約 439,946 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1114.html
モンモラシーは、朝一番でギーシュのお見舞いへと来ていた。 友人には、二股していた奴に、よく会いに行けるわねぇ、と言われたが、仕方ない。 ――――――だって、好きなのだから。 あの浮気性は困り者だが、それさえ無ければ、お調子者で女の子に優しくてキザでドットで………… ………………・・・せめて、浮気性ぐらい秘薬で治しておくべきか。 そういえば、惚れ薬なんて言うのもあったわねぇ、とか考えていると、医務室の前に辿りついた。 でも、なんというか、様子がおかしい。 朝一番と言ったが、空はまだ薄暗い。 だと言うのに、扉が僅かに開いている医務室から話し声が聞こえてくる。 なんだろうと思い、僅かな隙間をそっと広げて中を窺ってみると、そこにはコルベールとロングビルの姿があった。 そして、その二人が囲っているベッドの上には――― 「ギーシュ!!」 扉を勢い良く開け放ち、ベッドの上に居るギーシュへと呼びかける。 コルベールとロングビルは、唐突に響いた大声に、驚いたような表情でモンモラシーを見たが、彼女にそんな事は関係ない。 「あぁ、ギーシュ、ギーシュ! 心配したのよ、私。でも、良かった。なんともないようで……ギーシュ?」 なんというか違和感がある。 目をぼんやりと開けたままのギーシュは、あぅあぅと呟いて、中空を見つめているだけで、自分に対してまったく反応してこない。 「ねぇ、ギーシュ、どうしたのよ、ねぇ、ちょっと、ふざけないで、どうして、ねぇ お願い、返事を、返事をしてよ、ギーシュ!!」 モンモラシーの悲痛な叫びが、早朝の学園に響き渡った。 水差しを洗いに行って戻ってくる途中であったメイドは、その声に、くすりと笑みを溢した。 今朝の目覚めは、ルイズにとって最高であった。 何時も自分で取っていた服が、杖を振るだけで手元へとやってくる。 そんな、メイジにとっての当たり前が、ルイズにとっては、とてつもなく嬉しかった。 そのまま、気分良く着替えていた所で、机の上に置かれている手紙に気が付く。 「ホワイトスネイク」 「ナンダ?」 「これ何?」 ホワイトスネイクの返答は、夜中に扉の下から挿し込まれたらしい。 中を開いて見ると達筆な字で、ルイズが起こした決闘騒ぎの罰が書いてあった。 あの時、オスマンが言ったように、ルイズは謹慎一週間で決定の印が押されていた。 「一週間……暇になったわねぇ……」 この決定にルイズは対して、不満を持っていなかった。 何せ、罪を犯したのは事実なのだから。 その罪と言うのは、勿論、禁止された決闘を行ったことであって、ギーシュから才能を奪って殺害寸前まで追い込んだのは、彼女の中では罪ではなく、ギーシュに対する報いであったのは説明するまでもないが。 「まぁいいわ、あの平民の様子も見に行きたかったし……」 自分の使い魔のルーンをDISCとして差し込まれている、あの少年。 あの時の速さは、通常時のホワイトスネイクを遥かに上回る速度であった。 「使い魔は、もう居るし……無難な所で使用人って所かしら…… 執事って程に落ち着いた様子は無かったし、ん~」 少年を自分専用の護衛として雇う気満々のルイズは、どんな肩書きが少年に合うのか、 じっくりと考えながら医務室まで歩き始めた。 部屋を出て、医務室のある学園の方に行く為の螺旋階段を下りる時、見慣れた赤毛がルイズの目に留まる。 「あっ……」 キュルケはルイズを見つけた瞬間に、元々俯いていたその顔を、さらに俯かせた。 だが、すぐに顔を上げて何時ものように、色気を帯びた笑みを浮かべてルイズに手を振った。 「ルイズ、元気? 昨日は大変だったみたいねぇ! で、どうなの? 噂では、ギーシュの魔法を使えるようになったとか、言われてたけど どうなのよぉ、そこんところは」 明るく振舞うキュルケに、ルイズは煩そうに顔を顰め、腕を軽く振るう。 伸びる腕 押さえつける手 押し付けられる身体 ホワイトスネイクがキュルケの身体を、杖を抜く暇も与えずに、壁に押し付けたのだ。 呆然とするキュルケにルイズは、グイッと顔を近づける。 目を逸らす事も許さない。 強い視線でキュルケの目を見据えながら、ルイズの口が開く。 「良い、よーく聞きなさいよ。 私は、これから医務室に行くの、用事があるからね。 あんたの相手は、その後。精々、魔法を扱える最後の時間を楽しんでおきなさい」 そう言ってルイズは、壁にキュルケを押し付けていたホワイトスネイクを消し、そのまま螺旋階段を下る。 これ以上、言葉を交わす気の無い事を態度と行動で示されたキュルケは、そのままの体勢で赤髪を揺らし、耐え切れぬように叫ぶ。 「ねぇ、ルイズ、何が、何が、貴方をそこまで変えてしまったの? それは、私? 私が原因の事で、貴方は変わったの!?」 キュルケの慟哭にルイズは首を振るう。 変わった……? 違う、私は手段を手に入れただけに過ぎない。 人間とは、泡のようなものだ。 小さな気泡の人間も居れば、大きな気泡の人間も居る。 気泡を大量に持つ人間も居れば、一つしか持たない人間も居る。 千差万別の大きさと数がある気泡達だが、共通している事が二つある。 それは、その気泡の中に入ってるモノが感情であると言う事と もう一つ、その気泡は『起爆剤』さえ見つけてしまえば、理屈も何も無く、破裂してしまう事だ。 そして破裂した泡は、中に溜められていた感情を噴出す。 噴出された感情は、周囲に何があろうと、その発散を止められない。 いや、割れた当人にとっては、止める気もしないだろう。 ルイズは、今、まさにその状態だ。 魔法を奪うと言う、完璧な『起爆剤』を見つけてしまったルイズは、 16年間溜め続けた、使えない者として泡を破裂させてしまった。 記憶の積み重ねが人間であると、ホワイトネスイクは自らの主に言っていた。 ならば、この鬱積した感情もまた、ルイズと言う人間を形作る重要な因子なのである。 例え、その中の感情がドロドロに溶け合った黒であったとしても、だ。 「ルイズ……」 どうすれば、どうすれば、あの少女は、元の意地っ張りだけど、自分に正直な少女に戻ってくれるのか。 考えても、考えても、キュルケの頭には、何も浮かんでこなかった。 そんな親友の苦悩を、螺旋階段の一番上で眼鏡を掛けた少女は静かに見つめていた。 医務室に行って、ルイズが最初に目にした光景は、黒髪のメイドが真っ赤になって使用人になる予定の少年の身体を拭いている場面であった。 「………………」 「………………」 少し血走った目で、半裸の少年の世話をしているメイドもそうであるが、 初めて同年代の異性の身体を直接見たルイズも、時が止まってしまっている。 別に何も後ろめたい事は無い。 シエスタはシエスタで、自分を助けてくれた才人の身体を拭いていただけであるし、ルイズも、ただ医務室の扉を開けただけだ。 だと言うのに静止時間は、こくこくと過ぎていく。 永劫に続くかと言うような、その静止時間は、ブッチギリで10秒を越えた時に少年から漏れた僅かな呻き声で、ようやく進み始めた。 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのですね! これは、これはその……汗を拭いてあげてるだけでして!」 「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そのぐらい分かってるわよ! べ、別に変な勘違いとか、その、初めて男の子の裸を見たから動揺とか、してないからね!!」 二人して吃って真っ赤な顔をしているその様は、傍から見るととてつもなく変な光景であった。 「そ、そ、そ、そうですよね! 怪我人の身体を拭いてたぐらいで勘違いなんてしませんよね!」 「も、も、も、勿論じゃない! か、勘違いなんて、そ、そんなものしないに決まってるじゃない!」 あはは、と乾いた笑い声を出すシエスタに、ルイズはなんとか平常心を取り戻そうと、息を吸ったり吐いたりしながら、備え付けの椅子へと座る。 ―――私は冷静、私は冷静、私は冷静――― なんとか頭から先程の光景を消そうと試みるが、基本的に箱入りで異性の裸に免疫が無いルイズにとって、それは至難の業である。と言うか、成功なんてするはずも無い。 シエスタはシエスタで、ようやく落ち着いたのか、また才人の身体を拭く作業を再開させている。 両人共、耳まで真っ赤に染めあげ、まるで熟れたトマトのようだ。 ――― ―――――― ――――――――― 幾許かの時が過ぎて、ようやく丁寧すぎる作業が終わったシエスタは、脱がせた才人の服を着せ始める。 かなり長い時間を掛け、若干の平常心を取り戻したルイズは窓の外を見ながら、作業を終えたシエスタに声を掛けた。 「ねぇ……そいつってさ、なんであんなのと決闘したの?」 「それは……私の所為なんです」 そういえば決闘してたのを手助けしただけで、理由までは知らない。 あの時、広場に一緒に居たこのメイドならば知っているのでは無いかと聞いてみると、ある意味、予想通りの答えが返ってきた。 (ふぅん……やっぱりね) 一緒に居たのだから無関係では無いと睨んでいたが、案の定である。 続く、シエスタの言葉で、あの時の詳細を知る。 どうやら、最初の発端は、シエスタがギーシュの香水の瓶を拾わなかったのが原因らしい。 それが元で、二股がバレてその八つ当たりに晒されていたのを、 才人が庇い、そんな才人の態度にますます腹を立てたギーシュが決闘を申し込んだらしい。 「ふん……馬鹿ね」 「確かに平民が貴族に歯向かうなんて馬鹿かも知れませんけど、才人さんは!!」 恩人が侮辱されたと思い、声を荒げるシエスタにルイズは違う違う、と手を振り、 溜め息を吐きながら、自分の言葉が誰に対するモノなのかを明確にする。 「私が馬鹿って言ったのは、ギーシュ……決闘を申し込んだ貴族の方よ。 あんた、落ちてた香水の瓶には気付いて無かったんでしょ? それなのに、責任を追及するなんて馬鹿げてるわ。 おまけに、二人の名誉が傷付けられた? 傷付けたのは誰よ? 少なくとも、あんたやそいつじゃあ無いわね」 フンッ、と鼻を鳴らし不機嫌に呟くルイズに、シエスタは、この人は普通の貴族じゃあ無いみたいと心の中で呟く。 彼女の中の貴族とは、平民に対しての配慮など、まったくしない。 そういう思考回路が最初から存在していないのだ。 だと言うのに、選民思想で凝り固まった今の貴族にしては珍しく、この少女は、もしかして、平民を人間として見ているのでは無いか、とシエスタは思ったが―――――― 「話を聞く限り、やっぱりあいつは貴族として失格ね。力を奪って正解だったわ。 あんなのが、私と“同じ”貴族だったと思うと反吐が出るわ」 その言葉に、シエスタはやっぱり違う、とルイズに聞こえぬように呟いた。 この少女は、心の底まで貴族で出来ている。 確かに、今の彼女には、無実の者に罪を擦りつけられた事に対する怒りもあるが、それ以上に、 『貴族』と言う名を持った者が、無実の者に罪を擦りつけ『貴族』の名に泥を塗った事に対しての怒りの方が占めるベクトルが大きいのだ。 才人に対し、治療費を出してくれた事などから、平民に対しての理解はあるらしいが、それも上の立場から見た者の理解である。 対等とは程遠い。 そう思うと、才人や自分を昨日、ここに運んでくれた事や、秘薬の代金を全額負担してくれた事に対する有り難みの気持ちが薄れていくのをシエスタは感じていた。 「ところで、今日はどのような用事でここに来られたのですか?」 なんとなく突き放したような感じの言葉を吐いてしまった自分に、心の中で失敗した、と思ったが、言ってしまった言葉は戻らない。 相手も、言葉に含められていたニュアンスに気が付き、目を鋭くさせたが、まぁいいわ、と呟いて、すぐにその鋭さを取り払った。 「そいつの様子を見に来たんだけど……まだ、目覚めてないみたいね」 「治療をしてくださった方のお話では、もう目覚めても良いとの事ですが……」 磨耗した精神が休息を欲しているのか、それとも、もっと別の要因なのか。 「目覚めても良いって事は、もう治療は終わってるのよね?」 「えぇ、治療自体は昨日、全て終わっていますけど」 「なら……問題は無いわね」 シエスタの言葉に、ルイズはホワイトスネイクを出現させる。 唐突に現れたホワイトスネイクに、シエスタは驚愕の表情を浮かべていたが、ホワイトスネイクが現れた事は、さらなる驚愕への布石であった。 「ホワイトスネイク、あいつを起こしなさい」 命令が下されると同時に、ホワイトスネイクの手にDISCが出現する。 それを寝ている才人の頭に差し込んだ。 「何をしてるんですか!?」 「『覚醒』のDISCよ。 どれだけ深い眠りだろうが、DISCの命令には逆らえない」 自慢げに説明するルイズの目の前で、ベッドの上に寝かされていた才人の身体が震える。 「うぅ……うぅん……」 そして、DISCを差し込んでから僅か三秒 上半身を起こして、間の抜けた欠伸を才人は披露した。 そこは、ハルケギニアではなく、もっと、もっと遠く、そして辿りつけない世界。 知る者が語れば、悪鬼の巣窟とも、この世の天国とも答えるその場所は秋葉原と言う、日本と言う国の電気街であった。 その街の一角の、古ぼけた店に修理を頼んでいたパソコンを取りに来た才人は、突然の事態に目を丸くしていた。 なんというか、気が付いたら皆、全裸なのだ。 下着一枚身に着けていない通行人達を見て、才人は一瞬、ぽかーん、と大口を開けていたが、 すぐに自分も服を着ていない事に気が付いた。 何が起こったのか分からないが、このままでは警察に捕まると、凄まじい勢いで才人が服を着終わる頃に、街を歩いていた通行人達も、この不可解な現象に叫び声を上げ始めていた。 とりあえず、面倒になるのは嫌だったので、早足でその場を立ち去る。 預けていたパソコンを回収することも忘れて、駅へと向かった。 とりあえずは、家へと帰ろう。 そう思い、駅への近道である路地裏を通ろうとした時に『ソレ』は現れた。 自分の身長以上もある鏡。 これは、なんだろうか? 疑問に思った才人は、石を投げ込んでみたり、家の鍵を差し込んでみたりと色々試した挙句に、結局、その中に入る事にした。 中に何が待ち受けているのか、才人は分からなかったが、何故だか分からない予感だけは存在した。 多分、この鏡を通過したら、自分は『別の世界』に行くのでは無いかと言う予感が…… そうだ……それで俺は…… その予感の通りに月が二つある異世界に来てしまったのだ。 始めは、この突飛な事に、才人は驚いた。 驚いたが『絶望』はしなかった。 何故だか分からない世界で、一人だけだと言う事実すら『絶望』を才人に与える事は出来なかった。 何故なら、そういう予感があり、こうなると言う『覚悟』を才人は無意識に持っていたからだ。 そうして、自分はシエスタと出会って……それから…… あの桃色の髪の少女と、出会ったのだ。 「ふぁぁぁぁぁ……ん」 ピキピキと起きたばかりの筋肉が張る音を、ぼんやりと才人は聞きながら、大きな欠伸をした。 なんというか、もの凄く目覚めが良い。 十時間以上グッスリ眠った後の目覚めも、ここまで爽快感を与えてはくれないだろう。 そんな事を、つらつらと考えていると、急にベッドに押し倒された。 「にぇ、にゃんだ!?」 回らない舌で、叫んだ声は自分で聞いても酷く間抜けで泣きたくなったが、 それよりも、今、自分に抱きついてきてる者の方へと意識がいく。 「良かった……良かった……才人さん、本当に、良かった……」 抱きついてきた少女は、泣きながら才人の覚醒を喜び、その胸の中で、彼の暖かさを感じていた。 「ごめん……心配掛けた……」 泣いている少女を安心させる為に、才人も確りとその細い身体を抱きしめる。 二人がお互いの体温を感じている中、ルイズだけが不機嫌そうにその光景を眺めていた。 「ちょっと」 一分か二分か、まぁ、ともかく時間が暫く経過すると、ルイズは、とうとう我慢しきれずに声を掛けた。 その声に、才人は、うわわわわぁ、とあからさまにうろたえて、シエスタは、と言うと、なんだか物凄い目でルイズを見てきた。 その目は明らかに、空気を読んでくださいと言っていたが、あえて無視する。 「あんた!」 「はい、なんでしょうか!」 ルイズの怒声に、才人は、これは逆らうとマズいなと感じて、思わず敬語で返答する。 と言うか、さっきから予感が訴えてくる。 これから、この少女に扱き使われると言う、あまりにも叶って欲しくない予感が…… 「あんたを、これから私専属の使用人に任命するわ。 この私の世話が出来るのよ、ありがたく思いなさいよ」 「なっ! どっ、どういう事ですか!?」 桃色の少女の言葉に、シエスタが噛み付いているが、才人は、多分、少女の言った通りになる事を感じていた。 (『覚悟』はあった……『覚悟』はあったけど、正直、泣きてぇよなぁ……) これから起こるであろう苦難の道の『予感』に、才人は溜め息しかでなかった。 アルヴィーズの食堂での豪勢な昼食を前にして、キュルケは昨日と今朝のルイズの様子を思い出してブルーになっていた。 そんなキュルケの隣には、目の前の料理をパクパクモグモグハグハグと次々に胃袋へと収める暴食魔人が座っている。 「ねぇ……タバサ」 そんな暴飲暴食娘に、キュルケは声を掛ける。 何時もの彼女らしくなく、とても弱々しい声。 「どうして……ルイズは……」 その先は続かなかった。キュルケは、言葉を詰まらせ、テーブルの上に載っていたワインを呷る。 タバサは、ルイズの事を魔法が使えないメイジであり、それを理由に周囲から苛められていたぐらいのことしか知らない。 だから、ルイズの事は『危険』だと認識していた。 虐げられていた者の所へ、虐げていた者達に復讐するだけの力が手に入ったなら、 どんな聖人や天使だろうと、その力を振るう。 何故なら、そういう者達は信じているからだ。 虐げられている自分達の事を助けてくれる何かが、何時か、きっと自分達を救ってくれると。 タバサ自身、そんなものに一片の希望すら持っていないが、心の底ではもしかしてと思っている。 もし、あの使い魔を召喚したのが自分であるならば…… 自分は、何の疑問も抱かずに祖国へと戻り、あの男を―――――― そこまで考え、タバサは首を振るう。 本筋から話が逸れている。 今は、そんなIFを考えている暇では無い。 おくびにも出していなかったが、タバサは昨日からキュルケの護衛をしている。 もしも、自分がルイズであるならば、仇敵の家柄であり、尚且つ、自分に対してからかいの言葉を毎日掛けてきたキュルケを狙いに来るだろうと考えたからだ。 キュルケ自身、あのからかいの言葉にそこまでの意味を見出していなかったが、あの言葉はルイズの自尊心を傷付けるのに、十分な威力を持っていた。 そんな言葉を毎日のように掛けていたのだ。殺意を抱かれる恐れは多いにある。 と言うか、今朝の言葉からして、ルイズがキュルケに対して殺る気満々なのは、疑う余地も無かった。 「そういえば……今朝から、モンモラシーを見ていないわね……タバサ、知ってる?」 話題を変えよう、別の娘の話を振ってきたが、振ってから、 キュルケはモンモラシーがギーシュの恋人である事を思い出した。 恋人が突然、メイジでは無くなったのだ。 かなりショッキングな出来事だったのだろう。 「ちょっと、様子でも見に行こうかしらね……」 心配そうに立ち上がるキュルケの手を掴み、そのまま椅子へ座らせる。 困ったような顔をしているキュルケに、皿一杯に盛られた料理を差し出す。 「今は、良いわよ。食べる気分じゃないから」 「そう言って、昨日の夜から何も食べていない。 おまけに目の下にクマも出来ている」 その言葉に、慌てて手鏡を取り出して目の下を確かめるキュルケにタバサは、ゆっくりと声を掛ける。 「大丈夫、彼女の様子は私が見に行く。 だから、貴方は食事をして、部屋で休むべき」 「別に大丈夫よ。 今はダイエット中だし、それにこのクマも、大したことじゃあ無いわ。だから―――」 「―――お願い」 休むように懇願するタバサの姿に、キュルケは溜め息を吐いて、わかったわ、と呟いた。 それに満足したタバサは、モンモラシーの様子を見に行く為に食堂を後にする。 勿論、自分の代わりの護衛を用意するのも忘れない。 タバサが居なくなった後の食堂では、変なテンションの青髪メイドが、キュルケの口に無理矢理食事を運ぶと言う珍妙な光景が見られたとか。 「あの……シエスタ」 「………………」 「その、怒ってるのは分かるよ、けどさ……」 「………………」 「話ぐらいは聞いてくれても良いんじゃないのかなぁと、ぼかぁ思うんですけど……」 「………………」 現在の時刻は夕刻。 朱色の空と二つの月が合わさって、絶景を作り上げていたが、そんな事を気にしている暇では無かった。 私……怒ってます。物凄く怒っています。 そんな、怒ってますオーラを身に纏って才人の事を無視するシエスタに、正直、才人はビビッていた。 ルイズが宣言した使用人になれ、と言う発言に、猛然と噛み付いたシエスタだったが、他ならぬ才人自身が、別に構わない、と言ってしまったので、どうにもならなくなってしまったのだ。 そんな訳で、晴れて才人はルイズの使用人となってしまった訳であるが、それも明日からの話だ。 別に才人としては今日からでも良かったのだが、幾ら秘薬で治療したと言っても、怪我をしてから一日しか経っていない。 万が一と言う事もあるので、シエスタの提案で今日も医務室で夜を過ごす事となったのである。 しかし―――――― 「おーい、シエスタ。あの、マジでそろそろ限界なんだけど、あの降りていいかな?」 昨日の昼から気絶していた才人は、当然の如く尿意を催しており、 その排泄をしようとベッドから立ち上がろうとすると、シエスタが無言で止めてくる。 その目は、怪我人ですからベッドから立つなんてとんでもございません、と告げていたが、 はっきり言って、シエスタのお仕置きであるのは疑うまで無い。 使用人のピンチだと言うのに、姿の見えないルイズは、昼頃までここで話し込んでから姿を消している。 と言う事で、現在、医務室には才人とシエスタしかおらず、シエスタに完全にビビッている才人にとっては動くに動けない状況なのだ。 「あの~、シエスタさん。本当、本当、ちょっと、トイレに行くだけですから、勘弁してください、お願いします」 涙目で訴えてくる才人に、シエスタも限界であることをようやく悟り、無言だった口から、 久方ぶりに、仕方ありませんね、と発音が聞こえる。 やった! と叫びのをグッと堪えた才人が、ベッドから降りようとすると、シエスタが手で静止してくる。 あれ、許可してくれたんじゃないの? 「はい……才人さんは怪我人ですから、怪我人の方のトイレは“コレ”ですよね?」 シエスタの手に微妙に黄色い尿瓶が握られているのを見た才人は――――――泣いた。 同時刻 静寂が支配する部屋の中で、赤色の明りに照らされたキュルケは俯いてベッドに座っていた。 夕焼けの赤と地の赤で、彩色された髪で隠れた顔には、 普段の彼女ならば絶対にするはずの無い愁いの表情を張り付かせている。 「……ルイズ……」 何処か、遠くへと行ってしまった友人の名を呼ぶように、意地っ張りで素直では無い桃色の少女の名を呼ぶ。 返答など期待していない。 喪失感を紛らわす為だけに発した、その言葉に――― 「なぁに……キュルケ?」 ―――反応したのは、血の様に赤い空と二つの月を背にする漆黒のローブを羽織る少女であった。 氷柱を背中に突っ込まれたような気分だ。 自分一人だけしか存在していなかった部屋に、物音一つ立てずに、この少女は現れた。 息が……苦しい。 ルイズの放つ威圧感に、キュルケは呼吸すら忘れてしまっていた。 「ねぇ……何か用なの? せっかく、私が足を運んできたのだから、面白い話題なんでしょうねぇ?」 ケラケラと童女のように笑うルイズは、なんというか、言い知れぬ不気味さと人を惹きつける魅力を身に纏っている。 ―――違う こいつは、こんなのはルイズじゃあない。 自分の知っているルイズは、あんな化け物みたいな笑い方はしないっ! 「貴方……誰? どうして、ルイズの姿をしているの!?」 敵意を込めた視線に、ルイズは、フンッ、と鼻を鳴らし、右手を掲げる。 瞬間、ホワイトスネイクが背後からキュルケの頭を一文字に薙ぎ払い、DISCを奪い取った。 込み上げる喪失感に泣きそうになるのを我慢しながら、キュルケはルイズを睨むのを止めない。 その様子に、使い魔から渡されたDISCを頭に差し込んだルイズは口を開く。 「一体、何を言っているのか、さっぱり分からないけど、私は私よ。 他の誰でも、他の何者でも無いわ」 淀みなく答えるその言葉に、キュルケは首を振る、違う、と 「私の知っているルイズは、我慢が出来なくて、すぐになんでも癇癪を起こすけど、それでもこんな事をする娘じゃあ無かった! 他人から力を奪うような娘じゃあ、絶対に無かったわ!!」 我慢していたはずの涙が流れているのを、キュルケは気が付かなかった。 18年間共に歩んできた才能を奪われたのだ。無理も無い。 しかし、今、ここでその悲しみに泣き崩れていたら、もっと大切なモノを失ってしまう。 「ねぇ……ルイズ、もう止めましょう。 奪った才能を返して、また何時ものように一緒に学びましょう? そうして、他人から奪った才能なんかじゃあ無くて、貴方自身の才能を育てて行けば良いじゃない……」 「………………」 「こんな事をしたって根本的な解決にはならないわ。 ねぇ、お願いよ、ルイズ。何時もの優しい貴方に戻って。 努力家で、意地っ張りで、誇り高い貴方に―――」 「五月蝿い! 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!!!!」 髪を振り回し、取り乱したように叫ぶルイズに、キュルケは近づこうとするが、動いた瞬間、ホワイトスネイクに床に叩きつけられた。 「がはっ―――!」 肺の中から追い出された空気が、口から漏れる音を自身で聞いたキュルケは、それでもルイズに言葉を掛け続ける。 今なら、先程のような余裕を持っていない今ならば、自分の言葉もルイズに届くはずだ。 いや、届かせなければならない。 「こんな……こんな力に振り回されるのは貴方じゃあ無い! 今の貴方は、この使い魔の力に酔っているだけ! お願い! 正気に戻って! ルイズ!!!」 最後の言葉を吐き出したと同時に、キュルケの口から血が噴出す。 上から踏みつけてくるホワイトスネイクに、何処か、生きるのに重要な器官が潰されたのかも知れないが、それでも止める訳にはいかない。 大切な、友達を助ける為に…… 「ルイズ……」 「うるさいって言ってるでしょ! 戻れですって!? あの魔法を使えず、侮辱され続け、屈辱を投げつけられていたアレに!? 冗談じゃない! 私は戻らない! あんな! あんな! 最低の場所に戻るなんて絶対イヤ! 酔っているだけ? 違う! 私は『使いこなしている』だけ! この力で、貴方達を、私を『ゼロ』と馬鹿にした連中全てを、私は―――!!」 感情のままに吐露するルイズの言葉を、キュルケは遮ろうとするが、それはまったく別の形で中断された。 窓側の壁全てが、一瞬にして破壊されたのだ。 見晴らしの良くなった部屋の中で、乱れた髪を気にも留めずに、ルイズは壁を壊した闖入者へと目を向ける。 蒼い髪に眼鏡を掛けたその少女は、ウィンドドラゴンの幼体の上に立ち、 その身体に似合わぬ大きな杖を、迷い無くルイズへと向けていた。 「二度目よ……貴方が、私の邪魔をするのは……」 ポキリと散らばった廃材を踏みつけ、ルイズはドラゴンへと一歩踏み出す。 キュルケを踏みつけていたはずのホワイトスネイクも、その後に続いていく。 「貴方……『覚悟』はしているのでしょうねぇ 人の邪魔をするって事は、排除されるかも知れないって言う『覚悟』を」 淡々と語るルイズに、タバサは僅かに口を開く。 「昼間……モンモラシーとギーシュに会った……」 「何を言っているの?」 ルイズは、疑問符を頭の上に浮かべていた。 何故、ここでギーシュの話題なのか。 この眼鏡の娘は、ギーシュと何か親密な中で、その為、邪魔をしているとでも良いたいのだろうか? そんなルイズの困惑を余所にタバサは言葉を続けた。 「彼は……壊れていた。心も、記憶も……何もかも」 それは、無感動な彼女にしては珍しく、誰が聞いても怒っていると分かる、静かな怒声であった。 それが異常な事だと分かったのは、倒れているキュルケだけで、普段のタバサを知らないルイズは、ただ、壊れたの、と詰まらなそうに呟く。 「情けないわね……私は、16年間、魔法を使えない事に耐えてきたのに。 一晩も耐えられないなんて……貧弱ね」 蔑むような声色を発した、その『敵』へ、タバサは呪文を紡ぐ。 ウィンディ・アイシクル タバサの最も得意とする、トライアングルスペルの一つだ。 「へぇ……」 感心したようなルイズの声に、タバサによって作り上げられた氷の矢が、一斉に襲い掛かる―――が 「ウオシャアアアアアアアアアア!!」 ホワイトスネイクの烈火の如き叫び共に繰り出された拳で、全て叩き落された。 「―――ッ!」 あの使い魔が有能な事は、能力から見て推測出来たが、まさかここまでとはタバサも思っていなかった。 しかも、氷の矢を真正面から叩き壊したと言うのに、ホワイトスネイクの両手には傷一つ存在していない。 辛い、戦いになる。 シルフィードの背中の上で、次なる呪文を紡ぐタバサは、これまでの戦いの中で最も困難な事になるであろう事を感じていた。 一方、ルイズも内心は焦りを持っていた。 ホワイトスネイクは有能だ。 本体の性能も言わずもがな、その能力は、使い方さえ考えれば、最強の盾にもなり、矛にもなる。 が、射程距離の内部であるのならばの話だ。 ルイズにとっての一番の問題は、どうやって空を飛ぶ敵に近づくのか、だ。 今奪ったばかりの魔法で叩き落すと言う選択肢もあるが、今の一撃から、魔法の技量は、今まで奪った二枚のDISCの中に記憶されているモノよりも、遥かに上であることが理解できる。 そんな相手に、地面から相手よりも下手な魔法を撃った所で、通用するはずも無い。 長期戦になれば、人が来る。 否、もうすでに壁の破壊音に気が付いて、宿直の教師が近づいてきているかも知れない。 となると、ここは出し惜しみ無しで、ホワイトスネイクを至近距離まで近づかせ、短期決戦で勝負をつける。 奪ったDISCの中で使えそうな呪文を全て引っ張り出しながら、ルイズは、敵意を剥き出しにして、タバサを睨みつけた。 そんな二人が激突するのを見ている事しか出来ないキュルケは、満足に呼吸が出来なくなった身体で、静かに立ち上がった。 もうすでに戦いの場は、キュルケの部屋から移り変わり、二つの月が浮かぶ空が、戦闘の場となっている。 「何故……」 どうして二人が戦わなければならないのか。 どうして私は、二人を止める事が出来ないのか。 キュルケは悔しくて堪らなかった。 そんな彼女の足元に、きゅるきゅると鳴きながら、今まで部屋の隅で震えていたフレイムが擦り寄ってくる。 口元を紅く染める主人を心配するようなフレイムに、キュルケは大丈夫と告げると、動くだけで激痛を訴える身体に鞭を打ち、二人の後を追っていった。 第3.5話 戻る 第五話
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1938.html
「ジャングルはいつもハレのちグゥ」のグゥ ゼロのちグゥ-1 ゼロのちグゥ-2 ゼロのちグゥ-3 ゼロのちグゥ-4 ゼロのちグゥ-5 ゼロのちグゥ-6 ゼロのちグゥ-7
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1540.html
「おう、聞いたぜ兄ちゃん!貴族にケンカ売ろうなんて、大した度胸じゃねえか」 育郎をモット伯の所にまで案内するよう命じられた、如何にもベテランといった容貌の衛兵が、感心したように話しかけてくる。 「しかも女の為だって?あのおっさん、俺らも呆れるほどのドスケベだからな。 そりゃ兄ちゃん、押しかけてきて正解だぜ」 「んなに酷えのか、モット伯てぇのは?」 「あん?こりゃインテリジェンスソードか?変わったもん持ってるな兄ちゃん……」 育郎の背中のデルフをじろじろ見る。 「にしても……ほかに剣はなかったのか?ボロすぎるだろ、錆びも浮いちまってるし」 「……こう見えてもいい奴なんです」 「相棒、ボロって言われた事のフォローにはなってねえぞ」 「え?いや……」 「おもしれえ奴らだな……なあ、兄ちゃん」 それまでどこか楽しげだった衛兵の顔が、唐突に真剣なものに変わる。 「相手は貴族だ。俺ら見てえなベテランならともかく、兄ちゃんじゃ勝ち目はねえ」 「相棒を舐めんじゃねえぞ!おめえなんぞ相棒に掛かれば一撃でメコッ!だぜ!」 「おーおーそりゃすげえ。けどな威勢はいいが、モット伯はトライアングルだ。 どんだけ兄ちゃんが凄くても、まともにやりゃ相手にならねえ…… なあ兄ちゃん、あのおっさんが本気になる前にとっとと降参しちまいな」 「……すいません」 「そうかい……おっと、もうついちまったな。まあ、死なない程度にがんばんな」 そう言って育郎の肩を叩く。 「よう、どうだったいあの坊や?」 持ち場に戻った衛兵に同僚が声をかける。 「そういやお前まだ賭けてなかったよな?どっちにする、あの坊やが死ぬ方か?」 「……あの兄ちゃんが勝つほうに賭ける」 「おいおい、正気か?穴ねらいにも程があるぞ」 「うるせぇ……」 そう小さくつぶやいて自分の手を、育郎の肩に触れてから、震えが止まらない手をじっと見つめる。 「あの兄ちゃん……なにもんだ?」 「しかしミス・ロングビル、何故食堂で決闘を?しかも人払いまでさせて」 モット伯の疑問に、それを提案したミス・ロングビルが答える。 「もう暗いですし、外では貴方の勇ましい姿がよく見えないじゃありませんか? それに……そんな素敵なモット伯、他の人にはみせたくありませんわ」 「いや、そんなことを言われるとてれますなぁ。はっはっはっ!」 んなわけないだろ、このスカタン!ったく、男って奴は…… 人払いをさせたのは、育郎の勝利を3人だけの秘密にする事により、モット伯の弱みを握る為である。わざわざ食堂で決闘するように言ったのも、外の衛兵に決闘の様子を知られないためである。 それにしてもいい気なもんだね…… ま、下手すりゃ死ぬなんて事、今のこいつにはわかんないからしょうがないか。 育郎は何があっても人間の姿のまま戦おうとするのは間違いない。 しかし、それゆえにモット伯が勝利を収めるほどの傷を負わせた時、『バオー』の力はモット伯の命を確実に奪う事だろう。 もしそうなってしまった時は…… 「こ、これは!?僕はこの人を……」 モット伯の遺体を前に呆然とする育郎に、ミス・ロングビルがすがりつく。 「育郎君……逃げましょう!」 「し、しかし……!」 「ここで貴方が捕まれば、ミス・ヴァリエールまで!」 「わ、わかりました……」 「どうでした?」 安宿の部屋の中、帰ってきたミス・ロングビルに育郎が心配そうな声をかける。 「……これを」 ミス・ロングビルが差し出したのは、育郎の顔が書かれた手配書だった。 「話では、他の国にまで手配書は回ってるそうです」 「ロングビルさん……すいません、僕のせいで…… もう十分です、後は僕一人でなんとかしますから」 「良いんです……私がイクロー君に頼んだんですから……それに、貴方と一緒なら……」 「ロングビルさん……」 「そんな!?身体を売るなんて……」 「でも、もうお金が……」 「僕に……僕に出来る事はないんですか!?」 「手配書が回ってる貴方に、真っ当な仕事なんて……」 「それでも、貴方にそんな事をさせるよりは……!」 この後、土くれのフーケに無敵の青い魔人が付き従うようになった。 二人は数々の貴族のお宝を盗み出し、末永く幸せに暮らしたとさ。 なーんて感じで……ふふふ、完璧な計画ね。 もし失敗しても男……じゃなくてパートナーゲット! 心の中でほくそえむミス・ロングビル(婚期が気になる23歳)であった。 「ふむ、やっと来たようですな。ミス・ロングビル?」 「あ、はい」 楽しい妄想を中断させ、食堂に入ってきた育郎を見る。 頑張りなさいよ坊や。 ……むしろ頑張らなくてもいか 「さて、私と決闘を行うと言う名誉を得たのを、光栄に思うが良い平民よ」 尊大な態度でモット伯は告げる。 「……約束して下さい、もし僕が勝ったらシエスタさんを」 「わかっておる。もっとも、『もし』等起こらないだろうがな!」 そう言ってモット伯は杖を引き抜いた。 育郎もデルフリンガーを鞘から抜き放つ。 「ではゆくぞ!私の二つ名は『波濤』のモット、その力をとくと見るが良い!」 叫ぶモット伯が杖を振りあげ、呪文を唱える。 そして呪文が完成し、杖を振り下ろした次の瞬間、渇いた音と供にその手から杖が弾き飛ばされた。 「馬鹿な!」 十分距離はとっていたはずなのに、育郎は驚くべき瞬発力を持って、モット伯の呪文が完成する前にその手の杖を叩き落したのだ! うまくいった…… 安堵する育郎。しかしそれと裏腹に、彼の剣は 「ちょおおおおおおおおおおお!相棒おおおおおおおおお!!!!」 「で、デルフ?ど、どうかしたのか!?」 どうかしたのかじゃねー! これじゃ俺のビックリドッキリ能力がわからねえじゃねーか!? 考えろ……考えるんだデルフリンガー! 何とかしてもう一度このおっさんと、相棒を戦わせるんだ! 「いや、その……あのな相棒、こりゃちょっと卑怯じゃねえか?」 「え?」 その言葉に困惑する育郎。 「えーと、あれだ。別にいいんだけど、こりゃ決闘だぜ? あのおっさんが納得しなかったら、約束を反故にされちまうかもなーって」 その言葉に、呆然としていたモット伯が我に返る。 「そ、そうだ!このような勝負無効だ!」 「な!ほら、あのおっさんもああ言ってるだろ?」 「う、うん……そ、そうなのかな?」 そんな事言わなければ、そのまますんだのでは? とは思ったが、言われてみればそんな気がしてくる。 「あの……イクロー君、私がなんとかモット伯に話をつけてきますので」 ミス・ロングビルが、小声で育郎に語りかける。 「ロングビルさん……すいません。お願いします……」 「いえ、いいんですよ」 そう言って、今度はモット伯に近づき小声で話しかける。 「モット伯……」 「い、いや違うんだミス・ロングビル!こ、これはその、油断して…… こ、この勝負は無効ということで……」 「ええ、でもあの平民は自分が勝ったと思ってますし…… やりかたは少しあれですが、この決闘は彼の勝ちといっても間違いでは……」 その言葉にモット伯が焦る。決闘に立ち会ったメイジがそう判断したなら、自分にはどうにもならない。そして平民に負けた等と知られれば、王宮勅使の自分の立場が危うくなるのは間違いない。 「な、なんとかもう一度決闘をやりなおせないか!?」 「しかし……決闘は神聖なものですし……相手がその申し出を受ければ別ですが……」 「な、なら負けてもあのメイドは解雇すると約束する!」 「それだけでは……やはり相応の物をお渡しになられないと……」 「む……で、ではあの者に勝てばさらに褒美を取らせると」 「モット伯のコレクション」 「へ!?」 ミス・ロングビルの言葉に、思わず呆けた声をあげてしまう。 「……下手をすれば命をとられるかもと考えているでしょうから、それぐらいのエサをぶらさげないと、あの平民も納得しないのでは?」 「……わ、わかった。私のコレクションの一つを、勝ったらくれてやると伝えてくれ」 モット伯は、渋々その提案を受けいれた。 「駄目でしたか……」 「すいません……私の力が足りないばかりに……」 「ねーちゃんは良くやったって!大丈夫!相棒なら絶対うまくやるって!」 もちろんモット伯との取引の事は、カケラも話さないミス・ロングビルであった。 こうして、各人のこすっからい打算と欲望が渦巻く中、育郎とモット伯の 決闘第2ラウンドが行われる事になったのであった。 To be continued…… 23< 目次
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/451.html
地面に倒れたまま、中々動かない才人と少女。 このままではマズイ。すぐさま、僕は二人の瞼を開いて意識を確かめる。 白目を剥いていた。 次は呼吸だ。 制服のポケットからティッシュを取り出し、薄く裂いて二人の顔にかぶせる。 二人とも規則正しく、ぴくぴくとティッシュを動かす。呼吸はあるようだ。 どうやら伸びているだけのようだ。 おそらく命に別状がないことを確認した僕は、そのまま二人を森の草むらへと隠した。 これで意識が戻るまでの間ぐらいは、追ってくる相手を巻けるだろう。 一応、追っ手が来れば解るよう、ハイエロファントを辺りにはりめぐらしておく。 そこまでの動作を終えた所で、僕は二人を隠した草むらに、倒れ込むようにして座り込んだ。 これで少しは肩の力も抜けるだろう。 まだ暗くなりきっていない空を見上げると、優に二倍はある大きな月が二つ、僕らを見下ろしていた。 変な動物を見た時も思ったことだが、これで一つ、確信が出来た。ここは僕の知る世界ではないのだ。 改めて確信すると、元の世界の両親の事を思い、寂しい気持ちになった。 だがそれ以上に今の、この奇妙な体験が、頭の殆どを占めていた。 「……。どうしたものかな」 僕は気絶した二人を横目に、今後の方針のため、先ほどまでの事や、喋っていた事を整理する。 整理して解ったことは三つ。 1、ここは自分のいた場所とは、全く別のものであり、昔のヨーロッパのような身分制が引かれていると云うこと。(どの程度、細分化されているかは不明) 1、少なくともこの辺りは、何故か日本語が通じるため、コミニケーションを取るに当たって不自由は無い。 1、ここにはスタンドに似た概念が存在していて、それを使うには杖(どの程度、形状が定まっているかは不明)が必要。 また概念によるクラス分けが存在する模様。 この概念は様々存在しているが、同時に複数使うことは不可能、または困難である。 整理したことで、この世界のルールはある程度解ったが、肝心の、何故僕がここにきたかまでは解らなかった。 とりあえずこの少女には、色々喋ってもらうことがありそうだ。 「あれ? ここは……」 才人は起きあがり、数回頭を振って、辺りの様子を見回す。 いまいち状況が理解できていないようだ。いや、それで普通なのだろう。 こうも淡々と状況を整理している僕が、あまりに非常識すぎるだけだ。 「ようやく、起きたようですね。才人」 「あれ? 花京院…… って事は、夢じゃなかったのかよ」 「ともかく、状況を説明します」 僕は先ほど整理したことを、かいつまんで説明する。今、確実に頼れるコミュニティーはお互いだけなのだ。 才人は、常人なら理解の範疇を越えるであろう僕の憶測を、多少取り乱しはしたが、合間合間に質問を挟みながら聞いていた。 そして全て説明し終えた時、才人は肩を落として、深いため息をつき、弱音をはいた。 「俺達、どうなるんだろうな」 「僕にも解りません。ともかく今は……」 僕は視線を少女の方へと落とす。才人もつられるようにして、少女の方に目線を持っていった。 「この少女に、いろいろ聞く他ないでしょうね」 「はぁ……それし…… がっ!? ぐぅああああああああああああ!」 「才人ッ!?」 突如、才人が左手を押さえて苦しみだした。その押さえた左手は発光しているらしく、押さえている右手の隙間から強い光が漏れる。 まさか、さっきの奴らが使った攻撃か!? 「おい! 起きろ!」 僕は急いで少女をたたき起こした。本来、女性をこうやって邪険に扱うのは許せん事だが、今は緊急事態だ。気にしてはいられない! たたき起こされた少女は不満そうに、目をこすりながらこちらを見た。 「どうすればアレはおさまるッ!」 「はえ……」 まだ完全に起きてはいないらしい。もう一回叩けば起きるかと思ったが、女性を二度叩くのは、いささか気が咎める。 「っ!」 無理にでも起こすか考えている内に、僕の左手の甲に、うっかりストーブを触れてしまったような熱さが、一瞬だけ奔った。 慌てて左腕を見る。先ほどまでと何も変わらない左腕だった。 僕は才人の方に目をやった。左腕の発光は既に収まり、代わりに何かの文様が浮き上がっていた。 「なんなんだよ、これ!」 「………! なんでアンタの方が使い魔になってるのよ!」 才人が自分の手の甲を見て、驚いたように声をあげる。 その声で意識が完全に覚醒したか、少女の方も大声を上げる。こちらは怒鳴っているような声だ。 その声にかちんときたのか、今まで溜まっていた非常識な事に対する怒りが爆発したか、才人も少女を怒鳴りつける。 そのまま二人は、僕のことなど眼中に無いように罵り合いを始めた。 「俺の身体に何しやがった!」 「使い魔のルーンが刻まれただけよ! というか何でアンタなのよ! 私はあっちの『メイジ』と契約を交わすハズだったのに!」 「メイジって何だよ! 意味わかんねえよ!」 「平民が、貴族にそんな口聞いていいと思ってるの?」 「知ったことか! 今すぐ戻せ!」 「その辺でもう……」 このまま何時までも、二人に口げんかをさせていては本当に日が暮れる。 こんな軽装で野宿はごめん被りたい。 僕はこの不毛な争いを止めようと間に入る。 「できるんなら、とっくにしてるわよ! なんでアンタみたいなのを『召喚』しちゃったの!」 「何だって!? 『召喚』!?」 「な、何! 急に大きい声出さないでよ!」 少女の一言に、僕は思わず反応した。 彼女が僕らを呼び出した奴だというのか? しかも「アンタみたいなの」と言った。 つまり、特定の相手を呼び出そうとして呼びだしたわけではないらしい。つまり、僕や才人がここに来たのは『事故』と云うことだ。 つまり僕は独り相撲を取っていたというわけだ。相撲は好きだが、独り相撲は相撲じゃない。などとずれたことを考えた。 しかしこれはマズイ。元の場所に帰れる方法を知っているかもしれない相手の心情を、勝手に暴れて悪くしてしまったことになる。 そうでなくても、少なくとも帰る手段を探すまでは、こちらで生活する必要があるのだ。 ここは何とかして、少女に協力を取り付けるしかない。 少女は僕たちが先ほど逃げてきた施設(トリステイン魔法学校というらしい)へ戻ろうとする。 僕はともかく、この少女……ルイズについていきながら、今の僕らの状況を、憶測もふまえて説明した。 「……という訳です」 「それ、本当?」 「嘘ついてどうするよ」 「信じられないわ。異世界があるなんて」 「違う星、という可能性もありますが」 説明している間に暗くなった空を見上げ、僕の知っている月の、優に二倍はある二つの月を眺めながら、言う。 「どっちにしたって同じよ。いったいそんなものが何処にあるのよ」 「俺の元いた所にはあったんだよ! そこには月が一つで、魔法使いもいな……い……よな?」 才人が途中で言葉をうち切り、僕の方に話を振る。 僕のスタンドも、彼からしてみれば魔法と同じくファンタジーの産物だろう。 そういえば一度も説明していなかった。話すだけは話しておく必要があるだろう。 僕は簡単に精神の力を、様々なものを通じて実体化させる力とだけ説明をした。 しかし、なまじ似た概念が存在すると、返って理解を妨げるとは思わなかった。 「だから『魔法』と何が違うわけ?」 何度説明しても、さっきからずっとこの調子だ。わからんやつだなッ! とどこか叩きたい気分になった。 まだ才人のように、超能力ですましてくれる方が楽だ。 理解してくれるまで、同じ説明を何度も繰り返している内、僕らはようやくトリステイン魔法学院にたどり着いた。 つくなりルイズは、 「あんた達はここで待ってなさい」 といって僕らを門の前で待たせ、先に学院の中へ入っていった。 まぁ、あれだけ暴れた相手がまた学院に姿を見せれば、騒ぎになることは間違いない。 待っている間に、僕は門に身体を預け、これから先のことに思いをはせた。 「なぁ、俺たちどうなるんだろうな」 「……」 「家に……帰りたいなぁ……」 「……ああ」 しんみりとする。僕もふと、両親の事を思い出していた。 父さんと母さんはどうしているだろう。もう寝むっているのだろうか? 晩ご飯も無駄になったんだろうな。心配かけてすみません。 「あ! 」 「どうしたッ!」 突如、才人が挙げた声に驚き、僕は思考を中断して反応した。 「パソコン入ったカバン、落とした」 「才人……」 「ん? 」 僕はとりあえず、才人の顔面に、後で肘を決めておく事にした。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/378.html
地面に放ったエメラルド・スプラッシュの威力を見て、こちらへ近づこうとしていた鎧の男は足を止めた。 先ほどまでこちらに敵意を向けていた奴らも、目を丸くしている。 ともかくこの行動で、スタンド使いが今、ここにいないのは確認できた。 才人を引っ張る時も、今、エメラルド・スプラッシュを撃った時も、誰も反応しなかったからだ。 ならば結論は一つ。 僕をここに送り込んだ奴は、別にいるッ! そうと決まれば、急いで本体を探さなくてはならない。 しかし…… 「なんだよっ、変な所につれてこられたと思ったら、いきなり宙に浮いたりっ! 訳わかんねぇよ!」 あまりにも非常識な光景に、才人が思いっきり愚痴をたれた。 才人は僕と違い、スタンド使い、いや一般人に襲われても、それをのける術が無い。 多少危険だが、真っ先に逃がすしかない。 僕はハイエロファントの触手を、城壁に引っかけ、もう片方の触手を才人に巻き付けた。 そしてそのまま、定滑車の要領で城壁まで才人を持ち上げる。 「うおっ! なんだよ、これは!」 「黙ってろ! 舌を噛むッ!」 全力で才人を城壁の通路まで押し上げる。あまり力の強くないハイエロファント・グリーンにとっては、殆どパワーに余裕がない。 今、攻撃されれば、僕に身を守る手段はないッ! しばしの間。 誰もこちらに攻撃してくる気配はない。それどころかほぼ皆が、僕の方には見向きもせず、才人の方を向いて驚いたような顔をしている。 「『フライ』ッ! しかも速い!」 「何で平民が魔法を使えるんだ!?」 「いや、その前に…… 誰か、あいつが杖を抜く所を見たか!?」 其奴等は、人が浮くということとは別の次元で驚いているようだった。 まさかスタンドの代わりに、違う概念があるとでもいうのだろうか? ともかく、今はここから離れるのが先決だ。 友好的にすまそうにも、僕らはここの奴らに、敵意をもたれすぎている! そのまま、才人を引き上げたハイエロファント・グリーンに捕まり、自分も城壁へと登る。 「この、火のラインメイジである僕が…… この僕が! 」 地面から立ち上がったマントをつけた奴らの一人が、こちらをにらむ。手には長めの棒ッきれらしきものが握られていた。 其奴は何かをブツブツとつぶやく。すると、杖の先に50cmはあろうかという火球が現れた。 「『フライ』中なら、さっきの妙な技もつかえまいッ! 平民風情がっ、思い知れ! 『フレイムボール』!!」 こちらに向かって火球が飛んできた。 僕は確信する。ここにはスタンドと違う、けれども似たような概念が存在するのだと。 速度は中々に速い。このままではかわしきれないだろう。 だが、このサイズなら…… 「かき消せるッ! 『エメラルド・スプラッシュ』ッ!」 僕の捕まっていた触手から、エメラルドの力のビジョンが放たれる。 そのビジョンは、僕を追ってくる火球をうち消し、そのままマントの男に襲いかかった。 「何で『フライ』中に呪文が使えるんだッ!」 マントの男はそういって、僕のエメラルドスプラッシュを全身に浴びる。男の身体は木の葉のように宙に舞い、地面へとたたきつけられた。 下の広場が、一気に騒がしくなった。今ならここから逃げ切れる! 「なぁ、お前、今のどうやったんだ?」 「後で教えます。兎に角、いまは早く……」 下を見る。周りは平らな土地であるが、所々に点在する木々に隠れながらいけば、何とか巻けるかも知れない。 そのとき、後ろから小柄な少女特有の、高い声が聞こえてきた。 「まちなさいっ!」 僕らは、とっさに振り向いて、声の主を確認する。 その声の主は、こちらへ着た時、才人の一番近くにいた、桃色がかったブロンド髪の少女だった。 しかし、僕の視線はすぐにその少女の周りへと向けられた。 マントをつけた奴らが、さっきの奴と同じように、こちらに杖を構えていたからだ。 「ちょっとあんた達、あたしの『使い魔』に何するのよッ!」 「うるさいッ! まだ『契約』もしてないだろうが! 第一、『メイジ』だろうが『使い魔』だろうが、平民風情に貴族が遅れを取るなんて、恥さらしも良い所だッ!」 マントをつけた奴らのリーダー格らしき男と、先ほどの少女がなにやら言い争っている。 耳を傾けてみると、使い魔やら、契約やら、メイジやら、全く聞いたことのない単語が、連呼されているのが聞こえた。 良く解らないが、とりあえず、只で返してくれるつもりは無いらしい。 僕はハイエロファントをもう一度ほどき、触手状態にする。そしてそれを城壁の一カ所、一カ所に引っかけ、蜘蛛の巣のように張り巡らした。 再び下を見る。いつの間にか少女の姿は消え、マントをつけた奴らが杖の先を光らせていた。人数こそ10人ほどいるが、さっきの奴より大分、光が小さい。 無駄だと悟りつつ、僕は一応の警告を入れた。 「既にこちらには、そちらを攻撃する用意が出来ているッ! 何もしなければ、こちらも手を出すつもりはないッ」 「今更ァ、後に引けるかァァァァアアアッ!」 杖の光が石、氷、風、火… 兎に角、様々なものに変化し、僕らめがけて飛んでくる。 相手に引く意思は全くないようだ。ならッ! 「伏せてろ、才人! 『エメラルド・スプラッシュ』 INッ! 『法王の結界』ッ!」 僕も全力で応じよう。 人型の時なら裁ききれない量だが、この状態なら問題ではないッ! 先ほどの何倍もの量で発射されるエメラルドの破壊のビジョンは、石も、氷も、風も、火も全てを巻き込んで、奴らに襲いかかる。 相手を殺さない程度に加減はしたが、それでもこの量、もし、まともに食らえば二週間はベットから立ち上がれまい。 土くれはめくれあがり、ものはピンボールのように跳ね、砕け散る。 ほぼ瞬時に、下の奴らは恐慌状態へと陥った。 「ハァ~…… ハァ、ハァ、ハァ…… 」 「お…… おい、大丈夫かよ?」 「心配入りません。少し、疲れただけです」 しかし、僕の精神力も限界に達している。 あと一回、『エメラルド・スプラッシュ』を撃てるかどうか…… 今、逃げ損なったら、次は無いッ! 「走ります。才人、ついてこれますか」 「ああ、何とか」 そのまま城壁の上部を駆け抜け、登った時と同じ要領で、城壁の外へと降り立った。 少し離れた位置に森があったのは、実に運がいい。 ひとまずここに身を隠して、それから本体を探し出して、叩く。 そうすれば…… 「やっぱり、こっちの方にきたわね」 「!?」 いつの間にかいなくなっていた桃色ブロンドの髪の少女が、僕らの目の前に立っていた。 「よくもさんざん逃げてくれたわね……」 そういって、少女は杖を取り出した。どうやらあの力を使うには、こういう棒が必要らしい。 距離は10m程。今はスタンドパワーが惜しい。なら、近づいて取り押さえるッ! 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔となせ」 杖を取ろうと手を伸ばす。 しかしその手は空を切った。少女の方から、こちらに近づいてきた所為だ。 僕の顔の近くに、少女の顔が寄る。甘いにおいがした。 「あんた、感謝しなさいよね」 少女はさらに顔を寄せてくる。 何を感謝しろというんだ! と心の中で毒づきながら、僕は少女から逃れるように、思いっきり上体をそらした。 ……少しそらしすぎた。体勢を崩した僕は、そのまま少女に巴投げをかけるようにしてこける。 「「え?」」 僕の後ろにいた才人は、そのまま少女と頭突きとも取れるような、盛大なキスをして、仲良く地面へと倒れ伏したのだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1445.html
「駄目かな?」 「そりゃ駄目って事は無いけど…」 昨夜タバサに母の治療を頼まれた育郎は、朝の食堂で、食事をとろうとするルイズに、タバサと供に、昨夜の事を話していた。 といっても、タバサが呼び出して襲い掛かった?辺りの話は伏せてだが。 「でも、あんたに治せるかどうかはわからないんでしょ? えっと、タバサだっけ、貴方はそれでも良いの?腕の良いメイジに見せた方が」 「かまわない」 タバサが何時もと変わらない無表情で即答する。 「それなら良いんだけど………そっか…ひょっとして…」 しばらくブツブツとつぶやいたルイズが、一度育郎を見、そしてタバサの方に向き直る。 「ねえ…あなたの使い魔って風竜よね。家に帰る時は使い魔に乗ってくの?」 その質問に頷くタバサ。 「じゃあさ…帰りでいいから、私の家に寄ってくれない?」 「わかった」 「じゃあ家に連絡入れないといけないから、出かけるのは来週の虚無の曜日ぐらいに」 「あらタバサ。珍しいじゃない、ルイズと一緒だなんて…あ、そういう事…」 食堂に入ってきたキュルケが、ルイズ達と話しているタバサに気付く。 「キュルケ…何がそういう事なのよ」 「さーねー、にしても相変わらず空いてるわね、貴方達の周り」 先日育郎が生徒達を返り討ちにした事が伝わってから、食事の際、以前にもましてルイズ達の周りに人がいない状況になっていた。 寄って来るのは、何かとルイズにちょっかいをかけに来るキュルケと、何故かギーシュがモンモランシーと一緒に話しかけてくるぐらいである。 もっとも、モンモランシーはいまだに育郎を警戒しているようだが。 「それで、何を話してたのかしら?」 「えっと…今度の休みにこの子の家に行く事になって」 他人の家の事を話すのもどうかと思い、ルイズはそれだけを告げる。 「タバサの家?じゃあ私も行かせてもらうわ」 「な、なんでよ?」 「あらいいじゃない。タバサ、良いわよね?」 「…かまわない」 「ほらね。っとそれとタバサ、こっち!ちょっとこっち来て!」 「ちょ、ちょっとキュルケ、何処行くのよ!」 ルイズを無視し、キュルケがタバサの手を引いて、食堂の外に連れて行く。 「もう、なんなのよキュルケの奴…」 「友達が心配なんだよ、きっと」 「…そうかしら?」 ぶすっとするルイズを育郎がなだめている最中、キュルケは人目の無いところまでタバサを連れて行き、少し躊躇した後、真剣な目で話し始めた。 「あのねタバサ、あたし昨日貴方がイクローに手紙を渡しているところを見てたの…その、なんて言えばいいのかしのね?あたしね、彼が人間じゃないって知って びっくりしたって言うか…ほら、あたしの二つ名知ってるでしょ? そう『微熱』…でね、実は彼の事いいかなーって思ってたんだけど、 でも彼が亜人って分かって、さすがにどうかと思って諦めたのよ…」 そんな事を自分に話す意味がわからないが、とりあえず黙って聞いているタバサ。 「だからあたし、貴方の想いに気付いた時ショックだったのよ… 確かに貴方に恋をするように勧めたわ。でも貴族が亜人となんて…って」 少し間を開けた後、ガシッ!っとタバサの両肩をつかむ。 「でも一晩考えて気付いたの!私が間違ってたわ!そして感動したのよ! そう!種族の差なんて、愛の前に関係ないって貴方に教えられたの! あ、でも心配しないでね、あたしは貴方の事を応援するから」 「応援?」 何を応援するというのだろう? 「そう、だって親友の貴方が恋をしたんだもの!」 なるほどとタバサは思った。 キュルケは自分が育郎に渡した手紙を、恋文と思ったらしい。 「勘違い」 いつも通り、簡潔にその事を伝える。 「もう、照れなくてもいいのよ!家に帰るのも、親御さんに紹介しに行くんでしょ? 安心して、そりゃ反対されるでしょうけど、一緒に説得してあげるから! そうだわ!いざとなったら私の実家でかくまってあげる!」 しかしキュルケは分かってくれなかったようだ。とはいえ特に害があるとも思えず、さらに言えばめんどくさいので、タバサは一々訂正する事はしなかった。 自分の実家に一緒に来るのだ、その時に分かるだろう。 タバサがそんなことを考えているとは露知らず、キュルケは少し困ったように続ける。 「それでね、彼の全てを受け入れたくなるのは、すっごくよくわかるんだけど…… あのね………その………一度に2本までにしておくのよ?」 「何が?」 「オールド・オスマン、モット伯をお連れしました」 「うむ、入ってもらいなさい」 王宮勅使、モット伯を案内するミス・ロングビルは、顔にこそ出しはしないが、これ以上ないというほど不機嫌だった。 その原因は2つある。 一つは彼女が王家やそれに近しい貴族が、この世で何よりも嫌いだという事。 そしてもう一つは… 「では、王宮よりの命しかと伝えました」 「うむ、ご苦労」 受け取りの書類をオスマン氏から手渡されたモット伯が、部屋を出る前にミス・ロングビルに話しかける。 「相変わらず美しいですな、ミス・ロングビル。今度是非一緒に食事でも」 「まあ、お上手ですこと。お言葉は嬉しいですが、遠慮させていただきますわ」 モット伯のお世辞を抵当に受け流すロングビルは、彼の目が何を見ているか気付く。 その視線の先にはミス・ロングビルの胸があった。 おっぱいである。 その谷間を見る顔は、好色極まりなく。 そしてその視線はねっとりと執拗で、そして容赦がなかった。 視 姦 で あ る そのスケベ面に拳を叩き込みたくなるが、グッと堪える。 ていうか、いつまで見てるんだいこのドスケベ! かれこれ5分はたっぷり眺めているが、それでも全く止める気配がない。 何とかしてくれないかと、オールド・オスマンを見る。 「モット伯…それぐらいにしておきなさい」 期待はしていなかったが、なんと意外なことに、オスマン氏がモット伯を諌める。 「オールド・オスマン…」 「よく見ておきなさい」 よく見る? どういう事かと思っていると、オスマン氏がミス・ロングビルの方を向き、その視線を胸に向けた。 おっぱいにである。 その谷間を見る顔は、モット伯を上回る好色さだった。 そしてその視線はモット伯よりさらに執拗で、そして容赦がなかった。 しかし、そこにはモット伯には無いものも物も含まれていた。 それは愛であった。 おっぱいに対する愛が溢れていた。 その視線には、乳飲み子を見る母の愛にも似たものがあった。 い っ そ 惚 れ 惚 れ と す る よ う な 視 姦 で あ っ た 「おお、オールド・オスマン…」 モット伯が感極まった声をあげる。 「わかったかね?モット伯」 威厳に満ち溢れる声でそれに応えるオスマン氏。 「お見事!私のような若輩者では、まだ貴方の足元にも…」 「なに、君も後10年もすれば…」 「いやいや、私などまだまだ…」 「いやいや、君もなかなかの…」 「うおおおお!ギブギブ!ギブアップじゃ、ミス・ロングビル!」 あぁもう!ハラがたってしたがないね! モット伯が部屋を出た後、早速オスマン氏にキャメルクラッチをかけながら、ミス・ロングビルこと、盗賊土くれのフーケは考えた。 まったくあのスケベ親父、人の胸をじろじろと…そのうち盗みに入るつもりだったけど、いますぐホエヅラかかせてやろうかい!? 「し、しかしこれはこれで尻の感触が背中にぃぃぃぃぃぃぃ! ミス・ロングビル!それ以上力を入れてはいかん!折れてしまう!」 そういえばあのドスケベ、学院のメイドを一人買い入れてたねぇ… 人が足りないとかほざいてたそうだけど、どうせ夜の相手でもさせるつもりなんだろ そう考えると、さらに怒りがこみ上げてくるが、ふとあることに気付く。 そう言えばそのメイド、確かあの坊やと… 密かにほくそえむ。 うまくいけば、このうっぷんを晴らすだけでなく、回りくどい事をする必要も無くなるかもしれない。 「そろそろ許してくれんかミス・ロングビル!? それとも、もしやワシを真っ二つにしてラーメ」 「ふん!」 ゴキャ! 「うっ!」 オールド・オスマンを昏倒させたミス・ロングビルは、部屋を出て、学院の正門へと急いだ。そして、いままさに出発しようとするモット伯になんとか追いつく。 「おや?どうかしましたか、ミス・ロングビル」 息を切らすミス・ロングビルの、上下する胸を凝視しながらモット伯が尋ねる。 「いえ…その、モット伯。先程の食事の件、やはりお受けする事にしますわ」 笑みを浮かべてそう告げる。 「おお!それは本当ですか?」 「ええ、よろしければ今夜にでも」 「喜んで!」 そのやり取りの最中も、胸からは視線をそらさないモット伯であった。 To be continued…… 20< 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1842.html
「彼をお願い」 タバサの言葉に、シルフィードがその巨大な頭を縦に振る。 「でも大丈夫なの?あなたがいなくても」 ルイズの問いに、タバサが頷く。 「シルフィードなら大丈夫だよ」 育郎の言葉に、シルフィードは前足で自分の胸をたたいて、まかせなさいと 一声きゅいと鳴いた。 晩餐が終わり、いざ帰ろうという時になって、タバサがシルフィードの疲労を 理由に、ヴァリエールの所有する竜で帰りたいと申し出た。シルフィードなら、 一匹でも学院に帰ることが出来ると言うので、ついでに育郎を乗せて学院に戻る という事になったのだ。 「えーっと…お父様、お母様それでは学院に戻りますね」 キュルケたちに続いて、ヴァリエール家の竜にのったルイズが広場に集まった 家族達に声をかける。 「うむ。身体に気をつけてな」 重々しく頷く父。 「先生のいう事はちゃんと聞くんですよ」 「はやく魔法が使えるように、真面目に勉強するのよ」 母と姉の言葉に頷くルイズ。 「ルイズ、今度帰ってくる時は、私もっと元気になってるわ。楽しみにしててね」 「いえ、できればこれ以上元気にならない方が…」 「もう、ルイズったら変なこと言って。ね、お父様」 「え?あ、ああ…うむ…そ、そうだな」 思わず目をそらしてそう答える父親に、なんとも微妙な気分にさせられた ルイズを乗せて、竜は学院に向けて飛び立った。 「はぁ…」 溜息をついて、エレオノーは机の上のグラスに手をとり、中のワインをあおる。 夜もふけ、家の者の大半が寝静まっている時間だというのに、彼女は一人黙々と 酒を飲み続けていた。それはバーガンディ伯爵に婚約を解消させられたから… と言うのは理由の半分である。もう一つの理由のために、彼女はアルコールの 力を借りようとしているのだ。 「………ずっとこうしていてもしょうがないわね」 意を決して立ち上がり、部屋をでて、なるべく足音を立てないように目的の 部屋へと向かう。屋敷の者の大半が寝静まっているとはいえ、衛兵が見回りを しているのだ。エレオノール自身のためにも彼らに見つかるわけにはいかない。 しかしエレオノールは気付かなかった。 道中一度も衛兵を見なかったことの奇妙さに。 「まさかとは思っていたが…」 育郎のために用意した部屋に、エレオノールが入っていく様子を確認した ヴァリエール公爵がうめき声を上げる。 やたらと気位が高いエレオノールが、平民の育郎に対し妙に寛大な態度を とっていた事が気になった公爵は、もしやと思い、こうして部屋の前で 見張っていたのである。 「ぬう…婚約解消させられたからといって自棄になるとは…」 ヴァリエール家の長女が、いくら可愛い妹を病から救った…救った…とにかく 救ったような相手とはいえ、夜半平民の男の部屋に押しかけようとは… 「衛兵を下がらせておいて正解だった…」 もしこんな事が誰かに知れたら大事だと、伯爵は今日ばかりはこの部屋と エレオノールの部屋との間に、衛兵が見回りに来ないように命じていたのである。 なにせ、あれである。 平民に夜這いをかけたぐらいなら、目撃者の口を様々な手段で封じればいいだけ ではあるが、もし断られたところでも見られた日には、さすがのエレオノールも いろいろと危険な領域まで追い詰められるかもしれない。 「いや、まてよ?」 さりげなく酷い事を考えていた公爵があることに気付く。 あの平民は、その医者としての能力だけなら、そこらのメイジが遠く及ばない ものをもっている。なにせヴァリエール家が八方手を尽くして治療法を探した カトレアの身体を、あそこまで…過剰に健康にしたのである。 この国では無理としても、ゲルマニア等の平民でも貴族になれる国なら、十分に 貴族になれるだろう。幸い相手はカトレアを救ったっぽいという実績もある。 それなら申し分ないとまではいかないが、なんとか及第点ではなかろうか? エレオノールの歳は27。 既にいき遅れを通り越して、行かず後家の領域に達しようとしている。 ヴァリエール家の子女たるもの、名家に嫁がねばと思ってはいたが、この際 贅沢は言ってられない状態なのかもしれない。温厚で有名なバーガンディ伯爵 すら耐えられなかったのだ。もうこうなったら平民上がりだろうが、不平を 述べている時ではない。 「ならば後はいつ踏み込むかだな」 例え相手が断っていようが、公爵が出向いて責任を取れと言えば相手は平民、 逆らう事などできないだろう。 「これが…最後のチャンスなのかもしれん…」 どこか遠い目で、娘が入っていった部屋の扉を見つめる公爵であった。 「おや?きつい方の姉ちゃんじゃねえか?おい、おきろよ相棒」 「…エレオノールさん?」 カトレアの相手で(精神的に)疲れていた育郎であったが、デルフの声に すぐに目を覚まし、ドアの前に立つエレオノールを見る。 「あの…エレオノールさん?」 うつむいて黙ったままのエレオノールに、育郎が声をかけるが返事はない。 「こりゃ…あれじゃねえか相棒?」 「あれ?」 不思議な顔をする育郎にデルフが続ける。 「野暮だね相棒。夜中に女が男の部屋を尋ねるってこたぁ夜這い以外に」 その言葉を言い終わる前に、駆けよってデルフを握り締めるエレオノール。 「な、なんだよ姉ちゃん!?」 デルフの声を無視して窓を開け放つ。 「そおおおおりゃああああああああ!!!」 「ちょ何おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」ガン!キュイ! 「はぁ…はぁ…」 「あの、エレオノールさん?」 双月に届けといわんばかりにデルフを全力投球し、肩で息をする エレオノールに、恐る恐る育郎が声をかける。 「その…そういうのは僕にはまだ早」 「違うわよ!貴女に頼みがあるの!」 目をむいて怒鳴るエレオノールに気圧されながらも、どこかほっとした様子の 育郎が問い返す。 「頼み…ですか?」 「…そうよ、カトレアを治療した腕を見込んで、貴方に頼みがあるの」 どうにか呼吸を整え、落ち着きを取り戻したエレオノールが続ける。 「…その前に一つ言っておくけど、このことは他言無用。これは命令よ」 「はぁ、かまいませんけど」 明らかに人に頼む態度ではないが、エレオノールはそんなことを気にもしない。 あまりにも当然という態度に、育郎も不快等と微塵も感じなかったほどだ。 「それで頼みって?ひょっとして誰か知り合いが病気に」 その言葉に首を振るエレオノール。 「違うわよ…その…私の…」 「え?エレオノールさんが病気なんですか!?」 「それも違う…」 「じゃあ一体?」 再び部屋に入ってきた時と同じようにうつむいて黙るエレオノール。 やがてボソボソと小さな声が育郎の耳に届いた。 「私の……………の」 「はい?」 「だから……私の……てほしいの」 「あの、よく聞こえないんですが?」 「だから…その…」 エレオノールは顔を真っ赤にして叫んだ。 「私の胸を大きくして欲しいの!!!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1520.html
「と言うわけですが…よろしいでしょうか?ミス・ヴァリエール」 「……それは、かまいませんけど」 朝にもこんなやり取りしたなような……等と思いながら、ルイズはミス・ロングビルに返事をする。 「すいません、守衛の誰かに頼もうかとも思ったのですが、私事ですし……」 「い、いえ最近は土くれのふ、フランケン?そんな盗賊も出ると聞きますし」 「土くれのフーケです」 モット伯の屋敷に誘われたので、育郎を護衛に貸して欲しい。 ミス・ロングビルにそう頼まれたルイズは、特に断る理由も無かったので 了承したのだが…… なーんか気になるのよね……この人。 知らないうちにイクローと仲良くなってるし…… そりゃ、文字を教えてもらってるんだから、親密になっても不思議じゃないけど…… 別にこいつがミス・ロングビルと仲良くしてたからって、私には関係無いけど。 関係ないんだけど……うん、関係ないわよね? でもほら、あれじゃない?一応私の使い魔なんだから……その、あれよね? ご主人様の私を差し置いて恋人作るのって……そうと決まったわけじゃないけど、そう、仮よ、仮に恋人になったとして、私のメンツ?威厳?そういうのがねー 違うのよ。 私もその気になれば恋人の一人や二人そりゃ軽いわよ? でもね、私はあの年中発情期のツェルプストーとは違うんだから! 曲がりなりにも公爵家だし。 そう、公爵家。 つりあうような男の子なんてそうはいないの。 だから私に恋人がいなくてもおかしくないの。 恋文とかも送られた事が無いのも、相手が尻込みしてるからなのよ。 むむむむむむむ胸とか全然関係ないの。 これから大きくなるはずだし。 大きくなったらいいな………なに弱気になってるのルイズ! 大きくなるのは間違いないんだから! ちい姉さまを見ればそれは確定じゃない! もう一人のお姉さまは歳が離れてるから関係ないし! 絶対関係ないし! なんか違う方向に怪しんでいるルイズであった。 あと途中から話も違う方向に向かっている気がするが、気にしてはいけない。 「ようこそ、ミス・ロングビル!」 屋敷の入り口でミス・ロングビルを迎えたモット伯が、後ろに控える育郎に気付く。 「おや?ミス・ロングビル、その平民は……」 「ええ、最近は何かと物騒ですから。守衛の方に一緒に来てもらったんです」 「そうですか」 メイジのミス・ロングビルに平民の護衛などいるのかと、モット伯は少し疑問に思ったが、すぐに『か弱い女性』なのだから心細かったのだろうと思い直す。 「ミス・ロングビル、今夜は我が家の誇るシェフの料理を存分に楽しんでください」 「なぁ、相棒……やれると思うかい?」 「やらなければシエスタさんが……」 護衛という事で、衛視の詰め所に案内された育郎が、デルフの声に答える。 ミス・ロングビルから聞かされた、シエスタの救出作戦はこうだ。 まずミス・ロングビルが、なんとかしてモット伯に、育郎と決闘をするように仕向ける。もちろん、育郎が勝てばシエスタを解放させると約束してだ。 育郎が勝ちさえすれば、メンツを何よりも気にする貴族の事である、そのこと 自体を取引材料にして、今日あったことを口止めさせる。 実に単純な作戦だが、王宮勅使という地位をもつモット伯の所から、シエスタをただ奪い返しても、すぐに連れ戻されるだけである。さらに言うなら、これなら育郎の主のルイズにも迷惑が掛かる事も無い。 実に理想的だったが問題が無いわけではなかった…… 「あの姉ちゃんがいうには、相手はトライアングルクラスなんだぜ? そりゃトライアングルってのもピンキリだし、相棒がそのままでもすげーのは知ってるけどよ……」 デルフが珍しく心配そうな声を出す。 「それでもあの姿になる訳にはいかない。ロングビルさんだけでなく、ルイズやおじいさんにまで迷惑がかかるかもしれない……」 「もし大怪我でもしてあの姿になったら?あっちの相棒は容赦ねえぞ。 別に気にする必要もねーけど、あのスケベ親父を殺しちゃさすがにまずいだろ?」 「………それでも、何もしないわけにはいかない」 そう、『バオー』の存在を秘密にする以上、変身するわけにはいかない。 生身のままで、トライアングルクラスの魔法使いを打ち倒さねばならないのだ。 「まあ、相棒ならそう言うと思ってたけどよ……」 育郎は気付かなかった、この時デルフリンガーがほくそえんだ事を。 もっとも、剣がほくそえむのを気付ける人間がいるのかは謎だが。 「なあ、相棒。実はな、俺相棒の為に最近いろいろ思いだそーと頑張ってるんよ」 「デルフ?」 「それでだな……こう、はっきりとは思い出せねーんだが…… もし相棒が避けきれねーって感じたら、俺で魔法を受け止めてみてくんねーか?」 「魔法を受け止めるって……大丈夫なのか?」 今度は育郎がデルフに心配そうな声をかける。 「ああ、なんか起きそう気がするんよ。なんも無くても、俺頑丈だから」 「……それじゃあ、危なくなったら頼むよ」 「おお!まかしときな!」 そして相棒はその時知るんだ! 俺がどれだけ役に立つかを! 実はしっかり思い出していたのだが、ありがたみ強調させる為に、あえてぼかした言い方をするデルフリンガーに、育郎はまったく気付かなかった。 一方そのころミス・ロングビルは。 「次はこちらのワインはいかがですか?アルビオン産の年代物ですよ」 「あら、そんなに飲ませて……酔った私をどうするおつもりですか?」 冗談めかしてそう言うミス・ロングビルに、脈ありと感じるモット伯。 「いやいや、どうするもなにも、私は紳士ですから!」 さっきから胸をやたらに見る、あんたのどこが紳士なんだい…… と言う様な内面を全く見せず、ミス・ロングビルは会話を続ける。 「そうですわね、モット伯は紳士ですから。例えば…… 危険な夜道をか弱い女性が、護衛一人で帰らせるなんて、気が気でないでしょう?」 「ふむ、それはそうですが……ミス・ロングビル?」 いまいち要領がつかめないモット伯に、ミス・ロングビルが、今まで見せた事の無い妖艶な笑みを浮かべて口を開く。 「そうですわね……夜もふければ護衛がいるとはいえ、何かとあぶないですし。 か弱い女性をそんな危険にあわせるよりは、館に留まらせる方を選ぶのでは……と」 そそそそそそれはOKということなのか!?OKという事なんだな!? と言うような内面を全く見せず、モット伯は少し考えるそぶりを見せる。 「そうですな……最近は土くれのフランドル等と言う輩が、町を騒がせておりますし」 「土くれのフーケです」 「そうそう、土くれのフランシスカという盗賊でしたな!」 「………」 ミス・ロングビルのこめかみが微妙に痙攣している事に、モット伯は気づかない。 「まあ、そのような盗賊が大手を振る世の中です、嘆かわしい事ですが…… 確かにそんな危険な輩がはびこる夜道に、気安く送り出すわけにはいきませんな!」 「さすがモット伯ですわ!紳士でらっしゃる!」 「いやいや!」 わざとらしいおべっかなのだが、モット伯はそれを好意と受け止める。 「で、では早速部屋の用意を……なんなら私の」 「でも、まだこんな時間では、夜も遅く……などとは言えませんね」 どどどどどういう事だ!OKじゃなかったのか?おあずけ!? 等と内心焦りまくりのモット伯に、ミス・ロングビルが続ける。 「ということは、まだもう少しお邪魔になってもよろしいですよね?」 ななななななんだびっくりしたではないか! もう、ミス・ロングビルも人が悪い!あーびっくりした! 「もちろんですとも!おお、そうだ! わたくし書物のコレクション等を趣味にしているのですが、御覧になられますか?」 「まぁ!さぞかし立派なコレクションなのでしょうね?」 大げさに驚くミス・ロングビルにモット伯は気を良くする。 「はっはっはっ、質だけなら学院の蔵書にも引けをとらぬと自負しています」 そう言って席を立ち、ミス・ロングビルを自慢の蔵書のある書斎へと案内する。 「まあ、立派な本棚ですこと!並んでいる本もさぞかし貴重なんでしょうね」 「もちろんですとも!例えばこの『伝説の巨人』や『光の騎士』の超越の竜に関する四冊など、これ一冊だけでも並みの貴族では一生かかっても手に入らないほどの……」 ここぞとばかりコレクションの自慢を始めるモット伯。 「まあ、そんなに高価な物ですの?」 「ええ、個人でこれだけ集める事ができる者は、この国でも数えるほどでしょうな!」 さり気なく自分の事をアピールするのも忘れない。 「それはすごいですわね……そうですわ!その本で一つ賭けをしません事?」 「賭け?」 さすがにその言葉に、良い気分になっていたモット伯の顔がひきしまる。 なにせ自分の命の次に……さらにはおっぱいの次、いや、同等? しかしこれだけのコレクションは……いや、しかしおっぱいの果てしなさは…… 「モット伯?」 「ああ、これは申し訳ない。ミス・ロングビル、賭けといって先程言ったとおり貴重な蔵書ばかりゆえ、例え一冊でも貴方には見合うものが」 その言葉が言い終わる前に、ミス・ロングビルがモット伯にしなだれかかる。 「貴方が賭けに勝てば……今夜は貴方の好きにしても……」 「すすすす好きに!?で、では例えばあんな事やこんな事も……」 「ええ、もちろん」 そう言ってモット伯の耳に熱い吐息を吹きかける。 「ほおおおおおおおお!!!」 マジか!? いや、待て落ち着けモット!このコレクションの貴重さを良く考えるんだ! 確かに!確かにミス・ロングビルのおっぱいも素晴らしい!すんばらしいが! 「し、しかしですなミス・ロングビル!?」 「実は私が連れてきた護衛なのですが……」 「?」 唐突に話を変えるミス・ロングビルに、さらに困惑するモット伯。 「モット伯が学院から買い入れたメイドと、随分親密でして」 「は、はぁ」 「今日私がモット伯に招待されたと聞いて、一緒に連れていって欲しいと必死になって頼んだきたのです」 「そ、それがどうかしたのですか?たかが平民の事情など」 何故そのような話をするのか、さっぱりわからない。 「ええ、もちろん私もそう言ったのですが、どうも諦めきれないようで。 違う場所で働く事で、なかなか会えなくなるのではと不安なのでしょうね…… そこで、彼のためにも、一つ決闘をなされてはいかがですか?」 「決闘?平民と?」 「ええ、勝った方が負けた方の言う事を聞く。決闘の慣わしですわね…… 彼もそれで駄目だったら、さすがに納得するでしょうし。なにせ王宮勅使の モット伯との決闘ですもの……それで私は平民の彼に『賭け』ようと思いますの」 その言葉の意味を理解し、モット伯の顔に笑みが浮かぶ。 「なるほど……では当然私は自分の勝利に『賭ける』ことにしましょう!」 「『賭け』は成立……ですわね?」 「ええ、勿論ですとも……」 「ふふふ」 「はっはっはっ」 「ふふふふふふふふふふふふふふふふふ」 「はっはっはっはっはっはっはっはっ!」 こうして、それぞれの欲望が絡み合い、育郎とモット伯の決闘が実現したのであった。 To be continued…… 22< 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1045.html
ウォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーム!!!!! 『動物は危険を感じたり、怪我などをすると副腎髄質という内臓器からアドレナリン という物質を分泌し、体を緊張させるッ! このアドレナリンの量を脳に寄生する「バオー」が感知し………………………… 「寄生虫バオー」は宿主である橋沢育郎を、生命の危険から守るべく 無敵の肉体に変身させるのだッ!』 こ れ が ッ ! アームド・フェノメノン 『 バ オ ー 武 装 現 象 』 だ ッ !! 異形の咆哮が終わり、呆然としていた回りの生徒達が騒ぎ出す。 「あいつ、亜人だったのか!」 「傷がふさがってるぞ?」 「ひょっとして先住魔法か!?」 『視覚も、聴覚も、嗅覚も「バオー」には関係ない! 感覚はすべて頭部の触覚でまかなう! 「バオー」はギーシュの発する敵意のにおいを触覚で感じ…… そ の に お い が 大 嫌 い だ っ た ! 「バオー」は思った……… こ い つ の に お い を 消 し て や る ッ !』 「あーあ、せっかく黙ってたってのによー」 「なななななななななななな!?」 「落ち着けよ、娘っ子」 「なんなのあれ!?あいつ亜人だったの?何で人間の真似してたの?傷治ってない?」 取り乱したルイズがデルフリンガーに次々と質問をぶつける。 「安心しな娘っ子、相棒は人間だよ」 「じゃあの姿は!?あれだけの変身魔法なんて、先住魔法でもなきゃ…」 「魔法じゃねーって」 「魔法じゃないなら何なのよ!?」 「そう言われてもなー、なんつえば良いんだろ?」 何か良い言い方は無いかと、デルフリンガーが考え込む。 「おーそうだ!あれだ蝶々も元は芋虫だろ?相棒があんな格好になっても不思議じゃ」 「不思議にきまってるじゃない!?」 「まーあれだ、娘っ子はあっちの相棒は初めてだろ?俺もだけどさ。 こうなったらしゃ-ねー。せっかくだからじっくり見とこうじゃねーか」 「………あっちの?」 「ぼ、僕のゴーレムが…」 背後に立つ、己に槍の一撃を放ったワルキューレの顔を、バオーは無造作に掴んだ。 「と…溶けてるぅぅぅぅぅ!!!」 ギーシュが叫んだ通りだった。 青銅で出来たゴーレムが、見る見るうちに溶けていく。 『バオー・メルティッディン・パルム・フェノメノン 手のひらからでる特別な液で物質を溶かす、「バオー」が持つ武装現象の一つ』 「あ…あぁ…」 僅か数秒の間、ワルキューレが青銅の塊になるのをギーシュは呆然と見ていた。 そしてバオーがギーシュに向かって一歩踏み出した時、あまりの出来事に 思考を止めていた彼の脳が、やっと動き出す。 「わ、ワルキューレぇ!」 後ずさりながら、目の前の異形に向かって、震える声で青銅の戦乙女達に攻撃の 指令を出す。 まず近くにいたワルキューレ二体が、バオーに向かって槍を持って突撃した。 バオーは近づいてくるワルキューレの方を向いただけで、避けようともしない。 そして両者が交差したと見えた次の瞬間、ワルキューレは無残に両断されていた。 見ればバオーの腕には、いつの間にか刃のような物が生えている。 『バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン 手首の皮膚を鋭く硬質化させ、刃となし敵を切り裂く』 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」 残るゴーレム、先程の四体そろっての突撃を避けられ、マリコルヌを押しつぶしていた ワルキューレ達に武装をさせ、再びバオーに向かって突進させる。 バルバルバルバルバルバル!!! バオーの咆哮と共に、凄まじい音と光がその体から発せられた。 そして、轟音と共に雷撃がワルキューレ達に襲い掛かかる。 『バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノン 細胞間を流れる微弱な電流を直列につなぐ事で、体内に高圧電流が生まれる現象』 崩れ落ちるワルキューレ達、もうギーシュにはワルキューレを作り出す魔力は無い。 それを知っている彼の友人達は、根は怖がりであるギーシュが、すぐに降参すると 思っていた。 「く、来るな………ッ!」 しかしギーシュは後ろにさがりこそすれ、バオーから目をそらさず、降参するような そぶりを見せない。あまつさえ、なけなしの精神力で、まだ呪文を唱えようとしている。 ギーシュだけが理解していたのだ。 この生き物に降伏も、そして逃走すら無意味だという事を。 ギーシュが魔法を唱え終ったのと、バオーの髪が蠢いたのは同時だった。 魔法の効果によって、瞬時にギーシュの目の前に土の壁が作り出され、そして 「ヒィッ!」 土の壁を貫いて、ギーシュの目前に針のようなものが現れる。 『バオー・シューティング・ビースス・スティンガー・フェノメノン 髪の毛が針のように硬質化する現象。刺さった髪がぬけると体温により自然発火する』 からくも目前で止まったものの、後一瞬魔法の発動が遅れていれば自分はこの針に 貫かれていただろう。その事実に恐怖すると共に、一瞬の安堵が生まれる。 だが次の瞬間、ギーシュは胸に何かの衝撃を感じた。 「え?…あ………れ?」 胸が焼け付くように熱い、ふと目の前の、自分の作り出した壁を見ると穴が開いている。 「ああああああああああッ!!」 土の壁が崩れてバオーが姿を見せる、その片方の腕に生えていた刃がなくなっている。 ギーシュは自分の胸を恐る恐る見た、そこにはバオーの腕から無くなった刃が 深々と突き刺さっている。 「ウソ……だろ?」 その言葉と共に血が勢いよく噴出し、それと共に視界がどんどん暗くなっていく。 「…………シュ!!!」 誰かが自分を呼んでいる。 その声は涙で震えているような気がした。 「…モンモランシー?」 その言葉は、もう口から発する事ができなかった。 混乱し、薄れていく意識の中、最後にギーシュが思ったのは、 『モンモランシーが泣いているのは悲しいな』 そんな事だった… ギーシュが倒れるのと同時に、観戦していた生徒達から悲鳴が上がる。 決闘に命を懸けたのは昔の時代である。今や決闘で死ぬ事など、事故以外そうはない。 学生ならなおさらだ。貴族といってもまだまだ子供である。ほとんどが親の庇護の元、 何一つ苦労も無く育ってきた者達なのだ。目の前の『殺人』という異常事態に 対応できるわけも無かった。 しかも殺したのは先住魔法を操る得体の知れない亜人…いや、化け物だ。 何人かの生徒は逃げ出したが、ほとんどは呆然と倒れたギーシュとバオーを何もせずに 眺めている。それは橋沢育郎の主であるルイズも同じだった。 「ギーシュ!」 そんな中、真っ先に動いたのはモンモランシーだった。 倒れたギーシュに駆け寄り、治癒の魔法をかける。だが触媒の秘薬も無しに、いや、 例え秘薬があろうとも、これ程の重症ではもう助からないだろう。 それでも彼女は魔法を止めない。 「ギーシュ、お願い目を開けて!ギーシュ!」 泣きながらギーシュの名前を呼ぶが、目覚めるはずも無い。 それでもモンモランシーは精神力がきれ、気絶するまでギーシュの名を呼び、 治癒の魔法をかけ続けた。 『闘い終えた「バオー」は、変身から少年へ戻っていった』 「これは!?」 育郎の意識が覚醒し、最初に目に入ったのは、倒れるギーシュにすがりつき、 涙を流しながら魔法をかけているモンモランシーの姿だった。 その光景に、自分が何をしてしまったのか悟る。 あの『力」が! 僕の中の化け物の『力』が彼を!? あの時は自分の意思でコントロールできたのに! ドレスとの最後の闘いの時、自分はあの力を制御していた。 だからこそ、最悪あの姿になっても誰かを傷つける事はないと思っていた。 「僕のせいだ…ッ!」 自分に対する怒りがわいてくる。 しかし次の瞬間、ギーシュから、あの『におい』が発せられている事に気付いた。 感じる!かすかだが、まだ彼の生命の『におい』を! 今ならバオーの血で助ける事が出来る、だがコントロールできるのか!? 一瞬の戸惑い。 だが魔法をかけていたモンモランシーが倒れこむのを見たとき、 育郎は決心した。 迷っている暇は無い、コントロールするのだ! でなければ彼が死んでしまう! 目覚めるんだ、僕の中に眠る『力』よ! 『脳に寄生する「バオー」が、橋沢育郎の意思を感知した……… 「バオー」はその意思に従い、宿主である育郎を再び変化させる!』 ウォォォォォォォォム!バルバルバルバル!!! 『宿主の命に危険があるわけではない、だが「バオー」は育郎の意思に従う。 それは宿主のための行動であり、そして「バオー」の意思でもあるのだ!』 「あれ?」 ギーシュが目を覚まして考えたのは、何故自分が地面に寝ているのだろう? という事だった。そしてその自分に、誰かが倒れこんでいることに気付く。 「…モンモランシー?」 一瞬モンモランシーに何かあったのかと思ったが、ただ寝ているだけだと気付き、 安心すると、倒れこんでいる事によって、モンモランシーの胸の感触を味わえている という事実をギーシュは発見した。 こ、これは……なんだかわかんないけどラッキー! 「う…うん……ギーシュ?」 そんなことを考えていると、モンモランシーが目を覚ました。 身持ちの硬いモンモランシーの性格を思い出し、顔が青くなる。 「いや、違うんだモンモランシー!これはその」 「ギーシュ!!!」 「へ?」 モンモランシーがギーシュに抱きついて泣き出した。 「ギーシュ、生きてるのね!?良かった、本当に良かった!ああ、ギーシュ……」 おおおおおお!さらに胸が!おっぱいがいっぱいであります! って『生きてる』? 「あああああッ!!!!」 思い出した。 自分はあのルイズの使い魔に… 傷のあった場所を見てみると、服は汚れているがもう血は止まっている。 それにモンモランシーの胸が当たっているのに、全然痛くない。 というか気持ちいい。 「おお、愛しのモンモランシー!君が治してくれたのかい?」 涙をぬぐったモンモランシーが、ギーシュを見て首を振る。 「わからない…治癒の魔法は懸けてたけど、秘薬もないのにあんな傷…」 「『彼』が君に何かを飲ませたんだ…そしたら君が生き返った」 何故かボロボロになっているマリコルヌが、いつの間にか傍に来ていた。 「『彼』って…ルイズの使い魔の?ど、どうして?」 「わからない……けど、すまなさそうしてたよ、彼は…」 「そうか…教えてくれてありがとう、マリーベル」 「マリコルヌ!風上のマリコルヌだよ!?」 マリコルヌの抗議の声を聞きながしながら、モンモランシーを見ていると ふと、思い出すことがあった。 「も、モンモランシー…」 「なぁに、ギーシュ?」 非常に心苦しいが言わなければならない。 「負けちゃってごめん…いや、その…僕が代わりにあのメイドに謝ってこようか?」 それを聞いたモンモランシーは呆れた顔をした後、笑顔になり 「本当に…馬鹿なんだから…」 もう一度ギーシュに抱きついて、泣いた。 ギーシュは泣いているモンモランシーをなだめながら思った。 それにしても…良いにおいだな モンモランシーの二つ名を思い出す 『香水』のモンモランシー やっぱりモンモランシーの香水はいいな… いや、モンモランシーがつけてるから良いのかな? なんだか幸せな気分になってくる。 でも、やっぱりモンモランシーは笑ってるほうがいいや。 そう思ったが、ギーシュは、なんだか世界で一番自分が幸福のような、 そんな気分になっていた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/801.html
夜が明け、新しい朝を知らせる光が、ルイズの部屋の中へ舞い込んだ。 その光を瞼に受け、僕の意識は覚醒する。 開いた目に飛び込んできたのは、女物のパンティ。 それが、昨日までの事が現実であるということを、僕の頭に思い起こさせた。 朝起きたら夢でありますように。と言う僕のささやかな願いは、見事にブチ砕かれた訳だ。 数度、頭を振って眠気を飛ばす。自前の前髪がゆらゆらと揺れた。 隣の毛布を見る。才人がうずくまるようにして寝ていた。 ……起こしてやるか。 「才人、起きろ!」 真横で寝ている才人の毛布を強引に引き剥がす。 「あああ…… 頭いてぇ……」 毛布を引き剥がされ、無理矢理覚醒させられた才人は、まだ眠そうな目で辺りを見回した。そして僕と同じように、夢じゃねぇのかよ。とつぶやく。 しばらく互いに向かい合い、元の世界への感傷に浸った後、才人が口を開いた。 「まぁ、ちょっとした観光だと思えばいいか」 そういう心の持ち方は貴重だな、と思いつつ、この部屋の主であり、昨日、図らずも僕たちの主人となったルイズを起こすため、ベットへ向かう。 まず、軽く揺さぶる。ルイズは殆ど反応しない。 次に強く揺さぶってみた。ううんと唸りはしたが、起きる気配はない。 ……手のかかるお嬢様だ。 僕はいささか間をおき、ルイズの毛布を思いっきり引っぺがした。 「な、なによ! 何事!?」 相当な勢いで引っぺがされたため、強い風を身に受け、何事かと、ルイズは慌てて身体を起こす。 「朝です。ルイズ。起きて」 「はえ…そう…… って誰よあんた達!」 ルイズは未だ覚醒し切らぬと云った感じで、ボーっとしていたが、やがて昨日まで無かった、自分が他人に起こされたということを認識して、昨日までと違う点…… 僕達に怒鳴りつける。 僕は仕方なく、彼女にもう一度名乗りを上げた。 「花京院典明」 「平賀才人」 その名前を聞き、ルイズはようやく昨日のことを思い出した様子だ。 「ああ、使い魔と下僕ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」 少しばかりカチンとくる。昨日もそうだが、下僕とは何だ、下僕とは。態度としては、既に昨日から出ていたので我慢しようと思ったが、こう、改めて口に出されると腹が立ってくる。 僕はなるべく冷静に勤める。 「服」 動詞がないぞ、動詞が! まあそれでも、何が欲しいのかは解る。 近くの椅子にかけてあった、昨日と同じ型の服…おそらくこれがここの制服なんだろう…を持って行き、ルイズへと手渡す。 ルイズは眠そうな目で、しばらくこちらを見つめる。 ……まさか着替えさせてくれなんて、言うんじゃないだろうな。 そう考えている間に、彼女は僕から服へと視線を変え、けだるそうにネグリジェを脱いでいく。 極めて貧弱ゥ!貧弱ゥ!な胸があらわになった。才人はそれを見て、顔を赤く染める。 僕はというと、元の世界でも女の子に囲まれることがそれなりにあったため、才人よりは耐性がある。流石に母さん以外の裸は初めてだが…、こんなまな板では……。どうせならもっとメロンみたいなのがいい。 と思いつつちらちら見てしまう辺り、僕も才人とあまり変わらないのだろう。 「下着~」 「それくらい自分でやれ!」 まさか下着まで取らせようとするとは思わなかった。ここまで恥じらいがないと、さっきまで感じていたことも全て吹っ飛んでしまう。 そんな僕の悪態にも気づかず、ルイズは下着のあるクローゼットの場所を、僕らに話す。 どうやらお構いなしのようだ。 仕方ない。と思い、部屋を見回す。 ……クローゼットには才人の方が近いな。僕はじっと才人を見つめる。 僕の意図を理解したか、才人は露骨に嫌そうな顔をした。 しかし僕は目線を剃らさない。 ほんの10秒ほどで才人の方が折れ、渋々クローゼットの中から適当な下着をルイズに放り投げた。 なにやらぶつぶつ言っているが、こっちまでは聞こえてこない。 ルイズはその下着を着、もう一度、僕らに先ほどと同じ言葉で、命令をしてきた。 「服」 「服なら、さっき花京院が手渡しただろうが!」 「着せて」 呆れた。まさか本当に言ってくるとは。 本当に何なんだコイツは。元の世界に帰る方法を調べる間とはいえ、僕は本当にコイツとやっていけるのか? 才人は、ルイズとなにやら言い争っている。曰く、着替えさせなきゃ、ご飯ヌキだのどうのこうのと。 丁度いい、この間に下着を洗いに行くなど適当な理由をつけて、少し頭を冷やそう。 僕は感情が爆発しない内にと、扉に手をかけ、部屋を出ていった。 「あ、ずりぃぞ花京院!」 「ちょっと! 早く着せなさいよ!」 才人がこちらに気づくも、ブラウスが手にあって追いかけられないらしい。 僕は聞こえないフリをして、部屋を出ていった。 「さて、洗濯場は、確か中庭の辺りだったか」 辺りを見回してみる。 昨日は暗くて解らなかったが、目の前には三つ、先ほど僕が出てきた、ルイズの部屋と同じような素材のドアが並んでいる。 内、一つの扉が、キィと音を立て開いた。 「……ンンッ!?」 そこから現れたのは、メロンの様なおっぱい……あ、いや、燃えるような赤い髪をした、褐色肌の女性だった。 彫りの深い顔。高い身長(僕の目線ぐらいまである。170程度か?)と、しまりの良いスタイル、そしてどことなく漂う雰囲気は、ルイズのそれと、まさしく反対だ。 「あら? あなた確か……ルイズに召喚されて、広場で大暴れした使い魔じゃない」 そういって彼女は僕をじろじろ見る。どうも他人にじろじろ見られるというのは落ち着かない。 「ふ~ん、結構いい男じゃない。ルイズの使い魔にはもったいないわね」 一通り僕を観察した後、彼女はそんなことをつぶやいた。 というか、僕は使い魔ではない。そのことで僕は抗議の声を挙げようとした所で、少し低めの鳴き声が聞こえた。 「ああ、ごめんフレイム。私がここに立っていたら出られないわね」 彼女がどいた部屋から、のっそのっそと出てきたもの。小型の虎ぐらいのサイズの、赤く巨大な蜥蜴だった。尻尾の先はメラメラと燃えている。 そういえば最近やったゲームで、これと似たようなものを見た。 僕はそのゲームに出ていた其奴の名前を、口にした。 「火蜥蜴……か?」 「そう、サラマンダーよ。しかも火竜山脈のブランドもの!」 火竜山脈のブランドものとか言われても、僕にはさっぱり解らない。だが、彼女の自慢ぷりを見るに、凄いものなのだろう。 件の蜥蜴と目があった。キョロキョロとした、サクランボみたいな目だ。以外と可愛いかも知れない。 それはともかく、しばらくここで暮らすんだ。使い魔という誤解だけでも解いておこうと、僕は自分が使い魔でないと言うことを、昨日あったことをふまえて彼女に話した。 「プックックックックックックッ……。つまり、あなたと契約しようとして失敗して、あっちのほうと契約しちゃったって訳?」 話を聞き終えるなり、彼女は笑いがこらえきれないと口元に手を当てる。 ルイズにとっては相当恥ずかしいことなんだろうが、僕には関係ない。 さて、あまり時間を潰していると、部屋から才人達が出てきて面倒なことになる。僕は未だ笑いをこらえきれない様子の彼女を後目に、さっさと階段の方へと歩き出した。 「これはさっそくルイズをからかう必要があるわねッ!」 階段を下りる時、彼女の、そんな意気揚々とした声と、ドアの開く音が聞こえた。 ふと、思い出した。そういえば…… 「……名前、聞いてなかったな」 洗い場に着くなり、冷たい水で、ごしごし下着を洗う。キャンプ経験もあるし、エジプトへの旅の記憶もあるので、仕事は案外、楽に進んだ。 ……人の洗濯物を洗っている時が、こちらに来て一番落ち着いた時と云うのは、どうなんだろうか? ものの数分で洗い物は仕上がる。洗剤でもあればいいのだが、ここでそういうのは期待できないだろう。 ぱんぱんと洗い物の水気を払う。 「…………良しッ!」 さて、頭もすっきりしたことだし、口論も収まっているだろう。 近くにかけてあった学ランに袖を通して、僕は部屋へと向う。 部屋の扉は既に、鍵がかけられていた。周りの部屋からも、人の気配が一切しない。 ここは学校だ。もう授業の時間なのだろう。 しかし、締め出しを食らってしまうとは。なにやら書き置きが張ってあるが、僕には全く読めない。 「仕方ない。『ハイエロファント・グリーン』」 自らのスタンドをしゅるしゅると、鍵穴へと滑り込ませて扉を開く。 部屋の中にはいって、下着を解りやすい場所においておき、また鍵を閉め直す。 また書き置きが目に入る。 引っぺがして、僕はそれをポケットの中につっこんだ。後で誰かに読んでもらおう。 「そういえば昨日、授業中は衛士として、といってたな」 とりあえず、どこかに衛士のたまり場があるのだろう。そこを探せば、次やるべき事も決められるはずだ。 しかし……場所が解らない。 「仕方ない自分で探すか」 この状況、記憶の彼なら、こういうだろうな。 やれやれだぜ。と To be contenued……