」 いきなり窓から飛び込んできた傭兵、それを見てギーシュが悲鳴を上げた。 「……気絶してるわよ、ダーリンに殴り飛ばされたのかしら」 白目を剥いて、倒れ伏す傭兵。 その鎧の胸の部分、拳の形に凹んでいた。 無謀にも切りかかったらしい、そして殴り飛ばされた。 そんな馬鹿な傭兵から視線を外し、窓の外を見る。 「……あらー」 「ど、どうしたのかね?」 「見れば分かるわよ」 そう言って譲る。 ギーシュが身を乗り出し、窓の外を覗く。 「……これはまた、凄いな……」 「何が凄いのよ」 「チーフが殆ど倒しちゃってるよ」 窓の外、数十の倒れ伏す傭兵。 その中に立つのはたった一つの影。 「やっぱり、頼もしい存在よねぇ」 頭を抑えられ、身動きを取れなかった私達と比べ。 単身で敵に襲い掛かり、物の見事に傭兵たちを叩きのめした。 「メイジでさえも出来ない事を、こうも平然とされちゃあねぇ」 「同感だね」 魔法が使えない人間は、魔法を使える人間より弱いと言う固定概念が崩れ去った瞬間。 やっぱりとんでもない人間だと思い直す。 窓から顔を覗かせ、周囲を確認。 居るのはチーフと、遠くの方に走り逃げ去っている奴らだけ。 「ダーリーン!」 その声を聞いてこちらに顔を向けてくる。 それから左右を確認、宿入り口まで歩いてきた。 「大方は片付けた」 「そりゃあ、これだけ倒せば敵も逃げるわよねぇ」 100に届きそうな、もしかしたら100人を超えているかもしれない。 「怪我は」 「だーれも、ダーリンのお蔭で皆無事よ」 「そうか」 それを聞いてから、宿の中に入るチーフ。 「あ、ダーリン。 ルイズたちは先に行っちゃったわよ」 動きが止まり、振り向くチーフ。 バイザーにキュルケの顔が映りこんだ。 「何処へ」 「目指すはアルビオン、と言う事はフネに乗るしかないの」 「……桟橋は何処にある」 「今から追いかけるの? 多分もう出発してるかもしれないわ」 「まだ追いつけるかもしれない」 落ち着いた声、やっぱりルイズを近くで守りたいらしい。 「向こうよ、行きましょう」 私が指差した方向、その先には巨大な樹が有った。 4人は駆ける、正確に言えばチーフのみ走り、それに付いて行くためにフライで飛ぶ3人。 剣を握ったチーフの走る速度は人の全速の倍近い、フライでも使わなければ到底追いつけない。 そんなスピードで駆ける4人、巨大な樹で出来ている桟橋が見えて、空を見上げる。 遠く、月光に照らされ空に浮かぶフネ。 どんどんと小さくなっていく。 「どうやらあれの様ね」 見る間に小さくなって行く。 かなりの速度が出ているようだ。 それを見ながら走り、桟橋に到着。 「他のフネは」 「聞いてくるわ、少し待ってて」 キュルケがそのまま飛びながら桟橋の奥へと進んでいく。 その間に、飛んでいるフネは見えなくなった。 それから数分、キュルケが戻ってくる。 「駄目だったわ、あのフネが一番風石を積んでるらしいの。 他のフネじゃアルビオンまで持たないらしいわ」 それを聞いて、視線を戻して空の彼方を見据える。 「明日の朝まで待つしかないわ、そうしないとアルビオンの大地を踏む事は出来ないわ」 その方角は、ルイズと子爵とタバサが乗ったフネが飛んでいった方向だった。 前ページ次ページ虚無と最後の希望
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世界最後の日 偉大なる勇者 COMMAND C-003 紫 発生 紫 0-5-1 DR 【(自動A) 非交戦中の全ての敵軍部隊は、部隊戦闘力-1を得る。この効果は重複しない】 (敵軍帰還ステップ) 自軍手札X枚を選んで廃棄する。その場合、敵軍手札X枚を無作為に廃棄する。Xの上限は3とする。 束縛 出典 「真ゲッターロボ」
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最後の最後 「デコ三大奇ゲー」と呼ばれる『トリオ・ザ・パンチ』の最終面開始前に表示される謎の言葉。 これまで長く苦しい戦いを乗り越えてきたプレイヤー達に、 いよいよこの狂気の世界のクライマックス、最後の戦いが始まることが告げられる。 プレイヤー達はそれぞれ気を引き締め、また感慨に耽りながら、最終ステージを迎えるのだが……? + 最終面~エンディングまで完全ネタバレ 舞台は前ステージまでの宇宙基地らしき場所から一転、地球の公園になっている。 しかし、これまでもカーネル・サンダースなどでプレイヤーの度肝を抜いてきた場所でもある。 なにしろ「最後の最後」である。どんな異様な敵が現れようとも動じない気構えで先に進むと…… ……公園の水飲み場には誰も居ない。ボス出現を告げる効果音が鳴るが、敵らしき姿はどこにも無い。 画面内に動いているものは無害な鳥だけだ。攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、接触してもダメージは受けない。 このままではゲームが進行しないので、とりあえずこの鳥を殴ってみる。 すると「んな あほな」とメッセージが流れ、鳥は撃墜される。 一般の雑魚敵と同じく「ぎょお」と不気味な声を上げて消滅するが、敵が化けていたというイメージでもない……。 意味不明な展開に惑っていると、次に現れるのは小犬。こいつも画面内をはしゃぎ回っているだけで、噛み付いてきたりはしない。 この犬を殺すと「ざんこく」、さらに現れる蝶を殺すと「げげ」と文字が表示される。 どうも平和な日常風景に対するプレイヤーの残虐行為を咎めているかのようだが、こうしなければゲームが進行しない。 そして最後は鳩が現れ、水飲み場に止まって動かない。鳩と言えば平和の象徴。しかも完全に無害な相手だ。 これを攻撃すると……? + ば れ た か げろげろ 「ば れ た か げろげろ」 という文章と共に、足下の地面に巨大な目が現れる。実はこの公園そのものが怪物の一部だったのだ! ……が、最終決戦が始まるわけでもなく、怪物は地中に転落。エンディングが始まる。 (1 56~) 常識的に「バグでラスボス戦が省略されてしまったのではないか?」と思いたい所だが、 ちゃんとタイトル画面で「小鳥VS拳・手裏剣・剣」といった構図のレリーフがあるので、鳩がラスボスなのはバグなどではなく間違いなく仕様である。 無理矢理に解釈すると、このゲームを通して戦ってきた敵は「平和で常識的な日常的世界観そのもの」であったのだろうか。 或いは敵を倒すと手に入るハートが「HELP!」とメッセージを発しているので、 「それぞれの時代の猛者である三人組と陳さんが捕らわれた人々の魂を救う為にあらゆる時代を飛び回り、黒幕を現代で倒した」 とかいう熱い話の解釈も出来るかもしれないが…このゲームを真面目に考察するだけ時間の無駄だろう。 ともあれ意味不明な世界を突破し、日常に潜む狂気を暴き立て、戦いを終えたトリオ・ザ・パンチ一行。 この戦いは一体何だったのか……今まで何と戦っていたのか……。 プレイヤー達は最後の最後まで理解不能な展開を見せつけられ、キング・オブ・デコゲーの幕を閉じるのであった。 MUGENにおける「最後の最後」 にょきと同じくアフロン氏が製作。原作ドットを用いたボーナスゲーム(?)になっている。 原作と同様の手順で攻略するが、攻撃をしてくる敵はいないので挑戦者側が倒されることはない。 ラスボスとの戦いと言うよりは、最後の場面に辿り着いてからエンディングを迎えるための儀式といったところだろうか。 原作からしてそうだった気がするが BGMはタフガイのものが流れっぱなしになる。 なお、同梱のステージで遊ばないとバグる可能性がある他、 「ば れ た か げろげろ」以降の演出は強制投げ判定になるため操作ができず、 投げ無効や体力が1しかない一部のキャラは、鳩を倒したと同時に自分も死んだり、MUGENがフリーズすることがあるので注意。 出場大会 「[大会] [最後の最後]」をタグに含むページは1つもありません。
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世界最後の日 (偉大なる勇者) COMMAND C-003 紫 0-5-1 DR 【(自動A) 飛行戦中の全ての敵軍部隊は、部隊戦闘力-1を得る。この効果は重複しない】 (敵軍帰還ステップ) 自軍手札X枚を選んで廃棄する。その場合、敵軍手札X枚を無作為に廃棄する。Xの上限は3とする。 束縛 発生 紫 出典 「真ゲッターロボ」 1998
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一週間前 学園祭 12時5分 唯「ね~ね~りっちゃん、コンビニでアイス買おうよ~」 律「仕方ないなー。じゃあ澪、私たちはいったん外に出てるから」 憂「私もついていくね。お姉ちゃんと律さんだけじゃ心配だから」 律(ばかにされた!?) 澪「学園祭でコンビニのアイスかよ、まったく。じゃあ私たちは校内を回ってみるな」 紬「じゃああとで合流しましょうね」 梓「唯先輩、律先輩。周りにめいわくかけちゃだめですよ」 純「じゃああとでね。憂」 唯「アイスーあいすー♪」 病室 律「う、うぅぅ」 唯「あっ、りっちゃんが目を覚ましたよ。あずにゃ~ん」 梓「大きい声出しちゃだめですよ。律先輩大丈夫ですか?」 律「あ、ずさ?唯? ここは天国なのか」 憂「お姉ちゃん……」 唯「憂も目を覚ました! よかった~」 梓「憂! よかった、目覚まして」 律「それよりここは…… あれ、なんで学園祭を2度?」 憂「お姉ちゃんは死んで、梓ちゃんはいないことになったハズじゃ…… あれ、でも」 唯「混乱してると思うから順番に話すよ」 梓「唯先輩の言ってたことホントだったんですね」 憂「どういうこと?」 唯「さっきまでりっちゃんと憂が過ごした一週間はこの世とあの世の狭間の世界なんだよ」 律憂「えっ?」 唯「あそこはね、死んだ人が天国に行くまでに過ごす場所なんだ」 唯「あの世界はね。死んだ人が死んだときまでの一週間をもう一度あそこで過ごすんだ」 唯「そして自分達が本来死んだ時間になると一斉に成仏するんだ」 唯「憂とりっちゃんは生死の境をさまよってたからね。私は力を使ってうまく存在を割り込ましたんだよ」 唯「死人としてね。あずにゃんは生きてたからいないことになったけど」 梓「二人はこの世とあの世の両方にいたからこの世の唯先輩が見えたんですね」 律「ちょっとまてよ…… じゃああの世界にいた人は?」 憂「もしかして全員……」 唯「そう。死んじゃってたんだよ。私が見えた二人意外はね……」 梓「……」 律「そんな…… 澪、ムギ、トンちゃん……」 憂「純ちゃん…… 和ちゃん……」 梓(さわ子先生可哀想だな) 律「なんでもっと早く本当のこと伝えてくれなかったんだよっ」 律「そうすればもっと、あいつらと仲良くしてやれたのに。お別れの挨拶もしていないっ!!」 梓「律先輩……」 唯「ごめんね。二人に自分たちが死にかけていることを自覚されると二人が死んじゃうから」 唯「強く生きたいと願わないとあのまま成仏してたんだよ」 梓「お医者さんも後は本人たちしだいだって言ってました」 憂「だからお姉ちゃんは生きろって言ってたんだ……」 唯「制限時間は飛行機が衝突する12時13分だったんだ」 梓「その時間にみんな亡くなりましたから」 唯「途中でりっちゃんが現状に満足しちゃってあせったけどね」 律「あ~あのときか~」 唯「私は途中で霊力尽きて消えちゃったけどね~」 憂「もしかして…… 私たちのために無理してたの?」 唯「うんうん、ちがうよ~。お供え物BOX作るのに大分力つかったからなんだ~」 律「おい!」 唯「えへへ~」 律「なぁじゃあ、唯の力であの世にはいけないのか?澪やムギ、和、純ちゃんにまた会いたいんだよ」 律「せめて話だけでもさっ」 憂「私からもお願いっ!お姉ちゃん」 唯「ごめんね、無理だよ。私はどんなに力があってもただのこの世の人間」 唯「神様にはなれないんだよ……」 律「そんな……」 憂「うぅ、うぅ」 唯「ごめんね……」 梓「唯先輩……」 三時間後 憂(そういや、お姉ちゃんの話なんかひっかかるなー、何だろう?) 律「そにしてもここ散らかってるな~」 梓「ひどい有様ですよ」 唯「ここで寝泊りしてたからね」 唯「りっちゃんにアイスこぼしたりしたし」 律「うぅおい!」 憂「梓ちゃんはこういうところ好きそうだよね」 梓「いや、好きじゃないし」 二日後 病室 医者「じゃああと一週間で退院だよ」 憂「ありがとうございました」 律「あの事故でよく私たち生き残ったな」 憂「テレビで見たけど跡形もなく吹き飛んでたよね」 梓「それは比較的校庭の外側にいたのと唯先輩が守ってくれたからみたいですよ」 医者「医者としては言いたくないけど、彼女が霊的力で衝撃を弱めてくれたみたいだね」 医者「事実、運ばれたときは一番重傷だったのに次の日にはピンピンしてあいすあいすっていってたよ」 医者「脅威の回復力だよ。唯さんは」 唯「……」スヤスヤ 憂「お姉ちゃん霊感あったもんねー」 律「唯は命の恩人だな。あっ私にヨダレたらすなっ」ゴンッ 唯「痛いよ~」 梓(命の恩人をなぐった……) 一週間後 律「よし、退院だ」 梓「はしゃいじゃダメですよ。腕の骨は完治していないんですから」 律「わかってるって!」 医者「じゃあ、お大事に」 唯「また来るねー」 医者「いや、貴女は来ないで欲しいな。病院がゴミ屋敷になったよ。まったく」 憂「お世話になりました」 梓「これから大変ですよ」 律「あぁ新しい学校決めないとな」 梓「違いますよ。テレビの取材ですよ。二人が寝ている間大変だったんですから」 唯「9、11テロ以来の世界的ニュースだもんね~」 梓「死者2621人、飛行機が3台も同時期、同じ場所に墜落したんですから」 梓「VIPでもスレが立ちまくりです」 憂「そういえばテレビでそればっかだよねー」 律「私が運ばれる様子がモザイクかけて何度も流されるのはきつかったな」 唯「りっちゃんは猥褻物だからね~」 律「なに!」 梓「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。それよりも報道陣がむこうから来ましたよ。めんどいのでn――」 律「よし、唯。取材受けて来ようぜ。私はじめてだよ。本出そうかなー」 憂「私もー、なんか緊張するな」 梓(憂までっ!?) 唯「私はオカルト番組ばっか出されてるよ」 律「前からたまーに出てただろ」 唯「最近有名になっちゃってさ~、知らない間に私を崇める宗教が何個かできてたよ」 唯「しかも宗派で対立しだしたし」 憂(お姉ちゃん、凄い事になってたんだね) 梓「取材もいいですけど、それ終わったら明日あそこに行きますよ」 律「ん? どこにだよ」 梓「先輩方のお墓と今回の事件の慰霊碑ですよ」 次の日 とある墓地 憂「お姉ーちゃん、つまみ食いしちゃだめだよー」 唯「りっちゃ~ん、つまみ食いしちゃだめだよ~」 律「もう、澪の分は頂いたぜ」 梓「律先輩、恥ずかしいですよ。ちゃんとお参りしましょうよ」 律(澪、ムギ、和、天国から見守ってくれよ) 梓(純、まだそっちにはいかないよ) 憂(皆さん私たちは今日も元気です) 唯(抹茶にするかイチゴにするか迷っちゃうよ~) また次の日 慰霊碑 梓「学校があった場所に簡単な慰霊碑ができたんですよ」 律「こりゃ、テレビで見るよりひでーな」 憂「まわりの建物まで壊れてる……」 律「私たちの音楽室はもうないんだよな」 梓「えぇ…… でもバンドは組めますよ。私と唯先輩がギターで律先輩はドラム、憂はキーボードで」 律「そうだな……」 唯「あいす買ってきたよ~」 律「唯は変わらないな」 唯「う~、私だって成長しているんだよ」プンプン 憂(怒ってるお姉ちゃんもかわいいなー) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 5
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前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-21「帰還」 眠る、アルビオンから脱出した後、タバサの使い魔のシルフィードに乗ってトリステインに戻ってきた。 最後ギーシュのモグラが掘った穴から出てきたのが、タバサと似た長い髪を持つ見知らぬ女だったり。 それがシルフィードで、風隕竜だったりと驚きもあったが無事に帰ってこれた。 手紙を確保し、ウェールズ皇太子殿下も連れてくる事が出来た。 間違いなく任務は大成功だと言って良いと思う、姫様が皇太子殿下を見た時とても驚いて、泣きながら抱きついてたし。 でも、大成功に導いた人物は、私の使い魔は今だ『アルビオン』に居る。 すぐに帰ってくるのか分からない、でも起きて待ち続けることは出来ない。 だから眠り、そうして見る夢は地獄だった。 瞬時に明確になる意識、眠りから覚めたときには起こらない急激な覚醒。 瞼を開けば、異常が広がっていた。 『……え?』 全く見知らぬ場所、正面のみと言う制限された視界の中でも、ここは知らない場所だと言うのが分かる。 『は? え、なに?』 強いて言えば鉄の箱、透明な蓋で締め閉じられた鋼鉄の箱の中で横たわっていた。 『ちょ、なに? どこよここ!?』 透明な蓋を隔てて向こう側に見える景色は異質だった、灰色の金属っぽい壁が見える。 どうしてこんな知らない場所に居るのか、どうしてこんな鉄の箱に入れられているのか。 困惑の極み、自分の部屋で寝ていたはずなのに! 瞼を開いて目だけしか動かせない、体の自由が一切聞かない。 恐怖さえ湧いてくる状況に、ルイズはただ戦戦恐恐として何の手も打てないまま時間が過ぎる。 何分経ったか、もしかしたら数十秒かも知れないし数時間と言う時間が経ったかも知れない。 時折透明の蓋の向こう側に見える、見たことがない服を来た人間が走りまわっており。 それを視界に収めるたび、ルイズは何かされるんじゃないかと怖がる。 何度かそれを繰り返した後、ようやく変化が訪れた。 内と外に白い煙を吐き出しながら透明な蓋が上へと開き始める。 『いやっ! 一体何なのよ!?』 ただの白い煙、中と外の激しい温度差によって生じた白い煙に見える水蒸気を見て半ば錯乱状態に陥る。 逃げ出そうとしようが体は動かず、恐れながら何が起こるのかただ見ているだけしか出来ない。 そうして突如視界が動き出す、視界の端々に見える物をルイズは見落として、勝手に自分の体が動いていることにさらなる恐怖を抱える。 鉄の箱から抜け出して、何か鉄の柱っぽいものを触っていた男がこちらを見ていた。 その男を視界を外し、左手に視線を落とす。 『……え?』 それは見た事がある手だった、勿論自分の手とは違う。 緑色の金属で覆われた手の甲、指先まで全て覆い尽くす黒い手袋なようなもの。 手の甲を裏返し手のひら、一度握って開く。 『うそ、なんで』 自分の手ではない、この色、この鎧、これは何度も見た事がある自分の使い魔の手ではないのか。 「早く出ましょう、こちらへ!」 そんな考えを乱すように、先程鉄の柱っぽい物を触れていた、黄色が大部分を占める衣服を着た男が聞いた事が無い言葉で話し走り出す。 その言葉に頷いたのだろう視界が僅かに揺れ、男の後を追いかける。 壁しか無い部屋の隅へと走り出し、少しだけくぼんだ壁の前に立てば、小さく赤い光が緑色へと変化して壁が勝手に横へと動いて開いた。 ここは部屋で、あれは扉で前に立てば勝手に開く魔法の扉だ。 勿論実際には違うが、科学を知らないルイズからしてみれば一番それがしっくり来る説明だろう。 そんな魔法の扉を潜って、少々薄暗い廊下へと出る。 先を走る男に付いて行く自分、いや、自分の使い魔であるチーフが走り追いかけている。 『……これは、夢?』 指一本自分の意志では動かせず勝手に動く体、これは自分の体ではなくチーフの体だからか。 『……そう、これは夢よ!』 勿論こんな、全く知らない夢を鮮明に見ている理由など分からないが、無理やり付ける理由も見当たらないのでただの夢だと決めつける。 心の均衡と言うか、学べ理解出来る事ではないものを分かろうと言うのは中々に難しいこと。 だったら何も考えずただ見れば良い、この夢が妄想の産物であったとしても、僅かにしか語っていないチーフの事が分かるかもしれないのだからと。 そう考えて後悔する、ルイズの使い魔たるマスターチーフが何であるのか、しっかりと理解していたなら後悔をせずにすんだかも知れない。 考えていた思考を切り替え、夢をしっかり見ようと視界を上げれば爆発が起きた。 『ひっ!?』 自分が起こす失敗魔法ではない爆発、自分が起こす失敗魔法の爆発は自分を傷つけないと漠然とした考えがある物とは違う。 視界を焼くような赤と橙の閃光とともに、衝撃が体を揺らす。 廊下を先行して走っていた、チーフを案内していたんだろう男が、爆発で吹き飛ばされる扉と一緒に吹き飛ばされる。 反射的に吹き飛ばされた男を受け止め、状態を確かめるが。 『……なにこれ』 自分の、チーフの腕の中で息絶えた男の亡骸があった。 扉の前でチーフに呼び掛けようとした男は、爆発によって破壊された扉の破片を一身に受け、治癒の魔法でも治せない怪我を負って絶命していた。 後頭部から背中全体、腕や足にも破片が突き刺さっており、物によっては体を貫通している破片まであった。 『……っ、なによこれっ!!』 腕の中でゴロリと首が動き、力無い男の瞳と視線が交差する。 そんな、人の死体など生まれてきてから一度も無いルイズが、何の感情も浮かべぬわけがない。 『いや、イヤッ!?』 今すぐ手放したい、投げ捨てたい衝動に狩られるも自分の意志で動かせない体。 ならば見るだけでも止めようとするも、視界は動かず瞼を半分開けたまま死んでいる男の顔へと固定されている。 『イヤ、イヤ、イヤッ! 止めてよ!!』 強制的に見させる状態に強い嫌悪感と吐き気を覚え、何とか視界を逸らそうとしても変わらず見つめさせられる。 錯乱するルイズなどお構いなし、ただチーフは男の死体を降ろして寝かせ、右手を男の顔へと被せた。 そうして額から顎まで右手が動き、右手で隠されていた男の顔が顕になった時は、男の瞼は完全に閉じられていた。 瞳を閉じさせてからすぐチーフは立ち上がり、隣の通路へと行けるパイプを乗り越える。 隣の通路へと抜け出て向かおうとしていた同じ方向へと駆け出し、途中通路の壁が爆発して火が吹き上がるが無視して駆け抜ける。 近づけば勝手に開く扉を二つほど潜り、左へと曲がる通路を見てば、先程死んでしまった男と似た服を着た男たちが手に持つ何かを光らせていた。 『………』 次々と進んで行く光景に、中々付いていけずに呆然と見るルイズ。 男たちが持って大きな音と強い光を出す、見たことあるそれを思い出す。 『……銃、チーフが持ってた銃……よね』 人の死を忘れようと、いつか見たチーフが持っていた武器を思い出す。 視界の中で右から左へと撃つ男たち、対するようにその左側から飛んでくるのは青白い光の玉。 「ッがあ!! た、助けてくれ!!」 「っ!」 青白い光の玉が橙色の服を着た男の腕に当たり、一瞬で当たった箇所を焼き尽くして炭へと変化させる。 血も何も出ない、ただ残る炭化した腕を押さえ蹲る男。 動かないのは致命的だった、男の腕を炭化させた青白い光の玉が踞った男の顔に当たって一瞬で絶命させる。 悲鳴も出ない、炭化した顔、頭を仰け反らして倒れ伏してピクリとも動かなくなる。 「コヴナントのクソッタレめ!」 何か叫びながら後退していく男たち。 一目で死んでいることが分かっているのか、顔を炭化させた男に構わず後退しながら銃を撃つ。 【ahhhh!】 夢を見始めてまだ一分位しか経っていないのに、見た事も無い人の死体を見せつけられる。 そんな光景を前に呆然としたルイズを叩き起こす、聞いた事が無い雄叫びが上がった。 殺した事に対しての雄叫びか、人間には出せない声が通路の先の左側から聞こえてきた。 【ab*nlunN Wnj!!】 呆然とするルイズとは裏腹に、迅速に動くチーフ。 男たちが後退していった右の通路へと素早く駆け出し、背後から飛んでくる青白い光の玉を無視して駆ける。 【nmk,s_*+,/\;go,ma!】 当たり前に気が付く背後の存在、言葉にならない言葉を吐きながら青白い光の玉を飛ばしてくる。 その通路の先、反対側でも戦闘が起こり、青白い光の玉が飛んでくる。 奥で起こる戦闘、黄色の衣服を着た男が青白い光の玉で穿たれ、一瞬で死に至る。 そしてその男を殺したであろう存在が、奥の曲がり角から姿を表した。 『ッ!?』 声にもならない悲鳴、それは光沢のある青い鎧を付けた化け物。 肌の色も人のものと違い、暗い灰色をしている。 頭も違う、前に伸びるかのように太く長い首の先には顔、猫背のような姿勢にギョロリと丸い瞳を動かして見る。 口の部分、顎が細長く四つに割れてそれぞれに生える鋭い歯を覗かせる。 腕もおかしい、二の腕や前腕は変わらないが手の指が少ない。 人間は五本指であるのに、化け物は四本の指しか無い。 そうなれば足も人とは違う、くの字である人の足と比べて関節が一つ多い。 膝の下、脛あたりから更に関節が有り、膝とは逆方向に伸びて足の指らしきものがない、まるで馬の蹄を大きくしたような足先。 そして体格、2メイルを超えるチーフより大きかった。 見様によっては細く見える化け物、だがその動きは淀みなくしなやかに体を動かして、応戦していた人間の男を数メイルも殴り飛ばしていた。 ハルケギニアの亜人とは違う、人形の化け物。 それがどこか分からない場所で人間と戦い、知らない言葉で話す人間を殺して行っている。 殴り飛ばされ倒れ込んだ男へ向かって、左手に持つ青い光沢と緑色の光を放つ何かから青白い光の玉を撃ち出し、浴びせかけて男を殺した。 【/;lm,fb[m∂oMm pi34!!】 そうして視線が合う、背中に何度も撃ち込まれて死んだ男に興味など無く、通路を走るルイズ、チーフに手に持つ何か、おそらく銃を向けて青白い光の玉を撃ち出した。 「ッ!?」 そうして起きる、青白い光が視界を埋め尽くして目覚めた。 荒い息遣いのルイズ、体が震えていることに気が付き、自分を抱きしめる。 「……何なのよ」 訳が分からない、眠って気が付けば見知らぬ場所で、気が付けばチーフの視点を見ていて、気が付けば人が死んでいる、気が付けば見た事が無い亜人が居た。 こんな事があるのだろうか、知らない事を夢で見るなんてあるのだろうか。 理解出来ない事に大きく息を吐き、はっきりと思い出せる人の死と人形の化け物を忘れようと頭を振る。 「……まだかな」 学院に帰ってきてから三日が経つ、チーフたちが何時帰ってくるか分からない。 ここに帰ってこないと言う選択肢はない、無事でいてと言う問いにしっかりと答えたんだから。 だから待つ、待つしか無いのだと言い聞かせて、部屋の窓へと寄って開ける。 とうの昔に日が落ちた夜空、明るく輝く双月と満天の星空を見上げる。 早く帰ってこないかなと、夜空に向かって始祖ブリミルに祈りを捧げる。 「……始祖ブリミルよ、私の使い魔が無事に帰ってきますように」 指を組んで膝を床に付ける。 瞼を閉じて、祈りの詞を告げて窓の外から聞こえてくる唸るような音に耳を傾ける。 「……そうそう、こんな音出して走って……」 呟いてハッして立ち上がる、窓枠に手を掛け乗り出すように外を見た。 学院の正門、夜も遅いために閉じられている門と、その先に続く道の向こうから二つ一対の光が学院に向かってきていた。 それを見て慌てて駆け出す、押し飛ばすようにドアを開けて廊下に飛び出し、全力でバタバタと廊下を駆けて階段に躍り出る。 数十段の段差を下って一階まで降り切り、寮から飛び出す。 途中何度もこけそうになりながら正門へと急ぎ、門の向こう側で止まるワートホグを見る。 チーフ! そう叫ぼうとしていきなり目の前に降りてきた人物に遮られた。 その人物はフライにて飛んできたタバサだった。 ワートホグが出す音にタバサも気が付き、私と違って魔法を使って降りてきたんだろう。 「何よ、タバサ!」 「その格好は良くない」 「は? その格好……?」 「……寝間着」 「……ッ!!」 タバサに言われてようやく気付く。 今現在のルイズの格好は寝間着、半透明の体が透けて見える物だけを着ていた。 寝間着の他に付けているのは下の下着だけ、つまりはよく見れば見えるのだ。 帰ってきたと喜び、急ぎ来たのだから自分の格好を忘れていた。 「あ、う……でも……」 「気を付けるべき」 タバサはそういいつつ自分のマントを外し、ルイズへと差し出す。 「あ、ありがと……」 小声でぶつぶつが聞こえているのかいないのか、タバサは何事も無く正門へと歩き出す。 ルイズもマントを羽織って体を隠し、正門へと駆け出す。 「彼は彼女の使い魔、通して問題無い」 正門の内側、学院敷地内から聞こえてきた声に数名の衛兵が振り返る。 「しかしですな、貴族様。 日が上がるまで開けてはならないと規則が……」 そう言われても衛兵からしてみれば、不用意に門を開けることが出来ないと伝えるが。 「オールド・オスマンの許可はある、問題は無い」 「早く開けなさい!」 お構いなしにさっさと開けろと催促、ルイズも続く上に学院長であるオスマンの許可があると言うなら開けなければならないだろう。 だがもしこれが問題になったとき、責任が振りかかるのは門番の衛兵二人。 オールド・オスマンの許可があるからルイズやタバサが開けてくれと言っても、衛兵二人は開けることが出来ない。 直々にオールド・オスマンが来れば話は別だが、現状貴族である二人の命令には従えない平民の衛兵たちだった。 「申し訳ありませんが、それは出来かねます。 直々の命令ならば開けますが……」 「なら確認を取れば良い、貴方達はそうするべき」 タバサの言葉が信じられないなら、直接聞いて確認を取るべきだろう。 「……分かりました、確認をとってまいりますのでしばらくお待ちを」 衛兵たちが顔を見合わせた後、一人の衛兵が駆け出していった。 それから十分ほどして、衛兵が戻ってきた。 「……只今開けますので、しばらくお待ちを」 許可が得られたのだろう、内と外から衛兵が数人掛かりで門を押し引き始める。 大きな門であるから、かなりの重量を持っているためにゆっくりとしか開かないが。 「………」 チーフが手を貸し、動かせば数秒と経たずワートホグが通れるほどに門が開く。 「ワートホグを停めてくる、先に部屋へ戻っていた方が良い」 「……うん」 重低音を鳴らして、それに驚き仰け反る衛兵たち。 学院内にワートホグを進め入れ、門を先程と同じように軽く閉める。 再度停めていたワートホグに乗り込んで、いつもの倉庫へとワートホグを走らせる。 軍用車のワートホグ、この世界では間違いなくオーバーテクノロジーの塊。 魔法の錬金では作り上げられないチタニウム合金を基礎とし、熱可塑性プラスチックのポリカーボネートや配線周りのカーボンナノチューブなど。 元より存在しないタイヤのゴムや動力であるエンジンなど含めれば、希少物質を大量に使用して作り上げられた戦車と見えるかも知れない。 動かし方やガソリンの調達などの問題もあるために早々使えないだろうが、珍しい物としてコレクションに加えようとする好事家も居るだろう。 倉庫から女子寮へ、昇降口から階層を上がり、500キログラムの重量で廊下を軋ませながら歩む。 そうしてルイズの部屋の前で止まり、右手で軽くノックをする。 「開いてるわよ」 ドアノブを掴み、回して開く。 中では当たり前にルイズがいて、椅子に座ってチーフの帰りを待っていた。 同じように、タバサもチーフの帰りを待ちルイズの部屋にいた。 「手紙を預かってきた」 ルイズがなにかもじもじしていたが、気にせず要件を口にする。 腰のナップサックに手を回して、中から手紙を二通取り出してルイズへと手渡した。 「……これは」 室内のランプと月明かりを頼りにして、手紙の封に押された封蝋を見てルイズは呟く。 封蝋として押された紋章はユニコーンと水晶の杖が組み合わされたもの、この紋章を使うことが出来るのは王女であるアンリエッタのみ。 故にこの手紙はアンリエッタ姫殿下からの物だと分かる、そしてもう一通の手紙の封蝋も見た事がある紋章だった。 「こっちはワルドさまの……」 ラ・ヴァリエールと領地が隣り合った、ワルド家の紋章だった。 つまりこっちの手紙はワルド子爵からの手紙。 「これもだ」 ナップサックとは違う、ルイズの両手の上に乗りきらない袋をチーフは差し出してくる。 「……なにこれ?」 「姫殿下から渡された」 テーブルの上に置いて、袋の中身を確かめる。 「……宝石に、金貨?」 袋の中にはずっしりと、様々な宝石やエキュー金貨が入っていた。 宝石を換金すればかなりの金額になるだろう、金貨は金貨で結構な枚数が入っている。 「たぶん報酬」 「……そういう事」 一言タバサ、あの危なかった任務の報酬と言うことだろう。 これだけ貰うのは逆に気が引ける、報酬を得るためにアルビオンへと行ったわけではないのだから。 そう考えても口には出さない、自分には必要ないとしっかりと断ったのだから貰うものでもない。 ルイズはとりあえず報酬の袋から視線を外し、手紙へと移す。 封を解いて中の手紙を取り出し、読み始める。 タバサはルイズの後ろに回らないよう、手紙が見えぬよう移動した。 「………」 読み始めてから数分、姫殿下からの手紙を読み終えたのか閉じて、もう一通の手紙を手に取る。 「……姫様の手紙、チーフにありがとうって。 あとこの宝石や金貨は隙に使っていいって」 「……ああ、ルイズが使えば良い」 「貰えないわよ、私は何も出来なかったんだし」 属性は虚無である、と言われても今だ魔法が使えないのは事実。 礼拝堂で襲われた時も、ただ見てるしか出来なかったのだろう。 子爵からの手紙を開き、取り出して読み始める。 「……チーフ」 今度は一分も経たずに読み終え、チーフに向かって手紙を差し出す。 「……ルイズ」 だが受け取らず、手紙からルイズへと視線を移す。 「なに?」 「済まないが、文字は読めない」 「……ああ!」 またルイズもこちらを見て、思い出したように声を上げる。 チーフはこの世界の言葉を読み解く事が出来ない、だが言葉はなぜか地球のとある言語に非常に似通っており、翻訳機を通せば98パーセント程も通じる。 これも異常だろう、地球人類とは全く異なる星の生物が、地球にある言語と非常に似通った言葉を話す。 勿論この星に地球人類が移住した訳ではない、UNSCの植民地でも無い惑星だ。 可能性としては天文学的な確率、あり得ないと言って全く問題無いレベルの確率。 無論袂を分かった地球人類、と言う話は無いだろう。 確かに反乱軍なども存在したが、この世界にそう言った科学技術で作り上げられた機械などは見当たらない。 例え地球人類が移住してきても、ショウ・フジカワ超光速エンジン、スリップスペースワープ用エンジンを搭載したコロニーシップを使わないと植民地化は難しい。 コロニーシップを奪われたと言う話も聞いた事はない、また植民地化して移民したと言う話も上がってはいない。 地球人類、宗教的軍事連合コヴナントに属する種族、そしてはるか昔に超文明として栄えたフォアランナー。 その三種とも違うだろう第四の文明を持つ異星人、魔法と言う科学では再現出来ないであろう技術を持ち得る種族。 地球人類が何らかの方法でこの惑星にたどり着き、言葉を伝え広めたと言った方がまだ信ぴょう性が湧くだろう。 そうでないならばこの惑星で発生した文明の言語は、究極的な偶然によって成り立ったのかも知れない。 「じゃあ読むわね」 「頼む」 喉を手で押さえ、何度か小さく咳をしたルイズが手紙を読み始める。 『本当なら直接伝えたかったのだけれど、姫殿下や皇太子殿下の護衛があるので抜け出せなかった。 だから手紙で伝える事にする。 君の使い魔、マスターチーフのおかげで目標を達することが出来たことを感謝する。 彼が居なければ僕は皇太子殿下を手に掛けていただろうし、目標を達することが出来なかったかも知れない。 考えうる最善を実現し、君と姫殿下と皇太子殿下と青い髪の少女を、そして僕までも救ってくれた事に感謝の念が堪えない。 この手紙を渡す前に彼には何度も感謝の言葉を送ったのだが、もう一度文面でも送らさせて欲しい。 ルイズ、彼を僕に付けることを認めてくれてありがとう。 そしてマスターチーフ、僕を信じてくれてありがとう。 これは良い、いくら言っても尽きない気持ちだからね。 伝えたい事はまだある、ラ・ロシェールへの街道で僕が君に言った言葉を覚えているかい? 僕の父とラ・ヴァリエール公爵様が酒の席で戯れで決めた婚約の話だ、これは君の好きなようにして貰って良い。 婚約通り僕と結婚するか、所詮酒の席の話だから僕と結婚する必要はないと、どちらを選んでくれても構わない。 ルイズの選んだ事を尊重するよ、結婚するもしないも君次第だ。 もしかすると、学院で好きな男でも出来たかも知れないからね。 この二つが伝えたかった事だ、もうひとつ大事な話があるけどこれは二枚目の方で確認してくれ。 それと二枚目を読む前に確認して欲しい、読む時はルイズとマスターチーフ以外の目や耳に届かないようにして欲しい。 読み終えて覚えたなら、二枚目の手紙は燃やすなりして誰に目にも触れぬよう処分して欲しい。 内容は君とマスターチーフに関係する事だと思うから書き記すことにする』 「一枚目はこれで終わり」 そう言ってルイズは手紙を閉じる。 それを機にタバサは立ち上がり、呪文を唱えながら杖をゆっくりと振る。 杖先から光が灯り、室内を満遍なく灯す。 その後もう一度杖を振れば周囲の音が消える、ディテクト・マジックで魔法による監視が無いか確かめ、サイレントの魔法を使って周囲に音が伝わらないようにした。 「終わったら教えて」 タバサはそのまま部屋から出て行く、気を利かせてのだろう。 それを確認して、次は窓を締め切る。 室内はランプの明かりだけで灯され、少々薄暗い手紙の文字が読める程度の明るさ。 「……それじゃあ読むわね」 何度か深呼吸するルイズ、手紙を開いて読み始めた。 『周囲の目や耳は外したかい? しっかりと確かめてから読んで欲しい。 それじゃあ二人に伝えたい内容を記す、この事は姫殿下や枢機卿にも話ていない、僕だけしか知らないことだから他言はしないで欲しい。 まずこの事を知るには僕の過去を話さなければならない、ルイズは憶えていないだろう僕の母に関してだ。 僕の母は生前『アカデミー』の主席研究員だった』 「……姉さまと同じ、アカデミーの研究員、それも主席?」 確かルイズの姉妹に姉二人が居たはず、どちらかが今言った通りアカデミーとやらの研究員なのだろう。 「……続けるわ」 『アカデミーに所属している時はハルケギニアの歴史と地学の研究を行っていたよ。 だがある日を境に母はアカデミーを止めて、屋敷に閉じこもってしまったんだ。 正確に言うと止めざるを得なかった、その理由は母が心を病んでしまったからなんだ。 数カ月に渡り屋敷に引き篭もり、最後は階段から落ちて、それが元で死んでしまったんだ。 アカデミーで歴史と地学を研究していて、ある日突然母は心を病んでしまった。 屋敷に閉じこもってからはしきりにある言葉を呟いていたよ、当時の僕はそんな母が嫌でたまらなかったんだ。 屋敷の中をふらふらと彷徨きながら、頻りに僕の名前と始祖ブリミルに祈る言葉ばかり。 心の傷は水の魔法で治せはしない、元の母に戻って欲しいと願っていたけれど僕にはどうにも出来なかった。 そんな母を父は彷徨かないよう奥の部屋に閉じ込め、出てこれないようにしたんだ。 それから母を閉じ込めでてこれないようにして数カ月、僕の十二歳の誕生日のパーティーを開く事になって。 そんな日に母が奥の部屋から出てきたんだ、母が心を病んだことは招待した客はみな知っていたけれど、いざそれを目に晒すのは外聞の恥になる。 それを理解していた僕は母を奥の部屋に連れ戻そうとしたんだ、上も書いた通り当時の僕はそんな母が嫌でたまらなかった。 だからだろうね、奥の部屋に連れ戻すために階段を登っていたとき、突然抱きついてきた母を突き飛ばしてしまったんだ。 母は階段から転げ落ちたよ、そして派手に転げて首の骨が折れてしまった。 対外的には事故と言うことになっているが本当は違う、僕が殺してしまったんだ。 今でも夢に見るほど覚えているよ、母の首が折れて死んでしまった姿を。 亡くして気が付くんだ、その時の僕は母を嫌って居たんじゃなくて愛していたってね。 ただ子供だったんだ、その位の歳の僕は母の愛情が煩わしく感じてたんだろうね。 愛していた母を僕が殺してしまった、そのことで心が一杯になって僕までおかしくなりそうだったよ。 気が付けば母を殺した事を忘れようと魔法の修行に明け暮れていた、そんな事をしたって忘れられるはずが無いのに。 それから八年間、修行ばかりして一端のメイジとして自信がつき始めた頃だった。 母のことを振り切りたかった僕は、生前母が使っていた部屋を片付けていたんだ。 そこで僕は母の日記帳を見つけた、それを見て僕は涙を流したよ。 書き始めた頃は僕の事ばかり書いてあってね、僕が産まれたことに感動していたり、どういう事をしたのか一喜一憂に書いてあったよ。 悔やんでも悔やみきれない、この事を知っていればあの時母を突き飛ばさずもっと別の、マシな行動を取っていただろう。 そんな事を考えながら母の日記帳を読み進んでいるうちに、母が心を病んでしまった原因を見つけた。 日記帳には『許しがたい大きな罪と秘密を知ってしまった』、と書かれていた。 その日以降の日記帳にはその罪と秘密を恐れる内容になっていた、始祖ブリミルと神に懺悔する事ばかりしか書かれなくなっていた。 母が恐れた大きな罪と秘密はどんな物なのか書かれていなかったけど、それが母の心を病む原因になったことだけは分かる。 本来ならば今すぐに領地を国に返上して、サハラへ旅立ち、母が恐れた大きな罪と秘密を暴くことが母への償いとなるだろう。 そうするべきだと僕自身も分かっている、だけど今だ区切りを付けれず乗り越えることが出来ないんだ。 だから僕は今だ魔法衛士隊に居座り、国のためと言いつつあのような事を仕出かした。 虚無に選ばれた君が、エルフが支配する聖地をいずれ君が取り返す時に乗じようとしている小さな男だ。 罵り蔑んで貰っても構わない、そうなっても仕方ない存在なのだから。 ルイズに懺悔をしてしまったが、気を悪くしないで欲しい。 いずれ近いうちに打ち明け、母を殺してしまった事への罰を受けるつもりで居るよ。 その時までに聖地がエルフに占拠されたままであったなら、罰を受け終えてから旅立つことにする。 この事はもう良いか、大事なのは母が呟いていた言葉だ。 『始祖ブリミルよ、我々は大きな間違いを起こし許されないことをしてしまったのです。 大いなる神よ、我々は与えられた力を過信し、大いなる神から与えられた使命を擲ってしまったのです。 おお、始祖ブリミルよ、偉大なる神よ、我々をお許しください』。 そういつも呟いていた、もう一つは僕の名前を呼びながら『聖地を目指し、始祖と大いなる神に慈悲を求めなさい。 それが我々を救う鍵となるのです』と言っていた。 虚無を授けた神と虚無を扱った始祖に慈悲を求めよと言っていたから、恐らく虚無を扱える君と関係があるのかも知れない。 慈悲を求め、救いを得られないならどうなるかは分からない。 母が恐れ、誰にも言えず心を病むほどの恐ろしいことが起きるのかも知れない。 だからルイズとマスターチーフ、虚無の魔法の事もあるから必ず心に留めて置いて欲しい。 もし僕の力が必要になったら何時でも言ってくれ、全力で力添えさせていただく。 二人に始祖ブリミルの加護があらんことを。 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドより』 読み終えて、何とも言えない表情をルイズは浮かべる。 一枚目とは大きく異なる話、トリステインのアカデミー、名前からして国の研究機関に認められ研究を行える題目。 子爵の母は歴史と地学の研究、その末にハルケギニアに埋もれる闇を目の当たりにしたのだろう。 ハルケギニア六千年と言う膨大な歴史と、この地に眠る誰も知らない秘密。 何か危険なものに触れたかのような感覚を得ていた。 「……どうしよう」 そう言って見上げてくるルイズ、とりあえずやらなくてはいけない事が一つ。 「まずは手紙を処分しよう」 「え、ええ……」 ルイズは頷き、杖を取り出し。 他の手紙や袋をテーブルから降ろす。 「……ウル・カーノ、発火!」 そうして呪文を唱えれば爆発音、二枚目の手紙をテーブルごと破壊して処分する。 「………」 「娘っ子、お前さんの魔法じゃなくて良かったんじゃねぇか?」 「う、うるさいわね!」 チリチリと破砕面から煙を上げて無残な姿になったテーブル。 かなり大きな音だったが、サイレントの魔法で部屋の外に漏れてはいないだろう。 とりあえず煙を上げている部分を手で擦り、木片に赤く篭る熱を揉み消す。 木片の熱が無くなったことを確認して、部屋の隅に散らばるテーブルだったものを集める。 「どうするかはルイズが考え、決めなければならない」 時間が有ろうと無かろうと、考え選択するのはルイズと言う事。 中心は使い魔のマスターチーフでは無く、召喚主であるルイズであるからだ。 「……でも、聖地を奪還とか、そんな事をしてたら……」 見上げてくる瞳は揺らいでいる、どうするべきか迷っているのだろう。 だから答える。 「……許す限り力を貸そう」 「……そ、そうよね。 貴方は私の使い魔だし!」 『何が』許す限りなのか、チーフの声に笑みを浮かべるルイズは理解していない。 お願いしようが命令しようが、その時が来れば必ず帰ると言うことを。 前ページ次ページ虚無と最後の希望
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前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-22「情報」 日が上がり翌日、回収してきた武器やワートホグを停めている倉庫の一室で、マスターチーフは強化と固定化が掛かった椅子に腰掛ける。 そうして手には棚に立てかけていた武器、『BR55 バトルライフル』に手に取る。 クルリと手の内でバトルライフルを回し、それを解体して行く。 定期的な整備、戦場での撃ち合いの最中に起こってはいけない動作不良を防ぐ処置。 カチリカチリと、僅かに擦れ接触して音を鳴らす。 「………」 外から覗かれないよう締め切った室内に、僅かな明かりを灯すランプによって照らされる倉庫内。 無言で解体し続け、一分も掛からずバトルライフルが銃ではなく、銃の部品となり変わる。 次は余計な汚れが付いていないか、金属疲労を起こしていないか、一つ一つ確かめ磨いていく。 「………」 磨いた後にもう一度確認、問題がないなら組み直し始める。 そうして銃の手入れをしながら考える。 召喚されてからもうすぐ一ヶ月が経つ、これからも現状のまま続くなら非常に拙い状況。 召還魔法は今だ見つかっておらず、その他の帰還方法も見当たらない。 この惑星に着た理由は、アークに逃げ込みヘイローを起動させようとした『真実の預言者』の抹殺任務が始めとなる。 アークを付き進んで真実の預言者の抹殺後、ヘイローの起動を阻止したことにより用済みとなったチーフたちに襲いかかるフラッドの大群。 それを捌きながらも元来た道を引き返していると、チーフの視界の先に通路を横切るコルタナの青い影が見えた。 それを追いかけたその先に見たものは、再建造されている破壊したはずのアルファ・ヘイローだった。 それもそのはず、アークとはノアの箱舟的存在であり、ヘイローを建造する施設でもあった。 ヘイローとは直径一万キロメートルの、地球より一回り小さい環状建造物。 起動すれば25000光年の範囲内に居る全生命体を殲滅する、究極の知的生命体破壊兵器。 コルタナがフラッドどもを全滅させることが出来る手段と言っていたのはこれだったのだ。 多数のフラッドがアークに集まっている今、未完成のアルファ・ヘイローを起動させればフラッドだけを殲滅することが出来る。 さらに起動させれば、不完全故に起動に耐えられずアルファ・ヘイローが崩壊するはずだ。 起動させることを決めてからは、フラッドとセンチネルの激しい妨害と戦闘の末コントロールルームにたどり着き、アルファ・ヘイローの起動しようとする。 その際にアルファ・ヘイローから共に戦ってきたジョンソンが、完成する前に起動させまいと超古代文明のA.I、ギルティ・スパークの攻撃によって命を落としてしまった。 許して置けるはずも無い、妨害を図るギルティ・スパークに攻撃を仕掛けるも超科学によって作られる力場によって攻撃が通らない。 だが命尽きるその時まで援護を行ったジョンソンのおかげによって、ギルティ・スパークを破壊することに成功する。 ジョンソンの最後を看取りヘイローを起動、後は脱出するだけ。 だが不完全なヘイローの起動による崩壊、爆発から完全に逃れきることは出来なかった。 脱出に使ったフリゲート艦、フォワード・オン・トゥドーンがアルファ・ヘイローの爆発によって生じたスリップスペースワープポータルの崩壊に巻き込まれた。 辛うじてスリップスペースワープに移行出来たが、フォワード・オン・トゥドーンがポータルから完全に抜け出る前にポータルが崩壊してしまった。 通常空間に抜け出た艦前方とスリップスペース内にあった艦後方、ポータルが崩れたことにより船体が真っ二つに折れてしまった。 運が悪い事にコルタナと俺は艦後部に乗っていたために、スリップスペースに取り残された。 恐らくは艦前方、操舵室にいたアービターは地球へと帰還出来ただろう。 自身とコルタナは十分減速し、通常空間に復帰出来たフォワード・オン・トゥドーンの中に留まっていた。 減速するまで折れた船体が長時間スリップスペース内に留まったため、スリップスペースワープを駆使しても地球から何年も掛かる場所へと移動してしまった。 救助ビーコンを発信するも、救助が来るまで長期間掛かる。 だからコールドスリープに付き、いつか救助が来る日を、いつか地球に帰れる日を眠って待ち続ける、はずだった。 「………」 その後は召喚され、この地に呼び寄せられた。 コールドスリープポッド共、ルイズによって召喚された。 手で弄っていた部品を組み上げ完成するバトルライフル、構え照準を倉庫奥に横たわるコールドスリープポッドに合わせて見る。 自身が入り眠っていたポッド、コードやパイプは恐ろしく鋭利な刃物で切り取られたかのような断面。 聞いた話によれば、召喚の際現れるゲートは呼び出す者の前面に現れるらしく。 ゲートを潜るか否かは、呼び出される者の意志に委ねられるらしい。 応じるなら潜り、応じないなら潜らない、普通であれば選択出来たのだが。 眠っている状態で意識は無く、相対的に見れば宇宙空間を漂う船体は慣性に従い常に移動し続ける。 つまり、自分が眠るポッドの前にゲートが現れ、本来なら眠っているため自動的に潜らない選択になるはずだったが。 船体が移動しているために、動かないゲートと動く船体に乗る自分は交差して、召喚に応じた、と判断されたらしい。 無論これは推測、確証がないもの。 その状態で意識は無かったために、どうなったのか確かめることは出来なかった。 とりあえずはコールドスリープに入っていなくても、潜る事は無かっただろう。 コルタナから見たら、ゲートがポッドに接近して飲み込んだように見えたのかも知れない。 コルタナは言っていた、俺には運があると。 運があるならこんな事にはならないんじゃないか、と考える。 弾が装填されたマガジンを銃後部下方にはめ込み、ボルトを押し込んで薬室に弾を送り込む。 「………」 置いてきてしまったコルタナのことが気になる。 俺がここに居る以上、彼女はフォワード・オン・トゥドーンに一人取り残されていることになる。 地球に帰る前に、彼女の元へと帰らねばならない。 多分、いや、確実に怒るだろうな。 その時は謝ろう、問題はその時が来るかどうか。 帰れないと言う事態は是非とも避けたい、アーマーのエネルギーも無限ではない。 戦闘状態のままならエネルギーシールドを展開し続ける、それは有限のエネルギーを消費し続ける事に変りない。 アーマーを常時戦闘状態にまま稼働させ続けても一ヶ月は持つが、一ヶ月以内に帰れると言う保証はない。 学院内に居る時は、出来るだけエネルギーシールドを無効化しておく必要がある。 現に学園内ではカットしている時が多い、幸い支障なく動かすために必要なエネルギーは別系統に割り振られている。 エネルギー不足によるエネルギーシールドが展開出来なくなっても、アーマーは死重になる事はない。 流石にその状態から数カ月エネルギー補給を行わなければ、超重量の金属の鎧に成り果てるが。 出来ればそうなる前にフォワード・オン・トゥドーンに戻るか、最悪エネルギー補給だけでも受けたいが、この地に専用の設備がある訳も無い。 そうして既に一ヶ月近く経っている、今までのように消費エネルギー削減を継続して行かなければ、二ヶ月と持たずエネルギーシールドを張れなくなるだろう。 調整を済ませ、バトルライフルを棚に置く。 次はアサルトライフルを取ろうとして。 「ミスタ、居ますかな?」 コンコン、と倉庫のドアがノックされる。 存在を確かめた声の主は、学院の教師コルベールだった。 アサルトライフルに伸ばした手を戻し、立ち上がる。 歩きドアを開けば、予想通りコルベールが立っていた。 「頼まれていた資料、集めておきました。 今から時間は有りますかな?」 「ああ、助かる」 「それでは、図書館にありますのでそこで」 この地に召喚されてから椅子に腰掛けるのも躊躇われる、理由は椅子が重さに耐え切れないからだ。 100キログラムを超える体重の人間が座っても耐え切る木製の椅子、しかし500キログラムは無理なようで座れば脚が折れる。 別段24時間立ち続けるなど問題ではなく、立ったまま眠れるのだから座る必要は大きくはない。 「立ったままもなんでしょう」 コルベールは呪文を唱えながら軽く杖を振り、椅子に硬化の魔法を掛ける。 木製と金属製の椅子とでは耐久力が違う、しかし魔法の力は木製の椅子を金属製並みの強度へと跳ね上げる。 左手で硬化を掛けられた椅子に腰掛ける事を進められる、断る理由も無いので腰を降ろした。 魔法が掛かっていなければ、数秒と経たず音を立てて脚はひん曲がり折れる。 硬化の魔法はそれを防ぎ、軋む音すら立てず椅子本来の役目を果たしていた。 「こちらの本とこちら、これも僅かですが記されています」 移動してきた図書館の隅、長い机の端に陣取る。 その机に並べられた数冊の書物。 「恐らくミスタが一番望まれるであろう情報が載っているのが、これです」 少々古びた書物。 コルベールが挟んだのであろう栞があるページを開く。 そのページには読めない文字と模様のようなイラストが載せられている。 「……このページです、『ガンダールヴ』。 始祖ブリミルが従えていたと言われる、四つの使い魔の内の一つ」 模様のようなイラスト、それは使い魔に刻まれるルーン。 「この模様を見たことは?」 「いや」 「その鎧を脱いで確認は?」 「していない」 「……理由を聞いても」 「必要である時以外では脱げない、軍機でそう決まっている」 ヘルメットならば素早く脱げるが、見える範囲の顔にはこのような模様は見当たらなかった。 そうなるとどこに有るのか確認するため、ミョルニルアーマーを全て脱がなければならない。 しかしそれは法によって禁じられており、その法の特例で食事をする際に脱ぐヘルメットにアーマーの調整や整備、新型アーマーへの交換などでしか脱ぐことは出来ない。 現時点で刻まれているルーンを確認するには、どの特例にも当てはまらない。 「……わかりました、そうであるなら確認しない方が良いですね」 理解を示したコルベールに向かって頷く。 「それではガンダールヴの方ですが、虚無の魔法は通常の魔法と比べ、非常に強力であり長い詠唱を必要としていたと伝え聞きます」 「………」 「貴方が言っておられた身体能力の向上は、主であるメイジを守るために有るのでしょう」 「効果時間などは書かれては」 「いませんね、どれほどの時間続くかは実際に試して見ないと。 しかしながらその役目を考えると短い時間ではないと思われます」 「………」 もう一度開かれているページに視線を落とす。 「……本当に貴方がそうであるなら、主である彼女の属性は……そうなるのでしょうね」 主語、その本質を問う言葉を濁してコルベールが言う。 「となればミス・ヴァリエールは後三体の使い魔を呼び出せるかも知れません、『神の盾』である貴方に、『神の笛』に『神の頭脳』、そして──」 「そりゃあどうだろうね」 「!!」 コルベールが突然聞こえてくる声に、杖を取って辺りを警戒する。 「こっちだよ、こっち。 相棒の腰」 「……いや、まさか」 「昔は結構居たような気がするんだけどねぇ、同類」 カチカチと鍔の金具を鳴らして、どこから発声しているか分からないデルフリンガーが喋る。 とりあえず腰から外して、テーブルの上に置く。 「インテリジェンスソードですか、初めて見ましたよ」 「……デルフリンガー、初めて掴んだとき『使い手』と言っていたな」 「言ったな」 「どういう意味だ」 「そのままさ、ガンダールヴの左手はおれさ。 おれが作られた時から、最初っから決まってるんだぜ」 「……つまり、君はガンダールヴが扱っていた武器だと?」 「そうそう」 「なんと言う、世紀の大発見ではないか……。 君は始祖ブリミルを見た事があるのかね!?」 「あるに決まってんだろ! おれの相棒は主の傍に居なきゃ意味ねぇし」 「おお! 始祖ブリミル・ヴァルトリを直接見た事があるなど……どう言う人物だったのかね?」 最後の方は小声になっていたコルベール。 「ブリミル・ヴァルトリ? 誰だそりゃ? ニダベリールじゃねぇのかね?」 「ニダベリール? 君は始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴに振るわれていたインテリジェンスソードだろう?」 認識の齟齬が発生している会話。 知らない話に割り込むほど多弁ではないチーフはただ話を聞くだけ。 ヴァリトリなんてしらねー、ニダベリールがヴァリトリなのか、改名した理由は何なのか、など。 分からない話でも何かの手掛かりになるかも知れない、最低限重要そうなキーワードは耳に入れて覚えておく。 そうしてコルベールとデルフリンガーの問答は十分ほど続いたが、結局は『よく覚えていない』とデルフリンガーが言ってあまり情報が集まらなかった。 「……ふむ、ブリミル教に知られれば大変になりそうな事が幾つかありますね。 ミスタ、この話はどうか内密に」 「わかった」 ルイズはともかく、自分としては見知らぬ惑星で祭り上げられるのは遠慮したい。 「とりあえず、事実ならばミスタの体のどこかにこのルーンが刻まれているはずです。 もし安心して鎧を脱ぐ時があるならば、どこに有るか確認してください」 「ああ」 「……この事は彼女も知っているのですか?」 「知っている」 「そうですか、出来れば貴方からもそうであると言い触らさないよう申して貰えませんか。 オールド・オスマンもこの事については他言無用と」 「了解した」 基本的に自分が関わることは他言無用となっている。 ワートホグを停めている倉庫なども、火器が仕舞ってある為一部の者以外は出入り禁止の処置がされている。 学園の中には自分の事を喋るゴーレムとしか認識していない生徒も多数存在している。 自分が使っている装備や武器も同様だ、ワートホグは特殊なマジックアイテムなどと説明している。 この学園の最高責任者であるオールド・オスマンがそう言えばそうであると、疑問を持ったとしても口を挟む者は居ない。 「……しかしながら、随分と大きな話になっていますな」 「………」 否定は出来ない。 どこか知らない惑星に住む原住民に、どう考えても不可思議な現象によって召喚され。 使い魔と言うより護衛に近く、召還魔法の捜索を条件にルイズを守ることを約束すれば。 それを試すかのごとく、この国の王女がわざわざ出向いてアルビオンへ行って手紙を取り返して欲しいと言ってきた。 その道中に盗賊や、アルビオンで子爵の裏切りから告げられるルイズの虚無にガンダールヴ、そしてクロムウェルの暗殺。 さらにはエルフが住むと言うサハラに何か重大な秘密が眠っているかも知れない。 と、たった一ヶ月、30日程度で起こった出来事にしては随分と大きな話だ。 「それで、送り返す魔法は」 「……申し訳ない、今だ見つかっては……」 週に一回、その間隔で尋ねるが答えは先週と変わらなかった。 「並行してサモン・サーヴァントの逆転が可能か確かめてはいるんですが、こちらもあまり芳しく無く……」 「わかった」 見つからないものは仕様がない、召喚魔法の可逆化が可能かどうかに期待しておくしかない。 それを待つだけではなく、何故か落ちているUNSCやコヴナントの武器や乗り物を探した方が良いのは確実。 万に一つもなさそうだが、スリップスペースワープが可能なフリゲート艦や巡洋艦もこの惑星上に存在しているかも知れない。 期待を掛けるにはあまりに小さな確率、だがそれでも諦められるほど達観はしていない。 結局分かったのは調べてもらった虚無関係のことだけだったが、使い魔契約の効果が悪いものではなさそうなのが良かった。 「………」 しかしながら情報獲得量が少なすぎる、自身で調べようにも文字が読めないために書物から情報を得ることができない。 人に聞こうにも気安く話せる内容ではない、習おうにも数ヶ月は掛かるだろう。 学習能力はそこそこの自信が有るが、専心したとしても実用レベルになるには最低でも数ヶ月は必要となるだろう。 だが現実はそうも行かない、情報収集や散らばる武器や装備の回収、ルイズの護衛などが重なっているために下手をすれば一年以上掛かるかもしれない。 コルタナのような人間を遥かに超える極めて高い学習能力を持つA.Iが居れば、一ヶ月どころか数日と掛からず誤解なく利用出来ていただろうが。 無い物ねだりをしても仕様がない、とりあえず帰るためには文字の学習をしなくてはいけないだろう。 そう考え、テーブルを挟んで反対側に座るコルベールへと口を開こうとすれば、遠くから呼びかける声が聞こえた。 「チーフ!」と呼んだのはピンクブロンドの少女、ルイズであった。 そのまま図書館の中を走り寄ってくるが、それを見たコルベールは窘めた。 「ミス・ヴァリエール、はしたないですぞ。 貴族の子女であろう者が静かにすべき図書館で大声を上げて、あまつさえ走るなどと」 「す、すみません……」 事実、図書館にいた他の存在は迷惑そうにこちらを見ていた。 「……ミス・ヴァリエール、座りなさい。 彼とも話していたのだが、とても大事な事を言っておかなければならない」 コルベールが左手でチーフの隣の椅子を勧める。 「ミスタ・コルベール、その話は後ほどでは……」 「駄目です、今ここでミス・ヴァリエールは聞いておかなければなりません」 「……わかりました」 真剣な表情で言うコルベールに押されたのか、ルイズは頷いて椅子に座る。 「この事についてどうしてそれを貴女方が知ったのかは聞かない方が良いでしょう、それを知る権利は私には無いでしょうから」 「この事?」 「……ミス・ヴァリエールが虚無だと言う事です」 それを聞いた瞬間ルイズは目を剥き、こちらを見た。 「喋ったの!?」 「ああ」 信じられないとチーフを見るルイズ。 だがコルベールはそれについて話し出す。 「私は他言をしませんよ、正直に言ってミス・ヴァリエールや彼の事が知られれば大変な事になるのは目に見えていますから」 「……なんで」 「ミスタ・コルベールが信用出来ると感じたからだ」 実際オールド・オスマンに武器の危険性に付いて話して、すぐに対応してもらった。 勿論どれほど危険か、と言うのを数発の弾薬を消費してその目で確かめてもらっている。 その時にコルベールが居合わせ、その圧倒的と言って良い性能の銃に恐れをなした。 そのような物が使用可能なレベルでそこらかしこに落ちている、急遽対応するのは正解だった。 「でも、こんな……」 「はは、まぁ私に信用がないのは分かります。 何なら私の全てに誓って喋らないと約束しましょう」 「………」 「私ではなく、彼を信じて欲しい。 勿論私も信用して欲しいのですが、無理強いは出来ませんから」 「……わかりました」 渋々、仕様がなくと言った感じにルイズは頷く。 「それでは私が喋らない理由をお聞かせします、その理由は虚無である貴女と彼の存在に訳があるからです」 「……私は分かりますけど、なにがあるんですか?」 「私が知っているのは彼、マスターチーフが他国の軍人である事です」 「……はい」 「懸念するべき事は彼が他国の軍人であり、ミス・ヴァリエールがトリステインの公爵家の三女と言う事です」 「………」 「他国、ハルケギニアで産まれた人間ではないと言うのはそれほど問題は無いのですが、彼が軍人だと言うのが拙いのです」 「……どうしてですか?」 ルイズはさも疑問を口にする。 「ミス・ヴァリエールが召喚して呼ばれたのですから、事故として扱えるものですが。 彼が軍人であれば何らかの思惑を持って、使い魔になる事を受けたと思われても仕方ありません」 「そんな!」 「……そう思われるかも知れない、と言うことです。 ですからこれは懸念としては低いと言わざるを得ません、尤も心配することは……」 そう言ってからコルベールは視線を図書館へと巡らせる。 聞き耳を立てている者が居ないか確かめたのだ、そうしてこちらに注意を傾けているものが居ないと判断して口を開く。 「彼が所属する国の軍隊がこの地、ハルケギニア全土を侵略しようとすれば一ヶ月も掛からず制圧出来るほど強力な存在だと言うことです」 声を抑えて語るコルベールにルイズは驚きを隠せない。 「ちょっと待ってください、確かにチーフは強いですけど……」 「ミス・ヴァリエールは彼が持つ武器をどれほど知っているのですか?」 「え? ……えっと、銃だと言うのは知ってます」 「そうです、銃です。 ハルケギニアの銃がどういう物かは?」 「……メイジ殺しと呼ばれる平民が使っているくらいにしか」 「そうですね、一回撃つごとに筒を掃除して、火の秘薬を詰め直して弾を入れる、そうして次を撃てるようになります」 「はぁ……」 「要するに手間が掛かると言うことです、それに精度も悪く届く距離も短い、この事もあって殆ど広まってはいません」 「……そんな物を使ってるんですか?」 使えないものを使っているのかと、ルイズはコルベールを見た後こちらに視線を向けてくるが応えない。 「ミス・ヴァリエールが思っている通り、普通であれば使えない、使い難い物なのですが。 彼が使用している銃は別物です」 「……?」 「彼が使う銃は今挙げた問題の撃つのに手間が掛かる、精度が悪い、届く距離が短いの三つを全て克服したものです」 「それって、簡単に撃てて真っ直ぐ飛んで遠くまで届くってことですか?」 「ええ、魔法より遥かに強力な攻撃手段です」 「………」 またも視線を向けてくるが応えない。 「お分かりですか? 彼の持つ銃は使い方をしっかり学ぶだけで、子供でもスクウェアメイジを簡単に殺せるくらいの物です」 「……すくうぇあ?」 「ええ、もし彼が銃を使って誰かを殺害すると決めたなら、恐らくは誰も逃げれないでしょう」 「……そんなの使ってたの?」 「ああ」 三度視線を向けてきて聞いてくるルイズに、一言簡潔に答える。 そのまま呆然として、ルイズはコルベールの話を聴き続ける。 「物によっては1リーグを超えて狙える銃もあります、そんな銃を持つ彼が多数の者たちに知れ渡ったらどうすると思いますか?」 「………」 「ある貴族ならばそれを恐れて銃を壊そうとしたり、使われないよう彼を襲わせて殺そうとするかも知れません。 あるいは手に入れて良からぬ事を考えるかも知れません」 コルベールは小声ながら、ルイズにしっかり聞こえるよう可能性を告げる。 「宮廷貴族なら利用しようと目論み、邪魔な輩を暗殺させようとするかも知れません」 「……そんな」 「これはまだいいでしょう、少ないと言える死者が出るだけですから」 「まだあるんですか!?」 「ええ、先程言った彼が所属する軍隊の事ですが、私が心配するのは今言った銃が軍人の手に隅々まで渡っていることです」 「………」 「彼のような使い手はそんなに居ないと思いますが、基本的な使い方を理解している軍人が数十万、数百万と居て、その数だけ彼が使う銃と同じものが有ると言うことです」 驚きの連続で、ルイズは言葉を発することが出来ないでいた。 「彼が言うにはハルケギニアを知らないし、侵略している暇が無いそうなのですが、やろうと思えばやれる力を持っています」 「……そんな、そんな」 「ですが、もしハルケギニアの事を知っていて、彼がここに居てミス・ヴァリエールの使い魔をやっていると言うのは介入する口実の一つになるのです」 「……落ち着け、そうはならない」 うつむいて震えるルイズの肩に軽く手を置いて声を掛ける。 「ミス・ヴァリエール、この事についてはいずれ彼が帰る時に再度話合わなければなりません。 ですが今問題にするのはこちら側、ハルケギニアの者たちのことです」 「……どうすれば」 「……貴女は虚無のメイジで、強力な武器を使える彼は貴女の使い魔です。 そうなれば口を出してくる存在は二つ」 「それは……?」 「まずはこの国、トリステインです。 貴女と彼個人だけでは戦争を起こすのは無理でしょうが、この国にとって邪魔な他国の要人を暗殺することは出来ます」 ルイズに命令して、そうさせるよう仕向けるかも知れない。 勿論断ることは出来るが、何らかの手段、人質などを使って従わせようとするかも知れない。 それに今言った事はすでに起こっている、チーフが直接殺した訳ではないがそれの手伝いをしてしまっている。 一国の指導者と言って良い立場の人間を殺せたと言う事実は大きい。 「むしろこれはミス・ヴァリエールではなく彼の力ですが……、もう一つは貴女が目的となるロマリアです」 ブリミル教総本山、宗教庁がある最高権威の国。 虚無かどうかの真偽を問い、本物であれば招き入れ、偽物であれば虚無を騙った不敬で処断されかねない。 「間違いなくミス・ヴァリエールと、その周りが一変するでしょう。 今までの生活はもう出来ないと考えても良いかと」 「………」 「私は貴女が虚無であると知られない方が良いと思うのです、そうなればミス・ヴァリエールは魔法が使えないと馬鹿にされ続けるかも知れませんが……」 「……それは、構いません」 「……そうですか、知られれば大変な目に合うのは間違いないと思います。 知られ一悶着有った際に、彼が害されれば彼の国が報復をしないと言う確証もないので」 チーフがそうはならないと言っても、一兵士の言葉であり、軍全体の決定ではない。 ましてやマスターチーフと言う存在は地球人類にとって英雄に等しい存在だ。 そのマスターチーフが害されたと言うならば、それは地球人類への敵対行動に取られかねない。 尤も、今この惑星に居る事は知られていないだろうから、この惑星上で死んだとしてもそう言った事にはならないだろうと考えているマスターチーフだった。 「オールド・オスマンも秘密にしておいて欲しいと、今の貴女方の行動一つで全てが変わる可能性があるので」 「……はい」 「私たちはお願いするしか出来ません、これは貴方の人生で重要なことですから。 出来れば誰も彼も血を流すような事態には陥って欲しくないのです」 「……わかりました」 「時間を掛けてゆっくりと考えてください、これが貴方が知って欲しかったことです」 それを聞いてルイズは強く頷いた。 そうしてコルベールとの真剣な話は終わる。 二人はコルベールと別れ、図書館を後にした。 「何か有ったのか」 ルイズには整備のため倉庫に居ると告げてきた、図書館まで来たのは何か用事があって自分を探しに来たのだろう。 「え? ……うん、キュルケが──」 「あー、居た居た。 探したわよ」 ルイズを遮って現れたのはキュルケ。 「ちょっと、見つけたなら早く教えなさいよ」 「……うるさいわね、大事な話してたんだからしょうがないでしょ」 「ふーん……、それよりチーフ。 宝探しに行くんだけど、協力してくれない?」 「ルイズに聞いてくれ」 答えをルイズに即投げる。 必要でない限り、ルイズの傍から離れるのは良い事ではない。 ルイズが行かないと言えば行かない、行くと言えば行く。 行動原理は護衛と言う物によって成り立っている。 「ならOKね、それじゃあ準備を……」 「行かない」 元々行く気だったのか、キュルケが行くのだと判断していたからそうなのだろうが。 一転して行かないと言い切るルイズ、それを聞いたキュルケは怪訝な顔をしてルイズを見る。 「ちょっとちょっと、さっきは行くって言ってたじゃないの」 「行かない、行かないったら行かないの!」 そう言って、二人を振り切るように走り出すルイズ。 「……チーフ、何か有ったの?」 走っていくルイズの背中を見ながら、キュルケが声を掛けてくる。 「ああ、だが心配することではない」 「……そう、チーフが居れば楽になると思ってたけど、これじゃあしかたないわねぇ」 「あまり危ないことはするな」 そう言えば。 「そんなに危険なことじゃないわよ、相手は貴方じゃないんだし早々負けないわ」 と杖を取り出して見せつける。 「ま、チーフが行かないなら他に誰か連れて行くとするわ。 お土産期待しててね」 と、しなを作ってキュルケは元来た廊下を歩いて去っていく。 それを見送ってから、叫んで走っていったルイズを追いかけた。 それからルイズは二日ほど授業を休み、室内でずっと何かを考えていた。 それも三日目には終わり、授業に出始めいつもと変わらない日常に戻る。 そうして行かなかったのが間違いだと、キュルケたちが戻ってきてから気が付いた。 キュルケたち一行、キュルケにタバサ、ギーシュに無理やり連れて行かれたモンモランシー。 その四人が十日ほどしてから帰ってきて、すぐにタバサがチーフの元に訪れた。 「……何かあったのか」 「有った」 話したい事が有るとタバサが部屋を訪れ、部屋主のルイズとともに耳を傾ける。 そうしてチーフの顔、姿が映り込むヘルメットの前面を見てタバサは言った。 「ペリカンを見た」 前ページ次ページ虚無と最後の希望
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一日目 律「やべっ、寝坊した。遅刻、遅刻!」スタスタ 唯「あ、りっちゃ~ん」 律「ん、唯じゃん。お前も急げよ、もう3時だぞ!!」 唯「あ~、風邪引いちゃったから今日お休みなんだ~」 律「そうか。じゃあ、あたし行くな。遊んでないでちゃんと家で寝とけよ」 唯「うん。じゃ~ね~♪」バタバタ 律(あいつ風邪なのに元気そうだったな、ズル休みか?) 2年教室 憂「今日は授業これで終わりだねー」 純「う、うん。そうだね」 純(憂、一週間振りに学校来たけど、もう立ち直ったんだ。よかった) 純(いつもどおり接してあげるのがやさしさだよね) 純「ねー憂、これから暇だったら帰りにアイス食べに行かない?」 憂「ごめん。今朝お姉ちゃんが熱出して家で寝てるからすぐ帰らないと……」 純(憂! やっぱりまだ……)ウルッ 憂「どうしたの?」 純「うんうん、なんでもないよ」 憂(そういえば、梓ちゃん今日休みなのかな?)キョロキョロ 音楽室 律「みんな遅いぞー」 澪「なに言ってんだ、授業にもでないで」 紬「みんな、心配したのよー」 律「いやー、寝坊しちゃって。ムギ、それより今日のお菓子は?」 紬「ごめんね。今日、りっちゃん来ないと思ってもって来てないの」 律「私は不登校児かっ?!」 律「あーあ、唯が今日休みみたいだからせっかく2つ食べれると思ったのにな~」 澪紬「!!!!」 紬「あ、明日から持ってくるわね」 澪(律、おまえやっぱりまだ、唯のこと……) 紬(一番唯ちゃんと仲良くしてたもんね……) 澪「今日はもう終わりにしよう」 律「え、なんで!?」 澪「律は帰ってもう少し休んだ方がいい。あまり無理するなよ」スタスタ 紬「じゃあね、りっちゃん」スタスタ 律「どうしたんだ?あいつら。梓もこないし」 律「もう帰るか」 スーパーマーケット 律(お菓子でも買って帰るか。ん、あれは) 律「憂ちゃん、ひさしぶりー」 憂「あ、律さんこんにちは」 律「唯の奴、今日休んでたみたいだけど……」 憂「はい。今朝から急に熱出したみたいで……」 津(外出してたことは黙っておこう) 律「そういや、梓今日休み?」 憂「そうみたいですね。授業にもいなかったし」 律「珍しいなー」 憂「そうですね。生命力が高いだけが取柄なのに」 律「そうだな。あー今日寄ってもいい?お見舞いに」 憂「いいですよ。お姉ちゃんも喜びますし」 律(それにしても今日スーパー空いてるなー) 平沢家 憂「ただいまー」 律「お邪魔するぞー」 唯「う~い~おかえり♪。あっ、りっちゃん、いらっしゃ~い。あれ?部活は?」 律「今日いきなり中止になってさ、暇だから来たぞ」 憂「お姉ちゃん、ちゃんと寝てないとだめだよー」 唯「大丈夫♪ 大分よくなったから」エッヘン 律(出歩いてたもんなー) 憂「じゃあ、律さんとゲームでもしててね。今からお夕飯つくるから」 唯律「はーい」 二日目 三年教室 律「おース」 澪「よかった、今日はちゃんと来たな」 紬「りっちゃん、おはよう」 和「ねぇ律。来たばかりで悪いけど部活の件、ちゃんと手続きお願いね」スタスタ 律(ん? 学園祭の奴なら出したと思うけど。まぁあとで澪に聞くか) 津「あぁわかったよ。それより澪、昨日唯ん家いったんだけど唯の奴元気そうだったぜ」 澪(律、おまえそんなに……) 紬(りっちゃん……) 律「今日はまだ休むみたいだけどこれならすぐn――」 澪「もういい加減にしろ!!」 律「へ?」 澪「律、そんなこと言っても、もう唯は帰って来ないんだぞ!」 紬「そうよりっちゃん。いつまでもそうしてても唯ちゃん、喜ばないわ」 律「おいおい、なに言ってんだよ。唯は明日には来るよ。元気そうだったし」 澪「唯は……」プルプル 律「?」 澪「律、目ぇ覚ませよ。唯はもう死んじまったんだぞ!」 律「!!!!!!!」 紬「唯ちゃんのお葬式は一週間以上前にやったのよ。りっちゃんもいたじゃない」ポロポロ 律(どっきりかな? それにしてもみんな迫真の演技だなー。唯の机にお花もあるや) さわ子「あなた達、席に着きなさーい。ん? どうしたの?」 澪「さわ子先生、律がまだ唯のこと……」 さわ子「りっちゃん…… 田井中さん、今日はもう帰っていいから心の整理してから来なさい」 帰り道 律(結局むりやり早退させられたけど、いいのかなー? つーか、唯が死んだわけないじゃん) 律(一昨日は普通に登校してたし。あれ?あそこにいるの唯かな?) 律「おーい、唯ー」 唯「あ~りっちゃんだ~。学校さぼったの?」 律「ちがうぜ。どっきり企画に付き合ったのだ」 唯「お~すごいね さすがはりっちゃん隊員。それでどんなの?」 律「それがー唯が死んじゃったとかでさー、笑いそうになったよ」 唯「りっちゃん…… それ本当だよ」 律「え?」 唯「え~とね、私は一週間前に死んじゃったんだよ」 律「……どういうことだよ、それ」 平沢家 唯「――っていうことなんだ~」 律「じゃああれか? お前は幽霊ってことか?」 唯「そうだよ~ 家に来る途中もみんな私にきづかなかったでしょ~?」 唯「見えるのは憂とりっちゃんだけみたいだね~」 律「何でもっと早く言わなかったんだよ。ほかの奴から見たら可哀想な子になってたぞ、わたし」 唯「えへへ~ 死んだの忘れてた~」 律「死んだこと忘れるなよ……」 バタンッ 憂「お姉ーちゃーん、いるー?」ハアハア 唯「いるよ~」 憂「よかったー」ホッ 憂「皆がお姉ちゃんが死んじゃったって冗談いうから心配になって帰ってきちゃった」 唯「それがね……」 ~~~~~~~十分後~~~~~~~ 憂「そ、そんな……」シクシク 唯「ま~ま~。これも人生ってことで」 律「もう終わっちまったけどな」 憂「でも、お姉ちゃんが死んじゃったなんて……」シクシク 唯「憂~元気出してよ。私はここにいるよ~」 律「私はもう元気だぞ。唯が死んだって、実感沸かないからな」 憂「で、でも~」シクシク 唯「安心して!成仏する予定はないから」 律(それはそれで問題だぞ) 憂「そうだよね。いつまでも悲しんでてもお姉ちゃん喜ばないよね」 唯「そうだよ憂。アイスくれたほうが喜ぶよ」 憂「だーめ。お昼たべてから」メッ 唯「憂のい~け~ず~」 憂「律さんも食べていきますよね」 律「もちろん! さー唯、昨日のゲームの続きだ!」 唯「受けてたつよ。りっちゃん!」 梓「唯先輩。二人の様子どうです?」 唯「まだ厳しいよ~」 梓「そうですか…… あっそれとここでギター弾いちゃダメですよ」 唯「え~」 梓「常識です。周りに迷惑ですよ」 唯「ギー太、おとなしくしててね」 2
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前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-24「境遇」 ワートホグが地を駆ける、水素エンジンが唸りを上げて四輪に駆動力を与えて進む。 それを運転するのはSpartan-117、通称マスターチーフと呼ばれる大男。 緑色の所々色が剥げたヘルメットの前面に、金と橙の合い色には流れる景色を映し、それをヘルメットの内側から捉えていた。 ペダルを踏み込みエンジンを回し、出来るだけ揺れないよう注意を払いながらハンドルを動かす。 その運転するマスターチーフの隣、助手席に座るのは二人の少女。 ピンクブロンドの長い髪を揺らす小柄なルイズと、肩で揃えたつややかな黒髪のシエスタ。 高速で流れる、馬の最高速度以上で流れる景色。 疾うに慣れたルイズは馬とは違う景色を眺め、初めて乗るシエスタは堅く瞼を閉じ身を縮こませてルイズにしがみ付いていた。 「ほら、そんなにしがみ付かなくても危なくないわよ」 車体が揺れるごとにシエスタは小さく悲鳴をあげ、腕を強く握られるルイズは少々うんざりしていた。 危なかったら乗るわけないじゃないの、とシエスタに言い聞かせる。 そう言われて、勇気を振り絞り瞼を開き、楽しむと言うほどではないが流れる景色と風を感じていた。 そんな事が起こりつつも、チーフはワートホグは何時間も走らせる。 馬で行けば軽く三日は掛かるだろう道のりを、三分の一にまで縮めようと進む。 馬と違って、チタニウム合金を主とした車体と水素燃焼によって回るエンジンは休憩を必要とせず。 満タンまで高濃度水素水を補充しておけば、距離にして八百キロ近くまで走らせることが出来る。 トリステイン魔法学院からタルブの町を二往復してもまだ余裕がある。 無論車がそれを可能としても、搭乗者はそれに耐えられない。 早朝からワートホグを走らせ、二度休憩を挟んでも行程の三分の一を消化していた。 日は高く上り、時間帯としては昼食を取るくらいの時間。 半日戦い続ける事が出来るマスターチーフと違って、助手席に座る二人は未だ成人していない女性。 体力的にチーフが問題なくとも二人には問題がある、故に昼食を取るついでに休憩を挟む事とした。 ワートホグのスピードを緩めつつ、空に向かって左手を振る。 それを見ていたのは空を羽ばたく青い風竜、一つ鳴いてその背に乗る二人へと声を掛けた。 タルブへと行ける街道の脇、六人座っても余る手頃な広さ。 「ごはんー、ごっはんー」 と人型に変身して全身を包むローブだけを纏ったイルククゥが、おなか減ったーと足をばたばた動かしていた。 それを見てタバサが自身より長い杖を操り、ちょうど良い高さの倒木に座ったままイルククゥの脳天に振り降ろした。 じっとしていろ、まるでそう言わんばかりに一度見て、手に持っていた本に再度視線を落とす。 「いたいのね!」 叩かれ両手で頭を押さえ、ごろごろと転がるイルククゥ。 「ほらほら、そんな風に転がってるとまた叩かれるわよ?」 それを見てキュルケがイルククゥを引っ張り起こし。 「すぐ出しますから、じっとしててくださいね」 と、シエスタが包装していたサンドイッチを取り出し。 「うるさいわねぇ」 ルイズはその光景を見つつ、手に持ったコップに入った水を飲む。 「あ、ありがとうございます」 チーフは銃座の隙間に乗せてあった荷物を解き、中から食事に必要な道具を取り出してシエスタに渡す。 そのまま背中のバトルライフルを手に取り、セーフティを外してワートホグの傍らで待機する。 「はい、どうぞ」 座っている各々にサンドイッチを渡していくシエスタ。 「チーフさんも」 そう言ってチーフにも手渡してくるも。 「食事は間に合っている」 右手のひらを向け、ゆっくりとサンドイッチを押し返す。 チーフは朝ルイズを起こす前に十分な食事を取っていた、昼食を一度抜いた位で力が出なくなる訳でもない。 学院ほど安全ではない街道で、態々隙を晒してまで無理やり食事を取るほど切羽詰っても居ない。 そんな考えがあり、「すまない、ありがとう」とシエスタに断るが。 「食べるのね!」 と口端にパンくずをつけたイルククゥがいつの間にか傍に居て、シエスタからサンドイッチを横取りして突き出してくる。 「食べていいぞ」 それを見てチーフは逆に進め、それを聞いたイルククゥは手に持つサンドイッチを反射的に頬張ろうとしたが。 はっと気が付いて、開けた口を閉じる。 「これはお兄様の分なのね」 そう言って無理やり手に持たせてくるイルククゥ、それに視線を落とせば。 「私も食べた方が良いと思います」 シエスタもその方が良いと言う。 「警戒するのは分かるけど、思いっきりメイジだと分かるのに襲ってくる馬鹿なんて早々居ないと思うわよ?」 倒木に腰掛けているキュルケ。 「食べられる時に食べる」 同じようにタバサも相槌を打ち。 「チーフが食べたくないって言ってるんだからいいじゃないの」 ルイズだけが好きなようにさせろと言った。 「すまないが今は必要ない、食べていいぞ」 そう言ってイルククゥに手渡すが。 「だめなのね! これはお兄様が食べるの! だから早くそれを取るのね!」 サンドイッチを持っていない右手の人差し指をチーフのヘルメット、つまり顔へと向ける。 「………」 チーフはなるほどと思う、アルビオンの時と同じように顔見たさに無理やり勧めてくるイルククゥ。 あの時のがよほど悔しかったのか、意固地になったように腕を振っている。 他の四人もチーフの顔へと視線が注がれ、興味があると言った感じが見える。 「それは駄目だ」 だからこそもう一度しっかり言っておく。 「軍法で決められている、必要性がない限り絶対に見せる事はない」 例えチーフが軍法を犯し、処罰する必要が出てきたとしても。 判決を決め罰を下す者が居ない、今現在軍法を知り従う者がチーフしか居ないからだ。 法とは定められた事に多数の者が従い、違反すれば強制的に制裁を加える事実により秩序を生み出す物となる。 たった一人、単身のみでは法に従う事は出来ても、法を執行する事は出来ない。 法を犯し罪を咎める者が居らずとも、自身を律して歪みを生まないようにする。 自分だけしか居らず誰にも知られないから、そんな事で法を犯していれば帰った時に必ずその歪みがどこかで現れる。 マスターチーフの役目からすればそんなものは必要としないし。 そもそも幼少の頃より命令と軍法は絶対遵守と叩き込まれているのでわずかにも思わない。 「腹が減っているんだろう」 50センチ以上もの差、見上げるイルククゥと見下ろすチーフ。 「二人を乗せて飛ぶんだ、遠慮無くしっかり食べろ」 イルククゥが力を入れすぎたせいか、少し歪んだサンドイッチを出来るだけ優しく握らせる。 それを握らされるイルククゥは不満そうに頬を膨らます。 「分かってくれ」 イルククゥよりも二周りも大きな手を肩に置く。 「じゃあ見なくていいからどんな顔なのか教えて欲しいのね!」 別の方面からのアプローチ、せめて想像できるだけの情報が欲しいとイルククゥ。 それに対してチーフ、ではなくルイズが割り込む。 「そこのばか竜! チーフが出来ないって言ってるでしょ!」 「ちび桃には関係ないのね! シルフィはお兄さまに聞いてるのね!」 「なんですって!?」 ルイズとイルククゥが睨みあい、自分でこの話を終わらせる発言をしてしまった。 「お姉さまはお兄さまに守ってもらえばいいのね! もう少しすればお姉さまだってタマゴを生む年頃な──」 そこまで言ってイルククゥの頭に、先ほどより強烈な打撃。 「い、いたいのね!」 ガツンと結構大きな音と共にイルククゥの頭が大きく下がる。 頭を抑えながら振り返ればそれを行ったタバサが感情の無い表情で再度振り下ろしていた。 一方なるほど、竜は卵生なのかと叩かれたイルククゥが放り出したサンドイッチを受け取りながら、違う事を考えるチーフ。 「お兄さまならお姉さまをちゃんと守、いたいいたい!」 転がるイルククゥに追撃を掛ける、タバサはこいつは何を言ってるのかと言う様に黙々と振り下ろし続ける。 「ま、まだ叩く気なのね!? シルフィの頭がでこぼこになっちゃうのね!」 逃げ出すも追いかけて杖を振る。 人型のまま走るも、機敏なタバサがすぐさま追いつきがんがんと振り下ろす。 「ちょ、ちょっと……、もうそれ位で許してあげたら……?」 つい先ほどまで怒っていたルイズさえ冷静になるような光景。 その声を耳にしたタバサは僅かに顔を向けて一言。 「言っても分からない」 と、構わず叩き続けていた。 その後、もうこの事は話にしないと半泣きのイルククゥが謝ってくる。 タバサも迷惑を掛けてごめんなさいと謝ってきて、咎める理由も無いのでチーフは気にするなと返した。 そんな光景を、倒木に座って眺めるルイズとキュルケ。 「まぁ、確かにチーフの顔を見てみたいと思うけど、犯罪になるなら無理よねぇ」 「それなら無理よ、無理。 誰にも見せてやれないんだから」 「そうねぇ、大体イメージ通りだと思うけど」 声やその性格と、それ位しか判断材料は無いが。 鋭い眼差しに、緩みという物を知らない引き締まった顔。 十人が十人、マスターチーフの顔を見て軟弱な男とは見ないだろう。 そんな素顔があのヘルメットの下にはあると、容易に想像できた。 「機会があれば見られるかもしれないけどね」 「……そうね」 ヘルメットを外した僅かな隙に覗き見るか、進んで見せてくれるか。 前者はともかく、後者だと帰ることを諦めた時。 今回の事もあり、やっぱりチーフは帰る気が無くなっていないとそう考えるルイズだった。 昼食後、腹ごなしの為少々時間を置いた後、一行はワートホグやシルフィードに乗り込んで進みだす。 そのまま街道を進み続けて昼を越え、夕暮れを越え、訪れたのは夕闇。 夜通し走り続けるのは負担をかける、完全に日が落ちる前に寝床を作っておこうとワートホグを停めた。 チーフのみならば野晒しであっても、着込んでいるアーマーが雨風を防ぎ内部で空調を整える為問題ないが。 やはりチーフ以外のルイズたちはそんな物はない為、雨風を凌ぐ物が必要。 適度な設営スペースにテント、UNSCが使用する簡易テントを黙々と一人で組み上げていく。 ハルケギニアで使用されるテント、天幕とは隔絶した機能性を持つ。 完全に雨を凌ぎながらも、高い通気性を保持している為に蒸し暑い夜でもそれなりに過ごせるだろう。 5人で寝る分でも十分な広さ、そのテントを立て上げ組み上げた。 彼女らが上に掛ける毛布も中に置いてある、寝床の準備は整った。 そうしてチーフは空を見上げる、そこにはこの惑星の周りで公転する衛星が二つ。 緑青の光を放つ一つ目の月と、もう一つはそれより小さく見える赤を薄めたような色を放つ月。 恐らくは衛星として構成する物質がそれぞれ違うのだろう、その差が太陽光を反射して見える色の違い。 勿論天文学など全く持って分からないので、それがただの予想でしかないのだが。 その明るい月の光を浴びながら、夕食の為火に掛けられた鍋の周りに集まり5人。 鍋の前に座り、中をかき混ぜつつシエスタが小瓶を鍋の中へと振りかける。 なんでも彼女の生まれ故郷、タルブに伝わる料理だそうで『ヨシェナヴェ』と言うらしい。 作り方は非常に簡単で、沸騰させたお湯にいろんな食材を入れるだけ。 肉や野菜、出汁にキノコを入れて、シエスタが先ほど振り掛けていたのはヨシェナヴェ用の調味料らしい。 もう一つ火に掛けている鍋には、黄白色のとろみがあるスープ。 こちらも一般的なシチューではなく、シエスタの曽祖父が伝えたタルブ独特のシチューらしい。 それを前にチーフを除く5人の嗅覚を刺激し、食欲をそそる。 そうして食事が始まり、イルククゥが勢いよく食べ始め、黙々とながらもイルククゥに劣らぬ速度でタバサが続く。 その様子を見ながら、ルイズとキュルケとシエスタは食べ始める。 チーフは来た道と行く道を見て、どちらからも通行が無い事を確認する。 今居る場所は小さな森のすぐ脇、十分もあれば通り抜けられるほどの小さな森。 ここなら襲われてもワートホグの壁に出来、遮蔽物の多い森へと逃れる事も出来る。 その逆も可能と、一番気が緩むだろう食事時に気を引き締めるチーフ。 「……チーフ、野外だから仕方ないとは思うけどね。 お昼も言ったように私たちはメイジなのよ?」 座るキュルケが、食事を始める前に辺りを見回すチーフを見て話す。 「ルイズやメイドはともかく、私やタバサは自分で自分の身を守れるわ。 チーフだって人間でしょ? ずーっと食事も睡眠も取らないなんて駄目よ。 少なくともチーフが食事を取るくらいの時間は作れるわ、その少しの時間だけでも私たちを信用してくださらない?」 そう言ったキュルケはタバサに視線をやり、もう一度チーフへと向ける。 真っ直ぐ見つめるキュルケに、タバサも同じようにチーフを見て杖を手に取って立てる。 シチューを口に含んでいたルイズは飲み込み、口を拭いてからチーフを見て言った。 「癪だけど、キュルケの言う通りだわ。 私が寝る時もずっと立ってるし、いつ寝てるかもわからないし」 デルフリンガーだっけ? 私が寝てる時も立ったままよね? と、ルイズがチーフの腰にぶら下がる剣に向かって聞く。 「娘っ子が言うとおりだな、相棒が座ってる時なんて鉄の部屋に篭ってる時ぐらいだ。 頭に被ってる金ぴかのせいで、目を開けてるかどうかすらわかりゃしねぇよ」 カチンカチンと金具を鳴らしてデルフリンガー。 喋れると言うだけで食事の時など、顔が見えないよう物陰に置かれている。 勿論ヘルメット前面、デルフいわく金ぴか部分は完全不可視。 外からは見えないので、表情どころか瞼を開いているかさえも分からない。 「お兄さまは、ちび桃助けに行った、ときもずっと起きて、たのね」 モグモグと食べながらイルククゥ、器用に咀嚼しながら口を尖らせていた。 「………」 キュルケが、タバサが、イルククゥが、シエスタが、そしてルイズがチーフを見る。 その視線には有無を言わせないと言う意思が有った、断っても何かしらに理由を付けて食事などを取らせようとしてくるだろう。 「……わかった」 逆らっても良い事はなさそうだ、そう考え休憩を取る事を選ぶ。 「だが、そちらの食事が終わってからだ」 「いいえ、先にチーフね」 「そうね、先に食べて」 「睡眠も必要」 「食事と睡眠を取らないなんて、私も駄目だと思います」 「そしてお兄さまの顔──」 イルククゥの頭に杖が振り下ろされる。 「それは冗談よ、覗かないし寝ている時も近寄らないから」 「……わかった、少しだけ休ませて貰う」 食える時に食う、寝れる時に眠ると。 敵襲に警戒はするが、次に安心して休息が取れるかどうか分からない。 ここは彼女たちの好意を受け取っておくと、チーフはそう考える。 そうして腰からデルフリンガーを外し、ワートホグに立てかける。 「周囲は見えているな」 「見えねーが分かるぜ、誰か近寄ってきたら教えるさ」 それを聞いて頷くチーフ。 「はい、どうぞ」 歩き出してシエスタが皿によそったシチューとスプーン、そしてパンを受け取りそのまま森へと入る。 丁度良さそうな太い木の影に入り、しゃがみこんでヘルメットへと手を掛ける。 「い、いたいのねー!」 後ろで何かを叩く音と、イルククゥの悲鳴が聞こえる。 やはり覗こうとしてタバサに叩かれ止められたのだろう。 それを聞きながら、僅かに空気が抜ける音を出してヘルメットを脱ぐ。 明るい月からの光を木々の葉の天井が遮り、僅かばかりにチーフの素顔を浮かび上がらせた。 まず一番に目に入るのは、その肌の色だろう。 不自然なまでに、病的と言って良いほど青白い肌色。 それは先天性白皮症や先天性色素欠乏症と言った、いわゆるアルビノと言った遺伝子疾患などではなく。 長年アーマーを着続けているせいで、日光などでの日焼けが殆ど無い為に起こるもの。 勿論その対策も講じてある為、これが原因の病気に掛かる事は無い。 その青白い肌を下地に、見えるのは短く刈り込んだ少々くすんだ茶色の髪。 顔全体的は彫りが深く、その鋭く深い眼差しは髪色と似たブラウン。 少々高い鼻に緩みを知らない引き締まった口元、硬い物でも難なく噛み砕きそうな力強い顎。 青白い肌色であったが、誰が見ても軟弱には見えない屈強な男の顔がそこにあった。 その素顔を晒したままで五分ほどの食事、最後に水を飲み干してヘルメットを被り直す。 イルククゥを除く4人は流石に覗きにはこなかったようだ、覗こうとした者は魔法のロープで簀巻きにされ地面に転がっていた。 「美味かった」 木の裏から出て、皿を重ねながらシエスタに言う。 別にこう言った料理を食べれないと言うわけではないが、大体はレーションなどで代用してしまう。 詳しく言えば時間が無かったりする、そんな事で食事に時間を掛ける事は殆ど無い。 その後は眠れという三人に断って一悶着、なぜか我慢大会になった。 それも数時間と経たず、睡魔で瞼が落ちて眠りにつくルイズ。 首が前後して倒れそうなるルイズを抱え上げ、設営したテントの中へ。 キュルケとタバサ、シエスタは最初から諦め疾うに就寝していた。 ルイズを寝かせて毛布を掛ける、そしてテントの外へ。 イルククゥはシルフィードへ、風竜に戻ってテントのすぐそばで横になっている。 未だ幼生とは言えその体躯は全長6メートルほど、居るだけで獲物と見て襲撃を掛けようとする夜盗などの牽制になる。 「我侭な娘っ子の子守も大変だねぇ、ありゃ将来男を尻に敷くね」 絶対だ、とデルフリンガーが断言した。 「……まだ子供だ、あれで良い」 「いやいや、ありゃ中々厳しいと思うんだがね」 子供だから我侭を言って良いと言う訳ではないが、無邪気や純真で過ごす時も大事だろうと。 6歳の時からSPARTAN-Ⅱ、スーパーソルジャー計画の被験者候補として訓練付けの毎日だったチーフにとって16歳、地球の時間で言えば17歳のルイズが過ごしてきた子供時代に相当する物を、チーフは持っていないのだ。 6歳の頃に才能ありと見出されフラッシュクローン、高速人体複製技術によって作られたクローン体と入れ替えにより拉致紛いに連れ去られた。 そこからはずっと訓練付け、同様に連れてこられた被験者候補の子供たちと生活を共にする。 それから八年後、14歳になる頃にチーフたちは死ぬ確率と半永久的な障害が発生する確率が高い、スパルタンになる為の増強手術を受けさせられた。 結果半分以上となる30名が死亡し、12名が半永久的な障害を持つ事となる手術を乗り越えたチーフ。 その後術後の回復を図るという名目で送られた宇宙空母内で強いられたのは、四対一での死闘であった。 相手はO.D.S.T、前線に出る兵士の中で精鋭と言われる軌道降下強襲歩兵との徒手格闘戦。 そこでチーフは始めての殺人、4人のO.D.S.Tの内2人を殺害し、残り2名に重傷を負わせる事となる。 初めての任務も同年に行われ、銃を手に持ち反乱軍を相手に生死が掛かった任務をこなした。 そんなチーフにして、今のルイズの生活は輝かんばかりに尊いものに見えるのだ。 勿論厳しいと言えるだろう人生に匹敵するような時間を、ルイズは過ごさないだろう。 恐らくは虚無だと思われるが、今のルイズはその虚無の魔法を使えるわけでもない。 そうなれば戦争が起こり、戦場に出る事も無いだろう。 結局は戦わない事に越した事は無いと、双月を見上げるチーフだった。 翌日、一番最初に目を覚ましてテントから出て来たのはシエスタ。 地平線から日が顔を出す前に起きる辺り、メイドの鏡だろう。 食事の用意を手早く、三十分もすれば食事の準備が整う。 匂いにつられて起きるのはシルフィード、その巨体を持って迫るのでシエスタが戦く。 危ないので人型になって待っていろと言えば、素直に頷いてさっと全裸の人型に変身する。 それはそれで全裸と言う状態に慌てるのはシエスタで、急いでイルククゥにローブを被せてチーフを見る。 「見ちゃ駄目です!」 そう言ったのを聞いて。 「そうだな」 と相槌、すぐにでも食事の準備が整うよう手伝っていた。 そんなこんなで全員が起床し、昨日の晩の事でルイズが文句を言いながらの食事。 終われば少し時間を置いて、ワートホグやシルフィードに乗ってタルブへと向かう。 数時間ワートホグを飛ばして、昼過ぎにはタルブの町に到着した。 大きな音を立てる鉄の箱と、降りてくる風竜に驚きつつも、その中からシエスタを見つけて問いかける町民たち。 簡潔に説明し、シエスタの家へと向かう事に。 シエスタが「ただいま」と先頭で入り、ルイズたちが続いて、最後にチーフが頭を下げながらドアを潜る。 最後に入ってきた現れた緑色の鎧を着た大男に驚くシエスタの父に、シエスタは怪しい人物ではないと説明。 その後チーフは来た目的、ペリカンの事とその操縦者であったシエスタの曽祖父の事を聞きたいと切り出す。 ならば孫であるシエスタの祖父、操縦者の子である祖父に話を聞いた方が良いだろうと部屋の奥へと一行は進もうとするが。 「……申し訳ありません、貴族様。 父はかなりの高齢でして、余り多くで押し掛けると……」 シエスタの父が申し訳なさそうに言うと。 「すぐ死ぬわけじゃないでしょうけど、途中で体調を崩されてもチーフが困るわね」 ルイズが口を開く前にキュルケが何も言えない様に一言。 ギロリとルイズがキュルケを睨むが、飄々としたキュルケは逆に笑みさえ浮かべる。 「ああ、ルイズ。 ペリカン見た事ないんでしょ? だったら早く見ておいた方がいいわよ、ほんとあんなのが空を飛ぶなんて思えないんだから」 「え、ちょっと!」 グイグイとルイズの背中を押してキュルケ、ここに来て身長差。 20サントほどの差は、ルイズには抗いきれない力を生み出して玄関へと押し出されていく。 そんな状況にルイズは助けを求めチーフを見るも。 「終わったらすぐ向かう」 迷いなく見捨てられた。 「……なんじゃ、お前さんは」 ドアを開け、部屋に入るなりの一言。 所々塗装が剥げた緑色の金属と、その下に黒いスーツを纏った身長2メートルを超えた存在が行き成り入ってくれば出てもしょうがない言葉。 ベッドに寝て、顔だけを僅かに向けチーフを見る白髪の老人。 「貴方の父の話を聞かせてもらいたい」 チーフはベッドの脇に膝を着いてしゃがみ、老人を見る 彼がシエスタの祖父であり、ペリカンを操縦した人物の息子。 自分は貴方の父と同じ惑星、では通じないので、少し崩して同じ国の出身者だと話して彼が何処から来たのかなど聞かせて欲しいとチーフは言う。 それを聞いた翁、何度か瞬きをしてチーフへと声。 「……お前さんも同じかね?」 「……はい」 ゆっくり、かつ深く頷く。 それを見て翁は顔を戻して天井に視線を向けた。 「私が知る事は少ない、母も多くを知らないだろう。 父は自身の事を多くを語ろうとせず、その癖どうでもいい事ばかりを喋っていた」 そうして翁は語る、黒目黒髪の父は働き者でよく自分も遊んでもらったと話す。 仕事が終わり、疲れているだろうに自分が遊んでと言えば笑顔を向けて遊んでくれたと。 「名前は」 「……タケオじゃ」 「貴方はペリカンが飛んでいる所を見た事は」 「ある、が乗ってみたいと言っても乗せてくれんかった」 残念そうに翁、チーフはそれを見て振り返る。 ドア付近に居たシエスタとその父に視線をやり。 「遺品などは」 「少ないですがありますよ」 「見せてもらっても」 「分かりました、今持ってきます」 二人して部屋を出て、遺品を取りに行った。 「……父は優しかった、いつも笑顔を浮かべて遊ぶ私を見て微笑んでいた」 翁は再度語り出し、チーフはそれに耳を傾ける。 「……私が少しだけ知っている事を話そう。 父はこの大地ではない、どこか誰も知らない場所で生まれたと言う」 そして父は戦う者であり、帰らねばならなかったと翁は話す。 「だが帰る方法はない、だからこそ私たち家族と居る事を選んだと言っておった」 チーフはそれを聞いて少なからず落胆した、帰る手段がないという事に。 残る手段は二つ、サモン・サーヴァントの逆、召還の魔法か。 救難信号を受け取った友軍に迎えに来てもらう事位。 後者は後者でかなり確率は低い、何せ救難信号は疾うの昔から出しているだろう。 少尉が地球へと帰れなかったのは、もう数十年と救援が来ていないと言う事だからだ。 「……感謝する」 落胆せざるを得ないが、収穫があったのは間違いない。 チーフとしては得たくはない事実ではあったが。 翁、シエスタの祖父に礼を言って立ち上がった時、ドアが開いて両手に一杯の物を持った二人が入ってきた。 「お待たせしました、これが祖父の遺品です」 腕の内にはチーフにとって見慣れた物、海兵隊の戦闘服があった。 ヘルメットと銃弾などを防ぐバトルアーマー、袋の中にはジャラジャラと金属、解体された銃器。 シエスタが持っていたヘルメットを受け取り、内側に手をあてレコードチップがあるかどうかを確かめる。 手に感触、そのまま掴み引き抜く。 「……なんですかそれ?」 「情報だ」 聞いてきたシエスタに言って、チーフは後頭部にあるスロットへチップを差し込む。 差し込み確認の文字がヘッドアップディスプレイに映り、チップ内容の検索へと以降。 だが検索がすぐに停止し、暗号が掛けられていると警告を発する。 その暗号に対し、UNSCの正規の暗号解読を掛ければすぐに解除される。 それと同時に再生、PLAYの文字が表示される。 『──これを聞いていると言う事は、暗号を正しく解除したって事なんだろう』 その言葉から始まる、チップに残された音声データ。 それを再生する直後におかしな事に気が付いた。 ヘッドアップデイスプレイには『 録音再生ビュー[ 2531.6.17.22 36 43 ]開始』と表示されていた。 これを見てチーフは矛盾が発生していると考えた、シエスタの曽祖父が現れたのは今から百年ほど昔の事。 チーフが知る年月、今は西暦2553年であると言うのに、この音声データ開始日時は西暦2531年となっている。 『自分はUNSC海兵隊、タケオ ササキ少尉。 任務の為にここ、タルブの町に腰を据える事になった』 この記録日時が正しければたった二十二年、二十二年前にタルブへと現れ、今から十数年前に亡くなったと言う。 ありえない、時間の流れが狂っている。 『任務内容は情報収集、ある程度の情報を集めた時点で俺たちの一部言語が通用する事がわかってその言語に通じる俺が選ばれた』 とりあえず年月の矛盾を一度頭から外して聞く。 周囲を探索して状況把握に努め、この大地が未知の惑星、それも人類が知り得ていない銀河系と判明した事。 この惑星固有と思われる原住生物を調査したり、人類に極めて類似した直立二足歩行を行う生物の発見など。 高度に組み上げられた言語を持ち、円滑なコミュニケーションを可能として生息する生物。 当初殖民してきた地球人類ではないかと言う疑問が浮かび上がったが、調べれば調べるほど科学技術。 特に機械工学が全くと言っていいほど見られない、地球人類が五百年以上前に過ごしていた時代と近いなど。 それはチーフのある程度の予想と一致していた、無論魔法などと言う科学技術では説明がつかない様なものがある。 そんな物があると信じられていたのは二十世紀より前の、今から六世紀以上昔の妄想や想像、創作物の大昔。 チーフも体験し、現在進行形でその恩恵を受けていなければ。 魔法が存在すると主張する人物の肩に手を置いて、ゆっくり休めと休息を促していただろう。 音声記録が所々途切れつつ、年を経て、数ヶ月から数年のスパンで語られる情報。 数分の報告後に一度終了し、再開された時には声に張りが無くなっている。 それは老化を表現していた、生物なら何に対しても起き得る現象。 数十年掛かり、そして帰る事が叶わなかった一海兵隊員の言葉。 これはチーフにおける、来るかもしれない未来の一つだった。 「………」 「ちーふさん? どうしたんですか?」 「……タケオがタルブに現れたのは何年前だ」 「えっと……、今からですと百年ほど前ですね」 やはりおかしい、どう考えても年月の矛盾が浮かび上がる。 録音開始の時点で2531年で22年前、終了の最終日付は2601年の50年ほど先の未来。 そして今知る、アーマーでカウントされている日付は2553年。 この世界の公転周期は384日、正確かどうかは判断しかねるが、これから考えると地球との時差は5年前後のはず。 レコードチップの日付が正しければ、チーフが今知る年月は2620年前後でなくてはいけない。 チーフが今知る年月が正しければ、このレコードチップの開始日付は2453年前後でなくてはならない。 いくら考えようと整合性が合わない、何度確かめてもそのズレは変わらない。 「そうか」 これが帰るための足掛かりになるか、疑問に思わざるを得ない。 実は関係していると言う話で調べるにしても、時間が歪む原因を調べるには相応の大規模な設備が必要となる。 無論そんなものを保持しているわけが無いチーフにとって、調べる事は夢のまた夢に過ぎない。 つまり否が応にも無視しなくてはいけない事実、そうと決めたらすぐに頭を切り替える。 その後シエスタの父と祖父に礼を言い、ペリカンのことを話す。 自分はあれを今必要としている、申し訳ないがペリカンの所有権はシエスタの曽祖父ではなく彼が所属していた軍の物。 飛べるようであれば自身が利用するが、飛べないようであるなら動かせないよう中を完全に破壊すると断る。 それを前に翁はペリカンの中には入れたら自由にしていいと言った。 チーフの言葉が本当であれば、息子である翁ですら開けられない乗客室兼貨物室のドアを開けられるはずだと。 チーフはそれに頷き、翁の部屋を後にし開けられるかどうかを確認する為にシエスタがチーフの後について歩く。 ペリカンが置かれている場所はタルブの町から少し離れた草原の傍。 建てられている寺院の隣に木の板で覆われた、高さ10メートル、縦横40メートルはある大きな掘っ立て小屋があった。 その掘っ立て小屋の壁に付いた簡素なドア、2メートルほどのそれを潜りながら小屋の中に入る。 中に入れば、視界に広がる鋼鉄の塊。 鳥類のペリカンと呼ばれているが、別に姿形が似ていると言うわけでもない。 真上から見れば大きな三角の下から小さな三角が縦に食い込み繋がっているように見える。 正面から見れば丈夫に丸みを持つ縦に潰れた逆三角形。 コックピットから乗員室まで太く、全体で見れば申し訳ない程度に可動式翼が付いている。 縦に周る左右の可動翼スラスターと、機体後部に付いた同様の二つのスラスター。 そしてその可動翼の下部に一つずつ付いた小型スラスター。 メイン四つとサブ四つの偏向推力で姿勢制御を行う、垂直離着陸機。 その偏向推力は大気圏離脱を可能とする推力を長時間発生させる事が出来、宇宙空間でも航行が可能。 機体表面には放熱シールド加工されており、大気圏突入も可能と言う多目的航空支援機。 「ねえ、チーフ。 これって本当に飛ぶの?」 小屋に入るなり機体表面の状態を確かめていたチーフに、先に来ていたルイズが問い掛ける。 この世界の住人からすれば、このような金属で出来た物体が風石無しで飛ぶなど思いもよらないだろう。 「今確かめる」 歩き出してペリカン後部へと回り込んで、きっちりと閉まっているカーゴハッチの隣のパネルを開く。 素早くパネル操作、ハッチ開放を入力する。 そうすると音を立ててカーゴハッチが下開きにて開く、それを見てシエスタとその父は驚きを表情に表した。 何をしようとも開かなかったのが、軽く触るだけで自動的に開くなどと思いもしていなかったのだ。 チーフはそのままカーゴ、乗員室兼貨物室に入り、その奥のコックピットへのドアへと向かってスライドしたドアを潜る。 「………」 前後として座席が並んでいる複座型のコックピット、それの前に座って目に見える損傷が無いか確かめ。 完全に停止している計器を触り、コントロールシステムを立ち上げる。 「はぁー、すごいわねぇ……」 チーフと同じように乗り込み、コックピットへと顔を出すルイズ。 「何してるか分からないけど、これって飛ぶの?」 続いてルイズの後ろから頭を出すキュルケ、視線の先はコックピットの外で外から見つめてくるタバサに向けられている。 チーフは燃料の残量、可動翼スラスターの動作、コントロールシステムと異常が無いか調べ上げ。 「飛べる」 そう断言した、シエスタたちの話が本当であれば製造されて100年以上経過しているにも拘らずどれもが正常値。 恐らくは固定化の魔法でも掛けられているのだろう、でなければ錆一つ無いほどの整備を施した少尉に感服する。 ペリカンに搭載されているモーショントラッカーを起動、ミョルニルアーマーのとは比べ物にならないほどの広範囲。 ペリカンに匹敵するような大きさの動体反応は無く、強化ガラスを通して小屋の天井を見上げる。 飛ぶにしても天井が邪魔になる、そう考えた所で通信に反応があった。 それはペリカンから別の何かへと通信。 チーフが開いた訳ではない通信、それに危険を感じてすかさず通信を遮断しようとするが。 『……おや? 誰かと思えばスパルタンとは、予想外でしたね』 通信機越しに、僅かに入るノイズの向こうに女性の声が聞こえた。 「誰だ」 唐突の通信に硬くしたチーフ、だが相手は何事も無く名乗る。 『これはこれは、私はフェニックス級強襲揚陸艦『スピリット・オブ・ファイア』艦載A.I、『セリーナ』。 歓迎しますよ、S-117』 前ページ次ページ虚無と最後の希望
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アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝 【あんちゃーてっど かいぞくおうと さいごのひほう】 ジャンル アクションアドベンチャー 対応機種 プレイステーション4 発売元 Sony Interactive Entertainment 開発元 Naughty Dog 発売日 2016年5月10日 定価 8,690円 廉価版 PlayStation Hits2018年7月26日/2,189円 判定 良作 ポイント ネイサン・ドレイク、最後の冒険 アンチャーテッドシリーズ SIEワールドワイド・スタジオ作品 プロローグ 概要 特徴・評価点 オンライン 賛否両論点 問題点 総評 「Playする映画」ここに極まる プロローグ 3度(外伝を含めれば4度)に渡り世界中の秘宝を求めた冒険野郎「ネイサン・ドレイク」(通称ネイト)彼も、年月を重ね成熟し、前作『砂漠の中のアトランティス』の3年後、ついに冒険家引退を決意した。今はエレナ・フィッシャーと結婚し、心の何処かにしこりを残しながらも慎ましく、尊い幸せを噛み締めていた。しかしそんな日々は、死んだと思われていた実の兄「サミュエル・ドレイク」(通称サム)が突如現れたことで終わりを告げる。とある理由から命を狙われていたサムは、どうしてもネイトと共に財宝を探し当てなければならなかった。目標は海賊王ヘンリー・エイブリーの「海賊史上最大のお宝」である。それは兄弟の積年の悲願でもあった。ネイトは最後の冒険に旅立つ。過去の自分と、エレナとの未来にケリをつけるために…。 概要 世界的ヒットタイトルとなったNaughty Dogの『アンチャーテッド』シリーズ本編の第4作にして最終作。海外名は『Uncharted 4 A Thief’s End』となっている。 前作から5年の時を経てプラットホームをPS4に移し、また間に『The Last of Us』を経て、シリーズとしてのみならず、Naughty Dogが追求し続けてきた体験できる映画表現の(2016年時点)総決算的タイトル。正にキャッチコピーに偽りなしの大作である。 特徴・評価点 8世代機(2016年当時)最高峰のグラフィック 常にその時点における業界最高峰の映像表現を追求してきたシリーズだが、今作もそれは変わらない。マダガスカル、スコットランド、インド洋諸島を中心に、世界中を駆け巡る。 荘厳な遺跡、秘境の奥に隠された財宝、そして息をのむほどのスペクタクルアクション。 シリーズ十八番の風景描写やスリルもさることながら、今作は特に物体の細部や人物の表情描写にこだわり抜いている。 沼地を走れば跳ねた泥がハンドガンに付着し、斜面の砂利を撃てば物理演算で散らばり落ちる。キャラ表情の機微も自然かつ微細に描いており、不気味の谷を感じさせることは殆どない。 例として作中後半、我を忘れて冒険に夢中になるネイトを、静かに見つめるエレナをアップで捉えるシーンがある。この時エレナは一言も発さないのだが、表情を見ればプレイヤーは彼女の抱えた言葉にならない複雑な心情をナチュラルに読み取ることができる。 戦略性が広がった戦闘 これまで同様のTPSに加え、今回は様々な新要素が導入されている。ロープアクションによって立体的な素早い移動が可能になり、視認した敵に任意でマーカーを付けることもできるようになった。 ステルスアクションも改善・強化されており、敵の警戒・発覚状態を表示するインジケーターも導入。 またこれまでは一度発覚されれば どちらかがやられるまで戦闘フェイズを終えられなかったが、今作は上手く身を隠せば再び警戒フェイズ→未発見フェイズに戻れる。 これにより裏からこっそり忍び寄って厄介な敵を先に始末したり、ロープスイングで敵の頭上から急襲したり、といった幅の広い戦闘が楽しめる。 こう書くと操作が複雑そうだが、銃撃以外のターゲッティングは、ある程度ファジーに補正してくれるので、簡単操作で直感的に戦闘を展開できる。 シリーズ総決算・脱B級の冒険 全体的に第2作『黄金刀と消えた船団』のスペクタクルアクションと、第3作『砂漠の中のアトランティス』の人間ドラマ、過去作において特に評価された要素を発展統合させた作風になっている。 アクションシーンはPS4のマシンパワーを駆使し、これまでよりも高低差や空間的なダイナミズムを感じさせる展開が可能になった。 雪の降る中で山頂から麓の海まで激しい銃撃の中を駆け抜けたり、一発の銃声が街の賑わいを震撼させ、そこから街全体を駆け巡るカーチェイス劇を繰り広げたりといった、刻一刻とシーンが激しく変わる中、派手でありながらなめらかに流れるようなシークエンスが増えたのが特徴。 また2016年当時にブームだったオープンワールドのトレンドを反映し、中規模ではあるが広大なエリアを自由に探索できる「オープンリニア」形式の章も2箇所存在する。 シナリオ面では、これまではある意味気軽な「B級アクション映画」を彷彿とさせるベタコテな展開も多かったが、今作は最終作としてほぼ全ての伏線に決着をつけている。 エレナとの関係からドレイクの血筋の秘密、そしてエピローグ後のキャラ達の顛末に至るまでしっかりと帰着点が描かれる。往年のシリーズファンにとっては寂しさを感じさせながらも、納得できるものとなっているだろう。 初登場のサム、レイフ、ナディーンもこの1作のみながらキャラが立っている。サムは兄として、レイフはライバルとして、それぞれネイトの合わせ鏡のような役割を担い、ナディーンも女性傭兵隊長として、少ない登場シーンながらも強烈な存在感を放っている。 人気が高かったからか、サムとナディーンは後続のスピンオフ『古代神の秘宝』にてメインキャラに昇格した。 後半では、現代では当然ながら故人である海賊王「ヘンリー・エイブリー」を初めとした名だたる海賊達の、当時の心境と出来事ももう一つのストーリーとして絡んでくる。 聖ディスマス(*1)と自分を重ね合わせ海賊と財宝を集め、自由の楽園「リバタリア」建国を夢見るエイブリーが段々と疑心と狂気に囚われていく様が、残された遺跡や手紙・遺体・罠から読み取れる。 また今回は探索によって知ることができるサブストーリーも豊富。メインのテンポを妨げないために見つけるかどうかは任意となるが、ネイトと母親と老齢の女性エヴリンのエピソードなどは、細部まで紐解くには時間を要するが、顛末はとても深くしんみりさせられる。 他にも同じくNaughty Dog制作であるPS1時代の『クラッシュ・バンディクー』のファンならば思わずニヤリとさせられる、それでいて単なるファンサービスに留まらない物語的に深い意味を持つ演出もある オンライン 基本はこれまで通りの対戦型TPSだが、ロープアクションやサイドキックシステム(条件を満たすことで発動でき、回復や援護射撃などを行う)などの導入により、楽しみ方の幅が増した。 操作キャラにカッターやラザレビッチなどを選べたり、また大技として「エルドラドの呪い」や「チンターマニの恵み」などが使えたり、と過去作経験者にはニヤリとできるファンサービスも多い。 賛否両論点 脱B級路線の弊害 最終作ということでテーマ的にもシステム的にも前作までより格段に深みが増したのだが、それは裏を返せば気軽に遊びにくくなったということでもある。早い話が従来作よりキャラクターの心理描写を重視しており、重厚かつ暗い作風となっている。 「真夜中の海岸でずぶ濡れて薄汚れ、苦虫を噛んだようにうつむくネイト」という本作のメインビジュアル、重厚かつ悲壮感を感じさせる様に大胆にアレンジされた「ネイサン・ドレイクのテーマ」等は従来作とは毛色の違う本作の雰囲気を象徴していると言えよう。 基本的に「冒険野郎ネイサン・ドレイクとその仲間達vs神秘の財宝を狙う悪者集団」で単純明快にストーリーが帰結していた本シリーズだが、本作は名有りのメインキャラクター一人一人に丁寧な心理描写がなされており、場目によってはかなりピリピリとした仲間同士の対立もあったり、キャラの心境をよく考えないと行動理念がイマイチ理解出来ない場面も多々有る。本作の今までにないドラマチックなストーリー展開という新たな魅力を得た反面、他の大作ゲームでは得難い魅力だった、前シリーズまでの頭をカラッポにして楽しめる「B級映画的コミカルさ」はやや薄れているのは否めない。 良くも悪くも「冒険バカ」だった主人公・ネイトからして成熟の代償としてか、これまでのような軽口や泣き言はやや鳴りを潜め、恒例のエレナとの夫婦漫才も、本当の夫婦となり大人としての責任を自覚させるようなテイストに変わっている。 本作のネイトの目的は終始一貫して「サムを助ける」からブレない。死んだと思っていた兄を二度と失いたくないという気持ちを考えれば当然なのだが、上記の通りエレナの為に選んだ平穏な生活と、兄を救う為に危険な冒険に出なければならない板挟みに悩んでおり、無邪気に冒険と歴史の探求に没頭する従来のネイトの姿は、本作ではあまり見せてくれない。 対して当のサム本人は、自分の命がかかっておりかつネイトを巻き込んだにしては、まるで前作までのネイトのごとくお宝探しの冒険を楽しんでいる節があり、ある意味呑気に見える。そしてその描写は間違ってない。 物語の終盤で「ある意味」サムがネイトとプレイヤーを裏切る衝撃の事実が発覚するが、それでもなおネイトはサムを助ける為に突き進む。「兄弟の絆」を描く事には見事に成功しているものの、主題である「エイヴリーの財宝」はドレイク兄弟のドラマの為のダシと言えなくもなく、やや影が薄い。 新たに導入されたオープンリニアステージや、章1つを丸々ストーリーテリングのみに費やしたセクションなどは、確かに広大な世界観の描写や物語を重層的に描くという意味では成功しているが、ただ手軽に冒険を楽しみたい層には冗長に感じる。 それらのシフトチェンジを象徴するかのように、タイトル画面では、いつものノリノリのテーマ曲は流れず、白骨化した海賊が「キィ…キィ…」と不気味に風に揺られている。 もはや「お気楽なB級の皮を被ったA級アクション」ではなく、「初めからA級を自覚した重層映画アクション」となった結果、過去作以上に賛否が割れた。 オープンエリア 広大な様に見えて基本的に一本道に進むしか出来なかった前作までから一転、乗り物に乗って広大なマップを360℃移動出来るオープンエリアが随所に追加されたが、今までにない探索や戦略を楽しめる反面、テンポが冗長化している。 特に最初のオープンエリアであるキングスベイの平原は、行ける場所が多すぎる割にメインの目的地はキャラの大まかな「あっちに行ってみるか」的発言とこれまた大まかな手書きのマップでしか示唆されない。当然ながらそのまま一直線に行ける訳ではなく、迷いやすい。登れない泥の坂道や仕掛けを車のアンカーを取り付けて攻略する場面もあるが、取り付ける為に一々降りてアンカーを持ってクルリと巻きつける様に動かなければならない。それらの要素はリアリティはあるが、テンポが良いかと言うと否である。 戦闘難易度の激化 ロープやステルスなどの新要素により戦略のバラエティが増したのは良いが、反面それらを駆使しなければ苦戦するバランスになっている。 今回は敵のAIも賢く、頻繁に射撃ポジションを微調整したり、回り込んだりしてくる。 また、歳をとったからなのかネイト自身も過去作より打たれ弱くなっており、何も考えずに突撃すれば、これまで以上に返り討ちになることが多い。 事前にステルスキルで敵の数を減らし、いざ発覚されればロープで素早くポジショニングを調整するような戦略が要求されるのだが、これが慣れるまでは若干難しい。 後半になると四方からショットガンやミサイルなどに囲まれることも多発するため、これまで以上に指先とカメラが忙しくなるだろう。 銃撃戦の減少 オープンエリアでの戦略的な銃撃戦に重きを置いた反面、戦闘シーンそのものは数が激減している。 一章辺り平均3回ほどしかなく、その間は無人の環境を探索・アスレチック移動するような展開が多い。 その分探索の時は探索、戦闘の時は戦闘に集中できるので評価点でもあるのだが、銃撃戦が好きなプレイヤーは物足りなさを感じるかもしれない。 問題点 ハーケン 発売前の特集等でさも2大新アクションの様に宣伝されていた「ロープ」と「ハーケン」だが、「ロープ」に関しては最初から最後まで大活躍する反面、「ハーケン」に関してはゲームも後半に入った頃、目的地の島に辿り着いた時点でようやく入手する。 使い方に関しても、「ロープ」の方はターザンアクションから高所からの落下阻止、敵の車に引っ掛けて引きずり回される等様々なアクション・パニックシーンに織り込まれているのに対して、「ハーケン」は岩壁の手がかりが届かない・無い場所に突き刺して手がかりにする使いみちしか無く、はっきり言って地味。 そもそも本シリーズは、岩壁にしがみついたり登ったりする際に掴める出っ張りや手がかりが「偶然」手の届く範囲にあるのがツッコむのも野暮なお約束と化している。本作でもハーケンを入手するまでに岩壁を何も使わず出っ張りを掴んで渡っていくシチュエーションは頻繁に存在し、後半の最後の島でだけハーケンを使わせる意味合いは感じられない。 いつものクライミングに変化を持たせたかったのかもしれないが、だとするとやはり入手時期が遅すぎる。 またハーケンを刺せることを示す柔らかい壁が、蜂の巣の様に細かいブツブツが並んでいるものであり、ちょっとキモいという声が多い。 スロースターター 物語開始から本題に入るまでがとても長い。全22章のうち5章までは、チュートリアルを兼ねた、複雑な人間関係を描写するための実質的なプロローグになっている。 シナリオに説得力を持たせるために必要なのはわかるが、第2作のような全編フルスロットルの冒険を期待している層はヤキモキさせられるだろう。 グレネードの投げ返し機能の削除 前作『砂漠に眠るアトランティス』では行えたグレネードの投げ返しが今作ではできない。 今作ではグレネードの威力が過去作以上に強力になっており、尚且つ一部の遮蔽物が壊れるため戦闘難易度の激化に拍車をかけている。今作の戦闘システムでグレネードも投げ返せれば戦術の幅がもう少し広がったのだが・・・ ラスボス ラスボスの問題点もシリーズ恒例。これはシリーズとしてのシステム周りがそもそも一対一の闘いを盛り上げるのには向いていないからで、それでも今作は演出や会話で相当頑張ってはいる。 しかし、ここに来て突然これまでとはかけ離れたゲーム性(2択剣戟)を突きつけられるので、難易度は意外と高く、ここで若干詰まってしまう人もいる。 総評 これまでNaughty Dogが培って来た技術力の総力を注いだ、シリーズ集大成。 個々の要素を紐解くと、重点を置いているポイントや、開発の思想が過去作とはかけ離れているところも多いので、人によっては戸惑いを覚えることもあるだろう。 が、重すぎずも軽すぎずもなく、シンプルな操作で深みのある美麗な世界を堪能できるという意味では、正しく最終作を飾るにふさわしい。 2010年代を代表するシリーズの一角として、見事に有終の美を飾ったと言えるだろう。