約 845,521 件
https://w.atwiki.jp/animeoped/pages/51.html
ゼロの使い魔~双月の騎士~ ぜろのつかいま~ふたつきのきし~ 監督:紅優 シリーズ構成・脚本:河原ゆうじ キャラクター原案:兎塚エイジ キャラクターデザイン・総作画監督:藤井昌宏 音楽:光宗信吉 アニメーション制作:J.C.STAFF オープニング テーマ曲:「I SAY YES」作詞:森由里子 作曲:坂部剛 編曲:新井理生 歌:ICHIKO エンディング テーマ曲:「スキ? キライ!? スキ!!!」作詞:森由里子 作曲・編曲:新井理生 歌:ルイズ(声:釘宮理恵) TVアニメ「ゼロの使い魔~双月の騎士~」サウンドトラック I SAY YES [Maxi] スキ?キライ!?スキ!!! [Maxi] 2007年 作品名:せ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1709.html
前ページ次ページゼロのイチコ 「うぎぎぎぎ・・・たぁ!」 気合の入った声と共に、剣先が握りこぶし一個分ぐらい浮いた。 そして重力に引っ張られて剣が落ちる、その勢いでイチコが地面に埋まった。 学院の中庭に剣を握った手が生えている。 シュールだ。 一旦剣を離すとイチコがヨロヨロと地面から浮き出てくる。 「やりました、ご主人様! ちょっとだけ浮きました」 「振れるようになるまで何年かかるのよ」 ため息が出る。剣を買ったのは無駄な出費だっただろうか? まだ買ってから一日だから分からないが、そもそも剣を振り回す筋力がない。 幽霊とは鍛えれば筋力は上がるんだろうか。 一般的に強力なゴーストやスプライトはその想いの力によって力も変わると言う。 それが憎しみでも愛情でもなんでも構わない。 彼女の場合は『お姉さま』に再び会いたいがために幽霊をやっているわけだ。 しかし、落ち着きの無い彼女を見るとそう強力な想いを募らせてそうには見えない。 思い込んだら一直線な節はあるけれど。 「もうそろそろ授業なんだけど」 「あ、すいません。もうちょっとで出来そうなので練習してても良いでしょうか?」 「いいけど、学院の外にでるんじゃないわよ」 「はい!」 本人はコツを掴んだと思っているようだが、あれはまだまだ先が長そうだ。 午後はコルベール先生の授業だった。 相変わらず話が少々脱線する事が多い、しかもその話を興味ありそうに聞いてる生徒は一人も居ない。 私もその一人で、何か必死に語りだしたコルベール先生の話を右から左に受け流していた。 ふと考えるのは使い魔のイチコの事。 お姉さまと再び会いたいというだけで幽霊になった女の子。 そんなに何度も話を聞いたわけじゃないけど、彼女がどれだけお姉さまを好きだったかはなんとなく分かる。 すぐにとは言えないが。まあそれなりに使い魔として仕事をすればお姉さまを探してやっても良いかもしれない。 ドジは多いけれど基本的に上下関係を理解して尽くそうとしてくれている。 ちゃんと働くものにはちゃんとした褒美を与えないといけない。 今のところ先日のイタズラでマイナス評価なのだけど。 探すと言えば、彼女がどこの国の出身なのか聞いたことが無かった。 顔つきが大分違うし、かなり遠い国なのかもしれない。 確か「セイオウジョ学院」と言っていただろうか。トリステインにある学院ならさほど時間は掛からないと思うのだが。 もし東方だとするならかなり無理がある、そうで無いことを祈ろう。 しかし、そのお姉さまに会ったとたんに成仏してしまわないだろうか。 イロイロと考えた。 わたし、高島一子はただいま猛特訓中です。 というのも昨日ご主人様から剣を頂いたからです。 どうも使い魔というのはイザと言う時はご主人様を守らなければならないらしいです。 確かに、フレイムさんやシルフィードさんを見ると私ってば頼りないなぁとは思います。 しかし、私には他の方々には無い二足歩行、武器を握れる手があります! いえ、歩けませんけど…… ともかく、その利点を十分に活かしていきたいと考える次第です! 「たぁ!」 掛け声一閃、剣先が地面からこぶし二つ分ぐらい浮き上がりました。 「デルフさん、今けっこう浮きませんでした?!」 「ぉお、最高記録の二倍はいったな」 「大分感覚が分かってきました」 剣を振ると言うと、腰を落として重心を低くして。とかイロイロあると思われます。 しかし私は重心がありません。いやあるにはあるのですが地面に対して踏ん張ることが出来ません。 ですから宙に浮こうとする力と剣を振り上げるタイミングでなんとか持ち上げるわけです。 そして、こう見えても幽霊ですから疲れたりはしないんです。 「はぁ、はぁ……」 「相棒、休憩にしたらどうだ?」 と思ってたんですけど結構疲労します。それに夜になると眠くなります。 私って本当に幽霊なのでしょうか? 火の玉も飛ばせませんし、ラップ音も鳴らせません。幽霊としてのアイデンティティーが揺らぎそうです。 デルフさんを芝の上に横たえると、私は手足を投げ出しました。 「デルフさん、何か良いアドバイスは無いですか?」 「ねぇなあ。なんせ俺も幽霊を相棒にするのは初めてだからよ」 「ですよねぇ」 一応上達はしてる、と思いたいです。 小休止し、再びデルフさんを持ち上げようと手を伸ばしました。 すると人影が見えたので顔を上げると、そこにメガネをかけた女性の方が立っていました。 「こんにちは」 とニッコリ微笑まれました。長い髪をした綺麗な方です。 「ごきげんよう、どうかされました?」 「あなたが噂の幽霊の使い魔さん、よね?」 「はい、高島一子……ではなく、イチコ・タカシマと言います」 「私はロングビル。ここの学院長の秘書をやらせてもらってるわ」 さすが秘書の方というか、とても上品な物腰です。笑顔もとても穏やかですし。こういうのが本当の淑女という方なのでしょう。 よく暴走してしまう私としては見習いたいと思います。 「それで、ご用件は?」 と聞くとロングビルさんは少し顔を曇らせてこう言いました。 「実は、少し頼みたいことがあってね。少し時間をいただけるかしら?」 「構いませんけど、どうしたんです?」 「ちょっと付いてきて貰えるかしら」 そう言って建物のほうへと歩いていきます。 私は慌ててデルフさんを持ち上げ、地面に突き刺しました。 「すいませんデルフさん、ちょっと待ってて貰えます?」 「ぉう、早くしてくれよ。あんまりなげぇと錆びちまう」 途中何人かの先生方とすれ違い、挨拶しつつ私たちは薄暗い塔へと入りました。 そこは入ったらいきなり右方向に折れて螺旋階段が続いています。 わたしはその後ろをふわふわと浮きながら付いていきました。 そこは窓も無く明かりもロングビルさんが出した灯りの魔法だけが頼りでした。 その灯りも蛍光灯のような明るさは無く、ふらふらと揺れるランタンのよう。怖い雰囲気が出ています。 こんな所で幽霊でも出たら思わず叫んでしまいそうです。 「付いたわ」 と階段の先にあったのは大きな鉄扉。 大きな魔方陣が描かれています。 「実はね、私はこの宝物庫の管理を任されているのだけれど……」 ロングビルさんの話によると鍵のような物を紛失してしまい、一度魔法を解いて鍵を掛けなおさないと防犯上危ない。 だけど予備の鍵も無いため困っていた。 しかし中に入って内側にどんな文字が書かれているかさえ分かれば熟練の魔法使いになら簡単に開けることができる。 それで私の壁抜けで中に入って文字を教えて欲しいという事だそうです。 「なるほど、分かりました」 「文字は分かる?」 「いえ、その……ごめんなさい」 この世界は私の住んでいた世界とはまるで違う文字が使われている。 もしかしたら何処かの国の文字かもしれないけど私には分からなかった。 「いいのよ、それじゃあ意味が分からなくても良いから丸暗記してきて」 「はい、いってきます」 もしかしたら魔法ですり抜けられないんじゃないかと思いましたが。 案外あっさりと抜けることが出来ました、ご主人様の話では私のような幽霊が他にも居るという事ですが、防犯上大丈夫なのでしょうか。 使役できる魔法使いがほとんど居ないとか? 部屋の中は薄暗い、字は読めないけど足元が分かる程度の照明で照らされていました。 宝物庫の中は金銀財宝、と思ってましたが兜や鎧や剣、杖に書物がほとんどで指輪などもありましたが宝石類が多いというわけではありませんでした。 表面に複雑な文字が書かれているものが多いので何かの魔法が掛かっているのだと思います。 魔方陣はドアの裏側に書かれており、外と同じ円陣なのですがかなりの量の文字が書き込まれていました。薄暗い部屋なので文字がよく見えません。 四苦八苦しながらギリギリの光源で文字を凝視し、覚えて、外で言葉と空書きで中に書かれている魔方陣を伝える、そしてまた中に入る。これを繰り返しました。 文字が多くて何十往復もする事になってしまいましたけど。 時間が結構たってしまいましたがデルフさんは大丈夫でしょうか? 「これで間違い無い?」 「はい、こんな感じだったと思います」 最後の確認を二回ほどして、いよいよ開錠になりました。 ロングビルさんが杖を振り私には意味がわからない呪文を唱えます。するとドアからカチリと音がして音も無くドアが開きました。 「ありがとう、助かったわ」 「いえいえ、どういたしまして」 苦労したけど無事に開くことが出来て良かった。 もし私が魔方陣の文字を間違って爆発でも起こしたらどうしようかと思ってました。 「今はちょっとお礼になるものを持ってないのだけど、また後でお礼に伺うわね」 「いえいえ、本当に気にしないで下さい。そんな大したことはしてないので」 「奥ゆかしいのね」 と微笑まれた。私もとっさに微笑み返した。ちょっと顔がぎこちなかった気もします。 淑女の道は果てしなく遠いです。 「それでは、デルフさんを待たせているので失礼します」 「ぇえ、本当にありがとう」 そう言ってロングビルさんと別れた。帰り道は建物の壁を突き抜けて一直線で戻りました。 次の日、宝物庫から破壊の杖が盗まれた事が判り。 犯人は生徒やメイドの証言により学院長の書記、ミス・ロングビルであることが判明した。 前ページ次ページゼロのイチコ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1755.html
前ページ次ページゼロの大魔道士 『炎蛇』のコルベール。 彼はトリステイン魔法学院の学院長オスマンの片腕として知られている一教師。 火系統の魔法を得意とするトライアングルメイジで、その腕前は見たものこそほとんど皆無ではあるものの、凄腕だと噂されている。 そして、魔法の更なる活用法を発見しようと日夜研究している変人としても名が知れ渡っている。 教師としての評判はそれなりに悪くはない。 権威や主義に凝り固まった教師の多い中、コルベールは時折自分の世界に入り込むことを除けば気さくな大人だったからだ。 「…と、いうわけです」 そんな彼は今、学院長室にいた。 本日行われたサモン・サーヴァント及びコントラクト・サーヴァントの結果報告のためだった。 しかし、その表情は暗い。 原因は言うまでもなく、その左手の甲に刻み込まれているルーンの紋様にあった。 (ああ、何故こんなことに…) ううむ、と唸るように考え込む表情を見せるオスマンを前にしてコルベールは真っ青な表情で立ち尽くす。 謎の平民の少年に刻まれたはずのルーンが自分に刻み込まれる。 しかもその原因と思われる少年は逃走。 残ったのは自分の手に浮かぶルイズの使い魔の証であるルーン。 (始祖ブリミルよ。私が一体何を……) したというのですか、とは繋げられなかった。 過去を掘り起こせば十分自分はこんな目にあうにふさわしい所業をなしてきたのだから。 これも贖罪なのか… コルベールは今更ながら真剣に自分の過去を悔やんだ。 「ふむ、大体の事情はわかった」 ギシ、とオスマンの座る椅子が軋む。 身を乗り出すようにして自身を見つめるオスマンにコルベールは冷や汗をかく。 どう考えても今回の事件は学院設立上最大の汚点となる事件である。 オスマンがどういった判断を下すのかは不明だが、最悪の場合はクビも覚悟せねばなるまい。 ぐびり、とコルベールは緊張に生唾を飲み込んだ。 「で、柔らかかったかね?」 「は?」 オスマンの第一声は意味不明だった。 柔らかい? 何が? 「またまた。お主がミス・ヴァリエールの使い魔になったということは…したんじゃろ、唇と唇をぶちゅっと!」 このこのっ。 ニヤけた表情で自分をつついてくる老人にコルベールは呆然となる。 が、すぐにその表情は憤怒へと変化する。 この老人は、自分が真剣に悩んで報告をしたというのに、ロクに話を聞いていなかったのだ。 「…オールド・オスマン?」 「なんじゃ、そんなに照れ……ぬおっ!」 ゾッとするような声がオスマンの耳に届いた。 やばい、流石にやりすぎた!? 自分に恐怖を与える男に、オスマンは場を和ませよう作戦が失敗したことを悟った。 なお、オスマンがコルベールをなだめるのに要した労力は普段秘書に行っているセクハラの謝罪の三倍くらいだったという。 「こほん。しかしまたとんでもないことになったもんじゃの」 「はい。情けないことですが、正直私も途方に暮れていまして…」 項垂れるコルベールにオスマンはさもありなんとばかりに頷く。 突然自身の生徒の使い魔になってしまったなど、想像を絶する事態である。 しかも主である相手はゼロのルイズことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 もしも自分が彼の立場だったらと思うと、羨まし…ごほん、耐えられるものではないだろう、色々と。 「ところで、ミス・ヴァリエールはどうしたのかね?」 「それが…逃亡した少年に向けて一通り罵声、あ、いや、叫んだかと思ったらふっと気絶してしまいまして」 「まあ、無理もないがの…」 契約しようと思ったドラゴンは逃げた。 更に、契約を交わしたはずの平民は契約を解除してやはり逃げた。 これでショックを受けない方がおかしい。 「しかしどうするんじゃ? 件のドラゴンと少年は逃亡したまま。 このままじゃとお主がミス・ヴァリエールの正式な使い魔ということになるが…」 「……」 オスマンの問いにコルベールは答えられない。 サーヴァントの儀式は始祖ブリミルに祝福された神聖な儀式である。 つまり、主側も使い魔側もお互いに結果に対して異議を唱えてはならない。 だが、今回のこれは通常とはとても言いがたい事態だった。 「…まずは、ミス・ヴァリエールの目が覚めるのを待つことにします」 「まあそれしかないじゃろうな…しかしコルベール君。もしもミス・ヴァリエールが君を使い魔にすると決めたらどうするのかね?」 「……彼女の意思に従います。立場としては私の方が従なのですから」 ともすれば溜息が漏れそうな表情をしながらも、コルベールはキッパリとそう宣言した。 過程がどうであろうと、結果がこうなっている以上、決定権はルイズにある。 それに、元はといえば自分の油断が招いたミスなのだ。 「ふむ、そこまでの決意ならば止めたりはせんが…しかしドラゴンのほうもじゃが、逃亡した少年が気にかかるところじゃの」 「はい。あまりの事態にデティクトマジックを使うことすら忘れていましたが…」 思い出す。 少年は確かに空に浮いて逃亡した。 しかも気がついた範囲では詠唱の声は聞こえなかったし、杖も持っていた様子はなかった。 「詠唱なし、杖なしでの魔法行使。その上コントラクト・サーヴァントの解除」 「できるものなら是非話を聞いてみたいものじゃが…」 それは無理だろう、と二人の男はそれぞれの理由で溜息を漏らすのだった。 男二人が顔をつき合わせて溜息をついていたその頃。 「ああっ、ジャン…っ!」 とある一室で赤い髪の女性がベッドの上で転げまわるという奇態を披露していた。 彼女の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 通称『微熱』のキュルケ。 燃えるような美貌とグラマラスな肢体で数多の男を魅了する彼女は今、たった一人の男に恋焦がれていた。 その男の名はコルベール。 先程の儀式で彼女の仇敵たるルイズの使い魔になってしまった男である。 「ああ、貴方のことを思うと胸が熱くなる…そう、これが…私の微熱!」 バッと起き上がり、両手を胸の前で拝むように組む。 頬は朱に染まり、その頭からはハートマークが乱舞している。 キュルケという女性は惚れっぽい。 それゆえにこういった行動に出ることは珍しいことではなかった。 だが、今度は相手が相手である。 相手は一回りどころか二倍以上の歳上、しかも容姿的にも良いとは言えず、パッと見はうだつのあがらない中間管理職。 いかにキュルケといえども惚れる要素が全くないような相手なのだが… コルベールがマザードラゴンの羽ばたきに吹き飛ばされたあの瞬間。 キュルケは彼をその豊満な胸で受け止めていた。 いや、厳密には受け止めたのではなく受け止めさせられたのだが、そこは割愛する。 とにかく、コルベールを受け止めた彼女はその瞬間に恋に落ちた。 意外にガッシリした体躯。 胸を焦がす熱い体温(胸に突っ込む形になっていたハゲ頭が太陽熱で熱されていただけ) 猛禽のように前方を睨みつける凛々しい眼差し。 多分にフィルターが入ってはいるものの、キュルケはそれらを感じ、落ちてしまったのだ。 勿論、最後まであの場に残っていたのはコルベールを見つめていたからである。 まあ、ルイズが心配だったという点もなきにしもあらずなのだが。 一方、そんなキュルケの奇態を一顧だにせず黙々と本のページをめくる少女がいた。 キュルケの親友にして『雪風』の二つ名を持つタバサである。 彼女は、キュルケの様子を全く気にすることなく(というか慣れただけ)本に目を落とし続けていた。 だが、その頭に文字は入っていなかった。 彼女は別のことを考えていたのだ。 それは逃亡したルイズの使い魔のこと。 彼は杖もなしにフライに似た浮遊をし、かなりのスピードで逃げ出した。 しかも、詠唱をしていた様子も見られなかった。 (先住魔法…?) エルフが使うといわれる杖を必要としない魔法。 少年が使っていたのもそれだったのかと考えるが、すぐにその思考は打ち消される。 少なくとも少年の見た目はエルフには見えなかった。 擬態しているという可能性もあるが、彼の立ち振る舞いを見た限りではそうとも思えない。 無論、エルフを見たことがあるわけではないのでタバサとて断言はできないのだが。 (それよりも) だが、タバサが注目しているのはそこではなかった。 誰も使用の瞬間を見ていなかったと思われていたポップのシャナク。 彼女はそれをハッキリと見ていたのだ。 知る限り、コントラクト・サーヴァントを解除する方法は使い魔の死しかありえない。 にもかかわらず、あの少年はそれを生きたまま成し遂げた。 これは控えめにいっても異常である。 しかしタバサはポップに対し恐怖を覚えたというわけではなかった。 むしろ向けた感情は興味だったといえる。 何故ならば、彼は自分の望みをかなえてくれる存在なのかもしれなかったからだ。 自分の知らない魔法(?)を扱う少年。 彼ならば、あるいは… 「なんとしても、探し出す」 タバサは、決意の瞳で本を閉じた。 前ページ次ページゼロの大魔道士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3992.html
前ページゼロの調律者 ゼロの調律者 第一話 ~リィンバウム王都ゼラムに向かう街道~ 「おにいちゃん、もうすぐだね。」 「ああ、派閥本部に帰るのも久しぶりだな。……予定より随分遅れてるし、ネスティに怒鳴られそうだ。」 青の派閥の召喚師マグナは、ワイスタァンにて新人鍛冶師の護衛獣を召喚すると言う任務を終えて、護衛獣で婚約者のハサハと一緒に派閥本部に帰る途中であった。 彼を気に入ったと言う理由で金剛の鍛聖リンドウ氏に散々いぢり倒された。 更に剣を打ち直してやるから地下迷宮行って材料揃えてこい、カレー食べたいからちょっと作って来い、 その護衛獣の子の尻尾見るからにさわり心地良さそうじゃな、触っていい?ダメ?そう言わずに君とワシの仲じゃろう?等の理由で帰還に大幅に遅れてはいるが。 (大分前にデグレアに攻め込まれた時点で既にいい年の老人だったらしいけど、実際今何歳なんだろう・・・?) 思い出すたびに浮かぶ疑問を適当な所で振り払い、ハサハの手を握り直して帰路を急ぐ事にした。 ~リィンバウム 蒼の派閥本部~ そんな事を考えている内にゼラムに到着。蒼の派閥本部に戻り報告を済ませて自室に戻る。 「案の定怒ったな、ネスティ。」 「うん・・・、でも・・・、すごく心配してたよ?」 ハサハの言うとおりだろう。あの兄弟子はやたら心配性だ。 何かある度に「君はバカか!?」と怒鳴りつけてくる。 「だろうな。長旅で疲れたし、昼寝でもするか?」 日はまだ高いが、春先特有の睡魔と長旅の疲れもある。 「・・・(こくん)」 何よりハサハと一緒にお昼寝すると言うのが心地良い。 軽く伸びをし、昼寝の為に装備一式を外そうと思ったその時、 「なんだこれ?」 突然目の前に鏡が現れた。 とりあえず召喚特有の光は無かったし召喚術による物ではないと判断。 鏡に部屋のど真ん中に居座られても邪魔なのでとりあえず動かそうと鏡を掴む。 「うわ!?」 掴もうとしたら鏡にすごい力で引き込まれ始めた。咄嗟にさっき床に下ろしたばかりの荷物を掴む。 「おにいちゃん!」 ハサハがマグナの身体に抱きつき必死に引っ張るが、魔力は異常なまでに高いけど腕力はからっきしなハサハでは支えになる訳も無い。 マグナに抱きついたまま一緒に鏡に引きずり込まれてしまった。 ~ハルケギニア トリスティン魔法学院~ 春の陽気に照らされた広場に轟音が響く。 二年生に進級する為の春の使い魔召喚試験、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召喚を行った結果起きた大爆発だ。 「ちょwwww一発目から大爆発とかwwwww使い魔ミンチになったんじゃねwwwww?」 「マルコリヌ・・・それは流石に不謹慎と言うか、そういうグロい考えは言わない方がいいんじゃないかな?」 ルイズの後で何か言ってる連中がいるが今はスルーしておこう、巻き上がる煙の中に薄っすらとだが影が見える。 (やった!一発で召喚成功!何?グリフォン?ドラゴン?マンティコア!?) 召喚前から色々高望みしてたせいか、一発で成功した事でさらに期待で胸を膨らませるルイズ。 影自体はあまり大きくなかった。 (実は妖精とか?もうこの際珍しくてすごいのだったらなんでもいいわ!) 「いててて・・・って、ここ何処だ?ハサハ、大丈夫か?」 「・・・(こくん)」 煙が晴れるとそこには見慣れない服を着た青年と、やはり見慣れない服を着て頭から狐の耳を生やした少女が現れた。 青年は紺色の髪で背丈もそこそこあり、白と紺を基調とした服、何処か人懐っこさのある顔立ちをしていた。 少女の方は黒髪ですごく小柄、体格としてはタバサとルイズの間ぐらいだろうか?狐の耳と尻尾が生えており、透き通る様な白い肌、何か神秘的な美しさを感じさせる美少女だ。 (人・・・間・・・?と亜人・・・かな?一回の召喚で2種類も召喚なんて・・・いやそれ以前に人を召喚したなんて、前代未聞じゃない!?) 期待が大き過ぎた分ショックも大きかった。 「人間だ! ゼロのルイズが人間を召喚したぞ!しかも二人も!」 「アラ、結構いい男ね。」 「ウハwwwwwテラょぅι゛ょwwwwwwwみwなwぎwっwてwきwたwwwwwwwwww」 「マルコリヌ・・・今日の君はなんか変だぞ?それに、そう言う趣味だったのかい?」 ルイズは焦っていた。 後でキュルケと丸いのとギー・・・名前忘れたけどなんかヤムチャ臭いのが喚いてるが再びスルーしておこう。 今問題なのは人間を召喚してしまった事だ。しかも二人。 どうすればいいのか判断がつかず頭を抱えてると青年の方が話しかけてきた。 「えーっと、ここは何処なのかな?なんか召喚されたみたいだけど、リィンバウムじゃないみたいだし・・・」 聞きなれない単語もあった気がするがどうやら状況説明を求めているらしい。 そうだ相手はどうせ平民か何かだろう、貴族として貴族らしく振舞いまずは主従関係をハッキリさせよう。 「そうよ!私が貴方を召喚したの!本来貴族がへい・・・み・・・・・・」 言っている途中で青年は手に持ってる大きめのバッグに目がいった。バッグ自体は何の変哲も無いが、その側面に引っ掛けてある棒状の物体。 丈夫そうな木製の柄、先端には金属の装飾がついており小さいながら輝石もはめ込んである。 どう見ても高級そうな杖です本当にありがとうございました。 ルイズの顔色が段々血の気が引いていく。 普段マグナは剣を主体に戦うが、最近は剣で対処できない遠距離の相手を想定し、召喚術の威力増強用に杖も用意している。 もちろんルイズは召喚術について知る訳も無く、上等な服に杖=貴族と言うハルケギニアらしい判断をしてしまっていた。 貴族を召喚してしまった→学園最大最悪のスキャンダルの悪寒→下手すれば国際問題→自分のせいで戦争勃発\(^o^)/オワタ ルイズの脳内では既に最悪の図式が展開され始めている。 さっき危うく平民と言う単語と呼びそうになったが、なんとか言わないで済んだのがせめてもの僥倖だろう。 しかしここで頭髪が寂しい教師、コルベールも杖に気がついてかルイズと青年達にしばらくここに残るようにと声をかけ、他の生徒を教室に戻るよう指示を出す。 この時ルイズの目にはコルベールから後光(主に頭頂部から)が射している様に見えた。 「改めまして、私は当トリステイン魔法学院で教鞭を執っている"炎蛇"のコルベールと申します。ミス・ヴァリエール、貴女も挨拶を。」 「は、はい。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。」 コルベールに場を作ってもい、なんとかまともに挨拶をする。顔色は蒼白だが。 「俺はマグナ、マグナ・クレスメント。蒼の派閥の召喚師です。こちらは護衛獣のハサハ、シルターン出身です。」 「・・・(ぺこ)」 マグナの紹介にあわせてハサハも礼をする。 (ああ、貴族だ、やっぱり貴族だ・・・) マグナが家名まで名乗った事でルイズは本気で頭を抱えたくなった。既にコントラクト・サーヴァントの事は脳裏にすら残ってない。 「それで、俺は召喚されたんですよね?サモナイト石を使った召喚じゃないみたいだし、リィンバウムやシルターンじゃないとは思うんですが・・・」 ここでマグナの反応にコルベールは頭を捻る。リィンバウム?シルターン? ルイズはマグナの家名を聞いたショックで呆然としたままだ。 「あー、失礼ですが、少し場所を変えてお話しましょう。よろしいでしょうか?」 ~ハルケギニア トリスティン魔法学院 学院長室~ 「ふむ、それでは一旦コントラクト・サーヴァントしてしばらく使い魔として働いて、帰る目途が立ったら契約破棄。再召喚と言う方向でいいじゃないかの。」 学院長のオールド・オスマンが出した結論に一同は同意と言う形になった。 時間を少し巻き戻る。 オールド・オスマンは何時もののように秘書のロングビルにセクハラの報復としてメキシカンバックブリーカーを受けているとコルベールが学院長室にやってきた。 心なし声が切羽詰っている感じがしたので何事かと思いきや、ある生徒が使い魔を召喚したら貴族だったとの事。 一緒に入ってきた件の生徒と貴族と、お互いの立場や状況を話し合った。 なんでも召喚されたマグナと言う青年は異世界から来た人で、彼らの世界では魔法より召喚術と言う技術が発展しているらしい。 そして彼はそこでは超下級貴族のような立場ではあるが、かなり有力な組織に属しているとの事。 もちろん最初は異世界だなんて突拍子も無いと一蹴しかけたが、マグナがムジナと呼ばれるタヌキの様な生物を召喚・送還して見せたので納得せざるを得なかった。 マグナはマグナでハルケギニア式の召喚術はサモナイト石を使わない事、また送還術が存在しない事に唖然とした様子ではあった。 ただ一方的な召喚に対しては驚きはしたがマグナ本人があまり抗議してこなかった。 それに対しコルベールが疑問を口にしたが、 「リィンバウムは召喚術が基本だったから召喚事故も起きますからね。それが自分の起きたと思えば仕方が無い事だと思うんです。」との事。 ルイズもマグナが異世界から来たと言うのにとりあえず納得。 ただマグナが異世界出身の上に貴族としては下の下、国際問題にはならないとわかったせいか心無し緊張感もとけた模様。 そして話し合いの結果、ここでのマグナ達は東の果ての没落貴族が召喚され、しばらくルイズの使い魔をやっている立場であると偽装しておくこと。 学園側としては全力を持って送還する術を模索する事に決まった。 ルイズの個人的な願望としては、亜人と言う理由でハサハと契約したかったが、一応ハサハもマグナの使い魔の様な立場だと言う事で諦めた。 一応メイジ?みたいなものだしマグナがそれなりに実力があればルイズの実力の証明にもなるだろう。 「ではコントラクト・サーヴァントをしてもらおうかの。ミス・ヴァリエール、ミスタ・クレスメント。」 オールド・オスマンが髭を撫でながら契約を促す。 「は、はい!ミスタ・クレスメント、少し屈んでく、くだ、くださる?」 「あ、ああ・・・(そう言えばこの世界の召喚術ってよく知らないけど契約ってどうするんだろう?サモナイト石も無いみたいだけど)」 何故か赤面しているルイズを見てマグナがふとそんな疑問を考えているうちに、ルイズは詠唱をし、なんと顔を近づけてきた! (こ、これはひょっとしてキスが契約なのか!?) マグナが飛び退き、ハサハがキスをしようとしてたルイズを止める、見事な連携を見せた。 「ちょ、ちょっと何するのよ!?契約とは言え・・・私のファーストキスがそんなに不服なわけ!?」 もちろんこれにはルイズも怒り出す。数年前のマグナだったらろくな言い訳もできなかっただろう。 だが今のマグナは昔の恋愛レベルKYロリコン!なマグナではない!数年間ハサハとイチャイチャし、苦楽を共にした立派な男だ! 「契約って今のが?でもほら、俺にはハサハって婚約者もいるし」 「おにいちゃんのおよめさんは・・・ハサハなの・・・!」 二人の返答にルイズも渋々納得する。そりゃ好きな相手以外とキスするのはいやだろう。 だがすぐに別の疑問が脳裏によぎる。 (この亜人の子がお嫁さん?でもって婚約者?え・・・ロリコン!?) 目の前の亜人の少女は服のせいでわかりにくいが、多分タバサ以上ルイズ以下程度の体型だろう。 ルイズは自分の体型や婚約者の事は棚上げして、目の前の男がロリコンの異常性癖者という認識を持った瞬間だった。 「あー、ミスタ・コルベール?コントラクト・サーヴァントには口にキスが必要なのか?せめて手とかには・・・」 そんなルイズの認識の変化も気づかずマグナは契約方法について聞いてくる。 何かと説明好きなキャラが定着しつつあるコルベールも、彼をロリコンでは・・・?と思っていたのだろう「え?あ?ロリk・・・じゃなくて、今なんて言いました?」と聞きなおすレベルだ。 「やれやれ、コルベールもまだまだじゃの・・・。基本は口じゃが・・・まぁ手でも頬でも構わんじゃろ。」 代わりにオールド・オスマンが答えた。 ルイズとしても目上でもない相手の手にキスすると言うのも不愉快だが、これならファーストキスとしてはカウントされないだろうと言う乙女らしい打算を持って了承した。 マグナと婚約していると言うハサハも、手だけならまだ許せると渋々ながら了承。 マグナ・クレスメントがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になりました。 ~幕間 ルイズの部屋~ 「うう、契約ってすごく痛いんだな・・・」 「おにいちゃん・・・大丈夫?いたいのいたいの~とんでけ~・・・」 「ハサハ、ありがとう。」 「おにいちゃんがいたいの・・・ハサハはいやだよ?」 「ああ、俺もハサハが辛いのは嫌だな。・・・ハサハは優しいな。」 「おにいちゃんも・・・やさしいよ?やさしくて、あったかい・・・」 ハサハはマグナに抱きつき、マグナもそれを優しく包み込む。 「はぁ・・・あんた達、主人と使い魔とは言え仮にも他人の部屋なんだから・・・イチャつくのも程々にしてよ・・・」 部屋の主、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは召喚初日から使い魔カップルのイチャつきぶりにお腹一杯でした。 前ページゼロの調律者
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4323.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「やれやれ、できればもう少しスマートにやりたかったんだがねえ……ま、すぐにバレるだろうが、逃げる間ぐらいは時間が稼げるだろ。ったく、ホントあのクソジジイのセクハラったら……!」 学院より四半日ほど離れた街道を、ロングビル―――『土くれ』のフーケは、ゆったりと幌付きの馬車で進んでいた。 周囲に人影が無いのを確認して、懐から何かを取り出し、しげしげとそれを眺める。 泥のついていない小奇麗なマツタケ。そんな風に見えるキノコだった。綺麗すぎて、どこか蝋細工のようでもある。 「"食べた者に、烈火の如き勇気と力を与えるキノコ"……ま、あたしはそんなんいらないし、いつものように、適当なルートに売り払おうかね」 自らを匪賊に貶めた連中に対する復讐、なんて感情も、とっくの昔に擦り切れてしまった。 話によれば、近いうちに自滅するみたいだが……たぶん、あの時にああしなかった貴族―――王族なんて、皆無だろう。良い意味でも悪い意味でも、王というのはそういうものだ。王弟だからと言って手心を加えなかったのは逆に高潔であるとも言える。 そういう意味では、最初から、別段、特定のどこかや誰かを殺したいほど憎いという訳ではない。代わりに、貴族、なんていうもの全てが嫌いにはなったが。 高慢ちきなお貴族様が宝物を盗まれてあたふたするのを眺めて楽しむ。そのぐらいで十分溜飲は下がった。 「さって、珍しく安定してた収入はなくなっちゃったし、これからどうしますか……」 キノコを懐にしまい直して、うららかな陽気に一伸びする。 目の前では街道が交差し、分かれ道になっていた。 「……キナ臭い話もあるし、秘書の仕事が忙しかったしね。久しぶりにテファのところにでも顔出そうかしら」 そう呟いて穏やかな笑みを浮かべると、フーケは馬車を北に向けた。 § 学院は、上へ下への大騒ぎだった。 「ふぅむ……まさかこの宝物庫に賊が侵入していたとはのう……」 衛視から報告を受けたオスマンは、確かに"烈火のキノコ"が無くなっている事を確認して、大きくため息をついた。 「土くれのフーケ! 貴族達の財宝を荒らしまくっているという盗賊か! この魔法学院にまで手を出すとは、随分とナメられたものですな!」 「衛兵は一体何をしていたんだ!」 「フーケは盗賊とはいえメイジ、平民の衛兵など当てになるか! そもそもいつ盗まれていたのかすらわからないんだぞ!」 集まった教師連中は、口々に好き勝手な事を喚き散らしている。話は紛糾するばかりで、実のある方向に向かっていく様子はなかった。 オスマンはもう一度ため息をつき、現場を検分していたコルベールに話しかけた。 「ミスタ・コルベール、書き置きを発見したのは彼等二人なのじゃね?」 「はい。足を滑らせて扉にぶつかった折、鍵が掛かっているはずの扉が開いてしまったので驚いて報告したと。間違いないかね?」 「ま、間違いありません」 「ふぅむ……教師諸君! ここ最近、宝物庫に入ったものはおるか?」 ざわついていた教師が一瞬静まり返り、顔を見合わせた。 その内の一人が、おそるおそると手を上げる。 「に、二ヶ月ほど前、授業に使うための『遠見の鏡』を持ち出しましたが……」 「その時には?」 「こ、こんなものはありませんでした。ハイ」 「では、二ヶ月以内に入った者は?」 再び顔を見合わせる。今度は、手を上げるものはいなかった。 「おらんか。犯行は少なくとも二ヶ月以内に行われた……手がかりナシに等しいの」 「あ、あの」 衛視の一人が、こわごわと言葉を紡いだ。 「なにかあるのかね?」 「ほ、本日は、ミス・ロングビルがいらっしゃいました。宝物庫の目録を作る、とかで……お昼前ぐらいだったでしょうか。半刻ほどして、何事もなく出て行かれましたが……」 「ふむ……そういえば、そのミス・ロングビルはどこじゃ?」 見渡してみても、あのぷりんとした尻は見当たらなかった。 「見当たりませんね」 「そのようじゃな。あー、君々、ちょっとミス・ロングビルを探してきてくれんか」 「わ、わかりました」 所在なさげに教師達を見やっていた衛兵の一人が頷き、早足で駆けていく。 「やれやれ。ガンダールヴといいフーケといい、新学期早々厄介事が続きおるわい」 オスマンは眉間に皺を寄せて、ため息をついた。 そのすぐ後、ロングビルの私室から『学院長のセクハラに耐えられないので辞めさせていただきます』という書置きが発見され、オスマンの眉間の皺がさらに深くなる事となったのだった。 なお、彼の秘書に対するセクハラは公然の事実であったので、ロングビルの予想に反し、誰も"ロングビルがフーケであり烈火のキノコを盗んで逃げたのだ"と言い出さなかったのは余談である。 § 「明日のフリッグの舞踏会が中止ですって? なんで?」 「さあ? 中止っていうだけで、理由は誰も教えてくれないのよ。もう! せっかく特製のドレスでダーリンを悩殺しようかと思ってたのにぃ!」 「……はぁ。ツェルプストーはろくな事を考えないんだから」 学院に帰ってきたルイズ達を待っていたのは、何やら慌しい雰囲気だった。 「まったく、今日は厄日かしらね、打つ手打つ手が全部裏目に出ちゃうわ。ルイズには先を越されるし、タバサもどこに行ってたのか話してくれないし」 「…………」 食堂で夕食を取った後、ルイズはキュルケ、タバサと食後の紅茶を飲むのが日課のようになってしまっていた。 キュルケは自分にとっても一族にとっても天敵だったはずなのだが、耕一が召喚されてからというもの、なんとなく印象が柔らかくなった気がして、話が続いてしまうのだ。(タバサの方は、キュルケが引っ張り込んで一緒に居るだけのようで、ほとんど喋らないが) その当人たる耕一は、いつもの通り厨房に行っていて、食堂内にはいない。そろそろ入り口に現れる頃だろう。 「なんでも、宝物庫に盗賊が入ったらしいわよ。あの『土くれ』のフーケ。先生が総力をあげて探してるから中止って話だけど」 「それ本当なの? モンモランシー」 今日は、長いブロンドの髪を豪奢な巻き毛にした少女―――モンモランシーも、その輪に加わっていた。 浮気者の恋人をワインボトルでしばき倒した、あの少女である。 紆余曲折の末によりを戻した恋人が級友の使い魔に妙に傾倒しているので、彼女もその主人と交友を持つようになっていた。 彼女自身、ルイズの事を内心バカにしていた一人で、使い魔とギーシュの決闘というのも見ていないのだが、プライドはえらく高い方であったあのギーシュが、あれ以来ルイズにも酷く丁寧に接するので、なんとなくそんな気持ちは薄れていたのだった。 「『土くれ』のフーケ……今日街でもその名前を聞いたわ。貴族の屋敷から宝物を次々と盗んでいる怪盗だって」 「トライアングル相当って聞いてたけど……ここの宝物庫から盗み出したとなると、スクウェアクラスかもしれないわね」 「スクウェアの土メイジなんて、エリート中のエリートじゃない。なんで盗賊なんてやってるのかしら」 フーケの件は厳重に緘口令が敷かれていたが、人の口に戸は立てられぬもの。 舞踏会の中止が告知されるや否や、それとほぼ同時に、その理由として噂の口に昇っていた。 「ま、ともかく作戦は最初から練り直しかぁ。どうしようかしら」 「もう、ホントに盗賊が入ってたとしたら、そんな悠長な事言ってる場合じゃないでしょ。色ボケもいい加減にしときなさいよ」 「て言ったって、あたし達がピリピリしたって犯人が捕まるわけじゃないわよ」 「それは、そうだけど……」 「…………餅は、餅屋。ルパンに、銭形」 「そういう事。捕り物なんて、先生とか衛士隊とかに任せておけばいーのよ」 うー、と黙ってしまったルイズを見て、難儀な性分ねぇ、とキュルケは苦笑し、紅茶のカップを傾けた。 「っていうかタバサ、るぱんとぜにがたって何?」 「…………あなたの、心です」 § 「学院長の方も、タバサちゃんの方も、手がかり無し、か」 本来ならば絢爛な舞踏会が行われていたはずの夜は、しかしいつもの静けさのまま、人々を安らぎの闇に包んでいた。 『すまんのう。図書館の文献を当たらせてはおるが、まだ手がかりと言えるようなものは見つかっておらんのじゃ』 『仕事で遠くに行っていて、もうしばらくは会わせる事が出来ない』 先程続けてもたらされた話を思い出して、耕一は肩を落とした。 秘書が辞めてしまったらしく、書類に忙殺されていた老人に無理を言うのは憚られたし、基本的に善意で言ってくれているタバサに至っては言わずもがな。 元々誰かに当たり散らすような性格ではないが、未だ慣れぬ異邦の世界ではうまく解消する術も無い。耕一は、肩を落とした姿勢のまま、腹に溜まった物を静かに吐き出した。 「ま、そう気を落とすなって、相棒」 「気が利くねえ、デルフ」 「任せな。相棒のためなら気ぐらいいつでも利かせてやるさ」 腰に差した剣―――デルフリンガーの鍔飾りが、カタカタと鳴る。 陽気な彼とのお喋りは決して嫌いではなかったので、耕一は鯉口を締める事はせず、常に彼を喋る事の出来る体勢に置いている。 それを気に入ったのか、彼は耕一を、相棒、などと呼んでいた。 「しっかし、別の世界から召喚された、ねえ。相棒も難儀なこったな」 「まったくだよ。なあ、お前は何か知らないのか? 六千年も生きてるんだろ?」 「残念ながら、そーいう細けえ事まで覚えちゃいねーよ。六千年つったって、最初の頃以外はホントつまんねえ事ばっかりだったしな。何十年も埃の被った棚に放置されたり、何百年も真っ暗な倉庫に入れっぱなしにされたりしてみ? ありゃ気が狂うね。マジで」 「はは、つかえねーの」 「ひでえ。でもま、相棒なら許してやる」 「そりゃどうも」 広場に出ると、月明かりの中、まだ仕事を片付けている奉公人がちらほらと残っている。 「あ、それで一つ思い出した」 「何を?」 「相棒、俺を抜け」 言われた通りに鞘から抜き放つと、錆びついていたその刀身が、微かに光り始めた。 「デルフ?」 「最初の持ち主が死んじまってから、ホントつまんなくてよ。世を儚んで、こんな格好にしてたんだが」 「う、おっ……!」 その光は徐々に強くなっていき、やがて夜を切り裂き、視界を覆うほどに膨れ上がる。 それが収まった時……耕一の手には、錆び一つ無く銀色に光り輝く、見事な名剣が握られていた。 「最初の頃は、こんなだったんだよ、俺」 「……先に言ってくれ。結構びっくりしたぞ」 「悪ぃ悪ぃ。驚かしたくてよ」 「こんにゃろ」 広場に残っていた奉公人達が何事かと目を向けてきたので、慌てて女子寮の塔に飛び込む。 「ま、お前さんといると面白そうだからな。俺なりの誠意ってヤツだ。よろしく頼むぜ、相棒」 「ああ、よろしく。デルフリンガー」 何千年という時を過ごしながらどこまでも陽気な剣の声に、少しだけ気持ちが軽くなった耕一だった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/wsranking/pages/18.html
タイトルリスト ゼロの使い魔? 特徴 初期タイトルらしく、各色の特徴がそれぞれ満遍なく盛り込まれている。 集中が豊富で、その多くはめくれる枚数が少なくレストが必要で成功率は高くないが、成功時の見返りが大きい。 回収や回復などには恵まれている方だが、その一方で試行錯誤が伺えるカードが多く また初期タイトル故に全体的にパワーが低い傾向にあるため、盤面では常に苦戦を強いられる。 …というのは過去の話。 エクストラにより全体的な強化、特に課題とされていたパワーが大幅に強化された。 それどころか現環境においてトップクラスのパワーラインを持ち、他にも数多く優秀なカードが追加されたため昔とはもはや別タイトルと言っても過言ではない。 勿論豊富な集中や優秀な回収等は健在であり、ブースターでは効果を存分に発揮できなかった一部のカードも有用になった。 トップデッキ 【赤黄_両ルイズ早出し】 相思相愛 ルイズ、貴族の務め ルイズの各種LV3ルイズをLV2から展開する安定型。 元々強いと言われていた回収力に加え弱点とされていたパワーラインが大幅に強化され、特にLV2以降に強力な盤面を築くことが出来る。 回収に関しては多くのデッキに投入される人質救出作戦+無意識の力 ルイズの組み合わせが強力で、成功すれば2コストで2~3枚回収+疑似リフという大幅なアドバンテージを取ることが出来る パワーに関しては上記の通りLV2からLV3カードで前列を埋めるのが容易なことに加え、助太刀やカウンターと併用して使える気丈なサイトや集中の成功で実質2/0カウンターとなるディスペル発動!等が強力。 要注意カード 相思相愛 ルイズ この構築の最大の持ち味であるLV3ルイズその1。 CIP回復とCXシナジーを持ち、こちらはアンコールステップに1コスト1ディスカードのチェンジにより早出しできる。 チェンジ元である無意識の力 ルイズは擬似リフレッシュを搭載し、疑似リフのタイミングで《虚無》か《使い魔》を回収できる。 この際チェンジ先である相思相愛 ルイズを回収することにより確実にチェンジを行うことが可能で、控え室に相思相愛が無くとも手札に相思相愛が無くともチェンジが可能と有用である。 何より疑似リフ自体が集中が豊富なゼロ魔と相性が良いため、他構築でもセットでかなりの採用率を誇る。 CXシナジーはCX扉の1000バンプと合わせて自ターンにノンコスト4000バンプと、思い出から特徴《虚無》に1500パンプをかける途切れぬ想い サイトをリアニメイトする効果。 デッキのスペースの関係で後者の能力は採用せずに純粋に4000パンプで相手LV2~3アタッカーを踏みに行く為と、単純に扉として採用されることが多い。 貴族の務めルイズ このデッキのもう一つのLV3ルイズであり、前者に対してこちらは黄のカードである。 経験条件を満たすことにより恒常的にLV2で展開できる、このデッキにおける実質的なLV2アタッカー。 現状相手側がレベル置き場に介入できるカードが無いため妨害を受けることが無い。 経験達成に必要なカードも1/1バニラと2/1LV応援と採用に困らず、色も赤と黄で別れているため色事故の心配もない。 そして回収、サーチ両方豊富なゼロ魔ではクロックフェイズで経験要員をクロックに投げるのも比較的容易。 気丈なサイト 通称コロンビア。詳しくはカードイラスト参照。 他の特徴《魔法》のカードがフロントアタックされた時にこのカードを控え室に送ることで1500パンプできる自動効果を持つ。 リバースしていても効果を発動でき、 自身のサイズも5000とアタッカーとしても運用できる。 助太刀の計算を狂わせ、前列後列問わず盤面にプレッシャーを与えることが出来る器用なカード。 長女エレオノール 0/0青で「ルイズ」に相手ターン中1000パンプをかけることが出来るカード。 アタッカーがほぼルイズで統一されているLV2以降は勿論、聖国のルイズなど1LVまででもルイズ持ちの前列が多く、序盤から終盤まで腐ることのない優秀な一枚。 さらに上記の気丈なサイトと合わせて展開することにより、 自ターン中の突破が困難な盤面を構築されてしまう。 ディスペル発動! 3500パンプのカウンターイベント。 集中を兼ねていて成功するとによりこのカードがストックになる為、実質0コストカウンターにもなりうる。 失敗した場合も山札削りになり、トップ盛りをする相手にはメタカードにもなる。 また、上記のカード3種とレベル応援を組み合わせることにより、各種LV3ルイズが一般的な最大火力の屋根下をも返り討ちにすることができる。 ルイズ10000+コロンビア1500+エレオノール1000+ディスペル3500+レベル応援1500=17500 屋根下10000+起動効果2000+木山1500*2(3000)+CX2000=17000 理想のお部屋ルイズ 0/0 2000でストックが2枚以下なら0コスト以下を相討ちにする効果を持つ。 このカードの注目すべき点は参照するのがレベルではなくコストため、1/0相手にも相討ちが取れる。 その為相手に先上がりさせてもシステムカードなどで潰せず、簡単には盤面を握らせない厄介な一枚。 コメント欄 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/529.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 夕日の差す学院長室に、二人の姿があった。 「そうですか…マザリーニ卿がの。」 「ええ。彼の有能さは買っているのですが…」 アンリエッタ王女とオスマン氏が相談を続けている。 「いいい、一大事です!オールド・オスマン!」 そんな中に、慌てた様子のコルベールが飛び込んできた。 「君はいつでも一大事だな。どうした、ミスタ・コルベール?」 「城からの知らせです!土くれのフーケが脱獄したと!手引きした者がいると!」 「わかったわかった。その件についてはあとで聞こう。」 オスマン氏がコルベールを退室させた後、ようやくアンリエッタが口を開く。 「アルビオン貴族の手の者でしょうか…城下に、裏切り者が…」 「そうかもしれませんな。」 オスマン氏は、まるで人事のように言い放った。 「トリステインの未来が掛かっているのですよ?もう少し、真剣に…」 「なあに、フーケならば、もう一度捕まえてもらえば良い。」 「彼女たち、ですか。」 「それよりも…何か、姫殿下には心配事がおありのようですな。」 見抜くような視線で、オスマン氏は言った。 「丁度良い、ヴァリエール嬢とヴィオラート嬢、双方にご相談なされたらいい。」 「しかし…いくらフーケを捕らえたとはいえ、この任は少々…」 言葉に詰まるアンリエッタ。これは、軽率に広めてもいい類の話ではない。 その様子を一瞥したオスマン氏は、一つ、話を始める。 「姫殿下は始祖ブリミルの伝説はご存知かな?」 「通り一遍の事なら知っていますが…」 「では、『ミョズニトニルン』のくだりはご存知か?」 「始祖ブリミルを導いた使い魔のことですか?まさか彼女が…」 オスマンはそれには答えず、言葉を接ぐ。 「彼女は、異世界から来た錬金術師だと。そう名乗っておりました。」 「異世界の、錬金術師…ですか?」 見たことも聞いたこともない職業、錬金術師。 「そうですじゃ。彼女ならやってくれると、私は信じております。」 その錬金術師に、多大な信頼を寄せているオスマン氏。 「なれば祈りましょう。異世界から吹く風に。」 やってみる価値はあるかもしれない。 アンリエッタは一つの決断をした。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師15~ その日の夜。ルイズは心ここにあらずで、部屋の中を徘徊していた。 「おーい、ルイズちゃーん。」 そう言って目前で掌をふるヴィオラートの呼びかけにも全く反応を示さない。 仕方なく、ヴィオラートは錬金術書を書くための作業に戻る。 そのまま、ノートの1ページがびっしりと文字で埋まるほどの時間が経過したその時。 規則正しいノックの音が、静かな部屋の中に浸み渡った。 「誰かな?」 ヴィオラートはルイズを促すが全くの無反応。 仕方なくヴィオラートは作業を中断し、深夜の客人を迎えに出た。 そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾を被った少女。 少女はそそくさと部屋に入り、小さく杖を振った。光の粉が部屋の中を舞う。 「どこに目が、耳が光っているかわかりませんからね。」 光の粉がルイズの全身に付着した時、ようやくルイズが反応を示した。 「…ディティクトマジック?」 ルイズが向き直り、それを確かめた少女が頭巾を取る。 現れたのは、なんとアンリエッタ王女であった。 「姫殿下!」 ルイズが慌てて跪く。 ヴィオラートはとりあえずルイズのまねをした。 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ。」 涼しげな、心地よい声が耳に届く。 次の瞬間、アンリエッタ王女は感極まった表情を浮かべ、ルイズを抱きしめた。 「ああ、ルイズ、ルイズ!懐かしいルイズ!」 「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所にお越しになられるなんて」 ルイズは、かしこまった声で言った。 「ああ、ルイズ!そんな繁文縟礼を体現するような振る舞いはやめてちょうだい!」 「姫殿下…」 「ここには枢機卿も、母上も、友達面した宮廷貴族もいないのです!私達はお友達!お友達じゃないの!」 ルイズは顔を持ち上げた。 「幼い頃、宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの!泥だらけになって!」 はにかんだ顔で、ルイズが答える。 「ええ、お召し物を汚してしまって。侍従のラ・ボルト様に叱られました。」 「そうよ、そうよルイズ!ケンカになると、いつもわたくしが負かされたわね!」 「いえ、姫様が勝利をお収めになったことも一度ならずございました。」 ルイズが懐かしそうに言った。 「思い出したわ!わたくし達がほら、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦よ!」 「姫様の寝室で、ドレスを奪い合ったときですね?」 「そうよ、お姫様役の奪い合いで取っ組み合いになって、あなたのおなかに一発…」 「姫様の御前で私、気絶いたしました。」 それだけ言うと二人はあははは、と笑いあう。 「その調子よルイズ。ああいやだ、懐かしくてわたくし涙がでてしまうわ。」 アンリエッタはそう言って目を潤ませ、一つ息をついた。 怒涛の再会劇が終わり、ようやくヴィオラートが口をはさむ。 「どんな知り合いなの?」 ルイズは懐かしむように目をつむって答えた。 「姫様がご幼少のみぎり、恐れ多くもお遊び相手を務めさせていただいたのよ。」 王女は深いため息をついて、ベッドに腰掛けた。 「あの頃は楽しかったわ。何にも悩みなんかなくって。」 アンリエッタは窓の外の月を振り仰ぐと、本題を切り出す。 「ルイズ・フランソワーズ。結婚するのよ、わたくし。」 「…おめでとうございます。」 その声に悲しみを感じ取ったルイズは、沈んだ声で答えた。 「そして…これはヴィオラートさんにも。シュヴァリエの授与が、できなくなりました。」 ルイズとヴィオラートが、顔を見合わせる。 「従軍必須、貴族の忠誠心…理屈はありますが、結局の所管轄したいのでしょう、あの男は。」 あの男。玄関先で見た、あの痩せこけた男のことだろうか。 「あれの思い通りになるのは癪ですが…残念ながらわたくしには対案がないのです。」 「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になるでしょうね。」 「ゲルマニアですって!あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」 「野蛮?そうかなあ…」 ゲルマニアと聞くとキュルケが頭に思い浮かぶ。野蛮と言うか、 自由すぎるという点ではその通りかもしれないなと、ヴィオラートは思った。 「そうよ。でも仕方ないの。同盟を結ぶためなのですから」 アンリエッタは、ハルケギニアの政治情勢を説明した。 「そうだったんですか…」 「いいのよ、ルイズ。物心ついたときから覚悟はしていました。今日、ここに来たのは…」 それだけ言うと、ほんの少し…戸惑った後、透き通った声で呟いた。 「手紙です。」 そして、堰を切ったように目的の全てを告げる。 「アルビオン王家のウェールズ皇太子から、手紙を取り返して欲しいのです。」 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6506.html
前ページ次ページゼロの最初の人 「オールド・オスマン。王軍から、現時点での今年度卒業見込生徒の総数と、ランク、系統ごとの人数を書類にまとめ、今月のティワズの週ラーグの曜日までに報告するようにとのことです」 「ご苦労。明後日までには早馬を手配して王宮に届けさせるようにしよう。4、5日中には届くであろうから、安心してくれ」 魔法でペンをいくつも扱い、浮かんだ書類をどんどんと処理していきながらオスマンは答える。 目で書類を追わず、視線はしっかりとロングビルに合わせていた。 かつてロングビルが秘書の職に就いたころ。初めてこの異常な光景を目の当たりに彼女は、どうすればこのようなことが出来るか聞いたことがある。 彼いわく、レビューションと遠見の魔法の応用であり、練習すれば誰にでも出来る事。らしい。 それを聞いたロングビルは、使えれば何処かで役に立つかもしれないと、こっそり練習した。 しかしながら「複数のペンと複数の書類を浮かし、複数の視界を展開、なおかつそこから得る情報を同時に処理しながら、複数のペンを別々に動かし正確に文字を書く」など、常人にできるはずはない。 ロングビルは浮かんだペンを複数同時に動かすことはなんとかできたが、正確に、しかも同時に文字を書くなんてことは出来ず、すぐに諦めた。 そんな昔のことを思い出し、この人はやはりすごい人だ。と、微笑みながらロングビルがさらに言った。 「心配なぞしておりませんよ。もしどうしてもしなければいけないのならば、その相手は貴方ではなく早馬でしょうね」 「ほっほ。仕事は正確でしかも速い。おまけに舌まで達者とは、ワシはいい秘書を雇ったもんじゃのう。」 そんな談笑をしている間に、オスマンが動かすペンの動きが止まり、書類が束にまとめられ、ポンと机に置かれた。 「さて……もう今日やらねばならんことは終わってしまったの。 むぅ、まだこんな時間か…………そうじゃのう、ちとばかり早いが仕事は終わりじゃ。自室へ戻っても構わんぞ」 「それでは、お疲れ様でした。お先に失礼させていただきます」 「ああ、ご苦労じゃった」 オスマンはそう言って、ロングビルを見送った後、窓の方向に向き直り物憂げに空を見つめる。 ここはトリステイン魔法学校学院長室。そこには数々の並行世界で不埒な行為 ―俗にいうセクハラ― を行っていた変態爺とは全く違う「大賢者オールド・オスマン」の姿があった。 彼が成し遂げた偉業は数知れない。そして偉業は人々に伝わって伝説となる。 人が、国が、彼に救うたび伝説は増えていく。 さらに伝説は人に伝わると尾ひれを付け泳ぎだす。そうしてその総数は両手両足ではまったく足りないほどになった。 曰く、四大系統を全て修めた。 曰く、300年以上の時を生きている。 曰く、彼の出陣は、終戦の号砲である。 彼の伝説の中には虚実のものもある。しかしそれこそ「彼ならこれでも出来る」という周りの評価の高さを表しているだろう。 彼は、自身のもつその強大な力で祖国トリステインの危機を幾度も救った。 当然王宮の貴族らは彼に褒美を取らせようと考えたが、彼の素性に関しては謎な部分が多かったため、連絡がつかず、その功績に対し見合った報酬を与えることができずにいた。 しかし、彼の齢が200を超えしばらく経ったころ、ある日、彼自ら王宮に姿を現し当時の国王フィリップ3世にこう言った。 「これから、この杖は未来を担う若人を導くために振るいたい。このわしをトリステイン魔法学院の学院長にしてくだされ」 突然のことだったが、メリットはあれどデメリットの見つからないその提案に、フィリップ3世は一も二もなく首肯する。 そうして、彼はトリステイン魔法学校の学院長に就任することが決定し、その知らせはすぐ学院にも届いた。 ハルケギニア一の実力を持つとも言われるメイジが、学院長に就任することに対して、反対するような教員、生徒がいるはずもなく、学院の貴族たちは一様にオスマンを歓迎した。 学院の平民たちは、最初こそ萎縮したものの、平民だからといって差別せず、気さくに話しかけてくるオスマンに対し好感を抱いた。そして彼が学院長になることを歓迎した。 そして、一般的な学院長職の寿命としては長すぎるほどの間、オスマンは学院長であり続け、今現在も学院長職を努めている。 人望も厚く、学院に関する細々とした事務処理にも手を抜かず、ミスを犯すこともない。 そんなオスマンをわざわざ学院長のポストから下ろす道理もなかったため、オスマンは何十代もの生徒が卒業するのを今も見届けている。 しかしながら、元来オスマンの性格は、お調子者で助平。そんな彼が、どうしてこのような偉大な人物となったのか。 トマトが何故赤くなったかを、気にするものが稀有なように。その理由を気にするもの ―少なくとも今のハルケギニアには― はおらず。 必然的に、その理由を知る者はいない。 所変わって同時刻。ヴェストリの広場、ここでは春の使い魔召喚の儀式が行われていた。 ほとんどの生徒が使い魔を召喚し終え、召喚した使い魔との交流を深めていた中。未だに召喚が成功していない生徒が一人。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステイン王国有数の大貴族であるヴァリエール家の第三女である。 少女は集中する。自分の魔力を、そして自分の意識を、杖に集め呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……五つの力を司るペンタゴンよ。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ!」 魔力のこめられた詠唱は、爆発を生み出し地面に大きなクレーターを作った。副産物は他生徒からの中傷の言葉。 「おいおい!ゼロのルイズはサモン・サーヴァントでも爆発させるのかよ!」 「万一、いや億一に成功してもあの爆発じゃ使い魔死んでんじゃねーか?」 「ハハハ!!違いないな!!」 無慈悲な言葉の矢がルイズに浴びせかけられる。ルイズは奥歯を噛み締め、悔しさを飲み込んだ。 絶対に、絶対に絶対に見返してやる。神聖で強力で、そして美しい私だけの使い魔を召喚してみせる。私をバカにしたやつらを見返してやる。 ルイズが呪文を唱えようと今一度杖を振り上げた。そのとき、監督教師のコルベールがそれを制止した。 「ミス・ヴァリエール、待ってください!」 ルイズが苛立ちを隠そうともせず答える。 「なんですか?!まだ授業の時間はあるでしょう?!」 「違います!そこを見てください!」 言うと同時にコルベールは指を指す。その先は先ほどルイズが"サモン・サーヴァント"で作ったクレーターがちょうどあるあたり。そこは爆発で巻き上げられた土煙に覆われていたが、かすかに中の様子が垣間見れた。そこには確かに黒い影があった。 「成功です!あなたの!ミス・ヴァリエールの使い魔が召喚されたのです!」 目の前の少女の苦労を少なからず知る教師が興奮しながら言う。 しかしながら、先ほどまで負の方向へ大きく傾いていた少女の精神に対して、正の方向へ強く心を揺るその情報はあまりに強烈過ぎたらしく、 念願の使い魔召喚、魔法の成功だというのにただただ、口をパクパクとするのみで少女の思考は停止した。 只、ルイズほどの衝撃を受けないにしろ他の少年少女たちにも目の前の状況は大きなショックであったらしく、誰も口を開けない。そんな中、青い風龍を召喚した青髪の少女が小さく何かを呟いた。 「ウィンド・ブレイク」その風の呪文で、クレーター近辺を覆っていた土煙が吹き飛ぶ。 ルイズはその少女に小さく、でもありがとうの思いをしっかりこめて一礼。そしてすぐに影 ―煙は晴れていたが外皮が黒い生物なのか正確な形が判断できない― に向かって駆ける。 駆けながらルイズは考える。 よく姿がわからないけど、人間と同程度には大きいわ!きっと幻獣よね、しかもあんなに大きいんだもの!あの青髪の子が召喚した風龍には劣るだろうけど、ツェルプストーのサラマンダー同等程度には強力に違いないわ! これでみんなを見返せる!これで姉さまに、お父さまに、お母さまに褒めてもらえる! きっと、ルイズはこのとき興奮で盲目になっていたのだろう。そうでなければ駆け寄る途中に自身の召喚したモノの正体に気付いたはずだ。 そしてルイズはソレにあと5メートルというとき、やっと気付いた。興奮していた精神が急激に冷やされる。あまりのことに再び声を失った。 何秒か、何分か、時間が過ぎた時やっとのことでルイズは一声もらす。 「…………人間?」 ルイズは近づいて観察する。年は17、18才といった所だろう。造形が整っており知性を感じさせる顔つきだ。 しかし、その青年は、サモン・サーヴァントで召喚された、ということを差し引いたとしても、明らかに異質に感じられた。 その原因の全ては青年の着ていた衣服である。貴族のものとは明らかに違う作りのローブのような妙ちくりんな黒いものを羽織り、その中に橙色の如何とも形容しがたい服を着ていた。靴は大きな黒いもので、髪の色もまた―このあたりでは珍しく―黒だった。 両手には中の服と同じ橙の手袋がはめられて、その左手には……"杖のようなもの"が握られていた。 また男は、ルイズ達生徒やコルベールの居る方向に対し背を向けた状態で、膝を軽く抱えたようにして寝ていた。 つまり、黒い面しか彼女らには見えておらず、見慣れぬ服装のこともあったため、黒い大きな幻獣と勘違いしたわけだ。 そんなとき男がゴロンと寝がえりをうった。顔や首、袖口に見える手首。そんな"人"の部分が生徒の方向を向く。 数人の生徒が目の前の事実を理解した。ヒソヒソとした話し声。その声は次第に大きなものになり、ルイズに向けられる罵言へと姿を変える。 「なんだあれ!ヒトじゃねぇか!」 「ゼロのルイズの使い魔は人間!こりゃ傑作だ!!」 それに混じってスースー、グーグーと規則正しい呼吸音が聞こえる。 それがルイズの精神を逆なでした。 「こ、こここ、この!!起きなさいよ!!!!」 杖を空に向け怒りを乗せた呪文を唱える。上空に巨大な爆発が生まれた。その衝撃で周りの生徒の使い魔たちの数匹が暴れだす。 誰かの蛇が、誰かカラスを飲み込む寸前で、空気の槌に吹き飛ばされる。 巨大モグラがやたらに穴を掘り、その中に使い魔と人間が何人か落ちてしまう。 寝ているところを起こされてしまい不機嫌なサラマンダーがめちゃくちゃに炎を吐く。 そんな阿鼻叫喚の騒ぎをなんとか収めた生徒たちが、ルイズをにらんで怒鳴るように声をあげた。 しかしルイズは振り向かない。肩で息をしながら使い魔をじっと見ていた。 なぜなら、そこでようやく召喚した彼が目を覚まし、起きあがったからだ。 目を覚ました彼は「くぁあ」と大きな欠伸をしながら伸びたあと、目をこすりながらゆっくりとあたりを見渡す。 その動きをコルベールは警戒しながら見つめる。使い魔はコントラスト・サーヴァントで契約するまでは、主に危害を加える恐れがある。召喚されたのがヒトであったとしてもそれは変わらない。 ルイズはというと、そんな緩慢な動きに内心イライラしていたが、何も言うことがなかった。 いや、正確には先ほどの怒り感情に身を任せ荒々しく唱えた呪文のせいで、いまだに息が荒れていた為、言えなかった。という方が正しいだろう。 その青年にそんなルイズの心象を知る由もなく、しばらく彼はそうしていたが、やがてルイズに目線を合わせ溜息をつき、こう言った。 「そこのおぬし。何故わしはここにおるのかのぅ?」 前ページ次ページゼロの最初の人
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/356.html
………シュ ……-シュ ギーシュ、起きなさい… ……んん、誰だい、僕を呼んでいるのは… あれ…ここはどこだい…?それに僕は一体何を……うっ、思い出そうとすると頭が… ギ-シュ…あなたはまだ倒れるわけにはいきません… あなたに再び命を与えましょう… 命?僕は…死んだのかい…?そういえば…確か…ルイズの使い魔と決闘を…なぜだろう、思い出さない ほうが良いと心が警告している… そういえば…さっきから頭に直接聞こえてくるけど…あなたは…何者ですか…? 私ですか?私はこういうものです… わぁ…綺麗な火の鳥だなぁ…でもなぜかカバに似ている気がする… ところで…さっき僕が死んでいると言いましたが、どうやって生き返らせるのですか…? それはね……(ニヤリ)……こうするんですよ………!! あれ…?なんだろう…背筋がゾクゾクする……生き返らせてもらうのに…?この感覚、覚えが…そうだ、 あのジェラールとか言う使い魔が僕に向かって来て……痛イィ!頭ガイタイィィ! ダメダァァ!思イ出スナァァァ! ククク…思い出してきたようだな…自分が何をされてここに来たのかを……!!皇帝陛下、並びに アバロンを愚弄したその罪、今一度現世で思いしれえぇ! 皇帝陛下……?あっ!!!あ…あ…あ……嫌だぁぁぁぁ!!!このまま死なせてくれえぇぇぇ!!! 生き返りたくないぃぃぃ!!!お願いだからぁ!お願いしますぅ、もう一度あんな目にあうのは嫌だぁぁぁぁ!!! もう遅い!再び死なぬよう、そなたのハラワタを食い尽くしてくれるわ!皇帝陛下の力を借りて! 今!必殺の!科学に…もとい!真・アル・リヴァイヴァ!! 嫌だぁぁぁ!!!!戻りたくないぃぃぃ!!!い…い…ギャアァァァァ………!!! 時間を少し巻き戻そう。 場所はヴェストリ広場。この広場は普段人の往来も少なく本来なら決闘の舞台としては適しているのだが、 今回はそうも行かなかった。なぜならヘタ…ギーシュが食事時の食堂という、ある意味学園で最も人が 集まる場所で決闘を申し込んだのだ。しかも相手は「あの」ゼロのルイズの使い魔。しかも平民。これで 観客が集まらないほうがどうかしているというものだ。 観客が集まれば当然勝敗の予想がされるもので、 A「お前どっちが勝つと思う?」B「んなもんギーシュに決まってんだろ」A「そりゃそうだな、相手は平民だし」 B「しかもあいつの主人、ルイズだし」A「だよなー、ルイズだからなぁ」C「こうやって集まってやったんだから せめて逃げまくって楽しませてもらわないとな」D「あの平民、ちょっと背が高くてちょっと顔が良くてちょっと 足が長いからって貴族に楯突くなんてふざけた奴だぜ」ABC「「「全くだ!」」」 などと彼らの関心はすでに使い魔-ジェラールがいかに情けない姿で逃げ回るかということに移っていた。 そんな幸せな連中とは一線を画すように、ジェラールの実力の一端を知る一団は地上の喧騒から逃れ 多少離れた場所に浮いていた。 「助かったわ、タバサ。あんな人ごみの中じゃよく見えないからね」 「…距離をとらないと危険」 「そう?確かに昨日見たあの魔法はかなりのものだったけど、ここまでする必要が?‥まああなたの 判断に任せるわ、私は乗せてもらってる身だしね。で、何であなたがここにいるの、ルイズ?」 「…えーと、その…」 「あなた、自分の使い魔が勝つと思ってないの?あの実力からみて彼がギーシュに負ける確率なんて、 一晩でコルベール先生の髪がフサフサになるより有り得ないわよ」 「そ、それはそうなんだけど、アイツが「物事にはアクシデントが付き物だから、安全な場所にいて」 なんて言うから、どこかないかと探している時にちょうどあなたたちを見かけて、それで…って何で いちいち説明しなきゃならないのよ!思いっきり話しかけたじゃない!」 「それは諸般の事情で…そういえば肝心の彼は?いつのまにかギーシュは来てるけど」 「なんか確認したいことがあるんだって」 「…来たみたい」 ジェラールがヴェストリ広場に着いたとき、そこにはすでにギーシュと彼の悪友達がにやけた顔で 話しており、ジェラールの姿を見つけるとこちらに野次を飛ばし始めた。 イ「遅いぞ平民!」ロ「小便は済ませてきたか?」ハ「心配するな、俺たちゃ優しいから、今謝れば許して やるぞー」ニ「ただし土下座が条件だがな」イロハ「「「ブハハハハハ!!」」」 (…現役だったら不敬罪で即ルドン送りにしてやるのだが、丸くなったな、俺も。一応最終手段は 確認したものの、使わないに越したことはないな。ま、適当にギブアップさせるのが順当か…) そしてギーシュが高らかに宣言する。 「さあ決闘だ!諸君!我々貴族に対しての礼節を知らぬこの平民に、この僕、ギーシュ・ド・グラモンが! 皆に成り代わり!たっぷりと教育的指導をしてあげるとしよう!」 ウオオォォ!ピーピー!いいぞギーシュー! 「一つ確認したいことがあるんだけど」 「ん?なんだい?作法はどうあれ、心のこもった謝罪なら僕は受け入れるから心配しなくて良いよ」 ギャハハハハ!! 「…決着のつけ方は?」 「ああそんなことかい、簡単だよ。降参するか、戦闘不能になるか、第三者が止めに入るか、こんなところ だね。あと僕はメイジだから、この杖代わりの薔薇を手放しても負け扱いになるよ。万が一君が勝ちに来るなら この条件が一番望みあるんじゃないかな?」 さっすがギーシュやさし~、敵に塩を送るとは~!そこにシビれるあこがれる~!! 「さて、始める前にだが、君は何の準備もしていないようだね。せめてもの情けだ、武器を用意して あげるよ……よっと!さ、この剣を使うと良いよ。」 「遠慮する。決闘において第三者からならまだしも、相手から武器を渡されてそれをホイホイと使うのは 阿呆のやることだね」 「なんだい、せっかくの人の好意を受け付けないとは。これだから平民は…で、君はどうするんだい? 素手だから負けたなんて言い訳はしないでくれよ、見苦しい」 「武器は用意するよ、今から。…………覚悟しろ、小僧」 ギーシュが「誰が小僧だゴルァ」と言おうとしたとき、ジェラールが何かつぶやいているのでそちらを 見る。内容は良く聞こえなかったが最後に「…風になれ」と聞こえたその瞬間、ジェラールに向かって 突風が吹きつけ、それは右手に集約されてゆき、最後に剣と化した。それと共にジェラールの表情が 変化していき、今までは柔和で人のよさそうなものであったのが、まるで世界一性格が悪そうな表情 へと変わっていく。 (アレ?誰、あの人。僕あんな人知らないよ?) (…ふう、やはり武器を持っているほうが性に合うな。ん?左手の呪印が急に…おいおい…封印した はずなのに、どういうことだ?なぜ技が使える?しかも能力強化?よりによって龍脈クラスの… この印はマイナス効果だけじゃないのか?まあ後でルイズに聞けば分かるだろう。この力に対抗 しなければならないとは…同情はするが、諦めろ小僧。さて、やはりまずは基本からだな) 「な、なかなかできるよ、ようだね。じゃ、じゃあ始めようか。ワルキューレ!」 「ほう、人形使いか、懐かしい。こっちも剣を握るのは久しぶりだからな、さあこい!」 そうして決闘は始まったが、先ほどの場の空気からは想像出来ないほどギーシュが優勢に進めていく。 ジェラールはただただワルキューレの攻撃を剣で弾くのが精一杯で攻撃に手が回らないようだ。…素人が見れば。 素人A「なんだあいつ?」素人B「さっきは思いっきりビビったけど、さっぱりだな」素人C「きっとさっきのが 精一杯のハッタリだったんだろ」素人イ「ギーシュー!観客を退屈させちゃいかんぞー!」素人ロ「そんな ハッタリ野郎とっとと片付けちまえー!」素人ハ「お前にはまだやることが残ってんだろー!」 素人Ω「モンモランシーに謝るんだろー!」素人ABCイロハ「「「「「「だはははははは!!!!!!」」」」」」 もう一人呼んでキング素人にするつもりは毛頭ない。 そんな声(一部除く)に乗せられすっかり調子を取り戻したギーシュは、一気呵成に攻めて行き ここが勝負所と思ったのか奥の手を披露する。ワルキューレ六体同時召喚! 「どうしたんだい、さっきまでの威勢の良さはどこにいったのかな?しかし、一対一では 凌げてもそれが複数になれば耐え切れるかな、さあがんばりたまえ!」 「あれー、どうしたのかしら、彼。さっぱり攻撃しないじゃない」 「アイツ…!あれだけ大口叩いておきながら、このまま負けたらどうしてくれようか…!」 「…遊んでるだけ」 「「なんで?」」 「理由は分からない。でも、追い詰められている人間はあれほど楽しそうに笑わない」 「たしかにそうね、考えてみれば魔法使ってないし。…でもあの表情、今までとはだいぶ違うわ。 あれはあれでセクシーよね、戦う男って素敵!」 「…おい色ボケ。冗談は性格だけにしろ」 「あなたの発育速度よりはましじゃない?」 「……!雰囲気が変わった。試合が動く」 ジェラールはギーシュの奥の手を見て、少し笑うと一旦その場から離れて口を開く。 「ほお、それだけの数の人形を操るとはなかなか。だがこちらもだいぶ勘を取り戻せたし、ウォーミング アップも終わった。少し間引くとするか」 「ふん、負け惜しみが強いようだね。一対一で手一杯な君が六対一で勝ち目があるとでも?やれるもの ならやってみなよ!いけ、ワルキューレ!」 ギーシュがワルキューレに命令すると同時にこの決闘で初めてジェラールが剣を振った。それはただ一度 振り下ろしただけの斬撃、いわゆる袈裟斬りである。しかもワルキューレからは10メイルほど離れている だろう。しかし不思議なことにギーシュの顔にはその斬撃のためか、生温かい風が吹いてきたように 感じられ何気なく顔を撫でてみた。すると、ギーシュは自分の頬から血が流れている事に気付く。 一体いつ?いや何で斬られた?と考える間も無く、前列にいたワルキューレ三体の体に無数の傷 -先ほどのジェラールの斬撃と同じ方向に-ができ、そのまま彫刻版シュールレアリズムとでも 言うような姿に変える。カマイタチ。風神剣の武器固有技である。 「うーん、やはりまだ細部の感覚までは戻らないか、あの薔薇も狙ったんだが」 「な!?い、今何をしたんだ!き、君もメイジだったのか!?」 「いや、俺は貴族じゃない。それに使うのは魔法ではなく術だ。例えばこのような…太陽光線!」 ジェラールが術を唱えると、本来あまり日の差さないヴェストリ広場が明るくなる。その過剰な光は 残ったワルキューレの内一体へと集束していき、その熱でドロドロに溶かしていく。こちらはパティシエ オススメ!今月の新作デザートといった感じに仕上がった。 「今の魔法は…火?いや違う…何の系統かすら分からない…一体何なんだ君は!!」 「今はルイズの使い魔だな。それ以前が知りたければ俺の口を割らせてみろ、小僧」 「く、くそう…負けるか!負けてたまるか!こんなデタラメでどこの馬の骨とも知れない奴に! この僕が、ギーシュ・ド・グラモンが!負けるものかぁ!」 「…今なんと言った?」 「あ!?お前のようなデタラメな奴は先祖代々デタラメなロクデナシだと言ったんだよ、平民!」 「…そうかそうか。おい、お前は今二つ重要なことを言った。一つは、確かに俺はデタラメな存在だ。 それはまだいい。しかし、お前は祖先、つまり先達の方々の功績まで愚弄した。それがどれだけの 罪か…お前に分かるか?」 「なにを勿体つけて言ってるんだ!どうせお前の先祖なんて有象無象みたいなものだろうが!」 「フフフ……ハハハハハハ!!!やめだやめだ!これは使わなくていいだろうと思っていたが 予定変更だ。小僧!喜べ!もう剣は使わない。素手で勝負してやる!ハンニバルの腕力!クラウディアの スピード!ベイダーのスタミナ!ガダフムのテクニック!そして!この俺の怒りが!お前をぶっ潰す!!!」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5431.html
前ページ次ページゼロの工作員 ギーシュとフリーダの決闘事件から数日後。 「御機嫌よう。フリーダさん」 「御機嫌よう。ヴィリエ」 「御機嫌よう。ケティ」 彼女が決闘で力を示したことで、生徒達は不承不承ながらゼロの使い魔の存在を認めた。 ギーシュの怪我は投げられた打撲だけで済み、周囲は倒れたのが気絶と知って安堵した。 メイジ達の決闘は打撲だけでは済まない方が多い。 魔法を使うせいで骨折や火傷、凍傷、裂傷は日常茶飯事だ。 もっとも 水の魔法 による治癒は怪我を一瞬で治してまうのだが。 傷が軽いと知った生徒達の興味は別に移る。 女子達は浮気をされた彼女に同情を示し、魔法なしでギーシュをあしらい、 トリステインでも有数の権力者であるヴァリエール家の使い魔の彼女を お姉さま と祭り上げた。 貴族が平民に負けるのは屈辱だと感じていた一部の生徒達は、 お姉さま を信奉する生徒達にすり潰され、 男子達は怒らせたら 実際 に死ぬほど怖い(ギーシュ談)と畏怖し、 美人である彼女の姿を見て憧憬を感じた。 物腰も姿も上品で、勉強や運動も完璧にこなす姿を見て周囲は『フリーダさん』とさん付けで呼んだ。 貴族が大嫌いである料理長のマルトーは、魔法なしで平民が勝ったのをシエスタと喜び、 彼女を 我等の剣 と持て囃した。 貴族を撃退した記念に、フリーダへテーブル一杯の豪華な料理を振舞ったマルトーは 「みんなで一緒に食べましょう」 とフリーダが言ったのを謙虚な奴だと評価し、料理を食べながら他の下働きたちもそう思った。 面目が潰れたギーシュは大人しくなり、モンモランシーが優しく接するようになっていた。 もちろんケティとは分かれたが、ボロ負けした彼とはそれなりに良い女友達として修復された。 ギーシュは 「彼女に鍛えてもらいなさい」 とモンモランシーに諭され、フリーダに戦術講義を受けている。 「面目潰して御免なさいね」 フリーダが左手を差し出す。 「此方こそ申し訳ない。平民だと侮っていた。重ねて顔を忘れていたのも謝ろう」 右手を差し出し握手を交わす。 油断していたのは自身の非だ、話しの最中に顔に胡椒をかける相手の非情な手を責めるのは悪いと思った。 ギーシュも、自分が丸腰で相手が杖を持っていたら同じことをしただろうと思う。 決闘の勝者を否定するのは、誉れ高い軍人の家系であるグラモン家を侮辱することでもあった。 口説いた相手の顔を忘れているのも悪かったと思っている。 「僕は決闘で負けた、君は勝った。好きな望みを言いたまえ」 平民に決闘で負け、その上見逃されたのでは貴族の名折れだ。 フリーダはギーシュが負けてから数日間、何も求めなかった。 それは、ギーシュの誇りが許さない。 「私は、相手によって付き合い方を変えるだけよ」 「礼を欠いたのは済まなかった平民…は悪いな、ミス・フリーダ」 「ミスは要らないわ」 無茶な要求を突きつけられなくて安堵する。 思えば自身も、決闘で負けた相手に無理な要求を突きつけてきたものだ。 負けて知るものもあるのだと感じる。 「…それともう一つ」 ギーシュは身構える。 「ルイズとは仲良くしてあげて。…あの子一人だから」 フリーダは儚げに綻ぶ。 「お安いご用さ!」 ギーシュは白い歯を見せた。 ルイズにとって使い魔は、思ったより掘り出し物だった。 洗濯を除き掃除、炊事、雑用は完璧にこなすし、ギーシュを単独で倒したのは、 護衛の力として申し分ない。 掃除は髪の毛一本残さず、触った物も指のあと一つ残さないほど完璧。 ためしにつくらせた調理も実家のコック並で、出て来た料理は ぺペロンチーノに牛肉とピーマンの炒め物とメープルグラスの沿岸風サラダ。 どれも見慣れない異国の料理だったが美味しかった。 朝に服を着るのを手伝うのも手馴れていて、実家のメイド達にしてもらうようであった。 腹が立つことがあるとすればフリーダがご主人様を全く敬うそぶりを見せず、 様付けで呼ばないのと、ご主人様を差し置いて学院内で お姉さま として 尊敬されていることぐらいである。 前にご主人様と呼ばせようと、餌付けで躾けようとしたが、 フリーダが学院から賄い飯を貰っていたのを思い出し諦めた。 次の日、賄い飯をやめるよう命令すると、ルイズがコルベールに呼び出されて怒られた。 フリーダは大切なゲストで、刺激しないようにときつく言われた。 三日目、杖を向けて魔法で脅すとご主人様と呼ぶようになったが、 ご主人様の前にいつも ゼロの が付くため諦めた。 使い魔を呼び出してから、周囲の態度が変わりルイズに優しくなった。 優しくなったのは、フリーダへの尊敬や畏怖、口利きからであるのだが、 それを知らないルイズは凄い使い魔を呼び出したメイジへの尊敬であるとし、 多少の欠陥はあるものの概ね使い魔には満足していた。 フリーダは多少の不便はあったもの、潜入工作で培った経験を使い 普通の女学生として過ごしつつ、元の世界へ帰還する方法を探した。 しばらくすると、この星が何処か判らない上技術も未成熟で、 星間技術の欠片も見つからず、帰るのは悲観的になっていた。 アリスの身が心配だが、組織の手が届かない世界に居るのは、 それはそれでいいのではないかと考え始めていた。 「な、なんじゃと!グラモン伯爵のせがれとミス・ヴァリエールの使い魔が決闘じゃと!」 場所はどこじゃとオロオロし、遠見の鏡を見つめている。 「が、数日前に終わっています」 「もっとはやく言わんか!」 ロングビルは片眉を上げ応じる。 「事件当時、執務室はロックとサイレンスで閉まってましたが」 「…すまんのう」 コルベールが部屋へ一冊の本を抱えてやって来る。 「ミスタ・コルベールと大切な話があるんじゃ。退出してくれんか」 「書類は置いておきますから昼までに仕上げておいてください」 ロングビルが部屋から出て行く。 「追加調査はどうなったかのう」 「これをご覧ください」 薄く小さな本には始祖ブリミルの使い魔達と書いてある。 オスマンはパラパラとめくった後、 「子供向けの絵本か?」 絵本の中央に描いてある人物の左手にルーンが刻まれている。 「はい。『ガンダールヴ』と『始祖ブリミルの盾』です」 「他には書いてあったか?」 周囲に魔法を掛けつつ尋ねる。 「いいえ、同じルーンが載っている唯一の本でした。 『魔力文字大全』を調べましたが、該当するルーンはありません」 「あれに載っていないとは忘れられたか、それとも歴史の闇に葬られたか」 コルベールはかぶりをふった。 「勘弁してください、異国の工作員だけでも手一杯なのに」 「金と暇がある奴等はそれぐらいいくらでもやるぞ。 君も揉み消された事件の心当たりの一つや二つしっておろうが」 オスマンの目が細くなる。 「発行年月日は?」 「不明です。数百年以上前なのは確かです」 「盾と書いてあるからには戦闘関係のルーンじゃな」 「模擬戦でもやらせますか?」 オスマンは気まぐれにロングビルの持ってきた報告書をつまんだ。 「………あたりじゃ」 紙にはフリーダ・ゲーベルの右手が光っていたと書かれていた。 朝、目が覚める。 洗濯物をシエスタに出しに行き、授業を受けて、賄い飯を食べて、 適当にルイズの世話を焼いて、特別授業後洗濯物を回収して、 たまにコルベールの機械製作に助言をする。 組織の暗殺も、命令もない。時間がゆっくり流れる平凡な毎日。 そこには任務達成のために取り繕う必要や、敵や監視に怯える日々はない。 彼女は惑星エリオの反政府ゲリラが戦費を稼ぐ為に試験管で生産され、 脳に埋め込んだチップ 記憶領域 に知識を埋め込まれ教育された暗殺者だ。 犯罪組織 コーポ にレンタルされ暗殺を行なっていた。 脳に埋め込んだ 記憶領域 へ 知識や経験 を直接埋め込むチップシステムに、 星間文明は支えられている。 大きくなりすぎた社会には、ものすごい数の専門技術者が必要だ。 手術で埋め込んだチップへ情報を書き込めば、分厚い説明書を一瞬で覚えられるから 技術者は増えた。 彼女はその技術を悪用し 偽人格 を埋め込み、別人になりきって暗殺するのが仕事だ。 任務のため彼女は、最初に人を殺してから八年で二十七人の 偽人格 を受け入れた。 フリーダ・ゲーベルは 偽人格 達の基礎部分で、素の彼女だ。 彼女は見てきた。多くの死を。ゲリラとして、最低限の装備で 機械兵に立ち向かった故郷の仲間。 犯罪組織に貸し出され、理想に程遠い犯罪者として蔑まれながら逝った 同僚のエージェント達。 そして、誰かに「死ね」と命令された彼女の標的。 そんな彼等を差し置いてのうのうと生きるのは彼女にとって落ち着かないことであった。 だから紛らわすために歩く。 食堂からずっとキュルケの使い魔、サラマンダーのフレイムが トカゲの短い足でちょこちょこついて来ている。 バレバレの尾行なので放っておき、学園の隅に居る青い竜の元へ向かう。 青い竜、シェルフィードとの会話は最近の彼女のお気に入りだ。 ビルの2階ほどの背と鋭い爪を持ったそれは、ゴツイ見た目の割りに きゅいきゅいと舌足らずな可愛い少女の声で話す。 「きゅい?そーきたのね!ならここに白を置くのね」 「きゅいーっ、角を取られちゃったのね」 オセロで遊ぶ。シェルフィードとの勝率は五分。意外に頭がいい。 齢200年ほど生きている竜で、竜族の中では子供。 飼い主は無口なタバサお姉さま。 シェルフィードは韻竜と呼ばれる種族で例外的に人間と会話が出来るのだとか。 バレると注目が集まるので、話してはいけないとキツく言い付けられている。 なので、彼女は話す相手が出来て嬉しいらしかった。 フリーダもルイズの元で働く使い魔だ。 シェルフィードとは種族の差はあれ境遇はよく似ている。 何百年も寿命がある知的な種族がどうして格下の人間の下で、 使い魔として甘んじているか疑問に思い聞いてみる。 「人生はひとときの戯れときまぐれでできているのね。きゅい」 と深いことを言っていた。子供に見えるが伊達に長くは生きていないようだ。 私が生きてきたのも一時の戯れなのだろうか。 全てを否定されてしまう気がして首を振った。 フリーダは執務室に呼び出されていた。 室内には緊迫した空気が漂っている。 オスマンとコルベールが杖を構え、 フリーダが偽装ホルスターから取り出した拳銃を構えながら遮蔽を探す。 コルベールが魔法で火がついた杖を向ける。 「単刀直入に聞こう。君は暗殺者かね」 「どうして?根拠は?」 オスマンは構えながら片手で箱を開く。 「これはフリーダ君の世界の武器じゃろう?」 箱には薬莢と精巧に出来たスナイパーライフルが入っていた。 「ライフルに比べ長過ぎる銃身、精密に出来た銃眼。これは狙撃のための武器じゃ」 「それがどうかしたのかしら?」 コルベールはいつでも呪文を放てる体勢に入り彼女の動きを注意深く監視する。 妙な動きをしたらためらわず撃つつもりだ。 「君は学生だね。それがどうしてこんな武器を持っているんだい?」 「護身用よ」 「護身に持つのは不自然だ。取り回しが悪すぎる」 君が構えている銃だけ持っていたのなら信用できた話だったのだけどね、との言葉を飲み込む。 「勘違いしてるんじゃないかしら?護身といっても私自身への護身とは違う」 「護衛のためよ」 彼は言葉の意味を考える。 杖は向けたままだ。 「敵が暗殺のために長射程の武器を用意してくるかもしれない。だから私も同じ武器を使った」 「あなたの国でも護衛のために、暗殺者が使う武器や魔法に対抗するため、 同じ技能を持った護衛官に監視や指揮をさせるでしょ?それと同じよ」 なるほど。確かにハルキゲニアでも、 女王への空襲を想定した衛士グリフォン隊や女王の食事の安全を守る役が居る。 彼等は対空襲の訓練や解毒に対する知識を持っている。 彼女の国で狙撃が有効な暗殺方法とされているなら、 対狙撃に特化した技能を持った護衛が居ても不思議ではない。 「そういえば、君が巻き込まれた事件を聞いていなかったね」 「護衛対象の名前や状況を明かすのは対象に危険が及ぶから…概要だけでもいいかしら」 エグバードの記念式典中に襲ってきた海賊、地下に逃げ延び、西と東の住人が協力して撃退した 歴史的事件を、彼女とアリスについてのことをぼかし、所々脚色を混ぜながら説明する。 「・・・君はレジャイナと呼ばれる異世界の国から飛ばされてきたわけか」 「…そうよ」 「護衛の技能を持っている君が異世界から呼び出されるとなると『ガンダールヴ』が 真実味を帯びてくるわけだ。オスマン校長」 杖をしまったオスマンが頷く 「フリーダ君の右手には『ガンダールヴ』とルーンが刻まれていての、あらゆる武器を使いこなす、 『始祖ブリミルの盾』と呼ばれておる」 「君は我々の及びも付かない武器の知識と、護衛としての能力を持った異界からの人間だ。 それは伝説と一致する。君を暗殺者と疑ったのは申し訳なかった」 腕を組み頭に手を当てる。 「腕を見込んで、さしあたって頼みたいことがあるのだが。いいかね」 オスマンは眼鏡をかけ彼女から視線を外した。 「君の主人、ミス・ヴァリエールは使い魔の君がガンダールヴであるからして、 『始祖ブリミル』と同じ『虚無の使い手』の可能性が高い。歴史から消された系統じゃ。 これからどんなことが彼女に降りかかるかも判らん。彼女を守ってやってくれんか」 「断ったら?」 「ワシが困る」 暗殺者が護衛とは皮肉なものね。 フリーダには断ることも、無視することもできた。 だけど、自身の 正しい事 を通そうとするルイズの姿は どこかアリスに似ていて興味を持った。 それは一時の戯れ、きまぐれなのかもしれない。 「素敵な提案ね。オスマン」 前ページ次ページゼロの工作員