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時は少し遡る。 「・・・・・・」 「“カワズ”様・・・。“ゲコっち”が慰めてあげます!!よしよし」 「げ、元気を出して下さい!!まだ、あの年頃の子供達には“カワズ”様の魅力が伝わらないのも致し方無いと思います!!」 純真無垢な幼子達にボコボコにされた挙句、「かーえーれ」コールの大合唱を喰らった“カワズ”を“ゲコっち”と“ゲコゲコ”が慰めていた。そんな時に・・・ 何やってんの、お兄さん? ・・・久し振りだね、林檎ちゃん? “カワズ”の脳に念話回線が繋がった。その主は、春咲林檎。以前の救済委員事件の折に、界刺の手によって病院送りにされた少女。春咲桜の・・・妹。 ・・・やっぱり、あたしに気付いてたんだね?あのガキ共にコールを喰らった後に、こっちに歩いて来たからさ。もしかしてって思ったんだよ うん、気付いてた。『マリンウォール』には泳ぎに来たの? ま、まぁね ・・・桜が心配していたよ?『林檎ちゃんが家に帰って来ない』ってさ ・・・・・・帰れるわけないじゃん。あたしが桜にどれだけ酷いことしたと思ってんの?パパやママにも勘当に近い扱いをされてるし・・・ 林檎の声が低くなる。対する“カワズ”も、彼女の様子に内心溜息を吐く。 以前、林檎は長女の春咲躯園と共に春咲に制裁を浴びせ、その結果として界刺にボコボコにされた。 農条達によって病院へ入院することになった林檎は、10日程で退院することができた。だが、その退院の前日に春咲家の両親が林檎の前に現れ、こう告げた。 『私達春咲家の名前に泥を塗るとは・・・親不孝者め!!!』 『今の私達は、貴方を自分達の子供だと思うことはできません。ですから、しばらくは1人で生活なさい。 お金は出してあげます。ほとぼりが冷めたら・・・また話し合いましょう』 それは、勘当に近い宣言だった。躯園が逮捕されたことで、著名な科学者であった両親は周囲から白い目で見られるようになった。 科学者としての矜持を傷付けたのがよりにもよって自分達の子供であるという事実が、両親にとっては許せなかった。 退院以降、林檎は各地のホテル等を転々とする生活を送っている。何時までこの生活なのかはわからない。自分がしたことの重大さが、その時になってようやくわかった。 だから、両親の怒りも納得できる。自分が親の立場なら、きっとあれくらいは怒っていたと思うから。 それでもさ。桜は林檎ちゃんのことが心配なんだよ ・・・今は無理。合わせる顔が無い 春咲が林檎のことを心配しているのは容易に想像できた。自分をとことん痛め付けた長女の躯園をすら、命を賭して助けたと聞いた時は『桜らしい』と零してしまった。 そんな心優しい姉を、自分は何度も傷付けてしまった。己の愚かさに歯噛みした。だから、今の林檎は春咲と会えない。 本当なら謝らなければならない。でも、それだけでいいのか?それだけで、許されてもいいのか? 春咲はこんな自分でも受け入れてしまうだろう。そうすることで、自分の犯した罪が有耶無耶になるのではないか? そう、林檎は考えている。自分に甘い性格はまだ治っていないと思う。このまま会ったらいけない。でも、どうやったら自分を叩き直せるのか。 それすらわからない自分に苛立ちながら日々の生活を過ごして来た・・・そんな今日、かつて自分をボコボコにした人間の名前を耳にした。 幼子達にボコボコにされているカエルの着ぐるみを着た男の名前を。 俺に話し掛けるのは恐くなかったのかい? ・・・少し恐かった。でも、お兄さんがあたしをボコボコにしたのにはちゃんとした理由があったから。 そう思ったから・・・思い切って。お兄さんに対してだけは・・・逃げたくなかったから ふ~ん ・・・お兄さん。本当はこんなことを言える立場じゃ無いのはわかってるんだ。でも・・・こんなことをお願いできるのは、お兄さんしかいないんだ・・・ ・・・何? あたしの性根を叩き直して欲しいんだ 林檎の願い。それは、自分自身の甘ったれた性根を叩き直すこと。自分1人ではどうしても甘くしてしまう現状を、“カワズ”の力を借りて打破したい。 自分の力で何とかしないといけないのはわかってる。でも、どうしても自分に甘くしてしまう。幼い頃から染み付いた悪癖は、そう簡単には取り払えない。 ・・・俺の性格とかをわかった上で頼んでるんだね? うん それは、両親や姉妹に合わせる顔を作るため? ・・・それもある。でも、それ以上に自分自身を変えたいんだ。このままじゃ、あたしはずっと自分に甘いままだ。それが、あたしは許せない!! だったら1人でやれば? ううぅ・・・!!や、やっぱお兄さんって厳しいね。・・・わかってんだよ、そんなことは。でも・・・でも・・・ううぅ・・・ 「(マ、マズイ!!この状態で泣かれたら、俺の頭が!!)」 念話回線の中で、林檎の声が涙声になり始めた。以前に林檎の『音響砲弾』を何度も喰らっている“カワズ”は、あの再現を何よりも恐れる。 それに・・・林檎の抱く苦しみも理解できる。友達もいない。肉親には合わせる顔が無い。 所謂孤立状態に陥っているのは自業自得ではあるが、彼女はその中でも変わろうと必死にもがいているのだ。 その感覚は、“カワズ”にも経験があった。自分も他者と接することで変わることができたが故に。 自業自得。それは、他者の力を全く借りないというわけでは無い。自分で行動を起こし、偶然or必然において他者等と接し、そこから色んなことを学び、得るということだ。 そして、その責任は自分で負うということだ。功罪両方共に。今の林檎は、勇気を出して自分に話し掛けて来た。ならば・・・ ・・・いいよ。君の勇気に応えよう ホ、ホント!? あぁ。但し、俺が直接どうこうするという形にはならないと思う。俺は、君が変わる切欠を作るだけだ。そこから先は・・・君次第だ。それでいいなら・・・ いい!!それでいいよ、お兄さん!! 「(これを風路の奴が知ったら怒りそうだ。『甘くねぇか?』ってね。・・・今回は仲間(さくら)のためでもあるからな。身内に甘いのは俺も一緒か。 しかしまぁ、こうも色んなことが重なって来るとはな。ゲコ太、ヒバンナ(ハバラッチ)、風路、林檎ちゃん、殺人鬼・・・俺って働きモンだなぁ)」 しかも、この後に加賀美までもが加わるのである。マジ働きモンである。嫌なら断ればいいのだが、それができないのは彼の信念的なものか。 「なでなで」 「頑張りましょう!!」 「・・・だああぁぁっ!!!」 「「うわっ!!?」」 そんな林檎との念話通信を知る由も無い“ゲコっち”と“ゲコゲコ”は、“カワズ”が出した大声にビックリする。 「ど、どうなされたのですか!?」 「うん?あぁ、ごめん。ちょっと気合を入れ直しただけだよ。・・・驚かせちゃったみたいだね?」 「わ、私は大丈夫です!!」 「“ゲコっち”先輩に同じく!!」 「そうか。なら、よかった。・・・・・・うん。“ゲコっち”!“ゲコゲコ”!君達に紹介したい女の子が居る。 もうすぐ来るみたいだから、彼女と一緒に鴉達の所へ戻ろう」 「・・・女の子?」 「・・・またですか?」 “ゲコっち”と“ゲコゲコ”は、新しい女の子の出現に呆れる。紹介と言うからには自分達が知らない女の子なのだろう。一体この男はどれ程の女性を侍らせているのか。 「うん?何だ、その文句がありそうな返答は?・・・言っとくが、紹介するのは桜の妹だぞ?」 「そ、そうなんですか!?」 「うん。春咲林檎って言うんだ。俺は彼女とは何もないよ?誤解を生まないように前もって言っとくけど。つか、この前ボコボコにして病院送りにしたし」 「病院送り・・・ハッ!!先日の“講習”に際に仰られていた、あなた様が病院送りにしたという中学生・・・ですか?」 「そう」 等と言っている間に、彼女は姿を見せた。金髪のツインテールにリンゴの髪留めが特徴な小さい女の子。 身長的には“ゲコゲコ”と同じくらいの彼女は、“カワズ”達の前に来て挨拶する。 「え、え~と・・・春咲林檎って言います。以前このお兄さんに色んな意味でお世話になりました。よ、よろしくお願いします」 ペコリと頭を下げる林檎。次いで“ゲコっち”や“ゲコゲコ”が挨拶返しを行う。その様子を見ている“カワズ”は、1人思案に耽っていた。 「お、お兄さん!頼みたいことってな~に!?は、早く教えてよ!!」 時は今に戻る。 「(あれ?この声って・・・)」 「(ぶっちゃけ、どっかで聞いたような・・・)」 林檎の声に聞き覚えがあるのか葉原と鉄枷は首を傾げるが、明確には思い出せないようだ。 「あ、あれは春咲林檎!!世の中の女性を愛して止まない俺が唯一受け付けない人間!!」 「えっ!?嘘!?一色が受け付けない女性なんて、この世に存在していたの!?」 「春咲林檎って、確か春咲桜の妹だよな?・・・あの野郎と繋がりがあってもおかしくは無い・・・か」 一色の衝撃的発現に鏡星が驚愕する。普段は女性のことばかりを考える変体紳士である一色のストライクゾーンは、幼女からお年寄りまでという幅広いものである。 そんな彼が受け付けない女性がこの世に居ようとは。一色を知る者ならば、誰でも驚愕するに決まっている。 一方、春咲林檎という名前に閨秀が己の記憶の中から血縁関係を引っ張り出す。 「林檎ちゃん!それと“ピョン子”!こっちに来て!!」 「あっ!!居た!!」 「うわっ!?急に出現しないで下さいよ!!・・・私ですか?」 「あの“変人”・・・。まさか、俺が本能的に避けている少女すら手中に収めているのか!?幾人もの女性から告白を受けている癖に!?お、おのれえええええぇぇぇっっ!!!」 「あちゃー・・・一色君のヤキモチ癖が・・・」 林檎と“ピョン子”が“カワズ”に呼ばれ駆け足で走って行く。その姿に一色は歯をギシギシ言わせ、焔火が同僚の悪癖に溜息を吐く。 「え~とね、“ピョン子”の中身を交代するよ?つまり、ハバラッチがOUTで林檎ちゃんがINするってこと」 「ええぇっ!!?」 「ど、どういうこと!?」 葉原と林檎は、“カワズ”の真意を見極められない。 「ちょっとね、事情が変わった。俺は、これから林檎ちゃんを立派なレディーに成長させるためのお仕事をしなけりゃならなくなった。 林檎ちゃん。俺達はこれから数日の間、ボランティアに赴くことになっている。君には、その一員として来て貰う。鴉!!別にいいよな!?」 「あぁ。別に構わんぞ?人数は変わらないのだからな。だが・・・」 「ハバラッチ。君も色々忙しいんだろ?聞いたよ?先輩が病欠なんだって?だったら、君が優先するべきは俺達じゃ無くて、支部の仕事なんじゃないの?」 「そ、それは・・・」 「そうだ。偶には支部の皆と一緒に外回りしてみるってのもいいんじゃない?折角外に居るんだし?これだけの大人数で外回りする機会なんか滅多にないと思うけどなぁ」 「(・・・ハッ!!もしかして、緋花ちゃんと同行する機会を・・・!?)」 まず、葉原が“カワズ”の真意を汲み取る。 「林檎ちゃん。さっき俺がボコボコにされたように、小さな子供達と接するのはスゲー難しいぜ。正直、俺もここまで難しいとは思わなかった。 純真無垢なお子様方は、本音ばっかり言って来る。自分が気に入らないなら、我儘でも何でも言って来る。今の君には・・・最適な修行場だろ?」 「(た、確かに・・・!!)」 次に、林檎も“カワズ”の言わんとしていることを理解する。 「どうかな、リーダー?偶には、事務仕事してばかりの人間だって外に連れ出してやってもいいんじゃね?きっと、良い経験になると思うぜ? 何せ、176支部には頼りになるのかなららいのかサッパリわかんねぇ問題児集団が居るんだろ? 支部のまとめ役を務めることもあるハバラッチの同行は、マイナスにはならねぇと思うんだけど?」 「「「「「ピキッ!!!!!」」」」」 「(な、何言ってんの!?わざわざ挑発するようなことを・・・!!)」 “カワズ”の挑発に問題児集団(神谷・斑・鏡星・一色・姫空)のこめかみの血管が浮き上がり、加賀美は内心で冷や汗をかく。 「界刺さん・・・。あなたがそう言うからには、何か意図がありそうですよね?」 「いんや。別に」 そして、残りの1人―焔火―が界刺と相対する。必要以上に惑わされない。そう、心に強く誓いながら。 「・・・本当ですか?」 「あぁ。本当だとも。君等のことなんか、俺にはどうでもいいことだ」 「・・・じゃあ、何でゆかりっちの同行を薦めるんですか?」 「嫌なのかい?ハバラッチとは親友って聞いてだんだけど、案外冷たいねぇ」 「・・・意図を逸らさないで下さい。ちゃんと、私の質問に答えて下さい!」 「・・・俺からしたら、君の方が意図を逸らそうとしてる風に聞こえるけどね・・・クソガキ」 「!!!」 だが・・・誓いが微動する。 「葉原は、支部のまとめ役・・・つまりお目付け役的な仕事をすることがある。それは、親友である君に対しても。暴走気味な君がオイタをしないように。違うかい?」 「・・・!!」 「図星だね。だから言ってあげてんだよ、クソガキ。葉原の目から見て、君がどういう風に動いているのかを後で聞いてみるといい。参考になると思うよ?」 「な、何でそんなことを・・・!!私は1人で・・・!!」 「逃げてんじゃねぇよ、焔火緋花!!」 「ッッ!!」 誓いが・・・大きく揺さ振られる。“詐欺師ヒーロー”の手が、焔火の胸倉を掴む。声に・・・『本気』の色が混ざり始める。 「テメェは・・・色んなモンから逃げる“ヒーロー”になりてぇのか?そんなんで、本当に“ヒーロー”になれると思ってやがんのか?」 「!!」 「テメェの馬鹿さ加減には、ほとほと呆れるな。これじゃあ、お前を支えようと必死になってる連中が可哀想でしゃーないわ。 いい加減にしろよ、緋花?テメェ、債鬼から何を学んでやがったんだ?一人前の風紀委員として、しっかり踏ん張れる人間になるためじゃなかったのか?」 「そ、それは・・・!!」 「・・・逃げて、逃げて、逃げまくって・・・それで解決すると思うな。そんなにテメェの醜態を親友に晒すのが恥ずかしいのか?否定されるのが恐いのか? 債鬼はしばらくいねぇ。奴の縛りからテメェは解放された。だが、何も解決してねぇぞ?テメェが独り善がりのクソガキだって事実は、何一つ変わっちゃいねぇ!!」 「ッッッ!!!」 誓いは・・・跡形も無く崩れ去った。“詐欺師ヒーロー”は焔火を掴んでいた手を解く。直後、彼女はその場にへたり込んでしまう。その顔は蒼白の様相を呈していた。 「これは、そこの問題児集団にも言えることだ」 「「「「「!!!」」」」」 矛先が変わる。『本気』の“詐欺師ヒーロー”は、一切の容赦をしない。気に入らない奴は、全て叩き潰す。 「テメェ等・・・何時までおんぶにだっこに興じてるつもりだ?自由ってのは、責任を負わないことじゃ無ぇぞ? こんな部下(した)ばっかりじゃあ、加賀美(うえ)は可哀想だな。部下の不始末の責任を負わされて、振り回されて、苦しんで・・・。 テメェ等みてぇなのは風紀委員とは言わねぇ。そこらの“不良”と何ら変わらねぇドチンピラだ。そんなに好き勝手やりたきゃ、風紀委員を辞めるんだな。 俺等のようなボランティア形式で学園都市の治安でも守ってろよ。今のテメェ等より、俺等(ボランティア)の方がよっぽどいい仕事してるぜ? ったく情けねぇな・・・“風紀委員もどき”?まぁ、俺にとってはどうでもいいけど」 「「「「「・・・!!!」」」」」 一気に捲くし立てた“詐欺師ヒーロー”の言葉に、問題児集団は何故か反論することができない。その理由を・・・今の彼等には把握し切れない。 「(界刺先輩・・・!!自分は緋花ちゃんに直接関わらないって言ったのに・・・!!)」 「(まさか・・・私や緋花のために・・・!!)」 葉原と加賀美は“詐欺師ヒーロー”の行動に瞠目し・・・感謝する。彼が自分達のために怒ってくれたことがわかったから。 信念を曲げてまで行ってくれた彼のアドバイス。“詐欺師ヒーロー”だからできたそれを、2人は絶対に無駄にはしないことを誓う。 「・・・ということで、ハバラッチ。ここじゃあ子供達の目に付くだろうし、どっかの物陰でいいからその着ぐるみを脱いできてくれるかな?」 「わ、わかりました!」 「リーダー?」 「・・・わかったよ。今日はゆかりも私達と同行させる。あなたの言う通り、色んな意味で良い経験になると思うから」 「そう?そんじゃあ、後のアフターケアは任せるよ(ボソッ)?特にヒバンナの(ボソッ)。きっと、俺にガツンと言われた反動・・・所謂“我”が出て来ると思うから(ボソッ)」 「・・・わかった(ボソッ)」 加賀美へのアドバイスを終えた“カワズ”は、“ヒーロー戦隊”『ゲコ太マンと愉快なカエル達』の面々が居る場所に赴く。今後の行動を決めるために。 ちなみに、へたり込んでいた焔火は加賀美と葉原が引き連れて行った。各支部共に、本来の捜査任務に戻って行く。 「鴉!!もうすぐ昼飯だろ?それが終わってからの移動でいいよな?」 「あぁ!!野営地には今日中に到着すればいいからな!!当初の予定であった夕方頃であればギリギリだったが、昼ならば余裕で着くだろう!!」 「あっ!お兄さん!あたし、泊まってるホテルに荷物とかが・・・」 「あっ、そうか。なら、昼飯→林檎ちゃんの用事→野営地へGOって形でOK?」 「「「「「「OK!!!」」」」」」 「“ゲロゲロ”クンも一緒にご飯に行こうね」 「あぁ・・・。他人と飯か。一体何時以来だろうな。フッ・・・」 「葉原先輩・・・行っちゃうんだね」 「免力君~、残念だね~」 「でも・・・携帯の番号は交換したから・・・これで」 「さすが免力君~。抜け目ないね~」 「さて・・・どうやって飯を食うか。それが問題だ」 “ヒーロー戦隊”のメンバーは、『マリンウォール』からの撤収準備に入った。程なくして撤退は完了するだろう。その後は、近隣の定食屋にでも行くつもりだ。 もちろん、着ぐるみを脱いでである。“カワズ”以外は。どうやって着ぐるみを着た状態で飯を食うか悩んでいる“カワズ”の後ろから、聞き知った声が掛けられる。 「界刺・・・」 「何、破輩?」 それは、159支部の破輩。後ろには鉄枷と一厘も居た。どうやら、彼女達だけが『マリンウォール』に残っていたようだ。 「・・・この忙しい時に余りキツく言ってくれるな。あの様子だと、176支部の人間はしばらく悩みまくるぞ?」 「そんなモン、俺にとってはどうでもいいことだ。元は身から出たサビだ。それを改善して来なかった連中が悪い。違うか?」 「・・・そう、だな。お前はそういう人間だったな」 「・・・俺と仮屋様、それとサニーはしばらくここから離れる。こっちには真刺や涙簾ちゃん、バカ形製と桜が残る」 「・・・・・・何が言いたい?」 「事実を言っただけさ」 「(お、おい、リンリン。ぶっちゃけ、あの野郎が言いたいことって・・・)」 「(もしかしたら、『シンボル』の力を貸して貰えるかもしれないってことだと思う。不動さん達が承諾するかどうかはわからないけど)」 「(で、でもよ!!俺等は野郎達の力を頼らないって、一昨日吠えたばっかじゃねぇか!!)」 「(鉄枷に言われなくてもわかってるわよ!!・・・でも、あの人達の力はそれだけ魅力的なのよ。悔しいけど、界刺さんの言葉に安堵している自分が居る。確かに居る!! さっきの界刺さんの問答を見てもわかる通り、彼等は皆自分の信念を強く持ってる人ばかりよ。ブレないし、迷わない。それは、戦場では何よりも頼りになる存在になる!!)」 「(んなモン、俺達だって負けてねぇぞ!!)」 「(それもわかってる!!私達だって、私達なりの信念を持っている。 だけど・・・あの人はその信念をいとも簡単に揺さぶって来る!!176支部の人達にしたように!!逆に、あの人の信念が揺さ振られることはまず無いわ!! 揺さ振られるのなら・・・その信念はまだまだ弱いってことじゃないの!?さっきから随分偉そうに言ってるけど、鉄枷はどうなのよ!?)」 「(うっ!!・・・お、俺も風紀委員として救済委員だった春咲先輩に手錠を掛けることができなかったしな・・・。俺もまだまだかもしんねぇ)」 存在が大きい。自分の心に根付いている光の輝きが、自分自身を安堵させる。自立への道はまだまだ険しい。揺るがぬ信念を身に着ける道も同様に。 「(きっと、“保険”のようなものなんだと思う。四の五の言ってる場合じゃ無い時があるかもしれない・・・その時に使えるモノは何でも使えって言いたいんだと思う。 以前私達が風輪のレベル4の人達に力を貸して貰った時のように。それに、そんな人間だからこそ界刺さんは今まで色んな困難を乗り越えて来られたみたいだし)」 「(・・・チッ。確かに、そいつ等に比べたらまだ『シンボル』の連中の方がマシかもしれねぇな。 裏切り者もいねぇし、最初からキッチリ纏まってるみてぇだし・・・春咲先輩を救ったし。そ、そうか!!もしかしたら、春咲先輩と一緒に・・・!!)」 「(・・・界刺さんに告白 キス済みなのは内緒にしとこう。それにしても・・・本当に自己主張が激しい光だわ。 頼らせよう頼らせようって鬱陶しいくらいに主張して来るんだから・・・!!嫌がらせにも程があるわ!! これも、1つの試練!!負けないように頑張るしかない!!・・・どうしようも無い時以外は・・・できるだけ・・・きっと・・・・・・ええい!!とにかく頑張る!! いずれ、私はあの人を“利用”しないといけないんだから!!)」 “カワズ”と破輩のやり取りから、鉄枷と一厘は『シンボル』の助力について思考を駆け巡らせる。 「・・・お前達の力を借りるつもりは無かったんだが・・・?というか、お前達を頼ることでお前のドヤ顔を見るのが嫌なんだが・・・」 「別に力を貸すだなんて一言も言ってないんだけど?・・・んふっ、そんなことを言っていられる余裕があればいいね、破輩?」 「・・・」 「きっと、今のお前より俺の方がずっと深く、深く考えているよ?より真剣に、真剣を重ねて。色んな結果を出すために・・・ね。 お前も命を張るなら、精々後悔しない程度には考えを張り巡らせておいた方がいい。次に会うのが墓前だなんて結果にならないことを祈ってるよ?」 「(・・・何か事情でも変わったのか?あれ程『ブラックウィザード』に関わらないと言い張って来た男が、ここに来て動き始めている。 これは、“アタリ”・・・というわけでは無さそうだな。この男の動きは、私にも読めないからな。“3条件”のこともある。油断はしないでおこう。もちろん、捜査でも!!)」 破輩は界刺の変化に戸惑いながらも、彼の申し出の有用性を考え・・・決断を下す。 「・・・わかった。背に腹は代えられない時もあるか・・・。フッ。いざという時は、あいつを何としてでも口説き落とすしかなさそうだ」 「・・・何か別の意味にも聞こえる台詞だね?」 「うっ!?こ、これは言葉のあやだ。あいつには、昨日酷い目に合わされたからな。その借りを返さなければと思っただけだ!!」 「あぁ、あれか。仮屋様から聞いたよ?破輩って、本当は気弱な女の子なんだよね?今は男勝りな性格だけど、いざって時はその地が出て来るんでしょ?」 「ブッ!!」 読まない時はとことん空気を読まない男が、破輩の素を暴露する。 「なっ・・・!!?」 「破輩先輩が・・・気弱!!?」 「らしいぜ?昨日、真刺の奴に指圧マッサージしてもらっていた最中に零してたそうだ。昔はそこらの野良犬にビビるか弱い女の子だったってさ」 「嘘・・・だろ!?」 「・・・夢でも見てるのかな、私?界刺さん。私の頬を抓ってみて下さい」 「えい!」 「痛っ!・・・夢じゃない!!?」 「お、お前等・・・!!!」 徐々に己の素を見せて行こうと思っていた矢先の暴露に、破輩は怒り爆発状態になる。 「しかも、この気弱な女の子は支部員の輪に入りたくても入れない、本音すら碌に言えない恥ずかしがり屋さんなんだって(人ってのは見た目で判断しちゃいけないんだなぁ)」 「・・・破輩先輩。すんませんっした(ブハハ!!ぶっちゃけ、全然想像できねぇよ!!)」 「す、すみませんでした。破輩先輩の気持ちに気付いてあげられなくて(後で、佐野先輩や湖后腹君にも教えよっと)」 「ぐうぅっ!!い、いや、その・・・なんだ・・・。これは、私の努力不足というか・・・」 しかし、破輩のカミナリが落ちる前に自分達の落ち込む姿と謝罪の言葉を示すことで、彼女の怒りを霧散させる腹積もりの鉄枷と一厘。そして、それに乗っかってしまう破輩。 「破輩先輩!!これからは、俺達にも先輩の本音をバシバシ言って下さい。できるだけ受け止めてみせますから!!仕事とお仕置き以外は!!!」 「破輩先輩!!私達も先輩と共に在りたいです!!だから、これからはもっと頼って下さい!!私達も先輩に頼りますから!!ですんで、飲み物の買出しを破輩先輩に・・・」 「・・・お前等。私の地が気弱だとわかった途端に、全く遠慮をしなくなったな?」 「「輪に入るってことはそういうことですよ!!!」」 「まぁ、159支部の結束は固まったわけだし、良かったんじゃないの?」 「・・・何か上手いコト乗せられたような・・・」 「細かいことは気にすんなって。・・・これとさっきの『事実』で176支部の件はチャラな?」 「・・・お前」 「おーい!!界刺!!行くぜ!!」 「あぁ!!わかった!!」 仲場から出発する旨の言葉が掛けられる。それを受けて“詐欺師ヒーロー”はウインクを見せながら(着ぐるみなのに)『マリンウォール』を後にする。 「そんじゃ、ご武運を。風紀委員さん?」 「あれ~?固地君じゃない?どうしたの?」 「どうしたと言われてもな。ここは図書館なんだから、本を読みに来る以外の理由があるのか?」 「あっ。そうだね」 「全く・・・どこか抜けているな、お前は」 ここは、国鳥ヶ原学園近くの図書館である。3階まであるこの図書館は貯蔵量も中々の物であり、国鳥ヶ原に通う生徒もここをよく利用している。 「立川は・・・夏休みの宿題か?」 「ご名答。ここなら静かだし、資料とかも沢山あるから捗るんだ」 「成程」 「ちなみに、固地君って夏休みの宿題は・・・」 「そんな物、7月中に全て終わらせた」 「だよね~。風紀委員の仕事で忙しいのに、よくできるよね~。私、感心しちゃうなぁ」 昼前になってこの図書館を訪れた休暇中の固地が出会ったのは、クラスメイトの立川奈枯。固地は、彼女の物怖じない性格を気に入っている。 対する立川も勉強等で行き詰った際に固地に教えて貰ったりしているので、彼のことは結構気に入っている。つまり、友人関係といった所だ。 2人は、図書館のある一角に腰を据える。その途端、近くに座っていた生徒らしき人物数名が立ち去って行く。 「・・・相変わらず、固地君って嫌われてるよねぇ」 「別に気にもならん。俺の性格を知って立ち去るなら、それは賢明な判断だ。普通、俺のような人間と付き合おうとは思わんだろう?」 「何よ~。私が普通じゃ無いとでも言いたいわけ?」 「そう聞こえなかったら、耳鼻科に行くことをオススメする」 「口の減らない人・・・。だから、周囲に敵を作っちゃうんだよ?」 立川は、入学当初から見て来た固地の言動に溜息を吐く。この男は、その傲岸不遜な態度で国鳥ヶ原でも色んな敵を作っている。 これで固地が風紀委員で無ければ、すぐにでも報復のような事態に発展しているかもしれない。それだけ、国鳥ヶ原の治安は安定していない。 また、敵で無くとも固地のような人間と関わり合いたく無いと思う人間も多く居る。 現にこの一角に座っているのは、固地・立川の他には目に髪が垂れている黒髪の少年しかいない。 「・・・そういえば、風紀活動はどうしたの?何か忙しいって言っていたけど?」 「しばらくの間休暇を言い渡された。俺自身、体に疲れが溜まっていたようだ。だから、こうやって休暇を満喫している所だ」 「嘘!?あの仕事命、仕事に人生を懸ける、仕事しないと生きていけないの3拍子が揃った固地君が!?」 「・・・俺は何処ぞのマグロか?俺にだって、憩いの一時くらいは必要だ」 固地は、目の前に居る少女の言動に呆れる。こうやって固地に対するツッコミを平気で口にすることができるのが、他のクラスメイトから一目置かれている理由の1つだったりする。 「・・・でも、何で図書館なの?本を読むことだって頭を使うんだから、逆に疲労が溜まるんじゃないの?」 「部屋で寝てばかりというのは性に合わん。だったら、こうやって静かな場所で読書というのもいいかと思っただけだ」 「・・・・・・ううん!!よくないよ!!」 「うおっ!?」 向かいの席に座っていた立川が身を乗り出して来た。固地の姿を映す彼女の瞳は、爛々と輝いていた。 「よ~し!!これは、私も宿題をしてる場合じゃ無いね!!固地君!!私と一緒に遊びに行きましょ!!」 「なっ!?」 そう言って、立川は急いでノートや筆記用具を鞄に仕舞う。 「お、おい!!俺は別に承諾して・・・」 「固地君は、この夏は全然遊んで無いんでしょ!?そんなんじゃあ、体を壊すのも当たり前だよ!!それに、固地君の意見なんて一々聞いてたら何処にも行けないし!! フフン。今日は、私が固地君をエスコートしてあげる!普段から勉強とかでお世話になってるからね!!あぁ、私も固地君と一緒なら日焼けできるかも!!」 「それは、どういう理屈だ!?・・・立川。お前、近頃性格が変わったか?以前のお前はもっと穏やかだったような・・・」 「もしかしたら、辛辣・罵詈雑言・傲岸不遜の3拍子が揃った固地君の影響かもね」 「・・・・・・ハァ」 立川は固地の意見を無視しながら彼の手を引っ張り、図書館を後にする。傍から見ている分にはデートしに行くような流れだが、2人共にそんな意識は無い。 そもそも、立川は固地に苛められていると周囲から捉えられていたので、立川が率先して固地を遊びに連れて行く姿は新鮮・・・というか驚愕モノであった。 そんな慌ただしい2人が図書館を去った後に、固地達が座っていた一角に居た気弱そうな少年が席を立つ。そして、図書館から出て行った。 「・・・どうだ?模写はできそうか?」 「当然だ。俺を誰だと思っている。人間の裸身を、毛の一本まで描き切る男だぞ?」 「(・・・七刀の『思想断裁』は破られていたか)」 朝一番から図書館の3階に鎮座しているのは救済委員である雅艶総迩と麻鬼天牙。彼等は、昨日固地からの連絡を受けていた。 もちろんダミーのSIMを使用しているので、会話を傍受されることは無い。内容は、『ブラックウィザード』の件である。 「確か、会合以降も峠がずっと調べていたな。雅艶、彼女とのコンタクトは?」 「もう着けてある。今日の夜にも合流する予定だ。春咲桜の件で世話になった風紀委員の頼みと言ったら、即座に返事が返って来た。 俺にとっても可愛い後輩の頼みだ。無下にもできないだろう?」 「そうだな。『ブラックウィザード』の監視があるかもしれない以上、風紀委員における要注意人物である固地は身動きが取れない。 休暇中であったとしても、“風紀委員の『悪鬼』”とも謳われる男がじっとしているわけが無い。そう睨んでいるからこその依頼だからな」 「元風紀委員のお前には不服か?」 「別に。今回の件は俺の同輩達が関わっているんだ。元同輩が動いても、何ら不自然では無い。それに、固地は俺が認める数少ない『本物』だからな。 奴は、『偽善者』共の巣窟の中で己が正義を貫き通している。俺が失望したのは風紀委員や警備員という枠組みであって、個人に失望したわけじゃ無い。 固地の場合は、俺の言葉に負けない程の信念を持っていた。そんな奴を、その枠組みの中で奮闘する固地の覚悟をどうして否定できようか。 前に会った“後輩”は、その辺りの覚悟も信念も持ち合わせていなかった。だから、力尽くで行った。それだけの話だ」 実は、この図書館に固地が来たのは偶然では無い。元々雅艶達との物理的では無い接触を図るつもりで来たのだ(=待ち合わせ場所)。 固地と雅艶は国鳥ヶ原の生徒である。この2人が国鳥ヶ原の生徒がよく利用する図書館に訪れるのは、極普通のことである。 麻鬼が危惧するように、固地は『ブラックウィザード』が警戒する風紀委員の中でも、特に注意を払わなければならない人間である。 そんな彼が接触する人物は、全て監視リストに入れられる可能性がある。電波を使った情報伝達は、万が一の危険性(傍受等)がある。 故に、固地が取った行動は『「ブラックウィザード」に関する資料を入れた鞄を持ち歩き、その鞄を雅艶の「多角透視」によって透視させる』であった。 雅艶は絵描きが大の得意であり、同時に記憶力もずば抜けている。その記憶力は、学園中の生徒の裸身を頭にインプットしているくらい凄まじいのだ。 そんな彼に掛かれば、鞄に入っている資料をすぐに記憶し完全模写するくらいわけないのである。 「俺達への依頼・・・『「ブラックウィザード」の構成員の捕捉』、『活動範囲の探索』、『拠点の特定』。手掛かりは、『眼球印の黒い着衣品』。 確かに俺の『多角透視』や峠の『暗室移動』ならば、短期間の内に連中の捕捉が可能かもな」 「ギブアンドテイクを信条とするお前が、今回は特段の要求をしなかったのは・・・春咲桜の件か? 固地には、彼女の処分について口利きをして貰ったからな。あの“『悪鬼』”も呆気に取られたような声を挙げていたぞ? どんな見返りを要求されるか見極め切れないために、俺達への依頼を躊躇っていた末に出した背水の陣(けつだん)を、ああも簡単に聞き入れるんだからな。 まさか、固地の奴も雅艶があの少女にそれ程の負い目を感じていたとは夢にも思っていなかっただろう」 「・・・・・・」 「それに、彼女があの『シンボル』に加入したと聞いた瞬間にお前の表情が緩くなったのも知っているぞ、俺は?」 「・・・目聡いな?」 「覗き趣味のお前に言われたくは無い」 雅艶と麻鬼は、互いに微笑を漏らす。春咲の件については、雅艶や麻鬼も各々の価値観でもって反省していた。斬山の言う通り、もう少し穏便なやり方があった筈だ。 それを無視した結果、穏健派と過激派の衝突にまで至ってしまった。あの衝突は2人にとっても不本意であった。やり方は違えど、同じ仲間であることには変わりないのだから。 その引き鉄となった春咲が、あの『シンボル』に入ったと聞いて2人は心の何処かで安堵していた。 雅艶は、あの“変人”の下でなら春咲はうまくやれると判断したために。一方、麻鬼は風紀委員では無い組織で春咲が活動するようになったことに・・・である。 「あぁ、そうだ。後は・・・興味深い人間も見付けた」 「というと?」 「以前から気にはなっていたんだ。気弱な態度を纏っているのに、その身体は極限にまで鍛えられている国鳥ヶ原の生徒・・・。名は戸隠禊」 雅艶の『多角透視』によって看破していた、己が身体を極限にまで高めている生徒・・・戸隠。雅艶は己が後輩に、疑惑の『目』を向けていた。 「・・・固地を監視していたのか?」 「・・・そのようだ。今俺の『多角透視』で戸隠を追っているが、奴は数百m離れた位置から望遠スコープで固地達を監視している。 『眼球印の黒い着衣品』は見当たらないが・・・この時期だ。『ブラックウィザード』と関係があると見て間違い無いだろう」 「国鳥ヶ原の生徒は、『多角透視』の能力を『前方70mまで透視できる』と『頭上に掲げている』ことしか知らないんだったな」 「嘘ではないからな。別に何とも思わない。安易に手の内を全て晒すのは、愚か者がすることだ」 雅艶の嘲笑を含んだ笑みが、麻鬼の耳に入る。雅艶の『多角透視』の全容を知っているのは麻鬼と峠しかいない。 他の過激派救済委員でさえ、『多角透視』の全容は教えられていないのだ。上記の2人にも、他者への漏洩は固く禁じている。 「どう見る、麻鬼?」 「おそらく監視に徹するんじゃないか?現状では危害を加えるまでには及ばないだろう」 「俺も同意見だ。奴の身のこなし・・・只者では無いな。能力を使わずに尾行するとなると骨が折れそうだ」 「・・・どっちに張り付く?」 「立川という少女の方だな。手を出すのなら、固地より彼女の方が確率は高い。まぁ、それでも手を出す可能性は低いがな。 予定変更だ、麻鬼。今日は立川という少女の近くで網を張る。峠には、俺から連絡を入れておこう。 戸隠については、このまま尾行するのは困難だな。逆に俺達の存在が気取られる可能性がある。今は情報収集に徹する。とりあえず、この情報は後で固地に伝えよう」 「了解。では、行くか」 「あぁ」 この後すぐに2人は図書館を後にする。様々な勢力が蠢く中、過激派と呼ばれる救済委員達も風紀委員の依頼を受けて動き始める。 continue!!
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「こっちに来い!!連中はあっちに掛かり切りだぜ!!」 「そうか!!おしっ!」 「“剣神”と互角の男を相手取ってくれてる阿晴さんのためにも、俺達がヘマするわけにはいかねぇよな!!」 阿晴配下の構成員の一部が、砂と葉の嵐が吹き荒れる一角から投げ掛けられた聞き覚えのある『声』の方へ殺到する。 彼等は“巨人”に対処している北部方面の前線部隊を援護するのが主目的である。その行く手を阻む敵の隙を見出したことで気勢が上がる。 “剣神”と同等とされる男を自分達の上司が相手している間に、何としてでも敵の妨害を掻い潜って援護に向かわなければならない。 「チンタラすんな!!早く来い!!」 「わかってらぁ!!」 『声』が急かしに急かす。それだけ慌てている―千載一遇のチャンス―のだろう。その気持ちは痛い程よくわかる。 敵の能力と思われる大気系能力に手こずり、今の今まで敵の防衛線を突破することができていなかったのだ。 この機会を逃すわけにはいかない。逸る気持ちを抑えられない構成員達が『声』が聞こえる場所に到着した瞬間目にしたのは・・・ 「残念でした!!」 「「「!!!??」」」 ゲコ太マスクを被ったウルフカットの男―仲場―であった。『声』も本来の仲場の声に戻っている。 構成員達は罠に嵌ったことを瞬時に悟る。おそらく、あのマスクに変声機のような機器が搭載されているのだ。 だが、仲場は相手に対処させる暇を与えない。その両手に握られていた砂混じりの土団子―同僚の穏健派救済委員である農条から貰ったモノ―を構成員達の顔面目掛けて投射する。 「自然を舐めんなよ!!!」 「グアッ!!?」 「ゴホッ!!?」 正確無比に構成員達の顔面に土団子を投射できるのも、救済委員活動時の相棒でもある遠距離狙撃銃(ゴム弾式)を扱ってるが故である。 普段とは違い風紀委員と行動を共にしているので、相棒を使用することが実質不可能な仲場の射撃センスを農条の製作品で活かしているのだ。 「秋雪殿!!今でござる!!」 「よ、よしっ!!お姉さんも舐めるんじゃないわよ!!!そ~れ!!」 少し離れた場所から観察していたゲコ太マスクが178支部風紀委員の秋雪に合図を送る。『風力使い』によって集まった風の塊が砂と葉を巻き込んで構成員へと降り掛かる。 ズドオォッ!! 「「「ガアアアアァァァッッ!!!」」」 「(よしっ!!)」 早急に離脱した仲場とは違って、土団子による目潰しにより身動きが取れない構成員達は風の塊をまともに浴びた。 凝縮された大気の流れにより四方八方に吹き飛ぶ『ブラックウィザード』。この光景を生み出した自身の能力に、秋雪は心中でガッツポーズを決める。 「さすが秋雪殿!!お見事でござった!!」 「べっぴんさんは腕も確かだよな!!」 「こ、こらぁ~。お姉さんをからかうなって何度も・・・べ、別に褒める分にはどれだけ褒めてもいいとは思うけど」 「(何という・・・)」 「(わかりやすさ!!)」 ゲコ太と仲場の賞賛に最初はあれこれ言うものの最後はいい気分になって受け入れる秋雪の素直さに、男2人は色んな意味で戦慄する。 もし、悪い男に引っ掛かったらどうなるのだ?その先を想像するのがとても容易で、少々顔が引きつる男2人に秋雪は仲場の立てた作戦について言及し始める。 「にしても、仲場のマスクに内蔵された変声機がこんな場面で活きるなんてね。お友達が開発マニアなんだっけ?」 「ま、まぁな。でも、一度被ったら1日中外せない仕様になってるけどな。暑ぃ~」 「嘘っ!!?こんな暑い時期に1日中!!?それは地獄よねぇ」 「(こころ殿は『根焼』の店長と気が合うやもしれぬなぁ)」 仲場のぶっちゃけに秋雪が同情し、ゲコ太が“カワズ”を製作した『根焼』の“変人店長”を思い出す。 仲場が被っているマスクは同じ穏健派救済委員で十二人委員会の1人鉄こころの発明品であった。 外界の音を採取し、分析し、変声機を用いて自分が放つ『声』として再現するという機器が内蔵されているが、どうしてか一度被ると丸1日は外せない仕様となっている。 彼女が作成する発明品は基本的にどれもこれも一癖二癖がある代物ばかりで、効果は絶大なのだが何処かしらに抜けがあるという感じである。 「まっ、この戦場を生き抜けられるなら何でもいいぜ!!気を抜くなよ、2人共!!」 「それもそうねぇ・・・。にしても、啄さんは大丈夫かしら?彼のようなイケメンにあんなブサイクスキンヘッド野郎が突っ掛かるのを想像しただけで虫唾が走るわ!!」 「(何という・・・)」 「(わかりやすさ!!)」 等と言い合いながら視界を塞ぐ砂と葉の嵐に聴覚を欺く『声』を組み合わせることよって『ブラックウィザード』の進撃を阻み続ける秋雪・ゲコ太・仲場の3名。 人数が多い構成員側は同士討ちを恐れて無闇に攻撃を仕掛けることもできない。この後に到着した駆動鎧の援護もあって、 築いた防衛線の保持という役目を見事遂行する風紀委員 穏健派救済委員連合であった。 「(くそったれ・・・!!)」 その頃、阿晴は対峙する男にいいように誘導された状況に苛立ちを募らせていた。彼が今立つのはある建物の3階にある個室の一角である。 『ブラックウィザード』と北部方面に展開する数少ない駆動鎧の衝突によるモノだろう、部屋の側面に爆薬による大きな風穴が開いていた。 瓦礫が散乱している個室内に辿り着く前には、風紀委員と永観達が交戦している場所目掛けて応援の声を届かせるという失態を犯してしまっていた。 「(ムカつく・・・ムカつく!!!)」 これまでの戦闘から、あの男は光を操作する光学系能力か幻影を見せる精神系能力のどちらかを所持しているモノと推測していた。 故に、こんな建物まで誘導されてしまった。部下から引き離されてしまった。いずれも腹立たしいことだ。しかし、今阿晴猛が心底腹を立てているのはこれら『では』無い。 「ハーハッハッハ!!!俺の『閃劇』はどうだ!!?貴様を部下から引き離すのには最適な能力だっただろう!!?」 眼前には、炭素鋼の西洋剣を構えたまま高笑いしている男・・・啄鴉が毅然と立っていた。光学系能力も幻影を見せる能力も、基本的には欺く能力である。 それを半ば無視するかのように真正面に仁王立ちしている啄には好感さえ持っている。しかし・・・“気に喰わない”。 「うるせぇ!!!」 阿晴は日本刀を片手に啄へ斬り掛かる。猛烈な速度で振り抜かれた鋼鉄の刃に呼応するかのように、啄も手に持つ西洋剣で受ける。 ガキッ!!! 鋼鉄と炭素鋼の衝突音が狭い個室に響き渡る。風穴から入る月明かりに照らされる刀と剣の煌きに阿晴は確信する。 疑念なら当初からあった。それは“音”。刀剣マニアである阿晴だからこそ気付いた違和感。それは・・・ 「テメェ・・・俺を舐めてんのか!?この俺相手に“刃の無い剣”を使いやがって!!!」 啄が振るう西洋剣には刃が無いのだ。つまりは、唯の炭素鋼でできた棒である。光学系能力か精神系能力で隠していたつもりだろうが、 刀剣マニアである阿晴には通じない。こんなモノで自分に勝つつもりなのか。そこまで自分を舐め腐っているのか。憤激止まない阿晴に啄は怪しく口を歪める。 「よくぞ見破った!!さすがは、『ブラックウィザード』の幹部と言った所か。見事なり!!」 「テメェ!!!」 互いの鍔が持ち主の意気に応じるかのように競り合う。勢いとしては激怒している阿晴が上。 その気持ちを十分理解する啄は、自身の行為を見破った礼としてそのような行為を実行した理由を彼に打ち明けることを決意する。 「阿晴よ!!俺としても今回のことは不本意なのだ。しかし、不本意でもやらねばならぬことというのもある」 「あぁ!!?」 余りの怒りに形相が“血霧の海坊主”と呼ばれた頃に戻る阿晴の耳に、啄の釈明が突き刺さる。 「銃刀条例違反だろうが!!!!!」 「ガクッ!!!!!」 まさか、この場面で『条例違反』などという言葉が出て来るとは阿晴でも想像できなかった。思いっきりガクッとなった阿晴にあくまで真剣に返答していく啄。 「俺は風紀委員と行動を共にしているんだぞ!!そんな人間の近くで本物の刀剣など持てる筈が無いだろう!!貴様、常識というモノが存在しないのか!!?」 「こ、こんな場面で常識を突っ込まれるとはさすがの俺も予想できなかったぜ・・・」 変な角度から突っ込みを喰らったせいか、ついさっきまでの怒りが霧散してしまった阿晴。確かに、啄の言っていることはもっともだ。 風紀委員の近くで本物の刀など持っていれば自分達と戦う前に捕まっていた筈だ。しかし、この状況で常識を突っ込まれるというのは何とも言えない気分に陥る感覚を覚える。 ちなみに、灰土の車には鉄の発明品を主とした色んな武器が詰め込まれていた。当然同乗した成瀬台の風紀委員に悟られないように、『分裂光源』によって偽装していた。 啄が持つ西洋剣にも能力は行使されており、刃があるように見せ掛けていた。しかし、阿晴に見抜かれた以上もう偽装する意味も無い。 「だがな・・・刃が無いからと言って安心するのは早いぞ阿晴!!!」 「うおっ!!?」 鍔迫り合いから渾身の力を込めて刀を振るうことで阿晴を後退させた啄は、刃の無い西洋剣を無造作に放り捨てる。 その代わり、彼が手を掛けたのは腰にぶら下げていた日本刀。まるで居合い抜きのような構えを取る敵に阿晴は警戒の色を濃くする。 「この日本刀にも刃は存在しない。だが・・・立派な鈍器だ。そして、この刀は我が同志が研究・開発した凄まじき発明品でもある!!」 「何・・・!!?」 「5時間の充電を経て、磁力による高速抜刀を1度だけ可能とする『超電磁丸』!!俺としても未だ使いこなすことができていない切り札中の切り札だ!!」 「(いや、5時間で1回しか使えないってなんつー欠陥品だ。大規模ならともかくあんな小型のヤツで・・・しかも何で俺にネタ晴らしするんだ?コイツ、馬鹿か?)」 しかし、啄の説明を聞いていく中で警戒の色が薄くなっていくのを実感せざるを得ない。目の前の様子から見て、この男が嘘を付いているようには全く思えない。 平然と高笑いをしている様から薄々気になっていたが、条例やらネタ晴らしやらでさすがの脳筋阿晴も気付き始める。『コイツ、馬鹿じゃねーの?』と。 「この『超電磁丸』を完全に使いこなした暁には、高速抜刀によって風の刃が生まれるのだ(啄の独自解釈では)!!つまりは、真空刃が貴様を襲うのだ(啄の独自解釈では)!! 学園都市の技術の粋でもって作られしこの日本刀に死角は存在しない(鉄の宣伝文句)!!ハーハッハッハ!!!」 「(それが本当なら、お前の腕が吹っ飛ばねーか?コイツ・・・本当にあの“剣神”に勝ったのか?もしかして・・・俺はとんでもない勘違いをしてるんじゃあ・・・)」 突っ込み所満載の演説を高笑い付きで行う啄にどんどん呆れていく阿晴。終いには、“剣神”に勝ったという奴の言葉にも疑問を抱かざるを得なくなって来た。 「まぁ、言葉より実際にその身に味わった方が貴様も『超電磁丸』の本領を理解できるだろう!!覚悟しろ、阿晴猛!!!」 「(チィ・・・俺の勘違いだってんならとんだ下手を打っちまったってことか!!すぐにこんなおままごとを終わらせて、アイツ等の下へ戻らねぇと!!!)」 いよいよ臨戦態勢に突入した啄に、妙な焦りを抱きながらも阿晴は迎撃の準備に入る。この男の言葉は信用ならない。 仮に、あの日本刀が唯の日本刀では無いとしても真空刃を生み出すような代物では無いことは十二分に予測可能である。 「(結局アイツは居合い抜きのために俺へ突っ込まざるを得ない。その挙動さえ見量ることができれば・・・。 それに、居合い抜きは初撃さえかわせばどうとでも対応できる。生じた隙で・・・絶対に仕留めてみせる!!!)」 居合い抜きの利点と欠点を知る刀剣マニア阿晴は敵の初動を見量ることに全神経を集中する。抜刀術は危機回避・護身技と見做す流派も多い。 それだけ難易度が高い技術だ。自分が打ち合った経験からして、啄はメチャクチャ技量が高いという程では無いこともはっきりしている。 「ゆくぞ!!!」 「ッッ!!」 ご丁寧と言うべきか、馬鹿も馬鹿と言うべきか、抜刀術において重要な初動のタイミングをわざわざ明かす啄に内心では笑いを抑えられない阿晴。 こんな馬鹿はさっさと片付ける。能力を用いられた場合は厄介だが、偽装用では無く戦闘用として併用する気があるなら最初から使っている筈だ。 つまるところ、“そういう”性格なのだろう。正直言って好きな部類に入るが、そんな人間相手に手こずっている事実には憤りしか覚えない。 だからすぐに終わらせる。終わらせて部下の下へ戻る。全ては東雲のために。彼をこの戦場から無事に脱出させるために。 ドッ!!!!! 「グハッ!!!??」 「あっ」 刹那阿晴が腹部への強大な衝撃に呻き、啄は間の抜けた声を反射的に出しながら尻餅をつく。2人共に全く予想だにしていない『日本刀が鞘から射出される』という事態。 『超電磁丸』の一癖である、『余りの速度に下手をすると鞘から刀が射出される』が実現してしまったのだ。 「うわあああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」 射出された日本刀の柄が腹部に直撃した阿晴は、後方―風穴の開いた壁―へ吹っ飛ぶ。そして、姿勢制御もままならずに3階という高さから地面へ一直線に落ちていく。 「阿晴!!!」 啄はすぐに体勢を立て直し、阿晴が落ちた風穴付近へ近寄る。こんな結末は自分も望んでいない。この高さなら生存の可能性もある。 何時もの彼らしくない焦りを浮かべた啄の視線の先には・・・丁度マットやら布団やら何やらが置かれているゴミ置き場の上で呻き声を上げている阿晴の姿があった。 「ゴホッ!!グホッ!!く、くそっ・・・」 「・・・ふぅ。何とかなったようだな。これも日頃の行いが良いせいか」 何処をどう判断すれば『日頃の行いが良い』になるかは別にして、何とか阿晴が生存していることを確認した啄は急いで近くにある階段を下りていく。 このまま阿晴を置いていくわけにもいかない。彼は『ブラックウィザード』の幹部である。彼を捕縛し、風紀委員へ身柄を引き渡さなければならない。 阿晴がダメージから回復する前に何としてでも・・・そう考える啄の耳に遠方から大音量で施設内に轟く『声』が突き刺さる。 「ほぅ・・・遂に『ブラックウィザード』のリーダーを捕まえたのか。やるな、風紀委員」 内容は・・・『ブラックウィザード』のリーダー東雲真慈の確保と新“手駒達”の救出完了。これで、『ブラックウィザード』も戦線を維持できなくなる。 後は、他の幹部や構成員達の確保に全力を挙げるだけだ。そう考える啄は数分後阿晴が落ちたゴミ置き場に到着した。 「・・・・・・何処へ行った?」 だがしかし・・・数分前までゴミ置き場に埋もれていた阿晴猛―相当なダメージを受けている筈―の姿を彼の瞳が映すことは無かった。 東雲確保の一報が施設内に轟く少し前、この戦場において最大の戦闘と称されるであろう南西部での“死闘”は今尚続いていた。 建物は崩れ去り、地面は至る所が抉られ、破壊された駆動鎧のパーツが散乱する中“閃光の英雄”界刺得世と“剣神”神谷稜が四足歩行の異形達が闊歩する【閃苛絢爛の鏡界】を駆け回る。 「(今!!)」 血塗れの界刺は、同じく血塗れの神谷と事前に打ち合わせした通りの行動を起こす。能力によって『4』体の白の異形を何とか振り払いながら僅かに見出したチャンス。 本命である“怪物”ウェイン・メディスンが猛烈な速度で突っ込んで来たのを『光学装飾』で感知した彼は、 ダークナイト の柄から『閃烈底』を地面へ落とす。 ピカッ!!ガリガリ!! 爆音付き閃光弾が【鏡界】で炸裂する。目を瞑っているウェインには閃光そのものは通用しない。狙いは爆音による行動の抑制。 感知用の蜘蛛糸は【千花紋様】や『閃光真剣』にて全て焼き払っている。今なら『閃烈底』の挙動を悟られることは無い。 接近を利用し、動きが鈍ったその瞬間を狙う。共に耳を塞ぐことで爆音を防いだ界刺と神谷がそれぞれ【雪華紋様】と『閃光真剣』を準備する。しかし・・・ グン!!! 爆音を全く意に介した様子も見せずに突貫して来るウェインと四足歩行の異形達。その現実に不意を突かれる界刺と神谷は、 互いに必殺を狙っていた【雪華紋様】と『閃光真剣』をひとまずの防護用として用いる他無かった。 「(今の挙動は反射的にも爆音に反応する素振りを全く見せなかった動きだ!!つまり・・・あの糸の鎧が音の振動を防御してるってことか!!?だが・・・)」 「(あの野郎は耳栓でも能力でも何でも使って“耳を塞いでいる”のか!!?確かに、音の周波数如何で防音対象を選択できる耳栓は存在する!! 学園都市の技術なら、それこそ状況に応じて防音対象を変幻自在に変化させられる耳栓があってもおかしく無い。能力なら尚のこと。 だが、防音すること自体がリスクになる!!視覚を封じられている以上、聴覚は奴にとっても必須の情報源だ!! それを塞ぐなんて真似をする筈が無い!!というか、俺達と普通に会話してたじゃねぇか!!どんなタネを使ってんだ!!?)」 界刺と神谷はウェインの行動から彼が糸もしくは耳栓のようなモノを用いて『閃烈底』を防御したことを予測する。するが、その行為自体に疑問を抱く。 現状【月譁紋様】にて視覚を封じられているウェインが、情報の取得手段として聴覚を遮断する真似をするとは到底思えなかった。 たとえ変幻自在に防音対象を選べる高性能な耳栓があったとしても、防音それ自体がリスクとなる。 音の全てを逐一識別・臨機応変に防護できるような耳栓は機械でも無ければさすがに存在しない筈だ。 加えて、ウェインの性格から機械に全てを委ねるような行いをするとは考え難い。 「(立体の耳栓をこんな所で使うとはな。まぁ、保険でしかないし【意図電話】あってこそではあるが)」 一方、疑惑の目を向けられているウェインは同じ傭兵である男から貰った耳栓を保険として身に付けながら【意図電話】をしっかり維持する。 最初の方で界刺の『閃烈底』に一杯喰わされたウェインは、【獅骸紘虐】に身を包んだ折に仮面の側面部・・・すなわち耳部分に【意図電話】を設置した。 この直後に仮面内にて糸を使って界刺に悟られないように耳栓を耳の中に入れた。傭兵仲間から貰った耳栓は広範囲に渡って音を遮断するタイプであり、 さすがに変幻自在に防音対象を選べるような代物では無かった。機械付きなら有り得るかもしれないが、その場合は電気系能力者の干渉の恐れがあった。 そもそも能力で防護可能な以上、わざわざ付け込む隙を与える必要は無い。そう考えたウェインは、自身の能力応用術の1つである【意図電話】との組み合わせを思い付いた。 「(奴等は、未だに【意図電話】の存在に気付いていない。【意図電話】がある限り、聴覚で音を捉える必要は無い。糸に伝わる振動を念動力によって識別・パターン化し、 “五感の一角である聴覚を用いない『音声』の識別”を可能とする【意図電話】は、耳を塞ぐ代物とは相性抜群というわけだ。 全く・・・暗部時代の仕事の影響が無ければここまで芸達者にはなれなかっただろうな。あの頃は如何に相手の裏を掻けるかが肝だったしな。 否応無しに能力の応用が強く求められた時代だった。様々な汎用性を得ることが叶ったという意味ではあの男に感謝しなければ・・・な!!)」 『閃光大剣』や『閃光真剣』をかわしながら攻撃を仕掛けるウェイン及び界刺・神谷の周囲には砲弾として使用した糸の残骸が幾個も散らばっていた。 界刺と神谷は再びの攻撃用として警戒していたが、ウェインは地面への衝突時に極自然に砲弾を『筒』に近いテント状に変形させた上で、情報収集の要である【意図電話】として用いていた。 「(さて・・・そろそろ決着を着けねばな。これ以上は仕事に何かと支障が出そうだ)」 一旦距離を取ったウェインは、仕事への支障を懸念して早々の決着を着けることを決断する。戦場内を轟かせていた戦闘音が静まり始めている。 おそらくは、風紀委員や警備員の侵攻が佳境を迎えているのだろう。これ以上の浪費は何かと面倒である。 「神谷・・・気を付けろ!」 「あぁ・・・」 「(貴様等は知る由も無いだろうが、【意図電話】にはこういう使い方もある!!)」 ウェインの雰囲気の変化を感じ取った界刺は神谷に警鐘を鳴らす。無論神谷もウェインの雰囲気が変化したのを感じ取っていた。 他方、“怪物”は敵2人を囲むように一定距離を保ちながら東西南北に浮かぶ異形『4』体の形を崩す。 具体的には鬣や獅子の顔面を『筒』とし、それ以外の部分はドリル状とした。まるで、巨大なメガホンの根元に同じく巨大なドリルが突き刺さったかのような形状。 「(【意図電話】は、より『筒』に近い形に変容させることで『音声』を放出することができる。つまりは通信機代わり。だが、それだけには留まらない!!!)」 “怪物”の戦慄する程の殺気が空間へ満ち満ちていく。それに追随するかのようにドリルが凄まじい狂音を立てながら回転を始め、 発生した大きな振動がドリルからメガホンである『筒』に伝達する。結果糸表面にまで展開された念動力と共に、強大な振動が『音声』となって空気中へ放出される。 ギイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィンンンンンンンンン!!!!! 「グアッ!!?」 「グゥッ!!?」 「(【意図電話】は即席の音響兵器となる!!!さぁ、ここで貴様等の命運を終わらせてくれる!!!)」 東西南北から放たれた『音』の暴力が“英雄”と“剣神”に襲い掛かる。特に、演算精度の高さが能力発現に直結する神谷は最大出力の『閃光真剣』を保てなくなる。 即席である故に実際の音響兵器に比べれば威力が落ちるものの、即席としては十分な威力を持つ【意図電話】による音の暴力を、やはり気にせず“怪物”は突貫する。 「『閃光真剣』が・・・くそっ!!」 「音響兵器を糸のメガホンで実現しやがんのか・・・!!?つくづく化物染みてやがるな!!」 四方から鳴り響く狂音に耳を塞ぐことで対処する神谷と界刺。だが、耳を手で塞ぐという行為は『閃光真剣』や ダークナイト の取り扱いに重大な支障を来たすということでもある。 最大出力の『閃光真剣』は“剣”か“マット”状にしか展開できない神谷の場合は死活問題と言ってもいい。 だが、敵は待ってくれない。死神の鎌は躊躇せずに自分達の命を刈り取ろうと向かって来る。 ビュン!! ウェインの左手からセラミック製のナイフが神谷へ向けて投射される。強大な耐熱性を持つセラミック製ナイフなら『閃光真剣』を突破できると踏んだのか。 両手で耳を塞いでいる神谷は、ナイフに超小型爆弾のようなモノが搭載されている危険性―この状況でナイフという『普通』の武器を使用した意味―を瞬間的に考え、 飛来して来るナイフをかわすと同時に耳を塞ぎながら―及び針を小指側(剣で言う所の“柄頭”側)から出して―『閃光真剣』の最大出力を発現、 かわした隙を突いて来るウェインに対抗するために何時でも“マット”状に変換できるようにする。 ヒビが入っている左肘の痛みを何とか我慢し続けながら『閃光真剣』を保持することに集中する神谷・・・を嘲笑うかのように“怪物”は彼の思考の上を行く。 グゥン!!! 「後ろだ!!!」 「ッッッ!!!??」 界刺が持てる最大音量で神谷に警告を投げ掛ける。しかし、【意図電話】対策として耳を塞いでいた神谷は反応が遅れた。 後方を振り返り掛ける神谷の瞳に映ったのは、柄に仕込んでいた念動製蜘蛛糸を操作することで方針転換したナイフが神谷の急所目掛けて突進する光景だった。 グサッ!!! 「グアアアァァッ・・・ァァァアアアアアアア!!!」 驚異的な反射神経で何とか内蔵等の急所だけは避けることに成功した神谷は、残る力の限りを振り絞って脇腹に突き刺さったナイフの柄を『閃光真剣』で切断する。 柄の部分はセラミックでできていなかったために最大出力型『閃光真剣』でもって切断することができた。 そして、ナイフの方には蜘蛛糸が内蔵されていなかったようで、突き刺さったナイフで神谷の身体が切り裂かれるような事態に陥る危険性も無かった。 「グウウウウゥゥゥッッ・・・!!!」 それでも、脇腹に突き刺さったナイフによって重傷を負った神谷にはウェインと戦うだけの力が残っていなかった。 噴き出る血を手で押さえるために、四方から放射される音響攻撃をまともに浴びる。もはや、神谷は戦闘続行が不可能となった。 「チィッ!!!」 「これで邪魔者は排除できた。どうせあの男を庇うつもりなのだろう、界刺得世?ならば、貴様から葬ってやろう!!」 神谷への突入そのものが実はブラフで、ずっと界刺の動向に注意を払っていた―神谷へは大して気を払っていなかった―ウェインは、 必殺の遠距離光学攻撃を持つ“英雄”の始末に全力を挙げる。対する界刺も何とか応戦を試みようとするも、繰り出す光学攻撃がことごとく回避されてしまう。 「(野郎の動きが最初とは比べられない程増したこととは別に、気付かない間に【雪華紋様】の照準精度が落ちてやがったのか!! 数日前に完成したばかり・・・血の流し過ぎ・・・音響兵器の影響・・・理由は幾らでもあるな、クソッタレ!!!)」 事ここに至って、界刺は自身が放つ光学攻撃の照準精度が甘くなっている事実に気付く。完成したばかりで長時間の運用には弊害が出てしまうのか、 負った傷から流れる血液量が影響しているのか、はたまた音響攻撃によって演算が乱されているのか・・・理由なら幾らでも付けられるが、今は悠長に探ってる余裕は無い。 【精製蜘蛛】によって身体機能が強化されている“怪物”を相手にしているのだ。1つの油断が命取りである。 ギュルルルッッ!!! “怪物”が右手に持つ長槍を界刺目掛けて投射する。先端のドリルが獲物の血肉を屠らんと唸りを挙げながら突き進む。 界刺は左手に持つ『閃光大剣』から放射される超高温の輻射熱を『光学装飾』と組み合わせることで長槍を燃やし尽くそうとする。 ジュアアアアァァッッッ!!! 侵入角度的に界刺の右半身を主に狙った長槍が強大な熱を浴びて先端からどんどん燃えていく。その様子を見て、ひとまずはウェインの攻撃を凌いだことに少しだけ安堵する界刺。 ギュイン!! だが、彼は致命的なミスを犯した。疲労等による演算精度が低下していることもあって、長槍を確実に防ぐために『閃光大剣』へ能力を集中した結果、 極小の蜘蛛糸を焼き払っていた【千花紋様】の展開規模が甘くなってしまったのだ。そんなミスを百戦錬磨の“怪物”が見逃す筈も無い。 【千花紋様】の展開範囲である半径15mすぐ外にあった極小の蜘蛛糸に自身から伸ばした糸を繋げ増幅させるウェインは、その糸を武器化せずに速攻で界刺の左腕へ巻き付かせる。 「(しまっ・・・!!)」 「(貰った!!!)」 糸の張力にて界刺の左腕を捻じ曲げて切断しようとするウェイン。大火傷覚悟で『閃光大剣』の輻射熱を巻き付いた糸へ殺到させる界刺。交錯する両雄の凌ぎ合いは・・・ グリッ!!!ガキッ!!! 「グアッ!!!」 「・・・・・・」 糸によって肘から先を捻じ曲げられ筋肉がズタズダとなり、骨も複雑に骨折するという結果に至った。 但し、これでもマシだったと言うべきだろう。数瞬輻射熱が遅れていれば、間違い無く界刺の左腕は切断されていたのだから。 しかし、大怪我を負った上に抜け目無いウェインは“英雄”の右半身前面に展開されていた輻射熱が弱まった瞬間も見逃さず、 燃え尽きずに残っていた長槍の柄を鉤爪に変化させて ダークナイト へ射出、その結果連結状態の ダークナイト は界刺の手から吹き飛ぶ。 地面へ転がって行く特殊警棒は連結を保てなくなったばかりか、“怪物”の攻撃をまともに喰らった片方の警棒が半壊するという事態にまで陥る。 これで、ウェインの攻撃を防いでいた『閃光大剣』は使用不可能となってしまったのだ。 パッ!!! “閃光の英雄”界刺得世の『本気』・・・『光学装飾』の“戦闘色”・・・【閃苛絢爛の鏡界】が余韻も残さずに消え去った。 【鏡界】が消え去った後には、細いながらも巨大な蜘蛛の巣が広範囲に渡って散りばめられている光景が特に目立つ。 大怪我を負った界刺が【月譁紋様】を保てなくなったためだ。それどころか、今の界刺は【千花紋様】も保つことができない状態になっている。 精々基本的な光学操作か、全力を振り絞っても【雪華紋様】の数発が関の山という状態―照準精度も酷く低下している―なのだ。 「これまでだな、界刺得世!!!」 予想していたとは言え、視界が回復したことに少しだけ“間を置いた”ウェインは万全の状態で強者を仕留めに掛かる。 最後の悪あがきなのか、界刺は痛みを懸命に堪えながら後方へ移動していた。そんな敵に多少の哀れみを抱きながら、“怪物”は迷わず牙を剥く。 「クソッタレ!!!」 【鏡界】が解かれ、肉眼で光景を捉えられるようになった神谷が脇腹から噴出する血を無視して動こうとする。 するが、強烈な痛みのせいで地面に蹲ってしまう。この距離では『閃光真剣』も届かない。届いても、高出力の『閃光真剣』では蜘蛛糸を打ち破れない。 声に絶望が混じる。守るべき者の命が失われようとする。非情な現実に神谷はあらん限りの絶叫を張り上げる。 ブオオオオオオオオオォォォォォォォッッッ!!!!! ドオオオオオォォォォンンンン!!!!! 「なっ!!?」 「・・・鬱陶しい」 今まさに界刺へ突貫しようとした“怪物”を狙って暴風が、次いで激流の放射が放たれる。一方は中央部から、もう一方は南部側から。 そこから姿を現したのは暴風を纏いながら飛行する風輪学園の少女と、激流に乗る花盛学園及び小川原の少女2人だった。 「界刺!!!神谷!!!」 「界刺さん!!!」 「界刺さん!!!稜!!!」 「加賀美先輩・・・!!!破輩先輩・・・!!!」 神谷の視線の先に居る少女達・・・加賀美・破輩・水楯が、界刺と神谷の命を守らんがために猛スピードで突入して来る。 【意図電話】による音響攻撃で聴覚を封じられていたために3人の接近に気付いていなかった神谷は、戦況の好転を只管に願う。 一方、破輩の暴風で突貫の邪魔をされたばかりか加賀美・水楯の水流操作系コンビの強大な統御力によって激流の檻に閉じ込められるウェイン。 しかも、『粘水操作』によって水の粘度を操作することで糸から水が離れ難くなっているという始末である。 瓦礫や鉄屑等の不純物と共にウェインを押し潰そうと強力な水圧が【獅骸紘虐】へ押し寄せる。 「だが・・・“手を誤ったな”!!」 しかし、【獅骸紘虐】を打ち破るには至らない。ウェイン自身、加賀美達の激流攻撃を防ぐために周囲の蜘蛛の巣を用いて激流の檻から周囲5m付近に蜘蛛糸の膜を展開しており、 追加の激流を排除している。量そのものが少ない激流では、とてもでは無いが【獅骸紘虐】を突破することは不可能だ。 “怪物”は度重なる横槍に苛立ちながらも努めて冷静に事の対処へ神経を集中する。本当なら、自分を妨害する前に“英雄”を水流でもって救出するべきだった。 真っ先に救出せずに自分を檻に閉じ込めた後に界刺と神谷を救出しようとしているのは、他ならぬ“怪物”足る自分を恐れての本能。 所謂防衛本能が働いた―加えて水楯が身に付けているだて眼鏡の“暗視 遠視モード”にて2人が重傷を負っていることを確認したために、 瓦礫や木屑等の不純物を伴っている激流に“巻き込む”ことで彼等の命を脅かす可能性を鑑みた―故であろう。 とは言え、真っ先に救出に動いたとしても結果を変えられるとは思えなかったが。 ギイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィンンンンンンンンン!!!!! 「「うううぅぅっ!!!??」」 【意図電話】による音響攻撃を加賀美・水楯コンビへ向けて放つ。激流から発する大きな音のせいで神谷達を攻撃していた【意図電話】の存在に気付かなかった2人は、 音響攻撃を集中させられたことで激流の操作に乱れを生じさせてしまう(同様に破輩も纏う暴風の音によって音響攻撃の存在に気付いていなかった)。 急いで駆け付けるために激流の上にコンテナを乗っけてその上に座る形で移動していた加賀美と水楯は、戦闘にて結構なダメージを蓄積している+演算の乱れによって、 自分達が乗る激流及びウェインを閉じ込めている檻の維持に手一杯となってしまい、追撃で浴びせられる糸の弾丸も相俟って蜘蛛糸の膜に殺到していた激流の掌握を手放してしまった。 ドン!!ドン!!ドン!! 「チィッ!!!」 加賀美達がウェインを抑えている間に破輩が界刺と神谷を救い出そうと動くも、近隣にある蜘蛛の巣が弾丸に変形し彼女に襲い掛かる。 彼女自身も傷を負っている身のために、常のような精微な風操作ができない。対して、ウェインは【精製蜘蛛】によって痛覚を抑制しているために痛みに左右されることは無い。 「さぁ、今度こそ終わりだ!!!」 少女達の動きを封じた“怪物”は、今度こそ獲物を仕留めようと操る念動力の精度を向上させる。 制御が弱まった激流の檻を突破し、勢いそのままに“英雄”を屠る。準備は全て整った。機も熟した。後は・・・動くのみ。 「いくぞ!!!」 ズドオオォォッ!!!!! 『本気』の“怪物”が動いた。凄まじい念動力によって加賀美と水楯が作った激流の檻を突破するウェイン。 彼の実力なら一々妨害せずとも無理矢理突破できただろうが、突破後の横槍が鬱陶しかったこともあり先手を打ったのだ。 檻を突破されたことを感知した少女達は、しかし音響攻撃と蜘蛛糸による攻撃のために界刺への攻撃を防ぐ手立てを封じられた。 ビュッ!!! 「むっ!?まだ、レーザーを放つ余力が・・・」 激流の檻を突破した直後に耳の糸を掠めたのは界刺の【雪華紋様】。おそらく、檻を突破することを見越して予め準備していたのだろう。 感じた殺気で回避行動を取ったが耳元―正確には【意図電話】―を覆う蜘蛛糸が破られた。檻からの『出口』がわかりやすかったこともあるのだろうが、それでも致命とはならなかった。 見れば、“英雄”と呼ばれた碧髪の男は観念でもしたのか破損した駆動鎧のパーツの上に立ちながらこちらを見上げており、 直後に何を思ってか耳元に装着していた通信機を外した。その意味は理解できなかったものの、何が起きても全てに対処してみせる気概でウェインは突っ込んだ。 「死ね!!!」 まともな余力は残っていないだろう。たとえ、予期せぬ反撃があったとしても全て対処してみせる。 “怪物”ウェイン・メディスンは耳付近の糸を修復しながら猛烈な速度で疾走する。そんな怖気の走る“怪物”に、“英雄”は通信機を全力で上方へ放り投げた。その瞬間・・・ ギーン!!! 「何っ!!!??」 空中を疾走する―耳の糸を修復し切る前―ウェインの演算が突如乱れた。“怪物”の頭に鳴り響く異音・・・それは超能力発現のために必要な演算を阻害する音・・・『キャパシティダウン』。 鏡子救出のために突入した際に身を持って味わった音響兵器を、界刺は当時耳を押さえるフリをしながら『赤外子機』を用いて録音していた。 ウェイン自身は建物への突入時に破壊していたのでその存在に気付いていなかった『キャパシティダウン』の音声を解析、 その結果『赤外子機』では約1秒半だけではあるが完全再現可能という事実に至ったのだ(『ブラックウィザード』が独自に改良しているためか、 性能アップと引き換えに音波精度の向上・制御等に相当の電力を喰らう仕様となっていた。また、録音はやはり音質が劣化する+雑音等も混じっているため、 最大音量による『キャパシティダウン』の完全再現に拘ると『赤外子機』の残量電力では1秒半が精々という結果に至った)。 痛覚を抑制していてもこの『キャパシティダウン』は演算を掻き乱す。さすがに、『キャパシティダウン』特有の音波は耳栓の防護範囲外であったのだ。 「(今だ!!!)」 当然だが界刺も能力が使えなくなる。しかし“問題は無い”。彼が言う所の博打も博打な『アレ』・・・『赤外子機』に録音した『キャパシティダウン』。 その準備は『キャパシティダウン』発動前に“もう終えている”。そのための位置取りも行った。 すなわち・・・『健在なもう1つの ダークナイト を「閃熱銃」モードにし、「キャパシティダウン」発動前の赤外線通信により“時限式”で光線を放つ』ことを。 ダークナイト が界刺の手から離れているために発生する油断。驚異的な回避能力を持つウェイン相手への不意打ちとして絶好の環境を界刺は欲した。 最初は綱渡りもいい所であったが、加賀美・水楯・破輩のおかげもあって何とか万全に近い状態にまで扱ぎ付けた。音波による激痛に苛まれながらも胡散臭い笑みを浮かべる界刺は、 想定通りの位置取りで『閃熱銃』が自動で放たれる瞬間を待った。“怪物”ウェイン・メディスン―強烈な殺意を感じ取り、弱体化している能力全開で回避行動を取ろうとしている―の心臓を焼き貫く光線が放たれるその瞬間を。 バアアァァンン!!!! 必殺を期した『閃熱銃』は・・・放たれることは無かった。その代わりに起きたのは、 ダークナイト の爆砕であった。 かの神話において物語や秩序を掻き乱し、災いを齎す存在として語り継がれる蜘蛛(トリックスター)を体現するかのように滅びの運命が覆った“怪物”とは対照的に、 『閃熱銃』・『閃光剣』・『閃光大剣』の長時間使用によって内部から爆砕したと思われる光景にを目に焼き付けた“英雄”は瞬時に全てを理解した。 「(よりにもよって・・・このタイミングかよ)」 この世界に神という存在が居るのであれば、その神は途轍も無く意地悪だ。こんなタイミングで最悪の出目を引かせられたのだから。 ドンッ!! 界刺の瞳に映るのは、『キャパシティダウン』の音波が消えた環境下で回避のために遠方へ跳びながらも多少小さ目な糸の砲弾を“怪物”が射出した光景。 さすがに演算を掻き乱す専用の音波を受けた直後なのか、その速度も大きさも通常より劣ると見受けられる。 しかし、今の界刺―今までのダメージに加えて『キャパシティダウン』の音波を受けた直後で身動きが取れない―を殺すには十分過ぎる凶器である。 「(こりゃ、死んだかな?神谷のことをとやかく言えねぇな、俺。ハハッ!)」 走馬灯の如くスローモーション化する思考で、“英雄”は自身の死期を悟る。出せる手は全て尽くした。それでも届かなかった。 「(悪ぃ、皆。俺の『死ぬ時』はどうやらここみたい・・・・・・)」 咄嗟の事態に少女達の援護も間に合わない。一番近い位置に居る神谷も能力を阻害する音波から立ち直れていない。非情で無慈悲な世界は“閃光の英雄”を躊躇せずに押し潰す。 全てを理解した界刺は、自分のために動いてくれた他者に心の中で謝りながら『死ぬ時』を受け入れようとする。『人間死ぬ時は死ぬ』。そう、彼が常から言っていることそのままに。 『銅と明星、女神に象徴されるは金星。意味するものは、愛、調和、芸術。混沌とした世界に存在する真理を見通す偉大なる輝星。故に少年よ、君に光あれ』 「ッッッ!!!!!」 思い出す。想い出す。重い言葉を。自分の人生を変えたあの少女の言葉を。心の奥底に今も消えずにガッシリ根付いている偉大なる言葉を。 「(ったく、何でこんな生き死にの土俵際であの赤毛女を思い出すかねぇ・・・)」 “閃光の英雄”の瞳に再び偉大なる光が灯る。その灯火に、様々な人間が色取り取りに映っては消えていく。 死闘を繰り広げた親友とその親友、ストーカー紛いの末に受け入れた少女にファッションで口論となったスネ虫少女、男臭い男子校の連中、 時にはぶつかり、時には共同戦線を張ったお人好しな風紀委員、勝手に学園都市の治安を守ろうと粋がる救済委員達、世間知らずなお嬢様達、妹を助けるために命を懸ける兄、 自身の才能に項垂れていたガキ大将、かつて裏切ってしまった少女・・・他にも色んな人間の姿が万華鏡の如く“英雄”の瞳に移ろい、写り、遷っていく。 「(ハッ!そうだよな・・・こんな所で死ねないよなぁ!!!『自殺』が大っっ嫌いな『俺自身』のために!!! こんな自分勝手な俺のために命を懸けてくれる連中のためにも!!こんな自己中な俺を『好きだ』と言ってくれたアイツ等のためにも俺は死ねねぇ!!!)」 スローモーション化した世界で数多の『他者』の光を浴びた界刺得世は決意する。絶対に死ぬわけにはいかない・・・と。どんな手を使ってでも必ず生き残る・・・と。 そのための材料はとっくの昔にあった。他の誰でも無い『自分』が無視していた事柄。だが、今は違う。最後の最後に残された手段が界刺の脳内を駆け巡る。 『だから、これは魔術を行使するために必要な魔力の精製方法です!私があなたをブン投げたことで、あなたの体に「金牛宮」と「天秤宮」を表す魔法陣が刻まれました! その魔法陣に魔力を注ぎ込んで儀式を行えば、多用は禁物とは言えあなたでも「惑星の掟」の一端を行使できます。あなたに死なれては困りますからね。それなりに詰め込んでいます。 とは言っても、刻んだ魔布陣自体は一般的な星座の魔術で用いられる見掛け上の光を魔法陣に見立てたモノより格段に小さなモノなので・・・はっ? 何回も言ったけど星占いに興味が無い?も、もう!!少しは理解しようとして下さい!!』 全くと言っていい程信じていなかった手段・・・“お呪いみたいなモノ”。その発動条件を“英雄”はすぐに思い出す。 『“息を呑む”ってあるじゃないですか?あの呼吸の感覚を意識して下さい。その後に詠唱呪文である「Astrological Signs」を頭に付け、直後に「金牛宮」もしくは「天秤宮」を言葉に出します。 簡素な魔法陣故に効果時間がすごく短いんですが、代わりに威力重視になっています。重ねて言いますが、あなたに死なれては困りますから。 また、少ない魔力で魔術を行使できるという利点もあります。一息で魔術を発動できるという点も見逃せません。 実は、この呪文詠唱時の息の吐き方がさっき言った“息を呑む”とセットで魔力を生み出す一種の呼吸法にもなっているんです。詠唱で“あって”詠唱では“無い”とも言えます。 この呼吸法は特殊です。普通の呼吸を人為的に変化させていますから。具体的には、呼吸を止める“息を呑む”とほぼ同時に言葉・・・すなわち息を吐くという矛盾を行使します。 この呼吸法による魔力精製は、無意識では駄目です。“息を呑む”という感覚を意識的に行えるレベルになって、初めてこの呼吸法によって生命力を魔力に精製することができます。 そして、最も大事なのが金星を表すシンボルである銅を「投げる」ことです。私が「星体観測」を用いる時も必須なんですが、これが儀式であり儀式を経なければ魔術は発動しません。 それどころか、この手順を疎かにすると神経回路等がズタズタになる危険性が高く、しかも投擲した銅が地面へ落ちるまでに一息で詠唱を唱えなければ発動しな・・・って聞いてます? えっ・・・サッパリわからない?あぁ、もう!!本当にこの少年で大丈夫なのでしょうか!?私、とても不安です!!』 すぐに思い出せたということは、やはり心の何処かでオカルトを信じていたということになるのだろうか。気紛れで呼吸法を身に付けたのもその証明となるか。 何より、“英雄”が投げた『赤外子機』には銅ナノワイヤ技術が盛り込まれたバッテリーが搭載されている。そう・・・彼は投げたのだ。オカルト発動の条件である“銅”を。 『これからは、私も星占いの導きであなたの体に刻まれた魔法陣に不定期で魔力を注ぐことになるのに。・・・どうやってって? “今の”私の体には、あなたに刻まれた魔法陣を更に複雑にさせたようなモノが刻まれています。これが、あなたと私を繋ぐ回路になります。 そして、私が「惑星の掟」を行使する対象をあなた個人に“限定する”限り、学園都市に住むあなたの魔法陣へ海外に住む私が魔力を注ぐこと等ができるようになるんです。 占星術の対象の1つが「個人」であることを利用した疎通術式ですね。分類的には感染魔術の一形態になるのかな? まぁ、代償も大きいですけど。・・・オカルト?ま、まぁそんな所です。ようは、“お呪いみたいなモノ”です。 同時に、真理を見通す目を鍛えるために「天秤宮」の性質と共にその時々における星占いの結果を少々反映するようにしています。 これに関しては、私の魔力が原動力となりますが・・・私の魔力が注がれる魔法陣内の該当文字や図形は他に比べてかなり簡素なので、陣の効果も余り期待できないんですよね。 そのせいで星占いの結果の一部しかあなたに宛がうことができな・・・結局はプラネタリウム?違います!!何処をどう聞けばそんな答えになるんですか!!?』 駆動鎧のパーツの上から全力で上方へ投げた『赤外子機』は下降中でありながらも未だ地面へ落ちてはいない。 今なら発動できる。この絶体絶命の危機を乗り越えられるかもしれない“お呪いみたいなモノ”を。 『噂には聞いていましたが、本当に魔術を魔も知らないのですね。・・・そういえば、超能力という私達とは違う異能の力を持っている人間が魔術を使うのは別に問題無いですよね? 魔力さえあれば、魔術を学んでいない一般人でさえ魔法陣を介した魔術行使は可能ですし。多用は精神汚染の問題から控えるべきですけど。 両親が頼ろうとしているイギリス清教「必要悪の教会」の人達なら詳しく知ってそうですが、生憎私は両親以外の魔術の知り合いが・・・両親にも聞いたことが無いですし・・・。 そもそも、こうやって初対面の人と会話をすることが・・・えっ?そもそも魔力って何って?・・・つーか、名前を教えてくれって?・・・(ブチッ)。 いい加減にしろおおおぉぉぉっっ!!!くどいまでにわかりやすく、しかも懇切丁寧に何回も説明しただろううがああああぁぁぁっっ!!!』 『自分を最優先に考える“ヒーロー”』・・・“閃光の英雄(ヒーロー)”界刺得世が最後に信じたのは『他者』であった。 自業自得の名の下に、“自分で立ち上がる足”を求め続ける彼だからこそ“線引き”をキッチリ行った上で『他者』のために動くことができる。 歩んで来た道程を決して後悔しない彼だからこそ、彼と接し、結果として彼を信じられる『他者』は自身の行動に後悔を抱かずにいられるのだ。 そんな彼の原点に立つ少女こそ、約2年前に邂逅した赤毛の魔術師リノアナ・サーベイ。彼女が齎した『惑星の掟』が、“英雄”に最後の“希望”を与える。 『君と私を引き合わせたこの世界の運命(さだめ)に・・・願わくば確かな意味があることを祈ろう。偉大なる輝星・・・科学で“未知”な少年・・・界刺得世』 世界が“英雄”を押し潰そうと牙を剥くのであれば、その世界を捻じ伏せる異世界の法則をもって乗り越える。 “英雄”は声高に叫ぶ。自身に降り掛かる“絶望”を乗り越えるために。それを実現するモノ・・・超能力と対を為すモノ・・・名を『魔術』と称す。 「『Astrological Signs 黄道十二宮ヲ守護スル星ヨ Taurus Palace 地ヲ駆ケル金牛ノ角ヲ以テ運命ヲ穿テ 』!!!」 continue!!
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「ムシャムシャ・・・午後からは聞き込み調査っすよね、鉄枷先輩?俺、頑張りますよ!」 「バクバク・・・気合入ってんな、湖后腹」 「ゴクッ!そりゃ、2日半休んでいましたし!」 「頑張るのはいいが、無茶だけはするなよ?」 「わかってますって!地が気弱な破輩先輩をオドオドさせるようなマズイ真似はしませんよ!」 「ブッ!!・・・リンリン?鉄枷?」 「「(知らんぷり、知らんぷり)」」 今は太陽が垂直に位置している頃合い。つまりは、正午である。破輩・一厘・鉄枷・湖后腹は、影の差す路地裏でハンバーガーとジュースを片手に軽い昼食を取っていた。 「・・・まぁ、いい。もしかしたら、聞き込み調査をしている段階で『ブラックウィザード』の連中と接触する可能性もある。気を抜くなよ」 「構成員、もしくは“手駒達”・・・か。まぁ、“手駒達”の場合は俺の能力でアンテナに送信している電磁波を混乱させてやりますよ!」 「アンテナの引っ付き具合によっては、私の『物質操作』で頭から引き離すことも可能かもしれないしね。 そもそも“手駒達”はある意味被害者だし、できるなら乱暴な手段を使いたくないな・・・」 「だよな。ぶっちゃけ、俺も“手駒達”に同情する部分はあるぜ?人間の尊厳ってヤツを薬物で踏み躙る行為を行ってんのは『ブラックウィザード』の連中だからな!!」 湖后腹・一厘・鉄枷に共通する思いは、薬物により人間の尊厳を踏み躙られている“手駒達”への同情である。 元凶は『ブラックウィザード』。彼等に“手駒達”は利用されているだけなのだ。ならば、風紀委員としては“手駒達”の解放にも全力を注がねばならないのではないか。 「薬物・・・か。ハァ・・・」 「・・・“お友達”のことを考えているのか、リンリン?」 「・・・・・・はい」 「リンリンさん・・・“彼女”は今も?」 「うん。毎日病院へ通っているみたい。面会は今もできていないみたいだけど。本当は謹慎してないといけないんだけど、やっぱり我慢できないみたい・・・」 「・・・今も精神安定剤や麻酔が要るみたいだかんな。ぶっちゃけ、今でも信じられねぇよ。あいつが自殺って道を選択したことを」 「白高城ちゃんも言ってたモンね。『黒丹羽が自殺なんて手段を選ぶ筈が無い』って」 それは、風輪で起きた大騒動の結末である。首謀者の1人である風輪学園第6位の黒丹羽千責が、最終的に自殺未遂に及んだこと、 彼のパートナー的位置に居た少女―加えて一厘の友達である―白高城天理が、今も病院の一室に隔離収容されている彼へ見舞いを続けていること。 「黒丹羽先輩が発見された場所付近って監視カメラが無かったんですよね。もし、誰かの関与があっても証拠が見付からない。それが、能力によるものだったら尚更」 「湖后腹の言う通りだぜ。騒動に関わった奴に対する処分も甘々だったしよ。まぁ、その処分にホッとしたのも事実だけどよ・・・」 「真相は闇の中・・・か。私としても、あの結末には若干の疑念は残っているよ」 「怒りで我を忘れてあいつを吹っ飛ばしたのは誰だって話だけどな~。後で、厳原先輩の説明を聞いて思ったぜ。『何だそれ!!?』ってさ。 幾ら吹っ飛ばした後に気流を操作して助けるつもりだったって言われても、あの怒り狂い様を見てたら本当にそれができてたかなんてわかんねぇよ・・・」 「うっ!!!・・・す、すまん。あれは、私のミスだ。もし私が奴の嘘を見抜いていれば・・・冷静な思考を保っていれば・・・」 鉄枷の愚痴に破輩は己が非を認める他無い。確かに、黒丹羽達が行ったことは到底許されるモノでは無い。連中のせいで、多くの人間が傷付けられた。それは事実。 だが、怒りに身を任せた行動をリーダーである人間が取っていいかと問われればNoである。これは、己に対する戒めである。 「ま、まぁ、状況が状況ですし破輩先輩が勘違いしたのも仕方無かったと思いますよ?元はと言えば黒丹羽先輩が嘘を付いたのが原因ですし、これは自業自得ってヤツ・・・」 「おい!・・・ぶっちゃけ、お前まであの“変人”みたいなこと言ってんじゃ無ぇよ。俺は、自業自得って言葉だけで終わらせたく無ぇんだよ」 「す、すみません・・・」 あの騒動は、159支部の面々にも様々な傷跡(きょうくん)を与えた。その中でも、鉄枷は黒丹羽の末路を自業自得という言葉だけで終わらせたくは無かった。 学園の屋上で見た彼の姿―この世界に居場所を求めていた―は、今でも鉄枷の瞼の裏に焼き付いているのだから。 「・・・・・・あれは、自殺未遂じゃ無いよ?結果は自殺未遂だけど」 「「「!!?」」」 そんな時に一厘の口から飛び出した衝撃的発言に、破輩・鉄枷・湖后腹は驚愕する。彼女達の反応を見た一厘は、静かに語り始める。今まで胸の奥に秘めていた事実を。 「・・・一昨日さ・・・あの人から聞いたんだよ。『マリンウォール』で」 「一昨日・・・・・・まさか・・・!!」 「・・・私が部屋に忘れてた携帯電話に鉄枷が電話を掛けた時にさ、ルームメイトが電話に出たでしょ?あれ・・・形製さんなんだ。今まで言わなかったけど」 「形製って・・・『シンボル』の!!」 「形製?・・・どっかで聞いたような・・・誰でしたっけ、鉄枷先輩?」 「ぶっちゃけ、『シンボル』に所属している精神系能力者だ。隠れメンバーらしくて、俺も最近まで知らなかったんだよ」 「湖后腹君。それも含めて、今から話すのはオフレコでお願い。いいね?」 「わ、わかりました・・・」 鉄枷は3日前に“変人”の部屋に居た金髪の常盤台生を思い出す。あの時に初めて知った、『シンボル』の“参謀”。 名前だけなら、以前のバイキングで『シンボル』の面々と食事した際に“変人”及び一厘が漏らしていたが、生憎そこまで細かい記憶は残っていなかった。 「・・・それでね、形製さんが念のためって言うことで界刺さんに連絡を入れたみたいなんだ」 「・・・つまり、あの“詐欺師”が騒動の場になった風輪学園の近くに居たってことですか!?」 「正確には、界刺さんと仮屋さんの2人だね。『念動飛翔』で飛ぶ仮屋さんに乗った界刺さんが、『光学装飾』で姿を隠しながら空中で見物してたみたい」 「見物って・・・」 「仮屋さんは助けに向かいたかったみたいだけど、界刺さんが引き止めていたんだって。『これは、俺達の関わる問題じゃ無い』って。 さすがに、黒丹羽先輩が吹っ飛ばされた時は少し心が揺れたみたいですけど、白高城ちゃんの『座標回帰』が発動したから」 「私の醜態も見られていたのか・・・。悪趣味な奴め。・・・ということは・・・」 「えぇ。私のために動いてくれたわけじゃ無かったんです。てか、私が血塗れになって戦っていることもお得意の『光学装飾』で知ってましたから。 『騒動を見物したかったから』の1点張りでしたね。・・・見てたんなら少しくらい助けてくれたっていいのに(ボソッ)」 「あの野郎・・・!!風輪(ウチ)の第1位みたいなこと言ってんじゃ無ぇよ!!ったく、強い連中ってのは揃って自己中の塊かよ!!」 「そういえば、吹間先輩とあの人って何処か似てますよね。冷めてるというか達観してるっていうか・・・」 鉄枷と湖后腹が思い浮かべているのは、風輪学園第1位の学生・・・吹間羊助。ここに居る者達は知らないが、彼は件の騒動に関わらなかった“唯一”のレベル4である。 順位が示すように、吹間は風輪学園の頂点に君臨する高位能力者であった。対象を一瞬で眠らせる『快眠誘導』という精神系能力を持つが故に。 だが、彼はその強大な能力を他者のために使うことがまず無い。何かあっても見てるだけ。それは、風輪の騒動でも貫かれた。あの“詐欺師”が取った行動のように。 「・・・で?奴等は黒丹羽が“自殺未遂するように仕向けた”人間を見ているのか?」 一方、破輩は核心について一厘に断定口調で質問する。一厘の口調から察するに、精神系能力で黒丹羽が自殺未遂に及ばされたと推察したが故に。 「・・・見たのは、『光学装飾』で広範囲を感知できる界刺さんだけです。仮屋さんは見ていません」 「・・・誰だ?」 「・・・教えてくれませんでした」 「・・・だと思った。そうでなければ、お前の性格なら真っ先に元凶へ突っ込んで行きそうだしな」 破輩は後輩が見せる予想通りの反応に溜息を吐く。薄々感付いていたことではあったのだが。 「・・・リンリンさん。予想できるんですけど、界刺先輩は教えない理由を何て言ってましたか?」 「・・・『自業自得。因果応報。黒丹羽が自分の意思で行動して得たのが、その末路ってだけの話さ。俺は自殺ってヤツが嫌いだけど、あいつは自殺未遂なんかしていない。 完全な殺人未遂さ。学園都市特有のね。そうなった原因が「いわれなき暴力」なら助けようとは思ったけど、あいつの場合は「いわれある暴力」だからね。 黒丹羽は悪い意味で目立ち過ぎた。後ろ盾が居るわけでも無ぇだろうに。俺も気を付けないとな。反面教師、反面教師。経験は無駄にしない。んふっ! 言っとくけど、俺は彼に同情もしないし哀れにも思わない。馬鹿が馬鹿やって、馬鹿な目を見た。それは、自殺や精神障害を仕向けた側にも言えることだけど。 もし、仕向けた側の本当の理由が「いわれなき暴力」だったとしても、俺は何とも思わない。だって、その時の俺は「いわれある暴力」だと判断したからね。 それだけの行いを黒丹羽はした。してしまった。だから、彼は世界に叩き潰された。もし、仕向けた側が「いわれなき暴力」を用いたのなら、いずれ世界に潰される。 ということで、俺には関係無いことさ。そして、俺が見たことを君に教える義理も義務も無い。 まぁ、ちょっと気になることもあるから後々調べようかなとは思ってるけど。あの場に居た人間としての最低限のケリも着けたしね。 悔しかったら、君も「ブラックウィザード」の捜査が終わってから調べてごらんよ・・・風紀委員の一厘鈴音? 学園の・・・チェスが好きそうなオッサンの圧力を掻い潜って何処までできるか・・・楽しみだね?』と。一言一句覚えちゃうくらいに衝撃が強かったなぁ・・・」 「「・・・!!!」」 一厘の口から発せられた“詐欺師”の言葉に、鉄枷と湖后腹は甚大な衝撃を受けた。 どういう意思と価値観を抱けば、そんな非情な判断を軽く口に出せるのか。彼等には理解できなかった。 「・・・成程。そういうことか・・・」 「破輩先輩も・・・気付きました?」 「あぁ」 対して、159支部リーダー破輩は“詐欺師”の言葉に含まれた手掛かりに気付いていた。それは、一厘も衝撃を受けた後に考えて気付いたこと。 「破輩先輩?」 「・・・界刺の言葉からわかるのは、『黒丹羽に精神障害を負わせた人間と自殺に追い込もうとした人間は別』だということ。 次に、『仕向けた側は精神系能力者・・・しかも風輪学園の生徒である可能性が高い』こと。 そして、『この件にも風輪学園の上層部が関わっている』こと。最後に・・・『複数居る犯人の内の誰かを界刺は知っている可能性がある』ことだ」 「マ、マジっすか!?」 湖后腹の大声が路地裏に響き渡る。破輩は興奮している湖后腹を宥めるように、静かに説明する。 「大声を出すな。・・・界刺は『自殺や精神障害を仕向けた側』と言った。『自殺や精神障害を仕向けた人間』とは言っていない。 何故『側』という言葉を選んだのか。あいつは、無意味な言葉遊びはしないタチだろう。そこには、何かしらの意味がある・・・筈だ」 「『側』という言葉を選んだ理由・・・それは単独では無く複数だから・・・という解釈も有り得ますね」 「『学園の・・・チェスが好きそうなオッサンの圧力を掻い潜って』か・・・。リンリン。あの野郎は・・・」 「・・・私と春咲先輩が少し前に事後報告に言った時に、『処分が甘いのは学園が一枚噛んでいるかもしれないです』って私が言ってたんだよね。 あの人なら、処分内容を聞いた時点で現場を見て無くてもそこら辺の推測は付いてるんじゃない?もっとも、その報告をするまでも無く事前に予測していたみたいだけど」 「・・・確かにな。・・・あの騒動の後始末もさっさと終わったっていうか終わらされたっていうか・・・だもんな。こりゃまた、ゲスい一面ってヤツを見ちまった気分だぜ」 「『チェスが好きそうなオッサン』・・・それが学園の上層部の人間と見て間違い無いだろうな。『光学装飾』で見付けたとすると・・・あの時その人間は学園内に居たことになる。 上層部の圧力を考えると・・・私達風紀委員にさえ知らされていない事柄が幾つも有りそうだ。・・・『闇』はまだまだ底を見せていない・・・か」 議論は進む。休憩時間は残り僅か。それでも、159支部はその僅かな時間をも使って話し続ける。 「『仕向けた側は精神系能力者・・・しかも風輪学園の生徒である可能性が高い』、それと『複数居る犯人の内の誰かを界刺さんは知っている可能性がある』・・・。 あの人が『いわれある暴力』だと判断した理由・・・それは、界刺さん自身が知っている人間だったから・・・という可能性もあるんですよね」 「あぁ。学園の上層部がもし黒丹羽の末路まで関知しているのなら、そこに関わった風輪の生徒についても黙認している可能性がある。 黒丹羽達が起こした騒動で奴を憎む人間も居た筈だ。その人間は、風輪の生徒である可能性が高いのは言うまでもないだろう?」 「被害者の殆どが記憶を奪われていたとは言え、彼等に関係する人間の中に黒丹羽先輩の存在に気付いていた生徒が居なかったとは断言できませんモンね。 そして、その中に界刺先輩が知る人間が居る可能性がある。その人間を知っていたからこそ、黒丹羽先輩への行為を認めた可能性も・・・」 「湖后腹君・・・。でも、界刺さんは界刺さんなりにケジメを着けてると思うんだ。だって、『あの場に居た人間としての最低限のケリも着けた』って言ったから」 歯噛みするのを止められない湖后腹に、一厘は自身の推測を述べる。彼女が知るあの“変人”は、唯の冷血人間では無い。吹間のように、完全無視を決め込む“詐欺師”では無い。 自分が恋する男は、己が行動に後悔の念を抱かせぬように、彼なりの信念に基づいた“線引き”を定める・・・とても残酷で・・・そして・・・とても優しい人間だ。 「最初は、159支部の私に伝えることが『最低限のケリ』だと思ってたんだ。 でも、よくよく考えてみたらさ・・・その知っている犯人に対してケリを着けたって思えてならないの。だとしたら、相変わらずのスピードよね。全く・・・全く・・・」 一厘の脳裏には、ある救済委員の姿が思い浮かんでいた。その人間も風輪学園の生徒であり、しかも精神系能力者であることも知っていた。 精神障害もしくは自殺に追い込むのどちらに有効な能力かと問われれば、明らかに後者である。そして、救済委員の意味・・・。 その上、『マリンウォール』へ赴く当日に啄達救済委員が登場したタイミングを考えれば・・・ある予測が付く。 つまり・・・あの日の深夜から未明に掛けて、碧髪の男は己が知っている人間―つまりは犯人の1人―に対して彼なりのケジメを着けたのではないか。 だから、自分が情報を求めて(というか、『もしかしたら、情報の欠片くらいは知っているかな?』程度の気持ちで)質問した際に、あぁもペラペラと語れたのではないか。 午後から再びプールに突入する前に、偶然2人きりになれた時間を利用して会話を繰り広げた。自分がどんな顔色をしていたのかはわからなかった。 実は、春咲と共に報告した際に彼に白高城のことも打ち明けていた。あの時は、特段質問はしなかった。春咲の去就問題の方に頭を取られてしまったから。 あの時点に既にわかっていたことを、何故今頃になって話すのか。文句は幾らでもあった。でも、結局は言えなかった。何故なら、これは自分の問題だったから。 彼の真意を想像してからは、もっと情けなくなった。彼は、既に彼なりのケジメを終えている可能性がある。 それに引き換え、自分はまだケジメを着けられていない。着けられる可能性さえ見出せていない。だから、一厘は決断した。自分が抱えていた思いを、仲間に打ち明けることを。 「・・・その推測に至った過程について色々質問したい所だが、それは止めておこうか。その代わり・・・一厘。これだけは答えろ。 精神障害と自殺未遂。界刺がケリを着けたとして、どちらを行った人間に対してだ?」 「・・・・・・後者だと思います」 「そうか・・・。幸い、黒丹羽は死に至っていない。それを言い出したら、私だって殺人に手を染めていた可能性も否定できない。 界刺がケリを着けたのなら・・・残るもう一方を見つけ出さないとな。黒丹羽は、その精神障害で今も苦しんでいる。私も・・・私なりのケリを着けないと。 それに、奴が言う『仕向けた側』の・・・いや、あの騒動の大元に風輪学園の上層部が関わっている可能性が・・・ある!!これは・・・私達の責任だ・・・!!」 「(鉄枷先輩・・・これって・・・)」 「(あぁ。一厘には複数居る犯人のうちの1人に目星が付いてんだ。それが当たっているかどうかはわかんねぇけど。後、学園を相手取る可能性も出て来やがったな・・・!!)」 破輩・鉄枷・湖后腹は、一厘の態度から大体のことを察する。だが、それ故に彼女の気持ちを汲むことを決意する。きっと、この中で彼女が一番辛いだろうから。 「でも・・・ぶっちゃけた話、再捜査ってできるんすかね?証人になりそうな、あの“変人”が協力しないってのに」 「鉄枷先輩の言う通りですね。学園側から圧力が掛からないとも言い切れませんし」 「・・・困難であることには違いない。フム・・・」 「それについては、私が何とかします。絶対に」 「・・・どういうことだ?」 強い意志を込めた言葉を吐く一厘に、皆の注目が集まる。 「界刺さんは言っていました。『ちょっと気になることもあるから後々調べようかなとは思ってる』って。きっと、この件に関してのことだと思います。 だから、あの人の調査に私が“勝手に”同行します。頼るんじゃ無くて、あの人を利用します。たとえ、あの人が実力で私を排除しようとしても、命懸けで絶対に付いて行きます。 風紀委員である私に何かあれば、159支部は動かざるを得ない。それこそ、学園の圧力なんて撥ね退けて。違いますか?」 「リンリン・・・お前、自分を囮にするつもりかよ!?」 「私が白高城ちゃんのためにできることは限られている。これは、その1つ。おそらくだけど、界刺さんも深入りするつもりは無いと思うんだ。 それこそ、風輪の騒動を見物していたようにあくまで情報を得るってだけの話だと思う」 「リンリンさん・・・」 「でも、私にとってはそれで十分。これは、私の仕事。風紀委員の仕事。あの騒動で取り零してしまったモノ。私も自分の身を差し出すような真似はするつもりは無いよ? あくまで、口実みたいなモノだから。だから・・・皆の力を貸して欲しいんだ。私1人じゃできないことを、皆の力でやり遂げたいの!!」 一厘鈴音という少女は、他の面々から見ると危なっかしい人間であった。何時も1人で何かを抱え込んで、それを打ち明けずに悩み続け、結果として失敗を重ねる。 それは、他の面々にも言えることだが。しかし、今の彼女はその面影を見せない。確かに1人で抱え込む癖は健在のようだが、それでも人を頼ろうとし始めた。本当の意味で。 それは、風輪の騒動や碧髪の男と共に経験した数々の現実から学び取りつつあるということ。 「・・・何水臭ぇこと言ってんだよ!俺だって、あいつをあんな目に合わせた人間が野放しになっている現状ってヤツに、思いっ切り文句をぶち込んでやりたいんだぜ!?」 「そうですよ!俺も、このまま終わるってのは納得いきませんし!この『ブラックウィウザード』の捜査が終わったら、皆で色々対策を立てましょう!」 「『大覇星祭』も後1ヶ月程で開催だからな。色んな意味で忙しいったらないな。だが・・・取り零してしまったモノをこの手で掴み直さなければならないな・・・!!」 「皆・・・ありがとう・・・!!」 そうして、159支部の面々は新たなる決意の下昼休みを終える。今は、『ブラックウィザード』の捜査が最優先。それは、決して履き違えない。 だから・・・一刻も早くこの事件を解決する。誰もが笑い合えるハッピーエンドをこの手で掴むために。 「これで、今度はボロボロにならずに済む・・・かも」 「「「ボロボロ?」」」 「・・・界刺さんに言われたんだ。『君って、俺と出会ってから事ある毎にボロボロになっているね。 重徳の時は勇路先輩の全裸を拝んで精神的ショックを受けて、桜の時はズタボロになって、風輪の騒動では血塗れになって、常盤台の“講習”じゃあ俺にボコボコにされて・・・。 しかも、大概君が自分の意思で突っ込んでんだよな・・・もしかして、君ってマゾ?』って。わ、私ってマゾなんかじゃ無いよね!?至極普通の性格だよね!!?」 「「「・・・・・・」」」 「何で皆黙るの!!?だ、誰か否定してよ!!!い、嫌!!絶対に認めない!!私は普通よ!!普通の女の子よ!!!マゾなんて性癖、一切合切持って無いんだから!!!」 マゾかどうかはともかく、あの“変人”に惚れた時点で普通じゃ無いことに少女は気付いていない。一方、それに気付いている仲間達は生暖かい視線を哀れな少女に送っていた。 「それにしても、ひっさしぶりの外回りね~。ここ最近は、ずっと債鬼の奴に事務仕事を押し付けられてたからイケメン探しも碌に・・・ハッ!!い、今のは冗談よ!!」 「冗談・・・?」 「う~ん。・・・。何時何時もイケメン探しに没頭してる風にしか見えないんですけど?」 「うっ!!う、浮草さんは私の言葉を信じてくれますよね!?」 「・・・・・・スマン」 「ガーン!!」 昼食を終え捜査を再開しようとしているのは、178支部の浮草・秋雪・真面・殻衣の4名。事務仕事は他支部(=176支部)に押し付けて来たので、秋雪や殻衣も外回りに参加している。 「あっ、そうだ。・・・。午後から使用する冷却パックです」 「おっ。いいタイミング。さすがは、萎履。気が利くわねぇ」 「サンキュ、殻衣ちゃん」 「・・・気持ちいい。毎度のことだが、捜査中は熱中症にも気を付けないとな」 殻衣が手持ちの保冷バッグから取り出した冷却パックを首筋に着ける面々。炎天下の中において、熱中症にならないように己が体を冷やす術を持つことは自己管理の一環でもある。 「いえ。・・・。私は昔から気が利かない人間でしたから。・・・。もし気が利くようになったのだとしたら、それは固地先輩の地獄の扱きを身に受けたおかげだと思います」 「・・・言葉の最後の方に、何か怨念めいた怨み節が込められていたような・・・」 「固地先輩のおかげって言ってるのに、殻衣ちゃんの目が据わっているのは何故なんだ!?」 「感謝してる部分はあるが、ムカつく部分も同じくらいあるから・・・と見るべきか?」 笑みを浮かべているのに目が据わり、感謝の言葉を吐いているのに怨念めいた何かを感じる、そんな殻衣の矛盾した態度に他の面々は引いてしまう。 「そうです。・・・。そうよ。・・・。あの“女心がわからない唐変木鬼畜野郎”のせいで、私の性格は変わった!!変わる程の地獄のような扱きを平然とぶっ掛けてきた!!」 「うおっ!?殻衣ちゃんが“ツッコミモード”になった!!」 殻衣は、普段は妙な間を空けた喋り方をするのだが、ツッコミを入れる時は一変する。 「なのに、それが私の望んでいた方向に変わっちゃった部分もあるんだから殊更ムカつく!! 本当はあの人のような人間を認めたくないのに!!あの人の下で働けるのを嬉しくなんか思いたくないのに!!」 「殻衣ちゃんが望んでいた方向・・・?」 「・・・。私は変わりたかった。・・・。変わりたくて・・・風紀委員を目指したの」 「あっ、戻った」 殻衣は元から気弱な性格であった。そのせいか、何事にも自信が無かった。 その中で結果を出せた勉学や能力だけが取り柄と考え、そればかり磨いてきた。 とは言っても地が出てしまうのか、試験でもトチる事がある。 例えば、風紀委員の適正試験に2度失敗しているし、能力戦闘でも自分が戦闘の前面に出ず、専ら人形による消極的戦闘に終始している。 そんな彼女が風紀委員を目指した動機は、何を隠そう自分を変える為であった。 「『風紀委員のように学園都市に住む人達の平和を守る事が出来たなら自分もきっと変われる』。・・・。そんな期待を胸に、私は風紀委員になった。・・・。だけど・・・」 配置されたのが、よりにもよって178支部だったのが運の尽き。ここには、あの男が居た。同僚からも恐れられる“風紀委員の『悪鬼』”が棲んでいたのだ。 『俺の名は固地債鬼だ!!今日から俺がお前を指導する!!どんな困難が待ち受けていても、負けずに付いて来い!!! そうすれば、お前は「本物の風紀委員」になれる!!この俺が保証する!!さぁ、いくぞ!!!』 そう言って、着任初日から自分を外回りに連れ出した。本当は事務系希望であったが、固地は完全に自分の意見を無視した。 自身が持つ能力が実戦向きと判断され、日々外回りに連れ出されてた。地獄のようなトレーニングも課され、毎日泣いた。 178支部に配属された運命を呪ったこともある。最近は色んな意味で逞しくなりつつあるが、当人としては心底心外であった。 こんな風になりたかったわけじゃ無い。自分は、こんな風に変わりたかったわけじゃ無い。そう考えて・・・ある事実に気付いた。気付いてしまった。 「私は風紀委員になることで変わりたかった。・・・。でも、それだけだったの。・・・。 “どうやって”変わるのか。・・・。“何に”なりたいのか。・・・。具体的なビジョン・・・つまり目的意識や手段についてこれっぽっちも考えていなかったことに気付いたの」 能力についてもそう。消極的な余りに、己が能力の有効活用について頭を悩ませたことは殆ど無かった。精々、自分の身を守る程度。そこから先は無かった。 『自分を変える』というのもそう。確たる目的意識が無い状態で、どうやって自分が望む方向に変われるというのか。 『学園都市に住む人達の平和を守る事』・・・これは、あくまで結果でしか無い。そこに至るまでの過程を、殻衣は何も考えていなかった。 ましてや、その結果でさえ抽象的なモノであった。そんな人間が、どうすれば変われるというのか。 「だから・・・自分が望む結果を手に入れるための過程を無理矢理教えてくれた固地先輩には・・・感謝もしているしムカついてもいるんだ。・・・。 今も自分をちゃんと見てくれていること・・・でも酷いことばっかり言うこと・・・色々あるね」 人間としては、自分はあんな性格の持ち主とは気が合わない。できるなら、お近付きになりたくない。でも、心の何処かで認めている。感謝している。 自分にあの男に負けないくらいの信念のようなモノがあれば、もしかしたら対抗できたのかもしれないが、残念ながらそんなモノは無かった。 故に、目的意識、自分で物事を考えること、過程と結果の関連性等色んなことを叩き込まれた。その苛烈さに泣いてしまったが、それでもあの指導は自分の血となり肉となった。 全ては、殻衣萎履が一人前の風紀委員になるための指導。それを、今の彼女は理解している。やり方には山程の文句を言いたいと今でも思っているが。 「固地先輩は『本物の風紀委員』になれるって言ったわ。・・・。『本物の風紀委員』にするとは言わなかった。・・・。つまり・・・」 「最終的には殻衣ちゃん自身の意思次第ってこと・・・か。固地先輩の考えを唯押し付けられるんじゃ無くて、そこからどんな自分の考えや信念を見出すかってこと・・・か」 「焔火さんには『必ずお前を本物の風紀委員にするための教育を叩き込む』って言ってたけどね。・・・。でも、あれだって結局は『教育』でしか無いんだよね」 「固地に受けた教育で、焔火自身がどういう成長を遂げるのか・・・それもまた当人の意思次第か・・・。固地らしいな。だが、裏を返せば・・・」 「責任逃れ・・・とも言い換えられますね。でも、当人の責任というのもごもっともですし・・・」 「一概には否定できない・・・か。矛盾。表裏一体。ハァ・・・世の中ってのは、二分にできないことが多くあり過ぎるな」 「固地先輩みたいに。・・・。ですね?」 「でも、債鬼の奴が性格最悪なのは紛れもない真実よね?」 「「「それは言えてる」」」 「仕事だって、あいつが居たんじゃ何時も胃が痛くなってしょうがないわよね?」 「「「確かに」」」 捜査の最中であるというのに、何故かここにはいない“『悪鬼』”のことが話題になる。それは、彼等が抱いている矛盾に関係がある。 「やっぱり、私としてはあいつが居ない今の方が断然好きだなぁ。だって、ガミガミ言われないし。こちとら、自分のペースでやってるんだっての!」 「確かに。・・・。私も、固地先輩が居ない方がストレスは全然溜まらないですね。・・・。浮草先輩は?」 「俺だって、あいつが居ない方が気が楽だ。それに・・・固地が『本物の風紀委員』? 俺はそうは思わない。そう思うなら、全ての風紀委員があいつだったらって考えてみろよ。・・・・・・それだと、誰も風紀委員なんか信じなくなるよ」 「ブルッ!・・・。確かに、あんな人ばっかりなんてのは絶対嫌ですね」 「まぁ、今は居ない人間のことなんか言ってもしょうがないですよ。捜査に集中しましょ! 今回は、監視カメラとか警備ロボットが居るルート付近の捜査ですから、あの殺人鬼とも会うことは無いと思いますよ!」 178支部の人間は、殆どが固地のことが嫌いor好きでは無い者達である。幾らあの“『悪鬼』”が支部No.1の検挙結果を出すと言っても、人にはそれぞれ好き嫌いというモノが存在する。 だから、こうして陰口や嫌味が発生する。『気に入らない』・『嫌い』・『一緒に仕事をしたくない』。全ては、固地の自業自得である。 「わ、私はそんな危険な奴と戦う気は無いからね!!い、いざって時は浮草さんに守って貰おうっと!!」 「む、無理言うな!!俺だって、あんな奴と戦いたく無いぜ!!というか、レベルなら俺よりお前の方が上だろ!?」 「そんなこと言ったら、萎履の方がレベルは高いですよ!!」 「私!!?む、無茶言わないで下さい!!私だって逃げますからね!!『ブラックウィザード』の捜査をしてるのに、そんな所で道草を食ってる場合じゃ無いです!!」 「でも、昨日のようにバッタリ会って戦闘になったら・・・逃げ切れるかな?」 「・・・無理だろうな」 「なっ!?わ、私ってそんなにヤバイ状態にある外回りに出ていたの!?こ、これなら事務仕事をしていた方が・・・」 「秋雪先輩!?さっきと言ってることが全然違うんですけど!?そ、そうだ!その殺人鬼がイケメンだったらどうするんです!?」 「イケメン・・・イケメン・・・う、う~ん・・・やっぱ止めとくわ。最近は高すぎる理想(イケメン)を追い続けるより、分相応な相手でもいいかなって思うようになったし」 「し、秋雪が成長した!!?こ、これは大事件だぞ!!お前のイケメン食いの性格は、ある意味固地の性格を矯正させるくらいに難しいと思ってたのに!!」 「ひ、酷い!!私を債鬼と同レベルに見ないで下さい!!」 「ス、スマン。ま、まぁ、真面の言う通りあの殺し屋と会う可能性は低いだろう。とりあえずは、任務に集中しようぜ」 「(・・・無理なら無理で、それに至らない方法や無理臭くても何とか逃げるくらいの方法をパッと思い付けないんだよな・・・浮草先輩って。 俺も思い付けていないけど・・・同じだけど・・・・やっぱり何処か頼りないよな。一応リーダーなのに・・・こんな人だったんだ。いっつも固地先輩と一緒だったからわかんなかった。 今回のルートだって、俺と固地先輩が前に作成していたモノを使ってるし。こんなんじゃあ、固地先輩を出し抜くのって何時まで経っても無理だぞ?)」 だが、固地が特に捜査・検挙方面で結果を出していることは事実である。それは、つまり他の支部員が固地に及ばない部分があることを意味している。 結果とは、すなわち成し遂げて来たことである。固地が生み出したのは、有事の際にその者の判断に己が身を預けることができる“信頼”。 彼等彼女等は、無意識的に心の何処かで思ってしまっているのだ。固地が不在であることに対する“不安”を。 何時如何なる時も的確な判断を下す人間が居なくなった時に、その人間に意識的・無意識的に頼っていた者達は大小の差こそあれ動揺し、不安になり、恐怖を覚える。 その点においては、浮草は固地には及ばない。最年長という理由でリーダーにさせられた者と、自ら望んでリーダー格になった者の違い。経験の差。密度の差。本気度の差。 後輩の才覚を目の当たりにしたことで不貞腐れ、対抗する気概さえ持てなかった先輩。彼は、リーダーとしての努力を怠った・・・『本物』では無いリーダー。“お飾りリーダー”。 年長者として叱りはしても、反論され続ければその口は止まってしまう。諦めてしまう。それは、『唯の力不足』・『生意気な後輩のせい』という言葉だけで片付けられるモノなのか。 風紀委員として過ごした時間は、浮草の方が長い。だが、不貞腐れて以降は己が力を研磨する努力を怠っていた。時間が過ぎるのを唯待つ身と化していた。 つまり・・・自身を錆びらせていた。向上心に欠ける者が、向上心を抱く者に抜かれるのは自明の道理。その速度は、想定を遥かに超えたモノになるのも少なくは無い。 1つだけハッキリしているのは、向上心を持って人の数倍仕事をこなして来た人間と、向上心に欠け、努力を怠っていた人間との差はどうしても埋め切ることができないということ。 これ等が、“弊害”。固地自身も十二分に理解していること。だが、それをここに居る面々は完全に自覚できていない。否、完全に自覚することを拒否しているのだ。 人間的にあの“『悪鬼』”を完全に認めたくないために。これは、公私の“混同”。私情で認められないのならば、まだいい。だが、それを公の判断にまで持ち込むのは愚行である。 その辺りの厳格な“線引き”が、今の178支部には無意識の内に欠けてしまっていた。固地が離脱したために発生した気の緩み。それは・・・戦場では命取りになる過ち。 一方、“ヒーロー戦隊”の方はというと・・・ 「我輩は“ゲルマ”である!!愛おしい幼子達を守るために、今日も往かん!!!」 「僕は“ゲオウ”だよ?さぁ、皆でマッスル・オン・ザ・ステージを開くとしようじゃないか!!」 「僕は“ゲコイラル”だよ、皆?さぁ、僕の必殺技を見せてあげる!“ゲコイラルラッシュ”!!」 ドカーン!! 「・・・という風に、後先考えずに突進しちゃ駄目っすよ?ちなみに、俺は“ゲダテン”っす。よろしく」 『ゲコ太マンと愉快なカエル達』の追加メンバーが、各自のやり方で幼子達に挨拶をしていた。以下が詳細な設定。 No.12“ゲダテン”(押花熊蜂。カエルに色んな食物が着色されたような姿をしている“パシリヒーロー”) No.13“ゲコイラル”(速見翔。『止まれ』の標識が着ぐるみの至る所に着色された“暴走ヒーロー”) No.14“ゲオウ”(勇路映護。褌一丁のカエルの姿をしている“裸王ヒーロー”) No.15“ゲルマ”(寒村赤燈。カエルにダルマが着色されたような姿をしている“ダルマヒーロー”) 「あっ!僕が作った砂のお城が・・・」 「あ~、ゴメンゴメン」 「・・・本当に“ピョン子”って“ヒーロー”なの?“ヒーロー”なら、もっと真剣に謝るんじゃないの?」 「・・・ゴメンナサイ」 「・・・それだけ?」 「・・・あ~ん?何か文句でもあんのか・・・」 「こ、恐い!!勇君~!!“ピョン子”が恐いよ~!!」 「あっ!!テメェ・・・待ちやが・・・」 ドカーン!! 「ぐへっ!!?」 他にも、“ピョン子”が幼子との接し方に苦労してたり・・・ 「は~い!!良い子の皆さんには、私が集めたキラキラピカピカ感溢れるこの素晴らしい石をプレゼントしちゃいます!!」 「“ゲコっち”先輩が集めた秘蔵コレクションですよ~」 「・・・何これ?要らないや(ポイッ)」 「「あっ!!」」 「それよりさ~、あっちの鉄棒で逆上がり大会しようぜ~!!なぁ、皆?」 「そうだね!!それじゃあ、能力を使わずに逆上がりな~!!」 「「「おおおぉぉっ!!!」」」 「「へっ!!?」」 “ゲコっち”と“ゲコゲコ”が自分達の思う通りに事が運ばないどころか、急遽始まった逆上がり大会に参加させられる羽目になったり・・・ 「どのスナック菓子が一番美味しいか、食べ比べをしてみない?」 「・・・いいね。・・・“2号”はどう思う?」 「いいんじゃないかな~。“ゴリアテ”さんが一杯持って来てるみたいだしさ~」 「俺達だって、一杯持ってるぜ!!」 「私だって!!」 「よ~し!!昼ご飯が終わって少ししか経ってないけど、“ヒーロー”の人達と一緒に食べ比べるぞ!!1人だけ唯のカエルだけど」 「「「おおおおおぉぉぉっっ!!!」」」 “ゴリアテ”、“ケロヨン1号”、“ケロヨン2号”達が、所狭しと並べられたスナック菓子の中からどれが一番美味しいかを決めようとしたり・・・ 「は~い、皆!俺は“詐欺師ヒーロー”の“カワ・・・」 ドン!!ボーン!!バリバリ!! 「グハッ!!?」 「お前等ー!!連絡網で回って来た偽者の“ヒーロー”がここに来たぞー!!わかってんなー!!」 「わかってるよ、勇君!!“カワズ”・・・ゲコラーであるボク達が絶対に認められない“ヒーロー”・・・!!」 「早く風紀委員か警備員の人達に連絡を・・・」 「待つんだ!!前途有望な幼子達よ!!」 「「「“ゲコ太マン”!!!??」」」 「確かに、“カワズ”は偽者の“ヒーロー”なのかもしれん。ならば、いや、なればこそ俺達の手で本物の“ヒーロー”に育て上げるというのもアリではないか!?」 「ボク達の手で・・・」 「“ヒーロー”にしてあげる・・・」 「そうだ。例えば、こうだ!!」 ドゴッ!! 「ガハッ!!」 「“ゲコ太マスク”!“ゲコ太”!“ゲロゲロ”!俺に続け!!」 「御意!!」 「おう!!」 「・・・いいのかよ?(ボソッ)」 ベキッ!バキッ!グキッ! 「さぁ、幼子達よ!!己が拳で“カワズ”に語り掛けるのだ!!“カワズ”が本物の“ヒーロー”になれることを信じるのだ!! 俺も、以前この拳である男を目覚めさせてやったことがある!!暴力を用いることは、本来であれば望ましくない!! だが、いざという時は己が信念を拳に込めて解き放つのだ!!そして、叫べ!!『暗黒時空』と!!!」 「グハッ・・・そ、それって、単にお前の妄想技をガキ共に伝授したいだけじゃあ・・・」 「この拳で・・・。お前等ー!!“ゲコ太マン”の言う通りだー!!」 「そうだね!!超能力じゃ無くて、ボク達の拳で“カワズ”を偽者の“ヒーロー”から本物の“ヒーロー”にしてあげよう!!」 「それじゃあ、風紀委員や警備員の人達への通報は無しね!!私達の思いを・・・」 「この拳に・・・」 「込める!!せ~の!!」 「「「『暗黒時空』!!!!!」」」 「グアッ!!!」 「ハーハッハッハ!!!」 “ゲコ太マン”の指導の下、“ゲコ太マスク”・“ゲコ太”・“ゲロゲロ”に幼子達を加えて“カワズ”の矯正(鉄拳制裁)に勤しんでみたり・・・。 本当にこいつ等と来たら・・・・・・心の底から愛してやまない極め付けのバカ共である。 continue!!
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「ハァ・・・ハァ・・・」 施設内南西部と中央部の丁度中間地点にある建物の一角に身を潜める破輩は、未だ気絶している部下を地面へ優しく寝かせる。 「湖后腹・・・済まないが、少しの間だけ我慢してくれ」 普段ならまず見せることの無い程の柔和な微笑みを部下に向けるリーダー。こういう時にしか見せられない己の有り様に内心で苦笑を漏らしながら、少女は痛む脚を推して立ち上がる。 「(湖后腹を抱えていては、取り押さえられるものも取り押さえられない。こうして人気の無い建物を選んで隠れてはみたものの・・・やはり不安は不安だな)」 破輩は、自分達が置かれている状況を今一度整理する。現在自分達はある構成員の追撃を喰らっている最中である。 『疾風旋風』により何とか距離を取った後に、人気の無いこの建物に身を隠した。監視カメラの類は目に付いたモノ全て破壊してある。 初瀬と電脳歌姫が施設内のネットワークに侵入している以上『ブラックウィザード』としても万全の監視体制を保てないだろう。しかし、不安は不安である。 しかし、このまま湖后腹を背負い続けていてはあの暴走状態にある元風紀委員を押さえ込むことは難しい。故に、リーダーとして彼女は決断した。 『比較的安全と判断できる建物内に湖后腹を避難させる』という不確実な決断を。 「(・・・とりあえず『ブラックウィザード』の追撃に対する懸念を鑑みると、やはりここから然程遠くまでは離れられない。 かと言って、近過ぎては戦闘の余波がこの建物や湖后腹自身に及ぶリスクもある。・・・フッ。こういう袋小路の感覚は黒丹羽と対面した時にも味わったな。全く・・・嫌になる)」 様々な枷が己が身を縛る感覚を肌で感じ取った“風嵐烈女”は、先月に母校で発生した大騒動でも味わった嫌な感覚を思い出した。 あの時のように自分の体調は万全では無い。あの時のように不利な状態が現在進行中で展開している。 まるで、過去へ置き去りにしてしまった『宿題』を改めて突き付けられているような流れ。あの時の自分は冷静な思考を最後まで保ち続けることができなかった。 「(・・・フフッ。界刺じゃ無いが、本当に世界ってヤツは容赦しないな。あの騒動から1ヶ月が過ぎたばかりだってのに、もう突き付けて来るか。・・・・・・上等!!)」 だからこそ、今回こそは最後まで冷静で居続けようと少女は心に誓う。相手は元176支部所属の風紀委員。裏切り者の仲間の手引きによって無理矢理薬物中毒者に仕立て上げられた人間。 そして、大量服薬によってレベル4相当の能力を暴走させながら自分達を追撃している少女。きっと、この対峙も無傷では済まない。 彼女に重傷を負わせるわけにはいかない故に。どうしたって手加減しなければならない故に。 「(・・・・・・いや、違うな。『しなければならない』じゃ無い。義務なんかじゃ無い。私がそうしたいんだ。絶対に・・・絶対に後悔しないために)」 “風嵐烈女”は自身の胸に手を置き、目を瞑りながら己が立てた決意をもう一度確かめる。絶対に後悔しないために、自分がどんな行動を取るべきか。 誰もが笑って終われるハッピーエンド・・・そこへ一歩でも二歩でも近付けるために、破輩妃里嶺は確と自分の誓いを確認した後に目を開く。 「さて・・・ここからが本番だ」 建物の外に出た破輩は、『疾風旋風』によって風を、大気をその身へ集わせ始める。風なら幾らでも吹いている。この戦場でなら何の問題も無く能力を行使できる。 「私は私のやりたいようにやらせて貰う。私が思い描くラストに辿り着くために。私の望むが儘に」 戦場を轟かせる風の群れ・・・その一角であり、周囲の建物を切り裂きながら接近して来た元風紀委員を正面に見据えながら“風嵐烈女”は宣言する。 「だから・・・お前の望みは叶わない、風路鏡子!!この『科学』の世界から風紀委員は決して無くならない!!それを・・・この159支部リーダー破輩妃里嶺が証明しよう!!!」 「・・・アハッ!アハハハハハハハハハハッッッッ!!!!!」 目の前の現風風紀委員から聞こえて来た宣言に、ノンフレームの眼鏡を掛けるボサボサ髪の少女は狂ったように笑う。何処までも笑い続ける。 「・・・・・・な~にが『お前の望みは叶わない』だよ。何カッコつけちゃってんのさ!!!このオバさんは!!!」 「なっ!!?オバさん!!!??」 気が狂ったかのようなハイテンションから一転、ローテンションとの中間で暴言を吐く鏡子の『オバさん』発言に破輩は思わず動揺してしまう。 「そうだよ・・・こ~んのオバさんは・・・アハハッ!!一体全体何故何故どうしてカッコつけちゃってくれてんのかしら!!? この鏡子ちゃんからしたら~~フフッ。全然カッコよくねぇんだっつーの!!!若作りも程々にしとけってんだ!!!この老け顔オバさん!!!」 「わ、私はこれでも高3だぞ!!!??」 『最後まで冷静な思考を保ち続ける』という決意は何処へ消えてしまったのか、己のウイークポイントである『老けて見える』を不覚にも突かれてしまった少女(強調!!)は途端に狼狽してしまう。 「・・・高3?・・・・・・」 「な、何だ・・・その顔は?」 「アハハハハハハハハハハッッッッッ!!!!!嘘でしょ!!?絶対嘘だよね!!?どう低く見積もったって、20代後半から30代前半にしか見えねぇよ!!!」 「なっ・・・なっ・・・!!!」 「若作りもここまで来たら表彰モノかもね~。アハハハッッ!!!ウチの“魔女”も似たような若作りしてんのかしら?・・・まぁ、どうでもいいか!! これから叩き斬る女が老け顔オバさんですごく良かったよ。さすがの私も、わ・か・く・て・とても綺麗な少女の顔を血で染めたくないしねぇ~。キャハハハッッ!!!」 「(な、何て失礼な奴だ!!!やっぱ、『疾風旋風』の最大威力をお見舞い・・・ハッ!お、落ち着け。落ち着け私。 あれも薬の影響だ。私が老けているとかそういうわけじゃ無い・・・・・・・・・筈だ。たぶん・・・きっと・・・・えぇい!!暴走状態というのは何ともやり難い!!!)」 地雷原を悉く踏み続ける鏡子の暴言に内心でキレかける破輩だが、すぐに冷静な思考を取り戻す。 この手の暴走状態にある人間を相手取るのは面倒にも面倒である。何せ、相手の言動予測が全くできないのだから。 「キャハハハハハハッッッ・・・・・・なのにさぁ・・・・・・何で若くて綺麗な私がこんな惨めな姿に・・・・・・何で・・・何で私だけ・・・・・・」 「ん?」 「お兄ちゃん・・・お兄ちゃんに・・・・・・こんな姿を・・・・・・嫌・・・嫌・・・わ、わた、私は・・・私は・・・裏切っ・・・・・・嫌ああぁぁ・・・」 「(錯乱している!?)」 予見不可を証明するかのように突如ローテーションに切り替わる鏡子。延々と呟き続ける言葉の端々に混じる悔恨や絶望の色が破輩にも伝わって来る。 また、鏡子が未だ暴走状態から抜け出す気配が全く無いことも今までのやり取りから悟る。あれだけ自分に暴言を吐いていた彼女が急に絶望に染まる顔を両手で押さえる姿を見れば、 それは嫌でも確信となってしまう。 「こ、ここ、こうなったら・・・・・・こうなったらああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」 発狂に近い絶叫を挙げる鏡子の右手から全長2mに及ぶ風の刃が形成される。レベル4相当の『風力切断』によって生み出した凶器。 その切っ先を自身が抱く狂気のままに眼前の風紀委員へ突き付ける。瞳に映る世界から風紀委員という存在を消去するために。 「テメェを叩き斬るだけだあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」 「(来る!!!)」 戦闘開始。攻めるは風の刃を右手に携える鏡子。防ぐは『疾風旋風』によって同じく右手に強大な風を束ねている破輩。 がむしゃらな勢いそのままに鏡子は突進からの突きを“風嵐烈女”へ繰り出す。 ドゴオオッッ!!! 「うぐっ!!?」 「グウゥッ!!!」 『疾風旋風』と『風力切断』、同じ気流操作系能力による最初の激突は両者共に後方へ弾き飛ぶという引き分けで終わる。 「・・・!!!」 「(大した威力だ。・・・レベル4相当というのは本当だったようだな)」 自身が放った刺突と拮抗した“風嵐烈女”の能力に目を白黒させる鏡子とは対照的に、破輩は今の衝突で得られた情報を分析する。 過去に鏡子が急性薬物中毒になった際に見せた能力がレベル4相当と見積もられていることは、破輩も警備員からの情報で知っていた。 そして、実際の手合わせにて自分が事前に得た情報は正しかったことが裏付けされた。 「(事前の情報通り、薬を服用した鏡子の『風力切断』は5つの噴射点を束ねることで生み出す数mに及ぶ風の刃を操る。だが、発生させられるのは指先からのみ。 5つの噴射点を集中させている以上、あの右手に細心の注意を払っておけば何とか取り押さえることも可能だ。 仮に、噴射点の集束を解除して両手に噴射点を分散させた上で攻勢に打って出たとしても威力的に『疾風旋風』で対処可能。むしろ、分散させてくれた方が有り難い!!)」 少ない時間ではあったが、最初の邂逅時から鏡子の『風力切断』を分析し続けていた破輩は、事前の情報も合わせて鏡子の能力の大半を解析する。 「う、うう、うわああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」 「(そして・・・)」 再び鏡子が風の刃を携え突進して来る。しかし、破輩は全く慌てること無く元風紀委員の一撃を迎え撃つ。 ブシュッッ!!! 「なっ!!!??」 「(やはり・・・な)」 それは、鏡子が生み出した風の刃を破輩が受け止めた光景。正確には『疾風旋風』によって強大な風を纏っている己が右手で鏡子の一撃を防ぎ、 その上で風の刃を形成している『風力切断』へ己が『疾風旋風』を用いて干渉しているのだ。 「(薬で無理矢理強化した副作用・・・とでも言うべきか。レベル4相当の出力を、当の鏡子自身が完璧に制御し切れていない。 私の『疾風旋風』による能力そのものへの干渉をこうも易々と許すとは・・・な)」 最初の衝突での手応えから推測し、2度目の衝突で確信に変わった鏡子の弱点。薬によって出力強化を果たした代わりに犠牲となった細やかな能力制御。 自身の体から数mm離れた部分から風を制御し、操作する能力である『疾風旋風』の対象にはもちろん能力で生み出された大気の流れも入っている。 本来この手の干渉合戦、しかもレベル4同士における能力制御の奪い合いなら互いに相当な労力を必要とする。 しかし、鏡子の場合はこれに当て嵌まらない。大まかな制御はできているものの、細かな部分までは十分に制御し切れていない。 だから・・・つけ入れられる。『本物』のレベル4である破輩妃里嶺に。 「くそっ!は、放せ!!放せえええええええぇぇぇぇっっっ!!!!!」 「悪いが、放すわけにはいかない。ここで・・・終わらせる!!」 形成する風の刃へ続々と干渉して来る“風嵐烈女”に抵抗する鏡子。だが、破輩とて折角掴んだ絶好の機会を手放すわけにはいかない。 細かな制御が利いていないとはいえ、出力自体は相当なモノである風の刃を防ぎながら干渉し続けるのは、いかな破輩とて相当に集中力を費やされるモノであった。 『疾風旋風』による自身の右手に纏わせている風の制御も加わっている以上、いたずらに長引かせるわけにはいかない。 よって、“風嵐烈女”は『疾風旋風』の制御能力を総動員して鏡子の右手に集中している噴射点へ干渉を仕掛ける。 「!!!??」 「(もし、集束している噴射点の乗っ取りを恐れて左手へ噴射点を移せばその時点で終わりだ。『疾風旋風』による旋風の押し流しでお前を取り押さえる。 そして、このまま噴射点を乗っ取られればそれで終了。チェックメイトだ、鏡子!!)」 破輩は自身の勝利に確信に近い思いを抱く。鏡子が噴射点の集束を解除すれば、その時点で終わり。5つの噴射を束ねることで拮抗していた刃の形成を解くのだ。 解除された時点で、『疾風旋風』に押し負けるのは道理である。また、このまま集束を保っていても5つある内の1つでも噴射点を乗っ取られれば結果は同じ。 チェックメイト。“風嵐烈女”が抱いた思いは、確かに確信に近いモノであったと言っていい。 「安心しろ、鏡子。私はこれ以上お前を傷付けはしない。そして、これ以上お前に誰かを傷付けさせはしない。だから・・・ここでお前を束縛する!!」 「!!!??」 故に・・・それ故に、彼女は過ちを犯す。勝利を目前にしたことで『油断した』結果・・・自身の決意と共に、そして鏡子を思って放った言葉の一欠片が、 『元風紀委員』である彼女の記憶―『今』の彼女においては忌避していた記憶―を呼び覚ましてしまったことに破輩は気付かない。 『風紀委員の風路鏡子です!暴行の現行犯で束縛させて頂きます!』 かつて、愛おしき兄が誇りを抱いていた風紀委員(じぶん)。その時に幾度も呟いていた言葉を、よりにもよって目の前の現役風紀委員が言い放った。 本当なら・・・本当なら自分がその位置に居た筈なのに。本当なら自分こそがその位置でその言葉を言い放っていた筈なのに。 何故?どうして?何で?疑問・疑問・疑問。自問自答の果てに少女は気付く。答えは至って単純。自分が道を踏み外してしまったからだ。 『鏡子!!俺だ!!兄ちゃんだぞ!!わかるか!!?』 こんな惨めで醜い自分を命懸けで助けに来てくれた優しい兄に・・・自分は『会ってしまうのか』?このまま能力の制御を乗っ取られて・・・束縛されて・・・。 『「ブラックウィザード」の手に堕ちた元風紀委員』という形で風路鏡子(いもうと)は風路形慈(あに)と対面するのか? 「ふ・・・ふふ・・・・・・ふふふ・・・・・・!!!」 認められない。絶対に認められない。『こんな』自分を兄に見られたく無い。どんなことをしてでも。 そう・・・『どんなことをしてでも』風路鏡子はこのまま連行されることを拒否する。絶対に。 ブシュッッッ!!! 突如鏡子の左手に発生したのは・・・噴射点。『風力切断』によって発生させた5つの噴射点。 そして、それは右手に束ねていた噴射点を移動させたモノでは無い。固地に捕まった時―急性薬物中毒―とは違う・・・風路鏡子の“奥の手”。 『あなたを始末したら、あの人がご褒美をくれるんですっ。だ、だ、だから、死んでえええッ!』 鏡子への薬物投与に関しては、基本的に網枷双真を通して行われていた。『また急性薬物中毒を引き起こされては』というのが網枷の弁であった。 調合屋のおかげで『ブラックウィザード』が管理する薬の性能が安定しつつあったある途上で、鏡子は(服薬中ではあるものの)己が能力を進化させることに成功した。 当時傍で鏡子の様子を見ていたのは、他でも無い網枷であった。彼は鏡子に厳命した。『それは“奥の手”として土壇場以外では決して使うな』と。 同じ幹部である蜘蛛井にこれ以上目を付けられないようにという思惑を秘めた網枷の指示に鏡子は素直に従った。 何時も通りに薬を貰うために、網枷の機嫌は損なわせられない。彼の言いつけを守っていれば、『ご褒美』として従来通りに薬を貰える・・・その一心で。 そんな“奥の手”を・・・遂に少女は解禁した。目の前の現実を全て否定するために。現実を認識することを拒否するために。 「なっ!!!??」 「ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!」 予想外の展開に破輩は反応が遅れる。同じく予想外の展開に怒りの咆哮を挙げる鏡子は・・・躊躇無く左手から伸びる風の刃を“風嵐烈女”へ振り下ろした。 ドパアアアァァァンンン!!!!! 「ハァ、ハァ・・・音が近付いて来たってことは、この近くに・・・!!!」 「ハァ、ハァ・・・。あくまで可能性だよ!他の戦闘の可能性だって十分に考えられるから気を付けて進もう!」 「・・・あぁ!!」 疲労と精神的緊張から息を切らしつつも足を回しているのは鏡子の兄である風路形慈と『シンボル』の“参謀”形製流麗。 2人は界刺の言葉を受けて施設内西部から移動を開始、その途中から耳に劈く衝突を幾度も経験することでこの先に鏡子達が居ると予想していた。 「(鏡子・・・鏡子!!待ってろよ!!兄ちゃんが必ずお前を助けてみせるからよ!!)」 兄は只管走る。最愛の妹の下へ辿り着くために。己が手で絶望の底で項垂れている妹を救い出すために。 ドパアアアァァァンンン!!!!! 「「!!!??」」 そんな2人の耳へ、一際大きな衝突音が突き刺さった。距離は・・・近い。 「ハァ・・・ハァ・・・・・・グウッ!!!」 「ハァ・・・ハァ・・・だ、誰!!?私の邪魔をしたうじ虫は!!!??」 決して浅く無い傷を右肩に受けた破輩は後方へ距離を取った後に蹲る。一方、必殺の一撃を“妨害された”鏡子は目の前に渦巻く『砂鉄』の操り主へ向けて苛立つ声を放つ。 「破輩先輩!!大丈夫ですか!!?」 「ハァ、ハァ・・・湖后腹か。あぁ、助かった!」 自身より更に後方から聞こえて来た部下の声に、リーダー足る少女は振り向かないまま無事の声を掛ける。 鏡子が振り下ろした風の刃が破輩を真っ二つにしようとした刹那、足下から噴出した砂鉄の刃が“風嵐烈女”を守るように風の刃と衝突した。 一瞬拮抗した2つの刃だったが、制御が不安定なのかすぐに風の刃が砂鉄の刃を粉砕する。しかし、一瞬の猶予が破輩の回避行動に決定的なゆとりを与えた。 結果として破輩は右肩に風の刃による浅く無い裂傷を喰らったが、それでも致命傷だけは避けることができた。 この顛末を生み出した男の名は・・・湖后腹真申。159支部所属の風紀委員である彼は、意識を手放していた最中に鼓膜を叩いた衝突音で目を覚ました。 直後に右太腿へ走る痛みとその傷への手当て、聞こえて来る轟音と行動を共にしていたリーダーの不在から自身が置かれた状況を素早く把握し、 磁力操作による移動を敢行しながらリーダーの下へ急いでいた最中に目にした鏡子の斬撃。湖后腹の目から見ても必殺と映る一撃からリーダーを守るために、 磁力操作を継続中だった彼は咄嗟に鏡子と破輩の足下にある砂鉄へ磁力を伸ばし、凶刃からリーダーを守護する刃を形成したのだ。 「(チッ・・・何がチェックメイトだ!湖后腹の助けが無ければ死んでいたぞ、私!!鏡子の手をこれ以上傷付けさせないんじゃなかったのか、破輩妃里嶺!!)」 激痛が走る右肩を左手で抑えながら荒い息を吐き続ける破輩は、知らず知らずの内に油断していた己の失態に憤る。 わかっていた筈だ。戦場とは自分の思い通りには決してならない領域であることを。相手に隠し玉の1つや2つはあって然るべきだということを。 なのに、最も注意すべき『勝利目前であるが故の驕り』を無意識の内に抱いていた過去の自分を現在の彼女は叱咤し・・・きっちり反省する。 「ス~ハ~。ス~ハ~。・・・・・・よしっ!!」 息を整える。まだ何も終わっていない。戦闘は今尚継続中。リーダー足る少女は、己の部下が作り出してくれた僅かの間を最大限に活かし気合いを入れ直した。 「く、くく、くそおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」 必殺の一撃を逸らされた格好となった鏡子は、怒りの感情を全面に表しながら再び破輩へ突貫する。両手に2mにも及ぶ風の刃を現出させながら。 「破輩先輩!!俺も・・・」 「ハアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!」 眼前の脅威を受けて助勢の意を伝えようとした湖后腹の瞳に映ったのは、鏡子と同じく大声を挙げる破輩の背に渦巻く5本の竜巻。 左腕と右脚にも同様に竜巻を巻き付かせる“風嵐烈女”は、毅然とした瞳のままに突貫して来る少女へ突き進む。 ドォン!!!ギシッ!!!ブゥン!!! 鏡子は唯々力任せに両手に形成した風の刃を振るい続ける。他方、右肩と左太腿に傷を抱える破輩は無傷の左腕と右脚を刃へ衝突させる。 背中に構築している5つの竜巻で姿勢制御を行い、宙に浮かんで戦闘を行っている“風嵐烈女”。時には背の竜巻さえも武器として鏡子の刃を吹き飛ばそうと操作する。 「湖后腹!!」 「はい!!」 「援護は任せる!!だが・・・今の私にはまだ援護は要らない!!!」 「えっ!?」 湖后腹はリーダーの指示に疑問符を浮かべる。自分以上の傷を負っている彼女が、何故ここに及んで援護を必要としないのか。 部下の抱く疑問にリーダーは無論気付いていたのだろう。戦闘中にも関わらず、リーダー足る少女は部下に己の想いのありったけをぶつける。 少し前までの自分ならできなかったこと。部下の前で弱みや弱音を露にすることができなかったリーダーの、これは真摯な『泣き言』。 「これは、『あいつ』から初めて託された頼みなんだ!同じリーダーとして、私は『あいつ』の本気の頼みを私の手で必ず果たさなければならない!! 一風紀委員として・・・1人の人間として・・・破輩妃里嶺として・・・私は『シンボル』のリーダー界刺得世の想いに応えたい!!!」 「破輩先輩・・・!!」 「私の我儘なのはわかっている!!でも、これだけは譲れない!!界刺から初めて託されたんだ!これは、あいつの信頼を得るチャンスでもあるんだ!! あいつが背負うモノを少しでも肩代わりできる資格を得る最初で最後のチャンスなんだ!!」 あの男は、今回のことを経ても最後には素知らぬ顔で『何とかしてみせる』とでもほざくのだろう。その背にどれだけのモノを背負ったのかを自分達に見せないまま。 そんなことは・・・絶対に認められない。少なくとも、破輩妃里嶺は絶対に認めることはできない。 これは、そんな彼が『不本意』にも託した頼みなのだろう。そして、これは最初で最後のチャンスなのだ。彼の奥底に足を踏み入れることができるまたと無い機会なのだ。 「頼む・・・湖后腹。お願いだから・・・私に果たさせてくれ・・・!!!」 「・・・!!!」 湖后腹は見た。普段は勝気で男勝りという形容が似合い過ぎる程似合うリーダーの顔が、気弱で自信無さげな相貌に変化していたことを。 これは、紛れも無い破輩妃里嶺の本音であり、泣き言であり、弱音であり、我儘なのだ。これ等の想いを確と見極めた部下足る少年は・・・一呼吸置いた後に答える。 「・・・わかりました!!でも、少しでも危なくなったらすぐに助勢に走りますからね!!後、このことは鉄枷先輩達159支部全員に報告しますから!!」 「!!?」 「覚悟して下さいよ、リーダー!!こんな状況下で我儘を貫くからには、後で皆からボコボコのケチョンケチョンにされるつもりで頑張って下さい!!!」 「フッ・・・いいだろう!!望む所だ!!!」 部下の熱い激励にリーダーは感極まりそうになる。これが繋がるということ。リーダーという仮面を被り続けて、却って壁を作っていた頃には想像もできなかった有り様。 そんな有り様を手に入れられる切欠を作ってくれた『あいつ等』に言葉無き感謝を抱きながら、“風嵐烈女”は自身の決意を果たすために力を振るう。 「な、何で斬れないの!!?何で倒れないの!!?どうして、そんな傷を負ってまで私へ・・・!!?」 「『お前を助ける』!!これは『あいつ』の頼みだ!!そして、風紀委員破輩妃里嶺の心意だ!!お前を・・・必ず“そこ”から救い出す!!」 深いダメージを負っている筈の敵の勢いが衰えないばかりか増している現状に、鏡子は更なる苛立ちを募らせる。 自分の攻撃は傷だらけの少女の能力によって全て防がれる。自分は無傷なのに。自分は“奥の手”まで出しているのに。 理解し切れない少女は全く気付いていない。自分が無傷なのは、相手である“風嵐烈女”が己の振るう旋風全てを風の刃『だけ』に衝突させているからという事実に。 「(くそっ・・・さっきのダメージが思った以上に深いな。両手の噴出点全てに『疾風旋風』の干渉を向けたいのに・・・!!)」 その一方で、破輩は内心焦りの色を濃くしていた。『風力切断』の出力上、自身も『疾風旋風』による強大な旋風を纏っていなければ『風力切断』への干渉に及ぶことはできない。 だが、今や10個の噴射点を指先に携える鏡子の斬撃相手に己が被ったダメージが想像以上の重しとなっていた。 体を動かし続けている以上絶え間無く激痛が走る右肩と左太腿が、“風嵐烈女”の演算精度を低下させる。このままでは、独力で鏡子を無傷のまま取り押さえることができない。 「(湖后腹の激励を絶対に無駄にできない!!何とか・・・何とか干渉への糸口を・・・・・・?)」 「・・・・・・」 危機感を募らせていた破輩は、眼前の光景に思わず虚を突かれた。どういうわけか、風の刃を力任せに振るっていた鏡子が突然その動きを止めたのだ。 頭が項垂れ、両手は垂れ下がる。携えていた風の刃も一瞬で消えてしまった彼女に破輩は怪訝な視線を送る。 「(何だ?これもローテーションの一種か?それとも罠?・・・どうする?)」 「・・・・・・はっ!」 ひとまず距離を取った“風嵐烈女”が次に取るべき行動を迷っている中、ボサボサ髪の少女は突如として苦しそうな呻き声を漏らし始める。 「はっ、は、虫、虫がうじゃうじゃしてるんです。キモチワルイ・・・・・・う、ううう・・・・・・」 「(これは・・・薬の副作用か!!!)」 蠢く。蠢く。蠢く。視界全てに這い回る虫の幻覚を知覚した鏡子は、胸から込み上げる嘔吐感に脂汗をかき始める。 破輩の推測は当たっている。これこそ、『ブラックウィザード』が管理する非合法薬物の副作用。服薬量や個人差こそあるものの、能力強化の代わりに発生する幻覚作用が鏡子を襲う。 規定量ならまだどうにかなっただろう。しかし、通常以上の薬を服薬した今己が身に襲い掛かる幻覚は凄まじい現実感を伴って少女の精神を掻き乱す。 「嫌・・・嫌・・・・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!」 「鏡子!!!」 いよいよ錯乱した鏡子は破輩の声にも取り合わずに、両手から持ち得る全ての力を使って風の刃を作り出す。 斬るのは、自身の視界を這い回る虫。もはや、今の彼女はまともな戦闘を行うことなどできない状態となっていた。 「消えろ!!!消えろ!!!うじ虫があああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」 「破輩先輩!!」 「くそ!!このままだと、自分を殺してしまいかねない!!!」 自滅に近い状態に陥っている鏡子の尋常では無い雰囲気に湖后腹はリーダーへ警戒の声を挙げ、破輩は現状のまずさを心底認識する。 このままでは、今にでも形成している風の刃を鏡子自身へ差し向けかねない。そうなれば、今までの努力が全て水の泡となってしまう。 「消えろおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!」 「えぇい!!!」 “風嵐烈女”は、事ここに至って腹を括る。この場を収めるには、『疾風旋風』による全力の干渉を『風力切断』に敢行し風の刃を消滅させるしか無い。 そのためには、風の刃を振り回しているあの間合いに突入した直後に背の竜巻操作を解除した上で干渉行動を取るしか無い。 左腕で受け止めるのはともかく右脚でもう1本の刃を封じ込められるか。そのために傷を負っている左脚を支柱としなければならないが、果たして本当に可能なのか。 リスクは幾らでもあった。それでも、破輩は最後まで自分の想いを貫くために単身風の凶器へ突貫を仕掛ける。 グンッ!!! 接近により虚ろな瞳と覚悟溢れる強靭な瞳が衝突した・・・その瞬間に飛び込んで来た影。 ボサボサのツンツン黒髪を靡かせながら両者が衝突する地点へ突っ込んだ男の名は・・・風路形慈。 「鏡子おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」 「えっ・・・・・・?」 鏡子は当初自分の瞳に映った光景を理解することができなかった。気色悪い虫が視界を覆っていた中、自分目掛けて突貫して来る老け顔の女が見えた。 瞬間的にその女ごと虫を突き刺そうと自分は思い、その通りの行動を取った。しかし、自分が生み出した風の刃は女を突き刺せなかった。 代わりに突き刺したのは・・・自分を庇うように眼前へ立ちはだかったツンツン頭の男の右脇腹。 かつての自分が何度も瞳に焼き付けた・・・愛しき兄の体から赤い液体が漏れ始める。 「ば、馬鹿野郎!!!何て無茶を!!!湖后腹!!!対外傷キットを!!!」 「は、はい!!!」 突き刺す筈だった女が見たことも無い慌てようのまま後方に控えていた男へ声を掛ける。その間に、風の刃を突き刺された兄は力無く地面へ跪く。 「・・・・・・血?」 風の刃が消えた自分の右手には、優しき兄の血が付着していた。そう・・・風路鏡子は風路形慈の脇腹に『風力切断』で生み出した風の刃を突き刺したのだ。 「お兄ちゃんの・・・血?私・・・が?私の能力で・・・お兄ちゃんを?・・・えっ?・・・えっ?」 正気に戻った・・・という表現はこの場では正しくないのだろう。正確には・・・錯乱を吹き飛ばす新たな錯乱状態に陥ったと表現すべきか。 「う・・・嘘・・・!!!嘘・・・嘘・・・嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!!!!」 自分は目の前の現実を全て否定するために、現実を認識することを拒否するために刃を振るっていた。それだけだ。 何も、愛しき兄に凶刃を振るうために動いていたわけでは無い。むしろ、自分を助けに来てくれた兄に『愛想を尽かさせる』ために只管暴れ回っていた。 親愛なる兄に対する最悪の裏切りを乗り越えてまで自分を救いに現れた彼に近付いて来て欲しく無かった。薄汚れた自分の前に現れないで欲しかった。兄と・・・会いたく無かった。 それなのに・・・心優しき兄は再び自分の前に現れた。現れて・・・自分の凶刃をその身に浴びた。認めるしか無い。今度は逃避など許されない。 「・・・!!!ど、どうして・・・どうして来たんだよ!!!??何で・・・何でこんな私に会いに来たんだよ!!!?? 薬に溺れる惨めな私に・・・お兄ちゃんの期待を裏切った私に・・・どうして・・・!!!」 ここに来て目の前の現実を否定し切れなくなった鏡子は、最愛足る兄の行動に何度も何度も疑問の声をぶつける。 自分は兄に助けて貰える資格など無い。兄の期待を裏切った妹には。何時の間にか両の目から涙を流していた妹の声を背に受けて、荒い息を吐き続ける兄はようやく口を開く。 「・・・・・・鏡、子」 「お兄ちゃん・・・!!」 妹の名を呼ぶだけで、脇腹から迸る激痛が兄の思考回路を掻き乱す。目の前には、風紀委員と思わしき男女2人がこちらへ向けて飛んで来る。 おそらく自分の手当てのためだろう。まさか、再び風紀委員の世話になるとは思わなかったが・・・これも運命なのかもしれない。 「俺は・・・どう、やら・・・お前に余計なプレッシャーを与えちまってたみてぇだな」 「プ、プレッシャー・・・!?」 「あぁ。ハァ、ハァ・・・。俺、は・・・お前を誇りに思っていた。“共学の常盤台”名門映倫中へ通う・・・ハァ・・・正義感溢れる風紀委員。 俺とは違って・・・ハァ、ハァ・・・レベル3の・・・ハァ・・・能力を持つ自慢の妹。そんな自分勝手な『レッテル』をお前に貼っちまってた」 「そ、そんな・・・!!!そんなこと無いよ!!!」 兄の告白を受けて妹は混乱する。裏切ったのは自分だ。兄の期待に応えられなかったは自分だ。 悪いのは全て自分なのに。どうして自分を救おうと懸命に走った兄が妹に謝らなければならないのか。 「いや・・・貼っていたんだよ、俺ぁ。ングッ・・・ハァ、ハァ。自分には無い才能を持つ妹に期待して・・・違うな・・・勝手に期待したんだ。 そこに妹の意思なんてモノは存在しちゃいなかった。ハァ・・・俺は・・・独り善がりな意思を妹に押し付けちまっていた」 「お兄ちゃん・・・!!」 「鏡子よぉ・・・。お前さぁ・・・何か悩みがあったんじゃねぇか?例えば・・・能力が伸び悩んでいた・・・とかさ?」 「ッッ!!!」 核心を突く兄の質問に妹は思わず身を固めてしまった。確かに、自分は薬物中毒に陥る前に能力の向上ペースの鈍化で頭を悩ませていた。 そのせいで、網枷の口車に乗ってしまい『疲労回復のサプリメント』と銘打った非合法薬物を摂取させられた。後の流れは・・・自明である。 「・・・やっぱあったか。・・・その時はお前の意思で薬を服用したのか?」 「違う!!その時の私は騙されて・・・」 「・・・そう、か」 風路は、妹は自分の意思で非合法薬物に手を出したわけでは無いことを再確認できたことにホッとする。 伊利乃から聞き出した後も、心の何処かでは『もしかしたら鏡子は自分の意思で・・・』という想いが未だに存在していた。 だから、本人に聞いてケリを着けようとずっと思っていた。そして・・・ようやくケリを着けることができた。 「・・・ごめんな、鏡子。お前は、期待する俺のために必要以上に頑張り過ぎていたんだよ」 「そ、そんなこと・・・(ガシッ)・・・えっ?」 「・・・随分ボサボサになっちまってんなぁ、お前の髪。年頃の女の子なんだから、もうちっと気を使った方がいいんじゃね?ハハッ」 鏡子の髪を風路が撫でる。何時以来だろう・・・こうして妹の頭を撫でるのは。妹が失踪するずっと前からこういうことをサッパリしなくなった。 心配性な自分の行動が原因であろう妹の抗議を受けて、彼女の部屋へ赴く機会もめっきり減った。逆に言えば、それまでは過剰に妹へ期待を掛けていたということ。 妹の才覚に疎みはしなかったものの竦んでしまった兄は、妹に見合うだけの努力を何一つしなかった。こんな状況を生み出した原因の1つは・・・間違い無く兄である自分にある。 「ゴホッ、ゴホッ!!!」 「お兄ちゃん!!もう喋らないで!!」 「風路!!!」 「形製か!!!」 「ハァ・・・ハァ・・・破輩さん!!これは一体・・・!!?」 「話す手間も惜しい!!お前の『分身人形』で把握しろ!!」 「思ったより傷は浅いかも・・・。これなら・・・キットでとりあえずは!」 「(チィ・・・もうあんまり時間が無ぇな」 傷から発せられる激痛が風路の体全体を蝕む。一際でかい衝突音から只事では無いと直感した自分が飛び出したせいで、身体能力で劣る形製を実は置いて来てしまっていた。 こうして彼女がここへ到着できたこと自体は喜ばしいことだが、自分の行動は批判されて然るべきである。 妹のこととなると思考が吹っ飛ぶと指摘された通りの行動を取ってしまった自分に呆れて物も言えない。この調子だと界刺に借りを返すのはまた別の機会になりそうだ。 「鏡子。俺はなぁ・・・ここに来るまで色んなことを経験した。人間不信になるわ、風紀委員を目の敵にするは、“ヒーロー戦隊”に入らされるわでさぁ、てんやわんやの連続だったんだ」 「お兄ちゃん・・・」 「でもさ・・・そのおかげで今の俺が居るんだ。妹の悩みに考えを向けられるようにもなった・・・風紀委員をもう一度信じられるようになった俺が居るんだ」 妹の失踪以来、自分の人生は激動の連続だったと言っていい。それだけ濃密な時間を過ごした中で、少年は人間として一回りも二回りも成長した。させて貰った。 そんな自分だからこそ、今度は妹のために頑張ろうと思う。期待を掛けるだけじゃ無い。自分と同じ悩み苦しむ妹を、兄である自分が背負える程に。 「だから・・・鏡子。俺はお前を背負い切ってみせる。兄が妹を背負って何が悪いんだ。妹が苦しんでるのに兄が何もしねぇってわけにはいかねぇ。 これから俺もお前も色んなモンを抱えて歩いて行かなきゃなんねぇ。でも・・・俺は逃げない。絶対に。どうだ・・・鏡子?兄ちゃんと・・・もう一度やり直さねぇか? 俺とお前ならきっとできる!!やり直せる!!嬉しい時は思いっ切り笑おう!!辛い時は精一杯愚痴り合おうぜ!!だから・・・だか・・・鏡子!!兄ちゃんと一緒に頑張ろう!!!」 「・・・!!!」 優しい声色が風に乗って鏡子に耳に入る。ずっと耳にしていた声色。かけがえの無い声。最後の方に至っては涙ぐんでいた兄の愛しき声が、妹の心を暖かく包んで行く。 そう・・・兄の訴えは確かに妹の心に届いた。今度こそ。ならば、妹である自分はどう返答すべきか。そんなモノは・・・もう決まり切っていた。 「お兄ちゃん・・・!お兄ちゃん・・・!!お兄ちゃん!!!」 「鏡子!!鏡子!!!」 「ごめん・・・ごめんなさい!!お兄ちゃんに何て酷いことを・・・!!!」 「いいんだ!!!もういいんだ!!!」 「お兄ちゃん・・・!!!」 「鏡子・・・!!!」 抱擁。兄と妹は遂に本当の意味で『再会』を果たした。幾度もの艱難を乗り越えた2人は・・・ようやく兄妹という“絆”を取り戻すことができたのだ。 「破輩先輩!勇路先輩と連絡が着きました!!」 「そうか・・・。椎倉にも伝達したし、これで何とかなるかな」 「ハァ・・・ハァ・・・。あたしももうちょっと体を鍛えないとなぁ」 湖后腹の報告に破輩は頷き、形製は自身の体力不足を嘆く。あれから破輩達は湖后腹が寝かされていた建物内に移動し、椎倉や『治癒能力』を持つ勇路と連絡を取り合っていた。 椎倉達には風路鏡子の保護を伝達、勇路には傷を負った風路の手当てを要請・受諾を得た。ちなみに、風路兄妹は少し離れた場所で失っていた兄妹としての時間を取り戻すかのようにずっと話し込んでいた。 「勇路先輩達もさっきまで『ブラックウィザード』から攻撃を受けていたみたいですけど、何とか戦線復帰を果たした閨秀先輩の力もあって撃退したそうです」 「椎倉から聞いたよ。形製。閨秀達は椎倉の指示を受けて不動と仮屋の応援に向かわせたそうだ」 「本当ですか!?・・・なら、『六枚羽』が相手でも・・・!!」 湖后腹と破輩から“花盛の宙姫”が復活・『六枚羽』と激戦を繰り広げている不動と仮屋の応援に向かったと告げられた形製は、制空権の掌握に大きな希望を抱く。 『六枚羽』が存在する以上、空からの攻勢が気掛かりとなってしまう。風紀委員会側としても、『六枚羽』の撃墜は作戦上から見ても絶対に成し遂げたい代物であるのだ。 「勇路先輩と春咲先輩、それに月ノ宮さんがこちらへ来てくれるそうです。閨秀先輩の治療が終わった以上、居所が割れた場所に何時までも居られないということで・・・」 「わかった。・・・・・・ハァ」 「ん?どうかしましたか?」 「・・・何。結局私は界刺の頼みを果たし切れなかったなぁ・・・って落ち込んでいるだけだ」 「破輩さん・・・」 湖后腹と形製の視線を感じながら、破輩は対外傷キットで治療した右肩を抑えながら愚痴を吐く。 「油断して危うく鏡子の手を汚させてしまいそうにもなったしな。風路の脇腹にしたって、私の決断がもっと早ければ傷を負わせることも無かった・・・」 「でも、破輩先輩が『咄嗟に』左腕に纏っていた風を鏡子さんの風の刃にぶつけていなければ、風路さんの傷はもっと深くなっていたと思いますよ。俺、ちゃんと見てましたから」 「湖后腹・・・」 「あたしも、『分身人形』で破輩さんの記憶を読んでるからわかっていますよ?破輩さんは、風路の乱入に驚愕しながらも最悪の結果を防ぐためにでき得る限りのことをしたんだって」 そんな少女を湖后腹と形製は優しく支える。2人の言う通り、破輩は乱入して来た風路に驚愕しつつも咄嗟に左腕の風を操作し、 己が兄の背骨を突き刺そうとしていた『風力切断』による風の刃へ衝突させて軌道を無理矢理変更させた。 そのおかげで風路は脇腹に傷を負ったものの重傷という程では無く、鏡子にも自身の手で兄を殺害するという最悪の結果を生み出させずに済んだのだ。 「破輩さんは、ちゃんとバカ界刺の頼みを果たしているよ。だって、こうやって風路と鏡子は兄妹として触れ合えているんだしね。そうでしょ、湖后腹?」 「形製さんの言う通りです。破輩先輩!先輩はリーダーとして・・・我儘を言っていたかもしれませんが、それでも全体的に見て冷静な対処をできていたと・・・俺は思います」 「・・・!!!」 2人の真摯な言葉が“風嵐烈女”の心深くに染み入る。自分は、完璧では無いものの冷静な対処を行うことができていた。そう、2人は『本気』で言っているのだ。 約1ヶ月前の騒動ではできなかったことを・・・今回はやり抜くことができた。大まかではあるが。 「・・・・・・そうか」 何呼吸置いた後に少女の口から零れた一言だけの返事。そこに込められた想いは、零した159支部リーダー破輩妃里嶺にしかわからない。 「湖后腹」 「はい?」 「お前は形製達と一緒に勇路がここに来るまで周囲への警戒を怠るな。いいな?」 「勇路先輩の脚力ならもうすぐ到着するでしょうけど・・・先輩は?」 故に、“風嵐烈如”は部下に指示を出しながら立ち上がる。『本来』の役目を果たすために。そして・・・自分が為したことを、自分の『本気』を同じリーダーへ伝えるために。 「“報告”に行って来るよ。・・・『あいつ』の所へな」 continue!!
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序章 闇の中で蠢く闇 Bartender. <1> 第一章 種も仕掛けもない制圧戦 Dolls_And_The_Queen. <1> / <2> 行間 一 <1> 第二章 闇に堕ちた人形は The_Arrogant_Puppetear. <1>
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「ア、アア、アアアアアアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!!」 「フフ~ン♪緋花の弱いトコロは・・・やっぱりここかな♪えいっ!」 「ハアアアアアンンンンンンン!!!!!」 「だよね~。私より胸が大きいんだし、予感はしてたけど。このてっぺん2つを重点的に責めてたからかもしれないなぁ。おかげで、随分赤く腫れちゃって・・・フフッ」 ここは、先日捕獲した風紀委員焔火緋花を監禁している部屋。型板ガラスが1つ設置されているこの部屋に、焔火は台の上に四肢を拘束された状態で捕えられている。 周囲にはオーディオ機器のような機械も存在するここは、智暁が自分に宛がわれた部屋に近いという理由で希望した部屋でもあった。 「今日はねぇ・・・私だけじゃ無いよ?『ブラックウィザード』の薬に依存している女の子達も用意してあるんだ。まぁ、そこにもうスタンバイしてるんだけどね。 ジワジワやるのも飽きてきたし、ここいらで集団調教と行きますか!!皆!!来て!!もちろん、下着一丁で♪」 智暁の命令で、傍に控えていた薬物中毒の女性達が一斉に服を脱ぎ出した。その中には、風路の妹である鏡子も居た。 数十秒で下着だけになった女性達が、これまた下着姿になっている智暁の下へ集う。一方、焔火は下着姿とは言え着衣は本来の位置に収まっていなかった。 「皆!緋花を思いっ切り可愛がってあげて!!そこら辺に落ちてる器具とかも使っていいから!そうしたら、飛びっきりの薬が貰えるかも!」 「薬・・・薬・・・わ、私・・・頑張る!!」 智暁の檄に一番反応した鏡子が飛び出し、焔火の首筋を舐めて行く。 「(ペロッ、ペロッ)」 「ハッ、ハッ・・・ヒグッ!!」 「風路さん・・・そこで甘噛み!」 「(ハムッ)」 「~~~~~~!!!」 「いい娘いい娘♪さぁ、皆も早く!」 鏡子に遅れまいと、他の女性達も焔火の体に群がる。鏡子のように舐めたり噛んだりする者、その手付きで揉みしだく者、 智暁の言葉通り手に持つ怪しげな器具を体に接触させて行く者等に分かれ、多種多様の責めを少女に与えて行く。 「(ブウウウウンン)・・・(チュプ、チュプ)・・・(ガブッ)・・・」 「アァン!!ウウウウゥゥゥッッ・・・クゥン!!」 「相変わらずイイ声で鳴きますね。フフッ・・・もっと激しくしてあげる♪ということで皆、出力アップ♪」 「ッッッ!!!」 少女の嬌声に気を良くした智暁が、器具の出力上昇を命じる。響く音が更に大きさを増し、悦楽の波を押し寄せさせる。 全ては、焔火を快楽の坩堝に叩き落すための所業。主に媚薬剤を用いて、少女を快楽の奴隷にするための調教である。 「アアアアアアアアァァァァァッッ!!!アアアアアァァァッッ・・・アアアァァッ・・・」 「理性が吹っ飛んじゃってますね。まぁ、無理も無いですよね。一昨日の晩から、ずっと色んな薬を打ち込まれてますし。調合屋さんの新薬も色々飲まされましたし」 智暁は、一昨日からの相次ぐ薬責めに晒された焔火にほんの少しばかりの同情を抱く。筋弛緩剤や自白剤、それに何時も使っている薬や調合屋の新薬まで投与しているのだ。 とは言え、現時点では調合屋の綿密な計算の下で中~重程度の薬物中毒に至る程の量―何時も用いられている非合法薬物―は摂取していないのだが。 これには、今後焔火が何時も用いている非合法薬物によって重い薬物中毒に至る前に彼女を使って色々実験したい調合屋の個人的意思が入っている。 「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・。ア、アア、アアアアアアァァッッ!!!」 「それにしても、今度の新薬はスゴイですね。感度ビンビン♪体中が性感帯になったような感覚に陥るって説明でしたけど、まさにその通りの反応です。・・・ガリッ!」 「ガアアアアアアアァァァッッ!!!!!」 「うんうん♪やっぱり、胸の先が弱点ですねぇ。下の方も・・・フフン♪予想通りの濡れ濡れですなぁ。このまま一気に堕とします。 伊利乃さん直伝のテクを今こそ使う時。後でスペシャルゲストも登場しますから、楽しみにしていて下さいね~。では・・・行きます!!」 「ッッッ!!!~~~~~~~!!!!!」 智暁の責めがより一層激しくなる。その押し寄せる快楽の波に、程無くして焔火は失神した。 「ん・・・」 あれから中円からの連絡で調合屋が部屋を訪れ、失神している焔火を無理矢理叩き起こし、自白剤を用いて今晩の作戦に必須な情報を吐かせた。 その後も智暁達の調教は続き、何度も失神した。理性も吹っ飛び、唯快楽の渦に身を委ねた。 そして・・・今は一時の休憩タイム。さすがに、智暁も何時間もずっとというのは辛いのだ。今の彼女達は、夕食を食べに行っている。そんな折に、焔火は目を覚ました。 「・・・ぐうっ!」 目を覚ました直後に頭に走る痛みは、焔火の左耳にセットされているイヤフォンから流れてくる音波の影響である。 このイヤフォンと繋がってる装置―『キャパシティダウン』―から流れてくる音波は焔火の能力発動を封じ込めるための音響兵器であった。 イヤフォンによって指向性を制御されたこの音波は、焔火にだけその効果を発揮する仕組みとなっていた。絶え間無く続く頭痛が、快楽に溺れていた焔火の意識を覚醒させる。 「・・・・・・グスッ。・・・・・・うううぅぅ・・・・・・うううううぅぅ!!!」 それが仇となったのか、焔火は自分が置かれた状況を自覚したために嗚咽を漏らし始めた。そう、このアジトに連れて来られて筋弛緩剤を打ち込まれた時に・・・ 『俺は『ブラックウィザード』の幹部だ。焔火。お前と鳥羽は、俺の罠に引っ掛かったんだ。フフッ、成瀬台にも俺達が強襲を掛けた。何人死んだことやら。 そうだ、お前を助けに178支部の真面と殻衣が来たが、不要な“手駒達”と共に爆発に巻き込まれて死んだ。 お前の姉・・・焔火朱花はこのまま“手駒達”として使い潰してやろう。早速薬を投与した。いずれ、立派な“手駒達”としてお前に見せてやろう。 お前は言っていたな。「“ヒーロー”になりたい」と。どうだ?敵対する者の甘言に乗せられ、踊らされた挙句に仲間達を死に追いやった気分は? これが、お前が目指す「他者を最優先に考える“ヒーロー”」の末路だ。あの“変人”なら・・・「自分を最優先に考える“ヒーロー”」ならこんな末路には至らなかっただろうな。フフッ』 網枷からこう告げられた。自分の愚かな行動を呪った。恨んだ。浅はかな選択が、仲間を死に追いやった。『“ヒーロー”になりたい』という夢を利用されて。 「ううううううぅぅぅ!!!!!うううううううぅぅぅ!!!!!」 取り返しの付かないことをしてしまった。他者のために、皆のために頑張ろうとしていたのに、結果は全て裏目に出た。自分のせいで・・・他者が死んだ。 また、愛する姉が“手駒達”として使い潰されることも確定してしまった。自分のせいで。 そして・・・自分は今何もできないでいる。体は拘束され、調教という名の快楽責めに翻弄され続けている。 自殺も幾度と無く考えたが、口に自殺防止用の猿轡を嵌められているためにそれすらできない。 「(わ・・・私・・・・・・私・・・・・・何で生きてるの?私が・・・私が真面達を殺したのに!!! 私がお姉ちゃんを薬物中毒にさせて・・・“手駒達”にさせるのに!!何で、こんな私がまだ生きてるの!?)」 自分に絶望した。馬鹿で愚かな自分を許せなくなった。だが、拘束されている自分の手足には殆ど力が入らない。 下着も乱され、半ば全裸の状態である彼女の体は調合屋が作った新薬―快楽性を高めに高めた媚薬―に冒されていた。 体中が性感帯と化してしまうこの薬によって、焔火はこの状態でも体の火照りが全く治まっておらず、まるで幽体離脱をしているかのような精神状態であった。 今は薬の効果が幾分和らいでいるためそうでも無いのだが、投与直後はまともな思考すらできなくなり、唯々性欲の塊となってしまう。 昨日からの度重なる智暁達の調教により、自分の体が改造されていく感覚すら覚えてしまう。 「(・・・・・・ゴメンね、拳。私・・・貴方に見せる姿・・・無くなっちゃった。私・・・馬鹿だった)」 数日前に告白した少年の顔を思い浮かべる焔火。彼の返事は、自分の成長した姿を見て貰ってから。そんな“甘ったれた”未来予想図は、木っ端微塵に消し飛んだ。 「(・・・・・・死にたい。・・・死にたい!!こんな辱めをずっと受けて・・・人質として他の皆を命の危険に晒すくらいなら・・・今ここで死にたい!!!)」 灯りは消され、窓から入って来る夕焼けの色しかこの部屋を彩るものは無い。黄昏時・・・それは人の心を不安定にさせる時の魔法。 「(・・・・・・私・・・最初から風紀委員会に参加しなければよかった。固地先輩の言う通り・・・あの時にその選択を取っていたら・・・こんなことにはならなかった!!)」 かつて、“風紀委員の『悪鬼』”に言われたこと。『“風紀委員もどき”を風紀委員会のメンバーから外せ』。固地の言葉は・・・正しかった。その証明が・・・今の状態だ。 「(・・・・・・もう、嫌。こんな自分が・・・嫌。何やってるの、私?私は今まで何をやって来たの?他者に迷惑ばかり掛けて・・・挙句に殺して・・・何よそれ? これが風紀委員?これが“ヒーロー”?・・・・・・馬鹿みたい。あの倉庫街でもう一度立ち上がった私の決意って・・・・・・一体何だったの? 『諦めなければ』・・・ってさ。それにどんな意味があるの?死んだ人達は・・・私が殺しちゃった人達は・・・もう生き返らない・・・!!!)」 自分だけの信念を見出すために、自分の先を歩く男達の言葉を原動力として立ち上がったあの時の姿は今の少女に見ることは叶わない。そんな気力が・・・もう潰えてしまった。 「(・・・今の私にできることは・・・死ぬこと。それだけは、何としてでもやってみせる!!もう・・・もうこれ以上私のせいで誰かが犠牲になるのは・・・!!)」 ガチャ! 「緋花♪さっきの続きをしましょうね♪」 「・・・!!!」 悲愴にも悲愴な決意を焔火が固めた直後に、智暁が扉を開けて入って来た。鏡子を始めとした薬物中毒の女性達を引き連れて。 「フフ~ン。今回はねぇ、スペシャルゲストを用意してるから♪楽しんでね♪」 「(猿轡を外した時が唯一のチャンス。舌を噛み切って・・・・・・そして・・・・・・)」 智暁の言葉を全く聞いていない焔火は、一瞬のチャンスを狙って自殺することだけを考える。 その思考に体が僅かばかり震えていることに、少女は気付かない。この様子では・・・自殺なんて真似は到底無理だ。 「では、スペシャルゲストのご登場♪それは・・・この人だ!!」 少女の葛藤に気付いていない調教主は、少女にとって自殺を思い留まらせる程の存在を声高らかに呼び付ける。 それは、好奇心のままに蜘蛛井へ何度もお願いしてようやく実現に至ったこと。蜘蛛井も、自身が手がけた『手探り』の調整の成果を確認したかったために彼女の一時的譲渡を認めた。 「愚妹(ぐまい)・・・」 「(お、お姉ちゃん・・・!!!)」 「姉妹の感動のご対面になりました♪フフッ。この方は、緋花のお姉さんの朱花です♪もちろん・・・“手駒達”に所属していま~す♪」 「ッッ!!!」 恐れていた冷酷無慈悲な現実が、またもや焔火に降り掛かる。愛する姉の“手駒達”化。虚ろな瞳を浮かべる姉は、己が妹の姿を見て・・・何とも思わない。 「その証拠に・・・朱花の首の後ろに注目♪ほらっ、黒い斑点が浮かんでいるでしょ?それ程濃くは無いですけど」 「(お姉ちゃん・・・お姉ちゃん!!!)」 「フフ~ン。では、今から朱花を含めた更に過激な調教にレッツ・チャレンジ~!!」 智暁の宣言と同時に部屋の扉が閉まる。姉の惨状を目の当たりにした焔火には、自殺するという思考を浮かべる力さえ残っていなかった。 「それじゃあ、緋花。まずは、お姉さんに私達の関係を見て貰おうね。舌出して」 「だ、誰がそんな・・・・・・えっ・・・!?」 智暁の要求を断ろうとした焔火だったが、体はそんな焔火の意思とは間逆の行動を取る。猿轡を外された少女の口から、ピンク色の舌が出て来た。 「いい娘ねぇ、緋花は。それじゃあ遠慮無く。・・・ングッ・・・ピチャ・・・ゴクッ・・・」 「・・・ングッ・・・ピチャ・・・ゴクッ・・・(ど、どうして・・・!!?)」 ここに連れ込まれてから数え切れない程交わした智暁との接吻。百合好きな智暁にとっては普通なのかもしれないが、ソッチ方面の趣味は無い焔火にとっては異様な行動であった。 「・・・プハッ!自分が取った行動が信じられないって顔ねぇ」 「グッ・・・」 「それはねぇ・・・あなたに投与した薬の影響なの。ここに居る女の子達もそうなんだけど、何時も使っている薬を摂取している人間は何故か私を好いてくれるの。 調合屋さん曰く、『智暁の体から発するフェロモンと共鳴している可能性が・・・』とか何とか言ってたけど、私にはよくわかんないし別に知ろうとは思わない。 だって、そんなことどうでもいいし。今なら弛緩性も多少は緩んでるかな?フフッ・・・緋花。私の胸を・・・舐めて・・・(ズイ)」 「い、嫌・・・嫌・・・・・・そんな・・・そん・・・・・・(ペロッ、ペロッ)」 意思に関係無く体が勝手に動く。否、これは焔火の意思でやっていること。焔火に投与された薬の中には、何時も使われている薬も使われている。 能力が強化されない配合で、その分快楽性や弛緩性を増しているそれは焔火の体を確実に蝕んでいた。 「アッ・・・ハンッ・・・くぅっ・・・!!!」 「(チュプッ、チュプッ)」 「アハッ・・・緋花・・・私に・・・キスして」 「・・・(ムニュ)」 「(ムニュ)・・・・・・」 「「・・・・・・」」 智暁の命令に逆らえない。低レベルの中毒である以上何時もの精神状態なら対抗できただろうが、今の焔火の精神は憔悴し切っている状態だ。 まだ媚薬の効果も抜けていない。そのために、焔火は思う通りにならない己が体に涙を流しながら智暁と舌を絡ませ続ける。 「・・・ハァ!ホントに緋花はいい娘ねぇ。さすがは、私が見込んだ娘」 「・・・うううぅぅ」 「泣く程嬉しいんだね。だって・・・もう風紀委員じゃ無いモンね。この人殺し」 「ッッ!!!」 調教とは、何も物理的な責めだけでは無い。先日の電撃の借りはまだ返し切っていない。幼き調教主は、子供っぽい残虐な視線を焔火に向ける。 「風紀委員達は緋花のせいで死んだの。緋花の愚かな行動で死んだの。いえ・・・あなたが殺したの。これからも、あなたのせいで誰かが傷付く。誰かが・・・死ぬ」 「やめて・・・やめて・・・」 「耳元で聞かせてあげますね。あなたが殺したの。真面も・・・殻衣も・・・他の連中も・・・」 「やめて!!聞きたくない!!やめてええぇぇっ!!!」 「そして・・・あなたのお姉さんはこれから“手駒達”として誰かを殺すのよ?」 「ッッ!!!」 「替えが聞く人形として、あなたのお姉さんは殺人に手を染めていく。あなたのせいで。そして・・・何時か誰かに殺される。お姉さんが死ぬ原因は・・・緋花。あなたよ」 「やめて!!!お姉ちゃんだけは助けて!!お願いだから!!!」 「とは言ってもなぁ・・・」 「お願い・・・!!わ、私はどうなってもいいから・・・お、お姉ちゃんだけは・・・!!!」 「それじゃあ・・・それなりの態度を見せて貰わないとね。朱花。来て」 「・・・・・・」 姉の死を想像した妹の恐怖に染まった瞳が、智暁の心を浮付かせる。永観の気持ちがよくわかる。これは・・・止められない。 「これから、あなたにはお姉さんとあつ~いディープキスをして貰いましょう。その真剣さを・・・調教主の私に見せてみなさい。朱花。服を脱いで下着に。他の皆も」 「なっ!!?」 「一度見てみたかったのよねぇ。姉妹の禁断のキスってヤツを。近親のレズとかって、こう燃えてくるモノがあるんだよな」 智暁の演説の間に、朱花を始めとした女性陣は全員下着姿となった。そして、朱花は何かを口に含みながら焔火の腹の上に乗った。 「緋花。あなたがどうしてもって言うなら、朱花をあなたと同じ私の愛玩奴隷として他の“手駒達”のように特攻へ出さないように網枷さんに交渉してあげる。 つまり、緋花の口で焔火姉妹が私の愛玩奴隷になることを誓うの。わかった?」 「ッッッ!!!」 「・・・余り信じてないって顔ですね。証拠ならありますよ。風路さん!来て下さい!」 「は・・・はは、はい・・・」 智暁に呼ばれた鏡子が焔火の左手に来る。智暁は右手に。 「あなたは知らないのでしょうけど・・・この風路さんは元176支部の風紀委員だったんですよ?」 「えっ!!?」 「・・・・・・」 「私も詳しいことは知りませんが、網枷さんが彼女に疲れが取れるサプリメントとして渡した非合法の薬が切欠で事件を起こしたみたいなんです。 それで、彼女は風紀委員を除籍された。その後、網枷さんが彼女を引き取ったんです。本当なら速攻で“手駒達”入りしてた筈なんですが、網枷さんがそれを止めたんです。 何だかんだ言って、元お仲間さんには情が移るんですかねぇ。・・・もしかしたら、あなたもその1人になるかもしれませんねぇ。 まぁ、そんな網枷さんの情で彼女は未だ殺人には手を染めていません。私が彼女と共に行動するようになってからは、殆ど表立って戦闘には参加させないようにしています。 もし参加していても、できるだけ私の隣に居るようにお願いしています。風路さんは可愛いですからね。余りその手を汚させたくはありません」 「・・・!!!」 智暁の言葉が正しいとすれば、自分が何故“手駒達”化されないのかにも合点がいく。焔火自身も疑問に思っていたのだ。 朱花が“手駒達”にされたのに、何故自分は“手駒達”にされないのか。人質にするなら“手駒達”の方が効率的なのに。そこに、網枷の私情が入っている可能性が・・・ある。 「ん?何だか目の色が変わって来ましたねぇ。で、どうします?私の言葉を信じられないなら、別に無理強いは・・・」 「・・・やる」 「・・・朱花。例のヤツを」 「・・・愚妹。仕置きだ」 「えっ・・・(バチバチ)・・・ギャアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!」 奴隷のタメ口に少しムカついた智暁が、朱花に電撃の放射を命じる。場所は・・・彼女の弱い部分。 電撃の応用力で妹を上回る朱花にとって、繊細に調整された電撃を放つことは造作も無いことであった。 「カハッ・・・ハッ・・・」 「愛玩奴隷の分際で、主人にタメ口ですかー?お願いするなら、誠心誠意を見せろって話ですよー?」 「・・・・・・や、やり・・・ます。・・・や、やらせて・・・下さい・・・。お願い・・・します」 「・・・誓いは?」 「わ、わた、私・・・達は・・・あなたの・・・愛玩奴隷・・・になる・・・ことを・・・誓います」 「・・・フフ~ン♪これで、めでたく朱花と緋花は私の愛玩奴隷になりましたねぇ。仮にも風紀委員が『ブラックウィザード』の一員に懇願するんですからねぇ・・・情けない」 「(私は・・・もう風紀委員じゃ無い・・・よ。こんな風紀委員・・・居ない方がマシ・・・)」 「それじゃあ・・・緋花と朱花のあつ~いディープキスを・・・お願いします!」 「愚妹・・・」 「お姉ちゃん・・・」 智暁や鏡子の視線が向けられる中、焔火は近付いてくる朱花の虚ろな瞳を直視する。 「(これで・・・これでお姉ちゃんに少しでも危害が及ぶ可能性が無くなれば・・・。どっちみち、今の私にできることは何も無い。だったら・・・私は・・・)」 以前までなら考えもしなかった姉との接吻。だが、これが姉を危険から遠ざける可能性に繋がれば・・・その一心で焔火は朱花の唇を待つ。そして・・・ ムニュ! 姉妹の唇が重なった。朱花が焔火の口に舌を入れてくる。それを予想していた焔火は、覚悟してそれを迎え入れる・・・ 「ングッ!!?」 筈だったが、それは朱花が口に頬張っていたカプセルを焔火の口内に押し込んだことから崩れ去る。 突如感じた異物感に焔火は何とか吐き出そうとするが、朱花の舌が邪魔で吐き出せない。そして・・・ 「ゴクッ!!」 飲み込んでしまった。驚愕する焔火を余所に朱花は妹の舌を絡め取り、貪り尽くす。数分後・・・焔火の体に異変が起きる。 「(な、何・・・!?体が・・・熱い!・・・頭が・・・ボーっと・・・)」 「・・・フフッ。体がすごく火照ってきたでしょ、緋花?実は・・・さっきあなたが飲み込んだカプセルは・・・調合屋さんに渡されてた最後の新薬なの♪」 「(なっ!!?)」 智暁は、ニヤける顔を何とか抑えながら目を見開く焔火に説明を続ける。どうせ、もうすぐまともな思考状態を保てなくなる。 「最後の新薬は・・・とっておきの媚薬剤!!あなたに投与された自白剤や筋弛緩剤、そして何時も使っている薬物以外の薬・・・つまりは媚薬剤の中でも飛びっきりの極上品です。 一度飲んだら、効果が薄れるまで緋花は快楽の深奥に一っ飛び!!薄れても何時も使っている薬との相互作用で丸1日は体中が極度に性感帯化するという、 エロの世界への導き手に最も優秀なお薬です!!朱花・・・私にも吸わせて。風路さんも一緒に」 「ムグッ!!?モグッ!!?」 種明かしをした智暁と鏡子が、焔火の唇の端にそれぞれ唇をくっ付ける。朱花と共に2人の舌が焔火の口内へ侵入、少女は3枚舌の侵略に晒される。 そして・・・それを今の焔火は気持ちいいと感じてしまう。もっと欲しいと思ってしまう。体が求めてしまう。 「・・・プハッ!まぁ、最後の一線であるあなたの処女はまだ奪わないであげます。いきなり潰す程、私は鬼畜じゃありません。風路さんと同じく鮮度も保っておきたいですし。 但し・・・その一歩手前までの術ならふんだんに使わせて貰います。『電撃使い』の朱花も参加していますからね。朱花・・・例のヤツを左胸の先に」 「・・・(バリバリ)」 「ングッ!!!ゴクッ!!!クウウウウウウウウウウゥゥゥゥッッッ!!!!!!」 焔火の右胸を揉みながら、智暁は朱花に左胸への仕置きを命じる。それすらも、今の焔火は快感と受け取ってしまう。 「緋花・・・欲しいんでしょ?欲しいって自分の口から言ってみなさい?ほら・・・そうすればまた快楽を味わえるわよ?朱花・・・今度は右の胸へ」 「・・・(バリバリ)」 「ハアアアァァンン!!!・・・・・・しい・・・欲しい・・・もっとぉ・・・もっとぉぉ・・・!!」 「聞こえな~い。もっと大きな声で!」 「もっとぉぉ・・・もっと私にいいぃぃ・・・!!」 「フフ~ン・・・了解です♪それでは、お待たせしました。皆さんには、緋花の下半身をお任せします♪それでは、緋花の調教・・・スタートです♪」 「~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」 そして、再開される原始の宴には無かったであろう催し。快楽の坩堝に叩き落された焔火は、もはや自分が誰なのかすらもわからなくなる程快感の虜と化した。 「(ビリビリ)・・・(グアアアアアンン)・・・(ギリッ、ギリッ)・・・(バチバチ)・・・(ン゙ン゙ン゙)・・・(シュー)・・・・・・」 「(あぁ、ああああぁぁぁ・・・・・・わ、わた・・・だ、だれ・・・・・・も、もぅ・・・わけわかん・・・あああぁぁぁ・・・あああああああぁぁぁぁぁ・・・)」 「良い舌使いよ、緋花♪その調子で、もっと風路さんを楽しませてあげなさい。 そしてもっと喘いで、もっと乱れて、底まで堕ちるの♪フフッ。それじゃあ、私も下を味わいますか♪ムニュ!」 「(みだ・・・みだれ・・・ああああぁぁぁ・・・・・・もっと・・・もっと・・・・・・わたし・・・おちて・・・・・・あぁん、はぁん・・・きも・・・ちい、いぃ・・・)」 女達の舌が、歯が、手が、肌が、器具が、純情な少女の体を覆って行く。性感帯として感じてしまう全ての感覚器を大いに刺激し、少女は何度も喘ぎ、そしてヨガリ狂う。 失神を何度も繰り返し、その度に電撃で叩き起こされ、果ては自ら他の女の体を求めてしまう。智暁の命令にも本能的に従ってしまう少女は・・・邪な百合の楽園で乱れ咲いた。 「シュー・・・シュー・・・」 最後の新薬を飲んでから数時間が経った今も、薬の効果は中程までも切れていない。 数多の搦め手を受けて、体に力が殆ど入らない少女は涎を垂らし続けていることにさえ気付かずにか細い息を吐き続けていた。 あの後、トドメとばかりに体中にローションを塗られて更なる快楽の坩堝で溺れた少女。思考能力は幾分回復したものの、まだ完全には程遠い。 そんな彼女の大きな胸に顔を埋めている智暁は、心地良い疲労をその身に感じていた。 「・・・(コリッ)」 「ヒグッ!!」 「・・・フフ~ン♪やっぱりここが一番弱いですねぇ。朱花の電撃を何度も浴びて完全に腫れちゃってますけど・・・薬も手伝って超敏感ですよね・・・(ガリッ、ガリッ、ガブッ)」 「ングッ!!ハグッ!!クウウウウウゥゥゥッッ!!!!!」 「・・・フフッ」 「ハァ・・・ハァ・・・うううぅぅっ。も、もぅ止めて・・・止めてよぉぉ」 弄ばれ続けた焔火は、もう弱音しか吐くことができなくなっていた。これ以上自分の体を冒されたく無い。でなければ、体も精神もいよいよおかしくなってしまう。狂ってしまう。 湧き上がる恐怖から、少女は泣きながらこれ以上の調教を中止するよう求めるが、その態度が調教主の機嫌を損ねてしまった。 「・・・まだ、口答えする気力が残ってるの?朱花に人殺しをさせてもいいの?」 「お、お姉ちゃん・・・は・・・駄目。うううぅぅっ・・・・・・で、でも・・・だって・・・・・・だってぇぇ」 「だったら頑張りなさい。・・・皆さんもお疲れのようですけど、まだまだやっちゃって下さい!私も頑張りますから!えいっ!」 智暁の視線の先には、焔火の体にもたれ掛かっている女性陣―朱花や鏡子も含む―が居た。全員汗だくだくである。 だが、調教主の命令は下された。その先駆けとして、智暁は焔火の赤く腫れた敏感な部分を握り潰す。 「アアアアアアアァァァァッッ!!!アアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!!」 「これは、『ブラックウィザード』に残る判断をして良かったですねぇ。緋花・・・これからも愛玩奴隷として飼って、思いっ切り可愛がってあげますからね♪・・・(ギリリッッ)」 「アァン!!や、止めてぇぇ・・・止めてよおぉぉ・・・・・・ヒギッ!!ハァン!!」 「緋花だって本当は嬉しいんでしょう?緋花は、もう体も心も責めを悦ぶ状態になっているのよ?フフッ・・・ほら、あなた達も私と一緒に味わいましょう!せーの・・・(ガブッ)」 「「「(ガリッ)」」」 「アアァァンン!!!!!アアアアアアァァァンンン!!!!!」 「愚妹・・・うるさい・・・(ギリッ)」 「グウウウウウウゥゥゥゥッッ!!!!!」 「薬・・・私も・・・欲しい・・・(ムニュ)」 「ングッ・・・チュルッ・・・ピチャッ・・・!!!」 智暁は、再び焔火の胸に顔を埋める。両胸を両手で捏ね繰り回し、その弾力を楽しみながら傍に居る女性達と共に歯先で胸の先を齧り回る。 朱花は妹の嬌声を黙らすために下半身を責め、鏡子は何を思ったのか焔火の口内を貪る。責められる下半身が不自然に震え、接吻によって舌と共に唾液と唾液が交じり合う。 「さっさと受け入れちゃいなさい。そうすれば楽になれるわよ?。皆と一緒にずっと百合の世界で楽しみましょ?こうやってね!・・・(グリリリリッッッ)」 「ッッ!!ッッッ!!!」 「(ジジジ)・・・(ペロッ、ペロッ)・・・(グウウウンン)・・・(ガリッ、ガリッ)・・・(ズプッ、ズプッ)・・・(ビビビ)・・・・・・」 「~~~~~~~~~~~!!!!!」 その他の女性陣も智暁の命令を受けて各々器具を持って焔火の体を覆い尽くし、調教を再開した。不自然な震えが体全体に及び、再び意識が飛び始める。 恥辱の涙を流し続ける少女は、智暁を始めとした女性陣の責めによって再び快楽の坩堝へ引き摺り込まれて行く。 「(わ、わわ、私・・・・・・ずっと・・・・・・このま、ま・・・?飼われて・・・溺れる・・・奴隷の・・・まま?)」 鏡子に口を塞がれている焔火は、意識が朦朧としている中で自分の乱れた姿に深い哀情を覚える。朱花と共に、この先もずっと愛玩奴隷として薬を投与され続け快楽に身を埋める。 今も、自分は押し寄せる快楽に喘いでいる。快感にヨガリ狂っている。そんな現実に慣れつつある自分に・・・底無しの恐怖を感じた。 「(嫌・・・嫌ぁ・・・嫌ああぁぁっ・・・!!た・・・たす・・・助け・・・て・・・!!だ、誰か・・・助けてぇぇ・・・!!!)」 かつて、自分はある警備員に助けて貰ったことがあった。彼に憧れ・・・彼のような人間に・・・困っている人を助けられるような“ヒーロー”になりたい。そう考えていた。 ドンドン!!! 「 智暁!!入るよ!! 」 「えっ!!?ちょ、ちょっと待って下さい!!10秒だけ!!」 「 緊急事態だ!!早くしろ!! 」 「緊急事態!!?み、皆さんも早く服を着て!!風路さん!!緋花の下着だけでも直して!・・・・・・よしっ!完了!!どうぞ!!」 そんな“ヒーロー”になるために、ゴリラ顔の“ヒーロー”に教えられたのが風紀委員。風紀委員になり、皆の力になれば“ヒーロー”になれる。 そう教えられ、彼女は風紀委員となった。嬉しかった。これで、自分もあんな“ヒーロー”になれる。そう思っていた。 「 智暁!!焔火緋花と鏡子を、すぐにここから移動させる!!この部屋はマズイ!! 」 「な、何かあったんですか!?」 「 第17学区の・・ここ周辺の上空に、『シンボル』が現れた!! 」 「ッッ!!?」 しかし、風紀委員になって1ヶ月程経ったある日に出会った“先輩”に敗北してから彼女の人生は大きく変動した。難攻不落の道と化したと言ってもいい。 “風紀委員の『悪鬼』”と出会い・・・“『シンボル』の詐欺師”とも出会い・・・自分の抱いて来た思いを否定され・・・自分の未熟さを指摘され・・・悩み苦しんだ。 「 ここには、型板ガラスが1つ設置されている。普通は外からは中の様子を察することはできないが、あの“変人”は光学系能力者だ!! 」 「はっ!!もし、能力を使ってここを走査されたら・・・」 ピカーッ!!! 「 !!! 」 「!!!」 そして現在、借物の“ヒーロー”像を抱いていた少女は己の矛盾に気付かされた後に敵の手に堕ちた。仲間を死なせ、姉を奪われた。自分に絶望した。底無しの恐怖に染まった。 幼い頃から抱いていた夢が儚い幻となっていく・・・『“ヒーロー”になりたい』という想いが消えていく・・・ 「(誰・・・か・・・・・・助けて!!!!!)」 ドカーン!!!!! それは、少女が待ち望んだ“ヒーロー”では無かったのかもしれない。かつて自分を助けてくれた『他者を最優先に考える“ヒーロー”』とは違う“ヒーロー”。 でも、根幹は同じ“ヒーロー”。最優先に置くものだけが違う“ヒーロー”。そう・・・彼は『自分を最優先に考える“ヒーロー”』。“ヒーロー”を辞めた筈の・・・“英雄”。 “ヒーロー”に憧れ、目指し、堕ちた少女の心の悲鳴(さけび)に応えるかのように、儚くも気高き運命(さだめ)を背負った“英雄”は血塗られし戦渦へ再び舞い降りる。 “希望”と“絶望”を宿した光をその身に纏い、世界の一部足る存在として『いわれある暴力』を振るうために・・・光臨した。 「緋花ああああああぁぁぁぁっっ!!!!!鏡子おおおおおおぉぉぉぉっっ!!!!!」 涙に溢れた焔火緋花の瞳に映った―『“ヒーロー”になりたい』という幻想(ゆめ)が消え逝くのを止めた―碧髪の男の名は・・・“閃光の英雄(ヒーロー)”・・・・・・界刺得世!!! continue!!
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バロックウィザード 魔導院の宝箱から入手できるウィザードウィッグを使ったコーディネート。 ルヴィッサのMPを上昇させる唯一のコーディネート。 また精神力の補正値もかなり高い。 幻灰のローブを買っているなら試してみてもいいかも知れない。 使用アイテム ウィザードウィッグ (頭) 幻灰のローブ (体)
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「・・・・・・」 煌々と照り付ける太陽の光さえ路地裏には届かない。逆に影で覆われている程だ。 そんな『闇』に染められた世界に、その“怪物”は居た。“世界(ちから)に選ばれし強大なる存在者”・・・傭兵ウェイン・メディスン。 「(あ、あれは・・・界刺さんが襲われた殺人鬼・・・!!!)」 「(な、何でこんな所に・・・!!?)」 殺人鬼の正面に居る176支部の焔火と後方に居る178支部の真面が、偶然という名の運命を呪う。 確かに界刺には忠告されていた。『ブラックウィザード』を追っている自分達は、同じく追っているこの殺人鬼と接触する可能性が高いと。 だが、こんなにも早く遭遇するとは夢にも思わなかった。自分達が力を合わせて挑んでも返り討ちを喰らう可能性が高い殺し屋。 その男―ウェイン・メディスン―の視線は未だに地面を彷徨っている。正面に居る176支部の面々を見ようともしない。 火の付いた煙草の紫煙が、路地裏を通り抜けて行く風に煽られるかのように流れて行く。 「・・・・・・妙だな」 「「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」」 ウェインが言葉を零した瞬間、路地裏に凄まじい殺気が撒き散らされる。体が・・・震え出す。 「その反応は妙だ。俺は貴様等と会ったことは無い。監視カメラや警備ロボットが居ない道を歩いて来た上で遭遇したということは、貴様等がここに居るのは偶然なのだろう」 相も変わらず視線を合わさない。だが、その声には途轍も舞い殺意が込められていた。 「だが、貴様等の反応は俺の風貌に驚いたというものでは無い。俺という存在を知った上での反応だ。・・・俺の問いに答えて貰おうか・・・風紀委員?」 視線が・・・上がる。殺気が・・・爆発する。 「貴様等・・・何処で知った・・・!!?」 「「「「「「「「「「・・・!!!!!」」」」」」」」」」 声が出せない。戦慄する程の殺気に当てられ、歯が人知れずカタカタ音を鳴らし始めた。 数の上ではこちらの方が圧倒的に優位なのに、持てる実力という1点において風紀委員達は圧倒されていた。 「(マ、ズイ・・・!!!この男は・・・ヤバイ!!!)」 後方に居る浮草は、本能的に命の危険を察知する。浮草自身、これまでにもそれなりの戦闘経験はあった。レベルが低いながらも、それなりに体を張って来た。 だが、目の前の男はそんな次元では無い。刃向かえば殺される。それを瞬時に悟ってしまう。 「う、浮草先輩・・・!!ど、どど、どうする・・・んです、か・・・!!?」 隣に居る蒼白状態の真面が、支部のリーダーである浮草に問いを発する。浮草からすれば、速攻で逃げるしか無いと考えていた。 あの“変人”の言った通りの対処法。己の命を最優先に考えるなら、それしか思い付かない。 だが・・・果たしてこの距離であの殺人鬼から逃げ切れるのか?その具体的な方法は?今の浮草には思い付かない。正常な思考能力が奪われていたが故に。 「・・・“変人”に聞いたんだよ、殺人鬼」 「稜・・・!?」 誰もがウェインの殺気に圧倒されていた中で、震える体を叱咤して何とか踏ん張っていたのは“剣神”神谷稜。 彼は、殺人鬼の空気に仲間が完全に呑まれている現状に危機感を抱いていた。 だから、この現状を打破すべくあの男の存在を口にする。風紀委員にとって、今や忘れることができない存在となった“変人”を。 「“変人”・・・?」 「あぁ、そうだ。無駄にキラキラした“変人”って言った方がわかりやすいかよ?」 「キラキラ・・・・・・・・・あぁ。あの男か」 神谷の言葉からウェインは以前暇潰しで殺し合いを行い、結果として生き残った碧髪の男を思い出す。 「奴は・・・貴様等の仲間か?」 「んなわけあるか!あの野郎は・・・ムカついてムカついて仕方無ぇ“変人”だよ!!」 「そうか・・・。ククッ、成程な。奴に聞いたのであれば合点も行く。疑って悪かったな、風紀委員。ならば、貴様等に用は無い。・・・道を開けて貰おうか?」 「(あれ・・・?体の震えが・・・止まった?)」 焔火は、先程まで震えに震えていた体が落ち着いているのに気が付く。ウェインが、己が殺気を引っ込めたのが原因である。 「『用は無い』・・・?」 「そうだ。貴様等は、俺の敵でも標的でも無い。言わば、無関係の人間だ。俺は快楽殺人者では無い」 「・・・『ブラックウィザード』を追っ掛けてるって聞いたけどな?」 「ほぅ。あの男・・・やはり侮れんな。強者か弱者かは未だに定かでは無いが、少なくとも俺の目で見極めるに値する人間のようだ。思考も興味深いしな。 ククッ、次に相見える時が更に楽しみになった。『本気』で殺してやろう・・・“変人”・・・!!!」 「テメェ・・・!!」 自分達は眼中に無い。今この男が脳裏に浮かべているのは、あの“変人”。目の前に居る風紀委員では無く。 「あぁ、質問への返答がまだだったな。・・・それがどうした?貴様等も『ブラックウィザード』を追っているとして、それが何の障害になる? 俺は障害になる者には一切容赦しないが、貴様等程度が俺の仕事を阻む障害になるとは到底思えんが?精々、鬱陶しい“障害物”と言った所か?ククッ。 俺の殺気に怯えた貴様等など、俺にとっては弱者でしか無い。あの“変人”は、俺の殺気を浴びて緊張を見せても怯えは見せなかったぞ? そんな弱者の言動を、強者である俺が何故気に掛けなければならないのだ?貴様等のみすぼらしい矜持等、俺の知ったことでは無い。 強者の気持ちが強者にしか真に理解できないのと同じく、弱者の気持ちは弱者にしか真に理解できん。・・・もう一度だけ言ってやろう。貴様等に用は無い」 「「「「「「「「「「・・・!!!」」」」」」」」」」 ウェインが放った“障害物”発言に、神谷だけでは無く他の風紀委員達の心に火が灯る。それは、対抗心という名の炎。 この殺人鬼は、完全に風紀委員を弱者だと決め付けた上に舐め腐っている。単なる“物”扱いだ。それは、風紀委員の矜持に深い傷を負わせる一撃だった。 「・・・気に入らないという目付きだな」 「当たり前だろうが・・・!!!テメェは、弱者をどうでもいい存在と考えてやがる!!そんなことを、俺達が認められるわけが無ぇだろうが!!!」 「・・・では、この例えなら貴様等にも理解できるか?あそこにある蜘蛛の巣を見るがいい」 「何・・・!?」 ウェインが指を指す方向の延長線上に、蜘蛛の巣と蜘蛛の巣に囚われた蝶が居た。 「この世界には、様々な生けるモノが存在する。各々は個と言う存在を与えられ、己が生命を全うせんがために懸命に生きる」 蝶は蜘蛛糸によって身動きが取れず、巣の主である蜘蛛は獲物を食さんと歩を進める。 「だが、悲しきかな。この世界には様々な理が存在する。その1つが・・・弱肉強食。弱者は強者に虐げられる。強者は弱者を虐げる。これは、厳然たる事実だ」 尚も足掻く蝶。だが、蜘蛛の牙が蝶に突き刺さる。そして・・・ 「風紀委員よ。貴様等はこの理に善悪を付けられるのか?俺達人間も、様々な命を犠牲にすることで今ここに立っているのだぞ?」 「そ、それは・・・!!」 神谷は、ウェインの問いに答えられない。何故なら、ウェインが言っていることは紛れも無い現実の1つだからだ。 「ククッ。だが、俺はそんな非情で無慈悲なこの世界が大好きだ。世界の一部足る存在として、この俺の存在さえ認めているんだからな」 「テメェの存在を・・・!?殺人なんていう異常な行動を平然と行っているテメェみたいな殺人鬼をか!!?」 「異常・・・?ククッ・・・クククッ・・・クククククッッ・・・!!!」 「い、一色・・・!!な、何アイツ・・・。気味が悪い・・・!!」 「お、俺だって鏡星先輩と同じ気持ちですよ・・・」 抑え切れない笑い声を漏らすウェインから、鏡星と一色は嫌悪の感情を抱く。直後、ウェインは神谷の目を見てこう断言する。 「俺は正常さ。何故ならこの正常な世界が俺の存在を認めているからだ。善悪を論じる事に意味など無い。 ククッ、例外無くあらゆる存在を認める・・・この世界が、俺はたまらなく愛おしい」 「・・・!!!」 「(な、何だか・・・)」 「(界刺さんと似たようなことを言ってる・・・!!)」 ウェインの断言に神谷は更なる苛立ちを露にし、加賀美と焔火はウェインの在り方に界刺の面影を見る。 「・・・さて、これ以上は時間の浪費だ。道を開けるか開けないか。さっさと決めろ」 「・・・開けないって言ったら?」 「貴様等“障害物”を排除する。刃向かうのなら殺す。通行の邪魔だ」 「り、稜・・・!!」 ウェインが、風紀委員達に決断を迫る。彼の言うことを信じるのならば、今のウェインには風紀委員と戦闘する意思は無い。 このまま道を開ければ、自分達には何の害も無い。だが・・・それは殺人鬼の存在をみすみす放置することと同義だ。今目の前にいる危険極まる男を。 「加賀美先輩・・・許可を!!」 「稜!!だ、駄目だよ!!あの人にも言われたでしょ!?『逃げろ』って!?」 「・・・俺達は何のために風紀委員になったんだ?こんな人間の存在を許すためになったのか?違うだろ!!?」 「そ、それは・・・!!」 「・・・・・・神谷先輩と同じ意見」 「香染!?」 神谷の同じく戦闘体勢に入るのは、176支部最年少の姫空。頭に載せていたゴーグルを装着した彼女は、語気を強めて己がリーダーに進言する。 「・・・私達は学園都市に住む人達を守るために風紀委員になった。・・・そんな人間が殺人鬼を目の前にして退く?・・・絶対に有り得ない!!!」 「・・・姫空ちゃんが戦るっていうのなら、この世の女性全てを愛する俺が、指を咥えて見ているわけにはいかないね」 「あの殿方の脅威になる可能性は・・・全て根絶やしにするわ!!」 「エリートであるこの私の足を引っ張るなよ、お前達?」 「(皆・・・!!言いたいことはわかるけど、界刺さんの忠告をガン無視していいと本気で思ってるの!!?)」 姫空・一色・鏡星・斑が神谷と意見を揃えるのを目の当たりにして、加賀美の心は板挟み状態となる。 確かに神谷達の言っていることはもっともだ。風紀委員として、殺人鬼と呼ばれる人間を放置することなど言語道断であろう。それは、加賀美も十分に理解している。 だが、この殺人鬼は尋常じゃ無い。あの界刺が『逃げろ』と忠告する程の人間だ。それは、こうして対峙したことからも十二分に理解できた。 「浮草先輩!!どうします!?このままだと、あの連中・・・!!」 「・・・くそっ!!」 一方、真面と浮草は神谷達の行動に苦虫を噛み潰すような表情を作る。彼等は、この場での戦闘は行うべきでは無いと考えている。 だが、真面の言うことなど神谷達が了解するわけも無い。そして、浮草には神谷達を抑え切れる程の力と実績が無い。 「・・・で、結局どうするんだ?」 「・・・チッ!・・・テメェを務所にぶち込んでやるよ、殺人鬼!!!そこで、テメェに相応しい罰を受けるんだな!!!」 「稜!!!」 ウェインの確認に、神谷は遂に加賀美を無視して戦闘する意思を表明する。姫空・一色・鏡星・斑も、神谷と同じ意思のようだ。 「ひ、緋花ちゃん!!」 「・・・ゆかりっちは私が絶対に守るから!!」 「(それって・・・緋花ちゃんも神谷先輩と同じ意見ってこと・・・!!?)」 葉原を守ると宣言した焔火の体に青白い電流が迸る。明確な戦闘意思。それを感じ取ったウェインは、顰めていた殺気を再び解放する。 「「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」」 もう、後戻りはできない。この邂逅に終わりがあるとすれば、すなわちそれは『生』と『死』。デッドオアアライブ。 その中心に居る“怪物”は、煙草を咥えたままこう告げる。風紀委員達に対する『死』の宣告を。 「貴様等がこの俺を裁くというのか・・・風紀委員よ?フッ、面白い。ならば『死』という名の結果を以って、貴様等の下した審判を覆してみせよう・・・!!」 ピロロロロロロロロロ~ 「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」 今まさに殺し合いが始まろうとした瞬間、ウェインから携帯電話の着信音が聞こえて来た。 「・・・・・・俺だ」 水を差された形になったウェインは、不機嫌を露にしながら電話に出る。 「・・・・・・あぁ。少し道が混んでいてな。・・・・・・あぁ、その通りだ」 神谷達は戦闘体勢を解かずに、ウェインの出方を待ち構える。 「・・・・・・わかった。依頼主(おまえ)の言う通りにしよう。・・・・・・あぁ」 内容はわからないが、ウェインの受け答えを観察する限り彼の雇い主かそれに関係する人間からの連絡と当てを付ける。そして、ウェインが電話を切る。 「命拾いしたな、貴様等」 「どういう意味だ!?」 「俺の依頼主は、今の段階では余り派手な戦闘を好まないようだ。『騒ぎになるようなことは止めてくれ』と懇願された」 ウェインは上空を見上げる。そこには、夏の青空が広がっていた。 「まぁ、貴様等に道を開けて貰わなくても別に支障は無い。他の道で行くだけだ」 「(コイツ!!噂の糸を操る能力で上へ逃げるつもりか!!)」 神谷はウェインの狙いを看破する。 「では、さらばだ。命が惜しければ、あの“変人”の言う通りにするんだな。俺も仕事に無関係な人間が尻尾を巻いて逃げる姿を追う趣味は無い」 「!!!」 「テ、テメェ!!」 神谷の言葉もウェインには届かない。すぐにでもこの場から離脱するつもりの殺人鬼が放った言葉に、焔火はかつて浴びせられた言葉を思い出す。 『現実に抗いつつも己が信念を貫き通したいのならば、それに見合うだけの力が要る。 女。今のお前にはそれが無い。俺の言葉に迷い、移ろい、ブレてしまったお前の信念に・・・貫き通す価値は無い。よくよく考えることだ。後悔する前に。 それまでは・・・生かしておいてやろう。では、さらばだ。俺の“後輩”』 「(私は・・・また生かされるの?)」 体を駆け巡る電流が、その速度を増す。 『テメェは・・・色んなモンから逃げる“ヒーロー”になりてぇのか?そんなんで、本当に“ヒーロー”になれると思ってやがんのか?』 「(私は・・・また逃げるの?)」 拳を強く、強く握り込む。 『・・・俺達は何のために風紀委員になったんだ?こんな人間の存在を許すためになったのか?違うだろ!!?』 「(そうよ・・・。私は、あんな殺人鬼を野放しにするために風紀委員になったわけじゃ無い!!)」 鋭い眼光が殺人鬼を射抜く。 『自分のことを最優先に考えられない人間に他者を救えるわけが無い』 「(自分の命欲しさに、一般人に危害を及ぼすかもしれない人間を見逃す・・・!?それこそ、完全な独り善がりじゃない!! 私が今まで必死になって頑張って来たのは、あんな人間から尻尾を巻いて逃げるためなんかじゃ無い!!あんな人間から色んな人達を守るために、自分を磨いて来たのよ!!)」 それは、まるで火花のように迸った感情の爆発。冷静さなんて欠片も無い幼稚な行動。界刺得世の言葉を完全に勘違いしているが故の・・・“暴走”。 「だあああああああぁぁぁぁっっ!!!!!」 「焔火!!?」 「緋花!!?」 電流の鎧を身に纏い、身体能力も強化した焔火がウェインに突進して行く。その“暴走”に、神谷と加賀美は驚愕する。 「焔火ちゃん!!?」 「馬鹿!!」 ウェインの後方に居た真面と浮草も、焔火の“暴走”に驚く。 「・・・ほぅ」 そして、中心に居る陰気な男は突っ込んで来る少女に視線をゆっくり向ける。 「・・・そんなに・・・」 少女と“怪物”の視線が交錯する。 「死にたいか・・・!!?」 「!!?」 濁流が如き殺意の圧を急に叩き付けられた焔火の挙動が一瞬緩む。まだ慣れていないのか、電流の鎧が不完全状態となる。 その僅かな隙に、ウェインはノーモーションで服に忍ばせていたナイフを投擲する。 「くっ!!」 近距離+不意打ちの投擲に、しかし身体能力の強化は解かなかった焔火はギリギリで避ける。 風紀委員の腕章を掠めそうで掠めなかったナイフの軌道を目で追い・・・気付く。己が行動の過ちに。 「えっ・・・?」 「しまっ!!?」 焔火の直線上に居た少女・・・葉原ゆかり。日頃から後方支援に就く彼女は戦闘慣れしていない。 また、焔火が壁になっていたことでウェインがナイフを投擲したことにも気付いていない彼女に、襲い掛かる凶器を防ぐ手立て等無かった。 「させるか!!」 「!!!」 だが、襲い掛かる凶器を一色が防御する。一色の能力『柔軟掌底』は、手に触れた物体を柔らかくする能力である。 これは一色本人が『○○を柔らかくする』という意識があって初めて成り立つために、今回のような不意打ちには本来対応できない能力である。 それなのに何故『柔軟掌底』を行使できたかと言うと、界刺の情報から凶器の類を予め予想していたのと、 女性に関わることなら一色の頭脳は最高潮に活性化するからである。結果、ナイフはその切断能力を喪失し、地面に墜落する。 「大丈夫かい、葉原ちゃん!?」 「一色君!!」 「行くぞ!!鏡星!!斑!!姫空!!」 「ええ!!」 「命令するな!!愚民め!!」 「・・・・・・潰す」 「くそっ!!止まらないか・・・!!」 焔火の特攻を切欠に、176支部の面々が各々行動を開始する。 「真面!!こうなったら、俺達も気構えだけはしておくんだ!!何時でも戦えるように!!」 「りょ、了解!!」 後方に居る178支部の浮草と真面も、ここに来て戦闘する覚悟を決める。 「あなた・・・!!よくもゆかりっちを・・・!!」 「仕掛けて来たのは貴様の方だぞ?」 中心で戦闘しているのは、電流の鎧を纏い直した焔火とウェイン。と言っても、攻撃しているのは焔火だけ。ウェインは、焔火の攻撃を避けてばかりである。 「(この一撃をかわされた後に、タメ無しの電撃の槍を喰らわせる!!)」 この状態の焔火は、タメ無しで電撃の槍を放つことができる。能力発現の前兆等、常に帯電状態にある彼女からは察知することはできない。 ウェインの身体能力の高さは、界刺から聞き及んでいる。おそらく、今の自分の状態でも敵わないかもしれないのは承知の上である。 今の焔火は、熱くなりつつも冷静であった。これは、まがりなりにも戦闘経験を積んだ証。かつて味わった屈辱を体は覚えているのだ。 「(今!!)」 焔火の予想通りの行動を取るウェイン。かわされることでできた隙に仕掛けて来るこの男を、電撃の槍で射抜く。そして、雷速の電撃が迸った。 ヒュン!!! バリッ!!! 「なっ!!?」 焔火にとって信じられない光景が目に映った。なんと、雷速の電撃(タメ無し)をウェインが避けたのである。 挙動的に能力を使ったものではあるだろうが、それでも焔火には理解できない行動だった。一方、ウェインは『蛋白靭帯』による回避を行ったために焔火との距離が離れた。その瞬間・・・ 「ハアアアァァァッッ!!!」 “剣神”と謳われる神谷が、ウェインの後方から『閃光真剣』を振り下ろして来た。タイミング的に避け切れないプラズマブレードを用いた速攻。だが・・・ ジャアアアアアァァァッッ!!! 「何!!?」 「・・・・・・」 ウェインの着ているコートから、無数の糸が突き出て来たのだ。 繊維の網を掻い潜って来た糸が一瞬で太さを増し、何重にも織られたことによって形成された鎧が鋼鉄さえ叩き切る高温の『閃光真剣』を受け止めている。 その事実に一瞬気を取られた神谷に、ウェインの掌からこれまた太さを増した糸によって編まれた砲弾が射出される。 「くっ!!」 だが、神谷は驚異的な反射神経でそれをかわす。生身でこんな芸当ができるのは、176支部内において神谷しかいない。だが・・・ グン!!! 「うおっ!!?」 かわした直後にその砲弾から伸びた糸が神谷の背中に張り付き、結果として空中へ飛ばされる。 ジャキ!!! 「!!!」 しかも、砲弾の底の部分が針状に変化する。砲弾はすぐに路地裏を形成している建物の一角に突き刺さる。その瞬間に神谷を串刺しにするつもりなのだ。 「らああああぁぁぁっっ!!!」 それは、思考を経た行動では無い。本能の赴くままに取った行動。神谷は瞬間的に『閃光真剣』の形状を“剣”から“マット”状にし、全力で砲弾を削り取る。 ドン!!! 「グハッ!!」 建物の壁―正確には水道管―に激突する神谷。砲弾が激突したことで水道管が破壊され、水が勢い良く漏れ出した だが、針状の糸はギリギリ削り取ることに成功した。だが、落下による命の危険はまだ続く。 ブオオオオン!!! 「グアッ・・・!!痛っ・・・。ま、斑・・・もう少し優しくできねぇのかよ!?ちったぁ、一色を見習えってんだ!!」 「何故エリートである私が、貴様に対して優しくしなければならないんだ?」 「稜!!だ、大丈夫!?」 「な、何とか・・・!!んの野郎・・・!!」 落ちて来る神谷を、斑が『空力使い』による風の噴射で乱暴に救い出す。 加賀美の声に反応し、怒りに満ちた神谷の視線の先に居るのは、先程一色の手によって使い物にならなくなったナイフを糸で拾うウェイン。 「・・・余計な出費がかさむな。俺が気に入るナイフは早々見当たらないんだが。暇潰しの代償としては、些か以上に損失の割合が大きいか・・・?」 「暇潰し・・・!!?よ、余裕綽々って感じだね・・・!!!」 「舐め腐ってるわね・・・!!それにしても、あの糸・・・神谷の『閃光真剣』を防げる強度があるのよね!?」 「エリートである私を含めたチーム相手に、たかがナイフ1本失っただけで損失大だと!?殺人鬼風情が・・・!!しかし、神谷のように近距離戦を仕掛けるのは分が悪いか?」 余裕の態度を崩さない所か、暇潰し感覚で戦闘を行っているウェインに対して加賀美が正直な本音を漏らし、鏡星と斑が今後の方針について協議する。 「緋花ちゃん!!お、落ち着いて!!」 「わ、わかってるってば!!近距離戦のスペシャリストを自負する神谷先輩の苦戦っぷりを見てると、さすがの私でも1人じゃ突っ込めないよ・・・!!」 近くでは、葉原が焔火を落ち着かせようと懸命になっていた。その形相は、必死そのものである。 その焔火は、先程の光景もさることながら“剣神”と謳われる神谷が一杯喰わされた光景を見て、突っ込むに突っ込めなくなっていた。 「・・・・・・私が仕留める。・・・斑先輩・・・鏡星先輩・・・力を貸して!!」 「「姫空・・・」」 遠距離戦において一撃必殺の能力を有する姫空が、斑と鏡星に助力を頼む。 「・・・俺があいつを引き付ける。その間に・・・!!」 「私も行きます!!」 「焔火・・・。俺の足を引っ張るんじゃ無ぇぞ!!」 「了解です!!」 次いで、神谷と焔火がウェインの引き付け役に志願する。あの殺人鬼をここで仕留めるために。 「加賀美先輩!!ど、どうするんですか!?」 「今の私じゃあ、稜達は止められない。言っても無視するだけ!!こうなったら・・・やるしかない!!(さっきの緋花の行動・・・あれが界刺さんの言ってた“我”!?)」 葉原の問いに、加賀美は自分の力では事態の収拾を図れないことを吐露する。問題児集団が本気で動けば、リーダーである自分の意見さえ無視する。 (鏡星と斑はこの中でも加賀美の意見に従う方だが、今は己の愛しき殿方を守るために鏡星の思考が“排除”という方向に向いてしまっている。 一方、斑は表向きだけであり、いざという時は加賀美の指示を無視するきらいがあった。それが、今この時である) 焔火に至っては現在指導中真っ盛りなのだが、戦場ということもあってか精神が高揚し過ぎている。 「行くぞ!!」 「はい!!」 リーダーの苦悩は、今この戦場では部下に伝わらない。今までは、それで全て成し遂げて来た。苦情等はあっても事件を解決にまで導いて来た。結果を出し続けて来た。 「・・・・・・」 だが、彼等が相対するのは“世界に選ばれし強大なる存在者”・・・ウェイン・メディスン。“存在者”が振るうは、『蛋白靭帯』という名の『暴力』。 彼等は身を持って思い知る。上には上が居るという当たり前の事実を。世界に選ばれた“怪物”が振り撒く『暴力』を。 神谷と焔火がウェインに突っ込んだ。『閃光真剣』を“鞭”状に変化させた神谷は、中距離からの攻撃を試みる。同時に、焔火も少し距離を取って電撃の槍を連射する。 だが、ウェインには通じない。“鞭”は糸で編まれた盾が防御し、電撃の槍は全てかわし切る。その身のこなしは、少なくとも神谷並と思わせる動きであった。 故に、神谷は瞬間的に焔火へ目配せをした後に鞭を糸の盾に“わざと”当てる。そして・・・ バリバリバリ!!! 鞭へ焔火が放った電撃が放たれる。プラズマ状態の気体は電流を非常に流しやすい。 能力の性質上、神谷はプラズマを構成する際にある程度は電子を操作することができる(電撃を発生させることはできない)。 但し、原則として陽イオンと電子の自由運動状態への固定なので、『電撃使い』が放つ電撃自体は完全には防げない。プラズマにできる空気の範囲にも限度がある。 また、それを維持している最中に外部からの多大な影響は構成を崩す要因にもなり得る。神谷の場合は、レベル3以上の『電撃使い』が放つ本気の電撃は完全には防げない。しかも、『閃光真剣』を構成する元になっているのは電導性を持つ鉄製の針である。 本来であれば弱点にもなり得るそれを逆手に取り、鞭(プラズマ)を通してウェインへ電撃を浴びせようとしたのだ。 この時点で神谷達には『蛋白靭帯』の正体に確信を持てていないが(=予想は風紀委員会でされている)、蜘蛛糸は絶縁性の性質は持っていないために電流は流れる。 無論、本気で電撃を放てば『閃光真剣』を形成している神谷にも被害が出るため、出力は抑え目に。 神谷も、焔火の電撃を糸に対して向かわせるように電子の指向性をある程度制御する。もしかしたら、制御し切れずに自分にも被害が及ぶ可能性があるのは承知の上で。 ズサアァッ!!! しかし、神谷の目配せと僅かに緩んだ挙動・焔火の目線の動きから企てに感付いたウェインが“わざと”『閃光真剣』に盾を斬らせることで、電撃が『閃光真剣』を捉えることは無かった。 もちろん、『閃光真剣』は身を捻ってかわしている。この行動と糸で感じ取った感触で、ウェインは『閃光真剣』の正体・性質に見当を付けた。 ズパアアアアアァァァッッ!!!!! ザザザザザザザ!!!!! 3人が戦闘しているその真っ最中に、上方からウェインに向かって大量の水が猛烈な速度で、圧力も増した上で襲い掛かって来た。 加賀美が己の能力『水使い』を発動し、破損した水道管を通る水全てを操作しているのだ。 同時に、ウェインの下半身を飲み込もうと地面から大量の砂が押し寄せる。これは、鏡星の能力『砂塵操作』によるものである。 自らの体積分の砂を自在に操る彼女は、砂を巻き付けることでウェインの動きを封じようとする。 遠距離からの援護を好機と見た神谷と焔火が、少し遅れて中距離からの攻撃を仕掛けようとする。 ギーン!!! だがしかし、ウェインの対処能力は凄まじい。まずは、周囲に細く張っていた糸を瞬時に太くし、巨大な槍を形成する。 穂先がドリル状になっているソレは形成途中から凄まじい回転を伴っており、その狂音は瞬間的に鼓膜を蝕む。 ドゴオッ!!! 反動を用いて加速力を得た槍は、上方から猛烈な速度でもって襲い掛かって来る大質量の激流を完璧に打ち砕いた。 この時点で、制御力という意味ではウェインが加賀美を上回っているのは明らかであった。 ババババババババ!!! 打ち砕いた槍が、すぐさまほつれて球状になる。内部に加賀美が操っていた水の大半を封じ込める形で。 防水性に極めて優れている糸は、封じ込めた水を外部には1滴たりとも出させない。加賀美も懸命に操作するが、どうしても糸を打ち破ることができない。 また、槍を射出したのと同時に破損した水道管含め、路地裏に存在する水道管全体にも糸を巻き付け、加賀美が使用する近隣からの水の出所を絶つ。 ザザザザザザザザ!!! 体中の皮膚から糸を射出する特性から並行して行った作業の内の1つは、隙間1つ存在しない蜘蛛の巣の作成。バリケードと見做したらわかりやすいだろうか。 但し、唯のバリケードよりも強度が凄まじいソレは『砂塵操作』で操られた砂を全て遮断してしまっている。 マイクロメートル単位からセンチ単位の太さで何重にも構成された蜘蛛の巣は、砂粒1つ通さない所か糸の表面に付着している粘着物質によって砂を吸着して離さない。 これもまた加賀美の水を封じ込めたのと同じく、バリケードが球状になって鏡星が操作する砂を封じ込める。 ドン!!! また、路地裏に設置されていたゴミ箱に予め飛ばしていた幾つかの糸を操作し、それ等を神谷と焔火に対する不意打ちとする。 音に反応した2人は、飛来して来た複数のゴミ箱を撃墜する。だが、神谷達の攻勢は少しの間途絶えた。加賀美と鏡星も同じく。 シュン!!シュン!!シュン!!シュン!!ズゴゴゴゴン!!! その隙に、ウェインは糸によって自分を中心とした地面の一区画を切断する。加えて、切断分に打ち込んだ糸を付近の建物を繋いで、空中へ勢い良く持ち上げる。 持ち上げられた地面から粉塵が狭い路地裏へ大量にばら撒かれ、下方に居る神谷達の動きを制限する。 ブン!!! 勢い良く持ち上げられた地面の一区画が反動を付けて、向きも調節して176支部の面々へ解き放たれる。ちなみに、ウェインは空中へ跳んでいる。 ズパアアアアアアン!!! 大質量による圧殺を狙った一撃は、しかし斑が地面に設置し束ねた『空力使い』による暴風で粉砕される。 その風圧は空中に居たウェインさえあっという間に飲み込んだ程強力であったが、瓦礫と化した地面の残骸は全て防ぎ切れない。 ガガガガガガガガ!!! ポツン!!ポツン!!ポツン!! それ等残骸を防いだのは、神谷の『閃光真剣』と加賀美の『水使い』。 神谷は“マット”状に『閃光真剣』を変化させ、加賀美は周囲に漂わせていた水を壁として、降り掛かる残骸を防ぎ切る。 ストン 暴風により粉塵が吹き飛ばされた後に映ったのは、ウェインが空中に張り巡らされた糸の上に着地した光景。 元々、蜘蛛糸はハリケーンに耐え得る性質がある。『蛋白靭帯』は蜘蛛糸を能力で生み出し、加えて蜘蛛糸以上の太さを形成することで各性質を飛躍的に向上させている。 つまり、己が身を包むための『蛋白靭帯』による繭を作成し、蜘蛛が糸を風に乗せながら飛行する行動を再現するかのように繭をパラシュート代わりとして操作。 風圧や風で飛んでくる瓦礫は全て繭で防御し、結果事無きを得たのだ。暴風で吹き飛ばされなかったのは、周囲一帯の建物や地面に繭から糸を打ち込んでいたためである。 絶大な応用力を誇るウェイン。彼が空中から風紀委員を見下ろす様は、彼我の実力差を否が応でも見せ付けているかのようだった。 「・・・そろそろ切り上げ時か。今の一撃で警備員等に気取られた可能性は高い。全く・・・外野の懇願とは言え、不殺の暇潰し(せんとう)はフラストレーションが溜まる。 何せ、如何に俺が殺さぬように注意を払っていても風紀委員(れんちゅう)が勝手に騒ぎ立てるからな。さっさと殺してしまえば話は簡単なんだが・・・外野の懸念も理解できる。 下手に『本気』を出せば、奴等諸共広範囲が屍山血河の地と化すからな。俺としては、全滅させるという手段が取れればどれだけ楽か・・・。 いや、『本気』が出せ無くとも拳銃さえ追加できれば、先の戦闘を見る限り連中の大半は速攻で殺れるのだが・・・殺してしまうからな。 表立っての殺しは後に引き摺る騒ぎになる。レベル5が相手ならば話も変わるが・・・強者というのも面倒なものだ。 いずれ、このストレスの借りは俺の信条に照らし合わせた上で返さねばな」 風紀委員には聞こえない程度にボヤくウェイン。先程までの攻撃は、全て『殺すつもりでは無い』攻撃であった。 あの程度ならば風紀委員は防ぎ切ると考えた上での行動。能力者が存在する学園都市ならではの思考である。 「あれだけの水を打ち砕いた上に封じ込めてる!!?何て強大な制御力!!!・・・というか、私の水を封じ込めた糸が空中に浮かんでる!!? 水を外に漏れ出さない性質上、椎倉先輩の予想通りあの殺し屋は人体にあるタンパク質から蜘蛛糸を生み出す特殊な肉体系能力者なんだろうけど、 それにしたって糸の操作という範囲でずっと浮遊させられるモノなの!!?そんなの、聞いたこと無い!!」 「鏡星!!全然足止めになってないではないか!!むざむざ砂を封じ込められるという失態を演じるとは!!!」 「う、うっさい!!斑の『空力使い』だって、あの殺人鬼に全く傷を負わせていないじゃない!!!それ所か、吹っ飛んでもいないし!!!」 「息も全然乱れてない・・・ま、まさかこれでも暇潰しなの!!?化物・・・!!!か、神谷先輩・・・!!」 「・・・とにもかくにも、殺人鬼を地面(した)に引き摺り下ろさねぇと。あの状態だと空中を自在に動けるみてぇだから、下手に姫空のレーザーも撃てねぇ。 姫空の『光子照射』は細かいコントロールが効かねぇからな。建物や一般人を巻き込まない角度で撃つ必要がある」 「・・・・・・ちょこまかと」 加賀美・斑・鏡星・焔火・神谷・姫空は、ウェインの戦闘能力に戦慄の念を禁じ得ない。何せ、自分達を相手取って傷はおろか息一つ乱していないのだ。 こちらから攻撃しているのに、気付けば防戦一方になっている。この現状を何とかしない限り、風紀委員に勝機は無い。 「・・・わかりました!!私が電撃を放って空中に張り巡らされた糸を除去します!!姫っちの挙動を察知されないためにも、近距離から!!神谷先輩は、私の護衛を!!」 「・・・わかった!!」 「鏡星先輩!!『砂塵操作』で、あの殺人鬼の視界を防げますか!?」 「で、できるわ!!というか、やり切ってみせる!!」 「斑・・・姫空・・・。後方支援は任せるぜ!!」 「エリートである私に不可能という文字は無い!!」 「・・・・・・嘘臭い」 176支部の面々は、再度の攻勢に出る。まずは、あの殺人鬼を地面に引き摺り下ろす。神谷と焔火が、ウェインに向かって突っ込んで行く。その矢先に・・・ スパン!!スパン!!スパン!!ドガン!!ガキン!!グカン!! 聞こえて来た切断音と破砕音。その音の発生源は、先程ウェインが切断したできた穴からである。 「・・・俺はそろそろ引き上げさせて貰う」 ビシ!!ビシ!!バシ!!バシ!! それは、空中に張り巡らされていた糸の太さが増した後に、糸の両端にある複数の建物同士を引っ張られるような音。 「ま、まさか!!?」 「挟み撃ちにする気!!?」 葉原と加賀美は、ウェインが行おうとしている凶行に恐怖と驚愕の感情を抱く。先程地下から聞こえて来たのは、両隣にある建物群の“支え”を破壊する音だったのだ。 「世界の理の加護があるなら・・・再び見えることもあるだろう」 「テメェ!!!」 ウェインは神谷達に背を向ける。その姿に神谷は殺人鬼を逃がしてしまう憤怒と屈辱を混ぜた大声を向ける。 「逃がすか!!!」 最後の攻撃。姫空は、自分が狙われる危険を冒して建物を巻き込まない位置取りを行い、『光子照射』によるレーザーを放つ。 今までウェインが目撃していない姫空の光速による遠距離攻撃。焔火のように近距離で無い分、こちらの挙動が察知される可能性は低い。 何せ、視線を向けるだけでレーザーを放つことができるのだ。だが・・・ ヒュン!!! ビュン!!! 「なっ!!?」 「では、さらばだ」 ウェインは、今まで明かしていなかった姫空のレーザーさえ『蛋白靭帯』を用いてかわした。背を向けていたのにも関わらず。 姫空もすぐに目線を動かそうとしたが、避けられたことで一瞬目を疑ってしまった。その僅かの隙に、『蛋白靭帯』によって遠方へ跳ぶウェイン。 ドン!!! 「キャッ!!?」 跳ぶのと同時にウェインから放たれた糸の砲弾が姫空のすぐ前の地面へ激突、その余波を受けて姫空が後方に転がる。 掛けていたゴーグルも外れた。そして、建物を引っ張っている糸の動きが活発化する。 「稜!!早くこっちに!!」 「緋花ちゃん!!!」 加賀美と葉原の焦った声が路地裏に響き渡る。姫空の挙動を察知されないように、ウェインが居た中心付近に歩を進めていた神谷と焔火。 それが、今絶体絶命の窮地となって2人に襲い掛かる。もうすぐ、両隣にある建物群が糸によって接着する。 「神谷先輩!!」 「今からじゃ無理だ!!焔火!!俺にくっ付け!!俺の『閃光真剣』で何とか・・・」 「くっ!?さっきから何が起こっている!?」 「うおっ!!地震か!!?」 「「!!?」」 今からでは脱出不可能と判断した神谷は、焔火を自分に引っ付かせた上で『閃光真剣』を“円錐”状にし、迫り来る壁を削り取る腹積もりだった。 だが、その建物の中には幾人かの人間が存在した。しかも外側に近い所に居るようで、このまま『閃光真剣』を使えばその人間を巻き込む危険性があった。 「クソッタレ!!」 「クッ・・・!!」 後数秒で建物群が一気に接着する。事ここに至って2人に諦念が生じる。だが・・・まだ諦めていない人間は居た。 「だああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」 「うおっ!!?」 「キャッ!!?」 それは、176支部のリーダー加賀美雅。彼女は斑の『空力使い』による噴射点を自分の背中に設置させ、神谷達が居る方向にふっ飛ばさせたのだ。 同時に『水使い』により操作する水を神谷と焔火(+自分)に纏わせ、地面へ激突する時のクッション代わりにする。 ズシーン!!! ドーン!!! 路地裏から脱出した加賀美達が地面に激突した瞬間に、路地裏そのものを形成していた両隣の建物群が接着した。 その衝撃により、建物内部に居る人間は地震か何かと勘違いし、慌てて机の下等に潜り込む。中には、近くにある柱にしがみ付く人間も居た。 (ちなみに、『蛋白靭帯』は接着直後に各種アミノ酸等に分解され、そのアミノ酸等も分解された。空中や地表で水や砂を封じ込めていた糸も同様に) 「ゲホッ!!!ガハッ!!!ゴホッ!!!」 「リ、リーダー!!!」 「加賀美先輩・・・!!」 「真面!!すぐに救急車を呼べ!!!椎倉には俺から連絡を入れる!!」 「りょ、了解!!!」 「「「「「加賀美先輩!!!」」」」」 己の背中を噴射点とした反動が加賀美に襲い掛かる。下手をすれば、背骨等にも影響が及んでいるかもしれない。そうでなくとも、加賀美の体を襲った衝撃は相当なものだ。 向こうから回ってきた他の176支部の面々も、加賀美の状態を見て蒼白の様相を呈す。 加賀美を飛ばした斑も手加減はしたつもりだったのだが、焦りに焦った上での行動だったため上手く手加減ができていたかどうかの確証は持てないでいた。 10分後救急車が到着し、加賀美は担架に乗せられて運ばれて行く。付き添いで鏡星と一色も同乗する。付近では警備員が慌ただしく動き回っていた。 「浮草先輩!!椎倉先輩は何て言ってましたか!!?」 「とりあえず、花盛支部の閨秀がすぐにここへ来る。彼女と共に成瀬台へ向かう。・・・事情をキッチリ説明しないといけないからな」 「リ、リーダー・・・!!!」 「緋花ちゃん・・・」 「くそっ!!!」 「神谷・・・」 「・・・・・・何もできなかった・・・!!!」 風紀委員達は、殺人鬼との邂逅によって各々の胸に深い傷を負わされた。だが、時間は待ってなどくれない。非情で無慈悲な世界は、今この時も絶えず動いているのだから。 continue!!
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ソニックウィザード 登場人物 コメント 大森葵による漫画作品。 『コミックガンマ』に連載。全3巻。 登場人物 テールナー:アルシェル コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る 登場人物とだけ書かれた荒らしコメントを削除 -- (名無しさん) 2019-10-27 06 56 38
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全ウィザードリングリスト ウィザードリング ウィザードリング(ビースト) レジェンドライダーリング [部分編集] ウィザードリング リング名 リング色 部位 入手方法 同型リングの差異等 フレイム 左手 DXウィザードライバー DXウィザードライバー&ウィザードリングホルダーセット カプセルウィザードリング01 カプセル300バリューライン ウィザードリング1 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング2 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング ミラクルウィザードキャンペーン オリジナルカラーVer. 仮面ライダーアクションスタジアム オリジナルカラーVer. 仮面ライダーウィザード ヒップバッグ 仮面ライダーウィザード Dパック 仮面ライダーウィザード ボディバッグ 仮面ライダーウィザード 変身パーカA 仮面ライダーウィザード 変身パーカB 仮面ライダーウィザード 変身パーカC 仮面ライダーウィザード 変身パーカD 仮面ライダーウィザード ダンボールニットパジャマ 仮面ライダーウィザード トイパン 仮面ライダーウィザード リング柄Tシャツ 仮面ライダーウィザード 魔法陣柄Tシャツ 仮面ライダーウィザード 全身柄Tシャツ 仮面ライダーウィザード 魔法陣BP柄Tシャツ 仮面ライダーウィザード 魔法陣はみだし柄Tシャツ 仮面ライダーウィザード SHOOT柄Tシャツ RIDER CHIPSツアーマフラータオル 仮面ライダーウィザード フレイムスタイルTシャツ 仮面ライダーウィザード 4スタイルTシャツ ウィザードリングばんそうこう ウォーター 左手 DXウィザードライバー DXウィザードライバー&ウィザードリングホルダーセット カプセルウィザードリング01 カプセル300バリューライン ウィザードリング1 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング2 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング 仮面ライダーアクションスタジアム オリジナルカラーVer. ウィザードリングばんそうこう ハリケーン 左手 DXウィザーソードガン カプセルウィザードリング02 カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング2 仮面ライダーアクションスタジアム オリジナルカラーVer. ウィザードリングばんそうこう2 ランド 左手 DXウィザーソードガン カプセルウィザードリング02 カプセルウィザードリング03 カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング2 仮面ライダーアクションスタジアム オリジナルカラーVer. ウィザードリングばんそうこう2 フレイムドラゴン 左手 DXフレイムドラゴンウィザードリングセット カプセルウィザードリング04 カプセルウィザードリング04 魔法陣入り カプセルウィザードリング07 魔法陣入り カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング6 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング3 ウィザードリングばんそうこう2 ウォータードラゴン 左手 DXウォータードラゴンウィザードリングセット カプセルウィザードリング05 カプセルウィザードリング08 魔法陣入り カプセル300バリューライン ウィザードリング7 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング5 ウィザードリングばんそうこう3 ハリケーンドラゴン 左手 DXハリケーンドラゴンウィザードリングセット カプセルウィザードリング04 カプセルウィザードリング04 魔法陣入り カプセル300バリューライン ウィザードリング4 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング7 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング4 ウィザードリングばんそうこう3 ランドドラゴン 左手 DXランドドラゴンウィザードリングセット カプセルウィザードリング07 カプセルウィザードリング08 魔法陣入り カプセル300バリューライン ウィザードリング6 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング6 インフィニティー 左手 DXアックスカリバー 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祝!!大ヒット御礼 ウィザードリングプレゼントキャンペーン ガルーダ 右手 プラモンスター01 レッドガルーダ カプセルウィザードリング02 カプセル300バリューライン ウィザードリング2 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング7 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング2 仮面ライダー×スーパー戦隊 ヒーロークエスト2013 オリジナルカラーVer. ユニコーン 右手 プラモンスター02 ブルーユニコーン カプセルウィザードリング03 カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング7 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング3 クラーケン 右手 プラモンスター03 イエロークラーケン カプセルウィザードリング04 カプセルウィザードリング08 カプセル300バリューライン ウィザードリング6 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング4 ケルベロス 右手 プラモンスター04 ブラックケルベロス カプセルウィザードリング05 カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング9 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング5 ゴーレム 右手 プラモンスター06 バイオレットゴーレム カプセルウィザードリング09 カプセル300バリューライン ウィザードリング8 メタリック塗装(発光無し) 食玩ウィザードリング8 ガルーダ(ホワイトカラーVer.) 右手 プラモンスターEX ホワイトガルーダ カプセルウィザードリング12 [部分編集] ウィザードリング(ビースト) リング名 リング色 部位 入手方法 同型リングの差異等 ビースト 左手 DXビーストドライバー 発光無し カプセルウィザードリング06 発光無し カプセルウィザードリング09 発光無し カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック成形色(発光無し) 食玩ウィザードリング5 発光無し ウィザードリングばんそうこう3 発光無し ファルコ 右手 DXビーストドライバー 発光無し カプセルウィザードリング06 発光無し カプセルウィザードリング09 発光無し カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック成形色(発光無し) 食玩ウィザードリング5 発光無し ウィザードリングばんそうこう3 発光無し カメレオ 右手 DXビーストドライバー 発光無し カプセルウィザードリング06 発光無し カプセルウィザードリング11 発光無し カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック成形色(発光無し) 食玩ウィザードリング5 発光無し ウィザードリングばんそうこう3 発光無し ドルフィ 右手 DXウィザードリングホルダー ビーストカラー 発光無し カプセルウィザードリング06 発光無し カプセルウィザードリング11 発光無し カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック成形色(発光無し) 食玩ウィザードリング5 発光無し ウィザードリングばんそうこう3 発光無し バッファ 右手 DXダイスサーベル 発光無し カプセルウィザードリング06 発光無し カプセルウィザードリング11 発光無し カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック成形色(発光無し) 食玩ウィザードリング5 発光無し ウィザードリングばんそうこう3 発光無し ハイパー 右手 DXミラージュマグナム 発光無し カプセルウィザードリング09 発光無し カプセル300バリューライン ウィザードリング8 メタリック成形色(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. 食玩ウィザードリング8 発光無し キマイライズ 右手 カプセルウィザードリング10 発光無し カプセル300バリューライン ウィザードリング9 メタリック成形色(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. 食玩ウィザードリング9 発光無し グリフォン 右手 プラモンスター05 グリーングリフォン 発光無し カプセルウィザードリング08 発光無し カプセル300バリューライン ウィザードリング6 メタリック成形色(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング9 メタリック成形色(発光無し) 食玩ウィザードリング6 発光無し [部分編集] レジェンドライダーリング リング名 リング色 入手方法 同型リングの差異等 1号 カプセルウィザードリング02 カプセル300バリューライン ウィザードリング4 メタリック塗装(発光無し) 仮面ライダー1号 ハンカチセット オリジナルカラーVer. 仮面ライダーシリーズ パジャマ オリジナルカラーVer. 仮面ライダーシリーズ Tシャツ オリジナルカラーVer. 仮面ライダーシリーズ TシャツA オリジナルカラーVer. 仮面ライダーウィザード マシンウィンガーTシャツ オリジナルカラーVer. 仮面ライダー1号 サイクロンTシャツ オリジナルカラーVer. 1号&ウィザード デフォルメバイク柄Tシャツ オリジナルカラーVer. 2号 食玩ウィザードリング2 ショッカーライダーNo.1 カプセル300バリューライン ウィザードリング4 メタリック塗装(発光無し) V3 カプセルウィザードリング05 カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. ライダーマン カプセルウィザードリング08 カプセル300バリューライン ウィザードリング9 メタリック塗装(発光無し) X 食玩ウィザードリング8 アマゾン 食玩ウィザードリング7 ストロンガー カプセルウィザードリング10 カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング7 メタリック塗装(発光無し) スカイライダー カプセル300バリューライン ウィザードリング7 メタリック塗装(発光無し) スーパー1 食玩ウィザードリング8 ZX 食玩ウィザードリング7 BLACK カプセルウィザードリング05 カプセルウィザードリング05 ガシャポンオリジナルカラーVer. カプセル300バリューライン ウィザードリング2 メタリック塗装(発光無し) シャドームーン カプセルウィザードリング06 BLACK RX 食玩ウィザードリング6 シン カプセルウィザードリング08 カプセル300バリューライン ウィザードリング9 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. クウガ(MF) カプセルウィザードリング03 カプセルウィザードリング09 カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) クウガプレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 クウガ(DF) カプセルウィザードリング07 カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) クウガ(PF) カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) クウガ(TF) カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) クウガ(RU) 食玩ウィザードリング9 アギト(GF) 食玩ウィザードリング7 アギトプレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 龍騎 カプセルウィザードリング05 カプセル300バリューライン ウィザードリング7 メタリック塗装(発光無し) 龍騎プレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 龍騎サバイブ カプセル300バリューライン ウィザードリング7 メタリック塗装(発光無し) リュウガ カプセルウィザードリング09 ガシャポンオリジナルカラーVer. ファイズ 食玩ウィザードリング4 ファイズプレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 ファイズ(AF) カプセルウィザードリング10 ファイズ(BF) カプセル300バリューライン カプセルウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. カイザ 食玩ウィザードリング9 ブレイド カプセルウィザードリング08 カプセル300バリューライン ウィザードリング9 メタリック塗装(発光無し) ブレイドプレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 ブレイド(KF) カプセルウィザードリング09 カプセル300バリューライン ウィザードリング9 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラー カリス カプセルウィザードリング11 ギャレン 食玩ウィザードリング10 響鬼 食玩ウィザードリング7 響鬼プレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 装甲響鬼 食玩ウィザードリング9 轟鬼 食玩ウィザードリング10 カブト(RF) 食玩ウィザードリング5 カブトプレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 カブト(HF) カプセルウィザードリング10 ガタック(RF) 食玩ウィザードリング10 キックホッパー カプセルウィザードリング06 カプセル300バリューライン ウィザードリング8 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. パンチホッパー カプセルウィザードリング07 カプセル300バリューライン ウィザードリング8 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. ダークカブト(RF) カプセルウィザードリング04 ガシャポンオリジナルカラーVer. 電王(SF) 食玩ウィザードリング3 ウィザードリングばんそうこう2 電王プレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 電王(CF) てれびくん2月号 ゼロノス(AF) 食玩ウィザードリング8 NEW電王(SF) 食玩ウィザードリング8 モモタロス カプセルウィザードリング03 カプセルウィザードリング10 カプセル300バリューライン ウィザードリング4 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し) ウラタロス カプセル300バリューライン ウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し) キンタロス カプセル300バリューライン ウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し) リュウタロス カプセル300バリューライン ウィザードリング10 メタリック塗装(発光無し) ネガタロス カプセル300バリューライン ウィザードリング9 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. キバ(KF) カプセルウィザードリング07 カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. キバプレミアム ウィザードリングフィナーレセット 完全塗装 キバ(GF) カプセルウィザードリング07 キバ(BF) カプセルウィザードリング06 キバ(DF) カプセルウィザードリング07 キバ(DGBKF) カプセルウィザードリング06 キバ(EF) 食玩ウィザードリング9 ダークキバ カプセルウィザードリング09 ガシャポンオリジナルカラーVer. ディケイド 食玩ウィザードリング2 ウィザードリングばんそうこう ディケイドプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 ディケイド(CF) スーパーてれびくん 仮面ライダーウィザード ディケイド(激情態) カプセルウィザードリング11 ディエンド 食玩ウィザードリング9 ディエンドプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 W(CJ) カプセルウィザードリング03 カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. カプセル300バリューライン ウィザードリング4 メタリック塗装(発光無し) ウィザードリングばんそうこう2 Wプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 W(HM) カプセルウィザードリング03 ガシャポンオリジナルカラーVer. W(LT) カプセルウィザードリング03 ガシャポンオリジナルカラーVer. W(FJ) カプセルウィザードリング10 ガシャポンオリジナルカラーVer. W(CJX) テレビマガジン3月号 W(CJGX) カプセル300バリューライン ウィザードリング6 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. アクセル 食玩ウィザードリング6 アクセルプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 アクセルトライアル 食玩ウィザードリング9 スカル カプセルウィザードリング10 エターナル 食玩ウィザードリング10 オーズ(タトバコンボ) カプセルウィザードリング04 カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング5 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. 食玩ウィザードリング ウィザードリングばんそうこう オーズプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 オーズ(ガタキリバコンボ) カプセルウィザードリング11 オーズ(ラトラーターコンボ) 食玩ウィザードリング10 オーズ(サゴーゾコンボ) カプセルウィザードリング11 オーズ(タジャドルコンボ) カプセルウィザードリング04 ガシャポンオリジナルカラーVer. カプセル300バリューライン ウィザードリング6 メタリック塗装(発光無し)ガシャポンオリジナルカラーVer. オーズ(プトティラコンボ) テレビマガジン2月号 バース カプセルウィザードリング05 カプセルウィザードリング09 バースプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 フォーゼ(ベースステイツ) カプセルウィザードリング02 カプセルウィザードリング05 カプセル300バリューライン ウィザードリング1 メタリック塗装(発光無し) カプセル300バリューライン ウィザードリング3 メタリック塗装(発光無し) 仮面ライダーウィザード ハンカチセット オリジナルカラーVer. 仮面ライダーシリーズ 長袖Tシャツ オリジナルカラーVer. 仮面ライダーシリーズ ハッピーパック オリジナルカラーVer. MOVIE大戦アルティメイタム 劇場版限定パジャマ オリジナルカラーVer. MOVIE大戦アルティメイタム バイク柄Tシャツ オリジナルカラーVer. MOVIE大戦アルティメイタム 究極柄Tシャツ オリジナルカラーVer. MOVIE大戦アルティメイタム キッズTシャツ オリジナルカラーVer. ウィザードリングばんそうこう フォーゼプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 フォーゼ(エレキステイツ) ガンバライド シャバドゥビマスターBOX オリジナルカラーVer. フォーゼ(ファイヤーステイツ) ガンバライド オフィシャル1ポケットファイル オリジナルカラーVer. フォーゼ(マグネットステイツ) ガンバライド オフィシャル4ポケットバインダー オリジナルカラーVer. フォーゼ(コズミックステイツ) 食玩ウィザードリング ウィザードリングばんそうこう3 フォーゼ(メテオフュージョンステイツ) カプセルウィザードリング04 カプセル300バリューライン ウィザードリング2 メタリック塗装(発光無し) フォーゼ(メテオなでしこフュージョンステイツ) カプセルウィザードリング05 カプセル300バリューライン ウィザードリング6 メタリック塗装(発光無し) メテオ 食玩ウィザードリング4 ウィザードリングばんそうこう2 メテオプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 メテオストーム カプセルウィザードリング08 ガシャポンオリジナルカラーVer. カプセル300バリューライン ウィザードリング4 メタリック塗装(発光無し) なでしこ 食玩ウィザードリング10 ウィザードプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 ビーストプレミアム レジェンドライダーセレクション 完全塗装 ウィザードリングテーブルを直接編集 ウィザードリング(ビースト)テーブルを直接編集 レジェンドライダーリングテーブルを直接編集