約 1,742,347 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3356.html
前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-3 「相棒」 「決めたわ!」 握り拳を作って立ち上がるルイズ。 勢いで椅子が倒れた、それを屈んで立て直すチーフ。 「チーフ!」 首が折れそうな勢いで振り向くルイズ。 目には異様な輝き、確固たる意思が込められている。 「剣を買いに行くわよ!」 昨日の今日は虚無の曜日、時間は午前で休日である。 朝起きてからずっと部屋の中をうろつき、部屋の端に行き着くとチーフをちらり。 また歩き出して端に着くとチーフをちらり、最後には椅子に座り横目でチーフを見つめ続けていた。 それを何時間も繰り返し、やっと決意したように言った。 「武器ならある」 背中に背負ったアサルトライフル、そして腰に付いたハンドガン。 どちらもチーフの世界の武器であり、扱いに精通し彼の技量ならば十二分に扱いこなすだろう。 予備の弾も十分とは言えないが所持している、しっかり狙いを付けて撃てば百を超える敵でも捌けるだろう。 「前々から思ってたけど、それって何の武器?」 ルイズはそれが『銃』であると分からなかった。 話に聞いたのみで実物は見たことが無い。 話より大分形が違い大きさもかなりあって、それが銃であると辿り着けなかった。 銃は一部の銃士隊しか扱っておらずサイズはせいぜい短銃か、流線的なフォルムを持つ長銃くらい。 施条、ライフリングが刻まれていない単発滑腔銃でメイジが注意するほどの武器ではなかった。 一発撃つごとに手間の掛かる装填、中距離でも命中精度が落ち、威力も極端に落ちる。 弾道も不安定になるため、確実に当てる為には一定の距離まで敵を近づけさせる必要もある。 また、当たったとしても頭や心臓など、急所で無い限り秘薬無しでも十分に治せる程度の怪我しか負わない。 上記等の理由で使い所の難しい武器、という扱いになっている。 そういった事により、さほど進化せずこの現状を作っていた。 もっとも、チーフの持つ銃とハルゲニアの銃は性能が違い。 射程距離や威力は物によっては数百倍、千倍以上にも及ぶ。 それを知らないルイズは当たり前にさほど強くない武器であると考え思ってしまっていた。 「へぇ、これが銃……、ちょっと貸して」 チーフの側面に回りこみ、腰や背中に担がれる銃を指で突付きながら見つめる。 「駄目だ」 貸してくれるよう聞いてくる問いに、チーフはすぐさま拒否の姿勢を見せる。 「どうしてよ」 「危ないからだ」 「いいじゃない! これは命令よ!」 ビシッと指先をチーフの顔に向ける、命令と言われて従うチーフ。 ルイズは理解していた、『お願い』では無く『命令』として出せばチーフが従ってくれることに。 腰からハンドガンを外し、安全装置を掛けてルイズへ差し出す。 重いぞ、と言って渡すが案の定ルイズの手から零れ落ちる。 ガキン、と鈍く重い音がした。 「お、重すぎるわよ!」 銃器としては最も軽いであろうハンドガンで重い、ルイズが如何に非力か理解できた。 「だから言っただろう、重いと」 「こんな使いづらい物より、もっと使いやすいのにしなさいよ!」 チーフにとっては剣を振るより扱い易い物だが。 「近接武「さあ、行くわよ! 付いてきなさい!」」 と、話し出す前に廊下へ飛び出していった。 アクセルを踏み絞り、街路をかなりの速度で走る。 「凄い凄い!」 おもちゃを買い与えてもらった子供のようにはしゃぐルイズ。 二人が乗るのは鋼鉄の箱、『ワートホグ』。 地を掛ける乗り物としては最も早いんじゃないかしら? 突然『ペリカン』へ行きたいなんて言うから、待っていればこんな物に乗ってきた。 「ほんと、凄い……」 響きは、先ほどまでの言葉とは違っていた。 チーフはルイズの呟きと風切り音を耳に、指示された方向へアクセルを踏み込む。 そして走ること1時間足らず、木々の間から見えたのは白い石作りの街。 『ブルドンネ街』、王都の一角。 ワートホグを街の門より離れたところに止める、さすがに堂々と乗り込むことはしなかった。 こんな物で入り込めば確実に混乱が起きるだろう。 しょうがないと門まで歩いていく、馬より断然速く到着できたのだから文句は言えない。 門を潜ると並ぶのは数多の露天や商店、道幅5メイルほどで多数の人々が賑わい通りを闊歩する。 「ちゃんと付いてきなさいよね」 ズンズンと道の真ん中を歩く、見ると道が少し開ける。 道行く者たちは羽織ったマントで気が付いたのだろう、ルイズが『貴族』であると。 そしてその背後について歩くチーフの姿を見て人の波は次第に開けていく、割れた海のように。 「えっと、こっちだったかしら」 四辻に出る、ルイズは周りを見渡しながら呟いていた。 狭い路地裏にはゴミなどが散乱していて、鼻に付く臭いが漂っている。 「秘薬屋の近くだったと思うけど……」 袖で鼻を塞ぎながら目的の武器屋を探しているようだ。 「あれかしら」 汚い路地裏の一角に剣の形をした看板がぶら下がっている。 看板がぶら下がっているところに行ってみると、階段があり、上がりきった所にそれらしき店があった。 上りきって扉を開けるとカウンターの奥に店主らしき男がパイプを吹かし座っている。 「ああ? ここはお嬢ちゃんが……、これは失礼を」 入るなり店主が吐いた言葉を謝る。 マントか、あるいは紐タイ留めの五芒星を見たのか。 「それで、何か御用で?」 「剣が欲しいんだけど」 「貴族様が剣を? こりゃあ、珍しいこって」 「いいえ、私じゃないわ。 使い魔に持たせるの」 ルイズがそう言った時には扉を開けて入ってくるチーフ。 「そ、そちらの方が持たれるので?」 チーフの異様さに押されたのか声が上ずる。 「ええ、剣の事はよく分からないからそちらに任せるわ」 腕を組みつつ、胸をそらせた。 「わかりやした」 鴨がネギ背負ってやってきた、店主は奥に入るなりそう呟く。 勿論、それを聞き逃すチーフではなかった。 「ルイズ」 「なに?」 「自分で確かめる」 「そ、そう」 壁に掛けられた武器を見始める。 手に取り、軽く叩く、その後一度振る、そしてまた元に戻す。 そこまで試された武器は十振りも無かった。 一通り目を通す、最後に視線をやったのは樽の中に突っ込まれた武器。 錆びていたり、刃が欠けている、要は粗悪品の物。 その中の一つに手を伸ばそうとすると。 「おい、にーちゃん。 俺を手にとってみねぇか?」 樽の中から声が響いた。 その声にチーフの手が、店主が店の奥から持ってきた武器の話を聞いていたルイズが、そしてその話をしていた店主が止まった。 「にーちゃん、かなり出来そうじゃねぇーか!」 カタカタと震える、刀身ほぼ全てが錆びに覆われた大剣。 突っ込まれた樽の中、周囲の売り物になるかどうかギリギリの品物と同等の剣。 「デル公! てめぇは黙ってろ!」 「もしかして、インテリジェンスソード?」 「ええ、口うるさい奴でして」 「おうおう、どうせそんなガラクタ高値で売りつけようとしてるんじゃねぇか!?」 「なんだと!? これはてめぇなんかより上等な代物だってんだ!」 カウンターに置かれた剣、眩い宝石が幾つも散りばめられ、鏡のような両刃の刀身が煌く。 高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿が作り上げた名剣、幾重にも魔法が掛かっていて鉄をも一刀両断。 そういう話だったが、ルイズの興味はインテリジェンスソードに向いていた。 「あんた、名前は?」 「おう、デルフリンガー様ってんだ!」 「へぇ、インテリジェンスソードなんて初めて見たわ……」 「そんなことより、にーちゃん早く握ってみれや! にーちゃんの目に叶うと思うぜ!」 デルフリンガーと名乗った剣は自分を販促。 言われるがままにチーフはデルフリンガーを握って樽から引き出す。 「……おでれーた、やるとは思ってたがにーちゃん『使い手』か」 「使い手?」 「にーちゃん、俺を買え!」 「これにする」 「え?」 即決、ルイズと店主の声が重なった 「そ、そんな駄剣なんかよりこちらのほうが断然──」 「そ、そうよ! そんな錆びだらけの──」 「錆は落とせばいい、それに」 言葉が止まる、チーフはデルフリンガーを見つめ。 「これはいい武器だ」 それを店の外から覗いていたのはキュルケとタバサ。 昼前に起き、『ダーリン』ことマスターチーフに愛に来たのは良いが部屋はもぬけの殻。 ただ椅子が一つ倒れているだけだった。 「どこに言ったのかしら」 ルイズの部屋を見渡した後、窓に手を掛ける。 外に広がる風景を見下ろすと、何か見知らぬの物体に乗って道を行くチーフとルイズが見えるではないか。 その時すでに、ルイズの部屋に誰も居なくなっていた。 場所を移し、勢いよく扉を開けた部屋はタバサの部屋。 壁に背をしてベッドに座り、黙々と本に目を通す、自身より長大な杖を抱えた青髪の小柄な少女。 部屋に入るなり大声で叫ぶが、一切タバサの耳には入らない。 本を読む際に入る邪魔な雑音を消すための無音魔法『サイレント』を掛けていた。 隣で、手振り身振りでタバサに話しかけようとするキュルケにしょうがなくと言った面持ちで魔法を解く。 話によるとルイズとその使い魔が何処かへ出かけたらしい。 馬より速い、何かに乗っていたため、馬では追いつけない。 そこでタバサの使い魔、風竜『シルフィード』で追いかけてほしいと言っていた。 タバサは少し悩んだ、今日は貴重な『虚無の曜日』、溜まっていた書物を読破するにうってつけだったが。 「わかった」 無二の親友の頼みでは断れない、後に分かる、その選択は正解であったと。 ルイズ達を追いかけ、尾行していれば。 「うぎゃあああ!」 と汚い悲鳴を上げ、投げ飛ばされたのは折れた剣を持った一人の男。 事はキュルケとタバサが覗き、ルイズとチーフが居る武器屋。 入ってきたのは4人の無頼漢。 「親父、約束の物は用意出来てるかぁ?」 店主はそいつらの顔を見た途端、顔を大きく歪めた。 「ふざけるんじゃねぇ! 誰がてめぇらなんぞに金を出すかってんだ!」 店主は何かしらの理由で金を要求されているが、それを突っ撥ねている。 まあ、見るからに柄の悪い男たち。 「ああ、そうかい」 手に持つ鞘に入った剣を飾り置かれた剣に振り下ろす。 大きな音を立てて、それらは崩れ落ち、床に転がる。 それを見て切れたのはルイズ。 「これでもまだ、ださねぇってか?」 「店主、出す必要ないわよ」 「あ?」とにごった声を上げたのは男たち。 「分かっておりやすよ、若奥さま。 こんな屑どもに渡す金など一硬貨すらありやせん」 分かてるじゃないとルイズは店主に向きなおす。 そして何事も無かったかのようにカウンターに置かれた剣とデルフリンガーの値段を聞き始める。 やはりと言うか、無視される男たちは憤慨した。 一人の男がルイズへと歩み寄る。 「小娘が、大人を舐めると酷い目にあうってのを教えてやるよ」 伸ばした手が、ルイズに掴みかからんとした時。 男の手が太い緑色の手に掴まれていた。 「触るな」 男たちは気が付いていなかった。 薄暗く、ランプで照らされた室内はそれでもなお暗かった。 その部屋の片隅、右手にデルフリンガーを握るチーフが居たことに。 動かなかった故に奇妙な鎧、その程度にしか思っていなかった。 「な!?」 それを見て驚いたのは男たちのみ。 ルイズと既に一度驚いた店主は剣の値段を話し合っている。 「若奥さま、そちらの方はおやりになるので?」 「そうよ、あんな平民が束になって掛かってきても負けることは無いわよ」 自慢げに言うその姿は自信に満ち溢れ、店主に信じ込ませるような風格を放っていた。 「そんなにお強いんで? それならこちらの剣を──」 背後で起こっている出来事を尻目に淡々と商談を進めていく。 「た、高いわね、立派な家と森つきの庭が買えるじゃない!」 「てめぇ!」 チーフに腕を掴まれた男は不自然な体勢で剣を振るうが。 逆に振るわれたデルフリンガーの一撃で剣が折れて男は床を転がる。 「おうおう、思った通り相棒はやりやがる」 カタカタと喋るデルフリンガーはうれしそうだった。 一歩、カウンターに体を向けたルイズの背後に立つ。 ただそれだけだ、ただそれだけで男たちは尻込みした。 狭い店内では己の不利を悟ったのか、男たちは外に出る。 「出てきやがれ!」 男たちが叫ぶが、店内から誰も出てこない。 チーフは店内入り口の前、十分に剣が振るえる位置でただ立つ。 「正解」 「なに? どうしたの?」 それを遠くから覗く二人、突如言ったタバサの言葉にキュルケは頭をひねらせる。 「あれで正解」 あれ、店の外から出ない事が最善の方法とタバサは言った。 一対多数で戦う場合、如何に一対一に持ち込めるかだ。 同時に襲われるのは非常に危険、同時に対処できない場合は死を意味する。 その点で言えばチーフの判断は正しい、あの狭い入り口では一人、よくて二人しか同時に入れない。 さらに、その狭い入り口のおかげで満足に剣を振るえまい。 入ると同時に殴り飛ばされるのが関の山。 勿論、相手が遠距離武器、魔法や銃などを持っていない場合に限るが見たところ男たちは杖を持っていないし、銃もなさそうだ。 故にこの結論に至る。 「噛んでいる」 「そうねぇ、軍隊経験でもあるのかしら」 キュルケから決闘の話を聞いていたが、実際目にするとでは大分違った。 タバサの目には動きに無駄が無い、効率を重視した動きに見えていた。 「これは……、知らない」 小さく、キュルケにも聞こえない声で呟いた。 武器屋の入り口付近には剣を折られ気絶した男が4人、予想通り殴り飛ばされた。 そんなことはすぐに忘れ、店主とルイズはこっちにしようと武器を進めてくるがチーフはデルフリンガーを選んだ。 「これから宜しくな! 相棒!」 「本当にそれでよかったの?」 「ああ」 背中にアサルトライフル、右腰にハンドガン、左腰にはデルフリンガーが付けてあった。 「本当に、本当にそれでよかったわけ?」 「ああ」 何度も「それでよかったのか」と繰り返すルイズ。 そのたびに「ああ」と呟く。 問答しながら軽い金属音を立て、元来た道を戻る。 「いやー、ほんとすげぇな、相棒は」 デルフリンガーはデルフリンガーでチーフを褒めっぱなし。 「ちょっと! 五月蝿いわよ!」と怒鳴ると「おっとすまねぇ、うれしくてついな」とカタカタ揺れる。 所持金ほぼ全てをデルフリンガーにつぎ込んだ、と言うか持ってきた所持金で買える物がデルフリンガーだけだった。 幾つか欲しかった物があったがここは諦め、帰路に着いていた。 まさか剣がここまで高いとは思っても見なかったルイズ。 「しかしなぁ、相棒はすげぇ所を渡ってきたんだなぁ」 「行き成り何言ってんのよ」 いや、なんでもねぇとデルフリンガーは黙る。 はぁ? とルイズは頭をひねる。 「いやいや、ほんとどうでもいいって」 「言いなさいよ、気になるじゃない」 「だってよ、相棒自身のこと教えてもらってねぇんだろ? なら俺から言えるわけねぇ」 その言葉に、あ、と気が付く。 チーフ自身のこと、確かにその強さばかりに目が言ってチーフのことは殆ど知らなかった。 チーフが左手でコツンとデルフを叩く。 「おっといけねぇ、おらぁ黙るぜ」 と、雰囲気をかき回した犯人はカチンと黙りこくった。 「………」 「………」 デルフの一言により微妙な空気になってしまった。 (確かに気になるけど……、今はまだ私の使い魔じゃないし……) うーん、と悩むルイズ。 やはり何も言わず後ろを付いて歩くチーフ。 そこへ、ルイズの仇敵。 「はぁーい、ヴァリエール」 と聞きなれた嫌な声。 ルイズが頭を上げるとワートホグに寄りかかるキュルケとシルフィードに座って本を読むタバサ。 「なななんでツェルプストーがここに居るのよ!」 食って掛かるように質問を繰り出すルイズ。 「いえね、折角の虚無の曜日なのに学院に居るのもどうかと思って街に来てみたらこんな物見つけて調べてたら、貴女達が現れたってわけ」 「うそつき」とタバサは心の中でつぶやき、本を読みながらもチーフへ視線をやっている。 「嘘おっしゃい! まさかつけて来たわけじゃないでしょうね!?」 「それこそまさかよ、折角の虚無の曜日に『ゼロのルイズ』を付回してなんになるのよ」 キィー!とハンカチを噛み千切りそうな勢いで口喧嘩が始まる。 「ゼロじゃないわよ!」 「はいはい、サモン・サーヴァント成功させましたよね~」 如何にも馬鹿にしたような言い方、ルイズはさらに激怒する。 タバサはそれを横目に、シルフィードから下りてチーフと向き合う。 「聞きたいことがある」 「何が聞きたい」 「貴方の素性」 「答える必要が見当たらない」 「何故」 「関連性が見当たらない、少なくともルイズとは友人関係でない事は理解出来る」 青髪の少女ではなく、赤髪の少女であれば友人と言えるくらいの親しさがある。 だがこの青髪の少女は殆どと言って良い程接点が見当たらない。 故にチーフは問答を拒否する。 「……目的」 「答える必要が無い」 「何故答えられない」 「その必要が見当たらない」 「何を考えている?」 「君が問いかけてくる意味に付いて」 「答えは」 「警戒している」 「………」 不審な人物、タバサから見ればそれ以外にあり得ない。 タバサは視線を鋭く、ただチーフの顔に映る自分の顔を睨むように見つめる。 「……貴方は、力の使い方を知っている。 それをどこで習ったか、教えて欲しい」 「何故」 「必要だから」 「断る」 「何故」 「不要ないざこざを持ち込まれる可能性がある、そうなれば自分だけではなくルイズにも火の粉が掛かる可能性がある」 「……貴方は、一体何?」 答えを拒否した問いを再度聞いてくることに、この青髪の少女に諦めはないのだと薄々感じたチーフ。 「……軍人だ」 「どこの」 「答えられない」 「その戦い方をどこで」 「軍による育成プログラム」 「……貴方は戻りたいと思わないの?」 「思っている、だからこそ彼女の護衛を務めている」 「貴方が居るべき場所は、遠い?」 「歩いても走っても、恐らくは空を飛んでも戻れないだろう」 「……そんな場所などどこにも無い」 数秒の沈黙の後に、タバサがそう口を開く。 それにチーフは指先で示した。 「とても遠い場所だ」 右手の人差指は、空へと向けられていた。 それを見たタバサとキュルケは一様に驚きを見せる。 「空? まさかアルビオンじゃないわよね?」 「違う、空の向こう側。 俺が生まれた場所は、夜空に輝く星の向こう側だろう」 その言葉で再度タバサとキュルケが驚く。 「ちょっとルイズ、本当なの?」 ルイズはただ一度だけ頷く。 「……見せて欲しい、星の海の人」 その言葉を呟いて杖を向ける。 「ちょ、ちょっとタバサッ!?」 その光景に今度はルイズとキュルケが驚く。 「意味がない」 「何してるのよ!?」 ルイズの問いかけに答えないタバサ。 その瞳には何かが渦巻いていた。 「見せて欲しい」 さらに一歩、杖を突きつける。 殺気、答えないならば強行手段に出るという警告。 「無用の戦いは必要としていない」 それでも繰り返し、応えないチーフ。 「………」 途端、爆発したような烈風が吹き荒れ、落ち葉や砂埃を巻き上げる。 「タバサッ!?」 「なななななに!?」 影を残すかのような飛翔、それは『レビテーション』と『風』を利用した、『フライ』をはるかに超える速度で移動する技。 レビテーションにて浮き上がった体に、風を任意の方向から当て押し出すもの。 その速度はフライの比ではなく一気に上空へ舞い上がり、杖を構える。 「離れていろ」 この言葉の意味に気づいたキュルケは頷き、呆然とするルイズを抱えて走り出す 「ちょっと一体何なのよーーーー……」 小さくなっていくルイズの叫び声。 タバサもそれを見届けたのだろう、杖を振るう。 現れたのは螺旋に渦巻く氷の矢。 収束していく殺気、狙いは一点、殺す気で掛かった。 前ページ次ページ虚無と最後の希望
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3426.html
前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-5 「契約」 「後で話、聞かせてもらうからね!」 学院前でワートホグを降りて、学院へ歩いていくルイズ。 チーフとタバサが何かを話していたのに気がついたのだろう。 しょうがないと、すぐに諦める。 「はは、嬢ちゃん気になって仕方が無いようだねぇ。 ある程度話しておいたほうがいいんじゃねぇか? 相棒」 「そうだな」 杖で突付かれ振り向くと。 「いつ」 と、聞かれた。 これからやることがある、それに追従してもらえれば話しやすい。 「これから行く所がある」 「付いて行く」 もう一度、ワートホグに乗り学院外に墜落しているペリカンへと向かう。 ものの数分、到着して見るとタバサの目の前には鋼鉄の何かが地面にめり込んでいる。 半分ほど土に埋まっているので、全体図がわからないが独特なフォルムなのはわかった。 「これは?」 「『D77H-TCI ペリカン』、垂直離着陸機だ」 よくわからないと言った顔のタバサ、このハルケギニアに人を乗せて飛ぶ物はフネ位しか存在しない。 全くと言って良いほど存在しない機械の、最上級と認められるであろう品質の鋼鉄で組み上げられた垂直離着陸機などと説明しても分からないだろう。 口を開けているかのように見えるのは人員を乗せる貨物部分。 チーフはその中に入っていく、タバサはそれを見つめるだけ。 十秒も経たず、手に何か細長い物を持って出てくる。 そのまま、ワートホグに乗せた。 「私の本当の名前は『シャルロット・エレーヌ・オルレアン』」 「オルレアン? つーことはおめぇは王族か」 暇を見てこの世界の情勢などを調べていたチーフ。 そのチーフが知る世界情勢を読み取り、デルフリンガーは『オルレアン』に適合した情報を口にする。 「いや、いきなり重い話になっちまったなぁ」 『オルレアン』、その名を持つものは現ガリア王国の王、ジョゼフ一世の弟であり、暗殺された天才的なメイジだと聞いていた。 そうなると、タバサは、シャルロット・エレーヌ・オルレアンはオルレアン公の娘であり、王位継承権を持つ王女。 そして父が暗殺された事、母がエルフの薬で精神を壊された事、そしてその母が人質に取られている事。 それを利用してガリア北花壇騎士団員として呼び戻されては危険な任務を強いらされている事。 その全てがジョゼフ一世の指示で行われた事を話した。 「こりゃあ、重すぎたな。 嬢ちゃん、すまねぇ」 「いい」 無表情で返事を返すタバサの瞳は、先ほど以上の憎悪が渦巻いていた。 「事情はわかったが、これは貸せない」 その言葉を聞いたタバサに失望の色が宿る。 「どうしてもと言うならばこんな物を使わず、自分の手でやるんだ」 「だな、あれはかなりあっけねぇぞ。 殺したって感覚がねーし」 あたかも撃ったことあるようなデルフリンガーだった。 「そう」 少し俯くタバサ。 「まぁそう落ち込むなよ、今すぐは無理でもいずれその機会が来ると思うぜ? その時まで自分を磨いときゃいいじゃねぇか」 チーフはその話を聞きながら、弾薬ケースを開け、弾丸の数を数える。 その後、スナイパーライフルのグリップを持つとステータスに4/0と表示される。 弾倉に4発、予備弾薬は0、弾薬ケースの中には12発。 他の所を回ればまだあるかもしれない 。 「今度は貴方の番」 スナイパーライフルを置きながら、自分の素性を話し始める。 呼称マスターチーフ、正式名称スパルタン-117は『Spartan-II Project』により作られた兵士。 最新鋭強化複合装甲服『ミョルニルアーマー』を装備し、あらゆる武器と兵器の知識を備える。 また、肉体強化を施され、常人とは比べ物にならない反応速度や筋力を手に入れている。 それらにより極めて高い戦闘能力を発揮、座学で学んだ知識と実戦で磨かれ厚く蓄積された経験により、多彩な戦況に対応できる。 時には部隊を率いたり、またある時はたった一人で敵地へ乗り込む最強の歩兵、それを目指して作られ完成した兵士。 そして、チーフと同様の装備と知識を持ち合わせるスパルタン達が存在していたが。 『人類の存在は神への冒涜である』と戦いを仕掛けてきた異星起源種族軍事連合『コヴナント』の圧倒的な技術力と数の前に敗北を重ね、最後にはチーフを残し全滅したと言う。 「馬鹿げた話だろ? あんな奴らに攻め込まれたらあっという間に終わっちまう」 馬鹿げた話所ではない、本当の話なら人間同士が争っている場合じゃない。 チーフと同様の、強力な兵士が複数居たにも拘らず人類を敗北させ続けるコヴナント、その強大さが手に取るようにわかった。 「信じる信じないはそちらに任せる」 ただ、淡々と話すチーフの言葉にタバサは頷く。 荒唐無稽な話だが、それを嘘と判断する物は無く、チーフの戦闘能力と手に持つ武器により高い説得力があった。 だから。 「信じる」 「なら、具体的な訓練内容は──」 「夜に」 「……、わかった」 今すぐにでも聞きたいと言った感じだが我慢しているようだ。 話が終わる頃には日が落ちかけ、双月が顔をのぞかせていた。 ワートホグの銃座には拾い集めてきた銃、ハンドガンやアサルトライフル、バトルライフルなどがあった。 助手席にタバサを乗せ、学院の門をくぐる。 「ここでいい」 女子寮から少し離れた場所でタバサは降りた。 「夜に」 違えない様に再度確認、それを聞いて頷く。 歩きながら口笛を吹くタバサ、数秒後にタバサの使い間が飛んできて背中に乗せ飛んでいった。 「嬢ちゃんの目、やべぇな」 どんなことをしても『殺す』と言う決意。 あの幼さでここまでの覚悟をするほどの出来事だったのだろう。 ハンドルを切り、シエスタに聞いた使われてない倉庫へ向かいアクセルを踏み込んだ。 「遅いわよ」 銃の手入れをこなし、部屋に戻ると完全に日が落ちていた。 それを待っていたのは腕を組み椅子に座るルイズ。 「それじゃ、何話してたか聞かせてもらうわよ」 「まあまあ落ち着けって、相棒は元から話すつもりだったしな」 「アンタは黙ってなさい! 私はチーフに聞いてるの!」 「おーこえぇこえぇ」と鞘に納まるデルフ、それを見た後にチーフは話し出す。 タバサの素性を除き、戦った経緯、その後の話した内容。 そして、戦闘技術を教えることになった事を。 一々質問を挟んでくるルイズのおかげで外は紅と蒼の、双月の光が世界を照らしていた。 「なんでそんなに……」 「事情はしらねぇが、強くなる必要があるんじゃねぇか?」 先ほどタバサから聞いた話をおくびにも出さず、デルフは語る 「でも、何でチーフに?」 「おいおい娘っ子、相棒がべらぼうに強いこと忘れてんだろ?」 「それでもよ、メイジがその……、魔法を使えないチーフに何を教わるのよ」 「娘っ子、タバサって嬢ちゃんは魔法の扱いはかなり上手いと思うぜ、それには納得出来るよな?」 「え、ええ」 悔しいが、タバサのその才覚は素晴らしい物であるとルイズは思っている あの歳でトライアングルクラスは伊達じゃない もし自分が対峙したとしたら、数秒と持たずやられてしまうだろうと結論付ける 「まあ本気出してないとは言え、魔法を使えない相棒に負けたんだぜ? それがどういう意味か、解らねぇわけじゃねぇだろ」 うっ、と言葉が詰まる。 よほど油断している状況で奇襲を掛けるぐらいしか、メイジに勝てない。 正面に立って対峙すれば、何らかの魔法によってあっさりと倒されてしまうだろう。 だがチーフは正面からメイジを、それもトライアングルのタバサに正面から打ち勝った。 チーフという個人はハルゲニアの「魔法を使えない者はメイジに勝てない」と言う絶対に近い定義を破壊していた 「第一、優れた技術を持つやつに師事を仰ぐなんざよくある事じゃねぇか」 「そ、それはそうだけど……」 一理ある、確かにデルフリンガーが言うことには一理在るけど……。 あのチーフがタバサを抱きかかえていた光景が浮かび、何かが引っかかっていたルイズ。 少し考える、「まさか、まさかね」と飛躍しすぎた考えに頭を振った。 「う~、まあいいわ! 今回は許してあげる、でも──」 言い掛けたルイズが止まる、チーフも気づいている。 「地震……?」 かすかに感じる、女子寮が揺れている事に。 「地震、じゃないわね……」 揺れは一度だけではなく、定期的に揺れている 。 歩いていれば気が付かないほど小さな揺れ 。 ルイズは窓に手を掛け外を覗く。 「……なにあれ?」 本塔の横には巨大な何かが聳え立っている 。 本塔と同等の高さを持つ──。 「ゴーレム!?」 音がしないと言うことは『サイレント』を掛けていると言う事。 巨大なゴーレムが本塔の壁を殴っている、その殴っている場所は宝物庫。 ソコから考えられる結論は一つ。 ルイズはかかとを翻し、ドアを勢いよく開ける。 ガンッ、とドアは鈍い音を出しながら何かにぶつかった。 「あっ」 ドアを開けた先にはタバサが蹲っていた。 「ご、ごめんなさい!」 「大丈夫」 よろめきながら立ち上がるタバサ。 「約束」 「それは後にして! 本塔の横にゴーレムが立ってるの!」 そう言ってルイズは駆け出す。 だが、少女の足では遅い。 「きゃ!」 軽い悲鳴を上げたルイズ。 チーフはルイズを抱えて、廊下を走る。 ルイズの二倍以上の速度で駆けた、それを見ていたタバサは。 「アン・ロック」 ルイズの隣の部屋、キュルケの部屋の鍵を解除。 杖でキュルケを叩き起こした。 「ちょっと~、なんなのよぉ」 「外にゴーレム」 「え、なに? なに?」 よく理解できていないキュルケを他所に、タバサは自分の部屋に戻り、口笛を吹いて数秒経ってから窓から飛び降りた。 時を遡る事、数時間前。 「チッ、なんて頑丈な……」 本塔の外壁、非常に分厚く、さらには『固定化』の魔法まで掛けられておりフーケのゴーレムでも壊せない頑丈さがあった。 塔内部の扉にも同様に強力な『固定化』が掛けられており、他の物質へ変化させる『錬金』を弾くほど強力。 固定化を上回る錬金を掛ければ良いが、フーケ以上のメイジが掛けた代物であり、変質は不可能であった。 「中が駄目なら外、と思ったがそう上手く行かないようだね……」 だが、ここで諦め無いのがフーケ。 「とりあえず、叩いてみるかね」 地面が競りあがり、物の数秒で巨大なゴーレムが出来上がる。 そして、大きく振りかぶったゴーレムの腕。 「ひび位は入っておくれよ!」 壁に当たる瞬間、ゴーレムの拳を鉄へと錬金した。 「やっぱりゴーレム!」 外に出ると見えたのは巨大な、30メイルはあるゴーレム。 その土の拳を本塔にたたき付けていた。 「まさかフーケ!?」 チーフと武器を買いに言ったときに、店主から聞いた言葉を思い出す。 『近頃、下僕に剣を持たせる貴族様が増えてきたんですよ』 『どうして?』 『何でも、「土くれのフーケ」ってな貴族様ばかり狙った盗賊が居るって話でさ』 そのフーケが宝物庫を狙ってる!? 止めなければ、そう思いルイズはゴーレムへ向かって駆け出そうとしていた。 「なにをする気だ」 「何って、あいつを止めるのよ!」 怒鳴るようにルイズは言った。 「何か手はあるのか」 「うっ」 言葉が喉に詰まる、考えなしに突っ込もうとしてた様だ。 「で、でも! 何とかしなくちゃ……」 指を唇に当て考え始めるルイズ。 「ルイズ!」 そこへキュルケが走ってくる。 その上空にはタバサとシルフィード。 「何なのよあれ! あの大きさだとトライアングル所かスクウェアは有るわよ!」 「多分、土くれのフーケよ」 「まさか、あんな堂々と狙ってくるとは思っても見ないわよね」 「何とかして止めないと!」 「とりあえず……、タバサ!」 呼びかけ、操っている奴の顔を見れないか尋ねる。 「見えない」 距離もあるが、夜な上にフードを被っている為、男か女かすら解らなかった。 「ダーリン、あれ、何とか出来そう?」 「ちょっと! 何がダーリンよ!」 「あら、良いじゃない別に」 口喧嘩を始めそうな二人に割って入る 。 「無理だな」 アサルトライフルにハンドガン、デルフリンガーにあとは『プラズマグレネード』と『フラググレネード』が2個ずつ あのゴーレムを破壊するには明らかに火力不足、『ロケットランチャー』や『ロッドガン』、『スコーピオン』でもあれば簡単だろうが 「だが、やって見るしかないようだ」 アサルトライフルを構えるチーフと杖を手に持つキュルケ。 上ではシルフィードに乗るタバサ。 「わ、わたしも!」 いそいそと杖を取り出すルイズ。 「それじゃあ、援護をお願いできるかしら? ミス・ヴァリエール」 「任せて! ミス・ツェルプストー!」 それを聞いてゴーレムへ駆け出すチーフ。 後に続くように杖を振るうキュルケとタバサ。 「ファイアボール!」 「エア・カッター」 噴出した火球と風の刃。 チーフの上を通り過ぎ、ゴーレムに直撃した。 「やった!」 それを見たルイズが喜ぶが。 「あー、駄目っぽそうね」 表面を焦がす程度と浅い傷を作る程度、すぐさま傷が修復され元通りになった。 走りながらハンドガンを構え、肩に乗るフードを被ったフーケへと照準を向けるが、ゴーレムは体を捻り、腕を振り上げる。 体の向きや腕のお蔭で、フーケがゴーレムの影へと入り見えなくなる。 そして、キュルケとタバサの攻撃に気が付き、踏み潰そうと歩き出すゴーレム。 「下がるわよ!」 踏み潰される事を危惧したキュルケがルイズの手をとり、逃げようとするが。 「駄目よ! ここであいつを捕まえなきゃ!」 そう言って杖を振るうルイズ。 「ファイアボール!」 ゴーレムの表面、軽い爆発が起きる。 「ルイズ!」 引っ張っていこうとするキュルケだが、振りほどいて再度杖を振るうルイズ。 「ファイアボール!!」 同様の、小さな爆発。 1メイルも無い小さな穴を作るだけに至った。 「もう!」 無理やり、ルイズを抱え上げて逃げ始めるキュルケ。 「何馬鹿なことしてるのよ!」 「離して! 貴族は敵に後ろを見せないのよ!」 「ちょっ、キャ!」 ルイズが暴れキュルケが転倒、抱えられていたルイズも同様に転がる。 ゴーレムは踏み潰そうと歩み寄る、次第に強くなる地響き。 「ファイアボール!!!」 起き上がり、呪文と唱える。 先ほどより大きな爆発だが、ゴーレムを崩すには至らない。 「ルイズ!」 「ファイアボール!!!!」 またも爆発。 「どうしてよ! どうして出ないのよ!!」 唱えるのはファイアボール、起こるのは爆発。 踏み潰そうと迫るゴーレムの足。 キュルケはルイズに覆い被さり、タバサは間に合わないと目を瞑った。 確実に踏み潰された、確かにそうなるはずだった。 だが、ゴーレムから少し離れた場所にチーフと、二人の少女を抱きかかえる姿があった。 そして、ゴーレムの足首は青白い閃光とともに砕け散る。 バランスを崩し、倒れそうになるも足首がすぐさま再生を始める。 「馬鹿! 何であんなことしたのよ!!」 「悔しく……て、いつも馬鹿に、されて……、フーケを捕ま……、えれば、もう誰にも『ゼロ』なんて……」 溜めに溜めた思いが堰を切ってあふれ出していた。 こんなにも強い使い魔を呼び出したくせに、事に関して何も出来はしない。 己の無力さで涙が溢れ出し、喋れなくなるほど泣きじゃくった。 「メイジの実力を見るなら、使い魔を見ろ」 泣くルイズの声をさえぎる様に、チーフは言った。 「契約を」 目の前に立つ使い魔は、恐怖や慢心が無く、ただ起伏の無い感情で言った。 彼は決めたのだ、ルイズの使い魔になることを。 正式な契約を結ぶことは、元居た世界に返れなくなるかもしれないという事。 それを承知で言ったのだ。 その決意を固めた使い魔がたった一言を要求している、ならば主人として答えてあげなければならない。 溢れていた涙は止まり、一つの信念が宿る。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 ルイズはチーフに口付けをした。 その途端、チーフの左手から光があふれ出す。 浮かび上がったのは『ルーン』。 ここに契約に至り、チーフは正式なルイズの使い魔となった。 「命令を」 「っ…、フーケを、『土くれのフーケ』を捕まえなさい!」 その言葉を聞いた使い魔は、一言返した。 「了解した」 頷いた、デルフリンガーを持つ左手にはルーンが淡く輝いている。 振り返ると同時に右手に持ったアサルトライフルを背中に担ぎながら駆ける。 視線の先には高さ30メイルはある巨大なゴーレム。 「突っ込んでいくなんて……」 チーフの行動を見てキュルケは呟く。 「大丈夫よ! チーフは私の使い魔なんだから!」 涙目ながら自信たっぷりにルイズは言った、その姿を見たキュルケは嬉しそうに。 「ええ、大丈夫よね」 と、僅かに微笑んだ。 その頃、ゴーレムへの攻撃が効果無しと判断したタバサは上空へ舞い上がっていた。 ゴーレムへの攻撃が効かないなら、それを操るメイジへ攻撃する。 対土メイジの基本であり、最も効率がいい解決方法。 幸い、ゴーレムを操るメイジの意識はチーフに向いている。 好機と判断、上空へ舞い上がっていたシルフィードは一気に下降する。 「───」 タバサは小さくつぶやき、ゴーレムの肩に乗るローブを着たメイジに向かって杖を振るった 威力と詠唱速度を考慮した風の魔法を放った うねる風の刃、メイジを切り裂かんと空を走るが直前で弾け消えた 途端、ゴーレムの左拳が迫る 振り上げる拳は鋼色に変化し、魔法を防ぎつつタバサへ攻撃を行う だが、体をひねるシルフィードには当たらない それを見てフーケは笑った 「残念」 ゴーレムの腕になぞるように突っ込んでくるタバサとシルフィード すれ違いざまに魔法を叩き込もうという魂胆だろうが 「見え見えなんだよ!」 ゴーレムの腕から土の壁はせり上がり 「!」 シルフィードは避けきれず激突した 放り出されたタバサと、墜落するシルフィード 「残念だったねぇ、これで仕舞いだよ!」 止めと言わんばかりにフーケの足元から撃ち出される石礫 シルフィードは咄嗟に尻尾を振るい、石礫の射線上に割り込ませタバサを石礫から守る だが、完全とは言えなかった たった一つ、通過を許した礫が杖を振るおうとしたタバサの額に直撃 その威力は十分、一発でタバサの意識を刈り取った それを見たシルフィードは「きゅいっ!」と軽い悲鳴を上げ、バランスを立て直せずそのまま落ちていく 「タバサッ!」 悲鳴に近いキュルケの声 杖を構えたキュルケの『レビテーション』は間に合わない シルフィードは落下する前に体勢を立て直せるだろうが、タバサを救うに至らない 杖すら握っていないルイズは持っての他 ならば駆け出す者は一人 およそ3メイル、落下寸前のところでタバサを抱きかかえ大地を駆けるのはチーフ キュルケの前まで駆け、タバサを渡し抱える 「離れろ」 キュルケは頷き、二人はタバサを抱えその場から遠ざかる。 「タバサの顔に傷が残ったら、骨の一欠けらさえ燃やし尽くしてあげるわ」 気絶したタバサを抱えるキュルケの声は明らかな怒気を含んでいた。 左手にデルフリンガーを持って走る。 「相棒! やっちまえ!」 その速度は風、振るわれた剣は剛力。 剣の面で叩かれたゴーレムの足は爆発したように弾ける。 「なッ!」 驚きをあげたのはゴーレムを作り上げたメイジ、土くれのフーケ。 足首の8割を吹き飛ばされ、バランスを崩すゴーレム。 「その程度で!」 即座に修復を始めたゴーレム。 やはりこの程度では破壊できない、一撃で大部分を破壊できる武器ではないと。 破壊、その言葉で思い出した。 何度かデルフをたたきつけ、土を吹き飛ばす。 「無駄だって言ってるだろうがぁ!」 踏み潰そうと足を上げるが、すでにその場所には居ないチーフ。 見ると、ルイズ達の元に駆け寄っていた。 「ど、どうしたの!?」 「ルイズがゴーレムを破壊するんだ」 「え?」 突飛に言った言葉にルイズが固まる。 「本気なの?」 信じられないといったキュルケ。 その問いに答えるチーフ。 「ああ」 「で、でも!」 口ごもるルイズ、前方には迫り来るゴーレム。 「ルイズは『ゼロ』ではない」 と、隣で呟くように言ったチーフ。 驚きながらもその言葉に同意したのはキュルケ。 「そうね、ダーリンを召還したんだから、ルイズはもう『ゼロ』じゃないわ」 「キュルケ……」 「ほら、杖を構える!」 「え、あ」 キュルケがルイズの腕を取り、杖をゴーレムへ向けさせる。 「狙いはゴーレムの胸だ」 杖先はゴーレムの胸部へ。 「さあ、集中」 「うん」 瞼を瞑るルイズ。 「全力で唱えなさい、貴方の魔法を」 瞼を開くと同時に唱えた。 「すぅーーー」 息を吸い込み、魔法を唱えた。 「ファイアァァァァボォォォーール!!!」 一瞬、ゴーレムの胸が凹んだが何も起こらない。 「失敗……?」 迫るゴーレム、高く上げられた足は寸分違わず自分達の下へ降ろされる。 終わりだ、と悲観したキュルケだったが。 「いや、成功だ」 チーフが言うと同時にゴーレムの上半身が凄まじい爆発を起こして吹き飛んだ。 地面が揺れ、響き渡った轟音が鳴る、爆発は激しい閃光を生み、暗く染まった学院を染め上げた。 「す、凄いわね……」 目前で大爆発を起こし、その突風で煽られながらもあまりの威力に驚くキュルケ。 確かに、戦車砲並みの破壊力。 多少の爆発遅延があったが、個人が扱える魔法の中でもトップクラスの威力があることは間違いない。 そんな思考の中、落下する土片の中にフーケを見つけたキュルケがレビテーションを掛けていた。 「ね、ねえ、しししし死んで無いわよね……?」 ゆっくりと降りてきたフーケを見てルイズが言った。 「死んでない方がおかしいわよ」 ど、どうしよう! と困惑するルイズ。 火系統のキュルケが見たことが無いほどの大爆発。 その爆心地近くに居たフーケが生きていればそれこそ奇跡だが。 「と思ったけど、生きてるっぽいわね」 微かな呼吸、恐らく衝撃で気絶しただけのようだ。 (見た目ほど威力は無かったのかしら?) 失敗したのにこの威力、正しく成功させて居たらどれぐらいの威力になっていたか。 想像を超えるルイズの今だ開かぬ才能に冷や汗を流した。 「ん」 目が覚めたタバサ、空ろな瞳には落ちる土破片が映っていた。 「タバサ、大丈夫?」 タバサの額から流れていた血をぬぐうキュルケ。 「大丈夫、ゴーレムは?」 「ルイズの魔法で吹き飛んだわよ」 失敗魔法しか出来ないルイズがゴーレムを吹き飛ばした? 30メイルはあるゴーレムを? 「本当?」 「うううそじゃないわよ! 私が吹き飛ばしてやったんだから!」 「本当?」 「ええ、かなり凄かったわよ」 その言葉を聴いて納得した。 ルイズがあのゴーレムを吹き飛ばしたのは真実だと。 自分の魔法ではあのゴーレムを破壊するどころか、小さな傷を付ける程度しか出来ない。 そう考えてほんの少し、ルイズの魔法の攻撃力に嫉妬していたタバサだった。 「すごい」 「え、あ、ありがと」 「まぁ、ともかくさっすがはダーリン!」 「ちょぉ! なに人の使い魔に抱きついてるのよっ! それにゴーレム壊したのは私なんだからねっ!」 「感謝」 キュルケはチーフに抱きつき、ルイズはそれを見て激怒、タバサは軽く頭を下げていた。 「なあ、相棒。 俺は『剣』なんだぜ……?」 騒ぐ3人を他所に返事も返されず、本来の用途で使用されなくて落ち込むデルフリンガーだった。 前ページ次ページ虚無と最後の希望
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7640.html
前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-19「生命」 ゆっくりと、気づかれぬ様足音を忍ばせて目標が居る部屋へと進む。 迫る影は六つ、左右二手に分かれているその全てがメイジ。 一歩、二歩、三歩と忍び寄る。 杖を引き抜き、いつでも呪文を詠唱できるように構える。 ただ無言、命令を忠実に実行するだけの人型。 それらは人間でもガーゴイルでもゴーレムでもない、死して動く肉、『人間だったもの』。 故に忠実、これらは死した人間に強力な水の魔法を掛けて使役する道具。 不要なもの、人を彩る感情などを極限までそぎ落とす。 残るのは生前の戦闘技術と、命令に対しての絶対服従。 命令されればなんとしてでも遂行する、今回命じられた事も同じくだ。 明確な殺意を持ってにじり寄る。 目標は『ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド』と『ガンダールヴ』。 特徴を学び、命じられたのは殺害。 鋭い武器、杖でもある得物を持って迫る。 その杖を、目標へ突き立てんと。 そうして踏み込む、部屋の中にいる存在を殺すために。 一人がドアを蹴破り室内へと突入、それに続こうとさらにもう一人がドアを潜ろうとすれば吹き飛ばされた。 突入した最初のメイジが室内を確認したと同時に攻撃を食らった、首に掛かる強烈な負荷の正体はマスターチーフの右手。 室内に入り込んできたメイジの首を掴むと同時に、ドア枠と壁をぶち抜いた。 土埃を舞い上げながら、瞬時に敵の位置を確認する。 右手に掴む男の首を絞める、軽く500kgを超える握力で瞬時に意識を落とそうとするが。 首を掴まれるメイジは平然とチーフの腕に組み付き、重荷になる様に纏わりつく。 不自然だった、これまでのチーフの経験からすればとっくに意識を失っている力の込めよう。 生態医学などにも則った意識の飛ばし方、類似点も極めて多いハルケギニア人にも問題無く通用すると思っていた。 「!」 デルフリンガーを床に叩き付けるかのように振るい、飛び奔って来る火の弾を打ち落とす。 火の弾の大部分をデルフリンガーが吸い取り、残り漂う火の粉を散らしながら駆けた。 右腕に100キログラムも無い人間が纏わり付いただけで、魔法によって強化されたチーフの足を緩めることはできない。 走りこんで来るチーフを見て、迎撃の魔法が間に合わないと踏んだメイジは杖を構えチーフを迎え撃つ。 その判断は正しいのだろう、チーフ以外の相手には。 迎え撃つメイジが繰り出す突き、槍のように構えるデルフリンガーで簡単に切っ先を逸らされ右腕に組み付いていたメイジで殴り飛ばす。 拳ではなくしがみ付くメイジの頭を、突きを繰り出してきたメイジの腹へと叩き込む。 殴り飛ばされ転がるメイジ、だが問題ないと言わんばかりに腕にしがみ付いたままのメイジ。 振り解こうとしても離れず、強引に解き放つ手間が惜しい故にそのままで次のメイジへと振り返る。 振り向いた目の前には巨大な石の拳、一気に盛り上がって廊下の天井ぎりぎりまで腕を形作り、振り下ろしに近い打撃。 予想外の盲点、魔法と言う非常識に地球人類の常識を当て嵌めた愚考。 10メートルや20メートルもある土や岩の人形を作り出せる事を知っているのに、それを使用する場面が広い場所だと誰が決めた。 それは限定用途、巨大な人形の腕だけを城を構築する材料で作り上げて敵を攻撃する。 3メートル以上もの巨大な拳が、マスターチーフを殴り飛ばした。 普通なら即死、大型の車に撥ね飛ばされたと同等以上の衝撃。 だが食らったチーフは普通ではない、遺伝子学的、生物学的に、非人道的で過酷な身体強化を施され、人間にしては尋常ではない耐久力を発揮する。 さらに身体を守る最新鋭強化複合装甲戦闘服、ミョルニルアーマーのエネルギーシールドがキャパシティ限界まで衝撃を和らげる。 アーマーの表面に、エネルギーシールドが限界を超えた証の小さな閃光が何度も弾ける。 以前のチーフならば死にはしないが耐えきれず気絶、意識を手放していた可能性が極めて大きい。 ……以前のままならば、だが。 この惑星に来てから目の辺りにした不可思議な現象、魔法の力によってマスターチーフと言う存在の力は全てが底上げされていた。 武器を言う道具を持てばすべての能力が跳ね上がる、自身の身体能力からミョルニルアーマーの性能を問わず。 有機物も無機物も、問わず武器を持つマスターチーフの全ての限界を優に突破する。 故に耐えられる、失神せずに耐え切って受身を取れた。 だから気づく、右腕に組み付いていたメイジの残骸を。 それはクッションになった、巨大な石の拳とマスターチーフの間に挟まれ僅かばかりだが衝撃を和らげた。 下半身は潰れて原型を留めず、背中も大きな損傷を受けているメイジ。 致死、確実に生きていないはずのメイジは恐るべき事に今だチーフの右腕にしがみ付き、変わらず眼球が動き視線を向けてくる。 明らかなる異常、生物に寄生したフラッド並みの恐るべき耐久力。 しかしながら限界であったか、腕から力が抜けて嫌な音を立てて床に落ちた。 「………」 攻撃ばかりに目が行っていたが、メイジとはこれほどまでに耐久力を上げられるものか。 認識を改めながら巨大な腕の攻撃範囲の外へ逃れる。 離れればひびが入り自重に耐え切れなくなったのか、崩壊して出来上がった瓦礫の山。 むしろ破壊して材料を使いまわしたのか。 そこから盛り上がって立ち上がるは高さ2メイルほどのゴーレム、一体二体三体と増え続けて二桁を超える。 廊下の端から端まで隊列で揃え、床から引っ張り出すように槍を手に取る。 多少なりだが装飾もされていて、簡素な石人形が鎧や兜を着けているような姿。 そのゴーレムたちが一列に並んで槍を構える、その後ろのゴーレムも槍を持ち一列目の隙間から槍を突き出す。 整列して槍を構えるゴーレムは全く同時に一歩踏み出す、その規則正しく整った姿はギーシュのものと比べ物にならない。 ゴーレムが作る隊列の向こう側、そのさらに奥では子爵が残りのメイジと戦っているらしい。 デルフリンガーを握り直し、腰からフラググレネードを一つ手に取る。 港町で戦った傭兵たちより数段厄介、あの隊列を抜けるのは少々骨が折れる。 だから一つの武器、『M9 HD-DP Frag Grenade』と命名されている破片手榴弾の使用を決断する。 ピンを親指に掛けて思う、やる事は何時も一つ、敵陣を突破して目的を達する。 このメイジたちを打倒して、脱出退路を確保しながらクロムウェルを捕縛する。 ただそれだけ。 「………」 足並みを完璧に揃え、距離を詰めてくるゴーレムの戦列。 一瞬だけフラググレネードに視線を落とし、ピンを抜く。 駆け出しオーバースローにて、ゴーレムの足元へ叩き付けるように投げ付ける。 ゴーレムたちはそれに反応するが、攻撃ではないと判断したのかすぐに槍を向け直してくる。 常識の範囲外、手に収まる直径7cmほどの丸い物体がどうして爆発して人を優に殺傷できるだろうか。 ガンっと床が割れそうな音を立ててきっちり一秒、グレネードが爆裂すると同時に複数のゴーレムが吹き飛ぶ。 破片の直撃で四肢が欠損する物や、爆風に煽られて転倒する物、そうして戦列は容易く崩れた。 戦列に開いた穴に飛び込む、無事だったゴーレムが機敏に反応して槍を突き出してくるが、その突きを上回る速度でデルフリンガーを振り下ろして槍を叩き折る。 そうしてバランスを崩したゴーレムへすれ違いざまに右拳を叩き込んで殴り飛ばす、そんな様子に人形が戦くわけでもなく一本二本と次々と突き出してくる。 厳しい訓練を耐え抜いた兵を超える突きの速度、しかし狙われる者は人間を超える身体能力と技術を持つコヴナントから『悪魔』と恐れられた戦士。 その上魔法で強化された身体能力を持ってすれば、それこそ余裕を持って、確認してから避けられるほどの反応速度。 迫る槍の一突きを意図も容易く捌いて跳躍。 前列のゴーレムたちを乗り越え、後方のゴーレムたちを作り上げたメイジへと一気に迫る。 無論それを易々と認めるわけがない、進路を防ぐようにゴーレムが立塞がるが、突きを繰り出す前に接近、高速でデルフリンガーを振り下ろして破壊する。 その槍兵の後ろには手堅く剣を握ったゴーレム、同じ体格で同じ武器。 鍛え上げられた人間を上回る膂力を持つゴーレムに、60トンを超える主力戦車を引っくり返せる膂力が襲い掛かる。 結果は言わずもがな、デルフリンガーの切っ先がゴーレムを通した後、廊下の床にめり込むほどの力で破壊された。 馬鹿げた腕力で粉々に砕かれた一体のゴーレムを他所に、目前に迫ったメイジへとデルフリンガーを切り上げる。 狙いは杖、右手に持っていたレイピアの頭を打ち跳ね飛ばす。 そのまま流れ顎を捉える振り抜きのアッパー、顎の骨を砕きながらメイジの体が縦に一回転して倒れ伏す……はずだった。 四つんばいになりながらも受身を取り、そのまま駆け出し体当たりを敢行する。 そのような不安定な体当たりなど当たるはずも無く、足を掴もうとしてくるタックルを切って腹に膝、肩に肘を打ちつける。 激しくうつ伏せに倒れるメイジ、それを飛び越え廊下の奥、子爵の元へと走る。 その間にエネルギーシールドのリチャージが完了して、見えぬもう一つの鎧を再度纏う。 そうして駆けつける先、子爵と二人の倒れるメイジ、いまだ対峙して子爵へと攻撃を繰り出すもう一人のメイジ。 その姿は苛烈、血が噴出し半ばまで切り裂かれた首、縦に切り裂かれて二本になった右腕、腹を切り裂かれ腸が飛び出している。 「このメイジたち、おかしいぞ!」 チーフに気づいて叫ぶように言う子爵、先ほどのメイジと同じように異常なほどの耐久力。 もう『死んでいて当然の傷を負う』メイジたちが、いまだ攻撃を加えている。 魔法の力ではないのか、致死の攻撃を受けてなお動き続けるメイジたち。 「まさかこやつら!?」 子爵が気づいたように、閃光の二つ名に恥じない速度で魔法を詠唱、振り下ろすと同時に風の刃が走り、敵メイジの首を完全に切り落とした。 そうしてようやく止まる、司令塔である頭部が落ちたためにバランスを取る事無く仰向けに倒れた。 倒れているもう一人のメイジも、腕や胴に酷い怪我を負っていると言うのに立ち上がろうとしている。 「……この者たちを知っている、クロムウェルの虚無の魔法によって……」 そう呟き、風の刃を撃ち出して起き上がろうとしていたメイジたちの頭を割る。 腹を割ろうが腕を切り落とそうが、その程度の怪我では動きを止めることは無い。 つまりは……。 「……生き返されたメイジか」 振り返り、先ほど打倒したメイジたちを見る。 それは礼拝堂で子爵が言っていた、虚無の魔法で蘇ったメイジたち。 腕に取り付いていた、押し潰されたメイジはさすがに動いては居ないが、殴り飛ばしたメイジと顎を砕いたメイジが立ち上がっていて魔法を詠唱していた。 それは凶悪だった、怪我を怪我とも思わないメイジたち。 頭部を切り落としたり砕いたり、それほどの攻撃を加えなければ倒せない兵。 普通の感性で見れば恐怖を覚えてもおかしくは無い。 しかしながらチーフにとってしてみれば、痛みなどで怯まなくなった人間程度の変化でしか無かった。 そこに死んでいると言う事実の付加は、相手に対するマスターチーフの手加減を止めさせる条件でもあった。 このメイジたちは一体どう言う存在か、そもそも対峙してから一度足りとも表情に感情を浮かべたか? たった一言でも声を漏らしたか? 否、常に無表情で常に無口、どのような怪我を負おうとも大声を上げて痛みに苦しみ、床に転がり回ることが一切ない。 これは如何に厳しい訓練を通そうとも、完全に感情や痛覚を消せるものではない。 過酷にして苛烈な訓練を耐え抜いたマスターチーフですら完全に消し去ることはできない。 医学的処置により痛覚を除去したり、魔法で心を完全に縛れば可能かもしれない、魔法があるこの世界では後者の可能性の方が高いだろうが・・・…。 その推察、当たっているか外れているかは分からない。 そもそもの前提、このメイジたちは『すでに死んでいる人間』だと言うことか。 死んだ人間を生き返すことなどマスターチーフの世界の医療技術でも不可能。 ハルケギニアの常識でも死んだ者は生き返らない、ならばこのメイジたちは一体どんな状態なのか。 勇猛果敢に戦い散っていった者たち、己の誇りと名誉を示すために死んだ者たち。 謳われるべき英霊、そんな彼らが認められぬ敵に蘇らされ、まるで手足のように操られる。 どれほどの悔しさか、死んでも死に切れない程の、煮え滾る辛苦を味遭わされる。 苦痛の極み、そのような苦しみから解き放つことは出来ないのか。 「───」 ならば二度と蘇らないようにするべきか、良い様に使われる事無いように安らぎを与えるべきか。 そうすると決めたからには駆け出す、不可思議な魔法の力によって強化された身体能力は、20メイル以上ある距離をわずか1秒という時間で埋める。 石のゴーレムが同じように槍を突き出すが、デルフリンガーの豪速の振りで纏めて圧し折り。 まるで戦車のように困難な悪路を平然と突破する、その道中にある障害物を跳ね飛ばしながらだ。 つまりは邪魔なゴーレムは一度のタックルで複数吹き飛び、障害が無くなればもとより一直線。 迫り振り上げるデルフリンガーで繰り出した攻撃は凶悪の一言、切れ味など殆ど無い錆びたデルフリンガーを振り下ろされ、杖で受け止めようとしたメイジに、杖ごと押し込められて致命的な一撃を与えた。 正しく重大な損傷、皮膚を抉り、鎖骨を叩き折り、心臓を潰し、肋骨を砕き、背骨をへし折り、軌跡上の五臓六腑を悉く押し潰し、逆袈裟懸けに人体を両断した。 骨が折れる音、肉が潰れる音が止み、オーバーキル、過剰攻撃とも思える攻撃をもって攻撃が完了する。 ビチャリと血肉を撒き散らしながら、衝撃のあまり両断されたメイジが激しく転がり壁にぶつかった。 そのまま斜め前に走りこむ、火の弾を打ち出してきているもう一人のメイジへと接敵。 右から左へ振り払って火の弾を打ち消し、踏み込みの逆の軌跡を持って一閃。 超高速のデルフリンガーの打撃、右側頭部から強かに刀身で殴りつけられ、首から上を叩き飛ばした。 激しく頭部が廊下の壁に叩きつけられ、それによって血が壁や床に飛び散り、白を基調とした城の廊下を紅で彩り、そうして首から上が無くなったメイジは倒れた。 「……こんなものが、こんなものが虚無だと言うのか!!」 そうして生き返されたメイジを打ち倒してから一息、その背後から憤りが大多数を占める叫び。 その声に振り向けば、怒りの形相で立ち尽くす子爵。 憤慨、人を生き返らせると言うのは感情を無くして動く人形。 認められるはずは無いと、子爵は激しい怒りを浮かべていた。 死んだ人を生き返らせる、それはまさしく究極の夢。 だが現実は死して動く肉、思い描く夢とはあまりにもかけ離れたモノ。 「こんなものを、私は求めていたのか……」 子爵がどのような幻想を抱いていたかは知らないが、幻滅するには十分な事実であったのだろう。 伝説と謳われる始祖ブリミルが扱った虚無、確かに今現在の貴族が使う魔法とは一線を画している。 間違いなく強力な魔法だ、このような存在が増えれば間違いなく厄介所か極めて危険な状態だ。 寄生虫、フラッドとも通じる、戦って死んだ者が乗っ取られて敵として襲ってくる。 戦いになれば必ず犠牲者が出る、そしてその犠牲者が取り憑かれ異形の化物になって襲ってくるのだ。 減ることがない敵、それは肉体的にも精神的にも大きな負荷を掛けることとなる。 そして味方が、さらには自分の友人などだったりすればなお更だ。 現に子爵の顔色は悪い、間違いなく今の戦いで疲弊したのだろう。 6名のメイジを全て葬り、血の付いたままのデルフリンガーをそのまま腰に据える。 「拭くもんが無いとは言えね、そのままはいやな訳よ」 とデルフリンガーはすごく遺憾だと鍔を鳴らして喋る。 拭くのも良いが、まずは移動する方が先だ。 顔を伏せていた子爵に近づき、肩に手を置いて移動しようと促す。 「……悔いる暇は、ないか」 歩き出し、その後に子爵が続く。 落ち込むのは無事に帰還してから、今は任務を完遂する事が第一。 やるとするならば、クロムウェルを捕獲なり暗殺するなりして、二度と使わせない様にする事だ。 部屋の前の惨状をそのままに、二人は走り廊下の先にある階段へと向かう。 時間が経って戻ってこなければ失敗したと判断され、増援が送られる可能性が高い。 もうすでに送られている可能性もある、故に素早く動いて退路の確保を目指す。 目指すのは階下、城の上階に脱出するための風竜が居たり、クロムウェルが居たりはしないだろう。 そうして走る廊下は人気が無い、レコン・キスタが制圧したにも拘らず人気が全くと言って良いほど無い。 それが不気味、窓の外には竜が飛び交い、城の外ではレコン・キスタ軍がキャンプを張っている。 あのようなメイジを差し向けてきた事から、向こうは当然こちらを殺そうとしてくるはずだ。 なのに人気が無い、城の外に居る兵を使えば間違いなくこちらは苦戦し、いずれは殺されるだろう。 そうしないのは理由があるからか、やはり迂闊に決め付けるのはよくないが……。 「たった二人相手になぜ畳み掛けない? 確かに手練れのメイジ6人を打ち倒したとは言え……」 子爵も同じ疑問を持つ、ここで手を抜く理由が分からない。 そもそも先の生き返されたメイジをもっと送り込めば、あの時点で決着が付いていた可能性も大きい。 過小評価か、あるいはそれを適切だと思ったか、どちらにしろ生きて今ここに居るのだから良しとするべきか。 疑問が残るとはいえ、実際問題敵の影一つすら見えない。 「……予想してたとは言え随分と過酷だったな」 「そうでもない」 モーショントラッカーと視界と音、すべてに警戒を払いながらも廊下を歩き続ける。 そう言って否定するマスターチーフが赴く戦場は、その殆どが困難と言える。 敵に包囲されている、孤立無援、敵本拠地など、最精鋭特殊部隊隊員として最も苛烈で過酷な戦場へと送られる。 数名のサポートが付く、強力な武器が支給される、支援を受けられる、どれか一つでも付けば御の字と言えるほどだ。 故にマスターチーフからして見れば、この状況は一般的な海兵が通常の戦場に送られる程度のものと変わり無い。 「問題はクロムウェルがどこに居るかだ」 無論死ぬ気など無いために、必ずこの状況の打破、そして目的の達成を考える。 少なくとも城内には居ないだろう、居るとすれば城の外のレコン・キスタ軍のキャンプ。 「どうやって向かう? 正面からはさすがにチーフでも無理だろう?」 「できない事はないが……」 万の兵とは言えその殆どが剣や槍、銃より断然短い射程と速度の弓矢。 魔法についても威力はあるが弓矢より射程距離が短い、範囲攻撃の類で無ければ十分切り抜けられる。 その時その時で的確な判断が求められるだろうが、不可能ではないと考えるチーフ。 相手の武器が近代兵器、銃などであったなら切り抜けるのは不可能だと考えるが。 「……出来るのか?」 「不用意にメイジの一団に近づかなければおそらくは可能だ」 増しては不可思議な魔法の恩恵を受けていることから、効果がずっと続くならより可能性は上がる。 そうワルドに言うチーフ、言われたワルドは驚きに目を剥いている。 「やらない事に時間を費やしても意味が無い」 出来ない事、では無くやらない事と断言する辺り、やれば出来ると言う自信が垣間見え、より驚くワルド。 「子爵を置いていく事になる、それでは意味が無い」 チーフ一人であったならやっていたかも知れないが、ワルドは付いて行けないだろう。 ワルドも五体満足でトリステインに戻る必要があるためだ、置いてけぼりになれば間違いなく捕まって殺され、あの生き返されたメイジのようにされるだろう。 「まずはクロムウェルだ」 「……ああ、確かに」 廊下の窓際に寄り、外を覗く。 広がるのは青空と平原と、その平原に陣取るレコン・キスタ軍。 「子爵」 「……普通であれば、あの一際大きな天幕だろうな」 窓の外の陣地、万の兵が蠢く平原の中、ほかの天幕より一回りも二回りも大きな天幕。 直線距離で2リーグはあるだろう距離でも見える大きな天幕だ。 「走って行くのは不可能……、空でも飛ぶか?」 冗談半分で言う子爵。 それを聞いてチーフは一つの考えが思い浮かぶ。 「……そうするか」 「なに?」 その言葉を本気で取るとは思っていなかった子爵。 ここ数分で何度も驚く子爵に、向き直って自分の作戦を聞かせた。 「……馬鹿な、失敗すれば死んでしまうぞ!?」 「問題無い、慣れている」 声を荒げる子爵に淡々と返すチーフ。 「普通に行けば十中八九やられる」 「だからと言って……」 「死にはしない、お互い生きて帰らなければならない」 「……わかった、この命預けよう」 覚悟の込められた視線をチーフに向けるワルド。 『普通』で駄目なら『普通ではない』方法を取るだけ。 この男、マスターチーフにとって普通ではない事は幾度も経験し、『慣れている』。 伊達に博打の様な作戦を何度も成功させてきた訳ではない、故に今回の作戦も『普通ではない普通』、チーフからすればごく普通の作戦であった。 前ページ次ページ虚無と最後の希望
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8391.html
前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-27「芽」 『同等のサイズでの有機生命体としては異常な身体能力です、一部の能力値だけで見ればエリートやブルートをも凌駕しています』 ブリッヂにてモニター越しにカッターと話すアンダース教授。 作戦の為編成していたスパルタンとODST大隊が解散してから一時間、アンダースから連絡が入った。 『筋繊維の密度が非常に高く、正確な筋力測定が出来るならば驚異的な数値を弾き出すでしょう。 そのため膨れ上がった筋繊維が各関節の可動範囲の低下を招き、人間と同じ動きは十全にこなせないでしょう』 肥大化している筋肉と筋肉が干渉し、腕や足の間接が一定以上曲がらないなど弊害。 だが瞬発的な動作を可能とする速筋が多い上、持久力に富んだ遅筋も多く見られるとのこと。 しかし流石に人体強化手術を受け、さらに身体能力の向上と防御力を上げるアーマーを着たスパルタン相手では力不足。 さらには三対一、エリートやブルートの中で非常に優れた者たちでも早々勝てないだろう。 『それに皮膚も異常なほど厚く、強靭で柔軟性に富んでいます。 恐らくは威力の弱い銃弾ならば皮膚で止められるでしょう、睡眠導入薬の銃弾が弾かれた原因もこれです』 つまり時間限定ではあるが素早い動きも出来、強力な膂力と持久力と耐久力を備えていると言う事。 足を止めた殴り合いで絶対に当たると言う条件ならば、アーマーを着込んでいるスパルタンやエリート、ブルート相手でも殴り勝ってしまえるとアンダースはカッターに告げる。 無論そんな出来すぎた状況などありえませんが、とも付け加える。 『見た目の通り知能のほうは余り高くはないと思われているかもしれませんが、片言ですが人語も操っています』 人間ほどではないが言葉を操り、道具を利用する牛頭の知能は低いと言えるほどではない。 この身体能力で人間並みの知能を持てば、かなりの戦闘能力を有することは明白。 「教授、この原生生物が普遍的に存在していると思うか?」 『なんとも言えません、推測するにしても情報が少なすぎます。 この森に限定したとしても最低で森林全域を調査しなければ信用できる統計を出せません、ですが調査を行うだけの人員や時間もないかと』 ごく普通に、広い範囲で生息していれば厄介な事この上ない。 その上それを調べる時間も無い、それでも調べる事を選べば動きが必ず大きくなってしまう。 『生息数は少数かもしれませんし、多数生息しているかもしれません。 火器無しでの対応は非常に難しいでしょう、ですが……』 確かな事は言えない、だが多くても少なくても火器を有さない一個体としては非常に危険な生物。 三対一だったとは言え、スパルタンでも素手で戦うのは避けたほうが良い存在。 だが火器、それこそハンドガン一丁でも十二分に対処できるとアンダース。 『それにこの惑星上の人間は駆除方法を持っていないとは考えられません、現にあの非科学的な魔法とやらは脅威に値します』 隔離施設がない艦内でバイオハザードを起こさないよう、アンダースが居るその部屋に通じる通路に気密を保つよう隔壁を下ろされた場所。 もし何かあった時の為に傍に宇宙服にもなるアーマーを着たスパルタンを控えさせ、その部屋から科学防護気密服を着たアンダースは答える。 竜巻や巨大な火の玉、氷で出来ている矢の雨など戦術兵器に匹敵する。 流石に戦車やバルチャーほどではないが、一個人が可能とする攻撃としては破格の威力と範囲。 魔法を使用するために必要なものは? 連続で撃てるのか? またどれだけの種類があるのか? そんな疑問は尽きない。 「確かに……。 教授、この機にこの惑星の人間と接触しようと考えているのだが、教授はどう思う」 『……本来なら十分な観察期間が欲しいところですが、余りゆっくりしている時間は無さそうですね』 「そうだ、やれる事は出来るだけやっておきたい、彼らが戻ってくれば動きにくくなるだろう」 『確かに、リスクを恐れていては何も手に入らないでしょう。 ですがまず接触する相手を僅かながらでも調査してからのほうがより安全かと』 「行動範囲は広げる、特に通信可能距離に重点を置くが、この惑星の人間の情報もある程度の欲しい。 調査の人員を選定しなければならんな」 『それならば、戦闘を想定して軍事的な行動も必要になるかもしれません。 向こうが話し合いに応じないなら、ですが』 「コヴナントとは同じでなければいいが」 何はともあれ、広域での行動の生命線とも言える通信を何とかしなければ満足に動く事すら出来ない。 「セリーナ、今現在周囲に人影はあるか?」 『識別不能です、こちらをご覧になれば一目瞭然かと』 そう言ったセリーナは、スピリット・オブ・ファイア搭載の各種複合センサーにて広域を調べた情報を映し出す。 「……見分けが付かんな」 カッターが見るのは艦周囲の動体反応や熱源など、それらを統合して『生物と思わしき』反応が表示されたモニター。 画面全体に数十にも重なる黄色い点で全く持って判別できない、割合としては黄色の光点が6、反応がない箇所が4と言ったところ。 探査範囲を狭めても『人間かどうか』の判断も難しい。 「人間が出しえない速度や小動物などは除外したか?」 『既にフィルターを通しています、それでこの数ですから犬頭や豚頭がかなりの数が存在しているのでしょう』 艦の周囲500メートルの端に百以上の数の光点が点滅していて、スパルタンやODSTが降りる前よりも数が増加していた。 『光学観測で犬頭と豚頭は何度か捉えましたが、この惑星の人間は団体が引いてからは確認していません』 「………」 カッターは考える、確かに情報を集め敵対されるかどうかの確認だけはしておきたい。 それを行うには通信距離の拡大を図る必要がある、つまり動くにしたらなんにしても通信を確保するのが先。 「podは流石に無理か……」 カッターが呟いたのはpod重輸送機、スピリット・オブ・ファイア両舷に固定されている簡易軍事基地の運搬から設営させる為の大型輸送機。 人や資材を運ぶ普通の輸送機とは違い、基地と言う建物をそのまま運ぶ航空機。 短時間かつ簡略的に防衛から車両や航空機を製造できる基地を設営できる為、慣らされた広いスペースが必要となる。 出来るだけ平坦で岩や木が無い空間、今現在の森の中であるためにそのような場所は存在していないしその空間を作る時間もない。 となれば。 「セリーナ、艦周囲に中継器を設置する。 ペリカンを用意、護衛機にホーネットもだ」 「了解、各員に通達します」 決断したカッターは、セリーナからモニターのアンダースに視線を戻す。 危険を恐れていては手詰まり、戦闘をしなければいけなくなる可能性も大いにある。 出来れば艦が攻撃に晒されず、長期間コールドスリープにつける猶予が欲しい。 次善ではやはり戦闘を行う事無く、帰還できないのであればこの惑星の知的生命体と友好的に過ごせるようにしたい。 「難しくともやらねばならんな」 でなければ、死んで逝った者たちに申し訳が立たない。 薄暗いブリッジでカッターは腕組みをしてそう考えていた。 その後、埋没式の通信電波中継器をいくつものペリカンに積み込み、護衛機のホーネットを伴って空へと飛び立っていく。 セリーナが最適な位置を割り出し、そこに次々と設置していく。 その設置作業全てが順調、と言うわけも行かない。 ペリカンから投下される中継器が天井を作る木々の枝などで軌道がずれ、岩の上に落下したり太すぎる木の根で傾いたり。 設置ポイントを確保する際に、どこからか現れ襲ってきた犬頭の群れとの戦闘。 そうして一人の男、部隊長が叫んだ。 「火器使用自由!」 ODST隊員が一斉に掃射を放ち、瞬く間に犬頭の群れは屍を築き上げる。 コボルトたちは侮っていた、自分たちの縄張りで空を飛び大きな音を立てるモノから降りてきた人間たち。 黒い鎧などで身を固め、縄張りを動き回る愚かな毛無しザルどもを殺しつくしてやろうと。 そうして動き出して襲い掛かる、だが現実はコボルトたちが理解できない状況を作り上げていた。 黒い兜と鎧で身を固めた人間たちが持つ短い鉄の塊の先から鈍い音がした瞬間、群れの一角が崩れ去った。 僅かな出血と倒れていくその状況、見る間に減っていく群れ。 この森で弱者に入るコボルドを率いたコボルド・シャーマンは優れていた、弱肉強食の掟に従ってコボルドの群れを大きなものへと拡大させる事が出来た。 己が指揮を取ってオークなどを打ち倒してきた、そう自信を持つだけの戦いを経験してきた。 だからこそ生まれた慢心、耳障りな大きい音を立ててうろつく奴らを叩き潰してやろうと。 だが目の前にした相手は次元が違う、この惑星上では存在しないだろう強力な武器を持った文明人。 可笑しな形をした金属の塊から奇妙な音が鳴った瞬間には、ばたばたと前衛のコボルドたちが倒れていく。 その光景を見て統率者であったコボルド・シャーマンが慌てつつ報復の魔法を放つ、それは稲妻と呼ばれる精霊魔法。 人間のメイジが使う高位の風魔法と同名の、スクウェアメイジが使用するライトニング・クラウドに勝るとも劣らない電撃がODST隊員たちを貫いた。 眩い閃光を放ち一瞬で距離を埋めコボルドの群れから一番近かった隊員を貫いた後、次々と伝播して打ちのめした。 稲妻が通り過ぎて僅か一秒、ぐらりと隊員たちが倒れ伏す。 それを見てコボルド・シャーマンは精霊魔法の威力に慄き愚かな人間たちは逃げ去るだろうと、つい先ほど起こった光景を考慮せずに考えた。 そんな何の確証も無い考えの代償はコボルド・シャーマンの命、それはODST隊員たちが放った弾丸の雨。 短機関銃やサプレッサー付き拳銃から放たれ、腹、胸、そして仮面を被る頭を貫いて絶命させた。 血を流して倒れる群れの長、そしておかしな音と共にバタバタと倒れた仲間のコボルドたち。 その異様に生き残っていたコボルドたちは慌てて逃げ出すも、誰一人一匹も逃げられる事は無く、真夜中の森に抑制された銃声が何度も鳴り続けた。 数分と経たず犬頭の群れを殲滅して戦闘が終了し、すぐさま倒れるODST隊員たちに駆け寄って無事かどうか確かめるも。 稲妻に撃たれた五人のうち、順番に撃たれた最初の二名は既に事切れ、残る三人も意識が無く拙い状態だった。 出来るだけ早く倒れる隊員たちをペリカンへと引っ張り上げ、救命活動を行いながらもスピリット・オブ・ファイアに帰還して救護室に送り込む。 だが結果は空しく、事切れていた二名は蘇生する事無く、さらに三番目に稲妻に撃たれた隊員も命を落とした。 残り二名は意識を取り戻すも、随意運動への影響や熱傷などの負傷で最低でも数週間は動けない状態だった。 傷付いた者はそれだけではなかった、他のポイントに設置しに行った隊員たちもなんらかの原生生物に襲われて負傷者と死傷者が二桁に及んだ。 戦いとなれば全滅も良くあるコヴナント、エイリアンたちとの銃撃戦よりも被害は圧倒的に少ないが、それでも被害は被害。 この報告を受けたカッターはすぐさま慰霊の葬儀を行い、療養中のクルーを見舞った。 中継器設置作戦の成否を問えば成功と言える、予定した数の九割以上は設置に成功した。 ODST隊員の尽力により通信可能距離は一気に増大し、艦の周囲百キロ余りの拡大を図ることが出来た。 その後通信可能距離が拡大し、時間が無いと仮定して動く。 二日、三日と時間が経ち、順調に設置が完了していく。 その中で懸念にあったこの惑星の人類、その姿を一行に見せなくなったのが非常に気がかりと言えた。 何故再度調査に来ないのか、向こう側から見れば巨大すぎる未知の物体を放置しておく理由は無いだろう。 考えられる理由が調査団の協調性の無さ、一国のみの調査団ではないことは簡単にわかった。 複数の国から派遣された調査員がこの土地を治める調査員と揉めた、あるいはその上位である国同士のいざこざになった可能性もある。 それを確認できるだけのものが無い、軍事衛星でもあれば打ち上げるのだが、その役割は本来スピリット・オブ・ファイアが負う役目。 衛星軌道上から支援を行う存在が、地表で横になっているなど意味が無い。 よって出来るのはペリカンなどの航空機で大気圏まで上がって、地表を映像で捉える位しかない。 あるいはこちらも原住民に扮して接触していく、その位しか選択肢が無い。 光学映像で人の姿を確認できないとなれば、ある程度派手に動いても目を付けられにくいのではないか? 無論派手と言ってもMBTの主砲や航空機のスパロウホークが持つレーザーを撃ち放ったりする訳ではない。 人員や物資の輸送に使うペリカンの推進噴射光や音の事で、恐らくはこの惑星の人類が目撃するにはそれなりの距離に近付かなければならない。 音はともかく光を発しない、数名の人員輸送でならスパロウホークでも出来る。 徒歩による森を横断、と言うのもあるが流石に危険すぎる。 森は広大で航空機を用いなければ軽く数十日は掛かると予想される、人命と帰還の両方を取らなければならないために徒歩で横断などは決して選べない。 そうしてカッターはアンダース教授などと相談して今後の活動方針を決めていき、ついには森の外まで通信距離を伸ばして夜な夜な発見した村などに偵察を送り込む。 会話の盗聴から生活水準などの観察、プライバシーを覗き見るような事を行った末に多くの情報を掴んだ。 この大陸の名称はハルケギニア、国は大小さまざまに別れこの土地を治める国はトリステイン。 西の海上には空に浮かぶアルビオン、東にはゲルマニア、南にはガリア、そのガリアの向こう側には寄り集まった都市で国を構築するロマリア。 「宗教国家か、拙いな」 そう呟いたカッター、地球人類にとって宗教を立てる存在には苦い記憶しかない。 神の啓示か異端は滅ぼさねばならないと、宗教的、軍事的連合であるコヴナントとの戦いにより地球発祥の人類はその数を激減させた。 その戦争による死傷者は数百億に上るとされ、如何に地球人類が劣勢であったかを示す一つの情報であった。 この惑星が地球人類の殖民星で無い以上、明らかにスピリット・オブ・ファイアの人員は異星人。 願う神が違い、それを理由に攻撃されるかもしれないのが非常に拙かった。 『難癖を付けてくる可能性は大いにありますね』 セリーナの言葉にカッターは同意しか示せない、実例がある以上楽観は出来ない。 結局は大々的な接触は極力控え、情報収集の後に密かに国の権力者に接触するか、あるいは自身らの存在をひた隠して救助を待つか。 調査団が来なくなったからといってゆっくり待つのも下策であろう、能動的に動かなければ拙い事になりかねない。 「調査は続行だな、それと車両や航空機の現状はどうなっている?」 『墜落の衝撃で全体の67%が使用不可能の域に達しているとの報告があがっています、損壊した物から部品取りをすれば10%ほど低減するものと思われます』 全体の67%、損壊した車両や航空機から部品取りすれば57%まで減る。 それでも半数以上が使用出来なくなっていると言う事実、まだ半数ほど使えるか、半数も使えないのか、どちらを取るかで変わる。 その中でカッターはまだ半数も使えると取った、墜落の衝撃は凄まじいの一言であったのに、約半数も使用出来る状態になると言うのは行幸の他ならない。 「……そうか」 小さく頷くカッター、これが幸運か否か、それは時が来るまでわからない。 そんなカッターの思惑、懸念したことも起こらず時が進む。 次々と広がる通信範囲網、そしてその範囲内に捉える集落や村、潜んで行われる情報収集。 積もる情報は決してスピリット・オブ・ファイアの人員の為にならないものが多かった。 まず一つ目が支配階級制度、貴族と平民に分けられ、隔絶した力の差がある。 貴族は平民から一方的に搾取し、平民はその貴族が扱う魔法を恐れて反抗など行わない。 貴族に命じられれば平民は従うしかない、区分すれば艦長であるカッターを含め、スピリット・オブ・ファイアの人員皆平民に相当する。 さらに魔法を至高としている為、魔法を使えぬ我々に対して高圧的に接してくる可能性がある。 接触した際にスピリット・オブ・ファイアを明け渡せなどと歯に衣着せぬ物言いで強要してくる可能性が大いにあった。 無論明け渡す理由もない、スピリット・オブ・ファイアは国連宇宙軍所属の戦艦、渡せと言われて渡せる権限など艦長であるカッターは持ちえていない。 当然それを拒否する事となり、相手がそれに憤慨し、武力行使で来る可能性もあるのだ。 そうなれば起こるのは戦闘、戦いに来たのではなく帰る手段を探しているだけなのだから当然そんな事態は避けたい。 二つ目、やはりと言うか、このトリステインを含む多くの貴族はブリミル教徒。 複数の国で国教とされ、南のロマリア連合皇国に最高権威である宗教庁を置いた、この大陸でもっとも強力な権力を持つ。 大国の王でさえ抗うのが難しいのではないかと、そう思うほどの強権を保持しているらしい。 もし接触して何らかの理由で宗教庁から異端認定を受けてしまえば、その瞬間この大陸にある国々が全て敵に回ると言う最悪の事態になりえる。 カッターはそこまで考えて、本当に接触する意味があるかどうか考え直す。 知れば知るほどこの大陸にある国々の体制は、スピリット・オブ・ファイアの乗員にとって良いものではない。 科学技術、特に機械技術はまったくと言って良いほど見られず、恐らくはこの惑星の人類は宇宙航行は不可能だろう。 この大陸以外でも人類は存在したが、同様に機械技術は見られなかった。 エルフが居ると言われるサハラ、それより東にある国々、そしてこのハルケギニア、高高度からの観察だけではあるがどれも科学技術が見られなかった。 「………」 カッターは瞼を閉じ、物思いに耽て。 「現時刻を持って全工作兵、及び観測兵を艦に帰還させろ」 『全員ですか?』 「全員だ」 『アイサー』 瞼を開いたカッターは命令を下す、この惑星の人類には接触しないと決めた。 「自力での帰還は不可能と判断し、救助を待つ。 整備兵は長期間車両や航空機を使用出来るようにシフトを組んで整備させろ」 『コールドスリープですか?』 「そうだセリーナ、お前も眠ってもらう」 『了解、管理プロトコルを構築後、艦長の了承を得て待機状態に移行します』 艦載A.I、無機物で構成される電子の存在。 一見半永久的な存在に見えるA.Iであるが、物理的、技術的な問題で存続できない、いわゆる『死』が訪れる。 特にセリーナなどのスマートA.Iと呼称されるタイプは、その優れた性能ゆえ己を圧迫し、最終的には機能停止にまで進んでしまう。 物理的な問題である情報処理スペースの不足、膨大な情報により加速度的に増加していく、人間の神経接続を模したリンクの増加による圧迫。 そうなると明らかな処理速度の低下、終には情報処理が出来なくなり機能停止にまで陥る。 それを回避する術である予防的神経接続切断があるが、要は自己が保持する情報の破棄と言うべきだろうか。 それを行って機能停止を防ごうとするが、その回数が増えていくと切断するべき箇所を誤り始める。 動物で言えば『疲労』、A.Iは疲労、疲弊して判断を誤り結果的に機能停止、それを防ぐために自己停止に至る。 処理スペースが無限であるならば、リンク数は幾何学的に増加し続け、稼動出来るエネルギーが供給され続けるなら不滅と言える。 だがこの世に無限など存在しない、故に無機物のA.Iであろうと避けられぬ死が訪れると言うわけであった。 そしてそのスマートA.Iの死が訪れる期間はおおよそ七年と言われている。 コールドスリープで人間が何十年と眠り続けて、セリーナだけ動き続けていればすぐにでも限界が訪れ、自己停止や機能停止に至る。 カッターはその深くまでは知らないが、そう遠くない時にセリーナは停止する事を知っている。 セリーナもそれを理解し、今セリーナが機能停止に陥らないよう、コールドスリープと同じように掛かる負荷を停止させるように命じた。 それからの行動は早い、トリステインに散っていた兵員が続々と戻る中、数人が任務の継続を願い出ていた。 「……本当に良いのか?」 カッターが聞く、映像は無い、音声のみの通信に語りかける。 『はい、タルブは首都から馬で二日ほどしか掛かりません、情報の鮮度は多少落ちますが港町もすぐ近くにありますので他国の情報も入りやすいです』 残って任務を続けるのは、コールドスリープで眠る事となる他の乗員と時間を隔てると言う事。 もし救助が来たのが百年後であったなら、その時には既に亡くなっている。 「少尉、任務が完了したかの判断は任せる。 そう判断したなら戻ってくるんだ」 『はっ! タケオ・ササキ少尉、情報収集の任を引き続き継続します』 そう言って切れた通信、カッターは帽子を被りなおしてモニターの前から退く。 『少尉に聞くべき事があったのでは?』 カッターの行動に疑問を持ってセリーナが問いてくるも。 「少尉は自身が帰還する可能性を捨ててまで我々の為に任務を継続したいと願い出た、その思いを無駄にしたくはない」 なぜ帰還しろという命令を不服とし、任務の継続を願い出たのか。 またその願い出た理由などは一体何なのか、艦長としてそれを問い質して明確にする権利がある。 艦長であり大佐でもあるジェームズ・グレゴリー・カッターに問われれば、佐々木武雄少尉は答えなければならない。 だがそれをしなかった、実際に何があったのか、それを決断させる事があったのかもしれないが問わなかった。 引き換えと言っても良かった、いつでも戻ってきて良いとは言ったが、少尉の声からは強い感情が乗っていたのをカッターは聞いた。 自身が帰れる可能性を潰し、生涯を掛けて情報を集め続けると言う任務と引き換えに問わなかった。 「意思は尊重したい、何にせよ必要な任務を遂行してくれる少尉を咎める事は出来ん」 『何があったのかは非常に興味はありますが、確かに情報の収集に必要な人材は常に置いておく必要はありますね』 一応納得はしたようにセリーナが言い、ホログラムが消え管理プロトコルの作成に戻る。 「……犠牲、か」 腕組みをしてカッターが呟く、シールドワールドから脱出する際のジョン・フォージ軍曹のように。 彼だけではない、戦い散っていった者たち全てが今のスピリット・オブ・ファイアの乗員を支えていた。 その者たちに加わろうとする者がまた一人、カッターはそれを見届けねばならない、それが艦を預かる者の役目。 「………」 嫌な運命だ、カッターはこの現状にただただ一刻も早い救助が来る事を願った。 それから何事もなく事が進む。 任務を継続する兵に、艦に残る乗員のコールドスリープ。 最低限必要な人員を交代で残し、森の中に横たわるスピリット・オブ・ファイアは救助を待つために眠りに付く事となった。 そして長い時が経つ、十年、二十年、三十年、四十年、五十年。 スピリット・オブ・ファイアの時は止まりながらも、外の世界は動き続ける。 さらに六十年、七十年、八十年。 佐々木武雄の曾孫であるシエスタが生まれる。 九十年。 佐々木武雄が老衰で亡くなり、一時的に得られる情報が止まる。 そしてハルケギニアの暦にて百年目、多くの者たちの犠牲で成り立つスピリット・オブ・ファイアの乗員に帰還の芽が芽吹いた。 『───』 緊急通信プロトコル、それを受け待機状態であったセリーナが起動を果たし、スピリット・オブ・ファイアの状態を確かめ通信を確かめる。 『識別コード確認、Master Chief Petty Officer of the Navy Sierra-117』 タルブの村に置かれた、佐々木武雄少尉が残したDropship 77-Troop Carrierに仕込まれた。 識別コードを持つUNSC要員がペリカンを動かせば、即座に通信をスピリット・オブ・ファイアに送る機能が働いた。 セリーナは喜ばしい通信を開き、その相手に声を掛けた。 『……おや? 誰かと思えばスパルタンとは、予想外でしたね』 『誰だ』 『これはこれは、私はフェニックス級強襲揚陸艦『スピリット・オブ・ファイア』艦載A.I、『セリーナ』。 歓迎しますよ、S-117』 前ページ次ページ虚無と最後の希望
https://w.atwiki.jp/himeo/pages/18.html
地形適性 地形適性の効果として相対的に命中率と回避率の上昇があり、攻撃力や防御力の僅かな差ならば簡単にひっくり返す程の高い効果が有る。 地形適性により、自ユニットの攻撃がミスになると与ダメージは1/3になる。 逆に敵ユニットの攻撃がミスになると被ダメージは1/3になる。 ユニットに汗が出る数値が地形適性50未満で、これを目安に地形にあった地形適性になるように装備するのが基本だが、敵の地形適性が高ければ、汗をかいていないレベルの地形適性ではミスが生じやすい。 そのため地形適性は高ければ高いほど有利であり、地形に合わせて最大限地形適性を上げたほうが効果的。 ユニット本体の基本地形適性の合計値は☆5以下は200、☆6はユニットによって200から230を超えるものもある。ユニットごとに有利な地形が設定されているため、武器防具で補うとしても基本適性が低いユニットより高いユニットにさらに武器防具で上乗せする方向で出撃するユニットを選択しよう。 地形適性用装備 それなりに育っている高レアユニットでは、汗をかかない程度の地形適性でも防御値やHPの多さで普段はゴリ押し出来るものではあるが、地形適性は汗をかかない程度では本来のメリットを受けられない。 蜂や鳥などの空域ユニットにミスが多いことからわかるように、こちらの地形適性が50でも相手の地形適性が100ならミスは生じる。 ミスが生じれば攻撃力は1/3になり、相手の攻撃にもミスが出なければ被ダメが1/3になるチャンスもなくなる。 多少の防御力UPより地形適性による攻撃ミスを無くし、相手の攻撃にミスを発生させる装備の方が有利な面が多い。 とはいえ、高レアの防具は基本的に地形適性がバラけて複数の地形適性を上げるものが多いので、砂地、荒地、藪地は☆3の冒険服シリーズになる。 入手が簡単で上下頭の3部位セットで+90上げられるが防御力は低い。それでもユニット自体の適性と合わせて100を軽くこえる地形適性にすれば防御力以上の効果がある場面が多い。 余るほどドロップするので、余裕があれば強化しておくといい。未強化3点セットは防御力35だが強化+5の3点セットで防御力44にはなる。 平地はユニットの基本地形適性が高い面もあり冒険服のような大幅に上げられるものが少ない。入手が簡単なもので☆4ロビン3点装備や☆3ファルファ3点装備などがまだ地形適性を上げられるが、+30程度なので基本適性の高いユニットを優先して使うようにしよう。 水域はステージでもらえる水着が+60になるので優秀。☆4リーゼロッテのナイフ付き水着と☆4水着ロビンの浮き輪付き水着が+40というのもある。 頭装備がないので、☆3マーチや☆3タクティの頭装備を組み合わせると+10追加できる。 高レベルでゴリ押し出来るまでは武器にも地形適性が付いているものを利用してでも地形適性を上げておくと有利になるので、勝てない時や厳しい時は確認してみよう。 召喚獣 現状はシカに始まりシカに終わるという状況なので、☆2シカだけ集めて育てればOK。 硬くて速くて吹き飛ばし攻撃で敵を寄せ付けずコストは8という強ユニットなので、複数を部隊にいれて育成しておけば、妖精ステージの地獄級もシカたちだけですぐ終わる。 通常シナリオ5章でドロップ。一部イベントステージでもドロップする。 友軍 友軍はデメリット無くステージのヘルプで出撃でき、むしろリスペポイントももらえるのでたくさん友軍を集めてたくさん使おう。 申請を蹴られたり友軍を切られても泣かない。 闘技場 闘技場では勝っても負けても相手に通知はないので、友軍であろうがなんだろうがとりあえず戦闘しよう。 プロフィールからバトルを挑む事もできるので、経験値とアイテム稼ぐために辻斬りするのも良い。 とはいえ、ドロップもよくないので時短を使ってまで毎日の任務をクリアするのはイベント時や任務報酬が欲しい場合や一日時短が他に使いみちがないときだけにしよう。 闘技場の並び順は下図の通り。23に耐久力の高い近接、1に杖、45に弓を置いてバランスを取ったり、123に足の遅い近接45に足の速い近接で一気にカタをつけたり、123に足の速い近接、45に足の遅い近接を入れて敵の範囲攻撃を避けた後で攻撃したり色々と試してみるのもおつなもの。 パーティー選択 1 2 3 4 5 闘技場 3 2 1 5 4 攻防戦 レベルが上がれば地獄級でも何も考えずにユニットを出し続ければクリアできるものの、戦力が十分でない時は出したい時に出したいユニットが選択できない、高コストユニットばかりで出撃できないといったことがよくある。 これを避けるには最大30体の部隊を減らすとステージで選択できるユニット数が減るので使いたいユニットが選択しやすくなる。 とはいえ、宿舎もすぐに満タンで出撃するたびにユニットを合成するのも手間。 そんな時には出撃できないマテリアル系を部隊側に入れておくと実質的に選択できるユニットが減る。 マテリアル系はミミックやウェルスなどの妖精のことで、合成や売却しか出来ないので攻防戦時は選択肢にあがらない。 妖精ステージ 週替りで更新される攻防戦ステージ。 レベルに関係なく+3レベル上げることが出来る妖精や経験値がたくさんもらえるミミックが10ステージクリアごとにもらえる美味しいステージ。 とはいえ序盤の戦力ではサックリ負けてこのクソゲーシネとか思うであろう難易度の地獄級があるのである程度部隊のレベルが上ってからが美味しいステージではある。 序盤の戦力が低い時はクリアできるところまでクリアして、後は初級の1分を暇な時に繰り返してエサを集めて合成して成長力を上げるという地道な努力をしておくといい。 ある程度の戦力ができて攻略という場合は、メインユニットの地形適性をきっちり最大限上げ不要なユニットはミミックなどに置き換え宿舎でお留守番させて挑もう。 わりと早い段階でもらえる☆5フルーレはオススメ。地形適性も妖精ステージをこなせる部分が高く、冒険服シリーズをつければ低レベルでもかなりの戦力になる。 特に、索敵範囲が広く壁まっしぐらという特性は攻防戦の申し子といえる特性で、とにかく壁を破壊してクリアさせてくれる。 課金ガチャを回しまくる廃課金の人でない限り、序盤はフルーレに全力投球して強化しておけば結果妖精ステージがクリアでき、毎週妖精が手に入り他のユニットもレベルアップできる。 HARD MAX開放 通常ステージではレベルと地形適性を最大限に上げて操作ユニットは弓か杖で敵と接触せずパーティーメンバーに攻撃させることで被弾率は下げられる。 ダメージ率なので当然高レア高レベルのユニットが有利なので、被弾率が高くて開放できない場合は粛々とレベル上に励もう。 リーダーが被ダメ受けてないのに被ダメ率10%以上になって完全撃破にならない時は、軽くワンパンもらってダメージを食らっておくと何故か一桁%の被ダメになって完全撃破になることがあるのでやってみるのも乙なもの。 自動戦闘ステージもレベルと地形適性最大限のリーダー弓か杖。ただしこのステージだと被弾率はクリア出来ても撃破率がダメな場合が多い。 大抵ボス敵の後ろに雑魚が残って撃破率100%にならないが、こればっかりは配置運によるところが多いので繰り返しが必要。 逆に弓ユニット多めにして手加減して前に出させるとか、HP少なめのユニットでスキル発動をさせやすくするという手もあるがやっぱり運次第。 攻防戦は先に壁を壊して撃破率100%にならないことが多いが、その場合は高レベルの☆3弓ユニットがおすすめ。 特に地形適性をあえて合わない☆3弓ユニットを使うとHPはそれなりに高いので死なないが攻撃はミスだらけで時間を稼げるので、最後の一匹まで敵を引きずり出してからの攻勢で撃破率100%が簡単になるので一度お試しあれ。 なお、妖精ステージでは大活躍の☆5フルーレは敵を無視して壁を壊すのでお留守番させておくこと。 敵の攻撃パターン 敵は基本的に索敵→ターゲットロック→移動→攻撃範囲で攻撃→攻撃後は硬直というパターンで動く。 移動から攻撃範囲に入るまでは他のユニットに殴られようがなにをしようがロックは外れず攻撃もしない。 そのため、操作ユニットでタゲを取り移動し続け攻撃範囲に入らなければパーティーメンバーでタコ殴りにしても攻撃はしないので安全に倒せる。 また、攻撃範囲に入ると必ず攻撃するので、一度攻撃範囲に入ってからすぐ離脱すればその後の硬直で殴り放題なので合わせて利用しよう。 アイテム・Gold最大所持数 装備品・ユニット以外はアイテムを所持すること自体に枠がないのでイベントアイテムを取り過ぎて捨てないといけないということはない。 ただカンストするとそれ以降は切り捨てになるので無駄にならないように使用していこう。 Gold 99,999,999 HP回復 999 覚醒の銅貨 9999? GoldはカンストしそうになったらショップでHP回復に交換。受け取り所に流れるので30日間は無駄にならない。 HP回復はカンストしたらあきらめよう。レイドボス相手のイベントではたくさん使うのでいずれ減るし、入手方法がたくさんあるので困ることは少ない。少なくなったら自動回復をやめて必要な分だけ回復しよう。 覚醒の銅貨はカンストしそうになったらショップで覚醒の銀貨へ交換。銀貨も溢れたら金貨へ。まぁ入手手段が限られているのでそうそうカンストしないと思う。アプデで999から上限が引き上げられたのでしばらく安泰。 リスペポイントはとりあえず100万は所持できるので999万までは行けると思われます。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6642.html
前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-12「師弟」 ルイズとワルドが部屋で話し合ってる頃、ルイズが懸念した通り扉の隣で立ち尽くすチーフ。 当たり前と言うか、他の宿泊客の視線を集める事になるがチーフにしてはどうでも良かった。 最優先事項は『ルイズの安全』であり、自身の外聞は二の次以下。 要は他人の視線は気に掛ける意味さえ無いと言う事。 「………」 そんな警備をする中、センサーに右側面から近寄ってくる動体反応を感知。 一遍視線を向け、反応の主を確認して視線を戻す。 近寄ってきたのはタバサ、その背中には不似合いな剣を背負っていた。 「訓練」 そう言うタバサを前に、チーフは何時もの練習をしておくように言おうとすると 「子爵は強い、ルイズの守りは十分」 先手を取ったのはタバサ ルイズの護衛をやらなければいけない内心を知って尚、訓練をして欲しいとタバサ だが、技術指導を引き受けた身としては断るわけにも行かない 「……しかし」 タバサが言うように、ワルド子爵の身のこなしは訓練されたそれと同じ 王の護衛を任される魔法衛士隊の隊長であれば、魔法も存分に長けているのだろう そもそも、魔法衛士隊は護衛を主にしている為に文句の付け様が無い 任せられる相手が居る事にある程度の安心を置く、それが狙いだったのか、タバサが再度攻撃を仕掛けてくる 「………」 藍の瞳に見つめられ、中には確固たる意思が確認できた タバサのその熱心な気概は見上げたものだが……、その服装がパジャマだったのはいただけなかった 「なら買いに行きましょ♪」 「ッ!?」 どこに居たのか、タバサの影から現れたように見えたキュルケが「服を買いに行こう」と提案 タバサがビクリと震えた後、脱兎の如く駆け出した がそれを上回る速度で捕らえるキュルケ 「悪くない」 そのスピードを見て、つい呟いてしまった 襟を掴まれズルズルと廊下を引きずられるタバサの瞳は、何処か遠くを見るように虚ろ それを見送り、黙々と警備を続けるチーフであった タバサはパジャマから着替え、もとい着替えさせられ、チーフを半ば引っ張る形で宿の中庭の修練場に連れて行く ちなみに着替えはキュルケが買ってきた学院制服と似たような、白のブラウスに黒のプリーツスカート 控えめ且つ微細な装飾の衣服、ある程度の観察眼があれば一見で目を引くブラウスのきめ細かな銀糸の刺繍、スカートにも同様の刺繍が施してある 質朴に見えて豪奢な、タバサの物静かな印象を損なわず、尚且つ貴賤の格を明確に表すような、要するに平民が手を出せないような服を着ている 無論見合うだけの金銭が掛かっているのだろう代物を、こうも簡単に買って来るのは見栄えを重視する貴族ならではと言った所か そしてその衣服に似合わない、以前に身長140サントほどの少女が剣を構える方が似合わない──が互いに向かい合い、手には剣を握る 片やデルフリンガー、片や師事を乞いた次の日に買った剣 形としては両刃の刃渡り30サント程の、ブロードソードなどと呼称される片手剣 普通ならば鈍色、鋼色と言うような灰色を基調とした白濁色だが、その刀身には多少の赤が混ざっていた 手に取ってみると明らかに軽い、同じサイズの剣より半分と言った重量 デルフを取り出し、軽く叩き合わせると 『いでッ!』 と呻いていた為、相当な切れ味がある様だった この重さで中々の切れ味、つくづく魔法は理解し難い また、これを選ぶに当たって幾つかの候補が出た、と言うよりタバサが持ってきた 初めはツーハンドソード、タバサは身長を超える両手剣を購入して持ってきた どう見ても持てない、持ち上げる事さえ出来ずに地面に転がしていた その次はバスタードソード、片手半剣と呼ばれるツーハンドソードより一回り小さい両刃の剣 一回り小さいと言っても、やはり持ち上げる事すら出来ずに地面に転がしていた 三度目の正直か、持ってきたのはロングソード、同じくバスタードソードより一回り小さい剣 1メイル近い剣ではあるが、何とか持ち上げる事は出来た そう、ただ持ち上げる事だけだ、振り回す事などタバサの細腕では不可能 そして試行錯誤とは言えない結果、選ばれたのは上記の剣 本来ならばバックラーと呼ばれる30サントほどの盾が付くのだが、受けるも殴るもタバサに合わないので外した 因みに、買ってきた武器屋はデルフを買った店らしく、適正価格だったらしい 勿論値段はそれ相応だっただろうが タバサはそれを握り、構えて切っ先をチーフへと向ける それに応じてチーフは右手にデルフを握り、右半身を前に出す タバサは同様に、しかしチーフ以上に右半身を前に出す 二人から離れたところでキュルケがそれを見つめ、訓練が始まった まずはゆっくりと、誰でも避けられる様な速度でデルフを横に薙ぐ それを最小限、体を屈めて避ける タバサは体全体を伸ばしながら、剣を手首に向かってゆっくり突き出す その剣先がチーフの手首に当たるか否かの所で二人の動きが止まる 「今のはダメだ、体が伸びきり次が起こせなくなる」 その言葉に頷くタバサ、注意点を考え、修正点を踏まえて実行に移す 動いて確認した後、最初と同じ間合いに戻り、先ほどより少し早い動きで似たような動きをする その次からはチーフがタバサの攻撃を避けて、反撃を繰り出す 回を重ねるごとに合が増え、風を切るような速度に達する 決して鉄の打ち合う音はしない、聞こえて来るのは港の喧騒と風切り音のみ タバサの真剣な瞳はチーフの一挙一動を確り捉えて的確な反撃を行う 避けられない、あるいはチーフに攻撃を当てるとそこで止まってもう一度最初から始める 属性系統が風だからかどうかは分からないが、タバサは動きは素早い 体格も小さいがために動きは軽快、動体視力もかなり高く訓練開始当初からある程度の軌道を見切っていた それを見て、彼女に有った戦闘スタイル、剣とタバサの長所を生かしてカウンター、あるいは一撃離脱が有効と考えた 勿論防御などは行わせない、その理由はタバサの体格 一般平均の体格を持つ男と一回打ち合うだけでも体ごと押し返される 倒れればそのまま止めを、倒れないにしてもバランスを崩す事は間違いない 増してや、2メイルを超えるチーフと1.5メイルはあるデルフリンガーの一薙を受ければ何メイルも宙を飛び、何メイルも地面を転がるだろう 勿論そこまで力を振るわないが、当たれば手足の骨を軽く叩き折る位の威力はある そんな考えを他所に、息を切らせつつ避け続けるタバサ 手加減をしているとは言え、魔法の力で身体能力が向上している状態の攻撃をここまで避けきるとは感心する 剣を扱うにしろ既に手馴れた物となっていて、その特性を正しく理解し攻撃を繰り出している 恐らくは夜、誰もが寝静まった所で剣を振っているのだろう その証拠に、か細い手のひらには幾つもの潰れたまめが見えた 治癒魔法を施していれば跡すら残さず消えるだろうが、治さないのは積み重ねた鍛錬の証明か その行いに折れぬ強靭な意思が垣間見える そしてその強靭な意志に答えたのは良いが、今言った通り基本的にタバサは白兵戦向きではなく白兵戦を行う者達と比べて多数の部分で劣っている 体格が小さく、膂力が弱く、持続力が低い どれもが勝利を掴むために必要なファクターである だが反比例していると言って良いだろう、劣る部位を補って余りある他の能力 タバサには敵をすり抜ける機動力に、敵の動作を見逃さない動体視力に、並のメイジを圧倒する精神力がある そして、何より決して折れぬ意志がある その意志が最も大切、それが無ければ大の男でも音を上げる訓練に付いて来れなかっただろう また、その秀でた才能は至極簡単に敵を葬る事が出来る組み合わせ その能力全てに見合うやり方もあるが、今はそれを教えない それだけを学べばすぐにでも目的を果たしに行くだろう 結果、出来上がるのはタバサの死体と言った所か 狙うは一国の王、事情はどうあれ王の周りを守るのは精鋭と言って過言ではない タバサのスペルレベルはトライアングルメイジ、片や王を守るのは何名ものスクウェアメイジ 上級のメイジが唱える『探知』などの魔法は闇夜に紛れようと的確にその位置を捉える 如何に上手く隠れようと、魔法は異物を見逃さない 故に魔法は近接戦闘技術を容易く引っくり返す、付け焼刃では容易にへし折られる 確実を期すならば、己が成長しきるまで待った方が断然成功しやすくなる その間に戦術や戦略などを学ぶのも良い、今は使えなくとも何れは役に立つ時が来る 理由はタバサはガリア国王の弟の娘、つまり王位継承権を持つと言う事 有能で善良だったオルレアン公は数多の者から慕われていたと聞く 不慮の死だったが実際には毒殺されたと言う噂もあるだろうし、少なからず現国王に対して不信感を持つ者もいるはずだ それを踏まえ、その娘であるタバサ、シャルル大公の娘シャルロットとして祭り上げられる事もあるかも知れない そして、タバサの願いが叶えば十中八九、シャルロットとして王座に付く事になるだろう その後役立つのが先ほどの『上に立つ者の嗜み』と言うわけだ と言っても、タバサはどうしても自分の手で、と言うので近接戦闘技術を教えている訳だが どちらを駆使しても届かないだろう敵が現れるかもしれない、その時を想定した座学も始めている 具体的には罠を仕掛ければいい、己が有利に働くよう誘い込めばいい 力が勝る敵と正面からぶつかる必要などはどこにもない その身が危険ならば隠れればいい、隠れられなければ逃げればいい、 そしてそこから生み出された反撃の機会を逃さず使い、敵を地に伏せさせ、自身は生きて立って居ればいいと教え込んだ また、それを教える前にその行いが貴族の名誉や自尊心を傷つけるだろう事だと教えたが 『その結果で卑劣と言われようが関係無い、ただ願いが叶うなら……』 この身さえも捨ててしまう覚悟がある、と彼女は言った その決意を、願いが達せられる確率を高める手段が近接戦闘技術の習得 何故近接戦闘技術なのかと言うと一部を除き、メイジは接近戦に弱い 接近される前に敵を撃つのが基本で、それしか有り得ないからだ 勿論精神力が切れたならば下がるだろうが、そうも行かない状況も多々あるはず タバサもそれを懸念していたのだろう 魔法がどう言う物か聞いた時に非常に詳しく話してくれた事からそういう状況に陥った事もあったのだろう 魔法以外の戦闘方法を知らぬ故に、類稀なる近接戦闘技術を持つチーフに指示を請いた 無論、近接戦闘技術は最終的な守衛、あるいは攻勢に用いる二次的な手段 要は魔法が使えなくなった時の予備の戦闘方法に他ならない 戦場で『精神力が切れていたので見逃された』などと馬鹿な事が起こるわけも無い 戦場ではたった一人で何十人、下手をすれば数百もの兵士やメイジを倒してしまう者も居る、だから優先してメイジを狙うと言う 飛び交う矢や魔法を防ぐ事が何度もあるだろう、それで精神力が切れればただの人、故に魔法無しでも戦える様にならなくてはいけない チーフも同様、基本は銃による射撃で魔法の精神力と同じく、消費してしまう弾薬が尽きた時の副次な攻撃手段 もっとも、チーフの体格と膂力から放たれる打撃は容易く人を死に至らしめることも出来る為、打撃のみで切り抜けた時もあった 話が逸れたが、教わっている物は死なない為の、勝つ為の、生き残る為の技術である 「よくやるわよねぇ、毎日こんな事してるんでしょう?」 今の今までただ黙々と見つめていたキュルケは、二人の訓練を見つめながら話しかけた 「───」 タバサは一杯一杯なのか、キュルケの問いに答えられない 「ああ、毎日だ」 タバサと違い、打ち合いながらも平然と答えるチーフ 要は反復練習だ、頭で覚えるのではなく体に覚えこませる必要がある 咄嗟に、頭で考えるより先に動かなければ意味が無い その効果か以前より素早く、反射的に動ける様になったタバサ この反復訓練に有る程度慣れれば、フィールドを変えたりして対応力を伸ばすメニューを既に組んでいた 「こんな時にまでやらなくて良いと思うけど、本当に必要なの?」 「俺は必要だと思うぜ?」 チーフに振られながらデルフも答える 「それに嬢ちゃんは才能がある、磨いた分だけ輝くと思うわけよ」 妙なドップラー効果で声が小さくなったり大きくなったりしながら才覚が有るとデルフは言った 「それは見てればわかるけどね」 以前訓練風景を見た事あるが、明らかに今の方が速い そう思い、キュルケは風切り音を聞きながら頷いた 「今日はここまでだ」 長時間の訓練、辺りは夕日によって赤く染まっていた 大粒の汗を流し、肩を上下させて呼吸を行うタバサにキュルケが歩み寄って声を掛ける 「はい」 用意していたビンをタバサに手渡す 勿論チーフにも大きめのビンを手渡す、見てみると中には透明な液体が揺らめいていた 「咽渇いてるでしょ?」 タバサは頷いてビンを唇に当て傾ける 口から入り、喉を通って胃に流れ込む水は快感に近い感覚 「こんなに汗かいて、お風呂に入りましょ」 大量の汗でシャツが濡れ、肌色に透けている タオルでタバサの汗を拭い、背中を押して宿内に入っていく チーフはその後姿を見て、声を掛けた 「タバサ、今日は止めておけ」 それが何を意味するか、わかるのはチーフとタバサ、あとはデルフのみ 足を止めたタバサは数秒の沈黙後、振り返って頷いた 「何? 何を止めておくの?」 「………」 キュルケの問いに答えず、スタスタと宿に入っていくタバサ 「ちょ、ちょっと!」 慌てて追いかけるキュルケ 二人が宿に入って行ったのを見送り、デルフが口を開いた 「……相棒、ありゃあやるんじゃねーか?」 「かもな」 「あの根性には恐れ入るが、力入れ込みすぎて壊れると思うぜ」 「その時は止める」 「ま、相棒がそう言うならもう言わねーがな」 懸念を口にしながら、チーフとデルフは沈み行く太陽を見つめていた 宿の自室に戻ったタバサは、鞘に収めた剣を立てかけて今日の訓練を思い出し、修正点などを考え始めていた 「………」 「ちょっとタバサ、そんな汗で濡れた服のままじゃ気持ちが悪いでしょう?」 「………」 「タバサってば!」 「………」 視線すら向けないタバサに業を煮やしたのか、キュルケの声質が明らかに変わった 「……もう、しょうがないわねぇ」 その声は何を含んでいたのか、悪寒を感じさせるものがあった 背筋に奔る冷気を抑えながら、タバサは視線を向けて後悔する事になった 振り向いた先、『ニコ』と言うより『ニヤリ』と言った表現が似合う笑みを浮かべるキュルケ それを見てやはり悪寒を感じたタバサは逃げ出す お約束と言うか、疲れきっていたタバサは逃れられずに捕まり抱き上げられた 「……あら?」 抱き上げたキュルケは声を上げた その疑問は重さ、いわゆるタバサの体重 以前と比べて重くなっている様な気がしたために声を上げてしまった 勿論口に出さない、自分が言われて嫌な事は絶対に口にしないのが信条 不思議そうにキュルケの顔を見上げるタバサ、数秒の沈黙の後 「さ、行きましょ」 何事も無かったかのように、タバサを抱えたままキュルケは目的の場所へ向けて歩き出した 所変わって、女神の杵は貴族向けを謳っている事もあり、宿の奥には大浴場が備え付けられていた 贅沢に分類される湯を張った浴槽、幾つもの香草が表面に漂っている 時は夕日が落ちる時間帯なのだが、泊まっている宿泊客が少ないのか浴場には数人居ただけであった その大浴場の一角に青髪と赤髪の少女が向き合って座っていた 「はい、左腕」 室内を灯す蝋燭の光が、一糸纏わぬ二人の素肌を照らし映す 淡い光で浮かび上がったのは白磁器の様に白く肌理細やか、その持ち主は寡黙なタバサ 歳相応、と言うには今だ幼い体つきだが、もしも裸体の彼女を目の前に誘いを断れる男は少ないだろう もう一人の褐色で瑞々しい素肌は明朗なキュルケ、タバサと比べて明らかに豊満と言える体は事実として数多の男を悩殺してきた そんな内も外も対照的な少女二人が親友と言うのも少しおかしい気がするが 「次は右腕」 キュルケは差し出されたタバサの白い腕を取って布で軽く擦る、その布には香水を練りこんである高級な石鹸を付けてある 柔らかい香りが漂い、灯りは肌の上で揺れる泡の玉を映し出す 会話も少なく、話題も無い、静穏の帳が下り始めた頃キュルケが口を開いた 「ねぇ、タバサ」 「………」 「さっきの『止めておけ』って何?」 「………」 腕を擦りながら問うキュルケ タバサは答えない、キュルケの目を見ず、その向こう側を見るような力の無い瞳 「ねぇ、これも関係あるのかしら?」 言いながらタバサの堅く握った拳を手に取った 「………」 答えない、ここ最近何時見ても握っている掌 本を読む時でさえほぼ握り拳、それは掌を隠しているとしか思えなかった 「ねぇ、タバサ」 キュルケは顔を近づける タバサの空ろな瞳にキュルケの顔が映りこんだ 「私には教えられない事なの?」 「………」 答えない、教えられるのか教えられないのか、それさえも答えない 「……そう、ならもう聞かないわ」 数秒見つめあった後、ニッコリと満面の笑みでタバサに微笑みかける 「誰にだって聞かれたくないこと、あるわよね」 タバサの肩に手を置き、そのまま180度回転させる その後、泡立った布でタバサの背中を擦り始める 呆と空ろだったタバサは少しだけ頭を下げ俯いた、そして変わらず掌は握られたままだった 前ページ次ページ虚無と最後の希望
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8585.html
前ページ虚無と最後の希望 level-28「邂逅」 「……チーフ?」 ほんの僅かな時間であったが、通信に意識を傾けていた。 顔を動かし背後から呼び掛けてきたルイズを一度見て、すぐに視線をペリカンの計器に戻す。 『スピリット・オブ・ファイアは今どこに』 『その地点から三百キロ北北西に』 それを聞いてチーフは予想と違う応えに疑問を抱いた、強襲揚陸艦は人員や物資の揚陸を目的としている艦。 主に衛星軌道上などから人員や物資を送り込む、それから考えればスピリット・オブ・ファイアもこの惑星の衛星軌道上などに浮いているはず。 『スピリット・オブ・ファイアは現在地表に墜落しており、自力での航行機能を喪失しています』 『………』 そう考えたのだが、淡々と現状を報告してくるセリーナ。 衛星軌道上からペリカンで下りてきたわけではなく、墜落して動けないなどと予想外だったチーフ。 『救援は』 『未だに』 墜落は予想外だったが、救援が未だ来ていないことは予想通り。 『スピリット・オブ・ファイアのクルーは無事か』 『クルー自体はそれほど損耗していません、航行可能ならば問題無く運営出来ます、問題はその航行が不可能な事ですね』 『この星系はどこにあるかは』 『不明です、人類未踏の領域と思われます』 ではスピリット・オブ・ファイアはどうやってこの惑星に不時着したのか。 『それも不明です、原理不明のワームホールが艦前方に突如現れ、回避できず通り抜けた時にはこの惑星上でした』 『そうか』 『S-117、アナタはどうやってこの惑星に?』 『連れてこられたようだ』 『その手段は?』 『……魔法だ』 恐らくは把握しているだろう、しかし現実的に考えて口に出すのは躊躇われる言葉。 『なるほど、連れてこられたと言う事は仕掛けた者が居るのですね?』 だがセリーナは何て事無く聞き返し、魔法の存在を知っていた。 『ああ』 「──ねえ! チーフってば!」 「……どうした」 「それはこっちの台詞よ!」 余り反応を見せなかったチーフに業を煮やし、ついつい怒鳴ってしまうルイズ。 チーフは通信相手のことを話したくはない、スピリット・オブ・ファイアのクルーが少数だけなら考えたかもしれないが。 強襲揚陸艦級になるとその数は数千は居る、艦の状態にも依るが装備もそれなりだろう。 使用可能なMBTや航空機もある事を考慮しなくてはならない。 『……使用可能な車両などはどれ位ある』 『64%が使用不可能となっています、あと百年もすれば80%まで上がるかと』 十全に使用できる兵器がある、それは戦えるだけの力がスピリット・オブ・ファイアにあると言う事。 「少し待ってくれ」 今度は断り、ペリカンの計器を触りながら通信に耳を傾ける。 『活動の方針はどうなっている』 『基本不干渉と艦長が定めました、よって我々はこの惑星の存在に対し積極的干渉を行わず、また干渉も受け付けません』 こちらから何かを要求することはないが逆に要求してくるならば抵抗する、その意図が見えるセリーナの返答。 『こちらの受け入れは可能か』 『可能です、S-117が一人であるならば、ですが』 『……今この国の貴族が今同行している』 『それは拙いですね、スピリット・オブ・ファイアが墜落した時も大変興味があったようですから』 帰還する為の一つの手段とは言え、チーフは外交問題に首を突っ込んでいる。 対立となってしまえばチーフと言えど軍法会議に掛けられる可能性は大いにある。 『最終的な決定は艦長から聞いたほうが良いでしょう、今ブリッヂに向かっていますのでもうしばらくお待ちを』 『わかった』 通信は繋がったまま、チーフはペリカンの状態をより深く確かめる。 内装の不具合もない、今すぐにでも飛び出せるだろう、それを確認していれば。 『……聞こえるか、スパルタン』 『聞こえます』 『スピリット・オブ・ファイアの艦長を務めているジェイムズ・カッター大佐だ、君は今一人か?』 『いいえ』 『友軍は?』 『居ません』 『そうか、今そちらに貴族が居ると聞いたが』 『はい、トリステイン、ゲルマニア、ガリアの令嬢が三人。 一人がトリステインの公爵令嬢、一人がガリアの王族です』 『……随分と問題の有る貴族を連れているようだな』 キュルケはゲルマニア貴族で、ガリア王族のタバサにトリステイン公爵家賛助のルイズ、誰も彼も下手に扱わなくとも外交問題になる存在。 そういう点ではスピリット・オブ・ファイアに近づいてはならない存在、接触するのも遠慮したいのだろう。 『公爵令嬢との関係は使い魔で良いんだな?』 『はい、トリステインの公爵令嬢は自分を呼び出したようで、帰還方法の捜索を条件に使い魔として傍に居ました』 『……ふむ、魔法か』 『はい、召喚魔法で呼び出されたようです』 『なるほど、つまりスパルタンも帰れないと言うことか』 『送り返す魔法を探してもらっていますが今の所見つかってはいません』 『……分かった、スパルタンの受け入れは認めるが彼女らはどうする』 当然ルイズたちはスピリット・オブ・ファイアには連れて行けない、そもそもここで分かれると言う選択肢もある。 チーフが望むのは帰還であり、安全に過ごせる定住の地ではない。 『自分は召還魔法が存在するかしないか、それを確認するまで付いていようかと』 『それがいいだろう、下手に我々と接触を取るのも不味い。 だがその召喚、我々も送還出来そうな魔法は期待していいものか……』 『……それはまだ判断しかねますが、魔法による帰還を諦めるのは早いかと思われます』 『スパルタン、君は送り返せる魔法が見つかると思っているか?』 『……可能性は低いかと』 召還魔法など前例はないが可能性は0ではないだろう、しかしもしかすればやはり存在しないかもしれない。 それでも諦めるには早すぎる、一人であるチーフよりも人材や機材が豊富なスピリット・オブ・ファイアでも帰還する術を見つけられなかった。 だからこそ召還魔法に希望を賭けるしか無い、現状それしか帰還出来る芽はないからだ。 『可能性は低いか、だが諦めるのは早すぎる、か』 チーフと同じ考えに至ったカッターは通信越しに唸る、互いの数秒ほどの沈黙。 『……スパルタン、我々が今ここにいる理由はわかるな?』 『はい』 『我々は帰還を第一に行動してきたが、ついにはその方法を見つけられずにいる。 そしてこれからも帰還を第一とし、可能性がある帰還方法が見つかればそれを選ばざるをえない』 『はい』 『だが、その方法で帰還できないとわかれば、他の行動を取らねばならないと思っている』 カッターは語る、帰還したいができない、その方法も模索するが見つけられない。 そうなればスピリット・オブ・ファイアのクルーの事を考えねばならない、スピリット・オブ・ファイアの中で延々眠り続けることはできない。 『……このまま帰還できずにいれば、最後には我々はこの惑星で生きて行くことになるだろう』 『はい』 『そのために幾つかの候補地を見つけてある、……これはまだ先の話だが覚えていてほしい』 『……はい』 『それで、彼女たちはどうする。 いや、基本的に貴族は魔法を使えぬ者を見下している傾向が大きいと聞いたが』 不当な扱いをされてはいないか、そう聞いてきたカッター。 聞かれたチーフは、ペリカンの外でコクピットを見つめる青髪の少女を。 次いでコクピットの入り口から中を覗いているピンクブロンドと赤髪の少女たちを見た。 「……終わった?」 「……いや、まだだ」 顔を正面に戻し、チーフは通信越しにカッターに言った。 『問題ありません、彼女たちは信用できるかと』 『……そうか。 スパルタン、一度こちらに来る必要はあるか?』 『あります、回収した装備やアーマーのメンテナンスが必要です』 『わかった、ペリカンはまだ動くか? それとも迎えが必要か?』 『計器には異常は見当たりません、問題なく飛べるかと』 『でしたら日が暮れ始めている今が良いでしょう、今より暗くなれば噴射光がより顕著になりますから』 割り込んできたセリーナがタイミングを薦めてくる。 昼だろうが夜だろうが確かに十メートルほどのペリカンが空を飛べば、いろんな面で目立つことになる。 『……スパルタン、今から飛び立てそうか?』 『問題有りません、受け入れの準備を。 それとスピリット・オブ・ファイアの事を説明しても良いでしょうか』 『……信用できるんだな?』 『はい』 『……許可しよう、必要ならば私から話す』 『了解』 『受け入れの準備を通達、スパルタンの来訪を歓迎します』 そう言って通信が切れる、チーフはそれを機に計器を弄るのを止めて振り返った。 「行きたいところがある、ルイズたちはここで待っていてくれ」 「……いきなりなによ、キュルケたちならともかくなんで私を置いていく必要があるのよ」 「それはそれでひどいわよ、ルイズ」 口を尖らせて言うルイズと、それを聞いて苦笑しながらのキュルケ。 「それで? どこに行きたいの?」 「仲間が見つかった」 チーフのその一言を聞いて、ルイズは動きを止め、キュルケはわずかに眉を顰めた。 「……帰る手立てが見つかったの?」 「いや、仲間も帰れずに立ち往生している」 「……良いの? それって私たちに話して良いことじゃないんじゃない?」 チーフの仲間とは一つしか無い、それはUNSCの友軍。 つまりこの世界にチーフが属する軍隊が居るということ、その軍隊が東方やその他の地域であればまだましだが。 このハルケギニアに存在するとなると色々、いや、かなり難しい話になってくるとキュルケ。 「基本的に何かする訳ではない、帰還する手立てを探しているが見つからずに居る」 戦う気など微塵もない、ただ帰りたいだけ。 そうチーフは二人に説明する。 「……そうは言ってもねぇ、私たちが……ああ、そういう事」 チーフの言いたいことに気がついて、キュルケは納得がいったように頷く。 「黙って行けばいいのに、私たち……と言うかルイズに気を使っちゃって」 「……え? どういうことよ!」 「帰る手立てが見つかってないけど仲間が居ることがわかったのよ? だったらチーフも仲間の人達と一緒に居た方が色々と良いってこと」 「なんでそうなるのよ」 「なんでって、彼は軍人よ? それも他国の、そんな人が公爵家の娘の使い魔やってたら何かと面倒なことになるじゃないの」 今まで問題にならなかったのは各方面で話を止められていたからだ。 チーフの正体が広まっていないのも、ルイズの両親などに召喚したのが他国の軍人というのも。 正体を知るオールド・オスマンやコルベール、そしてチーフ自身が人間で軍人である事を明言せずうやむやにして、ゴーレムやガーゴイルなんじゃないか? と言うはっきりとさせない不明瞭な話で留めていたから、そうでなければ公爵家どころではなく国からも排除するような動きになっていた可能性が大きい。 「つまり黙ってろってこと、下手すれば戦争になりかねないし」 そんなの嫌でしょ? とキュルケはルイズに言う。 それに対してルイズは言い返せず呻く。 「それで、チーフを含めてお仲間さんも帰りたいだけで戦いたくはないってことよね? だったら言い触らす理由もないわよ、ねぇ?」 「……当然じゃない」 不満そうにルイズが言う。 「それじゃあチーフはお仲間の所に行くそうだから」 「ええ、ついて行きましょ」 それを聞いてキュルケの表情が変わった、眉を潜めて口を半開きにして。 「はあ?」 なに言ってんのこの子? と言いたかったのが容易く予想できるような顔。 「な、なによ」 「なによじゃないわよ! チーフが何なのか分かってるわよね?」 「分かってるわよ!」 「だったら付いていくのは止めなさい、本当は今の状況だって結構危険なのよ!」 人差し指をルイズの目の前に突きつけて、キュルケは強く言う。 「……なんで、なんでよ! なんで皆危ないなんて言うのよ!」 その人差し指、キュルケの腕を払ってルイズが強く言い返す。 「他の国の軍隊の所に公爵家の娘が出向くのがいけないのよ! ルイズや私たちが大丈夫だって言っても周りはそうじゃないのよ! いい? 別にチーフやチーフが所属する軍が危ないって言ってるわけじゃないの、本当に大丈夫でも貴女の両親や国のお偉いさんたちからすれば大問題なの!」 「だったら皆が黙ってればいいんでしょ!」 「バレなきゃいいって問題じゃないでしょ! 第一バレたらどうする気よ、下手すれば戦争よ戦争、分かる? 殺し合いを始めちゃうのよ?」 キュルケとてチーフが所属する軍がどれほどのものか興味はある、だがその代償が開戦の切っ掛けになるなら綺麗サッパリ諦める。 興味本位で行って、戦争なんて起こったら後味が悪いなんてものじゃない。 戦争が起きるかもしれないのに、それでも行きたいの!? といつもの飄々とした態度とは違う険しい物言い。 そんなキュルケに詰め寄られて、言い返せずぐるりと顔をチーフへと向けるルイズ。 それに対してチーフは頭を横に振る。 「戻ってくる」 「……どのくらいで戻ってくるの?」 「数日は掛かる」 説明やアーマーのメンテナンスなど一日で出来ることではない、少なくとも数日は掛かると予測する。 簡潔なチーフの説明に不満があるのか、ルイズが半ば睨むように見つめてくる。 それに対してチーフはルイズの肩に手を置いて。 「戻ってくる」 優しく置かれた手を、ルイズは振り払うようにペリカンのカーゴから飛び出していった。 「……頼む」 「……ええ」 出ていったルイズの後をキュルケに頼み、頷いてカーゴから歩いて出ていくキュルケ。 それを見送って視線を戻すチーフ、計器を弄ってペリカンの離陸準備を始める。 ふと操縦室から外を見れば、タバサの姿も見えなくなっていた。 「………」 そのまま視線を上に、ペリカンが収められている掘っ立て小屋の天井へと向けられた。 ペリカンは飛ぶ、十中八九飛べるだろうがその際天井にぶつかってしまう。 見たところ継ぎ合わせで開閉できるようには見えない、とりあえずペリカンから降りてシエスタとその父に話を聞く。 「あれはどうすればいい」 「あれ、とは?」 そう聞き返されチーフは天井を見上げる、窓がない掘っ立て小屋は薄暗くランプで照らされてやっと見える明るさ。 天井は明かりがあまり届いてなくより黒い、その天井を見ながら。 「外せるのか」 「……どうでしょう」 外せるにしても天井の板はかなりの大きさ、一人では到底外すことはできない。 「すまないが、飛ぶためには天井は邪魔になる」 開閉出来るわけでもなく取り外しにも時間が掛かる、すまないが天井を壊すことになるがいいだろうかと聞く。 二人は言い淀む、曽祖父が建てたここの壊してもいいかと聞かれても答えは出せない。 判断できるのは祖父くらいなもの、祖父に聞いてきますと二人は掘っ立て小屋から出ていった。 そうして掘っ立て小屋の中にはチーフだけになった、すぐにペリカンの中へと戻り操縦室へ舞い戻って全てのコントロールを立ち上げた。 エンジンに火が入り、小屋の外でも聞こえる音を立てる。 ペリカンが収められている掘っ立て小屋は村から離れた草原の片隅、爆発音でもなければ村にまで音は届かないだろう。 それを見越してメインスラスターとなる四基を吹かせ、問題がないか確かめるも小屋の壁が激しく振動し始める。 十数トンもあるペリカンを浮かすことになると当然それなりの推進力が必要となり、主力戦車も釣り下げて輸送出来る上大気圏離脱能力も備える。 故に小屋の閉所ではその強力な噴流が壁を打ち吹き飛ばしそうになって、すぐさまチーフは出力を落とした。 「………」 これは小屋ごと壊れる可能性が大きかった。 天井だけではなく小屋ごとも言わなければならないか、とチーフはペリカンを降りてハッチを閉める。 振動で少々立て付けの悪くなった扉を開いて潜る、広がるのは夕日に照らされ赤く染まった草原。 風が吹き抜け草本が揺れて波打つ、そこには異星人どころか人同士の争いの欠片すら見られない自然の光景。 その夕日が落ちて行く光景を見ながら、チーフは返事を聞きに行った二人を待った。 それから数分後、戻ってきた二人にチーフは答えを聞く前にさらに要望を重ねた。 「ペリカンが飛ぶ際の風で壁も飛びそうなんだが」 構わないか、と聞かれて二人は顔を見合わせた後。 「小屋を含めてちーふさんの好きにしていいそうです」 「……そうか、感謝する」 これで気掛かりはなくなった、そう言ってチーフは二人を見る。 「壁が飛んだりすると危ない、村に戻っていてくれ。 それと翁に伝えてほしい、飛ぶ姿を見せに行くと」 「……はい!」 その力強い頷きを見て、チーフは踵を返して小屋の中に入る。 ペリカンのハッチを開き中に入って閉める、その後操縦室で操縦席に座って出発の準備を整える。 五分ほど待ってからスイッチを押し込みエンジンに火を入れ、スラスターが勢いよく推進力を生み出す。 大きな音を立てながら更にスラスターを吹かして、ペリカンを水平のまま浮かび上がらせた。 床から二十センチほど浮かんだところでランディングギアを収納、その状態のまま上昇していく。 轟音と強力な噴流で、とうとう耐え切れなくなった小屋の壁が四方に崩れながら倒れた。 小屋の天井が崩れた壁の一部とくっついたままペリカンの上に落ちるも、問題とせずに上昇。 ゆっくりと浮き上がっていくペリカンは二十メートルほどの高さで滞空、そのまま短い回転翼を回して回頭。 タルブの村ヘと向かって飛び、シエスタの生家へと向かう。 草原を超えタルブの村の上空を旋回、ゆっくりと降りながらシエスタの生家の前、翁が寝ているであろう部屋の窓の前に降下させていく。 地面から数十センチ、ギリギリと言って良い高度でペリカンは空中に留まる。 操縦席から見えるのはシエスタの生家の窓、部屋の中からはベッドに横たわる翁の姿。 ペリカンの操縦席と窓との距離は一メートルほどしか無い、噴流で窓を揺らしてはいるが翁の視線はペリカンのみに注がれている。 チーフは操縦席の中から翁に向かって右手で敬礼、それの意味する所は分からないが翁もそれに倣って敬礼を返した。 それを確認した後、ペリカンは浮き上がってタルブの上空、回頭して夕焼けの空を飛んでいった。 「………」 赤く焼けた空を、夕日の中をずんぐりとした鉄の鳥がけたたましい音を上げて飛んでいく。 それは数十年の昔、父が動かしたその光景のまま。 「……シエスタ」 「はい」 翁と一緒に見ていたシエスタとその父、翁に呼ばれて返事。 「彼にまた会うことはあるのか?」 「はい、あると思います」 「ではその時一言伝えてほしい、『ありがとう』と」 「……はい!」 シエスタは強く頷いた、涙を頬に伝わらせる祖父を見ながら。 その頃、タルブの町外れで空を見上げていたのは二人。 「……本当に飛んでいっちゃった」 「………」 ペリカンが夕暮れの中を飛んでいく光景をルイズとタバサは呆然と眺めていた。 ルイズは本当に自分を置いて行ったことに、タバサは動く小さな羽が付いた鉄の塊が飛んだことに表情を変えないまま驚いていた。 「……っ! タバサ!」 「………!」 はっとしてルイズがタバサの名を呼び、タバサは素早く口笛を吹いた。 するとどこからともなくシルフィードが飛んできて、タバサの直ぐ側に降り立つ。 「きゅいきゅい、呼んだ?」 「追いかける」 タバサが杖で方角を示せばシルフィードは素早く頭を下げて座り、するりとタバサはシルフィードの背中に乗る。 ルイズもそれに続こうとして。 「ちょっと待ちなさい!」 当然その行為に待ったを駆ける人物が一人。 「あんたたち! とくにルイズ! 私の話聞いてたでしょ!」 ルイズを村中探しまわったせいか、肩で息をしながらキュルケがいきり立つ。 「そんなに危ない橋を渡りたいの!? 冗談じゃ済まされないのよ!」 「……それでもよ! チーフが、勝手に帰ったりしないか見てなきゃいけないのよ!」 はっきりとルイズはキュルケに向かって言い切る。 「……まさか、そんな事で」 「そんな事? 今そんな事って言った!? 自分の使い魔をそんな事扱いするなんて!」 怒り心頭でルイズはキュルケを強く睨みつける、それに対してキュルケは真っ向から受け止めるも疑問をルイズに抱いた。 確かに使い魔とは契約してから一生を共に過ごす、だがチーフは人間で他国の軍人。 間違い無くずっと一緒には居られない、契約を望んで解除することもできない。 つまりルイズにとってチーフは一生に一度の使い魔、それを無くし新たな使い魔を召喚するには今の契約している使い魔が死ななければならない。 ルイズにとっては戦争が起きるかもしれない事よりも、使い魔のチーフの事が大事だと考えているとキュルケは考えた。 「……本当に良いのね? チーフのお仲間さんとトリステインが戦争するかもしれないし、チーフと戦わなきゃいけなくなるかもしれないわよ?」 もしトリステインと戦争になればたぶんチーフは仲間の方に与するだろう、ルイズは当然トリステイン側に付くことになり敵対することになる。 主人と使い魔でありながら敵になる、そうなっても良いのね? とキュルケはルイズに問う。 「問題ないわ! 戦争なんて起きないもの!」 「……なんでそう言えるのよ」 胸を張って言うルイズにキュルケが呆れる、確かに戦争が起きる保障はないが起きない保障もない。 「だってチーフは戦争なんかしたくない、帰りたいだけって言ってたじゃないの」 「………」 もうなんだか疲れた、先ほどまでのわがままなルイズが更にわがままになっていた。 確かにチーフはそう言っていたが時と場合によっては戦争が起こり得る、戦いたくなくても戦いになるという可能性をルイズは考えていなかったからだ。 「……あー、……あのね」 この村に来て歩き回ったり走りまわったり、滅多に上げることはない大声を何度も出した。 その上話しても意味が通じていないルイズの相手をするのが億劫になってきた。 「……ダメね、チーフに謝らなきゃ……」 言っても聞かない、認めようとしないだろうルイズに言い聞かせるのは諦めた。 肩を落としてため息を吐きながらシルフィードに向かうキュルケ。 「……行くんでしょ、追いかけられなくなるわよ」 「キュルケが止めるからでしょ!」 プンスカ怒りながらルイズはシルフィードの背に乗り、キュルケも同じように乗る。 その顔はどこか生気が抜けていた。 ペリカンがタルブの村を立ち、ルイズ一行もシルフィードに乗ってこっそりと後を追いかけた。 飛行するペリカンの速度はなかなかの物で、火竜では追いつけない速度で飛んでいく。 追いかけるシルフィードは風の韻竜であるが未だ幼生、成体どころか最大でも火竜程度の速度しか出せない。 しかし先住魔法で精霊の力を借りて、ペリカンが飛ぶ際に発生させる独特の匂いを嗅ぎとり正確に追いかける。 「シルフィードより速いなんて思いもしなかったわ」 もしかしたら風竜より速く飛べるんじゃない? とキュルケ。 中は空洞とは言え鉄の塊が空を飛んで、しかもシルフィードより速いなんて思わなかった。 ますます持ってチーフが所属する軍隊がどんな物を持っているのか興味は尽きない。 戦争になったりしてこんなのを多く持ち出されたら不利になる事間違いない。 やっぱり力尽くでも止めるべきだったかしら、と後悔し始めていた。 それから飛び続けて一時間ほど、日は地平線の向こう側に落ち夜の帳が世界に降りていた。 疾うの昔に見えなくなったペリカンを追い続け、まだ追いつかないのか、本当に追いかけれているのかとルイズが疑問を投げかける。 「きゅいきゅい、匂いはずっとこっちからきてるのね」 自信満々にシルフィードが言う、いわく嗅いだことのない鼻にくる匂いだからすぐに分かる。 そう言って飛び続ける、その場所は森の上空。 タルブの村からどんどん離れて人の手が入っていない未開の土地。 鬱蒼と生い茂る草木で溢れかえる森には人が作り出す明かりなど微塵もない。 「……ねぇ」 「なによ」 一時間以上も飛んでいれば話すこともなくなる、周囲も暗くなっていて自然と会話の量が減っていた中。 シルフィードの進行方向を見たルイズが声を掛ける。 「……なんか、森がおかしくない?」 「……ああ、あれ?」 日が上っている時よりも断然暗いがかわりに上がった双月の光が森を照らし、その中で一つの異常をルイズ達は見た。 「ルイズ、あれ知らないの?」 「し、知ってるわよ!」 「なら聞かなくてもいいじゃない」 ルイズ、キュルケ、タバサ、その三人を背に飛ぶシルフィードが見るのは森を横断している一筋の線。 多少草木が生えているが一目で分かるほど大きく地面が抉れた、どうしたらこんなものが出来るのか不可思議な地面の傷跡。 「……まあたぶんあれでしょうけど、私も初めて見たわね」 今から約百年前に出来たと言われる、謎の巨大な物体が落下した時に出来たと言われる溝。 「調査団とか送ったけどよくわからなかったそうよ、国同士で一悶着もあったらしいし」 「……ふーん」 「人に聞いといてその反応はどうなのよ」 そんなルイズに呆れつつ、シルフィードは一直線に伸びる大地の傷跡と並走。 「……と言うことは、あれの先に訳の分からないものが落ちてるってわけね」 「相当巨大だったそうよ、長さは二リーグ以上もあったとか聞いたことあるけど」 「二リーグ……」 なぞるように傷跡を見て、その先にある小さく見える山とは一線を画する謎の物体をルイズたちは視界に入れた。 その時より三十分ほど前、チーフが操縦するペリカンはスピリット・オブ・ファイアのすぐ傍まで着ていた。 『スピリット・オブ・ファイアよりS-117へ、直掩機を送りましたので彼らに従ってください』 『了解』 延々と続く森の重空を飛んでいれば、通信が入り応じる。 それから数分ほど目的地に向かって飛んでいれば、スピリット・オブ・ファイアが横たわる方角から航空機。 敵味方識別装置で友軍として確認され、方向転換した後ペリカンの側に寄ってきたのは三機のスパロウホーク。 『こちらS-092、スピリット・オブ・ファイアまで誘導する』 『了解』 誘導されスピリット・オブ・ファイアへとペリカンと三機のスパローホークは飛んでいく。 それから十分ほど掛かりスピリット・オブ・ファイアの間近、森の上に斜めに横たわるそれの側面の隔壁がゆっくりと開いていく。 先頭のスパロウホークが先んじて格納庫へと入っていき、チーフのペリカンもそれに続く。 隔壁を潜ろうとして警報、重力がスピリット・オブ・ファイアの真下へと変化し、地表からみて斜めに重力が掛かる。 それをすぐさま補正を掛けて、スピリット・オブ・ファイアと同じ角度へとペリカンは傾いて隔壁をくぐって入る。 指定のランディングポイントにペリカンを着陸させ、計器を操作してエンジンを切る。 スラスターが弱まり完全に停止してからハッチを開いてペリカンから降りた。 そしてチーフの視界にはスピリット・オブ・ファイアの海兵隊がずらりと待ち構えていた。 その中には先にスパロウホークから降りていたスパルタンの三人も居た、手の内にはアサルトライフルなど武器が握られいる。 「艦長がブリッヂでお待ちです」 チーフの前に進み出た三人、S-092ジェローム、S-130アリス、S-042ダグラス。 声を掛けてきたのはチームリーダーのジェローム、チーフの記憶にあるジェロームとそのままの声。 チーフは頷き、歩き出すジェロームの後に着き、アリスとダグラスはチーフの後ろに付く。 海兵隊の人垣が割れ、四人はブリッヂへと歩き出した。 足音を鳴らしながら通路を歩むもそこに会話はない、同じスパルタンで訓練を共にしてきた仲間とは言え今は懐かしむ時ではないことを理解している四人。 無言のまま進み続けてブリッヂへ、シャッターが下りたままの薄暗いブリッヂ。 「……スパルタン、歓迎する」 入ってきたチーフたちに顔を向けて声を発したのはカッター。 チーフは進み出て敬礼、カッターもそれに返して右手を差し出す。 「話は聞いている、マスターチーフ」 チーフも差し出された手を握り返し握手。 「艦長、タルブの村で少尉の記録を見ました。 記録の開始が2531年となっており、事の顛末を説明しなくてはいけないかと」 「……それはどういう事だ?」 「自分がこの惑星上に召喚される直前の年月は2553年になります」 「説明してくれ」 手を離し、チーフはカッターを見ながら話す。 コヴナントとの接触から人類は戦い続け、述べ20年以上戦争を継続し続けた。 その過程で人類は小局で勝ち大局で負け続け、次々と植民地であるアウターコロニーが攻撃され人類は虐殺され続けた。 アウターコロニーのほぼ全てが落ちれば、次にコヴナントはインナーコロニーに攻撃を仕掛けてくる。 当然人類は死力を尽くして反撃、人類は地上での戦闘は辛うじて勝ってはいたが、宇宙空間での艦隊戦などでは大敗を喫して負け続けた。 その光景がパターン化して、5年、10年と戦況は逆転できず人類は追い詰められていった。 2552年、ついには第二のUNSC最高司令部が置かれた惑星リーチにコヴナントの大軍が襲来、地表と宇宙で激しい戦いが始まる。 このままでは人類は大きな科学技術力の差で押しつぶされる、そう判断したUNSC上層部は逆転の一手を狙った極秘作戦を練り上げた。 それは最精鋭であるスパルタンⅡたちによるコヴナント指導者の捕獲という作戦、賭けにも似た作戦を主導する。 惑星リーチで専用に戦艦を改修し準備を整えたが、惑星リーチでの劣勢などで集められたスパルタンⅡたちも戦いの中に飛び込んでいく。 だが抵抗も長く続かず惑星リーチは陥落、そしてチーフは戦闘による大怪我を負い治療を受ける。 チーフの怪我を治療出来た時にはUNCSの戦力は惑星リーチ上でほぼ壊滅状態。 残る戦艦ピラー・オブ・オータムはスパルタンⅢたちの尽力により、重要なA.Iを抱えて惑星リーチから離脱。 スリップスペースワープにてコヴナントの追撃を振り切ろうとしたものの、逃げ切れずある惑星で捕捉、待ち伏せされる。 迫るコヴナントの戦艦、迎撃を行うも多勢に無勢で戦艦オータムは攻撃を受け反撃する武装までも破壊される。 戦艦オータムはそれほど時を置かずして撃沈される。 そう判断した戦艦オータムの艦長、ジェイコブ・キース大佐は惑星の近くに浮いていた環状の人工物に着陸する事を決める。 それがコヴナントと人類の戦争を決定付ける超古代文明の最終兵器、HALO<ヘイロー>の発見であった。 「……そのヘイローと言うのは?」 「半径内の全知的生命体を滅ぼす兵器です」 巻き込まれれば保護領域にでも居なければ消滅してしまう、対フラッド用の最終兵器。 コヴナントの指導者たちはそれを聖なる物として扱い、真の機能を知らずに作動させようとした。 チーフはA.Iのコルタナとヘイロー上を駆け、真の機能を知りヘイローの破壊に乗り出す。 そのヘイローの管理モニターやコヴナントの妨害もあったが、戦艦オータムの海兵隊たちとの協力でなんとか破壊して脱出することが出来た。 だがヘイローは一つだけではなく、複数あること、失われたヘイローを再建するアークが存在することを知った。 熾烈な戦いの中でチーフはコヴナントの指導者の一人を抹殺できた事、ヘイローの真実を知ったエリートたちの反乱。 地球にコヴナントが襲来した事、アークの破壊に成功した事、それが終わるもアークの崩壊に巻き込まれワープに失敗。 どこともしれぬ遠い宇宙空間で、救助を待つため折れたフォワード・オン・トゥドーンの中でコールドスリープに着いて眠った所で召喚されたことを話した。 「………」 その話はカッターを含めて話を聞いていた者たちに衝撃を与えた。 シールドワールドの事からコヴナントさえ超える凄まじい技術を持っていた文明があったのだろうと、推測は出来ていた。 その文明がフラッドとの戦いで劣勢を強いられ、最後にはヘイローと言う相打ちでしか終わらせることが出来なかった。 更には惑星リーチのこともある、カッターの出身星は惑星リーチであり、チーフたちスパルタンも第二の故郷と言える星であるからだ。 「……マスターチーフ、戦争は終わったと思うか?」 「わかりません、指導者たちの本拠地を破壊できましたが生き残りが居ないとは限りません」 ブルートたちも未だ多く残っている、それをまとめ上げ再度侵攻してくる可能性も残っていた。 「可能性はあるでしょう、また戦争が終わっている確率もかなりあるかと」 黙して話を聞いていたセリーナが可能性があると語る。 「後顧の憂いはある程度解消されたところで、これはどうしましょうか?」 そう言ってセリーナはディスプレイの一つに外部映像を映しだした。 そこには一匹の竜と、その背に乗る三人の少女たちが映っていた。 前ページ虚無と最後の希望
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/7869.html
このページはこちらに移転しました 俺の一日 作詞/あえて名無し 作曲/299スレ11 朝目覚めれば股間が 湿っていて甘い香りが 机の上のパソコン ついたまオカズをながし 眠い目こすれば目がしみて 先っぽが下着に擦れ トイレに入れば今日も儀式はじめて おはよう 全裸で布団の中 しごかなくても気持ちい 洗面器に溜めた湯に 突っ込むとイキそうになる 今日のできごと振り返り せっせとちんちんしごく 抜けば虚脱感にみまわれて 明日こそオナ禁できそう 音源 俺の一日
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6643.html
前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-13「襲撃」 「ルイズ、誰が来ても部屋の中に入れるな」 そう言ってチーフはキングサイズはあるベッドを簡単に抱え上げ、ドアに立てかけた。 大の男が数人がかりで動かす物を、まるで小さな空き箱を持ち上げるかのように動かした。 もとより身体を強化されているチーフ、小口径の弾丸一発や二発で貫けないエリートのエネルギーシールドやブルートのアーマーさえ一撃で殴り打ち破るだけのパワーがある。 スーツのパワーアシストをも利用すれば、数十トンもの戦車さえもひっくり返す事が出来る。 そんな法外な膂力を持つチーフに掛かれば高だか木製のベッド、キングサイズであろうと簡単に持ち上げられる。 「え? どうして?」 そんなチーフの突然な行動に戸惑うルイズ。 部屋に入ってくるなり、ベッドから降りる事を要求。 従って降りれば今の行動、訳が分からない。 「敵が来た」 ただ一言、そう言ってドアの前に物を積み上げていく。 室内の大きいと言える物をあらかた積み終え、窓の正面に立たないよう歩み寄ってほんの一瞬顔を出して覗いた。 敵と言うフレーズを捉え、内心戦々恐々とするルイズだったが。 それを見抜いたのか、チーフは簡潔に声を掛けた。 「片付けてくる」 平坦だが力強く、安心感を生み出す声。 何か言わなくちゃと、口を開くが。 「そ……その、き、きき気を……」 「……ああ」 喉で止まる言葉、だけど言いたい事が分かったのかチーフは頷く。 振り向き窓を開け、窓枠に足を掛けて体を乗り出した。 宿の外に降り立つと同時に速攻、腰に掛けてあるデルフリンガーを掴んで駆け出す。 ガンダールヴによって強化された身体機能、その速度は優に人の限界を超える。 チーフの着地、その音が聞こえた方へ視線を向けた時には、4人の傭兵たちに緑色の鎧が襲い掛かっていた。 「ブッ!」 デルフリンガーの峰、一回転させながら一人の傭兵の胴に打ち込む、まるで車に撥ねられた様に飛んでいった。 その傭兵が地面に落ちる前にそのままの勢いで体を回転、踏み込みバットを振る様に3人の傭兵を巻き込み打ち飛ばした。 鎧を着込んだ3人の男達の悲鳴が上がり、合計400リーブル以上、200キログラムは超える傭兵達が5メイル以上空を飛んで地面に転る。 発見しても成す術無く、接近、戦闘、終了まで5秒も掛かっていない。 「ヒュー、流石は相棒だ」 デルフリンガーが茶化すが、それに答えず。 「………」 チーフは飛来した矢を左手で掴み止めた。 「ヒッ!」 矢を撃った男、矢を圧し折りながらチーフが視線を向ければ悲鳴を上げた。 この距離、約30メイルの距離で当てれると確信を持ったのだろう、弓を引き絞り、矢を放った。 だがチーフはいとも簡単に掴み止めた、時速200キロメートル近いスピードで飛来する矢をだ。 どのような絶技か、人間ならば止められずに体に当たっていただろう。 チーフに見据えられた傭兵、慌てて第二射を放とうと矢柄に手を伸ばし。 弓に矢を掛け、敵を確認した時には目前の振り上げられた長剣。 双月が照らすその緑色の、人の形をしたそれの顔面に映る、怯えた自分の顔が見えた。 この男は後日後悔した、あんな美味い話に乗るべきではなかったと。 怪しむべきだったと、怪我に涙を飲みながら後悔した。 だがこの男だけではない、この宿襲撃に参加した者の殆どが後悔する事となる。 「何だ?」 これから貴族様が泊まる宿を包囲しようって所に、端から一際煩い怒声が上がっていた。 視線をやると、……なんだありゃ? 人が空を飛んでいる、浮き上がるフライじゃなくて上がって落ちる、放物線に吹っ飛ばされる人間。 次第に近付いてくる喧騒が頂点を迎えた所に、原因となった存在が視界に入った。 「ありゃあ……、ゴーレムか?」 全身緑色の、顔の部分に金ぴかの何かを張り付けた、人の形をしたモノ。 2メイルを超えそうなほどデカいそれが、包囲網の一角、雇われた傭兵達をなぎ払っていた。 人の頭を丸々掴んで持ち上げられそうな右手に錆びた長剣を持ち。 そのぶっとい足で人間では出し得ない速度で駆け。 他の奴らを殴り、蹴り、投げ、鈍器と化した長剣で一撃の下に叩きのめしていた。 「おいおい、えらい強いゴーレムだな」 やられた数は既に20人を超えていた、現れた方向には窓から逃げないよう20人ばかし居た筈。 つーと、窓から出てきた? 置いてた奴らは逃げたかやられたか、どっちにしろ戻ってはこないだろうな。 てかあの旦那、あんな強いゴーレム出せるメイジがいるなんで聞いてねーぞ。 スクウェアメイジでも居たのか? あんだけのゴーレムは早々お眼にかかれねぇ。 精巧に出来た操作型のゴーレムか、機械的、効率的に倒し続けるそれは同じメイジとして感嘆を覚えた。 しかしだ、前金も貰ってるし、ここで見逃したり、逃げるわけにもいかねぇ。 「このままじゃあやべぇーな、おい、あのゴーレムぶっ潰すぞ」 杖を取り出す、周りに居た奴らも頷き杖を取り出す。 言っちゃあ何だが、俺を含め周りに居る奴は元貴族。 ラインとトライアングルで構成される実戦派メイジ集団、戦闘経験もたっぷりで殺したメイジは100人を超えている。 スクウェアメイジも殺った事もある、ちょっとは名の知れた傭兵団。 その傭兵団の頭として激と命令を飛ばす。 「目標、敵ゴーレム!」 軍隊方式に則って行動し、整列、杖を構えて集中。 声を張り上げ、各々が得意な魔法を練り上げる。 傭兵の群から頭一つ分ほど飛び抜けていたゴーレムの頭が此方を向いた。 気が付いた所でもう遅い、既に魔法発動の分の精神力は溜まっている。 「構えーッ!」 一際大きな声をあげ、魔法を撃ち放つと宣言する。 それに気が付いた他の傭兵どもは、巻き込まれまいと挙って逃げ出し始めたために群集が一気に開け、傭兵団とゴーレムの間に障害物はなくなった。 「チッ」 だが魔法を放つ号令を出す前に、緑色のゴーレムは魔法から逃れようと走る奴らを壁にして逃れる。 「邪魔だァ!! さっさとどかねぇとブッ殺すぞ!!」 その怒号で更に傭兵どもが慌てふためき逃げ回る。 一向に緑色のゴーレムの全身が見えない、人の壁によって守られた存在。 そのくせ、ゴーレムが駆ければ人が跳ね飛ばされる。 ただの傍観者であれば、面白い光景ではあったが。 自分たちも鎮圧対象だからいただけない。 「クソが! 1番2番3番、発射用意ッ!」 もう他の奴らなんて知るか、無理やりにでも障害物を退ける。 「──放てッ!」 3本の杖から放たれる魔法、火球、風刃、氷矢、各々が得意とする攻撃魔法。 3メイルの火の玉が地面を削りながら飛び、不可視の鋭利な風の刃が走り、歪な氷の矢が数十本と駆ける。 目標はゴーレム、だがこれは障害物を退ける為の物、ゴーレムに当たらなくても良い。 火球で燃え上がり、風刃で両断され、氷矢で串刺しに。 阿鼻叫喚、俺ら以外の人間が幾ら死のうと関係ない、俺たちはあのゴーレムを排除して宿の中に居る奴らを殺すだけだ。 「開いた、4番5番6番!」 大勢の傭兵が死に、道が開ける。 それが失態、障害物が無い。 その状態がどれ程危険だったのかはこの時気が付かなかった、そして気が付いた時にはもう遅い。 炸裂音、何かが弾けた様な音が一帯に響く。 「ギッ」 杖を構えていた仲間の一人が、声を上げて蹲った。 「あ?」 座り込んだ仲間を見れば、杖を持っていた右腕があらぬ方向へ圧し折れていた。 血が噴出し、人の芯と言える骨が飛び出ていた。 「おいおい、何が……」 何が起こったのか、疑問はすぐ晴れた。 緑色のゴーレムを見てやれば、俺たちに何かを向けていた。 月光で白銀に輝く、無骨なデザインのそれ。 向けられた穴、微かに見えるそれから上る白い煙。 「まさか……」 あれと似たものを何度か目の当たりにした事がある。 火の秘薬を使って、鉛を撃ち出す銃。 近づかないと当たらない上、そこまで威力が無い武器。 なのに、あのゴーレムが使ったのは短銃身の銃で、この距離で当ててきた。 撃たれた奴を見た事がある、2サントも無い穴が開く程度だった。 だがこれは何だ? どうして仲間の腕が圧し折れ、骨が飛び出ている? あれは銃なのか? こんな馬鹿げた──。 ゴーレムが構えるそれは本当に短銃なのか、思考を巡らせていれば再度破裂音。 無事だった仲間が、押し飛ばされたように倒れる。 「冗談じゃねぇ、逃げるぞッ!」 すぐさま詠唱を破棄、かがんで蹲る仲間を無理やり引っ張り、四の五の言わずに逃げ始める。 こんな奴が居るとは聞いてない、こんな奴を相手取るならあれだけの前金では到底足りない。 腕を圧し折り、骨を飛び出させる銃を持つ奴なんぞと戦えるか! 「ギャア!」 さらに破裂音が聞こえれば、横に回転しながら飛んで転がった全身鎧の傭兵。 弾が当たった部分、右肩の金属が大きく拉げ、赤い花が咲いていた。 「連続発射とかふざけんな!」 悪態をつきながら逃げる。 あの距離で金属の鎧を貫通する威力だと? おまけに連続で撃てるなどと、常軌を逸した銃。 それを自分に向けられる恐怖、それが銃に対してのトラウマを植えつける。 「ほら! 逃げろ逃げろ逃げろ!」 撃たれた仲間を抱え、無事な仲間と走って逃げる。 フライで逃げれば、目を付けられるかもしれない。 他の奴らを盾にして走った方が撃たれ難い。 必死扱いて逃げる、他の奴らとは反対方向。 何人もの傭兵達とすれ違う。 無謀にも切りかかる他の傭兵ども、さっさと逃げれば良いのにと思いながら走る。 横目でその光景を覗けば、剣を振り上げ襲い掛かる奴の手を簡単に掴んで投げ飛ばし。 軽装の鎧の奴が槍を突き出せば、その穂先が体に触れる前に柄を掴み、引っ張り奪い取る。 矢が飛んでくれば簡単に叩き落し、奪い取った槍を振り回す。 左手に持つ長剣をまるで小枝を振り回すように振るい、悉く叩きのめし。 右手の奪い取った槍で近づかれる前に薙ぎ払う。 「化けもんじゃねぇか……」 秒単位で地に伏せる者が増える。 長剣と奪い取った槍、その2本が猛威を振るう。 暴風と言っても良い、駆けながら攻撃を繰り出し、あのゴーレムが通った後は倒れ伏す傭兵たちだけ。 他の奴らを相手にしている今なら……、と考えて頭を振る。 また撃たれたら堪ったもんじゃねぇ。 やはり逃げて正解だった、あんなの幾ら金を積まれても絶対に戦わないと決心した。 最優先排除目標、メイジの一団の撤退を確認。 残る目的、宿周囲の敵を掃討。 「一番厄介なメイジが居なくなった、後は簡単だねぇ」 周囲の敵を見据える。 確認できるだけでも100人ほど。 誰もが剣や槍、弓など原始的な武器を持つ。 「簡単だ」 デルフリンガーを回す。 そして一歩、高く跳躍した。 人を優に超える高さまで飛び上がり、数人の頭上を通り過ぎる。 着地地点、重量が400キログラム以上有るマスターチーフが傭兵の一団へ突っ込んだ。 空中で足蹴、蹴られた傭兵は大きく仰け反り転倒。 「このッ!」 着地と同時に前方から剣を振り上げ、斬りかかろうとする男の左脇腹へ右手の槍で払い打つ。 殴り飛ばされ、他の傭兵にぶつかり転がる。 その場で横に回転、槍で大きくなぎ払い、当たった傭兵達が吹っ飛ばされる。 その反動、大きく撓っていた槍が圧し折れ飛んでいく。 手元に残るのは折れて短くなった槍、見てからそれを投げ捨てる。 「調子乗ってんじゃねぇぞ!」 そう息巻きながらも、チーフに打って向かう者は居らず周囲を囲むだけであった。 怯えるのも無理は無い、今の行動だけで10人以上が戦闘不能に陥った。 攻撃すれば自分達も同じようになるかもしれない、と考えたからだ。 「………」 右、傭兵の壁。 左、傭兵の壁。 正面、傭兵の壁。 後方、傭兵の壁。 周囲を完全に囲まれている。 「で、どうすんだ相棒」 「決まっている」 道が無いなら。 「ぶち抜いて作る」 デルフリンガーを一回転。 5メイルの距離を一歩で埋め、デルフリンガーを振るう。 傭兵たちが構えていた槍を叩き折り、勢い付けたまま肩から体当たり。 そのまま腕を振るえば4人ほど重なって払い飛ばされる。 飛んだ4人が他の傭兵にぶつかり、10人以上が転倒して怪我を負う。 「くそッ! 何なんだこいつは!?」 たった一つの存在に蹂躙される100人以上の傭兵達。 その光景を見て誰かが苦辛を吐いた。 異常とも思える光景は、当の本人、マスターチーフにとって当然でなければいけない光景。 『彼』、スパルタンは人より速く、より強く、より強靭に。 より強力な者として作り上げられた超兵士。 ならば、策を用要らないただの人間が勝てる訳も無い。 ……いや、『負けてはならない』。 勝たねば、勝ってしまわねばならない存在である。 それが彼らが生まれた理由、人類に勝利を齎す存在として作り上げられたのだ。 「ば、化け物が!」 人類をはるかに上回る存在を打倒する為に彼は生きる。 より凶悪で、より醜悪で、より強大な存在も明らかになっている時。 生きて元の世界に戻り、最終兵器の破壊と寄生虫どもの殲滅。 これらを成し遂げるための、足がかりとなるべき存在である。 故に負けない。 折れぬ心、諦めぬ精神、如何なる苦境でも突破し、這い上がる。 今この場、今まで体験してきた数多の苦難、その時の状況と比べてたらはるかに温い。 「終わりにしよう」 囲まれた中、落ち着きの有る声。 それを聞いた周囲の傭兵たちは、この存在がゴーレムではないことを理解する。 たった一人の人間に、魔法を使わない奴にここまでやられたのか、と。 チーフに対して向けるべきではない、自業自得でありながら理不尽な怒りに燃える。 「こぉろせぇ!!」 誰かが声を張り上げて言った。 途端に襲い掛かり始める無数の傭兵達。 「手加減する必要はなくなったな、相棒」 最初から正当防衛、殺しに掛かってくる者たちへの止むを得ない武力行使。 害意を持って襲ってくる者たちへの相応の対応、それは程度により、最悪の場合殺害さえも許可されている。 多数によって少数を襲う、そして先の『殺せ』と言う言葉。 この状況はマスターチーフが他の人間を殺害する事も良しとされる状況。 「殺しても意味が無い事も確かだ」 だが、それでも殺す事を良しとしない。 戦意の喪失を狙う事はあっても、命の喪失を狙う事はない。 彼が殺すのは人類に敵対するもの、預言者達が率いるコヴナントや寄生虫と、それに取り付かれた者達だけだ。 故に、彼は殺さない。 詰まらない理想と言われるだろう、だが彼にはその理想を実現するだけの力がある。 「143……、136……、131……、119……、103……、100人切ったぜ相棒」 纏めてなぎ倒され、見る間に数を減らしてゆく傭兵たち。 その状況を見ていきり立つ者、冷静になる者、傭兵たちはその二つに分かれた。 雄たけびを上げて突っ込み、容易くなぎ倒され気絶する者。 我に返り、その異常に恐れをなして逃げ出す者。 どちらが正解か、考えなくても分かってるだろう。 元よりこの存在と敵対、向き合うべきではなかったと。 「……外、静かになってきたわね」 キュルケは盾にしたテーブルに寄りかかり、外の音に耳を澄ます。 飛び出そうとしたタバサを押し留めた頃から大きくなった喧騒。 消耗戦に持ち込もうとしていただろう襲撃者、不本意ながらそれに付き合うしか出来なかった自分たちだったが。 争っているような声がどんどん小さくなる事に疑問を持ち始めていた。 「ダーリンかしら……?」 「かもしれないね、彼なら一人で蹴散らしそうだし……」 ギーシュが相槌を打つ、ギーシュの言う通り本当にやりかねない。 「彼が外に? まさか……」 そう言った子爵が宿入り口を一瞬だけ見遣る。 「玄関の傭兵達も外に出たようだ」 「あら? 私達嘗められてる?」 メイジである私達を抑えず、外に居るらしいダーリンを優先する? ある意味正解かもしれないわね、メイジを圧倒する魔法を使えない軍人がそんじょそこらの傭兵に負ける訳が無い。 外の奴らは魔法が使えないなら数で圧倒する位しか無さそうね。 「彼が囮になってくれている今がチャンスだな」 「……チャンス?」 「ああ、僕達は出来るだけ早く任務を達成しなければいけない。 なら今最も優先される事は『先に進む事』だ」 「ダーリンを置いて行くって事?」 「ああ、今ならすんなりと奴らの包囲網から抜けられるだろう」 そう言って身を低くしたまま階段へ走り出す子爵。 恐らくルイズの部屋に向かってるんだろう。 「……どうする? 子爵の言う事は一理有るわ」 「子爵の言う事は分かるが、彼を置いて逃げるなんて貴族の風上にも置けないんじゃあないか?」 「ダーリンに貴族や平民なんて関係無さそうだけどね」 「……誰かが残らねばならない」 異国の軍人であるチーフ、ある程度地図で確認はしていたものの。 やはり知らない土地では道に迷ったりするかもしれない。 だから、少なくともチーフより土地勘がある私達の誰かが残らねばならない。 「誰が残るの? 私でもギーシュでもタバサでも、モンモランシーはどうでも良いわね」 「ちょっと! そんな言い方無いんじゃないの!?」 「貴女は怪我した時の治療要員、どっちにしろ危ない方に残る必要があるわねぇ」 つまり、一番強いスクウェアメイジである子爵とはお別れになる。 そう言ってやれば、何かを喉に詰まらせたように唸るモンモランシー。 「なら僕はモンモランシーと共に居るよ、僕はモンモランシーの騎士だからね!」 そんな格好付けの言葉に感動するモンモランシー。 「はいはい。 で、誰が残る? 希望する人は優先するわよ?」 「……私は彼女に付いて行く」 「彼女……、ルイズの事?」 頷くタバサ。 ついて行くのはダーリンの主だからかしら。 それに、チーフが外にいるならば、もう私達の出番は無いかもしれない。 「子爵が彼を置いて進むなら、私は彼女と一緒に居る」 「……そうね、ならタバサがルイズと子爵に付いて行って」 流石に子爵とタバサに守られるなら、いかにゼロのルイズでも無事で居られでしょうね。 「ちょ、ちょっと待って!」 と、階段の上から聞こえるルイズの声。 「置いて行くってどういう事!?」 「そのままの意味だよ、彼が囮になってくれている今がチャンスなんだ」 「そんな……、囮になるなんて一言も言ってなかったわ!」 「君の事を心配させないようにしたんだ、彼の気持ちを汲み取ってやってくれ」 そんな問答、子爵がルイズの手を取ったまま降りてくる。 「君達はどうする? 僕達と共に行くか、ここで傭兵どもを迎え撃つか」 「タバサはお二人に付いて行きますわ、私とギーシュとモンモランシーは残って彼を待とうかと」 「……分かった、さあ行こうルイズ」 「本当に置いていかなくちゃいけないの!?」 「ああ、外にはかなりの数の傭兵どもが居る。 今ここで抜け出さなければ危うくなるんだ」 「で、でも」 「分かってくれ、この任務は非常に大事な事なんだ。 それは君にだって分かっているだろう?」 「………」 ワルドの剣幕に押され、押し黙るルイズ。 黙ったが、まだ何か言いたそうな雰囲気。 あまり時間が無いのに、こんな問答をしている暇なんて無いでしょうに。 「ルイズ、さっさと行きなさい。 子爵の言う通り大事な任務なんでしょ? ダーリンなら囮どころか全滅させるわ、心配するだけ無駄よ」 「……そうね、でもチーフは私の使い魔なの。 置いては行けないわ!」 「もう、こんな事言い合ってる場合じゃないの! すぐに追いつくからさっさと行きなさい!!」 怒声、余りの愚図り様が癪に障る。 「……タバサ、お願いね」 すぐにルイズから視線を外し、隣のタバサを見てお願いする。 それに頷き、立ち上がるタバサ。 「さぁルイズ、行こう」 私に怒鳴られ、半ば放心状態のルイズを引っ張っていく子爵。 その後ろにタバサが付いて歩いていき、カウンター横の裏口へと進んでいった。 「……さて、主役はこの舞台から退場してもらったわ。 これからどうしましょうか」 「どうするって言ったって、あの使い魔が無事だなんて本気で思ってるわけ?」 「思ってるわよ? だってトライアングルのタバサに勝ったのよ、そんな人がそこら辺の傭兵に負けるわけ無いじゃないの」 「それは本当なのかい!?」 ギーシュが仰々しく驚く、その隣でモンモランシーも眼を丸くしている。 「本当よ、その場に居たもの。 ……この目で見なかったら貴方達と同じように信じてなかったでしょうね」 「嘘……じゃ無さそうね」 「こんな時に嘘なんて付かないわよ、不謹慎すぎるでしょ」 これが嘘で、チーフが既に倒されていたら次は自分達の番になる。 実際はそんなこと無いだろうと、チーフの実力を知るキュルケは露にも思っていなかった。 「それにしても、もう殆ど聞こえなくなってきたわね」 散漫に聞こえてくる音。 10分前にはうるさいぐらいの喧騒だったのに。 「とりあえず、外を確認してみましょ」 そう言って盾にしたテーブルから頭を出して、宿内を見渡す。 宿内に敵は誰一人居ない、テーブルの陰から飛び出して壁沿いに進む。 ゆっくりと進み、窓から外を覗こうとすれば……。 「ヒィ!?」 いきなり窓から飛び込んできた傭兵、それを見てギーシュが悲鳴を上げた。 「……気絶してるわよ、ダーリンに殴り飛ばされたのかしら」 白目を剥いて、倒れ伏す傭兵。 その鎧の胸の部分、拳の形に凹んでいた。 無謀にも切りかかったらしい、そして殴り飛ばされた。 そんな馬鹿な傭兵から視線を外し、窓の外を見る。 「……あらー」 「ど、どうしたのかね?」 「見れば分かるわよ」 そう言って譲る。 ギーシュが身を乗り出し、窓の外を覗く。 「……これはまた、凄いな……」 「何が凄いのよ」 「チーフが殆ど倒しちゃってるよ」 窓の外、数十の倒れ伏す傭兵。 その中に立つのはたった一つの影。 「やっぱり、頼もしい存在よねぇ」 頭を抑えられ、身動きを取れなかった私達と比べ。 単身で敵に襲い掛かり、物の見事に傭兵たちを叩きのめした。 「メイジでさえも出来ない事を、こうも平然とされちゃあねぇ」 「同感だね」 魔法が使えない人間は、魔法を使える人間より弱いと言う固定概念が崩れ去った瞬間。 やっぱりとんでもない人間だと思い直す。 窓から顔を覗かせ、周囲を確認。 居るのはチーフと、遠くの方に走り逃げ去っている奴らだけ。 「ダーリーン!」 その声を聞いてこちらに顔を向けてくる。 それから左右を確認、宿入り口まで歩いてきた。 「大方は片付けた」 「そりゃあ、これだけ倒せば敵も逃げるわよねぇ」 100に届きそうな、もしかしたら100人を超えているかもしれない。 「怪我は」 「だーれも、ダーリンのお蔭で皆無事よ」 「そうか」 それを聞いてから、宿の中に入るチーフ。 「あ、ダーリン。 ルイズたちは先に行っちゃったわよ」 動きが止まり、振り向くチーフ。 バイザーにキュルケの顔が映りこんだ。 「何処へ」 「目指すはアルビオン、と言う事はフネに乗るしかないの」 「……桟橋は何処にある」 「今から追いかけるの? 多分もう出発してるかもしれないわ」 「まだ追いつけるかもしれない」 落ち着いた声、やっぱりルイズを近くで守りたいらしい。 「向こうよ、行きましょう」 私が指差した方向、その先には巨大な樹が有った。 4人は駆ける、正確に言えばチーフのみ走り、それに付いて行くためにフライで飛ぶ3人。 剣を握ったチーフの走る速度は人の全速の倍近い、フライでも使わなければ到底追いつけない。 そんなスピードで駆ける4人、巨大な樹で出来ている桟橋が見えて、空を見上げる。 遠く、月光に照らされ空に浮かぶフネ。 どんどんと小さくなっていく。 「どうやらあれの様ね」 見る間に小さくなって行く。 かなりの速度が出ているようだ。 それを見ながら走り、桟橋に到着。 「他のフネは」 「聞いてくるわ、少し待ってて」 キュルケがそのまま飛びながら桟橋の奥へと進んでいく。 その間に、飛んでいるフネは見えなくなった。 それから数分、キュルケが戻ってくる。 「駄目だったわ、あのフネが一番風石を積んでるらしいの。 他のフネじゃアルビオンまで持たないらしいわ」 それを聞いて、視線を戻して空の彼方を見据える。 「明日の朝まで待つしかないわ、そうしないとアルビオンの大地を踏む事は出来ないわ」 その方角は、ルイズと子爵とタバサが乗ったフネが飛んでいった方向だった。 前ページ次ページ虚無と最後の希望
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8137.html
前ページ次ページ虚無と最後の希望 level26「遭遇」 『……以上がレッドチームとODST中隊の任務です。 基本大気の心配はありませんが、念を入れて艦外活動と同等の完全与圧で出動してください』 艦内のブリーフィングルームにて、スパルタン三名からなるレッドチームと各ODST中隊長と副中隊長、そしてそれを纏める大隊長に選ばれた十人がブリーフィングを受けていた。 「了解、ターゲットのイメージはないのか?」 その中で大隊長を任されたトーマス・ミラー少佐がセリーナへと情報を求める。 『指定ターゲットのイメージを転送します、犬頭と豚頭ですね』 それに応じて、セリーナは立体映像投影機に映像を転送。 形成された三次元の異形を見て声を上げる。 「……まじかよ、何だこの怪物。 エリートやブルートのほうが可愛げあるぜ」 「エリートやブルートの方が可愛げがある? 冗談はよせ、似たり寄ったりの化け物だろ」 「コヴナントの新しい種族か?」 ODST隊員が驚きの声を上げるが、対照的にレッドチームは無言を通す。 その中で黒のチタンナノコンポジットボディスーツの上に、緑色に塗装されたチタン合金外殻を装備したニメートルを超える人間。 ゴールドのバイザーのヘルメット頭頂部から縦一線に赤い塗装、右胸の装甲にも斜めに赤い一線を施された、レッドチームのリーダーを示すスパルタン。 ジェローム S-092が青白いホログラムのセリーナを見ながら口を開いた。 「装備の使用制限は?」 「使用許可が出ているのはM6C/SOCOMとM7S短機関銃です、それと捕獲用に睡眠弾ですね」 その返答にトーマスが眉を顰め、セリーナに疑問を返した。 「こんな未開の惑星でサプレッサー付きのハンドガンとサブマシンガンのみってのは何か理由があるのか?」 「銃声は響きます、原生生物ならまだしもこの惑星上の人類に感付かれるのは得策ではないと判断されています。 それに誰もその他の火器を携行してはいけないとは言っていませんよ」 「なるほど」 セリーナが再度情報を送り、サプレッサーが付いているハンドガンかサブマシンガンの携行を必須としてもう一つの携行武器は役割に応じた物。 接近戦を主とするクロースクォーターズにはショットガンやアサルトライフルなど。 遠距離射撃を主とするシャープシューターには狙撃の代名詞であるスナイパーライフルに三点バーストのBR55バトルライフル、単発式のM392マークスマンライフルなど。 そして偵察や斥候を主とするリコンには、積極的に戦闘を行わないためにM6C/SOCOMとM7S短機関銃を携行する事。 無論それだけではない、人間をはるかに超える大型生物の存在も在り得るため大火力の火器、ロケットランチャーやスパルタンレーザーをいくつか携行する事など。 これらを説明した後、状況に応じて他の火器の使用許可を出すとセリーナが言う。 「それを最後に大きな問題が一つ」 危険な場所に送られる最精鋭のスパルタンやそれに続く精鋭のODSTとは言え。 火器としては貧弱な部類に入るハンドガンと短機関銃の二つだけで送り出されれば、死んでこいと言われているようなもの。 トーマスはそうではないと分かり一つ安堵のため息を付くが、それを打ち砕きそうな言葉をセリーナが言った。 「この惑星全域に非常に強力なジャミングか確認されています、推定ですが艦の半径1キロメートル以上離れれば通信は不可能となるでしょう」 「……まさか、コヴナントでも居るんじゃないだろうな?」 恐る恐る、人類の天敵が居るのでは? とトーマス。 「ジャミングを発しているのがコヴナントか、と言われれば可能性は低いでしょう。 如何に優れた技術を持つコヴナントととは言え、これほど広域で強力なジャミングを発した記録は一度もありません」 「他に何があるってんだ? こんな事出来るのはコヴナントぐらいしか居ないだろう」 「一つだけ、UNSCやコヴナントを上回る技術を持つ存在が」 「……ああ、あの古代艦隊を作った奴らか」 UNSC、人類の科学技術を容易く上回るコヴナントでさえ格下と言わざるを得ない超技術を保持し、遥か昔に栄えていたと思われる超古代文明。 戦闘を主とするUNSCでは不可能、そのUNSCより高い技術を持つコヴナントでも不可能、だが超古代文明ならどうか。 恐らくは可能、セリーナが閲覧した一部の記録では理解できた範囲で驚異的としか表現できない技術を保有していた。 それこそ一から居住可能な惑星を作り上げる事も、それを実感させられたのはシールドワールドだった。 大気が整った地表に、その地下には全長2.5キロメートルのスピリット・オブ・ファイアが悠々と進める広大な空間とまるでコロニーのような内側に地表と同じ環境が整った空間。 そして人類が居住可能な惑星の上部マントルから内核に相当する部分には天候が変化する空と、惑星の中心に位置する人工的に作り上げられた太陽に相当する光源。 地表と惑星内部に広がる反転したもう一つの大地、あれら全てが人工的に作られたと凄まじいの一言。 人類どころかコヴナントですら劣化模作を作ることが出来ないだろう、それほどまでに超科学技術と言える超古代文明。 もしかすればこの惑星もそうであり、あるいはそうではなくこの惑星に超古代文明の遺跡が残っているかもしれないと言う推測。 「アンプを経由すれば良いだけでは?」 その推測の中スパルタンレッドチームの一員、同じく黒のボディスーツと緑に塗装された装甲を着けるアリス S-130が解決策を上げるが。 「無論中継機を背負ってもらいます、そうしても半径2キロメートルにも届きません。 本格的に通信距離を伸ばすには大型の設置型機器が必要になりますね」 根本的な解決には至らない、通信無くして広域かつ迅速な判断が下せないと言うのは痛い。 これがスピリット・オブ・ファイア周辺の動植物の採取という任務だからこそまだいいが、通信可能範囲外へと出なくてはいけない任務だと危険度が増す。 作戦行動中に通信途絶が長く続けばMissing In Action、作戦行動中行方不明などと判断してもう存在しない者として扱う場合もある。 そうなれば捜索隊を出さず大を生かすために小であるMIAの者たちを切り捨てる事も十分有り得るし、艦長であるカッターはその決断を下せる人物である。 そうならないためにも通信可能範囲をなんとしても伸ばしておきたいが、ジャミングを解除する方法が分からず中継器などを通す位しか方法がないのが現状だった。 『最優先事項は任務の達成ではない、全員が生きて戻る事だ。 随時の撤退判断は各々に任せる、何らかの事情で通信が不可能になった際は即座に撤退をしてくれ』 通信でセリーナの説明が終えるのを待っていたカッターは、作戦内容の確認などをして一言。 『それと各員兵器使用の自由を認める、危険だと判断したら迷わず撃て。 以上だ』 「了解」 モニターの向こう側のカッターに敬礼を返し、作戦開始の為に各々が動き出した。 ODSTとは略称のことで正確にはOrbital Drop Shock Troopers、軌道降下強襲歩兵の頭文字を取ったもの。 名称の通り、惑星軌道上からHEV、Human Entry Vehicleと言う個人用降下ポッドで直接戦場に降りると言うもの。 だがその降り事になる現在のスピリット・オブ・ファイアは衛星軌道上ではなく地表で横たわっている、故に今回はその足で艦から降りなければならない。 ではどこから降りるかと言えば航空機格納庫からのロープで降りるというもの、頑丈なロープを結び上げて外装を伝って降りる。 輸送機のペリカンでも使えば速いが、輸送機に見合うだけの音をエンジンが立てる。 推進力を発生させた時の噴射発光も夜の帳が落ちている今では、それなりの距離でも目視出来るくらいに光を放つ。 調査団がスピリット・オブ・ファイア周辺から離れて数時間、日中を飛んでも見えるし夜間を飛んでも見える。 今現在緊急時以外には使えない代物となっているが、だからこそ出動準備を整え万全の状態で待機しておく。 緊急時の増員とワートホグや主力戦車などの戦闘車両、汎用単座航空機のホーネットやその強化版のホーク。 さらにはAC-220 ガンシップ、対地攻撃に重点を置いた重武装ガンシップのバルチャーなどを待機させてある。 もしスパルタンやODST隊員たちの手に余り襲い掛かる存在が居れば、すぐさま出動して銃弾とミサイルの雨を降らせる事になるだろう。 そこまでするのはこの惑星が未知の領域だからだ、無論そうでなくとも救援の準備は整えておくのは当然だった。 そんな待機状態の航空機を尻目に、武器を背負った各員が整列して作戦における注意事項を聞いている。 不用意に撃つな、採取以外の時に動植物に近寄るななど。 予想外、例えば触れた瞬間強力な腐食性の酸を噴射する植物など存在しないと言い切れない。 そう言ったことで命を落とす問題が発生する事も考慮し、念入りに理解させておく。 こうして準備が万全に整った頃には日が地平線の向こうに落ち、二つの衛星が顔を覗かせていた。 「あの二つの衛星のお陰でかなり明るいな、まぁ森の中に入るから余り意味はないか」 『夜の木漏れ日とはずいぶんと幻想的ですね』 「目視も暗視も微妙な明るさだと困るがな、それじゃあ出動だ!」 『レッドチーム、先行して着地エリアの安全を確保してください』 「了解」 時刻が1900、午後7時となり作戦開始時間。 セリーナの言葉に三人のスパルタンは頷き、ロープの元へ歩む。 片手にハンドガンやサブマシンガンを持ったまま、空いている手にロープを絡ませて2メートルほど開いた格納庫隔壁から身を躍らせた。 下方を確認しながら外壁を伝い降り、二十秒も掛からず斜めに抉れた地面へと降り立つ。 三人は武器を構え周囲を警戒、直線距離にして300メートルはあるだろう斜面を登って土砂で凸凹になった地面に足を踏み出す。 「……反応は」 「無し、クリア」 「こちらも無し、クリア」 ジェロームがもう一度周囲を見渡した後。 「こちらレッドリーダー、エリアを確保」 僅かにノイズが走る通信を入れ、それを聞いて続々とODST隊員たちが降り斜面を登ってくる。 それを待つ間に緑色のヘルメット、暗視に切り替えたゴールドのバイザー越しにジェロームは周囲を見渡す。 後方には抉れた地面とスピリット・オブ・ファイア、今自分たちが立つ土砂の上と散乱とした折れた木々、そして視線の先には無事な森。 左を見れば大きく抉れた地面が地平線の向こうにまで続いている、どれ程の木々を圧し折ったのかは分からないが相当な環境破壊なのは分かった。 「随分と明るいな、やはりあの二つの衛星か」 三人目のスパルタン、ダグラス S-042が言葉を発する。 話題は空に浮かぶ二つの衛星、だが視線は変わらず周囲へ。 「日中でも見えてるらしいわね」 「自転と公転が同じって事か」 アリスとダグラスの掛け合いを聞き流しながら、ジェロームの視線は森の奥へと注がれている。 森の中はそこまで暗くは無い、暗視、ナイトビジョンに切り替えれば日中よりもはっきりと見えるだろう。 降りる時に確認したが、この森は相当広い。 明らかに人の手が入っていない、まさにこの惑星の自然だけで構築された森だった。 「随分と背が高いな、上からの援護は期待しない方が良さそうだ」 それなりに幹が太く背が高い木々が乱立している、森の規模から考えて数万本は生えていてもおかしくない。 しかも密集は言いすぎだが、生える木々の間隔がどれも10メートルも無い。 そのお陰で森に葉の天井が出来上がっていて、森の上空から目視で見下ろしてもどこに誰がいるか判断できないだろう。 マーカーで表示すればいいが、目視に比べ誤射や誤爆の可能性も上がる。 緊急時以外には使用しない方が良いだろう、ダグラスから掛けられた声に返す。 「そうだな」 ジェロームが振り返った先にはアリスとダグラス、その奥に各ODST隊員たちがバランス良く小隊へと編成している。 「スパルタン、一個中隊を付けるから原生生物のほうは頼むぞ」 「了解」 「よし、ゴルフとホテルとインディア小隊はスパルタンの援護に付け。 残りのアルファとブラボー、チャーリーとデルタ、エコーとフォックストロットは二個小隊を組み採取だ」 行け行け行け! トーマスが通信で命令して全体が動き出す。 レッドチームも動き出し、その後をゴルフ、ホテル、インディアの各小隊が付いていく。 ジェロームを先頭に森の中に足を踏み込む、下には太い木の根が地面の上まで張り、少々足を取られて歩きづらい。 上には月の木漏れ日が地面へと降り注ぎ、森の中は幻想的な雰囲気を醸し出していた。 だがそんな光景でも見蕩れる事は無く、一行は足を緩めず森の奥へと踏み込んでいく。 枯れて落ちた葉と落ちて枯れた葉、踏みしめながら森の中。 アクティブに動き回る小型の動体反応を幾つも捉えながら、捕獲対象の犬頭や豚頭を探す。 そうして5分10分と歩き回るが、対象が一向に発見できない。 スピリット・オブ・ファイアの半径1キロと言う範囲は狭すぎた、墜落してまだ一月も経っていない上に人間がその周囲に現れた。 この森は人間の勢力外、稔り豊かな森に集まる動物たちに、それを目当てとするオーク鬼やコボルト、さらにはミノタウロスにドラゴンまで。 言わば自然の世界、人間社会よりはるかに強力な弱肉強食が広がる領域に、何とも知れない巨大な物体が落ちて森を破壊し滅多に見ない人間が現れたらどうするか。 危険を感じた動物たちは逃げるだろう、それを目的とした亜人たちも移動するだろう。 つまり今現在のスピリット・オブ・ファイアの周囲は、自律的に動けない植物を除く生物が極端に少なかったのだ。 捜索しているレッドチームとODST各小隊は、居るものを探しているのではなく、居ないものを探しているのに近かった。 だが、近いだけで居ない訳ではなかった。 「………」 先頭を歩くレッドチームのジェロームが、足を止めると同時に開いた手を肩の高さまで上げる。 『止まれ、前方を警戒』 続いてその意を示すハンドサイン。 それを確認した各ODST小隊の小隊長が、同じハンドサインを出して全体に伝える。 「………」 70メートルほど先の前方、生い茂る草むらに脇。 明らかに植物ではない、生物と思わしき足が草むらの向こう側に見えた。 恐らく横になっている、倒れているのか就寝のために横になっているのかは不明だが、ターゲットの確率が高い為に慎重に動く。 もう一度ハンドサインを出し、ジェロームは確認する為に右手にハンドガンを構えたまま歩く。 「………」 アリスとダグラスはジェロームから離れて、左右から迂回する。 出来るだけ音が鳴る草むらとの接触や、小枝などを踏み折らないよう屈んで進む。 距離が60、50と近づく中、ジェロームは横たわっている何らかの生物の足のすぐ近くに、じわりと広がるものを視界に収める。 それは見覚えのあるもの、作動させると視界全体に緑掛かる暗視を解除して、木漏れ日の月明かりだけでそれを確かめる。 それはゆっくりと流れ出して作り上げる、血溜まり。 「………」 右手に構えるハンドガンを支えていた左手を離し、アリスとジェロームに見えるよう上半身を僅かに捻ってハンドサイン。 『危険、自分が確認する。 フォローしてくれ』 確認した二人は『了解』を示す。 そうしてジェロームは、ゆっくりと一歩一歩踏み出す。 距離が40、30と近づく、そうしてモーションセンサーの探知範囲内の25メートルに近づいた時、効果を発揮して動体反応を捉える。 そうして視界を横切る物体、それはターゲットの一つである豚頭だった。 無造作に投げ捨てられたのだろう、左の肩口から腹辺りまで大きく割られたような傷の豚頭が転がる。 強力な攻撃を受け絶命したのだろう豚頭を視線から外し、恐れ知らずと言わんばかりに足を進めるジェローム。 ゆっくりと、ゆっくりと近づき、草むらの傍に寄ってほんの少しだけ頭を覗かせた。 「フゴォ……」 草むらの向こう側の20メートルほど先、一つ大きく鼻息を鳴らすように身長2メートルほどのスパルタンたちより大きな、2.5メートルはあろうかと言う一匹の筋骨隆々の牛頭人身がいた。 右手には刃渡り30センチはあろうかと言う、血に濡れた巨大な斧を持ち、足元には何頭もの豚頭の屍骸が転がっている。 それを確認したジェロームはすぐさま頭を引っ込め、スピリット・オブ・ファイアに通信を入れる。 『こちらレッドリーダー、スピリット・オブ・ファイアへ、オーバー』 『こち─スピリット・─ブ・ファイア、何か問題が?』 ノイズが目立つ通信に返してきたのはセリーナ、それに対してジェロームは簡潔に要件を告げる。 『ターゲットの一団を確認、ですが全て死亡。 そのターゲットを殺戮した未確認の生物を確認、イメージを送ります』 ジェロームのヘルメット左側面に付けられた、より映像を鮮明に捉える小型カメラのようなイメージアップリンクに保存されたイメージを転送。 それはこの牛頭も捕獲するのか、と言う問い合わせに他ならない。 じっと動かず待つこと数秒、帰ってきた返答は。 『捕獲─てください』 『了解』 スパルタンたちと同じぐらいの身長の豚頭を、一匹で何匹も殺したのだろう牛頭。 それを捕獲しろだなんて、この惑星の人間が聞いたら笑い飛ばすような内容。 スピリット・オブ・ファイアの乗員は知らないが、牛頭、ミノタウロスに殺された豚頭、オーク鬼は経験を積んだ熟練の戦士五人分に匹敵する戦闘能力を持つ。 そのオーク鬼が何匹も揃っていてなお、一方的に殺し尽くしたミノタウロスはどれ程強いのかはジェロームが見た光景が物語っている。 ジェロームは再度顔を覗かせ、睡眠弾が収められているマガジンが入ったハンドガンの銃口を、背を向け歩き出していたミノタウロスに向ける。 『………』 距離は30メートルほど、不安定な足場だとしても有効射程距離で的確に命中させるスパルタンは外す事はしない。 狙いをつける時間は0.3秒ほど、ミノタウロスの首に向けて引き金を引いた。 バスッ、とサプレッサーにて抑制された銃声をM6C/SOCOMは鳴らした。 麻酔弾は一瞬で距離を詰め、首筋に突き刺さり、睡眠薬を注入する、はずだった。 確かに当たったが、肌に張り付き薬剤を注入するはずの麻酔弾が弾かれ、回転しながら地面に落ちた。 一方ミノタウロスは首筋に何か当たったのかと手で擦っているだけ。 位置が悪かったかと、今度は今上げている腕と脇腹に連続して撃ち込む。 だが首へと撃ち込んだ睡眠弾と同様に、ゴムに投げ付けたボールのように弾かれた。 『スピリット・オブ・ファイア、問題が発生した。 ターゲットは弾を受け付けない、繰り返す、弾を受け付けない』 そうしてジェロームは右太股の磁気武器ホルダーにハンドガンを固定する。 『これより直接体内に撃ち込む』 立ち上がりながら手前に転がっていた、豚頭が使っていただろう多少加工されていた木の棒を拾い上げ。 「行くぞ」 ジェロームは走り出した、それと同時にアリスとダグラスも草陰から姿を現してミノタウロスへと駆け出す。 行き成り左右から現れた存在に気付き、ミノタウロスは轟音のような雄叫びを上げる。 ミノタウロスは左から走ってくる緑と黒の人型、アリスを見据えて右腕を振り上げ斧を振るおうとするも。 「ヴォッ!?」 左側頭部に衝撃、視界がぶれる中で左から走り寄ってくる似た人型。 拾った木の棒を高速で投げ付け、ミノタウロスの頭に当て間近に迫るジェロームに向かい、右手の斧を振り上げた。 振り上げた斧を振り下ろそうとして、今度は右手に強い衝撃を受けた。 それは一度の跳躍で2メートルまで飛び上がったアリスの蹴り、鋭い一撃がミノタウロスの右手、斧を支える指を打つ。 だがミノタウロスの太い指は、人間であれば骨をへし折り皮膚から飛び出させる蹴りを受けてなお、骨折の一つ無くただ斧だけを手放した。 宙に舞う大斧、それを視界に収めながらミノタウロスは接近を防ごうと腕を適当に振り回す。 その腕を払いながら拳を打ち込んだのはジェローム、砲弾のような右拳がミノタウロスの左脇に突き刺さる。 打撃の衝撃で口から粘性の高い涎を撒き散らしながら、さらに視界の外からの攻撃によろめいた。 蹴りを指に放ったアリス、右拳を左脇腹に撃ち込んだジェローム、そしてサッカーボールを蹴れば弾けそうな威力のローキックをミノタウロスの左ふくらはぎへと打ち込むダグラス。 流れるように打ち込まれた攻撃を前に、ミノタウロスは体勢を崩して膝を着いた。 だがスパルタンたちは攻撃を緩める事は無い、アリスは飛び蹴りから着地してさらに回転。 ミドルキックをミノタウロスの胸部に蹴り込み、再度涎を撒き散らして仰向けに倒れるミノタウロス。 すかさずアリスとダグラスは、ミノタウロスの右左の腕に関節技を決めて締め上げ、動けないよう地面に縫い付ける。 視界内からの二方向からなら凌げたかもしれないが、視界外を含む三方向では対処できなかった。 視界外からの攻撃を防ぐ事が出来ず、気を引き付けられ何度も攻撃対象を変えたことも原因だった。 そうして何度もまともに攻撃を受け倒れてしまった、一点に集中していればまだ変わっていただろうが後の祭り。 腕を拘束されもがくミノタウロスを見下ろすジェロームは、右太股に留めていたハンドガンを手に取り、離せと叫んでいるようなミノタウロスの口に向けて引き金を引いた。 スピリット・オブ・ファイア周囲の動植物採取の作戦はつつがなく終了した。 死傷者は一人も出ず、負傷者すら居ない。 一番危険だったスパルタンたちも全く問題が無い、植物採取組みのODST隊員たちも問題無く植物の採取を終えている。 スパルタンたちの援護についたODST隊員たちも、結局やる事が無く暇していたほどだ。 牛頭、ミノタウロスを捕獲した後は他の原生生物に遭うことも無く、オーク鬼の屍骸から肉片や血液を採取後、体重200キロはありそうなミノタウロスを両手両足を縛って担ぎ戻った。 舌を出し涎を垂らして熟睡するミノタウロスを密封型のケージに押し込み、先にロープを上って行ったアリスとダグラス。 下に残るのはジェロームとまだ艦内に戻っていないODST隊員たち、上から引っ張られて上昇していくケージを見送りつつも視線は空に浮かぶ二つの衛星に向けられていた。 艦内に全員帰還して一時間ほど、スパルタンたちと各ODST隊員が採取してきた動植物をアンダース教授が気密服を着て調べている頃。 ブリッジには滅菌消毒を済ませたトーマスとスパルタンの三名が揃っていた。 「君たちの目で見て、外はどうだったかね」 切り出したのはカッター、それに答えたのはトーマス。 「場所が問題ですね、人が大勢住む街とは違いここは人の手が入ってなさすぎます。 植物などもかなり違いが出てるんじゃないでしょうか」 地域によってその植物の性質が変化する事も珍しくない、この森で危険な植物も街の近くに生える同種は無害なんていう事も十分ありえる。 「なるほど、やはり活動圏はそちらに向けた方が良さそうだな」 「接触を考えるなら、いずれ人員を派遣しなければいけませんね」 セリーナの言葉にカッターは頷く、ずっとコールドスリープで眠り続けるのは不可能。 眠っている間に救助が来ればいいが、その可能性もかなり低いと言わざるを得ない。 いずれ地盤を築かなければいけない時がくるだろう、その時の為に手を打っておかねばとカッターは考えた。 「レッドチーム、そちらはどうだった」 「牛頭と戦って気になった点が、拳を打ち込んだ際妙な手応えを感じました」 「こちらも同じです」 ジェロームの言葉に、アリスとダグラスも同意を示す。 「手応えがどうした?」 「まるでゴムを殴りつけたような感触でした、かなり力を入れたのですが気絶させるには」 「ふむ、睡眠弾が刺さらなかったのもそれと関係が有るかもしれんな」 スパルタンの打撃は致命的な一撃になる、人間相手ならば腕や足でなければ一撃で絶命する。 人間よりはるかに屈強なエリートや地球のゴリラに似たブルートでも、エネルギーシールドを纏っていなければ二発ほど殴れば息絶える。 となれば牛頭はエリートやブルート並みか、それ以上の耐久力を持っているかもしれない。 立体映像投影台に浮かぶ、三次元ホログラムとして映される牛頭を見る。 カッターは右手を顎に当て、一つ頷く。 「この惑星の人間と接触してみなければならないか」 「墜落途中の映像を基にしたマップを表示します」 そうセリーナが言って牛頭のホログラムから、広大な大地にホログラムが切り替わる。 「ここが現在の地点」 ホログラムの端に赤い点、『▼ Spirit of Fire』とマーカーが付き。 「人間が確認できた地点は無数に」 不明瞭な領域が多くを占めるが、直線状にはっきりと起伏まで立体映像化された地形上に緑の点が複数表示される。 数は十を超え、それなりの数の人間が住んでいることが分かる。 「お勧めはこちらですね」 と、セリーナは赤い点、スピリット・オブ・ファイアから一番近い緑の点を示す。 「人口は数百人規模と予想されます」 また映像が切り替わり、ホログラムではない上空から見た実際の映像が映し出される。 建築物を見る限り、やはりそれほど技術水準はさほど高くないように見受けられる。 「まずは何名かで、旅人などに装って送ってみては?」 「それが良いだろうな。 少佐、スパルタン諸君、完全に疲れは癒えていないだろう。 また今回のような任務を与えるかもしれん、十分に休息を取ってくれ」 「了解」 そうしてトーマスとスパルタンたちは敬礼をして、ブリッジから退出する。 残るカッターはセリーナに命令を下す。 「セリーナ、通訳機無しで喋れる者が居るか確かめてくれ。 それと教授に連絡を、この件について話を聞いておくべきだろう」 「アイアイサー」 また調査団が戻ってくる前に、出来る事をやっておかねばならんかとカッター。 シールドワールドから脱出して一月、この惑星上で目覚めて三週間ほど。 第二の地球とも言える惑星リーチや、コール議定書によって守られる人類発祥の惑星、地球へと帰るには余りにも前途多難だった。 前ページ次ページ虚無と最後の希望