約 2,183,792 件
https://w.atwiki.jp/rekoreko/pages/26.html
わ ワルキューレ(ワルキューレ) 荒らしがきたときに荒らしを制圧する作戦のことである。 ワルキューレ発動例 エ○バ暴走時。 小山○久→問答無用。 メンヘラ、小文字、スイーツ→状況をみて。 星の○金→薬物常用のため症状が悪化したとき。 上記のような場合にワルキューレは発動する。 注※この作戦は王冠を持っている者に判断は任される
https://w.atwiki.jp/yu-gianime/pages/162.html
モンスターカード 《ワルキューレ・ツヴァイト》 《ワルキューレ・アルテスト》 《ワルキューレ・ブリュンヒルデ》 《ワルキューレ・ドリッド》 《フォーチュンチャリオット》 魔法カード 《Walkuren Ritt》 《天使の施し》 《強欲な壷》 《地の女神 エルダの導き》 《ニーベルングの財宝》 《ニーベルングの指輪》 《女神ウルドの裁断》 《女神ヴェルダンディの導き》 《女神スクルドの託宣》 《白鳥の乙女》 《霊剣-ノートゥング》 《英雄の掛け橋-ビヴロスト》 《時の女神の悪戯》 《ワルキューレの抱擁》 《サイクロン》 《抹殺の使徒》 《グリフォンの羽根帚》 《天馬の翼》 《魔力の布施》 《終幕の光》 罠カード 《ヴォーダンの裁き》 《フリッカの仲裁》 《ローゲの炎》 《フライアのリンゴ》
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3195.html
「フフフ……。ここに聖誕せしアルビオン共和国の始まりの時を、君達の命で飾ってもらおう」 私達の目の前にいるのは、レコン・キスタの手先だったワルドと建物いっぱいの貴族派兵士達。後ろを振り返ってみてもワルドがいないだけで状況は同じ。私達は完全に包囲されていた。 「贖罪せよ、貴様の命で」 「彼女」がそう唱えると、私達を囲むように雷撃が放たれて、頼りないながらも突破口が開かれた。 「ルイズ、ギーシュ、キュルケ、タバサ。すぐにこの建物から出ろ」 「何言ってるの! あんた1人置いて私達だけ逃げるなんて、そんな事できるわけないじゃない!」 「いいからすぐに出ろ」 無茶にも程がある。いくら強くたってこれだけの人数相手じゃどうにもならない。だからって……、いくら主人を守るのが使い魔の役目でも、こんな事望んでないわよ! 「早く」 タバサが私の袖を引く。なおも留まろうとする私にギーシュも、 「彼女は無駄に命を捨てるような人じゃない。何か考えがあっての事のはずだ」 その言葉に私が頷くと、タバサが私の手を引いて建物の外まで連れていった。 (きっと大丈夫、生きて逃げてくるくらいはできるわよね……?) 建物を見つめて私はそう自分に言い聞かせているうちに、いつしか私は「彼女」と出会った日からの事を思い出していた。 あの日、サモン・サーヴァントで私が召喚したのは、奇妙な衣服を纏い地面に届く程の長い金髪を持った女性だった。 「彼女」によると、自分は異世界のメイジ(彼女の故郷の世界では「聖女」というらしい)で、自分を高次の存在(聖霊や天使の類)に進化させるべく暗躍して、完全とはいかないまでも成功したのだという。 その後それを阻止しようとした相手と戦って(まあ、ニューカッスルより大きい大都市が崩壊する危険があるんじゃ止めるわよね)負けて、気付いたら召喚されていたそうだ。 はっきり言って眉唾物の話だった。子供だってもう少しまともな作り話をするだろう、その時はそう思っていた。 けれど、それは本当だった。少なくとも、「彼女」がそう思い込んでも仕方ない程度の力は持っていたという事は。 最初に私がその力を見せつけられたのはギーシュとの決闘の時だった。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね? 僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 「我は代弁し、代行す。神は我と共にあり」 ワルキューレを生成しつつ言ったギーシュの言葉を開戦前の景気付けと受け取ったみたいで、「彼女」も自信たっぷりの笑顔でそう言い放った。 「いくぞ!」 高速で接近したギーシュのワルキューレが、手に持った2本の短剣で「彼女」を×の字に斬り裂こうとしたその瞬間、 「消し飛べ」 一瞬の出来事だった。指を鳴らすと「彼女」を中心に爆発が起きてワルキューレは盛大に吹き飛ばされた。 ワルキューレはその衝撃で関節がひしゃげたようで、手足をじたばたさせるけれどまったくの行動不能状態だ。 「な、何だと!?」 驚愕したギーシュは6体のワルキューレを生成、「彼女」に一斉突撃させた。けれど……、 「灰に還れ」 「彼女」の伸ばした手から放たれた光線が、先陣を切った長剣のワルキューレの胴体に大きな風穴を開けた。……いや、胸から上と腰から下に両断したと言った方が正しいはず。 続いて薙刀のワルキューレが上から、ランスのワルキューレが前から同時攻撃を仕掛けたものの、 「罪を裁こう」 上から攻撃しようとしたワルキューレが振りかざした薙刀に落雷3連発が直撃、ワルキューレはそのまま落下して白煙を吹いた。 その隙に前のワルキューレのランスが「彼女」の体を貫通した……かに見えた。 「無駄だ」 ランスで突き刺された「彼女」の体は消えて、本物の「彼女」はその少し後ろに悠然と立っていた。 「耐えてみろ」 そう言った「彼女」の手から人の腰程の太さの蔦が伸びてランスのワルキューレを締め上げると、何かを吸収しているかのように不気味に脈打った。 解放されたワルキューレはボロボロで、青銅の粉になっている部分さえあった。人間ならミイラ化しているところだと思う。 「そんな馬鹿なっ!!」 3体のワルキューレを瞬殺した「彼女」は、ギーシュが残るワルキューレに自分を守るような陣形を編成させたのを見て自分から打って出た。 地面から少し浮き上がって滑るように前進する「彼女」を、弓を持ったワルキューレ2体が迎撃するけれど、 「邪魔だ」 「彼女」の前に展開された魔力の盾が矢の全てを防ぎきった。 「塵と消えよ」 数えきれない程の風の刃がギーシュと残る3体のワルキューレに襲いかかる。 ギーシュはワルキューレに守られて無傷だったけれど、これでまたワルキューレのうち斧を持っていた1体が撃破された。 「死に絶えろ」 ワルキューレの足元から黄金に輝く怪物が真上に伸び上がり、すぐ上にいた弓のワルキューレをとどめとばかり噛み砕いた。 これを2連続でくり出されたギーシュは、ついに壁となるワルキューレを全部失った。 「フン……」 そのギーシュの様子を鼻で笑ったかと思うと、「彼女」は空中に開いた闇のゲートの向こうに消えて、 「!!」 直後にギーシュの背後に出現した。 「足掻け、苦しめ、絶望しろ」 「ひいいいいいっ!」 光の球がギーシュを包み込んだかと思うと突然破裂して、吹き飛ばされたギーシュは校舎の壁に叩きつけられた。完全にダウンしていて杖もどこかに吹き飛ばされたようだ。 『………』 私を含めて静まり返った観客達に「彼女」はただ一言、 「ふっ、かわいいな」 フーケを相手にした時もそうだった。 「彼女」は巨大なゴレームを相手にしないで、その肩に乗るフーケに狙いを定めた。 「なっ!?」 闇のゲートを使って突然自分の目の前に現れた「彼女」にうろたえるフーケ。 けれどすぐにフーケはもっと驚いた顔になった。無理も無い、何十本もの黄金の剣が自分の周囲を取り囲んでいたのだから。 私も「彼女」がいろんな属性の魔法を高いレベルで使えるという事はギーシュとの決闘でわかっていたけれど、「練金」までできるとは思わなかった。 「運命は変えられん」 「はひ……が……っ!」 「彼女」の言葉と共に全部の黄金の剣がフーケを串刺しにした。 「これが力というものだ!」 フーケはかろうじて生きてはいたものの、為す術無く私達に捕らえられた。 でも、でも……、今回ばかりはもう……。 「出る」 「何がよ……。ワルド……? 兵隊……? それとも……、幽霊……?」 「大技」 そう言ったタバサが指差した先を見て私は硬直した。 建物の天井を光の矢(理由はわからないけれど「彼女」に間違い無いって思った)が突き破って、建物上空で止まった。 「彼女」の纏う光が一際大きくなり……、 「神の息吹を受けよ!」 光線になって建物中に降り注いだその光が目を眩ませて、爆音とそれに比べればかすかに思えるような悲鳴が耳をつんざいた。 ようやく視覚と聴覚が回復した私達の目の前にあったのは、さっきまで「彼女」が戦っていた建物だった瓦礫の山と、その真ん中にゆっくり舞い下りてきた「彼女」の姿だった。 「これが人を超えた力だ」 悠然とっていう言い方がぴったりくるような態度でそう呟いた「彼女」の所に、私達は先を争って駆け寄った。 「あんた、まさか私達に『出ろ』って言ったのは、『ここは私に任せて逃げろ』って意味じゃなくて、『巻き込まれないように離れていろ』って意味だったの!?」 「その通りだ。ともかくこれで……いや、待て」 言葉を止めた「彼女」の視線を追うと、うず高く積もった瓦礫の山の1つが崩れ落ちて、中から1人の満身創痍のワルドが這い出てきた。 「ふ……。さ、流石だ……、と褒めておこうか……。さ、最後に聞かせてくれ……。あ、あれだけの兵を一瞬で……。お、お前は何物だ?」 「元英国聖霊庁長官にして高次の存在、そしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、ミルドレッド・アヴァロン」 「こ、高次の存在!? ル、ルイズの使い魔がだと!? ……こ、こんな……バカな……私は……。う……うあぁ……あ、あれ……は……? あ、ああ……光が……見える……」 そう呻いたのを最後にワルドは動かなくなった。 ――この日、レコン・キスタは崩壊した。
https://w.atwiki.jp/beauty_secretary/pages/71.html
さぁ…貴方の次の戦場、私が定めましょう。 名前 キューレ レアリティ 天才 タイプ セレブ 初期資質 480 秘書 カルテール 入手先 抽選交換美女契約書 x2 スキル 特級運営 派遣建物の収益+25% 特級資本活動 収益+20% 戦乙女の涙 談判時、セレブの才能+5% 特級セレブ 資質+8
https://w.atwiki.jp/rekoj2/pages/38.html
ワルキューレ(ワルキューレ) 荒らしがきたときに荒らしを制圧する作戦のことである。 ワルキューレ発動例 エ○バ暴走時。 小山○久→問答無用。 メンヘラ、小文字、スイーツ→状況をみて。 星の○金→薬物常用のため症状が悪化したとき。 上記のような場合にワルキューレは発動する。 注※この作戦は王冠を持っている者に判断は任される
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5582.html
前ページ次ページゲーッ!熊の爪の使い魔 第七話 ヘルズ・ベアー その日の昼、コルベールはオールド・オスマンにベルモンドについての発見を報告するため学院長室を訪れていた。 そして報告する。現れたルーンは特別であり、古文書によるとそれが伝説のルーンであると。 「見てください、ベルモンド君のルーンはあのガンダールヴのものなのです! 素晴らしい、あんなに愛らしいだけでなく伝説の使い魔でもあるなんて! このコルベール、この魔法学院で教師をしてきたかいがありました」 「まあ、少し落ち着きたまえ。それで間違いはないんじゃな」 「はい、ベルモンド君にいい加減なことを伝えるわけにはいきませんからね、 何度も確認しました」 それを聞いてオスマンは思案する。もし本当ならいったいどう扱うものやら。 そのときドアがノックされ、オスマンの秘書ミス・ロングビルがやってきた。 なんでも決闘をしようとしている生徒がいるらしい。そのうちの一人はギーシュ、 そしてもう一人は今話に上がっていたベルモンド。 それを聞くとコルベールは飛び上がりオスマンに向かってまくし立てた。 「お願いです、今すぐ眠りの鐘の使用を! ああ、決闘などと、ベルモンド君が殺されてしまう! 躊躇している場合ではありませんぞ、早く眠りの鐘を。 いやそれでは生ぬるい、いっそギーシュ君には実力行使で」 「……さっき自分で言ったことを忘れたのかの? 伝説のガンダールヴじゃなかったのかの、あの使い魔は」 「だってクマちゃんなんですよ!!あんなかわいいクマちゃんが戦うなんて。 ああ、ベルモンド君……」 「いいから落ち着きなさい」 オスマンはロングビルを下がらせるとヒートアップするコルベールをなだめながら、 杖を振ると鏡に広場の様子を映し出した。 ベルモンドがヴェストリの広場に到着すると、そこにはすでに大勢の生徒がギャラリーとしてたむろしていた。 そしてその中心にいるギーシュがベルモンドを見ると口を開く。 「やあ、逃げ出さずによく来たね。ボロ屑になる覚悟はできているようだな。 じゃあ始めよう。諸君、けっと」 「さあ!ついにこのヴェストリの広場に両雄が揃いました。 いよいよ決闘が始まります! 立ちはだかるのはドットクラス、土のメイジ、 「青銅」のギーシュ・ド・グラモンーー!! 対するはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、 「かわいいクマちゃん(チャーミング・ベアー)」ベルモンドォー!」 「実況」の二つ名をもつ生徒が皆に渡る声を響かせる。 なお、彼の使い魔はすでに彼とは反対側に位置し、「実況」本人が見聞きできない位置をカバーすべく待機している。 「……まあいい、そういうことだ。始めさせてもらうよ」 口上を途中で邪魔をされて憮然としながらもギーシュは早速行動を開始する。 ギーシュが薔薇の花を振ると花びらが一枚宙に舞い、 甲冑を着た女戦士の形をした人形が現れる。 「先ほど言われたように僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 ギーシュはこれを見てあのふざけたクマ公も震え上がるだろうと考えていた。 だが、ベルモンドの行動はそんな彼の想像を超えたものだった。 「わあーい、お人形さんだー。なーんだ、決闘なんて言うから何やるのかなって思ったけどお人形遊びしてくれるんだ。 遊ぼ、遊ぼ」 そう言って手を差し出してワルキューレに近づいていく。 「ふざけるな、行け!」 それを見てギーシュは怒りとともにワルキューレを突進させていく。 「うわっと」 さすがに無防備にそれを受けはせずベルモンドは突き出された拳をよけようと身をひねる。 その結果、 ガシャーーン! 「あーっと、ベルモンドとワルキューレ、もつれ合ってともに地面に倒れたてしまった! が、単に倒れただけなのだろう、ベルモンドはすぐに起き上がる。 しかしワルキューレも起き上がろうとするがうまく立ち上がれずまた倒れてしまった。 「なんだ、どうしたんだ!?」 「おい、何やってんだよ!」 「お、おい、見ろよ、足のところを」 ギーシュやギャラリーが混乱する中一人の生徒が異常に気付く。 すかさずそれを「実況」が続ける。 「なんと!ワルキューレの足が歪んでしまっている!! 先ほどの転倒で変にひねってしまったのかーー!?」 「なんだよ、手抜きなんじゃないのか?」 「おいギーシュ、ろくにきちんとした錬金もできないのかよ!」 それを聞いた周りから馬鹿にした声が上がる。 「う、うるさい、これならどうだ!!」 ギーシュはそう言うと、立ち上がれないワルキューレをおいて、新たに二体ワルキューレを呼び出しベルモンドへと向かわせる。 「うわーい、今度は二人だー」 しかしベルモンドはまたしてもてってっと近づいてゆく。 そんなベルモンドにワルキューレが拳を突き出すが、それはむなしく宙を切った。 「おおっ、ベルモンド、巧みに二体の間をすり抜けたあっ!」 そして背後に回ったベルモンドは二体の腰にそれぞれ手を回すと、 「楽しーなー、楽しーなー」 スキップしながら二体と一緒にくるくると回り始めた。 「きゃー、かわいーー!」 そんな、クマと青銅の人形が戯れるようにしか見えない図に女生徒から黄色い声が上がる。 しかしギーシュにとっては馬鹿にされているようなものであり、離れようとワルキューレの足を動かす。 だが、それが地面を蹴ることはなかった。 「ああーーっ、いったいどこにそんな力があるのか、ベルモンドに抱えられたワルキューレが宙に浮いているーー」 なんと、ワルキューレは二体ともべとモンドに回されながら持ち上げられていた。 ワルキューレは腕を動かしベルモンドを振りほどこうとするが、 「おっと、いけない」 そのせいでバランスを崩したのか、ベルモンドが転んでしまい、 ドガアァッ!! 「あーーっと、体勢を崩したベルモンドから二体のワルキューレ、 投げっぱなしジャーマン気味に投げ飛ばされ頭から地面に叩きつけられたーー!!」 その二体のワルキューレは、金属製の体からくる体重を受けたことにより、頭部が完全にひしゃげてしまっていた。 無論、もう起き上れはしなかった。 「あれー?お人形さん、動かなくなっちゃったー」 そんな様子を見てベルモンドは残念そうな声を上げる。 「おい、見た目だけじゃなく作りにも凝れよ」 「真面目にやれよ、ギーシュ!」 再び男子生徒から囃し立てる声が起こる。 が、彼らとも黄色い声を上げる女生徒とも違う者たちもいた。 「珍しいわねえ、タバサがこんなのに興味を持つなんて、やっぱりあのクマちゃんがかわいい?」 「確かにかわいいけどそういうわけではない、でもあの使い魔には興味がある」 「なによ、もって回った言い回しねえ。 でもギーシュも情けないわねえ、あんな倒れただけでダメになるようなゴーレムしか出せないなんて」 「倒れただけ、そう見えた?」 「見えたもなにも実際そうじゃない。転んで足ひねったりクマごと倒れて頭打ったり」 キュルケが見たままの感想を述べる。しかしそれに対してタバサは、 「違う、最初はあのベルモンドが倒れるときにワルキューレの足をつかんで しっかりとアンクルホールドに固めていた。 次の二体も投げ飛ばされるまで見事なジャーマンスープレックスのブリッジを描いている。 倒れた拍子にもつれたとか転んだ際に投げ出されたとかではない」 「えー、ちょっと待って。その前にアンクルホールドとか「実況」も言ってたけど ジャーマンなんとかってなに?」 「プロレス技の一種」 プロレス、そういえばキュルケも聞いたことがあった。 確か平民の中で現在はやっている格闘のスポーツだったか。 でも、それは、 「プロレス、あれって見せもののショーなんじゃないの?そんな物の技が本当に効くの?」 だがタバサはすかさず反論する。 「確かに基本的には見せもの。でも技の威力は種類によっては本物。 むしろ本気で技をかけると危険だからこそ真剣勝負ではなく 筋書きに沿ったショーとして見せているという部分もある」 祖国ガリアでの立場上危険な任務にたびたび駆り出されるタバサは単純な魔法の知識、技術だけでなく 他の戦闘技術にももしもの対策のため一応の知識を持つようにしている。 それゆえプロレス技の危険性についても分かっていた。 「ええっと、じゃあワルキューレが壊れたのは ギーシュの作りが悪いからでも打ち所が悪かったわけでもなくて あのクマちゃんがそのプロレス技ってのを掛けたからって言うこと?」 「そう、あの使い魔は明らかな確信を持って技をかけている。 見た目通りのかわいいクマちゃんではない」 「くそっ、もうお遊びは終わりだ!」 そんな中、ギーシュはそう叫ぶと今度は今出せる限界である 4体のワルキューレを一度に呼び出した。 しかも今度は素手ではなくそれぞれ剣、槍、斧、ハンマーを手にしている。 「ボロ屑にしてやれっ!」 そう言うと一斉に突撃させていく。 四つの武器による一斉攻撃、先ほどのようなくぐれる様なスペースもなく、 今度こそベルモンドを捉えられると思われたそれもやはり宙を切った。 「なんだあーー!ベルモンドが消えたーー!? い、いや違う、ボールだ、ワルキューレに交じって茶色いボールのようなものが見えるっ! なんとベルモンド、自分の身をボール状に小さく丸めて一斉攻撃をかわしていたーー!」 「くうーん」 「くそっ!」 ギーシュも手を休めずさらに攻撃を繰り返していく。 だが、ベルモンドはボール状に丸まったままころころと転がり、 ぽんぽんと跳ねて迫りくる攻撃をかいくぐっていく。 「かわいー、クマちゃーん頑張ってー!」 そんな光景にまたしてもベルモンドへ黄色い声が上がり、 「ちゃんとやれよ下手くそー!」 ギーシュを囃すが上がる。 ギーシュはさらに激しく攻撃を行うが逆に冷静さを欠いた結果、 ガスガシャァァッ!! ベルモンドを攻撃しようとしてかわされ、勢い余って後ろのワルキューレを攻撃してしまった。 「これは痛い!斧を持ったワルキューレ、 他の三体の攻撃を受けてぐしゃぐしゃになってしまったーー!」 「なんだよ、ギーシュ、ばっかじゃねーの!」 「ぎゃはははは」 もはやギーシュへの声は嘲笑へと変わっていた。 ギーシュは唇を噛みしめ倒れたワルキューレを見つめる。 かろうじて人型を留めているだけのぼろぼろのワルキューレ、 これが逆にこちらの攻撃力を証明してもいたがどうしても当たらない。 もっと広く攻撃できるような方法があれば。 土の属性の魔法なら、石つぶてを飛ばすというものがあり、それなら条件を満たしている。 しかし、自分の得意とするのはワルキューレの錬金だ。 それを7体全部出し、しかも先ほど激しい攻撃を行ったため かなり精神力を食ってしまっている。 この状態で、広範囲に十分な威力で石つぶてを飛ばせる自信はギーシュにはなかった。 くそっ、何か方法は。 その時ギーシュに閃きが舞い降りた。 飛ばすものならあるじゃないか。 「おい、こっちを見ろクマ公!!」 「くうーん?」 ギーシュは剣と槍をもつワルキューレに武器を捨てさせると、 先ほど同志討ちでボロボロになったワルキューレを両脇から抱えあげる。 「青銅の力を見せてやるっ!!」 そして、最後のハンマーを持ったワルキューレがハンマーを大きく振りかぶり、背後から叩きつけた。 ドガァッ! すでにボロボロになっていたワルキューレはこの一撃でばらばらに砕け散り、 正面のベルモンドへと飛び散っていた。 ガスガスガスガスッ!! 「うわーー!」 多少時が戻るがそのころルイズとシエスタはまだ食堂にいた。 決闘に向かうと告げるベルモンドの、これまで見せたことのない迫力に気圧されてしまっていたのだ。 そして、出遅れてタイミングを逃すと一層足が重くなってゆく。 どうしよう、自分のせいで。 行ってどうなる、もうベルモンドはやられてしまっているのではないか。 いやな想像が頭に次々と浮かび、今向かえばそれを現実に 目の当たりにしてしまうのではないのかという恐怖が足を留めてしまっていた。 しかし、真の貴族は立派な行いをするから偉いんだ、 そのベルモンドの言葉がルイズを奮い立たせる。 そうだ、私もそれを目指していたじゃない。 魔法が使えなくても、貴族として立派であろうって。 こんなことをしている場合じゃない。 「行かなきゃ、ほら、あなたも行くわよ。 私たちのために戦ってくれてるベルもん簿をほおっておくつもり?」 「そ、そんなことしません、待っててくださいベルモンドさん」 そうしてシエスタにも声をかけ二人は広場へと向かった。 しかしそこで二人が見たものは、 全身穴だらけになって立ちすくむベルモンドだった。 「そ、そんな、ベルモンド……」 「い、いやーー!」 そんな二人に何があったかを教えるように「実況」からの声が上がる。 「なんと、ギーシュ!傷ついたワルキューレを打ちすえ、破片として飛散させたーー! これはまさに、青銅の散弾だーーー!! これは効いたか!?ベルモンド、微動だにしないー!」 「はははははっ!貴族であるこの僕にたてつくからこうなるんだ、この畜生め!」 そう、高笑いを上げるギーシュに対して、ルイズとシエスタ以外の女生徒からも非難の声が上がる。 「ひどい、なんてことするの!」 「死なないで、クマちゃん!」 一方キュルケ達は、 「あーらら、結局やられちゃってるじゃない。 ドットのギーシュにも負けるんじゃあ、 あのクマちゃんが強いなんてのはやっぱりタバサの思い過ごしだったわね」 「だと、いいのだけれど」 だが、タバサにはまだこれで終わりだとは思えなかった。 これまで死地をくぐった経験が告げている。 あのクマちゃんの中にはまだ何かがあると。 そんなタバサの内心を知る由もなくギーシュは続ける。 「所詮は低能なケダモノにすぎなかったようだね、 ああ、まさに「ゼロ」のルイズの使い魔にふさわしいよ」 「……!」 自分の口上に酔っていたギーシュは気がつかなかった。 このとき、ベルモンドの目に力がこもったことを。 「やめなさい、これ以上私の使い魔を侮辱することは許さないわ!」 そんな中、ルイズは自分の使い魔を救おうと声をかける。 「ああ、無能なご主人様のお出ましかい? だが悪いね、これはこのクマ野郎も認めた決闘だ。 例え主人であっても口出しはできないよ。 そこでこのクマ公が布と綿のボロ屑になるところを見ていたまえ、 行け!とどめだワルキューレ!」 そう言ってハンマーを持ったワルキューレが一撃を加えようと前に出てハンマーを振りかぶる。 「やめてーー!」 ルイズの悲鳴が響き渡る。 が、その時、 「グギャワアーン!」 突如ベルモンドが叫びをあげワルキューレに飛びかかった。 しかも足の筋肉は隆起し、着ぐるみの上からでも足の形がはっきり分かるほどに肥大していた。 バギャ! そしれそのままワルキューレを蹴り飛ばす。 そのままワルキューレは10メイルは吹っ飛んで行った。 「ああーーっ!ベルモンド、突如生気が戻りワルキューレにドロップキックを叩き込んだー!! なんという威力だ!青銅製のワルキューレがまるでおもちゃの人形であるかのように軽々しく吹っ飛んでいくー!!」 もちろんこれだけでは終わらなかった。 「グギャワアーン!」 ベルモンドは残る二体のワルキューレのもとへも向かっていく。 その二体は先ほどボロボロになったワルキューレを抱えるため武器を置いてしまっていたため、 拳での攻撃を繰り出すがあっさりかわされると一体が懐に潜り込まれる。 ガスッ! そして腹部へのひざ蹴りを食らって片膝をついた所に、 ドガアアァッ! その膝を踏み台にして飛び上がったベルモンドからの強烈な飛び膝蹴りが頭部に叩き込まれた。 「おおーっ、これはすごい、膝をつかせたところへ流れるようにシャイニングウィザード (相手の膝などを踏み台に飛び膝蹴りを仕掛ける技) が叩き込まれたー!!」 これは先ほどのドロップキックと違い斜め上からの攻撃であったためそこまで吹っ飛びはしなかったが、 それでもワルキューレは2-3メイルは地面を転がって行った。 ゴスゥッ! さらに残る一体へと襲いかかるとラリアットを叩き込む。 倒れたところにすかさず両足を取ってわきに抱えるとそのまま自分を軸に振り回した。 ミスミスミスミス…… そして勢いが付いてくると、何とそのまま上へと向かって投げ上げた。 「うわあーー!!これは信じられない!! ラリアットで倒したワルキューレをジャイアントスイングにとらえたかと思うと、 なんと横ではなくて上に!投げ飛ばしたぁーーー!!!」 「う、うあわああぁー!」 次々と、もはやだれの目にもわかるような力でワルキューレを倒されたギーシュは恐慌状態になり、 自分を守らせようと先ほどシャイニングウィザードを受け倒れたワルキューレを立ち上がらせた。 が、その瞬間ベルモンドが正面から組みついてベアー・ハッグで締め付ける。 「くそっ、振りほどけ、ワルキューレ!」 ギーシュはそう命令を与えるが、そのかいもなく、 ミシミシミシミシッ!! 「うわああぁぁー!!なんということだ! ベルモンド、ベアー・ハッグで青銅製のワルキューレを腕だけでなくボディまでもへし折っていくーー!!!」 「ゴギャアアアアアァァァーーーーッ!」 一体どれだけのパワーが必要なのか、 投げ飛ばしたり蹴り飛ばしたりというように勢いをつけるわけでもなく密着状態から締め上げているだけで、 ワルキューレの体は軋み、歪み、ねじ曲がっていった。 「ね、ねえ、クマちゃんが元気だったのはいいけど、なんだか変じゃない?」 「う、うん。私も思う、何だか怖いような……」 そんな様子にベルモンドに黄色い声をあげていた女生徒たちも違和感を感じ始める。 が、そんなものは無視して、 「うおおーーっ、いくぜーー!」 そう、アグレッシブな声を上げると、ワルキューレをベアー・ハッグに捉えたまま、 「ゴギャア!」 上空へと飛びあがった。 さらにその上からは先ほど投げ飛ばされたワルキューレが頭を下に落下してくる。 そして、 「ロンリー・テディー・クラッシャーーー!!!」 ガッグゴオオォォンン!!!! 「あああぁーーっ!こ、これはなんという凄まじい大技!! 投げ上げられ落下してくるワルキューレとベアー・ハッグに捉えて上昇させたワルキューレの頭部同士を 空中で激突させたーー!! これはもはや「かわいいクマちゃん(チャーミング・ベアー)」などではない、 これはまさしく、「地獄のクマ(ヘルズ・ベアー)」だあぁぁーーーっっ!!!」 そのまま、完全に破壊された二体のワルキューレはギーシュの手前に落下し、 先ほど投げっぱなしジャーマンで倒された二体に折り重なるように倒れた。 「ゴギャ」 そしてベルモンドもその後ろに降り立つと、 ドバドバドバ! 突如体から何かを放出した。 「うわっなんだ!?」 それは一部観客にまで降り注ぎ混乱を呼んだが、 タバサはそれと風で防ぐとキュルケと二人で飛んできたものを見つめた。 「青銅の破片」 「それにこっちの木片ってルイズが授業で吹っ飛ばした机とかの破片? じゃあ、あのクマちゃんはルイズの起こした爆発で吹っ飛んだ破片も ギーシュがハンマーで飛ばした青銅の散弾も体に通さなかったて言うこと!?」 「そうなる、恐るべき頑強な肉体」 この事実を前にタバサの声にも珍しく感情がこもる。 しかしそんな考察などしている余裕のない者がいた。 ギーシュである。 この間に、さきほどドロップキックで遠くへ吹っ飛んだワルキューレをようやく自分のもとへ戻すことはできていたが、 たかが一体ではこのクマを相手に何の役にも立たないことはもはや明らかだった。 そんな彼を睨みつけるベルモンド。 「ゆ、許してくれ、僕の負けだ!」 半ば無意識にギーシュはそう言っていた。 「ほんと?」 「あ、ああ。約束通りキチンと謝りもする」 「そう、じゃあみんなに謝りに行こう」 そう言うとベルモンドの目も穏やかになりギーシュのもとに近づいていく。 確かにこの降参にうそ偽りはなかった。ギーシュの理性はこの実力差に間違いなく敗北を認めていた。 しかし感情はそうではなかった。 ゼロのルイズの使い魔のクマ公ごときに負けを認めることを受け入れられずにいた。 そしてその想いが、折り重なって倒れる4体のワルキューレをベルモンドがまたごうとしたときにある閃きを与えたのだった。 「そ、そうだ、これだ!くらえクマ野郎!!」 そう言うや否やギーシュは残る精神力を振り絞り、ベルモンドの足元のワルキューレを足に絡みつく青銅の塊に変えた。 「ク、クゥーン」 ベルモンドは当然ふりほどこうとするものの、さすがにワルキューレ4体分の重さに完全に足は固定されてしまっていた。 「ははは、どうだクマ公!これが偉大なる魔法の力だ! メイジであるこの僕にたてついた愚かしさを思い知るんだよぉっ」 ガスゥッ! そう言うと最後に残ったワルキューレがベルモンドに正面からハンマーを叩きつけた。 「キュウーン」 しかもこれだけでは終わらず、 ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスゥッ! 何度も何度もハンマーを叩き込んでいく。 「あああー!これは残酷!足を固められたベルモンドに対して、 さきほどワルキューレを散弾に変えたハンマーの一撃が、直に! しかも何度も叩き込まれるーー!!」 その一撃一撃はベルモンドの着ぐるみを破り、綿と血しぶきを舞わせていく。 「クゥーンクゥーンクゥーン!」 これにはベルモンドも悲鳴を上げる。 「卑怯よー、ギーシュ!」 「やめてー!クマちゃんを殺さないでー!」 非難の声が上がるも、食堂の時のようにまたしてもそれらは逆にギーシュをヒートアップさせていく。 「うるさい!黙れ!こんなクマ野郎にさっきからキャーキャー言いやがって! こんなボロ屑の畜生が何だって言うんだ。こんなやつ所詮は血にまみれた布と綿に過ぎないことを教えてやる!」 そう、普段は決して口にしないような言葉を吐くとさらにベルモンドを打ちすえる。 ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ! 「いやーー、もうやめてーーー!!」 その惨状にルイズはひときわ大きな声を上げる。 それすらも無視して打ち続けるギーシュにベルモンドの弱弱しい声が掛けられた。 「ね、ねえ、さっき自分の負けだって……みんなに謝るっていたのはウソだったの……?」 「はははっ、そんなの当たり前だろう。 どうしてこんな畜生ごときに約束など守らなければいけないんだい!」 「ど、どうしても謝ってくれない……?」 「まだ言うのかい?そんなの当たり前だろうがーー!」 そう言ってワルキューレはひときわ大きくハンマーを振りかぶる。 「………………そうか、もういい」 ザグ! だが、次の瞬間、ベルモンドの胴体を突き破って回転する漆黒の何かが飛び出した。 そして、 ギュガガガガガガガ! それはそのままワルキューレの胴体をえぐり飛ばすとギーシュの目の前に着地した。 そこには、左手の甲に4本の鋭い爪をもち、表情のない仮面をつけた、 鍛えこまれ抜いた肉体をもつ漆黒の戦士が降り立っていた。 この出来事を前に誰一人として声を上げられるものはいなかった。 ギャラリーも「実況」もシエスタもギーシュもルイズでさえも。 その静寂の中、 コーホーー 彼の呼吸音だけが広場に響いていた。 前ページ次ページゲーッ!熊の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1344.html
前ページ次ページ使い魔のカービィ 「諸君、決闘だっ!!」 バラの造花を掲げ、天を仰ぎながらギーシュが叫んだ。 その叫びに呼応し、『ヴェストリの広場』に集まったたくさんのギャラリーからも大きな歓声が上る。 それらは、皆がこれから行われる戦いに胸を踊らせ、今か今かと始まりの時を待っている証拠だ。 娯楽の少ない生徒達にとって、貴族の誇りをかけた決闘は暇つぶしと賭の対象にしかならないようだ。 今も「俺はギーシュに銀貨20枚」「じゃあ大穴でピンクボールに銀貨15枚」といった声が聞こえてくる。 実際ギーシュも、自分の強さを誇示し、プライドを守るためだけにこの決闘を発案したのだ。 相手がメイドだろうがルイズだろうが使い魔だろうがどうでもいい。 なんとも薄っぺらい決闘である。 「さあ、お前の出番だ!」 熱気も最高潮に達しようかという時、先程の男子生徒が回収してきたカービィを広場の中心へ向けて放り投げた。 「ぽよーーーー!」 美しい弧を描き、なんとかカービィは広場に着地。 しかも着地した際、ちょうどギーシュと向かい合うような形になる。 「ほう……とりあえず、決闘へ逃げずに来たことは褒めてやろうじゃないか」 「ぽよ?」 カービィはキョロキョロと辺りを見回し、自分の状況を確認した。 シエスタをいじめていた男が、自分と1対1で向かい合って佇んでいる。 カービィの脳裏にある場面が浮かび上がった。 それは彼が前にいた世界『プププランド』に来て間もない頃、仮面の騎士から戦いを挑まれた時のこと。 その時はギャラリーはこんなにたくさんではなく、荒れ果てた谷で行われた。 そして、結局それは決闘と銘打ったカービィを成長させるためのお芝居だった。 そんなことをぼんやり思い出していると、ギーシュがバラの造花を構えた。 「では、早速始めよう……二度とこの学園を見たくないようにしてあげるよ」 その言葉に身構えるカービィ。 星の戦士としての勘が、何かが来ると訴えてきたのだ。 ギーシュがバラの造花を振るうと、3枚の花弁が宙を舞いった。 ひらひらと地面に落ちてゆくと思ってカービィが見ていると、花弁が突然金属で出来た女性の像に変化したのだ。 しかもそれぞれに凶悪な武器を持っている。 「ぽ、ぽよぉ!?」 今まで様々な魔獣と戦い続けていたカービィだったが、これには流石に驚いた。 目の前に自分の何倍もある大きさの像が現れれば、当然の反応だろう。 「ボクの二つ名は『青銅』。よって、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手させてもらおう。かかれ!」 3体のワルキューレが武器を手に、一斉にカービィへ向かっていった。 その頃、やっと広場へ駆けつけたルイズは、ギャラリーを押しのけて前へ前へと進んでいった。 この興奮様だともう既に決闘は始まっているのだろう。 (早く止めないと、カービィが……!) 人混みを掻き分け、漸く最前列に躍り出たルイズ。 そんな彼女の目に映ったのは、必死にワルキューレの攻撃を避け続けるカービィの姿だった。 3対1という圧倒的不利な戦いで、カービィは小さい体を生かした驚くほど機敏な動きで敵を翻弄している。 一方的な展開を予測していたギャラリーは大きく湧き上がり、少なからずカービィを応援する者まで出てきた。 そんな中、ギーシュはちょこまかちょこまか動くカービィに苛立ちを感じながらもワルキューレを操る手を止めなかった。 (ああいうボケた奴は絶対にどこかでヘマをする。その時がこのピンクボールの最期さ) 色ボケなバカでも軍人の息子、自分の勝利をギーシュは疑っていなかった。 隙が出来なくてもカービィが疲れるのを見越し、余裕を保って先頭を続行する。 そしてギーシュの望んでいた瞬間は訪れた。 カービィの主人の手によって。 「カービィ!!」 決闘をやめさせるため、とにかくカービィを呼ぼうとしたルイズだったが、これが仇になった。 「ぽよ?」 ルイズの声に反応してしまったカービィに、大きな隙が生じてしまったのだ。 ギーシュはニヤリとほくそ笑み、ワルキューレの持つハンマーの痛烈な一撃をカービィに加えた。 思わず目を背けるルイズ。 一部の女子生徒も悲鳴を上げた。 「ぷぎぃっ!」 壁に激突し、倒れ込むカービィ。 体の痛みに耐えて立ち上がろうとしたところを、ハンマーを持った2体のワルキューレ達が何度も殴りつける。 「ぷぎっ! うゅっ! ぼよっ!」 「もうやめて!」 柔らかい体のお陰でダメージは緩和されているが、殴られる度にカービィは体力を奪われていった。 ルイズがカービィに駆け寄ろうとするが、あまりに危険なため、級友達が必死にそれを止める。 そうしている内にカービィは傷だらけになり、動くことさえままならなくなっていた。 「はははは! やはりゼロのルイズの使い魔はこの程度だったようだね……さて、仕上げといこう」 ギーシュが命じると、2体のワルキューレが傷つき動けなくなったカービィの両腕を掴み、磔のようにしっかりと固定した。 そして、最後の1体ーー両手に剣を持ったワルキューレがカービィに近づく。 「貴族に刃向かうとどうなるか、その体に刻んでやろう!」 ワルキューレにサインを出し、その歩みを進めさせるギーシュ。 誰もが惨劇を予感した瞬間、ワルキューレの左腕が爆発を起こした。 左手と握られていた剣が地面に転がり、ワルキューレが足を止める。 『爆発』というワードで引っかかるのはただ一人をギーシュが睨む。 「……なんだね、ゼロのルイズ。神聖な決闘の邪魔をしないでくれないか」 「何が決闘よ! こんなのまるで公開処刑じゃない!」 「人聞きの悪い……ボクはただ貴族の礼儀を教えておこうと思っただけだよ。彼にね」 カービィを顎で指し、勝ち誇った表情をルイズに見せるギーシュ。 ルイズは級友の手を振り解こうとするが、 「やめておいた方がいい、魔法が使えない君に何が出来ると言うんだね? ……そこで見ているといい。使い魔に礼儀が刻まれる所を!!」 ワルキューレが右手の剣を振り上げる。 ルイズはその瞬間、最期の望みをかけて叫んだ。 「カービィ! 吸い込みよ!!」 「………ぽよ!」 ルイズの言葉に、今まで朦朧としていたカービィの意識が覚醒した。 同時に口を大きく開け、強風と共に吸い込みを始める。 「くっ……無駄な足掻きを! この程度でボクのワルキューレをどうにか出来ると思ったのか!?」 ギーシュの言うとおり、青銅製のワルキューレはカービィの吸い込みにビクともしない。 (お願いカービィ! 頑張って!!) ルイズはカービィの吸い込みの風でワルキューレを転ばせる、若しくは吸い込んでしまうことを最後の切り札と考えていた。 それしかカービィには手はなく、これが失敗すれば本当に終わりだとおもっていた。 しかし、ルイズの予期せぬところで確実に吸い込まれている物が1つだけあったのだ。 それはルイズが爆発させた際吹き飛んだワルキューレの腕……ではなく。 その腕が掴んでいた…………『剣』 強風の中、必死に祈っていたルイズは、カービィが『剣』を吸い込んだのを確かに見た。 直後、カービィは吸い込みをやめ、ワルキューレの拘束を強引に振り払っう。 「なっ! どこにそんな力が!?」 「はぁっ!」 驚愕するギーシュに目もくれず、カービィは回転しながら宙へと舞い上がった。 同時にその身が目映く輝き出す。 誰も目を背けなかった。 いや、背けられなかった。 その輝きがまるで『星』のように美しかったから。 輝きが収まり、カービィが姿を表す。 しかし、そこにいたのカービィではなく、緑の帽子に黄金の剣を携えた最強の剣士『ソードカービィ』だった。 「え、ええっ!? か、カービィ……!?」 「な、なんだ!? 何の手品だ!? くそっ!ワルキューレっ!!」 カービィの変身に動揺したギーシュは、カービィの一番近くにいたワルキューレを向かわせた。 しかし、今のカービィにはそんな行き当たりばったりの戦法は通じない。 向かってくるワルキューレの動きを見切ると、剣を構えた。 するとカービィの左手のルーンが輝き出す。 『百裂斬りっ!!』 目にも留まらぬ剣捌きでワルキューレを滅多切りにするカービィ。 最後の一振りを浴びせると、ワルキューレは文字通り百のかけらに分断された。 「う、嘘だっ!! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!」 あっさりワルキューレを倒されたギーシュは錯乱し、自分が出せる残り全てのワルキューレをカービィに向かわせた。 もう隊列も連携もあったものではない。 とにかくギーシュは目の前にいる『ピンクの悪魔』を消し去りたかったのだ。 向かってくるワルキューレの数は6体。 カービィは飛躍し、剣を掲げる。 その時、頭に始めて決闘をした相手――メタナイトの言葉が鮮明に蘇ってきた。 『剣心一体となれば、届かぬ距離にも刃は届く! 疑うな、教えてやろう!』 『剣という破壊武器は、使いようによっては……風になるのだ!』 『ソードにエネルギーを蓄積し放出する。これぞ………』 『『ソードビーム!!』』 剣とルーンの輝きが共鳴し、エネルギーが唸りを上げる。 カービィは湧き上がる力を感じ、そのすべてを剣に乗せて振り下ろした。 剣から輝くエネルギーの刃が放たれる。 ワルキューレ達は為すすべもなく斬られ…… ―――爆発。 直視できないほどの爆風が収まり、生徒達は目を開いた。 そして目に入ってきた光景に、自分は夢を見ているのかと誰もが感じる。 ソードビームをまともに受けたワルキューレ達は跡形もなく消え去り、広場の地面が深く抉られていたのだ。 残っていたのはガックリ膝から崩れ落ちるギーシュと、元の姿に戻ったカービィのみ。 「ま、参った……」 静まり返るギャラリー。 カービィは悠長に砂埃を払い、ルイズの足下へ歩み寄った。 そしてただ一言。 「ぽよっ♪」 「カービィ……!」 カービィを抱き上げ、ルイズは嬉しさのあまり泣き出してしまっている。 ギャラリーは一気に爆発し、この小さき英雄を心から讃えた。 「はあ……何だよあれ、圧倒的過ぎるじゃないか……」 一方負けたギーシュはソードビームが抉った地面を苦笑いしながら見つめていた。 精魂尽きたといった顔をしている。 「でも…………負けたのは確かだ……」 ギーシュは気を抜けばへたり込んでしまいそうな足に鞭を打ち、自分を打ち負かした相手へと近づいていった。 賞賛と謝罪をするために。 前ページ次ページ使い魔のカービィ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/360.html
前ページ次ページゼロのミーディアム 「貴族の食卓を荒らす訳にもいくまい。ヴェストリの広場で待っている」 そう言い残しギーシュは去っていった シエスタがぶるぶる震え青ざめた表情で水銀燈を見つめている 「水銀燈…貴族をあんなに怒らせるなんて…おまけに決闘だなんて!」 「ふん…問題ないわよ。あんなボンボンのお坊ちゃんにこの私が遅れをとるとでも?」 そこに駆けつけてくるルイズ。どうやら事の一部始終を見ていたらしい 「ちょっとあんた!何してんのよ!」 「あら、お嬢様。ご機嫌いかが?」 「ご機嫌いかがじゃないわよ!決闘なんか勝手に受けちゃって!」 「あんな醜態をさらしたくせにおこがましくも薔薇を名乗るなんて気に入らないのよ。ましてやそれを私のせいにするなんて。それに…」 (それにあの人間はこの私の最も嫌う言葉を私に投げかけた。だから…許す訳にはいかない…!) 瞳を細め苦々しく心の内で呟く 『ジャンク』・『できそこない』水銀燈の最も嫌う…嫌悪すると言ってもいい言葉だ 前にも述べたがルイズに対するの『ゼロ』に匹敵する侮辱の言葉と言える ギーシュは彼女の前では決して言ってはならぬ禁句を言ってしまった この尋常ではない怒りは無論これによる物。今の彼女の心の中はそれ一色しかない いや、水銀燈の中にはもう一つそれとは少し違う感情があった あの時ギーシュの言った『できそこない』の対象は水銀燈だけではない。彼女のミーディアムたるルイズも含まれていた。彼女の仇名である『ゼロ』のオマケ付きで そのことが何故か水銀燈はひどく気に入らなかった 無意識の内にルイズの境遇の中に自分を垣間見たのかもしれない 誰かのために戦うなど自分の性に合わないと思う だからあくまで自分の名誉を守るついでにルイズの名誉を守ると理由付けて決闘を受けた だがルイズは水銀燈の胸中など知る由もない 「謝っちゃいなさいよ」 「謝るですって?断るわね」 「悪いことは言わないから!あんたが少しは不思議な力が使えるとしても、メイジには絶対勝てないの!」 「何よ、貴女心配してくれてるの?」 「べ、別に心配なんか…いや、それは…あんた一応私の使い魔なんだし…」 一人で勝手にしどろもどろしているルイズをよそに水銀燈はギーシュの連れに決闘の場を問いただす 「ヴェストリの広場だったかしら?それってどこなのよ?」 「ああ、こっちだ」 恐怖に震えるシエスタとなんだが一人ブツブツ言っているルイズに背を向け貴族に連れられ水銀燈は決戦場へと向かう 「水銀燈…」 シエスタはそのまま立ち尽くしその場から動くことができなかった そしてこちらははっと我に返ったルイズ 「ああ!待ちなさい!もう!使い魔のくせに勝手なことを~!」 小さくなっていく水銀燈の後姿をルイズは文句を言いながらを追いかけた 学院内の『風』と『火』の塔の間にあるヴェストリの広場。大きく場所の開けた中庭はまさに決戦場としては最適だと言える この短時間にどう聞きつけたか分からないがすでに広場では見物人が溢れかえっていた 「来たぞ!ルイズの使い魔だ!」 生徒達の一角から声が上がる 「――来たか」 腕組みした手に薔薇を模した杖を持ち静かに呟くギーシュ。一見冷静だが内心腸が煮えくりかえっていることだろう その視線の先に―― 漆黒の翼をはためかせ広場に入ってくる黒衣の少女 「――待たせたわね」 紫色の鋭い双眸でギーシュを睨みつける少女…水銀燈 広場の中央、険しい面持ちで対峙する両者。共に自分の信念とも言える物をを侮辱され、平和的解決などは有り得ない 「ちゃんと逃げずに来たようだね」 「貴方ごときに何故逃げる必要があるのかしら?」 ギーシュは水銀燈の挑発を聞き不機嫌にぴくりと眉を動かす。 「その減らず口がいつまでも叩けるか見ものだな」 そしてギーシュは杖を掲げ高らかに名乗りをあげた 「我が名はギーシュ!人呼んで『青銅』のギーシュ!我が前に立ちはだかりしルイズの使い魔よ、名乗られよ!」 そして頭上に掲げた薔薇を決闘相手に向けた 何処からともなく水銀燈の手に羽が集まり黒い薔薇を作り上げる そして水銀燈も薔薇を横に振り名乗りを上げた 「私は誇り高きローゼンメイデンの長女。第1ドール、水銀燈…!」 「ローゼンメイデン…薔薇乙女とは言ったものだな。ならばどちらが薔薇の名に相応しいかこの決闘で決めようじゃないか!」 「誇り高き薔薇の名…貴方にはすぎたものだわ」 そして水銀燈は手にした薔薇を放り投げる。決闘開始の合図はその薔薇が地についた瞬間 誰が決めた訳でもない。だが二人にはすでにそう言う認識だった。 文字通り暗黙の了解と言うものなのだろう 両者は薔薇がゆっくりとスローモーションのように落ちるよう感じた。 そしてそれがが地についた瞬間…! ギーシュは薔薇の杖を振り下ろし、水銀燈は背の翼を大きく広げる ――決戦の火蓋は切って落とされた 先手必勝と言わんばかりに水銀燈の翼から無数の羽が発射される まるでダーツを思わせるように発射されたそれは真っ直ぐにギーシュへと向かっていった。 しかしそれはギーシュに当たること無く彼の前方に現れた『何か』に阻まれた 「これは…!」 ギーシュの前に現れ羽の鏃(やじり)を阻んだのは甲冑を纏った女性型の騎士 ギーシュの薔薇…薔薇の形をした杖から放たれた一枚の花びらが変わったものだ 「言っておくが僕はメイジだ。だから魔法で戦う。故に…君の相手は僕の生み出した青銅のゴーレム、『ワルキューレ』がお相手しよう!」 「ちいっ!」 舌打ちしなおも漆黒の鏃を放つ水銀燈 だがそのゴーレム、ワルキューレは気にもかけずこちらへ突進をかける 黒い嵐を平然と突破し右拳を突き出すワルキューレ 金属的に強度の低い青銅と言えど金属には違いない 当たれば並みの戦士でも卒倒しかねない一撃、 ましてや水銀燈は人間よりも非力な人形。当たればそれだけで致命的である 「くっ…」 それでも水銀燈は翼をたたみ紙一重で横に避ける 流石はアリスゲームを生き残るだけのことはあると言えるだろう ローゼンメイデンとして姉妹で戦う宿命に生まれた彼女は戦闘経験も決して少なく無い だがワルキューレはなめらかな動作で水銀燈の向き直ると追い込むように左右の拳を連続で拳を突き出す そこまでの速さでは無い。冷静に見切れば避けきることも可能。だが… 「どうしたんだい?逃げているだけでは僕には勝てないぞ!」 その通りだ。どんなに攻撃を避けようともこちらから攻撃に転じなければ水銀燈の勝利は無い しかし相手は青銅の塊。彼女の持つ攻撃手段による破壊は限られている。 攻撃に転ずるならら彼女最大の攻撃をぶつけるしかない 「ならば…!」 翼を広げ後方へと飛びワルキューレと距離を大きく離す水銀燈。これにはワルキューレの追撃は間に合わないらしい 素早さはこの戦いで水銀燈の数少ないアドバンテージと言えた 間髪入れずワルキューレが迫ってくるが水銀燈はそれすら無視し力を背中の片翼へと集中させる。 ――イメージは…全てを噛み砕く黒竜のアギト そしてワルキューレが彼女の間合いに入った瞬間一気に力を爆発させた! その片翼が大きく逆立つと、拳を振り上げ殴りかからんとするワルキューレに食らいつく! 「なんだと…!」 突然水銀燈の背から現れた漆黒の竜にギーシュも目を見張る 黒竜のアギトと化した翼はワルキューレを噛み砕くことは出来なかったものの、それに食らいついたまま広場にある木に激しく叩きつけた 大木を揺るがし広場に大きく響く激突の轟音 さすがのワルキューレもその青銅の身体がひしゃげ、動かなくなると光の粒子となって消滅した (やったわ…) 息切れをおこしながら水銀燈は内心で安堵した 消耗が激しく連発は出来ない上に、足を止め力を撃たねばならねリスクの高い彼女最大の武器 だがその一撃は見事青銅のワルキューレを撃退したのだ 周りの貴族も大騒ぎだ 「やりやがった!」 「やるもんだな!ギーシュのあれを破るとは!」 しかし当のギーシュは全く持って余裕の表情 「フッ…見事だよ。僕のワルキューレを破るとはね」 「…おとなしく降参なさい。そんな玩具じゃ私は倒せないわ」 強気の発言だが先程の攻撃による水銀燈の消耗は決して少なくない。苦しげに語る様がそれを証明している 「フ…馬鹿を言っちゃいけないな」 ギーシュはあくまで余裕の態度を崩さない その自信に水銀燈に嫌な予感がよぎる… 「いやいや、すまなかった。考えてみれば麗しきレディとは言え我が決闘相手には違いない。手加減等するのは失礼だったな」 「手加減…なんですって?」 ギーシュが再度杖を振り、花びらが七枚地に落ちた 「言い忘れたが僕が錬金できるワルキューレは一体だけでは無いのだよ」 彼の言葉通り七枚の花びらが光を放ち人型のシルエットとなる しかも…今度のワルキューレは各々の手に多数の武器を持っていた これには流石の水銀燈も絶句するしかなかった (厄介な事になってきたわね…!) 「本気で行かせてもらうとしよう。かかれッ!ワルキューレ!」 ギーシュは薔薇を水銀燈に向けワルキューレをけしかける 突撃用のランスを突き出し迫り来るワルキューレが二体。長剣を携え後に続くワルキューレが三体 そしてギーシュの前方に立ち塞がり長剣と大盾を構えたワルキューレが二体 先頭のワルキューレが加速を付けその槍先で水銀燈を貫こうとする 辛くも一体目の突撃を身をひねりそれを避けた。その横を勢いも殺さず駆け抜けるワルキューレに水銀燈も背筋が凍る しかしすかさず二体目のランスが追撃をかける 「くっ!」 一体目を回避し態勢の崩れた水銀燈に迫り来る二本目の槍先。翼を大きく反対に振り重心を移動させ回避を試みる 先程まで自分がいた場所に槍が突き出され空を切った。こんな物を食らってしまえばひとたまりもない どうにか槍は避けられたもののワルキューレの猛烈な突進が水銀燈をかすめた だが…かすっただけなのに彼女の体に凄まじい衝撃が走る 「ぐうっ…」と呻き痛みに堪えるも肩を押さえ屈み込んでしまう水銀燈 だが敵は待ってくれない。この隙を逃さず頭上に剣を振り上げた三体目のワルキューレが切り込んだ。その剣が振り下ろされようとしている 水銀燈はとっさに羽を右手に集め自分の右手に剣を形成させる。ワルキューレの斬撃を受けとめるためだ だがいかせん分が悪い。非力な人形たる彼女ではワルキューレの重い一撃は受けきれないだろう 彼女は状況判断を誤った。しかし今の彼女にできる抵抗はこれいしかなかったのも事実 (しまっ…!) しまった!と言い終える前にワルキューレの剣が無情にも振り下ろされた 決闘を止めようと人混みをかき分けやっとのことで二人の決闘の見える位置まできたルイズ だがその目に写るのは今まさにワルキューレの刃が水銀燈に振り下ろされると瞬間 ルイズは思わず目を覆ってしまった ガキィィィィン! 金属同士のぶつかり合う音が響く (え…?) 水銀燈は何が起こったのかわからなかった …振り下ろされた剣はなんと自分の両手の細腕に握られた剣で止められていたのだ。自分自身も信じられなかった それだけでは無い。 体の奥底から力がわいてくるような不思議な感覚 水銀燈の剣を持った右手には契約時に刻まれたルーンがまばゆく輝いていた ワルキューレの重い剣を自らの剣で受け止めた水銀燈 彼女の細腕にはそれ程までの力は無い筈だ 変わったことと言えば左手に輝くルーン。とっさに剣を握った瞬間に光り出したものだ どうにか一命はとりとめた 疑問は尽きないところだが今は目の前のワルキューレに集中する 鍔迫り合いの形となり、力は均衡し両者とも剣は動かない 水銀燈は急に力を抜きワルキューレの側面に回り込む。 突然の脱力により勢いを止められず前に崩れるワルキューレ 水銀燈はその勢いを剣に乗せ体を回転させつつ遠心力をのせた斬撃をワルキューレの右手に叩き込んだ 宙に舞う剣を持ったワルキューレの腕。すかさずそのまま脳天から叩き斬ろうとするが… 水銀燈の背後に感じる殺気、ルーンにより感覚も研ぎ澄まされているらしい。後ろも振り返らずに宙返りし、背後から襲いかかってきた四体目のワルキューレの頭を飛び越える 水銀燈を狙ったはずの横薙に薙払われた四体目の斬撃が右手を飛ばされた三体目のワルキューレに襲いかかった 青銅同士のかち合う耳障りな音とともに刃は三体目を切り裂きそれを消滅させた その隙に四体目の頭上背後に回り込んだ水銀燈も天高く剣をかかげその脳天に振り下ろす 再び鳴り響く金属のかち合う音 しかし…水銀燈の渾身の一撃を食らったはずのワルキューレの頭は少し頭を切り裂かれただけ 「そんな…!」 水銀燈は驚愕の表情を浮かべる ワルキューレの剣を受け止め、青銅の塊であるその腕を切り裂いた彼女の剣はそれで限界が来ていたのだ。ルーンの強化は武器にまでは及ばなかったらしい 宙を舞う金属の破片…水銀燈の持つ剣が…澄んだ音と共に砕け散った… 水銀燈の意識が折れた剣に奪われた時間は一秒にも満たない。が、ワルキューレが体勢を立て直すには十分だった 振り向き様に放たれるワルキューレの袈裟懸けの刃。意識をそちらに向けた時にはもう遅い とっさに翼前面に展開し盾にするが…それでも大きく吹き飛ばされ地面に叩きつけられる水銀燈。それも頭から落下する危険な落ち方だ 「ぐうっっ!」 苦しそうに呻く水銀燈を目の当たりにし、ルイズが駆け出した 「もういいじゃない!メイジ相手にあんたは十分やったわ!だからもうやめて!」 「断るわ…!例えこの身が朽ちようとも…あの人間を許す訳に行かない… この私を…そして『貴女』を『できそこない』なんて…言わせない…!」 「え…?」 「邪魔よ!どきなさい!」 水銀燈はフラフラと立ち上がり駆け寄ったルイズの手を振り切りギーシュへと向かっていく たった一撃食らっただけ。それなのに彼女の受けたダメージは深刻だった (あの娘が決闘を受けた理由…まさか私の為に…?) 水銀燈の背を見つめルイズは思う そう問えば水銀燈は頑なに否定するに違いない。 だが決闘の半分の理由はまさしくそれだった。今の『貴女を』と言う言葉は無意識に漏れたものだ 水銀燈は…自分自身とルイズの誇りの為に戦っている 左手のルーンの輝きも失せ、体は満身創痍。それでも彼女は戦うことを止めない 水銀燈はワルキューレを無視しその操手たるギーシュ本人を狙うが… その行く手を阻むランスと剣を持ったワルキューレが二体ずつ 「破れかぶれで僕自身を狙うつもりかい?無駄なことを!」 仮にこれを凌げてもギーシュの前には盾を構えたワルキューレが二体。勝つのはもはや絶望的だ そして決闘開始時の水銀燈の素早さは見る影もない ギーシュは四体のワルキューレで水銀燈を囲んだ 「最後のチャンスだ。もし君が今僕に謝罪すればこれで手打ちにしよう!続けるならそれ相応の覚悟をしてもらうがね!」 武器を構えジリジリとワルキューレが迫る 「謝罪ですって…?」 「そうさ!『私のせいで2人のレディの名誉を汚してしまい申し訳ありませんでした。薔薇の名は貴方にこそ相応しい!』そう言えば君を許そうじゃないか!」 断れば即座にワルキューレの武器が水銀燈を貫くことだろう この上なく危機的状況。それでも彼女は退かない 「死んでも…嫌…!!」 苦しい表情に不敵な笑みを浮かべ言った 「ならば…望み通り死なせてやろう!やれ!ワルキューレ」 ギーシュの命により剣が、ランスが、一糸乱れずに振り下ろされる 「くっ!」 痛む体に鞭打って翼を羽ばたかせ上空へと逃れる水銀燈。四方を囲まれた今逃げ道は上方のみ しかしそれはギーシュの思考の予測範囲 「なかなか頑張るじゃないか!だが甘い!」 ギーシュはワルキューレを下がらせると短くルーンを唱え、大地に向けた杖を振り上げた 次の瞬間、水銀燈が立っていた地面が隆起し槍の先のような岩がまるで高射砲のように放たれる ワルキューレの猛攻を凌ぎ多少安堵していた水銀燈に襲いかかる対空放火 「く…ああっ!」 何発もの岩の穂先に突き上げられ再び墜落し地面に叩きつけられた そしてベキッ!と言う何かが折れるよな嫌な音 彼女の象徴にして戦いの生命線たる黒い片翼があらぬ方向に曲がっていた… 勝敗はついたも同然と言える。しかしギーシュは決闘を止める気はないらしい 「降参しろと言っても無駄なのだろうね?すぐに楽にしてやろう!」 かろうじて水銀燈は意識を保っているがもはや体は死に体、それでも立ち上がろうとする そこに割り込んでくる人影 ワルキューレから水銀燈を庇うように両手を広げ立ちふさがったのは鳶色の瞳を潤ませたルイズ 「何のつもりだい?ルイズ。神聖な決闘に割って入るとは!」 泣き出しそうなのを我慢してルイズは言った 「もう勝敗は決したわ。だからお願い、この子を、水銀燈を許して」 「断る。君の使い魔から受けた数々の無礼、許し難い。彼女から謝罪の言葉でもでれば別だがね」 ルイズは瞳を閉じ少し間をあけるとギーシュに悔しげに告げた 「わかったわ…この子が謝らないなら…つ、使い魔の主人たる私が…しゃ、謝罪するわよ…」 「ルイズッ!止めなさい!!」 水銀燈が声を荒げる 「あんたは黙ってなさい!水銀燈!」 ルイズも俯き声を荒げた。地面には彼女の涙がポタポタと落ちている それでも水銀燈は言った 「いいえ!言わせてもらうわね!ルイズ、貴女がやろうとしていることは私、そして他ならぬ貴女自身を侮辱していることも同然!」 「で、でも!」 「貴女は認めるの…?自分が『できそこない』だと、自分が『ゼロ』だと!」 「そ、それは…」 (自分だってそんなこと認めたくない。だがここで止めなければ水銀燈が…) 「認めたくないのね?そう、それでいいのよ。仕方がない?そうしなきゃ私が助からない?そんな理由で頭を下げる必要など無いわ! 貴女は誇り高き私のミーディアム、自分自身の誇りを裏切る真似等許さないわ!」 本当は止めなきゃいけないのに…不本意でも謝らなければならないのに… ルイズはそう思いつつも水銀燈の強い眼差しを受け何も言えなくなった それを見ていたギーシュは苛立ちながら告げた 「下がりたまえルイズ!もはや君にできることなど何もないのだからな!」 ルイズの心に突き刺さる心無い言葉 しかし水銀燈はふと何かを思い出したように言った 「いや…あるわ…!ルイズ。貴女にできることが…」 「わ…私にできること…?」 「覚えてるかしら…?契約した夜に言ったことを。貴女のミーディアムとしての力、使わせてもらうわ!」 その瞬間、ルイズの右手にした薔薇の指輪が熱を帯び眩く輝き出し水銀燈の体から光が溢れる。 あまりの眩しさにギーシュが、見物人達が目を覆う その光がおさまり中から現れた水銀燈は土にまみれていたドレスは埃一つなく折れた翼も修復され、傷や失った体力も完全に回復されていた そして凛とした態度でギーシュ、ワルキューレを見据える 「――刮目なさい。ローゼンメイデンの…真の力を!」 完全に復活をなし遂げた水銀燈が高らかに告げた 「何度やっても無駄だ!」 ギーシュは剣を持ったワルキューレをけしかけた 水銀燈は修復された黒き翼を広げそこから再び無数の羽を飛ばす 「今更そんな物を!そんな物が僕のワルキューレに効くものか」 しかしギーシュは即その認識を改めることになる 脆弱な筈の彼女の羽、それがワルキューレをいとも簡単に射抜いた 「え?」 予想外の事態に唖然とするギーシュ ワルキューレは漆黒の矢…否、漆黒の弾丸と化し羽による黒い嵐に蹂躙され為す術もなく破壊されていく 文字通り蜂の巣となった二体のワルキューレはガタッと膝をつき前のめりに倒れた 「くっ…!ひ、怯むな!かかれぇ!」 ギーシュは今度はランスを携えた二体を向かわせる 迎え撃つ水銀燈。彼女の右手に再び羽が集約し剣を形成。そしてルーンもまた輝き出す 一列に並んで突進してくるワルキューレ。しかしそれが加速に入る前に一瞬でその間合いに踏み込んだ 体が羽のように…いや風のように錯覚した。そして腰だめに構えた剣をすれ違い様に一閃! 突進を始めた筈のワルキューレがピタリと止る。剣を振り抜いた水銀燈はギーシュの方を見やりその剣を彼に突きつける 「闘いは…これからよ!」 水銀燈の背後でズッ…という音と共にワルキューレの上半身がずれて地面に落ちた 突然凄まじいまでの力を発揮しゴーレムを一瞬で蹂躙した水銀燈にギーシュはパニックをおこす 「うわあああ!行け!お前達も行くんだよ!!」 自分の守りに付けていた二体を外し、けしかける 盾を掲げ分厚い防御を維持したまま突進してくるワルキューレに水銀燈は一瞬で接近し一体を斬りつけた 堅固な盾を物ともせず肩から胴まで刃を切り込ませる が、そこで刃が止まった。切り裂かれたワルキューレが水銀燈の手をがっちりと固定し体をはって動きを封じる 「かかったな!そっちはフェイクだ!本命は後ろさ!ワルキューレごと切り裂いてやる!」 パニックを起こしても考えてるところは考えてるらしい その言葉通り押さえられた水銀燈の背後からワルキューレの片割れが襲いかかった しかし、水銀燈は「フッ…」と笑みを浮かべ翼の片方を逆立てる 再び彼女の背に現れる翼の黒竜。だがそれは一瞬で形成され背後のワルキューレにそのアギトを開いた ガチン!と言う音と共に顎が閉じワルキューレの上半身をかっ攫う 半身を食いちぎられたそれ下半身だけで力無く後ずさりし、バタリと倒れ動かなくなった 水銀燈は押さえつけていたワルキューレも力任せに真っ二つに切り捨てると服についた埃をパンパンと払った 「ばかな…僕のワルキューレが…ぜ、全滅!?」 ギーシュは目を大きく見開き恐怖にうち震える 「――貴方自慢の手駒は葬り去ったわ。…さあ、覚悟はよろしいかしら?」 水銀燈が冷たく言い放つ ギーシュは震えながらも、も杖を手離さなかった。貴族としての意地か、恐怖で離せないだけか ゴーレムの錬金は間に合わない。ワルキューレが錬成されている間にギーシュは一瞬で水銀燈に真っ二つにされるだろう。 自分だけの力でこの化け物と戦わなければならない…ダラダラと冷や汗を流しギーシュは思った。それでも―― 「今更あとに退けるかぁぁぁぁぁ!」 絶叫しルーンを唱え大地を隆起させるとそこから岩石を水銀燈に打ち出した 岩石は水銀燈を射抜き…いや射抜いたと思った瞬間に彼女の体が霧散した 「残念、残像なの」 ギーシュの足元からする声。水銀燈は地面すれすれにギーシュに切り込み翼で足を払う ギーシュは転倒しつつも杖を離さず水銀燈に杖を向け魔法を放とうとするが… 彼の闘志もそこまでだった。水銀燈は杖を斬り払うと返す刀をギーシュの喉元に突きつける 「チェックメイト…!」 ギーシュの見上げた先には冷たい笑みを浮かべ自分を見下ろす水銀燈の顔 「ま…参った!」 ギーシュは顔を青ざめさせそう言うことしかできなかった ギーシュの敗北宣言を聞き周りから歓声があがる しかし…水銀燈はギーシュの喉元から剣を動かさない。冷や汗をかきつつギーシュが不穏に思っていると水銀燈が口を開いた 「貴方…黒薔薇の花言葉をご存知かしら?」 突然の意味の分からぬ質問。何も言わないギーシュに構わず水銀燈は続ける 「黒薔薇の花言葉に決まったものは無いの…でも、私が知ってるのはこの二つね」 そしてその顔に狂気とも言える笑みを浮かべ言い放つ 「『あなたを一生許さない』・『彼の者に永遠の死を』」 「あ…あ…」 ギーシュの膝がガクガクと笑い腰が抜ける (殺される…嫌だ…死にたくない!)そうは思っても体が動かない 自分の使い魔の勝利に安堵していたものの、水銀燈の物騒な物言いにルイズがすかさず待ったをかける 「水銀燈!駄目よ!殺しちゃ駄目!」 止めに入ったルイズのまだ涙に濡れた瞳を水銀燈は剣をギーシュから離さず見据える。そして一つため息をついた 「ふぅ…冗談よ。命まではとらないわ」 ギーシュからようやく安堵の吐息が漏れた 「ただし、決闘のけじめとして私の言うことを聞いてもらうわよ」 「あ、ああ…勿論だよ…」 ギーシュはどんな無理難題を言われるか分からないが殺されるよりマシだと結論づけて承諾した 「さっき言った『できそこない』と言うのを訂正なさい」 「…はい?」 ギーシュは彼女の言ってることがイマイチ理解出来なかった 「そ、そんな事でいいのかい…?」 「そんな事って何よ、私にとっては大きな問題よ」 ギロリとにらむ水銀燈に慌ててギーシュは要求をのんだ 「あ、ああ!申し訳ない!先程の『できそこない』と言う言葉は訂正させてもらうよ!君こそが気高い薔薇として相応しい!!」 「一言余計だけどまあいいわ…でももう一人忘れてないかしら?」 ルイズに目配せして言う水銀燈 「ル、ルイズ!少々気が立ってたんだ!思わず君を『できそこない』呼ばわりしてすまなかった!今後二度と『ゼロ』等とも呼ばないよ!」 「あ、いや、私は別にそんなには…」 少々ばつが悪そうにルイズは呟いた だが水銀燈はこれで満足したらしい 「結構。あと、これはお節介だけど貴方を離れた二人にも謝罪するのね。貴方のせいであの二人の面目も丸つぶれよ」 「あ、ああ…冷静に考えれば僕の方が悪いね…」 今更だがギーシュは反省しだす 「自らの非を認めるのも紳士の勤めよ。薔薇を名乗るならもっと精進なさい」 水銀燈は踵を返す 「行きましょ、ルイズ」 そして広場を去っていった 「あ!水銀燈!待ちなさいよ!」 慌ててルイズは後を追った 「見たかね?ミスタ・コルベール」 「ええ…」 オスマン氏とコルベールで「遠見の鏡」により決闘の一部始終を見ていた 「よもや『ガンダールヴ』に関する報告を聞いた矢先にその力を見ることになろうとはな…」 「ええ…しかしもう一つ、あの後さらにあの人形から不思議な力が…」 「ふむ、あの使い魔、謎が多すぎるのう…あの人形何者なのじゃろうか?」 「『ディテクト・マジック』の反応ではUnknownとしか出ませんでしたが…」 「『誰とも知れぬ者』か…ますます分からんもんじゃな…ミスタ・コルベール。この一件はわしが全て預かる。無論王室にも他言は無用じゃ」 「こんな人形を耳にすれば王室はのどから手がでる程欲しがることでしょうな…かしこまりました」 部屋への帰り道にルイズは水銀燈に聞いた 「ねぇ…なんであんなにボロボロになるまで戦えるのよ?」 「決まってるじゃないの。誰だって心の内に一つくらい絶対に譲れないことがあるのよ」 「それがあの『できそこない』扱いされたこと?それって命までかけるようなことなの?」 「だから絶対に譲れないってことなのよ、命を賭けてでも自分の誇りは偽らない。それが私が薔薇乙女として生まれた定めよ」 ルイズは誇らしげに言う水銀燈に本当の貴族としてのあり方を見た気がした 「あんた言ったわよね…?私の誇りの為にも戦ってるって、あの戦いは私のためでもあったの?」 「!!そ、それは…」 水銀燈は口ごもった あの時思わず漏れてしまった言葉 「それは、つ、ついでよ!私の誇りを守る為のほんの気まぐれよぉ!」 水銀燈は本当は本心で漏らしたことだがそうだとは言えなかった 「んな…!」 ついで扱いされてちょっと腹が立つルイズ 「貴方こそ、私の危機に泣きながら謝ろうとしたわよねぇ?何?そんなに私のことが気になったのかしらぁ?」 いつもの調子を取り戻し水銀燈が茶化す 「か…勘違いしないでよね!べ、別にあんたがどうなろうと知らないけど。世話係が居なくなるとふ、不便になるじゃないのよ!」 こちらも純粋に水銀燈の身を案じて謝罪しようとしたのに思わず憎まれ口を叩くルイズ 「何よそれぇ!私を使用人扱いにしかてないってことぉ?」 水銀燈もその物言いに不平を漏らす 「そ、そうに決まってるわよ!あんたなんか私にとってそんな認識なんだから!…で、でも今日の活躍に免じてご飯抜きは撤回してあげなくもないわ!」 「ふ…ふん結構よぉ!こっちだってあんな傲慢知己な貴族なんかに囲まれて食事するなんて御免よ!またあんな事に巻き込まれるかもしれないし! でも…でも貴女がどうしてもと言うならついて行ってあげなくもないわぁ!」 …このツンデレどもが ああだこうだ言い合いを繰り返す二人。息が続かなくなるまでその応酬が続いた。双方息をぜぇぜぇさせて言葉が続かなくなる そしてルイズが突然真面目に告げた 「でも約束して…もう二度とこんな無茶な決闘は受けないって」 「何よ。唐突に」 「黒薔薇の花言葉、私も一つだけ知ってるわ…」 「…聞かせてもらおうかしら」 「それはね…『貴女はずっと私のもの…』…勝手にどっか行っちゃったりしたら許さないんだから…」 ルイズは恥ずかしそうに言った 水銀燈は並んで歩くルイズを追い越し、彼女に顔だけ振り向けて言った 「ま、善処してあげるわ」 その顔は裏表の無い純粋な微笑みを浮かべていた 今更だが…決闘中に初めて互いの名前を呼びあった二人の少女 これはほんの少しだが二人の距離が近づいた証なのかもしれない 前ページ次ページゼロのミーディアム
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/466.html
前ページ次ページゼロの使い魔クロス トリステイン魔法学院 ヴェストリの広場 シンが決闘の場所に指定されたそこに到着したときには、ギーシュを取り囲むかのように学生達の壁が出来ていた。 集まった理由はたったの一つ「馬鹿な平民が貴族に決闘をうった」と言う情報を聞いて、暇つぶしにということである。 「逃げずに良く来たね、その事だけは褒めてあげよう!! だが、逃げた方がよかったとすぐに思う事になるよ」 シンの姿を認めたギーシュは、芝居がかった態度を取りながらその手に持った薔薇の形をした杖をシンへと向ける。 「これで最後だ、シエスタに謝れ、そうすれば俺も謝ってやる」 しかし、シンはそんな事は意に介さぬ様子でギーシュに向かってもう一度そう通達する。 「…フフフ、どうやら、本気で一度死んで見なければわからない様だね、ミス・タバサには申し訳ないが、躾けが出来ていなかったと言う事で チャラにして貰おうか!!」 シンの言葉に余計に激怒したギーシュはその杖を振るい、青銅でできた戦乙女のゴーレム―ワルキューレ―を召喚する。 「僕は青銅のギーシュという二つ名を持つメイジだ、だからこのワルキューレで君の相手をさせてもらう、否とは言わないだろうね?」 「別にいいさ、俺だって武器を使うからな」 そんなギーシュの言葉に呼応するかのようにシンもナイフを抜刀して戦闘態勢にはいる。 「鉄のナイフか… 確かに鉄は青銅よりは上だ、だが、平民風情が持てる鉄で僕のワルキューレに勝てると思うな!!」 シンのナイフを見て一瞬目を細めたギーシュだったが、そう叫びながら素手のワルキューレを動かしシンに攻撃を仕掛ける。 ガキィィーーーン!! 「クッ…!!」 シンはその一撃をナイフを盾にするようにして防ぎ、その勢いを利用してワルキューレとの距離をとる。 「耐えたか、少しは出来るようだね」 そう言うとギーシュはまたワルキューレを動かし、ギーシュの指示通りにワルキューレはその拳を振るいシンへと襲い掛かる。 しかし、シンも伊達にエースの証である赤服を着ていたわけではない、ワルキューレの攻撃をギリギリのラインで見切り、回避する。 そしてワルキューレもそんなシンに次々と追撃を仕掛け、反撃の隙を与えないようにと襲い掛かり続ける。 だが、シンは慌てず冷静にワルキューレの攻撃の間合いを読み、その一撃の速度を肌で覚え始め、段々と回避行動にも余裕が出来始めていた。 「えぇい、早くしとめるんだ、ワルキューレ!!」 その事をギーシュも理解したのか、段々とワルキューレを操る動きに焦りの色が見え始め、其れを反映するかのように攻撃だ段々と大振りになってくる。 「貰った!!」 当然、実戦慣れしているシンがその大振りの攻撃によって生じる決定的な隙を見逃すはずは無く。 正面からナイフを深くワルキューレの足の関節に突き入れるとそのまま半円を描くように背後へと抜け、行き掛けの駄賃と言わんばかりにその足に蹴りをいれて離れる。 「フッ、残念だったね、その程度のキックで倒れるほど僕のワルキューレはもろく…」 ズッドォォォン!! 勝ち誇ったようなギーシュの言葉は、皮肉にもワルキューレが地面へと倒れ、自重によって崩壊する音で遮られた。 そう、ナイフによって間接を大きく切り開かれ、そこを蹴られる事で大きく体重を傾けさせられ、其れを支えきれず崩壊したワルキューレの音で。 もしも、ギーシュの言うとおりにシンのナイフが唯の鉄製なら如何に青銅とはいえワルキューレを切り裂くことは出来なかっただろう。 だが、シンの持つサバイバルナイフは唯の鉄ではない、プラントが誇るレアメタルによって作られた特注品のサバイバルナイフだったのだ。 これはシンが特別に持っている訳ではない、アカデミー卒業時に赤服だった学生達に与えられたエースの証という意味での逸品である。 赤服はプラントの誇りをあらわす鎧、レアメタルのナイフはプラントを守り、敵をなぎ払う剣をイメージして渡されるという事である。 そして、そのレアメタルで作られたナイフは並みの硬度と切れ味ではない、MSサイズの刀を用意すれば戦艦さえも切り裂ける程の逸品である。 だからこそ、本来切り裂く事に特化していない筈のナイフですら、鋼鉄ならまだしも、青銅や鉄位ならば十分に切り裂く事が出来るのであった。 そして、ワルキューレがナイフ一本で倒されたという現実を受け入れきれないのか、ギーシュも、周りの貴族たちも呆然と立ち尽くしていたのだが。 「まだ、やるのか?」 シンのそんな言葉により我を取り戻すと、ギーシュは憎悪の、他の貴族たちは畏怖の目でシンへと視線を戻す。 「…フウッ、確かに、ワルキューレが倒された事は認めよう、いささか遊びすぎたようだね、ここからは本気でいかせて貰おうか」 ギーシュはそういうと杖を六度振るい、其れに反応するかのようにワルキューレが六体、新しくシンの目の前に召喚される。 そして、そのワルキューレたちは先ほどのように素手ではなく、接近戦を警戒しているのか全員が槍の様な武器を持っていた。 「僕は最高七体のワルキューレを召喚できる、先ほど君に一体倒されたから残り六体が限界、そして素手では君に無礼だろうから武器も持たせ た…」 ギーシュはそこまで言うと薔薇の杖を顔の真ん前まで持ち上げ、一度その匂い嗅ぐ素振りを見せると、シンへと向かって突き出すように振るう。 「……本気なんだな?」 そのワルキューレ達が持っている武器を見て、シンは冷めた瞳でギーシュをにらみつける。 「勿論さ、使い魔君、勝負再会といこうか!!」 だが、ギーシュはその瞳が表す言葉の意味に気付けないまま、シンに対してそう返した。 そして、その言葉とともにワルキューレ達は各々が持つ槍でシンへと攻撃を開始し、シンも流石に多勢に無勢という様子で必死に回避行動を開始し始めた。 「ふふふ、流石にこの数相手では勝ち目は無いようだね、今なら、土下座して謝れば許してあげても良いよ?」 そう言いながらもギーシュはワルキューレを操り、段々とシンの逃げ場をつぶすようにして包囲し始めていく。 だが、ギーシュは気付くべきであった、ほぼ包囲し終わったというのに、シンが不敵な笑みを浮かべていたという事実に。 それに気付けないままギーシュはシンを包囲し、それでも降伏しようとしないシンに向かって一斉に攻撃を仕掛けたその時だった。 シンは姿勢を低くするとほぼ同時に自分の正面に居るワルキューレの足元へと逃げ込んだのだ。 最初のワルキューレを切り裂いたナイフの切れ味を恐れたギーシュは、必死にシンを倒そうとワルキューレ達を動かす。 足元にもぐりこまれたワルキューレがシンを蹴りだそうと、そして残るワルキューレが槍でシンを攻撃しようとするのだが。 其れこそがシンの狙いだった、即座にシンは自分を蹴りだそうとするワルキューレの背後に回り、槍の攻撃の盾にする。 そして槍もワルキューレも同じ青銅である、その結果攻撃の盾にされたワルキューレと、それに攻撃した青銅の槍全てが破壊される。 その結果ワルキューレの残りは五体、そして槍は破壊されたワルキューレが持っていた一本だけになってしまったのであった。 「ば、馬鹿な… 僕のワルキューレが、同士討ちをするなんて……」 ギーシュは自分のワルキューレが命令をしたわけでもないのに同士討ちしたという事実を認識しきれずに愕然としていた。 何故同士討ちしたのかという説明するならば、其れはたった一言で終わる、ワルキューレがセミオート操縦だったからという事だ。 セミオートは目標を指示してどんな行動をするという命令は出来るが、その後の行動自体はワルキューレ自体の判断で行われる。 そしてセミオートの最大の欠点は、急に出現した障害物等に柔軟に対応しきれないという事と急停止がほぼ不可能であるという事。 その結果「シン」を「槍で攻撃する」という命令を受けたワルキューレは、突然現れた「盾にされた」ワルキューレに反応しきれず攻撃してしまった、という事である。 「之で終わりか? なら、シエスタに謝れ」 淡々とした、だが鋭い視線でギーシュを睨み付けながらのシンの台詞に、ギーシュは完全に恐怖を覚えた。 謝ってしまおうと、元々悪いのは二股をしていた自分だったのだからと恐怖に怯えるギーシュの理性が再び訴えかける。 だが、其れを受け入れる事は出来なかった、ギーシュには、その訴えが正しいものだと理解しながらも、受け入れる事は許されなかった。 「馬鹿に、馬鹿にするな…!! 平民風情が、使い魔風情がこの貴族である僕を馬鹿にするな!!」 そう、彼の歪んだ―ハルケギニアではある意味当然の―貴族としてのプライドが、平民に謝る事など許さなかったのだ。 だが、冷静さを欠いた指揮で倒せるほどシンは易しい相手ではない、じわじわと削り取られるように一体、また一体とワルキューレが撃破されていく。 しかし、シンとて生身の人間である、いくらコーディネイターとはいえ戦闘のための特別な調整を受けていたわけではない。 勢いよく動き回れば息切れもするし疲労もたまる、そしていくら強く握り締めていても掌に汗もかけば衝撃で麻痺だってする。 幾らワルキューレを斬れるとはいえしょせんはナイフ、一度に切り裂ける限界などたかが知れているため何度も何度もきりつける必要がでる。 まして、ギーシュとて馬鹿ではない、最初のワルキューレの撃破された原因をよく理解し足の関節部分をしっかりと守っている。 その結果、一体のワルキューレを倒す為の時間が長くなり、それに比例するようにシンの疲労はどんどんと溜まっていく。 その疲労が極地に達したその時、六体目のワルキューレの間接を切り落とし、戦闘不能にしたのとほぼ同時に足を縺れさせ、その手に握り締めていたナイフを落としてしまう。 シンは急ぎ体勢を立て直してナイフを拾おうとするが、既に限界に近い肉体は言う事を素直には聞いてくれない、そしてその油断を見逃してくれるはずもなく… ドスゥン!! ベキッ、ゴキリィッッッ……!! 「ウッ…クアァアアアアアアアアッッ!!」 「ふぅ… まったく、手間を取らせてくれるね、本当に」 ナイフを掴もうとした左手をワルキューレに強く踏み込まれ、シンの左手の骨は激しい悲鳴をあげる、恐らくは骨が折れ砕けたのだろう。 だが、ギーシュはそんなことは意に介さぬ様子で、憎悪の炎を宿した瞳でシンをにらみつけている。 「平民風情が、この誇り高きトリステイン王家の元帥を父に持つこのギーシュ=ド=グラモンをここまで梃子摺らせるとはね、いっそ賞賛に値す るよ」 ギーシュはそういいながらもワルキューレの足をシンの左手から動かす様子はなく、寧ろその手に持たせた槍をシンの頭に向けようとしている。 だが、シンにはそんなことはどうでもよかった、それ以上に聞き逃せない言葉があったのだ…… 「お前、今、なんて言った… お前の父親が、何だって……?」 「やれやれ、平民は学がないとは思っていたがつい先ほどの言葉まで忘れているのかい?僕の父親は王家に仕える元帥だ、それがどうかしたか い?」 その言葉を聴き、その意味を正確に理解したその時、シンの脳裏で、今までの様な赤い種子ではなく、闇の様な真っ黒な種子が弾けた。 そしてギーシュはシンが「恐怖」を感じていると思い、勝ち誇った顔をしながらそう呟く、だからこそ気づいていなかった、気づく事ができなかった。 急激にシンの瞳から光が失われ、まるで漆黒の虚無の様な色に染まっていく様子を、そして、右手がすばやく動き、ハンドガンを手にしていたという事実を。 パンッッ!! 「う、うわぁああああああああああ!?ぼ、僕の左手が、じ、銃!?」 乾いた音が一度、シンの持つハンドガンから響き、発射された弾丸がギーシュの左手を正確に撃ち抜いた。 「軍人の息子が奪うのかよ、罪もない人達から、力ない人達から…… 全てを奪うのかよ!!!」 動揺しているギーシュを射殺さんばかりに睨み付けながらシンは右手一本でワルキューレを押し返し、その足元から自分の左手を抜き、ギーシュに向かって歩み始める。 「ヒイィッッ!? わ、ワルキューレ!!」 完全に動転したギーシュはワルキューレを操り恐怖を排除しようとし、そしてその主の意を汲んだワルキューレが槍をシンの脇腹に突き刺す。 しかし、脇腹を突き刺されたというのにシンは致命傷以外には興味がないとでもいいたげにその傷を一瞥し、鬱陶しげに槍を引き抜くと再び銃を構え。 自分がワルキューレに刺された所とまったく同じ場所を、ギーシュの脇腹に狙いを定めると引き金を引き、撃ち抜いた事を確認するとゆっくりと歩き始める。 「痛いか?痛いよな、でもな、シエスタにした事に比べたら、お前達が「平民」に与えてきた痛みと比べたらそれくらいなんて事ないだろ?」 まるで周囲全ての貴族に言い聞かせるかのようにシンはそう呟くと痛みで蹲っていたギーシュの頭を傷ついた左手で掴み、右手でハンドガンを突きつける。 「俺はさ、子供のころ戦争に、「強い力」に大切な人達を全部奪われて、それが悲しくて、それが悔しくて軍人になったんだ。 自分みたいな人間をもう作りたくなかったから、一人でも多くの、「罪も無い、力も無い」人達を守りたくて…… だから、だから俺はお前を、軍人の、力ない人を守るべき人間の息子なのに、逆に力ない人を虐げて、全てを奪おうとしているお前のことが許 せない!!」 シンがそう叫び、ハンドガンの引き金を引こうとしたその瞬間、周囲で見ていた貴族達が惨劇を覚悟したその瞬間、唯一動いていた少女がいた。 「空気の鎚よ、彼の者を強く打ち据えよ、エアハンマー!!」 少女のその呪文が響くとほぼ同時にシンは空気の鎚によって激しく殴りつけられ、勢いよく地面へと叩きつけられる。 「タバサ…… あんたも、こいつらとおなじ、かよ……」 シンはその魔法を詠唱した少女を、使い魔であるシンの主人のタバサに向かって憎悪を宿した瞳で睨みつけていたのだが。 「…あなたは、命の重みを知っているはず、だから止めた……それだけ」 シンから一切視線をそらさず、真摯な音色を含んだそのタバサの声を聞くと何故か嬉しそうな顔をし。 「そっか… 俺、また繰り返す所だったのか……… サンキュー、タバサ」 そう呟くと、そのまま倒れたシンの体に襲い掛かってくる疲労の誘いに乗るように、ゆっくりと意識を手放していった。 タバサはそんなシンの横まで歩いていくと、シンを起こさないように左手と脇腹の怪我を癒すために治癒魔法を唱え始める。 「ギーシュ!!」 多くの貴族がタバサとシンが織り成す空気に呑まれ、ただ魅入っていたのだが、金髪ロールの少女がただ一人ギーシュへと走りよった。 「あぁ、モンモランシー」 ギーシュにモンモランシーと呼ばれた少女は即座に自分の持つ秘薬を使いギーシュの傷を癒すと、タバサをキッと睨みつける。 「ミスタバサ!!その使い魔を早く処分して頂戴!!」 「……何故?」 「ギーシュにあれだけのことをした使い魔なんて危険すぎるわ!! 今回はまだよかったものの何時また貴族に牙を向くかわかったものじゃないわ!!」 「大丈夫、彼は獣じゃない」 怒髪天を突く勢いのモンモランシーとそれを流水のように受け流しているタバサ、そして当然そんなやりとりでモンモランシーが納得するはずはなく。 「いいえ、獣以下よ!! 貴族に暴言どころか殺そうとするなんて… いいわ、貴方が処分しないというなら私が処分するわよ!!」 そう宣言すると同時にシンにトドメをささんとその手の杖をシンへと向けたのだが…… 「やめるんだモンモランシー!! これは僕が挑んだ決闘で、僕は負けたんだ、これ以上僕の誇りを、そして彼の誇りを辱めないでくれないか?」 「ギーシュ……」 治療を受け終わったギーシュがそれを静止し、ゆっくりとタバサの方へと歩み寄っていく。 「ミスタバサ、彼のことでひとつだけ聞きたいことがあるんだが…」 「……私にわかることなら」 タバサはギーシュの言葉に反応こそしているが顔はシンに向けたままで、治癒魔法を発動し続けている状態で対応する。 モンモランシーがそんなタバサの態度に激昂しかけるがギーシュは手でそれを制して言葉をつむぎ始める。 「銃を使い、メイジを相手にする場合は治癒が間に合わない心臓か頭を狙うのが基本、そうでなければ魔法で回復されるだけで意味は無い… そして彼のあの腕なら一撃で僕の頭を撃ちぬくこともできたはずだ、だからこそ気になるんだ、なぜ彼は態々僕が攻撃した場所だけを狙って狙撃したのか」 ギーシュの言葉に少し考えるそぶりを見せたタバサだったが、「これは私の意見でしかない」と呟いた後にギーシュの顔を見ながらこう答えた。 「彼は、奪われる痛みを知っている、そして人が一方的に虐げられるのを極度に嫌っている、むしろ虐げる人物を憎んでいる。 だからその痛みを知らない貴方に教えようとした、そして貴方が軍人の息子と知り、憎しみを抑えきれなくなって貴方を殺そうとしていた。」 普段無口な少女にしては珍しいほどの長文の言葉に彼女の親友であるキュルケという少女が激しく驚いていたがそれは今回は特に関係は無く。 その言葉を聴き、シンに投げ掛けられた言葉を吟味していたギーシュだったが、ゆっくりとタバサに向かって言葉をつむぎ始める。 「ミスタバサ、彼が起きたら伝えていただきたい、ギーシュと言う名の男が君に強く謝罪したいと思っていると言うことを」 「わかった… でも、それは貴方がするべきことをしてから」 「あぁ、わかっているよ、シエスタと言うんだったかな? あの少女にしっかり謝罪しないといけないね……」 ギーシュはタバサの言葉に頷きながらそう答えると、ゆっくりと貴族達が集まっている方向へと歩き出した。 自らの敗北と、これから先、シンに使い魔だから、平民だからと言う理由で手を出すことは自分が許さないと言う宣言を行うために…… それから三日後、シンは完全復活し食堂へと戻り「我等が勇者」として料理長マルトー率いる食堂従業員一同に大歓迎を受けることとなる。 シンはそういう特別扱いを嫌って今までどおりでいいと言っていたのだが、逆にそこがいいとマルトーに気に入られてしまった。 そしてそんな光景を見て段々とシンに対する敵意を募らせている少年、サイトの姿があったのだが、それには誰も気づく事ができなかった。 そしてその事が後に大きな引き金となるのだが、そのことを知る人物は今はどこにもいなかった……… おまけのおはなし 実は、シンの傷は一日で完治しており、三日も病床に臥している必要性は無かったのだが…… シン「ん……ここ、は、俺は……」 シエスタ「シンさん!! おきたんですか?もう大丈夫なんですか!!」 意識が覚醒したのかゆっくりと目を開き、顔を上げようとするシンに凄い勢いで駆け寄っていくシエスタ。 しかしシンはシエスタの接近に気づくことは無く、手で目を押さえながら頭を上げていき…… ポ ヨ ン ♪ シン「………ん?」 ムニュウゥッ♪ 突然頭にぶつかった柔らかい感触を疑問に思いながら、一体何なのかとそれを思わず触ってしまったシン。 その脳裏にはシルフィードにヨウカンと呼ばれた少年の「このラッキースケベ」と言う言葉がエンドレスに響いていた。 そう、その言葉が意味するシンの頭にぶつかり、思わず手で触ってしまったものとは……!! シエスタ「そ、その、私、シンさんなら寧ろ望んで御相手しますけど、まだ日も高いですし、い、いえ、いやと言うわけではないんですけど…」 オーバーヒートして暴走寸前のシエスタのたわわに実った胸を鷲づかみのように触っているシンという光景がそこには広がっていた。 100人中99人が見れば絶対に誤解するこの光景を見たとある少女が、当然その例外である一人に入るはずは無く…… タバサ「………シン」 その冷たい氷のような声を聞いたシンはその少女、タバサの方を振り向くと、そこには杖を構えて呪文を詠唱し始めているタバサの姿が……!! タバサ「…病床だから、絶対安静」 そう呟くとタバサはスリープクラウドの魔法を唱え―流石に病人相手に攻撃魔法は控えたらしい― シンの意識を深い眠りへと誘ったのであった。 そして再び眠りだしたシンの姿を見て、シエスタがとても残念そうな顔をしていたのが実に印象的であった。 之だけならまだよかったのだが、実はタバサが唱えたスリープクラウドの威力が本人の想像以上に強かったらしく昏睡状態になってしまったのだ。 その結果、シンの世話を自分がすると狂信的な勢いで迫るシエスタに、それを解除魔法を探すための本を読みながらも即効却下するタバサ。 そして暇なのかシンを時々甘噛みしようとしたり、そのまま飛行しようとするシルフィードと言うとんでもない状態になっていたのだが。 空気が読めなかったギーシュが「自分がシンの世話をする、せめてもの侘びの一つだから」とシンの世話役を買って出てそれをタバサが承認したのだった。 その事でギーシュはシエスタに酷く恨まれたが、目覚めた後、その事実を聞いたシンには泣きながら感謝され、親友と言えるほどに仲良くなったと言う。 前ページ次ページゼロの使い魔クロス
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5576.html
前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第四話 目の前で一体何が起こったのか、ギーシュには理解できなかった。 マジックアイテムらしき箱を使い、奇妙な鎧を身に纏ったルイズの使い魔の平民。 不思議な形をした剣をどこからともなく呼び出すと、ワルキューレに向かって駆け出したのだ。 「でやあぁぁぁ!!」 そしてワルキューレが攻撃の体勢に入るよりも早く、順手に持ち変えた剣を上から振り降ろしてきた。 ワルキューレは青銅でできている。 たとえ相手が武器を持っていようと、並みの攻撃ではびくともしないはずだ。 攻撃を受け止め、その隙をついて攻撃を仕掛ければいい。 そう、僕はふんでいた。 しかし、やつが二度三度と剣を振るっただけで、その考えは脆くも崩れ去った。 やつの斬撃に、自慢の防御力が意味をなさないどころか、攻撃を受けた箇所にヒビが入り、ついには砕け始めた。 「ハァッ!」 トドメとばかりに下から放たれたその一撃で、ワルキューレの体が宙を舞い、僕の目の前に落ちてきた。 もはや戦える状態にない。 「ふん……もう終わりか? つまらんな」 剣で肩をトントンと叩きながら、『平民だったもの』が呟いた。 「ま、まだだ! 勝負はこれからだ!」 正直、侮りすぎていた。 あのパワーとスピードでは、ワルキューレ一体だけだと相手にならないだろう。 (だが、複数ならば此方にも分がある!) そう思うと、すぐに二体のワルキューレを出現させ、指示をだす。 「いけ!」 青銅の長剣で武装した二体が、同時に走り出す。 「ほう。もうしばらくは楽しめそうだな」 そう言って、手にした剣を放り投げる。 再び紫の杖を取り出すと、箱からカードを引き、杖に差し込んだ。 『SWING VENT』 杖から声がすると、鏡から赤色の鞭が飛び出し、先ほどの剣と同じように王蛇の手に収まる。 エビルウィップと呼ばれるこの鞭は、剣よりも広い攻撃範囲と、自在な動きで敵を翻弄する。 王蛇は鞭を地面に一振りすると、近づいてきた二体の人形に向けて、上下左右あらゆる方向に何度も振り抜いた。 その攻撃に、ワルキューレたちは思うように近づけず、ついには二体とも武器が弾き飛ばされてしまった。 今は二体とも両腕で守りを固めているが、体のあちこちに傷や破損が目立つ。 頃合いを見計らって、王蛇はワルキューレたちに猛スピードで近づくと、その場で勢いよく回転し、右から回し蹴りを叩き込む。 蹴り飛ばされた一体がもう一体を巻き込み、観衆がいる方向へと飛んでいった。 見物人たちが悲鳴をあげてそれを避ける。 王蛇に傷一つつけることができぬまま、またしてもワルキューレたちはその機能を停止した。 (くそっ、こうなったら……!) ギーシュは残る四体のワルキューレを呼び出し、突撃の指示を出す。 各々が剣や槍で武装されている。 「ほう……」 王蛇は手にした鞭を投げ捨て、紫の杖を取り出す。 箱からカードを引き、杖に差し込んだ。 『STRIKE VENT』 杖から声がし、鏡から鉄の盾のような物体が飛び出すと、王蛇の右腕に装着された。 メタルホーンと呼ばれるそれは、腕に着ける灰色の盾のような部分と、先端部分から伸びる黄色い角のような突起物でできている。 その形状から、攻撃と防御を両方ともこなすことのできる武器なのである。 突撃してきた四体のワルキューレに向かって、王蛇はメタルホーンを構えた。 王蛇は一体目と二体目の攻撃を避けると、残る二体の攻撃を両方とも盾の部分で受け止め、そのまま横になぎはらった。 二体のワルキューレが地面に転がる。 攻撃を避けられた一体が、再び攻撃を仕掛けた。 が、攻撃が届くよりも前に、王蛇によって上から振り降ろされた一撃を顔面にくらい、地面に叩きつけられる。 その顔には、縦に大きな亀裂が走っていた。 もう一体も王蛇に攻撃を仕掛けたが、盾の部分で攻撃を受け止められると、蹴りで武器を叩き落とされた。 そして、無防備になったその胴体に、王蛇はメタルホーンを勢いよく突き出す。 ワルキューレは咄嗟に避けようとしたが、間に合わず脇腹に攻撃をくらい、弾き飛ばされた。 脇腹の一部が砕け散る。 地面へ倒れたところに、王蛇はすかさず追撃を仕掛ける。 「ダァァッ!!」 メタルホーンの角がワルキューレの首元を砕き、首から上が吹き飛ばされた。 なぎはらわれ、地面に倒れていた二体が起き上がるのを見ると、王蛇は言った 「今日はなぜか調子がいい。……だが、そろそろ雑魚の相手も飽きてきたな」 王蛇はメタルホーンを腕から外すと、そのまま地面に振り落とし、紫の杖を取り出す。 紫の箱から、それと同じ模様が描かれたカードを引くと、杖に差し込んだ。 『FINAL VENT』 杖から声がし、その直後手鏡から巨大な紫の蛇が現れた。 観客たちが悲鳴をあげる。 顔の周りに無数の鋭い刃を持つその大蛇―名をベノスネーカーという―は、シューという声をあげながら、王蛇の方に向かって地を這い進む。 王蛇はその場で構えると、後ろに向かって大きくバック宙をした。 そして、王蛇の背後にまで迫ったベノスネーカーが、口から毒液を吐き出す。 その勢いに乗り、王蛇が二体のワルキューレたちに向かって、両足を交互に上下させる、奇妙な形式の蹴りを放った。 「ウオオオォォ!!!」 (避けられない!!) 獲物を何度も噛み砕く、蛇の牙を彷彿とさせるその攻撃は、身構えるワルキューレたちをものともせずに蹴り砕いていき、そして――爆発した。 二体のワルキューレは木っ端微塵に吹き飛ぶ。 「そん……な……」 ギーシュが、崩れるようにして膝をつき、うつむく。 いくら奇妙な鎧を纏ったとはいえ、ワルキューレたちが平民を相手に、全く手も足も出なかった。 それどころか、戦いにすらなっていなかった。 あったのは、圧倒的な力による、破壊。 一方的な暴力のみだ。 「この感覚……! やっぱり戦いは最っ高だ……!!」 しばらく愕然としていると、王蛇がギーシュに近づいてきた。 「おい。……ギーシュとかいったか」 「ひぃっ!!」 殺される!と思ったギーシュであったが。 「時々、俺の相手をしろ。……モンスター以下だが、少しはイライラも収まる」 返ってきたのは、予想もできない言葉であった。 一方で、ルイズもまた、愕然としていた。 ただの乱暴者だと思っていた男が、何かとてつもない力を秘めていた。 しかも、この上なく強い。 (あんなのを使い魔にしちゃったのか、私……) 頼れる使い魔だったという喜びよりも、もしあいつが牙をむいたら、という恐怖が、ルイズの胸の中に広がっていく。 ルイズは思わず身震いした。 ――これからどう接すればいいんだろう。 そんな疑問を抱えながら、ルイズは広場を立ち去った浅倉の後を追うのであった。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔