約 439,945 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2031.html
「あの、大丈夫ですか?」 「…ほっといてよ」 育郎に一通りの殴る蹴るの暴行、さらには首を絞めようとしたり、最後には月に 向かって叫んでみたり、一通りヒートアップしたエレオノールであったが、酒が 抜けてきたのか、今ではすっかり部屋の片隅でうずくまる負け犬となっていた。 あるいは酒が回りすぎているのかもしれない。 「そう言われても…」 まさかエレオノールを部屋に鎮座させたまま寝るわけにもいかないので、正直 気は進まないが、とにかくエレオノールを説得というか、とりあえず話を 聞いてみる事にする育郎であった。 「あの、こんな事を聞くのは失礼だとは思うんですが…何故そんな頼みを?」 問いかけには答えず、しばし恨みがましい目で育郎をじっと見るエレオノール。 いっその事廊下で寝ようかと考え始めた時、エレオノールがやっと口を開き、 ボソリと一言呟いた。 「…結婚したいのよ」 エレオノールの言葉をゆっくりと頭の中で反芻し、まっさきに頭に浮かんだ事 以外に、他の意味はないかとじっくりと思考する。 無かった。 「あの、それと胸が何の関係が?それにそういう事はバーガンディさんに相談」 「婚約解消された」 非常に気まずい空気が流れる。 「す、すいません…ってちょっと待ってください!まさか胸のせいで婚約を? まさか!そんな事あるわけが」 実際そんな訳はないのだが、それで納得するのならこんな事にはなっていない。 「じゃあなんでよ?私の何が悪いって言うの!?」 主にその気性 「はぁ…何か特別な事情があったんじゃ?」 ありません 「…例えば?」 「え?いや…それはその…」 婚約解消の理由などと急に聞かれても、そうそう思いつけるものでもない。 「やっぱり…どうせ胸の無い女なんて結婚できないのよ」 「いえ、ですからそんな事はないですって」 「それに年も…17じゃなかった、27にもなって結婚してないなんて」 「それぐらい僕の国では珍しい事じゃないですよ」 「嘘ばっかり…」 ますます塞ぎこむエレオノールを放っておく訳にも行かず、なんとか慰めようと 声をかけるが、当のエレオノールは育郎に疑わしげな視線を向けたままだ。 「う、嘘じゃないですって。その…エレオノールさんは十分魅力的ですよ」 「…じゃあ、もし貴方が貴族だったとして、私が婚約を申し込んだら受ける?」 「え?」 「やっぱり…」 「いえいえ!喜んでお受けしますよ!」 「 嘘 だ !!! 」 「お父様!?」 「ルイズのお父さん!?」 突如部屋に飛び込んできたヴァリエール公爵に驚く二人。といっても、実際は 扉の前で聞き耳を立てて部屋に乱入するタイミングを図っていたのだが。 「じゃなかった…話は聞かせてもらったぞ! お前たちが愛し合っていることは良く分かった!」 「「は?」」 「本来なら平民なんぞに大事な娘をくれてやるなど言語道断だが」 「お父様!な、なにか勘違いなさってませんか!?」 エレオノールが慌てて誤解を解こうとするが、公爵はかまわず話を続ける。 というか最初から聞こうとしていない。 「そこまで決意が固いなら…お前たちの仲を認めよう!」 「お父様!そもそも『コレ』は平民ですよ!?」 「お前の心配はもっともだ…さすがにわしも平民と貴族の結婚など認めん…」 その言葉に誤解は解けていないようだが、ややこしい事態は避けられたと ほっと胸をなでおろすエレオノール。 「故に、まずこの男は平民でも貴族になれる国に行ってもらう!」 が、世の中そんなに甘くなかった。 「しばらく時間がかかるだろうが、彼が立派な貴族になれるその日まで、 待ってくれるな、エレオノールよ…」 「いえいえいえいえいえ!何を言ってるんですかお父様!? ほら、アンタからもなんか言いなさ…って何処見てるのよ?」 見れば育郎は明後日の方を向いているではないか。さらに文句を言おうと 口を開こうとした時、突然育郎はエレオノールを押し倒した。 「ああああああああああんた一体ななななななな何を! お父様のいう事を真に受けるにしたって、もうちょっと時と場所を! それに順序とかムードとかそういうのを大事にって何言ってるの私は!?」 「大丈夫ですか、お父さん!?」 「…は?」 エレオノールを無視して、育郎は何故か床に倒れている公爵にかけよる。 「お父様!?な、何が起こってるの!?」 急な展開から、さらにわけのわからない状態に陥ったエレオノールの声に答えた わけではないが、とりあえずの疑問の答えが足元から聞こえてきた。 「帰ってきたぞ相棒!」 「きゅい!」 視線を足元に移すと、先程エレオノールが窓から投げ捨てたデルフが転がって いるではないか。さらに窓のほうを見ると、ルイズの友人の使い魔の風竜が 窓に顔をつっこんでいる。 「お前、部屋にいれろと入ったが、投げる事はねえだろうが。 危うくこのきついねーちゃんにぶち当たるところだったぜ」 どうやら先程の育郎の行動は、エレオノールを守るための行動だったらしい。 礼の一つも言うべきかと思ったが、次の瞬間聞こえてきた言葉に、その考えは はるか彼方へとふっとんだ。 「にしても、このおっさんも真正面から飛んできたんだから、避けれなかった もんかねえ?見事なまでに顔面直撃だぞ?やっぱあれか?歳か?」 固まるエレオノールをよそに、公爵を見ていた育郎が安堵の声をあげる。 「…よかった、気を失ってるだけみたいだ」 「よかないわよ!」 「え?」 「あー…相棒、ひょっとしてしっぽり始めるところだったか?」 「しっぽり?」 「ちがーーーーう!!!」 「きゅい!」 「あ、あんたらねえ…」 「どうした、何があった!?おお、旦那様!」 「エレオノール様、これはいったい?」 騒ぎを聞きつけたというか、この部屋に近づくなと公爵に言われていたが、 いくらなんでもコレを見逃したらそれはそれで問題になるだろうと判断した 衛兵達が部屋になだれこんで来た。 いい加減疲れてきたエレオノールだったが、さすがに入ってきたのが衛兵だと 分かると、顔色が変わった。 このややこしい状況を解決する為には、当然の事ながら何故自分がこの部屋に いるのか話さなければいけなくなり、となると『胸でっかくしてもらいにきた』 なーんてのは、エレオノール的にはとんでもない恥なわけで。 もっとも、侍女が彼女の掃除中に豊胸グッズを一度ならず、何度も見つけたことにより、 彼女の胸の悩みなど、屋敷中の人間に知れわたっているのだが。 「あの、これは」 「だぁぁぁぁぁぁ!あんたはちょっと黙ってなさい!」 説明しようとする育郎の言葉をさえぎりながら、この事態を解決するべくその 類まれなる頭脳をフル回転させるエレオノール。 「ま、まさか貴様…」 「なに!貴様カトレア様を…変わり果てた姿にしただけでなく旦那様まで!」 「え、いやこれは」 こ、これよ! 「ちょ、ちょっとあんた!」 すばやくエレオノールが育郎に耳打ちする。 「な、なんですか?」 「後で私がちゃんと説明しとくから、ここはあの竜に乗って逃げなさい」 「え?でも」 「それにお父様が倒れてる間に逃げないと!あんた変な誤解されたままだし、 このままじゃ本当に別の国に送られかねないわよ! あんたルイズの使い魔なんでしょ?」 育郎は床に倒れる公爵を見て、先程のやり取りを思い出す。 「そ、それもそうですね…」 「じゃあほら!早く!そこに転がってるうるさい剣も忘れないで!」 「わ、わかりました。すいませんエレオノールさん…シルフィード!」 「きゅい?」 「ちょっと下がってて」 「あ、待て貴様!何処へ行く!」 窓を占領していたシルフィードが下がるのを確認した育郎が、すばやくデルフを 拾い上げ、目にもとまらぬ速さで外に飛び出す。 「な、早い!?」 「竜に乗って逃げたぞ!追え追え!」 騒ぐ衛兵をよそに、これで安心と一息つくエレオノール。 あとは適当に言い訳を考えて、お父様の誤解をとけばいいわ… とりあえず衛兵達に、育郎を追いかけるのを止めさせようとしたその時、視界の 片隅に、この場に一番いて欲しくない人の姿が映った。 「う…お、お母様…」 彼女の母親、ヴァリエール公爵夫人その人である。 「これは何の騒ぎですか!」 「お、奥様!」 やっとエレオノール的に騒ぎが沈静化したと安心したところであったが、 ヴァリエール家ヒエラルヒーの頂点に立つ母の登場により、再び事態が ややこしい事になりかねないと、嫌な汗が流れる。 しかも怒ってる! お母様が怒る時は大概ろくな事にならないってのに… 数々の嫌な記憶を思い出しながら、公爵を介抱する衛兵に近寄る母を見る。 「あなた…大丈夫なのですか?」 「あ、はい奥様。気絶しているだけのようです」 その言葉に公爵夫人はホッと一息つく…という事も無く、無表情にぺしぺしと 公爵の頬を叩く。 「ほら、何時まで寝てるんですか、それでもヴァリエール家の家長ですか」 「あ、あの、奥様?」 「そもそも公爵たるものが、こんな真夜中に…学生のころとは違うんですよ!」 最初はかるく叩いていた手に、どんどん力がこもっていく。 「う…あぁ…がう」 そろそろビンタから、ナックルと裏拳の往復に移ろうとしたその時、公爵がやっと うめき声を上げた。 「やっと起きましたか」 「…ち、違うんだカリーヌ…アマゾネスなんてあだ名をつけたのはグラモンで… アマゾネスを越えて既にバーバリアンの領域って言ったの俺だって? グラモンの野郎裏切りやがったな…いやちが」 「…起きなさい!」 「グフっ!な…何が…」 「あなた、それはこちらの台詞です。何があったのですか」 「む、むぅ…急に何かが顔に飛んできたような… しかしやたら頬がヒリヒリするのはなんだ? あと顔より腹が涙が出そうなほど痛いのだが…」 「倒れた時、どこかにぶつけたのでしょう」 いけしゃあしゃあと言い放つ公爵夫人のその言葉に、あえてツッコミを入れる ような命知らずは勿論この家にはいない。 「そもそも何故こんな部屋にいるのです? この部屋は…確かルイズの使い魔に用意した部屋のはずですが」 「むぅ…実はな、エレオノールとあの男」 「おおおおおおお母様!」 「…なんですか、エレオノール。そういえば貴女も何故この部屋に?」 「えーと…」 婚約云々の話が母の耳に入れば、それはそれで取り返しのつかない事態に陥り かねないと、つい反射的に話をさえぎったが、まだ適当な言い訳等考えていない。 「あー、カリーヌ実は」 「あの男に襲われそうになったんです!」 「「「………は?」」」 その場にいた衛兵全員が互いの顔を見やる。 いや、それはないだろう 命知らずにも程がある いや、でも見た目は… 2、3言葉を交わせば本性がわかるだろ? すごいMとか 東方は進んでるな… アイコンタクトでそんなやり取りを交わす衛兵をよそに、一人真面目にその 言葉を受け取った公爵夫人が、目を丸くしてエレオノールを見る。 「ど、どういう事ですか!?」 「え、いや…その…襲われたというか、迫ってきたというか… カトレアのことで話があると呼び出されて…こう、一目ぼれとかなんか」 「酷いのね!気持ちよく寝てたのに、いきなりその剣が降ってきたの!」 「ごめんね」 「い、イクローが悪いんじゃないのね…悪いのはあの女なのね!」 一方そのころ、自分がさらにややこしい立場に陥っているとは思いもよらない 育郎は、空の上でシルフィードのおしゃべりに付き合っていた。 「おめえ、あの姉ちゃんに俺をぶん上げたの、わざとじゃねえだろうな?」 「そ、そんなこと無いのね!手が滑ったのー!」 慌てて否定する様子が逆に怪しさ全開である。 「シルフィード…」 「きゅい…だって…お姉さまにもし何かあった時の為にって、眠いのを 我慢して遅くまでおきてたのに…」 「そうか、タバサが」 後でお礼を言わなきゃと呟く育郎の背中で、デルフがあることに気付く。 「…ってすっかり寝てたんじゃねえか、おめえ」 「ちょ、ちょっとウトウトしてただけなのね」 「いや、気持ちよく寝てたって言ってなかったか?」 「き、気のせいなのね!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1611.html
「ではモット伯、私はこれで」 「へ?」 笑顔でそう告げるミス・ロングビルに、思わずマヌケな顔で返事をしてしまう。 「もう夜も遅いですし、学院に帰らないと…」 「いやいやいやいや!夜道は物騒ですし、是非我が館にお泊りください!」 モット伯も必死である、なにせおっぱいメイドに手を出せないだけでなく、秘蔵のコレクション2冊+2千エキュー相当の貴金属を渡すハメになったのである。 これでミス・ロングビルのおっぱいを堪能できないとあれば、もう泣くしかない。 「あら、護衛の実力は十分に理解されたと思ったのですが?」 「う…は、はい…」 しかし現実は非常である。 モット伯は自分の部屋に行き、2時間ねむった…そして……… 目を覚ましてからしばらくして、寂しさを紛らわすためエアおっぱいを揉み… もう、いろんな意味で悲しくなったので……泣いた…… 後日この時の虚しさを、オールド・オスマンに伝えたところ、エアおっぱいの極意を伝授される事になるのだが、はっきりいってどうでもいい話である。 「シエスタさんは大丈夫なんでしょうか?」 馬に乗る育郎が、背中のミス・ロングビルに話しかける。 「それは心配ないでしょう、もし何かあったら彼の名誉は地に堕ちますし」 すぐにシエスタを連れて帰りたかった育郎であるが、それでは決闘で勝った事が明白だと、ミス・ロングビルに諭されたのである。 「それと…はい、イクロー君の分です」 そう言って、懐から取り出した宝石を育郎にわたす。 下手に何も要求しないと、モット伯が疑心暗鬼に陥って、危害を加えようとするかもしれない。 口止め料を要求した方が、逆にモット伯も安心し、唯の平民のシエスタも、後々の安全が保障されるのである。 もちろん、再び金をせびるような真似さえしなければだが。 「いえ、僕はいいです…ロングビルさんの好きにしてください」 手渡された宝石を返そうとする育郎に、ミス・ロングビルが言葉を返す。 「じゃあ、イクロー君が貰ってください」 「え?」 「貴方の言ったとおり、私の好きにしました」 「し、しかしこんな高価なもの僕が持っていても…」 「いざと言う時にお金に変えればいいんですよ。学院ではあまり使い道は無いですが、これから帰る手段を探す為に、必要となるでしょうし… それに、こんな高価なものをプレゼントされたら…本気にしますよ?」 「本気って………い、いえ、そんなつもりじゃ!」 真っ赤になる育郎に、ミス・ロングビルが続ける。 「では持っててくださいね。でも、そんなに強く否定されるとちょっと傷つきます…」 「す、すいません!」 「冗談ですって。本当に真面目なんだから」 そう言って笑うミス・ロングビルにつられて、育郎の顔にも笑みが浮かんだ。 ちなみに、ミス・ロングビルが育郎に渡した取り分は、モット伯が渡した貴金属の十分の一程度である。 「私も随分と気前が良くなったもんだねえ…」 「何か言いました?」 「いえ、何も」 その日、シエスタは唐突に解雇された。突如部屋に呼び出したモット伯が 「手続きはしてある。とっとと学院に帰れ!」 と名残惜しそうな顔で胸を見ながら、一方的に言ったのである。 3日前、学院関係者の女性、話を聞く限りミス・ロングビルだろう、その護衛として来た男が、恋人のメイドを救う為、モット伯と決闘をしたという話は聞いていた。 その時シエスタは、ひょっとして育郎が自分を…と考えたが、すぐに自分を助けに来るはずないと考え直し、誰が来たかすら確かめようとしなかったのである。 そして、結局その男はモット伯に負けたと聞いて、育郎ではなかったと考えた。 モット伯はトライアングルだが、シエスタは学院内で、トライアングルを含めた学生二十人余が育郎を襲ったが、逆に返り討ちにあったと言う話を聞いている。 とにかく、もし育郎だったらモット伯に負けるはずもない。 しかし、自分はモット伯に指一本触れられる事も無く解雇された。 「良かったな嬢ちゃん。ま、あの兄ちゃんに感謝するこったな」 「あ、あの…!」 学院まで自分を送り届け、立ち去ろうとする衛兵にシエスタは声をかける。 「なんだい?」 「あの、先日の決闘はモット伯が勝ったのでは?」 「ああ…どうせあの親父に黙っておくように頼まれたんだろ? おかげで賭けには負けちまったが… とにかく、変な恨みを買いたくなけりゃ、嬢ちゃんも黙っといた方がいいぜ」 そう言って再び背を向けようとする衛兵に、さらに呼び止める。 「すいません、もう一つだけ…モット伯の決闘の相手はどんな人だったんですか!?」 どういう事かと、いぶかしげな顔をしながらも、衛兵は答える。 「どんなって、変わった服と喋る剣を持った、そういや嬢ちゃんと同じ黒髪だったな…なんだ、恋人かと思ってたがひょっとして兄弟だったか?」 「そうですか…ありがとうございます…」 沈んだ顔をするシエスタに、衛兵は助けに来たのが恋人でないのがショックなのかと勝手に納得して帰っていった。 「あの、ミス・ロングビル!」 昼食を終え、学院長室に戻ろうとするミス・ロングビルをシエスタが呼び止める。 「あら?シエスタさんじゃないですか、今日戻ったんですね」 微笑むミス・ロングビルに、シエスタは頭を下げる。 「あの、助けていただいてありがとうございます!」 「そんな、いいんですよ。実際貴方を助けたのはイクロー君ですし」 「やっぱり…イクローさんが私を…」 そう言うシエスタの顔が、暗く沈んでいる事にミス・ロングビルが気付く。 「どうしたんですの?」 「私…私…」 シエスタは自分を助けてくれた育郎のあの姿を見て、恐くなって逃げ出した事を、そしてその後もずっと逃げ続け、お礼の言葉すら言えなかった事を話した。 「だから…私は助けてもらうような人間じゃ…」 そういって涙ぐむシエスタをなだめながら、ミス・ロングビルは考える。 まあ、身を守る術なんてありゃしない、ただの平民じゃしょうがないか。 こんな普通の娘があんな光景みせられたんじゃねぇ… 「シエスタさん…そんな事、イクロー君は気にしてません」 「で、でも…今でも私、イクローさんの前にでる勇気が…」 そう話すシエスタに向かって首を振り、ミス・ロングビルが優しく語りかける。 「…いいですかシエスタさん」 「そんな!」 シエスタがミス・ロングビルの話した事実に、思わず驚きの声をあげる。 「でも、だとしたら私…」 再び暗い顔に変わろうとするシエスタに、ミス・ロングビルが続ける。 「知らなかったんですもの、しょうがないですわ… それに、今からでも遅くないでしょ?」 「は、はい!私、イクローさんの所に行ってきます!」 決意の表情をするシエスタの顔を、ミス・ロングビルは満足げに眺めた。 「あ、それと先程の話ですけど、誰かに話すのはかまいませんが、私が教えたと言う事は内緒にしておいてください」 「はぁ、それはかまいませんけど…」 「学院長やイクロー君から、秘密にしてほしいと頼まれているもので」 「じゃ、じゃあ他の人にも話さないほうがいいんんじゃ?」 当然の疑問を口に出すシエスタ。 「貴方のように、イクロー君を誤解する人もいます。 しかたがない事ですが…でも、それじゃあ悲しいじゃないですか?」 「…そうですね、わかりました! 信じてもらえるか分かりませんが…皆にも話してみます!」 「ありがとうございます。それじゃあ、早速イクロー君のところに行ってあげてください、確か今は水場にいるはずです」 「すいません、何から何まで…」 そう言って、もう一度シエスタは頭を下げる。 「あの、いいですか?」 立ち去ろうとするミス・ロングビルに、シエスタが声をかける。 「あの…どうして、ミス・ロングビルまで私を助けようと?」 育郎の事に納得がいった途端、そんな疑問がシエスタの頭に浮かんだ。 「メイジですが私も平民ですし、それに…」 「それに?」 「ここだけの話………私貴族が嫌いなんですの」 「へ?」 「皆さんには内緒ですよ?」 少し悪戯っぽく笑って、ミスロングビルはそう答えた。 「イクローさん!」 洗濯の手を止め、育郎が声をかけられた方を向くと、シエスタが走りながらこっちに向かってくるのが見えた。 「シエスタさん!?」 「はぁ…はぁ…イクローさん…」 息を切らせたシエスタが、改めてイクローに向き直った後、深々と頭を下げる。 「あの…助けていただいてありがとうございます!」 「そんな…頭を上げてください」 困った顔をする育郎に、シエスタが首を振る。 「いえ…私、貴方に謝らないといけない事があるんです…」 そういった後に、もう一度頭を下げるシエスタ。 「あの後、お礼もいえなくてすいませんでした! それと……あの………」 少し迷ったそぶりを見せ、言葉を続ける。 「私イクローさんの事が………恐くて……それで…本当にすいません!」 「…シエスタさん、僕はぜんぜん気にしてません、そんな顔をしないでください」 「イクローさん…私ずっと外見だけで判断して、貴方に失礼な事を… でも……イクローさんは…イクローさんは…」 「シエスタさん…」 「こんなに優しい、人間の心を持った……… 悪 魔 さ ん な ん で す も の ! 」 「………はい?」 唖然とする育郎に、シエスタが感激した様子で続ける。 「イクローさんは人の心に感動して、この世界に来たんですよね!」 「え?いや」 「いいんです!例え悪魔でも、イクローさんはこんなに優しいですもの! みんないつかきっと分かってくれますよ!」 「いや、だからその」 「大丈夫です!私の保証なんかじゃ心もとないかもしれませんけど…絶対に!イクローさんなら絶対に大丈夫です!」 キラキラと輝く目でこちらを見るシエスタに、 「その…あ、ありがとうございます…」 育郎はそう答えるしかなった。 「ま、これで下手にフラグが立つこともないだろうさ」 「何か言ったかの、ミス・ロングビル?」 「いいえ、なんでもありませんわ……… モートソグニルが私の下着を覗こうとしている事以外にはッ!」 「いや待て違うんじゃミスロングビル話せばわか」 「問答無用!!!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1328.html
7話 声を上げる者は、一人もいなかった。 まるでこの場の全員が意思を一つにしたかのように、ヴェストリの広場は静まり返っていた。 突然の乱入者――ホワイトスネイクに。 だが当の本人は、そんなことは気にもかけぬ様子で、 「今ノ青銅人形ガ放トウトシテイタ一撃」 ホワイトスネイクはそう言い、そこで言葉を切る。 そして次に―― 「ソレハマスターヲ十分ニ殺セルモノダッタ」 そう、確かに言った。 「ちょ……あ、あああんた、ホワイトスネイク! 一体何言ってr」 「狙イハマスターノ後頭部。ソシテ青銅人形ノ重量、サッキノスピードカラ推測スレバ、ソレハ確カナ事ダ」 ルイズが、ホワイトスネイクが突然に乱入したこと、そして今ホワイトスネイクが語る、 彼女にとっては突拍子も無いことに抗議しかけるも、 ホワイトスネイクはそれを無視するかのように、黙殺するかのように、 ルイズの背を向けたまま、淡々と語り続ける。 「シカシ」 そしてホワイトスネイクはそう言うと、くるりと振り向く。 だがその眼が見据えるのは主人たるルイズの姿ではない。 ルイズの決闘の相手――ギーシュだ。 「ソノ小僧ニ、マスターヲ『殺ス』トイウ明確ナ意思モ覚悟モ有リハシナイ。 モシアッタナラ、自由ニ動ケル3体ヲ全テ動員シテマスターヲ襲ワセテイタダロウカラナ」 ホワイトスネイクはさらにそう続ける。 まるで獲物を前にした蛇のように鋭い視線を、ギーシュに向けながら。 そしてその視線に、ギーシュは全身の血が凍っていくような恐怖を感じ、同時にその視線が意味するものを直感的に理解した。 ホワイトスネイクは怒りを抱いているわけではない。 しかし、今ホワイトスネイクがギーシュに向けているのは、極めて純粋な敵意。 つまりホワイトスネイクは今、完全な戦闘体制に入っているのだ。 いつでも相手の行動に対応でき、そしていつでも相手を殺しにかかれる体制だ。 一方、ホワイトスネイクを間近で見ているルイズも、ホワイトスネイクがギーシュに向けている感情を同様に理解した。 そしてホワイトスネイクを召喚してから初めて、ホワイトスネイクに対して「恐ろしさ」を感じた。 今のホワイトスネイクが、怒りも無く、憎しみも無く、 ただ単純に始末するべき敵を前にしているかのような、そんな状態でいる。 しかも、そうすることが当然であるかのように、始末することが当然であるかのように。 「ホ、ホワイトスネイク!」 震える声で、ルイズは使い魔の名を呼ぶ。 「ドウシタ、マスター?」 それにホワイトスネイクが、感情を交えずに応える。 「め、めめ、命令よ。こ、『殺しちゃダメ』よ。 あああんたが、な、何考えてるかは、よく、わ、わわ分からないけど……と、とととにかく! 『殺しちゃダメ』だからね!」 ルイズは込み上がる恐怖にくじけそうになりながらも、そう命令する。 「殺してはならない」と、そう命令しなければ、ホワイトスネイクは確実にギーシュを仕留めにかかる。 それだけはダメだ。 確かに食堂でシエスタに罪をなすりつけようとしてたのを見た時はムカついたけど、 だからといって殺していいってわけじゃない。 いや、殺すのだけはやっちゃいけない。 そんな感情が、ルイズを突き動かしていた。 そして一方、命令を聞いたホワイトスネイクは僅かに振り返ってルイズをじろりと見た。 そして思った。 やはり、違う、と。 それどころか、かつての自分の主人だったプッチ神父と比べれば、おそらく180度真逆。 道徳というヤツを重んじ、自分自身の、あまつさえ他人の誇りさえ重んじ、そしてそれゆえに甘い。 そのことが――ホワイトスネイクに、今の主人であるルイズへの、失望に近い感情を抱かせていた。 「……了解シタ」 しかし、主人の命令は絶対である。 いくら自分とは合わないとはいえ、主人の命令に逆らうわけにはいかない。 そのため、ホワイトスネイクはルイズの命令に承知した。 「え……ほ、ホントに?」 「本当ダ。タダシ……」 だがそこでホワイトスネイクは言葉を切ると―― 「殺サナイダケダガ」 それだけ、言った。 「へ? え、あ、ち、ちょっと! それってどういう……」 ルイズが抗議しかけるが、その瞬間には既にホワイトスネイクはルイズの傍から離れていた。 そして―― ドヒュウゥンッ! 空中を風のような速度で移動し、一気にギーシュの目の前まで迫るッ! ギーシュがそれに反応し、杖をホワイトスネイクに向けようとしたが、それは既に一手も二手も遅れた行動だった。 既にギーシュの首はホワイトスネイクの右手にガッチリと掴まれ、そして空中へ一気にに持ち上げられていたッ! 地上から20、30サントも足が浮くギーシュ。 そして自分の体重で首がさらに絞まり、息が詰まりかける。 その苦しさのためにバタバタと足を振り、 そして自分の首を掴むホワイトスネイクの手を引き剥がそうと、必死に両手の指をその手にかけるギーシュ。 ところがその瞬間、ホワイトスネイクはギーシュを自分の後方―― しかしホワイトスネイクの後方にいるルイズよりもさらに後方――ギーシュのワルキューレたちがいる方向へ、 ギーシュの体を、片手であるにもかかわらず軽々と投げ飛ばした。 呻き声を上げながら、ボールのように地面を転がるギーシュ。 そして投げられた瞬間はギーシュはまだ気づかなかったが、激しくむせながら立ち上がり、 周囲を確認したところで―― 自分の周りに、いまだ無傷で立ち続けるワルキューレ2体、地面に転がっているワルキューレ4体がいることを理解した。 「こ……これ、は……ど、どういうことだ?」 「別ニ大シタ事ハナイ。タダオ前ニ……チャンスヲ与エタダケダ。 ソレニ、今私ガオ前ニ与エタ状況ニハ、オ前ダケダナク私ニモ意味ガアル」 「い……意味、だと?」 「ソウダ。ダガソレニツイテ、オ前ニ語ルツモリハナイ。 サテ……カカッテクルガイイ、小僧。 オ前ノ青銅人形モ、立テナイダケデ壊レテイルワケデハナイノダロウ? 『無事ニ』コノ決闘ヲ終エタケレバ……私ニ仕掛ケテクルガイイ」 あえて「無事に」という言葉を強調したホワイトスネイク。 ホワイトスネイクからすればまだまだ軽い挑発だったが、 戦意を喪失しかけていたギーシュに再び戦意を戻らせかけるには、それは十分だった。 「『無事に』、だと? ルイズの使い魔……君は僕が、自分が傷つくことを恐れているとでも思うのか!」 相対するホワイトスネイクがやった午前中の凶行のこともすっかり忘れ、食って掛かるギーシュ。 「事実ダ。デナケレバ決闘ノ相手ヲ背後カラ襲ウヨウナ真似ハ出来ヨウモナイ。 ソレニ、オ前ガ本当ニ傷ツクコトヲ本当ニ恐レテイナイナラ……行動デ証明スルンダナ。 証明出来レバ、イヤ、ソレ以前ニオ前が行動デキルカハ疑問ダガナ」 そして再びギーシュを挑発するホワイトスネイク。 それを先ほどから固唾を呑んで見守る周囲の生徒、そしてルイズ。 しかし……ルイズには、ホワイトスネイクがわざわざギーシュを挑発する理由が分からなかった。 それにさっきだってそうだ。 ホワイトスネイクは、さっきギーシュに仕掛けた時点で勝負をつけることが出来た。 なのに……それをしなかった。 そればかりか、ギーシュにワルキューレ6体を再び手駒として、盾として使役できる状況という、 あまりにも大きすぎるチャンスを与えた。 一体ホワイトスネイクは何を考えてるの? さっき私が「殺すのはダメ」って言ったら、「殺しはしない」って言った。 口約束みたいなものかもしれないけど……ホワイトスネイクの言葉には妙に信頼出来るものがあった。 だから、きっとギーシュを殺すという選択肢は取らない。 でも、ただギーシュを殴って気絶させるとか、 午前中の授業でやったみたいに「命令」してギーシュを倒すとか、そういうこともしないだろう。 出来るならさっきの時点でやってる。 だとしたら……ホワイトスネイクは、何を狙っているの? そんなことをルイズが考えていたとき―― 「……めるな……」 ギーシュの震えた声が聞こえた。 見ると、先ほどまで地面に転がっていた4体のワルキューレ全てが起き上がり、 ホワイトスネイクとギーシュとの間に立っていた。 そして―― 「僕をなめるなぁーーーーーッ!」 ギーシュの叫びとともに、一斉に6体のワルキューレがホワイトスネイクに向かう。 しかしその動きに先ほどルイズに対して行ったような、「青銅の壁」とでも称するべき統制はない。 ただ6体のワルキューレが一斉にホワイトスネイクに向かうだけだ。 そして、それが命取りだった。 ドギャアァッ! 甲高い、金属が引きちぎれる音とともに、先頭のワルキューレが一瞬でバラバラになったッ! 高速で繰り出されたホワイトスネイクの貫き手が、ワルキューレの四肢の間接を過たず破壊したのだッ! そしてホワイトスネイクは、今しがた破壊したワルキューレが地面に落下するよりも速く、 続く2体目、3体目をラッシュの間合いに捉えるッ! 「ウシャアアアアアアア!」 ホワイトスネイクが咆哮とともに、再び貫き手のラッシュを放つッ! ドギャドギャギャアァッ! 先頭に立っていたワルキューレの最後を再現するかのように、今度は2体のワルキューレがバラバラになるッ! 1体目のワルキューレの大破、そしてそれによって完全に虚を突かれたギーシュは、この時点で「3手」遅れた。 自分自身でも自分が遅れを取っていることに気づいたギーシュは、 慌てて残る3体のワルキューレに指令を出す。 「や、ヤツを取り囲め、ワルキューレ!」 その命令に応じ、ワルキューレが突進をやめ、ホワイトスネイクを取り囲むべく行動を開始する。 しかし――そのために、突進を行っていたワルキューレたちは、ほんの一瞬だが、速度を落とさねばならなかった。 そしてそのために、「1手」遅れた。 そしてそれを――百戦錬磨のホワイトスネイクが、見逃すハズもなかった。 バギョアァッ! ホワイトスネイクの貫き手が、ワルキューレに打ち込まれるッ! しかし先程のようなラッシュではない。 狙いは一点、青銅製のワルキューレの細首ッ! それを紙切れのように打ち抜き、支えを失ったその頭部を吹き飛ばす、強力無比にして高速の、貫き手の一撃ッ! そして今の一撃を受けたワルキューレが、ぐらりとバランスを崩してよろめくッ! しかしホワイトスネイクはそれには眼もくれない。 まるで初めからそうなることが予測できていたかのように、抜き手を打ち込んだ瞬間から、そのワルキューレに背を向けていたッ! そしてホワイトスネイクが眼前に捉えたのは―― ホワイトスネイクを包囲するべく、その後方に回り込んでいた2体のワルキューレッ! その瞬間になって、やっとギーシュは気づいた。 自分が「1手」遅れたことに。 しかし、それに気づいたことすら「1手」遅れていたことには、気づかなかった。 「ウシャアアアアアアアアアァッ!!」 再び上がるホワイトスネイクの咆哮ッ! そしてそれとともに、しかし今度は正確な狙いを持たずに、 2体のワルキューレの全身に目掛けホワイトスネイクの貫き手のラッシュが叩き込まれるッ! ドギャドギャドギャドギャドギャアッ!! 全身を余すところ無く貫き手で打ち抜かれ、2体のワルキューレは一瞬で青銅の塊と化すッ! そして、その2体がズシン、と地面の上に倒れ込むのと同時にホワイトスネイクはくるりと後ろを振り向き―― ドギャギャァッ! 先ほど頭部を吹き飛ばされ、その衝撃で未だにふらふらしていたワルキューレの間接を全て貫き手で破壊し、 一瞬のうちにバラバラにした。 ギーシュがホワイトスネイクに6体のワルキューレをけしかけてから――わずか10秒。 その6体のワルキューレは、全てが青銅のガラクタと化していた。 そして、それらをわざとらしく、ゆっくりと眺め回したホワイトスネイクは―― 「ドウシタ、モウ終ワリカ?」 とだけ言った。 周囲の生徒達も、ルイズも、ギーシュも、口を開くものは一人もいなかった。 ギーシュのワルキューレ6体を一瞬にして葬り去った、ホワイトスネイクのその圧倒的な強さに。 そして、これからギーシュの身に起こるであろうこと―― ホワイトスネイクからの攻撃を受けるであろうことを想像して。 もしギーシュがあのホワイトスネイクの攻撃を受けたなら……確実に重傷を負う。 肩に貫き手を食らったなら肩から先が吹き飛び、腹に食らったなら内臓の半分以上が潰され、 大腿に食らったなら、太腿から先が吹き飛び、首に食らったなら首から上――頭が落ちて死ぬだろう。 いずれにしてもギーシュは無事では済まない。 そしてそのことは、ギーシュ自身にも分かっていた。 分かっていたからこそ、逆にそのことが、さらにギーシュの心を追い詰めた。 「く……く、来るな!」 ガチガチと歯の根を鳴らしながら、ギーシュは杖をホワイトスネイクに向けて叫ぶ。 しかし――ホワイトスネイクは、「あえて」ゆっくりとした歩調でギーシュに近づいた。 1歩、1歩、着実にギーシュへと、ホワイトスネイクは向かっていく。 そしてギーシュはホワイトスネイクが1歩自分に近づくたびに、1歩下がる。 1歩、ホワイトスネイクが進む。 1歩、ギーシュが下がる。 1歩、進む。 1歩、下がる。 そして8歩目をホワイトスネイクが踏み出す――かに見えた瞬間、 突然ホワイトスネイクは地を蹴り、空中を滑るようにしてギーシュに迫った。 「ひっ、ひいいぃ!」 思わず腰を抜かすギーシュ。 だが、先ほどまでの距離を半分ほどにまで埋めたところで、ホワイトスネイクはピタリと空中で静止した。 そしてゆっくりと地に足を着け、先ほどまでのように、1歩1歩、ゆっくりとギーシュに向かって歩き始めた。 自分に迫ってくるホワイトスネイクを見て、慌てて下がろうとするギーシュ。 しかし、腰が抜けてしまっている。 立ち上がることは出来ない。 でもあのホワイトスネイクに追いつかれたら……。 そのことを考えた瞬間、ギーシュはホワイトスネイクに背を向け、四つんばいになって逃げ始めた。 もはや名誉なんて関係ない。 あいつに追いつかれたら、あいつに追いつかれてしまったら! 腕が無くなるかもしれない! 足が無くなるかもしれない! いやそれどころか、きっと、きっと自分は死ぬ! いやだ、死にたくない! 自分が貴族だろうがなんだろうが、そんな事は関係ない! 今あいつに追いつかれたら、殺されてしまう! いやだ、死にたくない! そう思ってひたすらにホワイトスネイクから距離をとろうとするギーシュ。 だが―― (なんだ……な、なんだ? 僕の足が、う、動かない! いや、手もだ! 手も動かな……!! な……ま、まさか……まさか! 声も出ないのか!? ……そういえば、何でさっきからずっと静かなんだ? 何で誰も喋らな……い、いや! 違う! あいつの足音さえ聞こえない! さっきまで聞こえてた、あいつが地面を踏みしめる音さえ聞こえない!) 「『手足を動かしてはならない。そして何も言ってはならない』。ソウ、オ前ニ『命令』シタ。 モットモ、私ガ何ヲ言ッテルノカ、オ前ニハ理解出来ハシナイダロウガナ」 ギーシュの後頭部に突き刺さったDISCが、ギーシュから手足の自由と、声を奪っていた。 もはやギーシュには、逃げることさえ出来ない。 そして一方、ギーシュをゆっくりと追い詰めるホワイトスネイクを見て、 ルイズはホワイトスネイクの真の目的を理解した。 ホワイトスネイクは、ギーシュに「恐怖」と「絶望」を与えようとしている。 ただそれだけのために行動しているッ! すぐにギーシュをぶちのめすという事をしなかったのも、 ギーシュに6体のワルキューレを使役できる状況を与えたのも、 6体のワルキューレをわずか10秒のうちに全滅させたのも、 あえてギーシュにゆっくりと迫っていったのも―― 全ては、ギーシュを極限まで絶望させ、恐怖させるためだったッ! しかも、あえてほんのちょっぴりの希望を与えておいて、最後には相手の全てを奪っていき、絶望させる。 そんな、あまりにもおぞましく、あまりにも残酷な手法を―― ホワイトスネイクは、何の躊躇も無く選択したのだ。 そしてルイズがそこまで理解したとき、ホワイトスネイクはギーシュの正面に回りこんでいた。 ホワイトスネイクはゆっくりした動作でギーシュの首を先ほどと同じように掴むと、じわり、じわりと上に持ち上げていく。 ギーシュはもはや完全にパニック状態になっており、眼からは涙を溢れさせ、口角からは唾液を垂れている。 恐怖によって正気を失う、まさにその一歩手前だ。 そしてホワイトスネイクが自分の肩ほどの高さ、 ギーシュの足が10サントほど浮く高さまでギーシュを持ち上げたところで―― 「最後ニ一ツ」 ホワイトスネイクが、口を開いた。 「何故私ガコノヨウナ回リクドイ手段ヲ取ッタノカ、教エテヤロウ」 「先程マスターハ、私ニ「お前を殺すな」ト、命令シタ。 シカシ……私ハ了承デキナイ。 仮ニモ私ノ主人ヲ殺ソウトシタ者ヲ見逃スナド……私ニハ了承シガタイコトダ。 ダガマスターノ命令ハ絶対ダ。 マスターノ命令ニハ従ワザルヲ得ナイ。……ナノデ」 そこで言葉を切ったホワイトスネイクは、空いた手の指をずぶり、とギーシュの額に突き刺した。 「命令ノ範疇デ、ソシテ私自身ノ手法デ、私ハオ前ヲ始末スル」 ホワイトスネイクの凶行に、周囲から一斉に悲鳴が上がる。 周囲の生徒達と同様にそれを見ていたルイズも、全身の血がさぁっと引いていくような感覚を味わった。 しかし肝心のホワイトスネイクは周囲の様子には一切気をかける事もなく、そしてギーシュの額から指を引き抜く。 引き抜かれたその手には、鈍く輝く一枚の円盤――DISCがあった。 そしてホワイトスネイクがギーシュを持ち上げていた手を離すと―― ギーシュはどさり、と、糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ちる。 そしてギーシュの後頭部に突き刺さっていたDISCは、それと同時に外れた。 ギーシュが倒れるのと同時に、周囲の輪から一人の女子生徒が飛び出してきた。 モンモランシーである。 そしてルイズもまた、それと同時に駆け出した。 モンモランシーはギーシュの元へ、ルイズはホワイトスネイクの元へ向かう。 「ギーシュ! ギーシュ! ねえ、起きてよ、ギーシュ!」 ギーシュに飛びついたモンモランシーが、必死にギーシュの身体を揺り動かす。 しかしギーシュは虚ろな目を空に向けたまま、返事すらしない。 そしてその様子を見て、ルイズは顔面を蒼白にしてホワイトスネイクを問い詰めた。 「ホワイトスネイク! あ、ああ、あんた……言ったじゃないの! 『殺しちゃダメ』って、言ったじゃないの! それなのに……あんた一体、何て事をしてるのよ!」 「殺シテハイナイ。命令ハ守ッテイル」 「じゃあ何でギーシュはああなっちゃってるのよ!」 「ソレハ『記憶』ヲ奪ッタカラダ」 「……き、『記憶』?」 「ソウダ。今朝言ッタ、私ノ能力ノ2ツ目ダ。アト幻覚ハ……使ウ機会ガ無カッタノデ、見セラレナカッタガナ」 「そんことはどうでもいいのよ! それと記憶を奪われたらどうなっちゃうの!? ギーシュは死んじゃったみたいになってるけど、元に戻るの!?」 「戻リハシナイ。記憶ヲ失ウトイウ事ハ、生キル目的ヲ失ウトイウ事。 永久ニ意識ハ戻ラズ、ヤガテ衰弱死スル」 「そ、そんなっ……!」 淡々とホワイトスネイクから説明される事実の数々に絶句するルイズ。 「ど、どうやったら治るの?」 「ソレハ簡単ナ事ダ。コノDISCヲ小僧ノ額ニ差シ込メバ、スグニ意識ハ回復スル」 「だったら、すぐやりなさいよ! こ、これは命令よ、すぐにギーシュに『でぃすく』を戻しなさい!」 そのルイズの命令を聞いて、ホワイトスネイクは改めてルイズに対する失望を強くした。 何故この小僧を許せる? 自分を殺していたかもしれないこの小僧を、どうしてそうあっさりと許すことが出来る? そんな思考がホワイトスネイクの胸中をめぐった。 しかし……やはり、命令は命令。 従う以外の道は無い。 それにホワイトスネイク自身、たとえ命令に疑問は感じたとしても、命令に逆らうつもりはない。 だが……承知したがたい事もある。 そして、自分の中ではっきりさせなければならないこともある。 「了解シタ、マスター。シカシ……一ツ、ハッキリサセタイ事ガアル」 「な……何、よ」 「何故マスターハ『殺してはならない』ト命令シタ?」 「な、何故って……」 「アノ小僧ハマスターヲ殺ストコロダッタノダゾ? ソレニモ関ワラズ、何故マスターハアノ小僧ヲ救済シヨウトスル?」 「……確かに食堂でのギーシュの振る舞いには腹が立ったわ。 それに、ギーシュがわたしが死ぬかもしれないような攻撃をしてきたことも。 でも……だとしても、殺すような事は無いと思うの。 甘い考えって、あんたは思うかもしれないけど……それでも、殺すのはダメ。 自分でもなんていったらいいか分からないけど……とにかく理屈じゃないの。 わたしの心が、そうすることを否定してるのよ」 「……ナルホド、ナ。デハ、マスター」 ホワイトスネイクはそう言うと、DISCをルイズに手渡した。 「別ニDISCハ私デナクテモ差シ込ムコトハ出来ル。 マスターガソウスル事ヲ選ンダノナラ……マスターガ自分デスルベキダ」 そう言って、ホワイトスネイクは自分を解除した。 これ以上この場に居続けると、さらに不愉快になりそうな気がしたからだ。 多少は自分の不愉快が面に出たかもしれないが、それもどうでもよかった。 とにかく、一刻も早くこの不快な場から消えたかった。 DISCを受け取ったルイズはすぐに、ピクリとも動かないギーシュにDISCを差し込む。 ズブズブと音を立てて、ギーシュの額にDISCがめり込んでいく そして―― 「う……う、うぅ…………」 ギーシュが呻き声を上げた。 意識を取り戻したのだ。 「ギーシュ!」 モンモランシーが涙声でギーシュに抱きつく。 「な……なんだ? 僕は……ルイズの使い魔、に……」 「大丈夫なのよ、ギーシュ! もう元に戻ったんだから!」 「元に……戻っ……た?」 「ええ! ルイズの使い魔があなたの額から引っ張り出した円盤みたいなのを戻したら……」 涙ながらのモンモランシーの話を、眼を白黒させながら聞くギーシュ。 そして―― 「……はッ! そ、そうだ! ルイズ! 僕は君に謝罪しなければ……」 自分がルイズを殺しかけたことを思い出し、すぐにそのことを言うギーシュ。 しかし―― 「……いいのよ」 「へ? いや、でも、しかし、僕は君を……」 「だから、いいのよ。こっちも……あなたに大変なことをしたみたいだから。 シエスタに謝っといてさえくれれば、わたしはそれでいいわ」 そう言ったきり、ルイズは何も言わずにそのまま寮へと戻っていった。 ホワイトスネイクと自分との間にある、決定的な隔たり。 そしてホワイトスネイクが内に秘めていた恐ろしさと残虐性。 それらに何一つ気づけなかった自分が情けなくて、ルイズは何も言えなかったのだ。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7989.html
「バハムートラグーン」より、パルパレオスとサラマンダーを召喚。バハラグED直後。 シャルンホルスト、インペラトール装備。各種アイテムも所持。 サラマンダーはマスター。 ゼロの双騎士 第一話 ゼロの双騎士 第二話 ゼロの双騎士 第三話 ゼロの双騎士 第四話 ゼロの双騎士 第五話 ゼロの双騎士 第六話 ゼロの双騎士 第七話
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2279.html
「ここが私の研究室だよ」 そう言ってミスタ・コルベールが粗末な掘っ立て小屋の扉を開ける。 「ここ…コルベール先生の小屋だったんですか」 「ん?」 「あ、いえ。変わったにおいがする小屋があるなと思っていたもので。 てっきり薬か何かの倉庫だと」 確かに小屋の中は、コルベールが実験に使用する、薬品やら、実験器具やら古びた書物、さらには蛇やトカゲが入れられた檻までも、所狭しと置かれなんともいえない異臭を漂わしている。 「いや、実験に騒音と異音はつきものでね。最初のうちは自分の居室で研究していたのだが、すぐに隣室の連中から苦情が出てしまってね。 それにしても…そんなに臭うかね? 外にはそれほど漏れないように、気をつけているつもりなのだが」 「いやその、においに敏感な体質なんです」 育郎の脳に寄生するバオーには、聴覚や視覚は存在しない。その代わりに発達した触覚によって空気中に漂う分子を感じとっている。今の育郎の脳は、バオーの触覚器官の感覚を『におい』と感じ取っていた。 その気になれば、数キロ離れた特定の人間の『におい』をも感じ取れる育郎にとって、学園の片隅で一際特殊な『におい』を放つこの小屋は、ひどく目立つものだったのだ。 「まあ、私はこの臭いにずいぶん慣れてしまったからね。しかし、ご婦人方には 慣れるという事はないらしく、この通り私は独身である。っとそんな事はどうでもいいな。さて話というのはだ…」 「東方の品々ですか?」 「ああ。東方がどういう場所か、君は聞いているかね?」 コルベールの問いに、育郎が少し考えた後答える。 「確か…エルフという人達が砂漠に住んでいて、技術もここより進んでいる… でしたっけ?」 「その通り。エルフ達が治めているゆえ、砂漠の先の土地がどうなっているかすらも、我々はよくわかっていない。だが、それでもまったく交流がないわけではなくてね。 ごくわずかだが、危険をかえりみず、東方を行き来する人々が存在している。 そういう人間は、主に商人なのだが…なぜかわかるかね?」 授業中、生徒に接するときと同じように、育郎に質問を投げかける。 「それは…やはり東方にしかない珍しい品々で、おおもうけするためですか?」 育郎の答えに、満足げにうなずくコルベール。 「その通り。ある地域の特産品を、別の地域で高く売る。商売の基本だね。 それが特に珍しい東方の品々なら、なおさら高値がつく」 「僕の世界でも、似たような歴史がありますよ。扱っていたのは香辛料ですが」 歴史の授業で習った、東方貿易のことを思い出す育郎。 「ほほう、それは面白い!また後で詳しく聞かせてくれないかね? とにかく東方は我々とは異質な文化を培っているのは理解しているね」 育郎がうなずくのを確認して、話をさらに続ける。 「東方産のものには、我々にはよくわからないような代物も多い。 時に仕入れた商人ですら、使い方がわからない等と言う冗談のような話もある。 おかげで適当な代物を東方産と言って高く売る、けしからん商人もいるのだよ」 コルベール自身、東方産と銘打たれた毛生え薬を買い、まったく効かなかったという事が両手の指では足りないぐらいあった。 「そして、わが学院に保管されていた『破壊の杖』も、我々には使用法もよくわからない代物だった。オールド・オスマンが実際に使用された所を見ていなければ、あるいは唯のガラクタとして処分されていたかもしれない」 そこで言葉を区切り、改めて育郎の方を向き直る。 「つまり…僕の世界の物が、東方から来た物として扱われてるかもしれないと?」 「その通りだイクロー君!」 嬉しそうにミスタ・コルベールがうなずく。 「もちろんそれだけじゃないぞ!君の世界の高い技術で作られたものなら、それこそ東方のものと考える人がいてもおかしくない! 魔法も使わずに、それでいてハルケギニアをはるかに超える技術!! それがもうすぐ私の目の前に!」 「こ、コルベール先生…」 「おっと!すまんすまん、つい興奮してしまった」 はっはっはっと朗らかに笑ってはいるが、育郎にはその目にまだ僅かに危ない光が宿っている気がしてならなかった。 「で、でも魔法も十分すごいと思いますよ」 「しかし君の世界は魔法などなくとも、それほどの技術を磨き上げた! ならば我らの世界でも、同じ事がなせぬ道理は無かったはずだ!」 育郎は話題を変えるつもだったが、火に油を注いでしまったようだ。熱意をこめて、さらにコルベールが弁を振るう。 「だがハルケギニアの貴族は、魔法という力を持ちながら、何も考えずにそれを箒のような、使い勝手の良い道具ぐらいにしか捕らえていなかった… 6千年もの歴史を積み上げてきたと言うのに、伝統にとらわれ、様々な可能性に目をつぶってきたのだ! あるいはもっと多くの人間が幸福になれたかも知れないというのに! そう…もっと多くの人たちが…」 ふとコルベールの瞳が、どこか遠くを見るようなものに変わる。 「先生?」 「ああ、いや…どうにも私の考えは理解されなくてね」 そう言って笑みを浮かべるが、それはどこか寂しげなものだった。 「先生?」 「ああ、いや…どうにも私の考えは理解されなくてね」 そう言って笑みを浮かべるが、それはどこか寂しげなものだった。 「育郎君…私の得意な系統は火だ。一般的には破壊こそがその本質とされる。 だがな、私はそれだけでは寂しいと思うのだよ… もっと人々を幸福に出来る使い道あるはずだと、私はずっと考えてきた。 いや、火だけじゃない、他の系統でも同じ事だと。 …正直、その信念が揺らいだことがないかと言えば嘘になる。 だがね、君の話を聞いて、私はやっと確かな確信を得る事ができたのだよ。 君の世界の技術…そして君自身のおかげで」 「僕がですか?」 「ああ、君は言っていたね。君のその力は、おそらく兵器としての物だと。 だが、その力を宿す君自身は、いろいろな人を救ってきた。 君が行動を供にしていたと言う少女。 そしてメイドの…シエスタ君だったかな?」 「え?ど、どうしてそれを!?」 シエスタの件については、秘密と言う事になっているはずなのだが。 「ああ、私はコック長のマルトーの親父さんと親しくてね。 まあ、ちょっと小耳に挟んだというか…なんだかいろんな噂が広まってるようだけど、ずいぶんと感謝されてるようじゃないか」 「しかし…それも結局戦いで」 「ならば一緒に考えようじゃないか!」 育郎の言葉をさえぎり、肩をつかみながら真っ直ぐにその目を見つめ、コルベールは叫んだ。 「君の力も、私の炎も、きっと戦い以外でも人の役に立つ使い方があると!」 「先生…」 育郎は感激していた。 この人となら、本当にそんな事が出来るのかもしれないと信じられた。 或いは、この時育郎とコルベール正しく教師と生徒になったのかもしれない。 「おお、そうだ!実は今試作品が出来あがったばかりの装置があってね。 ぜひ君の意見を聞かせてもらいたいのだが」 「ええ、喜んで!」 「いや、これも始動には火の魔法を使うのだが、後々には魔法が無くとも発火装置だけで動くようにとも考えていてね」 コルベールが机の上にくみ上げられた装置を嬉々として説明する。 「この装置の中で、気化した油を発火させる事により、このピストンが上下に動くように…ど、どうしたのかね、イクロー君?」 見れば、育郎はぽかんと口をあけ、唖然しているではないか。 「や、やはり君の世界からすれば、この様な物は原始的過ぎるのかね?」 「ち、違います…これは内燃機関、エンジンです!」 「え、えんじん?」 「そうですよ!すごい…蒸気機関も実用化されてないみたいなのに」 「蒸気…イクロー君、ひょっとしてそれはこのような装置の事かね?」 そう言って、部屋の隅にあるやたら大きな装置を指差す。 「小型化ができなかったので、試作品を作っただけなのだが…」 そう言ってその装置を簡単に説明する。 「………」 それはまさしく、育郎の世界で産業革命を引き起こす動力源となった、蒸気機関そのものだった。 「せ…先生…」 「な、なにかね?」 「先生は天才です…」 「え?え?」 『炎蛇』の二つ名を持つ、魔法学院教師コルベール。 彼は自分が作り上げたものが、どれほど凄まじい物なのか、自分自身ですら理解していなかった。 この後育郎の説明を聞いたコルベールが、それは凄まじいはしゃぎっぷりを見せたのだが… 彼の名誉のため、育郎はその時の事を誰にもしゃべる事は無かったそうな。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1271.html
「ところで少年よ、君が来た魔kゲフンゲフン異世界の事なんじゃが…… 実はワシに心当たりがある」 「「「「本当ですか!?」」」」 長い握手が終わり、オスマン氏が手の痺れを隠しながら、放った言葉で、その場にいる 全員がオスマン氏に詰め寄った。 育郎の場合 「まさかこんなに早く帰る手がかりが見つかるなんて!」 コルベールの場合 「魔法が無くとも使える技術がある世界…まさしく私の夢ッ!」 ミス・ロングビルこと土くれのフーケの場合 「感じる!お宝の気配をッ!」 ルイズの場合 「まさか…いや、でもひょっとして………このジジイついにボケちゃったの!? だって異世界よ?うわーこの学院どうなっちゃうんだろ?」 「うむ、とりあえずついてきなさい」 そう言って部屋を出るオスマン氏についていくと、オスマン氏は一つ下の階の 鉄の巨大な扉の前まで来て足を止めた。 「ここは宝物庫じゃないですか」 声を上げるコルベールをそのままにして、オスマン氏が懐から鍵を取り出し、 巨大な門に相応しい、巨大な錠前に差込、鍵を開ける。 「こっちじゃ………」 様々なマジックアイテムが収められている宝物庫の片隅に、それは陳列されていた。 「これは…」 育郎が驚いた様子で『それ』を見る。 「ふむ………やはりか」 「これは、『破壊の杖』…ですよね?」 一人納得しているオスマン氏の横に立つミス・ロングビルが、確認の為に問いかける。 「その通り、我がトリスティン魔法学院宝物庫に収められた秘法の一つにして… ワシの命を救ってくれた人の形見じゃよ…」 オスマン氏が遠い目をして語りだした あれはもう数十年前のことじゃ………ワシが森をふらりと散策していると、 突如ワイバーンが襲い掛かってきての。 油断しとった、というのは言い訳じゃの。最初のワイバーンの攻撃で杖を取り落として しまったワシは、なす術も無く追い詰められた… その時じゃ! 「アパム!アパム!弾だ!弾もってこい!アパーーーーム!」 そんな叫び声が耳に入ったと思ったら、ワイバーンがいきなり爆発しての。 辺りを見回せば、満身創痍の見たこともない服装をした男が、破壊の杖をもって 立っておったんじゃ。 じゃが、その姿は傷だらけでの、ワシが駆け寄るとそのまま倒れてしまった。 急いで学院に運んだんじゃが… 彼は最後まで「ここはどこだ?元の世界に帰りたい」とうわ言を繰り返しておった… その後、ワシは彼が使った杖を『破壊の杖』と名づけ、宝物庫にしまいこんだ。 恩人の形見としてな……… 「それが、『破壊の杖』の全てじゃ…あれから何度かこの杖を使おうとしたが、 振ってみても、魔法をかけてもうんともすんとも… 宝物庫に入れてあるのも、はっきり言ってワシ個人の」 「ちょ、ちょっと待ってください!使い方わからないんですか!?」 ミス・ロングビルが、慌てた様子でオスマン氏に詰め寄る。 「うむ!いや、もう笑えるぐらいさっぱり!」 何故か自信満々なオスマン氏。 「ねえ、あんたあれが何か知ってるの?」 そんなミス・ロングビルを脇目に、ルイズが『破壊の杖』を食い入るように見ている、 育郎に疑問をぶつける。 「これは…詳しくは判らないけど僕の世界の武器だ、間違いない!」 M9A1バズーカ、それが破壊の杖の正式な名前だが、育郎にわかるわけがない。 或いは彼がそれを手に持てば、その左手のルーンの効果により理解できただろうが、 相棒の武器は俺だけだ!俺だけでいいんだ! こここここここんな武器なんてああああ相棒にはいらねーんだ! と、事の次第を知っているデルフリンガーがこんな感じなので、望むべくもない。 無論そんな心の中など露ほども見せず。 「へーこれが相棒の世界の武器か…かわってんなー」 等とのたまっている。 「ワイバーンを一撃なんて…なんか怖いわね」 「武器と言うのは悲しいですが…凄い技術だ!」 それぞれ感想を述べるルイズ達。 「あの…ひょっとしてイクロー君、これの使いかたわかります」 一縷の希望を込めて、ミスロングビルが育郎に問いかける。 「知るわけねーよな相棒!だって相棒はふつーの生活送ってたんだもんな! ワイバーンを一発でぶっ倒す武器の使い方なんてわかるわけ」 「詳しくは判りませんけど…一応」 「…………………………ッ!!!!!!!!!!!」 一振りの剣がさりげなく絶望を味わっていたが、誰も気付かなかった。 「ほ、本当ですか!?」 「はぁ、引き金を引けば撃てると思いますが…」 喜びを隠し切れないミス・ロングビルに、育郎が申し訳なさそうに続ける。 「………弾が無いと」 その言葉にミス・ロングビルが固まった。 「ふむ…つまり銃、いや小型の大砲みたいなものかね?」 「そうですね、だいたいそんな感じじゃないかと」 その答えに満足そうにうんうんと頷き、『破壊の杖』を改めて観察するコルベール。 「………オールド・オスマン!」 「おお!そう言えば何に使うかよくわからん円筒形の代物を持っとったのう!」 「そ、それはどうしました!?」 「恩人と一緒に墓の中に入れたよ…もう随分年月がたっとるし、使えんじゃろうな」 その言葉に崩れ落ちるミス・ロングビル。そして人知れずデルフリンガーが 絶望から這い上がったが、勿論誰も気付いていない。 「ど、どうしたのかね?ミスロングビル…」 駆け寄りながら、さり気なく胸を触ろうとするオスマン氏の手を捻り上げて、 なんとか平静を装うミス・ロングビル。 「いえ…その…『破壊の杖』が無価値というのは如何な物かと思ったもので… 秘法と言われている物ですし…」 「ま、秘法といっても、わしの説明を聞いた役人がそう指定しただけじゃしな。 使い方が判らんと知った時の、奴らの顔は見ものじゃったぞ」 ふぉっふぉっふぉっと笑いながら「そろそろ手を放してくれない?痛いから」 という目でミス・ロングビルを見るオスマン氏。 「とにかく、これで君以外にもこの世界にやってきた人間がいると確定したわけじゃ。 君が元の世界に帰る手がかり…とは言えんが、希望がなくなったわけではない。 もちろん、わしらも出来る範囲でじゃ君が元の世界に返れるように協力する」 そう言ってから「もうしませんから放してください」という視線を、ミス・ロングビルに 向けるオスマン氏。今度はその視線に気付いてくれて、彼女は手を放した。 「何から何までありがとうございます…実は、僕も気になっていることがあるんです」 「と言うと?」 育郎が言葉を選びながら話し出す。 「この世界には、僕の世界では空想の産物とされる生き物達が、実際に存在しています。 勿論多少の差異はありますが…それでもあまりにも似通っている」 「なるほど…つまり、ひょっとしたらこの世界の生き物が君の世界へ。 或いは君の世界の人間が、この世界にやって来て、そして元の世界に帰り、 この世界の生き物達の事を伝えた…その可能性があると」 コルベールの言葉に頷く。 「はい。勿論偶然の一致かもしれませんが…」 「いや、確かにその可能性は否定できぬの……… おお!そうじゃ、ミス・ロングビル!」 「な、なんでしょう?」 先程のショックからまだ抜け切れてないのか、弱々しく(そのわりには、オスマン氏を 捻り上げる手は力強かったが)返事をするミス・ロングビル。 「少年、きみは異世界から来たという事は、文字は読めんのじゃろ? ミス・ロングビルに字を習ってみてはどうかね? まずは資料をあさる事しか出来そうに無いが、君でなければ見落としてしまう部分 があるかもしれんし、これからこの世界で生きていくのにも便利じゃろ」 そうじゃそうじゃ、と自分の言葉に満足げに頷く。 「あの、それなら主人の私が」 おずおずとルイズが教師役に立候補するが。 「君は君で学生の身じゃろう…」 即座に一蹴される。 「でも、ロングビルさんにも仕事が…」 「ミス・ロングビルを秘書に雇ったのはほんの数ヶ月前からじゃし、 なにも一日中というわけではない。午後の授業中の、1、2時間程度じゃ。 ミス・ロングビルもそれでよいか?」 ミス・ロングビルがその言葉を受け、暫く考えるそぶりをし 「そうですね…それぐらいの時間なら」 そう言ってもう一度自分の中で、考えを反芻し。 「いえ、是非やらせていただきます! イクロー君、これからよろしくおねがいしますね」 「こちらこそ、すいません、僕の為に」 「いえいえ、良いんですよ!」 にっこり笑って答えるミス・ロングビルを満足げに見るオスマン氏。 「さてと、とりあえず今日のところは解散とするかの それでじゃ、少年には悪いんじゃが… 何かを聞かれたら、君は東方の亜人という事にしておいてくれんかね? ワシらもそれで話を合わせるようにする。」 「かまいません」 「すまんの、いらぬトラブルを避けるためとはいえ、君の事を真っ当な人間として 扱ってないようで、心苦しいんじゃが…」 「いえ、おじいさんのその気持ちだけで、僕には十分です…」 「すまんの…そうえいば名前はどうするかの?」 「名前…ですか?」 横からルイズが、何故わざわざ名前など付けるのかと、疑問の声をあげる。 「ま、一応の。少年自身が自分の種族の名前を知らんというのも、変な話じゃろ」 なるほどとルイズが納得する。 「バオー…『ドレス』は僕の『力』のことをバオーと呼んでいました…」 「ふむ…では少年はこれから東方の未確認の亜人『バオー』という事になる。 みなもそれで良いな?」 確認の為に全員を見回し、オスマン氏が改めて口を開く。 「あとは…ミスタ・ゴッゾーラ、少年に服を貸してやりなさい」 「は?」 「穴が開いたままじゃ」 ワルキューレに貫かれた服はそのままなので、育郎の肌が見えている。 「わ、わかりました。あとで彼の服は誰かに修繕を頼みますので。 それと私の名前はコルベールです」 「うむ…ミス・ロングビル、せっかくじゃから今のうちに触っとくかね?」 コルベールの抗議を当然無視して、育郎の服に開いた穴を指差して言ってみる。 「そういう軽いセクハラでも、次からは容赦しません」 「お、おーけぇ…」 「美人秘書の個人授業か…わくわくするの。モートソグニル、明日から頼むぞ」 「ちゅうちゅう(了解だ、大佐)」 一人学院長室に残ったオスマン氏が自分の使い魔に語りかける。 「それにしても…」 水パイプを吹かして、すっかり暗くなった外を見ながら先程のやり取りを思い出す。 「ガンダールヴ…全然関係なかったの…」 二つの月は、今日も何処までも美しく輝いていた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1726.html
緊張した面持ちのペルスランが、目の前の扉をノックする。 「お嬢様、奥様のお食事をお持ちいたしました」 「入ってきて」 タバサの声に従い、部屋に入ったペルスランはタバサの母の姿に目を見開く。 その顔が喜びにほころびそうになった時、しかしその腕に彼女の狂気の証たる、 人形が抱かれている事に気付いた。 「……そうでしたか」 「すいません…」 「い、いえ、そんなお顔を上げてください」 謝る育郎に驚きながらも、すぐにペルスランは自分の頭を下げる。 「遠い場所からこられた方を、しかも奥様のお身体は良くなられたというのに、 お礼を申し上げる事も無く、失礼な態度をとってしまった私が悪いのです!」 「そんな、僕の力が足りないばかりに…」 「いえいえ、私がいたらぬばかりに…」 二人が五分ほどそのようなやり取りを繰り返すのを眺めた後、タバサは口を開いた。 「母さまの料理が冷める」 「おお、これは申しわけありませんお嬢様!」 あわてて食事をテーブルに並べるペルスラン。 「どうぞ、奥様…」 タバサの母に礼をした後、2人に向き直る。 「では、お嬢様たちもどうぞこちらへ、お友達も待っておられます」 夕食を終えてすぐに、育郎達はそれぞれあてがわられた部屋へと向かった。 キュルケはタバサと同じ部屋に、育郎は使い魔という事でルイズと同じ部屋に。 その夜は、それから誰も部屋を出ようとはしなかった。 気疲れしたのか、タバサは部屋に入ってすぐ、ベッドに入って寝てしまった。 キュルケは黙ってそのあどけない寝顔を眺めている。 とてもこの少女が、過酷な運命を今まで一人で戦い続けてきたとは思えない。 「水臭いんだから…一言言ってくれれば手伝うのに…」 そうは言ってみるが、この少女は進んで自分を巻き込む事を良しとしないだろう。 「母さま」 不意にタバサが寝言をつぶやく。 「母さま、それを口に入れちゃ駄目。母さま」 苦しそうに何度も母の名を呼ぶタバサを見て、キュルケはベッドに入り込み、 タバサをしっかりと抱きしめる。するとキュルケの豊満な身体に母を感じたのか、 その寝顔が安らかなものに戻った。 雪風と呼ばれる彼女は、その無表情から心まで凍てついている等と言われている。 無論それは違う。親友の自分は彼女の心の奥底に、確かな熱を感じていた。 そして今日、その考えが間違っていない事に気付いた。彼女の雪風は、その熱を わざと隠す為にタバサ自身が作り上げた物だと。 それにたぶん… タバサはその雪風を払ってくれる人間を、心の底では求めているのだ。 だからこそ、正反対の自分と、こうして友情を育むことが出来たのだ。 「でもね、シャルロット…」 キュルケは優しく、眠るタバサに言い聞かせる。 「貴方の『雪風』を溶かすのはアタシの『微熱』だけじゃないわよ…」 先程の、彼女の母の治療が終わった後、食堂に入ってきたタバサの様子を思い出す。 その時のタバサは、親友の自分にしかわからないだろうが、とても穏やかな顔を していたのだ。 「イクローでしょ?本当に変わってるわよね、彼……… 貴方との事、勘違いだったと思ったけれど、本当は勘違いじゃないのかもね?」 そう言ってタバサの頭をなでる。 「そういえば…ルイズの様子も変だったけれど、どうしたのかしら?」 部屋に入ってしばらくの間、ルイズも育郎も一言も言葉を発しなかった。 「寝るわ」 ようやくルイズがそれだけ言って、ベッドにはいる。 育郎はソファに座りながらそのまましばらく考え込んだ後、自分もベッドに入ろうと 立ち上がった。 「ねえ、イクロー…」 寝ていると思っていたルイズが、ベッドに入ったまま声をかける。とはいえ、 顔は育郎の方とは反対側に向けているが。 「なんだい?」 「タバサとあの子のお母さまが、どうしてああなったか聞いた?」 「いや、タバサのお母さんが、毒を飲まされたらしいって事ぐらいしか」 「そう………あのね」 ルイズはペルスランから聞いた、タバサ達がこの国の王位継承争いに巻き込まれた という事を話した。 「そうだったのか…」 天上を仰ぎ見ながら育郎はつぶやく。 「そう、優秀な弟と無能と呼ばれる兄… 逆だったら、たぶんこんな事にならなかったんでしょうね」 そう言った後、再びルイズは口をつぐんだ。 育郎はその時やっと、ルイズの様子がおかしい事に気付く。 「逆だったら……きっと私も」 「ルイズ?」 「今のガリアの王様はね、魔法が使えないって噂されてるの。 だから無能王なんてよばれてる………私とおんなじ。 私にもお姉さまがいるの。二人いて、どっちも優秀な魔法使い…私とは大違い。 私はお姉さま達を尊敬してるわ。だってお姉さまなんだもの。 私より出来て当たり前って……でももし妹がいたら? 妹に魔法が使えないって馬鹿にされたら? それに、お母様やお父様は、魔法を使えない私を見向きもしなくなるかも… そうしたら私も、ガリア王みたいに…」 「ルイズ、その王様も本当はそんな事したくなかったかもしれないじゃないか? 周りの人間に王様にされて、弟をかってに殺されたのかもしれない… それに、君はそんな事」 ルイズは震える声で育郎の声をさえぎる。 「だって…だって私嫌な子だもん!」 「ルイズ…」 「私ね、アンタが始めて変身した時、びっくりしたけど嬉しかったの。 私が呼び出したのは平民じゃなかったんだって。 ちゃんとした魔法が使えたんだって」 「あんな姿を見れば、そう思うのもしかたないさ」 ルイズは首をふる。 「違うのよ。その後、アンタが本当は人間だって知って…」 ためらいながらルイズが口を開く。 「私ね、ガッカリしたの………それだけじゃないわ。 もうあんたは人間って言えないんじゃないか?って。 だから私は平民を呼び出したわけじゃないって、そんな事も考えた。 自分でも嫌になって…貴族の食事をあげたりして、ごまかそうとして…」 育郎がルイズの顔を覗き込むと、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。 「でも、今日思い知らされたわ。 やっぱり魔法も使えない貴族なんて駄目なんだって。 王様だってそうなのよ、私なんて…」 そう言って、ルイズは頭から毛布を被った。 「ルイズ…僕にはこの世界の貴族の事はよくわからない。 だから君が貴族に相応しいかどうかはわからない… けど君はいい子だ。それぐらいなら僕にもわかる」 「…どうして?」 ルイズの小さな声が育郎の耳に届く。 「ギーシュと決闘した時、君は止めても言う事を聞かなかった僕に怒ったよね」 「…それがどうしたの?」 「それでも君は、僕を心配して、デルフを持ってきてくれたじゃないか」 「だって、私の使い魔だから…」 育郎が首を振る。 「関係ない。君はそういう人間なんだ。 それは僕に今の話をしてくれた事でもわかる。自分の嫌な部分を見つめて、 人に話せるのは、君が立派な人間を目指しているからだろう? その『意思』を忘れなければ、きっとたどり着ける… 少なくとも、一歩一歩近づくことはできる…違うかい?」 育郎の方を向き、毛布から少し顔を出すルイズ。 「でも、私は魔法が使えない…」 「ルイズ、君が目指す貴族は、魔法が使えればそれでいいのかい? 君のお姉さん達を、君は魔法が使えるから尊敬しているのかい?」 「違う…皆に尊敬される、立派な貴族だから」 育郎が微笑む。 「ほら、それを忘れなければ、きっと大丈夫」 しばらく育郎を見て、ルイズはゆっくりと口を開いた。 「…本当にそう思う?」 「ああ。君は大好きなお姉さん達みたいになりたいんだろう?」 「うん………あ、でも…エレオノールお姉さまはちょっと嫌い… だって意地悪なんだもん。私のことちびルイズなんて呼ぶのよ? おちびおちびー…ってなに笑ってるのよあんた!」 起き上がり、真っ赤な顔になって怒るルイズ。 育郎としては、想像したらずいぶんほほえましい光景だったので、思わず笑みが 浮かんでしまっただけなのだが。 「い、いや…ほら、そのお姉さんは君の事が可愛いんだよ、きっと。 そうだ、もう一人のお姉さんはどんな人なんだい?」 「え?えっと、ちい姉…カトレアお姉さまはとっても優くて、怒られた私を励まして くれたり、動物と仲が良かったり。でも生まれつき身体が弱くて…」 「ひょっとして、ルイズの家に行くのは…」 「うん。タバサの話を聞いて、もしかしたらお姉さまも治せるんじゃないかなって」 「そうか…」 育郎の脳裏に、治せなかったタバサの母の姿が浮かぶ。 「あ、その…そうだ!イクローも何か話してよ!」 それを察したルイズは、なんとか話題を変えようとする。 「僕の?」 「そうよ、えっと…元の世界で一緒に逃げてた女の子の話とか! どんな子だったの?ひょっとしてあんたの恋人とか…」 「スミレが?まさか!あの子はタバサよりも歳は下だよ」 「セイヤァァァァァァ!!! はぁ…はぁ… おじいさん!次のマキは?」 「い、いや。十分じゃから、もうマキ割りはせんでも…すこし休んだらどうじゃ?」 「………うん、そうするわ」 「なあばあさんや、ずいぶん機嫌がわるいようじゃが…なんぞあったのかのう?」 「女の子はいろいろありますからねぇ…」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/507.html
僕たちはルイズに案内されるがままに、学院寮にあるという彼女の部屋へと向かう(彼女が言うに、この学院は全寮制だという事)。 彼女曰く、本来使い魔はおのおのの適した環境を住処とするらしいが、人間というのは異例らしく、見合う場所がないため、暫定的にルイズの部屋ということになったらしい。 使い魔でない僕まで一緒というのは、あわや牢屋行きになりそうだった僕について、ルイズが口を利いてくれたためらしい。 大分、恩着せがましく言っていたため、少しばかり癪に障ったが、僕は素直に感謝の意を述べた。 石造りのアーチを抜け、重厚な石造りの階段を何段ものぼり、長い通路を通った先に、彼女の部屋はあった。 そこの部屋は、昔家族で行ったフランスで見た、貴族の部屋とよく似ていた。 もっとも電気でなく、ランプの明かりで部屋が照らされているため、派手な装飾が成されているであろう家具も、さほど嫌な感じをさせなかった。 ルイズは僕らにパンを渡すと、部屋にあるものの中でも、一際装飾が華美なベットに腰をかけ、僕たちと向かい合った。 「本当に、別世界から来たの?」 どうやら先ほどの話の続きを始めるつもりらしい。 「何か証拠見せてよ」 異世界から来た証拠。はじめは服の素材を見せてみようかと思ったが、それでは文化の違いですまされる可能性がある。 なら、ここでの文明レベルで作れないものを見せればいい。 今までの発言や、見た感じから生活レベルは僕たちの世界で言う、中世末期から近世初期ぐらいといった所だろう。 仮に魔法でさらに高い技術レベルを有していようとも、流石にここまでは作れまいと確信を持てるものが一つ、あった。 「才人、カバンの中身を」 だが言い終わる前に、既に才人も同じ事を思いついていたのか、先ほど中庭で回収したカバンを開き、中に入っているものを取り出した。 ルイズは出てきたものをじーっと眺める。 「何、これ?」 「のーとぱそこん」 パソコン。修理したばかりのそれは、ぴかぴかとプラスチックの光沢を放っている。 にしても才人の声が、詰め物をしている所為か、全く締まらない。いや、勢いよく肘打ちをした僕が悪いのだが。 もう少し加減をすべきだったな……等と考えている内に、才人はパソコンの電源を入れた。 そして、パソコンの画面やゲームなどをルイズに見せる。写真などがあれば良かったのだが、あいにく修理に出していたため、そういうデータは残っていなかった。 様々な説明の甲斐あってか、ともかくルイズは、多少の不信感を残しているようではあるけれども、一応、異世界から来たと言うことを信じるという意思を表した。 ここでようやく本題である、元の世界に返せるかという事をルイズに問う。 返答はすぐに返ってきた。 「無理よ」 彼女が言うに、サモン・サーヴァントは、本来この世界……ハルケギニアにいる生き物が呼び出される者で、異世界から使い魔が呼び出されるという話は聞いたことがないらしい。 またサモン・サーヴァントは呼び出すことしか出来ない上、使い魔がいると使えないらしい。 「そういえばさっき『できるんなら、破棄している』と言ってましたね。何故です?」 「それは……」 いささかルイズは間をおく。 「使い魔が死ななければ、ならないからよ」 そのままルイズは才人に向かって「死んでみる?」と聞く。才人は全力でかぶりを振った。当たり前だ。 ともかく、すぐに元の世界に戻る手段は無いらしい。 しかたない。長時間かかってでも、いろいろ調べてみるしかないだろう。 どれくらいかかるだろうか? 一ヶ月か? それとも一年? いずれにせよ、すぐには帰れないのだけは事実だ。 「わかった。じゃあ、僕たちは何をすればいい?」 しばらくは情報を集めなくてはならない。貴族の近くなら情報も多く手に入るだろう。 第一、彼女には迷惑をかけてしまったという負い目と、口利きをしてもらった礼もある。 僕は恭順するということを示した。 才人も渋々ながら、使い魔になることを了承する。 とりあえず僕は学ランの襟を正して、才人は鼻の詰め物を抜いて、形を正して、ルイズの方を伺った。 「そうね……」 考え込むように唸りながら、ルイズは僕と才人を交互に見る。そして大きくため息をついた。 「とりあえず使い魔の方からね。使い魔には、主人の目となり、耳となる能力が与えられるんだけど……無理みたいね。他には……主人の望むものを見つけてくるんだけど。 例えば、魔法の触媒となる秘薬の材料。そうね……硫黄とか、特殊なコケとか。あんた、解る?」 「全然。無理」 「はぁ…… 後は、これが一番大事なんだけど、主人を守る事ね。でもこれは……」 間をおいて、僕の方を見、言う。 「こっちの方が、よっぽど期待できそうね」 「うっせ」 「だからあんたに出来そうなことをやらせてあげる。そうね…… 洗濯。掃除。その他雑用ってとこかしら」 「ふざけんな!」 「じゃああんた、何か出来ることあるの?」 そう聞き返され、言葉に詰まる才人。そんな才人を後目に、次は僕の方へと向き直った。 しかし指をさすなり、突然頭を押さえて、考え込むように唸った。その仕草は、何かを思い出そうとしているように見える。 そこでふと気がついた。 まだ僕は、彼女に対して名前を教えてないことに。 「花京院典明。僕の名だ」 「ノリアキ? 変わった名前ね。……あんたはここでは衛兵兼、あたしの従者ってことで学園長から達しが出たわ」 「具体的には?」 「あたしが学園に行ってる間は、衛兵としての仕事を。あたしが帰ってきたら、従者としての仕事をしてもらうわ。基本的にはそこの使い魔の手伝いね」 「そこのってなんだよ!」 正直、遠くに飛ばされたらどうしようかと思ったが、とりあえず、僕はここでの拠点を手に入れた。帰る方法は、これからじっくり探せばいい。 ルイズは大きく欠伸をする。 「ふぁ~……。いろいろと喋ってたら、眠くなってきたわ」 そういえばもう日が暮れて、大分時間が経つ。僕らの時刻で言えば、今は夜中の10:00ぐらいだろう。 ふと部屋を見る。ベットは当然、一つしかなかった。 「俺たちは何処で寝たらいいんだよ」 ルイズは毛布を二枚、こちらに投げてよこし、もう一度大きな欠伸をしながら、床を指さした。 「犬か猫かよ!」 「しかたないでしょ…… ベットは一つしかないんだから」 そういいながらルイズは、僕たちがいるにもかかわらず、服を脱ぎ始めた。 才人はなにやら興奮気味にルイズを止めようとしている。 僕はというと、そういえば貴族というのは小間使いが部屋にいたとしても、基本的に気にもとめないらしいな。 と歴史の授業で習ったことを思い出していた。 才人の方を見ると、今度はなにやら、ぶつくさ小声で何かいっていた。 そんな才人を見ている間に、こっちの方へと下着が飛んできた。 「じゃあ、これ、明日までに二人で洗っといて」 「何で俺がお前の下着を! 洗濯! ふざけるな! 嬉しいけどさッ!」 「誰があんたの面倒見ると思ってるの? ここは誰の部屋? 誰がご飯用意すると思ってるの?」 「うぐっ」 才人はまたルイズに不平を言っている。案の定、またやりこめられている。 そういう僕も危うく、自分でやれ、自分で! といいそうになったが、彼女は一応『恩人』であると言い聞かせ、喉元まで来たその言葉を飲み込んだ。 ともかく、今日は疲れた。僕は毛布にくるまり、床に身体を横たえた。 才人の方も、同じように毛布にくるまり、身体を横にしている。 ルイズが指を弾くと、部屋のランプは光を失った。便利なものだ。 しばらくその状態で横になり、窓の外から二つの月を眺めた。 ベットの方から寝息が聞こえる。既にルイズは寝ているようだ。 その、規則正しい寝息の音を聞き、僕も瞼がストーンと落ちてきたのだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1505.html
モット伯の屋敷に向かう馬車の中、窓の外に目を向けるシエスタの顔は沈んでいた。 自分がどのような『仕事』を申しつけられるかはわかっている…… 自分の胸を凝視するモット伯の顔を思い出し、嫌悪に震える身体を抱きしめる。 だが同時に、自分にはどうにも出来ないのだと、彼女は諦めていた。 自分は平民であり、貴族の要求を拒む事など出来はしない。 そう考えていると、先日の食堂での出来事を思い出した。あの時自分は貴族という絶対的な存在を前に震えていた。そして恐怖に震えながらも、どこかで諦めていた。 ただの平民である自分を、誰が助けてくれるというのか? 貴族にとって平民など家畜に等しい。 そして、貴族に歯向かってまで自分を助けるような平民などいはしない。 その事に腹が立つという事も無い。 それは当然の事であり、仕方が無い事なのだ。 だからあの時、自分を助けてくれた彼を神々しくさえ感じられた。 しかし彼は人間ではなかったのだ…… 彼女は見た。 ヴェストリ広場で異形に変じる彼を。 貴族を苦も無く一蹴し、しかもその傷をいとも簡単に治したその力を。 始めは何がおきたのか、まったく理解できなかった。 しかし周りの人間、貴族達の驚愕の声が聞こえてくるにつれ、彼女は恐くなり…… 気付けばその場から逃げ出していた。 「だがよ、そいつはお前さんを助けてくれたんだろ?」 厨房に逃げ帰った彼女を慰めるメイド達に、コック長のマルトーが声をかける。 「何言ってるんですか、シエスタはこんなに震えてるんですよ!」 「そうですよ、貴族達も悪魔だって噂してるんですよ。どんな事を企んでたか…」 メイドたちに非難の声を向けられたマルトーは、やれやれと首をふった。 翌日、騒動の当事者の貴族がシエスタに謝罪しに来た。 「痛快じゃねえか!貴族が平民に頭を下げるなんてよ!」 貴族嫌いのマルトーがそう言って喜ぶ。 しかしそれとは逆に、シエスタの心は重く沈んでいた。 彼女自身、彼は何の裏表も無く自分を助けてくれたと思っている。 だが貴族をたやすく打ち倒すあの異形の前に立つ勇気が、彼女には無かった。 そして、あの場から逃げ出してしまった後ろめたさも、それを後押しする。 「当然……ですよね…」 結局彼女は、学園を去るその時まで、逃げてしまった謝罪はおろか、助けてくれた礼すら言えなかったのだ。 そんな最低な自分だからこそ、こんな事になって当たり前だとシエスタは考えた。 授業中のため、人がほとんどいない図書館の一角で、育郎はミス・ロングビルから文字を教わっていた。もっとも、使い魔の性質か、文字の意味を知った瞬間から、読むだけならすぐできるようになり、2、3日もすれば大体の本を読めるようになっていた。 とはいえ、書くともなるとそうはいかず、こうしてミス・ロングビルの授業を受けていると言うわけである。 ちなみにデルフリンガーは持ち込むわけにはいかず、入り口の司書に預けてある。 ミス・ロングビルこと土くれのフーケは、当初学院に眠る破壊の杖の盗む為に、学院長のオールド・オスマンに接触。予想外の事に、学院長の秘書になれたのだが、なんとターゲットの破壊の杖が役に立たない代物だった。 この時点で、宝物庫のマジックアイテムを適当に失敬して、とっとと新しい仕事に取り掛かると言う選択肢もあったのだが、彼女はこの選択肢を選ばなかった。 なぜならば、先日育郎から預かった紙のお金が、かなりの値がついたのである。 ちなみに、育郎には失くしたと言ってもう一枚貰った。 それはさておき、あの破壊の杖も、もはや使い物にならないとはいえ育郎の世界の物である。つまり異世界の道具はとてもお金になりそうなのだ。 貴族からマジックアイテムを盗むのも楽しいが、やはり故郷の家族達のことを考えると、リスクも少なく、多額の金を手に入れることができるのなら、それにこした事は無いと彼女は判断した。 そういうわけで、彼の手伝いと言う名目で、手に入れる事が出来るかもしれない数々の異世界の品のため、彼女は育郎との新密度を高める事が出来る、育郎の 教師役を引き受けたのである。 もちろん文字を教えているだけではなく、気を引くためにわざと物を落として、さり気なく谷間を強調して見せてみたり。 そういう事をするたびに、育郎は困った顔をして赤くなるのだが、よく見れば結構美形な男の子に、そういうかわいい反応をされると、もっとしたくなると言うか、いけないおねーさん(23歳)になってしまいそうになるというか。 なんのかんの言って、フーケはこの状況を楽しんでいたり。 「……はぁ」 「あの……どうかしたんですか?ロングビルさん」 ミス・ロングビルの物憂げな溜息に、育郎が心配そうに声をかける。 「え?ああ、なんでもありません……はぁ」 そう言いながら再び溜息をつくミス・ロングビルを、育郎が無視できるわけが無い。 「何かあったんですか?」 しばらく考え込むそぶりをして、ミス・ロングビルが口を開いた。 「あの……シエスタさんってメイドを知っていますか?」 「シエスタさん?彼女がどうかしたんですか?」 「そんな事が許されるんですか!?」 珍しく声を荒げる育郎をミス・ロングビルが諌める。 「イクロー君、声が……」 「す、すいません」 ミス・ロングビルの考える以上に、この話は育郎にとって衝撃だったようだ。 「もちろん好ましくは思われてません…でも貴族に平民は逆らえないんです。 下手に訴えて貴族の怒りを買うよりは、口を塞ぐ方を選んでしまう……」 沈痛な表情でそう語るミス・ロングビル。 「……なんとかならないんですか?」 「それは……いえ、やっぱり……」 「ロングビルさん……」 「いけません、こんな事を頼むわけには……」 「お願いします、僕に出来る事なら……」 こうして、育郎はまんまとミス・ロングビルの思惑通り、今夜のモット伯の晩餐に一緒についていく事になったのであった。 公務を終え、自分の屋敷に向かう馬車の中、モット伯は浮かれていた。 魔法学園で雇ったおっぱいの大きいメイドを今夜どうするか、楽しみで楽しみで仕方ないのだ。 メイド服によって隠されてはいたが、一級品のおっぱい鑑定眼をもつ彼にとって、その服の奥のけしからんおっぱいを看破する事など造作も無い事! 彼は今夜、さっそくそのけしからんおっぱいに、けしからん事をする気なのだ! だってけしからんおっぱいなんだから仕方ない! けしからんから仕方ないのだ! そして前々からさり気なく狙っていた、魔法学院の秘書ミス・ロングビルが、やっと食事の誘いに承諾してくれた事も、彼の心を舞い上がらせていた。 「うっほほーい!」 これから自分に待ち受ける運命など知る由もなく、モット伯は喜びの声をあげた。 To be continued…… 21< 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1762.html
旅籠から飛び立った2匹の竜、シルフィードとヴァリエール家所有の竜は、 一時間もしないうちに屋敷についた。もっとも屋敷と言うより、その威容は 城と呼ぶほうが相応しいものだったが。 「エレオノール姉さま、それにわたしの小さいルイズ、お帰りなさい!」 城の前庭に降り立ったルイズとエレオノールに、桃色がかったブロンドの、 ルイズと同じ髪の色をした女性が駆け寄る。 「カトレア」 「ちい姉さま!」 顔を輝かせ、ルイズがその女性の胸に飛び込む。 「あらルイズ、暫く見ない間に背が伸びた?」 「はい!ちいねえさま!」 「私には全然かわってないように見えるけど…」 そうは言うが、嬉しそうに抱きあう二人に、エレオノールの顔が弛む。 「ねえ…ひょっとしてあの人も、ルイズのお姉さんなのかしら」 エレオノールとルイズのやり取りの時以上に、唖然とした顔をするキュルケ。 「そうだろうね。あんなにそっくりなんだし」 「え~どこが?」 「全然違うじゃねえか相棒」 即座に否定される育郎であった。 「そ、そうかな?」 「そうだって。髪の毛の色は娘っ子と一緒だが、顔つきが全然違うじゃねえか。 例えると娘っ子は針。金髪の姉ちゃんは槍。あの姉ちゃんは綿って所だな」 「あら、上手い事言うわね。他にも…ほら、アレ見てみなさいよ」 「アレ?」 キュルケはカトレアの胸を指差す。 そう、それはルイズとエレオノールとは明らかに違っていた。 あるのだ! いや、あるだけではない! ボリューム満点なのだ! 「ありえねーよなー」 「ありえないわよねえ?」 「いや、そんなところで判断するのは… そうだ!タバサはどう思う?似てると思うだろ?」 シルフィードに、召使の言う事を聞くように言い聞かせていたタバサに、意見を 求める育郎。タバサは杖をカトレアに向け、ゆっくりと口を開いた。 「突然変異」 杖の先は、しっかりとカトレアの胸を指し示している。 「いや、胸じゃなくて…」 ルイズと抱き合っていたカトレアが、騒ぐ育郎達に気付く。 「あらあら、私ったら…ルイズ、お友達も連れて来たのね?」 「いえ、一人かってについてきたのがいます」 「もう、恥ずかしがらなくてもいいのに」 そう言って育郎達に駆け寄り、礼をする。 「わたくし、ルイズの姉のカトレアと申します」 「あ、どうも。橋沢育郎といいます」 「デルフリンガーさまだ」 「………タバサ」 最後にキュルケが、エレオノールの時と同じように、馬鹿丁寧な礼をした。 「これはこれはご丁寧に。ルイズの『友達』のキュルケ・アウグスタ・ フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します」 「まあ!ツェルプストーですって?」 口に手を当てて、目を丸くしているカトレアに満足するキュルケ。しかし、次の 瞬間予想外の言葉が飛び出す。 「素敵ねルイズ!インテリジェンスソードだけじゃなくて、ツェルプストー家の 人ともお友達だなんて!」 「ちょっとカトレア!?」 「ちいねえさま!私こんなと友達じゃないわ!そこのメーンとか言う剣も!」 詰め寄る姉妹を不思議そうな顔で見るカトレア。 「あら、どうして?お隣同士なんだから、仲良くなったほうが良いじゃない」 「そうですよね」 そう言って、カトレアの言葉に育郎が頷く。 「まあ、貴方もそう思う?」 「ええ、やっぱりいがみ合」 「「アンタは黙ってなさい!!」」 息ピッタリで育郎に怒鳴る姉妹であった。 「ごめんなさいね。もうお姉さまもルイズも、せっかく来てくれたお医者様に… 気を悪くしないでね?」 「いえ、いいんですよ。僕は気にしてませんから」 「ミス・ツェルプストーも」 「私も気にしてないわよ」 広場で一通り騒いだルイズ達は、カトレアの提案で、ヴァリエール公の部屋まで 彼女直々に案内される事になったのだ。 「別にキュルケに謝る事なんてないのに…」 「あら、だめよルイズ。わざわざこんな所まできてくれたんだから。 お姉さまも、お客様に粗相なんて、恥ずかしいじゃないですか」 「…もういいわよ」 「二人とも、わかってくれて嬉しいわ」 姉妹達の返事に笑顔をみせたカトレアが、今度は振り返って育郎を見つめた。 「それにしても貴方…変わった服装ね、名前も変わってるし…あ、気を悪く しないでね。ひょっとして東方から来たの?」 「え?あ、はい」 「まあ、やっぱり!私東方から来た人を見るのは初めてなの!」 そう言って無邪気に笑うカトレアに連れられ、育郎の顔にも笑みが浮かぶ。 「ま、それはいいとして。そっちのお姉さんの婚約者…なんて名前だっけ?」 「バーガディシュさん…だったかな?」 「違う。チキンブロス」 そう答える育郎とタバサに、エレオノールが溜息をつく。 「…バーガンディ伯爵様よ。ていうかなによ、チキンブロスって?」 「………」 「そうそう、その伯爵様は何処にいらっしゃるのかしら? よろしければ、ご紹介して欲しいのですけれど」 先程の幸せモードの時は気付かなかったが、キュルケが浮かべる笑みに 不振な何かを感じ、エレオノールは眉をひそめた。 「ひょっとして貴方、妙な事を考えてないでしょうね?」 「何をおっしゃっているか、よくわかりませんわ」 二人の間に飛び散る火花に、辺りの空気に緊張したものが張り詰めていく。 「あら、ツェルプストー家の悪名は我が家によ~く伝わっているのよ?」 エレオノールの声音に、恐ろしい物を感じたルイズがキュルケを見ると、なんと キュルケは楽しげに笑っているではないか。 ルイズはこの時、胸以外で始めてキュルケを凄いと思った。 「あら、残念…バーガンディ伯爵様はもう帰られましたわ」 「「へ?」」 カトレアの言葉に、張り詰めていた空気が一気に弛む。 「ど、どうして?」 「さあ…お父様とお話してから、すぐに出発なされたもので」 「な~んだ、つまんないの」 キッ!っと鋭い目を向けるエレオノールに気付き、悪戯を見つかった子供のように 舌を出すキュルケだった。 「東方…の医者か」 むぅ、と唸り、顎に手をやって考えるそぶりを見せるヴァリエール公爵。 それからルイズが連れて来た平民を見る。 珍しい黒髪と黒い瞳を持ち、これまた見たことのない珍しい服を着ている その男はどうみてもまだまだ若造であり、さらには剣を背負っているため、 とてもとても腕の立つ医者には見えなかった。そんな者に娘を診せるなど… とはいえ、かわいい末娘がなんとか呼び出した使い魔である。 娘を信じたい気持ちもあり、この怪しげな少年をどう扱うべきか決めかねていた。 「では、カトレアを頼みます」 「お、おいカリーヌ…」 自分の隣にいる桃色の髪の鋭い目つきの女性、公爵の最愛にして…とにかく最愛の 妻の言葉に、ヴァリエール公爵は困惑した顔をする。 「あなた、何を悩んでらっしゃるのですか?」 「むぅ…その、なんだ…」 娘の前で、その使い魔への不審を述べる事を躊躇い、思わず口ごもってしまう。 「多少珍しくとも、使い魔は使い魔。 主の不利益になるような事を、するはずもありません」 『平民の使い魔は多少珍しいで済ませるような事だろうか?』と公爵は思ったが、 確かに妻の言う通りである。 「…そうだな。ルイズ、その男にカトレアの治療をさせなさい」 「は、はい!」 「ああ、エレオノール。お前はここに残りなさい。少し話がある」 ルイズ達といっしょに、部屋を出て行こうとするエレオノールを呼び止める。 「わかりましたわ、お父様。ほらルイズ、貴方はさっさとお行きなさい」 ルイズ達が部屋から出て行くのを確認した後、公爵はどう話を切り出すか しばらく悩んだ後、結局単刀直入に言う事にする。 「あー、バーガンディ伯爵だが…お前との婚約は解消するとの事だ」 一瞬静寂が訪れ、そしてすぐにエレオノールの困惑の声が部屋に響く。 「…ど、どういう事ですの?何故!?」 「落ち着きなさいエレオノール。あなた、無論伯爵から納得のいく説明は 受けているのでしょうね?」 長女と妻の視線を受け、なんとも気まずくなりながらも、これも親の義務だと 自分を納得させる。 「もう限界…だそうだ」 「どういう意味ですか!?」 どうもこうもそういう意味なのだが…とは公爵は言えない。 「はぁ…まったく、あなたはそんなわけのわからない理由で、婚約解消を 受け入れたのですか?」 だってかわいそうだったんだもん…等とは口が避けても言えない。 「そうですわお父様!納得がいくよう話してください!」 「そんな曖昧な理由で婚約解消を許されるだなんて、何を考えているんですか?」 妻と娘に詰め寄られ、やはり自分の判断は間違っていなかったと確信する ヴァリエール公爵であった。