約 1,234,265 件
https://w.atwiki.jp/hznmatome/pages/113.html
10. sm1652818 2007年11月30日 00時18分 投稿 レミリアと咲夜の瀟洒なるひととき タグロック:ゲーム・東方(カテゴリ)・マリアリが俺のジャスティス・作者は健常者シリーズ 魔理沙とアリス 番外編 レミリアと 咲夜の 瀟洒なる ひととき 咲夜: ・・・やめてっ! 咲夜: それ以上は、 ダメっ! 咲夜: すみません・・・ お嬢様・・・・・ 咲夜: ・・・あっ、 うぅん・・ やぁぁんっ・・・ 咲夜: ・・・っ! 咲夜: ・・・夢? 咲夜: 嫌な・・・ 夢・・・ 咲夜: あんなこと、 咲夜: 野良犬に噛まれた と、思っておけばい いのに・・・ 咲夜: 時は光陰のごとく されど泡沫の追憶は 永遠、か・・・ 咲夜: さて、っと 咲夜: そろそろ、 れみりゃを起こしに 行こうかしら 咲夜: (トントンッ!) 咲夜: 失礼します、 レミリア様。 咲夜: レミリア様、 起床の御時間で御座 いま・・・っ! レミリア: はぅぅ・・・ん、 う~んぁっ・・・ 咲夜: ・・・かっ、 かわいい!! 咲夜: 時よ止まれっ! なっ、なんじわ わっっ・・何とか! 咲夜: おはよう御座いま す。 レミリア様。 レミリア:・・・? レミリア: おはよう。 レミリア:咲夜、 何かいいこと あったの? 咲夜:い~~~え、 いえいえいえいえいえ いえいえいえいえいえ いえいえいえいえいえ いえはいいえいえいえ いえいえいえいえいえ いえいえいえいえいえ 咲夜: な~~んにも、 ありませんよ☆ レミリア:・・・・ レミリア: (実は、目が覚めて たんだけど・・・) レミリア: (・・・よかった) 塩辛1 城郭崩れて濠に返る 今は軍を用いること なかれ おのれの領邑にのみ 命を知らしめよ 貞正を保ちて なお屈辱あり レミリア: ねえ、咲夜~~ 咲夜:はい、 レミリア様 レミリア:血を飲ん だけど、まだ物足り ないわ 咲夜:では、 新たに仕留めて参り ましょう レミリア:いえ、 手を煩わせないわ 咲夜:実は、もう いっぱいということ ですか? レミリア:わがまま を言っているだけな のかも 咲夜: ・・・叱責と捉まえ れば、よいろしいの でしょうか? レミリア: ・・・まあ、それで いいや。 違うけど・・・ レミリア: ねえ、咲夜ぁ・・・ レミリア: あなたのを、 ちょうだい 咲夜: 咬まれるのですか? 咲夜: ・・・出来れば、 その、 咲夜: 甘咬み程度でお願い します。 ・・・痛くしないで ください。 レミリア:違うわ レミリア: 食欲ではなく レミリア: 心(ハート)を満た して欲しいの・・・ 咲夜: ・・・レミリア様 レミリア:咲夜ぁ~ 咲夜:私が、 あなたを・・・ 邪魔者: 咲夜さーん! 邪魔者: ビックニュースで す! 邪魔者: 白黒を撃退しまし た! 邪魔者: なんか、「まだ初心 者」とか、 プレイヤーの声が聞 こえましたが・・・ 邪魔者: って、あれ? 今って、何かまず かったですか・・・ (冷冷汗) 邪魔者:っへ? 咲夜: 幻符「殺人ドール」 咲夜: 灰は灰に 咲夜: 塵は塵に 咲夜: 不燃ゴミは水曜日 レミリア:ゴミの 分別が出来るなん て、咲夜は偉いぞぅ 咲夜: 興が削がれましたね レミリア:だが、 何か満たされた気が する 塩辛2 凶事を通じて益を受く 真摯にして中道を歩み 君主に印璽をもって 告げれば 咎なし レミリア:咲夜~ お願いがあるの 咲夜: 何でしょうか? レミリア: お犬様ゴッコ しましょ☆ 咲夜: ・・・アレですか? 咲夜: ちょっと恥ずかしく て、辛いんですが、 咲夜: レミリア様が、 望むのであれば レミリア: レミリア様のお願い だよ~ ってへ☆ 咲夜: こっ、これでよろし いのですか? レミリア: ダメだよ、咲夜。 お犬様が、人語を話 しては。 レミリア: 「わんっ」て言って 咲夜: ・・・っ! 咲夜: ・・うっ、 ううぅ・・・・ 咲夜: 「・・・わん」 レミリア: よっと! (どしっ!) 咲夜: ・・あっ、 ああぁ・・ レミリア: もっと、大きな声を 出してみよう☆ 咲夜: っう・・・ ああぁっ、うう・・ もっ、もうダメ! 咲夜: レミリア様ぁ~ 謎音声姉貴:やめて…もうやめてください… レミリア: 咲夜・・・ 咲夜: もっ、申し訳、 ございません・・ レミリア: ううん、無理言って ごめんね 咲夜: かまいませんよ 咲夜: 「お願い」を聞いて あげることで 咲夜: レミリア様の、 心の闇が、 払われるのならば レミリア: ありがとう レミリア: 大好きだよ、咲夜 咲夜: レミリア様 レミリア:っん? 咲夜:あなたという 存在は、私のすべて です 咲夜:では、 レミリア様の中の 私はどうなのでしょ うか? レミリア:・・・・ レミリア: 例えるなら、 夜の月 レミリア: 私は夜道しか歩けな いの レミリア: 次の一歩を踏みしめ るのに、 レミリア: 道がどこにあるの か、分からなければ ならないわ 咲夜:はいっ! 咲夜: 承知致しました! お嬢様☆ ← →
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/1640.html
「○○さん、準備は出来てる?」 「はい、咲夜さん、オーケーです」 二人して頷き、用意していた荷物を紐解く。 「ん、やはり、浴衣は白地に赤ですね。金魚の柄がまた」 「こちらの薄黄色を基調にしたのもいいわね、お疲れ様」 「いえいえ、里には用事もありましたし」 「選ぶのも任せたのは少し心配だったけど……いいのを選んできたじゃない」 「……酷い言われような気がします」 冗談よ、と微笑う友人に、○○も微笑い返した。 「みなさんの分もあります。今回はみんなで出かけるという形でいいんですよね?」 「お嬢様のご意向だもの。妹様もお出かけになるから、何かあったときのストッパーでもあるんでしょうけれど」 後は妖精メイド達への休息も兼ねてね、と咲夜は頷いた。 そう会話をしながら楽しげに浴衣を並べてたたんでいる二人に、背後から声がかけられる。 「何をしているの?」 「ああ、レミリアさん」 「お嬢様、丁度良いところに」 「?」 浴衣を手にした咲夜がとても良い微笑みで振り返るのを、レミリアは首を傾げて見ていた。 今晩は里の豊穣祭、である。夜に行われることもあってか、妖怪でも遊びに行くものが多い。 目的は、どちらかというと酒が振舞われる宴会なのだろうが、陽気な空気に誘われる者も当然のことながらいる。 その話を聞いたレミリアが、今年は妖精メイド達の休暇を兼ねて紅魔館総出で遊びに行くことに決めたのだった。 そしてその決定を受けて、咲夜が○○に浴衣の調達を頼んだ、というのが事の次第。 浴衣自体に興味がないわけではないし、買って来てくれたそれを身に着けるのも、楽しみでないわけではないのだが。 「……どうして○○と咲夜の方が楽しげなのかしらね……」 「諦めたら? 意外に機能的で面白いわよ、これ」 パチュリーも小悪魔に手伝わせて、浴衣に着替えている。 「なるほど、通気性を良くしているのね……興味深い」 「パチェは研究熱心ねえ……」 「お姉様、これどうするの?」 フランドールがレミリアの袖を引く。手にしたものの使い方が分からないようだった。 「帯ね。ええと、どう着けるのだったかしら」 「ああ、お嬢様、私が着けますので」 咲夜がフランドールから帯を受け取り、さっと巻いてしまう。 気が付けば、レミリアも着付けられている。相変わらずの早業であった。 「咲夜は着ないのー?」 「私は……」 「咲夜さんの分もありますよー。綺麗な柄です」 美鈴がさっと咲夜の分を出す。藍色を基調に白い小柄な花をあしらった、落ち着いた雰囲気の浴衣だった。 「あ、いえ私は……」 「あら、綺麗な柄じゃない。さあ、咲夜も着替えなさい」 「は、はい……」 「それでは着付けましょうね。小悪魔さん、そっちの帯取ってください」 「あ、はい」 手早く咲夜に着付けた後、美鈴と小悪魔もそれぞれ浴衣を身に着ける。 「さて、では出かけましょうか」 「何か不思議な感じ……ちょっと暴れにくいかも」 「暴れては駄目よ、フラン」 妹を嗜めながらホールに出たレミリアは、男性ものの浴衣に着替えた○○が既に待っているのを見つけた。 「ああ、待たせたかしら?」 「いいえ。手間取ったので、今来たところです」 浴衣は着慣れないもので、と微笑って、彼は浴衣姿のレミリアを見つめる。 「よくお似合いです」 「そう?」 「ええ、とても」 褒められて嬉しいが、○○の方がもっと嬉しそうなのはどういうことだろう。 そうは思いつつも、レミリアも頬を綻ばせる。 「はいはい、折角涼しくなってきたんだからまた暑くしない」 「お姉様達、先に行くよー?」 呆れた声が、背後から聞こえてきた。 「随分と賑やかなものね」 「秋の神様達も呼んで行うそうですから。やっぱり盛大になるんでしょう」 レミリアは○○の返答に頷いて、屋台やら櫓やらが出ている里の光景を眺めた。 まだ宵の口なのだが、すっかり出来上がっている気配のあるところもあれば、楽しげに談笑している場所もある。 「すごーい、賑やかー!」 「ああ、走っては危ないですよ」 飛び出そうとするフランドールを、美鈴が押し留めている。 「それにしても、目立ちますね」 「目立たない方が不思議とも言えるけれど」 小悪魔とパチュリーがそんな言葉を交わしていた。紅魔館総出の姿は、かなり目立つ。 「……また大層なグループが来たな」 「どうも、慧音さん」 「大丈夫よ、白沢。大人しく見て回るだけだから」 何とも言えない表情をしている慧音に、レミリアはそう告げた。 「まあ、それならいいのだが……」 「お姉様ー! ○○ー! 何かふわふわしたのがあるー!」 「ああ、わたあめですね。すみません、少し失礼して」 ○○は慧音に断りを入れて、わたあめの屋台を指差すフランドールに尋ねた。 「買ってみますか?」 「うん!」 「では、みなさんの分も」 わたあめの屋台にひょいと近付いて声をかけ、自分以外の分を作ってもらう。 くるくると綿飴が絡みついていく様子をレミリアとフランドールが楽しそうに眺め、パチュリーも興味を示していた。 屋台の親父には「何か……壮観だな」と言われたが、それに対しては曖昧な笑みを返しておく。 「はい、どうぞ」 「ありがとー」 「いいんですか、私達にも」 「折角のお祭りですし」 「○○の分は?」 レミリアに問われ、彼は少し首を傾げる。 「さすがに、その量は入らないな、と……」 「じゃあ、一緒に食べましょう」 どこか楽しげなその様子に、いただきます、と彼も笑う。 「……レミィ、私は適当に回ってるわ。邪魔はしないから」 「わ、私もパチュリー様にお供しますのでー!」 「咲夜、美鈴、私たちも行こうー?」 「かしこまりました、妹様」 「ごゆっくり、お嬢様、○○さん」 パタパタとそれぞれに行ってしまった館の者達に、レミリアは苦笑めいた表情をする。 「まったく……」 「あー……私ももう行くが、何と言うか、程ほどに」 「善処するわ、白沢」 「仲睦まじいのはよく知っているがな。では」 からかうような口調に、少しだけ微笑って応じて、レミリアは○○の手を引いた。 「はい、では、いろいろ回ってみましょうか」 「ええ」 丁寧に手を取った○○に、レミリアは灯りで赤く染まった顔を、嬉しそうに綻ばせた。 まだ祭事は始まらないとの事で、始まるまで適当に屋台を冷やかすことにした。 「何か面白いものとかないかしらねえ」 「んー、くじとかですかね。食べ物もあるかもしれませんが」 「今はわたあめがあるからいいわ。ああでも、かき氷もいいかもね?」 「もう大分涼しいですよ」 そう言いつつ、そういえばそんな話もしていましたね、と○○は笑った。 「おー、杏飴もあるなあ」 「○○、子供みたい」 「あ、あはは、子供ですか。かもしれません。昔から、やっぱりお祭りは好きです」 「貴方が楽しそうなのを見るのは楽しいわ」 「それは嬉しいです。ちょっと複雑ですが」 レミリアは軽く微笑んで、○○の腕に手を絡めて歩き出す。実際、少し歩きにくいのもあった。 ○○もそれがわかっているのか、歩調をいつもよりも緩め、レミリアが歩きやすい速さに落としている。 「こういうのも風流ね」 「ええ、まったく……おお?」 「何、また何か見つけた?」 「ええ、型抜きの屋台です。これは懐かしい……」 型抜き、といわれても、レミリアにはピンと来ない。○○だけが嬉々として眺めている。 「どういうものなの?」 「この型を……型抜き菓子っていうんですけど、爪楊枝で綺麗に抜くんです。で、上手く出来たらそれに応じて、賞金とか景品とかがもらえるんですけど」 「随分脆そうだけど」 「そうなんですよ、すぐに割れてしまうんです。でも楽しくてついつい、という奴ですね」 「やっていく?」 「いいですか?」 では、と楽しげに、彼は屋台主に声をかけ、何枚かもらってきた。 「レミリアさんもどうぞ」 「やってみるわ」 渡された型抜き菓子を手に、二人して露台に腰を下ろして型抜きを始めた。 「んー、上手く出来なかったわねえ」 「まあ、そういうものですよ」 案の定、チャレンジしたものは全て途中で折れてしまった。 それでも十分楽しかったらしく、レミリアは上機嫌である。 「今度咲夜に買ってきてもらおうかしら」 「みんなでやるんですか?」 「それも楽しそうよねえ」 「程ほどにしないと、みんな仕事になりませんよ」 「貴方も、かしら?」 悪戯っぽく言ったレミリアに、○○は曖昧に微笑って頬をかいた。 「まあ、祭りで浮かれる気分はわからなくないわ」 「レミリアさんも楽しそうですね」 「ええ、楽しいわ……あ、○○、あれ何?」 「あ、りんご飴ですね。杏飴もあるのか。先程はわたあめ持ってましたから見送りましたけど、買ってみますか」 「ええ」 今度は二人分買って、それぞれりんご飴と杏飴を手にする。 「随分甘いのね……でも、少し食べにくいかも」 「零しやすいので注意してくださいね」 「ん。あ、○○のも一口ちょうだい」 「はい、どうぞ」 差し出した飴を、かり、と噛んで、こっちも甘い、とレミリアは頬を綻ばせた。 可愛いなあ、とその表情を見つめていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「……ここだけ季節が逆戻りしてるんだけど」 「相変わらず、仲がよろしいですね」 「あら、霊夢、早苗」 振り返れば、呆れ顔の霊夢と早苗が立っていた。 「どうも、こんばんは。お二人は?」 「もう少ししたら神事が始まるから、その準備ね」 「主役は秋の神様お二人なんですけど、私達も巫女として手伝いを。今は少し時間が出来たので、お茶でも飲もうか、って」 「で、戻るとこ」 「そういえば神事なんだっけ。忘れてたわ」 飴を齧りながら、レミリアが頷く。 「悪魔が神事を見に来る、ってのも変な話よね」 「楽しみにきただけだしね」 「それはそれでどうなんでしょう……」 早苗が困ったような表情をした。レミリアは楽しげに飴を一つ回して片目を閉じる。 「邪魔はしないわ。精々楽しませて頂戴」 「偉そうに言われるとむかつくわねえ……」 「まあまあ霊夢さん」 「ああ、ええと、神事はいつ頃始まるんでしょう?」 取り成すように尋ねると、霊夢と早苗は、ああ、と頷いた。 「そろそろ始まるわね」 「そうですね。私たちは先に行きますけど、よろしければ広場の方へどうぞ」 先に飛んでいってしまった二人を視線で追った後、レミリアは○○の腕を引いた。 「行きましょう、○○」 「はい」 「あ、お嬢様、こちらですー」 「ああ、みんな来てたのね」 美鈴が手を振ったのを目印に歩いていくと、全員がそこに勢ぞろいしていた。 「ここが一番良く見えるかと思いますわ」 「まあ、真正面だしね。私と小悪魔も今来たところだけど」 「ご苦労様。フラン、楽しかった?」 「うん!」 買ってもらったらしいお面を頭に付けて、フランドールは楽しそうに笑った。 「そちらも……随分楽しかったみたいね」 「え、そ、そう?」 「二人とも随分緩んだ顔してるわよ」 「……気を付けるわ」 親友の言葉に、レミリアはぱしぱしと軽く自分の頬を叩いた。 見れば、○○も同じような動作をしている。 「そういうところまでシンクロしなくていいから」 「別にしようと思ってしてるんじゃないわよ……」 「同じく、です」 「だからこそ性質が悪いって言うのに……ああもう、始まるわよ」 呆れた口調のパチュリーは、視線だけで広場の先を指し示した。 粛々と行われた神事は、終わった後お決まりであるかのように和やかな宴会へとシフトした。 祭りが終わっていくのを惜しむかのような、珍しく騒々しすぎない宴会。 こういうのもいいな、と思いながら仰いだ空に花火が上がった。あれは弾幕ではなかろうか。 「ん、いい気分ね」 宴会の片隅で、レミリアと○○もグラスを傾けていた。 「レミリアさん、大丈夫ですか?」 「大丈夫よ、そう強い酒は飲んでないわ」 そう言いながら、レミリアは上機嫌のまま○○の腕の中に納まった。 紅魔館の面々もそれぞれに分かれて宴会を楽しんでいる。というか、気を利かされたらしい。 丁寧に抱きかかえながら、○○は近くにおいてある果実酒の瓶を手に取った。 「今年の新酒、ですか。解禁には少し早い気もしますが」 「そうね、でも今年もいい葡萄が出来てたみたいだから、これは試しということでしょう」 「ヌーヴォ、ですか。ということはやっぱり早くないですか。一月ほど」 「いいのよ、秋神達が直々に配ってるんだから」 レミリアは手にしたグラスを傾ける。そして、○○にもグラスを渡した。 「○○も付き合いなさい」 「はい」 くい、とグラスを傾ける。素直に美味かった。雰囲気もあるのかもしれないが。 「美味しい、ですね」 「そうね。でもまあ、一本くらいにしておきましょう。次は時間を置いた後に楽しむべきね」 「じゃあ、そんなお二人に十年物を」 「ああ、穣子さん、静葉さん。お疲れさまです」 ことん、と小さめの瓶を持ってきた秋姉妹に、○○は軽く礼をした。 「ありがとう。小さい瓶だけど丁度いいでしょう。熱心に見てくれてたお礼」 「いただくわ……貴女達も」 「では、一緒に」 二人の分のグラスも渡し、四人でしばし歓談することとなった。 「でも、いいのかしら? 主役がこんなところで吸血鬼と飲んでたりして」 「どうせみんなに挨拶にはいかなきゃいけないから」 「それにさっき言ったでしょう、随分と熱心に見てくれていたようだから」 「……滅多に見ないものだからね」 「ふふ、それでもありがたいわ。私達のような神も、そうやって見てもらえて何ぼだからね」 「まあ、お二人の雰囲気作りに協力しちゃった気もするけどねえ」 「からかいに来たのならどこかに行きなさいよ」 まったく、というレミリアに、二柱の神はくすくすと微笑う。 「では、お酒がなくなるまで堪能させてもらって、それから行きましょうか」 「あまり邪魔しても悪いもんね、姉さん」 「さっさと飲んでどこかに行け」 言いつつ、レミリアは苦笑してワインのグラスを傾けた。 「さあて、では他の人のところに行きますかー」 「そうね。じゃあ、二人ともまだ楽しんでいってね」 穣子が伸びをし、静葉が軽く声をかける。 「はいはい」 「お疲れさまです」 「いえいえ、二人ともごゆっくり」 「また」 二柱を見送り、レミリアは軽くため息をついて○○にもたれかかった。 「まったく、何しに来たんだか」 「まあまあ、お祭りですし」 「まあ、そうだけどね……ワインはいいものだったし」 いい感じに酔ったわ、と言いながら、レミリアは○○の胸にすりよる。 「外ですよ、レミリアさん」 「いいじゃない、どうせ誰もこちらを気にかけてなんかいないわ」 「そうかもしれませんが……」 いつもと違う風景に、違う姿。どぎまぎするこちらの気分にもなってほしいものだ。 「何、照れてるの?」 「そういうわけでは……って、レミリアさんも顔紅いじゃないですか」 「少し酔っただけ」 顔を逸らすのは照れ隠しだと知っている。思わず笑うと、不満そうな声をあげた。 「笑わないでよ、もう」 「すみません」 とはいえ、○○に余裕があるわけでもない。そもそも強くない酒をだいぶ飲んでいて、いろいろとぎりぎり、である。 乳白色の地に赤い金魚の浴衣は、レミリアの白い肌に似合っていて、思わず何度も見惚れてしまうほどだと言うのに。 「……そろそろ、みなさんのところに行きませんか?」 「ん、いいけど、どうしたの?」 「いや、その……」 「珍しく歯切れが悪いわね。どうしたの」 「……勘弁してください」 見れば、レミリアはくすくす微笑っている。ということは、大体の把握は出来ているはずなのだ。 「わかってるんでしょう、僕のことくらい」 「いつも全部わかってるわけではないもの。そうでないと楽しくないわ」 「まあ、それは同意です。僕だって、唐突なイベント企画を読めるわけではないですから」 「あら、でも楽しいでしょう?」 「ええ、楽しいです」 額がくっつくほどの距離で、二人はもう一度笑った。 花火の音が、少しずつ派手さを増して行く。終わりが近いのだ。 「……祭りが終わるわね」 「……そうですね」 「みんなのところへ行きましょうか」 「はい」 「じゃあ、その前に」 レミリアは彼の頬に手を当て、そっと、口付けを落とす。 遠くで一際大きい、最後の花火が上がり、歓声と共に小さくなって消えた。 帰路に着く頃には、もう時間だけ見れば朝方とも言える時間になっていた。 「日が昇る前には帰らないとね」 「妹様もすっかりお疲れのようですしね」 美鈴に背負われて、フランドールが寝息を立てている。随分とはしゃいだようだった。 「問題も起こさなかったみたいで何よりだったわ。ご苦労様、咲夜、美鈴」 「いえ、それが……」 「問題は起こしてなかったんですけれど、途中からその、弾幕花火に加わってしまわれまして」 「……あれ鬼の方々だけじゃなかったんですか」 「……この子はもう……まあでも、楽しかったようなら何よりだわ」 レミリアはそう、軽いため息と共に妹を見上げた。 「しばらくは静かに過ごせそうね、レミィ?」 「まあ、そうね。それが続くのはそれはそれで退屈だから、また何か企画しましょうか」 「程ほどにね」 わかってるわ、と頷きながら、レミリアは○○の手に自分の手を重ねた。 ○○もそれに気付き、手を広げて、レミリアの手を握る。 「また、来年も来ましょうか」 「ええ、そうですね。そのときもみなさんで」 レミリアは頷き、涼しげな風に気持ち良さそうな顔をした。 「そのときもこれくらい涼しいといいわね」 「そうね、局所的に暑さが戻ってきたりするから」 「パチェ、それは気候のことよね?」 「さあ、どうかしら」 親友のからかいに顔を紅くしながらも、レミリアは○○の手を取ったままだった。 「……もう」 「まあまあ……もう、日が昇りますよ。急がないと」 「ああ、そうね」 それでも、紅魔館はもうすぐだった。足を速めなくても、すぐに着くだろう。 「この服も、もう少し着ていたかったけど」 「また今度、ですね」 「そうね……ありがとう、○○」 「え?」 「咲夜と一緒に、浴衣を着れるようにしてくれたのは○○だったでしょう?」 「ああ、ええ、まあ」 「だから、よ。楽しかったわ」 そう、嬉しそうな笑顔を、レミリアは○○に向ける。○○も心の底から嬉しそうに微笑った。 「熱々ですねえ……」 「はいはい、二人とも。本当に日が昇って暑くなる前に帰りましょう」 呆れたパチュリーの声が、二人を促した。 「かくして祭りの夜は終わり、というところかしら」 「ええ。お疲れさまです」 「楽しかったわ」 ○○の胸にすりすりして、レミリアは機嫌良く応えた。 「ふぁ……少し、眠いわね」 「だいぶ楽しみましたからね」 「ん。ねえ、○○。寝るときに着る浴衣もあるって聞いたんだけど」 「ああ、ありますよ」 「今度はそれ着て寝たいわ」 「ああ、はい、まあ、いいですけど……」 「何か不満?」 いえ不満ではないのですが、と彼は手を振った。 不満どころか、少し見てみたい気がする。だが、浴衣は随分肌蹴やすいのだが、それは考えているのだろうか。 「じゃあ、いいわね」 「今度、里で何か見繕ってきます」 「ん……浴衣は着るのも脱ぐのも、すぐ出来るしね」 「……どういう意味かわかって言ってますか?」 「○○は、どう思う?」 悪戯っぽい口調で言うレミリアに、彼は一つため息をつき、腕を回して抱きしめた。 わかって言っているのだろう、きっと。それはそれで、嬉しくないわけではないのだが。 「……降参です」 「あら、残念。じゃあ、休みましょうか」 「はい、おやすみなさい、レミリアさん」 「ええ、おやすみ」 安心しきったような声で応えて、レミリアは彼の腕の中で寝息を立て始める。 今日は寝てしまうだろうから、明日辺りに里に出ようか。そして、何か良い柄のものを探そう。レミリアに合うような、綺麗な―― そう考えながら、彼も目を閉じた。 厚いカーテンに覆われた窓の外では、朝霧が湖を覆い始めている。 夜の喧騒をどこかに置いてきたような、静かな朝が始まろうとしていた。 Megalith 2010/10/24 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「あれ、珍しい。格言集か」 図書館の整理中に、古今東西の格言集なるものを見つけ、物珍しさから彼はそれを開いた。 「どうしました? 何か厄介なのありましたか?」 「ああ、いえ、外の本です。特に何もないと思いますけど」 「んー、そうですね。特に魔力の香はしませんし、何の変哲もないものですね」 また流れてきたんですねえ、と小悪魔も珍しそうに本を眺める。 「昔よく読みましたよ。ああ、恋愛の格言とかもあるんだ」 ○○はぱらぱらめくりながら、楽しそうに笑う。 「お嬢様にお見せしたりします?」 「うーん、皮肉めいた格言もありますしねえ。結婚すれば後悔する、しなくても後悔する、みたいに」 「それは、確かに……」 小悪魔も軽く苦笑する。確かに恋人に見せるようなものではない。 「ああ、でもこれはいいかな」 開いたページには、グリルパルツァーの格言が載っていた。これなら機嫌も損ねまい。 「どういうのですか?」 「キスの格言ですね。キスする場所によって意味がある、という。手の甲が尊敬とか」 「なるほどなるほど。他にどんなのあるか見ていいですか?」 「いいですよ」 二人して本をのぞいて、何だかんだと話し始める。 何か話し声がする、とレミリアは踵を返した。 ○○が今日図書館の整理をしているのは知っていたので、見つけて何か面白いものでもなかったか聞こうと思ったのだ。 「んー、難しいですねえ」 「そこはお嬢様が一番、と」 「一番と言いますか、唯一と言いますか」 「お熱いですねえ」 「何の話をしているの?」 ひょい、顔を出すと、彼と小悪魔が何やら楽しげに話していた。 「ああ、格言集を見つけまして」 「面白いんですよ」 仲良く話してる姿が何となく気に食わず、レミリアは○○の側に寄った。 まあ、他愛もない嫉妬なのも理解してはいる。 「今は何を見てたの?」 「キスの格言、という奴ですね。グリルパルツァーの詩からです」 「どこにするかー、って話をしてまして」 「……誰に?」 少し険が入った言葉を二人に向ける。 「小悪魔さんはパチュリーさんへは尊敬、でしたか」 「はい。主従なので忠誠、なのでしょうけど、尊敬の念もありますから」 「小悪魔らしいわね」 気が削がれて、レミリアは軽く息をついた。確かにまあ、らしいといえばらしい。 「で、○○は?」 気は削がれたものの、○○に対しての態度は変わらない。 まあ、これくらいならわかってくれるはずだ。それくらいの時間は過ごしてきたつもりである。 「ん、ああ、はい」 レミリアが機嫌を損ねていることに気が付いたのだろう。どうするのかな、とレミリアはぼんやりと思う。 ○○は少し考えた後、何かを思いついたように朗らかに微笑った。 「そうですね、レミリアさん、小悪魔さん」 「何、○○?」 「どうしました?」 「実践、というのをお見せしようかと」 暢気とした言葉の割に、内容はとんでもないことを言わなかったか。 「○○、それはどういう……っ!」 レミリアの言葉は、途中で中断させられる羽目になった。 「手の上は尊敬」 ○○はまずレミリアの手を取り、その甲に口付けた。目を丸くしているレミリアと小悪魔を気にした風はない。 「額の上は友情」 何か言おうとするレミリアを抑えるように軽く髪を撫でて、額に口付けを落とす。 「頬の上は厚意」 一度離して、頬に軽いキスをする。少しくすぐったくて、その感覚にレミリアは身動ぎした。 「唇の上は愛情」 そのまま、抱き寄せられて口唇を塞がれる。意思とは関係なく頭がぼうっとするのを感じて、レミリアは○○の服を握りしめる。 「瞼の上は憧憬」 口唇への少し長いキスの後、彼は瞼の上に軽いキスを落とした。その行為に我に返って、けれども身体に力は入らなくて。 「掌の上は懇願」 抱き寄せたまま、再びレミリアの手を取り、掌に口付ける。くすぐったさに声が出そうになって、それを我慢する。 「腕首の上は欲望」 レミリアの様子に気が付きながらも、掌から滑らせて、手首に痕を付けた。 無論、すぐに消えるだろう。それが意味のない思考なのはわかっているが、それくらいしか頭が動かなかった。 「さてそれ以外は――」 最後に強く抱き寄せて、○○はレミリアの肩口、いつも血を吸うあたりに軽く牙を立てた。 びく、と身体を震わせたレミリアの耳元に、○○はそっと囁く。 「――全て狂気の沙汰」 「――という感じですかね」 くたりとしてしまったレミリアを抱き寄せたまま、○○は笑顔で小悪魔に言った。 レミリアの羽もくったりしていて、少し、ぱた、ぱた、と動いている。耳まで紅いのは、さすがに小悪魔には見えていないだろうけれど。 「あ、え、えーっと……ご、ごちそうさまでしたっ!」 何故か一礼して、バタバタと小悪魔は走っていってしまった。 「……何するのよ、いきなり……人の目もあるところで」 「嫌でしたか?」 「嫌とかそういうのじゃなくて……」 怒っているような声だが、本気で怒ってはない。照れ隠しが強いのだろう。声にあまり力がないのもその証拠だ。 「誰にどうしたいか、というのを示すにはいいかなと」 「誰も実践しろなんて言ってないじゃない」 甘えるように嘆じて、レミリアは○○に自分から身体を寄せた。 「お気に召しませんでしたか」 「そうね、気に入らないわ」 レミリアはむくれたようにそう言って、○○の顔を見上げる。 何が気に入らなかったのだろうか、と首を傾げた彼に、レミリアは続けた。 「貴方からだけというのが、気に入らない」 「……ええと、それは」 「私からも、よ」 まだ紅い顔で、レミリアはさらに顔を近付けてきた。だが、その表情はどこか楽しそうで。 「確か……口唇が愛情、よね」 そう言いながら、そっと、レミリアは彼の口唇を塞いだ。 「……どうしたの小悪魔。息を切らせて」 「ええと、いえ、少し刺激の強いものを」 「……だいたい把握したわ。何やってるのかしら図書館で」 部屋でやれと追い出そうかしら、とパチュリーはため息混じりに呟いた。 Megalith 2010/12/04 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「うん、こんなものかな」 ○○は満足そうに頷くと、目の前の中の鍋をかき混ぜる。 汲みおきの水でさっと手を洗って拭い、一つ息をついた。鍋からは温かい蒸気が上ってきている。 満足そうにしている○○の背後から声がかかった。 「何作ってたの?」 「ああ、レミリアさん。七草粥ですよ」 今日は一月七日。七草粥を食する日である。 レミリアは軽く頷くと、○○の手元の鍋をのぞき込んだ。 「随分簡単なものなのね」 「そうですね。元々、正月に使いすぎた胃腸を休めるためのものらしいですから」 「……この館でその程度で胃腸を悪くするのはいなさそうだけど。人間なのは咲夜くらいだし」 「まあ、そうですけれどね」 ○○は軽く困ったように微笑って、鍋の蓋を閉じる。 その感情を見透かしたように、レミリアはため息をついた。 「まったく、ただ単に作りたかっただけでしょう?」 「あはは、そんなところです」 悪びれもせず、○○は頷いた。レミリアは再びため息をつく。 「まあ、いいけどね」 「ええ。みんなで食べましょう」 そう、楽しげにいうと、レミリアも微笑って頷いた。 「楽しみにさせてもらうわね」 「ええ、素朴なものではありますが、たまにはこういうのも」 もう一度頷いて、レミリアは○○の手に視線を移した。 「手、だいぶ冷えてない?」 「ああ、水仕事もしましたからね」 「流水には気を付けてね?」 「それは重々承知の上ですよ」 レミリアの言葉に、○○は微笑って応えた。そして、何かを思いついたように声をかける。 「レミリアさん」 「何? ……ひゃっ!?」 いきなり首筋に冷たい手を当てられて、レミリアは驚いた声を上げた。 「……な、何?」 「いや、驚くかなって」 「驚くわよ、もう」 子供っぽく微笑う様子に少し呆れて、レミリアは○○の手を包むように重ねた。 「本当に、随分冷えてるわね」 「少し暖まりましたよ」 「もう」 むくれるように言いながらも、レミリアの表情は柔らかい。 じんわりと指先が温まってきて、○○も頬を綻ばせた。 しばらくそのままでいたところに、どこか呆れたような、たしなめるような声が聞こえてくる。 「……仲が良いのはよろしいですが、そろそろ場所を変えていただけませんか?」 いつからそこにいたのか、咲夜が戸口に立っていた。 しばらくの後、食堂に集まって一同で食事を取っていた。 紅魔館でみんなで粥を食べるというのもなかなか奇妙な光景ではあるが、誰もあまり気にしていない。 「ああ、いいですねえ、お粥は身体が温まります」 「お外は雪?」 食べて一息ついている美鈴に、フランドールが無邪気に尋ねる。 「ええ、だいぶ積もっていますよ」 「じゃあ後で遊びに行く!」 「羽目を外さないようにね」 レミリアが一応釘を差す。とはいえ、どこまで効果があるやらと、あまり期待はしていない。 「七草は体調を整える効用があるけれど、それ以外にもいろいろ意味があるのよね」 「そうなの、パチェ?」 「ええ。古くはこの時期が春と呼ばれていたのもあるだろうけれど――」 そう言いながら、パチュリーは手元に何か書き込んでいる。 「やれやれ、パチェも相変わらずね」 そう言いつつ、レミリアも七草粥を口に運ぶ。思ったよりもずっと味があり、それでいてあっさりしている。 「……結構美味しいのね」 「それは良かった。滅多に作らないものですから少し不安だったのですが」 「まあ、季節ものだものね」 そう言いながら、レミリアはもう一口食べる。流石に血は入っていないから直接的な栄養にはならないが、気分的には悪くない。 「咲夜、これに合うお茶はあるかしら」 「ええ、そうですね。玄米茶などどうでしょう」 「あら、いいわね」 言うが早いか、咲夜の手によって温かい茶がそれぞれの前に置かれた。 「ああ、いいですね。温まります」 「そうね。まあ、何でこれがうちにあったのか気になるけど」 「あ、それは僕が買ってきてたんです。冬が来る前に」 「本当に貴方は自由ねえ……」 呆れた声でレミリアは玄米茶を啜る。 しばらくそうして食事を取っていたが、外をずっと眺めていたフランドールが、不意に目を輝かせて声を上げた。 「お姉様、雪合戦しよう!」 「何でそんなことしなきゃならないのよ」 「だって楽しそうだよー」 見れば、庭で妖精メイド達が雪かきのついでに何か遊んでいるのが見えた。随分と楽しげで、確かに興はそそられる。 「あら、本当ね」 「サボリでしょうか、申し訳ございません、今すぐ――」 「いいわ、咲夜。どのみち雪かきなんだから変わらないでしょう」 「やったっ! 行こう、お姉様!」 「ええ、いいわよ」 楽しげに言って立ち上がったフランドールに続いて、レミリアも立ち上がる。 「ああ、お嬢様方、私もお供しますよ」 「わーい、美鈴も一緒ー!」 「え、それはその」 「いいんじゃないですか。そうでしょう、咲夜さん」 「ええ、この際はね」 ○○の言葉に、咲夜も仕方なさそうに肩をすくめる。 「咲夜、戻ってきたときに何か温かいものよろしくね」 「かしこまりました」 「では、僕もお供します」 「いいわね、チーム戦と行きましょうか」 レミリアの提案に、フランドールが羽を楽しげにバタバタさせる。 「負けないよ、お姉様!」 「あら、私も負けないわよ」 そう言う二人の後ろを歩きながら、美鈴と○○は言葉を交わしていた。内容はレミリア達まで届いていない。 「お嬢様も随分楽しそうですね」 「ええ。まあ、こういうのもたまには。冬は退屈ですし」 「そうですねえ。で、チームはやっぱり私は妹様で」 「ええ、僕がレミリアさんと」 「楽しみですねえ。ああでも、熱すぎて雪は溶かさないでくださいよ?」 珍しい美鈴のからかいに、○○は照れたように笑った。 「善処します」 「二人とも何話してるのー? 早くやろうよー」 玄関のところで、フランドールが手を振って二人を呼んだ。 かくして、雪合戦が途中で雪だるま作りになったりかまくら作りになったりしたものの、無事雪かきという名の雪遊びは終わりを迎えた。 いろいろと一段落して、湯浴みも終えた後の、レミリアの部屋。 「お疲れ様」 「かまくらなんて久々でしたよ。楽しかったです。多少冷えましたが」 「今は随分暖かそうだけど、ね」 「まあ、風呂上がりですからね」 ベッドに並んで腰掛けて、レミリアと○○は談笑していた。 「それにしては、随分時間がかかってたみたいだけど」 「片付けも多少ありましたし。随分お待たせしましたか」 「そうね、これくらい?」 言いながら、レミリアは○○の頬に手を当てた。ひんやりとした感覚が、頬から広がる。 「やっぱり、私の方が手が冷えてしまってるみたいね」 「ですね」 微笑う彼の首元に、レミリアは手を滑らせた。唐突な行動に驚いて、○○は声を上げる。 「わ!?」 「ふふ、お返しよ」 「それは何とも……」 昼の意趣返し、といったところか。ばつが悪そうに笑いながら、○○はレミリアを抱きしめた。 「本当に冷えてますね」 「ん、そうね。ね、○○。身体の中からも温まりたいのだけど」 「もう七草粥はないですよ」 わかってるわ、と応えて、レミリアは○○の首筋に牙を当てた。 ○○もわかっていたように、レミリアをさらに抱き寄せる。 「どうぞ」 「ええ、いただくわ」 ちく、という痛みは、相変わらずどこか甘い。レミリアが満足するまで、彼はそのまま抱きしめていた。 「ん、ごちそうさま」 「ええ、お粗末様です」 言いながら、○○は軽く自分の首筋を拭う。止まるまで多少の時間がかかるのは仕方がないと言えるだろう。 「○○も、いる?」 「ああ、ええと」 レミリアは小首を傾げるように○○を見上げていた。言い様のないものに押される形で、○○は頷く。 「ええ、欲しいです」 「じゃあ、どうぞ」 レミリアが、首筋から肩口にかけてを○○の目の前に曝す。 いつもながらどこか扇情的なそれに動悸が早くなるのを感じつつ、○○はレミリアに牙を立てた。 「ん……っ」 あまり飲み過ぎるのはレミリアの身体に負担をかける、と思っているが故に、○○は程々でレミリアから口を離す。 「あ……もう、いいの?」 「ええ。ごちそうさまです」 ○○はそう、レミリアの髪を撫でる。傷口はすぐに塞がった。流石に生粋の吸血鬼は治りも早い。 「僕も治りが早くなればいいんですけどね」 「まあ、それはゆっくりと、ね」 それよりも、と言いながら、レミリアは○○にすり寄った。意味を理解して、○○も再びレミリアを抱きしめる。 「ん、正解。温かいわ。○○は寒くない?」 「大丈夫、温かいですよ」 「なら、いいけど」 そう言いながら、嬉しそうにレミリアは頬を寄せた。 「それでは、休みましょう?」 「はい」 毛布の中に潜り込みながら、○○はぽつりと呟く。 「暖かいな、やっぱり」 「○○?」 「いいえ」 ○○は軽く首を振った。 この方の側にいられることが、七草粥よりもずっと、心と身体が温まるものなのかもしれない。 そういう思いを飲み込んで、○○はレミリアを強く抱く。 「どうしたの?」 「いえ、何となく。こうしてると暖かくて」 「じゃあ、もっと温まってみる?」 「熱くなりそうな気もしますが」 そう言いながら、○○は悪戯っぽく微笑うレミリアの口唇を塞いだ。 外は雪が降り続いている。まだ、当分は寒い日が続くだろう。 それでも、この温もりがあれば、それもまた悪くないのかもしれない。 Megalith 2011/01/12 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「随分賑やかね」 「あら、パチュリー様」 「……レミィと妹様?」 「ええ。二人でチョコレートケーキを作るのだと仰いまして」 「……それはいいけど、咲夜、貴女が手伝わないと○○さんが随分大変そうなことになってるわよ」 そう、パチュリーはため息混じりに咲夜に告げた。 二月十四日。紅魔館の厨房はにわかに戦場じみた騒ぎとなっていた。 「ねえ○○、これくらいー?」 「ええ、それくらいで。あまり混ぜすぎるのもよくないですから」 「咲夜、これはどうするの?」 「そちらはトッピングに使いますので……」 苺の籠を置きながら、咲夜はレミリアに説明する。が、レミリアは頷きながらもどこか上の空だった。 「……お嬢様?」 「ああ、うん、聞いているわ」 「気になりますか?」 「別にいいわよ、○○は私のものだし」 少し拗ねたような声で、咲夜の言葉に返す。 視線の先は、フランドールが勢い余って調理器具を壊さないかどうか心配している○○の姿があった。 「他意はないと思いますが」 「それでも、よ」 子供っぽいとは自覚もしているが、それでもどうしても押さえられない。 むう、となりながらも、レミリアもボールの中のクリームを混ぜる。 「これに入れるの?」 「ええ、こぼさないように気をつけてください。そちらはどうですか?」 型にケーキの元を流し込みながら、○○がレミリアと咲夜に尋ねる。 「そろそろ出来るわ」 「後は少し冷やしておけば良ろしいかと」 咲夜はそう言いながら、フランドールの手伝いにも回る。フランドールは楽しそうに全部の元を入れてしまうと、咲夜を見上げた。 「これでいいの?」 「はい。それでは、焼き始めましょうか」 「こちらもよく暖まってますよ」 ○○はそうオーブンの戸を開ける。そこに、レミリアとフランドールが型を差し入れた。 「後はこのまま少し待つの?」 「ええ、そうですね」 ○○の声に続けて、咲夜がレミリア達に申し出る。 「では、待っている間、紅茶をお入れしましょうか」 「あら、いいわね」 レミリアは少しだけ機嫌を直したように、そう頷いた。 かくして、半刻ほどの後、大きなチョコレートケーキが焼き上がった。 思いの外綺麗に焼けたそれに、少しまた騒ぎながらもトッピングをし、見た目にも可愛らしいケーキが出来上がる。 出来上がったなら、とにかく今度はそれを食べようという流れになった。 「美味しいですよ、お嬢様方」 「そうですね! 苺をトッピングにしてるのもとても可愛らしいです」 美鈴と小悪魔が、そう切り分けられたケーキを口にしながら評する。 食堂にて、紅魔館の主たる面々が顔を合わせてケーキの試食と相成っていた。 ケーキ自体かなり大きいので、運の良い妖精メイドなども口にすることが出来るだろう。 「上出来ね。あの状況を見たときはどうなるかと思ったけど」 「えへへ、パチュリーにも誉められたー」 「まあ、私達でもこれくらいはね」 嬉しそうなフランドールの頭を、レミリアは当然のような顔で撫でている。 「お嬢様方も楽しんでいただけたようで何よりね」 「ええ、そうですが、その、んー……?」 その様子を見ながら、○○は首を傾げている。 「どうしたの?」 「いや、レミリアさんが少しご機嫌斜めのようなので」 ケーキを作っているときからも感じていたのだが、あまりこちらを向いてくれない。 何より、雰囲気が少し堅い。怒っている、まではないが、どこか拗ねている雰囲気がある。 「あら、よくわかったわね」 もう少し鈍いかと思っていたわ、と咲夜は感心したように言う。 「え、僕何かしました?」 「直接貴方が、というわけではないけど、貴方が原因なのは原因ね」 「……え、何だろう……」 「そこには気が付いて欲しいところだけれど、まあお嬢様の様子に気付いただけ及第としてあげるわ」 「それはまた手厳しい……」 ○○は頭をかきながら、何が原因なのかと考え始める。 「わからなかったら直に訊くことね」 「了解しましたー……」 その力ない返答を面白がるように、咲夜は軽く微笑った。 「レミリアさん」 「何?」 「僕、何かしましたでしょうか」 部屋に帰ってからもいまいち機嫌の悪いレミリアに、○○は尋ねた。 「……気が付いてないならいいわ」 「そうもいきませんよ」 ○○はそう言いながら、後ろからレミリアを抱きしめる。拗ねているだけで、本格的に怒っていないのはわかっていた。 本格的に怒ったときは、部屋に入ることはおろか、姿すら見せてくれないときがあるから。 「僕が怒らせてるならなおさらです。レミリアさん」 声をかけながらレミリアに手を伸ばすと、レミリアは意外にあっさりと腕の中に収まった。 収まってすり寄ってきて、それでも機嫌は直っていないらしい。 「……○○のバカ」 「……返す言葉もないですが、唐突にそう言われましても」 「…………昼間」 「昼間?」 こく、と頷いて、レミリアは○○に頬ずりして黙ってしまう。 甘えながら拗ねられるというのも何とも珍しいが、とりあえず記憶を探る。 昼間は、暖房と調理場用の薪を取りに行って、廊下の掃除を手伝って―― 「あ、もしかして」 「わかった?」 「妖精メイドさんに、チョコを頂いたことですか?」 廊下の掃除後に、数人の妖精メイドに呼び止められ、チョコレートを渡されたのだった。 別に他意はなく、ただお祭りに参加したかっただけのようだったが。 「そのこと、ですか?」 「……だって、嬉しそうにもらってたんだもん」 むう、と拗ねたように腕の中でレミリアが呟く。 「そういうわけではなかったんですが。それに、僕もらったあれは食べてないですし」 「え?」 「そういうお祭りに参加したかった、とのことでしたから、あの後ホットチョコにしてメイドさん達にあげたんですよ」 美味しそうに飲んでましたよ、と○○は告げた。 「じゃあ、もらったけど、食べてはないの?」 「もらった、といえるかどうかも怪しいのですけど……」 食べてないしなあ、と苦笑気味に微笑う。 「……じゃあ、甘くした方が良かったかしら」 「え?」 疑問の声には応えず、レミリアは○○に小さな箱を渡してきた。 「……頂いても?」 「うん。ただ、気に入るかどうかわからないけど」 その言葉に首を傾げながら、○○は箱を開け、中のチョコレートを一つ摘んで口に入れる。 「……ああ、なるほど」 「……甘いの食べた後なら、これでいいと思って」 拗ねた口調に、違う心理も混じり始めていた。○○は微笑んで、口の中のチョコレートを味わう。 苦味が口の中に広がった。ビターチョコとしても、かなり苦い方に入るだろうか。 「ん、これはこれで」 「……甘党じゃなかったの?」 「甘党ですけどね、こういうのも嫌いじゃないですよ」 ただ、と、レミリアをさらに抱き寄せながら言う。 「甘いのはやはり好きですので」 「……うん」 目を閉じたレミリアに、○○は口付ける。苦いだけでない感覚がして、機嫌を良くしたように彼はレミリアの口内を味わった。 「……苦いわ」 「僕は随分と甘く感じましたけどね」 「……じゃあ、私も甘く感じるまで、ちょうだい」 強請るように腕を伸ばしてきたレミリアを抱きしめて、では、と彼もまた一つチョコレートを口にした。その口唇を舐めて、レミリアは微笑う。 「ん……まだ、苦い」 「では、何度でも」 口唇を塞ぎながら、どうやら随分と甘い夜になりそうだ、という確信を、彼は持つことになった。 それはどうやら、レミリアも同じことを思っているようで。 それでもいいか、という想いを抱きながら、彼はまた、チョコレートを、今度は口移しで渡した。 苦そうに少し顔をしかめたレミリアの表情が、それを感じなくなるまで。 さて、それはチョコレートがなくなったときか、それともその後か。 甘さに痺れそうになりながら、彼はそのときを楽しみに待つことにした。 Megalith 2011/02/28 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「っ、くしゅん」 「どうして貴方が風邪引くのよ……」 「どうしてでしょうねえ……」 心底呆れた声と、それに同意する声。 いくら雪かきで雪まみれになったとはいえ、風邪を引くほどとは誰も思いもしなかったのだが。 「まさか僕も風邪を引くとは。熱が出たのなんて何時以来だろう……」 「少なくとも、私の眷属になってからは初めてね」 「そうですね」 ○○は弱々しく微笑った。レミリアは深々とため息をついて、彼の額の上のタオルを手に取る。 「とりあえず、薬師を呼びに行かせてるから」 「大丈夫だと思うんですけどね」 「それでも、よ。前代未聞なんだから」 この時期に熱くて目が覚めるなんて思いもしなかった、と、レミリアは呆れたまま言う。 「とにかく、今は大人しくしていなさい。いいわね?」 「はい……」 力のない声で、彼は頷いた。 往診に来てくれた永琳は、やはり呆れたように診断を下した。 「……風邪ね」 「それ以外言いようがないのね」 「ないわ。ただ……完全に精神的な風邪ね」 「……すみません、永琳さん、意味がよく」 ごほ、と咳込みながら、彼は尋ねる。 「前に、今日みたいに雪まみれになって風邪を引いたことは?」 「え? ああ、ありますね……懐かしいな」 ○○は目を細めると、少し懐かしげな表情をした。 「雪がたくさん積もるのが珍しい地域でしたから、大雪が楽しくて。ついつい遊びすぎて……だいぶ昔の話です。まだ子供でした」 「なるほど。では、それが原因ね」 「薬師、意味がわからないわ」 レミリアの不満げな抗議に、永琳は一つ頷いて説明を始めた。 「昔の追体験ということよ。こうしたときに風邪を引いた、という思いが精神に強く作用して、というところかしら。だから寝てれば治るわ」 「……ああ、なるほど」 ○○は軽く微笑って、一つ頷いた。 「……懐かしいですね、言われてみれば。こんな風に風邪を引くのも、寝込むのも」 「放っておくしかないの、薬師?」 「一応手はあるわ。当時の思い出からなら、それ相応の薬を出せばいいから……」 往診用の薬箱を開けて、永琳はいくつかを取り出す。 「こんなものかしら」 「……うわー、何か懐かしいものが見えます。というかその水薬まであるんですか」 「あら、ビンゴ? じゃあこれでいいわね」 「それ甘ったるくて嫌いだったんですけど」 「薬師、それでお願い」 「了解」 殺生な、という彼を無視して、レミリアと永琳は薬を決めていった。 しばらくの後、永琳を見送ったレミリアは、彼の元に戻ってきていた。 「眠ってる?」 寝息だけが返事をしてきて、レミリアは仕方なさげに微苦笑する。 ベッドに腰掛けて、彼の額を撫でた。まだ熱いが、少しマシになっただろうか。 ずり落ちていたタオルを水に浸して絞り、再び額の上に置いてやる。 「……この私がこんなことをするなんてね」 くすくすと笑いながら、それも悪くないと思う。そう思うのは、彼に変な感化を受けたからだろうか。 しばらく笑った後、レミリアは永琳との会話を思い出した。 『彼は甘えているのね』 『甘えている?』 『そう。精神的な追体験は、無意識に子供の頃を思い返しているのでしょうね』 『……家族と一緒に居た頃の?』 『きっとね。まあ、人間だったからこそかかったとも言えるわ』 『……懐かしいのかしら』 『私達にはわかり難いけれど、きっと』 永琳の頷きに、レミリアは軽く息を吐く。 『わかった。感謝するわ、薬師』 『いいえ、当然よ。では、私は里も回るから』 『ああ。診察代と薬代は咲夜から受け取っておいて』 『ええ、そうさせてもらうわ』 お大事に、と言って去っていく永琳を見送った後、レミリアは、さて、と一つ頷いて、踵を返した。 「私にできることは……ないも同然だけど」 レミリアはそう呟いて、ああ、と何かを思い出すように微笑む。 「懐かしさは伝染するものなのかもね」 それも悪くない、と言いながら、彼女は一つ息を吸い込んだ。 「――――nd」 「……歌?」 ○○は薄く目を開けて呟いた。視界は未だぼんやりしている。 「……ああ、起こしちゃった?」 「レミリアさん。今の、歌は?」 「子守歌よ。煩かった?」 「いえ」 彼は首を振り、額のタオルを自分で持ち上げつつ呟いた。 「綺麗な歌です。言葉はわからないけれど」 「西洋のものだからね。昔はフランにもよく歌ってたのよ」 レミリアの言葉に、懐かしそうなものが混じる。 「○○も、気に入ってくれた? 私はそんなに、歌が上手いというわけではないけれど」 「気に入りました。レミリアさんの声も好きですよ」 「ありがとう」 そう照れたように微笑ったレミリアに、○○も微笑んで、口を開いた。 「よければ、続けてくださいませんか」 「ええ」 そして、レミリアは再び歌い始める。 Schlafe, schlafe, holder, suser Knabe, leise wiegt dich, deiner Mutter Hand; sanfte Ruhe, milde Labe bringt dir schwebend dieses Wiegenband―― 「○○?」 レミリアの声に、返ってくるのは穏やかな寝息だけだった。 「……よく眠ってるわね」 頭を撫でて、レミリアは優しげに微笑む。そして、枕元のベルを軽く揺らした。 「お嬢様」 「咲夜。ご苦労様」 咲夜が持ってきた新しいタオルを受け取り、レミリアは○○の汗を軽く拭った。 「咲夜、私ももう休むわ」 「はい。お召し物も準備しています」 「相変わらず、用意がよくて助かるわ」 咲夜は瀟洒に微笑んで一礼した。満足げに頷き、レミリアは咲夜に手伝わせて服を着替え始める。 「懐かしい歌でしたわ」 「あら、聞いていたの?」 「聞こえてきたのですよ」 「咲夜が来た頃にも、歌ったことがあったわね」 ええ、という咲夜の言葉にも、懐かしいものが混じる。 「子供に歌って聞かせるもの、と仰っていた気がしますけれど」 「○○を子供扱いしてる、ってこと? そういうつもりではなかったのだけれど。ただ、これがいいと思っただけ」 「ええ、きっとそうなのでしょう」 咲夜はそう言って、レミリアの服のボタンを留めた。 レミリアは一つ頷き、咲夜に告げる。 「じゃあ、咲夜、後よろしく。終わったら貴女も休みなさい」 「かしこまりました。それでは、おやすみなさいませ、お嬢様」 「ええ、おやすみ、咲夜」 一礼した咲夜が消えるのを待って、レミリアは○○の隣に潜り込んだ。 まだ身体は熱いが、だいぶ落ち着いてはきているようだった。明日にはよくなるだろうか。 よくなったら、また暇つぶしに付き合わせよう。何がいいだろうか。昔の話も良いかもしれない。彼の歌を聴くのもいい。 そういろいろと考えながら、レミリアも眠りに落ちていった。 Megalith 2011/03/25 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「眠いわ」 「まあ、春眠暁を覚えず、とは言いますしね」 「夜明けまではだいぶ時間があるけどね」 レミリアは小さく欠伸をして、青年にぽすと寄りかかった。 「んー、温かい」 「まあ、温泉に入ればだいぶ長い時間温もりますからね」 レミリアさんも温かいですよ、と○○はレミリアの髪を撫でる。 「ふふ、たまにはいいものね」 「霊夢さんは呆れ顔でしたけどね」 「あら、いつものことじゃない、神社に妖怪が集まるのなんて」 「きっとそれが問題なんですけどねえ」 彼の言葉にくすくすと笑って、レミリアは瞳を眠そうに瞬かせた。 「眠いわ」 「そうですね、そろそろ休みましょうか」 「じゃあ、連れてって」 腕を伸ばすレミリアに頷いて、優しく抱き上げる。いつもながら軽い。 「春の夜に、桜を見ながら温泉に入って、その温もりを抱きながら春眠に現を抜かす、なんて、この国のこの時期ならではね」 「そうですね。そういった風流があることは僕も嬉しく思いますよ」 レミリアはもう一度微笑って、重たげな瞳を閉じた。余程眠いのだろう、と彼は落ちないように気を付けてティールームのドアを開ける。 まだ夜明け前なので、妖精メイドたちも眠っているのか、気配がない。静かな、まだ少し春の夜の冷えが残る時間。 静かに廊下を歩きながら、外が冷える分腕の中の温もりが強く感じられて、そう思った自分に呆れるように彼は息を吐いた。 「……何考えてるのやら」 そう、苦笑気味に息をついたそのとき。 はむ、と音がしそうなほど緩やかに、レミリアは彼の首筋に噛みついてきた。 普段血を吸うのとは全く違う噛み方。ただ甘えているときにだけ、こうした噛み方をしてくるのだった。 「……完全に寝てしまいましたか」 小さく呟いて、彼はレミリアを丁寧に抱きなおした。こうした甘噛みは、余程リラックスしているときだけする行動と知ったのはいつだったか。 以前、甘噛みをするのはどうしてか聞いたのだが、顔を真っ赤にして「そんなことしてない」と怒られたことだけが印象に残りすぎている。 「……ああ、そうか、パチュリーさんとフランさんに聞いたんだっけ」 声に出さず笑って、彼は思い出す。 吸血鬼が甘噛みをするのはどういうときなのか。血を飲むというのとは違うようだけれど。 その問いをしたとき、パチュリーはくすくす笑いだし、フランドールは目をパチパチさせていた。 「余程安心してるのね、レミィは」 「お姉様がそこまでするなんてー……私にはそういうこと出来る人なんていないもん」 そう言いながら、フランドールは羽をパタパタさせた。面白そうな、少し羨ましげな様子だった。 「ええと、全くわからないのですが」 「吸血鬼が甘噛みをするのは、信頼し、親愛する相手だけよ」 「でも、いくら大事な人でもやっぱり恥ずかしいよ」 フランドールはそう笑みを浮かべる。 「寝てるの見られるよりもずっと恥ずかしいし、そんなに安心してるって思われるのも」 「それは吸血鬼の矜持なのかしらね。まあとにかく、そういうことよ」 「……安心してる、と」 「それよりもっと大きな信頼、信用。そして甘え。そうね、レミィはそこまで甘えることは滅多にないから」 「だって、お姉様はお姉様だから」 フランドールはそう答えになるようなならないようなことを言いつつ、いいなー、と呟いていた。 部屋への道を急ぎながら、思い返したことに、小さな呟きを漏らす。 「絶対の信頼か、それは嬉しい限り」 彼は笑みを浮かべたまま、少しだけ微妙な顔もする。 「咲夜さんにも絶対の信頼を置いてるからなあ」 まあ、主従であるからにはそれくらいはなければならないものなのだろうけれど。 「あら、私にもしたことないわよ?」 「いつからそこにいましたか咲夜さん」 「そろそろ休まれる頃だと思ってお部屋のメイクをしていたの。ちょうど良かったみたいね」 「流石です」 その読みと手際の良さに内心で感嘆しつつ、彼は片手で部屋の扉を開けた。 「それでは、休みます。おやすみなさい」 「ええ、おやすみなさい」 咲夜に一礼して、レミリアを抱いたままベッドに向かう。 「……さて、僕も休みますかね」 いい加減眠い。春眠暁を覚えず、とは何も人間のためだけにあるものではないのだな、と妙な納得をする。 きゅ、と服を握ってくるレミリアに少し微笑んで、彼は起こさないよう気を付けながら、ベッドに寝かせたレミリアの隣に横になった。 「おやすみなさい、レミリアさん」 彼はそう小さく囁くと、目を閉じる。睡魔は思った以上にすぐにやってきた。 翌日夕方。図書館にて。 「……そんなこと訊いたの?」 「ええ。貴女がそんなに無防備な姿を見せるなんてね」 パチュリーはくすくすと微笑いながら、レミリアの表情を伺う。 しばらく紅くなったり憮然としたり表情を変えていたレミリアは、悔しそうにぽつりと呟いた。 「……○○もやってるのに」 「……え?」 「○○も! 寝てるとき偶に私に甘噛みしてくるのに!」 真っ赤になりながら、レミリアはそう喚く。自分だけばらされたことが余程悔しかったのか恥ずかしかったのか。 「……はいはい、ごちそうさま。それなら彼にはっきり言いなさいな」 「だって○○、そういうのに鈍いんだもの」 「人間上がりだからそういう感覚が薄いのかもね。けれど、いろいろ吹き込んだからそれなりに恥ずかしがってくれるとは思うわよ」 「何を吹き込んだのよパチェ」 「私だけじゃなくて妹様もね」 答えになっていないその言葉に、ぴし、とレミリアは固まる。 「え、何それ、何でフランも知ってるの?」 「○○さんが訊いてきたときに妹様もいたもの。不可抗力よ」 「……帰ってきたら殴る」 「程々にしてね」 耳の先まで紅くしている親友の隣で砂糖抜きの紅茶を飲みながら、今日彼が帰ってきた後は随分賑やかになるだろうな、と他人事のようにパチュリーは思っていた。 余談として、自分も甘噛みをしているのだと知らされたときの彼の照れ様と慌て様は見物だったとか何とか。 とにかく、紅魔館は今日も穏やかに甘い時間を過ごしていくのだった。 Megalith 2011/04/26 ─────────────────────────────────────────────────────────── 随分と突き抜けた青空だった。 はて、今は梅雨の真っ直中だったはずだが、と首を傾げる。 里から紅魔館への道の途中。買い出しの品を持って、帰っている途中、のはずだ。 梅雨時は雨に降られると面倒だから、他の誰かに買い物を任せていたはずなのだけれど。 「どうしたの? ぼうっとして」 傍らから声がする。恋人の声にはっとなって、青年は一つ首を振った。 「いえ、雲一つ無い天気だなあと思って」 「もう、それはいいけれど、貴方もあまり日に当たるのはよくないんだから、気を付けてね」 怒ったような心配したような声でそう言って、レミリアは日傘越しに空を見上げていた。 「でも、確かにそうね。私達には決して、いい天気、ではないけれど」 「まあ、それはそうですが」 彼は笑う。吸血鬼にとって晴天は良いものではない。それでも、人間だった頃の名残としてか、彼は未だに晴天が嫌いではなかった。 「随分昔から、貴方は晴れが好きよねえ」 「そうですね」 そう頷いて、彼は傍らのレミリアを見る。 出会った頃から考えると、随分背が伸びたものだ。妖怪は全く成長しないのかとも思っていたが、ある程度までは成長するものらしい。 髪も長く伸ばして、深窓のお嬢様と言っても全く遜色無い姿になった。ただ本人は相変わらず我儘を言い、日々を楽しんでいる。 それこそがレミリアの魅力であるから、彼としては嬉しい限りではあるのだけれど。 「……随分、髪も伸びましたね」 「ええ、そうね。これはこれで悪くないわ」 くるり、とレミリアは身を翻す。 すらりと健康的に伸びた手足も、あの頃よりも高くなった、それでも彼の肩ほどまでもない背の丈も、長く伸びた美しい髪も、あの頃とただ一つ変わらない表情の豊かさも。 その全部が合わさって一つの美術品のように見える。それを独占できるというのは、とんでもない幸せ者なのだろう。 「ふふ、昔でも思い出した?」 「ええ」 「あの頃はまだ髪も短かったものね。ねえ」 レミリアは再び彼の隣に寄り添うと、悪戯っぽく尋ねてきた。 「髪の短い私と、今の髪の長い私。どちらが好き?」 「そんなこと」 そんなこと決まっている。答えは一つだけなのだから。レミリアの髪に手を伸ばし、答えを口にしようとして―― 「……なさい、そろそろ起きなさいよ」 「う……」 声に、彼は目を覚ました。軽く頭を振って、周りを見回す。時計は夜の十時、亥の刻辺りを指していた。 「ああ、おはようございます、レミリアさん」 いつものレミリアがそこにいた。いつもの、というと変な表現だが、とにかく、小柄な体格の、髪の短い、彼の大好きな恋人の姿。 「おはよう、というには変な時間だけどね。『夜昼』逆転してるんじゃない?」 「梅雨前に結構里に出たから、それでかもですねえ……」 一つ欠伸をして転寝していたソファから身を起こし、外の雨の音に耳を澄ます。相変わらず雨が強い。 この時期にしっかり雨が降らないと作物の生育にも関わるのは確か、ではあるが。 「随分楽しそうに寝ていたけれど、何か夢でも見てた?」 「ええ、まあ、ちょっと変わった夢を」 「どんな夢?」 暇つぶしにはちょうど良いと思ったのか、彼の隣に座って、レミリアは尋ねてきた。 「随分と未来の夢、だと思います。レミリアさんと散歩している夢です」 「いつもしてるじゃない、それくらい。どうして未来だとわかったの?」 「ああ、その……レミリアさんの背と髪が随分伸びていたので」 「そう? どれくらいの背かしら」 レミリアはぴょんと床に降りると、彼の前に立った。 レミリアから彼の顔を上からのぞき込むには、まだこうして、レミリアが立った状態と彼が座った状態ということが必要だった。 それもソファだからできるようなもので、ベッドなどになると、レミリアが彼の膝の上に乗っても目線が合う、くらいなのだ。 「そうですね、もう少し……これくらい、ですか」 「あら、随分伸びるのね。そうしたら、貴方の目線に少しは追いつけるかしら」 「そうですね、少しは」 冗談っぽく笑って、彼はレミリアの髪に手を伸ばす。さらさらとした感触は、いつ触れても心地よいものだ。 「そういえば、髪も伸びてたって言ってたわね」 「ええ、結構長く」 「そういうのも悪くないかもね……ねえ」 レミリアは悪戯っぽく微笑って、彼に尋ねてくる。 「今の髪の短い私と、夢に見たっていう髪の長い私。どちらが好き?」 「そんなの、決まってるじゃないですか」 彼は髪を撫でたまま、夢の中では言いそびれた答えを告げる。 「どちらも好きに決まってます。だって、どちらもレミリアさんなのに」 その答えに、レミリアは目を瞬かせて、花が咲くような嬉しげな笑みを浮かべた。 「ふふ、合格」 そのまま、彼の胸元に飛びついてくる。余程満足のいく答えだったのか、羽がパタパタと動いている。どうやら照れ隠しもあるらしい。 「期待に応えられたようで何よりです」 「ええ。そうね、よく出来ました」 そう言って、レミリアは少し紅くなった顔を彼に向けた。 「だから、これはよく出来たご褒美」 そう、彼の口唇に、軽く口唇を触れさせた。 「今はこれだけ。後で、もっとあげるから」 「それは……楽しみにさせていただきます」 その言葉が、少し残念そうにも聞こえたのか、レミリアは楽しそうに微笑った。 「ええ、後で。今はお茶も待たせてるしね」 その言葉に、彼はようやくここがティールームであり、お茶の準備をするために咲夜が入り口のところで控えていることと、呼ばれてきたらしいパチュリーが呆れ顔で立っていることに気が付いたのだった。 「お茶に呼ばれてラブシーンを見せつけられるのはいい加減勘弁なんだけど」 「ごめんなさい、パチェ」 謝りつつも全く悪びれない親友の様子に、パチュリーはため息をついた。 「まったくもう、夢一つでそれだけいちゃつけるのなら、本当に世話がないわね」 「いいじゃない、ちょっと嬉しかったんだし」 「ちょっと、ねえ……」 パチュリーは親友の背に視線を向けた。羽が上機嫌を表すように、ぱたぱたと楽しげに躍っている。 指摘すると藪蛇になるのは見えたので、何も言わずに紅茶にミルクを注いだ。砂糖はこの際必要ない。 「で? 今日もチェスの手ほどきかしら」 「ええ、僕とレミリアさんで一局やるので、終わった後に指摘等々お願いします」 「まだ私の方が強いものね」 「そのうち追いついてみせます」 彼の負けず嫌いがわかったのもつい最近なのだが、それはそれとして、梅雨の暇つぶしとして二人の吸血鬼はチェスを楽しんでいるようだった。 その二人に振り回されつつも、パチュリーもまたそれを、一つの楽しみにしていた。 「しかし、夢で、ねえ……レミィの能力の一端が彼にも影響を及ぼしているのかしら」 チェスを見ながら、パチュリーはそう小さく呟いた。チェスに熱中しているレミリアと彼には届いていないようだが、近くにいた咲夜には聞こえたようで、問いが返ってくる。 「それは……何か問題になるでしょうか?」 それに、パチュリーは軽く首を横に振った。 「大丈夫じゃない? 彼なら悪用もしないだろうし、第一レミィに対してしか反応しそうにないもの」 「それは、それで……」 微かに苦笑した咲夜に、同じような表情をしたまま、パチュリーは紅茶を口に運んだ。 「周りに害がない分はいいでしょう。まあ、糖分的な被害は山のように出そうだけどね」 「食事に砂糖控えめのものが多くなれば、健康には大変よろしいかと」 「精神的には糖分取りすぎになりそうだけどね。まあ、それもまた、ということかしら」 そう、微笑んで、ああ、悪手を指したな、とパチュリーはチェスの試合を眺め始めた。 外はしとしとと雨が降っている。まだ梅雨明けには長いが、紅魔館はその暇つぶしには事欠かないのかもしれなかった。 Megalith 2011/06/11 ─────────────────────────────────────────────────────────── 日差しが強くなった夏の幻想郷。 紅魔館の数少ない窓からその陽射しを見やって、青年は一つため息をつく。 「暑いなあ……台風がすぎてから一気に暑くなったなあ」 少し前に一嵐あった後、一気に気温が上がった。本格的な夏、という気配である。 廊下に射し込む陽射しはほとんどないものの、熱を完全に遮断することは出来ない。館内の気温は高めではある。 夜も結構暑いしなあ、と、彼はまだ眠っている恋人のことを想った。 毎晩こう暑いと、そろそろいらいらがたまってくる頃だ。 解消方法に何かないかな、と考える。また何か冷たいものでも―― 「……そうだ」 何かを思い付いたように、彼は厨房の方に足を向けた。 「…………また何か作ってるの?」 「ああ、レミリアさん。はい、簡単なものですが」 「アイスだってー」 先に来ていたフランドールが、彼の手元をのぞき込んで楽しげに羽をはためかせている。 「材料が心配だったのですけど、幸いにして手に入りまして」 レミリアも、そう言う彼の手元をのぞき込む。 甘い香りのする、固体と液体の中間にあるようなものを、彼は丁寧に混ぜていた。 果実が混ざっているのか、綺麗な赤や青が白いアイスの中にマーブル状の模様を描いている。 「後もう少しだけ待っていていただけますか。後は一冷やしだけですので」 「ちょっと味見させて」 「あ、私も」 フランドールとレミリアが、指を伸ばしてアイスをすくい、一舐めした。甘く冷たい感覚が、口の中に広がる。 「美味しい!」 「そうね、冷たくてとてもすっきりする甘さ」 「それは良かった」 まだ物欲しそうにする二人を制止しつつ、彼は手にしたボウルに再び果実を再び適当に混ぜて、厨房の氷室に入れた。 「もっと食べたかったのに」 「少し待ってくださいね」 不満そうなフランドールを宥めて、彼は微笑う。 「前のかき氷といい、貴方はいろいろ知ってるのねえ」 「かき氷もまた作りましょうかね。今回のはふとレシピを思い出して」 そうレミリアに応えながら、どうぞ、と、彼は二人の前にアイスティーのグラスを置いた。 「あれは何から作ったの?」 「生クリームとヨーグルトに砂糖を入れたものです。それて段階的に冷やしていくだけの簡単なものですよ」 昔作ったのを不意に思い出しまして、と応えて、彼は自分の分のアイスティーも作って一口飲んだ。 「手の込んだものではないのですが、やっぱり冷やす時間がですね」 「咲夜に頼めば早かったんじゃない?」 「……それもそうでしたね」 フランドールの指摘に、全く念頭になかったらしく彼は小さく呟いて頷いた。 「まあ、待つというのも悪くないけどね。貴方は相変わらずそういうところが抜けてるわよね」 くすくす、とレミリアに笑われ、彼は誤魔化すように頬をかいた。 「……もうそろそろ出来上がります。結構作りましたし、みなさんで食べますか?」 照れを隠すようなその声に、そうね、とレミリアは微笑んで返した。 テラスで涼みながら食べる、ということになり、パチュリーも交えてアイスの試食会になる。 「非常に効率的よね」 アイスを口に運んで一口味わって、パチュリーが評する。 「そう?」 「ええ。果実によるビタミンの補給も乳成分による栄養補給も出来る、かつこの暑い時期に身体を冷やすにもよい」 「……そんな難しいこと考えながら食べるものかしらねえ……」 果実の甘酸っぱさとアイスの甘さを楽しみながら、レミリアは呆れた言葉をかける。 「美味しいー。おかわりある?」 「はい、妹様」 咲夜が、フランドールの求めに応じて新しい器にアイスを盛りつける。 彼はその一連を楽しそうに見つめていた。例によって、作ったところまででだいぶ満足なのだろう。 「……○○」 「はい?」 「はい、あーん」 絶対挙動不審になるとわかっていて、レミリアは彼に無茶を振った。 スプーンにアイスを乗せて、彼の前に突き出したのだった。 「っ!?」 はたして、目を白黒させながら彼はそのスプーンを見つめる。 「食べないの?」 そう首を傾げるレミリアとスプーンをしばらく交互に見て、観念したように口を開いた。 「……いただきます」 「ええ」 ぱく、と観念しきった表情の彼がアイスを口にする。 「……ああ、思ったより美味く出来ましたか」 「ええ、美味しいわ」 「これ、かき氷に添えても美味しいんですよね。次はそうしましょうか」 「あら、いいわね」 またシロップを作って、と楽しそうに言う彼を、レミリアは楽しげに見つめる。 「……レミィ、いくらアイスが冷たいとは言え、気温を上げないで頂戴」 「……咲夜、咲夜も熱いでしょ。一緒に食べよう?」 パチュリーとフランドールが、それぞれの表現で自身の心情を表した。 それに対して、我に返ったようにレミリアが抗議する。 「二人とも何よ」 「言われるようなことをする方が悪いわ」 「そうそう。ね、咲夜」 「……それでは、ご相伴に預からせていただきます」 咲夜はそう、どちらに同意するでもない微笑みでフランドールの要請に応えた。 十分に涼んで、彼はレミリアと、彼女の寝室に戻ってきた。 決して自分の部屋ではないのだが、もう既にここ以外で休む方が珍しい。 「また作って欲しいわね」 「材料さえ手に入ればいつでも。ただまあ、今日のようなことは程々にしてもらえると」 「あら、嫌だった?」 「嫌ではないんですが……さすがにその、照れるので」 頬をかいた彼を見て、レミリアは先にベッドに座ると、枕を抱えた。 「……ね、ああいうのを作るのは懐かしい?」 「懐かしいです。このどこか懐かしい感じを、貴女と共有できるのなら、もっと嬉しいですよ」 「……言いたいことを先回りされた気がするわ」 むう、とむくれて、レミリアは枕にあごを乗せたまま彼を見上げてきた。 「何となくわかりますよ。もうどれくらいの付き合いだと」 「……ん、そうね」 レミリアはそう頷いて、身体を起こして彼の方に身を近付ける。 目を閉じたのを見て、彼は軽く口付けを落とした。 「休みましょうか」 「ええ」 優しく抱きしめると、レミリアは甘えるように胸に擦り寄った。 「貴方といると、本当に退屈しないわ……」 「それは光栄ですね」 「永い時間の中では、退屈しのぎは大事よ」 レミリアはそう言いながら、軽く彼に口付ける。 「貴方は、スパイスとしては少し効きすぎだけれど」 「そうでしょうか」 「そうよ」 ぽす、とベッドの上に彼を倒して、その上に乗ったまま、レミリアは楽しそうに微笑う。 「……だから、これからも楽しいことを、もっと教えてね」 「頑張ります」 嬉しそうに揺れる羽を撫でて、彼もまた笑った。 しつこく撫でていたら、くすぐったい、と、手を羽ではたかれてしまったが。 「残念」 「くすぐったいのわかっててやってるでしょう、もう」 レミリアは少し顔を紅くして、彼の腕の中におさまる。 「休みましょう、夜が明けるわ。夏の陽は長いのだから」 「そうですね」 今度は髪を撫でる。気持ちよさそうに目を細めて、羽を畳んで、レミリアは彼に囁いた。 「大好きよ」 「はい、僕も」 そう言いながら、彼はレミリアに口付けを落とした。 陽が長いなら、一緒にいられる時間も長い。 この一時一時を大切に楽しみながら、今年の夏も過ごしていこう。 Megalith 2011/08/10 ─────────────────────────────────────────────────────────── 冷え込む秋の朝方。 「いきなり寒くなったなあ」 呟きながら、青年は台所に向かっていた。 紅魔館の廊下の窓から見える空も、だいぶ澄んでいる。 日が昇るのもだいぶ遅くなった。まだ白む様子さえ見えない。 一つ息を吐く彼に、声がかかった。 「野分けが過ぎたものね」 「レミリアさん」 「一人で寝床を抜け出して、どうしたの?」 言いながら、寝着のままの姿で彼の隣に並ぶ。 「何となく、寝付けなくて」 「まだ暗いからかしらね」 レミリアも、視線を遠くに投げる。少し前までは、もう日が昇っていた時間だった。 「もうすぐまた里の仕事も忙しくなるので、幾分かは身体を休めないといけないのですが」 「そうね、秋の陽も強いもの」 少し心配そうな光が、その紅い瞳の中に揺れる。そっと髪を撫でて、彼は微笑んだ。 「大丈夫ですよ、無理はしませんから」 「それなら、いいんだけど」 撫でられるままになりながらも、レミリアの羽はぱたぱたと動いていた。嬉しいのだろうと、彼の頬がさらに綻ぶ。 その表情で自分の感情が読みとられたことに気が付いたのか、少し膨れてレミリアは手を離させた。 少し名残惜しく思いながら手をおろす。そうすると、今度はその腕に手を絡めてきた。くっついてはいたいらしい。 「で、どこに行こうとしてたの?」 「眠れないので、ちょっと飲み物でもと」 「血は流石に咲夜がいないとどうしようもないわよ?」 「栄養を補給したいわけではないので」 よろしければ一緒に、という彼に、レミリアは嬉しそうに頷いた。 「甘い匂いがするわ」 「これくらいがいいんですよ」 小半刻後、台所のテーブルで、カップを手にしているレミリアと青年の姿があった。 正確にはレミリアだけが椅子に座り、彼は立ったままなのだが。 「熱いので気を付けてくださいね」 「火傷なんてしないけどね」 言いながらも、ふうふうとレミリアはカップの中に息を吹きかけている。 「眠れないときにはいいんですよ」 「ホットミルク、ね。貴方は甘いもの好きだものねえ」 レミリアもそうなのだが、彼はあえて口にはしなかった。 「甘いものは心を落ち着けますからね」 「そんなに常にさざ波立っているようには思えないけど?」 「……結構、穏やかじゃないこともありますよ」 何とも言えない表情で、彼はそう呟いた。 こちらの心を乱す最大の原因に言われてしまっては、微妙な顔をするしかない。 まあ、乱されることを同時に楽しんでもいるのだから、文句などありはしないが。 自分の分のホットミルクを飲みながら、行儀悪くテーブルに肘を突いて、彼はレミリアを見つめていた。 「なに?」 「いえ、特には」 「そう」 そう言いながら、レミリアはこくこくとミルクを飲んでいる。 何となく可愛らしくて、少し目を細めた。そして、再びマグカップを傾ける。 そうしているうちに自分の分を飲んでしまったらしいレミリアが、こちらを向いた。 何か聞かれるのかと、マグカップを置いた、その次の瞬間。 「んー……ねえ」 「はい? ……っ!?」 身を乗り出したレミリアに唐突に口付けられて、彼は目を白黒させた。 口の中に甘い味が広がる。ちろ、と塞がれた口唇に何かが触れた。レミリアの舌だと気が付くのには時間はかからなかった。 まだどこか不慣れな舌つきで、いつも彼がするように、彼の舌を絡めとろうとしてきているのだった。 そうはさせじと、彼は逆にレミリアの舌を絡めとる。 「ん、んんっ……!」 そのまま、抱き寄せてその口唇の甘さを堪能した。 少しだけ驚いたように身動ぎしたものの、レミリアはそのまま大人しく身を委ねてくる。 「ん、んん……」 ほとんど椅子から浮いてしまったような形のレミリアを、彼は強く抱き寄せてその口唇を何度も奪う。 「ふ、あ」 少し息を乱しながら離れて、彼は元の通りにレミリアを座らせる。 微かに瞳を潤ませていたレミリアも、少し後にはいつもの調子に戻っていた。 少し残念そうな、でもどこか嬉しそうな声色で拗ねてみせる。 「もう、折角驚かそうと思ったのに」 「十分驚きましたよ」 そう? というレミリアの口唇をもう一度塞いで、彼は仕方なさそうに微笑んだ。 残りのホットミルクを喉に流し込む。もうかなり温くなってしまっていて、何とも言えない甘さになっていた。 微妙な表情をしたこちらに、悪戯っぽい声がかかる。 「よく眠れそう?」 「……逆に目が覚めてしまった気もしますが」 憮然とする彼に、くすくすと微笑ってレミリアは腕を伸ばしてきた。 求めに応じて、そっと抱き上げる。 「合格。じゃあ、ご褒美をあげる」 「ご褒美ですか」 「ええ」 彼の頬に口付けて、レミリアはそっと囁く。 「貴方が眠るまで、私が付き合ってあげるから」 「……それは、どういう意味で?」 「きっと、貴方が思っている通りよ」 悪戯っぽく、だが少しだけ頬を染めて微笑むレミリアに、ずるいですね、と困ったように告げて、彼は部屋へ向かう。 「ね」 「はい」 「……大好きよ」 「……僕もですよ」 レミリアの額に口付けを落として、青年はそう微笑った。 寒い日には、温かい飲み物と、暖かな想いをどうぞ。 あなたのためになら、いくらでも用意するから。 Megalith 2011/10/03 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ふむ、ポッキーですか」 「ええ、ポッキー」 ずい、とレミリアにポッキーを突き出され、青年は少し困った顔をした。 「今年もまた香霖堂にでも入ってたんですか?」 「ええ、咲夜に買ってきてもらったの」 ベッドのサイドテーブルには、幾つも菓子箱が置かれている。「季節限定!」と書かれたものから、あまり目にしたことがない物まで様々だ。 それに視線を走らせていることが既に現実逃避だと理解しながら、彼は再びレミリアに尋ねた。 「で、それはもしやまた」 「ええ、去年出来なかったからね」 やはり、前年のリベンジ、というところなのか。ポッキーゲームとはそんなにムキになってやるものでもないはずなのだが。 「でも、これどうやったら勝ちなのかしらね」 「……さあ、それは僕にも」 首を傾げたレミリアに、何とも言えない表情で一言だけ返す。 「たくさん食べれたらいいのかしら?」 「……そういうものなんでしょうかね」 「とりあえず、やってみる?」 そう、レミリアはポッキーを咥えて、ぱたぱたと羽を羽ばたかせた。どうやら、このお菓子を随分気に入っているらしい。 だがまあ、楽しそうにポッキーを咥えてベッドの上に座っている恋人の姿というのは、どうもいろいろな感情を沸き立たせる。 大きく息をついて、ひとまずある程度の感情は収め、だがある程度は自分に素直に行動することにした。 「では」 「ん、っ!?」 そう、レミリアを抱き寄せると、反対側から食べ始める。 さくさくとした感触とチョコの甘みが口の中に広がる。久しぶりに食べるチョコは中々美味い。 突然のことに硬直するレミリアに構わず、そのまま食べきって口を塞ぐ。 舌で口の中にある物を奪い、軽く咀嚼して飲み込むと、再びレミリアの口の中に舌を侵入させる。 「ん、んん……!」 軽く離して、息を付く間も与えずにもう一度口の中を蹂躙した。驚いたようにピンと羽は張ったまま、手は彼の服を掴んできている。 それを可愛く思いながらしばらく丹念に味わって、彼は口を離した。 「ごちそうさまです」 「な、なな、な……っ!」 彼の腕の中で、レミリアが抗議するように暴れる。 「レミリアさんから振ってこられたんでしょうに」 「け、けど、こんな一方的に……」 「そうやって誘われれば、そうもなります」 そう言いながら、彼はレミリアの身体を離す。少しやりすぎた反省はあるものの、自分の所為だけではない、と自己弁護の思いもある。 「しかし、僕が丸々一本いただいてしまいましたね。食べますか?」 気分を誤魔化すように、袋からまた一本取り出す。 だが、それに対する反応は、小さな声だった。 「……悔しい」 「は?」 疑問の声に対する返答はなく、レミリアの小さな両手がこちらの両肩に触れる。 「えい」 ぽす、とベッドの上に青年を倒すと、レミリアはその口にポッキーを咥えさせた。 「えーと、これは、どういう」 折らないように気を付けながら尋ねれば、レミリアの楽しげな声が降りてくる。 「私が勝つまでやるの」 意地になっているのだろうレミリアに、彼は降参と恭順のを意を示した。 「……レミリアさんの御意のままに」 「よろしい」 パタパタと羽をはためかせて、レミリアは少し顔を赤くしつつ、ポッキーの端を咥えた。 「……しかしこうなるのはわかっていたような気もしますが。前にもやったでしょうに」 「……うるさい」 耳まで真っ赤にしてくったりと彼の胸の上に乗りかかっているレミリアの髪を撫でて、彼は仕方なさそうな声で微笑う。 「まあ、たくさんいただきましたので満足ですね」 「むー……」 不満そうな顔で、レミリアは彼を見上げた。 「そんなに不満そうにされても困るのですが」 「だって……」 余裕そうなのが腹立つ、とレミリアはむくれている。これは困った、と思いながら、髪を撫でていた手を頬に滑らせる。 「……すみません、と謝るところなんでしょうかね、僕は」 「貴方が悪いから何も問題はないわよ」 「……すみません」 よろしい、と頬を撫でる手に自分の手を重ね、ようやく満足そうに微笑んだレミリアは、菓子箱に視線を向けた。 「でも、まだ一箱も食べてないわね」 「一箱全部でやるつもりなんですか」 僕は構わないですが、と、彼はレミリアから手を離し、まだ半分入っている箱を持ち上げた。 「……レミリアさんは大丈夫ですか?」 「何が?」 「お菓子だけなので紅茶がいりませんか、とか」 後は、と、悪戯小僧のような表情で尋ねる。 「僕がもっと甘いものが欲しくなったりしたらどうしましょうか、とか、ですかね」 「……? ……っ!」 さっと耳まで赤くなり、レミリアはこちらの胸に再び飛び込んで――というより、頭突きをしてきた。少し痛い。 「な、何を言い出すの……!」 「言葉の方を先に欲しかったです」 レミリアの背中を軽く撫でて、謝罪の意を伝える。 「とりあえず、紅茶を淹れてきましょうか」 「ん、咲夜を呼ぶわ。その後、また食べましょう?」 「……今度は普通に?」 「……そのときに決めるわ」 とりあえず今は、と、レミリアは彼に軽くキスを落として、楽しそうに微笑った。 「咲夜の紅茶で休憩しましょう?」 「了解しました」 ひょい、とベッドを降りるレミリアに、やっぱりこの人に翻弄されたままなんだろうな、と感じながらも青年も身体を起こした。 りん、と鈴が鳴って、咲夜が現れる。一言二言レミリアと言葉を交わすと、ふっとまた消えた。 それを見ながら、菓子箱を意味なく軽く振って中身を確かめる。 今日も随分と甘ったるい日になりそうだ、という確信を持ちながら、レミリアの近くに行くべく、彼もベッドから立ち上がった。 まだ夜は長い。甘い夜も、また。 ならばこの夜を、思い切り楽しむこととしよう。 Megalith 2011/11/14 ─────────────────────────────────────────────────────────── 誰が持ちこんだやら、というものがたまに幻想郷にはある。 それはものだったり風習だったりいろいろだが、どうしてこんなものまで、というものもある。 「……うん、これまで流れ込んでるとはなあ」 呟きながら、青年は両手に余る――視界が遮られそうなほどの荷物を抱え直し、紅魔館への帰路を急いでいた。 紅魔館の門前までようやく戻ってきた青年に、門前に立っていた美鈴から声がかけられた。 「ああ、お帰りなさーい……って凄い荷物ですね。そんなに買い物ありましたっけ?」 そう首を傾げられて、青年は困ったように笑う。 「ただいま戻りました。いやまあ、こんな荷物になる予定ではなかったのですけどね」 「ではまたどうして」 「人里でちょっと、また何か風習が外から流れ込んできてまして」 「ほほう、どんなものですか」 荷物を受け取りながら、美鈴が尋ねる。幸いながら手伝ってもらえそうで、青年は一つ息をつく。 「……いい夫婦の日、だそうで。伴侶を持ってる人が買い物したらおまけがつくとかで」 「ははあ、なるほどです。買い出しついででしたもんねえ」 納得したように、美鈴は頷いた。持ってもらってだいぶ楽になったがそれでもまだ荷物は多い。 「私も手伝いましょうか」 「ああ、咲夜さん、お願いできるとありがたく」 不意に隣に現れた咲夜に、彼は軽く頭を下げた。咲夜が手早く受け取っていくにつれ、だいぶ楽になった。 この際の問題は重さではなく、体積である。人ならぬ身となった今となっては、ある程度の重さは簡単に持ち上がるし、動きも軽快だ。 だからといって、大量のものを運ぶ際に気を使ったりバランスを取ったりというのから逃れられるわけではない。ましてや空も飛べないような身だ。 「ああ、もう大丈夫です。楽になりました」 「あら、いいの? まだだいぶあるけど」 「これくらいなら問題なく運べますし、これ以上女性に持たせるわけにも」 そう言いながら、彼は咲夜と美鈴と肩を並べて紅魔館の中に足を向けた。 「しかし、随分慣れましたよね」 「慣れた、というのは、幻想郷に?」 美鈴の言葉に問い返して、青年は厨房のテーブルの上に荷物を置いていく。 「それもありますけど、それ以外もですね」 「そうね、紅魔館にも随分馴染んだ気がするわ」 「そういえば、住んでからもう随分経ちましたねえ」 荷物を置いてしまって、数えるようにいくつか指を折る。いずれはこうして数えられないほどの時間を過ごすのだろう。 「それ以外にもいろいろね。こんな量の荷物を一人で運んだりとか」 「咲夜さんが急に現れても驚かなくなったりとか」 言いながら、咲夜と美鈴は買い出しの品を分類ごとに分けていく。手慣れた様子は、まだ敵わない。 「それは前からのような気もするけど……でもそうね、随分慣れた気はするわ」 咲夜と美鈴の言葉に、彼は荷物の分類を手伝いながら首を傾げた。 「そうですかねえ、僕としては何とも」 「まあそもそも、紅魔館に何の危機感もなく出入りしてたと考えれば、やっぱり変わってないのかもですね」 美鈴はそう笑いながらくっと一つ伸びをすると、さて、と肩を一つ回した。 「私はまた門番業務に戻ります」 「お疲れさまです」 「またご飯の時には呼びに遣らせるから」 「待ってますねー」 楽しそうにそう言って、美鈴は厨房の戸の向こうに去っていく。 それを見送った後、ごそごそと荷物を漁って何かを見つけると、彼も咲夜に声をかけた。 「さて、では僕はレミリアさんのところに行きますね」 「ええ、後で紅茶を持って行くわ」 「よろしくお願いします」 軽く挨拶代わりに手を挙げて、青年は一足先に主の部屋に向かった。 カーテンの隙間から射し込んでいた陽も、もう沈んでしまったのか、廊下はだいぶ薄暗い。 その薄暗い中でもよく見えるようになった瞳を細めながら、彼は廊下を歩いていた。 そういえば、と思う。この廊下を歩くのにもだいぶ慣れたものだ。 紅魔館は広く、ともすれば迷いがちになる。最初の頃はよく迷ったものだが、もう迷わなくなった。 確かにこれも慣れかもしれない、と思いながら、レミリアの部屋の前までたどり着いた。こんこんと、軽く扉を叩く。 「いいわよ、入って」 すぐに中からの返事が返ってきた。どうやらもう起きているらしい。 失礼します、という言葉と共に中に入ると、ベッドのに座ったレミリアが、彼を迎えてくれた。 「ただいま戻りました」 「ええ、おかえり」 「もう起きてらっしゃったのですね」 「うん、今日は何だか目が覚めてね」 んー、と身体と羽を伸ばしながら、レミリアは彼を手招く。 招かれるままに近付いてベッドに腰掛けると、レミリアが膝の上に乗ってきた。いつの間にやら定位置になってしまっている。 「咲夜と美鈴と何話してたの?」 「ご存知ですか」 「まあ、ね。何話してたの?」 仲が良さそうに見えたのだろうか、レミリアは少し拗ねたような口振りで質問を繰り返す。 「ちょっといろいろ。ええとその、僕が今日人里であったことといいますか」 「どういう話?」 「それが……」 そう切り出した彼の話を聞くにつれ、少しご機嫌斜めだったレミリアも、少し頬を染めて羽をぱたりと動かした。 「……いい夫婦、ね」 「……ええその、それでいろいろ捕まってまして」 レミリアの羽がぱたぱた揺れている。どうやら照れているらしい。髪を撫でてなだめながら、困ったように笑う。 「そこまで照れられると困ってしまいますが」 「て、照れてないわよ」 羽の動きが速くなって、彼の手をぺちぺちとはたく。それすら可愛らしくて、思わず頬がゆるんでしまった。 「可愛いです」 「……煩い」 ぷい、とレミリアはそっぽを向いてしまった。その怒りそうな気配を逸らすように、彼はレミリアの手元に何かを渡す。 「ということで、とりあえずこれを」 「なにこれ?」 レミリアの手元に、今日もらった小瓶を渡す。中には、赤、白、黄色、緑と、カラフルな小さい何かが入っていた。 「まだいろいろ物はあったのですけどね、綺麗だったので」 「……金平糖?」 「そうです」 レミリアがくるりと回すその瓶の中で、金平糖が踊る。ランプの光を反射するそれは、きらきらとして宝石のように見えなくもなかった。 「……結構いいものね」 「おそらくは。僕はそういう目利きは利かないですけど」 「いいんじゃない? そういう目利きは出来る者にやらせればいいわ。そういう者を見分けられれば問題はないの」 レミリアはそう、軽く指を振って説明する。それは貴族としてのものがそう言わせるのだろうか。何となく頷きながら、彼はレミリアに説明を続ける。 「他のものは、咲夜さんに任せています。また何かあったら持ってきてもらえるかと」 「ん、わかったわ。ご苦労様」 ぽす、と寄りかかって、レミリアは彼を労う。そして、何かをふと思い出したように、急に落ち着かない様子を見せ始めた。 「どうしました?」 「いや、その、ね」 うん、と意味をなさない言葉を口にしながら、レミリアは彼を見上げてその言葉を口にする。 「……事実婚という言葉があるそうだけど」 「どこで覚えてきましたかそんな言葉……」 顔を紅くしたままぼそぼそというレミリアに、彼も紅くなった頬をかきながら応じた。 「……まあでも、形式は大事よね」 「精進します」 「ん、待ってるわ」 知っている。焦るわけではない、急ぐわけではない。 それでも、どこかにそういう想いがあるのも否定はできないだろう。 「……そういえば、慣れてきたって言ってたわね」 「ああ、はい。幻想郷にと言うか、紅魔館にと言うか」 「……吸血鬼であることにも?」 「だいぶ慣れてきたつもりですけれど」 その言葉に、レミリアは瞳を細め、少し考えて――少しだけ、悪戯っぽい声を上げた。 「……慣れてきてたら、まさか日向で昼寝なんかしないわよねえ」 「……あれは始めたときはまだ日陰だったのです。不可抗力と」 悄然、といった様子で彼は答える。少し前の話ではあるが、うっかりそうして眠ってしまってレミリアに酷く怒られたのだった。 「本当に気を付けてね。貴方はどうもそういう自覚が薄いし」 「それは自覚もしてます」 「一度霊夢あたりに退治されたら自覚も出るかしらね」 そう冗談めかした言葉を向けながら、レミリアは彼の膝の上なのはそのままに、向かい合うように座り直す。 そうして、彼の瞳を真っ直ぐに見ながら微笑んだ。 「愛してるわ」 「ええ、僕も愛してます」 この想いは本物で。この言葉も本物で。 だからこそたまに、それを本当に形にしてしまいたくもなるけれど。 「咲夜に紅茶を頼みましょうか、そして今宵はこのまま散歩にでもでましょう」 「はい。月は生憎、まだ細いですけれど」 「そんな月夜もまた悪くはないわ」 けれどもその前に、と、レミリアは彼に抱きつくように身体を近付けると、首筋を軽く口唇でなぞった。 「頂戴?」 「はい、どうぞ」 さっとボタンを二つほど外して、飲みやすいようにシャツの襟元を緩めた。 微かな痛みと共に、レミリアの吐息と舌遣いを感じる。ゆっくり、丁寧に、味わうように舌が動く。 「ん、んん」 レミリアの飲み方はあまり上手いとは言えないものだが、それでもどこか畏れと共にぞくりとしたものが背筋を這い上がらせてくる。 唸りを堪えて、レミリアが飲むに任せた。そうたいして多い量を飲むわけでもない。 やがて口を離して、レミリアは血に濡れた口元に手を当てて妖しく微笑んだ。 「美味しかったわ、ごちそうさま」 「はい」 レミリアの口元を丁寧にハンカチで拭い、首から流れる血を軽く押さえている彼の口唇に、レミリアは再び口付けてきた。 「っ……!?」 「ふふ、不意打ち成功、ね」 「……今のタイミングでは対応できませんよ」 そう憮然と呟いて、彼は苦そうに――というよりも不味そうに自分の口元を拭った。 「……キスに妙な味が混じるのはどうも。仕方ないとはいえ」 「こんなに美味しいのにね」 「こうも味覚が変わるものですかね」 悪戯っぽく返すレミリアの言葉に軽口を叩きながら、彼はレミリアの腰に手を回して再び抱き寄せる。 「あら、口直し?」 「そういう感じのもの、です」 「ふふ、いいわ。食べなさい」 許可を受けて、彼はレミリアの首筋に顔を近付ける。白い首筋になんだか誘われているようで、若干頭がくらりとなるのを感じた。 気を取り直すように、牙をそっと首筋に当てる。いつもながら、この瞬間は心が躍ってしまう。彼女を自分だけのものにできる瞬間のように感じる。 ぐっ、と牙に力を入れると、肌を破る感覚が牙から全身に伝わってきた。流れる血をこぼさないよう、舌を使って舐めとる。 「ふ、ぁ、んん……」 甘い声に脳髄が灼かれそうにもなるが、そこは理性に手綱を付けて耐える。ただ血の甘さと心身を満たすものにだけ集中する。 しばらくして、そっと口を離す。もっと味わっていたいが、飲み過ぎるのはよくない。 「……ごちそうさまです」 「ん……もう、いいの?」 「はい」 少し陶然となった表情に、また何かが煽られそうになるものの、それをまた自身の中で抑えつける。 「血の飲み方は上手くなったわね」 「まあ、最初の頃に比べれば」 「強引なやり方でもなくなったし、我慢もしなくなったものね」 楽しげに羽をはためかせながら苛めてくるレミリアに、彼は動作で降参の意志を示す。 「……反省してますので、あまりつつかないでください」 「……でも、大事なことよ、貴方は人ではないのだし」 「それは、肝に銘じています」 そう、レミリアを再び抱き寄せて、軽く口唇を塞ぐ。 「ん……! 随分、唐突ね」 「何となく、欲しくなってしまいまして」 もっといいですか、という言葉に、レミリアはこくりと頷いて目を閉じた。 普段通りを装っているようだが、少し頬のあたりが紅くなっている。 「では」 遠慮なく、と言わんばかりに、今度は深く口付ける。少し驚いたようにびくりとなった身体を抱きしめて、深く、深く。 「ん、んん……あ、ん」 空気を求めるように離した口唇を、角度を変えて何度も奪う。 舌を忍び込ませ、そっと歯列をなぞり、牙を丁寧に舐めあげた。 「ん、んっ……!」 僅かに開かれた瞳が、微かに潤んでいた。牙の感覚が敏感なのは、自身でもう知っている事実だった。だからこそ、丹念に。 「ふ、あ」 しばらくしてから離したときには、レミリアはくたりと彼に寄りかかってしまっていた。羽は小さく折り畳まれてぱた、ぱた、と動いている。 「も、う。激しすぎるわ」 「失礼しました」 「全然そんなこと思っていない癖に」 とん、と拗ねるようにレミリアは胸を叩いてきた。無論、力などは入っていない。 「……そういう可愛い仕草を見せられると、いろいろ困ってしまいますが」 「……冗談も程々にしなさい」 今日は出かけるんだから、と、レミリアは彼の身体から自分の身を離す。 冗談ではないのだけどな、と思うものの、それはおそらくレミリアにもわかっていることだから、彼は何も言わないでおいた。 「出かける前にお茶にしましょう。咲夜を呼ぶわね」 そう言いつつ、ちりんと鳴らしたベルの音に応じるように、扉からノックの音がした。 「あら、早いわね咲夜。いいわ、入って」 失礼いたします、という言葉とともに、咲夜が部屋に入ってくる。 おそらくは外で待っていたのだろう。先ほど話をしてから時間は随分経っていた。 「今日の紅茶もいい香りね」 「アッサムでございます」 それを微塵も感じさせないやりとりに、いつものことながら何となく感心してしまう。 それでも、レミリアの顔が微かに紅いのと、せわしない羽の動きが、微妙な心の動きを物語っていた。 「さ、お茶にしましょう。今日はいい夜になりそうね」 レミリアがそう言うのなら事実なのだろう。そう思いながら、彼もレミリアと同じテーブルに着くことにした。 後日。 「……あいつらもうほとんど夫婦だよな」 「言わずもがなでしょう、そんなの」 魔理沙の言葉に、パチュリーが何を当然のことをと言わんばかりの態度で応じた。 二人の――というより魔理沙の視線の先では、いつものようにレミリアが青年の膝の上に乗って、無理難題を出しながら甘えている。 「まあ、正式なのはまだ随分と先でしょうけどね」 「気の長いことだな」 「どうなのかしらね」 パチュリーは気のない言葉を告げながら、手元の本をはらりとめくった。 それを聞き咎めた魔理沙が、テーブルの上に行儀悪く肘を突いて身を乗り出す。 「なんだなんだ、何かあるのか?」 「特に予定もないのだけどね。何が起こるかわかってるのなんてレミィだけだし」 「ふぅん、でも、パチュリーがそう言うってことは何かあるんだな」 「何かまではわからないけれどね。まあ、レミィが気紛れに何か起こすのは今に始まったわけでなし」 「それもそうだな」 魔理沙は快活に笑うと、手元の紅茶を飲み干し、おかわりを求めるために咲夜を呼んだ。 「好き勝手言ってるわね」 「まあ、これを見られればそうも言われそうですが」 膝の上にレミリアを乗せたまま、彼はそう応じた。かといって、彼にもレミリアを下ろす様子はない。 「ところで、パチュリーさんがああいうということは、何かあるのですか、また」 「……そうね、ちょっといろいろ」 そう呟くレミリアの瞳は、少しだけ遠くを見ていた。何か見えているのだろうか。レミリアの能力は、決して彼の手が届かないところにある。 「……ねえ」 「何でしょう」 少し不安げに見上げてきたレミリアに、彼は優しく問い返した。その本当の意味を知るのは、もう少し後になるけれども。 「……大好きよ」 「はい、僕も」 大好きですよ、と言いながら、彼はレミリアの額に、軽く口付けを落とす。 かくしてまた、紅魔館に寒いながらも暖かい季節が訪れるのだった。 ――ほんの少しだけの、不安も孕んだまま。 Megalith 2011/12/03 ─────────────────────────────────────────────────────────── 静かに雪が降り積もる。積もってなお、しんしんと降り続いている。 レミリアはそれをしばらく眺めて、一つため息をついた。 「失礼いたします、お嬢様」 「ん」 背後からかかった声に軽く頷きを返して、静かに振り返る。 「準備は出来た?」 「はい」 レミリアは再び頷いた。紅いケープを羽織った、クリスマス仕様のドレスを着ている。 「そろそろお客様もいらっしゃっています」 「咲夜がここってことは、今は?」 「ええ、彼にお任せしております」 では、交代しに行くわ、とレミリアは告げた。賓客は主自らが迎えるのが筋と言うもの。 それを彼に任せている、ということは、ある一つのことも示しているのだが、それに関してはレミリアも咲夜も口にしなかった。 「……少しは立ち直ってくれたようね」 「……そのようにお見受けしますが」 「随分悩んでいたもの……まあ、今日その話はいいわね。行ってくるわ」 「はい」 咲夜に手を振って戻るように促し、レミリアはホールの方へと向かった。 「ああ、レミリアさん」 玄関ホールでは、来客を迎えている彼の青年があった。妖精メイド達に声をかけ、一時的に場を任せた彼はレミリアの近くに寄ってくる。 「お疲れさまです」 「いえ、準備をしていただけ。客人は?」 「もうだいぶいらっしゃってます。ほとんど僕がご案内を」 「よろしい。では、後は私がやるわ。ホールの方で来客の相手をしていて」 「わかりました」 よろしくね、と言って、レミリアは彼を向かわせる。 「……ん、経過は良好ね」 だいぶ持ち直した、とその背中を見送りながら思う。 わかりきっていたこととは言え、やはり心配にはなるものだ――悪魔が心配というのも滑稽なものだが。 後でまたきちんと話をしよう。今日は多少忙しくなるはずだから。 そう、レミリアは新たにやってきた客人の気配に、軽快な動作で身を翻した。 かくして、粛々にはほど遠いパーティが始まった。 とにもかくにも、騒げればいい、というのがあるのは否めない。 それを誰も咎めない。幻想郷の宴とはそういうものである。 そんな中、ホストとして動き回っていたレミリアに、背後から聞き慣れた声がかかった。 「どうも」 「ああ、白澤か。いらっしゃい」 振り返ったレミリアは慧音に丁重な態度で迎えた。 一礼して、慧音はレミリアの隣にさりげなく立つ。何か会話をしたそうな気配だった。 「今、よろしいかな」 「ええ。どうしたの」 横に並んでいる慧音に、静かな声で問う。答えなどもうとっくに知っているのだが。 「例の件の連絡をしようと思って」 「……そう」 応えて、レミリアは視線だけで先を促した。 「……幸い、命は取り留めた。肺炎も併発して危険な状況だったようだが」 「そう……もう、伝えた?」 「いや、貴女に先に伝えておこうと思って」 慧音もまた、静かな声で応える。ふう、と深い息をついて、淡々と続ける。 「……真っ青な顔をしていたよ。流れ水を見て」 「そうでしょうね。私やフランでも、流れ水は厭うわ。ましてや、まだ慣れない身だもの」 「うん……皆は泳げないだけと思ったようだが」 「そこを伝えるかは任せる。私達の弱点はほら、稗田が残しているので十分わかるだろうし」 レミリアもまた、淡泊な声で告げた。別段隠すようなことでもない。 「ともかく、運んでくれて助かった。お礼を申し上げたい」 「それはいいわ。里の人間に危害を加えない、私達はその約定を守ったに過ぎないのだから」 レミリアは軽く首を振った。それは全くの事実だった。 だがそれが事実だとしても、一件についての彼の衝撃はかなりのものだっただろう。 数日前。雪が止んだ時を見計らってかの青年が買い物に出たときのことだった。 珍しく暖かい日でもあり、子供達も遊びに出ていたものが多かったという。 買い物の途中、店先で話していたとき。子供達が血相を変えて大人達を呼びに来た。 曰く、一人川に落ちたと。 一人に案内させ、他の子供達に慧音を呼びに行かせ、川に辿り着いて、ようやく彼は気が付いた。 水に触れられない、流れ水に近付くことが出来ない。 速く冷たい水流の中で溺れる子供に一切何も出来ず、慧音が来るまでを待つしかなかったのだ。 助け出された子供を永遠亭まで運ぶのを手伝い、荷物だけ受け取って帰ってきた。 事実だけを並べてしまえばたったこれだけのこと。 ただ、目の前で命が消えようとしているのを見てしまった、そしてそれに対して全くの無力であった自分を、彼がどう思ったのか、全てはしれない。 二人して、大きく息をついた。思っていることは違うが、何に対してなのかは同じである。 「随分憔悴していたようだったが」 「そこは大丈夫、何とか持ち直させたわ」 「……貴女がかな」 慧音の声色が少し優しくなり、レミリアの羽が少しだけ忙しなく羽ばたいた。顔も微かに紅くなっている。 「そこはいいでしょう、別に。まあけれど、いい転機にはなったわ」 「……妖である以上、いろいろなものは目にすることになるからな」 その呟きに、レミリアは羽をはためかせることで応えた。そんなものはわかっているのだ、きっと。 「……とにかく、今日は貴女も楽しんで行きなさい。蓬莱人も来ているのでしょう」 「ああ、うん、そうだな。失礼した」 「いろいろ気を回してくれたことは感謝している。だから、その分楽しんでもらえると嬉しいわ」 「では、そうさせていただこうかな」 慧音はそう相好を崩した。レミリアも頷き、微笑を浮かべて、会場の方に案内をする。 そして、ついとテラスの方に視線を向け、足をそちらに向かわせた。 テラスに出ると、また雪が降り始めていた。酔い醒ましのつもりだったが、いっぺんに気まで引き締まってしまいそうだった。 雪の白さに、数日前のことがふと記憶をかすめた。軽く額に手を当てる。 昔ならば、それこそ飛び込んででも何とかしようとしただろう。だが、あの一瞬、足が一歩も前に出なかった。 本能的に身が避けるとはこういうことか、と、妙な納得もしたものである。 助けたのは結局後に来た慧音で、その間彼は立ちすくむ以外何も出来なかった。 ふう、と息をつく。結局のところ、彼はその後を尋ねられなかった。経過も聞かず、送り届けた後に逃げ帰ってきた。 レミリアに話をしてもらえなければ、まだ落ち込んでいたのかもしれない。何とも弱い存在だ。 何が出来なくなろうと、誰を助けられなくなろうと、今の道を選んだということを忘れてはならないのだ。 その再確認はしかし、大事な人への想いの再確認でもある。レミリアが大事で、愛しくて、恋しくて、何よりも、何にも代え難くて―― 「あら、こんなところにいたのね」 その愛しい人の声に、我に返る。振り返れば、先程まで想っていたレミリア本人がそこに立っていた。 「レミリアさん」 「ゲスト達をあまり放っておくものではないけれど」 そう言いながら、雪を眺めている彼の隣に並ぶ。はあ、とその口から出る息は白かった。 「すみません、少し酔ったもので」 「まあ、いいわ。少しは休息も必要だもの」 特に咎めているわけではないようで、息が白く染まっているのを楽しむように、レミリアは微笑んだ。 しばらく黙って雪を眺めていたが、ふと、レミリアが口を開いた。 「……ね」 「はい」 「例の子供、命を取り留めたそうよ」 「……ああ、それは」 一つ大きく息を吐く。ほっとしたというのが正直な思いだった。 「……よかった」 「わざわざ白澤が知らせてくれたわ」 「後でお礼を言っておきます」 そうしなさい、というレミリアは、それきり何も言わずただ彼の隣に寄り添ってくれた。 静かな沈黙は、それでも不快なものでも気まずいものでもない。もう慣れ親しんだ、静かで大事な時間だった。 そう、もう慣れ親しみ始めているのだ。そしてそれはきっと、喜ばしいことだった。大事な人の側で、大事な人と過ごす時間が大切なのは――きっと何よりも幸せなこと。 自分の中にすっと下りてきた気持ちに頷いて、青年は箱を取り出す。そして、傍らの大事な恋人に声をかけた。 「レミリアさん」 「なに?」 尋ねかけたレミリアの首に、彼は腕を回して、何かを付ける。レミリアは二、三度目を瞬かせた後、楽しげに瞳を細めた。 「……珍しいわね、こんなシンプルなの」 首元に躍る、雪の結晶を象った金の飾りに指で触れて、レミリアは微笑む。 「今日のドレスについて聞いていまして。だとすると、こうシンプルな方がいいかと思ったのですよ」 「ん、いいわね、こういうのも。ただ一時、このときだけのためのもの」 「はい」 「気に入ったわ」 レミリアは上機嫌そうに頷いて、彼の好意に報いてくれた。 ただ今日のためだけに用意したものだったが、その贅沢をきっとレミリアは許してくれると思ったのだ。 「……一人で選んだの?」 「頑張りました」 「……嬉しいわ」 レミリアの頬は少し上気していた。嬉しさが伝わってきて、こちらも頬が緩む。 ただ、どうやら赤みを帯びているのはそれだけではなさそうだ。そっと触れれば、随分頬は冷たくなっている。 吸血鬼はこの程度で何ともなるわけではない。わかっているが、それでも。 「冷えてしまいます、そろそろ」 「ええ。見せびらかしにも行かなきゃ」 目の前で一つくるりと回ったレミリアに、そっと手を差し伸べる。 その手に手を重ねた彼女を、丁寧にエスコートする、その前に。 「……んっ」 軽く身を屈めて、触れる程度に口唇を重ねる。 「……いきましょう」 「……ええ」 頬を紅くしたまま、レミリアは彼の腕に手をかけた。そして、まだ賑やかなホールの方にゆっくりと歩き出す。 テラスの向こうでは、また静かに、雪が降り続いていた。 きっと、万の宝石でも足りない。 この想いを告げるにも、伝えるにも。 そして、この想いの永きを伝える、にも。 だから、今は、この口付け一つ。 それで、きっと十分すぎるのだ。 Megalith 2011/12/30 ─────────────────────────────────────────────────────────── どんよりと曇った日になっていた。午前中は晴れていたのにな、と、重くなってきた空を見て、美鈴は小さく呟いた。 奇妙に暖かい日だったから雨になるだろうか。いや、ぐっと気温も落ちてきたからきっと雪になるに違いない。 「冬妖怪さんがさぼってでもいたのかな」 少しだけ朝寝が過ぎたとか。誰かに聞かれれば貴女でもあるまいし、と言われそうなことを呟いて、美鈴は周囲をもう一度見回す。 そして、その瞳をすっと細めた。随分と荒れた気配が紅魔館に近付いてくる。 こんな日に紅魔館を攻めようとは――と、そこまで思って、その気配が慣れたものであることに細めた瞳を見開いた。 「え」 ずる、ずると重たい気配を持ったそれは、ゆっくりと門に近付いてきた。 やがて、気配だったそれは、荷物を肩から提げて、上着を適当に羽織った青年の姿として視界に入ってくる。 そして、彼は門前で顔を上げ、疲れた笑みを浮かべた。 「ああ、美鈴さん、ただいま戻りました」 「あ、お、おかえりなさい」 「すみません、ちょっと、荷物をお願いしても」 「は、はい」 そう応えた美鈴に荷物を渡すと、彼は身を引きずるように館の中に入っていった。 「……何があったのかな」 小さく呟いた美鈴は、荷物が僅かに濡れていることに、ようやく気が付いていた。 「一体、何があったの?」 館に帰ってきた青年に、咲夜は落ち着いた声をかけた。様子がおかしいことなど一目瞭然だった。 「ちょっと、いろいろと」 だが、彼はといえば、少し疲れたような、どこか焦燥した笑みで首を振るだけだった。 「すみませんが咲夜さん、お湯をいただいて良いですか。それと、後ほど紅茶をいただけると幸いなのですが」 「……その程度なら良いけれど」 咲夜は、僅かな驚きを押し殺した。彼が頼みごとをするのは非常に珍しい。 特にこういった、人を使う類のものは今まで本当になかったことだった。 「すみません、それではよろしくお願いします」 そう言いながら背を向けた彼に、微かな違和感を感じる。 疲れ切っているが、それだけではない何かがあるような。 去っていく彼を見ながら形の良い顎に手を当てた咲夜に、背後から声がかかった。 「咲夜さん」 「美鈴、門番は?」 「荷物置く間だけ任せてきました」 そう、荷物を担いだ美鈴が、ホールの真ん中に歩いてくる。 咲夜の側に近付きながら、自分の部屋の方に歩いていった彼の方を見やっていた。 「……怪我してるのかも、と思ったのですけど」 「やっぱり?」 「咲夜さんも思いました?」 二人は顔を見合わせ、軽く頷く。今は何ともならない。ならば、できることだけをやっておこう。 「とりあえず、私は頼まれたから準備をしてくるわ」 「お嬢様への報告はどうしましょう」 「それも私がやっておくわ。貴女は荷物をお願い。厨房に置いてくればいいから」 「了解しました。後で、お願いしますね」 美鈴が踵を返す前に、咲夜もその場から消えた。まずは各々、やるべきことを済ますために。 「……様子が変?」 「はい、里から帰ってから……」 報告に来た咲夜に、決済書類を机の脇に寄せて、レミリアは眉をひそめた。 「今日は特に仕事等はなかったはずだけど」 「買い出しに行くと言って。特に問題もなさそうだったのでそのまま送り出したのですが……」 「……そう、里に出たのね」 大きくため息をついた後、レミリアは座っていた椅子から降りる。 「咲夜、部屋に紅茶は?」 「今からです。そろそろ湯浴みから戻られる頃ですので」 「そう。じゃあ、準備が終わったら行くわ」 私の分もよろしく、と、レミリアはそれだけを告げて、椅子から立ち上がり、咲夜に下がるよう手振りで示した。 小半刻ほど適当に館の中を歩き回って時間を潰し、彼の部屋に向かう。 そして、彼の部屋近くで、妖精メイド達がさざめいているのを見つけた。 「どうしたの?」 「お、お嬢様! あの、その」 「その、えっと」 「落ち着きなさい。何があった?」 レミリアの言葉に、妖精メイド達は顔を見合わせ、そして、彼がワインの瓶とグラスを手にして部屋に入っていった、と答えた。 「ワインを?」 「は、はい、珍しかったのと、なんだかちょっと、怖くて。今メイド長にもお話ししたのですけど……」 「そう」 レミリアは頷き、メイド達に仕事に戻るように告げた。そして、恋人の部屋の前まで歩みを進める。 「咲夜」 部屋の前に立っている咲夜に、レミリアは声をかけ、軽く頷いた。 「お嬢様、如何致しましょう」 ティーセットを乗せたトレイを手にしたまま、咲夜は問いかける。 「それだけ中に置いておいて。後は私がどうにかするわ」 「かしこまりました」 「……二、いえ、三時間。それくらい経ったら、また呼ぶわ」 「はい」 一礼した咲夜にもう一度頷いて、レミリアは部屋のドアを開け、中に足を踏み入れた。 部屋の中は暗かった。奥のテーブルで、彼はワインをグラスに注いでいたところだったようで、その手が一瞬止まる。 「レミリアさん」 「帰ってきた報告もせず、こんなところで飲んだくれてるなんてね」 「……すみません」 申し訳なさそうな彼は、どこか茫羊として見えた。目の前に急に現れたティーセットにも、それほど驚いていない。 レミリアは彼の向かいに座り、こちらもごく自然に、当たり前のように紅茶のカップを手に取った。 別に、一々報告をする必要など微塵もないのだ。けれども、いつもしていることをしなかった、その一点だけでも、不安定さが見て取れる。 「話しなさい」 その一言だけで良かった。彼はレミリアの命令に抗えない。そういうものだからだ。 レミリアは口を開き始める彼を見ながら、ワインは私も減らしておいた方がいいな、と、どこか遠く思っていた。 もう一つグラスを出し、それにワインを注ぎながら、彼はぽつりと呟いた。 「……子供が溺れました」 「うん」 「…………僕はただ見ているだけでした。それだけじゃない、本当はそこから逃げたいほどでした」 ボトルを机の上に置き、自分のグラスを揺らしながら彼は続ける。酔っているという自覚のある頭の裏側で、今日の光景を思い出していた。 「子供が走ってきて、川辺で遊んでいて、一人脚を滑らせて溺れたと告げてきて、助けに行ったつもりでした」 一息にワインを空け、そしてもう一度注ぐ。 それを、レミリアがどこか気遣わしそうな目で見ているのも理解していた。 少しだけペースを落として、大きく息を吐く。 「僕はただ、慧音さん達が来るまでそこにただ立っていることだけしか出来ませんでした。出来たのはせいぜい、助けられたその子を永遠亭まで運んだことくらいです」 走ってきた慧音は、立ちすくんでいる彼に驚き、ついで理解して自分で助けに行った。その頃には何人も来ていたが、彼はただ立ち尽くすしかできなかった。 その後、永遠亭まで運ぶ者に名乗りを上げ、妹紅に先導されて運んできた。その程度しかできることはなかった。 『大丈夫なのか』という妹紅に頷き、後事を終えて彼の買い物の荷物を持ってきてくれた慧音に礼を言って戻ってきたのだ。 「……何とも、情けない話です。僕は、僕が何なのか、忘れていたつもりではないのですが」 本当は最後に運ぶのさえ、他人に任せれば良かったのかもしれない。だが、焦燥感が彼にそうさせた。 結局、自分の思いさえ不明瞭なまま帰ってきて、今に至る。 「……見えていたわ」 「そう、なのでしょうね」 くいと、やや乱暴な手つきでグラスを傾けて、彼は微妙な表情をする。自分が何を言いたいのかさえよくわかっていない気分だった。 「……何とも持て余している感じです。僕がやはり吸血鬼なんだなと、そう実感したというか」 んー、と、声だけは気の抜けたような音を出して、彼は大きく息をついた。 「よくわからない、わからないんです」 それは人間と妖怪の狭間で揺れ動いているようなものにも思えた。自分でも掴みかねている、不思議な、奇妙な感覚だった。 「助けに行ったのは、約定からかしら」 「おそらくは。里では人に危害は加えぬ、ですから、大意では助けるという事にもかかるのでしょう」 「その辺りはここの判断によっても揺らぐところね。あえて揺らぎを作っておいたのだけれど」 悪魔はそういう揺らぎを突くものだから、と、レミリアは口元だけで微笑んだ。レミリアらしくない、あるいはらしい、静かな微笑みだった。 「…………揺らぎですか」 くい、とグラスを空けてしまう。ワインはもう残っていなかった。レミリアがちょくちょく飲んでいたのもある。 「僕自身が不安定なんでしょうかね」 「かもしれないわね。私にはそれはわからないけれども」 私は最初から吸血鬼だものね、とレミリアは薄く笑った。瞳の色だけは静かに、こちらを見据えたまま。 「人から吸血鬼になったのなんて、私は見るの初めてだもの。どういう風に貴方が揺らいで、どういう風に考え感じているのか、全てがわかるはずはないわ」 「それは、確かに」 同意して、少し冷めてしまった紅茶を口にする。レミリアの言葉はまさにその通りだった。彼自身の揺らぎはきっと、彼が完結させるものなのだろう。 レミリアもグラスを空にしてしまうと、静かな、穏やかとも言えるほど密かに口を開いた。 「……後悔してる?」 レミリアの問いかけは、いろいろなものを含んでいる。 子供を助けられなかったこと。その後の行動を取らざるを得なかったこと。引いては、そんな身体になってしまっていること。 「いいえ」 それに対する答えは、いつも一つだった。間違いなく、それだけは真正のものだった。 どれだけの痛みを被ろうと、矛盾に苦しもうと、それだけは決して変わらないものだった。 「いいえ、後悔はないのです。ただ、ああ、そうですね」 彼は自分の思いを言葉にしようとして、その適当な言葉が見つからないのを歯痒く感じていた。 「どうすれば良かったのか。どうすべきだったのか。自分の最善がわからず困っている気分なのでしょう」 苦い笑みが、口元に浮かぶ。自分を嘲る笑みだとわかっていても、それは止められない。 「あるいは見捨てれば良かったのか、自分を損ねてでも助けるべきだったのか。どちらも僕は選べなかったし選びませんでした。 妖怪らしくも人間らしくもない。何とも中途半端な状態な自分に――ああ、そうですね、憤っている、のかもしれません」 言葉にすれば、何ともすっきりしたものだった。たったこれだけのことで悩んでいたのかと、笑い出したくもなる気分だった。 そしておそらく、たったこれだけだからこそ、酷く悩むのだろう。 「単純なことだったのかもしれないですかね」 「単純なのは貴方自身なのかもしれないけれどね」 「手厳しい」 空になってしまったワインを退けて、少し冷めてしまった紅茶を口にする。 レミリアはその様子を見て、少し呆れたように、だが心配もしているように、囁くような声で告げた。 「背中」 「え」 「清水は身に毒よ。気が付いてないとでも?」 ばれましたか、と彼は小さく笑った。背中が雪解けの清流の水で、少し爛れていることをレミリアは知っているのだった。 本来は爛れるだけではないはずなのだが、とりあえず彼の身にはそういう結果として残った。 「貴方には、いろいろと不利なものだけを抱え込ませてしまっているわね」 「お気になさらず、レミリアさん、僕の選んだ道です」 「……そうね」 レミリアは紅い瞳を細めた。疑っているわけではあるまい。それでも、いろいろと揺らぐ彼を不安にも思えるのだろう。 だから。 「レミリアさん、僕は後悔しません」 誓いにも等しい言葉を口にする。 「今回のようにこれでよかったのかと悩んだり迷ったりすることもあるでしょう。時には、間違うこともあるかもしれません。でも」 立ち上がり、レミリアの瞳をまっすぐに見つめて、言葉を紡ぐ。 「僕は、その全てを後悔しない。間違った選択でも、悩むことでも、迷うことでも。自分の選んだものと胸を張っていきます。 そして、どこまでも貴女の側に。ずっとずっと、この身が尽きるまで、貴女の側にいます」 「……随分熱烈ね」 「そうでしょうか」 ふわ、と微笑んだレミリアに安堵の気配が見えて、彼も相好を崩す。言ってしまえば、随分と思いは楽になった。 これからも悩むだろう、迷うだろう。けれどもそれがまあ、人生と言うものではないだろうか。 もう人ではない身ではあるが、それでも、生きると言うことを精一杯楽しみ、後悔せずにいこう。 まだ、この一件について自分の中に迷うものはある。割り切れていないものも多い。今しばらくは悩み続けるのだろう。 それでもただ一点だけ、レミリアを愛しているという一点だけは、何があろうと揺るがない。それを再び、自身の中で確認できた。 「けれども、折角こんな楽しい生き方をいただいたのです。目一杯、楽しんでいきたいと思うのです。出来ることなら、貴女と」 「そう言ってもらえるなら、私もこうして話をしにきた甲斐があるわね」 応えながら、レミリアは彼を座らせ、その膝の上に乗った。 「うん、ここに入ってきたときとは違う、いい表情ね。まだいろいろありそうだけど」 「ご心配をおかけしました」 「わかればよろしい」 偉そうなレミリアの言葉にも余裕がある。随分と心配をかけたものだ、と、申し訳ない思いになった。 それとともに、不意に、いろいろと欲しくなる。何だかんだで消耗した心身は、レミリアを強く求めていた。 それを知らせるために、つっとレミリアの首筋に指を滑らせる。くすぐったそうに首をすくめた彼女に、小さく囁いた。 「少しだけ、いいですか」 「貴方が求めるなら、私はいくらでもあげるといつも言ってるつもりだけど?」 ああ、そうでした、と笑って、彼はレミリアを抱き寄せる。 そして、貪るように、その首筋に牙を突き立てた。荒々しく、全てを奪うように。 かくして数時間後。 「お嬢様」 「ええ、咲夜、ご苦労様」 ティーテーブルの上を整える咲夜を見ながら、レミリアは頬杖を突く。だがその瞳は楽しそうで、随分と生き生きとして見えた。 「……一応立ち直ったわ」 「左様ですか」 咲夜はそう頷く。レミリアも頷き返して、ベッドの上でだらしなく眠っている青年に視線を向けた。 「少し休めば、大体もと通りになるでしょう。もう少し、時間はかかるでしょうけれど」 「はい」 「心配はないから、と今回の一件を知る者に伝えておきなさい。私も、もう少ししたら戻るわ」 「かしこまりました」 咲夜は一つ頭を下げて、その場から姿を消す。その空間をしばし眺めた後、レミリアは彼の側に腰掛けた。 「……ご苦労さま」 レミリアには全て見えていた。余計な運命は見ないことにしているが、見えるものは多い。彼のこのこともその一つ。 そうなのだ。これは、これから起こるであろう、人を辞めた彼への試練の、些細な一つにすぎないことも知っていたのだ。 その一つ一つで、彼は選択と決断を迫られる。もしかすると彼は延々と、人と妖の間に揺れ続けるのかもしれない。 レミリアはそれでもいいと思っている。人であれとレミリアが願い、共にあれと望んだのだ。それくらいの揺らぎは許容すべきだった。 「……それで貴方には負担をかけるだろうけれど」 その辺りは、レミリアには推し量るのは難しい。レミリアはあくまで吸血鬼であり、人間的な感性の全ては、きっとわからない。 今回のことも、ほんの僅かなことにも思えるし、実際些細なことなのだろう。 けれどもこれは、大事なことだったのだ。彼とレミリアのこれからを、他所うなりとも左右することだった。 彼がどの道を選ぶのか、レミリアは決めることも強制することも出来ない。もしそれが、離れていくことだとしても。 だから、側にいてくれると言ってくれて、何よりも嬉しかったのだ。 「私のエゴだけれど」 悪魔らしいと言えばそうかもしれない。けれども、何を犠牲にしてでも、側にいてくれるという決意をしてくれるのを、レミリアはどこかで望んでいたのだ。 そして、彼はそれに応えてくれて、これからも側にいてくれる。 それだけで、もしかすると十分なのかもしれないが、もっとと求めるのは――間違ってはいないだろう。 けれども、今はとりあえず。 「……ありがとう。お疲れさま」 レミリアはそれだけを告げて、彼の額に口付けた。 Megalith 2012/02/09 ─────────────────────────────────────────────────────────── チョコレートを作ろうと思っていたのだ。 この時期は八雲からチョコレートやカカオが入ってくるし、後は何とか工面すれば手に入らないこともない。 とはいえ、だ。レミリアは目の前のボールに入っているものを眺め、首を傾げて咲夜に尋ねた。 「咲夜、これ何」 「生クリームですわ。今年は生チョコなど如何かと思いまして」 「……うん、まあ、何でもいいんだけど。どうしてもう用意してあるの」 「何事も準備が肝心と申します――後は、ちょっとしたタイミングですわ」 どこか楽しそうな咲夜の言葉に、少し胡乱げな視線を向けて、レミリアはため息をついた。 「まあ、それはおいおい聞きましょうか。とりあえず、咲夜、手伝ってちょうだい」 「かしこまりました。ところでお嬢様」 エプロンをレミリアに着けながら、咲夜は問いを返す。 「今日はおひとりで?」 「ん、まあ、ね。向こうには蝙蝠つけてるから、心配はないわよ」 「はい」 ぱた、ぱた、と照れを隠すような羽の動きに、どういう心理なのか悟った咲夜はそれ以上尋ねなかった。 「きー」 「あら」 「こんにちは」 図書館に入ってきた蝙蝠と、それを従えた青年の姿に、パチュリーは一度だけ視線を上げた。 正確には、従えられているのは青年の方なのだろうが。 「レミィは?」 「厨房です。僕は追い出されてしまいまして」 「あら、そう。そうね、今年もそんな時期か」 「そんな時期なのです」 パチュリーは軽く頷きだけを返して書物に視線を戻した。 いつもの光景に特にコメントすることもなく、彼は蝙蝠を手に乗せて一つ頭を撫でると、机の上にそっと置く。 「きー?」 「本を取ってきますので」 わかった、と答えるように一つ羽を羽ばたかせ、蝙蝠は大人しくテーブルの上に座る。 それを優しい目で見やって、彼はパチュリーに声をかけた。 「それでは、本をお借りします」 「ええ。貴方に丁度いいのをいくつか小悪魔に見繕わせてるから声かけてあげてちょうだい。向こうの棚の方で整理してるはずだから」 「ありがとうございます」 一礼した彼は蝙蝠に、少し行ってきますね、と声をかけ、本棚の森の中に入っていく。 それを見やりながら、きゅー、と小さく蝙蝠は鳴いた。器用に机の上に座っている。 追いかけていきたいが、待てと言われた以上待ってやっている、という態度だった。本体同様、中々不遜な態度である。 だが、不遜ながらも視線は彼の行った方向を見つめている。それに対して、パチュリーは軽く呆れたような息を付いた。 「貴女も過保護よねえ」 「きー、きー」 そんなんじゃない、と抗議するような蝙蝠の鳴き声を、はいはい、と適当にあしらって、パチュリーは読書の続きに入ることにした。 「……側にいないと意味はないけど……まあいいか」 「お嬢様?」 「ううん、こっちのこと。咲夜、これからは?」 生チョコだけでは味気ないからと、簡単なケーキにアレンジしている途中であった。 実際、生チョコ自体がすぐに出来てしまうもので、レミリアが満足しなかったのも大きい。 「生地を作ってしまえば、後は焼いてデコレーションですね」 「よし、作ってしまいましょう」 レミリアは頷いて、咲夜に指示をさせながら調理を進めた。その途中。 「……ん」 「どうなさいました?」 「…………ううん、何でもない」 微かに紅い憮然とした顔で、羽を羽ばたかせながらレミリアは手を動かす。 たまに、びく、と羽を動かすのを不思議に思いながらも、咲夜はレミリアの手伝いを完璧にこなしていた。 程なく彼は小悪魔と戻ってきて、パチュリーの向かいの椅子を借りて、持ってきた本を開いた。 「きゅ、きゅー」 「はい」 帰ってくるなり、待っていたように手に乗ってきた蝙蝠の求めに、彼はその頭を撫でる。 「可愛らしいですね、お嬢様ですか?」 「レミィの蝙蝠ね。それでも彼と同等以上の魔力はあるけど」 パチュリーは小悪魔に紅茶を求めつつ応えていた。それを聞きながら、彼は手元の蝙蝠がすりよるに任せる。 「まったく、ここは図書館だという自覚はあるかしら」 「一応」 「ならいいのだけど」 パチュリーは彼の方を向きもせずにそう呟いて、小悪魔が紅茶を注いだ手元のカップを手に取った。 ここに来たときから予測を付けていたような声でもあった。 彼の方の読書は遅々として進んでいない。蝙蝠がかまってかまってと催促し、それに一々彼が応じているからだ。 勿論、彼も嫌々ながら付き合っているのではなく、むしろ楽しんで蝙蝠を愛でているのだから何の問題もないのだが。 彼に蝙蝠が付いているのは、ひとえにレミリアが彼を心配してのことに他ならない。 ならないはず、なのだが、どうもこの蝙蝠はそれを幸いとして彼に甘えまくっているようにしか見えなかった。 きゅー、と鳴きながら、蝙蝠は彼の手にすりすりと頬を寄せている。 その表情は何とも幸せそうで、少し微笑みを浮かべたまま彼はその喉元を撫でてやっていた。 「仲が良さそうで何よりね」 「可愛いですよ」 「その可愛がりようを見てたら十分伝わるわ」 パチュリーの声には呆れが混じっている。彼にもそれは十分にわかっていた。 だが、こうして可愛らしく寄ってこられると、どうしても愛でたくなるもので。 「……それはレミィ自身だっていうこともわかってる?」 「え? ええ」 蝙蝠と揃って小首を傾げた後、彼はあっさり頷いた。 「レミリアさんの使い魔であり、レミリアさんの一部でもある、と。会話も出来なくないけれど、館でそれは必要ないからと聞いてますが」 「……それがわかっていればいいわ」 パチュリーが言わんとするところはわからなくはなかった。 おそらく、この子には幾分か感覚も共有されているのだろうこと、くらい。 「……それでも、可愛いから仕方ないのですよ」 再び頭をなでると、甘えたような、きー、という声が返ってきた。 「さて、出来上がりです、お嬢様。……大丈夫ですか?」 「ええ。とりあえず、これでいいのよね」 「はい、十分すぎるものと思います」 若干前衛的にチョコが刺さっているところもあるが、基本的なガナッシュケーキの体裁は取っている。 生チョコはトッピングと、横に茶請けのように出来るよう二つに分けていた。そちらの方が良いのではという咲夜の進言に基づいている。 それは満足だった。問題はそこではなく。 「じゃあ、咲夜、これ運んでおいて。私は彼とパチェ達を呼んでくるから。フランや美鈴も呼んでおいて」 「かしこまりました」 「じゃあ、行ってくる」 言いながら、レミリアはほとんど駆け出すように厨房を後にした。 残された咲夜が怪訝そうな顔をしていたのも気が付いていたが、それに対して説明はしなかった。 咲夜ならばいずれ気が付くだろうし――こんなこと、口が裂けても言えるものか。 そして、レミリアは図書館に着くと、盛大に扉を押し開いた。 大きな音と共に、図書館の扉が壊されんばかりの勢いで開いた。 蝶番が少し悲鳴を上げたが、十分強固な作りな作りのため、悲鳴を上げるだけにとどまった。 これが館の別の部屋などであったら、壁ごと扉が粉砕されていたところだっただろう。 「何してるのよーっ!!」 「ああ、こんばんは、レミリアさん」 「図書館では静かにね、レミィ」 落ち着いた二人とは対照的に、レミリアは大きく肩を上下させている。 そして、彼の手元にいる蝙蝠に向かって、軽く手招いた。 その仕草を受けて、蝙蝠は彼の顔とレミリアを交互に見る。 やがて、ぴー、と彼に向かって一つ甘えた声で鳴くと、レミリアの元へ飛んでいき、彼女の羽と一体化した。 「まったく」 「それはこちらの台詞よ、レミィ」 図書館であまりいちゃつかないでちょうだい、と、パチュリーは甘くない紅茶を飲み干してため息混じりに告げた。 「そんなつもりはないわよ」 「そんなつもりではないのですけどね」 「ハモらなくていいから」 はあ、とパチュリーは緩く首を振る。どこか諦めきった様子にレミリアは不満げな気配を見せたが、言葉にしては何も言わなかった。 「ところで、お嬢様はどうしてこちらに?」 「出来上がったから呼びにきたの」 小悪魔の問いにレミリアは簡潔に答えだけを述べた。彼とパチュリーは軽く頷いて立ち上がる。 「意外に時間がかからなかったわね」 「咲夜がいたからね。ということで、三人ともティールームに移動。もうみんな集まる頃よ」 「了解しました」 「はーい! あ、ではこちらの本は持って行きますね」 小悪魔が彼とパチュリーが積んであった本を手にした。それを見て、青年は、ああ、と声を上げた 「小悪魔さん、僕のは自分で」 「いいんですか?」 「自分で読む分くらいは」 「いいわ、小悪魔。渡しておいて」 レミリアの言葉に頷いて、小悪魔から本を受け取る。レミリアとパチュリーが、やれやれと言うような表情を交わした。 「まだ人を使うのは慣れないようね」 「まだ、中々」 「まあ、それもおいおいでしょう。レミィ」 「はいはい、焦らないわ。さ、行きましょう」 そうして、四人は図書館を後にする。 かくして、一同でささやかにチョコパーティをした後、レミリアと彼はレミリアの部屋に戻ってきていた。 前々から一緒に休むことが多かった二人ではあるが、もう彼の部屋のものはほとんどこの部屋に移してある。 というより、部屋自体も隣に移してしまった。ほぼ書斎のような扱いである。 そして今、ベッドに横になってレミリアを見上げながら、彼は改めて感想を述べた。 「美味しかったですよ。ちょうどよい口当たりでしたし、甘すぎず苦すぎず、でした。読書もしたところでしたから丁度良かった」 「……読書はあまりはかどってはなかったみたいだけど?」 「まあ、それはそれで、と」 じと目で上に乗っているレミリアに見下ろされながら、彼は困ったように微笑う。 この体勢になった原因は、ベッドに腰掛けた瞬間押し倒された、ただそれだけなのだが。 「それに、あれが私と感覚共有させていたことも知ってたでしょう。なのに、あんな……」 レミリアの頬が、微かに朱を帯びた。可愛いな、と思いつつも、口に出せば怒るのも目に見えている。 第一、あれは甘えてきたのは向こうからだから、不可抗力であるとも思うのだが。 「ついつい」 「つい、じゃないわよ」 むう、とむくれて、レミリアは彼の頬を引っ張った。 「いたいいたい、痛いですって」 「少しは反省しなさい」 ため息混じりで落とされた言葉に頷きつつ、ふと、彼も言葉を口に上らせる。 「ところで、レミリアさん」 「なに?」 「あの子が僕に随分甘えてくれていたのは、どういうことなのでしょう?」 意地悪な聞き方かな、と思わなくもなかった。 あの蝙蝠がレミリア自身だとするならば、あれはレミリアが甘えてきてくれていたのと同義である。 その言葉に、息をのんだようにレミリアは黙ると、視線を彷徨わせはじめた。 「……もしかして、本当に?」 「………………知らない」 ぷい、とレミリアはそっぽを向いてしまった。これは本格的に機嫌を損ねただろうか。どう機嫌を直すかな、と考えたのも一瞬だけだった。 不意に、レミリアがこちらに身体を倒してきたからだった。表情を見せないまま、彼の胸元に身体を近付ける。そして。 「…………きゅー……」 レミリアは小さく、耳に届くかどうかわからぬほどの小さい声でそう鳴くと、彼にすり寄ってきた。 耳は紅い。顔もきっと真っ赤なのだろう。照れながらも、彼の服をきゅっと握って寄り添っている。 笑みを浮かべ、幸せな気分で、彼はレミリアを抱きしめた。 「可愛いですよ」 「……うるさい」 照れたような憎まれ口を嬉しく思いながら、髪に指を絡ませる。 抵抗することもなく、むしろさらに抱きついてくるレミリアを抱き返して、指を髪から背中に回す。 「……ありがとうございます」 「…………どういたしまして」 感謝の言葉はいろいろなものに対して。レミリアもそれをわかっていて、だから返すのは一言だけだった。 「ね」 「はい」 レミリアが顔を上げ、口唇に指を滑らせたのを見て、その求めに過不足なく応じる。 「ん、ん……」 口付けは甘かった。今日食べたチョコと同じか、あるいはそれ以上の。 口唇を舌で軽く舐めて、伺うように瞳をのぞき込む。薄く開かれたそれは微かに潤んでいて、ぞくりとしたものを背筋に感じた。 小さく開いた口唇を舌で割り開いて、口の中に潜り込ませる。そのまま舌を絡ませて、思うがままに求めて。 「んん、は、っ、んん」 空気を求めるように一度離した口唇から、ちろりと小さく舌がのぞいたのにまた煽られて、再び口唇を重ねる。 今度は、歯列をなぞり、牙を舐める。牙に舌が触れたとき、レミリアの体が小さく震えた。 それを楽しみながら、しばらく口付けを続ける。再び舌を絡めて、蕩けるような思いで、お互いを求め続けた。 「ん、ああ、は、ぁ……」 しばらくの口付けの後、レミリアの頬を上気させて息を荒げていた。 それがまた可愛らしくて、次は軽く額に口付ける。それを少しぼうっとした様子で受け入れて、レミリアは甘くねだってきた。 「ね、もっと」 「はい」 貴女が望むだけ。そう応えて、再び口唇を奪った。今度は乱暴にせず、優しく、溶かすように。 レミリアも、彼の背に手を回す。きゅ、と少しだけ強く抱きしめてくる腕に、彼もまた、強く抱き返した。 甘い夜も、時間も、まだこれから。 Megalith 2012/02/16 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「どうも、香霖さん」 「やあ。言われたものは調達しているよ」 ぱたん、と読んでいたらしい本を閉じて、霖之助は来訪した青年に応じた。 小さな箱が、カウンターの上に置かれている。それだろうな、と見当をつけつつ、彼は霖之助に近付いた。 「随分ご無理を言いました」 「いや、いいさ。あらためてくれないか」 頷いて、箱を開ける。紅い光が、箱の中から差したような錯覚にとらわれて、彼は満足げに笑った。 光の正体は紅い宝玉だった。鮮血で染め上げたような、見事な、だが透き通ったブラッディレッドの宝石。ピジョンブラッド、というものだったか。 「うん、いいものですね」 「細工はどうするんだい?」 霖之助の問いに、彼は宝玉を眺め透かしたまま応える。 「里の細工師に頼もうかと」 「金属の手配も大変だったろう」 「いろいろと伝手は。それにまあ、費用は範囲内に収まりましたから」 彼は大事そうに懐に宝玉を収めると、霖之助に向き直った。 「金額は足りていますか」 「ああ。まあ、もう少し色を付けてもらっても良いかとも思ったんだけどね」 「それは今度こちらで買い物するときとしましょう」 霖之助の軽口に、彼はそう笑って返した。 次に向かった先は里である。 「こんにちは」 「おお、おお、これは、よくいらっしゃいました」 老年の細工師が出迎えてくれた。差し出されたその少し皺の寄った手を握り返して、彼は笑う。 「お元気ですか」 「ええ、それはもう。どうなさいましたか」 「一つ、今日はお願いがありまして」 この細工師とは顔見知りだった。まだ人間だった頃に仕事で顔を合わせ、人を辞めてからも作業場の修繕で話す機会があった。 そして、その細工を見せてもらって彼は子供のように楽しんだのだった。むろんそのときは軽い砕けた口調だった。 今こうした口調なのは、彼が客であること、そして妖であることに相違ならないだろう。何より、彼の素性はこの里では有名だ。 「何でございましょう」 細工師はもうすでに予見しているような声だった。その予見に、彼は過不足なく応える。 「こちらで、作っていただきたいものがあって」 そう、差し出したのは稀金属と、香霖堂で手にした紅い宝石だった。どちらも、どこに出しても恥ずかしくないものだと思っている。 金属の方は加工が難しいらしいが、変なものでもここの者達は皆慣れているらしい。そういうことを、前に聞いた。 この金属にしても、きちんと手順を踏めばそう加工には手間取らないはずだった。 「これは……」 「僕に用意できるものはこれだけです」 「……わかりました」 細工師はじっとその二つを見つめていた。どんな細工にするのか、彼の中ではイメージが出来始めているのかもしれない。 イメージの海に細工師が沈む前に、彼は肩を叩いてこちらに注意を向けさせた。 「先にお渡ししておきます」 かちゃり、と音とたてて、彼は袋を細工師に渡した。細工師は中をあらためる。そして、軽く頷いた。 「足りますか」 「十分でございます。これは、ご婦人に」 「何よりも大切な方に」 「かしこまりました」 余計なことは口にしなかった。どこまでも職人気質の者で、だからこそ彼はこの細工師を選んだのだ。 「これだけ、日をいただけますか」 「構いません」 「ではこの日に……ああ、そういえば、この日は最近流行りだした行事の日ですな」 細工師は暦表を指でなぞりながら呟いた。 「ああ、言われれば。では、その日に合わせていただいて良いですか」 「十分でございます。何か細工に注文がございましたら承りますが」 「そう、ですね」 一つ二つ、彼は注文を付けた。かしこまりました、とだけ細工師は応えた。 外に出たときは、日が傾き始めていた。早めに帰らないとレミリアが起きてしまうかもしれない。 「あら、里に出ていたのね」 声に振り向くと、咲夜がそこに立っていた。荷物を持っているところを見ると、買い物の途中だったらしい。 「ああ、咲夜さん。買い物でしたか」 「ええ。今日は一日館にいるものと思っていたけど」 「ちょっといろいろと」 彼は曖昧に笑った。咲夜は少し探るような瞳で彼を眺めたが、すぐに合点が行ったように微笑む。 「お嬢様に?」 「……僕は隠し事さえさせてもらえませんか」 「わかりやす過ぎるのよ。もう少し腹芸を覚えないと筒抜けよ?」 いやはや、と彼は頭をかいた。どうしてもこう、館の者には隠し事が出来ない。 それでも、これの目的までは気が付かれていないはずだ。丁度、カムフラージュになるものもあることだ。 「お菓子も一緒に作りますかねえ」 「開き直るのも大事ね」 「まだ買い物はありますか?」 「そうね、ついでにいろいろ見ていくのもいいわ」 例の行事のもの、と咲夜は判断したようだった。 会話が最小限に済むのは有り難い。こうした友人関係というのは貴重なものだ。 冬の空はまだ厚い雲がある。もうじきまた雪が降ってくるのかもしれない。 「雪が降り出す前には終わらせてしまいたいですね」 「そうね、私はともかく貴方は大変だものね」 「雪が溶けたら大惨事です。またレミリアさんにも怒られます」 咲夜はくすくすと笑った。その様子を想像したようであった。 「では、お叱りを受けないように急いでしまわないとね」 「まったくです」 彼は肩をすくめた。怒った顔も可愛いのだが、そうとも言ってはいられない。 はあ、と白い息を吐き出して、彼は依頼したものの完成を思った。 かくして当日。菓子を作り上げて冷やす間に、彼は外に出てきた。 この日が雨だったらどうする気だったのか、と我ながら思うのだが、まあ降ってなかっただけよいとしよう。 雲は薄い。春が近付いてきているのだ。レミリアは今年もテラスで春に変わっていく幻想郷を楽しむのだろうか。 そう思いながら、店の戸をくぐる。細工師は既に待っていた。 「お待ちしておりました」 「こんにちは」 出来ましたか、とは聞かない。細工師に対して失礼とも思ったのだ。 「こちらになります」 小洒落た箱に、依頼物は入っていた。箱は、この店には不似合いな西洋風のものであった。 そっと箱を開き、中を確かめる。思わず、唸りともため息ともつかぬ声が出た。 「……素晴らしい」 「でしょう」 細工師は謙遜しなかった。笑んだ顔の皺が、その満足を表していた。 「箱も、随分気を遣っていただいたようで」 「なに、酒にもその酒に合う酒器がございましょう」 「なるほど」 彼は笑った。鷹揚にも見えたかもしれない。満足げにもう一度中身を見つめると、箱を閉じた。 「ありがとうございます。不足分は出ていませんか」 「問題ありません」 頷きを返す。足りなければ足りないと言っただろう。そういった信頼があった。 「お変わりになりましたな」 「変わりましたか、僕は」 「貴方様に限りませんよ。そういったものを頼まれるお客様というのは、どこか一つ越えたような顔をなさるものです」 細工師はゆったりと笑んでいた。そうかもしれない。自身の中で、一つの区切りと目したのは事実なのだ。 「少しは男を上げなければ、呆れられてしまうでしょうからね」 「確かに。女性というものは、常に厳しい目をお持ちですからな」 「頑張りたいところです」 細工師の冗談めいた口調に、彼は笑った。笑って、大事な人のことを思った。 早く渡したいものだ。ああだが、少しは雰囲気というものを考えなければならない。 そう思考を弄んで、彼は細工師に礼を言い、店を辞する。逸る気を抑えて、館への帰路を急いだ。 菓子自体の出来は悪くなかったはずだ。だが、如何せん上の空であったので、味はどうにもわからなかった。 レミリアやフランドール、パチュリーといった遠慮のない面々が、悪くない、と評したので、実際まずまずのものは出来ていたのだろう。 柄にもなく、緊張していたのは否定しない。何とも情けないことに、彼は緊張していたのだった。 「変ね、今日の貴方は」 「そんなに変ですか?」 「ええ、とても」 何かあったのかしら? と、レミリアは微笑う。彼は曖昧に微笑を返した。 レミリアの部屋のベッドに腰掛けている、いつもの状況。 いつもと同じなのに、今からのことを考えると緊張してしまう。懐の箱が、妙に存在感を主張していた。 息を一つ吐いて、心を落ち着ける。情けないことこの上ないが、それはそれで自分らしいのかもしれない。 そう思うと少しだけ気が楽になった。どのみち、格好をつけるのは似合わないのだ。 「レミリアさん」 「なに?」 意を決して、彼はそっと、膝の上のレミリアの手に箱を握らせた。 手のひらに収まってしまうほどのそれを見て、レミリアは目を瞬かせる。 しばらく見つめた後、彼を見上げた。瞳には、言いようのない光が揺れている。 「……開けても良いわね?」 「はい」 確認の途中から、もうレミリアは箱を開けにかかっていた。無論、それを咎めはしない。 箱の隙間から、紅い光が見えた。だがそれは、香霖堂で見たときよりも鋭利な、だがそのくせ柔らかみを帯びたものに変わっていた。 小さな羽をあしらった指輪に、紅い宝石が象嵌されている。文様は禍々しくも美しい。 いつか手直しすることまで考えられた、そんな細工だった。 幾つかだけ、注文を付けたのだ。それに過不足なく、細工師は応えてくれた。華美に走りすぎず、さりとて地味過ぎもせず。 「……いいものね」 「そう言っていただけると有り難く」 彼は微笑み、レミリアの両手を握った。 「サイズも合っているはずです。付けてみてもらって、いいですか」 「ええ」 レミリアは左手を差し出した。彼は指輪を台からはずすと、その薬指に填める。 すっと吸い込まれるように、その指輪はレミリアの指に収まった。 「……随分と上等なものを使ったわね」 「銀は痛みますからね。けれども、レミリアさんには銀色が似合うと思ったのです」 「……そうね」 レミリアは優しげに微笑み、その指をかざして見つめていた。 その様子を眺めて、彼は、一つ息を吸い込んで呼びかける。 「レミリアさん」 呼びかけに応えるように、レミリアは肩越しに振り返った。瞳は静かで穏やかで、紅いそれに、彼は何故か海を思った。 深呼吸を一つ。そして、一言だけ。何の衒いもない、この一言だけを。 「結婚してください、レミリアさん」 万感の想い、と表しては、語彙の乏しさを指摘されるだろう声だった。 どこまでも真剣で、想いに満ちていて。こちらを見つめる愛しい人の、その紅い瞳をじっと見つめたまま。 レミリアはしばらくじっと見つめ返してきて、そして、緩やかに微笑んだ。 「……その言葉だけは、受けておくわ」 そう応えて、自分の言葉を確認するように、瞳を閉じて一つ頷く。 「ええ、そうね。その約束だけは、先に受けてあげる」 「……ありがとうございます」 わかっている。正式に夫婦になるには、足りないものが多すぎる。 それでも、形式は時としてとても大事なのだ。その形式の一歩を彼は踏みだしたに過ぎない。 そしてレミリアは、それを受け、それに対して約束した。吸血鬼の約束は決して違えられることはない。 「絶対の約束、ですね、文字通り」 「ええ。約束できぬことを、吸血鬼は約したりはしないわ」 レミリアの瞳は一瞬だけ遠くを映した。それが遙か遠い、昔に仕えていた女性を思ってのことだったと知るのは随分後になる。 「ねえ」 「はい」 「愛してる」 レミリアは膝の上で体勢を変えると、彼と真正面から向き合い、その口唇を重ねた。 いつまでもどこか不慣れなその口付けを、レミリアは何度も繰り返す。 「貴方が欲しいわ」 「今日は、僕から差し上げる日のはずですが」 「だから、私が求めているの。貴方を頂戴。全部全部」 レミリアの口唇が再びこちらの口唇を塞ぎ、そして首筋に降りた。首筋に口唇を這わせて、レミリアは囁くように呟いた。 「血も、想いも、貴方自身も――全部、頂戴」 甘えきっているのだと、彼はようやく理解した。この瞬間まで、彼の脳細胞は変に痺れたままであったのだ。 「レミリアさんが望むなら、どこまででも」 けれども、それを理解した瞬間、彼の心は歓喜に包まれた。 「ええ、何であっても用意しましょう。僕が出来るだけのこと全部。全部差し上げます」 ぎゅっと抱きしめて、その想いを告げる。嬉しくて爆発してしまいそうだった。 誰より何より愛している人に、自分が伝えた分、あるいはそれ以上のものを返してもらったのだからなおさら。 「嬉しいです。嬉しいんです」 「ええ。でも、ちょっとだけ、緩めて」 血が飲めないわ、と甘く嘆じたレミリアに、彼が血を与えられるようになるまでには、少し時間が必要だった。 灯りに透かすようにして、レミリアが嬉しそうに指輪を眺めている。 「本当にいいものを作らせたわね」 「わかりますか」 「勿論。これくらいはね」 レミリアの声は軽快で、まるで空中で躍っているかのようだった。 きらきらと、レミリアの指に銀色の光が輝いている。時折紅い光も差す。 目を刺しそうなその光は、けれどもどこか暖かくて、誇らしくも思えた。 「細工師に会いたいわ」 レミリアの求めの意図は明確だった。このあたりは、やはり貴族的なものが前に出るのだろう。 「今度ご案内しましょう」 「そうして」 レミリアは微笑んだ。どうやら相当気に入ったらしい。それが嬉しくて、こちらの頬まで緩んだ。 「そうね、ついでに、散歩に出るのも良いわね」 「里にですか。では、いいカフェや茶処を探しておきましょう」 それを聞いて、レミリアの瞳が嬉しそうに輝いた。こうしたデートの約束というのは、そういえばあまりしたことがない。 「……約束」 「はい、約束です」 くすりと、笑みを交わしあう。吸血鬼の約束は絶対。こんな子供染みたものでさえも。わかっているからこそ、今二人は約束した。 しばらく、くすくすと笑った後、レミリアは彼の腕を引き寄せた。枕にしながら、少し眠たげに瞬きをする。 少し疲れさせたかな、というこちらの思いを読んだかのように、レミリアは甘えた声で彼に求めてきた。 「もう少し、眠らせて」 「はい」 胸にすり寄ってきたレミリアを、彼は優しく抱きしめる。 冬が終わる。新しい芽吹きの季節が訪れる。 丁度良い区切りになると思った。 新しく芽が出るように。新たな季節が訪れるように。 新たな約束を、貴女と契ろう。 Megalith 2012/03/17 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/tohopocketwarevo/pages/35.html
レミリア・スカーレット 入手方法 稼動42日目の『紅魔館シリーズ』より入手。 ステータス 体力 C 攻撃 A 命中 A 回避 A 霊力 65 霊集 45 速度 8 スペルカード 第二弾は稼動46日目、第三弾は稼動58日目。 ※Lv.1での能力です。 名前 MP HIT CRI 近 中 遠 追加効果 入手方法 LvUPによる成長値 神槍「スピア・ザ・グングニル」 38 0 10 0% 40% 120% 一、三 MP0~-1 CRI0~+3 咒弾「紅玉髄」 20 0 0 30% 70% 0% 一、三 なし 蝙蝠「ヴァンパイアスウープ」 36 5 0 40% 40% 40% ダメージの10%を吸収 一、二 MP0~+2 効果+1~+2 「デスティニーブレイカー」 18 -10 0 0% 60% 80% 二、四 HIT0~+2 紅符「不夜城レッド」 42 0 0 50% 100% 50% 二、四 なし 神鬼「レミリアストーカー」 74 -10 0 0% 160% 160% 三 HIT0~+1 CRI0~+3 「ブラッディパーティー」(U) 40 0 0 0% 200% 0% 3ターンの間、相手の霊力20P減少 四 MP0~+1 効果0~+1 ※ブラッディパーティー:レミリア+フラン 各距離の威力上昇は現在値の2~5%上昇なので割愛 スペルカード成長限界値 スペルカードがLv.10のときの最高値です。 赤い数値はスペカマスタリーシステムでは成長しないようです。 ※単位とLvUPでも成長しない能力値は省略。 名前 MP HIT CRI 近 中 遠 追加効果 神槍「スピア・ザ・グングニル」 29 - 37 - 58 181 - 咒弾「紅玉髄」 - - - 39 102 - - 蝙蝠「ヴァンパイアスウープ」 36 - - 58 58 58 28 「デスティニーブレイカー」 - 8 - - 89 120 - 紅符「不夜城レッド」 - - - 72 151 72 - 神鬼「レミリアストーカー」 - -1 27 - 244 244 - 「ブラッディパーティー」(U) 40 - - - 306 - 29 アシストアビリティ アビリティ名 効果 スカーレットフィールド 毎ターン霊力が(Lv)%回復する。(最大Lv.10) 夢境イベント イベント名 必要Lv(敵Lv) 必要キャラ 対戦キャラ 入手A P 攻略ポイント 永遠のイノチ 60 なし 藤原 妹紅 60 博麗の巫女のお仕事 120 博麗 霊夢 星熊 勇儀 120 私の妹がこんなに可愛いわけがない 260 パチュリー・ノーレッジ 十六夜 咲夜 フランドール・スカーレット+古明地こいし 260 参考 遠、中距離型、吸収技持ち。 遠、中どちらでも戦えるが、遠距離特化型のキャラに比べると火力が足りないため中距離配置が妥当か。 霊力不足になりがちなので、装備補正なりつけておけば便利。 吸収技はあるものの、ダメージが期待出来ず回復も更に期待出来ないので、使わなくてもいいだろう。 一撃離脱型に育てるには攻撃力も霊力も足りないので、オールラウンド育ててあればとりあえずは問題ない。 ちまちまとダメージを与える役割となるだろう。 アシストは毎ターン霊力回復。 霊集が少ないキャラにはありがたいアシストである 「補足?」 神鬼「レミリアストーカー」を使い遠距離に置いてるアタッカーが処理しきれない雑魚を殺すのもオススメ。 Lv10にし遠・中距離の%を210%近くに底上げ。 陰陽玉を装備して開幕霊力を75に、そうすると開幕にレミリアストーカーが撃てます。 位置は中距離に配置。相手の近距離・中距離が近にならない位置に配置すれば3人にダメを与えられる状態に。 Ph攻略のお供にでもどうぞ。
https://w.atwiki.jp/thpwiki/pages/237.html
レミリア(ブラッディカウンター) システム:ブラッディカウンター 100以上の回復を行った、もしくは吸血弾を装填した場合、ブラッディカウンターが1つ増える。 このカウンターの数によってスペカの性能が変化する。 基礎値 体力 830 移動 80 射角 5~85 基本ディレイ 530 弾1 判定 4 爆風 33 ダメージ 270 ディレイ 130 普通の単発威力弾 吸血弾を装填してこの弾を打った場合、威力220(固定)・ディレイ180に変更され、敵に当たった場合体力を220回復する。複数人に当たった場合、ダメージは全員に入るが、回復は1度のみ。 弾2 判定 8 爆風 47 ダメージ 140 ディレイ 170 普通の単発削岩弾 吸血弾を装填してこの弾を打った場合、威力140(固定)・ディレイ220に変更され、敵に当たった場合体力を140回復する。複数人に当たった場合、全員にダメージが入り、その人数分×140回復する。 スペルカード スペル名 神槍「ブラッディグングニール」 判定 3 爆風 下記参照 ダメージ 150 ディレイ 200 EXP 300/666 溜まっているブラッディカウンターによって下記の表のように削岩量が変化する。 このスペカを打った場合、ブラッディカウンターは半分になる(切り上げ) また、カウンターが4個以上の場合、着弾地点とその下で2つの爆発が発生する。 ブラッディカウンター 削岩量 当たった場合の追加効果 0~1 47 なし 2~3 52 なし 4~5 38 EXPを200増やし、カウンターを1つ増やす 6~7 43 自身の状態以上を全て回復する 8~9 48 自身の体力を99回復する 総合解説
https://w.atwiki.jp/aousagi/pages/915.html
レミリア・バンディ 性別 女 年齢 19歳 搭乗機 紅鈴 所属 民間の協力者 ICV 水橋かおり 「この私に当てようなんて、500年早いわよ」 「私、残酷でしてよ? 穿て、アルトネーゲル!」 「とっておきを見せてあげる。受けなさい、ファンタズム・ブリゲート!!」 紫の髪に紅い瞳を持ち、特機「紅鈴(スカーレット)」を操縦するパイロット。 元々は孤児だった以外は普通の少女だったが、かつて起こった戦いで紅鈴に乗ることになりそのまま終戦まで戦い抜いた。 グローリー・スターのデンゼル大尉とはその時に知り合い、戦友となり時々あったりしているらしい。 今回、バルゴラの評価試験の相手に選ばれたのもそのためであり、その最中時空転移、そして時空破壊に巻き込まれてしまう。 グローリー・スターのメンツとは比較的良好で、特にセツコとは同い年ということもあってか仲がいい。 反面、トビーとは相性が悪く、以前不覚をとったこともあってか頭が上がらない。 +その不覚とは・・・ 以前、カードの罰ゲームで、当時やっていたアニメ 『論理魔法少女ロジカル☆レミィ』 のコスプレをさせられ、あまつさえそれを写真などの画像データにとられてしまった。 レミリアは認めたくないようだが、デンゼルに対して父親的感覚を抱いているらしく、デンゼルにとっても娘的な感じであるようだ。 それ故デンゼルの死に際しては、それを実行したアサキムに対して並々ならぬ憎悪を抱き、それを諒や士朗に諌められることも。 また、ある人物に対して妙な感覚を覚えているようだが…? +癖? なお、時折諒の首筋にかぶりつく(歯は立てずに甘噛み程度)ことがあるが、これは彼女なりの愛情表現であって、別に殺意があるわけではないようだ。 彼女いわく、「諒の鼓動を聞いてると、なんか落ち着く」とのこと。 要は胸に抱きついて耳を当てるようなものである。何故首筋なのかは分からないが…。 +超重要なネタばれあり? 実は並行世界でのメルディアナ・バンディの従妹であり、「ありえたかもしれない可能性」の一つともいえる。 (なお、「この世界」ではメルディアナは既に鬼籍に入っており、アルヴィン達は存在しない。) そんな可能性が一つの世界に収束するのだから時空破壊は恐ろしい…。 +没セリフ等※ネタまみれ注意 「受けなさい! 神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」 「さあ、讃えなさい・・・! あの禍々しい紅い月を!!」 「さあ行くわよ! 極彩颱風(ごくさいタイフーン)!!」
https://w.atwiki.jp/chaos-touhou/pages/44.html
運命を操る吸血鬼「レミリア・スカーレット」 読み:うんめいをあやつるきゅうけつき「れみりあ・すかーれっと」 カテゴリー:Chara/女性 作品:紅魔編 属性:闇 ATK:4(+2) DEF:4(+2) 【登場】〔自分の 紅魔編 のキャラ1体を【裏】から【表】にする〕 [自動:パートナー][ターン1]このキャラがアタックキャラやガードキャラに選ばれた場合、ターン終了時まで、このキャラは攻撃力と耐久力が2上昇する。 Battle 〔パートナー:自分のバトルに参加していないキャラ1体を【表】から【裏】にする〕ターン終了時まで、このキャラは攻撃力と耐久力が2上昇する。【裏】にしたキャラが「フランドール・スカーレット」の場合、カード1枚を引く。この能力はバトルに参加していても発動できる。 やっぱり、人間って使えないわね illust:TOKIAME 紅魔-001 RR SP 収録:ブースターパック「OS:東方混沌符 -紅魔編-」 ブースターパック「OS:東方混沌符 -紅魔編-」で登場したレミリア・スカーレット。 パートナー時に発動する能力しか持っていないため、実質パートナー専用となる。 ターン1回、アタックキャラもしくはガードキャラに選んだ場合、攻撃力と耐久力が2上昇する効果と、バトルに参加していないキャラを表から裏にすることで攻撃力と耐久力を2上昇し、裏にしたキャラが「フランドール・スカーレット」なら、カードを一枚引くことが出来る効果を持つ。 1つめの効果は、このカードをLv1から実質8/8のキャラにする効果とも考えられる。 条件の緩い自己パンプ効果でありながらその上昇値は少なくないため、相手にとっては脅威となる。 2つめの効果は、ターン中何回でも発動できるものの、そのコストは決して軽くは無く、連発は常に即死の危険が伴う。しかし、「フランドール・スカーレット」を裏にすれば多少ディスアドバンテージを軽減できる。 銀のナイフ等で貫通を与えつつ、紅魔館の使用人「紅 美鈴」&「十六夜 咲夜」などでサイズ差をつけダメージレースに勝つ戦法を取るといいだろう。 参考 ネームが「レミリア・スカーレット」であるキャラ・エクストラ一覧 運命を操る程度の能力「レミリア・スカーレット」 運命を操る吸血鬼「レミリア・スカーレット」 紅魔館の主人「レミリア・スカーレット」 紅色の冥界「レミリア・スカーレット」 紅き月の下「博麗 霊夢」 「レミリア・スカーレット」 紅い悪魔「レミリア・スカーレット」 永遠の紅い幼き月「レミリア・スカーレット」 夢幻の紅魔「十六夜 咲夜」 「レミリア・スカーレット」 亡き王女の為の七重奏「レミリア・スカーレット」 ツェペシュの幼き末裔「レミリア・スカーレット」 スカーレット姉妹「レミリア・スカーレット」 「フランドール・スカーレット」 エリュシオンに血の雨「レミリア・スカーレット」 “異変解決”夢幻の紅魔「十六夜 咲夜」 「レミリア・スカーレット」 “異変解決”不夜城レッド「レミリア・スカーレット」 “異変解決”ナイトダンス「レミリア・スカーレット」 Final Stage「霧雨 魔理沙」 「レミリア・スカーレット」 東方紅魔郷 「レミリア・スカーレット」 東方紅魔郷 the Embodiment of Scarlet Devil. ネームが「フランドール・スカーレット」であるキャラ・エクストラ一覧 紅魔館の幽閉姫「フランドール・スカーレット」 破壊する吸血鬼「フランドール・スカーレット」 東方紅魔狂「フランドール・スカーレット」 悪魔の妹「フランドール・スカーレット」 メイド長と妹様「十六夜 咲夜」 「フランドール・スカーレット」 スカーレット姉妹「レミリア・スカーレット」 「フランドール・スカーレット」 クランベリートラップ「フランドール・スカーレット」 ありとあらゆるものを破壊する程度の能力「フランドール・スカーレット」 U.N.オーエンは彼女なのか?「フランドール・スカーレット」 Extra Stage「博麗 霊夢」 「フランドール・スカーレット」 東方紅魔郷 魔法少女達の百年祭「パチュリー・ノーレッジ」 「フランドール・スカーレット」 東方紅魔郷 「フランドール・スカーレット」 東方紅魔郷 the Embodiment of Scarlet Devil.
https://w.atwiki.jp/battler/pages/10491.html
「…ゴホン!よ、よく来たわね。私がこの紅魔館の主、レミリアよ。」 ブロリー(Megamari)「I am Broly…。」 「日本語でいいよ。」 ブロリー(Megamari)「ブロリーです…。」 ブロリー(Megamari)「レミリア、お前を血祭りにあげてやる…」 「お前が?この私を?クッ…ククッハハハハ!」 ブロリー(Megamari)「なんで笑っているんだぁ…?」 「ククッ、いやなあに、下等なクズが言うものだと思ってねぇ…。」 カカロット(Megamari)「ブロリークズだってwwwははは(ry うわっ!(0/5900)」 ブロリー(Megamari)「俺がクズだとォ!!」 「いいわ、お前の言う通り血塗れになってやるよ。ただし… お前の血で、だ…。来い!」 ブロリー(Megamari)「クズがぁ…お前だけは簡単には死なさんぞ…。」 ※この後レミリア(Megamari)はブロリー(Megamari)にケチョンケチョンにされます 「あーーもうっ!!何よアイツ!全然効かないじゃない!!」 ベジータ(Megamari)「逃げるんだぁ…勝てるわけがないYO…!」 「逃げる?この私が!?私は吸血鬼よ!夜の女王なのよッ!」 ベジータ(Megamari)「ニャメロン!勝てるわけが無い!あいつは伝説の超サイヤ人なんだどー!」 「勝てないのはあんたがヘタレているからだろ。」 ベジータ(Megamari)「ダニィ!?」 「圧倒的な物量の前に跪きなさい!」←グミ撃ちフラグ パラガス「まさか…! やめろレミリア!落ち着けぇ!」 ベジータ(Megamari)「ニャメロン!それで勝ったためしがないんだどー! ニャメロン…!」 パラガス「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 ブロリー(Megamari)「レミリア。」 「はひっ! …な、何っ!?」 ブロリー(Megamari)「俺はクズじゃないです…。」 「そ、そうねっ!貴方は立派な悪魔よ。悪魔である私が保証するわ!」 「…もうブロリーとは戦いたくないわ…。」 Megamari仕様のレミリア・スカーレット。…なのだが、 どういうわけか相当生意気。 原作のレミリアでも多分ここまでウザくない。 ブロリー(Megamari)をクズ呼ばわりしたりするが、ブロリー(Megamari)に簡単に倒されてしまった。 …今はブロリーを恐れている…。 使用技 グミ撃ち ベジータ(Megamari)の最弱技。もちろんブロリー(Megamari)には効かない。 ベジータ(Megamari)「それで勝ったためしがないんだどー!」 神槍「スピア・ザ・グングニル」 レミリア(Megamari)得意の強力なスペル…なのだがブロリー(Megamari)の防御を破るほどの火力は無い。 自称 夜の女王 超エリート吸血鬼 marinonet.などでの能力 31/8/17/44 割と強い。さすが6面ボス。だが、まだブロリー(Megamari)には及ばない…。 バトロイクエストなどでの能力。 HP:10000 攻撃力:B 防御力:B 素早さ:SS 賢さ:SS 気力:D ブロリー(Megamari)にケチョンケチョンにされているせいで気づきにくいが、攻撃性能と防御力以外は高め。やられてもしばらくするとHP半分で復活するのも強みだ。 しかしブロリー(Megamari)にダメージを与えるほどの火力は無い。魔法でも覚えればきっとブロリー(Megamari)に対抗できるだろう。 …現在攻撃力と気力を上げるために修行中…。 台詞 攻撃:圧倒的な物量に跪きなさい!(%tekiにグミ撃ち) 回避:見せてやるわ…超エリート吸血鬼の圧倒的パワーを! 命中:はひっ! …な、何っ!? 会心:スペルカードを宣言するわ…。 神槍「スピア・ザ・グングニル」 勝利:私は吸血鬼よ!夜の女王なのよッ! 敗北:ブロリー(Megamari)「お前血祭りにあげてやる」 「うー… 逃走:あーーもうっ!!何よアイツ!全然効かないじゃない!! 相性 ◎パチュリー・ノーレッジ(Megamari)(パチェ、あんたのメカパチュリーでブロリー(Megamari)止めることはでk(ry パチュリー(Megamari)「無理よ」) ○レシラム?(あなたも…?ブロリー(Megamari)は暴れると手がつけられないからねぇ…。) △霧雨魔理沙(Megamari)(パチェに手を出したらあなた…分かっているわよね?) △アリス・マーガトロイド(Megamari)(同上) △レミリア・スカーレット(同じ私でもこちらの方が圧倒的に上だということを教えてやるわ) △ブロリー(Megamari)(あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、貴方は立派な悪魔よ) △吹雪の巫女(な、なんで弱そうなあんたがあの悪魔の姿になるのよ!?) ?カカロット(Megamari)(何?あの悪魔の仲間?) ?ベジータ(Megamari)(同上) ×ピッコロ(なんで私に仙豆よこさないのよ!) ×パラガス(何この気持ち悪い男) ×ピチュー?(あんた何(笑)付けてるのよッ! 吹雪「ハハハハハハッ!面白面白www」) ××銀髪猫74のところの一部のキャラ(よってたがって私をいじめて何が楽しいのよー!!!) ××福島正則(戦国BASARAでは雑魚キャラのくせにぃーーー!!!バカはあんたよ!ブロリーよりバカなんじゃないの!? パラガス「落ち着けぇ!」)
https://w.atwiki.jp/hi_remilia/pages/29.html
性能比較:萃香 萃香に全く勝てないので、どうにかして弱点を探ろうと調査したりプラクティスで色々実験した記録。極力主観を入れず事実のみを。 注:君はこのページの内容を真に受けてもいいし、受けなくてもいい。 萃香に全く勝てないので、どうにかして弱点を探ろうと調査したりプラクティスで色々実験した記録。極力事実をぼかし主観のみを。 注:このページはネタです。信じてもいいけど自慢げに言いふらすと馬鹿にされるか可哀そうな目で見られるので注意してください。 1.地上中距離 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_1.jpg) 中間距離でB→hjcからJAやJ2Aを当てるのは基本だ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_2_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_2_2.jpg) ! #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_3.jpg) 何ィィィィィ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_4.jpg) あ、あわてるな、jcすればグレイズできるッ この位置はD2AでめくれないからB→hjcを見せておこう #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_5.jpg) やはりかき消すか、だがjcすれば #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_6.jpg) グレイズが間に合わないだとッ? 萃香にはBを撃つ事すら許されないというのかッ! #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_7.jpg) ならばB→ウォークだッ ガードされたあとのリスクなど無視ィッ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_8.jpg) ってえええええ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica1_9.jpg) B→ウォークは射撃に対して強いが前ジャンプされると当たらない さらに読まれてればJ2Aをくらう。JAならダッシュが止められる 中距離はリスクがッ!高いッ!! 解説 弾にはヒット数やダメージのほかに、相殺回数と相殺強度が設定されています。 相殺強度が違う弾同士がぶつかると、弱い方が一方的にかき消されて終わります。 相殺強度が同じ弾同士がぶつかると相殺が起こります。 相殺が起こると相殺回数が1つ減り、0になると弾が消えます。 ただし、1F中にはどんなにたくさんの弾とぶつかっても1回分しか相殺回数が減りません。例えば相殺回数2の弾Aが1つと相殺回数1の弾Bが3つ同時に当たると、Aは残ってBは全部消えます。 萃香のBは3回の相殺回数を持っていますが、レミリアのBは出始めに固まっているため相殺が同時に起こってしまいます。そのため同時に撃つと萃香のBが突き抜けてきます。 この現象を知らなかった萃香使いは萃香に対する愛が足りません。愛は研究と置き換えても可。 さらにD2Aがぎりぎり当たる位置だとHJ出かかりの地上判定のうちにヒットするようです。発生直後から射撃無敵のウォークを出すと当たりません。。 レミリアのD2Aと萃香のBが同じタイミングで出されると距離によっては相打ちになります。このせいで萃香側はBを撃つリスクが軽減されます。ウォークには負けますが。 これによりレミリアは萃香に中距離での射撃戦でかなり不利になります。布石なしにD2AやB→ウォークを振るというハイリスクな行動を迫られますが、どちらも打撃に負けます。萃香側が9HJ→JAすると、D2Aを出していたら2300+復帰場所に花火もらいます。Bを撃っていたら互いに当たらず仕切りなおしになります。 歩きからウォークを出すには6→5→D→236+Bと入力しないといけないので面倒です。Dはレバー入力をリセットするために必要で、押さなければクレイドルが出てしまいます。素直にB→ウォークの方が楽ですが、霊力を2つ消費するのと当然発生が遅くなるのが問題です。 ちなみに、かなり近づけば萃香のB発生前にレミリアのBが当たりますが、萃香の遠Aが当たるので無意味です。遠距離ではレミリアのBが拡散するため萃香のBでも6Bでも相殺しきれません。ここまで離れてようやく射撃レミリア有利です。 2.空対空 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_1.jpg) 射撃が撃てないなら打撃で戦うまでだ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_2_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_2_2.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_2_3.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_2_4.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_2_5.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_2_6.jpg) バカなッ!JA、J6A、J8Aが簡単に潰されるだとッ! あわてるな、レミィにはJ2Aがある。さすがにこれは #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_3_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica2_3_2.jpg) 相打ちィッ! 地上でも空中でも萃香有利だというのかッ 解説 萃香のJAは出が早く持続が長く判定が(レミリアのジャンプ攻撃に比べて)強いので、打撃のぶつかり合いでは良くて相打ちです。ついでに当たるとそのまま2100以上持っていかれます。 そもそもレミリアのジャンプ攻撃はジャンプやダッシュの速さを考慮されているため、発生が早く判定が弱い傾向にあります。例えばJAは相手のジャンプ攻撃発生前にこちらの攻撃を当てる、という使い方をします。これが萃香のJAには機能しません。 JAが凶悪なキャラとして妖夢が知られています。妖夢のJAは上からかぶせるようにJ6Aを当てれば潰せますし(位置が低いと相打ちになります)、先端を当てるようにJAでも潰せます(めり込むと一方的に負けます)。ところが萃香のJAに対しては飛翔で上を取ってJ2A以外の手段で潰せません。弾幕の相性差でBでつぶすこともリスクが伴います。レミリアにとって萃香のJAは妖夢のJA以上に厄介な技です。 萃香にはさらに凶悪な判定を持って後ろに下がって隙も少ないというJ6Aが存在します。 持続が長いとは隙が長いことでもあるため、地上にいればウォークやクレイドルという選択肢を取れますし、スペルカードが確定する場面もあります。このため中距離では後退で様子見がもっとも安定する行動となります。大抵花火から攻められますが。 3.遠距離 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica3_1.jpg) い、いったん距離を置こう サーヴァントフライヤーから飛翔させて霊力を削れば優位に立てるはずだ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica3_2.jpg) 飛翔を使わずステージ上部へ移動したッ? 解説 スイコプター(8HJ→J8A)は飛翔せずにステージ上部へ移動することが出来ます。 飛翔を使わせて霊力を削り、落ちてきたところを狙うという戦術はこの存在により通用しません。ついでにはるか上空に行くので、横に飛翔されるとこちらの攻撃が一切当たりません。 ただし上昇中は無防備なので2Bなどを当てることは出来ます。また落下中も他のキャラに比べて霊力が多いだけで、普通の落下です。 4.レミリアの固め #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_1.jpg) 捕まえたッ!萃香完ッ! #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_2.jpg) あわてるな、回避結界を追いかければいいんだ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_3.jpg) このゲームは打撃を空中ガードした側が有利ッ それに空対空で勝ち目のない相手を追いかけるのはまずい #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_4.jpg) ならば回避結界を潰せッ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_5_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_5_2.jpg) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_5_3.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_5_4.jpg) ! #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_6.jpg) び、BがだめならCがある #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_7_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_7_2.jpg) →#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_7_3.jpg) ! #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_8.jpg) しゃ、射撃を撃たなければ回避結界されることもない #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_9_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_9_2.jpg) 屈ガードで固めて飛ぶのを見てから立ガードへ変更か だが相手も人間、全て正確にガードするなど不可能ッ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_10.jpg) D2Aが当たったッ 魂が敗北をみとめたッ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica4_11.jpg) 台風だとッ!? ヤツはこれを狙っていたのかッ!! 解説 レミリアの固めはほとんど霊力を削れないため、ほぼ回避結界が確定しています。 Bからダメージを取ろうと思ったら、回避結界を読んでウォークやクレイドル、ドラキュラをぶっぱしなければなりません(ちなみにスペルカード発動中は回避結界できないため、ドラキュラは遅めに出さないといけません)。読まれると当然悲惨なことになります。回避結界見てからミゼラブルフェイトくらいしか多用できる手段はないでしょう。 Cは回避結界どころか発生前に色々されます。グレイズ付き打撃がもっともやりやすいですが(同キャラ戦はC撃つと高い確率でウォークが飛んできます)、見てからジャンプですかしたりも出来ます。アリスには遠Aからフルコン入れられたりします。 J2BとJ2Cはほぼどんなタイミングで回避結界しても脱出できます。J2Cの終わり際のみ回避結界するとJ2C→JFD→J2Aに当たりますが。 つまりレミリアが固め中に霊力削りのために使える射撃は1つもありません。なお、回避結界させるなら出が早くその後の選択肢が多いBが最も安定します。 D2Aは早めに出すと回避結界確定ですが、着地ぎりぎりで出すと回避結界にAが刺さります。遠Aや3Aを出すと普通に脱出されたり割り込まれたりするため、相手がガン立ガードすると霊力が削れません。遠Aから脱出する自信がないならないで上のようなことが起こります。予報が天気雨ならD2Aに当たる選択をするでしょうし、川霧ならこちらが攻撃の手を止めざるを得ません。 回避結界男投げはフレーム上ガードが間に合うように思えますが、当たってしまうかもしれません。要実践。 D2Aを遅めに出すということはそれだけ前に歩いて抜けやすいということです。なかなか勇気のいる行動ですが、打撃のみの連携に対してもっとも安定する抜け方です。 ちなみに発生最速はレミリアがAの7F、萃香が2Aの9Fなのでこの点では勝ってます。 固めからまとまったダメージを取れるのはわからん殺しが通用する間のみです(現状Lunaでも暴れようとして喰らったり、的外れなところで回避結界して喰らったりする人が多いですが、上手い人はすでに抜け方を知ってるのでそのうち広まると思います)。 ただ、ハイリスクローリターンな回避結界狩りぶっぱやミゼラブルフェイトがあるので、全くダメージを取れないわけではありません。また、相手も人間なのでミスを期待するのも有効でしょう。 5.萃香の固め #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_1.jpg) 追い詰められたがレミィにはウォークがあるッ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_2_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_2_2.jpg) →#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_2_3.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_2_4.jpg) 何ィッ! #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_3.jpg) し、仕方がない。ダッシュで妥協しよう。 妖気密での削りはなんとしてでも回避するッ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_4_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_4_2.jpg) AAガードからでは打撃判定が残るだとッ! #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_5_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica5_5_2.jpg) 回避結界ならば安全ッ 事故や削られ続けるよりはるかにマシだ 解説 妖気密は完全に読んでないと潰せない程度に出が遅い、射撃と打撃を同時に撃つ攻撃です。地味にスーパーアーマーもついています。攻撃力が高いため削りダメージが馬鹿になりません、というか削りが主な使い方です。 撃たれると回避結界が確定しますが、削られるのは避けられません。妖気密はジャンプキャンセルできないためおそらく安全です。見てから男投げは多分ありません。 射撃は怖くありません。霊力をほとんど削られませんし、ダッシュやウォークでも脱出可能です。というか妖気密を安全に出せる状況なので、普通の射撃を使うメリットがありません。 つまり両者とも固めは弱く、萃香は選択肢が少ない代わりに安定して削れるのに対し、レミリアは選択肢が多い代わりにリスクを負って博打に勝って初めてダメージが入るという違いがあります。一長一短ですが安定感は萃香の方が上、プレッシャーはレミリアの方が上でしょう。 6.萃香の天候拒否 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica6_1.jpg) 濃霧ッ ドラキュラは恩恵を得れるが男投げは得れないレミリアの時間ッ! #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica6_2_1.jpg)→#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (vssuica6_2_2.jpg) って天気玉出すぎだろ!濃霧もう終わりかよ! 解説 萃香のC系統は大量の弾が出る関係上、消えると大量の天気玉に変換されます。 つまり萃香は牽制として撃たれたBなんかにC撃った上でチョコっと当たることでいやな天気を即終わらせることが出来ます。 萃香は台風で大暴れでき、レミリア有利な天候は飛ばしてしまえば良いので、天候では明らかに萃香有利です。ただ、隙の少ないスペルカードは少ないようです。
https://w.atwiki.jp/soku_remilia/pages/47.html
キャラ対策 以下のリンクから,各キャラの対策ページへアクセス出来ます。 キャラ対策霊夢 魔理沙 咲夜 アリス パチュリー 妖夢 レミリア 幽々子 紫 萃香 優曇華院 文 小町 衣玖 天子 早苗 チルノ 美鈴 空 諏訪子
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/1729.html
「お嬢様、こちらがよろしいかと」 「うん、いいわ。それにして頂戴」 咲夜に服を選ばせて、もう一時間余りが経っていた。 だが、レミリアは楽しそうに咲夜の差し出す服を代わる代わる着替えては悩んでいる。 「よし、これでいいかしら」 「はい」 「貴女が言うなら間違いないわね」 レミリアは微笑って、くるりと身を翻す。外向きの、いつもより少しだけ洒落た衣装だった。 リボンを、派手でないようにあしらった服に、少しシックな印象を与えるケープを上着代わりに。 片手に付けているシュシュも、いつもとは少し印象を変えて、微かな薄青を基調にした色にしている。 左手には、控えめに指輪が輝いていた。手首に巻いているレースの薄青が、それに填められた紅玉を引き立てている。 「似合う?」 「勿論です、お嬢様」 そう微笑む咲夜の方が、何故かレミリアよりもやり遂げた表情をしていた。 「随分待ってますねえ」 「ああ、ええ。まあ、準備には時間がかかるものでしょう」 門柱にもたれかかっていた青年は、美鈴の言葉に微笑って頷いた。 「しかし朝からお出かけなんて珍しいですね」 「まあ、約束していましたし」 「仲がよろしくて何よりです」 美鈴は闊達に微笑った。そして、空を少し見上げる。晴れ間を横切るように雲が流れていた。 「しかし、いい天気ですから気をつけてくださいね」 「気を付けます。雨は降らない……でしょうかね」 「どうでしょうねえ……まあ、ここのところ大きく崩れてないですし、大丈夫と思います」 「なら、大丈夫ですかね」 空の様子を見ながら、彼は小さく頷いた。本当にいい天気だった。昔ならばはっきりそう頷いていただろう。 今となっては、快晴はいい天気とは本当に言い難い。動くことに支障はないものの、後々日陰に入ったときに疲労を少しだけとはいえ自覚するのだ。 それでも、自分の身を考えれば破格のものなのだろう。それもこれも、全部レミリアのおかげで―― 「お待たせ」 声がしたのは、そんなときだった。 「いいえ。そんなには」 青年は首を振って門柱から身体を離し、レミリアの姿を見て軽く微笑んだ。 「可愛いです」 「そう?」 素っ気なく言いながらも、レミリアの機嫌はさらに良くなったようで、羽が上下にゆっくりと動いた。 「では、お願いしますね」 「はい」 咲夜から、念のためと言うことだろう、渡された日傘を受け取り、彼はレミリアに向かって頷く。 「お二人とも、お気をつけて」 「いってらっしゃいませ」 美鈴と咲夜に見送られて、二人は紅魔館を後にした。 二人の姿が見えなくなって、今度は遠くに里の姿が見え始める。 「大丈夫ですか?」 朝から動くことになりますが、と青年は心配そうに尋ねる。 約束していたとは言え、朝から活動するのは吸血鬼にとってはどうなのだろうか。 それに対しては、あっけらかんとした答えが返ってくる。 「一日二日寝なかったからと言って、別にどうとなるほど柔ではないわよ?」 それは貴方も知ってるでしょう、とレミリアは傍らの恋人を見上げる。 「まあ、それはそうですが」 「だから、今日は一日中、貴方のエスコートで、ね」 そう、レミリアは青年の腕に手をかけた。 里の入り口近くには、朝市が並んでいた。 「へえ、面白いことをやっているのね」 「早朝の市はもう終わりでしょうが、ここからは店と市と、両方が開く時間ですからね」 賑やかになりますよ、と彼は微笑う。 レミリアは面白そうに周囲の店をのぞき込み始めた。 「ああでも、こんなところで油を売っても大丈夫なのかしら?」 「ええ、もちろん」 立ち止まって店の物を手にとって眺めていたレミリアの問いに、彼は頷いた。 「時間に余裕を保たせてますので大丈夫ですよ」 「あら、そうなの?」 「がちがちに予定を固めると酷い目に遭うのは経験済みでして」 軽く手を振って、彼は微笑った。 「それは、外での経験?」 「まあ、そんな感じです。学校行事にしてもどうしてああもと思った記憶が」 学校? と首を傾げたレミリアに、簡単に説明をしながら、再び歩き出す。 「そういうことで、またふらりと見て回れればと思います」 「そうね、そうしましょうか」 ゆっくり歩調を合わせて歩く彼に寄り添って、レミリアは微笑った。 幾つか店を冷やかしつつ、喫茶店で一息入れようかと歩いているところに、不意に声がかけられた。 「兄ちゃん!」 「ああ……君は」 「知ってる子?」 声をかけてきた少年に、彼は困ったような曖昧な笑みを向けた。 レミリアは、彼と少年を交互に視線を向け、ああ、と合点がいったように頷く。 「元気に、なりましたか」 「うん、いっときは危なかったーってみんな言ってたけど」 少年は屈託のない笑みを浮かべている。彼の戸惑いがレミリアには手に取るようにわかった。 どういう顔をすればよいのかわからないのだろう。彼にはそれで良い、とは告げてはいるが。 「兄ちゃんもたすけてくれたんだよな、ありがとな」 「……僕は、助けられていない。流されそうになる君を見ることしかできなかった」 青年は首を振った。水に飛び込めなかったのは事実のこと。だが、少年は咎めはしなかった。 「でも兄ちゃんカナヅチだったんだろ? 仕方ないよ。それに、竹林の医者様まで運んでくれたんだろ? だからさ」 笑う少年に、青年は困ったように眉を寄せていた。 「礼を言うことではないわ」 レミリアは口を挟んだ。十分だった。その一言だけで彼には十分なのだろうとわかっていた。 「彼が助けたのは、里との約定。礼を言うならば村長と守護者に告げなさい。私達は約束を破らない。ただそれだけよ」 その言葉もまた事実だった。そして道理でもある。 少年が一歩下がった。レミリアの言葉は吸血鬼としてのものを十分に含んでいた。 たとえ年若の者であっても、その態度は崩さない。崩すわけにもいかない。彼女達は吸血鬼だから。 「え、あ、う、うん」 レミリアに気圧された様子の少年は一つ二つ頷き、やがて、そっかぁ、と青年を見上げ、予想外の言葉を口にした。 「兄ちゃんの彼女ってこの人かあ。可愛い人だなあ」 「な」 「そうでしょうそうでしょう」 ようやく、彼は笑みを浮かべた。少しばかり誇らしげでもある。 「うんうん、兄ちゃんがいっつも自慢してるの、よくわかった!」 「いつも何言ってるのよ!」 レミリアはばさばさと羽を広げて抗議した。どうどう、と宥めて青年はちらりと笑い、少年に声を向ける。 「言っていた通りでしょう」 「うん、みんなにも言っとくよ」 少年の言葉に、レミリアは大きくため息をついたが、特に何も言わなかった。 少なくとも、誉められたのは悪い気はしない。 「そんじゃ、逢い引きの邪魔する奴は馬に蹴られろ、って言ってたし、そろそろ行くよ」 「はい、気をつけて」 「また落ちないようにね」 レミリアの軽口に少年は照れたように笑うと、手を振って走っていってしまった。 「……これで良かったのですね」 「ええ。これでいいの。私達は里との約定をただ守っただけ」 「はい」 彼は頷きを返した。非常に契約主義のようにも見える。が、きっと悪魔とはそれで良いのだ。 そんなことより、と、レミリアはじと目で彼を見上げた。 「いつもあの子達に何を言ってたのかしら?」 「あー、いや、その」 「とりあえず、次の目的地でゆっくり聞きましょうか」 「はい」 レミリアに腕を引かれて、彼は少し困ったように頷いた。 茶屋に着いて、彼は少し困ったように顎に手を当てた。 「満席でしたか」 「あら、どうする?」 レミリアも中をのぞき込んで頷く。店内は非常に賑わっていた。人妖関係なく、甘味に舌包みを打っている。 味が良い上に、値段は味に比して安いため、よく人が集まるだということを失念していたのだった。 さてどうしたものか。和風の店の方が珍しいかと連れてきてみたのだが。 「おや、珍しいね」 聞き覚えのある声が聞こえてきて、レミリアと一緒に彼はその方向を見る。入り口近くの席に、見知った顔が座っていた。 「あら、久しいわね」 「どうも、妹紅さん」 軽く頷いて、妹紅が手を挙げた。意図を理解して、レミリアが彼の手を引く。少し迷ったが、彼も頷いた。 近付いてきた二人を、妹紅は軽く笑って迎える。 「この時間は混むからね、相席も多いよ。ここも今空いたとこ」 「いやはや、リサーチ不足でした」 「まあ、肝心なところ抜けているのがらしいと言えばらしいわ」 レミリアは肩を竦めて、妹紅の向かいに座った。レミリアの隣に腰を下ろして、彼は店員に注文を頼んだ。 「あんみつ……すぺしゃる?」 「ああ、それここの目玉だよ。面白いから食べてみたら?」 「じゃあそれ」 「では僕はお茶だけにしましょう」 いいの? というレミリアに、彼は頷き、妹紅はくくと笑った。 「来たらわかるよ」 「名物なんですよねえ」 彼は何とも言えない曖昧な笑みを漏らした。レミリアはさらに首を傾げる。 そのとき、周りから声がかかった。若い男の声だった。 「おう、兄ちゃんじゃねえかい、なんだ、逢い引きか?」 「そんなところですよ」 周りの席の知り合いが彼に声をかけてきたのだった。 別の席の年かさの男が、彼とレミリアを交互に見て何度か頷いた。 「いや、別嬪さんだのう」 「でしょう?」 「自慢するはずだな」 それに対して笑みを向けた彼に、最初に声をかけた男が余計な言葉をかける。、 「ほほー、いやしかし、やっぱり幼女趣味だったか」 その一言に、ちょっと失礼、と彼は断って席を立った。 「馴染んでるわね」 「まあ、あいつは里の手伝いもしてるからね」 妹紅が茶を口に運びながら相づちを打つ。 「馴染み過ぎは問題だけど」 「まあ、きちんと分はわきまえてるよ、きっと。それに、里との在り方は常に変わっていくものさ」 「そう……」 「何、あいつも外れてはいないさ。妖としての立ち位置にはきちんと立ってる」 「なら、いいんだけどね」 レミリアもそう、茶を一口飲む。そして、彼の方に目を向ける。 「じゃあ、あれも割と?」 「うん、日常までは行かないけど普通かなー。みんな意外に懲りないんだよね」 二人の視線の先では、余計な一言を言った男が彼にアイアンクローを受けていた。 「で、これ?」 「これ」 どん、と効果音が付かんばかりの大きさの器に、あんみつがこれでもかと盛られている。 小豆に、寒天、季節の果物、中にはドライフルーツもちらほら。それにクリームがこれでもかと盛られている。 「いやー、ははは、さすがに予想外だったか」 「名物、かつチャレンジメニューなんですよね」 楽しそうに微笑う妹紅と、美味しいのは美味しいのですけど、と困ったように笑む彼。 レミリアは何回か頷き、彼の前に無言で器とスプーンを置く。彼は従容としてそれを受けた。 それを見やった後、レミリアは妹紅に視線を向ける。 「……蓬莱人」 「はいよ」 「手伝え」 「はいはい」 その会話を横に、彼はあんみつを取り分け始めた。 かくして小半刻後。 「……おや珍しいな。というか何やってるんだ……?」 「慧音、いいところにー」 「手伝え白澤ー」 へるぷーと手をばたばたさせる妹紅とレミリアをよそに、若干青い顔で温かい茶をすする彼の姿があった。 さらに半刻ほどの後、空になった器を前に、レミリアは一つため息をついた。 「……確かに美味しかったのは認めよう。けれどもあの量はないわ……」 「ん、私も甘く見てたわ」 その慨嘆に、妹紅もうんうんと頷いた。 「慧音さんが来てくれて助かりました」 「いや、まあ、私も甘味を取るつもり出来ていたからそれはいいんだが」 昼もまだだったしな、と、何とも表現しがたい表情で、慧音は息をついた。 「珍しいこと尽くしだな。貴女が昼間から出てきているのも、妹紅と相席しているのも」 「まあ、成り行き?」 「そうね、成り行き」 レミリアはそう妹紅に同意の頷きを返して、若干ぬるくなった茶を一口飲んだ。 「まあいいが。逢い引きの邪魔をしていないかな」 「声をかけたのはこちらだしね」 レミリアはくつくつと微笑って、彼の方を見上げた。 「そういえば。里の子供たちに私について何を吹き込んでるの?」 「いや、まあ、その」 忘れてくれてたと思ったのですが、と曖昧に言葉を濁す彼の代わりに、慧音が笑みを漏らした。 「十二分に自慢しているよ、貴女の恋人は」 「あら、そうなの?」 「ああ。安心して良い、貴女の評判を落とすようなものではないさ」 「慧音さん、程々に」 何を言われるのかと不安になった青年が慧音にやんわりと釘を差す。 「おやおや、あれだけ惚気ておいて」 「そうだね、今だって」 妹紅はそう、レミリアの指先に視線を向けた。レミリアの左薬指には、銀色の輝きがある。 「ん、まあ、ね」 レミリアは曖昧な、それでいて満足そうな笑みを向けた。 やれやれ、と慧音は肩を竦め、それでもどこか優しげに微笑う。 「それについてもいろいろ話は聞いてるよ。では、それも含めてかな」 「ええ、いろいろ詳しく」 楽しそうに少女同士話すのを見て、敵うはずもなかったか、という諦めの境地で、彼はもう一度湯飲みを口に運んだ。 しばらく周囲の客も入ったりしながらからかわれ続けた後、吸血鬼主従は茶屋を後にした。 「随分面白かったわ」 「それは良かったです」 「あんみつも美味しかったし、話は面白かったし」 「……それはその」 散々からかわれたのを思いだし、彼は困ったように表情を動かした。 「あれだけ私とのことを吹聴してるなんて思いもしなかったわ」 「すみません」 さらに困ったように眉を下げる彼に、レミリアはくすくすと笑った。 「さっきも散々聞いたし、苛めるのはここまでにしておきましょうか。さ、また案内して頂戴」 「では、服や小物などでも」 さりげなく腕を差し出しながら、彼はそう微笑んだ。 里の中を再び歩く。昼過ぎてだいぶ開いてきた店を、好奇心一杯にレミリアは眺めていた。 手芸店を興味深そうに眺めたり、小物を手に取ったり。その行動はどこか見た目相応にも見えた。 しばらく楽しんだ後、レミリアは彼を見上げる。瞳には真剣な光が漂っていた。 「さ、目的の一つにもいきましょうか」 「……職人の?」 「ええ。会いに行くつもりだったもの」 レミリアの言葉に、彼は頷いた。 「それでは、ご案内します」 こちらです、と、彼はレミリアに道を示した。 「失礼しますよ」 彼は軽く声をかけて、作業場の中に足を踏み入れる。職人はすぐに出てきて、彼とレミリアの姿を目に留めた。 「これはこれは旦那様、おや、御当主様も御一緒でしたか」 職人は丁寧に一礼する。だが、どこか無骨でもあった。レミリアはそれを咎めない。それが最大の礼だとわかっているからだった。 「指輪を見せてもらった」 「それはありがたく」 職人の瞳の奥は笑っていなかった。どこか挑むような瞳にも見えた。 レミリアはそれに満足したようだった。彼もそれでいいのだろうと、納得のまま頷く。 「この通りだ。私に丁度良い」 「そう仰っていただけますれば」 レミリアが左手を見せるように差し出すと、職人は再び静かに礼をした。 彼は何も言わない。レミリアが語るべき場では何も口にする必要はない。 「またそのうち、何事か頼ませてもらうと思う」 「お待ちしております、御当主様」 職人は謹厳な表情に微かな笑みを浮かべた。レミリアも、ここにきて初めてちらりと笑みを浮かべる。 「細工も気に入った。いいものだ」 「あんなに熱心なご注文を受けましたら、私も熱を入れぬわけには」 「それは」 思わず、彼は口を挟む。そして、気恥ずかしさを誤魔化すように口の端を結んだ。 「ふふ、いいことを聞いた」 「おや、ご存知ではなかったので」 「それが聞けたら苦労はしないよ」 レミリアは楽しそうに羽をはためかせ、彼の隣に寄ってくる。 「あまり長居も悪いな、そろそろ失礼しよう」 はあ、と溜めていた息を吐いて、彼は微かに笑みを浮かべると、軽く職人に礼を述べる。 「ありがとうございます、本日もいろいろと」 「いえいえ、ご贔屓にしていただけるならこれ幸いです」 そう応える職人に頷きを返し、レミリアの手を恭しくとる。 「それでは」 「また、何事か頼ませてもらうよ」 それだけの言葉を置いて、礼をしたままの職人を背に、二人は作業場を出た。 陽はすでに傾きかけている。妖の時間はもうすぐだった。 「面白い人間だったわ」 レミリアは微笑っていた。上機嫌であることを示すように、羽はゆったりとはためいている。 「いい話も聞けた」 「それは、その」 青年は返答に困る。確かに、全身全霊をかけた頼みであったかもしれないが。 「今日は本当に楽しいわ。さて、これからはどうするの?」 「酒肴にしようかと。まあ、そこはある程度どうするかですが」 「そうねえ……たまには、このあたりのも面白そうだけど」 「ミスティアさんが近くに出していますかね」 「夜雀か……そういえば何か面白いお酒が入ったって聞いたわね」 踊り出すとか何とか、という言葉に、彼は何とも言えない表情をする。 「……それは、どうなのでしょう」 「あら、乗り気じゃない?」 「……踊るのは、ちょっと……」 難色を示す彼に、レミリアは逆に面白味を得たようだ。 「まあ、いいじゃない。それを飲まなければいいし、ほかの店をふらりと回ってもいいわ」 「梯子ですか、それも悪くはないかもですね」 「酔いつぶれないようにね」 善処します、と、こればかりは本当に苦笑を漏らして、青年はレミリアに腕を貸しながら、日が暮れた里を歩き始める。 かくして、様々な場所で酒を飲み、あるいは話をし、夜が更ける中、二人の吸血鬼は里を回った。 ある場所では顔見知りの人妖にからかわれ、ある場所では初めて会う者達と話をし。 日常の中の非日常を楽しむように、二人は里を回っていた。 紅魔館に戻ってきたのは、日が昇り始める頃合いだった。 「結局、一日遊び倒したわね」 「ええ。こういうのもたまには」 「いいものね、本当に」 彼の胸の上に肘をついて顔をのぞき込みながら、レミリアは微笑った。 「面白かったわ」 「それは何より」 僕はいろいろと大変でもありましたけれど、と、からかわれたことを指しているのか、彼はそう微笑った。 「そうね、本当にいろいろ聞かせてもらって楽しかったわ」 「もう少し自重しようと思いましたよ、僕は」 気を付けてね、と笑いながら、レミリアは湯浴みをした後のしっとりした頬を、彼の胸元に擦りつける。 そして、少し甘えを含んだ声で囁いた。 「貴方のいろいろな姿も見えたわ」 「人間の頃から、あまり変わってはいませんが」 「それでも、よ。貴方がどう生きているのかも見えた」 レミリアは身体を起こして、そっと彼の髪に触れた。撫でるように、指を絡めて。 「でも、やっぱり今は独り占めしていたい」 「僕はいついかなる時も、レミリアさんのものですよ」 「うん、それでも」 軽く口唇を重ねて、レミリアは瞳を細めた。 「貴方を私のものにしていたいの」 「それは、僕の台詞のような気も」 青年は困ったような表情をした後、真剣な瞳をしてレミリアの髪に手を伸ばした。 「いつでも、僕は貴女を思っていますし、僕のものにしていたいのに」 甘言であり、本心であり、珍しい、彼が口にする我儘だった。 それがわかって、レミリアは嬉しそうに瞳を細める。 「ん、私も、貴方のもの。すべての時間に置いてそうだとは言えないけど」 そう、レミリアは青年の手にその小さな手を重ねた。 「だから、今の時間からは」 ――全部、貴方のものにして。 小さな呟きには、優しげなため息が返ってきた。 「過不足なく応えるのが、僕の役目ですかね」 「過ぎても、いいのよ」 貴方からのならどれだけもらっても足りないもの、とレミリアは微笑った。 そう、何もかも足りない。想いも、何もかも。 彼を自分のものにしていたいという欲は、きっと誰にも負けないのだから。 「それでは、仰せのままに」 頬に触れた大きな手に、満足そうにもう一度微笑んで、レミリアは目を閉じた。 窓の外はもうきっと明るい。初夏の朝は早い。 けれども、そんなことももうどうでも良かった。 ただ、愛しいこの人を、自分の物にしていられる時間の方がもっと、ずっと、大事だった。 Megalith 2012/06/22 ──────────────────────────────────────────────────────────────── 「暑いー」 「暑いー」 紅魔館の風通しの良い一室。その部屋にやはり風がよく当たるように置かれたソファから、二対の羽が気だるそうに動くのが見えていた。 片やこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットのもの。もう片方は、その妹、フランドール・スカーレットのもの。 二人とも気だるげに横になり、夏の熱気に文句を言っていたのだった。 「お二人ともはしたないですよ」 「だって暑いのだもの」 「暑いのばかりはねえ」 咲夜に窘められるが、そんなことはどこ吹く風と言わんばかりに、二人の吸血鬼は抗議した。 「何か冷たいものでもお持ちしましょうか……と、私が持ってくるまでもないようですが」 「え?」 レミリアの疑問の声に、それには応えず一礼した咲夜が扉を開けると、トレイを持った青年の姿がそこにあった。 「あ、ありがとうございます。びっくりしました」 「いいえ」 「それ何ー?」 フランドールが起きあがり、青年が持ってきたトレイの上の物について尋ねる。透明なグラスの中に氷と何か飲み物が入れられていた。既にグラスは随分と汗をかいている。 「レモネードです。レモンシロップを分けてもらったので」 そう言いながら、二人の目の前にコースターを並べ、グラスを丁寧に置く。氷が少し崩れて、涼しそうな音を立てた。 「酸っぱくない?」 「蜂蜜も入っていますから大丈夫ですよ。ああ、冷水で割ってるので、今回炭酸は入ってないですが」 「かまわないわ」 レミリアは軽く頷いて、ストローに口をつける。ひんやりとした甘味と酸味が、心地よく喉を通っていった。 フランドールも同じことを思ったようで、上機嫌にばたばたと羽を動かす。 「美味しい!」 「ええ、まあまあね」 そう言いつつも、レミリアの羽も上下している。暑い中だったのも相俟ってか、随分と美味しく感じられた。 「二人も飲んだら?」 「よろしいのですか?」 「疲労の回復にもいいですからね。まだだいぶもらってきてますから」 彼の言葉に頷いて、レミリアは咲夜に命じた。 「そうね咲夜、貴女の分を作るついでに、パチェにも分けてきなさい。ああ、後は好きにしていいわ」 その言葉の意味を理解して、咲夜は丁重に一礼する。そして、失礼します、と告げて、その場を立ち去った。 「貴方は?」 「僕は後でも。先に軽く水はいただいてますし」 「けれどもそれじゃあ、乾きは癒えないんじゃない?」 フランドールが、少しばかり意地悪な視線を向ける。何のことかなど、この場にいる者にはよくわかっていた。 ばつが悪そうに、彼はフランドールに対して首を振る。 「あまり意地悪を言わないでください、フランさん」 「ふふふー、隠さなくてもいいのに。ねえ、お姉様?」 「フラン」 窘めるように、レミリアは鋭く妹の名を呼んだ。はーい、と形ばかりの返事をして、にこにこしながらフランドールはストローを咥える。 「まったく、貴女の暇潰しで苛めないの」 「いいじゃないー」 「僕暇潰しで弄られてるんですか」 困ったように微笑って、彼はもう一度かぶりを振った。どう足掻いてもこの二人の気ままさからは逃げられないのだろう。無論、逃げる気さえもないのだが。 フランドールはそういったことを意に介した風もなく、レモネードを吸い上げてぼやく。 「こう暑いと暇だもんー。暴れたいー」 「ま、フランもこうだから、そろそろガス抜きさせないと、とは思うのだけどね」 レミリアはそう、何か案はないかと彼に振ってきた。暇なのはレミリアも同じなのだろう。 「ふーむ……納涼、かつ暇潰し……」 いきなり言われて、早々簡単に案は出てこない。 唐突に言われて、何だかんだ言いながらも案を出せるパチュリーがいかに無茶振りに慣れているかわかる気がした。 「花火、とか」 「花火!?」 フランドールの羽がぴこぴこと動いた。どうやら興味を刺激したらしい。 「祭りの時とかに上がってるあれね」 「はい。ああ、でも今は特にその予定はないんでしたっけ」 祭りはもう少し後の頃になる。そこまで待てるだろうか。 「何言ってるの」 「え?」 「どこもやらないなら、私達がやればいいじゃない!」 レミリアは、名案を思いついたとばかりに立ち上がる。 「お姉さま、じゃあ」 「ええ、今宵は花火大会よ!」 満面の笑みで、レミリアはそう宣言した。 そして、晩。青年は紅魔館の庭で皿や料理を並べながら、空を仰いでぼんやりと呟いた。 「……花火ってこういうものだったかなあ」 レミリアと咲夜が、空で弾幕を広げている。 夜空を紅く染める弾幕に、それを飾りたてるような銀の弾幕。 一見すれば、弾幕ごっこにも見えなくはないその情景を眺めていると、不意に背後から声がかかった。 「何やってるのよ、紅魔館」 「随分騒がしいようだがな」 霊夢と魔理沙だった。咲夜がレミリアの相手をしているため、彼が代わりに応対する。 「いらっしゃいませ。花火大会です」 「……あれ花火っていうの?」 「…………いや、ううむ」 どうだろう、と彼は空を再び見上げる。レミリアと咲夜が、変わらず踊るように弾幕を繰り広げている。 ただの弾幕ごっこ、ではない。好き放題に魅せているだけの弾幕だ。いつもの弾幕ごっこがで互いの意志も競わせるのだとするならば、今日はただ美しさのみを競っている、とも言うべきかもしれない。 「まあ、この分なら大したことじゃないわね」 「何事か、拙いことがありましたか」 霊夢のぼやきに、彼は尋ねる。 「里が、紅魔館が何かしでかすんじゃないかって心配してたぜ」 「で、依頼が来てね。私らに見てこいって」 「なるほど」 納得と共に頷く。確かに、紅魔館が何かしらしているとなれば、人里からすれば気にもなるだろう。 何より、ここまで派手に、かつ目立つようにやっているのだ。それは向こうからも目に留まるに違いない。 「今日は買い物だけのつもりだったのに」 「まあ、居合わせたのが運の尽きだな。まあいいじゃないか、報酬の分は買い物代なんだろ?」 「思い切り買ってやるんだから」 不機嫌そうな霊夢を、魔理沙が混ぜっ返してからかう。楽しそうなことだ、と思っていると、レミリアと咲夜が弾幕を収めて降りてきた。 「あら、霊夢、魔理沙、いらっしゃい」 「あんた達のおかげてこの暑い中駆り出されたのをどうしてくれようか考え中よ」 霊夢の言葉に肩をすくめ、レミリアは咲夜に目配せした。 「かしこまりました」 さっと消えた咲夜が、霊夢達の分の飲み物を持って再び現れる。 「じゃあ、一杯だけもらっていくぜ」 「私も」 「あら、いいの?」 咲夜の言葉に、霊夢が大きくため息をついた。 「里に報告に行かなきゃいけないもの」 「珍しく仕事熱心ね」 失礼ね、いつもよ、と文句を口にする霊夢をよそに、魔理沙が説明する。 「そういう約束なんだ。まあ、信用のないことだな」 くくく、と嘯くように魔理沙が笑う。青年とレミリアが顔を見合わせて肩をすくめた。 「じゃあ、私から書状でも出して上げましょうか。何も心配いらないから楽しめって」 「言葉だけもらっとくぜ。とにかく、心配ないから花火代わりに楽しめ、ってことだな」 「花火よ。ほら、次が始まるわ」 見上げれば、美鈴とフランドールが夜空に上がっていくところだった。 楽しそうに笑いながら、二人で何か打ち合わせている。 「フランもやるのか」 「それが主目的だもの」 「とりあえず、私達は行くわ。後で駆り出された分の借りは返してもらいに来るからね」 「あ、霊夢早い。私も行くぜ」 二人の人間は空に再び浮かび上がった。人里の方に向かっていく彼女達の背を、七色の光が照らし始めていた。 「パチェも加わるとさらに華やかねー」 青年の膝の上に座って、レミリアは夜空を眺めていた。そうですね、と応じながら、彼は大人しく椅子になっている。 夜空の弾幕は、フランドールと美鈴の虹に、パチュリーの五色が加わってさらに派手さを増していた。 ちなみにパーティの方はと言えば、後は私がするから、と咲夜が全部請け負ってしまっている。あちこちに現れたり消えたりしながら、庭の全てを掌握していた。流石だった。 「綺麗ですねえ」 小悪魔は隣に立ったまま、のんびりとそう口にした。羽が上下しているあたり、彼女も楽しんではいるらしい。 だが、ただ立っていて暇ではないのだろうか。そう思った彼の代わりに、レミリアが尋ねた。 「小悪魔、貴女はいいの?」 「あー、いえ、私今パチュリー様のアンプ役なんですよ」 そう告げた小悪魔の周囲には、淡い光を放つ魔法陣がいくつも浮いている。 レミリアは傍らの彼と顔を見合わせた後、呆れたような声でさらに尋ねた。 「……もしかしてパチェ、結構ノリノリ?」 「かなりノリノリです。花火が決まってからいろいろ文献引っ張り出しましたし」 「ああ、もしかしてちょっと前に片付けたあれですか」 「あれです」 のんびりと会話しながら、三人はパチュリー達が織りなす弾幕を眺めやる。 途中、咲夜が顔を出して冷えた飲み物を用意してくれた。 「小悪魔はいいの?」 「私はパチュリー様が戻られてから一緒に」 「了解」 そう会話をする従者達の会話を聞いていると、また夜空に影がかかった。 「ああ、おかえりなさい、霊夢さん、魔理沙さん」 「その表現は何だか妙な気がするけどね」 レミリアは呆れた声でそうため息をつき、彼の膝から降りて霊夢と魔理沙に相対した。 「埋め合わせしてもらいに来たわ」 「はいはい。咲夜、よろしく」 そう咲夜に命じるレミリアに、魔理沙は空の弾幕を眺めながら告げる。 「それにしても、随分また妙なことをやったもんだな」 「フランの暇潰しに、ね」 「それにしては大がかりだ」 「いいのよ、大がかりで」 そう呟いたレミリアに対して、魔理沙がさらに何かを告げようとする前に、咲夜がグラスを魔理沙に渡した。 「はい、魔理沙。霊夢も」 「おお、サンキュ」 アイスティーを渡されて、魔理沙はそれを一息にあおる。もう少し女の子らしく、と咲夜は呆れているが、本人はどこ吹く風であった。 霊夢の方は、ありがと、とだけ言ってグラスを口に運んでいる。 「しかし、私を呼ばないとはな」 「あんたを呼ぶといろいろ大変でしょう。それに今日決まったのだもの」 「あら、けど新聞はさっき届いてたわよ」 「文さんいつの間にかいましたからねえ」 霊夢の言葉に返して、彼は、夜空を虹色に染めている美鈴とフランドール、そして二人の弾幕にうまく調和する色の弾幕を選んでいるパチュリーを眺めながら呟いた。 「しかし、あれだな、もう少し欲しいところだな」 そう、魔理沙がさっと箒に乗る。何をするのかわかった周囲が一歩下がった。 「ブレイジングスター!」 「わぁい魔理沙だー!」 フランドールの歓喜の声が聞こえる。虹を横切るように星の帯が夜空に一筋の明かりを描いていた。 それを見た美鈴が、パチュリーに何事か声をかけて一緒に降りてくる。 「おかえりなさいませ」 咲夜の声に、パチュリーは軽く頷いて夜空を降り仰いだ。 「魔理沙がいるなら私達はいいでしょう。小悪魔、何か飲み物をちょうだい」 「はいっ、ただいま!」 小悪魔が魔法陣をしまって、パチュリーのためのグラスを用意する。そちらを任せて、咲夜は美鈴に声をかけた。 「美鈴もお疲れさま」 「ああ、ありがとうございます。まあ、あれ以上は私達は邪魔になるだけですし」 その言葉をかき消すような轟音が、頭上から聞こえる。フランドールが弾幕を放ってはそれを破壊する、という遊びを始めているようだった。 「ああいう音も、花火の醍醐味だっけ?」 「ああ、ええ、うん、そうだとは、思いますが」 レミリアの、どこかのんびりした言葉に、彼は首を傾げつつ同意した。 いや確かに花火は音もするものだが、それとはまた全く違うもののようにも思える。深くは考えないことにした。 「それで、貴方は?」 いつの間にかすっかりくつろいでいる霊夢の問いに、青年は首を傾げた。 「僕ですか?」 「弾幕使えないものねえ」 レミリアがため息と共に、アイスティーのストローを回した。それに頭をかいて、彼は誤魔化すように応える。 「まあ、最近少しばかりは」 「いつになることやら」 レミリアの視線は、そう言いつつも優しい。今度は頬をかいて、がんばりますよ、と彼は応じた。 その様子を、霊夢は呆れた目で見ている。見ているだけでなく口にも出した。 「はいはい、暑いんだからさらに暑くしない。咲夜、おかわりー」 「はい、砂糖抜きね」 「ええ、砂糖抜きで」 このあたりの呼吸が合ってきてしまっているのは如何すべきか。 軽く息をついて、彼は夜空を楽しげに舞っている二人を眺めやっていた。 「楽しかったー!」 ご機嫌なフランドールが、咲夜から渡されたグラスのストローに口を付けている。 「まあ、こんなもんだろ」 魔理沙も機嫌良さそうにそう笑ってグラスを傾ける。グラスに入れる飲み物は、アイスティーからいつしかアルコールに変わっていた。 「フランも随分ストレス発散できたようね。何より」 レミリアも上機嫌に笑みを浮かべて、そう言えば、と青年の方を見上げる。 「貴方は見るだけだったけど良かった?」 「……いや、花火ってこうやって参加するものではないような気も」 ずっと思っていたことを小さく呟いた後、彼は、ああ、とポケットの中から何かを取り出した。 「こういう補助具をパチュリーさんにいただいてはいましたが。何となく使う機会がなくて」 「パチェどれだけノリノリだったの……でも何か紐みたいね、これ」 「線香花火ですかね。本にも載っていましたし」 火を灯すと、パチパチ、と、小さな火花が弾けた。魔法の火ではあるが、なるほど線香花火に似ている。 「だいぶ地味ね」 「まあ、そういうものですからね」 ですが、と彼は笑う。レミリアの興味を引いているのはわかっていた。 「これをいかに落とさないままでいられるか、というのがまた楽しいもので」 「ふぅん、そういうものなの?」 「まあ、楽しみ方の一つ、ですかね。こういう風情を楽しむのも一興という。やりますか?」 「そうね、そこまで言うなら」 口調とは裏腹に、好奇心一杯に羽をバタバタさせながら、レミリアはその花火を手に取った。 「私もやるー!」 「はい、ええと……」 フランドールの求めに、彼はポケットをさぐる。全員分あっただろうか。 内心の疑問が読まれたかのように、パチュリーが大量に取り出した。どこに持っていたのか。 「大丈夫、まだあるわよ」 「では、最後はそれにしましょうか。霊夢と魔理沙もやるわよね?」 レミリアはそう水を向ける。向けられた魔理沙が、楽しそうに破顔した。どうやら少し酒も回っているらしい。 「おお、勝負なら負けないぜ?」 「私も負けないよ、魔理沙、霊夢」 「え、何で私まで入ってるの」 まあまあ、と咲夜に宥められながら、霊夢も魔理沙と共にフランドールの隣にしゃがみこんだ。 あれ、これ火どうするの。私が点けるよ? フランお前はやめとけ。という微笑ましい会話が聞こえる。 「咲夜、火を準備して、貴女達も」 「はい」 咲夜は頷き、火の灯った蝋燭をどこからか持ってきた。花火を始めた面々の真ん中に置く。 「これ爆発とかしないですよね」 「確率ね」 「するんですか!?」 「冗談よ」 美鈴と小悪魔を脅かすような発言をさらりとしたパチュリーも、花火に火を点け始めていた。 「こういうのも悪くないわね」 「そうですね。ああ、レミリアさん」 「ん」 線香花火に火を灯して、彼はレミリアに手渡した。パチパチと弾ける火を、レミリアはじっと見つめている。 「綺麗ね。どこか寂しくもあるけれども」 「ええ」 しばらく無言で見つめ続ける。何も言わず、ただ二人で見つめ続けた。 やがて、小さく、ジジ、という音を残して、線香花火の火は地に落ちる。 「……終わると呆気ないのね」 「……そういうものですから」 そうね、と、レミリアは目を細めてそれを見やった。彼も何も言わずその横顔を見ていた――が。 「あー! 落ちたー!」 「揺らすからだ。って、あ、私のまで落とすなフラン!」 「煩いわよあんたたちは……」 フランドール達のところを中心にしたところから、大きな声があがる。 どうやら勝負をしていたのか、落ちた落ちないで騒いでいるようだった。 レミリアは大きく息を吐くと、軽く首を振って苦笑気味の微笑みを浮かべた。 「ああもう、向こうは賑やかね」 「行きますか」 「ええ」 彼がレミリアの手を恭しく取る。そして、二人は騒いでいる友人達の方に向かった。 夏も、気が付けば終わりに向かっている。 けれども、こうした一つ一つのことが思い出になるのならば、それはきっと寂しいだけのものではないのだろう。 きっと、どれくらいの時間が経ったとしても。 何の根拠もないことだったが、手を繋ぎながら、ただ、そんなことを思った。 Megalith 2012/08/20 ─────────────────────────────────── 「外界旅行、か」 「スキマもよくやるわねえ」 配られた用紙を眺める青年の後ろから、レミリアが顔をのぞかせた。 ソファにだらしなく座っていた彼は少し姿勢を正して、レミリアに用紙を見せる。 ざっと眺めた後、レミリアは彼の頬に頬をつけるようにしながら尋ねてきた。 「……里帰りしてみる?」 「あちらに未練はないですけれど」 「……私が行きたい」 囁くように呟いた一言に、彼は笑った。おそらく、自分から言うよりこちらに言わせたかったのだろうことがわかったからだった。 「笑わないでよ」 「いえいえ。では、申し込んでおきましょう」 むくれた主の髪を撫でて機嫌を取る。 「ん、お願いね」 少し機嫌が直ったかのように、羽が一つ、ぱたりと動いた。 外界に行く、と連絡してから程なくして、八雲紫が訪ねてきた。 というより、気が付いたらソファで紅茶を飲んでいた。相変わらず神出鬼没である。 「さて、どこに行きたいの? 何処でもオーケーよ」 挨拶もそこそこに、そう紫は切り出す。 どうやら、何処に行くかの打ち合わせのために来たらしい。 「僕はどこでも。レミリアさんはどこか希望がありますか?」 「じゃあ……ここ。と、ここ」 レミリアが指し示した地図を見て、紫は扇を開いて口元を隠す。 「随分移動するわねえ。貴女は日中大丈夫?」 「何とかするわ。雨だったら予定を延ばせばいいし。出来るでしょ?」 「相変わらずね。了解したわ」 「貴方もいいわね?」 紫とレミリアが眺めている地図を隣から覗き込んで、彼は目を丸くした。 「レミリアさん……ここは」 「一度行ってみたいの」 「……わかりました」 「では、出発の日時は追って伝えるわ。よろしくね」 紫が立ち去った後も、青年とレミリアは地図を眺めていた。 「……嫌だった?」 あまりにも地図を見つめる様子に、袖を引いてそう尋ねたレミリアに、彼は首を振った。 「いいえ……まさか、ここに行きたいと言い出されるとは思ってなくて」 「……行ってみたかったのよ」 「何もないところですよ……ああ、それでも懐かしいですね、故郷というのは」 出発当日。羽を霧にして隠したレミリアと共に、青年は外界に立っていた。 「いやはや、ここに直接来るとは」 「その方が早いんだもの。出発場所は指定可能だったし」 人気のない小高い峠の上。すぐ下に町が見える。夜ならば、町の明かりが見えるはずだった。 「まあ、貴女達はまた随分と移動するしねえ」 二人を送りに来た紫が、呆れたように言う。 「ま、何かあったら呼びなさいな」 「ええ。お土産の件に関しても」 「それに対しては伝えたとおり。ああ、このメモに書いてるのも一緒に買っておいてもらえるかしら」 「はい、了解です」 「行くわよー」 メモを受け取る彼を置いて、レミリアが日傘を差したまま歩いていこうとしていた。 「ああ、待ってください。それでは紫さん、また」 「ええ、良い旅を」 手を振ってスキマに去っていく紫を見送り、彼はきょろきょろと周りを見回す主の下に急ぐ。 先に歩くレミリアに追いついて、彼は隣に並んだ。近くなっていく町を眺めながら、レミリアがぽつりと呟く。 「本当に、何もないのね、幻想郷……程じゃないけど」 「まあ、田んぼばかりですから……それでも、ここが僕の生まれた……ある程度までは育った、町です」 その言葉に、曖昧に頷いてレミリアは目を眇めた。 「ああ、でもあれはあるのね。ええと、パチェの本にあった……」 「自動車、ですか?」 「うん、それそれ。それは結構あるのね……忙しないわ」 「田舎だと逆に、こういう足が必要ですからねえ……」 思わずしみじみと呟いてしまう。それに、レミリアはくすりと笑った。 「まあ、ゆっくり行くわ。だいぶ長い旅行になりそうだものね」 「まったくです」 肩をすくめて笑って、彼は今回の行程を頭の中で確認した。 何しろ、彼が外界で生活した場所を回りたい、というものだから、かなりの長距離移動である。百キロ単位で移動するくらいに。 夜に基本移動するとして、さてその他諸々をどうするか。 「とりあえず……僕が小さい頃居たところを、ふらふら回ってみますか」 「ええ……もう、そこには?」 「まあ、誰も居ないですよ。でも引っ越すまでは住んでた辺りですから」 昔とそう変わらないから、勝手はわかる。というよりも、見通しが良いのでほとんど迷わない。 田舎を絵に描いたようなところだった。 「……いいところね」 「そうですね、若干不便なところもありますけれど……久々に戻ってくると、そんな気もします」 レミリアは曖昧に頷いて、日傘をくるくると回しながら、彼の隣に並んだ。 「ああ、すみません、傘持ちますか」 「いいわ。それより」 くい、と袖を引っ張られて、何かを要求するように見上げてくる。 「あ、ええと、これ、でいいですか?」 「ん、よろしい」 間違ってないかな、と思いながら手を差し出すと、レミリアは嬉しそうにその手を握り返してきた。 「……そうだ、近くに行く前に、ちょっと喫茶店でも寄って行きますか」 「この辺りにあるの?」 「ええ、パフェが名物だった気が……とりあえず、行ってみましょうか」 歩いたら歩いたで結構な距離になるのだが、まあそれも悪くはないだろう。 しばらくの後、ようやく着いた喫茶店で、二人は文字通り一息ついていた。 「しかし、結構歩くのね。飛べないし不便よねえ……」 運ばれてきたパフェにスプーンを入れながら、レミリアが呟いた。 ちなみにパフェは中々のボリュームと花火がささっているという仕様だったりする。 アイスも何種類か乗っているので、いろいろな味が楽しめると言うものだ。 「まあ、そうですね。後でバスにも乗ってみます? 移動には便利ですよ」 「いろいろ体験するのも悪くないわね。乗りましょう」 一口クリームを口に運んで、楽しそうに笑う。 「あ、そういえば貴方は珈琲だけで良かったの? 一口食べる?」 「ああ、いただきます。さすがに一つ入る気はしなくて……」 本心を言えば、レミリアが一人で食べれるかも心配だったのだが。 記憶の中にあるものよりは随分と小さく感じたものだが、それでも大きめである。 まあそれでも、甘いものは何とやら、という奴らしい。 「はい、じゃあ」 パフェを掬ったスプーンを目の前に出されて、彼は困惑する。 「えーと、その、それは」 「はい、あーん」 物凄くいい笑顔である。心底楽しんでいるに違いない。 それはいいとして、周りの目があるのですが。かなり恥ずかしいのですが。 そんな心の声が届くわけがなく、催促するように小首を傾げてくる。 「どうしたの?」 「あ、い、いただきます」 意を決してスプーンを咥える。甘いが、こういうことはそれ以上に気恥ずかしさが先に立つものだ。 「どう?」 「十分甘いです、ありがとうございます」 周囲からの視線が刺さるような気がするが、気のせいと言うことにしておく。 照れ隠しに窓の外に目をやると、懐かしい景色が見えた。 喫茶店を出る際に、この辺りに縁の場所はないか、と聞かれ、思いついたのは学校くらいのものだった。 幸い下校時間も過ぎているためか、人気はない。警備員は流石にいたが、卒業生ということを丁寧に説明して、無理を言って入れてもらった。 レミリアもいたので、何か悪いことをするとは思われなかったらしい。まあ、危険度は別の意味で高いはずなのだが。 「何だか、随分殺風景ねえ」 「まあ、幻想郷で言う寺子屋に似たようなものですよ。人が住んでるわけではないですから」 「ん、それはそうなんだろうけど」 彼に傘を持たせて、レミリアは手を繋いでいた。建物や校庭を眺めた後、彼を見上げる。 「懐かしい?」 「ん、まあ、そうですね。小さい頃を思い出します」 「思い出したこと、少しずつ聞いていっていい?」 「ええ、もちろん」 手を繋ぎながら歩く。歩きながら話をする。学校の周りをのんびりと歩きながら、他愛のない話に花を咲かせた。 途中、遊具に目を留めたレミリアが袖を引っ張ってきた。 「ね、あれ何?」 「ああ、ジャングルジムとか鉄棒とかですね。よく遊んだなあ」 近くまで寄って、傘を渡して軽く逆上がりをしてみる。久し振りだが、意外と上手くいった。 「小さい頃は、こういうのが楽しかったですねー」 「私もやってみていい?」 物凄くわくわくしているのがわかるが、スカートでこれは拙い。 「……陽がありますよ」 「ああ、そうか、残念ね……じゃあ、あれに上るのはいいかしら」 言うが早いか、レミリアはジャングルジムに上る。 傘を差したままというのは器用だが、それでも下からは見えそうだと気が付いて欲しい。 とりあえず隣にまで上って、一番上に腰掛けているレミリアの隣に腰を下ろした。 「昔はここが随分と高く感じたものですよ」 「今は、ねえ」 「確かに」 くすくすと笑い合って、またしばらく、二人で誰も居ない校庭を眺めた。 行きたい場所がある、とレミリアは言った。青年の方もわかっていたから、素直に案内する。 やはりしばらく歩いてたどり着いた家屋の近くで、レミリアが尋ねた。 「……ここが?」 「ええ、僕の実家だったところです」 引っ越した後は誰も居ないですけど、と呟く。 彼がかつて住んでいた家は、既に空き家になっていた。引っ越してからは、戻ってこなかった場所。 「寂れてるわね」 「人が住んでいないと、どうしても、ですね」 既に陽は暮れ始め、空気まで寂しげな雰囲気をまとっているようだ。 しばらく佇んだ後、彼はレミリアを促す。 「行きましょうか。懐かしいですが、ここにはもう」 「……ええ」 並んで歩きながら、レミリアは彼を見上げて、その手を取る。 「?」 「何か話しながら行きましょう」 「ああ、ええ、そうですね」 思い出は寂しいものだけではないからと。何か昔のことを共有したくて、レミリアはそう促したのだと、鈍い彼にもわかった。 一つ頷いて、彼は子供の頃の話をし始める。どういう風に遊んでいたか、過ごしていたか。 話しながら、不意と視線を空いた土地に向けて、彼は微笑った。 「……この広場も、よく駆け回りました」 「意外と活動的……意外でもないか」 「向こうでも里の子達と遊ぶのは楽しいですしね」 たまに一緒に慧音に怒られるのだが、それは伏せておく。 だが、それはすでにレミリアの知るところだったようで。 「時々白澤に怒られてるらしいわね?」 「バレてるんですか……咲夜さんから?」 「本人からも聞いたわよ」 「……危険なことはさせてないつもりなんですけどねえ」 頬をかいて、誤魔化すように呟く。 「余計なものも寄ってくるからだそうよ。妖精とか」 どこか拗ねたような物言いに、彼はレミリアの顔を覗き込む。 「妬いてくれてたりします?」 「………………馬鹿」 顔を微かに紅く染めて、行くわよ、とレミリアは彼を引っ張った。 太陽が既に山の端に姿を隠した頃、さて、と青年は声を上げた。 「そろそろ移動しますか」 「この町で泊まるんじゃないの?」 「いや、この町のはさすがに知らないんですよ。それに、移動するにもそちらの方がいいので」 「その辺りは任せるわ。ここでやり残したことはない?」 「特には……ないかな、友人達には便りも出しましたし。返信は紫さん任せで」 「…………まあ、いいけど」 微妙な顔をしたレミリアに、彼は軽く肩を竦める。それで、レミリアは何の用件か察したようだった。 「……ああ、そうか。そういう用件だったのね」 「もしかしたらどこかで道も交わるかもしれません。けれども一応、けじめとして」 「まあ、またこうして来ることもあるでしょう」 レミリアは素っ気なくそう言った。そんな態度を取りながら、彼の傍に寄り添う。 「ありがとうございます。では、行きましょうか」 その気遣いに感謝しながら、彼はレミリアの手を取った。 日が暮れてからでなければ、長距離の移動は難しい。昼間、レミリアが興味を惹かれて乗ったバスは細心の注意を払って移動した。 「……うーん、しかし随分かかるのですよね」 「そんなに?」 「乗り換えもありますしね」 「乗り換え?」 無邪気に首を傾げられて、彼は視線を彷徨わせた後、一つ咳払いした。 「……移動しながら説明しますね」 いろいろ思考が飛びそうなくらい可愛らしい仕草だった。人気が少ないとはいえ、さすがに危なかった。 駅に着き、物珍しさにきょろきょろするレミリアに合わせながら、電車をしばらく待ち。 そしてやってきた電車に、がたんがたんとしばらく揺られて乗換駅に着いた。 「面白いものを作るのね、人と言うのは」 「ええ、本当に」 くるりと見回して、ああ、と青年は声を上げた。 「ついでだから、一つ面白いものを買ってきましょうか」 「え?」 「少し待っていてください」 そう、荷物をおいて、青年は駆けていく。レミリアがきょとんとしているうちに、近くにあった売店で何かを買ってすぐに戻ってきた。 「電車の中で食べようかと」 「それは?」 「お弁当です。駅弁ですね。流石に向こうではないものですから」 そう言っている彼の方が楽しそうに見えて、レミリアはくすくすと微笑った。 「何か?」 「いいえ。そうね、珍しいのを食べるのも楽しそう」 言いながら、レミリアは目の前にやってきた電車に視線を向けた。 空席がほとんどの列車の中、隣り合って座り、弁当を広げる。 「……結構美味しい」 「でしょう? ここのは名物なんですよ」 彼の言葉に頷きながら、一緒に買ってきてもらった茶を口に運ぶ。 「特急にして正解だったかもですね、席も空いていますし弁当も食べられますし」 「列車って弾幕に使うものかとばかり思ってたわ」 「……そんなこと出来るのは紫さんだけだと思いますよ」 そんなどうでもいい話をしながら、弁当をつまみつづける。 少し強めの味だが、それもまたレミリアには気に入った。安いものなのかもしれないが、そうしたものを食べるのもまた面白いというものだ。 そう思いながら、隅にあった紅いものを一口食べる。 「っ!?」 「どうしました?」 レミリアは慌てて茶を手に取ると、くいと喉に流し込んだ。 それでも、口の中に辛いような妙な味が残る。 「……これ、あげる」 「ああ、紅しょうがですね? ……辛かったです?」 「…………」 レミリアは無言で見上げた。辛さで舌先はまだおかしいし、目尻には涙がにじむ。 「あ、ああ、わかりましたわかりました! 僕が食べますから」 「……うん」 こく、とレミリアは頷いて、箸で紅しょうがを彼の弁当に移していった。 随分と長く乗っていたような気にまでなっていた電車を降りて、駅の大きさと広さに感心しながら外に出る。 くるりと見回して、青年はレミリアに軽く説明した。 「ここが、まあ、この辺りの中心の街というか」 「さっきまでいたところとは似ても似つかないわねえ」 「僕もそんなに知っている街ではないのですけどね」 馴染みのない街は、逆に旅の気分を味わわせてくれる。一つ深く呼吸をして、彼はレミリアの手を取った。 「とりあえず宿にチェックインだけして……それからどうしましょうか。お疲れでしたらもう休みます?」 「……そうね、そうしましょう」 「では」 手を取ろうかと思ったが、レミリアは首を振って腕を絡めてきた。 「昼間はこう出来ないもの」 楽しそうな言葉に頷いて、彼は地図を片手で確認しながら、宿の場所を確認する。 随分と海の方だった。それはそれでいいのかもしれない。少し長めに歩くことになるが。 「少し歩きますが、バスに乗りましょうか」 「ん、それがいい?」 「そうですね。街の様子も見れますし」 そういうことなら、と乗ったバスから外を見て、レミリアが何ともいえないため息をもらす。 「ここは随分明るいのね。夜でも昼間かと思うほど」 「まあ、都会はこういう感じですよ」 「これでは確かに、幻想の入る余地はないのかもね」 かもしれません、と返しながら、二人はしばらく過ぎていく街並みを眺めていた。 宿に着いてからチェックイン自体はすぐに終わった。 姓のところも、レミリアの方を書いているから、奇異には見えるだろうが止められはしない。 止められても大いに困るけれども、と思いながら、案内された部屋に入る。 「ん、ようやく一息ね」 そう言いながら、レミリアはベッドに腰掛けて翼を現した。そちらの方が落ち着くのだろうか。 「そうですね。今日はもうゆっくり休んで、明日またどこかに行きましょうか」 「ええ。どこか面白い場所はある?」 「それは……ううむ、天気にもよりますが、景色の良いところや遊ぶところは」 「じゃあ、その辺りは任せるわね」 微笑ったレミリアに、はい、と返しながら、彼は電話に目を向けた。 「それでは、休む前に何か飲み物でも」 「ん、お願い」 フロントに電話をかけながら、青年は窓の向こうに気が付いた。受話器を置いて、窓際にレミリアを手招く。 招かれるままに寄ってきたレミリアは、外を見てぽつりと呟いた。 「……海」 「ええ。幻想郷にはないですし……ああでも、月で見たのでしたっけ?」 こく、と頷いて、でも、とレミリアは続けた。 「向こうのと違って、こっちにはいろいろ生き物がいるのよね」 「明日にでも見に行きますか」 「ん、そうする……」 ぼんやりと外を眺めていると、部屋のチャイムが鳴った。レミリアをそのまま残して、彼だけが取りに出る。 ワインと紅茶を受け取って戻ってくると、窓際のテーブルに置いた。 「海を見ながらというのも」 「ん、いいわね」 レミリアは窓から離れて、こちらに近寄ってきた。座りやすいように、軽く椅子を引く。 「ありがとう。でも、その前に」 「はい? ……っ」 背伸びしたレミリアに、ちゅ、と軽く不意打ちで口付けられて、彼は口元を押さえて言葉を失った。 本人は悪戯っぽく微笑って椅子に腰掛ける。それに合わせて椅子を戻した。この辺りは不意を打たれても抜かりなくやらねばならない。 「今日は一日ご苦労様。労いには十分でしょう?」 「ええ、本当に。かないませんね」 彼は困ったように微笑って、レミリアと自分の分のグラスに紅いワインを注いだ。そうして、レミリアの向かいに座る。 「では」 「ええ、この旅行がもっと楽しめるように」 彼女らしい言い方で、レミリアはグラスを掲げた。それに合わせて、彼も唱和する。 「乾杯」 思い出を偲ぶ旅行は、まだ始まったばかり。 次はどこを巡ろうかと考えながら、青年は、軽くグラスを傾けた。 うpろだ0009 ─────────────────────────────────── 久々に曇り空の合間から陽が差し込む、二月にしては温かい日だった。 とはいえ、館の中にあまり差し込んでは困るのでカーテンはほとんど閉められたままだ。 それでも暖を取るためにいくつか開けてはいる。妖精メイド達がたまにそこでたまってもいるが、まあそれくらいは許容範囲だろう。 そうしていても、レミリアのよく行動する一角はやはり閉ざされたままである。間違っても日が射さないようにされている。 そんなことを考えながらティールームの扉をノックした。今日は昼間からフランドールも上がってきていると聞いたからおそらく一緒にいるのだろう。 「どうぞー」 「いいよー」 「失礼します」 二人分の声に、やはり一緒かと中に入って――絶句した。 あまりに唐突に止まったからか、ソファに腰掛けている二人に疑問の声を投げかけられる。 「んー」 「どうしたのー」 「僕の台詞ですそれは」 どうしてレミリアとフランドールの頭に猫耳がついているのか。 どうしてお尻の方にぱたぱたと動く尻尾がついているのか。 どうして二人とも気怠そうにこちらを見ているのか。 そう、まるで昼寝前の猫であるかのように。 眠そうなのは百歩譲ろう。今は昼間だ。だが問題はそこではない。 「どうしたんですか、その耳と尻尾」 「どうしたんだっけ……?」 「何か今日はこういう日だからーとか聞いたような……」 よほど眠たいのか全く要領を得ない会話になっている。 誰かを問い詰めようか、という気分になってきた。この館内でこういうことをしそうなのは一人しかいない。 「ね」 「は、い、なんでしょう」 レミリアに手招かれて、ソファの近くに寄る。 近くに寄るとよくわかるが、レミリアの耳と尻尾は銀を基調とした毛並みで、フランは金を基調とした毛並みだった。 その滑らかさとふわふわした感じは、見ているだけで思わず手を伸ばしたくなるほどのもの。 それをぐっとこらえて、二人の要求を聞こうとした。 「どうしまし……わっ!?」 「眠い」 「眠い」 二人してこちらにしがみつこうと手を伸ばしてくる。どうやら頭はほとんど回っていないようだ。確かに日の高い、普段ならば寝ているような時間。 だが、この唐突すぎる行為には流石に急には対応できなかった。 「え、あ、ちょっと待ってください二人いっぺんは流石に」 「じゃあ私こっち」 「私背中ー」 「ちょ、ちょっと待ってください、ああ落ちるから!」 しがみつこうとしてバランスを崩しかける二人を何とか宥める。 最終的には安定した形でレミリアを腕に抱き上げ、フランドールを背中に負うことが出来た。 「……とりあえずパチュリーさんのところに行くか」 早くもまどろみ始めた二人を連れ、彼はティールームを出て図書館へと足を向けた。 「私が原因ではないわよ」 「……でしょうね」 二人の吸血鬼を抱えた彼の姿を軽く見やった後のパチュリーの言葉に、彼は軽く頷き返した。 理由は明白。図書館の書斎机に掛けているパチュリーからも耳と尻尾が生えていたからだ。こういった悪戯をするときはパチュリーは自分を標的にしないだろう。 「原因は?」 「八雲紫よ。外の世界では猫の日とか言ってたわ」 「その結果がこれですか」 レミリアは彼の腕の中で、フランドールは背負われたまま眠っている。 時折、ぱた、ぱたと尻尾が動くのはこう可愛らしい。可愛らしいのは可愛らしいが、この状態では何も出来ない。 かつ、二人とも非常に動きが猫っぽい。普段からどちらかというと猫気質のような気もするが、今日は特にだ。 「……ですが、普段とこう行動が変わるものですか?」 「妙に凝ってるみたいね。私も普段は眠くならないのにだいぶ眠いのよ」 「そんな風にはお見受けできませんが」 「せっかくの体験だからたっぷりデータを取らないともったいないでしょう」 魔法使いらしい返答に納得もしながら、パチュリーがこの案を受けたことを少し不思議にも思う。 「しかし、よくパチュリーさんもお受けしましたね」 「ああ、幻想郷の人妖を巻き込んでるみたいよ」 「……拒否不可とはまた」 「拒否しても無理矢理付けるでしょうしね。まあ害はないみたいだし、一日二日もしたら取れるでしょう」 そう言いながら、パチュリーは手元の本を閉じると小悪魔を呼んだ。すぐにぱたぱたと足音がする。 「はーい。あら、お嬢様と妹様もですか」 「……小悪魔さんも」 「ええ、たまにはこういうのもいいですねー」 猫耳をぴこぴこさせて非常に楽しそうにしている小悪魔に、パチュリーは紅茶を一杯持ってくるように頼む。 「お願いするわ」 「はーい。あ、そちらは……」 「僕はいいですよ。どのみち飲めそうにもないです」 肩を竦めようとしたが、竦めるとフランドールが落ちる。 小悪魔は、そうですね、と微笑むと、踵を返していってしまった。普段悪魔の尻尾のそれが猫のものになってる。 「……普段から生えてる人はどうなったのでしょう」 「ああ、アンケートみたいなものが送られてきたらしいわ」 「行き届いてますねえ……」 こういったおふざけに全力を出すというのは何となく理解は出来る。もうここに住んで長いのだ。だが、長くても慣れないというものはある。 とにかく、目下の問題は彼にしがみついている吸血鬼二人だった。 「しかしこれはどうしましょう。僕身動きあまり取れないのですが」 「ベッドに放っておけば? まだ昼だし、夜になれば元気になるでしょう」 「そうしますか……」 咲夜を呼ぼうか、と考えていたところで、腕の中のレミリアがもぞもぞと動いた。目を覚ましたらしい。 「起きました?」 「ん、ねむいけど……フランをなんとかしてあげないとね」 目をこすって、レミリアはパチュリーの書斎机の上の鈴を鳴らす。 「お呼びでしょうか」 「ん、咲夜、フランを地下室に」 「はい」 現れた咲夜は、青年の背中からフランドールを離して抱き上げた。 行動は常の通り瀟洒で無駄がない。彼女の頭にも猫耳が見えることを除けば普段通りだ。 「……本当にみんな生えてるんですね」 「ええ、でも割と普段通りよ」 微笑みを返して、咲夜は一瞬だけ消えるとすぐに戻ってきた。 「お嬢様も戻られますか?」 「うん」 そして彼に、連れて行って、と囁く。軽く頷いて、彼はレミリアを再び抱き上げた。 「それでは後ほど」 「ええ、今日のお茶の時間には上がるから」 そう答えたパチュリーに一礼して、彼はレミリアと咲夜と図書館を後にする。 「咲夜さんは大丈夫ですか? パチュリーさんでさえ少し眠いと言っておられましたが」 「一応は大丈夫よ」 「咲夜も眠かったら今日は休みを取りなさい。命令よ」 「はい、かしこまりました」 レミリアの言葉には素直に頷いて、咲夜は懐中時計を取り出した。 「まだ時間がございますから、もう少しお眠りになってよろしいかと」 「ええ、そうするわ」 それから軽く夜からの予定の話をしながら廊下を歩き、レミリアの部屋の前で立ち止まる。 「それでは」 「咲夜、また後で」 「はい」 咲夜に扉を開けてもらい、中に入ってベッドの方に向かう。扉が閉まる音がしたが咲夜が来た気配はない。仕事に戻ったのだろう。 薄暗い部屋の中を進み、ベッドにそっとレミリアを下ろした。もう目隠ししてでもこの部屋には何があるか大体わかっている。 下ろされたレミリアは、そのまま彼の方に手を伸ばしてきた。 「ね、少し休むから付き合って」 「はい」 ぎゅ、と抱きついてくるレミリアのなすがままに出来るように、青年もベッドに寝転がった。 そして一刻ほどの後。少し寝てすっきりしたのか目覚めたレミリアの隣で、不機嫌そうに青年が横になっていた。 「……どういう時間差なのでしょうか」 「さあ? 私達だけでは不公平だと思ったんじゃないかしら」 「……言っては何ですが、男の猫耳尻尾って一体誰が得するのでしょうね……」 ベッドに仰向けになるように身を沈めたまま、青年は大きくため息をついた。大体こういうのは可愛い女の子だからいいのであって男にするのが良いとは到底思えない。 レミリアの猫耳尻尾を見れて眼福だったのだが、まさか自分がこういうことになるとは思わなかった。 「あら、私は得してるわよ?」 そう、楽しそうにレミリアは彼の上に乗って尻尾を扱っていた。不機嫌なのでしっぽがぱた、ぱたと動いているのだが、それにじゃれるのが楽しいらしい。 意外にぱたぱた動かせるもので、レミリアの前でゆらゆらと揺らしてやると楽しそうに手で捕まえている。 「楽しいですか」 「楽しいわ」 指先で楽しそうにわしゃわしゃと弄っている。よほど楽しいのか、ゆらゆらとレミリアの尻尾が目の前で揺れていた。 ふらふらと楽しそうに動いているそれは、何共も言えずこちらの関心を誘う。 おそらくこれも猫化の影響なのだろう。衝動のままに手を伸ばして尻尾をそっと撫でた。 「にゃっ!?」 「すみませんつい」 撫でた瞬間、レミリアに思い切り逃げられてしまった。しゃーと警戒するように耳をぴんと立てて抗議してくる。 「いきなり何するの」 「いや、ゆらゆら揺れててつい」 すみません、と言いながら、身体を起こしてベッドの端まで逃げてしまったレミリアに手を伸ばす。 むう、と警戒したままレミリアは寄ってきた。そのまま頭も撫でる。耳の辺りも。気持ちいいのか、耳がぴょこぴょこ動いた。 「んー……」 「気持ちいいです?」 「ええ。気持ちいい」 もっと、と言いながらレミリアは彼の傍まで寄ってきた。尻尾が揺れていて思わず手を出したくなる。 衝動をこらえながら撫でていると、その手を外された。 「何か?」 「私もやってあげる」 「ああ、はい」 ぴょんと胸元に飛びついてきて、レミリアは彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。 耳に当たる手がくすぐったい。だが、悪い気はしない。 「気持ちいい?」 「……ええ、まあ」 尻尾が上機嫌に揺れる。我ながら正直なことだ、と思いながら、レミリアの手に撫でられるままになる。 「……僕も撫でていいですか」 「ん、いいけど」 答えが来るか来ないかのうちにレミリアの腰に腕を回して抱き寄せて、もう片方の手で頭を撫でる。 「もう、いきなり」 「駄目ですか」 「駄目って言ってもするんでしょう、もう……」 文句を言いながらも、レミリアはわしゃわしゃする手を両手に変えた。思い切り髪が乱されていく。 そのお返しとばかりに、腰に回した方の手をレミリアの尻尾に伸ばした。 「ひゃ!?」 「今度は逃がしませんよ」 冗談めかして言いながら、逃げては戻ってくる尻尾を撫でたり指先でくすぐったりしてみる。 本当にいい手触りだった。髪を撫でているときもかなり気持ちいいのだが、それとはまた違った心地よさがある。 そんなことを思いながら弄っていると、かぷ、と首筋に軽く甘噛みされた。気が付けば頭を撫でていた手は離されて、胸元を掴んできている。 「くすぐったいから、やめて」 むう、と見上げてくる目は少し潤んでいた。ざわざわと騒ぐ気持ちを無理に押さえつけて手を離す。 「これは失礼」 「わかればいいの」 ぱた、ぱた、とレミリアの尻尾と羽が同じタイミングで上下する。そのまま、胸にすりすりと頬を寄せてきた。 「けど、まだもう少し時間はありそうね」 「まあ、そうですね。夜になったらフランさんも起きてくるでしょうし」 「ん、じゃあそれまで、もう少し貴方を独占することにするわ」 そう言いながら、レミリアは胸から身体を離すと、軽く口唇を重ねてくる。 「いいでしょう?」 「ええ」 そう答えると、ぴょこぴょこと耳が嬉しそうに動いた。ぎゅうともう一度抱きついてきて、こちらの口唇をなぞった。 「じゃあ、ちょうだい?」 「はい」 自分の耳と尻尾が上機嫌を示しているものになってるだろうな、という考えは、口づけの甘さの前に溶けていった。 「で、結局全員猫のままと」 「朝には解けるでしょ」 ティールームで紅茶を傾けながら、レミリアとパチュリーがそう言葉を交わしている。 「面白いのにねー」 「そうねえ、たまにはいいかもしれないわよね」 フランドールの言葉に同意して、レミリアは尻尾をパタパタと動かした。 「……普段から猫っぽいのにねえ」 「そんなことと思うけど。ねえお姉様」 「ええ。猫はこの館にはいないと思うけど」 「よく言うわ。そう思わない?」 「この状態で僕に同意を求めますか」 黙ってカップを傾けていた青年は、返事を曖昧にするために肩を竦めた。 「僕には何とも」 「忠義なことね。そうね、貴方はどちらかというと犬よね」 「うん、犬だよねー」 パチュリーとフランドールの言葉に、彼はさらに微妙な表情になった。だが、レミリアだけがぽつりと異を唱えた。 「……猫も悪くないと思うけどね」 「あらレミィ、何か心当たりでも?」 「良いじゃない別に。ねえ」 そう言いながらも、レミリアの尻尾が照れ隠しをするかのようにぱたぱた動いているのを、パチュリーは見逃さず、だが追求はしなかった。 「はいはい。さて咲夜」 「はい、もう一杯、少し濃いめの」 咲夜が差し出す紅茶に頷きを返す。何よ、と返しながら、レミリアは自分にもと咲夜に求める。 どういうことなのか、とフランドールに尋ねられて困っている彼を、どういうタイミングで助けるかと考えながら。 そう紅茶を傾けるレミリアの尻尾は、ゆらゆらとどこか楽しげに動いていた。 うpろだ0020 ─────────────────────────────────── 幻想郷の春。桜の季節はそう長くはない。だからこそか、宴会が多く開かれる。 昼も夜も。だが、結局のところ、青年が主と共に参加するのは夜の宴会が主だった。 無論昼のものにもたまに参加することはある。けれども、やはり夜の方が落ち着くのも事実。 今宵もまたそうであった。博麗神社の境内で、いつものように花見の席が開かれていた。 その片隅。手頃な大きさの岩に片胡座で腰掛けている青年と、その膝の上で抱かれたような状態で座っているレミリアの姿があった。 「いい月ね」 「ええ、本当に」 相槌を打ちながら、さてどうしてこうなったのか、と考えても仕方のないことを考える。 レミリアの声は既に酔っていた。まるで猫のように目を細めて、くすくすと微笑いながら腕に寄りかかっている。 ため息混じりに、膝の上のレミリアに声をかけた。 「酔ってらっしゃるでしょう」 「酔わなければ楽しくないわよ」 くすくす、と紅い悪魔は身を寄せて笑った。今日の酒はどうやら強めのものが用意されていたようで、随分酔客が多い。 かくいう自分も結構酒は回っている。派手に乱れていないのは自制しているからだった。 そう、自制。自分をきちんと抑えておかなければ、そもそもこの状態の主を膝の上において平然と出来るはずがない。 傍らには盃が二つ。水面にゆらゆらと月が揺れている。 澄んだ、きついが良い酒だった。ちびちびと彼も傾けている。つまみはないが、ゆっくり飲んでいるならば酔い止めを持っておけば何とでもなる。 が、レミリアはお構いなしに盃を傾けていた。大丈夫だろうかとちょっと不安になる。 今年の桜は花々の主でさえ誉めたという程の見事なもので、それに十三夜の美しい月がかかっているとなれば、上機嫌になるのも道理かもしれないけれども。 そんな見事な桜の宴席の中、どこからか酒瓶を一本くすねてきて、それをこうして二人で酌み交わしている。 「あまり飲んでないんじゃない?」 「そうでもないですよ」 盃を揺らして、彼は口元に笑みを浮かべた。大して会話をしているわけではない。 何も話さずにただ寄り添っているだけ、というようにも見えもするだろう。 だがそれでもいいのだ。常に何かを話していなければならないような関係ではない。 ただ黙って二人で並んで酒を飲むのも、これ以上なく落ち着く時間なのであった。 「ね」 「はい? っ!?」 不意に、く、とレミリアは盃を傾けると、彼の口唇を塞いだ。香りの強い液体が口の中に流し込まれる。酒精が鼻に抜けていく。 「っ……!」 「ん、ん」 レミリアは彼の服の襟元を掴んで逃げないようにしながら、口移しで酒を飲ませてきたのだった。 酒がなくなっても、レミリアは離す様子を見せなかった。そのまましばらく、口付けを続ける。 「ん、うぅ」 やられっぱなしは何となく悔しくて、レミリアにちょっとした反撃を試みる。 こちらの口の中にある舌を甘く噛んでみるとレミリアの身体が震えた。 「ん、あ、もう」 ちろ、と舌先を舐めて、レミリアの口唇が離れていった。瞳はやはり酔っている。 だが何に酔っているのか、それは考えないようにした。考えると抑えていられない気がした。 酒かそれ以外のものかが零れそうになったのを指先で拭って、レミリアのしてやったりという表情を何とも言えない想いで見やる。 「どう?」 「……随分と美味で」 「あら、成長したわね」 以前なら味なんてわからない、なんて言ってたのに。そう、レミリアは上機嫌に告げる。 一つため息をついて、酒精が身に染み込むのを感じながら空を見上げる。 ざあ、とざわめく風の音に合わせて桜の花びらが舞っていた。その向こうに月が昇っている。 「綺麗ね」 「……ええ、本当に、綺麗な月です」 こちらを向いたレミリアと視線が合った。レミリアは嬉しそうに微笑んで、もう一度、口付けしてくれた。 「あんたらねえ……」 しっとりとした空気を破るように、微かに怒気を含んだ声がした。この神社の巫女、霊夢の姿だった。 彼女も幾分か酒は入っているようで頬が赤い。 「神社の片隅で砂糖まき散らすな」 「あら、甘い物が似合うお酒もあったはずだけど」 「そういう問題じゃなくて」 レミリアのにべもない反応に、はあ、とため息をついて、霊夢が青年の方を軽く睨む。 「貴方も止めないさいよ。レミリア止められるの貴方だけでしょうに」 「いやはや」 「誤魔化さないの。向こう、甘さにあてられて飲んで大変になってるんだから」 「ああ、随分騒がしいと思ったら」 くつくつとレミリアは笑った。つい、と酔眼を宴会場に向ける。騒がしい、という単語が控えめに見えるような惨状になっていた。 「もう少し、こうしていたかったけど」 「家でやれ家で」 「桜の下、月の明かりの下でやるからいいんじゃない。無粋ねえ」 とはいえ、と言いながら、レミリアは名残惜しそうに彼の膝の上を退いた。 「騒がしくしすぎて桜も月も楽しめないのはもっと無粋。行ってくるわね」 「お気をつけて」 レミリアの手の甲に軽く口付けて、青年はレミリアを見送る。 弾幕ごっこも加わっていた騒ぎは、レミリアの参戦によりさらに悪化していた。 「まったく、見せつけるわねえ」 悪態をつきながらも、あまり気にはしていない様子で霊夢が肩を竦めた。 「まあまあ、こういったのもこの季節しかできませんから」 「年中いちゃついてるくせに?」 「それを言われますと」 ああ、否定しないんだ、と呆れる霊夢に、今度は青年が肩を竦める。 その会話に割り込むように、爆音と閃光が降ってきた。二人して空を見上げる。 いつの間にかレミリアが中心で暴れているようだった。何事か起こすときには自分を中心にしたがるレミリアらしいとも言えた。 「派手にやってるわね」 「ええ。夜空に映える、綺麗な紅い月ですよ、本当に」 「惚気はもうお腹いっぱいだわ。そうだ、あれが終わる前に何か軽いの作ってくれないかしら。お茶も」 彼は頷いた。霊夢の要求は、レミリアが騒がした分の迷惑料のようなものだった。否応もない。 「承知しました。数は適当で良いでしょうか」 「いいんじゃない? じゃあよろしく」 ひらひらと手を振って宴席に戻る霊夢を見送って、彼は神社の台所に入る前にもう一度空を仰ぐ。 美しい彼の紅い月が、煌々と、活き活きと、輝いていた。 うpろだ0034 ─────────────────────────────────── 「暑くなりましたねえ」 「いきなり暑くならなくてもねえ」 館の、風通しの良い一角で青年とかき氷を食べながら、レミリアはため息をついた。 「まあ、それでも湖からの風でだいぶ涼しいですが」 「外はもっと暑いんでしょう? よく耐えられていたわねえ」 「まあ、そこは涼しくするものがいろいろありましたので」 かちゃ、とスプーンを器の中において、青年は微笑った。 紅魔館は窓こそ少ないが、風通しのよいところにきちんと備えられてもいる。最近はそこのほとんどを全開にして空気がこもらないようにしていた。 図書館の方は、パチュリーが以前に空気を循環させたり入れ替えたりする法を作って何とかしているらしい。地下にある分、ある程度涼しいのが救いでもある。 「後で咲夜にフランにも持ってくように言わないと」 「ああ、そうですね。今はまだおやすみ中のようですが」 「暑くて起きちゃったものねえ」 レミリアが不満そうな声を上げる。青年は困ったように微笑った。彼もまた同じような理由で起きたのだった。 まあ、たいていどちらかが起きれば起きてしまう、というのもあるのだが。 「もう少し風通しでもよくしようかしら」 「それもありかもですね、ここまで暑いと。蚊帳をかけて窓を開けておくのもいいかもですが」 レミリアの部屋にも一応小さめの窓はある。月明かりを取り込むためにいくつか窓はきちんと用意されているのだった。 それもその用途のためで、たまに部屋の窓から月を鑑賞することもある。 「明日からそうしましょうか」 レミリアがそう、器を行儀悪くスプーンで鳴らした。涼やかなガラスの音がする。 その音を破るように、ノックの音が聞こえてきた。 「咲夜?」 「失礼いたします、お嬢様。招かれざる客です」 咲夜の口調はいつもの真面目なものながら、ちょっとした諧謔味が混じっていた。 暇を潰せるものはこの際何でもありがたくある。レミリアは入るように声をかけた。 咲夜が開けた扉の向こうには、見慣れた紅白と黒白の姿があった。 「よう」 「あら、美味しそうな食べてたみたいじゃない」 「何、たかりにきたの?」 「是非にと言うなら仕方がない」 軽妙な返しに、やれやれと肩を竦めるレミリアを視線で宥めて、青年は立ち上がった。 「作ってきましょうか」 「ええ、私の分もお願い。ああ、咲夜にさっきの話も」 「かしこまりました」 青年はそう頷いて、霊夢達と入れ違いになるように部屋の外で出た。 咲夜に用件を伝え、台所でかき氷を作り――ついでに咲夜の分のかき氷も作って――少しの時間の後、彼はかき氷の入った器を三つトレイに乗せて部屋に戻ってきていた。 「霊夢さんもいらっしゃるとは珍しいですね」 「涼みにね。ああ、ありがと」 霊夢の前に氷をおく。シロップは作り置きをしていたレモンのシロップだった。疲労回復にも良い。 「ん、美味しいな」 しゃく、と聞いているだけで涼しくなるような音を立てて、魔理沙の前に置かれた氷が崩される。 「人里の氷室もこの分だと大変そうよね」 「そうだなあ。ああでも、今年は氷も多めに取れてたらしいから、とんとんじゃないかな」 「上手くできているものですね」 「そんなものでしょう」 霊夢が何ということもないようにしゃくしゃくと崩して口に運ぶ。そういうものか、と彼も納得した。 「貴方はよかったの?」 「もう十分先ほどいただきましたしね」 「遠慮しなくてもいいのに」 レミリアも氷を崩して口に運んだ。その様子を、青年は楽しそうに見ている。 「……幸せそうだなあ、お前」 「ん? 僕です?」 「他に誰がいるんだ、全く。まあ、仲良いのはいいことだろうけど」 「そうねー……」 霊夢はしみじみと同意した。この二人は喧嘩を始めたりトラブルを起こしたりする度、否応なしにいろいろ周囲を巻き込んでいくのだから尤もな感想だった。 現に以前何度か巻き込まれているのだから、そうも言いたくなることだろう。 「そういえば、霊夢と魔理沙は何か涼しくなる方法知らない?」 「すごい無茶振りが飛んできた」 「暑いんだもの。人間はこういうときどうするのかなって」 「横にも元人間いるじゃない」 「僕はそもそも外の人間ですから、こちらでは出来ないのも多いですし」 青年は軽く両手をひらひらと振ってお手上げの意を示した。 「まあ、こう暑いとそういうのが気になるのもわかるが」 「大体変わらないんじゃない? 風通しをよくして冷たいもの食べたり飲んだり。まあ逆に熱いお茶を飲んで汗流したりするけど」 「ああ、汗かいたときは湯浴みもありだなー」 魔理沙と霊夢がぽんぽんと案を上げていく。ふむ、と彼は顎に手を当てた。 「湯浴み……は逆に暑くなりそうですからねえ。そもそも汗はほとんどかかないですし」 「涼しくするなら水かしら。今日は水浴びにしましょう。流れてなければ問題はないし。私も貴方も」 「そうですね、後で準備しておきます」 言葉の端々から、一緒に入っていることを察した人間二人が、何とも言えない視線を吸血鬼に向けた。 「……それは、お前ら、素か」 「素でしょうよ。折角涼しくなったのにね」 霊夢がやれやれと首を振った。魔理沙も肩を竦めて、ああでも、と話題を転じた。 「夏の温泉もいいけどな」 「暑いけどね。上がった後のお酒が美味しいのよねー」 うんうん、と頷きながら、霊夢は空にした器にスプーンを置いた。 以前の地底の異変の関係で、博麗神社の近くにも温泉が湧いているところがあるのだった。 「あ、いいわねそれ」 「え、食いつくのそこに。というか温泉大丈夫なの、流れあるけど」 「湯は水に非ずだもの。今日はそうしましょう」 良い案だというように、レミリアは手を打ち合わせた。青年もその案に乗る。 「そうですね、桃のワインがあったような。咲夜さんに聞いて準備しましょうか」 「それ、当然私達も貰えるわよね?」 「そうだな、惚気をきいてやったんだから当然の給付だよな」 「勝手に押し掛けてきたのはそっちだろうに」 レミリアは図々しい二人に呆れつつも、青年に向かって一つ頷いた。青年もそれに返して、それでは、と部屋を出ていく。 それを見送って、呆れたような口調のまま霊夢が呟いた。 「涼みにきたのに変なことになったわねえ」 「ま、酒をもらえるんだから良しとしよう」 魔理沙の声には宥めるような響きがあった。レミリアもまた呆れた声で返す。 「吸血鬼の館に勝手に押し掛けてきて涼んでお酒をせびっていくって結構だと思うんだけど」 「いつも押し掛けてくるのはそっちじゃないの」 「まあ、そうだけどさ」 釈然としない調子でレミリアが答えたとき、再び部屋の扉が叩かれた。顔を出したのは青年だった。 「失礼します。少し多めに頂いてきました。出かけるときは一言お願いします、とのことです」 「ん、わかったわ。陽も落ちるし、そろそろ行きましょうか」 レミリアは霊夢と魔理沙を急かすように立ち上がる。仕方なさそうに二人も席を立った。 「もう少し涼んでいようと思ったが仕方ないか」 先に行こう、と言うように魔理沙は霊夢に頷いて見せた。霊夢も諦めたように頷く。 「ま、私達は先に行くわ。仲良く来るのもいいけど、程々にね」 「あ、風呂は別に入れよ。私達はそこまであてられたくない」 言いたい放題言って、先に二人が部屋の外に出た。そして、館の入り口の方に歩いていく。 その後ろ姿を見ながら、レミリアは大きくため息をついた。 「全く、それくらいはわかってるのに。ねえ」 「ええ、まあ。流石にそこまでの度胸はないですからねえ」 ずれた会話をかわしながら、二人は並んで廊下を歩き始める。 「そういえばどう冷やしておくの?」 「神社の井戸水でも借りようかと」 「……神社で宴会が始まりそうね」 そうなったらどのみちいつもの通りかしら、とレミリアは楽しそうに笑う。 「まあ、それも良いかと。また暑くなってしまいそうですが」 「そうね。そうなったら、寝る前に水を浴びるのもいいわね」 「……そう、ですね」 「あら、温泉に行くと聞いて残念だったかと思ったのだけど」 レミリアのからかうような視線に、彼は複雑な表情をした後、はあ、と一つ息をついた。 「下心を見透かされるのはその、少し」 「あら、いいじゃない。どうせ隠すようなことでもなし」 「まあ、それもそうですが」 くすくすと笑うレミリアに、心の底から降参の意を示す。 結局、いつまで経ってもレミリアの手のひらの上なのだった。中々意趣返しも出来ないのは残念だが、悪い気分ではない。 「これ以上不利になる前に行きましょうか」 「ええ、咲夜に言付けて。楽しみだわ」 レミリアは上機嫌にそう笑った。彼も笑みを返して、手を恭しく差し出す。 結局のところ、予想通りと言うべきか、神社に着いて温泉を楽しんだ後は人妖が集まってきてしまい宴会の騒ぎになってしまった。 そういうのも暑気払いには悪くないでしょう、と笑う主に、改めて敵わないという想いを抱く。 そして、彼は主と並んで眺める夏の喧噪を、何ともかけがえないのないもののように感じていた。 うpろだ0049 ─────────────────────────────────── 野分の後の空気は、大抵澄んだものになる。埃っぽい空気も何もかも吹き飛ばしてしまうから。 少しだけ湿った空気が残るような夜は、冷え込みながらもとても綺麗な空が見える。 「随分冷えますが、大丈夫ですか」 「うん、大丈夫よ」 レミリア・スカーレットの言葉に頷きながらも、青年は自分の上着の中に抱え込むように彼女を寄せた。 空を見ているレミリアは、その行為をすんなりと受け入れた。自分から寄ったようにも見える。 十三夜の月はよく澄み渡っている。確か一年で一番月が綺麗に見える夜ではなかっただろうか。 そんなことを呟いたのがきっかけで、誰にも何も伝えずに紅魔館から出かけて散歩をしている。 適当に紅茶をポットに詰めて、少しばかりの用意をして、そっと出かけてきた。 「野分は酷かったわね」 「ええ、里の方も無事だといいのですが」 「また、貴方も借り出されるかしら?」 「かもしれません。ただ、作物への被害は心配はないでしょう。もうほとんど刈り入れてましたし」 とりとめない話をしながら、静かな夜を歩く。月は昇っていた。満月に少し足りない月の光が、辺り一面に降り注いでいる。 ここのところは冬への準備でいろいろと忙しかった。何気ない話をしながら歩くのも、どこか心躍る。 「冬になるわね、すぐに」 「ええ、台風が全部持って行ってしまった気がしますね」 「台風、か。何となく、テュポーンを思わせるわね。語原だったかしら」 「ええ、そういう説もありますね」 「でもそうだとしたら、この程度には収まらない気もするけれど」 「どれにしろ、人にとっては恐れるものだったということでしょうね」 「ん」 レミリアは曖昧に頷いて、彼を振り仰ぐ。 「どこかでゆっくり出来るかしら」 「ええ、そうですね。少し先にちょうど良いところがありますから、そこで」 青年は頷いて、レミリアの肩に手を乗せて引き寄せた。 少しばかり開けた草原の端、自然の岩が無造作に並ぶ場所。 その一つの上に、持ってきた布を敷いて、簡単な椅子代わりにする。 「どうぞ」 「貴方が先に座って」 「ああ、はい」 何を求めているのか理解して、彼は岩に座る。その膝の上に、レミリアが乗った。 それをもはや当然のこととして、青年はポットを開けると、中に入れていた器に紅茶を注いでレミリアに手渡した。 「ありがとう」 「いいえ」 月の光を十分に浴びながら彼の身体に背を預けている。何も特に話すこともなく、ただくっついているだけ。 たまにはこういう時間もいいものだ、と青年は思っていた。 もしこれが図書館の魔女殿辺りに聞かれていれば、いつもそうしているくせに何を言っているのだこいつらは、という顔をされていただろう。 レミリアにとっても不満などなかった。不満があれば、即座にそれを口に出す。それを躊躇いはしない。 時にはそれを『察してほしい』という我儘は述べるものの、その程度だ。 「寒くないですか」 「大丈夫。貴方は?」 「大丈夫ですよ、こうしているだけで暖かいです」 「体温は、貴方の方が温かいくらいだけど」 「そればかりというわけでもないですから」 青年はそう言って、膝の上のレミリアをさらに引き寄せた。吸血鬼だからか、肌はやはり少しひんやりしている。 けれどもその中にあるものは温かくて、それをさらに感じられるように、強く抱きしめた。 「どうしたの?」 「ああ、いえ、何となく」 自分の行動を誤魔化すために、話題を探す。この辺りは、まだ未熟と言っていいのかもしれない。 「しかし、黙って出てきて、後で咲夜さん辺りに怒られそうですね」 「もう」 レミリアは仕方なさそうな、どこか拗ねたようなため息をついた。 「折角二人きりの時に、そうやって別の子の名前を出すのは無粋でしょう? たとえそれが咲夜でも」 「これは、失礼しました」 素直に非を認めて、彼は膝の上でこちらを向いてきたレミリアに降参の意を示した。 無粋で気の利かないところはどうにかしないと、と心に思いつつ、宥めるようにレミリアの髪を撫でる。 「全く、こんなのでは誤魔化されないわよ」 言いながらも、背中の羽は機嫌を直したように上下している。 それに少し安堵して、髪を撫でながら、月明かりが降り注いでいるレミリアの背中をぼんやりと眺める。 いつしか、誘われるように首筋に口付けていた。唐突なそれに、レミリアが身動ぎする。 「……お腹でも空いた?」 「ああ、いや、そういうつもりではなかったのですが」 そうなのかもしれないですね、と誤魔化す。少し月にあてられたのだろうか。 普段はあまり外でこういうことはしないのだが。していないはずなのだが。 「食べてもいいけど?」 「誰が見ているかわからないでしょう」 含みのある言葉に、青年は困ったように首を振った。 「見せつけてやればいいのに」 「生憎と、誰かに見せるのは好きではないので」 「あら、意外に独占欲は強いのかしら」 「もうご存知でしょうに」 拗ねたように言うと、レミリアはこちらの顔をのぞき込んでくすくすと笑った。 その様子さえ可愛らしくて、どうにもかなわない気分になる。 「まあ、それは後に取っておきましょうか」 「そうしてください」 「でも」 レミリアは青年の頬に手を伸ばすと、口唇を奪うように重ねた。 「これくらいなら、いいでしょう?」 「不意打ちは卑怯ですよ」 「いつもは貴方から存分に不意打ちしてくるじゃない。だから、ね」 そう言って、レミリアはもう一度、口唇を塞いでくる。 月からは、変わらずに柔らかな光が降り注いでいた。 夜明け前に帰った後、咲夜に二人してしっかり怒られた。 満月までは大人しくしておくから、というレミリアの言葉に、とりあえず場は収めてもらった。 部屋に戻って、休む用意を終えながら、彼はレミリアに尋ねた。 「よかったのですか?」 満月まで二日とはいえ、それまで暇ではないのか、という含みを持たせた問いに、レミリアに楽しげに笑った。 「あら、貴方が相手してくれるんでしょう?」 「ああ、ええ、まあ」 「退屈させないように、楽しませてね」 くすりと笑った姿に、曖昧な返答を返す。本当にいつもレミリアの手のひらの上なのだ。 それもまた悪くない、というのは、やはり惚れた弱みと言うものだろう。 妙なおかしさを感じながら、レミリアを自分の方に抱き寄せる。 カーテン越しの外からは、中秋から晩秋にかけての朝の気配が漂ってきていた。 秋の終わりの気配を感じながら、愛しい月を腕の中に抱いて眠るのも悪くはない。 眠りに意識を手放す前に、そんなことを、思った。 うpろだ0054 ─────────────────────────────────── 夕暮れの中、青年は里を歩いていた。仕事を終わらせたので、これから紅魔館に帰ろうとしているところだった。 日中の強い日差しも弱くなり、暑さも少しばかりマシになっている。 何か甘味でも買うか、それともまっすぐ帰るか、と考えていると、後ろから声をかけられた。 「あら」 「ああ」 「お疲れさま。帰りかしら?」 「はい。咲夜さんは買い出しに?」 「ええ」 十六夜咲夜だった。どうやら買い物に来ていたらしい。 日中はあまりに暑いので、夕方頃に動くことも多いのだった。 「今日来られるなら、先に聞いておけば良かったですね」 手に持っている荷物を幾つか受け取りながら、青年はそう咲夜に声をかけた。 「急に足りないものが出たから。今日は?」 「もう終わりです。レミリアさんが起きるまでには帰れそうで。まあ今日は、幾人かこの日差しで体調を崩してたので代わりに日中荷物を運ぶ仕事でしたので」 楽なものでした、と笑う青年に、咲夜は何とも言い難い表情をした。 「……吸血鬼の発言とは誰も思わないでしょうね」 「……ですねえ」 呆れた声に、それもそうだというような笑いを含んだ声で彼も答えた。 「香霖堂の店主は煙草を吸ってたかしら」 「ええ、たまに。ああ、もしかして煙草の匂いが」 「少し残ってるわね。後で洗濯してしまうから出しておいて」 「了解しました」 咲夜の言葉に、素直に青年は頷いた。 日は傾いたところから落ち始めている。沈む前には、紅魔館に帰れそうであった。 「何度か言ってるけれど」 「はい」 「貴方はもう少し自分が何なのか自覚すべきだと思うの」 自分の主に説教されて、青年は少しばかり小さくなりながら頷いた。 帰ってきて呼ばれたティールームにて、今日の報告をしていたのだった。 もっとも、報告というほど仰々しいものでなく、今日何をしていたか、くらいなのだが。 怒っているのは無論報告内容のことだった。彼女の眷属でありながら、太陽の下で仕事をするとは何事かと。 「確かに貴方は日差しが大丈夫だけれど。消耗は大きいでしょう?」 「いや、その、香霖堂でも、休みましたので」 「そういう問題じゃないの」 仁王立ちのまま、羽をばさりと広げて、レミリア・スカーレットが不満を漏らす。 「第一、陽に当たりながら仕事する吸血鬼がどこの世界にいるのよ」 目の前に、という言葉は流石に飲み込んだ。軽口は軽口で許されもするのだが、大きな不満と共に心配している気配もあったから。 反省しているのを感じたからか、まだ不満そうな表情ではあったものの、一つ息をついてレミリアは説教から解放してくれた。 「まあ、いいわ。咲夜、お茶」 「はい」 ただいま、という声と共に、咲夜がティーセットを持って現れる。レミリアはソファに先に座ると、青年にも座るように促した。 「また後で呼ぶわ」 「かしこまりました」 咲夜はそれぞれの前に紅茶を置くと、一礼してその場を立ち去る。 レミリアは一口紅茶を飲むと、ふうと気を抜くようなため息をついた。 「心配しているのも本当だから。気を付けなさい?」 「はい」 それを申し訳なく思いながら、紅茶に口を付ける。柔らかい香りが漂った。 少しばかり腹が満たされる気分になったのは、血が入っているからだろう。 「足りる?」 「ああ、ええ。そこまで消耗もしてませんし」 「ならいいけど。貴方は私よりも食べるしね」 そう、微かに甘えるような声色で言った後、レミリアは不意打ちのように軽く口付けてきた。 そして、苦いものを食べたときのように少し顔をしかめる。 「煙草の匂いがする」 「わかりますか」 「当たり前でしょう」 レミリアは拗ねたような口調で言うと、青年の膝に乗った。肩を竦めて、彼は説明する。 「香霖さんのところで一ついただきまして」 「意外。吸わない人だと思ってたわ」 「滅多に吸いませんよ。普段は貰いませんし。今回だって――そうですね、こちらに来てすぐくらいに一本もらって、それ以来ですね」 青年は軽く笑った。こちらに来てすぐということは彼がまだ人間であった頃のことだった。 一瞬だけ切なそうな瞳をしたが、すぐに不満そうな表情をして、レミリアは羽をバタバタと動かした。 「ああ、ええと、拙かったですか」 「不味くなるのは確かね」 レミリアはそう言って、青年の膝の上で向かい合うように座り直した。 何事か、と思う前に、レミリアに軽く口唇を塞がれる。 「キスが苦いのは、嫌」 「はい」 声が妙に艶っぽくも聞こえて、思わず息を呑む。子供っぽい仕草からこれは反則ではないだろうか。 悪戯っぽい光が紅い瞳の奥に揺らいで、レミリアはもう一度口唇を重ねてきた。 今度は少しだけ深くて、だがその舌に感じたのであろう苦みに少しだけ眉をしかめた。 口唇を離して、少し恨みがましい口調で告げる。 「もう、吸っては駄目よ?」 「仰せのままに」 レミリアの言葉は絶対である。許しが出ない限りは生涯の禁煙も同じだが、そもそもそんなに吸う方でもない。 これが愛煙家だったら随分辛かっただろうな、と少しだけ笑う 「何を笑っているの?」 「いや、煙草がそこまで好きでなくてよかったな、と」 「好きじゃないならそもそも吸わないでよ、まったく」 むうとむくれるレミリアを宥めるように肩を抱いて、今度はこちらから口唇を塞ぐ。 まだ苦いのか、僅かに身じろぎした。構わず少し押さえつけるように、口付けを深くする。 「ん……嫌がるの、楽しんでない?」 「いやいや、そういうつもりは」 ありませんが、と言いながら、青年はまた一つレミリアと口唇を重ねた。 今度は、思った以上に素直に受け入れてくれた。 「ということで、今日はご遠慮を」 「おや残念だ」 少しも残念そうでない口調で香霖堂の主はそう答えた。 外からのものをまた拾ってきた店主と、これはどういうものかと話をしているところだった。 その途中、手間賃代わりにと薦められた煙草を簡単な説明付きで断った青年に、霖之助は肩を竦める。 「君もいい加減染まってきたんじゃないのかな」 「そうですかねえ……まだまだ足りない、とはいつも言われていますが」 「いや、幻想郷に、だよ」 外からの人間と聞いたときはどうなるかと思ったけどね、と煙草をくゆらせて霖之助は続けた。 「そちらですか。慣れはしますよ」 「何もかも、かな」 「かもしれません。まあ、日々の変化も大きいですが」 青年は小さく笑った。これはこれで楽しい人生ではあると思っている。もう人でない身で言うのは妙かもしれないが。 「楽しいものですよ、こういうのも」 「楽しそうでいいけれど、惚気は程々にね」 「……気を付けます」 自覚があって何よりだ、という言葉に肩を竦めた青年は、館に買って帰る土産を選びはじめ、店主の苦笑を深めることになった。 うpろだ0024 ─────────────────────────────────── 空気の澄んだ夜であった。 夜だというのに、人里はにわかに活気づいている。青年はそれを何ともなしに眺めやった。 秋祭りではない。たまに試験的に行われている夜市であった。 屋台を出したり、雑貨を売ったりと内容は雑多なもの。だが、そういった場を予めあつらえるということが大事らしい。 夜と言うことで、客層は妖怪が多い。とはいえ人間も居ないわけではない。人里が不可侵領域だからこそ出来ることであった。 紅魔の主、青年の愛しき主であるレミリア・スカーレットも、その雑踏の中に十六夜咲夜を伴って足を踏み入れている。 その姿を視界内におきながら、一歩下がって彼は歩いていた。女同士の買い物に口を挟むのも無粋である。 とはいえ、急に話を振られたときのために、いろいろと考えておかねばならないが。 その彼に、不意に声がかけられた。知っている声だった。 「おや」 「ああ、慧音さん。どうも」 軽く会釈をすると、向こうも会釈を返してくれた。人里の守護者、上白沢慧音だった。 「一人……というわけではないか」 「ええ」 慧音は少し気遣わしそうに、レミリアと咲夜の方を見やった。とにかく目立つ二人ではある。 「大丈夫ですよ」 「まあ、騒動を起こす方ではないだろうけれど」 彼は頷いて、もう一度夜市を眺めやる。思ったよりも賑わいでいた。 「この時期の夜市は珍しいですね」 「少し前に野分もあった影響で、いろいろずれこんで……それでも、みんな楽しみにしているみたいだからね」 慧音はそう応えた。元々、それほど娯楽があるわけでもない。楽しみとしては確かによいものだろう。 それでも、これ自体は統制を必要とするから、人里と神社と妖と、三者が共同で行うのだが。 「まあ、それで僕達も出てきたわけですが」 「そのようだな。まあ、来る者拒まずだから問題はないが。騒動さえ起こさなければ」 「大丈夫ですよ。どうやら楽しんでいただけているようですし」 咲夜と一緒に楽しそうに夜市を見回っているレミリアに、青年は嬉しそうな視線を送っている。 その反応に、慧音は少しばかり呆れたようなため息をついた。 「どうやら機嫌もいいようだな」 「ここのところいい天気でしょう。月もよく見えて、それでレミリアさんの機嫌もよくて」 「なるほど」 慧音が言及したのはただレミリアに対してだけではないのだが、それ以上は何も言わなかった。 代わりに、ふと思いついたように尋ねる。 「月、といえば、あの格言は彼女は知っているのかな」 貴方はよく口にしている気がするが、と言葉を続ける。 少しばかり考えて、青年はああと頷いて笑った。 「さあ、どうでしょうか。どちらでも構わないのですけどね。僕にとって最も美しい月はただ一人ですから」 「……ごちそうさま」 慧音は肩を竦めた。息をするように惚けられてはたまらないというような、少しばかり呆れた微苦笑を浮かべている。 そう話しているうち、こちらの様子に気が付いたのか、咲夜をつれてレミリアが近付いてきた。 慧音は軽くその姿に会釈する。それに応じた後、首を傾げてレミリアは尋ねた。 「こんばんは、白澤。何か彼に用でもあった?」 彼と慧音が話していることはとっくに知っていただろうに、レミリアはあえてそう言っているようだった。 慧音は再び肩を竦め、少しばかり軽い口調で返す。 「随分と惚けられていたよ」 「あら、それは良かったわね」 ぱた、とレミリアの羽が上下する。その答えに満足したのだった。 そして、青年の方にちらりと視線を向ける。青年が何か言う前に、咲夜が動いた。 「お嬢様」 「ええ、よろしく、咲夜」 咲夜は頷いて、青年の背を軽く押した。慧音も隣で了解したような表情をしている。 レミリアといえば、何かを催促するように羽をパタパタと動かしていた。 「はい、交代。後のエスコートはよろしくね」 「ああ、ええ。いいのですか?」 「貴方が他の女性と話していることの方が気がかりみたいだから」 咲夜は小声でそう言って、ほら、行きなさい、と青年を促した。 レミリアの手をとって、市を見て回る。 先程までは少しばかり不満そうだったが、今はまた機嫌が戻ったようだった。 市には彼や咲夜、美鈴といった紅魔館でも使いに出る面々はたまに顔を出すが、当主であるレミリアは当然出て来はしない。 自然、物珍しいものが多くなるためか、好奇心のままに店を眺めている。 「さっきも咲夜と話してたんだけど」 ふいとレミリアが口を開いた。視線は様々な店に向けられたままだ。 「祭りのときとはだいぶ傾向が違うのね。あのときは娯楽が多い感じだったけど」 「ああ、そうですね。あれは完全にお祭りの感じですから。今回は特に冬に向けての市を立てている形ですからね。祭りの時よりも生活に直に触れている感じはすると思います」 今回の夜市は、日用品や日持ちのする食料品を売っている店も多い。おそらく他の里から来ている物もいるのだろう。 そういう者達はここで買い物をして夜を越してから帰って行く。流石に夜に里の外を出歩く者はいない。 そして夜の市ということで、妖怪達も店を出したり客に回っていたりする。なので、祭りの時と同じく賑やかだ。 「ふぅん……冬に向けて、か。里は大変ね」 「かもしれませんが、こうして人が集まるのも見ていて面白いものですよ。人だけでなく妖も店を出していますし」 「全く、うまくやっているものね……」 レミリアが感心したのは、この市に対してか、この市を企画し最終的に全て統制している者に対してか、その口調からは読みとれなかった。 ゆるりと首を振って、レミリアが彼の手を引く。どこか楽しそうな笑みを浮かべていた。 「今はそれはいいわね。楽しみましょう。たまにはこうしたものを見て回るのも楽しいわ」 「はい」 青年は頷いて、レミリアに引かれるまま彼女の隣に並ぶ。 辺りを照らす提灯の上から、月の光も降り注いでいた。 そのどこか幻惑的な光の中を、二人は歩いていく。 しばらく店を冷やかしながら歩いていると、市から少し外れた、人もまばらな場所に出た。喧噪は背後に遠い。 「こちらはここで終わりですね。戻りますか?」 「いいえ。少し休んでいきましょう」 レミリアはそう言って、彼を近くに呼び寄せてきた。ぽすりと背を預けてくる。 人通りはほぼないとはいえ、若干の人目はある。だがそれを気にした風もなく、レミリアは寄りかかっていた。 青年も、レミリアが求めるならば大して気にしない。視線を向けてくる者はいるが、煩わしいほどでもなかった。 寄りかかったまま、レミリアは空を見上げた。彼もつられて空に視線を向ける。煌々とした月が空に浮かんでいた。 「ねえ」 「はい」 「月が綺麗ね」 レミリアは澄ました顔でそう言った。羽はぱた、ぱたと揺れている。気が付くかどうかを図っているのだ。 真っ正面から言ってくれないのは、それは趣がないと思っているのか、それとも気が付いてほしいという想いの表れか。 どちらでもよかった。ただそんな様子が愛しくてならなかった。 「ええ。綺麗です。愛しています」 後ろから抱きしめて、そう囁く。レミリアは満足そうにぱたりと音を立てて羽を畳んだ。 けれどもその畳んだ羽がゆらゆらと揺れている。機嫌がいいことは一目瞭然だった。 それの触れる感触が嬉しくて、少し腕の力を強める。 「苦しいわ」 「これは、失礼を」 腕を緩めると、レミリアは軽く微笑んで彼を見上げてきた。 表情は満足そうで、少しばかり軽口を叩く気分も生まれてくる。 「もしかして返事は、死んでもいい、の方がよかったですか?」 「それは駄目。私とずっと一緒にいるんだから」 「はい」 むうとむくれたレミリアにに謝罪して笑って、その頬に触れる。少し冷えていた。 レミリアはその手に自分の手を重ねて少し頬を寄せるようにした後、彼の腕から離れて向き直る。 月を背にしてこちらに微笑む姿は綺麗で、その様子に少しばかり見とれた後、少しぼうとした声で青年は告げた。 彼がずっと恋し続けている姿に、囁くような声で告げた。 「ああ、本当に月が綺麗です」 「でしょう?」 レミリアはそう、月明かりの中で、嬉しそうに笑った。 笑って、再び彼の手元に戻ってくる。彼は顔を寄せて、彼の愛しい主を迎え入れた。 二人の上に、晩秋の澄んだ月の光が柔らかに降り注いでいる。 うpろだ0029 ─────────────────────────────────── 春の風が鼻をくすぐっていく。 紅魔館のテラスから見える景色にも、桜色のものが混じっていた。もうすぐ満開になり、また散るまでの間宴会が何度も開かれるのだろう。 「あら、先に来ていたのね」 声をかけられて、青年は振り返る。紅魔館のメイド長、十六夜咲夜がそこにいた。 「湯を頂いたので、それでそのまま」 「なるほど、それでそんな格好なのね」 青年は、紅魔館でくつろぐ格好としては珍しく、普段の服の上に羽織をかけている。少し前に調達した書生羽織で、冷えそうなときなどにそれを着ていた。 もっとも、大して寒さなど感じない身になっているから、大して意味はない。ただ少しばかり格好を付けたいだけでもあった。 「まあたまには」 「いいけどね。じゃあ、お嬢様をお呼びしてくるわ。その間お茶でも飲んでる?」 「ああ、いいですね。いただきます」 頷いた咲夜が、テラスにあるテーブルの上に焙じ茶の入った湯飲みを置いてくれた。入れ立てのようで、湯気が上っている。わざわざ持ってきてくれたのだろう。 「ありがとうございます」 「いいえ」 では行ってくるわ、と言って、咲夜はその場から姿を消す。湯飲みを手にとって、中身を啜りながらもう一度テラスの向こうの光景に視線を移す。 月明かりにぼんやりと遠くの桜が照らされて、中々の風景になっている。春になっていく幻想郷をここから眺めるのが面白い、とかつてレミリアが言っていたが、確かにそうだと思う。 暫く、茶を啜りながらテラスに腕を預けて景色を眺めていた。 「あら、先に楽しんでたの?」 声に、青年は再び館の方を向いた。館の当主にして最愛の主、レミリア・スカーレットの姿がある。 「すみません、湯上がりにそのまま」 「春になって里仕事も増えているのはわかるし、汚れるのもわかるけど。私の方に顔を出しても良かったじゃない」 そう言いながら、レミリアは青年の隣に並んだ。持っている湯飲みに興味を示し、温かい焙じ茶だと知ると一口寄越すように求めてきた。 「もうだいぶ冷めてはいますし、残り少しですけど」 「それでもいいわ」 そう彼から受け取ると、レミリアは湯飲みを傾けた。少しだけ残っていた温もりに一つ息をついて、彼に湯飲みを返す。 「後でパチェも来るわ。観測しに」 その言葉に頷いて、受け取った湯飲みをテーブルの上に置きに行く。咲夜はパチュリーを呼びに行っているのか、茶の用意をしているのか、まだ来ていない。 あるいは、二人きりの時間を邪魔しないでいてくれているのかもしれない。どれにしろ有り難いことだった。 レミリアの隣に戻って、青年は湖とその向こうの桜に視線を向ける。 「いい眺めです。いつも、花見というと神社ですが」 「ここからでも見えるから、たまにはね。まして今日は満月だもの」 「ええ、本当に綺麗です」 そう呟いて息を吐く。この季節の夜はまだ少し冷える。少しばかり息は白かった。 花見と月見を今日は同時に行おうというのだった。全く贅沢な話である。今日の目的はもう一つあるのだが、とにかくも贅沢な眺めだった。 外ではこういう光景も中々見られまい、と思っている。完全な月明かりだけの中で、桜を眺めるというのはそれだけで心が躍った。 まあきっと、心が躍るのは、自分が人間でないことも含めて、なのだろうけれども。 「冷えるわね」 レミリアはそう小さく呟いて、羽織の中に身を滑り込ませてきた。身体は少し冷たかった。 「これは、気が利かず」 「全くだわ」 レミリアはそう言いつつも楽しそうだった。羽織の前を合わせて、彼に身体を預けてくる。 温めるように、腕を前に回す。よろしいとレミリアは言った。機嫌は悪くないようで少しほっとする。 「ああ」 暫くそうして彼に身を預けるままになっていたレミリアが声を上げた。何事か、と思う前に、そっと片手を空に向ける。 「月が欠けるわよ」 「ああ、はい」 今日の月見の目的はそうだった。皆既月食。月が欠ける夜に桜見をするいうのもまた一興、ということだった。 腕の中のレミリアは赤く欠けていく月を眺めている。青年はそのレミリアに視線を落とした後、同じように月を見上げた。 月が陰る。月が見えなくなっていくのが何となく、何となく―― 「怖いの?」 レミリアに言われて、自分が強くレミリアを抱きしめていたことに気がついた。 「ああ……意識はしてなかったのですが」 そうかもしれません、と、青年は素直に認めた。何が怖かったのかよくわからない。けれども、月が欠けるのが何故かどこか怖いような気がしたのだ。 「私は此処にいるわ」 「はい」 青年の手に頬を寄せて、レミリアは微笑む。彼の子供っぽい様子を楽しむような様子だった。けれどもそうして頬を寄せるレミリアの仕草もまた、外見年齢相応に見えた。 その行動に、寄せられるだけでなく、青年もレミリアの頬を撫でた。くすぐったそうな表情をして、レミリアは目を細める。 「此処に」 「ええ」 レミリアはそっと顔を近付けるように背伸びした。青年はそれに応じる。身体を屈めて少しだけ口唇を触れさせる。 「よろしい」 満足そうに言ったレミリアは、背伸びをやめてまた月を見上げた。青年もそれに倣った。月はまだ欠けていく途中だった。 もう青年にそれは怖いものとは映らなかった。永遠の紅い月は、陰ることはないのだから。 羽織の中の温もりを少しだけ寄せて、二人は月を見上げている。 その背後のテーブルでは、呆れた表情のパチュリーが咲夜に茶を用意してもらいながら、その様子と月食を眺めている。 「私達もいるんだけどね」 「まあ、しばらくはあのままで」 咲夜はそうくすりと笑って、紅く変わった月を同じように見上げた。直に、月はいつもの姿を取り戻すのだろう。 パチュリーは頷いて、咲夜と共にそれを待つことにした。普段通りに戻った親友を、どうからかってやろうかと考えているようだった。 うpろだ0036 ─────────────────────────────────── 随分涼しくなった、と誰かが呟いた。 紅魔館から働きに来ている青年も全く同感だった。空は高くなっている。 複数人で、里の補修のための資材の運搬をしているところだった。 「もう刈り入れの季節になりますかねえ」 「だなあ。そうなると里中の手がちょい足りなくなるか」 「だからこそ僕もお仕事できるわけですが。あ、この木材こちらでいいです?」 よろしく、という声を背に木材を抱え上げ、指定された場所に置いていく。 秋になれば野分も増える。その前に補修すべきものは多い。 畑や田圃などの水に関わることは出来ないが、こうした力仕事は青年の割り当てであり、得意分野だった。 得意になってしまったともいう。もう、こちらに来て人を辞めて随分経つからだ。 「兄ちゃん、休憩だぞー」 「あ、はい、行きます」 木材を積んで固定した後、昼休憩に入った作業員達の中に彼も混じった。 秋口になれば、もう日の落ちるのも早い。これからどんどん夜が長くなるのだろう。いや、夜が長い方が彼の主にとってもいろいろと都合はよいのだが。 仕事が終わった後、その夕日が照らす里の中を青年はふらふらと店を見て回っている。 人里で妖怪が歩き回るというのは珍しいことではないし、外見が人間と変わらなければ大概見逃されるものだ。第一陽の光の中でゆったりと歩いている者が吸血鬼だなどと誰も思わない。 「やあ、兄ちゃん、帰りかい」 「ああ、ええ。今日はもう上がりでして」 「じゃあちょっと買ってかないかい。お土産にどうかね」 声をかけてきたのは、顔なじみの甘味屋の女将だった。彼自身が甘いものが好きなこと、彼の主であり恋人であるレミリア・スカーレットが甘いものを好むことで、よく土産に買って帰るのだ。 その関係で、よく顔を合わせる甘味屋は多い。この女将もそうした知り合いだった。 「そうですね、何かあります?」 「もうぼちぼち甘藷が出回ってるからね、茶巾絞りなんてどうだい」 「茶巾ですか」 女将が勧めてくれたのを見れば、どうやらできあがったばかりらしい茶巾絞りが並んでいた。甘く、心地よい香りが花をくすぐる。 「ちょっと早いけどね。味は保証するよ」 「ああ、ではこれだけ包んでいただけますか」 はいよ、と女将が茶巾絞りを包んでいく。それを待ちながら、夕暮れの里を眺める。 ぼちぼち閉まっていく店も、これからが本番だという店もある。人と妖の間で商売する者達にとっては、時間が多少遅くなっても構わないのだろう。 ぼんやりとしていると、再び声をかけられた。 「はい、出来たよ」 「ありがとうございます」 代金を払い、出来上がったばかりの茶巾を手にして、再び里中を歩き出す。ついでに茶でも見ていくかと思ったが、その辺りは咲夜なり美鈴なりに相談した方が早いと気が付いてやめた。 やめて正解だった。里の出入り口の付近で買い出しに来ていたらしい咲夜と行き合ったからだった。 「あら、お疲れさま」 「お疲れさまです、咲夜さん。ああ、荷物持ちます」 大きめの荷物を受け取った後、つぶれそうだったので茶巾の入った包みだけ咲夜にお願いした。咲夜は少し首を傾げて、ああ、と頷いた。 「茶巾絞りね? もう甘藷は出回っているのかしら」 「少し早めのようですが」 なるほど、と頷いて、咲夜は思考を巡らせるように宙を見上げた。 「……美鈴に何かお茶をお願いしようかしら」 「紅茶よりはそちらですよね」 「そうと決まったら早めに帰りましょうか。お嬢様がお目覚めになってしまうわ」 「はい」 一つ頷いて、紅魔館への帰路に足を進める。 「ただいま戻りました」 「おかえりなさい」 起きたレミリアを迎えに行く仕事は、今日は彼に振られていた。 ここのところ仕事で中々時間が合っていないから、という咲夜の配慮であった。まことにありがたいことだと思う。 「貴方が迎えに来てくれるのは久々ね」 「すみません。夏の終わりから秋にかけてはどうしても」 「わかってるわ。許可してるのは私だもの」 ベッドの上で手を伸ばして、レミリアは彼を呼んだ。 呼ばれるままに側によって、着替えを手伝い始める。その途中、不意にレミリアが少し顔を寄せてきた。 「……何か、匂いがするわ」 「あれ、汗は流してきたんですが」 「そういうのじゃなくて、甘い香り?」 「ああ、和菓子を買ってきたのでそれかもですね。台所にも寄ってきたもので」 流石に、その香りは自分ではわからない。レミリアは楽しそうな表情をして、首を傾げた。 「じゃあ、今日はそれかしら?」 「ええ。お茶も菓子に合うように、と」 「そうね、趣向としては気に入ったわ」 そう微笑んで、レミリアは青年の袖をちょいと引いた。どうしたのか、と思う間もなく、レミリアに抱きしめられる。 胸元に顔を埋めて、レミリアは囁くように言った。 「もう少し、香りを楽しんでいって良いかしら?」 「……構いませんけど、お茶が冷めてしまいますよ?」 返しながら、レミリアの背に手を回す。流石にこうした甘え方をしてくるのは、二人きりの時だけだ。 「咲夜が調整してくれるわよ。それに少しだけだもの」 「はい」 レミリアがそう言うならば、彼には止める理由などない。最近は、少し活動時間がずれることも珍しくなかった。こうして甘えられるのも悪くない。 しばらくレミリアのしたいように、抱きしめられるがままになることにした。 四半刻ほどの後、レミリアと青年はティールームに向かって廊下を歩いていた。 「あまり待たせても悪いものね。パチェも呼んでるんでしょう?」 「ええ、おそらく」 少しばかり残念な思いもないわけではない。だがまあ、レミリアの言うことも道理だった。 それに長く待たせたらそれはそれでまた呆れられるのも目に見えている。 呆れられてもそちらは気にはしないのだが、待たせることに関してはやはり申し訳なさがある。 レミリアがふと立ち止まった。薄い月の光が、夜になってカーテンが開けられた窓から差し込んでいる。 「細いけど、良い月ね」 「ええ。後で散歩に行きますか? 随分涼しくなって過ごしやすいですよ」 「じゃあ、お茶の後はそうしましょう」 そう、嬉しそうなレミリアに腕を引かれた。 「それでデートの約束していたと」 「そういうわけじゃないけど」 「同じようなものでしょう」 どのみちパチュリーには呆れられてしまった。青年は礼儀正しく沈黙を守っている。 茶巾絞りは甘かった。その分、しっとりとした渋みを持った茶が美味しい。中国茶のようだが一体何だろうか。後で聞いてみることにしよう。 現実逃避にも思えなくはないが、親友同士の会話に水を差すのは野暮というものだ。大人しく二人の会話を聞いていることにする。 「直に月見はするけどね。まあ、こういうのもいいかなって」 「まあ、確かにね。季節が変転する時期だからいろいろ魔力の流れも変わるし、気晴らしにはいいんじゃない?」 「別に気が塞いでたわけじゃないけど」 「暇にはしてたでしょう?」 パチュリーのからかうような言葉に、僅かに不機嫌そうにレミリアはふいと顔を逸らす。 「ということで、レミィの暇を適度に潰してあげなさいな」 「ここで僕に振りますか」 「黙っているのは正解だけど、それだとイニシアティブはこちらよ」 額をかいて、それは何とも、と意味のない言葉を返す。 おそらくレミリアが暇していたときはパチュリーのところに行っていたのだろうから、その分も含めた言葉なのだろう。 「まあ、それではご期待に応えられるよう頑張りましょうか」 「だそうよ、レミィ?」 「……まあ、それならいいかな」 レミリアは崩していた機嫌を直したように、微かに笑った。 その後しばし歓談した後、レミリアは席を立って親友に断りを入れた。 「じゃあ、行ってくるわ」 「行ってらっしゃい」 ティールームを出たレミリアに続いて廊下に出て、咲夜から念のための日傘を受け取った。 「よろしくね」 「はい」 咲夜の言葉に頷いて、そういえば前にもこんなことがあったなと思いながら、レミリアと並んで館の外に出る。 心地よい風が吹く中、秋の夜空を見上げた。細い月と星が瞬いている。良い夜だ。 「さ、エスコートをよろしくね」 隣で楽しげなレミリアに、一つ頷いて手を差し出す。 よろしい、という微笑む様子を、可愛らしく、愛しく、思った。 さあ、どこに行こうか。 まだ賑やかだろう里の近くまで出るのも良いし、少し足を伸ばして、広い場所で空を眺めるのも良い。 きっと二人でいれば、どこでも素敵な夜になるだろう。 うpろだ0044 ─────────────────────────────────── 雪が降り続いている。冬は幻想郷自体が白く閉ざされてしまう期間だった。 無論それでも日々の営みが完全に止まるわけではないが、どうしても制限されるところは多い。 それは霧の湖の湖畔にある紅い館とて、変わるものではない。 「暇ね」 館の主、レミリア・スカーレットは、窓の外を見ながらそう呟いた。 「どうにも退屈にはなりますね、こう雪が続きますと」 青年も珍しくそう困ったように笑って応じる。紅魔館には似つかわしくない将棋の駒を手にしていた。秋頃に手に入れて、たまにそれで詰め将棋などをして遊んでいるのだった。 「貴方はずっとパズルをやってて楽しそうだけど」 「まあ確かにこれはこれで楽しいですが。チェスでもあるでしょう、ええと」 「チェス・プロブレム? まあそうだけど、一人で延々とやるのはつまらないわ」 要するに、盤にばかり向かっていないで構えということか、と青年は理解した。 「これは、失礼しました」 「わかればいいの」 窓際から身体を離して、レミリアは盤を片付けた青年の膝の上に収まる。 窓の側にいたからか、少し冷えたその身体を抱きしめる。ありがと、と少し甘い声でレミリアは応えた。 心地よさそうに目を細めていたが、それだけではどうやら足りないらしい。 「とはいえ、何か暇つぶしの遊び道具がほしいわね」 「ううん、里に何か売ってますかね」 青年はそう首を傾げた。いまいち思いつかない。本を読む、というのがせいぜいだ。 「外の式使ったものも、地味に最近増えてきてるらしいけど……」 「里ではそうでもないですが、そういえば妖怪の中では結構回ってきてますよねゲームとかの娯楽。電気の供給も大きいのかもですが」 「地底だとそういうのもっとあるのかしら。今度さとり辺りに聞いてみましょうか」 地底の友人の名前を呟いて、レミリアはうんうんと頷いた。 「核融合の要のお空さんが地底ですしね。後は守矢神社ですか」 発電を担っているのは、霊烏路空の能力に依るところが大きい、らしい。 この辺りはどうにも伝聞でしかないのだが、そのためか、地底の方が電力を回されているらしいとも聞く。 無論、発電自体の管理をしている守矢神社も同様だ。 「神のところに行くのは何か癪ねえ」 「神社なら霊夢さんのところにも行ってるじゃないですか。しかし後となると」 行きやすい場所は、と青年は思考を回す。レミリアも同じように何かを考え始めた。 暫くして、レミリアがぽつりと考えを漏らす。 「古道具屋とかはどうかしら」 「ああー、香霖さんのところならあるかもですね」 「じゃあ、丁度雪も小降りになったことだし行ってみましょうか」 機嫌良く応えて、レミリアは青年の腕の中からすり抜ける。 若干名残惜しくも感じながら、それでは準備しましょう、と青年も応じた。 香霖堂に入って、レミリアは青年と顔を見合わせて目を瞬かせた。いらっしゃい、と店の奥から聞こえてきた声に、レミリアが応じる。 「どうも、店主。大量仕入れでもしたの?」 「そのつもりはなかったんだが、いつの間にかね」 香霖堂の店主、森近霖之助が奥から出てくる。店内に比べて、いつもと変わらない様子だった。 店はストーブが常備されていることもあって暖かい。その暖気の中を歩き回りながら、青年は首を傾げた。 「見たことないものが多いですね」 彼が示しているのは、大量に棚に並べられたボードゲームだった。 馴染みの深い人生ゲームなどから、外国語で書かれたものもたくさん置かれている。 「この時期はあまり物は増えないはずなのだけどね」 「本当にいろいろ入ってきてますね。ああ、でも丁度よかった」 「何かお探しかな」 「ちょっと遊び道具を。ここまでボードゲームが揃ってるとは思いませんでしたが」 「店主、ちょっと見ていっていい?」 レミリアの問いに、どうぞと返して霖之助は帳場に座った。何かしら買って行くものだと思われているらしい。 確かにそれは間違いないだろう。レミリアは興味津々にボードゲームを眺めている。 「こんなにあると大変じゃないの? そもそも広い店でもないし。この冬?」 「冬になる頃にどっと入ってきてね。とはいえ、売れ行きも上々だからとんとんかな」 霖之助はそう返しながら、軽く苦笑していた。それでもだいぶ場所には難儀したのだろう。 「暇な奴は多い、ということかしら。ええと、あれは何かしら」 「ええと……駄目です、読めない」 レミリアが指したものを取り出して見たものの、英語ですらない言語が並んでいる。 これがドイツ語で作られていることはわかるのだが、その程度しかわからないようでは説明書を読むなど覚束ないだろう。 「見せて見せて。んー……資源使って点数貯めて、十点になったら勝ちね」 「……もう少し言語の勉強もした方がいいでしょうか、僕」 「そうね、パチェの蔵書はこの程度じゃないし」 レミリアはくすりと微笑い、霖之助に向かって告げた。彼女自身が調べていたゲームも手にしている。 「在庫在るならこれとこれ、後これも欲しいんだけど」 「いいよ、どうにも多くて逆に場所を取ってしまっていてね。お買い上げいただけると助かる」 「魔理沙辺りとか持って行かないの?」 「ここで霊夢と遊ぶだけ遊ぶんだがね。生憎場所は取ったままさ」 軽く肩を竦めた店主に、それは残念ね、と返してレミリアは笑った。 楽しそうに上下する羽を見ながら、レミリアが求めたゲームを手に取っていく。随分な量だ。 「では、帰ったらみなさんで遊びましょうか」 「そうね。店主、包んで頂戴」 レミリアは上機嫌にそう、香霖堂の店主に求めた。 紅魔館に帰った後はまた雪になった。酷くなる前に帰れてよかったというべきか。 この状態では門を守るのもあまり意味がないだろう、ということで、レミリアは美鈴を呼び戻している。 内心としては、ゲームをするメンバーを増やしたかった、というのもあるが。 ともかく、暖炉のある談話室に集まって、買ってきたゲームを順に開けながらみなで遊んでいる。 「あ、はーい、それ私カウンター!」 「あああ、また減点です……」 「フランの手札が強いわね……」 少し困ったように羽をへにょと下げる小悪魔と、悩みながらカードを選ぶパチュリー。 レミリアが強引に連れてきたものの、二人ともそれなりに楽しんでいるようだった。 「それでは私もこれで。咲夜さんはそれでターン終わりですか?」 「ええ」 美鈴が咲夜にそう促す声を聞きながら、レミリアは紅茶を手にそれを眺めていた。 参加していない青年もまた、テーブルを眺められる位置の、少しゲームテーブルから離れた椅子に座ってゲームを見ている。 空になったカップを置いて、レミリアは青年のソファに近付く。 「楽しそうね」 「ええ、見ているのも中々楽しいものです」 青年はそう笑った。先ほどまでは彼もゲームをしていたのだが、今は休憩時間だった。確かに、少し離れて眺めるのも楽しい。 「一巡りするだけで随分遊べそうですね」 「物足りなくなったらまた買いに行けばいいわ」 そう言いながら、青年の腕の中に収まる。彼はレミリアのしたいようにさせてくれながら頷いた。 「ルール把握が大変そうですが。でも勉強にもなって楽しいものです」 「それならよかったわ」 楽しそうに青年の姿を見るのは嬉しくて、レミリアも頬を綻ばせる。 「ま、これだけあれば梅雨でも遊べるしね」 「外に出れないときは多いですからね」 「いろいろ暇潰しはあるけれど、多くて困ることはないわ」 青年の頬に頬を寄せて、ゲームの邪魔にならないよう囁くような声でレミリアは告げる。 彼も笑って頷いた。そして、少し冗談のような口調で応える。 「何で遊ぶか迷ってしまいそうですけどね」 「それなら片端から遊んでいけばいいわ。ね、貴方はそれに付き合ってくれるんでしょう?」 「それは勿論」 くすくすと笑い合っていると、呆れたような声がゲームをしているテーブルからかけられた。 「レミィ、そこでいちゃついててもいいけど、こっちワンゲーム終わったわよ」 「あ、じゃあ次私やる。さ、貴方も」 はい、と身体を離したレミリアに手を引かれるままに、青年もゲームに加わる。 もう一回やる! と言っているフランドールと、それに付き合った美鈴が残留して、咲夜と小悪魔がお茶と菓子の追加にかかった。 もう今宵は遊び倒してしまおう、とレミリアは思っている。こうして、みなで遊ぶ時間は楽しいものだ。 ふと窓の外を見れば、やはりまだ雪は降り注いでいた。今年は後どれだけ降るだろうか。 とはいえ、少なくとも退屈はあまりしないで済みそうだ、と思う。 「お姉様の番よ」 「ああ、ごめんなさい」 視線をゲームに戻してカードを引き、自分の手番を始める。 こうして過ごせる間は、きっと何も退屈しない。そう思いながら、妨害の目的を持ったカードを場に出す。 「……そのカード来ますか」 「何か手はある?」 「す、少し待ってください……」 真剣に悩む青年にちらりと笑って、他の面々の対応も眺める。 フランドールは楽しそうにカードを選び、美鈴は首を傾げながらカードを見つめている。 パチュリーは本をめくりながらこちらをたまに眺め、咲夜と小悪魔はそれぞれの手元に茶と茶菓子を用意している。 その光景が何故だか嬉しくて、目を細めた。 「ではこれで。レミリアさん、何か嬉しそうですね」 「ええ、そうね」 青年の言葉に応えて、また口の端に笑みを浮かべる。彼が気が付いてくれたことも、何となく嬉しかった。 そう、こういう時間を持てるのは、きっと幸いなことで、それが何より楽しいのだと。 レミリアは咲夜の淹れてくれた紅茶のカップを手にしながら、そう心に小さく呟いていた。 うpろだ0061 ───────────────────────────────────