約 439,944 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1680.html
「と言うわけで、フォン・ツェルプストーは家は、代々ヴァリエールの領地を 治める貴族にとって、不倶戴天の敵なのよ!」 「ほら見てイクロー!あれがラグドリアン湖よ」 「なつかしーな…俺も昔あそこに10年ばかし沈んでたんだよ。 あの時漁師の網にひっかからなかったら、あともう10年はそのままだったな」 「それは大変だったね…」 「いや、あれはあれで結構楽しかったぜ。人の世界にあきあきしてた頃だったし。 それにそん時のあそこのヌシがすげー奴でな、サンペーって釣りキチとの勝負は」 「ってちゃんと聞きなさいよ!?」 学院を出発した直後、ギーシュがルイズとキュルケの家が宿敵同士と言ってた事が 気になった育郎は、早速ルイズ達にその事を聞いてみたのだが……… 今の今まで延々と両家の因縁というか、愚痴と言うか、まあそんな事を延々と 聞かされる事になったのだ。 「でも、今の二人は友達じゃないか。これから仲良く」 「ともだちぃ?冗談じゃないわ!だれがキュルケなんかと!」 「ひどいわルイズ!私はこんなに貴方の事が大好きなのに!」 「ちょ、ちょっとキュルケ、抱きつかないでよ! そそそそれに大好きって、いいいけしゃあしゃあとウソ言うんじゃないわよ!」 「ええ、もちろんウソよ。貴方が嫌がると思って言ったみたんだけど」 「あ、あんたねえ!」 「仲良いように見えるけどな…」 育郎がタバサの方を向いて言うと、彼女は無言で地上を指差した。 「………国境」 「…にしても貴方がガリアの人間だったなんてね」 入国手続きを終えて、再びシルフィードに乗ったルイズが、空の上でもいつもと 変わらず本を読んでいる、タバサを見ながら言う。それはタバサがルイズ達に、 国境を超えるための通行手形の発行を頼むよう指示した事で判明したのだった。 「そうね、私と同じ留学生だったなんて知らなかったわ」 『タバサ』という飼い猫にでもつけるような名前に、それが偽名であるという事を 薄々感じ、何か複雑な事情があると考えていたキュルケであったが、今までその 理由をあえて尋ねようとはしなかった。 「ってあんた達友達じゃなかったの?」 「あら、友達だからよ。タバサが話したくなったら、その時聞けばいいのよ」 性格が正反対の二人が仲良くなれたのは、お互い相手を無闇に詮索するような真似を しない事も無関係ではないだろう。 「まあ、別に貴方達がそれでいいならかまわないけど…」 ひょっとして、今日何しに来たのかすら知らないんじゃないかとルイズが聞こうと した時、眼下に旧い、立派な作りの屋敷が見えた。 「あのお屋敷…ひょっとして貴方の?」 その言葉にタバサは無言で頷く。 「タバサ…?」 屋敷を見たその一瞬、タバサの瞳の奥に親友の自分でも見た事のない、暗い何かが 宿った事に、キュルケは言いようのない不安を感じたのであった。 「お嬢様、お帰りなさいませ」 シルフィードが玄関の前に降り立ってすぐに、屋敷の仲から一人の老僕が出てきて タバサに恭しく頭を下げた。他に出迎えの者は居ない。 「随分と寂しい屋敷ね…ほかに人はいないのかしら?」 客間へと案内される途中、ルイズが小声で育郎に話しかける。 「…かもしれない」 暗い顔で育郎が答える。彼は屋敷に立ち込める、陰鬱な感情のにおいを感じていた。 「ねぇ、貴方はどう思う…キュルケ?」 育郎の様子に不安を感じたルイズが、キュルケに声をかけようとするが、隣を歩いて いたはずのキュルケがいない。後ろを振り返ると、立ち止まり、驚いた様子で何かを じっと見ているではないか。 「もう、どうしたのよ…」 近づくルイズに気付いたキュルケが、自分が見ているものを指差す。 「これ…この家の紋章かしら…ってこの紋章は確か!?」 その紋章は交差した2本の杖に『さらに先へ』との銘が書かれたものだった。 さらにその紋章にはバッテンの傷がついている。不名誉印である。 この家の者はこの紋章を掲げる家の権利を剥奪されている事になる。 「おい、どうした娘っ子たち?」 歩みを止める二人に気付いたデルフが声をかける。 「…なんでもないわ」 キュルケがそう答え、まだ紋章を食い入るように見ているルイズを歩くよう促す。 「母さまのところへ…あなた達はここで待ってて」 客間のソファにキュルケとルイズを案内すると、タバサは育郎を連れてでていった。 「ねえ、タバサのお母様がどうかしたの?」 「病気だって。育郎に治して欲しいって頼まれたの」 「え、そうだったの?それで病気ってどんな?」 「そこまで聞いてない…」 何処と鳴く居心地の悪い空気が流れる中、先程の老僕が部屋に入り、ルイズ達の 前にワインと御菓子を置き、恭しく礼をした。 「私、オルレアン家の執事を勤めておりまするぺルスランでございます。 おそれながら、シャルロットお嬢様のお友達でございますか?」 キュルケが頷き、ルイズも躊躇いながらも同じように頷く。 「シャルロットって…タバサの事?」 ルイズがそう尋ねると、ぺルスランは切なげに溜息を漏らした。 「お嬢様は『タバサ』と名乗ってらっしゃるのですか…」 「ねえ、オルレアン家って確かガリアの王弟家よね?この家の紋章も王家のものだし」 そう、先程見た紋章は間違いなくガリア王家のものだったのだ。 「どうして紋章に不名誉印を?」 「お見受けしたところ、外国のおかたと存じますが…お許しがいただければ、 お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? 「ゲルマニアのフォン・ツェルプストー」 「トリスティンのラ・ヴァリエールよ」 しばし考えた後、ベルスランはゆっくりと口を開いた。 「わかりました…奥様の治療の為とはいえ、お嬢様が御友人をこの屋敷に連れてくる など、絶えてないこと。お嬢様が心許す方なら、かまいますまい。 お二人を信用してお話しましょう………この屋敷は牢獄なのです」 タバサは屋敷の一番奥の部屋の扉を開け、育郎に入るように促す。 大きく殺風景な部屋だった。その部屋の奥に、椅子に座り、開け放した窓からの 入り込む風を受けている女性がいる事を育郎は気付く。 それは人形を抱いた痩身の女性だった。元は美しかったのだろうが、病の為か 今はもう見る影もなくやつれはてている。 「だれ?」 育郎に気付いた女性は、その手に抱えた人形をぎゅっと抱きしめ、脅える子供の ような目をこちらに向け、わななく声で女性は問いかける。 「あの…育郎と言う者ですが、貴方がタバサのお母さんですか?」 だが女性は育郎の言葉を最後まで聞く事無く、目を爛々と光らせて叫ぶ。 「下がりなさい無礼者!王家の回し者ね?わたしからシャルロットを奪おう というのね?誰が貴方がたに、かわいいシャルロットを渡すものですか!」 そうして抱きしめた人形に頬擦りする。何度も同じようにしているのだろう、人形の 顔は擦り切れて、綿がはみ出ている。 「タバサ…これは…」 タバサは黙って女性に近づき、深々と頭を下げた。 「ただいま帰りました。母さま」 やはりこの女性がタバサの母かと驚く育郎。 そしてタバサの母は自分の娘にも、憎しみの目を向ける。 「おそろしや…この子がいずれ王位を狙うなどと、誰が申したのでありましょう? 私達は静かに暮らしたいだけなのに…下がりなさい!下がれ!」 母はタバサに、目の前のテーブルに置かれたグラスを投げつける。 「タバサ…」 タバサはそれを避けようともしなかった。そればかりか、母に笑みを浮かべる。 だがその笑みは、見ている者の心が締め付けられる、どこまでも悲しいものだった。 その時育郎は気付いた。館に蔓延する暗く沈み込んだにおいは、目の前の小さな 少女が、長年にわたって染み込ませて来たものであろうという事に。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1345.html
「ほら、朝だよ」 育郎がベッドの中で丸くなっているルイズを揺さぶる。 「うにゅ~もうちょっとー」 「もうそろそろ準備しないと遅れるよ」 「むー」 仕方なくベッドから離れるルイズ 「ほら、顔を洗って。着替えはいつも通りそこにあるから」 「ふぁ~い」 「着替えはおわったね、はい鞄」 「うん」 「それじゃあ行こうか…ど、どうかしたのかい!?」 見るとルイズが頭を抱えてうずくまっている。 ルイズは先日の一件で色々考えた結果、もう育郎を召使のように扱うのはやめようと 決心したのであった。それは単純に、育郎の境遇に同情したと言うだけではないのだが、 とにかく、今日からはそれまでのように、自分のことは自分でしようと、 そう考えていたのである。 ち、ちがう…こんなはずじゃなかったのに! 平民に何もかもやらせる事は、貴族を人間的にどんどん駄目にしてるのかも… ルイズは生まれて初めてそんな事を思った。 食堂に入ると、自分達に視線が集まるのを感じる。 なんとなく、使い魔を連れての初めての授業を思い出すが、その時とは視線の質が 明らかに違う。ある生徒達はこちらを見ながら、小声で囁き合い、ある生徒は露骨に 脅えた顔をこちらに向ける。中にはルイズを見て、涙を流す女生徒までいた。 昨日何故か部屋にやってきたキュルケから、育郎が悪魔だのなんだの好き勝手に 噂されているとは聞いていたのだが… 「…予想していたとはいえ、ここまでとはね」 溜息をつくルイズ。育郎を見ると複雑な表情をしている。 幸いな事に、先生達はチラリとこちらを見る事はあっても、基本的にそれぐらいで、 特に変わった反応はしない。一応オールド・オスマンの説明を信じているようだ。 そのオールド・オスマンの姿も見えたが、ミス・ロングビルにアッパーを喰らって 宙を舞っていた。これはどうでもいい。 あ、浮いたオールド・オスマンにさらにストレートを叩き込んでる。 とはいえ、どうでもいい事にはかわらないけど。 「ところでルイズ…僕の食事だけど、本当に良いのかい?」 育郎がルイズの隣に並べられた、食事を指差して聞く。 「いいのよ!その、えーと、ほらあれよあれ!た、ただの平民よりはこう、 使い魔として役にじゃなくて…とにかくいいの!」 そう言って隣の席を指差す。 「でも、座る席は決まって…いや、やっぱりいい」 ルイズの席の周りは誰も座っていなかった。ついでに料理もルイズと育郎の分以外は、 かなり離れた場所に置かれていた。 よく見れば平民のメイド達も、調理場からチラチラとこちらを伺っている。 「…まあ、気持ちはわかるけど、何日かすればいつも通りになるわよ。たぶん」 脅えながらこちらを伺うメイド達の中に、黒髪の少女を見つけ、育郎の顔が曇る。 育郎は昨日の決闘が終わり、ミス・ロングビルに連れられていく時に、シエスタと 思わしき黒髪が、その場を離れていくのを見ていた。となると、変身した姿も 見ていたと思って良いだろう。脅えるのも仕方が無い。 そう考えていると、自分が見ているのに気付いたメイド達が、 調理場へ引っ込んでいった。 「………外で食べてこようか?」 「い…いいわよ…」 と言ってみたものも、とても食べにくい。 こちらが気になるのは分かるのだが、そんなに凝視されると、その…困る。 「あらルイズ、大人気ね」 「キュルケ!」 「キュルケさん」 食堂に入ってきたキュルケがこちらに気付き、気付かない方がおかしい気もするが、 こちらに手を振って近寄ってくる。 正直いつもなら嫌な顔をして、追い返そうとする所だが、今日に限っては普段通り 語りかけてくるキュルケがありがたかった。 「キュルケでいいわよ、えっとイチローだっけ?」 「イクローです、キュルケさん…」 「だからキュルケで良いって」 とりあえず、昨夜で誤解は解けた(何を誤解していたのかはよくわからないが) キュルケは、育郎が噂のような危険な人物ではないと、納得してくれたようだ。 たまに熱っぽい視線を送るのも、何時もの悪い病気なのだろう。 じゅるり 何時もの悪い病気なのだろう。 「あ、そうそう貴方達タバサ見なかった?」 「タバサ?えっと、授業中いつも貴方の隣に座る、青い髪の子?」 「そう、その子。朝から姿が見えないんだけど、知らないかなって」 「まだ寝てるんじゃないの?」 「う~ん、あの子に限ってそんなことは無いと思うんだけど…」 「その…ちょっと良いかな?」 何時の間にかモンモランシーと腕を組んだギーシュが、三人の傍まで近づいていた。 「君は…その…大丈夫かい?」 育郎が席を立って、ギーシュに近づこうとするが 「………!!!」 「モンモランシー…」 組んだ腕に力を込め、育郎を睨み付けるモンモランシーをギーシュはなだめる。 「その、怪我なら大丈夫さ。君のおかげだよ…」 「ギーシュ!貴方はこいつの」 「あら、最初に決闘を申し込んだのはギーシュのほうじゃない。 傷を治したことを感謝こそすれ、恨むのは筋違いでなくてモンモランシー?」 「…ッ!」 今度はキュルケを睨み付けるモンモランシー、 「モンモランシー、いいんだ。彼女の言うとおりだよ…」 「でも!」 「モンモランシー、君が僕のことを心配してくれるのは本当に嬉しいんだけど…」 「………わかったわ」 さすがに簡単には納得できないのか、不満そうな顔をするが、素直にギーシュの いう事を聞くモンモランシー。 「それで…何の用なのよ?」 ルイズの不機嫌そうな声に、ギーシュが躊躇いながら口を開く。 「その…約束通りあのメイドには謝っておいたよ。 ちゃんとモンモランシーにも頭を下げさせたから…」 「そうか、ありがとう…」 「いや、貴族として当然の…な、なんだい君たち。そんな変な顔して?」 口をポカンと開けているキュルケとルイズに、ギーシュが気付く。 「その、ギーシュならともかく…モンモランシーも!?」 ルイズが驚いた声をあげて、モンモランシーを見る。 「な、何よ…悪い?」 「へー貴方がねぇ…」 キュルケが世にも珍しいという目でモンモランシーとギーシュを見比べる。 「だ、だってその…じゃないとギーシュの名誉が傷つくし… そ、それに言う通りにしないと、そいつが何かするかわからないじゃない!」 「おお!モンモランシー、僕の為に!」 「あ、貴方の為じゃなくて…もう…」 「それでもありがとうと言わせてくれ、愛しいモンモランシー」 顔を真っ赤にしたモンモランシーを、感極まった様子でギーシュが抱きしめる。 「相棒、このバカップルに何か言ってやれ」 「そんな、邪魔するのは悪いよ…」 「なんか、ますます食事がしにくくなったわね…」 「アタシ、タバサの部屋を見て来るわ…」 どうでも良いが、抱き合う二人を『死ねば良いのに』という目でマリコルヌが見ていた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1217.html
学院長室の前。 育郎とルイズを後ろに控えさせ、ミス・ロングビルが扉をノックする。 「学院長、イクロー君を連れてきました。ミス・ヴァリエールも一緒です」 「うむ、入りたまえ」 その声に従っての扉を開けると、頭の剥げた教師の横に育郎の見知った顔があった。 「おじいさん!?」 「…あんた、学院長とも知り合いなの!?」 ルイズが驚いた顔で育郎を見る。 「学院長?じゃあ、おじいさんが?」 「うむ、ワシがトリスティン魔法学院学院長のオスマンじゃ! …そういえば言っとらんかったのう」 ポリポリと頬をかくオスマン氏。 「ねえ…あんたミス・ロングビルや学院長となんで知り合いなのよ?」 ルイズが小声で、と言っても周りの人間にまる聞こえだったが、育郎に問う。 「えっと………」 別に『もっと恐ろしい者の片鱗を味わった』わけではないが、 育郎はありのままを話すべきかどうか悩んだ。 「水場を探していたイクロー君が、私の部屋に使い魔をもぐりこませた オールド・オスマンを見つけたんです」 が、ミス・ロングビルは躊躇無く真実を話した。 「学院長…あなた…」 「い、いや違うんじゃよミスタ・コルベール!み、ミス・ロングビル… 生徒の前でそんな事をばらされたら、学院長としてのワシの威厳が!」 入学式の時カッコつけて二階から飛び降りようとしたが、着地の魔法に失敗し、 のた打ち回った姿を見せられているので、威厳など存在しないのだが… とはいえ、ルイズはそんなことを説明するのも面倒なので黙っていた、 そのかわりにミスタ・コルベールと同じように冷たい視線を送っておく。 「んな事はどうでもいーじゃねーか、それより相棒に話があんだろ?」 「おや、それはインテリジェンスソードですか?珍しい」 ミスタ・コルベールが育郎の手の中のデルフを興味深げに見る。 「ミスタ・ゴマシオ、これ以上話を横道にそらさんでくれんかの?」 「す、すいませんオールド・オスマン…あと私はコルベールです。 というか、さっきちゃんと名前呼んでませんでした?」 抗議するコルベールを無視して、オスマン氏が育郎に向き直る。 「さて、君を呼んだのでは他でもない、君に聞きたい事があるんじゃが… 君の…あの姿の事じゃ…」 「はい………」 予想はできている、というかそれ以外ないだろう。 おそらく魔法を使って、広場での決闘を見ていたのだろう。 「その前に…ミス・ロングビル、ちと席を外してもらえんかの?」 「いえ、私も一緒に聞かせてください…ある程度の事情は聞いていますので」 その言葉に驚くオスマン氏。 「なんじゃと?何故ワシに話さなかったのじゃ!?」 「いえ…あんな姿になれるとまでは聞いてなかったもので…」 ふむ、と頷き、髭をいじりながらしばらくオスマン氏は悩んだが。 「まあ、いいじゃろ…ただし他言無用じゃぞ」 「わかっております」 その言葉に頷いた後、改めて育郎に目を移し、本題を切り出した。 「単刀直入に聞かせてもらおう。君は何者なのかね?」 「………」 育郎は返答に窮していた。 なにせあの『力』の事は、自分自身でさえ良く分からないのだ。 まずは自分がどこから来たのか、そこから話さなければならない。 「ルイズやロングビルさんには話しましたが… 僕は………この世界とはまったく別の世界から来たんです」 魔 界 !!! それは年中曇り空で、山は噴火し、河や池には水の代わりに血が流れ、 なんか空気は悪いわご近所の付き合いまで悪いわ、やたら凶暴なゴリラがいるわ。 そんな晩御飯のおかずを買いに行くのにも一苦労なんじゃないかと思わずには いられない、弱肉強食なとても住みにくそうな世界である! あと悪魔とか住んでる。 なんて事をオスマン氏とコルベールは想像したッ! 「…おじいさん?」 「あ、いや続けてくれたまえ」 「はぁ…そして、僕の世界では魔法は存在しません」 「魔法が存在しない!?君、それはどういう事かね?」 育郎の言葉に、コルベールが興奮した様子で問いかける。 「僕の世界では魔法が迷信とされていて、代わりに科学技術が発達しているんです」 「『カガク』?その『カガク』という技術は魔法が使えなくとも使用できるんだね? 例えばどんなことができるんだ?この世界の魔法より優れているのかね!?」 「ゴホン…あーコルベール君、その話は後で」 オスマン氏が咳払いをして、ミスタ・コルベールを制する。 「す、すいませんオールド・オスマン…君、後でその事を詳しく話してくれないかね?」 「ええ、かまいません」 「ま、それはそれとしてじゃ…君の世界では、人は皆あのような姿になれるのかね?」 「………いいえ」 首を振ってオスマン氏の言葉を否定する育郎。 「僕自身この『力』のことは良く分からないんです…」 「ふむ、と言うと?」 「話すと長くなります…」 そう前置きして、育郎は己の身に降りかかった出来事を話し始めた。 ただの学生だった自分は、家族と一緒に出かけているときに事故に会った。 目を覚ました時、そこは病院ではなく、見知らぬ場所で、一人の少女が傍らにいた。 少女の話により自分が『ドレス』という組織に捕らえられ…… おそらくその時、『ドレス』が自分にあの『力』を……… 逃げる自分達に『ドレス』の殺し屋達が命を狙ってやってきた。 何度も死にそうになるたびに、意識を失い、知らないうちにあの姿になっていて、 殺し屋達を逆に撃退していったらしい。 そして…一緒に逃げていた少女が『ドレス』に捕まり、自分は少女を助ける為に、 この『力』を自分の意思で操り『ドレス』に戦いを挑んだと。 「…スミレを逃がした後、僕は『ドレス』の研究所の自爆に巻き込まれたはずでした。 けど、気がついたらこの世界に召喚されていたんです」 育郎が全てを話し終わると、学院長室は重い沈黙に包まれた。 そんな中、オスマン氏が搾り出すように声を発する。 「………にわかには信じられん話じゃの」 「はい………」 育郎自身こんな話、簡単に信じてもらえるとは思っていない。 「じゃがの…少なくともワシは信じるよ」 「………え?」 「会ったばかりで変な話じゃが…ワシは君という人間は信頼に値する人間だと、 そう感じるんじゃよ。少なくとも、君がこんな嘘を言う人間だとはとても思えん…」 「おじいさん…」 「だからの、少なくともワシだけは君のいう事を信じよう!」 力強く、トリスティン魔法学院の学院長であるオールド・オスマンは言い切る。 「わ、私も信じます!」 オスマン氏の隣に立つ、コルベールがそう叫ぶ。見れば目が潤んでいた。 「き、君…辛かっただろうに……わ、私に出来る事があれば何でも言ってくれ!」 ミス・ロングビル育郎の手をとり、 「イクロー君…困ったことがあったら何でも相談してくださいね…」 優しい声でそう告げる。 「ありがとうございます…でも、僕はここにいるわけには…」 「な、なんで!?」 今までうつむいて育郎の話を聞いていたルイズが、顔を上げて育郎を見る。 「ワシらに迷惑をかけたくない、そう言いたいんじゃな?」 「はい………」 オスマン氏の言葉に頷く育郎。 「ど、どういう事なのよ?さっき剣も似たようなこと言ってたけど…」 途惑うルイズに、オスマン氏が続ける。 「彼はこの世界にも『ドレス』のように、彼を狙う者たちがいるのではないかと 危惧しておるのじゃよ。そして、それは間違ってはおらん…… 事実この国にもそんな組織はある。君にも心当たりはあるじゃろう?」 「…………はい」 王立魔法研究所、アカデミーと呼ばれる、自分の姉も勤めるあの機関に知られれば、 育郎を実験動物にしようと躍起になるだろう。 「でも、それならなおの事、私達の傍にいたほうが…」 オスマン氏がため息をついて答える。 「彼はな…それによってワシらに迷惑がかかる事を心配しとるんじゃよ 先程の話の中にいた、さらわれてしまった少女のようにな…」 オスマン氏の言葉にルイズは押し黙り、再び部屋に重苦しい空気が流れる。 「ま、いざとなれば『ドレス』っちゅうのと同じように少年がアカデミーを 壊滅させるかもしれんがの………なんつって!」 「………」 「………」 「………」 「いや、その…場を和ませようかと…ごめんなさい…」 『洒落になってねーよジジイ』という視線を受けて気まずそうにするオスマン氏。 「まあ、それはそれとしてじゃ。少年よ、そのようなことを気に病む必要は無い」 「ですが…」 「なに、仮にもワシは王立魔法学院の学院長じゃぞ? 宮廷連中がとやかく言おうが、ワシがなんとかして見せるわい!」 「おお、さすが学院長!」 「見直しましたわ、オールド・オスマン!」 「そうじゃろそうじゃろ!」 褒められて調子に乗ったオスマンはミス・ロングビルの尻を豪快に撫で回す。 「見下げ果てましたわ、オールド・オスマン…」 「学院長………」 とりあえず膝蹴りを叩き込むミス・ロングビルであった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1580.html
「なんという事だ…」 目の前が真っ暗になったモット伯がうめく。 「約束を…守ってくれますね?」 自分を打ち破った平民を忌々しげに見る。 一瞬衛兵達を呼び、目撃者共々消すと言う選択肢が頭に浮かぶが、すぐにメイジが一人もいない衛兵達では、逆に返り討ちにあうだけだと思い直した。 こうなったら、せめて潔い態度を見せ、少しでも貴族の矜持を見せようと観念する。 「わかった…約束どおり私のコレクションの一冊を君に」 「え?僕はシエスタさんを」 「も、モット伯!ちょっと、ちょっとこちらへ!」 二人の間に割り込んできたミス・ロングビルが、モット伯を部屋の隅に連れて行く。 「み、ミス・ロングビル?先程あの平民が、何か気になる事を」 「いいですかモット伯!このままではモット伯の立場が非常に悪くなります! 王宮勅使にまで抜擢される貴族が平民に敗れるなんて…と!」 「ま、まぁ確かに…」 ミス・ロングビルの勢いに気圧されてしまい、ついつい頷いてしまう。 「そこで、今回の事は貴方が勝利したという事にすると説得してみます」 「ほ、本当かね!?」 思わずその提案に飛びついてしまい、先程生まれた疑問も、頭の片隅に追いやってしまうモット伯であった。 そのころ育郎の主人であるルイズは。 「あらルイズ、イクローはどうしたのよ?」 一人で食事をとっていた所を、キュルケに話しかけられていた。 ちなみに育郎がいないにもかかわらず、ルイズの回りには誰もいない。 遠巻きに眺める生徒達は各々 「奴がいない!魔界に帰ったのか!?」 「馬鹿!見えないといって、いないとは限らないぞ!」 「感じる…ルイズの隣に誰かいるのを!間違いない、俺霊感強いんだよ」 等と相変わらず好き勝手に騒いでいた。 「…出かけてるのよ」 「何処に?」 キュルケの後ろにいたタバサがルイズに問いかける。 「何よ、貴方まで…ミス・ロングビルが出かけるから護衛を頼まれたのよ」 「学院長の秘書の?なんで?」 「いつもお世話になってるからって…あいつ、あの人に文字を教えてもらってるの」 「なーんか怪しくない?ねぇ、タバサ。貴方はどう思う?」 「別に」 いつも通り感情の無い声で答え、タバサは手に持った本を読みだした。 「もう、素直じゃないんだから…」 「なにが怪しいのよ…言っとくけどね、ミス・ロングビルはモット伯に招待」 「おや?イクローはどうしたんだいルイズ?」 言い返そうとするルイズに、今度はギーシュが話しかけてきた。勿論その横には、何時ものようにモンモランシーが控えている。 「なによあんたまで…っていうか、前から気になったてたんだけど、なんで貴方なにかとイクローを気にしてるの?」 「そう言えばそうね。貴方が女の子以外を気にするなんて珍しいじゃない。 もしかして…モンモランシーがいつも引っ付くようになったから、今度は男にでも鞍替えを…イクロー結構いい男だし」 「へ、へんなこと言わないでよツェルプストー!そんな…ち、違うわよね?」 「そんなわけないじゃないかモンモランシー!ぼ、僕が愛するのは世の美しい女性全てであって、間違っても男なんて」 「美しい女性………全て?」 底冷えするモンモランシーの声に、みるみるうちにギーシュの顔が青くなる。 「い、いや違うんだモンモランシー…その、美しい花は誰にでも感動を与えるだろ? 僕にとって女性はそういう存在であって、でも君だけはほかと比べようのない、 この世で一番の」 「で、貴方は2番以降の花をどうするつもりなの?」 「えーと…」 二人のやり取りを見ながら、キュルケが溜息をつく。 「嫌ね、自分に自信のない女って…」 小さな声で言ったのだが、モンモランシーはその言葉を聞き逃さなかった。 「…貴方、今なんて言ったの?」 ひぃ、とあまりの迫力にギーシュが悲鳴をあげるが、当のキュルケは涼しい顔でその視線を受け止めている。 「あら、聞こえちゃった?そうね、男をつなぎ止める自信がないってのは、自分に魅力がないって言ってるのと同じじゃなくて?」 「なんですってええええ!」 「モンモランシー落ち着いて!キュルケ、もうちょっとこういい方ってものが…」 必死になってモンモランシーをなだめようとするギーシュだが、一方のキュルケはからかう気満々でニヤニヤして、モンモランシーの怒りを煽っている。 「違うの?じゃあなんで貴方決闘の時から、四六時中ギーシュと一緒なのよ?」 「へ?」 その言葉に途端に真っ赤になって、モジモジしだすモンモランシー。 「えーと、そ、それは…」 「ど、どうしたんだいモンモランシー?」 「あら?そんな反応されると気になるじゃない」 「え?何々?」 「………」 ルイズはおろか、タバサまでも本から視線を外し、モンモンランシーを見る。 「そ、そんなことより、なんでギーシュがあいつを気にしてるのかって事でしょ!」 「えー、別に良いじゃない?」 「ほら、ギーシュ!さっさと言いなさい!」 「わ、わかったよモンモランシー」 ギーシュも気にならないではなかったが、愛しいモンモランシーの頼みなので、素直に話し出す。 「その…まあなんだ、経過はどうあれ、僕は彼に助けられたじゃないか?」 「それに恩を感じたの?」 ルイズがいまいち納得の行かない顔をして、疑問の声をあげる。 「うーん、そこら辺はいまいちはっきりしないと言うか…いや、そうかな?」 「何よそれ?」 今度はモンモランシーが呆れた声をあげる。 「とにかくそれもあるんだけど…なんというか、僕は衝撃を受けたんだよ」 うんうんと頷いてギーシュが続ける。 「その…僕はこれまで、極端な話、凄いメイジになれば、立派な貴族になれると思ってたんだ」 「なんというか…本当に極論ね」 キュルケの言葉に相槌を打ちながら続ける。 「うん、けどやっぱり優秀な魔法使いにならないと出世とかは… グラモン家の名を汚さないためにも、ちゃんとした役職につかないと」 ルイズが頷く。彼女自身誰よりも立派な貴族足らんとして、日夜魔法を使えるように努力をしているのだ。ギーシュの考えはよくわかる。 「でも貴方元帥の息子なんでしょ?口を利いてもらえれば、それなりの役職に つけそうなものだけど?」 その言葉にキョトンとなるギーシュ。 「そんなの、僕の力じゃないじゃないか?それじゃ立派な貴族なんて言えないよ。 それに…そんな情けない貴族じゃ、モンモランシーも嫌だろ?」 「ギーシュ…私の為に…」 「当たり前じゃないか、モンモランシー…」 「…それはいいから話を続けなさいよ」 いまにも抱き合いそうな二人に、ルイズがうんざりした顔を向ける。 「あ、うん…えっと、つまりだ、とにかく強い力を持てば、それだけ国にも奉仕できるし、上を目指す事も出来る。けど、彼はあれだけの力をもってるのに平民を助けようとするし、決闘を挑んだ僕の命まで救った… そりゃ、死にそうになったのは彼にやられたからだけど、それ以前に僕は彼に 手加減無しの攻撃をしてるし…とにかく、それだけ凄いのに威張りもしなければ、力をひけらかそうともしないじゃないか? それでだ、僕はその…彼に感銘を受けたと言うか、好意を感じたというか…」 ルイズとモンモランシーが、いまいち要領を得ないと言う顔をしている中、半ば呆れた顔でキュルケが口を開いた。 「つまり…貴方イクローと友達になりたいんでしょ?」 「「へ?」」 ルイズとモンモランシーの声がハモった。 「う、うん。まあ友達と言うか、仲良くしたいと言うか… でも、決闘の事を思い出すと、どことなく気まずいし。だからちょっとずつって」 「女の子には積極的なのにねぇ…にしても、以外に真面目だったり、貴方アタシが思ってたより面白い男だったのね」 珍しくキュルケが感心した声を出す。 「な、なによ面白い男って…」 「良い男って意味よ。よかったわね、モンモランシー」 「はっはっはっ、そんな事言われると照れるじゃないか。ね、モンモランシー?」 「もう、すぐに調子に乗るんだから…」 「さて、それは良いとして… 次はモンモランシーがギーシュといつも一緒にいる理由を聞かないとね」 先程からかおうとした時と同じように、ニヤニヤ笑ってモンモランシーの方を向く。 「な、なんでそうなるのよ!?」 「そうね、是非聞かせてもらわなきゃ」 「る、ルイズ?べ、別に良いじゃない!」 「興味深い」 「タバサ、貴方まで!?」 「でも、僕も話したんだから、君も話してくれると嬉しいなぁ」 四人の視線に、さすがのモンモランシーも観念した。 「…ああもう, 分かったわよ!話せばいいんでしょ!」 半分ヤケクソ気味にそう叫ぶが、いざその時になると、途端にモンモランシーは顔を真っ赤にして、小さな声になる。 「えっと…あの決闘の時、ギーシュがあんな目にあってから、また何かあったらって考えるようになったのよ………そしたら、一緒にいないと不安になって… そりゃ、私の水魔法じゃまだまだだけど、あれからもっとちゃんと勉強もして、 水の秘薬もなるべく持ち歩くようにしてるし…と、とにかくそういう事なの!」 「ああ、モンモランシー!そこまで僕のことを想ってくれたなんて!」 感激に震えるギーシュに、さらに顔を赤くして慌てるモンモランシー。 「か、勘違いしないでよ!ああなったのは、私がギーシュをけしかけたからだし…」 「モンモランシー…愛しい君の優しさに触れられる、それだけで僕は幸せなんだ」 「ギーシュ…」 互いに見つめあい、完全に二人だけの世界に入ってるギーシュとモンモランシー。 「まあ、今日は食べ終わった後だからまだ良かったわ…」 「ほらタバサ、よく見て勉強しておきなさいよ?」 「必要ない」 マリコルヌが、ギーシュとモンモランシーのあまりのストロべリっぷりに、思わず殺意の波動に目覚めそうになっている頃、 「モット伯…やはりトライアングルメイジを打ち破ったと言う事実は、彼にとって かなり価値があるようなので、もう少し出していただかないと…」 「う、うむ…しかしちゃんと黙っていてくれるんだろうな?」 「それはもう、モット伯と全面的に敵対するよりかは、お金で解決する方が特だと私からもよく言っておきますから」 「では頼みますぞ、ミス・ロングビル」 「どうですか、ロングビルさん?」 「もう少し待っていてください…下手に話をつけると、後で気が変わって、シエスタさんやイクロー君に危害を加えようとするかも知れませんし」 「本当にすいません、ロングビルさん…」 「いいんですよ。無事だったとはいえ、イクロー君を危ない目にあわせたんですし」 「そんな、お礼を言うのは僕のほうですよ!貴方がいなければ、シエスタさんを助ける事が出来たかどうか…デルフもそう思うだろ?」 「ウン、ソウダネ」 「………シエスタさん…ね」 「え?何か言いましたか?」 「い、いえ…それではもう一度交渉してきますので」 ミス・ロングビルは、モット伯と育郎の間をいったり来たりしながら、更なる戦利品の確保に全力を傾けていた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1769.html
「…というのが、カトレアお嬢様のご病状です」 「はぁ」 育郎が初老を迎えたカトレアの主治医の説明に、生返事で答える。 そもそも育郎は医者でもなければメイジでもないのだ。その二つを要素をまざった 説明などされても、理解できるはずもない。 「どうかしましたか?」 「あ、いえ、凄い部屋だなと思って」 そう言ってごまかす。しかし、実際部屋の様子が気になっているのも確かだ。 治療はカトレアの部屋で行う事になったのだが、その部屋がまた凄いのだ。 ただ豪華だと言うのなら、育郎もそろそろなれてきたのだが、この部屋は それだけではなかった。 「ほら、この子が貴方が学院に行く少し前に、道で倒れてたあの子よ」 「お、大きくなったのね…倒れてた?」 カトレアが頭をなでる蛇の大きさに、少し驚いた様子を見せるルイズ。 周りを見れば、他にもさまざまな動物の姿があった。 ハムスターらしきねずみ、リス、猫、犬、山羊、羊あたりはまあ良いとして、 子馬や子牛、さらにはサラマンダー程の大きさのあるトカゲや熊までいる。 「…カトレアお嬢様は動物がたいそうお好きで」 「そ、そうですか」 さすがに限度と言うものがあるんじゃないか?とは思ったが、思わず目を そらした医者を前にして、さすがにそんなことは言えない育郎であった。 「まあ、それはそれとして…すいません。少し部屋からでてもらえませんか?」 「なんですと?」 育郎の言葉に、医者が軽い驚愕の声をあげる。 東方の医学がどのようなものかという興味は勿論、この医者と呼ぶにはあまりにも 変わったみなりをする平民の少年が、なにかおかしな事をしないかと、この医者は 見張るつもりでもあったのだ。 「その、いろいろ事情がありまして…人に見られてるとちょっと…」 「いや、だが何かあった時、主治医の私がいないと」 「ならドアの前で待ってれば良いじゃない」 育郎の事を察してくれたキュルケが、何とか食い下がろうとする医者に言い放つ。 「しかし…」 「私はかまいませんわ。ルイズが連れて来た方なんですもの」 「お嬢様…わかりました。カトレアお嬢様がそうおっしゃるなら」 カトレアの言葉に従い、渋々とだが医者は部屋をでる。 「私達もでたほうがいい」 「そうね、じゃないと話がこじれるし」 そういってタバサとキュルケも部屋をでる。 「私は…主人だから良いわよね?」 そうしてルイズとカトレア、育郎の3人と無数の動物達が部屋に残った。 「それじゃ育郎。お願い…」 「うん、カトレアさん、目をつぶってもらえますか?」 「ええ」 「良いと言うまで目を開けないでください」 「はい」 育郎の言葉に素直に従うのを確認し、己の身を異形へと変える。 その様子を見た動物達の何匹かが鳴き声を上げる。動物達が暴れださないかと 心配するルイズが、育郎にはやく治療するように促そうとするが、当の育郎は、 何故かその場でじっと固まっていた。 「ねえ、どうかした」 「あらあら」 「………」 動物が騒ぎ出した事に驚いて…ではなくて、騒ぐ動物達が心配だったのだろう。 カトレアは何が起こっているかを知る為に、もっとも単純な手段を使っていた。 簡単に言うと、目を開けたのである。 つまり今カトレアは、しっかりと変身した育郎を目撃してしまったのだ。 「ルイズ…貴方の使い魔って悪魔さんだったのね」 「あ…あの、ちいねえさま。育郎は悪魔なんかじゃなくて」 学園で流れる噂を思い出し、もしカトレアが誰かをよびでもしたらと、ルイズの 背筋に嫌な汗が流れる。 「そうだわ!」 「ちょ!ちょっと待ってくださいちい姉さま!」 ポン、と目の前で手をたたき、何かに気付いた様子を見せるカトレアに、 ますます焦るルイズ。 「えっと、ちいねえさま。イクローは東方の…ってちいねえさま聞いてます?」 まったく話を聞いてない様子のカトレアが、困った顔をして動物達を指差した。 「あの…私はかまいませんが、この子達は食べないでくださいね?」 「食べません」「バル」 「そういえば…どうやってあの人を治すのかしらね?」 カトレアの部屋の隣の部屋で待つことになったキュルケが、自分の隣で いつものように本を読むタバサに話しかける。 「ギーシュを治すのは見てたけど、どうやってかはよくわからなかったのよ。 何か飲ませてたみたいだけど…」 暇なので言ってみただけなので、特に返事は期待していなかったのが、タバサは 本を置いてキュルケを見た。 「彼の…」 血液と言いかけて、口を閉じる、 「か、彼の…なに?」 何故か興奮した様子のキュルケを見ながら、血を飲ませる等と言ったら、学院で 流れる噂を信じて、彼を悪魔などと思うのではないかと考え、言いなおす。 「彼の体液」 「 体 液 !!!」 「じゃあ、目をつぶって…」 「あ、はい」 カトレアが目を閉じると、何処からともなく触手たちが現れる。 「それを舐めてください」 その一本をカトレアの唇に押し付ける。 「わ、わかりました…変なにおいですね、んちゅ」 注・治療の一環です。 「ち、ちい姉さま、よく舐めてくださいね」 身体に数本の触手を巻きつけられたルイズが、上気した顔でそう言う。 注・治療の一環です。こう、ルイズからパワーをもらってる的な。 「え、ええ…きゃあ!」 胸をまさぐる触手の感触に悲鳴を上げるカトレア。 注・治療の一環です。胸を刺激して何かを活性化させる的な。 「大丈夫…心配ありません。そのまま舐めていてください… もうすぐ薬が出ますから…とっても良く効く薬ですよ」 さらなる数の触手たちがカトレアの身体に… じゅるり 「す、素敵な治療ね…」 「?」 等とキュルケが妄想をしている時、カトレアの部屋では、既に治療が終っていた。 「これだけで…よろしいの?」 意外と抵抗なくバオーの血を飲んだカトレアが、育郎に尋ねる。 「ええ…というか、僕にできることはこれぐらいで…」 「ちいねえさま…どう?調子は?」 「そうね、今日はもともと調子がよかったから…ちょっと待って」 カトレアが懐から杖を取り出す。 「ちいねえさま、魔法を使うつもりなの!?」 驚くルイズに、カトレアが小さく頷く。 「ルイズ?」 「魔法はちいねえさまの身体には負担が大きいの… コモンぐらいなら大丈夫だけど、おおきな魔法を使うと」 「そんな…カトレアさん」 心配そうに自分を見る二人に、カトレアが心配ないと笑いかける。 「大丈夫よ、負担はちょっとだけになるように加減するから」 そう言って、窓にむかって歩き出し、呪文をとなえ、外に向かって杖を振る。 すると、かなりの大きさの土ゴーレムがその場にあらわれた。 「すごい…」 思わず感嘆の言葉を上げる育郎。 「15メイルはあるわ…え?」 突如ゴーレムが土に返る。 「ちいねえさま!?」 姉に何かあったのかとルイズが振り返るが、当のカトレアは無言で立ったままだ。 「カトレアさん?」 育郎の言葉を無視し、カトレアはもう一度呪文を唱え、杖をふった。 「これは…さっきの倍はあるぞ!」 先程ゴーレムが立っていた場所に、30メートルはあろうかという巨大な 土ゴーレムが佇んでいるではないか。 「ちいねえさま…大丈夫なの?」 恐る恐る問うルイズに、カトレアは顔に満面の笑みを浮かべて答える。 「ええ、全然負担を感じないのよ!すごいわ!」 その言葉を聞いたルイズは、見る見るうちに顔を輝かせた。 「本当に?イクロー、ちいねえさまの身体が治った!治ったのよ!」 「ああ、よかったね。ルイズ」 イクローの顔にも、安堵の笑みが浮かぶ。 「それにしても…本当に調子が良いのが自分でもよくわかってきたわ。 ンッン~~~~♪ 実にッ!スガスガしい気分ねッ! 歌でもひとつ歌いたい気分だわ、ふふふふふふふ!」 「ちいねえさま、あんまりはしゃいだら…」 「大丈夫よルイズ!3年前に、国一番の水のメイジに診てもらった事があるけど」 そういって、おもむろに自分のこめかみに指を押し付けるカトレア。 「こんなにもッ!絶好調のハレバレとした気分はなかったわ……… ふふふ、貴方の血のおかげね、本当に調子が良いッ!」 「あ、あの…カトレアさん?」 「ち、ちいねえさま?」 「最高に『ハイ!』ってやつよおおおお!うふふふふふふふふふふふふ!!!」 なんだか尋常でないはしゃぎようのカトレアに、言いようのない不安を感じる ルイズと育郎であった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/421.html
小ネタなんでジョースター卿召喚 PS このジョースター卿は10人目 629とジョセフの影響を受けています。 ギーシュ モンモラシーとケティからふられた後の所までキング・クリムゾン発動! 「君が軽率に香水のビンなんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 シエスタは何も言えず、怯えている。 「いいかい?君が香水のビンを置いたとき、知らないふりをしたじゃないか。 話を合わせるぐらいの機転があってもいいだろう?」 「え……でも」 シエスタは目に涙を浮かべながら何か言おうとする。 「口答えするのかい?」 そんな光景を見てジョースター卿は貴族として威厳たっぷりの声でギーシュをたしなめた。 「まぁ、待ちたまえ少年」 「何だ平民…だよな?まぁ、使い魔の分際で口を挟まないでくれないか」 「自分が二股したのがばれて振られたからとは言え、メイドに八つ当たりするのは大人気ない」 「な。。。使い魔の分際で貴族に逆らうのか!!」 「だから落ち着けと、そして逆に考えるんだ」 「逆に?」 「二股かけて振られてしまったと考えるんじゃない、後になって刺されなくてよかったと思うんだ…」 「なっ、何を言い出すんだ!!」 「あの二人の目を思い出すんだ。もし…もしだ…後々になってあの二人の本気の魔法を 一緒に食らって君は…果たして生きているかな?」 「う…」 ギーシュはその光景を思い浮かんで…言葉を失った・・・だがジョースター卿は構わず続けた。 「そして振られたと考えるんじゃない、新たな恋を探せると考えるんだ」 「なっ…だっ、だがっ!僕自身のプライドが…」 「だからと言って平民の女性に八つ当たりする方がプライドが落ちると思うが? ここはおとなしく彼女等に謝ってきたが周りの見る目も変わると思うんだがね」 「うぅ・・・」 「そして二股を許してもらえないなら逆に許してくれる女性を探すんだ」 「なっ、そんな人いるわけないだろ!!」 ・・ 「だから逆に考えたまえ、二股を許してもらえるほど素晴らしい女性に調教するのだよ」 「な・・・僕のワルキューレも月まで吹っ飛ぶこの衝撃・・・」 「そして逆に考え(キング・クリムゾンで時間飛ばし そして放心状態のまま10分間ジョースター卿のセリフを聞き洗脳されてゆくギーシュ… ・・・・・・ 「だがもし浮気相手と子どもが出来たら…」「逆に考えるんだもうその相手は自分から逃れられないと…そして ある人物の言っていたセリフだが…君に送りたい言葉がある」 「?何て言葉を・・・?」 「『ハーレムを作る』『浮気は隠す』「両方」やんなくっちゃあならないってのが 「若さ」のつらいところだ…覚悟はいいかな?(私はやらないがね)」 「…わかった、わかったよジョースター卿!! 貴方の腹黒さ! 「言葉」でなく「心」で理解できた! 浮気をするって思った時は卿ッ! すでに浮気をしているって事だね!」 ・・・何だか熱くなってる二人を見つめている周りのギャラリーは当初は白けた目線で彼等を見ていたが、 ギーシュの目が段々とやばい方向に加熱をしているのを見た女子生徒達は (こいつ・・・さっきまでマンモーニだと思ってたが、 まるで『10年』も修羅場をくぐり抜けて来たようなスゴ味とエロスを感じる目をもつやばい男に…) そしてその日ハルケギニア グラモン家至上最大の好色者ギーシュ・ド・グラモンとして 歴史に刻まれるきっかけとなったとかならなかったとか… おまけ ギーシュ最後の遺言 「僕は「正しい」と思ったからやったんだ 後悔はない… こんな世界とはいえ僕は自分自身の『信じられる道』を歩いていたい!」
https://w.atwiki.jp/4423/pages/218.html
上部タグ未削除 編集する。 カウンター - 2024-08-30 22 52 00 (Fri) 選択肢 投票 この作品はネ申 (1) 良かった (6) 普通 (0) 微妙 (0) いまいち (0) 最悪 (0) ゼロの使い魔は、ヤマグチノボルによるライトノベル作品。 ゼロの使い魔登場人物 ゼロの使い魔用語 リンク内部リンク 外部リンク ゼロの使い魔登場人物 ゼロの使い魔の登場人物 ゼロの使い魔用語 ゼロの使い魔の用語 リンク 内部リンク ゼロの使い魔 [[]] 外部リンク 編集する。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1253.html
「おいっ、花京院。起きろッ!」 聞き慣れない声で目が覚めた。 「ん…… ここは……」 まだ意識がはっきりしない。 一体、僕はどうしたんだ? まず、状況を確認する。 大小様々な遊具が、視界一杯に広がり、くるくると回っている。 「ここは…… 遊園地? な、何故、僕はこんな所に……」 何故、僕はこんな所にいるんだ? 着ている服も学ランだし。 しかも、何故か一人でコーヒーカップの上にのっている。 とりあえず僕は、直前まで何をしていたかを思い出す。 「確か、僕はヨモギの葉を口にして……」 ちょっと待て。 何で、そこから遊園地に飛ぶことがあるんだ? そもそも僕は、異世界に来ているんじゃあないのか? 余りにも不条理すぎる! 論理的じゃないぞッ! 「待てよ、この状況…… 覚えがあるッ!」 そうだ。コレは確か記憶にあった、赤ん坊のスタンド使い…… 「『デス・サーティーン』ッ!」 マズイッ! スタンドの出せない僕は、一般人となにも変わらない! 何とかして起きなくては! 僕は急ぎコーヒーカップから離れ、全体を広く見渡せる所に移る。 「ラリホー。何をやっているんだ、花京院ンンーーッ!?」 後ろから声が聞こえる。 しまった! もう追いつかれていたのか! 振り向くとそこには、記憶と寸分違わない、鎌を持った死神のヴィジョンを持つスタンドが一体。 無駄かもしれないが、僕は近くにあった木の枝を持って、精一杯の抵抗の意を示す。 「デス・サーティーン! 貴様、どうやってここにッ!」 「デス・サーティーン? 何をいっているんだお前は。ラリホー」 「とぼけるなッ!」 「ラリホ?」 目の前のデス・サーティーンは心底解らないといった様子で、首を傾ける。 ……もしかして、違うのか? いや、油断はするな。 「なんだか解らないが、俺はムラサキヨモギの精さ。ラリホー」 「ムラサキヨモギ?」 そういえば、僕が倒れる前に口にしたヨモギの名前が、そんな名前だったな。 目の前の、自称ムラサキヨモギの精は、変わらないペースで、口上を続ける。 「お前はこれから、炎髪灼眼の討ち手と優柔不断男と一緒に紅世の徒と戦ったり、 『宇宙人、未来人、超能力者を探し出して、一緒に遊ぶこと』が目的の団体に所属したり、 所構わずフラグを立てまくる、異能を消す男と一緒に、学園都市で不幸の避雷針をやったりするのさ。ラリホ~」 何を言ってるのか解らないが、かなりマズイ状況だ! 「さて、覚悟はいいかい? 俺は出来てる。ラリホー」 お前が覚悟してどうするんだ! 僕はそう、心の中で毒づいた。 しかし、スタンドの出せない僕には、為す術がない。 「うわああああああ! やめろッ、やめてくれッ!」 僕は持っている枝を必死で振り回す。 しかし抵抗むなしく、自称ムラサキヨモギの精は、僕の目の前まで迫ってきた。 万事休すか…… 僕はすっと、目を閉じ、歯を食いしばった。 しかし、来ると思っていた衝撃はなく、代わりに冷たい冷気が顔にかかった。 僕はゆっくり、目を開ける。 「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース」 「ウッガーッ!」 そこには、ツララに頭を打ち抜かれた、自称ムラサキヨモギの精がいた。 僕はそのツララが飛んできた方向を見る。 そこにはあの、青い髪のちびっ子が杖を構えて、こちらを見ていた。 「間に合った」 「えっと、君は?」 「本当のムラサキヨモギの精。はしばみ草の精も兼務している」 なんだか良く解らないが、とりあえず助かったのだろうか? 「さぁ、はやく起きて。才人やシエスタ達が待ってる」 目の前の少女の、そんな声を聞いて、再び僕の意識は遠くなっていったのだった。 「おい、花京院! しっかりしろよ! なぁ!」 「ノリアキさん、大丈夫ですか! ノリアキさん!」 才人とシエスタの声が聞こえる。 どうやら、二人で僕の身体を揺さぶっているらしい。 重たい瞼を開けると、そこは厨房だった。 ……戻ってきたんだな。 僕はゆっくりと、机に突っ伏していた身体を起こす。 「ああ、やっと起きたのかよ、この野郎!」 「大丈夫ですか?」 才人の顔の赤みが引いている。 どうやら僕は、酔いが抜けるぐらいの時間、ここで突っ伏していたようだ。 僕は二人に向き直る。 そして、右手を口元に持っていき、ありのままに今、起こったことを伝えた。 「あ、ありのまま、今、起こったことを話します! 『ヨモギを食べたと思ったら、生ゴーヤ並みに苦かった』 な、何を言っているのか解らないと思いますが、僕にも何が起こったのか解りませんでした。 舌がどうにか成りそうでした…… 草の味とか、生なんだから苦いのは当たり前とか、そんなちゃちなものでは、断じてありませんでした。 もっと恐ろしい苦みの片鱗を味わいました」 「か、花京院?」 「ノ、ノリアキさん?」 「いや~、どうなることかと思ったぜ」 「もう、二度と食べたくありません……」 ルイズの部屋への帰路。 僕らはあの後、すぐ厨房を後にした。 シエスタやマルトーさんが、心配そうにこちらの様子を見てくるので、非常に居辛いものがあった所為だが。 僕と才人は空を見上げる。 相変わらず、そこには二つの月。 「何か、ああも月がでかい面してると、すげぇ憎たらしいよな」 才人がそんなことを言い出した。 確かに、アレは僕らが異世界に来てしまったという、象徴でもあるんだと思うと、非常に憎たらしく感じる。 才人は何を思ったか、かがみ込んで石を拾う。 そして、何を思ったのか、その石を空に向かって思いっきり投げた。 「あ~、少しはすっきりしたな」 憂さ晴らしか。 気分転換には良いかもな。 僕も一つ、真似をして、空に向かって石を投げた。 僕の投げた石は綺麗な放物線を描き、ガンという、小気味のいい音が響かせる。 見ると、前方にいたギーシュに当たっていた。 「ギーシュ! どうしたのよ! ギーシュ!」 近くにいる金髪ロールの子が、がくがくとギーシュのマントをもって揺らしている。 どうやら何が起こったか、気づいていないようだ。 「やべぇ!」 「逃げますよ、才人」 「おう!」 僕らは足早に、ルイズ達の寮へと向かっていった。 階段を駆け上がって、僕らはルイズの部屋にたどり着く。 そういえば結局、僕の所為で、才人もルイズのことを放置していたらしい。 ルイズのことだ。 主人を不快にさせる使い魔と下僕には罰を与える等といって、また鞭を持っているに違いない。 僕らは覚悟して、部屋のドアに手をかける。 しかし、ドアが開かない。 どうやら鍵をかけているようだ。 「ああっ! 俺等の毛布!」 僕らの毛布と、昨日、屯所から貰った布団が放り出されているのを見て、才人が叫び声をあげた。 その声に反応して、部屋の中から声が聞こえる。 「あああああんた達を人間扱いした、私が間違っていたわ。授業の事だけじゃ飽きたらず、ご主人様の事まで放置して…… あんた達、今日から使い魔と下僕らしく、外で寝なさい」 どもっている。どうやらルイズは相当、怒っているようだ。 「部屋の外は、風が入ってくるから寒いんだが」 「きっと、夢の中のわたしが暖めてくれるわ」 才人が何とか部屋に入れないか、交渉するもばっさりと切り捨てられる。 とりつく島も無しだ。 しかし、それだけでこんなに怒るとは…… 夢の中で暖める? 何のことだ? 「才人。何やったんですか?」 「いやな、ちょっと夢の事でからかっただけだぜ?」 僕はまたか、と思い、手を顔に当てた。 才人はもう少し学習するべきだと思う。 頭を下げるのがいやなのは、僕も同じだが、何故虎の尾を踏む。 わざとか。わざとやっているのか。 沸々と沸いてくるぶつけようのない怒りを、何とかこらえて、僕は才人ととりあえずどうするかについて話し合う。 「で、どうするんです?」 「とりあえず、風呂に入る?」 廊下の空いた窓から、冷たい風が入ってくる。 「却下です。湯冷めをして、風邪を引くのがオチですから」 「じゃあ、一日中入っておくとか」 「のぼせますし、そんな薪の量何処にあるんです? 温度調節だって大変なんですよ?」 僕と才人は改めて、大きなため息をついた。 「仕方ない、このまま毛布にくるまって、朝が来るのを待ちましょう」 「それしかないのか……」 呪われろ! お前のゼロに明日などあるものか! 僕たちは、そんなルイズに対する呪詛を心の中で吐きながら、寒い夜を過ごすことになったのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1678.html
9話 「お前達は・・・なんだ?」 ルイズが謹慎処分になってから5日目のこと。 事が始まったのはトリスタニアの裏通り。 表の世界が居心地悪い、ゴロツキや傭兵たちが集まる場所だ。 そんな場所で――しかも双月が空高く昇る真夜中に、その男は10人近くの傭兵に取り囲まれていた。 その男は何とも奇妙ないでたちをしていた。 頭には緑色の目出し帽、そしてそれにはゴーグルのようなものが留められている。 その身にはマントを纏っていたが、その下の格好は、見たことも聞いたことも無いような、 実に説明しがたい服装だった。 こんな妙ちくりんな格好をしてる人間は、いかにハルケギニア広しといえどもこの男ぐらいしかいまい。 「へっ・・・スッとぼけたツラしてよく言うぜ」 そして、男を囲む傭兵たちのうち、一人が口を開いた。 「オメーが来てからだ・・・。オメーが来てから、上客の依頼は全部オメーの方に集まるようになっちまった。 メイジ殺しだかなんだか知らねーが、新参者のクセに生意気なんだよ!」 「そうだそうだ! ちょっぴり俺らより腕が立つからって出しゃばりやがってよォ~~。 テメー誰に許可もらってここで傭兵稼業やってんだァーー!?」 「新参者は俺たち先輩に気ィ使うってのが筋だろーがッ! そんなことにも頭が回らねーほど、テメーは頭脳がマヌケなのかァー!?」 つまりこの男に仕事を取られてムシャクシャしてた傭兵たちが闇討ちをかけた、という次第だ。 なんとケツの穴の小さいことだろうか。 人数で押して、この男を殺す気でいるのだ。 だがこの傭兵たち、一つだけ大きな間違いを犯していた。 「それで・・・オレを・・・どうするつもりだ?」 「へっ、決まってんだろォ~? テメーはここでブッ殺す! 今まで散々ナメてくれた分、タップリと晴らしてやるぜッ!」 「・・・そうか。そういえば・・・お前ら・・・オレが実際に・・・戦うとこ・・・見たこと・・・あるか?」 「ハッ、無ぇーよ。だからどーしたッつーんだこの田吾作がッ!」 そう。 この傭兵たちは男がどのように戦うのかを見たことがなかったのだ。 この男と戦った者がどのようにして敗れるのか、どのようにして死ぬのか、それがこの傭兵たちには全く分かっていなかったのだ。 「そうか・・・それでは・・・理解できないだろうな」 「ああん? 何がだ」 「『スタンド使い』でもないお前たちでは・・・これから何が起きるのか・・・決して理解できまい・・・」 「『スタンド使い』だぁ~? テメーいきなり何言っt」 ドシュシュシュッ! そこまで言った瞬間だった。 横柄に喋り散らしていた傭兵と、その周りにいた数名が、一瞬にして全身に風穴を開けられた。 男が「何も無いように見える空間」から放った「何か」が、彼らを貫いたのだ。 そしてネズミにかじり散らされたチーズのように、蜂の巣のようになったその傭兵たちは、 棒切れか何かのように、ばったりと頭から倒れた。 倒れたとき、彼らは彼らの血でできた水溜りで、ばしゃりと音を立てた。 「ひ、ひぃっ!」 「て、てて、テメー! い、一体、何をしやがった!」 面食らったのは死んだ傭兵たちの反対側、男の後ろ側にいた傭兵たちだ。 「こ、これでもくらいやがれッ!」 恐怖に駆られ、傭兵たちのうち一人が、男に後ろから斬りかかる。 だが男は軽くジャンプしてそれをかわす。 いや、かわすだけでない。 ジャンプしたままの勢いで、滑るように空中を移動し、蜘蛛のように壁にピタリと取り付いた。 「い、今の見たか!」 「あいつ、飛びやがった! め、メイジでもねえってのに!」 「て、て、テメーまさか、そいつは先住の・・・」 一人が発した「先住」という言葉に、その場の傭兵たち全員の血が凍る。 そして、今更になって彼らは気づいた。 自分たちが、とてつもなく恐ろしい相手に戦いを挑んでしまったことに。 「に・・・逃げろッ!」 誰かが言い出したその言葉に、その場の全員が従った。 そしてすぐさま、路地に逃げ込もうとする。 しかし―― ドシュシュシュシュッ!! 再び放たれた何かが、逃げようとした残りの傭兵全員を撃ち貫いた。 傭兵たちは全身から血を吹いて、走っていた勢いのままに地面に転がり、そのまま動かなくなった。 全てが終わったとき、あたり一面、血の海だった。 男は周囲に動くものがいなくなったことを確認すると、ペタペタと音を立てながら、蜘蛛のように壁から降りる。 そして地面に転がっている傭兵たちがそれで全部だったことを確認したところで―― 「これはこれは、さすがはメイジ殺しとして名高き者。 まったく、実に見事な手腕だこと。見ていて惚れ惚れすることこの上ない」 女の、艶のある声が響いた。 男はすぐに声のした方向を見やる。 するとそこには女が一人だけ、ぽつんと立っていた。 「今さっき殺した輩と・・・お前は・・・関わりがあるのか?」 男が女に問いかける。 「半分は、ね」 そう、女が答えた瞬間―― バギギィッ! 狭い裏通りに、悲鳴のような金属音が響いた。 「やれやれ、落ち着きなさいな。私は連中の不満を利用しただけ。それ以外は連中の意思。 別にこうするように指示したわけじゃあないのよ」 楽しげに言う女の前には、どこから現れたのか、巨大な盾を構える傭兵らしき男が一人。 この盾が、さっき男が放った『何か』を防ぎ、弾き飛ばしたのだ。 しかしそれはいいとしても、これほどの重装備の男がこんな狭い路地に突然現れるようなこと。 そんなことは・・・不可能だ。 「じゃあ・・・『半分』・・・というのは?」 盾を持つ傭兵が突然現れたことと、女の目的に対する二つの警戒心を込めて、男が聞き返す。 「お前の実力を確かめたかったんだよ。噂だけではどうにも信用に欠ける。 やはり、実際に戦うところを見なくては・・・とてもとても、使う気にはならなくて」 「つまりお前は・・・オレを雇いたいのか?」 怪訝な様子で、男が言う。 「話が早くて、こちらも本当に助かる。 前金が1000エキュー。成功したらさらに1000エキュー。 これで仕事を一つ、受けてもらおうかと思ってね」 女が提示した金額のぶっ飛び具合に、男は眉をひそめた。 この男、これまでに貴族から依頼を受ける事は何度もあった。 依頼の内容は主に暗殺。 そしてその相手は腕の立つメイジである事がまた主だったが、これほどまでにはずんでくれる依頼人はいなかった。 何か、裏にある。それも、飛び切り危険な裏話が。 男はすぐさまそう思った。 しかし、男にこの話を断る気はさらさら無い。 自分の能力に自信があった事は勿論、 自分に対して随分ナメた真似をしてくれたこの女の依頼から逃げるのはいささか癪だったからだ。 「・・・受けよう」 「交渉成立ね」 そういって、女はにやりと笑った。 「ああ、そういえばお前の名前を調べていなかったのを思い出した。 また使うことになるかもしれないし、ここで聞いておいたほうが後々都合がいいだろう。 それで、お前の名前は?」 そう聞かれた男は、 「ラング・ラングラー」 そう、答えた。 空高く昇った双月を窓から見上げ、ルイズはため息をついた。 自室謹慎は今日で終わりになるというのに、彼女の心は浮かなかった。 七日前、ルイズ自身がホワイトスネイクに対して言った、「二度と出てこないで」という命令。 それがルイズの心に、未だに引っかかっていたのだ。 あの日の夜に夢に出てきた、過去にホワイトスネイクがした事。 それはきっと本当のこと。 だからホワイトスネイクに対して「卑怯者」といったことは、間違ってはいない。 いや、正しいとか間違いとか、そういうことより先に、自分があの所業を許せない。 そしてホワイトスネイクが以前にした事と同じ事を、以前と同じ感覚ですると言うのなら、そんなのは絶対に認めない。 でも、とルイズは思考を移す。 「二度と出てこないで」と言ったのは、よくなかったかもしれない。 あの時、ホワイトスネイクは何か言おうとしていた。 それは自分も、あの時は分かっていた。 分かっていたからこそ、ホワイトスネイクが何か言い訳をしようとしているように見えてしまった。 そう見えてしまった瞬間、体の芯から熱いものが湧き上がってくるような、そんな気分になって、言ってしまったのだ。 そしてそれを言ったとき、卑怯者といわれても全く表情を変えなかったホワイトスネイクが、 ほんの一瞬、何かしらの感情を顔に浮かべたように見えた。 それがこの七日間、ずっと気にかかっていた。 しかしルイズには、自分の方からホワイトスネイクに「出てきなさい」と命令する気にはなれなかった。 それを言ってしまったら、ホワイトスネイクを許すことになってしまうような気がする。 ホワイトスネイクの方も自分が許されたと思うかもしれない。 それに自分の中で許せないと決めているんだから、それをする気にはなれない。 命令だなんてかこつけて、あんな感情任せのことを言ってしまったのは間違いだったかもしれない。 でも、撤回する気にはなれない。 ルイズは自分の本音と生来の意地っ張りとで、心の中で板挟みになっていた。 自分でどうしたらいいのかが、自分で分からないのだ。 なのに今の自分は謹慎中の身。 いや、謹慎中じゃなかったとしても、今の自分の悩みに答えてくれそうな人はこの学園にはいないだろう。 生徒であっても、教師であっても、正しい答えは期待できない。 例え聞く相手がオスマン氏であったとしても同じだ。 ホワイトスネイクを危険視してるあの人には、むしろホワイトスネイクが出てこない今の状態の方がありがたいだろう。 もしここにちい姉さまがいたなら、ちい姉さまなら、きっと一番いい答えを出してくれたのに。 そう思ったのを最後に、ルイズは悩みを振り払うようにぶんぶんと頭を振るとベッドに潜りこんだ。 起きているとずっと悩んだままになってしまいそうに思えたので、ルイズはぎゅっと目をつむった。 そしてそうしているうちに、だんだんと眠くなってきて、いつの間にかルイズは眠ってしまった。 自分に忍び寄る、大きな危険にも気づかずに。 ホワイトスネイクは考えていた。 これから自分はどうするべきなのか、ということを。 自分の現在の主人たるルイズは、自分にこう命令した。 「二度と出てくるな」と。 ホワイトスネイクにとって主人の命令は絶対である。 それがどんな内容であろうと、どんな結果をもたらすものであろうと、 ホワイトスネイクがそれを気にかける事はなかった。 なかったのだが――このような命令を受けるなどという事は、考えたこともなかった。 ルイズの命令は絶対だ。 だから自分は自分を発現してはならない。 だがそれでは、自分はルイズを守れない。 スタンドの存在意義は「主人の傍に立ち、主人の力となり、主人を守ること」。 プッチ神父とともにあり続けた20年間。 その中で、ホワイトスネイクはそう定義していた。 もちろん、それができないスタンドも存在する。 ドラゴンズ・ドリームはその能力故に主人を守れないし、 サバイバーは主人を守るどころか主人の傍に立つこともできない。 主人を守れないスタンドも存在するのであれば、 それが出来る自分にとっては、なおさら主人を守ることが存在意義であると考えていた。 しかし、それを否定された。 それも守るべき主人に。 そのときの衝撃たるや、20年間、数多くのスタンド使いとの戦いで直面した超常現象にも勝るものだった。 そしてそのときの絶望たるや、ウェザーに追い詰められ、自分が何も出来なくなって、 その果てにプッチ神父がウェザーに命乞いをしたときよりも深いものだった。 自分が自分であることを否定された事は、それだけ大きかったのだ。 ならば自分はどうするべきなのか。 ルイズを守ろうとするのであれば、ルイズの命令に反することになる。 ルイズの命令に従うのであれば、ルイズを守ることができない。 自分が拠って立つべき二つの事実が、互いに互いを阻害している。 ならば――いっそのこと、ルイズから離反するべきか。 幸いルイズとは、どういうわけかダメージの共有が無いのでそれは可能だ。 だがそれは越えてはならない一線だ。 その選択をする事は、自分で自分の存在意義を叩き潰すも同然。 それ以上に馬鹿なことは無い。 であるならば、自分の過去について謝罪の一つでもするべきなのか? いや、それはする気にはならない。 あれらの行動は全てプッチ神父の命令でやったことだし、それを自分でしたことについても罪悪感は無い。 スタンドがスタンド使いの意思で動くものである以上、自分のしたことには何も問題は無い。 むしろ道徳だの倫理だのに縛られ、最善の行動を選べないことの方が問題だ。 だが、とホワイトスネイクは考え直す。 それはプッチ神父とともにあったときの話だ。 今の主人は小さな桃髪の少女、ルイズ。 プッチ神父とはまるで逆の思考の持ち主だ。 だとするならば、その主人に合わせるのがスタンドとしてあるべき姿なのではないか? いや、しかし自分はあくまでもプッチ神父の精神が具現化したもの。 むしろ今の自分が、本来自分があるべき姿なのではないだろうか。 だがそうであったとしても・・・。 結局、ホワイトスネイクも主人のルイズ同様、すごく意地っ張りだった。 それゆえに彼もまた、心の中で板挟みになっていた。 主人に大きな危険が忍び寄っている事など、今のホワイトスネイクには察しようもなかった。 ルイズが眠りにつき、ホワイトスネイクが葛藤していた、その数分後、女子寮の一室。 ほんの少し前まで眠っていた一人の少女が、ぱちりと目を開けた。 そしてむくっと起き上がると、ベッドを降り、 その脇に置いてある、少女の身の丈よりも大きい杖を手に取ると、パジャマ姿のままで部屋を出た。 音も立てずに階段を降り、目当てのドアの前まで来ると、そのドアを軽く二回ノックした。 しかし、中からは応答は無い。 仕方ないのでもう一度、二回ノックする。 すると中からぶつぶつ何かを言う声がして、その後にドアが開いた。 「もぉ~~、誰よ? こんな夜中に・・・」 ドアから出てきたのはキュルケだった。 「・・・って、あら、タバサじゃない。どうしたのよ、一体。それにあなた、まだパジャマのままよ?」 タバサと呼ばれた少女は、表情を変えずに答える。 「変」 「変って・・・何が?」 「分からない。けど・・・」 「何かが・・・来てるって事なの?」 「そう」 ルイズは気づかなかった。 ホワイトスネイクも気づけなかった。 しかしこの青髪の少女――タバサには分かった。 「そいつ」がすぐそこに近づいていることが。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/265.html
鏡の中の世界とか、地下に別世界が存在するのかと言われれば、僕ははっきり『そんなものは存在しません』と答えるだろう。が、超能力者や、幽霊が存在するかと聞かれれば、Yesと答える。 僕……花京院典明は、そういう人間であった。 というのも、僕自身が超能力に当たる力を持っているからだ。 スタンド、ハイエロファント・グリーン。それが僕が、自分の不可思議な力に付けた名前だった。 気が付いたのは小学生にあがる直前ぐらいか。突然、自分の身体から緑色の触手が出てきた。 驚いて両親に泣きついたが、両親には見えていないようだった。 翌日友人に、この話をしたが、やはり見えてはいないようだった。 凄く、寂しくなった。誰も、僕のこの力が見えないのだ。 この世界には、たくさんの人間がいる。しかしその中に、果たして自分と真に心が通じ合う友人は出来るのだろうかと、考えた。 ませていると、僕自身そう思う。気が付けば僕は、グループからはずれていた。 そんな僕の遊びは、一人で出来ること。絵を描くことや、ゲームだった。 高校に上がって、さらに多くの人間と接することになった。が、相変わらず、僕の力が見える人間はいなかった。 しかしながら、代わりに趣味が合う友人は出来た。 その友人達と、心が通じ合うか? と言われればNoだが、今までの、クラスメートとしての会話しかしない連中と比べれば、ずっとマシだった。 今、僕の目の前にいる平賀才人は、そういう友人の一人であった。 「花京院、どうした? 」 「いえ、なんでもないです」 どうやら彼は、修理したパソコンを取りに、わざわざ秋葉原まで来ているらしい。 そういう僕はといえば、OH!THAT S A BASEBALLの2を買いに来たのだが。 こうやって、彼とは何度か出くわしたことがある。 今回も、軽く立ち話をした後、いつものように分かれる、ハズだった。 「……!! 」 訳の分からない楕円形の、鏡のような『何か』。そこに、才人が身体を半分ほど埋めていた。そしてその何かは、才人を飲み込むように包んでいく。 「『ハイエロファント・グリーン』ッ!」 とっさにスタンドで才人の身体をつかむ。何度か試して解ったことだが、このハイエロファント・グリーンは人間一人引き上げるのは、わけない程度の力がある。ぐっと力を込め、引き上げようと試みる。 「………!?」 コンセントの穴に、ピンセットを入れた時の様な感覚が全身を襲い、そのまま僕は意識を手放した。 夢だ。こんな事、僕は体験していない。だけどこれは『現実』であり、『既に起こったことだ』。何故か、僕はそう認識した。 『僕』は家族で、夏休みを利用してエジプトに来ている。そういえば、今年の夏休み、エジプトに旅行に行こうと言う話が出ていたのを思い出した。 これはひょっとして未来のことか? それとも平行世界? そんなファンタジックでメルヘンな事を考えつつも、僕は劇を生で見るように、その記憶をたどっていく。 DIOと名乗る吸血鬼に友達になろうと言われ、DIOの存在感に負けて、精神的に屈したこと。 真に仲間と呼べる人たちに会ったこと。 承太郎と言う男に、助けてもらったこと。 ポルナレフと名乗る男と共に、彼の妹の敵を討ったこと。 アブドゥルという占い師に、承太郎の母についてのコメントをスルーされたこと。 犬…イギーが助っ人としてつれてこられ、それが頼りになるのかと、疑念を抱いたこと。 恐怖を乗り越え、ジョースターと呼ばれる老人と共に、DIOに挑んだこと。 そして…… 「マヌケが…… いいだろう……教えてやる。ザ・ワールドの真の能力は、正に世界を支配する能力であることをッ!!」 「メ…ッセージ…で…す… これが…せい…いっぱい…です。ジョースター……さん、受け取って…ください… 伝わって………ください……」 吸血鬼DIOの秘密を暴き、致命的な傷をおいつつも、最後にそれを伝えて死んだこと。 そこで、記憶は途切れた。そしてその記憶の歯車と、僕がガッシリとかみ合ったのを実感し、理解した。 これは『終わった世界』の僕の記憶だと云うことを。 そして今、自分はこの運命からはずれてしまったと云うことを。 次に僕が目を開いた時。そこには身に覚えのない、澄んだ青空が広がっていた。