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ディセプティコン・ゼロ back / next 学院長室に、ミスタ・コルベールの興奮した声が響く。 室外に佇むミス・ロングビルは耳を澄ませてみるものの、内で発せられるその声が洩れ聞こえる事は無かった。 「つまりオールド・オスマン! あれはマジックアイテムなどではなく、紛う事無き『銃』だったのですよ!」 「ふぅむ・・・・・・」 沸き立つ感情もそのままに叫ぶコルベールに、オールド・オスマンは得心がいったという様に頷く。 その様子にコルベールは、訝しげに目の前の老人を見た。 「・・・・・・驚かないのですね?」 「予想はしておったよ。あの引き金を見れば、誰だって銃を思い浮かべるわい・・・・・・尤もすぐに考え直すじゃろうがの」 苦笑しつつ答えるオスマンに、コルベールもまた曖昧な笑みを浮かべる。 このハルケギニアの人間が『あれ』を見たとして、銃だと断言出来る者が果たしてどれだけ居る事だろう。 「とにかく、ミスタ・コルベール。『火竜の息吹』の取り扱い方は極秘という事にしておいてくれ」 「勿論です。分析結果を示した書類は、同じチェストに入れておきます」 「頼むぞ。ところで、『破壊の槍』の方の分析はどうなっとるかの?」 その質問にコルベールは、打って変わって意気消沈した表情を浮かべる。 「殆ど進んでいません・・・・・・引き金を引こうにも、何らかの安全装置が掛かっているらしく・・・・・・」 「そうか」 口惜しげに語るコルベールとは対照的に、オスマンは何処かほっとした様に呟いた。 そしてコルベールを慰める様に、奇妙な言葉を発する。 「だが寧ろ、引き金を引かずに済んだ事は幸運かもしれんぞ、ミスタ・コルベール。もし君の研究室であれが放たれれば、今頃・・・・・・」 「失礼します」 オスマンの言葉を遮って入室してきたのは、室外で待機していたミス・ロングビル、そして汗だくで荒い息を吐くミセス・シュヴルーズだった。 その尋常ならざる様子に、室内の2人も一瞬で表情を引き締める。 「何事かね」 「ヴェストリの広場で・・・・・・生徒が・・・・・・決闘を・・・・・・」 意気も絶え絶えにシュヴルーズが吐き出した言葉に、オスマンは拍子抜けした様な表情を浮かべた。 コルベールも同様で、そんな事かといわんばかりに溜息を吐いている。 「なんじゃ・・・・・・暇人どもの馬鹿騒ぎか。放っておきなさい、その内飽きるじゃろ」 「グラモン・・・・・・ミス・ヴァリエールが・・・・・・」 呆れを隠そうともせずシュヴルーズを宥めようと言葉を発したオスマンだったが、当のシュヴルーズはそれが耳に入らないかの様に何かを呟いている。 それに気付いたロングビルが、もっと良く聴き取ろうと耳を近付けたその時、シュヴルーズが必死の形相で叫んだ。 「殺されます・・・・・・ミスタ・グラモンと、ミス・ヴァリエールが・・・・・・殺されてしまう!」 学院全体を揺らす地響きが轟いたのは、それと同時だった。 時は僅かに遡り、ヴェストリの広場。 キュルケとタバサが其処へと辿り着いた時、既にルイズとギーシュは広場の中央で敵と向かい合っていた。 遅かったか、と歯噛みするキュルケを余所に、2人は杖を構える。 そして敵は余裕を滲ませた笑みを浮かべ、風の系統が誇る悪夢の呪文を唱えた。 『ユビキタス・デル・ウィンデ・・・・・・』 瞬間、2つの人影が7つに分裂する。 一方の遍在は2体、さらに一方は3体。 本体も含め、計7体。 それが2人が相対する敵の数だった。 「あはは・・・・・・声も出ないか? 僕等に歯向かう事がどれだけ愚かな事か、今更解ったってところか」 「風は遍在する・・・・・・風の吹く所、何処と『ワルキューレッ!』なぁッ!?」 見下す様な眼で2人を貶める敵。 しかしその御高説は、広場を覆いつくさんばかりの薔薇の花弁と共に現れた青銅の戦乙女達の突撃によって遮られた。 各々の得物を手に、果敢に敵へと襲い掛かる5体のワルキューレ。 その突進力に面食らった敵は態勢を崩すも、次の瞬間には1体のワルキューレが首を飛ばされる。 『エア・カッター』だ。 「チッ!」 「ファイアーボールッ!」 舌打ちするギーシュの横でルイズが『ファイアーボール』を唱えるも、失敗魔法の爆発は狙いが安定せず、命中したものは1発も無い。 周囲の生徒達から巻き起こる笑い。 しかしそれに狙われた当人は、その威力に内心肝を冷やしていた。 (何だ!? あれが・・・・・・失敗魔法だって? 冗談じゃない! あんなもの喰らったら、火傷どころじゃ・・・・・・!) 背筋を走った冷たい感覚に、彼はぶるりと震えた。 曲りなりにもトライアングルメイジ、瞬時に思考を切り替え、全力で敵を叩き潰すべく次の呪文を唱える。 「エア・ハンマー!」 その声と共に杖から暴力的なまでの突風が放たれ、それは未だに『ファイアーボール』を唱えていたルイズに直撃する。 「きゃっ!」 「ミス・ヴァリエ・・・・・・ぐぅッ!」 「お前もだッ!」 吹き飛ばされるルイズに気を取られたギーシュが、遍在を含めたもう一方の敵3体からの『エア・ハンマー』で壁に叩き付けられる。 地面へとずり落ちたギーシュは何処か内臓を傷めたのか、その口から咳と共に僅かな血を漏らした。 その姿に、ギャラリーの所々から微かな悲鳴が上がる。 「う・・・・・・ぐっ・・・・・・」 「どうした? 大口叩いた割には大した事が無いな。所詮ドットはこの程度か」 「な・・・・・・貴様・・・・・・僕の事を知って・・・・・・」 敵の言葉に含まれた『ドット』という単語に反応したギーシュ。 相手はどちらかといえば端整に見えるその顔に厭らしい笑みを浮かべ、勝ち誇った様に語りだした。 既に5体のワルキューレ全てが撃破されており、ルイズは気絶、ギーシュは負傷によって動けず、大方の勝敗は決した様に見える。 「知っているさ、グラモン家の末息子。兄弟に比べて随分と劣った出来らしいな」 「っ!」 「見栄を張るしかないグラモンの家には、女を誑かすしか能の無い失敗作がお似合いだよ」 その言葉と同時、ギャラリーの一角が俄かに騒がしくなる。 見れば、食堂を出て部屋へと戻った筈のモンモランシーが、級友達に抑えつけられているではないか。 どうやら決闘の話を聞き付けて、居ても立ってもいられずに此処へと駆け付けてきたらしい。 そしてギーシュへの暴言に耐えられずに思わず飛び出そうとした所を、彼女が巻き込まれるのを防ごうとした級友達に抑えられているという訳である。 しかしその彼女の目の前で、ギーシュとルイズへの暴言は更に続く。 「おまけにヴァリエールの出来損ないとデキているとあってはな。まぁ、失敗作と出来損ない、お似合いではあるか」 楽しそうに声を張り上げる2人の脳裏には、ヴァリエール家とグラモン家の力など欠片も浮かんではいなかった。 実際に陰謀渦巻く王宮などに出れば、そんな命知らずな真似は決して出来ないだろう。 しかし彼等は未だ学生の身。 散々に自らの家名を盾にしてきたにも関わらず、魔法の才能で劣ると判断したルイズとギーシュに対し、自らと比べ遥か格下の相手であるかの様に振舞う。 結局のところ、彼等は井の中の蛙だった。 「どうした? 少しは反論したらどうか・・・・・・ねッ!」 「がっ!」 遍在の1体が、ギーシュの腹に蹴りを入れる。 少し離れた所では、相方の遍在がルイズを『レビテーション』で浮かし、壁へと叩き付けていた。 どうやら本気で動けなくなるまで痛め付けるつもりらしい。 「ほらほらほらほらほらほらァ! 何とか言ったらどうだい、えぇ?」 「う、うああっ、ぐ、ぇえッ」 「・・・・・・なんだ、こっちはもう気絶してるぞ」 眼前で繰り広げられる余りの非道に、其処彼処から悲鳴が上がる。 血反吐を吐くギーシュを仰向けにし、その腹を繰り返し踏み付ける3体の遍在。 本体は少し離れた場所から、薄笑いを浮かべながらその様子を見守っている。 一方でその相方は気絶したらしきルイズを広場の中央へと放り出し、呼び出した己の使い魔を差し出した腕にとまらせて下卑た笑みを浮かべた。 「トーレスの仇を討たなければな・・・・・・なぁ、イルミー?」 主の呼びかけに応える様に、その腕にとまったオオワシが羽を広げつつ甲高く鳴き声を上げる。 そして主はその腕を掲げ、隠し切れない愉悦の表情を滲ませた。 「まぁ・・・・・・片目くらい無くても、楽しむ事は出来るだろう」 差し出した腕をルイズへと向け、余りにも非情な命令を使い魔に下す。 「抉り出せ、イルミー!」 その命令にイルミーは、一際高い鳴き声を上げて羽を打ち下ろし、意識の無いルイズへと向かうべく主の腕を離れた。 堪らずキュルケが、それに呼応してタバサが杖を構えた、その瞬間。 青銅の豪腕が、哀れな使い魔の体を握り潰していた。 「・・・・・・イルミー?」 目の前で起きた事を受け入れられず、呆然と呟く主。 そして我に返った瞬間、己の使い魔を握り潰した腕が自分の背後から伸びている事に気付いた。 若干離れた場所で、思わず踏み付ける脚の動きを中断していた3体の遍在の足元から、息も絶え絶えながら可笑しくて仕様が無いといった声が洩れる。 「本当は・・・・・・ヴェルダンデが見分けるのを待って・・・・・・仕掛けるつもりだったんだけど・・・・・・ね・・・・・・」 「な・・・・・・に?」 背後から抱きしめられる様にして押さえ付けられた彼は、ぼろぼろのギーシュから放たれる言葉に凍り付いた。 見れば自分の足元には小さな穴が開き、その中に小さな光る目らしき物が動いているのが見て取れるではないか。 「どれが本物か判らないから・・・・・・1つだけ異なるニオイを・・・・・・探させたんだ」 「お、お前・・・・・・」 「でもまさか・・・・・・『自分から』名乗り出てくれるなんてね」 その言葉に今度こそ遍在も含め、7つの人影が凍り付く。 ギーシュの言う通り、彼等はよりにもよって自らの行動で、どれが本体かを敵に教えてしまったのだ。 片や、1人安全な場所から遍在の行う暴行を眺めていた。 片や、呼び出した使い魔を自身の腕にとめた。 既に勝負は決したとの思い込みから来た、致命的な失策。 ギーシュは激しい暴行を受けながらも、決してそれを見落とさなかった。 最初のワルキューレを錬金した際に、演出を装って広場中にばら撒いた薔薇の花弁。 その中で敵本体に最も近い1枚から、ワルキューレを錬金したのだ。 「そして・・・・・・これが僕等の切り札だ」 「エア・カッター!」 ギーシュの言葉が終わるか否かというところで、ワルキューレの胴体が斜めに切り飛ばされる。 抱え込まれた人間が巻き込まれぬよう、絶妙な角度で射ち込まれた一撃。 それは遍在の1体が放ったものだった。 同時に勝ち誇った様な、嘲りの声が上がる。 「切り札だって? それはこの青銅のゴミ・・・・・・!」 「そう・・・・・・そうすると思ったよ」 『勝利への確信』に満ちた声は、ギーシュの『確実な勝利への確信』に満ちた声によって遮られる。 ワルキューレを切り飛ばした当の本人は、その内部から零れ落ちた無数の『石』を見て呆けた顔を晒していた。 「僕のワルキューレは・・・・・・中が空洞でね・・・・・・」 その無防備な相手に対しギーシュは、一片の慈悲も無く止めの声を発する。 「ヴェルダンデが集めたんだ・・・・・・それだけの石礫の中で・・・・・・『爆発』が起こったら・・・・・・どうなるだろうね・・・・・・!」 「やめっ・・・・・・」 「ミス・ヴァリエールッ!」 その瞬間、気絶したと思われていたルイズが跳ね起き、杖を構えて呪文を唱えた。 「錬金ッ!」 瞬間、石礫の1つが爆発を起こし、その爆風によって飛び散った周囲の石礫が敵本体を激しく打ち据えた。 防御する暇などある筈も無く、無数の破片を受けた彼は数メイルも吹き飛ばされて地面に転がる。 同時に、2体の遍在もその姿を消した。 「なっ!?」 「ヴェルダンデ!」 そして間を置かず、もう一方の本体の足が吸い込まれる様に地に沈む。 ウェルダンデが掘った落とし穴だ。 そしてこちらの背後にも、青銅の死神がその姿を現す。 「あ・・・・・・あ・・・・・・」 「さて、ミス・ヴァリエール・・・・・・さっき彼は、僕等が何だって言ってたかな?」 仰向けに地に転がったまま薔薇の造花を咥えたギーシュが、ワルキューレへと杖を向けるルイズに問い掛けた。 遍在に囲まれ血を吐きつつも、その顔は何時も通りの気障な表情を浮かべている。 そして対するルイズの声もまた、何時も通りの気丈さに満ちたものだった。 「さあ・・・・・・忘れちゃったわ。でも別にいいんじゃない? 何せ・・・・・・」 「ああ、そう言えばそうだね。何せ・・・・・・」 前屈みになったワルキューレの首が落ち、中から無数の石礫が零れ落ちる。 自身の頭に当たるそれらの硬く冷たい感触に、首の無い戦乙女に抱きしめられた彼は絶望の表情を浮かべた。 『まともに喋る事も出来なくなるんだからねッ!』 そして『錬金』の呪文と共に、彼は石礫の暴風に呑み込まれた。 「・・・・・・はぁ」 「ぐっ・・・・・・ふぅ」 呻き声と共に2人が身を起こし、互いの姿を見て笑みを浮かべた、その瞬間。 ヴェストリの広場に、耳を劈く様な歓声が上がった。 「ルイズッ! ルイズ、ルイズ、ルイズルイズルイズッ!」 「なっ、ちょ、キュルケッ・・・・・・ふみゃうっ!」 「嗚呼、ルイズ! やった、勝った、勝ったのよトライアングル2人に! 凄いわ!」 「むーっ、むーっ!」 「・・・・・・お美事」 駆け寄ってきたキュルケに熱烈な抱擁を受け、呼吸困難に陥るルイズ。 キュルケはルイズの額から滲む血が己の服を汚すのにも構わず、彼女を抱きしめたままくるくると回転する。 タバサはそんな2人を何処か羨ましそうに眺めつつ、心からの賛辞をルイズとギーシュに送った。 一方でギーシュは・・・・・・ 「やあ、モンモランシー」 「・・・・・・」 「あ、あはは、見ていてくれたかい、僕の戦いを? いやあ、如何にトライアングルとはいえ、僕のワルキューレの前には・・・・・・」 「ギーシュ」 「はい」 ギーシュ、直立不動。 初めて王の前に立った新米騎士の様に、冷や汗を流しながら俯いたままのモンモランシーの言葉を待つ。 しかし続く言葉は予想していたような怒声ではなく、か細く震える涙声だった。 「こんな・・・・・・こんな無茶して・・・・・・」 「・・・・・・」 「死んじゃうかと・・・・・・思ったじゃないっ・・・・・・」 「モンモランシー・・・・・・」 「もう・・・・・・こんな無茶・・・・・・しないでよっ・・・・・・」 しゃくり上げるモンモランシーの肩に、ギーシュはそっと手を置く。 そして泣き顔を上げたモンモランシーの耳元に口を近づけ、何事かを呟いた。 するとモンモランシーの顔が一瞬にして赤く染まり、次いでギーシュの頭を可愛らしく叩き始める。 ギーシュは笑いながらそれを宥めていたが、それらの声は周囲の止む事の無い歓声に掻き消されて誰の耳に入る事も無かった。 そして数分後、ルイズとギーシュは周囲の友人達に見守られながら、互いの健闘に賞賛の言葉を送り合っていた。 「まさかあそこまで上手くいくとはね・・・・・・アンタのワルキューレ、なかなかのものじゃない」 「ふっ、何を今更。しかしあんな作戦、よく思い付いたものだね」 「アンタがワルキューレの特徴を事細かに教えてくれたからよ・・・・・・その、感謝するわ」 そっぽを向いて言われたその言葉に、ギーシュは苦笑しながら手を差し出す。 それを眼にしたルイズも、一瞬戸惑いを見せたもののすぐに手を差し出し、2人は握手を交わした。 周囲からは再び割れんばかりの歓声が上がり、2人の顔にもまた笑みが浮かぶ。 そしてそんな2人にキュルケ、そしてモンモランシーが駆け寄ろうとして――――― 「エア・カッター!」 無数の風の刃が、2人を襲った。 「えっ!?」 「きゃあっ!」 咄嗟に腕で顔を庇う、キュルケとモンモランシー。 刃の暴風が通り過ぎ、腕を下ろして見た先に、ルイズとギーシュの姿があった。 「ルイズ・・・・・・」 「ギーシュ、良かっ・・・・・・」 無事らしき2人の姿に安心したのも束の間、周囲の生徒達は凍り付いた。 ルイズ、そしてギーシュの全身から、夥しい量の血が噴き出したのだから。 「ルイズ!」 「ギーシュ、ルイズ!」 動きを止めたのは一瞬の事。 すぐさまモンモランシーが駆け寄り、2人に治療を施そうとする。 しかし次の瞬間、その華奢な体が『エア・ハンマー』の暴風に吹き飛ばされ、床へと強かに打ち付けられた。 「モンモランシー!? くっ!」 キュルケ、タバサ。 そして複数の生徒達が杖を構えた先に、その2人は立っていた。 服は至る所が破け、全身から血を流してはいるものの、憎悪と殺意に濁ったその双眸は爛々と輝いている。 「アンタ達・・・・・・」 「出来損ない風情が・・・・・・調子に乗りやがってぇ!」 「殺してやる! 豚の相手など生温い! 切り刻んで鼠の餌にしてやる!」 怨嗟の叫びと共に、再び遍在がその姿を現す。 どうやら既に詠唱は済んでいたらしい。 そして2人のその言葉によって、キュルケの瞳に灼熱の憎悪と憤怒が燃え上がる。 「いいわ・・・・・・アンタ達はこの決闘を汚した・・・・・・此処から五体満足で帰れると思わない事ね・・・・・・!」 その背後ではタバサがその眼に絶対零度の怒りを浮かべ、無言で杖を構える。 意識の無いルイズとギーシュ、モンモランシーの周囲には級友達が集まり、何としても3人を守ろうと同じく杖を構えていた。 そして、ルイズ達を級友諸共切り刻もうと、7体の敵が詠唱に入った、その瞬間。 ヴェストリの広場上空を、轟音と共に巨大な影が飛び去った。 広場に詰めた全員が空を見上げ、絶句する。 其処には金属の巨体から放たれた無数の火球が白い尾を引き、空中を白一色に覆い尽くしていた。 視線の遥か先には濃灰色の鉄塊が移り込み、既に点ほどの大きさになっているというその事実が、鉄塊の誇る異常なまでの速度と上昇力を示している。 しかし、ヴェストリの広場に居る者達が眼を奪われたのは、そんな事ではなく。 鉄塊の尾の下で、ゆっくりと閉じてゆく空洞から飛び出した何かが。 日の光を受けて鈍く輝く何かが。 生物の様で、決してそうではないと解る何かが。 白煙の層を突き破って広場へと落下してきたという事実だった。 そしてトリステイン魔法学院に、異形の咆哮が響き渡る。 これこそが、後に永く語り継がれる事となる『虚無の鋼鉄の使い魔』こと『動く兵器庫』、そしてその僕『鋼鉄の蠍』こと『地中の暗殺者』により引き起こされる数々の惨劇、その第一幕の始まりであった。 back / next
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前ページルイズ×なのは(幼) 煙が晴れ、ようやく姿を現した人物の顔をルイズは覗き込むようにして訊ねた。 「あんた誰?」 それは茶色の髪をツインテールに結んだ小柄な女の子だった。少女は答える。 「えっと、高町なのは。なのはだよ」 十歳くらいだろうか。少女らしい可愛らしい声だ。だが、名前だけ言われても素性がわかるわけではない。 質問の仕方が悪かったかもしれない。 「その格好、平民よね」 黄色いパーカーにオレンジ色のスカートといった格好は、貴族の間では見られない。 平民の普段の格好などよく知らないが、あまり高級感が感じられないから平民の衣服なんだろうとルイズは結論付ける。 「あのぅ、どちらさまでしょうかぁ」 「ルイズ・フランソワ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 平民は一度で覚え切れなかったようで、困ったように頬をかいた。 「えっと、それで、そのルイズさんが私になんのご用でしょうか」 周りからは平民を呼び出しただの、ゼロのルイズだのとあざ笑う声に混じって、一部ロリコンの息遣いが聞こえてくる。 ルイズは顔を真っ赤に染め、口早に状況を説明すると、まだよく飲み込めていない様子の平民にコントラクトサーヴァントを行った。 平民の左手にルーンが刻まれ、契約は無事に完了した。 「べ、別にあんたみたいな平民の使い魔で満足したわけじゃないんだからね、し、しし、進級のためよ、進級の!」 「コントラクトサーヴァントは無事に完了したようだね。珍しいルーンだからちょっとスケッチさせてもらえるかな」 コルベールが授業を終わりにすると、ほかの生徒たちが空に浮かんで飛び去っていく。 ルイズとなのはは、その場に取り残された。魔法で飛んでいく生徒たちを見上げて、なのはは尋ねる。 「ここは魔導士の訓練所かなにかなんですかぁ?」 「トリステイン魔法学院よ」 「う~ん、知らないなぁ。ねえレイジングハート、クロノ君たちと連絡とれる?」 なのはが胸元の赤い宝玉に話しかける。 マジックアイテムかなにかなのだろうか、宝石に話しかけること自体は奇異にも思わないが、ルイズは平民がマジックアイテムを持っていることに疑問を抱いた。 「あんたのそれ、なにかのマジックアイテム?」 「はい、レイジングハートっていって、インテリジェントデバイスなんですけど・・・・・・」 そう言って、なんども宝玉に話しかけてみようとするなのはだが、一向に返事が返ってくる様子はない。 まあ、平民が持っているくらいだから安物のアイテムなのだろう。 おおかた貴族が作るのに失敗したマジックアイテムの一部をたわむれに平民にくれてやったのだろう。 「壊れちゃったんじゃないの?」 レイジングハートのなのはの間に結ばれた絆の強さを知らないルイズはいとも簡単に残酷な質問を投げかける。 なのはは大きく目を見開く。 「そんなはずない、修理すればきっと直ってくれるよ!」 十歳くらいの女の子の思わぬ剣幕に圧されて、ルイズはわずかにひるみ、気まずさを感じながら答える。 「そ、そう。まあ、大事にしまっときなさい。あんまり大事そうにしてると、盗られるわよ」 貴族は平民のものなど欲しがりはしないが、なかには質の悪い連中が悪戯で隠したりするかもしれない。 最近では不思議と少なくなったが、ゼロのルイズと揶揄され始めた頃には、授業中にちょっかいを出されたり、いろいろ嫌なことがあったので、ルイズはなのはに忠告を与える。 その後、ルイズはなのはを自室に連れて行き、住んでいる土地の名前などを尋ねてみたが、あまり情報は得られなかった。 わかったのは、なのはの年齢がジクウ管理局というところと連絡を取りたがっていることと、彼女が大切そうにしているマジックアイテムがとても大切なものということだけだった。 そのジクウ管理局とやらに親が勤めているのかとルイズが訊ねると、そうではないという。 十歳の女の子を突然に親元から引き離してしまったということに罰の悪さを感じているルイズだったが、どうもなのはは普通の十歳とは違うようだ。 翌朝、早起きのなのはに起こされて食堂へ行くと、見慣れた豪勢な料理に混じって、小さな一枚の皿が自分の近くに運ばれてきた。 ルイズが昨日のうちにコック長に使い魔の料理を頼んで置いたのだが、あまり見たことのない料理だ。 薄く焼いた卵で包んで、その上にトリステインの国旗が刺さっている。 「ねえ、これの中身はなにが入ってるの?」 「これはマルトーさんが考案したオムライスっていう料理なんです。 料理長のマルトーさんが、すっかりなのはちゃんを気に入っちゃったみたいで、腕によりをかけて作ったんですよ」 なのははいつの間に仲良くなったのか、メイドと仲良さそうに話している。 シエスタが厨房に呼ばれて去った後、ルイズはなのはに小声で尋ねた。 「あんた、いつの間にあのメイドと仲良くなったの?」 「シエスタさんとは今朝、洗い場でお友達になったんです」 話によると、なのはは今朝、朝の散歩に出かけたものの学園内で道に迷ってしまい、シエスタに助けてもらったのだという。 なのはの説明にルイズは一応納得したが、平民の子供とはいえ貴族の使い魔になったのだから、きちんと自覚も持ってもらわないと困る。 「いいこと、あんたは仮にも私の使い魔になってるんだから、一人であんまり外をうろついちゃだめよ」 そう諭すルイズだが、同じ卓についていて話を聞いていた生徒の一人が彼女をあざ笑った。 「はは、さすがはゼロのルイズだ。平民のしつけが板についてるじゃないか」 その言葉を発端に、嘲笑の輪が広がっていく。 「まったくお似合いの使い魔だぜ」 「ペタンコ同士、気が合いそうだな!」 意地の悪い野次に、なかには眉を顰めるものもいるが、誰もそれを咎めようとするものはいない。 否、一人だけいた。 「なにが、おかしいんですか」 小さな呟きが卑屈な笑いを鎮める。最初、その声がどこから聞こえてきたのか誰にもわからなかった。 なのはがゆっくりと立ち上がり、もう一度告げる。 「今の言葉の、どこがそんなに面白いんですか?」 一同の視線がなのはへと向けられる。まさか平民の子供に意見されるなどとは夢にも思っていなかったのだ。 「はっ、驚いたね。まさか平民にこんな反抗的な口を聞かれるとは。ゼロのルイズ、ガキはちゃんと鞭でしつけとけよ!」 最初の発端を作った一人、金髪のキザ男ギーシュが強がりに聞こえる声音でなおも侮蔑を放った。 食堂に険悪な雰囲気が満ちる。なのはは家で喫茶翠屋の手伝いをしているから客扱いには慣れている。 こういうとき、どう対処すればいいかは自然と身につけている。だが、良くも悪くもなのはは父の背中をみて育った。 なのはは相手を威圧するように真正面からギーシュの顔を見据える。 「な、なんだ、その反抗的な目は。平民が貴族に文句をいうつもりか!」 こんなとき、父の士郎ならば言うだろう。いや、父に限らずとも、フェイトや兄の恭也でもきっとこう言うはずだ。 「表に出て話そうか」 「な、なんだとぉ!」 にわかに周りの貴族達がいろめきたつ。 なぜなら、手袋を投げつけるのが貴族間の決闘の合図であるならば、「表に出ろ」と相手に告げるのは事実上、不良貴族達のタイマンの合図であったからだ。 「おいおい、ギーシュ。平民に舐められてるぞ」 「ちょ、ちょっと、あんたみたいにちっこいのがギーシュとケンカして勝負になるわけないじゃない。今すぐに謝っちゃいなさい」 ルイズはなのはの身を案じて、袖を引く。だが、なのはは引かない。 ひとの寂しさや悲しみを放っておけない強く優しい心を持つがゆえに、伝え合うことを諦めたくない。 決闘はヴェストリ広場で行われることになった。 なのはは思い出す。 初めて会った頃、アリサやすずかとは友達じゃなかった。まだ何も話をしたことがなかったから、気持ちを知ることができなかった。 「使い魔にとってご主人様がどんなに大切か知ってるよ。いろんな人たちを見てきたから。 私はルイズさんが言葉で傷つけられるのをみたくないから、絶対に見たくないから、誰にも馬鹿にさせない。 ゼロのルイズなんて、誰にも呼ばせたりしない。そのためにぶつかり合わなきゃいけないなら、私は引かない!」 「ふん、だったら平民が貴族の前でなにができるか思い知るがいいっ」 ギーシュがバラの造花を振るう。すると、一体のゴーレムが土の中から現れた。 「これが僕の魔法、ワルキューレだ。言葉を伝えたくば、まずはこのワルキューレを倒してからにしてもらおうっ」 なのははギーシュが土から錬金してみせたワルキューレを見て、実力のほどを見定める。 本来のなのはならば決して負けることはない相手だが、今はレイジングハートが沈黙していて、補助が受けられない状態だ。使える魔法は限られてくる。 「行けっ、ワルキューレ! 小生意気な平民を懲らしめるんだ」 青銅のゴーレムが予想以上の速さで突進してくる。 なのはは左手を前に突き出し、桃色の魔法陣を展開させると堅固なバリアが出現する。 分厚い金属がぶつかり合ったような轟音を立て、ワルキューレの拳が弾かれる。 「ふ、防いだ!? なんなんだ、あの光る盾は!」 ギーシュの驚きの声が上がる。もう一度、ゴーレムを突進させ、シールドを打ち破ろうと試みる。 なのはの世界では魔法はプログラムとして準備され、自分自身やデバイスにセットして魔法の力を行使する。 それらの魔法を知るきっかけを与えてくれたのはユーノだが、戦闘のための魔法やそれを効果的に運用するための闘い方を教えてくれたのはレイジングハートである。 魔法の存在など知らずに過ごしてきたなのはが強敵と互角以上に渡り合えたのはレイジングハートの信頼と援助があってこそのものだった。 なのはは、いざというときのために自分自身に組み込んでおいたシールドをとっさに展開したが、そのシールドはワルキューレのパワーに徐々に押され始めていた。 「ま、まさか平民に魔法が使えるとは思わなかったが、しょせんは防ぐだけのもの。さあ、いつまで持つかな」 ギーシュが造花を振るい、さらにワルキューレの出力が上昇する。 「くっ、このままじゃ」 なのはシールドの限界を悟り、右手に小さな光弾を生み出す。 「ぷっ、なんだあれ、ファイアーボールか? ちっちゃすぎるだろ」 なのはが浮かべた光弾をみて、ギャラリーの一角から忍び笑いが漏れる。 バリアを展開しつつ、光弾を操作するのは難易度の高い技術なのだが、学生レベルではそのやり方を教わること自体がありえない。 それがどれほどの技術であるか、ほとんど誰にも想像がつかない。 だが、さすがにハルキゲニア有数の魔法学院、その技量の高みに気が付き、内心で戦慄するものもわずかながらいた。 決闘騒ぎを聞きつけ、遠見の鏡で見物しているオスマンとコルベール、そして間近で見ているキュルケとタバサである。 キュルケは赤い唇を噛み締め、少女の闘いを見守っていた。 (二種類の魔法を同時展開なんて、私にあんな芸当ができるかしら) キュルケとなのはでは魔法の質が違う。 そもそもの概念も違うが、自分の烈火のごとく激しい魔法や、タバサの冷徹で鋭利な魔法とは違って、なのはの放つ桃色の魔力が秘めているのは紛れもない優しさだ。 ひとを思い遣る、そのまっすぐな強さにこそ戦慄を覚える。 (負けちゃ駄目よ、なのは。ルイズのためにも、絶対に勝ちなさい) 手に汗を握り、我知らずキュルケはなのはを応援していた。 だが、左手で展開したバリアはとうとうヒビが入り始め、今にも破れそうになっている。 なのはは魔法弾を操作し、バリアを迂回させてギーシュの持っている杖に狙いを定める。 だが、そのため大きく曲線を描く進路をとった光弾は、反射的に身を守ろうとギーシュがワルキューレを自分と光弾の間に飛び込ませる時間を与えてしまい、防がれてしまう。 それでも光弾の直撃を受けたゴーレムは粉々に砕け散り、破片が草むらに散らばる。 なのはの光弾はただ小さいのではない。威力を一点に高めるために収束し、高密度の魔力を込めた弾体である。 ファイアーボールがテニスボールだとしたら、なのはの弾は研ぎ澄まされたライフル弾だ。 その威力を目の当たりにして、さすがに目の前の出来事に不審を覚えるものが出始める。 「な、なあ、まさかギーシュの奴、苦戦してるんじゃないか」 「だってよ、相手は平民だろ」 「いったい誰だよ、あれを平民って言い出したやつは。魔法をつかってるじゃないか」 「ねえ、でもあの魔法、なにか変じゃない。杖を使ってるふうもないし、あんな光の盾で防ぐ魔法なんて習ってないわよ」 ワルキューレが倒されたことで、ギャラリーがどよめき始める。 なのはは肩で息をさせ、ギーシュに話しかける。 「ギーシュさんは貴族なんだよね。魔法って確かにすごく便利だけど、使い方を間違えればひとを傷つけるんだよ。 ギーシュさんの魔法はなんのため、誰のために魔法を使うの?」 「ぼ、僕は、」 「答える必要ないぞ、ギーシュ。平民は力づくで黙らせろ!」 ギャラリーのなかから声が上がった。それは平民に地位を脅かされたと感じ始めた敏感な弱さから発せられた声でもある。 ギーシュ自身もその感情にしたがって、再びバラの造花を振るう。今度は二体だ。 一体で苦戦していたなのはは己の力量不足を痛感していた。 (帰ったら、いっぱい魔法の練習しなきゃ) すでに幾度もの戦場を経験し、エース級の戦闘能力を有するなのはだが、それはこれまでレイジングハートの支えあってのことだ。 ベルカの騎士たちとの闘いではデバイス自らがベルカ式のシステムを取り入れ、騎士たちと渡り合うことができた。 「どうだね、降参するなら今のうちだが」 「絶対にいや!」 「ならば仕方ない、トドメだ、ワルキューレ!」 二体同時に突進してきたワルキューレになのはは歯を食いしばる。瞬間、胸元で強烈な光が膨れ上がった。 《Protection》 突如として響いた声。その声にもっとも驚いたのは、なのは自身だったに違いない。 今度は先ほどのものより一層強固なバリアが展開され、ワルキューレ二体の突撃を苦もなく受け止め、二体いっぺんに弾き返す。 「レイジングハートっ!」 《ご心配おかけしました。よく頑張りましたねマスター》 聞き慣れた、待ち望んでいた声。 「もう大丈夫なの、レイジングハート」 《いつでも全力で行けます》 その心強い声に押され、なのはは中空に浮かんだレイジングハートをぎゅっと握り締める。 「じゃあ、ひさしぶりに行くよ! お願い、レイジングハート」 《all right」》 「風は空に、星は天に。 そして、不屈の心はこの胸に。 この手に魔法を。 レイジングハート、セット・アップ!」 《Stand by.....ready》 不思議な声とともに少女の全身が強い輝きに包まれる。少女の身体を覆っていた衣服が分解され、白いバリアジャケットの媒体として再構成される。 「次から次に妙な魔法を!」 「今度はこっちの、番だよ!」 《Flash Impact》 なのはの身体が一瞬にして掻き消え、立ち上がりかけていたワルキューレの前に出現すると、そのまま杖を叩きつける。 一体は吹っ飛ばされ、もう一体はその衝突に巻き込まれ、弾丸ライナーの軌道に乗って背後の塔に叩きつけられる。 ギーシュの頬を掠めて行ったワルキューレは、塔に激突した後、数秒の間をおいて地面に崩れ落ちた。 間接はあらぬ方向に折れ曲がり、青銅の腕が一体の背中を突き破って、腰半分がもげて地面に刺さっている。 それはあたかもギーシュの行く末を暗示しているかのようであった。 (あ、あんなものを生身に食らったら死んでしまう) ギーシュは身の危険に焦りながらも必死で方策を練る。先手が防がれた以上、いったん防御で凌いで、相手の隙を突く以外にない。 三度、魔法を発動させ、残りのゴーレムを全て生み出す。 これほどに魔力を消耗すれば、しばらくは魔法が使えなくなってしまうだろうが、背に腹は代えられない。 二体を防御に回し、一体を正面、最後の一体を背後に忍び寄らせて隙を窺う。 (これが大人の賢さってものさ、ガキとは違うのだよ、ガキとは!) 正面からぶつかって勝てないのなら、背面を突く。軍人の家系だけあって、ギーシュの戦術としての理論を正しく理解している。 だが、惜しむべきは実戦経験が圧倒的に不足していることだ。 いくら理論を叩き込まれたといっても、ギーシュのそれはしょせん座学にすぎない。 譲れぬもの同士がぶつかり合う激闘の最中で、幾度も傷つき、倒れながら磨いた戦闘技能の前では理論などなんの役にも立たない。 表情には出さずとも背面を警戒していたなのはは、とんぼ返りに飛翔し、翻りざまに砲撃で残りのワルキューレ全てをなぎ払う。 《divine shooter》 圧倒的火力の砲撃が空中からワルキューレの身をそぎ落としていく。 カートリッジ節約と、主の身体にかかる負担軽減を理由に威力を抑えた攻撃を提案をしたレイジングハートだが、それでもいとも簡単に青銅のゴーレムを跡形もなく消滅させていく。 「馬鹿な! 詠唱もなしに、これほどの威力が出せるはずは!」 砲撃がようやく収まった後の広場は縦横に芝生が抉れ、魔力の残滓による硝煙が立ち上っていた。 ゴーレムを失ったギーシュにはもう魔力さえも残っていない。低空で飛翔するなのはがギーシュめがけて思い切り杖で腹を抉る。 みぞおちを強打され、くの字に折れたギーシュは身体を天に突き上げられ、息を吸うこともできず、降参の声もあげられない。 意識を失いかけたそのとき、ギーシュの目に現実を疑わせる光景が飛び込んできた。 杖を囲んで四つの環状魔法陣が展開し、自分の身を突き上げる杖の先端に魔力が充填されていく。 尋常でないほど膨大な魔力の収束にギーシュの全身から血の気が引いた。 (そんな、この期に及んでトドメまで刺すのか? もう魔力もないのに!) すでに勝負がついているのは誰の目にも明らかなはずなのに、なぜここにいたってトドメの一撃を食らわなければならないのか。 それも全ては、ゼロのルイズと呼んで彼女の主を傷つけたせいなのだと、ギーシュは今更になって己の発言の迂闊さに気付かされた。 「ディヴァィィィィインッ、バスター!」 はるか天空まで突き抜ける砲撃。 零距離から発射された主砲の一撃は圧倒的威力をもってギーシュの身体を飲み込み、砲撃が収束したあとにはギーシュの身体がどこにも見当たらなかった。 遠見の鏡で見ていたオスマンが呟く。 「こりゃ、グラモンのバカ息子は死んだかのう」 「のんきに構えている場合ですか、学院内で生徒が死亡したとあっては一大事ですぞ!」 コルベールが慌てて水魔法使いを広場に派遣する。 広場では生徒達が空を見上げていた。 砲撃が貫通した積乱雲が上空に漂い、常識をはるかに超えた威力に皆が放心している。 そして、上空から黒い豆粒のようなものが落ちてきて、それは見る間に接近し、人の形をあらわにする。 天空近くまで打ち上げられたギーシュがようやく地面まで堕ちてきたのだ。 なのはは空に浮かんで、ギーシュが激突する前に魔法陣をクッションにして受け止める。 ギーシュは空中を落下している間、失っていた意識をようやく取り戻す。その顔は傷つき、弱っていたがどこか晴れ晴れとしていた。 「僕の・・・・・・完敗だよ。もう指一本・・・・・・動かせない」 なのはたちの魔法とは違い、バリアジャケットもないハルケギニアのメイジは紙のように装甲が薄い。 物理ダメージを0に設定しているとはいえ、痛いものは痛い。 まともに食らえば、その痛みに失神し、数日は起き上がれなくなるのが当然だ。 それでもギーシュは最後の力を振り絞るようにして、唇を動かす。 「君に・・・・・・ひとつお願いがある・・・・・・んだ」 声は弱弱しかったが、それでもギーシュは気丈に笑みを作る。 「名前を・・・・・・教えてくれないかい?」 その言葉に、なのははギーシュと気持ちが通じ合ったのを感じた。だから元気いっぱいに答える。 「なのはだよ。わたし、高町なのは!」 前ページルイズ×なのは(幼)
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ららちゃんが歌った曲一覧です。 歌手別(A~Z、あ~ん、漢字)に並べ替える予定です。 ※ボカロ曲の場合は作成者の名前となっております。 ※アニメのグループ曲の場合はグループでの記載としております。例:放課後ティータイム 楽曲名 歌手名 作品名 楽曲名 歌手名 作品名 歌枠回 備考 17才 ハルカトミユキ 色づく世界の明日から 8・30・40 366日 HY 赤い糸 14 1000% SPARKING! 麻帆良学園中等部3-A+ネギ・スプリングフィールド ネギま!? 8 1000回潤んだ空 Poppin'Party BanG Dream! 15 Absolute 5 ワルキューレ マクロスΔ 7 Agape メロキュア 円盤皇女ワるきゅーレ 2・12・28・37 agony KOTOKO 神無月の巫女 29・36 Alchemy Girls Dead Monster Angel Beats! 15・26 ALIVE~祈りの唄~ ワルキューレ マクロスΔ 7 Authentic symphony ChouCho ましろ色シンフォニー-The color of lovers- 11・28 AXIA ~ダイスキでダイキライ~ ワルキューレ マクロスΔ 7・27 beloved ~桜の彼方へ~ NAO それは舞い散る桜のように 25・32 BLACK SHOUT Roselia BanG Dream! 15 Cagayake!GIRLS 桜高軽音部 けいおん! 5 Calc. ジミーサムP 初音ミク 14 CHE.R.RY YUI 25 CHOIR JAIL 鈴木このみ 黄昏乙女×アムネジア 11 Climber's High! 沼倉愛美 風夏 15・30 Close Your Eyes 彩音 G線上の魔王 24 COLORFUL BOX 石田燿子 SHIROBAKO 18 colorless wind 結城アイラ sola 30・34 crescendo fripSide 風が吹く街 31 crossing field LiSA ソードアート・オンライン 9 Crow Song Girls Dead Monster Angel Beats! 15・28 DEAR MY WAKER 米倉千尋 9-nine- ゆきいろゆきはなゆきのあと 32 DEAREST DROP 田所あずさ 終末なにしてますか? 忙しいですか?救ってもらっていいですか? 8・29 Don't be afraid! Glitter*Green BanG Dream! 15 Don’t say “lazy” 桜高軽音部 けいおん! 5 Dreamer AiRI TARI TARI 38 dual existence fripSide とある科学の超電磁砲T 33 ebb and flow Ray 凪のあすから 36 ebullient future ELISA ef - a tale of melodies. 38 ENERGY earthmind ビビッドレッド・オペレーション 38 euphoric field ELISA ef - a tale of memories. 8・32 fictional moon fripSide 彼女たちの流儀 33 final phase fripSide とある科学の超電磁砲T 33 floral summer fripSide フローラル・フローラブ 33 flower of bravery fripSide 恋姫†無双 31 Forever Blue 今井ちひろ イリヤの空、UFOの夏 34・37 from Y to Y ジミーサムP 初音ミク(Cho.巡音ルカ) 3・24 GIRAFFE BLUES ワルキューレ マクロスΔ 7・27・37 Glossy MMM 橋本みゆき 咲-Saki- 40 GO MY WAY!! 高槻やよい(仁後真耶子)双海亜美・真美(下田麻美) アイドルマスター 39 GO! GO! MANIAC 放課後ティータイム けいおん!! 5 God Bless You ワルキューレ マクロスΔ 7 God knows... 涼宮ハルヒ(平野綾) 涼宮ハルヒの憂鬱 9・32 Happy!? Sorry!! 桜高軽音部 けいおん! 5 Heart Goes Boom!! 秋山澪(日笠陽子) けいおん! 5 Hello Alone -Yui Ballade- 由比ヶ浜結衣(東山奈央) やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 18・24 Hesitation Snow fripSide はつゆきさくら 33 hurting heart fripSide 神曲奏界ポリフォニカTHE BLACK 31 i Love azusa アマガミSS 12・24・34 JOINT 川田まみ 灼眼のシャナII 36 Just be friends Dixie Flatline 巡音ルカ 3・21 Last regrets 彩菜 Kanon 24 Lemon 米津玄師 アンナチュラル 37 LEVEL5-judgelight- fripSide とある科学の超電磁砲 33 Listen!! 放課後ティータイム けいおん!! 5 LIVE for LIFE ~狼たちの夜~ 愛美 ベン・トー 8 lull〜そして僕らは〜 Ray 凪のあすから 36 magicaride fripSide マジカライド 31 magnet 流星P 巡音ルカ・初音ミク 19 message fripSide 31 MUGEN∞MIRAI 神代あみ 天神乱漫 LUCKY or UNLUCKY!? 32 My Soul,Your Beats! Lia Angel Beats! 32 never no astray fripSide 片恋いの月 33 only my railgun fripSide とある科学の超電磁砲 9・33 Os-宇宙人 エリオをかまってちゃん 電波女と青春男 1 over and over やなぎなぎ Just Because! 6 PHANTOM MINDS 水樹奈々 魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st 40 Philosophyz 水谷瑠奈 Rewrite 32 Q A リサイタル! 戸松遥 となりの怪物くん 29 Rainbow ROUND TABLE featuring Nino ARIA The ANIMATION 40 Rain stops,good-bye におP 初音ミク 3 Re-sublimity KOTOKO 神無月の巫女 36 Re Call 霜月はるか できない私が、くり返す。 24 Reason 玉置成実 機動戦士ガンダムSEED DESTINY 2 Red -reduction division- fripSide 彼女たちの流儀 31・33 Ring of Fortune 佐々木恵梨 プラスティック・メモリーズ 6・26 Ring Ring Rainbow!! ゆいかおり 城下町のダンデライオン 18 Romantic summer SUN LUNAR 瀬戸の花嫁 4 secret base〜君がくれたもの〜 本間芽衣子(茅野愛衣)、安城鳴子(戸松遥)、鶴見知利子(早見沙織) あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 4・27・30・37 Shangri-La Angela 蒼穹のファフナー 2・28 SHOOT! RO-KYU-BU! ロウきゅーぶ! 18 Shooting Star KOTOKO おねがい☆ティーチャー 29・36 sign Ray あの夏で待ってる 34・36 Sincerely TRUE ヴァイオレット・エヴァーガーデン 35 Sing My Pleasure ヴィヴィ(八木海莉) Vivy -Fluorite Eye's Song- 35 sister's noise fripSide とある科学の超電磁砲S 33 sky fripSide 31 Snow Song Show sasakure.UK・DECO*27 初音ミク 19 Sparkling Daydream ZAQ 中二病でも恋がしたい! 11 Spread wings. 美郷あき 俺たちに翼はない 11 STAR BEAT!~ホシノコドウ~ Poppin'Party BanG Dream! 15 sweets parade 髏々宮カルタ(花澤香菜) 妖狐×僕SS 10 THERE IS A REASON 鈴木このみ ノーゲーム・ノーライフ ゼロ 35 This game 鈴木このみ ノーゲーム・ノーライフ 9 Treasure 碧陽学園生徒会 生徒会の一存 12・24 Tulip LiPPS アイドルマスター シンデレラガールズ 39 U I 放課後ティータイム けいおん!! 5・15・28 What 'bout my star? シェリル・ノーム starring May'n マクロスF 7 Wishing レム(水瀬いのり) Re ゼロから始める異世界生活 18・37 you 癒月 ひぐらしのなく頃に 11・26・28・30・39 YOU YURIA SHUFFLE! 2・24・34 youtuful beautiful 内田真礼 SSSS.GRIDMAN 6 Zzz 佐咲紗花 『日常』 38 あんなに一緒だったのに See-Saw 機動戦士ガンダムSEED 35 いかないで 想太 歌愛ユキ 3・21 いつも何度でも 木村弓 千と千尋の神隠し 17 いのちの名前 木村弓 千と千尋の神隠し 14・17・37 いーあるふぁんくらぶ みきとP GUMI・鏡音リン 19 うたかた花火 Supercell NARUTO -ナルト- 疾風伝 4 おねだり Shall We ~? 前川みく(高森奈津美) アイドルマスター シンデレラガールズ 39 おジャ魔女カーニバル MAHO堂 おジャ魔女どれみ 9 お願いマッスル 紗倉ひびき(ファイルーズあい) 街雄鳴造(石川界人) ダンベル何キロ持てる? 10 かくしん的☆めたまるふぉ〜ぜっ! 土間うまる(田中あいみ) 干物妹!うまるちゃん 10 からくりピエロ 40㍍P 初音ミク 14 くらべられっ子 ツユ 1 ごはんはおかず 平沢唯 けいおん!! 5・26 さくらんぼ 大塚愛 25 さようなら、花泥棒さん メル 初音ミク 25 さよなら君の声 美郷あき ましろ色シンフォニー-Love is Pure White- 32 そばかす JUDY AND MARY るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 20 それは僕たちの奇跡 μ's ラブライブ! 20 ただ君に晴れ ヨルシカ 4・21 たった1つの想い KOKIA GUNSLINGER GIRL -IL TEATRINO- 34 だから僕は音楽を辞めた ヨルシカ 21 だんご大家族 茶太 CLANNAD 8 とても素敵な六月でした Eight 初音ミク 4・27 なにが悪い 結束バンド ぼっち・ざ・ろっく! 23・26 なのです☆ 羽入 ひぐらしのなく頃に 18 はっぴぃ にゅう にゃあ 芹沢文乃(伊藤かな恵) 梅ノ森千世(井口裕香) 霧谷希(竹達彩奈) 迷い猫オーバーラン! 12・24・38 ひかり、ひかり 相坂優歌 ネト充のススメ 6 ひぐらしのなく頃に 島みやえい子 ひぐらしのなく頃に 8・30 ぴゅあぴゅあはーと 秋山澪 けいおん!! 5 ふでペン 〜ボールペン〜 放課後ティータイム けいおん! 5・15 ふわふわ時間 桜高軽音部 けいおん! 5・22 ふ・れ・ん・ど・し・た・い 学園生活部 がっこうぐらし! 10 ぶる~べりぃとれいん 南ことり(内田彩) ラブライブ! 10 めざせポケモンマスター 松本梨香 ポケットモンスター 24 もってけ!セーラーふく 泉こなた(平野綾)、柊かがみ(加藤英美里)、柊つかさ(福原香織)、高良みゆき(遠藤綾) らき☆すた 2 もどかしい世界の上で 牧野由依 N・H・Kにようこそ! 2 やさしさに包まれたなら 荒井由実 魔女の宅急便 17 ゆずれない願い 田村直美 魔法騎士レイアース 20 ゆりゆららららゆるゆり大事件 七森中☆ごらく部 ゆるゆり 11 ようこそジャパリパークへ どうぶつビスケッツ×PPP けものフレンズ 9 わたしのアール くらげP 初音ミク 16 わたしの恋はホッチキス 放課後ティータイム けいおん! 5 アイドル YOASOBI 【推しの子】 28・32 アイモ ランカ・リー=中島愛 マクロスF 7・26 アイロニ すこっぷ 初音ミク 3・21・24 アサガオの散る頃に じっぷす 初音ミク 4・27 アスタロア 鈴木このみ Summer PocketsREFLECTION BLUE 29 アナタノオト ランカ・リー=中島愛 マクロスF 7 アマオト Duca アメサラサ~雨と、不思議な君に、恋をする~ 27 アルカテイル 鈴木このみ Summer Pockets 29 アンインストール 石川智晶 ぼくらの 8・35 イノセント earthmind ガリレイドンナ 6 インモラリスト 堀江由衣 ドラゴンクライシス! 11・26 ウミユリ海底譚 ナブナ 初音ミク 21 エウテルぺ EGOIST ギルティクラウン 18 オルフェンズの涙 MISIA 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 20 オーバーマスター プロジェクトフェアリー アイドルマスター 39 カザハネ 霜月はるか H2O 38 カラカラ 結束バンド ぼっち・ざ・ろっく! 23 カラフル。 沢井美空 冴えない彼女の育てかた 23 カワルミライ ChouCho 神様のメモ帳 11 カントリー・ロード 本名陽子 耳をすませば 17 ガチャガチャきゅ~と・ふぃぎゅ@メイト MOSAIC.WAV ふぃぎゅ@メイト 13 ガーネット 奥華子 時をかける少女 30・37 キミガタメ Suara うたわれるもの~散りゆく者への子守唄~ 24・32 キャットラビング 香椎モイミ 可不 1 キラメキラリ 高槻やよい(仁後真耶子) アイドルマスター 39 ギターと孤独と蒼い惑星 結束バンド ぼっち・ざ・ろっく! 23・27 ギミー!レボリューション 内田真礼 俺、ツインテールになります。 6 グッバイ宣言 Chinozo flower 19 グロウアップ Hysteric Blue 学校の怪談 30 コネクト ClariS 魔法少女まどか☆マギカ 9 サクラサクミライコイユメ yozuca* D.C. 〜ダ・カーポ〜 38・40 サリシノハラ みきとP 初音ミク 3・19 サンドリヨン シグナルP 初音ミク・KAITO 19 シグナルグラフ Annabel 恋と選挙とチョコレート 11 シリョクケンサ 40㍍P GUMI 19 タチアガレ! Wake Up, Girls! Wake Up, Girls! 6・40 ダイアモンドクレバス シェリル・ノーム starring May'n マクロスF 7 ダ・カーポ ~第2ボタンの誓い~ yozuca* D.C. ~ダ・カーポ~ 25 チェンジ!!!!! ワルキューレ マクロスΔ 7 ツキアカリのミチシルベ ステレオポニー DARKER THAN BLACK -流星の双子- 12 テルーの唄 手嶌葵 ゲド戦記 13・17・37 トライアングラー 坂本真綾 マクロスF 2・7・35 ドラマツルギー Eve 初音ミク 19 ドレミファロンド 40㍍P 初音ミク 10 ハナミズキ 一青窈 16 ハロ/ハワユ ナノウ 初音ミク 3・21 バニー すりぃ 鏡音レン 1 バレリーコ みきとP GUMI 19 パズルガール とあ 初音ミク 10 ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C ヒャダイン 『日常』 38 ビードロ模様 やなぎなぎ あの夏で待ってる 13・18・28・30・3436 ファンサ mona(夏川椎菜) HoneyWorks 22 フォニイ ツミキ 可不 19 フラジール ぬゆり GUMI 19 フリージア Uru 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 14・23・34 プレパレード 逢坂大河・櫛枝実乃梨・川嶋亜美(釘宮理恵・堀江由衣・喜多村英梨) とらドラ! 12・23 ホシキラ ランカ・リー=中島愛 マクロスF 7・27 ホントノトコロ 秋野花 妹のセイイキ 24 マリオネットの心 星井美希(長谷川明子) アイドルマスター 39 マリーゴールド あいみょん 16・25 マーシャル・マキシマイザー 柊マグネタイト 可不 1 ムーンライト伝説 DALI 美少女戦士セーラームーン 9 メグメル 〜cuckool mix 2007〜 eufonius CLANNAD 24 メリュー ナブナ 初音ミク 14 メルト ryo 初音ミク 32 ユキトキ やなぎなぎ やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 11 ユーフォリア 牧野 由依 ARIA The NATURAL 8 ライオン May'n/中島愛 マクロスF 9・24 ラブレター P.C.S アイドルマスター シンデレラガールズ 39 リアルワールド nano.RIPE 人類は衰退しました 11 リフレクティア eufonius true tears 2・26・29・37 ルンがピカッと光ったら 鈴木みのり マクロスΔ 7 ルージュの伝言 荒井由実 魔女の宅急便 17 レイル・ロマネスク 中恵光城 まいてつ 32 ロケット☆ライド Duca あの晴れわたる空より高く 24 ロミオとシンデレラ Doriko 初音ミク 1 ワルキューレがとまらない ワルキューレ マクロスΔ 7・27 ワールドイズマイン ryo 初音ミク 24 ヴァンパイア DECO*27 初音ミク 10 ヴィーナスとジーザス やくしまるえつこ 荒川アンダー ザ ブリッジ 38 太陽曰く燃えよカオス 後ろから這いより隊G 這いよれ! ニャル子さん 40 檄!帝国華撃団 新章 天宮さくら(佐倉綾音)、東雲初穂(内田真礼)望月あざみ(山村響)、アナスタシアパルマ(福原綾香)、クラリス(早見沙織) 新サクラ大戦 40 一度だけの恋なら ワルキューレ マクロスΔ 7 七転八起☆至上主義! KOTOKO ハヤテのごとく! 36 不完全燃焼 石川智晶 神様ドォルズ 11 二人だけのカーテンコール 浅葉リオ アオイトリ 32 今好きになる。 HoneyWorks feat.初音ミク 10 僕らの戦場 ワルキューレ マクロスΔ 7 光放て! 柳麻美 ATRI -My Dear Moments- 32 初恋パラシュート 橋本みゆき あかね色に染まる坂 12・40 初音ミクの消失 cosMo@暴走P 初音ミク 19・29 割れたリンゴ 渡辺早季(種田梨沙) 新世界より 11・28 創聖のアクエリオン AKINO from bless4 創聖のアクエリオン 9 千本桜 黒うさP 初音ミク 25 可愛くてごめん ちゅーたん(早見沙織) HoneyWorks 22 吉原ラメント 亜沙 重音テト 16 君をのせて 井上あずみ 天空の城ラピュタ 16・17 君色シグナル 春奈るな 冴えない彼女の育てかた 18・23 告白日和、です! 南ことり(内田彩)&小泉花陽(久保ユリカ) ラブライブ! 10 命に嫌われている カンザキイオリ 14 回る空うさぎ Orangestar 初音ミク 3 地上の星 中島みゆき プロジェクトX〜挑戦者たち〜 29 境界の彼方 茅原実里 境界の彼方 11・23・34・40 夏の日の1993 Class 13 夏影 Lia AIR 30 夏色 ゆず 4 夕立のりぼん みきとP MAYU 4・21・37 夜明けと蛍 ナブナ 初音ミク 3・16・21 夜空 鈴木みのり 恋する小惑星 18 夢想歌 Suara うたわれるもの 2 天ノ弱 164 GUMI 21 天使にふれたよ! 放課後ティータイム けいおん!! 5・25 奈落の花 島みやえい子 ひぐらしのなく頃に解 30 妄想感傷代償連盟 DECO*27 初音ミク 1・16 小さなてのひら riya CLANNAD 28 少女レイ みきとP 初音ミク 4・21 巫女みこナース・愛のテーマ Chu☆ 巫女みこナース 13 帰り道 八九寺真宵 (加藤英美里) 化物語 2 心做し 蝶々P GUMI 3 心拍数♯0822 蝶々P 初音ミク 3 忘れじの言の葉 未来古代楽団 feat.安次嶺希和子 グリムノーツ 14 恋するキリギリス yuki 白昼夢の青写真 24 恋のミクル伝説 朝比奈みくる(後藤邑子) 涼宮ハルヒの憂鬱 2 恋はドッグファイト ランカ・リー=中島愛 マクロス 7 恋愛サーキュレーション 千石撫子(花澤香菜) 化物語 1 愛のメモリー 松崎しげる 13 愛・おぼえていますか 飯島真理 超時空要塞マクロス 7 打上花火 DAOKO 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? 20 放課後オーバーフロウ ランカ・リー=中島愛 マクロスF 7・24 明日の君さえいればいい。 ChouCho 妹さえいればいい。 8 星座になれたら 結束バンド ぼっち・ざ・ろっく! 23・32 星空のワルツ 栗林みな実 君が望む永遠 37 星間飛行 ランカ・リー=中島愛 マクロスF 7 春よ、来い 松任谷由実 春よ、来い 25 春泥棒 ヨルシカ 25 時の流れに身をまかせ テレサ・テン 29 時の魔法 小木曽雪菜 WHITE ALBUM2~closing chapter~ 32 時を刻む唄 Lia CLANNAD ~AFTER STORY~ 8・24 暁の車 FictionJunction YUUKA 機動戦士ガンダムSEED 13・34 月の彼方で逢いましょう Duca 月の彼方で逢いましょう 32 桜前線異常ナシ ワタルP 初音ミク 25 楽園の翼 黒崎真音 グリザイアの果実 35 櫻ノ詩 はな サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う- 25 残酷な天使のテーゼ 高橋洋子 新世紀エヴァンゲリオン 9・20 比翼の羽根 eufonius ヨスガノソラ 12・30 気まぐれメルシィ 八王子P 初音ミク 29 決意のダイヤ kohaluna ガーリッシュ ナンバー 6 津軽海峡・冬景色 石川さゆり 24・29 海色 AKINO from bless4 艦隊これくしょん -艦これ- 34 涙目爆発音 ワルキューレ マクロスΔ 7 深愛 水樹奈々 WHITE ALBUM 32 渡月橋 〜君 想ふ〜 倉木麻衣 名探偵コナン から紅の恋歌 20 灰色と青 米津玄師 14 炎 LiSA 鬼滅の刃 無限列車編 16・20 焔の扉 FictionJunction YUUKA 機動戦士ガンダムSEED DESTINY 35 片翼のイカロス 榊原ゆい H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND- 12・28・30 破滅の純情 ワルキューレ マクロスΔ 7 神っぽいな ピノキオピー 初音ミク 1・32 私の彼はパイロット リン・ミンメイ(飯島真理) 超時空要塞マクロス 7 秘密レシピ 橋本みゆき さくらシュトラッセ 32 空色デイズ 中川翔子 天元突破グレンラガン 20 突撃ラブハート FIRE BOMBER マクロス7 7 竹取オーバーナイトセンセーション フェルナンドP 鏡音リン・鏡音レン 19 糸 中島みゆき 聖者の行進 16 約束の絆 妖夢討伐隊 境界の彼方 6 絆-kizunairo-色 Lia FORTUNE ARTERIAL 赤い約束 6・23・28・35 絶対特権主張しますっ! ゼッケンズ アイドルマスター シンデレラガールズ 39 絶対零度θノヴァティック ワルキューレ マクロスΔ 7 緋色の空 川田まみ 灼眼のシャナ 36 群青 YOASOBI 14 花に亡霊 ヨルシカ 泣きたい私は猫をかぶる 14・25 華暦 Ayumi. 花の野に咲くうたかたの 25・32 蒼のエーテル ランカ・リー=中島愛 マクロスF 7 贖罪 傘村トータ IA、結月ゆかり、初音ミク、Fukase、Ken 21 走り始めたばかりのキミに Poppin'Party BanG Dream! 15 金曜日のおはよう HoneyWorks feat.Gero UMI 10 雨とペトラ バルーン flower 1・16 雪、無音、窓辺にて 長門有希(茅原実里) 涼宮ハルヒの憂鬱 12・35 雲と幽霊 ヨルシカ 4 青春コンプレックス 結束バンド ぼっち・ざ・ろっく! 23・28 青空 Lia AIR 30 青空のラプソディ fhána 小林さんちのメイドラゴン 8 風といっしょに 小林幸子 ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 20 風は予告なく吹く ワルキューレ マクロスΔ 7 鳥の詩 Lia AIR 29・30 コメント 名前
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前ページ次ページゼロな提督 既に夕陽が草原の彼方、ブドウ畑が広がる山向こうへ沈もうとしている。 山の斜面を覆い尽くすブドウ畑から降りてきたシエスタとヤンは、不安で潰されそうに なっているルイズとロングビルが立つシエスタの生家へ戻ってきた。ロングビルが手にす る長剣も、今は何も話さない。 何を聞かされたか尋ねたい二人に対し、先に口を開いたのはヤン。 「ねえ、ルイズ。僕らはここに、何日くらい滞在出来るかな?」 「え?えーっと…」 いきなり全然関係ない話をされて、驚きつつも考え込む。 「ニューイの月、一日が姫の結婚式予定日でしょ?で、姫さまのパレード出発が、その三 日前だから、タルブからトリスタニアまで三日くらいとして…。あと、五日か六日くらい かしらね」 「分かったよ。それじゃ、しばらくここに滞在させて欲しい」 ヤンは、ちょっと!何なのよ?というロングビルやルイズやデルフリンガーを無視し、 シエスタの後をついていった。 シエスタの家の一番奥にある部屋。そこは、村長一族の住む家とはいえ、少々豪華に思 えた。立派なデスクに壁の棚を埋め尽くす書物。花瓶だの絵画だのといった飾りっ気がな いので貴族の執務室、という程ではないが。 シエスタはヤンを部屋の中へと招き入れる。 「ここはひいおじいさんの部屋でした。ひいおじいさんは書き物はここで行い、この部屋 には誰も許可無く入ってはいけないと、皆にきつく言い聞かせていました。 死後、この部屋はそのままにしてあります。あ、もちろん掃除とか手入れはちゃんとし てありますよ」 ヤンは書棚の本を見て回る。それらは全てハルケギニア語で記された本ばかりだ。村の 秘伝とされる自著は別の場所に隠されているのだろう。 扉がコンコンとノックされた。シエスタが開けると、一冊の本を手にしたジュリアンが 立っていた。 「ねーちゃん!持ってきたよ」 「ありがとうね。貴族のお二人をしっかりお持てなししてね」 はーい!という元気な声と共に、少年の駆け足は遠ざかっていった。 シエスタは、本をヤンに手渡す。それは、便箋を束ねたような簡単な冊子のようなもの だ。ただ、その紙の中に、明らかに材質が違う物がある。まるで印刷用紙のような紙が混 じっている。 「これがサヴァリッシュ最後の書です。『迷い人が来たら読ませよ』、それが遺言です。ど うか、読んで下さい。そして、どうか…」 シエスタは言葉を濁して視線を逸らす。本当なら、村のために知恵を授けて欲しい、と 言いたいのだろう。だがヤンはルイズに雇われている立場だ。軽々しく頼むわけにはいか ない。 ちょっと逡巡するシエスタに、ヤンは微笑んだ。 「とにかく、読んでみるよ。その後どうするかは、それから決めよう」 デスクに腰掛けたヤンを残し、シエスタは部屋を後にした。 夕食前まで、ヤンは執務室に籠もっていた。 食堂で待つルイズもロングビルも気が気でない。ホスト役である村長はじめシエスタと サヴァリッシュ家の人々も、精一杯に貴族二人をもてなすものの、落ち着かないのは彼等 も同じ。テーブルの上のデルフリンガーが場の空気を変えようとあれこれ話を振るもが、 どれも空振りに終わってしまう。 キッチンから良い香りが漂い始めた頃、やっと食堂へヤンが冊子を片手に姿を現した。 即座にルイズとロングビルが駆け寄る。 「ヤン!一体どーだったのよ!何が書かれていたの!?」 「そうだよ!今さらあたい達にまで隠し事だなんて、水くさいじゃないか!」 詰め寄ってくる美女と美少女に微笑んだ。 「大丈夫、今から話すよ」 そして、シエスタとサヴァリッシュ家の人々に頭を下げた。 「サヴァリッシュ最後の書については、この二人も大体知っている内容でした。なので、 今さら彼等に秘密とする必要は無いと考えます。無論、この村に都合の悪い事実について は口外するつもりはありませんので、どうか彼等に教える事をお許し下さい」 困惑し、躊躇いながら顔を見合わせる。一族の視線が村長に集中したとき、村長も迷っ た末に「うむ、承知しました」と答えた。 席についたルイズとロングビル、そしてデルフリンガーを前にして、ヤンは語った。 オ イゲン・サヴァリッシュの半生を。 オイゲン・サヴァリッシュ中尉。 ブドウ農家の次男。経営者である父は趣味で自然志向の伝統ワインも醸造していた。別 に売るために作っていたわけではないが、なかなか評判が良かった。彼も興味を持ち、色 々と自分で勉強していた。 ブドウ農家は長男が継ぐため、彼は士官学校へ入学。卒業後、紆余曲折を経て銀河帝国 クロイツ艦隊所属空母『シュヴァルツシルト』にワルキューレのパイロットとして配属さ れた。同時期に家族全員が事故で死亡。相続したブドウ畑に思い入れはあったが、軍務が 忙しく経営出来ないので売却した。 しばらくの後、同艦隊はイゼルローン回廊へ配置された。回廊周辺宙域にて小規模の戦 闘中、サヴァリッシュ中尉の乗る単座式戦闘艇ワルキューレは空母を発進しようとしてい た。が、空母から発進しようと加速したとき、機体の前に鏡のようなものが現れた。回避 は間に合わず、そのまま鏡に突っ込んでしまった。 次の瞬間、なぜか彼は大気圏内を急上昇していた。 わけが分からず慌てて速度を落とし、機体を水平に保って旋回を続けた。 「それって、ビダーシャルが言ってた60年前に飛び去ったという飛行物体のことね」 顎に手を当てるルイズの予想に、ロングビルも頷いた。ただし渋い顔で。 「でも、わかんない単語がゾロゾロ出てくるねぇ…」 食器を運んできたシエスタも、苦笑いしながら皿を並べていく。 「あたしたちも、書物を読むと何のことだか分からない単語が多くて困ってるんです。ひ いおじいさんは子供たちにも分かりやすいよう、なるべく簡単な言葉を使って書を書いて くれたと言うんですけどね。 なんとか父達は話を理解しようと頑張ったんですけど、やっぱりダメで…狂人扱いされ たこともしばしばだったそうです」 ヤンは改めて冊子の文章を見直してみる。これは『迷い人』用の書なので、別に簡単な 言葉を使っていないだろう。だが、あんまり簡単に書きすぎたら、今度は実践面で問題が 出るから、それなりの専門用語も使っていることだろう。 話がずれたな、と思い、改めてヤンは手元の冊子に視線を落とす。 生きて門を越えたサヴァリッシュだが、彼には自らの幸運を喜ぶことはできなかった。 宇宙空間にいたはずが、大気圏内にいた。見知らぬ惑星上を飛んでいた。通信回線を開 いても雑音しか入ってこない。マップを開いてどこの星かと調べようとしたら現在地点を ロストしている。 彼は混乱の極みにあった。 空を見上げれば見知らぬ星空で、衛星が二つ。そのわりに高度を上げて地上を撮影して みると、どうも記憶に引っかかる地形がたくさん撮れた。自分はどこから大気圏突入した のかと記録された座標を調べれば、なぜか地上の半径10kmはあるクレーターど真ん中に突 然現れたことになっている。 撮影された地表の海岸線が歴史で学んだ地球の地図とソックリだと思い出したとき、彼 もヤンと同様にパラレルワールドへ迷い込んだことに気がついた。ただし、聖地の門から の召喚とは知らないので、自然発生したワームホールに偶然巻き込まれた、と考えた。そ して高度から撮影されたクレーターは、幾重も大小の同心円を描いていたことから、大小 様々な物体が定期的にワームホールから飛び出しては大爆発を起こしていることも予想が ついた。 ともかく、混乱する思考の中で、彼はこう考えた。自分がこの世界に飛び出してこれた なら、他にも同じくワームホールを通過した者がいるのではないか?と。とりあえず高度 を下げて地表を偵察することにした。行き先は、なんとなくおとぎ話によく聞くヨーロッ パっぽいからとハルケギニアを選んだ。 そして、彼は狭いコクピットの中で頭を抱えた。 地上に見えるのは古代地球、まさにおとぎ話の世界。火山周囲を飛び回る竜、なぜか空 中に浮いている巨大大陸、石と木で出来た原始的家屋、空気抵抗を無視した形状のまま飛 び回っている木造の船、歩き回る人々の服装まで、まさに中世ファンタジー世界。他の遭 難者がどうとか言う以前に、科学に従った世界ではないと思い知らされた。どうみても科 学世界と接触があるように見えない。 だが、いつまでも飛び回ってはいられない。燃料弾薬満タンで発進した直後とはいえ、 いつかは燃料切れになってしまう。なので、とりあえず人里から少し離れた山中に着陸。 銃や携帯情報端末、サバイバルキットなど、持てる装備品をあらかた背負って地上探検に 出発した。 上空から見えた、懐かしいブドウ畑を目指して。 「…そして訪れたのが、ここタルブの村だったわけだよ」 湯気ととも鼻腔をくすぐる美味しそうな香りをまとう鍋料理を前に、ヤンは長い話に一 区切りを付けた。 ワインの瓶を手にした村長が、話を聞く貴族達のグラスに注いでまわりながら話を補足 する。 「父の話は、何度も聞かされましたよ。本当に苦労したそうです。 その頃のタルブは細々と農耕をする片田舎の寒村で、ブドウ畑も今ほど広大で立派では ありませんでした。もちろん、奇妙な格好をした流れ者ですから、最初は奇異な目でみら れたそうですよ。おまけに、農作業はもとより、クワや鎌の振り方すら分からないのです から。 それでも村はブドウの収穫時期だったので、働き手が欲しかったから、とりあえず仕事 を手伝わせてもらえたそうです。しばらくは野宿暮らしでただ働きしながら、色々と教え てもらったそうです」 テーブルの上に置かれていたデルフリンガーが、食器を並べる邪魔になるのでと横に置 かれながら鍔を慌ただしくカチカチ鳴らす。 「おう、ほんでよほんでよ!それからどーなったってんだよ!?」 続きが聞きたくてしょうがない長剣が早口でまくし立てる。 ワインで喉を潤したヤンは再び語り始める。 サヴァリッシュは、ほどなくして村に受け入れられた。ブドウ農家、というよりワイナ リーとしての知識を認められたのだ。それに、実家で勉強していたブドウ栽培とワイン醸 造の知識は、全て彼の携帯情報端末に入ったままで忘れられていた。それを何年かぶりで 引っ張り出した。 他にも学校や士官学校時代に習った各種技術。ワルキューレの軍用コンピューターや携 帯情報端末にインストールされていた蘇生術、家庭の医学、辞書、計算、各種百科事典ソ フト。それら全てが村の助けになったのだ。 サヴァリッシュは稼いだ金で貴族に、山の中に隠していたワルキューレへ固定化の魔法 をかけてもらった。それも、何度も念入りに。出来る限り強力に。 何年かして彼は村に家庭を持った。村も町の商人からの借金を返済出来るくらい発展し た。故郷だった銀河帝国に彼を待つ家族はいない。ブドウ畑も売却した。もはや未練はな かった。 彼は、タルブを故郷とする事にした。 だが、そのためには幾つか必要な事があった。 彼が持つ知識をトリステインの貴族や教会に知られるわけにはいかない。魔法を使えな い平民など、人間扱いされないのだから。むしろ異教徒だの異端だのとして教会に異端審 問にかけられかねない。 領主アストン伯に彼の技術を売り込む事も考えたが、しなかった。彼が山中に隠すワル キューレの存在を公にする事だけは、絶対に出来なかった。固定化の魔法をかけてもらう 時も、ワルキューレが一体何なのか教えなかった。その後の定期的な掛け直しの時も信用 出来るメイジを慎重に選んだ。 彼は目立つ事を避けた。村に提供する知識は、決して自分が教えた事を口外しないよう 約束させた。突然村が裕福になったり出所不明の技術を手にするのは不自然の極みだし、 周辺の町や村に要らぬ嫉妬や疑念を抱かせる。ゆっくりと、少しずつ、村を変えていった のだ。 山菜やキノコが入ったシチューを口にするロングビルが、話の区切りを待って口を挟ん だ。 「さっきから言ってる、ワルキューレってさ…一体どういう物なんだい?空は飛ぶし、色 んな知識が詰まった書物のような言い方されるし」 頬張ってるパンをワインで胃に流し込んだルイズも尋ねてくる。 「そうよねぇ、変よね。それに、そこまで貴族や教会を恐れるなんて…いくらなんでも、 異常よね」 空になったルイズのグラスにワインを注ぎに来たジュリアンが、自慢げに答えた。 「あのですね!ひいおじいちゃんはね、戦うのが怖かったんですよ!」 戦うのが怖い、と答えを聞いたルイズとロングビルは首を傾げる。いくら魔法が脅威と いっても、歴とした兵士が戦うのをここまで極端に恐れるなんて、と。 だがジュリアンは、胸を張って二人に答えの続きを教えた。 「だって、もし教会がひいおじいちゃんを異端審問にかけようとしたり、どこかの貴族が 村を直接支配しようと攻め入ってきたら、ワルキューレを使って戦わなきゃいけないかも しれないからです。 ひいおじいちゃんは、こう言ってたそうです。『もしこれを使ったら、ハルケギニアが滅 ぶ』と」 答えを聞かされた二人は、思いっきり呆れた。いくらなんでも、おおぼらにも程がある と。そして白い目でヤンを見る。 もしゃもしゃと夕食を口に放り込んでいたグータラ執事はワルキューレについて説明し た。 ワルキューレ 同盟のスパルタニアンとほぼ同じ単座式高機動戦闘艇。だが一つ大きな違いがある。そ れは「大気圏内の飛行が可能」という点。これは帝国においては治安上の理由、つまり反 乱を起こした星を制圧する必要があるため。帝国の艦船も同じく大気圏内の運用が可能。 おかげでサヴァリッシュは大気圏内を飛行することができた。ちなみに同盟は、帝国から の侵略を迎撃するという前提に艦船等の兵器類は設計されているので、宇宙空間でしか使 用できない。 その武装は、ウラン弾を弾丸とする機銃や、レーザー水爆ミサイルや、中性子弾頭ミサ イル。 以上、ワルキューレのスペックについて、なるべく分かりやすいように簡単な言葉で説 明した。 だがヤンの説明は、目の前の美女と美少女の耳を素通りしたようだ。想像も付かない事 なのだから、しょうがない。ヤンの横に立てかけられた長剣はツッコミどころすら分から ず困ってる。 オホン、と咳払いして、結論だけを簡単に言う事にした。 「分かりやすく言うと、物知りなガーゴイルが操縦する軍艦みたいなものだよ。そして、 その武器は『破壊の壷』と同じく、いやそれ以上に凄まじいよ。 積み込まれた爆弾は多分、トリスタニアを一瞬で消し飛ばし、100年にわたって草一 本生えないほどの毒の灰を国中にまき散らす。 機銃、というか大砲と言おうかな?その弾一発でトリステインの戦艦『メルカトール』 を撃沈出来る。しかも、そんな弾丸を一瞬で100発以上撃ちまくれるよ。もちろん毒を まき散らしながら、ね」 女性二人は、さらに呆れ果てた。そんな兵器があり得るのか、どこでどうやって使うの か…と。 「おでれーた、つか…あのよぉ、ヤンよ。そんな爆弾使ったら、撃った本人まで死なねー か?それに、毒で土地を汚しちゃったら、占領できねーじゃねーか」 デルフリンガーの当然な疑問に、緑とピンクの髪もウンウンと上下に揺れた。 対するヤンは、困って頭をボリボリかいてしまう。 「だって、本来、宇宙で使う武器なんだよ…地上では使えないよ。危なくて」 とにもかくにも、ワルキューレの話は置いといて。 ヤンは晩年のサヴァリッシュについて話を続けた。 生活が安定した頃。ワルキューレの扱いに頭を悩ませた。 この兵器を知られてはならない。固定化をかけてはいるが、いつ故障したり壊れたりし て放射能漏れを起こすか不安だ。エネルギーが残っているうちに、どうにか処分方法を考 えなければならない。だがどこへ持って行っても放射能漏れの危険が付きまとう。 幸いタルブへ着陸して以来、コンピューターを動かし携帯情報端末に充電とダウンロー ドする以外にエネルギーを使用していない。いつでも飛翔出来るエネルギーが残ってる。 まずは、役に立ちそうなデータを全て書物に記す事にした。ただし誰かに悪用されない よう、全て帝国公用語で書き記し、その読み方は彼の子供達にしか教えなかった。その上 で、ワイン倉庫の地下室に全て隠した。 その上で、必要な情報と、生活の役に立ちそうな荷物を全て降ろしたワルキューレに、 自動操縦である場所に行くよう入力した。放射能漏れを起こしても絶対に誰の迷惑にもな らない場所へ飛んでいくように、と。 食後のワインを飲んでたロングビルは、思い出したように質問した。 「そうそう、その書物の事なんだけど、どれくらいヤバい物なの?」 聞かれたヤンは、ふと考えてから、手に持っていたサヴァリッシュの冊子を開く。そし て間に差し込まれていた、ハルケギニアの紙とは明らかに違う印刷用紙の束を机の上に並 べていった。 それを見ていた周囲のサヴァリッシュ家の人々が一瞬顔色を青くしたのに、二人は気が 付いた。ヤンの「大丈夫です。我々は聖地の真実を既に知ってます」という説明に、一様 に胸をなで下ろす。 一体何が記されているのかと、ルイズとロングビルは広げられた紙を見つめる。 ロングビルは並べられたうちの一枚を見て、絶句しそうになった。 「な…何これ!?これって、アルビオンの地図じゃない!しかも、まるで竜や船の上から 見てるみたいな、なんて緻密で正確な…」 ルイズも驚きに言葉が詰まる。 「し、信じ、られない…トリステインも、ガリアも、ゲルマニアも…それだけじゃないわ! これ、ハルケギニア含めた、世界全ての地図よ!それも、恐るべき正確さの!」 テーブルの上に広げられた物は、ワルキューレで高々度から撮影された地上の写真。聖 地からトリステインまで飛び回った間に撮影した写真をつなげたのだ。それは、ハルケギ ニアと聖地はもとより、地球で言うなら北アフリカ・中東・ロシアの一部も含めた航空写 真。 ヤンは、その写真の東方、即ちエルフの支配地域を指し示した。 そこには、茶色の大地に波紋が広がるような同心円を描く図形が描かれている。 「これが何か、分かるかい?」 ルイズは、恐る恐る答えた。 「聖地の、門よね」 ロングビルも一筋の汗を流しながら答える。 「ビダーシャルが言ってた、大地をえぐる嵐の跡…なのかい?」 ヤンは、ゆっくりと頷いた。 「その通りだよ。これは聖地が人を寄せ付けぬ呪われた地であり、始祖ブリミルの虚無が 世界を滅ぼすという証拠なんだ。こんな事が知られれば、教会は全ての地位と富を失う。 聖堂騎士隊が大急ぎでこの本を焼きに来るよ。…村ごと、ね」 二人の背中に冷たい物が流れていく。 黙ってしまった二人に代わってデルフリンガーが質問を続けた。 「んじゃよ!んじゃよ、サヴァリッシュってやつは、ヤンに何を教えようとしていたんだ よ!まさかワインの作り方じゃねーよな?」 傍らの長剣からの問に、写真を片付けながら口を動かす。何か、ガッカリしたような、 だが吹っ切れたような口調で。 「彼はね、他の『迷い人』が心配だったんだよ。このハルケギニアで苦労しているだろう な~、て。それに、単純に同郷の人に会いたかったんだ。 だから、彼は『迷い人』を待ち続けた。このハルケギニアで生きる方法を教えるために。 この世界も決して悪いもんじゃないから、この地で新しい人生を歩みなさいってね」 その言葉を聞いたサヴァリッシュ家の人々は皆、ニッコリとヤンに微笑みかけた。 彼等を代表するかのように、シエスタが口を開く。 「そういうわけなんです。そして、ヤンさんなら私達は大歓迎です!タルブの村をあげ、 ヤンさんを歓迎致しますわ!」 3人を囲む人々は、ヤンへ深々と礼をした。 頭を下げられた彼は恐縮して赤くなり、顔を上げて欲しいと逆にお願いしてしまった。 食器が片付けられ、ルイズ達もそろそろ部屋に帰ろうかと言う時、ルイズがある事を思 い出した。 「ねぇ、ヤン。結局ワルキューレとか言う船は、どこへ飛んでいったの?」 聞かれた彼は、ちょっと下手なウィンクをする。 「ああ、絶対に安全な場所だよ。誰の手にも触れず、どれほど毒をまき散らしても全く迷 惑がかからない場所」 「それって、どこなの?」 大きな瞳で見つめてくるルイズに、ヤンはゆっくりと右手で指し示した。 彼の指は、上を指した。 ロングビルが天井を見上げる。 「天井裏…なわけないわよね。空の彼方?」 ヤンは、天を仰いで目を閉じた。 代わりに、口が少しだけ開く。 「月、さ」 「月!?」 ルイズが素っ頓狂な声を上げる。 「サヴァリッシュは、ワルキューレに命じたのさ。青き月まで飛んでいけ、とね」 既に夜。 今夜も青と赤の双月は星空の中に輝いていた。 第十八話 タルブ END 前ページ次ページゼロな提督
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登録日:2022/08/18 (木) 15 40 02 更新日:2022/08/20 Sat 10 54 31NEW! 所要時間:約 1 分で読めます ▽タグ一覧 ウマ娘 ウマ娘 プリティーダービー プランカルキュールとは、『ウマ娘 プリティーダービー』を元ネタとするあにまんウマ娘になりたい部の登場キャラクターである。 CV:████ + 目次 ◆プロフィール 概要 ☆3[LIFE.exe]スキル固有スキル:/\cl(L 1_p\/ 1(_ 初期スキル 覚醒レベル ◆プロフィール 生年月日:4月1日 身長:145cm 体重:微増(成長期だと信じたい) スリーサイズ:B66・W47・H72 学年:中等部 キャラクターソング:██████████ + 親愛度ランク1で解放 身長:145cm 体重:微増(成長期だと信じたい) 誕生日:4月1日 + 親愛度ランク2で解放 得意なこと:論理的思考 苦手なこと:即興での行動 + 親愛度ランク3で解放 耳のこと:大きいけど冷えにくい 尻尾のこと:手入れが雑な割には綺麗 + 親愛度ランク4で解放 :両足ともに22cm + 親愛度ランク5で解放 家族のこと:3世代16人の大家族 + プランカルキュールの秘密① レッドコーダー中括弧内には1以上の整数を入力してください。 例 &footnote(){1} + プランカルキュールの秘密② レースは力押しでなんとかする派 「才能」とは「生まれ持った能力」である。 「才能」とは「能力の伸びやすさ」である。 だが、「もっとも重要な才能」は「絶対にあきらめないという意志」である。 彼女は身をもってそれを証明して見せたのだ。 20██年URA「名ウマ娘の肖像」プランカルキュールより 概要 ハッピーミークやリトルココン等と同じ、モチーフとなる競走馬が存在しないウマ娘。 非常に無口であり、イベントで出てきてもたいていの場合黙々と練習している。 レースではバ場・距離・脚質を問わず走れることもあり、実装されている全てのレースで目撃報告がある。 一人称は「私」なのだが、殆ど喋らないせいで育成ウマ娘として実装されるまで一人称が分からなかったという逸話を持つ。 勝負服は黒のフード付きパーカーワンピースだけどいう非常にシンプルなもの。 プレイヤー間では作中と同じように「プル」と呼ばれることが多い。 ☆3[LIFE.exe] 性能 バ場 芝:C ダート:C 距離 短距離:C マイル:C 中距離:C 長距離:C 脚質 逃げ:C 先行:C 差し:C 追込:C 成長補正 スピード スタミナ パワー 根性 賢さ 6% 6% 6% 6% 6% スキル 固有スキル:/\cl(L 1_p\/ 1(_ レースの終盤で呼吸を整えてラストスパートの準備をする。 + 発動条件および効果 レースの終盤に入ると同時に発動。速度と加速力をちょっと上げて持久力をわずかに回復させる 初期スキル 末脚 右回り◎ 左回り◎ 覚醒レベル Lv2:直線巧者 Lv3:曲線のソムリエ Lv4:コーナー回復◯ Lv5:弧線のプロフェッサー 名前 コメント
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山口春菜をお気に入りに追加 山口春菜とは 山口春菜の72%は愛で出来ています。山口春菜の22%は運で出来ています。山口春菜の3%は純金で出来ています。山口春菜の1%は嘘で出来ています。山口春菜の1%は夢で出来ています。山口春菜の1%は時間で出来ています。 山口春菜@ウィキペディア 山口春菜 山口春菜の報道 英国さながらの別世界が待つ「ローザンベリー多和田」で、イングリッシュガーデンに癒やされる【まるで海外な絶景旅イギリス編】|るるぶ&more. - るるぶNEWS 学生音コン:学生音コン全国大会声楽 高校1位、板戸さん 大学1位、上村さん - 毎日新聞 弟を守るために…萩原成哉作品「Ensemble」に佐武宇綺ら - ステージナタリー 舞台「終末のワルキューレ」開幕、飯窪春菜「それぞれの闘士がその場の主役」(コミックナタリー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 舞台「終末のワルキューレ」開幕にブリュンヒルデ役の飯窪春菜「熱い熱い戦いを観て」(ステージナタリー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース テーマは嫉妬と憎悪、マーダーミステリーシアター最新作に36人のキャストが挑む(ステージナタリー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース TAIYO MAGIC FILMの2本立て公演、出演に佐竹桃華・山本裕典ら - ステージナタリー ソニー生命カップ第43回全国レディース大会が開幕、ベスト16が出揃う [テニス](テニスマガジンONLINE) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 舞台「終末のワルキューレ」飯窪春菜&田上真里奈を中心としたメインビジュアル(動画あり) - ステージナタリー 【京都】春・秋のみ特別公開される嵐山の宝厳院へ! 紅葉に彩られた庭園はライトアップもおすすめ|るるぶ&more. - るるぶNEWS 【京都】苔と紅葉のコラボが人気! 大原の名刹・三千院でひと足早い洛北の秋を楽しもう|るるぶ&more. - るるぶNEWS HISアメリカ法人が、サステナブルツーリズムの旅行予約サイトをリリース | 最新記事 - 日本最大級の民泊情報サイト MINPAKU.Biz 心と心の交流が生まれる町に。Airbnbと長野県辰野町がパートナーシップを締結 | 最新記事 - 日本最大級の民泊情報サイト MINPAKU.Biz 神と人がタイマン勝負!「終末のワルキューレ」舞台化、ブリュンヒルデ役は飯窪春菜(コメントあり) - ステージナタリー パソナJOB HUB 鳥取県の自治体や企業、団体と都市部人財との新たなコミュニティを創出『とっとり翔(か)ける福業』 都市部人財向けオンライン説明会 8月5日開催 - PR TIMES 近藤春菜、充実の新生活「日々新鮮で楽しい」『スッキリ』での成長やお笑いへの思いも語る (1) - マイナビニュース 近藤春菜、9人のNiziUと初対面 “寮母感”あふれる記念ショットに反響 - クランクイン! 川口春奈「クッキーとラーメン作りに専念を!」 近藤春菜とのWハルナ2ショットに反響 - クランクイン! 飯窪春菜が“ゲスの女王”に、ジャーナリストの葛藤や闘い描く「フェイクニュース」(コメントあり) - ナタリー 「Slack」はただのチャットツールではない――教育現場で使われる理由とは? - EdTechZine(エドテックジン) オンラインキャンパスの運営者3名が語る「Slackの価値」 (1/3) - ASCII.jp 若者たちが考える「次世代のサステナブルブランド」とは - 株式会社 博展(サステナブル・ブランド企画推進室) 近藤春菜、山口真帆に同情「夢潰された」「運営側は何を守りたいのか」 - マイナビニュース 山口春菜をキャッシュ サイト名 URL 山口春菜の掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 山口春菜のリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 山口春菜 このページについて このページは山口春菜のインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される山口春菜に関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
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三 世の中というのはかくも不平等に出来ているものか。 衛士は大きな溜息をついた。 我々が夜を徹して警備に勤しむ中、親愛なる旦那様はいい女とお楽しみ中、と。 まぁ、それで給金を貰っている以上、文句を言っても仕方のないことなのだが…… ……しかし夜風が身にしみる。せめて屋内担当だったらまだ暖房が効いているのに。 それでいて外と中で給金が同じというのは、まったくもって納得がいかない。 「なぁ……そう思うだろ、あんたも?」 近くに立つ同僚に声を掛ける。 ……返事がない。 元々愛想の良い奴ではなかったが、声を掛ければ返事くらいは寄越すはずだが……聞こえていないのか? 「おい」 唐突に同僚の身体が揺れ、その場に倒れた。 「! おい、どうした!?」 カタリ。 仲間の元へ駆け寄ろうとしたところで、背後から微かな物音。 咄嗟に振り向くと、目前に覆面を被った人間が立っていた。 「賊――!?」 仮にも戦闘訓練を受けている身。突然現れた敵にも冷静に対処する。 すぐさま槍を構え、目の前の賊に突き付ける。 賊は動じた様子もなく、無言で手に持った小壜から中の液体を振りかけた。 甘い香りが衛士を包む。 咄嗟に鼻と口を押さえるが、時既に遅し。 視界はぼやけ、意識が薄れてゆく。 衛士は力を振り絞り、敵の覆面を剥ぎ――そのまま倒れた。 覆面の下にあったのは、青銅の兜だった。 兜だけではない。鎧、籠手、具足、そしてその中の骨格さえも。 全てが青銅で出来ていた。 青銅のゴーレム。――すなわち、賊の正体は『ワルキューレ』である。 * 「四号及び五号、コンプリート。これで屋外の敵は全て無力化、と」 伯爵家の敷地の隅の藪の陰。丁度警備の死角となる場所。 地面に掘られた穴からひょっこりと顔を出す覆面の男。その右手には造花の薔薇。左手には一振りの刀。 目の前のゴーレムに薔薇を突き付けると、ゴーレムはまた元の姿――花びらへと戻り、薔薇の中に収まった。 『どうだい! これが僕の本気さぁ!』 男――ギーシュが心を通じて刀に呼びかけた。 『……半分以上は俺が発案したんだがな』 刀――殷雷刀が突っ込む。 ギーシュの使い魔が穴を掘り、地中から敷地内に潜入。 『ワルキューレ』を操り、衛士に気配を悟られず接近。 そしてモンモランシー謹製の、催眠成分入りの香水でそれらを無力化。 その間、彼らはこの場を一歩も動いてはいない。 ……ギーシュ自身の手柄はワルキューレの部分だけで、それも別に必ずしも使わなくて良かった、 などと言ってしまうのは少々意地悪がすぎるだろうか。 まぁそれでも、彼の助力無くしてここまで順調に事は進まなかった、と言うのは間違いない。 ギーシュの脇から、巨大なモグラが顔を出した。 功労者の一人――いや一頭。ギーシュの使い魔、ヴェルダンデである。 ヴェルダンデは興奮気味に鼻を鳴らしつつ、周囲を見渡している。 「もしかしたら騒がしくなるかもしれない。ヴェルダンデ、君はここで大人しくしてるんだぞ?」 ギーシュが言うと、巨大モグラは大人しく頭を引っ込めた。 使い魔と主人の正しい姿である。 『……それに引き替え、ウチのご主人様は何やってんだかな』 この位置からでは確認できないが、目の前の屋敷の中にルイズが居るのは間違いない。 『ルイズはあれでも公爵家の娘だ。そう悪いようにはされてない……と思うけどね』 ……相手は稀代の助平人間であるモット伯なので、断言は出来ないが。 女を傷物にせずに手込めにする方法も、彼なら熟知しているだろう。 『いや、さすがに今朝連れてきて今夜いきなりってことはない……んじゃないかな』 『やけに歯切れが悪いな』 『まぁ……なにせ好色一代男だから』 何にしても、ここで考えていても埒があかない。しばらくすれば、縛り上げてある衛士たちが目を覚ましてしまうかもしれない。 『とにかく、行くぞ。冷静に、敏速に、隠密にな』 左右に動く人影がないことを確認し、ギーシュはゆっくりと立ち上がる。 そして、素早く建物の壁に張り付く―― ――キュイィィィィィィ!! 突如、上空から響く甲高い鳴き声。風を切る音。 ――そして、舞い降りる巨体。 凄まじい速度で降下してきた『それ』は、地面スレスレで急停止した。 巨大な翼。瞳。牙。角。爪。尻尾。それはまさしく―― 『……ツバサオオトカゲ?』 『な、何言ってるんだい。竜だよ、竜! ドラゴン!!』 ……やっぱりそうか。 その姿は殷雷の知る龍とは大分異なってはいたが、言われてみれば確かにそうも見える。 竜は甲高い雄叫びを上げると、再び空へと舞い上がっていった。 『……そういえば、使い魔のドラゴンが居なくなったとか何とか誰かが言ってたような気が』 『先に言え! くそっ、どこまでも面倒な!』 おそらく、この竜はメスなのだろう。 蜂引笛で魅了できるのは人間だけではない。 先にも述べたが、その対象は『無差別にして無条件』。 猛獣、幻獣の類すら例外ではないのだ。 翼が突風を巻き起こし、カマイタチが屋敷を削る。 爪が空を切り裂き、吐息が大地をえぐる。 その苛烈にして豪速の連続攻撃を、殷雷は躱すので精一杯だった。 一撃でも受ければ、致命傷は免れない。 それにつけてもこの動きはあまりにも異常だ。 六メイルを超える巨体が自由落下してきたかと思えば、そのまま速度を落とさず水平飛行に移り、 さらにこれまた同じ速度のまま、今度は急上昇。 これらの動作を間断なく行っているのだ。 「お、お、おかしいよ! これは!? 幾らドラゴンだからって無茶苦茶だ!! 学園にこんな使い魔が居たなんて話、聞いてないぞ!?」 ギーシュが悲鳴を上げる。 ……確かに、物理法則も何もあったものではない。 ギーシュが身を捻るたびに、敷地内は破壊されてゆく。 天から見下ろされては、屋敷の陰に隠れることもままならない。 ――ひとつ、殷雷には気になる物があった。 『……あの足環、まさか……』 竜の右後ろ足に着けられた銀色の環。それには見覚えがあった。 大きさは合わないが、形、色は彼の記憶と一致する。 ありえない。ありえないはずだが…… 『まさか、界転翼か……!?』 『か、回転……何?』 界転翼。かつて戦った、猛禽類の能力を強化する足環の宝貝の名。 『猛禽類って……鷹とか鷲のことだろ? 竜じゃないか!?』 そう。強化できるのは猛禽類に限る。それ以外のモノが身に付けても効果はない。 ――その、はずだった。 ありえない。おかしい。矛盾している。いや、界転翼だけではない。 ……実を言うと、蜂引笛についても致命的に引っ掛かる点がある。 が、今は目の前の状況を片付けるのが先だ。 既に庭は荒れ放題で、眠らせた衛士達に死者が出ていないのが不思議なくらいだった。 ……一応、相手もその辺りは気を使っているのかもしれない。 とてもそうは見えないが。 「こんな相手と長々戦っていられるか……少しばかり荒っぽい手で終わらせてもらうぞ!」 殷雷はギーシュの声でそう叫ぶと、懐から小さな白い玉を取り出した。 『そ、そんな飴玉で何が出来るんだ!?』 ただの飴玉である。――少なくとも、外見上は。 『あ、ぶつけて目を潰すとか?』 『……潰せたところで状況が好転するとは思えんな。飴玉の使い道なんぞ、一つしかあるまい』 ギーシュが動きを止めたのを見て、竜はとどめを刺すべく急降下を仕掛けた。 爪か、翼か、それとも吐息で来るか。 ……何でも良い。どうせすることに大した違いはない。 ギーシュの眼前で竜は大きな口を開け、牙を剥いた。 噛み付きか? 吐息か? ――どちらでも構わん! 竜の口の奥に飴玉を放り込む。 ギーシュは横に転がって身を躱し、とどめを刺し損なった竜は再び宙へと舞い上がる。 「……やれやれだ」 殷雷は大きく息を吐いた。 いらぬ所で時間を食ってしまった。この騒ぎは間違いなく屋敷内にも伝わっているだろう。 『え、終わり? ……何で?』 殷雷によって身体を操られた当人であるにも関わらず、ギーシュには状況が理解できなかった。 竜は未だ上空を飛び回っている。まだ何も終わっていないのではないか? 『今、何をしたんだい?』 『見ての通り、いや、やっての通りか。飴玉を飲ませただけだ。 ……九鷲特製の、魂沌酒を練り込んだ奴をな』 キュィアアアアアアア!! 竜の鳴き声が変わった。先ほどまでと比べて、明らかに獣じみている。 「魂沌酒は、飲んだ者に強大な力を与えるとともに、理性を吹き飛ばして野獣へと変える。 そう長い時間じゃない。……まぁ、飴玉に含まれる程度の量なら、せいぜい十秒か二十秒か」 ……確証はないが。 『時間が来れば、ブッ倒れて意識を失う。 それまでひたすら逃げ回れば、ひとまずは勝ちだ』 『……逃げ切れなかったら?』 『死ぬだけだ』 『ちょっ!?』 殷雷は、この飴玉を貰った時の九鷲の言葉を思い出していた。 ――ちょっとした工夫をしてみたわけ。 ちょっとした工夫。何と不吉な言葉であろうか。この言葉にはロクな思い出がない。 そしてこの出来事も、『ロクでもない思い出』として記憶に残ることだろう。 さあ、あと十六秒。 完全に暴走状態の竜が、頭上に迫る。 ――あいつ、少し龍華に似てきたな。 殷雷の頭に浮かぶのは、そんな場違いな考えだった。 * ……さて。 まだ屋敷内にすら侵入できていないにも関わらず、予想外に手間取ってしまった。 モット伯はもう逃げ出してしまっただろうか? ――いや、竜が暴れ回る外よりは、屋敷内の方が安全か。 内部の構造は不明だが、人が住んでいる以上そう非常識な造りにはなっていまい。 『こうまで派手にやっちゃった訳だし、いっそ正面から突入するのも手かなぁ』 すこぶる疲れた様子のギーシュ。 先ほどまで大暴れしていた竜は、庭――と言うかかつて庭であった場所――に陣取って、大きないびきをかいて爆睡中。 出来れば、こいつが再び目覚める前に片を付けたいところだ。 『いや、複数の入口から同時にお前の人形を踏み込ませて、その隙に窓から――』 ガラッ。 「あ」 「あ」 唐突に窓が開き、そこから顔を出した人物と目が合ってしまった。 「へ……変態!」 「せめて泥棒と言え!!」 ……ルイズだった。 「……って、その声、もしかしてギーシュ!?」 二秒でバレた。 「ギーシュあんた、こんな所で何やってんのよ……まさかこの騒ぎ、あんたの仕業?」 「ち、違うぞ。私は、ええと。愛の……いや薔薇の」 しどろもどろのギーシュに代わり、殷雷が代わりに突っ込んだ。 「何やってんのはこっちの台詞だ。お前こそ何故こんな所にいる」 突然変わったギーシュの口調に少々驚いたようだが、すぐに殷雷刀の存在に気づく。 「インライまでいたの……伯爵の屋敷を襲撃するなんて、何考えてんのよあんたら……」 誰のせいだと思っているのだ。 「質問に答えろ。何故、お前が、ここに居るんだ」 聞き慣れぬギーシュの強い語調にルイズはたじろぐ。 「え、ええと……そう! 公爵家の娘として、モット伯から学びたいことがたくさんあったのよ! 別におかしい事じゃないでしょ!?」 「それならそれで、使い魔や級友に対して書き置きなり言伝なり残すのが筋というものだろうが」 「ううう」 ルイズは、一つのものに入れ込むと周りが見えなくなる気質なのだろう。 大きく息を吐き、後を続ける。 「お前が誰に惚れようが勝手だがな。最低限やるべき事はやってもらわないと、迷惑が――」 「な、な、な、何言ってんのよ! 誰が誰に惚れてるって!? 馬鹿言ってんじゃないわよ!!」 全力で否定された。 「だ、誰があんな、スケベで、金持ちなだけの、ヒゲの……その……か、勘違いするんじゃないわよ!!」 口ではそう言っていても、真っ赤な顔で説得力ゼロのルイズ。 『こういう形の愛もあるんだねぇ。いやぁ面白い。参考になる』 『……俺にはよく分からん』 将来こいつの恋人になる男は苦労するだろうな、というのだけは分かった。 「……ま、認めなきゃ認めないでかまわん。上がらせてもらうぞ」 「ちょ、ちょっと!」 と、窓枠に足を掛けたところで。 コンコン。 「ルイズ嬢。お怪我はありませんかな?」 扉を叩く音と、中を伺う声。 その声の主は―― 『――モット伯だ』 と、ギーシュ。 好機到来。相手の方から近づいてきたのなら、さっさと目当ての物を奪ってしまえばいい。 窓から屋敷内に侵入、室内を横切り扉に手を掛けて、 「やらせない!!」 ――突然の爆発に、扉ごと吹っ飛ばされた。 「な、な、何だ!?」 突然扉が吹っ飛んで向かいの廊下に叩きつけられ、しかもそこに謎の覆面男が張り付いていたのだ。 モット伯が驚くのも当然だろう。 ルイズがいきなり実力行使に出るのは予想外だったが、モット伯との距離を縮めるのには成功した。 ――が、爆発の第二波が殷雷の追撃を阻止する。 「逃げて下さい、モット伯! 賊は、私が始末します!!」 部屋の中からルイズの声。モット伯は素直に従った。 「くそ、逃がさ――」 「逃がさない!!」 ――第三波。 それにしてもこの爆発、かなりの威力だ。 皆はこれを『失敗魔法』と呼ぶが、素直に火の玉や突風を起こされるより余程質が悪いのではないか? ルイズの攻撃を躱しつつ、モット伯を追う。 優れたメイジだからかどうかは不明だが、モット伯の逃げ足は意外なほど速かった。 そういえば、屋敷内に入ってから衛士を一人も見かけない。 最初から居ないのか、それとも全員逃げたか。 ――大広間に出て、モット伯は足を止めた。 「観念したか? さっさと宝貝を渡してもらおうか」 しかし伯爵の表情にはまだ余裕がある。 「パオペー? 貴様、パオペーの事を知っているのか。 ……もしや、お前が噂の『土くれのフーケ』か?」 土くれのフーケ。殷雷には聞き覚えのない名前だったが、ギーシュが教えてくれた。 『最近、貴族たちを狙って暴れてる怪盗だよ。僕らをそいつと勘違いしてるみたいだけど……どうする?』 向こうが油断してくれていた方が、こちらとしてはやりやすい。 「いいや。お前のお宝をフーケが狙ってるって噂を聞いたんでね。 お先にいただいてしまおうと思ったのさ」 わざと小物っぽく振る舞うのも一つの策である。 「ほれ、さっさと宝貝をよこせ」 モット伯は余裕の表情だ。 「勘違いするなよ、コソ泥が。 私が此処まで移動したのは、単に廊下では狭すぎたからだ。 この『波濤のモット』の力、存分に目に焼き付けろ」 悠然と杖を構える。 はったりではない。この自信は実力に裏付けられた物だ。 と、緊迫した空気が流れたところで、ルイズが割り込んだ。 「ぜぇ……ま、待って。はぁ、はぁ。こいつは、私が」 ……魔法を連発しながら走っていたため、息も絶え絶えである。 「しかしだな、ルイズ嬢」 「……お願いします」 「……では、無理はせぬように」 そう言って、数歩後ろに下がった。 杖の構えは解かない。やはりそう簡単に隙を見せる相手ではない。 ギーシュとルイズが対峙する。 その構図はいつぞやの『決闘』を思い起こさせた。 ただ一つあの時と違うのは、殷雷刀を握っているのがルイズではなくギーシュであること。 ギーシュは、相手にだけ聞こえる小声で言った。それは殷雷刀の言葉だった。 「……言っても信じないだろうが、お前のその恋心はモット伯が持ってる宝貝によって植え付けられた物だ。 本当の気持ちではない」 「だ、だから恋とかそんなんじゃ……ああもう! ……で、それが本当だとして、あんたらはどうしたいわけ?」 「もちろん奪って、お前を正気に戻す。正確にはお前だけじゃないが」 「……そうなったら、私のこの気持ちも消えちゃうの?」 「当然」 「じゃあ、絶対に渡せない!!」 「……だと思ったよ」 頑固な娘である。 ルイズは杖を構え、ギーシュも空いた方の手で造花の薔薇を取り出す。 今度はルイズが話しかけてきた。 「……さっさと降参すれば、今ならまだ許してあげなくもないわよ。 モット伯にもあんたらの正体は黙っていてあげる」 「冗談」 「……だと思ったわ」 二人の呪文は同時に完成した。 「ファイヤーボール!」 「『ワルキューレ』!」 爆発がギーシュを襲う。 ……爆煙が晴れると、三体のゴーレムがバランスを崩し、倒れるのが見えた。 残り三体と、その向こうのギーシュは平然と立っている。 ルイズは舌打ちする。 ――六体? 破壊されたゴーレムと、立っているゴーレム。計六体。 ギーシュの手の薔薇には、花びらは一枚も残っていない。 確か、ギーシュのゴーレムは全部で七体―― 「はい、ご苦労様」 覆面の向こうでギーシュが笑う。その声は彼自身のものだった。 ――ギーシュの手から、殷雷刀が消えている。 「後ろだ!!」 背後からモット伯の声。だが、振り向く前にルイズは意識を失い、倒れた。 殷雷刀を持った七体目の『ワルキューレ』が、香水を浴びせかけたのだ。 * 『……人間以外の体も操れるもんだな。初めてやったが』 ワルキューレの一体に殷雷刀を握らせ、爆発のどさくさに紛れて回り込む。 遠くから見ればどうということはないが、間近にいたルイズには認識できなかったのだ。 殷雷刀を握る『ワルキューレ』の左手は淡く輝いていた。 モンモランシーからもらった香水は今ので使い切ってしまったが、問題はない。 残るはモット伯ただ一人。 「さて。四対一……いや、五対一かな? 大人しくパオペーを渡してくれれば、危害は加えないよ」 先頭の『ワルキューレ』が、殷雷刀の切っ先をモット伯に向ける。 残る三体も各々の武器を構える。 幾らモット伯が優れたメイジでも、この戦力差は覆せまい。 ――だが、モット伯は余裕の笑みを浮かべるばかり。 そして、その口から紡ぎ出されたのは意外な言葉だった。 「私は、いつも孤独だった」 訝しむギーシュたちに構わず、後を続ける。 「私は金に物を言わせて、多くの女を手に入れてきた。 逆らう者などいようはずもない。 だが、女達はこの私に身体は許しても、決して心までは許そうとしなかった。 地位、名誉、金、力。私は全てを持っている。 にも関わらず、心だけはどうしても手に入れることが出来ない。 私は、孤独だった……」 モット伯の顔が凶悪な笑みに歪む。 「『金で心は買えない』などとはよく言ったものだ。 ――だがな。 パオペーでなら買えるのだ! 世の中というのは上手くできているものだなぁ!!」 伯爵は高らかに笑い、杖を放り捨てた。 そして懐から紅色の笛を取り出す。 「ルイズ嬢はよくやってくれたよ。 お前たちは、彼女が何の役にも立たずに倒れたように見えただろうが、そうではない。 彼女のお陰で、私は良い物を見ることが出来たよ。 ・ ・ ・ ・ お前のその――女性型のゴーレムをな!!」 ――しまった! モット伯は蜂引笛に口を付けようとしている。 殷雷刀のゴーレムは即座に背後を振り向いた。 『ギーシュ! 人形を引っ込めろ!!』 駄目だ。『ワルキューレ』は声を出せるようには出来ていない。 ならば笛の方を―― 『ワルキューレ』はモット伯めがけて駆ける。 ――が、意外な人物にそれを阻まれた。 「ジュール様を、傷つけさせません!」 メイドの少女が両手を広げて立ち塞がる。――シエスタだ。 『くそ、こんなところで!』 ビィビョロビャビラリィ。 そして、虫の羽音のごとき笛の音が広間に響き渡る。 殷雷刀のワルキューレががくりと膝を付いた。 「どうした、ワルキュー……ぐへっ」 ギーシュの目前のワルキューレは、左右から主人の腕を掴み、地面に組み伏せた。 『そんな、馬鹿な……』 ――異性でさえあれば、あとは無差別にして無条件。 ギーシュのゴーレム、『ワルキューレ』は確かに女性型だ。 ただしそれはあくまで表面的な装飾のみであり、中身は一般的なゴーレムと一切変わらない。 だが、蜂引笛は『彼女』たちを魅了した。ただの青銅の塊である『ワルキューレ』たちを。 蜂引笛の効果が無機物にまで及ぶとは、流石の殷雷も予想外だった。 『予想外、予想外……! くそっ、最近こんなのばっかりだ!!』 殷雷は必死で抵抗するが、『ワルキューレ』の手足は全く言うことを聞かない。 モット伯は驚いていた。 これまでの相手は全く抵抗する素振りもなく易々と魅了できていたのに。 目の前の何の変哲もないゴーレムだけが例外だとでも言うのか。 だが、効いていない訳ではない。確かに苦しんでいる。 モット伯は息を強め、駄目押しの曲を奏でる。 仮にも宝貝の笛。使用者が望む限り、幾らでも奏で続けることが出来るのだ。 長期戦では殷雷たちに勝ち目はない。 『くそったれめ……』 ここで屈してしまったら、自分はどうなる? ルイズは? ギーシュは? シエスタは? ……女性陣は無事かも知れない。自分も、『ワルキューレ』から解放さえされれば自由の身に戻れる。 だが、ギーシュはどうなる? 彼がグラモン元帥の息子であることを明かせば……駄目だ。 それを証明できる人間は今、催眠香水で夢の中。 たとえ証明できたところで、己を脅かす敵の存在をモット伯は許さないだろう。 ……秘密裏に始末されるのが関の山か。 元々ギーシュが今回の件に首を突っ込む利点はない。 決闘で恥をかかせないでくれた借りを返すため? ……そんなもの、いつでも返せた。こんな危ない橋を渡る必要は何処にもない。 せめて、ギーシュだけでも助けてやらねば。 屈する訳にはいかない。 ――その時。 笛の音が消えた。 笛だけではない。風の音。虫の声。全ての音が消えた。 モット伯の目が驚愕に見開かれ、思わず口を離してしまう。 再び、世界に音が戻る。 風に乗って、かすかに声が聞こえたような気がした。 ――足環は、後で返す。 それが誰の声かは分からなかったが、考えるのは後回しだ。 モット伯は慌てて笛に口を付けようとするが、遅い。 ワルキューレは雷光の速度で立ち上がる。 シエスタの脇をすり抜け、モット伯の手から蜂引笛を奪い取った。 ついでに回し蹴りも食らわせておく。 ……モット伯は昏倒した。 これでようやく、永い夜が終わる―― * ビャララリビャロルゥビャラ。 相変わらずの怪音。強力なのは認めるが、この音はどうにかならないものだろうか? シエスタは蜂引笛から口を離した。彼女の小脇には殷雷刀が抱えられている。 「――では、モット伯。この宣誓書に署名をお願いします」 テーブルの上に置かれた紙切れには、以下のように書かれていた。 『わたくしは二度と宝貝を悪用致しません。 また、ご迷惑をかけた女性たちに深くお詫びを申し上げます。 女遊びは控えます。 シエスタには手を出しません。 あと、壊れた屋敷の修理代も請求しません』 概ねこのような感じ。 ……後半になるに連れて文章がヤケクソ気味になっているのは気のせいだろうか? モット伯は憔悴しきった表情でうなだれていたが、ゆっくりとペンを取り紙に文字を走らせた。 『ジュール・ド・モッ ――と、ここで止まった。 「……どうしたんですか? あと少しですよ」 モット伯の手が震えている。 彼は声を絞り出した。 「駄目だ……この宣誓書には、サイン出来ない」 殷雷刀が跳ねる。 『馬鹿な! 宝貝の力に逆らったというのか!?』 蜂引笛の威力は殷雷が身をもって知っている。 あの音色を聞いた以上、今のモット伯がシエスタに逆らえるはずがない。 モット伯はおもむろにシエスタの腕を掴み、すがりつく。 その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。 「行かないでくれシエスタ! 私にはお前が必要なんだ! 愛している! 愛してるんだよシエスタ! 頼む、私の財産の全てをやってもいい!! だから私を捨てないでくれえええぇぇぇぇぇ!!」 ……そうだった。正確には、蜂引笛に『異性を操る力』は無い。 ただ、『絶対的な恋心を植え付ける』こと。それが力の全て。 その対象から引き離そうというのだから、抵抗しない訳がない。 これを説得するのは、並大抵の労力では不可能だろう。 『……どうしましょう?』 『……どうしたもんかなぁ』 永い夜は、まだまだ終わりそうにない――
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閃く鉄扇の乙女(ひらめくてっせんのおとめ) 閃く鉄扇の乙女 ユニット- ワルキューレ 使用コスト:白1無2 移動コスト:白1無1 パワー:3000 スマッシュ:1 タイミング クイック 閃光(このカードが移動して解決するまでの間、すべてのプレイヤーはカードのプレイができない。) 進撃-[バトルスペースのスクエアにあるこのカード以外のリリース状態のあなたのユニットを1枚選び、フリーズする] (あなたは、このカードの移動コストを支払うにあたり、追加コストとして進撃のコストを支払ってよい。 そうした場合、その移動でこのカードがスクエアに置かれた時、以下の効果を誘発する。) 『あなたはバトルスペースのスクエアにある対象のユニットを1枚まで選び、そのユニットがリリース状態ならばフリーズする。 そのユニットは、次の支配者のリリースフェイズにリリースしない。』 移動スタックされない&エネルギーフリーの進撃を持つユニット。 各色に存在するこのテのカードでは最も進撃コストが大人しい。 能力は《ノーマル》タイミングの束縛効果である為決まりにくいが、 「マリントップガン」や「バーニング・スナイパー」の能力を誘発するには丁度いい。 「調停商人オウル・カーン」「命令する魔女」との連携もまた冴える。 収録セット サード・センチュリー エキスパンション 閃光の来訪者(045/100 アンコモン) イラストレーター じじ 関連リンク 種族 ワルキューレ 参考外部リンク
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『ワルドマンが倒せない』 作詞・歌 平賀才人 (前奏) 気がついたら 同じ展開でプレイ そしていつも同じ場所で負ける 諦めずに アルビオンまでたどり着くけれど すぐにルイズ結婚 ギーシュのモグラがいれば 楽に味方を呼んでくれるけど 何回やっても 何回やっても ワルドマンが倒せないよ あの竜巻 何回やっても避けれない 後ろに回って 斬り続けても いずれは風に飛ばされる ガンダールヴも試してみたけど 遍在相手じゃ意味がない! だから次は絶対勝つために 俺はデル公だけは最後まで持っておくぅ~ (間奏) 気がついたら ルイズもう飛び出してる そしていつもそこで俺が救う 諦めずに 高い大剣振り回すけれど すぐにポキリと折れる クロスの強キャラいれば 楽に敵を攻略できるけど 何回やっても 何回やっても フーケさんが倒せないよ あのゴーレム 何回やっても強すぎる 後ろに回って 魔法撃っても いずれは土に埋められる ガンダールヴも試してみたけど 本体やらなきゃ意味がない! だから次は絶対勝つために 俺は『破壊の杖』は最後まで持っておくぅ~ (間奏) ギーシュのモグラがいれば 楽に味方を呼んでくれるけど 何回やっても 何回やっても ワルキューレが倒せないよ あの青銅 何回やっても避けれない 後ろに回って 距離をとっても いずれは距離を詰められる ガンダールヴも試してみたけど 丸腰パンチじゃ意味がない! だから次は絶対勝つために 俺は長剣だけは最後まで持っておくぅ~…… (倒せないよ……) (終奏) (ティウンティウンティウンティウン) (GAME OVER)
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ガキンッ 叩きつけられるゴーレムの鋼の拳を、デルフリンガ―で受け流し刀身が鈍い音を立てる。 「一応褒めておいてやるぜ、その頑丈さ」 「俺の偉大さが判ったかアヌ公」 「ケッ、褒めてんのはお前を作った刀鍛治だぜ」 軽口を叩きながらも、くるくると身を翻しその鋼鉄の腕を、アヌビス神で斬りつける。 キンッ しかし高い音がして弾かれる。 「くくっ、鋼鉄のゴーレム……その硬さ憶えたぞッ!」 しかし二度目の斬撃は鋼鉄をバターの様にあっさりと斬り飛ばす。 動きが重たいゴーレムの周りを、女神が舞うかの様に華麗にワルキューレが跳び、そして跳ねる。 「お仲間が使い手だった時はおどれーたがよ。こうしてきちんと剣の癖して剣を操れるってんだから納得だ」 ゴーレムの後ろを取りながら、鋼鉄の部分をアヌビス神、そうで無い部分をデルフリンガーと器用に使い分けながら次々と斬りつけて回る。 身体から引き出せる力を最大限とし、人の目にも止まらぬ速度で、今までのゴーレムの再生速度を越える速さで四方から斬撃を加え続ける。 タバサ操る風竜のシルフィードが一瞬、アヌビス神らの背面を翔け抜ける。その一瞬タバサがこくりと頷くのが見えた。 大きく跳躍し、魔剣、妖刀、二振りを持ってして大上段から一気にゴーレムを上から下へと斬り裂き、其の侭跳ぶ様に後ろへ下がる。ワルキューレの青銅の身体が、その負荷に耐え切れずに罅割れを大きくし、肩が、背が、砕け崩れる。 自らの側を旋廻し飛翔する風竜に向ってアヌビス神が怒鳴るように叫ぶ。 「ギィィーシュ!!」 叫びに応える様に花びらが舞い、ワルキューレの砕けた身体を次々と健常体へと『錬金』していく。 ギーシュのその動きに続けてタバサが杖を大きく振るう。それと共に巨大な竜巻が現れ、ゴーレムを包み込む。 「次は、あ・た・し」 キュルケが杖を振るい巨大な炎を放ち、竜巻を火炎竜巻へと変える。新鮮な酸素を次々と吸い込む竜巻が炎をより高熱とし、渦巻く高熱の風が、全身切裂かれたゴーレムの全身の構成をぼろぼろにしていく。 「次はあなた」 タバサが少し呆然とその様子を伺っていたルイズを振り向く。 「わ、わたし?」 「これ以上は打撃や衝撃を与えないと駄目。風では足りない。氷は炎で弱る」 タバサがこくりと頷く。 「あの火の中ではワルキューレは耐えられない」 つまり失敗魔法の爆発力で攻めよと彼女は言っている。 ぱしんっとキュルケがルイズの背を叩く。 「わ、わわ、判ったわよ!」 息もつかせぬ速度で次々と、もっとも詠唱が短いルーンを唱える。 火炎竜巻に翻弄されるゴーレムの巨体の彼方此方で、ボンッボンッと爆発が起こり。その脆くなった部分を崩していく。 竜巻が収まった後には、身体を白ませボロボロになったゴーレムが佇んでいる。しかしその身体は未だ動きを止めない。 ワルキューレの身体を持ち直したアヌビス神とデルフリンガ―が、大きく吼え、ゴーレムへと飛び掛る。 脆くなった肩を踏みつける。 半壊した片腕を斬り捨てる。 その頭部を叩く様に斬りつけ砕く。 「おれ的にイメージは良くねえけどよォー」 「あ、何だって?」 「気にするな、行くぜェー」 胴を、狂った様に両の手を振るい次々と斬りつけはじめる。 「斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る」 連撃の負荷に耐えかね、ワルキューレの肩が、腕が次々と皹を走らせ、ギシギシと疲労音で泣き声を上げる。 「か、勘弁してくれ……た…まえ…」 ギーシュが顔を真っ青にして、ふらふらしながら、シルフィードの上から薔薇の花びらを撒き散らす。 それはタバサが起こした小さなつむじ風と共に、花吹雪となってワルキューレを美しく彩る。 ゴーレムの上半身が細切れとなり風に散る。 花吹雪と共に力を取戻したワルキューレを酷使し、其の侭ゴーレムの、腹、腰へと斬撃を加える。 「もういっちょ行くぜデルフ!!」 「おうよ、いっちまえ兄弟!!」 「かァァァァァ―――――― 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る 斬る斬るKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILL KILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILL KILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILL KILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILL KILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLキッルァァァァァァ―――!!!!」 足首を残しゴーレムがサイコロの様に切り刻まれ散る。 それは魂運ぶ戦乙女が齎す死の踊り。 「やっぱおれ、これはイメージ悪いな。オラオラ見てえだ」 「オラオラってなんだ?」 「気にすんな」 そしてワルキューレの身体がついに耐え切れず次々と崩れる。 肩が、腕が、肘が、掌が、首が、胸が罅を走らせ砕ける。 アヌビス神とデルフリンガ―が、崩れる手から取り落とされ、青銅と土の山の上に突き立つ。 「やったの?」 キュルケが下の様子を首を伸ばす様にして覗き込む。 「はは……これで終ってくれていないと僕はもう駄目」 ギーシュはついに力を使い果たし、気を失う一歩手前とばかりにシルフィードの上に突っ伏す。 ルイズは自分の手の平を見て、何かを握る様にぐっと力を入れる。 タバサは気をまだ抜かずにじぃーっと下の様子を伺い続ける。 「駄目……まだ」 残った足首からゴーレムが回りの土を取り込みながら再生を始める。 「うっそォーん」 「だ、だだだ、駄目じゃねえかァッ!」 「脚だ、脚残したからっ」 「ア、アホォッ、何で最後まで斬らなかったんだっ」 「ちょ、ちょっと地面に埋まってたから、てへっ」 「てへっじゃねえ、この若造ッ!」 「と、兎に角やり直しだ。ギィーッシュッ!!」 アヌビスの声に、上空からタバサが腕で×の字を書いて答える。 その僅かなやり取りの間にゴーレムは腰の辺りまで再生している。 「マジかマジかマジか」 「そりゃドットメイジにあそこまでやらせちゃ持たねえだろうよー!」 「嘘だろ嘘。だって修理の分考えてもワルキューレ七体行ってねえよォー」 「馬鹿でっけえ剣作らせてたじゃねえか馬鹿っ!それにあんな空の上から地上への『錬金』 普通にやるよりちょっと負担でかいって。馬鹿馬鹿馬鹿っ!」 「おれ達さっきまで格好良かったよな?」 「ああ、間違いなくぶっちぎりで俺たち伝説だったぜ」 「じゃあ今はどうだ?」 「可愛い鞘付けて武器屋のバーゲンワゴンセール品以下だーな」 上半身まで再生したゴーレムが腕を振り上げる。 「あのゴーレムもワルキューレみたいに操っちまえよ。それでオッケーだ兄弟」 「どうやってェー。最初に触った時にバラバラ粉々だァー」 「使えねえなオメー」 「人の事言えるか!」 「「ははははははは……」」 二振りはお互い言い合うだけ言い合うと、渇いた笑いしか出てこなくなった。 シルフィードの上、ルイズがすくっと立ち上がる。 「タバサ!ゴーレムに『エア・ハンマー』を! キュルケはわたしに『レビテーション』!」 そしてそう言うやいなや飛び出していた。中空に向って。 「あ、あんた何をっ!」 キュルケが慌てて『レビテーション』をルイズにかける。 それによる減速を確認してから、タバサが『エア・ハンマー』を再生したゴーレムに叩き付ける。 先程よりも幾分小さい再生中のゴーレムが、その衝撃で後によろめく。 地に降り立ったルイズが、決して早くない全力ダッシュで、アヌビス神とデルフリンガ―へと駆けより飛びついた。 「脳味噌がマヌケかっ!『危なくなったら躊躇わずに撤収しろ』っつっただろうがっ!」 「使い魔を見捨てるご主人さまはいないの!」 怒鳴りつけてくるアヌビス神にルイズが怒鳴り返す。 「けど、俺等所詮剣だ。お前等の人生の何倍も、もう充分にやってきた剣だ。生き物でもねえ!」 デルフリンガ―が横から怒鳴りつける。 「それでも、あんた達だって、喋って、考えて、喜んで、泣いて、ふざけて、喧嘩して、その他にも色々色々よ。 人と同じだったじゃない!」 ルイズは更に怒鳴って睨みつけて黙らせる。 そして、右の手でアヌビス神を。左の手でデルフリンガ―を精一杯力を振り絞って持ち上げる。 それらは少女の手には、余りにも似つかわしくなく、そして重たい。 「アヌビス!わたしはあんたに『許可』するわ!」 二振りの剣を構え吼える。 「とんだご主人さまだな。え?アヌ公」 「けっ、言っといてやる。こいつは俺だけのご主人さまだ! デル公、貴様のご主人さまはこのおれだ。判ったか糞兄貴!」 「んじゃ行くぜ。おれに全部預けろ」 アヌビス神の柄のルーンが再び輝きを放つ。 「アヌビス神ッ! デルフリンガ―ッ! ルイズ 二 刀 流 !!」 そして『ガンダルーヴ』ルーンの輝きは今までよりも強く!強く!煌く! 振り下ろされたゴーレムの鋼の拳を、両の剣を交差させ受け止め、其の侭身体を浮かせ後ろへ飛ぶ。 「やつの材質はさっきより弱ってるぜ」 「だがよ兄弟、さっきのアレは、無理だろ?」 「ああ、この細腕でやっちゃ腕がぶっ壊れちまうね」 アヌビス神はルイズの身体を、流れる様に操る。先程のワルキューレなどと比べる事もできない軽やかなステップが踏まれ、桃色がかったブロンドの髪が、太陽とルーンの輝きの光にキラキラと煌く。 次々と繰り出される斬撃が右、左、右、左と順に繰り出されゴーレムの身体を少しづつ削ってゆく。 その舞いを捕らえる事が出来ずにゴーレムは無様に腕を振り回す。 ゴーレムの拳が先端から少しづつ少しづつ、斬って捨てられる。 決して負荷が掛らぬ様に、決して速くはなく、しかし鋭く。 これ以上削らせまいと、ゴーレムは左右の腕を同時に、蚊トンボでも叩き潰す様に振る。 しかしその右の腕をデルフリンガ―で受け止め、其の侭の勢いで左の腕をアヌビス神で斬りつけ、そのままその峰を更に勢いで蹴りつけ、その切れ味を持ってして一気に腕を斬り飛ばし切り抜ける。 宙で舞う様にくるくると身を翻し、大地へと降り立ちまたくるっと一回転し全ての力をその舞いの内に逃がす。 「おい、何でも良いから魔法の準備だッ!」 アヌビス神は素早くデルフリンガ―を鞘へと納め、杖を取り出させる。 「詠唱の時の動きは憶えてる、舌噛まない様にルーン唱えろ」 アヌビス神と杖の二刀流へと切り替え、ゴーレムの腕を捌いた後、軽やかにその懐へと入り込む。 そして腰へ一閃。返す刀で更に一閃。脚の付け根近くを斬り飛ばす。 「今だ!」 「う、うん! 『フライ』!」 至近距離で確実に、その斬り口へと、ゼロの『フライ』を撃ち込む。 そして爆風に乗る様にして、其の侭ゴーレムの懐から飛びのく。 片足の付け根だけ突然爆破されたゴーレムは、バランスを失い転倒する。 「押さえ込んでてくれ!」 アヌビス神が上空の仲間達へと向かい叫ぶ。 タバサによって起き上がろうとするゴーレムへ次々と『エア・ハンマー』が叩き込まれ、砕けた脚が直ぐに『練金』されない様にキュルケの『フレイム・ボール』よって脚が周辺の土ごと焼かれる。 しかしそれすらも、何する物ぞとゴーレムは両の腕を持って、走るルイズを追う為に動かんと足掻く。 だが一枚だけ風に乗り舞う薔薇の花びらがゴーレムの眼前へと舞い落ちる。 そして地より現れる『青銅』のゴーレム『ワルキューレ』……いや、その胸より上。それが首へと絡みつき動きを邪魔せんと、必死にぶら下る。 「ははは、なんとか上手くいったよ……」 シルフィードにしがみ付く様にして、下を見ながら杖を振るギーシュがいた。 「で、どうするの?小屋に向って」 頭だけが自由になるルイズが、突然の己の身体の動きが判らずに問う。 「おれとしちゃ、気にいらねえやり方なんだがよ。 さっきあの小屋に有った物の中に、一発逆転の物がな」 半壊した小屋へと走り込み、ゴミの様に積まれた物の山をあさる。 鞘に納められているデルフリンガーが、なんとか身を乗り出して覗き込んでくる。 「判ったぜ。この『鉄球』だな?見た目的に確実に強そうだぜ」 「違う、只のボールだ、そんなもん!」 ぽいっ 「この赤い石か!確かにこいつぁスゴイパワー秘めてそうだぜ。 魔法見てえに光線がでてゴーレムを焼き払えるんだな?」 「6000年生きてボケたかデル公!夢見るな!」 「わ、判ったぜ。この釣竿でゴーレムを操るフーケを釣……」 「あった!」 アヌビス神は先程投げ捨てたロケットランチャーを見つけた。 「何だこの筒は」 「こ、これって『破壊の杖』じゃないの!宝物庫見学した時見た事有るわ!」 「何揃って寝言言ってんだ。こいつは、ロケットランチャーだ。この型はM72Aか。杖なわきゃねえよ」 「なんだそりゃ」 「ありていに言えばな、あの程度のゴーレムは一撃で粉々にしちまう飛び道具だ。 威力はすげえぞ。昔ちょいと兵隊操ってぶっ放した事有るがよ、上手くやりゃ学院の塔も一発だぜ多分。 ま、おれが生まれた世界の兵器だ」 「それどういう事?」 「説明は後だ、両手で扱う物だからな。ちと、おれを咥えててくれ」 ルイズに己を咥えさせ黙らせると、ロケットランチャーを発射体勢にしながら、外に飛び出て押さえ込まれているゴーレムに向き直る。 扱い方は、既に昔『憶え』ている、考えるまでも無い。 「飛び道具ならあの中から撃ってもいいだろーに。急ぎだろ?」 「黙ってろデル公。こいつは屋根も無くて殆ど外な状態でも、屋内はあんまよくない」 ルイズは不思議な思いだった。己の手が知りもしない武器を自由自在に操るその様が。 「しっかり押さえてろよォー……」 言うと、発射トリガーを引く。 ルイズはその目で、筒から、白煙を吐く太く短い矢の様な何かが飛び出したのを見る。 それは吸い込まれる様にゴーレムの胴に減り込む。その数瞬後に大爆音が響き渡る。反射的に自由になる目を閉じる。 ゴーレムは粉々に砕け散り、土の塊が雨の様に辺りに降り注ぐ。 「な、なんだこりゃ。おでれーた」 一部始終を見ていたデルフリンガ―が声を振るわせ驚く。 「つまんねえ兵器って奴だ」 それに対しアヌビス神が心底くだらないと言った風に吐き捨てた。 「ま、その気持ち判らんでもねーな。 あんなのごろごろ有った日にゃ俺たちゃ用済みだ」 「って事だ。 やっぱ斬り合わねえとな!」 言うとアヌビス神はルイズへと、身体の主導権を自ら返した。 ルイズは未だ呆然とし、ゴーレムが吹き飛び消え去った場所を眺めている。 そこにふらふらとシルフィードが降りてきた。どうやら上空で先程の爆風をモロに受けてしまったらしい。 「わ、わりぃ。そっちへの被害の事、おれすっかり忘れてた」 アヌビス神がふらふらしながら降りてきたキュルケとタバサへと一応とばかりに詫びる。 ギーシュはシルフィードの上でぐたぁーと伸びている。シルフィードも地面にべたぁーっと伸びている。 「さ、流石『破壊の杖』凄まじいわね」 けほけほと咳をしながらキュルケが感嘆の声をあげる。 同じくけほけほしながらタバサが回りをきょろきょろして呟いた。 「フーケは?」 言われてみれば、この戦闘中一切フーケの姿を誰も見ていない。 全員一斉にはっとし辺りを見渡す。ギーシュ以外。 辺りを見渡していると、偵察にでていたミス・ロングビルが、茂みの中から現れた。 「ミス・ロングビル!フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」 キュルケがそう尋ねると、判らないという風に首を振った。 そのまま『M72LAW』を抱えて座り込んでいるルイズへ『ご苦労様』と言いつつ歩み寄る。 「ミス・ロングビル!」 キュルケが叫んだ。 なんとミス・ロングビルが後ろからルイズの首筋に杖を突き付けている。 「どういうことですか?」 冷汗を流しながらルイズが、ミス・ロングビルを見ようと首を捻る。 「さっきのゴーレムを操っていたのは、わたし」 彼女はルイズの腕を強引に引いて無理矢理立ち上がらせ、そのまま後ろから押さえ込んだ。 To Be Continued 11< 戻る