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前ページ次ページゼロの斬鉄剣 ゼロの斬鉄剣 1話 ―使い魔の初仕事― ルイズの部屋に案内された五ェ門 「サムライ・・・ニッポン・・・きいたことないわね。」 五ェ門はひとまず自分がどういう場所から来たのか説明していた 「にわかには信じられないけど、あんたみたいな風体の人間はハルケギニアじゃ見ないものね」 「無理に信じろとは言わない、なにせ今の状態でそれを証明できるのは拙者の刀のみなのだ。」 と、五ェ門は自らの命でもある斬鉄剣をルイズに見せる 「・・・・見たことも無い、美しい剣ね、カタナ・・というのかしら?」 「左様、拙者は剣に生きる身、これが拙者の命ともいえるのだ。」 ルイズに斬鉄剣を褒められ多少気をよくする五ェ門。 「ふーん・・とにかくゴエモンはその”サムライ”で剣をあつかえるのね。」 ルイズはひとまず目の前の使い魔はある程度使えるようだと、僅かばかりの希望を見出した 「ところで、拙者が使い魔とやらになったのは分かった、だが具体的に何をすればよいのだ?」 ふう、と一息つくルイズ 「じゃあ、使い魔について説明するわね。」 ルイズは五ェ門の眼を見据える 「使い魔とは主人と感覚を共有できる・・・んだけど、ゴエモンからは何も感じないわ。」 「感覚の共有?」 「つまり使い魔が見ているものや触れているものを感じることができるはずなんだけど、無理のようね。」 うむ、とうなずく五ェ門 「次に秘薬など主人が望む物探す能力、これはどう?」 「地理さえ覚えればある程度は出来ると思うが、期待はしないほうがいいな。」 そう、しかたがないわねという態度でゴエモンを見るルイズ、 「最後にご主人様であるあたしを一生守り続ける、あんた剣士なんだからこれくらいはできそうよね?」 一瞬五ェ門の背筋が凍った 「一生・・・と言ったか?」 「そうよ、そもそも使い間と主人との契約はどちらかが死ぬまで有効で、召還もその間はつかえないの」 「(これも・・・試練か・・・。)」 五ェ門は沈痛な面持ちとなった 「じゃあとにかく今日はもう終わり!」 そういうとルイズは五ェ門の前で服を脱ぎだし 「まっまて!ルイズ!」 なによ、という顔で五ェ門の制止に反応する 「る、ルイズ!女性がみだりに肌をみせるものでは・・・・」 狼狽する五ェ門を見て意外だという顔をするルイズ 「いいじゃない、使い魔如きに見られたところでどうということはないわ。」 顔を真っ赤にする五ェ門、剣の天才といわれた男も女性の免疫はそれほど無いのだ。 「じゃあ、これ明日洗っておいてね!」 脱いだ服を五ェ門に投げ渡す 「(なななな・・なまあたたか・・いや!違う違う!)」 必死で煩悩を鎮める五ェ門、しばらく理性との格闘が続くのだ。 夜中 あたりを静寂が包む 「(なんと静かなのだろうか)」 五ェ門がこの世界に召還されて初めての夜はご満悦のようだ。 「それにしても月明かりが明るい」」 ふと、部屋の窓から月を覗く そしてここに至りはっきりとした異世界の証拠を眼のあたりにした 「月が・・・二つ・・・」 もはや驚きの声もでない五ェ門。 「(いったい何故拙者はこのような所にいるのだろうか・・・。)」 五ェ門は今朝からの出来事を回想していた 光の壁があらわれ、迂闊にも触れたこと、突然視界が開けたと思ったら目の前には桃色の少女 そして・・・・・ うっ と五ェ門は鼻を押さえ懐のちりかみを当てる。 「(いかんいかん!仮にもこれから仮とはいえ主人になる人間にふしだらな・・・)」 今日は休もう、ここが異世界というのならば少なくとも刺客の類は現れないだろうと 普段よりは警戒を解いて睡眠をとることにした、立ったままで。 チュン・・チュン 朝 といってもこの時間であれば生徒は殆ど誰も起きていない時間だ。 「(さて、洗濯・・・・見ないように・・みないように・・)」 と思っていたがよく考えれば洗濯場の場所を教えてもらっていない 「(物はついでだ、探索も兼ねて屋内を歩き回ろうか。)」 ひとまず洗濯物をまとめ、ルイズの部屋を出る五ェ門。 「(それにしても、ずいぶん立派な建物だ)」 五ェ門は壁の厚さや構造をみてここが本当に学び舎なのかと訝しげに見て回る。 歩き回るうち五ェ門は今までの生徒とは違う顔立ちの人間を見つけ、声をかける。 なんとなく日本人に近いような・・・という理由だったが。 「またれよ、そこの給仕。」 呼ばれた給仕、もといメイドの少女は振り返る 「は、はい!なんでしょうか。」 「すまないが洗濯場を探している。」 ああ、とメイドは頷く 「それでしたら私もこれから向かうところなのでご案内いたします。」 「かたじけない。」 そう言ってメイドの後ろを歩く五ェ門。 「ところで、貴方様はミス・ヴァリエールの使い魔さんですか・・?」 ふと、声をかけられる五ェ門。 「いかにも、何故そなたが知っているのだ?」 「はい、平民を使い魔として呼び出したともっぱら・・・あ!すみません・・失礼な事を。」 「構わぬよ、元々身分など無いのだからな。」 そうこうしているうちに洗濯場へ到着する 「こちらが、洗濯場として利用している場所です。石鹸はこちらにあるのでご自由にお使いください。」 なるほど、この世界にも洗濯板があったとはと関心する五ェ門 ふと、五ェ門は洗物を分別する際気がついた、下着にシルクのような物があったのだ。 「すまぬ、ええと・・・」 クスッとはにかむ少女 「シエスタです、貴方様のお名前は?」 「これは無礼を・・。拙者の名は石川五ェ門。」 「ゴエモン様でよろしいでしょうか?」 「いや、様などと仰々しい呼び方は結構だ。」 「じゃあゴエモン”さん”」 それでいいというように頷く五ェ門 「では早速だがシエスタ・・」 言いかけたところでシエスタは 「呼び捨てで構いませんよ、皆からそう呼ばれてます。」 にっこり笑って五ェ門に顔をむける 「(・・・可憐な・・・)」 と思考を巡らせたとき己に渇を入れる。 「・・・?どうかなされましたか?」 「い、いやなんでもない、それより・・・」 五ェ門は持っているシルクと思われる下着を差し出す 「拙者はシルクの類を手洗いしたことが無いのだ、繊細な生地を洗うのを手伝ってほしい。」 ああ、とシエスタは頷き了承する。 「かたじけない、他の生地の物は自分で洗える。」 そういうとせっせと洗濯を始める五ェ門 なるほど、男の一人暮らしで身についた技はここ異世界でも通用するようだ。 てきぱきと洗濯をこなす五ェ門をみて 「(負けられない・・!)」 シエスタが妙に対抗意識をもったのは秘密だ。 しばらくして、洗濯が終わる 「シエスタのお陰で洗濯が早く終わった、感謝いたす。」 ふかぶかとお辞儀をする五ェ門 「い、いいんですよ。これもお仕事ですから。」 かえって恐縮してしまうシエスタ。 「あの・・・よろしければ洗濯物があれば私にお申し付けください」 おもいがけない申し出だったが 「いや、これも使い魔の仕事らしいのだ」 「いえいえ、洗濯物は基本的にメイドのお仕事ですから。」 なんだか申し訳ない気持ちになった五ェ門だがそれが仕事というのならばいたし方が無い 「・・・何から何まですまない、シエスタ。」 「それより後ほど食堂の厨房でいらしてくださいな、一人分ぐらいの賄い食なら出せますよ。」 そう言われ、おもわず昨日から何も食べていないことを思い出す。 「かたじけない。」 そう礼をのべ、そろそろ時間だろうかと思い 「拙者はこれでもどるが・・・」 「洗濯物は乾いたら届けます、ご安心ください!」 「ではそなたの荷物運びを手伝おう。」 「い、いいえとんでもございません、使い魔さんにそんな・・」 といいつつも五ェ門がさっさと洗濯物を持ち上げてしまったため一緒に運ぶこととなった 「(それにしてもスラリとしてて格好いい人だなあ・・・)」 五ェ門の身長は元の世界で180センチ程、ここトリスティンでも比較的大柄なほうである。 「ここでよろしいかな?」 「はい!ありがとうございました!」 シエスタは感謝の言葉をつげる 「それでは拙者はこれにて。」 そうシエスタに告げて主の部屋へ。 「(ルイズもあれほどお淑やかならば、周りの評価も違ってくるだろうに・・・)」 と考えていた。 部屋へ戻るとまだ主人たるルイズは眠りこけていた 「(さて、そろそろ起こすか)」 そう言うなりルイズを揺さぶる五ェ門。 「ん~~。もうたべられにゃい・・・」 何の夢を見ているのだと半ばあきれる五ェ門 「ルイズ、ルイズ、朝だぞ。」 う~んと起き上がるルイズ 「ん~・・・あ!あんた誰よ!」 なるほど、そうきたかと 「お主が使い魔として呼び出したのであろう。」 はっとするルイズ 「そ、そうね・・・そうだったわ。」 平民をみてテンションを下げるルイズ 「じゃあ、着替えさせてよ!」 五ェ門は驚く、だが落ち着いて 「自分で着替えるのだな。」 と言い放つ 「な、なによあんた!使い魔は下僕なの!さっさときがえさせ・・・」 言い切る前に視界が突然変わった いくら主とはいえ子供(年齢はそうでもないが)、ここは教育が必要と五ェ門も怒った。 「御免!」 ルイズをひざに仰向けに乗せてをふりかざし、ルイズの尻をたたき始める 「きゃあ!」 「痛い!」 「お主には!」 「やめて!」 「仮にも主としての」 「痛い!痛い!」 「自覚が!」 「許して!」 「足りない!」 パンパンと叩かれルイズはベソをかいている。 「ぐすっ・・ひっく!」 「少しは主人としての気概をもて、自分で出来ることは自分でするのだな。」 「お父様やお母様にもここまでされたこと・・ぐすっ!」 ギロリとルイズをにらむ。 「ひっ!わ・・わかったわよぅ・・」 思いもよらない仕打ちにすっかり萎縮する そうすると笑顔になる五ェ門 「そうだ、聞き分けのよい子だな、お主は。」 「ふ・・ふん!なによ・・・使い魔のくせに・・」 廊下がざわざわとしてくる 「そろそろ朝食の時間ね・・・。いくわよ、ついていらっしゃい」 そう告げると五ェ門をつれ、廊下にでるルイズであった。 前ページ次ページゼロの斬鉄剣
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前ページ次ページゼロの答え 「うぅ、腰が痛い……」 そう呟きながらルイズは街を歩いていた。 なにせ馬に乗ったことはあるものの、あんな速度で走り続けた経験はない。 なのに初めて馬に乗った上にルイズ以上の速度で駆っていたデュフォーは平然としていた。 恨めしげに横目で睨むものの、文句は言えない、馬で行こうと言ったのは自分である。 まさか初めて乗る馬ですら、あんな完璧に扱うとは思っていなかった。 そのデュフォーはというと、初めて街にきたはずなのにルイズの先を歩いていた。しかも迷いなく。 「ちょっと待ちなさいよ。あんた武器屋の場所わかってるの?」 「お前、頭が悪いな。武器屋はどこだ?の答えも出せるからアンサー・トーカーだろ」 ルイズはその場で深呼吸をして怒りを静めた。街中でキレるわけにはいかない。 「ふぅ……ま、まあそれはいいとしてスリには気をつけ」 ギロリ。そう言いかけた所でデュフォーが横を睨んだ。 「きゃっ!な、なによ急に?」 デュフォーが睨んだ方を見ると一人の男が恐れをなした表情でこそこそと退散するところだった。 「……もしかして今の」 「スリだ」 「……あっそ」 その後、数回同じことがあり、デュフォーに対してスられる心配は杞憂だったとよくわかった。 そうこうしている内に武器屋にたどり着いた。本当に場所がわかっていたことに今更ながらルイズは驚いた。心底得体の知れない使い魔だと思う。 武器屋に入るとルイズはまず店の主人のところに向かった。一方デュフォーはちらりともそちらを見ず、乱雑に積み上げられた剣のところに行った。 そして主人とルイズが話している間にその中から一本の大剣を掴み出した。 「おでれーた!いの一番に俺を選ぶなんていい目をしてるじゃねーか坊主」 デュフォーが掴み出すと同時に剣が叫んだ。が、デュフォーはまったく動じず、まだ話をしている最中のルイズと主人のところへ持ち込んだ。 「おいおい無視すんなよ。てかその体で俺を扱えんのか?悪いことは言わねぇからもっと体に合った武器にしろよ。いくら俺が名剣でもよー」 「ルイズ。この剣でいい」 「へ?ってあんた何勝手に決めてるのよ!それになによその剣は!錆が浮いてボロボロじゃない!みっともない!」 「若奥さまの言うとおりですぜ。そんな剣よりもっと良い剣がうちには」 「この剣以上の物はないだろう?」 「へへっ、その通りだぜ。だけど坊主、お前の体じゃ俺を扱うのはちーとばかし……」 そう剣が喋ったところでデュフォーが左手を見せた。 「これなら問題はないだろ」 「おでれーた!おま『使い手』か!流石俺を一目で選ぶだけのことはあるぜ!俺の名前はデルフリンガーだ。これからよろしくな、相棒!」 何かに引っかかったのかぴくりとデュフォーの眉が動いた。だがデュフォーが口を開くより早くルイズが怒鳴った。 「だーかーらー、勝手に話を決めるなって言ってるでしょうが!何よ、その変なインテリジェンスソードは!」 しかしデュフォーと変な喋る剣は一向に話を聞こうとしない。疲れた溜息を吐くとルイズは主人に告げた。 「……あの剣はいくら?」 「へぇ、あれなら百で十分でさ」 デュフォーはルイズの財布を懐から出すと、その中からきっちり百枚をカウンターに置いた。 「毎度」 鞘に入れられたデルフリンガーをデュフォーは受け取った。肩から提げるようにして身に着ける。 そんなデュフォーを横目に主人とルイズが話をしていた。 「若奥さま。俺がこういうのもなんですが下僕の躾はちゃんとしたほうがいいですぜ」 「……できるならとっくにやってるわよ」 こうして無事(?)目的の剣を購入し、店から出て、学院へと戻るデュフォーとルイズ。 その様子をキュルケたちが見ていた。 「ふふっ、これはチャンスね。あんな剣よりもっと良い剣を買ってあげれば一気に好感度アップよ」 「それはないと思う」 「む、何でよタバサ」 「彼、まったく迷いもせずにあの剣を選んでた。きっとよっぽど気に入ったんだと思う。他の剣をプレゼントしてもあれ以上に気に入られる可能性は低い」 「う、そう言われると。……うーん、確かにあなたが言うとおりね、他の剣を贈っても気に入られなきゃ意味がないわ」 そう言うとキュルケは大きく溜息をついた。せっかく親友に無理やり付き合ってもらってまで街にきたのに収穫は何もないのだ。 タバサごめん、と謝るとキュルケは学院に帰ることにした。勝負は夜だと考えて。 寮に帰るとすぐにルイズはベッドの上でうつ伏せになって枕に突っ伏した。帰りも行きと同様に馬に乗ってきたため、更に腰を痛めたらしい。 患部に水でぬらしたタオルを置いて冷やしてながら恨みがましい目でデュフォーを睨みつけていた。 だがデュフォーはそんなルイズを無視して、さっそく鞘からデルフリンガーを抜いて話しかけた。 「おい」 「なんだ相棒?」 「いつまでその姿でいる気だ」 「は?何言ってんだあいぼぐっ!」 デュフォーは問答無用でデルフリンガーを石造りの壁に叩き付けた。 「思い出したか?」 「いきなり何しや―――」 再び壁に叩きつける。 「思い出したな?」 「は……はい。思い出しました……」 「そうか、なら次だ。ガンダールヴという名前に聞き覚えは?」 「ん、あー……なーんか頭の隅に引っかかる名前だな」 それを聞くとデュフォーは呆れた表情になった。 「……忘れていることが多すぎるな。仕方がない、思い出させてやる」 「お、おい、ちょっと待てよ、相棒。ら、乱暴はよ……」 「この角度で強い衝撃を与えると思い出しやすい」 しばらくの間、金属を石に叩きつける音とデルフリンガーの悲鳴が響いた。 ―――そして小一時間後。 「思い出したな?」 「あ、ああ。ばっちりだぜ相棒……だからもう石に叩きつけるのはよして……お願い……」 ボロボロになったデルフリンガーがそう懇願するのを聞いてデュフォーはこう告げた。 「なら早く元の姿に戻ったらどうだ?」 「わ、わかった。今すぐ戻るぜ!だ、だから岩に叩きつけるのはもう勘弁して……」 デルフリンガーがそう叫ぶと、突然その刀身が光り出した。 そして光が収まるとそこには錆の浮いた大剣ではなく、まるでたった今、研がれたばかりのように光り輝く大剣があった。 「これがほんとの俺の姿さ。ど、どうだい相棒、おでれーたか?」 多少びくびくしながらデュフォーの反応を見るデルフリンガー。だがデュフォーは無反応。 「くぅ~。相棒、そんなんじゃガンダールヴとしちゃ役立たずだぜ!良く聞け!ガンダールヴの力はな」 「心の震えで決まるんだろう」 「なっ!?知ってるのか、相棒。だったら俺の言いたいことも」 「問題はない。心の力を込めることなら慣れている」 「へ?慣れてるってどういうこった」 「他に言いたいことはあるか?」 「いやだからちっとは俺の話を……」 「ねえ、デュフォー。さっきからあんたがこの剣と喋ってるガンダールヴって何?」 デルフリンガーの言葉をさえぎるようにしてベッドの上からルイズがデュフォーに話しかけた。 「名前なら聞いたことがあるはずだが?頭が悪いから忘れてたのか?」 「っの!始祖ブリミルが使役していた伝説の使い魔の一人でしょ!それくらい知ってるわよ!わたしが聞きたいのは何であんたが『ガンダールヴ』とか言ってるのかってこと!」 「お前、頭が悪いな。俺が『ガンダールヴ』だからに決まっているだろ。この使い魔のルーン。これが『ガンダールヴ』の証だ」 そういうとデュフォーはルイズに左手のルーンを見せる。 そしてルイズに対してガンダールヴについての説明を始めた。 デュフォーの説明に対し、最初はうさんくさげな顔をしていたルイズだったが、話が進むにつれ、徐々に顔色が変わってきた。 「理解できたか?」 一通り説明を終えると、デュフォーがそう訊ねる。 「……証拠」 「お前、頭が悪いな。証拠なら」 「違う。ルーンじゃなくて、実際にそんな力を持ってるって証拠を見せて!でないと信じられないわ!」 強張った表情でそう叫ぶルイズ。 仕方ないなと言ってデュフォーはデルフリンガーを持って立ち上がった。 「ついてきて、中庭に行くわよ」 そういうとルイズはドアを開け、部屋の外に出た。 「きゃっ!?」 ちょうどデュフォーに会うためにルイズの部屋の前に来ていたキュルケが、目の前でいきなりドアが開いたことに驚いて悲鳴を上げた。 「ちょっとルイズ!急にドアを開けないでよ、びっくりするじゃない!」 キュルケがルイズに対して文句を言うが、ルイズはそちらを向こうともせず表情を強張らせていた。 それに訝しげな表情を浮かべるキュルケ。だがルイズに続いてデュフォーが出てきたのを見ると相好を崩し、ルイズのことは頭から消え去った。 「あら、ダーリンじゃない。こんな時間に部屋から出るなんて……ひょっとして私の部屋に来る気だったとか?」 デュフォーは違うと一言でキュルケを切って捨てるとルイズの後を追った。 前ページ次ページゼロの答え
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「そういえば、あなた名前は?」 召喚した少女を連れて自分の部屋に戻ってきたルイズは、ドアを閉めて大きく伸びをすると、少女に向き直った。 儀式を失敗し続けたせいで疲れきっていたため、すぐにでも寝たかったが、やっぱり名前ぐらいは聞いておくことにしたのだ。 「・・・なまえ?」 少女は澄んだ瞳でルイズを見つめている。 「いくら平民でも、名前ぐらいある・・・わよね?」 一応“使い魔”なので、ルイズが自分で名づければいいのだが、本名も知っておくにこしたことはない。 呼びやすいものならそのまま使えばいいし。 「グゥです」 「グゥ?一応聞くけど、それってあだ名とか二つ名じゃなくて、本名?」 「はい」 “グゥ”がにっこりと笑って返事をする。 ルイズは何故かその笑顔にドキッとした。 ちょ、調子狂うわね・・・ 変わった名前、語呂はともかく二文字って短すぎない?平民だから? 「わたしはルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。ルイズって呼んでくれていいわよ、グゥ。 あなたはわたしの使い魔として“サモン・サーヴァント”で呼ばれたの。 今日からはここ、トリステイン魔法学院女子寮のこの部屋があなたの家よ」 「ルイズ・ド・ラ・・・ヴァリエール・・・・・・ルイズ・・・・・・よろしく、ね」 「ええ、よろしく」 ルイズは改めてグゥを眺めた。どう見ても子供だ。おガキ様だ。しかも平民の。 それにしてもいきなり召喚されたというのに、そのはにかんだような笑顔からは悪意も動揺も感じられない。 実は凄く剛胆な性格なのかもしれない。 そしてやたら可愛い、まあ可愛いのはもちろんいいんだけど。 この子、使い魔としては何ができるのかしら? 使い魔になれば普通、ちょっとした集中で視聴覚等の共有ができる(と教わった)が、少なくとも今は全くできない。 秘薬とかの材料を集めてくるとか・・・集め・・・あつ・・・。 いくらなんでもそれは無理がある。 そして、使い魔は主人を守ると聞く。 現状どちらかと言えば、ルイズの方がグゥを守らないとまずそうな雰囲気である。 ならわたしの身の回りの世話でもさせてみようか。 ちゃんとできるのかしら?この子、10歳?それとも9歳なの?うう・・・。 ・・・明日以降、ゆっくり考えよう。 ルイズはとりあえず考えることを放棄してグゥに声をかけた。 「今日はもう疲れたし、寝ましょうか。このベッド一応ダブルだし、わたしの隣でいいわよ。 そうそう、わたしより早く起きたら、起こしてね。じゃ、おやすみ」 「はい、おやすみなさい」 相変わらずの笑顔で頷いたグゥは、すぐに軽い音を立ててベッドに滑り込んだ。 ルイズもパジャマに着替え、それに続いた。 翌朝。 誰かがルイズの頭をぺしぺし叩いている。 「うーん、何よ、もう朝?っていうか誰?」 そういえば、昨日使い魔を召喚したんだっけ、なんかやたら可愛い子を。 「ふぁあ、おはよう、グゥ・・・」 「おはよう・・・」 背後から子供にしては妙に低い、呟くような声がする。 グゥってこんな声だったかしら? 「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!あ、ああああああ、あんた誰よ!」 ルイズが振り返ると、そこにはなんとハの字眉に三白眼で、その上強烈な威圧感を全身から発する謎の子供が立っていた。 「グゥだが」 そそそそんなわけあるか、昨日の子とは何もかもが違う。 それ以前にこいつどこから入ってきたの?ねえここの警備ってザル!? 「いやあんたマジで誰!グゥはどこ行ったの!ねえ!ねえってばあああああ!」 ルイズは絶叫した。 途端、部屋のドアが猛烈な勢いで開き、燃えるような赤い髪の女が飛び込んできた。 「ルイズあなたねえ、何早朝から叫び声上げてんのよ!迷惑にも程があるわ!」 「なな、何でキュルケがわたしの部屋に?」 「自分のその小さな胸に聞いてみなさいよ。それより何、どうしたの?」 「小さなって失礼ね!あんたのが無駄に大き・・・」 はっ、今はこいつの軽口にかまっている暇はないんだわ。少しでも情報を。 「わわわわたしの召喚した使い魔がいないのよ!」 「何を言っているの?あなたが昨日召喚した子はそこに居るじゃない。 いくら平民を召喚したからって、現実逃避はよくないわ“ゼロのルイズ”?」 ルイズの頬が怒りで朱に染まった。 「あんたこそ何言ってるのよ、“これ”と昨日呼んだ子は全ッ然!何ひとつ一致してないわ!!!」 キュルケがかわいそうなものを眺めるような表情でルイズを見つめる。 「じゃあ、あなたの言うところの昨日召喚した使い魔ってどんなのよ?」 「えーと、肌が白くって」 「白いわね、透けるみたいに」 「あんまり見ない顔でー」 「そうね、少なくともトリステイン人じゃないわね」 「小柄で痩せてる・・・」 「小柄で痩せてるわよ?いい加減現実を見なさい」 ああ・・・でも違う・・・違うのよ・・・ ルイズが頭を抱えてうずくまる。キュルケは溜め息をついた。 そのとき、キュルケは昨日ルイズが召喚したという少女がドアの外、自分の背後を興味深そうに見つめていることに気づいた。 そこには、キュルケの使い魔である幻獣サラマンダーが待機している。 「あなた、お名前は?」 「・・・グゥです」 「ふうん、変わった名前ね。わたしは“微熱のキュルケ”。グゥちゃん、わたしのフレイムが気に入ったの?」 グゥはこくこくと頷く。 「もしかしてあなた、主人よりものを見る目あるんじゃない? この子は火竜山脈のサラマンダー。強いし、高いのよ」 「・・・すごいですね」 「・・・すごいわよ。さて、ルイズも静かになったみたいだし、わたしはもう少し寝るわ、お先に失礼。またね」 キュルケはひらひらと手を振ると、パタンとドアを閉め自室に戻っていった。 「さよなら」 グゥも手を振った。しかし。 「ふぅ」 グゥがいきなり溜め息をつき、無愛想に戻る。 そのやりとりを呆然と眺めていたルイズは開いた口がふさがらない。 「あなたが確かにグゥだってことはわかったわ」 「・・・」 それが判ったところで、神経をすり減らすような無言の威圧感が軽減されるわけではまったくなかったが。 使い魔として何ができるか以前に、どうコミュニケーションを取るかということが当面の課題となりそうである。 「ね、ねえ、なんで顔・・・変わるの?」 グゥの変貌度たるや、水+風の魔法“フェイス・チェンジ”に匹敵する。 しかし、少なくともルイズにとっては魔法を使っているように感じなかった。 「これ?」 再びグゥの顔が愛想のいい美少女に変化する。 「そう!それよ!」 「特技。・・・営業用?」 瞬時に顔を戻したグゥがぽつりと呟いた。 「そ、そう。あんまりにも怪しいから、できるだけやらないでね・・・」 起き抜けにひどい精神ダメージを受けたルイズには、そう言うのが精一杯だった。
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前ページ次ページゼロのエルクゥ アルビオンの朝は、楓の目には不思議な風景が広がる。 空は明るくなってくるけれど、陽は昇っていない……元の世界なら明け方に束の間垣間見えるような光景が、空が真っ青に染まるまで続く。 アルビオンが、ハルケギニアの大地より遥か上空に浮かぶ浮遊大陸だから、という事だが、それは、夜に浮かび上がる双子の月と並んで、ここが異世界であると楓に実感させてくれるものだった。 「んん……ぅ」 楓が目を覚ましたのは、太陽が姿を見せはじめてからだった。 前日に慣れないワインを嗜んだせいか、心なし頭が重い。 「はふ……」 上半身だけを起き上がらせ、その重さを吐き出すように息をつく。 幸い、痛みというほどの物でもなかった。ティファニアから借りている寝巻きを脱ぎ、洗濯しておいたセーラー服に着替える。 ……その寝巻きの胸の部分だけがダボダボなのには、未だに慣れない。スタイルにあまり興味のない自分は違和感だけで済んでいるが、これが千鶴姉さんや梓姉さんだったら、きっと落ち込むか暴れるかしていたであろう、と楓は何気に酷い事を考えていた。 「マチルダ姉ちゃーん! 山作ってよ、山!」 「やまー!」 「やれやれ、お前達も好きだねぇ」 ベッドに座って、何をするでもなく窓の外に目を向けると、薪束に腰を下ろしたマチルダが子供達とじゃれ合っていた。 マチルダが苦笑しながら、少々わざとらしく面倒そうな素振りを見せて、杖を振る。 すると、もりもりと地面が盛り上がり、小学校の校庭にあるような土の小山が現れる。子供達がはしゃいだ顔でそれに駆け上ったり、滑り降りたりを始めた。どこの世界も子供というのは変わらないらしい、微笑ましい光景だった。 「魔法……魔法学院、か」 昨日聞いた事が、脳裏に思い出される。 『あんた……"エルクゥ"かい?』 ティファニアが楓を『サモン・サーヴァント』で呼んでしまった事を話し、自己紹介を終え、マチルダが数秒固まった後に言ったのは、そんな言葉だった。 思わず身構えてしまって、座っていた椅子を壊しそうになったのはご愛嬌だ。 『なに、カマかけたのはこっちだから気におしでないよ。あんたのいい人は、トリステイン魔法学院ってところにいる。生徒の一人に使い魔として呼ばれたのさ。……はは、なに照れてんだい。こんなところまで男追っかけてくるなんざ、丸分かりもいいところじゃないか』 続けて言われたそれは、その前以上の衝撃だった。 一番知りたかった事がいきなり転がり込んでくるなんて、どんな偶然なのか。思わず、『ドッキリ』とか書かれたプラカードが出てこないかと心配になったぐらいだ。 マチルダは、この間までその魔法学院の学院長秘書をしており、使い魔として人が呼び出された珍しいケースの調査をしたから覚えていた、という事情だそうだ。 ……しかし、いい人、などと言われて思わず赤面してしまったのは不覚だった。 歳も、学校も、住んでいるところも違うから、姉妹以外に冷やかされる事など皆無であり、耐性がなかったのだ。 もし、耕一と自分が同じ学校の同級生であったりしたら、こんな事が日常であったりしたのだろうか―――。 そんな事を考えて、楓は熱を持った頭をふるふると振った。 『コーイチ君も元の場所に帰ろうと努力はしてたみたいだけどね。残念ながら、使い魔を送り返す魔法なんてのは存在しないんだ。まだ向こうで使い魔やってるんじゃないかい?』 それは、出来すぎなんじゃないかと思うぐらいの希望と―――落胆だった。 耕一に会える可能性は飛躍的に高まったが、帰る事が出来ないのでは片手落ちにも程がある。 「……ふぅ」 とりあえずは耕一と会わなければ。元々帰れるかどうかわからない状態だったのだから、マチルダの情報は大きな前進と言っていい。 それに……帰る方法なら、ほんの少しだけ、手がかりを見つけた事だし。 「……うん」 行こう。トリステイン魔法学院へ。 § 「そう、行くのかい」 「はい。明日の朝、出発しようと思います」 夕飯が終わり、子供達がそれぞれの家へと帰った後、楓が切り出すと、二人は対照的な表情を浮かべた。 「ありがとうございます、マチルダさん」 「はン、どうせ誰に言ったって信じてもらえないような話さ。売れない情報なんかに興味はないさね」 そう嘯くマチルダの頬はかすかに赤く、楓は薄く微笑んだ。 「ティファニアさんも、ありがとう。どうもお世話になりました」 「あ、う、うん……」 俯くティファニアの顔は暗く、何かを考え込んでいるようでもあった。 「テファ、どうかしたのかい?」 「う、ううん! なんでもないの。あの、恋人さんの手掛かりが掴めて良かったですね、カエデさん!」 「……?」 慌てたように、ティファニアは笑顔を作る。 ―――はーン。なるほどねえ。 不思議そうに首を傾げる楓の横で、マチルダが下世話な―――しかし確かな慈愛を感じさせるような、妙齢の女性の強かさが滲み出る笑みを浮かべていた。 「テファ」 「な、なに? マチルダ姉さん」 「言いたい事があるなら今の内に言っときな。もう会えないかもしれないと思ってるなら、特にね」 「…………でも」 「もう会えないから言ってもしょうがない、てんなら、所詮その程度の関係さ。でも、そこから一歩踏み出したいなら……もう会えないからこそ、その時点での全てを相手に伝えるんだよ」 「…………」 「全てはそこからさ」 楓には意味のわからないマチルダの言葉に、ティファニアは再び俯いてしまう。 「やっぱり、姉さんにはわかっちゃうんだね」 「はン、いくつの時からあんたを見てると思ってんだい。マチルダ姉さんにはね、何でもわかっちまうのさ」 「……うん。そうだね、やってみる」 はにかむような微笑みを浮かべて、ティファニアは楓に向き直った。 その顔は、何か困難に立ち向かっていくかのように精悍なものであった。 「あ、あの、カエデさんっ!」 「は、はい」 語気には勢いが付き過ぎており、楓は少し気圧されてしまった。 ティファニアは、荒ぶる何かを抑えるように一つ深呼吸をすると、かっと目を見開いて口を開いた。 「わ、私と、おともだちになってくれませんかっ!?」 「……えっ?」 楓が目をぱちくりさせる。 ティファニアは口を引き結んで真面目な顔のままだ。 マチルダはこりゃたまらんといった風に失笑していたが、何も言わずに事態を見守っている。 「…………」 楓は、言葉の意味を理解しようと頭を回転させ始めて……途中でやめた。 彼女、ティファニアの性格は、この数日間でかなり掴めている。一言で言えば……『純粋培養』。妹の初音をもう少し煮詰めた感じだ。 つまり、言葉に裏はない。本当に文字通りの意味しかないのだろう。 「……『サモン・サーヴァント』ね、本当は、おともだちが欲しくて唱えてみたものなの。人は私を怖がるけど、動物ならもしかしたらって。そしたらあんな事になって……カエデさん、優しくて、強くて、賢くて、私なんかじゃおともだちになれないかもしれないけど……」 へにょん、と、ティファニアの釣り上がっていた眉毛がハの字に下がる。 楓は困ってしまった。 妙に過大評価されてしまっている事もそうだが、普通に比べて人付き合いの苦手な楓でも、友達というのは、なりませんかなりましょうという言葉ひとつでなるものではないという事ぐらい知っている。 もっとこう、自然にというか。 ……いや、たぶん、そういう事もわからないのだろう。ここはファンタジー世界の隠れ里で、彼女は敵対種族とのハーフだ。昨日聞いた話では、小さい頃もずっと家に匿われていたということだし、環境が特殊すぎる。 楓は頭を切り替えた。どうせ自分も彼女に何か言えるほど交友関係が広いわけでもないのだ。彼女のまっすぐな問いに、同じように答えればいい。 そして、どう答えるかは……数日間寝食を共にしたこの優しい少女を前にして、考えるまでもなかった。 「……いいえ。そんな事はありません。私でよければ、喜んで」 「い、いいの?」 「はい。これから私とあなたは"おともだち"です」 言葉に出すと、正直とても恥ずかしいものだった。ある意味、告白より恥ずかしいかもしれない。 「あ、ありがとう、カエデさん!」 「お礼を言うものではありません。……"おともだち"でしょう?」 「う、うん!」 頬を染めながら微笑みあう二人の少女を、マチルダは満足げに見守っていた。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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登録日:2018/10/28 (日) 10 22 33 更新日:2023/12/29 Fri 00 17 22NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 22年春アニメ アニメ スピンオフ ゼロの日常 トムス・エンタテインメント バーボン パラレルワールド 中村能子 名探偵コナン 安室透 小坂知 小学館 新井隆広 漫画 週刊少年サンデー 降谷零 青山剛昌 まだ、誰も知らない、 3つの顔を持つ男の日常――― 『名探偵コナン ゼロの日常(ティータイム)』とは、人気推理漫画『名探偵コナン』のスピンオフ漫画の1つ。『コナン』本編と同じく『週刊少年サンデー』にて連載されていた。既刊5巻。2018年24号から連載され、2022年をもって「第一部完」となった。 原作及び原案協力は青山剛昌、原作者完全監修の作品となっており、作画は漫画版『ダレン・シャン』の新井隆広が担当。 また、2019年から2020年には同作者による『名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story』を連載していた為、一時休載していた時期もあった。 2022年の春にアニメ化され、Netflixで配信された。『コナン』と同じくトムス・エンタテイメントでの制作で15分枠での放送となる。 監督は小坂知、シリーズ構成に中村能子、キャラクターデザインは吉見京子が担当。 監督やキャラデザや音響など、スタッフには『コナン』本編で参加している者が多数起用されている。 なお、冒頭では「この作品は『名探偵コナン』とよく似たパラレルな世界です。『名探偵コナン』とはまた違う安室透の日常をお楽しみください!」と注釈が入れられている。 『警察学校編 Wild Police Story』は、2021年12月から2023年3月まで「コナン」の通常放送枠で不定期に全5話が放送され、タイトルも通常の『名探偵コナン』から『名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story』となったが、話数はコナン本編に含まれている(*1)。 また、オープニングでの原作者クレジットも青山氏だけでなく、作画担当である新井氏の名前も表記されている(*2) ●目次 概要 登場人物主人公 レギュラー 準レギュラー 「名探偵コナン」本編におけるメインキャラ 概要 公安警察、私立探偵、組織の一員の3つの顔(トリプルフェイス)を持つ男・安室透を主人公とした漫画。 『コナン』のスピンオフ漫画としては『特別編』、『犯人の犯沢さん』に続く3作目に当たる。 3つの顔を使い分け組織に潜入している安室が、本編の裏でどのような生活を送っているか?をテーマに、「名探偵コナン」とよく似たパラレルワールドが描かれている。 安室以外には彼の右腕的存在の公安警察の風見裕也、喫茶ポアロの榎本梓などの本編ではあまり出番のないサブキャラクターたちがレギュラーキャラとして登場しているのが特徴的で、彼らの様々な側面を見ることができる作品である。 また青山先生の代表作である『YAIBA』のキャラクターも少しだけゲスト出演しているので探してみるのもいいかもしれない。 本作第1話が掲載された『サンデー』は、発売した直後に売り切れ店が続出。反響を受け、編集部がアプリ「サンデーうぇぶり」内で3日間限定で最新号を無料公開するという措置を取る事態となった。 また第1巻も発売直後に売り切れが続出し、発売して僅か3日で重版がされる展開になった。 更には第2巻も注目エピソードが掲載された原作第95巻と共に緊急重版決定となっている。 ちなみにコミックスカバーに毎回仕掛けがなされている。 単行本や公式Twitterでは青山先生の監修の様子の一部が載せられており、台詞、構図、顔や髪や目など非常に細かく修正やアドバイスをしているのが確認できる。 2巻からは青山先生自らプロットを担当することが多くなっている。 タイトルの由来は『けいおん!』に登場するバンド「放課後ティータイム」からとのこと。 登場人物 主人公 安室透 本作の主人公。29歳。 警察庁警備局警備企画課の捜査官・降谷零、喫茶ポアロでアルバイトをしている私立探偵・安室透、黒の組織の一員で情報収集能力に長けた「探り屋」・バーボンの、3つの顔【トリプルフェイス】を持つ男。 公安警察として「恋人」たる日本を守るべく、普段は潜入先の喫茶ポアロで働きつつ、探偵見習いとして小五郎の弟子を務める。一方、黒の組織に潜入し、闇の世界を探ることも……過去の因縁から、赤井に強い恨みを抱いており、彼の事を忘れられたらといつも思っている。 その一方で相変わらずの完璧超人っぷりや生来の優しさを見せており、同僚の梓とポアロを切り盛りする他、年上の部下である風見との確かな信頼関係が描かれたり、野良犬に懐かれ「ハロ」と名付けて飼い犬にする一面も。 米花町での日常だが、ひったくり・火事・ストーカー・暴れ馬など、よく事件に遭遇する。 ベルモットにも重用されているようだが、 2話では、彼女と高級レストランで仕事の話をしつつも、実は意識はフランベに向いており、帰宅後に日本酒でフランベ(*3)を嬉々として試す(そして作りすぎる) 7話では、まるで映画のワンシーンのごとく入浴しながら酒をたしなんでいたベルモットが安室との電話で「最近なかなか眠れない」と世間話をしたところ、安室は(彼女が酒を飲んでいるとは知らず)「入浴後すぐにベッドに入ると深部体温が高く深い眠りを得られない」「携帯やPCのブルーライトは覚醒を促すので論外」「寝酒は睡眠に入りやすくなるが眠りを浅くしてしまう」「カフェインがなく疲労回復・リラックス効果がみこめる梅昆布茶がおすすめ」と色々親切なアドバイスをする など、マイペースかつ知識の豊富な所を見せている。 本作では『コナン』本編では謎に包まれた彼の日常風景が幾つか判明している。 「MAISON MOKUBA(*4)」というマンションで1人暮らしをしている。 河原でトレーニングをしていた際に野良犬と出会い、最初は「飼う事はできない」と拒否するものの、行く先々で傷つきながらも懸命についてくるその姿に根負けし、「安室ハロ」と名づけて飼う事にした。幼少期の自分の姿とダブるものを感じたらしい描写がある。 青山先生の茶目っ気からセロリが好物と設定されており、ベランダ菜園で栽培している光景が描かれている。 カレーを食べている最中は「カレーに失礼」だからと水を飲まないポリシーがある。この食べ方は青山先生と同じらしい。 また子供の頃にスコッチこと諸伏景光と釣りをしていた回想シーンがある。 レギュラー 風見裕也 警視庁公安部所属の警部補。 安室の右腕と言える存在で、仕事では安室の事を本名の「降谷さん」と呼び彼の補佐にあたる。 本作では掴みどころのない安室に振り回されがちな苦労人らしい描写が多くなっており、今時の若者らしい部分も多々描かれているなど、他の媒体とはまた違った風見の一面が楽しめる。 酒癖が結構悪く、酔った際には「自分だって頑張ってついていこうと努力している」とつい愚痴を漏らしていた。 またソーシャルゲーム「怪物コレクション」にはまっており、プレイしている時には普段は見せないような満面の笑みを浮かべる。 「ユーヤ」の名前でゲームをプレイしており、イベントでは「REI」というプレイヤーと一緒になる事が多い。 なお、風見はこのプレイヤーの正体を安室(REI=降谷零)だと思い込んでいるが実は……。 4巻では原作のとあるエピソードが彼目線で描かれている。 榎本梓 喫茶ポアロの店員(ウェイトレス)。お店の看板娘で、安室の先輩。23歳。 マスター直伝の食材に関するうんちくをよく安室に語って聞かせている。彼女が作るカラスミパスタは常連の刑事たちに好評らしい。 推理力もそこそこあり、どのレジが一番早いかを位置や店員等から見極めてみせ安室に褒められている。 安室が三足の草鞋(アルバイト、小五郎の弟子、探偵業)を履いているため、大変ではないかと心配している。 兄の杉人が容疑者となった事件で怖い思いをしてからは、護身術について調べるなどしている模様。 安室ハロ 安室が飼っている元野良犬。 堤無津川の河原にいた時に安室と出会い、それ以来彼の行く先々に現れるようになる。根気よく着いて行った結果、晴れて安室の飼い犬となった。 登場以降回を重ねるごとに作画が可愛らしく変化していっており、本作のマスコットキャラクター的存在と目されている。 音符の「ド(=ハ)」と「シ(=ロ)」に反応する事から「ハロ」と名づけられた。 名前の元ネタは、『機動戦士ガンダム』シリーズのマスコット「ハロ」から。アニメでは潘めぐみ(*5)が声を担当した。 『犯人の犯沢さん』にも本作とほぼ同じデザインで登場し、犯沢さんの飼い犬であるポメ太郎とヨーコの飼い犬であるトイプードルのショコラとは仲良しである。 栗山緑 妃法律事務所で、所長の英理を献身的にサポートする優秀な秘書。 梓と仲が良いようで、扉絵で2人でショッピングをしている様子が描かれた事がある。 緑の話によると、ポアロのハムサンドが「強気に“ハム”かう弱者の味方」という事で法曹界で話題になっているらしい。 パーティーの集合時間に遅れかけた際、安室に車で送ってもらった事があるが、その際の彼の運転が時間に間に合わせるためとはいえ劇場版のアクションシーン並みに荒っぽかったので、それ以来彼の車に乗る事を遠慮している。 本人は知らないが、ストーカー被害に遭った時、安室に助けられた。 彼女自身は梓から掌底を教わっていたので宝の持ち腐れとなってしまったが。 準レギュラー アンドレ・キャメル 強面で体格の良いFBI捜査官。 「名探偵コナン」本編におけるメインキャラクターだが、青山先生から許可を得て特例で準レギュラーキャラとして本作に登場。 安室と初めて会った時以来、彼を警戒している。 たまたま入ったポアロで安室と出くわし「痛恨の極み」と後悔、色々と嫌味を言われながらもコーヒーとハムサンドの味には感心した。 追い出されるようにして店を出て行くが嫌みの中に気遣いがあったことを見抜き、安室に対し少しだけ感謝の念を抱く。 その後もたまに登場。相変わらず嫌われているが、張り合うところも多く、オフの日は敵というよりもライバルのような関係になっている。 キャメル役の梁田清之氏は2022年11月に死去した為、本作のアニメ版は梁田氏が演じるキャメルの最後の作品となった(*6)。 沖野ヨーコ 小五郎から美味しいサンドイッチがあると紹介してもらい、忍者をモチーフにした超人気スポーツ番組である『HANZO』(名前の元ネタは『SASUKE』)の収録がある時に出前を頼んだ。 なお、ヨーコは番組のコメンテーターを務めており、完全制覇者にトロフィーを渡す役割も担当している。 まだ完全制覇者は現れていないが、楽屋泥棒だった番組スタッフを追いかけていた安室が人知れず完全制覇を達成した。 小林澄子 帝丹小学校1年B組担任。 パン作りの講師として、安室と梓を帝丹小学校に招いている。 原作では『牧場に堕ちた火種』が安室と初対面だが、本作はその後日談の可能性もある。 東尾マリア 坂本たくま コナン達のクラスメイト。 パン作りの帰りに学校の倉庫に寄って、たくまがエプロンを貸してくれたお礼に、双六が好きなマリアに12面サイコロをプレゼントしたが地震で倉庫に閉じ込められてしまう。 そこで、2人のあとを追って倉庫にいた安室がサバイバル教室として2人に様々な事を教えていた。 米原桜子 千葉 苗子と幼馴染みの家政婦。 事件の度に契約が打ち切られてしまい、仕事が長続きしない事を安室に相談している。 福井柚嬉 『小五郎はBARにいる』に登場したプールバー「ブルーパロット」の美人バーテンダー。 バーで酔っ払い同士が喧嘩をしていたところを安室に助けられ、お礼を言った。 榎本杉人 『真犯人からの届け物』に登場した梓の兄で証券会社社員。 ダジャレが好きでノリがよく、クレー射撃が趣味。安室が小五郎の弟子であることから、彼から小五郎直伝のダジャレを教わろうとする。 大尉 梓が飼っている三毛猫。三毛猫の中では希少な雄。名前の由来は『甘く冷たい宅配便』を参照。 杉人にまるで懐かず榎本兄妹を困惑させていたが、原因は杉人が貼っていた湿布(メントール系の香りが苦手な猫は多い)と判明。湿布を貼らなくなってからは彼にも無事懐いた。 小倉功雅 大橋彩代 ラーメン小倉の店長とアルバイト。 2人とも町内の草野球チーム「米花ライスフラワーズ」に所属しており、小倉がキャッチャー、彩代がピッチャーを務めている。ちなみに梓や緑も所属している。 安室と風見(ただし、風見は本名を名乗らず安室の元助手の飛田として)は、風邪でダウンした小五郎とポアロのマスターの代わりにライバルチームとの一戦に助っ人として参加、見事逆転勝利を収めた。 鶴山麗子 喫茶ポアロの常連客のおばあさん。ポアロのコーヒーが大好きな華道の先生。 風見がゲームでよく一緒になる「REI」の正体で、社交ダンスやゲームなど趣味の幅が広い。 本作オリジナルキャラクターであり、アニメ版では真山亜子が声を担当した。 「名探偵コナン」本編におけるメインキャラ 赤井秀一/沖矢昴 FBI捜査官。安室(降谷)にとって忘れられない宿敵。 かつて「ライ」の名で、安室と同じ黒ずくめの組織に潜入していた。現在は大学院生の沖矢として工藤邸に住んでいる。 赤井としては安室の回想の中でのみ登場し、沖矢としては安室が工藤邸の前を通りかかった時に一コマだけ登場する。 ベルモット 黒の組織の幹部。 安室と電話をしていた際に最近眠れていない事を見抜かれ、彼から安眠するための工夫と疲労回復効果が得られる梅昆布茶を薦められた。アメリカ人の彼女の口にあうんだろうか この作品においては口元や横顔だけ描かれており、顔全体の描写はされていない。 松田陣平 萩原研二 伊達航 諸伏景光(スコッチ) 安室の警察学校時代の同期。 警察学校時代の4人が写った写真を、安室は今でもパソコンのフォルダに大事に保存している。 ピー 僕です… しばらく行けなさそうですから あの項目を追記・修正してて待っててください… 僕の日常、全部さらけ出してますので… また電話しますね… △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] かなりガッツリ青山先生が監修しているそうなので、作中のあれこれは公式と見ていいんだろうな -- 名無しさん (2018-10-28 12 36 22) 安室が「ゼロの日常」でハロ(犬)を拾ったのに対して、アムロが「シャアの日常」で八口(猫)を拾ったのほんとに草 -- 名無しさん (2018-10-28 15 47 19) 映画でメイン飾るといい、コレといい、安室さん凄い人気だな。 -- 名無しさん (2018-10-29 07 12 43) 相談所で「内容を戻してもいい」との意見が出たので、今日から一週間後の17日以降に項目を編集します -- 名無しさん (2018-11-10 09 47 23) ↑約束通り1週間以上経過したので項目を編集しました。 -- 名無しさん (2018-11-18 09 58 13) 相談所に報告のあった愚痴コメントを削除しました -- 名無しさん (2019-02-02 10 17 09) ハロの名前決めるとき候補あったCBも何気に声優ネタになるなw -- 名無しさん (2019-05-01 17 54 39) ついに警察学校編か。「原作 青山剛昌」って表記からも本気度が伺える……? -- 名無しさん (2019-09-21 10 47 19) スピンオフでは風見と梓に面識があり風見は偽名で通していたけど原作では初対面かつ本名を出していたから原作とは繋がってないんじゃないかな -- 名無しさん (2021-11-11 03 01 34) 【悲報】山岸マネージャーのCVは小田敏充さんに変更されたらしい。高乃麗さんは続投したのに…… -- 名無しさん (2022-05-12 22 28 44) 原作と矛盾が出てきたため、繋がりはありませんということになった -- 名無しさん (2022-05-12 23 03 06) 名前 コメント
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前ページ次ページゼロの双騎士 「何で平民が私の使い魔なのよっ!!」 むっつり黙って怒りのオーラをぶちまけつつ廊下を歩いていたルイズは、いきなりそんな事を言い出した。 「平民ではないと言ったろう?私は元グランべロス帝国将軍、兼皇帝親衛隊隊長。その後はオレルス解放軍で将軍職を拝命していた。 支配階級と平民という分け方をするなら、私が前者であることは理解できるはずだが」 「何言ってんのよ。魔法使えないなら平民じゃないの。っていうか何で魔法使えない人間が貴族になれるのよ、ワケ分かんない」 …どうやら、魔法を使えることがこの国における人民支配の前提条件らしい。 確かにオレルスでも、ウィザードやプリースト、ワーロックなどといった魔法使い達は国に所属している場合が多い。 しかし、基本的に魔法の技能は剣の腕や政治の知識などと同じく、個々の能力の一種に過ぎない。 魔法使いが国家に所属しているケースが多いのは、軍における遠距離攻撃用魔法戦力として、あるいは治癒・補助魔法による後方支援部隊として有用だからだ。 そうでなければ、国家の魔法研究機関の研究員である。 基本的に魔法使いはどこでも重宝される。国家お預かりなら俸給も割と高い。 国家に所属していない魔法使いなら魔法医療を活かして医者に、あるいは攻撃魔法を活かして傭兵になるかだ。 いずれにせよ魔法が使えれば食うに困ることはそうそうない。 国政に携わる魔法使いも、特別少ないわけではない。 事実、ゴドランドは魔法技術が非常に発達した国だ。ゴドランド政府の要職にある人物はほとんどが魔法使いだった。 だが、魔法使いだから国政に携わる、などという考えはオレルスには存在しない。 国家の要職に就き、国土の統治に当たる者に必要とされる資質は政治能力であって、魔法ではないはずだ。 …というような事をルイズに話してみたのだが… 気のせいか?ルイズの体から立ち上る怒りのオーラが一層濃くなっている気がする。 不意に顔を上げたルイズが杖を此方に向けて… 轟音。 そう表現するのが馬鹿らしいほどの音が鼓膜を揺さぶった。 思い切り吹っ飛ばされたことを知覚した私の意識は、そこで途絶えた。 +++++ まだ意識が朦朧としている。 やたらと重いまぶたを開いて、ぼやける目でその光景を見た。 こちらを覗き込んでいる少女の顔。 不意に、その少女が顔を近づけてきて… いきなり左手に走った痛みが、無理矢理意識を覚醒させた。 全く、最悪な寝起きだ。 …などと暢気なことを考えている辺り、結構私も大丈夫そうだ。 痛みは気合と覚悟で耐えられる。戦場で生きてきたのだから、気が狂う程の激痛すら幾度も経験しているのだ。 まぁ、それでも痛いものは痛いのだが、死にさえしなければどんな傷も瞬時に治す、明らかに狂った性能の治癒魔法や回復薬があったのだ。 気づけば、見知らぬ部屋にいる。 私が寝ているのと同じようなベッドが複数。 各ベッドを隠せるような形になっているカーテン。 壁の棚にはいくつもの薬瓶。 恐らく医務室なのだろうが…何故ここに? 顔を顰めてルイズを見やる。 何をした?と言わんばかりに。 「大丈夫よ。使い魔のルーンが刻まれてるだけ。すぐ収まるわ」 本当にすぐ収まった。 左手を見ると、良く分からないマーク。 使い魔のルーン、とか言っていたか。ならば恐らく使い魔の証か何かだろう。害はないはず。 使い魔というものが何をするかはオスマンから聞いていたが、一生を共にする使い魔を害するようなメイジはそうそう居ないはず。 一度ルイズに吹っ飛ばされたような気がしたが、まぁ気のせいなのだろう。 …気のせいなはずだ。 気のせいだと思いたい…。 こうして私は、名実共にルイズの使い魔となった。 一抹どころではない不安と共に。 +++++ 「だから、使い魔の仕事は簡単に言えば『感覚の共有』『秘薬の採取』『主の守護』の三つになるわね」 あの後ルイズの私室へ来た私は、ルイズから使い魔の役目について詳しく聞いていた。 「ふむ…戦闘は私の本分だから守護は問題ないな」 皇帝親衛隊隊長だ。護衛任務に関してはプロである。 …何やら疑うような視線を向けられている。不本意だ。 「次に感覚の共有だけど…できてる気配が無いわね」 「感覚の共有とは具体的にどのようなことなのだ?」 「例えば視覚の共有ね。使い魔が見ているものを主も見られる…はずなんだけど」 視覚の共有はできていないらしい。であれば、聴覚や触覚なども同じだろう。 秘薬の採取も難しい。 秘薬とは鉱石・硫黄や植物など、魔法の媒介、あるいは魔法薬の材料にするための特定の自然物のことらしい。 私の知らない植物や鉱石もあるだろうし、どこにあるかも分からない。 険しい地形に分け入って戦うことはあっても、そこで物探しをしたことなどないのだ。 山や森に潜む敵兵の探し方は分かるが、石や草の探し方など知らない。 「はぁ…役に立たないわねぇ」 一方的に呼び出しておいて、酷い言い草だ。 怒る気にもなれず、溜息をついた。 気づいたらもう夜である。 ルイズもいい加減休むと言い出した。 私もどっと疲れが出てきたが…忘れていた。 「私はサラマンダーに餌を与えてくる。先に休むといい」 「あの竜のこと?…私も行くわ」 どうやら竜に興味があるらしい。 『パルパレオス!サラマンダーに会いに行きましょ!』 よくそういって私を連れまわした恋人の顔が脳裏に浮かぶ。 「そうか、では行こうか」 先ほどよりかは幾分明るくなった顔で、サラマンダーの元へ向かった。 +++++ 「ねぇ、パルパレオス。この子、なんていうドラゴンなの?」 サラマンダーはルイズにもすぐに慣れた。 ルイズに頭を撫でられて、気持ち良さそうに目を細めて甘えるように鳴いている。 「個体名はサラマンダー。フェニックス種のドラゴン…だったはずなのだが…」 今のサラマンダーは明らかにフェニックス種の形をしていない。 フェニックス種は、白銀の羽毛のような柔らかい鱗を持った羽と尾のある鳥に似た竜である。 だが、このサラマンダーは赤い炎のような鱗。考えるまでもなく別種だ。 しかし、これがサラマンダーであることは間違いない。 幾度も戦場を共にしたサラマンダーの声を聞き間違えることなど無い。 そもそも、ドラゴンの鳴き声は個体差がとても大きいのだ。 いかにもドラゴンという雄雄しい鳴き声の個体もいれば、下手な犬の物真似としか聞こえない珍妙な鳴き声の個体もいた(容姿すらも珍妙だった)。 初めて聞いた時は思わず吹き出してしまった。本当に「ワン!」と鳴くのだ。吹き出さない方がどうかしている。 直後に、気分を害したそのドラゴン(確かムニムニという名前だった)の翼でひっぱたかれたから、アレは今もよく覚えている。 (進化したのだろうか?そのような話は聞いていなかったが…) 神竜の故郷、アルタイルの独占支配を目論んだ神竜アレキサンダーの打倒。 その戦いを終えてグランべロスに帰った彼は、しばらくかつての戦友と連絡を取り合っていた。 帝国の支配が終わった後、各国政府の再編と独立、国交回復のためにパルパレオスは奔走していたのだ。 慣れない交渉事をいくつもこなしたり、各国の国益にも配慮した貿易体制を確立させたり。 国力と軍事力を鑑みて、各国のパワーバランスを調節しながら保有できる軍事力に制限を設ける条約を成立させたりもした。 幾度も国家間会議に出向いていたから、かつての戦友達と顔を合わせる機会は多かった。 カーナ、キャンベル、マハール、ダフィラ、ゴドランド、そしてグランべロス。 オレルス解放軍に所属する戦士たちの出自は様々だった。 戦いが終わった後、彼らは皆祖国へ帰り、ある者は国王に、ある者は祖国の軍や政府で要職に、薬屋を開いた者もいる。とにかく、皆様々な道へ進んだ。 誰と誰が結婚しただの、誰がどの国でどんなことをしただのと、会議の合間にそんな歓談を交わすこともよくあったのだ。 オレルス中の人間から憎まれていた彼だが、それでも解放軍の中核メンバーには親しく接してくれる者もいたのだ。 恋人にしてカーナ女王に即位したヨヨともよく話していた。戦竜隊のドラゴンの話も聞いていたのだが、サラマンダーが進化したとは聞いていない。 (進化したと言っても、一体何に…?) フェニックスの時点で既に伝説級のドラゴンなのだ。 基本的にドラゴンは進化して弱くなるということは無い。 であれば、今のサラマンダーはフェニックス以上の力を持っているということだ。 実際、パルパレオスはサラマンダーから流れ込む魔力の質・量ともに大きく上がっていることを感じていた。 ドラゴンの魔力を借りて様々な技や能力を行使するのがオレルスの戦士・魔法使いの戦い方であるから、その力の変化は敏感に感じ取れるのだ。 (まさか、マスタードラゴンか…?) ドラゴンの食は本当に幅広い。草や酒、キノコなどの食用物はもちろん、剣や鎧などという無機物まで平気で食らう。 しかもそれを効率よく己の力へと変換するのだ。 ただ、中には取り込めないエネルギーを帯びた物もある。 それが溜まりすぎると、うにうにと呼ばれる変なドラゴンになる。 更に溜め込むと、終いにはグレてしまうのだ。ブラックドラゴンという凶暴なドラゴンになる。 あるいは、ドラゴンに冷たくしすぎると、ストレスから逃れるために、孤高を好む性質のドラゴンへと変貌したりもする。 育成ミスでこのような姿になったドラゴンを、パルパレオスは見たことがある。 幸い、そのドラゴンは育成方針の転換で元の姿を取り戻したのだが、それはさておき。 このサラマンダーはうにうにでもブラックドラゴンでも孤高のドラゴンでもなかった。 である以上、マスタードラゴン以外には考えられないのだ。 完璧な育成、長きに渡る訓練、膨大な労力。 それらを費やしてなお届かぬほどの高みに位置する、伝説中の伝説。 ドラゴン育成の専門家であるビュウに、死ぬまでに一度は育ててみたいと言わしめた竜である。 「ちょっと、何を考え込んでるのよ?」 苛立つような声に、意識を引き戻された。 「あ、あぁ…すまない。このサラマンダーはマスタードラゴンと呼ばれる種の竜だ」 「マスタードラゴン?さっきフェニックス種って言わなかった?」 疑問を挟むルイズに、オレルスのドラゴンについて少し説明してやった。 最も、ほとんどはビュウの受け売りなのだが。 「へぇ…何度も変身するんだ…アハッ」 感心とも感嘆ともつかぬ声を上げるルイズに、サラマンダーが頭を擦り付けてくる。 どうやら、すっかり懐いたらしい。 生まれた時から人に育てられてきたサラマンダーは、本当に人懐っこいのだ。 「さて、餌なのだが…何かあったかな」 持ってきた荷物袋を漁る。 基本的にドラゴンは何でも食べるので、要らないものがあればどんどん食わせる。 究極の雑食な上に大食漢、しかも常に腹を減らしているのがドラゴンなのだ。 そのくせ、何も食わせなくても痩せ細ったりしないのだから本当におかしい。 魔力を操るドラゴンだから、自然の力でも取り込んでいるのだろうか? いずれにせよ、エネルギー効率が尋常じゃないのだ。 ドラゴンの身体を調べて技術転用すれば産業革命の二度や三度、軽く起こせるのではないか。 などと、どうでもいいことまで考えてしまった。 ともあれ、何も食わせないのも可哀想である。 使う予定のないロングソードとレザーアーマーがいくつかあったので、一つずつサラマンダーの顔の前へ置いてやった。 「ちょ、ちょっと…!何食わせてんのよ!」 驚くルイズをよそに、平然と武具に食らいつき、噛み砕いて飲み干すサラマンダー。 満足だとばかりに一つげっぷをくれて、地面に丸まった。 喰うだけ喰って、寝るらしい。 自由気ままなサラマンダーの様子に思わず苦笑してしまった。 「さて、戻ろうかルイズ」 悠然と寮へ歩き出したパルパレオスを、ルイズはただ唖然と見守るだけだった。 +++++ 前ページ次ページゼロの双騎士
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前ページゼロのエルクゥ 「んん……」 浮かび上がるように、意識が覚醒していく。 目覚めの感覚。それも、満ち足りきった、至高の眠りからの、だ。 「…………」 パチリと目を開くと、見慣れた木目の天井がある。……自分、柏木耕一に与えられた部屋の、ではないが。 窓から差し込む夏の陽射しに目を細めるが、耳に入ってくる空調の駆動音に、暑さは覚えなかった。 「すー……すー……」 すぐ隣に、小さく息づく体温を感じる。体が動かないように気をつけながら首だけを向けると、濡れ羽のように光る黒髪を湛えた頭がちょこんと肩に乗っかっていた。 最愛の恋人である、柏木楓だった。胸のあたりに規則的な呼吸の吐息が直接降りかかって、くすぐったい。 一時は、二度と感じる事が出来ないかもしれないと思った幸せな重みを噛みしめながら、耕一はその髪を軽く指で梳いた。 「んっ、んん……」 さらさらと、上質の絹のように滑らかな髪が指の間を零れ落ちていく。楓は軽く身じろぎをするが、目覚める気配はなかった。 ―――昨晩は3回、いや、4回だっけ? 俺もよくやるよな……。 喉から苦笑が漏れないように、耕一は口元だけを歪めた。 掛け布団の裾から、白く細い肩と、その下へ続く滑らかな曲線が垣間見える。その淡雪のようにきめ細やかな肌には、首筋から鎖骨にかけて赤い斑点がいくつも浮き出ていて、昨夜の逢瀬の激しさを物語っていた。 「……風呂にでも入ってくるか」 4回戦目を終えて倒れるように眠る前に、何とかウェットティッシュで処理はしたものの……やはり違和感は拭えない。 具体的には下腹部の辺りがねっとりと。上半身もごわごわと汗ぼったい。冷房が効いているとはいえ、真夏に激しい運動をすれば汗もかくというものだろう。 すがりつくように眠っている楓を起こさないように、そっと身体を抜く。とすん、と枕に楓の頭を預けると、強張っていた体がようやく開放された。 ―――希望を言うなら、このまま起こして一緒に入りたいところだったが。 それは、就寝前のバトル回数が6回戦だった事を除いて今とほぼ同じ状況であった初日にやらかした挙句に風呂場で7回目のハッスルに及んだ為、梓に大目玉を喰らっている。自重しておいた方がいいだろう。 「……耕一さん」 「あれ、起こしちゃったか」 ベッドの足下に散乱していた2人分の服をまとめて、とりあえず自分の分を身につけていると、いつの間にか起きていた楓が、そっとシャツの裾を引っ張っていた。 「どこに、行くんですか」 「ああ、お風呂入っちゃおうかとね。楓ちゃん起きちゃったなら、先に入ってくるかい? こういうのは女の子が先だよな」 「……一緒がいいです」 楓の指に力が篭り、ぎゅう、とシャツの裾に皺が寄る。 「い、いや、そうしたいのは山々だけど、ほら、梓がうるさいだろ?」 「……一緒が、いいです」 「……むうぅ」 構ってもらえない仔猫のような表情で、楓の眉がとろんと下がった。彼女に猫の耳と尻尾があったのなら、同じように力なく垂れている事だろう。 ―――これが、普段は滅多にわがままを言う事のない楓ちゃんが勇気を振り絞ってしてくれたおねだりだ、と言う事であるならば、万難を排してでも叶えてあげたいところなのだが……。 「大丈夫だよ。もう異世界に行っちゃったりなんかしないから、さ」 「…………」 「……ずっと一緒だ。もし今度があっても、楓ちゃんを置いていったりしない。な?」 「……はい」 肩に手を置いて言い聞かせるように頭を撫でると、ようやくするりと手が離れる。耕一は、苦笑と共に軽く溜め息をついた。 楓の甘えは、不安から来るものだった。耕一がまた遠くに行ってしまうのではないか、と。 それで、四六時中一緒に居たがり、身体の繋がりを求めてくる。 なんとかそれを解消しようと、耕一も何も言わずそれを受け入れているのだが、結果は芳しくなかった。このまま夏休みが明けてしまったらと思うと気が重い。 「……ふぅ」 原因はわかっている。耕一自身、もう絶対にあんな事は無いと、心の底から言い切れないからだ。 心のシグナルを読み取れる楓を相手に、どれほど隠そうとも、本当の本音ではない言葉にはノイズが混じってしまう。 それは、『世の中に絶対なんてない』と言うような一般論ではない。 ―――何か、やり残した事がある。俺があの世界に呼ばれた理由を、解決しきっていない。その為に、また召喚されるかもしれない。 何となく、耕一はそんな引っ掛かりを覚えながら、日々を過ごしていた。そして、その為に楓の不安も消えない。 悪循環、とまでは言わないが、どこか、進まない時間の中を停滞しているような感覚だった。 「さ、それじゃ、一緒にお風呂に行こうか。……梓に見つからないように、ね」 「はいっ!」 ……まあ、雄としての本能は、そんな内面の悩みとは別である。 § 「はい、耕一お兄ちゃん」 「ありがと、初音ちゃん」 こんもりとご飯の盛られた二杯目の茶碗を受け取って、耕一はしゃもじを握る初音に笑いかけた。 「耕一さん、よく食べますね」 「いやぁ、久々の和食ですから……自然と箸が進んじゃって」 正面では、千鶴が楚々と食事を進めながら微笑みを浮かべている。 耕一が目を覚ましてから、3日が経った。気絶したまま戻ってきて、ほぼ1日中眠っていたから、帰ってきてからは4日目になる。 異世界ハルケギニアで過ごした月日は、こちらでも同じように経過していた。約3週間とちょっと……ハルケギニアの一週間が8日であったから、地球の暦ではほぼ1ヶ月。 一般的な日本人が海外旅行をして白米を恋しく思うには、十分な時間だ。 「ふん。『居候、三杯目にはそっと出し』って言葉も知らない礼儀知らずなだけだろ?」 「いやぁ、あっちにいる時は、梓の肉じゃがが恋しくてなぁ」 「な、何言ってんだよ。適当言ってるんじゃないっての」 「いやホントに。マルトーさんっていう魔法学院のコックの人の料理はすげーうまかったんだけど、何しろ洋食しかないしさ。米はあったけど雑穀扱いで、サラダとかオートミールとかにちょっとだけって感じだし。しょうゆとダシの肉じゃがが本気でうまいよ、うんうん」 「……ま、まあ、このぐらいなら……いつだって、つ、作ってやるけどさ……」 憎まれ口を叩いた梓は、まっすぐに料理を誉められたのが照れ臭いのか、もそもそと米ばかりを咀嚼している。 「…………」 そして楓は……耕一のすぐ隣にいた。 特に急いでいる様子はないのに、その前の茶碗や皿の中身は凄い勢いで消えていく……いつも通りの姿だ。 柏木家の日曜日の昼食は、ぎこちないながらも、一月前までの団欒の風景を取り戻していた。 「ふふっ。耕一さんも帰ってきてくれたし、楓も元気になってくれたし、よかったわ」 「いや、あれは元気過ぎだろ……その、色んな意味で……ゴニョゴニョ」 「あ、梓。昼間からそういう事は……」 「ご、ごめん。千鶴姉……は、ははは……」 梓の独り言に反応してしまった千鶴の、何とも言えない複雑な視線から誤魔化すように顔をそむけた梓が、耕一を睨みつける。 耕一はそしらぬ顔で食事を続けているが、その額には一筋の冷や汗が伝っていた。何故か隣にいる楓も、頬がうっすらと赤くなっている。 柏木四姉妹。美人揃いでありながら、あまり男関係の縁はないのであった。 「……はぁ。まあその……す、するなとは言わないけどさ。もう少し周りの人間の事も考えろよな。楓だって、もうすぐ学校始まるんだし」 姉妹の中で、ある種一番潔癖で初心な梓だが、なぜかその態度は煮え切らなかった。 「……善処するよ」 求めてきているのは楓の方からであるので、負い目のある耕一にはどうしようもない。とはいえ、こういう場面で女の子に責任を転嫁するのは男としてどうか、というぐらいの矜持はあるので、曖昧に頷いておいた。 風呂場で反響するアレな声が響き渡る中、近くのキッチンで洗い物をする梓の気持ちを想像すれば、性欲塗れのサルだと思われておくぐらいどうということはない。たぶん。きっと。 「楓も、嫌だったら嫌って言いなよ。受験は……まあ、大丈夫だろうけどさ」 楓はほのかに赤らんだ顔でコクン、と頷いただけで、氷の入った麦茶のグラスをくっと呷った。茶碗も皿も綺麗に空である。 千鶴も、どこか赤い顔をしながら機械的に箸を動かしていた。 召喚されたのは夏期休暇が始まってすぐの事だったので、幸いな事に、大学の長い夏休みはまだ半分近く残っている。 楓の高校の方もギリギリ大丈夫だったが、耕一がいなくなって塞ぎ込んでいた期間を含めて、受験の為の補修などは丸々出られなかったと耕一は聞いていた。 それでいて、帰ってくるなり男と部屋に篭って爛れた生活をしているものだから、ついに昨日、千鶴さんや梓に苦言を呈されたのだ。 それを楓は、夏休み前に受けた模擬試験での、某日本最高学府、最難関である理科Ⅲ類のA判定結果を見せて、その全てを撃墜した。 ……特に、地元の二流チョイ上あたりの大学に体育推薦で入った梓には深刻なダメージだったようで、勉学関係については強く出れなくなっているのだった。 「…………」 「……?」 そんな微妙に重苦しい空気の中、耕一がそれを見咎めたのは、本当に偶然だった。 いや、生々しい話題に触れないよう、引きつるように息苦しい雰囲気を保った食卓の中で……そこが、どこか糸の切れてしまったような空気だったからかもしれない。 「……初音ちゃん?」 「……えっ?」 無言である事は皆と変わらないものの、黙々と箸を進める初音の纏っている空気は、明らかに周囲と異なっていた。 「なんだか元気ないみたいだけど、どうかした?」 「う、ううん。そんな事ないよ。何でもないの」 「……そっか」 えへへ、と愛想笑いをする初音。 天使の笑顔、にはほど遠いそれに、耕一は場を流しつつも、疑念を隠せない。 「…………」 初音の胸元に下がる不思議な形のペンダントが、どこか寂しげな光を放っていた。 § 「……暇だな」 昼食を終えて、耕一は自分の部屋で天井の染みの数を数えていた。 楓は渋々とした様子ながら、学校の受験対策講習に出かけていった。千鶴は鶴来屋に呼ばれて出ていき、梓は友人と遊びに行って、初音は自室で宿題を片付けている。 パチンコ、ゲーセン、本屋……いつもならば浮かぶそんな暇潰しに出掛ける気も起きず、耕一は開け放たれた純日本家屋を通り抜ける涼風を感じながら、大の字に寝転がっていた。 「…………」 左手を上げ、透かしてみる。 その甲には何もない。刻まれていたはずの使い魔のルーンは、跡形もなく消え失せている。 ふいと視線をずらすと、開かれた敷居から、夏の陽射しも眩い外が見える。 そこから見えていたはずの、青々と緑を茂らせていた裏山が、ごっそりと消えていた。 あの日。耕一達がこちらの世界へ帰ってきた日。 まるでその代わりになったかのように、山一つ丸ごと、忽然と姿を消してしまったのだという。 豊かな水量を誇っていた河や、それを調整していた水門などがあった山が吹き飛んでしまったので、隆山、引いては行政にも多大な影響力を持つ鶴来屋はてんやわんやであるらしい。日曜日の今日に千鶴さんが呼び出されたのも、その関係であるとか。 「本当に、ハルケギニアに飛んでっちまったのかもしれないな」 喉の渇きを覚え、ゆるゆると立ち上がりながら……一ヶ月前、召喚のゲートに引きずり込まれた時の感覚を思い出して、耕一は苦笑する。 頭の中に浮かんでいたのは、某国民的猫型ロボットのお腹のポケットにしゅるしゅると吸い込まれていくピンク色のドアだった。 ヨーロッパにそっくり似ていて、しかし魔法の存在する異世界ハルケギニアに召喚され、使い魔となった事。そこはトリステイン王国のトリステイン魔法学院。 そこに住む人々。ルイズ、キュルケ、タバサ、ギーシュ。喋る剣のデルフリンガー。マルトー料理長に、シエスタを始めとしたメイド達。自分の事を観察していた只者では無さそうなハゲ頭のコルベールに、一癖も二癖もありそうな学院長のオスマン。 そして、結局相見えることのなかった、同じ地球人の迷い人。 耕一がトリステイン魔法学院で過ごした3週間余りの出来事は、概ね姉妹達の知るところとなっていた。 ……ちょっと都合の悪いところは、ところどころ隠したりしているが。(契約の時のキスとか、キュルケのアプローチとか、アルビオンでの戦いとか) 『そういう映画、ありましたよね。何とかと賢者の石っていう』 千鶴さんのその言葉が、話を聞き終わった彼女達の素直な感想だったとまとめてしまっていいだろう。その受け止め方は異なるが。 楓ちゃんが同じ事を言ってくれなければ、『そんな嘘くせぇ話で誤魔化されると思うなこのスカタン!』と激昂した梓の鉄拳に沈んでいたところだ。 「……あれ?」 台所へ向かう途中、耕一は思わず声をあげてしまった。 「……耕一お兄ちゃん?」 「初音ちゃん」 縁側に、ぽつんと初音が座り込んでいた。 「どうしたの? 宿題にでも行き詰まった?」 「うん……そんな感じ」 耕一がその隣に腰を下ろすと、初音は少しだけ顔を上げて、薄く微笑んだ。 「俺でわかるかな。あんま自信ないけど、よかったら見てあげようか?」 「……うん」 頷いて、そのまま初音の視線は下を向いてしまう。 ……やっぱ宿題なんかじゃないか、と耕一はぽりぽり頭を掻いた。 「昼の時から様子が変だったけど、どうかしたのかい?」 「……そう見えた?」 思いっきり。みんな気付いてたんじゃないかな。と耕一が苦笑すると、初音もふっと肩から力を抜いて苦笑を漏らした。 「ほんとにね、大した事じゃないの。別に何かあったっていうわけでもなくて……」 初音はそっと手を合わせる。その中には、昼にも見た、不思議な形のペンダントが握りこまれていた。 何の宝石だろうか、青く透き通っている中に白くマーブルが入っている滑らかな材質で、動物の牙か爪を模したように丸く尖っている。女の子向けのアクセサリーというよりは、民芸品のお守りとか魔除けと言った方がしっくりくる趣のものだ。 「何か、大切な物がいつの間にかなくなっちゃったような……そんな気がするだけなの。それが何なのかもわからないし……おかしいよね。耕一お兄ちゃんと楓お姉ちゃんが無事に帰ってきたっていうのにね」 えへへ、と眉を下げて笑うその表情には―――とても、見覚えがあった。 それは、とても綺麗な、諦め。 『いいのです。貴方様の心は、永劫に姉上の物……私を愛してくれとは申しません。ただ……ただ、傍に置いてさえくだされば、それで……』 「リ、ネット―――!」 「きゃっ!」 意思とは無関係に溢れ出す記憶に、毒を吐き出すかように喉を震わせる。 「ど、どうしたの、耕一お兄ちゃん?」 「……いや」 ジンジンと、脳の奥が熱く火照っている。 それとは逆に―――。 「初音ちゃん、それ」 「えっ? これ? って、わっ? ひ、光ってるっ!?」 耕一が初音のネックレスを指差すと、それは青く澄んだ光を湛えていた。 まるで蛍か何かの生体の光のように、ゆっくりと明滅する。 「あっ……これ、なに……?」 驚きに目を丸くしていた初音が、弾かれたように空を見上げた。 「えっ? 来る……? ヨーク……ヨークの、子供? 何これ、頭の中に声が……っ!」 「初音ちゃん!」 頭を抑え、うわ言のように何事かを口にする初音の肩を、耕一はそっと抱く。 「来るっ!」 初音が叫ぶ。 その視線の先、空の彼方には……巨大な何かが、此方に向かって急降下してきていた。 「いいいっ!?」 超巨大な隕石のように見えるその茶色の飛翔体は、瞬く間に空一杯を覆うほどに膨れ上がる。 対抗出来るわけがないにしても、何もしないまま潰されるよりは、と鬼の力を全身に巡らせた刹那―――世界が純白に染まった。 『我の運命に従いし、"使い魔"を―――召喚せよ』 意識まで白く塗り潰される瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。 前ページゼロのエルクゥ
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おでんの人のサブタイトル おでんの人が小次郎軍内で選択した戦闘BGMに勝手につけたサブタイトル。 一見すると格好良いが内容はこの通りである。 背水/-STOMACHACHE IN THE TRAIN- (電車内での腹痛) 上田城/-CASTLE OF BELIEF- (信念の城) 殲滅戦/-CRUSH OF BUBBLE WRAP- (気泡緩衝材破砕) 手取川/-DRIFTING SOLDIERS- (漂流する兵士たち) 救出戦/-RESCUE FROM POVERTY- (貧乏からの脱出) 忠勝(1)/-THEME OF TADAKAT-TUN- (タダカトゥーンのテーマ) 撤退戦/-THE LAST FART- (最後っ屁) 花の都(1)/-MONEY FADED AWAY- (お金は消えて行きました) 呂布のテーマ・戦国/-THEME OF LU BU -KABUKI MIX- (呂布のテーマ-歌舞伎ミックス) 桶狭間/-THE LAST N.O.- (最後の"の") 双六/-DICE DIS FATE- (運命を侮辱するサイコロ) 小牧長久手/-REVOLT OF LAZY SON- (どら息子の乱) 川中島(1)/-DIVINE FOG- (神の霧) 稲葉山城/-CURSED VIPER S HOME- (呪われたマムシたちの家) 因縁/-ROBBED OF STRAWBERRY- (奪われたイチゴ) 伊勢長島/-AND EVERYONE DISAPPEARED- (そして誰もいなくなった) 炎上/-DRINK-DRIVING REPORT- (飲酒運転報告) 九州/-MOC-COS- (もっこす) 長篠(2)/-DEPRESSION OF CAVALRY- (騎馬兵の憂鬱) 三方ヶ原(1)/-BITTER EXPERIENCE OF RACCOON DOG- (たぬきの苦汁) 小田原城(2)/-NO RICE NO LIFE- (米のない人生はない) 防衛戦/-HOME DEFENCE FORCE- (自宅防衛軍) 花の都(2)/-MONEY IS MANURE- (お金が肥料) 三方ヶ原(2)/-GOD A LITTLE MORE- (神様、もう少しだけ) 緊迫/-ENCOUNTER WITH COCKROACH- (ゴキブリとの遭遇) 和やか/-When They Cry -HOTOTOGISU- (ホトトギスのなく頃に) 大阪城(2)/-END OF AN AGE- (ひとつの時代の終わり) 雷雲 -戦慄-/-LOCAL GIRLFRIEND -COME TO TOKYO- (地方女-東京に来ます-) 無限/-CHICKEN OR EGG- (ニワトリかタマゴか) 忠勝(2)/-DEAD OR TADAKAT-TUN- (忠勝か死か) 海上戦/-SAMURAI OF CARIBBEAN- (カリブ海のサムライ) 追撃/-STRAY CAT STOLE A FISH- (野良猫は魚を盗みました) 雅 -近畿-/-HAN-NA RHYTHM- (はんなりずむ) 長篠(1)/-THE VAVA DIED NOBLY- (馬場は気高く散りました) 山崎(2)/-KUMQUAT HUNT- (金柑狩り) 苦戦/-LOOMING DEADLINE- (迫り来る締め切り) 窮地/-RESTRUCTURE CRISIS- (危機の再構築) 奔走/-SANDAL WARMER- (暖かいサンダル) 姉川/-BROTHER AND SISTER- (兄弟と姉妹) 最近では冥龍伴軍Z、冥龍伴放浪記でも見ることが出来る。 逃亡劇3/-MOEBIUS OF HELL- (地獄のメビウス) 合肥の戦い4/-THEME OF ZHANG LIAO- (張遼のテーマ) 夷陵の戦い3/-BURN DESPAIR- (絶望を燃やして) 合肥の戦い4/-GREAT YAMADA SPIRIT- (すごい山田魂) 赤壁の戦い4・追撃/-CAOCAO MAY CRY- (曹操も泣き出す)
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前ページ次ページゼロの工作員 図書館で許可証と名簿を記入し、いつも奥の席に座っている、 顔なじみとなった青く見える黒髪を持つ少女、タバサに話しかける。 「こんにちわ」 「・・・うん」 フリーダはオスマン達から正式に異世界の人間であると認められ、この世界の教育を受けている。 講師となるのは『雪風』の二つ名を持つ、眼鏡をかけた十代の小さなメイジだ。 齢は14歳、背は140cmほどで、魔法学院2年。無言、無表情。 発育が遅れ、背が小さく大人しいために12歳ほどに見える。 生徒の中では特別優秀な存在らしく、<トライアングル>の称号を貰っていた。 フリーダはタバサの元へ通い詰め、文字や文章の読み方といった基本的なものや、 地理政治文化、歴史といったものまで、ハルケギニアについて様々な知識を学んでいる。 魔法や魔道具などの異世界の知識は、物語の中に居るようで彼女にとって面白かった。 映画や小説の設定資料や使われた道具を生で目にするようなものだ。 彼女は真綿に水を染み込ませるように知識を吸収していった。 「問題、正式名称は「王立魔法研究所」。トリステインの王都トリスタニアにあって…」 「通称アカデミーね」 「正解」 タバサは非常に無口なものの、聞けばちゃんと答えてくれる。 教えてもらう代わりに、フリーダはトリステインでは未発達と思われる自然科学や数学の知識を教えていた。 レベルの低い学院の授業に半ば飽きていたのでタバサにとっても有意義な時間であった。 「tanθ = sinθ / …」 「飲み込みが速いわね、なら…」 古風な紙媒体の本を使い、鉛筆で紙に書き取り、覚える。 脳に埋め込んだ 記憶領域 経由で覚えてきたフリーダにとって、 手で覚えるのは古臭く非効率極まりないことである。 それでも彼女は嫌いではなかった。 図書室の壁に掛けてある時計を見ると、とっくに夕食の時間は過ぎていた。 熱が入りすぎて夕食を抜かしてしまったようだ。 一段落したのでタバサと一緒に休んでいると、 いつものようにキュルケが林檎やサンドイッチの入ったバスケットを持ってきた。 タバサと図書館に夜遅くまで入り浸るようになって以来、毎晩彼女は差し入れを持って来てくれるのだ。 彼女はタバサの体調が心配だから持ってきているのだそうだ。 服や男はだらしないように見えて、実はマメで世話焼きなのかもしれない。 「それにしても、たった一週間でずいぶん懐いたわね。タバサ」 「・・・・たぶん、違う」 タバサの頬が微妙に動いた。 表情が乏しいので判りづらい、多分喜んでいるのかもしれない。 「林檎。食べる」 タバサがバスケットから林檎とナイフを取り出し皮を剥く。 危なっかしい手付きで皮ごと身を剥ぐ。 角ばった林檎が出来そうだったので。 「貸して」 不器用な姿にフリーダは見ていられなくなり、手を貸した。 慣れた手で林檎の皮を剥く。 「へえ、上手いわね」 皿の上には林檎の兎が乗っていた。 遊び心で、瞳や毛の細工を無駄に凝ってみた。 「刃物の扱い、慣れてるの?」 「ええ、昔レストランで働いてたから」 「・・・そう」 キュルケは林檎の兎を頭から食べた。シャクシャクと子気味よい音がする。 「・・・もったいない」 タバサは残念そうに兎を食べる。 無表情に見えて、可愛いもの好きなのかもしれない。 「・・・・・・」 タバサがじっとフリーダの顔を見ている。 視線は眼鏡に注がれている。 放っておいたら黙っていつまでも見つめていそうなので、問いかける。 「…掛けたいの?」 「うん」 フリーダは眼鏡を外し、渡した。 タバサは歪みのないレンズの向こうでどんな世界を見ているのだろうか。 付けた心の仮面が外れそうで、ぎこちない微笑みを返した。 「・・・度が入っていない」 「レンズを一枚通したら、世界が綺麗になって見える気がするの」 彼女はレンズと同じ、薄っぺらい『自分』に対して苦笑いする。 「今週の休み、みんなで一緒に街にいかない?」 「あたしとタバサとルイズつれてさ、買い物に行くの。案内したげるわよ」 「そうね。この国を知るいい機会かもね」 「・・・シルフィード」 「どうして私がツェルプストーなんかと」 ビルの2階ほどの大きさがある羽を広げた蒼い竜の背で、 ルイズがぶつぶつ小声で文句を言っている。 三人はタバサの使い魔、シェルフィードの背に乗り、 ハルケゲニアの王都トリスタニアへ向かっていた。 タバサが魔法で風の障壁を張るおかげで、 高度にも関わらず生身で外に出ても快適である。 ルイズはフリーダとの付き合い方を考えていた。 朝はルイズが着替えるのを手伝った後、洗濯に行き、 ルイズの授業がある昼間は平民のシエスタと共に雑用、 食事も別で、授業後はタバサと勉強、忌々しいツェルプストーとも仲がいい。 其処まで考え、気付く。自分は存在感がゼロのルイズではないのかと。 会話する暇がないじゃない! そういえば、まだ学校から貰ったフリーダの下着の替えや 制服以外の服は用意していなかったなと思い出した。 先日、ツェルプストーがフリーダと一緒に買い物に行こうと粉をかけていた。 先祖代々寝取られてきたツェルプストー家に使い魔まで取られては堪らない。 焦ったルイズは主人の懐の深さと、偉大さを示すため、 街で物でも買い与えようかと思っていた。 その矢先の出来事であった。 「壮観な光景ね」 上空のシルフィードから街を見下ろす。 街の中央に聳え立つ、白い石造りの尖塔。 王城を中心に整備がなされた街路は巨大な人口を抱える都市にも関わらず、 一様に入り組み細く狭い。 街を二部する巨大な河を隔て、街と城に分かれている。 どうして街路を広くとらないのか彼女は不思議に思った。 旅なれた彼女には一目で判る。 こうした不自然な景色は、たいてい設立初期に戦争があったためだ。 「トリステインの王都よ。ここらじゃ一番大きな町なんだから。特産品は…」 ルイズが誇らしげに説明している。 だが、フリーダの冷静な目に映るそれは、ただの街だ。 そして人殺しの専門家、暗殺者であるである彼女は、 無価値なものを美しく飾ろうとするすべてが嫌いだった。 トリスタニアの大通りを歩く。 休日の通りには露天が出展し、元々5mほどしかない道を更に狭くしていた。 「狭いわね。これでも大通りなの?」 ルイズが怪訝な顔をする。 「アンタどんなとこに住んでたのよ」 「私の住んでいた街はこれの3倍はあったわ」 「ゲルマニアでもそんなものないわよ」 「…そう」 トリステインの王都、トリスタニア。 街の中央には、王城を始め石造りの白い美しい建物が立ち並び、多くの貴族が暮らす。、 街一番のブルドンネ通りの路地には色とりどりの安物の衣服や帽子をずらりと並べた露店や、 手製の首飾りや指輪を売る立ち売りの商人や、タライや包丁フライパンを置いた金物屋、 箱売りしている果物やザルに無造作に詰まれた野菜を売る露天商、 試験管に入った妖しい色の秘薬を売る屋台が立ち並ぶ。 肉を焼く臭いや、店主と客の競り合う声が聞こえ市場は騒々しい。 商品を搬入する台車や、忙しそうな買出し業者、子供連れの夫婦や学生、 空には風竜やグリフォン、ヒポグリフなどの使い魔や風船が飛び交い、混雑を通り越し猥雑だ。 「ほら、そんなに物珍しげにしてると、スリに狙われるわよ!」 フリーダはルイズに注意されるも、街の姿に気もそぞろだった。 様々な星の、街を見てきた彼女であったが、 本の中でしかなかった街の光景が現実のものとなっているのだ。 本好きな彼女としては実に魅惑的だ。 「アンタの服を買いに来たんだからね!」 今日の予定は学院から出て、街へフリーダの服を買いに行くことになっていた。 召還時の服はボロボロで替えの服や下着がなかった為だ。 当初はキュルケがフリーダの服の金を出すといっていたのだが、 ルイズが使い魔の面倒を見るのは主人の務めと首を縦に振らなかったため 全額、ルイズ持ちとなっている。 「摺られて私に恥をかかせないでよ!」 財布は金貨が一杯に詰まっていて、重い。 スリが嫌なら私に財布を持たせるなとつきかえそうと思ったが、面倒なので止める。 ルイズの言葉に一々反応していたのでは日が暮れるから。 「いいじゃないの。楽しんでるんだから」 隣に歩いているキュルケがフォローを入れた。 「ルイズだって初めて街に来たとき同じだったでしょうが」 自分の身長ほどもある長い杖を抱え物静かに歩くタバサが首を縦に振った。 「あ、あれは子供のころの話しで」 ルイズがキュルケにからかわれている。いつもの通りだ。 そのうちルイズが一方的に興奮しだして杖を抜いて爆発させるだろう。 ほら、予想通り爆発させた。 それをキュルケが軽くあしらい、タバサが無言で被害が広がるのを抑える。 三人の日常風景だ。 服を大量に買いすぎたルイズがキュルケに 「シェルフィードじゃそんなに持ってけないわよ」 と諭されたり、ご主人様と使い魔の関係に気の大きくなったルイズが アクセサリーを大人買いしようとしたのを 「・・・無謀」 とタバサに止められたり、彼女オススメのハシバミ味のアイスを食べて 「に、苦っ」 とルイズが悶絶したりと三人は買い物を楽しんでいる。 フリーダは目をそらし、眼鏡を直す。 はしゃぐ彼女達の中にいるのが、たまらなく場違いで、恥ずかしくなる。 「少し、辺りを見てきていいかしら?」 アイスを食べて一人を除き全員で悶絶した後、フリーダが切り出した。 「いいわよ。私達は店で待ってるから」 「待ってる」 「苦あいいい」 三人から離れ路地を歩く、中央通りから一本離れただけで街の本来の姿が見えた。 表通りとは反した整然と並んだ店舗は店主やその他の人々が数人、寒々と店番をしている。 客や騒々しい商品の搬入は少なく静かで活気のない市場。 早々と店仕舞いする店主や無人の店舗が所々に見える、 中には一区画丸ごと無人の地域もあった。 「…いろんなお店があるのね」 「どう?楽しかった」 ルイズは好物のクックベリーパイを口いっぱいに頬張っている。 「……………ええ」 「それにしてもフリーダって意外よね。何でも知ってるくせに何にも知らないもの」 タバサもキュルケに同意する。 「・・・アカデミーでも教えられる知識を持っているのに、普通のことで珍しがる」 からかわれているようだからフリーダは訓練して身に付けた不自然でない笑顔を作る。 「…………私の国ではこんな光景、なかったから」 「フリーダの国に私も行ってみたいわ」 ルイズの『フリーダの国』の言葉は彼女を不機嫌な現実へ引き戻す。 「無理をして外に出る必要もないわ。……ここは、平和だもの」 彼女は思う。少女達はこのトリステインという国が病んでいることを知らないのだろう。 同じ街で、同じ空気を吸いながら、彼女達は違う世界を生きている。 ここも、フリーダの居場所ではないのだ。 トリステインは彼女の故郷だ。 メイジと平民に見放され徐々に寂れつつあるけど、ルイズにとって守りたい場所である。 乱立する店の隙間から王宮の尖塔が見える。 その下には綺麗な白い石造りで出来た貴族達の屋敷と平民たちの街が広がっていた。 街は雑多で敷き詰まっていて、汚い。 それでも彼女は街が好きだった。 「落ち着いた街ね」 「もっと派手なのがいいわ。トリスタニアは地味すぎるわよ。」 ツェルプストーはゲルマニア生まれで派手好きだからトリステインの愚痴ばかりこぼす。 伝統と格式を守ってこその貴族なのに。 フリーダがじっと短剣を付けた平民の腰元を見ている。 完璧で、何事にも無関心に見えた外国の少女。 そんな彼女にも人間らしいところがあるのがわかって嬉しい。 「危うく忘れるとこだったわ」 「服も靴も下着もお菓子も買ったわよ」 まだ買うつもりかとツェルプストーが非難する。 いいじゃない。私だって久しぶりに街に来たんだから。 本当はまだまだ買いたかったが、シェルフィードが運べないのなら仕方がない。 「・・・武器」 タバサが店を指差した。 前ページ次ページゼロの工作員