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子供の頃に読んだ、シンデレラのお話。 舞踏会に行ったシンデレラの魔法は、0時の鐘で解けちゃうの。 小さかったあたしは、それがどうしても我慢できなくて。 どうして幸せな時間がすぐに終っちゃうのって、不満だった。 少し大人になった今でも、やっぱりシンデレラは、嫌い。 彼女にはハッピーエンドが待ってたけど。 あたしの恋はハッピーエンドじゃなかったから。 けど、親近感はあるのよね。 なんでかっていうと―――。 * 「……ラブ、人の話ちゃんと聞いてるの!?」 「んー?聞いてるよー、美希たん……この紅茶美味しいねー。おかわりある?」 美希たんは軽く溜息をつくと、ティーポットからあたしのカップに紅茶を注いでくれた。 「のれんに腕押し、ってこういう事なのかしら……」 「?美希たんの部屋、のれんなんか掛かってないじゃない?」 「―――そういう事だけ聞いてなくてもいいのよ!」 あたしをキツイ目で睨む美希たん。うー、コワイコワイ。 今日はダンスレッスンはお休み。学校が終って、放課後にはこないだのお詫びも兼ねて、せつなとデートでも、って思ってたのに。 学校からの帰りがけ、校門で待ち伏せしていた美希たんに捕まって、彼女の部屋へと連れて来られて。 そして、さっきからお小言を言われてるという状況なワケで。 「……大体ね、仮にもせつなというこ、恋人がいるんなら、あちこちフラフラしないで、ちゃんとあの子の傍にいてあげなきゃダメじゃない!」 「……仮に、とか失礼だよ、美希たん。せつなは、あたしの一番大事な人で……」 「じゃあなんでその大事な人が悩むような事するワケ?」 「え?分かんないの?……しょうがないなあ、もう」 正面に座ってる美希たんにオイデオイデと手招きする。 「?何よ?何か秘密でもあるの?」 怪訝そうな顔であたしへと顔を寄せ、耳を向ける美希たん。 あたしはその耳元で―――。 「ヤキモチ焼いてるせつなって、カワイイでしょ?」 「な―――――」 一瞬、美希たんは絶句して。 「何バカな事言ってるのよ!!そんな惚気話はどーでもいいの!!……それに、ラブのフラフラする癖は別にせつなと付き合い始めてからじゃないでしょ?昔からじゃないの!」 「ワハー、バレてる。さっすが美希たん!カンペキ!」 「それくらい知ってるわよ、幼馴染みなんだから!」 彼女の言葉に、あたしは少しだけ目を細める。 ―――ホントに知ってるの?美希たん。 「……とにかく、これからは行動を慎む事!いいわね?」 「えー、でもあたしとしては「みんなで幸せゲットだよ!」をスローガンに掲げてる手前………」 「……ラブのスローガンなんて知らないわよ!!それに、せつなが幸せになってないでしょ。どー考えても!」 うー…と小さく唸るあたし。返す言葉が見つからない……。 そんなあたしの様子を見て、チャンスとでも思ったのか、美希たんは畳み掛けるように続ける。 「子供の時からラブはそうなんだから!あたしとブッキーと三人で遊んでても、いつの間にか姿を消して、他の子と遊んでたりして―――。別にそれが悪いとは言わないけど、それならそうで、何か一言くらいあってもいいじゃない?!毎回あたし達に心配かけて―――」 ん―――ちょっと違う、かな。 あたしが他の子と遊んだりしてた理由は、美希たん達にあるんだから……。 元を辿ればこの悪い癖も、美希たん達のおかげで身に付いたものだし―――。 「……あたしが何度それでラブに怒っても、平然としてまた同じ事してたでしょ……ブッキーだって、自分達に責任があるんじゃないかっていつも気にして―――」 ―――スッ、っとあたしの中の温度が下がる。 ……このお話もココまでみたいね。 「……分かったってば、美希たん。これからは少し自重するようにするから。それで許してくれない?」 「本当でしょうね……どうもあたしの言葉はラブに効いてない気がするのよね。昔から、何を言ってもニコニコしてるばっかりだし……」 「そんな事ないよ~。現に今は真剣な顔してるでしょ?」 ね?と念を押すように彼女に顔を近づける。 「近いわよ!……分かったわ、じゃあ今回はこのくらいで―――」 と言いつつ、美希たんは小さく欠伸をした。 「?あれ?眠そう。珍しいねー、完璧な美希たんが」 「……ちょっとね。ここんとこ考え事があって……」 「寝不足は美容の大敵だっていつも言ってるくせに………」 「ま、あたしにも色々とあるのよ。色々と、ね」 そう言ってゴシゴシ眠そうに目を擦る美希たん。 ふ~ん、教えてくれないんだ。なんか冷たいじゃない。 コンコン、と部屋のドアを叩く音。 「……美希ィ、お友達来てるみたいだから、お菓子持って来たんだけど―――」 言いながら入ってきたのは、美希ちゃんのお母さん、レミさんだった。 「ありがとう、ママ。そこに置いておいて」 「あ、ども。お邪魔してます、おばさん」 「――――!!」 あたしを見るなり、レミさんは動きを止める。 そしていきなり――――― 「ラブちゃんじゃな~い!も~!久しぶり!!来るなら来るって言っておいてくれれば、もっといいお菓子用意しておいたのに~。冷たいんだからァ!」 ―――レミさんはあたしの肩にしなだれかかってきた。 「美希と遊ぶのもいいけどォ、たまにはアタシとも遊んでくれないとスネちゃうわよ~?今度またヘアモデル頼むからァ、その時は二人きりでェ……」 レミさんはあたしの肩に指でのの字を書きながら、艶っぽい声で囁く。 あたしはと言えば、嫌な汗をかきながら苦笑いが精一杯……。 「あ、あは、あはははははは。か、考えておきますね~」 「約束よ?じゃあ指きり!ほら手を出して……」 そんなあたし達のやり取りを、美希たんは目を点にして茫然と見つめている。 ―――でもその目に少しづつ炎が灯り始めて……。 「……ラァブゥゥ……あんたって子はァァ………!!」 「は、はは。み、美希たん、な、何かコワイ……よ?」 第二ラウンドのゴングが、今鳴らされようとしていた。 * 子供の頃、あたし達はいつも三人で遊んでた。 でも、ある時、あたしは気付いてしまったんだ。 三人でいても、一人ぼっちになってしまう時があるって。 勿論二人はそんなつもり無いんだろうし、あたしもそれを口や態度に出した事は無いけど。 だからあたしは、二人から離れて、他の子と遊ぶようになったの。 それは嫌いになったとか、心配させようとか、そういう事じゃなかったけど。 とはいえ、他の子に目移りしたワケでもなくて。 だって、あたしにはあなたしか―――蒼乃美希しか見えてなかったもの。 * 秋も深まり、日が落ちるのも早まったようで、窓の外はもう真っ暗だった。 顔を下に向け、反省した素振りをしたまま、あたしはそれをちらっと横目で確認する。 (……もう遅いし、せつな心配してるかな……) 真偽はともかくとして、あたしは美希たんにレミさんとは何も無いという事を説明するのに必死だった。 美希たんは美希たんで、さすがに身内にまで火の手が回ってるとは思っていなかったらしく、それはもう心を鬼にするどころか、形相まで鬼のようにしてあたしを追求してきて……。 それでもお互い一歩も譲らず(美希たん優勢だったけど)、お互いに疲労しきって無言、という状態が続いていた。 (ココは意を決して、美希たんにとりあえずごめんなさいと言うしかないか―――) そんな情けない覚悟を決めると、あたしは思い切って顔を上げる。 「美希たん、あのね―――――ってアレ?」 顔を上げたあたしの目に映ったのは。 テーブルに頬杖をついてうたた寝している美希たんの姿だった。 ズッ、とコケるあたし―――この数分間の緊張はなんだったの……。 大きく溜息をつくと、立ち上がり、美希たんの後ろへ回りこむ。 室内だからって、美希たんは薄手のワンピースしか着てないし、なんだか寒そう。 「おーい、美希たーんてば!おーい!」 声をかけてみても、彼女は何の反応もなくて。 ただその口からは、すーすーという寝息が聞こえてくるのみ。 「困ったモンだよねー、美希たんにも。怒るだけ怒って寝ちゃうなんてさー」 呆れたように言って立ち上がると、あたしは美希たんの背後へと回る。 換気の為に開けてある窓を閉めて、毛布でもかけてあげなきゃ、と思った矢先。 美希たんの髪の毛の隙間から覗く白いうなじが見えて―――。 「………ホント、困ったモンね」 そう言ってあたしは美希たんのそばへしゃがみ込む。 「―――美希たんってば!そんなカッコでこんなトコで寝てたら―――」 「――――……食べちゃう、よ?」 彼女の耳元で小さく囁くと、そのままあたしは正座している美希たんの脇を両足で挟むようにして腰を下ろした。 そして静かに、そっと両手を回し、彼女を抱きしめる。 「美希たんの髪、すごくいい匂い―――」 肩に顔を乗せ、彼女の香りを楽しみつつ、優しく話し掛ける。 子供の頃から知っているはずなのに、こんなに近くで嗅ぐ美希たんの匂いは、濃厚で、少しずつあたしの理性を狂わせていくよう。 サラサラ、と青く綺麗な髪を指で梳かすと、起こさないように、と細心の注意を払いつつ、彼女の首筋へと舌を伸ばす。 「ん…うん……」 首筋を軽く舐め上げると、美希たんは寝息とは違う声を漏らした。 「……感じちゃった?美希たんってここが弱いんだね~」 つい面白くなってしまって、ちゅっ、ちゅっ、と首から肩へとキスの雨を降らせると、その度に美希たんは短くカワイイ声を上げる。 「あ……ん…うんっ……んん……」 「……あは。美希たんそんな声出すんだ……やらしい」 普段の彼女からは想像もつかないようなその声で、あたしも段々変な気持ちになってきて。 「う、うん……ん……」 「まいったなー。……ちょっとした悪戯するだけのつもりだったのに……スイッチ入っちゃった」 前に回した手を、美希たんの胸へと移動させる。 服の上からでも形の良い事が分かる、彼女のふくらみ。 それを軽く撫で擦ると、少しだけ強くその頂を中指で刺激する。 「―――ふぁっ……」 途端に彼女は今までより大きな吐息をついた。 気のせいか、頬もさっきより紅潮してきているみたい。 もっとも、あたしの方もさっきからずっと顔に熱を感じていた。心臓もバクバクと脈打っていて、今にも破裂しちゃいそう。 それは、美希たんが目を覚ますんじゃないかってスリルだけじゃなくて、子供の頃から見てきた幼馴染みの―――憧れだった彼女を思いのままに出来るっていう興奮、そして、これがもしせつなにバレたら、って いう罪悪感の入り乱れた、複雑な高揚感。 (―――浮気だったらせつなは怒るけど、ちょっぴり本気だったらどうなるんだろ) 答えは分かってる―――あたしは彼女を失ってしまうだろう。一番大切なせつなを。 ううん、それどころか、きっと何もかも失ってしまう。 けど、この行為を止められない。止める事が出来ない。 あたしの意思とは最早関係無く、指は少しでも美希たんの感触を味わおうと彼女の胸を這い回っている。 「ゴメンね、美希たん。―――でも、あたしのこの悪い癖ってもともと美希たんのせいでついたんだから…責任、取ってね?」 自分勝手な謝罪の言葉を呟き、胸を弄んでいた左手を、彼女の内腿へと移動させる。 部屋は寒いって言ってもいいのに、美希たんの生肌は熱を帯びて、汗ばんでいた。 「―――あたしの指で興奮しちゃったんだ?眠ってるクセに……エッチな美希たん」 いやらしく彼女の内腿を撫で擦るあたしの指。 「あ……はぁ……はぁんッ……」 まるであたしを誘惑しているかのように、彼女の吐息も、いつの間にか激しいものに変わっている。 あたしの息も、彼女に合わせるかのように荒くなってきていた。 「……はぁ……ねぇ、美希たん……こんな事したことある?……それとも、あたしが初めて?……だったら―――嬉しいな」 彼女の顔を自分の方へと向け、舌で唇を優しく愛撫する。 その合図で、眠っているはずなのに、美希たんはあたしの行為を受け入れるかのように口を開いて。 そのまま舌を絡ませ、恋人同士のように深くキスを交わした。 (今はあたしの、あたしだけの美希たん………) 美希たんが目を覚ましたら―――なんて考えはすでにあたしの中から吹き飛んでいて、指も舌も、遠慮を忘れて大胆に、淫らにダンスを踊り続ける。 「美希たん、好き……子供の頃、ずっとずっと好きだったの……あたしも、あたしの事も見て―――」 一方的な愛の言葉を囁くと、あたしは美希たんの内腿を触っていた指を、彼女のスカートの奥へと進ませる。彼女の、一番敏感な部分へ。 「……ぁんッ……」 下着の布越しにでも、そこはしっとりと湿り気を帯びていて。 それを確認したあたしの指は、獲物を前に歓喜した蜘蛛のように、下着の中へと―――。 パサッ。 閉め忘れた窓から風でも吹き込んだのか、机の上からテーブルへ、一枚のメモが飛んで来た。 それが目に入ったあたしは――――――。 * ホントの理由はね―――二人きりになれるから。 あたしを叱るあなたと、二人きりに。 それが嬉しくて、何回お説教されても、あたしは同じ事繰り返したっけ。 おかげで……それが癖になっちゃったけどね。 短くても、怒られても、あたしにとってはそれは楽しくて、かけがえの無い時間だった。 まるで―――シンデレラの舞踏会みたいに。 * 「ん……あ、あれ?あたし眠っちゃってた?」 目を擦りながら、まだ眠そうに身を起こした美希たんは、あたしに尋ねた。 「……グッスリお休みでした。お客さんがいるのにヒドイよね~」 「本当?……あれ?ラブ、毛布かけてくれたの?……ゴメンね」 自分にかけられた毛布に気付いて、美希たんは少し申し訳無さそうに言う。 「やっぱり生活リズム少しでも崩すと調子悪いわ……。起こしてくれても良かったのに」 「……何やっても起きるような感じじゃなかったけどね。起きてくれても良かったケド」 「?何?変な言い方」 そう言って軽く伸びをする美希たん。 その様子を見ながら、あたしはさっき言えなかった事を口に出す。 「それで、お説教タイムはもう終わり?そろそろ帰らないとせつなが心配しちゃうんだけど」 「―――そういう事気にするんなら、違う事でも心配させないようにしなさいよね」 「あは~、自重します、って誓ったじゃない」 「……どこまで本当なんだか……またいつ他の子に手を出すことやら……」 「大丈夫だってば。信用してくれないの?美希たん……」 しおらしく言いながら心の中で舌を出す。実はもう……なんて言ったらどんな顔するんだろ。 「はいはい。じゃあ信用するわよ、ママの事も含めて。気をつけなさいよ?」 「美希たんこそ気をつけたら?―――こんな事ばっかり考えて、寝不足にならないように」 さっき飛んで来たメモを美希たんの前にチラつかせながら、にはは~とあたしは笑った。 それを目にした途端、真っ赤になり、あたしの手からメモを奪い取る美希たん。 「みみみ、見たのね?!これ!!」 「じっくりと拝見させていただきました~。初々しいよね~、カワイイとこあるんだから」 「ウルサイわね!!……内緒にしといてよ!?」 「ハ~イ」 生返事をしながら、まるであたしのように、さっきまでは熱かったのに、今ではすっかり冷え切ってしまった 紅茶を口に運ぶ。 (結局また、最後はこうなるのよね) 美希たんの手にある一枚のメモ用紙。 それには、美希たんの考えた、ブッキーとの初デートのプランがびっしりと書き込まれていて―――。 * でも、あなたの口にする名前で、いつもあたしにかかった魔法は解けて。 その度に悲しい思いをしたっけ。 あなたがその名前を口にする時、あたしに怒ってても、すごく優しい目に変わるの。 あなたは自分で気付いてたのかな? 鈴を鳴らされて涎を垂らす犬じゃないけど。 あたしもその名前を見たり聞いたりした途端に、覚めてしまうよう調教されたみたい。 悔しいけど、あなたが好きなのは、子供の時から彼女だもんね。 彼女―――――山吹祈里。 「……ブッキー、か……」 美希たんの家からの帰り道、あたしは一人で歩きながら昔の事を思い出していた。 切なくて苦い、子供の頃の初恋の記憶。 ―――けど、今回はブッキーに感謝すべきなのかな?全部失くしちゃうかもしれなかったし。 なんか勿体無いような気もするけど。 「―――初デート、楽しみだね、美希たん」 ホント、楽しみ。 彼女達は気付くだろうか。あたしの、ちょっとした悪戯に。 美希たんの首の後ろに、強く赤く残された、あたしからの置き土産に。 「―――ガラスの靴じゃなくてご愁傷様~。……これくらいは許されるよね?」 ブッキーが美希たんを許してくれるのかは、別として……ね。 その時は美希たん、どうするんだろ。 恋人に叱られるあたしの気持ちが、少しは分かってくれるといいけど。 「まあいいじゃない、美希たん……ヤキモチ焼いてるブッキーも、カワイイかもよ?」 呟いて、クルリ、とその場でターン。 ――――ま、それなりに楽しい時間だったかな? 一方通行だった分、シンデレラの舞踏会には叶わないかも知れないけど。 でもねシンデレラ、あなたより幸せな事だってあるんだから。 「―――せつな、今帰るね。待ってて」 イジワルなお継母さんやお義姉さん達の待っている所じゃなくて。 大好きな人の待っている、暖かい場所へ。 せつなの作ってくれているであろう夕食に思いを馳せながら、あたしは家へと足を速めた。 了 9-12は後日談完結編になります。
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ある日の夜。 自宅に帰ると、あゆみが出迎えてくれた。 「お帰りなさい、お父さん。お仕事お疲れ様。」 「ただいま、お母さん。」 「ねえお父さん、私たち3人から話があるの。後で来てくれる?」 いつになく、うれしそうな顔で話すあゆみ。 スーツから着替えてリビングルームに入る。 あゆみと共に、ラブとせっちゃんもくつろいでいた。 3人と向かい合って、ソファーに腰掛ける。 「それで話って何だい?」 「ねえ、お父さん。今度の休みにどこか行こうよ~。」 「お父さん。私からもお願い。」 「せっちゃんが本当にウチの家族になったんだから。いいでしょ、お父さん。」 今度の休みはゴルフの打ちっ放しに行こうと思ってたんだけど・・・。 まあ、こんなにせがまれたんじゃ断れないな。 「わかった、じゃあ今度の祝日に行こう。」 「やったー!楽しみだね、せつな!」 「本当に楽しみね。どこへ連れてってくれるのかしら?」 「それじゃお父さん、旅行のプラン決めといてね。」 えっ?こういうのは家族で話し合って決めるんじゃ・・・。 残業で帰りが遅いからそんな時間無いって?ハイハイ、分かりました。 明日、会社の部下におすすめのスポットを聞いてみるか。 次の日。 家に帰ると、3人が出迎えてくれた。 「お帰りなさい。お父さん。」 「お父さん、お帰りなさい!ねえねえ、旅行の行き先決まった?」 「ああ、決まったよ。詳しい事は後で話すから。」 「ありがとう、お父さん。」 せっちゃんが僕の事を「お父さん」って呼んでくれる。 かれこれ何十回目だけど、いつ聴いてもうれしいなぁ。 「さ、早く上がって。ご飯できてるわよ。」 「おっ、すまんすまん。今行くから。」 食卓を4人で囲み、夕ご飯を取った。 食後、カバンから何枚もの紙を取り出す。 昼間に会社の部下に頼んでおいた、インターネットから得た行楽地の情報だ。 「それで、ここなんかいいと思うんだがどうだい?」 「紅葉が見られる湖ね。いいじゃない?」 「いいねー。せつなはどう?」 「お父さんが決めた所なら異論は無いわ。」 良かったー。 ありがとう、僕の有能な部下君よ。お土産を期待していてくれ。 「それなら決まりね。で、お父さん。」 「何だね、お母さん。」 「そこへはどうやって行こうかしら。電車?車?」 「そうだなー、車で行こうか。レンタカーを借りて僕が運転するよ。」 「えー意外!お酒好きなお父さんが旅行で飲まないなんて。」 「おい、ラブ。僕だって飲まずに我慢できるんだぞ、それに・・・。」 「それに・・・?」 「車ならせっちゃんと後ろの席で二人でいられるだろ。」 せっちゃんが顔を赤らめてうつむいている。 時々見せる、そんな表情も可愛いなー。 「お父さん!何鼻の下伸ばしてるのよ!」 「うわっ!ごめんごめん、お母さん。」 怒られた僕を見て、ラブとせっちゃんがクスクス笑っている。 ああ、これも家族の幸せなんだなぁ。 そして日帰り旅行の当日。 レンタカー屋へ車を取りに行き、自宅にあゆみたちを迎えに戻る。 「さあ、行くわよ。お父さん今日は運転お願いしますね。」 「うわー、あたしETCの付いた車に乗るの初めて!」 「へぇ、これがETCなの。確か高速料金がお得になるってやつでしょ。」 「そう、今日は休日だから特別割引。だから少しくらいは遠出できるんだよ。」 車を発進させ、自宅を出発した。 数十分後、高速道路のインターチェンジに入る。 会社の営業車で運転しているとはいえ、高速は久しぶりだ。 「そういえば、今日はフェレット・・・何て名前だっけ?」 「もう、お父さん。タルトでしょ!タルト!」 「ああ、すまんラブ・・・。で、タルトちゃんはどうしたんだい。」 「タルトはブッキーの所に預けたよ。」 「山吹さん家か。じゃあお土産買ってあげないとな。」 そういえば、いつもラブたちが持っているぬいぐるみも無いなあ。 まあ細かいことは気にしないで、運転運転っと。 「あちゃー。渋滞かー。」 「やっぱり休日だから行楽地へ行く車が多いのかしら。」 「せつなー、渋滞ってイヤじゃない?」 「私は構わないわ。ラブと一緒にいられるのなら。」 そんなこんなで高速道路から下りて、ようやく目的地の湖に到着した。 「さあ、着いたぞー。」 「わあ、紅葉がきれいだわー。」 「ホントきれいだね!せつなは紅葉見るの初めてだっけ?」 「ええ、自然って本当に素晴らしいわ。」 良い風景を眺めて家族の感想も得られて、ドライブの疲れも吹き飛ぶってもんだよ。 そんな感慨に浸る間もなく、ラブの大声が飛んできた。 「ねえー、お腹が空いたー!」 「はいはい、今お昼にするわね。お父さーん、場所さがしてきてちょうだーい!」 「えー、僕がかい?」 「そうよ。私たちはお弁当を運ぶから、あなたはそっちをお願いね。」 「・・・はーい。」 「私も一緒に行くわ。お弁当はお母さんとラブの2人で運べるでしょ。」 せっちゃん、えらいねぇ。やっぱりせっちゃんは僕の味方だね。 ほどなく、せっちゃんが辺りをキョロキョロ見回し始めた。 「あっちに空いている場所があるわ。」 せっちゃんが指差した方向へ歩くこと数分、1軒の東屋があったのでラブの携帯に電話を入れた。 しばらくすると、ラブとあゆみがお弁当などを抱えてやって来た。 「あらー、見晴らしがいいわねー。」 「ホント、お昼ご飯を食べるのに最高だね!」 「わはっ、せっちゃんがこの場所を見つけてくれたんだ。すごいなぁ。女のカンってやつかい?」 「ちょっと違うけど・・・。でもお役に立ててうれしいわ。」 東屋のテーブルにお弁当を広げる。 おにぎりにサンドイッチ、色々なおかずがたくさん詰まっていて美味しそうだ。 「これは誰が作ったんだい?」 「もちろん私よ。それに、ラブとせっちゃんも手伝ってくれたのよ。」 「へへっ。みんなで一緒に食べるお弁当だから、頑張っちゃった!」 「お母さんとラブと3人で作って、とても楽しかったわ。」 いただきまーす、とあいさつしてお弁当を食べ始めた。 相変わらずラブは勢いよく食べているなあ。 次は何を食べようか・・・コロッケがいいな。 「お父さん、そっちの円いのを食べてくれる?」 「おお、せっちゃん。分かった、いただくよ。」 せっちゃんが勧めた円形のコロッケに箸を伸ばす。 口に運び、ひと口かじると甘辛い味がした。 僕の得意料理の肉じゃがを使ったコロッケだった。 「うん、美味しいよ。せっちゃんが作ったのかい?」 コクリとうなずくせっちゃん。 料理の腕もラブに近づいてきたかな? 「ねえお父さん、あたしの作ったハンバーグも食べてよー。」 「おお、すまんすまん。どれどれ・・・」 ラブが作ったハンバーグも食べてみた。 ひき肉と一緒に、何かほかの食感がした。 箸で切ったハンバーグの断面を見ると、小さくダイスカットした野菜が入っていた。 ごぼう、れんこん、それにラブの苦手なにんじんも。 「ラブ、にんじんは苦手じゃなかったのか?」 「うん。少しずつだけど食べられるようになってきてるよ。」 「せつなだってピーマン食べられるように頑張っているから負けられない、っていうのもあるけどね。」 うんうん、そうやって好き嫌いを克服していくもんだね。 ってあれ・・・。お弁当がきれいさっぱり平らげられている。 「もう、お父さんったらゆっくり食べてるんだから。全部あたしが食べちゃったよ!」 「ごめんなさい、お父さん。私も止めようとしたんだけど、ラブが聞かなくて。」 「せっちゃんが謝ることないよ。どこかで何か買って食べるさ。」 「わはー!あたしも一緒に食べたい食べたい!」 「こらっ、ラブ!少しは遠慮しなさい。」 「・・・はーい、お母さん。」 食事も終わって、お茶を飲みながら家族と談笑した。 普段話せない仕事の事、近所の事、ラブとせっちゃんの学校の事、美希ちゃんや祈里ちゃんの事など・・・。 「そろそろお土産を買って帰るとするか。」 「そうね、遅くなると道も混むし日が暮れるのも早いからね。」 「せつな、おみやげ何買おっか。」 「ラブにまかせるわ。」 駐車場まで歩いて戻り、そこに併設されている物産センターでお土産を買うことにした。 2階建ての1階がお土産売り場で、2階には・・・ ~後編につづく~ 避-160へ
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「えぇ~っ!?」 金曜日の放課後。 いつものドーナツカフェに、美希と祈里の叫びが響いた。 「せ、せつなちゃんに…」 「ラブレターですって!?」 「そうなの~! あたしもビックリだよ!!」 「???」 当のせつなは、今一つ状況を呑み込めない顔で、ドーナツを齧る。 「しかも送り主は、ちょーイケメンで有名な3年生! この前引退するまでサッカー部のレギュラーで、女子人気ナンバーワン! そんな人から、せつな宛のラブレターが来たんだよっ! けさ学校に行ったら、せつなの下駄箱に入ってて…」 我が事のように目を輝かせ、状況を説明するラブ。 美希は興味津々といった風情で、 「で…せつな、返事はどうするの?」 「返事?」 「ラブレターの返事よ! まさか、もうOKしちゃったとか?」 テーブルから身を乗り出す美希に、圧倒されるせつな。 「へ、返事って言われても…手紙は読んだけど、よく分からなかったし…」 「え?」 その言葉に、美希は一瞬固まってしまう。 “よく分からないラブレター”。 そんなものが存在するのかどうかの方が、美希にはよく分からなかった。 言い回しが、やたら難解だったのだろうか。 それとも、字が雑だったか、逆に達筆すぎて読めなかったとか…? 「よく…分からない?」 「ええ。“つきあってください”って書いてあったんだけど、 何につきあってほしいのか、書いてなかったのよ」 「は?」 「一緒にサッカーをやりたいってことなのかしら? でも私、サッカーのルールってよく知らないし…。 あ、それとも、私たちと一緒にダンスを習いたいとか…。 まさか! 私の正体を知っていて、プリキュアになりたいとか…!?」 「…ラブ、ちゃんとせつなに説明した?」 ラブはポリポリと頭をかきつつ、 「え、え~っと…タハハ、説明してませんでした…」 「やっぱり…あのねせつな、ラブレターっていうのは、 自分の好きな人に想いを伝える手紙のことなの。分かる?」 呆れ顔で説明する美希。 「好きな人に…伝える手紙…」 せつなはしばらく考え込んでいたが、やがて、 「…うん、分かったわ」 と、力強く頷いてみせる。 「よしっ! さすが、アタシの説明、完ぺ…」 「私、ラブに手紙を書くわ」 「…はい?」 「もちろん、美希やブッキーにも手紙を書くわ。 私、みんなのことが大好きだもの! 好きな人に手紙を書くのが、ラブレターなんでしょう?」 その答えに力尽きた美希は、テーブルに思い切り突っ伏した。 「み、美希たん!?」 「美希、どうしたの?」 「ごめん…ラブ、アタシ限界。後の説明は任せるわ…」 「う、う~ん…えっとね、せつな、ラブレターっていうのは…」 身振り手振りを交えつつ、熱心に説明するラブ。 せつなは小首を傾げつつ聞いていたが、首の傾きが次第に大きくなる。 「だからね、好きな人っていうのは、そういう意味じゃなくて、もっと他に…」 「他に好きな人…? あ、私、ラブのご両親も好きよ。とても優しいもの」 「だから、そうじゃなくって…あ~!」 どうしてよいか分からず、頭を掻きむしるラブ。 そんな二人のやりとりを見つめつつ、美希は苦笑混じりのため息をついた。 「はぁ…こりゃ、手紙書いたイケメン君も災難だわ。ねぇ、ブッキー?」 「………」 「ブッキー?」 「えっ!? あ、ごめん美希ちゃん、何の話だったっけ…?」 「ラブレターの送り主の話よ。ブッキー、どうしたの?」 美希が尋ねると、祈里は小さく頷く。 「うん。すごいなぁ…って」 「転入してから、一ヶ月も経ってないのにね。でも、当の本人があの調子じゃ…ねぇ」 「あ、ううん、そうじゃなくって」 「そうじゃ…なくって?」 「手紙を書いた先輩さんが、すごいなぁって」 意外な視点での評価。 思わず美希は、目を丸くする。 「すごい…って、何が?」 「うん。だって、断られるかもしれないのに手紙を書いて、 せつなちゃんに送ったんでしょ?」 「まぁ、そうよね」 「私には、絶対真似できないなぁ…って思って。 好きな人に手紙を書いて、想いを伝えるなんて…」 遠くを見つめて、呟く祈里。 ところが、 「えっ、なになに? ブッキー、好きな人いるの?」 「え、えぇっ!?」 突然話題に喰いついてきたラブに、思わず祈里は後ずさった。 「え、あああの、別に、いるというか、いないというか…」 「どんな人? あたしたちも知ってる人だったりするの?」 「えっと、その、知ってるというか、知らないというか、その…」 誤魔化しきれず困り果てる祈里に、美希が助け船を出した。 「ラブ、別にいいじゃない。誰だって、好きな人くらいいるわよ」 「え、美希たんも好きな人いるの?」 美希は一呼吸おいて、いつもの口調で言った。 一瞬だけ、祈里に視線を移したように見えたが。 「…まぁね。誰なのかは、とりあえずナイショ、かな」 「えっ…」 「えぇ~! いいじゃん美希たん、教えてよ~!」 「ダ~メ。ラブみたいなお子ちゃまには、まだ早いわよ」 「ひっど~い!」 口を尖らせるラブ。 だが、美希の口調から、恐らく冗談だとでも思ったのだろう。 決して、本気で怒ってはいないようだった。 そんな二人の会話を見ていたせつなが、ある異変に気付いた。 「…ブッキー、大丈夫?」 「え…?」 「顔、真っ青になってる。気分でも悪いの?」 「あっ…ううん、大丈夫。ゴメンね、せつなちゃん」 「そう? それなら、いいんだけど…」 「もう…帰ろっか?」 珍しく、真っ先に席を立つ祈里。 ラブと美希も、腕時計に目をやる。 「あら、もうこんな時間…」 「そうだ、今日の夕食、ラブが作るんでしょ?」 「あ、そうだった。買い物して帰らなきゃ! せつな、つきあってくれる?」 「ええ。こういうのも、ラブレターになるのかしら?」 「だから、そうじゃないってば…」 不毛なやりとりを繰り返す、ラブとせつなだった。 「そうだ! みんな、明日は予定空いてる?」 「明日? 美希たん、何かあるの?」 「ほら、ミユキさんがお仕事で、レッスンはお休みでしょ? アタシは午前中だけ雑誌の撮影があるけど、午後は暇だから…。 みんなで、久々に買い物でも行こうかなって」 「あちゃ~…ゴメン美希たん、あたしとせつなはパス…。 明日は、家族みんなで出かける予定があるの」 「そっか…ブッキーは?」 「え、あ…その…私も、ちょっと用事が…」 「ブッキーもダメか…しょうがない、和希にでも電話しよっかな」 ちょっと残念そうに微笑む美希。 その美希から、祈里は逃げるように視線を外した。 その日の夜。 自室で一人、ため息をつく祈里の姿があった。 『美希たんも、好きな人いるの?』 『まぁね』 「美希ちゃん…好きな人、いるんだ…」 考えてみれば、当たり前のような気もする。 美人で、優しくて、大人っぽい美希のこと。 好きな相手どころか、恋人がいても全然不思議じゃない。 その“誰か”と腕を組んで歩いたり、デートしたり…。 想像すると、目の前が真っ暗になるような錯覚に襲われる。 「そうだよね…美希ちゃんなら当然、だよね…」 机の引き出しを開ける祈里。 中にあった封筒を見て、ため息をまた一つ。 半年以上、机に入れられたままの封筒。 その中に封じ込められた想い。 伝えられない、許されない、想い。 祈里自身は、そう思っていた。 そして。 封筒には、宛名が記されていて。 「 蒼乃美希 様 」 ~ To Be Continued ~ 3-327 ~おまけ~ イース「投下初めて…だと?信じられないな、GJ!」 ラブ「そうだよね!スッゴク上手い~」 祈里「なんで私の心のなかがYMさんには見えるのかなぁ?」 タルト「よっぽどパインはんの気持ちがバレバレなんやろうな」 シフォン「プリプ~!」 せつな「ねぇ美希、ラブレターって、ラブの書いた手紙のこと?」 美希「だから違うから!」 祈里「続きが気になるわ、今夜投下あるかしら」 ラブ「きっとあるよ!ワクテカだね~」 美希「アタシ授業が手につかないかも…」 祈里「あぁっ美希ちゃん!鼻血出てるよ!」 せつな「どして?」 イース「これだから人間というヤツは…!」
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1 12月24日―――クリスマス・イブ ミユキさんのスケジュールの都合で、今日が年内最後の練習となった。 軽い打ち上げと、ささやかなイブのお祝いを兼ねたドーナツ・パーティを終えて、美希とブッキーと明日 のクリスマスパーティの約束をして別れ、私とラブは家路に就いていた。 「たは~、今日は疲れたね~…イブだっていうのに……」 ラブはそう言いつつ、私の肩へとしなだれかかってくる。 「年内の締めくくりですもの。ミユキさんも気合が入ってたみたい」 「そだね~……充実してたけど、やっぱキツかったよ……こんな時は……」 ラブは目を閉じると、顔を私の方へと突き出した。 「欲しいな~、元気の出るモノ……」 「………」 甘えた態度の彼女の身体を、私は軽く押し返す。 「―――え?せ、せつな?」 「……ラブ、よく聞いて……」 いつに無い私の態度に驚いているラブへ、私は出来るだけ落ち着いた風を装い、告げる。 「……前から思っていたけど、ラブのキスにはムードが足りないわ」 「む、ムード?」 目を丸くしてその単語を繰り返すラブ。 「おはよう、おやすみ、行って来ます、ただいま、まるで挨拶か何かみたいに思ってるでしょ?」 「んー、その他にもイタダキマスとゴチソウサマがあるよね―――ベッドの上では」 「……その発言がムードが足りないって証拠よ……」 私はあくまで毅然とした態度で彼女に言う。 「私の唇は、そんなに安売りするものじゃありません。厳しかった今日の練習みたいに、特別な時にだけ する事にします。―――いい?」 「え?え?で、でも―――」 「でも、じゃないの!!」 声高に言い放った私に、ラブは恐縮したかのように縮こまって。 ―――分かって、私だって辛いのよ。 「せ、せつな……それはあまりにも殺生な……」 よよ、と芝居がかった仕草でまとわりつくラブを突き放し、私は宣言した。 「……ちゃんとムードがあると認められるまで、私の唇は許しません!」 ……頑張って、ラブ……私、明日だけはムードのあるキスをしたいの……。 だって明日は――――――。 2 「……どうしたの?これ……」 ダンスレッスンから帰った私とラブを待っていたのは、信じられないような桃園家の光景だった。 まるで古い教会にツタが絡みつくように、その外観を覆っているのは―――。 「やあ、ラブ、せっちゃん、お帰り」 上から聞こえる声に顔を上げると、梯子に乗ってにこやかに微笑む圭太郎お父さん。 その手には色とりどりの電球の付いたコードを持っている。 「すごーい!もうクリスマスの飾り付けしないんだと思ってたよ!」 さっきまでの落胆振りはどこへやら、両手を胸の前に組み、嬉しそうな声を上げるラブ。 理解できずに呆然としている私を振り返ると、彼女ははしゃいだ子供のように目を輝かせる。 「小さい頃はね、毎年こうやって飾り付けしてたんだよ!夜になってスイッチ入れると、家がキラキラって 暗い中で浮かび上がって……まるでおとぎ話みたいなんだ!」 「うふふ、毎年ラブは『これならサンタさんも迷子にならないね!』って喜んでたわね」 いつの間にか私達の後ろに立っていたあゆみお母さんに、私は尋ねた。 「クリスマス……ってこうやってお祝いするもの?」 「そうねぇ、最近は家もクリスマスツリーをリビングに飾ってケーキを食べるくらいだったけど、今年は せっちゃんがいるでしょ?お父さんったら張り切っちゃって」 口元を押さえてクスクスと笑うお母さん。 「『今年はせっちゃんの思い出に残るようないいクリスマスにしよう!』って……わざわざ会社まで早退して きたのよ。もうイブだって言うのに……一晩だけでもって」 私は何か申し訳なくなり、頭を下げた。 「私の為に……ごめんなさい……」 「違うよ、せつな。そういう時はね、ニッコリ笑って『ありがとう』って言えばいいの」 「そうよ、せっちゃん。お父さんもせっちゃんの喜ぶ顔が見たくてやってるんだから」 私達の会話が聞こえていたのか、頭上から「そうだぞー!」というお父さんの声。 それが何故か可笑しくて、私達は顔を見合わせ笑い合った。 「さあ、じゃあわたし達もクリスマスのお料理の準備、しましょうか?お母さんも張り切っちゃうわよ」 「わーい!じゃああたしケーキ作るの手伝うよ!」 「わ、私も出来る事があれば―――」 お母さんはふむ、と顎に手をやって。 「そうね。ラブは毎年手伝ってくれて手順も分かってるだろうし……せっちゃんは今回は見学かな?」 「見学……」 「がっかりしないで、せつな!色々教えるから、見ててよ!」 落ち込んでいる私を励ますように、ラブが肩に手を置いた。 ―――しょうがないわ。色々覚えて、来年はきっと―――。 (思い出に残るクリスマス、か―――) この世界の事には疎い私だけど、それが楽しい日である事はラブやお母さんに聞いて知ってはいた。 (……初めてのクリスマスなんだもの……素敵な物にしたい……) だけど、自分には何も出来ないのが歯がゆい。 私にも何か出来る事があれば―――。 とりあえずはお料理の作り方覚えなきゃ、と家に入ろうとするラブ達の後を追う。 その時、私の後ろでド―ン!という大きな音がした。 驚いて振り返った私達の目に映ったのは――――。 * 桃園家のリビング。心配している私とラブの前で、お母さんはソファにうつ伏せになったお父さんの腰に シップを貼っていた。 「大丈夫?……低い所からだったから良かったけど、梯子から落ちるなんて……気をつけなきゃ」 「アイタタタタタ……す、すまん……」 下に置いてある飾り付けの材料を取ろうとして、梯子から足を滑らせてお父さんは腰から落ちてしまった のだ。 「う、さ、さて飾り付けの続きを……イ、イタタタ」 「ほら、無理しないの!飾りつけはいいから、少し休んでて」 苦しそうに呻きながら立ち上がろうとするお父さんを、お母さんがたしなめる。 「で、でもあとは屋根を飾り付けてリースを付けるだけだから……」 「お父さん、あまり無理しないで」 「せつなの言う通りだよ。痛みが引くまでは大人しくしてないと……何だったら、あたしが―――」 「いけません!」 ラブの言葉を打ち消すように、お母さんが強い口調で言う。 「女の子なんだから、そんな事しちゃ駄目!危ないでしょ!?」 「でも、もう少しなんでしょ?だったら――――――」 「絶対に許可しません!……それに梯子だって、さっきお父さんが落ちた時に一緒に倒れて壊れちゃった から、こっそりやろうとしても無駄よ?」 お母さんに釘を刺されて、うなだれるラブ。 私もラブと同じ事を考えてただけに、ショックだった。お父さんはあんなに張り切っていたのに……。 それに、元はといえば私の為に、何年もやってなかった家の飾り付けをしようとしたのが原因だし。 (!!) その時わたしの頭に、ある考えが閃いた。 * 深夜、お母さんとお父さんの部屋の電気が消えるのを確認して、私はパジャマから普段着へと着替えた。 万が一にも気が付かれないように、静かに部屋のドアを開けて、足音を殺して階段を下りる。 リビングに入ると、電気を点けず、記憶を頼りに手探りで『あるもの』を探す。確か夕方にはこの辺り に―――。 「―――探してるのはこれでしょ?せつな」 その声と同時に、リビングの明かりが点く。 驚いて振り返った私の前には、工具と、飾り付け用のコード類が入ったダンボールを脇に抱えたラブの 姿が。 「ラブ!ど、どうして……?」 「愛の力で―――なんちゃって。さっきちょっと様子が変だったからさ。多分同じ事考えてるって思って、 置いてけぼりにされちゃ大変だって、ここで待ってたの」 彼女はそう言うとにははー、と笑った。 私の考えてる事はバレてたのね……でも―――。 「……お母さんに怒られるわよ……」 ラブから目を逸らすように俯いて、私は言った。 あれだけキツく言われたのに、勝手な事をしたのが分かったら―――。 「それはせつなだって同じでしょ?」 「……そうだけど……」 「もしかしてだけど―――せつな、自分のせいでお父さんが怪我したって思って、引け目感じてる?」 少し悲しそうな彼女の声。 引け目―――そうだ。お父さんは私に楽しい思い出を作ってくれようとしててあんな事になったんだ。 それも勿論ある―――けど、私が今ここにいるのは、それだけじゃない。 「……私も、何かしたいの」 ラブの足元を見ながら、私は小さく呟く。 「お父さんもお母さんも、クリスマスの為に色々準備してくれてたわ。だから私も、何か自分に出来る事 があるなら、精一杯頑張りたい……だって―――」 顔を上げて、彼女を真っ直ぐに見つめる。 「―――あなたと……家族の皆と過ごす、初めてのクリスマスなんだから」 私の言葉に、ラブは満足そうな表情を浮かべると、ゆっくりと頷いた。 「……じゃあ尚更あたしもじっとしてられないよ」 「ラブ……」 「ね、せつな。一緒にやろう。それで、素敵なクリスマスの思い出を作るの。―――きっとすごく怒られる だろうけど」 テーブルの上にダンボールを置くと、ラブは私へと踏み出す。 そして、優しく私の手を握り締めた。 「二人なら、平気だよ」 「―――うん」 私も彼女の手を握り返す。 そうね、どんなに怒られても、私達二人なら、きっと、平気。 「―――じゃあ行きましょう。アカルン!」 「キー!」 荷物を持ったラブと、しっかりと手を繋ぎ直す。 「屋根の上へ」 3 深夜という事もあって、外の冷え込みは生半可な物ではなかった。 それなりに厚着をしてきたつもりだったけれど、少しずつ寒さが身体に染み込んでくる。 「う~!!や、やっぱりさ、寒いね、せつな……」 自分の肩を抱いてガタガタと震えているラブ。 私は苦笑いして、繋いでる手を引き寄せて、彼女を抱きしめた。 「ふ、ふぇ?せ、せつな?」 「―――こうすれば暖かいでしょう?」 私はもう暖かいわよ、ラブ。 家族の一人として、私にも出来る事があったから。 あなたが一緒に手伝ってくれるって言ってくれたから。 そして何よりも―――あなたが傍にいてくれるから 「!?」 胸に違和感を感じて身体を離すと、ワキワキと動いているラブの手が。 顔を上げると、彼女は唇を私へとせがむように突き出していて。 「……ラァブゥ……こんな時にィ……」 私の押し殺した声に、ラブは頭をかきながら、誤魔化すように笑っている。 「い、いや、ほら、どうせあったまるならこれくらいはしないとって……は、はは……」 「……だからムードが足りないっていうのよ……」 私の怒りが伝わったのか、寒いのに汗をかき始めているラブ。 ジロッとラブを睨みつけると、流石に彼女も空気を読んだのか、わざとらしく話を変える。 「よーし!!じゃ、じゃあ頑張ろうかー!足元気を付けてね~」 さっきまで寒いって震えてたくせに、ラブは腕捲くりをして工具を漁りだした。 (まったくもう……) ……ムードのあるキスなんて期待できるかしら、と肩を落し、私も作業に取り掛かった。 * 「……後はここを付けて……よし、と!!」 手をパンパンと叩きながら、ラブは満足気に言った。 その声に合わせるかのように私の方の作業も終わり、ふう、っと息をつく。 屋根の周りにフックを取り付け、そこに電飾を付けていくだけだから、そんなに大変なことじゃないって 考えてたけど、一苦労だったわ。 「あ、そっちも終ったんだ。じゃあせつな、これ」 ラブはダンボール箱の中からの中から円状の物を取り出して、私へと手渡した。 「……これは?」 松の実や、小さな木の実が幾つも付けられ、木の蔓のような物で編み上げられたそれを、私は不思議な 物を見るように見つめる。下の部分にあしらわれた赤いリボンが可愛らしい。 「クリスマスリース。あ、ヒイラギがチクチクするかも知れないから気をつけて」 クリスマスリース……初めて目にする飾りだけど、これをどうするの? 「……家の中に飾って、キャンドルを立てたりする事もあるみたいだけど……とりあえず、下に降りよう」 私は頷いて、アカルンを呼ぶ。赤い光に包まれた次の瞬間、私達は玄関の前にいた。 「家じゃね、これを毎年玄関のドアに付けるの。これが最後の飾りつけってワケ。いつもならお父さんの 役目なんだけどね。じゃ、せつな、ヨロシク」 「……私が?」 「そうだよ。きっと良い事あると思うな。―――それじゃ、ちょっとあたしは用があるから……」 そう言ってラブは鍵を開けて玄関のドアを静かに開けると、そそくさと家の中へと消える。 ?変なラブ……。 とりあえず、ドアにフックを取り付けて、これを架ければいいのかしら? 疑問を感じてはいたものの、取り合えず言われた通りにクリスマスリースを飾る。 その瞬間。 家が、家に付けられた様々な電球が、一斉に色とりどりの光を放ち始める。 窓に付けられた星や、雪の結晶を模した物。 ツリー状に二階から下げられた物。 雪だるまの形の物や、帽子を被ったヒゲのおじいさんの形をした物。 そして、私達が屋根からぶら下げた、ツララのような物まで。 「――――――綺麗……」 庭へと周り、様々な光達を楽しむ。 まるで私が魔法でもかけたみたい……。 「―――ビックリした?」 いつの間に家から出てきたのか、私の隣にはにっこりと微笑んだラブが立っていた。 「ラブ……あなたがスイッチを?」 「そうだよ。せつながリース付けるのを玄関の覗き穴から見て、タイミング合わせてたの」 その光景を想像するとちょっと滑稽だけど。 「―――ね、おとぎ話みたいでしょう?」 「………本当……」 彼女の腕に自分の腕を絡ませ、寄り添う。 「どう?ちょっとはムードある感じ?」 「……そうね、合格点をあげてもいいくらい」 暗い夜の闇の中、光り輝く桃園家は、この世の物とも思えないほど幻想的で。 私達は寒いのも忘れて、いつまでもその光景に見とれていた。 「……せつな……今なら、いいかな?」 沈黙を破るようにラブがそう口にする。 私は腕時計をちらっと見て。 「―――――ダメ。あとちょっとだけ待って、ラブ」 「えー!!なんでー!?もうあたし死んじゃいそうだよ~!!お願い~!!」 半ば強引に迫るラブを、何とか両手で制しようとする私。 「ら、ラブ!あ、あとちょっとだけだから我慢してってば!!」 「ヤダヤダヤダ~!!せつな、ん~、ん~!!」 く……何なの、このいつにないラブの力は……。き、禁断症状!? さすがに私も押し切られそうになり、あわや唇同士が触れ合おうとする。 ――――その瞬間。 「あなた達!!何やってるの!!」 * 唐突にかけられた大きな声に、私とラブはパッ、と身を離す。 振り向いた私達の前には、腰に手を当てて仁王立ちしたお母さんが。 も、もしかして今の―――見られた!? 「あ、あのねお母さん、こ、これは―――」 「ち、違うんです、あ、あの―――」 どもりながら必死に言い訳しようとする私達。 そんな私達に言葉を続けさせず、お母さんは怒った顔でビシッと屋根を指差す。 「あれほど登っちゃダメって言ったでしょ!!」 あ、そ、そっち……。 キスしようとしていた事に気付かれていなかった事にホッと安心。 ―――け、けど飾り付けに関しては言い逃れは―――。 「どうやって屋根の上に上がったかは知らないけど、夜で足元だってよく見えないのに、危ないでしょ?! もしも何かあったらどうするの!!」 お母さんの剣幕に、私達はしゅん、とうなだれるばかり。 「怪我はしてないみたいだから良かったけど、お母さんの言いつけ守れないなら、今年のクリスマスパーティ は中止よ!!」 「え、ひ、ヒドイよ―――――」 「ちょ、ちょっと待って、お母さん―――」 せっかくここまでしたのに、その肝心のクリスマスが中止なんて―――。 「――――ははは、いつラブとせっちゃんがお母さんの言いつけを破ったんだい?」 まだ痛そうに腰に手をやって、お父さんが私達の前に笑いながら姿を見せた。 私達ばかりかおかあさんもそれには驚き、すぐに心配そうにお父さんの傍に駆け寄る。 「お父さん、寝てないと―――」 「いやあ、こんなに素敵な眺め、見ないで横になってるのは勿体無くてね」 光り続ける家の装飾を見回し、満足そうに頷くお父さん。 その目はやがて、私達が飾り付けた屋根へと向けられ―――……。 「うん、とってもよく飾り付けられてるね。綺麗だ」 「お父さん!呑気な事言ってないで、二人をちゃんと叱ってくれないと―――」 「ん?どうして二人を叱るのかな?」 お父さんはニッコリとお母さんに微笑んでみせた。 「梯子も壊れてしまって、上に上がる方法も無いのに、二人に出来る訳ないじゃないか?」 「え、だ、だけど―――」 「まさか壁をよじ登って―――なんて事ある訳もないし。きっと、サンタさんがやって来て、プレゼント してくれたんだよ」 そう言って、お父さんは私達に歩み寄る。 「―――僕達家族の思い出に残る、素敵なクリスマスをね」 ぎゅ、っと私とラブに両腕を回して抱きしめると、お父さんはこっそりと囁いた。 「―――――お父さんにだけは後でこっそり、どうやったのか教えてくれるかい?」 私達もお父さんの腕に手を回し、微笑む。 最初は渋い顔をしていたお母さんも、やがて諦めたように溜息をついて、輝く家を見上げて。 「―――サンタさんがやったのなら、しょうがないわね。本当に綺麗………」 しばらくウットリと眺めた後、ハッとしたようにお母さんはお父さんへと駆け寄り、肩を貸す。 「ホラ、お父さん、痛めた所冷やしちゃ大変よ!早く戻らないと……あなた達も風邪引かないうちに部屋に 戻りなさい」 家に入る二人を見送ると、あたしたちは顔を見合わせ、微笑んだ。 そしてまた、二人で寄り添い合い、桃園家を眺める。 ――――もう一つ、忘れてはいけないわね。 私からラブへの贈り物を。 私はラブの横顔を両手で挟んで、こっちを向かせる。 何?と疑問を口にしようとするラブの唇に、人差し指をそっとあてがう。 「私だって堪らなかったんだからね―――」 時計は、深夜0時を回っていた。 彼女の唇を押さえていた人差し指を離し、私は静かに目を閉じて。 「メリー・クリスマス」 ラブの手が、私の背中と頭の後ろに、そっと回される。 私も彼女の腰を引き寄せて。 ちゅっ。 家族皆と過ごす、初めてのクリスマス。 そして、光の中で交わした、ラブとのキス。 (―――絶対に忘れられない思い出になるわ) 煌き続ける光達が、私達を……恋人達の夜を優しく照らしていた。 ~おまけ~ 名残り惜しいけど、いつまでもこのままじゃいられないものね。 ラブの腰に回していた手を、彼女の両肩へと移す。 そして彼女の身体から身を離そうと―――……。 「!!!」 は、離れない!? まるで万力で挟まれているかのように、彼女の手は私の身体を押さえ込んだまま、身をよじろうとしても ビクともしない。 「んー!!んーんー!!(ラ、ラブ!は、離してってば!!)」 「ん~ん。んん~……(ヤダ。せっかくキスできたんだもん、しばらくはこのままで……)」 「んんんんんんー!!(こ、このままじゃ風邪引いちゃうかもしれないでしょ!!)」 「ん~、んんんんんんん?(大丈夫だよ、こうすればあったかいってさっきせつな言ってたじゃない?)」 「ん、んんん……(そ、それはそうだけど……)」 「んん~……んんんん?(じゃあ……キス禁止令は解除してくれる?)」 「……ん……んんんん……(……分かったわ……私の負けよ……)」 「んんー!んんんんー!!!(わはー!幸せゲットだよ!!)」 私の意思表示に満足したのか、やっと彼女の力が緩む。 「………ぷはぁ、はぁ、ぜぇ………」 「わ~い!それじゃ約束通り、次は家の中に入る前のキスしようよ!」 息も絶え絶えな私に、無邪気にバンザイしながら明るい声で言うラブ。 そのあまりにも無邪気な口調に、私の身体がフルフルと震え出す。 「じゃ、はい。今度はせつなから―――」 「……………」 唇を突き出す彼女の脇を無言で通り抜け、私はツカツカと早足で玄関へと向かい、ドアを開ける。 そして「あれ?」という表情の彼女を振り返って、一言。 「……来年のクリスマスまでお預けです!!」 私の言葉に固まってしまったようなラブを尻目に、バタン!!とドアを閉める。 (……まったくもう……!!!) 「ホンットにムードないんだから!!」 「せ、せつな~!!せ、せめて年明けなんてど、どうかな~?か、カウントダウンに合わせてとか~……ね~ 聞いてる~!!?」 未練がましいラブの声は、いつまでもいつまでも、桃園家の庭に虚しく響いていた……。 了
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キュアパッション〔きゅあぱっしょん〕 作品名:フレッシュプリキュア! 作者名:スパロボあき 投稿日:2009年7月31日 画像情報:640×480px サイズ:69,828 byte ジャンル: キャラ情報 このぐぬコラについて コメント 名前 コメント 登録タグ 2009年7月31日 スパロボあき フレッシュプリキュア! 個別き
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フレッツ光はNTTが提供している光回線で、NTT東日本、NTT西日本に分かれています。 また、フレッツ光はその名称からもわかる通り、光ファイバーを利用した高速インターネットサービスです。 インターネットへの接続が速くなるなどの便利さが手に入るのは嬉しいのですが、そこで気になってくるのが利用料金です。 サービスが向上すると料金は高くなってしまうのが一般的です。 フレッツ光の利用料金は利用環境などによってかなり差があります。 ではどう違ってくるのでしょうか? 例えば一戸建てと集合住宅の利用環境を比べた場合、集合住宅でフレッツ光を利用する方が一戸建てで利用するよりもお得になります。 さらに集合住宅に住んでいる人の中でも、その集合住宅がどのような環境にあるのかで料金が変わってくるんです。 これによって月々の利用料金が変わってきます。 つまり、大きな集合住宅になればなるほど利用料金が安くなるという仕組みです。 さらに、その集合住宅の構造などによって配線方式が異なり、それによっても月々の利用料金が変わってきます。 この配線方式は光配線方式とVDSL方式とLAN配線方式とに分かれており、それぞれ機器利用料に反映されるという仕組みです。 このことを踏まえて考えてみると、大きなマンションに住み、そしてLAN配線方式であった場合、フレッツ光の月々の利用料金は2,500円程度です。 かなり安いと思いませんか? この料金でインターネット使いたい放題です。 とても良心的な料金設定になっています。 また、契約するプロバイダによっても料金が変わってきます。 これは工事費が無料になったり、いくらかキャッシュバックがあったり、月々の料金が割引になったりとプロバイダによって様々なキャンペーンを行っています。 フレッツ光にしようと思ったら、どのプロバイダのキャンペーンがお得かも調べておきましょう。 NTT東日本フレッツ光 NTT東日本フレッツ光NTT東日本フレッツ光のプロバイダはどこがいいの?新生活から光回線にしようと思っている方は今がチャンスです。月額2667円~でフレッツ光が利用可能に! xn--ntt-uj4b8dg1jvb2e3dydb0jt573c9uycrjeq7a.com/ 日本マイクロソフト、NTT東日本、デルが中小企業のIT活用促進で協業 Yahoo!ニュース 日本マイクロソフト、NTT東日本、デルの3社は、中堅・中小企業およびSOHO市場におけるICT利活用の促進に向けて協業し、NTT東日本の「オフィスまるごとサポート」をあわせ、ワンストップサービスとして提供すると発表した。 headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130220-00000007-mycomj-sci
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「わっは~、ふっかふか。美希たんのベッドは柔らかくって気持ちいい~!」 綺麗に整頓された美希の部屋。行き届いたベッドメイク。さっきまで、枕投げで散らかっていたはずなのに。 青一色に整えられた部屋は、奥行きが広く感じられ、さながら小さな海のよう。 真っ白なシーツは、打ち寄せる小波。 違うのは匂い。磯の荒々しい臭いじゃなくて、甘く爽やかなラベンダーの薫り。 「ラベンダーは安眠効果が高いのよ。きっと、素敵な夢が見られるわ」 美希が説明するのを待たず、ラブが飛び出した。 まずはベッドにほお擦りして、ゴロンと敷き布団の上を転がって、みんなもおいでよと手招きする。 「ちょっと、ラブ! プールじゃあるまいし飛び込まないでよ」 「あ~あ、せっかく美希ちゃんが食事中に抜け出して整えてくれたのに」 「そうそうって、なんでブッキーが知ってるのよ?」 「おばさんじゃなかったんだ」 「顔に書いてあるよ?」 「ないわよっ! せつなもジロジロ見ないの、そんなわけないでしょ」 「美希は、見えないところでいつも頑張ってるのね」 「ラブちゃんは相変わらず。せつなちゃんと二人の時もこうなの?」 「そうね、あんまり変わらないわよ」 呆れた顔で話すせつなの表情は、でも、楽しいって感情を隠しきれずにほころんでいた。 子どもなんだから、と溜息を漏らすせつなにラブが抗議する。 「えっ~せつなだってこの前は」 バフン! せつなの投げた枕が、ラブの顔面を直撃する。 かくして――――止めようとする美希の奮闘も空しく、枕投げの第二ラウンドが勃発したのであった。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。パジャマパーティー――』 『お邪魔しま~す!!!』 ジャージ姿で蒼乃家の門をくぐる、ラブ、祈里、せつな。扉を開いた美希も、首にスポーツタオルをかけたトレーニングスタイルだ。 休日を利用しての、早朝からのダンスレッスン。昼からミユキさんもコーチに加わってのハードメニューだった。 みんなクタクタに疲れていたのだが、表情は活き活きと弾む。 理由は、各自が抱える大きなバックが物語っていた。今日は――――パジャマパーティーなのだから。 「いらっしゃ~い。みんな、ゆっくりしていってね」 「ゆっくりはするわよ、お泊りなんだから」 「もう、美希ちゃんのイジワル。そんな言い方しなくたっていいのに」 「ゴメンってば。今夜の夕食はアタシたちが作るから、ママものんびりしてよね」 「それは助かるわぁ~、美希ちゃんのお料理は味気なくって」 「アタシはママから教わったんだけど……」 後ろでクスクス笑い出した三人に気が付いて、美希が顔を赤らめる。「行くわよ」と、レミを置いてさっさと自分の部屋に上がる。 慌てて後を追うラブたちを、レミは可愛らしく手を振って見送った。 「おばさん、相変わらずね。母娘というより、友達同士の会話みたい」 「もう、恥ずかしいんだから」 「でも、見ていて仲がいいのが伝わってくるわ」 「うん、あたしたちもおかあさんと仲良しだけど、美希たんのとこと少し違うよね」 「そうね。アタシはママの娘だけど、気の合う友達であり、相談相手でもあるのよ」 「だって、美希ちゃんしっかりしてるんですもの。あたしとしては、もう少し頼って欲しいのだけど」 「それはママがだらしないから……。って、なんでここにいるのよっ!」 「お風呂沸いたわよ、って伝えにきたのよ。ローズマリーを浮かべておいたから、サッパリするわよ~」 怒って追い出す美希と、懲りた様子のないレミ。こんな性格だから、二人っきりの暮らしも寂しくないのだろう。 「それにしても、美希たん家のハーブ湯なんて久しぶり~」 「せっかくだから、みんなで入っちゃおうか?」 「ええっ? 私は恥ずかしいから後で入るわ」 「わたしも、自信ないからやめとく」 「お風呂に何の自信がいるのよ? 女の子同士なんだから気にしないの」 「そうそう。行くよっ! せつな」 「きゃっ! ちょっと、ラブったら押さないで」 「わたし、信じてる……」 「だから、何をよ……」 二人暮しとは思えない、豪華で広いバスルーム。アイドルだったレミは、お風呂には特にこだわりがあった。 湯船には可愛らしい花柄模様の布袋が浮かぶ。中にはハーブの茎葉がたっぷりと入っていた。 「美希のアロマ好きは、お母様ゆずりだったのね」 「いい匂い。ずっとこうしていたいくらい」 「そんなの、バスタブに体を隠してる理由にはならないわよ?」 「せつな、背中流してあげる」 「「嫌だって、言ってるのに……」」 生き返ったようにツヤツヤしているラブ。緊張してグッタリ疲れたせつなに、何やら落ち込んでいる様子の祈里。 そんな中、美希はテキパキと髪にタオルを巻き、ローションマスクを貼り付けていく。 「美希たん、毎晩そんなことしてるんだ?」 「当然でしょ? 入浴後は時間との戦いなのよ。さっ、みんなも早くするのよ」 初めての体験に、みんなくすぐったがったり、おかしくなって笑ったり。にらめっこしてるんじゃないんだから、と美希にたしなめられる。 パジャマパーティー。一日だけでも違う家庭の暮らしに触れると、新しい発見も多い。 感じ方や考え方の違い。個性と呼ばれる人のあり方の違いの多くは、日々の暮らしから生まれるものなのだろう。 スキンケアが終わるのを待てずに、ラブがキョロキョロしながら辺りを物色し始める。 勝手知ったる幼馴染の部屋。トランプを見つけて遊ぼうと持ちかける。 「はしゃぐのはもう少し後にしてね。後十分くらいは動いちゃダメよ」 「じゃあね、せつな、占いしてよ」 「いいけど、何を占えばいいの?」 「え~っと、明日の運勢とかかな?」 「せつなちゃん、また占いするようになったのね」 「アタシは占いなんて信じないわよ」 「ふ~ん? じゃあ、美希の運勢を占ってあげる。最悪ね、この先きっと良くないことが起こるわ」 「ちょっと! 縁起でもないこと言わないでったら」 「冗談よ、やっぱり気になるんじゃない」 「ゴメンナサイ……」 「でも、運勢ってなんだろう。運命って始めから決まってるものなのかな?」 「わからないわ。私にとっては、運命はメビウス様が決定されるものだったから……」 「せつなっ!」 「せつなちゃん?」 「せつな、あなた……」 「いいの。もう、私はイースであったことを受け入れようって決めたの」 せつなは、真摯な眼差しでみんなを見つめる。 それは、あの日に決意した想い。未来にかける願い。ダンスユニット“クローバー”の再結成の誓い。 そんなせつなの想いを受け止めて、みんなは――――みんなは……一斉に吹き出した。 「ちょっと、何が面白いのよっ!?」 「だって……、ククク」 「そんな顔で、アハハ」 「パックが崩れちゃう……、クスクス」 「もうっ! 許さないんだから!」 せつなの投げた枕が、美希の頭をわずかに掠める。美希はチラリと時計を見てから、不敵な表情でパックを外した。 ラブと祈里も、顔を見合わせて同時に剥がした。 せつなも力強く剥ぎ取った。パックにも劣らない真っ白な素顔が、戦士の表情を形作る。 「ちょうど十分ね、受けて立つわ!」 「私に勝てると思ってるの?」 「恒例、枕投げ対決、行くよ!」 「負けないんだから!」 ここに、パジャマパーティー史上、最大の決戦の火蓋が切って落とされたのだった。 「今夜はあたしの特製のハンバーグだよ」 「私も、クリームコロッケに挑戦するわ」 「じゃあ、アタシは付け合せのサラダでも作ろうかな」 「わたしは……。みんなのお手伝いをするね」 今度はみんなで夕食の準備。 パジャマ姿のままで、上からエプロンを付ける。一見、お遊戯じみているが、実は彼女たちの腕は中々のものだった。 各自の得意料理。別々に作るかと思いきや、ラブとせつなは作業を分担しあって調理を進めていく。 包丁を握るラブと、下味をつけるせつな。左右に行き交う食材たち。 “焼き”と“揚げ”だけは、それぞれの手で行った。 「この二人って、……一体……」 「シェフじゃないんだから……」 前回のパジャマパーティーと比べても、遥かに腕を上げた二人の手付きに目を見張る。 美希も負けじと、豊富な食材を使って、色とりどりのサラダを完成させた。 テーブルを埋め尽くす料理の数々に、レミも驚きの表情を浮かべる。 ハンバーグにコロッケ。サラダに炒め野菜。スープにデザート。 栄養のバランスもしっかりと考えられていて、ボリュームはあるが見た目ほど量が多いわけでもない。 『いただきま~す』 「いいわねぇ~、家庭でこんなに美味しいご飯が食べられるなんて」 「いやぁ~、それほどでも」 「おかあさんは、もっと上手なんです」 「わたしのお母さんのお料理も、負けないくらい美味しいのよ」 「要するに、ママがダメなのよね」 「ヒドイ! 美希ちゃん」 絶え間なく沸き起こる笑い。食卓を囲む笑顔。久しぶりに賑やかな蒼乃家の食卓に、レミも嬉しそうだった。 食後の後片付け。四人一緒だと、そんなことも楽しくて。お話しながら、ゆっくりとテーブルやキッチンを綺麗にしていく。 「美希のお母様は、とても綺麗ね」 「急にどうしたの? 初めて会うわけでもないのに」 「容姿のことじゃなくて、姿勢とか、立ち振る舞いとか、食事の作法とか」 「うん、ママが言ってたの。美しくなりたいのなら、常に他人の視線を意識しなさいって」 せつなはテーブルを拭いてるレミに目を向ける。作業としては決して誉められた手付きじゃないけれど、物腰がとても上品で優雅だった。 経験が人を形作り、それが後の自分の生き方や、家族や友人にまで影響を与えていく。 美希のモデルへの憧れも、アイドルであった母親の、生き方や美しさと無縁ではないのだろう。 そして、思う。 だとしたら、自分は過去から何を得たのだろう。この先、それによって何を伝えていけるのだろうかと。 食事を終えて美希の部屋に戻る。そこで二度目の枕投げの後、一息ついてから、今度は美希が小さい頃の写真を引っ張り出してきた。 ラブと祈里も、申し合わせていたのだろう。それぞれバックの中から、古い表紙の分厚いアルバムを取り出した。 三人の写真は、本当に小さな頃から一緒に映っているものが多かった。 同じ日に撮ったのだろうと思われる写真もあった。 「こっちが弟の和希。アタシとラブとブッキーは~」 「クスッ、わかるわよ。面影がそのまんまじゃない」 「あはは、まだ十五歳だし、あんまり変わらないよね」 「わたし……可愛い」 「えっ?」 「ブッキー、今、なんて?」 「あっ、ううん、なんでもない!」 なぜか拳を握り締めた祈里に、一同が訝しがる。 そんなつぶやきはともかくとして、幼い頃の三人はどれも愛らしかった。 「本当に可愛い。抱きしめてあげたくなるくらい」 「ホントッ? 恥ずかしいけど、せつななら……」 「ばかっ、小さい頃のラブの話よ」 「たはは、でも、せつなの小さい頃だってすっごく可愛かったろうな~」 「……なかったと思うわ。可愛げなんてなかったもの」 「そんなことないよっ! 目付きの悪い小さなイースだって、絶対に可愛いって!」 「ラブちゃん、それ、フォローになってないと思う……」 「ゴメン、せつな。悲しいこと思い出させちゃった?」 「平気よ。アルバム見せてもらうの初めてだったから、とっても嬉しいわ」 「それはね――――」 早くから美希の提案で、アルバムはせつなには見せないようにしようと話していたらしい。 幼い頃の思い出のないせつなにとって、羨ましい写真かもしれないからって。 同じ理由で、それぞれの誕生日パーティーを盛大に祝うこともしないようにしていたのだとか。 「ごめんなさい、気を使わせていたのね。でも、今になってどうして?」 「最近、せつなの様子が変わったからかな」 「美希ちゃんがね、今ならいいんじゃないかって」 「ゴメン。あたし、せつなの気持ちも考えないで、おじいちゃんの写真で騒いじゃったことあったよね」 せつなは首を振って、謝るラブたちに微笑みかける。本当に、自分の知らないみんなの姿を見ることができて嬉しいって。 正確には、せつなは幼い頃の写真がないわけではない。データーという形で、幼少時の姿は記録されている。 しかし――――それは思い出と呼ぶにはかけ離れたものだった。 心の通わない、証明写真のようなものだった。 そんなことまで素直に話せる自分を不思議に思いながら、アルバムを通して、しばらく三人の思い出の中を旅した。 「ねえ、ラブ? これは……。クスッ、もう寝ちゃったのね」 「ブッキーもよ。二人とも、ダンスの練習で疲れていたのね」 「美希は平気みたいね?」 「アタシは鍛え方が違うもの。せつなこそ余裕そうじゃない?」 「そうね。それも……寂しい過去で、笑顔と引き換えにして得たものよ」 美希は立ち上がり、ベッドを占拠して眠るラブと祈里にそっと布団を掛けた。 二人は互いに向き合って、体を丸めて、おでこをくっつけ合うようにして眠っていた。 「こうして見ると、まるで姉妹ね。ううん、美希もそう」 「否定しないわ。幼馴染って、姉妹にも似た関係なんだと思うもの」 ラブと祈里は一人っ子。美希には弟がいるが、離れ離れに暮らしているのでやっぱり一人。 そんな寂しさを埋めあうように、三人はいつも一緒に過ごしてきた。 「それで、ラブに何を聞こうとしていたの?」 「この写真よ、三人とも泣いているわ。それに、ラブがなんだか怒ってるみたいで」 「ああ、それはね……」 それは、美希が弟の和希と別れ別れになって、しばらくした頃のことだった。 当時、美希は少しだけ荒れていて、祈里に八つ当たりして泣かせてしまったことがあった。 駆けつけたラブが祈里を庇って、美希に食ってかかったのだ。そして喧嘩になって、結局は三人とも泣き出してしまった。 「アタシってもともと生意気な子だったし、あの頃は特にね。だから、ラブまでアタシを嫌ったんだって思って泣いちゃったの」 「ラブは、誰かを嫌ったりなんかしないわ」 「そうなの。後でわかったんだけど、ラブはブッキーを庇ったんじゃなくて、アタシを心配して叱ってくれたらしいの」 「ラブは、小さな頃からラブなのね」 「うん。あの時ラブが叱ってくれなかったら、アタシはきっと嫌な子になってたと思う」 「それで、いつもラブがリーダーなのね」 「そうよ、ほらっ、あの子って怒らせると恐いでしょ?」 「クスッ、そうね。それはよくわかるわ」 ちょっとだけ似た境遇。小さな秘密を分かち合って、美希とせつなは顔を見合わせてクスリと笑う。 美希がラブと出会って変わったのなら、それは自分と同じだと思う。 いや、同じではないのだろう。 幼い頃に出会っていたら、人格がかたまる前に知り合っていたら、自分も幼馴染であったのなら……。 一体、どんな人間になれたんだろう。 遅すぎる出会い。取り返しの付かない過ち。夢であってほしかった現実。 もっと早くに、幼馴染として出会えたなら……。そうしたら、どんな今があったんだろう。 「美希、ここだけの秘密にしておいて。私は、やっぱりあなたたちがうらやましい。私も、この中の一人になりたかった」 「もう、なってるじゃない? 幼馴染じゃなくても、せつなはアタシたちにとって、他の二人と同じくらい大切な仲間よ」 「だって、遅すぎるじゃない」 「ねえ、聞いて」 美希は静かに話す。ずっと一緒、そう思っていた三人が、バラバラになってしまった日のことを。 当時、小学校六年生だった美希は、読者モデルとしての第一歩を踏み始めた時期だった。 読モとは言え、本物のモデル業界の厳しさを肌で感じ取った美希は、このままでは夢が叶わないことを知った。 そこでレミと相談して、芸能学校である、私立鳥越学園への進学を決意したのだ。 それは、ラブや祈里と別れ別れになることを意味していた。 ラブは涙を堪えて、懸命に堪えて、がんばってと応援してくれた。 祈里はしばらく泣きじゃくったが、やがて自分も獣医の夢を求めて、進学校である私立白詰草女子学院に行くことにした。 中学生になってからも交流は続いたが、別々の時間を、別々の友人と過ごすことも多くなっていた。 いつも一緒。そんな関係は、夢と自立の名の元に崩れ去っていった。 「このまま、少しづつ距離が開いていくと思ったの。そして、いつかは会うこともなくなるんじゃないかって」 「でも、そうはならなかった。私たちの、ラビリンスの襲撃があったからね?」 「ええ、プリキュアとダンスね。同じ使命と夢を持てたアタシたちは、また一緒に行動するようになった」 「皮肉なものね。大きな不幸が、小さな幸せをもたらしたなんて」 「アタシにとっては小さくなかったわ。イースが現れてアタシたちは集い、せつなの加入でアタシたちは一つになれたのよ」 「私が遅れて来たことにも、意味があったのかしら」 「アタシは三人で完璧だって思ってた。でも、違ったの。せつなが加わって四人になって、それでクローバーは初めて完璧になるのよ」 美希は続ける。せつながこの世界に来て様々な幸せを学んだように、美希たちもまた、せつなの不幸からたくさんの大切なものを学んだのだと。 失ってはならないものが何なのか。本当に人を幸せにするものは何なのか。それをせつなが教えてくれたのだと。 だから、自分たちもまた、あんな答えが出せたのだと。 「私の過去も、無駄ではなかったってこと? 笑顔と幸せを、導く力になれるってこと?」 「それは、この先のアタシたち次第なんじゃないかしら?」 「精一杯、頑張るしかないってことね」 「そしたらきっとできるわ、アタシたちは完璧なんだから。でも、一言だけ伝えたいの」 「なあに?」 「せつなのおかげで、アタシたちはまたクローバーを結成できた。だから……ありがとう」 「美希、私も占いなんて信じない。運命が無数の選択肢なら、最高のものを掴み取るわ。ないなら、無理やりにでも作るから」 「じゃあ、占いはやめちゃうの?」 「やめないわ。それも、私の過去の一部だもの。納得の行く結果が出るまで、何度だって占うだけよ」 「クールなイースが、大人しいせつなが、実はこんなに熱い子だったなんてね」 そう言いながら、美希は布団をせつなに被せて、自分も一緒に潜り込んだ。 せつなの手を握って、何か言おうとするせつなを、「おやすみなさい」って言葉で遮った。 「おやすみなさい、美希」 その夜、せつなは夢を見る。小さなせつなが、四つ葉町に来た夢を。 初めて見るはずなのに、不思議と馴染みのある公園。そこで仲良く遊ぶ、同じ歳くらいの三人の女の子たち。 ツインテールの子が、せつなの視線に気が付いて手を差し伸べる。 「あたし、ラブってゆーの。よかったら、いっしょにあそぼう!」 「わたしは、せつなよ。ひがしせつな。あそんでくれるの?」 「アタシは、あおのみき。みきってよんでいいわ」 「わたしは、やまぶきいのり。ぶっきーよ。せつなちゃんでいい?」 「さあ、いこう。おにごっこしってる? あたしがおいかけるから、せつなはにげるんだよ」 「わたしをつかまえられるとおもってるの?」 「そんなのわかんないよ、はじめてだもん」 「よーい、どーん!」 「いーち、にー、さーん」 「みてないで、にげるのよ、せつな」 「あなたは、みき?」 青い髪の女の子が、せつなの手を引いて逃げる。風に揺れる長い髪が綺麗で、あたたかい手の感覚が嬉しくて。 追いかけて来る、ツインテールの髪の子の笑顔がまぶしくて。 いっそ、捕まってしまいたいくらいに嬉しかった。 気が付くと、隣のサイドポニーの髪の子が、心配そうにせつなを見つめていた。 目が合って、嬉しそうに笑う。 せつなは走る。この素敵な仲間たちと、過去から未来に向けて真っ直ぐに。 いつまでも――――どこまでも。 避2-476へ
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ごくごく普通の、どこにでもあるような家庭だった。ほんのちょっとだけ裕福で、ほんのちょっとだけ敷地が広くて。 うんと優しいお父さんとお母さんの間に生まれた、ごくごく普通の女の子だった。 「お父さん、これは?」 「おまえが、ずっと欲しがっていたものだよ。開けてごらん」 それは、その子の五歳の誕生日のこと。 かねてより、おねだりしていたテディベアのヌイグルミを、お父さんが買ってきてくれたのだ。 テーブルの上には、五本のローソクが並んだ、大きなお誕生日ケーキ。そして、所狭しと並んだご馳走の数々。 そんなものには目もくれず、少女はもらったばかりのヌイグルミに夢中になった。 「テディベアちゃん? クマちゃんでいいよね! ずっと、お友達でいようね」 「大切にするのよ」 いつも一緒だった。雨で家の中にいる日も、お父さんとお母さんの帰りを待つ時間も、ヌイグルミと一緒なら苦にならなかった。 外でも一緒だった。晴れて公園で遊ぶ日も、お友だちと追いかけっこして遊ぶ時間も、ヌイグルミと一緒に手をつないで走った。 寝る時も一緒だった。お勉強する時も一緒だった。ずっと、こんな時間が続くと思っていた。 その時が、来るまでは―――― 『幸せの赤い翼――――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(古き友の呼び声)――――』 ラブ――――ラブ――――ラブ―――― ラブ――――ラブ―――― 誰かの呼び声が聞こえたような気がして、ラブはキョロキョロと辺りを見渡す。 「えっ? 今、なにか言った?」 「どうしたの? ラブ」 「なにも聞こえないわ」 「わたしも、なにも聞こえなかったよ」 「寝ぼけとんとちゃうか? 昨日も夜更かししてたみたいやし」 「失礼ね~、昨日はお部屋のお片づけしてたから」 「普段から、ちゃんとしてないからそうなるのよ」 「いや~、それを言われると……」 明日、公園でフリーマーケットが開催されるらしい。張り紙を見た四人は、不用品を集めて出品することにした。 美希は迷わず山のように、祈里は慎重に見極めて、ラブは、迷った挙句に何も出せずに……。 それでも、しぶしぶ古着や古雑貨などをカバンに詰めていった。 「せつなの準備は進んでるの?」 「私は、不用品なんて持ってないもの。みんなのお手伝いをするつもりよ」 「そっか、せつなちゃんの持ち物は、どれも買ってもらったばかりよね」 「それに、古くなっても売ることなんてできないわ。だから、本当に使えなくなるまで新しい物もいらない」 「ええっ~、どんどん買ってもらって、全部大切にすればいいじゃない」 「そうして、ラブの部屋のクローゼットみたいにごちゃごちゃになるんでしょ? お断りよ」 「そういうラブちゃんも、あんまり新しいもの買わないね」 「それでも物がたまるのは、整理整頓ができてないからよ。整頓の前に整理。不用品を処分しなきゃ」 「だって、全部大切な物だから……。捨てるなんてできないよ」 「そのためのフリーマーケットでしょ? 帰ったら、ちゃんと、もう一度整理するのよ」 「はぁ~い」 出品場所の確認と打ち合わせを終えて、四人は一端家に帰ることにする。 「それじゃ、また後でね」 「夕方、ラブちゃん家に伺うね」 「うんっ! 待ってるね~」 「ラブ。夕方って、フリーマーケットは明日のはずじゃあ?」 「明日の朝は早いでしょ? それなら、せっかくだから今夜はパジャマパーティーやろうと思って」 「パジャマパーティー?」 「えへへ、後のお楽しみ。せつな、今夜は寝かさないよ?」 「ええっ? 一体なんのことなの」 「ふわぁ~あ、結局、今夜も夜更かしかいな。付き合うこっちがもたへんわ」 「ぱじゃま、ぱーてぃー、キュア~」 不思議そうなせつなの表情を横目に見ながら、ラブはメモ用紙を取り出す。 じゃがいも、たまねぎ、カレールウ、それに……。 せつなが横から覗き込む。 「お買い物して帰るのね。メニューはカレーライス? それにしても、ずいぶん量が多いのね」 「そうだよね、ニンジンくらいは減らしても……」 「ダメよ、ラブ。ちゃんと書いてある通りに買わなきゃ」 「それじゃ、あたしの分も食べてくれる?」 「それもダメ。同じだけ食べてもらうわよ」 「ええっ~」 二人は、買い物をするために商店街へと急いだ。 大きな荷物を抱えた美希と祈里が、ラブの家の玄関の扉を叩く。 手持ち無沙汰だったせつなが、真っ先に駆け寄ってドアを開けて出迎えた。 「いらっしゃい、美希、ブッキー」 「美希たん、ブッキー、待ってたよ~」 「ありがとう、お邪魔します。おじさん、おばさん、ラブ、せつな」 「今夜一晩、よろしくお願いします」 「どうぞ、ゆっくりしていってね」 ラブの部屋に着いた美希と祈里は、タルトを押入れの中に閉じ込めて、すぐにカバンからパジャマを取り出して着替えていく。 突然服を脱ぎだして、下着姿になる美希と祈里に、せつなは驚いて目をパチクリさせる。 ラブに事情の説明を求めようとして、ラブも脱いでいることに気が付いた。 「ちょっと、一体なに? 食事も済んでないし、お風呂もまだよ、どういうことなの?」 「いいから、せつなも着替えて。パジャマパーティーなんだから、まずはそこから始めなきゃ!」 一足先に着替え終わったラブが、せつなの部屋にパジャマを取りに行く。 「嫌よ! 私は自分の部屋で着替えるわ。ちょっと、脱がさないでったら!」 「観念しなさ~い、これもコミニュケーションのうちよ」 「わたしたちは、小さい頃からで慣れっこだから」 ラブが戻ってきた時には、下着姿で涙を浮かべて睨んでるせつなと、すっかり着替え終わって苦笑している美希と祈里の姿があった。 「衣服ってのはね、気持ちに影響を与えるの。確かにちょっとだらしないけど、落ち着けるのよね」 「心も身体もリラックスして、ゆったりと時間が流れるのよ」 「フンだ。そんなんで、誤魔化されないんだから!」 「まあまあ、せつな。ふざけっこは仲良しのしるしだよ」 それから、トランプ遊びをした。神経衰弱に、ばば抜き、そして、ポーカー。どれもせつなが圧倒的に強く、罰ゲームで美希と祈里がひどい目にあったのは言うまでもない。 このトランプは、唯一、せつながラビリンスから持ち出したものだった。 「そろそろ夕ご飯の支度しなきゃ。今夜はカレーだよ」 「オーケー、何でも手伝うわ」 「わたし、自信ない……」 「美希は料理するのね?」 「その意外そうな口調は何よ? アタシは調理も得意なんだから」 「完璧って口にしないところが、ポイントよね」 「言ったわね! こうなったら料理勝負よ、せつな」 「受けて立つわ。ラブ以外には負けないんだから!」 「ちょっと、二人とも仲良くしようよ~」 「大丈夫だよ、ブッキー。さあ行こう!」 調理が始まる。ラブは鮮やかな手付きで野菜の皮をむいて、牛肉の下処理に取りかかる。 ジャガイモとニンジンをカットするせつなと、タマネギを刻む美希の包丁裁き対決は……食材選びの時点で決着がついていた。 「いっただきま~す!」 『いただきます』 祈里が遠慮がちに小声で祈りを捧げた後、みんなで夕ご飯をいただいた。 祈里は軽く、美希はもっと軽く、せつなはしっかりと。ラブは、盛り付けは普通だったが……。 「おかわり~」 「ちょっと、ラブ。食べすぎよ?」 「平気、平気。この後、枕投げで運動するんだから」 「どれほど投げる気なのよ……」 「でも、せつなも思ったより食べるのね」 「ラブがこうだもの。つい、つられてたくさん食べちゃうの」 「あっ~! せつなったら、あたしのせいにするんだ?」 「ラブちゃんって、楽しい時ほどたくさん食べるのよね」 「なるほど、せつなと暮らすのがよっぽど楽しいわけね」 「もう、からかわないで!」 賑やかな食事が終わり、それぞれが後片付けに取りかかった時、突如異変は起こった。 バラエティの放送中だったテレビ番組が、臨時ニュースに差し替えられる。 現在、街中から子供たちの玩具が消失する怪現象が起こっています。原因はまだわかっておりません。 販売店からも、各家庭からも、例外なく消えているらしく―――― ただ今、新しい情報が入りました。この現象は、世界各地で起こっている模様です。 また、詳しいことが判り次第―――― ラブ、美希、祈里、せつなの表情が変わる。怪現象、それは即ち、ラビリンスの襲撃を意味していた。 わからないのは、世界各地で起こっているということ。これまで、ラビリンスの攻撃による被害は、街の外に及んだことはなかった。 「ともかく、様子を見に行こう!」 『ええ!!!』 四人は、パジャマに上着だけを羽織って飛び出した。 家の外は、酷い有様だった。 家庭のおもちゃ。外で遊んでいる子のおもちゃ。喫茶店のマスコットや、キッズルームのおもちゃ。もちろん、玩具屋さんの商品も根こそぎ消えていた。 街は、消えたおもちゃを探す人々、警察や玩具屋さんに事情を問い詰める人々、泣き喚く子供たちなどで溢れ返っていた。 建物が壊されることを思えば、それほど深刻な事態とは言えないだろう。しかし、これまでの襲撃とは比較にならないほど被害が広範囲に及んでいた。 何より、全ての子供たちから笑顔が失われるのだ。それは、大人たちの気持ちにも影響を与えて……。 街全体が、暗い雰囲気に包まれようとしていた。 「あなたも、おもちゃを無くしてしまったの?」 「ひっく、だいじな……だったのに。お父さんから……。わあぁーん!」 とりわけ悲しそうにしている小さな男の子に、せつなが近づいてそっと声をかける。 その子はついに堪えきれなくなり、堰を切ったように泣き出した。 「そうなの……。単身赴任で遠くに行ってしまった、お父さんからの贈り物だったのね」 「ひどいっ。こんなこと、許せない!」 「子供たちから、不幸を集めるなんて……」 「心配しないで、私が――――。ううん、プリキュアが、必ず取り戻してくれるから」 せつなの力強い言葉に励まされたのか、その子もようやく泣き止んだ。 とは言え、今回は肝心のナケワメーケの姿が見当たらない。これだけ被害が広範囲だと、居場所の絞込みすらできない。 男の子を家まで送り届けた後、ひとまず帰って対策を立てることにした。 せつなはラブの部屋に戻ると、ためらわずにパジャマを脱ぎ捨て、昼間の服に着替えた。明るい部屋に、雪のように白く美しい肢体が舞う。 先ほど、恥ずかしがっていたのは何だったのかと思うくらい、周りの視線を気にする様子もない。 ラブ、美希、祈里は、顔を見合わせてから、同じように着替えた。 「これだけ広範囲に、一度に働きかける特殊能力……。サウラーのナケワメーケに違いないわ」 「でも、今頃どうして? もう、不幸のエネルギーは必要ないんじゃなかったの?」 「そのはずよ。奴らの目的も、シフォンの奪取に絞られていたもの」 「理由なんてどうだっていいよ! とにかく、早く倒して取り戻さないと!」 「いや、それなんやけどな。どうもラビリンスの仕業やなさそうなんや……」 「どういうこと?」 「よう見てみ? あいつらがやったんなら、クローバーボックスが光るはずやろ」 「確かに、沈黙したままね」 クローバーボックスは、シフォンの危険を知らせる能力を持つ。もしラビリンスの力が働いているなら、その発現地点まで映し出すはずだった。 「でも、ラビリンスじゃないなら、一体誰がこんなことを?」 ラブ――――ラブ――――ラブ―――― ラブ――――ラブ―――― 「ちょっと今、大事な話してるから待っててね。って! また、聞こえたよ!?」 「今のは、アタシも聞こえたわ」 「怖い。まさか、お化けなんじゃ?」 「みんな落ち着いて。確か、そこのクローゼットの中からよ」 「不思議な声……。初めて聞くはずなのに、なんだか懐かしいような」 「ラブ、気をつけて!」 「おともらち、よんでる。キュア・キュア・プリップ~」 ラブが立ち上がり、声の主を確認しようとする。それより早く、シフォンが宙に浮き上がり、額から力を放った。 クローゼットに命中した光は、やがて内部に吸い込まれる。 そして、音もなく扉が開き、中から一体のヌイグルミが飛び出してきた。 ピンク色の、ウサギのヌイグルミ。それが、フワリと宙に浮き、ラブの名を呼ぶ。 かなり古いものらしく、また、かなり使い込んだものらしく、色あせ、ところどころ破れて、中の綿が飛び出してしまっていた。 「ウサピョン!」 「ウサピョンって?」 「あたしが小さい頃に、よく遊んでいたヌイグルミなの」 「ヌイグルミが、なんでしゃべってんねん!?」 「あなただって、しゃべるフェレットじゃない?」 「ちゃうわ! わいは、可愛い可愛い妖精さんや!」 「はいはい、とにかく今はこの子の話を聞きましょう」 美希の言葉に頷いて、ヌイグルミは、今度はしっかりと話しだす。 「おもちゃや人形たちはね、本当に心の通ったお友達となら、お話ができるのよ」 心が通えば、おもちゃだって会話ができる。だから、自分はみんなのことを全部知っているのだと。 もっとも、これほど自然に話せるのは、シフォンの手助けによるものらしい。 「それで、あなたはどうして無事なの?」 「街のおもちゃは、みんな消えてしまったのよ」 「それは、トイマジンと呼ばれるヤツの仕業よ。なぜか、あたしにはその力が届かなかったの」 「なるほど。シフォンか、クローバーボックスの力で守られていたのね」 ヌイグルミ、ウサピョンの話によると、この世界からおもちゃが消えたのは、おもちゃの国に住むトイマジンと呼ばれる者の仕業らしい。 おもちゃの国は、役目を終えたおもちゃが集まって生まれた場所なんだとか。本来は、新しいおもちゃや、大事にされているおもちゃが連れて行かれることはない。 トイマジンはその禁を破り、世界制服の手始めとして、子供たちから全てのおもちゃを奪ったのだ。 「お願い、あたしと一緒におもちゃの国に来て! トイマジンの野望を止められるのは、プリキュアだけなの」 「わかった。あたし、行くよ。だって、ウサピョンは友達だもの。友達を助けるのは当たり前でしょ」 「ちょっと、ラブ! いきなり異世界に飛び込むなんて無茶よ!」 「落ち着いて、ラブちゃん。その国のこと、相手のこと、何もわかってないのよ?」 「行きましょう。ラブ、美希、ブッキー」 「せつなっ!」 「せつなちゃん?」 「この街の子供たちが、泣いている。戦う理由なんて、それだけで十分よ」 せつなの瞳が、闘志で燃え上がる。静かな口調に、返って怒りの深さがうかがえる。震える拳を開いて、リンクルンを取り出した。 美希と祈里も、頷いて立ち上がる。止めたところで、せつなは一人ででも行くだろう。何より、困ってる人々を助けたい気持ちは同じだった。 「行こう! 約束したものね。プリキュアが、必ずおもちゃを取り返すって」 「そうね、覚悟を決めましょう!」 「取り戻そう、わたしたちの手で」 「ウサピョン、おもちゃの国を強くイメージして」 「うん、まかせて」 「おもちゃの国へ!」 アカルンの輝きと共に、四人と一匹と二体は、時空の壁を越えて飛び立った。 おもちゃの国に到着した一行の前に、大きな門が立ちはだかる。建物の外周は高い壁で覆われており、他に出入り口はなさそうだった。 よく見ると、プラスチックのブロックで出来ており、規模の大きさに比べて、威圧感はまったくと言っていいほどなかった。 早速、守衛に問い詰められたものの、ウサピョンが用意していた精密なパスポートにより、事も無く入国が許された。 「ここが――――おもちゃの国?」 「わはっ、なんだかすっごく楽しそう!」 「どこも、とっても可愛い!」 「キュア~」 積み木とブロックで作られた建物には、大小様々な動物のオブジェが飾られている。 床はジグゾーパズルで出来ており、路面にはモノレールやミニカーなどが、縦横無尽に走り回る。 和洋、今昔、ごったまぜの人形やロボットが、自在に街を闊歩する。 どこまでも自由で、奔放で、はちゃめちゃで―――― それは、まるで子供のおもちゃ部屋のようでもあった。 「遊びに来たんじゃないのよ、ラブ。ここはもう、敵の手の内と考えていいわ」 「ごめん、そうだった」 「しかし、なんや、リアリティのない国やなあ」 「タルトがそれを言う?」 「そうよ、お菓子の国の王子のクセに、偏見はよくないわ」 「そんなことまで知っとるんかいな……」 ウサピョンにやり込められるタルトの様子を笑いながらも、せつなは周囲に対する警戒を高めていった。 異世界に慣れているせつなには、この世界に対してもみんなほどの驚きはない。 噴水広場にたどり着いたところで、ウサピョンに向き直る。 「こうしていても始まらないわ。トイマジンというのはどこにいるの?」 「それが、あたしにもよくわからないの」 「だったら、その辺の人に聞いてみればいいよ!」 「そうね」 「果たして、人と言えるかは微妙だと思うけど……」 街の住人たちは、皆、陽気で、声をかけたら親切に応対してくれた。 一緒に遊ぼうと誘う者、探し物があるなら手伝うと名乗り出る者、色々だった。しかし―――― 「アタシたちが探しているのは、トイマジンというの。何か知ってるなら」 「知らない! 知ってても教えるものかっ! もう、構わないでくれ」 「ソンナモノハ、コノマチニハ、イナイ。デテイケ! デテイケ!」 「聞こえない。わたしには質問の意味がわからない。さようなら~」 「みんな、どうしちゃったんだろう? 名前を聞いただけで逃げ出すなんて……」 「ラビリンスにおけるメビウスのように、絶対的な存在なのかもしれないわ」 「あっ、あっちにおまわりさんがいるよ、聞いてみよう!」 「待って! ブッキー」 祈里は、犬のおまわりさんの人形に話しかける。 動物の姿に安心したのか、警戒心も持たずに、単調直入にトイマジンについて質問する。 人懐っこいダックスフンドの表情が、たちまち険しいものとなる。 ワン! ワン! ワン! と、立て続けに吠えると、首に掛けていた笛を思いっきり吹き鳴らした。 それを合図にして、周囲のおもちゃたちが一斉にその場を逃げ出した。 「誰も……いなくなっちゃった」 「ワンちゃんも逃げちゃったね」 「違う――――もう、既に囲まれてるわ」 ザッ、ザッ、ザッ 規則正しい足音が、遠くから聞こえてくる。 その数は徐々に増えていき、その音は徐々に大きくなっていき―――― やがて姿を現す、無数の人形の群れ。 それは、きらびやかな赤い軍服を着て、黒くて長い毛皮の帽子を被る者。 ピカピカと輝く鉄砲や剣を持ち、颯爽と行進する衛兵たち。 おもちゃの兵隊と呼ばれる、この国の軍隊だった 百を超える銃口が、一斉にせつなたちに向けられる。 「はは……じょ、冗談よ、ね?」 「おもちゃのピストルだから、当たっても痛くないとか?」 口を開いた美希と祈里の間を狙って、兵士の一人が威嚇射撃を放つ。 轟音とともに、後ろの噴水の壁が一部砕け散る。 顔色を変えて、せつな以外の全員が両手を挙げる。 帽子に飾りをつけた、隊長らしき者がせつなたちに投降を呼びかける。 「お前たち、一体どこから来た? 街の治安を乱したからには、ただではすまさんぞ」 「治安を乱したって……、あたしたちはトイマジンの居場所を聞いただけだよ!」 「――――反抗の意思とみなす」 隊長の手が垂直に振り上げられ、そして、降ろされる。それを合図に、一斉に銃口がラブに向って火を噴く。 ドン! ドン! ドン! 「きゃっ!」 「危ないっ!」 せつながラブに飛びついて、とっさに弾丸から身をかわす。 「ラブっ!」 「ラブちゃん! せつなちゃん!」 「よくも……、やってくれたわね」 美希と祈里が二人を庇って前に出る。それを押しのけるようにして、怒りの形相のせつながリンクルンを構える。 美希と祈里も、頷いて、それぞれ変身の体勢をとった。 「あくまで刃向かうというのならば、もう容赦せぬぞ」 「容赦なんて、初めからしてないクセにっ!」 「待って!!」 隊長に向って、ウサピョンが抗議する。いよいよ一触即発のムードが漂う中、ラブの声が響く。 「おもちゃの兵隊さんたち、あたしたちをどうするつもりなの? それだけ聞かせて」 「素直に従うなら、おもちゃ城の地下牢に投獄する。処分は、国王様がお決めになる」 「わかった。抵抗しないから、乱暴なことはしないで」 ラブは前に進み出て両手を上げる。それに合わせて、兵隊たちも銃口を降ろした。 「ラブ、このまま捕まっちゃうつもり?」 「何をされるかわからないよ?」 「この数相手じゃ、ウサピョンたちまで守り切る自信がないの。それに、国王様と会えるなら、何かわかるかもしれないでしょ?」 「そうね、いざとなったら変身して逃げ出せばいいわ」 「ついて来い」 幸いにも、拘束するつもりはないようだった。 おもちゃの兵隊に囲まれて、せつなたちは連行される。 おもちゃの国の中央にそびえ立つ、おもちゃのお城に向って。 新-558へ
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新しい商品や、イベントなどに使う紙製の広告媒体 新しい商品や、イベントなどに使う紙製の広告媒体 パンフレットは、リーフレットとも呼ばれており、ここでは三つ折にしたパンフレットを指します。
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1・ラブせつ編 「はい、ラブ。紅茶出来たわよ」 窓から穏やかな春の日差しが差し込む桃園家のリビング。 ソファに腰掛け、雑誌を読んでいるラブの前に、作ったばかりの紅茶を置く。 「ん……」 けど、ラブは紅茶のカップには目もくれずに、なにやら雑誌に真剣な様子。 全く…なにをそんなに夢中になってるんだか。 今日は朝からずっと彼女はそんな感じだ。私が何か言っても、返ってくるのは気の無い返事ばかり。 そして時折り手にした赤いペンで、雑誌に何やら書き込んでいる。 「ほら、冷めちゃうわよ、早く飲まないと」 「ん……」 「あ、そうだ、昨日お母さんが買ってきたケーキがあったっけ。ラブも食べない?」 「んー…」 「あのケーキ、ラブも好きだったわよね。ほら、駅前のケーキ屋さんの―――」 「んん……」 もう!! 何を言っても上の空なラブに腹をたて、ケーキを出そうと私は冷蔵庫に向かった。 一体何なのかしら?そんなに私よりその雑誌が大事だっていうの!? ケーキを取り出し、バタン!と苛立ち混じりに少し強く冷蔵庫のドアを閉める。 「……?」 ふと背後から視線を感じて振り向くと、ラブが雑誌から顔を上げて私を見つめている。 や、やだ、私が拗ねてるのに気がついたのかしら? けど、その視線は……私の気持ちを察して、なんてものじゃなくて、なにやら邪なもののような……。 「うふ…うふふ……」 「……??」 背筋に怖気のようなものを感じながら、私は二人分のケーキをトレイに載せ、ラブの元に戻った。 すでにそのときには彼女の目は再び手元の雑誌に戻されている。 おかしいわ……よーし、こうなったら……。 「ねえ、ラブ……」 「んん?」 「今日はお母さん達もいなくて……その……二人きりだし……」 「んん」 「よ、良かったらそ、その……ね?」 出来る限りの甘い声を出して、私は誘惑の言葉を口にした。恥ずかしさで頬に熱を感じつつ、思わず私はうつ向いてしまう。 ……いつものラブならこれに飛びつかないわけがないわ! けど…無情にも、勝利を確信した私の耳に届いたのは……。 「んん……」 という素っ気無い返事だけだった。 ぷつん、と頭の中でなにかが切れた音がしたと同時に、私はラブの手から雑誌を奪い取った。 「あ、せ、せつなな、何を―――!?」 「何を、じゃないでしょ!そんなにこの雑誌が大事なの!?私よりも!?」 「そ、そんな事あるわけないでしょ!い、いいからか、返して―――!」 「返しません!一体何をそんなに真剣にチェックしてたって―――……」 と、雑誌の開いていたページをみた私の目は……一瞬で点になった。 な、何これ……あ、アダルトなランジェリー特集って……。 今月の特集なのだろうか?パラパラとめくると、何ページにも渡って、大事な部分が透けていたり、布地が小さな布であったり、その…ひ、紐だったりするい、いやらしい下着類が掲載されている。 しかもご丁寧な事に、その破廉恥なランジェリーの写真の横には赤ペンで……。 「…『赤はパッションカラーだからせつなに合いそう』……『あまり過激なのは最初はNGで』……『少しずつ慣れさせていけばこれくらいいけるかな?』……『あ、むしろピンクにしてあたし色に染めるとか?』……『わはー、幸せGETだよ』……」 「あ、あはははは、ち、ちがうの、せつな、それはね、ほ、ホラ、記念日!せ、せつなと初めてあったのは―――あれは冬だし、一緒に住むようになったのは―――し、初夏だけど、その、なんというか記念日のプレゼントを―――」 パタン、と雑誌を閉じ、ラブの手に戻すと、私は部屋を出た。 ラブが後ろから呼びかけていたような気もしたけど、きっと気のせいだわ。 玄関を出て、春の日差しを浴びながら軽く背伸び。はあ、気持ちいいわね。 そんな私の目に、塀の上で仲良くじゃれ合うつがいの猫達が映る。そうよね、春ってそういう季節ですもの。いいわね。微笑ましい。 あ、そうか。きっとラブもそうなんだわ。……まあ彼女の場合、いつもって気もするけど……。 にっこりと笑うと、私は開いたままの玄関から、リビングでおろおろしているであろうラブに向けて叫んだ。 「ラブの発情期ーーーーーっ!!!」 2・美希ブキ編 「はい、ブッキー、ドーナツ買ってきたわよ」 うららかな春の日差しを浴びながら、あたしはブッキーの待つテーブルへと戻った。 今日は日曜。あたし達は二人きりで…で、デートって言ってもいいわね…ドーナツカフェへと来ていたんだけど……。 「うん…」 と返事をしたまま、彼女はドーナツに手を伸ばすことさえしない。 その視線は手元の―――さっき立ち寄った本屋で買った、動物系の雑誌に落とされたままだ。 「……でね、今度のモデルの仕事なんだけど……」 「うん……」 「もし上手く行けば、海外にロケに行くことになるかもしれないのよ!」 「うん……」 「そうなったら、ブッキーにもお土産買ってくるわね!何がいいかしら…?」 「うん……」 ……埒が明かない、とはこういう事ね。 あたしがさっきから何を言ったところで、彼女の返事は「うん」だけ。とてもあたしの話を聞いているとは思えない。 おかしいわ……いつものブッキーならこんな事有り得ないのに……そんなに興味深い本だっていうのかしら?その……あたしより? と、そこまで考えて邪念を振り払うように軽く頭を振る。 いけない、いけない……ブッキーには獣医さんになる夢があるんだもの……その事に真剣になっても仕方のないことじゃない。 あたしもその…か、彼女のこ、こ、恋人としては興味を持って、その夢を応援してあげなきゃ! あたしはひとつ軽く咳払いをすると、テーブルの上に組んだ手に顎を乗せ、ブッキーに優しく語りかけた。 「あ、あのね、ブッキー、その本……そんなに面白いの?」 「うん……」 「も、もし良かったらどんな内容か話してくれないかしら?」 「うん……」 「ほ、ほら、あたしにはそういう知識ないけど、聞くだけなら、ね?」 「うん……」 ダメだ……。 やはりここは黙って彼女が本を読み終えるのを待つしかないのかしら……。 ドーナツをひとつ頬張り、ちょっとだけ落ち込んだ気分で公園を行き来する人たちを眺める。 家族連れやカップル……暖かな春の陽気のせいか、道行く人々の顔も明るいように思える……あたし以外はね。あ、卑屈だわ……。 と、大きな犬を散歩させている女性の姿が目に入った。 犬か……せめてあたしもペットでも飼ってればブッキーと動物の話でも出来たかしら。 「犬かあ……いいわね……」 「え!?美希ちゃん!!今なんて!?」 溜め息混じりのあたしの言葉に、さっきまで生返事を繰り返すばかりだったブッキーが前のめりになって飛びついてきた。 その変貌に少し鼻白みながら、あたしはもう一度口にする。 「え?い、いや。い、犬っていいなあ、って思って」 「本当!?美希ちゃんもそう思ってたんだ!嬉しい!」 あたしが動物に興味があるのがそんなに嬉しいのかしら? 若干の疑問は感じたものの、やっと掴んだ彼女との会話の糸口を途切れさせるのは得策じゃないわよね。 あたしは多少面食らいつつも、ブッキーに話を合わせて、思いつく限りの犬の美点を口にする。 「その……ホラ、忠実で主人の言う事は何でも聞くし……じゃれて来て可愛いし……それに何よりこういう日に一緒に散歩なんかしたら楽しそうじゃない」 「うんうん、そうよね……でも躾とか、大変だったりもするのよ?」 様子を窺うようなブッキー。 けど、あたしもここまで来て話を終わらせるわけにはいかないと必死だ。 「そ、それくらいは何でもないわよ!多少厳しく躾するくらいがちょうどいいんじゃないかしら?」 「良かった……美希ちゃんが分かってくれる人で……」 「な、何よ。あたしだって興味はあるつもりよ?」 ブッキーの将来の夢には、ね。 えへん、と軽く胸を張る。あたしこれでも理解あるんだから!と言わんばかりに。 「うふふ……じゃあ…」 らしくもない妖しい含み笑いを漏らすと、彼女は開いたままの雑誌をあたしへと差し出した。 「……美希ちゃんはこの中ならどれがいいと思う?わたし、プレゼントするから……」 彼女の差し出した雑誌を見て、あたしの頭に複数のクエスチョンマークが浮かぶ。 「これなんか可愛いわよね……あ、でもやっぱりイメージカラーの青の方が嬉しい?でも…あえて黄色にするっていうのも……わたし的にはありなんだけどね!」 「え…?あ、あのブッキー……プレゼントとかイメージカラーとか……何言って……」 あたし、犬なんて飼ってないんだけど…? 「愛犬にお薦め!大型犬用首輪特集」と書かれたそのページを、あたしは呆然と見つめ続けたのだった。