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季節の変わり目は風邪にかかりやすいというが、本当らしい。のっちのクラスでも、ぽつぽつと空席が出るようになっていった。 クラスが違うあ〜ちゃんとの連絡は、殆どがメールである。急用の際に、たまに電話を使用する程度で、メールが多い。朝は、あ〜ちゃんはバスで、のっちは自転車で登校するから会うことはない。だから実際あ〜ちゃんとのっちが一緒に過ごす時間は、昼休みと放課後のみである。 そんなあ〜ちゃんから珍しく早朝にメールが届いていた。不思議に思いながらもメールを開くと、『ごめん、風邪引いてしもたけえ、今日学校休むわ。』と書いてあった。のっちは凹んだ。がくりと肩を落として朝ごはんもろくに食べないでいたら、母親に「遅刻するから早く学校行きなさい。」と言われてしぶしぶ家を出た。 学校に着いてからも一向にテンションは上がらなかった。捻くれ者ののっちは、あ〜ちゃんがいない学校なんて行かないほうがマシだ、と登校中何度も引き返そうとしたが、のっちが学校に行ってないことをあ〜ちゃんが知ったら、きっとのっちを叱る。叱られて「何で学校行かんかったの。」なんて聞かれたら、その理由を答えられない。だからのっちは学校に行くことにした。 4限目までの授業を全て睡眠学習し、昼休みになるとすぐさま教室を出た。何だか今日はとても居心地が悪い。行く当てもなかったので、廊下で立ち止まって携帯電話を開く。朝はバタバタしてメールの返事を返せなかった。のっちはあ〜ちゃんに返信する。 『大丈夫? 熱はないの? 今日はゆっくり休んでね。』 昼休みの隠れ家だった屋上も、あ〜ちゃんがいなければ入ることは出来ない。何だかのっちは自分の無力さ、あ〜ちゃんがいなければ何も出来ない自分に呆れた。 ふと、寂しくなった。恋しさのあまり、知り合いを探した。まだお弁当も食べていない。のっちは、とにかく人気のなさそうな場所でお昼ご飯を食べることにした。階段を降りて下駄箱に降りたら、その先の廊下の保健室からゆかが出てきた。ヒト恋しかったのっちは、何も考えることなくゆかの元へ駆けていく。 「ゆかちゃん!」 「あれ? のっちじゃん。どしたの?」 「あ〜ちゃんがね、今日休みで、のっち暇なんだ。」 「じゃあ一緒にご飯食べる?」 「うん!」 誘われて尻尾を振る犬のように大きく頷いた。ジュースを買いに行くゆかの後ろにのっちはついていく。嬉しさが滲み出る。ジュースを買いに行って、裏庭の人気のないベンチで2人は昼食をとることに決めた。すると、ゆかは突然尋ねる。 「のっちさあー、いつからあ〜ちゃんのこと好きなの?」 「えっ…と、中学2年の、冬、とか?」 突然の質問に思わず口に入れたばかりのたまご焼きが、喉に詰まりそうになった。そんなのっちの様子をかわすかのように、ゆかの質問は続く。 「どこが好きなん?」 「か、かわいいし、やさしいし。いい子だし。うーん…よくわからんけど、好きなんよねー…」 自然とのっちの表情は、変わる。目を細めて嬉しそうにゆかに話す。するとゆかは、視線をスッと落として言った。 「てゆうか、付き合ってないの?」 今度こそのっちの喉は、から揚げで封鎖された。ゲホッゲホッ、鈍い咳をしながら首を押さえるのっちを、慌ててゆかは背中を擦って心配そうに見る。やっとのことで喉を通ったまだ大きいままのから揚げが、食道を下っていくのがわかってのっちは少し気持ち悪くなった。 「んなわけ、ないっしょ!」 「なんで? めちゃくちゃ仲いーでしょ。」 「…あ〜ちゃんは、女の子を好きにならんよ、きっと。」 それらしきことは言われたことがあった。 のっちがいちばん好きだよー、とか、のっちが恋人だったらいいのになー、とか。その度にのっちの胸は、素直に弾けて飛び跳ねるのに。肝心なことは何一つないまま3年目の片想いをしている。 「ゆかはてっきり2人は付き合ってるもんだと思ってた。」 「そう見えた?」 「うん、見えた。」 食べ終わったコンビニのパンの袋を手に、ぶらぶらしているゆかの足を無駄にのっちは見ていた。ゆかの視線も同じように落とされて、ぶらぶらしているゆか自身の足を見ている。 「告白しないの?」 「しないよ。」 「何で?」 「…あ〜ちゃんに嫌われるのが、怖い。」 視線を落として、切なげに目を細めるのっちをゆかはちらりと見て、質問を止めた。そっか、と小さく呟いて沈黙だけが2人の時間を進めていった。 放課後になってのっちは、初めてあ〜ちゃん以外のヒトと帰る約束をした。ゆかだ。 自転車置場でゆかが来るのを待っていると、ゆかが短いスカートをひらひらさせながらのっちの元へやってきた。 初めて、のっちはあ〜ちゃん以外のひとを自転車のうしろに乗せた。あ〜ちゃんの専用席だったそこを簡単に誰かに譲ってしまうなんて自分でも驚いた。 あ〜ちゃんは、いつも横向きに座ってのっちの腰に腕を巻きつけて乗る。一方ゆかは、その短いスカートから今にもショーツが見えそうになるのにも関わらず、うしろに立って乗った。のっちの肩にしっかりと捕まって自転車が走り出すと、あ〜ちゃんとは違う香りが空気を舞った。レモンのような少し甘酸っぱい爽やかな香り。ゆかに香りのことを尋ねると、「グリーンティーの香水つけとるんよ。」と答えた。のっちはこの匂いをあまりにも気に入った為、銘柄とかビンの形だとかを詳しくゆかから聞き出した。 「ねえー、のっち。」 人通りの少ない路地を走っているとき、ゆかがのっちの名を呼んだ。 「なに?」 「あのね、」 「うん。」 「ゆかの好きな子も、女の子なんだ。」 いつもなら、驚いたはずだった。 この間、あ〜ちゃんから稲垣くんに告白されたと聞かされたときと同じように、振り向きたくてたまらなくて、自転車を止めてしまいたくてたまらなくなるはずなのに。のっちの気持ちは穏やかだった。ひとと同じ時間を共有して、こんなにも落ち着いたのは初めてだった。 「そうなんじゃ。」 「じゃけえ、のっちといっしょ。」 振り向きはしないけれど、のっちには容易くゆかの表情が想像出来た。のっちは勝手に切ない顔をしてるんだろうな、と考えていた。 夕日に紅く照らされた2人。その影が長く伸びていて、哀愁漂っていた。
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芽比木市(めひきし) 人口15万人ほどの中堅都市。旧城下町。 盆地にあたり、西にある「端前山(はなさきやま)」から東一帯に広がる平地120平方キロメートルを占める。 「端前山」のふもとには城跡が残り、南北に貫く国道59号線と、それに並走する鉄道で通過の際、常にその姿を目に留めることが出来る。 国道と鉄道は街の中心を南南東から北北西に貫くように直線で築かれている。鉄道が西側、国道が東側にそれぞれ配置されている。 芽比木駅はちょうど城跡の直線上に作られ、駅から東西一直線に伸びている市のメインストリートは、東西の山のふもとまで伸びている。 市内に5つの高校、7つの中学、10の小学校があり、高校はうち2校が私立校である。 芽比木市は旧比木市(ひきし)と旧芽前村(めさきむら)が合併し新設された都市である。 旧芽前村は端前山一帯に広がっていた山村だったが、1999年に大規模な山火事が発生、村民約700人のほとんどが死亡、行方不明となり、旧比木市民の一部にも被害をもたらす大惨事となった。 旧比木市、及び政府は翌2000年、合併による復興に着手、芽比木市を新設。2009年現在は惨事の碑を置くと共に、同山を桜の観光名所としてPRしている。 また同市は災害に対する意識を高めるため、児童施設、養護施設、災害体験施設の布設を行うなど、福祉関係の政策を積極的に行っていることで知られている。 星住高等学校(公立) 葉留と歩鳥が通う市内の公立高校。普通科と理数科が存在する。 フラワーショップNii 芽比木駅東口商店街から北に一本入った先にある、市内では数少ない園芸店。暮崎夕子が経営している。2005年オープン。 芽比木駅の内部にも園芸店が敷設されているため客足はあまり多くないが、地域住民や墓参に訪れる客を主なターゲットとしている。 特に盆と彼岸はかきいれ時で、普段は開店休業状態の店先もこの時ばかりは大忙しだとか。 店周辺は住宅街が並んでおり、人気も多くない。駅から墓参に向かう途中必ず通る道であるため、立地条件としては良い。 「Nii」の名は故・暮崎昭良が名づけたもので、「くれさき」に「い」と「に」を足すと「きれいにさく」になる。 営業時間 年中無休 10:00~20:00 (繁忙期) 9:00~19:00 公立災害児童福祉施設「芽ばえ」 1976年施工。最大収容人数75人(児童50人、常駐職員25人) 2000年の合併後の政策により、一部改修、増築がされた。 2009年9月現在、16名の児童と4名の常駐職員が生活し、2名の非常勤職員が勤務している。 寝室は児童用二人部屋が20室、一人部屋が10室、常駐職員用が15室、宿直室が5室、非常勤職員用仮眠室が5室。 二階建てで、児童の使用する設備は全て一階に集中しており、児童が二階にあがることは通常ない。さらに一階と二階とを繋げる階段は院長室と玄関口の間にあり、階段の手前にドアが作られ施錠されている。 施設は全て一つに繋がっており、上から見るとやや歪な「エ」の字になる。 門をくぐり玄関を開けると、4畳半程度の横に広い下駄箱の配置された玄関口が広がっており、児童職員はそこで履物を換える。 玄関口を中心に十字路になり、正面は通路と大広間、大食堂が通路の左右に配置されている。右側は児童用寝室(6歳~12歳)、左側は職員室、院長室、医療室、ボイラー室、大浴室、職員用宿直室がある。 正面の通路を突き当たりまで行くと再び左右に通路。「エ」の上部横線にあたる。右は6~12歳、左は12~18歳用二人部屋寝室と、15~18歳用一人部屋寝室がある。 各通路ごとに男女トイレ、小談話室が用意されている。 二階には常駐職員用の寝室、給湯室、談話スペース、非常勤職員用仮眠室がある。 現在は、16名の児童の内6歳~12歳の12名で3グループ、13歳~18歳の4名の1グループと、部屋割りごとに4グループに振り分けられている。 施設全体でのイベントや催事の際は施設中央の大広間で、グループごとに行われるイベントは通路ごとに用意された談話室にて行われることになっている。 (例.クリスマス会、誕生会、歓送迎会など→大広間/映画や紙芝居などの鑑賞会など→談話室) * 児童用寝室 児童用は二人部屋、一人部屋共に10畳ワンルームの洋室、フローリング敷。二人部屋の角部屋が8室、一人部屋が4室あり、角部屋は共通のベランダ窓の他に出窓がある。ドアは内開き。 二人部屋には二段ベッド、勉強机が二つと、衣類収納用のタンスが2セットあるのみで、テレビやゲームなどは談話室で行う決まりになっている。 なお携帯ゲームも自室ですることは禁止されていて、しばしば自室に持ち込んで遊んでいるところを職員に見つかり没収、ということがあるとか。 それ以外の私物の持込は、日用品や消耗品を除いて、購入する場合職員の許可を得る必要がある。 (家具、1万円以上のもの、ペット、大きな音を発するもの、電子機器など) 15歳以上で、尚且つ学校での素行に問題がない児童に限り、一人部屋の利用とある程度の自由が認められている。 一人部屋はベッドにナイトランプがつき、少々タンスのサイズが大きくなるだけで、他は二人部屋とは差がない。 起床時刻は全員一律6時半。職員は5時半。消灯時刻は年齢、学年によって変動する。 6-8歳(小1-小3):20時半 9-12歳(小4-小6):21時 13-15歳(中1-中3):22時 16-18歳(高1-高3):24時 また、20時半以降は原則として児童は談話室と自室、大浴室以外の出入りが禁止されている。 * 大広間 大居間とも。児童の間では「おいま」と呼ばれている。24畳。 平日の夕方から夕食前まで、休日の日中から夕食前まで開放されていて、主に小学生の児童が走り回れる空間としてあてがわれている。 * 大食堂 大広間と対になる部屋。24畳あるが、人数が少ない為現在は半分をスライド式の壁で遮り、物置になっている。 12畳のうち4畳が台所、残る8畳に16人がひしめくせいで、時折物置を片付けてくれと要望が来るとか。
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side nocchi 学園祭10日前。 「のっち、おはよっ。」 下駄箱で朝からゆかちゃんに遭遇。ラッキー。いつもながら髪の毛サラサラでいいねぇ。 「おはよー!あれ?あ~ちゃんは?」 「うん、それなんだけど。」 そう言うとゆかちゃんは素早くあたしの制服のリボンを引っ張って体を寄せた。 いい匂いだぁ... うっとりしちゃうよ。 「のっち、あんたあ~ちゃんに何したん?不機嫌っぽいよ。」 耳元で囁くゆかちゃんの声は、いつもの甘さの中に刺を含んでいた。なんか怖いんですけども。 ...って あたし何もしとらんよねぇ?昨日も上機嫌で別れたし。 「何もしとらんよ? あたしの所為っぽかったん?」 「いや、分かんないけど。あれはのっちの事考えてるときの顔じゃった。」 えぇっ!?こういうときのゆかちゃんのカンはまず外れてない。何したんよ、あたし! ゆかちゃんはあたしを離すと、さっきまでのふわふわな声に戻っていた。 「じゃあ、後で教室でねぇ。」 「あぁ、うん...」 思い当たるところが無い。何だ? その時ケータイがポケットの中で震えた。一件のメール。 「なんだ、クーポンか。レンタル新作半額じゃ!ラッキー!」 ん?メール? 昨日あ~ちゃんとメールしてたよね。昨日のメールの内容確認。 8時半頃からやりとりが始まって...11時であたしが寝て... ヤバい。最後返信してない。最後の内容なんだっけ?急いで最後のメールを開く。 「のっちアタシの事嫌いになったん?」 はぃ!? 寝ぼけてたからその前後の内容が思い出せない。 しかもなぜかそれの前のメールがすべて消去されていた。 これに返信しないってヤバすぎる。 あたしは教室に駆け込んで、ダッシュでゆかちゃんのところに行った。 「のっち、心当たり見つけた?」 既に笑顔がコワい。悪魔の微笑になってる。 あたしは事の一部始終を説明した。 「はぁ... 本物のアホじゃね。どーやったらそんな深刻な話忘れるん?」 ゆかちゃんは本気であきれてるみたい。そりゃそうか。 「後であ~ちゃんに謝りんさい。許してくれると思うけど... 前後の話が分からんからねぇ。」 そして噂をすればなんとやら。あ~ちゃん登場。あたしを睨みつけるようにして横を通過。 最高の笑顔で振り返ってくれた、と思ったら、 「ゆかちゃんおはよっ!」 無視ですか。 「あ~ちゃんおはよ~。」 ゆかちゃんもまたフツーに笑顔で返しちゃう。 「ゆかちゃん、ヒドい。のっちの味方してよ。」 「悪いのはアンタじゃろ。後でなんとかあ~ちゃんに言ってみるけぇ我慢しなさい。」 流石! 「ありがと!やっぱゆかちゃんはいい人だねぇ。」 あたしがゆかちゃんの所を離れて自分の席に着くと、早速ゆかちゃんはあ~ちゃんの所に行った。 なにか話してる。どんどんゆかちゃんの表情が曇っていく。何だ!? 二人の会話は終わったみたいだけど、こっちを見るゆかちゃんの笑顔がコワい。 とりあえずホームルームが終わって、あたしはゆかちゃんのところへ。 ゆかちゃんの冷たい目があたしを見据える。 「のっち、あんた昨日のメールの内容ホントに覚えてないん?」 「うん、ホントに覚えてない。」 ゆかちゃんからここでトドメの一撃。 「あんた、サイテーじゃ。」 なっ... 本気で凹んだ。でもこのまま引き下がるワケにも行かない。 「あたしが何したのか教えてください。お願いします。」 本気でビックリしてる。あたしは知らずにあ~ちゃんを傷つけたかもしれない。 答えを待っていると、ゆかちゃんはゆっくりと話し始めてくれた。 「のっちは昨日あ~ちゃんとダンスの話しとったんよ。学園祭の。 そこからあたしの話になったって。忙しそうだとか、保健室通ってるとか。 それで、あ~ちゃんがふざけて、あ~ちゃんとあたしが同時に具合悪くなったらどっちを 先に保健室に運ぶかってメールしたら、即答であたしって送ったって。 んで、のっちが最後に見たメールに続いたみたい。 のっちが寝ちゃったこととかは一応説明しといたけぇ、あとは自分で何とかしんさい。」 あたし、なんて事を。バカだ。ある意味本音だけど、絶対に二人とも一緒に助けるのに。 「ゆかちゃん、ありがと。」 あたしは走り出していた。移動教室で、体育館から教室に向かおうとするあ~ちゃん。 廊下を人目を気にせずに走り抜けた。後ろから腕を掴んで強引に引き寄せる。 「ちょっ、 何すんのよ!?」 じたばた暴れるあ~ちゃんを思い切り引っ張って、トイレに連れ込んだ。 少し息を整えて、あ~ちゃんの目をきちんと見る。 あ~ちゃんの視線は揺れている。絶対にあたしの目を見ないようにしてるのがわかった。 「で、何よ?」 あたしは勢い良く頭を下げた。出来る限り深く、少しでも届くように。 「ごめん!あ~ちゃんの事すごい傷つけた。無責任にメール返してゴメン。 もし二人が一緒に倒れたらいっぺんに二人とも担いで助ける。二人とも同じぐらい大切じゃ。 嫌いになんてなるワケないじゃん。大好きだから。許して...」 しばらくしてあ~ちゃんはやっとあたしを見た。穏やかな、菩薩みたいな目で。 その瞬間あたしは下げた頭に優しい温もりを感じた。あ~ちゃんの手の温度。 「許す。」 そっと上を見ると、半分泣き笑い状態のあ~ちゃんの顔。 「ありがと。」 あたしとあ~ちゃんは顔を見合わせて笑った。最高にキラキラした笑顔で。 「しっかし、まぁ、ホントに手のかかるコ達じゃね。」 樫野有香にしてみれば、自分がネタになっていたのは気になるが、子供のケンカみたいな物。 二人ともまだまだじゃね。 制服を綺麗に畳むと、二人のところへ向かった。 帰りのホームルーム。 「さっ!終わったら水野先生にしごかれに行くよ!」 元気のいい、いつものあ~ちゃん。 「その前にちゃんと提出するものしなきゃ。」 ゆかちゃんはやっぱりしっかりしてる。 二人の後についていくのがやっぱり一番しっくりくる。あたしのポジションはここ。 いい位置にいるとつくづく思います。幸せモンだなぁ、あたし。 って... ん?プリントって... 「あぁ!プリントが!弁当のドレッシングでメチャメチャになっとる!」 あ~ちゃん爆笑、ゆかちゃん苦笑。 「やっぱりのっちはオチ担当じゃ。」 「そうそう、もーちょっとしっかりしてもらわにゃ。」 「先生に謝ってくる!」 あたしは猛ダッシュで中田先生に謝りに行った。 冷めた中田先生の反応。沸く教室。やっぱりあたしはオチ担当なのか。 大本彩乃。まだまだ成長が必要そうです。学園祭までにもーちょっとレベル上げ頑張ります!
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鼓舞の下駄 鼓舞の下駄 装備部位 足 レベル 40 完成までの所要時間 7日09 09 05 カードスロット数 2 グレード 普通 上等 高級 至高 伝説 必要素材 金剛石×24高級繊維×24破れた魅惑の着物×33砕けた雅な扇子×16妖しげな九尾×8 靴の翠晶石×24靴の翠星石×12破れた魅惑の着物×8砕けた雅な扇子×4妖しげな九尾×2 靴の翠晶石×44靴の翠星石×22破れた魅惑の着物×16砕けた雅な扇子×8妖しげな九尾×4 靴の翠晶石×70靴の翠星石×35破れた魅惑の着物×24砕けた雅な扇子×12妖しげな九尾×6 靴の翠星石×65絆の虹輝石破れた魅惑の着物×33砕けた雅な扇子×16妖しげな九尾×8 アビリティ オーラ最大値 45.8%英雄移動速度 16.7%対無機物攻撃力 24.3% オーラ最大値 68.7%英雄移動速度 25.0%対無機物攻撃力 36.5% オーラ最大値 91.7%英雄移動速度 33.3%対無機物攻撃力 48.7% オーラ最大値 114.6%英雄移動速度 41.7%対無機物攻撃力 60.8% オーラ最大値 137.5%英雄移動速度 50.0%対無機物攻撃力 73.0% 必要魔石数 13,009,400 3,252,350 6,504,700 9,757,050 13,009,400 ※完成までの所要時間は、鍛冶屋lv1(2.0%生産速度UP)の値です。
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いふ☆すた EpisodeⅡ~静かにツルの切れる音~ なんだろうこれは。 それはふわりと、唐突に現れた。 私は足元に落ちたそれを拾い上げ、顔の前まで持ってくる。 何のこともない普通の白い封筒だ。 私はついさっき学校に着いたばかりで、今、自分用の下駄箱の前で立ち尽くしている。 私の下駄箱から落ちてきた、それ。 裏返してみると、とても丁寧に書かれた文字で、 「柊 かがみ 様へ」 と書いてある。 うん、間違いなく私にだ。 …でも、このシュチュエーションってもしかして… 「あ、お姉ちゃん!?」 私の近くまで寄ってきたつかさが声を上げた。 「それってもしかして…ラブレター!?」 そう、それだ。 好きな人に愛の告白をするために、想いを書き留めて下駄箱なんかに入れるという代物だ。学園モノのラヴシュチュではもはや定番で、使い古された小道具。 「初めてみたよー…」 私も見たのは初めてだ。 まさか、こんなものが私宛てに届くなんて考えもしなかった。 「すごいねぇ。…ねぇ、お姉ちゃん、空けないの?」 つかさは興味津々らしい。 まあ姉妹でいままで隠し事なんてあんまりしなかった仲だし。 別に見られても問題はないけどね。 でも… そこでふと、違和感を覚えた。 こんな事態を、ひどく冷静に受け止めている私がいる。 普段のわたしならもっと驚いたり照れたりしてもいいはずなのに。 多分、わたしはこなたのことが好きだからかな? だから、他の人に好きって言われても、揺らぐことがないのだろうか。 私たちは入り口の近くを避け、普段は死角になっている非常階段のあたりまで来て、手紙を開けた。 ここなら誰も滅多に立ち寄らない。 これ以上、ギャラリーが増えてしまっても困るから…っていうのもあるけど… でも、一番の理由は、遅れてやって来たこなたに手紙のことを知られたくはないからだ。 私は封筒に張ってあるシールを切り、中に入っていた手紙を取り出す。 つかさがその行為を、まるで自分宛てに来たもののように、本人よりも高揚した顔で見つめていた。 「ね、ね、なんて書いてあるの?」 「つかさ、落ち着きなさい。 今見るわ。えーと…」 広げられた手紙をつかさから遠ざけ、縦に二つ、三角に折りなおす。 これでいっぱいまで顔に近づければ、横からは紙と私の頭が邪魔になって他の人は見ることが出来ない。 「あぅ、お姉ちゃ~ん」 つかさからの抗議の声が聞こえるが、この子は嘘を付くのが下手だから、何でも周りに話してしまいがちなのだ。 「まずは私に読ませてよ」 「…うん」 つかさのしぶしぶの了解を待って、私は手紙を読み始めた。 手紙の内容は非常に簡素なものだった。 まず、私の名前があり、そして、伝えたいことがあるという風な内容。 そして告白の場所の指定、時刻は夕方。それから… 差出人の名前が書いてないのは、自信の無さの表れか。 ただ、文面や字体の丁寧さに、私は伝わってくる人柄の良さが感じられた。 「どうだった?お姉ちゃん!」 急かすように食いつくつかさ、ホントに興味があるらしい。 「どうって… 話があるから放課後会いたいって内容よ。 相手の名前はわからないけど…って、何よその顔」 「お姉ちゃん、それ絶対告白だよ! で、どこどこ?どこで告白されるの?」 「つかさ、声が大きい。 てか、まだ告白されるって決まってないわよ」 「あ、そっかぁ、果たし状かもしれないもんね」 こんな果たし状なんて、あるか!!っとこなたに対するノリで叫びそうになった。 この妹は相変わらず… 「ったく。場所は…… うん、体育館の裏ね。あそこなら部活の人以外、あまり立ち寄らないし。 死角も多そうだしね」 「お姉ちゃん…どうするの?」 「 … 」 その答えはまだ自分でも出してなかった。 良い人そうなだけに、私が来なかったことで、傷ついてしまうかもしれないし… ずっと待つ片思いの辛さは、私が一番理解できた。 「つかさ、お願い。 このことはこなたには黙ってて。 あいつ…からかいに来そうだから…」 「やっぱり行くんだね…?」 さっきまでのテンションはどこに行ったのか。 つかさは寂しそうにそう言った。 … 一限目の終わり。 「やふぅ~! つかさ、みゆきさん、おはよー!! 泉こなた、只今参上だよぉ!」 「あ、おはよ~ こなちゃん」 「おはようございます。泉さん」 私は持てる限りの元気で、いつものみんなに挨拶する。 そこにかがみがいないのは残念だが、仕方ないね。 わざわざ朝の挨拶をするためにかがみのクラスに行くわけにもいかないし。 「…でも、こなちゃん、お早くはないよね。 おそよ~、かな? 今日はどうしたの~?」 「いや、寝坊したのもあるんだけど、 朝の用意に手間取っちゃってね? 結構遅い時間に出ることになっちゃたから、 ついでに一限目の授業をサボっちゃおうかなと。 一発目、歴史だったからどうせ寝ちゃうし出ても一緒だからね」 「ははは…、こなちゃん、それ絶対、黒井先生とお姉ちゃんに 言わないほうが良いよ」 「ふふ~んそれはもう抜かりないよ。 言わなければバレないしさ。」 高らかに宣言する私の背後に、黒いものが近づいてきてることに、その時私は気付かないでいた。 「だぁれぇが、抜かりないんやて~?」 「ひぃ!黒井先生!?」 「泉ぃ、聞かせてもろうたでぇ。 ほうかほうか、自分、そんなに説教くらいたいんか。」 「先生、目がマジ怖なんですけど」 「うるさい!泉!!昼休みにウチん所に来い! 説教や!!楽しみに待っとるでぇ~」 「あぅぅぅ~」 黒井先生が嵐のように去っていく。 まったくなにをしに来たんだろう。 まあ、問答無用の鉄拳制裁がなかっただけましだけど… うぅ~、これでかがみとの楽しいお昼休みが減っちゃたよ… 「大丈夫ですか?泉さん…」 「こなちゃん、ドンマイ…」 私は朝から続く、あまりの不幸に、その場に泣き崩れてしまいたかった。 … 昼休憩。 「うぅぅ、ただいま~」 「お帰りなさい、泉さん」 「お疲れ~、こなちゃん」 ふらふらとした足取りで、お説教から無事生還を果たした私を、みんなが迎えてくれた。 「なんだか、今日の授業の範囲を、自分なりの考察を交えて ノートにまとめてもってこいって言われたよ。 それも、明日までに」 「う、それは私には手伝えないかな~?」 「ふふ~ん、私はつかさになにも求めてないヨ」 「あぅ! ひどぃ」 「だから、かがみ~ん。勉強おしえて~♪」 ………返事がない。 あれ?そう言えばかがみはどこ? 「つかさ、かがみ来てないの?」 なぜか…つかさは俯いた。何かをいいにくそうな顔。 もしや…かがみになにかあった!? 「かがみさんは今日はコチラにはおいでにならないそうでして」 「え?あ、そうなの?」 なんだ、かがみは来れないだけか。 でもなんで、つかさは思わせぶりな態度をとったんだろう… つかさはかがみと一緒で嘘はつけない子。 こういう態度をとったときは必ず何かを隠している時だ。 「ときにつかさ?」 「ひゃぅ!な、なにかな?こなちゃん」 肩を跳ねさせてから返事をする。絶対何かあるね。 「私に何か伝えることがあるんじゃないかな? 例えばそう…」 つかさの喉がごくりと鳴る。 「…かがみに何かあったとか!」 「あぅ!なな、なんでわかるのぉ? こなちゃん、実は見てたとか?」 ミッションコンプリート。犯人はアナタだ。 ゲームとかの推理モノの犯人も、このぐらい簡単に出てきてくれたらね。 でも多分、私はそんなゲームはやりたくないけど。 さあ、なにかあったことだけはわかったし、あとは、何があったのか聞くだけだね。 「んふふ~、感だよ、感! さあ、ここまできたら白状してもらうからね!」 「あぅ~、お姉ちゃんに怒られちゃうよ~」 「かがみには上手く言っとくからさ。なになに」 「かがみさんに何かあったんですか?」 「うぅ、ゆきちゃんまで…ヒドイ。 わかったよ。言うから…ゴメンネ、お姉ちゃん。 お姉ちゃん、今日ね、ラブレターをもらったの」 「「 えぇっ! 」」 私とみゆきさんの声が重なった。 かがみがラブレター? 一瞬、視界が白くなる。心臓の音がやけにうるさい。 「こなちゃん、大丈夫?」 「!」 つかさが心配の声を上げる。 まずい、顔に出ていたか。 「い、いや~。 かがみんにもついに春が来たか~」 私は笑ってごまかした。 大丈夫、ココロを誤魔化すのにはもう慣れてる。 「で、かがみはどうするって?」 声が震えるのを必死に隠した。 「まだ、決まってない…ていうか これから告白を受けるみたい。」 「どこで受けるの? 場所は?いつ?」 「ダメだよこなちゃん、行っちゃダメ」 「え~、いいじゃん。 かがみの一世一代の告白シーンなんだし 見なくちゃ末代まで笑いものだよ」 声のトーンはいつもの私だったけど、もしかしたら私、 顔は笑っていなかったかも知れない。 その証拠に、つかさが私を見ながらすこし怯えている。 何でだろう。いつもうまくやっていることが、今日に限って出来ない。 「お姉ちゃん、 こなちゃんには見られたくないって言ってたもん」 「そ、そうなんだ」 かがみからの拒絶。私「には」みられたくないなんて… とたんに弱気な私が顔をのぞかせる。もう、だめだ… 「 普段の私 」が演じきれな… 「私も…興味があります。つかささん」 「え、ゆきちゃん!?」 援護は思わぬところからやってきた。 「告白の場所、教えていただけませんか? 私、お恥ずかしながら、告白シーンを生で見るのは 初めてでして… その…もしもの時の参考に出来ればな、と」 すごく意外だった。みゆきさんって色恋沙汰に興味があったんだね。 もしかしたら、みゆきさんのことだし単なる知識欲かもしれないけど… あえて言わせてもらおう、みゆきさんグッジョブ! 折れかけていた私のココロは、みゆきさんという強い味方を得て、再び蘇る。 「つかさ、お願い!」 「あぅ、も~…ゆきちゃんまでこなちゃんの味方だなんて。 …わかったよ。教える、けど… あとでお姉ちゃんに怒られる時は一緒に怒られてよぉ」 「うん、みんなで怒られようよ」 「ふふ、そうですね」 … 放課後の学校。体育館の裏手。 私たちはかがみが来るのを待っていた。 「夕方って言ってたから多分、放課後のことだと思うけど、 具体的な時間は言ってなかったから…」 私たちはホームルーム終了と同時に、かがみのあとを追いかけるべく、すぐさまかがみの教室へと向かった。 「あぁ?なにやってんだぁ、お前ら。 かがみ? あぁ柊なら終わったと同時にどっかに すっ飛んでったぜ? ちびっこのとこにいってないのか?」 かがみのクラスメイトの、日下部みさおがそう告げる。 遅かったか。 私たちは仕方なく、体育館で待つことにしたのだが… 「こないねー」 もうそろそろ五時半になる。 閉門の時間が六時だからもう来てないと間に合わない時間だ。 「…電話してみよっか?」 「おこられちゃうよ?」 「でも、このまま待っていても仕方ありませんしね」 … ―放課後の学校。 夏のぬくもりを感じさせる。そんな気持ちのよい風が、私の薄紫色の髪を揺らしていた。 ここは放課後の屋上。 つかさには悪いけど嘘を付かせてもらった。 ホントに正直なコだから、多分、隠しとおせないだろうし、こなたに問い詰められると、嘘は付けないと思ったから。 ごめんね、つかさ。 だって、ホントに見てほしくないんだもの。 こなたの追跡を逃れるために、約束の時間よりもかなり早くについてしまっていた私は、屋上の備え付けのベンチに腰を下ろして、ただ、色が変わっていく空の様子を見つめていた。 告白…かぁ… こなたに出会う前の自分だったら、たぶん、喜び勇んで飛びついただろう。 昔からひそかに恋愛というものに興味があったし、恋人なんて言葉に憧れを抱いていた。 だけど、今の私はひどく陰鬱で、どうゆう風に答えようかと、ず~っと頭の中で考えている。 いや、告白に対する答えなんてもうとっくに出ているはずだ。 私が悩んでいるのはそうゆうことじゃない。 …ふぅ~… お決まりのため息は空に融けていく。 いまから来る人物は多分、男性。 そして、女性である私を好きだと思ってきてくれるんだ。 これが普通の恋なのだ。 改めて、私の抱いている想いが異端であると、そう気付かされてしまう。 うらやましい… 普通に好きになって。 普通に告白が出来て。 普通に幸せをつかむことが出来て。 私はたまたま女性を好きになったというだけなのに、そのすべてから否定をされる。 想いの強さでいうのなら…同じ恋だというのに、だ。 つかさには伝えてなかったが、あの手紙にはもう私への想いが書いてあった。 正真正銘のラブレター。 私を好きだという、名前も知らない彼。 彼は、今からやり遂げるんだ。 今の私には絶対出来ないこと。 最愛の人への…愛の告白を……。 その時、屋上の鉄の扉が…今、静かに鳴った。 … ―プルルルルルルル… ドキ、ドキ、 ―プルルルルルルル… 早く出て…かがみ。 ―プルルル…ガチャ 「 何?」 かがみへと電話が繋がった。 焦るな、私。 「や、やふぅ~かがみ様。元気~?」 「…開始早々、ケンカをうってんのか?」 「いやいや、あのね? え~と…かがみ様って、今どちらにいらっしゃる?」 私はストレートに聞いてみることにした。 今、私の近くには、つかさとみゆきさんが、私の携帯電話に耳を近づけて、かがみとの会話を盗聴している。 「…つかさ、あんた話したわねぇ!」 「ひゃう!何で居るのがばれてるの?」 「やっぱり…」 つかさの声が届いたのか、かがみは落胆のため息をつく。 「ごめんなさい、かがみさん。私がお願いしたんです」 「な、みゆきまでいるの!? はぁ、アンタ達はそろいもそろって…」 「「「 ゴメンナサイ 」」」 三人の声がハモった。 「でさ、かがみん今どこにいるの? 体育館のうらでずっと待っていたんだけどこないからさ」 「いま?あぁ今は駅のホームにいるわ。 もう少しで電車が来るところ。…あ、来たみたいね。 じゃあ切るわよ。」 「あ、ちょ、まって!どうゆうこと?こ、告白はどうなったの? 受けたの?断ったの?」 「…告白はされたわ。なかなかやさしそうな人だったし、 手紙のイメージにピッタリの人だったわ。 私たちと同じ学年の人で、顔は知らなかったけど、 向こうは私のことをずっと知ってたんだって」 「…で、どうしたの?」 「…そんなの決まっているわ…」 心臓が早鐘を打つ。 かがみに伝わってしまうのではないかと思うほど、大きな音で。 「…別に、断る理由なんて、ないじゃない…」 ―Pi、 「―かがみ!?」 台詞とともに回線が切れた。 断る理由がないってことは、やっぱり… 私は携帯をもつ左手を、弛緩させるままにだらりと下げた。 顔が無意識のうちに俯く。 「泉さん…」 「こなちゃん…」 「 … 」 …なんだこの空気は。 親友に恋人が出来たんだ。もっと祝ってあげなくちゃ。 …祝って、あげなくちゃ…いけないのに… 「―ゴメン、二人とも!」 私は次の瞬間、駆け出していた。 「あ、泉さん!?」 二人との距離が離れていく。 ただただ私は早くあの場から逃げ出したかった。 二人には、おかしな奴だと思われたかもしれない。 でも、ずっとあそこ居たとしたら、私は多分、みんなの前で泣いていた。 ずいぶん前から覚悟はしていたのに。 いつかはあることだと、理解していたはずなのに。 私の覚悟とは別に、 私の身体も、 私のココロさえも、 その時になって私の全てが、私の意思を聞いてはくれなかった。 …悲しかった。 両手で、口からもれる嗚咽を塞ぎ。涙はまぶたで必死にこらえる。 かがみに会ってか、私は人間的に強くなれたような気がしてた。 だから、いざというときでも、私はきっと笑ってられると信じられていた。 でも、それは私のただの妄想で。 結局はあのころとなにも変わっていない私が居たことに。 そしてなにより、かがみに彼氏が出来たことを、一番に喜んであげるべき親友の私が、こんなにも沈んでて、笑ってあげられないなんて… そのことが、私はただひたすらに…悲しかった。 だから私は涙を出す代わりに。 何かを叫びたくなる代わりに。 ひたすらに走った。 ひとしきり走っただろうか、私は校舎内のトイレの前で立ち止まる。 涙こそ流さなかった私だが、鏡に映りこんだ瞳を赤く充血させている私の顔は、ひどく醜いものに見えてしまった。 少し落ち着きを取り戻した思考で、私は洗面台まで向かい、それを洗い流す。 今日は急いで家を出たからハンカチは持って来ていない。 夏服の短い裾で顔を拭く。 吹ききれず水滴を残したままの顔は、まるで泣いているかのようだった。 そのときだ、携帯電話が鳴り出した。 この短めのメロディは、メールを受信したものだった。 ポケットから携帯電話を取り出した。 件名[ なし ] 「こなちゃん、どうしたの?大丈夫???」 つかさからだった。そういえば二人とも置いてけぼりだったね。 心配かけちゃったかな? メールしとかないと… う、ん、大、丈…夫。っと…送信。 本当に大丈夫…なのかな?明日。ちゃんといつもの私でいられるのかな? ううん、いなくちゃいけないんだけどね。 ちゃんと「 親友 」の泉こなたとして。 …今日は笑ってあげられなかったな… ごめん…かがみ。 明日からはちゃんと笑ってあげられるから。 今日だけは特別。 色んなことがあったから。 明日からは親友としての、今までのような日常が続くはず。 だから大丈夫だよ、私は… ……… 次の日の朝、駅のホームにて。 しかし…あのとき私が思い描いていた日常は、かがみからの一言で見事に崩れ去ってしまった。 「かがみ…」 「なに寂しそうな顔してんだ?」 「だって、もう会えないっていったじゃん!?」 私はかがみに食らい付いた。 「会えないなんていってないわよ。 ただこれからは、アンタのクラスに行く機会も減るし、 帰りも多分、彼と帰るわよ」 「そんなの、殆ど会えないのと一緒じゃん!」 「仕方…ないじゃない。もう、付き合うことにしたんだから…」 私はその言葉でわれに返る。 「…ゴメン、怒鳴っちゃって…」 そう、かがみはもう、親友以上のものを手に入れたんだ。 私は親友として、応援してあげなくちゃならないんだった。 「…いや~、突然のことだから、動揺しちゃったよ。 うん、私たちのことはいいから、いいから。 お昼休み?登下校?どんどん行っちゃいなよ! …だけどひとつだけお願い」 「えぇ?、あ、うん、なによ」 私のテンションの落差に、かがみは狼狽しながら聞き返した。 「たまに会ったときに、ノロケ話をするのだけはやめてよね? ツンデレのデレを見るのは面白そうだけど、 他人にデレてる姿をみても寒いだけだし、それに…」 「な、ツンデレいうな!」 「これから暑くなって来るのに、恋人同士のアツアツ話なんか 聞いてたら、熱中症で倒れちゃうよ~」 「そんな、アツアツだなんて…」 「お、早速テレてるテレてる。 この反応、もしや昨日でもうすでに、 ちゅ~とかしちゃったのかな?」 「…! するかぁ~!!」 そしていつもの追いかけっこが始まる。 私は笑った。もう届かない、愛しい人に向けて。 そうだ、これでいいんだ。 過去に私がした妄想が、少しだけ現実になってしまって、そして、少しだけ早く訪れてしまっただけなのだ。それだけなんだ。 少しの変化であったけど、あとはなにも変わらないでいられる。 わたしはかがみの「 親友 」として、卒業まで… ずっと。 私は、追いかけるかがみから逃げながら、あることを考えていた。 かがみの日常が変わってしまったのなら、私も変わらなければならないと… ……… その…次の日の放課後、こなたの教室にて。 「あんた、それマジで言ってんの!?」 「うん、おおマジだよぉ~?」 みんなに帰宅の挨拶を告げるために、こなたがいる教室まで足を運んだ私。 こなたからの思わぬ告白に、今度は私が狼狽する番となった。 「どこの誰よ!?」 「かがみが知らない人だよ。三年生の人だし」 「でも、昨日の今日で…」 「あぁ、ひどいな、そんな軽い女じゃないよ?私。 ずっと考えてたんだけどね。 かがみのがいいきっかけになったというか…」 「でも、いきなり彼氏が出来ましたってどうゆうことなのよ~!」 「あは♪ おそろいだね!」 EpisodeⅡ ― END いふ☆すた EpisodeⅢ~堕ちる果実~へ続く コメントフォーム 名前 コメント (^_−)b -- 名無しさん (2023-07-05 12 07 52) まだ完結してないようですので、続きを楽しみに待ってますが、作者様~かがみとこなたにはハッピーエンドをお願いします。 -- kk (2009-01-28 23 04 33) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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「前回までの粗筋。 始めはさながらヒーローの如く現れ、この私を身を呈して守った古泉一樹だが、 物語の進行と共にヘタレ化が進んでいる」 「それでは粗筋にしても粗過ぎます。やり直す必要があるでしょう。 …ヘタレ化は否めませんが……」 「了解した。やり直す。否、物語の進展云々についてはこの際問題にしない」 「もはや粗筋ですらありませんね」 「問題視すべきは…」 「…すべきは?」 「イ・イ・イツキン イツキンキン」 「また!?止め――」 「以上。自転車の上からお送りした」 「え!?マジでずっと乗ってたんですか、自転車に!?ぼくた―― ――えええこれ浮いてる!?凍死とか補導どころじゃねええ!!」 「ペダルを踏み続ける行動が余りに単調だったため、この前に見た映画のワンシーンを再現した。 かごに、あなたのシャミセン二号を乗せれば完璧。 前フリが長い上に粗筋の役割を果していないので、早急に本筋に入ることが望ましい。 続々々・花嫁修行危機一髪、スタート」 「ぞくぞくぞく!?語呂悪っ! ちょ、始まる前に降ろして下さいい!」 「ヘタレ」 「くっ…! ああっ、前向いて下さい、でっででで電柱がっ!」 家に着いて、冷蔵庫に買った物を詰め込んで、ソファに突っ伏す。 今日も疲れた… 長門さんは口をもごもごと動かして、十八番の情報操作だろう、 ぐちゃぐちゃに混ざった黄身と白身に沈む、砕けた殻を取り除いていた。 少しの間休んだおかげで復活した僕も、彼女と並んで台所に立つ。 「何か僕に手伝えることは」 「無い」 にべもなく長門さんはそう言って、フライパンに卵を流す。 卵が焼けるいい匂いが部屋に立ち込めた頃、 彼女のお腹から、くうくうとかわいらしい音がして、思わずへらっと笑うと、 「恥ずかしい」 と菜箸で居間を指した。 何もできないくせにぼさっと突っ立ってないで、 さっさと向こうに行け…と言う訳ではないのだろう。 今は、あの炭水化物ダイエットの時とは違い、はっきりと恥ずかしいと言っている。 ですが、長門さん。 室内に入った今でもニット帽を被っている方が恥ずかしいのでは…? 「気に入った。 次の市内探索はこの服装で臨む」 うーん…それは… 僕が選んだ服を気に入ってくれたのは素直に嬉しい。 嬉しいが、その服を着た長門さんを見て、 それも僕が買った物だとばれたら、涼宮さん達がどう思うか… 「あたしは人の趣味に難癖をつける気は無いわ…… 有希がいいんなら、まあ、別に構わない、わ…よ」 「へ、へええー。 古泉くんって、そういう趣味があったんですか~。 あっ、別に軽蔑なんてしてませんよ! かわいいですね~、長門さん。確かに似合ってます~…」 「お前… いや俺は何も言わん何も聞かんお前の趣味なんて知りたく無い。 長門がいいならそれでいい。 お前が無理矢理着せたっつうんなら話は別だけどな。 とりあえず…俺の妹には手え出すなよ……」 ありありと残りの団員の反応が見えて、僕は乾いた笑い声を漏らした。 どーしよー… 僕が選んだことを、長門さんが黙っていてくれれば問題はそこまで大きく無いのだが… 「できた。オムカレー」 どん、と皿がふたつ机の上に置かれる。 「召し上がれ」 「あ、いただきます」 豊かな匂いと鮮やかな彩色が思考を遮ったのをいいことに、 心配は後回しにして、スプーンを手に取った。 それまでずっと続いていた、スプーンと皿の底がぶつかる軽い音が止まった。 長門さんの分だけ。 しかし、彼女の皿には、まだ黄色と茶色の固まりが半分ほど残っている。 「あなたは」 ぽつり、と彼女は言葉を落とした。 「目の前に危機が迫っている人間がいたら、 利害の有無に関わらず、その人間の安全の為に動く、と。 あなたはそう言った」 一昨日の僕が言ったことを彼女は反復した。 今の状態に発展する羽目になった、今思えば小っ恥ずかしい台詞。 そしてこの騒動が起こる、全て引き金となった台詞。 「危機と呼べるレベルには至らない。 しかしそれはあくまで、私から見た彼女の状況。実際に彼女が感じていた不安は私には計り知れない。 私は母を見失い、泣いていたあの子の為に、行動を取ったつもりだった」 長門さんはここで言葉を切り、僕を見つめた。 僕のスプーンを運ぶ手も、もうとっくの前に止まっていた。 「あなたが私にそうしたように」 沈黙は数秒程だった。 「成長、されましたね…本当に」 まるで、今まで遠目にしか見ていなかった幼い子の格段の成長を目の当たりにしたような気分で、 多分穏やかなものになっているであろう目線を暫く注いでいると。 長門さんはニット帽を更に深く深く被った。 前が見えないんじゃないのか、と思うくらいに。 夕食も、その後片付けも終えて、まあ、また抵抗虚しく脱がされ、 浴槽に突っ込まれたりした。 長門さん、あなたはもう少し恥じらいを持ちましょう… 婿にいけない…え、お前がいくの?来てもらえよ、 と、どうだっていいことを一人で悶々と考えて、続けて入浴している長門さんを待つ。 しばらくして、脱衣所の扉が開いた。 よほど気に入ったのか、僕が貸そうとしたラフな服を彼女は受け取らず、 今日買った服をもう一度着ていた。 帰宅してパジャマなりに着替えると思うので、僕がとやかく言うことではない。 「忘れていた」 開口一番、彼女はそう言って、居間の床に正座した。 「何をですか?」 「耳掻き」 ぽんぽん、と彼女は太股を軽く叩き、こちらを見上げた。 片手には耳掻きが握られている。 ……できればそのまま、ずっと忘れていて欲しかった… ではお言葉に甘えて、と言う訳にもいかないので、 首をひたすら左右に振ることに専念する。 「結構です」 「良くない」 「いりません」 「いる」 素早く伸びた長門さんの手が、ぐっ、と僕の右手の中指を強く握った。 そこに巻かれていた包帯は、入浴前に解かれていて、今はむき出しだ。 そこっ、腫れてるとこだって!ワザとやってるだろ!! 「いた、い、です」 「耳掻き」 「いりません…っ」 ぎゅうううう 「すみません嘘つきましたー! やっぱりお願いします!!」 「そう」 指を握る力が弱くなり、そのまま手を引かれ、彼女の太股に顔の側面を預けることになる。 なんだこれは。 彼女が無頓着でも、こっちはそうにもいかないのだから、 やっていいことと悪いことがあるだろう。 なんでスカート選んだんだよ… と数時間前の自分を呪う。 知らねえよ、こんなことになるなんて普通思わないだろ。 と数時間前の自分は言った。 普通、なんて言葉は三年半程前に見限ったつもりだったのだが、そう言い訳せずにはいられない。 あーあーあー、早く終われー、と呪文のように口の中だけで呟く。 「終わり」 その甲斐あってか、意外と早く耳から棒が抜き出された。 しかし、ほっ、と息を吐いた途端、 「次、反対向いて」 ごもっとも…耳はふたつあるんだよな… 一度起き上がり、反対側の耳が上を向くように動く。 これはどこの少女漫画だ、と眉が寄る。 どこの誰だ、僕の忍耐力やら精神力やら理性やらその他諸々を試しているのは。 受けて立とうじゃないか、とひとりで意気込んでいると、耳から違和感が消えた。 「終わりましたか?」 そう聞いても、長門さんは黙ったままだ。 頭を持ち上げたが、彼女に手の平でこめかみを押さえつけられ、さっきと同じ体勢のままで動けない。 「寂しい」 僕は真上を向いた。 「ひとりは寂しい」 彼女は僕を覗き込んでいる。 今日会ったあの女の子の目は、母とはぐれたと気付いた時、きっとこんな風に揺れていたのではないのか。 もしかしたら、長門さんは、今、彼女自身を迷子の女の子に重ねているのかもしれない。 気のせいかもしれないが、もしそうだったら、いつもの笑顔になればいい。 「寂しい、ですか」 「そう」 「あなたにも、そんな感情があるんですね」 「そう。一人暮らしは寂しい」 「僕も寂しいです」 「泊めて」 またえらい所に話が飛ぶものだ。 「駄目?」 「駄目です」 「私はひとり。あなたもひとり。あわせてふたり」 「それはそうですけれど」 「なら決定」 どうやら僕に拒否権は無いらしい。 この強引さ、涼宮さんの影響だろうか。 「歯磨き」 やっと起き上がることができた僕に、歯ブラシが突き付けられる。 はいはい、ともう抵抗する気力も失せて、僕は口を開いた。 「長門さんはどうぞベッドでお休み下さい」 その格好のままで寝るのは窮屈だろうと、長門さんに簡単な服を手渡すと、 脱衣所に入ってあっさりと着替えてしまった。 耳掻きをする前にそのジャージを履いて欲しかった。 「あなたはどこで寝るの?」 「ソファで寝ます」 「押し入れの方が安眠できると思われる。 私はそこを寝床にしているロボットを知っている」 「いえ…あんな、尚更ネズミが出てきそうな所では落ち着いて眠れません」 「確かに…では何故? 何故彼は、彼の畏怖の対象であるネズミがより出現しやすい押し入れで眠るの?」 「さあ…直接、その猫型ロボットに聞いて下さいとしか」 押し入れから毛布と掛け布団を引っ張り出して、ソファに被せる。 その際、長門さんは押し入れの上の段に登って、二分程そこに寝転がってから、また直ぐに下りた。 「今度、自宅の押し入れで寝てみる」 好奇心旺盛だ。けれど、隠れ家みたいで少し面白そうかもしれない。…やらないよ。 「そこでいいの?」 ベッドに飛び乗った長門さんが聞いた。 「僕のことはお構いなく」 ソファと布団の間に潜る。 「一緒にベッドで寝たとしても、私は構わない」 「僕が構います」 そんなことをして、何かあってからでは遅い。 遅いって何が?いや別に何も。 「そう」 長門さんはこちらを見て、 「おやすみ」 と壁に張り付いた電灯の電源を切った。 「おやすみなさい」 ここで寝返りをうったら転げ落ちるな。 「古泉一樹?もう寝たの?」 「起きてますよ」 「そう」 夏ならともかく、冬だと少し冷えてしまう。 「古泉一樹、寝た?」 「起きてます…」 「そう」 仮眠だとそこまで気にならないが、長い時間寝るとなるとソファは少し固い。 「古泉一樹?眠った?」 「………」 「古泉一樹?」 「起きてますけど…」 「そう」 「あの、あまり声を掛けられると、ちょっと…」 控え目にそう言うと、しばらくの間沈黙が流れた。 「眠れないんですか?」 「違う。 あなたがそこにいるということを、あなたの声がすることで確認したかっただけ」 「そうですか…」 「そう」 閉鎖空間でも発生しない限り、一度床に就いてから家を抜け出すことはなかなか無いのだが。 きっと長門さんに備わっているであろう、サーモグラフィティ等の機能を使用せず、声での存在確認。 …そうだ。 「寝物語りをしましょうか」 「お話?」 「そうです。 おとぎ話とか、童話とか…怪談や、本当は恐ろしいグリム童話等はできませんが。 あなたが寝付くまでお話しでも」 「金太郎がいい」 「日本人の殆どが完璧に説明できないで有名な話できましたね… えーと、昔々ある所に金太郎という名前の男の子が…」 「ある所ではない。物語の序盤の舞台は足柄山の山奥」 「ご存じでしたら僕が話す必要は無いのでは…」 「ある」 どこにその必要があるのやら毛頭見当つかぬまま、そこからは殆ど長門さんが物語の語り手になっていた。 これでは僕の方が先に眠ってしまいそうだ。 「そうして、坂田金時は酒呑童子を無事に退治した。と言い伝えられている」 「それで源頼光に褒美を頂いて、めでたしめでたし、ですか…」 「そう」 「そうですか…金太郎ってそんな話だったんですね… 眠い、です…」 「そう。私も」 「寝てもいいですか」 「いい。私も寝る」 その言葉に僕は目を閉じる。するとそのまま、くたっ、と眠れた。 色々と疲労が溜まっていたからだろう。その疲れが取れる筈の入浴が一番気苦労が絶えなかったから。 朝に強いとも弱いとも言えない僕を起こしたのは、先に目覚まし時計を止めた長門さんだった。 「起きて」 「ん」 「起きて」 「あーい…」 は、の発音ができず、それでもまだ布団の中でまんじりとしていると。 「起き――て!」 そう言いながら、助走をつけて腹に飛び乗られた。 「ぐあ!」 膝立てることねーだろ!! と叫ぶのもままならなず、自由な上半身のみで飛び起きれば、 僕に跨がっている長門さんのドアップで、うわうわ言いながら背中がソファに逆戻り。 コントか、コントがしたいのか一樹。 「起きた?」 「ええもう最高の目覚めです。誰かさんのおかげで」 体の上から退いた長門さんに、いつもの笑顔で痛むお腹を押さえ、ほんの少しの嫌味を垂れる。 「あなたは痛くされるのを好むの?」 嫌味は通じなかった。 「なんでそう話がぶっ飛ぶんですか」 「好き?」 「違います!」 何時何処でどんな状況で誰からそういう知識を得ているんだ。 朝っぱらからなんて会話だ、と洗面所に向かおうとすると、 『ラジオ体操第一!』 全部やってたら確実に遅刻しますよそれ。 結局遅刻は免れた。 体操は昨日のものを全てやったので、 終わった頃には徒歩では到底間に合わないであろう時間だったのだが、 ここでもう一度自転車に出番が与えられた。 「早く乗って」 「ふたり乗りで登校はちょっと…教師の目もありますし」 「遅刻したいの?」 「そういう訳では…」 自転車置場でもたもたする僕を見兼ねてか、 長門さんはさっさとスタンドを撥ね上げてサドルに腰掛け、こちらを振り返って言い放った。 「乗らないと置いて行く」 チリンチリン 「おはよう」 「あら有希、おはよ!…え?古泉くん?」 「お、おはようございます」 チリーン 「おはよう」 「おう、はよっす長門…はあ?古泉?」 「おはようございまーす…」 チリンチリーン 「おはよう」 「あ、おはようございますー長門さ……ふえ?こいず…」 「おはようございま、す…」 恥ずかしい恥ずかしい目茶苦茶恥ずかしい。 こっち見ないで欲しい、っていうか、なんで今日に限って登校中のSOS団全員に会わなきゃならない。 それになんで今日に限って長門さんは全員に挨拶するんだ。 わざわざベルまで鳴らして。 長門さんは三人ともすいすい追い抜かしたが、荷台で僕が縮こまっていた事に関して、 必ず後で涼宮さん達に追及されるんだろうな、今から頭が痛い。 とひとりで思い悩んでいると、坂のふもとの自転車置場に着いた。 「ありがとうございました…」 「いい」 見上げただけでうんざりとする坂を徒歩で登る。 「今日の僕の下駄箱には何が入っているんでしょうね」 昨日の剣山を思い返す。画鋲どころでは無かったな… 「さあ。ちなみに昨日の私の下駄箱には消しゴムのかすが隅に置いてあった。 恐らくは、あなたに好意を寄せている女子生徒の仕業」 うん…なんてコメントしよう……。 長門さんは、怒らせたら恐そうな人学年第一位に輝いてるから…当然と言えば当然か。 「ショボい」 うん…。 その日の僕の下駄箱には、いや、上履きの中には、良く練られた納豆が入っていた。 ちょ、たんま。ほんのちょっとでいいから暴言吐かせて…一言で済むから。 せーの、 「食べ物に罪はないでしょうが!!」 「そっち?」 と、下駄箱から丸められた紙屑を取り出しながら言う長門さんを尻目に、 僕はあらん限りの力で上履きを廊下に叩き付けた。 ああ、むしゃくしゃする。こんな扱いを受けた納豆の気持ちを考えてもみろ。 誰のために美味しく加工されたと思っているんだ。 買ったお前のためだろう!? 「いや、ツッコミ所が違う」 長門さんはそう言い、廊下に転がった上履きを拾い、口をもごもごとさせた。 復活の上履き。 さて、特筆すべきは全ての授業が終わった放課後、文芸部室にての事だ。 今朝の件についての、他の団員からの追及どころでは無かった。 いや、追及はされるにはされた。一時間目が始まる前の休み時間、教室に襲撃しに来た涼宮さんに。 なので、長門さんが昨日に限り僕の家に泊まったことや、 晩ご飯を作りに来てくれていることは勿論伏せて涼宮さんには寝坊して遅刻か、 と慌てて僕がマンションを飛び出した所でたまたま長門さんが通りかかり、 彼女の善意による思い付きで一諸に自転車で登校することになった、と説明した。 今の状況に至った経緯を順に追って説明するのももどかしいので、過程は省かせて頂こう。 僕は両肩に物凄く強い力を加えられ、腰を掛けた姿勢のままパイプ椅子に押さえ付けられていた。 その力は長門さんの両手に込められていて、彼女は僕の目の前で仁王立ちをかましていた。 「えー…と」 「却下」 「まだ何も言っていませんが…」 「あなたが、先程私があなたについて指摘し、 そして今から私が、あなたに実行しようとしている事から逃げようとしているのは明らか」 「いや、そりゃ、逃げもしますって」 「遠慮は無用」 「遠慮だとか言う問題では無くてですね…」 「私は有機生命体で言う所の雌に分類される。あなたは雄。 よって私には、あなたが今置かれている状況を完全に理解する事は不可能」 「はあ、まあ、長門さんには無縁でしょうねえ…」 「しかし、今のあなたは辛そうに見える」 「別に、あなたが思っていらっしゃる程問題は…」 「ある。あなたのそれは痩せ我慢」 「我慢、って…」 「間違ってはいない筈。私は私の発言に責任を持つ。 『あなたの手が完治するまで私があなたの生活をサポートする』」 「はあ、まあ、そんな台詞もありましたね…」 「それはこうとも言える。あなたの手が完治するまで私があなたの右手の役割を担う、と」 「だからって、何もこんなことまで…」 「恐らく、あなたの右手が正常に使えたのであれば、 あなたはこの様に追い込まれるまで放置しなかった筈」 「ええ、まあ、それは確かに」 「しかし、あなたのその不快感も今日で終わり。私がその始末をする」 「いや、マジでいいです、って!僕はそこまで気にしていませんから!」 「あなたが気にせずとも、私が気になる。もう限界」 「どうかお気になさらないでく――なんて物ポケットに入れていらっしゃるんですかあなたは!?」 「これは使用しないの?」 「しませんしません! あなたは、何か大きな勘違いをされているようですね、止めておきましょう!ね!!」 「却下」 「却下って!あなたにこういった経験があるとは思えません!」 「確かに、経験は皆無」 「なら!」 「やる気があれば何でもできる。これは名言。偉大な人の言葉」 「ひっ、人には努力や根性のみで出来ることと出来ないことが… とにかく一旦離して下さい」 「暴れないで」 「お断り、しますっ…手を退けて頂けませんか!」 「却下。これ以上は私が見ていられない」 「たんま!待った!結局それ使うおつもりですか!?」 「そう」 「いや、そんなの使ってやったら死にますよ!殺す気ですか!」 「男が細かい事でごちゃごちゃと…」 「男だからです!」 「わかった、文句は後程受け付ける」 「後では遅――」 「力、抜いて…」 「ちょ、わ、やめ、ぎゃああああ!!」 ひゅっ、と長門さんの右手が振り上がり、僕は彼女の手の中にあるカッターナイフの刃先を避けるべく、 渾身の力で彼女の左手を肩から払い、椅子から転げ落ちた。 しかし、無様に尻餅をついた体勢の僕が立ち上がるよりも先に、彼女のカッターが頬にぴたりと添えられる。 「あなたに無精髭は似合わない」 「ひ……!」 皮膚に、刃の冷たく固い感触を感じ、さーっ、と血の気が引く。 カッターで、髭は、剃れません…!! そう言おうとするが、後ちょっとでも刃が深く入れば、 間違いなく流血沙汰なこの状況に対する恐怖からか、 口がぱくぱくと空気を噛むだけで全く声にならない。 怪しげな機関に所属しているせいで、恐い目や痛い目には割と遭い慣れている筈なのだが、 それらと決定的に違っているのは、今の彼女に悪意は、それはもう全く、全然、これっぽっちも無く、 だからこそ、これ位で許してやらあ、ここまでやったら十分だろ、というラインが彼女には存在せず、 それがより恐怖を倍増させる。 更に、あんなに必死になって身に付けた護身術は、彼女相手には無効と来ている。 カッターとのゼロ距離に鳥肌を立て、僕は首をカッターから逃れる為に横に向けた。 ぎぎぎ、と効果音を付けても良さそうな程ぎこちなく。 今の今まで長門さんの説得に必死(しかもその説得も失敗への道まっしぐらだ)だったせいで全く描写していなかったが、 涼宮さん達も既にこの部室に居て、先程から僕達の会話を目の当たりにしているのだ。 そろそろ危険だ、と助太刀をしてくれても良さそうだと言うのに、しかし一向に誰も動く気配を見せない。 は、薄情者…。 傍観を決め込んでいる三人に、アイコンタクトで助けを求める。 S! 「しっかし、さっきの有希と古泉くん、会話だけ聞いてたらどえらい勘違いしそうだわ。 ね、みくるちゃーん」 O! 「ふえ?勘違いですかあ?別に何も… ああ、長門さん、カッター振り回しちゃ、危ないですよぉ…でもわたしじゃ止められないし… あれ?キョンくん、なんで震えてるんですか?」 S! 「刃物持った女子恐い腹えぐられるえぐられる朝倉止めて助けて嫌だ助けて助けて」 SOS送信ミス ………どっ、どいつもこいつも…!! 僕のSOS信号は誰にも届かなかったようだ。 いや、届くには届いたが、長門さんプラスカッターのコンボに立ち向かう勇気が無いのかもしれない。 僕だってそんな勇気は微塵も無い。 が、このまま大人しくしていると輪をかけてとんでもない事態に陥りそうなので、 ていうか、高々無精髭くらいで一々血の海に沈んでいては、この先命がいくつあっても足りない。 「ああっ、あんな所にキュアブラックがっ!!」 「なぎさ!?」 この部室のある校舎とは反対側に建っている校舎の屋上を指差す。 長門さんがプリキュア好きだというのは初詣の際に知ったことだ。 窓の方へ、足はその場に貼り付けたまま、上半身のみを大きく後ろに捻った長門さんから隙をついて飛び退き、 ドアノブに手を掛ける。この部室から逃げた所で彼女が諦めてくれるとは思わないが、ここはすったもんだをするには狭すぎる。 しかし、こんな見え見えの嘘に上手いこと引っかかってくれたな… 「この様に」 「え?」 「私が騙されるとでも」 長門さんはこちらを振り返ることすら無く、刃物を握った右手を肩越しに覗かせただけだった。 …僕の目には少なくとも、そうとしか映らなかった。 次の瞬間には、すかーん!と音を立て、扉にカッターが突き刺さった。僕のブレザーの裾を巻き込んで。 「な……!」 手裏剣!?あんたは忍者か!とか、ぶっちゃけありえなーい、とか、言いたいことは無限にあったが、 歯の根が噛み合わず、かちかちと音を立てただけだった。 あれ、僕ここまでビビりだったっけ…? あ…ヘタレ化……? でもこれだと、どちらかと言うとヘボ化では…? 頭がぐるぐるになっている僕を当然無視して、長門さんはすたすたと近付き、カッターを扉とブレザーから引き抜いた。 大きく切れ目が入ってしまったブレザーを見て、長門さんは、 「後程修正を施す」 と言い、またも刃物を構えた。 それなら無精髭をきれいさっぱり取り除いて下さい。 長門さんの右腕が、再び大きく振り上がって、風を切り裂きながら僕の顔面目掛けて迫って来た。 もう、それ、殺ろうとしているようにしか見えない。とても髭を剃ろうとする動作ではない。 腰が抜ける要領で、足の力を一気に抜き、扉にもたれ掛かって背中を落とし、危機一髪で逃れる。体育座りの姿勢だ。 が、それも虚しく、すぱっ、ぱさっ、と嫌な音が続いた。 「あ」 カッターを手にした、通り魔予備軍の少女の唇から小さく声が漏れた。 はらはら、と僕の肩に何かが降り懸かる。 なんだこれ…血、ではないな… 「ストップ、ストーップ!有希、やり過ぎやり過ぎ!!」 涼宮さんが、がらくたの山から美術に使う画板を引っ張り出し、盾にするように僕と長門さんの間に差し込んだ。 肩に落ちた、細い糸のような物を摘む。髪の毛だった。 どうやら、体を落としたはいいものの、髪が体について来れず、逃げ遅れてしまったようだ、 と、そこまで考えて、僕は卒倒こそはしなかったが、へなへな、と体育座りから、 内股を床にべったり付ける体勢になり、今度こそ腰が抜けた。 「大丈夫か古泉くたばってないか古泉チビってないか古泉立てるか古泉」 彼が、彼なりに心配してくれている顔で僕の前に立つ。 トラウマのせいか、まだ些か混乱気味のように、僕の名前を連呼している。 てか、チビってはない!!ないったらないからな!そこだけは絶対譲れない!! 「ななな、長門さん…カッター、わたしに預けてもらっても…?」 朝比奈さんまでおどおどしながらも心配してくれている。 ……みんな、ありがたいのだが、できればもう少し早い段階で助けて欲しかった… びくつく朝比奈さんに、刃をしまったカッターを渡した長門さんは、 彼に並んで僕の前に屈んだ。 「済まない」 長門さんは淡々と言葉を紡ぐ。 「あなたがなぎさをだしに、私から逃れようとたのに憤りを感じ、 少しばかりの制裁を与えようとした。が、度を越してしまった」 ほんとにな。 …そこまでなぎさを使われたのが頭に来たのか… ここで、彼女はひょこんと頭を下げた。 「…ごめんなさい」 「そうね、有希も反省していることだし、悪気があった訳じゃないし。 ね、古泉くん、許してあげて!」 全く、この人は寛大と言うべきか、大雑把と言うべきか… 実際、彼女がカッターで髪をちょんぎられたら、多分相手が誰であれ一生涯許さないだろうに。 はあー、と盛大に溜息をついて(それ位は優等生演技中の今でも許されるだろう)僕は力無く笑った。 「帰りに床屋に寄って、髪も髭も見れるようにします… 美容院だと、髭剃りは無理でしょうから」 「そうした方がいいわ。 古泉くんは爽やか美少年ポジションであって、無精髭が似合うワイルドタイプじゃないしね」 そう言って、涼宮さんは彼を暫くじっと見て、あんたも似合わないわね、きっと、と呟いた。 「立てる?」 長門さんが手を差し出す。 あっさりとその手に頼るのも情けないので、ぐっ、と力を入れて立ち上がろうと試みる。 が、腰が全く持ち上がってくれない。 「ちょっとキョン、古泉くんに肩貸しなさい」 「なんで俺が」 「あたしやみくるちゃんや有希じゃ力が足りないでしょ!」 「朝比奈さんはともかく、お前と長門はいけるだろ」 「はあ!?ふざけ――」 「私の責任。手出しは無用」 軽く口喧嘩になりかけていたふたりを長門さんが遮る。 そのまま彼女は強引に僕の膝を立てて体育座りにさせ、手を僕の肩と膝の裏に添える。 おいおいおいおいおいおい、これってまさか… 「世間一般で呼ぶ所の、お姫様抱っこに該当される」 「いやいやいや!何をさらっと!」 彼女の手を引き離し、そのままその手を押さえ付け、 足に力を入れると、火事場の馬鹿力か、ふらつきながらもなんとか立てた。 はー、危機一髪… もう少しで男の面目丸潰れだった… で、 「………」 なんで睨むんですか長門さん。 その日の団活動は、床屋が閉まらない内にと涼宮さんが僕に帰るように言い、 その途端、長門さんが本を閉じたので、じゃあ今日はこれでお開きね!といつもより早い時間で終わった。 「という訳で」 最後尾を、今日だけは長門さんと並んで歩き、僕は前の三人に聞こえないように少し声を落とした。 「帰りに床屋に寄るので、先に帰っていて下さい」 ポケットから部屋の鍵を出し、長門さんに手渡す。 ピッキングの現場を住人に目撃されるのは、なんとしても避けたい。 こく、と彼女は小さく頷いて、ポケットに鍵を滑り込ませた。 そのまま彼女は僕のブレザーの裾に手をかざし、その手が離れると、切り込みは塞がっていた。 「あいよ、坊や。お疲れさん」 そこまで髪が悲惨な目に遭っていた訳でもなく、ほんの少し鋏を入れただけで、元通りとはいかなくとも、 自分から言わなくては、切ったことすら団員以外は誰も気付かないと思われる程変化は見られなかった。 顎を支配していた不快感ともおさらばできて、 安堵と共にそのまま床屋の椅子に深く腰掛けたままでいたかったが、 携帯が着信音1を奏でたので、慌てて会計を済ませた。 Eメール一件受信。 定期報告せよ、とのことだった。 続く 「次回、花嫁修行危機一髪・完、お楽しみに」 「あ?坊や、誰に話し掛けてんだ?」 「…あ、いえ、ひ、独り言です…どうかお気になさらず…」 花嫁修行危機一髪・完へ
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【中学一年 ―― 2月第二週】 京太郎「(世間はバレンタインデームード一色だけど…)」 京太郎「(まぁ、俺には関係ないよなぁ)」 京太郎「(毎年貰えるの大体、決まってるし)」 京太郎「(今年もしず憧鷺森の3つくらいだろ)」 京太郎「(クラスの男子はそれでも羨ましそうにしてたけど…)」 京太郎「(義理チョコだけ3つ貰ってもなぁ…)」 京太郎「(それより本命チョコ一個貰える奴のほうが遥かに良いだろ)」 京太郎「(まぁ、別に本命貰いたい訳じゃないけどさ)」 京太郎「(…玄の奴、どうしてるかな…)」 京太郎「(今年は義理チョコくらいくれるかな…っと…)」 京太郎「(…あれ?あれは…やえ先輩?)」 京太郎「小走先輩」 やえ「ん…あぁ…須賀か」 京太郎「どうしたんですか?こんな下駄箱の前で」 やえ「いや…その…少し悩んでいた」 京太郎「悩み?俺で良ければ聞きましょうか?」 やえ「う…いや…お前に聞いても無意味というか…ほ、本末転倒というか…」 京太郎「??」 やえ「あ…いや…その…」 憧「あれ?京太郎、何やって…小走先輩」 やえ「はぅ!?」ビックゥ やえ「あ、いや…ち、違うんだ、これは」 やえ「べ、別にお前たちの中を引き裂こうとしてる訳じゃなくて、そ、その…」 京太郎「…??」 憧「あー…あたし…お邪魔みたいですし…」 やえ「い、いや!大丈夫だ!!あの…す、須賀!」 京太郎「あ、はい」 やえ「昼休み…ぶ、部室に来い!」 京太郎「え?」 やえ「…た、食べ終わった後でも良いから…必ず来いよ」ダッ 京太郎「え…あ…」 京太郎「…なんだったんだ?」 憧「…知らない」ムスー 京太郎「(って訳で部室に来たけれど…)」 京太郎「(先輩は…っているみたいだな)」 京太郎「(椅子の一つに座ってキョロキョロと周りを見てる)」 京太郎「(…なんか何時もと違って小動物みたいで可愛いな)」 京太郎「(ただ、あんな先輩を放っておく事は出来ないし…)」 京太郎「(名残惜しいけど…ノックしてっと)」トントン やえ「ひゃ、ひゃい!」 京太郎「失礼しまーすっと…」 やえ「あ…す、須賀…」パァ 京太郎「小走先輩、お待たせしました」 やえ「い、いや…私も今来た所だから…って」フル やえ「…二人っきりの時は?」ムスー 京太郎「あー…すみません、やえ先輩」 やえ「よろしい」ニコ 京太郎「それで…どんな用ですか?」 やえ「あー…そ、それは…ね」 京太郎「それは?」 やえ「…今日はほら…あ、あの日でしょ?」 京太郎「あの日…?あぁ、バレンタインですか」 やえ「う、うん…だから…あの…」モジモジ やえ「…はい。これ」スッ 京太郎「あ…ありがとうございます」 京太郎「…まさかやえ先輩から貰えるとは思ってもみませんでしたよ」ハハッ やえ「そ、それは…だって…君には普段からお世話になってるし…」 やえ「最近は色々あったみたいだから労う為にも…やっぱりチョコレートかなって…」カァ やえ「ま、まぁ…手作りだからあんまり美味しくないかもしれないけど…」 京太郎「えっ!?これやえ先輩が作ってくれたんですか!?」 やえ「わ、私だって女の子だし…お、お菓子作りくらいするもん」ムスー 京太郎「あ、ごめんなさい。そういう意味じゃなくて…」 やえ「…そういう意味じゃなくて?」 +2 00~50 少し意外で 51~99 すげー嬉しいです! ※男気により+6 少し意外で 京太郎「少し意外で」 やえ「それってやっぱり…」 京太郎「あ、そっちじゃないです。そっちじゃなくて…」 京太郎「その…俺が手作り貰えるなんて想像してなくてですね」 やえ「そうは言っても…今年も新子から貰っているんでしょ」ジトー 京太郎「まぁ、貰ってはいますけど…あくまで義理ですし」 やえ「えっ?」 京太郎「えっ」 やえ「はぁ…もう…君って奴は…」 京太郎「えー…?」 やえ「…良いか?チョコ作りって言うのは大なり小なり面倒くさいものなんだぞ」 やえ「そんなものを何とも思ってない奴にすると思うか?」 京太郎「って事は…やえ先輩もそうなんですか?」 やえ「ふぇっ!?」カァァ 京太郎「いや、やえ先輩も手作りな訳ですし…俺の事なんとか思ってくれているのかなって」 やえ「そ、それは…その…!こ、後輩としてだ!!」 やえ「大事な後輩としてだからな!勘違いするんじゃないぞ!!!」 京太郎「はは。大丈夫です分かってますよ」 京太郎「そこまで自意識過剰じゃありませんって」ハハッ 京太郎「でも、ほら、それはあいつらも同じですよ」 京太郎「憧と俺は付き合いも長いですし、幼馴染ですから」 京太郎「友チョコのついでに作ってくれているんだと思いますよ」 やえ「…はぁ」 京太郎「あれ?」 やえ「…いや…なんていうか本当に…」 やえ「…これでは新子に申し訳がたたんな…」 京太郎「あれ?やえ先輩?」 やえ「ぅ~…全部キミが悪いんだぞ…」 京太郎「俺ェ?」 やえ「そうだぞ…罰として…今ここでチョコを食べろ」 京太郎「いや…それくらいは別に構いませんけど…」 やえ「その後は感想文を4枚以上で提出するように」 京太郎「鬼ですか!?」 やえ「ふん。女の子の純情を弄ぶ奴にはこれくらいで十分だ」ツーン 京太郎「…そんなつもりまったくないのに…うぅ…」 やえ「…まぁ…責任持ってお茶くらいは淹れてあげるから」 京太郎「じゃあ、熱い紅茶お願いします…」グテー やえ「はいはい。じゃあ、ちょっと待ってなさい。もうお湯は沸かしてあるし…すぐ出来るから」クスッ 【System】 小走やえの思い出が7になりました 小走やえの好感度が8あがりました 現在の小走やえの好感度は40です
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ある夜の事だった、ある一軒の家の部屋で普通のベッドに普通の外装の部屋だ。 1人で窓に向かい何やらぶつぶつと呟いている女の子が居た。 綺麗と言っても差し支えない程の女の子だが人一倍目付きが悪い為良く性格が誤解 されがちである。 名前は柊かがみ、今は夜中なのでチャームポイントであるツインテールは解いてある。 姉妹で姉であるかがみは妹であるつかさの面倒を見ている所から面倒見が良く周りから 好評を得ている、そんな彼女だから家では変な趣味を持っている訳では無い。 彼女がこんなにも変なのは訳がある。 何度もコホンと咳払いをし予行演習をする。 「えと・・・私が・・・貴方を・・・えっと・・・」 ここぞと言う時喉から声を捻り出せないかがみ、普段はきっぱりとした性格なのに こういうのには上手く言えないとは何とも純情な女の子である。 何とか羞恥心を払い除け、声を続けようとする。 「えっと・・えっと・・・・えっと・・・・その・・・。」 顔が熱くなり高鳴る胸が心臓を痛くし締めつかれるような思いだ、あれだこれだと 考える内に眠りに付いてしまった。 適当にかがみは支度、朝食を済まし早々と学園に着いた。 学園に登校中こなた達が不穏がっていたがかがみは「大丈夫よ。」と適当に返事をして 早朝に固まった体を休ませていた。 普段生真面目とは思えない程ぐったりしている、ここで本来なら1時間目の授業の 準備をするのが当然だがいかんせんやる気が無いらしい。 そんなこんなで放課後になる、授業中もかがみの憂鬱は晴れなかった。 「お姉ちゃん、一緒に帰ろう。」 「つかさ・・・先に行っていいよ、私・・・さぁちょっと用事があるから・・・。」 「でも。」 「いいの、先に行ってて。」 普段の姉には似つかない難しい表情につかさはそれ以上口を開かなかった。 「わ・・わかった・・。」 放課後になって教室には誰一人として居なかった、あの2人を除いて・・・。 「何のつもりだ?この手紙を俺の下駄箱に置いたの。」 ある1人の男子が右手にある紙を挙げた。 「こんな回りくどい事しなくても用があるならいつでも言えばいいのに・・・。」 紙にはこう書いてあった。 『話があるから放課後残ってください-柊かがみ。』 それ以上もそれ以下も書いてない何とも不思議な手紙だ、何の工夫も無い紙を 丁寧に折りたたんでぽつんと置かれていた。生真面目なかがみらしくきちんとした字 と鉛筆で書かれていた。 かがみに呼ばれた男子は何かのいたずらだろうと思った、その男子は学園では取り立てて 目立った事の無い普通な男子だ、それをクラスでは一目置かれているかがみが呼び出す何て きっと誰かのいたずらの差しがねにしか思えないかった。 「これ・・・柊が呼んだの・・?」 場所は教室、時刻は放課後。 柊かがみが呼びだしたある男子生徒と柊かがみ本人だけが居る。 その男子生徒は何の変哲も無い一枚の封筒を挙げた。その中にはこう書かれてある。 『話があるから放課後教室で待って下さい―柊かがみ』 誰が見ても奇妙としか言い様が無いだろう、その男子生徒の名前する書かれてすら 無いのだ、用件すら書かれてないのでどうせ誰かのいたずらかと思い半信半疑で 教室で待っていた時が今の状況である。 「誰かのいたずらか?どっかにカメラでも忍び込ましてんのかよ?」 「あの・・・その・・・・。」 「そんな下らない芝居何てしなくていいって。」 「芝居なんかじゃないって・・・・。」 いつも強気なかがみには珍しい消極的な返事である、ますますわからない。 「私ね・・・その・・・」 かがみは一呼吸置いて呟いた、目線はその男子生徒を真っ直ぐ見つめている。 「貴方の事・・・好きみたい。」 「好き・・・・?」 その男子生徒はかがみが何を言ったかわからないと言った表情で首をかしげていた。 「何で・・・俺・・?」 「・・・・・・わかんない・・・。」 「へ?わかんない?好きなのに何でわからないんだよ!」 「だって本当にわからないんだもん!」 かがみはこれまでの経由を話した、聞く所によるといつも暇になればその男子生徒 の事だけを思い込んでいたらしい。 「それが恋だった・・・って訳か。」 「そうよ!大体何で告白されてそんなに冷静な訳!」 「だって・・・こんな・・いきなりでしかもまともに話し合った事無い人にこんな 事言われても・・・。」 「うるさいわね!でどうなの・・・。」 その男子生徒は眉をくねらせ俯いた、かがみの心境はこれ以上に無い緊張だと言うのに 罪な男である。 「断る。」 「な・・・何で・・・よ。」 「なんか・・そんなに風にしおらしく言われても・・・柊らしく無い・・っていうか・・・。」 「そうに決まってるじゃない!だって・・・!」 突然かがみは俯いて目線を逸らした、顔が赤くなってるのは夕日のせいでは無いだろう。 「好きな人の前で・・・いい女の子・・・演じるのは・・・当然の・・・・。」 いつもみないかがみの表情に慌てふためく男子生徒。 「いや違うんだ!別にそういう訳じゃ無いんだ・・・ごめん。つまり俺は柊にはしっかり している方が好きなんだよ・・・。」 「・・・・・・・。」 黙って聞き入れるかがみ。 「俺ってまだ全然運動も成績も駄目だし・・そんな時にもし柊が喝を入れてくれたら いいんだ・・・。だからこれから俺が駄目駄目になった時お前が俺をしっかりさせて 欲しいんだ、付き合うとかは違うんだけどな・・・。」 「ふ~ん・・・それって上手い方に逃げてる言い方してない?」 「べ・・別にそんな事して―」 「冗談よ。」 かがみはいつもの表情に戻った、あの面倒見のよいあのかがみに。 「そういうのも・・・悪くないかもね・・・。」 「これからもよろしくな・・・柊。」 「名前で呼んでよ、もう知らない仲じゃないんでしょ?」 「か・・・かが・・・。」 「何照れてるのよ。」 「うるさい!笑うな!」
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15歳の誕生日で女体化した俺は女性としての準備を数日間で済ませ、名前も真幸(まさき)から真希(まき)へと変わった。 中学校に久々に登校すると学校全体の俺に対する態度ががらりと変わっていた。 先生たちは腫れ物のように俺を扱うし、女子は元男という理由で俺を嫌う。 男子は「女体化したヤツはきれい」という例に漏れなかった俺を「そういった目」で常に見ている。 俺は孤立した。 最初こそ興味本位で話しかけてくるやつが多かったが、二週間もすると話しかけてくるやつは一人しかいなくなった。 卓也、俺の唯一の親友。もともと人付き合いの苦手だった俺は同じ小学校だったこいつしか元から話す相手がこの学校にはいなかった。 まぁ、だから女体化して孤立したのも当然といえば当然なのかもしれない。 小さい頃から俺と卓也は柔道教室で一緒で、中学でも一緒に柔道部に入った。 しかし、俺は女体化したときに身長や筋力を失って、少し悔しかったが退部届を出した。 退部したことに関して卓也は一切触れてこようとしなかった。 ……多分あいつなりに気を使ってくれたのだろう。 クラスが違う上に柔道部もやめたので卓也と会うことは前に比べて少なくなったけれど 今でもたまに卓也一緒に帰りながら色々とくだらないことを話している。 最近俺はこういう卓也といるときぐらいにしか笑えなくなっている。 というのも、クラスの奴らにとって異端者である俺は「いじめ」を受けていた。 卓也は柔道の地区大会程度なら楽に優勝できるぐらいのヤツだったので、卓也にわわからないような陰湿ないじめだった。 これぐらいの年代は色々なものから影響を受けるらしく 以前テレビのドラマやドキュメンタリーで見たようないじめを受けた。 本や机への落書きなどはまだ可愛いほうだったように記憶している。 そんないじめが日常に紛れ込んできて俺の精神は少しずつおかしくなっていったようだった。 卓也は違うクラスなのに最近俺のことをよく気にかけていてくれて、授業の合間の休憩時間にも来てくれる事が増えた。 休憩時間は家から持ってきた本を読むことが多かったが、いじめのせいで読める状態でないものばかりになってしまっていたし なにより卓也が来てくれて俺は嬉しかった。 今日も柔道部に出る前に俺のところに来て「最近お前なんかおかしくないか?」と心配してくれた。 俺は作り笑いをして「大丈夫だよ」とだけ言って卓也と別れた。 高校への推薦もかかった大会が近いのであいつに余計な心配事は作らないほうが良いよな。 そう思いながら、帰ろうと下駄箱のほうへ向かおうとすると、いきなり視界がぐらついて、どこかの教室に無理やり引っ張り込まれた。 そこでは、クラスの男子の半分ぐらいがいやらしい笑いを浮かべていた。 あぁ……そうか、と全部を理解すると絶望感が体を飲み込んでいって、俺はその場にへたり込んでしまった。 少し前までは卓也と同じぐらいに太かった腕も今は折れそうに細くて、上に乗っている男から逃げることは出来そうにない。 俺は、ただ糸の切れたマリオネットのようにただこいつらに犯されるんだ。 もう仕方ないんだと思ったら、悔しくて涙が溢れてきた。 涙がこいつらを興奮させることぐらい元男の俺はわかっていたけれど、どれだけ堪えても涙は止まらなかった。 だから俺は目を瞑った、怖くて悔しくてでももうどうしようもならない事だから、仕方のないことだからと、目を閉じた。 ふいに、体から重みが消えた。 目を開けると、上に乗っていたはずの男が誰かに引き剥がされていた。 卓也だった。 卓也が男を投げ飛ばすと、男は勢い良く机にぶつかって呻き声をあげるだけで動かなくなった。 俺は卓也から目が離せなかった。 俺と話しているときとも試合をしているときとも違う顔の卓也があいつらに何か言うと男たちはいなくなって、そして卓也は俺の横に座った。 「もう大丈夫だぞ」 卓也が言ってくれて、俺は地獄から救い出されたような安心感を感じてまた涙が溢れてきた。 俺は卓也にしがみついてただひたすらに泣いた、今までの事を全て吐き出してしまいたかった。 ……卓也は何も言わずにただ俺が泣き止むのを待っていてくれた。 「……卓也?」 「ん?」 「助けに…きて…くれたんだよっ、ね?」 「ああ。最近お前の様子おかしかったから、不安になって追いかけてみたらさ。」 「…そ、っか」 「もっと早くに気付いてればお前もこんな思いしなくてすんだのにな……ゴメン」 「……」 俺はただ嬉しかった。 卓也が来てくれたのが、助けてくれたのが、心配しててくれたのが嬉しかった。 俺は顔を上げて卓也を見上げた。 あいつらをやっつけてくれたときとは違う顔の卓也がいた。 あぁ……そっか……多分俺は卓也の事が…… 「…卓也、ありがと」 「……」 差し込んでいる夕日のせいかすこしだけ卓也の顔が赤い気がした。 「……俺さ」 「……?」 「……俺は……おまえが…」 「…ぇ?」 …… 「真希……帰ろうか。」 「……うん」 「もし……なんかあったらすぐ言うんだぞ…」 「うん……」 「じゃあ……」 「ちょっと待って!」 自分でも、なんでこんなに大きな声を出したかわからなかった。 でも知りたかった、さっき卓也が何を言ったのか。 聞き取れなかったけれど、なかったことにはしたくなかった。 だから卓也の制服をつかんでしまったんだろう。 でも俺にそれを聞く勇気は…ない。 「?……どうした?」 「……」 黙っていた俺の肩に卓也は手を当て、俺の顔を覗き込んできて…少し恥ずかしい。 「…おい…大丈夫か?どこか痛むのか?!」 「…大丈夫」 「…そうか、よかった。」 「……なぁ」 女になる前は背も同じぐらいだったのに、今は頭一つ分も上にある卓也の顔を見 つめる。 聞く勇気はないけれど……でも… 「……卓也のこと、好きになっても良いか?」 終
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私のやんごとなき王子様 1日目 私立星越学園――― その歴史は古く、学園の理事長は元華族の家柄という名門校。 当然のようにここに通う生徒達もまた社会的地位の高い者の令息や令嬢ばかり。 またそれだけではない。この学園は容姿の美しい者も多く、芸能活動をしている生徒も数多存在する。 そんな星越学園で最も盛り上がるのが年に一度、8月の初旬に行われる演劇祭だ。 この演劇祭は芸能各方面からのバックアップの元、大々的に行われる為に舞台も随分と本格的で各種取材が押し寄せる目玉イベントとなっている。 物語はこの演劇祭の準備期間から始まる――― 「美羽ーーーっ」 背後から呼び止められて、私はくるりと振り向いた。 「おっはよー!」 こちらに向かって元気に手を振りながら走ってくるのは、私の親友の佐波山渚(さわやま なぎさ)ーー通称さなぎだ。 「おはよう」 私も右手を上げて挨拶を交わす。 さなぎのショートカットの髪がふわりと風に揺れた。 「はーっ。朝から走ったぁ」 「そんなに慌てなくても良かったのに」 息を整えながら私の横を歩くさなぎに、微笑みながら言葉をかける。 「だって明後日の終業式が終わったら、いよいよ夏合宿じゃん! なんかわくわくしちゃって体に元気が溢れてるんだもん!」 さなぎは本当に嬉しそうだ。 夏合宿というのは、毎年演劇祭の準備期間中に理事長が所有するりぞーと島で行われる集中合宿の事だ。 けれどそこはこの名門校所有の島。それはもうすばらしくゴージャスなので、さなぎのテンションが上がってしまうのも分かるのだけれど…… 「ねぇねぇ、美羽は演劇祭なにを担当するか、いーかげん決めたよね?」 「う……実はまだ……」 「えー! おっそ! 明後日だよ? 締切ー」 「うん」 そうーー私はこの学園一大イベントの演劇祭で自分が何を担当するかを、いまだ決めかねている。だから当然テンションだって沈みっぱなし。 私たちが今回披露する演目は『白鳥の湖』。終業式翌日から始まる一週間の集中合宿で一気に形にしていく。 学園一大イベントの割に準備期間が短いとも思うが、そこは著名な芸能人も多く輩出している星越学園風の流儀で、時間をかけて良い物を作れるのは当たり前、短時間で成果をあげられる非凡な才能を持つもの達の結晶、それこそがこの演劇祭最大のアピールポイントなのだ。 「なにかしたい事とかないの?」 「うーん……」 したい事……。 そして出来る事……。 そのどちらも私にとってもは重要で、どうするべきなのかを考えると悩みの泥の中へと捉えられてしまう。 私は自分が何をすれば一番みんなの為になるか、成功につながるかが掴めずにいた。 ワァァァァァッーー 不意に校門のほうから歓声が上がった。 「あ、亜里沙様だ」 さなぎの声が耳に届くと同時に、私の視線はとびきりの美少女を捕らえていた。 黒塗りのリムジンから品良く降りてきた、その見目麗しい少女こそ『桜亜里沙(さくらありさ)』。 この星越学園一の美少女であると同時に、芸能界で今もっとも注目を集めているアイドルだ。今度の演劇祭でもヒロインのオデット役を務めるのは、おそらく彼女だろう。 「ごきげんよう」 我先にと校門に集まったとりまき達に、長く美しい髪を揺らしながら艶然と微笑むその姿は、まさに天使だった。 彼女はそのまま歩みを進め、私の目の前までやってくると綺麗に微笑んだ。 「ごきげんよう、小日向さん」 「おっ、おはようございます! 亜里沙様っ」 突然に学園のアイドルに声をかけられ、私は上ずってしまった。 私なんかの苗字を覚えてくれていた事に、心臓がばくばくと早鐘を打っている。 彼女のとりまきたちは私の顔を恨めしそうにねめつけている。正直コワイ。 「あなたの事は玲君から聞きますのよ、ごく稀に……ですけれど」 「え! 風名君から!?」 私が驚いて声を上げると、彼女の綺麗な眉が一瞬ひそんだ……ような気がした。 「ええ。今、ドラマの現場でご一緒しているのですけれど、その合間にたまにお話してくださりますの、あなたの事」 「は……はぁ」 はぁとしか言いようが無い。風名玲(かぜなれい)君というのは、この学園の生徒で私や亜里沙様と同じ高校3年生。 ただ普通の生徒と違うのは亜里沙様と同じく芸能界にいて、しかもやはり彼もトップアイドルという事だ。 この星越学園の姫が亜里沙様なら、風名君はまさに王子様。女生徒の憧れの的なのだ。 今は亜里沙様と連続ドラマのダブル主演を務めていて、亜里沙様はその合間に風名君が私の話をしてるっていうけど……。 私からしたら理由もさっぱり分からない。確かに私と風名君は3年間同じクラスで、男女関係無く誰にでも優しい風名君とは少なからず接点はあった。けれどそれだけ。本当にただのクラスメイトの一員で、しかも私のような何の取り柄も無い人間の事を風名君が話題に出す理由が見つからないのだけれど……。 「小日向さんは演劇祭、何を担当なさるの?」 「ええっと……演劇祭は……まだ……決めれてなくて」 「そう。演劇祭にはわたくしも玲君も参加致します。メディアの方も多く取材に来られますわ。あなたも、悔いのないよう精進遊ばせ」 そう言うと亜里沙様は綺麗に微笑んで、私を横切り校舎へと向かった。 その後をインプリンティングされた雛のように、とりまき達が追っていく。とりまき達は私の横を通る時に、悪態をついたり睨みつけたりしてきた。 「感じ悪ぅ~~」 その様子を見て、さなぎが口を尖らせながら呟いた。 「いいよ、さなぎ。私だってびっくりしてるもん」 そう、本当に驚いていた。 だって‘あの’亜里沙様に声をかけて頂くなんて。しかも風名君が私の話をしてる? 私のいない所で? どうして? その事実がとても意外だっただって風名君は私にとっても雲の上の人っていうか……。 そんなことを考えている私は、さなぎとの会話にもすっかり上の空で、気づけば下駄箱、無意識のうちに右手には上履きを持っていた。 1日目・No.2へ ブラウザを閉じてお戻りくださいv 私のやんごとなき王子様トップへ戻る