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前ページ次ページゼロの英雄 ルイズの手記-3 △月○日 結局アタラクシアって赤竜を追ってアルビオンに行くことになった。 行くついでに姫様に用事を頼まれる、密命を帯びてアルビオンに向かったワルド様がいつまで経っても帰ってこないらしい。 ラ・ロシェーヌで一旦休んでとか思ったけど甘かった、スピノザが全力を出せばアルビオンまでひとっ飛びじゃないの。 キュルケとギーシュも何故か付いてきた、スピノザが頼まれると断れなかったらしい。 アルビオンは戦争の真っ直中、最近押され気味だった貴族派が勢力を盛り返しつつあるらしい。 途中あわやレコン・キスタ間諜かと疑われたけれど、姫様から預かった水のルビーが証を立ててくれた。 ウェールズ様は素晴らしい方だ、戦況は苦しいが最後まで戦い抜くと仰られた毅然とした態度に思わず感動。 ただもし自分たちが戦死した場合姫様がに迷惑が掛かるだろうと一通の手紙を預かった。 その時輝く水のルビー、って私の属性って虚無だったの!? 試しに一発撃ってみたらすっごい爆発が起きて貴族派の主力が吹き飛んだ、これ幸いと年甲斐もなく特攻するジェームズ陛下。 一気に王党派に傾いた戦場の様子を見て、ウェールズ様に預かった手紙を返す。 ところで先行……もとい閃光のワルド様は一体何処に? 元レコン・キスタ総指揮官オリヴァー・クロムウェルは走っていた。 森を掻き分け、川を渡り、崖から転げ落ちながら、がむしゃらに追撃の魔の手を逃れようと走っていた。 わざわざ特注で作らせた僧服は木々に引っかけぼろぼろで、かつての神聖な面影など欠片もない。 酷使を繰り返したせいか右手の中指に付けたアンドバリの指輪は効力を失って久しい。 「ふ、ふふふ……」 つまりは自分は見捨てられたのだ。 あの人を人とも思わぬガリアの狂王に。 「ふひ、ふひひひひ……」 惨めだ、途方もなく惨めだ。いっそこのまま…… その時がさりと蠢くものがあった。 「ひっ」 森の木々の奥に覗く真紅の巨体、それを見た瞬間体が凍る。 「ひへぇぇぇぇええええ」 鋼すら通さぬ皮膚、人など塵程度にしか思ってないだろう二つの紅玉、金属製のゴーレムすらやすやすと引き裂く爪と、雷を呼ぶ二本の角。 あまりにも圧倒的なその存在に出会ったとき、人は考えることをやめただ恐怖する。 己の存在の矮小さ自覚するが故に…… 「ひへぇぇぇぇぇえ!」 そのドラゴンはクロムウェルの左腕を囓り取った、そのままさも不味そうに咀嚼し、ゆっくりと飲み下す。 ――ああ、自分はこのままこの竜の昼飯になる運命なのだ。 クロムウェルがそう思い、瞳を閉じた瞬間。奇跡が起こった。 聞き覚えのない詠唱が耳を叩く。 その詠唱が終わると同時に、真紅のドラゴンはまるで夢を見たように呆然と周囲を見回した。 「おうちに帰りましょうか」 ドラゴンは一声なくと、ゆっくりとその場を飛び去っていく。 「大丈夫ですか?」 クロムウェルはほっと一息吐いて、自分を助けてくれた相手のことを見た。 金髪の髪、ぴっちりとした衣服を押し上げる二つのたわわな果実、そして美しい顔から覗く尖った耳。 ――エルフ!? 一難去ってまた一難、今度こそ完璧に硬直したクロムウェルに向かってそのエルフはゆっくりと近づいて来る。 「来るな……」 クロムウェルは残った右手を掲げる、それは死を前にしたクロムウェルの精神が生き残りたい一心で体を動かした結果だった。 「来るなぁぁぁぁあああああ!」 「きゃっ!?」 血で汚れ、光を無くした筈の指輪が蠱惑的な光を放った。 △月×日 ウェールズ様に聞いたところによると、赤いドラゴンは王都ロンディニウムから西へ飛んでいったらしい。 ウェールズ様にお礼を言い、スピノザの背に乗って西へ飛んでいくと、意外な人物と出会った。 「タバサじゃない」 『雪風』の二つ名を持つトライアングルメイジ、それに奇妙な服装の黒髪の平民と高飛車そうな微妙にタバサ似の青髪の女の子。 ものっそいおでこが眩しかった。 「きゅいきゅい、スピノザさま奇遇なのねーるーるるー」 シルフィはシルフィで色々と吹っ切ったのか、スピノザに甘える用に顔を擦りつける。 韻竜だからって隠すことを止めたらしい、まぁこれだけ韻竜が出てくればね…… アタラクシアを探していると言ったら、おでこが突っかかってきた。 なんでよ? 聞いた話によると元々デコが召喚したらしい、じゃあなんでこんなとこにいるのよ?って聞いたら 「うるさいうるさいうるさーい!」 ――取られた、私の十八番取られた…… スピノザはスピノザで平民の持った剣を呆けた用に見つめていた、破竜剣 ダンテ ? なにそれ? 魔王竜を殺す為だけの武器? 二丁拳銃ぶっ放せるようになったり変身出来るように――いや、なんでもない。 「きゅいきゅいきゅいー、そんな物騒なものだと気づかなかったのねー!?」 シルフィはもうこれ以上背に乗せたくないと騒いで、怒り狂ったおでこに鞭を入れられている、哀れ。 スピノザに聞いたら竜の臭いがするから、アタラクシアはこの付近に暫く留まっていたらしい。 けれどちょっと前にこの場から離れた様子だとか、一体何処に行ったのだろう? ある時は大盗賊『土くれ』のフーケ。 ある時は魔法学院の秘書ミスロングビル。 しかしてその実体は、アルビオンの元公爵家の一人娘、マチルダ・オブ・サウスゴーダ。 マチルダは上機嫌だった、学院から盗み出した使い方の分からない『どらごん殺し』が信じられない値段で売れたのである。 盗品の販売を任せている知人から連絡が来た時はからかわれているのかと思ったが、どこぞの王族が見た目を気に入って買っていったらしい。 故にマチルダの懐は随分と温かかった、これで暫くは孤児院の子供達を飢えさせずに済む。 「ん?」 その時マチルダは異変を感じ取った、普段は外で元気いっぱい遊んでいるか畑の世話をしている筈の子供達が一人も見当たらない。 いつもなら誰か一人が「あ、マチルダ姉ちゃんだ!」と言う叫びが上がると共に一斉に揉みくちゃにされるのだが…… 「何か、あったのかね?」 異変を感じ取ったマチルダはフーケの顔になる、杖を取りだしゴーレム作成の呪文を唱えた。 作りだしたのは五メイルほどの土のゴーレム、戦力としては頼りないが様子見には十分。 マチルダはゴーレムを使って孤児院の扉を開け…… 転がるようにしてその場から飛び退いた。 マチルダ立っていた場所を閃光のように細腕が薙ぐ、そのあまりの鋭さに回避したと言うのにマチルダの頬に血の玉が浮かんだ。 刺客は奇妙なことにどこかで見たようなメイド服を着込み、その左手に身の丈もある大剣を持っている。 ――こいつが、テファ達を! ぎりりと血が出るほどに唇を噛みしめる、そのまま渾身の精神力を込めて杖を振るった。 「此処に居た子達の仇だよ!」 地面から巨大な腕が生えた。 その腕は小柄なメイド服の人影を一薙ぎすると、そのまま地面から生えるに全長三十メイル以上の巨大なゴーレムへと成長した。 これで仕留めた、暗い感動に身を震わせたマチルダは薄れる土煙の奥に信じられないものを見た。 「なんて、奴だい……」 メイド服の人影は傷一つないまま、ゴーレムの腕の上に立っていた。 格が違う、そう理解したマチルダはゆっくりと杖を棄てる。 「参った、殺したいなら好きにしな」 目の前のメイドはとんでもない化け物だった、正攻法では絶対に敵わない。 ――だから自分の首を刎ねようと近づいて来た隙に、差し違えてでも仕留める。 太もものガーターベルトの仕込んだ予備の杖に手を当てながら、マチルダは今生最後と決めた呪文を唱え…… 「ミスロングビル?」 「おでれーた、このおっかねぇ姉ちゃんはシエスタの知り合いかい」 あまりにも予想外の名前を呼ばれたことに、今度こそ本当に杖を取り落とした。 ジョゼフの手記-3 △月×日 パソコンが動かなくなった、ガッデム! 理由は分からないのでマキシマムスピィィィンとばかりに頑張ってみたらEscが取れた。 修理を配下に任せ――パソコンのエロ画像が見れなくなって皆半狂乱だが……に託し、何故か青筋を浮かべたビダーシャルにイザベラ達が行ったらしきアルビオンの情勢を尋ねた。 「レコン・キスタがまた勢力を盛り返している」 待て、今なんと言った? もう一度聞きなおしてみても結果は変わらない、あの状況からどうやって…… 尋ねてみるとクロムウェルはエルフと真紅の魔竜と言う手札を手に入れて狂ったように暴れまわっているらしい、しかも死人の兵まで動員していると言う――どう考えても私がくれてやったアンドバリの指輪の効果じゃねぇか! しかもビダーシャルは人間がエルフを操っていることに激怒している、超恐い。 これ以上我が同胞を穢すつもりなら我等エルフ全てを敵に回すことを覚悟せよとか恐い、超々恐い、なんかキャラまで変わってるしよぉ…… いくらなんでも頃合いだろう、アルビオン内乱に介入することを決定し準備を進める。 だが準備と言う段階になって困ったことがあるのことにを気づく、最近ろくすっぽ暗躍していなかったので船が足りないのだ。 浮遊大陸でアルビオンに侵攻するには大規模な航空戦力が必要になる、我がガリアもある程度の航空戦力は有してはいるものの準備不足故いまいち決め手に欠ける。 まったく予想外の事態ばかり起こって楽しくて仕方がない、そんなことを考えていたら困惑した様子の部下が報告にやってきた。 ――コルベールが一週間でやってくれました! 魔法学院から客室研究員として招聘したハゲにパソコンで見た飛空艇と言う船のことを話したら、本当に作ってしまったらしい。 蒸気機関と言う燃料を燃やして動くカラクリを使い、風石さえあればメイジがいなくても空を飛ぶ船。 もしくは風石がなくても僅かな疲労で済むレビテーションだけで大空を駆けることが出来る船。 それなんてチート? 本人はしきりに後悔していたが知ったことではない、配下に命じて既存の船を全て飛空艇に改造させる。 いよっしゃー待ってろアルビオン、狂王ジョゼフが今いくぜー! 「そう言うことだったのかい、悪かったね……」 「いえいえ、見なかったことにして放っておくことは出来なかったので」 シエスタはその黒い髪を揺らし、ニコリと笑った。 子供達はティファニアが連れ去られた後、マチルダの言いつけを破って街へと探しに出たらしい。 その折り夜盗化した傭兵達に襲われたところをシエスタが助けに入り、とりあえず元の孤児院でマチルダの帰りを待つことにしたのだ。 いきなり手刀を叩き込もうとしたのは、マチルダがどう見ても夜盗にしか見えなかったからだとシエスタは言った。 「まぁ、確かに夜盗には違いないけどさ……」 マチルダはそう言って愚痴を零す。 「しかしあんた、一体何者だい?」 「いえ、学院で奉公させていただいている”ただ”のメイドですけど」 「ただのメイドがあんな動き出来るはずないじゃないのさ、それに何それ」 「俺っちのことかい?」 カタカタと音を立てながらデルフリンガーは言った。 「魔法を吸い取るインテリジェンス・ソードなんて伝説級の剣じゃないのさ」 たしかにただのメイドが持っていていい武器ではない。 「これはおばあちゃんの遺品でして」 「――何者だい、あんたのおばあちゃん」 「ただのメイドですよ、わたしは護身術からメイドの仕事の仕方まで全部おばあちゃんから教えて貰ったんです」 思わずマチルダの顔が引きつる、シエスタが護身術と言っているものは暗殺者の用いる体術そのものだったからだ。 「そう言えば、一度だけ変なことを言ってました」 ぽんとシエスタは手を叩いた。 「どんなだい?」 「遠い異国の言葉だったので意味は分からなかったんですけどね」 「駄目じゃねぇか!」 デルフリンガーが笑う。 「でもあの時のおばあちゃんの顔、凄く寂しそうで……」 「そうかい……」 しんみりした気持ちのままマチルダはシエスタを見た、誰にだって大切な過去の一つや二つくらいはある。 「ところであたしはこれからテファを連れ戻しに行く……」 子供達を頼む、そう言おうとしたマチルダの唇をシエスタの細い指が押さえ込んだ。 「水臭いですよ、辛い時は助けてくださいって言えばいいんです」 シエスタは笑った。 太陽のようなその笑みに、マチルダは思わず泣きそうになってしまった。 ???の手記 ――恐らく、神はこの私を許すまい。 それでも構わない、たとえこの身が悪魔と呼ばれようともけして私は躊躇うまい。 「本当にいいんだな?」 友の声に、娘は「お願いします」と答えた。 友が、左手に構えた大剣を振りかぶる。 音を立てて振り下ろされた剣が祈るように目を閉じたエルフの胸に突き立った。 流れる血潮、命の結晶。 それを前にして私は呪文を唱える。 コントラクト・サーヴァント。 対象を己が使い魔とする呪われた呪文を。 「エルフ達は私たちを許しますまい」 そのようなことは分かっている。 それでも、この人とエルフの血が混じった娘は願ったのだ。 人と人、人とエルフが憎しみあわずに暮らすことが出来る世界が来ることを。 確かにこの儀式が成功すれば長きに渡って続いてきたエルフとの戦いは終わるに違いない。 果たしてそれが、正しいことなのかどうかはともかくとして…… 「だが、それが娘っこの願いだろ?」 相変わらずひねた口調で、友は言った。 随分と長い付き合いだがこれほどやりきれない口調は初めてだった。 「なぁ、一つだけ頼みがあるんだが……」 それを皆まで聞かず、私は詠唱を終える。 そして今生の別れを惜しむようにその娘の唇へ口付けた。 五つの力を司るペンタゴン この者に呪いを与え、我の使い魔となせ 血が光へと変わり、娘の胸に使い魔のルーンが刻まれる。 私はただ憐れな娘のことを見ていた。 後の世のために生贄となることを望んだ、憐れなハーフエルフの娘のことを見ていた。 後世に伝えることすら憚られる、おぞましくも悲しい使い魔のことを私は見ていたのだ。 前ページ次ページゼロの英雄
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前ページ次ページゼロの騎士団 ゼロの騎士団 PART1 始まりの地 トリステイン6 「うおぉっしゃあぁー!!!」 ダブルゼータが拳を振り上げる。 「ウソ……アイツ勝っちゃった……」 あまりの逆転劇にルイズは、それ以上声が出なかった。 「……儲かった」 その割には、タバサの表情は変わらない。 ニューとゼータが二人に近寄っていく。 「幾等なんでも、投げるか普通。」 ゼータが呆れながら、ダブルゼータの肩を後ろからつかむ 「いてっ!一応、ケガしてんだから、労れよ!おい、ニュー回復してくれ」 ダブルゼータが痛みをこらえながら、ニューに催促する。よく見るとハリマオスペシャルの炎に触れており、数か所が火傷している。しかし、ニューは近くに倒れている。ハリマオスペシャルの様子を見る。 「お前は後だ、そのくらい我慢しろ、ミディア」 ニューが素早く呪文を唱える。途端に、ハリマオスペシャルの傷がふさがれている。 「まったく、私がいるからと言って、そんな無茶な戦い方をするな、ウォーター」 手から出るシャワーのような水と、心地よい冷気が、ダブルゼータの全身の火傷を癒す。 ウォーター 火傷や火だるまを治す呪文で、旅の途中は飲み水などにも使われた。 「おいニュー、ミディアムかけてくれよ」 火傷を治しただけで不安なのか、ダブルゼータが不満をぶつける。 「お前はそれで充分だ、少しは大人しくしていろ。」 「おい!奴が気づいたぞ」 ゼータが気絶から回復した事に気づく。 ハリマオスペシャルは、傷は癒えたが、まだ、足取りは朦朧としていた。 ダブルゼータに近づき、ただじっと見つめている。 「うぉぉぉん!!」 親愛でも服従でもない咆哮であった。 それに対し、ダブルゼータもまた瞳から怒りの色は消えていた。 「……お前も大した奴だったよ」 素直に相手を讃える。 ハリマオスペシャルは咆哮の様な息を唸らせ、振り返る事無く専用の厩舎に向け歩き出していた。 「なんなのよ、あれ……」 ダブルゼータの怪力より、ニューの魔法よりも、得体のしれない友情の誕生がルイズには何よりも理解できなかった。 ギャラリーも、ただ二人のやり取りを見ているだけだった。 自分の使い魔の無事を喜んでいる、金髪の少年を除いて…… ダブルゼータの勝利宣言を、遠見の鏡から二人はじっと見ていた。 「勝ちましたわね、彼……」 唖然とした面持ちで、ロングビルは同意を求める。 「勝ってしまったのう……」 オールド・オスマンも、驚きが隠せないでいた。 「彼らは何なのじゃ?あんなゴーレム見た事無いぞい、しかもあの赤い羽根の奴は、見た事もない魔法を使ったではないか」 ニューのミディアムは、オールド・オスマンであっても始めてみる魔法だった。 ダブルゼータとほかの二人を鏡から見ながら、オールド・オスマンは独り言のようにつぶやく。 「彼らは、アルガスという国の騎士で、あの青いのはゼータといい騎馬隊の隊長だそうです。今、現在はミス・タバサの使い魔だそうです。 私は今朝、彼と会話しました。彼らは明確に自分の意識を持っています。」 今朝、ゼータと会った時の、情報を使える。 (そう、彼らはアイツのように自分の意思を持っている。) 心の中でロングビルは、三人を誰かに重ねていた。 「アルガスとやらは、あんなゴーレムが沢山いるのかのぉ……」 一体だけでも驚きであるのに、三体もいて、しかも、彼らのようなのが不特定多数存在する。 オールド・オスマンには想像もつかなかった。 (やっかいじゃのぉ、あんなものどうしろって言うんじゃい) 事態の異常さに、オールド・オスマンは頭を抱えた。 「失礼します。おや、どうかしたんですか?」 自室で遅めの朝食を終え部屋に入るなり、コルベールは空気の違和感を感じる。 コルベールはオスマンの近くに行くと遠見の鏡に気づく。 「何を見ているんですか?……ああ、生徒と使い魔の親睦会ですね。」 自分の使い魔の姿を見て、一人納得する。 「ハリマオスペシャルも、皆と馴染んでいるようですね。」 先ほどの光景を見てないだけに、コルベールの表情は暖かい。 (どこを、どう見てそう言えんだい、この鈍感男) 周りの生徒達の空気に気づかないコルベールを、口に出さず、ロングビルが罵る 「あれはミスタ・ダブルゼータじゃないですか、人見知りのハリマオスペシャルが懐くなんて、珍しい事ですね。」 周りが、唖然としている光景を見てコルベールは素直に感心する。 「コルベールくん、君は彼らを知っているのかね?」 ダブルゼータに驚かないコルベールに、オスマンは彼らとの関係を問いただす。 「彼らが、昨日報告した、ミス・ヴェリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサの使い魔ですよ。今日この後、彼らと会談する事を昨日伝えましたよね?」 コルベールが昨日の報告に不備がないか確認する。 「なにっ!彼らが、昨日の報告にあったゴーレムじゃと!」 (なぜ、そんな重要な事を詳しく話さんのじゃ、こやつは……) 事の重要性を理解していないコルベールの罵声と、それを軽視した自分への罵りがステレオとなってオスマンの心に響く。 一般的にゴーレムはメイジが作る物で、使い魔にはならない。使い魔を召喚する儀式で、それでは不合格になってしまう。 だからこそ、オスマンは、変なゴーレムを召喚してしまった三人への、進路の事だと思っていただけに、彼らとの面会は気が滅入った。 「そうじゃったな、もうすぐ親睦会も終わりじゃ、昼食の後に、彼らと生徒たちを呼んできたまえ……」 何かを注意しようにも、今のオスマンにはそれができなかった。 「そうですね、後、オールド・オスマン彼らのルーンの事なのですが、昨日一晩かけて調べたのですが辞典には彼らのルーンが見つかりませんでした。こう言ったルーンなのですが、何かわかりますか?」 シエスタが見た同じメモを、コルベールが差し出す。 オスマンはそれを一読するが…… 「ふむ、これはわしも解らんのぉ、コルベール君、引き続き調べてくれたまえ。」 オスマンが持っていたメモを、コルベールに返す。 「分りました、オールド・オスマン」 一礼して、コルベールが部屋を出ていく。 コルベールの退出音と共に、部屋は長い沈黙に包まれた。 昼になり親睦会がお開きとなり、ルイズ達は昼食に向かう途中だった。 「どうだ、キュルケ嘘じゃないだろ。」 ダブルゼータが自慢げに3度目の同意を求める。 「わかったわ、アルガス一でトリステイン一の怪力、ダブルゼータさん」 しつこさから、さすがに呆れ始め、キュルケの対応もおざなりだった。 「けど、すごい力ね、魔法でも使ったの?」 ルイズがニューに秘密があるのかと聞く。 「私の魔法に失礼だぞ、ルイズ」 「さり気無く呼び捨てにしないでよ、私はアンタのご主人様なのよ!」 ニューの対応が、ルイズにとっては不満でならない。 「あら、仕方ないじゃない、ニューと違って、あなたは「ゼロのルイズ」じゃない」 ゼロを強調しながら、キュルケがルイズをからかう。 「キュルケ殿、ゼロとは何の事だ?」 ニューが疑問を口にする。 「ゼロはルイズの二つ名よ、メイジには能力に由来する二つ名があるの、ちなみに、私は「微熱」でタバサは「雪風」よ」 キュルケは自分とタバサの二つ名よりも、ルイズの二つ名を嬉しそうに言う。 「二人はともかく、ルイズは何でゼロなのだ?」 ルイズに向かって、ニューが由来を聞く。 「うっさいわよ!アンタ、飯抜きよ!」 ルイズが怒りで理不尽な命令を下す。 「あっ、みなさん」 天啓とも言えるタイミングで、シエスタが表れる。 「シエスタ、どうしたんだい?」 ニューがシエスタに、助け船を求める。 「はい、三人……ダブルゼータさんに料理長のマルトーさんが、何か言いたいそうです。厨房に来てくれませんか?」 主役はダブルゼータであるらしい。 だが、主と居るよりはよっぽどよかった。 「ルイズ殿、そういう訳だから厨房に行って参ります。」 二人とシエスタを引き連れ、早足で歩き出す。 「ああっ!待ちなさい、馬鹿ゴーレム!」 ルイズの罵声から逃げるようにニュー達は厨房に向かった。 「マルトーさん連れてきましたよ」 「おお来たな、待ってたぞ」 ある程度、調理が終わった厨房で、三人を料理長らしき男が笑顔で出迎える。 「あのハリマオスペシャルに勝つとは、大した奴だ。」 「うおっ!なんだいきなり」 マルトーが息子への抱擁のように、ダブルゼータに抱きつき、慌てて突き放す。 大男のマルトーが、2メイル程後ろに飛ぶ。 「なるほど大した力だ!アイツは、使い魔とは思えないほど傲慢で、下手なメイジより強いから、誰も手を出せなかったのに勝っちまうとはな!」 マルトーにとって、ハリマオスペシャルが投げられたのが、よっぽど嬉しい様だ。 「俺はお前さん達にお礼がしたいのさ、もっとも、俺が出来るのは料理くらいだけどな!さぁ、こっちに座んな!」 「こっちですよ、皆さん」 シエスタが中央の大きなテーブルに案内する。 そこには、朝の食事よりもさらに豪勢な食事が並べられていた。 「本来は貴族用なんだが気にする事はねぇ、俺からの気持ちだ!たくさん食べな。」 「ありがてぇ!ちょうど腹が減ったところだったんだ。」 ダブルゼータが二人に相談もせずに、席に飛びつき、皿を空にし始める。 「馬鹿、いきなりみっともない真似するな」 そんな、ダブルゼータを注意しながらゼータも席に着き、ニューもそれに続く。 「おお、いい食いっぷりだな!じゃんじゃん行ってくれ!」 マルトーが嬉しそうに言い、周りも頷く。 三人は5人前の食事を、あっという間に空にしてしまった。 「ウマかった、親父さんありがとな!」 「マルトー殿、大変、美味でした。」 「ごちそう様、とっても美味しかったよ。」 三人が、三者三様の感想を述べる。 「おう!また、来てくれよな!」 厨房を後にする三人をマルトーとシエスタが嬉しそうに見送った。 厨房を後にした3人は、同じく食堂を出たルイズ達と再会する。 「遅いわよ、アンタ達!ご主人様を待たせるなんて、どういうつもりよ!」 先に待っていたルイズが噛みつく。 「すまない、マルトー殿からもてなしを受けていた。」 「なんで、使い魔のアンタ達がもてなしを受けるのよ!」 納得のいかない様子で、ルイズがニューに詰め寄る。 「まぁいいじゃない、それよりも、今ミスタ・コルベールが来てオールド・オスマンが私達とあなた達に学院長室に来るようにって」 キュルケが3人に行動予定を伝える。 「アンタ達!オールド・オスマンはこの学園の学園長で一番偉いんだからね!馬鹿な真似は絶対しないでよ!」 ルイズが何も問題を起こさないように三人に注意を促す。 「いきましょ」 ルイズの返答を待つより早く、タバサが歩き出す。 「タバサ待ちなさい!いい事、絶対問題起こさないでよね!」 (ダブルゼータはともかくとして、私やゼータは何もしてないのに) 自分に対する信頼の無さに、ニューは少し寂しさを感じた。 学院長室の中で、ゼータはロングビルと再会する。 「ロングビル殿、お忙しい中、今朝はありがとうございます。」 「よろしいんですよ、ゼータさん」 ゼータがロングビルに今朝のお礼を言う。 「あなたって、真面目な割に手が早いのね」 ゼータに対して、キュルケが間違った感心をする。 「なっ!何を言ってるんだ、キュルケ殿!」 「慌てるところが、余計に変」「タバサ!」 妙な所で絶妙な連携を発揮する。 「君!ロングビルはわしの物じゃ、手を出されても困るよ。」 ゼータの事は冗談でも、ロングビルの所有権には冗談を感じられない口調で、オスマンが口をはさむ。 そして、ロングビルににじり寄る。 「勝手に所有しないで下さい、後、どさくさにまぎれないでください。」 口調の割には、えげつない肘打ちが、オールド・オスマンのこめかみをとらえる。 (マチルダさんみたいだな) 操られているとはいえ、かつて法術隊を壊滅寸前にまで追いやった女性を思い出す。 「いたた、ミス・ロングビル暴力はいかんよ……私はこの学院の学院長を務めるオールド・オスマンじゃ」 三人に改めて自己紹介をする。 「早速じゃが、お前さん達は三人に召喚されてここに来たと言うらしいのぉ」 「はい、私達は……」 異世界であるスダ…ドアカワールドのアルガス王国の騎士である事。魔王ジーク・ジオンを倒すため、また違う異世界である。ムーア界に行った事。そして、倒した後、この世界に呼び出された事等を語った オスマンはひとしきり聞いた後、眉間に皺を寄せ重い口を開いた。 「わしも、いろいろな地方を旅したが魔法を使い、ハリマオスペシャルに力で勝つゴーレムなんか初めて見るぞ」 遠見の鏡の出来事が彼らが尋常ならざるものである事を、オスマンは受け入れていた。 「で、アルガスの騎士団であるお前さん達は、当然そのアルガスに帰らねばならんのう」 「はい、それで、貴方の力を借りたいのです。オールド・オスマン」 ニューが、そう言ってオスマンの助力を求める。 「それは……できん相談じゃよ、なぜなら『サモン・サーヴァント』で呼び出したものは、もとに返す事は出来ん。ましてや、異世界などと言えばなおさらじゃ」 彼らにとって、絶望的な言葉をオスマンは口にする。 「ふざけるなジジィ!!」 ダブルゼータがオスマンをアルゼンチンの形で担ぎあげる。 「うお!何をするんじゃ、やめてくれ誰か止めてくれぇ!!」 「ダブルゼータさんやめてください、そして出来れば、そのまま頭から叩きつけてください。」 「何気にワシを亡き者にしようとしてないか!ミス・ロングビル!!」 「おちつけ、ここでお前がその老人の頭をへこませて、剣で2、3回突き刺そうとも現状は変わらん!」 「ゼータの言うとおりだ、その後、爆風と電流とかを与えたって何も変わらん!」 「味方はおらんのか!!」 ダブルゼータがオスマンの背骨に致命傷を与えた所で、オスマンは解放された。 「はぁ、はぁ、むろんわしも何もしない訳ではない、色々調べてみる。さすがに、死にたくないからのぉ」 激痛で緩んだ膀胱の尿意を堪えながら、オスマンは口約束をする。 「その代わりと言っては何じゃが、もう少し使い魔をやってくれんかのぉ」 オスマンは取引を持ちかける。 帰れない事よりも、ルイズの使い魔の期限が無期限と化したのにニューは唯、泣きたくなった。 会談が終わり、夕方。 「……で、アンタは私の一生の使い魔になる事が決まったのね。」 部屋に戻るなり、ルイズは満面の笑みを浮かべる。しかし、その笑みは何かやましいものが含まれていた。 「アルガスに帰るまでだ、オスマン氏がその方法を見つけるまではここに留まる事にしただけだ。」 「ここに留まれるのは、そして、食事ができるのは誰のおかげかしら、隊長のニュー様?」 答えが分かっているような、声でルイズがニューを見下ろす。 「もちろん、お世話になる代わりに雑用くらいはしてあげますよ、ゼロのご主人様」 ニューはゼロが何かしらのキーワードであると知った為、それを皮肉に交える。 「この馬鹿ゴーレム、いい度胸じゃない!アンタなんか食事抜きよ!」 近くの部屋に聞こえるくらいの罵りあいが始まる。 「……サイレント」 タバサが世界の音を遮断し、本に視界を移す。 (さわがしい、二人だな) 動きと音のない静かな世界でゼータは二人のやり取りを少し羨ましく思った。 中庭では、人だかりが出来、その中心はキュルケとダブルゼータであった。 「さぁ、さぁ、ここにいる私の使い魔のダブルゼータは、あのハリマオスペシャルを打ち破った、トリステイン一の怪力よ、このダブルゼータをこの丸い円の中から出す事ができれば賞金2000エキュー、しかも、トリステイン一の称号はあなたの物、さぁ、挑戦する者はいないの?1回20エキューよ」 キュルケが丸い円を指差しながら、挑戦者を募る。 「なぁ、キュルケ、何でこんなことするんだ?俺は疲れてい「あなたが頑張ったら、さらに美味しい食事が出るわよ」おうおう、偉そうに貴族の看板掲げているくせに、俺にビビって誰もででこねぇのか、この腰抜け貴族ども!」 労働の意味を見つけ、睨みつけるように辺りを見回すダブルゼータ。 「その言葉、聞き捨てならないなぁ、ゴーレム君」 人だかりの中から、先ほどのモグラの主である金髪の少年が現れる。 「ヴェルダンデの敵を討ってくれた事には感謝するが、今の言葉は貴族として許せん」 そう言いながら、ギーシュがバラを掲げる。挑戦者が表れた事に、観客のテンションが上がる。 「ギーシュ、挑戦してくれるのね!あなたってやっぱ勇敢だわ!」 媚びているのが丸分かりで、キュルケがギーシュの果敢な挑戦を称賛する。 「キュルケ、賞金は僕とモンモランシーの華麗なデートに使わせてもらうよ!」 そう言ってキュルケに、参加費用を渡す。 「誰かと思えば、モグラの坊主じゃねぇか、モグラが俺の相手をしてくれるのかい?」 「ふっ!僕の可愛いヴェルダンデに、君みたいな野蛮なゴーレムの相手をさせる訳ないだろう、出でよ、ワルキューレ」 薔薇の杖を掲げ、5メイル程の青銅のワルキューレが誕生させる。 「君の相手は、このワルキューレが勤めよう、キュルケ異論はないね!」 ワルキューレがダブルゼータの前に立ちはだかった所で、観客のテンションは最高潮にヒートアップする。 「オールオッケーよ!ギーシュ」 そう言いながら、ダブルゼータの近くに行き、耳打ちする。 「少し手加減しなさい、圧倒的な力で勝つと挑戦者が現れないから。あなたも、おいしい食事がしたいでしょ?」 ダブルゼータに指示を出す。 「オッケー、任しときな!」 了解して、キュルケを円の中から出るように促す。 「じゃぁ、いくわよ……はじめ!」 キュルケが開幕のゴングを鳴らす。 「いけっ!ワルキューレ!」 ギーシュの掛け声とともに、ワルキューレがダブルゼータに突進する。 「うぉっ!結構やるじゃねぇか、この姉ちゃん」 (こいつは思ったより、力が在りやがる。しかも意外と重てぇ!) 圧し掛かられるような、圧力に苦戦の気配を感じ取る。 「どうしたんだい、ゴーレム君!口の割には大した事はないな!」 以外に、押している事に気を良くするギーシュ。 「なろぉぉぉっ!」 叫びと共に、身をかがめて懐に潜りこむ。そして、辺りをつかみ放り投げる。 「なっ!ワルキューレ!」 ギーシュが一瞬の出来事に驚く。慣性で飛ばされたワルキューレは、そのまま地面に墜落した。 「やるじゃねぇか、小僧」 相手の善戦に、ダブルゼータが素直に称賛する。 「ダブルゼータの勝ちね、さぁ、他に挑戦者はいないの?」 キュルケが相手を求める。 「次は俺だ!」 「嫌、この私だ!」 何かに触発されたのか、次々に参戦の声を表明する。 その日の夕方は、いつもより喧騒に溢れていた。 トリステイン 宝物庫 外の喧騒を聞きながら、ロングビルは秘書と本職の仕事を果たそうといていた。 「この扉は特別でして、カギと合言葉がないと開かないのですよ」 コルベールがそう言って鍵を見せる。 「けど、何故宝物庫に?」 コルベールが問う 「はい、モッド伯が、王宮に提出する、目録を作ってほしいとの事なので……」 「なるほど、最近モッド伯が、ここに多く来るのもそれが理由なのですね。」 ロングビルの答えに、ここ最近、よく訪れる伯爵に納得する。 「以前から、伯爵はある物を手にいれたがっているのですよ」 「ある物ですか?」 ロングビルの瞳に興味の色が出る。 「はい、百獣の斧というものなのですが、出自と効果が解らないマジックアイテムなのですが、モッド伯はなぜかそれを欲しがっているのです。」 (きっとそりゃぁ、訳ありな代物だねぇ) そう言ったものは、何かしらいわくつきな物であり、欲しい者には高値で売れる事を経験から感じ取っていた。 「アイコトバヲオネガイシマス。」 突如、扉の無機質な音があたりに響く。 「え!どこから声が!?」 「マジックアイテムなんですよ。」 驚いた、ロングビルにコルベールが説明する。 「フカーヤノネギ」 「カクニンシマシタ」 鈍い音をたてて、扉が開く。 「こちらです。」 二人が宝物庫に入る。 「入口の方に比較的新しいものがあります。何年か前の目録がありますので、それを参考に作って下さい。」 「ミスタ・コルベール百獣の斧とはどういった代物なのですか?」 ロングビルが獲物を定める。 「百獣の斧ですか、こちらにあるのがそうです。」 そう言って、ガラスの箱に飾られた斧を指さす。 それは、煌びやかには程遠いが、片手用の斧であり獅子の顔が刻まれていた。 (これが百獣の斧かい、なんだか地味だね) ロングビルは、その斧からあまり金銭的な価値を感じなかった。 「では、私はしばらくここで作業しています。」 「はい、分りました。カギはお貸ししますので、後で返して下さい。」 その声とともに、コルベールの気配は遠ざかる。 「さて、このまま、盗んでとんずらと行きたいけど、それだと、真っ先に疑われるしね。」 まだ、本業として仕事をしていく為に迂闊な真似は出来ない。 「それに、アイツ等がいる事を考えると厄介だしね」 (目録を作るついでに、目星を付けとくかい) そう思い、ロングビルは宝物庫を調べ始めた。 モッド邸 深夜 モッド伯は寝室に呼ばず、客人を待っていた。 「お久しぶりですな、モッド伯様」 「来たか」 姿の見えない声にもさほど驚かない。 「あれは、今、学園にかけあっておる。余りせかすな」 モッド伯は手で待てのサインを送る。 「それも重要なのですが、一つ、力をお貸し願いますか?」 声と共に辺りの闇が強くなる。 「それは、あの方のご命令か?」 「いえ、ですが早めに手を打っておくべきかと思いまして」 (あの方の命では無いとは、珍しい) 目の前の声を聞きながら、モッド伯はそう思った。 「私は、何をすればいいのだ?」 「あるメイドを一人学園から連れてきて欲しいのです。」 「それは問題ないだろうが、それに何の意味があるのだ?」 メイドの価値などたかが知れている。モッド伯がそう思い疑問を口にするのは当然であった。 「そのメイドを餌にすると、ある物が釣れます。そのある物に価値があるのです。」 「お前の言っていた奴らか……ふん、まぁよい、それくらいなら容易い。」 モッド伯が承認する。 「では、私はこれで」 「あぁ、また会おう。……闘士ドライセン」 この世界の物でない闇の中、赤く光るモノアイが消えた後、体の寒気を忘れるべく、モッド伯は寝る事にした。 「11君の相手はこの青銅のギーシュがお相手しよう」 青銅のギーシュ ゴールドには勝てない MP 330 「12ギーシュがワルキューレを錬金した。」 ワルキューレ 7体まで現れる。 HP 360 (3体で) 前ページ次ページゼロの騎士団
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前ページ次ページゼロの賢王 ポロンの両の手から放たれた閃光の炎刃は一瞬にして7体のワルキューレを粉砕した。 それでもなお、勢いは衰えずにギーシュの方へと向かう。 「う、うわああああ」 ギーシュが叫びながら蹲ると、炎刃は頭上スレスレを通過した。 背後で観戦していた生徒たちも慌てて道を開けると、炎刃はそのまま地面へ直撃して爆発炎上を起こす。 ギーシュは恐る恐る後ろを見た。 すると、そこには大きく抉れ、まるで草刈りでもしたかの様に刈り込まれた地面があった。 (ハァ・・・ハァ・・・。何だあれは?あんなものが直撃していたら僕は・・・) ギーシュは戦慄する。 そして、今まで見下していた目の前の存在に恐怖を覚えた。 (べ、別々の系統魔法を合体させた・・・?だ、だがそれにしては何だこの破壊力は!?) ハルケギニアの世界の魔法にも異なる系統魔法を組み合わせる方法は存在する。 例えば『風』と『氷』を組み合わせることで氷の矢を放ったりすることが出来る。 しかし、それはあくまで組み合わせに過ぎず、本来の威力の底上げとはならない。 仮にトライアングルのメイジが最大で100の力を出せたとして、異なる系統魔法をどう組み合わせてもこの100を超えることは出来ないのだ。 これは、メイジが基本的に1つの系統魔法を専門的に学ぶという慣例が原因の一つでもある。 メインで使用する系統以外の魔法がどうしても低くなってしまう為、他の系統の魔法を組み合わせても能力の底上げにはなりにくい。 その為、4つの系統を組み合わせることが可能であるスクウェアクラスのメイジでも、同じ系統を足すことで自身の魔法を強化させる道を選択することが多い。 だが、ポロンが今放った魔法は違っていた。 ワルキューレを破壊した2つの魔法。 それは、威力としてはそれぞれドットレベルの攻撃力に過ぎないかも知れない。 しかし、この2つを組み合わせることでトライアングルレベルの攻撃力にまで増幅していた。 「凄い・・・わね」 キュルケは目の前の光景に思わず唸った。 ポロンが先に使用した2つの魔法については、平民が魔法を使ったこと以外に驚く様なことではなかった。 杖を使用していない様に見えたが、彼女もまたギーシュと同じ様にそれは気のせいか隠し持っていたのだと推測していた。 しかし、今ポロンが放った魔法は別である。 「彼はラインのメイジなのかしら・・・?それにしては・・・」 「威力が強過ぎる・・・」 タバサが呟く。 その目は完全にポロンに釘付けであった。 「あ、ああ、あああああ・・・」 ギーシュは戦意を失っていた。 先程出したワルキューレ7体。 あれが今のギーシュの全力であった。 そう、ギーシュは全力でポロンを叩き潰そうとしたのだ。 それが一瞬で破壊されてしまった。 それを目の前で見てしまえば、心が折れてしまうのも無理は無い。 だが心で負けた者は、どう足掻いても相手に勝つことは出来ない。 (あ、あんなものがまた来たら・・・僕は・・・死ぬっ!?) その時、初めてギーシュは『死』というものを意識した。 これが決闘でなければ、ただの喧嘩やふざけ合いならば感じなかったであろうもの。 ポロンがギーシュへと歩み寄って来る。 その姿を見たギーシュは情けなく後ずさりながら「く、来るな!!」と薔薇を振った。 花弁が地面にはらはらと舞い落ちるが、それをワルキューレにしようという気持ちさえ湧き上がっていなかった。 ポロンの足がその花弁を踏み付ける。 ギーシュはポロンの顔を見た。 その顔は静かに、そして穏やかにギーシュを見つめていた。 「・・・おい」 「た、助け・・・」 「・・・・・・・・」 ポロンは無言でギーシュの手から薔薇を奪い取った。 「これで、俺の勝ち・・・だな?」 「・・・へっ?」 何かされるのだろうと身構えていたギーシュは少し肩透かしを食らったかの様にポロンの顔を見た。 「あ!・・・ああ。ぼ、僕の負け・・・だ」 やや間を空けてから、ギーシュは力無く言った。 その瞬間、周りの観客から次々と声が上がる。 それは、平民が貴族に勝ったことに対する不平不満、もしくは興奮。 まさに様々な声であった。 ギーシュはホッとして立ち上がろうとした。 すると、ポロンがそれを制する。 「へっ・・・?」 「敗者は勝者に何でもするって言ったよな?」 ポロンはそう言いながらギーシュを睨み付けた。 「あ・・・、え・・・?あ・・・」 「男に二言はねえって言ったよな?」 しどろもどろになるギーシュに更に言葉を浴びせ掛ける。 ギーシュの体に再び震えが起きる。 「な・・・何を・・・すれば・・・いいんだ?」 「・・・・・・・・・」 ポロンは無言であった。 ギーシュにはその沈黙すら恐怖に思えた。 溜まりかねて、ギーシュは恐る恐る訊ねた。 「あ・・・あの・・・?」 「謝れ」 「へっ?あ、あやまる?」 「そうだ、土下座して謝れ」 「あ・・・ああ・・・」 ギーシュは正座し、ポロンに頭を下げた。 「す、すまなかった・・・」 だが、ポロンは首を振った。 「俺じゃねえ。シエスタ・・・お前がさっき八つ当たりしたメイドにだ。それと・・・」 「それと・・・?」 「あそこにいるルイズにだ」 そう言ってポロンはルイズの方を指差した。 突如名前を呼ばれたルイズは吃驚して、ポロンの顔を見る。 「ぽ、ポロン?」 ギーシュはポロンに言われるがまま、ルイズの元へ向かい跪く。 そして両の手を地面につけ、頭を下げた。 それを見て、ルイズは更に驚いた様な顔をする。 「え?ええ!?」 「ミス・ヴァリエール・・・この度の無礼の数々、本当にすまなかった。 許してくれ・・・。この通りだ!!」 ギーシュが地面スレスレまで頭を下げるのを見ると、ルイズもどうしていいか分からず、 「も、もういいわよ!」 と言ってその場から去ってしまった。 ギーシュはルイズが去った後もその姿勢を崩さずにじっとしていた。 それを見て、ポロンはギーシュの元へと向かう。 そして、ギーシュの頭をポンと叩いた。 「やれば出来るじゃねえか・・・」 「・・・・・・・・・」 「いいか?自分が間違ってる時に謝るのは恥じゃねえ。ケジメって奴だ。 それを意固地になって認めようとしねえのは、それこそお前らの言う『貴族』っていう精神に反するんじゃねえのか?」 「・・・そう、だな」 「・・・今はここにはいねえから仕方ねえが、後でちゃんとシエスタにも謝れよ」 「・・・分かった」 「あと、お前が二股かけた相手にもな。なあに、女ってのは大抵何度も土下座して謝れば最後には許してくれるさ! 本当に自分に惚れてくれた女なら、な」 ポロンは2、3度ギーシュの頭を叩くと、ルイズの後を追ってこの場から立ち去って行った。 ギーシュはボロボロと涙を零していた。 それは、決して敗北故の屈辱の涙では無く、まるで親に叱られた子供が零す様な何となく居心地の悪い、 だが、決して嫌な気持ちだけではない涙であった。 (あの男の名・・・確かポロン・・・とか言ったな) その名前はギーシュの心の中に深く刻まれた。 遠見の鏡で決闘の様子を見ていた、オスマンとコルベールは互いに顔を見合わせていた。 「オールド・オスマン」 「うぅむ・・・」 「あの男が、勝ちましたね」 「・・・じゃな」 「ギーシュ・ド・グラモンは一番レベルの低いドットのメイジですが、それでも実力はラインのメイジにも劣りません。 仮に魔法を使えたとしても、平民にあそこまで遅れを取るなんて・・・」 コルベールは今見た光景を信じられないといった面持ちで見ていた。 「それに彼の魔法・・・。杖も無しに使用するなんて、最後のを除けば威力こそ低いものの、まるで先住魔法です」 「・・・いや、あれは先住魔法ではないな」 「と、言いますと?」 「ふぅむ、あの男の使用する精神力といったものか?それが根本的に我々と異なる様にわしは感じたよ」 「・・・やはり先住魔法では?」 「わしは本物の先住魔法を見たことがある。じゃからこそ、彼の魔法が違うと断言出来るよ。 それに、彼は見た通りエルフでは無く、れっきとした人間じゃ」 「・・・では『例の力』?」 「アレか・・・。じゃが、アレは言い伝えによれば武器に反応する。魔力を武器と解釈したらどうなるかは流石に分からんが、 そもそも『あの力』と彼の行ったものは全くの別物じゃ」 「確かに。ふうむ・・・」 コルベールが思案する中、オスマンは別の可能性を考えていた。 だが、そのあまりに突拍子のない考えには流石に否定しか出来ない自分がいる。 「オールド・オスマン。取り敢えず彼のことは要観察ということでよろしいでしょうか?」 「・・・ああ、そうじゃな。今のところ、彼もミス・ヴァリエールに害する行動は取っていない。 完全に安全な人物と断定することは出来んが、今すぐどうこうすることでもあるまいて」 「それに『例の力』の方も・・・」 「うむ、じゃがそれは慎重にな。もし彼が『例の使い魔』じゃということが分かれば、 彼を呼び出したもの・・・つまり、ミス・ヴァリエールが虚無の使い手ということになる。 そんなことが王宮にでも知られれば、あの子はもう普通の生活は出来なくなる。 それは学院長として・・・いや1人のジジイとしても忍びないからのう」 「・・・肝に銘じておきます」 そう言うと、コルベールはオスマンに一礼してから部屋を出た。 オスマンは水キセルを吹かし始める。 (・・・伝説の使い魔『ガンダールヴ』、のう) オスマンのその表情を隠す様に水キセルの煙が立ちこめ始めた。 ルイズの中には複雑な感情が渦巻いていた。 それは勿論、自身の使い魔ポロンのことである。 (アイツ・・・!!あんな大事なことを私に隠してたなんて!!) 先程の決闘でポロンが使用した魔法。 それがルイズの心に深く突き刺さっていた。 使い魔に隠し事をされていたこともそうだが、それが魔法なのだ。 魔法をまともに使用出来ないルイズにとっては何処か裏切られた様な気分になっていた。 「ルイズ!」 ポロンの声が聞こえる。 ルイズはこの溜まりに溜まった感情をぶつけようと振り返った。 「この馬鹿い・・・!!」 「す、すまねえ!!!!!」 「へ?」 振り返ると、そこにはポロンが頭を地面に擦り付けている姿が見えた。 あまりに唐突なので、呆気に取られる。 ポロンが悲痛な声を上げた。 「あの魔法のこと、別に隠してたわけじゃねえんだ!!ただ言う機会が無かったのと、 それと、あの教室でのお前を見てたらさ、何か言い出せなくってよ!!」 「・・・・・・・・・」 「俺が魔法使えるって分かったらさあ、教室でお前に言ったことが何か嘘になるっつーか、 馬鹿にされた様に思わすのもアレかなー?ってんで、その・・・言えなかったんだ!!」 「・・・・・・・・・」 「この通りだ!!許してくれ、ルイズ!!」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・ルイズ?」 ポロンが恐る恐る顔を上げると、ルイズは何だか泣いている様な怒っている様な顔をしていた。 「ルイ・・・」 「この馬鹿!!!!」 「ひぃっ!?」 「馬鹿馬鹿馬鹿!!!!勝手に決闘なんかして!!勝手に魔法なんか使って!!この馬鹿!!」 「す、すま・・・」 「いい!?今度からこんな勝手、絶対に許さないんだからね!?またこんなことしたら、その時は鞭打ちの刑よ!?」 ルイズの顔はまるでトマトの様に真っ赤であった。 「る、ルイズ?」 「・・・今日のところは寛大に1週間食事抜きで許してあげるわ。だ、だから早く部屋に戻って来なさい!! せ、洗濯物だってあるし、掃除だってやってもらうんだからね!!」 「・・・ああ、是非やらせてもらうぜ」 「フン!!」 そう言うと、ルイズは顔を真っ赤にさせたままツカツカと歩いて行ってしまった。 ポロンはよっこらせと立ち上がると、その様子を苦笑いで見守った。 前ページ次ページゼロの賢王
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「ドスペラード」のエイジを召喚 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-01 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-02 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-03 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-04
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前ページ次ページゼロの賢王 「ポロン、明日街まで出掛けるわよ」 唐突な提案にポロンは面食らう。 「何だあ?藪から棒に」 ポロンは羽根ペンを鼻と口の間に挟み込んだまま答えた。 今、ポロンはルイズからハルケギニアの文字を教えてもらっているところである。 言葉が通じるから文字も読めるものだとばかり思っていたがそんなことはなかった。 特にルイズと一緒に授業へ出ていると、全く読むことのかなわない文字を次々と目の当たりにする為、 流石にこれはいかんということで恥を偲んでルイズに文字を教えてもらっている。 ルイズは勤勉でありながら意外と教え上手でもあり、ポロンは簡単な読み書きなら既に出来るようになっていた。 そんな個人レッスンの最中、ルイズは突如先のような発言をしたのである。 「明日は虚無の曜日で授業は無いの。だからポロン、私がアンタに剣を買ってあげるわ」 「ああ、それはいらね」 「うんうん、そうでしょうそうでしょう。嬉しくって嬉しくってたまら…って、ええっ!?」 「剣は必要ないな」 「何よ!私からのプレゼントを受けないって言うの!?」 「いや、勘違いすんな!いらねえってのは剣はいらねえって意味で、ルイズからのプレゼントは有り難く頂くつもりだぜ?」 ルイズが凄むと、ポロンは慌てて答える。 ルイズはそれでも納得していないという表情でポロンに詰め寄る。 「何で剣がいらないのよ?アンタ私の使い魔でしょ?私を守るなら剣は必要じゃない」 「自慢じゃないが、俺は剣を全く使えない」 「本当に自慢じゃないわね・・・。でも持ってるだけでも格好はつくでしょ?」 「ルイズ、いいか?剣っていうのはなあ、使える奴が使わないと意味ねえんだ。 仮に運動神経がいいだけの奴が剣持ったって、剣使える奴と戦ったら100%負けちまう。そういうもんなのさ」 「そういうものなのかしら?」 「それにルイズも見たろ?俺は魔法を使って戦う。だから俺に武器はいらねえんだよ」 「ふ~ん。まあ、確かにそうね」 ルイズは昨日行われたギーシュとポロンの決闘を思い出していた。 その時、ルイズは「あっ!」と声を上げると、鳶色の瞳を吊り上げてポロンを睨んだ。 「そうよ、アンタの魔法!それについて色々聞きたいことがあったんだわ!」 ポロンは「しまった!」という顔をした。 「本当は決闘のあった日に聞きたかったんだけど、アンタがツェルプストーとイチャイチャしていてうっかり忘れてたわ」 「ちょっと待て!別にイチャイチャはしてないだろ、イチャイチャは」 「フン!ツェルプストーの使い魔に連れて来られた!とか言ってたけど、本当はどうだか」 ルイズは目に見えて不機嫌な顔になる。 ポロンはそんなルイズを見て、深くため息をついた。 「ったく、わーったよ。お前の疑問に答えられる範囲で答えてやるからへそ曲げんな」 「べ、別にへそなんか曲げて無いわよ!・・・じゃあ聞くけど、魔法が使えるってことはポロンは貴族なの?」 「いや、俺は生まれも育ちも貴族なんて大層なもんじゃあないよ」 「嘘おっしゃい。貴族でもないのにどうして魔法が使えるのよ?」 「どうして、て言われてもなあ」 ポロンはいっそのこと自分が異世界から来たということをルイズに言ってしまおうかとも考えた。 (まあ、言っても信じねえだろうなあ) この世界へ来てから数日は経ち、ルイズともある程度は打ち解けてきたと思っている。 とは言え、こんな突拍子もないことを言っても信じてもらえる保障は何処にも無い。 (俺が逆の立場でも信じねえだろうしなあ。言う人間にもよるだろうが・・・) ポロンは自分の今の姿を改めて確認する。 (自分で言うのもあれだが、こりゃあ胡散臭い以外の何者でもねえな) ポロンはひとりでにがっくりとうなだれた。 ルイズはそんなポロンの一連の動きを怪訝そうな顔で見る。 「まあ、いいわ。アンタが何者かはそんなに重要じゃないの。問題は・・・」 ルイズは一呼吸置いてから言葉を続ける。 「どうやって杖も無く魔法を使えたのか。問題なのはそっちよ」 「それって、そんなに重要なことか?」 「・・・確かにコモンマジックみたいに杖を使わない魔法というのもあるわ。でもね、ポロン。 アンタが使ってたアレはもうコモンマジックという域を超えていたわ。アレはもう先住魔法の域よ」 「先住魔法?」 「エルフの使う魔法よ。杖を使わなずに様々なことを起こせるらしいわ。 私は実際に見たことはないけど、とても恐ろしいものだと聞くわ。正に凶暴なエルフにぴったりの魔法ね」 「エルフが凶暴・・・?俺のいたところじゃ人間嫌いなのはいても、基本的には大人しくて争いを好まない種族だったけどな」 「それ、本当にエルフなの・・・?まあ、そんなことはどうでもいいわ。 いい?アンタが何処から来たのかは知らないけど、ここトリステインでは魔法を使うのに杖は必須なの。 それも杖なら何でもいいというわけじゃない。それぞれに合った杖じゃないといけないの。 だから、アンタがホイホイと杖無しで魔法を使うって言うのは本来はとても有り得ないことなのよ」 「そうなのか・・・」 ポロンは図らずもこの世界における魔法体系について知ることが出来た。 ルイズと一緒に受けている授業では最初の頃こそ系統魔法の基礎的な部分を教えていたが、 この世界における魔法というものの在り方に関しては、あまりにも常識的過ぎるのか触れることさえ無かった。 ルイズに聞こうかとも思ったが、流石にいい大人が今更そんなことを聞くのは不自然であるし、出自を疑われかねない。 かといって、異世界から来たなどと言えばこれまたあまりにも突拍子が無さ過ぎて頭のおかしい人間とされてもおかしくない。 従って、いずれ何処かの授業でそこに触れるのを待つしかなかった。 それが他ならぬルイズの口から聞けたのだからポロンは内心ホッとする。 ルイズはジーっとポロンの顔を見つめる。 「見たところアンタはエルフには見えないけど・・・」 「んー、確かに俺の呪文・・・いや魔法はお前たちの使う魔法とは大分違うもんだからなあ」 「そうなの?じゃあ、あの魔法はどうやって使ってるの?」 「どうやって・・・と言われてもなあ。上手く言葉で伝えるのは難しいな」 「ふーん。ねえ・・・」 途端にルイズはもじもじしだした。 「その魔法って、私にも出来たりする?」 (・・・なるほど、そっちが本音か) ポロンはルイズが魔法を上手く使えないことに多大なコンプレックスを抱いてる。ということを本人が口にせずとも察している。 ポロンの出自や魔法について聞いたのも、もしかしたらポロンの使う魔法ならば自分でも。という期待を持っていたからだろう。 事実、ポロンが使う呪文は魔力さえあれば、後は努力次第で使うことは可能である。 (って言っても、それはあくまで俺らの世界でのことだからなあ) 世界が変われば、当然魔法も異なる。 ポロンですら、同じ世界に存在するジパングの神仙術を使うことは出来ないのだ。 違う世界の魔法なら尚更である。 少なくともポロンには初日の授業でシュヴルーズが見せた錬金の魔法や決闘の時にギーシュが使用したワルキューレを使うことは出来ない。 「やってみないと分からんが、恐らく無理だろうな。鍵に例えると、俺とルイズの魔法はそれぞれ別々の鍵なんだよ。 俺の鍵で開く扉がお前の鍵でも開くとは限らないだろ?寧ろ鍵が違う分、開かない可能性の方が高い」 「・・・でも開くかも知れないじゃない」 ルイズはまるで拗ねた子供みたいに唇を尖らせる。 それを見て、ポロンもやれやれと肩をすくめた。 「分かった分かった。取り敢えずやれるだけやってみるか?」 ポロンの言葉にルイズの顔がパァーっと明るくなった。 そんなルイズの表情を見ていると、まるで彼女の親にでもなった気分になる。 「じゃあ、時間がある時にお前の魔法を見てやるよ。っても昼間は授業あるし、恐らく夜になっちまうけどいいか?」 「構わないわ。魔法を上手く使う為にも、試せるものは全て試しておきたいですもの」 「そりゃ殊勝な心掛けで」 そう言うと、ポロンは面倒なことになったなと思っていた。 だが、決して嫌な顔はしておらず、寧ろ親が子を見守る様な優しい顔になっていた。 翌日、虚無の曜日。 ポロンとルイズは朝早くから、馬に乗って街を目指していた。 貴族の嗜みとして乗馬を学んでいたルイズは易々と馬を操っている。 ポロンもまたルイズ程華麗ではないものの、そつなくこなしていた。 学院から街までの距離は遠く、馬でざっと4時間程掛かってしまい、街に着く頃にはちょうどお昼時になっていた。 ここで時を少し遡り、ルイズたちが学院を出る直前こと。 キュルケはルイズの部屋の前に立っていた。 目的はルイズをからかうことと、そしてその使い魔にアタックすることであった。 魔法が上手く扱えないルイズは部屋の施錠を通常の鍵で行っている。 通常の鍵ならば、トライアングルレベルのメイジであるキュルケには無いものと同様であった。 アンロックの魔法で鍵を開けると、遠慮なく扉を開く。 しかし、そこにルイズとポロンの姿は無かった。 何処へ行ったのか思案していると、窓の外に馬に乗って何処かへ行こうとするルイズとポロンを発見する。 キュルケはそれを見るなり、血相を変えて親友であるタバサの部屋へと向かった。 「タバサ!お願い!あなたのシルフィード貸して!」 いきなりそう言われて、頷くタバサでは無かった。 タバサはキュルケの姿を確認するなり、サイレントの魔法を掛けて読書へと戻る。 キュルケは何度話し掛けても何も答えないタバサを見て、その手から本を取り上げた。 本を取られたタバサは仕方なくサイレントを解いて一言。 「虚無の曜日」 とだけボソッと呟いた。 キュルケは申し訳無さそうな顔をして首を振った。 「あなたにとって虚無の曜日がどんな曜日だか、私は分かってるわ。でも、聞いて頂戴。これは恋なの! 私の二つ名は『微熱』!とても燃え上がりやすいの!!・・・あなたも分かるでしょ?」 タバサは特に何も言わなかった。 キュルケは両の手を合わして懇願する。 「お願い!ルイズを追いかけたいの!二人が馬に乗って何処へ行ったのか突き止めたいの!お願いタバサ!私に力を貸して!!」 タバサはふぅ、と息を吐くと腰掛けていたベッドを降り、窓を開けて口笛を吹く。 すると、すぐに大きな羽音が聞こえて来た。 「!!有難うタバサ!!流石私の大親友!!」 キュルケはタバサを強く抱きしめる。 ふと窓を見ると、そこには水色のドラゴンが見えた。 「・・・やっぱり、あなたのシルフィードはいつ見ても素晴らしいわね」 6メイルを超えるサイズの風竜。 このサイズで幼生なのだから、成体となればどれだけ大きくなるのだろうか。 キュルケは改めて、こんな使い魔を召喚したタバサを只者ではないと思った。 タバサが窓からシルフィードの背に飛び乗ると、キュルケもそれに続く。 2人が乗ったことを確認するとシルフィードはそのまま舞い上がった。 上昇していく中、タバサは己の使い魔の頭をポンと叩いて一言だけ呟いた。 「馬2頭、食べちゃだめ」 「きゅい」 可愛らしい鳴き声を上げてシルフィードは頷く。 そうして暫く上空から目を凝らしていたシルフィードは学院から遠ざかって行く2頭の馬を見つけた。 「きゅいきゅい!」 シルフィードはひと鳴きした後に風を切って加速する。 あっという間に2頭の馬のすぐ近くまでやって来た。 「このまま、気付かれない様に追って」 タバサはシルフィードにそう告げた後に本を取り出して読み始めた。 キュルケは親友のマイペースな姿を見て、改めて只者ではないと思った。 ポロンとルイズは街に着くと、取り敢えずお昼を食べることにした。 適当な店を見つけると、2人でその中へ入る。 先の決闘で勝手を働いた罰として食事抜きを言い渡されていたポロンであったが、ルイズの寛大な処置によって彼女の食べるパイを1つ分けて貰えた。 一口食べると、パイのサクサク感に上に乗ったクックベリーと呼ばれる果実やそのジャムの甘みと酸味が絶妙にマッチし、なかなかに美味であった。 (しかし、こいつぁ俺みたいなオッサンが食うもんじゃねえな) 何となく気恥ずかしさを覚えながらもポロンはパイを口の中に放り込んだ。 昼食を終えると街の中をぶらぶらと見て回ることになった。 流石に国一番の大都市ということもあり、賑やかで様々な店が並んでいる。 その途中に仕立て屋を見つけるとルイズが 「そうだわ。ポロン、貴方に服を買ってあげるわ」 と提案する。 ポロンは自分の今の身なりを見て、その提案を素直に受け入れることにした。 流石に替えの服も無い状態なのは不味い。 様々な服があったが、いくつか見ていてもポロンはしっくりこなかったので、 なるべく同じデザインの服を何着か見つけると、それを買って貰うことにする。 会計をルイズに任せて店の外へ出たポロンはとある露天商に目を留めた。 老人が地面に布を敷いて、その上にはけん玉、ヨーヨー、ブーメランといったものが並べられていた。 ポロンは思わずその露天商の方へと足を向ける。 「よう、爺さん。ちょっと見ても構わないか?」 老人は何も言わずにただこくりと頷く。 ポロンは地面へしゃがみ込み、並べられたものを見ていた。 「へー、懐かしいなあこれ」 ポロンは懐かしさのあまり、中からブーメランを手に取った。 (!?) すると、次の瞬間ポロンの身体はまるで重い鎧を脱いだみたいに軽くなった。 思わずそのブーメランを元の場所へ置くと、その途端に体の異変が消えた。 ポロンはもう一度ブーメランを手に取る。 (何だ?まるで星降る腕輪でも身に付けたみたいに身体が軽い・・・) ポロンは老人の方へ向き直った。 「おい、爺さん。このブーメランって人の身体を軽くする魔法みたいなもんでも掛かってんのか?」 「・・・・・・・・・・」 老人は無言で首を振った。 (一体、どういうことだ?) 「ちょっとポロン!ご主人様に荷物持ちさせるなんていい覚悟じゃない!」 その時、後ろからルイズの声が聞こえた。 どうやら服の会計が終わったらしく、服の入った袋を抱えていた。 「・・・ああ、ルイズか」 「何しているのよポロン。・・・って、それ平民の玩具じゃない」 その時、ポロンは思い付いた。 「そうだルイズ!剣の代わりにこいつを買ってくれないか?」 「剣の代わりって、そのブーメランのこと?そんな玩具が役に立つの?」 「まあ、そう言うなって。俺はガキの頃、これで何体もの魔物をやっつけたことだってあるんだぞ?」 (・・・って言っても、おおありくいだの一角うさぎだの雑魚モンスターばかりだけどな) 「本当かしら?・・・まあ、その程度なら別に買ってあげてもいいわよ」 そう言うと、ルイズは老人にいくらかのお金を渡した。 「有難うなルイズ」 「ったく、子供じゃないんだからそんな玩具買ってもらったからって、はしゃがないでよ」 「ハハハ、そりゃすまんな」 ポロンは笑いながらブーメランを手に取った。 すると、やはり身体が軽くなった様な感じがする。 ふと見ると、左手のルーンが僅かに輝いていた。 (・・・なるほど、こいつのせいだったのか) ポロンは改めて左手のルーンを凝視する。 このルーンは使い魔の証だという。 だとすれば、先程身体が軽くなったのもその恩恵なのだろうか。 (・・・こいつについても調べなきゃなんねえな) 「ちょっとポロン。ボーっとしてないで早く来なさい」 「ん?ああ、悪かった」 ポロンは慌ててルイズの後を追った。 「あの子ったら、彼にあんなみすぼらしいものを買い与えちゃって!」 その様子を隠れて見ていたキュルケが言った。 キュルケは2人の後をつけながら、ルイズが何かする度にこんな感じで毒づくのであった。 タバサは何も言わずに本を読みながら、ただキュルケの後を付いて行っている。 「平民の玩具しか買い与えて貰えないなんて、彼が可哀想じゃない」 キュルケはそう言うとチラっと路地裏の先にある武器屋の看板を見た。 「フフフ・・・いいことを思い付いたわ」 キュルケは武器屋の方へと消えて行った。 前ページ次ページゼロの賢王
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前ページ次ページゼロの斬鉄剣 ゼロの斬鉄剣 6話 ―魔剣デルフリンガー― 五ェ門がルイズに召還されてからはや3週間たった夜の事 「ねぇ、ゴエモン。」 部屋の隅で瞑想をしていた五ェ門に声をかけるルイズ。 「あんた、いっつもその服だけど替えの服はないの?」 すこし顔を顰める五ェ門 「あいにくだがこれが拙者の一張羅。」 「あ!そうか。」 自分が召還したときに五ェ門が持っていたのは斬鉄剣ぐらいであったので 愚問といえよう 「そうね、明日は休日だしゴエモンの服を買いに行きましょうか!」 「拙者の着物を?」 ふふん、とルイズは鼻をならす 「あたしはこう見えても公爵家の出よ?使い魔の服を買うくらい楽勝よ!」 それに、とルイズ 「ゴエモンもこの国に来てから遠出はしてないでしょ?だから一緒にいきましょ。」 ふむ、とうなずく五ェ門 「かたじけない、一つ宜しく頼む。」 五ェ門がそう礼を述べるとルイズはニンマリと笑いながらベッドにもぐりこんだ こうして次の日は城下町に行くことになったのだ。 チュン・チュン・・・・ 五ェ門はいつもの時間に目をさましたが・・・ 「あら、おはようゴエモン。遅かったわね。」 不覚にも寝過ごしたかと太陽をみるもまだ顔をだしたばかりといったところだ。 「む、ずいぶん早い目覚めだな、ルイズ。」 まあね、と笑うルイズ 「ここから城下町まで馬でも3時間はかかるのよ、早めにでないとね。」 なるほど、納得するゴエモン 「それに今日は久しぶりに人とでかけるから・・・(ボソ)」 「どうかしたのか?」 「う、うるさいわね!いいからさっさと行くわよ!」 やれやれ、元気のいいことだと思う五ェ門であった。 「これが今日乗っていく馬よ!」 そう紹介されたのは見事な風貌の馬だった。 「ほう、見事な馬だな。毛艶もいい。」 えへん、となぜか自慢げな態度で五ェ門に説明する。 「きょうはこの学院でも指折りの馬を借りることができたのよ!」 自分の馬ではないはずなのだが、思ったより立派な馬を借りることが出来てずいぶんご満悦なルイズ しかし― 「ブルルルヒィーーーーーン!」 とたんに暴れだすルイズの馬 「な!なんなのよ、落ち着きなさいよ!」 なるほど、と五ェ門。 どうやら学園でも指折りの気性の荒い馬を借りてきたらしいー 五ェ門はルイズから手綱を取り上げる 「どうどうどう・・・」 暴れていた馬も五ェ門が手綱を取るとみるみる大人しくなる。 「ちょっとどう言う事よ!なんであたしの言うことよりゴエモンの言うことを聞くのかしら!?」 かなり不機嫌になるルイズ 「馬はなかなか賢い生き物だ、自分に合った乗り手でなければたいていこうなる物だ。」 ぶー、と膨れるルイズ 「馬の癖にあたしを馬鹿にして!」 ハハハ、と笑う五ェ門 「馬鹿にしてるというより、ルイズの場合は殺気がでているから馬が怯えたのだろう。」 あたしのどこが殺気でてるのかしらと不満げだが 「わ、わかったわよぅ。」 大人しくなったルイズを見て馬が頬ずりする。 「ちょ、きゃ!」 馬がルイズぺろぺろ舐めだす 「だいぶ気に入られたようだな、これを機にもっとお淑やかにすることだ。」 「ブルルヒヒン!」 五ェ門が笑い出すと馬も笑い出した。 「んもう!余計なお世話よ!さ、はやくいきましょ!」 「では拙者が手綱を、ルイズは道案内をしてくれ。」 むすっとしたがしぶしぶ了解するルイズ 「うう、わかったわよ。ところでゴエモンは馬にのったことがあるんだ?」 「無論、では行くぞ!」 ルイズが五ェ門の腰にしがみつくと馬は走り出した 「・・・あの生意気な貴族には特に気の荒い奴を当てたつもりだが、やるじゃねぇか。」 影から見ていた学院付きの厩務員がおもわず漏らすのであった。 その日キュルケが起きたのは外で馬の足音が聞こえてきた時だった 「ん~、朝から騒がしいわね・・・あら?ルイズとダーリンじゃないの!」 門をくぐる姿をキュルケは見ていた。 「方角は城下町かしら、こうしちゃいられないわ!」 ドンドンドン! キュルケが叩いたのはタバサの部屋 朝起きてすぐドアを叩かれたためびっくりするタバサ。 「・・・なに?」 ボソリといったつもりだが聞こえたのかキュルケは 「タバサ~、ちょっとあけて~」 しぶしぶとドアにアンロックの呪文をかける 「タバサ、一緒に城下町まで行かない?」 なぜ、と首をかしげるタバサ 「ダーリンとルイズが城下町へ行ったのよ!追いかけなくちゃ!」 ダーリンときいて誰?とおもうタバサ 「んもう、ゴエモンよ、ゴ・エ・モ・ン」 ピクリと反応するタバサ、しばらく考えて。 「行く。」 「そうこなくっちゃ、早速行きましょ!」 と、せかすキュルケにタバサは 「大丈夫、シルフィードなら城下町まで30分・・・」 ああ、とキュルケはうなずく 「そうだったわね、貴方の使い魔・・・風竜ですもの、すぐ追いつくわね!」 「・・・準備。」 タバサはそそくさと準備を始める キュルケも寝巻き姿だったことを思い出し自分の部屋へ戻る 「じゃ、一時間後に出発しましょうか。」 2時間半後―城下町 「なかなか速い脚だ、お主は。」 「ブヒヒン!」 嬉しそうにする馬、どうやら気は荒いが脚は相当なものであるようだ 「おもったより早くこれたけど、もうにぎわっているようね。」 宮城へ続く大通りはすでに人でにぎわっていた。 馬を町の入り口にある預け場に留め置くと目的の店へ向かう それを影からのぞく二人の影 「あら、ダーリンたちはどこへ行くのかしら?」 「・・・・」 気づかれないように後に続く二人だが五ェ門は気配で分かっていたようだ 「(なぜあとを・・?)」 さして危険ではないので捨て置く五ェ門。 「ここよ、ゴエモン。」 古臭い店だが汚くは無く、生地の種類も豊富で品揃えもよかった。 「これはようこそ、ヴァリエール様。」 気のよさそうな老女主人がルイズに声をかける 「お久しぶりマダム、今日は使い魔に服を仕立ててもらいにきたの。」 「おやまあ、そうでございましたか・・・立派な殿方ですこと。」 しげしげと眺めるマダム 「拙者、出来ればこれと同じものを仕立ててもらいたいのだが。」 ほうほう、とうなずくマダム。 「これは珍しいつくりの服ですわね。」 「出来るか?」 にっこりと笑うマダムは一言 「服を扱いかれこれ50年、まかせなさい。」 そういうとさっさと寸法を測り始めるマダム 「マダムは元・貴族、でも腕は確かよ。あたしが小さい頃からお世話になってるわ。」 ホホホと笑うマダム 「そうですよ、私はヴァリエール様のオムツも仕立てたのですから」 「ちょ、マダム!変なこと言わないで!」 「使い魔さん、服を詳しく見たいから脱いでもらえるかしら?代わりは用意するわ」 あっと思い出すルイズ 「そうよマダム、ゴエモンのサイズに合う服は無いかしら?近いうち品評会があるのよ。」 やいのやいの女性はファッションにうるさいもので最終的に決まったのは入店してから実に3時間後のことであった。 「マダム、宜しくお願いするわ。」 「またお越しくださいませ、ヴァリエール様。」 五ェ門の服が仕上がるのは10日後ということで仕上がり次第学院に送ってもらうことにして店を去る 二人 「じゃ、服も買ったけど時間があるわね。もうすこし街を見ていき・・・・」 ルイズはそこで言葉を詰まらせる 五ェ門の後ろには― 「あら、ごきげんようルイズ。奇遇ね?」 「・・・・こんにちは。」 「ちょっと、なんであんたらがいるのよ!」 あわてるルイズ 「あら、今日はただのお買い物よ?ね、タバサ」 コクリとうなずくタバサ 「ふうん、何を買いに行くのかしら?」 「あら、よろしかったら一緒に行きませんこと?」 「・・・・ゴエモンも。」 「ちょっと、かってにゴエモン連れてかないでよ!」 むくれるルイズ 「まあよいではないかルイズ、せっかくだから拙者はもう少し街を見て回りたいのだ。」 うー、とうなるルイズ 「しかたがないわね、はやくすませましょ!」 二人きりで街を見て回れると思っていたルイズはしぶしぶ了解する キュルケ達が合流してしばらくすると、町の路地の奥からわずかながら悲鳴が聞こえてきた 「ルイズ、すまないが先に行っててくれ。」 と駆け足で声の方角へ向かう 「ちょっと、ゴエモン・・・もう!」 路地の奥には家に囲まれ、人目につかない広場があった 「オラオラ!たてよ!」 「や、やめてくれ・・・」 「うるせぇ!親分の女に手を出しやがって!」 とらわれた男女一組とそれを嬲るガラの悪い男たち 一番屈強そうな男― 親分と呼ばれている男はおもむろに 「もう、やめろ」 ピタリと子分たちが動きを止める やっと終わったかと思った矢先 「この錆た剣でゆっくりいたぶってやんな」 下卑た表情で子分に剣を渡す。 「へい、わかりやした」 「ひぃ!」 振りかぶった時 「待たれよ!」 間一髪、現れた五ェ門。 「なんだテメェは!」 ふん、と五ェ門 「弱い者を大人数でいたぶるとは、大人気ない奴らだ。」 「うるせぇ!とっとと失せろ!」 いきり立つ男たち 「それ以上やるのならば、拙者があいてをいたそう」 「生意気な、やっちまえ!」 五ェ門を間合いに捕らえたとき、男たちは勝利を確信したが バシ!バシ!バシ! 3人がかりで飛び掛るが目にも留まらない手刀で叩き伏せる 「お主ら如き、斬鉄剣の露にすることすら憚る。」 一番デカイ男に目を向ける五ェ門 「さて、あとはお主だけだが。」 男は五ェ門の異様さに怯む 「この二人に手をださないと誓うなら見逃してやろう。」 「しゃらくせえ!」 男は五ェ門に飛び掛ったが、すばやく回り込まれ腕をキメられる 「お主のような乱暴者にこの腕はもったいないな」 ボキン!ボキン! 容赦なく五ェ門は男両腕を折る 「これで二度と悪さわできまい、今度からはまじめに働くことだな。」 「ひ、ヒイイイイイ!」 子分たちも打たれた箇所を折られているのか抑えながら逃げおおせる それを見送る五ェ門は声をかけられる 「あ、ありがとうございます」 痛めつけられてた男は女とともに五ェ門に礼をする 「礼はいい。それよりもこの町からはやく出て行くことだ。」 そういわれるとそそくさと男女は去っていく それも見送ると五ェ門はルイズたちのところへ戻ろうとするが 「まってくれ!」 五ェ門は振り返ったが誰もいない、気のせいかとおもったが 「ここだ!ここだよ兄さん!」 なんと、捨てられた剣から声が聞こえてくる 「面妖な・・・」 鞘に手をかける五ェ門 「ちがうって!兄さん、俺っちをつかってくれよ!」 しかし五ェ門は返す 「残念だが拙者にはもう斬鉄剣がある、あきらめろ。」 そういうと五ェ門は踵をかえす。 「ま、まってくれ!絶対役に立つって!そうだ!おれっち魔法を打ち消すことができるんだぜ!」 振り返る五ェ門 「ほう、それは面白い力だな。」 「だろ!俺を拾い上げてくれよ、お願いだよ!」 必死になる剣、それもそうだ。こんな人目のつきにくいところで捨てられたらガキの玩具にされるか くず鉄拾いに拾われるかどっちかなのだから。 「その言葉信じよう、だが偽りがあれば・・・・・。」 刃を覗かせる五ェ門。 「と、とにかく手にとってみてくれよ、な?」 五ェ門が剣を手に取る すると、左手のルーンが輝きだす 「お、おでれーた!、兄さんは使い手か!」 なんのことだと五ェ門 「いいから!俺っちは兄さんに拾われるべくして拾われたんだよ。」 ひとまず剣のいうところの「魔法を打ち消す力」について興味があったので拾うことにした。 「あ、俺の名前はデルフリンガーっていうんだ、兄さんの名前は?」 「うむ、拙者は石川五ェ門という」 「とりあえず俺の名前はデルフって呼んでくよ!」 口の軽そうな剣だとおもう五ェ門 「わかったからデルフ、少し落ち着かんか。」 しょぼくれるデルフ 「わ、わかったよ。鞘に収めてくれたら黙るから、その剣チラつかせるのは勘弁してくれ。」 「あとでお主の力、試させてもらうぞ。」 「おう、まかせてとき」 カチャン さっさと鞘に収められるデルフであった。 「さて、もうじき日が暮れる、急がねば」 ルイズたちに合流した五ェ門 「ちょっとゴエモン、どこへいってたのよ。それになに?その剣は?」 五ェ門は喋る剣についてルイズに聞いた 「それはインテリジェンス・ソードね。」 なんだそれはという顔をする五ェ門 「魔法の力で意思を持つようになった剣のことよ、わりと沢山あるのよ。」 剣を見つめる五ェ門 「それより、ダーリン。もう夕方だけどはやく帰らないと。」 しまったという顔をするルイズ 「・・・・のってく?」 横からタバサ 「人・・・4人に馬一頭。楽勝」 「そうね、タバサの風竜がいれば学園まですぐですもの。」 馬をどうやって運ぶのだと思ったが 「(きゅい!あばれないでね!)」 馬がおびえないよう目隠しをしておいて背中にのせる 「ブヒヒン?」 ずいぶん肝の据わった馬であるが、単に間抜けであるのかもしれない その日、五ェ門は久々に空からながめる夕日を目にするのであった。 前ページ次ページゼロの斬鉄剣
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前ページ次ページゼロの社長 ギーシュとの決闘から2日。 学院は今までと変わらず、生徒達で賑わっていた。 もちろん、変わった所もあった。 ヴェストリの広場には、あの決闘でのデュエルの後に土を埋めただけの状態なので、 円形に草の生えていない場所ができている。 生徒達も、見たことも無いドラゴンを呼び出す海馬のことを認識し、軽軽しくルイズを馬鹿にはできなくなった。 もっとも、その態度は海馬の力を恐れてのものであり、ルイズ本人にしてみれば、あまり好意的なものではなかった。 決闘をした当の本人であるギーシュはと言えば、表面は相変わらずであるが、 『なんとなくだけど…少し男らしくなった気がする。』 とは、隣の席であり、学院内でギーシュの彼氏と認識されているモンモランシーの談である。 そしてキュルケはと言えば、あの決闘より海馬に好意を抱いている。 見たことも無いドラゴンを操る見知らぬ土地から来た平民の使い魔。 過去の彼女の中に無かったカテゴリーである海馬瀬人という人間に、彼女がこいの炎を燃え上がらせると言うのもまた、 当然と言えば当然の流れだったのであろう。 さて、物語は次なるフェイズへと進む。 決闘より2日後の早朝。 ルイズと海馬はあの決闘の日より2度目の朝をコルベールの私室で迎える事となった。 あの決闘の日よりコルベールの手元に預けられた『召喚銃』こと、『デュエルディスク』と『デッキ』 しかし、デュエルディスクの使い方はもちろん、カードに書かれているテキストはコルベールに読めるものではなく、 また、デュエルモンスターズのルールそのものがわからない。 そのために海馬はコルベールにそのテキストの意味を口頭で教える代わりに、ハルキゲニアの文字をコルベールに教わる事にした。 しかし、それならば海馬とコルベールの二人でことが足りる。 なぜここにルイズがいるのか。 ルイズ曰く 『使い魔の力を正確に知っておく必要がある。』 とのことらしい。 が、しかし。 コルベールと海馬の永遠とも思えるデュエル講義には軽軽しく口をはさめるものではなかった。 「このカードはヴォルカニック・デビル。このデッキの切り札となるカードだな。」 海馬がデッキから引き抜いたカードは、黒い体に赤い炎の煙をまとわせているデザインのカードだった。 「ヴォルカニック・デビル…レベル8 炎属性炎族・効果 …この単語はさっきあったブレイズ・キャノン・トライデントか。 墓地に送る…そうか!このカードはブレイズキャノントライデントを、墓地に送って特殊召喚するんだね。 …攻撃力は3000、守備力が1800。なるほど、確かにこれは強力なカードのようだ。」 「ふむ、なかなか飲み込みが早いな。半日でそこまで読めるとは、言語学者になった方がいいんじゃないか?」 「仮にも教師だからね。それに、このテキストは結構言葉のパターンがあるから、別のカードで覚えた訳なら、応用は楽だね。 …通常召喚ができない、ということは召喚自体が難しいね。 しかし、敵モンスターはヴォルカニック・デビルを強制的に攻撃しなければいけない上に、 モンスターを破壊したら相手の場を一掃した上に相手プレイヤーに直接ダメージとは…」 コルベールはカードとしての強さを認識すると、そのカードを現実に召喚したときの恐ろしさを感じ、顔を曇らせた。 だが、それを知らずにルイズが口をはさんだ。 「攻撃力3000ってことは、ブルーアイズと同じ攻撃力なのね。 それで、能力を持っているなんて、ブルーアイズより強いじゃない。」 ピシッ…と、世界が凍る音がした。 「ルイズ…今なんと言った?」 凍った世界で、ルイズは気づいた。 しまった。まずい事を言ってしまった、と。 「えー…えっと。コ、コルベール先生はどう思います?」 どうにかコルベールに助けを求めようとする。 「ミス・ヴァリエール。それは違うよ。確かに、ヴォルカニックデビルとブルーアイズは同じ攻撃力だけど、 ヴォルカニックデビルには、召喚のためのルールがある。 そのため、ブルーアイズのように色々なパターンを駆使して召喚する事ができないんだ。」 「ルイズ。カードにはそれぞれ役割がある。そして、40枚のカードは他のカードを補い合い、勝利と言う未来へと進む。 1枚だけを見てカードの優劣など決まらん。考え無しに軽軽しく口をはさむな。」 その物言いにむっとしたルイズは、つい語気を強めて反論してしまう。 「なによ!強い能力を持つカードが勝つに決まってるじゃない。」 ふぅ…と、ため息をつく海馬。 「では、聞こう。どんなときでも場に攻撃力3000のモンスターがいるのと、 特定のカードが揃ったときのみ場に攻撃力3000のモンスターが出てくるもの。 どちらが相手をしづらい?」 「そっ…それは…」 言葉に詰まるルイズに、コルベールが言う。 「でも、ブレイズキャノンを使っていけば、相手に強力なモンスターが多数出てきても、破壊していけるね。 でもそれは、カードの運び方に影響される。 デュエルと言うのは1枚のカードを出し合うだけじゃない。 カード同士を助け合わせるのが重要なんだ。 いや、これはデュエルだけでなく、どんな事でもそうさ。」 そうこうしている内に、また海馬とコルベールは机に向き直ってしまった。 そして結局この話が終わったのは早朝日が登った頃であり、ルイズは睡眠不足により、授業中に爆睡していた。 そして同じような内容がもう1日続き、今朝にいたるのであった。 ルイズは、風呂に入りに行くと言って早めにコルベールの部屋を出た。 結局この2日間で、海馬はコルベールにデッキの内容の訳、デュエルモンスターズの対戦ルール、 現在わかっているデュエルディスクでの実体化のルールを伝え終えていた。 「しかし、実体化のほうはいまだ不確定なルールが多すぎる。 これに関しては、実践を積み重ねていくしかないな。」 「海馬君、それは…」 コルベールは顔を曇らせる。 実践、いや、この場合は実戦と言い換えられるだろう。 つまり、モンスターで何かと闘うと言う事だ。 「私は、なるべくなら、これをつかわずにすむ毎日が続いて欲しいと思っている。 これは使いこなせば、あまりに強力な力だ。…だから―――」 「俺は、俺がなぜここに召喚されたかを考えた。 たぶん俺は、ここでなさねばならない事があるのだろう。 そのためにここに呼ばれたと思っている。 ならば、おれがなすべき事が起こったときに、万全の状態であるように準備しているだけだ。」 「…………」 そんな話を終え、海馬は先に食堂に向かうとコルベールに伝え、部屋を出た。 ルイズも風呂から上がった後合流すると言っていた。 そしてまっすぐ食堂へ向かう道の途中で、キュイキュイとやかましい喋り声が聞こえてきた。 ふと、目を向けると、先日決闘の場にいた青い髪の少女…タバサと言ったか。 それと、その使い魔の大きな竜の姿が見えた。 そして、喋り声を多く上げているのは、竜の方であった。 「お姉さま。やっぱり吸血鬼退治は危険なのね。あの従姉姫ったら、こんな危険な命令をさせるなんて、意地悪を通り越してるのね! …って!まずいのね!?」 使い魔の竜 シルフィードは驚いた。 喋っているところを他人に見られてはいけないと、タバサに言われていたのに、 見知らぬ人物が傍に現れていたのだ。 一方の、盗み聞きをするのを嫌った海馬は、その1人と1匹の前に姿を晒した。 「あわわ、まずいのねお姉さま。喋っているところ見られちゃったのね。あいた。」 こつんと、自身の身長よりも高い杖でシルフィードの頭を叩いたタバサ。 「お喋り。」 「盗み聞きをする気は無かったのだがな、そこのドラゴンがやかましい声で騒ぐ中に、気になることがあったのでな。」 「シルフィード」 「知っている。そのドラゴンの名前だな。それより、だ。 貴様はこれから、吸血鬼退治とやらに行くのか?」 「そう」 タバサは短く肯定をした。 そして、そのまま海馬に背を向け、シルフィードの背にのろうとする。 「俺も連れて行け。」 「なっ!なに言ってるのね。吸血鬼は危険な相手でお姉さまだけでも危険なのに、あいた。」 「静かに。…命の保証はしない。自分で自分の身が守れるなら。」 「お姉さま!?」 「ふん。もとより守ってもらおうなどと考えてはいない。俺には俺で試したいことがあるのでな。」 「……」 無言のままシルフィードの背にのるタバサ。 そして海馬は、デュエルディスクを展開し、手札のモンスターを召喚する。 「古のルール!出でよ!ブルーアイズホワイトドラゴン!」 海馬の最強モンスターが召喚される。 そして、海馬はブルーアイズの背にのった。 「思い出したのね!この間ギーシュ様に勝ったかっこいいドラゴンの人なのね! 何より、そのかっこいいドラゴンなのね!すごいのね!あいた。」 「出発。……勝手についてきて。」 「ふん、ブルーアイズ。シルフィードに続け!」 2匹のドラゴンは翼を広げ、それぞれの主を背に乗せ大空へと羽ばたいた。 そして、風呂をあがり食堂へと向かっていたルイズは、偶然それを見つけた。 「ちょっと!勝手にどこに行くのよ!?セトー!?」 前ページ次ページゼロの社長
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前ページ次ページゼロの武侠 例えるなら、それは獲物を定めた獣の気配。 万雷の歓声に紛れ、己が身を潜める確かな殺気。 気を緩めれば、瞬く間に静寂を打ち破り喉下を喰らわれる。 そんな感覚を覚えたワルドは静かに自分の杖へと手を掛けた。 誰にも悟られぬよう、されど一息で敵を迎え撃てる態勢を作り上げる。 自分の存在が伝わった事を確信して、梁師範は立ち去った。 その場に取り残されたのは状況を理解できなかったルイズのみ。 周囲を取り巻く生徒達もアンリエッタ姫以外に目はいっていない。 唯一人、違和感に気付けたのは興味なく手元の本に視線を落としていたタバサだけだった。 夜の帳が落ちる頃、再びワルド子爵はその場に現れた。 それは自身に恐怖を与えた存在を探る為に。 明らかに相手は自分を誘い出そうとしている。 だが、彼はあえてその挑発に乗った。 昼間のような状況で奇襲を受ける危険を考えれば、 多少の事があろうと敵の存在を計るべきだと判断したのだ。 「よう。待たせたな」 張り詰めた空気を放つワルドに親しげに話しかける声。 振り返った先にいたのは奇妙な服装をした見覚えの無い黒髪の平民。 しかし、薄暗闇の中から現れた男の視線にワルドは覚えがあった。 殺意を滾らせた獰猛な獣の眼。よもやそれがただの平民のものだったとは……。 手に掛けた杖から手を離し、彼は下らなそうに笑みを浮かべた。 その刹那、空気が弾けた音が周囲に響く。 「真面目にやれ。でなきゃ……死ぬぞ」 緊張が解けかけた直後、ワルドの前髪を揺らす風。 それは魔法ではなく、目の前の男が放った拳圧によるもの。 顔が確認できる距離とはいえ、互いの間は3メイルは離れている。 今の拳を、もし腕にでも受けていれば枯れ木でも折るように砕かれていた。 男の危険性を理解しワルドは再び杖に手を伸ばして引き抜いた。 メイジであろうとなかろうと眼前の敵の脅威に変わりはない。 その確信が彼から慢心を削ぎ落としトリステイン最強のメイジへと変える。 だが、そうではなくては困る。 ただワルドの命を狙うだけならば不意を突き、 未知の技術である剄を駆使して戦えば負ける事はないだろう。 梁が望んだのは互いの全力を尽くして戦う死闘。 「何故、僕を狙う? 恨みかそれとも誰かに雇われたのか?」 見た事のない構えを取る梁にワルドは問う。 魔法衛士隊の隊長となれば内外を問わず多くの人間から怨み妬まれる。 事実こうして暗殺者に命を狙われた事もあった。 しかし相手に杖を抜く時間を与える相手は初めてだ。 そして意図を理解できぬワルドに返された答えは意外な物だった。 「お前が強そうだったからだ」 「何を…?」 「相手が強いと知れば手合わせてしたくなる。 どちらが強いか確かめたくなる。全力を以って戦いたくなる。 ……お前にあるだろう、そんな気持ちが」 それは決して消せない格闘家の性。 世界が変わろうと決して揺るがない。 ただひたすらに強さを追い求めて道を突き進む。 ワルドとてそれを笑い飛ばす事は出来ない。 かつて彼が憧れた貴族達も、そんな下らない理由で決闘に赴いた。 それは失われた過去の栄光の記憶。 だが、この男は尚もそれを守り貫き通しているのだ。 なんという純粋なる意思と覚悟だろうか。 「……もしも僕が応じなかったらどうするつもりだったんだ?」 「そうだな。その時はお姫様でも襲って無理矢理にでも引っ張り出すか」 「なるほど。となれば魔法衛士隊の隊長として放置しておく訳にもいかんな」 楽しげに冗談を交わした時間も一瞬。 殺気を纏わせて向かい合う両者に言葉は要らない。 あるとすれば、それは唯一つ。 「トリステイン王国グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」 「西派白華拳最高師範、梁」 互いの名を心に刻み付けるかの如く名乗り合う。 これからの死闘を未来永劫忘れる事なきように、 たとえどちらかが倒れようともそれを誇りとする為に。 「参る!」 その言葉を発したのどちらだったのか、 あるいは両方だったのか、戦いの幕はその一言で開かれた。 神速の域に達しているであろう梁の踏み込みをワルドは迎え撃つ。 『閃光』の二つ名を持つ彼の戦い方は意外にも守勢にある。 相手の動きを見、その手を窺い、万全を期して彼は攻勢に打って出る。 迂闊に動けば実力の劣る敵にさえ倒される事があると熟知しているが故の戦法。 そして、何よりも彼には相手よりも遅れて発そうとも間に合う『速さ』がある。 相手の詠唱を見極め、それに先んじて魔法を完成させる。 それでは如何なるメイジでさえも敵う筈はない。 仕掛けた瞬間、己が何をされたかも分からずに打ち倒されるだろう。 しかし至近から放たれた寸打をワルドは驚愕と共に避けた。 切り返すべき隙などない。続け様に放たれる連打を辛うじて凌ぐ。 絶対の自信を持つ速度において同等あるいは凌駕する相手と杖を交えた事はない。 困惑を押し殺し、彼は梁師範を引き離そうと背後に跳躍した。 だが、それこそが梁師範の狙い。 着地と同時に避けようのない剄での一撃を放ち勝負を決める。 両手で印を結び、剄の呪文を口にする。 「煉精化気煉気化神…」 追撃をせずに足を止めた梁師範に違和感を感じつつも瞬時にワルドはルーンを紡ぐ。 先に完成したのはワルドのエア・ハンマー。 内気より剄を練り上げる動作は彼から見れば致命的な隙。 互いの立場は逆転し、未だに詠唱を続ける梁師範に空気の塊が襲い来る。 受ければ完全武装の兵士とて昏倒せしめる威力を秘めたそれと、 真っ向から梁師範の掌底が激突する。 「破ッ!」 破裂するような衝撃音と巻き起こる風。 自身の魔法が徒手で打ち砕かれた事実にワルドは凍りついた。 それも見えない筈の一撃をああも事も無げに…。 ワルドの疑念は確信へと変わった。 この平民は魔法ではない“何か”を有していると。 (危ねえ危ねえ……死ぬかと思った) 睨むのにも似た視線を浴びながら、悟られぬよう梁師範は動揺を隠し通す。 まさか先に魔法を打たれるなどとは思いもよらなかった。 そもそもルイズしか比較対象がいなかったのだから仕方ない。 見えない攻撃を受けれたのもライフルと対峙した時のように、 杖の先端と放たれるワルドの殺気から判断しただけだ。 運が悪ければ、ここで敗れていてもおかしくなかった。 呼吸を整えて梁師範は再び剄を練り上げる。 だが、それ今しがた放った打透剄ではない。 己が両手に剄を纏わせて武器と変える西派の基本。 魔法を詠唱させる隙を与えれば確実に敗北する。 互いの手を知らない者同士とはいえ引き出しの多さは恐らく向こうが上。 まるで中国でのペドロ達の戦いを真似るように彼はワルドの懐へと飛び込んだ。 引き離そうとするワルドと喰らいつく梁師範。 その合間に放たれる両者の攻撃は互いに必殺。 ワルドのエア・ニードルが拳法着を掠めれば、梁師範の手刀が羽帽子に切れ目を入れる。 返しで見舞われた蹴りを避けながらワルドは舌打ちした。 分が悪い。相手が両手足使えるのに対して、こちらは杖一本。 それ以外の部位で受けようとすれば容易く切り落とされるだろう。 気迫の込められた一撃を前に、防衛本能がそう告げていた。 魔法を使わせぬ為、杖を狙ってきているのは分かっている。 だからこそ、今まで一撃もマトモに受けずに済んでいるのだ。 このままでは持久戦……体力勝負ともなればどちらに転ぶかは分からない。 平民相手に負けたとなれば自身の名誉は傷付くだろう。 何よりもワルドは確実に勝つ事を是としている。 一か八かの勝負に全てを賭けるつもりは毛頭ない。 だからこそ彼は必勝の手に打って出た。 エア・ニードルを解き、彼が唱えたのはフライ。 旋風脚を放った梁師範の頭上を飛び越えて、彼は寮塔の上へと降り立った。 「悪いがこれで勝負を決めさせて貰う」 詠唱するのは彼の持つ魔法の中でも高い殺傷力を持つライトニング・クラウド。 放たれた雷雲は如何なる強者であろうとも避け難い。 ここは決して拳足の届かぬ場所。 仮に駆け上がって来れたとしても魔法の完成には間に合わない。 故に、絶対の安全地帯とワルドはそう思っていた。 しかし、彼は知らない。 梁師範が手足に纏わせていた剄を放てる事を、 フライで頭上へと逃れた直後から彼が呪文を唱えていたのを、 そして今ワルドがいる場所は彼にとっても絶好の距離だという事実を。 「三華聚頂天花乱墜…」 組まれた印を中心に、体を巡る膨大な内気が剄へと変化し収束していく。 西派の中でも知る者は限られている究極の奥義。 剄を破壊力に変えるという一点においてこの技を超える物はない。 一度放てば体力を消耗し立ち上がる事さえままならぬ諸刃の剣。 故に必殺必倒。この技が放たれたのならば、そこには勝利か敗北しかない。 ワルドの眼が驚愕に見開く。 足元で構える男の両の掌が太陽の如き眩き光を放つ。 それこそが魔法ではない“何か”の正体だと彼が確信した直後。 「百歩…神拳ッ!!」 眼下より放たれた一条の光がワルドもろとも寮塔を貫く。 その刹那。寮内に響き渡った轟音が寝入っていた生徒達に危急を報せた。 前ページ次ページゼロの武侠
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前ページ次ページゼロの魔獣 ニューカッスル アルビオン王家終焉の地となった、かつての名城は、今や見る影もない。 王党派最後の砦は、物理的な意味で文字通り『壊滅』していた・・・。 百倍以上の敵に囲まれ、完全に進退が窮まった事で、王軍三百はその悉くが死兵となった。 城門に迫る敵を薙ぎ払い、一人でも多く道連れにせんと、烈火のごとく逆襲をかける。 その裂帛の気合は、生き延びて勝利の美酒を味わいたい雑兵達に耐えられるものではなかった。 前線の思わぬ崩壊に『レコン・キスタ』首脳部が採ったのは、考えうる中で最も単純かつ頭の悪い策であった・・・。 瓦礫の山に悪戦苦闘する火事場泥棒どもに侮蔑の視線を投げかけつつ、羽帽子の長身が進んでいく。 向かった先は、レコン・キスタ旗艦-『レキシントン』・・・今回の戦いの趨勢を決定付けた艦であった。 「首尾はどうだったかね? 子爵」 「・・・今 手の者に回収させているところですよ しかし いまさら『彼』に何の用です? ミスタ」 「フフ・・・ 適材適所というヤツさ まあ 私のちょっとした趣味といった所だよ」 『ミスタ』と呼ばれた白衣の男は、そう言ってニヤリと笑う。 「それにしても」 と、辺りを見回しながら、羽帽子の男・ワルドが話題を変える。 ―改修前、『王権(ロイヤル・ソヴリン)』の名を冠し、王家の守護神とまで謳われた名鑑の名残はどこにも無い。 優美なマストは取り払われ、物々しい砲台と無骨な計器類が立ち並ぶ・・・ 明らかに既存のハルケギニアの『船』のルールを飛び越えた、空の要塞であった。 「実に閣下の好みそうなデザインだ まったく・・・異界の技術とは恐ろしい物ですな・・・」 この『異物』がハリボテで無いことを、ワルドは既に知っている。 先の戦いにおいて、この艦は単独で城門に突撃し、 逃げ惑う味方と必死の形相で踏みとどまる敵を、城ごと吹き飛ばして見せたのである。 「なに・・・ 私の知人が構築した技術を この世界の魔法技術で応用してみただけのことだよ もっとも その友人は 既にこの世の者ではないがね・・・」 「・・・魔獣・・・ですか」 ワルドの指摘に、男の瞳が黒眼鏡の底で怪しく光る。 -ややあって、男が口を開く。 「魔獣といえば・・・ 慎一くんに噛まれた傷の具合はどうかね?」 「すこぶる良好ですよ いまだったらオークと殴りっこしても勝てそうだ」 そう言いながら、ワルドは永遠に失われたハズの左腕- その肘先に取り付けられた銀色の篭手を巧みに動かしてみせる。 「それは長上 介抱祝いといってはなんだが ひとつ贈り物を用意させて貰うよ ― 子爵は乗馬は嗜むのかな?」 「一応は 乗りこなせない幻獣など存在しないと自負していますが」 「結構 だが こいつは予想以上のじゃじゃ馬だよ 覚悟して置きたまえ」 白衣が指を鳴らす。 ひとつの巨大な影が現れ、二人の頭上を高速で飛び去っていく。 突風に煽られる羽帽子を押さえながら、ワルドはまず驚愕の色を浮かべ・・・ 次いで子供のように瞳を輝かせた。 トリステイン南方、ラ・ロシェールのさらに先、タルブ―。 広大な草原に囲まれた寒村、その近くに建てられた簡素な寺院を 慎一はシエスタを連れ立って訪れていた。 「・・・ これが 『竜の羽衣』 なのか・・・?」 「ええ おかしな話でしょう? こんな鉄のカタマリが 空を飛ぶはずなんてないのに」 「・・・・・・」 「あの・・・ シンイチさん・・・?」 ―ここに来るまでの道中、慎一は一つの仮説を立てていた。 シエスタの祖父は、何らかの事故に巻き込まれ、 飛行機に乗ってこの世界にやってきた『地球人』なのではないかと・・・。 その予想、半ばまでは当たり、残りの半分は外れていた。 目の前にある鉄の塊は、間違いなくこの世界の物ではない。 おそらくは『飛行機』であり、シエスタの祖父は、ほぼ間違いなく『異邦人』であろう・・・。 ― おそらく、と言ったのは、それが慎一の知る一般的な飛行機では無かったからである。 慎一が古い記憶を辿る。 子供のころ見た特撮ヒーロー番組。 地球を跳梁する宇宙怪獣、 巨大な敵に立ち向かう地球防衛軍。 ピッチリとした近未来的なスーツ、 ビビビーッと音の出るスーパー光線銃。 ― 慎一の眼前にあるのは そんな世界から飛び出してきたかのような『戦闘機』だった・・・。 慎一は『竜の羽衣』 の周囲をゆっくりと回り、その全体像をあらためて確認する。 外見は上履きを巨大化させたかのような流線型、 塗装の類は施されておらず、全体が地金の渋い銀色で覆われている。 翼は無く、機体後部にモヒカンのような尾翼が申し訳程度に一本。 後方にはジェット機のようなブースター。 特徴的なのは、コックピット前方、機体の上部に取り付けられた防弾ガラス。 半透明の黄色と緑、六角形の窓が組み合わさって、亀甲模様を作っている。 ガラス内部には人が入れそうなスペース。一瞬複座型かとも思ったが、シートは無い・・・。 そこまで調べた時、慎一は機体表面に、引っかき傷のような文字が彫ってあることに気付いた。 「・・・『試作壱号機 ― 荒鷲』」 「えっ?」 慎一の言葉に、シエスタが驚きの声を上げる。 「シンイチさん その字・・・読めるんですか?」 「・・・爺さんの遺品を見せてくれるか?」 程なく、シエスタは二冊の本を持ってきた。 とりあえず慎一は、辞書のように分厚い一冊を開く。 中には頭痛がするような大量の数式と、やたらと細かい図面・・・。 一目で機体の仕様書である事が分かったが、それ以上の事は慎一には分からない・・・。 ひとまず本を閉じ、小さい手帳の方を開く。 それは、シエスタの祖父の手記であった・・・。 【昭和49年 4月4日】 慎一はそこで首を傾げた。 シエスタの論述が正しいならば、彼女の祖父がこの世界に来たのは終戦の前後であるはずだ。 来る途中で時間軸が捻じ曲がったのか、地球とハルケギニアでは時間の流れが違うのか 或いは・・・彼の住んでいた『地球』は、慎一の知る『地球』とは、似て異なる世界なのか・・・? 「・・・・・・」 「何か 分かりましたか?」 「・・・この機体は、宇宙開発用に作られたものだったんだ」 「宇宙・・・?」 「コイツでお月様まで飛ぼうとしてたって事さ・・・」 「そんな事・・・?」 慎一にとっても、にわかに信じられる記述では無い。 だが、ここに書かれている事が事実ならば、 このマシーンは十三使徒・・・慎一の知る科学者達が作り上げたものではないだろう。 十三使徒の科学力は自然のコントロール ― 地球の『内』を向いた保守的な思想に乗っ取っていた。 この機体にはその逆 ― 地球の『外』を目指した技術が詰まっていることになる。 ページを進める。記述は徐々に、男の身辺の話へと移っていく。 三体の変形合体により高い汎用性を持たせるスーパーロボット計画。 その合体テストの際に発生した事故。 中央の機体がサンドイッチになって大破し、臨界状態となった炉心が爆発、 先頭の機体に乗っていた『彼』は、強烈な爆発に巻き込まれ― ― 気が付いた時には、ハルケギニアの空を飛んでいた・・・。 それは、筆者の心の痛みが伝わってくる文章であった。 -事故に巻き込まれた仲間の安否 -プロジェクトを失敗させてしまった無念 -日々募っていく望郷の念 いつしか慎一は、タルブの草原で夕焼けを望む『彼』の横顔をそこに見ていた。 『この手記を手に取ってくれたあなたに・・・』 最後のページに書かれていたのは、『彼』から慎一にあてたメッセージであった・・・。 『この手記を手に取ってくれたあなたにお願いがある。 あなたにこの、竜の羽衣を託したい。 私はもう、生きて故郷の地を踏むことは無いだろう。 技術や手段の問題ではない。 私はこの地で愛する家族を手に入れ、すっかり根を下ろしてしまった。 故郷に帰るための翼を失ってしまったのだ。 だが、この機体は違う。 この機体には、無限の未来を託して散っていった仲間たちの想いが宿っているのだ。 不躾な頼みである事は承知だが、是非、この機体を本来あるべき場所へ 虚空の彼方へと、解き放ってやって欲しい・・・。』 慎一は静かに手記を閉じた。 「・・・シエスタ この『羽衣』の事なんだが」 「ええ 私には 難しいことは分かりませんが・・・ でも シンイチさんに預けることで 祖父もきっと喜ぶと思います!」 「ありがとう」 慎一は機体の上に四つんばいになると、ゴリラの筋肉を纏い、鷹の翼を広げた。 「え! ええっ!? ここから?」 「一足先に学院に戻る 休暇明けには迎えに来るさ 家族水入らずで 骨休めしとくといいぜ!」 重厚な銀色の機体がズズッと持ち上がる。 慎一は緩やかに、夕焼けのタルブの草原へと飛び立った―。 ― 元の世界に戻るための手がかりを得た慎一ではあったが、問題はいまだ山積みであった。 この機体は、専門知識を持つシエスタの祖父にも動かせなかったのだ。 半世紀以上もブランクのある骨董品を、ド素人の慎一が治さねばならない。 慎一としては、一縷の望みにかけるしかなかった・・・。 学院に戻ったときには、既に太陽が頭上へと来ていた。 機体の置き場に困り、とりあえず、かつて決闘を行った広場へと着陸する。 衆人が注目する中、慎一はある人物を待っていた。 ―やがて、人込みを掻き分けながらこちらに向かってくる禿頭・・・。 「シ シ シ シンイチくーん! その素晴らしいマシーンはどうしたんだい!?」 学院一の変人 ジャン・コルベール ―― 慎一の一縷の望みが、気持ち目玉をグルグルさせながら現れた。 前ページ次ページゼロの魔獣
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前ページ次ページゼロの魔獣 「・・・で 何でお前がここに居るんだ?」 「フッ このギーシュ・ド・グラモン トリステイン王家の一大事と聞きつけ 及ばずながら尽力しようと駆けつけたのさ!」 「ルイズならとっくの昔に出発したぞ とっとと追いかけたらどうだ?」 主の居ない一室では、男二人の不毛な会話が続いていた・・・。 ギーシュが今朝になってルイズの部屋を訪れたいきさつはこうである。 昨夜、奇妙な来訪者の姿を目に留め、『たまたま』アンリエッタの依頼を耳にしてしまったギーシュは すぐさま義侠心を奮い立たせ、アルビオン行きに名乗りを挙げようとした― ―が、突然室内に怒声が響き渡り、次いで物凄い剣幕のルイズが飛び出して来たため 出るに出られなくなってしまったのだ・・・と。 「まったく シンイチは貴族の意地ってもんが分かってないな・・・」 タメ息をついてギーシュが続ける。 「今から馬で追いかけて 一緒に連れて行ってくれなんて そんなミソッカスみたいな真似ができるかい? ここは密かに先回りして ルイズのピンチに颯爽と現れるのがベターってワケさ」 「・・・そのために 俺の力を借りにきたのか?」 あまりの虫の良さに腹も立たない。 あれ程最悪のファースト・コンタクトであったのも関わらず 実は慎一は、この金髪の若者が嫌いでは無かった。 お調子者であるという一点において、彼は、慎一がかつて共に旅をしていた少年と似ていた。 それに実際、この話は渡りに船だった。 真理阿やアンリエッタにも頼まれていたし、命を救われた恩もある。 慎一にはルイズを守らねばならない、それなりの責任がある・・・のだが 昨夜の大喧嘩の後、ノコノコとルイズについて回る気にはどうしてもならなかった。 ギーシュを送ったついでに、アルビオンに物見遊山と洒落込む、と言えば かろうじて、かろうじて男としての面子も保てるのでは無いだろうか? (キュルケに言わせれば、慎一のそういうところが『可愛い』のであろう。) 「よく分かった じゃあ早速出発するか!」 「そう タバサに頼んでシルフィードを借り・・・ええッ!!」 慎一はギーシュの首根っこを捕まえると、一息に窓から飛び立った。 力強く翼をはばたかせ、みるみる上空に舞い上がると、ピタリと急停止した。 「・・・おい ラ・ロシェールってのはどっちだ?」 ギーシュは声にならない。顔が青紫に鬱血し、口からあぶくを吹いている。 震える指先で、かろうじて目的地を指差した。 「なんだ 逆方向じゃねぇか・・・ 早く言えよ」 そう言うと、慎一は風竜もかくやというスピードで、一気に雲のかなたへと飛び去った。 「タバサ! 今すぐシルフィードを出して!!」 自室に物凄い勢いで駆け込んで来たキュルケに対し、窓の外を見ながらタバサが言った。 「・・・あのスピードは 無理」 ―ラ・ロシェールに向け快調に飛ばし続けていた慎一ではあったが ふと、前方の異変に気づき、翼を大きく旋回させて乱暴に着地した。 ぶつけた尻をさすり、朝食を幾分戻しながらギーシュが抗議する。 「シンイチ 休憩するならもっとエレガントに・・・」 「敵がいた」 慎一の飼っている『目のいいヤツ』は、1キロ先の獲物を捉えていた。 それは、通りすがりの旅人を襲うには、あまりに物々しい一団だった。 「情報が筒抜けじゃねぇか 白土三平の漫画でもありえねえ・・・」 「だ だが チャンスじゃ無いか・・・ 奇襲を企むものは 自分達が奇襲を受けることは想定していないものさ・・・」 「ほう」 慎一は素直に感心した。死に掛けの若者に兵法を説かれるとは思ってもいなかった。 「いい機会だ・・・ ここは ボクの親友の力を借りるとしよう・・・」 ギーシュが指を鳴らす。 たちどころに何者かがもこもこと地面を盛り上げ、高速でこちらに迫ってきた。 慎一は括目した。 その使い魔の巨体にではない。 その生物が地面を掻き分けながら、自分のスピードについてきた、という事実にである。 哀れな襲撃者たちは、文字通り足元をすくわれた。 彼らは元アルビオンの傭兵であった。といっても、今は金で雇われているワケでは無い。 ラ・ロシェールの街の酒場『金の酒樽亭』で飲んだくれていた所、 店に入ってきた目つきの悪い女に、いきなり仲間の一人が椅子で叩き伏せられたのだ。 彼らにも傭兵の意地がある。突然の乱入者相手に果敢にも立ち向かったものの 酒の回った体でどうにかなる相手ではなかった。 酒瓶でどつき回され、テーブルで押し潰され、ウォッカで火ダルマにされ 遂に彼らは暴力に屈するところとなった・・・。 殺らなければこちらが殺られる・・・ 全身に生傷を負い、悲壮な決意を持って襲撃計画に望んでいた彼らの一人が、 突然大地に飲み込まれた。 背後からの悲鳴に全員が振り返った。それが新たな悲劇の始まりだった。 前方の大地が裂け、そこから出現した悪魔に、瞬く間に半数がぶちのめされた。 前歯を折られ、みぞおちを打たれ、睾丸を蹴り飛ばされ 後から出てきた金髪の若者が名乗りを上げる頃には、既に大勢が決していた―。 ギーシュがワルキューレを使い、事後処理にあたる。 次々に身ぐるみを剥ぎ、縛り上げていく。 慎一が魔獣を使わなかったのは、優しさからではない。 彼らの知る情報を、聞きだす必要があったからである。 ―と、 傷の浅かった傭兵の一人が、後方で何かゴソゴソとやっている。 「おい テメー! 妙な動きしてんじゃねえ!!」 言いながら近づいた慎一の前で、異変は起こった。 突如、男の体がビクンと震え、その全身が痙攣する。 全身の筋肉が異常に盛り上がり、着ていた服が裂ける。男が天を見上げて咆哮する。 とっさに身構えた両腕の上から拳が跳んできた。 ダンプカーでもぶつかったかのような衝撃が走り、 慎一の体はサッカーボールのように大きく跳ね飛ばされた。 悲劇の場は惨劇の場へと姿を変えた。 男の瞳は、既に正気のそれではない。 両手を縛り上げられた傭兵達は、まともに抵抗することも出来ず。 かつての仲間に抉られ、絞られ、叩き潰されて、断末魔の悲鳴を上げる。 「クッ! ワルキューレッ!!」 ギーシュの叫びに、近くの戦乙女が槍を繰り出す。 男は避けない。青銅の槍は腹筋で止まり、飴細工のように捻じ曲げられる。 ギーシュは男を包囲すべく、ワルキューレに同時に指示を出す、 と、男が突然、猿の如く飛び跳ね始めた。 男はその巨体からは想像もつかない動きで飛び回り、紙人形でも相手にするかのように 次々とワルキューレを引き裂いていく。 「な 何なんだよコイツはァ!?」 「下がってろギーシュ! コイツは俺の獲物だ!!」 ペッと奥歯を吐き捨てながら、慎一が叫ぶ。 その瞳がただちに猛禽のそれへと変わり、飛び回る男の姿を捉える。 飛び交う男の軌道にあわせ、慎一が跳ぶ 中央で両者が交錯し、動きが止まる。 両手を絡め、互いの額を擦り合わせながら、戦いは純粋な力比べとなる・・・。 ずずっ、と慎一の体が徐々に後退していく。 勝利を確信した男が雄叫びを上げ、慎一の首筋に齧り付く。 「ウオオオオオオオオオ!!!! この俺をッ ただで喰えると思ってんじゃねえええええ!!」 大きくのけぞりながら慎一が吼える。 その額から、ズルリと鷹のクチバシが飛び出す。 「うおおおおおおおお!!!」 慎一がその尖った頭部でヘッドバットを繰り出す。 ビキッと鈍い音がして、男のこめかみが大きく穿たれる。 奇声を上げてよろめく男を、慎一は絡めた両手で引き起こす。 その右腕が獅子の頭部に、左手が熊と頭部へと変化し、男の両手を噛み千切る。 「噛み付きってのはこうやるんだよおおオオオ!!」 慎一が大口を開け、男の頚動脈目がけて牙を剥く。 ぞしゅっという炸裂音と共に、周辺の頚骨、鎖骨ごと一口でそぎ落とされる。 歯形上に開いた風穴から、噴水のように血がふき出し、遂に男は倒れこんだ。 「アンタら・・・いくら相手が賊だからってやりすぎよ」 木陰で頭を抱えながら、気分が悪そうにキュルケが言う。 シルフィードで追ってきた彼女達は、惨劇を遠目で目撃することとなった。 「・・・・・」 タバサも脂汗をかいている。若くして数多くの修羅場をくぐり抜けて来た彼女ではあったが これ程までに酷い現場に立ち合ったことは無い。 「―信じてもらえないとは思うが コレをやったのは慎一じゃない 彼らの仲間の一人さ」 足元で怯えている使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデを抱きしめながらギーシュが弁護する。 慎一は気にした風も無く、黙々と遺留品を漁っている。 「バチが当たるわよ ダーリン」 「どうせ死人にゃいらん」 そんなやり取りをしながら、慎一は目当ての品物を発見した。 「お前らの国の傭兵は、こんな物を持ち歩いてるのか?」 「なんだい? それが男を怪物にしたマジックアイテムなのかい?」 「・・・いや そんな大層な物じゃねえ」 そう言いながら、慎一は、是が非でもアルビオンに行かねばならない事を悟った。 男を変貌させた道具は、おそらくは慎一の世界から持ち込まれた物 ―1本の注射針。 そのガラス管の中には、まだ半分ほど、透明な液体が残されていた・・・。 前ページ次ページゼロの魔獣