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前へ / トップへ / 次へ 午後の授業は無事終わった。 いや、授業とは無事終わるのが普通なんだが、普通のことが起こらないゆえにゼロの名を冠しているのだろう。 なんだか禅問答のようだがとにかく授業は終わり楽しい放課後である。 食事に関してはマルトーが今日のお礼だといって保障をしてくれた。これで食事抜きということはなくなったし、あのスープとパンという 19世紀の囚人のような扱いをされることはなくなった。 ルイズは「うちの使い魔を甘やかさないでください!」と不満そうだったが、マルトーの耳打ちで素直に方針を転換した。 バビル2世は聞いていた。「胸の大きくなる特別料理を毎食サービス」という甘言を。 男なら(不適切なため削除)が大きくなる料理をサービスする、と言われるようなものである。断る人間など居るはずがない! なにしろ(不適切な表現のため削除)は大事な息子である。 というわけで主従ともどもスペシャルな料理を振舞われることとなった。 バビル2世が一番気に入ったのは元の世界で言うカルパッチョと、たたきを混ぜたような料理であった。 スズキに似た味の魚を薄く切る。 それを遠火で軽く炙る。 上に、酸味のある果物を凍らせたものをたまねぎの千切りのように切って、かける。 そこに醤油によく似た調味料を元に作ったソースをかければ「トツァカッツォ」の完成である。 これの一晩かけて良く冷やしたものは、焼酎によくあい絶品なのだが、残念だがバビル2世は未成年であるし焼酎は存在していない。 「これは旨い!旨いですな!」 単純な料理であるため誤魔化しが効かず、ほんの少しでも身が厚すぎたり炙りすぎたりすれば味が変わってしまう。 「これは白いご飯にも合いそうだな。」 舌鼓を打つバビル2世。 ルイズはというと、先ほどから一種類の料理だけをおかわりしつづけている。非常にわかりやすい。 食後、 「あれだけ食べたんだから明日にでも効き目があるわよね!」 と言っていたが、ないんじゃなかろうか。 「ん?」 洗濯を終えて戻ってくると、部屋の前になにやら赤い物体がうずくまっていた。 バビル2世に気づくと顔を上げ、てててと近づいてくる。 「たしかこれはキュルケの使い魔の、フレイム……うわっ!」 とびかかってこられて、思わず精神動力で弾き返してしまう。 廊下に転がったフレイムが何が起こったのかと目をパチクリさせてこちらを向きなおす。 「あ、しまった。」 だが懲りずにまたすぐ寄ってきたところを見ると気にしていないようである。ただたんに何が起こったのか理解していないだけ かもしれないが。 ズボンを咥えて引っ張る動作をするフレイム。 「ついて来いと言っているのか?」 相手はサラマンダーである。心を読んでも何を言いたいのかわかるはずもないだろう。 使い魔同士の夜の懇談会でもあるのだろうか? 「ルイズの友人の使い魔だ。別に不審なことはないだろう。」 素直についていくことに決めた。 「うん?」 連れられて訪れた部屋は妙に暗かった。 床には火のついた蝋燭が幾本か燃え、壁にゆらゆらとバビル2世の影法師が映し出されている。 全体に甘い香りが漂う。どことなく女性の体臭も混じっている。 「いらっしゃい」 なまめかしい声。聞き覚えのある声だ。 闇になれた目に飛び込んできたのは扇情的な格好をした女性。 キュルケであった。 「げえっ、キュルケ!」 むむむ、と汗を流すバビル2世。 「そんな孔明を見た仲達みたいな反応をしないでよ、ダーリン。ようこそ、私たちのスイートルームへ、ビッグ・ファイア…………。 ギロチン大王だったかしら?」 どこをどうすればそんな間違いをするのだろうか。 「ギロチン大王は違うんじゃないかな?」 「あら、そうだったかしら?わかったわ、ビッグ・ファイア……」 髪をかきあげ、なまめかしい視線を送る。 「いけないことだとは思うわ。でもわたしの二つ名は『微熱』。たいまつみたいに燃え上がりやすいの。」 「ふむ」 つまり、ぼくは誘惑われているのだな。のんびりと確信するバビル2世。 戦闘の場数は踏んでいても恋愛の場数は踏んでいないのが弱点である。ヨミ様に教えたい。 「おわかりにならない?恋してるのよ、アタシ!貴方に!」 妙に芝居がかった仕草をするキュルケ。バビル2世によりかかり、首に手を回してしなだれかかる。 「貴方がギーシュを倒したときの姿……かっこよかったわ。あれを見て微熱のキュルケは情熱のキュルケになってしまったの……」 身体を密着させてくる。学生服のボタンを一つ一つ丁寧に外していく細い指。 吐息が耳にかかり、言葉が直接耳をくすぐる。 されるがままのバビル2世。ようやく、 「じゃ、じゃあ外の彼は誰だい?」 「……え?」 窓へ振り向くキュルケ。 それとほぼ同時に、 「キュルケ!」 と叫ぶ男の声。 ふわふわと宙に浮いて、窓の外に男がいた。 「待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば!………ってあれ?」 キュルケの奥にいるバビル2世に気づいたのだろう。「げぇっ!関羽!」と言い出さんばかりの表情で驚く。 「君は……昼に広場で決闘をしていた。」 ずかずかと乗り込んでくる男。 「いや、会えて光栄だよ。僕の名前はスティックス。以後お見知りおきを。」 腕を出し握手をねだる。バビル2世も握手を返す。 「いやあ、驚いたよ。ドットクラスが操っていたとはいえ、まさかゴーレムを触りもせずに手玉にとるなんて。」 熱っぽく語りだすスティックス。目がきらきら輝いている。 「君はエルフらしいが、よほど場数を踏んでいるんだろうね。僕も将来は魔法衛士隊を目指している身。ぜひとも教えを請いたいと 思っていたところなんだ。なに、そのうち模擬実戦を一手お手合わせ願いたいと思い……」 「キュルケ!」 別の声が窓の外からする。 「その男たちは誰だ!今日は僕と激しく燃え上がるはずだったのに複数にも興味が出てきたのか!混ぜるんだ!」 なぜか服を脱ぎながら入ってくる。何か大きく勘違いをしているようだ。 「「「キュルケ!」」」 今度は3人だ。 「「「恋人はいないって言ったじゃないか!」」」 一斉に強引に入ろうとするため窓で閊えている。なんとか部屋に入ってきたがすでにボロボロだ。 「キュルケ!どういうことな「いつが空いている?そういえば明後日は虚「僕はどこを使えばいいんだ?口でもい「なんなんだこいつらはいった いどういうこ「落ち着け、これは孔明の罠「君の主人には僕が許可をと「裏切ったな!父さんと一緒で僕を裏「実は後ろの穴にも興味が「キュ… 「フレイム!」 サラマンダーがキュルケの命令で炎を吐く。炎と一緒に外へ投げ出される5人。 「さあ、邪魔者はいなくなったわ……」 目をギラリと光らせて、獲物を狙う虎のように迫るキュルケ。 その迫力に、修羅場馴れしているバビル2世が思わず後ずさる。史上最強の敵に違いない。 ガルルルルルと唸り声を上げ、ついにバビル2世を壁際まで追い詰めた。 「愛してるわ……ビッグファイア……」 「ま、待つんだ。ぼくはまだ使い魔としての用事が。」 「ほっときなさいよ……ゼロのルイズなんかよりアタシのほうがよっぽどいいわよ……」 目と目の距離が近づく。唇と唇が今まさに交差しようとするそのとき――― 「キュルケ!」 バタン、とドアを開ける音でキュルケの野望は阻止された。 「あら?」 「る、ルイズ。」 姿を現した少女の背中に、後光が見えた。 「取り込み中よ、ヴァリエール。」 「ツェルプストー、誰の使い魔に手を出してるのよ。」 ずかずかと部屋に入ってくるルイズ。両者の空間がねじれ、歪む。 フレイムが怯えて部屋の隅で縮こまり、丸まっている。 ガルルルル、ギシャーと威嚇しあう二人。まるで犬とサル、ハブとマングース、ゴジラとデストロイヤーである。 この後のことをあえて記述する必要はないだろう。 爆発と炎が学院を揺らし、寝入りばなの教師生徒をたたき起こした。 オスマンは曖昧なまま徘徊しはじめ、使い魔はふたたび混乱して暴れまわった。 学院が落ち着きを取り戻したのはすでに日も高くなってからで、その惨状は寄宿舎がほぼ半壊、負傷者12名、壊れたアイテムが7個、 セクハラの被害者2名、マルトーの抜け毛13本という惨憺たるものであった。 むろん、その日の授業が取りやめになったことは言うまでもない。 また、キュルケの部屋が消滅したため、キュルケはタバサの部屋へ移動のうえ2ヶ月の異性交流禁止がかせられた。 ルイズとバビル2世は、バビル2世がガンダールヴかもしれないということで厳重警戒中につき、寄宿舎の瓦礫撤去で済んだ。 前へ / トップへ / 次へ
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前ページ次ページゼロのエルクゥ 「やれやれ、できればもう少しスマートにやりたかったんだがねえ……ま、すぐにバレるだろうが、逃げる間ぐらいは時間が稼げるだろ。ったく、ホントあのクソジジイのセクハラったら……!」 学院より四半日ほど離れた街道を、ロングビル―――『土くれ』のフーケは、ゆったりと幌付きの馬車で進んでいた。 周囲に人影が無いのを確認して、懐から何かを取り出し、しげしげとそれを眺める。 泥のついていない小奇麗なマツタケ。そんな風に見えるキノコだった。綺麗すぎて、どこか蝋細工のようでもある。 「"食べた者に、烈火の如き勇気と力を与えるキノコ"……ま、あたしはそんなんいらないし、いつものように、適当なルートに売り払おうかね」 自らを匪賊に貶めた連中に対する復讐、なんて感情も、とっくの昔に擦り切れてしまった。 話によれば、近いうちに自滅するみたいだが……たぶん、あの時にああしなかった貴族―――王族なんて、皆無だろう。良い意味でも悪い意味でも、王というのはそういうものだ。王弟だからと言って手心を加えなかったのは逆に高潔であるとも言える。 そういう意味では、最初から、別段、特定のどこかや誰かを殺したいほど憎いという訳ではない。代わりに、貴族、なんていうもの全てが嫌いにはなったが。 高慢ちきなお貴族様が宝物を盗まれてあたふたするのを眺めて楽しむ。そのぐらいで十分溜飲は下がった。 「さって、珍しく安定してた収入はなくなっちゃったし、これからどうしますか……」 キノコを懐にしまい直して、うららかな陽気に一伸びする。 目の前では街道が交差し、分かれ道になっていた。 「……キナ臭い話もあるし、秘書の仕事が忙しかったしね。久しぶりにテファのところにでも顔出そうかしら」 そう呟いて穏やかな笑みを浮かべると、フーケは馬車を北に向けた。 § 学院は、上へ下への大騒ぎだった。 「ふぅむ……まさかこの宝物庫に賊が侵入していたとはのう……」 衛視から報告を受けたオスマンは、確かに"烈火のキノコ"が無くなっている事を確認して、大きくため息をついた。 「土くれのフーケ! 貴族達の財宝を荒らしまくっているという盗賊か! この魔法学院にまで手を出すとは、随分とナメられたものですな!」 「衛兵は一体何をしていたんだ!」 「フーケは盗賊とはいえメイジ、平民の衛兵など当てになるか! そもそもいつ盗まれていたのかすらわからないんだぞ!」 集まった教師連中は、口々に好き勝手な事を喚き散らしている。話は紛糾するばかりで、実のある方向に向かっていく様子はなかった。 オスマンはもう一度ため息をつき、現場を検分していたコルベールに話しかけた。 「ミスタ・コルベール、書き置きを発見したのは彼等二人なのじゃね?」 「はい。足を滑らせて扉にぶつかった折、鍵が掛かっているはずの扉が開いてしまったので驚いて報告したと。間違いないかね?」 「ま、間違いありません」 「ふぅむ……教師諸君! ここ最近、宝物庫に入ったものはおるか?」 ざわついていた教師が一瞬静まり返り、顔を見合わせた。 その内の一人が、おそるおそると手を上げる。 「に、二ヶ月ほど前、授業に使うための『遠見の鏡』を持ち出しましたが……」 「その時には?」 「こ、こんなものはありませんでした。ハイ」 「では、二ヶ月以内に入った者は?」 再び顔を見合わせる。今度は、手を上げるものはいなかった。 「おらんか。犯行は少なくとも二ヶ月以内に行われた……手がかりナシに等しいの」 「あ、あの」 衛視の一人が、こわごわと言葉を紡いだ。 「なにかあるのかね?」 「ほ、本日は、ミス・ロングビルがいらっしゃいました。宝物庫の目録を作る、とかで……お昼前ぐらいだったでしょうか。半刻ほどして、何事もなく出て行かれましたが……」 「ふむ……そういえば、そのミス・ロングビルはどこじゃ?」 見渡してみても、あのぷりんとした尻は見当たらなかった。 「見当たりませんね」 「そのようじゃな。あー、君々、ちょっとミス・ロングビルを探してきてくれんか」 「わ、わかりました」 所在なさげに教師達を見やっていた衛兵の一人が頷き、早足で駆けていく。 「やれやれ。ガンダールヴといいフーケといい、新学期早々厄介事が続きおるわい」 オスマンは眉間に皺を寄せて、ため息をついた。 そのすぐ後、ロングビルの私室から『学院長のセクハラに耐えられないので辞めさせていただきます』という書置きが発見され、オスマンの眉間の皺がさらに深くなる事となったのだった。 なお、彼の秘書に対するセクハラは公然の事実であったので、ロングビルの予想に反し、誰も"ロングビルがフーケであり烈火のキノコを盗んで逃げたのだ"と言い出さなかったのは余談である。 § 「明日のフリッグの舞踏会が中止ですって? なんで?」 「さあ? 中止っていうだけで、理由は誰も教えてくれないのよ。もう! せっかく特製のドレスでダーリンを悩殺しようかと思ってたのにぃ!」 「……はぁ。ツェルプストーはろくな事を考えないんだから」 学院に帰ってきたルイズ達を待っていたのは、何やら慌しい雰囲気だった。 「まったく、今日は厄日かしらね、打つ手打つ手が全部裏目に出ちゃうわ。ルイズには先を越されるし、タバサもどこに行ってたのか話してくれないし」 「…………」 食堂で夕食を取った後、ルイズはキュルケ、タバサと食後の紅茶を飲むのが日課のようになってしまっていた。 キュルケは自分にとっても一族にとっても天敵だったはずなのだが、耕一が召喚されてからというもの、なんとなく印象が柔らかくなった気がして、話が続いてしまうのだ。(タバサの方は、キュルケが引っ張り込んで一緒に居るだけのようで、ほとんど喋らないが) その当人たる耕一は、いつもの通り厨房に行っていて、食堂内にはいない。そろそろ入り口に現れる頃だろう。 「なんでも、宝物庫に盗賊が入ったらしいわよ。あの『土くれ』のフーケ。先生が総力をあげて探してるから中止って話だけど」 「それ本当なの? モンモランシー」 今日は、長いブロンドの髪を豪奢な巻き毛にした少女―――モンモランシーも、その輪に加わっていた。 浮気者の恋人をワインボトルでしばき倒した、あの少女である。 紆余曲折の末によりを戻した恋人が級友の使い魔に妙に傾倒しているので、彼女もその主人と交友を持つようになっていた。 彼女自身、ルイズの事を内心バカにしていた一人で、使い魔とギーシュの決闘というのも見ていないのだが、プライドはえらく高い方であったあのギーシュが、あれ以来ルイズにも酷く丁寧に接するので、なんとなくそんな気持ちは薄れていたのだった。 「『土くれ』のフーケ……今日街でもその名前を聞いたわ。貴族の屋敷から宝物を次々と盗んでいる怪盗だって」 「トライアングル相当って聞いてたけど……ここの宝物庫から盗み出したとなると、スクウェアクラスかもしれないわね」 「スクウェアの土メイジなんて、エリート中のエリートじゃない。なんで盗賊なんてやってるのかしら」 フーケの件は厳重に緘口令が敷かれていたが、人の口に戸は立てられぬもの。 舞踏会の中止が告知されるや否や、それとほぼ同時に、その理由として噂の口に昇っていた。 「ま、ともかく作戦は最初から練り直しかぁ。どうしようかしら」 「もう、ホントに盗賊が入ってたとしたら、そんな悠長な事言ってる場合じゃないでしょ。色ボケもいい加減にしときなさいよ」 「て言ったって、あたし達がピリピリしたって犯人が捕まるわけじゃないわよ」 「それは、そうだけど……」 「…………餅は、餅屋。ルパンに、銭形」 「そういう事。捕り物なんて、先生とか衛士隊とかに任せておけばいーのよ」 うー、と黙ってしまったルイズを見て、難儀な性分ねぇ、とキュルケは苦笑し、紅茶のカップを傾けた。 「っていうかタバサ、るぱんとぜにがたって何?」 「…………あなたの、心です」 § 「学院長の方も、タバサちゃんの方も、手がかり無し、か」 本来ならば絢爛な舞踏会が行われていたはずの夜は、しかしいつもの静けさのまま、人々を安らぎの闇に包んでいた。 『すまんのう。図書館の文献を当たらせてはおるが、まだ手がかりと言えるようなものは見つかっておらんのじゃ』 『仕事で遠くに行っていて、もうしばらくは会わせる事が出来ない』 先程続けてもたらされた話を思い出して、耕一は肩を落とした。 秘書が辞めてしまったらしく、書類に忙殺されていた老人に無理を言うのは憚られたし、基本的に善意で言ってくれているタバサに至っては言わずもがな。 元々誰かに当たり散らすような性格ではないが、未だ慣れぬ異邦の世界ではうまく解消する術も無い。耕一は、肩を落とした姿勢のまま、腹に溜まった物を静かに吐き出した。 「ま、そう気を落とすなって、相棒」 「気が利くねえ、デルフ」 「任せな。相棒のためなら気ぐらいいつでも利かせてやるさ」 腰に差した剣―――デルフリンガーの鍔飾りが、カタカタと鳴る。 陽気な彼とのお喋りは決して嫌いではなかったので、耕一は鯉口を締める事はせず、常に彼を喋る事の出来る体勢に置いている。 それを気に入ったのか、彼は耕一を、相棒、などと呼んでいた。 「しっかし、別の世界から召喚された、ねえ。相棒も難儀なこったな」 「まったくだよ。なあ、お前は何か知らないのか? 六千年も生きてるんだろ?」 「残念ながら、そーいう細けえ事まで覚えちゃいねーよ。六千年つったって、最初の頃以外はホントつまんねえ事ばっかりだったしな。何十年も埃の被った棚に放置されたり、何百年も真っ暗な倉庫に入れっぱなしにされたりしてみ? ありゃ気が狂うね。マジで」 「はは、つかえねーの」 「ひでえ。でもま、相棒なら許してやる」 「そりゃどうも」 広場に出ると、月明かりの中、まだ仕事を片付けている奉公人がちらほらと残っている。 「あ、それで一つ思い出した」 「何を?」 「相棒、俺を抜け」 言われた通りに鞘から抜き放つと、錆びついていたその刀身が、微かに光り始めた。 「デルフ?」 「最初の持ち主が死んじまってから、ホントつまんなくてよ。世を儚んで、こんな格好にしてたんだが」 「う、おっ……!」 その光は徐々に強くなっていき、やがて夜を切り裂き、視界を覆うほどに膨れ上がる。 それが収まった時……耕一の手には、錆び一つ無く銀色に光り輝く、見事な名剣が握られていた。 「最初の頃は、こんなだったんだよ、俺」 「……先に言ってくれ。結構びっくりしたぞ」 「悪ぃ悪ぃ。驚かしたくてよ」 「こんにゃろ」 広場に残っていた奉公人達が何事かと目を向けてきたので、慌てて女子寮の塔に飛び込む。 「ま、お前さんといると面白そうだからな。俺なりの誠意ってヤツだ。よろしく頼むぜ、相棒」 「ああ、よろしく。デルフリンガー」 何千年という時を過ごしながらどこまでも陽気な剣の声に、少しだけ気持ちが軽くなった耕一だった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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前ページ次ページゼロのデジタルパートナー 「――――――――! ―――――ン! ―――ラモン! ――ドラモン!!」 遠くから声が聞こえる。 それは今までに何度も何度も聞いてきた、とても大事な奴の声だった。 「メガドラモンッ!!」 確かに自分の名を呼ばれ、意識が覚醒する。 目の前には大事な自分のパートナーと、どうやら刺し違えたらしい、ムゲンドラモンの死体が転がっていた。 ムゲンドラモンの身体は既に分解が始まっていた。その隣には、ムゲンドラモンを操り、このファイル島を我が物としようとしていた男が尻餅をついている。 俺の身体を抱きかかえ、涙を流しながら俺の名前を叫んでいるのは、今まで苦楽を共にしてきた、パートナー。 だがどうやら……その楽しくも苦しかった時間に終わりが来たらしかった。 「俺とした事が……ドジッち、まった、ぜ…………」 「喋るな! 今、今ケンタル医院に連れてってやるから!!」 「良いんだ……。自分の身体の事は、自分が一番分かってる。…………こんな形になってすまねぇがよ……」 既に分解が始まっている身体を一度だけ見下ろし、確りと目の前のパートーナーを見つめる。 「お前に育てラれた、俺ノ人生…………ワるく、なかッタ、ゼ…………」 最期の言葉を、ちゃんと発せたろうか。 それだけが気がかりで、俺の意識は、闇に飲まれていった――――――。 ゼロのデジタルパートナー 一話 ルイズは思わず息を飲んだ。 サモン・サーヴァントの魔法で何故か巻き起こった爆発の中から現れたその姿に。頭らしき物が僅かに俯いているが、翼を広げれば4メイル程に達するだろう、その『竜』に。 しかし教師であるコルベールを含め、誰も見た事の無い種類の竜だ。 上半身は逞しく、巨大な腕と頭。しかしそれに反して伸びる下半身には足の様な物は無く、ひょろっとした蛇の様な体がうねうねと動いている。 そしてよく見ると、羽ばたいても居ないのに宙に浮いているではないか。 誰もがルイズ同様に息を飲んでいた。 「ゼロのルイズが成功した……」 「おいおい、嘘だろ……?」 「ま、負けた……ゼロのルイズに……」 煙が晴れ、その姿が完全に現れる。そしてまたしても、誰もが息を飲んだ 腕と頭についているのは、漆黒に煌く金属。体の色は赤く、所々に生えている体毛は群青に染まっている。 誰がどう見ても、立派な竜の(大きさからして)幼生であった。誰も知らない種族ではあるが。 と言う事は、ルイズは竜を召喚するのと同時に、非常に珍しい種族を召喚した事にもなる。 召喚を行った当人は、あまりにの感動に気を失いそうだった。 漸く今まで自分を「ゼロ」と馬鹿にしていた奴等を見返せる。そう思うと自然と笑みが零れるルイズだった。 そして、 「や、やったわ!!」 高らかに叫ぶ。 コルベールも柔らかに微笑んで―自分の生徒の成功に心から喜んで―促す。 「さあ、ミス・ヴァリエール。契約を」 ルイズが頷き、自分の使い魔になる竜に向かって歩を進めた。 メガドラモンは、正直かなり混乱していた。 理由一。まず自分は、デジタルモンスターとしての死を迎えた筈である。 理由二。周りの人間の多さ。 こんな所だ。 メガドラモンは目だけを動かして辺りの様子を窺う。皆が皆、驚いた表情で自分を見ている。 次に自分の身体。 今さっき正に致命傷を受けていた筈なのに、見事に完治している。 分かっている事と言えば、どうやら自分が現実世界に来たらしい、と言う事くらいだ。 ともかく、自分だけでは答えを導き出すのが不可能。と結論を出し、こちらに向かってくる人間の子供に聞いてみる事にした。 「ここは何処だ?」 「ッ!!」 その場に居た全員―と言ってもメガドラモン以外だが―が怯む。 「しゃ、喋った!?」 「ま、まさか……ゼロのルイズが……」 「韻竜だ! 韻竜を召喚しやがった!!」 周りの生徒からソンナバカナーとか、ウオースゲーとか、色々と歓声や喚声が上がる。 その様子に一度だけビクッとしたメガドラモンだったが、改めて目の前の人間の子供に目を向ける。 ルイズはまたしても感動のあまりに意識を手放しそうになったが、主人としての威厳を持って答えた。 「こ、ここは、トリステイン魔法学院よ!」 「トリステイン……?」 パートナーに聞いていた「ニッポン」と言うのとは随分違う。 それに周りの人間が着ている服も、自分のパートナーが着ていたのとはかなりの差があった。 ……そう言えば現実世界では国によって、同じ人間でも色々違うと言っていた。そんな事を思い出し、メガドラモンはこう結論付けた。 まず自分は、何らかの理由で現実世界に飛ばされた(パートナーがデジタルワールドに来たのだから、その逆もあるだろう)。 そして此処は、自分のパートナーが住んでいた国とは違う国だ。 あながち間違ってはいないのだが、メガドラモンは一番大事な部分を間違えてしまっていた。 「そうか。……それで、お前は?」 「私は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! わ、私があんたを呼んだのよ!」 ……彼女が自分を呼んだのか。 俺が死にかけている所を、彼女が呼んでくれたおかげで助かった。 つまり、命の恩人だな。 メガドラモン、賢くはあるがちょっと抜けていた。 「そうか。……それじゃあ、お前は俺の恩人だな」 「……? そ、そうよ!」 何を言っているのか分からなかったが、とりあえず同意をしておくルイズであった。 その後、外見に似合わず非常に大人しいメガドラモンと、ルイズは見事契約を交わした。 メガドラモンの左手に現れたルーンをコルベールが興味深く見ていたが、軽くスケッチすると直ぐに皆を解散させた。 各々が魔法で飛んでいくのを目にし、メガドラモンは少しギョッとした。 「人間は飛べないと、言っていたと思うんだがなぁ……」 皆が居なくなったのを確認すると、ルイズはいきなりメガドラモンに抱き付いた。 いつもゼロのルイズと蔑まれて来た彼女だ。立派、いや立派過ぎる使い魔を召喚出来て、心底嬉しいらしい。 「あんた、名前は?」 「メガドラモンだ」 「メガドラゴン? 聞いた事ない種族ね……。って、あんたの名前を聞いているのよ。種族名じゃないわ」 そう言われ、メガドラモンはちょっと考え込んだ。 言われてみれば、自分は自分だけの名前で呼ばれた事が無かった。 数秒思案して、メガドラモンが口を開いた。 「メガで良い」 「分かったわ。メガね。……わ~、めがめが~」 素晴らしい変わり身であった。今までは高貴なカンジ! と言うのを体現していたと言うのに、いきなり母に甘える赤子モードである。 だがそんなルイズの至福の時を、メガドラモンが悪意無い発言でぶち壊してしまう。 「お前は飛ばないのか?」 ビシッ。とルイズが固まる。 そして、絞り出す様に言った。 「飛べないのよ……」 それが恥ずかしいとか悔しい事なんだろうと直ぐに察して、メガドラモンは、 「そうか」 とだけ言って、尻尾でルイズを巻き取り、背中に乗せた。 「な、何!?」 「掴まってろ」 メガドラモンがそう言うや否や、風竜顔負けの速さで空を駆け始める。 「わー、わー!」 あまりに速さにルイズがまたしても、感動で気を失いそうになるが、頑張って堪える。 そしてメガドラモンの後頭部に生えている毛に顔を埋め、にやにやとだらしなく笑っていた。 この使い魔となら、上手くやっていける。誰も自分を「ゼロの」ルイズなんて呼ばなくなる。 そう確信し、今までの級友が見た事も無い笑みを浮かべ、ルイズは空を駆けていた。 前ページ次ページゼロのデジタルパートナー
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前ページ次ページゼロのイチコ 「うぎぎぎぎ・・・たぁ!」 気合の入った声と共に、剣先が握りこぶし一個分ぐらい浮いた。 そして重力に引っ張られて剣が落ちる、その勢いでイチコが地面に埋まった。 学院の中庭に剣を握った手が生えている。 シュールだ。 一旦剣を離すとイチコがヨロヨロと地面から浮き出てくる。 「やりました、ご主人様! ちょっとだけ浮きました」 「振れるようになるまで何年かかるのよ」 ため息が出る。剣を買ったのは無駄な出費だっただろうか? まだ買ってから一日だから分からないが、そもそも剣を振り回す筋力がない。 幽霊とは鍛えれば筋力は上がるんだろうか。 一般的に強力なゴーストやスプライトはその想いの力によって力も変わると言う。 それが憎しみでも愛情でもなんでも構わない。 彼女の場合は『お姉さま』に再び会いたいがために幽霊をやっているわけだ。 しかし、落ち着きの無い彼女を見るとそう強力な想いを募らせてそうには見えない。 思い込んだら一直線な節はあるけれど。 「もうそろそろ授業なんだけど」 「あ、すいません。もうちょっとで出来そうなので練習してても良いでしょうか?」 「いいけど、学院の外にでるんじゃないわよ」 「はい!」 本人はコツを掴んだと思っているようだが、あれはまだまだ先が長そうだ。 午後はコルベール先生の授業だった。 相変わらず話が少々脱線する事が多い、しかもその話を興味ありそうに聞いてる生徒は一人も居ない。 私もその一人で、何か必死に語りだしたコルベール先生の話を右から左に受け流していた。 ふと考えるのは使い魔のイチコの事。 お姉さまと再び会いたいというだけで幽霊になった女の子。 そんなに何度も話を聞いたわけじゃないけど、彼女がどれだけお姉さまを好きだったかはなんとなく分かる。 すぐにとは言えないが。まあそれなりに使い魔として仕事をすればお姉さまを探してやっても良いかもしれない。 ドジは多いけれど基本的に上下関係を理解して尽くそうとしてくれている。 ちゃんと働くものにはちゃんとした褒美を与えないといけない。 今のところ先日のイタズラでマイナス評価なのだけど。 探すと言えば、彼女がどこの国の出身なのか聞いたことが無かった。 顔つきが大分違うし、かなり遠い国なのかもしれない。 確か「セイオウジョ学院」と言っていただろうか。トリステインにある学院ならさほど時間は掛からないと思うのだが。 もし東方だとするならかなり無理がある、そうで無いことを祈ろう。 しかし、そのお姉さまに会ったとたんに成仏してしまわないだろうか。 イロイロと考えた。 わたし、高島一子はただいま猛特訓中です。 というのも昨日ご主人様から剣を頂いたからです。 どうも使い魔というのはイザと言う時はご主人様を守らなければならないらしいです。 確かに、フレイムさんやシルフィードさんを見ると私ってば頼りないなぁとは思います。 しかし、私には他の方々には無い二足歩行、武器を握れる手があります! いえ、歩けませんけど…… ともかく、その利点を十分に活かしていきたいと考える次第です! 「たぁ!」 掛け声一閃、剣先が地面からこぶし二つ分ぐらい浮き上がりました。 「デルフさん、今けっこう浮きませんでした?!」 「ぉお、最高記録の二倍はいったな」 「大分感覚が分かってきました」 剣を振ると言うと、腰を落として重心を低くして。とかイロイロあると思われます。 しかし私は重心がありません。いやあるにはあるのですが地面に対して踏ん張ることが出来ません。 ですから宙に浮こうとする力と剣を振り上げるタイミングでなんとか持ち上げるわけです。 そして、こう見えても幽霊ですから疲れたりはしないんです。 「はぁ、はぁ……」 「相棒、休憩にしたらどうだ?」 と思ってたんですけど結構疲労します。それに夜になると眠くなります。 私って本当に幽霊なのでしょうか? 火の玉も飛ばせませんし、ラップ音も鳴らせません。幽霊としてのアイデンティティーが揺らぎそうです。 デルフさんを芝の上に横たえると、私は手足を投げ出しました。 「デルフさん、何か良いアドバイスは無いですか?」 「ねぇなあ。なんせ俺も幽霊を相棒にするのは初めてだからよ」 「ですよねぇ」 一応上達はしてる、と思いたいです。 小休止し、再びデルフさんを持ち上げようと手を伸ばしました。 すると人影が見えたので顔を上げると、そこにメガネをかけた女性の方が立っていました。 「こんにちは」 とニッコリ微笑まれました。長い髪をした綺麗な方です。 「ごきげんよう、どうかされました?」 「あなたが噂の幽霊の使い魔さん、よね?」 「はい、高島一子……ではなく、イチコ・タカシマと言います」 「私はロングビル。ここの学院長の秘書をやらせてもらってるわ」 さすが秘書の方というか、とても上品な物腰です。笑顔もとても穏やかですし。こういうのが本当の淑女という方なのでしょう。 よく暴走してしまう私としては見習いたいと思います。 「それで、ご用件は?」 と聞くとロングビルさんは少し顔を曇らせてこう言いました。 「実は、少し頼みたいことがあってね。少し時間をいただけるかしら?」 「構いませんけど、どうしたんです?」 「ちょっと付いてきて貰えるかしら」 そう言って建物のほうへと歩いていきます。 私は慌ててデルフさんを持ち上げ、地面に突き刺しました。 「すいませんデルフさん、ちょっと待ってて貰えます?」 「ぉう、早くしてくれよ。あんまりなげぇと錆びちまう」 途中何人かの先生方とすれ違い、挨拶しつつ私たちは薄暗い塔へと入りました。 そこは入ったらいきなり右方向に折れて螺旋階段が続いています。 わたしはその後ろをふわふわと浮きながら付いていきました。 そこは窓も無く明かりもロングビルさんが出した灯りの魔法だけが頼りでした。 その灯りも蛍光灯のような明るさは無く、ふらふらと揺れるランタンのよう。怖い雰囲気が出ています。 こんな所で幽霊でも出たら思わず叫んでしまいそうです。 「付いたわ」 と階段の先にあったのは大きな鉄扉。 大きな魔方陣が描かれています。 「実はね、私はこの宝物庫の管理を任されているのだけれど……」 ロングビルさんの話によると鍵のような物を紛失してしまい、一度魔法を解いて鍵を掛けなおさないと防犯上危ない。 だけど予備の鍵も無いため困っていた。 しかし中に入って内側にどんな文字が書かれているかさえ分かれば熟練の魔法使いになら簡単に開けることができる。 それで私の壁抜けで中に入って文字を教えて欲しいという事だそうです。 「なるほど、分かりました」 「文字は分かる?」 「いえ、その……ごめんなさい」 この世界は私の住んでいた世界とはまるで違う文字が使われている。 もしかしたら何処かの国の文字かもしれないけど私には分からなかった。 「いいのよ、それじゃあ意味が分からなくても良いから丸暗記してきて」 「はい、いってきます」 もしかしたら魔法ですり抜けられないんじゃないかと思いましたが。 案外あっさりと抜けることが出来ました、ご主人様の話では私のような幽霊が他にも居るという事ですが、防犯上大丈夫なのでしょうか。 使役できる魔法使いがほとんど居ないとか? 部屋の中は薄暗い、字は読めないけど足元が分かる程度の照明で照らされていました。 宝物庫の中は金銀財宝、と思ってましたが兜や鎧や剣、杖に書物がほとんどで指輪などもありましたが宝石類が多いというわけではありませんでした。 表面に複雑な文字が書かれているものが多いので何かの魔法が掛かっているのだと思います。 魔方陣はドアの裏側に書かれており、外と同じ円陣なのですがかなりの量の文字が書き込まれていました。薄暗い部屋なので文字がよく見えません。 四苦八苦しながらギリギリの光源で文字を凝視し、覚えて、外で言葉と空書きで中に書かれている魔方陣を伝える、そしてまた中に入る。これを繰り返しました。 文字が多くて何十往復もする事になってしまいましたけど。 時間が結構たってしまいましたがデルフさんは大丈夫でしょうか? 「これで間違い無い?」 「はい、こんな感じだったと思います」 最後の確認を二回ほどして、いよいよ開錠になりました。 ロングビルさんが杖を振り私には意味がわからない呪文を唱えます。するとドアからカチリと音がして音も無くドアが開きました。 「ありがとう、助かったわ」 「いえいえ、どういたしまして」 苦労したけど無事に開くことが出来て良かった。 もし私が魔方陣の文字を間違って爆発でも起こしたらどうしようかと思ってました。 「今はちょっとお礼になるものを持ってないのだけど、また後でお礼に伺うわね」 「いえいえ、本当に気にしないで下さい。そんな大したことはしてないので」 「奥ゆかしいのね」 と微笑まれた。私もとっさに微笑み返した。ちょっと顔がぎこちなかった気もします。 淑女の道は果てしなく遠いです。 「それでは、デルフさんを待たせているので失礼します」 「ぇえ、本当にありがとう」 そう言ってロングビルさんと別れた。帰り道は建物の壁を突き抜けて一直線で戻りました。 次の日、宝物庫から破壊の杖が盗まれた事が判り。 犯人は生徒やメイドの証言により学院長の書記、ミス・ロングビルであることが判明した。 前ページ次ページゼロのイチコ
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召喚されたのは、煤汚れた2つの鉄くずだった。 何らかの魔法がかけられているようではあったが、少なくとも"生き物"ではない。 異例の事態であったため、判断は保留。本来は使い魔召喚の儀が完了しなければ足切りされるものなのだが、 学院長の判断を仰ぐ、という形でうやむやになった。 周囲の視線から避けるように自室へと戻ったルイズは、召喚されたガラクタを力任せに床に叩きつけると、 声にならない声をあげながら泣き叫び続けるのだった。 --- それは現実味のない"夢"だった。 ここでない場所、今でない時。 そこでくりひろげられる、戦い。 『お前は誰だ』 繰り返される問いかけ。 『俺か?俺は、通りすがりの――』 目が覚めると、朝だった。 どうやらそのままずっと眠ってしまっていたらしい。 襲ってくる空腹に気だるげに身を起こすと、床には昨日投げ捨てた"それ"が転がっているのが目に留まった。 煤汚れていたはずのそれは、窓からもれる朝日を、白い光沢の表面と中央の赤い輝石で反射させて輝いていた。 「君の軽率な行いのせいで、可憐なるレディを傷つけてしまった。それは理解できるかな?」 人だかりが出来ていた。 なんでも、二股がバレたギーシュがメイドに八つ当たりしているらしい。 人ごみを掻き分けて前に出たルイズは顔をしかめた。 「やめなさい。下品にもほどが有るわ」 ギーシュは悪趣味なフリル付きの服をしならせ、手にした薔薇の花を突きつける。 「物の道理というやつを、愚鈍な平民に諭していたところだ」、と。 ギーシュにとって不運だったのは、そのメイドがルイズの"お気に入り"だったということであろうか。 「あんたのそれは、ただの言いがかり。道理もなにもない、駄々こねてわめいてる赤ん坊と同じよ。 気分が悪いからいいかげんやめて。あなたは罪のない平民に嫌がらせをすることで、トリステイン全ての 貴族の誇りを汚しているのよ。今すぐモンモランシー達とシエスタと、ここにいるすべてのみんなに謝罪しなさい」 だが彼は、赤ん坊と同じ、ではなかった。不幸なことに彼は、正真正銘の赤ん坊だったのだ。 「決闘だ!!」 そういうことになった。 決着は一瞬だった。 『アタックライド!ブルァァァスト!!』(※若本ボイスでお楽しみ下さい) ガンモードへとその形状を変えたライドブッカーから射出される弾丸は、クラインの壷から生み出される 無尽蔵の50口径エナジー弾。 原型を留めぬほどに粉砕されたゴーレムを目の当たりにして茫然自失のギーシュに、空間を破砕して 唐突に出現したマシンディケイダーが突撃し、全く見せ場のないまま決闘は終わった。 その後ルイズは、学院長と交渉してシエスタをヴァリエール家専属とし、以後誰も彼女にちょっかいをかける者は いなくなった。 その日のうちにルイズの個室にはベッドとクローゼットが運び込まれた。シエスタは後にこのことを振り返り、 "クックベリーパイの奇跡"と家族に語ったという。 使い魔が得られなかったルイズはこの思わぬ同居人に顔を緩ませ、トリステインの城下町まで買い物にさそう。 2つ返事で了解したシエスタと虚無の休日を満喫し、途中乱入したキュルケ、タバサとともに風竜に乗って帰還した ルイズを待っていたのは、30メートルを超える巨体の土のゴーレムだった。 翌朝、4人に徴集がかけられた。 ルイズは目の下にくまを作ってフラフラと揺れて立っていた。昨日城下町のゴミ捨て場で拾った喋る剣のせいで 寝不足だったのだ。 目撃したゴーレムについて話をしていると、ミス・ロングビルがあわただしく駆け込んでくる。 「フーケの潜伏先を発見しました」 馬車に揺られながら眠りこけるルイズ。 鎖でぐるぐる巻きにされたデルフを抱えて寄り添うシエスタ。 黙々と本を読むタバサ。 無意味にハイテンションなキュルケ。 御者をしながら我関せずのロングビル。 やがて一行は森の前の小屋に到着した。 目を覚ましたルイズは、警戒もせずずかずかと小屋に歩み寄り、中へと入っていく。 あっけに取られて固まっていた4人は、あわててあとを追った。 「これが『破壊の杖』?」 ルイズは苦笑した。 「とても杖には見えないわねぇ」 「・・・・・・ユニーク」 「あれ?ミス・ロングビルは?」 シエスタのつぶやきと被るように、轟音とともに小屋が倒壊した。 ・ ・ ルイズはキレていた。 シエスタがぐったりとしたまま動かない。 必死に魔法を撃ちながら後退するキュルケとタバサ。 しかし、騒ぎで馬が逃げ出していた為、逃走手段がない。 風竜が助けに飛んできたのだが、ゴーレムの動きが激しく近づけないでいる。 ・ ・ ルイズはキレていた。 ・ ・ ルイズはぶちキレていた。 『破壊の杖』に『カード』をセットしてゆらりと立ち上がると、タバサに向けて引き金を引いた。 抗議の怒鳴り声をあげるキュルケにも、問答無用で引き金を引く。 風竜をあしらったゴーレムが、ルイズ達に向かって振り向いた。 フーケは口元を醜悪にゆがめて哂っていた。恐怖のあまり狂ったか、と。 『破壊の杖』の形状から、使い方には想像がついていた。 だが、いくら引き金を引いても何も起こらなかった。 その疑問もどうやら解消したようである。 フーケは哂っていた。自分のゴーレムが崩れ去るその瞬間まで。 そのゴーレムの左肩は高熱で溶け出し、足は地面と融解していた。右半身は無数の氷の槍にで砕かれて散った。 あっけない結末。 フーケのゴーレムは再生不可能なまでに破壊されていた。 『疾風のサヴァイヴ』と『烈火のサヴァイヴ』 それが、ルイズが二人に撃ち込んだものの正体だった。 ただ大きいだけのゴーレムは、短時間ながらスクウェアクラスの力を発揮した二人の敵ではなかった。 わめき散らして文句を並べ立てるキュルケを完全に無視して、ルイズはシエスタを介抱していた。 タバサが黙ってそれに従い、治療を施している。 キュルケが怒鳴り疲れる頃、ロングビルが戻ってきた。 どうやって倒したのか、不自然なまでに執拗に聞いてくる。 ルイズは顔を顰めながら『破壊の杖』にカードを1枚セットし、ロングビルに渡した。 後ずさり、飛びのいて杖を構えるロングビル、いや、土くれのフーケ。 銃口を自身に向けると、ためらいも無く引き金を引いた。 「ふんふんふんふふ~~ん。答えは聞いてない!」 パニックを起こし、そのまま続けて引き金を引いたフーケは、胸を真っ赤な血に染めて事切れた。 彼女の最後の言葉は、哀れにも多くの人の知るところとなる。 学院に戻り、報告を果たした4人。 ルイズとキュルケにはシュバリエの称号が、タバサには精霊勲章が授与されるよう、取り図らわれた。 また、『破壊の杖』は宝物庫に戻されることなく、ルイズに管理が委ねられた。 フーケ討伐の報は、翌日には王宮にまで届いていた。 これ幸いと学院を訪問し、こっそりとルイズに会いに来たアンリエッタは、アルビオンへの潜入任務を持ちかける。 ルイズは二つ返事で引き受けると、親書と指輪を預かった。 『ファイナルフォームライド!リュリュリュリュウキ!!』 ルイズは面倒ごと(ギーシュ)を避ける為に、アンリエッタが帰った直後にアルビオンへ出発した。 毛布にくるまり、ドラグレッダーの背でシエスタと交代で仮眠をとる。 明け方にはラ・ロシェールの町並みが見えていた。 三日後でないとアルビオンに渡る便が出ない。それは極めて深刻な問題だった。 ルイズは脱力していた。だが、何日も足止めをくらうつもりもなかった。 ウェールズ皇太子がニューカッスルに陣を構えているというのは既に小耳に挟んでいた。 ディエンドライバーに『ナイト』をセットしてシエスタを撃つ。自分はディケイドライバーで『リュウキ』に。 かくして二人はミラーワールドを通って堂々とアルビオンに渡り、襲撃も場内の警戒も無視して、 陽が傾く頃にはウェールズの部屋に忍び込むことに成功した。 「華々しく散る」 そう言ってウェールズは笑った。 ルイズはそこにかつての自分を見た。 もし自分がディケイドライバーを手にすることがなければ、それにまつわる戦いの記憶に触れること がなければ、どうなっていただろう。 きっと貴族の誇りの為にフーケに挑み、無様な屍を晒していたに違いない。 今すぐにでもこのバカを昏倒させて、アンリエッタのおみやげにするのは簡単だ。だが、ルイズもまた "貴族"であった。 自国を危険に晒してまで個人の感傷を通すわけにはいかない。悩むルイズの心をさらにかき乱したのは、 使者としてやってきたワルドであった。 彼は謁見を申し出ると、人払いを申し出た。自室にワルドを招くウェールズ。 表向きいないことになっているルイズとシエスタは、ずっと隠れたままだった。 思いがけない人物との再会に気を緩め、姿を見せようとするルイズ。だが、その好意は無残な形で 裏切られる。ワルドの風がウェールズを貫いたのだ。 ウェールズにすがるシエスタ。睨み付けるルイズ。 一瞬愕然としたワルドだったが、すぐに余裕の笑みを浮かべる。ディエンドライバーの銃口を突きつけるルイズ を前に、4体の偏在を生み出して取り囲んだ。 ワルドは微塵も慌てていなかった。小娘二人、始末するのは造作もないと思っていた。 だから、ウェールズがワルドを伴って部屋に入って来たとき、念のために、とカードをセットした状態で隠れ ていたことも知らなかった。まあ、知っていてもそれが何なのか、彼は知らなかったのだが。 『カメンライド!ディケーィド!!』 腕を横なぎに振るい、サイドハンドルが押し込まれると、風の攻撃魔法を吹き飛ばし、 "仮面ライダー"がハルケギニアに降臨した。 『アタックライド!イリュージョン!!』 現れた4体の分身に、ワルドの偏在は驚愕する暇もなく切り捨てられた。 狭い室内である。確かに個室としては破格の広さではあるが、それでも回避できる空間の余裕がなかった。 残ったワルドの本体も、反撃も回避すら許されずひれ伏した。かませ犬退場の瞬間であった。 『アタックライド!タイムベント!!』 ウェールズを蘇生したルイズは、レコン・キスタ5万の軍勢の前に立っていた。 ゾルダを召喚し、エンドオブワールドで先制攻撃。その後も様々な仮面ライダーを召喚してたった一人で戦っていた。 交錯するドラグレッダーの火球と竜騎士の魔法。 ウェールズは奇襲にあわてて軍を編成していたが、まだ出撃には数分かかるだろう。 ルイズはその前に決めるつもりだった。 手にしたのは無銘のカード。 「覚えておきなさい!その目に焼き付けなさい!私が!この世界の!仮面ライダーよ!!」 ・ ・ 虹色の光とともに描かれたのは、自身が最もよく知る戦士 『カメンライド!ルイズ!!』 ・ ・ ・ それは変身前の姿と同じ。 ヒロイック・サーガ 『アタックライド!英雄の歌!』 ・ ・ それは自分自身のもうひとつの仮面 『カメンライド!サン!!ナノーハ!!コトノハ!!シタターレ!!ルフィ!!オーフェン!!アドバーグ!!』 ・ ・ 暴食する"可能性"の使い魔。得られなかった自分とは違う自分が共に在ったはずのものたち。そして―― 『――ゼットン!!』 ・ ・ ・ ・ 自分以外のこの世界の仮面ライダー。 「終わりにしましょうか。オリバー・クロムウェル」 『ファイナルアタックライド!!ルルルルイズゥ!!』 「エクスプロォォォォォオジョン!!!」 その日、ハルケギニアに"ゼロの破壊者"が降臨した。
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前ページ次ページゼロの使い魔人 ――鼓膜をつつき回す電子音が、沈み込んでいた彼の意識を『現実』へ引き揚げる。 (う……) ぼやけた目を一、二度しばたたかせた龍麻は、更に指で軽く瞼の上から揉んで視界をはっきりさせる。 「…俺は、――そうだったな」 回転を始めた脳細胞が、彼自身が置かれた状況を余す所無く伝えて来る。 龍麻はその事実に一つ溜め息を付くと、腕時計のアラームを止め、その場で上体を伸ばした。 被っていた毛布を畳んで側に置くと、ブーツの紐を締め直し、相棒たる黄龍甲を腕に着け、立ち上がるとおもむろに部屋を見回した。 ――十二畳程の室内。机に本棚、来客用の椅子と小テーブルやクローゼット、天蓋付きのベッド…。 そのどれもが、手の込んだ細工と意匠が施された、上質な代物であるのは一目で解る。 そして…寝台で穏やかな寝息を上げている、龍麻にとっての疫病神といえる、部屋の主たる少女。 …時刻は5:30過ぎ。以前なら中距離走を始め、瞑想も含めた体力、技倆維持の各鍛錬に当る時間なのだが―― 「――洗濯しろとか言ってたな。場所は…、適当に誰か捕まえて聞くか」 床に散らばった服と自前の洗面具を手に、龍麻は静かに部屋を出た。 廊下を通り、階段を降りた所で、視界の端に人影を見つけ龍麻は足を止めた。 「…ん?」 即座に後を追いかけ、視線の先…10m程前を歩く後ろ姿を確認する。 ――肩で切り揃えた黒髪に、エプロン姿の少女である。両手に抱えた籠には、洗濯物らしき一杯の荷物。 渡りに船とばかりに、声を掛ける龍麻。 「待ってくれ。忙しそうな所を悪いが、少し聞きたい事があるんだが」 「はい?」 すぐに立ち止まり、こちらへと振り向いた少女に龍麻は歩み寄る。 「――どなたですか?」 「色々あってな、昨日から此処で厄介になる事になった者なんだが」 それを聞いた少女の顔に、何か閃いたかの様な色が浮かぶ。 「――もしかして、あなたミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 「前に、やむにやまれずが付くけどな。…知っているのか?」 「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますから」 「そりゃまた…」 悪名なんとやら、かと内心ぼやく龍麻。 「それで、何かご用件でも?」 「ああ、洗濯をしろとか言い付かったんだが、それに使う道具やら場所がわからなくてな。出来たら、教えて欲しいんだが」 「それでしたら、私の後に付いて来て下さい。私もこれから洗濯を始める所ですから」 「そうか。なら宜しく頼む」 「はい」 笑みを浮かべつつ、頷いた少女は踵を返し歩き出すと、龍麻もそれに続く。 「――っと、まだ名乗ってなかったな。俺は緋勇龍麻。緋勇が姓で、龍麻が名前だ。宜しくな」 「変わったお名前ですね……。私はシエスタといいます。あなたと同じ平民で、貴族の方々を お世話する為に、ここでご奉公させて頂いてるんです」 「そうなのか」 それで会話は終わり、建物の裏手に置かれた、洗い場に案内される。 井戸から汲み上げた水を洗濯桶に張り、洗濯板と石鹸で汚れを落としに掛かる。 そういった作業をシエスタを始めとする大勢の使用人達と共に、黙々とこなし終わりが 見えかけた頃には、結構な時間が経過っていた。 後片付けも含め、一切を終わらせた所で、ルイズの居室へ戻る。 「入るぞ。起きてるか?」 ノックをし、呼び掛けるを何度か繰り返すも反応は無く、中へと入れば、当の部屋主は龍麻が起き出した頃と変わらず惰眠を貪っていた。 「……。ぐうたらしてないで、さっさと起きろ」 肩を掴んで強く揺すりつつ、(抑えた)声を掛ける。 「もう、なによ…。朝からうるさいわねぇ……」 「うるさいも何も、起きる時間だ。遅刻したいのか?」 「はえ? それはこま…って、誰よあんたは!?」 と、半ば寝ぼけた顔と声で叫ぶルイズに、ジト目を向ける龍麻。 「誰も何も、アンタに召喚ばれたばかりに人生棒に振った、不運な男だ」 「ああ、使い魔ね。そうね、昨日、召喚したんだっけ」 ……そこから着替えに関する意見と認識の相違で、両者はまたも舌鋒を交えたが、 ともあれ、着替え終えたルイズと龍麻が部屋を出た所で、隣室のドアが開いた。 ――鮮やかな赤髪と彫りの深い顔立ちに長身、褐色の肌と恵まれたスタイルが特徴的な若い女性である。 服装はルイズと同じ…つまりは貴族であり、この学院で学ぶ魔術師であろう…と、龍麻は見て取る。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 前者は愉快そうな笑みを見せつつ、後者は露骨といっていい嫌悪を込めての挨拶である。 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 龍麻を指差し、ルイズの返事を聞くや、遠慮もなにも無い笑声を廊下に響かせる。 「ほんとに人間なのね! 凄いじゃない!」 (まるきり珍獣扱…否、晒し者だな、こりゃ…) 「『サモン・サーヴァント』で、平民喚んじゃうなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」 「うるさいわね」 最後の一言に、只でさえ不愉快そうなルイズの顔に、更に皺が寄るのを龍麻は見た。 「あたしも昨日、召喚に成功したのよ。どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。来なさい、フレイム」 との、キュルケの自慢気な声に合わせたかの様に、室内から這い出したのは…。 「――只のでかいトカゲ…、な訳無いか」 コモドドラゴン以上の体躯を持ち、それ自体が炎の塊で出来ている尻尾に、口腔の端からも時折、炎が洩れ出している。 (流石にあの旧校舎地下や天香遺跡でも、こんな奴は棲息でなかったな……) 「これって、サラマンダー?」 凝視する龍麻を余所に、ルイズが悔しそうに聞くや、そうよー、火トカゲよー、と、ひとしきりキュルケがその火 トカゲの出自や価値を自慢し、そこからやり取りを重ねる度に、ルイズの表情と声はますます不機嫌さを増す。 と、不意にキュルケは龍麻へと視線を向けた。 「あなた、お名前は?」 「緋勇龍麻だ」 「ヒユウタツマ? ヘンな名前」 予想通りの答えに、小さく肩を竦めてみせる龍麻。 ここに居る間、際限無く掛けられるだろう台詞に、逐一反応するだけ精神エネルギーの無駄である。 「じゃあ、お先に失礼」 そう言ったキュルケは外套を翻し、颯爽たる足取りでフレイムを引き連れ、部屋を後にする。 その姿が廊下の向こうに消えると、ルイズは憤懣やるかた無しな顔で叫ぶ。 「悔しー! なんなのあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」 「………」 無言を保つ龍麻だが、ルイズの癇癪は治まらない。 「あんたは知らないだろうけどね、メイジの実力を測るには、使い魔を見ろって言われているぐらいよ! なんであのバカ女がサラマンダーで、わたしがあんたなのよ!」 「そりゃお互い様だ。しかしな、召喚のやり直しが出来ん現状、今居る奴が人間だろうが何だろうが、 そいつと組むしかないだろう。無い物ねだりしても、仕方無い」 「メイジや幻獣と平民じゃ、狼と駄犬程の違いがあるのよ」 ルイズは憮然たる表情で言い捨てる。 「駄犬呼ばわりかよ。…そういや、さっきゼロのルイズとか言われてたが、何か曰くでもあるのか?」 「ただの渾名よ。…あんたは知らなくていい事だわ」 ルイズはバツが悪そうに言う。 「そうか。忘れろっていうなら、忘れるさ。ゼロだなんだの、俺にはどうでもいい事だしな」 深く突っ込まない方がよし、と見て取った龍麻は、その単語を意識の隅へと放逐する。 「ほら、食事に行くわよ。さっさと付いて来なさい!」 「了解」 ――龍麻を引き連れたルイズは、学院の敷地内で一際大きい本塔の中に作られた、『アルヴィーズの食堂』へと入った。 ルイズが道々、説明する所によると、総ての学院生と教師陣は此所で食事を取るのであり、 又、『貴族は魔法をもってしてその精神と為す』をモットーに、魔法に止どまらず、貴族としての 教養や儀礼作法等も学ぶ…と、いった事を龍麻に語る。 「わかった? ホントならあんたみたいな平民は、この『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。感謝してよね」 「別段、入れなくとも一向に構わんけどな。食うだけならどこも同じだ」 「そう。なら次からは外で食べなさい。使用人達にはそう伝えておくわ。――ほら、椅子を引いて頂戴。 気の利かない使い魔ね」 「そいつは失礼。……で、俺の分はどこにある?」 既にテーブルに並べられ、湯気と芳香を立ち昇らせる質と量を満たした料理の群れに目もくれず龍麻が尋ねると、 着席したルイズは、無造作に床を指す。 「あんたのはそこ。何を騒いでも、それ以外は出ないし出さないから」 床に置かれた皿には、黒パン半切れと薄いスープが一皿だけである。 「……やれやれ」 口にしたのはそれだけで、龍麻は床に胡座を掻く。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今日も…」 と、室内に祈りの声が響く中、龍麻は龍麻で… (予め、マトモなモノなぞ出ないと予想はしてたが、残飯で無いだけマシか。…しかし、 『コレ』が続く様なら、外で現地調達でもして、食い扶持は自力で確保すべきだな……) 祈りを済まして食事を始める生徒達だが、龍麻もさして時間を掛けず空にした皿を手に、立ち上がる。 「ご馳走さん。外で待っているぞ」 卓上に空にした皿を置いた龍麻は、ルイズの返事を待たずに食堂を後にした。 前ページ次ページゼロの使い魔人
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「ドスペラード」のエイジを召喚 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-01 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-02 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-03 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-04
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部屋に帰ってきたメローネには、新たな試練が待ち受けていた。 それは・・・自らの主ルイズを起こすこと! 「たたき起こすのは・・・駄目だな。後でひどい目に遭いそうだ。 だがただでは起きそうにない・・・。こうするか。」 そう言うとメローネはタイツの中からイヤホンを取りだし、ルイズにつけた。 そしてパソコンに繋げるとiTunesを起動した。 「ん~~・・・悪霊退散~~zzz」 「駄目か・・・これならどうだ?」 「ん~~・・・がちゃがちゃきゅ~と・・・ふぃぎゅ@~~zzz」 「ばかな・・・!起きろよ・・・!これでッ!!」 「やっつぁっつぁっぱり りっぱりらんらん~zzz」 「こいつ・・・!化け物か・・・!仕方がない、最後の手段だ!」 「わひゃあ!あ・・・頭がぁあああ!」 「おはようお嬢様。どうしたんだ?」 「あ・・・メローネか。なんかものすごい音楽が頭の中に・・・」 (チーズのうた 作詞・作曲ジャイロ・ツェペリ・・・いつの間にかiTunesに入っていた。 とんでもない電波ソングだ・・・うかつには聞けん。) ゼロの変態第四話 余の仇名はゼロ 「着替えさせて。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 「着替えさせてって言ってんの。貴族は使用人がいるときに自分で着替えたりしないのよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった・・・」 メローネは着替えさせている間中自分の中の獣(発情中)を押さえるのに必死だった。 着替えをすませると、2人は食堂へ向かった。 「うほっ、いい食事!」 豪華な朝食をみてのメローネの一言である。もうすこしまともな台詞を吐け。 「そういやここ最近ろくな文句って無かったもんなァ~」 なぜかって?あなた達には理解できるはずだ。 「なにいってんのよ。あんたの食事はこっち。」 ルイズの指さした先は・・・床だった。 そこには堅そうな黒パンとお茶と見間違えそうなスープ。 「感謝しなさいよ。使い魔は普通は外だけど、私のおかげであんたは中で食べられるんだから。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 さすがの彼もこのときはプッツンしかけた。 「・・・外で待っている・・・」 怒りのこもった声でそう言うと、スープを一気飲みしてパンをもって外に出た。 「さ・・・さすがにやりすぎたかしら・・・?だ・・・ダメよルイズ! ここで弱気になったら、ますますあの変態につけこまれるわ!」 一方メローネは使い魔達の中で反省中であった。 あのような仕打ちを受けると、彼らのチームがかつて『組織』から受けていた仕打ちを思い出す。 (こんなことではダメだ・・・冷静さを欠くことは死に直結する・・・。どんな世界でも・・・ この世界ではこれが普通なんだ・・・逆に考えろ・・・ 『他の使い魔達はもっとひどい食事なんだ』そう考えろ・・・) メローネは他の使い魔が肉やらなにやら食べている中で怒りを静めようとしていた。 食堂から教室へ向かう途中、メローネ達の前に1人の少女が現れた。 萌えるような赤い髪、健康そうな褐色の肌。さらに巨乳。 「あらおはよう、ルイズ。」 「あらキュルケ。おはよう。」 「聞いたわよルイズ。変態を召喚したんですってね。さすが『ゼロ』ってとこかしら? それがその使い魔?・・・ふぅん。格好以外はまともそうだけど。」 「ちょっとキュルケ!なに人の使い魔じろじろ見てんのよ!」 言い争いをしている2人を尻目にメローネは彼女とルイズが知り合い、しかも仲が悪いこと、 キュルケという少女、みくるタイプかと思ったが気が強いことなどを理解した。 彼は長門派だし、セクシーな女性よりもかわいい女の子の方が好き(無論両方とも好きだが)なので 特に必要な情報ではなかったが。 「それよりも私、昨日使い魔を召喚したのよ。ま、誰かさんと違って1発で成功したけどね。」 「へーそう。」 「お・・・お前は・・・!」 メローネはキュルケのそばに現れた火トカゲに驚愕した。なぜならそれは先刻メローネが 使い魔達の中にいたとき、親切にも自分が食べていた肉を分けてくれた張本人だったからだ! 「この子の尻尾を見て。ここまで大きくて美しい炎は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよぉ。」 「そうかおまえは火トカゲか~。道理で燃えてたはずだ。火トカゲだもんな~」 サラマンダーと聞くと嫌な記憶が蘇るのでやたら火トカゲを連呼するメローネ。ちなみに彼はゼニガメを選んだ。 「あら、あなたもこの子の魅力がわかるのね。そういえばあなた、名前は?」 「メローネだ。・・・それよりもうすぐ授業が始まるんじゃあないのか?」 「あ、そうね。貴方気が利くわ。じゃね、ゼロ。」 そういうと彼女は赤髪をかきあげ、火トカゲと共に去っていった。 「きー!!なによあの色情魔!火竜山脈のサラマンダー召喚したからって調子に乗っちゃって!!」 「まぁ落ち着けよ。あの火トカゲに罪はない。実際アレすごいよ?」 「うるさいっ!あんたご飯全部抜きにするわよ!」 「う・・・それは困る・・・」 あんな粗食あってもあまり変わらないのだが、ご主人様の好感度を下げないためにこういっといた。 さすがは三択恋愛の王者である。 教室にはいると生徒達の視線がいっせいにルイズとメローネに集まった。 メローネは大方ルイズを馬鹿にしているのだろうと予想した。そのうち三割はメローネに向けられていたのだが。 ルイズの言動を予想し、メローネは床に座ると他の使い魔達が集まってきた。 「なんだお前ら、そんなに俺が好きか?じゃあここは一つゲームをしよう。」 メローネはイヤホンをつけるとパソコンを起動させた。授業聞く気はゼロである。 そうこうしているうちに教師が入ってきたようである。メローネはゲームをし始めていたが。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。ひとり妙な使い魔を召喚したようですが。」 教師のその一言に教室は笑いの渦に包まれる。 「おい『ゼロ』!『サモン・サーヴァント』ができなかったってそこら辺歩いてた変態つれてくるなよ!」 「違うわよ!召喚したらたまたまこの変態が出てきちゃったのよ!」 「嘘付け!」 メローネは我関せずといった態度で画面を見てにやけていた。ほかの使い魔も釘付けである。 教室が静かになった。どうやら授業が始まったようだ。 教師の名は『赤土』のシュヴルーズというらしい。 メローネはゲームをしながら、魔法には4つの属性があり、メイジにも四つのランクがあること だけは聞いていた。 だが彼も暗殺者の端くれ、教室の空気が一変したのを見逃さなかった。 「バカなっ!ヴァリエールに魔法を使わせるつもりか・・・!」 「退避ー!総員退避ー!」 「はっ!ここはどこだ・・・?次は何が起こるんだ・・・?」 ルイズが魔法を使うことになったのだろうが、生徒の脅え方が尋常ではない。ん?あのオッサンは誰だ? とりあえずメローネは生徒達に習って床に伏せることにした。その顔からは笑みが消えていた。 そのとき、大爆発が起こった。 「ちょっと失敗しちゃったわね・・・。」 そのちょっとで教室は半壊、シュヴルーズは気絶。謎のオッサンは消し飛んでいた。 「「「どこがちょっとだ!」」」 「まったく・・・今日は一段とひどいわね・・・」 そう言いつつキュルケはある疑問を感じていた。あれだけの爆発である。てっきり使い魔達が暴れて 大事になるかと思ったのだが・・・ するとキュルケの隣にいた少女が彼女の服を引っ張った。 「どうしたの、タバサ?」 「・・・あれ」 タバサと呼ばれた少女が指さした先には、使い魔達が恐怖に震えている姿があった。キュルケのフレイムは気絶している。 そして、その中心にいたのは・・・ 「は・・・はは・・・このゲーム、オレの勝ちだ・・・はは・・・」 笑いと恐怖が入り交じった顔をしている変態がいた。 ちなみに彼らがしていたゲームは「誰が『ひぐらしのなく頃に』を見て最後までリタイアしないかチキンレース」である。 「おい・・・ちょっとは手伝ってくれ。というかお前がやれよマスター。」 「ご主人様の不始末は使い魔の不始末よ。さっさと手を動かしなさい。」 ルイズ達はシュヴルーズの遺言により教室の後片付けを命じられていた。 「それにしても・・・『ゼロ』とはそういうことか」 「そうよ・・・。魔法の成功率ゼロ。だから『ゼロ』。」 メローネはルイズの態度で彼女が怒っていることを理解した。 しかもこの怒り方は戦友、ギアッチョと同じタイプだということを。 どんな言葉でも怒りを爆発させるトリガーになりかねない。彼は経験でそれを理解していた。 「・・・いけよ。」 「な、何?」 「ここは俺に任せて先に行け。昼飯を食い損ねたくはないだろう?なぁに、すぐに追いつく。」 「わ、わかったわよ・・・。」 (やっと使い魔というものがわかったのかしらこいつ・・・昼ご飯少しふやしてあげようかしら?) ルイズが去るとメローネはベイビィフェイスの手足を伸ばし掃除を始めた。 端から見るとヘンな機械がぷかぷか浮いている用にしか見えない。ルイズの前では使えないので 独りの方が作業がはかどる。 (・・・彼女は怒ると見境無いタイプだ。自分すら傷つける怒り方をするタイプだ・・・ ああゆうタイプは下手に励ますと怒り出しかねん・・・傷つけても悪いしな・・・) そしてメローネは掃除を手早く済ませると食堂へ向かった。 さらなる厄介ごとを引き起こすことも知らずに・・・
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前ページ次ページゼロの工作員 シエスタが慣れた手付きでパンツを洗濯板にこすり付けている。 石鹸水の入った大ダライと綺麗な井戸水の入ったタライと洗濯籠を並べ、服を順番に浸して手際よく洗っていた。 メイド服の袖口を肩まで引っ張り、金ダライの中に左手で洗濯板を立てかけ、泡だらけになった右手で揉み洗いしている。 「困ったわ」 フリーダは洗い場に立ち尽くしていた。 洗濯機で済ませるのが当たり前だったのが突然、手で洗えと言われたわけで 血の付いた死体を片付けるのは慣れていても、下着についた体液には抵抗があった。 「どうしたんですか?」 シエスタが手を動かしながら聞いた。 「ルイズに洗濯物を頼まれたのだけど洗い方が判らなくて」 「いいですよ。今日は当番ですからまとめて洗っておきますよ」 広場の百鬼夜行に目を向ける。 「ところで、貴族は洗濯物をどうしているの?私が来る前まではどうしてたの?使い魔に任せるとしてもあんなのには無理だろうし」 「貴族の皆さんは魔法を使って洗濯してますよ。魔法って便利ですよね。フリーダさんのご主人様も………大変ですね」 同情するような視線を向けられた。 「………ん。何」 「いえいえ!何でもありません!」 塔の長い階段をしばらく登ると、ルイズの部屋へと着く。 流石上流階級のお嬢様の部屋。 寮の部屋にしてはいい家具が取り揃えられている。 黒桐のクローゼットに天蓋つきのベッド、毛足の長い絨毯に、しっかりとした木で出来た背の低い机、ランプ一つとっても細かい金の装飾 がなされている。 角にある本棚は小綺麗に整えられ、中の本も丁寧に使われているのが部屋の主の性格を窺わていた。 部屋へ入ると着替えを済ませたルイズがベッドの上に座り、フリーダを椅子に座らせるように促した。 「ねえ、フリーダ」 ルイズは恐る恐る呼び捨てにした。彼女の機嫌を損ねたらまた、正面から正論で叩き潰されてしまうかもしれないから。 「あなたには使い魔としてやっていってもらうんだけど、能力について確認したいの」 使い魔にはどんなことが出来るのか授業で習ったのを思い出す。 「まず、使い魔は目や耳を通して周囲の光景を伝えることができるんだけど………見える?」 「いえ、見えないわ」 ルイズは見えないと聞いてほっとする。見えたら見えたで秘密も何もあったものじゃないから。 「秘薬の材料集め、硫黄や宝石とか臭いで嗅ぎ分けられるらしいけど、出来る?」 「鉱物の臭いなんて嗅ぎ分けられないけど、調合なら出来るわ」 任務のため彼女は最初に人を殺してから8年間で28人の 偽人格 を受け入れた。 脳のチップに消した後も残る幽霊達はフリーダの逃れ得ない罪の証だ。 料理の上手なミカ・ラインバックは毒薬の調合を肌で覚えている。 フルート演奏者を目指していたファミール・ハジームは、いつも楽器ケースに爆弾を詰めていた。 「意外ね、そんなのが出来るんだ」 ルイズは満足そうに微笑む。 材料を集めてこれる使い魔は数あれど、調合できる人材はそんなに多くない。ましてやそれが使い魔ならなおさらだ。 調合には専門の知識が必要だし、メイジに秘薬は必要不可欠であった。 「後は雑用と護衛なんだけど。出来る?」 「料理は真似事程度、掃除はいつもやってるわ。洗濯は…駄目ね」 手で洗うのを見て驚いたフリーダだった。 「まあ、雑用はメイド達の仕事だからいいわよ。護衛はどうなの?」 「そこらの一般人よりは大分マシよ。護衛対象がよほどの馬鹿をしなければ大丈夫」 エゴの塊だったかつての同居人。 彼女は 正しい ことのために街の住人全てを敵にしても一歩も引かなかった。 そろそろ朝食の時間である。学園の中央の鐘が鳴っている。 フリーダは貴族と同じ場所で食事をするわけにもいかず、 食堂の前で一旦別れ、下働きたちのまかないを分けてもらうことにした。 トリステインは広大な国土を持つ農業国家だ。 食卓に並ぶ食材も良いものが揃っている。 フリーダは前まで自炊が中心だったので他人の手の入った食事を食べるのは久しぶりだった。 どの料理も食材が新撰で手が込んで居る。 テーブルや椅子、食器やスプーン、フォークに至るまで木で出来ていて暖かみを感じる。 トマトやレタスがふんだんに盛り付けられたオリーブオイルの入りのオリジナルドレッシングが掛かったサラダに、 人参やジャガイモ、ブロッコリーが色とりどりに入っているスープ、焼き立てのパンは暖かくて香ばしい。 食べ終え、付いてきた安物の紅茶を飲んで一息ついて居るとシエスタを見つけた。 「素敵な学校ね」 「私が生まれたときからお世話になっているんですよ」 「シエスタの嬢ちゃんが初めてきたときはちっこかったからな。こんなにおおきくなっちまってよう」 料理長のマルトーが厨房の奥から出てくると節くれ立った指でシエスタの頭をガシガシと撫でる。 浅黒い角ばった顎と毛むくじゃらの太い腕は熊みたいだ。 豪快に笑いながらマルトーは冗談交じりにシエスタに声を掛け、手を伸ばす。 「やらしい目で胸見ないで下さい」 シエスタは胸を押さえつつ、赤くなった顔でマルトーの鳩尾を叩き、マルトーは大げさに仰け反って避ける。 仲良くじゃれあっている様は仲の良い親子であった。 「よう。フリーダの嬢ちゃん。俺の料理どうだったかい?」 「ご馳走様でした。とても美味しかったわ」 「そうかい。そうかい。異国の人にも満足してもらえて光栄だ。腹が減ったらいつでも来てくれよ。美人は大歓迎だ」 マルトーは満足そうに頷いた。 「そうだろ!お前ら!」 厨房の奥へ声を掛けるとうぃ~っすと他のコック達の野太い声が響いてくる。 「今度は私が料理をご馳走しますわ」 「おう!フリーダ嬢ちゃんの国の料理、食べるの楽しみだぜ」 教室は石造りで中央の教師が居る場所が一番低く、段上になっていて円周上に机が配置されている。 その様は大学の講堂のようで、お坊ちゃまお嬢様が集まる学校に相応しかった。 中央に黒板と、上下を紫色で揃え、尖がった帽子を被り、 ローブを着てマントを羽織り、杖を持った50代ほどの太った魔女が壇上に立っている。 魔法使いに黒板なんて益々ファンタジーね。 本や映画で見たのと殆ど同じ魔法使いの日常を見ていると次第に授業に興味が沸いてくる。 ルイズを含む全生徒の使い魔が揃ったため、教師と生徒の使い魔達の顔合わせと前学期の復習をかねて授業が行なわれていた。 使い魔の見立ては、魔法を使える者 メイジ の資質を測る上で重要だ。 強力なメイジは強い使い魔を持つとされている、一生のパートナーたる使い魔によって将来が決まるとしても過言ではない。 たとえばグリフォンを召還した者は王族付きの宮廷魔術師になるだろうし、ゴーレムを召還した者は建築に高い才能を示すだろう。 今年は雪風のタバサが風竜を召還し、竜騎士として将来を期待されている。 フリーダは教室内の動物達を興味深く見つめていた。 白いフェレットやイタチやネズミ、鰐などが所狭しと並んでいる。 教室に入りきらない竜やバグベアードやゴーレムなどの大きな生き物は外で待機しているのが窓から見えた。 「ああ窓に!窓に!なんてね」 まだ見ぬ巨大生物に想いをはせる。 「…きっと、見ると発狂する大蛸や上半身が魚で下半身が人間の人魚もいるのでしょうね」 おのぼりさんのフリーダを見てルイズは呆れてため息をつく。 「メイジが使い魔を持つのは常識でしょ。アンタどんな場所に住んでたのよ」 「…遠い…ずっと遠い国よ」 他の国なら違うのも当然かと納得する。 「きょろきょろ見るのはいいけど目立たないようにね」 「ええ」 口では答えつつもフリーダはうわのそらだ。 「ああ~ら。ミス・ヴァリエール、召還失敗して平民を使い魔にしたの?」 艶のある女性の声。大人びた健康的な小麦色の肌に黄色の瞳の炎のような赤毛が特徴的な学生が居た。 体に自信があるのか、制服をだらしなく着崩し、ワイシャツのボタンを上から3つ外し、胸元を見せ付けている。 足元には赤く分厚い鱗で覆われた緑の瞳の、尻尾に火が点いた赤い鰐ほどの大きさがあるトカゲ。 「キュルケ!」 ルイズが即座に反応した。 「あなたの使い魔より私の使い魔の方がよほど高等よ!調合だって出来るんだから!」 「ふーん?」 キュルケがフリーダへ向き直る。 「私の使い魔は火竜山脈のサラマンダーよ。見なさいこの大きさと鱗のつや、好事家に見せたら値段は付けられないわね」 サラマンダーはのしのしと歩くと口から赤い炎を吐いた。 「あいさつがまだだったわね。私は 微熱 のキュルケ、使い魔のサラマンダーはフレイムよ」 「フリーダ・ゲーベルよ。宜しく」 フリーダは頭を下げる。 「ツェルプストーの奴なんかにいちいち頭を下げなくていいわよ」 ルイズは不機嫌に曾曾叔父の彼女がツェルプストーに寝取られた、祖母の婚約者が寝取られた、などとずっと口げんかをしている。 ヴァリエール家の歴史は寝取られの歴史であるらしい。 ルイズが一方的に噛み付き、当のキュルケは涼しい顔をして受け流している。 猫に猫じゃらしを振って遊んでいる感覚だ。 ルイズはムキになり過ぎて遊ばれているのに気付いてない。 キュルケはそれがまた面白くていじるのである。 「みなさん、春の使い魔召還は大成功のようですね」 教室の中央の壇上に教師が立っている。 紫色の帽子にローブを纏い太った中年女性の姿は、物語から抜け出してきたそのままの魔女の姿でフリーダは少し笑ってしまった。 ミセス・シェヴルーズは部屋に居る使い魔を見渡した。 彼女は歴史あるトリステイン魔法学園で才能ある貴族の生徒達に魔法を教えられるのを誇りに思っている。 使い魔の存在はそのまま主人の資質を現す。 今年はミス・タバサが風竜を呼び出し、教師達を大いに湧かせた。 他の生徒達も無難に使い魔と契約を結んでいる。 だが一人例外が居た、ヴァリエールである。 名門ヴァリエール家の三女でありながら魔法の成功率はゼロ。 平民を使い魔として使役している。 ヴァリエールの担任であるコルベール先生は人間の使い魔だと言い張っているが、 彼女の目から見て、本物の使い魔かどうかも妖しい。 学業は優秀、素行も良好、実技は壊滅の問題児。 どんなに勉強が出来ても、魔法を使えない貴族は貴族としての価値なしと彼女は考えている。 できもしない御託を並べるのは学者の仕事であって、学生には十年速い。 「まあ、とっても変わった使い魔を召喚した方もいるのですね」 皮肉である。ヴァリエールの素晴らしい血を引きながら魔法が使えない貴族であるルイズへのあてつけ。 彼女の希望通りにルイズへの野次が飛ぶ。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、実家からメイド呼んでくんなよ!」 ルイズは歯噛みして言い返した。 「煩いわね!風邪っぴきのマリコルヌ!」 「僕は風上だ!ゼロのルイズ!」 嘲笑や侮蔑が入り乱れる教室の中でルイズはテーブルの下で手を力いっぱい握り締めていた。 シェヴルーズは自尊心が満たされたので生徒を黙らせようと思った。 「ミスタ・マリコルヌ。これ以上授業の邪魔をするなら退席していただきますよ」 彼女は杖を一振り。煩い生徒の口に粘土を詰めた。 「…下種な教師も居たものね」 はっきりとした声に教室が凍りつく。 ゼロの使い魔、フリーダの声だ。 「…学期初めに生徒の人気取り、駄目な生徒をダシにつかうなんてね」 「も、申し訳ありませんでした…ミス・ヴァリエール」 シェヴルーズは引きつった笑みを浮かべる。 「では授業を始めます。皆さんは私とこれから一年間『土』属性の魔法について…」 魔法の授業はフリーダにとって見るのも聞くのも新しい発見の連続だ。 この国では魔法は生活に密接に関わっている。 特に『土』属性の魔法は 錬金 を使った鉱物の精製、建築、運搬など生活に欠かせない役割を担っている。 何処にでもある地面の土でゴーレムを生み出し、重機として使い、 クレーンやトラック、ショベルカー代わりとして使う。 堤防補強などの単純な作業の場合、構造計算などを抜きにした場合土のメイジ数人で数日で完成させられる。 土を自在に動かし、壁や土台を容易に造れる。 錬金 は生産設備もなしに鉄や銅を生産、これら全てを個人レベルでできるといった夢の世界であった。 レンガや窓ガラス、鍬の金部に至るまで全てメイジによるものであるらしい。 建築技術などに無理があっても、魔法による力技で造れるのだ。 薬品の調合や火薬などの化合物や、ランプや家具といった複数の素材を組み合わせ内部構造が複雑なもの、 ステンドグラスなどの繊細な調整が必要なものは 錬金 による制作が難しく、専門家の手を借りなければならない。 おそらく、ゴムなどの分子構造の特殊なものも造り辛い部類にはいるのだろう。 「………なるほどね」 馬や牛などが重宝される17世紀レベルの文化なのに、 黒板の一部のチョークや大きい窓ガラス、洗剤などの19世紀のオーバーテクノロジーがあるのは 魔法が使えるメイジが社会の中心に立っているのと大きく関係しているようだ。 洗剤や大窓ガラスなどは貴族が使うものである。 黒板やチョークは貴族の需要を満たす贅沢品であり、高すぎて貴族しか使えないものである。 魔法が使えない人々のための技術、例えば運搬や医療、作業機械などは 全てゴーレムや錬金などが代わりにやってしまい、 平民にあたる下層階級の底上げが行なわれず、魔法技術にばかり人材が集中する。 経済の二極化が起こり、歪な文化の発展が起こる。 その結果が貴族向けの小物の発達である。 17世紀に19世紀のオーバーテクがあるのではない。 19世紀に17世紀の技術しかないのだ。 ルイズにメイジが容易に精製可能な金属としている、青銅や銅などの製鉄所があるかと聞くと。 「あるわけないじゃない。平民はどうしてでかくて効率が悪いものを造りたがるの?」 と逆に聞かれ。 「硫黄や秘薬の材料を集めさせる方がよっぽど役に立つわよ」 と言われた。 人口比で見ると圧倒的少数のメイジ達による少量多品種生産が広がり、 社会のシステムとして機能しているのは根深い問題である。 たとえばメイジの生産力が一人で10、平民の生産力が1として考え。 彼等全体に100の予算を与えると一人頭の生産力が1割増えると考えるとする。 単純に生産力を比べるとメイジ11、平民1.1であるが、もし平民がメイジの100倍200倍居たらどうなるだろうと考えた。 ヴァリエールが使い魔とこそこそ話している。私の授業で余所見をするとはいい度胸だ。 先ほどはヴァリエールの使い魔の小娘に出鼻を挫かれたが 今度こそ教師を舐めた態度を矯正してやらなければなるまい。 「では実際にやってもらいましょう。筆記の成績がトップのミス・ヴァリエールなら私の授業を聞かなくても簡単ですよね」 「 錬金 における初歩、小石を金属片に変えてください」 小石を金属片に変えるのは小学生のメイジでもできる。 でも彼女は必ず失敗する。学校始まって以来一度も成功した事がない問題児だから。 私は失敗した姿を見てこう言うのだ「やっぱり私の授業が必要でしたね」と。 「ミセス・シェヴルーズ!」 「やめてください! 危険です!」 「先生はルイズを知らないんです!」 「うわーだめだー」 辺りから非難と悲鳴とあきらめが上がる。 引けなくなったルイズは勢いよく立ち上がり、杖を掲げる。 「やります!」 教壇へ足を踏み鳴らしながら進める。 その様子に上の段にいたキュルケがフリーダに声を掛けてきた。 彼女の隣の眼鏡を掛けた青い髪の小さな少女も上下に首を振っている。 「フリーダさん。危ないから隠れてたほうがいいわ」 彼女は声を掛けると下に潜り込んだ。 周囲を見ると罵声は止み、教室は静かになっている。 フリーダの隣の生徒もルイズの方向に背を向けしゃがみ、背中を丸め両耳を押さえてテーブルの下に隠れている。 嫌な予感がして彼女も背中を丸め他の生徒達と同じ姿勢を取る。 「…爆弾。………まさかね」 カッ! 視界が真っ白になる。半秒ほどの停滞の後、腹の底に響く爆音。 舞い散るプリント、ぶちまけられる黒インク、乱れ飛ぶ教科書。 窓ガラスが割れ、外に飛んでゆく。 「派手ね」 爆発が収まった後も、使い魔は驚いて暴走。犬猫の群れは爆走。 鳥達は逃走。トカゲ達は闘争。阿鼻叫喚の地獄絵図。 フリーダが壇を駆け下りると埃にまみれたルイズと、黒板に叩き付けられぐったりとしたシェヴルーズが倒れていた。 「大丈夫?」 「ちょっと失敗したわね」 ルイズに生徒達から総ツッコミが入る。 「お茶目ってレベルじゃねぇぞ!」 「シェヴルーズよおお死んでしまうとはなさけない」 「片付けがんばれよ。俺たちには関係ないけどな!」 「ざまあみやがれ!」 「イヤッハー!」 爆発を聞きつけた教員がやってきてルイズに魔法なしでの教室の後片付けを命じる。 当然授業は中止だ。 「…馬鹿ね、あなた」 フリーダは呆れた顔で片づけを手伝うのであった。 前ページ次ページゼロの工作員
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前ページ次ページゼロの大魔道士 『炎蛇』のコルベール。 彼はトリステイン魔法学院の学院長オスマンの片腕として知られている一教師。 火系統の魔法を得意とするトライアングルメイジで、その腕前は見たものこそほとんど皆無ではあるものの、凄腕だと噂されている。 そして、魔法の更なる活用法を発見しようと日夜研究している変人としても名が知れ渡っている。 教師としての評判はそれなりに悪くはない。 権威や主義に凝り固まった教師の多い中、コルベールは時折自分の世界に入り込むことを除けば気さくな大人だったからだ。 「…と、いうわけです」 そんな彼は今、学院長室にいた。 本日行われたサモン・サーヴァント及びコントラクト・サーヴァントの結果報告のためだった。 しかし、その表情は暗い。 原因は言うまでもなく、その左手の甲に刻み込まれているルーンの紋様にあった。 (ああ、何故こんなことに…) ううむ、と唸るように考え込む表情を見せるオスマンを前にしてコルベールは真っ青な表情で立ち尽くす。 謎の平民の少年に刻まれたはずのルーンが自分に刻み込まれる。 しかもその原因と思われる少年は逃走。 残ったのは自分の手に浮かぶルイズの使い魔の証であるルーン。 (始祖ブリミルよ。私が一体何を……) したというのですか、とは繋げられなかった。 過去を掘り起こせば十分自分はこんな目にあうにふさわしい所業をなしてきたのだから。 これも贖罪なのか… コルベールは今更ながら真剣に自分の過去を悔やんだ。 「ふむ、大体の事情はわかった」 ギシ、とオスマンの座る椅子が軋む。 身を乗り出すようにして自身を見つめるオスマンにコルベールは冷や汗をかく。 どう考えても今回の事件は学院設立上最大の汚点となる事件である。 オスマンがどういった判断を下すのかは不明だが、最悪の場合はクビも覚悟せねばなるまい。 ぐびり、とコルベールは緊張に生唾を飲み込んだ。 「で、柔らかかったかね?」 「は?」 オスマンの第一声は意味不明だった。 柔らかい? 何が? 「またまた。お主がミス・ヴァリエールの使い魔になったということは…したんじゃろ、唇と唇をぶちゅっと!」 このこのっ。 ニヤけた表情で自分をつついてくる老人にコルベールは呆然となる。 が、すぐにその表情は憤怒へと変化する。 この老人は、自分が真剣に悩んで報告をしたというのに、ロクに話を聞いていなかったのだ。 「…オールド・オスマン?」 「なんじゃ、そんなに照れ……ぬおっ!」 ゾッとするような声がオスマンの耳に届いた。 やばい、流石にやりすぎた!? 自分に恐怖を与える男に、オスマンは場を和ませよう作戦が失敗したことを悟った。 なお、オスマンがコルベールをなだめるのに要した労力は普段秘書に行っているセクハラの謝罪の三倍くらいだったという。 「こほん。しかしまたとんでもないことになったもんじゃの」 「はい。情けないことですが、正直私も途方に暮れていまして…」 項垂れるコルベールにオスマンはさもありなんとばかりに頷く。 突然自身の生徒の使い魔になってしまったなど、想像を絶する事態である。 しかも主である相手はゼロのルイズことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 もしも自分が彼の立場だったらと思うと、羨まし…ごほん、耐えられるものではないだろう、色々と。 「ところで、ミス・ヴァリエールはどうしたのかね?」 「それが…逃亡した少年に向けて一通り罵声、あ、いや、叫んだかと思ったらふっと気絶してしまいまして」 「まあ、無理もないがの…」 契約しようと思ったドラゴンは逃げた。 更に、契約を交わしたはずの平民は契約を解除してやはり逃げた。 これでショックを受けない方がおかしい。 「しかしどうするんじゃ? 件のドラゴンと少年は逃亡したまま。 このままじゃとお主がミス・ヴァリエールの正式な使い魔ということになるが…」 「……」 オスマンの問いにコルベールは答えられない。 サーヴァントの儀式は始祖ブリミルに祝福された神聖な儀式である。 つまり、主側も使い魔側もお互いに結果に対して異議を唱えてはならない。 だが、今回のこれは通常とはとても言いがたい事態だった。 「…まずは、ミス・ヴァリエールの目が覚めるのを待つことにします」 「まあそれしかないじゃろうな…しかしコルベール君。もしもミス・ヴァリエールが君を使い魔にすると決めたらどうするのかね?」 「……彼女の意思に従います。立場としては私の方が従なのですから」 ともすれば溜息が漏れそうな表情をしながらも、コルベールはキッパリとそう宣言した。 過程がどうであろうと、結果がこうなっている以上、決定権はルイズにある。 それに、元はといえば自分の油断が招いたミスなのだ。 「ふむ、そこまでの決意ならば止めたりはせんが…しかしドラゴンのほうもじゃが、逃亡した少年が気にかかるところじゃの」 「はい。あまりの事態にデティクトマジックを使うことすら忘れていましたが…」 思い出す。 少年は確かに空に浮いて逃亡した。 しかも気がついた範囲では詠唱の声は聞こえなかったし、杖も持っていた様子はなかった。 「詠唱なし、杖なしでの魔法行使。その上コントラクト・サーヴァントの解除」 「できるものなら是非話を聞いてみたいものじゃが…」 それは無理だろう、と二人の男はそれぞれの理由で溜息を漏らすのだった。 男二人が顔をつき合わせて溜息をついていたその頃。 「ああっ、ジャン…っ!」 とある一室で赤い髪の女性がベッドの上で転げまわるという奇態を披露していた。 彼女の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 通称『微熱』のキュルケ。 燃えるような美貌とグラマラスな肢体で数多の男を魅了する彼女は今、たった一人の男に恋焦がれていた。 その男の名はコルベール。 先程の儀式で彼女の仇敵たるルイズの使い魔になってしまった男である。 「ああ、貴方のことを思うと胸が熱くなる…そう、これが…私の微熱!」 バッと起き上がり、両手を胸の前で拝むように組む。 頬は朱に染まり、その頭からはハートマークが乱舞している。 キュルケという女性は惚れっぽい。 それゆえにこういった行動に出ることは珍しいことではなかった。 だが、今度は相手が相手である。 相手は一回りどころか二倍以上の歳上、しかも容姿的にも良いとは言えず、パッと見はうだつのあがらない中間管理職。 いかにキュルケといえども惚れる要素が全くないような相手なのだが… コルベールがマザードラゴンの羽ばたきに吹き飛ばされたあの瞬間。 キュルケは彼をその豊満な胸で受け止めていた。 いや、厳密には受け止めたのではなく受け止めさせられたのだが、そこは割愛する。 とにかく、コルベールを受け止めた彼女はその瞬間に恋に落ちた。 意外にガッシリした体躯。 胸を焦がす熱い体温(胸に突っ込む形になっていたハゲ頭が太陽熱で熱されていただけ) 猛禽のように前方を睨みつける凛々しい眼差し。 多分にフィルターが入ってはいるものの、キュルケはそれらを感じ、落ちてしまったのだ。 勿論、最後まであの場に残っていたのはコルベールを見つめていたからである。 まあ、ルイズが心配だったという点もなきにしもあらずなのだが。 一方、そんなキュルケの奇態を一顧だにせず黙々と本のページをめくる少女がいた。 キュルケの親友にして『雪風』の二つ名を持つタバサである。 彼女は、キュルケの様子を全く気にすることなく(というか慣れただけ)本に目を落とし続けていた。 だが、その頭に文字は入っていなかった。 彼女は別のことを考えていたのだ。 それは逃亡したルイズの使い魔のこと。 彼は杖もなしにフライに似た浮遊をし、かなりのスピードで逃げ出した。 しかも、詠唱をしていた様子も見られなかった。 (先住魔法…?) エルフが使うといわれる杖を必要としない魔法。 少年が使っていたのもそれだったのかと考えるが、すぐにその思考は打ち消される。 少なくとも少年の見た目はエルフには見えなかった。 擬態しているという可能性もあるが、彼の立ち振る舞いを見た限りではそうとも思えない。 無論、エルフを見たことがあるわけではないのでタバサとて断言はできないのだが。 (それよりも) だが、タバサが注目しているのはそこではなかった。 誰も使用の瞬間を見ていなかったと思われていたポップのシャナク。 彼女はそれをハッキリと見ていたのだ。 知る限り、コントラクト・サーヴァントを解除する方法は使い魔の死しかありえない。 にもかかわらず、あの少年はそれを生きたまま成し遂げた。 これは控えめにいっても異常である。 しかしタバサはポップに対し恐怖を覚えたというわけではなかった。 むしろ向けた感情は興味だったといえる。 何故ならば、彼は自分の望みをかなえてくれる存在なのかもしれなかったからだ。 自分の知らない魔法(?)を扱う少年。 彼ならば、あるいは… 「なんとしても、探し出す」 タバサは、決意の瞳で本を閉じた。 前ページ次ページゼロの大魔道士