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前ページ次ページドラえもん のび太のパラレル漂流記 ――きっかけは、些細なことだった。 「おいきみ。おとしものだぞ」 ルイズの相手をするのが面倒で食堂に逃げてきたドラえもんが、 一人の貴族のポケットから落ちた香水の小壜を拾ってやったのだ。 しかしそれがきっかけでその貴族、ギーシュの二股がばれ、 それを逆恨みしたギーシュはドラえもんにいちゃもんをつけようとした。 「おい、どうしてくれるんだ。そこのタヌキく…」 「ぼ、ぼくはタヌキじゃなぁーい!」 だが図らずもNGワードを口にされ、悪口を言われる前にすでに怒り狂うドラえもん。 そうなると、きっかけなんてほんともう些細なことだった。 ていうかぶっちゃけ関係なかった。 「け、決とうだぁ!!」 ……ということで、言いがかりをつけようとしたギーシュがではなく、 タヌキと言われて(しかも悪口ではなく素で!)むかついたドラえもんがギーシュに決闘を申し入れ、 「む。なんか予想とはちがった展開だが、……よかろう。ここで降りれば貴族の名がすたる」 二股がばれていい加減ムシャクシャしてたギーシュもそれを受け入れた。 さらにギーシュはドラえもんを見つめ、今気づいた、というように眉を上げると、 「おや、よく見れば君はあのゼロのルイズのところの妙な使い魔じゃないか。 使い魔の分際で貴族にたてつくなんて主人と同じで愚か者だな。 ふむ、いい機会だ。僕がその身に使い魔の分というものを教えてやろう。 タヌキにも分かるように、はっきりとね。あははははは!」 分かりやすい哄笑と共に立ち上がり、 「ヴェストリの広場で待っている。コテンパンにされる覚悟が出来たら来たまえ。 待っているよ、タヌキくん?」 最後までキザな台詞を残し、食堂を去っていった。 ――かくして、すっかり頭に血が昇ったドラえもんの暴走によって、 タヌキ型…もといネコ型ロボット対貴族の異色の対決が実現する運びになったのだった。 「バ、バカ! なんてことしてくれちゃってんのよ! 使い魔が貴族に喧嘩を売るなんて…! なんであんたはよけいなことばっかりするのよ! バカ! この、バカダヌキ!」 「ぼ、ぼくはタヌキじゃなぁーい!」 「なによ! タヌキじゃない! どっからどう見てもタヌキじゃない!」 「け、決とうだぁ!!」 その後、騒ぎを聞きつけてやってきたルイズとドラえもんはさっそく不毛な争いを始め、 「お、おふたりとも、落ち着いてください。今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ!」 その場にいたメイドによって、なんとか引き離される。 「そ、そうだったわ。わたしとしたことが、ついわれを忘れちゃって……。ところであんた誰?」 「あ、わたしはこの学院のメイドでシエ…」 と自己紹介をしようとするが、 「ていうかなんでいんの? あんた関係ないじゃない」 「あ、そういえばそうですね。どうしてでしょう。ずっと見てたからでしょうか、 なんだかわたしにも責任があるような気がしちゃって…」 と言ってすごすごと引き下がっていく。 「……へんなやつね」 ルイズは首をかしげるが、今はメイドなんぞに構っている時間はない。 不本意だが一応自分の使い魔ということにしているドラえもんが、貴族と決闘しようというのだ。 自分は主人として、この無謀を止めなければならない。……まあこの怒り具合を見れば、絶望的な気もするが。 とにかくルイズは諭すようにドラえもんに話しかけた。 「いい、ドラえもん。ドットとはいえ、魔法が使える貴族にただの平民や使い魔が勝てるはずないの。 そりゃ、使い魔と言ってもドラゴンとかなら話は別かもしれないけど、タヌ…、じゃなかった、ネコじゃ……」 今度は掛け値なしの親切心からルイズがそう忠告するが、怒り心頭のドラえもんにはやはり届かなかった。 「いいや。ぼくはもうゆるさないぞ。貴族だからってあんなにいばりちらして。 そ、それに、ぼくのことを、なんども、なんども、タヌキ、タヌキって……。 きょうというきょうは、めっためたにしてやる!」 ドラえもんはそう息巻いたかと思うと、 「そうさ。ぼくのひみつ道具でけちょんけちょんのコテンパンにやっつけてやる! くふ、くふふふふ!」 おもむろにポケットから様々な道具――腕くらいの太さの黒い筒や、オモチャの銃――を取り出し、 ぶつぶつと呪詛の言葉を呟きながら磨き始めた。 「そ、そう? じゃ、じゃあまあ、がんばりなさいよね」 尋常じゃなく頭の沸いている様子のドラえもんに、ルイズもさすがに引く。 「頭がかわいそうなタヌキさんなんですね…」 見れば、メイドのシエなんとかまでが、何かせつないものを見るような目つきをしている。 「こんな調子でだいじょうぶなのかしら…」 ルイズは首をかしげるが、こうなってしまったドラえもんを止める術はない。 内心やきもきしながら、道具の手入れをするドラえもんを眺めるだけだ。 そうして、決闘の時がやってきた。 「タヌキくん。もうしわけないが、本来なら君のような使い魔ごときに使う時間は僕にはないんだ。 だから、僕のワルキューレ七体で、すぐに葬らせてもらうよ!」 ギーシュの言葉と共に手に持った薔薇から花弁が飛び、それが次々と形を変え、 「さあこれで全部だ。この『青銅』のギーシュの力、思い知るがいい!」 なるほど、『青銅』の二つ名に恥じない見事なゴーレムを七体錬金してみせた。 一方で、ドラえもんが用意したのは、 「空気ほう~!」 小さな突起のついた筒一本。 それを手にはめると、こちらもこれで準備万端とばかりにギーシュに向き直った。 「ははははは! さすがゼロのルイズが喚び出しただけのことはある! 魔法の才能はなくても、人を笑わせる才能だけはあるようだね!」 ギーシュは笑い声をあげると、一気に勝負を決めるべく、ワルキューレに命じる。 「さあ行け! 僕のワルキュ「ドカン!」……え?」 自分が目にした光景が信じられず、ギーシュは目をしばたかせる。 それは周りで見物していた学院の生徒たちも、主人のはずのルイズですら同じだった。 みんなタヌキに、いや、キツネにつままれたような顔をしてドラえもんを見ている。 「な、ワルキューレ…?」 ドラえもんが「ドカン!」と口にした瞬間、手にはめた筒から衝撃波が飛び出し、 それがギーシュのワルキューレに直撃して吹き飛ばしたのだ。 しかもどれだけの威力があったのか、壁に激突したワルキューレはバラバラに壊されていた。 「ま、まだだ! まだ僕のワルキューレは六体いる! それに、もう一度錬金し直せば……」 ギーシュは残ったワルキューレに望みを託し、何とか巻き返しを図ろうとするが……。 それから先は、ほんの数秒の出来事だった。 「ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン!」 ドラえもんがドカンと口にする度、ドラえもんの手にはめた筒から衝撃波が出て、 ギーシュの作り出したワルキューレたちをただの鉄くずに変えていった。 ……結果。 「な、な……。こんなことが、僕の、ワルキューレたちが……」 瞬く間にワルキューレを全滅させられ、ぼうぜんと膝をつくギーシュ。 ――その目の前に、一つの丸い影が差した。 ジャキン、とドラえもんは至近距離からギーシュに空気砲を向ける。 「あ、あ……」 ギーシュの口から言葉にならないうめきが漏れた。 ……ギーシュにはもう戦意はなかった。 こんな相手に勝てるワケがない。それよりこれ以上逆らって、 大怪我でもさせられたらつまらない。 そう考えたギーシュが「参った」と言いかけた、その時だ。 「……ふう」 さんざん発砲してようやく正気に戻ったドラえもんがため息をつく。 コテンパンにしてやろうと思っていたのに、どうにも簡単にギーシュが折れてしまって、 やる気がなくなってしまったのだった。 ――もう勝敗は決した。このまま少し説教でもして、一度謝らせたら終わりにしよう。 ドラえもんはそう考えて、ギーシュに話し始めた。 「きみはまったくこんじょうがないなあ。心がよわいやつほ『ど、かん』たんに…」 が、事件はその時起こった。 ドラえもんの言葉に反応して、あらぬ方向へ向けて空気砲が発射されたのだ。 「わああっ!」 「きゃあっ!」 見物していた生徒たちが悲鳴をあげる。幸いにも、人に直撃はしなかったようだが、 その代わり、 「あ、あれは…!」 どこにひそんでいたのだろうか、爆風に飛ばされ一匹のネズミが広場に降って来て、 「ね、ネズミー!! ……きゅう」 ――ドラえもんは倒れた。 突然の状況の変化についていけず、ぼうぜんとしていたギーシュだが、 ドラえもんを助けにルイズが駆け寄ってくる段になって、ようやく口を開いた。 「あー。……この場合、決闘の勝者はどっちということになるのかな?」 ルイズはドラえもんのほおをぺちぺちとたたきながら肩をすくめた。 「どっちでもいいわよ、そんなの。……それとも、この状況になってもまだ あんたは勝ち負けにこだわるっていうの?」 ルイズに言われてギーシュが辺りを見回すと、さっきまで熱心に見物していた生徒たちは 明らかに拍子抜けした様子で帰っていくところだった。 もう、二人の決闘に注意を払っている者などいない。 それを見て、ギーシュは悟った。 この決闘の勝者がどちらなのか、この決闘が後にどういう影響をおよぼすのか、 そもそもこの騒ぎに何の意味があったのか、それは分からない。 ――だがなんにせよ、もう決闘は終わったのだった。 「うん、そうか。じつにその通りだな、うん」 納得して、ギーシュはうなずいた。 そもそもこれは、ギーシュにとって特にする意味などなかった決闘だ。 ネズミが出てくるまでは負けそうだったのだし、このままうやむやになってくれる方が ギーシュにとってはむしろ都合がいい。 ギーシュはしきりにうんうんとうなずいていたが、ふと気になってルイズに聞いた。 「そういえばさっきのネズミ、あれはなんだったんだ?」 「たぶん、学院長のモートソグニルじゃない? たしかこの前、ミス・ロングビルの足の下を入りこもうとして 思い切り踏んづけられてるのを見たことがあるわ」 「……なるほど」 そういえば学院長のセクハラネズミについてはギーシュも聞いたことがあった。 それが自分のピンチを救ったというのは微妙に思ったが、考えてみれば靴に踏まれたり、 爆風に吹き飛ばされたりとなかなか災難である。 「なかなかふびんな使い魔だな。今度、ナッツでも持っていってやるか」 ギーシュのその言葉は、何の気のなしに言った発言だったのだが、 「なら、今から行ってきなさいよ。善は急げだわ」 予想もしなかったことに、ルイズがそう促した。 「なに? 今かい? しかし、大した用もないのに学院長室を訪れるなんて……」 「そうじゃなくて、今日の報告をしてきたら、って言ってるの。 これだけの騒ぎになったんだし、使い魔が見てたんだもの。 きっと学院長はもうお知りになられてるわ。 だったら呼び出される前に自分で事情を説明した方がいいでしょ。 ……ま、勝手に決闘騒ぎ起こしたんだから、怒られるかもしれないけど」 そのルイズの言葉に、ギーシュはさらに戸惑った顔をした。 「その、それについては異論はないが……。このまま行ってもいいのかい? 君の使い魔、倒れているようだが」 「こいつはネズミを見て倒れただけよ。別にあんたのせいじゃないわ」 「しかし…」 なおも渋るギーシュに、ルイズははっきりと首を振った。 「こいつは、わたしの使い魔だもの。だから、わたしが連れて行くわ」 ルイズはみっともなくひっくり返っているドラえもんの姿を、どこか優しい目で見つめながら、 「たとえコントラクト・サーヴァントしてなくても、こいつを喚んだのはわたしだから」 と付け加え、ドラえもんのテッカテカの頭をなでる。 その姿を見て何か感じるところがあったのか、ギーシュはぽりぽりとほおをかきながら口を開く。 「その、なんだ、ルイズ」 「……なによ?」 「あー、今まで君のこと、ゼロだゼロだとバカにしていたが、その……」 「だから何よ。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよね」 急かされ、ようやく覚悟を決めたのか、ギーシュは心持ち早口に言う。 「いや、その、つまりだね。……今の君の姿は、なんというかこう、とても貴族らしいと思ったよ。 魔法がどうこう、家柄がどうこう、ではなく、その態度というか、心が、ね」 「…え?」 ルイズはぼうぜんとギーシュを見返した。 なにそのキザな台詞、こいつ頭沸いてんじゃないの、と思ったワケではない。 今まで言われたことのないようなことを言われ、すぐには誉められたと気づかなかったのだ。 「さ、さて…」 するとギーシュはどうにも恥ずかしくていたたまれないとばかりに立ち上がり、 「で、では僕は行くよ。……あ、そうそう。そこのネコくんに、君は使い魔は使い魔だが、 勇気ある使い魔だ。侮辱して悪かった、と伝えておいてくれ」 そう言葉を残すと、顔を真っ赤にしたまま立ち去ってしまった。 「……なによ。伝えたいことがあるなら、自分で言えばいいじゃない」 小さくなっていく背中に、ルイズは小さくそう毒づく。 もう少し素直に喜べばいいのだが、慣れない誉め言葉を聞いて、ルイズも恥ずかしかったのだ。 それから、ルイズは倒れたままのドラえもんに向き直り、 「あんたはまあ、今日はがんばったわ。だから、ご主人様のわたしが部屋まで運んであげる。 きょ、今日だけ、今日だけ特別なんだから、感謝しなさいよね!」 誰が聞いている訳でもないのに、まるで言い訳するようにそう語りかける。 そして…… 「あああ! やっぱり誰かに頼めばよかったわ! 重い! こいつ重すぎる!」 ルイズはドラえもんの体をずりずりと引きずりながらそうぼやいた。 ギーシュだけでなく、あの後メイドのシエなんとかがやってきて「お手伝いしますわ」 とかなんとか言ってきたのだが、ルイズは意地を張って受け入れなかったのである。 「まったく、わたしより背もちっちゃいのにどうしてこんなに重いのよ。 こいつ一人で129.3キロくらいあるんじゃないかしら」 ぶつくさと言いながら、それでも何とかズルズルと数ミリずつ引きずっていくが、 こんなことをしていては部屋に着く前に日が、いやもうむしろ年が暮れてしまうだろう。 「こんな時、わたしにもレビテーションとか軽量化の魔法が使えたら……」 ゼロのこの身が恨めしい、とないものねだりの言葉を漏らし、 しかしそこでルイズは、名案を思いついた、とばかりに手をたたいた。 「そうだわ。サモン・サーヴァントは成功したんだし、錬金は無理でも、 レビテーションくらいなら使えるようになってるかも」 その言葉にはどんな根拠があったのか、とにかく楽をしたいルイズは ドラえもんに向けて杖を向け、朗々と呪文を紡ぐ。 そして、 「レビテーション!」 その後、ドラえもんの姿を見た者はいない…… 第三話 『めいよの決とう』GAME OVER 前ページ次ページドラえもん のび太のパラレル漂流記
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (8)虚無の目覚め ウルザの色眼鏡の奥、そこに収められたものからマナが迸り、ルイズへとその奔流が流れ込む。 強大な魔力の放出の余波を受け、ウルザの体も小さく痙攣する。 「そうだ、何もかもを忘れ…一つのことだけを考えるんだ…」 この娘の力を開放する二つの鍵、そのうちの一つを自身のもので代用する。 「それは雑念だ、ファイアーボールなど、使わなくていい…ただ、君の中にあるものを表に出したまえ」 少々強引だが、不完全な形での覚醒であっても構わない。 「そうだ、その中から…取り出すのだ、分離させるのだ、純粋なる力を」 ルイズの焦点の合わぬ瞳がゆっくりと開かれていく。 刹那 閃光が世界を支配する 「――――!っ!ハッ!ハアッ!わ、私、今…!今!今っ!まほ、魔法をっ!」 ―――そうだ、これは私の推測の重要な裏づけになるだろう! ウルザはただ、微笑むのであった。 翌朝、ルイズ、ウルザ、キュルケ、タバサの四人は院長室へ呼び出されていた。 院長室には既に、教員達が召集されていた。 恐る恐る、キュルケが口を開く。 「あ、あの…オールド・オスマン、私達は別に昨日は…」 「今日呼び出したのは、君達が昨日何をしていたかを問う為ではない。君達が、昨日宝物庫で何かを見ていないかを聞くためじゃ」 横にいた、コルベールがウルザの方を一瞥し、話し始めた。 「良いですか?この事はくれぐれも内密にお願いしますよ、皆さん。 実は昨日の夜、宝物庫の一部が破壊され、その中から貴重なマジックアイテムが盗み出されました。犯人は『土くれのフーケ』。最近巷を騒がしている盗賊です。 今日あなた方を呼んだのは、あなた方が荒らされる前の宝物殿に、一番近づいていたからです。」 これには流石のルイズもぎょっとして、慌てて意見する。 「ちょ、ちょっとミスタ・コルベール!それではまるで私達の中に土くれのフーケがいるようではありませんか!」 「いえ、ミス・ヴァリエール。別の生徒が学院から逃げるように去っていった黒いローブの人影を目撃していますから、私達もそうは考えていません。しかし、犯行現場を目撃したとしたらあなた達しかいないのです」 「そんな事言われたって…キュルケ、あんたは何か見た?」 「いいえ、見ていないわ。始祖ブリミルに誓って」 「他の二人はどうかね?何かに気付かなかったね?」 二人も首を左右に振るばかりであった。 「そうですか、分かりました。………しかし、参りました。これで手掛かりは途絶えてしまいました…」 「ミスタ・コルベール。それで、フーケに盗まれたというのはどのようなマジックアイテムなのですか?」 「それは………」 ルイズの質問に対し、コルベールが困ったようにオスマンを見る。 「『禁断の剣』と呼ばれるものじゃ」 「『禁断の剣』?」 「うむ、わしがこの学院の学長になる前、先代の学長の時代以前より学院に保管されておったマジックアイテムじゃ。世界の均衡を崩しかねない強大な力を秘めておると伝えられる品じゃ」 「な、何でそんな危険なものが学院にあるんですか!」 「学院だから、じゃよ、ミス・ヴァリエール。魔法学院に居るのはほとんどがメイジ、それに宝物庫には強力な固定化の魔法がかけられておった。 『禁断の剣』を保管にするに、トリステインでここより適した場所は無いと考えられておったのじゃ。 しかし、その油断を突かれたのぅ、まさか賊に襲われるなど、わしとて夢にも思わんかったからのぅ…」 世界を均衡を崩しかねないマジックアイテム、それが盗まれたこと、そしてその責任の所在が自分達であると追求されることを考えて教員達は青くなるのであった。 「ところで、ミスタ・コルベール、ミス・ロングビルはどこへ行ったのかの?」 「はぁ…それが、朝から姿がなく…」 「この非常時に何をしとるんじゃ…」 「すみません!!遅くなりました!」 噂をすれば何とやら、件のロングビルの登場である。 「ミス・ロングビル!どこへ行っていたのですか!?大変ですぞ!事件ですぞ!」 「申し分かりません!実は…今朝方からの騒ぎを聞きつけて急いで調査をしておりましたの」 「ほほう、流石はミス・ロングビル、仕事が早いのぅ」 「それで、結果は!?」 「はい、フーケの居所が分かりました」 その後、ロングビルの調査によって森の廃屋にフーケが潜伏していることが突き止められたと説明され、『禁断の剣』捜索隊を派遣することになった。 「では、我こそはと思うものは杖を掲げよ」 シーン 「どうした、フーケを捕らえて名をあげようという貴族はおらんのか?」 「ミセス・シュヴルーズ、あなた当直だったのでしょう!?」 「そうですが、ミスタ・ギトーもまともに宿直していました!?」 「そんな事おっしゃるなら、今までだって………!」 「私!やります!」 ここで、誰もが予想しなかった立候補者が現れたのである。 事情を聞くために呼ばれ、そのままなし崩し的に部屋にとどまっていたルイズであった。 すかさずシュヴルーズが反論する。 「あなたは生徒ではありませんか!ここは私達教師に任せて……」 「先生方はどなたも杖を掲げないじゃありませんか!でしたら…私が、私が行きます!」 「そ、それは………」 そこで、教員達は気付いた、この桃色の髪の少女から溢れる自信に。 昨日までのルイズ・ド・ヴァリエールにはなかったもの、それが今のルイズには溢れている。 「ルイズってば、何考えてるのよ……、しょうがないわねぇ――― あたくしも志願します。ヴァリエールには負けられませんわ」 「ツェルプストー、君まで――」 その横ですっと杖を掲げるタバサ。 「え!?タ…タバサ!?あんたはいいのよ?関係無いんだから、こんな馬鹿な事に付き合わなくても」 「私も行く………心配」 「では、この三人、いや四人に頼むとするかの。」 「反対です!生徒達を危険に晒すなんて!」 「じゃあ君が行くかね?」 「い、いえ、私は体調が優れませんので………」 「それに…」 オスマンが視線をタバサに向ける。 「ミス・タバサは”シュヴァリエ”の称号を持つ騎士だと聞いている。この若さでそれを持つ彼女の実力は確実なものじゃ。」 続いてキュルケ。 「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出身で、彼女の炎の魔法もかなり強力だそうでないか」 そしてルイズ。 「ミス・ヴァリエールは……」 ちらりとその横の使い魔メイジを見やり、元に戻す。 「ミス・ヴァリエールは、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵の息女で、将来有望なメイジと聞いておる」 ウルザ。 「その使い魔、ミスタ・ウルザはトライアングルメイジだとも聞いておる。 彼の力を持ってすれば、土くれのフーケに遅れを取ることはあるまい」 そして最後に全員に。 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する!」 「「はい!杖にかけて!」」 私の計画は順調に進んでいる。今度こそ。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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そらそうよ(第一九十二代目) http //hato.2ch.net/test/read.cgi/base/1304001273/ 940 名前:代打名無し@実況は野球ch板で[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 23 53 44.67 ID dTTXg3pg0 ニッカンの写真はえぐいよ 941 名前:代打名無し@実況は野球ch板で[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 23 55 48.09 ID K7OBSWhv0 [8/8] 940 http //www.nikkansports.com/baseball/news/photonews_nsInc_f-bb-tp0-20110511-774362.html おお、もう・・・ ※注 【オリックス】岡田監督「ズルズルか…」 http //www.nikkansports.com/ajaxlib/root/baseball/news/f-bb-tp0-20110511-774362.html <ソフトバンク5-3オリックス>◇11日◇福岡ヤフードーム オリックスが連敗で今季最多借金8となった。6回表に逆転しながら、3-1で迎えた6回裏に、朴賛浩投手(37)が2ランなどで3失点。リードできたのは、ほんの5分ほどだった。試合後に緊急ミーティングを開いた岡田彰布監督(53)は「ズルズルいくのか、いかんのか。そういう問題や。打てませんでした、打たれましたで終わるのか」とナインに奮起を求めた。 [2011年5月11日23時2分] ★ズルズルいくのか、いかんのか。 ★打てませんでした、打たれましたで終わるのか
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第18話 遠い星から来たお父さん 前編 エフェクト宇宙人ミラクル星人 緑色宇宙人テロリスト星人 登場! トリステイン王国の首都、トリスタニア 今日も、トリスタニア一の大通り、ブルドンネ街は人々でごったがえしていた。 あのツルク星人と銃士隊との戦いからも、すでに5日が過ぎ、人々はたくましい生命力と商魂を発揮して、 あちこちの店から威勢のいい声が飛んで、騒々しいが平和な賑わいを見せていた。 そして、そんななかを歩くひときわ目立つ6人組の一団があった。 端的にいえば、桃色と青色と赤色の髪をした少女が3人と、緑色の髪の眼鏡をかけた妙齢の女性が ひとりに、黒髪のメイドがひとり、あとたくさんの荷物を抱えてひいこら言っている黒髪の少年がひとりだった。 「こらサイト、早く来なさい。いつまで待たせるのよ」 「こ、この……こんな量、ひとりでどうにかできるわけないだろう。もう20キロは軽くあるぞ……もうだめだ」 両手いっぱいに野菜やらワインやらを持たされていた才人は、とうとう根を上げて地面にへたり込んでしまった。 それを見たルイズは不機嫌そうなまなざしを彼に向けたが、かばうようにその半分くらいの荷物を持っていた メイド、シエスタがこぼれ落ちた才人の荷物を拾い上げながら言った。 「まあまあ、いきなり不慣れな仕事をさせられてもうまくいくはずありませんって。本来わたしの仕事ですから サイトさんは楽にしてください」 シエスタはそのまま才人の持っていた荷物の半分を取り上げると、自分の荷物に加えて、あっという間に ふたりの荷物の量が逆転した。そしてそれをよいしょっととさほど問題なく持ち上げる。彼女の華奢な 体つきからは信じがたいが、この世界は地球と違って電化製品など無く、家事仕事はすべて手作業でこなさざるを 得ないために、メイドなんて仕事をしていれば、自然体力も現代の高校生の平均など軽く突破する。 才人のほうもハルケギニアに来て以来、いろいろと鍛えてはいるがまだ1ヶ月とちょっと、筋肉がつくには まだまだ早い。目の前で、今まで自分が必死になって運んでいた荷物を軽々持つ女の子に、情けなさを 感じるものの、やせ我慢にも限度がある。 「サ、サンキュー、助かったよシエスタ」 「いえいえ、どういたしまして」 本来ならこの反対であるべきだが、現実はいかんともしがたい。 それを見ていたルイズは当然呆れた顔をした。 「まったく、荷物運びもろくにできないなんて、ほんとどうしようもない駄目犬ね」 「この、人の苦労も知らないで……だいたい必要の無いお前の荷物が5つもあるじゃねえか」 才人の反論に、ルイズは「知るか!」というふうにそっぽを向いた。 と、そんなふたりが愉快に見えたのか、キュルケが笑いながら話しかけてきた。 「こーらルイズ、そんなこと殿方に言ったら嫌われる一方よ。かわいそうなダーリン、ねえこんな薄情な子 置いておいて、あたしともっと楽しいところ行かない?」 「ツ、ツェルプストー!! あんたまた勝手に人の使い魔に何言ってくれてるのよ!!」 ルイズはむきになって怒鳴るが、当然それはキュルケの予想のうち。 「あーら、使い魔と馬車馬の区別もつかない誰かさんとは違って、わたしは正当な評価と待遇を与えて あげようとしてるだけよ。さっ、重いでしょ、わたしが手伝ってあげるわ」 キュルケが杖を振って『レビテーション』を使うと、才人の荷物のいくつかが宙に浮き上がった。 ルイズは、それで才人がキュルケに「ありがとう」と笑顔を向けるものだからさらに気に喰わない。歯噛み しながら才人に持たせていた荷物をひとつふんだくるように取り上げた。 「か、かんちがいするんじゃないわよ。使い魔の面倒を見るのが主人の当然の務めなんだから、別に 当たり前のことしてるだけなんだからね!」 「それ、元々お前が衝動買いしたアクセサリーだろ、しかも一番軽いやつ」 ルイズの右上段回し蹴りが才人のこめかみにクリーンヒットした。才人は荷物を放り出して悶絶したが、 数秒後には荷物を拾って起き上がってきたからさすがである。 そんな様子を、タバサが後ろからいつものようにじーっと眺めていた。 とはいえ、それでも荷物の量は最初の1/3程に減って、だいぶ軽くなっていた。 「ふう、とりあえず助かった。死ぬかと思った」 やっと一息つけて、才人はうきうきしながら立ち上がった。 が、喜んだのもつかの間、やっと減った荷物の上に、またどかどかと新しい荷物が積まれていった。 「げ!? ロ、ロングビルさん?」 見ると、ロングビルが眼鏡の下から涼しい瞳でこちらを見ていた。 「またまだですよサイトくん。年に一度のフリッグの舞踏会、必要な物はまだたくさんあるんですからね」 「ひえーっ!」 思わず泣きそうな声を才人はあげた。 彼らは今、翌日に迫った魔法学院の年一度のイベントである『フリッグの舞踏会』のための食料品や 飾りつけのための品をいろいろと買い込むために、このブルドンネ街までやってきていた。 ただ本来なら、学院お抱えの商人が必要な物資を学院まで運んできてくれるのだが、今年は3度にわたった 怪獣災害のせいで、直前になってキャンセルになり、秘書に復帰したロングビルが直接買出しに来たというわけだ。 が、なぜシエスタはともかく才人以下の顔ぶれがいるかというと。まずロングビルがたまたま空いていた シエスタに買出しの同行を頼み、シエスタがそれをまた、たまたま食堂に来ていた才人に。 「ちょっとした買出しなんですが、よろしければ、いっしょに来てくれれば、うれしいな、なんて……」 それで1も2もなく承諾した才人だったが、それをルイズにかぎつけられて。 「あんた、またあのメイドとふたりでどこ行くつもりよ!?」 それでルイズも無理矢理同行することになり。 学院を出発したと思ったら、これまたたまたまキュルケに見つかって。 「タバサ、ルイズが街に出かけたの。あなたの使い魔じゃないと追いつけないから、またお願いするわ」 と、キュルケがタバサを巻き込んでシルフィードで追っかけてきて、最終的にこうなったという三段コンボであった。 だが、いざ来てみれば、とても1人や2人では運びきれない量になったから、結果的に人手が増えたことは 幸いであった。 やがて昼も過ぎ、才人が死にそうになり、ルイズとキュルケの手もいっぱいになり、タバサまで買い物袋を 持たされたところでやっと買い物は終わり、駅に停めてあった馬車に荷物を運び込んだところでようやく皆は 一息をついた。 「はーあ、疲れた。まさか舞踏会ひとつにここまで物がいるとは思わなかった」 「はい、わたしもここまでとは思いませんでした。でも、わたしだけじゃ3、4往復はすることになったでしょうから、 助かりました。皆さんありがとうございます」 馬車のふちに腰掛けながらシエスタが皆にお礼を言うと、才人は照れくさそうに、ルイズたちはなんでもなさそうに 「どういたしまして」 と、答えた。 「じゃあ、ロングビルさんが戻ってきたら出発だな……お、うわさをすれば」 見ると、駅の係員に料金を払いに行ったロングビルが戻ってくるところだった。 だが、うかない顔で戻ってきたロングビルの口から出たのは予想しない言葉だった。 「え、出発できない?」 「ええ、どうもこの先の街道で事故が起きたらしくて、しかもどうやら王立魔法アカデミーの馬車だったらしくて、 当分のあいだ通行止めですって」 それを聞いたタバサ以外の全員の顔が「ええーっ!」というようなものになった。 「それで、通れるのはいつごろになるんですか?」 「早くて日暮れ、遅くて明日の朝ですって、悪くしたら今夜はここに一泊することになるかもね」 やれやれと、ロングビルは肩を落とした。 だが、合法的に外泊できるとわかったキュルケやルイズは頭の切り替えが早かった。 「早くて日暮れなら、こんなところにいる理由はないわね。ダーリン、あたしといっしょに遊びにいきましょう。 すっごく楽しい大人の遊び場に招待してあげるわ」 「キュルケ!! 勝手に手を出すなって何度言えばわかるのよ! 来なさいサイト、舞踏会用のドレスを買いに行くわ!」 「ぷ、お子様用のドレスなら、あたしのお下がりをあげましょうか?」 「き、きーっ!! この成長過剰色ボケ女ぁ!!」 というふうに、アボラスとバニラさながらのバトルに突入してしまった。 才人としてはバニラに原子弾を撃ち込む気にはなれなかったから、経過を見守っていたが、漁夫の利を 狙うようにシエスタが才人の手をとってきた。 「いまのうちいまのうち……サイトさん、わたしといっしょに来ませんか? こないだ来た時にすっごくおいしい ブルーベリーパイのあるお店見つけたんです」 「え……でも」 「いいですから、早く!」 そう言って強引に連れて行こうとしたが、才人がしぶったために結局はふたりに見つかり、誰についていっても ほかの恨みを買うことになるため、仕方なくタバサとロングビルも連れて食べ歩きに行くことに落ち着いた。 そうなるとさすが女性5人のパワーはすごいもので、あっちの店からこっちの店へと、たったひとりの男性である 才人はただただ連れまわされることになった。 「ほらサイトさん、あっちがさっきわたしが言ってたお店です。ささ、早く早く」 「ちょ、シエスタ、そんなに引っ張るなよ。ルイズ、お前も杖を取り出すな!」 「なに言ってるの? 使い魔が不埒なことをしないように見張るのは主人のつとめじゃない。さあ、こっちよ、 ブルーベリーパイなんかよりクックベリーパイのほうがおいしいんだから」 こういうふうにふたりが才人を取り合えば、キュルケが余裕の態度で笑って見て。 「まったく、そんな子供っぽいのばかり食べてるから胸が成長しないのよ。あら、タバサあなた何食べてるの? ちょっと味見させて……苦っ!?」 「はしばみ草のパイ……」 「あ、請求は王立魔法学院のオスマン学院長宛にお願いします。はい、はい、全部です。ふっふっふ、 待ってなさいよあのセクハラジジイ」 それで、最後にロングビルが領収書を取りながらついていくといったところである。 だがやがて、長い夏の日差しもしだいに赤くなり、薄暗い空にうっすらとふたつの月が見え始めた。 「そろそろ日が落ちるな。そろそろ帰らないか?」 いいかげん何かを食べさせられるのにもくたびれた才人は、疲れた声でそう言った。 「む、そうね。そろそろ店も閉まってくるころだし、街で聞いた話じゃ街道の事故はまだしばらくかかるって いうし、宿をとりましょうか?」 シエスタと才人の腕の取り合いを続けていたルイズも、ようやく力を抜いてくれた。 ただ、宿、といっても半分が貴族のこの面子を泊められるだけのレベルのホテルとなると、今彼女達の いるほうと反対側にしかなく、それなりに歩く必要があった。だがそこでシエスタが大きく手を上げて言った。 「じゃあわたしに任せてください。以前来たときに近道を見つけたんです。ショートカットです」 そう宣言すると、さっさと才人の手を引いて裏道に入っていく。もちろん慌ててルイズ達も後を追う。 だが、裏道をいくらか進んだところで、道はとぎれて、目の前に瓦礫と、焼け焦げて荒れた家々が 立ち並ぶだけの廃墟に行き当たってしまった。 「あ、あら? おかしいですね……以前来たときには、ここを道が続いていたのに」 あてが外れて呆然とするシエスタの背中に、ルイズの冷たい視線が突き刺さる。だが、後から来た ロングビルがこの廃墟を見て言った。 「このあたり一帯は1ヶ月前のベロクロンの襲撃で燃え落ちたところですね。けれど、再建には表からやって いくものだから、裏通りのこのへんにまでは、まだ再建の手が及んでないんでしょうね」 「ど、どうもすいません。わたしが差し出がましいことをしたばっかりに」 シエスタは何度もぺこぺこと頭を下げて平謝りしたが、今更引き返したところで、本道へ出て宿まで 行くのは時間がかかりすぎる。そして、キュルケやルイズは元々気の長いほうではない。 「いいわ、ここを突っ切っちゃいましょう」 キュルケがかけらも迷わずに言った。 「えっ!? そんな、危ないですよ」 その言葉にシエスタは驚いて止めようとした。こういう廃墟には、喰いっぱぐれたごろつきやチンピラの 溜まり場になっていることがよくある。女子供ばかりの一団など、いいカモと思うに違いなかったが、 才人の背中にかけられていたデルフリンガーがカタカタ笑いながら言った。 「心配ねーよ、メイドの娘っ子。お前さんが盗賊の立場になって考えてみろ、この面子にそこらのチンピラが敵うと思うか?」 「あ」 言われてみればそのとおり、キュルケとタバサは学院で1、2を争うトライアングルクラスの使い手、 ルイズの爆発の威力は学院の者なら知らぬ者はなく、ロングビルも学院長の秘書を任されるほどの 使い手と聞く。実はこのときまだロングビルは魔法を使えないままだったが、盗賊フーケとして裏の世界で 長年生きてきたキャリアは伊達ではない。そして最後に才人はメイジに勝つほどの剣の使い手、 このなかで非戦闘員なのはシエスタ本人くらいだ。 「じゃあさっさと行きましょう。こんな廃墟で日が暮れたら面倒だわ」 そういうわけで、一行は廃墟のなかを歩き始めた。町並みが崩壊しているとはいえ、通り道としては 使われているらしく、人が通れるように道は整理されていた。 そのなかを、一行は才人を先頭に、周りに注意しながら進んだ。 「誰もいないようだな……」 幸いにも、懸念していた盗賊の襲撃などはなかった。もしかしたら、先日のツルク星人の一件で、 ここに居た人々は逃げ出したのかもしれない。 だが、ある廃屋の角を曲がったとき、急に廃墟の先が開けて、半径70メイルくらいの、学校の運動場くらいの広場に出た。 「ここは……?」 一行は、歩を止めてその広場を見渡した。さっきまでの狭苦しい雰囲気とは裏腹に、夕日が広場全体を 紅く染めて、一種の美しさすら感じる。 「ここは、この地区の集会場かなにかだったのかしら?」 キュルケがぽつりとつぶやいた。 広場は、土がほどよく踏み固められていて、かつては多くの人がここを歩いたのだということがわかる。 周囲が廃墟でなければ、子供の遊び場としてちょうどいいだろう。 しばらく彼女達は、ぼんやりとその光景を見回していたが、才人の視界に、なにか光るものが入ってきたかと 思った瞬間、彼の頭にこつんと小石のようなものが当たったような痛みが走った。 「いてっ!」 思わず頭を押さえたが、たいしたものではなく、すぐに痛みは治まってこぶもできていないようだった。 「なんだ?」 身をかがめて才人は自分に当たった何かを探した。すると、彼のすぐ足元に小さく透明なものが 転がっているのをが見つけた。 「ビー玉?」 それは、彼の言ったとおり、地球ではラムネのビンに普通についてくるようなありふれた形と色のビー玉だった。 なんでこんなものがと、才人は不思議にそのビー玉を見つめていたが、そのとき彼の右手の廃墟から 唐突に声がした。 「返して!」 「!?」 とっさに彼らはそれぞれの武器をとって身構えた。才人がデルフリンガーを握って前に立ち、両脇に ルイズ達が立って、背後にシエスタをかばう体勢だ。 だが、廃墟の影から出てきたのは、盗賊などとは似ても似つかない、才人の腰くらいの背丈しかない、 年のころ7、8才くらいの茶色い髪の毛をした小さな女の子だった。 「アイのビー玉、返して!」 その子は、才人のそばまで駆け寄ると、恐れる様子もなく才人に手のひらを差し出して要求してきた。 才人は一瞬驚いたが、返さない理由など何も無い。にっこりと笑うと、その子の手のひらの上にビー玉 を乗せてやった。 「これはきみのだったのか、ごめんね」 ビー玉を受け取ると、そのアイという子は宝物を取り返したように、満面の笑みを浮かべた。 「ありがとうお兄ちゃん」 「君の宝物かい、まるで魔法がかかってるみたいにきれいなビー玉だね」 「そうよ、おじさんからもらった、アイの宝物なの」 アイは、うれしそうにそのビー玉を才人達の前にかざした。才人やシエスタにとっては、夕日を浴びて 輝くビー玉は大変きれいに見えたが、宝石を見慣れたルイズやキュルケにはただのガラス玉でしか ないようだった。 「ふーん。でも、特に魔法がかかってるようには見えないわね。たんなるガラス玉みたい」 「そんなことないの! これはおじさんが、いつでもお父さんとお母さんに会えるようにってくれた、 魔法のビー玉なの!」 それを聞いて、彼女達はすでにアイの両親がもう二度と彼女と会えないところに行ってしまったんだ ということを悟った。 「ご、ごめんね。けど、お姉ちゃん達も魔法使いなんだけど、魔法がかかってるようには見えなかったから」 「じゃあ見せてあげる! これをかざして見ると、見たいものがなんでも見れるんだから!」 そう言うとアイはビー玉をキュルケに差し出した。 「うーん……やっぱり、なにも見えないわ」 キュルケは、それをかざして見てみたが、やはり何も見えなかった。順に、タバサ、ロングビル、シエスタにも 回して見てもらったが、やはり何も見えなかった。 「……」 「……悪いけど、マジックアイテムの類じゃないわね」 「そんなこと言っちゃかわいそうですよ。皆さんだって、小さいころに自分だけの宝物とか大切にしたことあるでしょう」 アイは、すっかり泣きそうな顔になっている。 そして最後にルイズと才人の番になった。どちらが先に見るかは少しもめたが、才人が持ってふたりで 同時に覗き込むということで落ち着き、いざ、とばかりにふたりは夕日にかざしたビー玉の中を覗き込んだ。 すると。 (わっ、なんだこりゃ!?) ビー玉の中が一瞬泡だったかのように見えた後、ビー玉の中に映像が映った。いや、直接ふたりの 頭の中に映像が投影されたといったほうがいいだろう。その風景にふたりは見覚えがあった。 炎に包まれたトリスタニアの街、その街並みを踏み潰しながら暴れまわる一匹の超獣。 (ベロクロン……) それは、1月前に初めてベロクロンがトリスタニアに現れたときの映像であった。 やがて空からグリフォンや飛竜の軍団が立ち向かっていったが、ミサイル攻撃によって、あっというまに 全滅していった。 勝ち誇るベロクロン、足元には逃げ遅れた人々が炎にまかれながら必死に逃れようとしている。 そんな中に、ふたりは手を取り合って走るふたつの人影を見つけた。 「アイ、頑張って走るのよ!」 「お母さん、こわいよお」 ひとつはアイ、もうひとつは彼女の母親であった。 親子は、暴れまわるベロクロンと、街を覆う炎から必死に逃げ延びようとしていた。だが、ふたりの すぐ隣の石造りの建物に、流れ弾のミサイルが当たり、ふたりの頭上に大量の岩が降り注いできた。 「アイ! 危ない!!」 「あっ! お母さん? お母さーん!!」 背中を突き飛ばされて、前の地面に転がり込んだアイが振り返って見えたものは、目の前を埋め尽くす 瓦礫の山だけだった。 「お母さん? ……わあぁぁっ!!」 たかが8才程度の子供に、その光景を受け入れるのはあまりにもきつすぎた。 街を覆う炎はさらに勢いを増して、泣き叫ぶアイの周りを包んでいく。だがそのとき、路地からひとりの 男性が飛び出してきた。 「きみ、はやく逃げるんだ!」 「でもお母さんが、お母さーん!」 男はアイを抱きかかえると、すぐさま安全なほうへ駆け出した。 映像は、ふたりが炎から逃げ切ったところで再び泡に包まれて終わった。 「そうか……最初のベロクロンの襲撃のときに」 ビー玉を下ろし、悲しそうに才人は言った。 「お兄ちゃんにも見えたのね!?」 「うん、それでそのとき助けられたおじさんから、このビー玉をもらったんだね」 アイにビー玉を返して、才人はそう聞いた。 「そうよ、アイ、ひとりぼっちになっちゃったんだけど、おじさんがずっと守ってくれたの」 誇らしそうに言うアイに、ルイズも優しくたずねた。 「いい人ね。こんな時勢じゃ、子供を狙う人攫いもあとを絶たないってのに。でも、こんなすごいアイテムを 持ってるってことは、高名なメイジなのかしら?」 「わかんない、おじさんはおねえちゃんたちみたいに杖を持ってないし、でも、いろんなところを旅してきた から、すごく物知りなのよ」 どうやらアイには難しい質問だったらしい、ルイズが苦笑すると、後ろにいたキュルケ達が驚いたように言った。 「ルイズ、あんたたち、そのビー玉に、その子の言うものが見えたの?」 ルイズと才人がうなづくと、キュルケは今度こそ本気で驚いた。 「ええっ!? なんでわたし達に見えないのに、ゼロのあなたと平民のダーリンが!? どんなマジックアイテムよ、それ」 「平民はシエスタもでしょ。ゼロは関係ないわよ、マジックアイテムにもいろいろあるってことでしょ、知らないわよ」 突っ返すように答えたが、ルイズには自分と才人にだけ見えた理由に心当たりというより確信があった。 ふたりに共通することは、ウルトラマンAと同化しているという一点しかない。もちろんそれを口に出すことはしないが。 と、そのときアイの出てきた廃屋から、ひとりの男性が現れた。 「アイちゃん」 それは、たった今アイのビー玉で、ルイズと才人が見たあの人だった。 年齢は見たところ40前後、やや丸顔で、年相応に薄くなり始めた頭頂部と、短く伸びたひげ、服装は ハルケギニアで標準的な平民のもので、特徴らしい特徴のない、普通の男性に見えた。 「あっ、おじさん」 アイは、彼の姿を見つけるとうれしそうに駆け寄っていった。 「あまりひとりで遠くに行ってはいけないよ。危ないからね」 「うん、アイね。このおねえちゃんたちとね!」 まだ会ったばかりだというのに、アイは彼にルイズたちのことを紹介していった。元々かなり奔放な子なのだろう。 とはいえ、まだ名前も言ってないのだから、途中からルイズ達が自己紹介していったのだが。 「そうですか、あなた方がこの子と遊んでくれてたんですか、どうもありがとうございます」 「えっ、いやわたしたちは……ううん……」 そう言われて、6人は顔を見合わせたが、まだ日が落ちるまでには少し時間があることから、ちょっとだけ アイと遊んであげることになった。 「わーすごーい、お姉ちゃん氷でなんでも作れるんだ。次はお馬さん作って」 「……なんでも、じゃないけどそれなりには、お馬さんね、了解」 「んじゃ、いくわよタバサ、あたしたちの芸術センスを見せてあげましょ」 「危ないからあまり近づかないでね。飴は好き?」 アイは、タバサが作った氷の塊をキュルケが炎で溶かして動物の像を作るのを、ロングビルからもらった お菓子を食べながら楽しそうに見ていた。 「すみません、見ず知らずの人にこんなに親切にしていただいて、あの子もしばらく遊び相手がいなかったものですから」 男が頭をぽりぽりとかきながら、すまなそうに言うと、シエスタが笑いながら答えた。 「お気になさらずに、みなさんああ見えて優しい人ばかりですから。それに、子供ははだしで外を走り回って遊ぶ ものでしょう。ふふ、わたしも行ってきます」 シエスタも、そう言って輪に入っていった。 残ったのは、彼と才人とルイズ。 「ルイズ、お前は行かないのか?」 「ふん、ヴァリエール家の人間がツェルプストーといっしょに遊べるもんですか!」 「わたしも遊びたいって顔してるように見えるのは気のせいだろうね」 2月近くもつき合って、才人もそこそこルイズの顔色が分かるようになってきていた。 だが、冗談はさておき、キュルケたち5人の意識が向こうに向いていることを確認すると、才人は小声で 男に話しかけた。 「ところで、あなたはこの星の人じゃありませんね」 すると、男とルイズの目が一瞬見開かれた。 特に、ルイズはバム星人のときのようなことになるのではと、懐の杖に手をかけたが、才人は軽く手で 制して話を続けた。 「あのビー玉は魔法なんかじゃない、ハルケギニア以外の星の高度な科学力で作られたものだ」 「……驚きましたね。確かに、私はこの星の人間じゃありません……そういえば、あなたもこの星の 人には見えない服装ですね。その服の合成繊維なんかは、この星の技術力では到底作れないでしょう」 彼は、一目見て才人のパーカーがポリエステル製であることを見破ったようだ。才人とルイズは、 正体を知られたことでその宇宙人が、何か反応を起こすかもと警戒したが、彼には殺気のようなものは 一切感じられなかった。 彼も、才人とルイズに敵意がないことを感じ取ったらしく、穏やかな口調のまま話を続けた。 「あなた方も、悪い人ではないようですね。はい、この星の人の姿を借りてはいますが、私はこの星の 住人ではありません。ミラクル星、それが私の故郷の名前です」 「ミラクル星人、やっぱりそうだったんですか」 その名前を聞いて、才人は万一のためにいつでも取り出せるよう用意していたガッツブラスターの 安全装置をかけなおした。 ミラクル星人、怪獣頻出期には数多くの侵略宇宙人が地球に襲来したが、その中でもごくわずか ではあるが地球人と友好を結んだ平和的な星人もいて、ミラクル星人もそんななかのひとりだった。 「心配ない、ルイズ、この人に敵意はないよ」 「ほ、本当に?」 ルイズは才人の言葉に怪訝な顔をしたが、少なくとも宇宙人に関しては自分より詳しい才人が そう言うのだからと、ゆっくり杖から手を離した。 「わかったわ、あんたを信じる。けど、なんでわざわざハルケギニアに来たの?」 「あなたは、この星の人ですね。私の星は、ここよりも文明が進んでいるのですが、文化が遅れ気味 でしてね。それで、豊かな文化形態を持っている、このハルケギニアにそれを学びに来たのです」 「留学生ってわけ……ヤプールの手下じゃないのね?」 彼はこくりとうなづいた。 「私がここに来たのは、ハルケギニアの暦で5年前です。そのあいだ私はガリアやロマリア、アルビオン から東方まで、様々な文化風習を学んできました。そして最後にこのトリステインに来たのですが……」 「そこで、ベロクロンの襲撃に会い、アイちゃんと出会ったんですね」 「ええ、あの子は家族ともどもロマリアからこちらに逃れてきたそうです。あそこは、寺院による重税と 異端狩りが激化しているそうですから、恐らく彼女の両親も新教徒だったのでしょう。ですが、ようやく ガリアまで逃れてきたところで、領主同士の対立の紛争に巻き込まれて、父親はそのときに。そして 母親といっしょに必死で逃げ延びてきたこのトリステインでも……」 才人とルイズはやりきれない思いでいっぱいになった。年端もいかない子供が国から国へと逃げ延びる のには、いったいどれほどの苦労があっただろう。しかも、逃げ延びてきた場所でも安住の地は無く、 両親までも失って、あんな小さな子に何の罪もないのに、なぜそんな残酷な目にあい続けなければならないのか。 「悲しいものです。なぜあんな純粋な子供が苦しまねばならないのでしょう。しかも、この世界の 大人達は、皆、神のため、正義のため、国を救うためといって彼女のような子供を作り続けています。 ヤプールは明確な侵略者ですが、そんな人々はいったい正義をかかげて何がしたいんでしょう。私は、 それだけはわかりませんでした」 ふたりとも、返すべき言葉が見つからなかった。 「でも、あなたとめぐり合えたから、今あの子はああして笑っていられるんでしょう」 耐え切れなくなった才人がそう言うと、彼は悲しそうな顔をした。 「いえ、実を言うと、私はもう自分の星に帰らなければなりません。ミラクル星では、大勢の仲間が 私の帰りを待っています。どうにか、あの子の引き取り先も見つかりました。裕福な商家ですから 大丈夫だと思います。ですが、あの子が寂しがるといけませんので」 「あのビー玉を渡したんですか」 「はい」 どこまでも優しく、ミラクル星人の男は言った。 やがて、太陽も山陰に姿を消しかけ、ルイズ達はアイといっしょに、旅立たねばならないミラクル星人を 町外れにまで送っていった。 別れ際に、アイは涙を浮かべて言った。 「おじさん、どうしても行っちゃうの?」 「ごめんよ。おじさんもいつまでも君といっしょにいたい、けれどもおじさんの国ではおじさんの友達が ずっとおじさんの帰りを待ってるんだ。心配はいらない、そのビー玉を見れば、いつでもおじさんに 会えるから……じゃあ、行くね」 彼は、アイの頭を優しくなでると、夕闇の中を一歩、一歩と歩いていった。 そして、20歩ほど歩んだところで、彼は振り返りながら、ゆっくりとフクロウを擬人化したような ミラクル星人本来の姿に戻った。当然それを見てキュルケやシエスタ達は仰天したが、彼は 穏やかな声で最後に別れの言葉を告げた。 「さようなら、アイちゃん」 そう言うと、ミラクル星人の姿は、すうっと夕暮れの暗闇のなかに消えていった。 「おじさーん!!」 輝きだした星空に、アイの声だけがどこまでも響き渡っていた。 「宇宙人にも、あんな善良な人がいるのね」 「人間なんかよりずっとな」 ルイズと才人は、それぞれひとり言のようにつぶやいた。 やがて完全に日も落ち、双月が太陽に代わってあたりを照らし始めた。 だが、そのとき天の一角が割れて現れた真赤な裂け目から、巨大な円月刀を持つ怪人が降り立った ことに、気がついた人間はいなかった。 「ゆけ、テロリスト星人よ。ミラクル星人から、この世界の調査資料を奪い取るのだ!」 「ふはは、たやすいこと。奴を抹殺し、資料を奪ってやる。そして、この星のガスはすべて我々 テロリスト星人のものだ!」 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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ルイズはキュルケとの関係を食堂へ行く間におとーさんに説明しました。 「おとーさん、いい?わかった?これからキュルケとキュルケの使い魔とも話もしちゃだめだよ」 おとーさんはちょっと悲しそうにポツリと呟きました。 「・・・なかよく」 ルイズにはこの時おとーさんの呟きは聞こえませんでした。しかし、後にルイズはその言葉を聞くことになります。 アルヴィーズの食堂に着くと大きく豪華な食堂についての講釈をルイズが始めましたが、おとーさんはあまり聞いてはいないようです。その後椅子を引かないおとーさんをルイズは怒り説明します。周りの生徒はその様子を見ながらクスクス笑っています。そして、ルイズはおとーさんの食事を床に置かれた木箱の上の質素をはるかに下回るパンとスープであると説明しました。 (私は豪華な食事。おとーさんは床で質素な食事。これで上下関係をしっかり認識してもらうわよ) 始祖ブリミルへの祈りも終わり食事が始まるとおとーさんは汗を流しながら料理を見ています。そして、徐に口に運ぶと・・ 「う、うまい」 と言いながらごく普通に食べていました。 (もも、もっと質素にすれば良かったのかしら・・・) その様子を見ながらルイズは作戦が空振りだったなと思っていましたが、思いもよらぬ出来事が起こりました。 おとーさんが食事を終わった時、他の生徒はすでに食べ終えていました。しかし、ルイズは食べるのが遅くまだ食べていました。そんなルイズの元におとーさんが近づいてきました。そして、ルイズが食べ残していたサラダを指差すのでした。 「な、なによ」 「からだにいい」 「え? ほっといてよ!私このサラダ嫌いなのよ」 ちょっと怒っているルイズに対しておとーさんはさらに近づき。 「からだにいい!!」 おとーさんの迫力に押されてしぶしぶサラダを食べるルイズでした。ちなみに、ルイズも身体にいいならと、おとーさんにはしばみ草のサラダを食べさせました。もちろんさっきの仕返しのつもりです。しかし、モリモリと食べるおとーさんにそれ以上何もいえなくなりました。少し離れた席でその一部始終を見ていたタバサはおとーさんのはしばみ草の食べっぷりにはしばみ草の愛好家として物凄い親近感を覚えるのでした。 朝食が終わるとルイズはおとーさんを教室へ連れて行きます。 教室には生徒とその使い魔が居ました。もちろん、大きくて教室に入りきれない使い魔は外に居ましたが。おとーさんは使い魔なので他の使い魔と一緒の場所にいることになりました。 シュルヴルーズが教室に入ってきて授業が始まりました。ふと、ルイズはおとーさんの様子が気になりその方を見てみました。 すると、使い魔たちが一匹ずつおとーさんへ挨拶をしているような光景がそこにはありました。 (そういえば・・・今朝キュルケのサラマンダーににらめっこで勝ってたみたいだけど・・・結構強いのかしら?) そんな事を考えながらよそ見していた所を運悪くシュルヴルーズに見つかってしまいます。 「ミス・ヴァリエール、授業中によそ見とは余裕があるようですね。」 「え? あ、ははい」 完全によそ見していた事がばれてしまったルイズは錬金の魔法をするように言われました。他の生徒は口々にシュルヴルーズに対してルイズにさせる事が危険だと言います。ですがシュルヴルーズは再度ルイズに錬金するように言いました。ルイズは失敗しないように頑張っていつも以上に集中しました。使い魔の前で失敗したくなかったからです。生徒たちは机の下に隠れたり外へ避難したりしました。 そして、いつも以上に集中していた為にいつも以上の盛大な爆発が起こりました・・・
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37ページ目 レッド「・・・マップ、マップ」ウィーン ジョーイさん「お疲れ様ですー」 レッド「あった」 レッド「・・・」 レッド(このアサギってとこに行ってみよう)ウィーン ジョーイさん「ありがとうございましたー」 アサギシティ レッド「ふぅ、はぁ・・・」 レッド「やっと、ついた・・・はぁー」 レッド「食堂・・・食堂で・・・水の一杯でももらおう・・・」 次へ トップへ
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前ページ次ページゼロな提督 「そうか、アルビオンの艦で、火災が…」 トリステインの真の支配者とも噂され、鳥の骨と呼ばれるマザリーニ枢機卿が城の廊下 を歩いている。彼の後方からは何人もの小姓や侍女、それに騎士がついてきている。 魔法衛士隊の制服の上にマンティコアの大きな刺繍が縫い込まれた黒いマントをまとっ た騎士が報告を続けた。 「その後、両艦隊が挟み込み砲口を開くと『救助不要、自力消火可能』とだけ返答があっ たとのことです」 「ふむ、砲門を向けられた事には何も言わず、か」 「はい。潔く奇襲作戦は中止したようです。ですが軍内部からは、みすみす勝利の好機を 逃したと不満の声が聞こえます」 騎士は羽根飾りの付いた帽子を手にしながら、不服げに問いかける。羽根飾りが付く帽 子は隊長職を示すものだ。 ぞろぞろと部下を引き連れた枢機卿は、しばし黙って廊下を歩き続ける。 廊下の壁や柱には様々なレリーフが施されている。一定の間隔で薔薇を模した金の燭台 が並び、アーチを描く天井には妖精や幻獣をモチーフにした絵画が描き込まれている。絵 画の周りを縁取る額縁を模したレリーフすらも微細で華麗な彫刻だ。 冷たく磨き上げられた石の廊下を沢山の足音が進んでいく。 青地の上に鍍金したブロンズで装飾された壷が置かれたコンソール(壁に取り付けられ た机)の前で、枢機卿は足を止めた。 「ゼッサール、お主はどう思う?」 厳めしい髭面の男は、大きな体躯をちょっと縮めて考えを述べた。 「恐れながら、戦争を回避すべきという点は猊下と同意見です。 確かにゲルマニアとの同盟はなりましたが、それでもようやく艦艇数は同数。合同演習 も経ていない現状では連携も拙く、艦もアルビオンの最新鋭艦『ロイヤル・ソヴリン』級 に比べれば小型旧式」 枢機卿は壷に生けられた百合を愛でつつ、黙って騎士の言葉に耳を傾ける。 ゼッサールは話を続けた。 「確かに敵の奇襲に対し、さらに奇襲を仕掛ける事が出来れば、大打撃を与えた事は疑い ありません。ですが、我らもただでは済みませぬ。相応の被害は避けられぬでしょう」 「そうだな…まぁ、軍事的にはそんな所だ」 「また、小官としても姫殿下の婚儀を血に染めるような事は望みません。この点について は軍の主戦派でも意見が一致しています」 「そうか、それならよい。報告後苦労だった」 騎士は大きな体を90度近くまで折り曲げて礼をした。 マザリーニは窓から外をのぞく。 窓の向こうには朝日に照らされた城下町が見える。さすがに街の喧騒は届いてこない。 だが既に多くの人が大通りや中央広場に繰り出しているのが遠目にも分かる。 通りは色とりどりの布と花で飾られ、塔の上には一つ残らず旗が翻り、気の早い連中が 撒いた紙吹雪が風に乗って街の上を舞っている。 視線を下に向けて城内を見れば、グリフォン隊はじめ全騎士隊が、汚れ一つ無いマント を纏って行進の準備をしている。城の侍女達も走り回り、ヴィンドボナまでのパレード準 備に大わらわだ。四頭のユニコーンに引かれるアンリエッタ姫専用馬車も輝かんばかりに 磨き上げられ、朝日にキラキラと輝いている。 その時、廊下の向こうから、一人の衛士が丸められた羊皮紙を片手に駆けてきた。 「失礼します!立った今、ウィンプフェン領より早馬にて緊急報告がなされました!」 「ほう、何事か?」 枢機卿の堂々とした声に敬礼で答え、衛士は羊皮紙を伸ばして内容を高らかに読み上げ た。だが、その報告を読み上げるうちに、衛士の声はどんどん小さく自信のないものへと 変わっていった。 「今朝未明、ウィンプフェン領北西にて謎の落下物が多数発見されました!それは…え? えと、…焼け焦げた、巨大な金属の壷や樽…の様なもの、とあります。その表面には解読 不能な文字と、意味不明の絵が多数記され、それらは恐らく一つの物体がバラバラにされ て壊れたものと推測される、との事です。 あまりに巨大かつ信じがたい程の重量物のため、多数のメイジが『レビテーション』を 使用しても移動させる事は不能。ただ、それらをつなぎ合わせた場合、全長100メイル程 の金属製の筒のようなものになる、と想像される…。 枢機卿におかれましては、急ぎアカデミーによる調査を依頼したき所存。 …報告、以上であります!」 衛士は報告を終え、一礼した。 報告を聞いていた枢機卿とゼッサールは首を捻る。 「猊下、一体何なのでしょう?」 「ふむ、分からんな…ウィンプフェンには、婚儀が終了次第アカデミーより調査隊を派遣 するので現場を保存せよ、と伝えよ」 「はっ!承知致しました!」 衛士はもと来た方へ走っていった。 「何かは分からんが、まぁ、婚儀の後だ」 隊長は小さく頷いた。 マザリーニは窓の外へ視線を戻し、もうすぐ始まる婚礼パレードの準備が進む外の風景 を見渡す。 「戦争は誰も幸せにせぬ」 やせ細り老け込んだ男の小さな呟きは、周囲に控える誰の耳にも届かなかった。 第23話 ロイヤル・ウェディング 城の正門前、豪奢な馬車が次々やって来て、重々しく着飾った人々を吐き出していた。 ルイズ達が乗る馬車も赤絨毯の前に停車した。 「ふぅ~、やっと着いたわ」 ルイズは手足をうにぃ~っと伸ばす。 「さ、それでは参りましょう!」 シエスタはルイズのドレスや髪飾りを手早く整える。 「いやぁ、緊張するなぁ。ルイズのお母さんにお姉さん達か、失礼の無いよう気をつけな いとね」 ヤンの言葉にデルフリンガーがツバをカチカチ鳴らす。 「まったくだぜ!おめーはちょっと抜けてる所あるからな、ピシッとしなよ!」 「そーね、デルの言うとおりだわ。気をつけなさいよ!」 「ふわぁ~い」 ヤンも着慣れぬ燕尾服に窮屈な思いをしつつデルフリンガーと荷物を手にする。 三人と長剣一本が馬車を降りると、赤絨毯の両脇にはズラリと衛兵が整列していた。 赤絨毯の向こう、城の中には華麗なドレスや煌びやかな宝石で着飾る婦人達が見える。 それをエスコートするのは豪華なマントをまとう美髯の紳士達だ。 衛兵達の後方で何十人もの楽団がクラシック調の音楽を奏で、来訪者を迎えている。 見上げれば城も、城壁には国旗が掲げられ、色とりどりの花が飾られ、そこかしこから 楽士の奏でる陽気なメロディが聞こえてくる。 朝靄が立ちこめる早朝、城から来た迎えの馬車に乗り込んだ一行。 同じくトリスタニアへ向かう人々の群れや、彼等を目当てにした露天商や、街道を警備 する兵士達を横目に見つつ、ようやく城へ到着した。何しろ国中から見物人の平民達や婚 儀に参加する貴族達と豪商の馬車が城と城下町へ向かう。警備もハンパではなく、街道は 大混雑だ。 道中ヤン達は「んもー!早く着かないと式典に遅れちゃうじゃない!」とカリカリする ルイズをなだめっぱなしだった。 そんなルイズのお守りからようやく解放されたヤンは、ルイズの後ろをついてフカフカ の絨毯を踏みしめて城の中へと歩いていく。 大きく頑丈そうな扉をくぐり城の中へ入ると、豪奢で優美な紳士淑女の方々が上品に歓 談していた。よく見ると魔法学院の生徒や教師もちらほらと見える。ヤンは壷や絵など、 城内の飾り付けに目が釘付けだ。 扉をくぐった正面玄関ホールの壁には、天井から大きな絵が幾つも下げられていた。 「…?」 天井から下げられている絵をジッと見るが、何か妙な感じがする。沢山の花で飾られた 額縁に入った絵なのだが、何かおかしい。現実味がない。 物珍しげに周囲へ目を奪われてるヤンに、ルイズが眉をしかめて振り返る。 「ちょっと、ヤン。何キョロキョロしてるの?」 「え?あ、うん。あの絵なんだけど、額縁が…あれ?」 ヤンの背の長剣がピョコッと飛び出た。 「おいおい、何言ってンだよ。ありゃ額に入った絵じゃねーよ。タペストリーだ」 「え?」 ヤンは足を止め、天井から下げられ壁を飾っている絵をよく見てみる。 それは馬に乗って猟場を進む騎士と貴婦人の絵で、その絵の周囲には額縁があり、額縁 周囲を花が飾っている…という絵が描かれた特大タペストリーだった。よく見ればその他 の天井から下がる絵も同じくタペストリー。 「へぇ~、絵と額縁と飾りの花束までが一つの絵なんだ」 「ええ、面白いでしょ?」 急に右から声をかけられた。 ヤンが横を見ると、ピンクの長い髪に鳶色の瞳を持つ女性がとろけそうな微笑みを浮か べている。 「あれはフィヨー・ド・サン=マルタスの『猟場の伯爵夫人』、その横が『アモールの武 器を取り上げるレクジンスカ』。ここに下げられているのは全部で一つの連作なのよ」 「ちいねえさま!」 喜びに顔を輝かせたルイズが女性の胸に飛び込んだ。 ルイズそっくりながら、穏やかで優しい雰囲気と丸みを帯びた大人の女性の空気をまと う女性がキャッキャとはしゃぎながらルイズを抱きしめる。 しばし抱き合っていた二人だが、ようやく女性がルイズを離しヤンとシエスタを見た。 「まぁまぁ二人とも、みっともない所をお見せしましたわ」 そしてヤンに寄ってくる。 ヤンは胸に手を当て恭しく礼をした。シエスタもメイド服のスカートをつまむ。 「初めまして、カトレアお嬢様。私はヤン・ウェンリーと申します」 「お初にお目にかかります。シエスタと申します。先日ミス・ヴァリエールにメイドとし て雇用されました」 自己紹介をされたカトレアもスカートの裾をつまんで礼をした。貴族が平民に礼をする という行為に、二人はギョッとしてしまう。 「初めまして。私はルイズの姉のカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ ラ・フォンティーヌです。妹がお世話になっておりますわ」 「フォンティーヌ?」 ヴァリエールじゃないの?と、ヤンの頭上にクエスチョンマークが飛び出た気がする。 ちょっと失礼な使い魔のリアクションにもカトレアはニッコリ笑って答えた。 「私は魔法もろくに使えないほど病弱で、ヴァリエール領からも出た事が無いの。領地を 出たのは今回が初めてよ。父さまは、そんな私を不憫に思って領地を分け与えて下さった の。 だから正確にはヴァリエール家じゃなくて、フォンティーヌ家の当主になりますわ」 「それは、知らぬ事とはいえ失礼しました」 ルイズとは似ても似つかぬ穏和で寛容かつ謙虚な対応に、ヤンは心から恐縮して頭を下 げた。 カトレアは頭を下げるヤンに歩み寄り、優しく手を取った。 「そんなにかしこまらないで下さいな、先生」 「せん…せい?」 ヤンも、横で聞いてるルイズもシエスタもキョトンとしてしまった。 「あの、ちいねえさま。ヤンは先生じゃないんだけど」 カトレアはコロコロと楽しげに笑う。 「あらあら!もう話は広まっていますよ。ルイズが使い魔を呼ぼうとして、うっかり異国 の元帥にして軍最高司令官を教師兼軍師として召喚したって」 「げ、元帥って…」 ルイズとヤンは冷や汗をかいていた。シエスタはヤンの顔を黙ってジッと見る。 ルイズは、噂に尾ひれ背びれがついたわねぇ…と呆れて。 ヤンは、何故バレたんだ?自分の正確な地位や階級は誰も知らないはずなのに、もしか してつい最近、他にも『迷い人』が現れたのか!?、と。 ヤンの階級は元帥。宇宙暦799年に同盟軍史上最年少の元帥に昇進している。地位は、 最終的にはエル・ファシル独立政府の革命軍司令官でありイゼルローン要塞司令官であり イゼルローン駐留艦隊司令官。同盟軍所属時代は第13艦隊司令官であり、1艦隊の司令 官に過ぎない時期もあった。軍の正式な最高司令官になったのは、エル・ファシル独立政 府に所属して以降で宇宙暦799年の12月(文民統治の形式上、エル・ファシル政府主席 ロムスキー氏が軍事委員長という上官の地位にあったが)。 ちなみにハルケギニアでの現在の暦は宇宙歴換算だと、宇宙暦800年の8月辺り。もっ とも、召喚による時空転移時に時間軸がずれた可能性もあるので、正確なところはヤンに は分からないが。 つまり、ヤンが元帥であり軍最高司令官だと分かるには、少なくとも宇宙暦799年以降 にハルケギニアへ転移してこなければならない。 そんな期待と不安が入り交じるヤンの脳裏に、続けて別の女性からの声が届いた。 「あなたは先日、父さまに二つ名を名乗ったわね?『2秒スピーチ』と」 その棘のある女性の声に、ヤンは聞き覚えがあった。ルイズも緩んでいた頬が一瞬で引 き締まる。 「え、エレオノール姉さまも。お久しぶりです」 「久しぶりね、元気そうで何よりだわ」 そこには理知的かつ厳しそうな瞳に公爵と同じブロンドを持つ長身の女性、エレオノー ルが歩いてきていた。 縮こまりながらも挨拶をするルイズに、エレオノールは一瞥をくれるのみ。 そしてメガネ越しに鋭い視線をヤンへ投げつける。 その刺すような目に、ヤンも腰がひけそうになるが、なんとかこらえて頭を下げる。 「お久しぶりにございます、エレオノール様。…確かに私は公爵に、かつて私が『2秒ス ピーチのヤン』と呼ばれていた、と語りましたが、それが、な、に…か?」 ヤンは質問をしながら、自分が余計な事を言ってしまった事に気が付いた。二つ名が『2 秒スピーチ』とは、どういう事か。 まず、スピーチをしなければならない公的地位にある。 2秒でスピーチが終わるなんて通常有り得ない、非常識だから二つ名になる。 規律を重んじる軍で、しかも政府や軍の式典で、非常識なスピーチは普通できない。 非常識な事が出来るのは、当人を軍規や法規をもって諫める人物がいないということ。 つまり階級も地位も最高位か、それに匹敵する実力が必要。 そして、この二つ名は嘘やジョークにしては迂遠過ぎる。真実の可能性が高い。 規律ゼロの私兵集団の首領とかには見えない。それだけはない。荒くれ者を束ねるどこ ろか、逆に締め上げられそうだ。 エレオノールがビシィッとヤンを指さした。 「…つまり!あなたは『ふりーぷらねっつ』とか言う国の、軍最高司令官ね!階級も最高 位の元帥!!」 ルイズとシエスタは一瞬呼吸が止まる。そしてヤンを見上げる。 小さな主のグータラ執事は、見ていて目を覆いたくなるくらいオタオタしていた。 「まぁまぁ。凄いんですねぇ」 カトレアは朗らかに手を叩いていた。 「おでれーたな!マジなのかよ、ヤン!」 長剣は鞘から飛び出さんばかりの勢いで飛び出した。 油を絞られるガマのようにダラダラと汗を流したあげく、ガックリと肩を落とした。こ こまでの狼狽を見られてしまっては、白状したのと同じだと諦めるしかなかった。 「そ、そんな大層なモノじゃあ、無いんです…負け戦が続いて、国も滅んで、不正規隊と いうか独立愚連隊というか、敗残兵を連れて逃げ回ってただけですから」 それでもヤンは、必死に『真実』を語る。 ハルケギニアでは『平民が最高司令官』なんて信じてもらえないと思っていた。第一、 故郷に帰れなくなってしまったが、ようやく軍から身を引いて平和な生活が出来そうでも あった。せめてこのまま平穏な生活を続けたかった。うっかり再び軍に放り込まれては、 たまったものではない。 第一、負け戦だったのは本当だ。といっても、敗北が決定してから指揮権を譲渡された り、ヤンが戦術的に勝利したが政府が戦略的に敗北した、という様な話なのだが。 そんなヤンの内心を知ってか知らずか、エレオノールは腕組みしてウンウン頷いた。 「当然だわ。その若さで、しかも覇気の欠片もない鈍そうな平民が指揮するとあっては、 負けて当然でしょう。『ふりーぷらねっつ』とやらも、大した国では無かったんでしょう ね」 かなり酷い事を言われたヤンだが、怒るどころか「ええ、まぁそうなんです」と、情け なく愛想笑い。その様にルイズもシエスタもデルフリンガーも「なーんだぁ」「うーん、 やっぱりそうですよね?」「はは、まぁそーだろーよ!」と呆れてしまった。カトレアだ けは変わらぬ笑顔でヤンを見つめている。 「さて、そんな余談はよいのです。父さまも母さまもお待ちですわ。行きますわよ!」 毅然とした態度で先導するエレオノールに連れられ、一同は城の奥へ向かった。 そんなルイズ達を城の入り口から見つめている二対の青い瞳がある。 警備の兵士が青い瞳と青いドレスの二人組の所へ駆けてきて敬礼する。 「失礼致しました!ガリアからの大使と確認できましたので、お通り下さい!」 青いショートヘアの少女と青く長い髪の女性は城の中へと入っていた。 敬礼した兵士に、別の衛士が胡散臭げに小声で声をかける。 「おい、なんだい?あの二人組」 「ガリアの大使。ちゃんと招待状持ってた」 「…あれが?どうみてもお上りさんの田舎者と、その妹だよな」 「でも、あの青い髪はガリア王家の特徴だ」 そんな怪訝な視線を背中に受けつつ、青く長い髪の女性はキョロキョロとせわしなく周 囲を見回り、ウロウロしようとしたところを妹らしき人物に杖で叩かれていた。 国中の貴族とその配下達でごった返す城の中、ヴァリエール家には控え室が用意されて いた。勢揃いしたヴァリエール家の面々を前に、執事のジェロームが式典の予定を説明し ていた。 「・・・でして、これより正面ホールにて陛下が全貴族に対し詔が賜られます。 その後姫殿下はベアトリス殿下と共に、馬車にてブルドンネ街を通りまして、中央広場 のサン・レミ聖堂へ向かわれます。 聖堂で大司教より道中の安全祈願と婚礼への祝福を受けましてから、ゲルマニアへと向 かわれます」 上座の肘掛け椅子に鎮座する公爵と公爵夫人、そして三姉妹が和やかな空気の中で執事 の話を聞いていた。シエスタとヤンは他の執事や召使い達と共に壁際で立っている。白の 鎖編みで刺繍された青い布地と、金の装飾がなされた立派な肘掛け椅子に座る公爵夫妻。 その威厳は相当なものだ。他者を常に傅かせてきた支配者階級のオーラを全身に纏ってい る。 特に公爵夫人のオーラが苛烈だ。 炯々とした光を湛える鋭い眼光を持つ、四十過ぎの女性。髪は桃色だが、纏うオーラの 色は桃色からはほど遠い。金色か、焼け付くような熱を帯びた白だろう。エレオノールを 遙かに上回る威圧感を放っている。 とはいえ、目出度い婚儀を前にして、さすがに夫妻の表情は柔らかかった。水辺で戯れ る白鳥がデザインされた銀のワインクーラーで冷やされたワインをグラスに注がれ、ゆっ たりとくつろいでいる。 「さて、式典の席の事だが」 公爵が低いバリトンの声を響かせた。 「残念ながら、トリステインの全貴族が出席出来るような広さは、城の大ホールにも聖堂 にもない。なので出席者は厳選せよとのお達しだ。それとカトレアは身体の事もあるし、 エレオノールはアカデミーの仕事がある。領地も空にはできん」 カトレアは僅かに頷く。エレオノールはクイとメガネをかけ直す。 「このため、大ホールにはエレオノールとカトレアが出席せよ。その後エレオノールはカ トレアを屋敷へ送れ。後はアカデミーに戻るがよい」 「承知致しました」「エレオノール姉さま、お願いしますね」 年上の姉二人はすぃっと頭を下げる。 公爵は顔を見合わせる姉二人から、視線をルイズへ移す。 「聖堂へはわしとカリーヌ、それにルイズが出席する。その後はヴィンドボナまで馬車の 旅だ」 「分かりました。ゲルマニア旅行、楽しみですわ!」 はしゃぐルイズはカリーヌの峻烈な眼光に射抜かれ、即座にしゅん…となった。 次いで婦人の眼光はヤンを射抜く。 ヤンは一瞬で手に平に汗をかいてしまった。 「ウェンリー、とやら」 「は、はい」 背筋にも冷たい汗が流れるのを感じる。 「そなたのもたらしたダイヤの斧、見事な逸品でした」 「恐れ入ります…そういえば、アカデミーに送られてからはどうなりましたか?」 その言葉に、エレオノールが胸を張った。 ヤンの横に立つシエスタの目は、その胸が詰め物だと見抜いてしまったが、そんな事は 長女の知らぬ事。 「もちろんダイヤの取り外しに成功しましたわ!まったく、『ブレイド』ですら切れぬの で苦労したわ。一ヶ月かけて、極微小の『錬金』で接合部を切り離しました。 彫金師に送った後の事は良く知らないのだけれど、確かティアラにしたとか」 自慢げに語るエレオノールだったが、あれが実際に血にまみれた斧だと知ってるヤンに とっては複雑な想いだ。そんなものを頭上に戴いて不吉じゃないかなぁ、と。しかもその 血は麻薬で汚染された地球教徒のもののはず。 「まだ何か聞きたげだな?」 ヤンの様子に公爵が不審を感じたらしい。さて、まさか今頃になって血濡れのティアラ です…とも言えない。別の事を聞く事にした。 「あ、いえ、実はアルビオンの親善艦隊はどうなったのか、と…」 「ふむ、それか。それなら・・・」 公爵は皆に先日のラ・ロシェール上空での一件を語った。内容は枢機卿が受けたものと 同様。 ヤンもルイズも真剣に話を聞く。 聞き終えたルイズは誇らしげに胸を張った。 「どうやら本当に奇襲をかけようとしていたようですね!礼砲で艦が撃沈だなんて、自作 自演にしても程度が低すぎるわ!」 ヴァリエール家の人々も、まったくですわね、お手柄ねぇルイズ、等にそれぞれの感想 を述べ合う。 そんな中、ヤンだけは顎に手を当てて考え込んでいた。 「あ…いえ、待って下さい」 末娘のお手柄を率直に褒めていた公爵夫妻も姉たちも、他のメイドや執事もヤンへ視線 を集中させた。 「彼等は、砲口を向けられた事について何も言わなかったんですね?その点を逆に非礼だ と咎める事も出来たのに」 「うむ。奇襲作戦を中止する以上、奴等は単なる親善艦隊であり大使一行だ。外交関係を こじらせないため当然の事と思うがな」 公爵の判断は、枢機卿と同一のものだ。特に不審な点はないように思える、と公爵婦人 も三姉妹も考えていた。 だが、ヤンはますます考え込んでしまう。 奇襲作戦のために不可侵条約締結を謀る連中。貴族ではないため名誉に拘らず、故に策 謀を躊躇わぬクロムウェル…。かの新皇帝の人となりから見て、僅かな矛盾を感じてしま う。 「素直、過ぎませんか?」 「素直、過ぎる…とは?」 ヤンの質問に、公爵は質問で返した。 「はい。まるで、奇襲作戦を見抜かれている事が前提かのように、あっさりと手際よく作 戦を中止させています。そのわりに艦には火を放ってます。まるで、中途半端にこちらの 情報を得ていたかのようです」 「口を慎み給え」 ヤンを窘めたのは、ジェロームだった。 「君が言ってるのは、トリステイン城内に裏切り者がいる…という事だね?」 「はい」 何のためらいもなく肯定したヤンに、ジェロームの方がたじろいだ。 「し、新参者としての謙虚さが欠けるようだ。恐れ多くも城内に王家へ弓引く者がいるな どと。しかも、単なる憶測ではないか!」 「ジェローム。あなたも口が過ぎますよ」 今度は公爵夫人がジェロームをたしなめた。恐縮して一礼する古執事から、飄々とした 態度を崩さない新執事へ視線を移す。 「ウェンリーよ。あなたもゆえなく他者を貶めるがごとき言葉、慎みなさい」 「失礼致しました」 ヤンも深々と頭を下げる。 だが、今度は公爵が髯を撫でながら考え込み始めた。 「ふむ…かのレコン・キスタは国境を越えた繋がりを持つ。始祖への信仰心から、いつま で経っても『聖地奪還』に動かぬ王家に業を煮やした貴族や僧侶が…という事は十分考え られる事だ。 それに、貴族の地位を剥奪され平民に堕とされたメイジや、家名が低く領地も無い故に 日々の糧にも事欠く下級貴族はトリステインにとて多い。金に目がくらんでも不思議はな い」 ルイズもヤンもシエスタも、聖地奪還という言葉に眉をしかめる。聖地が厄災の元だと 知っているものの、それを公にする事も出来ないもどかしさを感じてしまう。 「まぁ、とはいえ、誰が裏切り者かまでは分からぬであろう?」 「はい、残念ながら。 それに諜報活動は政戦両略の基本です。城内かどうかはともかく、トリステイン国内に もゲルマニアにもアルビオンの間者や協力者がいる事は当然でしょう」 「そうだな。 それに、既に危機は去ったのだ。もはや同盟はなり、ラ・ロシェールにはトリステイン とゲルマニアの両艦隊がいる。両艦隊はゲルマニアへ行き、合同艦隊パレードをヴィンド ボナ上空で繰り広げる予定だ。 アルビオン艦隊も大使のサー・ジョンストンを降ろして、すぐにアルビオンへ帰ってい る。その大使とて、艦隊司令長官及び貴族議会議員の政治家ではあるが、貴族一人に警護 数名。伝令用の風竜を一騎連れているくらいだ。 この状況で、奴等に打つ手はなかろう。当面は我が国は安泰だ」 「そうですね…確かに、純軍事的にはアルビオンは手詰まりです。建国して間もなく、国 内も外交も急ぎ安定させねばならない時期ですから、しばらく軍事侵攻はないでしょう。 ですが、次の策略を既に考えてあるから、礼砲による撃沈という演技をあっさり諦めた ということも考えられなくはないです」 次の手、と口にしたヤンにはさしたる意味は無かったかもしれない。単に可能性の問題 としてあげたのだろう。 が、ヴァリエール家の人々はそれぞれに多様な反応を示した。 カトレアは「あらあら、先生は心配性な人ですねぇ」と少し困った顔をする。 エレオノールは「ふん、よく舌のまわる狐だこと!」と露骨に嫌悪を現した。 公爵夫人は黙ってヤンを見つめている。射抜くような眼光はそのままに。 ルイズはちょっと頬を膨らませる。目出度い婚儀の席で余計な事言わないでよ、という 感じだ。 公爵は一言、「続けよ」と命じた。 ヤンが小さく一礼し、さらに話を続けようとしたところ、部屋の扉がノックされた。城 の侍女が「失礼します。時間ですので、正面玄関ホールへお越し下さい」と告げる。 公爵はゆっくりと優雅に立ち上がった。 「ふむ。興味深い話ではあったが、もう時間がない。ウェンリーよ、念のために聞くが、 おまえの懸念は切迫したものか?」 「いえ。可能性としては極めて低いものです」 「ならば、またにせよ。ともかく、姫殿下の婚儀だ!皆、粗相のないようにな!」 一同は公爵の号令を受け、貴族の威厳と風格をもって部屋をあとにした。 前ページ次ページゼロな提督
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 悲鳴と同時に弾かれるように外に飛び出すタバサとエレアノール、一瞬遅れたキュルケは外に飛び出す前に、景気のいい音と共に小屋の屋根が吹き飛ぶのを目の当たりにした。青く広がる空と、それをバックにして立っている巨大な影。 「ゴーレム!!」 キュルケの悲鳴。それと同時にタバサが杖を振って、唱えていた魔法を解き放つ。巨大な竜巻が舞い上がり、ゴーレムへとぶつかって行く―――が、その質量を押し切るほどの力はない。続いてキュルケも炎の魔法を放ち、ゴーレムを火達磨にするが目に見えた効果はほとんど無かった。 「無理よ、こんなの!!」 「退却」 キュルケとタバサは一目散に逃げ出す。エレアノールはそれを横目で見ながら、ルイズの姿を探す。先にルイズに気付いたのはデルフリンガーであった。 「おいおい相棒、娘っ子が無茶してやがるぜ!」 エレアノールから見てゴーレムの向こう側で、ルイズは呪文を唱え杖を振っていた。―――爆発、ゴーレムの背中が弾けるが、その大きさから見て微々たるもの。だが、ゴーレムが背後のルイズに注意を向けるには十分であった。 「ご主人様!! 逃げてください!!」 「いやよ!」 再び杖を振って魔法を放つ―――爆発。 「ご主人様!!」 「いやよ! フーケを捕まえなきゃダメじゃない!!」 ゴーレムは逃げ出したキュルケたち、正面に立つエレアノール、そして背後で失敗魔法を放ち続けるルイズのどれから相手にしようか迷っているようにも見えた。 ―――爆発。その間にもルイズの魔法はゴーレムの表皮を削り続けるが、その都度、土が盛り上がって再生する。しかし、ゴーレムは自分にダメージを与え続けるルイズから相手にすることを決めたのか、ゆっくりとした動作で後ろを向き始める。 「―――!! ルイズッ!!」 エレアノールが地を蹴りルイズの元へと走る―――が、ゴーレムを迂回する分だけ出遅れる。 「私は貴族よ。魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない! 敵に後ろを見せないものを貴族と呼ぶのよ! それに―――」 ―――爆発。ゴーレムの行動を僅かに遅らせる程度でしかない。だが……この局面では僅かな時間が、貴重な時間となる。 「―――それに! 私は貴女に相応しいメイジだと! 貴女の立派な主だって証明しないといけないじゃない!!」 ゴーレムが足を高く上げ、ルイズ目掛けて踏みつけるように落とす。視界一杯に広がるゴーレムの足にルイズは硬く目を閉じた。しかし、僅かの差で横から飛び込んできたエレアノールがルイズを抱きかかえ、一気に走り抜けた。同時にエレアノールはその場にアイスを数個展開し、ゴーレムが踏み込むと同時に起動させる。キィンという音と共に数メイルほどの氷塊が生まれ、ゴーレムの片足を包み込む。 その足止めが効力を発揮している間にエレアノールは十分な距離を走り、そこでルイズを降ろす。呆然とするルイズに、エレアノールはその頬を平手で叩いた。 「ルイズ! 何で逃げなかったのですか!!」 「え……え、だって……だって……」 ルイズの目から涙がぼろぼろとこぼれだす。エレアノールは硬く引き締めていた表情を、フっと和らげて微笑みを浮かべる。 「誇りをもって命を賭すのと、虚栄のために無謀なことに挑むのは別物です。それに……、ご主人様は気高き誇りを既にお持ちじゃありませんか。何人にも折ることの出来なかった、決して諦めず投げ出さなかった誇りを……」 スっと立ち上がると背後に顔を向ける。エレアノールの視線の先には足を覆っていた氷塊を砕いて、体勢を立て直しつつあるゴーレムの姿があった。 「私には、それがとても眩しく思えるのですよ……お仕えするに値するほどに」 ―――それは憧憬の声――― 「エレアノール……貴女……」 エレアノールの背中越しに聞こえてきたのは、かつて夢の中で聞いた昏い声。それと同じものを含んでいた。 「―――あのゴーレムは私が相手をします。ご主人様は安全な場所へ」 「エレアノールッ!!」 エレアノールはデルフリンガーを握り直すと、ゴーレムに向かって駆け出した。ルイズは悲鳴にも似た叫びを上げてその後を追おうとしたが、目の前にタバサが跨ったシルフィードが舞い降りて立ち止まる。 「乗って」 「でも、エレアノールが!」 「わかってる。でも、貴女が先」 ルイズは渋々とタバサの手を取り、シルフィードの背中へと引っ張りあげてもらう。ルイズがしっかりと跨ったことを確認すると、タバサはシルフィードへ指示を与える。 「キュルケとエレアノールとロングビル、ゴーレムの隙があり次第順次回収」 「きゅいきゅい!!」 シルフィードは翼を大きく広げ、空へと舞い上がった。 ぶんッ―――重々しい音と風圧がエレアノールのすぐ脇を通り抜け、一瞬後には地面を揺らす衝撃となって響きわたる。それを引き起こしたゴーレムの拳は、一メイルほどの大穴を地面に作ってめり込んでいた。それが引き上げられようとする瞬間、周囲にアイスが次々と設置されて即座に起動する。凍結し、ゴーレムの右手を地面へと縛りつける。 「えい!!」 地面から跳び、ゴーレムの左肩から胸にかけて斬りつける。残された左手を振り回してくるが、それをゴーレムの身体を蹴った反動で距離を稼いで避ける。 「やるな、相棒。でも見てみな、斬ったところがまた再生してやがるぜ」 「そのようですね」 大きく斬り裂かれていた箇所が、徐々にくっ付き元通りになる。 「向こうの再生力がどれほどかは分かりませんが、このままでは消耗戦に持ち込まれると厄介です」 「あの手のゴーレムは術者のメイジを叩けばいいんだが、隠れたまま出てこねーみたいだな」 ガキンっと右手の氷塊を砕いてゴーレムが立ち上がる。 「そういや相棒はさっきから氷で凍らせてるみてーだが、あれで一気に全身を凍らせるのは出来ねーのか?」 「これだけ大きいと無理です―――ね!!」 地を駆けて、立ち上がったゴーレムの足の間を一気に走り抜ける。同時に右足を斬りつけて、左足にアイスを設置する。潜り抜けると同時にアイスを起動させ左足を氷で止め、残った右足が再生しきる前に完全に両断しようと振り返って斬りつける。 ―――ガキィィィンッ 「ッ!?」 「いでででででッ!?」 今までの土とは違う手ごたえと衝撃に、デルフリンガーを握る手が痺れる。先ほどまで土だったゴーレムの右足が、鉄へと変わっていた。 「お、おでれーた、相棒の攻撃を読んで鉄に錬金して防いだぜ」 左足を拘束していた氷塊もあっさりと砕け散って、ゴーレムは自由を取り戻す。 「それに氷を砕くコツも掴んできたみたいですね―――!!」 ビュンという風斬り音を響かせ殴りかかってくるゴーレムの拳を、後ろに跳んで避けて距離を取る。しかし、歩幅の違いからすぐに距離は詰められる。 「相棒! 右から来るぜ!」 「分かってますッ!」 ゴーレムの拳を紙一重でかわし、逆に連続して斬撃を叩き込む。一瞬、ゴーレムの左腕は崩れかけるが、すぐに再生する。 ギーシュの青銅ゴーレムと違い、圧倒的な質量と再生能力を誇るフーケの土ゴーレムに、エレアノールは決め手に欠けていた。ルーンの効果による身体能力の向上もゴーレムからの致命的な一撃を回避するには有効だが、逆に致命的な一撃をゴーレムに与えるには力不足であった。 (正直、これは攻め切れませんね……) エレアノールの顔に焦りの色が浮かび始めた。 ゴーレムとエレアノールの戦いにロングビル―――フーケは、顔に驚きの表情を浮かべたまま見入っていた。当初の予定通り、四人をゴーレムに襲わせ『雷の宝珠』を使わせるつもりだったのだが、エレアノールの予想外の健闘にその目論見は崩れつつあった。 「―――何なんだよ、まったく。あの女は!?」 ゴーレムの足に『錬金』をかけ終えて、小声でぼやく。本当は殴りつける腕に錬金をかけるはずだったが、エレアノールの動きに反射的に足にかけて辛うじて防ぐことができた―――もし、土のままでは両断されて倒れていただろう。 「それにしても、さっきから氷漬けにされるのが厄介だねぇ」 先ほどからゴーレムの拳や足にまとわりつく氷塊に眉をひそませる。最初は空からタバサが魔法をかけてるのかと思ったが、それにしてはエレアノールの攻撃とのタイミングが合いすぎる。無論、エレアノール自身がそれを行っているのなら説明がつくが、そうだとすれば杖も呪文詠唱もなしに氷塊を生み出していることになる。 「つくづく謎の多い使い魔だね―――チッ!」 ぼやいている間に左腕の三箇所に深い斬撃を入れられ、崩れ落ちようとしていた。慌てて再生させるために精神を集中させて、それらをつなげ直し―――消耗した精神力に軽いめまいを覚える。 (このままじゃジリ貧だねぇ……) フーケの顔にもまた、焦りの色が浮かんでいた。 上空からルイズはエレアノールとゴーレムの戦いを、ハラハラしながら見つめていた。ちょうど、木々の間から『フライ』で飛び上がって合流してきたキュルケも、落ち着きのない眼差しで眼下に視線を向けていた。 彼女たちが見守るエレアノールの戦いは、ギーシュとの決闘の時に見せた疾さでゴーレムを翻弄しているようにも見えたが、斬りつける端からゴーレムは再生し、決め手に欠けているのは一目瞭然であった。 そしてタバサは二人と違い、戦いそのものより時折ゴーレムの行動を阻害する氷塊を注意を払っていた。氷塊を生み出しているのは状況から見てエレアノールの仕業、なのに杖も持たなければも詠唱すらもしている様子がないと―――タバサの思考にそれらの信じがたい事実が深く刻まれる。 「タバサ! お願い、エレアノールを助けて!!」 「近寄れない、今は注意を引くのが精一杯」 シルフィードは何度かゴーレムの間合いギリギリを飛んでいるが、ゴーレムの方はそれをほぼ無視してエレアノールに攻撃を加え続けていた。上空から援護するしようにも、タバサの『エア・ハンマー』程度ではゴーレムの表皮を軽く削る程度、トライアングルスペルの『エア・ストーム』は至近距離にいるエレアノールを巻き込みかねない。 それでも注意を可能な限り引くために、タバサは『エア・ハンマー』を唱えて放つ。後ろではルイズが同じように杖を振って、魔法を放つ。タバサの『エア・ハンマー』は狙い通り正確にゴーレムの頭へ、ルイズの『爆発』はゴーレムの胸に炸裂する。 「効果なし。これ以上は精神力を消費しすぎる」 「だからって、何もしないわけにはいかないでしょ!!」 ルイズの叫びにシルフィードに乗り終えたキュルケが頷いて、杖を振って火球をゴーレムへと叩きつける。 「そうね、こればかりは同意するわ」 火球を受けてもビクともしないゴーレムに、ルイズが再び杖を振って魔法を放つ。―――爆発、ゴーレムの肩が弾け飛ぶ。 先ほどまでと変わらない威力であったが、今度の攻撃に対してゴーレムは上空に顔を向けると、右手の手のひらに土の塊―――恐らくは自身の身体の一部―――を生み出し、それを三人目掛けて投げつけてきた。空中でそれらは砂礫になり、弾幕となってシルフィードへと襲い掛かる。 「避けて」 「きゃあぁぁぁ!?」 緊急回避のために大きく翼を羽ばたかせるシルフィード。しかし、砂礫は容赦なく襲い掛かった。 「きゅい~~~!?」 一際大きな塊がシルフィードの頭と翼に当たり、地面へと墜ち始める。キュルケがとっさに『レビテーション』を唱え、ルイズを抱きかかえて宙に舞う。ほぼ同時にタバサも宙に舞い、辛うじて墜落するシルフィードから飛び出し、何とか三人とも着地に成功する。 先に墜ちたシルフィードは何とか起き上がろうとしているが、墜落のダメージが大きいのかその場で悶えていた。 (退却の選択肢が削れた) 森の中を散開して逃げる手も残されているが、下手すれば遭難する―――『フライ』の使えないエレアノールはほぼ確実に。タバサは杖を握り締め、エレアノールとゴーレムの戦いを見つめた。 「エレアノール……」 そしてルイズは、戦いを思いつめた表情で見つめていた。 エレアノールは何度目―――二十何度目になる斬撃をゴーレムの胴体に入れ、そしてまったく同じようにしぶとく再生を続けるゴーレムにため息をつく。 「これほどとは……、厄介ですね」 「あー、でも再生にも精神力使うから、このままいけば勝てるじゃね?」 デルフリンガーの言葉どおり、最初に比べてゴーレムの再生速度も明らかに遅くなっているが、状況は決して楽観できるものではない。フーケが次の一手を打って状況を打開しようとする前に決着をつける必要がある、とエレアノールは考えていた。ブゥン、と風切り音と共に視界に広がるゴーレムの拳をバックステップで回避―――しかし、先ほどのゴーレムの攻撃で地面に降りてきたルイズたちに攻撃の矛先が向かないように、最低限の距離に留める。 (仕方ありません。何とか両足を断って、撤退するための時間を稼ぎ―――) 「『雷の宝珠』! 私に応えて!!」 エレアノールの思考を中断させたのはルイズの必死の叫び。振り向くといつの間にか『雷の宝珠』―――トラップカプセルを掲げていた。エレアノールのために何か出来ることを、と考えた上でタバサから強引に受け取っての行動。だが、トラップカプセルはルイズに応えない―――魔法との相性の悪さゆえに。 「お願いッ!! お願いだから!!」 「ご主人様! 早く逃げて―――あッ!!」 エレアノールはルイズが掲げているトラップカプセルを見て気付く。自分が使っているアイスのトラップカプセルでは、膨大な質量のゴーレムの足止めにも使えない―――だが、攻撃力に優れたサンダーのトラップカプセルなら? 「ご主人様、それをこちらに! 『雷の宝珠』を!!」 「え? ……ええ、分かったわ!」 ルイズから投げられたトラップカプセルをエレアノールは地を蹴って跳び―――その直後、ゴーレムの一撃が彼女の立っていた場所に叩きつけられる―――空中で受け取り握り締めた。振り返りながら着地し、ゴーレムへとトラップカプセルを向ける。 「これで―――」 左手のルーンが一際大きく光り輝き、ゴーレムの足元に八個のトラップが設置される。 「―――終わらせて頂きます!!」 そして起動。―――眩い雷光と轟く雷鳴がゴーレムを包み込み、弾けた。 「おでれーた、すっげぇ雷撃だぜ」 デルフリンガーの呆気に取られた声が、雷鳴が消え去った後の静けさの中に深く響いた。雷撃の真っ只中にあったゴーレムは全身からブスブスと焦げ臭い煙を上げており、徐々に崩れつつあった。 ルイズはその様子を呆然と見つめていたが、ゴーレムが完全にただの土の塊になると安心して放心したのかその場に崩れるように座り込んだ。タバサはゴーレムの最後を見届けると、「きゅい~~~」と痛みに耐えているシルフィードの元へと向かい、キュルケも驚きと喜びの表情を浮かべてエレアノールの元へと駆け寄る。 「お疲れ様、エレアノール! ギーシュの時もそうだったけど、貴女には本当に驚かされるわね!」 「いえ、それほどでも……。それより、ゴーレムを操っていたフーケは?」 その言葉にキュルケは首を振る。フーケを探していたが見つからなかった、と。 「そうですか……。あと、ミス・ロングビルは見かけられませんでしたか?」 「そういえばどうしたのかしら―――あ、いたわよ。どうやら無事みたいね」 辺りを見回していたキュルケが、ある一方へと指差した先に森の中から歩いてくるロングビルの姿があった。 「皆さん! ご無事ですか!?」 「ミス・ロングビル! 今までどうしてたのかしら?」 キュルケの問いかけに、ロングビルは顔を伏せる。 「申し訳ありません。森の中で突然当身を入れられて、つい先ほど、気付いたばかりなのです……」 「じゃあ、そっちもフーケに襲われてたってこと?」 「恐らくは……、黒いローブも着込んでいたみたいですし」 ロングビルはキュルケとの問答を切り上げると、エレアノールに顔を向ける。 「それにしてもミス・エレアノール、貴女は『雷の宝珠』を扱えたのですね?」 「ええ……、私も同じものを持ってますし」 デルフを地面に突き刺し、空いた手で服の中から手持ちのトラップカプセルを取り出す。『雷の宝珠』と寸分違わぬ見た目のそれに、ロングビルと近くにいたキュルケ、そして放心状態から立ち直って寄ってきていたルイズが目を丸くする。 「ええええ~~~!? な、何で貴女がこれを持ってるのよ!?」 ルイズの叫び声は、静けさを取り戻しつつあった森に強く響いた。キュルケはその叫び声の大きさに顔をしかめ、ロングビルは口をパクパクさせながらエレアノールのトラップカプセルに見入っていた。 「これは知り合いの学者さんが作った魔法を応用したトラップカプセルというものです。中に決まった種類のトラップ、魔法仕掛けのカラクリが入ってまして、こういう感じに―――」 手近な地面に設置するように操作する。パシュっという軽い音と共に、なだらかな起伏をもった板状のアイスが設置された。 「望んだ場所を決めて設置して、好きなタイミングで起動させるように考えれば、それを読み取ってくれるのですよ」 キィンという音と共にアイスが起動し、先ほどのゴーレムに対して使ったときよりも小さめの氷塊を生み出す。 「では、先ほどの『雷の宝珠』も同じ方法で使えるのですか?」 「……ええ、その通りですよ」 ロングビルの言葉にエレアノールは頷いて同意する。 「なるほど……。あの、その正体が何であれ学院の秘宝であることは間違いありません。『雷の宝珠』をこちらに……あと、見比べてみたいので貴女のトラップカプセルもお借りしてもいいですか?」 「構いませんよ」 手を伸ばしてきたロングビルに、『雷の宝珠』とトラップカプセルを手渡す。 「―――でも、魔法そのものとは相性が悪くて、メイジには使えないものらしいです」 「ッ!?」 エレアノールの言葉にロングビルの表情が固まった。二つのトラップカプセルを持つ手も、僅かながら震えている。 「それじゃあ、あたしたちには使えないの? ミス・ロングビルの次に試してみようと思ったのに」 キュルケがトラップカプセルを見ながら残念そうに呟く。 「作成した学者さんも言ってましたし、先ほどもご主人様が使えなかったので間違いないですね。……ミス・ロングビルも、『今までに一度くらい』は試されたことはありませんか?」 エレアノールは微笑みながら、自然な動作でデルフリンガーの柄に手をかけて、僅かながら重心を移動させる―――引き抜いていつでも斬りかかれるように。キュルケやルイズは気付いていないが、目の前のロングビルはそれに気付いて瞳に動揺の色を浮かべていた。 「それではミス・ロングビル、そろそろ私のトラップカプセルを返して頂けますか? 学院に戻るまで、フーケが再び襲ってこないとも限りませんし、迎え撃つにしてもトラップカプセルがある方が有利なので」 「そうね。タバサのシルフィードも回復したみたいだし、そろそろ戻るべきよね」 ルイズの視線の先では、タバサの回復魔法で痛みが治まったシルフィードが「きゅいきゅい♪」と元気に鳴いていた。エレアノールも横目で見ながら、ロングビルから自分のトラップカプセルを受け取り、服に仕舞い込む。 「それじゃあ帰りましょ。……でも、シルフィードもいるのに帰りも馬車なのは嫌よねぇ」 キュルケのもっともな言葉に、シルフィードの治療を終えて歩み寄ってきたタバサが口を開いた。 「上空の偵察役と地上の馬車役、二手に分かれればいい」 馬車はゴトゴトと音を立てて学院への帰路を順調に進んでいた。 馬車の上には御者のロングビルとデルフリンガーを抱えたエレアノールの二人、残りの三人はシルフィードに乗って上空を優雅に学院への帰路を辿っていた。 「ねぇ……」 ロングビル―――フーケが前を見たまま、エレアノールに話しかけたのは道のりの半分を終えた辺りであった。 「あんた、いつから気付いていたんだい?」 「確信はもてませんでしたが……気付いたのは、あの廃屋の中で『雷の宝珠』を見つけた時ですね。―――違和感は、宝物庫で貴女が伝えてきた目撃情報を聞いたときからずっとありました」 鞘から若干刀身を覗かせているデルフリンガーが、興味深そうにカチャカチャと鍔を鳴らす。 「へぇ……? あたしが持ってきた証言のどこがおかしかったのだって?」 「どこがというより、一通り全部ですね。昼間でも暗い森の中で黒ずくめの男を目撃したという農民。そんな深夜に真っ暗な森で黒ずくめの人など見えるものじゃありませんし、目撃者が灯りを持っていたのならフーケも気付いているはずです」 「ああ、言われてみればそのとおりだね……やれやれ」 淡々と話すエレアノールに、フーケは苦笑しながら肩を揺らす。 「その目撃者が貴女の聞き込みに応じる―――朝から聞き込みを開始したのであれば、少なくとも学院の近くまで目撃者が来ていたことになりますけど、馬で四時間以上もかかるほどに距離が離れているのであれば、偶然にしても出来すぎてます。……もちろん、目撃者がフーケかその協力者で誤った情報を貴女に伝えた、と言い逃れできますけど」 「ははは……、言い逃れさせる気があるのかい?」 苦笑を通り越した、明るい―――しかしどこか空虚な笑い声。 「農民が真実フーケの目撃情報を知らせたものと考えるにしては、不自然なほどの偶然の連続。一方で誤った情報を掴まされたとしたら、『雷の宝珠』があの場所にあること自体がありえません。……しかし、実際に置いてあった以上、フーケには何かの『目的』で置いておく必要があったのと、私たちが回収してもそれを取り戻す『手段』を持っていたということです」 一呼吸言葉を置いて、エレアノールはフーケの様子を伺う。笑い声は収まっていたが自分のミスに呆れているかのように、押し殺した含み笑いで肩を震わしている。 「―――その『手段』は、メンバーの中にフーケかその協力者がいるだけで容易に達成できますしね」 「それであたしが怪しいって……わけか」 「ええ、それにあの時、あわよくば私のトラップカプセルも盗ろうと考えたのでしょう?」 フーケは肩を竦めて聞こえるようにため息をついた。そして自嘲気味な笑い声を交えて答えてくる。 「やれやれ、欲張りすぎたって話だね……。ああ、目的は『雷の宝珠』の使い方だよ。売り払うにしろ使うにしろ、使用方法がわからなきゃ価値もつかないし意味がないだろ? ゴーレムで襲えば、使い方を知ってる奴が対抗するために使うと踏んでいたの……だけどねぇ」 ガタンゴトン、と大き目の石を車輪が轢いて、馬車が大きく揺れる。その揺れに合わせるように、フーケは肩を落とした。 「それで……あたしをどうしようって言うんだい? このまま学院に連れて帰って、オールド・オスマンのセクハラ爺に突き出す気かい?」 「……貴女は何で貴族ばかりを狙われるのです? 確かに見返りは大きいですが、危険も相応に大きいですよね?」 自分の命運をかけた問いかけ―――答え次第では全力で逃げることも想定していた―――に、問いかけで返されてフーケは肩透かしを食らった気分になる。 「……あたしは貴族が嫌いなんだよ。偉そうに振舞っているくせに、自分の欲望に忠実な自制心のないケダモノじゃないか。それに、見返りの大きいというのも大切なんだよ。倉に貯めこまれているより、もっと有益に使われるべきなんだし」 「そうですか……」 エレアノールは相槌をうつと、そのまま黙り込む。ゴトゴトという馬車の車輪の音が大きく響いた。その沈黙にフーケは最初は我慢していたが、すぐに気になるように後ろを振り向く。 「……黙ってられたら気になるじゃないか、何とか言って欲しいもんだね」 「いえ、ちょっと知り合いを思い出していたもので……失礼しました」 どこか慈しむような微笑みを浮かべてエレアノールは頭を下げる。 「念のために聞きますが、『雷の宝珠』や私のトラップカプセルはまだ狙っておられるのですか?」 「メイジには使えないのだろ? その手の盗品を裏で買い取ってくれそうな貴族様はメイジばかり。でも、使えもしなければ、平民の反抗するための牙になりそうな厄介な秘宝を、欲しがるわけがないじゃないか。安く買い叩かれるのがオチだね」 言葉の最後に、貴族に恨みを持つ平民に渡すのも一興かもね、と愉快そうに付け加える。 「……じゃあ、もう私たちに手出ししないというのであれば、何も言いませんよ。私たちは『土くれ』のフーケを追撃して取り逃がしたが、辛うじて『雷の宝珠』を取り戻した。それだけのことです」 「気前がいいねぇ―――で、何が望みだい? それだけ羽振りがいいこと言うからには、交換条件で何かあるんだろ?」 「察しがいいですね。……貴女がもつ情報網で調べて欲しいことがあります」 「調べて欲しいこと?」 フーケの声色に好奇心が混じる。エレアノールは一息深呼吸すると、トラップカプセルを手にとって見つめる。 「このトラップカプセルは私の世界―――遠い故郷の産物です。『雷の宝珠』に関してはオールド・オスマンに後でお聞きしますが、それ以外にも帰るための手がかりが必要なのです。貴女には、変わった噂や事件……そういったことを調べて教えてもらいたいのです」 「へぇ……、てっきりヴァリエールのお嬢ちゃんに仕え続けるのかと思っていたけど、里心でもわいたのかい?」 「それをお答えする必要はありますか?」 フーケはエレアノールの答えに、呆れたように肩をすくめる。 「つれないねぇ……。ま、いきなり拉致紛いの召喚で使い魔にされたら、普通なら激怒するだろ? それなのに、あんたは嫌な顔を一つせずに忠実に従ってる。はっきり言って信じられないよ―――あんたみたいな名家、しかもかなりの上級貴族の出自の者だとね。正直、今さらって感じはあるね」 「私が上級貴族と? その根拠は?」 「雰囲気に物腰。……メイジじゃないのが不思議だけど、言い換えればメイジじゃないこと以外は、貴族としての教養をまともに受けてるように見えるねぇ」 エレアノールはその言葉を聞いて深く考え込む。しばしの間、馬車の音が再び大きく響いたが、今度はフーケも急かすことは しなかった。 「……別に私は強引に連れてこられたとは思っておりませんよ。気がついたら使い魔になっていたというのは少々呆れましたが、ご主人様も良い方ですから不満はありません―――正直なところ、帰れたとしてもまたお仕えするために戻ってくるかもしれませんし、ね」 言葉を区切り、感慨深げにふぅ、と息をつく。 「……それに、私も貴族としての名を剥奪された、みたいなものです」 「へぇ……」 フーケはどこか親近感―――同じ境遇の者へ向ける好意の感情―――を秘めた視線をエレアノールに向ける。 「―――話は飛びましたが、今言ったことを調べていただけますか?」 ゴトゴトと馬車は順調に学院への帰路を進んでいた――― 「いいさ、その条件を飲んでやるよ! 正体を知られた以上、あんたに命を握られているに等しいからね。投獄されて処刑されるのに比べれば、その条件なら天国みたいなものさね!」 「よろしくお願いします、ミス・ロングビル―――いえ、フーケとお呼びするべきですか?」 「人前じゃロングビルって呼んでもらいたいね。本名も別にあるが……教える気はないよ」 ―――その馬車の上で大貴族の令嬢に仕える使い魔と、貴族専門の大盗賊との間に紳士協定に等しい盟約がその時、結ばれた。 「やれやれ、相棒はお優しいねぇ」 「このことは秘密ですよ、デルフ」 「わかってら! おれっちだって空気くらい読める!」 一人、会話に入れなかったデルフリンガーは、少々寂しそうに鍔を鳴らしていた。 タバサは二人の会話を聞いていた。正確には、風の魔法を使ってシルフィードに二人の声が届くようにして、聴覚を同調させることで聞いていた。ロングビルの正体とその目的、そしてエレアノールがそれを見逃すことも全て。しかし、タバサはそれ以上に重要なことを聞き逃さなかった。 (『私の世界』……言い直していたけど、確かにそう言った) その言葉がもつ意味を考える。後ろで軽い口喧嘩を始めているルイズとキュルケの声が、雑音として響くが思考を妨げるほどでもない。 (つまり彼女はここを『別の世界』として考えている) 思考を一つ一つ進めて解を求める。聖地の向こう―――ロバ・アル・カリイエのことを最初に考えるが、それはあくまで『東の世界』であって『別の世界』ではない。次いで思い浮かべたのは、文字通りの『異世界』、子供向けの寓話や小説でまれに出てくる概念だった。 (ありえない……、本当に『ありえない』ことばかり) 眼下に広がる草原、その中で学園への帰路を順調に進む馬車を視界に捉える。エレアノールとフーケの会話は歓談へと変わりつつあったが、タバサはそれらの言葉も逃さないように一言一言を脳裏に刻みはじめた。 学院に帰還した五人の報告にオスマンは顔を綻ばせてそれを讃えて、エレアノールとフーケを除く三人に爵位と勲章の授与申請を、フーケに金一封の進呈を約束する。エレアノールにも金一封を渡そうとしたが、それを丁重に断って話したいことがあると申し出て学院長室に残った。ルイズは残ろうとしたが、エレアノールの申し訳なさそうな顔とオスマンの退室を進める言葉に、他の三人と一緒に渋々と部屋から出て行った。 「さて、話したいこととは何じゃね? もしやわしの側に仕えたいと申されるのかのぉ? それならば、次席秘書としてミス・ロングビルと共に―――」 「いえ、そのようなことではなくて、『雷の宝珠』についてお伺いしたいことがあります」 エレアノールに一言であっさりと否定され、オスマンは明らかに残念そうな顔をする。しかし、一瞬後には元の表情へと取り繕い直す。 「あの『雷の宝珠』は私が居た世界の道具―――トラップカプセルという道具です。私も同じものを持っています」 「ふむ……、確かに『雷の宝珠』と同じものじゃの」 エレアノールの差し出したトラップカプセルに、目を細めて頷く。 「それで『雷の宝珠』をどこで入手されたのでしょうか? 少なくとも、こちらの世界では手に入らないはずです」 「『私の居た世界』に『こちらの世界』か……、なるほどのぉ」 エレアノールの『世界』を故意に使った推し量るための言い回しに、オスマンは何やら納得するように頷く。 「いや、ミス・エレアノールの言葉で合点がいった。それの持ち主も同じようなことを言っておった」 オスマンは懐かしさと、そして軽い後悔が混じった表情を浮かべて、三十年前に『雷の宝珠』を入手した経緯を話し出した。 ―――森でワイバーンに襲われたときに一人の男性に『雷の宝珠』で救ってもらったこと、そして瀕死の重傷を負っていた男性は看護の甲斐なく亡くなったこと、そして形見として『雷の宝珠』と彼が所持していた幾つかの物品を持っていることを。 「彼はベッドの上でうわごとを死ぬまで繰り返しておったの。『ここはどこだ? 何故、時の航路図が使えない?』とな。……『時の航路図』とやらは、これのことかの?」 机の引き出しから取り出された金色に鈍く光る、一見すると幾つかの時計が組み合わさったようなアイテムに、エレアノールは息を呑む。 「……ええ、それは確かに『時の航路図』です。私たちの間では移動用のアイテムとして使っていました。もちろん、制限はありますが。少し、お借りしてもよろしいでしょうか?」 時の航路図。遺跡と地上を瞬時に移動でき、また既に入ったことのある遺跡ならば自由に移動できる冒険者の必須アイテム。 震える手で時の航路図を受け取り、移動したいと思うだけで起動するその機能を試す。 ―――しかし、何も起こらない。 「どうじゃの?」 「……やはり、壊れてるみたいですね」 元の持ち主の言葉から薄々予想はついていたが、期待が打ち砕かれてエレアノールはため息をつく。遺跡の中では時の航路図が使えない場所もあるため、本当に壊れているかどうかは分からなかったが、少なくとも役に立たないことには変わりなかった。時の航路図をオスマンへと返し、自分と同じ異邦人の詳細を知るための疑問を投げかける。 「それでその男性はこちらにどのようにして来たとか、何か言っておりませんでしたか?」 「ふぅむ……、意識が朦朧としておったからのぉ。わしも聞いてみたのじゃが、あまり要領を得なかった。他に言っておったことと言えば『俺は早くバルデスさんの仇を取るんだ』とか言っておったが」 「―――ッ!? それは、確かに言っておられたのですか?」 「ああ、そうじゃ。間違いなく言っておったのじゃが……それがどうかしたのかの?」 「いえ……、何でもありません」 震える声を隠し切れないエレアノールに、オスマンは怪訝な顔をする。 (私と同時期の誰かが、『三十年前』のこちらの世界迷い込んだということになるのでしょうけど……) 遺跡―――精神世界アスラ・ファエルの時空が乱れているのは、冒険者の間では周知の事実であった。ある遺跡の階層では、一日を過ごしても地上では一瞬のことであったり、逆に地上での一ヶ月が僅か十数分で過ぎ去る階層もある。同時に同じ階層に多くの冒険者が入っても、並列する別の時間軸に分かれてお互いに会うこともなかった事例。そして、数日前に行方不明になった冒険者が死後数ヶ月を経過した状態で発見されて、その後に遺跡に入った者が行方不明になる前の『生きていたときの冒険者』と出会っていた事例すらあった。 「何やら考え込んでいるようじゃが、話は以上かの?」 「え? はい、色々とありがとうございました」 エレアノールは礼を述べると、学院長室を後にしようとし――― 「ところで、ミス・エレアノール。その左手のルーンについて知りたいことはないのじゃろうか?」 老練さと威厳さ、そしてどこか愛嬌を感じさせるオスマンの声色に、エレアノールは目を瞬かせた。 ルイズは学院の着付け部屋の前で、まだ終わってないエレアノールを待っていた。先ほどまでにぎわっていた生徒と教師は既に舞踏会会場へと立ち去っており、着付けを手伝っていたメイドたちもほとんどが会場での他の仕事のためにこの場を後にしていた。 辛抱強く待っていたルイズであったが、我慢の限界が近づいたのか着付け室を覗こうと思い出したとき、ちょうどそれを見計らったようにドアが開いた。 「お待たせしました、ご主人様」 「遅かったじゃないのよ!」 口では文句を言いつつも、ルイズはエレアノールの美しさに目を見張っていた。長い黒髪をフィッシュボーンにまとめ上げて銀細工の髪飾りのアクセント、青いドレスは引き締まった身体のラインを美しく見せ、麗しい雰囲気を引き立てていた。自分の見立ての正しさを誇りつつ、ルイズは表情を取り繕い腕組みをする。 「なかなか似合ってるじゃない。私の従者として合格よ」 「ありがとうございます、ご主人様も似合っておられますよ」 ルイズの可憐な高貴さを引き立てる衣装へのエレアノールの褒め言葉にに、「当然じゃない」と言い、顔を背ける。それは照れ隠しの動作だと見え見えであった。 「……あ、あと、もう『ご主人様』って言わなくていいからね! 特別に、『ルイズ』って名前で呼ぶことを許してあげるんだから!」 「よろしいのですか?」 「貴女は態度もいいし、それくらい構わないわよ。それに……『雷の宝珠』奪還の立役者に、せめて私から報奨を与えないと不公平じゃない!」 ルイズの態度にエレアノールは微笑みを浮かべて頷く。 「では、ルイズ様。そのようにいたします」 「じゃあ、早く行くわよ。 『フリッグの舞踏会』はもう始まってるのよ」 照れた表情を見せまいと先を歩き出すルイズの背中を見ながら、エレアノールは胸中で呟く。 (その真っ直ぐな心があるのなら大丈夫でしょうね。……いつかは貴女も気付くでしょう) かしずかれ傲慢に他を見下して腐敗する貴族と、それに苦しめられている平民。魔法の使えないと嘲笑されているルイズは、皮肉なことに見下される苦しみを知っている稀有な貴族であった。それゆえに、貴族社会に一石を投じる存在になりえる可能性を秘めているとエレアノールは感じていた。 (貴女ならきっと大丈夫です……、そのことを祈ります) 「ちょっと! 早くついてきなさいよ!」 「はい、ただいま行きます!」 廊下の端から呼びかけるルイズに、エレアノールはドレスの裾を摘んで小走りで追いかけた。 同時刻、女子寮のルイズの部屋。 「そりゃあ、おれっちは錆が浮いてて見栄え悪いけどよぉ。置いていくなんて酷すぎじゃね?」 まったく人気のない寮の静けさが、デルフリンガーの孤独感を一層かき立てていた。静けさゆえに、遠くから聞こえてくるパーティの歓談が、孤独感をかき立てるように室内に響いてくる。 「せめて会場の外に置いておくとか気を利かせてくれよ、相棒ぅ」 ―――それは悲哀の声 間違いなく、確かに、一点の曇りも、誰もが疑う道理の全くない悲哀の声ではあったのだが、窓から差し込む月光と室内の家具だけがそれを聞いていた。無論、聞いていたが何か特別な変わったことがあるわけでもなかった。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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どんなに物を盗もうと 土くれの心は満たされない どんなに魂を喰らおうと 虚無の中心は満たされない Zero s DEATHberry ――ゼロの死神 『The sword which talks ― master 』 『土くれ』 そう呼ばれる盗賊がいる、彼女は大いに困っていた。 事の発端は数日前にまでさかのぼる。 彼女が、トリステイン魔法学院に秘書『ロングビル』として、潜り込んだ事から始まる。 春の使い魔の召喚儀式から数日が経ち、異変が起きた。 使い魔を介して見た物は、学院のメイドが包丁を片手に構え、もう片方の手に小さな円筒を握っている姿 そして、それを使い魔の目の前に突き出して来る様子。 小規模な爆発があり、それ以降使い魔からの交信は完全に途絶えた。 そこで、新たに使い魔を召喚したのだが 『しなければ良かった』 そう思ってしまうほどに召喚されたそれは、奇妙だった 首から伸びた管のようなもの その先の出鱈目な骸骨と人の皮の様な物 骨の面の様な奇妙な貌 それら全てがはじめて見る物だった そして、自分は今から「それ」と契約をする 「・・・黒崎・・・一護・・・!!」 フーケに聞こえないように使い魔、グランド・フィッシャーが呟き その様子を一人のメイドが満足そうに見ていた 数日後 異変に真っ先に気が付いたのは、学園の人間ではなく使い魔だった 使い魔の名は『黒崎 一護』一応死神である ドドドドドドドドドド・・・・ (この霊圧・・・まさか・・・!! 即座に死神イヒして霊圧の元となっている地点に向かう 其処には、巨大なゴーレムで壁を破壊しようとしている黒服のメイジが居た (!?あいつじゃない? 疑問を持ったままゴーレムに『月牙』を叩き込む ゴーレムはゆっくりと崩れ、そして再び再構築される 暫くの間を空けてタバサ、キュルケ、そして一護の主人たるルイズが到着する タバサが無言でゴーレムの右腕を凍らせ キュルケがもう片方の腕を破壊する ルイズは頭部目掛けて魔法を放とうとして失敗したが、かえって大きなダメージを与えた しかし、やはりゴーレムは即座に再構築される そして壁に向かって止めの一撃が加わろうとしたとき ゴーレムの腕が爆発、その爆風により壁は崩れ落ちた キュルケ談 その時、盗賊はとても錯乱していました ひとまず彼を落ち着けるのが先決だと思い 彼がうわごとのように呟いていた『破壊の杖』を、手渡しました 実際のところ、私がもう少し落ち着いていればこんな事はしなかったでしょう・・・ ルイズ談 その時私はとても錯乱していたので、落ち着くためにとりあえず使い魔を杖で叩き続けました おかげで私はこうして落ち着きを取り戻せました、彼には本当に感謝しています こうして盗賊は目当てだった『破壊の杖』を手に入れ意気揚々と去っていきました 『破壊の剣、たしかに領収いたしました。土くれのフーケ』 という文字を壁面に残して 数刻後 「……それで、犯行の現場を見ていたのじゃな、ミス・ヴァリエール……詳しく説明してくれんかの?」 出来る訳無い 自ら壁に穴を開け、自ら秘宝を手渡し、笑顔で盗賊を見送った報告なんて たとえ皮を剥がれ、肉を裂かれ、骨を砕かれ、神経を解きほぐされようと 出来る訳が無かった 『それは、本能だ!!』とか聞こえたが、何、気にすることは無い そこで、到着したときにはすでに盗賊が去った後だということにしておいた 「追おうにも、手がかりはナシか……」 オスマンが諦め掛けたその時 「手掛かりならあります!!」 ミス・ロングビルが高らかに宣言する 「ミス・ロングビル居間まで何処に?」 心底心配そうにコッパゲが問い ロングビルが答えて曰く 「申し訳ありません、フーケの行方について調査をしておりまして。」 「仕事が速いの。で、結果は?」 「はい。森の廃屋に、黒いローブの男が入って行くところを見たという情報を手に入れました」 「では、捜索を私にやらせてください!」 会話にルイズが割り込む 先ほどの失態を如何にかして埋め合わせたいのである それにキュルケ、タバサと続く 「では、頼むとしようか。ミス・ロングビル、案内役を頼む。」 雨が降っていた・・・・・
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もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。 (前スレ) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part○ http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/~/ まとめwiki http //www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所 http //jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■ 〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ! l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから! ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね! ((/} )犬({つ ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね! / "/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね! ヽ_/ィヘ_)~′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない! ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね! _ 〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ? J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね? /く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。 l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。 レ-ヘじフ~l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。 . ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。 〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。 { {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。 ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。 ⊂j{不}lつ ・次スレは 950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。 く7 {_}ハ ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。 ‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。 姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。 ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。 SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。 レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。