約 7,331 件
https://w.atwiki.jp/suka-dqgaesi/pages/2409.html
373 :名無しさん@HOME:2008/10/05(日) 20 38 38 O 資金調達ウト、資材調達旦那、プロデュースbyあたし☆ みたいな頭悪いノリのテンポ悪い仕返しですが聞いて下さい。 トメは高価だけどちぐはぐな物ばかり組み合わせて、 ジェンガのような珍妙なバランスで生きる人。 ウトは元々洒落た人だったがトメセレクト&コーディネートの 服を着ないとトメがネチネチ言うし泣くしでトメのなすがままになってる。 昭和の終わりかけ生まれの義弟は小中学生時代、ダサい服や小物が原因で軽く苛められたらしい。 義妹はマゴギャルコギャル時代、制服以外で友達以上彼氏未満に会うと必ずフラレるという経験をしてる。 旦那は大学まで喪男まっしぐら、社会人になってから同僚の薦めで Smart系・SAMURAI系にハマりどうにか軌道修正。 要はトメがセンスない人って事です。 そして絶望的なセンスでチョイスした数々の戦利品を嫁に孫にと押し付けてくる。 旦那とウト、義妹義弟とその配偶者に相談し、綿密なミーティングの上トメへの仕返しをした。 ウトメの結婚記念日辺りにウトの勤続○○年の褒賞休暇を取らせ、 ウトが会社からもらった旅行券に旦那兄弟配偶者一同でカンパして旅行へ送り出した。 374 :名無しさん@HOME:2008/10/05(日) 20 40 52 O 力仕事が一番向かない義弟嫁に我が子・義妹子を預け 義妹夫婦、義弟、うちら夫婦で無人の義実家へ。 ウトメ宅のやたら重くて分厚いひび・欠けだらけの100均食器や残念な花柄の食器をまとめて処分。 食器→和洋折衷の陶磁器++ほっこり木彫系+メラミン系 調理器具→oxo系やヘンケルス系のチープでも使い勝手の良い見た目が良い物や 流行りのステンレス鍋やらマーブルコートフライパンに ついでに雨露しのげれば良いだろう!としか見えない住居も大掃除&模様替え。 リビングにはコルクウッドカーペットに琉球畳部分使い レザーのロータイプラブソファー、足元にはごん太シャギーラグを忘れずに☆ カーテンはウッドブラインドでキッチンのテーブルは変形するカウンター 食器棚は焦げ茶ニスでテラテラさせつつカッティングシートで個性を演出☆ 以前は浮きまくりだったバカでかい液晶テレビにはこげ茶のロータイプのウォールラック☆ 376 :名無しさん@HOME:2008/10/05(日) 20 43 29 O 寝室にはダークなウッドカーペット敷いてそこにクイーンサイズのベッドをドン。 ムーディーなブラックパープルのレースカーテンにビーズとチェーンで飾り付けしてビロード風遮光カーテン。 サイドボード上にマグネットフォトスタンドで若かりし頃の ウトメ2ショットコレクションとプリザーブドフラワー展示。 納戸と化した空き部屋3つも一通り整頓。 (流行のファブリックも何個かあったがトメの手により深く封印されてた為触れずにおいた) 玄関もコンクリートじゃ味気ないからタイルマット敷き詰めて下駄箱もカッティングシートと布で変身。 ハゲまくり廊下のワックスかけなおして将来見据えた 足腰に優しい手作りベンチ兼スリッパスタンドを置いて完了。 靴棚上にはやはりウトメ2ショットフォトコレクションと子供達の結婚式の写真。 棚上の壁には満面の笑みを浮かべる乳児期の旦那・義弟・義妹・孫4人のパネル。 全部屋目に優しい明るく長持ちな蛍光灯に替え、適当にばら蒔いた間接照明の ランタンは和紙とワイヤーか蔓と麻紐でムーディー仕様な私の手作り。 もちろんトイレ洗面所風呂場も軽く変身。 好きです、下北沢。愛してます、代官山。 みたいなノリの部屋に改装。 378 :名無しさん@HOME:2008/10/05(日) 20 47 32 O 予算の半分も使わないで改装資材調達完了してたんで 余った金の大半はウトメペアの時計に化かし、更に余った金で 型落ちしてもまだまだ真新しいオーブンレンジと食洗器と可愛い掃除機をネットで購入。 あとは若い子が好きそうなふたりごはん☆みたいな料理本をごっそり買った。 週末潰して改装して、平日もちまちま手を加えてどうにか予定通り9日で完了。 10日程で無事帰宅したウトメから即日電話があった。 ウトは大喜びで「嫁ちゃん凄いよ!なんかジェームスディーンの部屋みたいだよ!」 とよくわからない褒め言葉をくれたものの トメは「あんた何考えてんのよ!何が何だかわかんないじゃないの!」とガン切れ。 そらそうだろー切れるわ普通と若干落ち込みつつ翌日義妹と義弟に報告電話した。 義弟&嫁には私と同じく苦情電話、しかし義妹にはお礼と部屋自慢嫁自慢をしまくったらしい。 話違うなーと翌週末義弟夫妻とうちら一家で連れ立ってこっそり探りに行くと 迎え入れてくれたのは義妹夫と子供達。 こじゃれた格好でこじゃれた料理を本片手にするトメの姿、盛り付けを指示する義妹。 固まるトメ、今更ちょいワルwカジュアルのウトがニヤニヤしながら解説してくれた。 382 :名無しさん@HOME:2008/10/05(日) 20 50 27 O 自分が趣味悪いのは薄々気付いてたけど、息子の嫁達から服を渡されるのは釈だった (義妹は思春期にトメと散々バトッたため服飾関係は贈った事ないらしい) 料理も食べれれば見た目悪くても関係ないと意地を張ってた 部屋が一気に理想的に変わって、自分もこの部屋に負けたくないと思った 試しにウトコーデで嫁プレゼント服を着てみて、こじゃれたサロンに行ったら見違える程綺麗になれた 調子に乗って夫婦で雑誌買い漁って猛勉強中 こんな感じの数日間だったらしい。 トメは嫁孫にとイヤゲモノ買い漁ってた金を自分達へ流用するから 折目のプレゼント以外は余計な事しないと約束してくれ、 義弟&うちら夫婦にもお礼の言葉をくれた。 ついでにそれぞれの嫁に無理矢理万札も握らせてきたが丁重にお断りした。 毎週末あったトメトツもなくなり、処分に困る物の押し付けもなくなったんでとても快適。 かなり勝手な事した&義弟嫁を馴れない子供の世話で かなり消耗させてしまったのでこちらへ書かせていただきました。 これで終わります。 386 :名無しさん@HOME:2008/10/05(日) 20 58 37 0 スカッとする行動だけどDQN要素がないよ! 413 :373:2008/10/05(日) 21 10 05 O 妙な読後感抱かせちゃってすんませーん。 快適な生活手に入れられスカッとしたんで 投下の反省はしないお(´∀`) 次のお話→102-388
https://w.atwiki.jp/senseinikoi/pages/44.html
●246 2006/03/25(土) 22 28 ID pLipM3Xk 予備校講師に好意を持っててプライベートで関わるとかなりの精神力が いることに気づきました。もう精神的に尽き果てそうです。 ●247 2006/03/25(土) 23 16 ID ??-qQ/a4NPA 246 たぶんあなたまじめなんだよ。 道を外れる恋なら、それなりに図太くならなきゃ。道を外れる覚悟で。 真面目でいようとすると周りを騙すことはできないよ。 ●253 名前:246 2006/03/26(日) 08 18 ID N5HsmoSk 247 真面目なんですかね?別に相手が既婚とか彼女がいるとかではない んですが、仕事の忙しさがどれ程のものか頭ではなんとなく分かっても 実感はできなくて不安になるばかりなんです ●254 2006/03/26(日) 08 29 ID ??-5XhdFz1Q 253 相手は既婚じゃないんですか!じゃあ全然道外してないですね(^_^;) たしかに講師は忙しいですね。 ●255 名前:246 2006/03/26(日) 08 34 ID N5HsmoSk 254 本当に忙しいですよね。なかなか会えないと気持ちが離れて いってしまってるんじゃとか色々考えちゃいます。 あんまり仕事の内容とか具体的に話してくれる先生でもないので 余計です。 ●256 2006/03/26(日) 09 06 ID ??-5XhdFz1Q 255 私の場合は付き合う前に 想像してたよりは忙しくはなかったから結構会えてます。 やっぱ返信遅いときは切ないですね。 学期が始まるともっと忙しいのか…orz ●259 2006/03/26(日) 17 31 ID ??-X8jYMr9I 自分も忙しくなればいいんじゃないかな?仕事の話をあまりしないのは仕事とプライベートの切替えがうまくできる人ってこと。ヒマ人カップルより多忙カップルの方が、会う時間や数は少なくても恋の密度は濃いと思うよ。 ●260 名前:149 2006/03/26(日) 17 47 ID BYSUTJzw 毎日会ってたらどんどん恋愛感情って冷めていくもんねー。 だからみんな、人の目を忍んでしか会えない禁断の恋に燃えちゃうのかも☆ ●270 2006/03/27(月) 13 54 ID OqttTjaw ヒロシってどうやったら落とせる? ●271 2006/03/27(月) 14 13 ID JKt4nACE 本人に聞くべし ●272 名前:149 2006/03/27(月) 14 36 ID 73.A8Gqg 私は正直に書くと・・・ 西谷先生が大好きです★ あの細い腰・・・抱きつきたくなる。(^^;)キモ どうしたら振り向いてくれるのかなぁ・・・ ●273 2006/03/27(月) 14 50 ID 5Dv9qUok 酒井先生とどうやったら不倫出来る? ●274 2006/03/27(月) 15 02 ID EUSYXL96 西谷は、代ゼミ講師何十人に名誉毀損内容の手紙を 送り付けて、その結果週刊誌にも載った犯罪講師。 ↓ そんな西谷が大好きな 272=149は確実に 高校時代にある特定の女子の靴箱に「死ね!ブス!」など書いた手紙を入れたり その子の教科書に落書きしたり、体育の時間が終わると すぐ教室に戻ってその子の制服隠したりしていたはず。 まあ所詮似た者同士がひかれあうってことだ ●275 名前:149 2006/03/27(月) 15 07 ID 73.A8Gqg いやーうちの高校ロッカーや下駄箱は全部鍵ついてたしなぁ(笑) 似たもの同士かぁ~、私は人の教科書に落書きしたことないけど。 西谷先生がそんなことしたのって本当なの? でも別に構わない。それぐらいで気持ち薄れないから。 ●276 2006/03/27(月) 15 36 ID S5qdVADY 149さんはせいぜい坂本英知と戯れてろ ●277 名前:149 2006/03/27(月) 15 37 ID 73.A8Gqg 西谷先生がいいんです・・・ ●278 2006/03/27(月) 15 52 ID RmpDQOnw 私は正直に書くと・・・西谷先生が大好きです★あの細い腰・・・介護したくなります(´Д`) ●279 名前:149 2006/03/27(月) 16 02 ID 73.A8Gqg 介護って(笑) 確かにあと2・30年したら介護必要かもだけど^^; ●280 2006/03/27(月) 16 17 ID ??-NS1apJTk 西谷かぁ。。。。。。。↑↑の嫌がらせの話は本当だよ。新聞にも載ったし。注意した酒井さんやつっちーにまで逆ギレでカミソリ刃入りの封筒送りつけた。しかしよりによって西谷かぁ。。。。。。。 ●282 名前:149 2006/03/27(月) 16 36 ID 73.A8Gqg 先生・・・なんでそんなことするんだろ(;A;) ●284 名前:149 2006/03/27(月) 17 48 ID 73.A8Gqg でも何で西谷先生が手紙送ったってわかるの? まぁ、だいたい予想はつくのかもだけど・・・ 証拠あるの?それとも誰か目撃者がいるの? ●285 2006/03/27(月) 17 57 ID mhrOeENw 149 被害者の手紙には共通して、「ある先生」の事が良く書かれていた。 だからすぐ西谷が犯人と分かったんだよ。ほんで西谷は講師の前で土下座w ●286 2006/03/27(月) 18 02 ID xM375zHE で、ハブられてんの? ●287 2006/03/27(月) 18 05 ID ??-zKDMrkZ6 それ西谷じゃなくて西谷の奥さんじゃないの? ●288 名前:149 2006/03/27(月) 18 44 ID 73.A8Gqg 犯人が奥さんであることを祈る・・・。 変な祈りだけど。 西谷先生はそんなことしないって信じたい。 ●291 2006/03/27(月) 20 34 ID ez-ae4RARn6 冬季、講師室に6人くらい居て珍しく講師たちがみんなで話してたのに西谷先生一人でぼーっとしてたなぁ… ●292 2006/03/27(月) 20 42 ID 62vCAQtA 西谷は嫌われ者 ●293 名前:149 2006/03/27(月) 20 45 ID 73.A8Gqg ただ単に一人でいたかっただけかもよ? 私もぼーっとしてるのスキだし。 もしハブられてるんだったら・・・他の講師を許さない! と言うか、私がお話の相手になる(笑) ●294 2006/03/27(月) 20 58 ID b7Y697O. 講師室でハブられてる先生って生徒が休み時間ごとに来てくれるのってやっぱ嬉しいのかしら?そしたら‥ポッ ●295 2006/03/27(月) 21 04 ID 73.A8Gqg あ~っ!ダメだよ、私が行くんだから!!(笑) ●296 2006/03/27(月) 21 07 ID S5qdVADY ↑バカ発見
https://w.atwiki.jp/nouryoku/pages/2154.html
【私は、ひとかどのもので有ると自負している】 【人より力が強いし、身体が大きい。知識を多く持ち、交友関係は広い】 【そして私はそれを自覚し誇らんとする己を認識し、抑えようと努めている】 【私は、悪が嫌いだ。世間一般に言われる、悪と呼ばれる行為が嫌いだ】 【己を誇る事は悪であり、私は己を抑えなければならない。他者を踏みつけにしてはならない】 【そして悪とは天下に晒されて裁かれるべきであり、悪を見つけだす行為とは正義である】 【そう信じた私がジャーナリストとなったのは、他者から見れば理解出来なくとも、私の内では矛盾無き事だった】 【とある会社の社長室に、私は案内されていた。ソファに身体が沈む感触が、緊張を幾らか和らげる】 【メモ帳とペン、懐に隠したテープレコーダー。これらを総動員して取材すべき相手は】 【新進気鋭の製薬会社〝カーペット・バイパー〟女社長、ゼノア・ハスクバーナ】 【いや、違う。それは飽く迄、世間に公表されている名でしか無い】 【彼女の本当の名前。決して顔写真を公開しないその訳は―――】 ああ、いらっしゃいいらっしゃい。良くもまあ、こんな所まではるばると来ましたねえ。 しかも、来た目的も目的、普通の人間なら考えもしませんってえのこんなアホな事。でしょ? いや、いや、いや。感心してるんですってえ私。今まで貴方みたいに度胸の有る人間、見た事無い。 その度胸に免じて。免じて、で良いんですかねえこの場合? ………ま、お話しましょうか。 んで、どっから話します?血液型?スリーサイズ?今朝のご飯? はあ………貴方、どうにもこうにもせっかちな人らしいですねえ………いきなり本題ってそりゃ…… あーはいはい分かってます分かってますはぐらかしません話しますー、だからちょいとお静かに。 私の出発点、ねえ………ちょいとばかし長くなりますよ? コーヒーでも飲んで目ぇ覚まして、のーんびり構えなさい。砂糖は幾つ? ありゃあ、ねえ――― 私の世界は、私が十六歳の頃に、完全な『停滞』をした。 同じ事を繰り返す日々だとか、人間関係が行き詰ったとか、そんな事じゃない。 比喩的な意味で言った訳じゃあないし、遠まわしな言葉を使っている訳でもない。 例えば、此処にコップが有るとする。 ガラスで出来たこのコップを落とせば、割れる。中に入れた水が床に飛び散り、掃除の手間が増える。 同居人にはあれこれと文句を言われるだろうし、代わりのコップを買いに行く必要も出る。 それが起こったのが夜だったら、次の日は少しだけ、マイナスのイベントが追加される訳だ。 『停滞』した世界に、その様な事は、ない。 燦々照り付ける日光は、周りより高い位置に頭を置く自分には、一段と酷薄。 こんな日は男子の影にでも潜り込んで、頭蓋の熱を冷ましながら歩きたい。 蝉が五月蠅いのも何時もの事とは言え、良い加減聞き飽きた。 頼むから貴方達、さっさと次の世代に引き継いで地面に転がって下さいな、と。 そんなこんな何時もの様に纏まらぬ思考を延々繰り広げながら、私は通学路を歩いていた。 回りを見れば、運動着姿の同級生やら先輩方やらが、同じコースをぐるぐるぐるぐる御苦労さま。 文化部の自分には縁の無い事と視線を落とせば、ようやく馴染んできた制服、気付けば少し袖が短くなっている。 背が伸びる分には別に構わないのだが、着る物が減るのはあまり嬉しくもない。 友人達と買い物に出た時のあの疎外感と言ったら、中々他に例えようも無く。 モデルみたいで良いじゃないとは言われるが、あそこまで凹凸極端な体をしていないのは自分が最も承知。 結局何が望みかと言えば、人間何事も丁度良く、が一番なのだろうとそれだけ。 友人達、と思考に乗せた所で思い起こされるのは、昨日の部活動での些細な喧嘩。 事の始まりが何だったかすらあやふやな、きっと傍から見ればどうでもいい事だったのだろうが、然し。 然し、どちらも謝らずにそのまま帰ってしまった為、どうにも顔を会わせ辛いというのは有る。 第一声、どうしようか。普通に挨拶?それともいきなり御免なさい?どうでも良い雑談を振ってみる? 半日の間だんまりを決め込むのは、どうにも自分の性には合わないだろうし。 「あー………暑い」 分かり切った事を思わず口から零し。 流れる汗を袖で拭いながら、コンクリートの上を歩いて行く。 昇降口から下駄箱へ。数百も靴が並ぶと流石に壮観壮観、とまた思考の脱線事故。 学年とクラスごとに綺麗に区分けされた下駄箱を、自分の出席番号求めて歩いて行く。 足の大きさは其処まで極端に変わる訳でも無し、それでもそろそろ靴を買おうか、そんな事を思っていた矢先。 「………痛っ……石?」 中靴を履こうとした右足の裏に、地味なダメージが襲いかかった。 小さな石。尖っている訳でも無く、刺さる事などは決して無い様な。 それでも、体重を掛けて踏みつけたら当然痛い。自分は武道家では無く、足の裏の皮膚は薄いのだから。 悪戯にしては中途半端な配慮、だったらやるなよとも言いたくなる。 あーいやだいやだ、子供っぽい事をする人間はこれだから。 まあ誰だか知らないけどと脳内で最後に付け加え、理科室へ向かう。 校舎の作りの為、日陰の広い理科室。燃えにくい材質の机は、顔を張りつけるとひんやり気持ち良い。 どういう材質なのかは知らないけれど、これを貰って帰ったらきっと快適に過ごせるのだろう。 色が黒だから日に当てておけば温まり易い筈。これで冬も大丈夫だ。 脱線を繰り返す思考を引きずり戻して、首を起こして周囲にぐるり。 すると、丁度と言おうかタイミング悪くとでも言おうか、見事に友人と目が合った。 然しそれも一瞬の事。此方が口を開こうとした瞬間に首をひょいと逸らされる。 ありゃあ、どうにも向こうから折れるつもりが無いどころか、此方の言う事を聞くつもりも無さそうだ。 仕方が無い、部活の終わりにでも。もうちょっと時間経ってからでも良いだろう。 それより今は実験を。結晶が大きくなる様子を記録して、それを報告してで終わる。 至って単純な実験だが、見た目が面白い。中々テンションも上がるというものだ。 スケッチを終えて、数字を書き。さあ、後は先輩方の何方でも。 小柄なあの先輩は、右に左に忙しそう。あちらのパーマ男さんは顕微鏡に集中している。 後輩女子に人気なボーイッシュなあの人は、どうやら今から帰る御様子。 さて、残った人と言えば、何やら今日はふくれっ面してらっしゃる部長さん。 「あのー、こんな感じでどうでしょう?」 割と軽い感じで、持ちかけた。 結論から言う。私が帰宅出来たのは、それから数時間後の事だった。 理由は簡単で複雑怪奇。提出したデータの一つ一つ、部長さんが目を通したのが原因だ。 いや、その言い方もおかしい?それは仕事といえば仕事だから仕方がない。 それにしてもやたらと厳しかった。やれ、此処は何ケタまでだー、こっちの数字がぶれ過ぎだー。 挙句の果てには、此処の数字は明らかにおかしいから、下準備からやり直せと来たもんだ。 貴方そりゃあ無理ですって言いたいけれども、学生の部活動は上下関係が厳しいもの。 デスクワークと言ってもこれだけ続けば疲労する、くたくたになった帰り際。 あの友人の方に何気なく目を向けて、声をかけようとした。 彼女は、周囲と楽しげに笑い、私の方には目も向けなかった。 下駄箱に戻った時、外靴にまた小石が入っていた事を、此処に書き足しておく。 帰り路、一人で歩く私。道端にたむろする不良が『一緒に遊ぼうぜ』などと声を掛けて来る。 はいはいと手を振って流し、自宅への坂を上った。 翌日、朝。 何はともあれ日付は変わる、世の中は刻一刻と動いている。 昨日がどうあれ今日は今日、それが世界の真実よ、と。 頭の中で節を付けて歩く私の耳には、蝉の合唱が飛び込んで来ていた。 ああ、五月蠅い五月蠅い。全く五月蠅いにも程が有る。 五月でも無し蠅でも無し、貴方達本当に場を弁えなさいよ、と。 回りを見れば、運動着姿の同級生やら先輩方やらが、同じコースをぐるぐるぐるぐる御苦労さま。 文化部の自分には縁の無い事と視線を落とせば、ようやく馴染んできた制服、気付けば少し袖が短くなっている。 背が伸びる分には別に構わないのだが、着る物が減るのは――――――待った、少し待った。 手首の骨の形状を観察していた私の思考は、其処で急激にブレーキを掛けて地面にタイヤ痕を残した。 「………………ありゃ?」 昇降口から下駄箱へ。数百も靴が並ぶと、流石に鬱陶しい事この上ないとも思ったり思わなかったり。 学年とクラスごとに綺麗に区分けされた下駄箱を、自分の出席番号求めてうだうだ歩いて行く。 別に今から靴を買わなくても、最悪サンダルでどうにか成るだろう、そんな事を思っていた矢先。 「………痛っ……石?」 この地味で些細な痛みを、態々描写する必要は有るまい。 何せ、既に十分に語ったのだから。この痛みと、それに伴う感情を。 からーん、からん。小石を落として一回、蹴っ飛ばして一回。 二回程鳴った軽い音は、どうにも耳にしっくりとは来てくれなかった。 校舎の作りの為、日陰の広い理科室。燃えにくい材質の机は、額を冷やすのには最適だ。 確か特別な板を貼って有るんだったか。じゃあその板が有れば家庭でもこれを楽しめます、と? こんなものを家に置いて有っても仕方がないじゃないかと、自分の案を自分で却下した。 数時間後、帰路。 何も、昨日と変わりはしない。何も、違う所がない。 先輩方の表情も、視線を外す友人も。そして、提出を求められるデータも。 提出した後に何を言われるかも予想が付いていたし、此方が言葉を返したらどうなるかも分かっていた。 首を傾げて歩く私に、声を掛けて来る不良。『一緒に遊ぼうぜ』とは、どうにも魅力に掛けるナンパの文句。 はいはいと手を振って流し、自宅への坂を上った。 居間でソファに腰掛けると、弟がこれまた珍妙な表情をして座っていた。 父親似(らしいけど見た事無いから知らない)の弟は、私とは余り顔が似ていない。 それでも浮かべる表情はそっくりらしく、ならば私もきっとこんな顔をしているのだろう。 口を開いたのは同時。互いに先を譲り合って、結局先に文章を口に出せたのは私。 「今日って、今日でしょ?」 『ええ、まあ、今日ですよねえ………』 会話になっていない、自分達でもそう思う。だが、これだけで通じた。 今日は、昨日ではない筈だ。それを確認したかったのだ、自分以外の脳髄と。 『……姉さん、街一つ使ったドッキリなんて事は有りませんよねえ………?』 「そりゃ幾らなんでも無理ってえもんでしょ?何処の馬鹿金持ちが実行出来るってんですか」 「『ですよねー』」 綺麗にオクターブずれてハモる嘆息。何が起こったかって? 今日が昨日だった、それだけの事だ。一日振り返れば分かる事だろう。 つまり、〝何も昨日と変わらない一日が過ぎていった〟のだ。 嗚呼、なんと魅力的な響きか。変わらない毎日に万歳。 次の日も、その次の日も。カレンダーの数字は動いているのに、何も変わらない。 変わる事と言えば、少しずつ日の出日の入りがずれて来た事か? いや、もう一つ有る。蝉の声が消えて来た事だ。 どうにも、人間様以外は短命で仕方がない運命を持っている様で。 貴方の代わりに其処をグルグル走ってる脳みそ筋肉連中が死んじゃえば良いのにねえ本当に。 学校でやる事は決まっている。靴の中の石を捨てて、実験結果を纏めて、やり直しをさせられる。 計算式全て覚えてしまっているから、訂正自体は楽。ペンを持つ指がだるいばかり。 友人と口を聞こうと思ってタイミングを掴めず、帰路では不良に声を掛けられる。 大体、今回で5回目か?そろそろ、一日に聞く全ての台詞を暗記出来た気がする。 少しばかりマシなのは、自宅にいるその時。 今日なのか昨日なのか分からない一日で知った事を、弟と検証する時間だ。 何せこの時間ばかりは、何時も違う言葉を聞く事が出来る。 ゲームにランダム性を持たせる事がどれだけ重要か、良く分かった気がした。 そうそう、ゲームと言えば、 『姉さん、大事件です。今更気付いたんですが』 「ん、何ですか?」 『ゲームのセーブまで巻き戻ります』 「………うわーお」 流石に、三日目で気付いた。色々なものが〝巻き戻っている〟のだと。 日付だったり行動だったり、或いは物品だったり。巻き戻るものは様々だ。 これが、全て巻き戻るのだとしたら、把握するのは楽だっただろう。 だが、巻き戻る事を自覚している私達の存在が有る時点で、それは無い。 「しっかし困りましたねえ……これからは格ゲーだのアクションだのばかりですか」 『隠しキャラ出せても巻き戻し、って問題も有りますよ?』 自分自身の知識や記憶は巻き戻らない。手の動きの滑らかさはどうなのだろう? 電子部品に記録される信号は巻き戻る、紙に書いたパスワードもおそらくアウト。 こうなると、本当に選択肢が無い。ちょっとした息抜きの手段まで削られると知って、何だかやたらとがっくり来た。 別に自分の好むゲームはもっと単純なものばかり、其処まで影響も無いのだが。 それでも、まずクリアが出来ないと分かったゲームが増える。それは悲しいものだ。 何せ、何時までも何時までも、その世界はゴールを迎えられないのだから。 『ところで姉さん、こっちは会話もまるっきり同じでした』 『其方の会話、ここ五日で変わりました?』 「会話?えーと―――」 「――――――会話?」 最近数日、なんとなーく振りかえって。 部長のくどい話と帰路の不良、そして弟と。それ以外と会話していないと、今更気付いた。 他の先輩方とも、友人とも。流石に、我ながら呆れてしまった。 なんでまた、こんな事になってるのやらと。 いや、原因という程でも無いが原因は分かる。自分から口を開かないのと、タイミングだ。 たまたまそういう日だった、それだけの事。 明日の今日は、もう少しばかり口を動かそうか。 部屋の灯りを消す時は、僅かに楽しかったかも知れない。 とまあ、此処までが前フリ。割とふつーの学生生活でしょ?イレギュラー有りますけど。 そんな訳で私、結構良い子だったんですよあの時代は。成績優秀でしたし。 このままだったら私、ただの登場人物オア何処かの主人公の協力者になったと思うんですよ。 ほら、世界がおかしくなると、何処からかそれを打ち破る主人公出るでしょ?小説のお約束で。 此処までの私は、何を出来る訳でもない。ちょいと雑学が多く、ちょいと記憶力が良く、背の高い女子。 物語の中心に躍り出る事なんざ出来やしない、可能性が有るとしたら何処かの誰かの隣に立っての登場? あの時の私を見て、何処の誰が今此処に居る大悪党になるなんて予測できたでしょうねえ……… あら、コーヒーが空ですか。おかわりどうぞどうぞ、結構美味しいでしょ? そうだ、会話が出来なかった理由の一つ目が、一人で通学していたからだ。 ぐるぐる回る犬にも似た運動部の方々を観察するのは良いが、それも飽きて来た所。 此処は心機一転、何か話題を持って居そうな人間を探そう!と意気込んでスタート。 拭わねばならない汗も少しずつ減ってきた。過ごし易い季節が近いのだろうか。 快適な登校時間には快適な音楽も欲しい。適当に何か持って来ようか。 さて、此処で私の一つ目の目的は、百メートル10秒台の速度で壁に正面衝突してくれた。 そもそも通学途中に誰かに遭遇する事が有ればその時点で挨拶なりなんなりしていた訳で。 そしてそうなればそのまま学校まで会話が続いていたという事は非常に簡単に推測出来る。 今日まで通学時に誰にも遭遇しなかった以上、今日になって偶然という事は有り得ない。 どーでも良いけど私の思考って、サ行からスタートする事がやたらと多いですね。 家を出る時間をずらすべきだった、と。予期せぬ事態が起こり得る日々に培われた、几帳面さに後悔数秒。 その数秒程度の誤差しかなく、毎日到着する時間に正確に、校門をくぐる事になった。 中靴の石を放り出して、理由のその二。部活に直行という行動を見直してみる。 と言っても、此処を如何にかする方法が有るのは、授業が有る日に限定するお話。 教室に居るのは吹奏楽部の金管楽器部隊だろう。会話の前に耳が壊れる。 大体私の繊細な耳はあんな爆音の傍に居て耐えられるようには出来ていないのだ。 その前に吹奏楽部に友人は余り居ない。知人なら居るけれども。 友人と知人は別。これ、女子の関係に於いて結構重要な事である、メモをどうぞ。 となれば此処は素直に部活に行くべきか?それ以外に手段も無いですか。 然しながらあの空間はあの空間で私語が割と少なく会話目的では居心地が悪く。 そもそもループする基準になる日にこんな行動を取っていた自分自身が恨めしいったらありゃしないのだけれども。 さりとて他に手も無し、部室へゴー。サボるパターンは明日試せば良いや。 この辺り、私の思考回路が少しずつ、今の私に近づいてるの分かりますね。 後から思い返して初めて気付く事。回想に耽るのも悪い事ばかりじゃあない。 部室に入って最初のアクション、友人と目を合わせて逸らされる。 その後は静かに実験を進めて、部活動の全てが終わるのを待つばかり。 本来なら私は途中でデータを提出し、部長さんに何時までも何時までも訂正をさせられるのだが…… 此処で、介入案として、〝データを提出せずにこっそり帰る〟を入れてみようと思う。 尤もこの理科室、そんな事が出来る程に広くも無い。抜けだそうとすれば見つかりそうなもの。 だが、私はこれまでの五回の今日で、部長の行動パターンをなんとなく把握していた。 友人が帰宅準備を整えて、理科室から出る。それから数分後、トイレなのか慌ただしく出ていく。 確かその後、暫くは戻って来ない。一時間くらいは空白が有った? 其処で抜けだして走れば、多分友人には追いつける。彼女は随分とゆっくり歩く人間だから。 さあ、耐えに耐えて愈々その瞬間、理科室の黒板側の戸がガラリ。 足音が聞こえてから1・2・3、速効で荷物をまとめます。 後片付け?しない。だってどうせ明日には元通りだから。 部長さんがどれだけ腹を立てようと、明日になれば忘れてくれる。 こうして考えると悪い事ばかりでもないじゃないか。 ぱたぱたと廊下を走り、かくんと直角に角を曲がり。おや?と首をひねらされる事に。 其処に居たのはとっくの昔に帰路についてておかしくない友人。 普段ならいざ知らず、この時期?このタイミングで学校に残っててどうするのやら。 他の友人、この時間にはもうとっくに帰ってしまっているだろうし。 其処まで考えた所で、少々いやな予感。物影に隠れると遅れて数瞬、彼女がぐりんと振り向いた。 気付かれた?いや、そういう訳ではなさそう。きょろきょろ周囲を見回して、向かう先は体育館。 私の通っていた高校、当然ながら屋内の運動部も有る。だけど丁度〝今日〟は、揃って何処かに遠征。 屋外の部活が無理に体育館を使う理由も無く、整った設備も今日ばかりは完全に沈黙していた筈だ。 そんな所にわざわざ向かって、彼女は何用だろう? 距離を保って見ていると、大扉の正面で彼女は立ち往生。 この距離じゃはっきりと分からないが、多分鍵が掛かっているのだろう。防犯上当然だ。 それに思い当たる事が無かったのか、今度は彼女は職員室の方へと向かって行った。 そういえばあの子、ちょっと抜けてる所も有ったっけ。 その間に、こっそりと侵入してしまおう。ごそごそと体育館の床下に潜り込む私。 正確に言うと、体育館に通じる通路から床下に潜り、其処から体育館へと移動する私。 何の為に作られた床下通路かは知らないけど、きっと水道管なんかを扱うのだろう。 照明も落ちて、外の日光だけが眩しい空間。傾き具合は日に日に大きくなって、暗くなるのも早く。 それでもまだこの時間帯は、子供が外で遊んでいても安心な程度の明るさ。 ステージ脇のピアノの影に隠れて、私は彼女がやってくるのを待つ。 視力に完全に合わせて作られた眼鏡、視界はクリアー。 待ったのは数十秒だろうか?隠れるタイミングが遅ければアウトだった。 鍵の掛かった体育館に一人、変なシチュエーションで顔を合わせる事になっていた。 尤も、そうなったらなったで会話の糸口にはなるのか? 明日の今日になったら試してみよう、そんな分かりにくい思考。 彼女は、ボールやら跳び箱やら置いて有る倉庫の方へと入って行った。 此処でこの体育館について、後だしの様に構造を説明すると。 通路から潜って体育館の内部に出られるのは書いた。だが、倉庫の中にも出られるのだ。 途中が入り組んでいて暗いから動き辛いが、そこは手の感覚に頼るしかない。 そして倉庫の中に出れば、丁度跳び箱が大量に置いて有る場所。 侵入目的でそこに出ても、其処から身動きが取れない。だが、観察目的なら? どうせ動く必要はないのだ、檻に閉じ込められた形になっても構うものか。 煤だらけ埃だらけ、ついでに暗くてちょっと怖い。床下は本当に地獄だぜ、と。 それでも割と早めに辿りつけたのは、反響する彼女と誰かの声のお陰。 床にはめ込まれた蓋を下から押し上げ、身体を持ちあげなければならない、が。 これがまた、音を立てない様にするには難しい。 慎重に慎重に、数分掛けて。それでも最後の最後、キィと音がしてしまった。 気付かれた?そう思って身を硬直させるも、然し何も反応は無い。 彼女の声も、それに答える声も、一定間隔で聞こえるばかり。 やれ、一安心。身体全体引きずり出して、跳び箱の影に変なマネキンの様なポーズで待機。 跳び箱は、段を重ねたり減らしたりする為もしくは運ぶため、手の指を引っ掛ける所が有る。 そこから声の方を覗いてみた。 その時の私は、まだ知識は有っても経験は無く、雑学は有っても必要な事を知らず。 だから此処までお膳立てされた状況で次にどういう事が有るかも予想出来ず、と散々な状態。 跳び箱の隙間の向こうに見えた光景は、予想出来る事だろうに予想出来なかった。 そう、実に単純。うちの部長さんと彼女の密会の光景、である。 丸めたマットを椅子にして二人ならび、なんともなんとも楽しそうなお顔。 聞こえてくる話題は、平和そうな内容。やれあの子がウザい、あの店が不味い。 新しい携帯買ったんだー、俺の家のテレビ古くてさー、昨日メール送ったのに気付かなかった? やれやれ、で済ませられれば良かった。徒労の割に、大した事の無いオチだと落胆出来れば良かった。 そうすれば普通に帰宅して、何か食事でもしながら弟と雑談して。 その雑談の内容は、あの二人がしているよりは幾らか前向きなものだと断言できる あの子がウザい、この子が嫌い。こんな話題で盛り上がるのは、思春期には有りがちだ。 主に、自分は優れていて周りが自分に従わないのが悪い、内心でそう思っていると楽しい。これは私の経験談。 部長さんは人が良いのかそれとも思いきりが足りないのか、此処で話題を楽しんでいたのは彼女の方。 同じクラスのあれがウザい、あれは素直で可愛い。可愛いってアンタ、あのおまんじゅうに手足の子が? 隣のクラスのあれが煩い、あの教師は良い教師だ。あの先生、授業が進まないって評判なんですけど。 知りたくなかった彼女の本性、とでも言おうか。 その言葉の中に私の名前が飛びだしたのは、客観的には意外でも何でもない事だったろう。 昨日あんな事あってさー、超生意気ー、信じらんなーい。 友達面してウザいんだよねー、背ばかっり高いひょろひょろの癖に。 むかついたからさー、靴に石入れてみたりとかしちゃったー。 あ、そうだ。私、暫くあいつ無視する事にしたからさ、あんたも手伝ってよ。 え?うん、暫く。だってあいつ、宿題とか写させてくれるしー。 場所、男女二人。この後の事は、語るまでも無いでしょう? 友人と知人は別。これ、女子の関係に於いて結構重要な事。 メモが本当に必要だったのは、あの時の私だったのだろうけれど。 あっはっはと笑い飛ばすにも、そういう事に対する耐性が低すぎた。 今なら眼前の光景を録画でもしようと考えただろうに、あの頃は声を殺すのが精一杯だった。 きっと、友人づきあいというものを殆ど経験してこなかった、それまでの生き方も原因だったのだと思う。 何せ、私は〝変な奴〟で今まで通して来たから。彼女の前には、友人と呼べる者も居なかったから。 いや、彼女は〝知人〟だった。多分、周りの他の人間も。 気付かざるを得なかった帰路は暗く、制服は埃や煤で汚れていて、視界ははっきりしなくて。 自宅への坂にさしかかる手前、何時も不良が声をかけて来る場所。 この時間ならもう居ないかな、結局部活より遅くなってしまったし。 彼女達が去って数時間、底冷えした身体を抱きしめながら通りかかる。 一緒に遊ぼうぜ、第一声は全く同じだった。 この手の人種は決まった場所から動かないのだろうか?根でも生えてるのだろうか? 何時もの通り、五人。煙草をふかしていたり、酒を飲んで居たり。 それでも、他人にあまり迷惑を掛けていないだけ、良質の不良なのだろうかとも、普段は思う。 今回の今日は、そう思う余裕もない。声を振り切って行こうとした。 おーい、何泣いてんだよ。普段は掛けられない、二つ目の声。 囚人の足に付ける鎖の様に―――とすれば少々大仰か。空腹の鼻に届くバターの臭いの様に、私の足を止めた。 別に、彼等は私を心配している訳でないのは、その瞬間に理解出来ている。 どちらかと言えば、からかいの意図が強そうだ。表情から予想はつく。 もしくは、ただ声をかけるネタが無かったから、目に付いた事実を述べただけか。それも有るだろう。 彼等が興味を持ったのは私という人格では無く、そこを通った女学生に過ぎない。 そして、それは彼女と良く似ているのではないか、とも思った。 同じクラスに居て成績優秀、仲良くしているグループは無い。 自分で言うのも何だが見栄えはそれほど悪く無く、だが着飾らないから自分が霞む事も無い 少々甘くしてやれば、宿題が簡単に終わったり、授業中が楽な時間になったり。 そういう条件に合致したのが私で、〝そこを通った女学生〟に近い、〝そこに居た優等生〟。 成程、初対面で声を掛けて来る人間と、数カ月の付き合いでそれなりに近くに居たと思った人間。 その二つは面白い事に、私に同程度の評価を下しているという訳なのか。 そして、私はもう、彼女に対して好意的な評価を下す事は無い。 なら、私に直接の被害を及ぼさずたむろしている彼等は、彼女より高い評価を与えるべきでは無いのか? 追い詰められた人間の思考回路は、何処までも暴走する。 遊んでけよ、三つ目の声。招く手に、軽く鞄を放ってやる。 見事にキャッチした男の方が、むしろ意表を突かれたような顔をする。 「此処じゃ寒いでしょ?初めての子には優しくするもんです」 今回―――六回目の〝今日〟が終わるまで、私は家に帰らなかった。 あまり痛いとは感じなかったし、思っていたより疲れたが楽しかった。 目を覚ましたのは、何時もの様に自室。昨日意識が消えた、何処とも知らぬ廃屋では無い。 何時も通りにパジャマを纏って、皺一つ無いシーツの上。 頭の下に有る筈の枕が何故か胸の中に引っ越しているのは、自分の寝相がミステリーだとしか言えない。 右手の甲を見る。横になった時に、小石でちょっと引っ掻いてしまった部分。 傷の痕どころか、皮膚の変色すら見られない。完全に無傷だ。 戯れに穢された筈の制服は、ハンガーに新品の様な美しさで引っ掛かったまま。 自分自身も、身に着けていたものも、リセットの対象となるとこの時に知った。 変わらぬは己の記憶ばかりなり、と。 着替えを済ませて台所に向かうと、弟の力の抜ける様な声。 『おや姉さん、昨日は何処に?いやはや、一応あちこち探したんですよ?』 『外で食べるだけのお金は有る筈だし、其処まで心配はしませんでしたけど』 「そーいう時は、心配したと嘘でも言いなさいな。まあ心配の必要も有りませんでしたけど」 流し台に映った自分の顔は、なんとも言えず気分の良さそうな顔。 これなら確かに、心配する必要はないなと自分でも思えた。 今日が繰り返して一週間、私は部活動をサボる事にした。 それだけなら、制服を着る必要はない。これにはこれで理由が有る。 職員室の先生方に挨拶するには、こうでなくてはならない。 普段より数十分も早く学校に到着し、階段を上って職員室へ。 家庭科の先生は、生徒の大半に、好き嫌いで評価されないおばあちゃん先生。 やや悪い表現を使えば人畜無害、おちついて会話をするのには適した相手だろう。 だが、私が今欲しいのは、そんな時間の潰し方では無い。 「すいません、休みに入る前に家庭科室に忘れ物してたの思い出しまして」 「直ぐに取って来ますから、鍵だけ貸していただけませんか?」 学生鞄は意外と大きく頑丈、何かを隠そうと思えば簡単な事。 確か、家庭科室の辺りだけ、防犯装置が無いのだった。 次に向かうのは、図書室に隣接した司書室。あそこのパソコンは動作が軽く、プリンターも近くに有る。 そして私の記憶が正しければ、この学校の近くに出来たファーストフードは、ネットで割引券を配布していた筈。 携帯の画面を見せるか、印刷したものを持っていくか。それで割引という良く有るサービス。 ここで紙媒体の利用を選択したのは、それがなんなのか一目で分かりやすいからだ。 インパクトは大事、これも昨日なのか今日なのか良く分からない一日で覚えた事。 準備は整った。腕時計の針は順調に進む。 彼女の行動パターンからすると、そろそろ昇降口に現れる事だろう。 私の姿を見れば、きっと無視して行こうとする筈だ。だからこそ、その姿にインパクトが欲しかった。 全くもって呆れる程簡単に、計画は成功する。 一度目を逸らした彼女だが、視界に映った何かに反応して此方を向く。 私が並べた店の名前が、新メニューが、彼女の首の向きを固定する。 後はたった一言、「昨日はごめんなさい」。これだけで良いのだ。 どうせ彼女の約束は今から5か6時間後。これから街に繰り出すだけの時間は十分に有る、と考えるだろう。 「あ、そうだ。ちょっと手伝ってくれます?」 ちょちょいと手招き、家庭科室の方へ。 防犯装置が無い、先程表記した通りの場所だ。 手伝ってと言われれば、素直について来る。この辺りはまだ、捩じれ切っていない? でも、それは表だけかも知れない。財布を逃がさない為の演技かも知れない。 おごるとは一言も言っていないが、きっと彼女はそのつもりで居る筈だ。 家庭科室に入り、エプロンを適当に取ってきて、制服の上に。 それから更に、別なエプロンをマフラーの様に、首の辺りに巻き付けた。 この珍妙な服装に、指をさし腹を抱えて笑う彼女。 髪を掴まれた瞬間の表情の変化は、録画して見返したい程だった。 蛇口に鼻を打ちつけられて泣きわめく様は、何とも言えず滑稽だった。 噴水の様に鼻血を出し、痛い痛いと大騒ぎする彼女。 でも、耳元で一言「黙れ」と言えば、引き攣りながらも口を両手で覆う。 「そうですよね、包丁で脅されれば怖いですよね」 「貴女の目の前で持ちだす訳にもいかないし、面倒な事をしましたよ」 「ですが、手間をかけた以上のリターンが有った様でなによりなにより」 「ねえ、助けは呼ばないんですか?叫ばないんですか?誰かが聞きつけるかも知れませんよ?」 「勿論、そんな事をしたら誰かが来る前に貴女死にますけど」 身長差20cm近く。両者とも文科系の部活動。体力で比べるなら、私の劣る部分は無い。 背後から首に包丁を突き付けられ、しゃがみ込まされ。彼女はなんとも弱っちい存在に見えた。 「何でだろうって顔してますよね、貴女。分からないのも仕方が無いでしょうけど」 「でも貴女、これまでに何度も何度も、あんな事言ってたんですから仕方が無い」 「それと同じだけの回数……結構地味な嫌がらせしてくれましたよね」 「それに、これからも何度も何度も。貴女は死ぬまで、あんな事を繰り返すんですよ」 「訳分からない?狂ってる?いやまあ、私もそう思いますよ?うん」 「でもね、仕方が無いんです。貴女が分からない事も、分かってましたし」 「じゃ、また明日会いましょう」 骨が固い事は知っていたが、思った以上に苦労する。結局切断は諦めた。 喉に突き刺し、上に跳ね上げ、下に振り降ろし。魚を捌くのと似た感覚かも知れない。 切り開いた腹の中身は赤黒く、図鑑に載っているのは見やすい工夫が有るのだなと理解させてくれる。 二重に巻きつけたエプロンは、帰り血を防ぐのに良く役に立ってくれた。 床に広がる致死量の血液に、白い靴が台無しになったが、もうそんな事はどうでも良く。 裸足に制服という奇妙な姿で昇降口に向かう私を、誰かが見とがめる事も無かった。 それからは、毎日楽しかったですよ? 色んな殺し方を考えて、毎日実行して。その足でまあ、彼等と色々して遊んで、と。 次の日には彼女、無傷で生き帰ってましたし、私は私で普通に自宅にワープです。 それでまあ馬鹿馬鹿しい事に、何回同じ手段やっても同じ様に引っ掛かるんですよ。 彼等の方は彼等の方で、交友関係が広いのか結構色んな友人呼んできましたね。 こっちの行くタイミングで呼ばれる友人が変わりますから、結構色々試してみました。 その友人がまた別の友人呼んだりで、そうですねえ………えーと、あの彼があれ読んであっちの子呼んで…… 最終的には男女合わせて3桁以上と遊んだんじゃないですかねえいやはや若気の至りでアッハッハッハ。 人間の腹の中身引っ掻き廻して、その構造もよーく分かった。どう言葉を掛ければどう答えるかも色々試した。 次の日に全てリセットされると分かってれば、何をしても怖くない。 知識だけは引き継げる。だから、私は全てを知識にしました。 何か研究が完了しても、紙やデータに残せない。全て、記憶に放り込む。 私の専攻―――魔法生物と人体の融合―――の基礎は、この頃に完成させてます。 で、色々有って今の主君に拾われるまで……4年くらいでしたっけ? ………その世界が、なんなのか?それに関しちゃ永久に、正確な答えは出ないでしょうが……… ゲームの乱数、分かります?あれってフレーム単位で同じ行動取ると、同じ数字返すんですって。 まるでそれと同じ様に、こっちの台詞が同じなら向こうの台詞も同じ。 こっちが何処でどういう行動を取ると、どう変化するかも同じ。 なんだか、似てませんか? あれはきっと、何処かの誰かがやってたゲームなんです。 とあるステージのハイスコアを更新する為に、色んな数値を弄って。 クリア、つまり日付の変わる瞬間にリセットボタンを押し、開始時刻に巻き戻す。 その過程の中で〝スコア更新に必要と確定した〟行動はループから外れる………蝉の声や、近所の老衰で死ぬ人間なんかがね。 弄る側としちゃ、不確定要素は少ない方が良いんだから。 そして私と弟は……それからご主君や、他の面々もですが。 それが、スコア更新の為に操作すべきと判断されたキャラクターでありフラグだったのだ、と。 あれ以来ゲームが嫌いになった私は、そう判断してます。 科学者が神の存在を信じるなんて?おーやおや、私は神なんて一言も言ってませんって。 ――――――ところで 【ぐらり】 【私の世界が、大きく揺れた】 【床が顔に叩きつけられる錯覚、頬に冷たい建材の感触】 【瞬きは出来る、呼吸は出来る。思考すらこうして回転しているというのに】 【何故だろう。私の手足は、私を完全に裏切っていた】 この物語の主人公の少女………いやまあ私ですけど、どう思います? 友人に裏切られておかしくなった不幸な少女だと、貴方は思いますか? 私が第三者としてこの話を聞けば、Noと答えますよ。 だってそうでしょ?たった一週間ですよ一週間。状況がおかしくなってから。 それに、実害がそこまで大きかった訳でもない。友人と思い込んでた子、そこまで酷い事しました? 陰口なんざ日常茶飯事なのが学生、それで人殺しなんてあんた有り得ないでしょう。 しかも。これ以降この少女は、元友人を様々な方法で殺し続けました。 刺殺絞殺薬殺毒殺、何処で手に入れたか爆殺銃殺。車に轢かせたのも何度か。 止血を完全に正しく行って、麻酔無しで手足を切り取った事も有りますねえ。 上手く騙して不良の所に連れて行って、輪姦させた挙句自分で殴り殺した事も有りました。 眼窩から指で直接脳を掻き回して、ギリギリ生きているレベルで留めた時はなーかなか愉快でした。 さて、同じ状況に置かれて貴方、此処まで出来ます? 【軽率だった、と言わざるを得ない】 人間にはねえ、生まれつき善人と悪人と居るんだと思いますよ。 んで、何らかの条件が満たされた時、悪人はようやく自分自身になれるんです。 それまで、きっとその悪人は、あまり恵まれた状況に居ない。自分で居られなかったんですから。 だから世間は、「人が悪人になるのには理由が有る」なんて言うんです。 いやはや全く愚かな事、そう思いません?だって――― 【私の正義の心は、私の人生を終わらせる事になった】 【彼の女悪党に取り入って、やがて正体を暴き、公正なる捌きを与える】 【理想に燃える熱き心は、右肩上がりに増して行く心音に掻き消される】 ―――だって、私は生まれつきの悪人なんですから。 【私程度の正義の味方が、如何にか出来る相手では無かった】 【私程度が欺いて、日の下に引きずり出せる相手では無かった】 【最後の希望は、私の死体が何処かで発見され、テープレコーダーが見つかって………】 心配しないでも大丈夫ですよ?貴方を殺したりしません。 貴方に飲ませたのは毒薬じゃあなく麻酔薬ですもん。ね?もう痛くないでしょ? 【彼女が振り下ろした金槌が、私の手の指を砕いて行く】 【言葉の通り、痛みは感じない。もう、手がそこに有る事さえ分からない】 【テープレコーダーが最後に拾ったのは、其れ自体がぐしゃと踏みつぶされた音】 【そして、私の耳にも同様に届いた、粘りつく様な甘ったるい彼女の声】 じゃあ、また明日遊びましょう? 【Interview with the Mad scientist.】 【Route:interviewer / Normal End.】
https://w.atwiki.jp/nothing/pages/369.html
事情を話してしまおうか。 シンは朝の食卓でぼんやりとそんなことを考える。 今日はもう金曜日、バレンタイン前の最後の週末である。週が明けたら13日。 でも切り出しようがないよなあ。 はあ~。 「シン。銜え箸やめなさい」 行儀悪く朝食を取るのを、母親に見咎められてしまった。 妹のマユが『今日は忘れないでお弁当持って行ってよ?』と念押しする。その甲斐あって、その日はちゃんと忘れずに弁当を鞄に詰め込むことができた。駅でヨウランと一緒になっていつものようにファミザに寄る。 「調子はどうよ?」 「何の?」 「そんなの決まっているじゃないか」 分かっているが、シンはジロリとヨウランを一瞥して店内のドアを開ける。お客に声を掛けるアルバイト店員。 「はいはい」 昨日より空いている店内でシンの声は意外とよく通った。レジの中の金髪のアルバイトがチラリとシンを見る。シンもそれを確認して、平然と正面のおにぎりが並んだ棚へと大股で近づいた。 あのバイトとアスランさんは仲が良さそうだよな。 補充を待つ棚にはいくつもおにぎりはなく、選ぶ必要はないのに、シンは手に取っては置き、手に取っては置きを繰り返していた。おかかと昆布の間を行ったり来たりする。 あの人に頼んでみるとか。 隣の寿司巻きに手が伸びて、急に止まる。 付き合ってるとか言わないよな。 二人が一緒のシフトの時の様子はどうだったかと思い出す。確かに仲が良さそうに見える。唯のバイトであそこまで親密になるだろうか。 しかし、彼は誰にでもあんな感じだ。 物腰柔らかって奴だ。 だから、それはない。多分。 結局シンは、梅おにぎりとペットを掴んでお金を払う。ヴィーノを待ちながら、ファミザの前で早速、封を切る。とても天気はいいのに、雲一つない空のせいでいつもより冷え込んだ朝は、ペットのお茶もすぐに冷たくなってしまっていた。 まあ、でも、貰えなかったからと言って別に何があるわけじゃないし。 こいつらの思う壺だと、シンはやって来るヨウランを見て思った。 シン達の高校では屋上やベランダは立ち入り禁止である。それ故、昼食は各自教室で取ることになっていた。屋上で語らうなどの青春の1ページが見られないと言えども決まりは決まりなので、ほとんどの生徒はそのルールを守っていた。 進学クラスでも上位の成績をキープするシンもその1人で、今は、ヨウランとヴィーノと一緒に机にお弁当を広げている。ヨウランは弁当、ヴィーノはコンビニで買ったパンとおにぎりをパクついている。その隣の島には机を引っ付けて女子共が小さな弁当をつついていた。 あらかた皆が食べ終わろうしている頃、ルナがやって来る。 「アンタ、面白いこと始めたらしいじゃない?」 「は?」 ちょうど机の位置ぎりぎりのところにスカートの裾があるくらい、超ミニを着ている。視界に素足が飛び込んできて、椅子に座ったまま彼女を見上げる。 ルナは女子にしては背が高い方で、理系クラスの数少ない女子である。短く切った臙脂の髪が一房跳ねているのがトレードマークだ。 「×ゲームなんだって?」 「ああ・・・」 その事か。 面白くなさそうに相槌を打つ。反対にヨウランやヴィーノは面白そうだった。 午後の授業は単調で、眠魔との盛大な戦いに勝利した後はただ暇なだけだった。勿論、授業に集中できるならそれがいいのだが、シンは昼休み時間中にルナからもたらされた情報を反芻していた。 どうやら状況は芳しくないようね。 腐れ縁のアンタのために一ついいこと教えてあげましょうか? ルナはこの高校にできたファン倶楽部の一員である。抱きつき事件の後の反応と比較すると反対のような気がしたのだが、彼女はシンのその疑問にあっさりと答える。 首尾良く運んだら、アタシの口にも入るじゃない? だそうだ。 そんな彼女が言うには、彼は今週末にどこかに遊びに行く予定があるらしい。 お近づきになるチャンスだとルナは手をひらひらとさせて、人事のように言った。 ヴィーノの奴がしゃべったんだな? もうクラス中が知ってんだろうな。止めてくれってーの。 このまま知らん振りでも決め込もうと思っていたのに、これでは、当日何を言われるかたまったものではない。自分一人だけ少しも面白くないゲームに、溜息を付いた。 窓からは冬空の下にファミザの看板が見える。 大学生ってどこに遊びに行くんだろうか。 「アスカ。窓の外がそんなに気になるか?」 ハッとした時には、既にクラス中の注目を集めていて、指摘に教科書、ノート、黒板を見るが、返事をすることはできなかった。 「お前、5限の時って・・・もしかしてファミザ見てた?」 「は? ファミザ?」 下駄箱から靴を取り出して地面に投げる。いつもより遠くまで飛んでしまったが、この際気にしない。知らず、シンは口を尖らせて鞄を背負いなおす。 「お前ってさあ・・・純情だよな」 ギギギと音を立ててシンの首が回る。 引きつった口元は笑みを浮かべているが、目は笑っていなかった。しかし、シンの友人達は気にせずに会話を続ける。 「見てると面白いんだよね。朝ファミザ入って行く時とかさ、さりげなーく、中確認しているだろ」 「そうそう、態度が違うもんな」 真冬の時期に比べれば日が落ちるのも少し遅くなって、辺りはまだ明るい。油断しているとすぐに暗くなってしまうけれど。 「あ~あ、後は月曜日と当日だけか」 「ったく、お前ら」 「まっ、シンもあまり思いつめるなよな?」 「別に俺はっ!」 弁当を忘れた事とか、今日、先生に注意されたこととか、関係ないから! 喉まで出掛かって口を噤む。口に出したら最後、意識しまくりだと宣言するようなものだからだ。シンは必死に何でもない風を装ったのだが。 「そうそう、別にお前が本当にチョコ貰えるとは思ってないし」 「なんつーか、シン・アスカ君のいつもと違う貴重な一面って奴?」 シンは足を止めた。 その台詞に安堵すればいいのに、しかめっ面のまま二人に置いていかれる。 それはそれでどうなんだ、と。 こう見えても自分の方が人気がある。と、思う。 マユの友達にも、カッコいいと言われたのだ。 ヨウランもヴィーノも、順位だって自分より下だ。 どうして俺がこんな目にあわなければならないんだ。 純情なのかも知れない。 先生に注意される姿が珍しいのかも知れない。 けれどそれ以上に、シンは負けず嫌いだった。 お前らがそういうつもりなら、マジでチョコを貰ってやる。 ヨウランとヴィーノ、二人の後ろでシンの瞳が光る。 些か、純情と言うよりは直情であった。 戻る 次へ すみません。すみません。カウントダウンって難しいんですね・・・。
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/963.html
前へ 行ってらっしゃい、と生徒会長さんに見送られながら、私たちは生徒会室を後にする。 「じゃあ、ここからは別行動だね。いろいろとありがとう、遥ちゃん」 「あ・・・うん、別に」 「花音ちゃん」 律儀に私に頭を下げた後、ユウカさんはカノンさんのほうを振り返った。 「花音ちゃん、ありがとうね。これで、またお嬢様とお話するチャンスが出来たかもしれない」 「・・・ね、無理することないんだよ?マロも一緒に」 「ううん、ここからは私が一人で頑張らなきゃ。ふふ、花音ちゃん、生徒会の皆さんのライブが気になってるんでしょう?そっち、行ってきちゃっていいよ。」 なんだかわからんけど、やはり、ユウカさんは相当な理由あり参加者さんのようだ。 ちさとちゃんのことだから、それはすごく気になるんだけれど・・・それは聞いていいことなのか、どうにも判断かできない。 好きならば、何でもしていい。そんな風には私は考えられないし、第一、それは私が一番恐れている事・・・つまり、ちさとちゃんに嫌われてしまうってことに繋がってしまうだろう。 「うおおおおまーちゃんやったるちゃん!さらば愛しき友たちよ!!!」 マサキは威勢よく叫び、またとっととどこかへ去っていってしまった。 「えーと・・・憂佳がそう言ってくれるなら、私、ライブ行ってきていいかな」 「うん、あとで感想教えてね」 「まかせて!一人で行く学園クリスマス会に音源をうんたらかんたら」 そうこうしているうちに花音さんも体育館へ戻っていき、私と憂佳さんは二人きりになってしまった。 「あー・・・当てとか、あるんすか」 「うん?」 「何か、この条件だと、ハルのほうが結構有利になっちゃうと思って、ユウカさん的にはどうかなって」 「あはは、優しいなあ」 目を細める横顔には愁いがあって、視線を外せなくなってしまう。 「じつはね、今日は用事があって来れなかったんだけど、私の学校の友達が、千聖お嬢様と親しいから」 憂佳さんは、その人からの情報を元に、1つ決めた場所があるらしい。 「みんな、私とお嬢様の間に起こったことを、真剣に聞いてくれて、絶対に解決しようって言ってくれたんだ。 嬉しかったなあ」 「あのさ、ユウカさん・・・」 もし、どうしてもっていう事情があるなら、ハル、辞退してもいいよ、と言いかけて、私はハッと口をつぐんだ。 ・・・違う、そうじゃない。ユウカさんが望んでいるのは、そういうんじゃないんだ。 この人は・・・戦っている。それは過去の自分とであり、うちの学校のクリスマス会に参加したことでもあり、ちさとちゃんと向き合おうとしてることでもあり、そして、今、“誰かと競う”ことで、その権利を手にすることでもある。 だから、私がライバルになっているのは、むしろ望ましい状況なんだろう。 「ハル、本気で探すから。恨みっこなしだぜ」 そう宣言すると、ユウカさんはにっこり笑ってうなずいた。 ***** 「しかし・・・探せるのは1回、となるとなぁ」 数分後。 ひとまず高等部の昇降口まで下りてきた私は、ちさとちゃんの下駄箱を見つめながら、ため息をついた。 大好きな人のことだ。心当たりがないわけじゃない。だけど、逆に絞るのが難しい。 大好きなラーメンの出る学食?合唱が楽しかったと言ってたから、音楽室?力いっぱい走れるグラウンド? どれも合ってるようで、正解じゃないような・・・。 「きえええ!すどぅー!」 「うわっ!」 突然、足元から人間の顔がニョキッと出現した。 「マサキ!ま、まさかお前・・・」 「まーちゃん終了のお知らせ!佐藤優樹かわいそすぎワロタ!まさ哀れざまあああ!」 「落ち着け!見つからなかったんだな?カード!」 ほんのちょっとだけ、「よかった」なんて思ってしまったことに自己嫌悪。 案の定マサキはこくこくとうなずいて、またスンスンと鼻をすすりあげた。 「泣くなってば・・・」 「ちさとーなら、あそこだと思ったのに。・・・3階東階段の手前のトイレ、奥から2番目」 「なんでだよ!」 「ちさとーはだいたいそこを使います」 「へ、へー・・・3階東・・・って、なんでそんなこと知ってんだよ!」 「えっへん」 有益な情ほu、じゃなくて、ウソかホントか知らんけどほんと恐ろしいわ、こいつってば。 だけど、玉砕を隠さずにすぐ私を探しに来て報告してくれたってのは嬉しい。素直なとこもあるじゃんか。今度お小遣い入ったら、駄菓子でも奢ってやろうかな。 「すどぅは?」 「まだ探してないよ。迷ってんだ、今」 「ふーん・・・」 マサキは私の視線に合わせるように、しばらく黙って、昇降口の低い天井を見つめていた。 「はー、これでハルもユウカさんも見つけらんなかったらどうすんだろ。やりなおしかー?」 「すどぅ、すどぅ」 私の言葉を遮るように、マサキがスカートのすそを引っ張ってくる。 「どうした?」 「えーっと、まーちゃん、ちさとーのプレゼントを探してる間、ずっと、ママ生徒会長の言葉のことを考えてました」 「言葉?」 「ママ生徒会長は言いました。“ちさとーのことをしっかり考えてくれる人に、プレゼントを渡したい”」 「そうだな」 ふと、マサキが真顔に戻る。散々ふざけた後の、コイツのいつもの癖。何を言い出すのかと、思わず身構える。 「まーちゃんは、ちさとーの眠たそうな顔が好き。ぼーっとしてる顔も好き。ちさとーが落ち着いて安らげていたら嬉しいなって思います。そういう場所を選んで探しました」 「・・・・・それでトイレを選ぶっていうセンスはどうかと思うぞ、マサキ」 だが、場所はともかく、マサキのその考えは、1つのヒントとなって胸にスッと入ってきた。 「安らげる場所、か」 これで、私の探索候補はかなり絞られることになった。 その中でも、選ぶとしたら、・・・そう、多分、あそこだ。だが、出来れば避けたい場所でもある。だってさ、あそこは・・・ 「すどぅ。もう行く」 いきなり、マサキが私の腕を掴んでぐいぐい引っ張ってきた。 「どこに行くんだよ」 「すどぅが今考えてる場所。まーちゃんも一緒にいく」 「ハルが何考えてるか、わかんのかよ」 「わかる!友達!」 ヒートアップしてるのか、マサキの手の力と、声のトーンがどんどん強くなっていく。 相変わらず、宇宙人な奴だけど・・・とりあえず、今この瞬間、コイツが私を鼓舞しようと必死になってるのはわかる。 そして、自分が“友達”として、それに答えるのは当然だってことも。 「そうだよな・・・ここまできて、見つけなけりゃしょーがないしな」 「イエス!誰のためでもない、すどぅのしたいようにいきていくだーけねー!」 無駄に質のいい、マサキの歌声に後押しされるように、私はついに“あの場所”へ足を向けることにしたのだった。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/mioritsu/pages/203.html
投稿日:2010/03/23(火) 17 41 50 夕暮れが影を落とす、校舎裏。風に揺れて木々がざわめく。 下駄箱に入っていた手紙に応えて、わたしはここへ来た。 朝手紙を読んでから、ずっと頭がいっぱいだった。 でも誰にも言えなかった。 だってきっとすごく勇気がいっただろうから。 それがわたしには、とてもよく分かるから。 授業もろくに耳に入ってこなかった。いや、それはいつものことなんだけどさ。 唯やムギの話も上の空だったし。 ここに来る前、部活に少し遅れると澪に告げたとき。 澪の顔、まともに見れなかったな…。 なぜだか後ろめたかった。 色んな気持ちがないまぜになって、どんどんわたしの鼓動を早めていく。 「あの…田井中先輩」 あぁ、くるぞ。 「す、好きですっ!先輩、今付き合ってる人とかいますか…?」 ドキっとして、すぐさま頭の中をよぎる、端整な顔と澄んだ声。 「付き合ってる人は…いない、けど…」 けど、思い浮かぶのは、 「じゃあわたしと付き合ってください…」 いつも、この心を離さないのは、 「いや、でも…」 好きな人がいる、そう言おうとしたとき。 胸に受けた衝撃に、言葉が詰まる。 「好きなんです…ほんとに…っ……」 肩に埋められた顔。くぐもった嗚咽が聞こえてきた。 どうしたらいい。突き放すことも出来ない。 傷つけるのは可哀想だ…でも、気持ちには、応えられない。 だってわたしは、澪のことが、 「律…」 すっと頭に入ってくる声。わたしの大好きな声。 わたしの名前を呼ぶ、澪の声だ。 一瞬、世界が止まったように思えた。 そしてその途端に跳ね上がる心臓。わたしは弾かれるように澪を見る。 「澪…!」 澪は大きな目をさらに見開いて、わたしたちを見つめていた。 「澪っ、これは…!」 言いかけたわたしに背を向け、澪は走り出す。 「待っ…」 追いかけようと動き出したわたしの体を引き止める、か細い腕。 「先輩…」 すがるような目でわたしを見つめてくる。 でもごめん、もう、構っていられない。 零れる涙を拭うこともしない彼女を、ぐっと引き離す。 「わたし、澪が好きなんだ。ごめん」 さっき言えなかった言葉を今度ははっきりと口にする。 自分でも確認するかのように頷いて、わたしは澪の後を追った。 背後から聞こえてくる悲嘆に胸を刺されながらも、足を止めることはできない。 飛び出したときにはもう澪の姿はなかったから、少々手間取るかと思った。 でも澪は案外すぐに見つかった。 さっきとは打って変わってゆっくりとした足取りで、澪は講堂の影に消えていった。 わたしはそのあとを力の限り追いかける。 気持ちを伝えることは出来なくても、澪に誤解されたままでいたくない。 「澪っ…!」 追いついたわたしが見たものは、小さくしゃがみこんでいる澪。 顔を腕に埋め、表情は伺えない。 訳が分からないけど声をかけないと、と思い近づこうとした。 「くるなっ!」 突然の叫びに驚き足が止まる。 「み、お…?」 息切れのせいか、うまく声が出ない。 「なんで来たんだよ…なんで…くっ……」 澪の声に嗚咽が混じることで、どんな顔をしているのか想像がついた。 どうして泣いているんだ? わからない。わからないよ、澪。 「澪、泣いてるのか…?」 じり、と足を動き出させる。 「泣いて、なんか……っ…」 精一杯の強がりさえ、うまく口に出せていない。 「澪…」 わたしは澪との距離を縮め、その横にそっと跪く。 「う…っ…ぐす……」 わたしのことで澪が泣いている。 それが嬉しく思える、澪が愛しくて愛しくてたまらない自分がいた。 「澪、黙っててごめん。あの子は…」 「っ…ほんと、だよ…わたしに黙って恋人なんてっ!」 「なっ…わぁっ!」 澪が急にわたしに掴みかかって、わたしはバランスを崩し、結果地面に押し倒される形になる。 「ってぇ……澪…」 馬乗りになった澪を見上げると、そこには涙をぽろぽろ零しながらまっすぐわたしを見つめる瞳があった。 「わたしは、ずっと律の一番でいれると思ってた!」 澪が涙を流しながら、顔を真っ赤にして叫ぶ。 「ずっとずっと一緒にいるって思ってたのに!それは…そう思ってたのはわたしだけだったのか!?」 「澪、ちが…」 「ばかりつ!ばかりつばかりつ!……ずっと、ずっと好きだったのにっ…うぅ…うわぁあん!」 「ちょ、ちょっと澪っお、落ち着けって!」 衝撃の一言と、大声をあげて泣き出す澪に、慌てるしかなかった。 でもこのまま泣いていては、きっと話も聞いてくれないだろう。 わたしは意を決する。 「ていっ!」 「ぅひゃぁっ」 ばっと起き上がり、形勢逆転、今度は私が澪を押し倒す。 「り、りつ…?」 びっくりして涙が引っ込んだのか、澪は泣き止んでわたしを見上げた。 「あのなぁ、あの子はなんでもないの!」 「へ…?」 「告白はされたけど、断るところだったんだよ。それを澪が勘違いしてだな」 わたしがひとつひとつ説明し始めた途端、澪の顔がさっきよりも赤くなっていく。 「じゃじゃじゃあ、わ、わたしは、さっき、ななななんてことっ」 顔から火が出んばかりに赤面する。 「ぷっ…くくっ…あはははは」 その様子に思わず噴き出してしまった。 「うぅ、り、りつのばかぁ!紛らわしいことしてるからだろ!」 「澪ちゅわんってば早とちり~」 「知らない知らない!」 「えー…さっきの、なかったことにしちゃうのか?」 意地の悪い質問に、澪はまた赤面する。 このくらいにしておいてあげようかな。 恥ずかしがり屋の澪の、一大告白を受けたわたしはとても気分がいいし。 「律は…どうなんだよっ」 さっきまでの恥ずかしさを振り切ったのか、澪が問いを返す。 「んー?そうだなぁ」 今まで焦らしていた分、なんだかすっと言葉に出すのがもったいなく思えた。 「りーつー?」 澪が口を尖らせて急かす。 可愛いやつ。 「だーい好きだよ、みーお」 自分で聞いておきながらまた真っ赤になる澪が愛しくて、わたしはすっと澪に口付けた。 ちゅっと触れるだけの短いキス。 「り、りりりりつ!」 もはや爆発してしまうんじゃないかと言うほど真っ赤になって慌てふためく澪。 キスするたびにこうなるのかなと想像すると笑えてくる。 「澪しゃん真っ赤~うぶですな~」 なんて茶化しているわたしも、実は耳が熱い。 好きな人とキスするってこんなにドキドキするもんなんだと実感する。 「~~~!もぉっ!ばかりつー!!」 「へへっ」 夕焼け空に、わたしの大好きな澪の声が大きく響いた。 いつまでも一緒に…! -- 名無しさん (2014-01-21 07 56 27) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4462.html
「物質、エネルギー、そして情報。これが、宇宙を構成する三つの要素」 「情報統合思念体って、どういうものだと思ってる?遠い宇宙の果てのはてにある、銀河みたいな星の固まり?それとも、宇宙に漂う、 何か大きなクラゲみたいなもの?」 「どっちも外れね。情報統合思念体は、この宇宙を構成する情報全て。全宇宙の情報が、時に秩序を形成し、 時に無秩序に増殖する。そして、それらを認識する情報。これが情報統合思念体。率直にいえば、この宇宙全体が統合思念体なのよ。 もちろん、あなたも私も思念体の一部。でも安心して、あなたが自分の体の細胞の1つを認識できないように、 思念体もあなたのことなんか全然気にしていないから。」 俺と朝倉は、今カラオケボックスのベンチシート席に居る。最近のカラオケボックスでは、少人数の客はこうしたベンチシートルーム、 3人掛けくらいのベンチ1台に向かい合うようにマシンが設置された小部屋に案内されるようになっている。今日は団のメンバー抜きでの 朝倉との二人連れであり、世間一般的に見ればまあ非常に羨まれるべきシチュエーションなんであるが、やはり一度なりとも刃物で殺され かかった相手というものはなかなかその恐怖を体が忘れづらい。あと、朝倉、普通に会話するだけなら別にマイク使う必要ないだろ。 事の発端はこうである。 朝倉とSOS団の『懇談会』以来、一段とその頻度、クオリティともに激しさを増した長門のレッスンのせいか、俺は最近思い出し笑い、 思い付き笑いを所わきまえず非常に頻繁に繰り返すような状態になってしまい、だんだんクラスでも浮いた存在になってしまってきている。 最近では谷口も挨拶を一拍置いてから返すようになってきているし、国木田は弁当を別のクラスで喰うようになった。笑いさざめくクラスの ドアを開けて教室に入ると、今まで談笑していた生徒全員が一斉に俺の事を注視する、と言ったことも1度や2度ではない。 ハルヒは一人 「なんか、最近のキョンちょっとオモシロイわ!何ていうかほら、バガボンドの最初の頃に出てきた『不動さま』みたい!」 と盛り上がっているが、うん、まあ、ホントはあんまりおもしろい状態でもないんだろ。俺も自分でわかるからさ… そんな孤独と焦燥のさ中にあって、再びクラスの中心人物に返り咲いた朝倉が 「キョン君、今日放課後空いてる?空いてるなら、ちょっと付き合って欲しいんだけどな♪」 と聞えよがしに話しかけてきてくれた時、俺は1も2もなく飛びついてしまった。誰だってそうだよな? そして、放課後俺は口早にハルヒに団活を休む旨を告げると、下駄箱で待ち合わせした朝倉に手を引かれる様にこのカラオケボックスまで来たという訳だ。 「でもね、涼宮さんは別。あなただって、突然自分の体の一部がチクッと痛んだりしたら、何かな、って思うでしょう? 思念体もそう思ったの。いつもどおりに生活していたら、体の一部が変におかしい。何だろう?と思って立ち止まり、調子がおかしい 箇所をしげしげと見ている。調子がおかしい箇所が涼宮さん。それを見つめている目や、触って調べたりしている指が私たち。」 「そういう訳で派遣されてる私たちなんだけど、まあ、私たちだって完璧ではないわけなのよ。同じ宇宙の構成物なんだしね。 目だって指だって病気になるしケガもする。変なものを見ちゃったり、触っちゃったりしたら。」 そう言って、にじり寄ってくる朝倉。 「涼宮さんみたいな強い存在のそばにいたら、私達端末も影響を受けちゃうのよ。本来の機能からエラーを起こして、 自分で勝手に情報を紡いでいくようになるの…あなた達の体でいったら、ガン細胞ね。心でいったら、何かしら…」 朝倉の顔が近い。つぶらな瞳が、俺を真正面から捕えて離さない。 「いっそ、本人に聞くのが一番早いかも♪」 個室のドアが勢いよく開く。廊下の蛍光灯のまばゆい光を逆光に、小柄なシルエットが目に飛び込む。 『…二人とも、表に出ろ』 長門がいた。いつも通りの、高熱に燃える炎のような青白い表情で。 ------------------------------------------------------------------ 俺達がカラオケボックスにいる間に表は小雨になっており、長門は自分で持ってきたであろうビニール傘を差し、 俺は頑強に拒みはしたものの朝倉の持っていた折り畳み傘に結局引っ張り込まれてしまい、先を行く長門の2メートル ほど後ろを2人でついて行っている。 駅前から離れ、踏切を渡りやや閑静なあたりに差し掛かる。 「この前のカラオケでのキョン君の歌。あれ、歌じゃないわ。心の悲鳴よ。キョン君の。」 朝倉が足を止め、長門に声をかける。 「わかってると思うんだけど、最近のキョン君、ちょっともう限界よ。ここまで彼を追い詰めて、何をしたいの?」 長門も足を止め、傘を片手に雨の中、背中で朝倉の言葉を聞いている。 『…獣は、追い詰められた時に一番良い声で鳴く。赤子の声が一番心を打つのは、その母親を呼んで泣き叫ぶとき。』 『歌は、惚気話でもなければ、自慢話でもない。人間の、泣き声。叶わぬ望みが心に叫ばせるもの』 振り向きもせず答える長門。 『だから、人は歌に心をふるわせる。人が、人の泣き声を聞き過ごせぬよう、人の心は、歌にとらえられる』 「なかなか言うじゃない… …まるで、人間にでもなったみたいに。」 口角を上げて、朝倉が答える。 「でも、長門さん、わかってるかしら?私達、端末よ。そんな感傷、本来の機能にはないの。エラーが溜まりすぎちゃったのね。 システムの処理の、暴走。人によっては、こういう風にも、言うかしら」 「『精神病みたいな、もの』、って」 ビニール傘が転がる。 振り向いた長門の顔。いつも通りの、軽く結んだ唇、澄み切った黒い瞳。その瞳の縁から、小雨に打たれた顔の頬を二筋の流れが伝っている。 「観測用端末の更新が発令されたわ。長門さん、あなたはもうとっくに暴走状態。思念体への報告すら満足に行っていない。 私が来たのは、バックアップのためじゃない。あなたと交代して、私が涼宮ハルヒを観測するの。」 「あなたはもう、観測を行える状態じゃない。復旧すらおぼつかないエラーの蓄積状態で、観測対象の周囲にすら影響を働きかけて きている。これはもう、思念体による観測活動継続の為の、除去の対象。つまり---」 朝倉が傘を手放した。 「パーソナルネーム長門有希を敵性と判定。当該対象の有機情報連結を解除します。」
https://w.atwiki.jp/doroboumama/pages/1281.html
サイズアウト奥 458 :名無しの心子知らず:2008/05/28(水) 00 21 27 ID ZMjaTP+9 文章苦手なんで読みにくかったらごめんなさい。 娘の服を衣替えしたらサイズアウトしたものがたくさんでた。 両家にとって初孫な上に、恥ずかしながら私も旦那も第一子フィーバーで 必要以上に買い揃えた結果、タグがついているまま状態のものや着せようと 洗ったまま着せる機会がなかったものも多数。 自己嫌悪に陥りながらも整理した結果、頂き物は次の子や親戚用に取っておく事にし 他にちょっとした染みがあるもの、綺麗だけど数回は着用したと思われるもの、 タグ着きや未使用と思われるものの3つに分けて大き目の紙袋に入れておいた。 捨てるにはもったいないので、お下がりをもらってもらえそうな人を知り合いで 探したけどうちの子より大きかったり性別が違ったりでいなかったので、 市の育児センターに譲る旨の張り紙をした。 すぐに連絡があったので、引き渡しの日に出かける前にタグ付きと数回着用分を 玄関の下駄箱の上に出しておいた。 出かける直前に回覧板が来たり、電話が来たりでバタバタしていて約束の時間に 遅れそうになったので慌てて向かい、確認の為に袋を開けてみてびっくり。 両方の袋共に1/3くらいなくなってる。玄関の上に出したときは確かにあったのに。 その時は相手に言ってもなんだし、喜んでくれたのに微妙にしょんぼりしつつ終了した。 一応家に戻ってから探してみたけど、なくなった服は見つからなかった。 袋を玄関に置いてから出かけるまで、回覧板が来るまでは施錠がしてあったので 回覧板を持ってきた奥さんが怪しいと思ってしまいモヤモヤしていたんだけど 今日旦那が帰ってくるなり「隣の奥さんとは距離を置いたほうがいい」と言い出した。 旦那は小児科医なんだけど、今日患者さんで隣の子(男の子)が来たらしい。 それで、服をめくった時に洗濯タグに娘の名前のはんこが押してあったと。 娘の服には目立つ色で名前と模様のはんこが押してあります。 最初は隣の子ってわからなかったけど、後で住所確認してわかったみたい。 職業がばれるとややこしい事になるので、旦那の職業はひた隠しにしているし 勤務医だからわからなかったんだと思う。帰宅遅いしあまり顔合わさないし。 問い詰めると色々こちらにも不利益が出るのでしないけど、子供が可哀想だ 469 :名無しの心子知らず:2008/05/28(水) 07 13 47 ID KfvHY+Nh 458 隣人が泥棒って怖い。 玄関に置いてある小物(特にスワロフスキーなどw)も、気をつけたほうがいいよ。 おそらく日ごろから、 458さんのお子さんの服を良い物を着せている、 と思っていたんだと思う。 隣りだと難しいだろうけれど、極力接触しないようにね。 471 :名無しの心子知らず:2008/05/28(水) 07 49 12 ID LDZ9oPjH 458乙 旦那さんの職業バレが怖いのは解るけど、窃盗犯を放置するのもどうなんだろう 他にも被害者がいるんじゃない? あるいは、これから被害者が出る可能性もあるし 届けを出す出さないは別にして、警察に、こういう場合なんとか 職業バレせずに、取り締まる方法がないか相談だけでも してみたらどうだろう? 相談だけなら旦那さんの職業を言う必要はないでしょ? 483 :458:2008/05/28(水) 08 58 11 ID ZMjaTP+9 458です。昨晩はあの後ウッカリ寝てしまって書き逃げになりすみません。 出かけようと玄関に出たら隣の奥さんが回覧板を持ってくる→受け取る瞬間電話 →隣の奥さん「電話出ちゃってー。じゃあうちはこれで。」と言う→お言葉に甘えて、と 一旦電話に出る為奥に戻る。→電話は1,2分で終わって玄関戻ったらいなかった。 そのまますぐ出かけたので、目を離した時間は殆どなかったと思います。 その時間で大体二袋分併せて20着程の服を袋なしで持ち帰ったと思われるので すごいなぁと変に関心してしまいました。 今後の対応ですが、473さんの内容に近い状態にして行こうと思っています。 それと、両家実家から送られてくる無農薬野菜や季節の果物はお隣にはおすそ分け しない事にします。 ヘタレですが、旦那を巻き込んで万が一職業がばれるとまた引越しになるのは嫌なので。 (以前職業がばれて24時間関係なしの凸があり、夫婦共にとても消耗しました) 492 :名無しの心子知らず:2008/05/28(水) 09 35 25 ID EojiCObz 医療関係者は職業バレするとほんとに休めないからな… 小児科医なんて近所の非常識ママどころか、その友人まで凸して来るだろう。 モンペが「友人(事実無根)なんだから治療費まけて」とかもあるし。 COで済むならそれがいいよね。 458乙… 497 :458:2008/05/28(水) 10 43 26 ID ZMjaTP+9 回覧板が来たときの電話はお隣とは関係ないものでした。 お隣には、最初からお下がりの事は聞いていません。 中古品に抵抗が有る方もいらっしゃいますし、性別も違うのでいらない場合 余計に気を遣わせてしまうかも?と思ったので。 支援センターでの募集も、相手から問い合わせがありこちらがokするまでは 個人情報は漏れないはずなので、玄関に置いてあるのを見て衝動的にやったんじゃ ないかと思います。 最後に言い訳になりますが、前回職業がばれた時持ち家でした。 一生の買い物だからと計画から建築まで3年かけて建てて2年も住まずに 引っ越す事になりました。 大型犬がいる関係上、賃貸は無理だったので今回も持ち家です。 地方なのでまだなんとかなっているものの、さすがにまた引越しは金銭的にも 精神的にも無理です。 499 :名無しの心子知らず:2008/05/28(水) 10 51 30 ID IRe0hHgh 458 なんというか…お疲れさま。 子持ちとしては凸したい気持ちもわからなくはないけど、 普通は自制して病院行くよな。 黙っているのは正解だよ。 自分を守るのが第一。 458とその家族が穏やかに暮らせますように。 503 :名無しの心子知らず:2008/05/28(水) 11 02 45 ID qjLM2EUX 497 うわー・・たまたま隣奥が泥だったというより、 職業がばれただけでせっかくの家を手放して引っ越しというほうがズンと重かった。 非常識な人間が増殖する一方だと思うと、本当に胸が苦しくなるよ。 次のお話→467
https://w.atwiki.jp/morshowsumakou/pages/10.html
「「「「「ス・・・スマ高!!!?」」」」」 教室の窓から遥達が目にしたのは信じられない光景だった モー商の校庭・・・周辺校から神聖不可侵といわれたその領域で 見慣れぬ制服を着た一団とモー商の生徒達が小競り合いを演じている その一団の真ん中の生徒が振っている王冠エンブレム入りの大きなピンクの旗 そのエンブレムが近年、周辺区域を席巻した新興勢力・・・ スマイル女子高等学院~通称スマ高のものであることを遥達は一瞬にして認識した 「な、なんでスマ高がここにおると!」 「あんなに堂々と・・・」 流石の九鬼組、聖達も動揺を隠せなかった。遥達天鬼組に至っては言葉すら出ない 「なんでからしらねぇ・・・」 道重さゆみがふ~っと溜息をつき肩を竦めながら言葉を続ける 「ウチらさぁ、ナメられてるんじゃない?」 ・・・そうとしか思えない。 しかしスマ高は所詮数年前に設立された新設校。伝統も頭数も戦力も喧嘩の場数もモー商には大きく及ばないはず 一体どんな勝算があって仕掛けてきたのだろうか? だが唐突な奇襲による動揺が薄れ、冷静に校庭の攻防の様子が見えてきたところで 遥はその認識がいささか甘いものであることを思い知らされる よく見れば地に倒れているのはモー商の生徒ばかり。その数は徐々に・・・いやどんどん増えていっている! 死屍累々、そんな表現がぴったりくる状況だ。 更に状況を良く見るとスマ高の前線に2人、手練れの強者がおりモー商の生徒は殆どその2人に倒されている。 その2人の手練れの内の1人の姿を見て、譜久村聖、そして工藤遥の表情が凍りついた。 「あ、朱莉ちゃん・・・!?」「竹内さん!?」 「和田さぁ~ん、やっぱやめましょうよぉ~。絶対マズいっスよこれ~」 スマ高の手練れの1人、竹内朱莉はこの殴り込みに乗り気ではなかった。 別にモー商にビビっているわけではない。それなりに渡り合う自信はある。 しかし、朱莉にはこの殴り込みに乗り気になれない理由が二つあるのだ。 「うるさいタケ!とっととコイツら倒してはるなんを探して!」 そんな朱莉を後方から腕を組んで叱咤しているのがスマ高の総長・・・和田彩花 今回のモー商への殴り込みの発端となった人物だ。 総長なのに発端?という言い方はおかしいと思うだろう。 普通は総長が召集をかけて他校に殴り込むものである。 だが、飽くまで和田は『私事』でモー商を訪れたに過ぎない。 今回、スマ高の兵隊達の召集を掛けたのは和田の隣でほくそ笑んでいる人物なのだ。 「こういうきっかけ、ずっと待ってたんだよね~。ねっ、かななん」 その人物が旗を振っている生徒に話し掛ける 「さっすが福田さんですわ。こんなに短時間でこんだけ兵隊集めるとか尊敬しますわ。でも福田さん・・・」 「ん?」 「そろそろ疲れましたわ、なんかこの旗振るの意味あるんですか?」 「何言ってるのかななん!せっかく殴り込みに来たんだから大々的にスマ高ここにあり!ってアピールしないと」 「そういうことでっか、なんとなくやる気出てきましたわ~」 「おい福田さん!かななん!まったりしてねぇでちっとは手伝え!」 まったりと後方でだべっているスマ高の副総長、福田と関西弁の旗振りの生徒にツッコミを入れたのは スマ高前線のもう1人の手練れ、前髪リーゼント風で後ろに長髪を流している手足の異様に長い生徒だ 「いや、めいめいが居ればウチらの出る幕なんか無いって。ウチのエースってとこモー商に見せてやんなよ」 確かに『手伝え』と言った割に『めいめい』と呼ばれた生徒は髪を振り乱し、常軌を逸したかのような暴れっぷりで 群がるモー商生達を次々にズタボロにしている。悪鬼羅刹・・・まさにそんな表現がぴったりだ 「オラぁ!そんなもんかモー商!レベル低いじゃねぇか!このタァムラ様とまともにやり合える奴は居ねぇのか!」 まるで水を得た魚のように暴れるめいめい~田村芽実に対して もう1人の手練れ、竹内朱莉は相変わらず愚痴りながら戦いを続けていた 「和田さん、もう無ーーーーーー理ーーーーー、やめときましょう!」 「タケ!弱音を吐かない!1人30殺ぐらいすれば何とかなるから!」 しかし愚痴りつつも朱莉はきっちりと仕事をこなしている 小柄な身体に不釣り合いな恐るべき筋力・・・ キュー学の怪物、矢島舞美と同じ遺伝子を朱莉が宿していることを知らないモー商生徒達は 次々にその重いパンチの餌食となっていた。 「早くしないとはるなんが死んじゃう!」 「死にゃしませんって、いくらモー商でも殺しはしないでしょ殺しは」 「でもメールにはもうお別れかもって・・・はるなん!はるなん!」 激しく取り乱す和田彩花。はるなんはるなん・・・はるなんのことになると人が変わる。 朱莉がイマイチ乗り気になれない理由の一つがこれである。 (いや、お友達もいいっスけどね・・・ちょっとおかしいでしょ。和田さん絶対なんか騙されてるって) それでもまぁ朱莉がこの殴り込みに付き合っているのはそんな真っ直ぐで危うい大将が案外嫌いじゃなくて 放っておけないからなのだが。。。 「なかなか面白いじゃんスマ高・・・つーかアンタ達何ぼーっとしてるわけ!?さっさと行きなさいよ!」 道重の檄で聖とナマタがハッ!と我に返った 「ス、スマ高かなんか知らんけど捻り潰しちゃるけん!」 「・・・行ってきます!」 教室から飛び出していく聖とナマタ (フクちゃん・・・?まっ、いいか) 一瞬、聖の顔に迷いのような表情が浮かんだのを道重は見逃さなかった。 少し気になるが、譜久村は信頼出来る子だ。少なくとも九鬼の中では一番。 何があってもモー商の為に尽くしてくれるだろう。それに・・・ 「1年!アンタ達も早く行きなさいよ!」 「えっ!?」 道重の言葉に、遥達天鬼組は一瞬呆けて固まってしまった 「何?ビビってるわけ?なら行かなくてもいいけど。こういうのは顔売るチャンスだよ?」 チャンス・・・チャンス・・・ 「ディス イズ ア チャ~ンス!(どや!)」 その言葉に真っ先に反応したのはだーいしだった・・・つーかなんだそのどや顔は? お前そんなキャラだったっけ? 「はい!みにしげさん、まーちゃんも行って来ます!」 行くのか優樹・・・つーかコイツを他校と絡ませて大丈夫なのか? しかもみにしげって総長に失礼だろ! 2人は勢い良くダッシュで飛び出して行った ・・・ってか出遅れた!ハルも! 「自分も行って来ます!」 そう宣言したハルの顔を道重総長は無言でまじまじと眺めた じ~っ・・・な、なんスか? 「アンタ、無理しない方がいいよ?」 ど、どういう意味っスか?怪我してるからっスか? またじ~っとハルの顔を見てる うっ・・・この人なんか苦手かも・・・ 「そこに倒れてる子を保健室に運んで。総長命令!」 「えっ!?」 倒れてる子・・・はるなんのことか あぁ、すっかり忘れてたぜ 「で、保健室にあの子寝かせてよくよく考えて覚悟決めてから校庭に行きなさい。 ・・・アンタさ、足震えてたよ。ビビってるでしょ?」 「ビ、ビビってなんか!!!」 ビビってなんかいない!ビビってなんかいませんよ! 「スマ高の小さい赤い奴、アレは知り合いかな?なんかフクちゃんもアイツ見て動揺してたけど」 な、何だ・・・何なんだこの人は? ええ、ビビってましたよ。ハルは竹内さんにビビってました! でもあの一瞬で見抜くかそれ普通?ハルと竹内さんのことだけじゃなく譜久村さんと竹内さんのことまで わ、わかりましたよ!まずはるなんを保健室に運びます!でも必ず校庭には行くんで!意地でも!!! 階段を全力で駆け降り、靴も履き替えずに下駄箱を駆け抜けて校庭へ飛び出した聖とナマタ。 「やばか!」 スマ高を取り囲んでいたモー商生徒の一団は2箇所、田村と竹内の居る前線から完全に包囲を崩され 崩壊寸前の状態である。あろうことか田村と竹内の恐るべき強さに後退りする者達も現れ始めた。 「そろそろ頃合いかな・・・」 冷静に後方から戦局を見ていたスマ高副長、福田花音が号令を掛ける 「特攻部隊前へ!めいめいとタケちゃんの開けた穴から校内に突撃して!飯窪春菜さんを見つけたら保護して!褒美は焼肉おごりーーーーーー!」 福田の号令と共に20名程の『特攻部隊』が校舎を目がけて突撃を開始した。 「ヒャッハァ!!!」「バーベキューっ!!!」「イーヤフォンでっ!!!」 「しゅわしゅわーーーーーーーーーー!!」「ぽんっ!!!」「ギャハハハハハ!!!」 どう見てもチャラく、頭の悪そうな若者達・・・かつてスマ高が周辺区域を席巻した時代に猛威を振るった 『ピンチケ』と呼ばれる兵隊達である。 個々の力はさほど強くないが良心というものがまるで存在せず、集団になったときの無軌道な暴力は 一時期、他校の脅威となっていた。ちなみに『ピンチケ』の語源とは・・・ 「少し遅かったようですわね」 「聖!ウチらで食い止めるしかなかよ!」 「言われるまでもありませんわ!」 聖、ナマタが下駄箱への道を塞ぐようにピンチケ達の前に立ち塞がる 「イヤッハァ!死ねえ!」 ぽーん! ナマタにバットで殴り掛かったピンチケの身体が派手に宙を舞った。 強烈なアッパーカットの一撃 恐るべき筋力の大振りな打撃で敵の身体を吹き飛ばし、宙に舞い上げる・・・ぽんぽんのもう一つの『ぽん』 「どけぇ!」 ぽーん! 聖に襲い掛かったピンチケの身体も宙を舞った。 ロックからの合気道投げ・・・どごっ!高く宙を舞ったピンチケの身体は頭から無残に校庭に叩き付けられた。 ぽーん!ぽーん!ぽーん!ぽーん! 次々と聖達に襲い掛かるが、まるで紙屑のようにピンチケ達は次々と宙を舞う 「お~、やっと出てきたね~、ぽんぽん」 福田は特に動揺を見せることもなく、ニヤニヤしながら軽く言い放つ 「こ、コイツら・・・強ぇ!」「ヤバいよヤバいよ」 「か、勝てるわけがねぇ!!!」「ヒィ!ふ、福田さぁ~ん!!!」 『ピンチケ』の語源・・・『ピンチ』になると『ケ』ツを捲って逃げ出す。ゆえにピンチケ。 勢いに乗った勝ちいくさでは大きな戦力となるが劣勢になればまるで蜘蛛の子を散らすように逃げ出すのだ。 結局『特攻部隊』の半数、10名程がスマ高本陣に逃げ帰ってくる有様である。 「おめーらなぁ!ちょっとは根性見せろやぁ!!!」 田村の檄が虚しく響く。しかし、相変わらず福田花音の頬はなぜか緩んでいた。 「クソ弱かね、スマ高。相手にならんっちゃ」 「気を付けてえりぽん、弱い奴ばかりじゃないわ」 「先輩!遅れてすみません!うおっ!もうこんなに倒したんですか」 「うひょ~!」 遅れて校庭に飛び出して来た石田と佐藤は一瞬、横たわるピンチケ達に驚いたものの すぐにスマ高本陣の方に目を向けた 「ウチもだいぶ浮足立ってますね」 「ウチらが行けばきっと盛り返せるけん、行くとよ!」 「突撃にょろ~!」 「待って!」 突然、勇んで突撃しようとするナマタ達を聖が制した。 「なんね聖、怖気付いたと?」 「考えなしに突っ込むんじゃなくて分担を決めましょう!」 「分担?譜久村さん、ウチらみんなで一点突破した方が早いんじゃ・・・」 「そうたい、そんなん必要なか!」 「勿論そうだけどスマ高のあの強者2人が易々と通してくれると思う? あの2人と戦う担当と本陣を襲う担当を決めておいた方がいいわ」 なるべくもっともらしいこと言うように聖は腐心していた。 目的は、ただ一つシンプルなことなのだが 「まぁええっちゃよ。じゃああのリーゼントの奴はえりなが殺るけん」 「じゃあ私はもう1人の赤い学ランの・・・」 それはダメ!石田が言い終わらない内に聖は慌てて口を挟んだ 「アイツは私がやるわ!1年の2人は構わず本陣に突撃して!」 「ええっ!?ウチらで敵の大将殺るんですか!」 「あああっ、もうっ!見てらんないっ!あやが行くっ!」 「待ってあやちょ!」 ピンチケ達の不甲斐なさにたまらず自ら前線に出て行こうとする和田を福田が全身で制した。 「こんなんじゃ埒が明かないじゃない!はるなんが死んじゃう!」 「あやちょ、花音を信じて!もう手はちゃんと打ってあるから!」 そう言って福田は和田に何やらごにょごにょと耳打ちをした 「えーっ!そうなの!?じゃあ最初から言ってよー!」 ふぅ・・・やれやれ、なんとか納得してくれたか。 万が一アンタが討たれちゃうといくさにならないんだよね。 だから大人しくしててよ、和田さん。 こっちは引き摺り出す側だからね、アンタが引き摺り出されてどうすんだよってこと。 こっちが最初に強さを見せた後、少し弱さを見せればあっちは好機と見て攻め寄せてくるわけさ。 ピンチケどもに最初から期待なんてしてない。アイツらは単なる餌。 向こうが戦力を前に出してくれば出してくるほどチャンスが生まれる。 正面から勝つだけがいくさじゃない。ってゆうか正面からモー商に勝てるわけない。 兵は詭道なり。 詭道の矢は既に敵に放っている ここまでは計算通り・・・あとは不確定要素次第、かな ったく、手間掛けさせんなよコイツは・・・まぁ軽いからいいけどよ 工藤遥は飯窪春菜を背負い、人気の無い廊下を保健室に向かって歩いていた 校舎内の殆どの生徒はスマ高を迎え撃つかヤジ馬で観戦するか出払っていて校内は静かだ ああっ、ハルも早く行かねぇと・・・ん? 前から生徒が1人歩いてくる。こんなときに中に残ってる奴が居るのか? モー商生は例外なく血の気の多い奴ばっかりのはずだが・・・ 近付いてくる・・・誰だ?長身でかなりスタイルがいいが、顔はよくわからない 特徴のない顔だ。どっかで見たような見ないような???あんな奴ウチに居たっけ? まっ、いっかどぅーでも。まさにどぅーでもいい感じの顔だし・・・ その生徒は特にこちらを見る様子もなくすっ、すっ、すっ、と歩いてくる。 ま、便所かなんかかな? 特に何事もなく擦れ違・・・どごっ! 腹に衝撃・・・え?え? 遥はわけもわからないままうつ伏せに倒れ、春菜の下敷きになった。 えっ!?何だ?何がどうなってんだ? さっきの生徒の足が見える・・・やっと頭が回った ハル・・・コイツにやられたのか? 遥は顔を上げ、生徒の顔を見ようとする・・・視界がぼやける・・・ ぼんやりと見える顔・・・この顔、どっかで・・・ あ!コイツは確か・・・ そこで遥の意識は途切れた。 NEXT>第5話 『なんにも言わずにI Kill You』 BACK>第3話 『Help me!!』
https://w.atwiki.jp/nanatan/pages/27.html
夜の高遠家 黄金週間 卒業アルバム チョコレート ( ゚∀゚)彡 同棲がバレた1 同棲がバレた2 二人きりになりたい いつの間に 同棲がバレた3 同棲がバレた4 20 名前:夜の高遠家[sage] 投稿日:2005/04/04(月) 00 30 50 ID ??? パパン「七瀬は元気でやってるかな?」 ママン 「またナナちゃんの心配ですか? お父さん」 パパン「慣れない一人暮らしをしてるかと思うとな」 ママン 「ナナちゃんはしっかりしてますから、大丈夫ですよ」 パパン「しかし、しっかりしすぎて、それで気苦労ばかりする子じゃないか」 ママン 「寂しがり屋さんのところもありますわね」 パパン「なあ、母さん、明日にでも、また七瀬の様子を見に行ってやってくれないか」 ママン 「明日ですか? そんなに急に行ったらナナちゃんが困りますよ」 パパン「困る?」 ママン 「ナナちゃんの部屋に行く時は、何日か前に連絡入れておかないとダメなんです」 パパン「なぜだ?」 ママン 「うふふ、私を部屋に入れるのには色々準備が必要なんですよ、お父さん」 パパン「?」 「ここに来る前は連絡を必ず頂戴。絶対に忘れないでね」 事あるごとに七瀬が念を押す理由を、母はちゃんと知っている。 TOPへ戻る 62 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/04/08(金) 19 44 44 ID ??? 「GWはどうするんだ?」 「頼津に帰るわ。父さんと母さんが私にとても会いたがってるの」 「七瀬も親孝行だな。あ、そうそう、もし刃達に会ったらよろしく言っておいてくれ」 「なに言ってるの。あなたも帰るのよ」 「へ? いや、俺は帰る用事なんてないから」 「あなたが一緒に来てくれないと私が困るの」 「どうして?」 「枕が替わると眠れないのよ。まさかGWの間中、私にずっと寝不足で過ごせって言うの?」 「枕?」 「そ、あなたの腕枕」 「でもさ、あの部屋はもうおっちゃんが物置にしてるはずだぜ。どこで寝るんだよ?」 「ホテルでもどこでも。なんだったら夜に私の部屋に忍び込んでもいいわよ」 「じょ、冗談はよしてくれ」 「言っておくけど、私をこんな女にしちゃったのはあなたなんだから、拒否権はありませんからね」 「・・・・・・・」 「はい、これ。あなたの分の頼津までの切符」 「・・・・・・・」 TOPへ戻る 82 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/04/10(日) 13 07 09 ID ??? 卒業アルバムじゃないが 「あら、これはアルバム?」 「おう。1、2年の頃のやつだな」 「学園内にカメラを持ち込んでたのね・・・」 「い、いいだろ。思い出作りだ」 「見てもいいかしら?」 「別にいいぞ」 「この頃からあなたには悩まされてたわね、ふふふ・・・あら?」 「どうした?」 「な、なんでもないわ」 「と言いつつ、今隠したのはなーんだ?」 「あっ・・・」 「なんだ、俺の写真じゃないか・・・あれ?この後ろに写ってるの七瀬か?」 「そ、そうみたいね」 「よくこんな小さいのわかるな。おまけに後姿で横顔だし」 「自分なんだから当たり前でしょ」 「そりゃそうだな、ははは。これ欲しいのか?」 「う、うん」 「でももっと大きな写真撮ればいいだろ」 「だって、あの頃の織屋君と私が一緒にいた証拠だから・・・ダメかしら?」 「ダ、ダメじゃないぞ(七瀬可愛すぎるぜ)」 TOPへ戻る 120 名前:初SS チョコレートvol.1-1[sage] 投稿日:2005/04/17(日) 01 43 17 ID ??? …2年生の冬、2月14日… さて今週も全授業、無事終了だぜ。今日は学校全体の雰囲気がちがうな、 バレンタインデーだから、仕方ないか…。 【たまき】「ねえねえ、今年の収穫はどうなの?浪馬君」 【浪馬】 「収穫って、何のことだ?」 【たまき】「また、とぼけちゃって。バレンタインの事に決まってるじゃない」 【浪馬】 「んー、まあまあってトコだな」 タマの義理チョコしか貰ってない、なんてカッコ悪くて言えねえよな… 【たまき】「うんうん、そうか、そうか。 いつも通り私の義理チョコしかもらって無いんだね~」 って、バレてるのかよっ! 【浪馬】 「う、うるせー。俺だって、チョコの1個や2個くらいは…」 【たまき】「あははっ、ムリして強がっちゃって。ウソつかないの。 でも、まだ午後もあるんだし期待しないで待ってみたら?」 【浪馬】 「も、もう充分に貰ったから、待つ必要なんてないんだよっ」 【たまき】「ふーん。まあ、そういうコトにしておいてあげるよ。 せいぜい、がんばってねー」 くそ、言いたいこと言ってタマは行っちまったぞ。 でも、タマの義理チョコ1つだけってのは、正直、寂しいモノがあるよな… とは言っても貰えるアテもないし、今日の所はさっさと帰るか。 これ以上、学校にいてミジメな思いは勘弁だもんな 121 名前:初SS チョコレートvol.1-2[sage] 投稿日:2005/04/17(日) 01 44 52 ID ??? …教室を出て、下駄箱にて… あれ?一つだけ下駄箱の扉が半開きになってるぞ… どうなってるんだ?うわ、チョコがたくさん下駄箱いっぱいに詰まってるぞ。 くそ、うらやましいヤツめ!一体、誰だ??…………雨堂……… って刃かよっ!はあ、トドメを刺された気分だぜ。さっさと帰ろう…。 【??】「何をしてるかと思えば、人のプライバイシーを覗き見? つくづく、あきれるわね…」 【浪馬】「えっ…あれ七瀬。いつから、そこにいたんだ?」 【七瀬】「通り掛かったら、あなたが悪事を働いていたものですから。 そう、覗き?そんな趣味があったとわね。 ハッキリ言って悪趣味…いや、もう犯罪の領域ね」 【浪馬】「はあ?俺は刃の下駄箱が半開きだっだから…」 【七瀬】「で、雨堂君の人気があるのを見て、羨んでいたのね…」 ぐっ、きっついなー。いつもの鋭い目で言われるとへこむぜ。 【浪馬】「いやいや七瀬、それは違うぞ。刃のホワイトデーの散財を 哀れんでだな…」 自分で言ってて訳がわかんないぜ!! 【浪馬】「それに俺は今年も充分に貰ってるからな」 この状況で、幼なじみの義理チョコ一つ…なんて到底言えないしな。 【七瀬】「そうね。あなたは女性にだらしがないでしょうから、色々な娘から チョコをかすめ取っているんでしょうね。」 どう言っても俺は悪者なのな。 しかも、色々な娘からって事実無根だぁー。 むう……ここで七瀬にあったのも何かの運命に違いない!? 今年のバレンタイン、最後にダメで元々冒険してみるかな… 【七瀬】「あなた、聞いているの?」 【浪馬】「なあ七瀬、お前からも俺に一つくれよ」 【七瀬】「は、何を言ってるの?あなた」 【浪馬】「そんなに不思議なコトじゃないだろ?バレンタインデーに チョコを渡すってだけのコトなんだから」 【七瀬】「…言う相手を間違えてるんじゃないの? それに私、バレンタインだからって、やたらに義理チョコ撒いたり しませんから。」 【浪馬】「義理チョコ渡すくらい別にふつうだろ。どうこう言うことか?」 【七瀬】「…もし義理チョコ渡されたとして、それでうれしい?」 【浪馬】「へ?」 七瀬がちょっと困った顔で聞いてきたから、マヌケな返事をしちまった。 【七瀬】「他の人にも同じように渡してるチョコを 貰ってもうれしくないんじゃない?」 【浪馬】「まあ…確かに…」 【七瀬】「そんなの渡す相手に失礼だわ」 七瀬はバレンタイン一つにも、一々こだわるんだな。七瀬らしいけど… 【七瀬】「だから、私は本当に大切な人に1つだけって決めているの。わかった?」 【浪馬】「うむ。よくわかった。じゃあ、その唯一の1個をくれ」 【七瀬】「はあ?お断りよ!あなたに渡すくらいなら、ゴミとして捨てるわ」 【浪馬】「ご、ゴミって…」 【七瀬】「わかったなら、私はもう行くわ。 これ以上、話していても無駄でしょうから」 七瀬は、また鋭い目で捨てゼリフを放って、どっか行っちまった。 なんか、七瀬の女の子っぽいトコを見れた気がしたな。 …たった1個だけか…。七瀬のヤツ、今年は誰にやるんだろう? ちくしょー、来年こそは七瀬に「受け取って!」って言わしめてやるぜ!! TOPへ戻る 373 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/05/11(水) 16 07 46 ID ??? 春服、夏服でおさわりしようと、七瀬に頼んで服を着て貰う浪馬。ところが。 「んっ・・・・ダメだわ。ブラウスのボタンがとまらない」 「七瀬、おまえひょっとして太った?」 「太ってなんかないわよ。失礼なこと言わないでくれる?」 「す、すまん」 「最近胸が大きくなったみたいなのよ。ブラもきつくて新しいの買い揃えたくらいよ」 「冷たくされてた頃の仇を取ろうと思ったのに残念だぜ」 「何言ってるのよ? 胸が大きくなったのはあなたのせいでしょ?」 「えっ? お、俺?」 「毎晩あなたがいっぱい揉むからじゃない」(真っ赤) 「うーむ」 「私をこんないやらしい体にした責任、ちゃんと取って貰いますからね」 「責任取るって、どうしたらいいんだ?」 「それくらい自分で考えなさい」 「んー、じゃあ今日から毎晩吸ってみようか? 小さくなるかも知れないぞ」 「ば、ばか」(再び真っ赤) TOPへ戻る 247 名前:浪人中の浪馬が七瀬の元に転がり込んで後[sage] 投稿日:2005/04/28(木) 01 58 06 ID ??? 「ん・・・・」 昼近くになって、ようやく七瀬は眠りから覚め始めた。日曜の彼女はいつもこうだ。土曜の夜が 来るたびに、七瀬と浪馬と明け方まで燃え上がってしまう。 「んぅ・・・・・・・・おりやく・・・ん・・・・・・もっと・・・・・こっち・・・来てったらぁ・・・・」 彼女らしくない寝ぼけ声と共に、白い手が傍らに眠る浪馬を求めてシーツの上を滑った。しかし。 「ん・・・・・・ん?・・・ん?ん?ん?ん?んっ?」 ちっとも浪馬の体が触れてこない。七瀬の手が激しくベッドの上を這いまわる。 「織屋君?」七瀬がパチっと目を開けた。浪馬の姿は影も形も無い。 「どこに行ったのかしら・・・・・・あ」 その時、七瀬はバスルームから漏れてくる水音に気がついた。 「も、もう、一人でシャワー浴びに行くなんて!」 七瀬は裸体にシーツを巻くとベッドから飛び起きた。 「織屋君! どうして勝手に起きたりしたのよ?」 扉を開けるなり、バスタブにかかるカーテンの向こうに映る人影に、七瀬は抗議の声をぶつけた。 「あなたの寝顔に悪戯する私の楽しみを奪うなんて酷いじゃないの!」 「先に目を覚ましたら覚ましたで、おはようのキスくらいしてくれても罰は当たらないんじゃない?」 「昨日はあんなに私を可愛がってくれたのに、朝になったら知らんぷりなんて、ホント冷たい人」 ぷーっと頬を膨らませ、浪馬を散々なじる七瀬だが、もちろん本気で怒っているわけではない。 こうやってスネて見せるのも、彼女の愛情表現なのだ。 「それと、日曜日は必ず一緒にお風呂に入る約束でしょ? 忘れたとは言わせないわよ」 そう言うと、七瀬は洗面所にあったタオルで自慢の髪を纏め上げてゆく。どうやらバスタブに 乱入するつもりらしい。 「約束を破った罰として今から徹底的にあなたを綺麗にしてあげるわ。覚悟しなさい、うふふふ」 そこで七瀬は急に艶めいた忍び笑いを漏らした。シーツが床に落ち、白い体が露わになった。 「さあ、浪馬ちゃん、キレイキレイちまちょうねぇ♪」 これ以上はないくらい甘えた鼻声を出すと、七瀬はカーテンに手を掛けた。 248 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/04/28(木) 02 03 00 ID ??? 浪馬(な、何がどうなってんだ?) 熟睡する七瀬を置いて、買出しに行っていた浪馬はドアを開けたきりその場で硬直していた。 七瀬「人の部屋で何勝手にシャワー浴びてるのよっ?!」 ママン 「今日は暑いでしょ? 母さん駅から歩いてきて汗かいちゃたから」 七瀬「へ、部屋に入ったら、声くらいかてよっ!」 ママン 「ナナちゃんよく寝てたから、起すの可哀想だったんですもの」 七瀬「まったくいつの間に入り込んでたのよ! ここに来る時は事前に連絡頂戴ってあれほど・・」 ママン 「だってナナちゃんたら、いつも勉強が忙しいとか、都合が悪いとかで来ていいって言ってく れないじゃない? 母さんもう寂しくって」 シーツを体に巻いただけの七瀬と、これまたバスタオルを巻いただけの高遠夫人。少々セクシー すぎる格好の母娘は、浪馬が帰ってきたのも気づかず、大舌戦を繰り広げていた。 浪馬(俺と入れ違いに七瀬のお袋さんが来ちまったのか・・・・こりゃ参ったな) 事前に連絡があればまだ誤魔化しようがあったかも知れないが、こうも完璧に奇襲攻撃を受けて はなす術もなかった。キッチンに仲良く並んだ二人の歯ブラシ。食器棚にはペアのカップとお皿。 窓の外にはふたりの洗濯物が干してある。そしてベッドの周りに散乱した二人の下着・・・。 ママン 「それにしてもナナちゃんたら、すっかり織屋君と新婚生活気分なのね、うふふふ」 七瀬「うっく・・・・・・・」 ましてや七瀬は、まさかカーテンの向こうにいるのが自分の母親とは知らずに、これ以上無い くらい恥ずかしいセリフを連発してしまっていた。もはや弁解もクソも無い。 ママン 「『寝顔に悪戯する楽しみを奪わないで』 『おはようのキスしてくれなきゃイヤ』、うふふふ」 高遠夫人は七瀬の声色を真似ると、くねくねと体を揺すって再現してみせた。七瀬は頭のてっぺ んからつま先まで、見事なまでに真っ赤になった。 ママン 「それと『浪馬ちゃん、キレイキレイちまちょうねぇぇぇん♪』だったかしら? おほほほほ」 七瀬「きゃぁぁぁぁぁっ! やめてぇぇぇぇぇぇぇっ!」 七瀬が耳を押えてしゃがみこむ。 ママン 「ねえねえ、日曜はいつも一緒にお風呂入ってるの? うふふ、本当に仲いいのね♪」 七瀬が浪馬と暮らしていた事が余程嬉しかったらしい。夫人はもう有頂天のご様子だ。 浪馬(な、なんだか声をかけずらいぜ・・・・しかし見事なまでにバレたみたいだな) 浪馬は玄関先に突っ立ったまま。頭をポリポリと掻いた。 TOPへ戻る 420 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/05/17(火) 18 48 14 ID ??? ふむ、同棲がバレたんだろう。 ママン「ナナちゃん、織屋君と暮らしてるってどう言うことなのっ!」 七瀬「あ、あの・・・」 ママン「織屋君、あなたを見損ないました。こんな大事なことを黙ってるなんて」 浪馬「す、すいません」 パパン「母さん、まあ、二人も悪気は無かったと思うし、そこまで言わなくても・・・」 ママン「あなたは黙ってなさいっ!」 パパン「は、はい・・」 ママン 「情けなくて涙が出てきちゃったわ。どうして・・・・どうして・・・・っ」 七瀬「か、母さん、ごめんなさい」 浪馬「おばさん、俺が悪いんだ。あんまり七瀬を怒らないでやってくれよ」 ママン「どうして最初から二人で暮らすって言ってくれなかったのっ!」 三人「は?」 ママン「二人で暮らすならもっと広い部屋を借りたのに、まったくこの子達ったら」 三人「・・・・・・・・・」 ママン「こんな部屋じゃせっかくの同棲生活も台無しよ。早速新しい部屋を探さないと」 三人「・・・・・・・・・」 ママン「織屋君、住宅情報誌を買って来て頂戴。ナナちゃんは今から私と不動産屋さん巡りよ」 二人「・・・・・・・・・・」 ママン「少々お家賃が高くなっても、お父さんのお小遣いを減らせば大丈夫。ね、お父さん?」 パパン「そ、そんな母さん・・・」 ママン「あらお父さん、ナナちゃんの幸せに協力できないとでも?」 パパン「い、いや、いくらでも減らしてくれ」 ママン「じゃあナナちゃん、織屋君、行動開始よ。お父さんはここでお留守番していてね」 三人「・・・・・・・・・」 TOPへ戻る 437 名前:424[sage] 投稿日:2005/05/19(木) 21 45 41 ID ??? 二人きりになりたい選択時1回目(12月前) 七瀬「えっ・・・あの、その今日は心の準備が・・・ごめんなさい!!」 (今日はってことは今度はいいんだよな?) 二人きりになりたい選択時2回目以降(12月前半) (お、考えてる考えてる目をそらしてテレる七瀬も可愛いよな) 浪馬「なあ七瀬今日もダメなのか?俺のこと嫌いか?」 七瀬「嫌いなわけないでしょ!!そ、その・・・もっ、もうちょっとぐらい待ちなさいよ!!あっ・・・」 浪馬「えっ!?」 (もうちょっとってことは明日か明後日か?) 七瀬「もう・・・あなたって普段は気が利いて優しいクセにこういうことには鈍感なんだから」(ボソボソ) 浪馬「ん?なんだよく聞こえないぞ?」 七瀬「えっ!?あ、あの、その・・・とっとにかく!今日も明日も明後日もダメなの!!」 浪馬「今日も明日も明後日もダメなのか・・・」 七瀬「はぁ・・・仕方ないわね、ほら、こっち向いて目を閉じる!」 浪馬「うっす」 (チュ) (おお、七瀬が俺の首に手を回してキスしているぞ) 七瀬「その・・・嫌ってわけじゃないからね、今日のところはこれで我慢してちょうだい」 七瀬「浪馬君・・・好きよ・・・」 (おお、あの七瀬が好きよだってよ、今日のところはこれでよしとしようぜ) TOPへ戻る 445 名前:いつの間に[sage] 投稿日:2005/05/21(土) 15 43 12 ID ??? 刃 「そっちの調子はどうだい? 向こうでも相変わらず釣り三昧か?」 望 「まあね。刃君こそ大学のほうはどうなの?」 刃 「浪馬はどうしてるだろう。おっちゃんの話じゃ、あいつも街を出たらしいけど詳細は不明」 望 「連絡先も残しておかないなんて、浪馬らしいっちゃ浪馬らしいよね」 卒業後、久しぶりに再開した刃と望が頼津川の堤を一緒に歩いていると、一人の夫人が二人に 話しかけてきた。 女 「・・・・確か雨堂君と砂吹君だったかしら? こんにちは」 刃 「こ、こんにちは。えーっと・・・・」 女 「高遠七瀬の母です。在学中はお世話になりました」 望 「あ、ああ、高遠さんのお母さんですか。どうもこんにちは」 ママン「お二人は浪馬君の幼馴染なんですってね。彼に写真を見せて貰ったことがあるわ 刃 「そうです。ただあいつは今、行方知れずなんですけどね」 ママン「あら、あの子ったらお友達に何も言ってないのね」 望 「浪馬の居場所、ご存知なんですか?」 ママン「ええ。私から言って、あなたたちに連絡させるわ」 刃 「た、助かります。俺たちけっこう気にしてたんですよ」 ママン「ごめんなさいね、心配かけて」 望 「やれやれ、これで一安心だね、刃君」 ママン「連絡が取れたら、また浪馬君と遊んであげてね」 刃 「ええ、もちろんです」 ママン「じゃあ私これからお買い物だから。お二人とも、これからもうちの浪馬君をよろしくね」 二人「――!」 七瀬の母が立ち去った後、刃がぽつりとつぶやいた。 刃 「なあ、望、”うちの浪馬君”ってどう言う意味だ?」 望 「なんとなく予想つくけど、頭が痛くなりそうだから、僕は考えないことにする」 刃 「まさかもう籍を入れたなんてことは・・・・」 望 「刃君、やめときなよ。考え出すと今夜眠れないよ」 刃 「あ、ああ・・・・・・そうする」 TOPへ戻る 452 名前:ママンに同棲がバレて一週間後[sage] 投稿日:2005/05/22(日) 02 26 25 ID ??? 「織屋君、母さんからあなたに荷物よ」 「小さな箱だな。あれ? 携帯じゃないか。それと手紙・・なになに・・」 『織屋君へ ナナちゃんから聞いたのだけれど、織屋君は携帯を持っていないそうですね。 何かと不便だと思うのでこれを使ってください。料金はうちの方で払うから安心してね』 受験勉強で最低限のバイトしかできない浪馬には携帯を持つ余裕はなく、彼は頼津時代か ら相変わらずの、今時珍しいノー携帯人間のままだった。 「有難い話だけど料金の面倒まで見て貰うなんて、幾らなんでも気が引けるぜ」 「あの人、何考えてるのかしら?」七瀬は自分の携帯で母を呼び出した。 「母さん? 荷物が届いたんだけど、織屋君が困ってるわよ。どういうつもり?」 「携帯のこと? どうして困るの? 便利でいいでしょう?」 「通話料金まで払うなんて言うからよ。織屋君はうちの親戚でもなんでもないのよ?」 「まあ、水臭い。ナナちゃんの携帯と同じ家族契約だから、ホンの僅かのお金なのに」 「だから金額の問題じゃなくて・・・え? 家族契約? お、織屋君がうちの家族?」 「そうよ。織屋君、あなたの部屋に住所移したでしょ? だから家族扱いなの」 受験勉強で公営図書館を利用するなど、地域のサービスを受けるには地域住民である 必要があるので、浪馬は住民票を移動していた。 「い、一緒に住んでても戸籍は別じゃない。そんな契約できるはずないわ」 「籍は入ってなくても同居してるから事実婚扱いになるんですって、うふふふ」 「じ、事実婚? 私と織屋君が?」 「それを聞いてね、うちの戸籍と二人の住民票を持って契約しに行ったのよ」 「わ、私のはともかく織屋君の住民票をどうやって手に入れたのよ!?」 「彼のおじ様に頼んだのよ。わけを話したら快く引き受けてくれたわ」 「ビックボディのおじさんまで抱きこむなんて・・・・な、何考えてるのよ」 「それは二人が夫婦同然の証なんだから、ちゃんと使って貰ってね」 453 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/05/22(日) 02 27 30 ID ??? 「ふ、夫婦だなんてそんな・・・」 「じゃあね、ナナちゃん。織屋君・・じゃなくてご主人様によろしくね♪」 「ちょ、ちょっと待って・・・・あ、切れちゃった」 七瀬はため息をつくと浪馬を振り返った。頬が幾分赤かった。 「事実婚とかおっちゃんとか、妙なこと言ってたよな? 何のことだ?」 「な、何でもないわ。とにかくその携帯はあなたが使えばいいから」 「え? なんだよ。お袋さん断ってくれたんじゃないのか?」 「いいから使いなさい。通話料はあなたのお小遣いから引いて、私が実家に返すから」 細々と続けているバイトのお金を、浪馬は一円残らず七瀬に渡している。高遠家の仕送 りと浪馬のバイト代、生活費をやりくりするのは、しっかり者の七瀬の担当だ。 「でもなあ」 「四の五の言わずに使いなさい。あなたが携帯を持ってくれれば、私も何かと助かるわ」 ”夫婦同然の証”と殺し文句を囁かれては、七瀬も突き返せとは言えなかった。 その時浪馬の携帯が鳴った。 「さっそく電話だぜ。誰だろ?・・・げげっ!?」 「どうかしたの? 変な声だして。出ないの?」 浪馬は黙って七瀬に携帯を見せた。発信者名は『義母ハート』となっていた。 「こ、これって・・・まさか・・・」 七瀬は慌てて浪馬の手から携帯をもぎ取った。 「もしもし? 母さんっ? 母さんなのっ?」 455 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/05/22(日) 03 35 53 ID ??? 「あらナナちゃん、織屋君じゃないのね。織屋君は?」 「今電話に出られないのよ。それよりこの『義母』ってなんのつもり?!」 「家族の番号全部登録しておいたの。あなたの番号は勿論『妻』になってるわ♪」 「あ、あのねえ・・・」 「それでさっき言い忘れたんだけど、織屋君に伝えておいて欲しいことがあるの」 「な、何よ?」 「今度頼津に帰る事があったら、必ずうちに来る様に言ってね」 「どうして?」 「おじ様の所に残してあった彼の荷物、昨日全部うちで預かっちゃったから」 「はぁ? な、なに勝手なことしてるのよっ!?」 「織屋君は、将来私の義理の息子になる人よ。その荷物を預かるのは当然でしょう?」 「黙って他人の荷物持ち出したら犯罪よ! 大体どうやってドアの鍵を開けたのよ?」 「『甥子さんは娘の夫になる人だから荷物を引き取りたい』と、おじ様に申し上げたの」 「信じられない・・・・」 「『浪馬に嫁ができた』って、おじ様すごく喜んでらしたわ、うふふ」 「『うふふ』じゃないわよっ!」 「とにかく頼津での織屋君の住まいはうちになったの。ちゃんと伝えてね」 「言えるわけないじゃない! さっさと織屋君の荷物返してきて!」 「可愛い義理の息子になる人の面倒を見て何が悪いの? 返すなんて絶対イヤ」 「帰省するたびに織屋君をうちに引っ張り込んで、ご近所から変な目で見らてもいいの?」 「私は全然かまわないわ♪ じゃあね」 そしてまた電話は一方的に切れた。 TOPへ戻る 464 名前:ママン確信す 同棲バレてしばらく後[sage] 投稿日:2005/05/24(火) 00 58 14 ID ??? 「でも驚いたわ。今まで男の子と全然縁のなかったナナちゃんが同棲なんて」 「はははは・・・スイマセン」 ママンにじっと見つめられて浪馬は首をすくめた。七瀬は買出しからまだ戻らない。 「家で男の子の話をすることも殆どなくて・・そうね、織屋君ともう一人くらいかしら」 「俺以外に? 誰だろ? バスケ繋がりで刃かな?」 「とにかく気に入らない子が学園にいたらしくてね。よく愚痴をこぼしてたわ。『理解 できない』 『顔を見るとイライラする』 『何度注意しても聞かない』って」 「ど、どこかで聞いた話しだな」 「確か一人暮らしして部活はボクシングだったかしら? でも去年の夏頃からその子の 話はふっつり聞かなくなったわね。代わりに出てきたのがあなただったわ、織屋君」 「ボクシング部・・・」 「たぶんあなたと仲良くなって、そんな子の事は忘れちゃったのね、うふふふふ」 浪馬は酷く困った顔をして黙り込んでいたが、やがて意を決したように口を開いた。 「ボクシング部に一人暮らしの奴なんていなかった。いたのはキックボクシング部さ」 「織屋君、その子の事知ってるの?」 「キックボクシング部部員。学園一の問題児。七瀬にお説教されるのが日課だった男。 知ってるかって? ああ、よく知ってる。織屋浪馬・・・それがそいつの名前だよ」 「えっ?」 「七瀬が気に入らない男って、この俺だったんだ」 浪馬の言葉を最後に、部屋を静寂が支配した。 「うっふふふふふふ」 やがてママンの口から笑い声が漏れ出した。 「な、なにがおかしいんだい?」 「だってナナちゃんは、あなたを白馬の王子様と気付かずに、二年間も顔を見るたびに 叱り飛ばしてたって事よね? これが笑わずにいられるモンですか、うふふふふふ」 465 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/05/24(火) 01 00 34 ID ??? 「いや、白状すると、今でも毎日のようにお説教されてるけどさ」 「そうなの? ナナちゃんって本当にお説教が得意なんだから、クスクスクス」 「得意・・・うん、確かにあれは一種の才能だ」 「織屋君、あなたナナちゃんに毎日お説教されて腹が立たないの? 嫌にならない?」 「まあ、説教される俺が悪いからさ。それに以前よりは優しくお説教してくれるよ」 「偉いのね。うちのお父さんでもナナちゃんにお説教されると慌てて逃げ出すのに」 「逃げると余計お説教が長引くぜ。謝るべき事を謝るのは勿論だけど、反論すべき事は きっちり反論するのも大事だ。逃げたり下手に言い訳するとますます怒っちまう」 「うふふふ、あなたナナちゃんをとてもよくわかってるのね」 「散々お説教され続けたから、七瀬の怒るパターンも収まるパターンもお見通しだぜ」 「うふふ、なるほどね」 ママンは感心したように頷いた。 「やっぱりこれで良いのかもしれないわ。ナナちゃんが同棲してるとわかって、さすがの 私も心配だったの」 「そりゃ・・まあ・・・なんせ俺たちまだガキだしな」 「私が言うのもなんだけど、ナナちゃんって難しい子なのよ」 「難しい?」 「気が強くてとっても口煩いの。それにプライドが高くて意地っ張りで」 「そ、そうかな?」 「だからなかなかお友達ができなかったり、周りから煙たがられたり」 「で、でもそれは自分をしっかり持ってる証拠だよ。それにあいつ、本当は・・・」 「本当は?」 「すげぇ優しいんだ。おまけに寂しがり屋で甘えん坊で、心配性ですぐに悩みを抱え ちまう不器用な子なんだ。みんな七瀬の本当の姿に気付かないだけだよ」 「ありがとう、織屋君。だからよ」 「だから?」 「こんなにもあの子を知ってくれているあなただから、私はこれで良いと思えるの。もし 織屋君がナナちゃんをぜ~んぜわかってなかったら、今夜私が引きずってでも家に連 れ戻したかもしれないわよ? うふふふふ」 「さ、左様ですか・・・」 466 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2005/05/24(火) 01 02 28 ID ??? 「ねえ? 織屋君、あなたを目の敵にしてたナナちゃんにどうして興味を持ったの?」 「さ、さあ・・自分でもわかんねえや」 「そう。じゃあ今は? ナナちゃんのこと好き?」 「もちろんさ」 「ありがとう。あの子のキツーイお説教を跳ね除けて、好きになってくれて」 「べ、別に、礼を言われるようなもんじゃないよ」 「織屋君のその気持ちであの子を守ってあげてね。面倒見てあげてね」 「どっちかと言うと俺が面倒見てもらってるんだけどさ。炊事洗濯、それに勉強」 「心の支えって意味よ。寂しがり屋のナナちゃんのことだから、寝る時はあなたに子 猫みたいに甘えてくるんでしょう? 一晩中しがみついて離れない。違うかしら?」 「えーっと・・・あはははは・・・そ、それはノーコメントってことで」 「なあに? 面と向かって聞かれると恥ずかしい? ほら、遠慮せずに言いなさい」 悪戯っぽい笑みを浮かべて、優しく睨んでくるママンの顔に浪馬は息を呑んだ。 (いつもニコニコしてるから気がつかなかった。こう言う顔すると七瀬そっくりだぜ) 「ただいま。遅くなってごめんなさい。お腹すいたでしょ? すぐ用意するから」 そこへ七瀬が買い物から戻ってきた。 「お、おかえり、七瀬」 慌てて声をかけ、もう一度振り返ると、そこには見慣れた笑顔に戻ったママンがいた。 「織屋君、さっきの話はナナちゃんに内緒よ? いいわね?」 「あ、ああ、わかった」 浪馬が慌てて頷くのを見て、ママンは最後にまた満面の笑みを浮かべた。 と、まあ、こんな会話があって。ママンは浪馬を七瀬の運命の人だと改めて確信し、 実の息子同然に可愛がるようになった・・・みたいな妄想。 TOPへ戻る